水野温氏 前審議委員

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水野さんの略歴(日銀Webより)

昭和34年8月18日生
昭和59年3月 早稲田大学政治経済学部卒業
昭和61年10月 全米経済研究所客員研究員
平成元年5月 ニューヨーク市立大学Ph.D.取得
平成元年8月 野村證券入社 平成8年8月に同社金融市場部チーフストラテジスト
平成9年5月 ドイチェ証券東京支店マネージング兼チーフストラテジスト/チーフエコノミスト
平成14年9月に日本郵政公社設立委員に政府より任命される
平成16年1月 ドイツ証券東京支店債券本部副会長
平成16年9月 クレディ スイス ファースト ボストン証券東京支店マネージング・ディレクター兼調査本部長兼チーフ・ストラテジスト
平成16年12月3日 日本銀行政策委員会審議委員に就任
(前職:CSFB証券調査本部長兼チーフ・ストラテジスト)

平成21年12月2日 任期満了に伴い政策委員会審議委員を退任 お疲れさまでした



詳しくはこちら→http://www.boj.or.jp/type/list/pb_member/mizuno.htm

2009/08/28「水野審議委員講演、各国の施策の違いについての説明」
2009/08/27「水野審議委員講演、各国の非伝統的政策の整理」
2009/08/24「水野審議委員会見、景気に慎重、出口政策が難しいのは欧米ですね」
2009/08/21「水野審議委員講演、非伝統的政策の出口は道通し」
2009/06/08「中央銀行金融フォーラムでの講演:非伝統的政策の論点整理」
2009/02/09「水野審議委員会見:ターム物金利誘導など、」
2009/02/06「水野審議委員講演:景気悪化見通し、ターム物金利誘導への言及」
2008/07/28「会見も当然ながら景気の下振れリスク大警戒」
2008/07/25「水野審議委員講演:景気の先行きにかなり下振れ懸念を」
2008/03/05「水野審議委員講演:景気に慎重、先行きの見方に変化あれば利下げも」
2008/03/04「2月に行われた記者会見より、景気に慎重だが利下げは否定的」
2008/01/29「ロイターでのインタビュー:景気には慎重スタンス」
2007/12/10「11月7日の講演より」
2007/09/03「利上げ正当化ロジック満載の記者会見」
2007/08/31「利上げ正当化ロジックもやりすぎは如何なものか」
2007/03/02「世界同時株安でスルーされましたが会見も利上げ理論爆裂」
2007/03/01「正常化路線を前面に打ち出した水野講演」
2006/12/06「また利上げするもんね講演ですか」
2006/11/09「景気に不安あっても利上げするよと言う講演」
2006/08/07「水野審議委員の講演に見る景気強気のロジック構成法」
2006/08/04「8月2日のタカ丸出し記者会見です」
2006/08/03「相変わらずですがタカ丸出し講演です(8月2日福岡での講演)」
2006/06/29「珍しく殊勝なインタビューですが」
2006/04/11「3月13日記者会見続き」
2006/04/10「今更ですが3月13日の記者会見」
2006/03/15「無茶苦茶な講演(その2)」
2006/03/14「無茶苦茶な講演(その1)」
2006/02/14「時事通信への寄稿でまたまた相場に燃料投下」
2005/12/02「毎度ですが吼える水野審議委員」
2005/07/01「性懲りも無く電波を発信する人」
2005/06/07「水野審議委員の小まとめ」
2005/06/06「水野審議委員講演(挨拶)を更に読む」
2005/06/03「福島県金融経済懇談会挨拶:6月2日に狙いましたかね」
2005/05/09「共同通信インタビュー後日編」
2005/04/22「共同通信インタビュー続編」
2005/04/21「共同通信インタビュー、早速宗旨替えのようです」
2005/02/10「日経金融新聞への寄稿について一言、審議委員というよりストラテジストですなぁ」
2005/01/31「当座預金残高目標単独引き下げを否定したインタビュー記事」
2004/12/07「就任記者会見」
2004/11/08「”水野温氏さん内定”をどう報道しているか」

2009/08/28

○またまた小出しですが水野審議委員講演から

小出しシリーズですいませんが。

今般の金融危機対応に関して、利下げを行っているのは各国共通ですけれども、資産買い入れなどで各国の政策対応が異なるのは、そもそも国によって金融市場や企業の資金調達構造などが違い、その国による最適化をした結果として違いが出ているという指摘をしています。

『各中央銀行が非伝統的な金融政策運営に踏み切る場合、直面している状況によって政策対応は異なってきます。違いは、(1)金融資本市場、特にクレジット市場の発達度合いや市場機能の低下度合いの違い、(2)間接金融中心か直接金融中心かの違い、などに起因します。』

『まず、(1)は、金融資本市場の規模によって、中央銀行が買入れオペなどを実施できる規模が制約されることを意味します。クレジット市場の機能低下は、欧米主要国に共通する問題でしたが、市場規模が大きく、各種クレジット市場へ積極的に介入しても市場機能を損なうリスクが最も低い中央銀行はFRB でした。dysfunctionに陥ったクレジット市場の機能回復を狙った非伝統的な措置なら、クレジット・リスク資産の購入は適切な政策対応といえます。』

市場機能を損なうリスクというよりは、後半にあるように機能不全に陥ったクレジット市場が金利ルートによる金融緩和効果を相殺する、というかそれ以上にクレジット市場崩壊による悪影響が大きいので、中央銀行がその市場の梃入れを行ったという感じなんでしょうな。

『(2)について言えば、欧州では、銀行借入が企業の資金調達に占めるウエイトは90%程度と、40%程度である米国に比べて高くなっています。こうした状況を踏まえ、ECB は、金融機関の資金繰り支援や信用創出能力を回復させる政策手段を導入してきました。例えばカバードボンドの買入れについて、トリシェ総裁は、「enhanced credit support operation」と表現しています。』

『5 月に買入れを公表した後、カバードボンド市場は、発行・流通市場ともに一定の回復をみせました。ユーロ圏の銀行の資金繰りの改善に効果があったかどうかの判断は早計ですが、少なくともアナウンスメント効果はあったといえます。』

さよですな。

『なお、個人的には、現在のECBの政策のうち、最も力を発揮しているのは本年5 月に導入した「固定金利・金額無制限方式の1 年物という長期のターム物資金供給」であると考えています。』

それもそうだと思います。

『この間、国債の買入れについては、日本銀行、FRB、BOE ともに行っているものの、国債買入れの主な狙いは異なっています。まず、日本銀行では、長期国債買切りオペについて、資金供給手段であり、したがって「通常の金融政策運営の枠組み」に属するものとしています。』

ということで以下長期国債買入の論点。

『次に、BOE ですが、国債を中心に金融資産の買入れを決定した3 月5 日の金融政策委員会の声明文をみると、「中期的なインフレ率目標を達成するため、マネーと信用の供給量の拡大を通じて名目支出を拡大させる更なる金融緩和措置を採用することが適当と判断した」とあります。すなわち、非伝統的な金融政策である「量的緩和政策」の柱との位置付けです。』

『一方、FRBがMBSの追加購入や国債の買入れを決定した3月17・18日のFOMC議事要旨をみると、国債買入れは「信用緩和政策」の一環と位置付けられています。FRBが国債の買入れに踏み切った背景には、モーゲージ金利の低位安定を期待したエージェンシーMBSの購入等を補完する目的があったのではないかと思われます。』

『実際、6月23・24日開催分のFOMC議事要旨には、「FRBは、資産買入れプログラムについて、市場機能を改善し、モーゲージ金利や家計や企業に対するその他の長期与信にかかる金利を、プログラムがなかった場合に比べて引き下げることにより、経済活動をサポートすることを意図している」と記されています。』

で、その金利低下の効果に対して買い入れないといけない額が大きくなり過ぎて逆に財政ファイナンスによる実態の景気回復を伴わないインフレ懸念が発生して長期金利が上昇するリスクも感じた事から長期国債の買入プログラムを停止する事になったというのがFRBな訳ですな。そのあたりの違いをスルーして全部一緒くたにしちゃって主要国の中央銀行の対応に対してああだこうだという話をするのもちょっと雑じゃないのかなあという気は致しますです、はい。

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2009/08/27

○ところで水野審議委員講演の続きですが

すっかりスルーしてたんですけど、このまえの続きを少々(なお積み残しあり)。

先日ご紹介したのは出口政策の論点整理でしたが、今日はその前段階になります、(非伝統的な金融政策運営の概念整理)という小見出しの部分を早足で引用。

『主要国の中央銀行が採用している「非伝統的な金融政策」には様々なものがあり、その定義は必ずしも統一されていません。政策対応の波及経路や出口政策の理解に資するべく、非伝統的な金融政策について、以下では私なりの整理を試みます。』

何せリクスバンクなんぞは日銀の現在の政策を「量的緩和政策に復帰した」とか解説するくらいで、論点整理は未だカオスな面があると思います。

『第1に、純粋な概念的な整理をすれば、非伝統的な金融政策は、中央銀行が自らのバランスシート(B/S)でテイクするリスクと超過準備の取扱いによって、以下の2つに分類できます。すなわち、(1)中央銀行が通常負担する水準を超えた信用リスクやターム・リスクをとりながら、B/Sの構成や規模を変化させるが、超過準備は原則吸収するケースを「信用緩和政策(Credit Easing Policy)」、(2)B/S上に信用リスクのない国債等の安全資産を計上して、短期金利の実質的な下限を達成する上で必要な金額を超えて準備預金を拡大させ、超過準備を放置するケースを「量的緩和政策(Quantitative Easing Policy)」、と定義できます。』

つまり水野審議委員の最初の整理は、非伝統的政策を実施した後の現象面に注目して、「潤沢な資金供給」を行うルートがどうなっているのかに注目しているのですね。

『このように考えると、BOE はクレジット・リスクを極めて限定的にしか採っていないため、自らも「量的緩和政策」としており、FRB とECB は「信用緩和政策」と主張しています。日本銀行は本年入り後、CP と社債の買入れオペを導入しており、限定的な「信用緩和政策」を導入しているといえます。』

という整理になりますが。

『しかし、実際の政策運営をみると、程度の差はあれ、信用リスクのある資産を購入すると同時に、超過準備が発生しているため、(1)と(2)の両方の特性を併せ持つ中央銀行が多い状況です。特に、FRB は2 月までは「信用緩和政策」を採用していたといえますが、米国債購入を決定した3 月のFOMC 以降は、ハイブリッド型の非伝統的な金融政策にシフトしたと考えることができます。』

つまり、信用緩和によって発生した超過準備を吸収オペを使って引くという動きに出ていないので、現象面として信用緩和措置に加えて量的緩和も行われているという話ですね。


『第2 に、各中央銀行が想定する政策波及メカニズム、および、購入する金融資産の信用リスクの大きさに着目すると、以下のように整理できます。すなわち、(1)金融資産購入政策、(2)信用緩和政策、(3)そのハイブリッドともいえる政策運営です。』

『BOE は3 月、マネーサプライ、貸出、名目支出を増加させるために国債・社債・CP を合計で750 億ポンド購入する「金融資産購入策(Asset Purchase Programme)」を決定しましたが、購入する金融資産の大半はギルト債(国債)です。5 月の金融政策委員会の議事要旨によれば、BOE は「景気が低迷するとの見通しが根強く、追加の金融緩和がないと、インフレ率が中期的にみて目標である2%を著しく下回る可能性が高い」との判断から、金融資産購入策の規模を500 億ポンド拡大し、総額1,250 億ポンドとすることを全会一致で決定しました。8 月の金融政策委員会では、「イギリスの景気後退は従来の想定よりも深刻である。余剰生産能力はまだ暫く拡大する可能性が高く、中期的にインフレを抑制するであろう」との声明文とともに、「金融資産購入策」の規模をさらに500 億ポンド拡大し、1,750 億ポンドにすることを決定しました。』

『一方、FRB は信用緩和政策に踏み込んでいましたが、前述の通り、3 月に新たに3,000 億ドルの米国債購入を決定し、エージェンシーMBS、エージェンシー債を含め、購入する資産の総額を1 兆7,500 億ドルまで拡大しました。その後、8 月11・12 日に行われたFOMC 後のステートメントにおいて、米国債の購入については、「買入れペースを徐々に落とすことを決定し、10 月末までに総額の購入を完了すると予想している」としました。』

つまり、資産購入などの措置を行う際の政策意図およびその目的、どのルートから金融緩和効果を発揮するのかという「政策の入り口」に立って整理するというアプローチですね。あたくし(僭越ながら)個人的に最近頭の中を整理するときには、ご案内のようにワタクシめは屁理屈が大好きな人間ですので、政策ロジックの方から整理していく方が馴染むもんで、こちらの整理に近い整理をしております次第ですが、文章にするのがまだ微妙なレベルでしか整理できてない(アホでスイマセン)のでそれはまたいずれ。

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2009/08/24

お題「水野審議委員会見を先に」

http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk0908b.pdf

○グローバルな労働分配率低下の懸念

会見要旨の4ページ目の質疑応答から。物価に関する質問と時間軸に関する質問があったのですが、まずは物価に関する説明が結構長いのでそちらを。

『まず最初のご質問にお答えしたいと思います。私の定義では、2011 年度は「中長期的」には入らないと思っています。そうした上で申しますと、2011年度については、需給ギャップは幅を持って見なければならないということ、それから日本の潜在成長率はすでに私どもが思っているよりも下がっているかもしれないという話をしました。それと言うのも、マイナスのギャップが存在し、それが縮小するペースが鈍いことを考えれば、当然、2010 年度から2011年度にかけて、マイナス幅の縮小が緩慢であるということが言えると思うからです。』

という話の続きが中長期的なお話。

『より中長期的には、日本の潜在成長率をどうみるか、期待成長率をどう考えるか、ということに加え、個人的に注目しているのは、財とサービスで分けて考えると、サービス価格については賃金上昇率が大幅に下がってきていることです。』

ということで労働分配に関するお話ですが・・・・

『この動きが、世界経済が先行き不透明な中、企業がコスト削減のために賃金を抑制しなければならないという、当座の話なら良いのですが、経済のグローバル化が進む中で労働分配率をもっと下げていかなければならないという話になると、賃金のマイナスが長引くということになります。』

なるほど。

『そのときは、企業が考える期待成長率の低下、それから家計からみた恒常所得の低下ということになってきますから、当然、サービスの物価の回復が遅れるということになると思います。このため、需給ギャップについては、財の価格の動きとサービスの価格の動きに分けて、2011 年より先のもう少し長い期間を捉えて頂きたいと思います。』

つまり労働分配率の低下がトレンドになった場合に負のフィードバックが起こる懸念があるという話でしょうか。


○時間軸が必要なのは米国とな

同じ質疑の続きですが時間軸に関する話。

『それから2つ目のご質問ですが、少し先走り過ぎているご質問という感じがします。今日はあくまで一般論として申し上げました。』

日銀が次に時間軸をする場合何にコミットメントをするのかという質問でしたから。

『わが国は、過去2回時間軸効果に働きかける政策をとった唯一の国であり、デメリット・副作用もあったが効果もあったということで、私どもはそれなりの経験・知見も持っていますし、それに対して他の中央銀行が関心を持っていることも確かです。』

『ただ、各国政策当局がどのようなタイミングでこうした政策をとるかを考えた場合、やはり日本と欧米主要国では、期待インフレ率や為替レートの先行きに対する見方がかなり違うと思います。そういう点では、日本では、日本銀行が時間軸政策を採ったり、あるいは私どもが明確に言わなくても、そうした期待が形成されるような動きになる可能性も将来的にあり得ると思います。』

まあ今時点で時間軸っぽい感じになってきてますからねえ。

『逆に、欧米については、もう少し明確に時間軸に働き掛けることを言わないと、長期金利が不安定になる可能性もあると思います。』

つまり時間軸が必要なのは米国という事ですね、わかります。

『何れにしても、今後の具体的な政策のイメージがあってそれを念頭に申し上げたわけではないということをご理解ください。』


○足元の物価に対して金融政策はどうするのかという話

今回の質疑の後半は物価の話が多かったのですけど、『デフレ対策として金融政策に期待する声が高まるのではないかと考えられますが、足もとの物価の状況を金融政策でどのように考慮するかについて教えてください。』って質問(他にもお題があったのですが)がありまして、それに対する説明がこれまた長いのですが引用。

『2つ目の質問について若干付言しますと、物価が下がっている理由は何かということを考えると「景気が弱い」ということです。』

ほうほう。

『先ほども申し上げたとおり財とサービスに分けて考えると分かりやすいのですが、財については明らかに需給ギャップのマイナスが存在するところが大きいと思います。また、最近の動きの中で個人的に非常に気になっているのは、雇用者所得の動き――7月の毎月勤労統計確報では現金給与総額の前年同月比増減率がマイナス7.0%という数字が出ていますが――をみていくと、当然サービス価格、CSPIでは広告収入、家賃その他が今後下落する可能性があります。』

『この影響は、「BtoB」だけでなく「BtoC」にも出てくると思います。中央銀行が「物価の安定」といったとき、まずそれは中長期的にみた場合の話です。今起きている物価の下落は、世界経済の景気の低迷に起因するものに加えて、世界経済、日本経済の期待成長率が若干下がるのではないか――あるいはもう下がってしまったのではないか――と考える一部の企業が、キャッシュインフローの減少をコストカットで乗り切ろうとして、それが家計にしわ寄せされている状況だと思います。』

んでまあそれが負のフィードバックになるとイカンという話をさっきしてたのですね。

『こうした現状認識の中、金融政策で出来ることは、0.1%という政策金利の中では実際には非常に限られています。』

と、ここだけ切り取られるとまた色々と批判されるんでしょうな。まあ続きも読んでつかあせ。

『結局、私どもが今しなければならないことは、金融面からの景気の底割れを回避すること、金融システムの安定を維持すること、という2つのサポートのほかありません。0.1%という低金利の中では需要創出効果は極めて限られているという認識ですので、金融政策だけでどうこうなるというものではないと思います。』

『中央銀行の仕事は中長期的な物価安定を目指すものであり、今の低金利の中では、短期的に物価を押し上げるような、あるいは景気を刺激するような政策は持っていないという状況です。今回の世界の金融危機後の厳しい情勢の中では、ある程度長期戦で臨まなければならないと考えています。』

ということで、金利をこれ以上下げられない水準まで下げた(いやまあマイナス金利だとか言うツッコミはあると思いますが、金融市場の中の人的にはそれは残念ながら実務上無茶な部分が多過ぎでしょと思うのですが)所になったので、金融政策で物価を短期的に押し上げるのは難しく(金融市場に直接介入して資産価格を短期的にどうこうするというのは可能だが)、現在の低金利政策を長期的に継続する事によって回復をサポートするしかないという話ですが、まあツッコミが来そうな話ではありますな。


○そういうことで規制緩和

では何をするのかという話ですが。

『最初の2つのご質問について、可能な範囲でお答えします。ニューケインジアン的なマクロ政策理論を前提に考えると、やはり規制緩和だと思います。』

『財政刺激策で一時的に景気を押し上げても、その後の増税を想定する賢明なる国民からすると、その効果に持続性はないというのがマクロ政策を考える上での基本的な考え方です。需給ギャップが非常に大きくなり、景気が底割れしそうな状況であった昨年の第4四半期、今年の第1四半期に、政府が補正予算を行ったことはそれなりに必要だったと思います。ただ、景気が最悪期を脱し、底割れを何とか回避できるようになれば、今度は財政再建に中期的な目標を持ち、持続的な景気回復を民間主導でどうやって引き出していくかということを考えなければならないので、規制緩和が必要になると思います。』

あと、同じ質問の中で講演で(紹介してませんが)「雇用創出力や租税負担能力の高い大企業のリスクテイク能力を高める」という話をしていた事についての質問もありまして、続きはその話です。

『それから、民間の力を引き出していくためには、税制改正の問題であるとか、岡山県内の話でも申し上げましたが、企業の研究開発を応援するような何らかの仕組みあるいは政策面からのサポートが必要になってきます。持続性を維持するためには、政府の役割が少しずつ小さくなっていかなければならないと思います。』

『確かに市場の失敗が起き政府の介入が必要となりましたが、いつまでもそれに頼っていくと今度は民間活力の低下に繋がり、結局、潜在成長力の回復に繋がってこないという話になります。』

ということで規制緩和という話になるのでした。

『私の個人的な考えと断った上で期待しているのは、やはり規制緩和です。それから民間主導の回復を促すような政策を考えていくべきであると思います。』


○そういえば財政ファイナンスに関して

『(問) 民主党の大塚耕平政調副会長が今月のマーケット関係者への説明会において、「財政政策と金融政策の関係について、結果として財政ファイナンスに協力してもらうことも少しはあると推測している」と発言したことについて、どのように考えていますか。』

『(答) 何れの質問に対しても、日本銀行としては、国会で決められた日銀法の精神に則って行動するしかないということになります。』

つまり財政ファイナンスを目的に長期国債の購入を行なうのは日銀法の精神に則っていないので論外という事ですね、わかります。


#月曜に続くと言っておきながら講演の方が先送りになってどうもすいませんm(__)m

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2009/08/21

お題「水野審議委員講演から(多分月曜に続くと思う)」

自動車買い替え制度前倒し急遽打ち切りとは何という間の良さ・・・・と申しますのは昨日の水野審議委員の講演のお題が『内外の金融経済情勢と金融政策運営―― 政策対応に依存した脆弱な景気回復――』だからなのでありまして・・・・・・(^^)

http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/ko0908b.pdf

○えーっと長くて一度に紹介できないのですけど・・・・

水野さんの講演は長いというのが仕様になっていますが(ちなみに須田さんと西村さんも長い)、今回はいつもの日銀PDFよりも小さいフォントで本文19ページもありやがりますので、これはさすがに一度にご紹介するのはしんどいだす。ということで話の流れだけ申し上げますと、(1)とても慎重、というか弱気と言って良さそうな景気見通しのコーナー、(2)各国がこれまで実施してきた金融政策に関する論点整理のコーナー、(3)出口政策に関する論点整理のコーナーという感じでして、(1)の部分では「個人的見解」として政策委員会見の中心的な見通しよりも厳しい景気認識を示してまして、(2)の部分は金融政策に関する整理をするのに吉、(3)の部分は(2)の発展ですが、出口に関する論点整理となっています。


ということで、景気に関する見方のあたりから引用するのが正しいあり方のように思えますが、そこはひねくれ者のあたくしでございますので、出口戦略に関するコーナーからご紹介が始まるのでした(^^)。なお、景気に関しては講演のお題の通りの厳しい認識でござる。


○バランスシートのコントロール力

本文12ページ目(PDFファイルの13ページ目、以下同様)に『5.中央銀行のB/Sのコントロール力と『出口戦略』』という小見出しがございます。中央銀行のバランスシートコントロールに関する話は以前も水野さんはしていましたので、やや繰り返しになるのですが引用致します。

『中央銀行のB/Sの規模は、金融システムが正常に機能している局面(平時)においては、銀行券発行高と所要準備という負債サイドの要因によって決まります。また、金融システムにストレスがかかる状況(金融危機局面)では、超過準備を許容する緩めの金融調節を行うため、バランスシートは超過準備の規模だけ平時よりも膨らむことになります。』

とさらっと説明していますが、この入り口時点でも実は毎度お馴染みの「金融政策の話と金融調節の話」問題が生じるのでして、読者様におかれましてはその辺も整理しておくと吉かと存じます(^^)。

『一方、B/Sの構成項目も平時か金融危機局面かによって異なってきます。』

どう変わってくるかと言うと、いわゆる信用緩和政策をとった場合には変わってきますよという話が説明されてますが長くなるので(^^)割愛。

『主要国の中央銀行で政策金利の引き下げ余地がほぼなくなった現在、B/Sのコントロール力の高さが、その金融政策の自由度を計る一つの基準になります。主要国の中央銀行は、今のところ、マクロ経済の安定性の観点から適切と判断されるときに、程度の差はあれB/Sの規模や構成の変更ができる状況にあります。』

というのは暫く前の国際コンファランスで水野さんが指摘していた事です。で、以下の各国の説明はその時点からのアップデート版で、FRBが最近各種施策の一部を縮小したり停止したりという点を踏まえていますが、長くなるので割愛(^^)。

で、その次が『(非伝統的な金融政策の「出口戦略」)』という話になります。

『非伝統的な金融政策の「出口戦略」については、前述したように、できるだけ早い段階で丁寧に情報発信しておくことが肝要です。市場には「実体経済と金融の負の相乗効果が顕在化している最中に、非伝統的な金融政策の「出口戦略」を議論するのは時期尚早」との声もあります。しかし、非伝統的な金融政策は、過去に例のない政策対応ですから、出口のぎりぎりになって情報発信すると金融市場が混乱し、スムーズに退出することが困難になる可能性があります。』

ということで、「非伝統的な政策の」出口をどうやってスムーズに進めるかという技術的な話をしていますが、そこでは上記のバランスシートコントロールの力が必要になる訳でございまして、要するに「非伝統的な政策の実施によって拡大したバランスシートをどう無難に縮小させるか」というのが重要だというお話をしてます。で、30兆円からさっくり出てしまった日本の場合は何でさっくり出たかという話は、ご案内の通りですけれども引用しましょうです。

『やや技術的になりますが、「出口戦略」をスムーズに実行するために、日本銀行の手形売出オペのように、多様な短期の資金吸収手段を事前に準備しておくことも重要です。日本銀行が比較的スムーズかつ短期間で量的緩和政策から脱却できた背景として、(1)量的緩和政策の採用時、超過準備を主に短期資金供給オペで供給していたこと、(2)出口が視野に入ってきたタイミングで、オペの期落ち時点をずらす「期日管理」という手法を活用し、オペをロールオーバーしないことによってB/Sを自然に圧縮できたこと、(3)手形売出オペという便利な資金吸収手段を持ち合わせていたこと、を指摘できます。』

(3)の場合はバランスシートが拡大(というか両建てになる)する話ではございますが、話としては同じようなテーマでして、「非伝統的政策による潤沢な資金供給」によって発生した資金を引くという話でして、本来ならば短期オペのロールオーバー主体であれば、オペの期落ちを利用すれば割とスムーズに以降できるのですが、買った物が長期資産だったりすると、資金を引くのにその資産を売るちゅう訳にも行かないでしょうから、資金吸収手段が必要ですよということで、日銀の売出手形や、預金ファシリティの活用をするという話になるんでしょうな。

で、米国の場合はどうなるかというところですが、これは米国に対する悪態成分が入っているように見えますが・・・・・・(^^)

『FRBのバーナンキ議長は、7月21日、ウォール・ストリート・ジャーナル紙に「Fedの出口戦略」というタイトルで寄稿しました。大意は、(1)FRBのB/Sが大きく膨らんでいても、準備預金への付利と、準備預金額を減らすための様々な政策手段という金融引き締めを行うための手段が2つある、(2)さらに、準備預金を減らし、超過準備を吸収する策には4つの選択肢があり、それは、@金融市場参加者との大規模なリバース・レポ取引、A財務省が債券を売却しその代金をFedに預金すること、B銀行に対するターム物預金の提供、C保有長期債の市場売却である、(3)このように金融引き締めを実現する多くの効果的な手段を持ち合わせているが、自分を含むFRB幹部が情報発信しているように、米国経済の現状をみると、長期間に亘って金融引き締めは必要にならないと判断している、といったところです。』

あたくしは本件に関して、寄稿のほうじゃなくて議会証言の方で引用をしましたが、まあ同じ話をしていますな。で、この次が悪態。

『ただし、バーナンキ議長が指摘した4つの選択肢が、非伝統的な金融政策からのスムーズな「出口戦略」を保証するものかどうかは未知数であり、財政政策とのバランスという観点から非伝統的な金融政策の「出口戦略」に影響が出てくる可能性があるとの見方もあります(例えば、7月27日付の英紙フィナンシャル・タイムズへのWolfgang Munchau氏の寄稿を参照)。経済・金融情勢が目まぐるしく変化する中、各国中央銀行は市場参加者も未経験の非伝統的な金融政策を採用していますので、その「出口戦略」について丁寧に情報発信することが極めて重要であると思います。』

つまり、保有債券の売却とか大規模リバースレポとか本当に大丈夫かと言いたい訳ですね、わかります(^^)。


○信用緩和から時間軸へ

次の論点は重要な話でして、小見出しは『6.伝統的な金融政策運営に軸足を移し始めた主要国の中央銀行』であります。

『既に述べましたが、リーマン・ショック後、主要国の中央銀行は、「信用緩和」、「量的緩和」といわれる非伝統的な金融政策に踏み切りました。しかし、最近の主要国中央銀行は、非伝統的な金融政策をさらに進めることよりも、大きな方向感としては、現在の超低金利政策を継続することを強調する情報発信を行っています。』

んでまあ米国がそうなってますけれども、折角ですから米国がどうなっているのかの説明部分を引用します。

『例えば、FRB幹部からは、最近、景気回復力の脆弱さやインフレ圧力の弱さを理由に、「政策金利の引き上げはまだ遠い先のことである」という趣旨の情報発信が増えてきているように思います。このような情報発信は、サンフランシスコ連銀のイエレン総裁が「景気回復ペースはいらいらするほど緩慢である」、「主要政策金利であるFF金利は今後2年間程度、ゼロ近辺にとどまる可能性がある」と発言した6月末頃から始まりました。』

『このように伝統的金融政策の強調が始まったのは、米国クレジット市場の機能が完全に回復したとはいえないものの、クレジット・スプレッドが縮小するなど、「信用緩和政策」の効果が一部で見えてきたからであると思います。超低金利政策を継続する姿勢を強調するFRB幹部発言の頻度が増えて以降、ターム物金利及び短期債利回りの安定を通じて米国債イールドカーブ全体が安定してきました。』

ということで、長期国債買入に関してもとりあえず一旦終了という措置も実施しましたし、米国の政策が徐々に信用緩和から低金利の時間軸政策に移行しているという話ですわな。

ただまあ現状ではカナダやスウェーデンのように時期の話まで明確にして低金利政策が維持されるという期待感に働きかける政策をとっている所は多くなく、FRBの「expended period」だったり、日銀の「展望レポートの物価見通し数値」みたいに、まあお前ら察しろという感じで回っているのですが、こんな話をしていまして、日本の経済見通しを弱めに見ているという事を勘案すると、先々の時間軸政策強化も有り得べしって話をしとるんでしょうな。

『一方、伝統的な金融政策については、主要国の中央銀行は低金利を維持しており、中には先行き低金利を維持するとの見通しを示す、いわゆる時間軸政策を打ち出しているところもあります。今のところ、これら主要中央銀行は、新たに時間軸政策を採用したり、「時間軸」を強める明示的な表現を使用したりしていません。もっとも、先行きの景気・物価情勢が下振れる蓋然性が高まるような場合には、超低金利政策へのコミットメントを打ち出すということも、選択肢としては考えられます。』

ほほう。


○流動性供給が過剰になるのではという論点

で、その話の流れで、潤沢な資金供給および財政拡大のポリシーミックスのやりすぎによる弊害はどうなのよという点の説明をしています。

『この間、伝統的、非伝統的な金融政策運営を問わず、主要国中央銀行は金融市場に潤沢に流動性を供給しています。また、主要国、新興国で大規模な財政刺激策が発動される下で、市場参加者のリスク・アペタイトが回復するにつれて、株価、不動産価格、資源価格などの資産価格がファンダメンタルズで説明できる以上に押し上げられる可能性があります。』

『その場合には、金融危機解決の目処が立たないうちに中央銀行が引き締め的な政策スタンスに転じたと解釈されることがないように注意しつつ、各国中央銀行は潤沢な流動性の供給を見直すべきではないか、といった意見が出てくるかもしれません。ITバブル崩壊後に、主要国の中央銀行が超低金利政策を必要以上に長く続けたことが、世界的なクレジット・バブルを発生させ、世界的な金融危機を招いた原因であるとの見方が根強いためです。』

しかしそんな器用なことをしようとすると、結局オーバーキルになっちゃうんじゃないでしょうかというのが水野さんのスタンスのようですにゃ。

『ただ、政府や中央銀行の政策対応は、世界経済の持ち直し自体を支えていることも事実です。また、欧米金融機関の貸出態度は緩和的とは言えないと言われています。』

そしてこの次に個人的な見解キタコレ。

『個人的な見解ですが、(1)資産価格上昇は「副作用」というよりも、企業・家計部門のコンフィデンス改善に寄与するポジティブなものとも解釈できること、(2)いわゆる様々なキャリー・トレードの復活は、市場参加者のリスク・アペタイトの回復を示唆するものと解釈できること、(3)米国と中国を除き、来年に入ると財政刺激策による景気押し上げ効果が一巡するため、世界経済の「景気二番底」を警戒する声が絶えないこと、(4)非伝統的な金融政策の「出口」と超低金利政策の「出口」の違いに関する市場の理解の定着には今暫く時間を要すると考えられることから、潤沢な流動性供給の扱いに関しては十分な議論が必要であると思っています。』

つまり信用緩和政策の長期化絶賛容認という事のようですな。


○で、日本の政策ですけど・・・・・・

『(一連の政策をワンセットでとらえ、金融市場全体への効果を考える)』だそうな。

『日本銀行の政策対応を受けて、CP市場で格付けの高い企業が発行するCPの金利が短期国債の利回りを下回る官民逆転現象が起こりました。しかし、一つ一つの市場の歪みを見て効果の良し悪しを論じることは必ずしも適切ではなく、最終的には企業金融全体で判断すべきです。』

そらそうなのですが、じゃあCPレートが官民逆転するような状態になるわ、担保適格だと殆どの場合同じようなレートになっちゃうわという状態になって、それが本当に中小企業への染み出し効果が有効に出ているのかとゆーよーな点は日銀の中では検証しているのでしょうけれども、仮にその効果が大した事無いとなった場合に、政策資源の割り振りとしてどうなの(大企業だけ超優遇になっているのではないかという論点)という話は出てくるんじゃないかなあという気はしますです。既に話の論点が金融政策じゃないですけど(汗)。

『リーマン・ショック後に日本銀行が採用した金融政策面での措置については、前述のような3本柱の形に整理して対外的に情報発信してきましたが、本来、これらの措置を明確に峻別することは難しく、評価するにしても、総合的対応としての政策効果を考えるべきです。例えば、企業金融支援を主眼とした措置は、現在ではターム物金利の低位安定に寄与しているとみられます。』

ここが微妙なんですよね。どっからどこまでが効いているのか、指値無制限というのは確かに強力なのですが、よくよく考えてみると実はここもとの金利低下は(先般来申し上げているように)単に銀行セクターの資金ポジションが変化したからという感じもする(というかGC市場とか短国市場の動きから体感的に思うだけなのですが)し、やっぱり指値無制限効果が効いているような気もするし。

んでまあ企業金融環境は厳しいですよという認識を示していまして、それはまあさよですなという感じですけどね。一応引用します。

『わが国の短期金融市場、クレジット市場、債券市場は安定した動きが続いていますが、企業金融は引き続き厳しい状況にあると判断されます。』

『といいますのも、第1に、企業のキャッシュ・フローは厳しい状況が続いています。日銀短観(6月調査)では、2009年度上期の当期純利益は、全規模・全産業は前回比修正率が-62.9%、大企業・製造業では欠損となっています。また、第2に、法人向け貸出が減少し、貸出金利が低下している中で、貸出市場は再び借り手優位になっているはずですが、6月短観の全規模・全産業の借入金利水準判断D.I.(「上昇」-「下落」)は、3月-5→6月+3→9月予測+14と、今後の上昇見込みを示しています。』

さいですな。

『この背景には、昨年末あるいは昨年度末にかけてのCP金利や銀行借入金利上昇という苦い経験のほか、格付機関による格下げや金融機関における自社の信用格付の悪化等によって、将来的に借入金利が上昇することへの警戒感があると思われます。』

これは他の政策委員も指摘していますし、月報でも指摘されていることでして、企業の金融環境に関する先行き不安感が強いというのがあると、中々企業金融支援措置を止めるのもムツカシヤという話になるのでしょうが・・・・

『そして第3に、以上の話とも平仄がとれますが、足許のCP金利やターム物金利は低下しているものの、企業からは企業金融支援策の継続を求める声が根強いことです。』

・・・・単にCP金利がサービスレートで発行できるからのポジショントークで無いことを切に願いたいのですけど・・・・・


○で、企業特オペ延長に関して

CPと社債買入はバックストップで残しておきましょうという話もしていますが、その部分は割愛しまして企業特オペに関して。

『また、「企業金融支援特別オペ」についても、条件の見直し等を一切せずに3ヶ月間の延長が決定されました。個人的に考えたことは、ターム物金利に影響を及ぼしているとみられる「企業金融支援特別オペ」を現時点で見直すことは、金融市場のボラティリティーを無用に高めるリスクがある、ということです。』

『もっとも、金融市場が異例措置である「企業金融支援特別オペ」への依存をさらに強めた場合、(1)金融市場や経済の自律的な調整を阻害するリスク、(2)同オペの各種見直しや撤廃する際、金融市場が混乱するリスクなど、長い目でみれば副作用があり得ます。また、企業金融を取り巻く環境は厳しいといっても、一頃に比べれば改善方向にあるのも確かですので、私は、2月の金融政策決定会合で決定した6ヶ月間延長ではなく、7月は9月末で期限が到来する同オペを3ヶ月間延長することが適当であると判断しました。』

ということですが、まあここまでの話を総合すると、水野さん的には年度末越えをフォローする事になる「もう3か月延長」というのを展望しているのでしょうな。


#話の半分、しかも結構端折ったのにこんなに量が多くなってしまいました。長文講演恐るべし(汗)

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2009/06/08

お題「水野審議委員講演、非伝統的政策の論点整理」

5月29日に実施された日本銀行アジア金融協力センター主催のセントラルバンキング・セミナーにおける水野審議委員講演要旨がアップされておりました。
http://www.boj.or.jp/type/release/adhoc09/ko0906b.htm
本文はこちら。
http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/ko0906b.pdf

○とりあえず論点整理にはちょうど良いので読んどけと

まず最初に勝手にまとめますと、こちらは各国(と言っても日米欧ですが)の中央銀行の最近の非伝統的政策に関して論点を整理しております。ECBのカバードボンド(ファンドブリーフ)購入決定を「ECBが量的緩和政策を実施」とか報道するようなどこぞの新聞社の担当記者および整理部デスクあたりは一万回精読すべきものであると思います。また、金利市場の中の人でもうっかりすると各国の非伝統的政策遂行における視点をごっちゃにしている人がいると思いますが(他市場の人とかはもっとそうですけど)、とりあえずこちらを百回精読する事を推奨。

・・・・で話が終わってしまうと何なのですが、後は景気見通しに関する話が最初にありますが、景気見通しに関しては下振れ絶賛警戒中という感じなのと、日本における財政の維持可能性に関する論点に言及しているのが注目って所です。


○財政維持可能性問題に関して

景気に関する部分の引用は華麗にスルーしまして財政問題に関して。

『主要国のうち日米の財政出動の規模は目立って大きい。それにもかかわらず、(1)費用対効果の議論、例えば、大型財政支出に伴う財政刺激策が長期金利上昇によって相殺されてしまうリスクや、財政に起因するインフレを発生させるリスク等、(2)学術的・経験的な観点からの財政面からの刺激策の有効性――例えば、財政面から景気刺激策による乗数効果は低下しており、景気を持続的に押し上げる効果は期待薄であるといった論点――、(3)財政赤字や政府債務残高の持続可能性、(4)財政拡張路線からの「出口戦略」などに関する議論はさほどなされていない。』

ということで米国に関して。

『米国などでは従来、景気循環の振幅を小さくするマクロ政策は主に金融政策で対応すべきであり、財政政策は「ビルト・イン・スタビライザー」としての役割に徹するべきとの議論が主流であったが、今回は金融政策の余地が限られる中で、財政支出拡大による景気刺激が期待されており、2009 年財政年度の財政赤字が名目GDP 比12.9%と巨額になる財政出動に対する学界からの批判は限定的である。』

現象面ではご指摘の通りですが、これは学会に対する皮肉に見えるのはあたくしの邪推ですかそうですか(^^)。

『しかし、例えば日本について言うと、公的債務の水準は改めて持続可能性を考えるべきレベルに達しつつあり、財政面から景気刺激策を持続できる余地が相当限られてきている。そうした中、少子高齢化という人口動態的な変化が急速に進む下で、社会保障関連費用は構造的に増加すると考えられる。同時に、産業構造の転換に伴う雇用のミスマッチ等の下で、雇用安定のための歳出も膨らむ公算が高い。現役世代は将来負担が増える一方、退職後に想定される年金受給額が現在の年金受給者よりも大幅に減少するとの試算結果がコンセンサスとなってきた。財政支出を巡る前述の論点は避けて通れないのではないだろうか。』

全くでございます。で、大昔ネタにしたことのある財務省の審議会議事要旨がこちらにありますが、これって5年前の議論なんですよね。恐らくこの時点で池尾先生が指摘していた件(冒頭の部分をご参照あれ)は解決に向けて進むどころかまあ普通に悪化してますわなという事で。なお、この議事要旨はオモロイのでお暇な方はど〜ぞ(大昔にご紹介してます)。
http://www.mof.go.jp/singikai/vision/gijiyosi/a160601.htm


○各国政策の論点整理、現象面から

各国中銀の政策対応に関してまずは現象面からの整理。ま、あたくしは毎度毎度あちこちで引用してますから皆様におかれましてはいつもの話で恐縮ですがまたもしつこく引用するのがドラめもんクオリティ。

『第1 は、政策金利の大幅な引き下げである。(各国の金利水準部分割愛)主要国の中央銀行が非伝統的な金融政策に踏み込むなかで、主要政策金利を完全にはゼロにしていない点は各国共通である。これは、わが国のゼロ金利政策や量的緩和政策の経験から、主要政策金利を完全にゼロにすると、短期金融市場の機能を損ない、非伝統的な金融政策からの出口戦略がスムーズにいかなくなる、という副作用についての認識が共有されているためである。』

この点に関しては後ほどまた説明されてます。

『第2 は、潤沢な流動性供給を通した金融市場の安定維持である。これには日々のオペレーションによる潤沢な資金供給のみならず、最後の貸し手としての資金供給も含まれる。』

市場への資金供給による流動性供与に関る部分とプルーデンス政策に関る部分ですな。

『第3 は、クレジット市場など個別の金融市場の機能回復を促す措置である。すなわち、企業・家計向けの各種貸出の金利上昇や、アベイラビリティーの観点などから、全体として逼迫をきたしている場合、中央銀行が民間債務の買入れや適格担保を拡大する政策である。』

FRBのMBSやらCPの購入とか日銀の企業金融オペやらCP、社債買入とかですな。


○別の論点から

というのが現象面からの毎度お馴染みの整理ですけれども、別の論点がございます。

『第1 に、中央銀行自らのバランスシートにおいてとるリスクと超過準備の取扱いに基づく概念的な分類である。』

というのが第1の論点でして・・・・

『(1)バランスシート上にクレジット・リスクのある金融資産を計上すると同時に、超過準備は全て吸収するケースを「信用緩和政策(Credit Easing Policy)」、

(2)バランスシート上にクレジット・リスクのない国債等の安全な金融資産を計上し、超過準備を供給する(完全には吸収しない)ケースを「量的緩和政策(Quantitative Easing Policy)」、と大別できる。』

ということで、各国はどうなっているかというと・・・・

『BOE はクレジット・リスクを極めて限定的にしかとっていないため、自ら「量的緩和政策」、FRB とECB は自ら「信用緩和政策」と主張している。しかし、実際の政策運営をみると、程度の差こそあれ、信用リスクのある資産を購入すると同時に、超過準備が発生しているため、(1)と(2)の両方の特性を併せ持つ中央銀行が多い。』

ということですが、この次にFRBのろくすっぽ論議と説明の無い中における緩和政策の枠組み転換に対して皮肉を利かせているような気がするのは(ry

『特に、FRB は2 月までは「信用緩和政策」を採用していたといえなくもないが、米国債購入を決定した3 月のFOMC 以降は、もはやハイブリッド型の非伝統的な金融政策にシフトしたとも考えられる。』

で、次の論点。

『第2 に、各中央銀行が想定する政策波及メカニズム、および、購入する金融資産の信用リスクの大きさに着目すると、以下のように整理できる。』

『(1)金融資産購入政策、(2)信用緩和政策、(3)両者のハイブリッドともいえる政策運営である。』

んでまあBOEとFRBとECBの措置と、その狙いついて説明してます。端折って引用しますが。

『BOE は3 月、マネーサプライ、貸出、名目支出を増加させるために国債・社債・CP を合計で750 億ポンド購入する「金融資産購入策(Asset Purchase Programme)」を決定したが、購入する金融資産の大半はギルト債(国債)としていた。』

『FRB は、クレジット市場の機能回復を目指す、非伝統的な「信用緩和政策(Credit Easing Policy)」に踏み込んでいるが、3 月に3,000 億ドルの米国債購入を決定した。』

『ECB は5 月の定例理事会で、カバードボンド(ファンドブリーフ:ユーロ圏の金融機関が主に発行するユーロ建ての債券)を600 億ユーロ購入することを決定した。』

『この間、すでに企業金融支援特別オペレーションやCP・社債の買入れ等の非伝統的政策を打ち出してきた日本銀行は3 月、国債買切りオペの規模を年16.8兆円から年21.6 兆円へと増額した。』

ということで、各国の違いに関する背景として、金融資本市場や金融システムの構造が違っているという話があるのですがそこは引用割愛。ま、引用割愛しますけど、この辺りに関しても、そこら辺でも「米国がこういう措置をやっているのだから日本もやるべきである」とか市場構造の背景とかマル無視で主張しだす人たちに対する皮肉になって(以下同文)。


○長期国債の買入に関して

『国債の買入れについては、日本銀行、FRB、BOE ともに行っているものの、対外的な説明ぶり、すなわち国債買入れの主な狙いは異なっている。』

ということで長期国債の買入に関してですが、これって各国中銀向けのセミナーでの説明ではありますが、中銀実務担当者的には先刻ご承知の話だと思いますので、それよりも対外的に(以下同文^^)。で、これまた皆様におかれましては先刻ご承知の話だと思いますが、しつこく引用するのがドラめもん(ry

『BOE が国債を中心に金融資産の買入れを決定した3 月5 日のMPC の声明文をみると、「中期的なインフレ率目標を達成するため、マネーと信用の供給量の拡大を通じて名目支出を拡大させる更なる金融緩和措置を採用することが適当と判断した」とされている。』

『一方、FRB がMBS の追加購入や国債の買入れを決定した3 月17・18 日のFOMC 議事要旨をみると、FRB は、国債買入れは「信用緩和政策」の一環と位置付けており、米国債購入は、モーゲージ金利の低位安定を期待したエージェンシーMBS の購入等を補完する効果があると考えていると推測される。』

BOEはマネー拡大ですが、FRBはモーゲージ金利などの低位安定の為に実施しているように見える(実際問題としてはそのあたりが極めて曖昧な説明になっているというのは最近あたくしが悪態をつきつつご紹介しておりますのでご案内の通りかと思います)というところでございます。

『なお、ECB がユーロ圏諸国の国債買入れに慎重であることは想像に難くない。ユーロ圏には、財政規律の重要性等が明記された「成長安定協定」が存在し、財政政策との役割分担を明確にしているためである。ECB は5 月、非伝統的政策に踏み込んだが、敢えて分類すれば、信用緩和政策を採用したと言えよう。』

ECBは財政政策が各国別で金融政策が一本化なので難しいという事です。で、更にBOEとFRBの長期国債買入に関して。

『日本銀行は、2001 年3 月〜2006 年3 月まで量的緩和政策を採用したが、その当時の経験に照らして、BOE やFRB の国債買入れについて考えてみたい。』

で、BOEに関して。

『BOE の金融資産購入政策はマネーサプライ(マネーストック)の増加を通じて資産価格と期待に働きかけ、最終的には需要を喚起することを目的としているが、わが国の5 年間にわたる量的緩和政策では、ベースマネーは膨張したものの、そのような効果があったとは確認できなかった。経済効果という観点からは、景気刺激効果よりも、金融システム対策として機能したという印象が強い。』

『また、FRB は、米国債買入れについて、これを決めた本年3 月のFOMC の声明文において「民間クレジット市場の改善を企図」したとしている。実際、米国債の購入後、クレジット・スプレッドは全体的に縮小している。しかし、その後、モーゲージ金利は乱高下しており、FRB による米国債購入は必ずしもモーゲージ金利の低位安定にはつながっていない。』

どう見ても悪態です本当にありがとうございました(^^)。

『ちなみに、わが国の量的緩和政策の経験でも、いわゆる「ポートフォリオ・リバランス効果」は明確に認められなかった。』

ただまあ、これまた日本と英米は事情が違うという話を。

『もっとも、日本銀行は当時、金融調節目標を日銀当座預金残高とし、国債購入についても国債保有高を日銀券発行残高の範囲内に止めるルールを設定していた。現在のBOE やFRB のような大規模な国債購入は実施していないため、2 つの中央銀行の国債購入の効果について、何らかの判断を下すには時期尚早である。さらに言えば、米英は、わが国に比べてインフレ期待が高いため、中央銀行のバランスシートの大規模な拡大を伴う金融資産購入策が、現在低下傾向にあるインフレ率に、将来何らかの影響を与えるのかどうか注目していきたい。』

ということで。


○出口政策に関して、バランスシートの操作能力

で、その出口政策を云々する意義ですけど。

『「実体経済と金融の負の相乗効果が顕在化している最中に、出口政策を議論するのは時期尚早」との声はあるかもしれない。しかし、中央銀行の信認を確保し、ファンダメンタルズに合致しない長期金利上昇や自国通貨の過度な下落といった潜在的コストを回避するために、その異例な政策の狙い、出口政策等について十分に情報発信をしておくことは重要である。』

まーこの辺の匙加減は難しいのでありますけれども、米国長期金利市場がいい感じでカオスになっているのを見ますと、まあこの辺りに関しては放置プレーで市場の大暴れを容認していると、市場が勝手に走ってオーバーキルとかのやらかしちゃんになったでござるの巻になるんでしょう。

『主要国の中央銀行は、今のところ、マクロ経済の安定性の観点から適切と判断されるときに、程度の差はあれ自らの意思でバランスシートの規模の拡大・収縮ができる状況にある。政策金利の引き下げ余地がほぼなくなった現在、バランスシートのコントロール力の高さが、政策の自由度を計る一つの基準になる。』

えーっと、本当にそうですかねという疑問はだいぶあるんですが、特にFRB。

『こうした視点から、クレジット市場の機能回復を目指すFRB の施策をみると、

(1)CP 買取りプログラムなどの流動性供給ファシリティーのように、市場環境が正常化すれば自然に活用する魅力が低下するバックストップとしてデザインされたもの、

(2)インフレ懸念が高まった際、米国債やエージェンシーMBSの市中売却や、リバース・レポを通じた一時的な売却によって過剰流動性を吸収するもの、

に大別できる。』

と、しらっと説明しています。まあ(1)は良いとしまして、当然ながらこの(2)の方での「市中売却」って大丈夫なのかよという指摘が後の方にございます。

『米英の中央銀行については、既にかなりの規模の金融資産を購入しており、出口の段階でバランスシートを圧縮しながらオーバーナイト・レートをコントロールすることは、技術的に簡単ではない。また、実際に保有する金融資産を市中で大量に売却する場合も、国債発行当局や市場参加者とのコミュニケーションを十分にとったとしても、金融市場に不測の事態を招かぬように、相当な時間をかけて資産売却を行うことになろう。』

つまり出口政策は簡単ではないということですね。ちなみに途中割愛しましたが、日銀の量的緩和政策がすんなり金利政策に移行できたのは、資金供給オペレーションが主に短期物によって実施されていたので、オペの期落ちを利用して30兆円をサクサク落とすことができたという説明もございました。

ということで、米英の長期国債絶賛購入、特に米国に関しては市場規模対比でアホウのように購入したMBSもある訳ですから、出口って言ったって簡単な話じゃないのですけれども、先日ご紹介したコーン副議長の講演でもしらっと「売却」とか言ってる所に寒さ爆発というところでは無かろうかという感じなのでございます。


○日本に関連して、時間軸導入や長期国債買入増額も検討ですかね

で、最後の所に日本の政策対応に関する話をしているのですが、その中にしらっとこのような記述が。

『追加経済対策が打ち出され、これまでにない国債増発が見込まれる下で、わが国金融市場では金利の安定性確保が一つのテーマとなっている。日本銀行は、潤沢な資金供給を行う中で、

@ターム物金利への働きかけを通じ、イールドカーブの短期ゾーンを安定させたり、

A長期資金供給手段を一層活用して円滑な金融市場調節を行う趣旨から、一定のルールに基づいて、国債買入れオペを活用したりすることが可能であり、

これら積極的な流動性の供給が、結果として金利安定に寄与することはありうる。』

ということで(機種依存文字はPDF原文ママでマカー勘弁)、まあ日本だとそう簡単に財政リスクプレミアムの議論にはならない(相場のネタで軽くやる事はあっても本質的な話にはならないという意味)と思いますので(その理由は「1回そのネタで相場やったから」でありますが^^)、水野さんが懸念する状態になるかどうかはよー判らんですけれども、国債の市中消化がしんどいという話になってきた場合に、時間軸導入(その時点で長期国債買入を露骨に増やすのは財政ファイナンスという話になりそうなのでやるならその前)とかで短い(2年位までの)金利を抑えて長期金利の跳ね上がりを防止するという話なのでしょうな。

ところで、日本の非伝統的政策ですが・・・・・

『CP・社債買入れオペは、バックストップという機能を十分果たしていると言える。また、2 つの買入れオペにおいて、市場のニーズ次第で残高が減少する仕組みが有効に働いていると認められることから、日本銀行が現在採用している非伝統的政策からの「出口政策」はスムーズにいく公算が高いといえよう。』

CP買入は先週金曜に何と応札ゼロというラトビアもびっくり(ラトビアの政府短期証券入札応札ゼロとは意味が真逆ですので念の為^^)の結果になっておりますが、これって買入というよりは企業金融特別オペの効果でCPと短期国債金利逆転などという阿片窟相場が絶賛展開されているのが大きな要因で、そもそも発行が減っている中で政策投資銀行の買入もあって需給が更にタイトにというのもあると思いますが、まあ要するに特別オペ効果恐るべしなのでありまして、そっちをどうやって出口へ向かうのかの方が難しいと思いますけれども、しらっとスルーしている所がチャーミング(-_-メ)。

とまあそんな感じで、論点整理がきちんとしておりますので、一読どころか百読くらい推奨です。引用が無茶苦茶長くなってどうもすいません。

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2009/02/09

http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk0902b.pdf

○景気に関して

会見の内容はターム物誘導などの追加緩和策に関する質疑が殆どでしたが、会見の最初の質問で経済情勢に関する見方の説明がありまして、

『わが国の経済情勢を捉えるには、グローバルな調整を前提とする必要がありますが、米欧の実体経済の悪化と金融危機の影響は新興国にも波及しており、世界的に金融と実体経済の負の相乗作用が生じていると考えられます。(途中割愛)各国の供給サイドの調整スピードは早いですが、世界的な総需要ショック、金融ショックの大きさはそれを上回っているという状況にあります。』

というのがグローバルな部分の認識で、国内に関しては、

『わが国については、金融と実体経済の負の相乗作用が見え始めた段階だと思います。金融システムは、欧米に比べてなお安定が確保されているといって良いと思います。しかし、昨今の鉱工業生産指数をはじめとして各種の経済指標の未曾有の悪化が続く中で、今後、輸出企業を中心に供給構造を抜本的に修正しなければならない可能性があり、また、設備投資抑制の本格化、とくに能力増強投資が完全にストップするような動きが聞かれています。それから雇用調整が思ったよりも早く、しかも深刻化していく可能性も否定できませんし、金融機関が信用リスクをとることに慎重になれば、さらにこれが景気の下押し圧力にもなりかねないということも考えられます。』

ということでスパイラル的悪化を見ています。その為に講演でも追加の緩和策の話が出てくる次第ですし、会見でのこの後は追加緩和策の質疑になっています。


○企業向け金融政策の強化について

・年度末向け対策の延長に関して

『企業業績の悪化やキャッシュフローの大幅な減少等を踏まえると、年度末対策として考えていた施策についても、金融支援という点では、来年度に向けて引き続き注意していかなければならない大きな政策課題の一つであると思っています。その点では、日本銀行の財務の健全性とのバランスを勘案しつつ、今取り組んでいる策のほかに何かできるものはないかということをできる限り検討していく必要があると認識しているところです。』

という発言をした事から、年度末向け対策で実施した施策を延長するのかという質問が飛んできまして、それに対する説明。

『すみませんが、もう少し一般論として申し上げたつもりです。例えば、CPの買取りについては、個人的にはできるだけ早くやったほうが良いと思っておりましたが、実際に12 月に大きな方向性を示して、1 月に具体策が纏まりました。本日の金融経済懇談会での挨拶要旨にもありますが、CPの買取りが必要だと思っていたことは、あくまでも資金の目詰まり対策、年度末対策という意識が強かったというのが正直なところです。もっとも、日本銀行の企業金融支援に対する期待の声――これまでと同じ施策かどうかは別として――は強く、我々として何ができるかを引き続き検討していきたいという趣旨で申し上げました。私自身、今この時点で具体的なものをお示しできる状況ではないのですが、現状の厳しさを考えると、何らかの対策は必要であろうという一般論として受け止めて下さい。』

・・・・・ええっと、要するに年度末以降も継続って事ですかね。


・株式担保に関して

あたくし的に推奨なのは適格担保に株式を(ただし掛け目50%くらいで)というネタなのですが、『市場関係者等の間では、次は株式ではないかという声が根強い状況にあります。』っていうことで質問がございまして(^^)、それに対して。

『最初に申し上げたいのは、適格担保については、担保不足でオペに応じられないということがないように何か適切なものがないかという観点から考えるべきということです。適格担保を拡大するのが目的ではなくて、金融調節手段を確保するために必要なものとしてどのようなものが可能なのかという観点から考えるべきです。これは様々な選択肢の中で議論していかなければならないということを述べたまでであり、今後の政策の一つの課題として私の念頭にあるということで、具体的なコメントは差し控えたいと思います。』

禅問答的な説明になっていますが、要するに適格担保が逼迫してきそうになったら考えますという話なのですかなあと思うので、株式取るかは兎も角として、担保範囲の拡大というのも先行きアリという話でしょうかね。昨年11月位の方が適格担保逼迫感があったみたいで、米国などでのドルファンディングが楽になった辺りからこの辺りが緩和されてきた感がありますので、そういう意味では国際的なファンディングの緊張状況によって変化が起きるでしょって話かと。


・では何でもかんでもやって良いのかという点に関して

後の方の質疑であったのですが、『公的な資金でエクイティに踏み込むことの必要性、意義、メリット・デメリットについてどのような見解をお持ちでしょうか。』という質問がございまして、

『例えばアメリカですと、TARP という金融システム安定化策の中で、GMAC やGM などに資本を注入するということが行われています。そうした施策は、どこまでが国益の観点からやっている部分で、どこまでが危機対応策かという点で、保護主義的な施策かどうかの線引きが非常に難しくなってきていると思います。』

さよですな。商業銀行やら決済システムという部分だとまあ社会インフラということで百歩譲っておっけーとしても、自動車会社に資本注入ってどうなのよという感は。

『最近は、金融システム対策という名目であれば何をやってもよいといった風潮があることも確かですが、今後さらにエクイティを入れる対象企業を増やしていくとなると、この政策の位置づけを対外的にどのように説明していくか、しっかりと考えていかなければならないと思います。今のところ、あまりうまく説明できていないのではないかと感じています。』

「金融システム対策という名目であれば何をやってもよいといった風潮があることも確かですが」というのに微苦笑。

『日本銀行では、CPの買取りを行うこととしたほか、社債の買取りを検討していますが、それにあたって企業金融に係る金融商品の買入れについての原則を3つ示しており、政府もそのようなことを示していかないと、いくら政策金融とはいえ、アカウンタビリティの観点から問題が出てくる可能性はあると考えています。』

じゃあ何でもかんでも税金で救済やがれ金融システム対策だからというのはやはり無理筋というかマルクス先生大歓喜と言うかですな(^^)。


○ターム物誘導に関連して

ターム物金利誘導に関しての質問がやって参りまして、『挨拶要旨でかなり詳しくご説明されていますが、端的に言うとどのようなやり方があり得るのでしょうか。』ってことで、『例えば、ここで挙げられている3 か月物のユーロ円TIBORをターゲットにすることが可能なのかどうか、その時の問題点・課題があれば教えて下さい。』という中々難しい質問が(^^)。

『二つ目の質問は技術的に非常に難しい問題と言えます。今は適格担保の範囲内で色々なオペを打っている、例えば最近は年度末を越える資金供給オペを打っている訳ですが、銀行のバランスシート制約や資本制約がある中で、ユーロ円TIBOR という所謂無担保のレートが下がるかどうかというと、極めて現状は難しいだろうと感じています。』

TIBORに直接働き掛けるのは技術的に難しいですねという話。

『しかも、今後、信用コストの上昇、貸出先の企業の格下げの問題など色々な問題が生じる可能性がありますから、どのようにターム物金利を補完的に下げられるのか難しい面があります。ドル資金供給オペの効果一つを採っても、1 か月物はまだしも3 か月物になるとほとんど取引はなく、しかも高止まりしているというのが現状です。』

短期国債の利回りだとある程度オペだの何だのでコントロールできますけれども、無担保で信用リスクのある世界の金利と言うのはリスクフリーレートに対するスプレッドの問題がありまして、株価下落などで資本制約はあるわ、企業業績の悪化や企業のキャッシュフローの悪化によって信用リスクは高まるわという状態になっていますので、実質貸出基準金利みたいになってるTIBORレートに関してはそうそう簡単にオペでは下げられませんわなという話ですね。で、それは米国でも同じような話ですねという所かと。

『よって、テクニカルな問題も含めて、まだまだ検討しなければならないことが多く、具体的なものを出すまでに至っていないとご理解頂きたいと思います。』

で、この次に短期国債金利の話をしてまして、ここもとのレート上昇で買いを渋っていた人が急に買う気を起こした(かどうか知らんが)発言になります。


○短期国債金利に関して

『それと同時に、挨拶要旨の中でも少し触れていますが、今後、国庫短期証券の発行が増えていく中で、我々の直接のターゲットではないのですが、この証券の金利が上がってくることも考えられます。』

というか1月後半のGCレート上昇に加えて増発の話で年初の0.2%割れ水準(はちょっと下げすぎでしたが)から先週水曜の入札では0.3%乗せまでレートが上昇いたしましたな(--)。

『これを抑えるための一番オーソドックスなやり方は、GC レポレートをうまく下げていくということになります。しかしながら、現状のように誘導目標金利と同じ水準に付利している状況は、全ての金利に働きかけるようなオペレーションではありませんから、全体として流動性供給は相当潤沢であっても、各市場に満遍なく毎日資金が廻っているかというと、そうではないということも起こりえます。』

うまく下げるというか、うまく安定化させながら上昇を抑えるのが吉かなあと思います。

『これは新たな問題ですが、今後、税収が減少する中で国債の大量発行がしばらく続いていくことを考えますと、色々と検討しなければならない問題が多いのではないかということで、若干問題を提起したということであります。』

ということで、これで短期国債にも目配りしたオペが続くというような期待もあってTBのレートいきなり低下したのですが、まあディーリング的な買いというよりはさっきも申し上げたように買い安心感からの買いという所でしょうか。


○誘導のテクニカルな論点に関して

で、さきほどの「現状のように誘導目標金利と同じ水準に付利している状況は、全ての金利に働きかけるようなオペレーションではありません」とは何ぞやという質問に対して。

『私の認識としては、ターム物金利をコントロールすることと、オーバーナイト金利をコントロールすることの両方を同時に達成することは不可能に近いと思います。』

その理由は以下の通り。

『もしターム物金利に潤沢に流動性を供給していくことになると、どうしてもオペの残高が膨らんできますから、オーバーナイト金利に低下圧力がかかってきます。しかも、投信や生損保といった日本銀行の当預先でない先のお金も入ってくる訳ですから、日によっては0.1%より下のところで一部の取引が成立してしまいます。』

『そうなりますと、ターム物金利に注力することと、オーバーナイト金利を0.1%より下にしないということの整合性をどのようにとっていくのか、技術的にそれが可能なのかどうかという問題と、もう一つは0.1%という付利金利を設定することのメッセージがうまく伝わるのかどうかという問題が出てきます。』

ということで、ターム物誘導をしていくと付利の0.1%が逆に邪魔になるのではというお話をしているように見えます。以下その点をより詳しく。

『このようなゼロ金利への低下圧力がある一方で、私は、政策金利を0.1%にする意味がないとは思いません。何故ならば、ゼロ金利にすると、市場取引がさらに萎んでしまい、無担保コール市場はさらに縮小していき、場合によっては無担保コール市場が死んでしまうというデメリットがあると思っているからです。』

現状は取引高自体はあるのですけど、無担保コール取引に市場としての鼓動みたいなものは感じませんなあというのが正直な所だと思います。

『同時にターム物金利を下げようとすると、オーバーナイト金利に対してはどうしても低下圧力がかかってくるということを考えますと、付利をすることにどれだけの意味があるのか、本当に適切な措置なのかどうかをよく考える必要があると思います。』

なので前回会合で付利0%を主張したのですね、わかります。

『私は、今後の金融市場調節を展望した際、オーバーナイト金利よりも、ターム物金利の方によりウエイトを置いて考えていて、ターム物金利を下げることの方が政策効果が大きいのではないかと思っています。そうした意味で私は意見を表明しましたが、これは私個人の意見に留まっているというのが現状です。』

という訳で個人的見解なのですけれども、最近の白川執行部は某インチキおじさん時代の時よりも執行部の強力な主導っていうイメージがないので、審議委員の個人の意見であっても要注目ということでしょうね。


○会見の発言とは別にあたくしのターム物誘導云々に関する雑感

以下あたくしの雑感なので念のため。

ターム物金利誘導と言いましてもTIBORは毎度申し上げておりますように市場誘導でどうにもならない部分があるので、ちと難しい(いやまあ行政指導攻撃はあるけど^^)と思います。で、短期国債金利を安定化させる話に関して少々。

まず、短期国債レートをピンポイントで下げるというのであれば短国買入を増やせば簡単でして、通常のオペレーションの範囲内なので特に何か措置が必要な訳でもありません。

とは言いましても、増発分をまともに買入増額するというのは露骨にも程がありまして、市場としては将来の国債増発に対して毎度毎度クレクレ攻撃をするようになってしまい、どっかの閾値を越えたところで「維持不能赤字財政の絶賛マネタイゼーション」という話になるリスクを抱えるかと。そもそも3月に下手したら週9000億円の増発になるという状況ですから、そんなにまともに増やせないでしょう。

まあ増やすとして週1回を週1.5回にするとか、1回を1兆円くらいにするかとかの世界が現実的なところではないかと思います。

それよりもターム金利という点では、ターム物オペをやや厚めかつ恒常的に打っていくようなオペレーション、つまり2週間から6週間程度の共通担保オペを厚めに実施する方が足元のファンディングが安定していくのでGCが振れにくくなるのではないかと思います。つまりですね、足元のGCレートが1月前半と後半みたいにやたら振れますと、足元レートが途中でぶっ飛ぶリスクを考えないといけないからターム取引がやりにくくなる(そこでディーリングをやろうというような動きは現在の市場状況では起きない)為に、ショートファンディングが溜まり易くなり、益々足元の需給でGCが振れやすくなるという悪循環になるのですな。従って、足元がある程度安定していって、タームをもっと出合い易くするようにするのが一番効くのではないかなと思うのですよ。

ちょうどここの所、使いやすいタームの共通担保オペがやや厚めかつ恒常的に実施されているのですけれども、これがそういう趣旨を踏まえての物なのか、単に足元の資金需給が不足地合いだからタームが打ちやすいだけで足元余剰地合いになったらあっさり供給が止まる(下手したら吸収するとか)のかがさっぱり読めない(調節スタンスが中の人のロジックは別にしてGC関連市場の人たち的に一貫しているように見えないから)ので半信半疑ながら投資家買いもあって短国のレートが低下したって所じゃないかなあと思いますです、はい。

#最後は一部のマニアにしかわからない話を延々と致しまして恐縮至極

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2009/02/06

お題「水野審議委員講演」

相変わらず分量が多いですな(--)

http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/ko0902a.pdf

○まあとにかく量が多いのですが

全般的には経済見通しに対して極めて厳しい見方になっていて、展望レポートなどの日銀公式見解ベースよりもかなり下ブレをみていますわな。だから講演(挨拶)の副題が『―― 重要な金融と雇用のセーフティー・ネット――』となっているのでしょう。

で、今日アップされるであろう記者会見の内容は何となく情報ベンダーで見たのですけれども、割とフリーダム発言な感じになっていまして、先日の亀崎審議委員の会見もそうでしたが、ここもとの審議委員の会見がいい感じになって来ましたねという感じがするのですが気のせいでしょうか(^^)。

まあ審議委員の皆様の見解と執行部の見解が必ずしも一致しない場面が増えて来ている(特に今般の金融政策をどうするのかに関して)のが背景にあるのかなあとか勝手に想像するのですが、福井総裁時代とはちょっと勝手が違ってきた感じですかね。

ということで講演なのですが、例によってやたら丁寧(というか長いわやたら細かいわというか^^)なので、日本の経済見通しに関する部分と金融政策に関する部分を端折って読むことに致しましょう。金融危機に関する説明の部分も興味深いのですが、正直そこまでやってると長くてエライコッチャになるので今日は勘弁。


○日本経済の見通しは極めて厳しいと見ています

・ここもとの経済成長はやはり米国のクレジットバブルでした

というのが最初に思いっきり出てきますのでまずはそれを引用。

『サブプライム問題の本質は、不良債権問題です。わが国で不良債権問題が発生した際は、まず企業部門のバランスシートが悪化しました。商業用不動産の価格下落を受けて、企業部門の過剰債務・過剰設備・過剰雇用という「3 つの過剰」の解消が遅れ、企業活動は停滞しました。一方、今回の米国では、過剰債務・過剰消費を抱えていた家計部門からバランスシート調整が本格化しました。最近では、住宅投資の減少にとどまらず、生産・設備投資の大幅減少や雇用調整など企業部門のバランスシート調整も始まり、個人消費も減少に転じました。そして、この米国の内需縮小は世界全体に波及しています。』

ということで日本の不良債権問題に重ねています。

『昨年は、「先進国が減速しても、新興国の成長により世界経済は緩やかな景気拡大を続ける」という「ディカップル論」も存在しましたが、実際はそうはなりませんでした。最近の新興諸国の輸出・生産関連の経済指標の急激な悪化をみれば、過去数年間の高成長を支えていたのは、住宅価格上昇を背景にした米国の過剰消費であったことを示唆しています。』

そういわれてしまうと何か身も蓋も無いのですがそうですよね。

『したがって、今回の世界的な経済調整については、循環的な面だけではなく、構造的な面も大きいと認識しなければならないということになると思います。』

つまり回復まで時間が掛かるということですか。ということで、輸出依存の高い日本もこの影響を受けますという話になりますわな。

『また、輸出依存度が高いわが国も、こうしたグローバルな構造調整に巻き込まれざるを得ません。今後、輸出企業中心に供給構造を抜本的に修正する可能性があります。製造業では、能力増強投資の凍結の動きがみえますが、今後、設備投資削減が本格化し、雇用調整も厳しさを増す可能性は否定できません。』

ということで講演の副題にもある雇用面に関する話が幾つか指摘されています。


・雇用や個人消費に関して

さっきの続き。

『今後、設備投資削減が本格化し、雇用調整も厳しさを増す可能性は否定できません。雇用面について言えば、メディアでは、非正規雇用の削減が注目されていますが、最近の雇用関連統計をみると、正社員も、所定外労働時間や賞与が減少しており、雇用者所得は減少に転じています。さらに、今後の雇用調整については、製造業から非製造業へといった面的な広がりのみならず、早期退職者の募集などの踏み込んだ施策の拡大、企業倒産に伴う非自発的な雇用減少という形で深さを伴うことも懸念されます。(途中割愛)家計の消費支出行動をみると、節約志向や生活防衛意識の高まりが読み取れますが、雇用・所得環境の動向次第では、個人消費が一段と弱まるリスクはみておかざるを得ないと思います。』

ということで、その先で鉱工業生産に関して説明している中でもこのような指摘が。

『乗用車販売台数は世界的に冷え込んでおり、輸送機械産業の減産はまだ初期段階に過ぎない可能性もあります。そうなりますと、減産強化にとどまらず、製造業の雇用への悪影響を考える必要が出てきます。雇用面のセーフティー・ネット強化が急務であると、つくづく思われるところです。まさに、輸出の減少を起点とした「生産・所得・支出」の下方スパイラルに入ったと言っても過言ではなく、事態はハードランディングの様相を呈しています。』

>事態はハードランディングの様相を呈しています
>事態はハードランディングの様相を呈しています
>事態はハードランディングの様相を呈しています

また、個人消費の見通しに関しても先行きに厳しい見方を。

『当面は、実質GDP ベースの個人消費は前期比横這いか、マイナスとなっても小幅なもので推移すると見込んでいます。先行きについては、雇用・所得環境がさらに厳しさを増すことが予想される中、個人消費の地合いは引き続き弱まっていく可能性が高いと思われます。仮に、個人消費が腰折れするような展開となれば、先行きの景気はより厳しいものとなってきます。雇用不安を弱める政策対応が待たれる局面といえます。』

ということですが、政治状況がアレでは政策対応は中々厳しいのではないかと(涙)。


・先行きの回復見通しも厳しく

展望レポート中間評価に関して。

『しかし、言うまでもなく、わが国経済の先行きは、海外経済動向や国際金融情勢に大きく依存します。最近の経済指標をみると、欧米主要国のみならず、新興国も急速に悪化していますので、2008 年度と2009 年度の実質GDP 成長率は、大勢見通しよりも厳しい数字になる可能性は排除できません。この間、2010 年度も、大きなスラックが残るという意味で、成長率の数字ほど景気回復は力強くはないとみられます。』

海外が厳しいから中間評価よりダメになるでしょうということですな。で、その海外の見通しですけれども、世界経済に関する説明が色々あるんですけど、結論部分でこのように指摘しています。

『以上、米国経済を中心にお話してきましたが、テーマを世界経済に広げましても、その低迷は少なくとも2009 年前半まで続くと見込まれ、最悪の場合、2010 年まで底打ち感がでない可能性があります。』

ということで見通しは厳しいですねえ。


・リスク要因

で、さっきの続きでして、世界経済としてみた場合のリスクについて。

『この点に関連して、@米国経済の本格回復までには予想以上に時間を要する可能性があること、Aヒト、モノ、カネの往来が縮み出していること、B各国で従来と異なった形ながら保護主義が台頭するリスクがあること、の3 点についてお話したいと思います。』

んでまあその説明をしていますが、これまた全部引用してると大変な事になるので(^^)、端折りまくりで紹介。

『第一の点ですが、仮に、オバマ新政権による大型の財政刺激策の効果によって2010 年から米国経済が一旦回復軌道に乗っても、米国がバランスシート不況から脱却するには時間を要するというリスクです。』

『第二に、ヒト、モノ、カネの往来(行き来)が既に縮みだしている点が気懸かりであるとの見方がありますが、個人的に同感です。(途中割愛)投資銀行によるレバレッジを活用した収益拡大モデルの崩壊、バランスシート制約等を背景とした商業銀行における貸出余力の低下など、主要国の大手金融機関の金融仲介能力の低下は、世界経済の障害になっています。』

で、保護主義の話の前にもう一度この指摘が。

『こうした点を踏まえますと、世界経済が安定成長軌道に復帰するまでの時間が、予想以上に長くなる可能性は否定できません。主要国企業の成長期待は、少なくとも新興国の景気再拡大が始まるまでは低下する可能性があり、設備投資計画の縮小やM&A 活動も低迷するリスクが高い状況です。また、「金融ショック」による資金繰り悪化がその動きに拍車をかける可能性があることも見逃せません。』

そして保護主義云々の点についてはこのような感じ。

『第三に、各国で形を変えた「保護主義」が台頭するリスクがあるということです。米国では、大手金融機関への公的資金注入のみならず、GM 及びその金融子会社GMAC への公的サポートを打ち出しています。』

で途中飛ばしまして。

『こうした政策対応は、もちろん雇用の保護、景気の下支え、金融システムの安定化といった観点から理解できますが、一方で、これらの措置が自国経済・産業の過剰な保護とならないように注意していく必要はあります。』

『仮に、形を変えた「保護主義」的な動きが台頭すれば、各国の利害が一致せず、国際協調体制にほころびが出てしまう可能性がある上、一般に、民間企業の経済活動に対して政府が規制を強め過ぎることはモラルハザードの問題と表裏の関係があります。』

なるほど。

『もちろん、国際会計基準の適用など国際的なルール作りに関しては、話は別です。わが国が影響力を確保できるようにしておかないと、わが国金融セクターの地盤沈下につながるリスクがありますから、「ポスト金融危機」の世界の金融監督体制に関する国際的合意に関する議論には積極的に関与しておく必要があると思います。』

これは全く同意であります。結局日本って海外スタンダードに振り回されっぱなしじゃんと。


○途中をドカンと飛ばして金融政策に関して

『私の金融政策運営に関する基本的な考え方は、中央銀行の経済・物価見通しと整合性のとれる金融政策運営を行うべきである、というものです。』

つまり先行き悪化リスク高いので緩和するということですね。ということでその内容を駆け足で読んでみましょう。

・10月末から企業金融対策をしたかったんですね、わかります(^^)

『日本銀行は、2008 年度に入ってから景気判断を徐々に下方修正してきました。具体的にみると、昨年10 月30 日に公表した「展望レポート」では、「わが国金融経済は、既往のエネルギー・原材料価格高の影響や輸出の頭打ちなどから、停滞色が強まっている」という景気判断としました。その後、金融経済月報の「概要」における景気に関する冒頭表現は、昨年11 月こそ10 月末の「展望レポート」と同じ表現でしたが、個人的には景気の下振れリスクはかなり高いと考えており、本来は財政政策の領域である分野まで踏み込んだ金融政策も選択肢の中に入れておく必要があると考えていました。』

どう見ても執行部批判です本当にありがとうございました(^^)。

『1 月21 日・22 日の金融政策決定会合において、私は、CP 買入れスキームの決定、残存1 年以内の社債の買入れの検討指示、という「異例中の異例」と言われる政策に踏み切る決定に賛成しましたが、そのボトムラインには、以上のような厳しい景気の現状認識及び先行き見通しがあります。』

割愛した途中にあるんですけど、1月の景気に関する表現の「わが国の景気は大幅に悪化している」というのは嘗て使われたことの無い厳しい表現なんですね。


・今後の金融政策のポイント

『こうした見通しに加え、現に足もとの経済指標が急激な悪化をみせていることを踏まえますと、日本銀行としては、(1)コンフィデンスを含めた企業・家計部門の下支え、(2)金融市場における流動性確保、(3)企業金融の逼迫感の緩和など、いわゆる財政政策の領域といわれる分野まで踏み込んだ政策対応の準備が怠れないということを念頭におく必要があります。』

ということでFRB的な面に踏み込むかどうかという話をしていますが、その中での水野さんとしての検討ポイントが3点あるようですな。

『私としましては、政策運営における検討課題として、第1 に適格担保の範囲、第2 に、民間企業債務をどこまで購入するか、第3 に、どのようにしてターム物金利の低下を促すか、といった点を念頭において金融政策決定会合に臨んできました。』

2番がまあ財政政策に係る部分という感じでしょうか。

『この先適格担保の対象をどうするかについては、現時点で特に決めているわけではありません。わが国の金融市場の動向を注視しつつ、都度判断していくということです。』

ということで適格担保については軽くスルーしています。で、2番目の民間企業債務で社債の買入に関してコメントをしています。

『1 月の金融政策決定会合では、景気判断を、「大幅に悪化」に一段と下方修正しました。景気判断を大幅に下方修正したわけですから、私とすればCP に次ぐ買入れ対象として、社債の買切りを検討することに違和感はありませんでした。』

ほほう。

『ただし、社債の買入れに踏み切る場合には、その政策の目的・位置付けを整理し、対外的に丁寧に説明する必要があると思いました。すなわち、個人的には、CP の買入れについては「資金の目詰まり対策」及び「年末・年度末対策」と位置付けてきました。一方、残存期間1 年未満とはいえ、社債を買入れ対象にする場合、(1)先行き企業のキャッシュフローが減少することを先取りした、年度末を越えた金融市場安定化策である、(2)その政策意図は「市場機能が低下している金融商品を買い入れることで、その市場の機能回復を促すこと」である、といった整理ができます。つまり、CP 買入れとは位置付けが異なると考えています。』

この論点は重要なポイントであろうかと。つまりその先にありますが。

『このような整理は、現在のFRB の基本的な考え方と相通じるものがあります。というのも、FRB は機能不全に陥っている様々なクレジット関連市場に介入し、必要に応じて、その金融商品を適格担保や買入れ対象とすることを通じて、自らのバランスシートの一時的拡大を容認し、市場機能の回復を目指す「信用緩和政策」を採用していると考えられるからです。また、クレジット市場の機能回復や金融システムの安定を通じて、景気回復の基盤を整えることを目指しているとも思われます。』

つまり社債の買入って話になると、個別市場に日銀が介入していって流動性を回復させるというステージになる(CPは一応短期の期末対策ということで)ので、またこれは別の論点で考えて当否を考えないといけませんねという話なんでしょう。

で、昨日この関連発言でTB(どうもTDBという略称は帝国データバンクさんを思いだすので暫くTBって言いますね)が買われたのですがターム物金利誘導に関して。

『金融機関は、保有株式の評価損を計上した上に、今後は景気悪化に伴い、貸出金償却・引当が一段と膨らんでいく可能性があることから、自己資本の十分性を気にかけざるを得ません。3 ヶ月以上のユーロ円TIBOR レートが高止まりしている背景には、金融機関がそうしたバランスシート制約に直面するリスクがあると思われます。』

ということで、TIBORのレートって市場要因以外での決定要因がありますねという指摘をしています。その結果どうなるのかと言いますと・・・・

『こうした状況に変化がないならば、仮に、日本銀行がターム物オペを積極的に実施したとしても、3 ヶ月以上のTIBOR レートが大きく低下するかはわかりません。したがって、ターム物金利へ働きかける手法については、民間銀行の資本政策の動きを勘案しながら、具体的な検討を進めていくことが必要だと思います。』

会見でも「技術的にどうしたらよいのか難しい面がある」というような話をしていますけれども、まあTIBORという点で言えば金融機関の融資の状況にも依存するので難しい話だと思います。で、ここの発言に市場が反応してました。

『なお、3 ヶ月物国庫短期証券の毎回の発行額が、昨年12 月までは4.5 兆円でしたが、今年1 月は4.8 兆円、2 月は5.1 兆円へと増額されました。こうした中、入札日に市中消化が円滑にゆかず、荷もたれ感から発行レートが上昇気味となっています。ターム物金利への働き掛けを考える場合には、こうした動きにも目を配っておく必要があります。』

これは細かい目配りですが(^^)、ここのレートが荷もたれして高止まりするとイールドカーブの起点がいつまで経っても下がらないという結果になるので、まあやはりここを見ておかないといかんちゅう点には同意です。TB発行は今後増える一方だと思われますし。ちょっと長期に振りますよってロットでもないですからねえ・・・・


ということで、他にも色々とあるのですが、時間と量の関係でこの辺で勘弁。

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2008/07/28

お題「水野審議委員記者会見:景気に極めて慎重」

http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk0807b.pdf

今回の会見(講演でもそうでしたが)では水野審議委員の「個人的な見解として」というフレーズ付きで景気などに関する慎重な発言が目立ちました。

○下振れリスク重視です

物価の上振れリスクと景気の下振れリスクのどちらを重視するかという質問に対して。先般白川総裁は同じ質問でどちらも重要でイーブンみたいな話をしてましたが・・・・

『先日、内外情勢調査会で総裁にも質問されていた点ですが、どちらを優先すべきかという問題ではなく、どちらも重要であるという話だと思います。ただ、その中で個人的見解としては、民間内需の下振れリスクがエネルギー・原材料価格の高騰によって高まっている局面だと思っています。』

ということで個人的見解としては景気下振れリスクですと。

『物価の上昇については、いわゆる賃金の上昇を伴いながらのスタグフレーションになっていくという1970 年代のような状況にはないと考えます。個人的には、今は景気の下振れの方をやや意識しながら政策運営を行っていくのが適切ではないかなと思っています。それが何対何という話は、私はしませんが、気持ちとしては、民間需要の下振れリスクが現在高まっていて、順番としては、企業部門から家計部門、とりわけ個人消費に下振れ懸念が高まっている状況にあると考えています。』

具体的には物価上昇が2次的効果に入らない状況の下で、物価上振れを懸念するよりは民需下振れリスクを懸念する方が現実的でしょというお話なんでしょうね。


○6月会合の利上げ云々発言は水野さんではないようで

6月の決定会合で成長パスに復帰することがある程度確認できたら利上げパスに戻るべきという発言があったのですが、水野さんの発言かと思って質問したらしくその条件に質問が。

『議事要旨について、誰がどのような発言をしたかというのは、私が答える立場にありませんし、それは皆さんの推測にお任せします。どういう状況になれば実際に政策対応できるか、正直言ってはっきりわかりません。わかりませんというのは3番目の質問とも絡みますけど、日本経済を覆っている外的な要因、「霧」と私は本日挨拶要旨の中で申し上げていますが、この「霧」がさらに深まる可能性も十分ある訳です。』

と、思いっきり成長パスへの復帰に対して懐疑的。具体的には・・・

『例えば、米国経済の減速懸念が金融と経済の負のフィードバックで強まっていく可能性もあります。それから原材料価格も、このところ原油価格が若干落ち着きを取り戻したようにみえていますけれども、これでもうピークアウトしたかと言えば判断が早い訳です。原油価格が上がった後の各種のデータも、見極めるには少なすぎるという状況ですから、どのような状況になったら政策がどうなるかという議論は、まだ仮定の話だからということではなく、あまりにデータが少なすぎるということになると思います。』


○アジア諸国の経済に対する懸念

外需に関してアジア経済をポイントに懸念しています。

『3点目の「霧」についての話を端的に言えば、日本経済が2002年の1月から緩やかながら拡大してきた訳ですが、最大の貢献が輸出、外需であり、輸出に主導された回復であった訳です。その中で経済のグローバル化に上手く乗れた企業が中心になって景気を引っ張ってきた、しかも地域的には中国を含めた東アジア地域向けが中心でありました。最近でこそロシアや中東産油国もありますけれども、アジア諸国がインフレなき物価安定を維持しながら持続的な拡大を続けることが実現できるかが問題となります。』

ということで、講演の中でアジア経済のインフレがどうのこうのという話がありましたが、このアジア経済のインフレというのは物価上振れ懸念というよりは景気下振れ懸念の一環だということですね。

『トラックレコード(過去のデータ)があるとは言い難い諸国でありますから、この点について個人的には特に気にしています。外需が基本的に景気を引っ張っていく構図が崩れてしまうと、日本経済の回復の絵は描きにくいだろうな、というのが私の基本的な景気の見方でありますので、この「霧」ということをどのように日本経済に結びつけるかというのは、まさにその点に尽きると思います。』

ということでこちらでも個人的に気にしていますと。で、別の質疑でもアジア経済に関して特に懸念している旨の発言があります。景気回復パスが展望レポートの平均的な評価よりも後ずれするという話の中で。

『私自身は、本日の講演要旨の中で一つプレイアップして書いたところですが、東アジア経済がインフレを上手く抑制して、ソフトランディングできるかどうかについてはやや懐疑的であるという点です。公式見解では敢えてプレイアップしてないところでありますが、私はそこに非常に注目しています。』

ほうほうなるほど。

『なぜならば、日本経済は輸出主導型の回復をしてきて、これに非常に貢献してきたのが東アジア、中国であり、どうしてもそれらの国の動向に対する懸念がある訳です。日本銀行としてはコンセンサスというよりも、こういうパスを基本的には考えているという言い方をしています。基本的には考えていても、それに対して蓋然性が高いシナリオがメインシナリオであるとすると、サブシナリオをそれぞれのボードメンバーが持っている訳で、私がそれぞれがどうだという立場ではありませんが、個人的には、何が後ずれさせるかと言えば、東アジア経済のインフレ抑制が上手くいかないケースだという説明でよろしいでしょうか。』

講演でありましたように、東アジア経済は原材料価格の上昇はモロに交易条件の悪化になるので、そこにインフレが加わると経済大失速となってしまい、輸出に悪影響となるでしょうという話ですね。繰り返しになりますが、東南アジアのインフレ懸念と水野さんが言う時は、景気に対する懸念と見ればよいのでしょうな。


○景気回復は後ずれの見通しを

景気動向指数の景気基準日付ベースで見ると景気後退局面に入った可能性があるという講演での発言に対して質問がありまして、それに対する水野さんの説明。

『これは、景気基準判定上、判明するのはまだ先の話でありますし、コンポジットインデックスをより重視する政府の姿勢からしますと、景気後退に入るかどうかという判断は、日本銀行が予測を持って表明していく立場にはありませんが、そういうことを言われても仕方がないのかなという話であります。』

『その理由を敢えて言えば、生産が1‐3 月期のマイナスの後、4‐6 月期に続き7‐9 月期も横這いか、若干のマイナスとなる可能性を否定できなくなってきている訳です。そういうことを考えますと、景気後退が認定される可能性はあるのですが、同時に強調していきたいのは、深い景気後退になる、あるいは景気が底割れしていくような状況になるかというと、企業が在庫、設備、雇用の3つの過剰問題を解決した中では、そういう状況は今のところ起き難いのではないかとみています。』

後退の可能性はあるが底割れはしないという見通しではございますが。

『ただ、景気回復のパスに回帰するまでのタイムラグが以前想定していたより、あるいは日本銀行が公式に言っているよりも、後ずれする可能性はあると、意識していかなければならないと個人的には思っております。』

で、別の質問でボードメンバーのコンセンサスよりも弱いのかというのがありましてそれに対して。

『正直言って、ボードメンバー間のコンセンサスは、あるようでないと思います。この前の表現をみますと、「その後次第に緩やかな成長径路に復していく」という表現自体に、多少慎重なトーンが入っています。中間評価レビュー、あるいは金融経済月報等で出しているトーンからしても同じです。未だに景気判断は、若干ですが下方修正を7月もしているということですから、その辺からも既に足許から慎重化している訳で、単純平行移動すれば後ろにずれるということがまず1点目です。』

2点目は先ほど紹介した東アジア経済の懸念です。では具体的な回復への時期に関しての質問ですが。

『私は、2008年度と2009年度の数字が、2008年度よりも2009年度が高いかどうかについては自信がありません。なぜならば、米国の経済、それから東アジア経済、それから米国の不良債権問題であるサブプライム住宅ローンから始まったクレジット市場の問題、この問題すべて、1年前あるいは半年前に、市場あるいは日本銀行が考えたよりも問題はより複雑化してきているからです。原油価格もまだ楽観視できないということになってきますと、私は潜在成長率に戻っていくことに関する自信を若干低下させたとすると、2008年、2009年の成長率が逆転することは十分有り得ると考えているということでお答えしたいと思います。』


○米国経済に関して

講演の方ではご紹介をスルーしちゃいましたので、米国経済に関してコメントしている部分を引用します。

『米国経済の話ですが、ステージが少し変わってきたのだろうと思います。米国の住宅価格が下げ止まってないことを考えれば、問題の本質は不良債権問題だと思っています。不良債権問題ということは、住宅価格が下げ止まっていない、もう少し丁寧に言いますと、大手銀行の問題から、米国の普通の商業銀行、コマーシャルベースの地方銀行のいわゆる典型的な不良債権処理の問題に段々移っていくということです。』

『サブプライム住宅ローンのほか、いわゆる各種の個人向けローンも延滞率が上がってきています。それから、商業用不動産向けの貸出も引当てが必要になることが想像に難くない状況です。それから企業向けの融資についても、景気が悪ければ当然引当てが増えてくる訳ですから、状況としては、大手銀行が、増資をしながら――資本増強もなかなか環境が厳しくなってはいるのですが――不良債権処理を進めてきた状況から、今後は収益力が弱い地方銀行が、未だ住宅価格が下げ止まったというには程遠い状況の中で、不良債権処理を進めるという非常に大変な状況になるだろうと思います。』

住宅バブルの崩壊で商業銀行の不良債権問題となると、日本と同じような話になる訳ですが、その間に資産価格の下落が続くと大変だというのはこれまた日本に実例ありということですね。

『只今の質問については、講演要旨の11 ページ目以降に該当しますが、「米国の投資銀行では対応が進みつつあるが、今後は米国の地銀など商業銀行の経営環境は厳しくなりそうだ」と書かせていただきました。金融システムを揺るがすような個別の金融機関の問題は無くなってくる可能性はありますが、ただ地方銀行の不良債権処理については、先程言いましたように、収益力の観点から言いまして、時間を掛けながら処理をしていくことにならざるを得ないと思います。』

『公的なサポートをするにしても、金融システムを揺るがすようなところに関しては、公的な関与、公的なサポートは出てくると思いますが、それがなかなか期待しにくいところもあると思います。そういう意味では、米国経済が厳しくなるかどうかの問題だけでなく、不良債権問題がいつ終わるのかという話からしますと、日本の経験では、結局1997年、1998年に大手の証券会社の破綻に日本銀行は特融を出した訳ですが、その後、不良債権問題に何年掛かったかということを考えれば、1年、2年で済む訳ではなくて、米国経済が潜在成長率に復するタイミングも、先程の日本経済と同じように、後ずれするリスクの方が高まっているということであります。』

ということで、講演要旨の引用をスルーした分こちらで勘弁ということで。

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2008/07/25

お題「水野審議委員講演、景気にぶっち切りで弱気と」

http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/ko0807b.htm

題名は『複雑化する世界の金融経済情勢とその政策対応』ってことでして、まあ一行で要するにとすれば「政策委員会の平均よりも景気の先行きに弱気ですね」という所なのですが、例によって紙に落とすと13ページとかになりますので、じっくり読むのも吉かと存じます。

○要するに原材料価格上昇の悪影響ですね

冒頭の経済・物価情勢に関する説明ですが、国内の景気動向に関して端的な指摘がございます。

『一言で言えば、エネルギー・原材料価格高が、企業収益、個人消費でダウンサイドに、CPIコアでアップサイドにもたらしたインパクトは、「展望レポート(2008年4月)」をまとめた4月末時点では想定できなかったほど厳しいものになっています。』

で、従来より水野審議委員は原材料価格上昇によるCPI上昇は交易条件の悪化や実質所得の低下を通じて経済に負の影響を与えるという見解ですので、要するに景気には想定以上に悪い影響が来てますというお話ですね。で、この先は色々と水野さんの見たてが続きますが、基本的に経済状況の話が続くせいか、長い割には読みやすいので(^^)、皆様に置かれましても是非。


○短観の分析

短観の業況判断DIそのものにはサプライズは無いですが、他の部分で注目すべき点が3つということで。

『注目点の第一は、価格転嫁の進捗度合い、すなわち、販売価格判断DIの動向でした。企業業績が悪化している主因は、エネルギー・原材料コストの増加を簡単に価格転嫁できないことにあります。しかし、今回の短観をみると、大企業のみならず、中小企業でも製造業で販売価格判断DIの上昇超が明確になっています。販売価格の引き上げの動きが若干とはいえ広がり始めた可能性を示唆しています。ちなみに、こうした動きは、春先以降の消費者物価の前年比上昇率上昇と整合的です。』

ただ価格判断DIが改善したことが企業業績の改善に繋がるかというとそれは微妙ですね(個人消費が底堅くないので価格上昇即売り上げ増にならない)という説明が続くのですが、引用してるとキリがない(水野審議委員講演の仕様です)ので講演要旨読んでくださいね。と手抜き。

『注目点の第二は、エネルギー・原材料価格高騰による業績悪化にもかかわらず、企業が設備投資を増加させるかどうかでした。全規模・全産業のソフトウェアを含み土地投資額を除く2008年度の設備投資計画は前年度比+3.5%と前回調査比+3.9ptの上方修正となりました。中小企業・全産業の修正率も+7.1%と2007年6月調査の同+5.8%と遜色のない上方修正となりました。大企業の設備投資計画をみると、製造業は前年度比+8.0%、非製造業は同+6.2%といずれも昨年度実績(それぞれ同+5.2%、同+1.2%)よりも高い伸びとなっています。』

こちらの数字は先行きがあまり悪化しないという前提になっているのではという指摘と、07年度計画が後寄せになっている部分もあるのではという指摘がございまして、この数値自体は悪くないけど、先行きの下方修正の可能性があるのではという話になっています。

『注目点の第三は、在庫判断DIや設備・雇用判断DIに調整圧力が生じていないかということです。全規模・全産業の在庫判断DIは3月調査に比べ概ね横ばいの結果となったほか、同設備・雇用判断DIも前回調査に比べ幾分不足感が縮小しましたが、水準でみれば過剰感のない状態または不足超で推移しています。ただ、足許の雇用者数の上昇率の鈍化は、労働市場の潮目の変化を示唆している可能性があります。』

これはあたくしが毎回チェックしてました雇用判断DI部分の話が一部重なっていますにゃ(^^)。下向きになってきた感じがするのはどうもあたくしも気になってましたです。


○物価に関して

『国内企業物価が前年同月比+6%を超えるのは時間の問題と見込まれます。』
『コアCPIは、小売段階での値上げの広がりから、秋には同+2.5%程度まで上昇すると私は予想しています。』

ということですが、米国型コアに関しては

『ただ、企業間の価格転嫁の進捗は、財については進んでいますが、企業向けサービス価格をみると、サービスについてはあまり進んでいません。CPIはサービスの占めるウエイトが高いので、賃金上昇率の弱さを考えると、やはり米国型のコアCPIの前年比上昇率の上昇テンポは緩やかにとどまると予想されます。』

として、

『なお、このような物価の上昇によって、個人消費の下振れリスクが懸念されます。実際、4月・5月の個人消費関連指標は、家電販売を除き、弱いものが目立ちます。外食産業売上高や全国百貨店売上高の弱さは、家計の生活防衛意識の高まりを示唆しています。』

と結論付けていますので、やはりまあ先行き警戒ですねという所です。


○米国経済に関してですが

米国経済に関しては、特に現下の金融システム問題に関して詳しく見立てをしていまして、こちらに関しても引用と言いたいのですが、これこそやってるとキリがなくなるので(後日またネタにするかもしれませんが)、結論の所だけ(でも長い)とりあえず。

『こうした背景(引用者追記:金融問題発生の背景)の大半はまだ解消されていないため、金融システムの安定にはまだ時間を要すると思います。また、以下の理由から、「サブプライム問題が最悪期を脱した」と言い切るだけの根拠も乏しいように思われます。』

『第一に、米国の住宅価格は下げ止っておらず、住宅ローンを原資産とする証券化商品市場の動揺が終焉する目処がたっていません。また、サブプライム住宅ローン証券化商品や再証券化商品(ABS CDO)などの発行市場はほぼ停止状態にあります。』

つまり住宅価格が下げ止まらないと話にならんというのは本邦の事例を勘案するとその通りでございますわな。

『第二に、欧米の中央銀行によるかなり踏み込んだ流動性供給策にもかかわらず、インターバンク市場の緊張感は持続しているほか、ABCPの発行残高は減少傾向が持続しています。』

『第三に、欧米大手金融機関ではCDO関連の損失処理は進捗しましたが、レバレッジ・ローンの売却・損失処理は道半ばです。大手格付会社は、欧米投資銀行の信用格付を引き下げています。その背景を窺うと、(1)トップラインの収益見通しの悪化、(2)短期金融市場やレポ市場の流動性低下に脆弱な資金調達構造(注:商業銀行のコア預金のような安定した資金調達手段がない)があります。』

引用しなかった所にあるのですが、OIS-LIBORスプレッドとか見るとよろしアルなのです(まだご紹介してない日銀レビューシリーズに市場データからこの辺りを分析したペーパーがございますのです。近日中にご紹介予定)。

『第四に、米国の投資銀行では対応が進みつつあるが、今後は商業用不動産価格の下落、住宅ローンの焦付きに対応した伝統的な不良債権問題が顕現化し、投資銀行に比べて収益力が劣る米国の地銀など商業銀行の経営環境は厳しくなりそうです。』

商業銀行への波及と。

『第五に、5月ぐらいまでは米国大手金融機関の増資は比較的順調に行われてきましたが、6月以降は増資が消化不良を起こす事例が増えてきました。金融機関は増資の限界を意識せざるをえず、バランスシートの圧縮をさらに進めており、クレジット市場ではデレバレッジの本格化への懸念が強まってきました。』

『第六に、裏付け資産の価格が安定している証券化商品・企業向けローン、レバレッジ・ローンを底値で購入する投資家が出てきましたが、このような distressed assets の買い手は、まだPEファンドやごく一部のソブリン・ウエルス・ファンドに限られ、機関投資家は、GSE債など暗黙の政府保証が期待できる金融商品や裏付け資産が管理しやすいABSのうちAAA格のものを購入する、にとどまっています。』

『最後に、米国大手銀行の融資姿勢の厳しさは、前回の景気後退局面を大きく上回っています。信用収縮がいわゆる「景気と金融の負のフィードバック」を発生させるリスクが高まってきました。すなわち、クレジットの質の劣化が信用収縮圧力を強め、米国の景気回復が遅れるリスクが高まってきました。また、これは、クレジット市場では、CMBSのスプレッド拡大、低調なハイイールド債の新規発行という形で顕在化してきました。住宅価格の下落テンポの大きさという点では、イギリスも米国と遜色がないため、金融市場の一部では、イギリスの金融システム不安を安定化させるため、最終的に何らかの公的関与が必要であるとの見方も出てきました。』

問題の長期化によって参加者の体力が全般的に低下し、実体経済への波及も思いっきり懸念されるというところですか、まーあとはこの問題解決へのスピード感でして、スピードが遅いと延々と塹壕戦が続いて皆疲弊みたいになって悲惨なことになりかねませんね。


○インフレ圧力に関して

今回の資源、エネルギー、穀物価格上昇の背景に関しての水野さんの見立てですが。

『今回の資源・エネルギー、穀物価格の高騰の背景としては、年金マネーの流入や投機的な動きといった「金融要因」、あるいは、原油の採掘・精製能力増強に向けた投資不足など「供給制約の要因」、そして「地政学的な要因」もあると思いますが、個人的には、その主因は、好調な新興成長国の経済という「需要サイドの要因」とみています。中国やインドなどエネルギーを大量かつ非効率に消費する経済の台頭、米国の金融緩和効果の新興成長国への波及などを背景とした実需の強さは、資源・穀物インフレのボトムラインにあります。資源・穀物価格の高騰は、「バブル説」や「投機説」だけで説明するには無理があると思います。』

その理由。

『新興成長国の景気は減速し、需給ギャップは縮小するものの、インフレ圧力が
抑制されるほどの減速ではないため、資源・穀物の需要はなかなか減退しそうにないこと。』
『コモディティー価格が上昇しても、全体的に在庫水準は非常に低いこと。』
『価値保存手段には適していない農産物価格も上昇していること。』
『先物市場がなく金融取引の影響を受けない鉄鉱石の価格も上昇していること。』

ほうほうなるほど。で、その後に『一部新興成長国のインフレ圧力上昇の背景には、FRBによる積極的な金融緩和策が影響していると思います』という指摘があってその後の説明も興味深いのですがこれまた端折りまして結論部分にワープ。

『私個人としては、世界経済を安定させるには、原油価格の安定が不可欠と判断しており、(1)石油消費国における戦略的原油備蓄の一部取り崩し、(2)増産に前向きな産油国の姿勢、(3)年金マネーによるコモディティー投資の縮小、など複合的な取り組みが重要です。言い換えると、金融政策だけで世界的なインフレ圧力を抑制しようとしても限界があると判断しています。』

どうもそんな感じなんでしょうかね。


○金融政策に関してはまあどうみても現状維持

これは折にふれて日銀から言われています(先般の白川総裁会見でもありました)話ですが改めて引用しておきますね。

『一般論として、エネルギー・原材料価格の高騰という「相対価格の変化」による物価上昇圧力は、金融政策で止めることはできません。一方、エネルギー・原材料価格の高騰が、企業や家計のインフレ予想を押し上げることによって賃金・物価がさらに上昇する二次的効果(second-round effect)が発生した場合、金融引き締めによって歯止めをかける必要があります。現在のわが国をみると、賃金の伸び率は前年比+1%前後と落ち着いており、二次的効果が発生しているわけではありません。』

それどころか雇用関連が少々怪しくなってますから。まあさすがに昨今の日銀による情報発信によってCPI数値が上昇するから即利上げというような事を想定する人はかなり駆逐されたと思いますが。で、先行きに関して引き続き実質購買力の低下による家計部門の動向を懸念すると共に、こんな指摘をしています。

『金融市場では、もっぱら国際金融資本市場の動向や米国経済の先行きに焦点が当たっていますが、個人的には、むしろ新興成長国の景気・物価の先行きを懸念しています。すなわち、(1)新興成長国が適切なマクロ経済政策運営によってインフレ圧力を抑制できるか、あるいは、(2)金融引き締めが不十分なまま、インフレ率の上昇に伴う実質所得の下押しが新興国の減速を想定以上のものとし、その結果、今年度下期〜来年度にかけてわが国の輸出を想定以上に減速させるのか、という点です。仮に、東アジアを中心とした新興成長国の景気が失速した場合、わが国の景気見通しを下方修正する必要が出てきます。』

と思ったら昨日出てた輸出関連の経済指標が宜しくなかった筈。しかも東南アジア向け。

『わが国経済は資源国への所得移転、すなわち、交易条件の悪化によって企業収益と家計の実質購買力が抑制され、民間内需の下振れ懸念が強まっています。一方、東アジア諸国の大半も資源輸入国であるため、景気減速感がみえます。東アジア諸国では、インフレ加速が大きな社会問題となっており、成長をある程度犠牲にしてもインフレ圧力を抑制する金融政策運営を迫られる国が増えてきます。仮に、新興成長国の景気減速を受けて、資源・穀物価格の急騰に歯止めがかかるならば、わが国の民間内需の下振れリスクは若干後退しますが、東アジア諸国及び中東産油国向け輸出が減速に転じる公算が高いため、やはり注意深くみていく必要があると思います。』

で、日本経済の「霧」は晴れませんねという話になります。

『わが国経済を覆う「霧」という意味では、(1)「サブプライム問題」に端を発した欧米クレジット市場や株式市場の混乱、(2)エネルギー・原材料価格高を背景とした民間内需の下振れ圧力、という従来から日本銀行が指摘してきたものに加え、個人的には、(3)東アジアの新興成長国におけるインフレ圧力の高まり、という「新たな霧」も発生していると判断しています。』

『このように、わが国経済を覆う霧は当面晴れそうにありません。現在は、物価の安定を通じて持続的な成長に貢献するという金融政策の目的を達成する上で、金融政策決定会合で「現状維持」を決定することに積極的な意味があると思います。』

何故積極的な意味があるかというと、金融環境そのものは緩和的であるので、緩和的な金融環境が景気に対しては支え(というか押し上げというか)の効果がありまっせということなのでしょうね。

『日本銀行は昨年3月以来の当面の金融市場調節方針として、「現状維持」を続けていますが、金融環境は総じて緩和的であるとの判断は変えていません。(中間割愛)わが国経済の潜在成長率の水準を考えると、いつまでも0.5%という政策金利を継続することの副作用についても、常に念頭におきながら、適切な金融政策運営を毎回毎回の金融政策決定会合で議論していると理解していただけると幸いです。』

ということで、今の金融環境は緩和的という説明が最後にちょっと入るのですが、記者会見のヘッドライン見た感じでもまあ景気に関する下振れ警戒感は相当なものですので、利上げどころの騒ぎではないですな。

#だいぶ端折ったのですが、それでもテキストで13kbもあるがな・・・・

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2008/03/05

お題「逆流に付き水野審議委員の講演」

お天気も逆流ですな。

http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/ko0802d.htm

前半が景気認識および金融政策の話で、後半に金融立国実現に関するお話をしておりますが、まあ前半に関しまして。

○総じて景気に関しては慎重ですが

昨日ご紹介した記者会見でもそうでしたが、講演(挨拶)要旨に示されている景気認識はかなり慎重な見方です。ただまあ後退までは見ていませんとはなってますけど、トーンとしてはかなり警戒感の強い内容となっています。

一方で金融政策に関してはこれまた昨日ご紹介した記者会見にありましたように、現状の政策金利水準は景気先行きの見方をより下方修正しない限りは緩和的であるという認識、中長期金利は低下しているという現状もあるので、現時点での利下げには慎重(ただし景気の先行きに関する見方が変れば別)という所のようですな。


○下振れリスクに言及

講演の最初の部分がいきなり下振れリスクに言及となっています。

『一方、2008年度については、定率減税の廃止、改正建築基準法の影響等による住宅投資の大幅減少の反動など、「内憂」部分は剥げ落ちるため、国内要因に注目すると、2007年度を上回る成長率となることが自然と考えられます。しかし、その一方で、「サブプライム住宅ローン問題」に端を発した国際金融資本市場の混乱、世界経済の減速、エネルギー・原材料価格高によるマイナスの影響など、「外患」による景気下振れリスクはむしろ高まると見込まれます。』

ということで、

『したがって、下振れリスクに鑑みれば、わが国経済は2007年度、2008年度と2年にわたって潜在成長率を下回る可能性を否定できないと考えます。』

来年度も潜在成長率下回る可能性来ましたな。

『昨年10〜12月期の実質GDPは、前年同期比1%台後半といわれる潜在成長率を前期比年率ベース、原系列の前年同期比ベースのいずれにおいてもクリアしました。7月以降の定率減税の廃止、改正建築基準法による住宅投資の大幅な減少、あるいは、消費者マインドの悪化をよそに、少なくとも昨年末まで実体経済が底堅く推移したことが一応明らかになりました。』

と、昨年4QGDPを評価しつつも、

『もっとも、1〜3月期実質成長率は、(イ)外需の景気牽引力が弱まる公算、(ロ)所得の伸びが極めて鈍いなかでの生活必需品インフレを受けての個人消費失速リスク、(ハ)建築基準法改正に伴う住宅投資への悪影響は薄らぐとみられる一方、マンション販売低迷など住宅需要の低迷の負の影響がより明確となる可能性など、景気の下振れリスクは少なくありません。』

ということで、のっけから下振れに言及してまして慎重ですなあという感じを受けるのでありますな。


○今後のポイント

で、その次には「とは言え循環メカニズムはまだ崩れていません」という話になっているのですが、そこは端折りまして今後の点検ポイントについて説明があるのでそちらを引用。

『今後、点検していくべきポイントとして、(イ)各種制度変更や原材料価格の上昇が企業部門、とりわけ収益、設備投資動向にどのような影響を与えるか、(ロ)今年前半の米国の実質GDP成長率が限りなくゼロ近傍で推移する可能性も指摘されるなかにあって、生産が当面横ばいで推移した場合、輸出を起点とする「前向きの循環メカニズム」に変調が起きないか、を意識しています。』

ということのようです。輸出に関しては米国がこけても新興国で伸びているという状況も指摘しているということも(引用しませんが)付け加えさせていただきます。

でまあ海外経済見通しに関しても詳しく説明しているのですが、これまた引用しているとキリがないので勝手に端折りますと米国に関してはかなり弱めの見方、アジアは堅調で欧州は減速という感じのようですが、こちらに関しての今後のポイントは以下の通りです。

『金融市場では「米国の景気下振れリスクが高まる中、諸外国の景気に悪影響が出ないわけがない」という見方が有力となっています。識者によって「カップリング」「ディカップリング」の定義が不明確なので、その表現は使いませんが、世界最大の米国経済の減速は、相応に各国経済に影響を与えることは自然です。また、「米国が景気後退に陥るかどうか」を議論するよりも、「米国の景気回復がいつになるか」を議論することの方が建設的だと思います。』

なるほど。

『最後に、2009年にかけての世界の経済金融情勢をみるうえでの注目点ですが、世界の主要国の金融政策運営を挙げたいと思います。』

『金融市場では、米国の景気失速がグローバルな景気減速につながるというシナリオを想定する市場参加者が多いため、金融緩和の遅れについて神経質になりがちです。しかし、主要国の中央銀行は、景気減速と物価上昇の並存するジレンマに直面しており、困難な金融政策運営を迫られています。』

ということで、こちらは価格上昇下での景気減速に対してどうなるのかという点について説明しています。

『米国の1月の消費者物価は総合が前年同月比+4.3%、コア部分が同+2.5%、ユーロ圏の1月のHICPは同+3.2%、日本の昨年12月のコア消費者物価(全国)は同+0.8%、中国の1月の消費者物価は同+7.1%となっています。当面ヘッドラインのインフレ率はさらに上昇しそうです。景気減速感が強まれば、インフレ圧力は徐々に沈静化するものですが、足もとの国際商品市況の高騰ぶりをみると、現時点ではそのような見方は楽観的に思えます。』

『実際、オーストラリア準備銀行(RBA)、中国人民銀行(PBOC)など金融引締めに踏み切った中央銀行も複数あります。そのため、(イ)足許でインフレ圧力が高まっていることを理解しつつ、経済のダウンサイド・リスクの増大への対応から金融緩和を継続中のFRB、(ロ)賃金インフレ圧力の根強さを懸念するECB、(ハ)食料品・不動産価格上昇に直面し利上げを行っているPBOC等、と各国中央銀行が自国の経済情勢を踏まえながらインフレ圧力をうまく抑制できるのか、または金融緩和が行き過ぎてしまわないかが注目点です。』

この部分に関しては日本の場合は物価が上昇しにくい状況が続いているので困難さは無いですねという所ですか。


○物価に関して

物価に関しては以前から水野審議委員はここもとの資源原材料価格の上昇から来る物価上昇については交易条件の悪化や個人消費への下押し圧力になるので警戒する必要があるというスタンスで話をしていましたが、今回もまあそういうお話になっています。

『こうした前提理解の下で、(イ)家計の物価に対する見方がインフレ方向に変化し、川上から川下へと企業の価格転嫁が進むのであれば、原材料高は物価を押し上げる可能性があり、(ロ)そうでなければ、原材料高は、企業収益の圧迫等を通じて経済活動に対する下押し要因となり、それは物価を押し下げる可能性があると考えられます。』

『このどちらの動きが優勢になるかについては、原材料価格の上昇の持続性や、需給ギャップの度合いと期待インフレ率の変化、企業の価格設定スタンス等にかかってくると思います。こうした点については、日銀の「生活意識に関するアンケート調査」などのサーベイ、企業ヒアリング等も参考にしつつ、もう暫く物価指標をしっかりと分析する必要があると思います。』

『私は、金融政策決定会合において物価情勢を考えるに当たり、表面上の消費者物価指数の動きをみて判断を行っている訳ではなく、各種物価指標の動きはもとより、その背後にある実体経済の動向を分析し、総合的に判断を行っています。今後も、このような姿勢で物価指標を丹念に点検したいと思います。』

ということで、さすがに最近金融市場ではCPIが上昇したからと言って利上げ期待(懸念)が盛り上がるという動きは1ミリも存在しないのでありますが、どうも今までの福井総裁あたりの利上げというか正常化への言及が効いてまして、相変わらずCPIが上昇してきたから日銀は利上げをするのではないか的な指摘が金融市場の外からは聞こえて来るのは遺憾千万でございまするわなという感じです。


○利下げに関して

本当はもっと詳しく説明してまして色々と読んだ方が吉だと思うのですけれども、またまた端折りまして利下げに関しての説明部分から。

『また、わが国に目を転じてみると、金融市場の一部に利下げ期待がありますが、イールド・カーブ全体に金利が低下気味であると同時に、金融機関の貸出態度が緩いことを考えると、金融環境は十分緩和的です。過去10年以上にわたり、超低金利政策を続けてきたこともあり、わが国経済は金利感応度が低い経済体質になっており、利下げをしても追加的な景気下支え効果は不確実だと思います。現在のような緩和的な金融環境が続く中にあって仮に利下げを議論するならば、その副作用についても十分検討する必要があります。』

『なお、達観してみれば、2001年3月に量的緩和政策に踏み切った際には、金融システム不安やデフレ・スパイラルに陥るリスクがあったわけです。それを考えると、現在のマクロ経済環境は当時とは大きく異なります。』

ということで現状の利下げについては否定的ですが、

『私は、現時点で、「生産・所得・支出の前向きの循環メカニズム」「好調な企業部門から家計部門への波及のメカニズム」が基本的に維持されていると考えています。しかし、同時に、先行きの経済金融情勢を楽観視しているわけでもありません。今回の景気回復局面は、輸出を起点とする外需主導の景気回復であるだけに、米国経済の下振れリスクの高まり、長期化の様相をみせる「サブプライム住宅ローン問題」、国内のソフトデータの悪化等を踏まえると、ダウンサイド・リスクは高まっていると認識しています。』

先行きに対する警戒感は強いので、その先行き認識に変更があった場合は利下げの線もありということなんでしょうな。


#うーむ、相当端折ってしまいました

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2008/03/04

お題「ネタ逆流につき水野審議委員の会見から」

更新サボっておりました分が逆流していますが、それは水野審議委員の講演の分量が相変わらず多いから面倒なので後回しにしているだけではないかというツッコミはご勘弁賜りたく存じます(^^)。

http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk0802e.pdf

会見があっさり目で講演の内容が多いのですが、本日は会見でお茶を濁させていただきとう存じます(汗)。講演は明日参りますけど、景気に対しては下振れリスクをかなり意識した内容になってますわなというのを前提にしまして。

○循環メカニズムが機能しているのかという話

『二つ目のご質問で、「生産・所得・支出の循環メカニズム」については、基本的に世界経済との接点である輸出を起点として企業部門が成長を続け、その果実が緩やかに家計部門に波及していくと考えています。』

ということですが・・・・

『「企業部門の果実が『緩やかに』家計部門に波及する」としているのは、企業部門が激しいグローバル競争に直面している下で、このところ原材料価格の高騰により、引き続き企業の賃金抑制姿勢が強いためであります。すなわち、一人当りの名目賃金は、企業規模にかかわらずなかなか上昇しないということを前提にしているということです。』

『こうした中で、家計部門には、雇用の増加・安定――非正規雇用者の正社員化を含む――や、財産所得の増加等を通じて、企業部門の果実が波及していると考えています。以上のような景気拡大を支えるメカニズムは、現時点でも機能していると認識しています。』

としていますが、最後には

『ただし、わが国経済は、足もとダウンサイド・リスクが高まっていますので、今後公表される指標や情報、内外の金融市場の状況等を丹念に点検し、景気を支えるメカニズムがしっかりと今後も機能するかどうかを見極めていきたいと考えております。』

としています。つまりメカニズムの最初の部分にあります起点の輸出も米国経済の後退懸念がある中で少々怪しくなっているので、この輸出の部分を見極めないといけないって話なのかと勝手に解釈したのでありますがどうでしょう。

あたくし個人としては景気に関してそんなに弱気じゃなくて、底抜けするような状況じゃなくて何となくダラダラと横ばいが続くだけじゃネーノとか思ってるので、結果として様子見というまま金利が上がらず下がらずになるのかなあとは思っている(べき論としては利下げと減税のセットで景気吹かしてくれればとは思うのですが、利下げしてる側から増税してきそうな勢いの昨今の状況だとねえという思いもございまして・・・・)のでありますが、その辺に関しては今後の経済指標を見ていくしかないということなんでしょうか。

というあたくしの根拠レスなドタ勘はどうでも良いのですが、まあ水野審議委員の会見のこの部分を見ますと、とりあえずは様子見して米国経済がこけた後のトータルの輸出がどうなるのかという点と、雇用関連や個人所得関連(こっちはそんなに悪化していない希ガス)を見ていきましょうという所かと存じます。


○景気の現状認識に関して

景気の「踊り場」がいつ脱却できるのかという質問に対して。

『「踊り場」というのは、景気のベクトルでいうと横ばいを続けながら、2月の月報の「なお書き」に織り込んだように、世界経済の動向、特に米国を中心とした世界経済の動向、あるいは原材料価格高騰の影響、それから金融資本市場の動向などによって、景気の先行きの不確実性が平素に比べて非常に高まっているという状況にあるということです。』

『そういう意味では、今は時期について予断を持てる状況ではありませんので、時期がいつかということよりも、不確実性によって景気判断が上にも下にも、アップサイドにもダウンサイドにも変わり得るという意味で「踊り場」ということです。』

と、時期に関してはどうにも予断もてませんというのは当然のお答えかと存じますが、その続きで利上げ提案を取りやめた背景とその景気認識に関して説明しています。

『昨年12 月の金融政策決定会合において、私は日本経済が「内憂外患」に直面しているという判断で、利上げ提案を取りやめ現状維持に賛成に回りました。「内憂」の面では、例えば、定率減税の廃止の影響あるいは改正建築基準法、その他の制度変更の影響については、多少減衰していくと思われますが、「外患」の面では、海外の不透明要因、例えば、アメリカ経済の回復時期が遅れる可能性について本日指摘させていただいた次第です。』

『これに加えて、メカニズムに影響を与えるものとして、ここに来てますます予断を許さなくなってきたことは、素原材料価格の上昇、エネルギー・原材料価格の上昇であります。この点については、非常に注意深くみなければならないということです。』

『さらに、サブプライム住宅ローン問題については、まだアメリカの住宅市況の底入れに目処が立っていないということと、それがアメリカ以外の国の経済金融情勢に与える影響がまだ完全に出きっていない、感じがしています。』

ということでかなり海外(というか米国)に関してかなり慎重な見方をしているのと、原材料価格上昇による交易条件の悪化に着目しているということでございます。となりますと、先ほどの循環メカニズムに関する話の起点部分に関わってくるところでありますので、総合すると先行きに関して特に海外部門に関して慎重という話になるかと思います。

『まだ完全に情報が集まっていない状況にありますので、時期的なことについて明確なことは言えませんが、悪化していく蓋然性が非常に高まったかどうかというと、私はそこまで悲観的にみてはいません。「基本的には前向きなメカニズム自体は維持されている」という点は、他のボードメンバーとシェアしているところであります。』

底抜けはしないでしょうという事ですかな。


○利下げに関しては慎重ですが・・・・

利下げに関してどうなのかという質問が2つ続いてまして、それに対して。

『今のわが国の金融環境は、基本的に極めて緩和的にあると思っています。そのような状況の下で利下げを議論するということであれば、私は金融環境は十分緩和的だと思っていますので、その効果よりも副作用について、平素に比べて非常に慎重にならなければいけないと思います。』

ということで、現状が緩和的であるので、敢えて利下げをする必要は無いというのが基本的な考えのようですな。

『当然、今申し上げたことの大前提である景気の認識が変わる、あるいは金融環境が緩和的であるという私の認識が変わる時は、その効果と副作用の判断も変わってきますので、金融政策がどうあるべきかという結論も変わってきます。ただ、現時点においては、私は利下げに慎重であります。』

『利下げについての効果を議論するときには、効果と同時に副作用についてより強く意識しており、緩和的な金融環境にあっては長い目でみた金利の正常化は必要だと思っています。今は景気が「踊り場」にあるので、あえて「現状維持」を選択することに意味があると考えています。』

ということで、基本的には中立的な金利水準に向けての利上げ路線というのはあるけれども、景気がどっちにいくか微妙な時期なので今は動かないのが得策という結論になっています。で、次の質問に対してですが。

『副作用についてですが、今は金融環境が緩和的であり、低金利政策を続けることの効果は十分出ていると思っています。景気が中期的に拡大を続けていくという見通しの中で、大きな意味では金融政策は金利を緩やかに引き上げていくという方針を掲げているわけですから、その中でさらに金利を下げるということは、その方針から外れてしまいます。』

『元に復するまでの時間的な問題──金融政策の効果というのはラグがありますから──を考えると、景気の先行きの不透明感が多少強まったからといって、すぐに利下げの議論をするのはどうかという一般論の話です。』

てなことですので、景気に対する認識が下向きベクトル(というか底抜けですわな)と言う話になってくれば利下げも検討という話にはなるんでしょう。ただ現状ではまだどっちとも判らん状態ということのようで。


○利下げの効果について

同じ質疑の続き部分ですが。

『利下げの効果についてですが、日本経済自体が低金利の状況が長く続いたこともあって、金利に関する感応度が非常に弱くなっています。例えば、金利を下げても上げても、物価の認識という意味では、低インフレが続く可能性が高いわけです。景気が回復するとしても息は長いかもしれないが緩やかな回復であるという認識、あるいはこの認識、期待が市場で強いという状況に立つと、今の時点では利下げの効果は、必ずしも大きくないのではないかと推測されます。』

ほほー。

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2008/01/29

○水野審議委員のロイターインタビュー

えーっと例によって長いんですが、要するに景気の見方を慎重化させていますが、景気がまた戻ったら金利正常化路線に戻りますよってえお話でございますってのは要約し過ぎにも程があります。

http://jp.reuters.com/article/businessNews/idJPJAPAN-29981920080125

ポイント多すぎでございますが、何気に12月決定会合の議論とも被る部分がありますので、利下げに関しての質疑が最後にあったところのみ引用しておきます。

── 株式市場や金融市場のボラティリティが高いことに政策運営上細心の注意を払うべきと言われたが、そういうことに対応して利下げを検討することはないか。

「株が下がったとか、為替が上がった、下がったということよりも、それが実体経済にどういう影響を与えて、日本銀行が想定していたメカニズムや景気見通しを大幅に変えないといけないことかどうかがまず大前提となる。だから日々の動きにはコメントしない、あるいは一喜一憂しないということはそういうことを言っている」

「当然株価の水準がこれだけ下がって、しかも今後も ── この2─3日多少反発しているが ── こういう状況が続くのであれば、3月に短観が出てくるが企業マインドがかなり暗くなることも予想される。既に消費者マインドは最近、かなり悪くなっているとの結果が各種サーベイに出ている。こういうところが今後ハードデータにつながってくるはずだ。株価あるいは為替が何を示唆しているのか、われわれが正しくて、マーケットが単なる一時的な要因で動いているのか、それともマーケットがかなり強いメッセージを出しているのに、われわれがボーとしているだけなのか、そこはすごく重要なポイントだ」

「ただ、年が明けてまだ3週間しかたっていない。今回の問題は日本発の問題ではない、ここに非常に複雑さがある。FRBは思い切った金融緩和をしたが、サブプライムの問題はアメリカ発であって、その震源地である中央銀行として思い切った措置をして、ブッシュ政権も財政対策を出そうとしている。日本についていえば、景気は少なくとも踊り場的な状況に止まっており、景気が減速しているが景気が後退に入っていくという判断までは行っていない。その中で株価がそれを示唆しているのだという議論は可能だろうが、それだけで政策変更 ── たかだか50ベーシスしかない金利の中で ── 相当慎重に議論しないといけないと思う」

(以上上記URL記事より引用)

前半の2文に関してはおっしゃるとおりかと存じます次第です。というか水野さんは金融市場発の動きが実体経済に下押し圧力を掛ける面について結構心配してるちゅうことですな。最後の部分に関しては議論分かれるところでしょうな。

あたしゃこの際国際協調して財政と金融出して景気浮揚させるのどうよとか思うのですけれども、まあ日本がヒーヒー言ってるときにアメリカ様は何をして下さったんでしょうかとか忌まわしい過去を思い出すと、こっちが焼け野原にならなきゃ良いやとか(それが少々危ないの巻なので困るのですが)いう心境もあったり無かったり(闇)。

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2007/12/10

○すっかり遅くなりましたが水野審議委員講演

11月7日に行われた講演なんで今更にも程がありますが。

http;//www.boj.or.jp/press/koen07/ko0711d.htm

例によってやたら長い(紙に打ち出すと15ページ)のですが、中心のテーマはサブプライム問題。で、そちらに関しては突っ込みを入れるよりも「まあ読め」という感じでして、よくまとまってるんじゃないでしょうか。ということで別の部分から少々。

・消費者物価上昇に関して

『1.経済・物価情勢の現状判断と見通し』の消費者物価指数の部分から。

『「展望レポート」では、物価の見通しについて、(1)マクロ的な需給ギャップの引き締まり、(2)賃金上昇圧力の高まりに伴うユニット・レーバー・コストの下げ止まり、(3)国民のインフレ期待の上昇、を背景に緩やかに上昇していくとのロジックを展開しています。』

そうでございますな。

『もっとも、この論理展開はまだハード・データで十分に確認できていません。すなわち、個人消費に力強さがなく、改正建築基準法施行等により住宅投資が下振れしている中、今年度は実質2%成長に到達するか微妙です。需給ギャップが需要超過方向で推移するにしても極めて限界的なものと思われます。また、国民が感じているインフレ感は、石油製品や食料品の価格の上昇を映じたものとみられます。』

『また、物価に関しては、(1)このところの素原材料価格の上昇にもかかわらず、個人消費の回復力に力強さがないため、仕入れ価格上昇を販売価格に転嫁できず、中小企業を中心に収益を圧迫し、賃金が弱めの動きとなっていること、(2)国民が物価上昇を肌で感じ始めており、生活実感と消費者物価統計とのずれが拡大していること、(3)全国にチェーン展開する小売業種では地域別価格制度を導入し始めていること、といった論点も存在します。』

前半の部分と論点の(1)のあたりを併せて読みますと、家計の所得が伸びない中での消費者物価上昇は実質所得の低下につながり、景気押し下げ要因になるのではないかという論点が浮かんでくるように見えます。物価上昇即利上げという理屈ではないということでしょうな。というか水野さんはこの実質所得低下を気にしてますねという風に読めます。

(2)の論点をそのまま読むと統計に対する文句にも見えますが、そこまでの話の展開から行きますと、「生活関連商品の物価上昇が実質所得低下のマインドを発生させて個人消費に悪影響を与えるのではないか」と指摘しているように見えます。


・金融政策に関して糊代論の香りが

サブプライム関連の話をしている中での『資産価格変動に対する中央銀行の役割』という部分から。

『資産バブルについての対応は、(1)資産バブル発生の予防を意識した金融政策運営が望ましい、(2)資産バブルの発生は容易に発見できないため、資産バブル崩壊後に景気下振れや金融システム不安を回避するため、思い切った金融緩和措置を採用することが望ましい、という2つの考え方に大別されます。このどちらの対応が適切であるかは、ケース・バイ・ケースだと思います。ただ、金利が低く、低下余地が十分確保されていない国では、(2)のような対応を採用しにくいため、資産バブル発生の予防を意識した金融政策運営が望ましいと思います。』

何か糊代論の香りが致しますが・・・・・


・最後に中々良いお話をしておりますな

一番最後の所は大変に宜しいお話をしているような気がするんですが。ちなみにこの講演は企業年金連絡協議会で行われていますです。

『最後になりますが、私は、わが国の金融サービス業が米英に劣後しているひとつの理由は、リスク・マネー(長期的な視点からリスクをとって高いリターンを目指す資金)がまだ十分に育っていないためだと思っています。欧米では最近、「ファンド資本主義」と言われるように、プライベート・エクイティー・ファンド、事業再生・不動産ファンドなど巨大な投資ファンドがリスクを引き受ける主体になっています。年金運用には様々な制約条件があるのは承知しているつもりです。ただ、個人的には、わが国の企業年金を運用する皆様が、スマートなリスク・マネーの提供者、すなわち、プロの投資家として、グローバルな金融市場において脚光を浴びることを期待して、本日の講演を終わりたいと思います。』

つまりですな、企業年金という本来長期的な視点から運用を行うべき主体がやれ四半期決算だ何だと短期的な視点で動いているのは如何なものかと水野さんは仰せであると理解致しましたのですけれども。というか『わが国の企業年金を運用する皆様が、スマートなリスク・マネーの提供者、すなわち、プロの投資家として』って結構厳しいご指摘に見えるのはあたくしの気のせいですかそうですか(^^)。

なお、サブプライム関連の背景説明とか影響の説明とかの部分は勉強になりますのでご一読されるのが吉かと存じます。

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2007/09/03

さて本題。
http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk0708b.pdf

やたらと利上げ正当化理論が多い会見要旨でした。で、水野審議委員会見の仕様と致しまして、質疑応答のうち答えがやたら長いと来ておりますので、引用するのも中々難しいので、会見要旨も併せてご覧になられると吉かと存じますです。

○円安バブルですかそうですか

今後のマーケット動向をどうみるかという質問に対しての答からサブプライム問題に関する部分を引用(要旨3ページ目)。

『ただ、今回のサブプライム問題をどう捉えるかということになりますと、いわゆるサブプライム問題という言葉が最早適切ではなく、「クレジットバブル」、あるいは「円安バブル」という言葉が当てはまるかもしれませんが、金融市場全体に疑心暗鬼が広がって、その結果、サブプライム問題に端を発したと言いながら、非常に広がりをみせていることは確かです。そういう意味では、今回の問題が、日本経済に与える影響がないとは言いませんが、直接的な影響がないということはその通りであると思います。』

『株価の安定、為替の安定が早く訪れることを望んでおりますが、多少の振れがあったとしても、ファンダメンタルズがしっかりしていれば、日本の株価の下げ幅が欧米よりも大きいという状態がいつまでも続く訳ではないと考えております。また、円ドル相場の評価についても、日本の金利が諸外国より低いということを前提に、いわゆる円キャリートレードなども起きていた訳ですから、いずれは、マーケットも落ち着きを取り戻すと思います。』

円キャリートレードに円安バブルでございますかという所でありますが、こんな感じで水野審議委員の会見要旨はこの先でも利上げロジック満載なのであります。

しかしまあ何と申しますか、先々週の福井総裁の記者会見では要旨を見るとトーンダウンに見えるのに報道ベース(ヘッドラインとか他市場での言われようとか)では強気の会見になっていて、今般の水野審議委員の講演は要旨を見ると利上げロジック満艦飾だというのに報道ベースでは弱気になるとはテラワロスであります。


○サブプライム問題の影響について

ちょっと面白い質問があって、それに対する答えから(要旨4ページ目)。

『サブプライム問題は、日本銀行の金融政策の判断、そして私の判断を縛るものではないというのが基本的な考え方です。(中間割愛)9 月の金融政策決定会合については、今のところ白紙であるとしか言いようがありません。ただ、今の時点では、本日の挨拶要旨にもある通り、サブプライム問題が日本経済のファンダメンタルズを揺るがすような問題に発展する可能性は小さいと考えております。』

他の部分でも同様に言及しておりますが、ここでありますように、水野審議委員としては現在のサブプライム関連問題に関して日本経済への影響は小さく、従って9月会合でも利上げ提案する勢いだということになるんでしょう。


○FRBが景気悪化を理由に利下げをした場合云々

会見要旨の6ページ目になります。とにかく水野さんの話は長い上に途中で切りにくい流れなので引用するの難しいのよ。

『FRBについては、流動性の確保という観点から「公定歩合」を下げ、金融機関に対し資金繰り面での支援をしております。ただ、米国経済のファンダメンタルズについては、今のところ、景気の下振れとインフレ・リスクの上振れ、両サイドのリスクがあるという判断を彼らは示しています。そういうことから考えますと、金融政策の面でマーケットが思っているほど直ちに動くかどうか、私には分かりません。FRBがどういう判断を9 月にするかについては分かりませんが、その背景やその時点の状況を踏まえてからでなければ、われわれの行動について議論し得ないと思います。背景によっては、私の考え方も変わってくると思います。』

ということでして、まあ講演要旨と同じではありますが、改めて強調しているのでありますわな。

『仮に利下げが実施された際は、その背景がより重要であるということです。それを見ないうちに、FRBがこういう政策を採ったから日本銀行はこうである、例えばFRBが利下げをしたから日本銀行は利上げをできないという見方に対しては、必ずしもそれほど単純なものではないということを述べたかったということです。』

てなわけでして、木曜日にヘッドラインで反応したのは何だったんでしょうということでありますが、ロイターの明らかにミスリードなヘッドラインに関しては猛省を促したいところであります。まあ営業上ヘッドラインは注目されるモノの方が良いというのは判りますけれども、明らかに発言(今回は講演というか挨拶ですが)の趣旨と違う印象を与える切り取り方をするのは問題でしょうな。



○低金利政策がサブプライム問題の原因の一つ部分はトーンダウン

話をしててちとマズイと思ったのでしょうか(笑)。会見要旨の5ページ目。

『最初のご質問については、私は「カネ余り」という言葉は使っておらず、「グローバルな過剰流動性」という言葉を使っています。しかも、「グローバルな過剰流動性」が生み出された背景のひとつとして日本の低金利政策があると言われていますが、そのような面も否めないという気持ちからコメントしております。』

『日本銀行の低金利政策は、日本の経済・物価状況に照らし合わせれば、適切であると思っておりますが、結果として、「グローバルな過剰流動性」をつくりだした一因になったということです。今回の円相場の急騰を受け、欧米市場よりも日本の株式市場の調整が一時的に大きくなってしまったという意味でも、「関係している」ということです。日本銀行の低金利政策がサブプライム問題をつくったという訳ではありませんが、遠因のまた遠因になっているという認識は持たなければなりません。』

本当は全部引用した方が良いのかもしれませんが、例によってやたら長いのでポイントと思われる部分だけですが、講演要旨よりもトーンダウンした感じです。

『ただ、金融政策というのは、経済のグローバル化の中で、基本的には自国経済のファンダメンタルズに沿って行う訳ですが、同時に、これからは世界の金融市場に対する影響についても、目配りをしていかなければならない時代になってきております。こうした教訓をわれわれに与えてくれたという点を、懇談会でお伝えしたかったということです。』

ということで、水野審議委員としては「だから政策金利の正常化が必要です」という結論になるのでしょうが、世界の金融市場に対する影響に目配りするならサブプライム問題に対する目配りも必要ではないかと言われたらどう答えるのでしょうかな?


○中立金利云々の話

利上げが遅れた場合の弊害についてというお話。要旨8ページから。

『総裁も発言されていますが、基本的に、ファンダメンタルズからみて相応しくない水準に金利を中長期的に放置しておくと、なんらかの副作用が出てくるリスクがあり、今の金利水準はそれほど低い状況にあるということが私の考えのベースラインにあります。』

で、この次に中立金利の話が。

『現状が中立金利──中立金利はどこかという議論は幅を持って聞いて頂ければ幸いですが──に近いところにある場合には、1 か月、2 か月ずれることはどうかという判断はあり得ますが、中立金利から遥かに低いところにあるという判断を私は持っています。その中で、ましてや私のようにファンダメンタルズに照らして他のメンバーよりも若干確信度合いが高いという判断をした者からしますと、1 か月、2 か月待つことが、想定以上にマーケットのリアクションを生んで、例えば、円キャリートレードが再燃してしまったり、当分利上げができないから国債バブルと言いますか、長期金利の急低下を招いてしまったりしかねない訳であります。』

ということで、1、2か月待つことによって市場が当面利上げできないのではないかというリアクションを生んで弊害が発生するという話をしているのですけれども、現在の市場リアクションは別にFRBの政策(あるいはCPIとか特定の何か)に一点張りしている訳ではなくて、サブプライム問題の落ち着き具合とか経済指標とかに割と素直に反応していると思いますので、そこまで懸念されることも無いかと存じますがどうでしょう。

#でもまあ金利市場がそう反応しても為替市場は全然違う場合も多々ありますので何とも言えませんが。

という訳で、水野さんだけに引用だらけになってしまいました。

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2007/08/31

お題「水野審議委員講演ですが」

タカ派の立ち位置を確立したと思ったら発言がまたやんちゃになっているとは困ったもんです。もうちょっと立場を考えた発言をしていただきませんでしょうかねえ。

http;//www.boj.or.jp/type/press/koen07/ko0708b.htm

○またヘッドラインに釣られているのですが・・・・

昨日の水野審議委員の講演、前場の引け近くに内容が公表されたのですけれども、そこまで前日比マイナスで推移していたユーロ円金利先物がいきなり前日比プラスになってみたり、債券先物も戻してみたりと「買い」で反応となりましたのはご案内の通り。で、この原因はと言いますと、ロイターの一発目のヘッドラインであることはほぼ間違いないかと思います。10時48分の日本語版ロイターのヘッドラインはこのようになっています。

『FRBが景気悪化を理由に利下げに踏み切った場合、議論の前提変ってくる=水野審議委員』

英語版ロイターでも同じようなヘッドラインを一発目に打っている訳ですが、このヘッドラインから「水野さんが利上げに消極的」という連想ということになったという訳ですが、講演(というか正確には挨拶ね)要旨を読んで見ますと、どう読みましても水野さんは利上げ正当化の理屈を繰り出しているようにしか見えませんですわな。そりゃまあこの前利上げ提案してるんだからそういう話になるのは当たり前なのでございますけどね。

そして、時事メイン、ブルームバーグは後で申しあげますが、利上げ正当化ロジックをヘッドラインに持ってきておりまして、どう見てもロイターの飛ばしヘッドラインです。本当にありがとうございました(ちなみに、時事メインのヘッドライン一発目は10時49分の『サブプライム問題、我が国の低金利政策が無縁ではない』であります)。

ちなみに、日本語版ロイターを見てたらどこぞのストラテジスト氏のコメントとして『利上げを提案している水野委員の発言なだけに、やや矛盾を感じる』ってのがありましたが、見事にヘッドラインに釣られたコメントに落涙を禁じ得ませんですた。ナムナム。

・・・・んでまあ昼休みとかに皆さん講演要旨なり他のベンダーの記事なりを見てる筈なのですが、それでも相場が下がらなかったというのは如何なることかと申しますと、本当のことはよー知らんですけど、あたくし勝手に思いまするに要は「相場が上に逝きたがっていた」ということなのではないかと思うのでありました(^^)。


○という訳でFRB利下げ云々発言の前後

ではFRB利下げ云々の部分はどういう発言になっているのかと申しますと、上で引用したヘッドラインと同じ表現はは確かに講演要旨の中にありますけど、そこだけ切り取るのはどう見てもフェアじゃありませんわなという感じです。

『次に、既に行っているサブプライム住宅ローンの劣化に伴う影響について考えてみると、より本質的なことは(1)システミックリスクに発展することはないか、(2)実体経済に深刻な影響を及ぼすことはないか、ということに行き着くと思います。』

『この点については、(1)世界経済が極めて好調であること、(2)日米欧ともに企業部門の財務体質が極めて健全であること、(3)欧米の主要金融機関等の収益力が高く、自己資本の基盤もかつてないほど充実していること、を踏まえると、今起こっている流動性の問題さえ解決すれば、時間の経過とともに大手金融機関等が吸収するかたちで金融市場におけるリプライシングのプロセスは進んでいくと思います。すなわち、システミックリスクの顕在化に発展する可能性や、実体経済に深刻な影響を及ぼす可能性は小さいと判断されます。』

『サブプライム問題に関する私個人の評価は、現時点でのFRBの適切な政策対応を前提に考えています。つまり、FRBが流動性リスク、信用収縮のリスクを回避するための「保険的な利下げ」までの政策対応で十分な金融環境であるならば、時間の経過とともに世界的に金融市場は安定化に向かうと見込まれます。』

『一方、想定外の景気悪化を理由にFRBが利下げに踏み切った場合、議論の前提が変わってきます。今後のFRBの動きを占ううえで、私が重要と考えるのは、米国の雇用情勢です。想定外の景気悪化が見込まれるとすれば、米国の個人消費の下振れと思いますが、それは雇用情勢を起点に影響してくる可能性が高いとみているからです。』

この流れから「議論の前提が変ってくる」の所だけ切り取るのは扱いとしてはどう見てもミスリードでしょというのはご同意いただけるのではないかと存じます。ちなみに、日本の影響に関する部分で水野さんはこのようにまとめています。

『もう一つは実体経済への影響が考えられます。確かに米国経済が想定よりも幾分減速することはありえるものの、先ほど指摘したとおり好調な世界経済全体で吸収することは可能であると考えられます。私個人の見解としては、現時点で把握できる情報による限り、サブプライム問題はリスク要因ではあるものの、わが国のGDP成長率やコアCPIインフレ率の見通しの中央値を下方修正する必要があるとは考えていません。』

どう見ても強気ですわな。ということでロイターのヘッドラインはミスリードにも程があるということでありました。


○あちこちで話題になってますがこれは如何なものか

先ほど時事メインのヘッドラインとしてご紹介した部分ですが、この講演要旨を見たあたくし「そりゃねえだろ」と思いつつ市場参加者の知人と議論したら(あたくしの知人ですので、基本発想が似ているという点は割り引いてちょ^^)やはり「この部分は日銀審議委員として如何なものか」という話になったのです。

さっき引用した部分のちょっと前にこんな話が。

『さて、サブプライム問題が発生した背景を私なりに考えてみると、「世界的な過剰流動性」が存在する下で、行き過ぎた投資が行われていたことが大きいと思います。世界的な過剰流動性がもたらされた理由としては、(1)「経済のグローバル化」が進む下で世界的にインフレ率が安定していたこと、(2)主要国の年金マネーや、アジア諸国や産油国の膨張する外貨準備高などが国際分散投資を拡大していたこと、(3)世界的に緩和的な金融環境が続いたこともあって、クレジット投資に対する過度な楽観論が生じていたこと、(4)日本銀行が低金利政策を続けていたこと、などが複雑に絡み合っていたと思います。サブプライム問題やそれに端を発した円相場の乱高下の原因として、わが国の低金利政策が無縁であるとは言えません。』

日本の低金利が原因の一つってのはそりゃ随分自虐的なお話ですけれども、そういう事を仰るのであれば、「それでは日銀は事態の収拾に責任を取るべきである」というツッコミを受けた時にどういうことになるのでしょうかと小一時間問い詰めたいところであります。

しかもですな、記者会見では(詳しくは本日アップされる会見要旨を見たいですが)水野さん『FRBが利下げをしたから日銀は利上げはできないという単純なものではない』というような発言をしているのですけれども、海の向こうでのクレジットバブルまで日銀の原因だというのに海外の金融政策と日本の金融政策がバラバラでも良しとなるのはど〜ゆ〜理屈なんでしょうか。単に利上げを正当化したいだけなんちゃうのかと。

大体からして、検証されているわけでもないのにわざわざ日本が災厄の原因の一つとか喋るのは、責任ある立場の人として如何なものかと思いますけどねえ。

ちなみに、この続きでこう言ってますので、このサブプライム原因説、要は利上げ正当化の一環として使われているのですけれども、政策ロジックとしてなんかその場限りのものを繰り出すのは変でしょと思うのであります。水野さんのロジックは「経済物価情勢が良好だから利上げする」じゃなかったのかよという感じです。


『すなわち、足もとの「金融市場の混乱」は、「ファンダメンタルズから離れた金利水準を維持し続けることは金融市場をむしろ不安定化させるリスクがあること」ということをはからずも証明したとも言えます。』

『したがって、長い目でみて、金融市場を再び安定させるのは、(1)世界的な過剰流動性を徐々に小さくしていくことと、(2)クレジット商品の適正なリプライシングが行われることと思っています。前者については、世界の中央銀行がそれぞれの国の経済金融のファンダメンタルズをみながら一歩一歩進めているとみています。また、後者については、今回の一件を通じ、投資家がフェアバリューを探る動きを続けていることから、ある程度の時間を要すれば実現していくのではないかと期待しています。』

ということになっていますので、先ほど申しあげた「日本が原因だからケシカラン」と言われた場合には「だから利上げする」という切り返しが待っていると言う事になるのでしょうが、何だかな〜って感じです。


○記者会見も読みたいです

ヘッドラインと情報ベンダーの記事を読んだ限りにおきましては、水野さんの会見が中々威勢が良かったようで、先ほどの「アメリカ利下げするから日本が利上げできないというのはおかしい」くらいの騒ぎではなく、中立金利という話やら国債バブルという話やらがあったやに見受けられますので、ワクワクテカテカしながら会見要旨のアップを待ちたいと存じます。

ではでは。

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2007/03/02

さて、政策をいじった直後に水野審議委員の講演があるというのはこれで何度目でしたっけという感じでして、しかも毎度その内容が武勇伝♪武勇伝♪でございます。さすがはあっちゃんカッコイイ!ということで(-_-メ)。

で、武勇伝振りは会見でも炸裂しておりますし、何だかんだと言いましても水野さんの場合は年中行事の少数意見と見做す訳にも行かない節がありますんで、やはりこのロジックもチェックしておかないといけませんな。

http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk0703a.pdf

○一貫性のあるメッセージに関して

武勇伝♪武勇伝♪

『「シンプルかつ一貫性のあるメッセージ」という意味では、私自身は12月の金融政策決定会合後の総裁記者会見での、フォワード・ルッキングな政策を続ける、生産・所得・支出の好循環が続いている、ただ、消費者物価・個人消費について幾許かの不安があるとの発言を受けて、かなり混乱が生じてしまったと思います。』

総裁会見批判キター!

『フォワード・ルッキングな政策を続けていくし、経済の好循環メカニズムは変化していないということがキーメッセージですが、あえて言わなくてもよいことを言ってしまった可能性もあると思います。それによって市場参加者に、金融政策決定におけるフォワード・ルッキングな考え方が日本銀行の中でぐらついているのではないかという懸念がやや出てきたことが出発点だったと思います。』

まあ確かに反対の人の理屈のどこがどうフォワードルッキングなのかよというのは市場の多くも同意するでしょうな。で、さすがに総裁批判と取られるのも何だということで、後の方の質疑ではこんな発言を。

『2つ目の質問についてですが、福井総裁の発言が問題ではなく、福井総裁は、政策委員会でそういう議論があったから発言をされたということだと理解しています。ただ、先ほどの説明は私の個人的な感想を述べただけであり、外からみると多分非常に分かり難かっただろうと、あるいは分かり難かったという具体的な指摘を何人かの市場関係者から受けているので付言させて頂きました。それから1月の政策決定会合で政策変更を見送ったことが金融政策の予想可能性を低下させたというのは、あくまで私個人の感想に過ぎません。それが日本銀行全体でシェアされているかは分かりませんし、私がコメントできる立場にはありません。』

個人的な感想とは言ってますが、市場関係者からの指摘とコメントしてますし、まあ1月に利上げ提案してるから当たり前なのですが、水野審議委員としては1月見送りに対してダメ出しをしてますなあという所で。


で、シンプルかつ一貫性のあるメッセージがどうのこうのという話ですけれども、最初に紹介した部分の続き(会見要旨の3ページ目から4ページ目)にその点について更に水野さんの説明があります。

『2つめのお話として、金融政策の運営に関して、今後、BOJウォッチングをしていく際に、何をみていけばよいのかという質問に対して、答えを明確に提示していないのではないか、とよく言われます。それについて言えば、先程の2つのキーワードに沿って言葉だけでなく行動していくこともそうですが、基本的には景気の回復が持続していくもとで、物価の低位安定から緩やかな回復に向かっていくパスを描けることも考えますと、今日公表された鉱工業生産指数などの景気一致指標や景気が実際に回復を続けていることが分かる統計については、マーケットと対話する上で、景気の実態について認識を共有するためにも非常に重要だと思います。』

何となく判ったような判らんような話ですが、そうなるとGDPを見て利上げしたように見えるタイミングというのもどうだったのかなあ(須田、水野、野田の3氏の場合は1月から利上げ提案してますから話は別ですが)という気はするんで、2月に利上げに転向したのが何とも。

『フォワード・ルッキングというのは、そういう統計も踏まえて、私どもが4月に公表する展望レポート―─2007 年度、2008 年度の景気見通しとともに新たな経済のメカニズムを提示させて頂くことになると思いますけれども―─に基づいて対話を再考していく必要があると考えております。』

まあそういうことですので、展望レポートでどういうロジックを展開してくるのかということでしょう。


○物価指数離れ&金利は今後も上げますよという話

会見要旨7ページ目から8ページ目です。

『まず、消費者物価指数(除く生鮮食品)については、確かに原油価格の動向によって目先ゼロ近傍で推移する可能性があると金融経済月報でも触れています。ただ、基調としては上昇していくという意味で長い目でみれば先行きの見方は変えていないということを説明させて頂いています。市場参加者の中に消費者物価指数(除く生鮮食品)の目先の見通しを前提に金融政策を予想される方がいることは承知しています。ただ、今回そういう見通しがあることをあえて金融経済月報に触れながら政策金利の引き上げを決定したわけです。』

ということで、市場の見方に関しても水野さん的にはウォーニングを発しているのでした。で、その説明ですが、引用するのにどこからどこまで引用すりゃ良いのか非常にあたくしが困るのが水野さんの会見要旨。なぜなら一文が長いのよこれが、とお前が言うなと言われそうなことを。

『これは物価の基調的な動きについては見方を変える必要はなく、基調的な物価を決める環境については、海外経済、特に米国経済を巡る不透明感がかなり後退しているもとで、日本経済が生産・所得・支出の好循環メカニズムが維持され、緩やかな景気拡大を続ける見通しにある、こうした中で設備や労働といった資源の稼動状況が高まっている、ことを前提にしながら政策変更をしていることになります。』

『また、あえて付け加えさせて頂くと、需給ギャップに対する物価の感応度には不確実性があるということです。需給ギャップが拡大しても直ちに物価が上がり始めるわけではありません。こうしたことを踏まえると物価上昇率がある程度高まるまで需給ギャップのプラス方向を維持していく必要がある一方、先行きの反動を大きくしないために需給ギャップのプラス幅を余り大きくするわけにもいかないとも考えています。こうしたバランスを考えながら金利引き上げを今後進めていくことが重要と考えています。』

ということで、昨日ご紹介した講演要旨にあったことと同じ話をしている次第でして、基本的には中立金利に向けての金利調整ステージであるというのが水野さんのロジックではないかと思います。従って足元の物価が少々下げてもケンチャナヨということなんでしょ(本当に経済物価情勢がダメダメになるなら話は別でしょうけれども)確かに今の政策の枠組み自体もそう読み取ることが可能な言い回しにはなっておりますけど。

『市場の見方を全く否定するものではありませんが、市場の見方に対して、金融経済月報でそれなりに回答しているのではないかと個人的には考えています。ただ、量的緩和政策の中で消費者物価指数(除く生鮮食品)に関する条件を出していたため、どうしてもこれに対する関心が高いことや、12月以降、次の金利の引き上げを巡って、私どもの本意ではないと思われますが、消費者物価指数(除く生鮮食品)がもう一度フォーカスされ、あたかも政策金利の引き上げに対して物価が非常に大きな注目点になるという見方が強まった面があったのではないかと思います。』

ということで、物価にあまり注目しすぎんなと言うことのようです。はあそうでございますか。


というあたりで引用だらけになってしまったので、米国経済の話とかは華麗にスルーします。

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2007/03/01

さて、世界株安によって華麗にスルーされた水野審議委員の講演ですが、いつもながら一味違う切り口が炸裂しております。で、量がいつものように多いので全部コンパクトに紹介できないかもしれませんが、とりあえずあたくしの読解力の範囲で目についたところから参ります。

http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/ko0702d.htm
お題は「経済・金融のグローバリゼーションと中央銀行の課題」


○とりあえずCPI離れをしたいのは把握した

「物価安定の理解」と矛盾するのではないかという風に思うのですが、CPI離れをしたいというのは極めて良く伝わって参りますなあ。

『4.金融システム政策の課題と金融政策運営』の部分から。

『実体経済が約5年に亘り回復を続け、物価もプラスに転じる一方で、世界的にみても極めて緩和的な金融環境が続く中にあって、金融行動の行き過ぎなどによって生じるリスクを早期に把握することは、金融政策上の観点に加え、金融システムの安定を確保するという観点からも重要となります。』

『先進各国の経験を振り返りますと、70年代までは、経済の健全な発展を脅かすリスクは直ちに物価面に表れることが多かったように思います。しかし、80年代から90年代にかけては、そうしたリスクが物価面に直ちには表れず、資産価格面や金融システム面に蓄積され、その後暫く経ってから経済の不安定化に繋がるケースが各国でみられました。もちろん、わが国もその例外ではありません。』

『このように、世界的にみても、経済に生じるさまざまな「歪み」の影響が直ちには物価に表れにくい状況となってきている中、中央銀行の金融政策と金融システム政策の接点も、ますます大きくなっているとみています。』

ということで、今の金融政策の枠組みで言えば第2の柱の方だと思うのですが、リスク回避型の金融政策を実施する時にはあまり物価に囚われるのは如何なものかと言ってるように読めますな。

その続き。ちなみにここから始まる部分の小見出しが『予防的かつフォワード・ルッキングな視点の重要性』でございます。

『すなわち、こうした環境変化の中で中央銀行として持つべき視点や採るべき対応は、金融政策・金融システム政策の両面で、共通するものが多いように思います。』

『一つ目は、―これは低金利政策の「効果」と裏腹ですが―極端な金融緩和が必ずしも整合的ではなくなった経済実勢の下で、なおそうした金融緩和が長期に亘り続けられることがあれば、やはり何らかの副作用をもたらす可能性が高いということが、これまでの各国の歴史から得られた教訓ではないかと思います。したがって中央銀行としては、様々なリスクについて、それが物価面に直ちに表れないケースも十分に想定しながらチェックしていく必要があります。(二つ目はプルーデンス政策の話なので引用割愛)』

まあ小見出しに有ります通りの論理展開になっておりますな。ということで、どう見てもバブル予防的措置と言ってます。本当にありがとうございました。


○利上げしますよというお話

まあこの「0.5%になっても十分緩和的」というのは福井総裁も会見で言ってました(駄文ではスルーしましたが)けど。同じ所の後の方の部分より。

『私は、このことを金融政策の観点から捉えれば、低金利環境の長期継続期待―すなわち、経済が拡大する一方で超低金利は続くといった予想―に基づく、行き過ぎた金融行動や資産価格形成を防止するためにも、中央銀行として、経済情勢と整合的な政策を適時適切に採っていく必要があると考えています。』

というのはさっき引用したことと同じ文脈ですな。

『現在の金利水準をどのようにみるかは、経済・物価見通しにも依存する訳ですが、一般には潜在成長率について1%台半ば程度とみる向きが多いように思います。さらに、インフレ予想もプラスとなっているとの見方に基づく場合、現在の市場金利の水準、とりわけ短期金利の水準は、やはり、かなり緩和的と言えるでしょう。』

はあそうですか。

『もちろん日本銀行は、デフレ脱却のために思い切った金融緩和政策を採り、さらに、時間軸効果を通じてターム物金利にも働きかけてきました。しかし、フォワード・ルッキングな情勢判断に基づき、物価がプラス圏内で推移するとの見通しが持てるようになった段階に至れば、イールドカーブの形成は極力、潜在成長率や中長期的な物価見通しと整合的な水準に自然に収斂していくことが望ましいように思います。このことは、金融市場や金融システムに由来するリスクを、長い目でみて減らすことにもつながると、私は考えています。』

この「望ましい」っつー発想が何だかなあって思うんですけどね。


○中立金利という言葉がございますな

ちょっと前のほうなんですが、『2.グローバリゼーションとマクロ経済政策運営』の最後の方でしらっと中立金利という言葉が。

『また、生産性の上昇や人口動態の変化に伴って潜在成長率が大きく変化する可能性がある中、中立金利の水準はある程度幅をもってみておく必要があると思います。』

読んでて「おお!中立金利!」と思わず声を。ちなみにこの文の前にはこんなのがありました。

『日本銀行は金融政策の効果が発現するまでのラグがあるため、政策運営において1年半〜2年程度の期間にわたる経済見通しを中心に考えています。一方、政府が、潜在成長率を引上げるための施策で念頭に置いている期間は5年以上と、日本銀行よりも相当長いはずです。そのため、金融緩和の度合いを多少小さくするような金融政策運営が、わが国の潜在成長率の引上げにネガティブな影響を与えるという議論は、私には余り説得力がないように思えます。』

そのため、の前と後がどういう論理で繋がるのかがどうも浅学非才なあたくしには良くワカランチ会長。


○やっぱり金利の正常化路線

最後の『5.まとめ』の部分ですが。

『金融政策の予測可能性が低下することは弊害があります。「市場との対話」では、個人的には、「シンプルかつ一貫性のあるメッセージ」を出していきたいと思います。また、量的緩和政策を解除したロジックという原点に返って、(1)新たな入手するデータを丹念に点検することはもちろん重要ですが、金融政策運営は「フォワード・ルッキング」に行うこと、(2)金融システムが正常化し、デフレ・スパイラルに陥るリスクがない中、経済・物価情勢の変化に応じて、徐々に金利水準の調整を行うことを目指していること、を再確認することが重要だと思います。ゆっくりでも、こうした意味での「金利の正常化」を目指すことは重要だと考えています。』

『私としては、「フォワード・ルッキングな金融政策運営」と「金利の正常化」の2つをキーワードに政策運営を行う姿勢が重要だと考えています。金融政策に関する対外コミュニケーションのあり方について、今後とも研究を続けることをお約束して、本日の講演を終わらせていただきたいと思います。』

ということで、金利の正常化だそうなんですが、中立金利水準に幅があるとか言ってたのに金利正常化というのも何だかねえという気がするのですが。まあ水野審議委員の主張はこれはこれで一貫しておりますということですかな。結局のところ「金利の正常化」ってことなんでしょうな。はいはい利上げ利上げ。


○これは・・・・

で、その『まとめ』の前半では水野先生このようなご発言を。

『中央銀行のコミュニケーション・ポリシーのあり方を考える場合、私は、金融市場は金融政策に関する完全な情報をもっていないという原点を忘れるべきではないと思います。いわゆるBOJウォッチャーは、「情報の非対称性」の中で、政策変更の時期を予想することを求められています。』

まあそれはそうです。で、次の部分に苦笑。

『個人的には、「ノイズを含めて金融市場である」という心構えが重要であると思っています。民間エコノミストが、個々の経済データに一喜一憂するのではなく、「現在は景気サイクルのどの局面にあるのか」など大局観について議論を深めることができる環境ができるような情報発信を心がけていきたいと思います。』

ノイズですかそうですか、あっはっは。

ちなみに、円キャリー取引だの、経済政策だの、色々な話題がありまして、やたらと長い講演(講演や質疑応答が長いのは水野審議委員の仕様です)ですので、市場が落ち着いたらもうちょっと読んでみたいと思います。

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2006/12/06

さて水野審議委員講演。
http://www.boj.or.jp/type/press/koen/ko0612a.htm

一番最初に出てきたベンダーのヘッドラインが「日銀の利上げにはある程度の自信が必要」(ブルームバーグによる)とございましたので、やっと利上げ先にありきを宗旨替えしたかと瞬間喜んだのですが、講演要旨を読んでいくうちに「また水野か!」でございました。合掌。

まあブルームバーグニュースのヘッドラインがまさにその通りという感じでしたが、「最近の経済指標は冴えないものが少なくない」けれども「全ての指標が良くないと利上げできないわけではない」という感じで、「最近の経済指標が冴えないけど自信あるもんね」というお話と共に、色んな理屈を駆使して利上げのロジックを補強するという誠にアレな講演でございました。


○国内景気に関して

このセンセイの講演はいつもの事ながらやたら長いのでこっちについては簡単に参りますけど、各項目に関して「最近は冴えない指標が出ていますが、先行きについては懸念してません」のオンパレードでございます。

例えば賃金の話では・・・

『賃金の見通しはコアCPIを予測するために重要なものの一つです。これまでのところ賃金上昇率が極めて緩やかなものにとどまっていることは、今後のコアCPIの前年比上昇率のテンポが緩やかなものになる可能性を示唆していると考えられます。』

という所から始まり、賃金上昇が高まらない可能性に関しても指摘しているのですが、最後のところでこういう話になっているのですな。

『別の観点からは、賃金上昇率が緩やかな上昇に止まっていることは、短期的には個人消費の増加テンポを鈍くする一方、中長期的には多少の外的ショックに耐えられる財務体質となる余裕を企業に与えるため、景気の持続的な回復にはポジティブに作用する面もあると言えます。』

そりゃそうですけど、それだと日銀の景気に対するシナリオとは別の話になると思うんですけど、まあ何でもポジティブ思考でございますかそうですか。

まあ景気に関する話とグローバルなお話が凄く長いのですけれども、長くなるので金融政策の話に参りましょう。


○何か利上げの理屈総動員ですな

・中立金利への調整理論の巻

この部分は「金融政策運営の展望」の直前部分にあるのですが。

『生産性向上による潜在成長率の上昇と金融政策運営の関係については、10月の展望レポートでも簡潔にまとめています。すなわち、「景気拡大の長期化にもかかわらず、生産性の上昇が継続し、賃金の上昇が遅れる場合には、物価が上昇しにくい状態が続くことも考えられる」ため、当面は辛抱強く緩和的な金融環境を維持することができます。一方、生産性上昇によって潜在成長率が上昇すれば、(途中割愛)(2)いわゆる中立的な金利水準が上昇することから、中長期的には、「経済・物価情勢の変化に応じて、徐々に金利水準の調整を行う」ことが適当であるとの判断になります。』

またこれが出やがったかとしか申し上げようがございません。

以下は「金融政策運営の展望」部分とからの引用になります。


・資産バブル懸念の巻

『世界の金融市場をみると、潤沢な流動性、あるいは、「カネ余り」の状況が更に強まってきました。』

『経済情勢の変化に応じて臨機応変に政策対応を行わないと、資産価格バブルや経済・金融市場の振幅が大きくなることを丁寧かつ繰り返し情報発信していくしかありません。』(ここだけ「まとめに代えて」部分から引用)

足元の経済指標が冴えないものが多いのに将来のバブル懸念で利上げとは「本末転倒」と大書して額に飾ってご贈呈申し上げたくなるのでございますけど。


・のりしろ論の巻

『米国と日本の比較の面では、米国において債券市場や株式市場が総じてみると安定的に推移してきた背景には、景気のダウンサイドリスクが高まった場合でも金融政策の機動性が確保されていることへの安心感があるとの指摘もあります。』

どう見てものりしろ論です。本当にありがとうございました。

ちなみに、この話の続きがまた実に奥が深いです。またも中立金利を持ち出しているのですけど。

『政策金利がいわゆる中立金利の近傍か、それよりも高いところにある米国と、将来的に低金利の副作用を警戒する必要がある0.25%という極めて低い水準にある現状では、追加利上げに踏み切るかどうかのハードルは異なることが自然です。』

自然なのかあ???


・長期金利低下は緩和効果があるので・・・・

『主要国の長期金利については、各国が現実に「金融政策の正常化」を行うと、むしろ低下するといった現象がみられています。(分析部分割愛)』

『言い換えると、主要国における長期金利の低位安定は構造的な側面もあると言えるかもしれません。金融市場では、国債イールドカーブのフラット化や長短金利の逆転現象をもって、景気後退のシグナルであると判断する見方は少なくなってきたように思います。長期金利低下は金融緩和と同じ効果があるため、主要国の中央銀行は、仮に足許の経済指標が弱めでも様子見を続ける余裕をもった対応ができるというメリットがある一方、債券市場が発するシグナルを読み取るための努力は以前よりも容易でなくなってきたともいえます。』

じゃあインフレ懸念から長期金利が上昇するまで利上げ引っ張れば引き締め効果が出て結構なんじゃないですかねえと嫌味の一つも申したくなりますな。

こりゃまあ「早めに手を打って利上げすると長期金利の急騰を抑えることができますよ」って国債発行当局様向けの理屈をしたんでしょうけれども、金融政策の正常化を行って長期金利が低下して緩和効果があるんじゃ低金利の将来のリスクとやらに対応できないじゃん。


・先行き見通しが現状維持だと利上げするという驚倒すべき話

自信云々の部分から引用します。

『仮に遠くない将来、日本銀行が政策金利の引き上げに踏み切るには、先行きを見通した場合に展望レポートの見通しに沿って推移していくことにある程度自信を持てることが必要です。最近の経済指標は、冴えないものが少なくありませんが、全ての経済指標が力強いものとならなければ、政策金利を引き上げることができない訳ではありません。緩やかな景気拡大の下では、経済・物価指標が強弱まだらになることは致し方ない面があります。』

で、読んでて驚倒したのはその次。

『もちろん、景気のベクトルが右肩下がりになる、すなわち、景気が踊り場に入った後に景気後退局面に入る蓋然性が高いと判断されるような状況判断ならば、金融政策は現状維持が適切だと思います。ただ、現時点では、そのような状況にはありません。』

ということは、景気のベクトルが横であった場合の金融政策は利上げが適切だと仰せであられるとしか読めないのですが、今後の景気が拡大する見込みで、それもこのままの金利を維持すると副作用が出るくらい拡大する(苦笑)から利上げするって理屈はどこへ逝ったのでございましょうか。

てか右肩下がりになると判断されるんだったらお得意の「フォワード・ルッキング」様は普通「金融緩和」と仰るのではないかと存じますがもしかして水野先生におかれましては選択性難聴の症状が現れているのではないか(あたくしが勝手に作った言葉ですので念の為)と誠に心配でございます。ちなみにこの続きの部分ですが・・・

『また、(1)デフレに逆戻りするようなことはない、(2)個人消費は、緩やかな回復に止まっているが、増加していくという見通しを変えるほどの弱さではない、(3)労働需給が逼迫するなか、所定内給与を含め名目賃金はいずれ上昇圧力がかかってくると見込まれる、(4)日銀当座預金残高は所要準備とほぼ同じ水準で推移するなど短期金融市場の機能は相当回復してきたこと、などについては、日本銀行と市場参加者との間でシェアできる見解ではないでしょうか。』

だそうなんですけど、本当にそうなんですかねえ?


・で、最後にデータ重視というのが出てくるのでして

と、まあこんな調子で利上げするぞ利上げするぞという話をして、最後にとってつけたようにデータ重視というのが出てくるのが誠にアレなのですが、まー結局「12月に拘るわけじゃないけど(というのは暫く前に言ってたと思う)利上げするぞ」ってな所なんでしょうか。

『いずれにせよ、今後発表される新しい経済指標を精査し、10月の「展望レポート」で示した先行きの「経済・物価情勢の見通し」における前提や経済のメカニズム通りに展開しているかどうか、しっかりと点検していきたいと思います。』

その前に散々利上げロジック並べてデータ重視とか言われましても何だかなあって感じです。まあ金融市場は12月無くても1月利上げとか前提になって動いてる(というか12月は織り込まれてないと思うのだが、週末の経済指標が度肝を抜くような良い数字でも出てくれば話は別でしょうけど)のですが、冷静に考えてもうちょっと納得できる経済指標の数字が並んでからで利上げは良いんじゃねえのと思うんですけどねえ。ここから威勢良く景気が良くならない限り、別に1月である必要もないと思いますが・・・・・

何ともいやはやな講演要旨でございました。

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2006/11/09

お題「水野審議委員講演」

この人の講演要旨は毎度毎度やたら長いのが仕様です。
http://www.boj.or.jp/type/press/koen/ko0611b.htm

○景気にはトーンダウン、金融政策は強気の旗降ろさず

全体のトーンに関しての印象はそ〜ゆ〜感じでございまして、今回の講演では事前に「またタカ丸出し発言が出るんじゃないか」と皆さんが懸念しまくったせいで昨日の時点で過剰織り込みしたせいか(苦笑)、債券先物やらユーロ円金利先物は反発の巻と相成りました。

景気に関するトーンダウンに関しては特に個人所得というか賃金の動向を注視したいというお話で、まあ違和感の無いところでございますが、金融政策に関しては少々何でしょうかって感じはする所でございます。景気に関するお話の部分とか見てると水野さん君子豹変したのかなとも思うし、金融政策の所を見てると、ヘッジクローズはサービスフレーズのようにも見えるので強気の旗を注意するのか、うーむ判断に苦しむ。

ということで量も多いので端折り気味ですが読んでみます。


○個人消費に関して

個人消費の前に企業部門のお話もあるのですが、まあ企業部門が好調という話に関しては皆さんコンセンサスだと思いますし、水野さんのお話もそーゆー趣旨ですのでスルー。

個人消費に関しては統計によって温度差があると言う説明をした後にこんな感じでまとめています。

『個人消費について、現時点では増加基調にあるとの判断を変えなければならない確証は得られていません。しかし、個人消費関連統計に表れている温度差については、今後慎重に分析を深めていきたいと思います。』

『先行きの経済情勢のリスク要因は、展望レポートで指摘したことに加え、家計部門への波及が想定よりも遅れることだと考えています。今後、10月の展望レポートで示した経済のメカニズムに変化がないことを確認する上で、特に、(1)雇用者数の増加のみならず、所定内給与が増加して雇用者所得の増加傾向がさらに明確になるかどうか、(2)好調な企業部門から家計部門への波及が順調に進んでいくかどうか、注目していきたいと思います。』

ということで、先行きの経済情勢の下振れリスク追加キター!でございますわな。


○物価に関して

でまあこの名目賃金の話は物価にも影響するわけでして。

『ユニット・レーバー・コストは、生産性と名目賃金の要因に分解できますが、個人的には、名目賃金の動きに注目しています。足許までゼロ近傍で推移している所定内給与がプラスに転じないと、物価上昇率の先行きについて、下振れ懸念が払拭できないと考えています。』

物価下振れ懸念払拭できないキター!

『これまでのところ賃金上昇率が極めて緩やかなものにとどまっていることは、消費者物価指数(除く生鮮食品)(コアCPI)インフレ率の上昇テンポが緩やかなものになる可能性を示唆しています。』

ということで、その名目賃金の先行き見通しに関して両論併記の形で説明しています。一応は「賃金は先行き上昇」という方にウェイトを置いた書き方にはなっています。上昇の方に関しては

『今後、非正規雇用の比率が高いサービス分野などでは労働需給が更にタイト化することによって、賃金が一段と上昇し、サービス価格への転嫁の必要性が強まってくることは十分考えられます。』

となっていまして、上昇してこない方に関しては、

『そのような見方が正しいならば、失業率がさらに低下しても、賃金がなかなか上昇してこない可能性があると考えられます。』

ということで、「十分考えられます」VS「可能性があると考えられます」なので上昇するの勝ちですな(^^)。


○CPIの基準改定に関して苦言を

『消費者物価指数の精度を向上させる努力は大切であり、総務省による今回の基準改定もそうした方向への努力を反映したものとして評価しています。しかし、基準改定でこれほどイメージが変わってしまうと、消費者物価指数のユーザーが「連続した統計としては使いにくい」という印象を持つ可能性があります。このように基準改定毎に大幅な下方修正が生じることは、消費者物価指数の作成方法について改善余地があるのではないか、という疑念を高めてしまう可能性も否定できません。』

『債券市場では、消費者物価指数の基準改定が事前予想を大幅に上回ったことから、物価連動国債が急落するなど、大きな影響が出ました。5年に一度の基準改定でこれほど消費者物価指数のイメージが変わってしまうと、今後物価連動国債の発行増加の足かせになるリスクもあるように思います。』

物価連動国債云々は財務省を意識してるんでしょうな。ちょっと苦笑。


○金融政策に関しては強気ですなあ

さてこの講演は米国経済の話とか国際的なマネーフローがどうしたこうしたとかいう話が出ておりまして、これがやたらと長いのですが華麗に全部スルーしちゃいまして、今後の金融政策運営に関しての部分に参ります。

基本スタンスについて改めて確認をしています。

『先行きの金融政策の運営方針について、(1)コアCPIインフレ率に偏重せず、あらゆる経済・物価指標を注視する「Data Dependence」で行うこと、(2)先を見て早めに政策を微調整するというフォワード・ルッキングな金融政策運営を行うこと、(3)経済・物価情勢が展望レポートの見通しに沿って展開していくと見込まれるのであれば、政策金利水準の調整については、経済・物価情勢の変化に応じて徐々に行うことになること、という基本的な考え方に変化がないことを読み取っていただきたいと思います。』

さようでございますな。ところが後のほうでこんな話をしてるんですが、この意味は判らんですなあ。

『すなわち、年末にかけて個々の指標が弱い数字になったとしても、それが一時的な振れによるものであり、日本銀行の「経済・物価情勢の見通し」が実現する蓋然性は引き続き高いと判断されるのであれば、徐々に金利水準の調整を行うことが適切です。』

一時的な振れなのかどうかってのは後にならないと判らんと思うのですけれども(誰もが認める明白な特殊要因というのはあるかも知れませんけど)、「弱い数字になったとしても」「日銀の見通しが実現する蓋然性が高いと判断するなら」「金利水準の調整を行う」という行為のどこがどう『あらゆる経済・物価指標を注視する「Data Dependence」』なのかと小一時間問い詰めたいとはこのことでございますわな。

#きっと「それはフォワードルッキングです」と言うんでしょうけど


で、まあその前には『今後の金融政策においては、「金利水準の調整をどのように行っていくか」は悩ましい問題です。』という話もしてたりするんでこれまたアレなのですが、金融政策に関するお話を見てると金利調整(要するに利上げ)はやりますよって感じを受けますわな。

『個人的には、4月の展望レポートの中間評価を行った7月時点との比較でみると、企業収益改善や設備投資計画の上方修正を受けて、景気拡大の持続性については自信を深めています。その一方で、(1)今ひとつ冴えない個人消費関連指標、(2)前年比上昇率がゼロ近辺で推移する所定内賃金、はインフレ圧力の高まりを示唆していないと判断しています。また、ゼロ金利解除後、地方銀行は貸出金利引上げに向けて企業に説得することに難航しているように、わが国全体でみると、資金需要は高まっていないこと、都市と地方の経済格差が拡大していること、も理解しています。』

ということで、配慮を滲ませた表現なのか、ヘッジクローズを入れだしたのかという所ですが、その直後にはこんな話もしてたりするんですな。

『一方、経済のグローバル化が主要国の経済・物価に与える影響については、もはや主要国のディスインフレを保証しないとの見解がFRB・コーン副議長やBOE・キング総裁等によって紹介されています。今年前半までの原油価格や国際商品市況の高騰、中国における賃金などコスト上昇分を輸出価格に転嫁する動き等をみると、中国やインドが世界経済に組み込まれることが、主要国の物価安定を保証すると考えるべきでないと思います。』

いつまでもあると思うな物価安定という話をかましている訳ですにゃ。


○妙にあちこち意識してませんかねえ

先ほど物価連動国債の発行増加に対して云々とかいう話が出てましたが、今回の講演要旨を見ると何か特定の人に向けたメッセージみたいなものも見られるのが微苦笑を誘います。

『わが国では金融政策の発動余地を残すために、金利の調整の必要性について議論すると、よく「のりしろ論」といった批判を頂くことがありますが、私が申し上げたいのは、単に「先行き政策金利を下げる余地を作るためだけに、今政策金利を上げる」ということではありません。』

本石町日記さんを意識しているものと思料(笑)。
ちなみにそれじゃあどういう意味なんですかというお話はその直後ですが。

『申し上げたいことは、「フォワード・ルッキングな視点から経済・物価情勢に見合った政策金利水準の調整を適時適切に行っていくことが、結局は先行きのマクロ政策の対応余地を広げることにもつながる」ということです。』

何か判ったような判らんようなお話ですな。


まとめのところでもこんなのがありまして。

『主要国の長期金利については、各国が現実に「金融政策の正常化」を行うと、むしろ低下するといった現象がみられています。これは、各国経済に対する見方の変化ということもあるでしょうが、各国が経済情勢に対応した適切な利上げ措置をとったことにより、インフレ期待が抑制されているという面もあろうかと思います。このことを踏まえても、「長期金利の上昇抑制」といった期待から中央銀行の政策運営を制約することは、長い目でみて決してプラスにはならないと思います。』

山本幸三先生あたりへのメッセージでしょうか?いやまあこの部分も何か少々違和感無きにしも非ずなんですけどスルーしておきましょう。


○これ誰が言ってるんですか?

この部分は「ほうほうそうなんですか。で、誰から言われたの?」と思わず読みながら突っ込んでしまいましたとさ。

『最近、「日本銀行はフォワード・ルッキングな金融政策運営を行うことを宣言したのであるから、経済・物価情勢が全体として概ね見通しに沿って推移しているならば、金利の正常化を粛々と行うべきである」との意見を頂戴することが少なくありません。』

利上げしないと日銀の信認問題になるとかいう本末転倒というか自作自演の強引な理屈に通じるお話だと存じますけど。で、「少なくない」ってホント?

で、この次にキャリートレードの話が出てくるんですが、そういう文章の流れを見ていますと、「もしやと思いますがそのご意見は海外様の(伏字)では?」などとあらぬ妄想を逞しくしてしまうのはあたくしの頭が陰謀論に毒されているからですかそうですか。


『他方、市場参加者からは、インフレ圧力が高まる兆しがみえない中、「金融政策の正常化」を急ぐ必要はないとの声も多く聞かれます。10月の展望レポートでも「景気拡大の長期化にもかかわらず、生産性の上昇が継続し、賃金の上昇が遅れる場合には、物価が上昇しにくい状態が続くことも考えられる」と記述しています。』

という話もしてるんですが、その続きでは思いっきり利上げするって話になっているのがなんともこりゃこりゃ。

『しかし、生産性上昇によって潜在成長率が上昇すれば、「供給面からは、物価の押し下げ要因となる一方、需要面からは、所得見通しの改善や期待収益率の高まりによる支出の増大を通じて物価の押し上げ要因となり得る」ため、(1)潜在成長率が上昇する過程において設備投資に過熱感が出る可能性があること、(2)いわゆる中立的な金利水準が上昇することから、中長期的には、「経済・物価情勢の変化に応じて、徐々に金利水準の調整を行う」ことが適当であるとの判断になります。』

金融政策に関してはこんな感じでして、基本的に「でも利上げするもんね」ってトーンが続くのでありました。で、まあ本石町日記さんの受け売りになりますけれども、あたくしも経済指標がアゲンストな状況で利上げを強行するのは難しいと思うのですが、信認だのリスク要因だのフォワードルッキングだのという話を持ち出して「殿、ご乱心」の懸念は確かにございますわな。

誠に(ご乱心にとって)都合の宜しいことに、昨日の3か月FB入札結果を見ると、こりゃ1月利上げを織り込んでる水準ですなあって感じなのがこれまたアレなところでございますな。

#ご乱心の結果「改易」やら「お取り潰し」にならないよう願います

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2006/08/07

○景気強気のロジック研究(水野審議委員講演から)

ネタも無いので先週水曜の水野審議委員(18ページに及ぶ大作)から本日は水野さんが景気の先行きに対する見立てをどのように行っているかという辺りを読んでみる事と致したく。先日ご紹介した講演要旨の最初の部分、『1.景気判断のアップデート〜景気を牽引する設備投資〜』のあたりから。

『「展望レポート」で景気の下振れ要因として指摘した「在庫調整の可能性」については、4〜6月期の鉱工業生産の増勢は緩やかなものの、出荷と在庫のバランスは改善しているため、仮に年度後半以降に在庫調整が発生しても軽微なものにとどまる公算が高そうです。例えば、足許は増勢一服となっている電子・デバイスの生産は、新規生産ラインの稼動もあって、7〜9月期には再び増加する見込みです。液晶テレビや携帯電話向け需要の好調が持続しており、そうした需要に見合った動きとみております。』

『「展望レポート」で上振れ要因として指摘した「企業の投資行動の一段の積極化」が顕現化する可能性は、高まってきたのではないかとみています。すなわち、設備投資は、加速するとまでは言い切れませんが、増加モメンタムの持続と広がりがみえ、減速感はみられません。』

ということで、注目ポイントのその1としては設備投資ということになっております。この先の部分に記述があるのですが、参考としてあげている経済指標は当然ながら機械受注と日銀短観の設備投資計画ですね。で、この設備投資の増勢基調が継続するとどうなりますかっていうのがちょっと先にございます。

『日本銀行は、「展望レポート」の冒頭部分で「成長率の水準は、景気回復局面に入って既に4年以上経過する中で、今後景気は、成熟段階に入っていくと考えられるため、2006年度は2%台半ば、2007年度は2%程度と、潜在成長率近傍の水準に向けて徐々に減速する可能性が高い。」と記述しました。ただ、仮に設備投資の増勢が持続した場合、2007年度にかけての経済成長率の「見通し」を上方修正する可能性が高まってきます。』

で、先日ご紹介した「資産価格インフレ」や「消費者のインフレマインド懸念の高まり」という話になるのですな。


もうひとつ水野審議委員が注目しているのは雇用。まあ他の審議委員も言及してますけど。

『今後の金融政策運営は「Data Dependence」で行うつもりですが、これは、コアCPIインフレ率だけでなく、あらゆる経済・物価指標を注視することを意味します。』

『そうした中で、個人的には、一般職業紹介状況(特に有効求人倍率・常用雇用者数)、毎月勤労統計(特に所定内給与・常用雇用者数)、労働力調査(特に非農林雇用者数)など労働市場関連の統計に注目しています。景気回復の持続性をみる上では雇用・所得環境、物価のトレンドを見極める上では賃金動向を注目しています。』

『また、想定外の景気上振れ要因として、住宅関連統計にも注目しています。』

これはオモロイ。住宅関連に関しては利上げを受けて「金利先高感」→「金利が低いうちにローンを組まナイト」→「さて買いますか」ってお話になるんでしょうかね。何か人から話聞いてるとそういうマインドも起きてる感じですね。あたくしはどうも???ですけど。

まあそんなあたりを水野審議委員は見ているちゅう事ですが、基本的に日本経済の強気シナリオを組むとしたらこういう論理構成になるんでしょうねえっていう一連のお話ですな。


あともうひとつ挙げるとすれば、さっきもちらっと書きましたが「消費者のインフレマインド」って奴でして、こちらに関しては6月に日銀が行った消費者意識アンケート(とかいう名前の奴)で物価に関するアンケートをしてる部分があります。平均の数字は何か極端な答えが出ててあんまり当てにならないのですが、中央値を前回調査(3月)と比較しますとこんな感じ。

1年前VS現在の物価上昇率の感覚・・・・・0.0%(前回0.0%)
1年後VS現在の物価上昇率の予想・・・+2.0%(前回0.0%)
5年後VS現在の物価上昇率の予想・・・+2.0%(前回+1.0%)

折に触れてこちらも引用されておりますが、まあ次回調査の数字も注目したいとは思います。

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2006/08/04

お題「水野審議委員会見もやる気満々」

とりあえず利上げになって材料出尽くしまして、足元金利も下がりだしたということで緊張感が切れてしまったせいか、あたくし実は日曜から延々と風邪引いてまして(不摂生を市場のせいにするあたくし)咽喉から始まり只今鼻に移行しております(微熱はずっと)。うーげほげほげほ。

皆様におかれましても健康にご留意ありたい訳ですが、本日は水野審議委員の記者会見から少々。本当は講演が何せ18ページの大作なんで色々と水野さんの景気見立てのシナリオについて読んでみたいのですがお家の事情により本日も軽めに。

http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken/kk0608a.pdf

○ゼロ金利解除は量的緩和解除のプロセスの一つ

水野さんの会見要旨を他の人のものと比べると良く判ると思うんですが、この先生は質問に対する答えの部分がやたらめったら長いという特色がございます。そんな訳でメディア的な素材としては所謂オイシイ人でもあるんでしょうなあ。不規則発言に振り回されるディーラー(というかマーケットメーカーですが)としては困ったもんですけど(同じ理由で福井総裁も現物債券のマーケットメークをする人(顧客などの売買に対して自己ポジションで価格を呈示して商いをする人)にはあまり評判よろしく無いと思われ)。それはともかく。

実質的に最初の質疑応答の部分(2ページ目)で水野審議委員はしらっとこのようなお話をしております。

『私は、ゼロ金利解除は、基本的に量的緩和解除のプロセスの一つであり、ここでそのプロセスが終わったとの認識を持っています。』

水野審議委員は以前から「利上げも出来ない状況で量的緩和する意味なし」という趣旨の発言をされていた事があったと記憶していまして、この発言も今までの水野さんの主張に則したものですな。量的緩和解除時点での日銀(というか政策委員会というか)の説明とは異なるのですが。

で、まあ量的緩和解除して利上げしないのは日銀にとって意味がないという話はあたくしも以前申し上げてましたし、この話には違和感はございません。ございませんが、じゃあ日銀が量的緩和政策解除した時には次の利上げに関してプロセスの一つというような説明をして無い訳でして、その辺との整合性はどうなのよと申し上げたくなりますわな。

まあそう言われても困らないように「個人的見解」を連発してる(これも「私は」が入ってるし)のでしょうけど(苦笑)。


○会見でも市場水準に言及してますが

ゼロ金利解除の是非も問題ですが、こういう方がよっぽど問題では無いかと思うんですが如何なもんでしょう。上記回答の続き。

『長期債の利回りは、現在の日本経済の回復力等について過小評価しており、中短期債利回り、あるいはマネーマーケットの金利には、政策変更を受けてかなり動きが出てきたと感じています。』

ちなみに、別の質疑応答の中で短期市場にもコメント(5〜6ページ)。

『短期金融市場の安定のためにも、短期金融市場で金利観がある程度シェアされて、短期のイールドカーブがスティープ化された状態が良く、仮に日本銀行の景気判断が正しければ、もう少し短期のイールドカーブが立ってくるはずです。』

正直、具体的な水準やらイールドカーブの形状にまで「〜であるべき」みたいな言及をする意図が全くもって意味不明でございます。先生は市場をマニュピレートしたいんでしょうかって意地悪な質問したくなっちゃいますよマジで。


ちなみに、短期市場のイールドカーブでございますが、利上げ前には「利上げ後のGCレポレートが0.4%になってもおかしくない」とかいうような正直アフォじゃねえのかという話が広がってましたし、追加利上げペースに関しても現在市場が認識してるよりもペースが早いって認識でしたんで、イールドカーブも現在よりも立っていましたが、利上げによって一旦の材料が終了しましたのでイールドカーブはベタベタに寝ておりますわな。よってこの辺の話は何か勘違いしているような気がするんですけど。

『正確に言うと、マネーマーケットが正常に機能するには、短期のイールドカーブが正常に立ってくることが必要です。今のように次の一手に対して見方がかなり錯綜している中では、マネーマーケット機能の回復が阻害されるのは仕方がないと思っています。』

大体からして、参加者全員の相場観が揃ったら裁定機会がなくなるからマーケット機能せんのじゃないのかと思うんですが。見方が錯綜してこそのマーケットでしょ。うーん、何かこのくだりには物凄い違和感を受けますな。



○ま、何はともあれ利上げやる気満々ですな。

本日は早寝した癖に遅起きでしたので(理由は最初に書いたとおり)、他に何かいくつか水野さんの景況感が良く判るくだりとかあるんですが、時間の都合でパスして、やる気満々の一節をご紹介。

『金融政策運営については、10 月の展望レポートに向けて、まだ何を書くか考えている最中ですが、景気が順調に回復を続けるのであれば、次の一手に関する議論も考えていかなければならないと思っています。この場で、次はいつ動く、あるいは何かが決まっている、といったことを言うつもりはありませんが、本日の挨拶要旨の中の個人的な景気判断の部分を読んで頂ければ、私が考えていることはご理解頂けると思っています。』

今からもう10月の事が判るんですかさすがにちぎんしんぎいいんにばってきされるだけのゆうしゅうなえこのみすとのかたはちがいますなあ。などと棒読みで感心している場合ではなく、要するに水野さんやる気満々でございますということですわな。まあここまでブイブイ言ってるとかつての篠塚英子ちゃん状態になりそうな予感。既に一昨日や昨日の相場はそのあたりを示唆している気もするし、単に利上げ前に買わないで我慢してきた人たちの我慢がそろそろ限界に来てる需給問題なのかもしれませんけど。

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2006/08/03

お題「これは酷い(水野審議委員講演)」

昨日の水野審議委員講演、まあ案の定でしたが中央銀行のボードメンバーにあるまじき不見識なくだりはあるわ、タカ発言爆裂するわでもう何だかねえという感じでしたが、氏も今やネタ芸人というかイロモノ扱いになりつつあるようで、市場はろくに反応しなかったのはプギャーでございました。

http://www.boj.or.jp/type/press/koen/ko0608a.htm

紙に印刷すると18枚になる大作でございまして、何か経済見通しは強気だわ、市場機能がどうのこうのという話はするわ、もう利上げしたくて仕方ないですなあというのは良く判りました。

で、これは酷いというか見識を疑う部分からご紹介。

○これは言うべきことではないと思いますが

『3.今後の金融政策運営』の後半のあたりでこんな暴言を。

『なお、最近の債券相場について簡単にコメントしたいと思います。国債イールドカーブの5年セクターまでは「金融政策の正常化」を意識した動きをみせています。一方、5年超のセクターでは、実質金利がマイナスという極めて緩和的な金融環境が将来修正される可能性があるにもかかわらず、私の想定以上に低い水準で推移しています。』

5年超の金利は低すぎると仰せであるとしか思えないお話でございますが、政策金利の操作をする中央銀行のボードメンバーがこんな具体的な発言して良いんでしょうかねえ。これはね、フツーのマーケットの人たちは「ふざけるな」とかなり憤激ですよ全く(お仲間の方はどうだか知りませんが)。

しかし少々疑問もあるんですけど、水野さんは政策金利のフォワードルッキングな調整が必要な理由として、『中期的に長期金利の乱高下を最小限に抑制する』ってのを根拠にしてるはず。で、ゼロ金利解除にも関わらず長期金利が安定的に推移しているのは、政策金利の調整が上手く行ってることの現れなんじゃないでしゅかにゃあ。

ま、どっちにしてもここまで市場に手を突っ込む発言は如何なものかというか、政策委員としての適格性に疑問を呈さざるを得ませんな。あとね、初めてマーケットから起用された人がこれだと、市場関係者ってのはこういうもんだと思われかねないのが口惜しいんですよ。


で、もっと香ばしいのはその前の方で水野さんこんな話をしているわけでして・・・・・

『もっとも、「金融政策の透明性向上」は、金融政策運営の「次の一手」を強く示唆することではありません。今後1年〜2年後の経済・物価情勢に関する本行の見通し、及び、金融政策運営の考え方をアップデートすることで、「説明責任」を果たしていきたいと思います。』

で、その結果が債券市場へのコメントですかそうですか。


○上ればバブル懸念、下がれば知らんぷり

さて、株式市場が今一歩アレでございます昨今ですが、その状況は金融政策判断に大きな影響は無いですよってお話をしておられます。『2.グローバルなマネー・フローの変化』の『(株式相場と金融政策)』って所でこんなお話を。

『今後、わが国における金利機能の復活は、国際市場間資金移動をさらに加速させ、相場の「水準調整」の規模と期間を増幅する可能性が高くなります。しかしながら、私は、株式市場のセンチメントに振り回されず、経済・物価情勢に応じて適切な金融政策運営を行うことが重要だと考えています。』

『わが国では、金融市場動向を眺めて、近い将来の金融政策運営へのインプリケーションが議論されることが多いと思います。特に、日本の金融市場参加者の間では、株価動向と金融政策をダイレクトにリンクさせる議論が少なくないようです。(長いので中間割愛)株価や長期金利など資産価格動向は注視していますが、動きそのものが金融政策運営に決定的な影響を与えるとの見方は誤りです。』

はあはあそうですか。ところで3月の講演では水野さんこんなことを仰せでしたが。

『2006年も世界経済は好調が予想される中、米国だけでなく主要国全体が「金融政策の正常化」を進めないと、素原材料価格や資産価格の行き過ぎた上昇などが、持続できないバブル的な上昇を続けるリスクがあります。(これまた中間割愛)1990年代初頭のバブル崩壊の経験から得られる最大の教訓は、資産価格から発せられる様々なシグナルを注視したうえで、「フォワード・ルッキングな金融政策運営」を行うことの重要性です。』( 3月13日滋賀県金融経済懇談会における水野審議委員挨拶要旨より)

何だかね、一つ一つの理屈は正しいのかも知らんが、政策金利を上げたいっていう結論が先にあるから、資産価格が上昇するとバブル懸念を持ち出して、下がると資産価格は一つのシグナルに過ぎないって言ってるようにしか思えんのですよ。今回の講演の中で水野さんこう仰ってるじゃないですか。

『長めの金利の安定にとっては、まず何よりも、市場参加者の経済・物価見通し、とりわけ中長期的な物価見通しが安定的に推移することが前提となります。そのうえで、そうしたシナリオの下での中央銀行の政策運営が市場参加者にとって予測しやすいものであること−やや難しい言い方をすれば、中央銀行の「政策反応関数」が外部にとってわかりやすいものであること−が重要であると考えられます。』

株が上ればバブル懸念、下がればセンチメントに振り回されませんではどう見ても政策反応関数とやらがさっぱり理解できません。本当にありがとうございました。


○中立的な政策金利が復活してます

『1.景気判断のアップデート〜景気を牽引する設備投資〜』の最後の部分で中立的な政策金利理論復活キタコレ。

『この場合(引用者注:水野さんの景気見立て通りに行った場合)、2006年度は景気回復のモメンタムは衰えず、1990年代の米国経済のように「高成長と低インフレ」が共存する理想的な景気回復局面が長期間にわたる可能性が出てきます。生産性の上昇はディスインフレ状況が持続する可能性を高めますが、むしろ、いわゆる「中立的な政策金利」と足許の政策金利の水準のギャップが拡大した状況を放置すると、資産価格インフレが発生するリスク、景気の上振れを通じたインフレ期待の高まり、が懸念されます。その結果、「ビハインド・ザ・カーブな金融政策運営」の度合いが強まることになりかねません。』

またぞろ復活してますな「中立的な政策金利」。3月の講演後の記者会見では具体的数値の話までしておられましたが、さて今回の講演&会見ではどうだったのか。手元にあるベンダーの報じる記者会見ではその質疑応答はなかったように見えますが、これは会見要旨のアップを待ちたいと思います。


○短期市場に関するコメントは何とも「???」ですわな

ということで、何せ18ページですのでツッコミたい所だらけなんですけれども、時間もござませんので(またこれか)、『5.構造変化した短期金融市場』のところに関して少々。

『わが国の景気回復局面は長期化する公算が高い中、「金融政策の正常化」の持続が意識される形で、緩やかに金利先高観が高まる状態が理想的だと考えています。』

ここでもそんな話してますなあ。まあ同じ悪態になるので悪態割愛。補完貸付に関して意味の判らん言及がございました。

『今後も、短期金融市場で金利先高感が強まる局面になった場合、補完貸付制度が頻繁に活用される可能性がありそうです。』

んなこたあねえのですが、ご本人もちょっと前の部分で補完貸付の金利についてこんな事言ってるのに気が付かないかね。

『また、補完貸付金利はあくまで、無担保コールレート(オーバーナイト物)などごく短期の金利について、その急激な飛び上がりを抑える機能を果たすものと考えられます。逆に言えば、これより長めの金利について、ロンバート金利が何らかの抑制的な役割を果たすといったことは、考えにくいように思います。』

そうですね、そうすると金利先高感があるからロンバートを使う人が出て来るってのは変じゃないですか?今日政策金利が変るってのなら物凄い勢いで使う人も出てくるかもしれませんが、それは通常は金利先高感とは言わないと思いますが如何なもんでしょう。

これね、あっしの勝手な想像で恐縮なんですけど、前半の頻繁に活用云々は補完貸付金利が高くて然るべきだっていうお話に繋がる(そうは言って無いけど)からそういう事を言ってまして、後半の金利水準云々は補完貸付金利が0.4%に留まったけど長めの金利は上って然るべきだって話をしたかった(同じくそうは言ってませんが)から、こんな話になったんじゃないかなあと思うんですけどね。何だかなあ。

まあこれ以外にも何だかなあというコメントがあるんですが、時間と量の関係で本日はこの辺で。

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2006/06/29

○水野審議委員のインタビュー(今更ネタですが)

26日にロイターが配信した水野審議委員のインタビュー。まあ色々と言ってたようなのですが、実はインタビュー全文をまだ入手してないのでヘッドラインとかにしか反応しないのですが、その中で先日の西村審議委員の講演と平仄を合わせた部分が。

『ゼロ金利解除後、連続利上げの思惑高まらない様にすること重要』

まあ水野さんもそういうお話ですから、こりゃまあ流れとしては早期解除して暫く様子見するんですよってお話だと安心したいのですが、こちらのセンセイにおかれましては何せ前科があるので安心できない。

昨年12月1日の講演で水野審議委員こんな話をしてました(12月2日のドラめもんで書いてます)。ちなみに、水野審議委員の発言等の時系列紹介はこちらに→http://www.h5.dion.ne.jp/~bond7743/hatsugenmizuno.html

『また、先行きについても、経済がバランスのとれた持続的な成長過程を辿る中にあって物価の上昇圧力が抑制された状況が続いていくと判断されるのであれば、引き続き極めて緩和的な金融環境を維持していけると考えています。展望レポートでも、金融政策の枠組み変更やポスト量的緩和政策における短期金利の水準・時間的経路について、「全体として、余裕をもって対応を進められる可能性が高い」としました。』

ところがいざ量的緩和政策を解除してみたらこのセンセイは3月13日の講演でこんな話をしてました(3月15日のドラめもんで書いたのですが)。

『金融市場では、再び「デフレ」に戻らない「インフレ率の糊しろ」の議論が盛んであるが、将来の景気減速局面で機動的に対応できるマクロ経済政策として金融政策を位置付けるのであれば、「政策金利の糊しろ」は不可欠です。』

おまけに記者会見では(こちらはあちこちで話題になってたのにキャッチアップするのが遅れて何故か4月11日のドラめもんで書きましたが)もっと香ばしい話をしてましたわな。

『今回、量的緩和政策を解除したが、これで終わりでないというメッセージ、すなわち景気のファンダメンタルズが我々の見通しどおりであれば、二の矢、三の矢の量的緩和解除のプロセスが続いているというメッセージを出していかなければならない。』

『挨拶要旨の後半部分では均衡実質金利の話をしているが、私は景気に中立的な短期金利の水準を意識して政策を運営したいと考えている。現在の景気に中立的な金利水準を潜在成長率から計算すると、現在の政策金利は明らかに低すぎる。』

『(潜在成長率を)1.5%〜2.0%として、それに対しゼロから若干のプラスの望ましいインフレ率があると仮定すれば、2%台の政策金利というのは中長期的にみれば十分正しいと考えている。』

・・・・というのを以前見せつけられているので、正直言ってこのお方の「連続利上げの思惑云々」発言は眉に唾をつけて読みたいところであります。勝手な憶測なんですが、そのうち「連続利上げ」というのは「FRBは毎回のFOMCで連続利上げしているが、日銀は毎回の決定会合で利上げを継続する訳では無いので連続利上げではない」とか言い出しそうな予感がします。今の金融市場では「連続利上げ無し」と言われれば半年とかのタームで利上げないでしょって理解をするでしょうし、そういう事は水野さんのことだから重々承知の介だと思うんですが、いざ初回利上げが終わったら「四半期ごとの利上げは連続利上げに当たらない」とか言い出しそうな悪寒がするのは考えすぎですかそうですか。

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2006/04/11

○水野審議委員の3月13日記者会見、今日は血圧上げずに(^^)

そういや昨日はURL置くの忘れてました。
http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken/kk0603b.htm


・過去の総括よろしくお願いします

量的緩和解除の心境を聞かれた時のお答え。

『もう1点付け加えると、異例と言われる量的緩和政策を解除するまでに、量的緩和政策が導入された背景、その後の金融経済情勢における効果を総括すべきだとの議論もあった。量の効果、金利の効果をきれいに分けて考えることは難しいが、今後、過去のゼロ金利政策の解除や量的緩和政策について、功罪、副作用等を含めて総括しなければならない。大変な仕事が将来的には待っていると感じている。』

だそうですので、総括をしていただきたいのですが、まあ今までの政策ロジックをどう説明するのか今から楽しみにしております。ワクワク。


・どうみても連続利上げ発言にしか思えません

恐らく水野さんの場合はわざと言っているのではないかと思うのだが、資産バブル懸念云々の話をしているついでに連続利上げ発言。まあ市場の勘違いも困るって事なんでしょうけれども、お蔭で物価安定の目安云々の話は既に債券市場ではどっか行っちゃったという感じは否めませんな。まあ株式市場その他が勘違いしたままのような節がある(その手のレポートが金利関係以外の人からは今でも出ているようですし)ので別に構わんのかなあ。

『今回、量的緩和政策を解除したが、これで終わりでないというメッセージ、すなわち景気のファンダメンタルズが我々の見通しどおりであれば、二の矢、三の矢の量的緩和解除のプロセスが続いているというメッセージを出していかなければならない。』

『量的緩和政策の解除の次はゼロ金利の解除に関心があると思うが、フォワードルッキングな金融政策運営の中では、将来のリスクバランスという観点から、いつまでも低金利にあるという期待が強まり過ぎないように、丁寧に説明していかなければいけない。私は、こうしたことを意識して、年明け以降、資産バブルの懸念について表明してきたつもりである。』


・「中立的な政策金利」の話と「糊代」の話

中立的な政策金利に関しては2度質疑応答が行われてましたが。

『挨拶要旨の後半部分では均衡実質金利の話をしているが、私は景気に中立的な短期金利の水準を意識して政策を運営したいと考えている。現在の景気に中立的な金利水準を潜在成長率から計算すると、現在の政策金利は明らかに低すぎる。ゼロではなくてそれが何%かは皆さんでお考え頂ければよい。非常に簡単なテーラー・ルールなり、均衡実質金利なりから計算できると思う。先行き2006年度、2007年度の景気に対してある程度自信を持てるのであれば、政策金利に「糊しろ」があるべきであるし、仮になければ、その後の政策運営は非常におかしなことになってしまう。』

政策金利の水準に関しては後で具体的な数字が出てきますが、糊代に関しては前も指摘したように本末転倒なお話でございますわな。糊代論の本質は、上記発言の続きの部分に現されてますが。

『結局、ゼロ金利のまま景気の後退局面に入り金融政策でサポートするという話になった場合には、当然、資産バブルは高い確度をもって大きなリスクとして出てくる、ということを含めて考えている。』

ゼロ金利のままで景気の後退局面に入るような経済状況であれば、その前にゼロ金利を引き上げるという選択肢が無い筈なんですけど。それに現在の金利水準は景気刺激的なんでしょ。景気の後退局面に入って金融政策でサポートするような破目になった時に資産バブルがリスクってのも意味判らないですし。

で、中立的な政策金利ちゅうのも何かよく考えるとワケワカメな定義のような気がする訳で。中立金利だの均衡実質金利ってのは長期金利の話じゃなかったでしたっけと思う次第でして、長期金利は日銀がコントロールできないって話じゃなかったでしたっけ。何か都合のいい時だけ長期金利を政策金利でコントロールできそうな話になりますなあと思うのですけど。

『潜在成長率について、日本銀行は1%程度、あるいは1%程度強という言い方をしてきた。これはこれから再計算をしないといけない中で議論を始めているが、まだ日本銀行としての公式見解を出すには至っていない。過去4年間を見る限り、2003、2004、2005、2006年度と平均で2%程度の成長をしそうだと考えると、潜在成長率は1.5%程度はあると考えている。少し幅をもってみないといけないと考えて、1.5%〜2.0%として、それに対しゼロから若干のプラスの望ましいインフレ率があると仮定すれば、2%台の政策金利というのは中長期的にみれば十分正しいと考えている。』

具体的な数値を持ち出して話をする中央銀行のボードメンバーちゅうもの珍しいと思うんですけど。何かこう市場に手を突っ込んでいくのは勘弁して欲しいものです。

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2006/04/10

○今更ですが水野審議委員の3月13日記者会見

すげえ昔の話を引っ張り出しますが、ちょうど解除後のドタバタやら中原審議委員の素晴らしい講演&記者会見とぶつかりましたので、フォローをすっかり忘れておりました。

いやまあ何で今更引っ張り出したかと申しますと、どこぞのレポートで「審議委員の講演日程に政策的意図は無い」というのを読んだ時に思いついた小ネタを考えているうちにすっかり忘れてたのを思いだしたもんで。

小ネタのほうは・・・・政策的意図話ですけど、水野審議委員の講演ってこの前の「当預下限割れ容認」決定の直後一発目に行われてタカ発言してましたわな。今回も量的緩和解除直後の一発目でタカ発言してるんですけど・・・まあ講演日程の決定に政策的意図は無いのはその通りだと思うのだが、偶然にしては出来過ぎでして、ゴルゴ13に言わせると「二度の偶然は無い」んですけど、こりゃどうなってるの?


でまあこの記者会見改めて読んでみたのですが、何かこう読みながら大変に血圧が上昇する内容でございまして、まあ市場枠(?)が次もあるのでしたら、アナリストランクングの順位に拘らずに(大体からしてあのランキングは証券会社の営業力が関わる部分がかなり大きい訳でして)選好していただけると宜しいのではないかと思いますが(苦笑)。

結構紹介どころがうじゃうじゃあるのですが、とりあえず量が多くなるので血圧の上昇した部分を上昇度合いの高かった辺りから順に。

・3月解除に関して

『期末に量的緩和政策を解除すべきだったかどうかとの点については、これまで総裁が言ってきたように、「量的緩和解除の条件が整った」とボードメンバーの大勢が考えたから解除したということである。マーケットでは4月28日解除説が多かったと思うが、私自身としては、マーケットの予想時期が後ズレするよりも前倒しされる方がよかった。私は数週間前の時点では4月解除が良いと思っていたが、この理由としては、仮に期末に様々な問題が発生すると、引き下げることができる当座預金残高が限られてくること、期末に発生する様々な問題に対して日銀に全責任が集中するリスクがあること、が挙げられる。』

えーっとですな、この人の話(特に記者会見のようなベシャリ)はとにかく無闇やたらと長くて、しかもこうやって字にしていると論点が物凄く分散されているので、引用する方としてはやりにくいったらありゃしないです。結局この部分はこの後も引用して全部引用になっちゃっいます申し訳ない。まあここまでは穏当(前倒し云々は気になるが)なお話をしてますが。

『ただ、その後、3月解除説が出てきた。マーケットの意見が割れてきたこと、また、10〜12月期の実質GDPの年率が5.5%であるとの公表を受けて、政治サイドの雰囲気が相当変わったとマーケット参加者が感じとったことなどを踏まえ3月解除説が出てきたと思う。』

よくそういう白々しいお話ができますなあ。GDPを受けてってマジで言ってる訳は無いと思うが、幾らなんでもそりゃ話に無理ありすぎ。前線(市場)で起きている事を東京の大本営(政策委員会)で自分に都合よく解釈して作戦(金融政策)を行っている・・・なんて事は無いと思いたいんですけど。という訳で血圧超越急上昇。

『海外の投資家の話を聞いていると、量的緩和政策の解除については既に消化が相当進み、イールドカーブの手前の部分をショートしてくる、あるいはイールドカーブがフラットニングするポジションにかけてくる、あるいは株のショートポジションを膨らませている、あるいは逆に3月か4月のどちらかわからないから日経平均先物のショートカバーをしないといけないという動きがみられたため、これは大丈夫だなという感じを抱き、私自身は3月9日時点では解除しないリスクの方が解除するリスクより高いという判断をした。』

えーっと意味が判らないんですけど、日本の金融政策の話をするのに海外の投資家の話を持ってきて、海外の投資家が大丈夫だから実施するということでしょうかねえ(皮肉)。

『ただ、期末にどうして解除したかという議論については、もう少し時間をかけて説明した方が良かったという気がする。期末に対する思いは、金融機関は強すぎるということもあるし、今後の政策運営を考えても、期末には何も手を打てず決算のために金融政策が縛られるということになると、長い目で見ると良くないと思う。結果的にマーケットの反応も良かったという面もあるが、適切なタイミングで解除できたと思っている。』

つーかおまいらが「3月解除!3月解除!」って散々煽り立てて、3月解除しないと逆に日銀が政治干渉されたって話になるから引くに引けないって状況にしたからでしょうがって感じですな。

ちなみに、期末云々の話ですが、あたくしは「3月31日に公定歩合引下げ」ってのを見た(そのときは短期国債のポジションを持ってたんで、まさに直撃ですな。金利低下方向でしたが^^)ことがありますので、そんなに期末ってのを強烈に意識して無いんですが(過去の駄文をお読みになるとどこかで「期末だからどうのこうのってのは変」って書いてた筈)、まあ期末云々を意識させ過ぎるのは良くないというのは判ります。それを理由にするのはさすがに本末転倒なのでそうは言わなかったようですが(笑)。

・・・と、ここまで来てもう時間も無いし量も多いので、続きは明日にでも。

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2006/03/15

○これは酷い手前味噌ですね

http://www.boj.or.jp/press/05/ko0603c_f.htm
で、水野審議委員講演の続き。

いやまあ何ちゅうか困ったもんです。普通にA4の紙に出すと10ページ目くらいの部分に当たると思うのですが、『5.漸進的なアプローチによる「金融政策の正常化」 』の最初であります『(量的緩和政策の枠組み変更)』に関する部分は酷かろうよ。まあこの漸進的アプローチってのもナンジャソリャなんですが、内容のほうがもっと。


・量的緩和政策はプルーデンスが主だったんですかあ??

『量的緩和政策を維持する目的は、「時代の変遷とともに変化してきた」と思います。量的緩和政策を採用した当初の2001年3月時点では、(1)金融システムの安定化、(2)金融システム不安に起因するデフレ・スパイラルの回避、でありました。』

『金融市場の一部からは、「デフレ克服が主目的になったのは、国債買い切りオペの増額や当座預金残高目標の引上げによって『デフレ・ファイター』の役割を果たすことを宣言してからである」とか、「日本銀行が当座預金残高目標を段階的に引き上げる際、その理論武装や情報発信をしているうちに、量的緩和政策は変質し、非常にポリティカルな金融政策の枠組みになってしまった。」とみられたこともありました。』

さて、そんなことを仰っているようですが、日本銀行様が量的緩和政策を導入する際に出した文書がございますので目の玉をよく開いて熟読すべし。

http://www.boj.or.jp/seisaku/01/pb/k010319a.htm

あたくしはこの文書をもう何度読んだか覚えてませんが、どこをどう読んでも水野審議委員の仰せになる「目的」とやらは全く記載されておりません。念を入れて申し上げますと、わざわざこの時にはQ&A形式の説明文まで用意してありまして、そちらを読んでも水野審議委員の仰せになったことは書いてございませんですなあ。(デフレ阻止とは書いてありますが、別に金融システムの話は一言も書いていないという意味ですので念の為)

http://www.boj.or.jp/seisaku/01/pb/k010319c.htm

量的緩和政策はいつからプルーデンス政策になったんでしょうかねえ水野様って感じでございます。まあずっとマーケットストラテジストとやらをやっておられた人ですので、当時の公表文書を知らぬとはいえない(そもそも今でも読めますが)筈なんですが、これは一体全体どういうことなのでしょうか。


・これはまた素晴らしい自己正当化ですね

『この半年の債券市場の動きを振り返ると、昨年9月以降、ボードメンバーの情報発信に対して、政府の一部から「量的緩和解除は時期尚早である」旨の発言があったとの報道が多くみられました。これを受けて、市場参加者の間では、政治的圧力を受けて、日本銀行は量的緩和政策をなかなか解除できないとの観測が広がり、金利先高観が後退する局面がありました。しかし、その後、昨年10〜12月期のGDP等の経済指標によって、日本銀行の経済・物価見通しが裏打ちされたこともあって、政府側から3月時点での量的緩和解除を容認する声が出始めたとの報道が多くなり、2月下旬から国債イールドカーブが大幅にベア・フラット化しました。』

量的緩和政策のコミットメント通りに政策運営をしていけばそもそもイールドカーブのベアフラット(早すぎる利上げ懸念)は起きないと思うんですがねえ。それで?

『こうした一連の動きについて、個人的には、政府要人から金融政策に注文がついたと市場参加者が捉えたことで、無用なボラティリティーが高まり、債券運用の損失額が膨らんでしまった面があるのではないでしょうか。このことは、債券相場を展望するうえでは、経済・物価見通しに立ち返ることが重要であることを改めて示唆していると思います。』

自分達が債券市場に対して地均しをしていることは無視ですかそうですか。それで悪いのは全部政府要人ですって。日本銀行政策委員様の言うことは全て正しいので意見は言っちゃあ駄目なんですねそうですね。


・自分で火をつけて「市場が催促するから」ですかそうですか

そのちょっと先なのですが、『(金融調節面の措置)』って部分(11ページ目位)の最後の方にも好き勝手なお話がございます。

『量的緩和政策の枠組みを変更した後は、コミットメントのないゼロ金利となります。「量的緩和政策の解除は4月以降」と判断してきた市場参加者が少なくなかったことを考えると、強めの経済指標や株価上昇に対して債券市場は過敏に反応する可能性があります。今後の金融政策運営は全くオープンですが、ターム物金利に上昇圧力がかかり、早期利上げを催促する展開も想定されます。』

えーっとすいません。量的緩和解除前にブルトーザー地均しが始まったのは2月の決定会合後でございましたが、3月3日のCPIの公表までにそんなに市場が驚くような経済指標や株価推移ってありましたっけ?それに3日のCPIも予想0.4%の所0.5%でそんなに驚倒するほどの数値じゃありませんでしたが。

で、今日は紹介しませんが、記者会見では中立的な金利水準が幾らだのまあ具体的な数字を好き放題言っておいて「市場が利上げを促す」もあったもんじゃねえだろうって呆れてしまいます。


・政策金利の糊代??

もうちょっと後ろの方ですが。

『金融市場では、再び「デフレ」に戻らない「インフレ率の糊しろ」の議論が盛んであるが、将来の景気減速局面で機動的に対応できるマクロ経済政策として金融政策を位置付けるのであれば、「政策金利の糊しろ」は不可欠です。』

凄い理屈です。将来の景気減速局面があるかもしれないなら今の緩和環境を引っ張るんじゃないですかねえ。それとも「自分の利上げは良い利上げなので経済に悪影響は及ぼさない」とでも言いたいんでしょうかねえ。

まあ詳しくは本石町日記さんhttp://hongokucho.exblog.jp/4261074が「金融政策“糊しろ”論の陥穽」というお題で一席打っておられますのでそちらをご覧下さい。まあ本末転倒というかマッチポンプな理屈でございますなあと呆れる次第です。(追記:私が呆れているのは水野審議委員の糊代論に対してです。本石町日記さんを指しているわけではないのはお判りかと思いますが読み直してみて文章の座りが悪かったので念の為追記します)

このひとあと何年審議委員をやっているのかと思えば・・・4年後まで任期あるのかよ勘弁してくれよ。。。。。

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2006/03/14

○で、やっと水野審議委員の講演になるのですが時間がないので・・・

http://www.boj.or.jp/press/05/ko0603c_f.htm

まあ詳しくはまた明日ですが、全体を通しての感想は「日本銀行政策審議委員としての立場を弁えない発言が多すぎ」でありまして、そういう発言は証券会社のストラテジストがするもんでしょうという所です。あたくし一人がそう言ってる訳ではございませんので念の為。

で、ストラテジストが相場に対して話すような事を言ってるんですが、お前がその状況を作るように持って行ってるんじゃねえのかと小一時間という所で、マジでこんな言いたい放題を審議委員が言って良いのかと甚だ疑問に思うのでございます。もしかしてこのお方は自分の発言で債券相場が動くのに酔ってるんじゃないかって疑いたくなりますね。

山のように突っ込みどころがありますが、ちょうどbewaadさんが突っ込み(最近金融政策の話にそんなにスペースを割いてなかったbewaadさんが突っ込みを入れたのはよほどのことで)を入れておられましたのでそちらもご参照頂くと致しまして(と人のふんどし)、鶏並みの記憶力を誇るあたくしのトサカに来たくだりを。

『今後、当座預金残高を引き下げ始める場合、(1)資金供給オペの頻度の減少、規模の縮小、期間の短縮、(2)将来の政策金利引上げ時期に関する憶測に伴う金利先高観、(3)RTGS(Real-Time Gross Settlement、即時グロス決済)導入後初めて金利先高観がある局面であるためターム物での資金調達に動く金融機関が増える可能性、という3つのルートに加え、テクニカルな要因から、ターム物金利に上昇圧力がかかりやすい状態になります。中短期セクターの債券相場のボラティリティーは量的緩和政策の解除後も暫く高止まりすることが予想されます。』

1と3はまあ良いとして、2番の憶測ってのはあんたらが地均しして強引に織り込ませに逝ったものですが何か?ボラティリティーは高まりやすいってその原因は強引な地均しによる政策金利早期引き上げ観測によるものですが何か?証券会社のストラテジストが言うなら兎も角、金融政策を決定する9票のうち1票を持つ人間がしらっとこんな話し方をしてるのを見るとかなり頭に来ますな。

で、ボラティリティーが高まるとまあさっきも申し上げましたが、自己売買のディーラーみたいな人たちは大喜びかもしれませんが、自己売買で相場を張るような人じゃなくて、フツーに経済活動をしている人にとっては、資金の調達コストにまともに跳ね返ってくる中短期セクターの金利がボラタイルになるというのは迷惑なお話だと思うんですが他人事ですかそうですか(怒)。

どうも市場機能の回復というのは市場の一部の方を見てのご発言なのではないかと勘ぐりたくもなっちゃいますなあ。

#いかん、また悪態の限りをついてしまった。

まあ悪態が多くて誠に申し訳ございませんが、またまた市場の不評を買っている(相場が無駄に動くとウハウハな人を除く)と思うんですがねえ。マッタクモウ。


しかしまあ「利上げもできないような環境で量的緩和解除しても仕方ない」って趣旨の発言を以前してたのが水野審議委員ですので、無茶苦茶タカ派な発言が出てくるというのはある程度想定の範囲内だとは思ったのですが、まあ地均し路線の先鋒剣士みたいな人ですので、先鋒が吼えたらその次が出てくるって警戒感が強くなったんでしょうかねえ。後場の一段下げに関しては(ちなみに記者会見ではもっと金利上げます金利上げます発言が出てました)。

つーかあの結果で「ゼロ金利長期化」と読む方が勘違いなのですが。向こう3ヶ月のゼロ金利をゼロ金利長期化とは申しませんですし、そもそもさっき申し上げたように3月はともかく4月以降の無担保コールがいつまでも0.005%以下だと思うのもどうかって気はしますけどねえ。

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2006/02/14

○またお前か!

昨日の債券相場では2年国債金利が一時0.4%をマーク。5年国債は1.045%をマークしまして、2003年の安値を切りました(2年はとっくの昔に切りまくっていますが)。その後株式市場がヘロヘロになった(新興の下げがきつい)ので相場全体は思いっきり戻ったのですが、2年は前日比2毛甘の0.385%の引けと大変に香ばしい状況になっております。

で、まあ昨日は衆議院予算委員会での福井総裁の答弁もあったのですが、それよりも話題になったのは水野審議委員が時事通信の雑誌(会員制)に寄稿した文章の内容が報道されたことでしょうかねえ。この雑誌は「金融財政」と言いますが、会員制なもんであたくしも現物は残念ながら見ておりませんで、仕方が無いのでブルームバーグニュース(13日15:20)の記事から。詳しくは時事通信まで。

まあ要するにまたまた毎度お馴染みの「水野ストラテジストの景気見立て」をご披露しているのですが、そういう景気見立ては公式の講演や政策決定会合で行っていただきたい訳ですわな。以下同記事より『』内は記事中の水野氏ペーパー引用部分です。


『ゼロ近傍に据え置きが適当と考えるほど景気の先行きに自信が持てなければ、そもそも(量的緩和は)解除されないはず』

まあ確かにそれは正論ですが、現在の地均し路線と全然違う話ですな。そこまでいうなら前回の決定会合で量的緩和解除と金利引き上げを提案したら如何でしょうか?今まで公表されている決定会合の議事要旨には「解除即利上げ」という意見がでているとは読めませんが?


『このところの株価上昇は潜在成長率の上振れを示唆している可能性がある』
『潜在成長率の上振れは、均衡水準の実質金利の上振れを意味するため、期待インフレ率上昇に伴う実質金利の低下と相まって、金融緩和効果を増幅していく』

おっちゃん頭が悪いから良く判りませんが、潜在成長率が上振れしたら需給ギャップの縮小が想定よりも進まないので物価が上り難くなるという面もある(http://hongokucho.exblog.jp/4075394)ような気がしましたが、まあ要するに期待成長率の上ぶれって事なんでしょうか。ってここは教えて君なんですが(汗)。


『ゼロ金利が長期にわたって続くという期待が過度に強まってしまうと、需要刺激効果が強まり過ぎて、景気の振幅が大きなものになり、それを受けた政策金利の変動も大幅なものになってしまう可能性がある』

えーーーーーーもうバブル警戒ですかそうですか。で、この文章が世の中に認知された週初は株価続急落なのがお前は北浜かと言いたくなりますが。それは兎も角として、バブル警戒って言ったって物凄く局地的な話(つーか新興市場はPERとか見るとやり過ぎ感ありありですが)だと思うんですが。まあそりゃ水野さんやお友達さまのような外資系金融のお方は景気回復を思いっきり享受しておいでかと存じますがねえ(とまた無用な悪態をついてしまった)。


『中央銀行は、低金利政策が長期化するとの「期待」が過度に強まらないように政策運営すべきである』

なら金利に関してごちゃごちゃお前らが言うなと。まず結論ありきでその結論に向けて市場への配慮(当座預金残高引下げもその趣旨で提案していると理解してますが)して地均しだのご指導だのをしている訳ですが、そーゆー事をやってるから市場参加者が日銀の方ばかりを見るようになるというのは昨日も同じ悪態つきましたな。

まあアレだ、日銀政策審議委員として発言するなら場所と内容を弁えて言えと思う訳でして、「またお前か!」という反応になりますわな。この人何だかんだと言って相場に変な燃料を投下するのがお好きのようで非常に困ったもんです。今までの議論の前提を無視した話をよくするし。「マーケット出身者はこういうもんだ」という評価になりますと次期「マーケット枠」は期待できませんなあ。

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2005/12/02

お題「水野審議委員、獅子吼するの巻」

本当は岩田副総裁の記者会見を昨日の続きでお取扱いする所ではあるのですが、昨日は水野審議委員がJCIF(って何でしたっけ)で講演を行ったそうなのですが、人づてに聞くには水野審議委員大いに吼えるの様相だったらしく(たぶん話が5倍くらいになってると思うが^^)誠に燃料投下な要旨が出てきましたのでご紹介。

http://www.boj.or.jp/press/05/ko0512a_f.htm

○景気に関しては「息の長い持続的成長が続く」見通し

景気に関する件でも突っ込みたいところ(『電力料金や携帯電話料金の値下げは、家計の負担減少を意味します。消費者の生活水準が向上することは望ましいことであり、これらを新たなデフレ要因という解釈は違和感があります。』ってあたりとか^^)もありますが、その辺はbewaadさんにお任せしようとしたら既にエントリーがありつーかこっちに振られており、先を越されましたな(^^)。

引用するとちょっとあちこち長々となってしまうので、省略しちゃいますが、景気の見通しに関しては基本的に『「派手さはないものの息の長い景気回復を続ける」』という文脈で説明をしております。

『いずれにせよ、デフレが懸念されるような状況であれば、量的緩和政策を解除することにならないのであり、現状を多方面から分析することによって「総合判断」を慎重に行っていくことになります。』

と、物価見通しのパラグラフ最後を締めくくってますので、まぁ景気判断を行って物価上昇懸念があって国民厚生上問題が生じると日銀が判断すれば堂々緩和解除でも利上げでもやっていただければと存じますんでここまでは良しとしまして講演の前半部分は華麗にスルー(^^)。

で、肝心の金融政策運営の部分なのですが、以下「???」感漂うゆんゆんなお話が展開されるのはやはり結果先にありきなのではないかと思いたくなったりするのは邪推ですねそうですね。


○市場の金利機能が封殺されている割には・・・

ご案内のように、水野審議委員は「量的緩和解除前に当預残高目標を段階的に引き下げる」という提案を行っているのですが、この引下げ論の根拠に関して色々とお話をしております。

『金融市場の一部では、来春は金利先高観が今よりも強まっている可能性が高く、解除前に当預目標を下げておかないと、TIBOR3ヶ月物金利が0.5%を超えるとの見方もあります。金融政策の目標を「量」から「金利」に変更した直後の市場の混乱を最小限にとどめる上でも、当座預金残高目標を解除前に引き下げることを選択肢として排除しない方が良いと思います』

で、もっと後の「金融市場の健全化に向けて」って部分は水野審議委員の従来からの主張ですが、そこでは量的緩和政策の「量」の副作用のトップに毎度お馴染みの見解がございます。

『健全な経済運営に極めて重要なメカニズム金利機能を封殺し、市場の金利発見機能を弱めていること』

えーっと、先行き現在の量を放置しておくと金利先高感が強まってTIBOR3ヶ月物金利が0.5%を超えるってその前に言ってることと話が矛盾してませんか?まあ百歩譲って解除した途端に金利が跳ね上がるって意味で話をしてるとしたら、そりゃ幾らなんでもマーケットを馬鹿扱いしてねぇかと思う次第。幾ら何でも例えば次回の決定会合で緩和解除するって見通しになったら足元の資金じゃぶじゃぶにしたって金利はちゃんと上りますがな。先日来の地均しモードの時にちゃんと長めの短期金利上ったじゃん。

市場の混乱がどうのこうのって話がありますが、経済情勢に則して粛々と政策運営を行っていれば一時的に混乱しても収斂するところに収斂する訳で、過去2年の間に金利がアホのように跳ね上がった時って日銀が急にやる気満々の姿勢を見せてサプライズを与えてくださった時なんですけど・・・・・


○金融政策と財政の話もしてますが・・・・

基本的に財政政策と金融政策に関するリンクというのは如何なものかという主張を水野審議委員は行っております。まぁ賛成か反対かというとあたしゃ微妙ですな。

『マクロ経済政策全体でみれば、財政再建や構造改革が進められようとしていますが、そうした政策を推進するためには、緩和的な金融環境が好ましいとの考え方があることは承知しています。(中間部分割愛)したがって、先述のような副作用を伴う量的緩和政策を継続しなければ、財政再建や構造改革が実現しないものなのかという疑問が生じます。また、財政再建や構造改革と金融政策では念頭に置くタイムスパンが異なるため、財政再建や構造改革を実現するために量的緩和政策を持続することは、金融政策の機動性を過度に縛ることになりかねません。』

ま、これは一つの主張ですが。マネーフローの話をしているところではこんなお話を。

『バブル崩壊後、わが国の資金の流れは、非金融企業部門の経済活動が鈍化する中、公的部門に資金が流入する構造が続いてきました。しかし、非金融企業部門がいわゆる「3つの過剰問題」の解決にメドをつけてきたことから、マネーフローが重要な転換点を迎えつつあるように思われます。』

ということで、マネーフローの変化がおきていて国債への資金流入が今後大丈夫でしょうかって話をしてるんですが、この人の説明はどうも長い(お前が言うなと言われそうですが)ので、ピンポイントで引用がしにくいです。で、まぁ金利が低いのでリスクマネーに金が行くという話のほかに長期金利を絡めたお話もしております。

『民間銀行は、国債市場のメインプレーヤーです。地域金融機関の多くは預貸率が低下する一方、預証率が上昇し、国債保有残高も増えつづけてきました。しかし、金利上昇局面において、預超構造に変化が生じて、民間銀行の保有国債のデュレーションを短期化する可能性や金利上昇局面に入ると大手銀行の流動性預金が予想以上に早く減少し、「コア預金」対応の国債保有を非常に保守的に行う可能性といった国債保有残高を減らすリスクがあります。』

『マネーフローの変化によって、政策の枠組み変更が長期金利に与える変化が潜在的に大きくなっている可能性については、注意してみていきたいと思います。量的緩和政策の枠組みを変更した「後」には、市中短期金利のボラティリティーが高まる可能性があります。「金利正常化」をできる限りソフト・ランディングさせるためにも、日本銀行としては政策の機動力を損なわない範囲で、金融政策の透明性を高める努力を続けていくつもりです。』

ということで、市場金利の混乱を避けるためにも当座預金残高目標の段階的な引下げが必要ではないかという論旨を補強しているのですが、財政政策とのリンクという問題を否定的に扱いながら、ご自身の当座預金残高目標引下げ論になると急に長期金利上昇すると財政にも悪影響とか言い出すのは何というかちょっと都合が良すぎなのではないでしょうかねえ。


○解除の理由付けに別の話を持ち出すのは如何なものか

という訳で、さっきも申し上げましたが、解除に関する主張で非常に遺憾の極みなのは、ここであるような話を持ち出すところでございますわな。水野さんの場合は「市場への配慮」という話が多くて、市場の片隅でメシを食わせてもらっているあたくしとしてはそりゃまあご配慮は有りがたいという気持ちは無くはないのですが、どうもこうダシに使われているだけのような気がして誠に憂慮の念に耐えませんという所でございます。

景気見通しに関して堂々と「このままではインフレが国民経済上問題になるので金融引き締めが必要」と言って解除するなら兎も角、なんでそう搦め手から話を始めるんでしょうかねえと思うのでした。

他にも色々突っ込む所があるのですが、時間も押してきたので(それはこっちの事情)まあ他の方が突っ込んでくれると期待して(おい)、最後の部分に関してちょっと。


○で、どっちなんだYO!

結びの部分ではこういう話をしてます。

『日本銀行は、現在、極めて緩和的な金融政策運営を行っています。また、先行きについても、経済がバランスのとれた持続的な成長過程を辿る中にあって物価の上昇圧力が抑制された状況が続いていくと判断されるのであれば、引き続き極めて緩和的な金融環境を維持していけると考えています。展望レポートでも、金融政策の枠組み変更やポスト量的緩和政策における短期金利の水準・時間的経路について、「全体として、余裕をもって対応を進められる可能性が高い」としました。』

なるほどそうでございますか。

『今回の景気回復は派手さに欠けるため、金融政策の枠組み変更に対する慎重論が出ることは理解できます。しかし、戦後の歴史を振り返ると、わが国経済をソフト・ランディングさせない限り、日本銀行は政府や金融市場から批判を受ける、すなわち「結果責任」を問われています。』

余裕をもって対応できるのなら「経済をソフト・ランディング」とか言うようなお話が出てくるんでしょうかねえ。結局のところ余裕を持ってるのか持って無いのかよー判らんですわな。

まぁしかし他にも何というかそりゃどうよ感漂うお話が多くて、本来の予定を変更して臨時ニュースをお送りさせていただきました(^^)。甚だ簡単でしたが。

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2005/07/01

○この人はどうなっちゃってるんでしょうと懸念される訳だが

昨日の引け後に情報ベンダーから金融政策に関する発言フラッシュが打たれまして、またまた例によって例の如く「当座預金残高を引き下げるべきだ」とか「量的緩和の量の効果が長期金利を押し下げている」とか「手形オペの期間を短くする」などと債券市場を下げるようなコメントが出てきた訳ですが、やはりこの人でありました。

http://www.boj.or.jp/press/05/ko0506f.htm

どうも29日に水野審議委員が日本経済研究センターで講演していたようでして、その講演要旨が夕方に日銀Webにアップされた訳ですにゃ。お題は「今後の金融経済情勢―景気回復シナリオの再点検」ですので、一応経済情勢に関するコメントも読んでみますが、この講演録の最大の見所は最後にある「5.量的緩和政策は「魔法の杖」ではない」であることは申すまでもありません。

・景気に関する現状認識と今後の見方

色々と話をしてますが、要するに・・・・
1.中国向け輸出が伸び悩み、輸出の伸びが弱い
2.アイテー関連の需要の回復が力強さを欠くので輸出も含めて生産が弱い
っつーのが悪材料で、一方で
3.設備投資が増加しており、企業行動に変化が見えてきている
4.雇用情勢が改善し、個人消費が増加傾向にある
というのが好材料。

トータルすると「企業収益の改善によって、企業の投資行動と雇用情勢が好転することによって景気回復が進展する」という外需主導型とは違う景気回復メカニズムのシナリオを示しております。先行き見通しは強気というところでしょう。

・さて本日のみどころはこちらです

『最後に金融政策運営について、少し長めのスパンの話を中心にお話ししたいと思います。』

という訳で、大先生金融政策について語っておられる訳ですが、まず最初にあたくしのアゴが外れそうな位に驚愕したのはこのくだり。

『一般的に、中央銀行は、金融政策運営に関するコメントによって、短期金融市場や債券市場に一定の影響を与え、イールドカーブの形状を変化させる一方、長期金利水準やイールドカーブの形状から市場の景況感を読み取ります。』

「相場に口先介入する」っていうセンスも素晴らしいですが、それ以前の問題としてこの文章って前半と後半で言ってること思いっきり矛盾してねぇかと思うのはあたくしだけではありますまい(-_-メ)。

自分で市場に口先介入しておいて変化を読み取るも糞もねぇだろうという訳でございまして、続きに『従来は、長期金利水準の変化から情報を読み取ることができたのですが、最近では、世界的に長期金利は低下傾向を続けており、特に米国では政策金利を引き上げても長期金利が上昇することのない状況になっています。』って言ってますが、そりゃ単に中央銀行と市場の感じる景況感が違うって話(あるいは景気過熱をコントロールできていると市場が認識している)ではないのかと小一時間問い詰めたいという感じですな。


ここの部分もあたくし的には「???」ですが・・・・

『日本銀行はかねてより、長期金利は「コミットメント」の効果によって低位安定していると説明してきましたが、最近では「量」の効果が長期金利を押し下げている面が強いのではないかと思います。』

あなた様は「量に意味はない」と言ってませんでしたかと小一時間(略)。


そして財政政策と金融政策の関係に関して、「デフレスパイラルのリスクが払しょくされたので金融政策の正常化をする」という誠にワケワカメな理論が最後の方に披露されておりまして、中々楽しいのですが、最後の方にある話がこれまた泣かせます。

『すなわち、当座預金残高目標をいずれ引き下げる局面がやってくると思いますが、このままの残高水準を維持したままであれば、量的緩和政策の枠組みを突然変更することにつながりかねず、中期的には、無理な資金吸収オペを行う必要が出てくるおそれがあり、長期的にも、金融政策がビハインド・ザ・カーブに陥る結果、期待インフレ率が上昇して長期金利が本来あるべき水準よりも高い水準まで上昇する可能性があります。また、想定外の金利上昇を回避し、あるべき長期金利水準への収束を速めていくためには、適切な国債管理政策が不可欠です。』

量的緩和解除に至るプロセスにあたって「慌てて引き締めないといけない」のか「ちんたら引き締めて無問題」なのかはその時の景気上昇の角度がどのようになっているかに依存するので、現状のCPIゼロペッグが必ずしも長期金利の上昇を起こすとはいえませんわな。それはともかくとして、この話いきなり「適切な国債管理政策」に話がワープしているように思われるのですが・・・・


・まぁ救いはと申しますと・・・・

この講演、景気に関する話はともかく、金融政策に関する話はご紹介した部分以外も「???」なものがございますが、この講演の最大の救いは何かと申しますと・・・・・

「債券相場が全く反応しなかった」

事でしょうな(爆)。当預目標下げどころか、オペ期間の短縮化とかわざわざ寝た子を起こすような提案をしている訳ですが、債券市場全く無反応で。それどころかイブニングセッションでも債券先物上昇ってなもんでして、市場としては「また言ってやがるわ」という扱いになりつつあるようで実に結構でございます。あひゃひゃひゃ。

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2005/06/07

水野審議委員の発言やら記者会見というのは就任当初からそうなんですが、やたらと量が多いので水野さんをネタにするとど〜も増量になってしまいますな。ということで本日は減量で。

○水野審議委員の小まとめ

記者会見で延々と量的緩和解除のスケジュールを語る部分も突っ込んでおくべきなのかもしれませんが、「まぁもうちょっとおちつけ」というコメントだけしておくと致しまして、昨日ドラめもんに何となくまとめを書いた後に読者様ともお話をして何となく氏の「そこはどうよ」ってところをまとめるとこんな感じかなぁ。

1.戦略性に乏しい「金融政策正常化」スケジュール

→水野審議委員は量的緩和の(ある程度を超えた)量の効果を思いっきり否定しております。で、「景気がリスクシナリオに沿った動きをした場合には量的緩和政策に代わる新たな政策枠組みが必要」というのはそれはそれで筋の通った話なのですが、その政策枠組みに関しては「念頭に無い」と(まぁそりゃ無い訳はないでしょうが)しております。

メインシナリオ通りに世の中行くとは限らない訳ですし、景気が悪化した場合の退路をわざわざ断ちながら「金融政策正常化」のスケジュール着手(水野さんに言わせれば「なお書き修正」が第一歩)をおっぱじめるというのは例えて言えば「米国との戦争には直接繋がらない」と言いながら南部仏印進駐をするようなもんではないかと存じますが。

2.金融政策決定会合を軽視してませんでしょうか

→昨日も申しあげたとおり。本来金融政策決定会合で提案すべき内容を外部講演やらインタビューなどで「個人的意見」と言いながら表明するのは如何なものでしょうかねぇ。まぁ先月の金融政策決定会合の議案がそのまんま日経新聞にスクープされる(って言うか事前リークしたんでしょ?)というのが日本銀行政策委員会クオリティだと言ってしまえばそれまでですが。

3.ゼロベースで見直すのも一つの考え方ですが・・・・

→過去の話は置いといて、ってことで金融政策を見直すというのはそりゃまぁ一つの考え方でしょうけれども、そもそも現在の金融政策の枠組みは通常の政策とは異なり、「将来にわたるコミットメント」を前提にしておりますので、「過去の話はともかく、現在あるべき政策を考える」というのは即ち現在の政策の否定になりますわな。

その辺を微妙に避けて「金融政策の正常化」という表現で話を美しく修飾してませんか?ってのがどうもねぇ。


ま、そんなところで水野さん話一旦終了。

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2005/06/06

○水野審議委員の講演と記者会見を読む

記者会見要旨が金曜の夕方過ぎにやっとこさアップされておりました。http://www.boj.or.jp/press/05/kk0506a.htm

講演と記者会見を読んでますと、水野審議委員の主張するところってのは「要するに過去の経緯はさておいて(というのがポイント)今必要な政策は何かと考えるとこのようになりますが何か?」って事のようでございます。道理で先週末に講演について論理的整合性はちゃんとなっているので憎たらしいなどと思った(というか書いたんですが)訳ですわな。

ま、それならそれもひとつの考え方でしょうが、それなら政策決定会合の場で、(水野さんの主張を敷衍すると)「ゼロ金利政策(多分時間軸付きになると思うのだが)への政策転換」の提案をしてからこの手の主張を外部に向かって行うべきであり、政策委員会の外でいきなり発言するのは、金融政策決定会合の形骸化になりゃしませんかねぇと思いますよ。

どうも記者会見とかまで読みますと、「景気が回復する」というメインシナリオに向かった時には「金融政策の正常化」が出来ますよってことらしいので、そういう意味では「まだ政策決定会合で提案すべき経済情勢ではないので提案しない」ということなのでしょうけれども、それなら尚更そのような発言を軽々にすべきではないでしょうと思うところでございます。

・水野審議委員トロイの木馬説

金曜にもご紹介した講演(http://www.boj.or.jp/press/05/ko0506a.htm)の一節を読むと、何気に日銀にとってはどうよって件もありますわな。

「4.金融政策の正常化(ノーマライゼーション)について」より

『個人的には、量的緩和継続のコミットメントによる長期金利安定の効果はあるものの、30〜35兆円程度という大量の当座預金残高目標を維持することから期待できる景気押し上げ効果はほとんどないと思っています。』

と、量的緩和政策の「量」の効果に関して否定的な主張をしていますが、こりゃまぁある意味諸刃の剣というか村正の妖刀と申しますか。。。。ってなもんで、その後には日本銀行身も凍るって話をしている訳です。

『景気がリスクシナリオに沿った展開をみせた場合、デフレ克服を目指すため量的緩和政策の枠組みに変わる新しい金融政策の枠組みを求める声が強まってくる可能性があると考えています。現時点で、量的緩和政策よりも景気刺激効果が大きい具体的な枠組みが念頭にあるわけではありませんが、景気回復が途切れた場合の金融政策運営面での対応についても考えておく必要があると思っています。』

そりゃまぁ当座預金残高目標を持ち上げても景気押し上げ効果が無くて、将来的に副作用が出るって言ってるんですから、別の枠組みが必要になるという訳ですわな。で、その枠組みって何でしょう??

ここで水野さんは「量的緩和政策よりも景気刺激効果が大きい具体的な枠組みが念頭にあるわけではありませんが」とその「枠組み」に関して話をしていないのですが、フツーに考えると国債引受あるいはそれに類するような財政マネタイゼーションとか、日銀特融乱発とか昔の震災手形類似行為のような結果的には無原則な通貨濫発となるような制御不能なインフレ政策の実行に追い込まれませんかねぇってことになるというのはあたくしの杞憂ですかそうですか。

でも、「量的緩和政策よりも景気刺激が大きい政策」って言われると、どうもそういう筋悪政策を連想しちゃうんですけどね。



かつて、「量的緩和政策の継続に批判的な水野氏の審議委員就任に財務省サイドが異を唱えなかったのは、水野氏をして日銀に『拙速な緩和解除』をさせ、失敗させることによって日銀を政府(というか財務省)の支配下に置く」という「財務省陰謀説」を日銀OBのどこぞのストラテジスト様が言ってまして、、ドラめもんで「んなアフォな」と悪態をつきましたが、水野審議委員のこの「地雷付き量的緩和解除提唱」を見ておりますと、しょうもない「陰謀説」を信じたくなってきますな。

あ、勿論我が国の財務省が日銀の政策失敗を望むなんて事をする訳はないと確信しておりますので念の為(^^)。

問題は水野審議委員が確信犯でやっているのか、単に福井総裁を始めとする日銀の「量的緩和解除したい症候群」を慮って「人の切れ目が政策の切れ目」理論を引っ張り出してきたのかって所でしょうか。自ら「トロイの木馬」役を確信犯でおっぱじめているとすれば相当の狸ですな>水野さん



・「真の説明責任」を果たしてないのは誰でしょうかねぇ?

「5・真の説明責任」の件から。

『一部の市場参加者、メディア(勝手にコメント:もしかしてこれはあたくしと本石町日記さんでしょうかってのは自意識過剰ですかそうですか^^)は「真の説明責任」と「表面上の説明責任」を混同しているのではないでしょうか。私は、「真の説明責任」、「透明性の高い政策運営」とは、ある政策についてその目的を適切に説明できると同時に、その結果について責任を持てる政策運営である、と理解しています。』

そりゃそうですけど。。。。。。

『これを当座預金残高目標の引き下げ問題に絡めて言えば、「30〜35兆円程度という当座預金残高目標をあくまでも維持することが説明責任を果たしていることにはならない。物価と金融システムの安定、持続的な景気拡大、想定される副作用の最小化をできる限り全て満たすことができる適切な当座預金残高目標をボードメンバーが責任をもって決定する」ことであると思います。』

という御尤もな理屈なのですが、それでは、福井総裁就任後の日銀は何をやっていたんでしょうかと申しますと・・・・・

「イラク戦争を理由にして臨時政策委員会実施して補完貸付の強化(2003年3月25日→http://www.boj.or.jp/seisaku/03/pb/k030325.htm)」を実施。蛇足ですが、4月1日の日本郵政公社発足に伴い当座預金残高目標を純粋技術的に2兆円引き上げ(15−20兆円→17−22兆円)。

その後矢継ぎ早に当座預金残高目標の引き上げを行いましたが、その理由はと申しますと、「SARS騒動によるアジア経済の影響(2003年4月30日→http://www.boj.or.jp/seisaku/03/pb/k030430.htm)」そして「りそな銀行問題(2003年5月20日→http://www.boj.or.jp/seisaku/03/pb/k030520.htm)」。

で、これらの「懸念材料」(笑)が片付いたと思われる後でもそのまま放置して、量的緩和政策コミットメント3条件の明文化をする破目に陥った2003年10月10日には「金融調節の柔軟性を高め、流動性供給面から機動的に対応する余地を広げる観点(http://www.boj.or.jp/seisaku/03/pb/k031010.htm)」から27−30兆円の目標を27−32兆円に引き上げましたわな。

その後、金融経済月報で景気判断を上方修正しているのにも関らず当座預金残高目標を「デフレ克服に向けた日本銀行の政策スタンスを改めて明確に示し、今後の景気回復の動きをさらに確かなものとする趣旨(2004年1月20日→http://www.boj.or.jp/seisaku/04/pb/k040120.htm)」という理由を持ち出して引き上げておりましたな。

で、これら政策の説明も結果のレビューもございませんですなぁと存じますがどうでしょうか?


・金融政策の自由度を縛ったのは自業自得なんですが?

「6.金融政策の自由度がない状況は国益に反する」ってお題も中々凄いのですが、その前の「5.真の説明責任」って所から既に「金融政策はフォワードルッキングであるべき」という話をしております。現在の金融政策に関しては総裁を始めとしてほぼ全ての審議委員が今まで「量的緩和政策のコミットメントによるビハインド・ザ・カーブのリスクと、政策の効果を比較勘案してます」って発言を折に触れてしておりますので、その前提条件を根本から覆す話ではございますが、もともと「ゼロベースであるべき金融政策を語る」というのがこの講演の趣旨ですんではぁはぁそうですかって感じですわな。

「5.真の説明責任」より。

『量的緩和解除の3条件については、現時点で解除条件を見直すと、「市場との対話」で不都合が生じます。しかし、量的緩和解除の3条件は、様々な問題を内包していることも事実です。例えば、金融政策は本来、「フォワード・ルッキング」であるべきです。その観点からは、足許のインフレ率よりも、将来のインフレ率とも言える「インフレ期待」をにらみながら金融政策運営を行う方が良いと思っています。』

『金融政策の最終目標は、物価の安定・金融システム安定・持続的な景気拡大の実現です。量的緩和解除の3条件は強い「コミットメント」ですが、割り切った言い方をすれば、金融政策運営における中間目標という位置付けに過ぎません。持続的な景気回復が展望できる状況となった場合は3条件を柔軟に解釈しても日銀の信認は低下しないと思います。』

そりゃまぁ金融政策をゼロベースで見直しますよって話をするならそういう理屈も大有りでしょうけれども、これもまた歴史的経緯(というと大げさだが)を無視している訳ですな。あ、ゼロベースで見直すから良いのか(苦笑)。

そもそも量的緩和政策のコミットメント3条件を明文化したのは2003年の10月で(http://www.boj.or.jp/seisaku/03/pb/k031010b.htm)、コミットメント明文化をする破目に追い込まれた経緯はといえば・・・・・

りそな銀行絶賛税金投入の大救済スキーム発動による「銀行シバキアゲ政策の転換」によって株価が反転。おまけに株価反転に気を良くした日銀方面からの強気発言やら金融政策決定会合議事要旨から「量的緩和の早期解除があるのではないか??」という疑念が金融市場に流布された事と、それまでの長期金利の低下のし過ぎによる金融機関の債券投資の大拡大の反動。

これが相まって、「量的緩和解除織り込み相場」状態ともいえる5年国債1%超えだの2年国債0.25%超えだのという阿鼻叫喚相場が現出してしまったために「時間軸は揺るぎないもの(2003年9月3日の福井総裁発言)」とわざわざ言わざるを得なくなったわけでして、その一環として「量的緩和コミットメント3条件の明確化」をする事になったわけですわな。


ということで、そもそも量的緩和政策の3条件というものを設定したのは、「日本銀行が政策の自由度を持っていると見做されると問題がある」(これもまた情けない話ではあるが)というのが根底にある訳でして、それを捕まえて「金融政策の自由度がない状況は国益に反する」って言われましても、あたくしのように金融政策を粘着して見ている人間に取っては「ハァ??」ってなですわな。

まぁ金融市場参加者が皆粘着しているかって申しますと、そりゃま粘着していない人の方が多いのではないかと存じます(苦笑)し、「過去に必要以上に拘る事はない」というお方もまたあまたおいでのようですので、あたくしからみればこんな暴論はねぇと思いますが、まぁどうなんでしょうね。


・当座預金残高目標の引き下げに関する説明が微妙に変化するのはどうかと思うぞ

いやまぁ一々引用しているとやたら長くなりそうなのですが、とにかく今回の措置やら将来の当座預金残高目標の引き下げに関して、「金融政策の正常化」という言い方を振り回しながら、金利を上げたいような言い方をしてみたり、量的緩和政策の枠組みは不変だという言い方をしてみたりという感じで、都合よくコロコロと言ってる事が変化しているというのが非常に気に食わない所です。だいたいからして、長めの短期金利の引き上げを狙いながら時間軸効果は不変というのは矛盾というか詭弁の世界ではないかと思うのですが。「4.金融政策の正常化」から。

『短期金融市場を正常化させるためには、当座預金残高目標を段階的に引き下げて、無担保コール翌日物金利はゼロ近辺で安定させる一方、短期のイールカーブは将来の金融引き締めを多少意識して緩やかにスティープ化している状況が望ましいと思います。』

で、この後にはこういってます。

『当座預金残高目標を引き下げることは、「量」の効果の部分について調整を加える措置であって、時間軸に影響を与えることを狙った措置ではありません。』

その直後には・・・・

『また、当座預金残高目標の引き下げ、あるいは、一時的な目標割れ容認のどちらについても、「技術的な対応」と言うよりも、「金利の正常化」、あるいは、「金融政策のノーマライゼーション」に向けた一歩という意識で政策対応をすべきであると考えています。』

一体全体どっちなんでしょうという感じです。良く判らんというか小一時間問い詰めたいです。


・まとめにならないけど(というか記者会見まで逝かなかった)一応まとめ

今の所あたくしが思うところの小まとめ。

1.金融政策見直すなら政策決定会合で提案するのが先で、「個人的見解」という形で外部発表するのを先行させるのは金融政策決定会合の軽視じゃないでしょうか?

2.ゼロベースで過去の金融政策見直すというのはひとつの見解かも知れんが、やはりそれは政策決定会合(以下同文)。

3.ところで見直すなら過去の清算もちゃんとしてね。量的緩和政策の枠組みとして今まで積み上げてきたものの相当部分を否定しているんですからね。

まぁ何ですな、そんなに慌てずにCPIがゼロになるまで何故待てぬと言った所でしょうか。

それに債券市場が今高値圏で堅調だから当預目標即座に下げてもオッケーみたいな話を記者会見でしてるんですが、あたくしが本年1月31日にご紹介したブルームバーグニュースとのインタビューでの当座預金残高目標引き下げ否定論と全然話が違うというのも困ったものです。無原則もいいとこ。ストラテジスト気分が抜けてないんじゃないの???

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2005/06/03

○水野審議委員講演と記者会見(記者会見まで手が回らず!)

昨日福島県金融経済懇談会で水野審議委員が講演を行いまして、この内容がかなりやんちゃな内容。10年国債入札実施日にこの講演はどうよって思ってたのですが、その後に行われた記者会見の内容が報道されると債券市場は急速に値を崩す展開。講演の内容もやんちゃなものでして、もうちょっと債券市場でもちゃんと読めよって気はしましたが、その後の記者会見が益々過激な内容だったのは呆れました。

10年国債入札日の午後2時過ぎといえば沢山落札した大手業者の方はまだヘッジを全部している訳じゃねぇと思うのですが、そのタイミングで債券相場が相当嫌気するような発言をするというのは一体全体どういう神経をしているのか。とても「債券市場関係者」だったお方とは思えない見事な「相場とのゲーム(後述しますつもりが時間切れ。記者会見でのご発言です)」ですなぁとその見識に関して激しく疑問をぶつけたくなります。っていうか、ちょっと青臭い言い方すれば「相場を泥靴で踏みにじった」って思うんだけどね。

大体この講演内容が6月2日という当座預金目標下限割れの日に予定されていたという時点で「おまえら端から30兆円維持する気なかっただろう」と言いたくなる訳でして、何と申しますかもうこの素晴らしい予定調和茶番劇に対しては呆れてものも言えないといいながら文句を垂れるあたくしでございました。

で、まぁその講演というか挨拶要旨はこちらです。
http://www.boj.or.jp/press/05/ko0506a.htm

もう突っ込みというか文句言いたくなる所満載なのですが、突っ込みだすとこっちの方が論点が拡散しちゃうという素晴らしい代物ですので、まぁ本日は軽めに反駁してみます。続きは週明けにでも(^^)。


・目次を見た瞬間にのけぞりましたが(--)

目次の後半部分に呆然。曰く、
『4.金融政策の「正常化(ノーマライゼーション)」』
『5.「真の説明責任」』
『6.金融政策の自由度がない状況は国益に反する』。

いやまぁ凄い題名で、まぁこの内容をもうちょっと熟読する暇が債券市場関係者にあれば昨日の入札実はもっとボロボロになったのかもしれませんが、当然熟読する間もなく入札締め切り時刻と相成る訳でして(--)、記者会見でよりこの講演より過激な内容が報道されて中期債中心にボロボロ相場になるのでありました。


・ストラテジスト気分が抜けて無いですなぁ

「1.はじめに」ってところで水野審議委員はこう言いました。

『今年の金融市場をみると、事前の市場のコンセンサスが外れることが多いように思います。』

えーっと、それはメディアのインタビューにしゃしゃり出てきて「世界的に金利が特に超長期ゾーンでフラットニングする」とか発言すると日本の債券市場で超長期ゾーンを中心にしたスティープニングが起こる事を指して仰せなのでしょうか(笑)????まぁそれはともかく。

『金融市場のボラティリティーは低い状況にありますが、ヘッジファンドに巨額な資金が流入していることもあって、なぜか居心地の悪さを感じます。日本銀行は金融市場の動向を常にウォッチしていますが、今年は株価・長期金利が実体経済を正確に反映していないような気がします。』

この部分が記者会見では「長期金利の低下が実態経済と違う踏み上げ相場になっている」などと益々具体的な言い方になるのですが、別にマーケットストラテジストのごたくなんぞ聞きたかぁございませんが。

と軽く突っ込みまして肝心の金融政策運営に関る部分。


・言ってる事があちこちで自己矛盾してるようにしか読めないのですが

このセンセイの挨拶要旨なんですが、一つ一つの内容は「左様でございますか」となるのですが、全体を通して読んでみるとそれこそ物凄い「居心地の悪さを感じます」って所です(笑)。よってちゃんと突っ込もうとすると結構下準備が必要なのですが、下準備不足なので(スイマセン)、ほんのさわりだけ。

例えば、「4.金融政策の正常化」って所で(A4の紙に打ち出すと6ページ目のあたり)水野さんはこう言ってます。

『当座預金残高目標の引き下げは、結果的に、量的緩和政策の方向転換の第一歩と解釈される可能性があるため、慎重な議論が必要であることは理解しています。ただ、当座預金残高目標を数兆円程度引き下げても引き続き潤沢な流動性を供給していることに変わりはありません。個人的には、金融市場に悪影響を及ぼさない幅で、当座預金残高目標を引き下げに踏み切っても良いと考えています。』

で、このちょっと後ではこう言っている訳ですが・・・・

『当座預金残高目標の引き下げ、あるいは、一時的な目標割れ容認のどちらについても、「技術的な対応」と言うよりも、「金利の正常化」、あるいは、「金融政策のノーマライゼーション」に向けた一歩という意識で政策対応をすべきであると考えています。』

その後では今回のなお書き対応についてこう発言。

『総裁をはじめボードメンバーがこれまで対外説明に時間をかけてきたので、「当座預金残高目標は資金需要の減退に対応した受身的な対応であって、金融引き締めではない。」という我々の考え方は、金融市場では相当程度受け入れられていると理解しています。』

一応この間の文を一生懸命に読むと、かなり強引な理屈の展開にしか思えませんが、さすがに頭のよろしい方が講演しているだけに、論理的に明白な破綻は無いところがまた憎たらしいのですが(^^)、こう並べると(゜д゜)ハァ??って感じになりませんか??

それに政策決定会合後の総裁記者会見では「なお書き対応は技術的対応」となっておりましたて、それが政策委員会の公式見解であると理解しておりますが、それを技術的対応じゃないというのであれば、水野さんは政策決定の場でちゃんと議論を行い、「技術的対応という位置づけならば反対」とするのが審議委員としての筋というものでは無いでしょうか????


こんな所でも自己矛盾。さっきの「当預残目標引き下げオッケー」の続きにこんなことを仰せでございます。

『短期金融市場を正常化させるためには、当座預金残高目標を段階的に引き下げて、無担保コール翌日物金利はゼロ近辺で安定させる一方、短期のイールカーブは将来の金融引き締めを多少意識して緩やかにスティープ化している状況が望ましいと思います。』

ところが、この後に「量的緩和政策はゼロ金利+時間軸」って話をしておりまして・・・・

『長期金利の低位安定は、量的緩和政策の効果というよりも、ゼロ金利政策の効果であると判断しています。(中略)仮に私が「現在のわが国の経済金融情勢に最も適当と思われる金融政策の枠組みは何か?」と聞かれたならば、ゼロ金利政策であると答えると思います。』

・・・・・・・・・(-_-メ)




・日銀批判に答えておりますが・・・・

あたくしの悪態が聞こえているのであれば誠に光栄でございます(^^)。

「4.(以下面倒なので目次は数字だけ)」の前半部分。

『一部に、人が変わると金融政策が変わることは危険であるという考え方もあるようですが、任期5年の政策委員会のメンバーが複数入れ替わる頃には、経済・金融システムなど金融政策を取り巻く環境は変化していると考えるのが自然です。また、政策委員会のメンバーは、金融政策運営についての考え方、哲学が異なります。』

じゃあ政策運営が「前後不接連」でも宜しいと仰るわけですかそうですか。そうであれば、今後は量的緩和政策に関して「期待に働きかける」だの「時間軸効果」だのということは有りえませんな。何せ人が変ると金融政策が変るんですから、あっはっは。

『金融市場では、どのメンバーはインフレ・タカ派、あるいは、インフレ・ハト派であると言った議論をしますが、その背景には金融政策に関する政策委員会のメンバーの考え方が異なるとの判断があるはずです。米国では、FRBの理事の任期が終了すると、新政権の考え方に近いメンバーがFRBの理事に任命されます。ですから、まさに「人が変われば、金融政策が変わる」と言えるかもしれません。』

と、こういうときにさっくり米国様の事例を持ち出しますが、そもそも日本の行政機構は「ビューローは変らず」となっているので、都合のいいところだけ引っ張ってきて比較するというのは科学的態度とは申せませんなぁ。

しかし本石町日記の中の人を意識したかと思われるこの件はシビレました。



「5.」の最後の方。

『一部の市場参加者から、量的緩和解除の3条件が満たさないうちに当座預金残高目標を引き下げることは約束違反である、と批判を受けることがあります。個人的には、この見解は金融のプロらしからぬ見解だと思います。』

もしかしてこれはあたくし向けですか(なんて訳はございませんですね^^)??

えーっとですな。約束違反などとは申しあげてませんが、んなこと言う方もいるのでしょうか?約束違反なんじゃなくて、当座預金目標を引き下げるなら引き下げるでちゃんとした政策ロジックを組んでいただいかないと、その政策の妥当性に関して論議も出来ないと思うのですが。

『ここでは、2つのことを指摘したいと思います。第一に、日本銀行は、量的緩和解除の3条件が満たされるまで、量的緩和政策の「枠組み」を変更しないとコミットしているのであって、当座預金残高目標を30〜35兆円程度に維持することをコミットしているわけではありません。』

素晴らしい屁理屈。ではこちらからも。誘導目標を幾らにするというのを「金融政策」として決定しておりますが何か?誘導目標を引き上げる時に「量的緩和政策の強化」と言ってますが何か??

『第二に、仮に日本銀行が量的緩和政策の枠組みの「量」の部分について当初期待していたほど効果がないと判断したならば、30〜35兆円程度という巨額な当座預金残高目標を維持することは、「真の説明責任」を果たしているとは言えないと思います。むしろ、量的緩和政策の副作用を少しでも和らげることが国益に合致していると思います。』

それは機関決定されてますでしょうか?先日の展望レポートでは副作用の話はありましたが、効果と副作用を比較論じて副作用の方が大きいというような話ってありましたっけ??その説明抜きで「金融政策の正常化」とやらに手をつける欺瞞性に関して悪態ついてるんですが。


○えーっと時間もなくなりましたので・・・・・

やっぱり時間切れになってしまったので、記者会見に関して書けませんでした。ブルームバーグニュースの昨日17時5分付のニュースに詳しく(また日高さん福島にご出張ですな^^)ございますので読んでいただければ(つーか多分今日の夕方になると日銀Webにアップされるでしょう)血圧が上昇することうけあいです(-_-メ)。

当座預金残高引き下げのスケジュールを延々と話したり、「不謹慎な言い方だが」と断りは入れながらも「日銀がゲームに勝つためには、債券市場を崩さなければ結果責任を果たせるのではないか」と話をしたりもう言いたい放題で誠に香ばしい。

でも、あんたの発言が報道されてから中期債中心に相場は下落しましたから〜残念!って感じですわな。まぁたかだか30銭程度の下げでは下げとは言わんけど、入札日の後場という業者がロングになっている所でそれを言うなって感じですなぁ。

それから「わたし自身は5月の債券相場は絶対に堅調だと思っていた」などとも会見で話していたようですが、あんたはストラテジストじゃないですから〜残念!イールドカーブスティープニング斬り〜!って感じですな。正直、この人が債券市場代表者として扱われるのは物凄く頭が痛い。

詳しくは週明けにでも。

(追記:1月31日にご紹介したブルームバーグニュースとのインタビューでの当座預金残高目標引き下げ否定論と全然話が違うというのもケシカラン話ですわな)

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2005/05/09

○水野審議委員・・・・

先日ご紹介しました水野審議委員の共同通信インタビュー。ご紹介することの程も無いと思っていたくだりが実は物凄く重要だったという驚愕の状況が発生しておりまして、ここに皆様に深くお詫びすると共にくだんの部分をご紹介。

4月20日の共同通信インタビューの中で、「米国を筆頭に主要国の中央銀行が金融政策の正常化を模索する中で世界的な長期金利の低下が指摘されているがどうか」ってな趣旨の質問があったのですが、その答え(がこの人の場合やたら長いので)の一部を。

『年金基金に対するさまざまな規制の見直し、生保の資産・負債の両方に時か評価を求める会計制度の導入する動きから機関投資家が資産と負債のデュレーションのマッチングを進めていかざるを得ない状況にあると言う議論。』

『超長期債の発行を、投資家は期待しているのが今の現状だ。「グローバル・フラットニング」という言葉でよく言われているが、人によっては「ストラクチュアル・フラットニング(構造的なフラットニング)」だと言っている人もいる。』

『私自身は、欧米ほどではないが、「グローバル・フラットニング」の流れの中に日本もあるのではないか、例外ではないのではないかと見ている。』

(以上ソースは4月20日共同通信ニュース)

で、この4月20日以降の円債イールドカーブはどうなりましたかと申しますと、4月20日引け時点から債券先物(=7年もの)は39銭上昇(残存7年国債に換算すると0.04%位の利回り低下)し、10年269回債で0.035%の利回り低下ですが、20年75回債は0.02%利回り上昇しちゃっているんですな、これがまた。これは「イールドカーブのスティープニングしかも超長期債主体」でして、まことに恐るべしとしか申し上げようがございません。

この大先生の素晴らしいのは、2月9日の日経金融新聞朝刊に寄稿した記事(市場に対してまるでストラテジストのようなお話しをしていたんですが)で同じように『欧米主要国の影響もあって、わが国の債券相場も長期・超長期セクター主導で堅調である。今回の「グローバル・フラットニング」は債券バブルの色彩が強かった2003年とは異なり、持続性が高くなると見込まれる。』という相場観(?)を語っておられたのですが、この記事が朝刊に出たその日からイールドカーブはスティープニング(-_-メ)。


まぁ別に長期的な視点でお話しをしてるんでしょうが、それにしても2度「グローバルフラットニング」にメディアで言及して2度ともピンポイントで高値掴みの格好というのは、個別銘柄の買い推奨をするとピンポイントですっ高値での推奨になることが多いと評判で、「買い推奨じゃなくて怪推奨だ」などと一部で囁かれる某人気株式評論家を彷彿とさせるものがございますわな。

で、まぁ2週間とかのタームで相場の高値掴みをしても長期的には無問題と言えばそれまでなんですが、どうもこの「ピンポイント高値掴み」が2打数2安打というパフォーマンスを見ちゃいますと、何か「日銀の相変わらずの運の細さ」という物を感じてしまいます。肝心な所での政策判断が「高値掴み」になってしまうのだけは勘弁して頂きたいものです。2000年の二の舞だけはやめてねって感じです。

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2005/04/22

お題「水野審議委員インタビュー続」

昨日ご紹介しました水野審議委員インタビューの続き(編集時注:よって先に下の記事読んでちょ)です。何せインタビュー詳細が記事8本立てな上に、質疑応答の形式ではありますが殆ど水野さんのお話でしかも一つ一つのお話がやたら長くて話題があちこち飛んでおり(^^)、結構読むところが多かったりする訳で。以下「」内水野審議委員発言のソースは20日15時03分〜16分に出ました共同通信ニュースです。

○物価の見通しについて

「敢えて特殊要因を取り出してどうだという議論はあまりしたくないが、一時的な要因がマイナスに寄与していることは否めないのだろうと思う。そういった一時的な要因が剥落するのはいつかというと、完全に剥落するのは来年1月以降となってくるので、前年比プラスになるのはいつかというと、蓋然性が高いのは来年の1−3月期。よほどうまく回っていけば秋以降ということがいえるかもしれないが、1−3月期というのが蓋然性が高いという感じで見ている」

名目賃金の下げ止まりと都市部の公示地価に見られる資産価格の下げ止まり傾向によって、「素材インフレ(by水野さん)」の影響が物価に影響してくるでしょうってお話になっております。

○今後の金融政策について

「個人的にどう思っているかというと、無担保コール翌日物金利をゼロ近辺で安定させつつ、当座預金残高を自然体で引き下げていくことが望ましいと思っている。当座預金残高の水準でもって、景気刺激効果が異なるわけではないという思いだ。そういう意味では、市場の実勢に合わせる形で淡々と下げていきたい、というのが本音だ。短期金融市場の正常化がなけれな、金融政策の正常化もなるという思いが強い」

昨日も申しあげましたが今日もしつこく。1月末のブルームバーグニュースとのインタビューと正反対の話をしているようにしか見えませんが困ったもんですな。世の中に革命的変化でも起きているのなら判りますけど、金融市場関係者からの初起用者が言うこといきなりの豹変というのはちょっとねぇ。

で、まぁ文句ばっかり言っても仕方ないので、水野さんの発言を色々と読んでみますと(先ほども申しあげたように話が多岐に飛ぶので内容を掴むのがそこそこ大変だったりする)、どうも量的緩和政策における量の意味はほとんど無く、量的緩和政策の本質はゼロ金利+時間軸であるという認識に立っており(そのこと自体は以前も言及してました)、どうも(景気に強気なので)量的緩和政策の副作用に対する懸念が大きくなってきたので豹変モードになったのではないかと。


○うーん・・・・

「「ビハインド・ザ・カーブ」の話をしておくと、量的緩和論は、まずビハインド・ザ・カーブを覚悟しているという説明を日銀はしてきたし、私も入ってからビハインド・ザ・カーブを覚悟した議案に賛成してきている。違和感はあるが、全員がコミットしているということだ」

違和感あるとかわざわざ仰るなら反対意見出したら如何かと(まぁ意見表明してるのかもしれませんが・・・)。

「その中で、敢えてより深い意味で、量的緩和の副作用の方がメリットよりも大きくなってしまうということを避けるには、あるいは、金融市場の混乱を避けるようなコストが大きいビハインド・ザ・カーブにならないようにどうしたらいいかという質問ということで答えさせてもらうと、これは結局、量的緩和の解除の具体的なプロセスや、ポスト量的緩和の政策の枠組みにういて、もう少しマーケットに話しをしてもいいのではないかと思っている」

だそうなのですが、その具体的施策(?)は以下の通り。

「適当なときに言及してあげることが必要で、個人的にはときどき巨額の30兆−35兆円程度という当座預金残高を維持することの必要性が下がってきたのではないか、と言ってみたり、量的緩和の枠組みは機動力がないのが問題だと思うので、機動力のない政策を続けることは、実は国益の観点からも合致していない、と言ってみたり、あるいは量的緩和が長期化したときに予想される潜在的な副作用もある、と言及するようにしている」

そういう話は政策委員会で議論をしていただきたいですし、政策委員会で議論する気がないのに政策委員会の外で話しをするのならばただのノイズあるいはマッチポンプではないかと思うあたくしは原則に拘泥する原理主義者なんですかそうですか。

良く判らんのですが、どうもこういうご意見をお持ちの人のようですので、水野審議委員もまた(とほほ)政策委員会の外でノイズ撒き散らし攻撃になりそうですな。トレーディングやっている身としては相場が無用に動くので楽しめますが、中央銀行の政策運営としては如何なものかと存じますな。


○健全化合戦の懸念が・・・・・(-_-メ)

昨日最後の方でご紹介した部分に続くお話。

「2007年度となってくると、景気が循環的に減速局面に入っていく可能性が高まってくるし、消費税率引き上げをめぐる話題等もさまざまに出てくると思う。そういうときに、財政・金融政策上、何らかの形で景気刺激策が採れるような態勢でないと非常に困るのではないか」

「逆に言うと、経済と金融システムがある程度正常化したところで、金融政策のノーマライゼーションのプロセスをある程度経てこないと、次の景気後退で金融政策が使えなくなる。そういう危機意識を非常に持っている。金融引き締めに前のめりになっているという意味では全くないが、それについては、時間が掛かるが、政府との対話では訴えていきたいところだ」

・・・・どうも財政と金融で健全化合戦が始まってしまうのではないかという悪寒がしそうなこのくだり。財政再建路線で消費税増税がどうのこうのと言う話が本格化する前に金融引き締めをしておいて金融緩和余地を残しておきたいというご意見のようですな。財政と金融がお互いに俺が先に健全化するって言い出してどうするんでしょうかねぇと思うわけだが、そんなアフォな事態が起きそうな予感がして、甚だ遺憾でございますわな。



○まとめ

・結局のところ水野審議委員はタカ派
・今後の発言は地均し的な意図でよりタカ派的なものがでてくるかも
・政策委員会は景気にかなーり強気のようで
・今後は財務省と日銀の「健全化合戦」が最大の逆噴射要因かと

んなところですか。

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2005/04/21

お題「水野審議委員宗旨替えですか?」

最初に正誤。時事通信社の「金融財政」に関して「月刊誌」と申しあげましたが、隔週発行の間違いでした。謹んでお詫びして訂正いたしますが、賠償は致しかねます(^^)。

昨日は平均株価が上昇しようとお構いなし(日経225は大ダレしておりましたが)で債券市場は上昇。何せ寄付きが前日比2銭安でそこから2銭しか下げなかった(しかも安値つけたのは9時1分)という状況。債券相場恐るべしなのですが、まぁ今週号の日経公社債情報での「皆様の想定レンジ」を上に抜けたらこの有様という実に素晴らしい展開でございました。今日の20年国債入札は1.9%割れ状態でお迎えのようですが、いやもうどうするのよって感じです。


そんな債券市場であまり話題にならなかったのですが、ロイターの記事に「水野審議委員、当座預金残高の段階的下げに言及=共同通信」ちゅう話がありました。昨日の共同通信ニュースにインタビュー一問一答詳細が載っていた(15:03付〜)のですが、本当に詳細記事でして何と8本立て。水野さんの就任記者会見でも思ったのですが話の長いお方ですなぁ(^^)。

・・・ってことはどうでも良く、水野審議委員が宗旨替えしているのがヲチャー的には衝撃の材料(ただし債券市場は残高引き下げを織り込んでいる節があるのですが)です。今年1月31日のドラめもんで書きましたが、以前ブルームバーグニュースのインタビューを受けた際にはこちらの先生はこのように発言しておりました。

「そもそも、量的緩和政策の枠組みは、市場参加者が必要と考える量よりも潤沢に流動性を供給することによって景気刺激効果を出そうという枠組みだ。日銀の資金供給オペに対して資金需要が低下し、札割れが頻発したからと言って、簡単に目標を引き下げると、自己矛盾が生じてしまう。当座預金残高目標を引き下げても、潤沢な資金供給と、その結果としてゼロ金利は維持されるので、量的緩和政策の枠組みは維持できるという議論は、市場が受け入れないと思う」

市場が受け入れれば引き下げありと宗旨替えですかそうですか、ってな訳で長いインタビューからあたくしが勝手に要点らしい所を並べてみます。すんげぇ長いインタビューですので、元記事をご覧になることをお勧めしますが、詳しくは共同通信社にお問い合わせ下さい(ってまたこれかよ^^)。例によって以下の「」内のソースは共同通信ニュースでございます。


○景気に関しては基本的に強気のようですが

「(景気が)踊り場を脱却する時期は敢えていえば4−6月期で良いと思う」
「1月(の経済統計)は出来過ぎ、2月はその反動でさえないという状況である」
「(4月短観の)DIは悪いが事業計画良いから大丈夫、という見方はちょっと
控えたいと思うし、もう少し様子を見ないといけない」
「今回短観はあまり白黒はっきりとつけられない」
「全体的に経済指標の中で、比較的明るいものが多いのは雇用所得環境の統計」
「企業収益が増加し、雇用過剰感が払拭される中で、雇用者所得は緩やかに
上昇していく可能性が高いという見方で良い」
「短観が出るまでと大きく景況感変えたという判断はしていない」
「日銀の金融政策の環境は、この数日間、あるいはこの1、2週間で変ったかというと、多分何も変っていない」

ちなみに、最後の一言は米国でのGMだのフォードだのの件やら、中国での反日デモだの日本株下落だのについて言及しつつ「何も変っていない」ということですんで、まぁ要するに今の状況は一時的な調整だと思ってるんでしょうな。


○当座預金残高目標引き下げ論

この部分の話がやたら多く、話が色々な角度でやってるのでまとめにくいです(涙)。

・目標引き下げに関する概括

「(最近の当座預金残高議論に関して)技術論から本質論の話になってくるのかな、というのが正直な感想だ」
「当座預金残高目標の引き下げは政策変更ではないという説明は、短期金融市場の参加者と債券市場の参加者は非常に同情的に分かりますと言っていただけるが、なかなか政府サイドは良い反応にならないと思う」
「金融システムが安定してきたということがいろいろな形ではっきりしてきたので、当座預金残高目標引き下げをめぐって日銀で議論され、いずれ当座預金残高下げることもありうるのだろうと皆さんも思っているので、実際に当座預金残高を引き下げても金融市場が混乱することはよほどのことがない限りないと思う」
「当座預金残高目標30兆ー35兆円程度を引き下げても景気に悪影響を与えることはないと思う」

・・・・1月のインタビューとトーンが違いますなぁ


・量的緩和政策の副作用、短期金融市場の市場機能復活ネタ

「量的緩和政策を続ける一つの副作用として短期金融市場の機能が低下していったということがあった。そういう意味では政策転換をしていく上で必要になってくる話は、短期金融市場の機能を回復し、正常化していくことが必要だということだ」
「そういう意味では、オーバーナイト物金利がゼロ、ターム物金利もゼロという状況を続けていく場合には、短期金融市場の機能が回復するとは思えない」
「当座預金残高は理由はともかく段階的に減らしていく方向にしていかないと、短期金融市場の正常化はなかなか難しいと思う」
「金利機能を復活させる方がいいので当座預金残高は段階的に引き下げて、無担保コール翌日物金利はゼロ近辺と維持しつつ、ターム物金利は動かすという話だ」

・・・・いやまぁ何と申しますか。ターム物金利を上げるという話は現在の政策の枠組みでありますところの時間軸効果と思いっきり矛盾する話なんですけど、その辺の整合性はどうつけるんでしょうか?大体本当に景気が回復して物価も上昇してもう下がらんと皆さんが信じるような状況、即ち現在の政策目標が達成しそうな時になれば、日銀がやいのやいの言わなくても量的緩和政策解除を織り込んで金利は上昇するでしょ?


・うまくまとまらんのだが「・・・・」な語録

「(量的緩和政策コミットメントの)3条件について今後1年程度時間をかけて見直したらどうかとか、日銀内で議論を深めてはどうかと思う。」
「期待に働きかける役割と言われても、債券市場では、4年間も期待に働きかけていると効果が消えます、と言われている」
「景気が回復しないと当座預金残高を下げられないかというと、当座預金残高を上げたこと自体に景気刺激効果はそんなに大きいと思ってないので、下げることが景気に悪影響を与えるとはおもっていない」
「ある事象が起きたから、これだけ当座預金残高を下げるという説明よりも、自然体で淡々と下げていきたい」
「また、非常に微妙な問題になってくるかもしれないが、超低金利政策を実は10年間続けていることの意味が強い。その間に景気循環が3回ぐらいあって、また次の景気後退まで今の政策を続けるのかということになると、例えが良いか分からないが、伸びきったゴムのような状態で金融政策が使えなくなってしまう。マクロ政策運営の中で金融政策が使えないとなることは、日銀がつらいというよりも日本の国益に合致しないと思っている」

特に最後の部分は、この後に「来年度になると景気が循環的に減速したり消費税引き上げを巡る問題も出てくるので、その時に景気刺激策が採れるような体制になってないと非常に困るのではないか」という趣旨の話が出てまして、いわゆる「糊代確保の為の金融引き締め」みたいな話までしております。何と申しますか、ちょっとそりゃどうかと思いますがねぇ。

引用がひたすら手打ちタイピングでしたので、引用してるだけで本日は終了(^^)。
まぁ「逆噴射引き締め懸念が強まりましたなぁ」というのが印象であります。

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2005/02/10

・水野審議委員の日経金融新聞への寄稿

あるお方が話題にしておりまして、その2番煎じで恐縮なのですがあたくしも拝見。昨日の日経金融新聞1面左上のコラム欄に水野審議委員が寄稿していたのですが、確かに話題にしたお方のご指摘通りで「何か政策委員会審議委員というよりはアナリストですなぁ」って感じですな。詳しくはもしかしたら別の機会に。

で、まぁそれはそれとして何と言うかアレだったのは、この寄稿の中で世界的な金利フラットニングに触れておりまして、水野さんはこんなことを仰っておられました(日経金融新聞より引用)。

『欧米主要国の影響もあって、わが国の債券相場も長期・超長期セクター主導で堅調である。今回の「グローバル・フラットニング」は債券バブルの色彩が強かった2003年とは異なり、持続性が高くなると見込まれる。』

・・・・・・・先生は相場神ですか??

まぁあんまり政策委員が相場観の話しをしてもしょうがないっていうかあまり益が無くて弊害のほうがありそうな気がしますわな。ストラテジストである事はしばしお忘れになられた方が吉かと、ってこれも受け売りなんですけど。






2005/01/31

「水野審議委員のブルームバーグニュースインタビューに関連して」

金曜日に金融政策決定会合の議事要旨をご紹介しましたが、その中で当座預金残高目標減額に関して言及があったのですが、「水野さんですかねぇ」などと申しあげたのは大間違い。病み上がりでぼけてましたな。

ブルームバーグのインタビューでで水野さんは当座預金残高目標引き下げに関してこのようなコメントをしております。まぁ実に真っ当なコメントです。

「当座預金残高目標を引き下げると、量的緩和解除の第1歩と受け止められるリスクがある。日銀は過去、目標引き上げの際に『金融緩和効果を高めるための措置』と説明してきただけに、持続的な景気回復に自信を深め、景気判断を上方修正できるような状況にならないうちに目標を引き下げると、政治的に批判される可能性も高い」

「量的緩和の枠組みを変えないまま目標を段階的に引き下げることは、技術的にも非常に難しい。日銀がいったん目標を引き下げ始めると、さらに誘導目標が引き下げられるという思惑が働き、新しい誘導目標を維持する事が難しくなる。『なお書き』や『ただし書き』を加えることはあり得るかもしれないが、いずれにせよ簡単にできることではないと思う」

「そもそも、量的緩和政策の枠組みは、市場参加者が必要と考える量よりも潤沢に流動性を供給することによって景気刺激効果を出そうという枠組みだ。日銀の資金供給オペに対して資金需要が低下し、札割れが頻発したからと言って、簡単に目標を引き下げると、自己矛盾が生じてしまう。当座預金残高目標を引き下げても、潤沢な資金供給と、その結果としてゼロ金利は維持されるので、量的緩和政策の枠組みは維持できるという議論は、市場が受け入れないと思う」(以上ブルームバーグニュースより)

まぁそりゃそうなんですが、じゃあ量的緩和政策の量を増やしていく意味は何なんでしょうかという質問をしたくなる気もするのですが、まぁこの量的緩和政策における「当座預金残高目標額という量の意味」に関しては以前からドラめもんでも申しあげているように、正直どういう意味とどういう効果があるのかさっぱり意味不明でございまして、(あたくしの個人的な印象としては、量的緩和の量に関しては恐らく超過準備数兆円までのレベルに関しては「ゼロ金利を維持する」という意味があると思うのですが、残りに関しては単なる過剰準備。非不胎化介入とか、危機回避の意味はあると思いますがその辺の匙加減は良く判らん)まぁ融通無碍な解釈をしつつ時間軸効果が発揮されていくって感じではないかと思う訳です。

それはさておきまして、水野審議委員が量的緩和政策の枠組みの中における当座預金残高目標の減額に明確に反対をしましたので、政策委員会の票読みをしますと、岩田副総裁、中原審議委員(この二人は量的緩和の糊代論を主張しているので減額に賛成する訳が無い)、水野審議委員が明確に反対となりますな。残り6人中5人が賛成しないと過半数にならないと考えますとまぁ当分は現実問題にはなりそうもありませんなぁという感じです。


○ちなみに水野さんのインタビューによりますと

まぁ当然と言えば当然なのですが、水野さんのインタビューもまた「タカ派」なのか「タカ派じゃない」のか謎な節がございますな。量的緩和政策の弊害について言及して「量的緩和コミットメントの3条件にかかわらず量的緩和政策の解除を行う」可能性について言及しているかと思えば、量的緩和の枠組みを終了する時には「量的緩和の枠組みからゼロ金利政策を経て、複数回の利上げができるような環境まで待ちたい」とビハインド・ザ・カーブ容認とも取れるようなコメントをしておりまして、正直どうとればいいのか良く判らん。というか恐らくは「総合判断で量的緩和政策の脱却。ただし予防的利上げは行う気はさらさらない」という辺りなのではないかと。

水野さんが一番恐れているのは、景気に遅行して動く消費者物価指数のプラス転換をひたすら待ち続けているうちに、量的緩和政策の弊害というか景気刺激効果が効きすぎてしまって「どこかで変なバブル発生」→「みんなでそこに突っ込む」→「不動産バブル崩壊の二の舞」という下らない事態が生じることなのでしょうかなぁと思う次第でございます。そうならないようにどこかでブレーキをかける必要があるというのが「量的緩和政策の弊害への言及」となっているんでしょうな。


○というわけで、当座預金残高目標引き下げの話が少々遠くなりましたが

債券市場および短期金融市場の今年の最大のネタあるいはメシのタネになりそうな話題が「当座預金残高目標引き下げ」でございましたが、皆さんネタが無いせいかせっせと話題盛り上げを頑張りすぎまして(^^)、時期尚早とばかりに見事に話が潰れてしまった形になってしまいましたわな。残念!って感じですが、足もとの経済指標もどうもパッと致しませんし、特殊要因が色々と効いているとは言え12月の東京都区部CPIは▲0.5%と見事なトホホ状態になっておりまして、債券市場と致しましては誠に困った事に死角なし状態になってしまいました。(以下目先の相場の話なので割愛)

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2004/12/07

以下12月6日に書いたメモ

水野審議委員就任記者会見に関して簡単に。

田谷審議委員の後任として就任した水野温氏さんの記者会見が金曜日に行われました(他の人だと正直ど〜でもいいが、田谷さんに関しては退任記者会見というのも聞きたかったですが)。会見要旨は本日日銀Webにアップされると思われますが、情報ベンダーで出てきたフラッシュを見た印象は「まぁ予想通り」という感じでして、質疑の順番のせいなのかもしれませんが、「前半やたらと威勢が良い(タカ派的)話をしてたけど、後半にトーンダウンしてますな」っていうのが感想です。

情報ベンダーのフラッシュを見てたベースでは、量的緩和政策の弊害(つーか低金利の弊害)を強調しているものの、量的緩和解除に関しての時期その他の明言は避けたようで、低金利政策の弊害を強調する段と量的緩和政策の出口に関する段での雰囲気がちと違うように見えました。まぁ総体としては「量的緩和政策は弊害の大きさが目立つようになってきましたが、そうはいっても量的緩和の出口はさて・・・・??」ってところだったかと。

まぁ会見要旨を改めて見たいと思います。

という訳で就任記者会見記事に続く。

2004/12/07

お題「水野審議委員の就任記者会見」

情報ベンダーなどでは内容がちょいと出てましたが、12月3日の水野さんの就任記者会見が日銀Webにアップされましたのでこちらを見ましょう。

http://www.boj.or.jp/press/04/kk0412a.htm

○全体的にはまぁ穏当にって感じかな?

冒頭でこんなコメントをしています。

『本日付で審議委員に就任した水野と申します。今まで日本銀行というものを外から見ていた人間が中に入って意見が変わったというと怒られるが、多少物言いが変わってくるかも知れない。ただ、なるべくフランクに正直に、もし日本銀行と自分の考えに違いがあればできるだけわかりやすく言っていこうという点は変わらない。従って、今までマーケットにいた時に言ったことから急に意見を変えることはないと思う。ただ、基本的に日本銀行の考えているスタンスは押えて話をさせてもらうので、多少歯切れが悪くなるところはご容赦頂きたい。』

うんうん、模範解答ですな〜(^^)。

『今まで日本銀行を外から見ていたマーケット参加者が、こういうかたちで政策委員会メンバーとして入っていくことについて、私が適任かどうかは本当にわからないが、今回引き受けた一つの理由は、マーケット参加者が一人入っていくのも悪くないかな、という思いである。これからもこういう人間が入れるように、私がつまずいてしまうとまたそういう道が途絶えてしまうので、しっかりやらせてもらえればと思う。』

私がつまずいてしまうと云々の部分は、「次はひょっとして俺の番か?」と思っているあんな人やこんな人をはじめとした市場関係者が口には出さないけど激しく感じている所でしょうな。ちょっと苦笑。

水野さんは今まで「量的緩和はとっとと解除しましょう大体来年の前半位に」と主張していたと記憶しておりますが、さすがに就任記者会見で具体的時期の言及はしておりません。まぁ当たり前ですが一応気は使ってますな(^^)。

で、この先もご紹介しますが、のっけから飛ばして躓かないように、かつマーケット参加者として「市場の声を伝えないと」っていう意気込みは伝わって来るというのが全体的な印象ではありますな。



○タカ派的発言の意義(?)について

本日は趣向を変えて(る訳でも無いですが)、質疑応答を順に追わないで見ます。

と申しますのは、この記者会見では散々タカ派っぽい発言を繰り返しておりまして、最初は「水野さんのっけから飛ばしてますな〜」って印象を受けたわけですが、会見をよくよく見ると最後の最後に妙(と言ったら失礼ですが)なコメントがあったりする訳でございます。最後の質疑をいきなり見てみましょう。

『(問)先程審議委員に就任した抱負の中で、マーケットのメッセージを伝えることが1つの役割だと認識されているとおっしゃっており、私もその点に非常に期待を持つが、過去の日銀の金融政策運営を振り返った時に、マーケットのメッセージが上手く伝わらなかったゆえに不都合が生じたようなケースについて、例えばどういうところを外からご覧になっていたのか、具体的に伺いたい。』

金利に蓋をするとかまぁ色々な迷言もございましたし、CPI時間軸が変更になるのではないかというような勢いの早期量的緩和解除観測があったりと、まぁこの2年くらい碌な事がありませんでしたが。

『(答)こうした立場になると言い難いが、例えばマーケット自身も超低金利政策が続くがゆえに、金利が上がらないことを前提に物事を考えている人が多い。ある意味で、将来の政策を考えることが無駄である、だから債券運用において将来の金利上昇をあまり考えなかった。その結果、債券相場は昨年急騰した後に急落したということが起きているわけである。』

『そういった意味では、例えば今年──足許、長期金利は放っておくと金利が下がりやすい環境にあると思うが──、景気が減速してくる、足許の景気指標もどちらかというと失望的なものが多いのに対して、福井総裁が多少楽観的な景気の見方を出して、ある意味でインフレタカ派的な発言をしているのは、それをけん制しているという意味で、評価して良いのではないかと思う。』

『そういった意味では、マーケットが昨年発したメッセージ──債券市場から発しているメッセージがマーケット自体の多少のオーバーシュートであったりするわけであるが──に対する経験は、実は今年のそうした発言等をみていると、かなり生きてきている可能性はあるのではないかという気がしている。(より遡った話になる後半部分は割愛)』

という訳で注目は第2段落部分なのですが、この言い方ですと福井総裁は債券市場のオーバーシュート(この場合は相場上昇へのオーバーシュート)への牽制の意味もこめてタカ派スタンスを継続しているかのように取れるのですが、本当にそうなんでしょうかってのは「???」ではあります。福井総裁は単にここ1年半くらい延々と景気に強気なだけではないかって気が思いっきりする訳で(^^)。

まぁ水野さんが質疑の最後で敢えてこういうものの言い方をしているのですが、その前には(この先で紹介しますが)量的緩和政策の弊害(というか単に低金利の弊害のような気はしますが)について散々言及して、「まぁこれはインフレファイターですな」と瞠目するような発言を連発しております。これらのタカ派的発言と上記の質疑応答をリンクして考えますと、水野さんのタカ派的姿勢は(勿論元々タカ派的言動が多かったので、まぁ素だとは思いますが)穿った見方をすれば『足許、長期金利は放っておくと金利が下がりやすい環境にあると思うが』といみじくも仰せの市場環境に対する牽制で敢えて緩和政策の弊害を連呼しているのではないかと思ったりしちゃう訳であります。

深読みしすぎだとは思いますが(^^)。



○量的緩和政策の弊害に関して

で、まぁ上記のような「量的緩和政策の弊害強調」ですが、いくつかの質疑で弊害に言及してているために、トーンとして「随分と量的緩和政策の弊害を強調しているな〜」って印象になるのですが。まず最初の質問「抱負はどうよ?(意訳^^)」に対する答えの一節。

『マーケットのメッセージをもう少し政策委員会の中でも言っていきたいと思っている。特に、今年のマーケットを見ているとボラティリティが非常に低いが、これは決して良いことではないと思っている。例えば、クレジット・スプレッドが非常にタイトになっている、あるいは債券市場が動かない、株価も動かない、為替もちょっと年始に動いてまた足許は動いているが、基本的に落ち着いている。こういう時には、その後に何か大きな動きが起きることが多いので、きめ細かく見ていく必要があるというのが今の気持ちである。』

はぁそうですか。クレジットスプレッドがタイト化するのは企業収益の好転とか、相変わらずの銀行の貸出過当競争とかという要因もあろうかと思いますが。現に格上げラッシュですし。まぁ言いたかったのはマーケットのベタ凪が続きすぎって事なんでしょうが、「ふ〜ん」という感じ。


次の質問は「量的緩和の出口論に関してどう考えますか」って物なのですが、ここではこんな話をしております。

『量的緩和政策の副作用についてである。今までは量的緩和の副作用よりもメリットのほうが大きいということで動いてきた──日本銀行の基本的な立場は私も理解しているところである──が、一つの副作用として言えることは、金利が低いということもあるが、金利が動かないことを前提に世の中の金利体系が決まってしまっているということである。例えばいろいろな仕組み債がどんどん人気化して、それが地域金融機関に買われていく。あるいはボラティリティがないことが将来の大きな変動をもたらすということも起きてくると思う。』

弊害言うなら貴殿の出身会社は仕組み債を売ってねぇのかよ等と言う様な野暮な話は全く申しあげる気は御座いませんが(^^)、まぁあんな仕組み債やこんな仕組み債が売れており、目先の期間利回り確保の為に訳の判らんリスクを取ってしまっている商品が人気化しちゃっているのは「低金利政策」の弊害の一つではあろうかと思います。

ただ、低金利政策だけに文句をつけるのもアレでして、よーするに民間部門の資金余剰という資金循環上の問題もある(というか民間が資金余剰じゃないと低金利にならんが)のでどうなんでしょって感じではあります。


別の質問に対する答えでは聞かれもしないのに懸念をもう一発述べています。

『先程も少し触れたが、私が非常に気にしているのは資産インフレの問題である。例えば、クレジット・スプレッドがタイトになっているが、これは実は量的緩和の1つの副作用ではないか。実際の価格が必要以上に割高になっている可能性があるのではないか。それから、もう一つの弊害としては、例えば、不動産のマーケットが非常に割高に取引されており、これも一つの資産バブルの兆候なのではないか。』

最初にもクレジットスプレッドについて述べてますが、資産バブルと来ましたな(^^)。



○資産価格の割高化って??

ということで、先ほどの発言にあります「不動産の割高化」っていうのは何か物凄く違和感を受けるのですが、恐らく水野さんがイメージしているのは、不動産証券化商品でありますREITとか不動産私募投信とかが「不動産」という括りで考えた場合にありうべからず利回り(5%以下とか)まで買われている状況だって事だと思います。確かに証券化商品がらみの不動産は大活況だと聞いてますが。

個人的にはIPO絡みのバブルというのは判らんでもないですし、不動産に関しては証券化商品がらみのバブルってのも判りますが、じゃぁその他の不動産はどうよ?って話になるとまぁ新築の大規模開発案件以外はどっちかというと駄目駄目って印象なんですけどね。

まぁ訳の判らん仕組み債が売れると言うのもバブルと言ってしまえばバブルなのですし、クレジットスプレッドがタイト化するというのもそういう面もあるかもしれませんが、そもそも量的緩和政策の目的の中に「企業金融の円滑化」というのもあった筈ですから、まぁ政策効果が上っているという事なのかもしれませんな。このコメントの前に『量的緩和政策を導入した当時の経済環境が変わり、所期の目的が達成された後に、日銀自らがある意味で異例あるいは異常として緊急避難的と認めているような政策を続けることが、説明責任の観点から正しいかどうか』って言ってますんで、要するに政策効果が十分に上っているからそろそろ出口を考えろ事を言いたかったのでしょうが。

『低金利政策を続けた後には、一般物価が上がらなくても、必ず何らかの資産価格が──今はおそらく局所的だとは思うが──ある意味で「バブル」と言われるような状況になるということは、実は後になってからでないとわからない。』


○出口政策論その1〜量と金利は一体

この記者会見は一つの質疑で色々な話をしているので引用がやたらとめんどくさいです。金利と量の関係についてはこんなことをコメントしています。

『30〜35兆円という目標の下限を例えば27兆円というように下げていくことをどう思うかという話だが、量的緩和の拡大後に、量的緩和の枠組みの中で量的なターゲットを引き下げていくと、市場は、次の一手としておそらく量的緩和の枠組みの解除、それから将来の短期金利の上昇を織り込んでいくであろうから、おそらく量と金利を一緒にコントロールすることは不可能であると考えておいたほうが良いと思う。 』

『例えば、量的緩和の枠組みを維持しながら、数兆円目標額を下げるというのは可能であると考えられるかもしれないが、おそらく市場参加者が先行きの金利の引き上げを予想すれば、当座預金残高にお金を積むことをおそらく意味のないものと考えているので、当座預金残高目標の位置付けはまた難しくなってくる。結果的には、当座預金残高目標の引き下げというものは、金融政策の先を読むマーケットのさらなる動きの中で、当座預金残高目標のさらなる引き下げに追い込まれることになる。従って、理論的には──机上の議論としては──可能かもしれないが、現実に予想されるマーケットの動きからすると、テクニカルな面で非常に難しいのではないかと考えている。』

よーするに量を減らすと「量的緩和の出口」って話に直結するから技術的にムツカシイのではないかって話でして、この辺はあたくしも同じような意見でございます。


○出口政策論その2〜ビハインド・ザ・カーブのリスク

こんな質問が出ております。

『水野さんは、最近のレポートなどでも、消費者物価指数というのは、景気の遅行指標であって、それにあまり縛られた金融政策するのは、ビハインド・ザ・カーブに陥るリスクがあるという論陣を張られていたと思う。そういった考えは、日銀に入られても変わらないか。今後もそういった主張をされていくということでよいか。』

『ビハインド・ザ・カーブを承知で今の枠組みを続けているという発言は、その他の審議委員の方からも出ている話であり、それ自体は、日本銀行も理解しながら今の政策を続けてきていると考えている。私の理解では、量的緩和の枠組みというのは、ある意味で構造改革、構造問題に対する対応、先程お話した不良債権問題、あるいはデフレ・スパイラルのリスクに対する緊急避難的措置である。だから、多少のビハインド・ザ・カーブのリスクは承知で行っていると考えている。ただ、ビハインド・ザ・カーブのコストが、デフレからインフレにすぐなるならともかく、デフレからせいぜいディスインフレの世界になる程度であるなら、大きな問題はないのではないかというのが、政策委員会の基本的な考え方として、たぶん今の政策枠組みの大きな根底にあるのではないかと思う。』

『私自身は、その先をもう少し見ていて、量的緩和を続けることがビハインド・ザ・カーブになる、その結果、資産価格が──これは広い意味で、いろいろな資産価格、先程お話した社債の価格、あるいは長期金利も下がり過ぎているとか、いろいろなことがあると思うが──、将来、なんらかの政策変更を伴った時に──金融引き締めということになるが──非常にボラタイルな動きをもたらす可能性がある。従って、資産価格の安定という観点からすると、若干、将来に問題を残してくるのではないかという懸念を持っている。』

緩和解除が遅れた場合に、緩和政策のやりすぎの弊害が出る為にその後の引き締めを過剰にやらないといけない破目に陥るので、却って逆効果(80年代後半から90年代初頭の金融政策ですわな)になるっていうまぁ「カタパルト効果」みたいな指摘をしている訳ですな。で、この点に関しては岩田副総裁や中原審議委員と対極を為すので今後の論争が注目されるところであります。ってまぁ論争になるのは岩田副総裁だけだと思いますが。

で、資産価格がバブルだの何だのと散々指摘しておりますので、当然ながら水野さんとしては量的緩和政策の長期化によって物価はまだですが資産面には効果どころか弊害が出ているという認識で、既に現時点でちょっとどうよって話なんでしょうな。


○出口政策論その3〜コミットメント3条件の改変論

さっきの質疑応答に若干かぶりますが。

『(引用者注:量的緩和政策のコミットメントの)「3条件」については、日本銀行が昨年コミットしたところであり、今の日本銀行の政策の基本的な枠組みは言わずもがなである。これが達成されるまでは基本的には今の枠組みを変えたくないということは私も理解している。ただ、先程も申し上げたように、量的緩和政策を導入した当時の経済環境が変わり、所期の目的が達成された後に、日銀自らがある意味で異例あるいは異常として緊急避難的と認めているような政策を続けることが、説明責任の観点から正しいかどうか。将来かなり先になってからだと思うが、量的緩和政策の枠組みを導入したこと、あるいはこれを続けたことが、結果的に正しかったかどうか、これは非常に注目すべきことだと思う。』

という事で、量的緩和の3条件をいじる可能性について言及してますが、水野さんの場合は文脈から判断するに3条件を達成する前に量的緩和を解除しちゃいましょってお話でしょうから(岩田副総裁と正反対ですな)、ますますタカ派のお話なのですな。そのあと上記したビハインド・ザ・カーブがどうのこうのという話の後にこんな発言を。

『質問に対するお答えとしては、「3条件」を変えるときには、相当時間をかけて丁寧に説明していく必要があるが、債券市場に参加していた者の一人として思うことは、この説明を上手くすれば、量的緩和の「3条件」の枠組みを変えても、おそらく日本銀行にとってはがっかりするくらい債券市場はクールな反応を示すのではないかとの感触を持っている。ただ、日本銀行の説明責任の観点から、一度コミットメントしたことを変えることは如何なものかという議論と併せて考えると、非常に慎重な議論が必要であり、時間をかけて議論をする必要があると考えている。』

それはそうかもしれないけれども、債券市場が反応しないから無問題というのはそれこそ如何なものかと。本人も「説明責任の観点」を持ち出してますから勿論判った上で言っているとは思いますが、市場オリエンテッドもやりすぎないほうが吉かと。

大体ですな、政府債務が絶賛発散中なのは債券市場関係者誰でも認識している話でして、そんな中でも債券相場が政府債務問題をネタに暴落しない(下がった事もありましたが)のはど〜してよって話と同じだと思うわけです。たまに「債券市場が暴落しないのは政府の財政問題に対する取り組みを高く評価して、財政再建への信頼が高いから」などという人がいますが、それは大分違うと思うぞってな訳で。

ま、水野さんですからその辺は理解してるでしょうが。



○蛇足ですがちょっと気になったこと

質疑応答の中では「量的緩和の意義をちゃんとレビューしましょう」的なコメントもあったのですが、本当にそういう意味で言っているのかよー判らんのでちと省略。で、ちょっとこの水野さんの話を見ていて気になったのは「妙に循環的回復の方に力点置いてやせんでしょうか」って事であります。

『日本銀行の場合は、構造調整圧力の緩和の中で、少し景気循環的な明るいものが見えてきているので、構造改革に対応した政策の枠組みから景気循環に合わせた政策の枠組みに変えていく準備をそろそろしていく必要があるのではないか。景気循環の局面で今どこにあるかということを、もう少し市場参加者に言っていく必要がある。』

ってな話もしておりまして、要するに構造要因はだいぶ解消されており、それどころか資産バブルが発生してますよって認識をお持ちのようです。

でも、その認識ってのは現状思いっきり2極化と言われる物が絶賛進行中の中において「勝ち組」と言われる一握りのお方が感じる認識なのではないでしょうかねっていう印象を受けるのですわな。勝ち組ではない(というか負け組ですが)カテゴリーにおりまするあたくしの目から致しますと。

ちょうどアイテーバブル大崩壊中のさなかに「景気は絶賛回復中」とか言ってゼロ金利解除して、当時アイテー業界でヒーヒー言っていたあたくしをして「えぇぇぇぇぇ!」と言わしめたときの事を思い起こさせる物がございまして、その辺がちと気になる所ではございます。まぁ蛇足ですけど、どうもこの質疑応答を見ていると「タカ派」的な印象と共に、「何だか勝ち組の論理が横溢してるな〜」っていう印象を受けたので余計な感想を述べさせていただきました。


ではでは。

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2004/11/08

お題「田谷さんの後任」

金曜日のニュースといえば田谷審議委員の後任人事。CSFBの水野温氏さんが後任に内定という事でして水野さんの最近のレポートどうなってましたっけなどという話題で盛り上がっておりました(^^)。

田谷審議委員はこのへんhttp://www.boj.or.jp/about/basic/pb/taya.htmにあるように、経済学者というよりはエコノミストっぽい所ではありますが、今度の水野さんはもろに市場関係者ですので、まぁエコノミストっつーよりは市場関係者って感じですな。で、まぁ本日は水野さんがどうのこうのって話しは本職の方もするでしょうから、ちょっとだけ別の視点を交えながら。


○比較的まともな主張をする人のようですが

水野さんのレポートを精読したわけでは無いのですが、野村證券時代にはよく拝見していたレポートは至極まっとうなお話が多うございましたし、最近はレポートを時々しか拝見しておりませんが、まぁ偶に拝見したときの印象は引き続き「バランスの取れた真っ当な事を言うお方」という所です。最近ではどちらかと言うと量的緩和政策からの脱却について言及しておられるようですが、(本人に聞いたわけではないから勝手な憶測ですが)まぁ審議委員入りがどうのこうのという話もあったのでしょうが、それよりも「量的緩和政策の長期化」ばかりが話題になっている風潮に一石を投じている(そもそも日銀総裁の最近の国会答弁にあるように、日銀総裁は別に量的緩和政策を延々と引っ張る気はない点に注意)という面があったのではないかな〜なんて。

まぁ極端な事は言い出しませんし、主張もあまりぶれないお方だと記憶しております。で、金融政策についてコメントする際には金融政策の論理的整合性っつーかアカウンタビリティを重要視していたような気がしますんで、まぁ色々と考えますと、年がら年中日銀やら金融政策のウォッチをしているお方なのですから、あんなお方こんなお方よりは遥かに適任なのではないかと思ったりするわけですな。

元々市場関係者から審議委員を選ぶって事が所与だったとしたら、まぁ水野さんが最も順当な人事だったと思います。というか順当過ぎという話もあるようですが。


○田谷さんの後任という意味では

田谷さんはご存知のように「金融政策の論理的整合性」を重要視していて、景気が方向として回復に向かっているという認識をしているのに当座預金残高の目標額を引き上げる(=量的緩和政策の枠組みの中では金融緩和扱い)という支離滅裂な金融政策(だから当時は「円売り介入のサポートの為の追加緩和」と散々な言われようでしたが)に堂々の反対票を投じておりました。この時は須田さんと(途中までは)植田さんも反対していまして、一時は「執行部以外の票決が半々」という素晴らしい状態になっておりましたが、岩田副総裁を除く経済学者系の審議委員が全員反対票という香しい状態になっておりましたな。

で、そういう意味ではまぁ審議委員の中では「非主流派」であり「原則論重視」でもあるので本来的に言えば「正統派」でもあると思うのですが、そういう田谷さんの後釜に座る水野さんは、まぁ割と「バランスの取れた人」となりますので、政策委員会におけるバランスはやや執行部よりになるんでしょうが、それほど極端な変化は起きないように思えます。

まぁあたくし的には田谷さんみたいにある意味「執行部に対して耳が痛い」発言をしていただきますと実に面白いのですが、そこまで期待するのは無理があると致しまして、今後のご活躍に期待したいと思います。


○変化がなさそうではありますが・・・・・

さて、そんな感じで(同業者のレポートを引用するのも何ですので具体性に乏しい記述になってしまいましたが)まぁ水野さんになったからと言ってそんなに極端な変化がおきるとも思えないのですが、相場に与えるインパクトっつーのはまた別の問題であります。

と申しますのは、あたくしがこのように「まぁ順当な人事で、そんなに極端な話にはならないでしょう」などとしたり顔で能書きを垂れていましても、世間様がどういう解釈をするかと言うのは別問題(何てったってあたくしが「それは量的緩和政策の自己否定に繋がるから有り得ない」と言い切っていた「量的緩和のあとにゼロ金利政策が延々と続く」といういわゆる2段階解除論が債券市場で主流の見解だった(今でもそうなのか?)りした事ありましたし・・・・)でして、じゃぁ世間様はどうよ?ってのを考えませんと日々のちょこまかとした相場変動できゃあきゃあ言うのを正業としているあたくしとしては困る訳でございます。

てな訳で、まずまともに英文ニュースで出てきたのがあたくしの知る限りではDowJonesNewswiresの金曜午前11時2分のニュースでして、水野さんの金融政策に関する最近のレポートに関してこのような記述がありました。

In one fo his most recent reseach reports, Mizuno said that the central bank could opt for an early shift to a more normal interest-rate targeting monetary policy from its ultra-loose quantitative easing.

でもって、ブルームバーグ同日午前10時19分のニュースでは日本語ニュースですが、水野氏の審議委員就任(の方向)に関して「日銀に力強い援軍、CSFB水野氏が次期委員の報道」という題で記事がありまして、まぁその中から拾ってみますとこんな感じです。

「民間エコノミストより強気と言われる日銀だが、水野氏はその日銀と同じ強気派に属している。」
「水野氏の起用には、福井総裁自身の意向が強く働いた可能性がある。その福井総裁は最近、出口政策について踏み込んだ発言を繰り返している。」
「福井総裁が展望リポートに前後して強気な発言を増やしていることが、来年度の量的緩和解除に向けた「地ならし第1弾」だとすれば水野氏の起用はその第2弾に当たるのかもしれない。」

ついでにこの記事の小見出しを並べると「福井総裁の強気と軌を一にする起用」「来年度の解除に向けた「地ならし」」となっております。


あたくしが読まない日経新聞なんかでもど〜せ似たようなお話はでているでしょうが、まぁ水野氏起用という事で出てくる解説記事としてはこんな感じのものが多いでしょうから、そ〜ゆ〜意味で言えばまたも「量的緩和政策の早期解除がどうのこうの」って思惑が浮上しやすい展開になってきていると見るのが妥当だという事になるでしょう。

特に、ダウジョーンズの英語ニュースとかブルームバーグのニュースなんかは海外投資家というか投機家がいの一番に読むでしょうから、こ〜ゆ〜のを読んで何をおっぱじめるかとかを想定しておくのもまた宜しいかと。今年の6月ごろに武藤副総裁の海外でのスピーチを無茶苦茶に曲解したレポートがどこぞのストラテジストから出されて相場のとんでもない下落を招いたという事件は記憶に新しい所でありますので、まぁ注意するにしくはなしと言ったところでしょうな。


それでは〜


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