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2006/11/30

お題「総裁講演、記者会見連発でしたが/その他雑談」

昨日の鉱工業生産指数ですが、あたくし昨日駄文書き終わった後で「あ、そう言えば『これから月末に掛けての経済指標で死ぬほど良い数字が出てきたら話は別』ってヘッジクローズ(というか逃げ口上^^)入れるの忘れてたよ〜」と思ってたんですよね。そしたら8時50分のヘッドラインを見て愕然とするの巻。うーむ、髪様状態。


○昨日の講演は特に地均し的部分も無く

昨日も福井総裁は講演。
http://www.boj.or.jp/type/press/koen/ko0611h.htm

お題は前半が「グローバル化」後半が「市場との対話」でございまして、まああまり変った話はしてないのですが。実体経済活動のグローバル化というお題では毎度の話ですが、世界的なディスインフレがいつまでも続くわけではないという点を指摘。

『先進国では、ディスインフレの傾向が1980年代後半から観察されますが、1990年代後半以降には、新興国を含め世界的な規模でのディスインフレの進行がみられます。一方、より最近では、新興国の台頭に伴って、原油など一次産品の価格が高騰する動きもみられており、実体経済活動のグローバル化が、今後とも物価の抑制要因として働き続けるかどうかは、明白ではないように思います。』

これ自体は特に新味はござませんが念の為引用しときました。で、市場との対話の話に関してもどっかで聞いた事のあるお話でして、特に新しい話ではございませんでした。

『この枠組み(引用者注:現在の金融政策の「枠組み」です)を作るうえでは、各国の中央銀行が採用している枠組みも参考にしました。(各国の枠組み説明部分の運用割愛)こうした各国の事例をみると、「市場とのコミュニケーションを緊密にしつつ、政策運営に必要な柔軟性を確保する」という考え方は共通になってきており、そのもとで、具体的にどのような枠組みを採用するかは各国ごとに工夫がなされていることが分かります。』

『日本銀行は、「新たな金融政策運営の枠組み」を導入した後、本年7月には、5年以上の長きに及んだゼロ金利を解除しましたが、その際にも、金融市場は安定的に推移しました。それは、市場と日本銀行の対話が円滑に行われたことの証左だと考えています。日本銀行としましては、この枠組みにさらに磨きをかけながら、物価安定のもとでの持続的な経済成長の実現に向けて、努力していきたいと考えています。』

だから7月の時は先行きの利上げまで最大限織り込ませてからやったんだから解除後に安定推移するのは当たり前だと小一時間。お願いだから次回やる時は「先行き連続利上げを最大限織り込ませてから利上げ」ってのは勘弁していただきたく存じます。

と、悪態はつきましたが、まあこの講演の内容は特に地均しとかの内容はございませんで、非常に落ち着いた講演だったと思われます。


○火曜日の会見も穏やかなものでした

火曜日の講演(月曜と同じ内容)の後に行われた記者会見。
http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken/kk0611e.pdf

「設備投資が積み上がっているリスクを意識すべきなのか」という質問がこちらでも出まして、しかもそれが一番最初に出てましたが、その部分に対する総裁の応答。

『従って、目先、設備投資の行き過ぎリスクを私どもが感じ始めているわけではありません。ただ、金融が著しく緩和された状況がいつまでも続くという感覚を企業が過度に持ち過ぎると、将来、行き過ぎた投資、ひいては資本ストックの調整を招く、そういう循環を呼び込むリスクは、先々のリスクとして一応念頭に置いておかねばならないと申し上げているわけです。』

月曜日の質疑応答と同じ趣旨の答え(当たり前ですが)になっていますな。まあ「第二の柱をクローズアップして利上げをするのはちょっと変じゃネーノ」という批判があちこちから出ている(とあたくしは思うのですがどうでしょう)訳でして、さすがに足元の経済情勢より先行きリスクにウェイトかけまくって政策変更というのは無理筋とご認識されたのであれば誠に結構。ただまあそれはあたくしの希望的観測のような気もするけど(爆)。


「12月の利上げは難しいんじゃないですか」という直球質問に対して。

『カレンダー上のスケジュールを意識し、その後で経済情勢判断に必要な材料を考えるという順序ではなく、いわば連続線上の変化の中で、経済・物価情勢の点検を行っています。すなわち、新しい指標が毎日のように大小取り混ぜて出てくるわけですが、それを常に日本銀行が示している標準的な経済・物価の見通し、シナリオに照らして、基調判断を一歩一歩固めていく、そしてその都度過去に出た経済指標・データについても、改めて振り返ってどういう読み方が本当はできるのかということを、基調判断の中に染み込ませながら判断を前進させていき、固まれば結論を出すということです。(以下割愛)』

と、経済指標を見ながら判断をするという立場を改めて強調。普段からこういう話しかしなけりゃ撹乱要因にならないのにと思うのですけれどもねえ(そうするとこっちは駄文のネタが無くなるが、笑)。


インタゲに関して

『(前半長いので割愛)インフレーション・ターゲティングといわれるものの仕組みの良い点、悪い点は今後ともキャリーオーバーし、私どもの金融政策の透明性向上を図っていく上で、引き続き重要な検討対象材料として活用していくということであります。インフレーション・ターゲティングに的を絞って、もうこれは採らないという狭い意味での検討の結論ということではないことを、ご理解頂きたいと思います。』

前半まで引用すると長くなるので割愛しましたが、今回の答えのトーンはインタゲに対する否定的なニュアンスの言い方を避けているように見えました。まあ福井総裁は言葉を随分選んでますなあという印象を受ける会見ではございます。逆に考えれば、利上げに向けて今更波風を立てる必要もないし、市場も1月利上げだったらかなり織り込んでる状況(ただし連続利上げに関してはまるで織り込んでませんが)なんで余裕ぶっこいているのかもしれませんが。


○間の悪い人(昨日の雑談の続き)

昨日ちょっと悪態をついた自民党金融政策小委員会。念の為申し上げますと、「インタゲ導入汁!」とかいうような提言(例えばそんな提言はしてませんが、日銀もFRBみたいに雇用の安定も政策目的に加えるべきだとかね)をするのまで悪態ついてる訳じゃないので。ただ日銀法改正をちらつかせて「提言」するのは常識的に考えて政治の恫喝と取られると思いますのでやっぱどうなのよとは思いますが。

で、その小委員会なんですが、28日17時56分配信のブルームバーグニュースの記事を見ますと、展望レポートについて議論したそうなのですけれども、翌日以降に重要な経済指標が目白押しというタイミングで議論したら早速翌日に激強の鉱工業生産指数が公表されると言う実に間の抜けた話になっておりまして、実に香ばしいというか間の悪い人たちですなあと落涙を禁じ得ません(^^)。

で、毎度お馴染み山本幸三先生におかれましては、追加利上げに関して『何をとぼけたことを言っているのか。追加利下げの話ではないかと言っている』(ブルームバーグニュースより)と述べられたそうでございますが、ご自身が副大臣を務めておられる経済産業省がそのポジティブサプライズ鉱工業生産指数を公表している所に、芸の細かさというものを感じる次第でございます。

てかね、憤る気持ちは判らんでもないですが、現在金融市場で議論されている問題に関して、あまり「ばかげた」とか「とぼけた」とか言うのは金融市場に向けてバカアホと説教してる(ご本人はそんな意図は無くて日銀に対して言ってると思いますが)ようで、ネタ芸人としての評価はともかくとして、市場からそっぽ向かれる効果しかないような気がするんですけど。ってあたくしもバカアホ言ってるからあまり人の事言えた義理じゃないですけど(笑)、僭越ながらやはりお立場というものをご考慮された方が宜しいのではないかと存じます。

ま、それ以前の問題として、「利下げだ」って言うような経済状況というご認識があるのでしたら、経済産業省として何らかの景気対策をお打ちになられる方が宜しいのではないかと存じますが・・・・・(^^)


ま、別に慌てて追加利上げする必要は無いんじゃネーノという見立てに関しては同意(「全くない」かと言うとそこはふがふがもごもごですが)しますが、後藤小委員長が『実体経済は投資が良くなり、企業収益が良くなっているが、雇用にきちんと波及していない。』(ブルームバーグニュースより)と発言された点に関して小委員会の皆様の認識が一致しているのでしたらば、自民党の中の人として、「好調な企業部門が家計部門に波及するような施策」を党内で是非ご提言していただきたく存じます。例えば景気回復に伴う税収の増加を法人減税に回すんじゃなくて個人の定率減税廃止を先送りするとか、提言できることはあるんじゃないんですかと存じますが、それは「上げ潮政策」に反旗を翻すことになるから提言できませんですかそうですか(^^)。

(追記@12月3日:結局のところ、この自民党金融政策小委員会とやらにあたくしがどうも気分的に反発するのは「日銀にあれこれやれと言う前にお前らがやることが出来る立場にあるのに、やりもしねえでケツを全部日銀に持ち込むんじゃねえ」という所なんでしょうな。どうせこの人たち法人税減税よりも定率減税廃止を延長すべき、なんて執行部に喧嘩売るような主張する根性ないからで文句言い易い日銀に「提言」とやらをしてるんでしょ。ってところですな。)よく吼えてる山本幸三先生なんぞは福井総裁辞任すべしと自分の支持者向けのメルマガで意見書いたのが新聞で話題になったら自分のサイトで「あれは支持者向けの個人的意見なのでホームページでは公表しない」などという素晴らしいヘタレっぷりを発揮して市場の失笑を買ってましたわな

#明日から師走ですか、早いもんですね





2006/11/29

お題「落ち着いた総裁記者会見/何でそんなに煽るのかなあ」

昨日は名古屋で各界代表者との懇談での挨拶がありましたが、前日の大阪での挨拶とまるっきり同じ要旨ですのでそっちは割愛。大阪での記者会見要旨が出たのでそのあたりから。

http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken/kk0611d.pdf

○利上げ時期に質問が集まるの巻

冒頭から年内利上げの可能性の質問があったのですが、総裁は利上げ以外の話をしてたので改めて質問(^^)。

『(問)年内の利上げの可能性についてお答え頂けなかったので、ここは講演の中であった通り、金利の調整はゆっくり進めていくということでしょうか。』

『(答)申し訳ありません。もしかしたら大事な点をお答えしなかったかもしれませんが、意図的に外したわけではありません。いかなる時期も、タイミングとして頭から排除して考えていないということですが、逆に、具体的なタイミングを既に念頭においているということもありません。』

『最近まで出てきた指標は、若干強弱が入り混じっており、それがマーケットの中のボラティリィティをいくらか高めているのではないかと思っています。従って、これから出てくる新しい情報やデータ等について、さらに丹念に分析を加えていく必要があると考えています。併せて、これまで出てきた指標についても、経済の基調判断との関係でどうかということを詰めながら考えていきたいと思います。自然に良いタイミングがつかめるように、分析に力を入れて経済・物価の動きを見極めていきたいと思っています。』

ま、ここを見ると(字面からの印象としては)記者会見での総裁のトーンは落ち着いた感じを受けると申しますか、時期をピンポイントで特定して利上げ期待を煽る、という表現が悪ければ利上げ時期を強く示唆するような、まあそんな物の言い方を避けているというのが読み取れると思うのですが、如何でしょうか?量的緩和解除直前や前回の利上げ直前における総裁発言とは雰囲気が違うように見えますが。

全部は紹介しきれないと思うのですが、この後も延々と利上げ時期に関する質問が続きまして、それらの質問に対しても概ねこんな感じの答えになっておりました。

ということで、「データを見ながら対処する」というのはまあホンネであって、総裁様のお考えを勝手に憶測致しますと、現時点で総裁としては次回の利上げ時期は決まってないってことなんじゃないかと思うんですけど。


○資産バブル云々の話

『(問) 設備投資についてお伺いします。総裁は先程の講演において、現状では設備投資には過熱感はみられないと、今までのご見解を繰り返されたと思いますが、先行きについては、このまま低金利が続くと行き過ぎが生じるリスクを意識する必要があると言われたと思います。これまでよりも先行きに対する懸念を若干強められたような印象を受けましたが、現状をどうご覧になっているのでしょうか。』

良い質問ですな。で、答が例によって長いので、勝手に大幅割愛して結論部分と思われる所を。

『現在、何かが予見されているということではありません。資産価格の動き等も含めて、企業が安易な行動に出る種となるものを金融政策から生み出すことがないようにという、やや一般的・抽象的なリスクとして考えています。今日講演で申し上げましたのも、その範囲内であり、より踏み込んで何かを申し上げたというつもりは全くありません。もしそう受け取られるとすれば、私の言い方のどこか表現が良くなかったとも思います。』

いやあのそれなら別に小見出しつけて話さなくてもと思うんですけれども・・・・まあ答を全部読みますと言いたいことも判らんでもないっすけどね。

『(問) そうしますと、講演の中で資産価格の動向を注意しているとおっしゃられた点は、一般論的なことということになるのでしょうか。』

『(答) 今日、講演の中で申し上げたのはそういうことです。(中間割愛)従って、何かリスク要因が具体的にみえているというようなことを、まだ私は申し上げているつもりはありません。先々のリスクとしてそういうことを念頭に置き、バブルの再来は絶対に許さない金融政策をしなければならない、という点だけは非常に明確だと思います。』

現時点での資産バブル発生を懸念をしている訳ではないが、日銀としてそういう話をしておかないと市場に余計な楽観ムードが蔓延し、資産バブルが発生するかもしれないから言っておくんですよ、と言いたいと見ました。まあその理屈は判らないでもないんですが、展望レポートによる「第二の柱」に絡めて話をされると「まず利上げありきで、足元の経済物価情勢を軽視して動くんじゃねえのか」という風に見られやすいと存じますが。過去の日銀の実績から考えますと。


#以下徐々に今日のお題に話の方向が逝くのである。


○まあそう煽るなと

質疑応答の中でこんな質問をする人がいました。

『(前半割愛) 展望レポートでは、既に4月の段階で息の長い景気回復が続くという見通しを出されていて、その見通しのもとで徐々に金利を調整していくという考え方が既に4月の段階に出ています。それが10 月の展望レポートでまた確認されているわけですが、その10 月のレポートを中間評価する来年1月を過ぎてもなお、この金利の調整がずるずるとできないような状況が仮に続いた場合には、日銀が示しているメイン・シナリオの信憑性、市場からの信頼性が問われるのではないかと思いますが、この点について、どのようにお考えでしょうか。』

答えは面倒なので(というか別にいつもの話なので)引用しませんが、正直申し上げまして、あたくしとしては「利上げをしなかったらシナリオ通りじゃない」っていう発想は誰かに言われるまで全く思い浮かばなかった発想ですし、まあ(母集団に偏りがあるんですが^^)あたくしの周囲でも(最近はこの理屈が人口に膾炙してますんで皆知ってはいますが)その発想は無かったわという感じです。だってシナリオはシナリオだけど、経済がそのシナリオどおりに動くかどうかなんてその時になって見ないと判らないじゃん。

という訳で、「市場からの信頼性」ってよく言われるんですが、シナリオだってそもそもが利上げペースについて明示してる訳じゃないですし、シナリオよりもいわゆるダム論の具現化が遅いんだったら無理に利上げしない方が「市場からの信頼」は高まると思う次第でして、まあお前らそんなに日銀を煽るなと。



○ゼロ金利解除の時とは市場の雰囲気違うと存じますが

で、ここから話は総裁記者会見から外れるのですが、昨日の日経金融やらモーサテ見てると未だに「12月利上げがどうのこうの」って相変わらずやっている訳ですな。ゲスト解説の人が(記憶ベースなので間違えていたらゴメンナサイですが)「12月(と1月?)に利上げのタイミングを逸したら暫く利上げのタイミングが掴めないですから」みたいな話をしてまして後になってタイミングが無くなるようなら利上げをそもそもする必要がないでしょうにとテレビに向って思わずツッコミを入れてしましましたが、まあ相変わらず煽る煽る。

で、市場ですけど、短期方面で言えば先週火曜に入札が行われて0.45%レベルだった3か月もの新発FBは0.42%まで金利低下してますし、昨日は月末発行のCPがバカスカ出たのですが、12月の決定会合越えのa-1+格1か月もので(ややばらつきはありますが)0.35〜0.37%あたりだったようで、こりゃ12月利上げをあんまりリスクとして意識していないレートですなあという感じになっております。年末越えでレートが上昇して、1月の決定会合越えでまたレート上昇という感じのようですんで、「まあ1月だったら」って感じで意識してるという感じですな。

中長期の方はご案内の通りでして、月末近いから需給要因もあるんでしょうけれども、下がっても直ぐに戻るような相場になってますし、「あ、利上げですかそうですか」ってなもんで、「利上げしたってその次は暫くできないでしょ」と見られているのが明々白々な相場が形成されている次第。

そーゆー意味では金利市場的には「ふ〜ん」状態になってまして、ゼロ金利解除の時のように「これからも連続的に政策金利上げていくでしょう」というような思惑で動いてる訳でもない次第でございますわな。何かそう言っちゃあ表現が不適切だと思うのですが、「市場の外で大騒ぎしてますなあ」っていう感じを受けますけど。


で、自民党の金融政策小委員会で「12月、1月」とか時期を明示して「そんな時期に利上げするんじゃねえ」とかいう議論をしてたらしく(記者会見などの記事を見た限りにおいては)、お前ら相変わらずセンスねえなと思ったのですが、気が付けば時間が無いので暴言だけしておきます。

いやあのですな、政権与党の人間が時期を特定して金融政策に関して注文をつけてどうするんだと。そんなことしたら「12月、1月に利上げをしなかったら日銀は政治圧力に屈したことになる」とか言い出す人が出てくるし、そういう話が大好きな人たち世の中(国内外を含めて)多い訳で、わざわざ変な思惑(しかも政治との関係という筋悪の思惑)を台頭させかねない「提言」とやらをするセンスを疑いますな。

金融政策を政治パフォーマンスに使わんで頂きたいものです。(そんな意図は無いと信じたいのですが、どうもタイミングが・・・・)





2006/11/28

お題「福井総裁は別の角度から資産バブルに言及」

昨日は午後遅い時間から福井総裁講演が2本。

http://www.boj.or.jp/type/press/koen/ko0611e.htm
http://www.boj.or.jp/type/press/koen/ko0611f.htm

URL名を見れば一目瞭然ですが、上の方が先に行われた講演でございます。市場的には「福井総裁はタカ話が出るのは仕様です」という状態になってきている今日この頃でありますが、金曜の福間審議委員に続いて資産バブルの話が出たのは随分タイミングが良いですなあ(棒読み)というところではございます。ま、福間審議委員さんにしても福井総裁にしても資産バブル懸念の話は折に触れてしているので、急に目新しい話をした訳ではございませんが、

ということで、バブル懸念の話をした2本目の講演、大阪大学金融・保険教育研究センター設立記念講演の要旨からその部分を。


○切り口を変えた資産バブル話

http://www.boj.or.jp/type/press/koen/ko0611f.htm

講演の最後の方にやや唐突感のある流れで『(繰り返してはならないバブル)』という小見出しのコーナーがございます。

『さて、90年代以降、グローバル化、情報化が進行し、金融ビジネス革新の好機とも言えた時期に、日本の金融界が不良債権に縛られて前に進めなかった事実を思い起こすと、バブルとその崩壊の歴史は二度と繰り返したくない、という気持ちが強くなります。バブルは所詮、弾けてみるまではわからない、という面は否定できませんが、結果的にあれほどのバブル膨張を許してしまった80年代の市場システムに、改善すべき点が多々あったことも事実です。』

ということで、『バランスシートの透明性が不十分であったこと』『資産価格を期待キャッシュフローの割引現在価値で考える、という経済計算の習慣(がなかったこと)』について指摘してまして、んじゃあ現在は改善しているかというと「改善してるけど必ずしもそうじゃない」とこんな指摘を。

『ディスクロージャーの透明性が向上したとは言え、金融イノベーションが進む過程では、相対的に開示規制を受けにくい新たな取引手法やプレーヤーが出てきます。また、いくら資産価格を経済価値から計算すると言っても、90年代末の世界的なハイテク株の高騰にもみられたように、計算の前提を甘く見積もり過ぎてしまう「判断の誤り」は、どの市場でも起こりえます。』

まあそれはその通りでございますな。で、この部分の直前にこんな話をしておりまして、何と申しますか、一般論っぽい話をしながら「今だって将来のバブルの種が蒔かれているかもしれません」って話をしているようにも読めますな。

『この点、近年は、資産価格を経済価値と結びつけて判断する国際標準の考え方が、日本でも定着しつつあり、ディスクロージャーの透明性向上と併せて、80年代と同じようなバブルの再来を防ぐ環境は、かなり整えられてきたのではないかと考えられます。しかし、歴史上のあまたの例を引くまでもなく、次のバブルは形を変えて忍び寄ってくる可能性があります。』

この話、「リスク管理の高度化」という話の流れからきた話なのですけれども、そこまでの話からちょっとテーマが飛んでる感じで読んでて「おや?」と思った次第。まあ今回のバブル云々話は一般論としての世界なんですけれども・・・・・


○いわゆるダム論の具現化度合いに注目

最初の講演から。

http://www.boj.or.jp/type/press/koen/ko0611e.htm

『最近の経済指標をみると、家計調査や機械受注など弱めの指標が続いた後、7〜9月期のGDP速報値が前期比年率+2.0%と市場予想比強めとなるなど、強弱双方の指標が混在しています。そうした中、市場の景況感も振れやすくなっているように窺われます。重要な点は、こうした指標が全体として、経済・物価の基調を形成するメカニズムの変化を示唆しているのかどうかを判断していくことです。』

ということで、まあいつも通りの話をしてますが、じゃあどの部分を注目しているのかというのが3点ありました。『世界経済、特に米国経済の動向』、『企業部門の好調が続くかどうかという点』という2点に加えまして・・・

『3つめは、企業部門から家計部門への好影響の波及がどう進むかという点が重要です。』

と、この点にだけ「重要」とついてますな。もしかしたら一々「重要」とつけるのはくどいのでここにだけ「重要」とつけたという単純に話法上の問題なのかもしれませんけれども、文章を一読した時に受ける印象としては「ああこの点が重要なんだなあ」と思わせますね。

で、先ほど3点と書きましたが、よく読むと4点ですか、この次に指摘しているのは・・・・・

『最後にこの点に関連して、賃金と物価の動きが大事な注目点です。』

実質的にはこの注目点と企業部門から家計部門への好影響の波及は根っこが同じ話ですので、実質的には3点を指摘しているという形。で、講演要旨にも言及がありますし、そもそも今回の講演を待つまでも無く、金融政策決定会合議事要旨やら他の政策委員の講演などでも指摘されておりますように、最初の2点に関しては「先行き見通しは今後も順調ですよん」って認識になってます(それが大丈夫なのかというツッコミは華麗にスルー)ので、この3点目が重要ってことなんでしょう。

『もっとも、過去の経験則とは異なり、景気拡大の長期化にもかかわらず、生産性の上昇が継続し、賃金の上昇が遅れる場合には、物価が上昇しにくい状態が続くことも考えられます。(中間割愛)今後も、景気が拡大を続ける中で雇用者数の増加が続いていけば、マクロ的な労働需給の引き締まりは避けられません。こうしたもとでは、所定内給与を含め、賃金に徐々に上昇圧力がかかってくると考えるのが自然です。ただ、これがどの時点で生じるかは明らかではなく、賃金の動向や物価の基調的な動きについては、引き続きよくみていきたいと思います。』


○金融政策に関してはあっさり味

『以上のような経済・物価情勢の判断を踏まえて、金融政策運営の考え方をご説明したいと思います』

から始まる金融政策運営の話が短いんだこれが。

『先行きの金融政策の運営方針については、展望レポートで示した「経済・物価情勢の見通し」に沿って、経済・物価が推移していくと見込まれるのであれば、極めて低い金利水準による緩和的な金融環境を当面維持しながら、経済・物価情勢の変化に応じて、徐々に金利水準の調整を行うことになると考えられます。これまで繰り返し申し述べてきているとおり、金利の調整はゆっくりと進めていくということです。このことは、決して景気拡大の芽を摘むものではなく、むしろ息の長い拡大を実現していくことにつながるものです。』

いつも通りの話です。

『具体的な時期については、毎回の金融政策決定会合で、経済・物価情勢を丹念に分析し、委員間で十分議論を尽くした上で決定していきます。その際には、個々の指標や様々な情報を、展望レポートで示した経済・物価のメカニズムに即してしっかりと点検し、経済・物価が見通しに沿って展開していくと見込まれるかどうかを、確認していきたいと考えています。』

ごく一般的な話ですな。というか普段から後半部分の話だけしてればいいと思うんですが、どうも地均しは有効だと皆様がご認識しておられるようですので、中々難しいんでしょうが。


ということで、2本の講演ですが、あまり刺激的なことを言わないように注意しているというのは把握致しました。以下余談。


○余談ですがリレバン(笑)

すっかりその話題も聞かなくなったリレーショナルバンキングでございますが(と言っても施策自体は継続してると思いますが)、2番目の講演で「新たなビジネスモデルの模索」って小見出しでお話をしてる中にこんなのが。

『第三に、一般企業向けの貸出形態も多様化しています。(シンジケートローンの部分割愛)これとは別に、中小企業向けには、財務データが徐々に蓄積されてきていることなどを背景に、クレジット・スコアリング・モデルという統計的な審査手法に基づく、小口の無担保ビジネスローンも提供されるようになっています。』

いやー確かにさようでございますし、御当局様でもこの「統計的な審査手法に基づくローン」を推進しましょうってやってましたんで成果が上っているのは結構なことでございますが、一方で金融庁様におかれましては「リレーショナルバンキング」なる中小企業融資への取組みも推進しておられました(ってか今でも継続中だと思うが)が、この「統計的な審査手法でのローン」と「リレバン」が矛盾した話であるというのが改めて良くわかる説明でございますな。

いやまあこの批判は日銀というよりは大風呂敷の右端と左端で思いっきり矛盾するような施策を取ってたりする金(以下自主規制^^)。





2006/11/27

お題「福間審議委員講演:あたくしは資産バブル懸念が気になりましたが」

本題の前に重要な訂正を。

金曜日にご紹介した武藤副総裁の時事通信インタビューですが、今後の利上げに関して『「果断に行動する」と武藤副総裁が言った訳ではございませんので念の為ご注意下さい。』と申し上げましたが、時事メイン当該記事をご覧の読者様より指摘がございまして、間違いであることに気が付きました。ご指摘頂きまして誠にありがとうございます。実は紹介した質疑の前にこんな事を話していましたので時事メイン記事より引用します。

『(前半割愛)具体的な政策(変更の)タイミング、あるいは金利水準をどうするかについては、「経済・物価情勢次第である」と、現時点ではタイミングを特定しているわけでは全くない。しかし、世の中には「日銀はどうも早めに利上げしたいんじゃないか」、逆に「利上げはできるだけ遅い方がいいんだ」などいろんな意見がある。』

『われわれは毎回の政策決定会合で経済・物価の動向をフォーワードルッキングに、しかも基調の動向を1つ1つ点検して早くもなく遅くもなく、そういうタイミングで政策変更していく。慎重に判断する必要はあると思うが、判断が固まれば果断に実行していくのが基本だと思う。』

ということで、「果断に実行」というのは武藤さんが先に言い出した言葉でございました。何せ本件はソースが一般的に読めないものだけに間違えるとそのままミスリードになるので慎重にチェックすべき問題でございました。伏してお詫び申し上げ、訂正する次第です。


あたくしには「武藤さんはサービスフレーズを言わない人だ」という先入観が強かったもんで、ついつい記事を読むときに見落としてしまった次第で、誠にお恥ずかしい話ですが、「先入観が物を見る目を曇らせる」という絵に描いたような悪事例。いやまあ主観を完全に排除するのは不可能なんですけれども、今後の反省材料とさせて頂きたいと存じます。読むときにバイアスが掛かると大事なものが読めなくなり、間違って見てしまいかねないという事で。


さて、まあ債券市場の材料にはならなかった福間審議委員の講演でございますが、あたくし読んでおりまして「資産バブル懸念のくだりが気になるなあ」という印象を受けました。

http://www.boj.or.jp/type/press/koen/ko0611d.htm


○景気の見立ては中立という感じでしょうか

もともと福間さんはハト派寄りなんで(12月3日追記:必ずしもそうではなく、市場機能回復論者というのが正しいので、景気の見立て以上に「市場機能回復」に固執しがちで、量的緩和解除前に当座預金残高を下げろと言うのが氏の従来の主張でした。あんまり久しぶりだから忘れてましたよこのセンセイの主張^^)景気に対する見方が比較的慎重になってもあまり相場的には材料になりませんが、各項目に関して強気でも弱気でもないという感じ。

・海外経済

『まず、海外経済については、米国では、景気拡大のテンポが一頃に比べて鈍化していますが、軟着陸に向けた動きが続いています。』

『図表1−1をご覧頂きますと、その他の地域では、欧州で景気回復の動きがより確かなものとなっているほか、BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)等の新興国も高い伸びを示すなど、概ね順調に拡大が続いています。』

ということで海外経済に関しては強気のようですが・・・・

・国内経済、企業部門

『日本経済は、図表3でご確認頂けますように、基調としては、内需と外需がともに増加するもとで、展望レポートの標準シナリオにほぼ沿って、緩やかに息の長い拡大を続けています。もっとも、内需では一部にやや芳しくない指標もみられており、景気情勢は引続き丁寧にみていく必要があると考えています。』

ということで、日本経済に関しては「丁寧に見ていく必要がある」という話からスタートしています。冒頭を見ると慎重派ではあるのですが、中身を見てると必ずしも弱気な訳でもないという感じです。トータルしてチャラって感じなのかなあ。

『まず企業収益については、図表4にありますとおり、本年度は、製造業・非製造業とも5期連続の増益となる見込みです。もっとも、下期については減益見通しとの一部の集計もみられています。これは、基本的には、企業が期初予想を上回る上期決算を受けても通期決算を上方修正しないなど、保守的な姿勢を堅持している結果とみられますが、今後の企業業績の動向については、丁寧に点検していく必要があると思われます。』

で企業業績の話と設備投資の話をしておりますが、こちらの内容は「企業業績の好調は輸出とグローバル展開の好調が背景」「設備投資は堅調」という内容でして、割と中身を見ると堅調認識です。要点が分散してて引用するとやたらと長くなるので引用割愛します。


・国内経済、個人部門

『こうした企業部門の好調は、徐々に家計部門に波及していますが、今のところ期待したほどではありません。』

ということで雇用者所得の伸びがパッとしないという話と、株式市場における資産効果の剥落から逆資産効果へという点を新興市場の下落を引き合いに出して指摘してます。結論は以下の通り。

『こうしたもとで、個人消費関連指標は、夏場の天候要因もあって、図表10にありますように今一つ芳しくありません。もっとも、最近の労働需給の逼迫を受け、所定内賃金についても、まず非正規雇用で引上げる動きが広がりつつあるほか、正規雇用のベースアップに踏み切る動きも一部にはみられ始めています。また、このところの灯油・ガソリン価格の下落は、個人消費の下支え要因になるとみられます。今後の個人消費動向については、これらの要因を総合的に勘案しながら、丁寧にみていきたいと考えています。』


ということで、基本的には展望レポートに示された標準シナリオと同じ見立てになっております。この先に物価と金融面の話もありますが、標準シナリオのお話になってまして、別に「弱気」なのではなくて「慎重」であるという所かと存じます。


○金融政策運営に関しては資産バブルへの言及が気になるんですが

後半の金融政策運営に掛かる部分ですが、先行きリスクの部分、即ち展望レポートにおけつ「第2の柱」相当の部分と思われますが、こちらについて資産バブルに関する言及をしているのがあたくしとしては気になる話。

福井総裁の講演などでは、先行きリスクに関しては資産バブルよりも低金利が長く続きすぎることによるマインドの楽観が起こす設備投資の過熱って論法になっていたと思うのですが、福間さんは資産バブルに直球を投げてる感じです。

『持続的成長を実現していくうえで留意しなければならないのは、現在の成長率は2%程度とはいえ、景気拡大がさらに長く続けば、物価に加えていずれ資産価格への影響も出てくる可能性があるという点です。近年において持続的成長を実現してきた英国やオーストラリア、さらには米国においても資産価格の急激な変動がみられましたが、これらの国では、過去の苦い教訓も踏まえ、今のところうまく対応しています。FRBのコーン副議長は、87年のブラックマンデー、98年のLTCM危機などにおける資産価格の急激な変動を踏まえた教訓の一つとして、「わずかな予防は、膨大な事後対応にも値する(an ounce of prevention is worth many pounds of cure)」ことを指摘しています。』

『わが国では、70年代初のニクソン・ショック後や、80年代後半のプラザ合意後には、資産価格の変動のために多大な清算コスト(3つの過剰の解消、バランスシート調整を10年以上に亘って行わざるを得なかった)を要したという、苦い歴史があります。足もとの不動産市場をみると、一部にはやや投機的かと思われる取引も散発的にみられますが、今のところ全体としてみれば収益性に見合った価格で取引が行われているとみてよいかと思われます。また、一部の金融機関では、先行してノンリコース・プロパティ・ローンの利益確定売りに動いているなど、不動産市場は必ずしも強気一辺倒という訳でもありません。このように、資産価格については、今直ちに警戒される状況ではありませんが、今後ともよく見ていく必要があろうかと思います。』

で、この後にも「展望レポート第2の柱」ということで資産バブル(講演では資産インフレと表現しています)に関する言及をしています。まあバブル懸念だけではなく、反対側の言及もしてバランスはとっているのですけれども。

『第2の柱では、より長期的な視点を踏まえつつ、確率は高くなくとも発生した場合に生じるコストも意識しながら重視すべき様々なリスクを点検しています。こうしたリスクとしては上振れ・下振れの双方が考えられます。例えば、資産インフレについては、今直ちに警戒される状況ではありませんが、一たび発生した場合には、中長期的にみて経済活動の振幅が大きくなるといったリスクは意識する必要があります。一方、今後の展開次第では、景気拡大や物価の上昇が足踏みするリスクも意識しておく必要があります。』

ということで、福間さんが引用したFRBコーン副議長の言葉と、これらの指摘をあわせると、福間審議委員は資産インフレに関してはかなり気にしてるんじゃないかなあと思わせてくれる内容でした。






2006/11/24

お題「オペ金利/武藤副総裁インタビュー/尾身財務大臣」

祝日は呆然としてたのであたくしの電源中々入りませんにゃ。

○オペ金利は相変わらず・・・・

水曜日にはターム物の資金供給オペが3発ございまして、その落札金利に一部のマニアの間では「ちと低いんじゃネーノ」と話題になっておりました。11月27日スタートのオペ3本が、12月14日エンドの国債買現先が平均0.311%の最低0.31%で、1月11日エンドの共通担保本店オペが平均0.354%の最低0.35%、2月9日エンドの共通担保本店オペが平均0.405%の最低0.40%となっておりました(って文章で書くと読みにくいですな)。

まず最初の国債買現先オペ金利を見ますと、これは火曜日に行われた12月26日エンドの国債買現先の落札利回り(平均0.314%の最低0.31%)と変らんという結果。12月の金融政策決定会合を越えてても越えてなくても金利が変らないぜという状況ですかそうですかという所でございます。

で、1月11日エンドの共通担保オペなんですが、これを国債買現先オペの期間で分解しますと、この0.354%というのが12月14日まで0.311%、それ以降0.380%って話になります。まあ12月14日で切るのもあまり意味が無いので、12月19日(この前は18日で切って計算してましたが、よく考えたら19日で切る方が適切でした、どうもスイマセン)まで0.311%で計算した場合どうなるかと申しますと、12月19日以降の金利が0.395%となりますわな。

年末年始越えが今年の場合6日間ございまして、ここでの金利上昇も考えますと、(例えば上記の分解を年末年始0.40%というのも入れると残りの期間が0.393%)この金利はどう見ても「12月利上げノーケアーモード」になってきた感じですな。

ついでに申し上げますと、年末越えの金利もそう簡単に落ち着くのかという話はまた微妙な問題でして、最終的にロンバートがあるから何とかなるだろうって妙な安心感があるよう(まあ確かに安心なんですが)で、資金を取る人が全然あたふたする雰囲気が1ミリも漂ってこないのが気になりますな。なお、あたくしのお友達であります所の年寄りじゃなかったベテラン参加者の人たちは「こんなに安心してて大丈夫ですかねえ」と思いつつ、直前になって市場がアタフタしたら小遣い稼ぎのチャンスなどと馬鹿話をするのでありました。

ちなみに、2月9日エンドの共通担保オペですが、これを1月11日までで分解すると、1月11日まで0.354%(はオペ結果)に対して1月11日〜2月9日の金利が0.484%ですんで、まあ一応1月利上げに関してはケアー入っているような感じですか。


という訳で、オペ金利に関しては今週になってあっさりと12月利上げをほぼノーケアーになっている価格形成(ちとあたくし的にはそれは楽観しすぎのような気がするが)になっているかと存じます。


○武藤副総裁のインタビュー

時事メイン21日火曜日14時12分配信の武藤副総裁インタビュー記事からなんですが、このインタビューが一問一答形式でかなーり長いのでほんのちょっとだけ。

『(問)「市場との対話」をどう進めていくのか。』

『(答)金融政策は金融市場や金融機関の行動を通じて効果を発揮するため、透明性が高いほど政策効果も上がる。この点は、かつての金融政策の思想と様変わりした。日銀は今年3月に「新たな金融政策運営の枠組み」をつくった。7月のゼロ金利解除では、最初の利上げが市場にどう影響を及ぼすのか非常に心配する向きがあったが、結果的に市場参加者に日銀の意図が織り込まれ、金融市場は安定的に推移した。これは新しい枠組みが有効に機能している証拠であり、引き続きこれを生かして丁寧な情報発信を進めていきたい。』

まあ先日の展望レポートや決定会合議事要旨、総裁記者会見でもこういう話になっておりますので、政策委員会の総意なんでしょうが、ここを読んでいるとどうも「地均し絶賛大礼賛」にしか読めないのはあたくしの僻目ですかそうですか。で、まあその次に直球の質問が出るわけでして。

『(問)追加利上げ前にも、日銀の考えを市場に織り込ませるということか。』

『(答)一般論として言えば、サプライズを与えるような形は望ましくない。出来る限りサプライズのない情報発信や、透明性の確保に努めていく必要がある。』

だそうです。そうなると、どっかでまた「次回やりますよ」地均しが発生するのではないかと思うのが人情(?)というものでございます。いみじくもこの質疑応答の直前にはこんなのがございました。

『(問)市場には「はじめにスケジュールありき」という推測もあるが。』

『(答)そういうことも、ある時期においては起こるのかも知れないが、少なくとも現時点でタイミングを決めて対応する、というようなことは全くない。』

ちなみに、市場が反応した「条件が揃えば果断に対応」というのはこういう質疑応答の流れで出ております。ちょうど上記質疑の前になります。

『(問)12月を含め、特定のタイミングを排除していないのか。』

『(答)そうだ。この段階で「12月にある」「ない」になりがちだが、われわれはそれを含めて特定しているわけではない。』

『(問)現時点で何月と決めていないのか。』

『(答)決まっていない。白紙だ。諸データの点検が必要だ。特に、足元でいろいろなデータが出てくるから、それを見ていかないと。あらかじめ何か決まった思い込みがあるのはおかしい話であり、そういう意味でわれわれは常にデータをよく見て、それで判断していく。そういう姿勢が非常に重要だと思うし、そうでないと説得力はない。』

『(問)データがそろえば果断に行動するのか。』
 
『(答)そういうことだ。』

という訳で、「果断に行動する」と武藤副総裁が言った訳ではございませんので念の為ご注意下さい。

(以下11月24日の夜に追記)
・・・・と書いたのですが、指摘を受けまして大間違いに気が付きました)

武藤副総裁はこの質疑の前にこんな話をしています。しかも直前でございますスイマセンスイマセン。

『(前半割愛)具体的な政策(変更の)タイミング、あるいは金利水準をどうするかについては、「経済・物価情勢次第である」と、現時点ではタイミングを特定しているわけでは全くない。しかし、世の中には「日銀はどうも早めに利上げしたいんじゃないか」、逆に「利上げはできるだけ遅い方がいいんだ」などいろんな意見がある。』
『われわれは毎回の政策決定会合で経済・物価の動向をフォーワードルッキングに、しかも基調の動向を1つ1つ点検して早くもなく遅くもなく、そういうタイミングで政策変更していく。慎重に判断する必要はあると思うが、判断が固まれば果断に実行していくのが基本だと思う。

ということで、記事をお読みになっている方には先刻ご承知だと存じますが、ソースが一般的に読めないものだけに間違えると思いっきり問題でございました。伏してお詫び申し上げます。

また、メールにてご指摘いただきましたことを深く感謝致します。改めてありがとうございました。
(追記ここまで)


○景気付けもほどほどに(尾身財務大臣会見)

水曜にURLだけ置いた20日の尾身財務大臣会見ですが・・・・
http://www.mof.go.jp/kaiken/kaiken_my20061119.htm

まあ色々と「うーむ」という部分があるのですが、今回のG20コミュニケに「成長が減速した際の税収減にも耐えられる財政を目指す」というお話がありましたが、その点についてどう思われますかって質問に対する尾身大臣のコメントはこりゃ如何なものかと。

『成長が減速したらどうかというようなことは、私共はあんまり考えていないことで、少なくとも見通しうる将来は日本経済は順調な成長を続けていくだろう、来年の数字がどうなるか、予想数字はまだこれから色々相談するわけですけれども、そういう中で成長なくして財政再建なし、あるいは経済の活性化と財政再建を両立させていくという考え方は少なくとも来年の予算編成の時にはこれを守っていきたい、その方向でいきたいと思っております。』

恐らく、過去の「桜の咲く頃に景気回復」発言と同じように(その時の真意について参議院財政金融委員会で質疑応答というよりは武勇伝をしていたくだりを先日ご紹介しましたが)、「成長が減速することはないですから皆さんご安心下さい」って言いたいのでしょうが、先日の国会での武勇伝じゃなかった答弁によりますと「桜の咲く頃」発言をしている時に実は良くないと思ってたそうですので、はてさてどうお考えなのやら。

で、さすがに後のほうで同じようにツッコミが入ったんですよ。

『(問)大臣、冒頭で成長が減速したらどうかということはあまり考えていないというお話でしたけども、このコミュニケのグローバル・アウトルックの中でも、その全世界的な課題として成長が減速した場合の税収減に耐えられる財政というものが求められているという、世界的な課題として入っているんですけど、それを踏まえても認識というのは変わっていないということでしょうか。』

まあ当然こういう質問してくれないと困るんですが、この答が何とも。

『世界全体の成長が減速するかどうかについて、私は学識がありません。日本の経済の成長については、減速ということを懸念するような状況にはないというふうに思ってます。従って、そういうことを前提とした時にどうするかというような感じではなしに、そこそこの成長、順調な回復という言葉で表されるような成長を来年もするであろうという考えの下に、経済財政政策を進めていくことになるだろうと。』

台湾沖航空戦の幻戦果を前提に現地が反対したレイテ沖決戦・・・などということは申しますまい。

『しかし、19年度予算は無駄を省いていく基本的な姿勢をきちっととって改革を進めていきたいというのが私の考えで、世界全体の成長がどうなるとかいうことについては、私は議論もあまりしておりませんし、コミュニケにその点どういうふうに書いてあるかよく見てませんけども、私自身の関心は、そういう世界経済の全体の流れの中で日本経済は来年も順調な回復過程を辿るであろうというふうに考えております。』

・・・・・・・・・(-_-メ)






2006/11/22

お題「決定会合議事要旨/武藤副総裁インタビューメモ」

ネタが妙に多いので、今日は決定会合議事要旨で概ね終了の見込みでおじゃります。

○10月の決定会合は景気楽観も・・・・

http://www.boj.or.jp/type/release/teiki/giji/g061013.pdf

10月に行われた決定会合議事要旨に関しては相場に特に影響を与えませんでした。まあその内容は当日の総裁記者会見内容やらそれ以降の総裁講演などに反映されていますんで、今になって反応するような新しいネタが出てるとそれはそれでちとビックリではありますけどね。

景気に関する見立てに関しては本文5ページ目(ファイルだと6ページ目)以降の「V.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要」にございますが、全部見てるとオワランチ会長になりますのであたくし「ほほー」と思った所だけ。

・景気に関する見立て

総論的な部分として「国内民間需要について」という所では引き続き基本的なシナリオには変化なしということでして、ここの記述は前回と同じ。

『国内民間需要について、委員は、企業部門の好調が維持され、それが家計部門に波及しているとの認識を共有した。』

これを項目別に展開した個人消費の部分ではこういう見立て。

『個人消費について、委員は、増加基調にあり、先行きについても、雇用者所得の緩やかな増加等を背景に、着実な増加を続ける可能性が高いとの見方で一致した。何人かの委員は、8月以降の指標に改善の動きを示すものが多かったことからみて、7月の指標における弱めの動きについては、天候不順など一時的な要因の影響による部分が大きかったと考えられると述べた。』

ほうほうさようでございますか。なお続く。

『複数の委員は、消費者コンフィデンスの足踏みや消費における高額品と安値品の二極化進行などを挙げながら、企業部門の好調さが家計部門へ波及するスピードは比較的ゆっくりとしたものであり、個人消費は着実に増加しているが、力強く増加しているとまでは言えないとコメントした。』

「複数の委員」がこのように指摘していますが、前半では「9月の決定会合時点で見られたリスクはやはり一時的でしたね」という風になって相殺されている感じですかね。9月の議事要旨ではこんな記述になっています。

(9月8日の議事要旨から)
『個人消費について、委員は、増加基調にあり、先行きについても、雇用者所得の緩やかな増加等を背景に、増加を続ける可能性が高いとの見方で一致した。何人かの委員は、旅行や外食などのサービス関連消費が増加を続けている一方で、小売関連指標やマインド指標には弱めの動きもみられる点に言及した。これらの委員は、こうした弱めの動きは、天候不順など一時的な要因の影響による部分が大きいとみられることを指摘したうえで、そうした要因が剥落する今後の個人消費の動向を注視する必要があるとコメントした。』

『また、多くの委員は、企業部門の好調さが家計部門へ波及するスピードについて、これまでのところは比較的ゆっくりとしたものになっていると述べた。』

先ほど引用した10月の要旨と比較すると、9月で指摘された現象(=7月の数字が弱い)は問題なかったけど、新たな指摘(=消費者コンフィデンスの足踏み等)が出ていますってことかと思います。

一々引用しませんが、景気の見立てに関する各項目に関して「かくかくしかじかの状況もありそうですが、なあにリスクは小さいぜ」というような「個別委員の指摘」部分がちょこちょことありまして、全体として基本的には相変わらず絶賛強気を維持しているように読めるのですが、ヘッジクローズも見えますなあというのがあたくしの印象でございます。


・ロンバート金利の議論があったんですかな

本文9ページ目の「W.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要」ですけれども、その中にロンバートの話が。

『る委員は、補完貸付の利用が期末日に増加したことについて、補完貸付の適用金利(基準貸付利率)がやや低すぎるのではないかとの問題提起を行った。』

『別の委員は、ゼロ金利を解除して初めての期末日となった9月末においても短期金融市場が安定的に推移したことには、機動的なオペの実施に加え、補完貸付制度の存在が大きいと述べた。』

ということで、ロンバートの話が出ていたようですが、まあオペレーションがかなり上手く機能しているので、ロンバートはあくまでも期末日などのような限界的な資金需要が発生する時に補完として機能するって形になりましたので、まあ後者の意見に賛成って所ですけど、大昔は「末初レートが幾らになる」ってんでショートタームの金利が上ったり下がったりしてそれはそれで市場機能といえば市場機能(単に雰囲気だけで動いてたような気もしますが、爆)ではありますので、そのあたりは匙加減の問題でしょうな。

で、この「補完貸付と誘導目標金利とのスプレッドは幾らが適正か」って話ですが、まあこれって具体的に「○%がイイ!」っていう数字よりも、その時の短期誘導金利目標の位置によって変ってくるもんだと思います。誘導金利が0%の時と3%の時では同じ幅のスプレッドでも大違い。

・・・で、次回利上げになった時は0.25%のスプレッドになるんじゃないですか?


・雑談ですが思わずこの前のインタビューを思い出してしまったんで

金融面の現状見立ての部分でこんな話がございました。

『別の一人の委員は、実質実効為替レートは、プラザ合意前後の水準まで円安化していると指摘した。』

えーっと、そういえばどこかの政策通な副大臣様がどこぞのインタビューで同じ話をした後に『いよいよ米国は来年から利下げのトレンドに入るかもしれない。そういう時に利上げをしたら、またプラザ合意の際の超円高の二の舞を繰り返しかねない。』なんて話をしてましたが、ここからの「超円高」ってどんな超円高になるのか小一時間問い詰めたくなって苦笑致しました。

#ってか超円高って1ドル100円割れの時代を指すと思うんですが



○武藤副総裁時事通信インタビュー(メモ、たぶん金曜に続く)

議事要旨の話を書いているうちに時間が無くなった(寒くて朝起きるのが・・・)のでとりあえずメモ。

昨日の市場では武藤副総裁インタビューのうち、フラッシュで「データがそろえば果断に行動する」とかいう(すいません、時事メインが無いので良くわからんのですけど、汗)所に債券先物もユーロ円金利先物も反応していましたが、その後長期ゾーンは復活し、中短期ゾーンはヘロヘロのままとなりました。

まあこのインプリケーションをどう見るのか難しいところではございますが、あたくしの勝手な見立てを申し上げますと、短期ゾーンに関しては一昨日昨日の時点で株価やらメルボルンでの福井総裁発言(=「12月利上げの蓋然性が高まった訳ではない」)を見て「12月利上げ懸念がかなり後退してた」というのがあったかと思います。

一昨日の引けで2年が4.5毛強だの5年5毛強だのやらかしておりましたし、昨日の国債買現先オペ(=短期資金供給)では、12月26日のエンドで平均0.314%の足切り0.31%となってまして、先週金曜日に実施された共通担保資金供給本店オペの平均0.312%、足切り0.31%とまるで変らんレートでして、12月の決定会合越えになって足が6日間延びているのに金利が殆ど同じというのは「まあ全然あがりませんでしたなあ」ということでごく一部のマニア市場関係者で話題になってました次第(ちなみに、どこぞの情報ベンダーでは「オペ金利が強含み」と比較の対象が不適当なお題の記事を配信していましたが)でして、ちょっと楽観しすぎてたって事でしょう。

実際の内容はちょっと読んだのですが、基本的に今までの話の踏襲であって、「市場との対話」に関しては「武藤副総裁も地均し路線ですか」とちょっと脱力する部分もございましたが(金曜にでも)、まあそういうことですんで、債券の方は「そうは言ってもこの状況で連続利上げでもないでしょ」と冷静になって戻ったために、カーブがツイストみたいな感じになったのではないかと思料。


○尾身大臣の会見(備忘録、金曜に続く・・・かもしれない)

えーっとですな、もう時間が無いのでURLだけ置いときますが、何と申しますか誠にアレな会見でございますのでお読みになられると吉かと存じます。しかしG20でしらっと福井総裁は「金融政策の正常化」をアピールしてるんですな。

http://www.mof.go.jp/kaiken/kaiken_my20061119.htm
尾身財務大臣、福井日本銀行総裁共同記者会見の概要(平成18年11月19日(日))

ま、渡辺財務官お疲れ様でございましたと申し上げておきましょう。






2006/11/21

お題「市場懇要旨を読みながらへーへーへー」

分割投資(要するにナンピン)が大切とかモーサテのゲストが言ってるところを見るとまだ底底詐欺状態ですか。ってか、ナンピンとか言ってる場合かと思うんですけどね。昨日だって年初来安値更新してる銘柄がうじゃうじゃ(全市場で500銘柄くらいだったと思いますが)ある訳で、体感的(別に株のトレードしてるわけはないですが)には市場の下げは日経225の下げよりも激しい印象なんですが。この解説者指数しか見てないんじゃネーノ?

・・・と思ったら次のゲストは「資産運用をするのにインフレかデフレかは関係ない」と物凄い話をしてますな。何かカリスマ先生どう見ても焼きが回ってますなあ。合掌。

などという悪態は兎も角、本日は金曜に行われた国債市場特別参加者会合(お題は長くなるので市場懇にしちゃいましたが^^)議事要旨を。今回のお題は国債発行計画絡みでして、まあポジショントークの巣窟のような状態になっておりますが読んでて「ふ〜ん」と思ったあたりを。

http://www.mof.go.jp/singikai/kokusai/gijiyosi/c181117.htm


○物価連動はインパクトでかいですかそうですか

『物価連動債の今の市場環境はやや厳しいが、主に海外投資家を中心としたBEIトレード、要するに10年債を売って物価連動債を買うというような取引の影響から、潜在的に10年ゾーンの金利リスクがマーケットでは溢れている感じがある。そういう観点から、何か減らすのであればまず10年債を例えば1回当たり0.1兆円減らしても良い。』

そんなに物価連動って影響大きいのかと思った次第ですが、15年変動利付国債は10年新発国債の利回りに利払いが連動する商品なのにそっちの影響はネタにならないというのが「へー」と思った次第。

まあ勝手に考えると、変動15年国債は買った人がホールドする割合が多く(まあ商品の正確上そうなって然るべきですが)、物価連動国債は海外投資家のトレーディングベースの売買が多いので発行額がまともに影響を与えるって事なんですかねえ。


○超長期ゾーン増発に関して

『長期・超長期ゾーンは、大きな流れとして投資家からの需要が潜在的にあると思うが、来年度に関しては、例えば制度的に生保の時価会計の導入が具体化しているわけではないし、いまだインデックス運用をしている年金基金が多いといったことを考えると、少なくとも来年度いきなり需要が旺盛になるとは考え難く、実際にそのような話も聞いてはいない。これまで増やしてきた流れの中で現状のままで良い。』

『実質的な需要を考えると超長期の増額は今の段階ではそれほど簡単ではない。』

『40年債や50年債を勉強した方が 良いとの議論が、先日の「国の債務管理の在り方に関する懇談会」等でも示されている。確かに生保、年金が、ライアビリティにあわせて買うというニーズは潜在的にはあると思っているが、本当に強いニーズがあるのかということはもう少し議論した方が良い。非常に安ければ買いたいという声は投資家からあるとは思うが、30年債から5bp〜10bp程度乗せたフェアなところで買いたい、もしくは水準に関係なくライアビリティにマッチングさせなければいけないといった投資家の数や、そういう投資家が本当に安く放置されている30年債のグリッドポイントのマッチングを既に終えているのかどうかといったことを、もう少し話した方が良いのではないか。』

超長期ゾーンに関しては毎度毎度話題になりますが、あたくしは今引用したようなまあ「水ぶっかけ系」の意見の方がしっくりと来るのであります。国債投資家懇談会で散々「ニーズがある」と言われて増発したら相場が上ると全然上らんという有様になっている超長期ということでして、正直「ニーズがある」って言ってるのは単に「安く買いたいから増発しろ」と言ってるんじゃないのって投資家懇談会の議事要旨を見てると思うあたくしなのでありました。

そんな中で次の意見にはちょっとビックリというかへーへーへーというか。

『超長期ゾーンは、マッチング運用の流れから生保・年金等の需要が強いことに加えて、最近、銀行勢も安定運用のニーズから、金融政策変更の影響を受けにくいこのゾーンの売買量を増やしていることもあり、増発の余地がある。』

マッチング運用で生保年金の需要が強いと言うのは自然というか健全なお話だと思うのですが、銀行の負債デュレーション勘案したら超長期ゾーンって基本的に要らんでしょう。「金融政策変更の影響を受けにくい」ってのはぶっちゃけ「動きが安定してるから時価評価に耐えられる」って話だと思うんですが、それで本当に良いのかと。経済状況次第ではいつまでも超長期ゾーンが安定してるとは限らないんですが・・・・・

ま、銀行勢における超長期のニーズ増大はそれだけ運用利回りを上げなければいけないあるいは運用難にあるってことなんでしょうけれども。


○中短期、というか短期ゾーン

中短期ゾーンの話については結構違和感を感じました。

『中短期セクターは減額の余地があり。現状の金融政策の方向性を見ると、状況によってはニーズの増減が激しく変動する可能性があるので、減額するのであれば、荷持たれ感のある5年債やTB1Yではないか。TB1Yに関しては、日銀短国オペに玉が回っており、減額が考えられる。』

というような感じで1年もの(と6か月もの)の短期国債の減額余地があるって意見がやたら多かったんですが、あたくし思いまするに、2年や3か月と比較して6か月や1年のゾーンには割高感を受ける(いやまあちゃんと分析してるわけではなくて、持ち切り前提で考えたときにこの絶対水準はどうなのよと考えるだけなんでイイカゲンな話ですけど、滝汗)次第。今月のTB1年は月初に0.53%だったものが粛々と打たれ続けて(というのはオーバーですが)市場懇の前日にはやや復活したとは言え0.635%(この間に新発が銘柄代わりしてるので償還が1か月延びています、新発TB入札平均は0.674%でした)と2週間で0.1%金利上昇してたんで「荷もたれ感」がやたら強調されているんじゃないかと思いますけど。市場の需給関係から言えばどっちかと言うと3か月減らして6か月や1年を増やす方がよさそうな気もしますけど・・・・

日銀の短国買入オペに玉が回っているから減額ってのも妙な話でして、短国買入のオペレーションの技術的な性格上1年とか6ヶ月とかまあ長いものが入りやすいので、日銀の短国買入で特に1年なんかは見事に吸い上げられている訳ですが、その為に市場の流通玉が乏しいので投資家が買いにくい水準まで金利が低下してしまい、結果としてニーズが無くなっているという話のような気がします。

20年国債の15年ゾーンは輪番オペで吸い上げられた上に償還まで持ち切りの投資家が多くて流通玉が無いから流動性確保の為にも流動性供給入札を開始してる訳ですが、こちらのご意見では日銀の短国買入で吸い上げられているから発行減らして良しって事でして、これは素晴らしいダブルスタンダードですねという感じがします。

#まー悪態つくとすれば、この意見言った業者さん今月1年ゾーン打ち込まれてエライ目に遭ったんでしょうかねって所ですが(笑)。


ただまあ3か月と2年のところは発行量というか流通量も多いので、投資家がロットを捌く時に使いやすく、そのため益々売買が増えて流動性が上るって相乗効果もありますんで、振り分けのバランスをいじるのはって難しいでしょうな。


○まあ同じ人が言ってるわけではないんでしょうが

読んでて微苦笑したのはこの辺。

『海外投資家が相当程度JGBに参入してきているが、銘柄毎の需給の偏りが非常に大きく、流通市場に歪みが生じているため、個別銘柄の流動性が低く、希望するロットでの取引ができないとの意見が出ている。その結果、JGBから撤退してスワップに移行する投資家もいる。このため流動性を高める見地から、2年債を除いて3ヵ月間同じクーポンで発行する強制リオープン方式を検討してはどうか。』

前回の会合ではいわゆるCPIショックを受けた物価連動国債の悲惨な状況に関して意見だか苦情だかが出てましたが、その中で「海外投資家のシェアが大きくてマーケットの需給が一方方向にぶれやすく不安定で困ったもんだ(意訳)」というような意見が出ておりましたが、今度は海外投資家参加大歓迎ですかそうですか。

まあ別に同じ人が話しているわけじゃないでしょうから悪態つくのもどうかと思いますが(笑)、まあ海外投資家が入ってこなきゃ物言いがついて、入ってくりゃあ物言いがついてと財務省の中の人もご苦労なことでございますわな。

ま、海外云々の問題よりも、個別銘柄間の需給に歪みがあって、その需給を見てタイトな銘柄を買いたがる投資家が(特に短期売買する傾向のある人に)多くて益々需給の歪みに拍車が掛かり、しまいにレポをスクイーズもどきのことをする連中まで出てくるといった状況も如何なものかと思われますので、何らかの方策は必要だとは思いますけれども。

#スワップに投資家が入って円金利への「投資」をしてくれるのであれば、受けた業者はヘッジするんですから、回りまわって国債購入に繋がるわけで、国債の消化には寄与すると思うんですが>上の意見


○国債に係る手数料の見直しについて

日銀への登録口座を設定して売買するって制度の殆どの部分が振替国債に移行し、国債の本券も(今残っているもの以外)無くなってしまった現状を鑑みると、まあ事務手間なんぞは激しく軽い負担になっている訳で(本券保護預かりの国債の利札切りは失敗すると大変だから気を使いましたよ^^)、手数料見直しはまあ当然の流れでございましょうか。

『利払手数料及び償還手数料の見直しは、日本銀行におけるシステムの変更に要する期間や手数料の変更がマーケットの価格形成に与える影響等を踏まえ、ある程度のアナウンスメント期間を設ける必要があることから、2年程度後(早ければ平成20年10月)を目途に、その後に償還又は利払が行われる分から適用することとする。』

1年以内の利付債では手数料込みの価格で売買が行われていたりするという現状を踏まえますと、2年後から適用と言うのは十分な周知期間かと思います。妥当じゃないでしょうか。

で、まあこれで0.8%クーポン平均落札価格100円15銭の超長期62回債は入札当日の引け後に100円を割り込んで以来、償還までアンダーパーになることはほぼ確定となりましたな。あっはっは。

#償還の頃に短期金利が0.5%だとかだとそれはそれで寒い・・・




2006/11/20

お題「穏やかな総裁記者会見/渡辺喜美氏インタビュー」

○総裁記者会見

まずは総裁記者会見
http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken/kk0611b.pdf

景気に関する質疑が多かったのですが、基本的なトーンは景気に対しては依然強気を維持しているものの、あまり全面に強気を打ち出してはいませんって感じでしょうか。

・政府から言われる「ダウンサイドリスク」に対して

『私どもは、ダウンサイド・リスクに限らずあらゆる方向性のリスクについて、いつも十分かつ丹念に検討し、全体の経済情勢の基調的判断に努めているところです。このところ、家計調査その他で幾ばくか弱めの指標がみられるのは事実です。この点についても、十分掘り下げながら先行きの見通しにつなげる努力をしています。ただ、今のところ、これらの指標が、展望レポートでお示しした経済のメカニズムについての評価を変えるものとはみておりません。』

ということで、基本的には強気ですが・・・・

・電子・デバイス部品の在庫調整に関して

『その部分(ゲーム機関連の国内要因による在庫増です)を取り出して、そうだと決め付けることは難しいのですが、かなりその影響があるのではないかと推察されます。それだけであれば一過性ですが、一過性であってもひと月で消えるというものでは多分なく、少し尾を引くかもしれないというくらいにはみておいた方が良いと思います。』

・家計への波及に関して

『賃金への波及については、私どもは少なくとも雇用者所得でみている限り、企業収益が緩やかながらも着実に家計部門に還元され続けていると考えています。これが、色々言われながらも個人消費が基調的に増加を続けている大きな背景になっていると思います。』

『極めて緩やかですが、家計部門への還元は着実に進んでおり、今後は雇用が一層タイト化すればその傾向はさらに強まっていくでしょう。展望レポートでは、2006 年度、2007 年度という長いタイムスパンでみていますので、毎月毎月どの位のペースでというところまでは厳密に詰めていませんが、少しタイムスパンを広げてみれば、シナリオにそれほど狂いなく動いていく可能性の方が強いとみています。』

この辺のくだりを読んでいると、様子見っぽく読めてしまい、12月に利上げって雰囲気は漂ってこない訳なんですが、利上げそのものは「金融政策の正常化」というカテゴリーに(いつの間にやら)組み込まれているのが要注意でございますわな。

・金融政策に関して

金曜も引用しましたが、基本的に「オープン」というスタンスで話をしておりまして、この前の講演は何だったんだという感じですけれども、まあ上でも書きましたように、いつの間にやら次回の利上げに関しては「金融政策の正常化」なので、「景気が展望レポートの基本的な判断通りにいってれば金利の調整」というお話になってますんで、あたくしには余裕綽々だという風に読みましたけど。

何度か「スタンスはオープン」という話を繰り返しておりますが、最後の質疑から総裁答弁を引用致します。

『経済・物価情勢を丹念に点検した結果、自然に金利の調整を行っていくのであれば、その結論が12 月に至った場合、来年1 月に至った場合、あるいはさらにその先に至った場合、おそらく違いはないと思います。しかし、経済・物価情勢を点検した結論以外の何かの要素を持ち込んで判断をするとか、あるいは、カレンダーで年内と来年といったスケジュール的にものを考えることをした場合には、そういうことをすればむしろ悪くなるという意味で結果が大いに違ってくると思います。私どもは、あくまでも経済・物価情勢を丹念に点検した結果として自然に結論を出したいし、そうでなければ市場とのコミュニケーションもきっと上手くいかないだろうと思っています。』

ということで、経済・物価情勢以外の云々という所で政治的なご意見にチクリと釘というか針程度をさしている感じはしますが、「あくまでも自然に結論を出したい」ってあたり、短期市場が12月から1月の追加利上げを織り込みに行っているので余裕かましているなあと思います。地均ししたり自然体になったり大変ですなあという感じですが。

ま、総じて「おとなしい」会見だったんじゃないですかね。


○これはちょっと・・・・(渡辺喜美内閣府副大臣インタビュー)

渡辺喜美内閣府副大臣のインタビュー記事が金曜日のブルームバーグニュースに掲載されていました。で、渡辺さんといいますと確か金融関連の政策通というお話だったと思うのですが、記事を見てますと「利上げ反対ありき」で言ってることがどうも支離滅裂じゃないのかと少々絶望する次第のあたくし。以下17日16時45分配信のブルームバーグ記事から。

一問一答の部分から引用するんですが、最初の時点でいきなりひっかかるあたくし。まずは利上げは時期尚早って話をしてるんですけど。

『ちょうど実質実効為替レートがプラザ合意くらいの水準に来ている。あの時も思い起こせば、日銀が無理して利上げして超円高を加速したという苦い教訓がある』

『米国経済が軟着陸できるかどうかにもよるが、クリスマス商戦がうまくいって軟着陸できて想定の範囲内の減速になってきたとなると、いよいよ米国は来年から利下げのトレンドに入るかもしれない。そういう時に利上げをしたら、またプラザ合意の際の超円高の二の舞を繰り返しかねない。世間では12月利上げなんて言う人もいるが、そんな状況では到底ない』

えーっとですな、プラザ合意後の高め誘導→デフレ懸念といわゆる円高不況→金融緩和→金融緩和引っ張りすぎてバブル経済っていう歴史から鑑みると、「円高になるから利上げすんな」という理屈は「教訓」から学んでおられるとは思えない(追記@12月3日:突っ込まれたので補足しますと、プラザ合意の「教訓」というのは、「為替操作を目的とした金融政策を実施すると国内経済に副作用が生じるのですべきではない」ということですな)のですけれども(つーかだいたいプラザ合意ってドル高是正だろうが)。

(追記@11月26日:先般の金融政策決定会合でもしてきされていましたが、、実質実効為替レートは確かにプラザ合意直前の水準になっているそうですが、それって「ドル高是正が必要」っていう合意が必要だったレベルであって、為替レートの話をするなら円高懸念するよりも円安懸念するんじゃないんですかね。それに上でも書いてますが、プラザ合意の教訓は「為替是正を目的とした金融政策の操作を行うと副作用が大きいのですべきではない」ですから、金融政策に対して為替が云々という議論をするのは筋違いですわな。まあ「政策新人類」の底が見えるお話ではございます)

ま、それよりも驚愕なのは「米国経済が想定内に軟着陸したら利下げのトレンドに入る」って所でして、いやあの想定内だったら米国の金融政策は据え置きのまんまで推移すると思うんですが(その後は物価動向次第)。しかもその後に渡辺センセはこうも仰せなのですが。

『大事な場面で米国経済の軟着陸ができるかどうか、見極めが必要だ。クリスマス商戦がソフトランディングにつながるかは来年にならないと分からない。』

さっき「想定内の軟着陸したら利下げ」って話してませんでしたっけ?何かもうね、ここまでグタグタな「まず結論ありき」をやられると「別に利上げ急ぐ必要ない」と思ってるあたくしなんぞでも「政府側の認識がこれじゃあちょっとねえ」って感じになってきますわな。

で、同じ文脈でインフレターゲットに言及してるのですけれども。

『今のように信頼関係があれば、取り立てて透明な目標設定は必要ないかもしれないが、大事な場面で米国経済の軟着陸ができるかどうか、見極めが必要だ。クリスマス商戦がソフトランディングにつながるかは来年にならないと分からない。そんな時に利上げするという話になれば、ちょっと早すぎるということになる。それでも突っ走るということになれば目標設定しかないということになる。そんなことはないと信じているが、全くあり得ないとは言えない』

インタゲ政策はインフレ目標に中央銀行がコミットすることによってインフレ期待の安定化を図るというお話だと存じますが、物価の話じゃなくて円高がどうのこうのって理由から利上げ反対して、インタゲ導入ってのはちょっと話の筋が違うんじゃないでしょうか。いやまあ百歩譲れば超円高になる(米国が物凄い勢いで利下げするなら兎も角、ちょっと位の利下げに対して日銀が0.25%程度の利上げをしたからといって超円高になるとも思えんが)とデフレになるという理屈なのかも知れないけど。

まあ別の質疑の所で『どんどん人出不足が深刻になり、給料を上げないとダメだということになって、それが最終価格に転嫁されるようになれば完璧にデフレ脱却だ、まだそういう段階になっていない。(略)やはり外需主導型で景気が回復してきた。』って話をしてるから、そっちが理由なんでしょうが、それなら円高云々の話は言わずもがなであって、その部分読まされると一気に話全体の説得力が落ちるというものでございます。

で、質疑の最後にorz

『構造改革を進めるためにもマクロ経済政策のかじ取りが大事だ。景気がちょっと減速したら財政支出で元気良くしようという時代ではない。金融政策の果たす役割は非常に大きい』

上げ潮政策とか言ってるのと話が何か平仄合ってないんですが、財政締めて大丈夫なんですかねえ。






2006/11/17

お題「金融経済月報、総裁記者会見」

米国株式市場と債券市場の後講釈をするのに、背景になる景気というかインフレに関する説明が物凄い勢いで矛盾しているモーサテの番組編集はもうちょっと物を考えて頂きたいものです。

○先に総裁記者会見

昨日は総裁のスケジュールの関係上会見時間が短かかったので、ブルームバーグの会見中継録画(というか実質音声だけですが)を放送を全部聴く時間がございました。

で、聴いた印象ですが、「総裁随分おとなしいな」というところでございました。まあさすがにこれだけ散々事前に注目注目と言われただけに変な話をしなくて良かったですねという所ではございますが、別の言い方をすれば金利市場の方が既に12月か1月の利上げですなあっていう価格形成になっているのでこれ以上地均ししても軋轢だけ増える結果になるので、余裕綽々という心境なのかもしれませんし、その辺までは判らん(のは当たり前ですが)。

で、会見内容が流れている間に債券先物はちょっと上昇(その後下がったりして結局小動きだったんですが)したようですが、まあそれだけ総裁のタカ発言に警戒が強かったということなんでしょうか。どうもよく判らんです(てかそもそもイブニングセッションですから板薄いですし)。

記者会見を聞きながら適当に取ったメモと、16日18時05分配信のブルームバーグニュースからまあ気になったくだりを少々。

・12月利上げの可能性について

『いかなるタイミングも排除して考えない、というのが、われわれは予断を持たない、ということの定義と一番平仄が合っている』

・財政健全化のスケジュールに絡めて、金融政策正常化のスケジュールのタイムスパンはどうなっているかという趣旨の質問に

『多分、金融政策というのは、そういうカレンダーをにらんで、日にちをにらんで見通しを立てると必ず失敗するのではないか。経済は本当に生き物で、そんなに予定通り動いてくれない。だから、それはやはり情勢を丹念に点検しながら、十分フレキシブルに対応していかなければならない。そうでなければ、予定表の通り行動すれば、景気の芽を摘んだり、逆に景気を過度に刺激したりするリスクの方が大きいのではないか。』

まあこんな感じの質疑応答で、金融政策のタイミングという問題に関する言及は恐らく意識して控えめにしてたんでしょうな。つーか地均しとかすんじゃねえと思うのですけど、苦笑。でもまあ景気に関しては「基本シナリオのままよん」って言ってるのですな。

・金先市場を引き合いにだして、「市場が日銀のシナリオ通りに動いてきたと考えてますか」という質問をした人がいたんですが(^^)

『市場は新しい指標にいろいろ反応しながら、引き続き基調判断を固めようとして、市場自身も努力を続けている状況だと思う。日銀の方では、これまでのところ、さまざまな現象を分析して、展望リポートでお示ししている基本的なシナリオから経済・物価の動きがずれ始めているとは、われわれはみていない。市場の方は今後とも新しい指標にかなり敏感に反応しながら織り込んでいくということだと思うので、市場が判断を固めつつあるとはまだ言えないのではないかと思う』

何か判ったような判らんようなお答えではございますが、ここの発言とか聴いて(って結構聞き流しながらでしたが、爆)た感じだと、まあ総裁余裕モードって印象をあたくし的には受けましたが。


とまあ(非常にちょっとだけですが)総裁記者会見の一部を拾いましたけれども、まあベンダーのヘッドラインと債券先物の反応を見ても判るように、当初の印象は「思ったほど突っ込んだ話が無かったですねえ」というものだったのですが、一晩明けてモーサテを見ると「日銀総裁、年内利上げを否定せず」ってなってまして、「12月の決定会合までこんな経済指標が出ますが、この数字を見て12月に利上げをするのではないか」というようなトーンのお話になっておりましたですな。メディアがせっせと鉦や太鼓を打ち鳴らすの図になっているような気が致しますが・・・・



○金融経済月報は今月も変化なし

http://www.boj.or.jp/type/release/teiki/gp/gp0611.htm(今回)
http://www.boj.or.jp/type/release/teiki/gp/gp0610.htm(前回)

紙に打ち出して2枚重ねてすかし読みをするのが比較するのに速いというくらい同じ文章が続いております(^^)。


・景気の現状判断

『わが国の景気は、緩やかに拡大している。』から始まる現状判断ですが、10月分には短観を受けた企業の景況感に関する言及がありまして、この部分が今回削除されていますが、これは順当。

・景気の先行き判断

これも相変わらず同じ。記者会見でも福井総裁は「バランスの取れた景気拡大が続く」という話をしてました。本当かよというツッコミはございますけれども。

・物価の現状判断

(今回)『国内企業物価は、原油価格の反落が影響し、上昇テンポが鈍化している。』
(前回)『国内企業物価は、既往の国際商品市況高などを背景に、上昇している。』

ということで原油価格の反落について言及してます。

・物価の先行き判断

(今回)『国内企業物価は、当面、原油価格反落の影響が残ることから、上昇テンポの鈍化が続くとみられる。』
(前回)『国内企業物価は、最近の国際商品市況の反落が影響し、当面、上昇テンポが鈍化していくとみられる。』

まあ変らんといえば変らんのですが、影響が「残る」って所に「影響は長続きするもんじゃないですよ」という気持ちがこもっているのではないかと言い出すあたくしは裏読みのし過ぎですかそうですか。

・金融面

これは市場実勢に関わる部分だけ前回と表現が違いますが、現実に起きている話の部分なので特筆する話ではないかと存じまして引用割愛。


・・・・という訳で、まあ見事に今月も変化なしという月報でございました。




2006/11/16

お題「オペ金利とFB入札と」

首都圏マンション販売戸数減の要因に販売業者の売り惜しみってのはマジなのか先高感を煽る提灯報道なのか存じませんが、それって昔も聞いた事があるような気がするのですが・・・・何だかね。

#朝の気温低下と共に目覚ましを無視する頻度が上昇してしまい、今朝は昨日あったことのヨタ講釈話で誠に恐縮至極でございます。


○オペ金利

昨日の共通担保オペですが、11月17日〜1月26日の期間で平均落札利回りが0.394%で最低落札利回りが0.39%となってましたんで、まあ0.40〜0.39に札が入りましたということでしょう。で、その0.394%ですが、昨日と同じように12月18日で分解して手前を0.30%とすると後半が0.468%とかになりますな。一昨日のオペ結果では後半0.455%の計算になってたんで若干の上昇となったようですな。

で、ここで問題になるのは(昨日も申し上げましたが)利上げがあった場合の足元金利とGCレポや現先、ショートタームのオペ金利の関係。利上げになって足元0.5%になった時にロンバートは恐らく0.75%になるでしょうというところまではコンセンサスなんですが、どうもその「ロンバート金利と足元のスプレッドが0.10%→0.15%になる」というのが過大評価されているような気が致しますわな。まあこういうのは「蓋を開けてみないと判らない」というのがあるので最初は最大級のリスクを織り込み行きがちなんで仕方無い面はございますけど。

どこぞの情報ベンダー(正直この某ベンダーは取材対象が売り方、というか金利上昇歓迎な人に寄ってる感じが見受けられるのでちょっとアレなんですが)では「足元金利が0.5%になった時に現先やGCのレートが0.6%」って話になってましたが、ロンバートの足元対比スプレッドが開いた分がまともに上昇するというのはちとどうなのよと思います。

これがもうちょっとベースの金利高いというのなら別ですが、たかだか0.5%の水準での0.1%のスプレッドは直感的に「ちょっと広すぎ」というイメージが涌く(はっきり言って直感の話であって科学的な根拠レスですけど)次第。


とまあそんなことを昨日も申し上げて同じ話ばかりで恐縮ですが、そんな訳で12月18日以降(実はまあこれも19日からで計算するのが正しいのかも知れないとか微妙な面はあるんですが)の金利が0.468%だとしますと、まあ半分程度12月利上げのリスクを織り込みに逝ってますって事になるんでしょうなこの結果は。半分以上じゃないのかという気もすると思いますが、実は年末年始の金利の話をここではスルーしてるんで、その分と考えていただくと宜しいかと。


○FB入札

昨日のFB入札はと申しますと、こちらは前場引けの時点で0.465%レベルに対して平均落札が利回り換算で0.465%で最低落札が0.468%だったんで、まあ妥当な結果。これまた同じように11月20日〜12月18日と12月18日〜2月26日に分解して手前の金利を0.30%とすると、後半の金利が0.53%(ちなみにこの辺の数字全部あたくしが電卓を叩いて出しているので、本人は一応計算合っているつもりでおりますが、間違っていたらゴメンナサイ)になると思います。

で、さっきもさらっと書きました年末年始挟みの金利と言うファクターもありますんで、この0.53%というのは12月利上げをやっぱり半分織り込んでいるってお話になるんでしょうな。


多分債券市場的には「12月利上げでも1月利上げでも、とにかく今度利上げしたら暫く打ち止めでしょう」という見方の方が強くて、まあどっちでも同じじゃネーノって感じになっているのではないかとゆーのがあたくしのお友達トレーダーとお話をした(なのでサンプルの設定に問題がございますが、爆)印象なんですけど、まあ動きもそんな感じかと。

ゼロ金利解除前には「連続利上げ」の思惑が出てまだ足元がゼロ金利(というか0,05%くらいでしたが)なのに2年0.9%とかやらかしていた訳でして、今回ベースの金利が0.25%上昇してるのにまだまだゼロ金利解除前の安値を切ってない(FBなどは別)のは経済実態から言って連続的な利上げ(3か月ごとに0.25%引上げとか)なんぞ出来ないでしょって冷静に反応してるんでしょうな。


○一番前傾姿勢なのは実はメディア?

また人のふんどしで恐縮ですが本石町日記さんのエントリー。
http://hongokucho.exblog.jp/6044833
「ベアフラット化の意味は…=日銀“ヘッドラインリスク”を警戒?」

『現状、追加利上げに向けて走り始めたのは、金利マーケットの方々はお分かりであるようにマスコミ(一部新聞)であろうと思う。利上げ局面では、マスコミはどうしてもフロントランニングする体質なのです。』

なるほど、確かにそうですな。

#まあ今日の記者会見でGDPについて「それ見たことか」コメントが出ないように期待したいのはあたくしも同じですが、言うんじゃないかなあという絶望もあるあたくしなのでございました。





2006/11/15

お題「GDPで12月利上げリスク意識する短期」

まあ何もないでしょうが、今日明日は金融政策決定会合。

○経済指標のヘッドラインに素直に反応

ご案内のように昨日公表されたGDP速報値のヘッドラインが強い数字になりました(中身に関してはツッコミどころはあるらしいのですが)ので寄り前から2年カレント5毛甘ヒットしてさっくりオファーなどと豪快な展開。昨日は間の悪いことに5年入札と1年TB入札という中短期ゾーンの入札があったので下げに勢いが付くの巻でございましたな。

それにしても、一時は2年カレントが前日比10.5毛甘の0.835%まで叩かれるとはこりゃまた凄い下げですねと(引けは7.5毛甘の0.805%)いう感じでした。まあその前に機械受注(の前からですが)金利が低下してましたんでその分の反動ということもございますが、2年が10毛も動くとなると先行き利上げの回数予想が1回変る位のイメージになりますんで、それはさすがに勢い付き過ぎジャマイカと。

#でも今日は3か月FBの入札があるんですなこれがまた。

ま、経済指標が出るたんびに一々素直に反応するのは水野審議委員の仰せになる「Data Dependense」な世界ですんで結構なんじゃないですかな。


○オペ金利上昇

で、昨日の共通担保オペ(本店)ですが、11月16日〜1月23日の落札利回りが平均で0.382%の最低落札利回りが0.37%となりました。前日の共通担保オペは全店オペだったんですが、11月15日〜1月17日で平均0.345%の最低0.34%でした。本店オペの方が若干レートが低めになる事を考えますと実質的に3毛以上レート上昇という形になったという所です。

このレートを12月19日(12月の金融政策決定会合)までとその先に分解して考えると、昨日の場合は手前の金利0.30%(まあ大体オペ金利の実勢に近い水準)として計算すると、12月19日以降の金利が0.455%(手元の電卓で計算したんですが、ロジックは0.3%×32日+A%×36日=0.382%のAを計算するというざっくり計算)となりますわな。月曜の金利を同じ理屈で分解すると後半金利は0.395%となりますので、これはまた一気に12月利上げを意識しましたなあという所でしょう。

さすがに完全織り込みしてる訳じゃあございませんが、まあ12月の利上げをかなーり意識してきてるという所でしょう(現実には足元金利が0.5%になった時にオペやらGCの金利は0.55%〜0.60%のレンジが中心になるんじゃないかとは思うので、まだ低いと言えば低いのですが)。


○今日はFB入札

昨日は1年TBの入札がありまして、まあ予想される次回の利上げタイミングが手前に来た分、先行きの利上げサイクルに関する予想も変化するから仕方無いのですが、最低落札レベルが0.685%近くまで金利上昇の巻となってしまいました。

えーっと物凄いイメージ話で恐縮なんですが、最後まで持ち切りという前提で考えましてもそのレベルだったら所有期間中の2回利上げでも心配ないぜという(物凄い勢いで2回上昇したら困りますが)レートなのではないかと直感的に(ちゃんと分析しろというツッコミが飛んできそうですが)思う次第。不明札が8000億くらいあってショートカバー気味に0.655%まで買われたようですが、まー直感的に(またか)は持ち切り前提だと0.65%からご相談って感じなんでそんなに違和感のないところかなあとあたくしは勝手に思うのでした。

で、本日は3か月FBの入札なんですが、WIの0.47%というのはご愛嬌と致しましても、先週入札が行われたカレントの3か月FB(なので今日のFBよりも1週間短い)が0.43%オファーとかやらかしていたようですので、まあ0.45%あたりになるって話でしょうかねえとは存じます。1回の発行量4兆2千億がこーゆー時になると重しなんですが、12月利上げになってもまあそんなに負けない(何を足元金利で見るのかによって微妙に違いまして、必ずしも0.5%で計算するのが正しいのかというと、そりゃやっぱ違うって意見もあるんですけど)レベルになりつつあるんで、何とかなるんでしょ。WIのまんまで0.47%なんぞになったら衝撃ですけど。



○明日は総裁記者会見

金融政策決定会合後に福井総裁の記者会見が行われる訳ですが、GDPを受けて金利が上昇した債券あんど短期市場に対して誰かコメントを求めて頂きたいものでございます。

と申しますのは、前回の定例記者会見で債券市場などの市場金利の動きについてコメントを求められた福井総裁はこんな話をしてたんで、今回何というのかが結構楽しみでして。

『私どもは、経済を判断するアプローチとして、今申し上げたように全ての指標を少し深く分析しながら、基調的判断というものを探り当てようというアプローチの仕方をします。しかし、市場はこれとは違ったアプローチをします。そこに市場の存在価値があり、新しい指標が出る度に大きく反応しながら、しかし結局は、市場も経済・物価の基調は何かということを探り当てていく動きをします。』

『市場は強い指標が出たら一時的に金利の引き上げを手前に引き寄せてみる、あるいは弱い指標が出たら一時的に金利の引き上げを先ずれさせてみる、こういうことの繰り返しの中で、いつしか日本銀行と市場の基調判断が次第に擦り寄ってくる可能性が常にあり、今もその事情に変わりはないと思います。』

(以上10月31日の福井総裁記者会見要旨より)

で、今回「それ見たことか」というような勢いで「日銀の基調判断と市場の基調判断の差が埋まってきた」などと言い出す方に1000点といったところのあたくしでございます。でもまあそれってどう見ても「金利上昇は良い反応、金利低下は悪い反応」って言ってるのと変らんお話でして、そーゆー事は本当は言わないで欲しいところでもございますわな。

・・・・などと書いておりましたが、既に本石町日記さんが『GDPの焦点→「日銀がヘッドラインに飛び付いてはしゃぐリスク」』という素晴らしいエントリーを上げてました。思いっきり重複してしまいましたよorz→http://hongokucho.exblog.jp/6038472/

まさに仰るとおりですな。あたくしは本石町さんほど日銀、というよりも一部政策委員の「成熟度」に関しては懐疑的でございますので(笑)、「GDPの内容は華麗にスルーしてヘッドラインにはしゃいで絶賛地均し」の悪寒の方が強いのですが。コメント欄で指摘している方がいましたが、本来は「沈黙は金」だと存じますがねえ・・・・





2006/11/14

お題「地均しよりも経済指標/ネタのないときの国会ウォッチング」

引いた風邪は長患いモードでついに10日目に突入。

○地均しが効く時と効かない時と

先週は福井総裁と水野審議委員、というかまあ福井総裁の発言やらインタビューが相場のネタにされた訳ですが、結局は長いところは予想より下振れした機械受注統計(ヘッドラインは極悪だったけど本職の方によりますと中身はそんなに悪くはないということのようで)とか、GDPが予想より悪くなるかもというようなネタの方への反応の方がでかいという感じ。

まあFBなんかは相変わらずカレント物が0.41%(こっちは先週末の福井総裁インタビューやら国会答弁でのやる気満々ぶりや、水野審議委員の「でも利上げはするもんね」講演が効いて、水曜の入札後ちょっと戻ったものの上値重い)などとどうも冴えませんわな。

で、まあこれを勝手に解釈すると、短期というかFBとかの短いところを見ている人たちとしては「さすがに今月利上げとかは有り得ないけど、経済指標がちょっと良くなってきたら利上げするでしょ」と考えて「経済指標が年末までに好転してきたら1月に利上げがあっても不思議ではない」という解釈になってるんでしょう。で、この状況を見て日銀政策委員の皆様におかれましては「市場が1月利上げ織り込んでいるから1月利上げしても無問題」とか思われても困る訳でして、先行きの経済指標が戻って来たらという留保条件付でリスクに備えているだけですから勘違いの無いようにして欲しいものです(苦笑)。

で、長いほうは経済指標に素直に反応して「利上げできる訳ねえ」あるいは「利上げ強行したとしても、その次の利上げが当分できるような状況じゃないから利上げが打ち止めになるだけですがな」という感じになってるんでしょうな。

ということですので、市場との対話路線を重視しておられるのであれば、長期金利が総裁や水野審議委員の地均し的な発言に対してほんのちょっとだけしか反応せず、その後の経済指標に思いっきり反応しているという現実をよー考えて頂きたいものでございます。てか水野さんの講演なんかが出ると最近は水野さんの言ってる反対に債券相場が反応してるような感じでございますけど(笑)。

#以下ネタのないときの国会ウォッチネタ
国会の会議録検索はhttp://kokkai.ndl.go.jp/からお願いします。

○政府が「大本営発表」をしても良いという超越議論

まあ世の中には善意のウソというものがございますが、はてさて政府の経済官庁のトップがそのようなことを言って良いんでしょうかという質疑応答が。って先日ブルームバーグニュースで見たんでちょっとだけネタにしましたが、国会の会議録が出てますんでくだんの応答を読んでみたのですが、何かそれで良いのかと思うのでした。

参議院財政金融委員会10月31日の質疑応答の冒頭部分でございます。質問してるのは沓掛哲男委員で答えているのは尾身財務大臣。勿論ですが、質問も応答も長いので、あたくしが脱力したところを引用。

沓掛委員の質問から(元の質問は勿論やたら長い)。

(沓掛委員)
『尾身大臣はちょうどそのころ、平成九年の秋に経済企画庁長官になられ、そして平成十年の八月ごろまで正にこの経済企画庁長官をされておられまして、この平成十年不況対策に真っ正面から取り組まれた豊富な経験をお持ちでもございます。』

『私、そのとき非常に感心したのは、やっぱりこの年の、平成九年の暮れというのはもう正に大変厳しい状況でした。中小企業者はたくさんの借金を抱え、返済できない。また、取立ても厳しくなっていたんです。これは大変なことになるなと思ったとき、それを救ったのが時の経済企画庁長官尾身大臣の発言でございました。その発言は、一言、来年の桜の咲くころには景気は明るくなるだろうという言葉でした。私は、正に政治的発言であり、この一言葉であの年の暮れ、中小企業の経営者がたくさん死ななければならなかった命が救われたというふうに思っております。』

あたくしこの時期は金融市場にどっぷりと首までつかっていた(てかまあ今も似たようなもんですけど)ので実際に沓掛さんがおっしゃっているような状況だったのかとか判らん(そもそも平成何年とか言われて咄嗟に何があったかの記憶が怪しくてノートを見直さないといけませんが、爆)のですが、金融市場的には「これは酷い大本営発表ですね」という評価だったと思いますが。いやまあ金融市場に「何じゃそりゃ」呼ばわりされるのと中小企業経営者がたくさん死ぬのとでは前者を取るのが正しいのでしょうというのも判りますけどね。

でもまあ政府の経済官庁のトップがそういう話をすると、政府としての経済見通しが「桜の咲く頃に景気回復」という前提になる筈ですんで、やはりその目先はそれで凌いだとしても将来に渡る政府の経済見通しが「政治的」というのは良くないのではないかと思うのですが。

「人々を鼓舞するために威勢の良い戦果を発表」したがために、その戦果が次の作戦計画の前提になり、実際の戦況と大本営で把握している戦況の間に物凄い勢いで齟齬が生じてしまい、無茶な作戦によって戦死者続出ってのをつい60年ちょっと前にやらかしていると思うんですけどこの国は。

んでまあ尾身財務大臣の答弁ですが。

(尾身財務大臣)
『平成九年の秋に、私が、桜の咲くころは日本景気は良くなるということを経済企画庁長官のときに申し上げました。景気が正にどん底でございまして、言わば末期のがん患者が死の直前にあるというような景気の状況でございました。そのときに、更に景気の悪い状態が続くというようなことを私が責任者として申し上げたならば、いわゆるコンフィデンスといいますか、将来に対する展望が一層悪化して、それが心理的な影響を持って景気の崩壊といいますか、を加速するのではないかという実は心配がございまして、あえて向こう傷を負うのは承知の上で、いずれ良くなると言ったのでは印象が薄いものですから、桜の咲くころ良くなると申しましたら、三月になってもなかなか良くならない。』

何と申しますか、尾身経済企画庁長官(当時)の向こう傷で済めば別に良いんですけど、経済企画庁の見通しってそれだけで済まないもんでしょとはさっきも申し上げましたが。

『東京の桜か北海道の桜かというようなことを国会でも聞かれましたし、そのうちに、まだまだ景気の状態が厳しかったものですから、今年の桜か来年の桜かというようなことも聞かれて大変に苦しい思いをしたのでございますが、つい一、二年前、ある銀行の幹部の方にお目に掛かったら、あのときの発言で実は日本経済が大変助かったというようなお話も伺って、感無量の思いがしております。沓掛議員におかれまして、そのことについて御理解をいただいたことに対して心から感謝を申し上げる次第でございます。』

どう見ても馴れ合いです。本当にありがとうございました。


○民主党ブーメランの法則

11月2日の参議院予算委員会では日銀の半期報告がありまして、その中で大久保勉委員が日銀の金融政策に関する発言などに物申しております。例によってその他にも色々な話をしているので当該部分だけ引用しますが。

(大久保委員)
『そこで質問なんですが、こちら新聞記事、これは読売新聞朝刊、三月九日の記事であります。見出しは「量的緩和解除へ」「日銀、きょう最終判断」ということです。じゃ、これに対しまして、まず三月六日から九日の総裁記者会見終了時までブラックアウト期間であり、さらには、総裁以下政策決定会合出席者全員がマスコミや市場関係者等に面会したり外部に対する発言をすべきでないということは、イエスかノーかで端的にお答えください。』

ということで、当然ですが「原則としてノー」という話をしているのですけど、それに対して大久保委員は詰めた後にこんな話を。

『このブラックアウトルールに関して、実際の運用に関して原則という言葉は何もありませんが、非常に、原則という言葉を使わないといけないほどに何か困った状況だと私は推測しました。』

と、推測するのは結構なのですが、実はこのブラックアウト期間でありますところの3月6日に参議院予算委員会が実施されておりまして、この時に福井総裁は参考人として出席しております。

で、(URLは長くなるので割愛しますが、上のほうで書いた国会会議録検索システムで検索キボンヌ)この時の会議録から発言順の見出し(フレームの左側に発言順に名前が出てる)を見ますと、福井総裁が答弁を最初にしたのは民主党の平野達男委員の質問に対してなんですな。勿論質問内容は金融政策に関する話でございます。

ちなみに、ブラックアウト期間であっても国会での質問があった時に答えるのは例外(規程なのか運用なのかはちと咄嗟に覚えておりませんが)でございますので、この時の福井総裁の対応は別にブラックアウト違反でも何でもないですが、大久保委員が『原則という言葉を使わないといけないほどに何か困った状況』ってのはお前の所属する政党が困った状況をつくってるんですが何か?という感じで思わず読んでて「質問前には下調べくらいちゃんとしとけ」と思うあたくしなのでありました。元々このひと証券会社勤務でしょ?勘弁して欲しいですな。

しかしまあ「困った状況だと推測しました」とか言って一本取った積りなんでしょうが、どう見てもブーメランです。本当にありがとうございました。

ちなみに、質問の基本的趣旨は「新聞なんかにリーク記事みたいなのがでるけどあれはどうなっているんだ」という切り口なんですけれども、あれじゃあ追及にも何にもなってないでしょ。まあ10点満点で3点といった所でしょうか。

久々に国会会議録ヲチしてたら他にも気が付いたのがあるんですけど、時間の都合上今日はこんなところで。





2006/11/13

お題「金曜日の福井総裁発言メモ」

今日はメモ書き程度のお話で恐縮至極。まあ金曜日は総裁発言よりも機械受注統計発表前に出された髪のご託宣の方がキングオソロシスでございましたけれども(笑)。

○福井総裁の国会答弁

金曜の衆議院財務金融委員会に福井総裁が出席。ニュースベンダー的に扱いが大きかったのは、「円キャリー取引」に関するコメントでして、ブルームバーグニュースでは総裁発言ニュースのお題が『福井日銀総裁:「大変警戒」−円キャリー取引の拡大を巻き戻し』という風になっておりました。ということでソースは10日14時31分配信のブルームバーグニュースです。

・円キャリー取引

『これ(円キャリー取引)が非常に膨れている場合には、先行きの金利観に急激な変化が生じれば、急激な巻き戻しが起こり、さまざまな歪みをもたらす。このリスクが非常に大きいので、私どもは大変警戒してここを見ている』

いやね、それだけ見ているとご尤もな話をしてるかもしれないですけど、「急激な巻き戻しが起こり大変ですよ」っていうのならば、2003年に長期金利が豪快に低下した後に大反転する過程で完全放置プレイ(どころか煽ってたんじゃないかと言いたくなるような言動もありましたが)をしていたのは一体全体何だったんでしょうかと粘着質のあたくしは小一時間問い詰めたいわけですな。日本の投資家よりも海外の投資家が大事なんですかと言いがかりの一つも言いたくなりますな。

巻き戻しが起きて為替が急激に動いたらそれこそ介入でもすりゃいい話だし、欧州あたりの不動産バブルが崩壊したって「景気の牽引役は外需から内需へバトンタッチされてバランスの取れた成長をしている」のが日銀様のシナリオなんですから別に大きな問題ではないって筈じゃあございませんでしたかね(そもそも海外の不動産バブル心配する前に日本の景気を心配して欲しい訳で)。

『金融政策の運営にあたって、市場とのコミュニケーションを綿密にやらないと、非常にサプライジング(驚くよう)なことになれば、そういう現象−−まず円キャリー取引が異常に膨らみ、逆にまた巻き戻しが大きくなるという、往復のリスクがあるので、常日ごろから市場と政策運営をめぐるコミュニケーションを濃密にやっていく』

円キャリー取引をバブルと捉えるのかというそもそも論があるのはとりあえずスルーしまして、バブル(というか過剰な期待による特定資産価格の異常な上昇というか)に関してはマーケットで色々とやってる以上は局所的に発生するのはある程度止むを得ない話でして、モニターするのは結構ですけど、バブル潰しで金融政策をどうのこうのっていう理屈になる(この答弁ではそういう話をしているわけではないですが)のは如何なものかと思いますけど・・・・

どうも直前のやる気満々講演と重ね合わせると、円キャリー取引の拡大を懸念して金融政策の正常化をするとかいう理屈が出てくるのではないかと懸念したくなりますわな。


・金利調整に関して

『情報技術(IT)関連部品などの在庫が急に上っていることがいったい何を意味しているか、丹念に点検していく必要がある。家計調査も一番最近の数字は、私どもから見ても少し弱い数字になっている。これらについても、先行きの経済にどのような意味があるのか懸命に分析している』

『こういうふうに今後とも新しい指標が出てくるが、良い指標であれ、必ずしも良くない指標であれ、1つ1つ丹念に分析しながら、経済の基調に狂いがないかどうか確かめて、そこに確信が持てれば、やはりゆっくりと金利を調整していくことが、景気の芽を摘むものではなくて、逆に息の長い成長を確保する道に通じることができる』

ちゃんと丹念に分析してくれれば利上げ先にありきで特攻するような事態にはならないと思うのですが、この発言でも「良い指標」と対比しているのが「必ずしも良くない指標」という風に、とにかく「悪い」という言い方を避けているのが福井総裁の心象風景を示しているようでございまして、懸念されるところであります。

福井総裁や水野審議委員におかれましては、「徐々に金利水準の調整を行うのが適切」と言っている日銀の公式見解に変に縛られて、「利上げしないと日銀のシナリオが達成できず、日銀の信認に関わる」などいうような理解が涌いているのではないかという気がするんですけれども、別に「ちょっと踊り場入りしてるから金利水準調整ペースは落とします」で何の問題もないし、信認問題なんて発生しないと思うんですが(金先の売り方は火あぶりだから困るでしょうが)。

ま、一応普通の話をしているようではありますが、どうもあたくしには「利上げ先にありき」の発想があるようにも見える次第でしてちと気になるのでした。


○読売新聞の福井総裁インタビュー記事

http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20061110i201.htm
日銀・福井総裁、利上げは「早め、小刻みに」

日本銀行の福井俊彦総裁は9日、読売新聞のインタビューに応じ、今後の金融政策について「先行きの景気の振幅を大きくしないように、金利水準は徐々に調整していく。金利を上げないリスクを分かっていただきたい」と述べ、利上げへの理解を求める考えを示した。

政府・与党内で早期利上げに慎重論が根強いが、福井総裁は「(米国経済の動向など)様々なリスクを読みながら早めに小刻みに対応する。景気のダウンサイド(下ぶれ)リスクばかりに目を奪われて必要な政策調整をしないと、リスクを作り出す」と強調した。(以下略)

URL先はいずれリンク切れになりますので上記URL先の記事を一部引用させて頂きましたが、何ともうしますか「福井総裁、世間一般に利上げの理解を求めるの図」って感じが致しますな。

先週のきさらぎ会での講演以降、連続してこの話が続くところがどうもねえって感じでございますです。はい。





2006/11/10

お題「経済財政諮問会議は踊りそうな悪寒/その他少々」

ネタも一巡したので経済財政諮問会議でも見てみましょうと思い、実質第2回の諮問会議会議録を読んでみましたが、論議には何かアレなものを感じてしまうのですが。

http://www.keizai-shimon.go.jp/minutes/2006/1102/shimon-s.pdf

○農業分野に関する話はあたくし素人なんですけどね

この時は「グローバル化改革に向けて―EPA交渉の加速を中心に―」というののが集中審議のお題だったんで、当然ながらEPAに関する議論が多かったんですけど(全21ページ中の本文が20ページありまして、14ページがその話)、そこを読んでてちょっと気になった応答があったのよね。あ、ちなみにあたくしは農業に関するお話はドの付くシロートですのでそちらに関する意見はないんですけど。

会議録13ページ目のあたりで農業の生産性向上というお話で営農の集約化とか株式会社の参入とかいう話をしてまして、そこでのお話。

『(麻生臨時議員)何となく農林水産省が農林の話をするとみんな色眼鏡を使って見るのが癖だから、これは止むを得ぬところである。一つだけ現実問題として、米は海外では幾らで売られていると思うか。日本で60 キロ1万6,000 円である。60キロ1俵、海外だと幾らぐらいだと思われるか。』

『(松岡臨時議員)台湾はキロ1,000 円以上で売っている。だから、我々は売りたいのだ。1俵6万円以上というのはざらである。』

『(麻生臨時議員) 実際に100 万トン以上も売られたら、今度は日本で米がなくなる。100 万トンの分だけキロ1,000 円で売らせてもらったら、農業の収益は全く違う。』

エライ景気のいい話をしてるんですが、「日本で米がなくなる」ほどの量を売りに行ったら、需給バランスが狂って価格が物凄い勢いで下がると思うんですが・・・・・・

ま、麻生さんのことですからその辺は判ってて敢えて威勢の良い話をしているのだと思いたいですが、ファンと致しましては少々引っ掛かるものを感じてしまいました。

なお、麻生さんのためにこの発言の後半部分を付け加えると、何となく説得力がありそうに見えます。しかし台湾だったら恐らく日本と似たような米を生産してると思うんで、キロ1000円ってのはブランドプレミアム米特別値付けだとは思うんですけどね。

『(麻生臨時議員) 実際に100 万トン以上も売られたら、今度は日本で米がなくなる。100 万トンの分だけキロ1,000 円で売らせてもらったら、農業の収益は全く違う。私どもは経営者だったから、どうもそちらの方に目が行く。寿司のおかげ、日本食のおかげで、今はナショナルの炊飯器はやたら中国人が買っているのが秋葉原の現実である。そういった現実を見ると、私も農業に関して外務省に来るまでそんなに詳しくなかったが、現実問題としてえらいことになっている。日本食が非常なブームになったと思っているが、これが農家にとってはものすごく大きな収入になる。』

「秋葉原の現実」という部分に微苦笑。


○ここの質疑応答は香ばしいものを感じますが

同じく農業分野のお話。この話の続きで、民間議員の丹羽さん(伊藤忠商事会長)が指摘したことに対して松岡臨時議員(農相)が返してますが。13ページ目から14ページ目のあたり。

『(丹羽議員)でも、コストが高いことは間違いない。アメリカの7倍ぐらいだと思うが、それをできるだけ国際競争に勝てるようにしていくのが日本の農業を強くする道である。』

農業って多分与えられている条件制約が強いと思うんで、丹羽さんが持ち出す「アメリカと比べてどうこう」とか言うのも変な話だと思いますが、これに対する松岡さんの反論は話がどう見ても噛み合ってませんが。

『(松岡臨時議員)日本の米と競争できる世界の米というのは、カリフォルニア米と中国の東北地方の米しかない。長粒種のタイ米はあまり食べない。ベトナム米も。だから、カリフォルニア米は、大体1俵8,000 円〜9,000円の間である。だから、逆に言うと、それが日本に来て競争するとなると、日本米の方がうまいから、日本米と同じ値段なら誰も買わない。そうすると業務用として、カリフォルニア米は1万2,000 円〜1万2,500 円である。それでないと買わない。これはSBS(売買同時入札)というやり方で売る値段と買う値段を決めるが、8,000円以上する。中国のものも、日本に来るものは向こうの国内での値段は1俵8,000円ちょっとしている。だから7倍とかそんなことはない(後半は割愛)』

生産コストの話しをしてるのに実売価格(ってそもそも関税混みでしょ)の話で切り返すのは話合ってないと思うんですが・・・・・それにカリフォルニア米が日本米と競争しようとして何で8000円がいつのまにか1万2000円になるのかが良く判らんのですが。

ちなみに、後半の引用は割愛しましたが、そこもまた読んでて何だかなあというお話でしたので是非ご一読をお勧めしたいです。さっきの「キロ1000円を100万トン」の話なんですけどね。


○えーっと、それは御社のお話でしょうか

肝心の金融政策がらみの話(マクロ経済政策に関する議論)は華麗にスルー致しまして、まあそのマクロ経済政策の中で景気に関する話になったところで甘利議員(経済産業相)がこんなお話を。

『(甘利議員)現在の日本の景気回復は設備投資が牽引していて、消費になかなか点火しないのはどこに原因があるのか。八代議員からは、雇用者所得がなかなか伸びないという指摘があった。(長いので割愛します)いずれにしても、大手企業が過去最高の収益を更新するニュースが流れる中、なかなか雇用者の所得が増えないのは、国民的には若干違和感があるのではないか。設備の更新、株主への還元、内部留保、これらは大事なことだが、企業から家計への所得移転についても、少し思いを馳せていただきたい。増えれば使うのであって、消費が拡大すれば、更にまた景気回復に寄与するのではないか。』

で、これに対して福井議員(日銀総裁)が「企業の置かれている国際競争が厳しく、人件費に対して慎重なスタンスを崩していないのが原因なのではないか(意訳)」という話(の他に別の話をしててそっちの方が長いのですが)をしていましたが、『企業から家計への所得移転についても、少し思いを馳せていただきたい。』という言葉に大手企業の経営者であらされるところの丹羽議員早速反応。

『(丹羽議員)福井議員の言われるとおりだと理解している。ただ、甘利議員の言われた給料について、所得移転は現実に少しずつ起きている。フリーターや、非正社員の時間給が、確実に15%や20%上がっている。新入社員の初任給は、これまた確実に10%以上上昇過程にある。(後半割愛)』

まじっすかあああああああ!!!!!

ちなみに、経団連様が会員企業に対して行った給与本年4月の新入社員の初任給調査というのが公表されておりますのでそちらのURLを置いておきましょう(PDFです)。
http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2006/062.pdf

初任給を10%も上げたら給与テーブルも物凄い勢いで上昇すると思いますよ(初任給だけやたら低いのなら無理かもね^^)。ということは伊藤忠商事ご勤務の皆様来年が楽しみですねえ。ウラヤマシイナー。

なお、最後のまとめ的に安倍議長(当然首相ですな)が発言するのですが、その中で当然ながらこのようなお話をしておられます。

『また、丹羽議員から、だんだん企業の収益が個人に移転され始めており、フリーターや非正規の人たちの給料も15%上がっているという御発言があった。我々はいつも国会で、企業は収益を上げているが格差が広がっているではないかという厳しい指摘をいただいているので、そういう調査結果、指標があれば、是非出していただきたい。』

あたくしも是非拝見させていただきたく存じます。

・・・ということで、経済財政諮問会議での素晴らしい議論はいつもながらネタになりますなあというところでございます。機嫌の宜しい時に読むのが吉かと。


#軽く済ませる積りが引用多くて結構長くなったのでおまけに小ネタ。

○これは酷いBOJウォッチャーですね

と言いましても特定個人のお話ではなくて某金融新聞のお話。

どこぞの金融専門新聞の2面記事というのがツッコミどころ満載で機嫌の良い時に読むと実に結構なものなのですが(笑)、その2面左上にある定例コーナー(書いている人は何人かいるようですが)の「BOJウォッチャー」欄で水曜日の水野審議委員講演について書いております。

内容にもツッコミどころはあるのですが、それは面倒なので華麗にスルーしながら読んでいたのですが、最後の部分で思わず顎が外れそうになりました。曰く、

『そもそも非公開の講演の内容をなぜ今回は明らかにしたのか。債券相場が大きく動いたことを考えれば、今回の講演録公表は日銀が重視する「市場との対話」に課題を残したものといえる。』(11月9日日経金融新聞2面「BOJウォッチャー」欄より)

えーっと、つい半月ほど前に御社の太田編集委員さまが御社のサイトで福井総裁の非公開講演に関して大変に厳しい物言いをしておられまして、非公開での講演でCPIに対する見方について言及したことを『「公平な情報開示」欠如、市場への背信行為 』と仰せでしたが。
http://www.nikkei.co.jp/neteye5/ota/20061019nb9aj000_19.html

書いている人が別だと言っても、幾らなんでもそりゃ酷いんじゃないですかい?





2006/11/09

お題「水野審議委員講演」

この人の講演要旨は毎度毎度やたら長いのが仕様です。
http://www.boj.or.jp/type/press/koen/ko0611b.htm

○景気にはトーンダウン、金融政策は強気の旗降ろさず

全体のトーンに関しての印象はそ〜ゆ〜感じでございまして、今回の講演では事前に「またタカ丸出し発言が出るんじゃないか」と皆さんが懸念しまくったせいで昨日の時点で過剰織り込みしたせいか(苦笑)、債券先物やらユーロ円金利先物は反発の巻と相成りました。

景気に関するトーンダウンに関しては特に個人所得というか賃金の動向を注視したいというお話で、まあ違和感の無いところでございますが、金融政策に関しては少々何でしょうかって感じはする所でございます。景気に関するお話の部分とか見てると水野さん君子豹変したのかなとも思うし、金融政策の所を見てると、ヘッジクローズはサービスフレーズのようにも見えるので強気の旗を注意するのか、うーむ判断に苦しむ。

ということで量も多いので端折り気味ですが読んでみます。


○個人消費に関して

個人消費の前に企業部門のお話もあるのですが、まあ企業部門が好調という話に関しては皆さんコンセンサスだと思いますし、水野さんのお話もそーゆー趣旨ですのでスルー。

個人消費に関しては統計によって温度差があると言う説明をした後にこんな感じでまとめています。

『個人消費について、現時点では増加基調にあるとの判断を変えなければならない確証は得られていません。しかし、個人消費関連統計に表れている温度差については、今後慎重に分析を深めていきたいと思います。』

『先行きの経済情勢のリスク要因は、展望レポートで指摘したことに加え、家計部門への波及が想定よりも遅れることだと考えています。今後、10月の展望レポートで示した経済のメカニズムに変化がないことを確認する上で、特に、(1)雇用者数の増加のみならず、所定内給与が増加して雇用者所得の増加傾向がさらに明確になるかどうか、(2)好調な企業部門から家計部門への波及が順調に進んでいくかどうか、注目していきたいと思います。』

ということで、先行きの経済情勢の下振れリスク追加キター!でございますわな。


○物価に関して

でまあこの名目賃金の話は物価にも影響するわけでして。

『ユニット・レーバー・コストは、生産性と名目賃金の要因に分解できますが、個人的には、名目賃金の動きに注目しています。足許までゼロ近傍で推移している所定内給与がプラスに転じないと、物価上昇率の先行きについて、下振れ懸念が払拭できないと考えています。』

物価下振れ懸念払拭できないキター!

『これまでのところ賃金上昇率が極めて緩やかなものにとどまっていることは、消費者物価指数(除く生鮮食品)(コアCPI)インフレ率の上昇テンポが緩やかなものになる可能性を示唆しています。』

ということで、その名目賃金の先行き見通しに関して両論併記の形で説明しています。一応は「賃金は先行き上昇」という方にウェイトを置いた書き方にはなっています。上昇の方に関しては

『今後、非正規雇用の比率が高いサービス分野などでは労働需給が更にタイト化することによって、賃金が一段と上昇し、サービス価格への転嫁の必要性が強まってくることは十分考えられます。』

となっていまして、上昇してこない方に関しては、

『そのような見方が正しいならば、失業率がさらに低下しても、賃金がなかなか上昇してこない可能性があると考えられます。』

ということで、「十分考えられます」VS「可能性があると考えられます」なので上昇するの勝ちですな(^^)。


○CPIの基準改定に関して苦言を

『消費者物価指数の精度を向上させる努力は大切であり、総務省による今回の基準改定もそうした方向への努力を反映したものとして評価しています。しかし、基準改定でこれほどイメージが変わってしまうと、消費者物価指数のユーザーが「連続した統計としては使いにくい」という印象を持つ可能性があります。このように基準改定毎に大幅な下方修正が生じることは、消費者物価指数の作成方法について改善余地があるのではないか、という疑念を高めてしまう可能性も否定できません。』

『債券市場では、消費者物価指数の基準改定が事前予想を大幅に上回ったことから、物価連動国債が急落するなど、大きな影響が出ました。5年に一度の基準改定でこれほど消費者物価指数のイメージが変わってしまうと、今後物価連動国債の発行増加の足かせになるリスクもあるように思います。』

物価連動国債云々は財務省を意識してるんでしょうな。ちょっと苦笑。


○金融政策に関しては強気ですなあ

さてこの講演は米国経済の話とか国際的なマネーフローがどうしたこうしたとかいう話が出ておりまして、これがやたらと長いのですが華麗に全部スルーしちゃいまして、今後の金融政策運営に関しての部分に参ります。

基本スタンスについて改めて確認をしています。

『先行きの金融政策の運営方針について、(1)コアCPIインフレ率に偏重せず、あらゆる経済・物価指標を注視する「Data Dependence」で行うこと、(2)先を見て早めに政策を微調整するというフォワード・ルッキングな金融政策運営を行うこと、(3)経済・物価情勢が展望レポートの見通しに沿って展開していくと見込まれるのであれば、政策金利水準の調整については、経済・物価情勢の変化に応じて徐々に行うことになること、という基本的な考え方に変化がないことを読み取っていただきたいと思います。』

さようでございますな。ところが後のほうでこんな話をしてるんですが、この意味は判らんですなあ。

『すなわち、年末にかけて個々の指標が弱い数字になったとしても、それが一時的な振れによるものであり、日本銀行の「経済・物価情勢の見通し」が実現する蓋然性は引き続き高いと判断されるのであれば、徐々に金利水準の調整を行うことが適切です。』

一時的な振れなのかどうかってのは後にならないと判らんと思うのですけれども(誰もが認める明白な特殊要因というのはあるかも知れませんけど)、「弱い数字になったとしても」「日銀の見通しが実現する蓋然性が高いと判断するなら」「金利水準の調整を行う」という行為のどこがどう『あらゆる経済・物価指標を注視する「Data Dependence」』なのかと小一時間問い詰めたいとはこのことでございますわな。

#きっと「それはフォワードルッキングです」と言うんでしょうけど


で、まあその前には『今後の金融政策においては、「金利水準の調整をどのように行っていくか」は悩ましい問題です。』という話もしてたりするんでこれまたアレなのですが、金融政策に関するお話を見てると金利調整(要するに利上げ)はやりますよって感じを受けますわな。

『個人的には、4月の展望レポートの中間評価を行った7月時点との比較でみると、企業収益改善や設備投資計画の上方修正を受けて、景気拡大の持続性については自信を深めています。その一方で、(1)今ひとつ冴えない個人消費関連指標、(2)前年比上昇率がゼロ近辺で推移する所定内賃金、はインフレ圧力の高まりを示唆していないと判断しています。また、ゼロ金利解除後、地方銀行は貸出金利引上げに向けて企業に説得することに難航しているように、わが国全体でみると、資金需要は高まっていないこと、都市と地方の経済格差が拡大していること、も理解しています。』

ということで、配慮を滲ませた表現なのか、ヘッジクローズを入れだしたのかという所ですが、その直後にはこんな話もしてたりするんですな。

『一方、経済のグローバル化が主要国の経済・物価に与える影響については、もはや主要国のディスインフレを保証しないとの見解がFRB・コーン副議長やBOE・キング総裁等によって紹介されています。今年前半までの原油価格や国際商品市況の高騰、中国における賃金などコスト上昇分を輸出価格に転嫁する動き等をみると、中国やインドが世界経済に組み込まれることが、主要国の物価安定を保証すると考えるべきでないと思います。』

いつまでもあると思うな物価安定という話をかましている訳ですにゃ。


○妙にあちこち意識してませんかねえ

先ほど物価連動国債の発行増加に対して云々とかいう話が出てましたが、今回の講演要旨を見ると何か特定の人に向けたメッセージみたいなものも見られるのが微苦笑を誘います。

『わが国では金融政策の発動余地を残すために、金利の調整の必要性について議論すると、よく「のりしろ論」といった批判を頂くことがありますが、私が申し上げたいのは、単に「先行き政策金利を下げる余地を作るためだけに、今政策金利を上げる」ということではありません。』

本石町日記さんを意識しているものと思料(笑)。
ちなみにそれじゃあどういう意味なんですかというお話はその直後ですが。

『申し上げたいことは、「フォワード・ルッキングな視点から経済・物価情勢に見合った政策金利水準の調整を適時適切に行っていくことが、結局は先行きのマクロ政策の対応余地を広げることにもつながる」ということです。』

何か判ったような判らんようなお話ですな。


まとめのところでもこんなのがありまして。

『主要国の長期金利については、各国が現実に「金融政策の正常化」を行うと、むしろ低下するといった現象がみられています。これは、各国経済に対する見方の変化ということもあるでしょうが、各国が経済情勢に対応した適切な利上げ措置をとったことにより、インフレ期待が抑制されているという面もあろうかと思います。このことを踏まえても、「長期金利の上昇抑制」といった期待から中央銀行の政策運営を制約することは、長い目でみて決してプラスにはならないと思います。』

山本幸三先生あたりへのメッセージでしょうか?いやまあこの部分も何か少々違和感無きにしも非ずなんですけどスルーしておきましょう。


○これ誰が言ってるんですか?

この部分は「ほうほうそうなんですか。で、誰から言われたの?」と思わず読みながら突っ込んでしまいましたとさ。

『最近、「日本銀行はフォワード・ルッキングな金融政策運営を行うことを宣言したのであるから、経済・物価情勢が全体として概ね見通しに沿って推移しているならば、金利の正常化を粛々と行うべきである」との意見を頂戴することが少なくありません。』

利上げしないと日銀の信認問題になるとかいう本末転倒というか自作自演の強引な理屈に通じるお話だと存じますけど。で、「少なくない」ってホント?

で、この次にキャリートレードの話が出てくるんですが、そういう文章の流れを見ていますと、「もしやと思いますがそのご意見は海外様の(伏字)では?」などとあらぬ妄想を逞しくしてしまうのはあたくしの頭が陰謀論に毒されているからですかそうですか。


『他方、市場参加者からは、インフレ圧力が高まる兆しがみえない中、「金融政策の正常化」を急ぐ必要はないとの声も多く聞かれます。10月の展望レポートでも「景気拡大の長期化にもかかわらず、生産性の上昇が継続し、賃金の上昇が遅れる場合には、物価が上昇しにくい状態が続くことも考えられる」と記述しています。』

という話もしてるんですが、その続きでは思いっきり利上げするって話になっているのがなんともこりゃこりゃ。

『しかし、生産性上昇によって潜在成長率が上昇すれば、「供給面からは、物価の押し下げ要因となる一方、需要面からは、所得見通しの改善や期待収益率の高まりによる支出の増大を通じて物価の押し上げ要因となり得る」ため、(1)潜在成長率が上昇する過程において設備投資に過熱感が出る可能性があること、(2)いわゆる中立的な金利水準が上昇することから、中長期的には、「経済・物価情勢の変化に応じて、徐々に金利水準の調整を行う」ことが適当であるとの判断になります。』

金融政策に関してはこんな感じでして、基本的に「でも利上げするもんね」ってトーンが続くのでありました。で、まあ本石町日記さんの受け売りになりますけれども、あたくしも経済指標がアゲンストな状況で利上げを強行するのは難しいと思うのですが、信認だのリスク要因だのフォワードルッキングだのという話を持ち出して「殿、ご乱心」の懸念は確かにございますわな。

誠に(ご乱心にとって)都合の宜しいことに、昨日の3か月FB入札結果を見ると、こりゃ1月利上げを織り込んでる水準ですなあって感じなのがこれまたアレなところでございますな。

#ご乱心の結果「改易」やら「お取り潰し」にならないよう願います






2006/11/08

お題「この地均しはいかがなものか」

先月の記者会見あたりから福井節が戻ってきた感じがして非常にいやーな予感はしてたのですが、村上ファンド問題逃げ切り濃厚になったらもう福井節復活ですかそうですか。

で、まあ本日は金先あたりの売り方が喜ぶ水野審議委員の講演がございまして、昨日の講演とコンボで地均し大作戦でもやらかすんでしょうかねえ(怒)。

ということで講演要旨はこちら
http://www.boj.or.jp/type/press/koen/ko0611a.htm

○本石町日記さんのところから

既に皆様ご覧になっているかもしれませんが本石町日記さん→http://hongokucho.exblog.jp/6001100/
『フォワードルッキングは「やりたいようにやる」の方便=利上げのための景気過熱論』

で本石町日記さんがご指摘されているように、あたくしめも自分の理屈に引きずられて理論倒錯の利上げをぶちかますリスクが恐ろしいと感じております。

何かね、それこそ「市場が○月利上げを織り込んでいるのに日銀が利上げをしなかったら日銀の信認が問われる」とかいうような無茶苦茶な話をしだす人が出そうですよね。この俺様理論を敷衍していきますと。それに地均しがコンボになるのですからもうハチャメチャとしか言いようが無くなると思うのですが、いかがなもんでしょうか。

でですな、上記エントリーで本石町日記さん(正確にはbank.of.japanさんね)がコメントしているように『景気がその後下降した場合に、日銀が結果責任を負わされるリスクが大であることです。今度失敗すると2度目ですので、下手すると法改正のリスクがあります。』という危惧をあたくしも持っている次第。

昨日おっぱじまった政府税調の話のように、いわゆるダム論の展開にフォローどころかアゲインストになりそうな路線が進みそうな状況の中で利上げをすると景気が下降した時の全責任が日銀逝きとなるのですけど良いんでしょうかと総裁様を問い詰めたくなる次第。



○経済に関する見立ては展望レポートよりも強気のトーン

前半は経済の現状に関して世界経済、日本経済に関して話をしておりますが、その日本景気に関する最後の部分でこんなお話をしております。

『わが国の景気は、生産・所得・支出の好循環が働くもとで、緩やかに拡大しています。外需の動向が強い追い風となってきていることは間違いないと思いますが、日本経済の現状について、単なる「外需の恩恵」によりもたらされたものと評価することは適当でないように思います。』

でもその前でど〜ゆ〜話をしているかというとちょっとねという感が。

好循環とやらの生産に関してはこんな見立てになっています。

『最近の設備投資の積極化は、製造業から非製造業へ、大企業から中小企業へと、より広い範囲でみられるようになってきていますが、現時点での主役は、引き続き製造業です。その背景には、企業が、海外における収益機会の増大を意識しつつ、設備増強による供給体制の強化に努めていることがあります。』

どう見ても外需の恩恵です。本当にありがとうございました。


所得はと言いますと・・・・

『労働需給は引き締まり傾向を続けています。新卒採用の回復もあって、雇用者数は着実に伸びていますが、そうした中にあっても、これまでのところ、賃金の伸びは緩やかなものとなっています。』
『企業と労働者の行動は次第に変化し、所定内給与を含め賃金の上昇圧力は徐々に高まっていくと想定されます。』

好循環はどう見ても先行きへの願望です。本当にありがとうございました。


支出(消費でしょうか)はと言いますと・・・・

『百貨店売上高やスーパー売上高といった指標は、天候が不順であった7月までは弱めの動きとなっていましたが、8月、9月は落ち込みを取り戻しています。家電販売やサービス関連支出などは、引き続き良好に推移しています。』
『恒常的な所得の変化と認識されやすい所定内給与が上昇していくにつれて、耐久財やサービスの支出を中心に、個人消費の持続性はより高まっていくと考えられます。』

好循環はどう見ても先行きへの(以下同文)。


ちなみに、都合のいい所だけ切り出したからこうなっているというのではないかというツッコミが飛んできそうですが、景気の見立てに関する部分を読んでも、外需が引っ張って生産が好調だけど、国内民間需要に景気の牽引役がバトンタッチするというシナリオには至っていないとしか読めないんですけど、どこがどう『生産・所得・支出の好循環』なのかと小一時間問い詰めたいところでございます。


○さて金融政策に関して

経済の上振れ下振れ要因の話はとりあえずパスしまして金融政策運営に関するお話に関して。

日銀の描く経済のシナリオには利上げが必要という理屈。

『こうした見通しは市場や企業が先行きの政策変更を織り込んだ上で意思決定していることを前提としたものですので、経済・物価が今後とも見通しに沿った動きを続けていくためには、政策金利水準の調整を行っていくことが必要となってくると考えられます。』

市場金利(そもそもその市場金利がスペキュレーション玉が入りまくってやたらぶれまくる上に、清算金利がTIBOR3か月という今やバーチャルマーケットでありますユーロ円金先市場を参考にしているらしい時点で変じゃないかという話は昔書きましたが)で示される先行きの政策変更を前提にしてシナリオを書くのであれば、逆に市場の金利がぶれた場合はシナリオを書き換えないといけないと思うんですが、その割には「市場の短期的な見方と日銀の見方は違う」とかいう話をしたり(先日の総裁記者会見)する訳でして、まあ屁理屈はいくらでもつけられると思いますけれども、どう見てもてめえの都合の良いときだけ「市場」を錦の御旗にしているとしか思えませんなあ。

大体からして、もし上記の理屈を出すんだったらBOEみたいに先行きの政策金利不変の場合の先行きシナリオも示せと申し上げたいのですけれども(それは上振れリスクで言及してると言い返してきそうですが)。

これだとアラン・ブラインダーFRB元副議長が指摘する中央銀行の「自分の尾を追う犬」化そのものじゃねえのかと思いますがね。


また自画自賛の市場との対話ってお話を最後の最後でしています。

『「新たな金融政策運営の枠組み」においては、日本銀行の金融経済情勢に関する判断や金融政策運営に関する基本的な考え方について、丁寧に対外説明していくことが、非常に重要です。』

経済を語るのは結構ですが、金利の上げ下げについて語る必要があるんでしょうか。

『7月に、5年以上の長きに及んだゼロ金利を解除した際にも、金融市場は安定して推移しました。この点は、海外の中央銀行や国際機関からも高い評価を得ているところですが、情報発信を通じて日本銀行のメッセージが市場参加者に浸透し、「新たな金融政策運営の枠組み」が市場との対話において有効に機能していた証左だと思います。』

例えば新発3か月ものFBの平均落札利回りは7月12日の0.404%(財務省方式だと0.3998%)が一番高くてそこから金利下がってますし、(ちなみに現実に足元金利が上昇して追加利上げがどうのこうのという話になっている先週や先々週よりも利回りは高い!)2年カレント国債の引け利回りは7月6日、10日の0.900%が一番高くなっております。利上げを行ったのは言うまでもなくその後でございますから、この事が何を意味するのかと言いますと、地均し路線によって利上げ効果を余計に織り込ませておいてから実際の利上げを行ったということではないかと。『金融市場は安定して推移した』とは片腹痛い。

言うなれば無茶苦茶に償却とか除却とかしまくっておいて大赤字を先行して出しておいてから後から関連会社の含み益などを持ち出して「V字回復」とかいうようなもんでして(別に具体的な事例を意識している訳ではありませんので念の為^^)、地均しで市場に織り込ませる段階で金融市場が荒れたんですから、利上げ後に安定して推移したとかいうのは単なるペテンでしかありませんですな。

『新たな枠組みのもとで、しっかりと情報発信を行っていくことは、市場とのコミュニケーションの活性化ということにとどまらず、金融政策の有効性を十二分に引き出していくことからも、重要であると考えています。』

はいはい自画自賛自画自賛。


○このベンダーのヘッドラインの打ち方はいかがなものか

手元にロイターが無いので人から聞いた話ベースで恐縮ですが、昨日の債券先物市場ではロイター日本語版の打ったヘッドラインのうち、

「短期金利は経済・物価の水準から見て極めて低い水準」

というの(聞いた話をメモ書きしたので正確性は保証致しかねます)に一番派手に反応したらしいですな。で、その部分なんですが、講演要旨の中を見ますと経済の上振れ・下振れ要因の中で言及している部分に確かにございました。

『景気の緩やかな拡大が続く中で、金融環境は極めて緩和的な状態が続いてきています。短期金利は、経済や物価との関係からみて、極めて低い水準で推移しています。また、為替レートは、円安基調で推移しており、(中略)ます。そのように極めて緩和的な金融環境のもとで、企業が、(中略)投資を一段と積極化する場合には、成長率が一時的に大きく上振れる反面、その後は(中略)反動が生じ、調整を余儀なくされる可能性があります。』

・・・と全部を読むと(長いので趣旨を損なわないように割愛してます)これって展望レポートと同じ話をしてるだけなんですが、あえて上記の部分だけ切り取ると、あたかも特定水準に対して言及したように見えてしまうのが文章切り取りマジック。ちなみにブルームバーグニュースでは当然のことながらこの部分だけ切り取ってヘッドラインを打つなどという下品な事は行っておりません。

総裁の記者会見におけるヘッドラインの打ち方もそうなんですが、 どうもロイターは発言とか講演とかを作為的にセンセーショナルに見えるように切り取ってヘッドラインを打つ傾向にあるのではないかと思う次第でして、営業政策なんだか存じませんが、下品な行為はほどほどにして頂きたく存じますわな。

#アドリブ発言に関しても書きたかったんですが時間の都合上この辺で





2006/11/07

お題「雑談にてご勘弁」

ちと体調がアレで、またも風邪薬のソムリエになっておりますので雑談にて勘弁されたし。

○2年とかよー動きますな

昨日は米国雇用統計攻撃で2年債いきなり4毛甘オファーからスタートの巻。4.5毛甘とかまでやらかしていたらしいのですが、引けは4毛甘の0.780%でございました。

先月19日に0.8%までやらかして月末には0,725%になったと思ったら2日たったら0.780%とは金融政策の変更ネタが相場のテーマだから仕方ない面はあるにせよ実に香ばしい展開でございますわな。ユーロ円金利先物と2年の動きっぷりと言ったら見ててこりゃまたすげえっていう日々が続いております。

ではもうちょっと短い所はどうなのよと言うと、本日入札が行われる予定の6か月TBのWIの引け(日本相互証券)が0.490%。実際問題としてWIが実勢水準かというと毎度毎度WIの値付けが妙に甘い傾向がありますので、実質5か月もののTB410回の引けを見ると0.450%ですか。まあ向こう6ヶ月の間に1回くらいは利上げをするでしょう(というかそのくらいの経済状況になって欲しいという願望もございますけど、爆)という前提で考えますと、まあ0.45%〜0.50%の間(かつ0.5%に近い所)で入札をやってくださればまあ持ち切りの人も何とか買えない事もございませんなあ位かなとは。何せ5月償還ですから。

ところで、実質11か月ものの1年TBカレント物の引けが0.565%となっておりますが、これを例によってチョーざっくりと計算すると5か月先の6か月もの金利が0.66%という話になりますんで、この値段の付きかたからすると「向こう半年の間に1回利上げあるんじゃねえか」という水準ではございますが、「2回目の利上げが向こう1年の間に出来るかという話になると結構後寄せになるんでしょうなあ」っていうのが1年以内を対象にしてる人たちのトータルとしての見方って事になるんでしょうかね。

ユーロ円金先を見たり、OISを見たりするのも結構でございますけれども、参加者の幅が広く(持ち切りが前提の投資家は金先もOISも参加しませんですから)ニーズが一方通行になりにくい現物債券の価格形成も何卒ご参考にしていただきたく存じます。>市場をモニターしてるエライ皆様


○当たらない10年入札展望

いやまあ展望もへったくれも無いのですが、昨日はいきなり寄りで下にぶっ飛んでしまったので事前ヘッジがしにくい入札になっちゃいましたなってのはあるのですが、ちゃんとヲチしている人から聞いたら朝方は10年を頑張って叩いている感じだったのが引けに掛けては先物対比10年しっかりしてきたという事ですんで、まあ途中で買いもあったんでしょうか。

20年は朝方先物対比で確りしてたそうなんですが、途中から失速したようでして誠に遺憾。対顧やってて20年ロングのヘッジで10年売ってると、入札で10年のショートが埋まってしまう事を勘案すると、20年強い所(かつそんなに買いがないなら)は叩きたくなるんでしょう、と勝手に人々の懐具合を妄想しておりますけれども、まー長期とか超長期とかは相場水準が上っちゃうと買いの手が止まりますなあという所でしょうか。

#その点2年とか5年は実に威勢良く動きますな。

そんな次第で、別にコストの良いショートが大量に出来ているとも思えません(雇用統計前で3連休なのに気合入れてショートしてたらその根性は感心)が、昨日の時点でもちったあ買いがあったようですので、まあそれなりにヘッジは出来てるとは存じますし、この調子だと今日上昇しなければ1.8%クーポンになってくれそうですので、新発自体はそんなに変な入札にはならないかと勝手に妄想。既発の#282が何か相変わらずオファーサイドの値付けになっているので、こっちはどうもパッとし無さそうですが。

#と予想を書くと外れるのがドラめもんクオリティですので(爆)


○一つ一つはご尤もでも・・・・

あたくしがこれを書いている時間には日経新聞のWebには載ってなかったようですが、時期政府税調会長予定の本間センセイが日経新聞のインタビューで証券税制軽減延長に否定的なお話をして、金融商品一体課税の構想を提唱しているそうで(ソースはモーサテ^^)。

モーサテに出演してたゲスト解説の人も言ってましたが、そりゃまあ金融商品一体課税は構想として美しいですけれども、配当2重課税の問題とか他に処理することあるだろうし、美しい構想言うだけなら誰でも出来ます罠ってのには激しく同意。

一方で昨日も国会では減価償却制度の見直しの話が出てましたが、これまた話としては結構なのかも知れませんけど、法人税実効税率引下げ(これも活性化という意味では別に間違った話ではないと思う)と言い、法人課税の負担軽減の話が出てる中で証券税制の軽減は延長ですかそうですかって考えると何だかな〜感を強くするのでありました。企業部門の好調さの家計部門への波及が遅れているという経済状況があるということになっているのに企業部門の税負担を軽減する方向ってのが根本的に変ではないかと思うのですが。

何と申しますか、一つ一つの話はご尤もなんですが、トータルしてみると話が変じゃねえのってのは別に今に始まった事ではなくて、ミクロ介入の権化状態になっていた(今でもそうだとは思うけどね)金融庁の「一つ一つの言ってる事は正しいけど、全部トータルすると広げた風呂敷の左と右で違うことをやっている」(=色々あるけど、「リレーションシップバンキングをやれ」と言いながら「融資でスコアリングモデルを使うことを推奨」するなんてのが典型的な矛盾ですな)政策が今政権になって更にスケールアップされているのでは無いかという風に思う次第。誠にガクガクブルブル(風邪のせいではない)でございまする。

経済政策だけではなく、どうもシロート目に思うに看板政策らしい教育に関しても何か「一つ一つはご尤もですが・・・」になってるんジャマイカという気が少々するのですが、まあとりあえずその話はいずれ。




2006/11/06

お題「総裁記者会見続き」

休みが3日もあると調子が狂いますな。

○総裁記者会見補足

だいたい先週木曜にご紹介したあたりが金融政策絡みになる景気への見立て&基本的な金融政策スタンスに当たるかと存じますが、その余の部分を少々補足をば。

・ニュアンスの差ですかそうですか

冒頭の展望レポートなどの総裁からの解説部分にこんなんが。

『今回の展望レポートでは、4月時点の見通しと比べて、日本経済はこれまでのところ企業部門は幾分強め、家計部門は幾分弱めとなっており――ほとんどニュアンスの差ですが――、全体として概ね見通しに沿って推移しているということが改めて確認されました。』

ニュアンスの差ってどころじゃない状況と思うんですが・・・

まーアレですな。木曜にご紹介しましたし、展望レポートでもありますように、『低金利が経済・物価情勢と離れて長く継続するという期待が定着するような場合』(展望レポートより)というのをリスクで見ているので、白旗モードになる訳にも行きませんよって事だとは思うのですが(と一応好意的解釈をしていますが、リアルで大したことないぜベイベーと思っているのかも知れませんなorz)。


・リスク要因が妙にフレームアップされますが

『リスク要因は第2の柱と言っていますが、大事なことは第1の柱、つまり標準的なシナリオ――望ましいシナリオとして出しておりますが――、これがシナリオ通り推移するかどうかということが、私どもが見定める視点の最も重要なポイントです。そして第1の柱がいかに振れないかという時に、第2のリスク・ファクターが判断の基準になります。』

リスク要因の上振れ、下振れのどっちを重要視してるかという質問に対する答えの一部です。前後の流れを読んでも実はどっちに解釈していいのか判断難しいんですが。と申しますのは、「今は第1の柱がちゃんとシナリオ通りに推移しているのかを見極めないといけない」(=今は見極めの時期って感じですか)と言ってるのか、「第1の柱はシナリオ通りなので第2の柱のリスク要因を見極めないといけない」(=リスク要因次第では早速利上げですよって感じですか)と言っているのかがど〜も解釈致しかねる次第で。

展望レポートでのトーンダウン(とあたしゃ思うのですが、「この内容だといつでも利上げがあってもおかしくない」という解釈をするレポートもあるんですな、一応ご参考までに)から前傾姿勢解除っぽい雰囲気を感じているあたくしとしては、この発言自体はあたくし前者だと解釈するのですが、よくよく考えると後者の解釈も可能ですんで。


・「かったるい」のは景気拡大ペースかそれとも・・・

賃金動向を注視してますかって質問に対して物価について絡めて詳しく回答している部分がございます(総裁記者会見の9ページ目から10ページ目に掛けて)が、その最後の部分でちとオモロイ発言がありました。

『従って、生産性はできるだけ高く上がった方が良いのですが、その範囲内で賃金の上昇がモデレートに(緩やかに)進むということ、物価上昇もモデレートで景気も長持ちし、私どもも何時までも「ゆっくり」という言葉を使える、これが一番望ましいシナリオです。少しかったるいのですが、望ましいシナリオというのはそういうものです。』

望ましいシナリオは「少しかったるい」だそうですが、「ゆっくり」とした金利調整が「少しかったるい」のかも知れませんな(苦笑)。


・村上ファンド資金拠出問題は逃げ切りですかそうですか

いわゆる村上ファンドに関しては最後の質問にございましたが。

『村上ファンドの件は、前に寄付をしたということを一度報告させていただきました。10 月半ばにもう一度追加的な払い戻しがあり、それも寄付をいたしました。まだ全部終わっていないということであります。』

国会で質問されて答えるのが報告って言うんですかと思うのですけれども、まあ総裁からの報告という形式じゃなくて国会で質問された時に答えたという形式にすると質問した委員もニュースで取り上げられて一粒で2度美味しいとかいう打ち合わせでもしてたのかもしれませんから(と思いっきり妄想陰謀論丸出しですが)あまりそこに執着するのも止めときましょ。

野党が追及するようですけれども、何か見ると追及ポイントが外れている感じですんで、まあこりゃ逃げ切りなんでしょうな。

ところで当初は金融政策に関係ないとして総裁の進退に言及してなかったのに、問題が大きくなったら急に総裁辞任すべき論を自身のメルマガでぶちあげたのに、何故かご自身のサイトにはそれを掲載しないという不思議な行動をしてた人がいましたが、ご感想は如何なもんかと小一時間。


以下雑談系

○国会で日銀半期報告

先週木曜は参議院財政金融委員会で日銀半期報告がございまして、半期報告だけに皆さん勢揃いで出席して午前午後とやっていたようです。会議録が出るのは例によって最低1週間はかかるので後日またチェックしようかと思います。

ブルームバーグニュースが本件について11日16時12分に記事を配信していまして、答弁内容を拝見したのですが、基本的には展望レポートや総裁記者会見と同じ話をしているように見えました。なお、記事では触れられていませんが、別の切り口からの質問が民主党の大久保委員からあったようですな。本石町日記さんのところで知ったんですが(惜しくも内容が判らんが、空振りだったようです)。


○あたくしの探し方が悪いのかもしれませんが

日曜に過去の駄文整理帳(サイトともいう)の更新をしててふと思い立って日銀のウェブサイトにある日銀政策委員のプロフィールへのリンクを修正しようとしたら驚愕の事実が。

・・・って別に大した話じゃないんですけど(笑)、中原眞審議委員のプロフィールまでは日銀のサイトにあるのですが、リニューアル前にあった植田前審議委員と田谷前審議委員のリンクが切れてて、ログが残っていない(そりゃまあGoogleのキャッシュとか見れば残ってるでしょうがそれは別問題)んですなこれがまた。

いやあたくしの探し方が悪いだけなのかも知れないですけれども、一応考えられるファイル名を打ち込んだりしてトライしたんですが、どうもサイトをリニューアルした時に、その時点までに退任していた過去の審議委員(副総裁の確認はしてない)のプロフィールはリニューアル対象から外れたようですな。

まあ確かに分量が増えすぎたらスリム化ってのも必要なのかもしれませんが、ちょっと残念に思うのでした。それから、以前も悪態つきましたが、サイトリニューアルに伴い過去の政策委員講演やら会見要旨などのアドレスが全部変わってしまい、過去のアドレスから飛ぼうとすると「ページを表示することができませんでした」になっちゃうんですよね。リニューアルでサイトの階層が複雑になったし、どうも未だに使いにくくなった印象が強いです。

元に戻せとは言いませんが、何かサイトデザインした人が色々考えたんだろうなってのは判るけど、企画倒れ(失礼)の感が拭えないのでした。






2006/11/02

お題「総裁記者会見」

http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken/kk0611a.pdf

○会見内容の前にあたくしの見立てでも

昨日展望レポートをご紹介したときに申し上げましたが、ここもとの経済指標を受けて「現状の金利水準が長期化するという見方が固定化するのはイクナイ!」というニュアンスが一貫しているように見えました。ということで、あたくしの見立てとしては(1)10−12がマイナス成長とかになったら(追記:よく考えたら3QのGDP出るのはずっと先ですね)話にならないので年度内利上げはかなり難しい、(2)先月末に出た経済指標の水準だと、さすがに目先の利上げは難しく、(3)年末に掛けての経済指標がそれなりにちゃんと好転して短観が横ばい圏以上だったら「日銀の標準シナリオに則った金利水準の調整」って話で1−3に利上げできるかなあ、くらいに考えております。

リスク要因としては昨日も申し上げましたが、外部から妙な茶々が入ることでして、変に「利上げしたい日銀」VS「利上げ許さんという政府与党」などという対立をフレームアップされちゃうと、中央銀行の独立性を守るとか変な方向に話が進んで、無理気味な利上げをしないと「政治圧力に屈した」となるような状況に追い込まれるなんて最悪の事態は一応妄想しているあたくしなのでした。

それではまあそんな妄想はさておいて会見から。


○最近の経済指標について

最近の経済指標についてどう考えるかという質問に対して2ページ半ほどの量の回答がございまして、まあこの辺が景気に関する見立てとしてのポイントかと存じます。会見要旨の6ページ目から8ページ目あたりです。

『短期的には、米国経済の特に住宅市場を中心とする調整が現実に始まり、少なくとも住宅市場については事前の予想よりも早く調整が進んでいるということをどう理解するか、あるいは国内的にも、最近の消費者物価指数、生産、あるいは家計調査の指標は、少し弱めの数字が出ているのではないか、これらのことが私どもがより短期的に経済・物価の動きをみるときの判断に強い影響を及ぼすものであるかどうか、この面からも十分な点検が必要です。』

十分な点検が必要ということで、まあ余裕を持って対応の感じが出ているとは思うのですが、何で金先は火曜日の引け後に下がった所から戻らんのかなあ。まあ色々見立てはあるだろうけれども・・・・


『米国経済については、先程のご質問に対して答えたことにほぼ尽きています。GDP統計が低く出ましたけれど、今のところ米国経済のソフト・ランディング・シナリオの枠内で動いており、このシナリオが全うされる可能性がまだ相当程度残っているということであります。』

先ほどの質問の引用は割愛しますが、住宅投資の落ち込みについて事前想定よりも厳しいという認識をして、今のところは軟着陸シナリオとしながらも、『現実の軟着陸のシナリオを、これから歩きながら描き直さなければならない部分が残るかもしれないと思います。』としておりまして、割と慎重。

そのため「このシナリオが全うされる可能性がまだ相当程度残っている」という必ずしも先行き楽観じゃない表現になっていると存じます。


国内に関しては、直近の指標についてコメントしてます。

『9月の消費者物価指数の数字が+0.3%から+0.2%に0.1%ポイント下がりましたが、石油製品や帰属家賃の寄与度が下がったということであります。しかし、東京の指数がひと月先取りしながら出ています。東京の10 月の計数などから類推しますと、物価のトレンドに変化が生じたというようには見ていないということです。』

ということで物価についてはまあフツーのコメントかと。生産に関してのコメントは長いのですが、電子部品に関する部分を付け加えたのが注目される所かと。

『あえてひとつ付け加えれば、9月の計数の中で特に電子部品・デバイスの在庫が若干跳ね上がっています。経済全体としては出荷と在庫のバランスは比較的良くとれたまま推移していますが、電子部品・デバイスに限定してみれば、9月は出荷と在庫のバランスが若干崩れ、在庫が跳ね上がったという印象を持っています。これは一体どういうことが背景にあるかということはもう少し詳しく突きとめたいと思っています。』

『特殊要因であれば特殊要因として理解すればよいのですが、いわゆるITの循環的調整サイクルみたいなものがこの中に潜んでいるとすれば、景気判断の中で重要なファクターとしてとり入れていかなくてはなりません。』

IT関連の調整サイクルという話は、金融経済月報などでもリスクシナリオとして時々登場するものですんで、本件に関しては見極めをしたいということなのかと思いますが。

家計調査に関しては率直に判断に迷うとコメントしてますな。

『本日公表された家計調査については、世帯の支出額の前年比が−6%と、率直に言って、私どもにとって若干パズリングな(判断に迷う)難しい数字が出たと思います。公表されたばかりで内容をよく分析できておりません。今後、きちんと分析したいと思っております。』

『ただし私どもは、これまでの色々なデータを全部総合してみると、個人消費がそんなに弱いとは思っていませんし、逆にそんなに強いとも思っていません。(中間割愛)本日公表の家計調査の数字がそうした私どもの判断を根本的に塗り替えるものであるとは今のところ思っておりませんが、よく分析したいと思っています。』

と基本判断は変えないで済むとは思いますがとなっていますが。

最後のまとめのところではこうなっておりますので、まあ白旗モードではございませんですよって言いたいんでしょうな。

『そうしてみますと、物価、個人消費、鉱工業生産、米国経済をはじめ、短期的にみても私どもの情勢判断を今のところ大きく塗り替えなくてはならないような要素は出てきていないと考えています。』



○でもまあ「政策金利の調整」スタンスは不変でありますので

こんな質問がありました。

『(問)上振れリスク、下振れリスクともに等しいという趣旨のご発言がありました。リスク・バランスがとれているとすれば、今後政策変更で追加の利上げを検討する際には、例えば上振れリスクが少しでも強まった時に政策変更を具体的に検討するのか、それともリスクが均衡している状態とは切り離して金利水準を調整することがあり得るのかについて、お考えをお聞きしたいと思います。』

回答はこのようになっています。

『(答) リスクの均衡が崩れ始めるということは、私どもが第1の柱でお示ししている標準的なシナリオが狂う可能性が出てくるということですので、その場合には、先々の金融政策の運営方針についてより深い検討を重ねていく必要があります。』

ここまでは当たり前の話。次の部分は展望レポートの第2の柱にリスク要因として挙げられていた「経済実態を反映しない低金利が長期化するという認識が発生する」という点を考慮に入れればこういう話が出てくるのは当たり前だけどこれもポイントですな。

『それでは、両サイドのリスクがずっとバランスのとれたまま推移すれば金利の変更の必要性がないのかというと、そうではなく、やはりあります。なぜならば、私どもの標準的なシナリオは、物価安定のもとで息の長い景気回復が続くとしていますが、政策金利がある程度上昇するということを前提としたシナリオだからです。政策金利のある程度の上昇については、市場関係者も程度の差こそあれ、それを市場金利で表現しており、その中で先行きの経済を見極めようとしています。』

『従って、望ましいシナリオ通り、つまり展望レポートの第1の柱でお示ししたシナリオ通りに経済が推移する場合に、ゆっくりと金利水準の調整を行っていくことは整合的です。むしろ調整をしないと、政策的に不突合な部分を生じさせることになると思って頂きたいと思います。そういう意味では非常に長い時間をかけてゆっくりと、と今まで申し上げてきた政策スタンスの基本的な考え方は変わっていないということです。』

ということですんで、まあ今後は「日銀の描いている標準的シナリオ」がその通りに進んでいるのかってのを経済指標見ながら判断していく作業が大事じゃないかと思うのでした。その点検のポイントがどこかという話は本職の方が詳しいと思うのですが(と、肝心な所で逃げを打つあたくし)。








2006/11/01

お題「展望レポート、どちらかと言うとトーンダウンじゃないのかと」

ネタはいつでもまとめて来ます、ということで他にもお話あるのですけれども、とりあえずは展望レポートをメインで、総裁記者会見はとりあえず現時点で手元にある資料などから(続編は会見要旨が出てから)ということで。

まずは展望レポートです。

今回分→http://www.boj.or.jp/type/release/teiki/tenbo/gor0610.htm
4月分→http://www.boj.or.jp/type/release/teiki/tenbo/gor0604.htm

○長くなりそうなので先にまとめてみます

まず全体的な印象ですが、利上げに対する前傾姿勢が今回の展望レポートからは感じられません。4月の展望レポートでは物凄い勢いと言うか意気込みを感じたのですが、今回に関してはヘッジクローズ入りで、まあ一応強気姿勢は継続しておきましょうって感じがします。

ちと話が脱線しますが、総裁記者会見の内容が「利上げに積極姿勢」と取られて引け後に中短期ゾーンやら金先やらがヘロヘロになっておりましたが、こちらも記事(あたくしの出典はブルームバーグ)をよく見てみると両論併記でニュートラルって感じ。ただまあ相変わらずヘッドラインで誤解してみたり、日本語ではニュアンス伝わるけど英語ニュースになるといきなり強烈なタカ発言をしているように見えたりという事も相まってあーゆー相場付きになったんでしょうかね。まあ海外ファンドの皆様方がせっせと東京市場で損こいてお金を落としていただくのは大歓迎でございますが(またそれか)。

ということで、引け後の反応はちと過剰反応というかミスリードに引っ掛かってるように思えます。前回の展望レポートではもう直ぐにでも利上げしそうな論法でしたが、今回は「まあ様子見ながらチャンスを待ちますか」というような雰囲気を感じます。ただまあ「もう利上げは無理ぽです」という白旗降参モードではなく、「機会があれば現在の緩和的な金利水準の調整、要するに利上げを行いますよ」という旗は降ろしませんよという所でしょうか。あんまり利上げに対して前のめりな印象は受けませんでした。

#現状の水準が本当に緩和的なのかというツッコミはここでは措く


では個別にどの辺がどうなのかというのを前回と比較してみたりしながら申し上げたいと存じます。


○いわゆるダム論の実現蓋然性に関して

『前回(2006年4月)の「経済・物価情勢の展望」(展望レポート)で示した「経済・物価情勢の見通し」と比べると、これまでのところ、企業部門は幾分強め、家計部門は幾分弱めとなっているが、全体として概ね見通しに沿って推移している。』

というのが冒頭にございして、先行きに関しては・・・

『先行き2006年度後半から2007年度を展望しても、内需と外需がともに増加し、企業部門から家計部門への波及が進むもとで、息の長い拡大を続けると予想される。』

というのがメインシナリオでございます。まあいわゆるダム論って奴ですが、さてその前提条件として企業部門から家計部門への波及はどうなのよという見込みは、直後にある前提の第3部分に書かれています。曰く、

『第3に、雇用者所得や配当の増加などを通じて、好調な企業部門から家計部門への波及が進んでいくとみられる。雇用者数は着実な増加を続けるとみられる。賃金の上昇は、これまでのところ、企業の根強い人件費抑制姿勢などから緩やかであるが、労働市場の需給が着実に引き締まってきていることを踏まえると、いずれは上昇が明確になる可能性が高い。こうしたもとで、個人消費は、着実な増加を続けるとみられる。』(これが今回の展望レポート)

前回の展望レポートでこの部分どう書いてあったかと申しますと、

『第3に、企業部門から家計部門への波及がより明確になってくるとみられる。企業部門の好調の影響は、雇用や賃金の増加に加え、配当の増加や株価の上昇を通じて、家計部門にも波及している。そうしたもとで、個人消費は、着実な増加を続けると予想される。住宅投資も、都心部などで地価が上昇に転じる中で、金利の底値感が台頭していることもあって、緩やかな増加基調を辿る可能性が高い。この結果、家計支出は、国内民間需要の主たる牽引役になっていくとともに、その堅調が企業部門にフィードバックして、前向きの循環メカニズムが維持されていくと考えられる。』(これは4月の展望レポート)

ざっと見て前回のほうがトーンが強いという事が窺えるかと存じます。まあ書き方がくど・・・じゃなくて丁寧なのは前回までの仕様(本石町日記さんの見立てでは白川方明前理事の影響だそうです)ですのでそこの所は措くとしましても・・・・

個人消費の見通しに関して「着実な増加を続けると予想される」が「見られる」と微妙に表現を変えてみたり(「予想される」の方が意思入ってるでしょ)、「家計支出は国内民間需要の主たる牽引役」だの「前向きの循環メカニズムが維持」だのというような威勢の良い部分がさっくりと無くなっておりますわな。トーンダウントーンダウン。

で、肝心の賃金に関しても、前回はもう賃金が上昇するのは確定事項のような勢いだったんですが、今回は「いずれは」上昇が明確になる「可能性が高い」と何気にヘッジクローズ入り。まあ確かに4月のシナリオ通りに景気の牽引役が家計にバトンタッチされているかと言えば、誠に心許ないものがございますので、このトーンダウンも当然とは存じますが。


○しらっと入るヘッジクローズ

今回何気にヘッジクローズが散りばめられている印象が。

・海外経済の前提に関して

『米国経済は足もと減速しているが』


・設備投資の前提に関して

『もっとも、企業が投資採算を厳しく見定める姿勢を堅持している点を踏まえると、』
(前回レポートでは『グローバルな競争環境も意識した上で、基本的には、慎重な姿勢を続けてきており、』でして、書き方のトーンがちと後退してる印象)


・先行きのリスク要因でIT関連の在庫調整に言及

『海外経済が予想外に減速した場合などには、供給拡大のペースが速いIT関連財などで在庫調整が発生する可能性もある。』
この点に関しては、記者会見でも触れられていました。


○上振れ要因やリスク要因

経済見通しの上振れ、下振れ要因に関して今回も列強しているのですが、まずは順番逆になりますが今回「第2」の要因として示しているものについて。

『第2に、企業の投資行動の一段の積極化である。(中略)もっとも、極めて緩和的な金融環境のもとで、企業が、期待成長率や資金調達コスト・為替相場見通しなど、採算に関する楽観的な想定に基づいて投資を一段と積極化する場合には、成長率が一時的に大きく上振れる反面、その後は資本ストックの過剰な積み上がりの反動が生じ、調整を余儀なくされる可能性がある。』

前回レポートではこれが第3だった(第2は在庫調整)のですが、リスク要因として指摘しているロジックは同じように「投資行動が積極化しすぎると反動のリスクあり」という話です。

でも、先ほど引用した設備投資に関する指摘で「企業の設備投資に対する姿勢は採算に厳しいスタンス堅持」という認識を示し、4月時点よりもちと厳しい目に見ているのではないか(ここはあたくしの読んだ印象なので必ずしも正しいか判らん)という点からすると、この上振れ要因はちと苦しくなってるのかなって思うのでした。


また、金融政策運営の第2の柱として指摘している『より長期的な視点を踏まえつつ、確率は高くなくても発生した場合に生じるコストも意識しながら、金融政策運営という観点から重視すべきリスク』に今回も挙げている「金融政策の刺激効果が強くなりすぎるリスク」ですが。

『仮に低金利が経済・物価情勢と離れて長く継続するという期待が定着するような場合には、金融行動・投資活動などを通じて、中長期的にみて、経済活動の振幅が大きくなり、ひいては物価上昇率も大きく変動するリスクは意識する必要がある。』

前回はこの部分こうなってました。

『現在、需給ギャップの水準がゼロ近傍にあることから、中長期的にみると、経済活動の振幅が大きくなり、ひいては物価上昇率も大きく変動するリスクは意識する必要がある。』(これは4月の展望レポート)

前回の言い切り体(とでも言うのか)から比較してトーンダウンしてますなってのに気が付くとは思います(政策金利水準が違うのだからトーンダウンしててもおかしくはないとも言える)が、もう一つ注目されるのは今回指摘している『低金利が経済・物価情勢と離れて長く継続するという期待が定着』という条件でして、あくまでもフォワードルッキングの旗は降ろしませんって言ってる訳ですなこりゃ。フォワードルッキングを止めてビハインド・ザ・カーブになるとリスクがありますよと言ってるわけですからね。

ということで、最初に申し上げましたが「もう利上げはダメポ」というのは見せないでチャンス待ちという所でしょう。先月末にかけて出た指標が悉く弱めに出てきているのを見ると、目先は大人しくするしか無さそうですけれども。特に海外系が懸念する逆噴射利上げはやらないのではないかと思うのですが、あたくしちょっと懸念してるのは変に政治的な圧力が掛かる可能性でして、反動で日銀の独立性を誇示するために逆噴射が起きねえかと。裏読みしすぎかな?


○なおも上振れ下振れ要因など

・地価動向への言及が増えてますが・・・・

『大都市を中心に地価の上昇地点が広範化してきていることなど、資産価格の動きも、民間需要を押し上げる方向に作用することが考えられる。』

4月はどう書いていたかというとこんな感じ。
『最近における地価、株価等の資産価格の動きも民間需要を押し上げる方向に作用している。』(これは4月の展望レポート)

株価へのコメントが外れたのはまあ当然として、地価上昇に関してこのようにちと詳しくなっているのは資産バブル懸念をしているようにも読めますが、実は今回の展望レポートでは『中小企業設備投資や住宅投資の増加』という点への言及が外れておりまして(ここは先行きのシナリオ部分で言及してたんですが)、さてどうなんでしょうって感じですね。


・需給ギャップと物価に関して

『第1に、需給ギャップに対する物価の感応度に不確実性がある。需給ギャップの需要超過幅が緩やかに拡大していけば、インフレ予想の上昇とも相まって、賃金や物価に上振れ圧力が加わる可能性がある。一方、景気拡大の長期化にもかかわらず、生産性の上昇が継続し、賃金の上昇が遅れる場合には、物価が上昇しにくい状態が続くことも考えられる。』

前回はどう書いているかと申しますと、ちと長いのですが引用。

『第1に、需給ギャップのプラス転化(需要超過)の影響である。需給ギャップに対する消費者物価上昇率の感応度の低下傾向はわが国だけでなく、世界的にも観察されており、(以下背景説明部分割愛)もっとも、需給ギャップがゼロ近傍から徐々に需要超過に転化すると予想される中では、いずれかの時点で、予想インフレ率の切り上がりを伴いつつ、賃金・物価上昇率が上振れする可能性もある。』
(これは4月の展望レポート)

どう見てもトーンダウンです。本当にありがとうございました。


・潜在成長率に関して

これは前回から上方修正しております。

『わが国の潜在成長率は近年上昇しているとみられる。』(今回)

『わが国の潜在成長率は、様々な構造調整を経て、足もと上昇方向にあると考えられるが、その変化をリアルタイムで認識することは難しいだけに、この面からも不確実性が存在する。 』(4月)


#という訳でここまでで結構な量になってしまいましたな。

総裁記者会見に関してはブルームバーグニュースの31日19時51分配信の記事から(展望レポートが多くなったので)簡単に。


○また発言に反応しちゃいましたな

昨日は中短期債が強くて長期ゾーンパッとしないという展開だったのですが、引け後は総裁会見を受けて金先や債先下がって、2年だの5年だのも2.5毛〜3毛甘くらいになってたらしいですな。その一方で超長期だの30年だのビット確りという真逆の展開。

反応したヘッドラインは恐らく『市場と日銀の判断、いずれ一致−追加利上げ』(ブルームバーグニュース16時39分)あたりだと思うのですが、特に英文でどう報道されてたのかなあって所もありまして、まあ日本語のヘッドラインでも「利上げ積極姿勢」と解釈されてもおかしくない(あたくしには強がりに見えますが、笑)状況なんで、英文報道だと売りたくなるんでしょうな。

当該発言は「市場が年内や来年1月あたりの利上げ困難と見ている動きに関してどう考えるのか」という質問に対して出たものでして、発言部分以降をブルームバーグニュース記事から引用させて頂きますと、このようになります。

『したがって、強い指標が出たから市場が一時的に金利の引き上げを手前に引き寄せてみる、あるいは弱い指標が出たから一時的に市場は金利の引き上げのタイミングを先ずれさせてみる、こういうことを繰り返しながら、いつしか日銀の基調判断と市場の基調判断が次第に擦り寄ってくる可能性、それは常にあるのであって、今もその事情に変わりはないと思う』

『8月のCPIの基準改定でいったん市場が非常に弱気になり、その後の短観その他の動きを見てかなり修正し、またこの最近の一連の指標で少し弱気に修正し、市場としては非常に自然な動きをして、その中で基調的な判断にいずれ行き着くであろうし、われわれも今申し上げたようにこれから勉強しなければならない材料もいろいろあるので、両方の判断が一致する時期が必ず来る。それが遅いか早いか、今のところ分からない。オープンだ。こういうことだ』

強気な前のめりという感じは致しませんですな。というかどっちかと言うと「必ず来る」の後に「だと良いなあ」ってつぶやきが入っていそうな気がするのは展望レポートのトーンに幻惑されているのかな?

その他論点がございまして、個人消費の指数が悪い話とか、電子部品の出荷と在庫バランスが変調という話とかの話もあるんですが、その余の話は明日にでも。



すごく長く(テキストファイルで12KBは通常比倍以上)なってしまいましたが、最後に備忘ネタメモを。


○本当はこの辺の話もしたかったんですが

・FB入札

思いっきり予想外しちゃいましたすいませんすいません。実はニーズがあるのは年内償還ばかりなりだったようで。展望レポートと言う材料が消化されたらまた変化あると思うんだけどなあ。

・民主党の日銀法改正案

実は10月26日の東京新聞経済面で記事が出ていた(ただしWebには載っていない)というご指摘を頂きました。感謝感激。で、記事も読みましたが、さすがに細かい服務規程まで全部法律にするわけではないようですな。でも内容的にちょっとどうなのよという印象が。

・尾身財務大臣の国会発言

かつての「桜の咲く頃に・・・」の真相(?)を話してたんですが、やはり経済企画庁長官という立場の人が景気付けに大本営発表をするのは如何なものかと思うんですが。

・円キャリー取引を制限するために12月利上げをという馬鹿論

思わず馬鹿とか書いちゃいましたが、円キャリー取引の巻き戻しが起こったら危険だという理由で利上げして日本経済が悪化したら本末転倒もいい所ですな。ちなみに言ってるのは早稲田大学インド経済研究所所長様であらされますが、何だかねーって感じでございます。

#と、ここまでお付き合い頂きましてありがとうございました。