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中原眞前審議委員
中原さんの略歴(日銀Webより)
昭和12年10月18日生
昭和36年3月東京大学経済学部卒業
東京銀行に入行し、為替資金部長、常務取締役米州駐在(ニューヨーク総支配人)
三菱銀行との合併に伴い常務取締役、専務取締役を歴任し平成12年6月同行副頭取
平成13年6月17日より日本銀行政策委員会審議委員
(前職:東京三菱銀行取締役副頭取)
詳しくはこちら→http://www.boj.or.jp/type/list/pb_member/naka2.htm
平成18年6月16日をもって日本銀行政策委員会審議委員を満期退任しました。
2006/03/27「中原審議委員記者会見」
2006/03/24「量的緩和解除に反対したと思われる中原さんの講演」
2005/10/04「政策の一貫性について苦言を呈する中原審議委員」
2005/05/31「記者会見での発言、当預引き下げ問題と物価参照値問題」
2005/05/30「27日の続き」
2005/05/27「なお書き対応後最初の審議委員講演」
2004/05/17「中原審議委員記者会見を見てつらつら思うこと」
2004/05/13「驚愕の講演」
2004/01/06「歴史に学ぶ銀行のあり方(寄稿文)」
2006/03/27
お題「何でこう退任する頃に惜しまれるのやら」
中原審議委員の記者会見で本日は簡単に。しかしまあ何ですな、政策ロジックの整合性を主張した田谷さん、植田さん、中原さんと任期切れで退任する方々が揃いも揃って退任前に大勢に反対側になっちゃう(決定で反対票を投じる)のでしょうかねえと思います。
中原さんの後任はみずほFGの野田忠男さんと報道されてますが、昭和44年第一銀行入行(第一と勧銀の合併は昭和46年10月)ということで、東京銀行出身の中原さんの後は第一銀行出身ということで、いやあ昔の銀行の名前を思い出しますなあということで。
では月曜は例によって例の如く頭の中がお休みモードなので中原審議委員の記者会見を簡単に。中原審議委員の記者会見を。
http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken/kk0603c.htm
○水野審議委員に物申す
順序から言うと最後の質疑応答なんですが、最も素晴らしい応答は政策金利の糊代論に関する考え方を質問されたときの部分ですな。
『まず、「政策金利ののりしろ」についてだが、現実的な発想としては分からないこともないが、私としては、やはり基本的には発想が少し本末転倒ではないかと思う。この「のりしろ」を作るために政策金利を上げていくという発想はあり得ない話だと思っている。従って、政策担当者の現場感覚としてそういう発想が出てくるのは分からなくはないが、今の段階で「のりしろ」論を持ち出すのは必ずしも適当とは思わない。(以下略)』
全く同感でございます。のりしろを作る為に必要の無い利上げをしてその結果景気が悪化してのりしろが役に立ったっていうのは本末転倒もいい所ですから。後任予定の野田さんもこういう指摘はして頂きたいものでございます。
中立金利が幾らなどと堂々講演をしていた人もいましたが、講演(挨拶)では中立金の議論は時期尚早じゃねえのかという話をしてました。その辺りについての質疑応答がもうちょっと前の方にありまして。
『挨拶要旨で述べているように、中立金利というのは様々な前提の置き方などによって相当幅があるものであり、今、仮に中立金利の議論をするとすれば、それら前提の置き方をどうするのかといったことも含めて、幾つかの条件の一つ一つを確定していく必要がある。(途中割愛)このように、中立金利というものを議論し、それを市場と共有していくまでには、幾つか踏むべきステップが存在していると考えており、これが「条件は整っていない」ということを申し上げた趣旨である。』
『(途中割愛)なお、米国の場合でも、中立金利という言葉をイージーに使うことは中央銀行として避けるべきだという流れにあると思う。これは、その時々の環境や経済構造によって、数字が大きく異なってくるためであると思っている。過去には、FRBのボードメンバーが中立金利という言葉をストレートに使ったケースがみられたが、最近ではあまり中立金利という言葉を明示的に使って説明するという手法は採られていないと思うし、仮にその水準にコメントしたとしても、「非常に幅がある」と言ったり、1〜2%くらいのレンジを持たせて言う方が多い。』
『潜在成長率や期待インフレ率がこれくらいだから、中立金利はこうなる、といった単純な議論は非常にミスリーディングであろうというのが私の意見である。』
先般の水野審議委員の講演+記者会見はまあ正直言って市場の評判は相当悪かったと思う次第でして、類は友を呼ぶ人たちはまあ兎も角として、普段はあまり悪態をつかないような市場の人でも「この人は今でもストラテジストの積りなんですかねえ」とか「マーケットから審議委員を採るとこういう人になっちゃうって言われるのかよ」と大変なもんでしたが、中原審議委員にはもしかしてこの辺の声が聞こえていたのでは無いかと思うようなぶった切りでございますな(^^)。
○道しるべあるいはunderstandingに関して
何度か質疑応答があるのでまともに引用すると長くなるのですが、多分このあたりがまとめになっているような気がします。一部を取り出してますが。
『今回、数値を示した趣旨は、市場の期待を安定化させるために、これを一つの「道しるべ」、一つの目安として機能させようという点にある。しかしながら、これは、政策の自由度と期待を安定させる効果とのバランスをどこに置くかという微妙な判断の上で出てきたものである。このため、1%になったらどうする、2%であればどうする、といった政策アクションと直接結びつけたものとはなっていないことは強調しておきたい。この議論は堂々巡りであって、「そんな意味のない数値を出してどうするのか」という質問は当然あると思うが、政策の自由度を確保しつつ、数値を示すことにより、ある種の規範性を持たせ市場の期待の安定化に繋げるという、相矛盾する目的──ある意味では無いものねだりということになるが──を如何にバランスさせるかという趣旨に立脚していることは理解して頂きたい。』
まあ要するに鵺のようなもんで、物凄く緩いターゲットもどきだという理解で宜しいのではないかと思いますが、中原さん以外は政策の自由度の方にさっくり傾斜しているような気がしますが(苦笑)。
○ビハインド・ザ・カーブVSフォワードルッキング
講演でのビハインド・ザ・カーブに関連して当然ながらこんなツッコミが来ております。ここだけは質問も引用しますね。
【問】『挨拶要旨には「金融政策としては、いわゆるビハインド・ザ・カーブとなることを意味する」とあるが、別の審議委員の中には、量的緩和政策解除後はフォワード・ルッキングな金融政策を行うと言っている方もいる。また、「物価の上昇圧力が抑制された状態が続いていくと判断されるのであれば、極めて低い金利水準による緩和的な金融環境が引き続き維持される」とあるが、なぜ今後の金融政策がビハインド・ザ・カーブになるのかが分からない。ビハインド・ザ・カーブの意味するところをご説明願いたい。また、今後の金融政策がビハインド・ザ・カーブになるということが、政策委員会の中でコンセンサスになっているかどうかも教えて頂きたい。』
【答】『ビハインド・ザ・カーブの定義の問題かもしれないが、フォワード・ルッキングであるということと、ビハインド・ザ・カーブであるということは必ずしも両立しないわけではなく、次元の異なる問題だと思う。』
えーそうなんですかあ?
『フォワード・ルッキングな政策──インフレ・ターゲットなどはフォワード・ルッキングな政策だと言われているが──とは、将来の一定期間後の一定の指標そのものをある程度参考にしながら、現在の政策を調整していくとの考え方であり、国際的にも一つの大きな流れになっており、私もフォワード・ルッキングな政策が必要であると思っている。』
じゃあ講演でのビハインド発言は何だったのでございましょうか??
『ビハインド・ザ・カーブをどう解釈するかということだが、もともと量的緩和政策に3つの条件を付けたのは、ビハインド・ザ・カーブによる金融緩和期待がより強まることを期待したものである。少なくとも量的緩和政策時には、早すぎるリスクは避けて、どちらかといえば遅すぎるリスクを取るという意味において、ビハインド・ザ・カーブとなっていたと思う。今後の政策運営についても、ある時点での実体経済の潜在成長率や期待インフレ率の大きさが仮に分かるとすれば、その時点での適正金利は計算上直ちに得られるとの考え方もあるが、物価の上昇圧力が抑制的な状況であれば、実体経済の成長スピードがある程度早くても、その間の金融政策のアクションは、これまでも展望レポートで既に述べているように、「余裕を持って」対応できると考えられる。このことは、ある種のビハインド・ザ・カーブのリスクを取っていくことが出来るという意味であると理解している。』
いやあのそれはビハインド・ザ・カーブな政策運営なんじゃなくて単に経済の見通しについてお話をしているだけだと思うんですけど。
『このため、本日も、ビハインド・ザ・カーブになることをある程度想定しながら、今後の政策運営を続けることができるということを申し上げたわけである。(以下略)』
ということで、昔々その昔に量的緩和政策を解除してからまたゼロ金利の時間軸を再設定するという中原さんの論法に「???」だったのを思い出してしまったのですが、何かこのあたりの政策話になると時にワケワカメな話が始まるのが中原委員クオリティでもあるのですが。
○量的緩和解除の3条件の3番目から順に達成されてしまった件について
どう見ても量的緩和政策のコミットメントのうち総合判断が最初に達成されていたとしか思えないような動きで量的緩和政策は解除されてしまった訳ですけれども、この点に関して質疑で「解除は時期尚早って思ってたのではないですか」って聞かれた時にこう答えています。
『ただ、量的緩和政策解除に当たっての3つの条件に関する私の考え方を改めて申し上げれば、第1条件や第2条件を重視し、第3条件はそれほど大きな問題ではないと考えていた方もおられるかもしれないが、私としては、最終的には第3の条件、すなわち総合判断が一番大事であったと思っている。第1条件、第2条件は、数字だけの問題であり、どの位の幅があれば「安定的」とみるかという点については意見が分かれるとは思うが、ある程度客観的に判断されるわけである。従って、私としては、第1条件、第2条件の判断に加えて、第3条件においてきちんと総合判断をしていくべきである、と以前より申し上げてきた次第である。』
福井総裁は第1条件、第2条件が達成されてたら第3条件なんか当然のように第3条件達成ですようっへっへという感じでしたから、まあそのあたりにも批判的という感じですなあ。
あと3か月で退任とは惜しい事です。
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2006/03/24
お題「中原審議委員孤軍奮闘の巻」
○中原審議委員の講演ですが
ご案内のように中原審議委員は恐らく今回の量的緩和解除にも反対票を投じた(講演の内容にそれを示唆する件もあります)お方でして、最もハト派になっちゃった上に少数意見の人になっちゃいました。よってハトな話が出てくるのは至極当たり前の筈なんですが、報道では一応講演に敬意を表して債券相場が反発した事になってます。
でも、講演の内容を見ればお判りのように、中原審議委員は金融緩和状況をビハインド・ザ・カーブの政策運営で行うべしという話をしておりまして、仮にその方向で政策運営が行われるのであれば(べき論は別にして予想屋として考えるとその方向は無理でしょうけど)期待インフレ率の上昇からイールドカーブはスティープする筈なんですけど、何故かカーブはブルフラットするのは相変わらずだが妙ちくりんな反応ですなあという感じ。
まあ何ですな。来週は長期債も短期債も入札が無く、一方で月末のリバランスに伴うインデックス系の買いは待ち構えているので、需給が良いでしょうなあという連想が働くから買い(または買い戻し)を入れてみたくなりますからその言い訳に使われたっちゅう所でしょう。
で、引け後益々しっかりで金先なんぞも買われておりましたが、どうも海外のお投資家様におかれましては講演を好感して短い債券やら(TBFBも?)を買ったのではないかと思われる節がありますわな。でも残念ながら中原審議委員は7対1の1なんでハト派発言をするのは当たり前で、タカ派発言した方がサプライズなんですよね。まあ海外投資家というとやたらありがたがる人が多いですが所詮その程度のもんでしょ。めっきりポジショントーク飛ばしレポート屋となっているように見える○○○○レポートで右往左往する人たちですからねえ。
という話をひとくさりしたところで中原審議委員の講演を少々。
http://www.boj.or.jp/type/press/koen/ko0603e.htm
・量的緩和政策に関する評価をしています
このへん→http://www.boj.or.jp/type/press/koen/ko0603e.htm#203
『潤沢な「量の効果」は、金融システム不安の拡大を抑え、銀行の信用仲介機能の回復を促し、極めて緩和的な金融環境を維持することで、債務・雇用・設備という「3つの過剰」に悩む企業がそのバランスシートを調整することに貢献しました。』
『いわゆる「時間軸」の効果は、将来に亘っての潤沢な資金供給と金利の低位安定についての安心感を生み出し、これが市場参加者だけではなく、企業・家計のデフレ期待を後退させることを通じて、実体経済を底支えし、デフレの更なる深化を食い止めることに寄与したと言えると思います。』
量の効果と時間軸効果に関してはこのように言ってますな。時間軸効果にデフレ「期待」後退って話をしてるのがほほうという感じですが。
『これまで余り明確でなかった「リバランス効果」、すなわち、潤沢な資金の供給により、銀行や企業・個人がその資金をよりリスク度が高い資産に振り向けるという効果、につきましても、ここに来て、明確に現れ始めたと言ってよいでしょう。銀行が貸出を積極的に拡大し始めたことや、企業部門が設備・雇用・債務の「3つの過剰」を解消し、事業ポートフォリオの見直しや強化を進め始めていることは、このような効果が現れ始めているものと言えましょう。』
現状をポートフォリオリバランス効果として評価をしている審議委員講演はあまり見たこと無かったのでちょっと新鮮な気がします。どっちかというとバブル警戒の話ばっか最近は聞かされるもんで・・・・・
・「考え方」をアンカーにしたいというお話
まあそれは政策委員のメンバーが代わらないと難しいのではないかと思料。ここあたり→http://www.boj.or.jp/type/press/koen/ko0603e.htm#401
『「望ましい物価上昇率」を具体的な数値で示すことによって、政策の透明性を高め、量的緩和政策の解除の過程では、政策のアンカーとして、ある種の「時間軸効果」も期待できるのではないかと考えて参りました。(中間割愛:中原委員の考える数値の話をしてます)今回の「物価の安定」の数値化は、あくまで個々の政策委員が理解するものを幅で示したに過ぎず、その意味では、政策のアンカーとしての役割は制約されたものとならざるを得ませんが、このように数値で具体的に示しましたこと、特に大勢としての「中心値」を示したことは画期的なことであり、政策の透明性向上の観点からは、一定の評価は得られるものと考えています。』
まあしかし何ですな、今回の「物価の安定」の数値化はアンカー役にしたい人はこう解釈するし、手足縛られたくない人はただの数字ですって解釈するしでこういう曖昧なものは運用によって扱いがコロコロ変りそうで非常に困りますというか変なものなら無いほうが良いような気もしますにゃ。
・今後もビハインド・ザ・カーブだそうですが・・・
http://www.boj.or.jp/type/press/koen/ko0603e.htm#402
『当座預金残高が所要の水準にまで削減された後の政策運営につきましては、基本的にその時点における景気・物価の展開や金融情勢に基づくものとなります。しかしながら、現時点で敢えて申し上げるとすれば、持続的な成長が続く中でも、今後の需給ギャップの減少ペースが緩やかであり、物価の上昇圧力が抑制された状態が続いていくと判断されるのであれば、極めて低い金利水準による緩和的な金融環境が引き続き維持されることになると考えられます。この点は、金融政策としては、いわゆるビハインド・ザ・カーブとなることを意味します。』
フォワードルッキングの話ばかり出ているので反論しているのかなあと思いますけど、物価の上昇圧力が抑制されていたら金融緩和状況が続くというのは別にビハインド・ザ・カーブじゃないような気もしないでもないですがまあいっか。
中立的な金利水準への変更に着手するのはケシカランと言いたかったのかなあと勝手に解釈しておきます。
・中立金利の議論は時期尚早
『中立金利という概念は、その定義や推計時の前提の置き方、自然利子率の計算の前提となる経済モデル、需給ギャップや潜在成長率の計算方法、期待インフレ率の大きさ、など、種々の条件をどのように置くのかによって変わり得る幅の大きい概念であるということです。また、中立金利の問題は、前に述べましたように、日本経済に課せられた中期的な課題の解決の過程と平仄をとりながら検討していくべき問題であり、日本銀行としても、今後分析を深め、その概念や凡その水準を市場と共有していくことは必要ですが、今の段階で具体的な水準やそれに向けての金利の経路がどうあるべきかを議論する条件は未だ整っていないように思います。』
ということで、利上げモードで盛り上がっているものと思われる他の政策委員の皆様というか、先般の講演で中立金利が何パーセントだとか好き放題おっしゃっているどこぞの審議委員(これがマーケット代表の扱いだというのにあたくしのヘソが茶を沸かすのですが)に対する批判でしょうな。もっとやれ〜♪
ちなみに、講演テキストで見つからなかったのですが、記者会見では水野委員の「金利の糊代論」に関して「本末転倒」と至極当然ながら厳しい批判をしていたようですな。この後にもそんな話が。
・市場との対話
『大きな政策変更後のこの不安定な時期において重要なことは、肌理細やかで市場フレンドリーな姿勢で市場との円滑な対話を図り、政策の透明性と予見性を高め、期待の安定化を図ることにあります。期待の安定化を図るためには、中央銀行が口先で期待をマニュピレートするのではなく、市場や実体経済の足許および先行きや、経済構造面での政策的課題、更にそれらを踏まえての金融政策の先行きの経路につきまして、市場と認識を共有していくための努力を重ねることが必要だと思います。』
「中央銀行が口先で期待をマニュピレート」という指摘も水野審議委員に向けたものでしょう。いや〜心が温まりますなあ(^^)。
でも政治方面からの干渉に関しては批判的でございます。
『今回の量的緩和政策の解除に至る前の段階でも、残念ながら解除のタイミングに関しまして市場の見方が大きく揺れ動きました。不必要な外部からの声によって政策の冷静な議論が歪められるとともに、市場の期待や価格形成が撹乱させられる、そして、その結果が再び政策判断に影響を与える、というような悪循環が、政策の信認を失わせる結果となるリスクについて、中央銀行の立場から十分認識するとともに、広く外部の理解を求めていくことが必要ではないかと感じています。』
いやまあ話はちと逸れますが、昨日駄文でちと書いたように、福井総裁と与謝野大臣の発言が妙に平仄があってる昨今の状況はポスト小泉の政争に日銀の金融政策が巻き込まれるのではないかという危惧をあたしゃーしてるんですけどね。杞憂だったら良いんですけど・・・
・ちなみに順序が逆になりましたが
http://www.boj.or.jp/type/press/koen/ko0603e.htm#203の最後の方
『現在の消費者物価の前年比上昇率はプラスに転じては来ましたが、昨年12月までのプラス幅は極めて小さく、本年1月単月の上昇率をもってプラス基調が完全に定着したと判断するには、もう少し時間をかけて分析することが必要ではなかったかと思います。』
ということですので、前回の決定会合で量的緩和解除に反対票を投じた1名は中原審議委員でファイナルアンサーでしょうね。
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2005/10/04
○慎重派発言の目立つ中原審議委員講演
http://www.boj.or.jp/press/05/ko0510a_f.htm
詳しくチェックしているとちと長くなるので激しく端折ります。
・景気の先行きに関するリスクとして外需を
講演の中で経済の現状認識と先行き見通しに関連して「先行きの不透明感が強い外需」というお題で一項を設けています。
『日本経済の力強い回復を達成するためには、内外需のバランスのとれた成長パスが必要であり、その意味で外需の果たす役割は引き続き大きいと考えます。これまでのところ、海外経済は総じて潜在成長率程度の緩やかな成長を維持していますが、足許では、特に米中両国経済の先行きにつきまして不透明感が高まっている点が心配です。』
ということで、このあと色々と指摘しているのですが、ざっくりまとめると原油価格の上昇と、米国の長期金利上昇および今までの利上げの効果、米国のハリケーン被害に伴う財政支出問題などという所でしょうか。米国に関しては楽観しすぎじゃネーノと言ったところかと。
・当座預金残高引下げ問題に筋論が久々に出てきましたよ
「量的緩和政策の評価と今後の金融政策運営」というお題で話をしていまして、内容は結構あるのですが、今朝は寝坊した関係上(おい)ちと簡単に。
まず現状に関して中原審議委員はこのように。
『日本経済は景気の「踊り場」をほぼ脱しつつあるとはいえ、数多くの構造問題を抱える中、慎重な企業行動が続いていることなどもあって、その回復は依然として緩やかです。また、先行きの外需の動きに振らされる可能性も否定できません。企業の資金需要は弱く、信用創造によるマネーサプライの増加も当面期待できません。消費者物価の前年比伸び率も、年末頃にかけてゼロ%ないし若干のプラスに転じていくと予想されていますが、様々な特殊要因の動きに左右される中で、将来のデフレ脱却の時期が必ずしも明確に展望されている訳ではなく、インフレ期待も依然として低いままです。』
消費者物価指数に関しては実は講演の中で見通しについて詳しく話しをしていまして、その中で『新たな物価下押し要因が発生しない限り、年末頃にかけて消費者物価はゼロ%ないし若干のプラスに転じていく可能性はあるでしょう。』と述べていますのでこの物価見通しに関してはまぁあまり他の審議委員と見方は変りません。念の為。
で、久々にこの理屈を聞くことが出来て誠に結構ですなぁというのがこの先。
『こうした中で、当座預金残高目標の引き下げというプロアクティヴな政策変更は、これまでの当座預金残高目標の引き上げを実体経済の更なる悪化を抑えるための追加緩和措置として行ってきた経緯を踏まえますと、少なくともモーメンタムとしては、金融をより引き締めることを意味することとなり、現状では適当ではないと考えます。』
確かにそうなのですが既に先週福井総裁が「流動性需要に対応」とかしれっと言っていたところが実にアレでございますわな。
『当座預金残高目標の引き下げ論では、現在の当座預金残高目標を維持した場合に生じる副作用、例えば、「短期金融市場での取引減少や市場機能の低下」、「財政規律の低下」、「資産インフレ・リスクの高まり」、「量的緩和政策を変更する際のコストの大きさ」といった点なども問題視されています。しかし、こうした副作用はそもそも政策の導入時からある程度想定されていたものであり、ここに来て無視し得ない程深刻化している訳でもありません。』
まぁ仰るとおりだと思います。で、この続きの部分があるのですが、そこに関してはちと??なので引用割愛。
・直球投げてきましたが・・・・・
今後の金融政策運営に関してってところで中々強烈な直球を投げています。
『まず、第一に、市場の期待の安定を図るためのポイントとして最も重要なのは、中央銀行として、政策運営の軸をぶらさないこと、政策の一貫性を維持するということだと思います。言うまでもなく、経済や金融は生き物であり、時々刻々環境が変化し、また不透明要因が数多くある中で、将来の金融政策を具体的にイメージすることは難しく、現実に政策の副作用が大きくなり、国民経済に損失が生じたり、資源配分に大きな歪みが発生するような場合があるかも知れません。その場合には、当然ながら機動的な政策の修正や変更が必要なことは言うまでもありません。しかしながら、先程も申し上げましたように、現在および先行きの経済にとって大きな副作用が生じないと見込まれる限りは、これまでの政策変更を行ってきた経緯を反故にし、政策の一貫性や中央銀行としての説明責任を放棄するような場当たり的な政策運営は中央銀行の信認を著しく傷つけ、その後の政策運営に支障を来たす惧れがあることには十分に注意しなくてはなりません。』
いや全くですわな。「人が変ると政策もゼロベースで変る」みたいなこと言ってる人と思いっきり対極にございますな。まぁ審議委員の大勢というか日銀の中の人というか、ちょっと株価上昇で浮かれすぎなんじゃないでしょうかとあたくしも思いますもんね。
ま、そういうことで。
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2005/05/31
○審議委員走る
週末から今週にかけて審議委員の皆様があちこちで発言やら講演やらなさっておられます。先週は中原審議委員の講演(26日)をご紹介しましたが、週末には金融学会で岩田副総裁の講演が行われた(講演内容がどこにあるのか判らんです。苺BBSの経済板で講演の要点を報告したレスがございましたが、今のところそれしか見てないです。学会に行けば資料とか配布されたと思うんですが、日銀Webにのっけてくれないかなぁ・・・・・と思いますが内容の話によるとちと無理ぽの悪寒も^^)ようですな。
昨日の福井総裁は、国際コンファランスでの開会挨拶でまた発言。週末には日経新聞のインタビューに西村審議委員が答えているようですが、日経読まない無精者なので内容は存じません(大汗)。つーか特定メディアとのインタビューの時は後で残るのが新聞記事のテキストだけになっちゃっうので、後からトレースできねぇじゃねぇかよと思いますが。
・中原審議委員記者会見での発言より
http://www.boj.or.jp/press/05/kk0505c.htm
『日本銀行はこれまで量的緩和政策下における当座預金残高目標の引上げを「緩和」という表現で説明してきたこととの延長線上で考えれば、個人的には、当座預金残高目標の引下げは、「引き締め」と受け止められる可能性に注意しておく必要があると思う。海外の機関投資家の中には、当座預金残高目標の水準自体が緩和度を表す指標であると理解している先も少なくない。そうした中で、景気情勢の微妙なこの時期に、当座預金残高目標を引下げることが果たして妥当かどうか、大いに疑問がある。』
『私は、就任当初から金融政策の透明性向上を重視してきており、そのフレームワークとして、インフレ参照値――これは「望ましい物価上昇率」といったほうが正しいが――の導入を主張してきている。ただ、日本銀行が望ましい物価上昇率を具体的な数字で示すことによって、人々のインフレ期待を高める効果については「全くゼロではない」と思っている。なお、長期国債買入の増額は、様々な副作用を伴うため、現時点では実施すべきではないと考えている。』
というのが基本的スタンスなのですが、長期国債買入増額に否定的だったり、量的緩和の期待への働きかけについてあまり積極的な評価をしていない(上記引用部分でも「全くゼロではない」という言い方ですし)あたりがどうも今一歩何を言いたいのか良く判らんところではあります。
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2005/05/30
○中原審議委員講演の続き
・金曜日に中原審議委員の講演をご紹介しましたが、その中で長期国債買入を増やさないのか?って部分について補足。
『長期国債の買入増額につきましては、現状の実体経済動向などを考えますと、その効果以上に副作用が大きくなるのではないかとみています。』
『すなわち、最初に買入増額を行いました2001年3月の時点では、当時の経済が抱えていたデフレ・スパイラルに陥るリスクも勘案した上で、通常の短期の「資金供給オペ」以外の手段も講じる必要があると判断し、買入増額に踏み切ったものです。また、その後の買入増額も、単なる資金供給手段の拡充というよりは、当座預金残高目標の引き上げに合わせて実体的な緩和度を一段と強める手段として行われてきたものと理解しています。』
その理屈によりますと、福井総裁になってから当座預金残高目標は段階的に大幅に引き上げられましたが、この時は「実体的な緩和度を一段と強める」必要がございませんでしたってぇ話になるように思えますが、はて・・・・・???
で、まぁ長期国債買入増額の「副作用」について述べてますが、まぁそうかもしれないけどちょっと首を傾げたくなるものが並んでおります。
『長期国債の買入増額を実施した場合には、財政規律の低下と市場に受け止められ、金融市場の不安定化に繋がるリスクや、日本銀行の長期資産が増えるため、金融調節面のフレキシビリティが低下するというリスクが生じかねません。なお、「札割れ」が継続的に生ずるもとでは、長期国債の買入増額は、その分短期の「資金供給オペの札割れ」を更に深刻化させるもとになる可能性もあります。』
1番目は「そのために銀行券ルール作ってませんでしたっけ?」。2番目は意味判らん、というかそもそも中央銀行のバランスシートを云々するのが意味のあまりない行為。3番目は金曜も申しあげましたが、実感としては「そりゃ違うでしょ」という感じですな。
・市場との対話とか政策の透明性とか
『脱出の具体的なタイミングがいつになるにせよ、量的緩和政策の出口が接近しまもなく終わるのではないかと人々が感じ始めた時には、政策変更についての期待が錯綜し市場が不安定化するリスクがあります。』
『例えば、「日銀は消費者物価がどの位の水準になり、それがどの程度の期間続き、そして先行きの見通しがどの程度であったら量的緩和政策を止めるのか」、また「その場合、何を目標として金融調節を行うのか」、「巨額の当座預金残高をどのようなペースで縮小させていくのか」、などについて、色々な憶測が流れ、長期金利が乱高下するような局面も考えられます。』
金融政策というか政策金利の操作を行う時は、非連続的に変更が行われるんですから、ある程度不安定化するのは仕方ないんじゃネーノとは思いますが、今回の当預なお書き騒動でこの調子ですと、まぁ確かにCPIがゼロ近傍になったら大騒ぎになりそうですわな。で、中原さんは2点提唱しています。提唱してるけど恐らく意見としては思いっきり少数意見になりそうですけどね。
『第一は、物価の安定を図る中央銀行として、望ましい物価上昇率を具体的に明らかにすべきではないかということです。』
この後の話が微妙にアレなのですが、アレな部分。
『望ましい物価上昇率、すなわちインフレ率は理念的にはゼロ%というべきでしょう。しかし、物価上昇率として得られる指標には色々なバイアスがあり、また再びデフレに戻らないよう十分なセーフティマージンを考えるとすれば、ある程度プラスとなる物価上昇率を目標とすることが望ましいと思います。』
ゼロインフレが理想ですかそうですか??
『現在の量的緩和政策の継続を消費者物価指数の上昇率により条件付けているもとで、市場の期待を安定化させていくためには、中央銀行として考えている望ましい物価上昇率を明示すべきではないかと考えています。』
量的緩和政策の3条件とその「望ましい物価上昇率」の位置付けが良く判らんのですが、望ましい物価上昇率に達するまで量的緩和を続けるということなら3条件の書き換えをするのが筋なのではないかと思いますが。
『第二は、量的緩和政策の出口のプロセス、例えば、当座預金残高目標の引き下げの手段やそのペースについてのシナリオを検討し、それを市場と共有していくことが必要ではないかということです。』
それは出来れば理想ですけど・・・・
『もちろん経済や金融は生き物であり、時々刻々環境が変化し、また不透明な要因が多くある中で、将来の金融政策を具体的にイメージすることは難しい面があります。また政策の自由度や機動性を失うことは避けねばなりません。』
となると結局無理でしょうな。この後に色々説明しているのですが、正直言って話の頭と尻で矛盾が生じているような話でして、まぁこれからも政策委員会に置かれましては精々悩んで頂きたいものです。
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2005/05/27
○中原審議委員の講演
まぁもともと中原審議委員は量的緩和政策のコミットメントの強化あるいは量的緩和解除後のゼロ金利+時間軸政策の導入(CPI1%とかまで政策実施するというものです)を提唱している人ですので、講演でもそんな感じのお話をしているのですが、金融政策に関る部分について簡単にご紹介というか引用だけするという手抜き攻撃をします(と言いながら結局延々と引用しちゃたので大増量になってしまいました。スイマセン)。というかここしか読んでなくて全文読んでないので追加は週明けにでも。
・量的緩和政策の効果について
『このような金融機関に対する潤沢な資金供給は、金融市場を安定させ、緩和的な企業金融環境を維持し、加えて消費者物価が安定的にゼロ%以上になるまで量的緩和政策を継続するという約束が、将来に亘っての潤沢な資金供給と金利の低位安定についての安心感を生み出しました。これらが実体経済を底支えし、デフレの更なる深化を食い止めてきたことは事実です。』
『しかし、量的緩和政策を通じて、銀行にその資産をよりリスクの高い資産に振り替えさせ、また貸出活動を活発にし、世の中に流通するお金の量を増加させてインフレの予想や企業の経済活動を高めるという効果は、これまで余り明確ではありませんでした。これは、不良債権問題に悩む銀行が自己資本の制約もあって貸出を増やすことに消極的であったことや、バランスシートの調整とリストラを急ぐ企業に資金を借り入れる需要がなかったことによるものであり、必ずしも量的緩和政策に効果がないということを意味するものではありません。』
・当座預金残高目標引き下げに関してって当然否定的なのですが
『こうした中(引用者注:景気が踊り場状況でデフレ脱却が明確に展望できない現状)で、これまでの当座預金残高目標の引き上げは実体経済の更なる悪化を抑えるための追加緩和措置として行われてきた経緯を踏まえれば、「札割れ」が相次ぐからという理由だけで、当座預金残高目標を引き下げるという政策変更に踏み切ることは、市場や海外の投資家から時期尚早の金融引締めに転じたとの思惑を招きかねません。』
『一方では、(具体的に並べている部分割愛)量的緩和政策の副作用を問題視し、可及的に当座預金残高の目標額を引き下げ、早期に政策転換を図るべきであるとの意見も聞かれています。しかし、こうした副作用は、そもそも量的緩和政策の効果とのトレードオフの関係にあるものであり、政策の導入時から想定されていたものでもあります。また、これらの副作用がここに来て必ずしも深刻化しているとは思いません。』
・技術論のなお書きは容認しているのですが・・・・
『一方で、実際に日本銀行が市場に対して資金を供給できるかどうかという問題があるのも事実です。(途中割愛)市場参加者サイドに資金を借りたいという需要が現実になくなってしまうと、日本銀行として思い通りに市場に資金を供給することができなくなる惧れがあります。』
で、その技術論にプルーデンスが微妙に入っているところが惜しいですな。
『例えば、本邦金融システムの安定化が更に進み、金融機関の日銀当座預金という流動性資金に対する需要が一段と減退した場合には、日本銀行からの資金借入ニーズも減少してしまうため、これまで以上に「札割れ」が深刻化し、かつその発生頻度も高まることが予想されます。』
いやだからニーズが減ったから供給しないと言う発想は(以下略^^)。
『例えば、民間から国に対して巨額な資金の支払いが発生すると、金融機関の当座預金からその分資金がなくなるため、この金額が大きくなればなるほど、日本銀行にとっては、一時的であるにせよ、当座預金残高目標の維持を難しくする方向で影響が出てくることとなります。今後、今申し上げたような状況が重なって発生する場合には、日本銀行がどんなに頑張ったとしても、結果として、当座預金残高目標を達成することが困難になることが全くないとは言い切れません。』
一応「程度」って言葉が入っているんですからそんなにナーバスになる必要があるんでしょうかって思うのですが・・・・
『こうした点を踏まえますと、今後の現実的な対応としましては、市場が受け入れ可能な最大限の資金供給額を維持しつつ、一時的にせよ目標残高の下振れを認めるなど、最小限の技術的修正を施すことが必要になるかもしれません。先週の政策決定会合では、「なお書き」によって、当座預金残高目標からの一時的な下振れを許容することとしましたが、これは今申し上げたような状況に対応する技術的な措置であり、金融政策の変更を意味するものではありません。』
・・・・・何か量的緩和政策そのものもそうなんですが、解釈する人によって色々と解釈して、実施することに関しての意見は一致するってのはこれまたお得意の日本国伝統芸能ではありますが、原則論をズブズブというかナアナアにしておきますと、いざという時に色々と問題が起こるのではないかと思料されますっていうのは今読んでるアラン・ブラインダー先生の著書(ただし講演の訳本)に影響されてるのかもしれませんが、まぁあたしゃーそう思いますがね。
・長期国債買入増額に関するコメント
この辺から話がちと「?」つきになるのであった。
『なお、市場の一部には、通常の短期の「資金供給オペ」で当座預金残高が達成できないのであれば、長期国債の買入増額を実施すればよいとの意見も聞かれます。』
いやあの2001年3月に量的緩和導入する時にそういう公表文だしてるんですけど。「教えて!にちぎん」を読めと小一時間ですな。
『しかし、長期国債の買入増額につきましては、現状の実体経済動向などを考えますと、その効果以上に副作用が大きくなるのではないかとみています。』
ははぁそうですか。で?
『最初に買入増額を行いました2001年3月の時点では、当時の経済が抱えていたデフレ・スパイラルに陥るリスクも勘案した上で、通常の短期の「資金供給オペ」以外の手段も講じる必要があると判断し、買入増額に踏み切ったものです。また、その後の買入増額も、単なる資金供給手段の拡充というよりは、当座預金残高目標の引き上げに合わせて実体的な緩和度を一段と強める手段として行われてきたものと理解しています。』
『しかしながら、足許の金融環境、景気・物価動向等をみますと、思い切った金融緩和が必要であった当時とは大きく異なっていることはいうまでもありません。加えて、長期国債の買入増額を実施した場合には、財政規律の低下と市場に受け止められ、金融市場の不安定化に繋がるリスクや、日本銀行の長期資産が増えるため、金融調節面のフレキシビリティが低下するというリスクが生じかねません。』
何か突っ込みどころが色々あるが、実は時間が無いので突っ込まず次に。
『なお、「札割れ」が継続的に生ずるもとでは、長期国債の買入増額は、その分短期の「資金供給オペの札割れ」を更に深刻化させるもとになる可能性もあります。』
これは思いっ切り訳判らん。体感的に(って説得力皆無だが)ちと違うと思うぞ。
で、このあと政策の透明性向上がどうのこうのという話に続くのですが、時間と量の関係上続きは週明けにでも。
(編集時注記:で、この下に1年前の講演におけるその当時に書いた感想があるのですが、1年前と現時点ではあっしも言ってること違いますなぁと思うのであります。ただ、基本的にあまり変っていないのは、「政策ロジックを通してくれ」ってことでしょう。1年間前に「政策転換の遅れのリスク」を書いているのは、デフレ脱却後にそのまま量的緩和を放置するのはどうよっていう(当時の)アンチリフレな発想と、量的緩和後にゼロ金利+時間軸はオッケーだけど、量的緩和のコミットメントを先送りするのは不可という理屈はおかしいんじゃないかって点を言及しているのですな)
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2004/05/17
「中原委員の記者会見要旨を見てつらつらと」(2004/05/17)
金曜の続き。
どうも日銀は早すぎたゼロ金利政策解除(そもそもゼロ金利政策自体が必要な政策だったのかという問題はあるのですが)という「早すぎた政策判断」に加えまして、昨年の「中短期金利が引っ張ってパニック的に発生した金利上昇」が相当のトラウマになっているようです。まぁトラウマになるのはどうでも良いのですが、その結果今度は政策判断が遅れると言うか政策判断をしないような方向に進んでいるのは如何な物かと思う訳であります。
○金融引締めの先送り
金曜日にご紹介しそこなった中原審議委員の記者会見要旨では「一つの考え方」と断った上でこんなコメントをしています。
『量的緩和の状態からいずれ出れば金利の世界に戻る訳であるが、ポジティブな金利水準の世界に戻る前に、ゼロ金利の状況を一旦挟むことがソフトランディングとして適当ではないかと思っている。その過程で望ましいインフレ率を明示することによって、ある種の時間軸効果をもたらすことができる。』
『具体的に言えば、日銀は最低でも1%のインフレ率が望ましいと思っているということが市場に認知されれば、当然ながら中長期的にはそれに向けて政策運営がなされ、政策発動が行われるということであるので、その間、例えばCPIが0.5%、あるいは0.7%の時に、急に日銀が引き締めに走って金利を引き上げることはしないであろうという市場の期待を生むことになる訳であり、──これがある種の時間軸といっても良いと思うが――そういう効果を与えるために下限1%から上限2%程度を望ましいインフレ率として示し、併せて量的緩和の出口でゼロ金利政策を一旦採ることが、経済あるいは市場に不安定感を与えずに、量的緩和からソフトランディングしつつ脱出することができるのではないかということを申し上げているのである。』
量的緩和をゼロ金利にするのは「ソフトランディング」ではなくて「ただの先送り」ではないかという気が思いっきりする所ではあるのですが、とにかく発想としては「現行の短期金利体系をできるだけ長期間引っ張ることによって市場金利を安定化させよう」という意識があるようです。押さえつける必要も無い状況において、足元の金利を押えつけると逆に長期金利が不安定化するという理屈は金曜日に申し上げました通りなのですが、何だか「まぁ足元金利を押さえつけて、金融政策変更は先送りしておきましょ」という意識が見えてくるのはあたくし的には激しく「漠然とした不安」を感じる所であります。
だいたいやるべき事を先送りすると不良債権処理の先送りみたいなもんで、碌でもない結果をお招きすることになるのですが、金融引締めが遅れた場合にどういう結果が起きるかというとこれがまた考えたく無いお話であったりする訳です。
○やはり論理崩壊
さて、この中原委員の「量的緩和の後にゼロ金利+時間軸」という提案なのですが、やはり理屈として激しく変なお話であるかと思います。
別の質問に対する答えとして中原さんはこんなコメントもしています。
『昨年10月に現在のようなコミットメントの明確化が最終的に決定されて、現在の状況を考えると、一部に量的緩和解除のコミットメントの「ゼロ%」を「1%」まで引き上げるべきではないかという議論もあるが、あの段階で「ゼロ%」以上安定的にという明確化を行い、かつ当時に比べてもよりデフレ解消への道筋がはっきりし始めている現在、今の「ゼロ%」以上安定的にというコミットメントを「1%」に設定し直すことが、実効性のあるものだという積極的な議論は出来ないと思う。』
と言っているその答えの続きでこんな事も言っているのですが・・・・・
『私は一つの量的緩和の出口の考え方として「ゼロ金利を挟む」ということを申し上げている訳で、これが絶対であると申し上げるつもりはないが、「ゼロ金利を挟み1%という下限目標を示すことによって時間軸効果を与える」ということは、1%程度に達するまではゼロ金利政策を基本的には続けるというのが前提になる。ただ、現在のコミットメントもそうだが、総合的な判断が最後には必要になってくる。それは、CPIが1%になった時の構成要因、特殊要因、あるいはその他の要因等も勘案したうえで判断していくという話である。繰り返しになるが、ゼロ金利を挟むというのは一つの考え方であるということである。』
その「ゼロ金利+時間軸」というのが実効性があり、「量的緩和の時間軸を延長」というのが実効性がないという理屈は一体全体何を根拠にしているのか全く理解に苦しむ所であります。というかこれって思いっきり屁理屈としか思えないのですが・・・・・・・
○誤解する市場も市場ですが・・・・・・・
まぁ福井総裁の講演でもやたら強調されていた「市場との対話」なのですが、中原審議委員の記者会見でもこんな一幕がありました。
『(問)4点お伺いしたい。(略)3つ目は「2004年度末にかけてわが国の景気がピークアウトし、成長に若干の減速感が出てくる可能性は否定できない」と述べられており、その理由として雇用、外需、素材高、年金・税制等を挙げているが、このうち年金・税制は公的年金課税と所得控除の縮小・廃止、厚生年金の保険料率の引き上げを指しているのかということ。(略)』
この部分に関して中原委員はこのようなお答えを。
『3点目の2004年度末にかけてわが国の景気がピークアウトし、成長に若干の減速感が出てくる可能性は否定できないと申し上げた点であるが、私は景気の後退というところまで考えている訳ではないので、ピークアウトという言葉の使い方は適当でなかったかもしれない。』
その場のアドリブで出てくる談話ならある程度仕方がない面もあるのですが、一応講演ってのは事前に原稿がある(なかったらあんなに早く講演要旨が日銀Webにアップされないでしょうし)筈でして、そういう事前準備が可能な場において出てきた言葉が「適当でなかったかもしれない」というのはちょっと如何な物かと思う訳であります。この手のコメントというのは出てしまった段階で市場に影響を与える可能性がある訳ですから、後から撤回すればよいという問題ではないと思いますが。
福井総裁の「金利に蓋をする」というのが何せ圧巻だったのですが、市場との対話を重視するのであれば、無闇矢鱈と色々なところから色々な情報発信をするのではなくて、ピンポイントで誤解を与えないような情報発信が必要なのではないかと思う次第。大体からして(先日も申し上げましたが)債券市場自体がやたらと目先の一つ一つのコメントに過剰反応する傾向にあるのは今に始まった事ではない(お蔭で年中あたくしは悩むのですが)ので、情報発信もまた誤解のないようにやっていく事が重要なのではないかと思います。
昨年の中短期金利大上昇相場において、市場が問題にしていたのは「早期利上げを結果として織り込んでしまった位の破壊的な中短期金利の上昇」であったのに、長期金利が1.5〜1.6%程度と落ち着いていた事もありまして5年債1%だの2年債0.25%だのという事態になるまで市場の不安を放置して牽制らしき動きが出なかったのと比較すると、最近の動きは「口先介入のやり過ぎ」で市場の過剰な安心感を発生させようとしているように思えますな。
何だかな〜って感じです。
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「驚愕の講演」(2004/05/13)
本題に入る前に別の話ですが・・・・昨日の前場寄り付き直後は5年から先物がちょっと売られるような展開になって「おっ予想通りじゃあーりませんか」と思っていたらその後いきなり20年ゾーンが強烈に買われてブルフラットの展開。「また予想大外しとはもしかしてあたくしは相場神ではないか」というトホホな展開でありましたな。いやはや何ともであります。結局は入替売買主体の動きで日中イールドカーブが派手に動きましたが、終わってみれば比較的マイルドな結果になっております。何のこっちゃという感じの一日でした。
さて、そんな手がかり材料に欠ける相場の中でちょっとだけ注目されたのは秋田県金融経済懇談会における中原審議委員の講演(正確には挨拶ですが)でありまして、この要旨が日銀Webにアップされております。また、引け後に記者会見もあったのですが、こちらはまだ内容がアップされておりません。しかしちょっと取り上げてみたいので記者会見内容はブルームバーグ社のニュース記事を参考にして(日経金融新聞朝刊には載っているかもしれません)取り上げたいと思います。
http://www.boj.or.jp/press/04/ko0405a.htm
講演は結構長くて、第1のお話が「日本経済の現状と見通し」というお題でありまして、次が「量的緩和政策と今後の政策運営」、最後が「日本経済における変化の芽」であります。で、債券市場で話題になったのは量的緩和云々の部分でありますので、とりあえずこの部分およびそれに関連する記者会見の記事を参考にお話をしていきたいと思います。他の部分の記述も何と申しますか突っ込み所がありそうな雰囲気なんですが、それはまた別の機会にでも。
まぁ最初に総括してしまいますと、この講演と記者会見の内容はあまりにも「痛い」ものであり、何か勘違いのオンパレードとしか申し上げようが無いものであります。あまりにも堂々と「痛い勘違い」を連発しているので、読んでいるこっちの方が「もしかして俺の頭がおかしいのか」と不安になって昨日は複数の読者の皆様に同じような質問をして回ってしまった次第であります。ご質問にお答えいただきましてありがとうございました。
それではこの痛すぎる勘違いを検討していきましょう。
○量的緩和政策の効果に関する誤解
「量的緩和政策と今後の政策運営」というお題で最初に説明しているのは量的緩和政策の評価であります。で、その中にこんなコメントがある訳です。
『当初、量的緩和の狙った効果として、このほかにインフレ期待を醸成し、銀行を通じたポートフォリオリバランス効果によってマネーサプライを増加させ、実体経済へ働きかけを強めることも期待されていました。』
後半の「ポートフォリオリバランス効果」は良いと致しまして、前半にある「インフレ期待を醸成し」って言うのは初めて聞くお話であります。そんな公式見解はでておりません(ということを確認するために思わず夜なべで日銀Webを確認して回ってしまいました。あたくしの睡眠時間を返していただきたいものですな^^)。量的緩和政策の中間評価として日銀の出している公式見解を敷衍しながら説明している資料としては、昨年9月7日と12月5日に須田審議委員が行った講演をまとめた「量的緩和政策について-その暫定的評価と今後の課題-」というのがございまして、(http://www.boj.or.jp/press/03/ko0312d.htm)この内容を昨年12月18日と19日のドラめもんでご紹介致しました。再送希望の方はお申し付けください。
そういえば最近はうやむやのうちに現在の量的緩和政策のスキームがインフレターゲットと同じように論じられたりしております(さすがに中原審議委員はその点間違えてはいません)が、そもそも今の量的緩和のコミットメントの仕組み自体はインフレターゲットと根本的に違う訳でして、その点につきましては量的緩和導入時における「新しい金融調節方式Q&A」と(http://www.boj.or.jp/seisaku/01/pb/k010319c.htm)いうのを出して説明しております。念の為引用しておきます。
問7:インフレーション・ターゲティングを採用したということですか。
答 :通常、インフレーション・ターゲティングと呼ばれる手法は、(1)中長期的に望ましい物価上昇率を目標として設定し、(2)先行きの物価上昇率が望ましい物価上昇率から乖離すると予想される場合に政策変更を行う、という方法です。日本銀行は、現在の日本では、中長期的に望ましい物価上昇率を数値で示すことは難しいと考えており、インフレーション・ターゲティングについては、引き続き検討事項として位置付けています。今回の措置は、あくまで、通常は行われないような政策を、現実の消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率が安定的にゼロ%以上となるまで続けることをコミットしたものです。その意味で、いわゆるインフレーション・ターゲティングではありませんが、物価が継続的に下落することを防止し、持続的な経済成長のための基盤を整備するという日本銀行の断固たる決意を示したものです。
と、ちと話が逸れましたが、この審議委員様におかれましては、量的緩和政策の狙った効果と称して、日銀としてそんなものは狙う意図がない「インフレ期待の醸成」というのをお話している訳ですな。量的緩和は上記引用文にもあるように『通常は行われないような政策』でありまして、その政策目的は「デフレからの脱却」であります。その枠組みを逸脱した「狙い」を勝手に吹聴するというのは意図してやっているのか、それとも単なる勉強不足なのか判りませんが、どちらにしても機関としての「日本銀行政策審議委員」としての立場を逸脱した言動と言わざるを得ないと申し上げておきましょう。
○市場の安定化に関する誤解=その1:ターゲットの安易な変更
まぁ誰しもが思うのは「量的緩和からの脱却に際して市場を下手に混乱させずにスムーズに移行するにはどうしたら良いか」という事でありまして、その為に中原委員も案をだしているようなのですが、本当にこの人市場部門のお仕事を銀行(東京銀行→東京三菱銀行)でやっていたのか甚だ疑問に思ってしまうようなお話の連発で激しく頭痛が起きるわけであります。
講演ではこんなことを言っておりました。
『量的緩和の政策レジムの変更時における市場の不安定化を抑え、市場の期待を安定化させていくためには、中央銀行が望ましいと考える物価上昇率を事前に示していくことが一つの解決策になるものと思います。(略)具体的な数字については、諸外国の例や消費者物価そのものが持つバイアスを考えると、最終的には1〜2%というのが適切な水準であると思いますが、目標性が強まるあまり金融政策の機動性や自由度を失うことは望ましくありません。量的緩和からの出口における不安定な動きを抑えるためには、望ましいインフレ率を具体的に示すとともに、実質的なゼロ金利の状態を経ることが現実的かもしれません。』
この文面を最初に読んだときに「なるほど。量的緩和から金利ターゲットに変更する時に短期間ゼロ金利の移行期間を設けて、中央銀行として先行きの物価上昇率の目標値を設定する(即ち本来の意味でのインフレーションターゲットの設定です。さっき引用したQ&Aと同じ事ですね)ことによって過度な追加引締めへの思惑を起させないのですな〜」と常識的な解釈をしていたのですが、あにはからんや、その後の記者会見ではどうも「量的緩和政策を解除したあとに金利ターゲットにしてゼロ金利政策を実施。その際に望ましいCPIターゲットを明示してある種の時間軸効果をもたらす」と発言しているようです(記者会見の内容に関してはブルムバーグ社のニュースを参考にしております)。
ということは、実質的には「量的緩和のコミットメントが達成された後に改めてCPIターゲットを引上げる」と言っているのに等しいお話なわけ(量的緩和とゼロ金利の違いはあるが、実態が同じですから)でして、要するに「CPIターゲットが逃げ水状態になる」という事でありますがつい先日(5月7日と10日)もドラめもんで「論理崩壊」と申し上げたまさにその通りのお話をしているようであります。恐ろしいことです。
こうなりますと、今度は「CPIターゲットが達成されてもまた変更になるのではないか」という思惑が発生する余地が出てくるわけでして、それこそ日銀の意図せざる期待が発生して際限がなくなってしまいます。それ以前の問題として先日も指摘しました通りで、「逃げ水金融政策」を一たび実行すれば、それ以降は金融政策運営においてどんなコミットをしても「どうせ途中で変更になるんでしょ」という事になり、政策への信頼が失われるリスクが非常に高いのですが、途中でゲームのルールを変更するに等しい行為に伴う危険性について中原審議委員は認識をしているのかと小一時間問い詰めたい所であります。
○市場の安定化に関する誤解=その2:ビハインド・ザ・カーブ
念の為申し上げますと、ビハインド・ザ・カーブというのは「政策発動が遅れる」といった意味でございます。記者会見内容の記事によりますと、中原審議委員は「デフレを脱却する上で、ビハインド・ザ・カーブのリスク(金融引締めが遅れるリスク)はどうしても残る」と思いっきり言っております。で、先ほどの「逃げ水金融政策大作戦」やら他社の記事をちらちらみると、どうも「市場の安定化の為には引締め観測を起させないのが有効」→「金融引締めに転じるのが思いっきり遅れても問題無い」という論理構成になっているようです。しかし本当にそれで良いのでしょうか??
確かに、金融緩和を外部環境がインフレ状態になっても長期間に渡って継続していけば足元の短期市場金利については翌日物金利を日銀はコントロールする事ができるので低位安定するでしょう。しかし、金融緩和のタイミングが遅れれば遅れるほど、先行きのインフレ期待が高まる訳でありますし、その手の期待というのは一度発生しだすと自己実現的に肥大化する傾向にあるわけですから、将来の期待インフレ率を織り込んで価格形成が行われる長期金利をより跳ね上がらせる危険が高まるわけです。
というかもうちょっと単純な言い方をしますと、金融緩和政策を余計に続けますと、その後引締めの必要が発生した場合により強力な引締めが必要になるわけですから、その分長期金利が跳ね上がりやすくなるというお話であります。もっと具体的に言えばどこぞの国で15年位前に金融緩和を漫然と継続して、その過剰流動性が不動産と株式に回って価格が狂ったように上昇してしまい、いざ金融引締めをしだしたら今度は狂ったように金融引締めをする破目になってしまい、挙句の果てには引締めのやりすぎでオーバーキル状態になってしまった何てぇのがございますな。ちょっと例えが変かも知れないけど。
てな訳で、中原審議委員におかれましては、時間軸を一段と強化することによって市場の安定化をしようとしているのですが、以上で申し上げたように同じ手がいつも通用すると考えるのは大いなる勘違いであります。景気が現実に過熱しだしている時に時間軸を強化するという行為は短期市場金利の安定化には繋がっても、長期金利は逆に不安定化する危険性がある訳でして、時間軸効果の長期金利安定化効果をを盲信するのは極めて危険極まりない発想であるかと思います。
まぁゼロ金利解除で上手くいかなかったことが相当のトラウマになっているようなので「ビハインド・ザ・カーブは問題ないでしょ」という事になっているのかもしれませんが、金融引締めの遅れによって許容範囲を超えるようなインフレが発生した場合には、その被害が直撃するのは一般ピープルな訳ですから、厳しい言い方をすれば「ビハインド・ザ・カーブ問題なし」というのは、「自分たちの保身の為に国民生活をインフレリスクに晒す」と言っている事と同じなのではないかという批判を受けても仕方無いお話ではないかと思う訳です。つーかそれなら別に金融政策決定会合なんていらね〜じゃん。
どうもこの審議委員の講演(の金融政策にかかわる部分)は先日来「金融政策への誤解」としてあたくしが槍玉にあげたどこぞの著名債券ストラテジストのレポートの論理と酷似しているような気がするのですが、あたくしの勘違いでしょうかねぇ。まぁいいんですけど、何だかな〜と思う今日この頃。
しかしながら、ここまで認識が変なお方が政策委員をやっているというのは実に何と申しますか「日本国を全力売り」と言いたくなってしまうあたくしであります。そういえばどこぞの商社出身の審議委員は「手形の活用」という激しく時計の針を巻き戻すようなお話を講演でしていまして、その中で実務で誰も見たことがない法律上だけの存在ではないかと思われる「無担保裏書」の活用をしましょうなどという浮世離れしたお話をしておりました。
この政策委員会の審議委員の人選ってどうやってるんでしょう。何か激しく脳内現実と現実の間に齟齬のおありになると思われるような方が紛れ込んでいるのは理解に苦しむ所ではあります。
この講演要旨、他にも何か突込み所満載なのですがやりだすときりがないのでとりあえずこんな所で。本日は福井総裁の講演があるようなのですが、同じような話題に触れるのかどうか楽しみかつ恐ろしいものを感じる訳であります。
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「歴史に学ぶ銀行のあり方」(2004/01/06)
と言う訳で始まってしまいました新年相場。そんな中日銀のWebに本年一発目にアップされたのは中原審議委員が全国銀行協会の「金融」(たぶん機関誌だとおもうのですが)2004年1月号に寄稿した「歴史に学ぶ銀行の在りかた」という文書でございました。
http://www.boj.or.jp/press/03/ko0401a.htm
で、内容の話はともかくと致しまして、まず気になるのはと申しますと、日銀Webに年初一発目でのアップが「銀行経営がらみ」だったという事でしょうか。
昨年末あたりから日銀の複数の審議委員からやたらと銀行経営に関して色々とご提案と申しますか、外野のお節介と申しますか、まぁいろんな発言がされているのはご存知の通り。でもって、今年の日銀からの情報発信の一発目がやはり銀行関連っつー事でありますので、今年の金融政策における最大の関心事が「量的緩和の解除をどうするか」ではなく、「来年のペイオフ完全実施が無事に出来るか」という事のようだとも勝手に推測出来る訳ですな。
ではちょっとだけ内容を拝見。
○銀行への苦言
まぁ最初は苦言から入るという感じでございます。最初のお題が「銀行への不満」であります(^^)。
『「銀行は要らない」。新年早々、穏やかでない話から始まって恐縮であるが、昨年、東京下町のある工業会々長とお会いした際にお聴きした言葉である。同氏曰く、「民間銀行は担保の積み増し、理不尽な金利引上げを要求してくるだけだ。どんな事業計画を持っていっても聞く耳を持たず担保しかみていない。将来の企業の成長性に着目して融資するということができないでいる」ため、「銀行は要らない」と言われる。』
「担保しかみていない」というのは不正確な表現で、「担保割れしかみていない」の間違いではないかと思うのですが(^^)、金融庁の検査マニュアルの弊害がもろにでているのが昨今でもある(検査マニュアルを言い訳にして無茶やっているという面も否定できませんが・・・・・)と言ったところでしょうな。
特に昔からの顧客からはこういう風に言われるでしょう。
『また、海産物を販売している中央区の老舗の商店主さん曰く、「銀行は今になって金利を引き上げてくれというが、昔は我慢して高い実効金利を払ってやったではないか。まず、昔支払った分を返せ」。これは、かつては、貸し手優位の中で拘束預金や協力預金が存在していたことを指摘されておられるのだろう。』
そういえば銀行は銀行で「昔は税効果資産を認めるからと言われて不良債権の償却を前倒ししたが、今になって税効果資産を否認する行動に出るとは何事だ、まず、昔支払った有税償却分の税金を返せ」と言いたいでしょうな。そう考えるとこの国は結局「ナンジ人民飢えて死ね」って事何でしょうな、とほほのほ。
で、銀行の立場からの弁明というか言い訳が後に続くのですが、それはともかくとして、次のお題の「新しいビジネスモデルを求めて」という部分の冒頭にこんな事を言っておりまして、思わずウケてしまいました。
『もっとも、総じてみれば、依然として銀行の評判が芳しくないのは認めざるを得ないだろう。私自身、民間銀行出身なので、上述のような銀行批判に対し、「そうは言っても・・・」と反論するものの、その途端に「すわ回し者か」と睨まれることもある。』
わはは、あたくしも身に覚えが(^^)。
○「銀行のビジネスモデル」論議への苦言(か?)
で、「新しいビジネスモデルを求めて」です。
さすがに中原審議委員は元々が銀行員ですし、寄稿している文書の読み手が銀行関係者だというのを意識しているのもあるでしょうが、他の日銀審議委員やどこぞの監督官庁の人々のような現実を全く無視した夢物語みたいな話は致しません。こういう人の意見が金融庁の金融政策にちったあ反映されて欲しいものです。
『銀行の新しいビジネスモデルは何かとの議論が盛んだが、民間銀行に身を置いた経験から言うと、収益力を一挙に高め、一気呵成に不良債権問題を解決できるような普遍的な単一のビジネスモデルがあるとは思えない。』
金融庁の画一的な管理って一体全体何なんでしょうと思ってしまう訳でございまして、その辺も思い切って指摘して欲しいのですが、まぁそこまで言わせるのは無理というものですね。
『そもそも、足許の不良債権は、日本経済の構造問題と結び付いている根の深い問題だ。外需によってもたらされたフロー収益の国内への還元と、その再分配を前提とした株価・地価等ストックの膨張、これらを担保とした信用供与によって経済を発展させるという旧来の日本経済の構造自体が大きく変化している。』
『他産業と同様、銀行もこのような構造変化に対応した経営を行おうと必死になっているが、新しいビジネスモデルは、思い付きで生まれたり、"お上"から与えられるものではない。』
銀行業界が"お上"に完全屈服状況でございますので、中原さんが言わないといけないっつー事なんでしょうか。何気なく書いていますが、昨今の銀行を巡る好き勝手な議論に物申すって感じに思えるのですが(^^)。
『さらに、銀行業には様々な点で規制が多く、歴史的にみて、収益性の高い業務分野への参入が難しかったということや、公的な金融機能が肥大化し民間市場の拡大の妨げとなっていたことも忘れてはならないだろう。』
『リテール業務の一部の分野や公共料金の振替等、「儲からないからやめる」とは言わせてもらえない分野も多い。新しい銀行のビジネスモデルといった場合、このような銀行に求められている公共性、社会性との関係をどのように考えていくべきかも重要なポイントである。』
そういえば決済業務という一番コストのかかる部分をやろうとしないで「銀行」と銘打って中小企業金融をやるといった「それは商工ローン会社とどう違うんだ」と言いたくなる某銀行(設立予定)もそうですし、民営化してから主要駅を巨大ターミナルにして近隣の商圏を食って成長した積りになっている某国有鉄道からやって来た経営者に好き勝手言われてる(言われる方にも問題があるとおもいますが)某銀行。
現在の銀行の状況は確かに利用者的に言えばかなり「いかがなものか」という感じであるのは事実でございますが、元々精緻な決済インフラが構築されている訳でして、このインフラ整備に如何にコストが掛かっているのかといった宣伝を銀行はもっとすべきであろうかとは思います。正直言って銀行が収益性を重視しだしたら殆どの小口金融が相手にされなくなる(あるいは無茶苦茶手数料が高くなる)と思うわけです。
銀行に規制緩和で色々な業務が出来るようになれば、結局国鉄民営化の二の舞でありまして、それこそ近隣の中小商店あたりがゲロゲロ状態になってしまうとおもうんですけどね。
と、話が何時の間にかあたくしのご機嫌斜め的な発言になってしまった事をお詫びしつつその先を読みますと、銀行に対してきちんと苦言も呈しております(^^)。
『しかし、だからといって開き直ることもできない。取引先企業のニーズを満足させるとともに、社会経済の構造変化に対応した経営を構築し、安定した収益をあげていく、そのために銀行は今後如何にあるべきなのか?明確な将来像は未だ見えていない。』
で、まぁ温故知新っつー事で「銀行の歴史」についてお話があるのですが、こちらは読み物としては楽しいので是非御覧下さい。さすがは「銀行の銀行」の日銀さまだけにこういう文書は天下一品なんでしょう。
○まとめの部分
「歴史に学ぶ銀行のありかた」というのが続くのですが、これはまぁシュンとしている銀行へのエールみたいなもんですので本文を読んでくだされ。
で、最後の「おわりに」ではやはりペイオフ完全実施のことに触れている訳でして、日銀の今年の金融政策の最大の焦点が「ペイオフ完全実施へのスムーズな移行」だという事なんでしょうな。
『明年春からのペイオフ完全実施、再来年の新BIS規制導入は、全銀行一丸となって乗り越えねばならない大きな課題である。今後、今まで経験したことない大きな厳しい環境が待っているかもしれない。しかし、縷々述べた歴史から学べる教訓は、決して悲観することはないということではないか。戦後蓄えた豊かな富を次世代に引き継ぐため、今ほど銀行の叡智が求められている時代はない。換言すれば、いつの時代であっても「銀行は要る」どころか、「経済社会発展の要である」ことを証明するのが、私を含め銀行業に携わる者の責務と認識している。』
と言う事で、今年のメインテーマはペイオフ完全実施への地ならし。その為には量的緩和解除は有り得ないと考えるのはまぁ勝手(というか金利水準は今年1年の量的緩和解除に関して全く意識していない)なのですが、そちらに関しては「関心が薄い」だけのことではないかとも思っちゃうんですけどね〜♪
ではでは。
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