田谷禎三前審議委員

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田谷禎三前審議委員

田谷さんの略歴(日銀Webより)

昭和20年3月5日生
昭和42年3月 立教大学社会学部卒業
昭和52年6月 UCLA 経済学部博士課程修了(Ph.D)
IMFエコノミスト、大和證券、大和総研を経て
平成11年12月3日より日本銀行政策委員会審議委員
(前職:大和総研常務理事)
詳しくはこちら→http://www.boj.or.jp/about/basic/pb/taya.htm
(サイトリニューアルの際に過去のデータリンクが切れてしまったようです)

平成16年12月2日をもって日本銀行政策委員会審議委員を満期退任。お疲れ様でした(^^)。

2004/07/05「田谷さんの記者会見」
2004/07/02「田谷さんの正論(2004年7月1日の講演)」
2004/02/04「苦渋の?記者会見」
2004/01/30「京都における講演」




2004/07/05

お題「田谷審議委員の記者会見」

日銀内部の本音を代弁していると思われる審議委員には田谷さん、須田さん(もしかしたら植田さんかも)の2名です。結局外部から来ているエコノミスト審議委員(除く岩田副総裁)が日銀内部の代弁者状態になっているのは皮肉といえば皮肉なお話であります。

先日の講演の後に行われた田谷審議委員の記者会見をご紹介。
http://www.boj.or.jp/press/04/kk0407a.htm

○金融政策に関して

講演で「米国の金融政策が超緩和から中立的な状況に戻る」というようなコメントをしていた事に絡み「中立的な状況とは何ぞや」という質問が行なわれまして、それに対する答え。

『まず、最後のご質問の「日本のデフレ脱却時における中立的な政策金利水準がいくらか」という点については、まだ私には確たる具体的な答えは残念ながらない。』

『第2点目についても、米国のFFレートが中立的な水準に戻っていくと広くマーケットで信じられていることはご承知のとおりで、一部の連銀理事のコメントだとか、エコノミストのコメントだとかがいろいろある。(中略)これからマーケットがその都度、様々な経済・金融情勢を考慮しながら判断していくものであり、確たる答えは今誰にも言えないだろうと思う。』

『また、「何が中立的か」という最初のご質問についてだが、現在、米国は4%台の実質経済成長率を遂げ、物価変化率も消費者物価指数でみて──あるいはコア消費者物価指数の動きでみて──2%ないしは2%弱の動きをしており、これを以ってFRBは景気刺激的な超低金利は必要なくなったと判断している。従って、「景気を刺激する必要性がないレート」ということなのではないかと思う。』

当たり前なのですが、具体的水準に言及することなく米国の状況を例にあげて、上記のような経済状況であれば景気を刺激するような金融政策を行なう必要は無いという見解を示している訳ですな。何か言われるたびに頭に血が上るのかどうか知りませんが、ついつい具体的金利水準に言及してしまう総裁とは大違い(記者の追及が厳しいか否かの違いはあるでしょうが)ですな。

勝手に「日銀内部のホンネ」を推測すると、CPIがプラスになってくれれば量的緩和もさっさと解除したいし、CPIがプラス2%なんて数字の時には短期金利は1%以上ないと話にならんという事でしょうな。岩田副総裁がいう「糊代論」ではCPIがプラス1%位まで量的緩和を続けるって話になりますから、この田谷さんのコメントが日銀内部のホンネだとすれば、随分と違うお話になります。心に留めて置いても宜しいかと思いますよ。


インフレ参照値に関しての質疑では「インフレ参照値の導入は政策の自由度を過度に奪う」という話を講演でしていまして、当然ながらそちらに関して質問がありましてそのお答えですが、やたら長いので途中で段落わけします。

『インフレ参照値の下限をβ、上限をγとすると、そのβなりγなりということが、金融政策を変更するトリガー(引き金)となる物価変化率αという数字とかなり混同される──例えば、αとβというのがかなり混同されて理解される──危険性があると思う。』

『要するに足許の物価変化率がx%で、参照値の下限がβであったとすると、xがβに近づくに従って、マーケットはかなり不安定化するおそれもあると思う。しかも、その時の資産市場の状況や景気の局面などがわからない状態でそういう数字だけを言うということは、かなりその後の金融政策についてのマーケットの考え方の幅を大きくするのではないかと思う。』

現状の債券市場ですら不安定化している訳ですから、インフレ参照値を設定すると益々不安定になるのではないかという見解。あたくしも同じ事を懸念するものであります。

『例えば、αにしろβにしろある数字を言い、その間に景気の回復が持続し、資産市場にもかなり変化の兆しが見られるような状況になったとする。この時に、マーケットというものが、それだけ長くゼロ金利が継続するということを想定した場合、一旦、金融政策のスタンスが変わった後は、相当大幅な変更があると予想しかねない──大きな金利の引き上げが必要になるということを想定しかねない──と思う。ある数字を言うことによって、そうした数字に近づくに従ってマーケットが大きく不安定化するおそれもあると私が想定しているのはこういう事態だ。』

結局のところは総合判断で(その判断が正確かどうかはともかく)金融政策は先走る事も無く遅れることも無く実施するというスタンスで行くという事しかないのでしょう。金融政策を単一の経済指標にペッグされるという事は弊害が大きいということでしょう。別の質問に対してこんなコメントをしております。

『金融政策スタンスを変更するトリガーとなるような現実の物価変化率と参照値の下限値がある意味で混同される可能性があるのではないか、ということを申し上げた。』


○景気に関して日銀短観から

日銀短観に関してはこんなコメントをしております。

『5点ある。第1点は、設備投資、特に製造業──なかでも大企業製造業──の設備投資計画が強いと思う。第2点は、業況判断D.I.や利益見通しなど多くの指標で、バブル期以降の最高水準となるものが目立っている。第3点は、大企業製造業対その他、あるいは製造業対非製造業、大企業対中小企業といった間で格差が縮まっていないということが読み取れる。その理由としては、大企業製造業の改善がかなり大きかったためにこういう現象が起こったのであり、中小企業にしても非製造業にしても、それなりに改善はしてきていると思う。第4点は、設備判断D.I.とか雇用判断D.I.の改善がみられている。これの意味するところは、需給ギャップがそれなりに縮小してきていることが確認されたということだと思う。第5点は、企業金融が全般的に改善してきているということが確認された。』

まぁ大体ありがちなコメントなのですが、その中でも回復の裾野の広がりに関してコメントしている第3点は「ふ〜ん」という感じですな。しかしながら設備投資は良好、需給ギャップは改善して企業金融も改善と来ると相当の強い内容だという見方になっているという事ですな。日銀短観というのはぶっちゃけて言えば只のアンケート調査なので、そのときの雰囲気にも左右されると思うのですが、何だかんだと言いましても日銀は重視していますので、益々景気回復モードって事でしょう。

短観の先行きの数字がやや下を向いている点について質問があった(実際問題としては、今までも先行きのDIは常に下向きだったので、そもそもこの質問自体がトンチンカンなのですが)のですが、それに対する答えは、

『先行きの数字が若干下がっているが、私は基本的にはあまり気にしていない。横這い圏内の動きが続くと皆さんが見ておられるのだろうと思う。』

景気に関しては総じて強気なコメントが目立ちます。


○地元からの意見

この金融経済懇談会は釧路市で行なわれたのですが、参加者からでてきた質問に関しては大変に興味深いものがあったようで、だいたい今までの講演後に行われる記者会見では参加者からの質問に対して簡単にしかコメントするだけな事が多い中で、結構詳しくコメントしておりますので、特に注釈もせずのやたら長い丸引用で恐縮ですが、引用したします。

『先程の懇談会で出た話題を4つに纏めてお話しする。第1点は、北海道あるいは道東の経済はやはり厳しいという話が異口同音に出た。中央と地方の格差や企業間格差というものがなかなか縮小していないし、ある面では却って拡大しているのではないかということ、そうした中で伝統的企業と言われるかなり長い歴史を持った企業が倒産しているという現実があることなどについて伺った。』

『第2点として、今朝、短観が発表になった訳だが、短観のやり方について、対象企業の見直しが不断に行われているのかというご質問があった。例えば、優良企業ばかり入っているのではないかとか、新興企業がなかなか入っていない面があるのではないかというご指摘もあったが、私からは、やはり経済統計の本来的に持っている1つの弱みというものはそういうところに確かにあるので、そのために5年に1度は大々的に見直しているし、定期的にも見直しているというお話をした。』

『3点目に金融政策に関連してご発言があり、金融政策というものが中央に偏重していないかというご指摘、あるいはマーケットに偏重していないかというご指摘があった。その関連で、地方の実態にもう少し目を向けて頂きたいというご要望もあった。』

『最後に4点目として、将来を考えると不安な要因があるということが幾つか話題に出たので、3つほど申し上げる。1つは財政赤字がかなり拡大しており、国の債務残高が700兆円を超える状態になってまだ増加に歯止めがかかっていないということがあるが、これに対する懸念なり不安なりということが異口同音に聞かれた。2つ目は、長期金利がここのところ上がっていて、その企業収益に対する影響ということについて、不安を口にされる方がおられた。最後に、原油価格について、サウジアラビアの不安定性や、中国、インドといったエマージング諸国の需要拡大によってなかなか原油価格が下がってこないのではないか、もしそうであれば経済の先行きを考える上で困ったものだというお話があった。』

道東の経済状況に関してのコメントもあるのですがそちらは省略します。

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2004/07/02

○田谷審議委員、他の無原則審議委員に物申すの巻

昨年の10月以降に行なわれた「景気判断を前進させているのに当座預金残高目標の引き上げ」という整合性もへったくれもない金融政策に対して反対票を投じつづけた田谷審議委員。外部からやって来た審議委員が最も原則を重視する姿勢を見せているという大変に皮肉な状況な訳ですが、昨日は釧路市における金融経済懇談会で「最近の金融経済情勢と金融政策運営」というお題で挨拶を行いまして、その要旨が例によって日銀のWebにアップされています。

http://www.boj.or.jp/press/04/ko0407a.htm

・景気情勢の今後に関しての言及

本当は金融経済情勢について色々とお話をしているのですが、まぁ基本的に相当の強気になっております。海外好調、国内も設備投資が非常に強く、不良債権問題も大幅に進捗、企業部門の回復が家計部門に波及しつつあると言うお話です。

で、今後に関しては他の皆様も同じように指摘していますが個人消費の動向がどうなるかというお話になっております。そのあたりだけ引用しておきましょう。

『高齢者層の消費意欲が強いことなどもあって、個人消費は所得対比で堅調を維持しています。個人消費の堅調が、所得面での改善が明確になった段階で、さらに明確化するかどうかに注目しております。』

『個人消費の堅調が続くことになれば、非製造業の業況もさらに好転していくことになるでしょう。非製造業の回復が、景気回復の地方への波及を考える上で重要です。公共投資の減少傾向がまだ続きそうな下にあっては、なおさらです。』


・岩田副総裁に物申すの巻

というのは一応の前振りでして、本題は最近の金融政策運営についてという小見出しの部分であります。最初は今後の物価動向の見通しについて興味深い(のだが、門前の小僧のあたくしは入門しないと良く判らん話をしているので紹介できません)話をしているのですが、それはそれとして今後の金融政策運営に関して大変に結構なお話をしております。

『強めの景気指標が公表される中で、量的緩和解除の第二条件を近々変更するのではないかとの見方が一部に出てきています。来年度についての委員の大勢見通しとして、コアCPIの変化率がプラスになった場合、マーケットの安定化を図るため、条件を厳格化するのではないかといった見方です。』

『個人的には、現在、そうした厳格化は必要ないし、適切でもないと思います。第一に、まだ足許のコアCPIの変化率はマイナスです。これを安定的にプラスにすることが現在第一の課題です。第二に、量的緩和解除を実際のコアCPIがα%を超え、将来の予想変化率がβ%を超えることを条件にする、あるいは、将来の予想変化率がγ%を超えないことも合わせて条件にする、といった一部で言われているような事前のコミットメントは難しいと思います。』

『そうすることで、将来の弾力的な政策対応の余地をなくすことに対し、市場参加者が不安感を抱くということが、かえってマーケットの変動を大きくしてしまうことも考えられます。』

長いので分割しましたが、日経新聞および一部のエコノミスト、ストラテジストや中原審議委員が当初言い出したお話に対して反駁です(^^)。そしてこのあとに岩田副総裁の主張に真っ向反論の巻(か?)。

『この関連で、消費者物価の上方バイアス、あるいは、金融政策のゼロ金利制約が問題となることがあります。消費者物価はさまざまな要因から上方バイアスを持っていることが知られています。バイアスのマグニチュードは、なんとか数値化できる部分に限って言えば、年1%弱であるとの研究が何年か前にありました。その後、指数計算上の基準年が2000年になり、新商品が多く取り込まれたり、ウエイトの見直しも行われました。また、パソコンなど一部の商品についてヘドニック法という品質調整方法が行われるようになったことから、バイアスのマグニチュードは、半分程度に縮小している可能性があります。固より、指数問題は高度に複雑で、バイアス問題に関して確かなことを言うことは難しいというのが率直な実感であり、これはあくまでも個人的に引き出した暫定的な結論です。』

そして、岩田副総裁がよく言う「CPIが再びマイナスにならない糊代」のお話に引き続き真っ向勝負の巻(か?)。

『望ましい物価変化率は、ゼロ金利制約に関連して、再びマイナスにならないだけの糊代をもったものであると言われることがあります。しかし、これも、内外経済情勢と独立に、事前に決めることは難しいでしょう。変化率は、高ければ高いほど、再びマイナスに陥る可能性は小さくなります。ただ、望ましいと考えられる変化率をあまり高くすると、その後の経済や政策の振れが大きくなりかねません。逆に、あまり低すぎても、役に立たないということになります。この問題は、その時点での物価を巡るさまざまな環境との関係で考えることになると思います。』

とは言いましても、望ましい物価変化率という問題に関しては柔軟な事も言っておりまして・・・・・

『望ましい物価変化率ということに関連して、それが若干のプラスであるその他の要因もあります。まず、バランスシート調整を進めるためには、物価変化率が若干のプラスである方が望ましいということです。さらに、賃金に下方硬直性がある場合、プラスの物価変化は、経済の構造調整をスムーズに進めることに寄与すると考えられます。実際には、賃金の下方硬直性はそう顕著なものではなかったとの見方もありますが、依然として、この点も考慮に値する点だと思います。』

「実際には、賃金の下方硬直性はそう顕著なものではなかったとの見方もありますが」という件がさすが証券会社というか証券会社系シンクタンクご出身だけのことはあり、賃金下方硬直どころか上方硬直状態のあたくし読んでいて思わずニヤリとしてしまいましたな、空しい話ですが(^^)。


・金融政策のあるべき姿については「総合判断」だという事で

結論に当る部分はこんな感じであります。

『結局、政策の透明性を高めるためには、景況感や物価見通しについてマーケットとの対話をより密にしていくことが必要です。量的緩和解除の第三条件に関連する点です。金融政策決定会合の議事要旨、総裁を始めとするボード・メンバーのコメント、「金融経済月報」、「展望レポート」と3ヶ月後の中間評価、などを通して、物価の変化方向とそのスピード、物価変動の要因に関する理解、景気の強さとその局面、景気に関する先行きリスクの在りよう、資産市場の状況などについての見方をマーケットと共有することが重要です。』

『コアCPIが仮にプラスになったとしても、変化率が短期的にも大きくなっていくのか、そうでないのか。物価上昇圧力があったとしても、それが需要サイドからきているものか、供給サイドからのものか。たとえば、同じ原油価格の上昇に直面しても、実体経済が景気後退局面に直面しつつある場合などは、その他の場合とは、政策対応が違ってくるかもしれません。また、国内景気を取り巻くリスクは常にありますが、顕在化すればかなり大きなデフレ・ショックとなることが分かっており、しかも、それがある程度の蓋然性をもって予想される場合などは、自ずと政策は慎重にならざるを得ないでしょう。資産価格の動向も政策的に直接反応するしないということとは別に、考慮する必要があるでしょう。』


要するにCPIの数字だけ見ていても仕方ないわけで、内外情勢を見て総合判断するのが大事であるという非常に当たり前のお話をしている訳であります。この辺の所が学者さまなんぞには非常に遺憾に思われる部分なのかもしれません。すぐにCPIなんぞに金融政策をペッグさせて行くような「理論的に美しいお話」に走りだすのはやはりいかがな物かと思う訳でもあります。


最後に結論を入れてくれる所が中々結構な挨拶です。やや重複になりますが結論部分の引用をしておきます。

『わが国の景気は回復を続けており、先行きについても、前向きの循環が明確化していくとみられます。しかしながら、現在のところ、コアCPI前年比はマイナスを続けており、先行きについても、当面、基調的には小幅のマイナスで推移すると予想されます。こうした中、私としては、現在の量的緩和を粘り強く続けていくことが重要であると考えています。また、強めの経済指標が公表される中で、量的緩和の解除条件を変更するとの見方が出ていますが、適切ではないと思います。望ましいインフレ率の公表についても、政策手段に限界があり、デフレからの脱却を模索している状況下では、政策の自由度を過度に奪い、経済の安定に悪影響を及ぼしかねないというデメリットが大きいように思います。』

では。

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「田谷審議委員の悩み」(2004/02/04)

話は変わりまして田谷審議委員の記者会見。先月末の講演の後に実施されたものなのです。まぁ焦点は「金融政策についてどうお考えですか」と言う事になる訳でして・・・・・・・(^^)

http://www.boj.or.jp/press/04/kk0401b.htm

『(問)本日配布された挨拶要旨をみると、日銀当預残高目標を引上げる際の判断に関し、いくつかの観点に言及しておられる。その上で、こうした観点に照らし「(省略。30日のドラめもんをご参照下さい)」と述べられている。これは、審議委員の持論であると考えていいのか。また、講演ではこれをそのまま説明されたのか。さらに、その説明に対する反応はどうであったか。』

『(答)ご指摘のように、私の持論である。本日は、概ねそのまま申し上げたが、懇談会の出席者の多くは金融界の方でなかったこともあって、特段ご意見はなかった。』

となればこういう質問がくる訳でして、

『(問)1月20日の金融政策決定会合で、日銀当預残高目標レンジの引上げが決定されたが、これに対してどのように考えているか。』

『(答)まだ議事要旨が発表される前の段階であり、賛否について明らかにすることは差し控えたい。ただ、事実として、私は昨年5月の日銀当預残高目標レンジの引上げおよび同10月の同残高目標レンジの上限引上げには反対した。その主たる理由は、本日お配りした要旨に3点を挙げて示した通り、はっきりした効果が見込めないと考えているためである。もう一つ大事な点として申し上げれば、期待に働きかけるといったことにも個人的には疑問を持っているということである。』

この田谷さんが指摘する「大事な点」に関する部分は、講演要旨の中でも触れていましたが、この記者会見で「現在の期待に働きかける政策には疑問」というのが「大事な点」だと、日銀総裁よりもよっぽどセントラルバンカーらしい発言をはっきりと打ち出しております(^^)。今日も金融政策決定会合ですけれども、これじゃあ孤立しそうですなぁ。

その後の質疑応答で『ご承知のように主要な政策ルートである短期金利がほぼゼロの状態になってしまっている状況の下では、やはり期待というものに働きかけることが、政策が実体経済に影響するルートとして大事なものになる。』とコメントしておりますので、完全否定ではありません。念のため。


で、金融政策の説明責任という新日銀法(福井さんが副総裁の時代に作られた法案だと記憶してますが)の下で重要な扱いになった筈の事柄が形骸化しつつあるのではないかという懸念も示しているように思えます。

『(問)(引用者注:金融政策に関する)市場の理解が得られていないということのデメリットは何か。』

『(答)今、具体的に申し上げることは難しいが、例えば、金融緩和継続に対する条件をさらに変えていくような場合、その解釈について、我々の意図するところと違う解釈が出てくる可能性がある。そうした誤った解釈がマーケットにネガティブ・インパクトを与える可能性もある。また、我々が、景気の現状判断とか物価見通しを公表しても、必ずしも額面通りに受けとってもらえなくなるような可能性もあろう。』

遠まわしな言い方ですが、政策に関する信認が失われたら中央銀行としておしまいではないかと言っているように思えるのですが。

この後の質疑が「田谷さん大変ですなぁ」と声をお掛けしたくなるやり取りで。

『(問)1月20日の決定については、市場関係者から正しい理解を得られなかったというように感じておられるのか。』

『(答)そういう側面もあるのではないか。個人的にはマネーサプライやマネタリーベースのコントロールのためにやったものではないと思っているが、そういう解釈をする人もいるし、為替相場対策だと理解している人もいる。量的緩和効果について誤った解釈もある。このように解釈の幅がかなり広いということは、我々の努力が今少し足りないのかなと思う。』

『(問)なぜ、誤った解釈が市場で起こるのか。』

『(答)我々の努力不足が原因と思う。』

『(問)努力不足ということではなく、審議委員は1月20日の当預残高引上げが適当ではなかったとの立場をとっておられるものと理解している。そうであれば、「1月20日の決定は間違いであった」と言えるのではないか。』

『(答)私の口から、1月20日の決定が間違いであったと申し上げることは出来ない。仮に皆さんがそう解釈するというのであれば、私は「ああ、そうですか」と言うだけである。』

いやはや(^^)。

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「田谷審議委員の講演」(2004/01/30)

論理的整合性に欠ける当座預金引き上げに反対票を投じつづけている田谷審議委員が今熱い!といった所でしょうか(^^)。まぁネタもないので皆様この講演をネタにしそうですね。

http://www.boj.or.jp/press/04/ko0401b.htm

○海外経済情勢

日銀の公式見解であります金融経済月報なんかでも示されておりますが、日銀は海外経済情勢に関しては基本的に強気の見方をしております。勿論田谷さんも同じですが今回の講演では少々詳しく説明しております。

現象として指摘しているのは「株価上昇」「長期金利は比較的安定」「素原料財価格の上昇」「海上運賃の上昇」というところです。で、これらの現象から近年の世界経済を動かす二つの要因を指摘しております。

『こうした世界経済のさまざまな特徴を見ますと、近年、世界経済を突き動かしてきている二つの要因に行き着きます。それは、中国を筆頭に多くの新興国が世界経済に本格的に参加するようになったことと、IT革命の浸透です。これらの要因から、世界各国は等しく産業構造の転換を迫られてきました。』

と言うことで、新興国の市場経済化のインパクトを輸出シェアと一人あたりGDPに注目したグラフなんかを出しておりましすがイマイチよくわからんので本文の方をお読み下され(と手抜き)。

各国経済に関しては米国経済について当然ながら詳しく説明しておりますが、その世界経済に与えるリスク要因として「ドル安」のほかに「長期金利の上昇」を指摘しております。

『米国の経常収支がどうなるか、また、それと関連して、ドル安傾向が続くかどうかは、世界経済にとって大きな問題です。他方、なんらかのきっかけで米国の長期金利が上昇することになった場合、それはそれで、そのインパクトは米国経済だけでなく、世界的にも非常に大きなものとなる惧れがあるように思います。ドル安ばかりでなく、この点にも注意が必要です。』


○国内経済情勢

こちらについても日銀の公式見解とほぼ同じような判断をしております。「輸出、生産の増加」「設備投資が増加」する中で、「雇用、所得情勢の改善には時間が掛かる」という判断です。また、『仮に、雇用・所得が増えるようになっても、消費が基調的に増える情勢にはなかなかなりにくい側面があります。』ということで、消費の回復に関しては懐疑的という判断を示しております。

物価に関しては、こんな感じです。

『需給ギャップが縮小する分、物価下落圧力は小さくなるはずです。実際の消費者物価指数(生鮮食品を除く)は、昨年秋口あたりから、前年比プラス、マイナス0.1%くらいになりました。昨年度の変化率がマイナス0.8%であったことからすると、下落率は大きく縮小したことになります。』

『しかし、これは、今年度中にあった様々な特殊要因によるところが大きいと考えられます。診療費負担の増加、たばこ税の引き上げ、天候不順によるコメ価格の上昇などです。さらに、BSE問題から牛肉価格の上昇、また、最近では、鳥インフルエンザによる鶏肉価格の上昇も、今後、物価押し上げ要因になると思われます。しかし、これらを一時的な要因としてその影響を除いたベースで考えれば、今年度の消費者物価変化率はマイナス0.5%前後といったところかと思われ
ます。』

『これが、来年度は、「展望レポート」時の見通しとあまり変わらず、マイナス0.3%程度になると現在のところ考えています。デフレ脱却の展望はまだ持てません。』


○本題(ではないのですが)の金融政策に関して

昨年の5月下旬にも田谷審議委員は講演をしておりまして、この時点で既に追加的金融緩和であります当座預金残高目標引き上げに関して懐疑的なコメントをしておりまして、まぁそのあたりから金融政策決定会合で「当座預金残高目標引き上げに反対票」というスタンスになっています。

昨年の5月以降に行った金融政策として

1.量的緩和をさらに進めた
2.中小企業関連資産を主たる裏付とする証券の買取を始めた
3.日銀の経済情勢判断説明の充実と量的緩和継続条件のコミットメント

となっております。で、この3点についてせつめいしているのですが、なぜか講演では3→2→1という順番で説明しております。どうも田谷さん的に納得の行く順位で説明しているように見えました(^^)。

3.については他の審議委員の皆様からのコメントと似ております。で、このコミットメント明確化の効果として『このコミットメントの明確化は、将来の短期金利の予想を通じて現在の長めの金利に働きかける「時間軸効果」を強めるものと考えられます。』としております。

2.についてですが、先週の決定会合で行った買入基準の『見直し』について『市場の発展に資するために、日本銀行自体の財務の健全性を維持する下で、我々として何ができるかを考えた上での変更です。買い取り実績を上げるといったことに重点を置いたものではありません。』というわけでして、あたくしが散々悪態をついております「買取実績上げのために無意味なオペが有害になるんじゃないですか」という批判にお答えしております。そんなにあちこちから「買取り実績を上げるために基準緩和かよ!」って言われていたんでしょうか。ちょっとビックリしております。

ちなみに、この中で買入基準を『買入基準を見直すことにしました』と言っているのが芸の細かい所でありまして、どこからどう考えても先般の買入基準変更は「緩和(あたくしとしては「骨抜き」だと思いますが)」としか読めないのですが、緩和というとまた要らん突っ込みを食らうので、あくまでも「技術的に見直した」というスタンスを崩さない訳です。

1.に関してはさすがに反対票を投じているだけに田谷さんとしての見解となっているのでしょうな。まずは量的緩和の効果について指摘しています。

『第一に、短期金利を超低位で安定させ』
『第二に、日銀に当座預金を保有する金融機関の資産選択に影響を及ぼして、いわゆるポートフォリオ・リバランスを起こす誘因を与え』
『第三に、流動性不足による金融システム不安の回避に貢献することです。』
『さらに、付け加えれば、当座預金残高目標を引き上げてくる過程で、長期国債の買い切りを増やしてきましたが、その長期金利に対する影響も考えられます。』

このうち第一については「ほぼ達成された状態」と指摘しています。

第二については評価しているかというと微妙な表現です。『「キャッシュつぶし」あるいは「資金つぶし」といったことがマーケットで言われてきましたように、多額の日銀当座預金を他の資産に振り替えようとする動きが一部に見られ、短国レートのさらなる低下圧力となったり、社債の対国債イールド・スプレッドなどを多少なりとも縮小させた可能性はあります。』あまり効果については評価してないと言うニュアンスなんでしょう。一応評価しないこともないって感じ。

第三については『預金保険法102条に基づいて足利銀行の一時国有化が決定された際、金融システムが非常に安定していた背景の一つとして、多額の日銀当座預金の存在を指摘する向きもあります。しかし、こうした効果に期待する金融機関の数も多くはないと思われますので、日銀当座預金残高を少しずつ増やすに従って、それだけ比例的に効果が高まる、といったものでもないでしょう。』と、量的緩和による効果自体は認めていますが、当座預金残高の引き上げによって金融システムがより安定するという理屈には否定的です。

で、反対している当座預金残高目標の引き上げについてはこんな意見となっております。意見としての筋がきちんと通っておりますな。

『日銀当座預金残高目標を引き上げるかどうかは、これらの観点に即して判断されるべきものでしょう。決定の時点で、効果があると判断すれば引き上げることになりますし、ほとんどないと判断されれば現状を維持することが適当ということになるかもしれません。』

『日銀当座預金残高目標の引上げが、これらの観点からの効果の有無と独立に、期待への働きかけを通じて「時間軸効果」を強めるかどうかについては議論が分かれますが、個人的には疑問に思っています。』

なるほど仰るとおりです。で、先ほど紹介したように、量的緩和の効果の3点のうち、1は達成されており、2はあまり効果なし、3は残高目標の引き上げに効果がないという認識でいる訳ですので、当座預金残高目標引き上げに反対という結論になる訳ですね。

ただ、このお方も景気判断上方修正の中で金融緩和策を取る事自体に反対している訳ではないところには注意しておきましょう。

『現下の金融政策の目的は、できるだけ早期のデフレ脱却です。現在のところ、デフレ脱却の見通しが持てない状況下で、デメリットよりもメリットが大きい有効な緩和策があれば、それを実施することに躊躇する理由はありません。仮に、景気が標準的な見通しから上振れたとしても、デフレ脱却の見通しを持てない限り、こうした姿勢に変わりはありません。』

いわゆる新日銀法の下で日銀の独立性が確保された形になりましたが、この時独立性確保のためにも重視されるようになったのが「金融政策に対する説明責任」でございます。田谷審議委員はこの説明責任についても言及しております。

『ただ、日本銀行が行う政策について、市場参加者等の正しい理解を得ることは、政策の信頼性を確保するために不可欠です。』

まったく仰るとおりです。


○マネーサプライについてのコメント

『最後に、最近話題となっているマネー・サプライについて簡単に触れておきたいと思います。』と言う事で、マネーサプライ論議にコメントしておりますが、結論から先に申し上げると田谷審議委員は所謂マネーサプライターゲット政策に関しては否定的です。

『このところ、マネー・サプライの伸び率低下が問題視されることがあります。確かに、最近、現金、M1,M2+CDの伸び率が低下してきています。これは、これまで様々な要因から少々高すぎた反動が出始めたものと考えられます。現金の伸び率の鈍化は、主として、保有コストの低下効果の減衰や金融システムの安定化に伴って起こっていることで、将来、伸び率がさらに低下していったとしても、自然な動きでしょう。M1やM2+CDの伸び率低下も、金融情勢の安定化に伴って、より高いリターンを求めた資金シフトによるところが大きいと思います。広義流動性は比較的高い伸びを維持しており、狭義のマネタリー・アグリゲイトの伸び率低下だけを取り出して、問題視することは必ずしも適当ではないと思います。』

と、これだけだと何なので(^^)最後にサービスフレーズが。

『最近では、金融機関の貸出態度も若干前向きになってきていますし、信用供与の多様化も進んできています。金融機関の信用供与をさらに促進させる方向での働きかけを考え、結果として、マネー・サプライの伸び率を高める努力は必要と考えております。』

で、ゼロ金利下におけるマネタリーベース(またはマネーサプライ)と経済成長や物価、為替などとの関係については理論的にもはっきりせず、90年代半ば以降の経験からもはっきりしていないと明確にコメントしております。この点については今後も説明が必要だとコメントして講演を終了しております。


講演後の記者会見については本日日銀Webにアップされると思います。または日経金融新聞の朝刊には載っていると思いますけど。こちらもご参考に。

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