白川方明総裁(2010年度上期)


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白川方明(まさあき)総裁

白川さんの略歴(日銀Webより)

昭和24年9月27日生
昭和47年3月 東京大学経済学部卒業
昭和47年4月 東京大学経済学部入学
信用機構課長、企画課長を経て平成6年5月大分支店長
平成7年12月 ニューヨーク駐在参事
金融研究所参事、国際局参事を経て平成9年12月国際資本市場担当審議役
企画調査担当審議役を経て平成17年7月日本銀行理事に就任
平成18年7月退任、京都大学公共政策大学院教授に就任
(実質的な前職:日本銀行理事)

平成20年3月20日 日本銀行副総裁に就任
平成20年4月11日 日本銀行総裁に就任

詳しくはこちら→http://www.boj.or.jp/about/organization/policyboard/gv_shirakawa.htm/

例によって発言を半期ごとにファイル分けしています。

2009年下期
2009年上期
2008年下期
2008年上期

2010年上期のお題は以下の通りです。

2010/09/27「またもモノは言いようという諫言をしたくなる総裁講演が」
2010/09/17「International Jornal of Central Banking誌秋季コンファランスでの講演(その1)モノは言いようというものがあると思いますという本論と余り関係ない件について」
2010/09/09「総裁定例会見より(10日に追記あり)」
2010/09/01「臨時決定会合後の会見より、なんちゅうか苦しい話のようで」
2010/08/12「定例会見より、円高に関する質問とリスク認識に関する質問だらけで」
2010/07/21「定例会見より(その2)強気の話を先にしなくても良いのに・・・」
2010/07/20「定例会見より(その1)」
2010/06/17「6月15日会見より、景気に妙に強気っぽいのが気になります」
2010/06/02「日本記者クラブでの講演より、成長基盤強化貸出に関する理屈展開」
2010/05/28「国際金融コンファランスでの入魂の講演」
2010/05/25「5月21日会見より(その2)」
2010/05/24「5月21日会見(ロイターニュース)より、妙に景気に強気な気がするのですが」
2010/05/10「4月30日会見より、追加緩和には否定的」
2010/05/06「4月30日会見での成長戦略に関する説明」
2010/04/26「NYでの講演、まあこれはこれで正論ですね(その2)」
2010/04/23「NYでの講演は白川節炸裂(その1)」
2010/04/09「明らかに月報の内容より踏み込んだ強気発言連発の総裁会見」
2010/04/08声明文よりも踏み込んだ会見をしているような気がするのだが」
2010/04/02「入行式の挨拶では通貨価値の話がより具体的になる」

2010/09/27

○だからもうちょっと物の言い方ちゅうのがあってだなあ(白川総裁)

http://www.bloomberg.co.jp/apps/news?pid=90900001&sid=aFBNgrhjyW3A
白川日銀総裁:日銀法を強く擁護、インフレ目標より先進的(Update2)

『「現在の金融政策の枠組みはアカウンタビリティの向上というインフレーション・ターゲティングの長所を最大限取り込むと同時に、その欠点とみなされている部分に対応したものだ」と指摘。日銀としては望ましい金融政策運営の枠組みについては今後とも検討を行っていく方針だとしながらも、現在の枠組みは「より進化した枠組みであると自負している」と述べた。』(上記URLより)

・・・・・・いやまあ言いたい事は判りますし、単純なターゲッティングでは枠組みとして回らなくなっている(そういえばBOEの議事要旨が中々味わいがあったので明日にでも^^)のはその通りなのですが、とりあえずCPIが延々とマイナス推移してデフレ均衡状態になっている状態というのが目の前にあるのに先進的もへったくれも無い訳であって、そういうのを一般的には「引かれ物の小唄」と言うのではないかと。


発言のどうでもいい所を切り取るのが得意なロイターにかかるとこの有様。

http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-17371620100926
国債買い入れ増は長期金利上昇につながるリスク=日銀総裁

・・・・・・また発言の中のどうでもいい所を切り取ってヘッドラインにするとかどうなんでしょと思いますが、一方で宮尾審議委員は上記にあるように長期国債買入増額も政策手段として排除しないという話をしている訳で、まあ麿のご趣味なのでしょうけれども、何も最初から国債買入増額を排除するような言い方をしなきゃ良いのにと思う訳ですよね。

結局のところ、国債買入増額の可能性だってある訳ですし、こうやってダメ出しをした後に「やっぱりやります」ってなっちゃうと、ダメ出しをしている時点でまず「日銀は緩和に消極的」という印象を与えて折角実施している金融緩和政策の効果を減殺することになりますし、「やっぱりやります」となった瞬間に今までの発言はナンダッタンダという事になって、信認問題になるのでありまして、そーゆー意味からもこの手の政策オプションに対するダメ出し発言は慎重に行うべきだと思うのですけれどもねえ。せめてメリットとデメリットを併記するような言い方をすれば良いと思うのに・・・・・

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2010/09/17

○極めてよい話をしているのだが結局こうなるのだからもう少し考えるべき

そういえば野田審議委員講演ネタをスルーしていますが、しょうがないので連休中に(たぶん)書きますよええということにしておいてくんなまし。

http://www.asahi.com/business/update/0916/TKY201009160143.html
「超低金利、将来バブル発生の恐れ」 日銀総裁が講演

この講演ってこちら↓なんですけど
http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/data/ko1009c.pdf

本当はこれも内容に関して読みますと中々のもんでして、特に『3.バブル崩壊後の経済情勢と政策対応に関する4つの類似点』のあたりとか非常に良い論点整理になっているのですけれども、悪態書いているうちに時間が無くなったので今日はパス。

で、その超低金利がどうのこうのって最後のほうの『5.今後の研究課題』って所にあるんですけどね。

『まず、伝統的金融政策についてですが、この面ではバブル崩壊後の積極的な金利引下げの有効性について、より深い研究が必要だと考えています。今回のバブル発生前は、積極的な金利引下げを行えば深刻な景気後退は回避できるという考えが支配的であったように思います。しかしながら、今回のグローバルな金融危機後の経済情勢の厳しい展開を前に、そうした楽観論は疑問を投げ掛けられています。』

『もちろん、積極的な利下げは、景気の落ち込みを緩和するために必要な政策措置です。そのうえで、以下のような超低金利環境に関する事実についても認識しておく必要があります。』

『第 1 に、短期金利水準が極端に縮小すると、インターバンク資金市場の円滑な機能が低下したり、金融機関の利鞘が低下したりします。その結果、金融機関における貸出インセンティブが低下し、金融緩和効果が減殺されることにつながります。』(ちなみにここの脚注がバーナンキ講演およびBOEとなっているのがチャーミング)

『第 2 に、低金利の持続は、景気の落ち込みを防ぐと同時に、バブル期に積み上がった過剰な債務の削減を遅らせる面も持ち合わせています。また、その過程で、経済全体の新陳代謝を遅らせる面があることも指摘しておきたいと思います。』(ここの脚注はBISとRajanね)

『第 3 は、低金利が将来にわたって継続するとの予想は、バブル発生の必要条件であることです。バブルは緩和的な金融政策だけで起きるものではありませんが、緩和的な金融政策が持続するという予想なしに発生することがないことも、同様に真実です。』

『いずれにせよ、バブル崩壊後の経済の生産性の動向は経済のパフォーマンスを規定する重要な要素です。経済を襲ったショックが大きくても一時的であり、従って自然利子率があまり低下していない場合には、低金利継続の政策コミットメントは異時点間の代替効果から一定の有効性を発揮します。しかし、そうでない場合には、政策コミットメントは、十分効果的なものとなりえません。』

『以上の留意点は、バブル崩壊後の積極的な金利引き下げの必要性を否定するものではもちろんありません。ここでの議論のポイントは、金融市場の行動経済学的なダイナミックスや実物要因によって生じる潜在成長率の動向にも十分な注意が必要であるということです。』

ということで、別に今の超低金利がバブルの発生を呼ぶとかいう話をしている訳でも何でもないのですが、ものには言い方ちゅうもんがありまして、特に日銀の場合はこういう話をすると当然のお約束として前半部分の「低金利の長期化がバブル発生をもたらす」部分だけを切り取られて報道されてしまう訳でありましてですな、これ市場が反応しなかったから良い様なもんですが、うっかり為替市場が反応とかしちゃったら為替介入をしている現場を後ろから砲撃しているのと同じような話になるのでありまして、もうちょっと白川総裁様におかれましては講演なりの内容での言い回しを考えたほうが良いのではないかと思われます。

上記の話だったら第2第3の論点は細かく書かないでおくとか、第1の論点の脚注部分をちゃんと「バーナンキ議長も言ってるように」とか書くとかの配慮が求められる訳でして、いやまあ全部通して読めば仰る話はその通りなのですけれども、一般的に報道されて市場が反応するのはその片言隻句であることが極めて多いという事に関する想像をもっと働かせるべきであり、麿大先生様に置かれましては慎重な配慮をお願いしたい所でございます。

#講演の詳しい話とかその他いろいろとネタがあるので連休はせっせと読みますかね

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2010/09/09

○総裁会見雑感

http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk1009a.pdf

時節柄円高の質問ばっかでうんざりという感じですが。

『(問) 本日の公表文の中で、「適時・適切に政策対応を行っていく方針である」との表現がありますが、これは、今後更なる金融緩和の余地があるということなのでしょうか。』

『(答) 前回の臨時会合後の記者会見で、私は経済の下振れリスクの方により注意する必要があると申し上げました。その上で、適時・適切に対応をするという金融政策の構えを申し上げましたが、日本銀行の金融政策に対する基本的な姿勢を正しく理解して頂くために、今回、公表文でもその旨を明らかにした方がいいと判断したわけです。従いまして、趣旨は公表文に書いてあることに尽きますが、「先行きの経済・物価動向を注意深く点検したうえで、必要と判断される場合には、適時・適切に政策対応を行っていく」、この文言以上でも以下でもないと思います。』

いやまあこれでも白川さんとしてはサービスした積りなのでしょうが、「先行きの見通しが著しく悪化した場合には金融緩和を行うのは当然です」みたいな話でもすりゃあ良いと思うのですけど、中々その辺って難しいんでしょうなあと言うところで、本石町日記さんのブログの最新エントリーでもこんな指摘が。

http://hongokucho.exblog.jp/13948723/
金融政策決定会合&会見の雑感

・総裁会見

「必要と判断される場合には、適時・適切に政策対応を行っていく」の説明が苦しい。これは、FRBを意識した市場との対話の一環なのだが、根がマジメなので、それが緩和であるとは言いにくい。市場期待を操るには、ある意味、悪人でないと務まらないので、今後も苦しい局面が続くように思う。

下のエントリーで、内田さんがFRBの機動的対応を指摘されていたが、市場関係者の立場では、「適当にうまく言えばいいのに」と私も思うのだけれど、日銀はこの適当というのが苦手。例外は、言語的な才能があった福井さんなのだが、あれは個人芸なので、真似はできない。また、下手なのに真似すると、ろくな事にもならないであろう。(上記エントリーより引用)

・・・・まあそうなのかも知れませんね。となると報道機関のお祭りバイアスと言うか金融政策に関する報道をもうちょっとこう落ち着いたものというか内容を伝えるような物にしてほしいもんだと思います。

つまり、最後の質疑にあるんですけどね。

『(問) 先週の追加緩和策にもかかわらず、市場では急激な円高が続いたり、与党からも日銀の対応は不十分ではないかという声も挙がっています。こうした声があるということは、景気の下振れリスクに対応しようとしている日銀のメッセージがきちんと伝わっていないのではないかとも考えられますが、どうお考えでしょうか。』

『(答) 日本銀行の情報発信を私が評価するというよりも、日本銀行としては、日本銀行が考えていることが正確に伝わるように今後とも努力をしていきたいと思っています。』

本当は「お前らちゃんと勉強して報道しやがれ」と言いたいんでしょうなあと思うのはあたくしだけですかそうですか。

何でかと言いますと、例えばこんな質問が今回の会見で飛んでいたのですが。

『(問 )2点伺います。(前半割愛)2点目は、そうした事態になった場合に、日本銀行はどのような政策メニューを考え得るのかを伺います。バーナンキ議長は、やるかどうかはわからないが4つメニューがあると講演していますが、日本銀行は、今まで仮のメニューは公表していないと思います。その点について、スタンスを含めて教えて下さい。』

えーっとですな、バーナンキは確かに4つのメニューの話はしましたが、メリットとデメリットの話を延々と並べるわ、そのうち2つは思いっきりダメ出しするわという話でして、まあ流し読みしたりベンダーのフラッシュだけ見てますと如何にもバーナンキが4つのオプションを時と場合によって打つべく用意しているように見えますけれども、先日まで引用しておりましたジャクソンホール講演(がその4つのメニューね)のテキストを読みますと別に今すぐ発動するわけでもないですし、そもそも内2つはケチョンケチョンにダメ出ししているので、メニューに載っていないと思うのでありまして、まあ何だかなあという質問ではございます。ちなみに白川さんの答えはこんな感じ。

『また、2 つ目の質問については、以前にも申し上げていますが、政策を考える際に、予め特定の手段を念頭に置いたり、あるいは逆に排除するということはありません。常に様々な政策の選択肢を検討しています。そうした選択肢のメリット・デメリットを点検し、比較考量した上で、最も適切な政策を採用していくのが、私どもの基本スタンスです。今ここで政策のメニューを列挙はしませんが、どのような政策メニューが有り得るのか、そのメリット・デメリットは何であるのかを、しっかりと点検していきたいと思っています。』

まあ何ですな、日銀の場合は「企業金融特別オペ」とか「成長基盤強化貸出制度」とか画期的というか想像の斜め上を行くというか、事前にメニューを出さないほうが良さそうな政策が出てくると言う事もございますので(って何か褒めてんだかけなしてるんだか判らんモノの書き方ですが^^)中々出せないというところでもあろうかと思いますです。

まあメリットデメリットに関してああでもないこうでもないという話をバーナンキがしてもそこはスルーされるのに、恐らく日銀がその話をすると、報道機関の皆様におかれましては直ぐに説明の片方だけを切り取られて報道し、その報道を見た人たちが「日銀は緩和政策に対して消極的でケシカラン」とか「日銀は常に引き締めバイアスがあってケシカラン」とか物凄い勢いで難癖をつけてくるに500エスクードと言ったところでございますので、その辺りに関してはまー正直時間の掛かる話としか思えない所が残念なところでございます。

・・・ということで、政策インプリケーションはあまり無いような気がするけど、一応月報とか見たら見通し下げてるからまあ追加緩和(演技も含む)は排除してないでしょ、と読むのが普通だと思いますけど、米国が緩和のやるやる詐欺を継続するうちは日銀もやるやる詐欺でタマを残しておかないとっつー感じはしますわな。

どちらにしても民主党代表選挙結果によってまた前提が変わってくる可能性もありますし、まー決め打ちしてもシャーナイというところで。

(以下10日に追記)

○昨日引用した総裁会見で引用し忘れた部分

http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk1009a.pdf

この部分のご紹介を忘れましたが、しらっと白川さんこんな事を言っててチャーミング(^^)。

『(問) 前回会合後もいくつか重要な米国経済の指標が出ましたが、米国経済の動向とデフレ懸念について、どのようにみているかお伺いします。』

『(答)(経済動向の部分割愛)デフレ懸念については、FRBのバランスシートが大幅に拡大する中で、コアインフレ率の低下傾向が続いており、エコノミストの間ではデフレリスクの高まりを指摘する声も聞かれます。もっとも、将来のインフレ動向を左右する大きな鍵を握るのは、中長期の予想インフレ率です。この点に関して、例えばインフレ連動債の対国債スプレッドの動きをみると、市場参加者による予想インフレ率は幾分低下しているようにも窺われますが、家計やエコノミストを対象にしたインフレ予想に関するサーベイ調査なども踏まえ、総合的に判断すると、中長期的なインフレ予想はなおアンカーされているとみられます。FRBも、現状、デフレに陥るリスクは小さいと判断していますが、引き続き、米国の金融経済動向については注意深く見守っていきたいと考えています。』

・・・・・ドサクサに紛れて「FRBのバランスシートが大幅に拡大する中で、コアインフレ率の低下傾向が続いており」と、バランスシートを拡大させたからといって即効でインフレ率の低下が止まらないですよ〜♪という話をしらっとしているのがとーってもチャーミングだなあと思った次第です。

いやまあそれだけの話ですが(^^)。

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2010/09/01

で、総裁会見ですけれども。
http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk1008b.pdf

○米国は緩和維持で日本は追加緩和だという説明はある意味そうだがやっぱり違うと思う

まあ当然なのですが、米国の追加緩和(をしているような)姿勢と、日銀の追加緩和(のようなもの)に対する(一応やっているのにやっているように見えない)姿勢の比較感に関する質疑が多うございまして。

例えば4ページ。

『FRBの追加緩和ですが、FRBの金融緩和の姿勢・方針について解説し、その上でお答えしたいと思います。FRBが8 月10 日のFOMCで行った決定は、リーマン破綻後の証券買入れにより保有することになったエージェンシー債やモーケージ証券の償還がこのところ増加しており、それを放置すると金融引き締めとなることを回避するために、償還資金見合いで長めの国債を買入れることにより、証券の保有残高を維持するというものです。金融の引き締めが生じてしまうことを回避することが目的であると、バーナンキ議長が今回の講演でも言っていますが、言い換えると、金融緩和を継続することを表明したものです。今回、ジャクソンホールでの講演では、経済が大幅に悪化した場合には追加的な緩和措置を採る用意があることを発言されました。これは、「大幅に悪化した場合には」ということです。』

明日以降ジャクソンホールの講演ネタやりますが(すいません)、まあこの話も微妙に従来のFRBの説明と整合性が取れてなくて、買入の時にはこの施策を「量的緩和ではない」と言ってて、しかも「金利を下げる」「市場機能を回復させる」というのを目的及び波及経路としている(講演でもその話をしている)のに、残高維持に当たっては「定量的な部分」に着目して緩和維持という説明をするというのもバーナンキ先生インチキじゃないのと思うのですが、まあここでは白川さんはFRBの説明を基にして話してますな。

というのは兎も角として、FRBの決定が「緩和維持」であることはその通りと言えばその通り。

『今回、8 月の決定会合と本日の臨時会合で日本銀行の採った措置についてですが、まず8 月の会合では、FRB同様、金融緩和を維持することを決定しました。それから、先々の政策について、日本銀行は、毎回の決定会合の公表文において、中央銀行として最大限の貢献を粘り強く続けていくことを明確に示しています。言い換えると、経済・物価動向や金融情勢の変化などによって、必要と判断される場合には、適時適切な対応を行っていくということであり、この点でもFRBの金融政策運営と同じと理解しています。違いは、FRBの方は現在、追加緩和の措置を採っているわけではないということです。』

っていう説明は瞬間を切り取るとその通りではあるのですが、それが激しく空しく響くのは何故かということを考えないといかんわけで。

つまりですな、米国の場合はそれまでが力強い景気回復ヤッホーで出口政策模索ですよとやっていたのが、8月FOMCで折れちゃったという「それまでの方向性とこれからの方向性」の変化があった訳でして、それに対して日銀の場合は牛の涎の如くダラダラと同じ状況が続いているという相対感がある(でまあ今回追加緩和のようなものを実施しましたけれども、その前から散々事前報道する馬鹿野郎がいて、金融政策に関して何かその勝手に期待を膨らませる他市場の人たちがいたので、ある意味今回も方向性として「あら残念」となってしまった訳で、事前に煽って肝心の政策効果を先に全部以上先食いさせる結果になったどこぞの経済(悪態につき自主規制))というのもありますし、白川総裁が毎度毎度(それはそれで正確かつ正直に話をするので一面では良い話なのですが)超原則論しか披露しないで、バーナンキ議長のような福井の俊ちゃんもビックリのインチキプレゼンをしないという面もあろうかと。

つまり「方向性が変わらない(まあ物価マイナスだから変えようが無いが)」というところと、「インチキプレゼンをしない」からという所が日米の違いであって、現象面を切り取ってみた場合にどうなのよという話をしても残念ですが空しく響くのではないかと思います。

まあでもこの点は難しい訳で、じゃあインチキプレゼンで良いのかといえば、やはり本来はインチキではなくちゃんとした話をすべきであるとあたくしもさすがに思うのですが、何せ総裁会見にやってきて福井総裁(当時)が大ファンであります所の阪神タイガースの快進撃に関して質問するアホウが報道機関にいる(今その人は国会議員だったような気がしますがorz)ような状況でありますので、まあインチキ、といいますかハッタリも必要なところではないかと。特に平時だったら兎も角、色々と経済が難しいときですので、ある種のハッタリ(インチキインチキというと何なので途中からハッタリに変更^^)もこういう状況下では必要とされるのではないかと。


○日本の方が元々先行きを下に見ていたんです(キリッ)

今回の会見では「何かしょーもないタイミングで追加緩和(のようなもの)をやらされました」という腹いせなのかどうか知りませんが、「ジャクソンホールに行ってきたらこんな話がありました(キリッ)」ってのが目立ちますな。

えーっと、人間として正直で非常によろしいのですが、どうせ追加緩和(のようなもの)を実施したのですから、こういうときにはもっと嬉々として「ほらほら追加打ち込んだですぜエッヘッヘ」みたいな会見をして「やる気」みたいなのを見せる(少なくとも俊ちゃんは当座預金残高を拡大する時には「こんな追加緩和をやっているんですよ、どうです、凄いでしょう!」ってプレゼンをしていた訳で)べきではないかと思うのですけれども、今回の(キリッ)シリーズはこんな感じですかね。

『もう1 つは、ジャクソンホールでの議論は1 年に1 回行いますので、この1 年間の変化を改めて皆が確認して、その上で今自分達がどういうことを考えているのかを深く考察するよい機会になっています。(途中長いので割愛)一方、先進国の政策金利は実質ゼロ、財政赤字も非常に高い数字で、政策対応余地も大きくはないという状況です。それだけに、本格回復軌道に乗るにはまだ時間がかかると、会議の参加者が実感していたように思います。』

『バブル崩壊後の経済調整の厳しさを身を持って体験してきた当事者である私どもとしては、こうした事態を将来予測に織り込んでいます。ただ、そうした事態を体験していない人からすると、調整には時間がかかるということを、改めて重く受け止めているように思いました。会場の内外で、日本に関する質問を改めて多く受けました。それも、先程申し上げたような問題意識を反映しているのだと思いました。』

ふーん。


○バーナンキがこんな事を言ってますよ(キリッ)

バーナンキ講演に関する話もありましてですね。

『今回、ジャクソンホールでのバーナンキ議長講演の冒頭で、現在経済が直面している様々な問題について、金融政策だけで解決するわけではないと述べられ、その上で、中央銀行として金融政策で対応できる部分について一生懸命考えていく、対応していく必要があるという趣旨のことを述べておられます。私もそういう意味では、バーナンキ議長と同じような認識を持っています。』

とかいうのがあったり、

『ジャクソンホールでのバーナンキ議長講演でも、短期金利をこれ以上引き下げると、多くの金融機関が短期金融市場から退出し、市場の流動性が大きく低下するとした上で、追加的な金利引き下げが、市場の機能を長期にわたって損ない、適切な金融政策を阻害する惧れがあると指摘されています。私は、かねてよりこうした問題の重要性について指摘していますけれども、当初はこのような問題についてあまり多くの理解があったわけではありませんので、ジャクソンホールでバーナンキ議長の講演を聴きながら、ある種の感慨を覚えました。』

感慨を覚えましたというよりも(キリッ)って感じですなあ(^^)。


○しかしこうなるなら7月時点で先行きリスクバランスに関する見方をだなあ・・・・

先日引用した日銀決定会合7月議事要旨の中で、先行きリスクバランスに関して「数名の委員はリスクはバランスしていると指摘」というのがあって「他の人はどうなの?」と思ったってえ話をしたと思うのですが、後付けになってしまいますが、こうなって見ると7月時点でもうちょっと手のうちようがあったのではないかと思うのですけどねえ。

『4 月末の展望レポート公表時に、上下のリスクは概ねバランスしていると申し上げました。その後、毎回の決定会合でリスクバランスの点検を行っていますが、概ねバランスしているけれども、その中で少しずつ下振れリスクを意識する委員が、あるいはその程度が増しているなという感じでした。今回の臨時会合では、もちろん委員によって若干ニュアンスの差はありますが、上振れリスクよりも下振れリスクについてより注意する必要があるという方向に傾きました。その結果、今回、前倒し的に金融緩和措置を行ったということです。』

「下振れリスクを意識する委員が、あるいはその程度が増しているなという感じでした。」って言いますけど、こういうのって追加緩和(のようなもの)をしてから言ってもしょーがないわけでして、その間ってずーっと白川さん「リスクはバランス」って言ってたでしょと思うのでして、結局こうなるならもっと早いうちから「リスクを警戒する必要がある」というような話をしてれば(話をするだけで何もしなくても)もうちょっと前後の反応が違ってくるんじゃないかと。今回の流れだと「市場と政府に差し込まれてポッキリ折れました」としか見られないわけで、その前から「下振れリスクを意識して」みたいな話をしておく方が(どうせやるなら)よろしいのではと。

ただまあ「下振れリスク意識」というだけで聞き分けなしモードのイクラちゃんになる人たちがそこかしこに居るというのも日本的な問題だったりするのでその辺の加減は非常に難しそうですが、少なくとも今の「途中まで原則論」→「最後にいきなりポッキリ折れる」というのは如何にも印象が悪いので何とかならんもんですかねえ。


○苦しいのう苦しいのう

何でわざわざ出張を1日短くして帰国して臨時会合したのよという質問に対しての部分から。

『もし、この臨時会合があまりに頻繁に開かれますと、金融市場参加者からみた場合、先行きの金融政策について安定的な期待形成が難しくなる可能性があります。市場が、毎日のように「今日決定会合が行われるかもしれない」と思う状況では、安定的な市場の価格形成が損なわれたり、市場に混乱を与えたりしてしまいます。そういう意味で、私どもとしてはできるだけ本会合の開催により政策決定を行いたいと思っています。』

ほうほうそうですか(棒読み)。

『その上で、臨時会合を開催すべき状況かどうかをその都度判断することになります。今回は、前回会合以降の米国の様々な経済指標、その後の円高の動き、株価の動きなどを総合的にみながら、徐々に臨時会合の必要性への認識が高まっていったということです。また、ジャクソンホールで海外の当局者と意見交換をし、その上で判断したいという思いもありました。結果として、今回の臨時会合開催は、私にとってはベストのタイミングであったと考えています。』

ほうほうそうですか(棒読み)。

いやまあ特に申し上げることはございませんがね、苦しいのう苦しいのう。

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2010/08/12

お題「総裁記者会見は円高ネタばかりなり」

米国の出口戦略後ずれを評価する人は日銀が以前から出口戦略をまるっきり意識させないような動きをしている事をもっと評価すべきではないかと思いますが如何でしょうかねえ。

#だって米国の措置って別に緩和拡大じゃないでしょ

んでまあこれがまた結構長めの質疑応答が続く会見から。
http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk1008a.pdf

○足元の景気回復ペース減速に関して

最初の質問が「米国や欧州の回復持続性について」という中々良い質問でして、それに対する答えも中々結構でございます。

『(答) 米国経済は、先般発表された本年第2 四半期のGDPや先週発表された雇用統計を初めとして、回復テンポの減速を示す指標がいくつかみられますが、全体としてみると緩やかに回復していると判断しています。』

というのは米国と同じ認識ですからまあ良いとして。

『日本銀行は、わが国のバブル崩壊後の経験から、バランスシート調整の厳しさについて、もともと市場参加者や国際機関などよりもかなり慎重な見方をしており、本年の比較的最近までのやや楽観的な市場の見通しについては、多少、私どもの判断との間に距離感があると感じていました。』

これは(^^)。

『私どもは、米国経済について、4 月末の展望レポートや先月の中間評価では、その回復テンポが緩やかなものに止まるという慎重な見通しを持っており、現在の米国経済の姿は、こうした私どもの慎重な見通しに概ね沿ったものと考えています。』

つまり「それ見たことか、お前ら楽観しすぎだヴォケ」という事ですね(^^)。

『日本銀行としては、日本経済について――もちろんリスク要因について注視する必要があることは言うまでもありませんが――こうした米国経済の慎重な見通しを前提として考えており、現在までのところ、展望レポートで示した標準的な見通しの枠の中で動いていると判断しています。』

という話になる訳ですな。まあ元々日本の場合は出口政策もへったくれもないという状況および物価見通しなのでありまして、そーゆー観点で言うと米国みたいにホイホイと景気認識を微調整で上げたり下げたりする必要もなかんべというのはあるのでしょうが、しかし下振れリスクに関してはもうちょっと何とかならんのかなあとあたしゃ思いまする。

で、欧州経済。

『次に、欧州経済についてです。金融市場の動向やストレステストについては先程申し上げた通りですが、この春先以降に金融市場が不安定であったにもかかわらず、足許の経済指標は比較的強い内容となっているとみています。しかし、米国同様に欧州も、2000年代半ばにかけての大きな信用バブルの拡大、崩壊あるいは調整、さらにはそのもとで生じているソブリンの問題、こうした調整圧力を引き続き抱えていると思っています。経済には、その時々の上昇・下降はもちろんあるわけですが、私どもとしては、米国同様欧州についても慎重にみています。』

ということで、まあこの辺りは「偽りの夜明け」発言をした白川節炸裂という感じでございます。

#だったら日本経済に関してももうちょっと慎重に言えばとは思うのだが


○円高に関してとかリスクバランスに関してとか

基本的に円高に関する質疑応答だらけなのですが、2番目の質問に対するやたらめったら長い回答がまあ典型的かなという感じですので引用をしますが、余りにも長いので一部拾って引用するのですが(汗)。

『(問)米国経済が減速する中で円高が進行していますが、これが日本経済に与える影響は如何か。また、これまでリスクバランスは上下にバランスしていると判断されているが、とくに下方向のリスク状況は如何なのか。また、こうした中で、追加金融緩和の必要性があるのか。この3点についてお聞かせ下さい。』

『(答)米国経済については、先程ご説明しましたので、まず、為替の影響についてですが、このところ円の対ドル相場は円高傾向を辿っています。一般論として申し上げると、円高の進行は、短期的には、わが国の輸出や企業収益の下押し要因となります。もっとも、それが経済全体に与える影響は、世界経済全体の情勢、企業の売上や収益の動向、更には、金融環境の動向など、様々な要因に依存することも、バランスよく認識する必要があります。』

ということで、為替の影響に関してこりゃ懸念してねえええええ!という感じで、その後は日本経済に関しては展望レポートどおりですよという話が続くのですが、さすがにそれだけではあまりにも何だと言う事でしょうか更に続きがありました(^^)。

『もちろん、米国経済や為替相場の動向は、日本経済に大きな影響を与え得る要因であると思っています。日本銀行としては、その可能性も十分意識した上で、引き続き、注意深く点検するとともに、日本経済を取り巻くグローバルな経済・金融情勢の動向も踏まえながら、バランスよく総合的に評価していきたいと考えています。』

と、まあ一応入れていますわな。

『次にリスクバランスについてですが、前回の会合では、不確実性は高いものの、わが国経済に関するリスクバランスは概ねバランスしていると判断しました。今回も、前回会合以降に公表された各種の経済指標やデータ、企業からのヒアリング情報を丹念に点検した結果、前回までの判断を大きく変える材料はないと判断しました。ただ、様々な動きが生じているだけに、注意深く点検していく必要があるという認識でした。』

という言い方を見ますと、何かまあリスク認識に関しても意見が割れているのではないかと見ましたがどうでしょうかね。で、ぶつ切りしながら引用しますが。

『前回会合との比較で言いますと、国際金融資本市場では、市場が最も注目していた欧州金融機関のストレステストの結果公表などを受けて、ひとまず落ち着きを取り戻す方向に好転しています。もっとも、一部欧州諸国のソブリン問題などを背景に、依然として不安定な状況が続いていることに変わりはありません。また、為替市場では、米国経済の先行きを巡る不透明感を意識した動きがみられています。こうした動きが実体経済に与える影響については、引き続き、十分に注意する必要があると思っています。』

為替市場に関して「円高」といわないで「米国経済の先行きを巡る不透明感を意識した動き」というのが実にチャーミングでありまして(^^)、つまり「円高対策で金融政策を出せと言われましても、そもそも足元での為替市場は米国のせいですのでそう簡単にホイホイと為替対策とかできませんのよオッホッホ」という事を言外に示している訳ですな、って解釈がひねり過ぎですかそうですか。

んでもって更にリスクバランスに関して。

『前回も申し上げたことですが、リスクバランスの評価の仕方は、従来以上に難しくなってきていると思います。上振れ要因、下振れ要因を挙げて、どちらが勝るかという捉え方だけでは、わが国経済が直面しているリスクを必ずしも適切に捉え切れないと考えています。』

ということで禅問答が始まります。

『2つだけ例を挙げたいと思います。』

『高い伸びを続けてきた中国向けの輸出の増加テンポは、中国における一連の措置の効果もあって、足許では幾分鈍化しています。これは短期的には下振れリスクと分類されるわけですが、これまでのような高い伸びを続けるほど、その後の反動減が大きくなることを考えると、景気拡大の持続性という、より長期的な観点からは、むしろこれはプラスに評価されるべきかもしれません。』

『また、現在は、大きく整理すると、先進国は景気の下振れリスク、新興国は上振れリスクが意識されているわけですが、その場合、先進国における金融緩和の長期化予想、あるいは先進国における景気の下振れの可能性を意識した新興国の金融緩和修正の遅れが、新興国への一層の資本流入を促進し、これが新興国の上振れをもたらす可能性もあります。つまり、先進国の下振れが新興国の上振れをもたらすかもしれないという側面もあります。』

まあ確かに仰りたいことは分からんでもないですし、世の中そんなに単純な話で割り切れるものではないですよということなのでしょうが、これはまた禅問答の世界に入っているような希ガス。

『そういう意味で、私どもとしては、経済・金融がグローバル化しているもとでは、新興国、先進国に関する上下のリスク要因は複雑に絡み合っており、リスクが顕現化する経路も一様ではなくなってきていると思っています。日本銀行としては、こうした点も念頭に置きながら、わが国経済を巡るリスクとその影響をしっかりと点検していく必要があると考えています。』

ということでだいぶ煙に巻かれた挙句に追加緩和に関する話は華麗にスルーされたでござるの巻だったりします。


○更に円高に関して

円高に関してはその後もいくつか質疑応答があったので、まとめて引用するだよ。

・前回の円高と比べて環境が違いますがなという件

『昨年12月頃に円高局面がありましたが、その後8か月程度経った現在を当時と比較してみると、先程申し上げたグローバル経済あるいは金融環境、企業収益それぞれの面で変化があることも事実です。企業収益の水準はかなり上がっています。金融環境も当時はまだ厳しい評価でしたが、これも随分改善してきたと思います。それから、先進国の景気についても、色々なリスク要因はありますが、当時に比べると回復してきています。円高がマインドの下振れ要因であることを十分認識しつつ、一方でバランスよくみていく必要があります。』

まあこれは先般の山口副総裁の会見でも指摘されていましたよね。


・為替を直接ターゲットにはしませんがなという件

『今、正確に山口副総裁の発言を逐語的に記憶しているわけではありませんが、先進国の中で、為替相場の水準自体を金融政策のターゲットにしているという中央銀行はないと思います。日本銀行に限らず、先進国のどの中央銀行もそうですが、景気・物価情勢に影響を与える様々な要因を点検して金融政策を運営しています。その意味で、為替の水準や動向は、景気動向に影響を与える1つの要因ですが、そこから金融政策が直ちに決まってくるものではない、という点では山口副総裁と同じ意見です。』

えーっとスイスは・・・・(いやまあ為替介入はしましたけれども、別にカレンシーボードを目指している訳ではないので為替ターゲットではない、といえばそれはそうなのですが)


・円高に関しての議論が進んでいる件

『為替については、本日の決定会合で、随分時間を割いて議論を行いました。為替相場が足許円高方向で推移していることが、企業マインドを含めて日本経済にどういう影響を与えるのかは、私どもにとっても大事な点検ポイントなので、十分な時間をかけて議論を行いました。』

まあ意見が分かれているんでしょうな。というのは把握した。


・なんで円高になっているのかという質問に対して

『大きな流れとして市場でどのようなことが言われてきたかを、リーマンショック以降の円相場の動きでみると、2 つのことが言えると思います。』

『1つは、グローバルな投資家のリスクテイク能力や意欲が低下すると、相対的に安全だと思われている通貨である円に対する需要が高まるという動きです。』

『もう1つは、円の金利水準が非常に低いため円をファンディングカレンシー(資金調達通貨)とし、相対的に高金利の通貨の資産で運用するといういわゆるキャリートレードがあり、グローバル投資家のリスク認識が高まると、リスクがあるこのキャリートレードのポジションを巻き戻すため、円安から円高の方向になるという動きです。』

『この2つのことが、折々に、市場ではコメントされてきたわけです。私どもとしては、様々な可能性を念頭に置きながら、円相場の動きを注意深くみていく、その影響を捉えていく必要があると考えています。』

ということで、この文脈で言えば「日本が単独で金融政策を打って円高阻止と言いましても中々難しいのですよ」と言ってるように見えますなあ。うんうん。


○リスク認識に関して意見が割れているのでしょうなあ

リスク認識に関して委員間にバラツキがあったのかという質問に対して。

『そう申し上げた上で、景気・物価に関する足許から将来にかけての認識については、委員の間で、ニュアンスの差はもちろんあります。そういう意味で、私が記者会見で申し上げることはコンセンサスと考える内容を整理したものです。先程私が申し上げた整理に、政策委員会のメンバーが大きな違和感を感じることは、多分ないと思います。いずれにせよ、詳しくは、議事要旨や今後の様々な講演等で確認して頂きたいと思います。』

ということは意見のバラツキがあったんでしょうなあと思うあたくしなのでした(^^)。


○例の公開討論会に関して

会見で質問があったんですね(諸事情により一昨日はあまり会見報道を見ておりませんでしたもんで・・・・)、ふーん。

『また、2 番目のご質問である公開討論についてですが、私宛に次回の金融政策決定会合までに公開討論会を設定するようご要望を頂いております。』

『日本銀行としては、これまで日本銀行法に則って国会に対する説明責任を果たすべく最大限の努力を尽くしてまいりました。日本銀行法第54 条に基づく国会報告――いわゆる半期報告――を行い、その審議に十分な時間を頂いているほか、随時、国会の関係委員会からの求めに応じて、政策運営等に関する説明に努めています。私としても、国権の最高機関である国会という公開の場で、政策運営等について説明することは大変重要なことだと考えており、国会に対する説明責任を果たす努力を続けてきました。今後とも、国会からの求めに応じて、私どもの考え方を丁寧かつ明確に説明することをもって、しっかりと説明責任を果たしていきたいと考えています。』

まあこうなりますわな。だいたいからして「公開討論会」と銘打ったって所詮は私的な場所での私的な物でありますし、お前ら国会議員なんだから国会でやればいいじゃないかと思うのですよ。要するに本件って「そもそも日銀が組織として公開討論のようなものを受けられない」というのを判った上でわざと申し入れを行って「日銀が我々の主張に聞く耳すら持たないとはケシカラン」とか「日銀は逃げた」とか言いがかりを付ける為の口実みたいなもんで、どこの(自主規制)だという感じですが、まあスタンドプレーに過ぎないとしか評価の仕様がございませんわな。

昨日も申し上げましたが、必要ならば財務金融委員会(参議院の場合は財政金融委員会)なり予算委員会なりに呼び出して討論をすればよいだけの話ですわな。

#と言うわけで月報ネタが後回しになってしまってサーセン

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2010/07/21

○冒頭のトーンがやたら強いのが気になる総裁会見(昨日の続き)

http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk1007b.pdf

なんつーかね、特に政策インプリケーションがどうのこうのというのは無いと思うのですけれども、冒頭での経済に関する話のトーンがやたら強いのが何だかなあ感がございます。いやまあ総裁のおっしゃる通りに経済が推移して下さればその方が良いのは良いのですけど。

まずは冒頭の説明でのリスク要因に関する話。

『リスク要因についてご説明しますと、景気の上振れ要因としては、新興国・資源国経済のさらなる強まりなどが挙げられます。これらの国については、生産・所得・支出の好循環が続くもとで、さらに上振れる可能性があり、その場合には、輸出の増加を通じて、わが国経済の上振れ要因となります。一方で、国際金融面での動きなどの下振れリスクもあると考えています。特に、一部欧州諸国における財政状況を巡る問題を背景に、欧州の金融市場は依然不安定な状態が続いています。こうした動きが、国際金融や世界経済に与える影響には注意が必要と考えています。』

一応下振れの話もしているのですけれども、前半の新興国・資源国経済の「さらなる強まり」で「さらに上振れ」ってええええええええ!!!っていう感じなのですけれども。

でまあ最初に当然ながらこういう質問が来るのですが・・・・・

『(問) 足許の国内景気指標をみると、強弱まちまちであり、特に機械受注や消費関連の指標、景気ウォッチャー調査等、弱含んでいる指標もそれなりに多く見受けられています。そうした中で、日本経済の先行きに下振れリスクが高まっているのではないかとの見方や、あるいは日銀の景気判断、景気見通しがやや楽観的なのではないかという声も聞かれています。この点についてのご見解は如何ですか。特に、自律回復に向けた動きが崩れていないのか、あるいは強まっているのかについての評価もあわせてお教え下さい。』

で、まあその説明は例によって長いのですが、ここの説明の流れがこれまた強いトーンなのよ。長いのでこれは強いという部分を並べてしまうのはご勘弁。

『こうした急速な持ち直しの後だけに、在庫復元の動きが一巡し、政策効果も減衰するに伴い、回復テンポがある程度鈍化することは予想されていました。このところの鉱工業生産指数の動きは、こうした予想に沿ったものであると考えています。』

まあそれはそうなんですけどね。

『そうした点を念頭に置いた上で、最近のわが国経済の動きを改めてみると、先程も申し上げた通り、緩やかに回復しつつあり、国内民間需要の自律的な回復に向けた動きが引き続きみられると評価しています。』

外需次第なのではないかと思うのですけれども・・・・・

『こうした企業部門の改善の動きは、雇用・所得環境を通じて、家計部門にも緩やかながら波及してきているとみています。』

というとダム論のようですが、金融経済月報での見通しを見るとそんなに雇用所得環境の改善を見ているようにも思えません(改善は改善なのですが、元々の水準は低いでしょ)けれども。

『以上ご説明したように、景気回復の起点は新興国の力強い景気回復であり、これが製造業へ、それから非製造業へ、そして家計へと、その期待される波及ルートを辿り、徐々にではありますが波及していく動きがみられています。これは、展望レポートの想定した基本的なメカニズムに沿っているということです。』

どう見ても強気発言です本当にありがとうございました。白川総裁ノリノリです。

他の質問でも上振れリスクに関しての話でこんなのが。

『日本経済の先行きの上振れ、下振れリスクですが、この4 月の展望レポート公表時に指摘した要因が基本的に現在もいきていると思っています。ただ、本日の議論もそうでしたが、定性的には4 月と同じではあるものの、上振れリスクも下振れリスクも4月対比幾分高まっており、それらは概ねバランスしているということです。』

上振れリスク拡大ですか???という所ですが、そのちょっと先の質疑応答でさすがに上振れ言い過ぎたと思ったのかこういう話をしています。

『先程、日本経済の上振れリスクとして新興国経済の話を申し上げましたが、その中には当然中国も含まれています。上振れの可能性、あるいは上振れが最終的には下振れに転じていくかたちで景気の振幅を作り出すといった、様々な可能性がありますので、それを注意深くみているところです。』

禅問答のようですが、つまり中国がバブルになって上振れヤッホーと思っていたらバブル崩壊してお陀仏さんというリスクという話ですわな。だったらそういう話を最初に言えば良いのにと思うのですが、景気先行きに対する強めのトーンの話を散々先にしているのでどうも取ってつけたような感じを受けてしまいますわな。

いやまあご本人が実際にどういうご認識なのかは下々の末端におりますあたくし如き凡下の存じ上げる事ではございませんけれども、普通にこの会見要旨を見ますと総裁が景気回復に自信があってノリノリとしか思えないのですけれども、この海外の状況で、しかも普通に外需次第の回復が続く中で、まるでデカップリングで回復しそうな勢いの話をするというのはどうもこう違和感を感じちゃうんですけどねえ。


○そういえばTIBORの話が無いですな

まあ地雷ネタなので誰も聞かなかったというか、そもそも例の報道で伝えられた外山金融市場局長の発言内容があの報道っぷりでは「民間銀行が自行の判断で出すリファレンスレートに対して具体的に引き下げろという介入をした」と読み取られても文句は言えない訳で、実際に発言の真意はそういう事ではないのでしょうが、まあ本当にそうだったら論外にも程があるネタなので、扱いようが無かったというのもあるんでしょうかね(ニヤニヤ)。

で、その件についての質疑が無かったのは残念ですが(^^)、ターム物金利に関する発言がちょっとあったのはチャーミング。

『為替市場では、円高が進みましたが、相対的には安全資産であるとの認識のもと、円に対する需要が高まっていることが円高の一因となっているとの声も市場では聞かれています。短期の資金市場についてみると、米欧では、欧州系金融機関に対するカウンターパーティ・リスクが意識される中、銀行間のターム物金利が高止まっていますが、わが国のターム物金利は低位で安定しています。社債市等のクレジット市場をみても、米欧では、社債スプレッドが春頃に比べやや高めの水準で推移している一方、わが国では引き続き低めの水準が維持されています。』

例の外山局長のインタビュー(面倒なのとあの記事のヘッドラインを見るとあたくしの瞬間湯沸かし器が作動するという理由でURLなどは付けない)では、局長が「各通貨のLIBOR差に着目した為替市場の動きなどで円高になった面もある(だからTIBORも市場実勢(何が実勢なんだよという議論は措く)を反映すべきだ、という事ですな)」みたいな話をしていたやに記憶しておりますが、ここでの総裁の話を敷衍すると、「そもそも円高になっているのは、金利差要因よりも安全資産としての円という認識によるものである」という事になるのかなあと思う訳で、これが中々チャーミング。

つまりですな、勝手に深読みしますと、TIBORやらLIBORやらがどうのこうのと言っても現状では為替に対してどうのこうのって訳にも行きませんので、そーゆー点では為替が円高に振れた時に今現在だとターム物金利を下げるような政策を打っても止まらんかもねっていう話をしているのかも知れませんわな。って勝手読みしすぎですかそうですか(^^)。

まあ総裁会見はそんな感じで。

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2010/07/20

○総裁会見雑感(内容は時間の都合上明日に続く所存)

切り貼り大会をしていたら時間が無くなっただよorz

http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk1007b.pdf

・会見前半の景気認識に関するやりとりが味わい深い件について

まず何がこの会見でチャーミングかと言いますと、会見の冒頭では「新興国や資源国経済の上振れ要因」という話から始まって、妙に景気先行きに関して強気っぽい話をしているのですよ。

ところが、まあ当たり前なんですけれども、それに対して「下振れリスクへの意識はどうなっているんですか」という質問が何度も出まして、その流れでちったあ総裁が空気を読んだんだか何だか知りませんけれども、途中からは下振れリスクへの目配りの話をするようになっているんですよ。

まあ何ですな、早期利上げでもしたいなら別に構わないのですけれども、別に先行きに関しても物価の上昇リスクも無い(というか下落リスクがある)ので、特に利上げだの正常化だのを急ぐ必要は無い、という状況だと思うのであって、そーゆー場合は別に「上振れ要因」の話を先に強調する必要なんぞねえと思うのですよ。

つまりですな、(読んだのですが紹介は明日以降の)6月FOMC議事要旨を見ますと、良く良く読めばFEDのスタッフの景気認識や先行き見通しがそんなに大きく下がっている訳でもないのに、FOMCメンバーが「出口」モードから「両にらみ」モードになる事によって下振れリスク警戒を出しているというようなバランスがありまして、見せ方を工夫してるなと思うのですよ。


ですからね、白川総裁の今回の会見だって、下振れリスクにだって配慮している筈なのに(配慮した結果別に何もなければ無問題)、いきなり上振れ要因の話からおっぱじめるから「何ちゅう楽観的な見通し」という違和感が伝わってしまう訳でして、こーゆー時にはまず「下振れリスクへの目配りも欠かせませんねえ」という話をしてから「でも景気は見通しのライン上にあり、上振れ要因もありますよ」という話をすればそこまで楽観的なイメージにならんと思うのですよ。

いやまあ白川総裁が真面目な話で新興国とか資源国とかが更に上振れとかを心配しているのでしたら、それはさすがにちょっとどうなのよ(どっちかと言えば減速懸念が目先のマーケットの話題じゃないのかね)という気はするのでして、まあ上振れ要因の話をのっけからぶつけてくるのは白川総裁が景気に対して結構強気で見ているという事なのかもしれませんな、この正直者!って感じですけど。


・日本の話が出ているのは中々

とまあ悪態を先に書いてから今度は同意します系の話をするのがあたくしも正直者な訳ですが(^^)、今回の会見の中で、米国経済に関する話で日本の経験からのご教訓を引っ張って来ているのが中々な所です。

その辺りを引用しますと、まずは6ページですが、米国経済の回復における成長ペースが緩やかなものになっている背景に関してこのように指摘しています。

『この背景として、ここでは3点に整理したいと思います。第1点は、過剰債務問題から家計支出の増加テンポの弾みがつかないことです。第2点は、銀行の厳格な貸出スタンスが借入依存度の高い中小企業の支出行動に対して抑制的に作用していることです。第3点は、企業が新規雇用に対して慎重なスタンスを維持していることです。』

『日本銀行としては、1990年代以降の厳しいバランスシート調整の経験を経て、大きなバブル崩壊後の景気回復については慎重にみています。』


#ということで景気認識に関する部分とかリスク要因に関する部分は明日(汗)。

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2010/06/17

まずは総裁会見から。
http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk1006c.pdf

○成長基盤強化支援に関する質問が多いですな

まあ当たり前なのですが、成長基盤強化支援政策に関する質問が多いのですけれども、まあ正直言ってそっちの質疑応答に関する部分ってマーケット的にはどうでも良い話なので、今回はそういう意味ではあまりオモロクナイ会見でもありました。

んでもって、まあ成長基盤強化に関する質疑を一応引用しますと・・・


今回の施策導入に関して金融機関とヒアリングした結果どうでしたかという質問に対しての回答を一部引用。(4ページ)

『その意味で、今回の措置は、こうした民間金融機関の現在行っている自主的な取り組みを尊重しつつ、資金供給面で工夫することによって後押ししていくもので、民間金融機関の姿勢に対して何か不満を持っているということではありません。逆に、私どもとしては、今回の民間金融機関との話し合いもそうでしたが、そうした対話を通じてお互いにどのようなところに問題があるのか、どのようなことを私どもが働きかけていかないといけないのかということについて認識を深めていくことも期待しています。』

つまりですな、まあ今回の措置自体が「日銀が政策金融に乗り出すんじゃ」という話でも何でもないという説明と、もうひとつの点としておまけではあるけど重要そうなのは、この施策導入をネタにして金融機関へのヒアリング、しかも市場部門だけじゃなくて融資関連部門へのヒアリングもできますので好都合、と言う効果もあるんでしょうなあというのは把握した。


今回の措置を通常の金融調節に影響を与えないメカニズムについての質問に対しての回答から。(引用箇所は8ページ)

『また、金融政策の遂行に支障を来たさないための配慮についてですが、まず、貸付の総額を3 兆円としました。日本銀行が、金融調節を行っていく上で、通常の金利政策上の理由以外の要因で大量にお金が日本銀行から出ていくと、その分調節が行いにくくなってくるからです。』

つまり金利押し下げ効果は考えていないという建付け。

『また、貸付期間を1年、借り換えを含めて最長4年とし、貸付の受付期間を約2年とし、四半期ごとに期日を定めて貸付実行を行うようにしました。成長基盤強化ですから、ある程度期間が長くなってきます。しかし、あまり長い期間に固定金利で資金を供給すると、金利政策上も影響が出てきます。従って、貸付期間1年で3回借り換え可能というかたちでバランスをとったわけです。それから、この措置を設けている期間を2011年度末までとしたことも金融政策上の配慮です。こうした配慮を行えば金融政策の運営上大きな支障はないと判断しました。』

昨日あたくしが書いた時に2011年末とか書きましたが、それはあたくしの読み間違えでした。どうもすいません。

で、こちらでは色々と説明していますが、まあ要するにこの措置は時間軸の強化でもなく、ターム物金利の押し下げでもなく、ついでに時限措置ですよということで、あくまでも通常の金融政策の外側の措置だという話をしていますわな。


○相変わらず景気の見方が政策委員会の中で一番強気なんじゃネーノ??

欧州の金融市場の不安定化に関する質問に対して。(7ページ)

『ご質問の金融市場ですが、周辺国全般のソブリンリスクの高まりを受けて、不安定な状態が続いていると認識しています。国債利回りや株価の変動が大きくなっているほか、これまで縮小傾向にあった社債スプレッドが拡大し、社債の発行も減少するなど企業の資金調達環境にも若干の影響が出ているとみています。こうした影響が、金融・貿易両面における緊密な結びつきのもとで、欧州域内に広がり、欧州経済の回復の力を弱めることがないかどうか注意深く見ていきたいと考えています。』

・・・・ほほう、「回復の力を弱めることがないかどうか」ですか。金融と経済の相互作用で悪化懸念というのを(根が心配性の)債券屋さんは見ているのではないかと思うのですが、あくまでも「ペースダウン」程度の懸念とな。


しかも他の質問ではこんな話も。(9ページ)

『いずれにせよ、欧州経済について今起きていることは下振れ方向のリスクですが、一方、世界経済全体を考えてみると、新興国はさらに強くなってきていると感じています。』

このご時世で「新興国はさらに強くなる」とかわざわざ言う事自体がもう麿は景気回復を確信しているでおじゃるというテイストを醸し出す訳でありまして、こーゆー時にそこまで相場張らんでもええんちゃうのかと思うのですけどねえ・・・・

『日本の実質輸出をみると、昨年度来、前期比10%のペースで増加していますが、足許の数字はさらにこれが幾分加速しており、アジア新興国を中心に伸びが加速していると感じています。世界経済全体では、先般のG20 の発表にもある通り、今のところ予想を上回って上振れています。本日の金融政策決定会合でもそうでしたが、私どもではこうした欧州の下振れ方向のリスクと新興国の上振れ方向の動きの両方をバランスよく見ていく必要があると議論したところです。』

他の審議委員の皆様におかれましては、そのバランスを下方向に注意というご認識だと思うのですけど・・・・・・


ということで、今回の会見ですが、基本的には延々と成長基盤強化の質問が多い中、しらっと白川総裁様が景気に強気という話が出ているのがチャーミングと申しますか、おいおいおいおいと申しますか、頼むからこんな所で相場を張らないでくれよと申しますかという感じでございまする。

まあ会見はそんな所で。

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2010/06/02

○白川総裁講演より:成長戦略謎政策導入の理屈展開

月曜日の日本記者クラブでの講演ですが
http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/data/ko1005b.pdf

まあお話は大所高所の話でございますので、債券市場的にど〜のこ〜のという話でも無いですし、政策インプリケーションとしての話は従来から白川さんが「追加緩和はしたくないですが何か?」というのをしているのであまり追加情報も無くという所ですわな。

ということでまずは経済の直面する問題という部分から。

『ここまで、先行き2年程度を展望した日本経済の見通しについてお話してきましたが、こうした短期的な見通しと並んで重要なことは日本経済の中長期的な成長経路です。現在、日本経済の将来に対し悲観的な見方がしばしば聞かれますが、これは多くの人が、わが国の中長期的な成長力に自信をもてないと感じていることに相当程度帰着するように思います。実際、日本経済の成長率は趨勢的に低下傾向にあります。私は現在、日本経済が直面している最大の課題は、潜在成長率の低下やその背後にある人口減少や生産性の低迷であると思っています。わが国のデフレも、成長期待の低下という日本経済が抱える根源的な問題が、集約的に現れた現象ということができます。そこで次に、日本経済の成長力というテーマに話を移したいと思います。』

ということで、もうすっかりこの辺もお馴染みになってしまいましたが、デフレの問題がいつの間にか大所高所の問題になっている点に関しては、まあ確かにそれはおっしゃる通りとも言えますし、マネー現象の話を大所高所の話で済ませて肝心の緩和をしないとはケシカランとも言えるでしょうな。あたしゃ無学ですからよー判りませんが。

でもって、まあ成長戦略がどうのこうのという話を延々としているのですが、その中で「金融機関の役割が重要」という話をしてますな。

『イノベーションや生産性の向上に関し、ここでもうひとつ強調したいことは、金融機関の果たす役割が大きいということです。シュンペーターは、企業家に資金を提供し、イノベーションへの取り組みを支える経済主体として、「銀行家」の役割を強調しました。わが国でも、戦後長らく、企業に対して長期のリスクマネーを提供し、多くの成長企業を育ててきたのは、主として、銀行を中心とする金融機関でした。最近では、銀行がこうした業務をより戦略的に位置付け、独自の技術開発や海外展開に取り組む企業、あるいは、成長分野として期待される環境・エネルギー、医療・介護事業などに対する融資や経営支援を積極的に行う動きもみられています。』

『勿論、企業にリスクマネーを提供していくためには、多様な金融市場と投資家が存在することが重要です。しかしながら、わが国では、資本市場のウエイトが相対的に小さいほか、ベンチャー企業の育成という点でも、米国などに比べて見劣りするのが実情です。現在、こうした分野でも関係者による様々な努力が続けられていますが、わが国の場合、イノベーションの推進役として、金融機関が中心的な役割を果たしていくという姿は、当面、変わらないと思います。』

・・・・なるほど、だから成長戦略支援の貸出制度を設けるということですか。

ということで、取り敢えず何でこういう制度を設けたのですかという質問に対してはこーゆー理屈(理論と言うか理屈ですわなこりゃ)が華麗に展開されるという事のようでして、あたくしとしては「なるほど仰る通りでござんすね(棒読み)」と申し上げるしか無いのですが、どーなんすかね。

ということで成長戦略支援何とかかんとかは・・・・

『本日ご説明してきたように、現在のわが国にとって最も重要な課題は潜在成長力の向上であり、そのためにはイノベーションの促進が不可欠です。また、その際、民間金融機関の果たす役割も重要です。これらの点を踏まえうえで、(原文ママ)日本銀行では、先ほど申し述べたような金融緩和政策や金融市場安定化の措置に加え、日本経済の成長基盤強化のための資金供給の仕組みを導入することを決定しました。』

という理屈になるそうな。

『現在、その詳細について、金融機関とも意見交換を重ねながら検討を行っていますが、基本的には、成長基盤強化に資する融資や投資を行う金融機関に対し、その実績に基づき、日本銀行が資金を供給することを考えています。その際、金融機関による取り組みを支援するために、政策金利と同水準、今であれば0.1%という低金利で、1年を超える利用が可能なかたちで、長めの資金の貸付を行うことを考えています。』

具体策は6月か7月には出るんでしょ。

『勿論、成長力の強化という課題は基本的には民間の努力によって達成されるものであり、そうした民間の努力を政府が制度面でサポートするという性格のものであることは、日本銀行としても十分に認識しています。そのことを明確に認識した上で、わが国が成長期待の低下という課題に直面し、これが、現在の物価下落の問題に大きな影響を与えているという現実を踏まえ、中央銀行として有する機能を使い、日本経済の成長基盤の強化を金融面から支援していくことにも意味があると判断しました。このことは、日本銀行法に謳われた「物価安定を通じて国民経済の健全な発展に資する」という、金融政策の使命にも合致していると思っています。』

デフレに手をこまねいている訳ではないですという事でもあるようですが、さて・・・

『その際、我々としては、以下の2点に注意を払っています。第1は、この仕組みは、時限を区切って金融機関の自主的な取り組みを資金面で支援するものであって、日本銀行自身が個別産業や個別企業への資金配分に関わるものではありません。第2に、将来の金融政策運営の障害となるようなものにしないことです。中央銀行のバランスシートの健全性を維持することは当然ですし、貸付総額を設けるなど、金利政策の制約とならないように運営する方針です。』

でも「成長基盤強化に資する融資や投資を行う」事に対しての低利融資を実施するという段階で個別産業の資金配分を意図しているでしょと思うのでありまして、日銀が直接貸出を行ったり、傾斜生産方式のような割り当てをしている訳ではないでしょうけれども、逆に個別産業などへの資金配分をしなかったら成長基盤強化にならないのですから、その理屈はどうかと思います。で、第2の論点ですが、テンポラリーで金利政策の制約にならない程度のオペレーションを実施して、それこそデフレ脱却に向けた効果がどの程度あるのですかという点も謎としか申し上げようが無いですわな。

いやまあ「物価安定の理解」の下で延々とデフレ継続という見通しを出さざるを得ない状況で、そもそも論として成長力が弱いから何とかしましょうという話は判らんことも無いのですが、何かこう理屈を色々と展開しているうちに本件を実施する事になっちゃいました感が強いのは気のせいですかそうですか。


○白川総裁講演と会見より:出口は当然無いけど追加緩和もハードル高そう

講演での金融緩和政策継続に関してはこの通り。

『日本銀行は、日本経済がデフレから脱却し、物価安定のもとでの持続的成長経路に復帰することが極めて重要との認識の下、強力な金融緩和政策を継続してきています。政策金利は、実質的にゼロといえる0.1%に引き下げています。また、昨年12 月には、長めの短期金利の更なる低下を促すため、固定金利で期間3か月の資金を供給するという新たなオペレーションを導入しました。これら一連の措置により、市場金利や貸出金利は現在も低下傾向が続いています。日本銀行としては、国内民間需要の自律的な回復を後押ししていくため、引き続き、極めて緩和的な金融環境を維持していく方針です。』

まあそらそうですなという事ですが、では追加緩和の目はあるかと言うと会見記事を見ますと中々これが総裁的にはハードル高い(ただし様式美の世界によって追い込まれる目は大いにあると思いますが)と思われますな。

http://jp.reuters.com/article/domesticEquities4/idJPnTK041324020100531
UPDATE2: 中央銀行がバランスシートを拡大してもインフレ率は低下している=白川日銀総裁

[東京 31日 ロイター] 白川方明日銀総裁は31日、都内の日本記者クラブで講演し、日銀がインフレ目標を導入する可能性についての質問に対して「短期の物価上昇率だけにくぎづけになると、結果的に経済は不安定になる」、「日銀が採用している枠組みは、インフレ目標の長所を取りこみ、短所を克服したもの」と説明した。日銀に対しデフレ克服のためにインフレ目標の採用とともにバランスシートの拡大を求める意見に対して、欧米の事例を挙げ、中央銀行のバランスシートが拡大してもインフレ率は着実に低下している、と指摘した。(上記URLより)

どう見ても追加緩和拒否です本当にカムサハムニダ。

しかしまあこの理屈もアレなのですが、『(欧米では)中央銀行のバランスシートが拡大してもインフレ率は着実に低下している』というのであれば、逆に「じゃあ打てる手は少ないとか言わないで、バランスシート拡大もやってみたら良いじゃないですか、インフレ率が上昇しないんだったらやっても害が少ないでしょ」というツッコミが来たらどうするのか(大体の切り返し理屈の想像はできるが)って思うのでありまして、中々この辺の説明は難しいですなあ(棒読み)という感じです。

恐らく勝手に想像すると、「欧米の中央銀行のバランスシート拡大は、インフレ率の拡大を目指して実施した物ではなく、金融市場の機能不全に対応して実施した物でありまして、金融仲介機能が損なわれた状態だと金融緩和効果が効かなくなるのでバランスシートを拡大させたものです。一方日本では金融仲介機能は特に損なわれたという状態ではなく、その中でバランスシートを拡大すると言う事は、金融市場への介入になるので、却って金融仲介機能を損ねる結果になります」という話をするんじゃねえのかと思うのですが(さすがに年がら年じゅう各国中銀の出す物を見ているとこの程度の理屈はアホのあたくしでも思いつく)、何せ報道ベースになりますと(専門通信社ですら)上記のように端折りまくってしまいますので、(まあそもそも日経や通信社でちゃんと判っている人が何人いるのやらという気はするが)表に出てくる話となるとコミュニケーションギャップ状態になるんでしょうなと思いました。

あとね、もうひとつ思うのですけれども、「日銀が採用している枠組みは、インフレ目標の長所を取りこみ、短所を克服したもの」って話をいつもしているのですが、いやまあガチガチに物価上昇率だけにフォーカスした目標値ではなくて、最近の中央銀行の流れって「長期のスパンで見た場合の物価安定」を意識した形になっている(あのBOEが最近のMPC議事要旨を見ると物価の数値に関して「より長期的にはアンカー」というのを呪文のように唱えているのが心温まる訳で)というのはその通りなのですが、そーゆー話をしていると、「そんなに立派な物を導入しているのに肝心のデフレ脱却ができていないとはどういうことか」と言われるだけなのではないかと思うのでありまして、何か別に俊ちゃんになれとは申しませんけど、もーちょっと言いようというのがあるんジャマイカという気がせんでもないですな。

ま、いずれにせよ白川さん的には追加緩和もインフレ目標値導入も無いという話ではございますが、先行きに関しては様式美の世界が待っているような気がするんですけどね〜。

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2010/05/28

で、白川総裁講演ですが、これは色々と凄い講演(挨拶)でございます。

http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/data/ko1005a.pdf
中央銀行と中央銀行業務の将来

もう大変にお腹がいっぱいというような感じ(別に悪態の意味では無いので念の為)ですが、最初の部分の話は以前のどっかの講演でも話があったので華麗にスルーして本文4ページ目(PDFファイルの5ページ目)のあたりから参りたく存じます。


○物価に過度にフォーカスするのは如何なものかという話

『当時(引用者追記:1980年代後半の事です)日本では、極めて緩和的な金融政策からの転換の必要性が議論されていました。実際、ただ1つのデータを除いて、すべての経済指標―― 高い成長率、労働市場の逼迫、銀行貸出の急増、資産価格の高騰―― が金融緩和政策の修正の必要性を示唆していました。しかしながら、ただ1つの例外とは、他ならぬ消費者物価上昇率だったのです。このため、低インフレは、日本銀行への強力な反論として立ちはだかり、金融引締めに向けた政策転換が遅れることとなりました。その後に起きたことは、資産価格・信用バブルの膨張と崩壊、そして金融危機でした。以降、物価の安定が経済の安定を自動的に保証するものではないことを多くの国が経験するようになりました。』

というのは暫く前の講演でもありましたが、物価指標だけを見た金融政策運営は如何なものかといういつもの話でございます。

『幾分脇道にそれますが、今回の危機発生以前は、ゼロ金利制約を回避するための糊代(safety margin)が、しばしば若干プラスの物価上昇率を目標とすることを根拠づける理由の1つとして指摘されていました。しかしながら、今次金融危機では、主要国はいずれも事実上ゼロ金利制約に直面するに至っています。リーマンブラザーズ破綻以降の厳しい経済活動の落ち込みを振り返ると、より高い目標インフレ率によって可能となったであろう、あと数パーセントポイントの金利低下によって、経済の回復軌道が大きく変わったと考える人はほとんどいないでしょう。このことは、金融システムの不安定化がマクロ経済に対していかに甚大な経済的影響をもたらすかを示しています。』

というのは脚注にありますがIMFのブランシャール論文に対する反論なのですけれども、ブランシャールの問題提起は「経済のショックに対しての利下げ幅の余地を広くすると言う意味でより高いインフレ率を設定する」という話であって、「若干プラスの物価上昇率が必要」というのは物価指数計測時のバイアスと、経済におけるショックに対するマージンという意味で必要な話なんじゃねえのと
ツッコミを入れたくなるのですが・・・・・

『To digress a little bit, before the current crisis, a safety margin against the zero lower bound of nominal interest rates was often pointed out as one of the justifications for targeting a small but positive rate of inflation. In the end, major countries found themselves virtually constrained by the zero lower bound under the current crisis. Looking back at the serious economic downturn after the failure of Lehman Brothers, very few think that reducing interest rates by a few percentage points, enabled by having a higher target rate of inflation, would have materially changed a recovery path of the economy. That suggests how devastating damage financial system instability inflicts on the economy.』

本ちゃんの文でもこう書いてあるので、まあ上記の通りのようですが、その理屈は微妙に論点をずらしている気がする(バーナンキ議長もブランシャールの提案にはダメ出ししてるけど、それは「高インフレを目標にすると安定が損なわれる」というロジックですから)。

まあそれはともかく。

『我々は過去数十年の経験から、2つのことを学びました。第1に、物価の安定と金融システムの安定のいずれもが、マクロ経済の安定に欠くことのできない前提条件であるということです。第2に、物価の安定はそれ自体望ましいものではありますが、経済主体の過剰な自信や、低金利の継続予想と組み合わされる場合には、将来の金融システムを不安定化させる複雑なメカニズムを秘めているということです。』

それはそうなのだが、だからと言ってデフレ状態が延々と続くのが良いという話にはならんと思うのだが、その辺は微妙にアレですなあ。


○金融システム問題

正直、こっちのネタに関しては非常に同意する所が多いのでありまして、本文5ページ目からの金融システムの安定に関する話には傾注。

90年代以降に金融危機の様相が変化してきたという話から始まります。

『第1に、金融危機の発生頻度が以前に比べて高まりました。このことは、近年の、日本、北欧、東アジア、LTCM、ロシア、および今回の世界金融危機をみれば明らかです。これに加えて、危機の規模は拡大傾向を辿っています。』

『第2に、危機は、国際的な広がりが増しています。日本の金融危機は日本にとって深刻な事態でありましたが、世界の金融システムからみると、局所的な出来事(isolated event)でした。その後の危機は、そのグローバルな性格を強めています。今回の危機は、特に、リーマンブラザーズ破綻以降は、文字通りグローバルな金融危機となりました。』

『第3に、金融危機は以前とは異なる性格を有するようになっています。金融危機はいつも流動性不足という形で表面化します。今回の危機では、資金流動性の不足だけでなく、市場流動性の不足も問題となりました。さらに、そうした流動性の不足は、伝統的な銀行システムの外側にあるシャドー・バンキング・システムにおいて先鋭化しました。』

いや全く左様でございます。で、引用ばっかですいませんが(ってこれ変に突っ込んだりする所が無いんですもん・・・)その次。

『過去数十年間の歴史が示すように、中央銀行は物価や経済活動の安定という面で大きな成功を収めました。皮肉なことに、中央銀行は正にその成功の結果として、新たな難題に直面しているように見受けられます。以下では、これらの難題について説明したいと思います。』

以前もこの話をしていたのですが、今回はまた力が入っていますな。

『第1に、経済の不均衡が物価の不均衡という形で直ちには表れにくくなったことです。良好なマクロ経済環境のもとでは、経済主体が闇雲に強気化し、そのリスク認識が甘くなります。しかしながら、低インフレのもとで、緩和的な金融政策の転換は遅れがちとなります。この状況のもとで、何らかの理由で過剰な自信が生まれることで、資産価格の上昇、信用やレバレッジの膨張、期間ミスマッチの拡大が始まります。経済の不均衡が物価の不均衡という形で表れれば、中央銀行は、オーソドックスな金融引締めにより対応できたはずです。しかし、経済の不均衡は金融面の不均衡として表れました。それでは何故、物価は経済の不均衡に直ちには反応しなくなったのでしょうか。』

『経済不均衡の顕在化の変化』って所から。

『しばしば指摘される理由の1つは、中央銀行の金融政策に対する信認の向上です。この場合、価格変動が一時的であると認識されれば、企業は直ちには価格を引き上げません。もう1つの理由は、企業が価格以外の要素によって競争を行う傾向を強めていることです。低インフレ環境のもとで、企業は、単純な価格引上げで顧客を失う一方、単純な価格引下げでは他企業の追随値下げを招くと懸念していると考えられます。』

『今申し上げたような分析に、私自身、基本的に同意しますが、より本質的な理由は、価格を計測すること自体が近年難しくなっているためではないかとみています。もちろん、物価指数は理論上、品質変化を調整したベースの価格の変動を捉えるものです。しかし、現実には、情報化、サービス化、ネットワーク化が進むほど、付加価値と付随するリスクを把握することが難しくなります。』

つまり物価指数にのみフォーカスした金融政策ではなくて、マクロプルーデンスの観点から金融政策をすべきであるという話で、まあなんちゅうかブンデスバンクのマクロプルーデンス版みたいなテイストですな。

『バブル崩壊後の政策対応』って所から。

『第2の難題は、政策対応が短期的に成功したとしても、そのことが必ずしも長期的な成功を意味する訳ではないということです。中央銀行は、迅速かつ積極的に対応し、バブル崩壊後の深刻な経済の落ち込みに対処しました。こうした政策措置は、資産価格・信用バブルの発生など、また別のリスクを引き起こす可能性があることに注意しなければいけません。先ほど触れた1990 年代以降のバブルの発生頻度増加と規模拡大を踏まえると、金融政策運営が成功したかどうかは、より長い時間的視野から判断していく必要があるように思われます。』

つまり前回のグリーンスパンのバブル崩壊後の政策対応が成功していなかったということですね、わかります。

『民主主義社会における中央銀行』って所から。

『第3の難題は、政策対応の成功は、民主主義社会において、中央銀行がどのような責任を負うべきかという新たな問題を提起していることです。』

というのは金融政策が財政政策の領分に入って行くという正に最近は世界的なお題になっている件でございますが、これは中々イイハナシダナーなお話。

『金融経済危機に直面し、主要国の中央銀行はいずれも非伝統的な政策措置に踏み切りました。この点、日本銀行は真っ先に金融危機を経験し、真っ先に異例の措置を採りました。1990 年代以降、日本銀行は、証券会社に対する資金供給を含め、最後の貸し手として積極的に行動してきました。また、金融機関保有株式の買入れ、ABCP、ABS の買入れ等、様々な異例の措置を講じました。』

さよですな。

『日本銀行の政策対応面でのこうした革新性が、必ずしも十分に認識されていないことは、残念なことです。実際、主要国の中央銀行は、今回の金融危機において、日本銀行の政策対応と同様に、異例の措置を講じています。』

おお!これは力強い発言というか何と言うか(^^)。

『中央銀行による非伝統的な政策措置は、損失が生じた場合に納税者の負担となって跳ね返る危険があること、また、ミクロレベルの資源配分に介入する要素があることといった点で、準財政政策(quasi-fiscal policy)的な側面を有しています。危機の渦中では、中央銀行に対し非伝統的な政策措置を求める声が高まりますが、そうした政策措置は程度の差はあるものの、準財政政策的な側面を有しています。民主主義社会において、中央銀行は一般に、そうした政策を政府・議会が遂行する必要があると考えており、このような決定が政府・議会によって先送りされると、中央銀行は難しい立場に置かれます。』

これはバーナンキ議長へのエールでもあると共に、自分の国が日銀にやれやれとばかり言うのに対する悪態なんでしょうか、わかりません><;

『純粋な金融政策と準財政政策の境界線は、時として曖昧なものとなりえます。1990 年代以降の各国の経験を振り返ると、準財政政策に近い政策措置の発動を可能にする条項が中央銀行法に規定されている場合、中央銀行はぎりぎりの判断として、そうした政策措置の実行を決断してきました。』

日銀法43条ですね、わかります(^^)。

『そうした中央銀行の非伝統的政策措置の効果もあって、ひとたび経済が危機から脱すると、中央銀行は、その行動が民主主義社会におけるルールを逸脱しているとの批判に曝されました。そうなると、中央銀行への信認が損なわれ、政策遂行能力にも悪影響が及ぶことになります。』

たぶん日本ではあんまり晒されてないと思うんだが、つーかもっとやれという方が多いように見えますけど・・・・まあ米国は物凄い勢いで議会がああだこうだと言っているのでその点なんでしょうけれども、何か微妙に日本の話と米国の話をブレンドしているような気がするだよ。


○この後も沢山あるのですが、引用してると全然終わらないので

ほほーと思った所が沢山あるのですが、その中でもあたくしが読みながら2重傍線3重傍線を引いた所を引用しますです。

本文8ページより。

『結局のところ、通貨の太宗を占める預金通貨は、民間金融機関における期間ミスマッチとレバレッジの結果として生み出されるものです。中央銀行は、そうした民間金融機関の行動を含め、金融環境の変化を的確に把握しなければなりません。今回のグローバルな金融危機を経て、重要性が改めて強調されているマクロ・プルーデンス的な視点は、そうした民間金融機関行動の変化を十分に認識したうえで、実体経済と金融システムの相互作用を点検していくものとして理解する必要があります。』


本文10ページより。

『中央銀行文化の第1の側面は、銀行業務です。中央銀行は、単にマクロ経済や金融システムを抽象的に議論する象牙の塔ではありません。むしろ、中央銀行はそれ自体が銀行であり、金融政策にせよ、最後の貸し手にせよ、銀行業務を通じて実践に移されます。こうした業務は、担保掛け目の設定、カウンターパーティの選定、資金や証券の決済、破綻時の債権回収をはじめ、様々な実務に関する知識を必要とします。』

『また、銀行業務の実務に関する知識は、中央銀行が金融システムの繊細な役割(subtle working)やその実体経済との連関を評価していくうえでも有用なものです。マクロ経済学の入門書に描写されているマネーは、信用乗数とマネタリーベースの掛け算で生み出される無機的な概念です。このようなマネーの理解の仕方では、その果たしている重要な役割を見落としてしまいます。』

『すでに申し述べたように、マネーは、金融取引における期間ミスマッチやレバレッジの結果として生み出されるものです。つまり、中央銀行は、銀行がどのように業務を行っているかについての実践的な知識なしには、金融システムやマクロ経済の動向について理解していくことはできません。今回のグローバル金融危機は、この点を端的に示しています。』


本文11ページより。

『金融政策を例にとると、中央銀行が政策を運営していくうえで、マクロ経済理論の果たす役割は大きなものがあります。経済理論は、複雑な現実を理解するための枠組みを提供するという重要な役割を果たしています。しかし、同時にある1つの理論に固執することは、我々の見方を歪める危険を内包していることも冷静に認識する必要があります。』


大変に力のこもった講演ですので必読かと思われます。

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2010/05/25

○総裁会見から:景気にはまあ自信がありそうですなあ

http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk1005c.pdf

・景気の基本的な判断を変えないのはまあ判るのだが・・・・・

現状判断を上方修正した点についての質問に対する回答から。

『(答) 4月末に展望レポートを公表し、今、その見通し通りに推移していると思っています。その意味で、見通しの経路との比較において上方修正したわけではありません。私どもの見通し通りに改善しているということです。』

ほうほう。

『今回の特徴は、国内民間需要について、前回までは自律回復力はなお弱いという表現を残していましたが、今回その記述を落としました。もちろん、自律回復力が非常に強いと判断しているわけではありません。4月初めの段階で、自律回復の芽が見られると申し上げましたが、その後、そうした芽を裏付けていくデータがだんだん発表されてきたことで、確認ができたということです。』

ほうほう。

『詳しくは、月曜日に発表する金融経済月報をご覧頂きたいのですが、設備投資について、従来の表現から一歩進めました。具体的には、「設備投資は持ち直しに転じつつある」としています。これは、機械受注や資本財供給の数字等で確認ができます。』

いやまあ生産統計は強いんですけどね。

『また、家計の雇用・所得環境について、もちろん今も厳しいわけですが、その厳しさも若干和らいできていることが雇用・賃金のデータで確認されつつあります。』

厳しいなら声明文での表現をばっさり切ったのは何故??

『個人消費も政策効果で支えられている耐久消費財以外の分野が注目点でしたが、これについても少しずつ改善していることがデータで裏付けられています。その意味で、自律回復はまだ十分なものではありませんが、そうした方向に一歩進んできていると思います。』

どう見ても自信満々です本当にありがとうございました。


・欧州問題に関して

んじゃまあ欧州問題に関してどうなのよという質問が次に飛ぶのですが、それに対してはこんな話を。

『(答) 欧州経済は、これまでのところ、国ごとのばらつきを伴いながらも全体として持ち直しが続いています。もっとも、ギリシャ等の財政問題に端を発する欧州金融市場の緊張は、EUやユーロ加盟国による緊急支援の枠組みの決定、ECBによる各種措置の導入、主要中央銀行による米ドル資金供給オペの再開などの様々な公的な措置によって若干和らぎましたが、依然不安定な状態が続いています。』

さいですな。

『今後は、一部欧州諸国において財政再建と経済改革に取り組んでいく必要がありますが、その過程で金融市場の緊張がさらに高まるような場合に、様々なルートを通じて欧州経済さらには世界経済を下振れさせるリスクがあり、この点には十分な注意が必要であると考えています。』

と言った傍から・・・・

『ただし、現時点では、世界経済が新興国・資源国に牽引されるかたちで回復を続けていくという中心的な見通しを変える必要はないと考えています。欧州経済の不確実性は高まっている一方で、現在の世界経済を牽引している新興国・資源国経済は、内需を中心に国際機関や民間の予測を上回る力強い成長を続けており、先行きも高い成長率を維持するとみられること、米国経済も、輸出が増加し個人消費も増加する中で緩やかに回復していることがその理由です。』

ということで、まあ確かにメインシナリオを変える話をせんでも良いとは思いますけれども・・・・

『こうした世界経済の動向を踏まえると、現時点では欧州経済の不確実性の高まりが日本経済に与える影響は限定的であるとみています。わが国の輸出は、新興国・資源国向けを中心に増加しており、先行きも世界経済の回復が続くもとで増加基調を続けるとみられます。また、わが国の金融・資本市場をみると、海外市場と同様、株価が不安定な動きをみせているものの、短期金融市場やCP・社債市場は欧米諸国に比べ安定的に推移しています。』

という風に、リスク要因の話よりも「メインシナリオでおっけー」的な話が続くのがちょっとまあ(今回のネタが欧州圏の市場不安定という所から来ているので)あたくしなんぞからすると「もうちょっとリスク要因を強調するんじゃないかなあ」と思っていたのでイメージと違いますな。

なお、この答えまだ続いてまして、最後は「注視していく」という事は言及していますので念の為。

『もっとも、今回の欧州金融市場の不安定化の背景には、欧州一部国における財政の持続可能性・再建可能性に対する市場の信認低下や、これらの国の競争力の低下という大きな問題があります。欧州諸国の経済・財政改革が着実に成果を上げ市場の信認を確保していくことは、時間のかかるプロセスであり、その過程で国際金融市場や世界経済にどのような影響が及んでいくのかといった点は、既に展望レポートでも指摘しているように、注意深く点検していくことが重要だと考えています。特に、このところ金融市場の動きはやや急なものとなっており、日本銀行としては今後の市場動向を引き続き注視していく考えです。』

ただまあリスクリダクションの動きが起きてしまった場合には、そのコトが他国で起きている状態であったら尚更のことですが、まあ中央銀行が何をするかって言っても特にできる事は無い(そらまあ無茶すればできますが)のでして、流動性供給くらいしかできませんなあというのが残念な所ではございますわなという所ですにゃ。

で、昨日も申し上げたように、リスクリダクションの動きが起きた場合、前回はサブプライムをはじめとした各種証券化商品市場にその影響が来たのですが、欧州の場合は域内の銀行貸出とか、新興国の銀行貸出とか、そっちの方にモロに効いてくるのではないかという懸念がある訳でして、従来誤魔化し誤魔化しで来ているのが欧州圏の仕様でもありましたので、まあ色々と不具合が起きるんじゃネーノという心配性のあたくしは心配があったり無かったりするのだ。よー知らんが。


○総裁会見から:成長基盤支援なんちゃら

・たぶん金融機関の計画に対して日銀はそんなに細々審査はせんのじゃろう

成長基盤強化に関する質問の答えから。

『その上で、現時点での考え方を申し上げると、当然、成長基盤強化という趣旨に沿ったものである必要があるわけですが、実際に趣旨に合致するような融資や投資は、金融機関の特性や取引先企業の業務分野、事業に応じて当然異なり得るものであり、金融機関全体としてみると、かなり多種多様なものであると思われます。日本銀行としては、そうした多種多様な融資や投資を幅広くサポートできるような仕組みを設計する方針です。』

『こうした観点からは、これまで政府や各種の経済団体が公表している各種の成長戦略の考え方が参考になると考えています。これらの成長戦略では多くの分野や事業が包括的に取り上げられており、そうした分野や事業に対する融資や投資が幅広く対象となるようにしていきたいと考えています。』

ということですので、まあ個別案件を捕まえて「これは成長基盤支援融資か」ってな事はさすがに審査しない(大体からして出来ないでしょ)という感じが致します。

ただまあそうなのであれば、何で政策投資銀行あるいは政策金融公庫とのタイアップという話にならないのかねえというのは???なのですけどね。


・期限が長いのか短いのか判らん

同じ答えから。

『また、期限についてですが、これから具体的な条件を決めていくわけで、最終的にはすべてが連関するものです。その意味で、この部分だけを切り離してお答えすることは少し難しい面もあります。一言で言えば、成長基盤の強化という本措置の趣旨に照らして適切に定めたいということです。まず、日本銀行としては、今回の措置を恒常的なものとして設計することは考えていません。一定の期間を区切り、中央銀行の有している機能を使って成長基盤強化に向けた金融機関の取り組みを効果的に後押しする時限措置と位置付けています。』

ほほう時限措置とな。

『他方で、成長基盤強化に向けた取り組みが効果を上げるには相応の時間がかかります。金融機関側でも融資等の体制整備に時間を要することを踏まえると、このスキームを実施する期間は金融機関の取り組みをある程度じっくりと支えることができるように設定する必要があります。従って、貸付期間や貸付受付期限等については、こうした点をバランスよく踏まえて、これから固めていきたいと考えています。』

ということですので、「本件の制度に則って実施する日銀の資金供給はロールオーバーも含めてそれなりに長い期間で出しますが、制度による貸出実行に関しては申し込み受付期間をそんなに長い期間で取る訳ではありませんよ」という話になるんでしょう。

だから(引用割愛しますが)このオペ自体はあくまでも「貸出案件紐付きのようなもの」であって、1年の金利に影響を与えるというものではないということでしょうな。


・まあロジック突き詰めて行ったらこうなったのね

このオペって中央銀行としてどうよという質問に対しての答えが象徴的だと思いましたです、はい。

『(答) まず、日本経済が現在置かれている状況を改めて整理したいと思います。現在、日本経済は、リーマン・ショック以降の世界的な景気の落ち込みの影響から脱し、物価安定のもとでの持続的な成長経路に復帰するという循環的な課題と、人口の減少や生産性の低迷・低下による趨勢的な成長率の低下という中長期的な課題の両方に直面していると考えています。わが国のデフレ、すなわち持続的な物価の下落についても、このような循環的な要素と中長期的な要素の両方を反映していると言えます。前者については、展望レポートで示したように、需給ギャップは現在縮小に向かっており、今後もその方向に向かっていくということです。しかし、日本経済が直面している根源的な問題は、後者の潜在成長率の低下だと思います。このことが、わが国の物価下落の基本的な要因であるとかねがね申し上げています。』

というのは今まで総裁がお話をしていた通りですが・・・・

『このような認識に立った場合に、潜在成長率を上げていくことは、主として民間経済主体の努力、そしてそれをサポートする政府の役割が大きいと思いますが、一方で、中央銀行として出来ることはないか、貢献できることはないかということを真摯に考えていくことは必要であると思います。その意味で、この新しい取り組みは、日本銀行法に謳われている、物価安定を通じて国民経済の健全な発展に資するという金融政策の使命に合致していると判断しています。』

ということで、まあ従来より主張していたロジックを突き詰めた結果が今般の施策という話で、極めて落涙を禁じ得ない所ではございますが、恐らく白川総裁におかれましては、引用した発言にありますように、「潜在成長率の低下を防ぎ、引き上げていくために日銀が何か貢献できないのか」と言う事を大真面目に考えた結果なのでは無いかと(これが俊ちゃんだったら芝居の可能性があるのですが^^)思われますがどうでしょうかねえ。


とまあそんな感じで。トーンとして下振れ懸念があたくしのイメージというかまあ市場がちょっと微妙に変調な中ですなあという感覚から見た場合に、もうちょっと下振れリスクを意識した物言いがあっても然るべきかなあとは思ったので、その意味でちょっと景気にまだ自信があるんですなあ、という印象を受けるのでありました(4月の会見の印象がまだ残っているのもありますが)。

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2010/05/24

○総裁会見では先行きに自信があるようですがそうなのかなあという市場雑感

総裁会見は今日出ますが、ロイターニュースから。
http://jp.reuters.com/article/domesticEquities4/idJPnTK041248420100521

『世界経済のマクロ展望については「現状、新興国を中心に世界経済が改善するとの中心シナリオは変わらない」と強調。国内については4月30日に日銀が公表した展望リポートの見通しに沿って推移している、とし、「国内民間需要に自律回復の動きがみられる」と強調。国内民間需要について「前回までは自律的回復は弱いと判断していた。今回自律的回復が『強い』と判断していないが、(各種経済指標などで)芽を確認でき、従来の表現を一歩進めた」、「個人消費も耐久消費財以外での投資も少しずつ改善している」と指摘。「まだ十分なものでないがそうした方向に一歩進んできている」と述べた。』(上記URLより)

ということのようですが。

>芽を確認でき、従来の表現を一歩進めた

って何かこう「偽りの夜明け」という話を米国に行ってしてた人の同じ口が言うのかと思うのですけれども、とりあえず白川総裁の判断としては回復に自信があるのは把握した。

ただですな、さっきからチョロチョロ申し上げているように、ここもとの海外市場の動きって、単なるギリシャ問題だけではなく、ユーロ圏全体のソルベンシーの話になり、それがドイツの謎施策の辺りから今度は市場全体のリスクリダクションのようになっているように思えるのですよね。

つまりですな、問題がユーロ危機云々だったら先週後半のユーロの戻しと、円の強さって何なのよという話ですし、一方で商品価格がゲロ下げしている中で資源国通貨が下落するとか、米国の物価連動国債が売られている(日本も影響受けてますが)とか、ど〜も動きが「リスク許容度の低下」あるいは「ポジションの解消」方向になっているのがアレなのでござんす。欧州系はドル建てで外向けのエクスポージャーをそれなりに抱えている(だからドルファンディングが大変でどうのこうのという話が出て来ざるを得ない)ようなのですが、これを閉じる方向という事になると、新興国とかのクレジットアベイラビリティの低下方向という話になるでしょうし、その一方で世界的に「財政の維持可能性」がテーマになっている中では、リーマンショック後のような威勢の良い財政出動がしにくいという点で、リーマンショックの時とはバッファーが違うようにも思えます。

ま、あたしゃ現在は債券屋ですし、その上日本人と来てますので心配症なのよという事なのかも知れませんけれども、足元の循環的な回復よりもど〜にもこ〜にもこっちの流れの方が気になる次第でして、そらまあ杞憂なら別に問題ないのですが、欧州にリスクリダクションの動きという中で「新興国・資源国の経済の強まりなど上振れ要因」という見方が堂々維持されているのも(いやまあデータ上はそうなんでしょうけれども)そうなのかなあという感じでありまして、まー詳しくは今日の会見要旨を見ないとですけれども、白川総裁の会見トーンが強めな気がするのが懸念される所ではございます。


ということで、まあ結果出た当初は次の「施策」の方が気になったのですけれども、良く良く考えたらこっちのネタのほうが気になってきたのでありました。以下は謎施策に関連して雑感少々程度。

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2010/05/10

○総裁会見から少々

http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk1005a.pdf

新型オペに関する話はこの前引用したので、「追加緩和はしないでおじゃる」の部分を引用しておくでおじゃる。

『(問) 昨年12月に始めたいわゆる新型オペについてお聞きします。開始してからそれなりに時間が経ってきていますが、その効果と副作用について総裁はどのようにお考えになっているでしょうか。』

『(答)(オペの説明部分割愛)そう申し上げた上で現時点での評価を申し上げます。固定金利オペに加えて、従来の金利入札型の様々なオペを活用した潤沢な資金供給によって、短期国債金利などやや長めの金利は政策金利と遜色ない水準まで低下し、銀行間の取引金利も低下が続いています。貸出金利など民間企業の資金調達コストにも効果が波及してきています。このように、固定金利オペは、やや長めの金利の低下を促す効果を着実に発揮してきています。』

はあはあそうですか(棒読み)テクニカルには無制限応札ができる訳ではないので単体での評価ってのは無理だと思うのですけどねえ。

『さらに、固定金利オペの導入と拡充は、きわめて低い金利を維持するという日本銀行の姿勢の明確化を通じて、企業マインドの下振れを回避する面でも一定の効果があったとみています。』

マインドの話ってまあ口の悪い言い方をすれば「鰯の頭も信心」の世界も含まれるのでございますが、今般の妙な資金供給策検討指示といい、鰯の頭スキームを採用する福井の俊ちゃんメソッドに入ったというのであればそれはそれで日銀の為(って日銀が無用にバッシングされないという論点で)に慶賀すべきことかも知れませんし、ロジック的にどうなのよという点で言えばどうなのよというのはありますが。

『もっとも、固定金利オペを含めた日本銀行による潤沢な資金供給が市場取引を代替し、短期金融市場の取引が縮小することにより、金融機関からみれば、市場調達に対する安心感、すなわち必要な時にいつでも必要な額の資金調達を行うことができるという安心感が低下する可能性も意識しています。また、やや長めの金利の低下は、企業にとって資金調達コストが低下する一方で、金融機関の利ざやが極端に圧縮されると今度は資金仲介活動に対するインセンティブが低下し、結果として企業の資金調達にマイナスとなる懸念もあります。(以下割愛)』

前半ですけれども、まあ正直言って現在の短期金融市場って日銀のオペが無いと回らん状態になっているのでして、無担保取引もそうですけど、レポ取引が普通のコールと同じくらい(は無理かもしれないけど)にお手軽にできて参加者の層が厚くなる(取引そのものは大きいですけれども、資金の出し手が大口の少数固定メンバーに限られているので市場としてのバラエティーさが無いにも程がある)という風にならんと、短期金融市場の市場機能がどうしたこうしたという話以前の問題のような気がせんでもない(まあそもそも短期国債の発行が莫大にあるからその分資金供給オペを打たない訳にもいかないというのもあるけれど)。

また後半に関してはまあそらそうなのですが、それを言い出すと「じゃあ何でターム物のレートを下げる」ような措置を実施したのよという話になるので、あまり副作用云々は言わない方が良いと思うのだが。まあ総裁が個人的にそういうのが嫌だというのは伝わるが、マインドがどうのこうのというような事を言及するのですから、まあそういう本音は(俊ちゃんのように)見せないのが正しいお作法(?)だと思います。


『(問)2点お伺いします。1つ目は、3月の決定会合で新型オペの拡充をした時は、景気と物価の改善を後押しするというご説明がありました。本日の展望レポートの分析を踏まえると、この新型オペをさらに拡充する必要性が薄れたとお考えなのか、それとも、今後も引続き検討する余地があると現時点でお考えなのか教えて下さい。(2点目は先日引用したので割愛)』

『(答) まず、最初の問についてですが、いつも申し上げている通り、先々の金融政策については、2つの柱に基づいて経済を点検し、最も望ましい金融政策を決定していくというスタンスです。予断をもって政策運営を考えるというアプローチはとっていませんし、またとるべきではないと考えています。』

まあそれはそうですが。

『ご質問の趣旨に即して具体的にお答えしますと、日本銀行はこれまで金融面から経済を下支えするために積極的な金融緩和措置を実施してきました。政策金利については、現在世界で最も低い金利水準を維持しているほか、やや長めの短期金利の低下を促すために、昨年12 月に固定金利オペを導入し、本年3月に固定金利オペを大幅に増額しました。これら一連の措置により、コールレートはきわめて低い水準で推移しているほか、ターム物金利や貸出金利も低下傾向が続いています。』

ターム物って12月の瞬間で下がっただけでその後は横ばいのような気もしますがまあいっか。で、ここでチャーミングなのは「貸出金利」という所でして、TIBORの話をしているのねという所です。最近やっと下がってきたのは期が変わったのも影響してるのかどうか知らんけど、まあ低下してますな。

『この間、企業収益や実体経済は改善してきており、低金利の持つ景気刺激効果は強まってきています。先行きについても、こうしたこれまでの金融緩和措置の効果が強まっていき、国内民間需要の自律的な回復を後押ししていくと期待されます。従って、現時点で追加的な金融緩和が必要とは考えていません。』

>従って、現時点で追加的な金融緩和が必要とは考えていません。
>従って、現時点で追加的な金融緩和が必要とは考えていません。
>従って、現時点で追加的な金融緩和が必要とは考えていません。

言い切りキタコレ。

何かね、そんなに言いきらなくても良いと思うのでして、「今回は追加緩和は行っていませんが、先々の金融政策運営に関しては先程申し上げたように予断を持って臨むものではありません」くらいにしておけばと存じますが、こういう言い方をするのが俊ちゃん的な狸芝居が苦手な真面目な白川さんらしい所でございます。

『繰り返しになりますが、先程申し上げた2つの柱に基づいて金融政策を点検していくということを、毎回の会合で行っていきたいと思っています。』

と言う事で、まあ今回の会合での謎の施策に関して言えば、「新成長戦略の具体化向けに呼応した政策を出しましたけれども、追加緩和はしたくありませんので宜しく」という所でしょうな。というのが判るのでありました(^^)。


しかしまあ何ですなという感じなのですが、今回の会見では折角展望レポートで構造的な問題と循環的な回復のバランスを取っているのに、循環的な回復の話と、追加緩和しませんよ発言で何か「ああやはり循環の回復に注目しちゃっているのね」というようなイメージになるのが残念。

で、もっと残念なのは展望レポートの基本的見解の家計部門の中で今回わざわざ入ったこの一節。

『また、企業収益の回復を背景に、株価も上昇してきている。』(今回の展望レポートより)

・・・・と書いて、ついでに総裁が追加緩和必要無い発言をした途端にこの相場(追記:ギリシャ危機でユーロ危機)とかもう何と言うか何かのフラグを立てているとしか思えない美しさなのですがorz

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2010/05/06

総裁会見より。

『(問)(前半割愛)2点目は、今回、中央銀行としての矩(のり)を超えてしまうのではという懸念も与えかねない行動に出ようとしているのは、成長戦略を考える上で、政府から日本銀行に何か新しく政策を出してほしいという要望があってのことなのかを伺います。』

『(答)(前半割愛)オーソドックスな中央銀行の業務ではないという意味では、ご指摘の通りと思いますが、現在、日本経済の最も本質的な問題が生産性の低下である以上、その問題に対して何がしかの貢献をしていくということは必要なことだと思います。』

で、日銀がそういう貢献をするというのは違和感が。計画経済じゃ無いんですし。

『ただ、繰り返しになりますが、中央銀行としての矩を超えることはあってはなりません。何が矩を超えることになるのかと言いますと、1つは個別産業や個別企業に対するミクロの資源配分への介入となることは避ける必要があると思っています。』

成長戦略だの生産性だのという話をしている時点で恣意性が入ると思うのだが。

『また、日本銀行が金融政策を行っていく上で、資産の健全性がしっかり確保されていないと、将来の金融政策の遂行能力に対して信認が低下してしまいます。その2点は少なくともしっかり意識し、矩を超えることのないような制度設計を考えていきたいと思っています。』

資産の買入じゃなくて銀行向け与信だったら別にまあそんなに懸念する話でも無いと思うのだが。

『また、政府の方から要請があったのかということですが、そのような要請があったわけでは全くありません。』

はあそうですか(棒読み)。


○しかし現状の問題は別に金詰まりでも貸し渋りでも無いのだが

金詰まりというのは流動性の問題で、貸し渋りというのはバランスシートの問題でございますが、現状の金融機関の状況を勘案すると、どちらにも問題は無い筈でございまして、巷間貸し渋りがどうのこうのとか言われますけれども、そもそも前向きの資金需要でそれなりにちゃんとした企業さん相手だったら銀行は貸出をしたくて仕方ない状態になっている筈でございますので、そんな中で日銀が何をするのよというか、日銀の変なアピールのダシに使われる金融機関カワイソスという感じがするのですけどねえ。

総裁会見より。

『(問) 成長基盤強化について2点お伺いします。まず、政策の発表を聞いた際に、政府系の金融機関でしっかりやればよいことではないかと感じました。また、民間の金融機関に聞くと、先程おっしゃった1998年の企業金融支援の臨時貸出制度は貸し渋りの改善を促すものであり、今は、成長力のあるところには貸したいけれども貸し出し先がないというジレンマがあると思います。その中で日本銀行が出ていく余地はあるのか、違和感があり理解できないのですが、お考えを伺います。(2点目は先程引用したので割愛)』

どう見ても正論です本当にありがとうございました。

『(答) 政府系の金融機関も、様々な取り組みを行っていると思います。ただ、政府系金融機関の場合には、自らが企業に貸し付けることが業務のベースになるわけです。今回、日本銀行が検討しようとしていることは、日本銀行自身が直接企業に貸し付けようというわけではありません。あくまでも、民間金融機関の取り組みを支援していこうということであり、政府系金融機関とは役割が異なっていると思います。』

?????

『それから、先程も申し上げました通り、日本銀行の出す資金の量によって勝負をしていこうというものでは決してありません。』

ますます意味判らん(ちなみに、この部分って今回の会見でのもう一つのポイントでもあるのですが、「追加緩和はしたくないでおじゃる」という話に繋がるのですな)・・・・

『今、おっしゃったように、金融機関から見ると、資金需要がない状況だと思います。ただ、何か障害があり、工夫をすれば様々な資金需要の芽がもっと生きてくる、という可能性はあると思います。』

いやだからそれは補助金とか予算の世界ですから。

『だからこそ、民間金融機関もこうした面の取り組みを始めているのだと思います。従って、あまり大きなことは言えませんが、日本銀行としても、民間金融機関の業務を見ている立場から、また、中央銀行として資金を供給する立場から、日本銀行がどのような工夫をすれば民間金融機関の努力が後押しできるのかをしっかり考えていきたいと思います。』

これで考えた結果特にありませんでしたという回答が執行部(事務方)から来たら理事や局長の皆様を神認定して毎日崇めたいと思うのですけれども(^^)、まー従来の流れから常識的に判断すると何か無理矢理にでもネタをひねり出すんでしょうな。

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2010/04/26

お題「NYでの総裁講演続き(というか今日がメイン)」

http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/data/ko1004e.pdf(日本語訳)
http://www.boj.or.jp/en/type/press/koen07/data/ko1004e.pdf(こちらが元)

○単なるインフレ目標政策に対する話では無く大きな話なのよね

金曜にざっと斜め読みした時には物価に過度にフォーカスした機械的な金融政策運営に関する批判的な意見の部分が目についた訳ですが、まあ中身をよく見ますと話はそ〜ゆ〜単純なものではなくて、バブルの発生と崩壊を何度も起こす中で金融政策はどうあるべきかという話をしていまして、これは中々の内容。

今回のキーワードは「自信の循環」でして、本チャンの講演では『cycle of confidence』とあるのですが、この「自身の過剰」がバブル発生を生み、その自信の過剰は別に民間だけではなく中央銀行などの監督当局にもあるのであって、我々はより謙虚でなければいけない、という大変に良いお話をしているのですが、まあどうせインフレ目標批判の部分とかを報道ベースではクローズアップするでしょうから今日はメモをしておくのだ。

で、今回の講演はわからんちん向けではないせいか(^^)、講演内容は直球ストレートでございまして、いやまあ一つの正論でございますけれども、こーゆー話を日本に持って行っても報道バイアスにより政府と日銀の対立がどうしたこうしたとフレームアップされるだけなのでありまして、世渡り的には微妙ではございますな。ど〜せなら5月に来日するバーナンキ議長にこの手の話をしてもらえば宜しいのではないでしょうかなどと思うのですがね(^^)。

まだ最後まで紹介できていませんが(どうもすいません)3月に実施されたFRBコーン副議長の金融政策に関する今後の課題に関する講演も非常に素晴らしい内容でしたが、今回の講演も問題提起という点では大変に良い内容だと存じますです、はい。


○自信の過剰

金融危機はなぜ繰り返して起きるのかという部分の最初の部分ですが、観賞用に。

『金融危機、そして、それに先立つバブルは何故、繰り返し起きるのでしょうか。その原因については、リスク管理の甘さ、過大なレバレッジ、大きすぎて潰せない(too big to fail)とみられる金融機関の存在、金融監督の失敗、過度に緩和的な金融政策など、様々なことが挙げられています。』

『そうした分析に私も同意しますが、それら個々の原因だけでは捉えきれない全体論的な視点も必要だと感じています。』

『そのような視点に立った場合、非常に長い時間の中で発生する「自信の循環」とも呼べるものが決定的な役割を果たしていることを強調したいと思います。すなわち、成功が自信につながり、それがやがて自信過剰に、あるいは傲慢にさえ変質していきます。自己満足感も高まっていきます。そして、自信過剰のもとで生成されたバブルが崩壊すると、自信喪失へと変わり、その後、再生に向けた努力が始まります。こうして、一連の循環が再び動きだしていくのです。』

ちなみにここだけ原文を引用しますが。

『Why do financial crises, and for that matter bubbles which precede them, occur repeatedly? Many reasons are given -- lax risk management, excessive leverage, existence of financial institutions which are perceived to be too-big-to-fail, failure of supervision, excessively accommodative monetary policy and the list goes on.』

『I generally agree with such assessments, but we also need a holistic perspective which cannot be captured just by focusing on individual causes.』

『From this perspective, I would like to emphasize that, what one could term as a “cycle of confidence” which evolves over a very long time horizon, plays a decisive role. Success breeds confidence which unfortunately turns into over-confidence or even arrogance. Complacency also sets in. The collapse of the bubble based upon this over-confidence leads now to under-confidence, which is followed by rebuilding efforts. Then the cycle begins once again.』

という感じで、まあ原文と訳を並べて読むのも味わいがございます(^^)。


○「バブルは崩壊してから対処すれば良い」というのは自信過剰では無かったか

で、日本経済の自信過剰の表れとして80年代後半の資産バブルの話をしているのですが、米国に関してもしっかり指摘しています。

『上述した「自信の循環」は、日本経済だけでなく、米国経済についても当てはまるように思います。1960 年代後半以降、米国経済のパフォーマンスは悪化し始め、1970 年代後半から1980 年代初頭にかけての時期は高インフレ率と低成長率、いわゆるスタグフレーションに悩まされた最悪の時期でした。しかし、正にこの試練の時に、米国経済を再生しようとする政策努力が始まりました。ボルカーFRB元議長によるインフレ退治とレーガン政権下の規制緩和の双方が動きだし、その効果が長い時間をかけて徐々に成果を挙げていきました。米国経済の成長率は1980 年代の年率3.1%から、1990 年代後半には4.0%へと高まりました。そうした経済の拡大は2000 年代初頭のITバブルの崩壊で一旦途切れましたが、比較的短期間にその影響から脱することに成功しました。』

と言う所までは良かったのですが・・・・

『マクロ経済に関しては、成長率と物価上昇率の変動幅の低下をどう解釈するかについて活発に議論がなされ、いわゆる「大いなる安定(Great Moderation)」が喧伝されました。このような状況の下で、先行きの経済に関する非常に強気な見方が次第に社会を支配するようになっていきました。』

『住宅価格の上昇を巡っても、これがバブルかどうかについて活発な議論が行われましたが、米国の政策当局者や学界からは、「住宅価格が全国的に下落することはない」、「仮にバブルが崩壊しても積極的な金融緩和によって対応可能である」という見解が繰り返し表明されました。金融システムについても、欧米の金融機関のリスク管理は日本の金融機関よりもはるかに洗練され効率的であることが当然視されていたように思います。』

『しかし、その後の展開が示しますように、こうした楽観論は大きく外れました。日本のケースも米国のケースも、自信過剰がいかに弊害をもたらし得るかを物語っていると思います。』

まあ「コケてから積極的な金融緩和をすれば対応可能」というのは市場が普通のグラフみたいに連続的に動くのなら可能なのかもしれませんが、市場はいきなりジャンプしますし、コンフィデンスというものは「ほど良く信頼が落ちる」というような器用な事にはならない(落ちたらいきなり地のそこまで落ちる)ですし、ま〜机上で数学のややこしい式を振り回して考えるような話だけでは行かないでしょ〜♪と思うのが現場叩き上げ労務者の感覚なのでございますな。


○で、金融政策運営の課題

その続きから。

『「自信の循環」という観点から、駆け足で日米のバブルについて振り返りましたが、同様の事象は過去四半世紀に限っても、1980 年代の北欧経済のバブルとその崩壊、1990 年代のアジアの奇跡と通貨危機など、日米以外の多くの地域でも観察されます。』

『人間は、自らが時として自信過剰になり、行動が行き過ぎることを知っています。だからこそ、我々は、行き過ぎた行動にブレーキを掛けるメカニズムを予め構築しています。民間部門は様々な制動装置を持っており、例えば、金融機関には内部リスク管理部署が存在します。金融機関経営者の行動の行き過ぎに対しては、株主や債権者、カウンターパーティによる規律付けのメカニズムが作用します。また、中央銀行や規制・監督当局も、制動装置として機能します。しかし、今回の危機では、残念ながら、民間部門の装置も公的部門の装置もうまく作動しませんでした。これらの装置が機能しなかったことは、重要な問題を提起していますが、以下では、時間の制約から公的部門による制動装置のみを取り上げます。』

『私はセントラル・バンカーとして、中央銀行や規制・監督当局の失敗の問題を真剣かつ十分に検証する必要があると思っています。』


ということで金曜に引用した部分ですが。

『最初は、金融政策についてです。金融政策とバブル発生の関係については、既に多くのことが論じられてきました。はっきりしていることは、自信過剰が、バブルを生み出す必須要因であるということです。そうした意味で、 低金利の持続予想は、これだけでバブルを生み出すことはありません。』

『しかし、それ無しには、バブルが発生しないこともまた事実です。私にとって重要な問い、それは日本銀行とFRBを含む多くの中央銀行にも向けられるものですが、当時、バブルの兆候に不安を感じつつも、中央銀行は、何故、低金利を続けたのだろうかということです。考えられる理由としては、以下の三つが挙げられます。』

というのは金曜に引用しましたが、まず第1に「経済の不均衡が一般物価ではなく、資産価格上昇や過剰な信用膨張の形で起きる」という指摘です。

『第1に、近年、経済の不均衡が財やサービスの物価の変化としては直ちには表れにくい環境になってきたことです。物価安定の達成に成功したことによって、中央銀行は金融政策運営に対する民間部門の信認を獲得するようになりました。その結果、民間主体の予想物価上昇率は低い目標物価上昇率にしっかりと固定されるようになり、経済の不均衡は、財やサービスの物価上昇率以外の形、すなわち、資産価格の上昇や信用の膨張という形で表れるようになりました。』

でも、この話ってよくよく考えたら日本の80年代後半の資産バブルの時がまさにそうでして、消費者物価指数は資産バブルの最終時点を除いてほぼアンカーされて動いていて、その間に資産価格がアホほど上昇し、不動産関連融資を中心に信用がアホほど膨張していたのでありまして、そ〜考えるとその後米国でバブルが発生して崩壊したのは何ででしょという話ですが、それは第3のポイントとして示されています。

『第2に、政治的、経済的、社会的な力学がセントラル・バンカーに影響を及ぼすようになり、物価上昇率以外の要素を勘案した金融政策を行うことが次第に難しくなっていったことです。この背後には微妙なメカニズムが働いています。物価安定が経済の安定のための前提条件であり、その条件を満たすには、中央銀行の独立性が必要であるという論理は、1990 年代以降、徐々にしかし着実に定着していきました。中央銀行の独立性は、同時に、当然のことながら説明責任の要請を高め、国民が容易に判別できる基準が求められるようになりました。』

なるほど。

『そうした要請に最も上手く応えたのがインフレーション・ターゲティングの枠組みでした。しかし、インフレーション・ターゲティングのもとでは、物価上昇率の目標値と実績値あるいは予想物価上昇率との関係に議論が集中しがちです。その結果、物価以外の形で表れる不均衡への対処を理由に金融政策を変更しようとすれば、それを根拠立てて説明するためのコストは、中央銀行の立場からすると非常に高くなります。』

まあ今回の金融危機での英国のように危機モードになったら毎回詫び状攻撃で済ますという話になるのでしょうけれども、BOEの議事要旨を(面白いので)見ていますと、ここもとの議論はもうかなり複雑骨折状態になっているのですよね(3月のMPC議事要旨も何となく読んだのですが後日)。

『エコノミストの関心は、専ら需給ギャップと物価上昇率の関係に集中し、金融面の不均衡(financial imbalances)への関心は限定的なものとなりました。財やサービスの価格変動という形では把握しにくい要素に対しては、関心が薄れるようになりました。中央銀行から金融の規制・監督の権限を移す制度的変更も、そうした傾向を加速させました。』

さいですな。で、関心が何故そちらに向いたかというのが第3点。

『第3に、「デフレに陥る危険」ということの意味について、必ずしもバランスの取れた形では正しく理解されなかったことです。これに関し、財やサービスの価格の持続的な下落がもたらす悪影響の明白な事例として、「失われた10 年」という言葉で呼ばれる日本のバブル崩壊以降の経験がしばしば引き合いに出されました。』

さよですな。

『しかし、日本経済に深刻な問題を引き起こした主因は、一般物価の下落というより、圧倒的に資産価格の下落でした。日本では、主要都市の不動産価格がピーク対比70〜80%も下落しましたが、消費者物価指数の下落は1997年から2004年にかけて累積で3%でした。それにもかかわらず、日本の経験は誤って解釈されました。』

過剰な信用の崩壊による不良資産の積み上がりからのバランスシート調整圧力恐るべしというのは日本のバブル崩壊の教訓だったとは思いますが、まあこういう話をするとまた「白川総裁はデフレの害を軽視してケシカラン」とか言う批判が飛んでくるんだろうなあと思います。

『そうした当時の雰囲気は、2003年4月に公表されたIMFのWorld Economic Outlook や、同じく2003 年にカンザスシティー連銀によって主催されたジャクソンホール・コンファレンスの議事録をみると、容易に確認できます。2003 年6月のFRBの金利引き下げでは、その理由として「好ましからぬ大幅なインフレの低下(unwelcome substantial fall in inflation)」を避けることが挙げられました。振り返ってみると、デフレの危険が大きくクローズアップされた裏側で、金利の果たす動学的資源配分機能は軽視されがちでした。そして、正にその時期に、信用やレバレッジの増加、期間ミスマッチの拡大という、その後の危機の種が蒔かれました。』

信用の拡大に起因するバブルの発生とその崩壊の方がダメージが大きかったという話をしたい訳ですな。ふむふむ。


○実は裁量っていうのも重要ですよね

という話をしててまたこれは燃料投下とか思うのですが(^^)、プルーデンスの観点と金融政策運営の観点の双方から裁量の重要性に関して指摘しているのがチャーミング。

まずはプルーデンスに関する部分から。

『第2は、(引用者追記:個別金融機関に予防的な是正措置を求めなくなった理由として)当局が裁量的な監督権限の行使に慎重になったことです。金融システムの安定を確保するためには規制が必要ですが、すべての状況を想定した規制を事前に設計することは不可能であり、だからこそ、有効な監督が重要な役割を果たすことになります。ここで求められるのは、個々の金融機関のリスク特性に応じた監督であり、当然のことながら、裁量的な要素が含まれることにならざるを得ません。しかし、厳格かつ迅速な説明責任が求められるようになればなるほど、監督当局がそうした裁量的な権限の行使に慎重になることは避けられません。』

最後の金融政策の運営に関する部分から。

『(引用者追記:白川総裁が必要と考える金融政策哲学の見直しの方向性としてのポイントの)第3は、適度な裁量性の重要さです。公的当局は、金融政策についても金融監督についても、適切な裁量性を保持する必要があります。かつて、ジェラルド・コリガンがニューヨーク連銀の総裁であった時に、中央銀行による「最後の貸し手」機能の発動基準に関して「建設的曖昧さ(constructive ambiguity)」という言葉を使いましたが、近年、時計の振り子は透明性の方に大きく振れました。しかし、結局のところ、中央銀行も規制・監督当局も、その役割は自由市場の競争だけに任せた場合の市場や経済の不安定化を防止することにあります。』

で、この次が「ほほー」と。

『もし、当局の政策行動が機械的なルールに基づいていて、それが市場参加者の行動に予め織り込まれてしまうと、市場や経済はむしろ最終的には不安定化してしまいます。したがって、少なくともある程度は、時計の振り子を裁量性の方向に戻すことが必要になっているように思われます。』

そうかもしれませんな。


○んでもって白川総裁の考える見直しの方向性とは

第3の部分は上にありますような話でして、じゃあ残りの2つはどういう話かと言うのを最後に引用しますです(引用ばっかでどうもすいません)。

『第1は、中央銀行の政策目的の重要さです。通常、金融政策の目的は物価の安定と定義されます。実際、こうした定義で全く差し支えない時代が比較的最近まで続いてきたように思います。しかし、中央銀行に期待される役割は、物価の安定と1対1には対応しないことも分かってきました。』

ふむふむ。

『バブルの経験が示すように、物価が安定していても、経済は大きく振幅することがあります。中央銀行に求められていることは、安定的な金融環境(a stable financial environment)を実現することであり、それを通じて持続的な成長を達成することです。物価の安定は、金融環境の安定を構成する重要な要素ですが、これだけに限定されるものではありません。それどころか、短期的な物価の安定に釘付けになると、究極の目的である経済の持続的成長を困難にする可能性すらあります。』

つまり物価指数を見ながらエアコンの自動温度調整装置みたいなイメージで金融政策が回ると考えるのは話にならないんですね、わかります。


『第2は、金融環境の安定性を効果的に測定することの重要さです。中央銀行は貸出やレバレッジ、期間ミスマッチの状況など、金融環境を特色付ける幅広い指標に注意を払っていく必要があります。「安定的な金融環境」とは抽象的な概念であり、金融経済の状況が全て反映されるような単一指標はありません。』

真面目な話、超越的に難しいと思うのだが・・・・

『しかし、同様のことは物価についても当てはまります。技術革新によって可能となった財やサービスの価格を計測することは――検索エンジンの価格が良い例ですが、――大変難しい課題です。仮に単一の有効な指標をみつけたとしても、経済・金融は常に変化していることを考えると、幅広い指標を丁寧に点検することが不可欠です。難しい課題ですが、挑戦していかなければなりません。』

つまり昨今すっかりまた国内では日銀がどうのこうのと言われてますが、物事はそう単純じゃないんだよこのわからんちん共めがということですね、わかります。

で、第3はさっき引用した通りです。


#手抜き引用大会でどうもすいませんでした

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2010/04/23

ところで、昨日の夕方にはまだアップされた無かったと思うのですが、日銀のサイトにこんなものがアップされていました。

http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/data/ko1004e.pdf
中央銀行の政策哲学再考
── エコノミック・クラブNYにおける講演の邦訳 ──

いやまあ11ページ(本文の量)を寝起きで斜め読みするのも何ですので詳しくはまた後日攻撃になるかと思うのですが、中々これはまた白川クオリティですなあという感じです。


○CPIに過度にフォーカスした金融政策運営によって起きたこと

最初の『金融危機は何故、繰り返し起きるのか?』という所から。

『1980 年代後半、日本のマクロ経済のパフォーマンスは、先進国の中で際立って良好でした。この期間の実質成長率を見ると、他のG7諸国の平均が年率で3.4%であったのに対し、日本は5.1%でした。一方、消費者物価上昇率をみると、他のG7諸国の平均が年率で3.9%であったのに対し、日本は1.1%でした。』

さよでした。

『1990 年代に入って、インフレーション・ターゲティングが拡がりをみせましたが、これを採用している国の基準に照らしますと、当時の日本経済は圧倒的な優等生でした。』

(;∀;)イイハナシダナー

『対外的には、経常収支の大幅な黒字の持続を背景に、日本は世界最大の対外純債権国となりました。このような良好な経済状況のもとで、日本人の間に過剰な自信が生まれました。』

で、バブル発生のご教訓と言う話になるのですが・・・・・

『勿論、気懸かりなことがない訳ではありませんでした。1980 年代後半における信用の膨張と資産価格の上昇です。しかし、そうした懸念を打ち消す、「根拠なき楽観論」が社会を支配しました。地価について言うと、日本では地価は決して下がらないという「土地神話」への信仰は絶大でした。勿論、金融政策については、引き締めへの転換の必要性が議論されました。実際、ただ一つのデータを除いて、全ての経済指標 ―― 高い成長率、労働市場の逼迫、銀行貸出の急増、資産価格の高騰 ―― が、金融緩和政策の修正の必要性を示唆していました。その「ただ一つのデータ」とは他ならぬ物価上昇率でした。』

(;∀;)イイハナシダナー

『1990 年代に入ると、バブルの崩壊によって状況は一変し、日本経済は大きな困難に直面しました。成長率は1980 年代後半の年率5.1%から1990 年代の1.5%へと低下しました。その結果、今度は過度に悲観的な、言わば、「根拠なき悲観論」も生まれました。近年の日本経済の低迷については、様々な要因が関連しており、バブル崩壊や資産デフレの影響だけを過大視するのは適当ではありませんが、バブルとその崩壊が日本経済の中長期的な活力に対して大きな影響をもたらしたことは疑いがありません。』

つまり物価上昇率だけを見て金融政策をやるのは如何なものかと言いたいと(^^)。


○で、金融政策運営における物価との関係が面白いのですが後に続く(おいおい)

『政策当局は、何故、ブレーキを掛けられなかったのか?』というのがその次に来るのですが、『金融政策運営』という所ではこんな話を。

『最初は、金融政策についてです。金融政策とバブル発生の関係については、既に多くのことが論じられてきました。はっきりしていることは、自信過剰が、バブルを生み出す必須要因であるということです。そうした意味で、 低金利の持続予想は、これだけでバブルを生み出すことはありません。しかし、それ無しには、バブルが発生しないこともまた事実です。私にとって重要な問い、それは日本銀行とFRBを含む多くの中央銀行にも向けられるものですが、当時、バブルの兆候に不安を感じつつも、中央銀行は、何故、低金利を続けたのだろうかということです。考えられる理由としては、以下の三つが挙げられます。』

ということで、3つの説明があるのですが、その前にど〜せこのような部分を見て「白川総裁が低金利の長期化の弊害を指摘」とか言って「日銀も出口政策を模索」とか報道するアホウが出てくるに百万トラストミーなのですが、ちゃんと『低金利の持続予想は、これだけでバブルを生み出すことはありません』と断っていますし、前段にあったように、そもそも日本は「根拠なき悲観」状態になっているので、別にバブルを心配するような話はねえじゃろという風に思うのですけどね。まあでもきっとどっかの報道機関がそんな報道をしてまた政府対日銀を煽るんでしょうなあと。


『第1に、近年、経済の不均衡が財やサービスの物価の変化としては直ちには表れにくい環境になってきたことです。』

『第2に、政治的、経済的、社会的な力学がセントラル・バンカーに影響を及ぼすようになり、物価上昇率以外の要素を勘案した金融政策を行うことが次第に難しくなっていったことです。』

『第3に、「デフレに陥る危険」ということの意味について、必ずしもバランスの取れた形では正しく理解されなかったことです。』


でもって、この第2と第3の説明が昨今国内で妙に盛り上がって参りましたインフレ目標がどうしたこうしたという話に対するカウンターとしての説明になっているのですが、例によって時間と量の関係上週明けにでも。まあ一読推奨。

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2010/04/09

白川総裁会見

http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk1004a.pdf

○たぶん短観の数字が良いからやたらと強気のトーンになっているのではないかと

報道ベースでも強気ヘッドラインが並んでいましたが、会見要旨でも妙に強気な物言いっぷりが並んでいますが、現在の問題は循環的部分での景気がどうこうではなくて、ベースとなっているデフレに対しての戦いをしているのでは無かったか(つまり循環要因が回復しているからと言って肝心のデフレ脱却姿勢の手を緩めるような事をしちゃダメでしょという意味ね)という所ですな。

何せ最初の所で「判断を一歩進めました」ですからねえ・・・・

『こうした決定の背景となる経済・物価情勢についてご説明します。まず、わが国の景気については、「国内民間需要の自律的回復力はなお弱いものの、海外経済の改善や各種対策の効果などから、持ち直しを続けている」と判断しました。景気持ち直しの持続傾向がより明らかになってきたことを踏まえて、先月から一歩判断を進めました。』

で、本石町日記さんのブログによりますと想定問答では「心もち前進」だったようなので、短観を見て大喜びした総裁様大喜びで強いトーンの話をしたという事でしょう。まあのっけから上記のような状態ですので先行きの説明でもこのような感じです。

『先行きについては、当面、わが国経済の持ち直しのペースは緩やかなものとなる可能性が高いとみています。一頃は市場等の一部で、二番底を懸念する見方もありましたが、そうした懸念はかなり薄れたと判断しています。また、その後は、輸出を起点とする企業部門の好転が家計部門に波及してくるため、成長率は徐々に高まってくると予想しています。』

まあ確かにここもとの指標など見てると2番底懸念はかなり後退しているというのはその通りでござんすがね。


○展望レポートで上方修正するんでしょうな

判断を前進させたということは上方修正ですかという質問に対して。

『1月に実施した中間評価との関係でみると、概ね想定の範囲内、あるいは幾分上振れているなど、人によって評価には若干ニュアンスの差がありますが、いずれにせよ、私どもは今、当初想定していたシナリオを確認できています。今回、その中心的な見通しを上方修正したのかというご質問ですが、そのことについての点検は、次回の展望レポートを議論する金融政策決定会合で行いたいと思っています。』

どう見ても上方修正です本当にありがとうございました。いやまあそれは市場的にも想定されている(景気ウォッチャーも良かったですし、本職の皆様がGDP予想を引き上げてますよね)次第。で、その理由ですが。

『先程、判断を一歩進めたと申し上げた意味を、今一度ご説明します。第1に、景気の持ち直しの持続性について明確になってきた、特に、一頃言われていた二番底の懸念はかなり薄れたということです。第2に、個別の需要項目をみると、今回、設備投資については、従来の「概ね下げ止まり」から、一歩進めて、「下げ止まり」と判断しました。それから、先行きの自律回復の芽、萌芽がいくつかみられます。そうしたことを念頭に置きながら、次回の展望レポートを議論する金融政策決定会合で、包括的に点検していきたいと思います。』

まあ何か良く判らんがここもとの環境改善で総裁がご機嫌になっているというのは把握した。


○物価に関するツッコミにも妙に元気な切り返し

短観の販売価格判断DIが改善していない件について(ちなみに仕入価格判断は上昇しているのでマージンが悪化方向なのですが)質問されたのですが、妙な答えになっている気がする。

『(答) ご質問の通り、先般公表した短観では、企業の販売価格判断DIはやや大きな下落超となっています。こうした動きは、製商品あるいはサービスの需給判断DIが引き続き大きな供給超となっていることにも現れています。つまり、需給バランスが悪化した中での厳しい競争環境などを背景に、販売価格の引き上げがこれまでのところ限定的であることを示していると思います。もっとも、この下落超幅の大きさ自体は2002〜03 年頃に比べると小幅にとどまっている上、このところは緩やかな縮小もみられます。』

いやあのそんな時期と比べてマシだからマシとか言われましても。

『この先の物価の基調をどうみるかということですが、需給バランスの動向と人々の予想物価上昇率が重要になります。この点、中長期的な予想物価上昇率に大きな変化がみられない中で景気は持ち直しを続けており、これに伴う需給バランスの改善は時間的なラグを伴いつつも物価に波及してくると判断しています。そのため、今後の物価下落幅はさらに縮小し、販売価格判断DIも徐々に改善していくとみています。』

えーっと、先般日銀が実施した生活意識アンケートで先行き5年間の物価見通しは順調に低下(9月、12月、3月調査の平均値がそれぞれ+3.9%、+3.5%、+3.0%)しているのですが・・・・と思ったらさすがに後ろの方でツッコミがありまして、それに対する答え。

『1年前に比べ物価が下がったとみる割合が約4割まで増えたということですが、これは現実に消費者物価が前年に比べて下がっているわけですので、物価が下がっていると答える家計が多いということは、そうしたマクロのデータと整合的だと思っています。予想物価上昇率については、この先向こう1年間、向こう5年間がどうかということが問題になってくるわけですが、先々については、中央値の低下は観察されていません。』

『これは多少技術的なことになりますが、物価上昇率に関するアンケートの個別の回答結果をみると実に散らばりが大きいです。今、現実に消費者物価指数がマイナスになっていますが、現時点での評価でも大変高いプラスという回答の方もいれば、大変に低いマイナスという回答の方もいます。平均値では、ある程度上下の極端な値を調整しないとなかなかみにくいと思います。私どもは、平均値のほかに中央値を注意してみていますが、中央値では、向こう1年、あるいは向こう5年の変化は特にないという結果です。その意味では、「生活意識に関するアンケート調査」の数字はこれはこれとして注意してみていますが、様々な指標を含めて注意してみていきたいと考えています。』

・・・・いやあのまた物価に関する非対称性のやぶれですかそうですかという感じなんですけど。だったら最初から平均値公表すんなやボケという感じでございますが何なんでしょこの言いくるめモードは。


○まあ景気に関してはやたら回復感強調していますね

全体のトーンとして強いですねというのはありますが、特に5ページ目の所での説明を見ると「こりゃ公表文より総裁の方が上方修正モードだわ」というのが伝わって来る感じっすな。長いけど全文引用します。

『(答) まず、景気の自律回復の芽とは何であるかについてです。今回、企業部門については、企業収益が改善していることが確認されました。3月短観はちょうど決算月でもあり、最終的に収益の数字が固まっていないという時期の数字ですので、2009 年度の最終的な数字や2010 年度の見通しは、多分上振れる可能性が高いとみています。そうした過去のパターンやこの景気局面の中での企業収益をみると、企業収益が着実に改善してきていると思います。』

『設備投資については、今はまだ下げ止まった段階にありますが、既に設備投資の水準が相当下がった水準であるだけに、企業収益が改善し、世界経済が全体として持ち直していることを併せて考えると、今後増えてくることも想定されます。』

『今回の短観は、2010 年度の設備投資計画のスタート時点でしたが、前年比伸び率は過去の平均並みのスタートでした。景気が悪い時にはもちろんここから下方修正されていくことになりますが、景気が上向いていくときにはここから上方修正されていくことになります。過去の平均的なパターンからすると、数パーセントのプラスになってきますし、景気の回復がもう少し着実なものになれば、さらに上乗せされてくることも考えられます。』

とりあえず短観を見て物凄くご機嫌になっているのは把握した。しかもよくよく読むと先行きに関しては「ここもとの上向き傾向が続くから大丈夫大丈夫」ってな感じで、相場が強くなると強気になる人みたいなテイストですな。

『次に消費、家計部門について考えてみます。消費を規定する最も大きな要因は雇用および賃金の動向です。これまでは非常に大きな雇用不安があり、現実に雇用情勢が悪化してきたわけですが、ここ数か月の動きをみると、雇用の悪化には明らかに歯止めがかかってきたと思います。雇用関係、労働関係の統計は振れが大きいため、ある程度の期間をみて判断する必要がありますが、これが下げ止まりから少しずつ改善してきているということは、消費を規定する最も基調的な要因が改善しているということです。ただ、この点も含めて包括的な点検を展望レポートを議論する次の金融政策決定会合で行いたいと思っています。』

はいはい強気強気。

『それから2点目の物価についてですが、先程申し上げたことに特に加えることはありません。物価については、景気が全体として持ち直しており、マイナスの需給ギャップが縮小していく方向にあるわけですから、ラグを経て物価の下落幅が縮まっていくというのが現在のシナリオです。それが正確にどの程度のものになるかということについては、次回の展望レポートで包括的に点検してお示ししたいと思っています。』



○で、例の副作用発言

これは見事な引っ掛け質問。

『(質問の前半部分を割愛)3つ目は、景気についてです。予想の範囲ということなのかしれませんが、幾分上振れしているという話もあります。5月下旬に公表されるGDPも相当強いものになるだろうという予想が出てきていますが、そのような中で量的緩和も含めた緩和政策を持続する必要がどうしてあるのか、あるいはそれに伴う副作用はないのかをお聞かせ下さい。例えば、足許の円安に表れているように円キャリートレードのような動きが出始めているとみる向きもあると思いますが、金融緩和の長期化による副作用はないのでしょうか。』

・・・・・これ狙って質問してるでしょ(−−)

で、対応する回答部分。

『3つ目の、現在の金融緩和を持続することによって弊害・副作用がもたらされるのではないかという点についてです。まず、私どもはいわゆる量的緩和政策を採用しているわけではありません。量は潤沢に供給していますが、当座預金残高をターゲットにして金融政策を運営しているわけではもちろんありません。』

まあここまでは良い。

『しかし、現在のように世界で最も低い金利で量を潤沢に供給していると、今後もこのような状況がずっと続くという予想が生まれ、これが副作用をもたらさないのかということは大事な論点です。』

大事な論点かもしれないが今はデフレ脱却最優先じゃなかったんですか????

『ご質問にありました円キャリートレードについては、若干の動きはありますが、これが大規模に起きているわけではないと認識しています。ただ、この点も含めて金融緩和が長く続いた場合に経済に様々な不均衡をもたらし、それが少し長い時間をかけて蓄積し、最終的に大きなショックを経済にもたらすことがないかどうか、これは大事な論点だと思います。』

もうね、足元の経済の問題は循環的な問題じゃなくてデフレだってこの前あんたら言ってませんでしたっけ?????

『だからこそ、日本銀行はいわゆる2つの柱の枠組みの中で点検を行っているわけです。第2の柱は、様々な金融的な不均衡についても明示的に点検をして、そうした点検を踏まえた上で金融政策を運営していくということです。そのような必要性があるということについては、今回の決定会合を含めていつも認識されている点です。』

いやまあそれはその通りなのですが、何も今言う事じゃないんでは無かろうかと。



○という訳でまた様式美の世界がやってくるに1万ドラクマ

とまあそういう事で、今回の総裁会見はやたらめったら強気でして、月報や声明文のトーンと明らかに違うというのがシュールな所でありますが、暫く前にあたくしが申し上げたと存じますが、これはまた昨年末以来の様式美の世界に突入しているのではないかと存じます。つまり・・・・・

(1)白川総裁が原則論を披露する

(2)政治方面からの差し込みが来る

(3)あっさり陥落

というのが11月末以来見られた世界でして、様式美の様相を呈しているのでございますが、まあ米国金利上昇とか米株高とかギリシャ問題の何となくインチキ先送りという欧州得意のスキーム発動(がここの所怪しげなので困りますが)という外部要因のラッキーパンチもあって、株は上昇するは為替は円高一服して反転するわと、まあやっと良さげな流れになって、菅さんあたりもご機嫌モードになってようやく「政府VS日銀」みたいな不毛な話も収まりつつあるという中でございますわな、今の所。

で、折角良い流れが続いているのですから別に「緩和長期化の副作用」なんぞは言わなくても良い話だというのに、いきなりこの有様でございまして、まあ今の所米国が調子良いからそんなに問題になってなさそうですけれども、まあしかし総裁会見以降は今の所流れが止まった感じでもありますよね、ユーロも怪しくなってきましたし。

となりますと、上記の様式美にあります(1)にまさに今到来したというひじょーにいやーな予感がするのがあたくしの仕様なのでありまして、毎度繰り返される様式美というか吉本新喜劇というか何だか存じませんが、またぞろ為替とかが逆転しだしたり株価がヘナヘナになってきたりしたら同じ騒ぎが起きるのではないかという方に1万ドラクマと言った所でございます。


大体ですな、物理的に金利を下げるというネタがほぼ尽きていて、おまけにターム物金利だって下がっていて、テクニカルに言えばこれ以上の下げ措置のような物を発動すると却って足元金利のボラが上昇してターム金利は下がるのか上がるのか訳判らんという状態になっているのであって、金融緩和をどうのこうのと言っても、表面上は兎も角として、金利村の理屈からするとここから先はアナウンスメント効果の世界になるとしか思えないのですよね。

然るに、そのアナウンスメント効果に対して「緩和長期化の副作用は重要な論点」とか発言するのはどこからどう見てもアナウンスメント効果を減殺あるいは否定するような効果しかもたらさないのでありまして、今まで政治(および市場)に差し込まれて涙目になりながら追加緩和した行動をいきなりパーにしてもおかしくない(たまたま米国が良いからあまり目立たないけど)発言をするとか何を考えとるんじゃと申し上げたくなりますが、まあきっと「麿はこんな追加緩和はしとうなかったでおじゃる」といった所なんでしょう。でも、そういうのは緩和解除できるような外部環境になってから言いなさいという所でありまして、今の状況で利上げとか有り得ないのに言わないでちょと存じます次第でございます。

まあ様式美リターンズは見たくないのでこの予想外れることキボンヌ。

#悪態成分が足りませんかそうですか(^^)

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2010/04/08

○会見に関してだいぶ気になる部分があったのですが・・・・

で、会見なのですが、ブルームバーグのニュースだとこんな感じで。
http://www.bloomberg.co.jp/apps/news?pid=jp09_newsarchive&sid=akmxIYhlxPUA
日銀総裁:景気は着実に持ち直し、自律回復の芽−判断前進(Update3)

時事通信ではこんな感じ。
http://www.jiji.com/jc/c?g=eco_30&k=2010040700769
経済・物価見通しを上方修正へ=「自律的回復の萌芽」−日銀総裁

ヘッドラインでやたらめったら判断前進の話が出てくるのが「うーむ」という
感じだったのですが、ロイターではこんなヘッドラインの打ち方を。

http://jp.reuters.com/article/domesticEquities4/idJPnTK039404820100407
UPDATE2: 景気判断を3月より一歩進めた、緩和長期化で不均衡蓄積しないかが大事な論点=日銀総裁

・・・・・orz

で、これロイターだけかと思ったらクイックも似たようなフラッシュを打ってまして、共同通信は会見詳報の中の最後の方(会見の詳細を何本かに分けて流す記事)の題名に同じような話を入れているので、まあ発言はしてるんでしょうと思います。

まあブルームバーグとか時事のニュースではスルー気味なので、恐らく話としてはメインの話でも何でも無くて、単に一般論として答えたと思うのですが(詳しくは会見要旨を見ないと何とも言えませんが)、それにしてもこれはまたロイターはバイアスの掛かったヘッドラインを打ちやがるという感じです。一時ブルームバーグが妙に「政府VS日銀」みたいなヘッドラインの打ち方をして如何なものかと悪態をついてましたが、ここへきてロイターがまた本領を発揮してバイアス入りまくりのヘッドラインを打つ始末。ロイターの記者とデスクは何考えとんじゃという感じでございますわな。


とまず悪態をつきましたが以下白川総裁向け悪態。

ただね、例え一般論であったとしても白川総裁は今「緩和長期化の副作用」というような話をすべきではないと思うのであります。現在日銀は「デフレ脱却の為に戦う」という姿勢を12月以降更に明確にしているのでありまして、その為に追加緩和(のようなもの)を実施し、物価安定の理解の明確化を行い、声明文にあるように『きわめて緩和的な金融環境を維持していく』と言っているのですよね。

折角12月以降にそのような姿勢を強化している中で、肝心の総裁がいきなり「緩和長期化の副作用がどうのこうの」とか言い出したら、12月以降の日銀の施策が全部パーになる位の逆効果になり兼ねないものでありまして、そらまあ白川さんとしては政治やら市場やらに押しこまれて緩和政策を追加する破目になったという思いがおありになるのでしょうけれども(あくまでも憶測)、実際に緩和政策を実施して「緩和継続してデフレとの戦いをする」という事を日銀の組織として行っているのですから、それを日銀のトップとしてアピールしないでどうするんだと小一時間問い詰めたい訳でございます。


最近の良い例というか悪事例というかで例えると、ローゼン麻生太郎さんがまだ首相だった時に「あの時は郵政民営化に賛成したけど実は反対でした」とか言い出して支持率を死ぬほど下げたという実績がありましたけれども、今回なんか過去の話じゃなくて現在やっている「金融緩和を続けてデフレとの戦いをしますよ」に対して能天気に「緩和長期化の副作用」とか言ってるので、ローゼン以上にタチが悪いとも言えそうですわな。

いやね、今朝のモーサテとか日経のネット版とかを見た感じでは、この発言がさほどおおごと扱いされなさそうなのでややホッとしているのですが、うっかりしたら「緩和打ち止め」どころか「出口政策」とまで言われだしか兼ねない不用意にも程がある発言ですし、先程申し上げた通り、12月以降の日銀の努力をいきなり自己否定するような発言をするようでは困ったお方だと申し上げたくなって参ります。


いやまあ勿論「第1の柱」「第2の柱」の点検という意味では緩和長期化の副作用についても点検しますし、そりゃまあ緩和長期化には副作用があるのも当たり前なのですし、質問されたから答えたと思うのですが、そもそも論として12月の2回目の会合で「中長期的な物価安定の理解の明確化」を行ったのは「日銀のデフレ脱却に対するスタンスに対する誤解を払しょくするため」に実施した筈なのでありまして、またぞろそのスタンスを誤解されるヘッドラインを打ちこまれるリスクのある物の言い方は無いですわな。

例えば「全ての政策には作用副作用があるが、現在日銀はデフレ脱却に向けて粘り強く金融緩和を続けている所であり、緩和政策長期化の副作用について論ずるのは時期尚早である」とか何とか言えば全然違うと思うのですけれど・・・・・・


#と、悪態大会になりましたが、会見要旨を見て悪態に取り消し線が入る事を希望


ま、とりあえず今回はやたら強気っぽいヘッドラインが多かったのにはちょっと何だかなあという感じで、「偽りの夜明け」とか言ってたのあんたじゃないのかよとかあたしゃ思いましたですよ。

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2010/04/02

○入行式での総裁挨拶

http://www.boj.or.jp/type/release/adhoc10/nyukou10.htm(今年)
http://www.boj.or.jp/type/release/adhoc09/nyukou09.htm(昨年)

俊ちゃんみたいに妙なキャッチーなフレーズは無いのですが、まあ敢えてネタにすると致しますと、今回の挨拶では通貨価値の話の所が微妙に長くなっている所ですな。

・・・・って声明文じゃないのだから前年比較とか野暮な話をするのは我ながらどうかと思うのですけれども(苦笑)。

『皆さんが普段使っているお札、すなわち銀行券は、素材としての価値はわずかなものです。しかし、それにもかかわらず、銀行券が額面通りの価値を持つものとして人々から使われているのは、銀行券に対する信認があるからです。金融市場では毎日膨大な取引が行われており、その決済には中央銀行の当座預金が使われていますが、これも中央銀行の当座預金への信認があるからこそ可能になっているものです。通貨が信認を維持するためには、物価が安定していること、金融システムが安定していることが重要な前提条件となります。こうした仕事を行っているのが中央銀行です。したがって、通貨の信認を得るためには、中央銀行という組織に対する信頼が必要不可欠になります。』(今年)

『普段はあまり意識されないことですが、銀行券が使われるのは、その価値が守られるという安心感、言い換えれば、通貨に対する信認があるからにほかなりません。そのためには、物価の安定と金融システムの安定が不可欠です。そうした通貨への信認は自然に生まれるものではありません。社会の中で誰かが通貨への信認を維持するという仕事に専念する必要がありますが、わが国では日本銀行がその仕事を担っています。通貨への信認を維持するためには、日本銀行という組織に対する信頼が不可欠であり、さらに、そうした信頼は日本銀行で仕事をするひとりひとりの努力を通じて築かれていくものです。』(昨年)

銀行券の価値がどうのこうのという部分の話が長くなっているのがチャーミングでありますが、そもそもそんなもんをわざわざ比較するお前の方が変人というツッコミはお受付致します(^^)。

なお、『本日の入行式に当たり、いくつかのお願いを申し上げたいと思います。』以下の部分は日本銀行じゃなくても基本的な所は同じですよね。

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