白川方明総裁(2011年度上期)


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白川方明(まさあき)総裁

白川さんの略歴(日銀Webより)

昭和24年9月27日生
昭和47年3月 東京大学経済学部卒業
昭和47年4月 東京大学経済学部入学
信用機構課長、企画課長を経て平成6年5月大分支店長
平成7年12月 ニューヨーク駐在参事
金融研究所参事、国際局参事を経て平成9年12月国際資本市場担当審議役
企画調査担当審議役を経て平成17年7月日本銀行理事に就任
平成18年7月退任、京都大学公共政策大学院教授に就任
(実質的な前職:日本銀行理事)

平成20年3月20日 日本銀行副総裁に就任
平成20年4月11日 日本銀行総裁に就任

詳しくはこちら→http://www.boj.or.jp/about/organization/policyboard/gv_shirakawa.htm/

例によって発言を半期ごとにファイル分けしています。

2010年下期
2010年上期
2009年下期
2009年上期
2008年下期
2008年上期

2011年上期のお題は以下の通りです。

2011/09/09「総裁定例会見には微妙に湯気ポッポー成分が」
2011/08/09「総裁会見より(その2)」
2011/08/08「介入実施+1日前倒しで追加緩和の総裁会見より(その1)」
2011/07/26「きさらぎ会での講演はやや景気にトーンダウン気味に見えます」
2011/07/14「総裁定例会見は先行きリスクに関する質問が多い」
2011/06/29「オランダでの講演も麿節全開でござるの巻」
2011/06/28「6月1日の金融コンファランスでの麿節全開の講演」
2011/06/17「総裁定例会見は景気足元判断上方修正と新貸出制度導入でドヤ顔状態になっています」
2011/06/01「またまた白川総裁力の入った講演@金融学会」
2011/05/27「内外経済調査会での講演は気合の入った内容:成長基盤オペの強化を示唆」
2011/05/24「定例会見より:下振れ警戒を強調」
2011/05/06「展望レポートのメインがやや強めのためにバランスとって警戒スタンスを強調した総裁会見」
2011/04/19「ニューヨークでの講演は素晴らしい日本のアピールに」
2011/04/11「総裁会見、重要なのは今後の生産および供給制約」
2011/04/04「入行式挨拶はインフラとしての中央銀行の話が主体」

2011/09/09

○ベンダーヘッドラインよりはマイルドになりましたが・・・・・

http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2011/kk1109a.pdf

水曜に出てたベンダーのヘッドラインよりはマイルド感がありますが、微妙に麿が湯気出し気味でおじゃるという風情が(^^)。

でですな、今回は景気認識に関しては「基本的な見方は変えないけれどもリスクについては警戒してますよ、ああそれから足元の判断が上がったように見えますがこれは緩やかな回復が続いているという見通し通りだからですよ」という感じなのでありますので、それ以外の話を少々。

・一応その前に「リスクは高まった」という部分だけ。

『まず、世界経済全体の不確実性が、8月4日以降、高まったのかどうかということですが、不確実性というのは、なかなか定量的に評価することは難しいわけです。振り返ってみると、8月はじめの段階でも、相当に不確実性が高まったなと、たぶん、皆さんもそうだと思いますし、私も感じていました。それとの比較で、厳密にどうかというのはなかなか難しいのですが、しかしこの1か月間、少なくとも良い方向の変化があったとは思いません。そういう意味では、幾分高まったという言い方になるかもしれませんが、いずれにせよ、不確実性というのはなかなか数量化できないからこそ、不確実性という言葉で表現しているのだと思います。達観して言えば、不確実性が高い状況が続いているということだと思っています。』

中々「高まった」とは言わないのが麿クオリティですが(言うと「追加緩和は何故しないのですか」という突っ込みに勢いを与える面もありますしねえ)、まあ要するに「リスクは高まった」で良いんでしょ。


・湯気ポッポーのクオリティ

『(問) 新しい内閣の閣僚や産業界からも追加の金融緩和を求める声が上がっていた、強まっていたと思うのですが、今回追加の金融緩和を行わなかった理由について、改めて教えて頂けますでしょうか。』

・・・・・・まあこの質問は酷いとしか思えんが、総裁もムキになって答えなくてもとゆーのがこの先の説明。まあこうやって丁寧に説明するのは総裁に狸成分が足りないというか真面目というかなのですから良い面でもあり悪い面でもあるのですが、もうちょっと狸の総裁だったら「先ほどご説明したとおりで前回の緩和のおかわりをする場面で無いと判断したからですよニヤニヤ」で済ませるような気がする。

『(答) 「改めて」という問いではありますが、先程かなり詳しく説明したつもりです。つまり、前回の決定会合で経済の下振れリスクに留意する必要があるということで、様々な不確定要因を相当程度前広に取り込み、思い切った金融緩和を実行したということです。現在、そのもとでの買入れがまさに始まったばかりです。われわれ自身は今回何かを「決定しなかった」という意識は無く、強力な金融緩和をまさに推進しているという意識です。』

とまあこれだけで終了(この部分だってもっとスルー気味に話せば良いのにとか思いますけど)すればよいのになお説明するのが麿クオリティ。

『今のご質問と多少関連すると思いますが、今、日本銀行の行っている金融緩和政策のもとで、どういう金融の状態が実現しているかということを改めて振り返ってみると、言うまでもなく、短期金利は実質的にゼロ%、長期金利は1.0%前後です。「量」という側面で考えてみると、―― われわれ自身このゼロ金利環境のもとで「量」という形で金融政策の刺激度を測ることが適切とは考えていませんし、このことはFRBも全く同じですが、「量」ということで議論がなされることも多いので、あえて「量」に則して申し上げますと ―― マネタリーベースの対GDP比は、日本は現在24.6%で、FRBの17.9%、ECBの11.5%を上回り、先進国では最大の数字になっています。』

『米国のマネタリーベースの比率が高いということが時折言われますが、現在の米国の比率、先程申し上げた17.9%の水準を日本が達成したのは、2002年です。2002年の水準から比べても日本銀行は更にマネタリーベースを増やしているわけです。つまりFRBの現在の水準を日本は早い時期に実現し、そこから更にまた増えているということです。』

でも日本ってその間物価がアガランチ会長になっているんだからやっぱり足りないんじゃないのというツッコミにどう答えるのかは見てみたいのですがと思ったらまあ似たような質問があってその中で答えていたざんす。

『従って、もし、量的な意味で日本銀行の金融緩和が何か不足しているという観点でのご質問であれば、それは明らかに事実に反しているということです。』

まあお気持ちはわかるし、これ以上増やしてどうすんねん(金利市場的な話だけだと意味があまり無さそうにしか見えませんという事である)というのがあたくし的には思うのですけれども、「でもそれによって物価が上がっている訳ではないのですから日本の量が足りないという事ではないでしょうか」って突っ込まれたらどうすんでしょと思う訳で、そーゆー感じで麿が説明する流れの中でツッコミを入れて欲しいのですが、どうもこの手の質問する方も毎度同じロジックで突っ込んで来るだけで工夫がねえなあと思うのであります。

『いずれにせよ、日本銀行は中央銀行として適切に行動していきたいという思いはもちろん変わっていませんが、こうした事実を十分に理解頂きたいということで申し上げた次第です。』

ということで、まー説明するのが悪いとは申しませんし、これが麿の良い所でもあろうかと存じますが、同じ話を何回もしても通じない相手には通じない次第で、まあ例えてみればブログで粘着コメントして議論にならない人の相手するようなもんですから、もうちょっと「適当にあしらう」という方向に出たほうが宜しいんじゃないのかとゆー気もせんでもない。


・どさくさに紛れて微妙な話をしてねえかこれ^^;

これは最後の方にありましたが、湯気ポッポー質疑応答の所であたくしが突っ込んでみたらと思う部分と重なる論点があって中々。

『(問) 先程、総裁が米国経済のバランスシート調整下での対応の難しさについて説明されましたが、米欧のマスコミでは、これをジャパナイゼーション(日本化)という表現で呼んでいるようです。その結果、米国の潜在成長率は、かなり下がってくるのではという声が強くなり、長期金利が低下するという思惑もあるようです。一方、米国では、インフレの状況が少し日本と異なるのではないかという気もしますが、米国のインフレに関して、日本との違いがどう影響するのか、ご見解をお聞かせ下さい。』

で、その答え。

『(答) 日本の物価上昇率が、なぜ長期にわたって低いのかという理由について、ごく短期的なタイムスパンでの説明は別にして、長期的な理由として、かねてより日本において人々が将来に向けた成長期待を持てないことによるものだと申し上げてきました。つまり、潜在成長率が徐々に低下してきているということが、日本のデフレ問題の根源にあると申し上げてきました。』

ま、そーゆー「潜在成長率が低いからなので成長基盤強化貸出とかをやっているのですよ(キリッ)」とゆー答えが出るのは想定の範囲内なのですが、だとすると潜在成長率が低い分だけ日本は米国より量を出さないといけないのではないでしょうかと突っ込まれた場合に麿がどうお答えするのかは見てみたい気がするのですけどにゃあ(^^)。

『ジャパナイゼーション云々という文脈で考えると、ご質問にありましたように、潜在成長率がどうなっていくのかが大事なポイントだと思います。この点で、バランスシート調整の過程では、現実の成長率が下がってくるので、そのことが人々の予想にも影響して、徐々に成長期待を低下させるという面もあると思います。日本と米国の経済を比較した場合、日本では1990年代半ば以降、生産年齢人口の伸び率がマイナスに転じたわけですが、米国では、最近、ネットでみた移民の数が減ってきているとはいっても、まだ生産年齢人口の伸び率はプラスです。また、経済全体に備わっている柔軟性は、米国の方が日本よりも高いようにもみえます。』

と考えますと、まあ日本の場合はこの手の初回ケースだから上手く対応できなかった面はある程度致し方なかったとしましても、潜在成長率の趨勢的な低下を止められなかった事についてどうすべきなのか(って軽く言ってみたが非常に難しい問題っすな)という問題への考察をお伺い致したく。

『ただし、バブルが崩壊して以降、つまり日本では1990年ぐらい、米国では2007年以降の消費者物価上昇率のパスをみると、必ずしも米国の方が高いというわけではなく、むしろパフォーマンスは良くないという感じもあります。』

これはまあそうなって来てるから米国はQE2を実施してそのパスを何とかしようとしましたってえ話だとゆーことでしょうか。


・・・・・とまあここまでは潜在成長率がどうのこうのの話で、これはこれで重要な論点を含んでいますけれどもまー穏当な話。しかしこの先の説明が微妙に微妙。

『もうひとつ、日本と米国の違いは為替制度にあり、米国の場合、ドルにペッグする国が非常に多いわけです。米国の輸出先の中で、事実上ドルペッグの国をカウントすると、半分以上がそうなっています。』

ふむふむ。

『米国の金融緩和は、バランスシート調整のある国内では刺激効果を十分持たなくても、勢いのある新興国あるいは資源国では刺激効果を持って、それが物価を上げて、それがまた米国にバックしてくるというメカニズムが働く、そこは日本と違うように思います。』

ふむふむ、とか思いながら改めて読み直してみると、この部分ってさらっと「米国の金融緩和が新興国にインフレを輸出しています」と言っているように見える次第で、何かしれっと重い論点について言及してますなうんうん。

『いずれにしても、大変に難しい問いですし、海外の当事者とこういう問題についてよく議論しますが、私自身、確たる答えを持っているわけではありません。今、申し上げたようなことを、いつも考えているということです。』

まあ難しいですなあとは思いますが、その中でドサクサに紛れて先ほどのような論点がしらっと出てくるのが麿会見のオモシロスな所でもあったりします(^^)。


・同じく金融緩和の効果が現れにくい点に関して

別の質問に対する答えを半分ほど引用、っても半分が長いのですが。

『また、2点目の、金融緩和の効果が表れにくいことをどう考えるのかというご質問については、先程詳しくお答えしたことの繰り返しになりますが、現在、日本に限らず先進国における共通の現象です。日本はこの問題を先んじて経験し、欧米は現在遅れて経験しているということです。大変大きなバブルが起き、そのバブル崩壊後のバランスシートの調整が現在進行中である、これが本質的な姿であると思います。時期や国により、バランスシートの調整を要する部門は違います。米国の場合は、当初は家計の、現在は政府も含めた調整が、欧州の場合は、当初は金融機関の、現在は政府も含めた調整が必要な局面となっています。現にバブルが起きてしまったというところからスタートすると、このバランスシート調整の痛みはマクロ経済政策で和らげることは出来ますし、実際に行ってきています。しかし、バランスシートの調整の必要性それ自体がなくなるわけではありません。日本の経験が示すように、そして現在欧米の当局者が遅れて認識しつつあるように、バランスシートの調整には時間がかかります。これがご質問に対する第1の理由です。』

『さらに、現在はマクロ経済政策の発動余地もだんだん乏しくなってきています。財政政策についてみると、最終的に政府の債務返済能力がきっちりあると皆が信頼するからこそ、積極的な財政政策は効果を発揮します。しかし、もしこの信認が崩れてくると、財政と金融システムと実体経済の負の相乗作用が生じてくるということです。金融政策面でも、各国の長短金利は相当低い水準になっていますが、こうした状況でさらに低金利が続くと様々な弊害や副作用が生じてくるということを、だんだん気づき始めているということだと思います。そう考えると、経済を立て直していく上で、バランスシートの調整はもちろん必要ですが、さらに、構造的な問題にしっかり取り組み、潜在的な成長率が下がっていくのをなんとか食い止め、できればそれを上げていくという努力を正面から行うことが必要だと思っています。』

ではそれをどうするのかというとこれがまた明確な答えが無いのが頭イタスという事なのでしょうけれども、じゃあ手をこまねいていて良いのかという訳でもございませんし・・・・・

てな感じで、一部に湯気ポッポークオリティがある(というか何かベンダーヘッドラインを見ていると湯気ポッポー状態が長かったような気がするのですが)のですが、論点としては重い話(ただし目先の政策インプリケーションには直結しない話)が今回は多かったなあというのが総裁会見のテキストを読んだ感想でした。

多分なんですけど、質問に対する答えがやたらめったら長い時って麿が湯気ポッポーで熱くなっている時と、ドヤ顔状態になっている時のどっちかの時っていうのが麿クオリティな気がする。今まで見ている感じだと、で、今回はまあドヤ顔ではないでしょうからやっぱり湯気ポッポーなんじゃないかな???

#まあ政策委員会室だかが湯気ポッポー部分をマイルドにしたんでしょうなあとは思いますが

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2011/08/09

○総裁会見続き

http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2011/kk1108a.pdf

・景気見通しについて

これに関しては(とっくに出ていますがまだネタにするのに追いついていない)8月の金融経済月報を見ると判るのですけれども、7月対比での月報比較をすると、足元の景気に関しては需要項目別にああでもないこうでもないと書くのが復活しているのでございますけれども、現状判断は若干引き上げになったような感じがします(今日間に合わないっすorz)。で、先行き見通しは特に変化が無いので、こういう質疑応答になる訳で砂。

『(問) 今後の景気見通しについて伺います。本日の発表文では「緩やかな回復経路に復していく」という文言は残っていますが、今まであった「今年度後半以降」という時期についての文言は抜けています。これは、回復が後ずれする可能性があるという意味なのか、それとも書いてはいないが今年度後半以降という基本的な回復のシナリオは変わっていないのか、ご認識と理由を教えてください。』

『(答) 日本銀行は4月に展望レポートを公表し、7月に中間評価を行いました。これまでのところ、足許の経済の歩みは展望レポートの想定通りですし、先行きの中心的な見通しについても、今回修正したということではありません。今回、全てを書き込むと発表文が長くなりますから書き込んではいませんが、現状判断、それから先行き判断の中心的なシナリオを変えたということではありません。ただ、先程強調してご説明した通り、従来から意識しているリスク要因について、その後の展開を踏まえると、より下振れリスクを意識した方が良いと判断し、今回の政策措置を採ったということです。』

つまり下振れリスク対応ですということで、シナリオが変わったわけではないというのが中々チャーミングな所です。


・決定会合を引き伸ばして掛け金がレイズされるリスクについて

これはなるほどと。

『(問) 為替介入が行われたその同じ日に、決定会合の日程を1日に短縮して決めた追加緩和策ということですが、為替介入と足並みを揃えて、同時に追加緩和を行うことの意味について、総裁はどのようにお感じになっていますか。』

『(答) 本日、午前中から為替介入が行われたわけですが、たまたま、金融政策決定会合が本日と明日に予定されていました。もちろん、本日と明日の2日間をかけて議論した上で明日の午後に発表するという選択肢はあり得ます。しかし、その間にマーケットで様々な思惑が生じるわけで、そうした思惑が出ることに伴う副作用と、一方でこれを1日繰り上げ、不確実性を消して、マーケットに対して私どもの強い姿勢を示していくことのプラス面を考えた場合、答えはおのずから明らかだと思いました。』

たまたまはねえだろと思いますが(^^)、まあそれは兎も角として会合を下手に引っ張ると期待がどんどん高まってしまうリスクがあるというのは確かにそうですな。まあそもそも今回の流れは(やたら円高問題を強調した山口副総裁講演および亀崎審議委員講演の辺りから妙な感じが無かったわけでは無いのですが)急に緩和が来たのでという感じでございますので、まあこういう感じになったんでしょうかね、うんうん。


・2年金利と為替に関して

ヘッドラインを見たときには「えー」と思ったのだが内容は穏当ですた。

『(問) 今回の措置の効果の波及経路についてお伺いします。円高によるマインドの下振れを防ぐことが今のご説明で分かったのですが、長めの金利に働きかけて為替に影響を与える意図があるか否かという点をお聞かせ下さい。』

『(答) 為替相場は、もちろん金利差だけで決まるわけではありませんが、金利差という面からのご質問だと理解しました。例えば、日米で考えた場合、どの期間の金利差が最も為替相場に影響するかについては、なかなか先験的には言えないと思います。ただ、マーケットのアナリストのコメントをみていると、2年物の日米の金利差に着目した分析が多いように思います。なぜそういう分析が多いのかという点について、以前、期間別に内外金利差と円・ドル相場の関係を分析したことがあります。結果的には、2年程度の内外金利差の説明力が相対的に高いという結論になりました。』

ほほう。

『だから2年だということではありませんが、現在私どもが基金で行っている方法論は、金利面を通じてそうした影響もあり得ると思っています。』

あり得ると思っていますとかこれまた微妙な表現でニヤニヤ。


・でも2年金利って低いですよねと言うツッコミ

これは良いツッコミ。

『(問) 2点お伺いします。1点目は金利の低下について、基金の買入対象期間の2年物近辺の金利をみると、2年ぐらいまでの金利はすでに政策金利にきわめて近い0.1%台前半になっています。そうした中で、基金の枠を10兆円増やすことによって、どういう経路で経済に波及していくのか、もう少し具体的にお伺いしたいと思います。(2点目は為替の水準感の話なので割愛)』

『(答)(2点目の回答部分割愛)1点目の質問については、これだけ日本銀行が徹底した金融緩和を行っているわけですから、金利水準は相当程度低下しています。こうした中で、私どもに課せられた課題は、中央銀行の金融政策という手段を使って、どのようにして緩和効果を生み出していくかということです。』

ほほう。

『確かに、金利水準は既に低い水準にありますが、金利の低下あるいはリスク・プレミアムの縮小に向けて残された金利の余地を最大限活用していくことが適切だと思います。 その効果については、1つは国債に代表されるリスクフリー金利の低下、あるいはリスク・プレミアムが上乗せされて形成される民間の金利を引き下げていくことが1つの効果です。結果として、株式市場や為替市場にも相応の影響が出ていく、もちろん金利の低下幅が5%ある経済とそれがずっと小さい経済では違いますが、その中で中央銀行としてどういう政策を追求していくのかということが第1のルートです。』

ということで(長くなるので割愛しちゃいましたが)他の質疑で基金の今後の拡大余地について質問された所で「いやそれに関しては決めうちできる話ではないです」みたいな答えがありましたが、まあ効果のルートとして「金利の低下」「リスクプレミアムの引き下げ」という話になった場合、社債などのクレジットスプレッドは既に多くのものが震災前水準に縮小(債券インデックス的には東電債およびその他電力債のスプレッド拡大の要因があるので別ですが)してますから、そうなると金利の低下ルートという話になると思いますけど、さてどうするんでしょうかね今後は・・・・・・・

『第2のルートは、日本銀行が現在の経済・金融の状況について、先程申し上げたような認識を持っていて、状況に対応して行動をとっていることを明確な形で示すことを通じて、企業のマインドにもそれなりの好影響を与えていくことを期待しているということです。』

まあこっちは気合の世界になりますけど、では気合を示すためにはどういう方策になるのでしょうかねえというのも考えると、こっちのルートだと「意味は無いけど買い入れ拡大」という素敵なルートが想定されて中々アレなものを感じるのでございまするorz

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2011/08/08

・・・・・・・・・・・などと決定会合レビューと言うかただの雑談状態になっている雑談が長くなってしましまして、肝心の金融経済月報と総裁会見ネタの時間が僅少になってまいりましたのは事前準備しないとマズイなと思いながら事前準備しなかったあたくしの段取り不足ですどうもすいませんすいません。


○でも一応総裁会見を

http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2011/kk1108a.pdf

まあ今回は思いっきり円高対策なのですが、その円高の弊害として「円高→海外シフト」への懸念というのを前面に出しているのが特徴ですかね。

・円高の影響に関して

『(問) 決定文の中に、「為替・金融資本市場の変動が、わが国の企業マインドひいては経済活動にマイナスの影響を与える可能性がある」とありますが、このマイナスの影響について、もう少し具体的にご説明をお願いします。また、本日の決定には、為替の水準自体がやはり看過できないという判断に至ったものかどうか、ご説明頂けますでしょうか。』

『(答) 後の質問からお答えしたいと思いますが、日本銀行として、特定の為替相場水準を念頭に置いて政策運営を行っていくということではなく、為替相場の変動も含めて、わが国の景気・物価情勢の先行きにどのような影響を与えていくかという観点から、政策判断を行っています。』

まあこれはこう答えるしか無いので仕方ない。

『次に、円高のマイナスの影響についてですが、現在の円高がどういう局面で生じているのかということを考えてみる必要があると思います。海外経済を巡る不確実性が大きい中で、グローバルな投資家がリスクを取りにくいという状況にあり、リスクが非常に大きいとみられる通貨から、とりあえずリスクが小さいとみられる通貨に、買いが集まるという現象が生じています。その出発点として、海外経済を巡る不確実性が大きいことがあり、その中で、円高が生じているわけです。』

ほほう。まあ冷静に考えたら日本のほうがよっぽど不確実性が大きいですけど(^^)。

『それから、先々の電力供給の制約問題をはじめとして、日本経済が課題を抱えている中で円高が生じることは、企業マインドという面でも、また、日本企業の生産シフトを促進、加速してしまうというリスクの面でもコストがあると判断しています。』

という事で、まあ以下円高に関する質疑が幾つかありますが、ここの部分が白川総裁としての論点を網羅した感じになっています。要するに一番の懸念は円高による企業のマインド悪化と生産の海外シフト促進である、という話でして、そうなりますと日銀だけではなく政府も規制緩和や税制改革などしやがれコノヤローとは白川総裁は紳士につきこういう場では発言しませんが、まあそういうことですねわかります。


・今回は中短期金利の低位安定を促す措置ですな大体

『(問) 今回の基金の増額ですが、増額の規模と内容について、どうしてこのように決めたのか、また、その狙いについてご説明下さい。』

『(答) まず、増額の規模について申し上げます。先程申し上げたように、景気の下振れリスクについて、より留意すべき局面にあります。そうした事態に対して、日本銀行として政策措置を採るという姿勢を明確に示すためには、それに対応した規模が有効と判断し、今回は5兆円の刻みではなく、10兆円としました。』

今回は「下振れリスク対応」ということですな。

『次に、増額の内訳についての考え方です。昨年10月の基金導入時や本年3月の震災後の増額時と同様、これから申し上げる3つの原則を踏まえて、配分額を決めています。第1に、長めの市場金利の低下やリスク・プレミアムの縮小を促すという政策目的に照らして効果の高い配分にするという基準です。第2に、各資産の市場規模面での制約や市場特性に応じて適切な配分にすることです。第3に、リスク性の資産を買い入れるということは、最終的に納税者の負担となる可能性もありますから、中央銀行として、財務の健全性に配慮する必要があるということです。この3つの基準、観点で考えました。』

ではその内訳。

『第1の観点からは、まず、やや長め、すなわち、一般にターム物と呼ばれる1年未満の資金を一層潤沢に供給するために、6か月物の固定金利オペを5兆円程度増額することとしました。また、残存期間6か月超のものを中心とする短期国債の買入を1.5兆円程度増額することとしました。さらに、1年未満の金利のこれまでの低下状況を踏まえ、長期国債の買入額の割合をこれまでよりも高め、2兆円程度の増額としました。また、幅広くリスク・プレミアムに働きかけるため、社債、ETFなどのリスク性資産を1.5兆円程度増額することとしました。』

2年近辺の金利を下げる(というか既に下がっているので低位安定を促すというのが正しいような気がするが)のがメインで、前回の震災直後の「リスクプレミアムの跳ね上がりを押さえる」というのとは意図が違いますよという話ですな。

『第2の観点からは、J−REITやCP等は、個別発行体の経営への関与や信用リスクの過度の集中を回避するため、1発行体当りの買入限度を設定しています。市場規模とともに、こうした1発行体当りの買入限度からみて、既に買入余地が大きくないJ―REITやCPについては、少額の増額に止めました。』

まあJ-REITに関してはこれ以上買うと日銀が大株主銘柄状態になるもの続出になるでしょうし、CPに関しては既に市場レートが見事なまでに潰れているのでこれ以上の買入をするとただでなくさえ民業圧迫状態なのに拍車が掛かるというかCP市場そのものが最終投資家の離散によって発行体とブローカーと日銀だけ状態になり兼ねませんからそれはそれでマズーですわな。

『第3の観点からは、ETFおよびJ−REITについては、これを大量に保有すると、市況の変動如何によっては、最終的に大きな損失が発生し、納税者負担につながる可能性があります。その点を踏まえ、日本銀行の財務の健全性に対する国民の信認を確保していく観点から、合計0.5兆円程度の増額としました。』

REITに関しては個別企業への資源配分という観点から拡大するのはどうかと思いますけれども、ETFに関しては個別企業への資源配分に直接繋がるわけではない(ETF構成銘柄の発行体企業への恩恵という意味あいはあるのはそうですが)ので、先ほど上であたくしが書いたように、あたくし的にはETFについてはもっと拡大するのはアリだと思うのですけどね。


・以下は明日に続く

どうもすいませんすいません。後は今回のタイミングに関して日銀の独立性がどうのこうのの質問が当たり前のように多く、総裁がムッとしながら答えていたと思われるのが多かったですなあというのと、経済見通しに関する話が少々という感じなのですけれども、時間がなくなったので明日で勘弁。

#積み残しのネタが溜まる、というかネタというのは出るときに一度にでるもんですな

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2011/07/26

話は変わって白川総裁講演(山口副総裁記者会見ネタは忘れた訳ではありません^^)。

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2011/data/ko110725a.pdf
最近の金融経済情勢と金融政策運営
── きさらぎ会における講演 ──

○CPI改定に関する発言が微妙にアレである

基本的には展望レポートの線に沿った話をしているのですが、CPI改定に関する部分を読んで「ほうほう」と思うのであった。

『ただし、日本の場合、消費者物価指数は5年に一度基準改定が行われ、本年8月半ばに公表される新基準の計数では前年比のプラス幅が下方改定される可能性が高いことはかねて申し上げてきているとおりです。』

さいですな。

『やや技術的になりますが、日本の消費者物価指数の作成方法では、消費者の購入する商品のバスケットは固定されているので、基準年から時間が経過するにしたがって、価格が下落したことで購入量が増加している商品の価格下落の影響が、反映されにくくなります。いわゆるラスパイレス・バイアスです。その典型がパソコンやテレビなどの商品です。その結果、前回改定から約5年が経過した今の消費者物価指数は、前年比上昇率が高めに出ており、それが今回の基準改定で一挙に下方に修正されることになります。』

今の消費者物価指数は高めに出ているキタコレ。いやまあその通りの話なのではございますが、普段この上方バイアスの話を微妙に避けて通る傾向にあるように思えるんですけど、基準改定が接近した所で先般の山口副総裁に続いて白川総裁もこの話をきっちりするようになっていますなあ^^;

『下方修正の具体的な幅についてはエコノミストが推計値を公表していますが、比較的推定が容易なラスパイレス・バイアス以外にも、新規にどのような商品が採用されるか、価格を把握する際にどのような算定方式が採用されるかといった事情にも影響されるので、事前に正確にはわかりません。企業や家計は個々の商品の価格を見ながら日々生産や支出の決定を行っており、物価指数の基準改定という統計上の技術的な修正をもって物価の実勢や人々の経済行動が変わるわけではありませんが、日本銀行としてその内容やその意味を点検してまいりたいと考えています。』

つまりCPIの基準改定でゼロだのマイナスだのとなった場合には日銀としてはそれなりに重要なこととして受け止めるという事だとゆー風に読んでしまいたくなる所ですがさてどうなんでしょうか・・・・・・・


○リスク要因の話に円高ネタも

『以上が、相対的に蓋然性が高いと考えられる中心的な経済・物価の見通しですが、先行きには常に不確実性がありますので、見通しが実現しないリスクについても冷静に認識しておく必要があります。』

ということで、リスク要因の部分。

『第一のリスク要因は、海外経済の先行きに関するものです。この点については先程触れたので繰り返しませんが、米国、欧州、新興国・資源国ともに、それぞれリスクを抱えています。』

ここの小見出しは『海外経済に関するリスク』なのですが、実はこの後は為替の話をしているのがチャーミング。

『このような海外経済を巡るリスクに関連して、為替市場の動きにも注意が必要です。すなわち、世界経済の先行きに対する不確実性が高まると、投資家のリスク回避姿勢が強まり、相対的に安全とみられている通貨に上昇圧力がかかる傾向があります。震災後の先進国通貨の名目実効為替レートの動きに則して言えば、スイスフランが最も上昇し、次いで円の順番となっています。円高には、輸入原燃料コストの低下などのメリットもありますが、海外経済の不確実性の高まりがその背景となっているような局面では、輸出や企業収益の減少、企業マインドの悪化などを通じて、景気に悪影響が及ぶ可能性があり、注意深くみていく必要があります。』

ということで、これまでよりは白川総裁が円高の悪影響の話を強調したなあというのが第一印象であります。

『先行きの経済・物価を巡る第二のリスク要因は、今回の震災に起因する中長期的な影響です。震災の影響と言っても、注目すべきポイントは、時間の経過とともに変化します。震災直後に懸念されたサプライチェーンの回復の遅れや、この夏の電力不足のリスクは、後退しています。しかし、家計のマインドについては、幾分改善しているとは言え、震災前に比べてなお弱く、個人消費の回復の動きも、外食や旅行などの分野では鈍いと言わざるを得ません。当面の個人消費の動向は、丹念に点検していく必要があります。』

何かこの前の展望レポート中間レビュー時(つい2週間前だが)の会見よりも微妙にこの辺の言い回しのトーンが弱い気がするんだが・・・・・・

『ここへきて不確実性が強まっているのは、定期点検後に原子力発電所が再稼働できなくなった場合の電力供給制約の問題です。その場合、電力供給の減少を、当面他の手段で完全に補うことは難しいと考えられるため、夏場や冬場を中心に、電力不足が恒常化し、様々な対応努力をしても、経済活動が制約される可能性が高くなります。また、原子力発電を火力発電である程度代替していく場合でも、安全対策を強化して原子力発電を継続する場合でも、これまでよりはコストがかかります。いずれにしても、電力コストの上昇によって、企業収益や家計の実質購買力が圧迫され、設備投資や個人消費が抑制される可能性があります。』

中長期的な電力の問題に関しての懸念は前回の記者会見でも思いっきり一番の懸念としていましたが、これは今回もそのような感じですな。

『さらに、より長期的な観点からは、日本経済の中長期の成長力の低下要因となるリスクも、認識しておく必要があります。今回のサプライチェーンの毀損により、国内生産の震災リスクが改めて意識されるようになっています。それに加えて、電力の安定供給やコストを巡り不確実性の大きい状態が続くことになれば、海外生産シフトの動きが加速する可能性も、無視できなくなります。』

この話も関連して行っていますが、まあリスク要因とかさっきの所とかを見ると、微妙に白川総裁トーンダウン気味のような気がするんだが先日の山口副総裁の講演にあたくしの頭が影響されて微妙に先入観持って読んでいる可能性があるのでその点に関しましてはご注意ありたしという感じでよろしゅうにm(__)m

という事で、甚だ簡単メモで恐縮ですが総裁講演ネタでございました。

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2011/07/14

○総裁会見はまあ先行きリスクに関する質問が多かったような

http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2011/kk1107b.pdf

・足元戻ってきたが先行きは不透明要因が色々と

冒頭の説明が終わった所で最初の質問はこんな感じ。

『(問) 生産についてお伺いします。持ち直しということをお話されていましたが、7〜9月期のうちに、震災前の水準に完全に戻るとみていますか。また、その後の生産については、どのような展望をお持ちでしょうか。』

『(答) まず、7〜9月期に生産が震災前の水準に回復するだろうということを、前回のこの席でも申し上げましたが、現在もそうした判断です。ただし、鉱工業生産指数は、季節調整の関係で大変読みにくくなっています。(途中割愛)そうしたことを行った上で、7〜9月期のいずれかの時点で、震災前の水準を回復すると申し上げており、その判断は変わっていません。』

という事で足元は震災で落っこちた分V字回復と。

『3月に震災が起きて突然の供給制約が発生し、その段階で日本経済は、いわば世界経済の動きから遮断されて、実際の生産の能力に規定される姿になりました。この供給制約が解消された後の姿は、本来の需要の姿、つまり世界経済の成長率に大きく左右されます。』

ほうほう。

『これについては、先程も少し触れましたが、引き続き様々なリスク要因が存在します。海外経済については、繰り返しになりますが、米欧経済の成長ペースのほか、新興国・資源国経済が、物価安定と成長が両立する形でソフトランディングできるかどうかについても、不確実性が大きいです。』

ということで、従来のリスク認識で「一時的に上振れ」っぽい言い方をしていた新興国経済に関しても「上振れ」表現を外していますな。

『国内面では、やや長い目でみた電力の供給制約が生産活動に与える影響や、企業や家計の中長期的な成長期待などを、注意深く点検していく必要があると考えています。』

まあこの辺は声明文にもあった表現ですな。

ちなみに、海外経済に関しては別の質問でこのように説明していますのでついでに引用。

『成長のスピードの点では、幾分減速していますが、このうち米国経済については、かねてより私どもとしてはバランスシート調整の厳しさを認識していました。欧州については、緩やかではあるが成長していて、先程申し上げたような財政のソブリンリスクをリスク要因として認識しています。新興国については、成長率は幾分減速していますが、息の長い成長を考えるとむしろ望ましい方向での減速と考えています。ただ、これがうまくソフトランディングできるかどうか、注意してみていきたいと考えています。』

まあ先行きの下振れリスクが色々あるという事ですな。


・電力の話はまあ盛り上がったようで

原発全停止という事になった場合の影響はどうなの???という質問に対してこれがまた懇切丁寧に答えていまして、まあ白川総裁的にも困ったもんだと思っているんでしょうなあというのは良く判ります(^^)。

『(答) 原発のストレステストそのものについて、私からコメントすることは不適当ですから、あくまでマクロ経済をみている立場から申し上げます。電力供給について、定期点検後の原発の運転再開を巡る問題などから、不確実性が幾分高まっているとしていることの意味合いについてご説明します。電力供給の問題は、次の3点で日本経済にマイナスの影響を与える可能性があるとみています。』

『第1に、万が一、原子力発電所が全て稼働停止した場合、それによる電力供給の減少を他の手段で完全に補うことは当面は難しいと考えられます。その場合、夏場や冬場を中心に、電力不足が恒常化し、様々な対応努力を行っても、経済活動が制約される可能性が高いとみています。』

もうね、「万が一」とか言ってる時点で今のすっから菅政権の思いつき迷走に対してムッとしているんだろうなあという所が覗われるのでございますが^^、まあこれはこの通りであろうかと思います(が、昨日はすっから菅さんは無内容会見の場で「皆で節電努力して何とかなります」みたいな話をしているのが更にorzではある)。

『第2に、原子力発電を火力発電によってある程度代替していく場合でも、安全対策を強化して原子力発電を継続する場合でも、これまでよりコストがかかります。再生可能エネルギーも、割高と言われているコストを短期間で大幅に引き下げることは難しいと思います。いずれにしても、電力コストには、従来よりも上昇圧力がかかると考えられます。その分、マクロ的には企業収益や家計の実質購買力が圧迫され、設備投資や個人消費が抑制される可能性があります。』

さいざんすな。

『第3に、より長期的な観点から、電力の安定供給に対する懸念やコストの増加が、日本経済の中長期的な成長力の低下要因となるリスクも認識しておく必要があると思います。』

この点に関しては別の質問に対して『中長期的な電力不足等による生産の海外シフト』を指摘してまして(後で引用します)、まあかなりの懸念材料だという認識のようです。

ただまあ暗い話だけすると何なので、ということでしょうが、最後は明るい見通しも入れているのですがどう見てもただの根性論あるいは願望です本当にありがとうございましたという風情なのがチャーミング。

『もっとも、わが国は、過去、例えばオイルショックの際、技術革新を加速させることによって省エネ社会を実現しました。明確な課題に対する日本人の問題解決能力の高さは、今回のサプライチェーンの回復の早さにも表れていました。電力問題に対しても、力を結集し、早期に展望を拓いていくことが重要と考えています。』


・メディアはヘッドラインの打ち方を恣意的にせんで欲しいという件

先ほど申し上げた中長期的な電力不足による影響に関してですけれども、こんな質疑があったんですよね。

『(問) 今のお答えと関連しますが、リスク要因の上振れ、下振れを考慮したリスク全体のバランスについてのご判断をお聞かせ下さい。』

『(答) 先程の説明とできるだけ重複を避け、結論だけ申し上げます。震災直後に懸念された足許の下振れリスクは、ほぼ解消しつつあると思います。しかし、内外に様々なリスクがあることは十分に意識しています。特に、中長期的な電力不足等による生産の海外シフトは、日本の潜在成長力の低下を引き起こすリスクです。このリスクは、循環的な意味での下振れリスクとは性格が異なりますが、強い懸念を持っています。』

いやあ電力問題懸念してるなあとしか読めないのですが、この会見を報道した共同通信にかかるとこの質疑応答がこういうヘッドラインになるのは全く意味不明。曰く、

『◆日銀総裁会見詳報4 足下の下振れリスクほぼ解消』(共同通信12日16時52分配信のヘッドライン)

・・・・・・・・いやあのさあ、幾らなんでもそっちだけヘッドラインにするとか勘弁してよと思うのですけれども、多分声明文の最初の部分を読んで「景気認識を上方修正」という方が強い印象にあったから最初の部分をヘッドラインに採用したと思うのですけれども、普通に読んでこの質疑応答の趣旨は先行きリスクの指摘が主じゃないのかと思うのでございまして、ヘッドラインはあまりエエカゲンに打たれますと困るんっすよね。


・政治のグダグダ振りにも苦言が(^^)

まあこんな質問がありましてですな(^^)。

『(問) 電力のストレステストの問題も含め、震災の復興についても政府の決定が遅れがちな部分もあり、成長に対して影響が及ぶのではないかと思います。そうした政策的なリスクについて今回の決定会合では議論がありましたか。』

これはまた凄い誘導質問ですが^^、きっちりとその質問に誘導されて政治の、というかすっから菅政権のグダグダぶりに苦言が呈されていまして、いい感じで踏み込んじまったなオイって風情でございまする。

『(答) 今回の決定会合における議論の詳細については、議事要旨で発表したいと思います。問題意識として、日本の経済ができるだけ早く復旧し、復興するために政策面で必要なことを速やかに実行していくことが重要である、できるだけ不確実性を小さくしていく必要がある、ということは委員の方の間に共有されていたと思います。』

つまり政策委員会の中で皆さんが政治のグダグダぶりにお怒りになっておられたということですね、わかります。

『復旧・復興についてのご質問と思いますが、財政バランスの問題が消費に与える影響を考えた場合も、将来の自分たちの負担がどうなるかについて、ある程度合理的な予測がつかないとどうしても消費は抑制されてしまいます。そういう意味で様々な政策的な不確実性を小さくし、必要な政策を速やかに決定し、実行していくことが非常に大事だと思っています。』

財政バランスの話はその暫く前にギリシャ問題がどうのこうのという質疑があったのでその辺を念頭に置いた話でもあるんでしょうな。


・財政問題関連

欧州財政問題に関する質問に対する答えですが途中から引用します。

『政府と民間双方が過剰債務を抱え込んでいる状況のもとで、周縁国の長短金利水準が名目成長率を大幅に上回る状態が続いており、このことが周縁国の景気を下振れさせ、財政再建計画の達成を困難にしています。その結果、周縁国の政府部門と銀行部門、そして実体経済が相乗的に悪化するリスクが払拭されていないと思います。』

なるほど。

『ギリシャの債務問題に関する追加の金融支援や民間投資家の関与のあり方は、問題解決のための重要事項ではありますが、経済を安定成長軌道にのせるための十分条件ではありません。周縁国が政府と民間双方の過剰債務を圧縮していく道筋をつけるためには、緊縮財政と並行して、民営化プログラムや産業競争力強化に向けた構造改革、金融システムの安定化など、周縁国の成長力を高める施策をしっかり進めていく必要があると考えています。』

つまり赤字垂れ流し状態の国を一旦リスケしてもそもそもの赤字垂れ流し状態を何とかしないと意味がありませんがなという誠にご尤もなお話。

『欧州のソブリンリスクの問題が日本経済に与える影響ですが、先程申し上げた通り、これは1つのリスク要因として意識しています。ギリシャ国債を含め、ギリシャ向けの日本の金融機関のエクスポージャー自体は限定的ですが、欧州の金融市場、経済が混乱することによる影響、これは下振れリスクとして意識しています。』

という事ですな。で、この話は更に続きまして・・・・・

『こうした欧州の財政状況を受けて、日本にとっての教訓ということですが、次の3点を挙げたいと思います。』

ほほう。

『第1は、ギリシャの場合、2009年秋頃までは国債の金利はそれほど上昇していなかったのですが、財政の持続可能性がしっかりと確保されていないと、何らかのきっかけで、突然、市場参加者の信認が非連続的に低下する可能性があるということです。』

『第2に、いったん財政の持続可能性に対する信認が低下し、金融市場が動揺すると、実体経済も下押しされ、財政、金融システム、実体経済の間で負の相乗作用が生じることです。』

『第3に、そうした状況に陥ると、最終的に必要となる財政の緊縮が、急激で厳しいものになってしまうということです。』

まあそうですわな。

『この点で、日本の長期国債金利が低位で安定していることをどのように解釈するかということが論点になります。この点については2つの解釈が可能だと思います。第1は、日本の財政バランスは大変厳しい状況にあるわけですが、いずれ必ず財政バランスの改善に向けた取り組みが進められるはずであると市場で受け止められている、という解釈です。第2は、金利はこれまで安定してきたのだから、これからも安定していると市場が漠然と予想しているという解釈です。』

『仮に前者の場合ですと、わが国として、市場からの信認を裏切らないことが大切ですし、また、後者であれば、そうした漠然とした予想がいつまでも続く保証はありません。いずれにせよ、できるだけ早期に財政健全化への取り組みを実際に開始する、あるいはその道筋を明確に示していく必要があることを示していると思っています。』

と一気に引用しましたが、まあ日本の場合は何と言ってもギリシャやらと違うのは赤字垂れ流し状態ではなく、総裁が引用部分の最初の方で指摘していた欧州周縁国のような「政府と民間双方が過剰債務を抱え込んでいる状況」に陥っていない(政府は絶賛大債務かもしれないけど民間は健全っすから)という事が解釈のその3のような気もしますです、はい。

#引用大会になってしまいましたが、今回の質疑応答は景気に関する話とか色々と質疑応答があって割とオモロイので読んで味噌

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2011/06/29

○雑談書いていたら意外に時間が無くなったので(大汗)簡単に

もうね、海外での講演とか学会の講演とかになると麿節全開で本人も相当気分良く講演しているんだろうなあというのが判るオランダでの講演の邦訳。

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2011/data/ko110628a.pdf
我々はテール・リスクにどのように対応すべきか
── オランダ外国銀行協会年次総会における講演の邦訳 ──

まあこの前の6月1日の講演の続きみたいなもんでありまして(ちなみに6月1日も英語が元でして、本当はこういうのは英語版を読むと味わいが更に深い筈なのですけれども、あたくしは純ドメドメ人間で英語は得意ではないのでついついマンドクセと言いながら日本語訳を読んでしまっております)、まあ足元の金融政策的にどうのこうのというのはあまり無いのですが、これは中々良い論点というのがあったのでとりあえずその辺をば。

本文6ページ目(PDFファイルで7ページ目)からの『金融システムの安定の重要性』という部分ですけどね。

『テール・イベントへの対応を考える上で、皆さんの注意を喚起したい第2の事実は、金融システムの安定の重要性です。生産の落ち込みが短期的には大きかったにもかかわらず、リーマン・ショックの場合と異なり、生産が比較的速やかに回復に転じているひとつの大きな理由は、金融市場、金融システムの安定が維持されていることに求められます。この面では、民間金融機関も日本銀行も震災発生直後から、金融市場、金融システムの安定確保に全力を尽くしてきました。』

たまたま昨日ネタにした6月1日の総裁講演でも金融システムの仲介機能の重要性に関する示唆が幾つかの観点から指摘されていたのですが、ここでテールイベント(今回で言えば東日本大震災)における金融システムの安定について言及している話が、以下の部分に繋がってきます。

『まず、決済システムの面をみると、被災地の複数の手形交換所が停止を余儀なくされましたが、日銀ネットを含む主要な決済システムは安定的に稼働を続けました。主要決済システムのコンピューター・センターが収容された建物は、東京およびその周辺地域における震度5強の地震に対して十分に耐久力を発揮しました。さらに、地震直後に一時導入された突然の計画停電の実施に際しても、自家発電などのバックアップ対応によって、金融機関店舗やコンピューター・センターの稼働が維持されました。』

ということでインフラとしてのシステムに関する話はその通りでありまして。

『日本銀行は、震災後連日にわたり金融市場に対し、リーマン・ショックの時をはるかに上回る大量の流動性供給を実施しました。また、震災発生の翌営業日に、マインドの慎重化や投資家のリスク回避姿勢の強まりから経済活動が下押すことを防ぐために、CP、社債、ETF、REITなどのリスク資産の買入を増額することを決定しました。』

という説明でありまして、つまり3月14日の施策は「基金買入の拡大」という形を取っていますが、信用緩和的というかQE1的な施策であって、信用緩和あるいはQE1が金融システム安定化を主眼として実施したように、この時の追加緩和の論点も信用緩和的なものでありました、という事が確認された(一応あたくし緩和実施の時にそういう話をしたような気がするので、論点間違ってなかったなあとホッとしたというのが正直な所である^^)とゆー事ではないかと存じます。

『こうした対応の結果もあって、未曾有の大震災発生にもかかわらず、日本の金融システムは安定を維持しています。仮に、今回、金融システムが不安定化していたならば、経済活動の落ち込みはもっと大きなものとなっていたと思われます。それだけに、金融システムの安定を確保することは極めて重要です。』

ということで。

んでもって時間がなくなってしまったので(おい)、講演の中での小見出しを並べて、白川総裁のお話を見ていきたいと存じますが(手抜き)、何となく小見出しを並べると話の展開が読めてくるという感じっすな、うんうん。

『3.テール・リスクへの対応−金融機関

・十分な量の自己資本や流動性の保有
・リスク・エクスポージャーの集中回避
・安定的な業務継続体制
・国際的なリスク・シェアリング
・冷静な行動

4.テール・リスクへの対応−公的当局

・頑健な決済システム
・金融規制・監督
・適切な金融政策運営
・マクロ・プルーデンスの視点
・最後の貸し手
・適切な情報発信』

まあ思いっきり時間の関係で手抜きになってしまいましたが、論点をコンパクトに整理していますので読んで味噌。

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2011/06/28

ということで、本日は散々書く書くと申し上げていた麿講演ネタを今更虫干しネタ大会という事で。

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2011/data/ko110601a.pdf(本文)
バブル、人口動態、自然災害
―― 日本銀行金融研究所主催2011年国際コンファランスにおける開会挨拶の邦訳 ――

実は本文8ページしかないのですが、論点は一つ一つかなり濃いと思います。

プレゼンの図表はこちら。
http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2011/data/ko110601a1.pdf(図表)

#ご覧になればお分かりのように、6月1日の講演ネタで何を今更というツッコミはしないように。


○バブルと金融危機

冒頭の『2.過去四半世紀の日本の経済変動と今後の研究課題』の所で『今後の研究課題』というのがございまして、その研究課題の3つが・・・

『まず、第1の研究課題は、バブルとその帰結としての金融危機です。グローバル金融危機をきっかけに活発な議論が行われて来ましたが、さらなる研究の余地があります。』

『第2の課題は、人口の減少や高齢化といった大規模な人口動態の変化が社会や経済に及ぼす影響です。第3の課題は、予測困難な自然災害が経済活動に与える影響です。』

ほうほう。

『第2と第3の課題は、一見すると、金融システムや金融政策と無関係のようにみえるかも知れませんが、後述のとおり、そうではありません。人口減少は自然利子率の低下を引き起こし、ゼロ金利制約を通じて金融政策に影響を及ぼします。また、もし年金制度の予定利率が人口減少に伴う自然利子率の低下を十分に織り込んでいなければ、利回りの追求(search for yield)に拍車がかかり、バブルの芽が生まれるかもしれません。』

ということで麿節キタコレという感じですが、その次の『3.バブルと金融危機』の所から。

『はじめに、第1の研究課題であるバブルと金融危機について、お話したいと思います。バブル崩壊後の景気悪化は、通常の景気後退局面と比べて長期化し、回復当初の立ち上がりも鈍いという特徴が各国で共通に見受けられます。ちなみに、1990年代の日本、および2000年代後半の米国におけるバブル崩壊後において、GDP成長率と物価上昇率の両者が、日米で非常に似通った経路をたどっていることが観察されています(図表6)。』

『景気回復の遅れは、基本的には痛んだバランスシートによるものですが、この点、金融仲介機能の低下を背景とした非効率な資源配分と低生産性の関係にも注意することが重要です。持続的な経済成長のためには、潜在的な成長力の高い産業に経済資源を円滑に移動させることで、新陳代謝を維持していくことが極めて重要です。』

ということで、麿が(というか中央銀行の人が、ですけど)バブル警戒の話をするとバブルをむやみやたらと警戒して景気を強くしたくない中銀クオリティーとか言われる訳ですが、別に中銀的にそこまで考えている訳ではなく、バブルが起こる事よりもそれが崩壊した後に、バランスシート調整による景気の長期低迷が発生する事と、金融仲介機能が低下して経済のベースとなる成長力が落ちるという点を問題視しているというのが判ると思います。というか普段からこうやって丁寧に話をした方が良いと思いますし、逆に言えばこういう丁寧な説明を出来るような時間的な余裕の無い場所でバブル警戒の話をすると、「バブルを警戒して景気の拡大を抑制するとは本末転倒」という批判を受けやすくなる(只でなくさえ中央銀行というのはタカ派認定されやすい上に日銀は更にそうですから)ような希ガス。

『ちなみに、日本銀行のエコノミストは、バブル崩壊後6年間の日本経済のGDP成長率の低下幅3.6%ポイントのうち、1/ 7程度は、生産要素市場の歪みによる資源配分の効率性低下によってもたらされたと推計しています3。金融機関のバランスシートの悪化やゼロ金利の長期化が資源配分の効率性にどのような影響を与えるかについては、さらなる研究が求められます。』

まあだから成長基盤強化の充実を図る、という事で6月会合で不思議貸出制度が加わったという話でございまして、まあ後からこういうのを申し上げても時既にお寿司なので申し訳ございませんが、この麿節を拝読いたしますと、成長基盤強化に関する麿の思い入れが強そうです罠という話になるのであります(そもそもの導入時点では目くらましオペだったような気がしたのだが、何時の間にかこういう事になるというのも味わいがありますが)。


○フリードマン命題について

で、ここで話が止まらないで更にこれがまた麿絶好調モードになるのよ(^^)。

『この点について、デフレ期におけるマネーと信用の微妙な相違点を挙げておきます。かつて、ミルトン・フリードマン教授は、「インフレはいつでもどこでも貨幣的現象である」と述べました。有名なインフレに関するフリードマン命題です。』

どう見ても「バブルと金融危機」から話が逸れていますが(^^)、これが麿クオリティ。

『シカゴ大学におけるフリードマン教授の最後のクラスを受講した1人として、教授に対する尊敬の念を込めた上で、次のような質問を考えてみたいと思います。教授の命題の中の「インフーション」を「デフレーション」に取り替えたら、命題の妥当性はどうなるでしょうか。このように一見対称にみえる命題の妥当性を考えると、金融危機がデフレとどう関連するかについてより深く理解するための糸口が見えてきます。』

デフレ関連の話に流れていますが、この部分で麿が話をしたかったのは前段の部分の底流にある「だから日本は成長基盤強化が必要」という話と、後段のマネーとデフレの話ではないかと思うのですよねえ(^^)。

『インフレをデフレにするのだからプラスの符号をマイナスにする以外は何も変わらないと思われるかもしれませんが、議論はそれほど単純ではありません。デフレに関するフリードマン命題が成立するかどうかは、われわれが命題をどう解釈するかに依存します。』

ほうほうそれでそれで??

『この命題を、「金融危機に際して金融システムの安定が維持されなければ、マネー・ストックが大幅に減少し、デフレを招来してしまう」と解釈するならば、この命題は成立します。』

で、この辺りは(後にもありますけど)プレゼン資料の図表7を見るとヨロシアル。

『歴史を振り返ると、深刻なデフレは金融危機を併発しています。フリードマンは、著書である「米国の貨幣史」の中で、1929年から1933年の間、大恐慌時にFRBが最後の貸し手として適切に行動しなかったために、マネー・ストックは31%減少し、物価は25%下落したと指摘しています。一方、1990年代後半の日本では、日本銀行が最後の貸し手として積極的に行動したこともあって、1930年代の米国と異なり、マネー・ストックの収縮といった事態は回避され、物価は最大で年率0.5%の下落と、小幅にとどまりました。また、1998年以降、物価は累積で3%強下落していますが、これも米国の1930年代の経験とは全く異なります(図表7)。』

『つまり、日米両方の経験は、先ほど解釈したようなデフレに関するフリードマンの命題の成立を裏付けていると言えるでしょう。』

ほほう。

『他方で、この命題を「中央銀行は、マネタリー・ベースの拡大により経済をマネーであふれさせることによって、物価を思いのままに押し上げられる」という意味で解釈する場合、命題は、少なくとも日本や米国の最近の経験とは整合的ではありません。』

麿節全開キタキタキターーーーーーー(・∀・)

『1997年から2010年の間、日本のマネタリー・ベースは90%と大幅に増加した一方、マネー・ストックの増加は30%でした。2008年から2010年の間の米国の経験をみても、マネタリー・ベースは140%増加していますが、マネー・ストックの増加は10%に止まりました。』

んでもって・・・・

『一方、日本の消費者物価は、マネタリー・ベースの大幅な増加にもかかわらず、2010年までの13年間で3.7%下落しています。また、米国のコアCPIインフレ率は、マネタリー・ベースの増加にもかかわらず1%ポイント以上も低下しています。』

キタコレ。

『つまり、マネタリー・ベースが大幅に上昇したからといって、マネー・ストックやインフレ率が、同じように大幅に上昇することはありませんでした。』

どう見ても麿絶好調です本当にありがとうございました。

『命題を解釈する鍵は、金融システムにあります。バーナンキ議長は自身の学術研究の中で、「金融セクターとマクロ経済の連関性のすべてがマネーで説明できるという見方には懐疑的である(I doubt that it [money] completely explains the financial sector-aggregate output connection)」と述べていますが、日本の経験に照らして、私も同じ意見です。』

『金融システムやクレジット市場の微妙で複雑な作用についての理解なしには、マクロ経済や金融政策の波及メカニズムを十分に理解することはできません。この面での分析がさらに進むことを期待しています。』

バーナンキ議長を持ち出す所がチャーミングですが、金融仲介機能が低下した結果、マネタリーベースの拡大がそのままマネーストックの拡大に繋がらないという話は、特に金融危機の時はそうですわな、というかその前の方に話があったように、金融危機対応でマネーを拡大している時って正にそうですよねという話っすか。

まあそらそうよという感じですが、ではQE2とか英国の量的緩和みたいに、長期国債の大幅な買い入れを実施している金融政策の場合、金融政策とマネー、物価の関係ってどうなるのか、という点に関しての白川総裁(急にここだけ麿とならない^^)の見解を仮説でも何でも良いので一度お伺いしてみたいものではございます。


○人口動態と政策対応ですかそうですか

次の部分は『4.人口動態の変化と政策対応』というお題でおじゃる。

『次に第2の研究課題として人口動態の問題を取り上げます。ケインズは、1937年に行った「人口減少の経済的帰結」という講演の中で「人口減少期には、総需要が期待を下回り、過剰供給の状態が継続しやすい。従って、悲観的な雰囲気が続く可能性がある」と指摘しています。ケインズは、伝統的なマルサス流の人口増加懸念論とは対照的な視点を提供しました。新古典派成長理論では、経済変数は、一人当たりGDP、一人当たり資本ストックというように、「一人当たり」で議論されることが多く、これでは日本が現在直面しているような問題を扱えません。』

なるほど。

『日本は急速な高齢化と生産年齢人口の減少といった人口動態の変化期を迎えています。日本経済の現在と将来を考えるために、人口の規模や構造の変化を分析しようとしたケインズの視点が、より重要になってくるのではないでしょうか。この点、先進諸国はもちろんのこと、今後は、エマージング諸国も同様の課題に直面することが、高い確度で見込まれていることに言及したいと思います(図表8)。』

中国ですね、分かります・・・・ということで、人口動態と総需要、人口動態と景気循環という話になるのですが、まずは小見出し『人口動態と総需要』の所から結論部分をば。

『以上を踏まえると、人口動態の変化期には、社会・経済制度が、様々な変化に対して柔軟に対応できることが、制度が安定的に存続するために不可欠な条件であると再認識できるかと思われます。こうした観点から、有権者の高齢化が進む中で、高齢者の選好を反映し、社会全体の選択がどのような影響を受けるのか留意していく必要があります(図表9)。』

まあ前半部分読まないと具体的に何の話をしてるのか判りにくいかも知れませんが、基本的には人口動態の変化に合わせて制度の設計を変えないと対応できませんよねという話をしているです。

小見出し『人口動態と景気循環』の所ではこんな話が。

『冒頭で申し上げた通り、3つ目の視点は、ブーム・バスト・サイクル(boom-bust cycles)と人口動態との相互作用の重要性を示唆しています。両者を関連付ける考え方として、例えば「支出の波(spending wave)」という仮説があります。この一見単純な仮説は、消費者が支出のピークを迎える年齢が45〜50歳前後であるとの想定のもとで、「ベビーブーマー世代が『支出のピーク』を迎える時期と、景気や資産価格のピーク時とが重なる傾向がある」と主張するものです。』

なるほど。

『私の同僚である西村副総裁が指摘しているように、非現役世代1人に対して、何人の働き手が経済に存在しているかを示す指標である「逆従属人口比率」は、日米の不動産市場の動向と相関しています(図表10)。また、若年層は住宅の買い手として市場に参入するため、若年層の増加が不動産投資ブームをもたらす、という類似的な研究も存在しています。』

ほほー。

『こうした全ての議論は、バブルや金融危機の分析においても、人口動態の影響を軽視してはならないことを示しています。』

だそうです。


○自然災害と集中のリスク

『論点は多岐にわたりますが、ここでは「自然災害による生産活動の大規模な混乱を回避ないし軽減するために、どの程度追加的なコストをかけるのが望ましいか」という論点に絞って議論したいと思います。この点に関して、すぐに思い浮かぶのは「在庫水準」と「集中のリスク」の2点です。』

で、まあ震災によって従来のジャストインタイムの在庫水準によって生産がいきなり止まりましたねという話に繋がる訳ですが、その辺割愛してその先を。

『もちろん、望ましい在庫水準は引続き検討すべき論点ですが、今回の震災で明らかになった、それ以上に重要な論点は、「集中のリスク」であったように思います。ここで言う集中のリスクとは、複雑なサプライ・チェーン・ネットワークをたどると、特定地域の特定企業の部品に調達が依存していたということです。』

『在庫保有を増やすにも、調達先を分散するにも追加的なコストがかかります。無料で済むような都合のいい話(free lunch)はありません。この点に関連して、バロー教授は、自身の論文の中で、災害時の大幅な所得変動を回避しようとするために、平時に家計が支払うべき「保険料」はかなり大きいと述べています。』

なるほど。

『この問題は企業行動のレベルだけでなく、国家レベルでも重要です。例えば、一国の経済活動の一極集中は危険ですが、競争的な市場の下では、そうした費用は必ずしも内部化されるとは限らず、結果として、テイル・リスクが非効率に高まる可能性があります。』

確かに仰るとおり。

『ここでのまとめとしては、実務家、政策当局者、エコノミストが互いに協力して、大規模災害に対する広い意味での公的なリスク・シェアリングの制度を改善するために努力していくことが重要と言えます。』


○ということで最後のまとめの所をこの際全部引用(^^)

『ここまで、日本経済が直面する課題について議論して来ました。金融危機や自然災害といったテイル・リスクについては、マクロ経済学における既存研究が相対的に手薄な領域であり、今後の更なる進展が期待されます。また、人口動態の変化がもたらす帰結についても、探求すべき点は山積しています。』

『例えば、人口減少を背景とする自然利子率の低下と整合的でない年金等の制度設計が「利回り追求」を誘発し、新たなバブルを招いてしまうといったことが起き得ます。』

なるほど。

『この例が示すように、人口動態の変化に対し柔軟性を失ってしまった制度は問題です。既存の社会経済制度を見つめ直すことが求められています。今日、私がここで述べた課題に対する研究を深めるべき時であると思います。こうした問題意識を持ちつつ、今回のコンファランスを通じて学界と政策担当者との間で対話が一段と深まることを期待しています。ご清聴、ありがとうございました。』

ということで、麿節全開ではございますが、論点としては中々奥が深そうではございまする。

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2011/06/17

http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2011/kk1106b.pdf

○景気判断に関する部分から

まずは冒頭の説明部分から。

『まず、景気の現状については、「震災の影響により、生産面を中心に下押し圧力が続いているが、持ち直しの動きもみられている」として、先月の判断から一歩進めました。』

『こうした下押し圧力はなお続いていますが、最近は、サプライチェーンが着実に修復されてきているほか、当初懸念されていた夏場の電力問題への対応も進められているなど、供給面の制約が和らぎ始めています。また、家計や企業のマインドも幾分改善しつつあります。そうしたもとで、生産活動や国内民間需要に持ち直しの動きもみられています。』

・米国経済や新興国経済の減速懸念に関して

とまあ冒頭の一発目で上方修正ちっくな話をどどーんとしていますが、その後米国経済や新興国経済の減速懸念に対してどうっすかという質問が出ていましてですなあ。

『原油価格は5月に入って反落した後、横ばい圏内で推移しているほか、サプライチェーン障害の影響も短期間で収束すると見込まれます。このため、米国経済は、緩和的な金融環境に支えられて、成長テンポを再び回復させていくと考えられます。ただし、原油価格の動向に関しては不確実性が高いほか、バランスシート調整圧力も引き続き作用するため、米国経済の下振れリスクには注意していきたいと思っています。』

ということで米国に関してはこれだけ見ると何か市場コンセンサス対比強気じゃないかと思ってしまいますが、その後の質問ではバランスシート調整問題の根の深さについてコメントしています。別の質問に対する答えから。

『それから、2つ目の米国経済についてですが、サマーズ氏の寄稿は私も読みました。私自身は、多くの日本の方々と同じだと思いますが、大きなバブルを経験した後のバランスシート調整は非常に強い力で作用するということを、身をもって体験しています。従って、本格的に経済の成長率が高まるにはかなり長い時間がかかるだろうという想定を持っています。』

ということですので、循環的には回復が継続するものの、構造的に問題があって、そーゆー意味では米国経済に関してはベースとなる成長力が趨勢的に低下する中で循環的な上げ下げを繰り返すというイメージを持っているのでしょうなあと。


で、先ほどの部分の質疑の新興国部分ですけれども。

『一方、新興国については、先行きも、所得水準の向上を背景に、個人消費が堅調に推移し、基調として高めの成長を続けるとみています。金融引き締めの動きが続いていますが、流動性の過剰感はなお強く、賃金やインフレの上昇圧力がより強まっていけば、景気の振幅が拡大する惧れがあります。これまで成長が速いテンポで続いてきただけに、成長を持続的なものにするためには、景気の過熱やインフレの上昇を回避する必要があり、景気がある程度減速することはむしろ望ましいと考えています。』

ということですが、だいたいこーゆー時にソフトパッチで留まらないで資産バブル崩壊とかになってしまうのがお約束だったりするので、まー今後に関してどうなのよという気がするけど、割と明るい話ではございます。


・で更に日本経済に関してですが

関西電力の節電要請に関する質疑から。

『関西電力についてではなく、前回会合以降、あるいはもう少し前、前々回の会合以降の変化かもしれませんが、夏場の電力不足問題とは別に、少し長い目で見た電力不足の問題が日本経済にどのような影響を与えていくのかについてのご質問としてお答えします。電力は、経済・生産活動に非常に大きな役割を果たしているものです。この電力供給が、仮に、中長期的にも十分に行えなくなると、日本経済に対する影響が非常に大きくなってくると思います。』

『仮にそうなった場合には、特に製造業が中心ですが、日本での製造のコスト、あるいは日本への投資という面での見直しがなされ、日本経済の潜在的な成長率、潜在的な経済活動水準を下げていく、そういうリスクを秘めていると思います。経済面からみると、そうした点について意識していく必要があると思います。』

ということで、電力の問題は供給制約そのものズバリの話ですからこういうコメントが出るのは当然なのですが、どっからどう見ても国内の原発が止まっていくという流れが止められそうも無い以上(まあ電力不足で広域ブラックアウトでアヒャヒャヒャヒャヒャとかにでもなったら風向き変わるかもしれないけど、こういう時に無理矢理対応しちゃうのが日本クオリティーの悪寒も)、もうちょっとこの部分の供給制約に関するリスク認識を引き上げてもよさそうな気がするんですけど、そっちは5月会合よりも「改善」という結論になっているのは正直違和感があるのですけどねえ。

と思ったら「短期的に改善だけど長期的には懸念高まる」という話もしてました。これは別の質問から。

『そういう意味で、短期的には──短期的とは夏場から秋ということですが──、むしろ前回会合時点に比べると事態は幾分好転していると思います。一方で、少し長い目でみた電力不足の問題は、前回会合時よりも意識せざるを得ない──もちろん現状ではリスク要因として意識しているということですが──、そうした問題も先々の経済を考える上では意識していく必要があると思います。』

だったら足元の判断をここで引き上げる必要があったのかはちと疑問があるんすけどね。


最後の質疑2本から。

『(問) 先程の質問と関係しますが、現在、国内の景気の回復ペースが予想よりも少し速いピッチであるとすれば、今後もしばらくは続くとみているのかお聞かせ下さい。』

『(答) 今の生産活動の回復が、想定よりも幾分速いというのは、ひとえに供給制約の解消のスピードの反映です。従って、あれだけ大きく落ち込んだ、1か月で生産が15%も落ちる、あるいは3月、4月で輸出が15%近くも落ちた後ですので、当然、回復のスピードは供給制約さえ解消すれば大きくなるわけです。そこまでは定性的に考えると不思議なことではなく、供給制約が解消した後の経済の回復スピードがどうかが論点になってきます。』

ほう。

『それを大きく規定するのは、世界経済の拡大のスピードがどのようになっていくかと、先程中長期的な懸念材料として挙げた電力の問題をどのように考えるかなど、幾つかの要因がありますが、一番大きな要因は、やはり世界経済がどのようなテンポで拡大していくのかだと思います。先程、世界経済、米国と欧州と新興国に分けてご説明しましたが、今、世界経済の成長率がここに来て大きく低下するという見通しを立てているわけではありません。基本的には、高い成長率が続くということですが、この問題についての判断が、ご質問への答えになってくると思います。』

どう見ても強気です本当にありがとうございました。で、あまりにも強気なので更に質問が来るのですな。

『(問) 先程の質問に関連してお伺いします。足許の景気認識、景気判断は4月の展望レポートにおけるシナリオ対比でみても上振れているとのご判断でしょうか。』

そらまあそう聞きたくなりますわな。

『(答) 先程申し上げたのは、サプライチェーンの修復あるいは電力の回復により、生産活動については、4月の展望レポートに比べると幾分上振れているということであり、景気全体についてそのように申し上げたわけではありません。いずれにしても、来月、展望レポートの中間評価を行います。繰り返しになりますが、今、景気全体について上方修正したと申し上げたわけではありません。』

いやいやいや、国内景気の回復ペースについて質問されてわざわざ一番立ち上がりの調子が良い生産活動を選んで答えたのは麿様でいらっしゃいますから(^^)。まあ威勢の良いヘッドラインが出て「判断を大幅に上方修正」的な報道されるのもマズーと思ってちょっと火消しをしたのでしょうが、どうも字面だけを見ていると景気回復テンポ拡大ウェーハッハッハとご機嫌なように見えますけどにゃあ。


○そもそも何がご機嫌かというと麿様肝入りオペでドヤ顔状態(かどうか知らんが)というのがある訳で

ということで成長基盤オペのおかわりに関してまずは冒頭の説明部分から。

『今回の会合では、昨年夏以来実施している成長基盤強化を支援するための資金供給について、今後の取り扱いを決定しました。本資金供給は、当初の狙い通り、金融機関がわが国経済の成長基盤の強化に向けて自主的な取り組みを進める上で、「呼び水」としての役割を果たしてきている、と評価しています。』

どう見てもドヤ顔です本当にありがとうございました。つーかこういうの日銀が「ご指導」するってゆーのがそもそもどうなのよというのはあるのですが、まあ元々成長基盤オペを導入したときって日銀何か追加緩和しろと外野がやかましく、とりあえずゼロ回答する訳にも行かなかったというのがありまして、変な事されるくらいだったらこっちの方がマシですかなあというのはあったのですが、今回に関しては別に追加緩和を期待されている訳でもないのに何か急にこんなのを実施というのが何だかなという所であります。

『金融機関の取り組みをさらに後押ししていく観点からは、資本性資金の供給や、従来型の担保・保証に依存しない融資に着目して、今後、これを支援していくことが適当と考えられます。こうした判断に基づき、今回の会合では、金融機関による出資や動産・債権担保融資(いわゆるABL)などの取り組みに対して、日本銀行が資金供給を行うために、新たに5000億円の貸付枠を設定することを決定しました。』

『日本銀行としては、今回の措置によって、金融機関が金融面の手法を一段と広げ、わが国経済の成長基盤の強化に向けて、さらに活発に取り組むことを期待しています。』

まあ一昨日もひとしきり悪態ついた訳ですが、「金融面の手法を一段と広げ」などというモノは商売になると思ったら別にあんさんらに言われなくてもドンドン実施する訳でございまして、何と申しますか金融機関を「ご指導」してた時代に遡ったかのようなお話でございます。正直言ってそんな「ご指導」よりも大事なのは規制緩和とか法令所規則の整備などだと思うのですけどねえ。中央銀行のありかたとしては・・・・・


成長基盤オペの元の分に関して増額があるのかという質問がありましたが、そこでも麿のドヤ顔(いや見てないから知らないけど)が踊るのであります。

『先程の説明でも申し上げましたが、本措置は、当初の狙い通り金融機関がわが国の成長基盤強化に向けた自主的な取り組みを進める上での「呼び水」としての役割を果たしていると思います。多少具体的に申し上げると、対象先の金融機関は、業態・地域の双方で拡がり153先に達しているほか、各金融機関の取り組み分野も多様化しています。また、金融機関が設定した投融資枠は約8.4兆円と本措置の上限である3兆円の3倍近くになっています。』

という数字の話は兎も角として。

『このような、いわば即物的な「呼び水」効果に加え、メッセージ効果、すなわち、日本経済にとって成長力を高めていくことが大事であり、そのために金融機関としてもしっかりとした取り組みが必要であるとの問題意識を高めていく上でも、効果があったと思っています。』

ドヤ顔でアナウンス効果とかいやまあもうね、何か麿様は日本経済の課題を把握しているのだがこの成長基盤強化オペによって下々の下賎なる金融機関の連中にも知らしめることが出来ましたとか何だかちょっと違うんじゃネーノという感じで。

『この点は、金融機関に対する日本銀行のアンケート調査の結果にも示されていますし、あるいは金融機関のIR報告書等においても、成長基盤の強化、成長分野への取り組みが大事であるということが謳われています。こうした点は、もちろん日本銀行の力だけではありませんが、「呼び水」としての効果が発揮されていると考えています。』

どう見てもドヤ顔です本当にありがとうございました。

『以上を踏まえると、成長基盤強化に向けた金融機関の取り組みをさらに後押ししていく観点から、先程申し上げた通り、資本性資金の供給や従来型の担保・保証に依存しない融資に着目し、今後これを支援していくことが適当と考えられます。 次に、さらなる増額という観点からのご質問についてです。今申し上げた通り、従来の成長基盤強化支援資金供給の枠を単純に増額することは、効果と副作用の面からみて、そろそろ限界に近づいています。一方、まだ十分に効果が発揮されていない出資の面、あるいは新しい金融手法を通じて成長基盤強化の体制を作っていくという面から、今回、新たな措置を設けたということです。』

ということなのですが、何で出資とか商業銀行にやらせようというのかが結局ワケワカンネと申しますか、それで出資して全損しても金融庁(一昨日と同じ話なので繰り返しませんが・・・・・)


で、大きなお世話ではないかという質問が後のほうで出ていますが。

『(問) 成長基盤支援の新しい貸付枠設定関連で教えて下さい。動産や債権担保融資は、これまで金融機関や政府が取り組んできて、必ずしも拡がっていない実態があると思います。低利の資金を出したからといって、直ぐにそれで金融機関が貸出しを伸ばすというのはなかなか考えにくいような気がします。今回の貸付枠の設定は、過去の取り組み事例に照らしてどうお考えかという点と、中央銀行が金融の手法にまで踏み込んだ異例の措置を採ることの意義について、どのようにお考えか教えて下さい。』

これはポイントを突いた良い質問(^^)。で、その答えが長いので微妙に端折りますが。

『(答)(冒頭部分割愛)市場が発展する初期の段階では、市場が小さいために市場自体がなかなか発展しにくいという時期が必ずあると思います。私どもとしては、ABLを資金供給の対象にすることによって、ABLに対して、金融機関あるいは一般の企業の方が、さらに認識を高めていく、いわば「認知効果」を通じて少しでも市場を大きくしていく、これがまた好循環を生んでいくということも期待しています。』

・・・・・・・・??????

いやあの別に認知効果もへったくれも動産担保がどうのこうのとかのネックって別に誰も知らないとかいう話じゃない(銀行じゃない業態でやってるのいたような気がしますし)と思うのですが、何かもう麿が無知蒙昧な大衆を啓蒙するでおじゃる的なテイストが溢れていて何だかなあ感が。で、その続き。

『それから、今回はこの措置を発表しただけですが、今後、そもそもABLの市場はどのような市場か、どういう課題を抱えているのかについても、日本銀行なりの分析をして発表したいと思っています。』

結論先にあり気みたいなレポートを出さないでくださいね(棒読み)。

『また、これは日本銀行の仕事では必ずしもありませんが、これまでも法律的な整備が行われてきました。さらに、政府や民間金融機関の努力で、電子債権の登録機関も生まれてきました。少しずつ制度やインフラは整備されてきていますが、まだ改善を要する面があるかもしれません。そうしたことについて、私どもは議論を興していきたいと考えています。』

いやだからそれだけやってくれれば十分なんですけどねえ。

『次に、金融の手法に中央銀行が入っていくことは異例ではないかということですが、もちろん非常に頻繁に行われているわけではありません。しかし、多くの中央銀行をみてみると、市場の発展期に中央銀行が役割を果たしています。非常に古典的な例を挙げると、かつて米国ではBA(銀行引受手形)という貿易金融のマーケットが大きかったのですが、FRBが創設された直後に、BA市場を大きくするために随分いろいろな努力をしています。日本銀行については、2003年以降、ABCPあるいはABSのマーケットを健全に育てていきたいという思いから、買入れを行うと同時に、市場関係者と一緒にフォーラムを作って、市場の発展の色々な条件、具体的な策を検討しました。そのうちの幾つかは、例えば情報をもっと開示していくという動きで、フォーマットも当時作り、今でもこのフォーマットが使われていると思います。そうしたことは、中央銀行の仕事の中の1つの部分だと思っています。』

でも別に今回って出資なり動産担保融資したりしても信用リスクの移転や信用リスクの補完、流動性補完をしてくれる訳じゃないですよね。資金供給方式は共通担保オペだから当該出資なり貸出が担保適格になるわけではないですし、信用リスクの移転なども起きませんし(2年のローンが出るというのは新しいけど今回の麿が仰せの趣旨からするとそこの年限がどうのというのがあまり関係ないと思われますし)、市場発展に向けてどうのこうのとかいうもんじゃないでしょ。

大体からしてBAとかABSとかって市場取引の育成だけど、そもそも出資だの動産担保融資だのってそれが市場取引されるわけでもないじゃネーノとか思うのでありますがねえ。


という訳で、結局何が何だかワカランチ会長、というか判るんだけど何か違うんじゃネーノと思うオペの説明なのでありました。ドヤ顔なのは麿ばかりなりということにならないように願いたいものでございまする(棒読み)。

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2011/06/01

○先般の金融学会における総裁講演から

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2011/data/ko110530a.pdf
通貨、国債、中央銀行
―信認の相互依存性―
日本金融学会2011年度春季大会における特別講演

まあ題名見ただけで内容が想像できてしまう訳でして、金利市場関係者の皆様としては大体ご案内のお話が展開されるのですが、折角白川総裁がやる気満々(かどうか知らんが)で講演しているので鑑賞を。

いきなり冒頭から壮大な話。

『2000年代以降、世界の金融で起きた最大の出来事は、言うまでもなく、グローバルな信用バブルとその後の金融危機の経験でした。この一連の過程を振り返って、浮き彫りになったのは、政府に対する信認、金融システムに対する信認、中央銀行に対する信認が相互に影響を与え合っているという事実です。具体的に申し上げると、まず出発点、すなわち、危機に先立つバブル期では、ファニーメイやフレディマックといったGSE(Government-Sponsored Enterprise)による「暗黙の政府保証」が米国の住宅バブル発生の一因となりました。リーマン破綻後の危機の局面では、危機の終息のために、政府の信認を背景とした強力な行動が必要となりました。すなわち、民間金融機関に対する信認を回復し金融システムの安定を維持するために、欧米各国の政府は金融機関に対する大規模な資本注入や保証を余儀なくされました。マクロ経済政策の面でも、政府は経済の急激かつ大幅な落ち込みを回避するために、積極的な財政政策を展開しました。危機が終息した後も、政府の信認は重要な論点となっています。

2009年後半以降、世界経済は次第に回復方向に向かい、その意味で、1930年代のような恐慌の回避には成功したと言えますが、今度は、財政バランスの悪化から、政府債務の信認が問われる事態になっています。現在、財政バランス悪化の問題が最も先鋭的な形で表れているのは、ギリシャ等、欧州周縁国のソブリン・リスク問題です。欧州周縁国は、ソブリン・リスクと金融システム、実体経済の負の相乗作用の問題に直面しています。この間、わが国はそうした国債金利の上昇という事態には直面していませんが、財政バランスの悪化は深刻です。』

ということで、ここの段落(長いので引用時に段落分けしただよ)にあるネタが「マクロプルーデンス」「金融危機における対応」「財政の維持可能性」というお話になっているという中々お洒落な展開でありまする。

『一方、中央銀行の世界に目を転じると、ここでも政府の信認を巡る論点は無関係ではありません。リーマン破綻後、わが国も含め先進国の中央銀行は非伝統的政策を採用しましたが、この政策は流動性供給という純粋な金融政策ではなく、多かれ少なかれ、準財政政策的な要素を帯びています。それだけに、中央銀行は金融政策としてどこまでの役割を担うべきか、すなわち、政府と中央銀行の関係、あるいは、金融政策と財政政策との関係は大きな論点になっています。』

またこの論点来ましたな。

ということで本論に入るのですが『2.信認の相互依存性』というお題で話が始まる。

『通貨と国債』という所で、まあ最初に通貨か国債発行額の話とかしていますがその辺は華麗にスルーしてどう見ても総裁の力入っている部分が次に続くのである。

『ところで、通貨も国債もそれ自体は債務証書に過ぎません。言うまでもなく、債務者は、中央銀行通貨は中央銀行、銀行預金は民間銀行、国債は政府です。いずれも素材として価値を有している訳ではないにもかかわらず、価値あるものとして認められ、その機能を発揮しうるのは、究極的には、通貨や国債の保有者がその発行主体を信認しているからです。勿論、信認の重要性は金融論で最も強調されていることのひとつであり、新しい論点ではありません。政府も中央銀行も民間銀行もいずれも信認を得るために、最大限の努力をしています。政府の場合は、中長期的な財政バランス維持の努力がこれに当たります。中央銀行について言うと、金融政策や最後の貸し手、金融監督等を通じて、物価の安定や金融システムの安定を図ることです。民間銀行の場合は、信用仲介や決済サービスを提供するうえで、資本基盤の維持や様々なリスク管理に努めることです。政府や中央銀行、民間銀行は、こうしたかたちで信認維持に努力しています。』

キタコレ。

『本日私が述べたいことは、それぞれの主体に対する信認はこうした自らの努力だけでなく、他の主体に対する信認が確保されていることや、社会の構成員が信認の重要性をお互いに理解することによっても支えられているということです。多少、結論を急ぎすぎたように思いますので、以下では、そうした信認の相互依存とでも言うべき側面について、詳しくお話をしたいと思います。』

ということで、ここで既に結論が出てしまったのですが(^^)、ではその側面についてどういう話をしているかというのについての小見出しを並べて、結論部分と思われるところを引用してみるだわさ。


○総裁講演ネタ続き:信認の相互依存とな

で、その「信認の相互依存」について。

・『民間金融機関の信認の裏付けとしての政府の意思』

『今回のグローバル金融危機において、米国、英国、ドイツ、フランスの4カ国の政府が投入した公的支援の金額は日本円に換算して約84兆円にも上りました。このことは、通貨や金融システムの安定は最終的には政府の信認にも大きく左右されることを物語っています。』


・『政府の信認の裏付けとしての国民の意思』

『非常時における政府の各種の積極的施策は、政府への信認という「ストック」の存在を前提に初めて成立するものです。そして、このストックの実体は、詰まるところ、財政バランスを維持していく国民の意思です。そうした国民の意思と無関係に、政府が「打ち出の小槌」のように財政政策を無限に展開できる訳ではありません。』


・『中央銀行の信認の裏付けとしての政府・国民の意思』

『中央銀行は経済や金融の安定を維持するために積極的に行動しましたが、積極的な行動をとることが出来る大きな前提条件は、中央銀行に対する信認が維持されていることです。』

で、この項だけ話が微妙に発散していてあまり纏まっていなかったりするのがチャーミング。


○財政問題の話

『3.財政を巡る課題』のところから少々。

『財政バランス確保の必要性は一般論としては認識されていますが、長年、財政状況が悪いにもかかわらず、国債は円滑に消化され、長期国債の金利も低位で安定的に推移しているため、財政悪化に伴う危険に警鐘を鳴らす議論は、時として「狼少年」のような扱いを受けることもあります。しかし、どの国も無限に財政赤字を続けることが出来る訳ではありません。政府の支払い能力に対する信認は非連続的に変化しうるものです。ギリシャに始まった欧州のソブリン・リスク問題はこのことを端的に示しています。』

キタコレ。

『ギリシャに始まった欧州のソブリン・リスク問題はこのことを端的に示しています。ドイツ国債に対する欧州周縁国の金利のスプレッド幅が明確に拡大し始めたのは2009年秋頃からでした(図表5)。2009年10月時点では2%以下のスプレッドでしたが、その後急激に拡大し、現在はギリシャで13.4%、アイルランドで8.0%、ポルトガルで6.6%という高水準になっています。これらの国のマクロ経済がこの間に劇的に変化した訳ではないにもかかわらず、金融市場での評価は大きく変化しています。』

んでもって更に話が続く。

『ところで、日本の長期国債の金利は2010年度中、平均で1.15%と低位で安定的に推移しています(図表6)。私が国際会議に出席して最も多く受ける質問のひとつは、「日本の財政状況は非常に悪いにもかかわらず、長期国債金利は何故、低位で安定しているのか」というものです。この問いに対して、経済理論に即して答えようとすると、取り敢えずの答えは低成長と低インフレに求められます。因みに、過去10年間の経済成長率と物価上昇率の合計、すなわち名目成長率と10年国債金利を比較すると、若干の乖離はありますが、大きな流れとしては、同様の動きとなっています(前掲図表6)。過去10年続いた状態が先行き10年も続くだろうと多くの投資家が予想する場合、日本の国債金利が低位で安定的に推移していることは取り敢えず「説明」できる現象です。』

取りあえずというのだからその後がありまふ。

『しかし、低成長と低インフレを指摘するだけでは、答えは完結しません。と言うのも、長期金利は予想経済成長率と予想物価上昇率だけで決まるのではなく、それらにかかる不確実性を補償するリスク・プレミアムが上乗せされるからです。従って、長期金利が低いことを説明するためには、リスク・プレミアムが低いことの理由も併せて説明しなければなりません。この点に関しては、私は次の2つのことを指摘したいと思います。』

で、その2点と言うのはいつも白川さんが話していますが。

『第1は、わが国の財政状況は深刻ですが、最終的に財政バランスの改善に向けて取り組む意思と能力を有している筈であるとみられていることです。第2は、金融政策が物価安定のもとでの持続的な成長の実現という目的に合わせて運営されていることについて、信認が維持されていることです。このことは、同時に、この2つの点について信認が揺らぐと、リスク・プレミアムは上昇し、その結果、国債金利が上昇することも意味しています。』

といういつもの話になるのでした。


○で、更に国債引受論のdisりとかが入るのであって

『4.中央銀行と国債の役割』というお題に続くのですが、前半の『金融調節における国債の利用』の話はちと微妙なので一旦スルーの方向で(^^)。一応ここだけ引用。

『このように、日本銀行は金融調節に当たって国債を大いに活用していますが、中央銀行による国債買入れオペは、銀行券の供給や金融政策の運営のために行われているものであり、財政ファイナンスや国債金利の安定を目的として行われているものではありません。』

まあそうは言いましても国債の発行が増えると調節のバランス上国債買入を増やさないといけまへんなあというのもあるような気がせんでもない(ただまあ長いのを買えばよいのかというとそれは微妙)ですし、もしFRBの出口政策において長期国債とかMBSの市中売却がそんなに混乱無く実施できるようであれば、このあたりももっと弾力的に運用して、ホイホイ長期国債買って売ってみたいなのが日本でも出来るようになるのかも知れませんなあとか思うのでありますけどどうっすかね。

まあそれは兎も角。

『高橋財政期の日銀による国債引受け』という素敵な小見出しがあるので最後にそこを引用。

『ここで、時折聞かれることのある「日銀による国債引受け」の議論について、日本銀行の考えをご説明します。この点に関する各国の法的な取り扱いをみると、欧州では、中央銀行の国債引受けが明示的に禁止されているほか、新興国を含め世界の多くの国で、中央銀行による国債引受けは認められていません。わが国でも、財政法5条が本則で日本銀行による国債引受けを禁じています。』

『このような取り扱いは、一旦中央銀行による国債引受けを始めると、初めは問題はなくても、やがて、通貨の増発に歯止めが効かなくなり、激しいインフレを招き、国民生活や経済活動に大きな打撃を与えたという歴史の教訓を踏まえたものです。このように通貨に関する基本原則が世界的に確立されている中で、日本銀行による国債引受けが行われると、通貨への信認自体を毀損することになります。こうした通貨への信認の毀損は、長期金利の上昇や金融市場の不安定化を招き、現在は円滑に行われている国債発行が困難になる惧れもあります。』

といういつもの原則論はさておいて高橋財政の話。

『日本銀行による国債引受けに対する考え方については既に申し上げましたが、以下で述べるように、当時と現在の金融経済情勢はそもそも大きく異なっている事実は意外に認識されていないように感じています(図表9)。』

『まず第1に、国債引受けの始まる前は金融引き締め期でした。当時のコールレ−トは6.6%と高い水準であったのに対し、現在は0.07%と極めて低い水準です。また、長期金利も当時の5.9%に対し、現在は1.1%台となっています。』

名目金利の話だけで比較するところが微妙に怪しげな気がするんだが・・・・・

『第2に、高橋財政が始まる直前の国債発行残高の対GNP比率は47.6%と、現在の対GDP比率の181.9%とは比較にならないほどの健全財政の状態でした。』

『第3に、国債引受けは、是非の判断はともかくとして、資本移動規制の強化を伴うものでした。これに対し、現在は当時とは比較にならないほどに金融市場や経済のグローバル化が進んでおり、金融政策や財政政策が通貨の信認を壊すような方向で運営されると、長期金利にすぐ跳ね返る状況になっています。』

ふーん。

『そして第4に、当時の国内金融市場は現在に比べて規模が小さく、国債市場が発達していなかったことです。当時の国債発行は、民間金融機関が引受けシンジケート団を組成して引き受けるか、郵便貯金等を原資とする預金部が引き受けるかたちが中心であり、多額の国債を速やか、かつ円滑に消化する方法はありませんでした。』

まあこれはそうですな。つまり・・・・・

『当時の国債発行は、民間金融機関が引受けシンジケート団を組成して引き受けるか、郵便貯金等を原資とする預金部が引き受けるかたちが中心であり、多額の国債を速やか、かつ円滑に消化する方法はありませんでした。当時、日本銀行は国債を引き受けても最初の数年間、すなわち高橋是清蔵相の存命中は速やかに売却をしており、日本銀行による国債の保有残高やマネタリーベースが大きく増加した訳ではありません。いずれにせよ、現在は十分に発達した国債の発行市場が存在している点が大きな違いです。今回の震災後も、国債の発行は順調であり、応札倍率にも変化は見られません。』

ということでしたと。

『なお、高橋財政期に為替レートが円安になったことが指摘されることもありますが、1931年末に金本位制から離脱することによって、金本位制の下で人為的に割高に設定されていた固定為替レートが是正されたということです。これに対し、現在は変動相場制を採用しており、この面でも高橋財政が始まる前に置かれていた状況と異なります。』

それはそうなんでしょうけれども、現在でもQEナントカで通貨安合戦やってたりするので、って金融当局は通貨安誘導を否定してるけど、BOEとかFOMCとかの議事要旨読んでいると思いっきり「通貨下落が国内経済に刺激的な影響を与える」という認識を委員が示しているのですから、為替レートの話をスルーするっつーのも微妙に怪しげな説明っすわな。

『ご存知のように、高橋蔵相は軍部の予算膨張に歯止めをかけようとして凶弾に倒れ、結局はインフレを招いたわけですが、偶々軍部の予算膨張を抑えられなかったのではなく、市場によるチェックを受けない引受けという行為自体が最終的な予算膨張という帰結をもたらした面もあったのではないかと思っています。現在、金融政策を巡ってよく用いられる言葉を使うと、引受けという「入り口」が予算膨張の抑制失敗という「出口」をもたらしたと解釈すべきではないかということです。』

『この点、今日の目でみて興味深いのは、高橋財政期の日本銀行による国債引受けがあくまでも「一時の便法」として始まっているという事実です。高橋蔵相は帝国議会での演説で、引受けによる国債の発行は一時的なものであることを述べていますが、その後の歴史はこれが一時的なものではなかったことを示しています。』

『現在、先進国はもとより、新興国でも中央銀行による国債の引受けは認められていません。中央銀行による国債の引受けは、初めは問題がなくてもやがて通貨の増発に歯止めが効かなくなり、激しいインフレを起こすことによって国民生活や経済活動を破壊します。人間は誘惑に弱い存在ですが、そうした弱さを自覚するがゆえに、予め中央銀行による国債の引受けを禁止するという強さをもった存在と言えます。』

と、途中の説明は微妙にアレなのですが、まあ力が入っているというのは把握した。

あともう少し論点があるけどまあ割愛。特にこの講演で金融市場的に何かインプリケーションがあるわけではないので今日は純粋に観賞用という感じでございましたです、はい。

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2011/05/27

○総裁講演は力の入ったものだったようで

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2011/data/ko110525a.pdf
大震災後の日本経済:復旧、復興、成長
── 内外情勢調査会における講演 ──

でまあ結構長いのですが、途中をホイホイ拾って参ります。


・先行き見通しは下振れ警戒を強調

『2.日本経済の現状と先行き』の『先行きの見通しを巡る不確実性』から。

先に海外経済の不確実性についての話をしていますがそこは華麗にスルーでござる。

『そのうえで、やはり不確実性が大きいのは、今回の震災が日本経済に及ぼす影響です。中でも、震災に伴う各種の供給制約が、いつ頃解消していくかということが重要なポイントです。』

では何でしょという話ですが。

『電力については、冷房需要がピークを迎える夏場に需給の逼迫が予想されますが、電力会社の供給能力増強、自家発電の活用、企業・家計における節電や需要平準化の工夫など、様々な対策も講じられつつあります。また、サプライ・チェーンについては、一頃に比べて事態は改善の方向に向かっています。しかし、現時点で、電力の供給不足やサプライ・チェーン問題の帰趨について、正確に見通すのが難しいことも事実です。』

ほほう。

『夏場の電力需要は気温に大きく左右されますし、浜岡原発の問題を含め、各地の原子力発電所の稼働状況によっては、本年夏以降も長期的な電力の供給に不安が残る可能性があります。』

原発全部停止リスクキタコレ。

『また、サプライ・チェーンがどの程度速やかに再構築されていくかは、業種や製品によって様々です。原発事故を巡る情勢や、雇用・所得環境などによっては、消費マインドの本格的な回復に、時間を要する可能性もあります。』

雇用所得環境の悪化リスクキタコレ。

『逆に言うと、供給制約を巡る問題が想定よりも早く解決の方向に向かうと、景気は見通しよりも上振れることを意味しています。』

ほほー。

『このように、供給制約の解消時期については不確実性が高いと言わざるを得ませんが、日本銀行としては、政策運営に当たり、当面は、震災の影響を中心に下振れリスクの方を意識することが適切であると考えています。』

下振れリスク注意としっかり言い切っておられまして誠に結構な話ですな、うんうん。

『確かなことは、出来るだけ早く供給制約を取り除くことが、下振れリスクを払拭していくための最重要課題であるということです。』

じゃあその供給制約解消に向けて日銀がやることって何よと言いますとまああんまり無いのですけど、途中を端折りましてその結論はこんな感じ。

『勿論、供給制約が解消するまでの間に、追加的な需要の減少を招かないよう、マインドの悪化やリスク回避姿勢の高まりを防ぐことが重要です。こうした観点から、日本銀行は震災発生直後から様々な措置を迅速に講じていますが、この点については、後ほどご説明します。』


・成長基盤強化オペの拡充をしたいようですな

で、この後物価見通しの話があるのですが、そこをスルーすると次のお題が『3.日本経済の中長期的な課題への取り組み』となります。んでもってそこの小見出しの最初が『(1)成長力強化に向けた取り組み』でして、その中の話が結構盛りだくさんで、まあ総裁としてはここに気合を入れているんだろうなあと思われます。で、その話は素敵に長いので割愛なのでございますが、冒頭の所でこんな話を。

『本日、私が強調したいことは、震災への対応に全力を注いでいく中にあっても、従来から認識されていた中長期的な課題への対応を、後退させてはならないということです。むしろ、被災地の復興を始め、震災後の状況への対応を、成長力強化に向けた新たな出発点として位置付けていく構えが必要だと思います。』

んでまあ先に最終章の引用をしますと、金融政策に関する話のところでもこのような話をしています。

『このほか、日本銀行では、昨年6月に「成長基盤強化を支援するための資金供給」を開始し、既に3回の貸付を実施しています。先ほどお話ししたように、震災からの復興という課題は、成長力の強化という日本経済の積年の課題と重なる面があります。先行き、復興への取り組みが本格化していく中で、中央銀行に期待される役割は、金融機関の活動を間接的に支援していくことです。今後は、復興資金需要の出方に加え、それに対する民間金融機関の取り組みや政府等による支援の状況なども踏まえつつ、中央銀行としてどのような対応が有効か、検討していきたいと考えています。』

・・・・・・・どうもこの辺を見ていますと、総裁の思いとしては基金買入拡大とかよりも成長基盤強化オペを拡充したいっぽい感じを受けるんですけどどうでござんしょうかね。この調子だと被災地金融機関向けのオペレーションに関してもエンドが来た後に成長基盤強化に乗換とかになりそうな勢いでございますけれども、こらまた事務が煩雑そうなオペの拡充の香りではございます上に、金融市場の片隅の人的にはあまり市場オリエンテッドじゃない話ので成長基盤強化オペの拡充ってちとうーむという所ではございますけどにゃあ。


・国債引受論への反発キタコレ

さっきのところに戻って、『日本経済の中長期的な課題への取り組み』の2番目とは何ぞやという話ではございますが、それは『(2)財政バランスの確保に向けた取り組み』なのでございました(^^)。

『以上申し上げたように、中長期的な成長力の引き上げは、日本経済が取り組むべき重要な課題ですが、これと切り離して考えることのできないもう一つの課題が、財政バランスの確保に向けた取り組みです。(途中割愛)このように、成長力強化と財政再建という2つの課題は別々の課題ではなく、表裏一体のものです。どちらかを優先するということではなく、同時に推進していくべきものです。』

キタコレ。

『日本の財政は、1990年代以降、累次の景気対策や社会保障費の増加を背景に大幅な赤字が続いており、その立て直しは震災前から待ったなしの状況にありました。そこへ震災が起こり、まだ正確な見積もりはできませんが、被災地の復旧・復興に必要な財政資金が増加していくことは明らかです。当面の財政バランスがさらに悪化すると予想される今だからこそ、中長期的な財政再建の道筋を、これまで以上にはっきりと示すことが必要になってきています。』

ほほー。

『幸い、現在の日本の長期国債金利は、世界的にみても低位で安定的に推移しています。また、国債の発行市場をみても、震災以降、国債は順調に消化されています。このように国債市場が安定を維持していることを説明しようとすると、2つの理由が挙げられます。』

『第1の理由はマクロの貯蓄・投資バランスに関わるものですが、家計および企業部門の貯蓄超過状態が続いており、また、金融機関の資本基盤もしっかりしているため、差し当たり国債を買うお金の原資には困らない、ということです。』

『第2の理由は、将来の政策運営に対する信認に関わるものです。財政政策について言うと、財政バランスは非常に悪化しているにもかかわらず、最終的にはその改善に向けた取り組みが行われるはずであるという予想です。金融政策について言うと、物価安定のもとでの持続的な成長の実現という目的達成のために運営されていることについて、信認が置かれていることです。』

信認キタキタキタ。

『財政状況の深刻さにもかかわらず、ただ今申し上げた信認こそが、国債市場の安定を支えていると言えます。人間は長く続いた傾向が今後も続くと漠然と思いがちですが、国債市場の安定に対する信認はこれを維持しようとする意思の力で支えられています。それだけに、国債市場の安定が保たれている間に、成長力の強化と財政の立て直しに向けた動きを進めていくことが不可欠です。また、そうした努力によって市場の安定をより盤石なものとすることは、震災からの復旧・復興を支える環境を整えることにも資すると考えられます。』

力が入ってまいりました!!!!

『なお、日本の財政赤字が既に大きいため、新規財政支出の財源が検討される際には、日本銀行が国債を引き受ければよい、という議論がなされることがあります。しかし、無から有を生み出す「打ち出の小槌」のような便利な道具は、そもそも存在しません。』

キターーーーーーーーーー(・∀・)ーーーーーーーーーーーーー!!

『中央銀行による国債引き受けにせよ、民間金融機関による国債の市中消化にせよ、最終的には、企業や家計の貯蓄を原資として国債が発行されるという大きな構図は全く同じです。むしろ、中央銀行による国債引き受けには、財政規律の低下を招きやすいという深刻な副作用があります。投資対象のリスクを評価するという市場のチェック機能を活用せずに、国が、中央銀行による国債引き受けに頼るようになれば、いつの間にか、将来の納税者の負担能力を超える水準まで国の債務が膨らんでしまう可能性があります。』

さ あ 盛 り 上 が っ て 参 り ま し た !!!!!!

『震災後、関心が持たれることが多くなった高橋財政期の日銀引き受けも、最初は「一時的」との位置付けで始まりましたが、やがて引き受け額の増額と通貨の膨張に歯止めが効かなくなり、最終的には激しいインフレをもたらした歴史を思い返す必要があると考えています。』

「一時の便法」って奴ですな。

『以上のような議論に対し、引き受けが不適当ということであれば日銀が市場から国債を買い入れれば良いという議論が聞かれることもあります。日本銀行は現在、国債を大量に買い入れていますが、その目的は、成長に伴う銀行券需要の増加に対応した市場に対する安定的な資金供給です。そうした目的を超えて、中央銀行の国債買い入れが財政ファイナンスを目的に行われているとみられるようになると、引き受けと同じ問題が生じます。』

と、まあいい感じで白川総裁の話が展開されたのでありました。

まあ国債買入に関しても市場が財政マネタイズと見なせば直接引受と同じ結果になりますが、まあ一応野放図に拡大しないというイメージがあるのと、そもそも国債出た分のおアシが国内でグルグル回っているので国債消化しているとか、まーそれなりに何だかよく判らんけどバランス取れているので回っているっちゃあ回っているのかも知れません。

まーこの手の話って、定量的にどうのこうのという話が一番フィットしないネタでありまして、端的に申し上げると財政マネタイズやってそれがどう見ても歯止め効かないだろと思われた瞬間に試合終了になりますよねってえ話なので「何兆円買ったら信認崩壊」というその「何兆円」という話をしろと言われてもこれがまた全くワカランチ会長としか申し上げようが無いっすけど、まあ無限に赤字国債発行する側から無限に国債買入が拡大するのは不可能(さすがに「無限に」やったら円がジンバブエドル状態になるでしょ)ですわなという話ですからねえ。

で、現政権の無茶振りと何でもかんでもばら撒きたがる性癖を見ていると、こいつらにうっかり財政マネタイズあるいは財政マネタイズもどきなどという最終兵器を与えると日本経済に巨神兵が暴れまわって火の海になってしまうだろうなあという恐怖感があたくしにはあるんですけれどもどうでしょうかね。

とまあ最後はあたくしのどうでも良い雑感で恐縮至極でございました。

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2011/05/24

○総裁会見から:先行き見通しは比較的強気を継続のようで

http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2011/kk1105a.pdf

・サプライチェーン、電力供給に関して

『(問) 現在のサプライチェーンの動向や、浜岡原発の停止を含む原発問題を踏まえて、前回会合以降、供給制約の見通しがどのように変化したのかお伺いします。』

基本の質問ですな。

『(答) このところ、自動車メーカーなどから、一頃の予想に比べて生産の増加が前倒しで実行できる、との見通しが出されています。また、夏場の電力供給についても、一時心配されていたほどの深刻な事態にはならない、という見方が強まってきているように思います。これらは、大変心強い変化であると受け止めています。 もっとも、日本銀行の展望レポートにおいては、当初から、そうした関係者の努力や工夫をある程度織り込みながら、見通しを立てていました。従って、現時点においても、供給制約の解消に向けた動きは、概ね私どもの展望レポートの見方に沿って進んでいるとみており、秋口以降、供給面の制約が全体として和らいでいくと考えています。』

ほう。で、途中を飛ばして。

『ただし、電力の需給については、この夏場は今申し上げた通りですが、やや長い目でみると、楽観できる状況ではないと思っています。浜岡原発を巡る情勢等を踏まえると、各地の原子力発電所の、定期点検後の運転再開などを巡っては、不確実性がむしろ幾分増しているようにも感じられます。こうしたことが先行きの経済活動に与える影響については、日本銀行として、予断を持たずにみていく必要があると考えています。』

という話なのですが、まあ前半は(飛ばした部分も含めて)明るめのトーンですな。で、後半部分に関する認識に関して更に質問がありまして(引用割愛)、それに対する答えはこうなっています。

『(答) 先程申し上げた通り、私どもが当初一番懸念していた夏場の電力不足については、全体として一頃懸念した程ではなくなりつつあります。これはポジティブなニュースです。一方、少し長い目でみた場合に、ご質問の、他の原発への影響をどう考えるかが1つの大きな論点です。この点については、先程、不確実性が従来に比べると増しているように感じられる、と申し上げました。ただ、これが今後どういう展開を辿っていくかについては、日本銀行は専門家ではありませんし、色々な要素に依存すると思いますので、日本銀行としてはこれを1つの不確実性、リスク要因として認識しながら、経済の状況を点検していくということだと思います。』

微妙に禅問答ですが、要するに電力供給のネックがどの程度大きいかによって景気への影響も考えないといけませんなあという話をしているかと存じます。


・西村副総裁の見解について

当然ながら質問がありましてその答え

『(答) 西村副総裁の詳しいご意見の内容については議事要旨を見て頂きたいと思います。今回の会合で決定した経済・物価の見通しとリスク評価は先程ご説明した通りです。西村副総裁もこうした見通しとリスク評価を共有されています。そうした情勢判断を踏まえて、今回、基金増額の議案を提出されなかったと認識しています。』

ということで、これを字面通りに解釈しますと「西村副総裁の景気認識あるいはリスク認識が好転したので提案を見送った」という話になります。

でね、そうした場合に6月なり7月なりに基金拡大が決定されましたというような話になった時に、西村副総裁はどっちに票を入れるのかがこれまたオモローになる訳で、もし賛成するのであれば、あんさんの経済認識上下にフラフラ振れ過ぎですがなという話になりますし、反対するとなると今度は景気認識のほかの人とのズレっぷりがこれまた目立ちますなあという話になる訳ですが、前回提案したのだったら今回も継続提案じゃろと思う(大体からして営業日ベースで2週間しないのにそんなにホイホイと景気認識が変わるというのがよく判らん)のでありますけどねえ。

ま、7月くらいでしたらその間に指標も出るでしょうし、短観も出ますから「最新の経済指標を見た結果リスク認識が高まりました」という言い訳(?)は出来るでしょうけどね。


・QE2は単純なマネー供給ではないというお話

QE2終了後の話についての質問に対する解答でオモロイ部分があったので引用。

『(答) まず、6月末でQE2が終わることに伴う影響についてのご質問です。ご質問では「マネー」という言葉で表現されましたが、今回のQE2の効果は、かならずしもマネーサプライに対するものではなかったと思っています。FRB自身、QE2で中央銀行のバランスシート、マネタリーベース、あるいはマネーサプライが量的に拡大すること自体が金融緩和の効果を生むものではない、と繰り返し強調しています。従って、「マネー」というターム(用語)でこの問題を議論することが良いのかどうか私自身も少し疑問を持っています。』

以下説明は続きますが、これはこれはと言うことでここだけ引用しました(^^)。


・東京電力関連

あまり露骨な言い方はしていませんが、微妙に現状をdisっていますわな。

『今般、政府の関係閣僚会合において決定された賠償支援の枠組みは、公表文にもある通り、被害者への迅速かつ適切な賠償の支払いと電力の安定供給の確保を図りつつ、金融市場の安定を確保しようとするものであると理解しています。』

金融市場の安定を確保しようという発想があったら「ステークホルダーの協力」と称して官房長官があんなこと言いませんわな(昨日の国会答弁で債権放棄要請は事実上撤回したようですが当たり前じゃヴォケおまえはさっさと三途の川で競艇でもやってろという感じ(「三途競艇」の元ネタを知ってるアナタはロクデナシ認定^^)ではありますが)とおもいますけどね。

『私は、原発問題の専門家ではもちろんありませんので、あくまでも中央銀行総裁として金融市場の安定という観点から申し上げると、東京電力の社債の発行残高は約5兆円と大きく、また、社債市場におけるプライシングのベンチマーク機能を果たしてきているという面もあります。また、多くの金融機関が東京電力に対して貸付けを行っているほか、東京電力の株式や社債は幅広く保有されています。』

さよですな。

『こうした状況を踏まえると、賠償支援の枠組みの如何が金融市場に与える影響は非常に大きいと考えています。この点、今回公表された賠償支援の枠組みによって、株式や社債の扱いを含め、基本的な方向性が示されたことは意義のある前進であったと受け止めています。』

そうですか(棒読み)

『もちろん、今般発表された内容は、あくまでも骨格の段階であり、今後、具体的な肉付けがなされていくものと承知しています。その際、先程の3つの目的の1つである金融市場の安定確保は、最終的に、被害者への迅速かつ適切な損害賠償の支払いや電力の安定供給の確保という目的を達成していく上でも重要であり、この点も十分念頭に置いて具体化されていくことを希望しています。』

この部分を「金融市場に悪影響を与えている枝野官房長官の言動はいかがなものか」と言う風に読んでしまうのはあたくしの希望的観測ですかそうですか(^^)。


『次のご質問ですが、私は、官房長官のご発言をその場で聞いているわけではありませんので、官房長官の発言自体についてコメントすることは差し控えたいと思います。債権放棄についてどう考えるのかということですが、今般決定された賠償支援の枠組みでは、東京電力が全てのステークホルダーに協力を求めることが前提とされています。ただし、金融機関の具体的な対応については、金融機関と東京電力との間で決まってくるものと理解しており、私の立場から具体的なコメントを申し上げることは差し控えたいと思います。』

まあそう来るのですが。

『その上で一般論として申し上げると、』

麿の得意技「その上で一般論として申し上げると」キターーーー(・∀・)ーーーーっと。

『先程の話とも重なりますが、この賠償支援の枠組みでは、被害者への迅速かつ適切な損害賠償の支払いや電力の安定供給の確保がその目的として掲げられています。それを実現するためにも、金融市場の安定を図りつつ、直接の当事者である金融機関と東京電力の話し合いを通じて、安定的な資金供給が維持されるということは重要だと思っています。今後、こうした点を意識しながら、関係者間で適切な対応が採られていくことを期待しています。』

つまりもっと適切な対応が出来るように何とかならんかという話ですかそうですか、っていうのはあたくしの拡大解釈のような気がするのですが、どうもトーンとしては微妙に現状のカオス状態何とかならんかという感じなんでしょうな。

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2011/05/06

○総裁会見は警戒スタンスを表に出していますな

http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2011/kk1104e.pdf

ちなみにいつも長い冒頭の説明ですが、今回は展望レポートの説明があるので更に長く、冒頭から3ページ半が総裁の説明でございまする。でまあそこの説明でも比較的警戒スタンスを見せていますが、長いのでスルーしまして(^^)その他の質疑から。

・西村副総裁の提案と他の否決理由

今回は中々良い質問が多いですな(^^)。

『(問) 西村委員から基金増額の提案があったということですが、総裁は、今回示された実質成長率の見通しなどを踏まえて、追加緩和の必要性についてどのようにお考えかご説明下さい。』

『(答) 西村委員の意見については、詳しくは、今度公表される議事要旨で説明したいと思います。ご質問の趣旨は、本日の議論で残り8 名が、今回の展望レポートで示された成長率見通しやリスク判断を前提に、追加緩和の必要があると判断しなかった理由は何なのかということだと思います。』

質問が良いので良い答えの方向になります(^^)。

『改めて、震災発生以降、日本銀行が採ってきた対応を整理すると、経済活動の基盤となる決済・金融機能の維持に万全を期しているほか、市場の需要を十分満たす潤沢な資金供給を行い、金融市場の安定確保に努めています。こうした大きな震災の後の危機というべき状況においては、これは非常に大事なことです。また、震災直後の3月14日には、リスク性資産を中心とする資産買入等の基金の増額を決定し、金融緩和を一段と強化しました。これは、既にその時点において、実体経済が1月の中間評価より下振れる可能性、あるいは不確実性が高まっていることを十分意識し、そうした可能性に早めに対応する観点から講じた措置です。』

さいですな。

『金額も、今申し上げた趣旨から、いわゆるtoo little (少なすぎ)となることを避けるために、リスク性資産を中心に5兆円という思い切った増額を行いました。現在は、そうした考え方のもとで増額した資産買入れを着実に進めながら、その効果波及を見守っていく段階にあると考えています。』

まあ確かにそらそうですな。

『こうした措置に加えて、先程申し上げた通り、被災地金融機関に対する資金供給オペレーションも本日決定し、5 月中に実行したいと考えています。』

で、更に説明は続く。

『繰り返しになりますが、今回の展望レポートの冒頭で強調している通り、先行きについては不確実性が非常に大きいということを、私どもは十分に認識しています。従って、私どもとしては、経済・金融情勢を丹念に点検し、必要と判断される場合には、適切な措置を講じていくという一般的な構えである、ということは、いつも申し上げている通りです。ただ先程申し上げたように、3月に思い切った金融緩和を行い、その買入れについてはまだ始まったばかりです。そうした効果を見極めて行くことが、今は適切だと判断しています。』

という事で、まあさっき引用したように展望レポートのメインとなる見通しに関してはそれを単体で取り出すと妙に強気に見えるというのもありますので、先行きの下振れリスクへの警戒を強くしているとゆー部分を強調しておかないとバランス的に良くないとゆー配慮が今回は相当出ていたのではないか、と思われる質疑応答がこの後も続くのですけれども、実質最初の質疑応答でこのように丁寧にリスク警戒の話をして、かつ追加緩和の可能性も排除しない言い方をしているのは中々。

まあ補正予算前のタイミングで良い所を狙って基金買入拡大を実施(ちなみに足元の市場状況だけを見ますと短国の買入をこれ以上増やすと当預残拡大攻撃もありますので、短国市場が本格的にモノナシ状態になってしまい短期市場が本格的に壊滅する恐れがありますので短国買入拡大も程々にということでお願いします^^)するというのに100ポルドガルエスクードなのでありますが。


・サプライチェーンの回復に関して

これまた良い論点。

『(問) 2点伺います。まず、秋口に供給制約が和らぐ時のイメージですが、その際、需要面はどうなっているとみればよいでしょうか。需給ギャップは改善するのか、あるいは、むしろ悪化する可能性の方が高いとみているのか、教えて下さい。

2点目は、供給制約が和らいだその先の話ですが、生産全体としては、震災前の水準に戻っていくとみるべきなのか、回復は続くが震災前の絶対水準に戻ることは当面望むべくもないとみているのか、教えて下さい。』

『(答) 供給制約が解消した後の経済のイメージについてですが、震災前まで日本経済の回復を支えていた最も大きな条件は、新興国経済の成長に牽引された世界経済の高い成長率でした。この基本的な条件自体は、現在のところ大きく変わっているわけではないと思いますので、その意味では、潜在的な需要はあると考えています。加えて、今後の復旧・復興の過程で、毀損した資本ストックの修復に向けた需要も出てくるわけです。供給制約が和らいでいく秋口以降、そうした潜在的な需要や復興需要が出てくるというイメージです。ただ、いつ、どの程度、供給制約が解消していくのかについては、これは不確実性がありますので、この点は丹念にみていきたいと考えています。』

『また、需給ギャップについてですが、生産能力が毀損している一方で、震災後のマインドの低下によって需要も減少しているので、供給も需要もともに落ちているという状況です。ただ、先行き供給制約が解消したその後を考えると、経済回復の基本的な条件自体が変わっていないという前提のもとでは、緩やかに需給ギャップのマイナス幅も小さくなっていく、改善方向に向かっていくというイメージを持っています。』

とまあこの辺は割と普通の話。

『それから、供給制約が解消した後の生産水準についてですが、供給の制約が完全に解消した後は、定義によりこれは需要に見合った水準になっていくわけです。』

さいですな。

『先日、経済産業省が、企業に対して行なった供給制約の解消に関する調査結果を公表しました。同調査によれば、確か7月までに9割の企業がサプライチェーンの障害から立ち上がり、部品・部材の調達については10月までに8割弱の企業が十分な調達ができるという回答結果であったと思います。逆に言えば、残りの企業については十分な調達ができないという回答です。』

ほう。

『このような企業の回答結果を踏まえると、10月の段階ではまだ十分に戻るということではないのかもしれません。』

ほほーーーーーー(^^)。

『いずれにしても、これは供給制約の解消テンポについての現時点での情報に基づくものであり、今後、予断を持つことなく点検していきたいと考えています。』

ということで、前回決定会合後の定例会見で示したイメージよりも日銀の考えるサプライチェーンの回復時期の見通しが後ズレしている可能性が高そうな感じで、この辺りも展望レポートでの先行き警戒祭りに反映されているのではないかと思ったのですけれどもどうでしょうかねえ。


・担保要件緩和に関する話

これまた良い質問ではあったのですが・・・・・・

『(問)2点お伺いします。今回、担保要件の緩和の中で、金融機関の自己査定に委ねる部分が盛り込まれていますが、この意味と狙いについてご説明下さい。(2点目割愛)』

『(答) 自己査定の方ですが、今回は、被災地金融機関の資金調達余力を確保するという観点から、担保基準を緩和しました。その中で、例えば大きな企業では社債を発行することもありますが、今回の被災地域を考えてみると、資金調達を行う企業の中には小さな企業もたくさんあります。そうした企業を想定し、取りうる担保を考えた場合に、企業を債務者とする手形、証書貸付債権には格付けが無いわけです。一方で、中央銀行として銀行券を発行していますから、財務の健全性に配慮しなければいけないという要請もあります。その2つの要請を満たす解決策の1つとして、金融機関の自己査定結果が正常先の企業について、日本銀行が担保として受入れ、ただし、信用リスクの大きさや流動性の低さを勘案した担保の掛け目を設定するということです。(2点目割愛)』

・・・・・・・どう見ても禅問答です本当にありがとうございました。

ま、こうやって禅問答で返しているという場合に良くあるケースとして経験的にあたくしが想像するのは(1)本件に関して内部的に少々ややこしかった(2)あまり突っ込まれたく無い論点なので禅問答でスルーした、というような場合かなあと思いますが、今回の「与信審査において与信先の自己申告丸呑み」というのは所謂バジョット・ルールの観点からしたら中央銀行的には割と踏み込んだものでありますからして、あまり突っ込まれたくないのかも知れませんね(^^)。

#そういうのを突っ込むのがあたくしの趣味なのですが(←性格に問題あり)


・物価安定の理解の表現変更について

今回の質疑応答は良い感じで論点が揃っていて大変結構。

『(問)「中長期的な物価安定の理解」の表現がやや変更されました。透明性の観点、あるいは一般国民や市場関係者に伝えるという観点から、もう少し詳しくご説明をお願いします。』

『(答) 詳しい議論の中味については、議事要旨をご覧頂きたいと思いますが、日本銀行は、金融政策を運営する上で意識している中長期的な物価安定がどのようなものかについて数値で表現しています。9名の委員それぞれが様々な見解を持っており、年1回、4月の展望レポートの時期に点検を行っています。今回は、昨年と比べて委員の何人かに交替がありました。改めて議論を行い、各委員の考える「物価安定の理解」を合わせてみると、冒頭申し上げたように「2%以下のプラスの領域にあり、中心は1%程度である」となったということです。』

つまり須田さんが抜けたせいですね、わかります。

『この「物価安定の理解」について考えていく上では、物価指数のバイアスの問題──若干の上方バイアスがあると言われています ──、それから、ゼロ金利あるいはデフレということに陥る可能性を意識した場合に、金利引き下げの余地を持っておいた方がいいという観点から若干の糊代を持った方がいいという議論、また、長い期間、ある国の経済・社会において実現している物価上昇率から大きくかけ離れた物価安定はないだろうという国民の物価観、これら3つの観点から点検を行っています。そうした点検を行った結果、先程申し上げた数字となったということです。』

ということで、計測バイアスの話に加えてゼロ金利回避の為の糊代論に言及しているのもほほうという感じでありますな、うんうん。


・マインド面について

これまた良い論点。

『(問) 先程、海外の潜在需要と復興需要の話をされましたが、今、足元で企業や家計のマインドは確かに悪化していると思います。マインド面は、これから供給制約などが変わっていった場合に、どう変化していくとみているのですか。』

『(答) 現在のマインドの悪化の原因を辿っていった場合に、1 つは供給制約それ自体からきていると思います。2 つ目は、原因がそうであれ、経済活動が停滞すると、そのことが出発点になってまたマインドの低下に繋がっていくということだと思います。そういう意味で、供給制約が解消していくことがマインドの改善に必要なことですが、それがどれ位のスピードで改善していくのかが、やはり大きなポイントだろうと思います。出発点が供給制約であっても、それが長く続くと、やはり独立的なマインドの悪化要因になりうると思います。』

ということで、回復が遅れた場合にはマインドの悪化を通じた2次的な悪化もあり得ますというお話でして、まあそんな感じで今回の総裁会見は展望レポートのメインシナリオのやや強めに見える見通しとのバランスを思いっきり取ったような感じになっておりましたです、はい。

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2011/04/19

○特に先行き金融政策に関する話ではないですが

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2011/data/ko110415a.pdf(邦訳)
東日本大震災:社会の頑健性と復興に向けた意思
── Council on Foreign Relations主催の会合(ニューヨーク) ──

http://www.boj.or.jp/en/announcements/press/koen_2011/data/ko110415a.pdf(実際の講演)
Great East Japan Earthquake: Resilience of Society and Determination to Rebuild
Remarks at the Council on Foreign Relations in New York

まあこの講演そのものは金融政策どうのこうのという件で言えばスルーで良いのでふが、こういうアピールおよび感謝の意を積極的に表明するのは結構なお話であります。

『I am privileged to have the opportunity to speak before the Council on Foreign Relations today. Before beginning my speech, I would like to extend my heartfelt gratitude to the government and people of the United States for the support and encouragement concerning the tragic Great East Japan Earthquake.』

というのが冒頭での謝意ですが、最後のところでも改めて謝意と復興に向けたアピールをしています。

『VI. Concluding Remarks

As I mentioned earlier, nothing is more heartening in a crisis than the encouragement and support of friends overseas. I would like to conclude by thanking you once again for your friendship. With the resilience of Japanese society and the determination to rebuild, I am absolutely convinced that Japan's economy will overcome this trying time, successfully rebuild and become even better placed with greater growth potential. With that, I would like to conclude my remarks. Thank you for your attention.』

ということですが、それ以外にも海外に向けて日本は皆様が誤解している程全て危険でエライコッチャな訳ではないというのも説明してますな。

『The Bank of Japan's Fukushima branch, which is about 40 miles away from the Fukushima Daiichi nuclear plant, has been conducting its business as usual, and has been providing cash, including on the weekend immediately after the earthquake. Financial market stability has been maintained. I would also note that trading on the Tokyo Stock Exchange has been perfectly normal.』

『福島第一原発から約40 マイルの距離にある日本銀行の福島支店も通常通り営業しており、地震発生後の週末も含め現金供給に努めています。また、金融市場も安定を維持しているほか、東京証券取引所における株式の取引も正常に行われています。』(めんどいので日本語版を一緒につける^^)


『Looking beyond the world of settlement systems and financial markets, the people in the disaster areas have been calm and composed and full of a spirit of mutual cooperation, despite such a difficult living environment. In Tokyo, although electricity shortages are causing some inconvenience, people have accepted these new realities and adapted immediately. One of the visible changes is that people are increasingly deciding themselves to cancel parties or other events, as a mark of respect to the victims of the disaster and out of consideration for the feelings of the people affected. Another change is a substantial decline in visitors from overseas.』

『決済システムや金融市場の外に目を転じると、被災地のあれだけ厳しい生活環境にもかかわらず、人々は冷静に行動し、助け合いの精神に満ちています。また、東京での人々の生活を見ると、電力不足による不便はあるものの、そうした事態を受け入れて直ぐに適応しています。目に見えて変化したのは、震災の犠牲者に対する弔意と被災者の心情への配慮から、様々な会合や行事の自粛が広がっていることと、外国からの観光客の大幅な減少です。』

ということで、日本は頑張っておりますし、別にどこもかしこも放射能という事でも無いですよ、と状況の説明をしているのは、まあこういう時ですから金融政策どうのこうのの話をするのではなく、こーゆー話をするのが吉という事なのでしょうな、うんうん。

更に外国人の皆様が脱出した件に関してはこんな話がチャーミング。

『As was the case in the financial markets immediately after the failure of Lehman Brothers, when people's lives and safety are at risk, they sometimes tend to become excessively risk averse, which makes things worse. Incidentally, while foreign nationals residing in Tokyo increasingly left Japan for fear of radiation risk, it has tended to be overlooked that the radiation levels in Tokyo are roughly the same as in other major cities around the world, such as Paris and Berlin, or they were exposed to more radiation on the airplane than they would have been exposed to in Tokyo.』

『リーマン・ショック発生直後の金融市場もそうでしたが、人間は生存や安全が脅かされると、時として極端なリスク回避に走り、そのことがさらに事態を悪化させます。因みに、東京在住の外国人が放射能リスクへの恐怖から国外に退避するという動きも広がりましたが、東京の放射線量はパリやベルリンなどの主要都市とほぼ同じであるとか、飛行機内で受ける放射線の方が多かったという事実は忘れられがちでした。』

・・・・・(^^)。

で、日本経済に関する話はまあ普通の話をしていますのでそちらはスルーの方向で。

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2011/04/11

○総裁会見から:今後の課題は生産をどう復活するか

http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2011/kk1104b.pdf

冒頭の説明部分からいくつか既にネタがあるので珍しく引用。


・イイハナシダナー

『今回の大震災について、多くの海外中央銀行からお見舞いの言葉を頂いたほか、タイの中央銀行とその職員有志、およびBISからは、義捐金も寄せられています。』

・・・・・・(;∀;)イイハナシダナー

というか、こういうイイハナシダナーな事はもっと報道されて然るべきではないかと存じます。


・復興支援オペと適格担保要件緩和について

『被災地において、今後の預金受入れの動向が不透明である一方、資金需要が大きく高まることが予想される中で、被災地金融機関にとっては、現在の潤沢な資金供給に加えて、さらに長めの資金供給が行われれば、資金調達面からの安心感につながると考えられます。さらに今後の被災地金融機関の資金調達余力を確保する観点から、担保適格要件の緩和を図ることとしました。』

ということで、つまりまあ復興支援オペに関しては金曜に「1兆円だとするとメガバンクとかがジャンジャン使うような感じでは無いですな」と申し上げましたが、この発言をみますと適格担保要件の緩和に関しては信用緩和的なイメージというよりは、普通に被災地域向けに要件緩和をするというような感じになるのですかねえと想像しましたけれどもどうでしょうかね。


・生産の回復に向けて

『わが国の景気については、震災の影響により、生産面を中心に下押し圧力の強い状態にあると判断しました。今回の地震の影響で広範囲に亘る地域において、生産設備が毀損されています。被災地の工場で、生産されていた部品や素材の供給に制約が生じていることなどから、サプライチェーンにも障害が生じています。さらに、発電設備が大きく毀損されたことに伴い、電力供給面での制約も生じています。これらを受けて、一部の生産活動が大きく低下しており、輸出や国内民間需要にも相応の影響を及ぼしています。』

ということで、今回の景気の問題は従来の需要不足によるものではなくて、生産の下押しによるものであるという点と、その中で何の問題があるかという点について、(1)生産設備の毀損、(2)サプライチェーンの障害、(3)電力供給の制約、という3点を挙げています。


・短観について

『先日公表した 3月短観をみると、今回の震災前までは日本経済が私どもの見通し通りの回復を続けていたことが裏付けられました。同時に震災後の回収分のみを集計した業況判断DIからは、業種・規模を問わず、企業が先行きの悪化を予想していることも確認されました。いずれにせよ、今回の短観には、震災の影響が十分織り込まれてはいませんので、ここから多くの情報を引き出すことは難しいとみています。』

ということですので、まあ今回の短観は震災後の回収分の結果がそんなに悪くは無かったですが、さすがにこれは参考にならんという見解ですのでまあ短観は無視して良いという事ですし、こう言い切る位ですから日銀も足元では緩和方向での発想しかありませんわなという事でしょう、当たり前だがちと安心。


・先行き見通しおよび今後の課題

という質問に対する答えから。

『まず最初に、今回の震災をリーマンショックとの比較で位置付けてみたいと思います。 わが国経済は、生産面を中心に、2008年秋のリーマン破綻後と同様に、大幅に落ち込んでいます。もっとも、リーマン破綻後の落ち込みは、金融収縮に端を発する「需要の蒸発」が原因でしたが、今回は、供給面の制約が経済の落ち込みの原因であり、「需要の蒸発」が生じたわけではありません。』

ほほう。

『供給面での制約が解消していけば、海外経済の改善を背景とする輸出の増加や、資本ストックの復元に向けた需要の顕現化などから、日本経済は緩やかな回復経路に復していくと考えています。』

で、解消する前に需要が落ちてしまったらどうすんでしょ???

『このように、時間軸を意識しながら先々の経済を展望した場合、今申し上げたような回復経路に復していく上で、多くの課題を克服していく必要があります。中央銀行の立場からは、次の3点を指摘したいと思っています。』

『1つ目の課題は、供給面での制約の解消に向けた努力です。この点、企業サイドでは、生産施設の再稼働、西日本などへの生産代替の推進、代替調達先の確保、電力不足への対応など、既に様々な取り組みを進めています。今後、供給面での制約が解消していけば、世界経済が新興国・資源国に牽引されて高い成長を続けているだけに、輸出の増加が日本経済の回復を支える原動力の1つとして、はっきりと作用してくると見込まれます。』

で、その供給面の制約がさっきの3点ですが制約解消するのでしょうかねえ???

『2つ目の課題は、震災によって毀損した資本ストックの復元です。そのためには、必要な資金調達を確実なものとすることが大事ですが、わが国の場合、家計および企業部門の貯蓄超過状態が続いています。従って、金融システム・金融市場の安定が確保されている限り、マクロ的にみれば、資本ストック復元のための資金調達が困難な状況ではありません。』

これはそうですかな。

『3つ目の課題は、被災地をはじめ、わが国経済が現下の困難を乗り越えるとともに、これが同時に、将来の成長力の向上につながることを意識しながら、復旧・復興に向けた取り組みを進めていくことです。こうした取り組みは、企業や家計の中長期的な成長期待が下振れしないようにするためにも重要な課題です。』

しかし景気ウォッチャーを見ると既に下振れの悪寒が。

『さらに、以上3つの課題に取り組む際には、内外への正確な情報発信を行っていくことが必要です。特に、日本経済に対する不安感などから風評被害が起きやすい時だけに、誤解を招かないような情報発信が現在きわめて重要となっています。』

しらっと報道機関のセンセーショナル報道姿勢に対して苦言を呈していると共に、情報発信がグダグダな民主党政権に苦言を呈していると思ったのは読みすぎですかそうですか。


・国債引受に関して

やはりその質問が来た訳ですが。

『復興資金をどのような方法で調達するかについては、政府・国会でお決めになることであり、私からコメントすることは差し控えたいと思います。その上で、中央銀行による国債引受けについて、一般論としてお答えします。』

と言った後の一般論が大演説状態になっておりましてどう見ても国債引受反対です本当にありがとうございましたという感じ(とは言っても国会でやれと言われれば結局やらないといけないのですけどね)でありまする。

『この点に関する法的な取り扱いをみると、欧州では、中央銀行の国債引受けが明示的に禁止されているほか、新興国を含め世界の多くの国で、中央銀行による国債引受けは認められていません。わが国でも、財政法第5条が本則で日本銀行による国債引受けを禁じています。

このような取り扱いは、いったん中央銀行による国債引受けを始めると、初めは問題はなくても、やがて通貨の増発に歯止めが効かなくなり、激しいインフレを招き、国民生活や経済活動に大きな打撃を与えたという歴史の教訓を踏まえたものだと思います。』

さいですな。大体からして財政再建とか言いながらこの10年で国債発行なんぼ増やしておりますねんとか思いますと、とてもじゃないけど復興国債の1発で話が終了する訳ないじゃんとしか思えない訳でして。

『このように通貨に関する基本原則が世界的に確立されている中で、日本銀行による国債引受けが行われると、わが国への信認、通貨への信認自体を毀損することになります。こうした通貨への信認の毀損は、長期金利の上昇や金融市場の不安定化を招き、現在は円滑に行われている国債発行が困難になる惧れもあります。震災後、国庫短期証券を含めて12回の国債入札が行われており、震災直後を除き、好調な入札結果となっています。こうした現在の安定的な国債発行環境を維持していくことが大事であると考えています。』

という事で、債券市場系の人は基本的に「市場で円滑に消化できているのに何で劇物扱いの施策を実施しないといけないのですか」という意見だと思うのですけれども、何故か「国債引受VS増税」みたいなフレームアップをされるのかがさっぱりワカランチ会長でありまする。

『今回の震災の経験から、私どもはインフラが破壊された場合に、国民生活や経済活動にいかに大きな影響が生じるかを改めて認識させられました。この点、通貨への信認・信頼は、わが国の金融・経済にとって重要なインフラの一角をなすものです。日本の財政状況は厳しく、日本経済も震災の大きな影響を受けている時であるだけに、国際的にも国内的にも通貨への信認・信頼をしっかりと維持することがきわめて重要な課題だと思っています。』

と、思いっきり大演説でありました(^^)。

あと、最後の質問で償還乗換の質問があってその説明もしていましたが、「償還乗換と財政マネタイズは別物ですよ」という話でしたので引用しまふ。説明としては判り易いです。

『財政法第5条の解釈は、日本銀行が行うことではありませんが、これまでも財政法第5条に基づいて日本銀行は毎年国債の乗換え引受けを行っています。つまり、国会においてその金額の上限が定められて、日本銀行の判断で、買入れた国債が満期を迎えた時に、その国債を乗換えて引受けることをしています。その国債について、いったん全部現金償還を受けた上でマーケットから同額を買うという手もありますが、両方がセットになっていると考え、買入れた国債の満期償還について金融調節上支障がないことを確認した上で乗換えの引受けを行っています。』

『言い換えると、この乗換え引受けは通貨を追加的に発行するために行っているわけではなく、現在ある通貨の量を維持する時に行っているのがこれまでの実績です。過去、政府が国会で示しているのもこのような見解です。』

・復興支援オペ1兆円の根拠

オペ金額1兆円の積算根拠は何ですかという質問について。

『本日お示しした措置は、先程も申し上げましたが、被災地の金融機関を初期段階において支援することを狙いとしています。今回の被災による影響はまだ正確には分かりませんし、見通すことは非常に難しいことだと思います。先般、内閣府が発表した試算によると、今回の大震災の被害見込みは約16〜25兆円程度です。これは、阪神・淡路大震災の約10兆円の2倍程度となっていること、阪神・淡路大震災の際に私どもが行った、いわゆる復興支援貸出の限度額は5千億円だったことも勘案して1兆円が適当と判断しました。』

・・・・・・・・・・・・な、なるほど。


・供給制約の解消はいつごろでしゅかという件

『次に、供給制約がいつ解消するのかということですが、サプライチェーンについては、現在企業が懸命になってその修復に努めています。正確な時期はもちろん特定できませんが、6月か7月くらいには、このサプライチェーンの制約は解消していくだろうと期待しています。一方、電力についてはこの後いったん計画停電が解消されますが、夏場にかけて再び電力不足が関東地区を中心に生じてくると考えられます。その後は、また、いったん電力の供給制約は解消していくことになると思います。そのような供給制約の解消について、日本銀行で時期を特定することは性格上難しいわけですが、注意深く点検していきたいと考えています。』

サプライチェーンは早期に回復し、問題は電力供給だという見解のようです。


・では供給制約に対して日銀が何をするのかという話

供給面でのショックの場合は従来と違うアプローチが必要ですよねという質問に対して。

『3点目の日本銀行としてさらに貢献できることについては、基本的に経済活動の停滞の原因が供給制約である場合、金融政策それ自体で供給制約を緩和することはできません。中央銀行ができることは、供給制約に端を発した需要ショックがさらに追加的な需要ショックを生み出すことがないようにしていくことであり、それが日本銀行の課題であると考えています。』

まあそういう感じですわな。


・社債オペ関連で質問が幾つか

限度額を拡大しろという市場の意見に関して。

『まず、社債の買入れについてお答えします。現在、日本銀行は社債の買入れ限度を設けています。これは、日本銀行として異例の措置を講じながら、金融政策の面から経済を支えていくために買入れを実行している一方で、中央銀行の財務の健全性に配慮し、信用リスクの集中を避けるという観点から設けているものです。今これを見直す必要があるとは考えていません。』

まあシャーナイですねあっはっは。

で、誰か知らんが引っ掛け質問にしては出来の悪い質問をしているのがいまして。

『(問) 社債関連で2点伺います。昨日、社債オペがあり、前回のオペに比べて落札金利が上昇していますが、この点についてどのように受け止めているのでしょうか。もう1つは、社債の流通市場で、原発問題が発生した以降に東京電力債のスプレットが上昇しています。日銀としては個別企業についてコメントしにくいところがあるかもしれませんが、社債市場の中で非常に大きな発行体で投資家も多様ですので、直近の金利上昇についてどのように受け止めていらっしゃるのか伺えればと思います。』

『(答) 1つ目の社債オペの結果ですが、オペは、市場参加者が自らの相場観、ポジション等を踏まえて入札しているわけであり、そのオペの結果について私がコメントすることは差し控えたいと思います。ただ、1点だけ申し上げると、日本銀行は、前回の決定会合で社債の買入れを含む資産買入れ規模を倍増しました。そのことは、アナウンスメントという意味でも、実際の買入れ資金という意味でも、金融市場、あるいは社債市場の安定に相応に貢献していると思っています。

2つ目の東電債の金利については、ご質問の方ご自身がおしゃっていたように、個別企業のプライシングについて私がコメントするのは差し控えたいと思います。』


・こういう馬鹿は会見などに出席されず速やかに天寿を全うされる事を希望します

更にもっと出来の悪い質問がそのちょっと後にございますので晒し上げ。

『(問) 社債の買取りについてお伺いします。一部報道では、東電債の応札が多かったとされていますが、実際にはいかがでしょうか。また、一般論として、大きな事故を起こした企業の社債を日本銀行が買取ることは、社債買取り制度の趣旨にあっているのでしょうか。』

馬鹿かこいつは????答えは引用しませんが、その人と思われる質問が更に続く。

『(問) 一般的に、値下がりが確実な社債を買うことは、ある意味では金融機関を救済しているようにみられかねないと思うのですが、その点はいかがでしょう。』

値下がりが確実なんですかそうですか、ふーん。まあ答えは割愛するんですけど、BOEみたいに日銀の会見も「どこの誰が質問したか」というのがわかる様にした方が良いのではないかと思いますけどどうなんでしょ。


ということで、今回の会見要旨は18ページもあって結構量がありましたです。

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2011/04/04

○インフラは大事ですな(入行式挨拶)

総裁の入行式挨拶。

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2011/nyukou11.htm/

今回は東北地方太平洋沖地震がありましたので金融政策の話よりも「インフラとしての中央銀行」の話が主体になっていますわな。

『日本銀行の使命は、「物価の安定」と「金融システムの安定」です。普通の言葉で言うと、「人々が通貨を安心して使えるようにすること」です。具体的には、全国どこでも現金が円滑に流通し、預金による受払が安全確実に行われ、物価も安定している状態を実現していくことです。これらは国民生活や経済活動の基盤とも言えるものであり、そのいずれが欠けても健全な国民生活は損なわれ、ひいては経済の発展は実現しません。』

『今回の大地震を経験し、日本中の誰もが、様々なインフラ、基盤が円滑に運行することの重要性を改めて認識させられています。日本銀行は、1882年の創立以来、130年近くにわたり、通貨、金融の基盤を提供するという仕事を担ってきました。我々の先輩は、関東大震災の時も、阪神・淡路大震災の時も、被災当日も含めて全ての店舗で営業を続けました。今回の大震災でも、仙台・福島支店をはじめ、全ての本支店・事務所が通常通りの営業を続けており、通貨、金融の基盤は大きな障害なく機能しています。』

ということで、今回の震災においても日銀の各支店、事務所は銀行券の出納を初めとして業務を行っていまして、日銀の地方支店の重要性というのはこういう時に見事に示されたという所ではないかと存じます次第。

『どの組織も自ら提供するサービスや商品を通じて社会に貢献していますが、日本銀行も同様であり、通貨、金融の基盤提供という面で、普段は「あたりまえ」と思われ余り意識されないことを、危機時を含め本当に「あたりまえ」にしていくことを通じて、社会に貢献することを目的としています。』

まったくでございまする。

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