金融政策概観(2025年度上期前半)

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2024年度上期前半の見出し

2025/06/13「内田講演(その5)決済システムとCBDCに関する説明は面白かった」
2025/06/12「外貨預金の粘着性の分析は将来の日本にも示唆になりそう/内田講演(その4)「ストレスシナリオ」を出せないのが日銀BSの問題点」
2025/06/11「植田発言で為替反応はアホなのかと/内田講演(その3)インチキを誤魔化すのはアカン&バランスシートの話はインチキ」
2025/06/10「内田副総裁金融学会講演(その2)オーバーシュート型コミットメントは強力ではないとか後から言い出すのは酷い」
2025/06/09「内田副総裁金融学会講演(その1)言ってることは立派なんだが政策運営に反映されていましたっけw/輪番雑談」
2025/06/06「30年国債クソ弱くて発行減額観測はいいんだかブルフラットは草越えて森wwwwwwww」
2025/06/05「植田総裁内外情勢調査会講演(その2):政策修正の前のめり感は一切出さずに輪番縮小に意欲」
2025/06/04「植田総裁内外情勢調査会講演ですが「利上げへの熱量無し」「輪番削減はやる気満々」かなと」
2025/06/03「債券市場参加者会合の議事要旨で雑談」
2025/05/30「見るに堪えないトランプの政治圧力/超長期ジャイアントスイングが止まらんですな」
2025/05/29「ウィリアムズが国際コンファランスで期せずして日銀を公開処刑/合成予想物価上昇率のツッコミどころ」
2025/05/28「超長期連日の上げ(財務省発行組み換えの思惑)植田総裁金研コンファランスは詭弁フルスロットル」
2025/05/26「野口審議委員金懇会見は金懇挨拶同様に大本営腹話術で「政策動く気なし」を強調」

2025/06/13

〇内田副総裁講演は決済システムに関する話がオモロイので現世利益関係ないけど

まあさすがにこのシリーズ最終回にしようかと思いますが。
https://www.boj.or.jp/about/press/koen_2025/ko250607a.htm
【講演】
業務からみた日本銀行
日本金融学会2025年度春季大会における講演
日本銀行副総裁 内田 眞一
2025年6月7日

まあ決定会合前の雑談という事でお暇な方は以下お付き合いいただければってな感じです(滝汗)。

・ということで決済システムに関してです

今回の講演、『6.デジタル社会の中での決済システムと中央銀行業務』という見出しのコーナーと、『8.中央銀行業務と決済システムの未来像』という見出しのコーナーが結構面白いんですよね。何故か知らんが章立てがワープしているの何なのって感じですがw

『6.デジタル社会の中での決済システムと中央銀行業務』って小見出しから参ります。

・DX化による決済の変化について

『決済のデジタル化』ってのが最初の小見出しです。

『図表9をご覧ください。ここからは後半パートに入り、日本銀行の業務と政策が、デジタル化などの環境変化によって、どう変わるのか、あるいは変わらないのか、考えてみたいと思います。』

てなことではじまりはじまり。

『わが国は、キャッシュレス比率が低いと言われます。この点は、各国で定義も異なり、厳密な比較は難しいのですが、わが国の場合、銀行口座での引き落としのほか、振込の割合が大きいのが特徴です。これは1973年から稼働している全銀システムによって、これらが極めて便利にできていることが背景です。』

第3次オンライン(だいたい昭和の終わりから平成の話だが)への完全移行から先さらに便利になった感はある。

『また、冒頭でご説明したように、わが国の銀行券残高は、低金利になる前で比較しても、他国よりも多くなっています。これには、現金を持ち歩いても安全であることや、そのもとでコンビニエンスストアを含めてATM網が発達しているという背景があります。もともと人々がどのような決済手段を使うかはその人の自由です。』

んだんだ。

『もっとも、日々の買い物を含めて、経済のデジタル化が進展する中で、人々にとって便利で安全な決済手段を選択できるように、それにふさわしい決済手段が提供されることは重要です。そして、決済システムが全体として、デジタル社会の中で高い安定性と効率性を発揮するために、中央銀行がどのような形態の「支払完了性のある決済手段」(中央銀行負債)を提供すべきか、設計していく必要があります。』

ここで中銀デジタル通貨の話が出てきまして、小見出し『中央銀行デジタル通貨』に進みます。

『この点に関連して、中央銀行自身がデジタル通貨(「中央銀行デジタル通貨」<CBDC>)を発行するというプロジェクトが、各国で進められています。欧州では、欧州中央銀行(ECB)が、2023年に「デジタルユーロ」に関する調査フェーズを完了し、準備フェーズに移行しています。また、イングランド銀行は、「デジタルポンド」について、設計フェーズの進捗レポートを公表しています。中国では、国内26都市や香港で「デジタル人民元」のパイロット実験を実施中です。』

『一方、米国では、2022年から23年にかけてCBDCに関する市中協議を行いましたが、銀行協会などから強く懸念する声が寄せられました。また、トランプ大統領は、今年1月、CBDCの発行等に関する政府機関の取り組みを停止・禁止する大統領令に署名し、FRBのパウエル議長も2月の議会証言で、自身の在任中のCBDCの発行を否定しています。』

CBDCについては一時エライい勢いでブームなのかって状態でしたが最近は落ち着いていますよね、寧ろこの「何で落ち着きましたのよ」という背景を知りたいですなアタクシ的には。

『わが国では、2020年に日本銀行が「中央銀行デジタル通貨に関する取り組み方針」を公表し、技術的な検証を進めています。2023年からは、パイロット実験に移行し、「実験用システムの構築と検証」を実施するとともに、民間事業者の技術的な知見を活用するため「CBDCフォーラム」を設置し、幅広い関係者に参加いただいて、様々なテーマで議論しています。政府においても「CBDCに関する関係府省庁・日本銀行連絡会議」が設置され、制度設計の大枠の整理に向けて検討が進められています。』

とは言え数年前とはだいぶ勢いが違う感が否めません。

『CBDCは、デジタル社会のもとでのわが国の決済システムの将来像を決める重要なインフラになりうるものですから、これを発行するかどうかは、こうした内外の情勢を踏まえたうえで、国民的議論の中で決める必要があります。ご説明した通り、各国の対応も分かれています。ただ、CBDCを発行するにせよ、しないにせよ、デジタル社会の中で、現金のような「支払完了性のある決済手段」を誰がどのように提供するのが、決済システム全体の安全性と効率性につながるのか、考えていくことは必須です。』

「現金のような「支払完了性のある決済手段」を誰がどのように提供するのが、決済システム全体の安全性と効率性につながるのか、考えていくことは必須です」という所にまあ論点が有るわけですが、

『具体的な仕組みとしては、まず、必ず必要になる個人との接点(インターフェイス)の部分は、いずれにしても、基本的に民間の事業者が担うべきだと思います。個人の多様なニーズに応えることは公的機関である中央銀行には難しいからです。その中で、利用者にとって便利なインターフェイスや、それを生かしたイノベーションが生まれるのだと思います。』

ってさらっと流していますが、この点って言うのは利便性とかイノベーションの話ってのは実はオマケの話でして、問題は「通貨発行の二重構造」に関わる部分になるわけですけれども、CBDCが預金通貨を駆逐してしまう事になった場合、信用創造とかそういうのが無くなるわけで(預金銀行が今のノンバンクと同じ構造になる)、これは通貨発行構造のデザインの問題になるのですが、議論がおっぱじまった当初は兎も角、最近は「通貨発行の二重構造」は維持し、CBDCはその構造を阻害しない程度のものとする、ってのが一般的な理解になっているかと思われるのですが(例えば昨年の植田総裁のこの講演→https://www.boj.or.jp/about/press/koen_2024/data/ko240305a.pdf 「中央銀行デジタル通貨について知っておきたいこと── FIN/SUM(フィンサム)2024における挨拶 ──」の最初の方をご参照いただければと)、ただまあそうだとしたらわざわざCBDC作らんでも民間の預金通貨でエエンチャウノという気はだいぶします。

一時のブーム的な動きが下火になったのはこの通貨発行の二重構造への影響を考えた場合にどうなのか(しかもものが通貨なだけに「やってみたら金融システムが大混乱のでやっぱ止めますテヘペロ」とかいうのは基本的に許されるものではないでしょうからね〜)という辺りにあるんじゃないかとワシは思うざます。

まあそれは兎も角としてCBDCの続き。

『そのうえで、考えられるバリエーションには、結構大きな幅があります。決済手段というものは、そのほとんどすべてが、最終的には中央銀行につながっています(「すべて」と言い切らない理由は、最終章で述べます)。問題は、人々が「現金と同じような機能を持つ」と認識する決済手段は、どの程度直接的な「支払完了性」を有する必要があるのか、その「支払完了性」をどう担保するのか、ということです。』

今の時点では一般人(ワシもワシも)は預金通貨による決済をもって「支払完了」としております(現金は現金でありますよ為念)訳ですな。

『この点、CBDCは、中央銀行の負債ですので、現金と同等の「支払完了性」があります。』

はい。

『CBDCを発行しない場合には、民間が提供するその決済手段と中央銀行負債をどう結びつけるのか、また、現金のようにいつでも受け渡し可能であるようにオペレーションの頑健性や広範な利用可能性をどう確保するかなど、技術的な側面を含めて検討する必要があります。』

って話ですが、まあ今の時点でこの預金通貨による通貨発行の二重構造が効率よく大規模に回っていますので、発行しない場合は別に検討もへったくれれも無いので、これは発行する場合の話だとは思いますが、この側面から今テストやっている、というお話です。


・国際的な決済システムの進化に向けたお話

次が『国際的な視点』の話。

『決済の未来像を考えるうえでは、国際的な視点が欠かせません。実を言えば、現在の国際的な決済システムには多くの不満が寄せられており、これをいかに便利で安全なものにしていくかは、未来の問題というより、現在の喫緊の課題です。』

海外送金の際にコルレス銀行がどうのこうのでデポ先がどうのこうのでとか懐かしい話だ(20世紀脳)。

『例えば、各国では、外国からの労働者が母国に送金する際の手数料の高さや時間の遅さが問題になっており、2020年以降、G20のアジェンダには「クロスボーダー送金の改善」が掲げられてきました。』

まあわかる。

『この点は、既存のコルレス銀行を中心とするシステムの運用を改善していく方向性として、決済システムの稼働時間の拡大、国際送金電文フォーマットの標準化などの方策が検討・実施されているほか、新たな可能性として、例えば各国のリテールの即時送金システム(ファスト・ペイメント・システム。日本では全銀システムやことらがこれに当たります)の相互接続といったことも模索されています。』

まあわかるんだがここは効率性と安全性のトレードオフの面があって、リテールの即時送金システムの接続とかうっかりやってしまうと、どこかの国で発生したシステム上の問題が世界中に波及して一国だけの問題に留まらない、みたいなことが起き得る訳でして、そこは大型船には防水区画を区切って浸水即沈没にならないようにするのと同様に、効率性を捨ててもウォール作って安全性を高めておかないといかんのじゃなかろうかとは思います。

『また、金融機関間の資金決済や貿易にかかる決済など、より大口の資金決済の分野では、先進国のグループや新興国を中心としたプロジェクトなど様々な試みが進行し、成果を競い合っています。そのひとつ、BISが主催し、多くの民間金融機関と、日本銀行を含むいくつかの中央銀行が参加している「プロジェクト・アゴラ」では、分散台帳技術(DLT)を使った共通プラットフォーム上に、商業銀行預金と中央銀行預金の両方を載せて、それらを組み合わせて、安全かつ効率的なクロスボーダーの決済を行う、という新しいタイプの決済インフラが構想され、実験プロジェクトがはじまっています。』

この分散台帳技術は何度聞いても今一歩腑に落ちない面があるので一度じっくり理解をしたいです。

『こうした国際的な決済システムを巡る取組みが競うように進展していることは、経済安全保障の観点と切り離せません。』

と、さらに話が大きくなりまして、

『ロシアのウクライナ侵攻を受けて、各国で経済制裁が発動され、その実効性を担保するため、Swiftなど国際的な決済ネットワークからロシアの銀行を排除する動きになったのは記憶に新しいところです。またやや異なる観点ですが、サイバー空間には国境はありませんので、サイバー攻撃が大規模化、組織化されるもとで、一国の決済システムの安全をどう守っていくのか、その際の中央銀行を含めた公的部門の役割は何か、考える必要は年々大きくなっています。』

そうですね。

『例えば「デジタル通貨」が発行された場合、中央銀行が発行するにせよ、民間が提供するにせよ、サイバー攻撃の対象になりやすいと考えられます。』

そらそうよ。

『これに対抗するためには、相応のコストと技術を集める必要があります。』

発行しなければ良いんじゃないでしょうか(←頭が固くて使い物にならない老害ジジイの典型発言)

『米国は基本的に民間のイニシアティブで進めていく方向に見えますし、欧州は、官民でCBDCエコシステムを構築する計画です。ECBが、CBDC発行の理由として、「ユーロエリアの戦略的自律性(strategic autonomy)と通貨主権(monetary sovereignty)を高めること」「ユーロ決済における非欧州系の民間決済事業者(private, non-European payment providers)への依存度を下げること」とはっきり述べていることは、この問題が国内的な事情を超えて、経済安全保障的、国際競争的な側面をもっていることを示唆しているように思います。』

まあユーロ圏は「共通通貨で財政が別だし何なら法制度だって別」という事情があるので・・・・・


・決済デザインに関する将来の話のコーナーもこれはこれで面白いですよ

ということでさっきの見出し6の部分が終わるのですが、次が『8.中央銀行業務と決済システムの未来像』です。

・銀行券に関して

『銀行券の未来』って小見出しの所ですが。

『最後に、中央銀行業務と決済システムの未来像について、思考実験を行ってみたいと思います。デジタル化が大きく進む中で、銀行券はどうなるでしょうか。』

アタクシはたぶんこの業界の人では珍獣の方に入ると思う現金決済おじさんなのですけどwww

『この点まず申し上げたいことは、日本銀行は、現金に対する需要がある限り、現金の供給について責任をもって続けていくとコミットしている、ということです。中央銀行が現金供給に責任を持つ中で、銀行の支店網やコンビニエンスストアを含めたATM網など、現金が流通する経路が維持され、人々にとって現金を使うことが便利であり続けることは重要で、それによって、今後の現金の使われ方は変わってきます。』

ふむふむ。

『スウェーデンでは、現金流通残高の対GDP比率が0.9%まで低下しています6。これはデビットカードや個人間送金システムが便利だということが主因ですが、銀行の店舗網などの関係で、現金の利用が不便になったことも一因と言われています。』

ほほう。

『このため、2021年には、金融機関は、現金の引き出しや受け入れ拠点を整備しなければならない、という趣旨の法律が制定されました。』

ほえー。

『こうした問題意識は、他の欧州諸国でもみられ、例えば英国では2023年の法令に基づき、財務省がATM等の配置に関する距離基準を設定しています。スイスでは、中央銀行と財務省が、金融機関・警備輸送会社・小売業界・消費者団体等を招いたラウンドテーブルを共催し、現金を巡る課題と共に「現金は将来にわたって必要である」という認識を共有しました。』

へーへーへー。

『さらに、欧州諸国はそうではありませんが、偽造などによって、銀行券を使うことの便利さや安全性が低いことが、キャッシュレス化が進む要因になっている国もあります。』

こういうケースだとかつては米ドルが通用する、みたいな世界ですねw

『一方、当然のことながら、現金の供給体制の維持にはコストがかかります。現金供給には、日本銀行だけでなく、金融機関、コンビニエンスストアなどのリテール事業者、現金を運ぶ警備輸送会社など、多くの関係者がかかわっています。この体制を維持していくためには、これらの関係者にとって、銀行券の供給が、それぞれの顧客のニーズに応えて、サービスを維持していくメリットがあるものであり続ける必要があります。』

と来てからの「決済の経路依存症」の話です。

『この「顧客ニーズ」と言う点では、私は、決済には経路依存性があり、現金は対面での決済としてとても便利なので、現金に対する需要は簡単にはなくならないと思っています。』

まさに経路依存症のジャンキージジイがここにおります(汗)。

『日本銀行としては、そうしたニーズがある限り、いかに安全かつ効率的に現金供給の体制を維持していくか、責任をもって考えていきたいと思います。「デジタル化」や「キャッシュレス化」は、社会・経済の効率性を高める効果を持ちうるものだと思いますが、そのプロセスは利用者の自由な選択の中で進むのが望ましいと思っています。』

ということでして、一時期クッソ大流行したようなCBDCに全部置き換わる位の勢いの話ではなくなっておりますな、というのは伝わります。


・「CBDCが発行されるとマイナス金利が簡単にできる」という無邪気な見解を砲撃しているのはワロタ

でまあその次の小見出しとその次のも面白くて、まずは『架空の世界1:現金のない世界』って話。

『銀行券が存在するのであれば(仮に決済に占める比率が低下したとしても)、これまでお話ししたような中央銀行の業務のやり方や政策のメカニズムは、変わりません。「支払完了性」のある決済手段の唯一の提供者として、資金供給などの業務によって、金利操作を行い、日々の決済を完結し、最後の貸し手として機能します。』

ですな。

『このメカニズムが変わる可能性があるのは、以下のような2つの構造変化が起こった場合です。いずれも架空のシナリオです。こうしたことが起こると予想しているわけではありませんが、架空の世界を想像してみることは、現在をより良く理解するうえで有益です。』

ということで、

『ひとつめは、現金が全く存在しなくなる場合です。』

からの、

『よく「CBDCが発行されれば、マイナス金利を付すことができるので、金融政策運営は大きく変わる」と言われますが、正確には少し違います。』

某東京大学の某経済学部長だった大先生もこんなことを言ってましたなあそういえばw

『まず、CBDCが発行されても、現金が残る限り、名目金利のゼロ制約は残ります。マイナス金利を付されない逃げ場がある限り、CBDCにマイナス金利を付すことには限界があります。』

そらそうだ。

『また、逆に現金がなくなるのであれば、CBDCを発行しているかどうかはあまり関係ありません。』

それもそうですよね、つまり・・・・・

『民間が提供するデジタル通貨であっても、何らかの形で金融資産の裏付けがある以上、中央銀行は金融資産の価格(金利)に影響を与えることで、金利のゼロ制約を破ることができます。例えば、民間提供のデジタル通貨が中央銀行の当座預金と完全に紐づいている単純なケースでは、当座預金の付利水準の変化によって、民間デジタル通貨にマイナス金利を付すことができます。そうした意味で、「マイナス金利を可能にするためにCBDCを発行する」という発想は、中央銀行にはありません。』

一時この「CBDCを発行すると金融政策運営は大きく変わる」というトンデモが流行して、いやそんなこと言い出したら逆に誰もCBDCを支持しなくなるじゃろ、とCBDC要らないんじゃネーノ派のワイも思ったことがあります。


・そしてどさくさに紛れてしらっと地雷を埋め込んでいるのが面白いのですが

でもってこの続きがどさくさに紛れて面白すぎるネタを突っ込んでいましてですね・・・・・・・

『この「現金がない世界」では、金利のゼロ制約がないため、マイナス金利の付利に限界がなく、したがって、政策金利の引き下げ余地の「のりしろ」を確保する必要はなくなります。』

しらっと言ってるけど、だったら今の「現金のある世界」では「政策金利の引き下げ余地の糊代を確保する必要がある」ってことになりまして、なんということでしょう決済システムの話をしているどさくさに紛れて政策金利の糊代が必要という話をぶっこでいるじゃあーりませんかw

『物価目標は、バイアスのない物価指標であれば、ゼロ%になるはずです。』

まあ確かに物価目標2%の理由として日銀が言ってるのは「名目ゼロ制約があるから糊代が必要」「ボスキンバイアスなどの統計上のバイアスの問題」「となりのパウちゃんもクリステーヌちゃんもやってるから」なので論理的にこうなりますがパッと見るとちょっと刺激的ですねw

『金融政策の運営は大きく変わります。それでも、中央銀行として「物価の安定」などの使命を果たすことができる、という点は不変です。』

まあ今果たしているかいやなんでもないです。


・最後に中央銀行としての適切な政策運営が大事と豪語しておるwww

最後が『架空の世界2:「円」のない世界』という小見出しで、掴みから、

『もうひとつの可能性は、中央銀行としては起こってほしくないシナリオです。』

ということで、

『「円」で表示されない決済手段が決済の主役になることです。』

つまり、

『取引の決済は双方が合意するのであれば、どんな手段でも可能です。それは「円」で表示される資産に限らず、金でも、コメでも、引越しのお手伝いでも、肩たたき券でも、双方がそれで債権債務関係を消滅させることに納得していればかまいません。デジタル社会においては、暗号資産がその対象となりえます。もともと一部の暗号資産の動機には、主権国家に頼らないリバタリアン的な発想があります。』

はい。

『現在、「円」で表示された銀行券や銀行預金の振込が利用されているのは、それがほとんどすべての人が納得する決済手段として認識されているからです。その前提の下で、日本銀行券には法律的にも「強制通用力」が付与されています。ただし、これはあくまで、「円」で表示された債権債務関係を消滅させる弁済手段となる、というだけであって、取引関係に入ることを強制されるわけではありません。「私は金でしか、あるいは暗号資産でしか、売る気はない」と言うことは契約自由の原則により可能です。』

そうですね。

『こうした未来が訪れることは、少なくともわが国においてはないと思います。「円」に連動しない決済手段について、モノやサービスとの関係で価値を安定させる仕組みを作ることは、中央銀行の「物価の安定」と同じ機能を独自に持つということですから、簡単ではありません。中央銀行が価値を安定させてくれる「円」に乗っかった方がずっと合理的です。その意味で、中央銀行がその使命をきちんと果たしている限り、「円」以外の決済手段が決済の主役になることはないでしょう。「中央銀行がその使命をきちんと果たしている限り」。』

アタクシがツッコミをいれるまでもなく、

>中央銀行がその使命をきちんと果たしている限り

って内田さんが繰り返して言っておられますな。まさにその通りなんですが、ところで今って物価もインフレ期待も上振れているかもしれないのですが、堂々と大丈夫と言い続けて超絶大緩和政策しているのって本当に使命を果たしているんでしたっけ???????という疑問は無くは無い、というかある。


・最後のところでも言ってることは立派なのだがところで行動はどうでしたっけというのがありまして

『9.おわりに』ってところですが、

『本日は、日本銀行の政策について業務面に焦点を当てて、ご説明しました。もう一度図表8をご覧ください。中央銀行の政策の源泉は、「支払完了性のある決済手段」(負債)の提供とその裏側で資産として何を持つかにあります。日本銀行はそれを通じて、金利操作を行い、「最後の貸し手」として機能します。非伝統的政策は、こうした業務やバランスシートをどのように、どこまで使えるのかを追求したものとも言えます。』

>非伝統的政策は、こうした業務やバランスシートをどのように、どこまで使えるのかを追求したものとも言えます

といったその後に、

『「政策」を考えるときに「業務」に関する理解は不可欠です。それは、「業務としてできないことが制約になる」といった意味ではなく、むしろ中央銀行業務の持つ可能性を知ったうえで、政策のイノベーションにつなげる、というほうが、私には実感に合います。ただし、「支払完了性のある決済手段」を独占的に提供できることの重みをしっかりと胸に刻んだうえで、という自覚が必須です。万能薬は、使い方によってはモラルハザードを生むものです。』

ただし、「支払完了性のある決済手段」を独占的に提供できることの重みをしっかりと胸に刻んだうえで、という自覚が必須です。万能薬は、使い方によってはモラルハザードを生むものです。

って実に良い事を言ってるんだが、黒田緩和ってそんな重みを胸に刻んでましたって、なんか野放図に万能薬打ちまくった(まあ万”能”だったのかは謎ですけど)んジャマイカと思いますが・・・・・・・・・

『そして、何より、「支払完了性のある決済手段」を与えられた目的は、「人々が安心してお金を使えるようにする」ためであるということを、忘れてはならないと思っています。後者の「使命」を果たせない場合、前者の「手段」は機能しなくなります。歴史は、物価の安定が損なわれて、あるいは、金融システムが崩壊して、自国通貨が流通しなくなる国をたくさん生んできました。』

めちゃめちゃ立派なことを言っているんだが本邦の物価って・・・・・・

『さらに将来に向けては、デジタル化が大きく進展した社会で、主権国家の中央銀行が発行する通貨が一般受容性のある決済手段として機能し続ける保証はありません。支払決済手段を選ぶのは人々の自由である、このことを胸に置いて、中央銀行の業務を運営していかなければなりません。もちろん多くの関係者の皆様とともに。

こうした様々な自戒の念を込めて今日の原稿を用意しました。ご清聴ありがとうございました。』

ということで立派なお話で締めていまして、論点も面白いのですが、残念なのは今の政策運営がこの立派な話と言行一致してましたっけというツッコミをしたくなってくることですなwwwwwwwwwwwwww

#さあ来週は決定会合ですね!





2025/06/12

〇預金の粘着性に関しては金利がつくようになると日本でも参考になることもあるかもですね

日銀レビューで興味深いネタが取り扱われていましてですね
https://www.boj.or.jp/research/wps_rev/rev_2025/rev25j04.htm
高粒度データを用いた大手行の外貨預金の特性や粘着性の考察
2025年6月11日
金融機構局 船田直輝、坂田智哉、小川佳也

上記HTML先の「要旨」を拝読しますが、この「邦銀の外貨調達の安定性」に関する話は近年(なのでここもと数回にわたって)金融システムレポート(FSR)の方でも大きめのトピックとして扱われていた案件ですし、何なら一昨年の米国SVB破綻事例があったので特に昨年は結構取り上げられていましたので、この辺りの一連の調査研究の一旦のまとめを皆様に分かりやすくお出しします、ってなもんだと思います。

では拝読。

『要旨

大手行は、海外貸出を増加させる中、外貨流動性リスクをかねてより経営上のリスクの一つと位置付け、外貨調達基盤の安定性向上に努めてきた。』

ふむふむ。

『こうしたもと、本稿では、SVB破綻等を受けた国際的な議論も踏まえ、外貨調達の過半を占める外貨預金の高粒度データを用いて、外貨預金の獲得状況や粘着性について分析した。』

なるほどなるほど。でもってその結果ですけど、

『分析結果からは、高金利の大口預金抑制に伴う預金の小口分散化が進展している一方、低コストで調達可能な決済性預金残高は概ね横ばいであることが確認された。』

直感的にまあそうじゃろうなあという結果ですね。ただまあゆうて決済性預金ってのを維持するためには決済性の利便性というのを提供しないといけない訳でして、低コストで調達可能なのはまあその通りではあるけど、決済性預金機能を維持するのにはそれなりにコストがかかるようにも思えます。

『また、属性ごとに預金流出率は異なり、金融法人預金等の粘着性が低く、決済性預金獲得に伴う企業との関係強化が預金の粘着性向上に繋がり得る点も示唆された。』

直感的にまあそうですねという所ですが、

『今後も本分析結果等を活用しつつ、大手行の外貨流動性リスク管理の更なる高度化に資するよう、大手行や海外当局と議論を深めることが重要である。』

ってお話ではあるのですが、モチのロンでこの手の話は法域が違って預金や預金類似商品を巡る環境が違っていたら全然話が違う、というのはあるにしましても、背景にある基本的な部分ってのは共通することもありますし、その点日本の場合は30年くらい要求性払いの預金金利が実質ゼロみたいな状態でして、その前は規制金利の時代だった、というよくよく考えたら驚愕の事実があるので、この辺りの考察は今後の日本における預金やらなにやらの動向に対する何らかの示唆があるんじゃなかろうかと思いますがどうでしょうかね。

本文はこちら
https://www.boj.or.jp/research/wps_rev/rev_2025/data/rev25j04.pdf

本文の最初と最後だけちょっと見ておきますね。『はじめに 』から。

『本邦の一部大手行1(以下、大手行)は、国内において低金利環境が継続する中で、これまで海外貸出を積極的に増加させてきた。この点、大手行は、米国内に安定的なリテール預金基盤を有していないことから、企業から外貨預金の獲得を進めつつ、不足分を短期・中長期の円投や社債等の市場性調達で賄ってきた。』

ふむ。

『そのため、大手行にとって、外貨流動性リスクはかねてより経営上の重要なリスクの一つと位置付けられており、日本銀行としてもモニタリング上、優先すべき事項の一つとして捉えてきた。』

FSRをご覧いただければこの辺りの問題意識について分かるかと思います。

『この間、大手行は、資金調達コストの適正化に取り組む中で、調達手段の多様化や市場性調達の長期化など、外貨調達基盤の安定性向上にも努めてきた。もっとも、米国では新型コロナウイルス感染症拡大時における金融機関の貸出態度慎重化2や、2022 年 3 月以降の FRBの利上げを受けた高金利環境の継続等から、企業の銀行借入需要に盛り上がりがみられていないことや、大手行が採算性を一段と意識していることもあって、海外貸出の残高は概ね横ばいで推移している。』

なるほどなるほど。

『こうしたもとで、大手行の運用・調達ギャップ(海外での貸出金と、短期円投等と比べて相対的に安定している社債発行など長期調達や預金との差額)をみると、安定的な調達額が、運用を上回る状態が続いている(図表 1)。』

という意味での安定性についてはまあレジリアントに見える、というのがここ数回のFSRでの評価です。

『一方で、2023 年 3 月にみられた銀行部門の混乱(米地銀 Silicon Valley Bank(以下、SVB)の経営破綻や Credit Suisse の救済合併)は、これまでの外貨流動性リスク管理の前提となる預金が安定的な調達手段であるとの想定を改めて検証する契機となった。』

でもって、

『具体的には、一部の預金における流出速度は、SNS 等の影響もあり金融当局が想定していたスピードよりも速い可能性や、大口の非付保預金の取り付けが発生した際の影響度などを、適切に考慮する必要性などが認識された。』

『さらに、SVB の破綻直後には、SVB と同様のリスク・プロファイルを有する米地銀からの預金流出・株価下落が先鋭化し、First Republic Bank が同年 5 月初に JP Morgan に買収された3。』

ってな訳で、

『こうした新型コロナウイルス感染症拡大以降の一連の事象を踏まえ、国内・海外の金融当局は、金融機関の流動性リスク管理体制の更なる高度化の必要性について議論を進めている。』

『日本銀行では、従来から、金融庁と共同で G-SIBs に分類される大手行への「外貨流動性リスク管理に関する共同調査」等を通じて、大手行との継続的な対話を行っている4。加えて、効率的かつ効果的なモニタリングを実行するために、金融機関から報告されているデータの利活用も進めており、大手行の協力を得て、日本銀行・金融庁に報告されている、外貨預金の個別取引明細・高粒度データ(以下、「高粒度データ」)の拡充を図ってきた5。』

『大手行自身も、着実に外貨流動性リスク管理の高度化に取り組んでいるもとで、より一層の安定性向上に資するよう、本稿では、個別明細レベルの高粒度データを用いて、大手行の外貨調達の過半を占める外貨預金の獲得状況や外貨預金に係る粘着性等について分析を試みた。』

以下分析の話になってこれはこれでオモロイのですが、単純に合いの手入れているだけになるので笑その辺は引用かっ飛ばすのでまあ読んでちょというところです。


結論にかっ飛びますけど。

『おわりに

本稿では、外貨預金の個別明細レベルの高粒度データを用いることで、大手行の外貨預金の獲得状況や粘着性等を分析した。本分析からは、大手行が、外貨預金獲得に向け、収益性を意識しながら進めてきた各種取組みやその特性などを確認した。』

具体的には・・・・・

『具体的には、@貸出が足もと横ばいで推移する中で、高金利を提示して大口預金を獲得する必要性が低下しており、同預金の抑制に伴い預金の小口分散化が進展している一方、A低コストで調達可能な決済性預金比率は横ばいの動きが続いており、とりわけ、非日系企業においてその残高は限定的となっていることが確認された。』

『同時に、預金者属性によって、預金の流出率は異なり、大口預金や非日系企業・金融法人といった預金者属性の預金の粘着性は相対的に低く、決済性預金獲得などの企業とのリレーション強化が、預金の粘着性向上に繋がり得る点が示唆された。』

なお決済性預金獲得に関しては単なる営業勧奨で増えるものではなくて、決済性預金を顧客が活用できるインフラ整備が必要です、って話に関しては本文中にありますので読んで味噌。

『これらを踏まえると、自らの預金者ポートフォリオの預金者属性の構成(預金規模や業種、さらには付帯取引の有無)等も考慮して流出率を設定することが、預金獲得戦略や流動性リスク管理の向上に有益であると考えられる。』

これは大手行の外貨調達、という点にフォーカスして分析が行われていますが、そもそも金融のお仕事というか付加価値創造の源泉の一つとして「満期変換機能」ってのが有るわけで、別に銀行セクターに留まるものではなくて、このような分析を行うという考えは、まあその分析をどのように行っているかは千差万別だと思いますし、単純に経験則からおおむねこんな感じじゃろっていうことで意識している場合も多々ありそうですけれども、満期変換機能を提供する人たち、すなわち銀行だけではなくてNBFIも含めて意識するべき話。ではあるのですが、某アメリカンの場合は何とかショックの度にプライムMMFがあばばばば―ってなってFEDに泣きついてお助けオペが炸裂して、その事例を受けて再発防止のためにFSBやIOSCOがNBFIへの規制強化に乗り出す、というのを何度もやっている、というのが中々の頭痛の種ですなあ、って思いました。

『この点、大手行は、預金の流出率想定に預金者属性別のヒストリカルデータを用いて、その妥当性を検証しており、こうした精緻化への取り組みは、本分析結果と整合的である。』

これ円資金でも(パラメータは全然違うとしか思えませんけど)同じ考えを適用できそうに思えます。ただまあ円貨資金繰りはリクイディティーという面からみたファンディングに関しては日銀当座預金残高がアホみたいにあるので、短期金融市場を見てもビビットにわかりにくい(そのためソルベンシーの問題の予兆管理がしにくいんじゃないかとアタクシは懸念しています)ってのもありますけどね。

『また、本稿で用いた高粒度データには、ドル以外の地場通貨も含まれている。地政学的な要因等が意識される場合、ドル以外の地場通貨の流動性リスクのモニタリング高度化に向けて、高粒度データを活用することは有益である。』

ほーーーーー

『今後も、本稿で紹介した分析結果等を活用しつつ、モニタリング体制の整備を進めるとともに、大手行の外貨流動性リスク管理の更なる高度化に資する分析を続けていくことが肝要である。そのうえで、得られたインプリケーションおよび分析結果等も用いて、大手行や海外当局とも引き続き議論を深めていくことが重要と考えている。』

とまあそういうお話で、全然現世利益と関係ないと言われるとまあそうなんですけど、一応債券市場に加えて短期金融市場の方も見ているという設定になっております不肖このアタクシとしては、まあこういうネタには反応しますよというお話でしたので備忘もかねてご紹介させていただきました。

なお、本文の後に『BOX 地場通貨における外貨預金の獲得状況 』ってのがありますが、そちらはまあ本文読んだついでに見てちょんまげというところです。

あと、今回のレポートってちょっと興味深かったのは、本文の最後(概要の最後にもありますが)

『内容に関するご質問等に関しましては、日本銀行金融機構局金融第 3 課までお知らせ下さい。』

ってなっていて、日銀の本店局室研究所体制表(HPにあるやつ)だと機構局には金融1課から3課があるのはわかるけど管掌がどことは書いていないのですが、ワタクシの認識が間違っていなければ大手行に対するプルーデンス担当窓口って金融1課だったような気がしますので(違ってたらゴメンですけれども)、3課マターになっているのも興味深く読みました(^^)。


〇内田副総裁講演をしつこく読む訳ですが日銀バランスシートの日銀財務に対する影響のお話

HTMLバージョンも出てきたのでHTMLバージョンから引用しますね(なぜか半角英数がコピペで認識されない謎PDFだったので)。

https://www.boj.or.jp/about/press/koen_2025/ko250607a.htm
【講演】
業務からみた日本銀行
日本金融学会2025年度春季大会における講演
日本銀行副総裁 内田 眞一
2025年6月7日

『7.非伝統的な金融政策と中央銀行のバランスシート』の後半、『非伝統的な金融政策と中央銀行の収益』
の部分になります。

『中央銀行は、平常時にはバランスシートの構造上、収益があがるようになっています。』

ってどういう話かというと以下シニョリッジの説明になります。

『もう一度図表7をご覧ください。98年度末、伝統的な金融市場調節を行っていた当時のバランスシートです。負債項目の多くを占める発行銀行券は無利息です。当座預金も無利息でした(この時点では付利制度は導入されていませんでしたし、仮に導入されていたとしても、準備預金ぎりぎりの水準で調節を行うのであればほぼ無利息です)。一方で、資産サイドの国債や金融機関への貸出には利息が付きます。この差額は、通貨発行権を持つことに伴う収益(シニョレッジ)であり、支払完了性のある決済手段を「負債」として独占的に供給できることによるものです。』

ですです。

『この関係は、非伝統的な政策によって、バランスシートが大きく拡大すると変化します。』

はい。

『まず、非伝統的な政策を行っている間は、収益は大きく拡大します。短期金利はゼロ%ないしマイナスですので、負債サイドの利払いは基本的には生じることはありません。』

この辺もうちょっと説明を練ってほしいのですが、「短期金利がゼロ%の時にバランスシートを拡大すれば」というのが表現としては正しくて、非伝統的政策って言ったってバランスシート使わない政策(短期政策金利のフォワードコミットメントみたなやつ)をしてたら別に収益拡大しないし、何なら短期オペだけでバランスシート拡大してたらやっぱり変わらんのですが、まあそういうクソ細かい話はさておきまして、

『資産サイドからは、バランスシートが大きい分だけ、より大きな収益が得られます(日本銀行の場合、当座預金を3層構造とし、マイナス金利部分を最小限に抑える一方、プラス金利部分もあったため、ネットで利払いが発生しましたが、資産サイドの方がずっと大きな効果を持ちました)。図表11をご覧ください。実際、大規模緩和前の日本銀行の経常利益は平均して6千億円程度でしたが、大規模緩和を行っていた時期には、毎年数兆円の収益を計上していました。』

バランスシートが大きくても短期に近い国債買っている分にはまた違うので、結局バランスシート内でどれだけ長短ミスマッチ取っているか(満期変換を行っているか)というお話ではありますわな。

『これが出口になると、当座預金の付利によって利上げを行う一方で、資産サイドは、金利が低い時に買った国債で固定されているため、逆ザヤが発生します。この点、日本銀行のスタッフがシミュレーションを行っています5。』

とありますが本件は昨年末に出ていましてその時にツッコミを軽く入れましたがこの後改めて。

『図表12をご覧ください。その結果は、短期金利・長期金利のパス、バランスシート縮小のペース、さらには冒頭でご説明した銀行券の残高がこの先どうなるかなど、複数の要因に左右されます。』

そらそうですな。

『前提条件として、昨年9月時点で市場が織り込んでいた金利見通しのとおり金利が動くと仮定した場合、青い実線のようになります。この前提では、収益は減少しますが、赤字にはならないという結果でした。ただ、金利がより急激に上昇するなどのストレスをかけると、シャドーのように、一時的に赤字になる場合があります。ただ、どちらのシナリオでも、その後は、負債サイドで当座預金が減少し、資産サイドで国債が高い金利のものに入れ替わっていくにしたがって、収益が回復していきます。』

という話になっていますが、じゃあ例のシミュレーションを見ますと

https://www.boj.or.jp/research/wps_rev/rev_2024/data/rev24j15.pdf
日本銀行の財務と先行きの試算
企画局企画調整課
2024 年 12 月
日銀レビュー 2024-J-15

本文5pに『先行きの収益・自己資本に関する試算 』ってのがありますが、その前提になっているのは、

『(前提)
@ 短期金利・長期金利の推移

短期金利については OIS 市場7におけるインプライドフォワードレート、長期金利については国債のイールドカーブから算出されるインプライドフォワードレート(市場金利が織り込む金利見通し)のとおり推移すると仮定する。』

『また、市場金利が織り込む金利見通しに加え、(a)短期金利は、今後数年程度をかけて 1.0%〜2.0%となり、(b)その際の長短スプレッドは、+0.25%P〜+0.75%P となると仮定した場合の試算値のレンジも合わせて示すこととする8。』

っていうことで、全然ストレスを掛けたシナリオじゃねえだろ、ってのしか示されていない訳で、欧米みたいにインフレが高進してインフレ期待の2%アンカーが上振れするんじゃないかってことで盛大に引き締めを行う、というような前提にはなっておりませんが、何せ日本の場合は欧米のようにもともとインフレ期待が2%でアンカーされている国と違いまして、ゼロ近傍にアンカーされていたインフレ期待を一旦2%に引き上げてアンカーさせる(リアンカリングとか言ってた時期もあったけど最近言いませんなそういや)という器用なことをしないといけなくて、インフレ期待を一旦不安定化させる、というプロセスを踏むだけに、2%で止まらずにインフレ期待が上振れる(というか既に家計のインフレ期待は上抜けてしまってるんじゃないかと個人的には思ってるんですが・・・)というリスクって欧米よりも実は高いんですよね。

そう考えますと、この程度のユルユルで済むのか問題があるわけで、これはこの前もかきましたけど、だいたいからして実質中立金利が0%で均衡物価水準が2%の時に短期政策金利の名目中立金利は2%な訳で、「(a)短期金利は、今後数年程度をかけて 1.0%〜2.0%となり、」ってのがセカンドシナリオになっている時点で節子それはむしろベースラインシナリオレベルやというお話。

でもってこの前提ってしらっと、

『A バランスシートの規模やその推移

バランスシートについては、試算の便宜上、本年 7 月に決定された長期国債買入れの減額計画のとおり 2026 年 1-3 月にかけて国債の月間買入れ額を月 3 兆円程度まで減額し、同年 4 月以降は当該買入れ額から不変と仮定する(図表 9、10 参照)9。また、今後の取扱い方針を公表している資産はその方針に沿って変動し、その他の資産は不変と仮定する。』

となっているので、これ追加の国債買入で金利の高い債券が入って来て収入がアップする、というのを見積もっている計算になっていて、日銀のバランスシートの削減をあんまり進めなくてよくて短期金利もあんまり上がらない、というデフレ均衡とまではいわないけれども、物価安定目標の達成時にそれでエエノンカイナという日銀の損益シミュレーション的には甘甘の設定になっている訳ですな、前も書きましたけど。

でまあ今日はそこを突っ込むのが目的ではないので内田さんの講演に戻りまして。

『このように収益や自己資本の試算は、前提条件次第で変わりますが、いずれにしても、中央銀行のバランスシートの状況によって、「物価の安定」が毀損されることはありません。』

って威勢よく言いきっているのですが、実際問題一番ヤバい筈の「2%に向けてあげて行こうとしている期待インフレが2%で止まらないで上振れてしまった場合」に日銀が行わないといけない施策に対してこんなに巨額のバランスシート抱えたままだとあんまりよろしくないんじゃないでしょうか、っていう話は華麗にスルーしております。

まあ自分から「いやー実はインフレがガチで高進してインフレ期待が2%を超えてどんどん上がったら日銀の財務は大変なんです」とは言いにくいというかまあ言えないってのは分かるんですけれども、だからと言って堂々とここまでいうのもどうなんでしょうかね、ってな風には思う訳でして、この点から考えても「債券市場の金利急騰がどうのこうの」とか言いながらバランスシート縮小を必要以上に慎重に行う事っていうのは、物価上昇レジームになった時に日銀としての適切な政策対応の足かせになるのでもっとバランスシート縮小を頑張らないといけないんじゃないの、ってのがまあワイの思う所ですし、大体からしてこの巨大バランスシートがあって、さっきのシミュレーションで見られたように「モデストな金利上昇シナリオ」じゃないと財務上面倒なことになるって足かせを意識してしまったために今次局面で政策調整がビハインドしているんじゃないかという風にも思ってしまうわけでございます。

でまあ以下続きですが、

『皆様にはご説明するまでもないことですが、管理通貨制度のもとで、通貨の信認は、中央銀行の保有資産によって担保されるものではなく、適切な政策運営によって「物価の安定」を図ることを通じて確保されます。また、そうした使命追求のための「政策遂行能力」に、財務状況が影響を与えることもありません。』

本当に影響が無いのか、というとそれは微妙ですよね。でもFEDの例をもってそこは強弁しておりまして、

『一時的に赤字や(極端な場合)債務超過になったとしても、収益や資本はシニョレッジによる将来の収益で復元されますし、支払完了性のある決済手段を自ら供給できるため、支払いは常に可能です。実際に、FRBやECBを含めて多くの中央銀行が現在赤字を計上しており、その一部は債務超過になっていますが、業務や政策の運営に支障は生じていません。』

それは他の要因も複合しているので、日本のように財政運営はガバガバ、中央銀行の資産は莫大、という状態で全く同じな保証はないでしょ、という話ですが、まあさすがにそこは、

『それでも、多くの中央銀行は、自己資本など一定のバッファーを有しています。日本銀行も自己資本を有しているほか、大規模緩和の過程では、収益の上振れ分の一部を引当金として留保し、出口で損失が発生した場合に備えています。』

『本来、中央銀行の財務構造を理解していれば問題ないことであったとしても、例えば、赤字や債務超過などが発生した時に、市場が「中央銀行が財務リスクを気にして適切な政策の実施を躊躇するのではないか」といった疑念を持つようなことがあれば、政策効果の波及が阻害されます。そうした疑念を惹起させることのないよう、適切な政策運営を行うという大前提のもとで、上記の引当金など可能な手段を通じて、財務の健全性にも配慮していくことは大切です。』

ということで話を締めているのですが、まあ本来は財政運営の中長期的な持続可能性をちゃんと考慮した運営をしろって話がそこに思いっきり加わるんですよね。

という所で今朝はこの辺で勘弁して頂ければと存じます。現世利益とあんまり関係ない雑談ばっかですいませんでした。








2025/06/11

〇こんなので為替が反応するもんなのか(「2%までまだ少し距離がある」)・・・・・(呆)

昨日はこんなのがありましたな
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-06-10/SXF8E7T0G1KW00
植田日銀総裁、基調的物価は「まだ2%に少し距離がある」−円下落
伊藤純夫
2025年6月10日 10:56 JST 更新日時 2025年6月10日 12:01 JST

→基調的物価が2%に近づけば、引き続き利上げで金融緩和度合い調整
→0.5%の政策金利水準、利下げで経済刺激の余地は非常に限られている

『日本銀行の植田和男総裁は10日、金融政策運営で重視している基調的な物価上昇率は物価目標の2%まで少し距離があるとの認識を示した。参院財政金融委員会で答弁した。総裁発言を受けて円は下落した。』(上記URL先より、以下同様)

ということで、

『植田総裁の発言後、円はドルに対し一時1ドル=145円29銭に下落。発言前は144円50銭前後で推移していた。株式市場では日経平均株価が上げ幅を拡大し、上昇率は一時1%を超えた。』

ってことになっているのですが、そもそも論として先日の内外情勢における植田総裁の講演の資料を見ますと、
 
https://www.boj.or.jp/about/press/koen_2025/data/ko250603a2.pdf
最近の経済・物価情勢と金融政策運営
(図表編です)

図表7『基調的な物価上昇率に関連する指標』を見れば分かりますけど、実はその右下にありますように、マクロ経済モデル回して計算(という一番まともっぽいことを)したらどの指標も「2%に向けて威勢よく接近中」なのでして、植田さんの説明上重視していることになっている(家計のインフレ期待の推計値がどう考えても下方バイアスの掛かる方法を使った)合成予想物価上昇率だって目盛みたら24年で1.5%近辺、25年で1.7%近辺と上がっている訳でして、モメンタムからいったらこんなの2%到達待ったなしだし、元々がこれ計算上下方バイアスが掛かりやすい(予測力を重視しして算出しているんですがそのサンプルがゼロインフレの期間を大きく使っているから)な訳ですよ。

とは言え、足元に関してはトランプ関税とかいう攪乱要因があるから、このモメンタムが止まるかもしれないってんでまあハトハトチキンになっているのはまあ分からんでもないですが(と言ってるけど物価には慣性があって足元の動きは「上に抜ける」方の慣性が掛かっているから逆に止まらんリスクの方が高いと思うのですけど)、これ普通にグラフをみたらこの先基調物価とされるものが2の水準を涼しい顔して上にぶち抜けるリスクの方が高いじゃろ、という図でもあるんですよね。

なのにまあ「少し距離がある」とか言ってるのは、単純に6月7月の時点で利上げをする予定は無い、という「やりたい政策」が先にあって、政策アクション(今回の場合は動かない方のアクションですけど)を正当化するための「お気持ち表明」を「基調的物価は2%までにまだ少し距離がある」と言ってるだけの話なんですよね。というか説明の定義上、基調的物価が2%に到達している、という認識だったら政策調整をゆっくり実施しているどころの騒ぎではなくて、政策を中立ポジションにもっていかないといけないのですから、半年に1回とか悠長なことを言ってる場合じゃなくなるので、6月7月に利上げする気が無いのであれば、上記のような発言が出てくるのは当たり前ですし、逆に為替市場の皆さん6月7月に利上げがあるとでも思っていたのかよお前らの首の上についている物体はカボチャか何かかと小一時間問い詰めたいですな、と思いました。

じゃあ9月10月に利上げがあるか、ってことになると、これはまあ7月展望で何を言い出すか次第ではあるのですが、トランプ関税政策を受けた企業や家計の行動変化(下方屈曲)が起きるかどうかってのを茲許はずっと気にしているような説明になっていますので、そうなると企業の賃金設定行動、すなわち冬季賞与動向と来年の賃金改定に向けたスタンスのアネクドータルなデータが出てくる年末年始、って考えるのが一番妥当なような気がしますが、何せこの人たち「やりたい政策」先にありきで情勢判断を後付けで説明する、というのを全然隠そうとしない(普通は隠そうとして過去との説明の整合性を取ろうとするのですが、黒田時代の末期あたりになってからはもはや過去との整合性を全然気にしなくなっているのは展望レポ^−トハイライトというポンチ絵の推移を見れば一番わかりやすいと思います)ので、つまりは「やりたい政策」が「やっぱり政策金利引き上げないと」って事になるトリガーが先に出てきたら年末年始の限りではない、ってことになるんじゃないですかね、個人の感想ですではありますけど。

てな読み筋って別にアタクシがドヤ顔(の積りではないですが)で言うまでも無くごく普通の読み筋だと思うので、「まだ距離がある」云々は「6月7月(まあ少なくとも6月)に利上げする予定は今のところありません」以外の意味合いは無いので、それすなわちなんら新しい情報でもなくて市場は先刻織り込み済みなんですけど、何でそんなのに為替市場が反応しているんだこれだからAI相場は困るわ、と思いました(個人の偏見です)。


〇引き続き内田副総裁の講演をネチネチと鑑賞するの巻

https://www.boj.or.jp/about/press/koen_2025/data/ko250607a1.pdf
業務からみた日本銀行
── 日本金融学会2005年度春季大会における講演 ──
日本銀行副総裁 内田 眞一

・「業務」を言い訳にするのはちょっと卑怯じゃないですかねえ

昨日ネタにした「オーバーシュート型コミットメント」の説明部分ですが、昨日はこのコミットメントが「このコミットメントは強いものではありません」とかコミットメントを導入した時に黒田総裁が「強力なコミットメント」と説明しまくって居たものを当時の企画担当理事の内田さんが積極的に否定してくる、という飛んでも無い部分をご紹介しましたが、この説明って小見出しの通りでもう一つ飛んでも無いツッコミ部分があるんですよ。

ということで重複になりますがオーバーシュート型コミットメントの説明の頭のところからもう一度見てみましょう。

『バランスシートの大きさを明示的に使ったコミュニケーションとしては、日本銀行は、 2016年9月にイールドカーブ・コントロールを導入した際に、「消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで」マネタリーベースの拡大方針を続ける、というコミットメント(オーバーシュート型コミットメント)を行いました。』

でもって昨日は、

『先ほど述べた通り、短期金利の操作とバランスシートの大きさは切り離し可能なものなので、このコミットメントは強いものではありません。』

という導入時の説明を思いっきり「あれは嘘です」って言ってしまっているという飛んでも無い部分があったわけですが、

『より直接的なコミットメントとして、例えば、「消費者物価が2%を安定的に超えるまで」長短の金利目標の水準(短期は−0.1 %、 年金利はゼロ%程度)を続ける、と約束することも論理的にはありえました。ただ、これではフォワードガイダンスとして強すぎ、将来の柔軟性を犠牲にする恐れがありましたので、バランスシートの大きさに紐づけたということです。』

しかしながら「金利と分離して運営が可能」だったらバランスシートの大きさに意味は無い、という話になるのでして、だったらそもそもこのオーバーシュート型コミットメントが虚偽説明だったという話になるわけですが、バランスシート拡大した後遺症で今面倒なことになっている(そもそもバランスシートこんなに拡大しなかったら長期金利の急騰(財政配慮を含めて)にビビることなくもっと早くに利上げ出来てたんじゃないのとかまあ色々とツッコミは有るわけですよ)ので、足元の内田さんの説明もかなりインチキ臭いんですけどね。

『一般的に「バランスシートの拡大を続けながら、利上げをする」というのはイメージしにくいので、「緩和を続ける」というスタンスは伝わる一方で、オペレーション的には(業務面から考えれば)、バランスシート縮小(QT )の前に利上げを始めることは可能で、その余地を残したものです。』

というこの部分、ここまでは昨日も引用しましたな。ちなみに海外中銀は「バランスシートの縮小を続けながら利下げを実施」しているのですから、まあこの説明は明らかに「ワシらはお前らの誤解を利用してペテンを打ちましたもんね」って言ってるのに等しいんですけど、まあそれは兎も角としてこの続きがあって以下引用しますと・・・・・

『この辺りの事情は、フォワードガイダンスという「自分を縛って効果を得る政策」の微妙なバランスを示しています。』

とまあドヤ顔(かどうか知らんが)の説明が始まるのですが

『効果と自由度のバランスを取るために、明示的に例外条項(escape clause )を入れておくという例もありますが、「業務」の要素を絡めて対応余地を残すという方法もあるということです。』

いやいやいや、それを「業務の要素」っていうのインチキじゃろという話だし、大体からして業務的にバランスシートは金利と分離できるんだたら、QQEとか言ってバランスシートを拡大したこと自体が初手からインチキでしたって言ってるのと同じになってしまう訳で、この説明は何ぼ何でも無理筋じゃろ、と言わざるを得ません。さらにですね、


・オーバーシュート型コミットメントは初手からイカサマ目くらましでしたとネタバラシとはこれは酷いwwwww

『日本銀行を含めて各国の中央銀行は、当然こうしたことを分かったうえで、』

>当然こうしたことを分かったうえで、
>当然こうしたことを分かったうえで、
>当然こうしたことを分かったうえで、

これは額装して決定会合のお部屋の総裁の席の後ろ辺りにでも飾っておきたい言葉ですなあという感じでして、他の国の中銀からしたらイカサマペテン説明の片棒担ぎみたいに言われるのは心外にも程があるでしょうし、そういうインチキ説明を最も嫌っていたであろうと思われる白川さんやダブル山口さん(過去の2名の「山口副総裁」です為念)などがこの額装を見たら飛びあがって額縁を叩き壊すレベルかとは存じますが、何とですね、

「オーバーシュート型コミットメントが強力なコミットメントだと言ってたのはぜーんぶ嘘ですテヘペロ」

ってオーバーシュート型コミットメントが用済みになった時点で言いだす、というお話でして、まあ何となく今の日銀が屁理屈(「コアコア物価」から始まり2%達成に向けた政策反応関数をホイホイと使い分けて涼しい顔をしている件ね)を捏ね回すバックグラウンドがこういうことなんでしょうな、というのが垣間見れるんじゃないかと思うのよね。でまあしかもそのイカサマに関して(話が分かりにくくなるといかんと思うので重複引用しますが)

『日本銀行を含めて各国の中央銀行は、当然こうしたことを分かったうえで、バランスシートと政策金利の運営、そしてそのシークエンスを考え、コミットメントを実施してきました。こうした意味でも、中央銀行にとって「政策」と「業務」は不可分のものです。』

って業務の話にして誤魔化していますけど、当時のオーバーシュート型コミットメントはその場しのぎの目くらましで、強力なコミットメントとか言ってたのは全部その場しのぎの説明でした、ってのを思いっきり表明してしまう、っていうのは将来コミットメント政策がまた必要になった場合にお前どうするんだよ、と思ってしまいますね。

・・・・・とは言いましても、まあ市場というのもアタクシのような粘着質の変な奴というのは基本的に珍獣の方に多分寄っているのでありまして(そのくらいの自覚はアタクシだってありますわよおほほほほ)、普通は(というか最近は、というべきか)昔の理屈との整合性がどうのこうのとか、展望レポートハイライトを半年以上遡って前回の絵との整合性とか言う人もあんまりいませんので、まあこのような割と衝撃的な「昔のあのコミットメント、当時は強力なコミットメントと言ってたけどアレはその場しのぎの方便で実は強力じゃありませんでした」って説明だって全然金融メディアの話題にならない(ので珍獣がネタにするわけですがw)まあこう言い切ってもセーフ、と高を括っているんじゃないかなあ、とは思いました。てか「金融学会」なんだからこの部分に対してツッコミを誰か入れたのかという方が気になるけど、どうせ金融学会とか言ったって使えねえ馬鹿学者(学者馬鹿ではありません為念)の集まりでしょうから(個人の偏見です)誰もツッコミ入れないんでしょうけどね(入れられるような骨のある学会だったらこんなツッコミどころ満載の説明はせんじゃろうよwwwwwwwwww)。

ということで、この辺の説明は随分と舐め腐った説明しやがって、てなお話ですが、この次に日銀のバランスシートというか今後の収益の問題、というのが出てくるので、本当は今朝はそっちをメインにする積りだったのですが、ついつい昨日の続きのオマケ部分の予定だったところで興奮してw手が踊ってしまいましてこの先を成敗する時間が中途半端になってしまいましたのでまあ先の話はまたいずれ。


・バランスシートの今後に関する問題点は「収益シミュレーションの前提にガチのリスクシナリオが描けないこと」

というのだけ書いておきますが、これは昨年末に企画局が出したバランスシートがどうしたこうしたのペーパーの時に突っ込みましたが、日銀の巨大なバランスシートが問題になり得るのは何のことはないですけど「インフレがオーバーシュートした時に、巨大なバランスシートのストック効果による緩和効果が邪魔をしてインフレのオーバーシュートを止めるのが困難になるケース」でして、その場合ってストック効果を相殺するために強力な利上げを実施しないと行けなくなるので、バランスシートの損益的には期間損益が真っ赤っ赤になるのですが、それが容認できるのか(いくら「時間を掛ければシニョリッジで回収できる」と言っても程度問題があるし、そもそも引き締めた傍から超過準備付利の形で盛大に利払いをするのも財政支出の一種のような気がするんだがその効果ってどうなのよというお話だって超過準備の規模が巨大だと何か悪さをしそうな気がしますし・・・)という話が有るわけですがなというお話。

でもってさらに強力な引き締めをするためにはこのストック効果が邪魔、となった場合に国債売却をすれば良いのですが、その場合は当然ながら過去に買った国債は損失が出る訳で、まあその損失は時間を掛ければシニョリッジで回収できるとは言いましても以下同文な訳でして、まあバランスシートを巨大なままたいして減らせない、という状況はインフレが落ち着いて低位にいるなら問題はたいしたことは(たぶん)無いのですけれども、上振れするような時には甚だよろしくないのでして、その辺の話は確かに正面切って書きにくいというのは分かるのですが、だからと言って大丈夫ですヘヘーンと強弁するのも「全電源喪失はあり得ません(キリッ)」を思い出してしまうのでどうなのよ、とおもいます、ってな話をしようと思っておりました次第です(他にもネタはあるけど)ので一応書いておきます。

ということで今朝はここで勘弁してちょということで。






2025/06/10

〇色々と面白い論点が転がっているので昨日の続きで内田さんの講演をば

まだHTMLバージョンが出ていないので時々数字が認識できない問題がありますがPDFから引用して参ります。

https://www.boj.or.jp/about/press/koen_2025/data/ko250607a1.pdf
業務からみた日本銀行
── 日本金融学会 2025年度春季大会における講演 ──
日本銀行副総裁 内田 眞一

(ちなみにこの2025も文字列認識しませんw)

本文15ページ(PDFの16枚目)の『7.非伝統的な金融政策と中央銀行のバランスシート』ってコーナーから参ります。

・非伝統的な政策の話をするときにいきなりマネープリンティングしないで頂きたいんだが

最初の小見出しが『(非伝統的な金融政策の効果:資産サイドと負債サイド)』というお話。でもってその冒頭が、

『後半パートの2つめのテーマは、非伝統的な金融政策とバランスシートです。「非伝統的な金融政策」はその名の通り、伝統的な業務運営を超えて、中央銀行業務を拡張することで、金融政策の効果を追求するものです。これはしばしば「バランスシート政策」と呼ばれます。』

ほうほう。

『中央銀行が、「支払完了性のある決済手段」を負債として供給することは、その裏側で、資産を持つことを意味しています。理論的には支払完了性がある負債はいくらでも提供できるので、「どんな資産を、どれだけ持つか」が政策のパラメターになりうるのです。』

支払い完了性(ファイナリティ)のある決済手段云々はこのコーナーの前の方で決済に関する話をしておりまして、でまあ決済の中で中央銀行の負債(銀行券または中央銀行当座預金)は決済の最後の尻が完了できるものなのでファイナリティがどうのこうのという説明でして、その辺興味のある方は読んで味噌という話ではあるのですが、どさくさに紛れて内田さんそれはちょっと読まれ方によっては大変な暴言なんですけど、というのがこれ。

>理論的には支払完了性がある負債はいくらでも提供できるので
>理論的には支払完了性がある負債はいくらでも提供できるので
>理論的には支払完了性がある負債はいくらでも提供できるので

おいこらちょっと待て、それは「マネープリンディング」っていうんじゃないかってな話で、支払完了性がある負債をいくらでも発行して、それで政府の債務をいくらでも引き受ければ紛うことなき財政ファイナンスな訳ですよ。

でもってですよ、昨日ネタにしましたけれども、本文8ページにあった中央銀行当座預金付利に関する説明の中で、

『このことは、その後、技術的な金利操作の手段という意味合いを超えて大きなインプリケーションを持つようになりました。ひとつは、金利操作と切り離して、バランスシートの大きさを決められるようになった結果、資産サイドを使った政策を大規模に行うことが可能になったことです。』(本文8pより)

って言ってるんだから、この「負債はいくらでも提供できる」と合わせて考えたら、中央銀行は財政ファイナンスを何ぼでもできまっせ、という説明しているのと変わらんじゃろ何ちゅう危険な説明をしてるんじゃと小一時間問い詰めたいわけですけど、この次の部分も論点になりうる話でして、


・バランスシート政策があるのであれば「短期金利とは別」という説明はどうなのかよと思いますけどね

>「どんな資産を、どれだけ持つか」が政策のパラメター
>「どんな資産を、どれだけ持つか」が政策のパラメター
>「どんな資産を、どれだけ持つか」が政策のパラメター

さっきの8pの説明の通りで「金利政策と切り離してバランスシート政策を行うことが可能になりました」って言って、この部分で「「どんな資産を、どれだけ持つか」が政策のパラメター」と言ってるんだったら、日銀の保有する長期国債残高に関しては立派(?)な「政策」でありますので、「金融政策運営は短期金利コントロールで行うので長期国債買入に関しては政策意図云々ということではない」という説明とお前話が違うじゃろ、という話でもあります。

短期市場に対しては当預付利を使って超過準備を不胎化することができるからバランスシートは別物、と言ってもバランスシートの資産サイドで持っているものが政策中立なのか、というとそうではない、って自分で言ってしまっているので、つまりは「付利をして短期金利をコントロールしているので無問題」という理屈は短期市場だけ見て説明しているイカサマ説明じゃろってなもんで、いやだからそういう所の説明が「部分部分では筋の通ったことを言ってるけど全体で見た整合性と、過去の説明との整合性がないじゃろお前ら」ってツッコミを入れてしまう要因なんだよな、と思いました。


・どさくさに紛れてマネタリーベース直線一気理論が完全に無視されているのはワロタ

『図表10 をご覧ください。現在の日本銀行のバランスシートです。非伝統的金融政策として長期国債を買った場合、資産サイドで長期国債が増加し、負債サイドでは、相手方の金融機関の当座預金が増えます。その政策効果は、資産サイドで国債を買入れることによって、市中から金利リスクを吸収し、タームプレミアムを押し下げる効果(いわゆる「ストック効果」)が中心であると分析されています。』

からの、

『一方、負債サイドの当座預金残高やマネタリーベース、あるいはバランスシートの大きさには、資産サイドのような直接的な効果があるわけではありませんが、一定のアナウンスメント効果は持つ可能性があります。』

wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

しつこいので久々にこれでも
https://www.boj.or.jp/about/press/kaiken_2015/kk1502a.pdf
岩田副総裁記者会見要 旨
―― 2015年2月4日(水)
午後2時から約35分
於 仙台市

『(問) 副総裁は就任前の 2013 年 3 月 4 日の講演で、「日銀当座預金が10%増えると予想インフレ率が 0.44%上昇する」ということをおっしゃったという報道がありますが、これが事実かどうかをお伺いします。また、実際に日銀当座預金残高の推移をみますと、講演をされた 2 年前の水準が44 兆円で、足許の水準が 185 兆円、これは 10%どころか 4 倍以上に達しています。それにもかかわらず、予想インフレ率を表す一つの指標であるBEIは足許で1%を切っている水準です。これは、もともとのご発言自体が誤っていたのかどうか、それとも今でも同じようにお考えなのでしょうか。』(この部分だけ直上URL先2015年2月岩田規久男副総裁(当時)の会見要旨4pより)

・・・・いやはやなんともw

・バランスシートの効果の説明が粒粒では言ってることそうかもしれんが全体の整合性がおかしい

では講演本編に戻りまして、

『大きなバランスシートを急激には縮小できないことは、市場もわかっているので、「しばらく緩和を続ける」というメッセージになりえるということです。』

ということではあるのですが、インフレが急速に進むような場合はバランスシートによる緩和効果が逆に足かせになるわけで、ストック効果の緩和効果がどうのこうのと主張すればするほど、バランスシートが大きいならば、そのストック効果の緩和効果を加味して政策金利水準の設定が必要になるはずなんですが、そういう説明を一切しないで今の政策運営をしているのは如何なものかって話になるんですよね。

『2000年代のはじめ頃、為替市場などで、中央銀行のバランスシートの大きさの比較が材料になったことがありました。この点、リニアな関係を導くことは無理ですが、「緩和スタンスのproxy 」として、緩い関係を見出すことは不可能ではなく、あとはケインズの美人投票的に機能したということでしょう。』

「この点、リニアな関係を導くことは無理ですが、「緩和スタンスのproxy 」として、緩い関係を見出すことは不可能ではなく、あとはケインズの美人投票的に機能したということでしょう」って言っているのですが、さっきうっちーさん「「どんな資産を、どれだけ持つか」が政策のパラメター」って言ってたんだから、バランスシートの大きさ(とその構成)の比較は政策のパラメターなんだからリニアかどうかは兎も角としてその理屈なら意味あるじゃろという話なのですが、なぜかここの説明ではバランスシート規模はあくまでも「緩和スタンスの代理変数」程度であり、「スタンスの表明」にすぎないような説明をしている訳でして、いやだからそこさっきとの話の整合性どうなっているのよ、というお話。

まあ非伝統的緩和政策自体が結局何だったのかというのはまだ評価が固まっている訳でもないのでクリアカットな説明ができない、というのはその通りなんですが、だからといって「粒粒での説明はいいんだが全体として結局なんだったのかという説明が無いどころか話の整合性が無いんじゃが」というのも如何なものかと思います。

・オーバーシュート型コミットメントが強いものではなかったとはこれはまた酷い

でもってこの次ですが、これがまたドイヒーでして、

『バランスシートの大きさを明示的に使ったコミュニケーションとしては、日本銀行は、 2016年9月にイールドカーブ・コントロールを導入した際に、「消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで」マネタリーベースの拡大方針を続ける、というコミットメント(オーバーシュート型コミットメント)を行いました。先ほど述べた通り、短期金利の操作とバランスシートの大きさは切り離し可能なものなので、このコミットメントは強いものではありません。』

>このコミットメントは強いものではありません
>このコミットメントは強いものではありません
>このコミットメントは強いものではありません
>このコミットメントは強いものではありません
>このコミットメントは強いものではありません

・・・・・( ゚д゚)
・・・・・(つд⊂)ゴシゴシ
・・・・・(;゚д゚)

さてここで2016年9月の総裁定例記者会見の冒頭発言、オープニングリマークに相当する政策説明の部分を途中から見てみましょう。

https://www.boj.or.jp/about/press/kaiken_2016/kk1609b.pdf
総 裁 記 者 会 見 要 旨
―― 2016年9月21日(水)
午後3時半から約70分

本文2ページの後半以降になります。

『次に、「オーバーシュート型コミットメント」について説明します。』

『日本銀行は、生鮮食品を除く消費者物価指数の前年比上昇率の実績値が安定的に 2%を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続するという新しいコミットメントを導入しました。』

『2%の「物価安定の目標」を実現するためには、人々のデフレマインドを抜本的に転換し、予想物価上昇率を引き上げる必要があります。この点、「総括的な検証」でも示したように、わが国における予想物価上昇率の形成は依然としてかなりの程度「適合的」であり、足許の物価上昇率に強く引きずられる傾向があります。』

『こうしたことを踏まえ、予想物価上昇率をさらに引き上げていくためには、金融緩和の継続に関する極めて強力なコミットメントを導入することによって、「物価安定の目標」の実現に向けた日本銀行の揺るぎない姿勢を改めて示すことが必要であると判断しました。』

『もともと 2%の目標を実現するということは、景気変動などを均して平均的に 2%を実現するということですから、2%をオーバーシュートする局面は想定されています。しかし、金融政策には効果が現れるまでにラグがあることを踏まえると、実際に 2%を超えるまで金融緩和を続ける、というのは極めて強いコミットメントです。』(以上この部分2016年9月21日黒田総裁(当時)の定例記者会見要旨より)

・・・・・・・・・・・(゚д゚)

ちなみに「実はもっと強力なコミットメントがありましたてへぺろ」という説明が以下続きまして、

『より直接的なコミットメントとして、例えば、「消費者物価が2%を安定的に超えるまで」長短の金利目標の水準(短期は−0.1 %、10 年金利はゼロ%程度)を続ける、と約束することも論理的にはありえました。』

『ただ、これではフォワードガイダンスとして強すぎ、将来の柔軟性を犠牲にする恐れがありましたので、バランスシートの大きさに紐づけたということです。』

だそうですが、

『一般的に「バランスシートの拡大を続けながら、利上げをする」というのはイメージしにくいので、「緩和を続ける」というスタンスは伝わる一方で、オペレーション的には(業務面から考えれば)、バランスシート縮小( QT)の前に利上げを始めることは可能で、その余地を残したものです。』

って説明をしているんですが、最初の方で話をしている通り「バランスシートは金利と別」って言ってるわけでして、「一般的に「バランスシートの拡大を続けながら、利上げをする」というのはイメージしにくいので」ってのがそもそもペテンじゃろという話だし、じゃあお前2016年のオーバーシュート型コミットメントの説明はペテンだったのかという話になって、まあ色々とダメな説明になっていませんかねえ、という所で誠に遺憾ながら時間が無くなってしまったので今朝はここで勘弁していただきとう存じます。




2025/06/09

〇内田副総裁の金融学会での講演がなんかいろんな論点の展覧会みたいになって面白い件

https://www.boj.or.jp/about/press/koen_2025/data/ko250607a1.pdf
業務からみた日本銀行
── 日本金融学会2025年度春季大会における講演 ──
日本銀行副総裁 内田 眞一

この講演、いろんな論点の展覧会みたいになっていまして、この前の金研コンファランスで本来学術的なお話をする場所なのに政策運営のために屁理屈捏ね捏ね講演をしていた植田さんの講演とはだいぶ格調が違っている、という感じでして、いや植田さんがこの話をしろよとは思いましたけれども・・・・・・・・・・・

マクラの部分ですが『1.はじめに』から引用しますね。

『図表1をご覧ください。普段、メディアで目にする「日本銀行」は、金融政策の担い手としてのものが中心です。昨年度の報道件数のうち、3分の2は「金融政策関連」でした。それ以外では、例えば昨年7月に 年振りの改刷があり、その前後では「銀行券関連」の記事で盛り上がりました。』

『実際、多くの方々にとって、人生で最初に「日本銀行」に接したのは「日本銀行券」であったのではないかと思います。そして、中学の社会科では、日本銀行は、「発券銀行」「銀行の銀行」「政府の銀行」である、と教えられ、高校にかけて、「金融政策」や「物価の安定」、あるいは「最後の貸し手」や「金融システムの安定」について学んでいきます。』

金融システムの安定とか高校の政経でやったっけとは思いますがまあ気にせず先に進めまして、

『私自身、支店長をしていた頃は、中学校の体育館で、「お金とは何か」の出前授業をしたりしました 。』

(^^)。

『ただ、これらのキーワードを有機的に結ぶこと、例えば、「なぜ、中央銀行はお札を発行して、金利を上げたり下げたりし、インフレやデフレに責任を持つのか」まとめて整合的に説明することは、大人にとっても意外に難しいことです。』

はい。

『中央銀行の政策と業務は一体不可分のものです。通常それは「政策を実現するための手段としての業務」という順番に語られます。今日の私の試みは、逆の順番、つまり「業務」を出発点にして、「政策」につなげていこうというものです。』

ふむふむ。

『私は、昔からこうした視点を大切なものだと思ってきました。実は、私自身が関わったものを含めて、同じような試みは、過去にもいくつかあるのです(ここの数字がコピペ不能)が、時折こうしたことを繰り返していかないと忘れられがちなテーマですので、今日のこの場をお借りしたいと思った次第です。』

ここ(コピぺ不能部分には本当は2という数字がある)に実は脚注2というのがあるのですが、今回のこの講演テキストのPDFバージョン、割と致命的に残念なことがありまして、一部の数字(見出しとか脚注は良いんですが本文の数字だったり表題の数字だったり)がテキストデータになっていない、という謎の状態になっていまして、コピペしようとすると数字の部分だけ認識しないのですが、脚注2は、

『2 例えば、速水優『私の中央銀行論』(2001 年 4 月一橋大学創立 125 周年記念講演会における講演)、日本銀行金融研究所編『新しい日本銀行 その機能と業務』(有斐閣)、白川方明『「法と経済」からみた中央銀行』(2009 年 10 月東京大学法学部における講義)。』(ちなみにここの数字はちゃんと認識される)

となっていますように、実は重要なお話だと思いますし、それこそ短期のオペレーション関連に関する実務の現場から叩き上げております所のアタクシからしても、基本的に金融実務から見ていくってのは大事じゃろ、ということで以下のテーマが多岐にわたって、結構面白いのが幾つかあるので1回で終わらないネタではあるのですが、まあ一応今の政策的にポイントになる日銀のバランスシート政策に絡む部分を今日は拝見しようかと存じます。


・金融政策目的の国債買入は財政ファイナンスではないし財政ファイナンスでないと言い張れば良いだけではない

という訳で『3.政府の銀行』の後半の『(中央銀行と政府の取引)』に話は飛びます。

『日本銀行は、国庫金の管理に付随して、政府の資金繰りの実務も担っています。収入と支出のタイミングのずれによって、政府預金の残高は上下しますが、短期的な資金の不足は、国庫短期証券の発行によって賄います。これは公募入札で金融機関等に売却されますが、例外的に、募集残額が生じたり、国庫に予期せざる資金需要が生じた場合には、日本銀行が引き受けることができます。その場合には、次回以降の公募入札の代金で償還を受けることになっています。』

おーーーーーー。これは久々に聞く説明です。

『また、日本銀行が金融市場調節など自らの必要のために買った国債の償還期限が到来した場合、国庫短期証券で借り換えることができるようになっています。これは、「乗換引受」と呼ばれ、日本銀行側では政策委員会が金融市場調節上支障がないことを確認して議決する必要があるほか、政府側では財政法第5条の例外として国会の議決が必要になります。』

かつて償還乗換は10年国債で行われていましたが1年短国になった話とかそらもう老害なので色々とw

『以上細かい説明になりましたが、これらの業務は、政府に対する信用供与にあたり、政府と中央銀行の関係を考えるうえで重要な論点を含んでいます。このため、日本銀行では、「対政府取引に関する基本要領」を定め、基準や手続きを明確にしています。』

当然ですな、財政マネタイズするのは要するにマネープリンティングなんですから。

『また、こうした「政府の銀行」としての業務とは別に、金融政策目的での国債の買入れがあります。』

はい。

『現在の日本銀行のバランスシートの資産サイドで最大の項目は、「国債」です。これは、2013 年からの大規模な金融緩和において、2%の物価安定の目標を実現するため、金融政策の必要性から買い入れ、保有しているものです。政府による財政資金の調達を支援するためのものではありません。』

ちなみに本文中2013のところが認識されなかった(半角数字が認識されないのかな?)のですがそれはさておきまして、この「政府による財政資金の調達を支援するためのものではありません」につきましてこの直後に内田さんは、

『ただし、この問題は、中央銀行が「金融政策目的であって財政ファイナンスではない」と言うだけで完結するとは思っていません。』

とまあ実に当然ではあるのですが大変に素晴らしい事を仰せな訳でして、ともすればこの論点を逸脱した議論が特に今般では日銀の長期国債買入運営に関する議論の中で堂々と展開する馬鹿民間がいる訳でして、まあその悪態は次のコーナーで行いますけれども。

でもってじゃあどうしたらいいのか、ですけれども・・・・・・・

『出口を含めた緩和政策の全プロセスにおいて、経済・物価との関係で適切な金融政策を行い、これを財政状況への配慮によって曲げることはない、という「結果」が必要です。その意味で、今後の日本銀行の政策運営をもって、示していくべきことと考えています。』

おおおおおおおお!!!!!!!!!何と立派な決意表明でしょう!!!!と思う訳でして、これはすんばらしい、とは思う訳です。

・・・・ええまあ思うんですけどね、その割にはアクチュアルの物価が2%を延々と上回っているのに、今の物価高はコストプッシュなのでいずれ下がると言い続けて「基調的物価」とかいうお気持ち物価を持ち出して大緩和政策を延々と継続している、という実態があるんですがそっちとの整合性はどうなっているんですかってなもんですし、今行っている長期国債買入の縮減だって金利急上昇したらいかんとか言ってるけど、それって財政状況への配慮が入っていませんでしたっけというツッコミをしたくなるわけで、まあ内田副総裁のこの講演自体言ってることは大変に立派なのですが実際の行動がこの格調高いお話に見合っているのか、というのは謎ですわな、と思いましたが如何でございましょうか。


・これは極めて微妙な論点を踏みに行っていてどうなのかと思う

この先に『4.銀行の銀行』ってのがあって、その後半のところに『(当座預金への付利とそのインプリケーション)』という話をしているのですが、ここでの説明は結構際どい地雷を踏んでいると思ったのでネタにしますと、

『しかし、現在では多くの中央銀行が、バランスシートの大きさと短期金利の操作を切り離しています。当座預金に金利を付すという金利操作の方法が導入されたためです。』

とのことですが、

『日本銀行も、 年に「補完当座預金制度」を導入し、超過準備(当座預金のうち準備預金制度に基づく所要準備を超える部分)に対する付利ができるようにしました(当初は臨時措置として導入されましたが、その後恒久化されました)。』

『金融機関は余った資金を日本銀行の当座預金に置くか、市場に放出するかの選択がありますので、裁定行動により市場の金利は日本銀行が付利している水準に近い水準に誘導されます。現在でいえば付利金利は0.5%、市場における短期金利は、0.48 %程度です。』

でまあそりゃそれで良いんですけど、この次の説明が結構な地雷でして、

『このことは、その後、技術的な金利操作の手段という意味合いを超えて、大きなインプリケーションを持つようになりました。』

でもってですね、

『ひとつは、金利操作と切り離して、バランスシートの大きさを決められるようになった結果、資産サイドを使った政策を大規模に行うことが可能になったことです。』

って言ってるんですが、それはそもそも「可能になった」というのは如何なものかという話でもありまして、すなわち日本銀行がバランスシートに資産を能動的に積み上げること、というのは見合いの日銀当座預金を積み上げることでありますので、積み上げる資産が民間資産であれば、日本銀行が民間に信用供与ができることになり、それは中央銀行による財政政策に他ならないし、積み上げる資産が国債であれば、それは財政ファイナンスになりませんか、ってお話になるわけですよ。

中央銀行による財政政策類似政策、というのが民主主義国家における財政運営においてやって良い物なのかどうか、という議論もそうですし、財政ファイナンスに関しては講演のその前の部分で内田副総裁自らケシカランと言っている訳なのですから、ここでいきなり「金利操作と切り離して、バランスシートの大きさを決められるようになった結果、資産サイドを使った政策を大規模に行うことが可能になったことです。」って言ってるのは中央銀行の原理原則から言ってヤバイ話ですよね、としか言いようが無いですよね。

続きを拝読しましょう。

『非伝統的金融政策の中心手段のひとつは、いわゆる「量的緩和」すなわち、国債の買入れによって長期金利を押し下げることですが、これを実行するのには、バランスシートの大きさとは無関係に短期金利をコントロールできることが前提になります。この点、量的緩和を実行している間は、割り切ってしまえば、金利をコントロールできなくても、ゼロ金利でもよいと考えることもできなくはありません。』

という事で実はこの講演最後のところに非伝統的金融政策の話があるのですが、今日はそこまでいく時間が無いのでこのコーナーまでで続きは明日以降って感じなのですが、こういう説明からの、

『しかし、量的緩和からの出口プロセスに時間がかかることはあらかじめわかっているので、その時に、大きなバランスシートを抱えながら、短期金利をコントロールできることが保証されていないと、こうした手段は採用できません。』

って言ってるんだが、出口プロセスの間に時間がかかる、だけではなくて、現状では長期国債の買入がどこからどう見ても財政ファイナンスという規模での買入を継続していて、それを中々減らせない、という状態になっている時点で、「インフレにならない」ことが前提じゃないとあの政策ができなかった、というアホウなことになっている訳ですし、まさにこの量的緩和というかYCC政策というかの副作用が徐々に顕在化してきているプロセスな訳で、そう考えますと「資産サイドを使った政策を大規模に行うことが可能になったことです。」といって大規模に行う、というのはそりゃまあ物理的には行えましたけど、物理的にできるというのとやることが適切なのかというのは別問題な訳で、当座預金付利で何ぼでもバランスシートを拡大できる、というこの説明は物理的な可能性と中央銀行としての適切な政策運営姿勢というのを意図的に混同して説明してるじゃろ、と申し上げざるを得ません。


・いわゆるアンプルリザーブシステムに関する説明はちょっと微妙

『バランスシートの大きさと短期金利の操作が切り離されたことのもうひとつの帰結は、短期金融市場の参加者と中央銀行の取引先の範囲が必ずしも一致しないことで起こる流動性の偏在への対応が可能になったことです。』

とな何ぞやという話だが、

『取引先と非取引先が混在する状況で、伝統的な短期金利操作によって、所要準備預金残高ぎりぎりの水準しか供給しないと、金融市場の多様な参加者に必要な流動性の量に足りない、ということが起こってしまいます。』

大昔の米国の場合はそもそもFF取引の金利(政策金利ではない)ってのは乱高下するもんだったし、大昔の欧州圏の場合はこの対策として資金繰り事故が起きにくいようにするために所要準備預金の水準を高めに置いて(その代わりに所要準備に付利をしたりしていた)運営したりしているので、別にこれはバランスシートでわざわざ対応しなくても制度設計や短期金融市場の設計で割と何とでもなる問題ではないか、と大昔から実務見ているワシは思うので、ここの部分はちょっと????ではあります。

『この問題は、米国FRB のように法律で当座預金取引先の範囲が基本的に預金取扱金融機関に限られている国では以前からあったのですが、近年は各国でノンバンク金融仲介機関(NFBI。保険会社、年金基金、各種ファンドなど)の存在感が拡大し、その影響が短期金融市場に及んでいます。』

って言ってるんですが、それは翌日物ファンディング市場における話とは違くねってことだし、大体からして日本の場合は中銀当座預金へのアクセスが広範に及んでいるので、民間金融機関の短期資金繰りにおいてNFBIがどうのこうのってのそんなに重要か(安定した資金供給主体、としての市場の安定性への寄与自体は大きいと言えるんじゃないか、ってのは思うけど)ってのはよくわからん。

『この状況に対応するには、中央銀行が付利を使って短期金利を操作しながら、市場に必要な量の流動性を供給できることが重要です。』

別に付利使わんでも常設預金ファシリティと常設貸出ファシリティでコリドア作りながら必要な場合には積上調節すれば問題ないと思うんですけどね。

『現在、各国の中央銀行は、バランスシートの縮小を進めていますが、その多くは、伝統的な金融調節方法に戻ることはないでしょう。市場の求める流動性に見合ったバランスシートを維持しながら、当座預金への付利によって短期金利操作を行うことになるだろうと思います。』

まあこれは多分超過準備のデザインがいわゆるアンプルリザーブになっていくだろうという流れにはなっているので仰せの通りの面はあるのですが、じゃあアンプルリザーブが常に良いのかというとそこも良くわからない面もありまして、アンプルリザーブシステムにおいては金融機関のファンディングに一種の中銀プットが入っているような状態になっている、ともいえる訳でして、ソルベンシーが本当の本当におかしくなるまで金融機関のファンディングが回ってしまうファンディング市場がある、ってのも市場参加者の規律を失わせることになるんじゃなかろうか(なので次にプルーデンス的な問題が起きるならこの市場デザインによって兆候が分からない状態で突如問題が顕在化する、みたいなルートがあり得ると思うの)とは思うのでありました。

ということで内田さん講演ネタはこの辺で、あとは関連悪態。


〇長期国債買入なんじゃが来年4月以降の計画って今から決め打ちする必要あるの???

金曜の午後はBBGですがもともとは木曜日の夕方にロイターが(先に英文で)打っててその後日本語も出ていたと思うのですが、ネット版だと日本語のニュースが拾えなかったのでしゃーなしでBBGニュースの方から参りますけど。

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-06-06/SX9VE4T0AFB400
日銀が国債買い入れ減額幅の圧縮を検討へ、来年4月以降−関係者
伊藤純夫、藤岡徹
2025年6月6日 18:43 JST 更新日時 2025年6月6日 19:54 JST

→毎四半期2000億円に半減か現状維持かが議論の中心−今月会合
→来年4月以降の国債買い入れ計画、期間は先行き1年程度に

ということなんですが、前回は初手だったのと、そもそも先行きにそんな変な不透明要素は少なかった(少なくともキチガイ大統領のキチガイムーブは無かったんですから)訳ですが、足元では不透明要素だらけで来年の3月の時点で世の中がどうなっているか分からん訳で、まあ計画継続(四半期4000減を維持)だったらまだ話は分からんでもないんですが、買入減額ペースの上げ下げをこの時点で決めるのってそりゃ何かの政策意図があるんですかって話になるじゃろという話なんだが、何でこの「2026年4月以降の買入」がこんなにネタになるのか意味が分からんし、日銀も来週の会合で2026年4月以降の買入を決め打ちで出そうとしてるならちょっと落ち着けと思う訳ですよ。

んなもん今回はどうせ中間評価なんだから、中間評価として特に問題なし、2026年3月まではこのペースを継続して、その後のことは年末か来年1月のMPMでまた話をしますが、方向性は一段の縮小ですよ、ってだけアナウンスすりゃエエヤンと思う訳ですよ。

でもなんか木曜のロイターと言い、金曜のブルームバーグと言い、何でそんな先の計画についての決め打ちが話題になるのですかねえ、とは思いますが、まあ来週の決定会合で2026年4月以降の買入縮小ペースの決め打ちが出たらお前馬鹿じゃねえのって罵倒する予定なのでよろしゅうお願いするます(原則同じペースだけど近くなってからまた考える、だったらまあ罵倒しないかもしれないけど)。

まあ記事の方は前日のロイターさんも大体同じ線で報道していて、BBGの方が後追いなのですが、兎に角ロイターさんって過去記事の検索がしにくいのよ(検索しても上手く引っかからないことが多々ある)ということですいませんが以下BBG記事から。

『日本銀行は今月の金融政策決定会合で議論する2026年4月以降の国債買い入れ計画について、現行計画で進めている減額幅の圧縮を検討する見通しだ。複数の関係者への取材で分かった。』(上記URL先より、以下同様)

圧縮を何で今から検討しなければいけないのか、ということに関しては、

『来年4月以降の1年間に毎四半期2000億−4000億円の減額を行った場合、27年1−3月の月間買い入れ額は1.3兆−2.1兆円になる計算だ。減額ペースの減速が必要との主張の背景には、日銀が買い入れ減額を続ける中、短期的な国債需給の悪化などで市場に無用な混乱が生じないよう、より慎重な対応が必要との意見がある。』

とのことなんですが、そもそも論として現在はもうYCCやっている訳ではないんですから、「短期的な国債需給の悪化などで市場に無用な混乱が生じないよう、より慎重な対応が必要」って発想が根本的に間違っている訳で、日銀の保有国債をどうしていくのか、というのは(他の中銀と同じく)、短期金融市場における超過準備をどのような規模で置くのか、というのがあって、日銀の保有国債規模がこの程度というのがそこから決まって、でもってその保有規模に合うような買入が決まる、という話であって、(しつこいけど)YCCやってるんじゃないんだから、本来的には債券市場への配慮がどうのこうのとかそういうのは気にすべき話じゃないんですよね(原理主義者ですすいません)。

てなわけで、テーパリングというほどテーパリングも進んでいないこの段階で既に債券市場への配慮がどうのこうのとか言っている時点で今の日銀の長期国債買入は財政ファイナンスに他ならないし、日銀の買入が減ったら金利が上がって財政が困るとか言うのは、その前の黒田緩和の買入が過大であって、黒田は否定してたけど黒田日銀が財政ファイナンスをしていた、というロバート・ムガベ先生も大喜びな事をしていただけ、という話だし、財政ファイナンスとかいう不適切な状況を是正するの当然だし国債金利の上昇がどうのこうのとか言うなら国債発行減らせやという話だし、減らせないとか泣き言言ってないで「日本の財政は飛んでも無い状態です」って馬鹿政治共に知らしめるしかないじゃろ、などと過激派な事しか言わないアタクシなのでした。

てかさ、先週の「30年入札こけたら超長期国債発行減額の思惑でブルフラット」とかいうふざけた事が起きている時点で債券市場への配慮とかする必要ねえだろ寧ろ変な配慮したら当局プットバンザーイってコジキ共が喜ぶだけじゃとしか申し上げようがありませんな。

などと偉そうに申し上げておりますが、まあ問題の先送りを図って結果的に問題が後の方でさらに深刻になってもその時はワシ担当じゃないもんとかいう無責任理論で問題の先送りを延々とやっているのが失われた何十年におけるジャパンの仕様だと考えれば、今回もまた忍法「どうせ問題が発生した時はワシは担当してないもん理論」が炸裂して問題の先送りみたいなしょうもない弥縫策に日銀買入も巻き込まれる、には100万ジンバブエドル位は張った方が良いのかもしれませんな。ナムナム。










2025/06/06

〇30年国債入札がクソ弱かったので減額観測までは分かるがその先の市場後講釈は草生える

市況なのでロイターさんを引用するけどBBGも同様の市況記事を書いておりましたので別にロイターさんを晒上げる意図はないことを先にお断りしますwww

https://jp.reuters.com/markets/japan/funds/5K3AGTCBORNIROR4RGIFC3UN5A-2025-06-05/
〔マーケットアイ〕金利:国債先物は反発、超長期債発行減額の思惑で買い 入札は許容範囲
ロイター編集
2025年6月5日午後 3:39 GMT+9

『[東京 5日 ロイター] - <15:25> 国債先物は反発、超長期債発行減額の思惑で買い 入札は許容範囲

国債先物中心限月6月限は、前営業日比40銭高の139円35銭と反発して取引を終えた。米金利低下に加えて、低調となった30年債入札が許容範囲内と受け止められたことや超長期債の発行減額を巡る思惑がサポート要因となった。新発10年国債利回り(長期金利)は同4.0ベーシスポイント(bp)低下の1.460%。現物市場では超長期ゾーンを中心に金利低下圧力が強まった。』(上記URL先より、以下同様)

って話なんですけど、

『この日実施された30年債入札では、2.92倍と23年12月以来の低水準となり、テール幅も前回より拡大するなど、低調な結果と受け止められた。』

まあ応札倍率に関しては少ない方ってのはそれなりに意味があるんですけど多い方ってのは足切りがどこからどう見てもこの水準、って時には足切りでの案分考えて札が多く入るみたいなこともあるのでそんなにあてにはならんのだが、

『市場関係者によると、前場で大きく買われ入札に警戒感があった中だったものの「十分こなしたという評価だ」(国内銀の運用担当)とし、入札結果をみて市場参加者が買い始めた動きが入ってきたとみる。ただ、「今入札は国内投資家ではなく、海外勢の買いに支えられた面があり、こういった需要は永続的ではない」(同)とし、超長期債の発行減額はしっかりと実施されるべきだとの声が聞かれた。』

だそうなのですが、まあ直近ではマーケットメーカーのリスク許容度が落ちていて、昔だったら入っていた「止め札」みたいなのが入らないので、明確な投資家のニーズをバックにした札がないと流れてしまうってことなんでしょうけれども、入札流れたら結局その流れたのを見て買いが入りましたでござるの巻、なのはいいんですけど、

『 現物市場では超長期ゾーンを中心に金利が大きく低下。30年債入札結果を受けて「20日の国債市場特別参加者会合(PD懇)での超長期債の発行減額幅をめぐる思惑が先行し、徐々にポジティブに受け止められたようだ」(国内証券債券セールス担当)という。』

これはさすがに草どころか森な話で、弱い入札になってもその後急反発するんだったら、それは単純に「もうちょっと金利が上がればニーズが出てくる」という事を意味するんだから寧ろ減額不要まであるじゃろ、って話で、入札コケたあとに一段安とか、全然戻らんとかなら減額への期待っていうのも分かるけど「減額の期待で相場急反発」するくらいなら何で減額する必要があるんじゃヴォケとしか言いようが無いので、まあアホな話になっとるわ、とは思いました。

いやまあさすがに今回はカレンダーベース市中消化の一部振替の形で超長期は幾分か減額になると思いますけど、このムーブ見たらそんなに必死こいて減額せんでも結局のところある程度の金利上昇を甘受すれば普通に消化できるじゃん、というのを示した格好、というのが発行する側から見たときの通常の解釈になるんじゃないですかねえ、とアタクシは思うのですけれどもどうなんでしょうかね。てかだいたいからして超長期減額したら中短期か長期かしらんけど、そっちが増発されるんだたら中短期弱くなれよ(まあ超長期の減額分のカバーを中短期でやると誤差の世界になる説はあるけど)ってなもんですけどwww

あとまあそもそも論を言い出したら、発行があまりにも少なくなると市場の流動性って回復するどころか落ちるんですから、悪い入札なんだから発行が結構減額されるぜヒャッハーとか言って買ってるの頭の悪さが結構な水準に達していると思うんですけどねwwwwwwwww

まあなんちゅうかアホアホ相場だったので備忘メモということで。







2025/06/05

〇植田総裁内外情勢調査会講演(その2):政策修正の前のめり感は一切出さずに輪番縮小に意欲ですねこりゃ

てな訳で昨日の続き。
https://www.boj.or.jp/about/press/koen_2025/data/ko250603a1.pdf

・通商政策動向の経済への下押しの説明はやたら丁寧だったが「リスク」の方は割とアバウトで温度差があります

昨日は『2.通商政策の影響と経済・物価情勢』の『(わが国経済・物価の見通し)』の後半部分の物価の見通しに関するところまでやったら時間切れになってしまいましたが(すいません)、その先が『3.通商政策を巡るリスク』ってのがあるんですよ。

まあそもそもが「通商政策の影響」ってところで詳しく下振れ要因をこれでもかと並べて説明していましたので、わざわざ通商政策を巡るリスクってのを書くのも重複感が漂うわけで、そのせいかリスクの方は微妙なつくりになっています。

『ここまで、米国の関税政策による影響を踏まえつつ、わが国の経済・物価の中心的な見通しについてみてきました。こうした見通しに対しては、常に上振れないし下振れの可能性、リスクが存在します。特に、現在のように不確実性がきわめて高い状況にあっては、従来以上にこの点を念頭に置いておく必要があります。』

ここで下振れだけではなくちゃんと「上振れ」も言っているのは(関税交渉が思いのほか順調に進展したり、突然トランプが改心してめだか師匠ムーブになるというような可能性があるんだから当たり前だけど)当然ながら結構なお話。

というのはですね、4月の展望レポートって何がクソインパクトあったかって、経済見通し引き下げでリスクバランスは下、物価見通しも引き下げでリスクバランスはそれまで上だったのが下、でもって会見での植田さんの説明もハトハトチキン、って出し方をしたから「なんじゃこの全面降伏モードは」ということになったわけですよ。単に「今回は1回パス」だけで良かったのに過剰なまでに下方バイアスを強調した情報発信になっていたからあの相場になった、という面は多々ある訳でして、でまあさすがに大本営もやべえと思ったのか主な意見では展望レポート基本的見解や会合後の会見で示されたハトハトチキンバイアスをある程度中和(中立化ではない)させてるな、と思いましたし、その後の国会などでの説明も「見通し達成への確度が高まれば利上げ」ということでコミュニケーションを立て直している感があったわけです。

でまあ今回ですが、ワタクシはやはり遺憾ながらハトハトチキンだなあ(理由は関税政策の影響の説明部分がやたら丁寧なこと)だし、緩和の調整つまり利上げの前のめり感が一切出さない(理由はお気持ち物価の説明に力点置いている、すなわち利上げしない理由の方の背景説明ばかり一生懸命やっててアクチュアルの物価は「コストプッシュです」で方吹けているから)、というコンボなのでハトハトチキン認定しましたが、ここに「通商政策のリスクは上振れ下振れあり」とちゃんと書いている、というのはジャガーチェンジができる(やるかどうかは兎も角)布石はここでも着実に打っていることが分かるわけです。

ということなので、このあたりのジャガーチェンジができるようにしている仕掛け部分を重視すれば、むしろ衣はハトだけど下の鎧はタカじゃん、とも読めますので、タカ解釈がおかしいとは今回は思わないですアタクシ。

えっと、何の話をしていたんでしたっけ(笑)リスクに関するマクラの続きです。

『例えば、本日ご説明した日本銀行の中心的な見通しについては、「各国の通商政策等に関し、今後、各国間の交渉がある程度進展すること」、また、「グローバルサプライチェーンが大きく毀損されるような破壊的な状況は回避されること」などを前提としています。』

何かこの前提がわかりにくいんですよね、関税何%とかをレンジで良いから想定出してほしいわ。

『逆に言えば、こうした前提が崩れれば、先行きの見通しは上下双方向に大きく変化する可能性があります。また、通商政策の展開そのものに加えて、それらを受けて、内外の経済主体がどのように対応するのか、という点を巡っても大きな不確実性があり、十分な留意が必要です。

こうした点を踏まえつつ、以下では、この先、特に留意すべき3つのリスクについて指摘したいと思います。』

ということなので、ちゃんと上振れすなわち利上げ路線復活の話もしている訳ですよ、でもってこれ昨日も書いた気がしますし何ならこの後にも書きますが、まあ結局6月の国債買入減額の継続決定というのが今の最重要課題で、この課題を無事にクリア(=長期金利が無駄に暴れない)するためにはそれ以外の話は「1回パス」しておく、という感じだし、ちょうど関税問題もあるし、こりゃちょうどええとばかりに関税の経済への影響ガーを丁寧に説明した、ということなんだろうなあって思います。

と申しますのは、以下の「関税のリスク」なんですけど、ここで挙げられている話って経済下押しリスクちゃあ経済下押しリスクですが、特に3点目に長々とあるように「グローバル化の巻き戻し」という話に行数を割いていまして、じゃあグローバル化の巻き戻しってそれ経済下押しなのかというと必ずしもそうとは言えず、一方で物価に関しては明らかに構造的な物価押し下げ圧力の減衰を意味しますから、ここで言ってるリスクってリスクの話をしているからまあ見え方はハトなんですけれども、だから緩和政策が必要なのかという論点で見たばあいに必ずしもそうじゃないのではなかろうか、ってお話なのかなって思いました。

『(サプライチェーンの複雑性)

第1は、近年のグローバルサプライチェーンの高度化に伴い、その複雑さも増してきたことが、関税政策の影響に関する不確実性を高めているという点です。』

と、小難しい事を言っているようですが、

『IT関連を中心に、アジアにおける生産ネットワークが複雑に絡み合っている中で、思わぬ形でボトルネックが生じ、それがサプライチェーン全体に波及すれば、わが国の輸出入や企業活動に大きな影響を及ぼすことも考えられます。こうした観点からは、日米間の交渉だけではなく、各国と米国の交渉の帰趨についても丁寧にみていく必要があります。』

要するに日米交渉だけではなくて米中とか米とアセアン諸国の動向も見ないといけませんね、ってお話でした。

でもって次ですが、

『(企業の賃金・価格設定行動)

第2は、各国の通商政策の影響を受けて、わが国企業の賃金・価格設定行動が大きく変化してしまうリスクです。』

まあこれはリスクです、ってことなんでしょうけれども、前段で「マインドへの影響から需要が下押しする影響」について説明をしていて、なんか重複感半端ないですね。

『先ほど、労働需給の引き締まった状態が続く中、企業の積極的な賃金・価格設定行動は維持されるとの見通しを申し上げました。とはいえ、実際の物価の変動が企業や家計の予想や行動様式を変化させ、これを介して、先行きの物価への影響が増幅され得る可能性があることにも注意が必要です。』

賃金設定で言えば冬季賞与と来年の賃金設定、って事になると思うのですが、そこまで見るのか見ないでもどう見ても問題ないじゃろとなるのかの判断のポイントがどこにあるのかが良くわからんので、これまた通商交渉の進展度合いによって「ああ大丈夫大丈夫」となるかもしれませんね。


・インフレ期待は本当に2%に上がる過程なのでしょうかねえ

でもってこの部分で「インフレ期待のアンカー」という話が続くのですが、

『人々の物価観が2%にアンカーされている米欧と異なり、わが国では、いまなお、緩やかな物価上昇を前提とした賃金・価格設定行動が、企業や社会に十分に定着したとは言えない状況にあります。』

という認識になっているのですが、家計に関してはホンマカイナという感じで、緩やかどころではない物価上昇に対してどうしましょって感じになっていないのかねと思いますし、最近の値上げって寧ろお間ら調子乗ってないかムーブも感じないわけでもないし、本当にインフレ期待がまだまだ低い、というのが正しいのかってもうちょっと検討した方が良いんじゃないかって思うのですよね。

もしここを読み間違えていたら割と重大なダメージになるわけでして、この部分ってそりゃまあ日銀だって必死こいて実態について考えているとは思うのですが、緩和政策継続の方に思考が引っ張られていたりしたら後年戦犯扱いになりますよ本当に大事ですからあんまり過去に引っ張られないで、とは申し上げたいところです。


・結局は主要製造業大手企業の冬から春に向けての賃金設定で判断しそうですね

『そうした中にあって、関税政策の影響により、輸出企業やグローバル企業の収益に下押し圧力がかかる場合、それが自社の賃金抑制圧力や、サプライチェーンを通じたコスト削減圧力につながることがないか、については丁寧にみていく必要があります。』

何かオブラートに包んでいますけど結局は主要製造業大企業のこの先の賃金設定がデフレ脳な設定に戻ってしまうか、それともデフレ脳にはならないで、賃上げが多少マイルドになるにせよ、物価上昇にある程度追随できる賃上げになるのか、というのが注目です、って思いっきりゆうとりますなこりゃまた。

『逆に、グローバルに物流が混乱し、輸入物価に上昇圧力がかかるような状況が生じた場合、コストプッシュ圧力が物価、更には賃金に影響を及ぼす可能性がある点にも注意が必要です。』

後半は注意するのは良いんですが今回の講演の理屈、コストプッシュは中央銀行は対応しない、ですと注意が必要ったって注意した結果なんのアクションに繋がるのかが意味不明ですね〜。


・グローバル化の巻き戻しの可能性についての話が一番長いのよ

でもってこの次が『(グローバル化の先行き)』って小見出しですがこれがかなりの大作。

『第3は、より長い目でみて、米国の関税政策やそれを契機に構築される新たな国際的な関係が、グローバル化という世界経済の成長を支えてきた大きな流れにどのような影響を及ぼし得るかという点です。』

という話でして、これもはや目先の金融政策関係ないじゃろという話ですけれども、以下壮大な話になっているので鑑賞するには興味深いお話になっています、引用しますね。

『図表8をご覧ください。左グラフにありますように、世界の貿易や直接投資は、東西冷戦が終結した 1990 年代以降、2000 年代後半にグローバル金融危機が起こるまで、急速に増加しました。その後も、世界貿易は、世界経済の成長とおおむね同じペースで増加を続けています。また、右グラフにありますように、わが国の企業は、生産コストを抑制するサプライチェーンの構築や現地需要の取り込みなどを企図して、海外諸国と比べても、より積極的に対外直接投資に取り組んできました。』

はい。

『こうしたグローバル化への対応は、わが国企業の収益力強化に貢献してきたと考えられますが、一方で、様々なリスクを抱え込むことにもつながっています。』

ほう。

『例えば、製品の生産工程を細分化し、それらを複数の国にまたがって配置することは、コスト抑制に資する一方、生産・在庫管理を難しくしている面があります。こうした脆弱性は、コロナ禍以降に相次いだサプライチェーン障害によって、より明確になりました。』

まあそうですよねってのはありまして、こちとら昭和脳なので、それこそどっかの国でクーデターが起きましてどうのこうのとか、内戦が現在こんな感じで進行していますとか、そういうニュースを普段のニュースでホイホイと聞いていたわけなので、その時代から比較したらそら海外展開も進むし、急に昭和に戻ったらエライコッチャだわという話でもありますわな。

『また、ロシアのウクライナ侵攻などは、各国の経済安全保障に対する意識を高めることになり、これが世界の貿易や企業の生産活動に影響を与えるケースもでてきています。このような流れが続く中、今回の関税政策が、サプライチェーンの在り方に関する更なる検討を促すきっかけとなり、企業行動、とくに生産拠点の立地戦略に大きな変化をもたらす可能性があります。』

今回は戦争と超大国の横紙破りの合わせ技ですもんね。

『もちろん、生産拠点をどこに配置するかは、コストとベネフィット、様々なリスク要因を考慮して企業自身が判断すべき問題です。世界経済を巡る大きな環境変化は、企業が乗り越えなければならない新たな課題ですが、過去にも、わが国経済は、企業の前向きな取り組みを原動力として様々な課題を乗り越え、成長力を高めてきました。』


・グローバル化の話の後半はリスク云々の話ではなくて米ロに向けた素晴らしいメッセージになっていて評価されるべきです

でもってこの後の部分は大変に良いメッセージだと思います、引き続き引用しますが、

『こうした前向きな努力を後押しするためにも、企業が過度に国際情勢等に対するリスクを警戒しなくて済むよう、開かれた、公正かつルールに基づく国際経済秩序を支えていくことが大切です。』

これはまあロシアもそうですがトラ公に向かっても抗議表明しているような話ですが、大変に良いメッセージだと思いました。連中が聞く耳持つとは思えないけど、意思表示をするのはとても大事。

『この点は、私が出席した4月のIMFC会合(国際通貨金融委員会)でも改めて確認されました。』

ほほう。

『過去 30 年にわたる急速なグローバル化が、その成果の分配を巡って様々な難しい問題を引き起こしているのは事実ですが、その一方で、世界経済の分断化(fragmentation)やデカップリングの進展による勝者がいないこともまた、事実です。』

おーーー!

『各国は、今後、より良い国際経済秩序を構築する努力を重ねていく必要があります。その過程では、国際金融資本市場や国際金融システムの安定を確保していくことも重要です。日本銀行としても、各国の中央銀行や内外の関係者と情報交換をしながら、自らの持ち場において、こうした課題にしっかりと対応していきたいと考えています。』

なんかここだけ滅茶苦茶異質なんですが、植田総裁が思い入れを籠めて差し込みでもしていたのだったらば植田総裁素晴らしいじゃんと思いますし、まあ日銀としてもこういうメッセージを出したい、というのがあったのでしたらそれもまた素晴らしいことでして、この部分って目先の金融政策と関係ないからニュースネタにはならないのですが、もっと評価されるべきところ(というかまあ今回の講演での評価ポイントはほとんどここしかないわ)だと思いました。


・金融政策運営では金利の運営について今はパスだけど状況好転したらジャガーチェンジの余地を示す

『4.日本銀行の金融政策運営』は『(先行きの金融政策運営)』から始まりますが、ここはもう「当面は分からんのでパス」という説明で一貫しています。

『それでは、日本銀行の金融政策運営に話を移したいと思います。』

『ここまで申し上げてきたように、現時点で日本銀行としては、わが国経済は関税政策による下押し圧力を受けつつも持ちこたえ、賃金と物価が相互に参照しながら緩やかに上昇していくメカニズムも途切れることはないと考えています。』

「賃金と物価の好循環」やっぱり本格的にお蔵入りなんでしょうね、もうこの表現に統一されてますもん。

『基調的な物価上昇率についても、いったん伸び悩む局面はあるものの、2%に向けて徐々に高まっていくという大きな方向感は、これまでの見通しと変わりありません。その一方で、こうした中心的な見通しに対するリスクとして、各国の通商政策の今後の展開を巡る不確実性はきわめて高く、その金融・為替市場やわが国経済・物価への影響については、十分注視していく必要があります。』

でもってこの次に直近の米中合意(一時停戦合意みたいなもんですが)を受けての見通し変化は起きたのか問題にご丁寧に触れていまして、

『最近の各国間の交渉の進展、とくに米国と中国が、相互の関税率を大幅に引き下げることで合意したことは市場においてポジティブに受け止められていますが、それでもなお、不透明感が強い状況は続いています。金融政策運営にあたっては、これらの動向を丁寧に確認したうえで、適切に判断していく必要があります。』

まあこの書き方をみますと(ただの一時停戦合意だから当たり前ではありますが)先行きはまだ全然わからんから動かんもんねーというのは旺盛にみられるわけで、まだまだ動くような雰囲気は出しませんなというお話。

とは言え返す刀でジャガーチェンジの余地は残していまして、

『その前提として、現状、わが国の金融環境が緩和的な状態にあることは、重要なポイントです。図表9をご覧ください。これまで、予想物価上昇率が緩やかに上昇する中でも慎重に緩和度合いを調整してきたこともあり、現在の実質金利は、大規模緩和の時期をも下回る大幅なマイナスとなっています。また、金融機関の貸出スタンスは引き続き積極的で、社債等の発行環境も総じて良好な状態を維持しています。こうした緩和的な金融環境は、各国の通商政策の影響がみられるもとでも、わが国の経済活動をしっかりとサポートしていると判断しています。』

ちなみにこの「実質金利」(脚注にあるように「実質金利は、国債利回り(1年物)から予想物価上昇率(日本銀行スタッフによる推計値)を差し引くことにより算出」というだいぶ怪しげなものを使っていますけど、これは例によって展望レポート背景説明を見ますと、4月号だと本文32ページの図表47に同じものがあります。

でまあその実質金利の水準の見せ方の怪しさはさておきますけれども、まあこのように実質金利はドマイナスアピールをしているのですから、通商交渉好転の暁にはしらっとジャガーチェンジする布石は盛大に打っているわけですな。

『以上の点を踏まえますと、今後、私どもの中心的な見通しに沿って、わが国の基調的な物価上昇率が2%に向けて高まっていくという姿が実現していくとすれば、経済・物価情勢の改善に応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことになると考えています。そのうえで、各国の通商政策の今後の展開やその影響を巡る不確実性がきわめて高い状況にあることを踏まえ、そうした見通しが実現していくかについては、内外の経済・物価情勢や金融市場の動向等を丁寧に確認し、予断を持たずに判断していく方針です。』

と最後は従来示している通りの話をして締めています。


・長期国債買入減額に関してはイタコ話法を使って日銀の減額に関するやる気を見せたものと解釈します

一方で異色だったのは次(実質最後)のコーナーの『(国債買入れの減額計画の中間評価)』です。

『最後に、長期国債の買入れについてお話しします。日本銀行は、かつて実施していた大規模緩和からの出口を進めていく中で、昨年6月、我々が市場から買入れている長期国債の金額を減らしていく方針を決定しました。翌7月には、図表 10 にあるような、2026 年3月までの減額計画を策定し、現在は、この計画に沿って実際に減額を進めています。』

から始まりますが、ここも含めて以下はただの現状のご紹介ですので引用はしますが流します。

『そこでは、「長期金利は金融市場において形成されることが基本」であるとしたうえで、日本銀行による国債買入れは、「国債市場の安定に配慮するための柔軟性を確保しつつ、予見可能な形で減額していく」としています。予見可能性という意味では、現在の計画において、来年1〜3月にかけて、国債買入れ額を毎四半期 4,000億円程度ずつ減額していくことをあらかじめ明確に示しています。一方、柔軟性を確保する観点からは、計画の中で、「長期金利が急激に上昇する場合には、機動的に、買入れ額の増額等を実施する」こととしているほか、国債の残存期間別の買入れ額といった具体的な事項は、その時々の市場環境を踏まえて実務的に決定する扱いとしています。』

『さらに、今月開催される金融政策決定会合において、現在の計画の「中間評価」を行うとともに、2026 年4月以降の買入れ方針について検討し、その結果をお示しすることとしています。』

でもって段落が変わって、

『そうしたもとで、現在、日本銀行では、この中間評価に向けて、国債市場の動向や機能度の点検を進めています。その一環として、先月半ばには、債券市場の参加者との意見交換を行うための会合を開催しました。昨日、同会合の議事要旨が公表されていますが、そこでの議論も踏まえたうえで、現時点で私どもが考えているポイントは、次の3点になります。』

ということでマクラが長いのは内外情勢調査会が相手なので背景説明しないで本編から入るのはちょっと不親切だから、ってことでしょう。では3点ですが、

『第1は、これまでのところ国債買入れの減額は、国債市場の機能度回復という所期の効果を発揮しているということです。』

まあやらないよりはましだけどもっと減額すればもっと機能度回復してたんじゃないでしょうかとしか申し上げようがない。

『市場参加者からは、関税政策の影響を受けて、春先以降、市場の流動性が低下する局面がみられたが、全体としてみれば、国債市場の機能度は改善傾向にあるとの指摘が多く聞かれました。こうしたもとで、来年3月までの現在の減額計画の修正を求める声は限られているようです。そのうえで、日本銀行の国債保有残高がなお多額に上るもとで、市場の機能度を一段と高める努力を続けていくことが重要との認識も、多くの市場参加者に共有されていたように思います。』

>来年3月までの現在の減額計画の修正を求める声は限られているようです
>来年3月までの現在の減額計画の修正を求める声は限られているようです
>来年3月までの現在の減額計画の修正を求める声は限られているようです

イタコ話法キタコレ!


『第2は、2026 年4月以降の計画を検討する際には、引き続き、予見可能性と柔軟性のバランスが重要であるという点です。』

なのは良いんですけど、来年4月以降のペースについて今から決め打ちする必要ってあるのかね、というのは疑問で、何ならFEDとかだって(規模が違うから参考にしにくいのはあるけど)とりあえずバランスシートの縮小幅(の限度)を決めてオートパイロットで減らしていって、途中で「今後はこれで行きます」って言ってペースを変更している訳でして、2026年4月以降を決め打ちするんじゃなくて、そろそろオートパイロット方式にしても良いんじゃないか(まあべき論としては加速しろなのでオートパイロット方式を今入れられるとペース遅いわと言い出しそうですけどワタクシ)。

でもって、

『予見可能性を確保する観点からは、あらかじめ、ある程度の期間の計画を示すことが適切と考えられます。一方で、国債市場の機能度の回復がなお道半ばにあることや、春先以降の価格変動の経験も踏まえますと、引き続き、柔軟性を確保する仕組みが必要とのご意見が多かったように思います。』

ここでもイタコ論法なのですが、市場の大きな変動に対する柔軟性、の他に「実はもっと加速しても良かったんじゃないか」なのが見えてきた時の柔軟性ってのもあると思うので、なにも今の時点で1年半とか2年も先の話を決め打ちせんでもよかろうって思うのですが(前回は初回だったから2年というか1年9か月にしてたけど・・・・・)。

まあそれは兎も角3点目。

『第3は、市場参加者からは、2026 年4月以降も、国債の買入れ額を減らしていくことが適切との声が多く聞かれたという点です。』

はいはいイタコ話法イタコ話法。

『もっとも、具体的な減額ペースについては様々な意見がありました。日本銀行としては、これまでの減額の経験を踏まえつつ、こうしたご意見も参考にしながら、次回の金融政策決定会合において、来年4月以降の買入れ額をどのようにしていくのか議論していきたいと考えています。』

いやマジで「方向性としては減額するのは変わらんのだが今後の減額の進捗を踏まえて12月会合か1月会合辺りを目途に26年4月以降の具体的な計画を策定したい」で何が困るのかとは思うんですけどねえ・・・・・・さもなくば普通にオートパイロットにして、何か不具合有りそうだったら修正しますわ方式にするか。





2025/06/04

〇植田総裁内外情勢調査会講演ですが「利上げへの熱量無し」「輪番削減はやる気満々」かなと

https://www.boj.or.jp/about/press/koen_2025/data/ko250603a1.pdf
最近の経済・物価情勢と金融政策運営
―― 内外情勢調査会における講演 ――
日本銀行総裁 植田 和男


・基本的には「慎重スタンス」の表明とアタクシは読みましたがハトハトと読まない人もいるでしょうな

今回の内外情勢講演はやや解釈に幅が出てくると思うのですよね。と申しますのは「見通し通りに推移すれば緩和政策の調整を行う」というのを強調しているというのがあって、しかも経済に関して言えば関税の影響の話をああでもないこうでもないとしているけれども、実際の経済の認識についてはここまでのところ大コケしている訳ではない、ということになっているうえに、最後の長期国債買入ペース削減問題に関しては割とやる気満々になっているんですよね。

とは言いましても、まあアタクシ思いまするに、政策スタンスの部分、米国関税政策の影響の説明の部分、「基調的物価」の説明部分を見ますと、まあ早期利上げなんてとてもとても、って感じの説明で、利上げをやっていって正常化しましょう感が全然出ていないな、という風に読んだので、どちらかというとハトハトというかや〜るき無し♪無し♪って読みました。

ってな訳でその辺を中心に読んでみるでござるの巻です。


・冒頭の「初心を忘れず」ってのはつまり2023年5月のハトハトチキン講演に立ち戻るということですよね

最初は『1.はじめに』ですが、

『日本銀行の植田でございます。本日は、内外情勢調査会でお話しする機会をいただき、ありがとうございます。今からちょうど2年前、私が日本銀行総裁に就任して初めて講演をさせていただいたのが本席でした。そこでは、総裁の職務を果たしていく際の心掛けとして、「論理的に判断したうえで、できるだけ分かりやすく説明していきたい」と申し上げました。また、物価の安定の達成というミッションの実現に向けて、当時ようやく見え始めていた「2%達成の『芽』を大事に育てていくこと」の重要性を指摘いたしました。』

でまあその「芽」を大事に育てていく、というのが何だったのか、2023年の内外情勢での金融政策運営の最後の部分を改めて確認しましょう。

https://www.boj.or.jp/about/press/koen_2023/ko230519a.htm
金融政策の基本的な考え方と経済・物価情勢の今後の展望
内外情勢調査会における講演
日本銀行総裁 植田 和男
2023年5月19日

『これをわが国の現状に引き直しますと、拙速な政策転換を行うことで、ようやくみえてきた2%達成の「芽」を摘んでしまうことになった場合のコストはきわめて大きいと考えられます。逆方向の、政策転換が遅れて2%を超える物価上昇率が持続してしまうリスクもありますが、こうした2%の定着を十分に見極めるまで基調的なインフレ率の上昇を「待つことのコスト」は、前者に比べれば大きくないと思われます。そうした意味で、先行きの出口に向けた金融緩和の修正は、時間をかけて判断していくことが適当だと考えています。この「芽」を大事に育て、賃金の上昇を伴う形で、2%の「物価安定の目標」を持続的・安定的に実現することを目指します。』(この部分のみ直上URL先2023年5月の植田総裁講演より)

ということで、「芽を大事に育てていく」とか言ってますがまあ既にセイタカアワダチソウ状態になってるじゃろヴォケと言いたいところですが、では2年前からどうなったのでしょうという話で講演に戻りますと、

『その後、幸いにして、わが国の経済・物価情勢は改善を続け、賃金の上昇を伴う形で2%達成の「芽」は順調に育ってきました。昨年3月には、2%の「物価安定の目標」が持続的・安定的に実現していくことが見通せる状況に至ったと判断し、10 年以上に及んだ大規模な金融緩和の枠組みを見直しました。その後、昨年7月、本年1月と政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整してきたところです。』

芽が育ちすぎてませんかねえ。

『もっとも、本年春先以降、米国が打ち出した一連の関税政策は、多くの人々の事前の予想を大きく上回る規模であり、内外の経済・物価を取り巻く環境は大きく変化しています。わが国の経済・物価を巡る環境も複雑さを増していますが、本日は、初心を忘れず、改めて、私どもの経済・物価に対する見方や金融政策運営の考え方について、出来るだけ分かりやすく説明したいと思います。』

>初心を忘れず

初心を忘れず、というのはまあ現国の試験問題的には「わかりやすく説明したい」だということになるのですが、2年前の講演が衝撃のハトハトチキン講演で為替市場における円安を促進した、ということがありますので、どうもこの「初心」とは「ハトハトチキン」を思い出しますし、ハトハトチキンが言いすぎならば「慎重なアプローチ」であり、「待つことのリスクは相対的に低いという認識」というお気持ちが溢れているようにアタクシには読み取れましたが勝手読みのし過ぎかも知れませんので念のため申し添えます。


・関税政策の影響はひたすら「経済に下」の話ばっかりなのと主役が展望レポート時の見立てから交代している感があります

『2.通商政策の影響と経済・物価情勢』ってのがまあ本編ですが、最初の小見出しが『(通商政策のわが国経済への影響)』ですな。最初の方の能書きは飛ばしまして関税政策の影響について。

『こうした各国の通商政策の動向は、いくつかの経路を介して、わが国の経済を下押しする要因となります。』

はい。

『第1の経路は、米国市場におけるわが国の輸出財の価格競争力の低下を起点としたものです。』

つまり従来の米国向け輸出に関連する数量あるいは収益への悪影響ですな。一応以下の能書きを引用します。

『これは、米国の関税政策の直接的な影響として、メディアなどで取り上げられることも多いかと思います。図表2をご覧ください。輸出関連のデータをみますと、これまでのところ、左グラフの実質輸出の実績はしっかりとしています。これには、今後の関税引き上げを見越した駆け込みの動きが一部影響していると考えられますが、この先、わが国企業が米国での販売価格に関税の影響を転嫁する場合には、米国製品にシェアを奪われるなどして、わが国からの輸出を抑制する方向に作用すると考えられます。』

でもって、

『実際、右グラフにあるように、輸出受注に対する企業の見方は、増加と減少の節目である 50 を下回っています。』

なので、マインドには出ているけれども実際には駆け込み効果などもあって今のところ数値としてはでていませんという評価ですね。

『他方、わが国の企業の中には、米国内の販売価格を変えずに、関税引き上げの影響を輸出採算の悪化という形で吸収する戦略をとる先もあると思います。この場合、現地での売れ行きや輸出数量に対する影響は限定的です。しかしながら、企業収益には下押し圧力がかかることになるため、これが先行きの賃上げや設備投資にマイナスの影響を及ぼす可能性があります。』

こっちは収益なので経済指標みたいな形で出るのにはもう少し時間がかかりますわな。

でもって次。

『第2の経路は、不確実性の高まりによる需要の減少を起点としたものです。』

でですね、この点ですけれどもこの先にしれっとこんな記述がありまして、

『第1の経路に比べて話題になることは少ないですが、むしろこちらのルートの方が、より早い段階でわが国経済の下押しに働く可能性があると考えています。』

あらま、って感じでして、従来(というか4月展望レポート)では関税政策の影響で世界経済に影響が来て(IMFのWEOもちょうど下方修正された時期でした)、それが国内経済に跳ねてくる、というルートで主に説明していたのですが、「むしろこちらのルートの方が、より早い段階でわが国経済の下押しに働く可能性があると考えています。」としているのは注目ですね。

以下能書き。

『関税政策を巡る不確実性がこれだけ高ければ、その影響を受ける可能性がある企業は、当然のことながら、各種の投資案件に対して慎重にならざるを得ません。』

『家計部門でも、将来の景気悪化リスクなどに備え、自動車・家電といった耐久消費財や住宅の購入など、当面、大きな買い物を見合わせるインセンティブが生じます。』

ついこの前(と言っても関税前)は耐久消費財の前倒しの可能性に言及していたのでこの辺エラク弱気化したなと思ったので、まあこの辺りからもワシ的にはいつものハトハト音頭、と思ってしまいました。

『実際、図表3の企業や家計のコンフィデンスのデータをみますと、わが国の企業の景況感や消費者マインドは、ここにきて悪化しており、不確実性の高まりが企業や家計の支出行動に影響を及ぼす可能性があります。』

と来まして、

『実際にどの程度の影響が及び得るのかという点については、日本銀行としても、次回短観において、今年度の設備投資計画の修正状況などをしっかりと確認していきたいと考えています。』

ということで短観の設備投資計画がにわかに大注目となってきましたね。

では3番目行きます

『第3の経路は、世界経済が広く減速し、グローバルな貿易活動が縮小することに伴う影響です。』

4月の展望レポートの時点ではむしろこれがメインになっていて、他の主要国の中央銀行があの時点ではFEDは「まだ様子分からんから1回パス」でしたし、もともと景気減速気味だったECBは「段階的な利下げの追加で政策金利を中立化」はしたものの影響はこれから見て行きます、という中でなぜかフォワードルッキングに世界経済の下押しが強まるからベースラインシナリオを変更しました、とぶっこんで来たわけですが、今回はメインが「米国向け輸出の直接の影響」「マインド悪化による需要減」で、特にマインド悪化の方がこれから直ぐに来ます、ってことで話が変わっていますわな。

以下は能書き。

『いま述べた不確実性の高まりに伴う支出先送りの動きは、日本だけでなく、世界中で生じます。』

『また、関税を課される国だけでなく、米国など関税を課す側の国でも、輸入物価の上昇などを通じて国内需要が下押しされる可能性があります。』

『とりわけ、多くの生産工程を必要とする耐久消費財や資本財などに対する世界的な需要の減少は、グローバルサプライチェーンを通じて増幅される形で、わが国を含む各国の輸出や生産を下押しする可能性があります。』

とまあエライしょんぼりしてしまう話ですが、

『この点、4月に公表されたIMFの世界経済見通しでは、図表4の右グラフにあるように、先行き、グローバルな貿易量の停滞に引き摺られる形で、世界全体の実質GDPが下振れる姿が予測されています。こうした貿易活動を通じた影響に加え、世界経済の減速が、海外現地法人からの配当金減少という形で、わが国企業の収益を下押しする可能性にも留意が必要です。』

とまあ威勢の悪い話。

最後は金融市場からの話です、まあこれは普通の事しか書いてませんが。

『第4の経路は、金融・為替市場を介したものです。』

はい。

『4月の半ばにかけては、米国による関税政策の発表をきっかけに、世界的に株価が大きめに下落し、ドル安が進みました。その後、こうした動きはある程度巻き戻され、世界的に株価や為替のボラティリティも低下してきていますが、引き続き、金融・為替市場の動向やそれがわが国経済に及ぼす影響を十分注視していきたいと考えています』

てな訳ですが、これ一つ留意点があって、「米国向けの直接的な輸出」と「マインド」ってのは関税交渉次第で一気に晴れる可能性がある代物なので、例によって例の如くこれが晴れたらまたも突如のジャガーチェンジが発生する、という可能性は無くは無い、というか多分そうなる、という点は留意すべき所でして、まあこれ読んでいると見極めに時間がかかりそうな説明にはなっていますが、所詮は関税交渉次第なので、トラ公の方が先に音を上げてしまえばこっちのもの、というのはおおありだと思いますからぜんぜん利上げないでっせと決め打ちするのもちょっとやりすぎ、というのはあると思います。


・現状の経済の走りについては逆に妙に強気ですがこれはジャガーチェンジをするための伏線ですね

次が『(わが国経済・物価の見通し)』ですが、ここの記述は威勢が良いのですよ。

『以上、米国の関税政策の影響について、やや詳しくご説明してきました。続いて、これを前提とした、わが国の経済・物価の見通しについてお話しします。』

という事ですが何とですね、

『いま申し上げたように、最近の関税政策は、いくつかのルートを通じて、わが国経済の下押し要因として作用します。もっとも、現時点で日本銀行としては、わが国経済は、こうした下押し圧力を受けつつも持ちこたえ、賃金と物価が相互に参照しながら緩やかに上昇していくというメカニズムも途切れることはないと見込んでいます。これは、高水準の企業収益がバッファーとなるほか、これまでの景気回復で家計の所得環境も底堅さを増しているためです。』

実質賃金のマイナスが続いているのに「これまでの景気回復で家計の所得環境も底堅さを増している」ってこれ下手に着火されたらアカン火種じゃろと思うのですが、まあ大本営発表ではこういう話にしているのは要は「足もとは強いよ」と言いたいという事。

『図表5をご覧ください。ここ数年、わが国の企業収益は、全体として歴史的な高水準を続けており、多少の下押し圧力を受けたとしても、資金面から企業行動が大きく制約される状況ではありません。』

『また、先ほど申し上げた関税政策の影響は、まずは製造業・輸出企業を中心に表れると見込まれますが、雇用全体の約8割を占める非製造業が堅調であることから、これが、わが国の経済活動を下支えすると考えられます。』

なんですかこの楽観(のように見える説明)はw

『この点、2019 年に米中貿易摩擦が拡大した局面でも、わが国の輸出や製造業の生産活動が弱めの動きを余儀なくされた一方、非製造業の業績は堅調に推移し、人手不足感が強い状況は維持されました。』

で、ここからが家計の話なんですが、実質賃金の話を丸無視して雇用が強い、という話をしていて、だから「家計の所得環境も底堅さを増している」ということにする、という割と強引感のある説明。

『人口動態の変化を受けて労働供給の限界が強く意識されている中、このところ、非製造業の人手不足感は一段と強まっています。こうしたことから、関税政策の影響を受けるもとでも、わが国の労働需給は引き締まった状況が続き、企業の積極的な賃金設定行動は、全体として維持されていくのではないかと判断しています。』

という根拠になっていますので、つまり現状が強いってのを強調しているのは、関税交渉が進展した場合にジャガーチェンジをするための布石を打っていることに他ならないので、この部分を重視して読めば「割とタカっぽいじゃん」となると思います。


・好循環は遂にお蔵入り(か????)

先ほどの部分を再掲しますが、

『もっとも、現時点で日本銀行としては、わが国経済は、こうした下押し圧力を受けつつも持ちこたえ、賃金と物価が相互に参照しながら緩やかに上昇していくというメカニズムも途切れることはないと見込んでいます。』

>賃金と物価が相互に参照しながら緩やかに上昇していくというメカニズム
>賃金と物価が相互に参照しながら緩やかに上昇していくというメカニズム
>賃金と物価が相互に参照しながら緩やかに上昇していくというメカニズム

・・・・・( ゚д゚)
・・・・・(つд⊂)ゴシゴシ
・・・・・( ゚д゚;)

なんですかこれはという感じですが、まあさすがに「好循環」って言ってると今は政治ばかりが叩かれているので日銀セーフ(寧ろ利上げするなとか言われていて金融リテラシー無し無しムーブなのが悲しいですが)という図になっていますが、どこかでうっかり犬笛を吹かれたらどうみたって「好循環」って炎上要素ですから、そらまあ好循環はお蔵入りさせろというのはあったのですが、今回しれっとお蔵入りですかね、まあ今後も確認したいですけど。


・物価に関しては「基調的物価」の説明でいろいろな図表登場

『次に、物価についてご説明します。足もと、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は3%台半ばとなっています。これについては、図表6でお示ししているように、昨年秋以降、米などの食料品価格が大きく上昇していることが寄与しています。こうした価格の上昇については、輸入した肥料や原材料、天候要因などのコストプッシュの影響が大きいとみており、少なくとも前年比でみた上昇率は、今後低下していくと見込まれます。』

コストプッシュだから対応しない、という屁理屈がおかしい点については今次のインフレ局面で主要国の中央銀行だって対応を間違えていて、その反省の元に米国の定例のロンガーランゴールあんどストラテジーの見直しが行われている、という状況になっているのに、これ黒田末期からの物価上昇をずっと一時的と言い張って政策の見直しが遅れていることの正当化先にありきで「コストプッシュだから対応しない」を続けた結果物価が高止まりしているんですけど、こんなん「初期段階でコストプッシュは一時的と思っていましたがどうもそうではなかったようです」って言えば済むことを何で日銀って「謝ったら死ぬ」ムーブをぶちかますんでしょうかねえと思います、まあいつもの悪態ですが。

『そのうえで、中央銀行の金融政策は、特定の財・サービスの価格を動かすものではなく、需要全体に影響を及ぼすことを通じて物価の安定を実現しようとするものであり、また、その政策効果は時間をかけて経済に波及していくものです。そのため、2%の物価安定を実現していくにあたっては、コストプッシュの直接的な影響を除いた基調的な物価上昇率の動きをみていくことが重要となります。』

はいきました基調的物価とかいうお気持ち物価。

『残念ながら、これさえみれば基調的な物価の動きがわかるという便利な指標は存在しません。物価変動の背後にある労働需給や賃金上昇率など、経済・物価に関する様々な情報とともに、各種の物価指標を丁寧にみていく必要があります。そう申し上げたうえで、図表7にお示しした代表的な指標を見る限り、』

ということで図表7を見ますと、巻末の方に「図表7 基調的な物価上昇率に関連する指標」ってのがあるので見るわけですが・・・・・・・・・・(PDF17枚目になります)

『@価格変動の大きい品目を控除した物価指標』

凡例を見ますと、

『@CPI(除く生鮮食品)
ACPI(除く生鮮食品・エネルギー)
BCPI(刈込平均値)
CCPI(加重中央値)
DCPI(最頻値)』

となっていますけど、毎月出している刈込平均の図表対比で扱いが随分寂しいですな、と思うと次に

『A賃金変動を反映しやすい指標』

というのが出てきまして

『@CPI(低変動品目)
ACPI(サービス)のトレンド』

ってのがあるんですが、これは展望レポート背景説明の方でも同じものがありまして、4月展望レポート全文(https://www.boj.or.jp/mopo/outlook/gor2504b.pdf)本文28ページ(PDFで30枚目)に3つあるグラフの一番下に「図表38:賃金要因によるCPIの変動」ってのがありまして、まあこれと同じものですわな。

『B中長期の予想物価上昇率』

がこの前もネタにしましたように、そもそもこの数値自体が推計値だし、家計のインフレ期待に関しては定性的な回答(大きく上がるとか上がるとか下がるとか大きく下がるとか)を数値処理しているので、過去の低インフレ局面を割と長い期間含めた処理をしたら局面変化の際にちゃんとその変化を読み取れているのかが怪しい(というのはスタッフペーパーの段階ではちゃんと記載されています為念)のに、あたかも「ザ・10年予想物価上昇率」があるようなグラフになっているのが毎度申し上げている通りの怪しさですし、

『C経済モデルから推計された指標』

『モデル@:フィリップス曲線の切片
モデルA:時変VARモデル
モデルB:準構造モデル』

こりゃ何ですねん(フィリップス曲線は4月号展望全文の本文31ページに出ています)というのがありまして、なんかいろいろと説明しようとしているのは分かるのですが、どうせお前らまたチェリーピッキングしとるじゃろと言いたくなるのですな。

とは言いましても今回新手に出てきたCの数字はなんか急速に2に接近してて、何ならお前らこれ物価目標達成じゃなねえのとも思ってしまいますので何なんでしょうという感じではありますが、本編に戻りますと。

『わが国の基調的な物価上昇率は、これまでのところ緩やかに上昇していこれまでのところ緩やかに上昇しています。』

となっているだけでお気持ち物価の方は威勢良くない説明になっていますわな。ただまあさすがに実際の物価に関しては、

『4月の消費者物価指数をみても、様々な品目において、いわゆる「期初の値上げ」という形で、企業が人件費や物流費を含むコスト上昇を販売価格に反映する動きが続いていることが確認されました。』

としていますが、最後に関税政策を出してきて

『もちろん、関税政策の影響を受けてわが国の経済成長のペースが鈍化することは、物価に対する下押し圧力として作用します。』

つまりは利上げを前倒しする気は皆無というのはよくわかります。

『しかしながら、そうしたもとでも、先ほど申し上げたように、賃金と物価が相互に参照しながら緩やかに上昇していくメカニズムは維持されると考えています。また、先行き、各国間の交渉が進展し、通商政策を巡る不確実性が低下していけば、海外経済は緩やかな成長経路に復していき、わが国経済の成長率も高まっていくことが予想されます。』

ということなので、まあ一応関税交渉次第ではジャガーチェンジの可能性は大有り、というのは把握できたなというところではあります。

・・・・・ここで時間切れになりましたので続き(主に輪番ネタ)は明日で勘弁してつかあさい。






2025/06/03

お題「債券市場参加者会合の議事要旨が出てたので雑談を少々」

これはさすがの公共放送です
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250530/k10014819991000.html
市場も気になる!消費税減税議論の行方は【経済コラム】
2025年6月1日 11時23分

日銀の輪番がどうのこうので投資家がストライキとかいうゴミにも劣る題名の記事書いていた某ベンダーには猛省を促したいですな。いやまあ公共放送のHP読者に輪番オペがどうのこうのと言われても分からんから書かんってのは有ると思うけどw

この調子で次は「基調的物価って何?」ってお題でお気持ち物価について寸鉄をぶっこんでいただけることを期待しますし、そういうのを理性的に書いてくれるのはやっぱり公共放送さんしか居ないなあと思うのでした。


〇債券市場参加者会合議事要旨出ましたがまあ特にまとまりはないけど感想雑談を

https://www.boj.or.jp/paym/bond/mbond_list/mbond250602.pdf
「債券市場参加者会合」第 22 回議事要旨

1.開催要領
(日時)
銀行等グループ 5月 20 日(火)15 時 45 分から
証券等グループ 5月 20 日(火)17 時 30 分から
バイサイドグループ 5月 21 日(水)16 時 00 分から

(場所)日本銀行本店

(参加者)「債券市場サーベイ」等に参加する金融機関の実務担当者

(日本銀行出席者)金融市場局長、金融市場局総務課長、同市場調節課長、同市場企画課長

とまあそういうことで行われたようですが、こういうのってどういう話をするのか、という点で難しいものがあって、まあ今回の場合はテーマが輪番減額の話だから基本その話になるんですけど、より中長期的な話をしたいのか、目先の話をしたいのか、という辺りって(これはまあそういう設定にしたの市場局じゃなくて総裁方面だから仕方ないのですけれども)今回は先行きの話についてと目先の話について一緒くたにやってるうえに、先行きに関してももっと長い期間の話のべき論、という話なのかそうじゃないのか、というのも議事要旨を見ると判然としないなあという所でして、結果として読んでみるとなんというカオスのごった煮、ということになっておりますわな(個人の感想です)。

まあ長期的なべき論に関しては財務省の何とか委員会じゃないですけど、その手の諮問会議方式の方がよいのかも知れないなとは思いますし、特に本件のような日銀のバランスシートに関する話では、債券市場の話だけで考えても話が完結しないので、逆にこういう会議で中長期的な話をすること自体が無理筋じゃねえの、とは思います。

と申しますのも、債券市場の人たち普段は通常の短期金融市場における金融調節とかもともと興味がないところに来て黒田緩和以降の大幅な日銀当座預金の拡大で日々の資金需要の変化がどうしたこうしたとか分からんですけど、日銀保有国債残高に関してはひとえに短期金融市場における資金需給調整をどういうツール(今なら超過準備付利というツール)で実施していくか、という思いっきり短期市場プロパーの話になるので、まあそもそも論として中長期の姿を短期市場プロパーじゃない債券市場参加者会合で論じるというのには無理があるのでそんなの聞く必要ねえだろ、とは思いました。

・・・・ただまあこの点は総裁がいつぞやの会見で「2026年3月以降の中長期的な姿も云々」とか変な事言い出すからこうなっているのです、というのは繰り返しましてさて内容をちょっとだけ拝読しますが。

『2.日本銀行からの説明等

・ 日本銀行より、@最近の市場動向と市場調節、A国債市場の流動性、B債券市場サーベイの結果について説明し、C事前照会で寄せられた意見を紹介した。

3.参加者の意見
・ 上記説明の後、@これまでの買入れ減額を踏まえた国債市場の動向や機能度、A現行の長期国債買入れ減額計画、B2026 年4月以降の長期国債の買入れ、Cその他について意見を尋ねた。事前照会を含め、会合参加者から聞かれた主な意見は以下のとおり。』

ということで、事前照会の方(すなわち先に公表された資料)とだいたい同じ話になっているのですが、その時に無かった意見を少々鑑賞しておきますね。なお@とAはまあどうでもよいのでB以降の部分を見ますが、

『現行の長期国債買入れ減額計画』ってところから。

『・ボラティリティの上昇により市場全体のリスク許容度が低下し、需給環境も良好ではない状況で減額ペースを加速させると、かえって市場の機能度を低下させる恐れがあるため、現行計画を変更することは望ましくない。また、減額は金融政策の正常化の一環と理解しており、計画の途中で減額ペースを緩めると、誤ったメッセージを送ることになるため、これも適切ではない。』

まあ結局動かすなって話で、実務的にはまあそうじゃろうなとは思うのですが、ただまあそもそも当初の減額計画が(それまでの国債買入規模が馬鹿でかかったうえにマイナス金利政策解除して数か月の時点だったこともあって)及び腰気味の減額計画だった(と私は思っていますが異論は認める)ために市場機能の回復が遅れている、という可能性もあるのではないかと思うので、本当はその点をもっと深堀りした方が良い話ではあるんですよね。

まあそんな感じで、もともとに立ち返った時にこのペースで本当に良かったんだっけ問題は大いにあると思うのですが、実務的にシャーナシということで、

『・市場にショックが生じ、かえって減額の流れが途切れてしまうような事態は避けるべきであり、予見性を維持するという観点でも、減額の加速や一度の大幅な減額といった見直しはせず、現行計画を維持するべき。』

ってな話もあったようで。あと、事前資料の方では1行コメントになっていましたが、

『・現行計画のもとで、過度なボラティリティが生じることなく、着実に減額が進んだことや、国債補完供給に関する措置も相俟って、市場機能度が緩やかに改善してきた点を評価している。現行計画については、当初予定どおり実施することが適切だと考えている。』

という評価もまあそうですねとは思いました。ただ債券市場のスムージングはそれでいいのかもしれないけど、物価が高止まりしている中で日銀のバランスシートの縮小って本当は急がないといけなくなってきていると思うのです。

と申しますのは、これは年末に日銀のバランスシートに関して企画局ペーパーが出ていた時にちょっとネタにしましたけど、財務シミュレーションの前提にストレステストは無いわ、前提はユルユルのユルな時間かけていく前提だわというの「しか」出せないというのが今の日銀のバランスシートの抱える潜在的なリスクな訳で、正常化を加速させないといけない事態や金融引き締めまで行かなければいけない事態になった時に長期国債買入をこんなユルユルでやってたら対応余地が狭くなるのと、日銀財務がクソ悪化した時のリスクがある(一時的悪化は問題ないとは言え、信認はそういう理屈だけでは決まらないのでリスクはある)のですが、債券市場参加者会合でそっちのテーマでの話をする人もいない(そういうお題は課されていないし)ので、まあその辺はどうなのですかね、とは思います。


『26/4 月以降の長期国債の買入れ<ペース>』

最初の『(月間買入れ金額の減額ペース)』は意見がバラバラ過ぎてクソワロタという感じなのですが、そもそも論として日銀の長期国債買入はYCC政策をやっていた時期は長期金利の抑制という観点で実施していたものですが、今はあくまでも「資金供給オペの一環」なのでありまして、ただまあ過去YCCで馬鹿みたいな買入をしてしまっているので一度にゼロにできないから段階的に減らしている、というだけの話なんですよね。

然るに、意見を見ますとどう見てもお前ら日銀の長期国債買入を「あてにして」ポジション運営をしようとしているだろ、と思われる意見が散見されていまして、こういう状態、すなわち中央銀行による長期国債の買入が市場にビルトインされているような状態、というのがそもそも論としてまちごうとるのですから、まずそのYCC脳を何とかしろと申し上げたいのですが、まあゆうてマイナス金利にYCCってのも10年くらいやってた訳でして、債券市場関連で息していた時間帯の中でその10年が殆どって方もそりゃ多いじゃろと思う老害ジジイのワイとしては、輪番が無いとマーケットメークできないとかただの甘え、と言いたくはなるのですが、言うと老害ジジイと言われるのが確定的なので大人しく黙っておくことにしておきます(黙ってないですかそうですかwwww)。

でまあそちらは事前資料と同じもの(文章が長いだけ)しか無かったので次に行きますと、


『26/4 月以降の長期国債の買入れ<買入れ金額等>』

こちらも事前資料通りだったのですが、事前資料の中では割愛されていた部分が紹介されていたのがあったので拝読拝読。

『・3兆円程度であれば、需給バランスが崩れ、金融システムの不安定化を招く恐れが低く、かつ日銀保有額も徐々に減少していくため、一旦この水準を維持することが望ましい。』

というのは事前資料の方にもあったのですが、さらに追加がありまして、

『更なる減額を行う場合、IRRBB 上の制約を踏まえた銀行の保有余力や、銀行以外の投資家の保有余力の確認が必要。』

・・・・・節子、それは財政ファイナンスって言うんやorzorz

「市場が支えられないから中央銀行が買うべき」ってのは何とかショックみたいな金融ショックの時にいう話としては危機対応で仕方ない面があるので、一から十まで中銀の介入を否定する気はアタクシとてさらさらないのですが、今の状況のどこがショックで危機対応なのか、ということを考えた場合、危機対応の時みたいな発想で考えるのはどう見たって良くないというか、このケースで言えば中銀による財政マネタイズを積極容認しているのに他ならない話になりますわな。

まあ発行に関しては要は発行を減らせ、すなわち中長期的な財政健全化という2013年2月の政府と日銀の共同文書に立ち返って話をすべき問題なので、そういう意味では2026年4月以降の買入が何兆円になるべき、みたいな話も何でいまする必要がありますねんとは思うので、日銀のこのお題のセッティングにも問題がある(のだがしつこいようだがこれをやらせているのは植田総裁の会見での説明によるので市場局よりも上の方が問題なのですけど)とは思いますけどね。

あと、これまた事前資料の方にもありましたが、

『・長期の計画を示す場合、目指すべき超過準備の姿も含めたバランスシートの考え方を示すと、予見性の向上につながると思われる。』

ということですが、まあだいたい今の中銀業界では「アバンダントリザーブ」を「アンプルリザーブ」に縮小して、ただそこから「スケアスリザーブ」に下げるのはよーせん、という形になっている向きが多いとは思うのですが、じゃあ日銀がアンプルリザーブにする、って言ったって所要準備が13兆円しかないわけで、アバンダントにも程がある今の状態で「適正なアンプルリザーブがどこか」とかわかる訳ないだろ、と思うのですよね。

つまりですね、植田さん「中長期的なものも示したい」みたいなこと言ってたとおもうのですが、どこからどうみてもそれは寝言オブ寝言じゃろ、と思うのです。

ちなみに話は脱線しますが、アタクシ的にはこの「アンプルリザーブ」ってのもあまり好きじゃなくて、と申しますのは、この方法ですと「中央銀行当座預金」が「市場運用よりも有利な運用先」になってしまうので、中銀当座預金へのアクセスの有無によって市場参加者間の競争のスタート時点の下駄が違ってくることになって、市場の価格発見機能が働く前に、この参加者間の不公平アービトラージの方が先に取引として出てしまう傾向が(特に超過準備が多くなればなるほど)発生してしまうので、市場デザインとしてあまりよろしいものではないと思うのです。

でまあそれよりはましだと思うのは旧ECB方式で、金融機関への所要準備をやや厚めに積ませる代わりに所要準備には付利を行い(ちなみにこの時代日銀もFEDも当預付利はしてない)、超過準備に関しては市場金利の下限を画すための常設ファシリティ金利(デポジットファシリティ)での付利を行い、市場金利の上限を画すための常設ファシリティ金利(マージナルレンディングファシリティ)で付利すりゃエエンチャウノとは思うのですが、一旦アバンダントリザーブの付利金利(゚д゚)ウマーとなってしまうとそれを引っぺがすのは(ひっぺがされる方からしたら収入剥奪だから)なかなか大変じゃろうなとは思うのですけどね。


あと、『その他のご意見』ってところですが、こちらは事前資料にもありましたが、ちょうど対句になっているようなのがあったので改めて並べておきます。

『・残存期間別の国債買入れ金額の決定に当たっては、フローだけでなく、ストックである発行残高対比の国債保有比率も勘案すべき。』

『・日銀保有比率の高い残存5〜7年の銘柄が恒常的に割高な状態となっており、イールドカーブの歪みを改善する観点からも、国債補完供給の減額措置の上限緩和、要件緩和の対象銘柄の拡大などの柔軟な措置を検討しても良いのではないか。』

ということで、結局これってYCCの最後に無駄な延命のために連続指値オペだのなんだのを乱発した弊害がここに来て表れてるって話でして、多角的レビューってこういう後から出てくる問題点をネグって纏めちゃっているのが罪深くて、数年後にもういちど多角的レビューのやりなおしをしてほしいと思うのでした。まあやらんじゃろうけど。


あと、この意見は良かったですね、事前資料にもあったけど・

『・超長期ゾーンの需給悪化は、発行に比して投資家需要が少ないという構造的な要因によるものであり、日本銀行が根本的に対応できる余地は小さい。』

そうなんですよ、そこを日銀に何とかさせようとするのは、ただの財政ファイナンスになるんですよね。

ということで今朝はこの辺で勘弁






2025/05/30

〇トランプ露骨な圧力キタコレ

いやーどこの未開国だよアメリカさん
https://jp.reuters.com/markets/japan/funds/LGCT5WLW4NLS7CPXC6O4TQHVMY-2025-05-29/
「利下げしないのは間違い」、トランプ氏がパウエルFRB議長に直接伝える
ロイター編集
2025年5月30日午前 4:39 GMT+9

『[ワシントン 29日 ロイター] - トランプ米大統領は29日、米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長と面会し、主要政策金利を引き下げないことは「間違いだ」と伝えた。ホワイトハウスのレビット報道官が明らかにした。』(上記URL先より、以下同様)

これはロバート・ムガベ大統領も天国でニッコリorzorz

『トランプ大統領がパウエル議長と面会するのは2019年11月以来。トランプ氏はFRBが利下げを行っていないとして、これまでも繰り返し公の場でパウエル議長を非難してきたが、今回議長に直接会って伝えた格好となる。』

傍から見ているとこんな無茶苦茶やっててよく軍部が大人しくしているわと思ってしまうレベルなんだが、FRBちゃんからはこんなリリースが。

https://www.federalreserve.gov/newsevents/pressreleases/other20250529a.htm
May 29, 2025
Statement on Chair Powell's meeting with the President

『At the President's invitation, Chair Powell met with the President today at the White House to discuss economic developments including for growth, employment, and inflation.』

discussという雰囲気ではなさそうだが・・・・・・とおもったら、

『Chair Powell did not discuss his expectations for monetary policy, except to stress that the path of policy will depend entirely on incoming economic information and what that means for the outlook.』

discussじゃなくて議論する代わりに主張した(except to stress)って思いっきり書いてあるのはさすがにFRBもナメトンノカとトサカに来ているということでよろしいでしょうか。

『Finally, Chair Powell said that he and his colleagues on the FOMC will set monetary policy, as required by law, to support maximum employment and stable prices and will make those decisions based solely on careful, objective, and non-political analysis.』

「as required by law」とか「non-political analysis」とかもうバチバチに火花飛ばした表現でこれはFRB当然とはいえ良く頑張っておられる、ということでございますな。

・・・・・・・いやこうなるともはやプーチンよりもタチが悪いまであるわトラ公(個人の感想です)


〇超長期ジャイアントスイング止まらねえ(今日も備忘メモ)

https://jp.reuters.com/markets/japan/funds/YLUBDJAKIZLOLMEL33BMBW46EA-2025-05-29/
〔マーケットアイ〕金利:国債先物は反発、売り先行後買われる 長期金利は1.52%に小幅上昇
ロイター編集
2025年5月29日午後 3:36 GMT+9

『[東京 29日 ロイター] - <15:14> 国債先物は反発、売り先行後買われる 長期金利は1.52%に小幅上昇

国債先物中心限月6月限は、前営業日比10銭高の138円95銭と反発して取引を終えた。売り先行後は前日の反動や水準に着目した買いが入った。新発10年国債利回り(長期金利)は同0.5ベーシスポイント(bp)上昇の1.520%。』(上記URL先より、以下同様)

とまあ横綱と10年カレント見ますと、うーんちょっとツイストスティープしましたねえ、くらいの話で収まるのですが、問題は毎度の超長期でして、

『現物市場では10年物以外の新発国債利回りも概ね上昇。2年債は前営業日比0.5bp上昇の0.750%、5年債は同1.0bp低下の1.030%、20年債は同5.0bp上昇の2.445%、30年債は同8.0bp上昇の2.980%、40年債は同2.5bp上昇の3.125%』

えーっと、7年が10銭高(1毛ちょいくらい強)に対して20年が5甘で30年が8甘ですかそうですか、ってなもんでして、昨日は10−25年の輪番があって輪番イマイチでこけましたっていうか引け近くに更にこけた感があったので何なんですかねえって感じですが、結局相変わらずの板の薄さでちょっと大人の売買があると値段がすっ飛ぶとかそういう話ですかしら知らんけど。

『TRADEWEB
    OFFER  BID   前日比 時間
2年  0.74   0.755   0.002 15:13
5年  1.027  1.035   -0.005 15:13
10年  1.516  1.524    0.011 15:19
20年  2.442  2.45   0.051  15:14
30年  2.97   2.987  0.083  15:19
40年 3.115   3.137   0.04  15:19』

とまあそんな訳でカレンダーベースの市中消化の組み換えがあるかも云々がらみのネタがメインだとは思うのですが、盛大にフラットニングしたと思ったら今度は盛大にスティープニングしている訳でして、これ捌きが悪いと盛大に往復ビンタ食らいそうですし、往復ビンタにならずともこういう流れですと上での踏みと下での投げが発生していて、なんかまあ期初早々(って言ってももう2か月経過してますけど)エライコッチャでございますがなという所ですわな。

まあだから日銀が超長期の買入増やせというのは話の筋がだいぶ違うじゃろ、というのは超長期アイヤーの当初はそんなことを言ってるポンポコリン何とかストも散見されたような気がしますが、さすがにそれは筋違いじゃろ、というのが人口に膾炙しているようで、まあ発行サイドの方で調整(要はそもそもが発行のし過ぎ)じゃろという話になってきているのは結構なお話ではあるかなと思います、個人の感想ですが。




2025/05/29

〇ウィリアムズに期せずして公開処刑されてしまう日銀テラワロス、からの「合成予想物価上昇率」へのツッコミ

これはクソワロタ
https://jp.reuters.com/economy/federal-reserve-board/HDWEBDEV3JKC5AMEPR4U3V6I6E-2025-05-28/
インフレが目標から乖離し始めれば強力な対応必要=NY連銀総裁
木原麗花
2025年5月28日午後 1:31 GMT+9

『[東京 28日 ロイター] - 米ニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁は28日、インフレが目標から乖離し始めた際に中央銀行は「比較的強力に対応」しなければならないと述べた。』(上記URL先より、以下同様)

こwwwれwwwわwwww

『米国の関税や通商政策が経済に与える影響の不確実性が高いことを考えると、中銀は問題に対する完璧な解決策を目指すのではなく、「間違った場合のコストが利益をはるかに上回る」ような措置を避けることに集中すべきだとした。』

まあまあ大本営屁理屈局減屁理屈企画課としては「日本は米国と違ってインフレ期待が2%以下の水準にあって2%にアンカーされていない状態を引き上げようとしているのでウィリアムズ氏の説明は当てはまらない部分がある」とか「米国の場合はインフレ期待が2%から上方乖離してしまうことが大きなリスクなので、間違った場合のコストが大きいのは過早の緩和措置だが日本の場合は再度デフレ状態に陥る方が大きなリスクなので間違った場合のコストが大きいのは過早の緩和政策の修正である」って屁理屈を捏ねるでしょう、というのはもう言われる前に気が付く位には屁理屈局の屁理屈は見飽きているので秒速で回答できるんですけど、まあそれはさておきましてwww

『東京で開催された日銀の氷見野良三副総裁との対談で、中銀が避けなければならないコストのかかるリスクの一つはインフレ期待が目標から乖離することだと指摘。「インフレが極めて持続的になることは避けたい。なぜなら恒久化する可能性があるためだ」と語り、そのためにはインフレ率が中銀目標から乖離し始めたら「比較的強力に対応することだ」と付け加えた。』

wwwwwwwwwwwwwwwwww

まあウィリアムズにその意図があったかどうかは分からんけど、実際の物価が3年も上振れて続けているのに、謎の「基調的物価」を持ち出して頑なにアクチュアルの物価上昇の長期化をネグっているし、物凄い勢いの緩和を未だに続けているのに平然としている、という講演を前日にぶっ放した植田総裁に対してとんでもない勢いでの砲撃になっているのはクソ笑いました。

『「われわれはインフレ期待が有害になるような形で変化する可能性があることを強く認識しなければならない」とも話した。』

『ウィリアムズ氏は、こうした不確実性を踏まえ、中銀は長期的なインフレ期待を安定させるだけでなく、短期的な期待も「秩序立って」いることを確認し、国民の将来の物価動向に対する認識が「数年以内に」中銀目標に向けて戻るよう努力しなければならないと述べた。』

でまあ大本営屁理屈局に言わせればインフレ期待が2%行ってないから寧ろ政策の中立化は時期尚早ってことになっているのですが、昨日植田さんの講演をネタにした時にご紹介した「合成予想物価上昇率」なんですけど、これってそもそも論として「合成予想物価上昇率」そのものが下方バイアスあるじゃろ、というツッコミをしたくなる面がありまして、改めてこれを見ますと、

https://www.boj.or.jp/research/wps_rev/rev_2024/data/rev24j05.pdf
期間構造や予測力からみたインフレ予想指標の有用性

(まあだいたい「多角的レビューシリーズ」ってのは黒田緩和の正当化という結論先にありきで作った妙なペーパーが多くて将来にも禍根を残すんじゃないかと危惧しているんだがその話はまあさておき)

『インフレ予想指標の予測力 』って小見出しのあたりから見ますと、ってまあこの部分はおまけなのでご興味のある方はURL先の本編をちゃんと読んでいただければと思いますが(以下の引用は直上URL先2024年5月の日銀レビュー本編より)、

『【図表 6】インフレ予想指標の上方バイアス 』
『【図表 7】インフレ予想指標の予測力 』

ってのがあって、色々な指標の「過去の」情報バイアスや「過去の」予測力をみているのですが、この図表6にしても図表7にしても、その計測期間がどうなっているのか、というのは脚注に書いてあるのですが、

図表6→『全サンプルは、2007/1Q〜2023/4Q の値。』
図表7→『@は 2007/1Q〜2022/4Q、Aは 2007/1Q〜2020/4Q の値。』

となっていまして、要するにこれ過去の低インフレ局面におけるバイアスや予測力を見ていまして、そこは何ぼ屁理屈日銀でもさすがにちゃんと説明しているのですが、小見出しの『(年限別にみた各インフレ予想指標の予測力)』ってところで、

『図表7は、@1年先までの物価上昇率、A3年先までの物価上昇率それぞれについて、各指標の予測誤差(ベンチマーク対比)をまとめたものである12。』

図表7は本編を見て味噌。

『まず、1年先までの物価上昇率に対する予測力をみると、多くのインフレ予想指標で、ベンチマーク対比、統計的に有意な予測誤差の低下(改善)がみられる。家計の量的質問に基づく指標は、水準バイアスを調整しない場合には予測力がみられないものの、バイアスを調整すると大きく改善し、コンセンサス・フォーキャストによるエコノミスト予想より高い予測力(低い予測誤差)を示すようになる。その他の指標では、バイアスの調整前後で概ね同程度の予測力となっている。』

なので展望レポート背景説明の中に出てくる「家計の予想物価上昇率(質的質問)」って部分にはバイアス調整が入っているんですけれどもこれが曲者なのは察することができる訳ですな、ナムナム。

『次に、3年先までの物価上昇率に対する予測力をみると、インフレスワップを除くすべての指標で、バイアス調整前では予測力がみられないものの、バイアスを調整すれば予測力は有意に改善する。』

でまあ過去のゼロ近辺インフレ局面にフィットするバイアス調整を掛ければ、そりゃ過去の局面での予測力は高まるじゃろうが、局面変化した場合にどうなるのってなもんでして、クオンツで過去の相場を分析して最適化したパラメータを使って売買したら儲かりますとか言ったら既にそのパラメータはフィットしない局面でしたっていう落ちが世の中にはよくあるのですが、まあそれに似た話で、実はもう今の時点で予測力的には問題があって、ってなことだってアリエールだし、なんならすでにインフレ期待が2%に行ってるどころか下手したら2%を上回っているかもって状態だったらしたらどうしましょ、とは思う訳ですな。

まあさすがにヘリクツ日銀と言えどもスタッフペーパーだと良心は残っているので、以下にはこのような記載があるのですが、

『このように、予測力という観点からはバイアスを勘案することが有用と言えるが、バイアスは時間の経過とともに変化する可能性がある点に留意が必要である。』

良心キタコレ

『例えば、中長期的に物価上昇率が2%程度で推移するとの見方が経済主体間で強まれば、中長期のインフレ予想指標は2%程度に収束する可能性があり、その場合にはバイアスが縮小していくと考えられる。』

『また、各指標の予測パフォーマンスも、局面によって変化する可能性がある。』

はいはい良心良心。

『インフレ予想や物価の形成メカニズムは複雑であり、明らかではない点も多いだけに、予測力の観点のみをもって特定の指標に過度に依存することは避けるべきと考えられる13。』

いやーまったくおっしゃるとおりですなーーーーーーー(棒読み)

・・・・・昨日の植田さんの講演(スピーチ)の図表、どこからどう見ても「特定の指標に過度に依存しながら」「合成予想物価上昇率とかいう最適化している期間が明らかに過去の低インフレ局面の方が長い合成指標」を使って「基調的な物価」の説明をおっぱじめておられる、という大変に素敵なスピーチだった訳でして、植田さんにあんなスピーチさせる位ならもっと毒にも薬にもならない話をさせておけよ植田さんだってあんなクソみたいな屁理屈捏ね散らかしスピーチしてたら学者として恥ずかしいだろと思いますし、何なら白川総裁山口副総裁時代にあんなスピーチ原稿出したら落雷落雷また落雷じゃろと思うのですけどね〜

ということでいつの間にかウィリアムズはどっかに行ってしまいしましたがまあそういうことで。




〇ウィリアムズに期せずして公開処刑されてしまう日銀テラワロス、からの「合成予想物価上昇率」へのツッコミ

これはクソワロタ
https://jp.reuters.com/economy/federal-reserve-board/HDWEBDEV3JKC5AMEPR4U3V6I6E-2025-05-28/
インフレが目標から乖離し始めれば強力な対応必要=NY連銀総裁
木原麗花
2025年5月28日午後 1:31 GMT+9

『[東京 28日 ロイター] - 米ニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁は28日、インフレが目標から乖離し始めた際に中央銀行は「比較的強力に対応」しなければならないと述べた。』(上記URL先より、以下同様)

こwwwれwwwわwwww

『米国の関税や通商政策が経済に与える影響の不確実性が高いことを考えると、中銀は問題に対する完璧な解決策を目指すのではなく、「間違った場合のコストが利益をはるかに上回る」ような措置を避けることに集中すべきだとした。』

まあまあ大本営屁理屈局減屁理屈企画課としては「日本は米国と違ってインフレ期待が2%以下の水準にあって2%にアンカーされていない状態を引き上げようとしているのでウィリアムズ氏の説明は当てはまらない部分がある」とか「米国の場合はインフレ期待が2%から上方乖離してしまうことが大きなリスクなので、間違った場合のコストが大きいのは過早の緩和措置だが日本の場合は再度デフレ状態に陥る方が大きなリスクなので間違った場合のコストが大きいのは過早の緩和政策の修正である」って屁理屈を捏ねるでしょう、というのはもう言われる前に気が付く位には屁理屈局の屁理屈は見飽きているので秒速で回答できるんですけど、まあそれはさておきましてwww

『東京で開催された日銀の氷見野良三副総裁との対談で、中銀が避けなければならないコストのかかるリスクの一つはインフレ期待が目標から乖離することだと指摘。「インフレが極めて持続的になることは避けたい。なぜなら恒久化する可能性があるためだ」と語り、そのためにはインフレ率が中銀目標から乖離し始めたら「比較的強力に対応することだ」と付け加えた。』

wwwwwwwwwwwwwwwwww

まあウィリアムズにその意図があったかどうかは分からんけど、実際の物価が3年も上振れて続けているのに、謎の「基調的物価」を持ち出して頑なにアクチュアルの物価上昇の長期化をネグっているし、物凄い勢いの緩和を未だに続けているのに平然としている、という講演を前日にぶっ放した植田総裁に対してとんでもない勢いでの砲撃になっているのはクソ笑いました。

『「われわれはインフレ期待が有害になるような形で変化する可能性があることを強く認識しなければならない」とも話した。』

『ウィリアムズ氏は、こうした不確実性を踏まえ、中銀は長期的なインフレ期待を安定させるだけでなく、短期的な期待も「秩序立って」いることを確認し、国民の将来の物価動向に対する認識が「数年以内に」中銀目標に向けて戻るよう努力しなければならないと述べた。』

でまあ大本営屁理屈局に言わせればインフレ期待が2%行ってないから寧ろ政策の中立化は時期尚早ってことになっているのですが、昨日植田さんの講演をネタにした時にご紹介した「合成予想物価上昇率」なんですけど、これってそもそも論として「合成予想物価上昇率」そのものが下方バイアスあるじゃろ、というツッコミをしたくなる面がありまして、改めてこれを見ますと、

https://www.boj.or.jp/research/wps_rev/rev_2024/data/rev24j05.pdf
期間構造や予測力からみたインフレ予想指標の有用性

(まあだいたい「多角的レビューシリーズ」ってのは黒田緩和の正当化という結論先にありきで作った妙なペーパーが多くて将来にも禍根を残すんじゃないかと危惧しているんだがその話はまあさておき)

『インフレ予想指標の予測力 』って小見出しのあたりから見ますと、ってまあこの部分はおまけなのでご興味のある方はURL先の本編をちゃんと読んでいただければと思いますが(以下の引用は直上URL先2024年5月の日銀レビュー本編より)、

『【図表 6】インフレ予想指標の上方バイアス 』
『【図表 7】インフレ予想指標の予測力 』

ってのがあって、色々な指標の「過去の」情報バイアスや「過去の」予測力をみているのですが、この図表6にしても図表7にしても、その計測期間がどうなっているのか、というのは脚注に書いてあるのですが、

図表6→『全サンプルは、2007/1Q〜2023/4Q の値。』
図表7→『@は 2007/1Q〜2022/4Q、Aは 2007/1Q〜2020/4Q の値。』

となっていまして、要するにこれ過去の低インフレ局面におけるバイアスや予測力を見ていまして、そこは何ぼ屁理屈日銀でもさすがにちゃんと説明しているのですが、小見出しの『(年限別にみた各インフレ予想指標の予測力)』ってところで、

『図表7は、@1年先までの物価上昇率、A3年先までの物価上昇率それぞれについて、各指標の予測誤差(ベンチマーク対比)をまとめたものである12。』

図表7は本編を見て味噌。

『まず、1年先までの物価上昇率に対する予測力をみると、多くのインフレ予想指標で、ベンチマーク対比、統計的に有意な予測誤差の低下(改善)がみられる。家計の量的質問に基づく指標は、水準バイアスを調整しない場合には予測力がみられないものの、バイアスを調整すると大きく改善し、コンセンサス・フォーキャストによるエコノミスト予想より高い予測力(低い予測誤差)を示すようになる。その他の指標では、バイアスの調整前後で概ね同程度の予測力となっている。』

なので展望レポート背景説明の中に出てくる「家計の予想物価上昇率(質的質問)」って部分にはバイアス調整が入っているんですけれどもこれが曲者なのは察することができる訳ですな、ナムナム。

『次に、3年先までの物価上昇率に対する予測力をみると、インフレスワップを除くすべての指標で、バイアス調整前では予測力がみられないものの、バイアスを調整すれば予測力は有意に改善する。』

でまあ過去のゼロ近辺インフレ局面にフィットするバイアス調整を掛ければ、そりゃ過去の局面での予測力は高まるじゃろうが、局面変化した場合にどうなるのってなもんでして、クオンツで過去の相場を分析して最適化したパラメータを使って売買したら儲かりますとか言ったら既にそのパラメータはフィットしない局面でしたっていう落ちが世の中にはよくあるのですが、まあそれに似た話で、実はもう今の時点で予測力的には問題があって、ってなことだってアリエールだし、なんならすでにインフレ期待が2%に行ってるどころか下手したら2%を上回っているかもって状態だったらしたらどうしましょ、とは思う訳ですな。

まあさすがにヘリクツ日銀と言えどもスタッフペーパーだと良心は残っているので、以下にはこのような記載があるのですが、

『このように、予測力という観点からはバイアスを勘案することが有用と言えるが、バイアスは時間の経過とともに変化する可能性がある点に留意が必要である。』

良心キタコレ

『例えば、中長期的に物価上昇率が2%程度で推移するとの見方が経済主体間で強まれば、中長期のインフレ予想指標は2%程度に収束する可能性があり、その場合にはバイアスが縮小していくと考えられる。』

『また、各指標の予測パフォーマンスも、局面によって変化する可能性がある。』

はいはい良心良心。

『インフレ予想や物価の形成メカニズムは複雑であり、明らかではない点も多いだけに、予測力の観点のみをもって特定の指標に過度に依存することは避けるべきと考えられる13。』

いやーまったくおっしゃるとおりですなーーーーーーー(棒読み)

・・・・・昨日の植田さんの講演(スピーチ)の図表、どこからどう見ても「特定の指標に過度に依存しながら」「合成予想物価上昇率とかいう最適化している期間が明らかに過去の低インフレ局面の方が長い合成指標」を使って「基調的な物価」の説明をおっぱじめておられる、という大変に素敵なスピーチだった訳でして、植田さんにあんなスピーチさせる位ならもっと毒にも薬にもならない話をさせておけよ植田さんだってあんなクソみたいな屁理屈捏ね散らかしスピーチしてたら学者として恥ずかしいだろと思いますし、何なら白川総裁山口副総裁時代にあんなスピーチ原稿出したら落雷落雷また落雷じゃろと思うのですけどね〜

ということでいつの間にかウィリアムズはどっかに行ってしまいしましたがまあそういうことで。




2025/05/28

〇超長期連日の爆上げだがこれはどこのエマージング国債ですかと小一時間

ご案内のこととは存じますが
https://jp.reuters.com/markets/japan/funds/Y545PIPBVRLI7IDOP7HP44RYO4-2025-05-27/
〔マーケットアイ〕金利:国債先物は続伸、長期金利1.465% 国債発行見直し報道で安心感
ロイター編集
2025年5月27日午後 3:31 GMT+9

『[東京 27日 ロイター] - <15:27> 国債先物は続伸、長期金利1.465% 国債発行見直し報道で安心感

国債先物中心限月6月限は、前営業日比35銭高の139円45銭と続伸して取引を終えた。財務省による国債発行計画の再検討が報じられたこと受けて、市場の安心感が広がり、円債は堅調に推移した。現物市場では新発10年国債利回り(長期金利)は同4.0bp低下の1.465%。超長期債金利は大幅に低下した。』(上記URL先より、以下同様)

ということで連日の超長期デーですが、

『後場に入り、国債先物は上げ幅を拡大。財務省が2025年度国債発行計画の年限構成を近く再検討すると伝えられたことや6月20日に国債市場特別参加者会合が開催されると報じられたことを受けて「国債発行計画の変更についてはもう少し時間がかかるとの見方が多かったこともあり、市場では好感されている」(前出の国内銀の運用担当)との声が聞かれた。現物市場では超長期ゾーンを中心に金利が低下、その流れが長期ゾーンや国債先物にも波及した。』

となりまして、

『5年債は同1.0bp低下の1.00%。20年債は同16.5ベーシスポイント(bp)低下の2.340%、30年債は同18.5bp低下の2.850%、40年債は同24.0bp低下の3.295%といずれも5月上旬以来の水準まで低下した。一方、2年債は同1.0bp上昇の0.730%。』

24毛強wwwwwwww

『    OFFER  BID   前日比
2年   0.719  0.734   0.01   15:20
5年   0.993  1.002   -0.01  15:20
10年  1.459  1.467   -0.043  15:20
20年  2.329  2.353   -0.156  15:20
30年  2.825  2.853   -0.182  15:20
40年  3.276  3.287   -0.246  15:20』

ってな訳ですが、ご案内のように今般は期中で、かつ予算案の追加などが起きない状況ではあるものの、国債発行に関連すると思われるPD懇が行われる云々で如何にも発行年限の見直しみたいなのが行われそうな雰囲気、というのが報道されたのですが、

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB272140X20C25A5000000/
財務省、6月20日に国債特別参加者会合 超長期金利の上昇議論へ
経済
2025年5月27日 13:01 (2025年5月27日 18:35更新) [会員限定記事]

『財務省が6月20日に債券市場参加者を集めた国債市場特別参加者(プライマリー・ディーラー、PD)会合を開くことが分かった。足元の債券市場で超長期国債の金利が上昇していることなどを議論するとみられる。需給の悪化を踏まえ、超長期債の発行計画を修正するとの観測も浮上する。

PD会合は証券会社や大手銀行など19社の金融機関が参加し、債券市場の状況などを議論する。

財務省は会合に先立ち、2025年度の国債発.』(上記URL先より、以下有料会員記事)

などなどのニュースが出て一段高、ってお話なんですけど、詳報はBBGさんのほうで、

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-05-27/SWWEN4T0AFB400
財務省が国債発行額でアンケート聴取、40年入札は警戒一転し楽観論
日高正裕
2025年5月27日 13:34 JST 更新日時 2025年5月27日 16:50 JST

→PD懇や国債投資家懇メンバー、それ以外の機関投資家に送付
→どの程度が適当な発行額か、現在の市場状況などについて尋ねる

『財務省が投資家を含む幅広い国債市場参加者を対象に、国債の発行額についてアンケートを送付していることが分かった。超長期債は連日で大幅上昇(金利は低下)し、警戒感があった28日の40年国債入札には一転して楽観論が浮上している。』(上記URL先より、以下同様)

楽観論が浮上するのかよw

『アンケートは財務省から26日にメールで送付された。例年6月に開く国債市場特別参加者(プライマリーディーラー、PD)会合のメンバーだけでなく、通常この時期には開催しない国債投資家懇談会のメンバーや、それ以外の機関投資家も対象に含まれた。国債の年限ごとにどの程度の発行額が適当かを質問しているほか、現在の市場状況についてコメントを求めている。複数の関係者が匿名を条件に明らかにした。』

ほうほうそうですかそうですか、ということでカレンダーベースの発行額の年限割り振りの組み換え、という思惑で超長期戻っている次第ですが、いやまあ拙駄文でも「需給何とかしたいんだったら日銀の買入拡大とかアホな事言ってないで発行側が対応するのが筋」と申し上げましたので、このムーブ自体はまあやるならやるでどうぞってなもんではあるのですが、ここもと超長期の金利が上昇してやっと「減税の財源は赤字国債を出すのが当然」とか言ってた輩がちょっと大人しくなったと思って喜んでいた面もあるアタクシと致しましてはちょとt複雑な心境ではあったりします。

まあ財政懸念で本来出そうと思っていた国債が出せなくなった、というお話にすれば減税馬鹿へのご教訓ストーリーにはなるのかもしれないけど、金利が下がってしまうとちょっとね、という感じで。

・・・・というかですね、超長期発行減額ったっていきなり7月発行(くらいでしょ早くて)から発行半減とかそんなドラスティックなことにはならんじゃろ(なったらおもしろいけど)と思いまするに、一連の動きで超長期が数日で20毛も30毛(というかそれ以上)も飛ぶって方が頭痛くて、日本国債市場はいつからエマージング国債市場になったんだっけという値動きの勢いの方にビビっております。

まあこれはしつこく申し上げておりますが、中短期の金利が日銀買入で無駄に抑圧されているので、金利変動の材料に対するエネルギーの放出場所が超長期に逝ってしまっているので価格変動が増幅されやすいってのと、そもそも財政問題だすまでもなく、2%物価安定目標を達成した社会における金利水準としておかしいじゃろ、というエネルギーがあるのと、そこに加えて財政の話、ってところではないかとは思いますので(個人の偏見です)、つまりは日銀の長期・中期ゾーン以下の国債買入をバンバン減額しろといういつもの話になるのでした、しつこいですかそうですか。


〇植田総裁金研国際コンファランスの挨拶がとんでもない屁理屈大王になっていて見苦しいわ恥ずかしいわ

来週内外情勢があるって話をしましたが、よく考えたら5月末は金研国際コンファランスがあるんでした大変に失礼いたしました。

https://www.boj.or.jp/about/press/koen_2025/data/ko250527a1.pdf
日本銀行金融研究所主催2025年国際コンファランスにおける開会挨拶の邦訳
日本銀行総裁 植田 和男

・基調的な物価(講演原文では「underlying inflation」)の説明が苦しいという自覚はあるようですね

『2.わが国の金融政策が直面している課題』の二つ目の小見出し『(政策金利)』の途中から日銀の屁理屈音頭がおっぱじまりますわよハーヨイヨイ♪

『難しい質問は、実際の物価上昇率が 2%を上回って3年以上推移しているにも関わらず、なぜ日本銀行はそのような緩和的なスタンスを維持しているのか、ということです。』

そりゃお前らが黒田を否定しないでハトハトチキンやってるからじゃろ、と思うのですが当然ながら当事者がそんなことを認める訳も無いので屁理屈が展開されます、以下ご覧ください。

『この問いに対して、日本銀行は、基調的な物価上昇率が 2%を下回っているため、と答えてきました。これは自然と次の質問につながります。基調的な物価上昇率は、何によって構成されているのでしょうか。』

政策から後付けされたお前らのお気持ち表明じゃろ、と言っても当事者がそんなこと以下同文。

『基本的には、基調的な物価上昇率とは、一時的な変動要因を除いた物価上昇率を指します。しかし、実際には、この概念を捉える完璧なデータは存在しません。そのため、データの全体感と経済を巡る情報を勘案して総合的に判断しなければなりません。』

だったら最初から総合判断で恣意的にやっていますって言えば良いのに、そこで何かちゃんとしたベンチマークがあるかのような話をするから苦しい屁理屈になるのですが、というかまあ今回のこのスピーチ、「基調的な物価」での説明が何ぼ何でも限界に来ているってことを大本営でも自覚しているんでしょうね、この段落の最後になるんですけどこの最後の部分はワロタ。

『そして、この点は、人々とのコミュニケーションを難しくさせます。』

そらお前らのお気持ちだしお気持ちの変わる原動力が首尾一貫してないからこっちだって分からんわとしか申し上げようがないですけど、

『私どもは、基調的な物価上昇率を巡る説明が不明瞭であるとの厳しい指摘をしばしば受けてきました。』

wwwwwwwwwwそらお気持ち物価なんだから仕方ないじゃろと思うのですが、厳しい指摘って自覚してるならお気持ち物価止めええやと思う訳ですが、以下更に充実の屁理屈が展開されますので鑑賞しましょう。


・構成要素に明らかに下方バイアスを持っていそうなのを満載にした合成予想物価上昇率を持ち出しまして・・・・

でもって次の小見出しが『(予想物価上昇率)』です。

『基調的な物価上昇率を評価するために注意深くモニターしている指標のひとつは、予想物価上昇率です。』

とまあそういうことで、物価の指標を引っ張り出してもだんだん説明が苦しくなる(後述)なので、とうとう予想物価上昇率を持ち出しているんですけれども、

『基調的な物価上昇率という概念よりは明瞭ですが、予想物価上昇率もまた、誰の予想が最も重要なのか、どの予想年限が適当なのか、などの問題を伴います。』

と言ってるそばから、

『図表 4 は、各指標が有する情報を集約した日本の合成予想物価上昇率に加えて、ドイツと米国の中長期の予想物価上昇率を示しています。』

って言ってるんですが、図表4の『日米欧の中長期インフレ予想』を見ますと、その脚注は

『(注)中長期インフレ予想は、日本は合成予想物価上昇率(10年後)、米国・ドイツはコンセンサス・フォーキャスト(6〜10年後)。(出所)Bloomberg、Consensus Economics「コンセンサス・フォーキャスト」、QUICK「QUICK月次調査<債券>」、日本銀行』

この「合成予想物価上昇率10年後」ってのは展望レポートの背景説明の方にもあって。最近だと内田副総裁の講演でもリファーされていましたが、なんかいろんなもんをこねくり回していて、例えば短観の物価見通しとか生活意識アンケートの物価見通しとかもコネコネされていて何だかよくわからん数字になっているものな上、米国ドイツのコンセンサスフォーキャストってのは上記の脚注見たら出所がBBGになっているから、それって単に何とかストアンケートの集計結果みたいなもんで、一般市民のインフレ予想との乖離はどうなっているのか、ってなもんだし、同じベースで集計しているのかどうかも怪しいものを並べてどうするんだ、というお話な訳ですけれども、そういうのを比較した上で、

『ドイツと米国では、予想物価上昇率は、おおむね 2%から 3%の間で、驚くほど安定していました。2022 年から 2023 年の間に、物価上昇率が 10%近くに達したときも、それは目標水準近くにアンカーされていました3。この安定は、中央銀行が物価を安定させる能力に対する人々の信頼を表しているのではないかと思われます。』

からの、

『対照的に、日本の中長期の予想物価上昇率は、1990 年代後半から、大規模金融緩和が導入された 2013 年まで、概ね 0%から 1%の間にとどまっていました。予想物価上昇率は、2014 年に1%以上に高まりましたが、2016 年までに低下して、以前の範囲に戻り、2021 年までそこにとどまりました。より短い年限の予想物価上昇率は、よりゼロに近い水準にとどまっていました。ゼロインフレという均衡の強固さを物語ります。』

という話にしていまして、その結果として、

『予想物価上昇率は、グローバルなインフレ高騰と日本の継続的な金融緩和に反応して、2022 年に再び上昇し始めました。予想物価上昇率は、足もと、1.5%から 2.0%の間にあり、まだ 2%の目標水準を下回っているものの、この30 年間で最も高い水準にあります。すなわち、私どもは、予想物価上昇率をゼロから引き上げることには成功しましたが、2%にアンカーされているという状況には、まだ至っていません。このため、私どもは、今なお緩和的な政策スタンスを維持し続けています4。』

という政策の正当化に使っているのですが、そもそも日銀の合成予想物価上昇率については先般弊駄文で申し上げましたのの再掲ですが、

https://www.boj.or.jp/research/wps_rev/rev_2024/data/rev24j05.pdf
期間構造や予測力からみたインフレ予想指標の有用性
2024 年 5 月

こちらの5ページ(PDFの5枚目)あたりに『【図表 8】共通成分ベースの集計指標(年限別の合成予想物価上昇率)』ってのがありますが、よく見ますと、

『(注)年限別の合成予想物価上昇率は、家計(生活意識に関するアンケート調査<量的質問・質的質問>)、企業(短観)、専門家(コンセンサス・フォーキャスト、QUICK 調査、インフレスワップ)による各年限のインフレ予想について、主成分分析を用いて共通成分を抽出したもの。2006 年以前の計数は参考値。

(出所)日本銀行、Bloomberg、QUICK 月次調査<債券>、Consensus Economics「コンセンサス・フォーキャスト」』

ってやつなんですが、コンセンサスフォーキャストって過去の実績に引っ張られて今次局面で物価見通しを全然当ててなくて下方に外しっぱなしだし、まあクイック調査とかも然りですけど、これ現時点において下方バイアスを持ってそうなものを使っている時点でお察し指標(ちなみにこの日銀レビューを書いているのが調査統計局じゃなくて企画局というのも味わいが深い訳ですがwww)なんですけどねえ、ってなお話でもあったりします。


・基調的な物価上昇率は予想物価上昇率だという新しい言い訳が構築されてきたようです

でもってその続きですが、『(中央銀行コミュニケーション)』って小見出しになります。

『この政策スタンスのコミュニケーションは容易ではありません。』

そりゃそうじゃろお気持ち物価を尤もらしく屁理屈でデコレーションしているだけなんだからwwwwwwwwwww

『それは、基調的な物価上昇率の概念に伴う曖昧さもさることながら、図表 5 が示しているように、総合ベースでみた物価上昇率と基調的な物価上昇率との間に大きな乖離があるためです(ここでは、予想物価上昇率を基調的な物価上昇率の近似として用いています)』

>ここでは、予想物価上昇率を基調的な物価上昇率の近似として用いています
>ここでは、予想物価上昇率を基調的な物価上昇率の近似として用いています
>ここでは、予想物価上昇率を基調的な物価上昇率の近似として用いています

と、どさくさに紛れて勝手に基調的な物価上昇率を予想物価上昇率(しかも日銀計測のお手盛りVer)にすり替えてしまいましたwwwww

『その乖離は、サプライショックの直接的な影響と、総合ベースでみた物価上昇率に影響するその他の一時的な要因に対応しています。』

とのことですが、サプライショックが一過性なのか持続性があるのか、というのを丸無視してサプライショックだからネグリジアブルだ、って屁理屈捏ねてるからそうなるんじゃろという話で、


・推計データと直接計測されたデータが常に大きく乖離するのであればそれは推計がおかしいじゃろとwwwww

『中央銀行は、基調的な物価上昇率に主に反応しますが、人々は総合ベースでみた物価上昇率に反応する傾向があります。この反応の乖離は、常にある程度は存在するものですが、最近の乖離の大きさとそれが長い期間にわたって継続していることは、日本において特に問題となっています。』

>乖離の大きさとそれが長い期間にわたって継続していること
>乖離の大きさとそれが長い期間にわたって継続していること
>乖離の大きさとそれが長い期間にわたって継続していること

そもそも論として「計測可能なザ・基調的物価上昇率」が存在しないのですから、「乖離の大きさとそれが長い期間にわたって継続している」っていうのは、常識的な視点からしたら「お前らがお手盛りで計算している基調的な物価上昇率がそもそも間違えているんだろ」という話になるじゃろ、としか申し上げようがないのですけれども、何をいってるんでしょうかこの人はwwwww


・勝手に「中央銀行」を主語にするなと

さらに続きですが、

『一般的に、中央銀行は、サプライショックに対して、それが基調的な物価上昇率に影響するとみられない限り、その状況を見守るアプローチを採用しています。』

そうじゃなくて「一時的なショックに留まるのか、それとも中長期的な影響をもたらすのか」によって対応をするかしないかが決まる、ってのが中央銀行の物価安定という施策を進める際のポイントじゃろ勝手に「中央銀行は」とか言ってるんじゃないよお前らだけじゃろお前ら。

『私どももまた1度目のサプライショック、すなわち 2022 年から2023 年にかけての輸入財の価格上昇の状況を見守ってきました。しかしながら、日本の近年の経験は固有のものです。総合ベースでみた物価上昇率が高まった一方、基調的な物価上昇率も高まりました。基調的な物価上昇率を高めた要因として、コロナ禍からの景気回復や労働需給の引き締まりに加え、国内物価・賃金に影響を及ぼしたサプライショックを指摘することができます。』

『足もと、私どもは、食料品価格の上昇というかたちで、もう1つのサプライショックに直面しています。私どもの中心的な見通しでは、食料品価格上昇の影響は減衰していくとみています。しかしながら、基調的な物価上昇率が以前よりも 2%に近いことを踏まえると、食料品価格の上昇が基調的な物価上昇率に与え得る影響に注意する必要があります。』

と言ってる本当の物価上昇率が既に2%超えてるんじゃないですかねえ、と思うのですが最後に図々しく、

『サプライショックが世界的により頻繁に生じるようになるにつれて、総合ベースでみた物価上昇率と基調的な物価上昇率の関係が、多くの中央銀行にとって主な焦点であり続けると考えられます。』

とか偉そうに言っているのですが、他の中銀が基調的な物価上昇率と総合ベースで見た物価上昇率の関係でどうのこうのっていう政策対応の説明していましたっけ、ってな問題が有るわけですし、大体からしてコア物価指数を過度に重視することに対しても昔から常に指摘があったんですよね。


・ここで懐かしの変態仮面ジム・ブラード前セントルイス連銀総裁の2011年の指摘を見てみましょう

変態仮面だの何だの聞こえないことを良いことに極東の島国の片隅で勝手な二つ名つけていますが、まあ賛否はありますけどブラード前総裁の論点提起ってのは面白いので良くチェックしていました。

(URL長すぎで画面が乱れるかもなのでハイパーリンクは文字列の途中までに貼っております)
https://www.stlouisfed.org/news-releases/2011/05/23/st-louis-feds-bullard-discusses-commodity-prices-inflation-measures-and-inflation-targeting
St. Louis Fed's Bullard Discusses Commodity Prices, Inflation Measures, and Inflation Targeting
May 23, 2011

『Core vs. Headline Inflation』って小見出しの2パラ目ですが、基調的な物価ガーとか抜かしている屁理屈大本営はちょっとこれでも読めやという感じでして、

『“Headline inflation is the ultimate objective of monetary policy with respect to prices,” Bullard said, noting that these are the prices that households actually pay. “Core is not an objective in itself,” he added. He said that while the only reason to look at core is as an intermediate target for headline, “its use as an intermediate target is questionable.”』(直上URL先2011年5月のセントルイス連銀ブラード総裁講演紹介文より)

さらに、上記URL先でリファーされているのが『Measuring Inflation: The Core Is Rotten』ってまた
喧嘩を売るような題名の講演テキストになりますが、

https://www.stlouisfed.org/-/media/project/frbstl/stlouisfed/files/pdfs/bullard/remarks/measuring_inflation_may_18_2011_final.pdf
Measuring Inflation: The Core Is Rotten
Money Marketeers of New York University
New York, N.Y.
May 18, 2011

最初の『Introduction』の4パラグラフ目のところにありますけれども、

『One immediate benefit of dropping the emphasis on core inflation would be to reconnect the Fed with households and businesses who know price changes when they see them. With trips to the gas station and the grocery store being some of the most frequent shopping experiences for many Americans, it is hardly helpful for Fed credibility to appear to exclude all those prices from consideration in the formation of monetary policy.』

コア指数ガーばっかり言いすぎていると本来の目的である国民が本来負担している「総合物価」との乖離が長期的に生じた場合(ちなみに前の方の先の引用部分の直後にブラードの説明引用として、「For example, from 2003-2006, while core inflation averaged about 2 percent, it was consistently below headline inflation. 」ということで、総合物価が長期的にコア物価を上振れていた時期を例に出しています)に、金融政策本来の目的が果たせているのか、というような論点を提示しているわけですよ。

とまあそんあ次第でコア指数ですらコア指数に固執してはいかんのでは、というような指摘が大昔から有る中で、「基調的な物価上昇率と実際の物価上昇率の長期間の大きな乖離がどうのこうの」とか能天気に言ってる場合じゃない訳で、黒田緩和からの修正が遅れまくっているのを正当化するためのしょうもない言葉遊びしてる場合じゃないだろと思います。


・この講演原稿作ったのは誰だあ!(ガラッ)

てなわけでまあ突発性海原雄山状態になってしまうわけですが、この手の屁理屈、〇〇さんや〇〇さん(伏字に関しましては皆様勝手に好きなのを入れてください)が捏ね散らかすならまた大本営の屁理屈かよ、って笑えないけど苦笑しながら見るって感じですが、斯界の第一人者であらされる学者の植田和男先生ともあろうお方がこのような屁理屈満載の説明を、しかも海外からのお客様もお招きしたアカデミック寄りの金研国際コンファランスで行う、ってのさすがに如何なものかって話でして、植田先生だってこの牽強付会ぶりを読んだら分かると思うのですが、いや先生学者として言ってて恥ずかしくないのかね、と思ってしまいますし、そんな講演原稿作ったのは誰だかは存じませんけど、いやちょっと何なんだよ、と思いましたとさ、というのが本日の結論でした。






2025/05/26

〇野口審議委員会見も大本営の腹話術人形でして・・・・・・・

ということで木曜の引け後に野口審議委員の会見で反応した、という感じなのかホンマに、って感じではありましたが、野口儀審議委員の会見を確認してみましょう。

https://www.boj.or.jp/about/press/kaiken_2025/kk250523a.pdf
2025年5月23日
日本銀行
野口審議委員記者会見
――2025年5月22日(木)午後2時30分から約30分
於 宮崎市

質疑応答はだいたい国債買入の話と今後の利上げに関する話に終始していたんですけど、この質疑応答見てて思ったのは「何でお前ら国債買入ペースを減らす方向の質問」しかしてないのって話で、この前の市場参加者会合の資料見たら「減額ペース減らせ」一色でも何でもないし、何なら加速すべきというのもあるし、ワイもそう思っているけど、そもそも論として減額が甘いからいつまで経っても市場の流動性がちゃんと回復しないでストレス耐性が弱いんじゃ、という主張も普通に市場参加者会合の資料にあるのですが、まるで市場が買入減額ペースをスローダウンさせろ一択かのような質問しかしないの何なんお前らマジで要らんわ、と思いました。

といきなり悪態をついておいて質疑応答ですが、まずは国債買入の減額に関しての一連の質疑を順に参ろうかと。


・長期国債買入ペースの減速に関しての一連の質疑だが野口さんの回答がまんま大本営でその点にビックリ

『(問)私から国債買入れでいくつかお伺いします。午前の講演で来年 4 月以降の国債買入れの方針につきまして、より長期的な視点から検討する必要があると発言されました。このより長期的な視点の意味するところについて、もう少しちょっと具体的に説明をお願いしたいということと、』

それはそうですね、そもそも長期的な部分は分からんと思うのですが。

『来年 4 月以降の国債買入れにつきまして現行計画のですね、毎四半期 4,000 億円ずつ減額していくと、そういうペースになっているのですけども、それを維持するべきなのか、または加速すべきか減速すべきか、来年度の国債買入れに関する野口委員の現時点のお考えをお聞かせください。』

これは変わらずって回答するのがほぼ見え見え(実際そうでしたが)

『もう一点、関連で足元超長期金利が急ピッチで上昇しておりまして、市場には日銀による超長期ゾーンの国債買入れの増額や買入れ区分の統合などを求める声が出ております。野口委員は超長期金利の安定に向けて、オペや減額計画などで配慮する必要性についてどのようにお考えか、大まかに二点よろしくお願いします。』

>市場には日銀による超長期ゾーンの国債買入れの増額や

いやあのそういう事言ってるトンチキはもちろん市場だからいるんだけど、お前この前の市場参加者会合の資料読んでるのかよって話で、そりゃまあ超長期買ってつかまっているから目先日銀にお助け下さいとかいうのはいるだろうけど、市場にはそんな声がでております、じゃねえよお前の認識どうなったるんだとしか申し上げようがない。

でまあ回答ですがこれがまた見事な大本営でして、

『(答)まず国債買入れ減額計画についてでありますけれども、これは私午前中のお話の中でも説明させて頂きました通り、基本的には予見可能性、もちろん柔軟性を伴った予見可能性ということでありますけれども、それが一番非常に重要であると。』

で、以下の回答が完全に大本営でしてマネタリーベース直線一気理論とか高圧経済とかとは全然違うお話が展開されています、すなわち、

『つまり、それは長期国債、昔のようにYCCのように長期国債の金利というものを日銀がある意味一つの政策目標にしていた状況とは全く違っておりまして、現在はあくまでも短期金利の操作によって金融政策を遂行している。』

ほう。

『そういう意味で言えば、国債買入れの金額から長期金利というような経路を通じた、その経路というものは、少なくとも政策としては考えていないということであります。』

そもそもYCCじゃなくてお前らの言ってたのマネタリーベース直線一気理論じゃなかったのかよという話で、完全に大本営の教育が行き届いて大本営のまんまの説明をしている訳ですな。

・・・・・となりますと、6月末で中村審議委員がご退任になられる訳でして、リフレとか言って自我を持ってハトハト金融緩和高圧経済を言いそうな野口さんが大本営にすっかり洗脳されてしまったという現状であれば、まあ大本営好き放題の図、ということになりますな。ゆうてトップが足元すっかりハトハトチキン音頭を爆音で踊り散らかしているので、だからと言って急に利上げが早まるというもんでもないですが、なんせ植田とかいうハトハトチキン先生、急に何かのスイッチが入ると突然威勢の良いことを言い出すジャガーチェンジムーブをぶちかますので、まあ別に利上げが全然ないですわ〜と言ってる場合でもないとは思いますけど。

でもって続き。

『ただ、これまで日銀がYCCを行っていく過程の中で、国債買入れ額というのは相当の規模になっておりますので、これをある種縮小していくということは当然のことであると考えております。』

まあ冷静に考えると何で縮小するのが当然なのか、って話があるのですが、ここをゴリゴリと突き詰めてしまいますと「中央銀行による財政マネタイズ」という管理通貨制度における最大の禁じ手の話になってしまうので、この点については既にバランスシートのランオフをしている中銀も含めて歯切れが悪くなるんですよね。

『それは市場にとってもある程度のボリュームをもって、その売買が行われる状態というものが重要だと考えておりますので、そこに向けて基本的にはマーケットをできるだけ荒らさないようにということは、つまり日銀が政策的な意図を持って何かその国債買入れの増減を行うということはないということが一番基本であるというふうに考えております。』

輪番の上げ下げに政策的を持たない、だそうですので、これは後半の「介入して下せえおねげえします」とかいう日銀依存ジャンキーで市場参加者の矜持を欠片も持たない輩への回答にもなっています。


でもって「長期的な視点」云々に関して回答の続き。

『ただ、より長期的に考えていきますと、最終的に日銀がどういうところで着地をするのかというのは、要するに中央銀行のバランスシートが最終的にどの規模に落ち着いていくのが最適かという問題になってくるわけであります。』

さいですな。でもってこの次の回答がズコーなのですが、

『これは実はまだどこの中央銀行も同じだと思いますけれども、量的緩和というものを行った中で、国債の買入れが膨れ上がったものを正常化してどこまで縮小していくのかというところですね、ここはまだ明確にはなっていないという状況の中で、手探りでそれを探っていくということになるわけでございます。』

だったら何で今回の見直しにおいて「長期的な視点」での話をするって事になっているのかが意味不明で、そんなの来年になって再度状況を見て、日銀のバランスシート規模と短期金融市場(長期金利ではない)との兼ね合いを見ながら規模の縮小をどの程度実施するのか、を考えるって話をすればいいのに、何で長期的な視点の話が今回出たのかが謎で、植田総裁の趣味で言ってたのか大本営が言わせたのか知らんけど、全く意味ねえじゃんと思いました。

まあそれは兎も角としまして次。

『その中で日本銀行としては、当面の計画というものは決めておいた、それを今後は実行していくと、少なくとも来年[3月]の時点まではそれをやっていくというようなことにおそらくなっていくわけであります。』

だったら別に長期的な検討は今後に回せばいいだけの話なんですがなぜか・・・・・・

『その後のことを考えますと、その最終的な姿に向けて、どういうふうにスムーズにそこに持っていくのかということを考えて行く必要もあるという、そういう意味で長期的な観点ということをお話したわけであります。』

そもそも姿が決まっていないのにスムーズに持っていくも蜂の頭もないんだが。

『ただし、具体的にそれがどういう金額になるのかというような具体的な数字ということに関しては、ようやく市場関係者からのヒアリングというのも終わってですね、それをわれわれとしても踏まえた上で、なるべくマーケットに予見可能性というものを乱さないようなかたちでこれまでの計画を大きく変えることはおそらくはないと思いますけれども、それで最終的なところにうまく着地していくような、そういうような新たな計画というものが必要になるというふうに考えております。』

???????????????

最終の着地がどうなるか今時点で皆目見当がついていないのに何で「最終的なところにうまく着地していくような、そういうような新たな計画というものが必要になるというふうに考えております。」という話になるのかが良くわからんのだが、大本営の屁理屈を教わったのは良いけど、大本営の屁理屈って屁理屈として練りに練っているだけに、ちゃんと構成を理解して捏ねないと上記のようにお前は何を言ってるんだということになりますので使用上の注意を良くお読みになってお使いくださいw

『これが最初のご質問に対するお答えであります。それから、4,000[億円]というような金額を維持すべきかどうかというようなことに関しては、これは今後の検討次第、検討を経た上で決めるということになると思います。』

だそうな。


・マーケットに対してリアクティブに何か介入するわけじゃないよ

でもって今の質疑応答の応答の方はまだ続くのですが、さっきの「介入クレクレ」へのご回答編。

『超長期の金利水準がこれまでの水準を考えると非常に金利が引き上がっていくペースが速いというようなことが最近生じているわけでありますけども、これと今度のこの 6 月に行われるような新たな計画というものが、私自身は少なくとも直接リンクするというふうには考えておりません。』

はい来た〜〜!!

ということでリフレリフレ言ってた人とは思えない発言ですが、まあ大本営もさすがにこの程度で一々日銀が市場に手を突っ込むほうがアカンじゃろ、という認識は持っているようでして、誠に結構なお話ではあります。だいたいからしてこの程度で一々介入やりだしたらそれこそキリがなくてYCCに戻るようなもんだし、なんかの拍子に財政ファイナンスって言われだし兼ねないし、そういわれた場合のリスクは今の財政運営を巡る政治状況から言ったら過去にないくらいに地雷踏むリスクがあるわけですからね。

『これはある意味で、長期金利はマーケットに委ねるというようなことを決めたわけでありますから、その中にはマーケットというのは様々な情報を消化していく中で、金利というものが形成されていくということだと思います。』

極めて大本営なのですが、これをリフレ野口さんが言う、というのが感慨深い。

『最近の長期金利の動きというのも、おそらく背後にいろいろな要因があって、その中には米国の政策の不安定性あるいは米国の長期的な財政状況というもの、こういうものは特に超長期金利、長い方の金利にいけばいくほどですね、長くなればなるほどそういう世界的な連動性というのがどうしても高まってきますので、そういうものの影響というのも日本の超長期金利も受けざるを得ないという中で起きている現象であると。』

日本の財政、と言わないのが日銀大本営の腰の弱い所でして、んなもん総裁副総裁に言わせると多少アレですけれども、ヒラの政策委員が言う分にはOKじゃろとは思いますけど。

まあ日本の場合はそれもあるけれども、「本来もっと前に上がっていて然るべきだった長期金利が日銀の買入によって不必要に抑えられていて、その本来起こるべき金利上昇が日銀の買入関与が相対的に低い超長期金利にまとめて出た」って話じゃないですかねえという所ですな、知らんけど。

『それ自身ですね、急激ではありますけれども、それが非常に何か異常な動きであるかどうかというのは、私は一概にそういうふうに決め付けることはできない。そこにはやはりマーケットなりの判断がその背後にあるわけでありますから、それをむやみに介入をして何か操作するというようなことは私は適切ではないというふうに考えています。』

おおおおおおおおおお!!!!!!!

ということでリフレ野口がこれを言う、ってのは中々インパクトがある(と言ってもまあ金懇挨拶のテキストみた時点でこういう回答になるんじゃろうなというのは想定できるんですが)ということではあったかと思います。


・長期金利市場に対するコメントが真人間にも程があってビックリした件

でまあ他にも輪番に関する質疑あったのですが基本的にさっきの説明と同じことを言わせるだけの愚問だったので割愛しますが、最後の奴だけ引用しますね。

『(問)度々繰り返しとなって、恐縮なんですけれども、足元の長期金利、超長期金利の国内の上昇について、今上昇ペースが広がってますけれども、これは国債買入れ減額の見直しにあたって金額の増減を判断する、機動的に対応するような例外的な状況ではないっていうご認識でよろしいでしょうか。』

この回答がリフレ野口とは思えない回答で面白かった。

『(答)私の個人的な今の見方では、これまで日本の金利というのは動かない世界にあった、長期金利もマイナスの時期もあったぐらいなわけでありますから、そういう意味で言えばイメージとしてですね、これだけ上がりますと非常に急激だというようなイメージがあるわけでありますけれども、もともと金利というのはいろいろな将来の予想や思惑というものを反映してかなりボラタイルに動くというのが金利というものであります。』

うひょーーーーーーーーーー

『そういうふうに考えますと、それが一概に、何か異常なものと決め付けるというのも難しいわけであります。』

何という真人間発言w

『もちろん状況によっては、中央銀行として金融市場を安定化させるために積極的に何かをやらざるを得ない状況というのは、当然あると思いますけれども、現状では少なくともそういうような状況にはないというふうに私は考えております。』

そらそうよという所ですな。


・トラ公関税政策に関連して

『(問)午前の講演の方でも少し触れられていたようなんですけれども、今後の不確実性という意味で、アメリカのトランプ政権による関税措置についての影響について、懸念というか危惧するというふうな話も出てたんですけども、警戒感というか、先行きの不透明感が漂う今の状況について、改めてご見解を伺いたいのと、それが今後の日本銀行の追加の利上げ措置に与える影響について、今、現時点でのお考えを教えてください。』

でもってこちらの回答ですが、

『(答)これは、正直申しまして、4 月 2 日以前の状況と、それ以降の状況というのは、世界的なマクロ経済状況が大きく変わってしまったということは認めざるを得ないというふうに考えております。』

「前提」は変わったと思うが「状況」はこれから変わると思うんですよね、まあいいけどさ。

『その 4 月 2 日の結果として金融市場というのが大きく変動をしたわけであります。しかし、その後の状況をみていきますと、さすがに最初のトランプ関税ショックの状況がいろいろな情報が新たに付け加わることによって、少しずつ解消されてきているというのも事実であります。』

このあたり、ちょいちょいと大本営ってハトハト一辺倒じゃない説明を挟むんですよね。

『しかし、そうは言ってもこれからどうなるかというのは、まだはっきりとしていないということです。』

そらそうよ。

『日本にとってみれば、一番大きいのが自動車関税だというふうに思いますけれども、それがどういうふうに落ち着くのか、それからやはり中国と米国との関税の協定というのも、日本においても非常に中国経済と日本経済との結びつきはそれなりに大きいわけでありますから、中国あるいはアメリカ、米中関係というものが大きく毀損されるということになると、その影響を日本も受けるということでありますけれども、これも一時の非常にほとんど貿易が途絶するような状況が予想されるような状況からは、かなり解消されてきているということを考えますと、少しずつ霧が晴れてきているというような状況だというふうに考えております。』

この「一時の非常にほとんど貿易が途絶するような状況が予想されるような状況からは、かなり解消されてきている」って説明は重要で、つまりは「コロナショックのようなことにはならない」というお話なんですけど、どうせなら説明で「コロナショックのような世界貿易が止まる勢いのショックまでは至らないかもしれませんね」位言えば良いと思うのですが、そこは何か説明しないんですよね、何でじゃろ。

『その中で金融市場の方も少しずつ落ち着きを取り戻していると。』

へい。

『ただし、そうは言っても、また何か新しい状況が出てきて、それがかなりネガティブなものだったりすると、またそこに反応するということは起きておりますので、まだ完全にその 4 月 2 日以前に戻ったとは全く言えないと。暫くはこの不確実な状況は続くだろうということだと思います。』

そらそうじゃろね。

『そのうえで、日銀の金融政策についてでありますが、これはやはり 4 月 2 日当時の状況は、これはいったんとにかく状況を、関税がどういうところに落ち着いていくのかを見極めるしかないというような時期が一定程度続いたわけでありますが、少しずつその帰趨というのが明らかになっていく中で、とはいってもかなりの下押し効果というのは、最善の、例えば各国別の追加関税っていうのがかなりなくなったというようなかたちでも、アメリカの 10%の基本的な関税は残るわけですから、その分に関してはかなり下押しが生じるということを考えますと、ある程度の見通しのずれというのはやむを得ないというふうに思っております。』

まあその通りなんですが、今回展望レポートでそれを織り込ませて見通しを下げた、ということでして、じゃあその織り込ませってどのくらいなのか、というのがまあ何となくフワッとは書かれているのですが、実はどの辺まで織り込んでいるのかが公表文書だとよくわからんという作りになっているのが今回の展望レポートの不親切設計部分で、今後の展開における関税政策動向の推移が、4月展望レポートでの想定対比で上振れしているのか下振れしているのか、というのが分からない状態だと、展望レポートで示された経済物価パスおよび政策パス(政策パスは明示的には示していませんけれども察するパスね)から上振れるのか下振れるのかが分からん、という状態に今はあるので、6月会合と言いたいけど少なくとも次回の展望ではもうちょっと明確な前提を見せて欲しいです。

『けれども、これが場合によっては思っていたよりも元の軌道に戻っていく時期が早くなる可能性もあるかもしれないというのが今の状況だと思います。ただ、そうは言っても、やはりまだ不確実性は非常に大きいので、見通しというのがはっきりしないとなかなかわれわれとしては次のステップというのを踏むというのはリスクが非常に大きな状況であり、あえてリスクを取るという選択肢はあり得ません。』

だそうなのですが、そもそも正常化が遅れるのがリスクになりうる、という発想が野口さん、というよりは大本営なんでしょうけれども、その辺りには無い(主な意見や議事要旨を見ていると多分抜刀斎辺りを筆頭に正常化を遅らせるリスクについて指摘する向きもあるので、政策委員会全員がそうなのでは無いとみられますが)なあというのは分かるかと思います。

『そういうふうに考えますと、私は午前中にほふく前進的なアプローチというふうにお話しましたけれども、そういうような考え方で暫くは弾丸が飛び交うような状況でむやみに動かないで、状況をまず注視していくというのが現状では基本になるというふうに考えております。』

まあとりあえず大本営は動きたがらないというのは把握したので今朝はこの辺で勘弁。