金融政策概観(2025年度上期前半)

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2024年度上期前半の見出し

2025/06/26「6月会合主な意見の長期国債買入の議論が(一部の人を除いて)完全に財政従属になっているという嘆かわしいお話」
2025/06/25「日銀の出している基調的物価を見る指標をみたらどう見ても2%なんだけどなあ」
2025/06/24「4月会合議事要旨の政策に関する議論もなんかグダグダ感が漂う」
2025/06/23「国債発行計画修正で超長期→2年と短j国という順当だけど悲しい結果に/4月会合議事要旨は案の定景気に大悲観モード」
2025/06/20「山口元副総裁のお話が大変に素晴らしい件について/総裁定例会見は国債買入や物価に関する発言が如何なものかと」」
2025/06/18「決定会合レビュー:現状認識見通しは不変で、国債買入減額は案の定の2026年から減額ペース縮減」
2025/06/17「決定会合は「長期国債買入の位置づけ」と「物価に関する現状評価」がどうなるかが注目ですね/貸増残高71兆円か・・・・」
2025/06/16「BBGがMPM前に「日銀が物価の上振れを認識」という面白記事を投下」
2025/06/13「内田講演(その5)決済システムとCBDCに関する説明は面白かった」
2025/06/12「外貨預金の粘着性の分析は将来の日本にも示唆になりそう/内田講演(その4)「ストレスシナリオ」を出せないのが日銀BSの問題点」
2025/06/11「植田発言で為替反応はアホなのかと/内田講演(その3)インチキを誤魔化すのはアカン&バランスシートの話はインチキ」
2025/06/10「内田副総裁金融学会講演(その2)オーバーシュート型コミットメントは強力ではないとか後から言い出すのは酷い」
2025/06/09「内田副総裁金融学会講演(その1)言ってることは立派なんだが政策運営に反映されていましたっけw/輪番雑談」
2025/06/06「30年国債クソ弱くて発行減額観測はいいんだかブルフラットは草越えて森wwwwwwww」
2025/06/05「植田総裁内外情勢調査会講演(その2):政策修正の前のめり感は一切出さずに輪番縮小に意欲」
2025/06/04「植田総裁内外情勢調査会講演ですが「利上げへの熱量無し」「輪番削減はやる気満々」かなと」
2025/06/03「債券市場参加者会合の議事要旨で雑談」
2025/05/30「見るに堪えないトランプの政治圧力/超長期ジャイアントスイングが止まらんですな」
2025/05/29「ウィリアムズが国際コンファランスで期せずして日銀を公開処刑/合成予想物価上昇率のツッコミどころ」
2025/05/28「超長期連日の上げ(財務省発行組み換えの思惑)植田総裁金研コンファランスは詭弁フルスロットル」
2025/05/26「野口審議委員金懇会見は金懇挨拶同様に大本営腹話術で「政策動く気なし」を強調
2025/05/21「20年国債入札が記録的大コケ/2026年以降の長期国債買入について決め打ちする必要あるのかね(市場参加者会合)」
2025/05/20「展望レポートのポンチ絵:また前回対比不能な絵ですが「基調的物価」と「アクチュアルの物価」の2本立て説明お蔵入りかね」
2025/05/16「国民民主玉木氏のしょうもない発言から/ロンガーランストラテジーに関するパウエルの講演より」
2025/05/15「展望レポート全文のBOXから(その2):やっぱり「構造的に賃金と物価が上がりやすい」ネタです」
2025/05/14「4月会合主な意見:出だしの経済パートのクソ弱気VS過度な弱気に対する怒りの抜刀の対比がワロタ」
2025/05/13「米中90日間延長で政策対応どうするのやら/展望レポートBOXから(その1):労働市場の話は威勢の良い話ですね」
2025/05/12「渡辺努さん今度は「利下げも視野に」は酷いわ/関税協議進展期待で?3M短国0.40%割れとか10年1.355%とか」
2025/05/09「3月MPM議事要旨:これだけ威勢の良い話をしていたのに何で4月にああなったんでしょうかねえ・・・・・」
2025/05/08「未曽有の大敗戦の検証をしないようにとか言い出す自称保守派は歴史から学ぶ気が無いようですね(メモ)」
2025/05/07「総裁定例会見:ベースラインシナリオ下げの話でしたが「物価」に関するツッコミが増えてきました」
2025/05/06「展望レポート基本的見解逐語比較(続き):前回展望からのロジック飛躍(ハトハトジャガーチェンジ)が気になる」
2025/05/05「展望レポート基本的見解逐語比較:関税の影響も見極めないうちに堂々とメインシナリオを明確に引き下げ」
2025/05/03「展望レポート基本的見解冒頭部分:メインシナリオを思いっきり下げて物価見通しも下げたが物価は意見の隔たりが大きそう」
2025/05/02「今回は様子見とか言ってたらまさかの一大ハトハトサプライズな決定会合でこりゃ失礼しました」
2025/05/01「朝のお漏らし記事もありませんし今回は「様子見」で1回パスするでしょう(追記:5/2の通りでフラグになりましたw)」


2025/06/26

〇6月会合主な意見:インフレ期待の議論が無いですね&国債買入の話が財政従属感満載で頭が痛い

https://www.boj.or.jp/mopo/mpmsche_minu/opinion_2025/opi250617.pdf
金融政策決定会合における主な意見
(2025 年 6 月 16、17 日開催分)1

・経済のパートでは「企業ヒアリング情報では」をみましょう

『T.金融経済情勢に関する意見』の『(経済情勢)』ですが、企業ヒアリング情報では云々、というのを鑑賞しますと・・・・・

『・米国の関税政策の影響について、中小企業を含む幅広い業種の企業へのヒアリング結果をみると、判断材料に乏しく方向性を見出すことが難しい状況の中で、判断を留保する先が散見される。センチメントの下押し圧力になることは間違いないが、実体経済への影響の大きさについては、今しばらく時間をかけてみていかざるを得ない。』

『・ 企業のヒアリング情報では、米国の関税政策を受けても、@人手不足の中、賃金は引き続き上げていく、ADXや効率化投資など、高水準の設備投資は継続的に実施する、B株主の期待に応えるため、収益増強のためには投資をしっかりと行っていく、とする企業が多い。』

てな訳で、日銀が4月展望でいち早く見通しをクッソ下げたのとは対照的な話になっていまして、そもそもお前らの4月展望レポートは何だったのか、という話に(今後の関税交渉が酷いことにならない限りにおいて)なってもおかしくないんですよねこれ・・・・・・・

まあ、

『・4月や5月のハードデータは比較的しっかりしたものが多いが、関税政策の影響の顕在化はこれからと考えられる。』

ってのはその通りでしょうから、この辺は今後の展開次第という話ではありますな。


・物価のパートだが碌に話が無いし「基調的物価はインフレ期待」なのにインフレ期待の話は碌に無いし

『(物価)』を見ますと「基調的物価」がただの「お気持ち物価」である、というイカサマが良くわかるというものでして、そもそも物価のパートに意見が5個しかない(うち1個は必ず大本営発表が入るので実質4個)訳でして、それだけでもトサカに来るんですけど、この前の金研国際コンファランスで植田総裁って、

https://www.boj.or.jp/about/press/koen_2025/ko250527a.htm

『基調的な物価上昇率を評価するために注意深くモニターしている指標のひとつは、予想物価上昇率です。』
『図表5が示しているように、総合ベースでみた物価上昇率と基調的な物価上昇率との間に大きな乖離があるためです(ここでは、予想物価上昇率を基調的な物価上昇率の近似として用いています)。』
(以上この部分だけ直上URL先の5/27金研国際コンファランスでの植田総裁スピーチ(の邦訳)より引用)

って言ってるんだから、どっからどう見たって基調的物価はインフレ期待が重要、って話になるはずなんでうしょね。

じゃあ当然ながら基調的物価とやらがどうなっているのか、という議論が行われ、その中でインフレ期待がどうなっているか、というのを詳細に見極めていく、という作業が行われ、それに関する所感が「主な意見」に出てきて然るべきなのですけれども、期待インフレに関する議論が行われているような感じが無いんですよね、つまり・・・・・・

『・ 消費者物価の基調的な上昇率は、成長ペース鈍化などの影響を受けて伸び悩むとみられ、下振れリスクも大きいと考えられる。その後は、成長率が高まるもとで徐々に高まっていくと予想され、見通し期間後半には「物価安定の目標」と概ね整合的な水準で推移すると考えられる。』

これは大本営なのでスルーしておきまして、

『・ 通商政策を巡る不確実性は引き続ききわめて大きいが、国内面では、賃金情勢は堅調であり、消費者物価は若干上振れ気味で推移している。』

上振れキタコレ、ではありますがアクチュアルの物価の話ですわな。賃金情勢に関してはまあ企業行動って話ではあるので若干期待インフレに関連する話ではありますけど。

『・ 米価格は前年比約2倍に上昇し、消費者物価を相応に押し上げているほか、関連品目の価格にも波及している。主食である米の価格はインフレ実感やインフレ予想に影響を及ぼし得るため、その動向を注視したい。』

こちらはアクチュアルの話ではなくて今後の話としての期待インフレ動向の話ですけど、期待インフレに関する言及がありましたね。

『・ 欧米・中国・新興国が揃って財政金融両面で緩和策に傾く中、予想外の経済押し上げ・インフレ圧力が生じる可能性もある。』

こちらも上振れで、実はこれを見るとインフレ上振れおよび上振れリスク(さっきの期待インフレ上振れの可能性を指摘している人)に言及しているのが3人もいたりするんで、それはそれで重要な話ではあります。

『・ 物価は上振れているが、賃金からサービス価格への波及には頭打ち感がみられる。』

まあこれは若干基調的物価チックな話ではありますが、いずれにしましても「基調的物価の動向について点検している」とはとても思えない意見の数だったりする訳でして、これすなわち日銀大本営の持ち出している「基調的物価」ってのは単純に「利上げを先送りするために使われているお気持ち物価」って奴じゃなかろうか、という香りが濃厚に漂ってくるわけですな。

よく考えてみたら2022年2月3月(要はロシアのウクライナ侵攻)以降アクチュアルの物価がホイホイと上がる中で、当初は「コアコア物価ガー」とか言ってたのが「賃金ガー」に替わり、そのうち「賃金と物価の好循環ガー」とか「サービス価格ガー」とか言い出し、でもって最近になるとこの「基調的物価ガー」と言いながら政策金利の調整をクソ粘りする言い訳にご利用されているというのが黒田末期以降の動きな訳でして(その合間に不透明感だの米国下振れリスクだの金融市場が不安定だのというハトハトチキン音頭も入る)、まあ結局のところお前ら基調的物価とか言ってるけどそれただの目くらましはろ、などと弊駄文如きが煽っても蛙のツラに何とやらではありますが、「お気持ち物価」ってのもなんか最近は人口に膾炙しているっぽいように思える(弊駄文調べによる笑)ので、7月展望辺りでハンギレ王子となって何か尤もらしいものを展望レポート背景説明のコラムあたりにぶっこんでくるに1万パウエルと申し上げておきましょうwwwwwww

まあお気持ちはお気持ちなんでなんかの拍子にジャガーチェンジ、というのは普通にアリエールな訳でございまして、よくよく考えてみたらマイナス金利解除だけは事前(1月)にあれも12月対比で言えば盛大なジャガーチェンジでしたが、一応予告ホームラン打ってきましたけど、25bpへの利上げだってあれ輪番縮小の具体案公表だけだと思ったらいきなり打って来たし、50bpの利上げに至っては直前のMPMから見たらどの面下げて利上げするんだっていうジャガーチェンジで、本当に直前になってから強引な地均しが行われた、という実績があるので、まあ何があるのかは本来はこっちも決め打ちしにくいなあというのは忘れてはいけませんな。とは言いましても・・・・・・・・・


・まあ金融政策の話で政策金利の話が碌すっぽ無い時点でやる気は感じられませんなあ

次の『U.金融政策運営に関する意見』のパートですけれども、前半が金利調整の話になるのですけれども、これがまた大本営含めて5つ(さっきの物価と同じ)しかない、という時点でお前ら利上げする気あるのかと小一時間問い詰めたい訳で、そういう話を「主な意見」に乗せようというような感じになっていないんじゃろうな、というのは把握しました(個人の妄想です)。

『・経済・物価の見通しが実現していくとすれば、経済・物価情勢の改善に応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことになる。そのうえで、こうした見通しが実現していくかは、不確実性がきわめて高いことを踏まえ、予断を持たずに判断していくことが重要である。』

これは大本営なんですが、次の意見でもあるんですけどね、

『・メインシナリオに沿ったとしても、成長ペースが鈍化し、基調的な物価上昇率の改善がいったんは足踏みする姿を想定していること、通商政策を巡り、大きな不透明性・ダウンサイドリスクがあることから、今は、現在の金利水準で緩和的な金融環境を維持し、経済をしっかりと支えるべきである。』

関税政策の話がまだ始まったばかりに近い状態(つーてまあ2か月半くらいにはなるけど)なので一旦様子見、というのは(物価およびインフレ期待が上振れているからそんなに待ってるのヤバくねえかとはアタクシは思うのですがまあそれはさておきまして経済だけで言えば)まあそういう話にはなるじゃろ、とは思いますけれども、そもそも論として4月展望でメインシナリオを下げた前提がどこにあるのか、ってのがフワフワとした書き方になっているので、関税交渉がどの水準で落ち着くとシナリオ通りなのか上振れ下振れなのかが良くわからんのよね。困ったもんです。

『・物価がやや上振れているとはいえ、米国関税政策や中東情勢に伴う景気の下方リスクを勘案し、金融政策運営は現状維持が適当と考える。』

この後の方でどう見ても抜刀斎の意見があるので、それ以外での物価上振れさんの意見ですね。まあそれで大丈夫かというのはありますが、意見としてはわかります。

『・ 先行きの不確実性が非常に高く、経済情勢等を見極める必要があり、政策金利は当面現状維持が適当である。』

まあ物価を無視すればそういう見解になりますわな。

『・ インフレが想定対比、上振れて推移する中、たとえ不確実性が高い状況にあっても、金融緩和度合いの調整を、果断に進めるべき局面もあり得る。』

これはどう見ても抜刀斎でして(って今日は時間が足りなくて抜刀の鑑賞が中々できないのがいただけない訳ですがorz)物価上振れだから緩和の調整も必要じゃないの、というインフレ目標政策やっているんだからよく考えたら至極ご尤もなお話をしておりますが、まあこれ見ますと一応物価上振れを見ているのが3名いて、うち1名は政策金利調整に積極的、1名はやや親和性があるけどもう1名と思われる人は金利にノーコメントなので特にそこまでは考えていないって感じですかね。でまあ残りは利上げやる気無し無しではあるのですが、前述したようにこいつら突然のジャガーチェンジがあるからそこだけは要注意、って感じですかね。


・長期国債買入に関する議論がハトハトチキンの財政従属市場従属過ぎてひどすぎる件について

後半が国債買入のパートでして、なんと12個もあるという満艦飾状態。

『・ 長期金利がより自由な形で形成されるようにするためには、国債買入れを更に減額していくことが望ましい。一方、国債買入れの減額が進展する中、今後のペースが速すぎると、市場の安定に不測の影響を及ぼす可能性もある。減額計画の策定においては、両者のバランスを勘案する必要がある。』

これは大本営なのでパス。

『・ 決定した国債買入れの減額計画は、金利形成を基本的に市場に委ねつつ、急激な金利変動によって経済・物価に悪影響を及ぼすことを避けるための措置である。財政への配慮ということでは全くない、という点はしっかり説明していく必要がある。』

どう見たって財政従属でしょwwwwwwwwwww

『・ 日本銀行の国債保有比率はできるだけ速やかに引き下げることが望ましいが、2019 年に米国が量的引き締め(QT)を停止せざるを得なくなったように、急ぎすぎても却って調整に時間を要することになりかねない。購入額をいったん大きく減らしてそれをまた増やす形では、途中で市場の混乱を招く可能性を不必要に高めかねない。』

すげえ尤もらしい事を言っているけど、2019年の米国と今の日銀のバランスシートは状況が全然違うじゃろという話で、ただのチキンな訳でして、トランプのTACOならぬUACOって奴ですかwwwwwww

『・ 市場機能は回復途上であるため、国債買入れ減額を継続する必要がある。わが国経済の弱い回復力や先行きの不透明感の高まり、市中の国債保有余力を踏まえると、リスクマネジメントの観点から2026 年4月以降は減額幅を 2,000 億円に引き下げ、同年6月に中間評価することが適当である。』

>市中の国債保有余力を踏まえると
>市中の国債保有余力を踏まえると
>市中の国債保有余力を踏まえると

・・・・・それを踏まえて国債買入を高水準で継続しよう、という発想が財政ファイナンスっていうんですけどw

『・ 国債買入れについては、よりスムーズな政策運営の観点から来年4月以降の減額幅を縮小することが望ましい。しかし、それは金融政策運営スタンスの変化を意味するわけではない。』

「よりスムーズな政策運営の観点から」とかもはや意味不明。お前ら何の議論してたの???

『・これまで多額の国債を買入れてきた日本銀行が、買入れを減額することによって、市中への国債供給が増加する。この点を踏まえれば、今次局面は過去と比べて有数の市中への大量国債供給局面とも考えられる。市場の不安定化回避のため、過去の国債供給量も念頭に減額幅の調整や市場の受容状況の見極めが必要である。』

・・・・・( ゚д゚)
・・・・・(つд⊂)ゴシゴシ
・・・・・( ゚д゚;)

節子、それは完全に今までの国債買入が財政ファイナンスなのを認めたうえで財政ファイナンスを継続せざるを得ないっていうのマーライオン並みにゲロっておるぞな。

『・フローの国債買入れの減額については、最終的な着地点に向けて、次のフェーズである 2026 年度は、より慎重に進めても良い。加えて、最適なバランスシートの大きさについて、資産・負債の両面から考えていく必要がある。』

そもそもバランスシートの最適化が必要なんだから、フローの国債買入はバランスシートが適正規模になるまではゼロじゃろ(FED方式でバランスシートの縮小ペースの調整での少額の再投資は行うにしてもあれは理念的にはゼロですからね)と思う訳で、最終着地がゼロじゃないってのが話としてそもそもおかしいし正常化ができていないしQQE脳から抜けてない訳ですよ。まあそれはジャンキーになって涎垂らして道端に転がっている風情の債券市場の中の人たちもQQE脳なんで政策委員に悪態ついてる場合でもないけどorzorz

『・長期金利の形成は市場と市場参加者に委ねるべきであり、可能な限り早く、日本銀行の国債保有残高の水準を正常化するべきである。これにより、金融市場のショック吸収力を一刻も早く高めておくことが重要である。』

今日ネタにしている時間が無いのですが(すいませんすいません)抜刀斎の金懇でもこの点の言及がありましたのでどう見ても抜刀斎。

まあ市場云々もあるのですが、そもそも巨額のバランスシートを抱えたままでは物価安定目標を達成した後の「普通の金融政策」の運営上支障をきたすし、支障をきたすと思われたら市場が反乱起こしたり、ひいては一般のインフレ期待のアンカリングができなくなる可能性だってあるんだから、バランスシートの縮小を早期に進める、まで踏み込んだら大抜刀なのですが、もしかしたらこの次の意見が上記意見の続きになりますかしら、

『・ 超過準備はきわめて潤沢な状況にあるとみている。したがって、国債買入れの減額を粛々と進めて日本銀行のバランスシートを正常化させていくことは必要である。』

ということで抜刀斎の抜刀パート2かも知れないなと思いました。この先ちょっとだけバランスシート規模の話になりますが、

『・ 国債買入れの減額については、今後、その着地点をどう設定するのかを、日本銀行のバランスシート縮小の行方とあわせて、長期的な視点で検討する必要がある。』

いや着地点は適正なバランスシート規模に戻るまではゼロ(微調整の買いはあり)じゃろ、としか思えないのですが、

『・ 今後、例えば月間の国債買入れ額が 1 兆円程度にまで減少すれば、日本銀行の動きが市場で話題になることもなくなるのではないか。買入れ額をゼロにすることに強く拘ることは不要と考えている。』

・・・・・・・・・お前は何を言ってるんだ??????

『・超長期ゾーンのボラティリティ上昇がイールドカーブ全体に波及し、意図せざる引き締め効果が市場全体に及ぶ可能性もある。安定した市場のもとで形成されたイールドカーブは重要な金融インフラである。当局間で十分に意見交換し、市場の安定に努めていく必要がある。』

って話なんですが、そもそも超長期金利が上がっているのは「日本の基礎的条件が超長期での国債発行を段々難しくするような状態になりつつある」ってのを示していて、これまではQQEだのYCCだのと言って調子に乗りまくって日銀が馬鹿買入をしていたから、この間の日本の基礎的条件の変化について市場が反応できなかったのが、インフレ目標達成するとかそういう状態になる中で、QQEだのYCCだの出来なくなってみて、これまで蓄積されていた基礎的条件の変化が何年分纏めて出ている、ってだけの話じゃろと思うので、「当局間で十分に意見交換し、市場の安定に努めていく必要がある」っての別に意見交換するなとは思わないけど、これもやり方とか出し方を間違えれば「財政ドミナンス」になる話な訳ですな。

ということで、今回の「2026年以降の長期国債買入ペース減額」は「市場安定」の美名のもとに財政ドミナンスがインフレ状態になってきているのに全然改善されない、という恐ろしい事を示しておられるわけでして、それはインフレのさらなる上振れか為替の大幅な減価(または合わせ技)で後日お勘定が回ってくるという懸念がぬぐえませんな、というお話でした(個人の偏見です)。

#つーことで抜刀斎の金懇は明日で勘弁





2025/06/25

〇日銀謹製基調的な物価ですがどう見ても2%達成にしか見えませんけどねえ相変わらず

https://www.boj.or.jp/research/research_data/cpi/index.htm
基調的なインフレ率を捕捉するための指標

いつものようにエクセルデータをテキストにヘコヘコと貼り付けますが、ちょっと長めに今日は貼ってみます。

刈込平均値 加重中央値 最頻値

Jan-23  3.1  1.1  1.6
Feb-23  2.7  0.8  2.1
Mar-23  2.9  1.0  2.7
Apr-23  3.0  1.2  2.8
May-23  3.1  1.4  2.9
Jun-23  3.0  1.4  2.9
Jul-23  3.3  1.6  3.0
Aug-23  3.3  1.8  3.0
Sep-23  3.4  2.0  2.8
Oct-23  3.0  2.2  2.6
Nov-23  2.7  1.7  2.4
Dec-23  2.6  1.6  2.4

Jan-24  2.6  1.9  2.3
Feb-24  2.3  1.4  2.0
Mar-24  2.2  1.3  1.9
Apr-24  1.8  1.1  1.6
May-24  2.1  1.3  1.5
Jun-24  2.1  1.4  1.6
Jul-24  1.8  1.1  1.5
Aug-24  1.8  0.7  1.3
Sep-24  1.7  0.8  1.4
Oct-24  1.5  0.8  1.3
Nov-24  1.7  0.9  1.1
Dec-24  1.9  1.0  1.1

Jan-25  2.2  1.4  1.3
Feb-25  2.2  1.4  1.2
Mar-25  2.2  1.4  1.4
Apr-25  2.4  1.7  1.8
May-25  2.5  1.7  1.6

4月の年度替わり効果で最頻値までクソ上がったのは一旦下がった、とは言いましても普通に1%台後半ですし、加重中央値も反転上昇していまして、2023年水準を窺う、というよりは2023年って(物価が上がりだしたのが2022年ですわな)まだ加重中央とか最頻とかは出だしでは今ほど高くなかった訳でして(後半刈込平均3%とかまで来たら上がってきましたけど)、そういう物価高水準にまた戻っておるわけですわな。

ということで、こういうのを見ても「基調的物価は2%にまだ距離がある」とか寝言言ってるのマジでなんなのお前らって感じですし、日銀がずっと外し続けている物価見通しの「一旦2%割れになった後また上昇する」という「一旦下がる」が碌に下がらないのも反省しないのか、と思う今日この頃でして、物価面から日銀が十字砲火を浴びる日が来るようですと、そりゃもう利上げ待ったなしになるじゃろ、とは思うのですがはてさてどうなるか。

しかしまあ何ですな、ふと思ったのですが、日銀はそういう訳でニアータームの物価見通しを毎度「下がる下がる詐欺」状態になっているのですが、ゆうてこれ民間の何とかスト連中も同じような予想をして外し続けている(ESPフォーキャストとかがまさにそう)んですけれども、この背景っていうのは、要するに「期待インフレが結構な上がり方を示したから、マクロモデルを回して立てた物価見通しが下に外れ続ける」ということを意味している筈だと浅学菲才なアタクシは思う訳でございまして、だったら今回の物価上昇ってうっかりするとインフレ期待を一段と上げてしまってアカン奴になるんじゃないのか、というのが心配な訳ですけれども、もしかして日銀はインフレが高進して「日銀様何とかして下せえ」となるまで「汝人民飢えてタヒね」スタンスでぶっ走る気なんじゃないかという背筋の冷えることも妄想してしまいたくなったりならなかったりする今日この頃ではあります、ナムナム。






2025/06/24

〇5月決定会合議事要旨(その2)

しゃーせん昨日の続き。
https://www.boj.or.jp/mopo/mpmsche_minu/minu_2025/g250501.pdf
政策委員会 金融政策決定会合 議事要旨
(2025年4月30日、5月1日開催分)

昨日この手前までで終わってしまったので『V.金融政策運営に関する委員会の検討の概要』に参ります。

・別に「今の状況はどういう事になるか分からんのでとりあえず現状維持」でよかった筈なのですが・・・・

『次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針 について、委員は、「無担保コールレート(オーバーナイト物)を、0.5%程度で推移するよう促す」という方針を維持することが適当であるとの見解で一致した。』

でですね、

『多くの委員は、経済・物価見通しの下振れや不確実性の高まりを踏まえると、現時点では、緩和的な金融環境を維持しつつ、各国の通商政策等の今後の展開やその影響を丁寧に確認していくことが適当であると指摘した。』

今回の判断で「下振れ」を入れたのが妥当だったのか、ってな話でして、4月末の時点ではどうなるか分からんという状態なのに、思い切って下振れハトハトを出した意味は何だったんでしょってなもんですが、昨日ご紹介したように、経済物価認識のパートが一部の委員を除いてとんでもなくハトハトチキンだったので、まあ当然ここでも「経済物価見通しの下振れ」が入っています。

でですね、経済物価情勢の下振れなら下振れでも良いんですが、じゃあ(6月会合声明文と記者会見での説明ではそういうのは無かったですけど)何でこの前のBBGでは「日銀では物価の上振れを意識してる」みたいな話が舌の根も乾かぬうちに出てくるんだという話でして、結局おまいらの経済物価見通しは政策判断の説明の後付けで見通しを立ててないのかと小一時間問い詰めたくなる訳ですよ。まあそういう意味で7月展望もそうですが6月の議事要旨と、その前に明日「主な意見」が出ますからそこも確認したいですけど。

『何人かの委員は、現在の実質金利はきわめて低い水準にあり、これを維持することで、経済をしっかりと支えていくことが重要であるとの見解を示した。このうちの一人の委員は、金利の下限制約から脱却して1年以上経つが、経済と物価はしっかりしており、現在の金融政策スタンスは、とても緩和的な状況にあると付け加えた。ある委員は、1月に決定した政策金利引き上げの影響も、確認していく必要があるとの見解を示した。別のある委員は、米国の関税政策の展開がある程度落ち着くまで、取りあえずは様子見モードを続けざるを得ないと述べた。この間、一人の委員は、最近の関税政策により、企業における行き過ぎたコストカット、賃上げ・投資の抑制や産業の空洞化に陥る可能性も考えられることから、企業マインドや倒産の傾向に変化がないか注視する必要がある との見方を示したうえで、経済への影響を慎重に見極めるため、現在の調節方針を維持することが適当であると述べた。』

ということでして、これよくよく読みますとあくまでも「関税の影響、特に関税政策によって企業の価格設定や賃金設定の行動が下方屈曲しないか、を見極めたい」って話で、それはまあ言いたいことはわかる(ただしアタクシ的には既に基調的物価が2%を超えているんじゃないかと思っているので待っている余裕はそんなに無い、と思っていますがそれはアタクシの感想なのでさておきまして)のですが、「関税政策の経済物価への影響、特に企業や家計の行動が下方屈曲しないかどうかを見極めたいので様子見」だったら別に初手からそういう説明をメインにすれば良いだけのことで、なんも経済(はまだ分からんでもないが)物価(上方修正上振れリスクからのドテンが酷すぎ)見通しをあんなに盛大に修正しなくたってエエジャロとしか思えないんですよね。


・見通しを下げているのに「先行きの方向性は変わらん」というのが如何にも訳わからん事になるわけですよ

でもって次のパラグラフが先行き金融政策ですが、

『先行きの金融政策運営について、委員は、経済・物価の見通しが実現していくとすれば、経済・物価情勢の改善に応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことが適当との見方で一致した。』

見通し下げてリスク認識も下げているのに先行きの話が同じってのもよくよく考えてみたら妙ですわな・・・・・

『何人かの委員は、現在の実質金利が大幅なマイナスであり、かつ、先行き2%の「物価安定の目標」を実現する姿になっていることを踏まえると、方向としては、これまで同様、政策金利を引き上げていくのが適当であるとの認識を示した。』

ってな話だが、先行き2%達成云々って作文の世界ですからねえw

『このうちの一人の委員は、健全なバランスシートなど、日本企業の財務体質が過去と比べて大きく改善している点も認識しておく必要があると述べた。』

まあその分のツケが政府に行ってますがqqqq

『ある委員は、「物価安定の目標」の実現に向けて最も重要なのは、企 業の賃金・価格設定行動や企業や家計の予想インフレ率の動向であるが、これらが以前の賃金・物価が上がりにくい頃の状況に戻るリスクは小さく、2%に向けて上昇してきた基調的な物価上昇率が下方に屈折してしまう可能性は小さいとの見方を示した。』

ちなみにアタクシも同感です。というか「基調的物価」がインフレ期待ってこの前植田さんが講演で言ってたんだから、もうちょっとインフレ期待の話をしてないとおかしい訳で、そういう点から見ても日銀のいう「基調的物価」って説明用のお気持ち物価ではあるけど、政策運営の時にその話まともにしているのかというのが疑問で、これすなわち何時もの「説明に困ったら動いたり無くなったりしてしまうゴールポスト」なんだと思います(個人の偏見です)。


・結局関税政策次第ですよという話がその先に続きまして・・・・・

次のパラグラフに参ります。

『そのうえで、多くの委員は、経済・物価の見通しが実現していくかについては、各国の通商政策等の今後の展開やその影響を巡る不確実性がきわめて高い状況にあることを踏まえ、内外の経済・物価情勢や金融市場の動向等を丁寧に確認し、予断を持たずに判断していくことが重要であると指摘した。』

予断を持たずにって言ってますが一回下がってまた上がる、というような器用な予断をもって物価見通し毎度出して毎度外しているのどこの誰でしたっけw

という悪態はさておき、

『ある委員は、前提となる各国の交渉の帰趨を含めて、不確実性がきわめて高い中で、見通し自体が上下に変化しうるため、見通し実現の確度やリスクを見極めていく必要があるとの認識を示した。一人の委員は、今回の経済・物価見通しの確度は従来と比べて高くはないとの見方を示したうえで、先行き、見通しの上振れ・下振れ双方の可能性を点検し、適切に政策を運営していく必要があると述べた。』

物価見通しっていつも外していますので確度が従来より高いも低いも無いと思いますがwwwwwww

『別の一人の委員は、米国経済減速から利上げの一時休止局面となるが、米国の政策転換次第で追加的な利上げを行うなど、過度な悲観に陥ることなく、自由度を高めた柔軟かつ機動的な金融政策運営が求められるとの認識を示した。』

過度な悲観キタコレ

『また、別のある委員は、サプライチェーンの毀損などにより経済が下押しされると同時に物価が上押しされるような状況となれば、米国と比べて予想インフレ率がアンカーされていないわが国では、金融政策での対応がより難しくなる可能性があると指摘した。』

難しいのはそうなんだがじゃあその際にどうしろって話だったのか、というのを何で書いてくれないんでしょうか(まあいわなかったんだったらシャアナイけど)。


・情報発信について(その1)ベースラインシナリオを下げた理由についてのわが妄想

次のパラグラフは、

『委員は、金融政策運営に関する情報発信のあり方についても議論を行った。』

から始まるのですが、

『何人かの委員は、経済・物価の見通しが上下双方向で大幅に変化しうるもとでは、先行きの政策金利のパスは、中心的な見通しのもとで予想されるものから変わり得ることを丁寧に説明していくことが重要であると指摘した。』

だったら何で「従来の見通しは一旦維持しますが、経済の下振れリスクは関税政策次第でメッチャ高いし、物価のリスクは経済コケると物価にもマイナスだと思います」って言って「だから先行きの政策金利パスはこれからの進展次第でどうなるかって話なんですよ」って説明すればいいものを、なぜか知らんが見通しを下げるという技を使う訳ですよ。まあこれに関してはワイ的には一つ仮説はあるんで後程。

『また、ある委員は、様々な不確実性の存在を前提としつつも、今回示した中心的な見通しのもとでは、2%の「物価安定の目標」は、後ずれはするものの達成できるという見通しがあり、その見通しに立つのであれば、これまで同様、政策金利の引き上げにより金融緩和の度合いを調整していくことが適当であるという、現時点での日本銀行の基本的な考え方を説明していくことが大切であるとの意見を述べた。』

これは1名の方の発言ですけれども、まあ建付け的にはこういう建付けが今回の決定でしたよね、ってなもんなのですが、これ結局のところ「先行きの政策金利パスは上向きです」って話をしたいがために見通しを先んじて下げている、というのが多分屁理屈大魔王の屁理屈の中にあると思われまして、すなわちさっき申し上げましたように「見通しは一旦維持しますけど下振れのリスクも高いですね」ってやってしまうと、「じゃあ下振れしたら金融緩和強化ですか」って話になりやすいので、さきにベースラインシナリオを下振れさせておいて、「ベースラインシナリオは下がったけれども利上げ方向は変わりません」と言っておけば、現実に下振れしても「ほらベースライン通りでしょ」と言える、というまあそういうプレイが使える、ってことなんでしょうね、と思いました。


・情報発信について(その2):お漏らしプレイはいい加減にしやがれというご指摘

さらに話は続くがここで話題は一転しまして、

『この点に関連して、一人の委員は、市場は、日本銀行の従来からの基本方針を前提に、内外の新しい情報を自ら咀嚼して、日本銀行からの直接的な示唆を俟つことなく、利上げ時期についての見方を形成し、自ら修正し続けていると指摘した。そのうえで、この委員は、市場が日本銀行の細かな言い振りよりも、経済・物価の動向に着目するようになることが望ましく、日本銀行としても、そうした状況を維持できるような情報発信を続けることが適切であるとの見解を示した。』

こういうことを言うのはまあ高田っちか抜刀斎だろうなあ(他にあるとすればワンチャン氷見野副総裁)と思う訳ですが、まったくもっておっしゃる通りでして、あの謎のお漏らし記事が出てきて方向性を出そうとするスカトロプレイは大概にして頂きたいものです。


・長期国債買入について:うーん2名を除いてビビリンチョっぽいなあ・・・・・・・

でまあこれを受けて展望レポートはこんな感じでよろしゅございますでしょうかと執行部が言って、それに対してああそうですねと政策委員が返す下りはまあ飛ばしましてその次の長期国債買入に関して。

『委員は、最近の国債市場の動向と日本銀行の国債買入れに関する考え方についても、議論した。』

はじまりはじまり。

『何人かの委員は、@長期金利は金融市場において形成されることが基本であること、A日本銀行による長期国債の買入れは、国債市場の安定に配慮するための柔軟性を確保しつつ、予見可能なかたちで減額していくことが適当であること、といった基本的な考え方を改めて示した。』

この「国債市場の安定に配慮」と「予見可能」をどう見てもやりすぎているのが6月に出た買入計画なんですけどねえ・・・・・・・・・・・・

『このうちの一人の委員は、減額計画を定める際には、どの程度の減額であれば国債市場の機能に混乱が生じる可能性を低く抑えられるか、がポイントとなると指摘した。』

そんなものを気にしている時点でお前の言ってるのは財政ファイナンス。

『何人かの委員は、超長期国債の金利が大幅に上昇するなど、年限間の分断が生じているとの見方を示した。このうちの一人の委員は、国債買入れの減額計画の中間評価に向けて、年限別の需給動向や流動性、業態毎に異なる見方を丁寧に確認することが重要であると述べた。』

これだって結局「超長期の買入が少ないのが悪い」のではなくて、「中短期から長期の買入が過大でイールドカーブの手前が押さえつけられているので金利上昇のエネルギーが超長期に行ってしまう」という面も多々ある訳で、そもそも買入の額がおかしい、というのを前提にしないで話をすると今回のように減額1年にしてビビリンチョと化してしまって2026年4月からどうのこうのとか言い出すわけですよ。

『この点に関連して、何人かの委員は、超長期金利の上昇については、そもそも同市場の参加者が限られているもとで、規制対応の一巡により投資家需要が減退していることなどが影響していると の指摘が市場参加者から聞かれていると付け加えた。』

規制対応の一巡も勿論大きいのですが、YCCなかりせば本来20年とかのリスクを取りに来なかった人たちをYCCで超長期に追いやってしまったことの反動が起きている、という面も見逃せないと思うんですけどね。

でもって最後に2名(なので高田っちと抜刀斎だと思いますが)が良い意見を。

『ある委員は、例外的な状況を除き、日本銀行が、一時的な需給バランスの変化に都度対応すると、市場の機能を再び損なうことになってしまうとの認識を示した。』

仰せの通りです。

『一人の委員は、中央銀行が市場を十分に考慮することは当然であるが、一方で、その時々の市場の意見に反応しすぎると、その柔軟性が却って予見可能性を低下させ、市場の不確実性をより高める可能性があると指摘した。』

全くです。

・・・・さすがに最近はこの輪番問題と国債発行計画問題の話題を聞きつけた他市場(主に外債方面)のお友達から「円債市場の連中って当局に甘えすぎじゃねえのか」と悪態をつかれる始末でして、クレクレコジキに成り下がっているのはちょっと残念ですわな。

なお、

『これらの議論を踏まえ、委員は、6月の金融政策決定会合では、市場参加者の意見や見方を十分に確認したうえで、国債市場の動向や機能度についてしっかりと点検し、現在の減額計画の中間評価を行うとともに、来年4月以降の国債買入れ方針を検討する必要があるとの
認識で一致した。』

一致したのかつまらん、「来年4月以降の国債買入方針に関しては大まかな方向を公表するのは良いが、具体的な金額などを10か月も前に公表するのは時期尚早なので行うべきではない」って意見を堂々とぶっこんで議事要旨に乗せて頂きたかったですね。まあ今回の主な意見で何かそういうのあるとは思いますが(主に反対してた抜刀斎方面から)。





2025/06/23

〇国債発行計画修正キタコレ

まあ事前に散々報道されていましたのでアレですが。

https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/meeting_of_jgbsp/proceedings/outline/250620pd114.pdf
国債市場特別参加者会合(第114回)
理財局説明資料

6ページ(PDF6枚目)に『国債管理政策の基本的な考え方』ってのがありまして、

『国債管理政策は、

@ 確実かつ円滑な発行により必要とされる財政資金を確実に調達すること
A 中長期的な調達コストを抑制していくことによって、円滑な財政運営の基盤を確保すること

という基本的な目標に基づき運営。』

ってことで、その次に

『※ 国債を将来にわたって低コストで安定的に発行・管理するためには、財政健全化を推進し、新規財源債の発行額を抑制することが基本。』

という悲しい文言がありますがそれは悲しみを共有するにとどめておいて、

『○ 上記目標を達成するため、国債発行計画の策定・運営に当たり、「市場との対話」を丁寧に実施し、市場のニーズを十分に踏まえた国債発行に努めてきたところ

○ 一方で、一時的・短期的な需要の変化に過度に対応すれば、結果として、市場参加者にとっての透明性・予見可能性が損なわれ、国債投資に対するリスクが高まり、中長期的な調達コストの上昇につながる場合もある』

>一時的・短期的な需要の変化に過度に対応すれば、結果として、市場参加者にとっての透明性・予見可能性が損なわれ
>一時的・短期的な需要の変化に過度に対応すれば、結果として、市場参加者にとっての透明性・予見可能性が損なわれ
>一時的・短期的な需要の変化に過度に対応すれば、結果として、市場参加者にとっての透明性・予見可能性が損なわれ

全く仰る通りなのですが、日銀とか言う人が2026年4月以降の輪番減額をさっそく金利上昇にビビって減らすということをしている(しかもまだまだ先の話なのに今の時点で決め打ち減額)んですが、ちょっと説教してもらえませんかねえw

『⇒ 今後とも大量の国債発行が見込まれる日本においては、中長期的な需要動向を見極め、安定的で透明性の高い国債発行を行っていくことが重要

(注)海外においても、例えば、米国が「定期的かつ予見可能な発行」(regular and predictable issuance)を債務管理の方針として掲げるなど、一部の国では、機会主義的な債務管理運営に陥るリスクを意識した対応がとられている。』

てな話なんですが、日銀の輪番に関するムーブって日銀としては「定期的かつ予見可能な」ムーブだと思っている節があるのです、というか節しかしませんけれども、金利上昇にビビって輪番減額を緩めているだけにしか見えないというのが悲しい所(個人の感想です)。

でまあ次のページが『令和7年度国債発行計画(6月変更)の概要【案】』ですが・・・・・・・

『○ 市場のニーズを踏まえ、7月より直ちに、40年債・30年債を各1,000億円/回、20年債を2,000億円/回減額。流動性供給入札(超長期ゾーン分)についても、1,000億円/回減額。』

ナムナム。

『○ 超長期債の減額分は、2年債、短期国債の増額及び個人向け販売分の上振れ実績を反映すること等により対応。』

5年すら増発できないのかよ(まあ事前報道で5年増発無しみたいな感じになっていたのでサプライズは無いですが、せめて5年は増発できるじゃろと思ったというか、20年以降を減額して2年とT-Billを増発する重債務国家ってそれ普通に「長い期間の債務発行ができなくなりつつありますよこの重債務主体」ってことで、ヤベー奴じゃんというお話ではあるのですが、まあとりあえずユルユルのユルなメディアはそういう視点で報道しないので無事に収まっているだけの話で、本来はまあヤベー奴なお話ではありますぞな。しかもしれっと「個人向け個販売分の上振れ」を使っている辺りもそれだけ見ると(゚∀゚)アヒャって感じですな。

『○ 今後とも、市場の状況や投資家の動向等を注視しつつ、適切な国債管理政策に努めていく。』

まあそもそも論として税収上振れたら全部撒くとか(インフレで税収上振れるということは経常経費だってインフレで上振れるんだから税収上振れたからその分使うというのは頭おかしいとしか言いようが無いんだが)いうような馬鹿が立法府の方にいる(悲しいかなそういう馬鹿立法府に馬鹿言説を吹き込んでいる馬鹿が金融界にいるのが困るわと思いますけど)ので、まあ発行を何とかしましょうと言っても所詮は蛇口の方を何とかしないとどうしようもないし、そう考えると目先必死こいてその場をやりくりしていると蛇口の方が問題になかなか気が付かないので、そんなに「市場に配慮」せんでもええじゃろという暴論の方を思いついてしまうんですよね(やりくりを散々した挙句に爆発するくらいなら早めに爆発させた方が爆発規模が小さくて済む理論)。

などと言っててもしょうがないのですが、これもまあ元をただせばYCCのせいで超長期に無駄な需要が発生してしまっていたので超長期の発行が多すぎたってのがある訳で、色々な面で黒田緩和のやらかしたことの手じまいをする中で問題がちょいちょいと出てきている訳で、そういうのを待たずに「多角的レビュー」とかやって黒田政策の正当化をオーソライズしてしまったのはこれ中長期的に見てかなり禍根を残す話になってくると思います。


〇4月展望会合議事要旨(その1)

https://www.boj.or.jp/mopo/mpmsche_minu/minu_2025/g250501.pdf
政策委員会金融政策決定会合
議事要旨
(2025年4月30日、5月1日開催分)

・米国の物価に関する見方にデフレ脳を感じるんだが・・・・・・・・・

まずは『U.金融経済情勢と展望レポートに関する委員会の検討の概要』から参りますが、

『米国経済について、委員は、一部に弱めの動きもみられるが、緩やかに成長しているとの認識で一致した。そのうえで、多くの委員は、今後、関税政策は、米国の実体経済を下押しする方向に作用するほか、少なくとも短期的には物価を上押しするとの見解を示した。』

まあこの会合は海外経済の所がやたら下がったのでこの辺から見ていきますが、

『ある委員は、家計や企業、金融機関のバランスシートが健全であることなどを踏まえると深刻な景気後退は考えにくいが、しばらくは潜在成長率を下回る成長が続く可能性が高いと指摘した。』

『別の一人の委員は、一時凍結されている相互関税の上乗せ部分が撤回されたとしても、関税の物価に及ぼす影響は大きく、個人消費や設備投資には下押し圧力がかかるとの見方を示した。』

あらそうって感じで弱いですけれども、

『複数の委員は、やや長い目でみて、いったん上昇した物価が経済の減速により下押しされるのか、それとも高めの物価上昇率が継続するのかについては不確実性が大きいと指摘した。』

でもってこの米国の物価に関してですが・・・・・・・

『そのうえで、このうちの一人の委員は、今後の物価動向を見定めていくためには、労働市場の状況、とくに賃金の動向を注視していくことが重要であると付け加えた。』

というのはまあ分かるんだが次の意見が???で、

『この点に関連し、ある委員は、経済が減速するもとでは、一時的な物価上昇ショックによってインフレ予想のアンカーが上方に外れるリスクは限られるとの見解を示した。』

????????いやあの第一次石油ショックとか第二次石油ショックとかご存じですよね・・・・・・・

『この間、一人の委員は、新政権発足以降、経済成長にマイナスに働く関税等の政策が先行しているが、今後、減税等が実現していけば、成長率の上振れもあり得ると指摘した。』

とまあこういう感じで、最後にちょっと上振れがありますけど、総じて弱気な上になぜか物価に関してもあんまり強くなさそうな見通し、という印象を与える構成になっておられますな。


・欧州と中国に関しても弱気ですねえ

『欧州経済について、委員は、製造業を中心に弱めの動きがみられているとの認識を共有した。ある委員は、米国の関税引き上げの影響に加え、これまでの投資抑制やコストの高止まりにより、欧州の産業競争力は低下しているとの見方を示した。』

後者の方ですが、こういうの言いそうなのは中村委員かしら。

『中国経済について、委員は、政策面の下支えはあるものの、不動産市場や労働市場の調整による下押しが続くもとで、改善ペースは鈍化傾向にあるとの見方を共有した。一人の委員は、内需低迷や貿易摩擦激化による輸出の減少が懸念されるほか、住宅の販売在庫の大きさを踏まえると不動産市場の回復にはかなりの時間を 要する可能性が高いとの見方を示した。』

とまあそんな感じで弱気なのが並ぶ。


・国内物価の現状ですが東京都区部が上振れていた件は何かあんまり重視されていませんでしたなあ

日本の経済物価の話になるのですが、経済の方はさておきましてこの会合で一気に見通しの下がった物価ちゃん、東京都区部CPIが重視されていたら物価見通しが下方修正してリスクは下振れにならんじゃろという話だが。

物価面について、委員は、賃金上昇の販売価格への転嫁の動きが続くもとで、既往の輸入物価上昇や米などの食料品価格上昇の影響もあって、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、足もとでは3%台前半となっているとの認識で一致した。』

ということですがまあこれは事実なのでさておきまして、

『ある委員は、全国に先行して公表された4月の東京都区部の消費者物価の前年比をみると、家賃を除く一般サービスの伸び率が3%を上回ったほか、東京固有の要因である可能性はあるものの、家賃の伸び率も大きく高まっていると指摘した。』

『この点に関連し、一人の委員は、東京以外の地域では、全体として家賃の上昇率は小幅にとどまっているが、新規家賃については、大都市圏を中心に、このところ上昇の動きが目立ってきていると指摘した。』

って指摘があるのに何であの見通しになったか、といううのは後程。

『この間、予想物価上昇率について、委員は、緩やかに上昇しているとの見方で一致した。』

この部分ってもっとまじめに議論してくれませんかねえ、だって「基調的物価」は「予想物価上昇率」ってこの前植田総裁内外情勢調査会で話をしてたじゃ・・・・・・・・・・・


・なんかもうこの世がオワ終わりみたいな話をしておりますな(見通し部分)

でもって先行き見通し、ということで『2.経済・物価情勢の展望』ってところなのですが・・・・・・・・・

『次に、委員は、これらの前提のもとで、経済情勢の先行きの中心的な見通しについて議論を行った。』

前提のところはご案内の通りなのでパスしてここから参ります。

『委員は、わが国経済について、@各国の通商政策等の影響を受けて、海外経済が減速し、わが国企業の収益なども下押しされるもとで、緩和的な金融環境などが下支え要因として作用するものの、成長ペースは鈍化する、Aその後は、海外経済が緩やかな成長経路に復していくもとで、わが国経済も成長率を高めていくと見込まれるとの認識を共有した。』

という字面になっているのですが、この関税政策の影響に関する部分がですね・・・・・・

『委員は、米国の関税政策やそれに対する各国の通商政策は、わが国の経済を下押しする方向に作用するとの見方を共有した。そのうえで、多くの委員は、関税政策は、主として、貿易面および企業や家計のコンフィデンス面から、わが国経済を下押しすると指摘した。ある委員は、資源価格下落等に伴う正の供給ショックも見込まれるが、様々な経路を介して発現する負の需要ショックよりは小さいと考えられると付け加えた。』

からの、

『貿易を通じた経路について、何人かの委員は、 関税の引き上げは、米国内でのわが国企業の価格競争力の低下に加え、貿易の縮小を介した世界経済全体の下押しを通じて、わが国の輸出を押し下げるとの認識を示した。また、複数の委員は、為替が円高方向で推移すれば、わが国の輸出にマイナスの影響を及ぼすと指摘した。別の一人の委員は、高関税が長期化すれば、直接的影響を受ける輸出企業を中心に、事業再編やサプライチェーン強靱化のための取引先の選別、生産拠点の米国シフト等が進む惧れがあり、これが、経営体力が比較的弱い中小企業に影響を及ぼす懸念があると述べた。この点に関連し、ある委員は、当面影響が懸念されるのは、個別関税が設定されている自動車であるが、米中間の高関税により中国経済が更に落ち込むようなことがあれば、より幅広い製造業に影響が及ぶ可能性があると指摘した。』

な、なんですかこのオワ終わりみたいな話は、というほどのバチクソ弱気な話が大展開されている訳でして、こりゃまたエライ弱気ですねってなもんで、同時期の米国が「まあゆうてよおわからんから様子見じゃ様子見」と言ってたのとエラい温度差がありましたなこりゃ。

でまあさすがにこの「この世の終わりを嘆く会」状態に対してカウンターも入っていまして、

『これに対して、一人の委員は、1990 年代の円高局面と違い、今回の相互関税は世界各国に賦課されるため価格転嫁も可能であり、わが国企業の相対的な競争条件悪化には繋がり難く、収益減少が限られる可能性もあると指摘した。』

『別の一人の委員は、理論的には、米国による関税賦課はドル高・円安方向の圧力をかけることになるため、わが国の輸出に対する影響を緩和する可能性もあるとの見解を示した。そのうえで、この委員は、GDPに占める輸出の割合等でみたわが国経済の貿易依存度はそこまで高くないため、関税政策の動向だけでなく、国内要因にも注目して、冷静に金融経済の状況を判断していく必要があると付け加えた。』

2名がこの世の終わりみたいな議論に対して「いやお前ら悲観しすぎじゃろ」というのを入れてきましたのが救いなわけですが、さらに「冷静に金融経済の状況を判断していく必要がある」って指摘がかなり味わいがあって、つまりはこの会合ってなんかもう悲観でウヒャーウヒャーって茹で上がっていた方々が多かった、ということだったんじゃなかろうかと思われますな、南無大師遍照金剛。


・しかし中心的な見通しを前提にして1年後ずれってよく考えたら何なんでしょうかね

ちょっと先に行って物価の見通しなんですけど、

『続いて、委員は、物価情勢の先行きの中心的な見通しについて議論を行った。』

はい。

『委員は、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比について、2025 年度に2%台前半となったあと、2026 年度は1%台後半、2027年度は2%程度になるとの見方を共有した。』

26年度2%割れってそうなるのかねえとしか言いようが無いのだがまあさておきまして、

『委員は、これまで物価上昇率を押し上げてきた既往の輸入物価上昇やこのところの米などの食料品価格上昇の影響は減衰していくとの認識で一致した。』

普通にいろんなところに価格転嫁が波及しているようにしかみえませんがさておきまして、

『そのうえで、委員は、消費者物価の基調的な上昇率は、成長ペース鈍化などの影響を受けて伸び悩むものの、その後は、成長率が高まるもとで人手不足感が強まり、中長期的な予想物価上昇率が上昇していくことから、徐々に高まっていくと予想され、見通し期間後半には「物価安定の目標」と概ね整合的な水準で推移するとの見方を共有した。何人かの委員は、今回前提とした各国の通商政策等の影響がみられるもとでも、引き続き賃金の伸びと労働需給の引き締まりに支えられ、基調的な物価上昇率は、2%に向けて徐々に高まっていくという大きな方向感はこれまでと変わらないとの認識を示した。』

って話なのに、

『そのうえで、複数の委員は、中心的な見通しのもとでは、基調的な物価上昇率が「物価安定の目標」と概ね整合的な水準で推移するようになる時期は、従来の見通しから1年程度、後ずれするとの見方を示した。』

なんで1年も後ずれするんだよという話で、まあ意味不明ではありますな。

『委員は、各国の通商政策は、物価に対して上下双方向の影響を及ぼしうるが、今回の前提のもとでは、今後の成長ペース鈍化などを通じて、中心的な見通しを押し下げる方向で作用するとの見方を共有した。また、一人の委員は、サプライチェーンが混乱するようなことがあれば、一時的には物価を押し上げる可能性があるが、混乱が長引けば、企業収益や賃金への下押し要因として働き、基調的な物価上昇率を押し下げる要因として作用する可能性があるとの見解を示した。この間、別の一人の委員は、関税の賦課は短期的な価格ショックと考えることもでき、長期的には実質的な効果を持たないとの理論上の結論はありうることから、現時点では、やや長い目でみれば、関税政策とその不確実性が、基調的な物価上昇率や潜在成長率に影響を与えるとはみていないとの認識を示した。』

ってな話で、インフレ期待の上振れ、という指摘が無いんだよなーと思いつつ、先の方になりますが、リスク要因の物価の話を見ますとですね・・・・・・・・


・やっぱり一部の委員を除いて「期待インフレの上振れ」を懸念してないんだよな〜

『物価のリスク要因について、委員は、上記の経済のリスク要因が顕在化した場合には、物価にも影響が及ぶほか、物価固有のリスク要因として、@企業の賃金・価格設定行動やそれらが予想物価上昇率に与える影響、A今後の為替相場の変動や国際商品市況を含む輸入物価の動向、およびその国内価格への波及には注意が必要であるとの見方で一致した。』

というのは展望レポートにあった通りですが、

『各国の通商政策等の動きが物価に及ぼすリスクに関連して、ある委員は、輸出企業を中心とした企業収益の減少が、今後、サプライヤーへの原価低減圧力の強まりや賃金設定行動の変化を介して、基調的な物価上昇率を押し下げうると指摘した。』

でまあこれに関連して、

『この点に関連し、一人の委員は、先行きの賃上げ気運を維持していくためには、本年の冬季賞与や来年の賃上げに向けて、企業経営者がどのようなメッセージを打ち出していくかが重要なポイントになると指摘した。別の一人の委員は、企業や家計の予想物価上昇率がどのように推移するのか、企業の賃金・価格設定行動がデフレ・低インフレ下のものに戻ることがないかといった点を、ヒアリングなども含め、しっかりモニタリングしていく必要があると述べた。』

企業の賃金設定行動について注目、ということになるとそれを判断するのは最初のひとりの委員が言ってるように冬の話になってしまいますねえ。

『また、何人かの委員は、米中間の高関税の影響等を受けて、中国から安値輸入品がわが国に流入し、物価を押し下げるリスクもあるとの認識を示した。』

というのの後に上振れの話がありまして、

『これに対して、複数の委員は、各国間の交渉の帰趨次第では、中心的な見通しよりも物価が上振れる可能性もあると指摘した。』

でもって最後に出てくるこの人だけが期待インフレの上振れをしてきしていまして、

『このうちの一人の委員は、成長率や消費者物価の前年比が今回の見通し通りに推移するとしても、企業や家計の予想物価上昇率や、企業の賃金・価格設定行動の状況次第では、基調的な物価上昇率は見通し期間前半に「物価安定の目標」と概ね整合的な水準で推移する可能性も十分あると付け加えた。また、この委員は、物価は 2027 年度まで2%近傍を維持する見通しにある中で、グローバルサプライチェーンの混乱等による物価上振れリスクには留意が必要であるとの見解を示した。』

普通にこの意見が仰せご尤もだと思うのですが、その前の経済の所であったように、なんかこの世の終わりみたいな議論になっていたんだな、というのは議事要旨を見て再確認(展望レポートの時点でまあエライ弱気でしたけど)できた感じですね。

『この間、何人かの委員は、為替相場が大きく変動すれば、物価にも影響が及びうると付け加えた。』

でもってこの後金融政策のパートになるのですが、ちょっと時間が怪しくなってきたのでここで勘弁していただきとう存じます。










2025/06/20

〇山口元副総裁のお話が大変に素晴らしい件について

https://news.mynavi.jp/techplus/article/20250619-3357896/
日興リサーチセンター・山口廣秀理事長に聞く!「トランプショックをどう捉えますか?」
掲載日
2025/06/19 11:00
本記事は「財界オンライン」から提供を受けております。著作権は提供各社に帰属します。

金融政策以外の話(米国の政策に関する色々な考察)の方がメインのテーマでそっちの方も大変に学びがあるのですが、金融財政についても全くその通りです、ってご意見を述べておられまして、『痛みの伴う政策が時には必要』って小見出しから先が一々頷いてしまって首がもげそうになりました。

ということで以下ご紹介ですが。

『─ 1人ひとりの国民の意識も大事になってくると思うのですが。』

『山口 その通りです。特に大きいのは、安易に大幅な財政出動や大規模な金融緩和を求めるような、ある種の「甘え」の雰囲気が国民の側にもあるのではないかということです。改めて、国の政策に頼るのではなく、自助自立の覚悟が求められているのではないでしょうか。』

『様々な意味で政治の役割は大きいと思います。米中対立の中で、日本らしい米国との関係、中国との関係を念頭に置きながら、米中の間に立って両国の調和、ひいては世界・アジアの安定を模索していく役割が日本には求められています。大変困難なことですがやらなければなりません。そのための覚悟を政治にしっかりと持ってもらう必要があります。』(上記URL先マイナビニュース記事より、以下同様)

まったく仰る通りであります。でもってここから金融政策の話になりますが、

『─ こうした状況下で、日本銀行による金融政策はどうあるべきだと考えますか。』

『山口 消費者物価の上昇率が2%を超える状態が3年続いており、デフレからははっきりと脱却したと言えます。政府による電気料金やガス料金などの補助金政策によって物価上昇率が実態よりも低く見えていますが、実勢は前年比3%程度の高い上昇率になっています。国民から物価高への不満の声が出てきているのも、それが原因です。』

ですよね〜〜。何で「基調的物価」とかいう「お気持ち物価」で誤魔化そうとするんでしょうかと思いますし、だいたいからして日銀って今次局面でずーっと「これから物価上昇は鈍化して2%を一旦割り込みます」って言ってる見通しを延々と外しまくっている訳ですもんね。

『日銀が引き締め方向の政策を行っていくことが、すでに適切な状態になっています。しかし、実質金利はまだマイナスです。』

おお!!

『これを一気に引き上げていくわけにはいきませんから、少しでも利上げをして、マイナス金利の幅を縮小する努力をしていくということです。それでも実体としては金融緩和の状況に変わりはありません。』

左様でございますな。さらに質疑応答は続きまして、

『─ 日銀は国債、ETF(上場投資信託)も大量に保有しています。これをどう減らすかも課題です。』

ということで、

『山口 日銀は長期的な方向感を出していますが、それをさらに進めて、より早いペースで減額する方向に持っていけるかは、いずれ問われると思います。』

だというのに今回は減額のペースを落とすとか言う問題の先送りモードに出ているのですが、山口さんきっちりとこの点についても厳しい指摘をしておられまして、

『マーケットに大きなインパクトを与えたくないという気持ちは理解できますが、これだけ大量の国債等を保有している以上、多少マーケットに影響が出ることは覚悟しなければなりません。』

全く仰る通りです。でもってこの部分の最後の言葉が重くて、

『変化の激しい時代に慎重な対応だけを心掛けていたのでは、やらなければならないことを前に進めることはできません。』

>変化の激しい時代に慎重な対応だけを心掛けていたのでは、やらなければならないことを前に進めることはできません
>変化の激しい時代に慎重な対応だけを心掛けていたのでは、やらなければならないことを前に進めることはできません
>変化の激しい時代に慎重な対応だけを心掛けていたのでは、やらなければならないことを前に進めることはできません

いやもう本当の本当におっしゃる通りですわ。

・・・・・ということですが、本編の方は金融政策以外の話もありまして(というかそっちがメイン)、全力で一読推奨なのでMPMとかFOMCの話の前にネタにさせていただきました。



〇MPMレビューで植田総裁会見ですがハトハトチキンよりも気になるフレーズがちらほらあってですね・・・・・

https://www.boj.or.jp/about/press/kaiken_2025/kk250618a.pdf
総裁記者会見
――2025年6月17日(火)午後3時30分から約65分

・「記者クラブ主催」だから仕方ない面はあるのだがオープニングリマークの位置づけをもっと明確化してほしい

これ仕組み上しょうがないのかもしれないのですが、

『(問)本日の金融政策決定会合の内容について、総裁ご説明をお願い致します。』

『(答)今日の決定会合では、金融市場調節方針を決定したほか、昨年 7 月に決定しました長期国債買入れの減額計画の中間評価を行い、それを踏まえて、2027 年 3 月までの新たな減額計画を決定しました。最初に、これらの決定内容についてご説明します。まず金融市場調節方針ですが、無担保コールレート・オーバーナイト物を 0.5%程度で推移するよう促す、というこれまでの方針を維持することを全員一致で決定しました。(以下延々と続く)』

という形になっているのですが、ECBやFRBの場合はまず説明をしてから「では皆様のご質問をお願いします」っていう形にしていて、「オープニングリマーク」と「Q&A」が別になっているんですよね。

でもってこのオープニングリマークの際って声明文で書かれている話の背景説明も入れていて、経済物価情勢がどうなっているのか、といった辺りについて声明文などよりも詳しい説明をしてくれているのですが、この形だと「決定会合の内容について」の説明になっているので、皆様ご案内の通りで、声明文(展望レポートがある場合は展望レポートの鏡の部分)の棒読み状態になっていて、皆さん聞く時にほぼ意識失って聞いているんじゃないかと思うのです。

でですね、それ時間の無駄でもあるし、勿体ないにも程があるので、最初の部分は「オープニングリマーク」として扱っていただきたい訳で、例えばFOMCだと議事要旨に出てくる議論の中でも「この点についてはオープニングリマークでこう説明すべき」っていう感じで重要なコミュニケーションツールというか、声明文のサプリメンタルツールとして活用していますわな。

ということなので、この実質の冒頭挨拶部分は会見QAの前に独立して行うようにして、今みたいな棒読みじゃなくてもうちょっと背景説明を加えるような形にして頂きたいですね、と前々から何となくは思っていたのですが、今回まあそういうのを最初に申し上げた次第です。


・国債買入に関する質疑なんですが「国債市場の安定に配慮」で結局YCC脳が抜けないんだよな

最初はこれですね。

『(問)幹事社からの質問は二問です。まず一問目は、国債買入れの減額計画についてお伺いします。26 年 4 月以降に四半期毎の減額幅を 2,000 億円にした理由を教えてください。26 年 3 月までと比べて半分のペースに緩めるうえで、どういった観点を重視したのかを具体的に教えて頂ければと思います。(後半割愛)』

オーソドックスに来ましたが、

『(答)まず国債買入れの減額計画ですが、基本的な考え方はこれまでと同じでございます。すなわち、長期金利は金融市場において形成されることが基本であり、日本銀行による国債買入れは、国債市場の安定に配慮するための柔軟性を確保しつつ、予見可能なかたちで減額していくことが適切と考えています。そのうえで、金融市場において長期金利がより自由なかたちで形成されていくようにするためには、国債買入れ額を更に減額していくことが望ましいと考えられます。』

そもそもですね、「金融市場において長期金利がより自由なかたちで形成されていくようにする」って言ってるのに「国債市場の安定に配慮」ってのが話として矛盾している訳で、市場ってのは常に安定しているもんじゃないですし、それこそさっきの山口元副総裁の言葉を拝借すると「変化の時代」なんだったら時に市場が大きく動くことがあったっていいじゃないですかってなもんですわな。

そりゃまあ何とかショックで市場での売買が全くできなくなってしまう、みたいなことがあれば「最後のカウンターパーティー」として中央銀行が介入した方が良い場合もあるでしょうけれども、別にそんなことが起きたわけではないですし、あの程度のことで市場配慮とかビビりだす方が「市場の当局依存」を抜け出せなくするという意味で問題じゃろと思いますがまあそれはワシの個人の見解で、YCCシャブ漬けジャンキー脳の皆様におかれましては当局の介入が必要でちゅーボクたちだけの自由な価格形成なんてこわいでちゅーってお話ではありますので、そこはもう思想の問題になりますな、トホホ。

『一方で、国債買入れの減額が進展する中で、今後の減額ペースが速過ぎますと、市場の安定に不測の影響を及ぼす可能性もあるとみています。』

起きねえよ、とは思いますがいずれにしたってその点を勘案するんだたら、実際に減額が進行していったあととなります年末か年始の会合辺りで判断すればいい話なのに、何で「来年4月以降再来年3月まで」は減額しないと不味いですって判断ができたのかが全く意味わかりませんね。

『本日の会合では、市場参加者の意見も参考にしつつ、この両方の考え方のバランスを勘案し、国債市場の安定に配慮したかたちで市場機能の改善を進めていけるよう、申し上げましたように、来年の 1〜3 月までですね、[毎四半期]4,000 億の減額を続け、26 年 4 月以降は月間買入れ予定額を、[毎四半期]2,000 億円ずつ減額して、27 年 1〜3 月に 2 兆円程度とするということが適当と判断したところでございます。(後半割愛)』

結局「じゃあ何で2000なのか」「じゃあ何で今の時点でそんな先の状況を判断できるのか」という点が全く説明が無いわけです。FEDだってバランスシート縮小を継続する中で特に期限を定めずにオートパイロットで減らしていって、その中で短期金融市場の金融調節上ちょっと微妙になってきたから減額ペースを縮小した、ということをしているというのに、日銀は何でこんな先の事が神のように予測できるんでしょうかってお話で、FED方式で四半期4000を継続するけど、不具合が生じるようならペースはその時に適切に対応する、で何の問題があったのかというお話ですな。



・そんな先の決め打ちをしないといけない背景をさっそくゲロっているのがこの正直者!って感じな訳でして

次の質問の後半で早速追い質問されていて、

『(問)(前半割愛)もう一点が国債買入れの減額について、先ほど減額ペースについては債券市場の安定に配慮したというお話がありました。金利の急騰に対する配慮だと思うんですけども、これは財政に対する配慮という面もあるんだと思いますが、この点を総裁はどのようにお考えでしょうか。』

イイシツモンダナー

『それも踏まえてなんですけれども、減額のペースを緩めなくてはいけないということを考えると、それは異次元緩和の副作用といったものがまだ顕在化してきているという面もあるのかなと思いますが、その点も含めて総裁のお考えをお願いします。』

ですねー。

『(答)(前半割愛)それから買いオペの減額についてですけれども、これは申し上げるまでもなく財政の配慮というよりは、あまり早めに減額を進めて、国債金利が異常なボラティリティを示す、それが経済にマイナスの影響を与える、そういうことが起こらないようにという配慮からの今回の措置でございます。』

>財政の配慮”というよりは”
>財政の配慮”というよりは”
>財政の配慮”というよりは”

これはまた華麗なポロリで(途中からつまらなくなったので実はライブで聴くの止めたのですがこの辺りはさすがに聞いていた)クソ笑いましたが、「というよりは」っていうことはつまり財政にも配慮していますじゃん、というお話でして、財政に配慮して大規模国債買入を継続するし、その規模は中々減らせないんですーって言ってるのはどう見ても財政マネタイズ政策です本当にありがとうございましたという告白をしておりまして植田和男先生それで良いんですかと小一時間問い詰めたいですね。

『従って、大規模緩和の副作用ということとの関連で申し上げれば、副作用が顕現化しないように注意深く進めているということかと思います。』

大規模国債買入、という緩和政策を物価安定目標が達成されそうになる、すなわち金融緩和政策が本来不要になる段階になっても、市場金利への配慮で不要な緩和政策を行わざるを得ないというジレンマがまさに副作用なんですよね。


でまあ財政の配慮という意味ではこんなこともポロリとしておりまして・・・・・・・・・・

後の方の質問ですが、

『(問)二問伺います。まず国債買入れ減額計画についてです。ちょうど 1 年前のこの会見で総裁は減額計画の策定スパンに関して、日銀の向こう 1 年間のオペの大まかな姿を明らかにして、そのうえで政府の国債管理政策などを決めて頂く姿勢、とおっしゃっていました。計画期間を 1 年延長した今回の中間評価においてもこのスタンスは変わっていないのか、改めてなんですけれども財政政策と金融政策の距離感、もう少し言うと政治と中央銀行の距離感について伺えればと思います。(後半割愛)』

ということですが、

『(答)まず、国債買いオペ減額に関連してというご趣旨だったと思いますけれども、政府・財務省との意思疎通はということのご質問だったと思いますが、これは様々なレベルで日頃から密接にとっております。』

別に意思疎通をするのは良いんですけど、

『そうした意思疎通を行ったうえで、今回私どもとしては政策委員会で今回の減額[計画]の案を作成し決定したということであります。』

まずこの時点で説明がデンジャラスゾーンに入ってくる訳でして、中央銀行の長期国債買入は、あくまでも短期金融市場の調節の一環の中で、負債サイド(発行銀行券と当座預金)の見合いで短期資産(短期オペレーション)と長期資産(長期国債)をどのような配分で持つか、ということから決定されるものでして、別に国債発行額がなんぼだからどうのこうのというようなリアクティブなものではない訳です。

さらに、

『それを少し先まで明らかにするということによって、政府にとっても発行計画にとって不確実性が一つ減るというプラスがあるかと思いますが、』

はいアウト―って説明でして、これ日銀の国債買入が政府の国債発行計画に影響します、って堂々と言っている話になるので、これまた財政マネタイズを公言しているようなもんで、会見でのツッコミが甘いから助かっているけど、こんなの全然ダメな説明ですよね。

『引き続き政府とは密接な意思疎通を図っていきたいというふうに考えております。』

実際には今の市場で日銀の馬鹿買入が続いている関係上、そんじょそこらの投資家やPDが足元にも及ばない程の国債投資家状態になっているので、発行当局としては「巨大投資家の日銀」に状況を聞くという意味での意思疎通はそりゃまあせざるを得ないですが、それはGivenになっている今の国債買入規模がおかしいからそうなっているだけの話で、原則論は中銀のオペレーションとしての国債買入は国債発行とは無関係(もちろん国債発行規模によって市中の資金需給への影響は変化するから全くの無関係ではないが)に決まるもの、という則を崩した説明を中銀自らが行うっていうのは、非常に危ない説明なので止めて頂きたいと思います。

市場配慮位なら(それもどうかとは思うけど)まだ財政マネタイズに関する則を外しているわけではないからまだしも、財政との関係のところで原理原則を踏み外した説明をするのに対して無神経すぎる、と思いました。


・足元の物価が想定よりも上振れているというような話は一切なしというのを一発目でぶちかます

景気判断はハトハトチキン、ってのはまあ皆様ご案内のところだとは思いますが、備忘ということで引用しておきましょう。

幹事社質問に戻りますね。

『(問)(前半割愛)二問目は、経済・物価情勢の考え方についてお伺いします。足元のインフレ率は3%を超えています。5 月の展望レポートを出したときと比べて物価上振れリスクは高まっているとお考えになりますでしょうか。また、今後の利上げ判断において経済の不確実性も考慮し、どういう指標を重視するかについて教えてください。』

物価上振れの話は前週金曜日にBBGが報道した訳で、そりゃモチのロンで質問しますよね。でもってこれにどう回答するのかが注目されるわけですが・・・・・・・・・・

『(答)(前半割愛)経済・物価情勢ですが、先ほども申し上げましたように、本日の会合では、前回会合時点からわが国の経済・物価を巡る大きな構図に変化はないと判断致しました。』

まあ「大きな構図」は変化ないと来るでしょう(そうじゃなかったら声明文が事実上の4月展望からの全文一致にならない)が、じゃあ物価はと言いますと・・・・・・

『直近の消費者物価の上昇率は 3%を超えていますが、これにはこれまでの輸入物価上昇や米を含む食料品価格上昇が大きく影響しています。』

BBG報道で言われていた「足元までの消費者物価(生鮮食品を除くコアCPI)は、人件費や原材料価格の上昇を価格転嫁する動きが続き、食料品価格を中心にやや強めの動きとみている。(6/13のブルームバーグ記事より)」ってのは何だったのかという拍子抜けの「はいはいコストプッシュコストプッシュ」ムーブでして・・・・・・・

『こうした物価上昇が国民生活にマイナスの影響を与えていることは、十分に認識しております。』

質問はそっちじゃねえよ。

『先行きについては、これらの影響は減衰していくと基本的には考えています。』

とまあそういうことで、「コストプッシュだから下がります」のままでした。

『ただ、物価を巡って上下双方向のリスクがあるとみています。コストプッシュによる物価上昇が、人々のマインドや予想物価上昇率を介して、基調的な物価上昇率に二次的な影響を及ぼす可能性があることも認識しておく必要があります。そのうえで現時点では、各国の通商政策等の今後の展開や、その影響を巡る不確実性がきわめて高いことを踏まえると、先月の展望レポートで示した通りですが、経済・物価ともに下振れリスクの方が大きいと判断しています。』

下振れリスクの方が大きいんですってorzorz

『日本銀行としては、今後明らかとなるデータや情報を引き続き丁寧に確認し、経済・物価情勢を点検してまいりたいと思っております。不確実性がきわめて高い状況にあることを踏まえますと、各種のデータに加えまして、本支店を通じて得た企業ヒアリング情報を含め、できるだけ幅広い情報に基づいて分析を行うことが従来以上に重要となっていると考えています。』

分析したって最後は「お気持ち物価」じゃんwwwwwww


・「悪くなるの待ち」という謎ムーブキタコレorzorz

2番目の質疑でこんなのがありましてですな。

『(問)二点お伺いします。まず利上げの考え方についてですけども、今後、経済が減速していく見通しの中で、経済の改善に応じて政策金利を引き上げていくというお話でした。その判断においてデータが重要になると思うんですけども、データの改善がなかなか追い付いてこないけれども、見通しとしては上がっていくという見通しがついた段階でもう利上げという判断はあり得るのか、というところを一点目教えてください。(後半割愛)』

という質問があって、この回答が皆様ご案内の通りハトハトチキンでして、まあこの辺りで今回の総裁記者会見は利上げの面では勝負あったって感じでしたな。

『(答)今後の金融緩和度合いの調整を判断するに際してのデータの点ですけれども、難しい局面にありまして、』

もうこの時点でハトハトチキンの香りしかしませんでしたが、

『前回も申し上げたかもしれませんけれども、センチメント関係の指標は今悪いものが割と増えてきています。世界的にですね。一方でハードデータについては、いろんな理由がありますが、まだしっかりとしているという大まかには感じかと思います。』

と来てからのこれですよね・・・・・・

『ですので、おっしゃったように悪いのが良くなってきたところ、そのどこのタイミングで利上げをするのかという話のまだ手前にありまして、悪くなっていない段階で。』

つまりは今は「悪くなるの待ち」という謎ムーブだとおっしゃっているようです。

『ただし、例えばタイミング的にいえば、今年の後半ですね、7 月以降後半に入りますけれども、いくつかのデータに悪い動きがみられるんではないかというふうに予想している人が多いかと思います。』

逆にこの時期にそんなに悪くならなかったらどうするんでしょ、と思うのですが・・・・・・・

『そういう動きがどれくらいになっていくか、われわれの見通しとの関係で、それとの判断、比較において見通しが実現しそうかどうか。その判断次第では、はっきりとそこから先もう 1 回上向きに転じるっていうところが確認できなくてもというご質問の点は、確か 1、2 回前にもそうお答えしたと思いますが、その通りかと思います。見通しの確度次第ということになるかと思います。(後半割愛)』

っていう説明ですが、なんかこれを言い出すとですね、この先まあさすがに幾分かは落ちるとは思うのですが、落ちないとか落ち方が大したことがない、って状態になった時に「いやいやまだ影響が出ていないだけでこれから落ちるにちがいない」と言い出して何時まで経っても利上げを決断せずに引っ張ってしまう、という「物価落ちるだろう」の景気バージョンというのが発生しそうで、ますます過剰緩和の副作用が心配になってきたんですけどアタクシ・・・・・・・


・おそるべき「絶対下がるだろう」ムーブ

別の質疑で物価面にフォーカスしたこんな質問があって中々結構だと思ったのですが、

『(問)先ほど物価の先行きについて少し言及がありましたが、食品価格の上昇と併せて、イランとイスラエルの間の中東情勢の緊張によって、原油価格の上昇も今後懸念されるところですが、既に基調的なインフレが2%に近づいている中でこうしたコストプッシュの上昇圧力と原油価格の今後先行き次第では、物価の上振れリスクが無視できなくなる可能性がどれぐらいあるのか、』

全く仰る通りで、今次物価上昇局面において欧米はこの上振れリスクを当初放置した結果ああいう引き締め政策を打たざるを得なくなり、欧州に至ってはスタグフレーションの様相になってしまった訳でございますということで大変に秀逸な質問だと思いました。

『先ほどはやはり景気・物価ともに下振れリスクが依然大きい、より大きいということでしたが、そのバランスが今後変化して、物価の上昇が家計のインフレや基調インフレに影響を及ぼすリスクがどの程度になりそうなのか、ちょっと原油価格の動向を含めて展望をお聞かせできればと思います。』

しかしこの良問に対してのハトハトチキン先生の回答はと言えば、

『(答)お答えは、基本的に注意深くみていきたいということに尽きてしまうんですが、おっしゃるように、食品関連の価格上昇に加えまして、足元、イラン、イスラエルの問題で原油が上昇している。こうした動きが広がったり続いたりする場合には、期待物価上昇率とか基調的物価上昇率に二次的な影響を与えるリスクはあると思っています。』

とは言ってるのですが、

『現状そこまで至っていないと思いますけれども、そこについては注意深くみていきたいということであります。』

って話なんだが、「ゼロ近傍で安定していた期待インフレ率を2%に引き上げる」という政策を実施して、その期待インフレが上昇しているという認識があるのであれば、インフレ期待が2%でアンカーされている国よりも、アクチュアルの物価上昇が期待インフレの上昇にモロに跳ねやすくなる、と理屈の上ではそうなるので、こんな楽観視してて良いのかというのがある上に、さらに追い打ちを掛けまして返す刀でハトハト先生は、

『ただし一方で、先ほども申し上げましたように、通商政策の影響がだんだんこれから出てきて、製造業、特に製造業ですね、の企業収益が低下に向かう、それが場合によっては、暫く前まで続いていたようなコストカット型の価格、あるいは賃金設定行動を復活させるというリスクも無視できないと思いますので、両方注意深くみていきたいと思っております。』

ということで、まあベースがハトハトなんですよね〜。


・「お気持ち物価」がわからんわという指摘に対して

こんな質疑もありました。中々よろしい質問でして。

『(問)金利操作に関してお伺いしたいんですけども、現状日銀では目標とする 2%の物価と推計された中長期の予想インフレ率で説明されてると思うんですけど、諸外国をみると金融政策運営に関しては実際の物価と目標の物価を使って説明されてるというか、金融政策を運営されてるかと思うんですけど、』

イイシテキダナー

『欧米のように 2%でアンカーされているという点があるかもしれませんけれども、日本でやはりその目標とする2%の物価と中長期の予想インフレ率で説明するのがなかなか分かりにくいと思うんですけども、その辺を現状どういうふうにお考えかということと、』

んだんだ。

『それに絡めて日本でも中長期的に 2%でアンカーされることが必要だということでよろしいんでしょうか。そうすると、結構金融政策の運営スパンが長いような気がするんですけれども、その辺をどういうふうにお考えかよろしくお願い致します。』

でもってこれに対するご回答ですが、

『(答)基本的には 2%の目標インフレ率を短い期間だけではなくて、持続的・安定的に実現するためにどういう政策運営が良いかという観点から政策を行っています。これはある意味では、あるいは少し広くとれば、他の中央銀行も同じかなと思います。』

あっそう(しかしこの前の金融学会の内田さんの説明もそうなんだが「海外もそうです」って言いながらそうじゃないことを言ったりすることがあるので油断大敵)。

『ただ、持続的・安定的に 2%が実現されるためにはということで、われわれは基調的な物価上昇率という概念を使い、様々な指標からそれをみているわけです。』

で、そのお気持ちもとい基調的物価を使う理由は????

『その指標の一つが予想インフレ率、あるいは特に中長期の予想インフレ率ということでございます。もう一度、欧米との微妙あるいはかなりの違いということで申し上げれば、予想インフレ率あるいは基調物価のところが 2%にまだ日本ではアンカーされていないという点は意識しつつ、そうなるように政策を続けているということであります。』

・・・・・全然答えになっていないんですが勘弁していただけますでしょうか。

という所で時間が無くなったので今朝はこの辺で勘弁していただきたく存じます。







2025/06/18

〇声明文の経済物価の現状認識:先行き見通しともに4月展望基本的見解と変更なし

今回声明文
https://www.boj.or.jp/mopo/mpmdeci/mpr_2025/k250617a.pdf

4月展望レポート基本的見解
https://www.boj.or.jp/mopo/outlook/gor2504a.pdf

輪番の話はさておきまして経済物価情勢に関する評価が「物価上振れ」したかどうかを見たかったのでそっちを先に見るわけですな。

・現状認識:まあやっぱり変えないだろうなあと思ったら変更ありませんでしたwwwwww

声明文では項番3の第一段落、展望レポート基本的見解では本文最初の『1.わが国の経済・物価の現状 』が該当します。

『わが国の景気は、一部に弱めの動きもみられるが、緩やかに回復している。』(今回声明文)
『わが国の景気は、一部に弱めの動きもみられるが、緩やかに回復している。』(前回展望レポート)

はい。

『海外経済は、各国の通商政策等の影響を受けて一部に弱めの動きもみられるが、総じてみれば緩やかに成長している。輸出や鉱工業生産は、一部に米国の関税引き上げに伴う駆け込みの動きがみられるが、基調としては横ばい圏内の動きを続けている。』(今回声明文)

『海外経済は、各国の通商政策等の影響を受けて一部に弱めの動きもみられるが、総じてみれば緩やかに成長している。輸出や鉱工業生産は、一部に米国の関税引き上げに伴う駆け込みの動きがみられるが、基調としては横ばい圏内の動きを続けている。』(前回展望レポート)

6月半ばにもなって今更「駆け込みの動き」なのかよと素朴には思うのですが、ゆうてワイも通関統計を真面目に見たりしている訳ではないので判断保留。でもってご覧の通り全文一致。

『企業収益が改善傾向にあるもとで、設備投資は緩やかな増加傾向にある。』(今回声明文)
『企業収益は改善傾向にあり、業況感は良好な水準を維持している。こうしたもとで、設備投資は緩やかな増加傾向にある。』(前回展望レポート)

業況感のところは直前に日銀短観があった時のみ入るアセスメント文言ですので、ここは事実上の全文一致となります。

『個人消費は、物価上昇の影響などから消費者マインドに弱さがみられるものの、雇用・所得環境の改善を背景に緩やかな増加基調を維持している。』(今回声明文)
『個人消費は、物価上昇の影響などから消費者マインドに弱さがみられるものの、雇用・所得環境の改善を背景に緩やかな増加基調を維持している。』(前回展望レポート)

個人消費の現状判断も4月展望(5/1)と同じ。

『住宅投資は弱めの動きとなっている。公共投資は横ばい圏内の動きとなっている。』(今回声明文)
『住宅投資は弱めの動きとなっている。公共投資は横ばい圏内の動きとなっている。』(前回展望レポート)

『わが国の金融環境は、緩和した状態にある。』(今回声明文)
『わが国の金融環境は、緩和した状態にある。』(前回展望レポート)

同じですなあ、ということで金曜日に謎のBBG報道があった物価認識ですけれども・・・・・・

『物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比をみると、賃金上昇の販売価格への転嫁の動きが続くもとで、既往の輸入物価上昇や米などの食料品価格上昇の影響もあって、足もとでは3%台半ばとなっている。予想物価上昇率は、緩やかに上昇している。』(今回声明文)

『物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比をみると、賃金上昇の販売価格への転嫁の動きが続くもとで、既往の輸入物価上昇や米などの食料品価格上昇の影響もあって、足もとでは3%台前半となっている。予想物価上昇率は、緩やかに上昇している。』(前回展望レポート)

数字が上がっていますが、これはアクチュアルの数字が上がったからこう書いているだけの話で、背景説明を見たら何も変更は無いわけで、物価が上振れて推移している云々のBBG報道は一体全体何だったのかというお話ですが、この後記者会見でどういうかなあというのは有ったのですが、別に何か威勢の良いことは無かったなって感じですがその辺は会見録出てから再度。

・・・・・ということで事実上の全文一致でした。


・先行き見通し判断:これまた事実上の全文一致でしたなあ

先行き判断に関しても前回展望は本文の方を見ます。ここの比較にはちょっとコツというほどのものでもないのですが、まあそんなのがありまして、展望回じゃないときのここの文言って展望レポートの基本的見解の本文を引っ張って来てそこから何か変更を入れる場合は入れている、と思われる節がありまして、鏡の部分と比較すると抜けが発生することがあると思うのです(鏡と比較する方が自然にも思えるのですが、アタクシは実はあんまり鏡と比較したことがない)。

という豆知識はさておきまして、本文に関しては先行きのところに分散して載っています。

『先行きのわが国経済を展望すると、各国の通商政策等の影響を受けて、海外経済が減速し、わが国企業の収益なども下押しされるもとで、緩和的な金融環境などが下支え要因として作用するものの、成長ペースは鈍化すると考えられる。』(今回声明文)

『先行きのわが国経済を展望すると、各国の通商政策等の影響を受けて、海外経済が減速し、わが国企業の収益なども下押しされるもとで、緩和的な金融環境などが下支え要因として作用するものの、成長ペースは鈍化すると考えられる。』(前回展望レポート)

成長はまあ同じじゃろうなとは思いますけど。

『その後については、海外経済が緩やかな成長経路に復していくもとで、成長率を高めていくと見込まれる。』(今回声明文)
『その後については、海外経済が緩やかな成長経路に復していくもとで、わが国経済も成長率を高めていくと見込まれる。』(前回展望レポート)

「その後」も事実上全文一致みたいなもんですね。でもって物価ですけど・・・・・・

『消費者物価(除く生鮮食品)については、これまで物価上昇率を押し上げてきた既往の輸入物価上昇やこのところの米などの食料品価格上昇の影響は減衰していくと考えられる。』(今回声明文)
『これまで物価上昇率を押し上げてきた既往の輸入物価上昇やこのところの米などの食料品価格上昇の影響は減衰していくと考えられる。』(前回展望レポート)

同じですねえ(冒頭部分の違いは文章構成の違いに起因します)。

『この間、消費者物価の基調的な上昇率は、成長ペース鈍化などの影響を受けて伸び悩むものの、その後は、成長率が高まるもとで人手不足感が強まり、中長期的な予想物価上昇率が上昇していくことから、徐々に高まっていくと予想され、』(今回声明文)
『この間、消費者物価の基調的な上昇率は、成長ペース鈍化などの影響を受けて伸び悩むものの、その後は、成長率が高まるもとで人手不足感が強まり、中長期的な予想物価上昇率が上昇していくことから、徐々に高まっていくと予想され、』(前回展望レポート)

ということで「お気持ち物価」の見通しも変わっていないのでつまりはお気持ちにも変化はないということでございますなwwwwww

『「展望レポート」の見通し期間後半には「物価安定の目標」と概ね整合的な水準で推移すると考えられる。』(今回声明文)
『見通し期間後半には「物価安定の目標」と概ね整合的な水準で推移すると考えられる。』(前回展望レポート)

結局見事に全文一致でして、先週金曜日のBBGの報道は何だったのかという話になりますし、記者会見でもそんなに威勢の良い話(以下同文)。

ということで、7月ジャガーチェンジに向けた何かが出る、というような面白事案は生じていませんので、ここでいきなり7月ジャガーチェンジをしたらそれこそ「大阪や!(ガン!!)オラ開けんかいゴラァ!!」の世界(よつべがニコ動で「大阪や」で検索すればわかりますw)案件待ったなしということで、とりあえず変な物は出てきませんでしたし、上書きムーブも(声明文では)無かったな、というお話になりました、いやーなんかやったらどうしようと思ってましたけどw


〇輪番減額計画:事前報道通りでしたが何で減らすのかもわからんし次回の中間評価の時期設定おかしいじゃろ

声明文項番2が

『2.長期国債買入れの減額について、月間の長期国債の買入れ予定額を、2026 年1〜3月までは原則として毎四半期 4,000 億円程度ずつ、2026 年4〜6月以降は原則として毎四半期 2,000 億円程度ずつ減額し、2027 年1〜3月に2兆円程度とする計画を決定した1(別紙参照)(賛成8反対1)(注)。』(今回声明文)

とまあそういうことですが、ここで抜刀斎が華麗に抜刀をしていまして、

『(注)賛成:植田委員、氷見野委員、内田委員、中村委員、野口委員、中川委員、高田委員、小枝委員。反対:田村委員。田村委員は、長期金利の形成は市場と市場参加者に委ねるべきであるとして、2027 年1〜3月まで月間の買入れ予定額を原則として毎四半期 4,000 億円程度ずつ減額する議案を提出し、反対多数で否決された。』

ということで現行ペースを維持すべき、という提案をしたものの惜しくも(って8-1だから全然惜しくはないけど)否決されてしまいました。

まあ折角ならここの所では「既往の長期国債残高によるストック効果による影響も勘案すれば、長期国債保有残高の削減を可能な限り進めるべき」という日銀バランスシート側からの理由付けをしていただくともっと論点が明確になるとは思った訳ですがそれは兎も角として。


でまあその別紙参照の方ですが、

https://www.boj.or.jp/mopo/mpmdeci/mpr_2025/k250617b.pdf
長期国債買入れの減額計画(2025年6月金融政策決定会合)

『@長期金利 :金融市場において形成されることが基本
A国債買入れ:国債市場の安定に配慮するための柔軟性を確保しつつ、予見可能な形での減額が適切

・2026年3月まで :原則、毎四半期4,000億円程度ずつ減額(従来の減額計画を維持)
・2026年4月〜2027年3月まで:原則、毎四半期2,000億円程度ずつ減額

  国債市場の安定に配慮した形で市場機能の改善を進めていけるよう、段階的に減額していく』

って言ってるんですが、そもそも論として日銀の買入が多すぎるしストックの買入が多すぎるから(この点でSLFからの減額措置を若干拡大したのは評価できるけど不十分にも程があるので今後一段の拡大をしていただきたいがその話は別途)市場機能の回復が遅れているのであって、長期国債買入残高を減らしていく方がどう見たって急務じゃろ、とアタクシは思うのですが、そうじゃないという話になっています。


・債券市場に配慮とか言ってるけどこれは「物価安定目標が達成しない」というデフレ脳から抜けてないんじゃないのかと

という訳でですね、じゃあ何でワイが急務かと言えば話は簡単で、そもそも論として現時点で「基調的物価」とやらが2%に到達してて、家計を中心に期待インフレ率は上がっているし、企業の価格設定行動って最近は一部はもはやコスト転嫁の域を超えて欧州でいう「グリードフレーション」化してませんか、という問題意識がワイ的にはある訳ですよ、まあ何とかスト的にはそんな訳ねえだろって話だと思うのであくまでもシロートの話ってことになるかなって所ですが。

でもってですね、先日来何回かネタにしましたが、昨年末に出ていた「将来の財務シミュレーション」を見れば、早期に2%物価目標を達成し、「普通の」金融政策に戻る、すなわち期待インフレが2%で安定している世の中での金融政策運営をする、って事になった場合、コストプッシュだの供給ショックだのの要因によって物価が上振れたときに、「コストプッシュだから/一時的な供給要因だから」政策対応をしなくて良い、という行動をとると後で面倒なことになる、というのが欧米の今次インフレ局面での教訓な訳でして、それは日本だって同じことが今後起こりうる(というかまあワイは既に起きている可能性を思うのですがまあそこは措くとしまして)訳で、「普通の」金融政策をする際に、今ある巨額のバランスシートってのは政策の足かせになるわけですよどっからどう考えても(その辺会見でよい質問がありましたね)。

ですから、日銀保有国債の残高圧縮とか本来はマジで急がないといけないのに、たいして金利が上がった訳でもない状態において早くもビビって国債買入の継続を延命するという措置を取ってしまっている訳でございまして、それ債券市場に対する本当の配慮なのか、というと財政ファイナンス懸念とか、巨額のバランスシートによって将来の時点で本来必要となる引き締め政策ができなくなるのではないかという懸念とか、そっちの方からもっと大きな大問題が起こるリスクを抱えに行ってる、って話な訳ですよ。

・・・・と本来ならそうなると思うのですが、そうはならずに今回2026年4月以降とかいう飛んでも無い先の時点の決め打ちを行っている(FEDのテーパリングだってこんな決め打ちしてないぞ・・・)時点でお前ら本当に物価安定目標達成する気があるのかというか、物価目標達成後に起きる「普通の金融政策」への覚悟がないだろ大丈夫かってなもんでして、まあ黒田がキチガイみたいにバランスシートを拡大したのが悪いんですけど、そうは言ってもそれに対して全然反省しないで丸々黒田継承をしている時点で何やってるんだよとは思いました。


・減額前と比較して16%減少って碌に減ってねえだろ・・・・・

『<予見可能な形での減額>』ってのがあって、結局2027年3月の段階でも月額2.1兆円の長期国債買入を継続する、ということで、国債残高の方はと言えば相変わらず500兆円を大きく上回った状態、ということになっておりまして、いやすまんお前ら展望レポートの見通し期間の後半には物価安定目標達成する、って言ってるんだから2025年4月から2028年3月の後半ってそれはどこからどう見ても2026年10月な訳でして、物価安定目標を達成して「普通の金融政策」をやっている中なのに長期国債買入に関しては超緩和的な状態を続けるって何なんだよという話だし、仮にその巨額の買入を正当化するのであれば、長期国債買入による長期金利押し下げから来る緩和効果を相殺しないといけないんだから、短期政策金利は中立金利の下限とかいうような寝言を言ってる場合じゃないだろ、という話になると思う訳ですけれども、そこの整合性はどうなっているんでしょうかと小一時間(なので4000億円のペース継続でも遅いくらい)な訳ですよ。短期政策金利との整合性はどうなるんでしょうかねえ。

ちなみに、この質問をしますと、金融学会での内田副総裁の説明にあるように「短期政策金利とは全く無関係に保有長期国債の残高を設定できます(キリッ)」という返答が返ってくるのは1000%間違いないのですが、どっからどう見たって巨額の国債買入を継続して残高アホほどもっていたらバランスからして短期政策金利は引き上げていかないとインフレが止まらないか自国通貨安になってまた窮乏化するのか、その合わせ技になるのかという話じゃろとしか思えませんが、まああくまでも個人の感想ですのでそういうことで。


・次回の中間評価が何で来年の「6月」なんだよ真面目にやる気あるのか

べき論云々もさることながら(まあどうせこんな計画だすんじゃろうなあとは諦観してたのでそこはサプライズではなかったんだが)腰が砕けたのは最後の『<柔軟性の確保>』のところでして、

『@来年6月の金融政策決定会合で中間評価を実施
A長期金利が急激に上昇する場合には、機動的に、買入れ額の増額等を実施
B必要な場合には、金融政策決定会合において、減額計画を見直す』

まあ2番と3番はいつも通りの抜かずの宝刀なのでさておきますとしまして、1番の「来年6月に中間評価」ってお前真面目にやる気あるのかという話ですよ。

いやあのですね、前回は減額開始したところだし、減額計画出すのと同時に政策金利の引き上げを実施してやっとマイナス金利だゼロ金利だから(25もゼロみたいなもんとは言え)プラス金利になりました、ってタイミングだったので、そこから1年後に状況を確認しますね、というのは話としてはまあ分からんではない(ただし現時点で来年4月以降1年分、というエライ長距離な計画を決め打ちする必要は無くて、そっちは12月なり1月なりに決めればよかったと思います)ので、今回の「中間評価」というのが前回設置されたのはまあ話としてはわかるんですよ。

然るにですね、今回ってその「中間評価」をした結果、「来年の3月までも今の計画を継続しても問題ないでしょう、まあ何か不測の事態が起きたら対応するにしまして」という結論を出したわけでして、それすなわち「来年3月までの中間評価は一旦完了」している筈なので、そこから3か月(6月会合の日程を考えたら実質2か月半とかですかねえ)の間に何の「中間評価」をするんですか、というお話でして、買入ペースを減額した事に関する影響を評価するのに2か月ちょいで何が分かるんだよと小一時間問い詰めたいし、しかも会見で植田さんは「次回中間評価で2027年4月以降の買入計画を策定します」みたいなことを言ってまして、買入ペース減額の影響もみないで何の買入計画を立てれられるのかということで、真面目にやる気あるのかというお話ですわな。

どう見たって10月会合(買入減額してから半年経過)以降に中間評価じゃろと思うのですが、これどうせ前回が6月だからとか言って機械的に何も考えずに1年先に設定したんじゃろ、という辺りにぞんな雑な運営でこの先このバランスシートを抱えたままで「普通の」金融政策が運営できるのかよ、と非常に不安におもいましたが、まあワイはご案内の通りの杞憂民族なので杞憂に終わっていただきたいものだと願って止みませんorzorz


〇減額措置拡充とか今回のオペ紙とか会見とかは明日(FOMCとぶつかる・・・・)

ということですが、例によって例の如く時間の関係上(昨日夜なべする余裕が無かったのでシャーセン)この辺で勘弁して頂くわけですが、少なくとも今回の声明文もそうですし、このやる気のない国債買入減額ペースの腰砕けを見ますと、物価安定目標は当分行かないですなあ、というメッセージを裏から発しているように読んでしまいましたアタクシは。

まあゆうて実際の物価は高止まりしている訳でして、日銀の目論見通りにここから物価上昇率が鈍化してくるのか、というのが目先では日銀に対する落とし穴の一つ(もう一つは円安の再燃)かとは思う訳でして、この後物価上昇率がコアコアベースで『既往の輸入物価上昇やこのところの米などの食料品価格上昇の影響が徐々に減衰していくことに加え、成長ペース鈍化などの影響から、いったん2%を下回ると見込まれる。』(4月展望レポートより)となっている見通しが外れ、ついでに誰かの犬笛が差さって物価高止まりの戦犯として日銀がやり玉にあがるようなことでもありましたら、まあ今回の説明なんぞは全部ジャガーチェンジしてくると思いますので、今いまはハトハトチキン継続だし、主体的にジャガーチェンジするとも思えませんけど、外部要因の変化には注意をしていきましょうね、ってのが今回の決定会合のいったんのワシのレビューかな、と思ったのですけれども、まあこの後の金懇とか見て行って行きたいと思います。

次回は20日に総裁の全国信用金庫協会でのあいさつがありますが、そこはまあ通り一遍の物になるでしょうから、その次に予定される25日の抜刀斎の金懇でどういう抜刀が行われるのかを楽しみにしたいと思うところです。






2025/06/17

〇貸増経過措置前の最終回ですが総残高71兆円なわけで・・・・

貸増
https://www.boj.or.jp/mopo/measures/mkt_ope/len_b/mope250616a.pdf
貸出増加を支援するための資金供給の実施結果
(2025年6月実施分)

『今回の貸付の概要

貸付予定額    70,188億円
貸付先数      31先』

ということで7兆円実施でして、

『(参考)貸付日時点の貸付残高および貸付先数の見込み

大手行         284,111億円    6先
地域金融機関等   425,919億円   110先
合計           710,030億円   116先』

とまあそういうことで相変わらず71兆円もでているんですが、じゃあこの71兆円も出した結果貸出がどうなったのか、という話になると、なにせこういうのって実験室の実験じゃないからやらなかった場合にも別に何か変わったかよ、っていったら直感的には何も変わらず、単に金融機関のファンディングに使われているだけで、それは要するに量的緩和の一環で続いているのに「期間4年」とかふざけた期間で出した結果、量的緩和を本来縮小しないといけない段階になっても全然残高が減らない(政策修正に入ってからやっと「1年変動」に切り替えましこれから減るけど)ということになっておりまして、しかもこれ長期共担と同じで、一旦突っ込んだものは満期まで落ちない(超引き締めが必要になった時に本当の本当に必要なら買った国債は売却できるが資金供給は途中で回収できない)というのも問題で、どうせ物価2%達成せんじゃろと高を括って調子に乗って行ったこの手のオペについては、まあどうせ今検証するとお手盛りのインチキカウンターファクチュアル検証で貸出増加に効果があったことにされますので、当時のエライ人達が引退してから再検証した方が良いと思うの(多角的レビューもそうですが)。

という悪態は兎も角として、まあこれと2年(は満期来たけど)5年共担はマジでクソとしか言いようが無いというか、「どうせ2%達成しないだろ」と高を括ってないとこういうオペは考えつかないので(ガチで物価安定目標を達成した時に明らかに邪魔になるくらいは余程のアホウじゃなければ分かる)、まあそういうことなんでしょ、というお話ではあります。

とっとと無くなって頂きたいのだが前に突っ込んだ4年オペがまだまだありますからこれも正常化に時間がかかる訳で、長期国債買入をアホみたいに継続している場合じゃ無いと思うのですが・・・・・・・・


〇とまあそういう訳で決定会合ですが

でまあどこかで何か報道しているかと思いましたが案の定報道は無く、しばらく前にロイターさんとブルームバーグさんが出していた「2026年4月以降は減額幅を四半期4000億円→2000億円」って話と、金曜にブルームバーグさんが出していた「物価が想定よりも上振れて推移している」という話くらい、ということになりましたので、まあ今回はその2点ですわなというお話ですね。

・しかし2026年4月以降の買入について何でピンポイントで出す必要あるんだよ

この点に関してはハトハトチキン総裁が時々お見せする、「なんでそう変な方向にばかり思い切りがいいのよ!!」(画像割愛)の一環で何故か全く意味が分からないのですが、2026年4月以降の買入計画も出す、とか言い出したのが原因なのですが、そもそも今回って去年の7月に出した2026年3月末までの長期国債買入縮小計画の中間評価、という位置づけであって、何で中間評価するかと言えば長期国債買入の縮小というのを始めてやるし、元々が飛んでも無い勢いで買っていたのを減らすという作業の一発目だから、途中で中間評価をしましょう、って建付けだった訳ですよ。

つまりですね、なんも来年4月以降の話を今決める義理はどこにも無いわけなのに、普段ハトハトチキンで運営しているくせに、時々なんか変なもんでも食ったのか、はたまた植田和男先生本来の自我が目覚めるのか、その背景は全くわからんのですけれども、突発的に「変な方向に思い切りがいいムーブ」をぶっこんで来たから2026年4月以降とかいうのが話題になる、という日銀がわざわざドツボにハマりにいっている訳ですな。

・・・・などと書いておりましたらこんなのが今しがたw
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250617/k10014836931000.html
日銀 国債買い入れ減額の対応議論 政策金利は据え置きで検討か
2025年6月17日 5時39分

『日銀は17日に2日目となる金融政策決定会合を開き、債券市場から買い入れる国債を徐々に減らしている今の措置について、今後の対応を議論します。』(上記URL先より、以下同様)

ということで公共放送さんが話題にしてくれたようですが・・・・・・・

『日銀内には、長期金利が急上昇するなど市場が不安定にならないようこの先は減らすペースを緩めるべきだといった意見が出ていて、どのように調整するかが焦点となります。』

というのを見て、いやだから長期国債買入に関してはバランスシートのデザインをどうするかが問題なのであって、「市場が不安定にならないように買入の削減を抑える」とか言ってるのがもう本末転倒なんですが、日銀内でそういう意見が出ている、っていう時点でお前ら財政ファイナンスやっているって自白しているようなもんで、通貨の信認に関わる話をしている、って認識は無いのかと小一時間問い詰めたいのですが、まあこの「長期金利が急上昇しないように」って辺りがもうハトハトチキンのチキンっぷりを遺憾なく発揮しておられますなあと思いますし、

『日銀は金融政策の転換に伴って、去年8月以降は債券市場から買い入れる国債を徐々に減らし、来年3月までは原則3か月ごとに4000億円程度減額する計画です。ただ債券市場では、財政悪化の懸念などを背景に期間の長い国債が売られ、長期金利が記録的な水準まで上昇する場面がありました。』

あの水準で記録的な水準って報道しているのも何ちゅうか頭が痛いですけど。

『こうした状況に、日銀内では国債の買い入れは減らし続ける必要があるものの、債券市場が不安定になる中、影響を最小限に抑えるため来年4月以降は減らすペースを緩めるべきだといった意見が出ていて、どのように調整するかが焦点となります。』

だから日銀の大規模介入が続いている(ストック効果分も含めて)から市場が安定せんのじゃという話ですし、そもそも論としてバランスシートの全体のデザインから以下同文という話ではありますな。


・・・・・・ということでですね、まあ買入に関しては「2026年4月以降の数字をわざわざ出すのか」(出す必要なくて「減らす方向ですが具体的にどうするかは今後の状況を確認したうえで今年12月か来年1月の決定会合で改めて決定します」で一切問題ない筈ですけどねえ)というのと、国債買入の位置づけについてどのような説明があるのか、というのを注目したいんですが、問題はそうじゃなくて数字の話ばっかり質疑応答で出てくるだけになりそうな会見が予想されること。

いやマジな話、YCC止めた後の長期国債買入っていうのに何の政策的な意味があるのか、というのはずっと誤魔化し続けてなんらの定義もしないまま馬鹿みたいな額の買入を依然として続け、今後物価安定目標が達成された後に金融政策運営のとんでもない足かせになりそうな巨額なバランスシートを何でのこさにゃ行かんのよという話なので、じゃあそこまでの顕在化すると面倒なことになりそうなコストを何でかけるのか、という話な訳ですよ。

「バランスシートを金利は上げられます」と内田さんは金融学会の講演で説明していますが、当然ながら利上げしたらバランスシート見合いの日銀当座預金から付利金利の支払いという広義の意味での財政垂れ流しが発生する訳で、それが多少の額なら問題にならないでしょうけれども、今の日銀の規模で問題にならない訳がないので、物価安定目標達成後の円滑な金融政策運営に対して今のバランスシートはどっからどう見ても大問題な状態で、お前ら本当に物価安定目標達成する気あるのか、とまで言いたくなってしまう(ちなみに実はもう上抜けしかかっているんジャマイカという話はここでは措く)んですよね。

つまり、物価安定目標を本当に達成すると思っているなら、買入なんぞとっととゼロにしてバランスシートの縮小を急がないと、物価安定目標達成後に今度は金融引き締めが必要になった時に厳しいことになってしまう、とまあそんなお話なんですが、その辺り今の長期国債買入を何でまだ継続しているのか、という話をひたすらスルーしている(会見で誰も聞かないのも悪いんだが・・・・)のをちゃんと説明して頂きたいもんだ、とさすがにそろそろ思うのでありました。

なお、物価目標達成しないでゼロインフレのままなら巨額なバランスシートの問題点は顕在化しないもんだから調子にのって野放図に拡大した、というだいたい前任のケツ拭きなのでそこは同情に値すると言いたいけど、黒田緩和は問題なし、とかいう飛んでも無い多角的レビューを出した時点で以下の問題は全部ハトハトチキンが黒田緩和の後始末をちゃんとやらなかったから悪い、になるんだよなあとおもいました、まる。


・・・でもう一方の注目点は、昨日ネタにしました金曜のBBG報道の「日銀はインフレが想定よりやや強めと認識」という件でして、今回のMPMは展望回ではないので、声明文の方に経済物価情勢の中間評価みたいなのが入ってくる訳でして、さてそこで何か言い出すか、というのが第一の注目点。

もしここで物価に関して「物価がやや強めに推移」とか言い出したらお前は何を言ってるんだ(画像割愛)というのはさて置きましても、4月展望でのフォワードルッキングハトハトチキンを上書き訂正するものになりますので、4月展望を上書きするとなりますと、それは1月3月の説明となるわけですので、これは大きな意味を持つ話になりますので国債買入の話と共に今回は声明文での物価の記述は楽しみに待ちたいと思います。

とは言いましても、日銀とて4月の展望レポート、と言いましても出したの5/1な訳で、しかも5/1には既に上振れしていた4月東京都区部CPIというのが出ていた、という状態だったのに、そこは丸無視して「物価見通しを下振れさせた挙句にリスクも下振れ」というのを出した、という背景があるので、6月会合の声明文、という一番エライ文章の所でそんなの出した日には政策委員か企画か調統か知らんけど丸坊主になって詫びろって話(個人の感想です)なので、声明文では何もその辺は書かない、と予想しております(フラグではありません)。

ただ、7月の展望レポートの時点で4月の(経済は兎も角として物価に関する)ハトハトジャガーチェンジを修正しよう、と思うのでしたら、さすがに今回会見で何かその辺聞かれたら「最近も価格転嫁の動きが続いており、想定以上に堅調に推移している」ってコメントをすることによって、4月の物価ハトハトムーブにオブラートを掛け、でまあ7月展望で物価に関してはやっぱり1月展望から概ねオントラックで推移していますねよかったよかった(ただし物価目標達成時期の表現を前倒しにすると面倒なことになるのでそこはいじらない)、という風にしておいて、9月会合以降に理由(主に貿易問題)さえつけば利上げできるようにする、という形に立て直してくる、というのはまあだいたい予想は付くところではあります(しつこいがフラグではありません)。

え、お前この前政策修正するなら大企業製造業の冬季賞与と来年度の賃金改定に向けた動きが見えてくる12月か1月じゃないか、って言ってなかったか??とツッコミをされそうでございますけれども、まあ物価に関してあのハトハトチキンムーブがあっさり上書きされてしまいますと、5月会合以降の説明も全部上書きされてしまう、という一貫性もへったくれもない、というのが今の日銀なのでそこがどうしようもない訳ですな、ナムナム。






2025/06/16

〇BBGのいつもの関係者ソース記事ですけれどもマジネタだったらこれはwwww

金曜の午後イチでこんなのが出ていましてね
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-06-13/SXPYSPDWX2PS00
日銀はインフレが想定よりやや強めと認識、価格転嫁の継続で−関係者
伊藤純夫、藤岡徹
2025年6月13日 12:45 JST

→来週の会合では政策金利の維持が決まる見通し、関税見極め−関係者
→関税の影響緩和が明確になれば、利上げ適切か検討の可能性−関係者

またいつもの「関係者はこう語った」ネタですけれども・・・・・・・

『日本銀行は、インフレ動向は予想よりやや強めに推移しているとみている。世界的な貿易摩擦が緩和した場合、利上げの議論のきっかけとなる可能性がある。事情に詳しい複数の関係者への取材で分かった。』(上記URL先より、以下同様)

ということでもうこの記事は冒頭から(というかヘッドラインの段階で)抱腹絶倒モンでして、まさに「お前は何を言ってるんだ」状態で椅子から転げ落ちそうになりました。

・・・・・だってさ、4月展望(4月展望と言っても5月頭ですけれども)の段階で、トランプ関税の影響についてアベイラブルかつ信頼感のあるデータが全然出きていなかったのに、何をトチ狂ったのか普段物価に対してビハインド・ザ・カーブにも程がある日銀の政策委員会の皆様が、突如物価見通しを下振れ、リスクも下振れ、とフォワードルッキングにジャガーチェンジしたばっかりでして、あの時点だって(ワシはそう予想して外しましたけど)「とりあえずトランプ関税の影響は超不確実ですが、まあ普通に考えたら経済下振れ要素なんで政策はいったん様子見しますわ、見通しに関してはとりあえず6月7月に状況の変化を受けて改定するわ」でもよかったわけで、「わからんから一旦ベースラインシナリオ維持だけど先行き不透明要素強すぎ」にしても良かった筈なのに、堂々の見通し引き下げに、ハトハトチキンな総裁の説明、と来ていた訳でして、どの面下げて6月にいきなり修正するんだよアホなのかお前らという話で、下方修正下振れとか言ってた連中のうち上記BBG報道みたいなこと言ってる輩がいたら政策委員としての適格性に疑問を呈さざるを得ませんわwwwwwwというお話ではありますわな。

まあしかし何ですな、

『関係者によると、日銀が16、17日に開く金融政策決定会合では、米関税政策を巡る日本をはじめとした各国間の交渉の進展やその内外経済への影響を見極めるため、政策金利を0.5%程度に維持することが決まる見通しだ。』

まあそりゃそうじゃろという話なのでこれはさておきまして、

『一方で、足元までの消費者物価(生鮮食品を除くコアCPI)は、人件費や原材料価格の上昇を価格転嫁する動きが続き、食料品価格を中心にやや強めの動きとみている。急騰している米価格が消費者のインフレ期待を押し上げる可能性を指摘する声もある。』

いやあのさあ、わずか1か月半前にそれまでの物価上振れのリスクあり、というのを思いっきり下げたばっかりだし、食料品価格を中心にCPI強いじゃろ、ってのは当時も指摘されていた話だし、今さら何を言ってるんだよというお話に最早呆れて物も言えませんですな(言ってるけど)。


でまあこいつらの見通しって何なんだよというお話ですけれども、

『米関税によって基調的な物価に大きな下押し圧力がかからないことが明確になれば、毎回の会合で経済・物価見通しの実現確度を精査し、利上げが適切かどうかを検討する可能性があるという。こうした関係者の発言は、世界貿易の情勢がより明確化すれば、日銀が年内に利上げを行う選択肢があることを示唆している。』

というまとめになっていますけど、これは「年内」じゃなくて極端に言ったら7月に手のひら返し(の結果結局半年に1回のペースになるんだが)をする可能性も示唆している、というお話で、まあさすがに7月はジャガーチェンジがあまりにも酷いので相当無理があると思いますけど、ゆうて今回の会合によるメッセージの出し方が強かったらジャガーチェンジが全くないわけではない、ということになりますわな。

ですので、7月はさすがにアレですけれども、普通に9月10月というのは、今回「関税の影響はまだ不透明だがそこまで深刻な物にはならなさそう」→7月「基調的物価が思った以上に堅調に推移している上に関税の影響は以下同文」というぶっこみ方をすればまあ普通に9月あるいは10月で政策修正できまっせ、ということなので年内と言っても12月とかそういう話ではないということになりますな。

・・・・・・いやまあそれはそれで政策修正とっととやれ派のワシとしては結構な展開ではあるのですが、お前ら賃金の好循環(最近「好循環」は言わなくなっています為念)の見極めとトランプ関税の影響による企業行動の変化を確認するために来年に向けた賃金設定の動きを見るとか言ってたのは何だったのか、というお話になるわけでして、政策修正するにしても修正を見送るにしても、その理由付けの説明が「その場限り」なのは勘弁してくれよという感じです。

とは言いましても、先週しつこく特集した内田副総裁の講演、ツッコミどころだらけでしたけれども、特に衝撃(あるいは笑劇)のツッコミどころって、YCC導入時の「オーバーシュート型コミットメント」について、黒田総裁に散々「強力なコミットメント」って言わせておいて、今頃になって堂々と「あのコミットメントはそんなに強力なものではない」って言い放っている部分でしたが、そりゃまあ政策の根幹っぽく説明していた手段でさえ「あの説明はペテンでした」って堂々と言ってしまうのが今の日銀の仕様だとすれば、経済物価見通しが政策アクションからの後付けになって、都合が悪くなると物価に関するアセスメントを1か月半でひっくり返す、という位は平気の平左でしょうなあ、と思いまして、ちょうど講演が出た後にこの「関係者談」記事が出てくるあたりに味わいを感じる先週金曜でありました。





2025/06/13

〇内田副総裁講演は決済システムに関する話がオモロイので現世利益関係ないけど

まあさすがにこのシリーズ最終回にしようかと思いますが。
https://www.boj.or.jp/about/press/koen_2025/ko250607a.htm
【講演】
業務からみた日本銀行
日本金融学会2025年度春季大会における講演
日本銀行副総裁 内田 眞一
2025年6月7日

まあ決定会合前の雑談という事でお暇な方は以下お付き合いいただければってな感じです(滝汗)。

・ということで決済システムに関してです

今回の講演、『6.デジタル社会の中での決済システムと中央銀行業務』という見出しのコーナーと、『8.中央銀行業務と決済システムの未来像』という見出しのコーナーが結構面白いんですよね。何故か知らんが章立てがワープしているの何なのって感じですがw

『6.デジタル社会の中での決済システムと中央銀行業務』って小見出しから参ります。

・DX化による決済の変化について

『決済のデジタル化』ってのが最初の小見出しです。

『図表9をご覧ください。ここからは後半パートに入り、日本銀行の業務と政策が、デジタル化などの環境変化によって、どう変わるのか、あるいは変わらないのか、考えてみたいと思います。』

てなことではじまりはじまり。

『わが国は、キャッシュレス比率が低いと言われます。この点は、各国で定義も異なり、厳密な比較は難しいのですが、わが国の場合、銀行口座での引き落としのほか、振込の割合が大きいのが特徴です。これは1973年から稼働している全銀システムによって、これらが極めて便利にできていることが背景です。』

第3次オンライン(だいたい昭和の終わりから平成の話だが)への完全移行から先さらに便利になった感はある。

『また、冒頭でご説明したように、わが国の銀行券残高は、低金利になる前で比較しても、他国よりも多くなっています。これには、現金を持ち歩いても安全であることや、そのもとでコンビニエンスストアを含めてATM網が発達しているという背景があります。もともと人々がどのような決済手段を使うかはその人の自由です。』

んだんだ。

『もっとも、日々の買い物を含めて、経済のデジタル化が進展する中で、人々にとって便利で安全な決済手段を選択できるように、それにふさわしい決済手段が提供されることは重要です。そして、決済システムが全体として、デジタル社会の中で高い安定性と効率性を発揮するために、中央銀行がどのような形態の「支払完了性のある決済手段」(中央銀行負債)を提供すべきか、設計していく必要があります。』

ここで中銀デジタル通貨の話が出てきまして、小見出し『中央銀行デジタル通貨』に進みます。

『この点に関連して、中央銀行自身がデジタル通貨(「中央銀行デジタル通貨」<CBDC>)を発行するというプロジェクトが、各国で進められています。欧州では、欧州中央銀行(ECB)が、2023年に「デジタルユーロ」に関する調査フェーズを完了し、準備フェーズに移行しています。また、イングランド銀行は、「デジタルポンド」について、設計フェーズの進捗レポートを公表しています。中国では、国内26都市や香港で「デジタル人民元」のパイロット実験を実施中です。』

『一方、米国では、2022年から23年にかけてCBDCに関する市中協議を行いましたが、銀行協会などから強く懸念する声が寄せられました。また、トランプ大統領は、今年1月、CBDCの発行等に関する政府機関の取り組みを停止・禁止する大統領令に署名し、FRBのパウエル議長も2月の議会証言で、自身の在任中のCBDCの発行を否定しています。』

CBDCについては一時エライい勢いでブームなのかって状態でしたが最近は落ち着いていますよね、寧ろこの「何で落ち着きましたのよ」という背景を知りたいですなアタクシ的には。

『わが国では、2020年に日本銀行が「中央銀行デジタル通貨に関する取り組み方針」を公表し、技術的な検証を進めています。2023年からは、パイロット実験に移行し、「実験用システムの構築と検証」を実施するとともに、民間事業者の技術的な知見を活用するため「CBDCフォーラム」を設置し、幅広い関係者に参加いただいて、様々なテーマで議論しています。政府においても「CBDCに関する関係府省庁・日本銀行連絡会議」が設置され、制度設計の大枠の整理に向けて検討が進められています。』

とは言え数年前とはだいぶ勢いが違う感が否めません。

『CBDCは、デジタル社会のもとでのわが国の決済システムの将来像を決める重要なインフラになりうるものですから、これを発行するかどうかは、こうした内外の情勢を踏まえたうえで、国民的議論の中で決める必要があります。ご説明した通り、各国の対応も分かれています。ただ、CBDCを発行するにせよ、しないにせよ、デジタル社会の中で、現金のような「支払完了性のある決済手段」を誰がどのように提供するのが、決済システム全体の安全性と効率性につながるのか、考えていくことは必須です。』

「現金のような「支払完了性のある決済手段」を誰がどのように提供するのが、決済システム全体の安全性と効率性につながるのか、考えていくことは必須です」という所にまあ論点が有るわけですが、

『具体的な仕組みとしては、まず、必ず必要になる個人との接点(インターフェイス)の部分は、いずれにしても、基本的に民間の事業者が担うべきだと思います。個人の多様なニーズに応えることは公的機関である中央銀行には難しいからです。その中で、利用者にとって便利なインターフェイスや、それを生かしたイノベーションが生まれるのだと思います。』

ってさらっと流していますが、この点って言うのは利便性とかイノベーションの話ってのは実はオマケの話でして、問題は「通貨発行の二重構造」に関わる部分になるわけですけれども、CBDCが預金通貨を駆逐してしまう事になった場合、信用創造とかそういうのが無くなるわけで(預金銀行が今のノンバンクと同じ構造になる)、これは通貨発行構造のデザインの問題になるのですが、議論がおっぱじまった当初は兎も角、最近は「通貨発行の二重構造」は維持し、CBDCはその構造を阻害しない程度のものとする、ってのが一般的な理解になっているかと思われるのですが(例えば昨年の植田総裁のこの講演→https://www.boj.or.jp/about/press/koen_2024/data/ko240305a.pdf 「中央銀行デジタル通貨について知っておきたいこと── FIN/SUM(フィンサム)2024における挨拶 ──」の最初の方をご参照いただければと)、ただまあそうだとしたらわざわざCBDC作らんでも民間の預金通貨でエエンチャウノという気はだいぶします。

一時のブーム的な動きが下火になったのはこの通貨発行の二重構造への影響を考えた場合にどうなのか(しかもものが通貨なだけに「やってみたら金融システムが大混乱のでやっぱ止めますテヘペロ」とかいうのは基本的に許されるものではないでしょうからね〜)という辺りにあるんじゃないかとワシは思うざます。

まあそれは兎も角としてCBDCの続き。

『そのうえで、考えられるバリエーションには、結構大きな幅があります。決済手段というものは、そのほとんどすべてが、最終的には中央銀行につながっています(「すべて」と言い切らない理由は、最終章で述べます)。問題は、人々が「現金と同じような機能を持つ」と認識する決済手段は、どの程度直接的な「支払完了性」を有する必要があるのか、その「支払完了性」をどう担保するのか、ということです。』

今の時点では一般人(ワシもワシも)は預金通貨による決済をもって「支払完了」としております(現金は現金でありますよ為念)訳ですな。

『この点、CBDCは、中央銀行の負債ですので、現金と同等の「支払完了性」があります。』

はい。

『CBDCを発行しない場合には、民間が提供するその決済手段と中央銀行負債をどう結びつけるのか、また、現金のようにいつでも受け渡し可能であるようにオペレーションの頑健性や広範な利用可能性をどう確保するかなど、技術的な側面を含めて検討する必要があります。』

って話ですが、まあ今の時点でこの預金通貨による通貨発行の二重構造が効率よく大規模に回っていますので、発行しない場合は別に検討もへったくれれも無いので、これは発行する場合の話だとは思いますが、この側面から今テストやっている、というお話です。


・国際的な決済システムの進化に向けたお話

次が『国際的な視点』の話。

『決済の未来像を考えるうえでは、国際的な視点が欠かせません。実を言えば、現在の国際的な決済システムには多くの不満が寄せられており、これをいかに便利で安全なものにしていくかは、未来の問題というより、現在の喫緊の課題です。』

海外送金の際にコルレス銀行がどうのこうのでデポ先がどうのこうのでとか懐かしい話だ(20世紀脳)。

『例えば、各国では、外国からの労働者が母国に送金する際の手数料の高さや時間の遅さが問題になっており、2020年以降、G20のアジェンダには「クロスボーダー送金の改善」が掲げられてきました。』

まあわかる。

『この点は、既存のコルレス銀行を中心とするシステムの運用を改善していく方向性として、決済システムの稼働時間の拡大、国際送金電文フォーマットの標準化などの方策が検討・実施されているほか、新たな可能性として、例えば各国のリテールの即時送金システム(ファスト・ペイメント・システム。日本では全銀システムやことらがこれに当たります)の相互接続といったことも模索されています。』

まあわかるんだがここは効率性と安全性のトレードオフの面があって、リテールの即時送金システムの接続とかうっかりやってしまうと、どこかの国で発生したシステム上の問題が世界中に波及して一国だけの問題に留まらない、みたいなことが起き得る訳でして、そこは大型船には防水区画を区切って浸水即沈没にならないようにするのと同様に、効率性を捨ててもウォール作って安全性を高めておかないといかんのじゃなかろうかとは思います。

『また、金融機関間の資金決済や貿易にかかる決済など、より大口の資金決済の分野では、先進国のグループや新興国を中心としたプロジェクトなど様々な試みが進行し、成果を競い合っています。そのひとつ、BISが主催し、多くの民間金融機関と、日本銀行を含むいくつかの中央銀行が参加している「プロジェクト・アゴラ」では、分散台帳技術(DLT)を使った共通プラットフォーム上に、商業銀行預金と中央銀行預金の両方を載せて、それらを組み合わせて、安全かつ効率的なクロスボーダーの決済を行う、という新しいタイプの決済インフラが構想され、実験プロジェクトがはじまっています。』

この分散台帳技術は何度聞いても今一歩腑に落ちない面があるので一度じっくり理解をしたいです。

『こうした国際的な決済システムを巡る取組みが競うように進展していることは、経済安全保障の観点と切り離せません。』

と、さらに話が大きくなりまして、

『ロシアのウクライナ侵攻を受けて、各国で経済制裁が発動され、その実効性を担保するため、Swiftなど国際的な決済ネットワークからロシアの銀行を排除する動きになったのは記憶に新しいところです。またやや異なる観点ですが、サイバー空間には国境はありませんので、サイバー攻撃が大規模化、組織化されるもとで、一国の決済システムの安全をどう守っていくのか、その際の中央銀行を含めた公的部門の役割は何か、考える必要は年々大きくなっています。』

そうですね。

『例えば「デジタル通貨」が発行された場合、中央銀行が発行するにせよ、民間が提供するにせよ、サイバー攻撃の対象になりやすいと考えられます。』

そらそうよ。

『これに対抗するためには、相応のコストと技術を集める必要があります。』

発行しなければ良いんじゃないでしょうか(←頭が固くて使い物にならない老害ジジイの典型発言)

『米国は基本的に民間のイニシアティブで進めていく方向に見えますし、欧州は、官民でCBDCエコシステムを構築する計画です。ECBが、CBDC発行の理由として、「ユーロエリアの戦略的自律性(strategic autonomy)と通貨主権(monetary sovereignty)を高めること」「ユーロ決済における非欧州系の民間決済事業者(private, non-European payment providers)への依存度を下げること」とはっきり述べていることは、この問題が国内的な事情を超えて、経済安全保障的、国際競争的な側面をもっていることを示唆しているように思います。』

まあユーロ圏は「共通通貨で財政が別だし何なら法制度だって別」という事情があるので・・・・・


・決済デザインに関する将来の話のコーナーもこれはこれで面白いですよ

ということでさっきの見出し6の部分が終わるのですが、次が『8.中央銀行業務と決済システムの未来像』です。

・銀行券に関して

『銀行券の未来』って小見出しの所ですが。

『最後に、中央銀行業務と決済システムの未来像について、思考実験を行ってみたいと思います。デジタル化が大きく進む中で、銀行券はどうなるでしょうか。』

アタクシはたぶんこの業界の人では珍獣の方に入ると思う現金決済おじさんなのですけどwww

『この点まず申し上げたいことは、日本銀行は、現金に対する需要がある限り、現金の供給について責任をもって続けていくとコミットしている、ということです。中央銀行が現金供給に責任を持つ中で、銀行の支店網やコンビニエンスストアを含めたATM網など、現金が流通する経路が維持され、人々にとって現金を使うことが便利であり続けることは重要で、それによって、今後の現金の使われ方は変わってきます。』

ふむふむ。

『スウェーデンでは、現金流通残高の対GDP比率が0.9%まで低下しています6。これはデビットカードや個人間送金システムが便利だということが主因ですが、銀行の店舗網などの関係で、現金の利用が不便になったことも一因と言われています。』

ほほう。

『このため、2021年には、金融機関は、現金の引き出しや受け入れ拠点を整備しなければならない、という趣旨の法律が制定されました。』

ほえー。

『こうした問題意識は、他の欧州諸国でもみられ、例えば英国では2023年の法令に基づき、財務省がATM等の配置に関する距離基準を設定しています。スイスでは、中央銀行と財務省が、金融機関・警備輸送会社・小売業界・消費者団体等を招いたラウンドテーブルを共催し、現金を巡る課題と共に「現金は将来にわたって必要である」という認識を共有しました。』

へーへーへー。

『さらに、欧州諸国はそうではありませんが、偽造などによって、銀行券を使うことの便利さや安全性が低いことが、キャッシュレス化が進む要因になっている国もあります。』

こういうケースだとかつては米ドルが通用する、みたいな世界ですねw

『一方、当然のことながら、現金の供給体制の維持にはコストがかかります。現金供給には、日本銀行だけでなく、金融機関、コンビニエンスストアなどのリテール事業者、現金を運ぶ警備輸送会社など、多くの関係者がかかわっています。この体制を維持していくためには、これらの関係者にとって、銀行券の供給が、それぞれの顧客のニーズに応えて、サービスを維持していくメリットがあるものであり続ける必要があります。』

と来てからの「決済の経路依存症」の話です。

『この「顧客ニーズ」と言う点では、私は、決済には経路依存性があり、現金は対面での決済としてとても便利なので、現金に対する需要は簡単にはなくならないと思っています。』

まさに経路依存症のジャンキージジイがここにおります(汗)。

『日本銀行としては、そうしたニーズがある限り、いかに安全かつ効率的に現金供給の体制を維持していくか、責任をもって考えていきたいと思います。「デジタル化」や「キャッシュレス化」は、社会・経済の効率性を高める効果を持ちうるものだと思いますが、そのプロセスは利用者の自由な選択の中で進むのが望ましいと思っています。』

ということでして、一時期クッソ大流行したようなCBDCに全部置き換わる位の勢いの話ではなくなっておりますな、というのは伝わります。


・「CBDCが発行されるとマイナス金利が簡単にできる」という無邪気な見解を砲撃しているのはワロタ

でまあその次の小見出しとその次のも面白くて、まずは『架空の世界1:現金のない世界』って話。

『銀行券が存在するのであれば(仮に決済に占める比率が低下したとしても)、これまでお話ししたような中央銀行の業務のやり方や政策のメカニズムは、変わりません。「支払完了性」のある決済手段の唯一の提供者として、資金供給などの業務によって、金利操作を行い、日々の決済を完結し、最後の貸し手として機能します。』

ですな。

『このメカニズムが変わる可能性があるのは、以下のような2つの構造変化が起こった場合です。いずれも架空のシナリオです。こうしたことが起こると予想しているわけではありませんが、架空の世界を想像してみることは、現在をより良く理解するうえで有益です。』

ということで、

『ひとつめは、現金が全く存在しなくなる場合です。』

からの、

『よく「CBDCが発行されれば、マイナス金利を付すことができるので、金融政策運営は大きく変わる」と言われますが、正確には少し違います。』

某東京大学の某経済学部長だった大先生もこんなことを言ってましたなあそういえばw

『まず、CBDCが発行されても、現金が残る限り、名目金利のゼロ制約は残ります。マイナス金利を付されない逃げ場がある限り、CBDCにマイナス金利を付すことには限界があります。』

そらそうだ。

『また、逆に現金がなくなるのであれば、CBDCを発行しているかどうかはあまり関係ありません。』

それもそうですよね、つまり・・・・・

『民間が提供するデジタル通貨であっても、何らかの形で金融資産の裏付けがある以上、中央銀行は金融資産の価格(金利)に影響を与えることで、金利のゼロ制約を破ることができます。例えば、民間提供のデジタル通貨が中央銀行の当座預金と完全に紐づいている単純なケースでは、当座預金の付利水準の変化によって、民間デジタル通貨にマイナス金利を付すことができます。そうした意味で、「マイナス金利を可能にするためにCBDCを発行する」という発想は、中央銀行にはありません。』

一時この「CBDCを発行すると金融政策運営は大きく変わる」というトンデモが流行して、いやそんなこと言い出したら逆に誰もCBDCを支持しなくなるじゃろ、とCBDC要らないんじゃネーノ派のワイも思ったことがあります。


・そしてどさくさに紛れてしらっと地雷を埋め込んでいるのが面白いのですが

でもってこの続きがどさくさに紛れて面白すぎるネタを突っ込んでいましてですね・・・・・・・

『この「現金がない世界」では、金利のゼロ制約がないため、マイナス金利の付利に限界がなく、したがって、政策金利の引き下げ余地の「のりしろ」を確保する必要はなくなります。』

しらっと言ってるけど、だったら今の「現金のある世界」では「政策金利の引き下げ余地の糊代を確保する必要がある」ってことになりまして、なんということでしょう決済システムの話をしているどさくさに紛れて政策金利の糊代が必要という話をぶっこでいるじゃあーりませんかw

『物価目標は、バイアスのない物価指標であれば、ゼロ%になるはずです。』

まあ確かに物価目標2%の理由として日銀が言ってるのは「名目ゼロ制約があるから糊代が必要」「ボスキンバイアスなどの統計上のバイアスの問題」「となりのパウちゃんもクリステーヌちゃんもやってるから」なので論理的にこうなりますがパッと見るとちょっと刺激的ですねw

『金融政策の運営は大きく変わります。それでも、中央銀行として「物価の安定」などの使命を果たすことができる、という点は不変です。』

まあ今果たしているかいやなんでもないです。


・最後に中央銀行としての適切な政策運営が大事と豪語しておるwww

最後が『架空の世界2:「円」のない世界』という小見出しで、掴みから、

『もうひとつの可能性は、中央銀行としては起こってほしくないシナリオです。』

ということで、

『「円」で表示されない決済手段が決済の主役になることです。』

つまり、

『取引の決済は双方が合意するのであれば、どんな手段でも可能です。それは「円」で表示される資産に限らず、金でも、コメでも、引越しのお手伝いでも、肩たたき券でも、双方がそれで債権債務関係を消滅させることに納得していればかまいません。デジタル社会においては、暗号資産がその対象となりえます。もともと一部の暗号資産の動機には、主権国家に頼らないリバタリアン的な発想があります。』

はい。

『現在、「円」で表示された銀行券や銀行預金の振込が利用されているのは、それがほとんどすべての人が納得する決済手段として認識されているからです。その前提の下で、日本銀行券には法律的にも「強制通用力」が付与されています。ただし、これはあくまで、「円」で表示された債権債務関係を消滅させる弁済手段となる、というだけであって、取引関係に入ることを強制されるわけではありません。「私は金でしか、あるいは暗号資産でしか、売る気はない」と言うことは契約自由の原則により可能です。』

そうですね。

『こうした未来が訪れることは、少なくともわが国においてはないと思います。「円」に連動しない決済手段について、モノやサービスとの関係で価値を安定させる仕組みを作ることは、中央銀行の「物価の安定」と同じ機能を独自に持つということですから、簡単ではありません。中央銀行が価値を安定させてくれる「円」に乗っかった方がずっと合理的です。その意味で、中央銀行がその使命をきちんと果たしている限り、「円」以外の決済手段が決済の主役になることはないでしょう。「中央銀行がその使命をきちんと果たしている限り」。』

アタクシがツッコミをいれるまでもなく、

>中央銀行がその使命をきちんと果たしている限り

って内田さんが繰り返して言っておられますな。まさにその通りなんですが、ところで今って物価もインフレ期待も上振れているかもしれないのですが、堂々と大丈夫と言い続けて超絶大緩和政策しているのって本当に使命を果たしているんでしたっけ???????という疑問は無くは無い、というかある。


・最後のところでも言ってることは立派なのだがところで行動はどうでしたっけというのがありまして

『9.おわりに』ってところですが、

『本日は、日本銀行の政策について業務面に焦点を当てて、ご説明しました。もう一度図表8をご覧ください。中央銀行の政策の源泉は、「支払完了性のある決済手段」(負債)の提供とその裏側で資産として何を持つかにあります。日本銀行はそれを通じて、金利操作を行い、「最後の貸し手」として機能します。非伝統的政策は、こうした業務やバランスシートをどのように、どこまで使えるのかを追求したものとも言えます。』

>非伝統的政策は、こうした業務やバランスシートをどのように、どこまで使えるのかを追求したものとも言えます

といったその後に、

『「政策」を考えるときに「業務」に関する理解は不可欠です。それは、「業務としてできないことが制約になる」といった意味ではなく、むしろ中央銀行業務の持つ可能性を知ったうえで、政策のイノベーションにつなげる、というほうが、私には実感に合います。ただし、「支払完了性のある決済手段」を独占的に提供できることの重みをしっかりと胸に刻んだうえで、という自覚が必須です。万能薬は、使い方によってはモラルハザードを生むものです。』

ただし、「支払完了性のある決済手段」を独占的に提供できることの重みをしっかりと胸に刻んだうえで、という自覚が必須です。万能薬は、使い方によってはモラルハザードを生むものです。

って実に良い事を言ってるんだが、黒田緩和ってそんな重みを胸に刻んでましたって、なんか野放図に万能薬打ちまくった(まあ万”能”だったのかは謎ですけど)んジャマイカと思いますが・・・・・・・・・

『そして、何より、「支払完了性のある決済手段」を与えられた目的は、「人々が安心してお金を使えるようにする」ためであるということを、忘れてはならないと思っています。後者の「使命」を果たせない場合、前者の「手段」は機能しなくなります。歴史は、物価の安定が損なわれて、あるいは、金融システムが崩壊して、自国通貨が流通しなくなる国をたくさん生んできました。』

めちゃめちゃ立派なことを言っているんだが本邦の物価って・・・・・・

『さらに将来に向けては、デジタル化が大きく進展した社会で、主権国家の中央銀行が発行する通貨が一般受容性のある決済手段として機能し続ける保証はありません。支払決済手段を選ぶのは人々の自由である、このことを胸に置いて、中央銀行の業務を運営していかなければなりません。もちろん多くの関係者の皆様とともに。

こうした様々な自戒の念を込めて今日の原稿を用意しました。ご清聴ありがとうございました。』

ということで立派なお話で締めていまして、論点も面白いのですが、残念なのは今の政策運営がこの立派な話と言行一致してましたっけというツッコミをしたくなってくることですなwwwwwwwwwwwwww

#さあ来週は決定会合ですね!





2025/06/12

〇預金の粘着性に関しては金利がつくようになると日本でも参考になることもあるかもですね

日銀レビューで興味深いネタが取り扱われていましてですね
https://www.boj.or.jp/research/wps_rev/rev_2025/rev25j04.htm
高粒度データを用いた大手行の外貨預金の特性や粘着性の考察
2025年6月11日
金融機構局 船田直輝、坂田智哉、小川佳也

上記HTML先の「要旨」を拝読しますが、この「邦銀の外貨調達の安定性」に関する話は近年(なのでここもと数回にわたって)金融システムレポート(FSR)の方でも大きめのトピックとして扱われていた案件ですし、何なら一昨年の米国SVB破綻事例があったので特に昨年は結構取り上げられていましたので、この辺りの一連の調査研究の一旦のまとめを皆様に分かりやすくお出しします、ってなもんだと思います。

では拝読。

『要旨

大手行は、海外貸出を増加させる中、外貨流動性リスクをかねてより経営上のリスクの一つと位置付け、外貨調達基盤の安定性向上に努めてきた。』

ふむふむ。

『こうしたもと、本稿では、SVB破綻等を受けた国際的な議論も踏まえ、外貨調達の過半を占める外貨預金の高粒度データを用いて、外貨預金の獲得状況や粘着性について分析した。』

なるほどなるほど。でもってその結果ですけど、

『分析結果からは、高金利の大口預金抑制に伴う預金の小口分散化が進展している一方、低コストで調達可能な決済性預金残高は概ね横ばいであることが確認された。』

直感的にまあそうじゃろうなあという結果ですね。ただまあゆうて決済性預金ってのを維持するためには決済性の利便性というのを提供しないといけない訳でして、低コストで調達可能なのはまあその通りではあるけど、決済性預金機能を維持するのにはそれなりにコストがかかるようにも思えます。

『また、属性ごとに預金流出率は異なり、金融法人預金等の粘着性が低く、決済性預金獲得に伴う企業との関係強化が預金の粘着性向上に繋がり得る点も示唆された。』

直感的にまあそうですねという所ですが、

『今後も本分析結果等を活用しつつ、大手行の外貨流動性リスク管理の更なる高度化に資するよう、大手行や海外当局と議論を深めることが重要である。』

ってお話ではあるのですが、モチのロンでこの手の話は法域が違って預金や預金類似商品を巡る環境が違っていたら全然話が違う、というのはあるにしましても、背景にある基本的な部分ってのは共通することもありますし、その点日本の場合は30年くらい要求性払いの預金金利が実質ゼロみたいな状態でして、その前は規制金利の時代だった、というよくよく考えたら驚愕の事実があるので、この辺りの考察は今後の日本における預金やらなにやらの動向に対する何らかの示唆があるんじゃなかろうかと思いますがどうでしょうかね。

本文はこちら
https://www.boj.or.jp/research/wps_rev/rev_2025/data/rev25j04.pdf

本文の最初と最後だけちょっと見ておきますね。『はじめに 』から。

『本邦の一部大手行1(以下、大手行)は、国内において低金利環境が継続する中で、これまで海外貸出を積極的に増加させてきた。この点、大手行は、米国内に安定的なリテール預金基盤を有していないことから、企業から外貨預金の獲得を進めつつ、不足分を短期・中長期の円投や社債等の市場性調達で賄ってきた。』

ふむ。

『そのため、大手行にとって、外貨流動性リスクはかねてより経営上の重要なリスクの一つと位置付けられており、日本銀行としてもモニタリング上、優先すべき事項の一つとして捉えてきた。』

FSRをご覧いただければこの辺りの問題意識について分かるかと思います。

『この間、大手行は、資金調達コストの適正化に取り組む中で、調達手段の多様化や市場性調達の長期化など、外貨調達基盤の安定性向上にも努めてきた。もっとも、米国では新型コロナウイルス感染症拡大時における金融機関の貸出態度慎重化2や、2022 年 3 月以降の FRBの利上げを受けた高金利環境の継続等から、企業の銀行借入需要に盛り上がりがみられていないことや、大手行が採算性を一段と意識していることもあって、海外貸出の残高は概ね横ばいで推移している。』

なるほどなるほど。

『こうしたもとで、大手行の運用・調達ギャップ(海外での貸出金と、短期円投等と比べて相対的に安定している社債発行など長期調達や預金との差額)をみると、安定的な調達額が、運用を上回る状態が続いている(図表 1)。』

という意味での安定性についてはまあレジリアントに見える、というのがここ数回のFSRでの評価です。

『一方で、2023 年 3 月にみられた銀行部門の混乱(米地銀 Silicon Valley Bank(以下、SVB)の経営破綻や Credit Suisse の救済合併)は、これまでの外貨流動性リスク管理の前提となる預金が安定的な調達手段であるとの想定を改めて検証する契機となった。』

でもって、

『具体的には、一部の預金における流出速度は、SNS 等の影響もあり金融当局が想定していたスピードよりも速い可能性や、大口の非付保預金の取り付けが発生した際の影響度などを、適切に考慮する必要性などが認識された。』

『さらに、SVB の破綻直後には、SVB と同様のリスク・プロファイルを有する米地銀からの預金流出・株価下落が先鋭化し、First Republic Bank が同年 5 月初に JP Morgan に買収された3。』

ってな訳で、

『こうした新型コロナウイルス感染症拡大以降の一連の事象を踏まえ、国内・海外の金融当局は、金融機関の流動性リスク管理体制の更なる高度化の必要性について議論を進めている。』

『日本銀行では、従来から、金融庁と共同で G-SIBs に分類される大手行への「外貨流動性リスク管理に関する共同調査」等を通じて、大手行との継続的な対話を行っている4。加えて、効率的かつ効果的なモニタリングを実行するために、金融機関から報告されているデータの利活用も進めており、大手行の協力を得て、日本銀行・金融庁に報告されている、外貨預金の個別取引明細・高粒度データ(以下、「高粒度データ」)の拡充を図ってきた5。』

『大手行自身も、着実に外貨流動性リスク管理の高度化に取り組んでいるもとで、より一層の安定性向上に資するよう、本稿では、個別明細レベルの高粒度データを用いて、大手行の外貨調達の過半を占める外貨預金の獲得状況や外貨預金に係る粘着性等について分析を試みた。』

以下分析の話になってこれはこれでオモロイのですが、単純に合いの手入れているだけになるので笑その辺は引用かっ飛ばすのでまあ読んでちょというところです。


結論にかっ飛びますけど。

『おわりに

本稿では、外貨預金の個別明細レベルの高粒度データを用いることで、大手行の外貨預金の獲得状況や粘着性等を分析した。本分析からは、大手行が、外貨預金獲得に向け、収益性を意識しながら進めてきた各種取組みやその特性などを確認した。』

具体的には・・・・・

『具体的には、@貸出が足もと横ばいで推移する中で、高金利を提示して大口預金を獲得する必要性が低下しており、同預金の抑制に伴い預金の小口分散化が進展している一方、A低コストで調達可能な決済性預金比率は横ばいの動きが続いており、とりわけ、非日系企業においてその残高は限定的となっていることが確認された。』

『同時に、預金者属性によって、預金の流出率は異なり、大口預金や非日系企業・金融法人といった預金者属性の預金の粘着性は相対的に低く、決済性預金獲得などの企業とのリレーション強化が、預金の粘着性向上に繋がり得る点が示唆された。』

なお決済性預金獲得に関しては単なる営業勧奨で増えるものではなくて、決済性預金を顧客が活用できるインフラ整備が必要です、って話に関しては本文中にありますので読んで味噌。

『これらを踏まえると、自らの預金者ポートフォリオの預金者属性の構成(預金規模や業種、さらには付帯取引の有無)等も考慮して流出率を設定することが、預金獲得戦略や流動性リスク管理の向上に有益であると考えられる。』

これは大手行の外貨調達、という点にフォーカスして分析が行われていますが、そもそも金融のお仕事というか付加価値創造の源泉の一つとして「満期変換機能」ってのが有るわけで、別に銀行セクターに留まるものではなくて、このような分析を行うという考えは、まあその分析をどのように行っているかは千差万別だと思いますし、単純に経験則からおおむねこんな感じじゃろっていうことで意識している場合も多々ありそうですけれども、満期変換機能を提供する人たち、すなわち銀行だけではなくてNBFIも含めて意識するべき話。ではあるのですが、某アメリカンの場合は何とかショックの度にプライムMMFがあばばばば―ってなってFEDに泣きついてお助けオペが炸裂して、その事例を受けて再発防止のためにFSBやIOSCOがNBFIへの規制強化に乗り出す、というのを何度もやっている、というのが中々の頭痛の種ですなあ、って思いました。

『この点、大手行は、預金の流出率想定に預金者属性別のヒストリカルデータを用いて、その妥当性を検証しており、こうした精緻化への取り組みは、本分析結果と整合的である。』

これ円資金でも(パラメータは全然違うとしか思えませんけど)同じ考えを適用できそうに思えます。ただまあ円貨資金繰りはリクイディティーという面からみたファンディングに関しては日銀当座預金残高がアホみたいにあるので、短期金融市場を見てもビビットにわかりにくい(そのためソルベンシーの問題の予兆管理がしにくいんじゃないかとアタクシは懸念しています)ってのもありますけどね。

『また、本稿で用いた高粒度データには、ドル以外の地場通貨も含まれている。地政学的な要因等が意識される場合、ドル以外の地場通貨の流動性リスクのモニタリング高度化に向けて、高粒度データを活用することは有益である。』

ほーーーーー

『今後も、本稿で紹介した分析結果等を活用しつつ、モニタリング体制の整備を進めるとともに、大手行の外貨流動性リスク管理の更なる高度化に資する分析を続けていくことが肝要である。そのうえで、得られたインプリケーションおよび分析結果等も用いて、大手行や海外当局とも引き続き議論を深めていくことが重要と考えている。』

とまあそういうお話で、全然現世利益と関係ないと言われるとまあそうなんですけど、一応債券市場に加えて短期金融市場の方も見ているという設定になっております不肖このアタクシとしては、まあこういうネタには反応しますよというお話でしたので備忘もかねてご紹介させていただきました。

なお、本文の後に『BOX 地場通貨における外貨預金の獲得状況 』ってのがありますが、そちらはまあ本文読んだついでに見てちょんまげというところです。

あと、今回のレポートってちょっと興味深かったのは、本文の最後(概要の最後にもありますが)

『内容に関するご質問等に関しましては、日本銀行金融機構局金融第 3 課までお知らせ下さい。』

ってなっていて、日銀の本店局室研究所体制表(HPにあるやつ)だと機構局には金融1課から3課があるのはわかるけど管掌がどことは書いていないのですが、ワタクシの認識が間違っていなければ大手行に対するプルーデンス担当窓口って金融1課だったような気がしますので(違ってたらゴメンですけれども)、3課マターになっているのも興味深く読みました(^^)。


〇内田副総裁講演をしつこく読む訳ですが日銀バランスシートの日銀財務に対する影響のお話

HTMLバージョンも出てきたのでHTMLバージョンから引用しますね(なぜか半角英数がコピペで認識されない謎PDFだったので)。

https://www.boj.or.jp/about/press/koen_2025/ko250607a.htm
【講演】
業務からみた日本銀行
日本金融学会2025年度春季大会における講演
日本銀行副総裁 内田 眞一
2025年6月7日

『7.非伝統的な金融政策と中央銀行のバランスシート』の後半、『非伝統的な金融政策と中央銀行の収益』
の部分になります。

『中央銀行は、平常時にはバランスシートの構造上、収益があがるようになっています。』

ってどういう話かというと以下シニョリッジの説明になります。

『もう一度図表7をご覧ください。98年度末、伝統的な金融市場調節を行っていた当時のバランスシートです。負債項目の多くを占める発行銀行券は無利息です。当座預金も無利息でした(この時点では付利制度は導入されていませんでしたし、仮に導入されていたとしても、準備預金ぎりぎりの水準で調節を行うのであればほぼ無利息です)。一方で、資産サイドの国債や金融機関への貸出には利息が付きます。この差額は、通貨発行権を持つことに伴う収益(シニョレッジ)であり、支払完了性のある決済手段を「負債」として独占的に供給できることによるものです。』

ですです。

『この関係は、非伝統的な政策によって、バランスシートが大きく拡大すると変化します。』

はい。

『まず、非伝統的な政策を行っている間は、収益は大きく拡大します。短期金利はゼロ%ないしマイナスですので、負債サイドの利払いは基本的には生じることはありません。』

この辺もうちょっと説明を練ってほしいのですが、「短期金利がゼロ%の時にバランスシートを拡大すれば」というのが表現としては正しくて、非伝統的政策って言ったってバランスシート使わない政策(短期政策金利のフォワードコミットメントみたなやつ)をしてたら別に収益拡大しないし、何なら短期オペだけでバランスシート拡大してたらやっぱり変わらんのですが、まあそういうクソ細かい話はさておきまして、

『資産サイドからは、バランスシートが大きい分だけ、より大きな収益が得られます(日本銀行の場合、当座預金を3層構造とし、マイナス金利部分を最小限に抑える一方、プラス金利部分もあったため、ネットで利払いが発生しましたが、資産サイドの方がずっと大きな効果を持ちました)。図表11をご覧ください。実際、大規模緩和前の日本銀行の経常利益は平均して6千億円程度でしたが、大規模緩和を行っていた時期には、毎年数兆円の収益を計上していました。』

バランスシートが大きくても短期に近い国債買っている分にはまた違うので、結局バランスシート内でどれだけ長短ミスマッチ取っているか(満期変換を行っているか)というお話ではありますわな。

『これが出口になると、当座預金の付利によって利上げを行う一方で、資産サイドは、金利が低い時に買った国債で固定されているため、逆ザヤが発生します。この点、日本銀行のスタッフがシミュレーションを行っています5。』

とありますが本件は昨年末に出ていましてその時にツッコミを軽く入れましたがこの後改めて。

『図表12をご覧ください。その結果は、短期金利・長期金利のパス、バランスシート縮小のペース、さらには冒頭でご説明した銀行券の残高がこの先どうなるかなど、複数の要因に左右されます。』

そらそうですな。

『前提条件として、昨年9月時点で市場が織り込んでいた金利見通しのとおり金利が動くと仮定した場合、青い実線のようになります。この前提では、収益は減少しますが、赤字にはならないという結果でした。ただ、金利がより急激に上昇するなどのストレスをかけると、シャドーのように、一時的に赤字になる場合があります。ただ、どちらのシナリオでも、その後は、負債サイドで当座預金が減少し、資産サイドで国債が高い金利のものに入れ替わっていくにしたがって、収益が回復していきます。』

という話になっていますが、じゃあ例のシミュレーションを見ますと

https://www.boj.or.jp/research/wps_rev/rev_2024/data/rev24j15.pdf
日本銀行の財務と先行きの試算
企画局企画調整課
2024 年 12 月
日銀レビュー 2024-J-15

本文5pに『先行きの収益・自己資本に関する試算 』ってのがありますが、その前提になっているのは、

『(前提)
@ 短期金利・長期金利の推移

短期金利については OIS 市場7におけるインプライドフォワードレート、長期金利については国債のイールドカーブから算出されるインプライドフォワードレート(市場金利が織り込む金利見通し)のとおり推移すると仮定する。』

『また、市場金利が織り込む金利見通しに加え、(a)短期金利は、今後数年程度をかけて 1.0%〜2.0%となり、(b)その際の長短スプレッドは、+0.25%P〜+0.75%P となると仮定した場合の試算値のレンジも合わせて示すこととする8。』

っていうことで、全然ストレスを掛けたシナリオじゃねえだろ、ってのしか示されていない訳で、欧米みたいにインフレが高進してインフレ期待の2%アンカーが上振れするんじゃないかってことで盛大に引き締めを行う、というような前提にはなっておりませんが、何せ日本の場合は欧米のようにもともとインフレ期待が2%でアンカーされている国と違いまして、ゼロ近傍にアンカーされていたインフレ期待を一旦2%に引き上げてアンカーさせる(リアンカリングとか言ってた時期もあったけど最近言いませんなそういや)という器用なことをしないといけなくて、インフレ期待を一旦不安定化させる、というプロセスを踏むだけに、2%で止まらずにインフレ期待が上振れる(というか既に家計のインフレ期待は上抜けてしまってるんじゃないかと個人的には思ってるんですが・・・)というリスクって欧米よりも実は高いんですよね。

そう考えますと、この程度のユルユルで済むのか問題があるわけで、これはこの前もかきましたけど、だいたいからして実質中立金利が0%で均衡物価水準が2%の時に短期政策金利の名目中立金利は2%な訳で、「(a)短期金利は、今後数年程度をかけて 1.0%〜2.0%となり、」ってのがセカンドシナリオになっている時点で節子それはむしろベースラインシナリオレベルやというお話。

でもってこの前提ってしらっと、

『A バランスシートの規模やその推移

バランスシートについては、試算の便宜上、本年 7 月に決定された長期国債買入れの減額計画のとおり 2026 年 1-3 月にかけて国債の月間買入れ額を月 3 兆円程度まで減額し、同年 4 月以降は当該買入れ額から不変と仮定する(図表 9、10 参照)9。また、今後の取扱い方針を公表している資産はその方針に沿って変動し、その他の資産は不変と仮定する。』

となっているので、これ追加の国債買入で金利の高い債券が入って来て収入がアップする、というのを見積もっている計算になっていて、日銀のバランスシートの削減をあんまり進めなくてよくて短期金利もあんまり上がらない、というデフレ均衡とまではいわないけれども、物価安定目標の達成時にそれでエエノンカイナという日銀の損益シミュレーション的には甘甘の設定になっている訳ですな、前も書きましたけど。

でまあ今日はそこを突っ込むのが目的ではないので内田さんの講演に戻りまして。

『このように収益や自己資本の試算は、前提条件次第で変わりますが、いずれにしても、中央銀行のバランスシートの状況によって、「物価の安定」が毀損されることはありません。』

って威勢よく言いきっているのですが、実際問題一番ヤバい筈の「2%に向けてあげて行こうとしている期待インフレが2%で止まらないで上振れてしまった場合」に日銀が行わないといけない施策に対してこんなに巨額のバランスシート抱えたままだとあんまりよろしくないんじゃないでしょうか、っていう話は華麗にスルーしております。

まあ自分から「いやー実はインフレがガチで高進してインフレ期待が2%を超えてどんどん上がったら日銀の財務は大変なんです」とは言いにくいというかまあ言えないってのは分かるんですけれども、だからと言って堂々とここまでいうのもどうなんでしょうかね、ってな風には思う訳でして、この点から考えても「債券市場の金利急騰がどうのこうの」とか言いながらバランスシート縮小を必要以上に慎重に行う事っていうのは、物価上昇レジームになった時に日銀としての適切な政策対応の足かせになるのでもっとバランスシート縮小を頑張らないといけないんじゃないの、ってのがまあワイの思う所ですし、大体からしてこの巨大バランスシートがあって、さっきのシミュレーションで見られたように「モデストな金利上昇シナリオ」じゃないと財務上面倒なことになるって足かせを意識してしまったために今次局面で政策調整がビハインドしているんじゃないかという風にも思ってしまうわけでございます。

でまあ以下続きですが、

『皆様にはご説明するまでもないことですが、管理通貨制度のもとで、通貨の信認は、中央銀行の保有資産によって担保されるものではなく、適切な政策運営によって「物価の安定」を図ることを通じて確保されます。また、そうした使命追求のための「政策遂行能力」に、財務状況が影響を与えることもありません。』

本当に影響が無いのか、というとそれは微妙ですよね。でもFEDの例をもってそこは強弁しておりまして、

『一時的に赤字や(極端な場合)債務超過になったとしても、収益や資本はシニョレッジによる将来の収益で復元されますし、支払完了性のある決済手段を自ら供給できるため、支払いは常に可能です。実際に、FRBやECBを含めて多くの中央銀行が現在赤字を計上しており、その一部は債務超過になっていますが、業務や政策の運営に支障は生じていません。』

それは他の要因も複合しているので、日本のように財政運営はガバガバ、中央銀行の資産は莫大、という状態で全く同じな保証はないでしょ、という話ですが、まあさすがにそこは、

『それでも、多くの中央銀行は、自己資本など一定のバッファーを有しています。日本銀行も自己資本を有しているほか、大規模緩和の過程では、収益の上振れ分の一部を引当金として留保し、出口で損失が発生した場合に備えています。』

『本来、中央銀行の財務構造を理解していれば問題ないことであったとしても、例えば、赤字や債務超過などが発生した時に、市場が「中央銀行が財務リスクを気にして適切な政策の実施を躊躇するのではないか」といった疑念を持つようなことがあれば、政策効果の波及が阻害されます。そうした疑念を惹起させることのないよう、適切な政策運営を行うという大前提のもとで、上記の引当金など可能な手段を通じて、財務の健全性にも配慮していくことは大切です。』

ということで話を締めているのですが、まあ本来は財政運営の中長期的な持続可能性をちゃんと考慮した運営をしろって話がそこに思いっきり加わるんですよね。

という所で今朝はこの辺で勘弁して頂ければと存じます。現世利益とあんまり関係ない雑談ばっかですいませんでした。








2025/06/11

〇こんなので為替が反応するもんなのか(「2%までまだ少し距離がある」)・・・・・(呆)

昨日はこんなのがありましたな
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-06-10/SXF8E7T0G1KW00
植田日銀総裁、基調的物価は「まだ2%に少し距離がある」−円下落
伊藤純夫
2025年6月10日 10:56 JST 更新日時 2025年6月10日 12:01 JST

→基調的物価が2%に近づけば、引き続き利上げで金融緩和度合い調整
→0.5%の政策金利水準、利下げで経済刺激の余地は非常に限られている

『日本銀行の植田和男総裁は10日、金融政策運営で重視している基調的な物価上昇率は物価目標の2%まで少し距離があるとの認識を示した。参院財政金融委員会で答弁した。総裁発言を受けて円は下落した。』(上記URL先より、以下同様)

ということで、

『植田総裁の発言後、円はドルに対し一時1ドル=145円29銭に下落。発言前は144円50銭前後で推移していた。株式市場では日経平均株価が上げ幅を拡大し、上昇率は一時1%を超えた。』

ってことになっているのですが、そもそも論として先日の内外情勢における植田総裁の講演の資料を見ますと、
 
https://www.boj.or.jp/about/press/koen_2025/data/ko250603a2.pdf
最近の経済・物価情勢と金融政策運営
(図表編です)

図表7『基調的な物価上昇率に関連する指標』を見れば分かりますけど、実はその右下にありますように、マクロ経済モデル回して計算(という一番まともっぽいことを)したらどの指標も「2%に向けて威勢よく接近中」なのでして、植田さんの説明上重視していることになっている(家計のインフレ期待の推計値がどう考えても下方バイアスの掛かる方法を使った)合成予想物価上昇率だって目盛みたら24年で1.5%近辺、25年で1.7%近辺と上がっている訳でして、モメンタムからいったらこんなの2%到達待ったなしだし、元々がこれ計算上下方バイアスが掛かりやすい(予測力を重視しして算出しているんですがそのサンプルがゼロインフレの期間を大きく使っているから)な訳ですよ。

とは言え、足元に関してはトランプ関税とかいう攪乱要因があるから、このモメンタムが止まるかもしれないってんでまあハトハトチキンになっているのはまあ分からんでもないですが(と言ってるけど物価には慣性があって足元の動きは「上に抜ける」方の慣性が掛かっているから逆に止まらんリスクの方が高いと思うのですけど)、これ普通にグラフをみたらこの先基調物価とされるものが2の水準を涼しい顔して上にぶち抜けるリスクの方が高いじゃろ、という図でもあるんですよね。

なのにまあ「少し距離がある」とか言ってるのは、単純に6月7月の時点で利上げをする予定は無い、という「やりたい政策」が先にあって、政策アクション(今回の場合は動かない方のアクションですけど)を正当化するための「お気持ち表明」を「基調的物価は2%までにまだ少し距離がある」と言ってるだけの話なんですよね。というか説明の定義上、基調的物価が2%に到達している、という認識だったら政策調整をゆっくり実施しているどころの騒ぎではなくて、政策を中立ポジションにもっていかないといけないのですから、半年に1回とか悠長なことを言ってる場合じゃなくなるので、6月7月に利上げする気が無いのであれば、上記のような発言が出てくるのは当たり前ですし、逆に為替市場の皆さん6月7月に利上げがあるとでも思っていたのかよお前らの首の上についている物体はカボチャか何かかと小一時間問い詰めたいですな、と思いました。

じゃあ9月10月に利上げがあるか、ってことになると、これはまあ7月展望で何を言い出すか次第ではあるのですが、トランプ関税政策を受けた企業や家計の行動変化(下方屈曲)が起きるかどうかってのを茲許はずっと気にしているような説明になっていますので、そうなると企業の賃金設定行動、すなわち冬季賞与動向と来年の賃金改定に向けたスタンスのアネクドータルなデータが出てくる年末年始、って考えるのが一番妥当なような気がしますが、何せこの人たち「やりたい政策」先にありきで情勢判断を後付けで説明する、というのを全然隠そうとしない(普通は隠そうとして過去との説明の整合性を取ろうとするのですが、黒田時代の末期あたりになってからはもはや過去との整合性を全然気にしなくなっているのは展望レポ^−トハイライトというポンチ絵の推移を見れば一番わかりやすいと思います)ので、つまりは「やりたい政策」が「やっぱり政策金利引き上げないと」って事になるトリガーが先に出てきたら年末年始の限りではない、ってことになるんじゃないですかね、個人の感想ですではありますけど。

てな読み筋って別にアタクシがドヤ顔(の積りではないですが)で言うまでも無くごく普通の読み筋だと思うので、「まだ距離がある」云々は「6月7月(まあ少なくとも6月)に利上げする予定は今のところありません」以外の意味合いは無いので、それすなわちなんら新しい情報でもなくて市場は先刻織り込み済みなんですけど、何でそんなのに為替市場が反応しているんだこれだからAI相場は困るわ、と思いました(個人の偏見です)。


〇引き続き内田副総裁の講演をネチネチと鑑賞するの巻

https://www.boj.or.jp/about/press/koen_2025/data/ko250607a1.pdf
業務からみた日本銀行
── 日本金融学会2005年度春季大会における講演 ──
日本銀行副総裁 内田 眞一

・「業務」を言い訳にするのはちょっと卑怯じゃないですかねえ

昨日ネタにした「オーバーシュート型コミットメント」の説明部分ですが、昨日はこのコミットメントが「このコミットメントは強いものではありません」とかコミットメントを導入した時に黒田総裁が「強力なコミットメント」と説明しまくって居たものを当時の企画担当理事の内田さんが積極的に否定してくる、という飛んでも無い部分をご紹介しましたが、この説明って小見出しの通りでもう一つ飛んでも無いツッコミ部分があるんですよ。

ということで重複になりますがオーバーシュート型コミットメントの説明の頭のところからもう一度見てみましょう。

『バランスシートの大きさを明示的に使ったコミュニケーションとしては、日本銀行は、 2016年9月にイールドカーブ・コントロールを導入した際に、「消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで」マネタリーベースの拡大方針を続ける、というコミットメント(オーバーシュート型コミットメント)を行いました。』

でもって昨日は、

『先ほど述べた通り、短期金利の操作とバランスシートの大きさは切り離し可能なものなので、このコミットメントは強いものではありません。』

という導入時の説明を思いっきり「あれは嘘です」って言ってしまっているという飛んでも無い部分があったわけですが、

『より直接的なコミットメントとして、例えば、「消費者物価が2%を安定的に超えるまで」長短の金利目標の水準(短期は−0.1 %、 年金利はゼロ%程度)を続ける、と約束することも論理的にはありえました。ただ、これではフォワードガイダンスとして強すぎ、将来の柔軟性を犠牲にする恐れがありましたので、バランスシートの大きさに紐づけたということです。』

しかしながら「金利と分離して運営が可能」だったらバランスシートの大きさに意味は無い、という話になるのでして、だったらそもそもこのオーバーシュート型コミットメントが虚偽説明だったという話になるわけですが、バランスシート拡大した後遺症で今面倒なことになっている(そもそもバランスシートこんなに拡大しなかったら長期金利の急騰(財政配慮を含めて)にビビることなくもっと早くに利上げ出来てたんじゃないのとかまあ色々とツッコミは有るわけですよ)ので、足元の内田さんの説明もかなりインチキ臭いんですけどね。

『一般的に「バランスシートの拡大を続けながら、利上げをする」というのはイメージしにくいので、「緩和を続ける」というスタンスは伝わる一方で、オペレーション的には(業務面から考えれば)、バランスシート縮小(QT )の前に利上げを始めることは可能で、その余地を残したものです。』

というこの部分、ここまでは昨日も引用しましたな。ちなみに海外中銀は「バランスシートの縮小を続けながら利下げを実施」しているのですから、まあこの説明は明らかに「ワシらはお前らの誤解を利用してペテンを打ちましたもんね」って言ってるのに等しいんですけど、まあそれは兎も角としてこの続きがあって以下引用しますと・・・・・

『この辺りの事情は、フォワードガイダンスという「自分を縛って効果を得る政策」の微妙なバランスを示しています。』

とまあドヤ顔(かどうか知らんが)の説明が始まるのですが

『効果と自由度のバランスを取るために、明示的に例外条項(escape clause )を入れておくという例もありますが、「業務」の要素を絡めて対応余地を残すという方法もあるということです。』

いやいやいや、それを「業務の要素」っていうのインチキじゃろという話だし、大体からして業務的にバランスシートは金利と分離できるんだたら、QQEとか言ってバランスシートを拡大したこと自体が初手からインチキでしたって言ってるのと同じになってしまう訳で、この説明は何ぼ何でも無理筋じゃろ、と言わざるを得ません。さらにですね、


・オーバーシュート型コミットメントは初手からイカサマ目くらましでしたとネタバラシとはこれは酷いwwwww

『日本銀行を含めて各国の中央銀行は、当然こうしたことを分かったうえで、』

>当然こうしたことを分かったうえで、
>当然こうしたことを分かったうえで、
>当然こうしたことを分かったうえで、

これは額装して決定会合のお部屋の総裁の席の後ろ辺りにでも飾っておきたい言葉ですなあという感じでして、他の国の中銀からしたらイカサマペテン説明の片棒担ぎみたいに言われるのは心外にも程があるでしょうし、そういうインチキ説明を最も嫌っていたであろうと思われる白川さんやダブル山口さん(過去の2名の「山口副総裁」です為念)などがこの額装を見たら飛びあがって額縁を叩き壊すレベルかとは存じますが、何とですね、

「オーバーシュート型コミットメントが強力なコミットメントだと言ってたのはぜーんぶ嘘ですテヘペロ」

ってオーバーシュート型コミットメントが用済みになった時点で言いだす、というお話でして、まあ何となく今の日銀が屁理屈(「コアコア物価」から始まり2%達成に向けた政策反応関数をホイホイと使い分けて涼しい顔をしている件ね)を捏ね回すバックグラウンドがこういうことなんでしょうな、というのが垣間見れるんじゃないかと思うのよね。でまあしかもそのイカサマに関して(話が分かりにくくなるといかんと思うので重複引用しますが)

『日本銀行を含めて各国の中央銀行は、当然こうしたことを分かったうえで、バランスシートと政策金利の運営、そしてそのシークエンスを考え、コミットメントを実施してきました。こうした意味でも、中央銀行にとって「政策」と「業務」は不可分のものです。』

って業務の話にして誤魔化していますけど、当時のオーバーシュート型コミットメントはその場しのぎの目くらましで、強力なコミットメントとか言ってたのは全部その場しのぎの説明でした、ってのを思いっきり表明してしまう、っていうのは将来コミットメント政策がまた必要になった場合にお前どうするんだよ、と思ってしまいますね。

・・・・・とは言いましても、まあ市場というのもアタクシのような粘着質の変な奴というのは基本的に珍獣の方に多分寄っているのでありまして(そのくらいの自覚はアタクシだってありますわよおほほほほ)、普通は(というか最近は、というべきか)昔の理屈との整合性がどうのこうのとか、展望レポートハイライトを半年以上遡って前回の絵との整合性とか言う人もあんまりいませんので、まあこのような割と衝撃的な「昔のあのコミットメント、当時は強力なコミットメントと言ってたけどアレはその場しのぎの方便で実は強力じゃありませんでした」って説明だって全然金融メディアの話題にならない(ので珍獣がネタにするわけですがw)まあこう言い切ってもセーフ、と高を括っているんじゃないかなあ、とは思いました。てか「金融学会」なんだからこの部分に対してツッコミを誰か入れたのかという方が気になるけど、どうせ金融学会とか言ったって使えねえ馬鹿学者(学者馬鹿ではありません為念)の集まりでしょうから(個人の偏見です)誰もツッコミ入れないんでしょうけどね(入れられるような骨のある学会だったらこんなツッコミどころ満載の説明はせんじゃろうよwwwwwwwwww)。

ということで、この辺の説明は随分と舐め腐った説明しやがって、てなお話ですが、この次に日銀のバランスシートというか今後の収益の問題、というのが出てくるので、本当は今朝はそっちをメインにする積りだったのですが、ついつい昨日の続きのオマケ部分の予定だったところで興奮してw手が踊ってしまいましてこの先を成敗する時間が中途半端になってしまいましたのでまあ先の話はまたいずれ。


・バランスシートの今後に関する問題点は「収益シミュレーションの前提にガチのリスクシナリオが描けないこと」

というのだけ書いておきますが、これは昨年末に企画局が出したバランスシートがどうしたこうしたのペーパーの時に突っ込みましたが、日銀の巨大なバランスシートが問題になり得るのは何のことはないですけど「インフレがオーバーシュートした時に、巨大なバランスシートのストック効果による緩和効果が邪魔をしてインフレのオーバーシュートを止めるのが困難になるケース」でして、その場合ってストック効果を相殺するために強力な利上げを実施しないと行けなくなるので、バランスシートの損益的には期間損益が真っ赤っ赤になるのですが、それが容認できるのか(いくら「時間を掛ければシニョリッジで回収できる」と言っても程度問題があるし、そもそも引き締めた傍から超過準備付利の形で盛大に利払いをするのも財政支出の一種のような気がするんだがその効果ってどうなのよというお話だって超過準備の規模が巨大だと何か悪さをしそうな気がしますし・・・)という話が有るわけですがなというお話。

でもってさらに強力な引き締めをするためにはこのストック効果が邪魔、となった場合に国債売却をすれば良いのですが、その場合は当然ながら過去に買った国債は損失が出る訳で、まあその損失は時間を掛ければシニョリッジで回収できるとは言いましても以下同文な訳でして、まあバランスシートを巨大なままたいして減らせない、という状況はインフレが落ち着いて低位にいるなら問題はたいしたことは(たぶん)無いのですけれども、上振れするような時には甚だよろしくないのでして、その辺の話は確かに正面切って書きにくいというのは分かるのですが、だからと言って大丈夫ですヘヘーンと強弁するのも「全電源喪失はあり得ません(キリッ)」を思い出してしまうのでどうなのよ、とおもいます、ってな話をしようと思っておりました次第です(他にもネタはあるけど)ので一応書いておきます。

ということで今朝はここで勘弁してちょということで。






2025/06/10

〇色々と面白い論点が転がっているので昨日の続きで内田さんの講演をば

まだHTMLバージョンが出ていないので時々数字が認識できない問題がありますがPDFから引用して参ります。

https://www.boj.or.jp/about/press/koen_2025/data/ko250607a1.pdf
業務からみた日本銀行
── 日本金融学会 2025年度春季大会における講演 ──
日本銀行副総裁 内田 眞一

(ちなみにこの2025も文字列認識しませんw)

本文15ページ(PDFの16枚目)の『7.非伝統的な金融政策と中央銀行のバランスシート』ってコーナーから参ります。

・非伝統的な政策の話をするときにいきなりマネープリンティングしないで頂きたいんだが

最初の小見出しが『(非伝統的な金融政策の効果:資産サイドと負債サイド)』というお話。でもってその冒頭が、

『後半パートの2つめのテーマは、非伝統的な金融政策とバランスシートです。「非伝統的な金融政策」はその名の通り、伝統的な業務運営を超えて、中央銀行業務を拡張することで、金融政策の効果を追求するものです。これはしばしば「バランスシート政策」と呼ばれます。』

ほうほう。

『中央銀行が、「支払完了性のある決済手段」を負債として供給することは、その裏側で、資産を持つことを意味しています。理論的には支払完了性がある負債はいくらでも提供できるので、「どんな資産を、どれだけ持つか」が政策のパラメターになりうるのです。』

支払い完了性(ファイナリティ)のある決済手段云々はこのコーナーの前の方で決済に関する話をしておりまして、でまあ決済の中で中央銀行の負債(銀行券または中央銀行当座預金)は決済の最後の尻が完了できるものなのでファイナリティがどうのこうのという説明でして、その辺興味のある方は読んで味噌という話ではあるのですが、どさくさに紛れて内田さんそれはちょっと読まれ方によっては大変な暴言なんですけど、というのがこれ。

>理論的には支払完了性がある負債はいくらでも提供できるので
>理論的には支払完了性がある負債はいくらでも提供できるので
>理論的には支払完了性がある負債はいくらでも提供できるので

おいこらちょっと待て、それは「マネープリンディング」っていうんじゃないかってな話で、支払完了性がある負債をいくらでも発行して、それで政府の債務をいくらでも引き受ければ紛うことなき財政ファイナンスな訳ですよ。

でもってですよ、昨日ネタにしましたけれども、本文8ページにあった中央銀行当座預金付利に関する説明の中で、

『このことは、その後、技術的な金利操作の手段という意味合いを超えて大きなインプリケーションを持つようになりました。ひとつは、金利操作と切り離して、バランスシートの大きさを決められるようになった結果、資産サイドを使った政策を大規模に行うことが可能になったことです。』(本文8pより)

って言ってるんだから、この「負債はいくらでも提供できる」と合わせて考えたら、中央銀行は財政ファイナンスを何ぼでもできまっせ、という説明しているのと変わらんじゃろ何ちゅう危険な説明をしてるんじゃと小一時間問い詰めたいわけですけど、この次の部分も論点になりうる話でして、


・バランスシート政策があるのであれば「短期金利とは別」という説明はどうなのかよと思いますけどね

>「どんな資産を、どれだけ持つか」が政策のパラメター
>「どんな資産を、どれだけ持つか」が政策のパラメター
>「どんな資産を、どれだけ持つか」が政策のパラメター

さっきの8pの説明の通りで「金利政策と切り離してバランスシート政策を行うことが可能になりました」って言って、この部分で「「どんな資産を、どれだけ持つか」が政策のパラメター」と言ってるんだったら、日銀の保有する長期国債残高に関しては立派(?)な「政策」でありますので、「金融政策運営は短期金利コントロールで行うので長期国債買入に関しては政策意図云々ということではない」という説明とお前話が違うじゃろ、という話でもあります。

短期市場に対しては当預付利を使って超過準備を不胎化することができるからバランスシートは別物、と言ってもバランスシートの資産サイドで持っているものが政策中立なのか、というとそうではない、って自分で言ってしまっているので、つまりは「付利をして短期金利をコントロールしているので無問題」という理屈は短期市場だけ見て説明しているイカサマ説明じゃろってなもんで、いやだからそういう所の説明が「部分部分では筋の通ったことを言ってるけど全体で見た整合性と、過去の説明との整合性がないじゃろお前ら」ってツッコミを入れてしまう要因なんだよな、と思いました。


・どさくさに紛れてマネタリーベース直線一気理論が完全に無視されているのはワロタ

『図表10 をご覧ください。現在の日本銀行のバランスシートです。非伝統的金融政策として長期国債を買った場合、資産サイドで長期国債が増加し、負債サイドでは、相手方の金融機関の当座預金が増えます。その政策効果は、資産サイドで国債を買入れることによって、市中から金利リスクを吸収し、タームプレミアムを押し下げる効果(いわゆる「ストック効果」)が中心であると分析されています。』

からの、

『一方、負債サイドの当座預金残高やマネタリーベース、あるいはバランスシートの大きさには、資産サイドのような直接的な効果があるわけではありませんが、一定のアナウンスメント効果は持つ可能性があります。』

wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

しつこいので久々にこれでも
https://www.boj.or.jp/about/press/kaiken_2015/kk1502a.pdf
岩田副総裁記者会見要 旨
―― 2015年2月4日(水)
午後2時から約35分
於 仙台市

『(問) 副総裁は就任前の 2013 年 3 月 4 日の講演で、「日銀当座預金が10%増えると予想インフレ率が 0.44%上昇する」ということをおっしゃったという報道がありますが、これが事実かどうかをお伺いします。また、実際に日銀当座預金残高の推移をみますと、講演をされた 2 年前の水準が44 兆円で、足許の水準が 185 兆円、これは 10%どころか 4 倍以上に達しています。それにもかかわらず、予想インフレ率を表す一つの指標であるBEIは足許で1%を切っている水準です。これは、もともとのご発言自体が誤っていたのかどうか、それとも今でも同じようにお考えなのでしょうか。』(この部分だけ直上URL先2015年2月岩田規久男副総裁(当時)の会見要旨4pより)

・・・・いやはやなんともw

・バランスシートの効果の説明が粒粒では言ってることそうかもしれんが全体の整合性がおかしい

では講演本編に戻りまして、

『大きなバランスシートを急激には縮小できないことは、市場もわかっているので、「しばらく緩和を続ける」というメッセージになりえるということです。』

ということではあるのですが、インフレが急速に進むような場合はバランスシートによる緩和効果が逆に足かせになるわけで、ストック効果の緩和効果がどうのこうのと主張すればするほど、バランスシートが大きいならば、そのストック効果の緩和効果を加味して政策金利水準の設定が必要になるはずなんですが、そういう説明を一切しないで今の政策運営をしているのは如何なものかって話になるんですよね。

『2000年代のはじめ頃、為替市場などで、中央銀行のバランスシートの大きさの比較が材料になったことがありました。この点、リニアな関係を導くことは無理ですが、「緩和スタンスのproxy 」として、緩い関係を見出すことは不可能ではなく、あとはケインズの美人投票的に機能したということでしょう。』

「この点、リニアな関係を導くことは無理ですが、「緩和スタンスのproxy 」として、緩い関係を見出すことは不可能ではなく、あとはケインズの美人投票的に機能したということでしょう」って言っているのですが、さっきうっちーさん「「どんな資産を、どれだけ持つか」が政策のパラメター」って言ってたんだから、バランスシートの大きさ(とその構成)の比較は政策のパラメターなんだからリニアかどうかは兎も角としてその理屈なら意味あるじゃろという話なのですが、なぜかここの説明ではバランスシート規模はあくまでも「緩和スタンスの代理変数」程度であり、「スタンスの表明」にすぎないような説明をしている訳でして、いやだからそこさっきとの話の整合性どうなっているのよ、というお話。

まあ非伝統的緩和政策自体が結局何だったのかというのはまだ評価が固まっている訳でもないのでクリアカットな説明ができない、というのはその通りなんですが、だからといって「粒粒での説明はいいんだが全体として結局なんだったのかという説明が無いどころか話の整合性が無いんじゃが」というのも如何なものかと思います。

・オーバーシュート型コミットメントが強いものではなかったとはこれはまた酷い

でもってこの次ですが、これがまたドイヒーでして、

『バランスシートの大きさを明示的に使ったコミュニケーションとしては、日本銀行は、 2016年9月にイールドカーブ・コントロールを導入した際に、「消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで」マネタリーベースの拡大方針を続ける、というコミットメント(オーバーシュート型コミットメント)を行いました。先ほど述べた通り、短期金利の操作とバランスシートの大きさは切り離し可能なものなので、このコミットメントは強いものではありません。』

>このコミットメントは強いものではありません
>このコミットメントは強いものではありません
>このコミットメントは強いものではありません
>このコミットメントは強いものではありません
>このコミットメントは強いものではありません

・・・・・( ゚д゚)
・・・・・(つд⊂)ゴシゴシ
・・・・・(;゚д゚)

さてここで2016年9月の総裁定例記者会見の冒頭発言、オープニングリマークに相当する政策説明の部分を途中から見てみましょう。

https://www.boj.or.jp/about/press/kaiken_2016/kk1609b.pdf
総 裁 記 者 会 見 要 旨
―― 2016年9月21日(水)
午後3時半から約70分

本文2ページの後半以降になります。

『次に、「オーバーシュート型コミットメント」について説明します。』

『日本銀行は、生鮮食品を除く消費者物価指数の前年比上昇率の実績値が安定的に 2%を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続するという新しいコミットメントを導入しました。』

『2%の「物価安定の目標」を実現するためには、人々のデフレマインドを抜本的に転換し、予想物価上昇率を引き上げる必要があります。この点、「総括的な検証」でも示したように、わが国における予想物価上昇率の形成は依然としてかなりの程度「適合的」であり、足許の物価上昇率に強く引きずられる傾向があります。』

『こうしたことを踏まえ、予想物価上昇率をさらに引き上げていくためには、金融緩和の継続に関する極めて強力なコミットメントを導入することによって、「物価安定の目標」の実現に向けた日本銀行の揺るぎない姿勢を改めて示すことが必要であると判断しました。』

『もともと 2%の目標を実現するということは、景気変動などを均して平均的に 2%を実現するということですから、2%をオーバーシュートする局面は想定されています。しかし、金融政策には効果が現れるまでにラグがあることを踏まえると、実際に 2%を超えるまで金融緩和を続ける、というのは極めて強いコミットメントです。』(以上この部分2016年9月21日黒田総裁(当時)の定例記者会見要旨より)

・・・・・・・・・・・(゚д゚)

ちなみに「実はもっと強力なコミットメントがありましたてへぺろ」という説明が以下続きまして、

『より直接的なコミットメントとして、例えば、「消費者物価が2%を安定的に超えるまで」長短の金利目標の水準(短期は−0.1 %、10 年金利はゼロ%程度)を続ける、と約束することも論理的にはありえました。』

『ただ、これではフォワードガイダンスとして強すぎ、将来の柔軟性を犠牲にする恐れがありましたので、バランスシートの大きさに紐づけたということです。』

だそうですが、

『一般的に「バランスシートの拡大を続けながら、利上げをする」というのはイメージしにくいので、「緩和を続ける」というスタンスは伝わる一方で、オペレーション的には(業務面から考えれば)、バランスシート縮小( QT)の前に利上げを始めることは可能で、その余地を残したものです。』

って説明をしているんですが、最初の方で話をしている通り「バランスシートは金利と別」って言ってるわけでして、「一般的に「バランスシートの拡大を続けながら、利上げをする」というのはイメージしにくいので」ってのがそもそもペテンじゃろという話だし、じゃあお前2016年のオーバーシュート型コミットメントの説明はペテンだったのかという話になって、まあ色々とダメな説明になっていませんかねえ、という所で誠に遺憾ながら時間が無くなってしまったので今朝はここで勘弁していただきとう存じます。




2025/06/09

〇内田副総裁の金融学会での講演がなんかいろんな論点の展覧会みたいになって面白い件

https://www.boj.or.jp/about/press/koen_2025/data/ko250607a1.pdf
業務からみた日本銀行
── 日本金融学会2025年度春季大会における講演 ──
日本銀行副総裁 内田 眞一

この講演、いろんな論点の展覧会みたいになっていまして、この前の金研コンファランスで本来学術的なお話をする場所なのに政策運営のために屁理屈捏ね捏ね講演をしていた植田さんの講演とはだいぶ格調が違っている、という感じでして、いや植田さんがこの話をしろよとは思いましたけれども・・・・・・・・・・・

マクラの部分ですが『1.はじめに』から引用しますね。

『図表1をご覧ください。普段、メディアで目にする「日本銀行」は、金融政策の担い手としてのものが中心です。昨年度の報道件数のうち、3分の2は「金融政策関連」でした。それ以外では、例えば昨年7月に 年振りの改刷があり、その前後では「銀行券関連」の記事で盛り上がりました。』

『実際、多くの方々にとって、人生で最初に「日本銀行」に接したのは「日本銀行券」であったのではないかと思います。そして、中学の社会科では、日本銀行は、「発券銀行」「銀行の銀行」「政府の銀行」である、と教えられ、高校にかけて、「金融政策」や「物価の安定」、あるいは「最後の貸し手」や「金融システムの安定」について学んでいきます。』

金融システムの安定とか高校の政経でやったっけとは思いますがまあ気にせず先に進めまして、

『私自身、支店長をしていた頃は、中学校の体育館で、「お金とは何か」の出前授業をしたりしました 。』

(^^)。

『ただ、これらのキーワードを有機的に結ぶこと、例えば、「なぜ、中央銀行はお札を発行して、金利を上げたり下げたりし、インフレやデフレに責任を持つのか」まとめて整合的に説明することは、大人にとっても意外に難しいことです。』

はい。

『中央銀行の政策と業務は一体不可分のものです。通常それは「政策を実現するための手段としての業務」という順番に語られます。今日の私の試みは、逆の順番、つまり「業務」を出発点にして、「政策」につなげていこうというものです。』

ふむふむ。

『私は、昔からこうした視点を大切なものだと思ってきました。実は、私自身が関わったものを含めて、同じような試みは、過去にもいくつかあるのです(ここの数字がコピペ不能)が、時折こうしたことを繰り返していかないと忘れられがちなテーマですので、今日のこの場をお借りしたいと思った次第です。』

ここ(コピぺ不能部分には本当は2という数字がある)に実は脚注2というのがあるのですが、今回のこの講演テキストのPDFバージョン、割と致命的に残念なことがありまして、一部の数字(見出しとか脚注は良いんですが本文の数字だったり表題の数字だったり)がテキストデータになっていない、という謎の状態になっていまして、コピペしようとすると数字の部分だけ認識しないのですが、脚注2は、

『2 例えば、速水優『私の中央銀行論』(2001 年 4 月一橋大学創立 125 周年記念講演会における講演)、日本銀行金融研究所編『新しい日本銀行 その機能と業務』(有斐閣)、白川方明『「法と経済」からみた中央銀行』(2009 年 10 月東京大学法学部における講義)。』(ちなみにここの数字はちゃんと認識される)

となっていますように、実は重要なお話だと思いますし、それこそ短期のオペレーション関連に関する実務の現場から叩き上げております所のアタクシからしても、基本的に金融実務から見ていくってのは大事じゃろ、ということで以下のテーマが多岐にわたって、結構面白いのが幾つかあるので1回で終わらないネタではあるのですが、まあ一応今の政策的にポイントになる日銀のバランスシート政策に絡む部分を今日は拝見しようかと存じます。


・金融政策目的の国債買入は財政ファイナンスではないし財政ファイナンスでないと言い張れば良いだけではない

という訳で『3.政府の銀行』の後半の『(中央銀行と政府の取引)』に話は飛びます。

『日本銀行は、国庫金の管理に付随して、政府の資金繰りの実務も担っています。収入と支出のタイミングのずれによって、政府預金の残高は上下しますが、短期的な資金の不足は、国庫短期証券の発行によって賄います。これは公募入札で金融機関等に売却されますが、例外的に、募集残額が生じたり、国庫に予期せざる資金需要が生じた場合には、日本銀行が引き受けることができます。その場合には、次回以降の公募入札の代金で償還を受けることになっています。』

おーーーーーー。これは久々に聞く説明です。

『また、日本銀行が金融市場調節など自らの必要のために買った国債の償還期限が到来した場合、国庫短期証券で借り換えることができるようになっています。これは、「乗換引受」と呼ばれ、日本銀行側では政策委員会が金融市場調節上支障がないことを確認して議決する必要があるほか、政府側では財政法第5条の例外として国会の議決が必要になります。』

かつて償還乗換は10年国債で行われていましたが1年短国になった話とかそらもう老害なので色々とw

『以上細かい説明になりましたが、これらの業務は、政府に対する信用供与にあたり、政府と中央銀行の関係を考えるうえで重要な論点を含んでいます。このため、日本銀行では、「対政府取引に関する基本要領」を定め、基準や手続きを明確にしています。』

当然ですな、財政マネタイズするのは要するにマネープリンティングなんですから。

『また、こうした「政府の銀行」としての業務とは別に、金融政策目的での国債の買入れがあります。』

はい。

『現在の日本銀行のバランスシートの資産サイドで最大の項目は、「国債」です。これは、2013 年からの大規模な金融緩和において、2%の物価安定の目標を実現するため、金融政策の必要性から買い入れ、保有しているものです。政府による財政資金の調達を支援するためのものではありません。』

ちなみに本文中2013のところが認識されなかった(半角数字が認識されないのかな?)のですがそれはさておきまして、この「政府による財政資金の調達を支援するためのものではありません」につきましてこの直後に内田さんは、

『ただし、この問題は、中央銀行が「金融政策目的であって財政ファイナンスではない」と言うだけで完結するとは思っていません。』

とまあ実に当然ではあるのですが大変に素晴らしい事を仰せな訳でして、ともすればこの論点を逸脱した議論が特に今般では日銀の長期国債買入運営に関する議論の中で堂々と展開する馬鹿民間がいる訳でして、まあその悪態は次のコーナーで行いますけれども。

でもってじゃあどうしたらいいのか、ですけれども・・・・・・・

『出口を含めた緩和政策の全プロセスにおいて、経済・物価との関係で適切な金融政策を行い、これを財政状況への配慮によって曲げることはない、という「結果」が必要です。その意味で、今後の日本銀行の政策運営をもって、示していくべきことと考えています。』

おおおおおおおお!!!!!!!!!何と立派な決意表明でしょう!!!!と思う訳でして、これはすんばらしい、とは思う訳です。

・・・・ええまあ思うんですけどね、その割にはアクチュアルの物価が2%を延々と上回っているのに、今の物価高はコストプッシュなのでいずれ下がると言い続けて「基調的物価」とかいうお気持ち物価を持ち出して大緩和政策を延々と継続している、という実態があるんですがそっちとの整合性はどうなっているんですかってなもんですし、今行っている長期国債買入の縮減だって金利急上昇したらいかんとか言ってるけど、それって財政状況への配慮が入っていませんでしたっけというツッコミをしたくなるわけで、まあ内田副総裁のこの講演自体言ってることは大変に立派なのですが実際の行動がこの格調高いお話に見合っているのか、というのは謎ですわな、と思いましたが如何でございましょうか。


・これは極めて微妙な論点を踏みに行っていてどうなのかと思う

この先に『4.銀行の銀行』ってのがあって、その後半のところに『(当座預金への付利とそのインプリケーション)』という話をしているのですが、ここでの説明は結構際どい地雷を踏んでいると思ったのでネタにしますと、

『しかし、現在では多くの中央銀行が、バランスシートの大きさと短期金利の操作を切り離しています。当座預金に金利を付すという金利操作の方法が導入されたためです。』

とのことですが、

『日本銀行も、 年に「補完当座預金制度」を導入し、超過準備(当座預金のうち準備預金制度に基づく所要準備を超える部分)に対する付利ができるようにしました(当初は臨時措置として導入されましたが、その後恒久化されました)。』

『金融機関は余った資金を日本銀行の当座預金に置くか、市場に放出するかの選択がありますので、裁定行動により市場の金利は日本銀行が付利している水準に近い水準に誘導されます。現在でいえば付利金利は0.5%、市場における短期金利は、0.48 %程度です。』

でまあそりゃそれで良いんですけど、この次の説明が結構な地雷でして、

『このことは、その後、技術的な金利操作の手段という意味合いを超えて、大きなインプリケーションを持つようになりました。』

でもってですね、

『ひとつは、金利操作と切り離して、バランスシートの大きさを決められるようになった結果、資産サイドを使った政策を大規模に行うことが可能になったことです。』

って言ってるんですが、それはそもそも「可能になった」というのは如何なものかという話でもありまして、すなわち日本銀行がバランスシートに資産を能動的に積み上げること、というのは見合いの日銀当座預金を積み上げることでありますので、積み上げる資産が民間資産であれば、日本銀行が民間に信用供与ができることになり、それは中央銀行による財政政策に他ならないし、積み上げる資産が国債であれば、それは財政ファイナンスになりませんか、ってお話になるわけですよ。

中央銀行による財政政策類似政策、というのが民主主義国家における財政運営においてやって良い物なのかどうか、という議論もそうですし、財政ファイナンスに関しては講演のその前の部分で内田副総裁自らケシカランと言っている訳なのですから、ここでいきなり「金利操作と切り離して、バランスシートの大きさを決められるようになった結果、資産サイドを使った政策を大規模に行うことが可能になったことです。」って言ってるのは中央銀行の原理原則から言ってヤバイ話ですよね、としか言いようが無いですよね。

続きを拝読しましょう。

『非伝統的金融政策の中心手段のひとつは、いわゆる「量的緩和」すなわち、国債の買入れによって長期金利を押し下げることですが、これを実行するのには、バランスシートの大きさとは無関係に短期金利をコントロールできることが前提になります。この点、量的緩和を実行している間は、割り切ってしまえば、金利をコントロールできなくても、ゼロ金利でもよいと考えることもできなくはありません。』

という事で実はこの講演最後のところに非伝統的金融政策の話があるのですが、今日はそこまでいく時間が無いのでこのコーナーまでで続きは明日以降って感じなのですが、こういう説明からの、

『しかし、量的緩和からの出口プロセスに時間がかかることはあらかじめわかっているので、その時に、大きなバランスシートを抱えながら、短期金利をコントロールできることが保証されていないと、こうした手段は採用できません。』

って言ってるんだが、出口プロセスの間に時間がかかる、だけではなくて、現状では長期国債の買入がどこからどう見ても財政ファイナンスという規模での買入を継続していて、それを中々減らせない、という状態になっている時点で、「インフレにならない」ことが前提じゃないとあの政策ができなかった、というアホウなことになっている訳ですし、まさにこの量的緩和というかYCC政策というかの副作用が徐々に顕在化してきているプロセスな訳で、そう考えますと「資産サイドを使った政策を大規模に行うことが可能になったことです。」といって大規模に行う、というのはそりゃまあ物理的には行えましたけど、物理的にできるというのとやることが適切なのかというのは別問題な訳で、当座預金付利で何ぼでもバランスシートを拡大できる、というこの説明は物理的な可能性と中央銀行としての適切な政策運営姿勢というのを意図的に混同して説明してるじゃろ、と申し上げざるを得ません。


・いわゆるアンプルリザーブシステムに関する説明はちょっと微妙

『バランスシートの大きさと短期金利の操作が切り離されたことのもうひとつの帰結は、短期金融市場の参加者と中央銀行の取引先の範囲が必ずしも一致しないことで起こる流動性の偏在への対応が可能になったことです。』

とな何ぞやという話だが、

『取引先と非取引先が混在する状況で、伝統的な短期金利操作によって、所要準備預金残高ぎりぎりの水準しか供給しないと、金融市場の多様な参加者に必要な流動性の量に足りない、ということが起こってしまいます。』

大昔の米国の場合はそもそもFF取引の金利(政策金利ではない)ってのは乱高下するもんだったし、大昔の欧州圏の場合はこの対策として資金繰り事故が起きにくいようにするために所要準備預金の水準を高めに置いて(その代わりに所要準備に付利をしたりしていた)運営したりしているので、別にこれはバランスシートでわざわざ対応しなくても制度設計や短期金融市場の設計で割と何とでもなる問題ではないか、と大昔から実務見ているワシは思うので、ここの部分はちょっと????ではあります。

『この問題は、米国FRB のように法律で当座預金取引先の範囲が基本的に預金取扱金融機関に限られている国では以前からあったのですが、近年は各国でノンバンク金融仲介機関(NFBI。保険会社、年金基金、各種ファンドなど)の存在感が拡大し、その影響が短期金融市場に及んでいます。』

って言ってるんですが、それは翌日物ファンディング市場における話とは違くねってことだし、大体からして日本の場合は中銀当座預金へのアクセスが広範に及んでいるので、民間金融機関の短期資金繰りにおいてNFBIがどうのこうのってのそんなに重要か(安定した資金供給主体、としての市場の安定性への寄与自体は大きいと言えるんじゃないか、ってのは思うけど)ってのはよくわからん。

『この状況に対応するには、中央銀行が付利を使って短期金利を操作しながら、市場に必要な量の流動性を供給できることが重要です。』

別に付利使わんでも常設預金ファシリティと常設貸出ファシリティでコリドア作りながら必要な場合には積上調節すれば問題ないと思うんですけどね。

『現在、各国の中央銀行は、バランスシートの縮小を進めていますが、その多くは、伝統的な金融調節方法に戻ることはないでしょう。市場の求める流動性に見合ったバランスシートを維持しながら、当座預金への付利によって短期金利操作を行うことになるだろうと思います。』

まあこれは多分超過準備のデザインがいわゆるアンプルリザーブになっていくだろうという流れにはなっているので仰せの通りの面はあるのですが、じゃあアンプルリザーブが常に良いのかというとそこも良くわからない面もありまして、アンプルリザーブシステムにおいては金融機関のファンディングに一種の中銀プットが入っているような状態になっている、ともいえる訳でして、ソルベンシーが本当の本当におかしくなるまで金融機関のファンディングが回ってしまうファンディング市場がある、ってのも市場参加者の規律を失わせることになるんじゃなかろうか(なので次にプルーデンス的な問題が起きるならこの市場デザインによって兆候が分からない状態で突如問題が顕在化する、みたいなルートがあり得ると思うの)とは思うのでありました。

ということで内田さん講演ネタはこの辺で、あとは関連悪態。


〇長期国債買入なんじゃが来年4月以降の計画って今から決め打ちする必要あるの???

金曜の午後はBBGですがもともとは木曜日の夕方にロイターが(先に英文で)打っててその後日本語も出ていたと思うのですが、ネット版だと日本語のニュースが拾えなかったのでしゃーなしでBBGニュースの方から参りますけど。

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-06-06/SX9VE4T0AFB400
日銀が国債買い入れ減額幅の圧縮を検討へ、来年4月以降−関係者
伊藤純夫、藤岡徹
2025年6月6日 18:43 JST 更新日時 2025年6月6日 19:54 JST

→毎四半期2000億円に半減か現状維持かが議論の中心−今月会合
→来年4月以降の国債買い入れ計画、期間は先行き1年程度に

ということなんですが、前回は初手だったのと、そもそも先行きにそんな変な不透明要素は少なかった(少なくともキチガイ大統領のキチガイムーブは無かったんですから)訳ですが、足元では不透明要素だらけで来年の3月の時点で世の中がどうなっているか分からん訳で、まあ計画継続(四半期4000減を維持)だったらまだ話は分からんでもないんですが、買入減額ペースの上げ下げをこの時点で決めるのってそりゃ何かの政策意図があるんですかって話になるじゃろという話なんだが、何でこの「2026年4月以降の買入」がこんなにネタになるのか意味が分からんし、日銀も来週の会合で2026年4月以降の買入を決め打ちで出そうとしてるならちょっと落ち着けと思う訳ですよ。

んなもん今回はどうせ中間評価なんだから、中間評価として特に問題なし、2026年3月まではこのペースを継続して、その後のことは年末か来年1月のMPMでまた話をしますが、方向性は一段の縮小ですよ、ってだけアナウンスすりゃエエヤンと思う訳ですよ。

でもなんか木曜のロイターと言い、金曜のブルームバーグと言い、何でそんな先の計画についての決め打ちが話題になるのですかねえ、とは思いますが、まあ来週の決定会合で2026年4月以降の買入縮小ペースの決め打ちが出たらお前馬鹿じゃねえのって罵倒する予定なのでよろしゅうお願いするます(原則同じペースだけど近くなってからまた考える、だったらまあ罵倒しないかもしれないけど)。

まあ記事の方は前日のロイターさんも大体同じ線で報道していて、BBGの方が後追いなのですが、兎に角ロイターさんって過去記事の検索がしにくいのよ(検索しても上手く引っかからないことが多々ある)ということですいませんが以下BBG記事から。

『日本銀行は今月の金融政策決定会合で議論する2026年4月以降の国債買い入れ計画について、現行計画で進めている減額幅の圧縮を検討する見通しだ。複数の関係者への取材で分かった。』(上記URL先より、以下同様)

圧縮を何で今から検討しなければいけないのか、ということに関しては、

『来年4月以降の1年間に毎四半期2000億−4000億円の減額を行った場合、27年1−3月の月間買い入れ額は1.3兆−2.1兆円になる計算だ。減額ペースの減速が必要との主張の背景には、日銀が買い入れ減額を続ける中、短期的な国債需給の悪化などで市場に無用な混乱が生じないよう、より慎重な対応が必要との意見がある。』

とのことなんですが、そもそも論として現在はもうYCCやっている訳ではないんですから、「短期的な国債需給の悪化などで市場に無用な混乱が生じないよう、より慎重な対応が必要」って発想が根本的に間違っている訳で、日銀の保有国債をどうしていくのか、というのは(他の中銀と同じく)、短期金融市場における超過準備をどのような規模で置くのか、というのがあって、日銀の保有国債規模がこの程度というのがそこから決まって、でもってその保有規模に合うような買入が決まる、という話であって、(しつこいけど)YCCやってるんじゃないんだから、本来的には債券市場への配慮がどうのこうのとかそういうのは気にすべき話じゃないんですよね(原理主義者ですすいません)。

てなわけで、テーパリングというほどテーパリングも進んでいないこの段階で既に債券市場への配慮がどうのこうのとか言っている時点で今の日銀の長期国債買入は財政ファイナンスに他ならないし、日銀の買入が減ったら金利が上がって財政が困るとか言うのは、その前の黒田緩和の買入が過大であって、黒田は否定してたけど黒田日銀が財政ファイナンスをしていた、というロバート・ムガベ先生も大喜びな事をしていただけ、という話だし、財政ファイナンスとかいう不適切な状況を是正するの当然だし国債金利の上昇がどうのこうのとか言うなら国債発行減らせやという話だし、減らせないとか泣き言言ってないで「日本の財政は飛んでも無い状態です」って馬鹿政治共に知らしめるしかないじゃろ、などと過激派な事しか言わないアタクシなのでした。

てかさ、先週の「30年入札こけたら超長期国債発行減額の思惑でブルフラット」とかいうふざけた事が起きている時点で債券市場への配慮とかする必要ねえだろ寧ろ変な配慮したら当局プットバンザーイってコジキ共が喜ぶだけじゃとしか申し上げようがありませんな。

などと偉そうに申し上げておりますが、まあ問題の先送りを図って結果的に問題が後の方でさらに深刻になってもその時はワシ担当じゃないもんとかいう無責任理論で問題の先送りを延々とやっているのが失われた何十年におけるジャパンの仕様だと考えれば、今回もまた忍法「どうせ問題が発生した時はワシは担当してないもん理論」が炸裂して問題の先送りみたいなしょうもない弥縫策に日銀買入も巻き込まれる、には100万ジンバブエドル位は張った方が良いのかもしれませんな。ナムナム。










2025/06/06

〇30年国債入札がクソ弱かったので減額観測までは分かるがその先の市場後講釈は草生える

市況なのでロイターさんを引用するけどBBGも同様の市況記事を書いておりましたので別にロイターさんを晒上げる意図はないことを先にお断りしますwww

https://jp.reuters.com/markets/japan/funds/5K3AGTCBORNIROR4RGIFC3UN5A-2025-06-05/
〔マーケットアイ〕金利:国債先物は反発、超長期債発行減額の思惑で買い 入札は許容範囲
ロイター編集
2025年6月5日午後 3:39 GMT+9

『[東京 5日 ロイター] - <15:25> 国債先物は反発、超長期債発行減額の思惑で買い 入札は許容範囲

国債先物中心限月6月限は、前営業日比40銭高の139円35銭と反発して取引を終えた。米金利低下に加えて、低調となった30年債入札が許容範囲内と受け止められたことや超長期債の発行減額を巡る思惑がサポート要因となった。新発10年国債利回り(長期金利)は同4.0ベーシスポイント(bp)低下の1.460%。現物市場では超長期ゾーンを中心に金利低下圧力が強まった。』(上記URL先より、以下同様)

って話なんですけど、

『この日実施された30年債入札では、2.92倍と23年12月以来の低水準となり、テール幅も前回より拡大するなど、低調な結果と受け止められた。』

まあ応札倍率に関しては少ない方ってのはそれなりに意味があるんですけど多い方ってのは足切りがどこからどう見てもこの水準、って時には足切りでの案分考えて札が多く入るみたいなこともあるのでそんなにあてにはならんのだが、

『市場関係者によると、前場で大きく買われ入札に警戒感があった中だったものの「十分こなしたという評価だ」(国内銀の運用担当)とし、入札結果をみて市場参加者が買い始めた動きが入ってきたとみる。ただ、「今入札は国内投資家ではなく、海外勢の買いに支えられた面があり、こういった需要は永続的ではない」(同)とし、超長期債の発行減額はしっかりと実施されるべきだとの声が聞かれた。』

だそうなのですが、まあ直近ではマーケットメーカーのリスク許容度が落ちていて、昔だったら入っていた「止め札」みたいなのが入らないので、明確な投資家のニーズをバックにした札がないと流れてしまうってことなんでしょうけれども、入札流れたら結局その流れたのを見て買いが入りましたでござるの巻、なのはいいんですけど、

『 現物市場では超長期ゾーンを中心に金利が大きく低下。30年債入札結果を受けて「20日の国債市場特別参加者会合(PD懇)での超長期債の発行減額幅をめぐる思惑が先行し、徐々にポジティブに受け止められたようだ」(国内証券債券セールス担当)という。』

これはさすがに草どころか森な話で、弱い入札になってもその後急反発するんだったら、それは単純に「もうちょっと金利が上がればニーズが出てくる」という事を意味するんだから寧ろ減額不要まであるじゃろ、って話で、入札コケたあとに一段安とか、全然戻らんとかなら減額への期待っていうのも分かるけど「減額の期待で相場急反発」するくらいなら何で減額する必要があるんじゃヴォケとしか言いようが無いので、まあアホな話になっとるわ、とは思いました。

いやまあさすがに今回はカレンダーベース市中消化の一部振替の形で超長期は幾分か減額になると思いますけど、このムーブ見たらそんなに必死こいて減額せんでも結局のところある程度の金利上昇を甘受すれば普通に消化できるじゃん、というのを示した格好、というのが発行する側から見たときの通常の解釈になるんじゃないですかねえ、とアタクシは思うのですけれどもどうなんでしょうかね。てかだいたいからして超長期減額したら中短期か長期かしらんけど、そっちが増発されるんだたら中短期弱くなれよ(まあ超長期の減額分のカバーを中短期でやると誤差の世界になる説はあるけど)ってなもんですけどwww

あとまあそもそも論を言い出したら、発行があまりにも少なくなると市場の流動性って回復するどころか落ちるんですから、悪い入札なんだから発行が結構減額されるぜヒャッハーとか言って買ってるの頭の悪さが結構な水準に達していると思うんですけどねwwwwwwwww

まあなんちゅうかアホアホ相場だったので備忘メモということで。







2025/06/05

〇植田総裁内外情勢調査会講演(その2):政策修正の前のめり感は一切出さずに輪番縮小に意欲ですねこりゃ

てな訳で昨日の続き。
https://www.boj.or.jp/about/press/koen_2025/data/ko250603a1.pdf

・通商政策動向の経済への下押しの説明はやたら丁寧だったが「リスク」の方は割とアバウトで温度差があります

昨日は『2.通商政策の影響と経済・物価情勢』の『(わが国経済・物価の見通し)』の後半部分の物価の見通しに関するところまでやったら時間切れになってしまいましたが(すいません)、その先が『3.通商政策を巡るリスク』ってのがあるんですよ。

まあそもそもが「通商政策の影響」ってところで詳しく下振れ要因をこれでもかと並べて説明していましたので、わざわざ通商政策を巡るリスクってのを書くのも重複感が漂うわけで、そのせいかリスクの方は微妙なつくりになっています。

『ここまで、米国の関税政策による影響を踏まえつつ、わが国の経済・物価の中心的な見通しについてみてきました。こうした見通しに対しては、常に上振れないし下振れの可能性、リスクが存在します。特に、現在のように不確実性がきわめて高い状況にあっては、従来以上にこの点を念頭に置いておく必要があります。』

ここで下振れだけではなくちゃんと「上振れ」も言っているのは(関税交渉が思いのほか順調に進展したり、突然トランプが改心してめだか師匠ムーブになるというような可能性があるんだから当たり前だけど)当然ながら結構なお話。

というのはですね、4月の展望レポートって何がクソインパクトあったかって、経済見通し引き下げでリスクバランスは下、物価見通しも引き下げでリスクバランスはそれまで上だったのが下、でもって会見での植田さんの説明もハトハトチキン、って出し方をしたから「なんじゃこの全面降伏モードは」ということになったわけですよ。単に「今回は1回パス」だけで良かったのに過剰なまでに下方バイアスを強調した情報発信になっていたからあの相場になった、という面は多々ある訳でして、でまあさすがに大本営もやべえと思ったのか主な意見では展望レポート基本的見解や会合後の会見で示されたハトハトチキンバイアスをある程度中和(中立化ではない)させてるな、と思いましたし、その後の国会などでの説明も「見通し達成への確度が高まれば利上げ」ということでコミュニケーションを立て直している感があったわけです。

でまあ今回ですが、ワタクシはやはり遺憾ながらハトハトチキンだなあ(理由は関税政策の影響の説明部分がやたら丁寧なこと)だし、緩和の調整つまり利上げの前のめり感が一切出さない(理由はお気持ち物価の説明に力点置いている、すなわち利上げしない理由の方の背景説明ばかり一生懸命やっててアクチュアルの物価は「コストプッシュです」で方吹けているから)、というコンボなのでハトハトチキン認定しましたが、ここに「通商政策のリスクは上振れ下振れあり」とちゃんと書いている、というのはジャガーチェンジができる(やるかどうかは兎も角)布石はここでも着実に打っていることが分かるわけです。

ということなので、このあたりのジャガーチェンジができるようにしている仕掛け部分を重視すれば、むしろ衣はハトだけど下の鎧はタカじゃん、とも読めますので、タカ解釈がおかしいとは今回は思わないですアタクシ。

えっと、何の話をしていたんでしたっけ(笑)リスクに関するマクラの続きです。

『例えば、本日ご説明した日本銀行の中心的な見通しについては、「各国の通商政策等に関し、今後、各国間の交渉がある程度進展すること」、また、「グローバルサプライチェーンが大きく毀損されるような破壊的な状況は回避されること」などを前提としています。』

何かこの前提がわかりにくいんですよね、関税何%とかをレンジで良いから想定出してほしいわ。

『逆に言えば、こうした前提が崩れれば、先行きの見通しは上下双方向に大きく変化する可能性があります。また、通商政策の展開そのものに加えて、それらを受けて、内外の経済主体がどのように対応するのか、という点を巡っても大きな不確実性があり、十分な留意が必要です。

こうした点を踏まえつつ、以下では、この先、特に留意すべき3つのリスクについて指摘したいと思います。』

ということなので、ちゃんと上振れすなわち利上げ路線復活の話もしている訳ですよ、でもってこれ昨日も書いた気がしますし何ならこの後にも書きますが、まあ結局6月の国債買入減額の継続決定というのが今の最重要課題で、この課題を無事にクリア(=長期金利が無駄に暴れない)するためにはそれ以外の話は「1回パス」しておく、という感じだし、ちょうど関税問題もあるし、こりゃちょうどええとばかりに関税の経済への影響ガーを丁寧に説明した、ということなんだろうなあって思います。

と申しますのは、以下の「関税のリスク」なんですけど、ここで挙げられている話って経済下押しリスクちゃあ経済下押しリスクですが、特に3点目に長々とあるように「グローバル化の巻き戻し」という話に行数を割いていまして、じゃあグローバル化の巻き戻しってそれ経済下押しなのかというと必ずしもそうとは言えず、一方で物価に関しては明らかに構造的な物価押し下げ圧力の減衰を意味しますから、ここで言ってるリスクってリスクの話をしているからまあ見え方はハトなんですけれども、だから緩和政策が必要なのかという論点で見たばあいに必ずしもそうじゃないのではなかろうか、ってお話なのかなって思いました。

『(サプライチェーンの複雑性)

第1は、近年のグローバルサプライチェーンの高度化に伴い、その複雑さも増してきたことが、関税政策の影響に関する不確実性を高めているという点です。』

と、小難しい事を言っているようですが、

『IT関連を中心に、アジアにおける生産ネットワークが複雑に絡み合っている中で、思わぬ形でボトルネックが生じ、それがサプライチェーン全体に波及すれば、わが国の輸出入や企業活動に大きな影響を及ぼすことも考えられます。こうした観点からは、日米間の交渉だけではなく、各国と米国の交渉の帰趨についても丁寧にみていく必要があります。』

要するに日米交渉だけではなくて米中とか米とアセアン諸国の動向も見ないといけませんね、ってお話でした。

でもって次ですが、

『(企業の賃金・価格設定行動)

第2は、各国の通商政策の影響を受けて、わが国企業の賃金・価格設定行動が大きく変化してしまうリスクです。』

まあこれはリスクです、ってことなんでしょうけれども、前段で「マインドへの影響から需要が下押しする影響」について説明をしていて、なんか重複感半端ないですね。

『先ほど、労働需給の引き締まった状態が続く中、企業の積極的な賃金・価格設定行動は維持されるとの見通しを申し上げました。とはいえ、実際の物価の変動が企業や家計の予想や行動様式を変化させ、これを介して、先行きの物価への影響が増幅され得る可能性があることにも注意が必要です。』

賃金設定で言えば冬季賞与と来年の賃金設定、って事になると思うのですが、そこまで見るのか見ないでもどう見ても問題ないじゃろとなるのかの判断のポイントがどこにあるのかが良くわからんので、これまた通商交渉の進展度合いによって「ああ大丈夫大丈夫」となるかもしれませんね。


・インフレ期待は本当に2%に上がる過程なのでしょうかねえ

でもってこの部分で「インフレ期待のアンカー」という話が続くのですが、

『人々の物価観が2%にアンカーされている米欧と異なり、わが国では、いまなお、緩やかな物価上昇を前提とした賃金・価格設定行動が、企業や社会に十分に定着したとは言えない状況にあります。』

という認識になっているのですが、家計に関してはホンマカイナという感じで、緩やかどころではない物価上昇に対してどうしましょって感じになっていないのかねと思いますし、最近の値上げって寧ろお間ら調子乗ってないかムーブも感じないわけでもないし、本当にインフレ期待がまだまだ低い、というのが正しいのかってもうちょっと検討した方が良いんじゃないかって思うのですよね。

もしここを読み間違えていたら割と重大なダメージになるわけでして、この部分ってそりゃまあ日銀だって必死こいて実態について考えているとは思うのですが、緩和政策継続の方に思考が引っ張られていたりしたら後年戦犯扱いになりますよ本当に大事ですからあんまり過去に引っ張られないで、とは申し上げたいところです。


・結局は主要製造業大手企業の冬から春に向けての賃金設定で判断しそうですね

『そうした中にあって、関税政策の影響により、輸出企業やグローバル企業の収益に下押し圧力がかかる場合、それが自社の賃金抑制圧力や、サプライチェーンを通じたコスト削減圧力につながることがないか、については丁寧にみていく必要があります。』

何かオブラートに包んでいますけど結局は主要製造業大企業のこの先の賃金設定がデフレ脳な設定に戻ってしまうか、それともデフレ脳にはならないで、賃上げが多少マイルドになるにせよ、物価上昇にある程度追随できる賃上げになるのか、というのが注目です、って思いっきりゆうとりますなこりゃまた。

『逆に、グローバルに物流が混乱し、輸入物価に上昇圧力がかかるような状況が生じた場合、コストプッシュ圧力が物価、更には賃金に影響を及ぼす可能性がある点にも注意が必要です。』

後半は注意するのは良いんですが今回の講演の理屈、コストプッシュは中央銀行は対応しない、ですと注意が必要ったって注意した結果なんのアクションに繋がるのかが意味不明ですね〜。


・グローバル化の巻き戻しの可能性についての話が一番長いのよ

でもってこの次が『(グローバル化の先行き)』って小見出しですがこれがかなりの大作。

『第3は、より長い目でみて、米国の関税政策やそれを契機に構築される新たな国際的な関係が、グローバル化という世界経済の成長を支えてきた大きな流れにどのような影響を及ぼし得るかという点です。』

という話でして、これもはや目先の金融政策関係ないじゃろという話ですけれども、以下壮大な話になっているので鑑賞するには興味深いお話になっています、引用しますね。

『図表8をご覧ください。左グラフにありますように、世界の貿易や直接投資は、東西冷戦が終結した 1990 年代以降、2000 年代後半にグローバル金融危機が起こるまで、急速に増加しました。その後も、世界貿易は、世界経済の成長とおおむね同じペースで増加を続けています。また、右グラフにありますように、わが国の企業は、生産コストを抑制するサプライチェーンの構築や現地需要の取り込みなどを企図して、海外諸国と比べても、より積極的に対外直接投資に取り組んできました。』

はい。

『こうしたグローバル化への対応は、わが国企業の収益力強化に貢献してきたと考えられますが、一方で、様々なリスクを抱え込むことにもつながっています。』

ほう。

『例えば、製品の生産工程を細分化し、それらを複数の国にまたがって配置することは、コスト抑制に資する一方、生産・在庫管理を難しくしている面があります。こうした脆弱性は、コロナ禍以降に相次いだサプライチェーン障害によって、より明確になりました。』

まあそうですよねってのはありまして、こちとら昭和脳なので、それこそどっかの国でクーデターが起きましてどうのこうのとか、内戦が現在こんな感じで進行していますとか、そういうニュースを普段のニュースでホイホイと聞いていたわけなので、その時代から比較したらそら海外展開も進むし、急に昭和に戻ったらエライコッチャだわという話でもありますわな。

『また、ロシアのウクライナ侵攻などは、各国の経済安全保障に対する意識を高めることになり、これが世界の貿易や企業の生産活動に影響を与えるケースもでてきています。このような流れが続く中、今回の関税政策が、サプライチェーンの在り方に関する更なる検討を促すきっかけとなり、企業行動、とくに生産拠点の立地戦略に大きな変化をもたらす可能性があります。』

今回は戦争と超大国の横紙破りの合わせ技ですもんね。

『もちろん、生産拠点をどこに配置するかは、コストとベネフィット、様々なリスク要因を考慮して企業自身が判断すべき問題です。世界経済を巡る大きな環境変化は、企業が乗り越えなければならない新たな課題ですが、過去にも、わが国経済は、企業の前向きな取り組みを原動力として様々な課題を乗り越え、成長力を高めてきました。』


・グローバル化の話の後半はリスク云々の話ではなくて米ロに向けた素晴らしいメッセージになっていて評価されるべきです

でもってこの後の部分は大変に良いメッセージだと思います、引き続き引用しますが、

『こうした前向きな努力を後押しするためにも、企業が過度に国際情勢等に対するリスクを警戒しなくて済むよう、開かれた、公正かつルールに基づく国際経済秩序を支えていくことが大切です。』

これはまあロシアもそうですがトラ公に向かっても抗議表明しているような話ですが、大変に良いメッセージだと思いました。連中が聞く耳持つとは思えないけど、意思表示をするのはとても大事。

『この点は、私が出席した4月のIMFC会合(国際通貨金融委員会)でも改めて確認されました。』

ほほう。

『過去 30 年にわたる急速なグローバル化が、その成果の分配を巡って様々な難しい問題を引き起こしているのは事実ですが、その一方で、世界経済の分断化(fragmentation)やデカップリングの進展による勝者がいないこともまた、事実です。』

おーーー!

『各国は、今後、より良い国際経済秩序を構築する努力を重ねていく必要があります。その過程では、国際金融資本市場や国際金融システムの安定を確保していくことも重要です。日本銀行としても、各国の中央銀行や内外の関係者と情報交換をしながら、自らの持ち場において、こうした課題にしっかりと対応していきたいと考えています。』

なんかここだけ滅茶苦茶異質なんですが、植田総裁が思い入れを籠めて差し込みでもしていたのだったらば植田総裁素晴らしいじゃんと思いますし、まあ日銀としてもこういうメッセージを出したい、というのがあったのでしたらそれもまた素晴らしいことでして、この部分って目先の金融政策と関係ないからニュースネタにはならないのですが、もっと評価されるべきところ(というかまあ今回の講演での評価ポイントはほとんどここしかないわ)だと思いました。


・金融政策運営では金利の運営について今はパスだけど状況好転したらジャガーチェンジの余地を示す

『4.日本銀行の金融政策運営』は『(先行きの金融政策運営)』から始まりますが、ここはもう「当面は分からんのでパス」という説明で一貫しています。

『それでは、日本銀行の金融政策運営に話を移したいと思います。』

『ここまで申し上げてきたように、現時点で日本銀行としては、わが国経済は関税政策による下押し圧力を受けつつも持ちこたえ、賃金と物価が相互に参照しながら緩やかに上昇していくメカニズムも途切れることはないと考えています。』

「賃金と物価の好循環」やっぱり本格的にお蔵入りなんでしょうね、もうこの表現に統一されてますもん。

『基調的な物価上昇率についても、いったん伸び悩む局面はあるものの、2%に向けて徐々に高まっていくという大きな方向感は、これまでの見通しと変わりありません。その一方で、こうした中心的な見通しに対するリスクとして、各国の通商政策の今後の展開を巡る不確実性はきわめて高く、その金融・為替市場やわが国経済・物価への影響については、十分注視していく必要があります。』

でもってこの次に直近の米中合意(一時停戦合意みたいなもんですが)を受けての見通し変化は起きたのか問題にご丁寧に触れていまして、

『最近の各国間の交渉の進展、とくに米国と中国が、相互の関税率を大幅に引き下げることで合意したことは市場においてポジティブに受け止められていますが、それでもなお、不透明感が強い状況は続いています。金融政策運営にあたっては、これらの動向を丁寧に確認したうえで、適切に判断していく必要があります。』

まあこの書き方をみますと(ただの一時停戦合意だから当たり前ではありますが)先行きはまだ全然わからんから動かんもんねーというのは旺盛にみられるわけで、まだまだ動くような雰囲気は出しませんなというお話。

とは言え返す刀でジャガーチェンジの余地は残していまして、

『その前提として、現状、わが国の金融環境が緩和的な状態にあることは、重要なポイントです。図表9をご覧ください。これまで、予想物価上昇率が緩やかに上昇する中でも慎重に緩和度合いを調整してきたこともあり、現在の実質金利は、大規模緩和の時期をも下回る大幅なマイナスとなっています。また、金融機関の貸出スタンスは引き続き積極的で、社債等の発行環境も総じて良好な状態を維持しています。こうした緩和的な金融環境は、各国の通商政策の影響がみられるもとでも、わが国の経済活動をしっかりとサポートしていると判断しています。』

ちなみにこの「実質金利」(脚注にあるように「実質金利は、国債利回り(1年物)から予想物価上昇率(日本銀行スタッフによる推計値)を差し引くことにより算出」というだいぶ怪しげなものを使っていますけど、これは例によって展望レポート背景説明を見ますと、4月号だと本文32ページの図表47に同じものがあります。

でまあその実質金利の水準の見せ方の怪しさはさておきますけれども、まあこのように実質金利はドマイナスアピールをしているのですから、通商交渉好転の暁にはしらっとジャガーチェンジする布石は盛大に打っているわけですな。

『以上の点を踏まえますと、今後、私どもの中心的な見通しに沿って、わが国の基調的な物価上昇率が2%に向けて高まっていくという姿が実現していくとすれば、経済・物価情勢の改善に応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことになると考えています。そのうえで、各国の通商政策の今後の展開やその影響を巡る不確実性がきわめて高い状況にあることを踏まえ、そうした見通しが実現していくかについては、内外の経済・物価情勢や金融市場の動向等を丁寧に確認し、予断を持たずに判断していく方針です。』

と最後は従来示している通りの話をして締めています。


・長期国債買入減額に関してはイタコ話法を使って日銀の減額に関するやる気を見せたものと解釈します

一方で異色だったのは次(実質最後)のコーナーの『(国債買入れの減額計画の中間評価)』です。

『最後に、長期国債の買入れについてお話しします。日本銀行は、かつて実施していた大規模緩和からの出口を進めていく中で、昨年6月、我々が市場から買入れている長期国債の金額を減らしていく方針を決定しました。翌7月には、図表 10 にあるような、2026 年3月までの減額計画を策定し、現在は、この計画に沿って実際に減額を進めています。』

から始まりますが、ここも含めて以下はただの現状のご紹介ですので引用はしますが流します。

『そこでは、「長期金利は金融市場において形成されることが基本」であるとしたうえで、日本銀行による国債買入れは、「国債市場の安定に配慮するための柔軟性を確保しつつ、予見可能な形で減額していく」としています。予見可能性という意味では、現在の計画において、来年1〜3月にかけて、国債買入れ額を毎四半期 4,000億円程度ずつ減額していくことをあらかじめ明確に示しています。一方、柔軟性を確保する観点からは、計画の中で、「長期金利が急激に上昇する場合には、機動的に、買入れ額の増額等を実施する」こととしているほか、国債の残存期間別の買入れ額といった具体的な事項は、その時々の市場環境を踏まえて実務的に決定する扱いとしています。』

『さらに、今月開催される金融政策決定会合において、現在の計画の「中間評価」を行うとともに、2026 年4月以降の買入れ方針について検討し、その結果をお示しすることとしています。』

でもって段落が変わって、

『そうしたもとで、現在、日本銀行では、この中間評価に向けて、国債市場の動向や機能度の点検を進めています。その一環として、先月半ばには、債券市場の参加者との意見交換を行うための会合を開催しました。昨日、同会合の議事要旨が公表されていますが、そこでの議論も踏まえたうえで、現時点で私どもが考えているポイントは、次の3点になります。』

ということでマクラが長いのは内外情勢調査会が相手なので背景説明しないで本編から入るのはちょっと不親切だから、ってことでしょう。では3点ですが、

『第1は、これまでのところ国債買入れの減額は、国債市場の機能度回復という所期の効果を発揮しているということです。』

まあやらないよりはましだけどもっと減額すればもっと機能度回復してたんじゃないでしょうかとしか申し上げようがない。

『市場参加者からは、関税政策の影響を受けて、春先以降、市場の流動性が低下する局面がみられたが、全体としてみれば、国債市場の機能度は改善傾向にあるとの指摘が多く聞かれました。こうしたもとで、来年3月までの現在の減額計画の修正を求める声は限られているようです。そのうえで、日本銀行の国債保有残高がなお多額に上るもとで、市場の機能度を一段と高める努力を続けていくことが重要との認識も、多くの市場参加者に共有されていたように思います。』

>来年3月までの現在の減額計画の修正を求める声は限られているようです
>来年3月までの現在の減額計画の修正を求める声は限られているようです
>来年3月までの現在の減額計画の修正を求める声は限られているようです

イタコ話法キタコレ!


『第2は、2026 年4月以降の計画を検討する際には、引き続き、予見可能性と柔軟性のバランスが重要であるという点です。』

なのは良いんですけど、来年4月以降のペースについて今から決め打ちする必要ってあるのかね、というのは疑問で、何ならFEDとかだって(規模が違うから参考にしにくいのはあるけど)とりあえずバランスシートの縮小幅(の限度)を決めてオートパイロットで減らしていって、途中で「今後はこれで行きます」って言ってペースを変更している訳でして、2026年4月以降を決め打ちするんじゃなくて、そろそろオートパイロット方式にしても良いんじゃないか(まあべき論としては加速しろなのでオートパイロット方式を今入れられるとペース遅いわと言い出しそうですけどワタクシ)。

でもって、

『予見可能性を確保する観点からは、あらかじめ、ある程度の期間の計画を示すことが適切と考えられます。一方で、国債市場の機能度の回復がなお道半ばにあることや、春先以降の価格変動の経験も踏まえますと、引き続き、柔軟性を確保する仕組みが必要とのご意見が多かったように思います。』

ここでもイタコ論法なのですが、市場の大きな変動に対する柔軟性、の他に「実はもっと加速しても良かったんじゃないか」なのが見えてきた時の柔軟性ってのもあると思うので、なにも今の時点で1年半とか2年も先の話を決め打ちせんでもよかろうって思うのですが(前回は初回だったから2年というか1年9か月にしてたけど・・・・・)。

まあそれは兎も角3点目。

『第3は、市場参加者からは、2026 年4月以降も、国債の買入れ額を減らしていくことが適切との声が多く聞かれたという点です。』

はいはいイタコ話法イタコ話法。

『もっとも、具体的な減額ペースについては様々な意見がありました。日本銀行としては、これまでの減額の経験を踏まえつつ、こうしたご意見も参考にしながら、次回の金融政策決定会合において、来年4月以降の買入れ額をどのようにしていくのか議論していきたいと考えています。』

いやマジで「方向性としては減額するのは変わらんのだが今後の減額の進捗を踏まえて12月会合か1月会合辺りを目途に26年4月以降の具体的な計画を策定したい」で何が困るのかとは思うんですけどねえ・・・・・・さもなくば普通にオートパイロットにして、何か不具合有りそうだったら修正しますわ方式にするか。





2025/06/04

〇植田総裁内外情勢調査会講演ですが「利上げへの熱量無し」「輪番削減はやる気満々」かなと

https://www.boj.or.jp/about/press/koen_2025/data/ko250603a1.pdf
最近の経済・物価情勢と金融政策運営
―― 内外情勢調査会における講演 ――
日本銀行総裁 植田 和男


・基本的には「慎重スタンス」の表明とアタクシは読みましたがハトハトと読まない人もいるでしょうな

今回の内外情勢講演はやや解釈に幅が出てくると思うのですよね。と申しますのは「見通し通りに推移すれば緩和政策の調整を行う」というのを強調しているというのがあって、しかも経済に関して言えば関税の影響の話をああでもないこうでもないとしているけれども、実際の経済の認識についてはここまでのところ大コケしている訳ではない、ということになっているうえに、最後の長期国債買入ペース削減問題に関しては割とやる気満々になっているんですよね。

とは言いましても、まあアタクシ思いまするに、政策スタンスの部分、米国関税政策の影響の説明の部分、「基調的物価」の説明部分を見ますと、まあ早期利上げなんてとてもとても、って感じの説明で、利上げをやっていって正常化しましょう感が全然出ていないな、という風に読んだので、どちらかというとハトハトというかや〜るき無し♪無し♪って読みました。

ってな訳でその辺を中心に読んでみるでござるの巻です。


・冒頭の「初心を忘れず」ってのはつまり2023年5月のハトハトチキン講演に立ち戻るということですよね

最初は『1.はじめに』ですが、

『日本銀行の植田でございます。本日は、内外情勢調査会でお話しする機会をいただき、ありがとうございます。今からちょうど2年前、私が日本銀行総裁に就任して初めて講演をさせていただいたのが本席でした。そこでは、総裁の職務を果たしていく際の心掛けとして、「論理的に判断したうえで、できるだけ分かりやすく説明していきたい」と申し上げました。また、物価の安定の達成というミッションの実現に向けて、当時ようやく見え始めていた「2%達成の『芽』を大事に育てていくこと」の重要性を指摘いたしました。』

でまあその「芽」を大事に育てていく、というのが何だったのか、2023年の内外情勢での金融政策運営の最後の部分を改めて確認しましょう。

https://www.boj.or.jp/about/press/koen_2023/ko230519a.htm
金融政策の基本的な考え方と経済・物価情勢の今後の展望
内外情勢調査会における講演
日本銀行総裁 植田 和男
2023年5月19日

『これをわが国の現状に引き直しますと、拙速な政策転換を行うことで、ようやくみえてきた2%達成の「芽」を摘んでしまうことになった場合のコストはきわめて大きいと考えられます。逆方向の、政策転換が遅れて2%を超える物価上昇率が持続してしまうリスクもありますが、こうした2%の定着を十分に見極めるまで基調的なインフレ率の上昇を「待つことのコスト」は、前者に比べれば大きくないと思われます。そうした意味で、先行きの出口に向けた金融緩和の修正は、時間をかけて判断していくことが適当だと考えています。この「芽」を大事に育て、賃金の上昇を伴う形で、2%の「物価安定の目標」を持続的・安定的に実現することを目指します。』(この部分のみ直上URL先2023年5月の植田総裁講演より)

ということで、「芽を大事に育てていく」とか言ってますがまあ既にセイタカアワダチソウ状態になってるじゃろヴォケと言いたいところですが、では2年前からどうなったのでしょうという話で講演に戻りますと、

『その後、幸いにして、わが国の経済・物価情勢は改善を続け、賃金の上昇を伴う形で2%達成の「芽」は順調に育ってきました。昨年3月には、2%の「物価安定の目標」が持続的・安定的に実現していくことが見通せる状況に至ったと判断し、10 年以上に及んだ大規模な金融緩和の枠組みを見直しました。その後、昨年7月、本年1月と政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整してきたところです。』

芽が育ちすぎてませんかねえ。

『もっとも、本年春先以降、米国が打ち出した一連の関税政策は、多くの人々の事前の予想を大きく上回る規模であり、内外の経済・物価を取り巻く環境は大きく変化しています。わが国の経済・物価を巡る環境も複雑さを増していますが、本日は、初心を忘れず、改めて、私どもの経済・物価に対する見方や金融政策運営の考え方について、出来るだけ分かりやすく説明したいと思います。』

>初心を忘れず

初心を忘れず、というのはまあ現国の試験問題的には「わかりやすく説明したい」だということになるのですが、2年前の講演が衝撃のハトハトチキン講演で為替市場における円安を促進した、ということがありますので、どうもこの「初心」とは「ハトハトチキン」を思い出しますし、ハトハトチキンが言いすぎならば「慎重なアプローチ」であり、「待つことのリスクは相対的に低いという認識」というお気持ちが溢れているようにアタクシには読み取れましたが勝手読みのし過ぎかも知れませんので念のため申し添えます。


・関税政策の影響はひたすら「経済に下」の話ばっかりなのと主役が展望レポート時の見立てから交代している感があります

『2.通商政策の影響と経済・物価情勢』ってのがまあ本編ですが、最初の小見出しが『(通商政策のわが国経済への影響)』ですな。最初の方の能書きは飛ばしまして関税政策の影響について。

『こうした各国の通商政策の動向は、いくつかの経路を介して、わが国の経済を下押しする要因となります。』

はい。

『第1の経路は、米国市場におけるわが国の輸出財の価格競争力の低下を起点としたものです。』

つまり従来の米国向け輸出に関連する数量あるいは収益への悪影響ですな。一応以下の能書きを引用します。

『これは、米国の関税政策の直接的な影響として、メディアなどで取り上げられることも多いかと思います。図表2をご覧ください。輸出関連のデータをみますと、これまでのところ、左グラフの実質輸出の実績はしっかりとしています。これには、今後の関税引き上げを見越した駆け込みの動きが一部影響していると考えられますが、この先、わが国企業が米国での販売価格に関税の影響を転嫁する場合には、米国製品にシェアを奪われるなどして、わが国からの輸出を抑制する方向に作用すると考えられます。』

でもって、

『実際、右グラフにあるように、輸出受注に対する企業の見方は、増加と減少の節目である 50 を下回っています。』

なので、マインドには出ているけれども実際には駆け込み効果などもあって今のところ数値としてはでていませんという評価ですね。

『他方、わが国の企業の中には、米国内の販売価格を変えずに、関税引き上げの影響を輸出採算の悪化という形で吸収する戦略をとる先もあると思います。この場合、現地での売れ行きや輸出数量に対する影響は限定的です。しかしながら、企業収益には下押し圧力がかかることになるため、これが先行きの賃上げや設備投資にマイナスの影響を及ぼす可能性があります。』

こっちは収益なので経済指標みたいな形で出るのにはもう少し時間がかかりますわな。

でもって次。

『第2の経路は、不確実性の高まりによる需要の減少を起点としたものです。』

でですね、この点ですけれどもこの先にしれっとこんな記述がありまして、

『第1の経路に比べて話題になることは少ないですが、むしろこちらのルートの方が、より早い段階でわが国経済の下押しに働く可能性があると考えています。』

あらま、って感じでして、従来(というか4月展望レポート)では関税政策の影響で世界経済に影響が来て(IMFのWEOもちょうど下方修正された時期でした)、それが国内経済に跳ねてくる、というルートで主に説明していたのですが、「むしろこちらのルートの方が、より早い段階でわが国経済の下押しに働く可能性があると考えています。」としているのは注目ですね。

以下能書き。

『関税政策を巡る不確実性がこれだけ高ければ、その影響を受ける可能性がある企業は、当然のことながら、各種の投資案件に対して慎重にならざるを得ません。』

『家計部門でも、将来の景気悪化リスクなどに備え、自動車・家電といった耐久消費財や住宅の購入など、当面、大きな買い物を見合わせるインセンティブが生じます。』

ついこの前(と言っても関税前)は耐久消費財の前倒しの可能性に言及していたのでこの辺エラク弱気化したなと思ったので、まあこの辺りからもワシ的にはいつものハトハト音頭、と思ってしまいました。

『実際、図表3の企業や家計のコンフィデンスのデータをみますと、わが国の企業の景況感や消費者マインドは、ここにきて悪化しており、不確実性の高まりが企業や家計の支出行動に影響を及ぼす可能性があります。』

と来まして、

『実際にどの程度の影響が及び得るのかという点については、日本銀行としても、次回短観において、今年度の設備投資計画の修正状況などをしっかりと確認していきたいと考えています。』

ということで短観の設備投資計画がにわかに大注目となってきましたね。

では3番目行きます

『第3の経路は、世界経済が広く減速し、グローバルな貿易活動が縮小することに伴う影響です。』

4月の展望レポートの時点ではむしろこれがメインになっていて、他の主要国の中央銀行があの時点ではFEDは「まだ様子分からんから1回パス」でしたし、もともと景気減速気味だったECBは「段階的な利下げの追加で政策金利を中立化」はしたものの影響はこれから見て行きます、という中でなぜかフォワードルッキングに世界経済の下押しが強まるからベースラインシナリオを変更しました、とぶっこんで来たわけですが、今回はメインが「米国向け輸出の直接の影響」「マインド悪化による需要減」で、特にマインド悪化の方がこれから直ぐに来ます、ってことで話が変わっていますわな。

以下は能書き。

『いま述べた不確実性の高まりに伴う支出先送りの動きは、日本だけでなく、世界中で生じます。』

『また、関税を課される国だけでなく、米国など関税を課す側の国でも、輸入物価の上昇などを通じて国内需要が下押しされる可能性があります。』

『とりわけ、多くの生産工程を必要とする耐久消費財や資本財などに対する世界的な需要の減少は、グローバルサプライチェーンを通じて増幅される形で、わが国を含む各国の輸出や生産を下押しする可能性があります。』

とまあエライしょんぼりしてしまう話ですが、

『この点、4月に公表されたIMFの世界経済見通しでは、図表4の右グラフにあるように、先行き、グローバルな貿易量の停滞に引き摺られる形で、世界全体の実質GDPが下振れる姿が予測されています。こうした貿易活動を通じた影響に加え、世界経済の減速が、海外現地法人からの配当金減少という形で、わが国企業の収益を下押しする可能性にも留意が必要です。』

とまあ威勢の悪い話。

最後は金融市場からの話です、まあこれは普通の事しか書いてませんが。

『第4の経路は、金融・為替市場を介したものです。』

はい。

『4月の半ばにかけては、米国による関税政策の発表をきっかけに、世界的に株価が大きめに下落し、ドル安が進みました。その後、こうした動きはある程度巻き戻され、世界的に株価や為替のボラティリティも低下してきていますが、引き続き、金融・為替市場の動向やそれがわが国経済に及ぼす影響を十分注視していきたいと考えています』

てな訳ですが、これ一つ留意点があって、「米国向けの直接的な輸出」と「マインド」ってのは関税交渉次第で一気に晴れる可能性がある代物なので、例によって例の如くこれが晴れたらまたも突如のジャガーチェンジが発生する、という可能性は無くは無い、というか多分そうなる、という点は留意すべき所でして、まあこれ読んでいると見極めに時間がかかりそうな説明にはなっていますが、所詮は関税交渉次第なので、トラ公の方が先に音を上げてしまえばこっちのもの、というのはおおありだと思いますからぜんぜん利上げないでっせと決め打ちするのもちょっとやりすぎ、というのはあると思います。


・現状の経済の走りについては逆に妙に強気ですがこれはジャガーチェンジをするための伏線ですね

次が『(わが国経済・物価の見通し)』ですが、ここの記述は威勢が良いのですよ。

『以上、米国の関税政策の影響について、やや詳しくご説明してきました。続いて、これを前提とした、わが国の経済・物価の見通しについてお話しします。』

という事ですが何とですね、

『いま申し上げたように、最近の関税政策は、いくつかのルートを通じて、わが国経済の下押し要因として作用します。もっとも、現時点で日本銀行としては、わが国経済は、こうした下押し圧力を受けつつも持ちこたえ、賃金と物価が相互に参照しながら緩やかに上昇していくというメカニズムも途切れることはないと見込んでいます。これは、高水準の企業収益がバッファーとなるほか、これまでの景気回復で家計の所得環境も底堅さを増しているためです。』

実質賃金のマイナスが続いているのに「これまでの景気回復で家計の所得環境も底堅さを増している」ってこれ下手に着火されたらアカン火種じゃろと思うのですが、まあ大本営発表ではこういう話にしているのは要は「足もとは強いよ」と言いたいという事。

『図表5をご覧ください。ここ数年、わが国の企業収益は、全体として歴史的な高水準を続けており、多少の下押し圧力を受けたとしても、資金面から企業行動が大きく制約される状況ではありません。』

『また、先ほど申し上げた関税政策の影響は、まずは製造業・輸出企業を中心に表れると見込まれますが、雇用全体の約8割を占める非製造業が堅調であることから、これが、わが国の経済活動を下支えすると考えられます。』

なんですかこの楽観(のように見える説明)はw

『この点、2019 年に米中貿易摩擦が拡大した局面でも、わが国の輸出や製造業の生産活動が弱めの動きを余儀なくされた一方、非製造業の業績は堅調に推移し、人手不足感が強い状況は維持されました。』

で、ここからが家計の話なんですが、実質賃金の話を丸無視して雇用が強い、という話をしていて、だから「家計の所得環境も底堅さを増している」ということにする、という割と強引感のある説明。

『人口動態の変化を受けて労働供給の限界が強く意識されている中、このところ、非製造業の人手不足感は一段と強まっています。こうしたことから、関税政策の影響を受けるもとでも、わが国の労働需給は引き締まった状況が続き、企業の積極的な賃金設定行動は、全体として維持されていくのではないかと判断しています。』

という根拠になっていますので、つまり現状が強いってのを強調しているのは、関税交渉が進展した場合にジャガーチェンジをするための布石を打っていることに他ならないので、この部分を重視して読めば「割とタカっぽいじゃん」となると思います。


・好循環は遂にお蔵入り(か????)

先ほどの部分を再掲しますが、

『もっとも、現時点で日本銀行としては、わが国経済は、こうした下押し圧力を受けつつも持ちこたえ、賃金と物価が相互に参照しながら緩やかに上昇していくというメカニズムも途切れることはないと見込んでいます。』

>賃金と物価が相互に参照しながら緩やかに上昇していくというメカニズム
>賃金と物価が相互に参照しながら緩やかに上昇していくというメカニズム
>賃金と物価が相互に参照しながら緩やかに上昇していくというメカニズム

・・・・・( ゚д゚)
・・・・・(つд⊂)ゴシゴシ
・・・・・( ゚д゚;)

なんですかこれはという感じですが、まあさすがに「好循環」って言ってると今は政治ばかりが叩かれているので日銀セーフ(寧ろ利上げするなとか言われていて金融リテラシー無し無しムーブなのが悲しいですが)という図になっていますが、どこかでうっかり犬笛を吹かれたらどうみたって「好循環」って炎上要素ですから、そらまあ好循環はお蔵入りさせろというのはあったのですが、今回しれっとお蔵入りですかね、まあ今後も確認したいですけど。


・物価に関しては「基調的物価」の説明でいろいろな図表登場

『次に、物価についてご説明します。足もと、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は3%台半ばとなっています。これについては、図表6でお示ししているように、昨年秋以降、米などの食料品価格が大きく上昇していることが寄与しています。こうした価格の上昇については、輸入した肥料や原材料、天候要因などのコストプッシュの影響が大きいとみており、少なくとも前年比でみた上昇率は、今後低下していくと見込まれます。』

コストプッシュだから対応しない、という屁理屈がおかしい点については今次のインフレ局面で主要国の中央銀行だって対応を間違えていて、その反省の元に米国の定例のロンガーランゴールあんどストラテジーの見直しが行われている、という状況になっているのに、これ黒田末期からの物価上昇をずっと一時的と言い張って政策の見直しが遅れていることの正当化先にありきで「コストプッシュだから対応しない」を続けた結果物価が高止まりしているんですけど、こんなん「初期段階でコストプッシュは一時的と思っていましたがどうもそうではなかったようです」って言えば済むことを何で日銀って「謝ったら死ぬ」ムーブをぶちかますんでしょうかねえと思います、まあいつもの悪態ですが。

『そのうえで、中央銀行の金融政策は、特定の財・サービスの価格を動かすものではなく、需要全体に影響を及ぼすことを通じて物価の安定を実現しようとするものであり、また、その政策効果は時間をかけて経済に波及していくものです。そのため、2%の物価安定を実現していくにあたっては、コストプッシュの直接的な影響を除いた基調的な物価上昇率の動きをみていくことが重要となります。』

はいきました基調的物価とかいうお気持ち物価。

『残念ながら、これさえみれば基調的な物価の動きがわかるという便利な指標は存在しません。物価変動の背後にある労働需給や賃金上昇率など、経済・物価に関する様々な情報とともに、各種の物価指標を丁寧にみていく必要があります。そう申し上げたうえで、図表7にお示しした代表的な指標を見る限り、』

ということで図表7を見ますと、巻末の方に「図表7 基調的な物価上昇率に関連する指標」ってのがあるので見るわけですが・・・・・・・・・・(PDF17枚目になります)

『@価格変動の大きい品目を控除した物価指標』

凡例を見ますと、

『@CPI(除く生鮮食品)
ACPI(除く生鮮食品・エネルギー)
BCPI(刈込平均値)
CCPI(加重中央値)
DCPI(最頻値)』

となっていますけど、毎月出している刈込平均の図表対比で扱いが随分寂しいですな、と思うと次に

『A賃金変動を反映しやすい指標』

というのが出てきまして

『@CPI(低変動品目)
ACPI(サービス)のトレンド』

ってのがあるんですが、これは展望レポート背景説明の方でも同じものがありまして、4月展望レポート全文(https://www.boj.or.jp/mopo/outlook/gor2504b.pdf)本文28ページ(PDFで30枚目)に3つあるグラフの一番下に「図表38:賃金要因によるCPIの変動」ってのがありまして、まあこれと同じものですわな。

『B中長期の予想物価上昇率』

がこの前もネタにしましたように、そもそもこの数値自体が推計値だし、家計のインフレ期待に関しては定性的な回答(大きく上がるとか上がるとか下がるとか大きく下がるとか)を数値処理しているので、過去の低インフレ局面を割と長い期間含めた処理をしたら局面変化の際にちゃんとその変化を読み取れているのかが怪しい(というのはスタッフペーパーの段階ではちゃんと記載されています為念)のに、あたかも「ザ・10年予想物価上昇率」があるようなグラフになっているのが毎度申し上げている通りの怪しさですし、

『C経済モデルから推計された指標』

『モデル@:フィリップス曲線の切片
モデルA:時変VARモデル
モデルB:準構造モデル』

こりゃ何ですねん(フィリップス曲線は4月号展望全文の本文31ページに出ています)というのがありまして、なんかいろいろと説明しようとしているのは分かるのですが、どうせお前らまたチェリーピッキングしとるじゃろと言いたくなるのですな。

とは言いましても今回新手に出てきたCの数字はなんか急速に2に接近してて、何ならお前らこれ物価目標達成じゃなねえのとも思ってしまいますので何なんでしょうという感じではありますが、本編に戻りますと。

『わが国の基調的な物価上昇率は、これまでのところ緩やかに上昇していこれまでのところ緩やかに上昇しています。』

となっているだけでお気持ち物価の方は威勢良くない説明になっていますわな。ただまあさすがに実際の物価に関しては、

『4月の消費者物価指数をみても、様々な品目において、いわゆる「期初の値上げ」という形で、企業が人件費や物流費を含むコスト上昇を販売価格に反映する動きが続いていることが確認されました。』

としていますが、最後に関税政策を出してきて

『もちろん、関税政策の影響を受けてわが国の経済成長のペースが鈍化することは、物価に対する下押し圧力として作用します。』

つまりは利上げを前倒しする気は皆無というのはよくわかります。

『しかしながら、そうしたもとでも、先ほど申し上げたように、賃金と物価が相互に参照しながら緩やかに上昇していくメカニズムは維持されると考えています。また、先行き、各国間の交渉が進展し、通商政策を巡る不確実性が低下していけば、海外経済は緩やかな成長経路に復していき、わが国経済の成長率も高まっていくことが予想されます。』

ということなので、まあ一応関税交渉次第ではジャガーチェンジの可能性は大有り、というのは把握できたなというところではあります。

・・・・・ここで時間切れになりましたので続き(主に輪番ネタ)は明日で勘弁してつかあさい。






2025/06/03

お題「債券市場参加者会合の議事要旨が出てたので雑談を少々」

これはさすがの公共放送です
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250530/k10014819991000.html
市場も気になる!消費税減税議論の行方は【経済コラム】
2025年6月1日 11時23分

日銀の輪番がどうのこうので投資家がストライキとかいうゴミにも劣る題名の記事書いていた某ベンダーには猛省を促したいですな。いやまあ公共放送のHP読者に輪番オペがどうのこうのと言われても分からんから書かんってのは有ると思うけどw

この調子で次は「基調的物価って何?」ってお題でお気持ち物価について寸鉄をぶっこんでいただけることを期待しますし、そういうのを理性的に書いてくれるのはやっぱり公共放送さんしか居ないなあと思うのでした。


〇債券市場参加者会合議事要旨出ましたがまあ特にまとまりはないけど感想雑談を

https://www.boj.or.jp/paym/bond/mbond_list/mbond250602.pdf
「債券市場参加者会合」第 22 回議事要旨

1.開催要領
(日時)
銀行等グループ 5月 20 日(火)15 時 45 分から
証券等グループ 5月 20 日(火)17 時 30 分から
バイサイドグループ 5月 21 日(水)16 時 00 分から

(場所)日本銀行本店

(参加者)「債券市場サーベイ」等に参加する金融機関の実務担当者

(日本銀行出席者)金融市場局長、金融市場局総務課長、同市場調節課長、同市場企画課長

とまあそういうことで行われたようですが、こういうのってどういう話をするのか、という点で難しいものがあって、まあ今回の場合はテーマが輪番減額の話だから基本その話になるんですけど、より中長期的な話をしたいのか、目先の話をしたいのか、という辺りって(これはまあそういう設定にしたの市場局じゃなくて総裁方面だから仕方ないのですけれども)今回は先行きの話についてと目先の話について一緒くたにやってるうえに、先行きに関してももっと長い期間の話のべき論、という話なのかそうじゃないのか、というのも議事要旨を見ると判然としないなあという所でして、結果として読んでみるとなんというカオスのごった煮、ということになっておりますわな(個人の感想です)。

まあ長期的なべき論に関しては財務省の何とか委員会じゃないですけど、その手の諮問会議方式の方がよいのかも知れないなとは思いますし、特に本件のような日銀のバランスシートに関する話では、債券市場の話だけで考えても話が完結しないので、逆にこういう会議で中長期的な話をすること自体が無理筋じゃねえの、とは思います。

と申しますのも、債券市場の人たち普段は通常の短期金融市場における金融調節とかもともと興味がないところに来て黒田緩和以降の大幅な日銀当座預金の拡大で日々の資金需要の変化がどうしたこうしたとか分からんですけど、日銀保有国債残高に関してはひとえに短期金融市場における資金需給調整をどういうツール(今なら超過準備付利というツール)で実施していくか、という思いっきり短期市場プロパーの話になるので、まあそもそも論として中長期の姿を短期市場プロパーじゃない債券市場参加者会合で論じるというのには無理があるのでそんなの聞く必要ねえだろ、とは思いました。

・・・・ただまあこの点は総裁がいつぞやの会見で「2026年3月以降の中長期的な姿も云々」とか変な事言い出すからこうなっているのです、というのは繰り返しましてさて内容をちょっとだけ拝読しますが。

『2.日本銀行からの説明等

・ 日本銀行より、@最近の市場動向と市場調節、A国債市場の流動性、B債券市場サーベイの結果について説明し、C事前照会で寄せられた意見を紹介した。

3.参加者の意見
・ 上記説明の後、@これまでの買入れ減額を踏まえた国債市場の動向や機能度、A現行の長期国債買入れ減額計画、B2026 年4月以降の長期国債の買入れ、Cその他について意見を尋ねた。事前照会を含め、会合参加者から聞かれた主な意見は以下のとおり。』

ということで、事前照会の方(すなわち先に公表された資料)とだいたい同じ話になっているのですが、その時に無かった意見を少々鑑賞しておきますね。なお@とAはまあどうでもよいのでB以降の部分を見ますが、

『現行の長期国債買入れ減額計画』ってところから。

『・ボラティリティの上昇により市場全体のリスク許容度が低下し、需給環境も良好ではない状況で減額ペースを加速させると、かえって市場の機能度を低下させる恐れがあるため、現行計画を変更することは望ましくない。また、減額は金融政策の正常化の一環と理解しており、計画の途中で減額ペースを緩めると、誤ったメッセージを送ることになるため、これも適切ではない。』

まあ結局動かすなって話で、実務的にはまあそうじゃろうなとは思うのですが、ただまあそもそも当初の減額計画が(それまでの国債買入規模が馬鹿でかかったうえにマイナス金利政策解除して数か月の時点だったこともあって)及び腰気味の減額計画だった(と私は思っていますが異論は認める)ために市場機能の回復が遅れている、という可能性もあるのではないかと思うので、本当はその点をもっと深堀りした方が良い話ではあるんですよね。

まあそんな感じで、もともとに立ち返った時にこのペースで本当に良かったんだっけ問題は大いにあると思うのですが、実務的にシャーナシということで、

『・市場にショックが生じ、かえって減額の流れが途切れてしまうような事態は避けるべきであり、予見性を維持するという観点でも、減額の加速や一度の大幅な減額といった見直しはせず、現行計画を維持するべき。』

ってな話もあったようで。あと、事前資料の方では1行コメントになっていましたが、

『・現行計画のもとで、過度なボラティリティが生じることなく、着実に減額が進んだことや、国債補完供給に関する措置も相俟って、市場機能度が緩やかに改善してきた点を評価している。現行計画については、当初予定どおり実施することが適切だと考えている。』

という評価もまあそうですねとは思いました。ただ債券市場のスムージングはそれでいいのかもしれないけど、物価が高止まりしている中で日銀のバランスシートの縮小って本当は急がないといけなくなってきていると思うのです。

と申しますのは、これは年末に日銀のバランスシートに関して企画局ペーパーが出ていた時にちょっとネタにしましたけど、財務シミュレーションの前提にストレステストは無いわ、前提はユルユルのユルな時間かけていく前提だわというの「しか」出せないというのが今の日銀のバランスシートの抱える潜在的なリスクな訳で、正常化を加速させないといけない事態や金融引き締めまで行かなければいけない事態になった時に長期国債買入をこんなユルユルでやってたら対応余地が狭くなるのと、日銀財務がクソ悪化した時のリスクがある(一時的悪化は問題ないとは言え、信認はそういう理屈だけでは決まらないのでリスクはある)のですが、債券市場参加者会合でそっちのテーマでの話をする人もいない(そういうお題は課されていないし)ので、まあその辺はどうなのですかね、とは思います。


『26/4 月以降の長期国債の買入れ<ペース>』

最初の『(月間買入れ金額の減額ペース)』は意見がバラバラ過ぎてクソワロタという感じなのですが、そもそも論として日銀の長期国債買入はYCC政策をやっていた時期は長期金利の抑制という観点で実施していたものですが、今はあくまでも「資金供給オペの一環」なのでありまして、ただまあ過去YCCで馬鹿みたいな買入をしてしまっているので一度にゼロにできないから段階的に減らしている、というだけの話なんですよね。

然るに、意見を見ますとどう見てもお前ら日銀の長期国債買入を「あてにして」ポジション運営をしようとしているだろ、と思われる意見が散見されていまして、こういう状態、すなわち中央銀行による長期国債の買入が市場にビルトインされているような状態、というのがそもそも論としてまちごうとるのですから、まずそのYCC脳を何とかしろと申し上げたいのですが、まあゆうてマイナス金利にYCCってのも10年くらいやってた訳でして、債券市場関連で息していた時間帯の中でその10年が殆どって方もそりゃ多いじゃろと思う老害ジジイのワイとしては、輪番が無いとマーケットメークできないとかただの甘え、と言いたくはなるのですが、言うと老害ジジイと言われるのが確定的なので大人しく黙っておくことにしておきます(黙ってないですかそうですかwwww)。

でまあそちらは事前資料と同じもの(文章が長いだけ)しか無かったので次に行きますと、


『26/4 月以降の長期国債の買入れ<買入れ金額等>』

こちらも事前資料通りだったのですが、事前資料の中では割愛されていた部分が紹介されていたのがあったので拝読拝読。

『・3兆円程度であれば、需給バランスが崩れ、金融システムの不安定化を招く恐れが低く、かつ日銀保有額も徐々に減少していくため、一旦この水準を維持することが望ましい。』

というのは事前資料の方にもあったのですが、さらに追加がありまして、

『更なる減額を行う場合、IRRBB 上の制約を踏まえた銀行の保有余力や、銀行以外の投資家の保有余力の確認が必要。』

・・・・・節子、それは財政ファイナンスって言うんやorzorz

「市場が支えられないから中央銀行が買うべき」ってのは何とかショックみたいな金融ショックの時にいう話としては危機対応で仕方ない面があるので、一から十まで中銀の介入を否定する気はアタクシとてさらさらないのですが、今の状況のどこがショックで危機対応なのか、ということを考えた場合、危機対応の時みたいな発想で考えるのはどう見たって良くないというか、このケースで言えば中銀による財政マネタイズを積極容認しているのに他ならない話になりますわな。

まあ発行に関しては要は発行を減らせ、すなわち中長期的な財政健全化という2013年2月の政府と日銀の共同文書に立ち返って話をすべき問題なので、そういう意味では2026年4月以降の買入が何兆円になるべき、みたいな話も何でいまする必要がありますねんとは思うので、日銀のこのお題のセッティングにも問題がある(のだがしつこいようだがこれをやらせているのは植田総裁の会見での説明によるので市場局よりも上の方が問題なのですけど)とは思いますけどね。

あと、これまた事前資料の方にもありましたが、

『・長期の計画を示す場合、目指すべき超過準備の姿も含めたバランスシートの考え方を示すと、予見性の向上につながると思われる。』

ということですが、まあだいたい今の中銀業界では「アバンダントリザーブ」を「アンプルリザーブ」に縮小して、ただそこから「スケアスリザーブ」に下げるのはよーせん、という形になっている向きが多いとは思うのですが、じゃあ日銀がアンプルリザーブにする、って言ったって所要準備が13兆円しかないわけで、アバンダントにも程がある今の状態で「適正なアンプルリザーブがどこか」とかわかる訳ないだろ、と思うのですよね。

つまりですね、植田さん「中長期的なものも示したい」みたいなこと言ってたとおもうのですが、どこからどうみてもそれは寝言オブ寝言じゃろ、と思うのです。

ちなみに話は脱線しますが、アタクシ的にはこの「アンプルリザーブ」ってのもあまり好きじゃなくて、と申しますのは、この方法ですと「中央銀行当座預金」が「市場運用よりも有利な運用先」になってしまうので、中銀当座預金へのアクセスの有無によって市場参加者間の競争のスタート時点の下駄が違ってくることになって、市場の価格発見機能が働く前に、この参加者間の不公平アービトラージの方が先に取引として出てしまう傾向が(特に超過準備が多くなればなるほど)発生してしまうので、市場デザインとしてあまりよろしいものではないと思うのです。

でまあそれよりはましだと思うのは旧ECB方式で、金融機関への所要準備をやや厚めに積ませる代わりに所要準備には付利を行い(ちなみにこの時代日銀もFEDも当預付利はしてない)、超過準備に関しては市場金利の下限を画すための常設ファシリティ金利(デポジットファシリティ)での付利を行い、市場金利の上限を画すための常設ファシリティ金利(マージナルレンディングファシリティ)で付利すりゃエエンチャウノとは思うのですが、一旦アバンダントリザーブの付利金利(゚д゚)ウマーとなってしまうとそれを引っぺがすのは(ひっぺがされる方からしたら収入剥奪だから)なかなか大変じゃろうなとは思うのですけどね。


あと、『その他のご意見』ってところですが、こちらは事前資料にもありましたが、ちょうど対句になっているようなのがあったので改めて並べておきます。

『・残存期間別の国債買入れ金額の決定に当たっては、フローだけでなく、ストックである発行残高対比の国債保有比率も勘案すべき。』

『・日銀保有比率の高い残存5〜7年の銘柄が恒常的に割高な状態となっており、イールドカーブの歪みを改善する観点からも、国債補完供給の減額措置の上限緩和、要件緩和の対象銘柄の拡大などの柔軟な措置を検討しても良いのではないか。』

ということで、結局これってYCCの最後に無駄な延命のために連続指値オペだのなんだのを乱発した弊害がここに来て表れてるって話でして、多角的レビューってこういう後から出てくる問題点をネグって纏めちゃっているのが罪深くて、数年後にもういちど多角的レビューのやりなおしをしてほしいと思うのでした。まあやらんじゃろうけど。


あと、この意見は良かったですね、事前資料にもあったけど・

『・超長期ゾーンの需給悪化は、発行に比して投資家需要が少ないという構造的な要因によるものであり、日本銀行が根本的に対応できる余地は小さい。』

そうなんですよ、そこを日銀に何とかさせようとするのは、ただの財政ファイナンスになるんですよね。

ということで今朝はこの辺で勘弁






2025/05/30

〇トランプ露骨な圧力キタコレ

いやーどこの未開国だよアメリカさん
https://jp.reuters.com/markets/japan/funds/LGCT5WLW4NLS7CPXC6O4TQHVMY-2025-05-29/
「利下げしないのは間違い」、トランプ氏がパウエルFRB議長に直接伝える
ロイター編集
2025年5月30日午前 4:39 GMT+9

『[ワシントン 29日 ロイター] - トランプ米大統領は29日、米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長と面会し、主要政策金利を引き下げないことは「間違いだ」と伝えた。ホワイトハウスのレビット報道官が明らかにした。』(上記URL先より、以下同様)

これはロバート・ムガベ大統領も天国でニッコリorzorz

『トランプ大統領がパウエル議長と面会するのは2019年11月以来。トランプ氏はFRBが利下げを行っていないとして、これまでも繰り返し公の場でパウエル議長を非難してきたが、今回議長に直接会って伝えた格好となる。』

傍から見ているとこんな無茶苦茶やっててよく軍部が大人しくしているわと思ってしまうレベルなんだが、FRBちゃんからはこんなリリースが。

https://www.federalreserve.gov/newsevents/pressreleases/other20250529a.htm
May 29, 2025
Statement on Chair Powell's meeting with the President

『At the President's invitation, Chair Powell met with the President today at the White House to discuss economic developments including for growth, employment, and inflation.』

discussという雰囲気ではなさそうだが・・・・・・とおもったら、

『Chair Powell did not discuss his expectations for monetary policy, except to stress that the path of policy will depend entirely on incoming economic information and what that means for the outlook.』

discussじゃなくて議論する代わりに主張した(except to stress)って思いっきり書いてあるのはさすがにFRBもナメトンノカとトサカに来ているということでよろしいでしょうか。

『Finally, Chair Powell said that he and his colleagues on the FOMC will set monetary policy, as required by law, to support maximum employment and stable prices and will make those decisions based solely on careful, objective, and non-political analysis.』

「as required by law」とか「non-political analysis」とかもうバチバチに火花飛ばした表現でこれはFRB当然とはいえ良く頑張っておられる、ということでございますな。

・・・・・・・いやこうなるともはやプーチンよりもタチが悪いまであるわトラ公(個人の感想です)


〇超長期ジャイアントスイング止まらねえ(今日も備忘メモ)

https://jp.reuters.com/markets/japan/funds/YLUBDJAKIZLOLMEL33BMBW46EA-2025-05-29/
〔マーケットアイ〕金利:国債先物は反発、売り先行後買われる 長期金利は1.52%に小幅上昇
ロイター編集
2025年5月29日午後 3:36 GMT+9

『[東京 29日 ロイター] - <15:14> 国債先物は反発、売り先行後買われる 長期金利は1.52%に小幅上昇

国債先物中心限月6月限は、前営業日比10銭高の138円95銭と反発して取引を終えた。売り先行後は前日の反動や水準に着目した買いが入った。新発10年国債利回り(長期金利)は同0.5ベーシスポイント(bp)上昇の1.520%。』(上記URL先より、以下同様)

とまあ横綱と10年カレント見ますと、うーんちょっとツイストスティープしましたねえ、くらいの話で収まるのですが、問題は毎度の超長期でして、

『現物市場では10年物以外の新発国債利回りも概ね上昇。2年債は前営業日比0.5bp上昇の0.750%、5年債は同1.0bp低下の1.030%、20年債は同5.0bp上昇の2.445%、30年債は同8.0bp上昇の2.980%、40年債は同2.5bp上昇の3.125%』

えーっと、7年が10銭高(1毛ちょいくらい強)に対して20年が5甘で30年が8甘ですかそうですか、ってなもんでして、昨日は10−25年の輪番があって輪番イマイチでこけましたっていうか引け近くに更にこけた感があったので何なんですかねえって感じですが、結局相変わらずの板の薄さでちょっと大人の売買があると値段がすっ飛ぶとかそういう話ですかしら知らんけど。

『TRADEWEB
    OFFER  BID   前日比 時間
2年  0.74   0.755   0.002 15:13
5年  1.027  1.035   -0.005 15:13
10年  1.516  1.524    0.011 15:19
20年  2.442  2.45   0.051  15:14
30年  2.97   2.987  0.083  15:19
40年 3.115   3.137   0.04  15:19』

とまあそんな訳でカレンダーベースの市中消化の組み換えがあるかも云々がらみのネタがメインだとは思うのですが、盛大にフラットニングしたと思ったら今度は盛大にスティープニングしている訳でして、これ捌きが悪いと盛大に往復ビンタ食らいそうですし、往復ビンタにならずともこういう流れですと上での踏みと下での投げが発生していて、なんかまあ期初早々(って言ってももう2か月経過してますけど)エライコッチャでございますがなという所ですわな。

まあだから日銀が超長期の買入増やせというのは話の筋がだいぶ違うじゃろ、というのは超長期アイヤーの当初はそんなことを言ってるポンポコリン何とかストも散見されたような気がしますが、さすがにそれは筋違いじゃろ、というのが人口に膾炙しているようで、まあ発行サイドの方で調整(要はそもそもが発行のし過ぎ)じゃろという話になってきているのは結構なお話ではあるかなと思います、個人の感想ですが。




2025/05/29

〇ウィリアムズに期せずして公開処刑されてしまう日銀テラワロス、からの「合成予想物価上昇率」へのツッコミ

これはクソワロタ
https://jp.reuters.com/economy/federal-reserve-board/HDWEBDEV3JKC5AMEPR4U3V6I6E-2025-05-28/
インフレが目標から乖離し始めれば強力な対応必要=NY連銀総裁
木原麗花
2025年5月28日午後 1:31 GMT+9

『[東京 28日 ロイター] - 米ニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁は28日、インフレが目標から乖離し始めた際に中央銀行は「比較的強力に対応」しなければならないと述べた。』(上記URL先より、以下同様)

こwwwれwwwわwwww

『米国の関税や通商政策が経済に与える影響の不確実性が高いことを考えると、中銀は問題に対する完璧な解決策を目指すのではなく、「間違った場合のコストが利益をはるかに上回る」ような措置を避けることに集中すべきだとした。』

まあまあ大本営屁理屈局減屁理屈企画課としては「日本は米国と違ってインフレ期待が2%以下の水準にあって2%にアンカーされていない状態を引き上げようとしているのでウィリアムズ氏の説明は当てはまらない部分がある」とか「米国の場合はインフレ期待が2%から上方乖離してしまうことが大きなリスクなので、間違った場合のコストが大きいのは過早の緩和措置だが日本の場合は再度デフレ状態に陥る方が大きなリスクなので間違った場合のコストが大きいのは過早の緩和政策の修正である」って屁理屈を捏ねるでしょう、というのはもう言われる前に気が付く位には屁理屈局の屁理屈は見飽きているので秒速で回答できるんですけど、まあそれはさておきましてwww

『東京で開催された日銀の氷見野良三副総裁との対談で、中銀が避けなければならないコストのかかるリスクの一つはインフレ期待が目標から乖離することだと指摘。「インフレが極めて持続的になることは避けたい。なぜなら恒久化する可能性があるためだ」と語り、そのためにはインフレ率が中銀目標から乖離し始めたら「比較的強力に対応することだ」と付け加えた。』

wwwwwwwwwwwwwwwwww

まあウィリアムズにその意図があったかどうかは分からんけど、実際の物価が3年も上振れて続けているのに、謎の「基調的物価」を持ち出して頑なにアクチュアルの物価上昇の長期化をネグっているし、物凄い勢いの緩和を未だに続けているのに平然としている、という講演を前日にぶっ放した植田総裁に対してとんでもない勢いでの砲撃になっているのはクソ笑いました。

『「われわれはインフレ期待が有害になるような形で変化する可能性があることを強く認識しなければならない」とも話した。』

『ウィリアムズ氏は、こうした不確実性を踏まえ、中銀は長期的なインフレ期待を安定させるだけでなく、短期的な期待も「秩序立って」いることを確認し、国民の将来の物価動向に対する認識が「数年以内に」中銀目標に向けて戻るよう努力しなければならないと述べた。』

でまあ大本営屁理屈局に言わせればインフレ期待が2%行ってないから寧ろ政策の中立化は時期尚早ってことになっているのですが、昨日植田さんの講演をネタにした時にご紹介した「合成予想物価上昇率」なんですけど、これってそもそも論として「合成予想物価上昇率」そのものが下方バイアスあるじゃろ、というツッコミをしたくなる面がありまして、改めてこれを見ますと、

https://www.boj.or.jp/research/wps_rev/rev_2024/data/rev24j05.pdf
期間構造や予測力からみたインフレ予想指標の有用性

(まあだいたい「多角的レビューシリーズ」ってのは黒田緩和の正当化という結論先にありきで作った妙なペーパーが多くて将来にも禍根を残すんじゃないかと危惧しているんだがその話はまあさておき)

『インフレ予想指標の予測力 』って小見出しのあたりから見ますと、ってまあこの部分はおまけなのでご興味のある方はURL先の本編をちゃんと読んでいただければと思いますが(以下の引用は直上URL先2024年5月の日銀レビュー本編より)、

『【図表 6】インフレ予想指標の上方バイアス 』
『【図表 7】インフレ予想指標の予測力 』

ってのがあって、色々な指標の「過去の」情報バイアスや「過去の」予測力をみているのですが、この図表6にしても図表7にしても、その計測期間がどうなっているのか、というのは脚注に書いてあるのですが、

図表6→『全サンプルは、2007/1Q〜2023/4Q の値。』
図表7→『@は 2007/1Q〜2022/4Q、Aは 2007/1Q〜2020/4Q の値。』

となっていまして、要するにこれ過去の低インフレ局面におけるバイアスや予測力を見ていまして、そこは何ぼ屁理屈日銀でもさすがにちゃんと説明しているのですが、小見出しの『(年限別にみた各インフレ予想指標の予測力)』ってところで、

『図表7は、@1年先までの物価上昇率、A3年先までの物価上昇率それぞれについて、各指標の予測誤差(ベンチマーク対比)をまとめたものである12。』

図表7は本編を見て味噌。

『まず、1年先までの物価上昇率に対する予測力をみると、多くのインフレ予想指標で、ベンチマーク対比、統計的に有意な予測誤差の低下(改善)がみられる。家計の量的質問に基づく指標は、水準バイアスを調整しない場合には予測力がみられないものの、バイアスを調整すると大きく改善し、コンセンサス・フォーキャストによるエコノミスト予想より高い予測力(低い予測誤差)を示すようになる。その他の指標では、バイアスの調整前後で概ね同程度の予測力となっている。』

なので展望レポート背景説明の中に出てくる「家計の予想物価上昇率(質的質問)」って部分にはバイアス調整が入っているんですけれどもこれが曲者なのは察することができる訳ですな、ナムナム。

『次に、3年先までの物価上昇率に対する予測力をみると、インフレスワップを除くすべての指標で、バイアス調整前では予測力がみられないものの、バイアスを調整すれば予測力は有意に改善する。』

でまあ過去のゼロ近辺インフレ局面にフィットするバイアス調整を掛ければ、そりゃ過去の局面での予測力は高まるじゃろうが、局面変化した場合にどうなるのってなもんでして、クオンツで過去の相場を分析して最適化したパラメータを使って売買したら儲かりますとか言ったら既にそのパラメータはフィットしない局面でしたっていう落ちが世の中にはよくあるのですが、まあそれに似た話で、実はもう今の時点で予測力的には問題があって、ってなことだってアリエールだし、なんならすでにインフレ期待が2%に行ってるどころか下手したら2%を上回っているかもって状態だったらしたらどうしましょ、とは思う訳ですな。

まあさすがにヘリクツ日銀と言えどもスタッフペーパーだと良心は残っているので、以下にはこのような記載があるのですが、

『このように、予測力という観点からはバイアスを勘案することが有用と言えるが、バイアスは時間の経過とともに変化する可能性がある点に留意が必要である。』

良心キタコレ

『例えば、中長期的に物価上昇率が2%程度で推移するとの見方が経済主体間で強まれば、中長期のインフレ予想指標は2%程度に収束する可能性があり、その場合にはバイアスが縮小していくと考えられる。』

『また、各指標の予測パフォーマンスも、局面によって変化する可能性がある。』

はいはい良心良心。

『インフレ予想や物価の形成メカニズムは複雑であり、明らかではない点も多いだけに、予測力の観点のみをもって特定の指標に過度に依存することは避けるべきと考えられる13。』

いやーまったくおっしゃるとおりですなーーーーーーー(棒読み)

・・・・・昨日の植田さんの講演(スピーチ)の図表、どこからどう見ても「特定の指標に過度に依存しながら」「合成予想物価上昇率とかいう最適化している期間が明らかに過去の低インフレ局面の方が長い合成指標」を使って「基調的な物価」の説明をおっぱじめておられる、という大変に素敵なスピーチだった訳でして、植田さんにあんなスピーチさせる位ならもっと毒にも薬にもならない話をさせておけよ植田さんだってあんなクソみたいな屁理屈捏ね散らかしスピーチしてたら学者として恥ずかしいだろと思いますし、何なら白川総裁山口副総裁時代にあんなスピーチ原稿出したら落雷落雷また落雷じゃろと思うのですけどね〜

ということでいつの間にかウィリアムズはどっかに行ってしまいしましたがまあそういうことで。




〇ウィリアムズに期せずして公開処刑されてしまう日銀テラワロス、からの「合成予想物価上昇率」へのツッコミ

これはクソワロタ
https://jp.reuters.com/economy/federal-reserve-board/HDWEBDEV3JKC5AMEPR4U3V6I6E-2025-05-28/
インフレが目標から乖離し始めれば強力な対応必要=NY連銀総裁
木原麗花
2025年5月28日午後 1:31 GMT+9

『[東京 28日 ロイター] - 米ニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁は28日、インフレが目標から乖離し始めた際に中央銀行は「比較的強力に対応」しなければならないと述べた。』(上記URL先より、以下同様)

こwwwれwwwわwwww

『米国の関税や通商政策が経済に与える影響の不確実性が高いことを考えると、中銀は問題に対する完璧な解決策を目指すのではなく、「間違った場合のコストが利益をはるかに上回る」ような措置を避けることに集中すべきだとした。』

まあまあ大本営屁理屈局減屁理屈企画課としては「日本は米国と違ってインフレ期待が2%以下の水準にあって2%にアンカーされていない状態を引き上げようとしているのでウィリアムズ氏の説明は当てはまらない部分がある」とか「米国の場合はインフレ期待が2%から上方乖離してしまうことが大きなリスクなので、間違った場合のコストが大きいのは過早の緩和措置だが日本の場合は再度デフレ状態に陥る方が大きなリスクなので間違った場合のコストが大きいのは過早の緩和政策の修正である」って屁理屈を捏ねるでしょう、というのはもう言われる前に気が付く位には屁理屈局の屁理屈は見飽きているので秒速で回答できるんですけど、まあそれはさておきましてwww

『東京で開催された日銀の氷見野良三副総裁との対談で、中銀が避けなければならないコストのかかるリスクの一つはインフレ期待が目標から乖離することだと指摘。「インフレが極めて持続的になることは避けたい。なぜなら恒久化する可能性があるためだ」と語り、そのためにはインフレ率が中銀目標から乖離し始めたら「比較的強力に対応することだ」と付け加えた。』

wwwwwwwwwwwwwwwwww

まあウィリアムズにその意図があったかどうかは分からんけど、実際の物価が3年も上振れて続けているのに、謎の「基調的物価」を持ち出して頑なにアクチュアルの物価上昇の長期化をネグっているし、物凄い勢いの緩和を未だに続けているのに平然としている、という講演を前日にぶっ放した植田総裁に対してとんでもない勢いでの砲撃になっているのはクソ笑いました。

『「われわれはインフレ期待が有害になるような形で変化する可能性があることを強く認識しなければならない」とも話した。』

『ウィリアムズ氏は、こうした不確実性を踏まえ、中銀は長期的なインフレ期待を安定させるだけでなく、短期的な期待も「秩序立って」いることを確認し、国民の将来の物価動向に対する認識が「数年以内に」中銀目標に向けて戻るよう努力しなければならないと述べた。』

でまあ大本営屁理屈局に言わせればインフレ期待が2%行ってないから寧ろ政策の中立化は時期尚早ってことになっているのですが、昨日植田さんの講演をネタにした時にご紹介した「合成予想物価上昇率」なんですけど、これってそもそも論として「合成予想物価上昇率」そのものが下方バイアスあるじゃろ、というツッコミをしたくなる面がありまして、改めてこれを見ますと、

https://www.boj.or.jp/research/wps_rev/rev_2024/data/rev24j05.pdf
期間構造や予測力からみたインフレ予想指標の有用性

(まあだいたい「多角的レビューシリーズ」ってのは黒田緩和の正当化という結論先にありきで作った妙なペーパーが多くて将来にも禍根を残すんじゃないかと危惧しているんだがその話はまあさておき)

『インフレ予想指標の予測力 』って小見出しのあたりから見ますと、ってまあこの部分はおまけなのでご興味のある方はURL先の本編をちゃんと読んでいただければと思いますが(以下の引用は直上URL先2024年5月の日銀レビュー本編より)、

『【図表 6】インフレ予想指標の上方バイアス 』
『【図表 7】インフレ予想指標の予測力 』

ってのがあって、色々な指標の「過去の」情報バイアスや「過去の」予測力をみているのですが、この図表6にしても図表7にしても、その計測期間がどうなっているのか、というのは脚注に書いてあるのですが、

図表6→『全サンプルは、2007/1Q〜2023/4Q の値。』
図表7→『@は 2007/1Q〜2022/4Q、Aは 2007/1Q〜2020/4Q の値。』

となっていまして、要するにこれ過去の低インフレ局面におけるバイアスや予測力を見ていまして、そこは何ぼ屁理屈日銀でもさすがにちゃんと説明しているのですが、小見出しの『(年限別にみた各インフレ予想指標の予測力)』ってところで、

『図表7は、@1年先までの物価上昇率、A3年先までの物価上昇率それぞれについて、各指標の予測誤差(ベンチマーク対比)をまとめたものである12。』

図表7は本編を見て味噌。

『まず、1年先までの物価上昇率に対する予測力をみると、多くのインフレ予想指標で、ベンチマーク対比、統計的に有意な予測誤差の低下(改善)がみられる。家計の量的質問に基づく指標は、水準バイアスを調整しない場合には予測力がみられないものの、バイアスを調整すると大きく改善し、コンセンサス・フォーキャストによるエコノミスト予想より高い予測力(低い予測誤差)を示すようになる。その他の指標では、バイアスの調整前後で概ね同程度の予測力となっている。』

なので展望レポート背景説明の中に出てくる「家計の予想物価上昇率(質的質問)」って部分にはバイアス調整が入っているんですけれどもこれが曲者なのは察することができる訳ですな、ナムナム。

『次に、3年先までの物価上昇率に対する予測力をみると、インフレスワップを除くすべての指標で、バイアス調整前では予測力がみられないものの、バイアスを調整すれば予測力は有意に改善する。』

でまあ過去のゼロ近辺インフレ局面にフィットするバイアス調整を掛ければ、そりゃ過去の局面での予測力は高まるじゃろうが、局面変化した場合にどうなるのってなもんでして、クオンツで過去の相場を分析して最適化したパラメータを使って売買したら儲かりますとか言ったら既にそのパラメータはフィットしない局面でしたっていう落ちが世の中にはよくあるのですが、まあそれに似た話で、実はもう今の時点で予測力的には問題があって、ってなことだってアリエールだし、なんならすでにインフレ期待が2%に行ってるどころか下手したら2%を上回っているかもって状態だったらしたらどうしましょ、とは思う訳ですな。

まあさすがにヘリクツ日銀と言えどもスタッフペーパーだと良心は残っているので、以下にはこのような記載があるのですが、

『このように、予測力という観点からはバイアスを勘案することが有用と言えるが、バイアスは時間の経過とともに変化する可能性がある点に留意が必要である。』

良心キタコレ

『例えば、中長期的に物価上昇率が2%程度で推移するとの見方が経済主体間で強まれば、中長期のインフレ予想指標は2%程度に収束する可能性があり、その場合にはバイアスが縮小していくと考えられる。』

『また、各指標の予測パフォーマンスも、局面によって変化する可能性がある。』

はいはい良心良心。

『インフレ予想や物価の形成メカニズムは複雑であり、明らかではない点も多いだけに、予測力の観点のみをもって特定の指標に過度に依存することは避けるべきと考えられる13。』

いやーまったくおっしゃるとおりですなーーーーーーー(棒読み)

・・・・・昨日の植田さんの講演(スピーチ)の図表、どこからどう見ても「特定の指標に過度に依存しながら」「合成予想物価上昇率とかいう最適化している期間が明らかに過去の低インフレ局面の方が長い合成指標」を使って「基調的な物価」の説明をおっぱじめておられる、という大変に素敵なスピーチだった訳でして、植田さんにあんなスピーチさせる位ならもっと毒にも薬にもならない話をさせておけよ植田さんだってあんなクソみたいな屁理屈捏ね散らかしスピーチしてたら学者として恥ずかしいだろと思いますし、何なら白川総裁山口副総裁時代にあんなスピーチ原稿出したら落雷落雷また落雷じゃろと思うのですけどね〜

ということでいつの間にかウィリアムズはどっかに行ってしまいしましたがまあそういうことで。




2025/05/28

〇超長期連日の爆上げだがこれはどこのエマージング国債ですかと小一時間

ご案内のこととは存じますが
https://jp.reuters.com/markets/japan/funds/Y545PIPBVRLI7IDOP7HP44RYO4-2025-05-27/
〔マーケットアイ〕金利:国債先物は続伸、長期金利1.465% 国債発行見直し報道で安心感
ロイター編集
2025年5月27日午後 3:31 GMT+9

『[東京 27日 ロイター] - <15:27> 国債先物は続伸、長期金利1.465% 国債発行見直し報道で安心感

国債先物中心限月6月限は、前営業日比35銭高の139円45銭と続伸して取引を終えた。財務省による国債発行計画の再検討が報じられたこと受けて、市場の安心感が広がり、円債は堅調に推移した。現物市場では新発10年国債利回り(長期金利)は同4.0bp低下の1.465%。超長期債金利は大幅に低下した。』(上記URL先より、以下同様)

ということで連日の超長期デーですが、

『後場に入り、国債先物は上げ幅を拡大。財務省が2025年度国債発行計画の年限構成を近く再検討すると伝えられたことや6月20日に国債市場特別参加者会合が開催されると報じられたことを受けて「国債発行計画の変更についてはもう少し時間がかかるとの見方が多かったこともあり、市場では好感されている」(前出の国内銀の運用担当)との声が聞かれた。現物市場では超長期ゾーンを中心に金利が低下、その流れが長期ゾーンや国債先物にも波及した。』

となりまして、

『5年債は同1.0bp低下の1.00%。20年債は同16.5ベーシスポイント(bp)低下の2.340%、30年債は同18.5bp低下の2.850%、40年債は同24.0bp低下の3.295%といずれも5月上旬以来の水準まで低下した。一方、2年債は同1.0bp上昇の0.730%。』

24毛強wwwwwwww

『    OFFER  BID   前日比
2年   0.719  0.734   0.01   15:20
5年   0.993  1.002   -0.01  15:20
10年  1.459  1.467   -0.043  15:20
20年  2.329  2.353   -0.156  15:20
30年  2.825  2.853   -0.182  15:20
40年  3.276  3.287   -0.246  15:20』

ってな訳ですが、ご案内のように今般は期中で、かつ予算案の追加などが起きない状況ではあるものの、国債発行に関連すると思われるPD懇が行われる云々で如何にも発行年限の見直しみたいなのが行われそうな雰囲気、というのが報道されたのですが、

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB272140X20C25A5000000/
財務省、6月20日に国債特別参加者会合 超長期金利の上昇議論へ
経済
2025年5月27日 13:01 (2025年5月27日 18:35更新) [会員限定記事]

『財務省が6月20日に債券市場参加者を集めた国債市場特別参加者(プライマリー・ディーラー、PD)会合を開くことが分かった。足元の債券市場で超長期国債の金利が上昇していることなどを議論するとみられる。需給の悪化を踏まえ、超長期債の発行計画を修正するとの観測も浮上する。

PD会合は証券会社や大手銀行など19社の金融機関が参加し、債券市場の状況などを議論する。

財務省は会合に先立ち、2025年度の国債発.』(上記URL先より、以下有料会員記事)

などなどのニュースが出て一段高、ってお話なんですけど、詳報はBBGさんのほうで、

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-05-27/SWWEN4T0AFB400
財務省が国債発行額でアンケート聴取、40年入札は警戒一転し楽観論
日高正裕
2025年5月27日 13:34 JST 更新日時 2025年5月27日 16:50 JST

→PD懇や国債投資家懇メンバー、それ以外の機関投資家に送付
→どの程度が適当な発行額か、現在の市場状況などについて尋ねる

『財務省が投資家を含む幅広い国債市場参加者を対象に、国債の発行額についてアンケートを送付していることが分かった。超長期債は連日で大幅上昇(金利は低下)し、警戒感があった28日の40年国債入札には一転して楽観論が浮上している。』(上記URL先より、以下同様)

楽観論が浮上するのかよw

『アンケートは財務省から26日にメールで送付された。例年6月に開く国債市場特別参加者(プライマリーディーラー、PD)会合のメンバーだけでなく、通常この時期には開催しない国債投資家懇談会のメンバーや、それ以外の機関投資家も対象に含まれた。国債の年限ごとにどの程度の発行額が適当かを質問しているほか、現在の市場状況についてコメントを求めている。複数の関係者が匿名を条件に明らかにした。』

ほうほうそうですかそうですか、ということでカレンダーベースの発行額の年限割り振りの組み換え、という思惑で超長期戻っている次第ですが、いやまあ拙駄文でも「需給何とかしたいんだったら日銀の買入拡大とかアホな事言ってないで発行側が対応するのが筋」と申し上げましたので、このムーブ自体はまあやるならやるでどうぞってなもんではあるのですが、ここもと超長期の金利が上昇してやっと「減税の財源は赤字国債を出すのが当然」とか言ってた輩がちょっと大人しくなったと思って喜んでいた面もあるアタクシと致しましてはちょとt複雑な心境ではあったりします。

まあ財政懸念で本来出そうと思っていた国債が出せなくなった、というお話にすれば減税馬鹿へのご教訓ストーリーにはなるのかもしれないけど、金利が下がってしまうとちょっとね、という感じで。

・・・・というかですね、超長期発行減額ったっていきなり7月発行(くらいでしょ早くて)から発行半減とかそんなドラスティックなことにはならんじゃろ(なったらおもしろいけど)と思いまするに、一連の動きで超長期が数日で20毛も30毛(というかそれ以上)も飛ぶって方が頭痛くて、日本国債市場はいつからエマージング国債市場になったんだっけという値動きの勢いの方にビビっております。

まあこれはしつこく申し上げておりますが、中短期の金利が日銀買入で無駄に抑圧されているので、金利変動の材料に対するエネルギーの放出場所が超長期に逝ってしまっているので価格変動が増幅されやすいってのと、そもそも財政問題だすまでもなく、2%物価安定目標を達成した社会における金利水準としておかしいじゃろ、というエネルギーがあるのと、そこに加えて財政の話、ってところではないかとは思いますので(個人の偏見です)、つまりは日銀の長期・中期ゾーン以下の国債買入をバンバン減額しろといういつもの話になるのでした、しつこいですかそうですか。


〇植田総裁金研国際コンファランスの挨拶がとんでもない屁理屈大王になっていて見苦しいわ恥ずかしいわ

来週内外情勢があるって話をしましたが、よく考えたら5月末は金研国際コンファランスがあるんでした大変に失礼いたしました。

https://www.boj.or.jp/about/press/koen_2025/data/ko250527a1.pdf
日本銀行金融研究所主催2025年国際コンファランスにおける開会挨拶の邦訳
日本銀行総裁 植田 和男

・基調的な物価(講演原文では「underlying inflation」)の説明が苦しいという自覚はあるようですね

『2.わが国の金融政策が直面している課題』の二つ目の小見出し『(政策金利)』の途中から日銀の屁理屈音頭がおっぱじまりますわよハーヨイヨイ♪

『難しい質問は、実際の物価上昇率が 2%を上回って3年以上推移しているにも関わらず、なぜ日本銀行はそのような緩和的なスタンスを維持しているのか、ということです。』

そりゃお前らが黒田を否定しないでハトハトチキンやってるからじゃろ、と思うのですが当然ながら当事者がそんなことを認める訳も無いので屁理屈が展開されます、以下ご覧ください。

『この問いに対して、日本銀行は、基調的な物価上昇率が 2%を下回っているため、と答えてきました。これは自然と次の質問につながります。基調的な物価上昇率は、何によって構成されているのでしょうか。』

政策から後付けされたお前らのお気持ち表明じゃろ、と言っても当事者がそんなこと以下同文。

『基本的には、基調的な物価上昇率とは、一時的な変動要因を除いた物価上昇率を指します。しかし、実際には、この概念を捉える完璧なデータは存在しません。そのため、データの全体感と経済を巡る情報を勘案して総合的に判断しなければなりません。』

だったら最初から総合判断で恣意的にやっていますって言えば良いのに、そこで何かちゃんとしたベンチマークがあるかのような話をするから苦しい屁理屈になるのですが、というかまあ今回のこのスピーチ、「基調的な物価」での説明が何ぼ何でも限界に来ているってことを大本営でも自覚しているんでしょうね、この段落の最後になるんですけどこの最後の部分はワロタ。

『そして、この点は、人々とのコミュニケーションを難しくさせます。』

そらお前らのお気持ちだしお気持ちの変わる原動力が首尾一貫してないからこっちだって分からんわとしか申し上げようがないですけど、

『私どもは、基調的な物価上昇率を巡る説明が不明瞭であるとの厳しい指摘をしばしば受けてきました。』

wwwwwwwwwwそらお気持ち物価なんだから仕方ないじゃろと思うのですが、厳しい指摘って自覚してるならお気持ち物価止めええやと思う訳ですが、以下更に充実の屁理屈が展開されますので鑑賞しましょう。


・構成要素に明らかに下方バイアスを持っていそうなのを満載にした合成予想物価上昇率を持ち出しまして・・・・

でもって次の小見出しが『(予想物価上昇率)』です。

『基調的な物価上昇率を評価するために注意深くモニターしている指標のひとつは、予想物価上昇率です。』

とまあそういうことで、物価の指標を引っ張り出してもだんだん説明が苦しくなる(後述)なので、とうとう予想物価上昇率を持ち出しているんですけれども、

『基調的な物価上昇率という概念よりは明瞭ですが、予想物価上昇率もまた、誰の予想が最も重要なのか、どの予想年限が適当なのか、などの問題を伴います。』

と言ってるそばから、

『図表 4 は、各指標が有する情報を集約した日本の合成予想物価上昇率に加えて、ドイツと米国の中長期の予想物価上昇率を示しています。』

って言ってるんですが、図表4の『日米欧の中長期インフレ予想』を見ますと、その脚注は

『(注)中長期インフレ予想は、日本は合成予想物価上昇率(10年後)、米国・ドイツはコンセンサス・フォーキャスト(6〜10年後)。(出所)Bloomberg、Consensus Economics「コンセンサス・フォーキャスト」、QUICK「QUICK月次調査<債券>」、日本銀行』

この「合成予想物価上昇率10年後」ってのは展望レポートの背景説明の方にもあって。最近だと内田副総裁の講演でもリファーされていましたが、なんかいろんなもんをこねくり回していて、例えば短観の物価見通しとか生活意識アンケートの物価見通しとかもコネコネされていて何だかよくわからん数字になっているものな上、米国ドイツのコンセンサスフォーキャストってのは上記の脚注見たら出所がBBGになっているから、それって単に何とかストアンケートの集計結果みたいなもんで、一般市民のインフレ予想との乖離はどうなっているのか、ってなもんだし、同じベースで集計しているのかどうかも怪しいものを並べてどうするんだ、というお話な訳ですけれども、そういうのを比較した上で、

『ドイツと米国では、予想物価上昇率は、おおむね 2%から 3%の間で、驚くほど安定していました。2022 年から 2023 年の間に、物価上昇率が 10%近くに達したときも、それは目標水準近くにアンカーされていました3。この安定は、中央銀行が物価を安定させる能力に対する人々の信頼を表しているのではないかと思われます。』

からの、

『対照的に、日本の中長期の予想物価上昇率は、1990 年代後半から、大規模金融緩和が導入された 2013 年まで、概ね 0%から 1%の間にとどまっていました。予想物価上昇率は、2014 年に1%以上に高まりましたが、2016 年までに低下して、以前の範囲に戻り、2021 年までそこにとどまりました。より短い年限の予想物価上昇率は、よりゼロに近い水準にとどまっていました。ゼロインフレという均衡の強固さを物語ります。』

という話にしていまして、その結果として、

『予想物価上昇率は、グローバルなインフレ高騰と日本の継続的な金融緩和に反応して、2022 年に再び上昇し始めました。予想物価上昇率は、足もと、1.5%から 2.0%の間にあり、まだ 2%の目標水準を下回っているものの、この30 年間で最も高い水準にあります。すなわち、私どもは、予想物価上昇率をゼロから引き上げることには成功しましたが、2%にアンカーされているという状況には、まだ至っていません。このため、私どもは、今なお緩和的な政策スタンスを維持し続けています4。』

という政策の正当化に使っているのですが、そもそも日銀の合成予想物価上昇率については先般弊駄文で申し上げましたのの再掲ですが、

https://www.boj.or.jp/research/wps_rev/rev_2024/data/rev24j05.pdf
期間構造や予測力からみたインフレ予想指標の有用性
2024 年 5 月

こちらの5ページ(PDFの5枚目)あたりに『【図表 8】共通成分ベースの集計指標(年限別の合成予想物価上昇率)』ってのがありますが、よく見ますと、

『(注)年限別の合成予想物価上昇率は、家計(生活意識に関するアンケート調査<量的質問・質的質問>)、企業(短観)、専門家(コンセンサス・フォーキャスト、QUICK 調査、インフレスワップ)による各年限のインフレ予想について、主成分分析を用いて共通成分を抽出したもの。2006 年以前の計数は参考値。

(出所)日本銀行、Bloomberg、QUICK 月次調査<債券>、Consensus Economics「コンセンサス・フォーキャスト」』

ってやつなんですが、コンセンサスフォーキャストって過去の実績に引っ張られて今次局面で物価見通しを全然当ててなくて下方に外しっぱなしだし、まあクイック調査とかも然りですけど、これ現時点において下方バイアスを持ってそうなものを使っている時点でお察し指標(ちなみにこの日銀レビューを書いているのが調査統計局じゃなくて企画局というのも味わいが深い訳ですがwww)なんですけどねえ、ってなお話でもあったりします。


・基調的な物価上昇率は予想物価上昇率だという新しい言い訳が構築されてきたようです

でもってその続きですが、『(中央銀行コミュニケーション)』って小見出しになります。

『この政策スタンスのコミュニケーションは容易ではありません。』

そりゃそうじゃろお気持ち物価を尤もらしく屁理屈でデコレーションしているだけなんだからwwwwwwwwwww

『それは、基調的な物価上昇率の概念に伴う曖昧さもさることながら、図表 5 が示しているように、総合ベースでみた物価上昇率と基調的な物価上昇率との間に大きな乖離があるためです(ここでは、予想物価上昇率を基調的な物価上昇率の近似として用いています)』

>ここでは、予想物価上昇率を基調的な物価上昇率の近似として用いています
>ここでは、予想物価上昇率を基調的な物価上昇率の近似として用いています
>ここでは、予想物価上昇率を基調的な物価上昇率の近似として用いています

と、どさくさに紛れて勝手に基調的な物価上昇率を予想物価上昇率(しかも日銀計測のお手盛りVer)にすり替えてしまいましたwwwww

『その乖離は、サプライショックの直接的な影響と、総合ベースでみた物価上昇率に影響するその他の一時的な要因に対応しています。』

とのことですが、サプライショックが一過性なのか持続性があるのか、というのを丸無視してサプライショックだからネグリジアブルだ、って屁理屈捏ねてるからそうなるんじゃろという話で、


・推計データと直接計測されたデータが常に大きく乖離するのであればそれは推計がおかしいじゃろとwwwww

『中央銀行は、基調的な物価上昇率に主に反応しますが、人々は総合ベースでみた物価上昇率に反応する傾向があります。この反応の乖離は、常にある程度は存在するものですが、最近の乖離の大きさとそれが長い期間にわたって継続していることは、日本において特に問題となっています。』

>乖離の大きさとそれが長い期間にわたって継続していること
>乖離の大きさとそれが長い期間にわたって継続していること
>乖離の大きさとそれが長い期間にわたって継続していること

そもそも論として「計測可能なザ・基調的物価上昇率」が存在しないのですから、「乖離の大きさとそれが長い期間にわたって継続している」っていうのは、常識的な視点からしたら「お前らがお手盛りで計算している基調的な物価上昇率がそもそも間違えているんだろ」という話になるじゃろ、としか申し上げようがないのですけれども、何をいってるんでしょうかこの人はwwwww


・勝手に「中央銀行」を主語にするなと

さらに続きですが、

『一般的に、中央銀行は、サプライショックに対して、それが基調的な物価上昇率に影響するとみられない限り、その状況を見守るアプローチを採用しています。』

そうじゃなくて「一時的なショックに留まるのか、それとも中長期的な影響をもたらすのか」によって対応をするかしないかが決まる、ってのが中央銀行の物価安定という施策を進める際のポイントじゃろ勝手に「中央銀行は」とか言ってるんじゃないよお前らだけじゃろお前ら。

『私どももまた1度目のサプライショック、すなわち 2022 年から2023 年にかけての輸入財の価格上昇の状況を見守ってきました。しかしながら、日本の近年の経験は固有のものです。総合ベースでみた物価上昇率が高まった一方、基調的な物価上昇率も高まりました。基調的な物価上昇率を高めた要因として、コロナ禍からの景気回復や労働需給の引き締まりに加え、国内物価・賃金に影響を及ぼしたサプライショックを指摘することができます。』

『足もと、私どもは、食料品価格の上昇というかたちで、もう1つのサプライショックに直面しています。私どもの中心的な見通しでは、食料品価格上昇の影響は減衰していくとみています。しかしながら、基調的な物価上昇率が以前よりも 2%に近いことを踏まえると、食料品価格の上昇が基調的な物価上昇率に与え得る影響に注意する必要があります。』

と言ってる本当の物価上昇率が既に2%超えてるんじゃないですかねえ、と思うのですが最後に図々しく、

『サプライショックが世界的により頻繁に生じるようになるにつれて、総合ベースでみた物価上昇率と基調的な物価上昇率の関係が、多くの中央銀行にとって主な焦点であり続けると考えられます。』

とか偉そうに言っているのですが、他の中銀が基調的な物価上昇率と総合ベースで見た物価上昇率の関係でどうのこうのっていう政策対応の説明していましたっけ、ってな問題が有るわけですし、大体からしてコア物価指数を過度に重視することに対しても昔から常に指摘があったんですよね。


・ここで懐かしの変態仮面ジム・ブラード前セントルイス連銀総裁の2011年の指摘を見てみましょう

変態仮面だの何だの聞こえないことを良いことに極東の島国の片隅で勝手な二つ名つけていますが、まあ賛否はありますけどブラード前総裁の論点提起ってのは面白いので良くチェックしていました。

(URL長すぎで画面が乱れるかもなのでハイパーリンクは文字列の途中までに貼っております)
https://www.stlouisfed.org/news-releases/2011/05/23/st-louis-feds-bullard-discusses-commodity-prices-inflation-measures-and-inflation-targeting
St. Louis Fed's Bullard Discusses Commodity Prices, Inflation Measures, and Inflation Targeting
May 23, 2011

『Core vs. Headline Inflation』って小見出しの2パラ目ですが、基調的な物価ガーとか抜かしている屁理屈大本営はちょっとこれでも読めやという感じでして、

『“Headline inflation is the ultimate objective of monetary policy with respect to prices,” Bullard said, noting that these are the prices that households actually pay. “Core is not an objective in itself,” he added. He said that while the only reason to look at core is as an intermediate target for headline, “its use as an intermediate target is questionable.”』(直上URL先2011年5月のセントルイス連銀ブラード総裁講演紹介文より)

さらに、上記URL先でリファーされているのが『Measuring Inflation: The Core Is Rotten』ってまた
喧嘩を売るような題名の講演テキストになりますが、

https://www.stlouisfed.org/-/media/project/frbstl/stlouisfed/files/pdfs/bullard/remarks/measuring_inflation_may_18_2011_final.pdf
Measuring Inflation: The Core Is Rotten
Money Marketeers of New York University
New York, N.Y.
May 18, 2011

最初の『Introduction』の4パラグラフ目のところにありますけれども、

『One immediate benefit of dropping the emphasis on core inflation would be to reconnect the Fed with households and businesses who know price changes when they see them. With trips to the gas station and the grocery store being some of the most frequent shopping experiences for many Americans, it is hardly helpful for Fed credibility to appear to exclude all those prices from consideration in the formation of monetary policy.』

コア指数ガーばっかり言いすぎていると本来の目的である国民が本来負担している「総合物価」との乖離が長期的に生じた場合(ちなみに前の方の先の引用部分の直後にブラードの説明引用として、「For example, from 2003-2006, while core inflation averaged about 2 percent, it was consistently below headline inflation. 」ということで、総合物価が長期的にコア物価を上振れていた時期を例に出しています)に、金融政策本来の目的が果たせているのか、というような論点を提示しているわけですよ。

とまあそんあ次第でコア指数ですらコア指数に固執してはいかんのでは、というような指摘が大昔から有る中で、「基調的な物価上昇率と実際の物価上昇率の長期間の大きな乖離がどうのこうの」とか能天気に言ってる場合じゃない訳で、黒田緩和からの修正が遅れまくっているのを正当化するためのしょうもない言葉遊びしてる場合じゃないだろと思います。


・この講演原稿作ったのは誰だあ!(ガラッ)

てなわけでまあ突発性海原雄山状態になってしまうわけですが、この手の屁理屈、〇〇さんや〇〇さん(伏字に関しましては皆様勝手に好きなのを入れてください)が捏ね散らかすならまた大本営の屁理屈かよ、って笑えないけど苦笑しながら見るって感じですが、斯界の第一人者であらされる学者の植田和男先生ともあろうお方がこのような屁理屈満載の説明を、しかも海外からのお客様もお招きしたアカデミック寄りの金研国際コンファランスで行う、ってのさすがに如何なものかって話でして、植田先生だってこの牽強付会ぶりを読んだら分かると思うのですが、いや先生学者として言ってて恥ずかしくないのかね、と思ってしまいますし、そんな講演原稿作ったのは誰だかは存じませんけど、いやちょっと何なんだよ、と思いましたとさ、というのが本日の結論でした。






2025/05/26

〇野口審議委員会見も大本営の腹話術人形でして・・・・・・・

ということで木曜の引け後に野口審議委員の会見で反応した、という感じなのかホンマに、って感じではありましたが、野口儀審議委員の会見を確認してみましょう。

https://www.boj.or.jp/about/press/kaiken_2025/kk250523a.pdf
2025年5月23日
日本銀行
野口審議委員記者会見
――2025年5月22日(木)午後2時30分から約30分
於 宮崎市

質疑応答はだいたい国債買入の話と今後の利上げに関する話に終始していたんですけど、この質疑応答見てて思ったのは「何でお前ら国債買入ペースを減らす方向の質問」しかしてないのって話で、この前の市場参加者会合の資料見たら「減額ペース減らせ」一色でも何でもないし、何なら加速すべきというのもあるし、ワイもそう思っているけど、そもそも論として減額が甘いからいつまで経っても市場の流動性がちゃんと回復しないでストレス耐性が弱いんじゃ、という主張も普通に市場参加者会合の資料にあるのですが、まるで市場が買入減額ペースをスローダウンさせろ一択かのような質問しかしないの何なんお前らマジで要らんわ、と思いました。

といきなり悪態をついておいて質疑応答ですが、まずは国債買入の減額に関しての一連の質疑を順に参ろうかと。


・長期国債買入ペースの減速に関しての一連の質疑だが野口さんの回答がまんま大本営でその点にビックリ

『(問)私から国債買入れでいくつかお伺いします。午前の講演で来年 4 月以降の国債買入れの方針につきまして、より長期的な視点から検討する必要があると発言されました。このより長期的な視点の意味するところについて、もう少しちょっと具体的に説明をお願いしたいということと、』

それはそうですね、そもそも長期的な部分は分からんと思うのですが。

『来年 4 月以降の国債買入れにつきまして現行計画のですね、毎四半期 4,000 億円ずつ減額していくと、そういうペースになっているのですけども、それを維持するべきなのか、または加速すべきか減速すべきか、来年度の国債買入れに関する野口委員の現時点のお考えをお聞かせください。』

これは変わらずって回答するのがほぼ見え見え(実際そうでしたが)

『もう一点、関連で足元超長期金利が急ピッチで上昇しておりまして、市場には日銀による超長期ゾーンの国債買入れの増額や買入れ区分の統合などを求める声が出ております。野口委員は超長期金利の安定に向けて、オペや減額計画などで配慮する必要性についてどのようにお考えか、大まかに二点よろしくお願いします。』

>市場には日銀による超長期ゾーンの国債買入れの増額や

いやあのそういう事言ってるトンチキはもちろん市場だからいるんだけど、お前この前の市場参加者会合の資料読んでるのかよって話で、そりゃまあ超長期買ってつかまっているから目先日銀にお助け下さいとかいうのはいるだろうけど、市場にはそんな声がでております、じゃねえよお前の認識どうなったるんだとしか申し上げようがない。

でまあ回答ですがこれがまた見事な大本営でして、

『(答)まず国債買入れ減額計画についてでありますけれども、これは私午前中のお話の中でも説明させて頂きました通り、基本的には予見可能性、もちろん柔軟性を伴った予見可能性ということでありますけれども、それが一番非常に重要であると。』

で、以下の回答が完全に大本営でしてマネタリーベース直線一気理論とか高圧経済とかとは全然違うお話が展開されています、すなわち、

『つまり、それは長期国債、昔のようにYCCのように長期国債の金利というものを日銀がある意味一つの政策目標にしていた状況とは全く違っておりまして、現在はあくまでも短期金利の操作によって金融政策を遂行している。』

ほう。

『そういう意味で言えば、国債買入れの金額から長期金利というような経路を通じた、その経路というものは、少なくとも政策としては考えていないということであります。』

そもそもYCCじゃなくてお前らの言ってたのマネタリーベース直線一気理論じゃなかったのかよという話で、完全に大本営の教育が行き届いて大本営のまんまの説明をしている訳ですな。

・・・・・となりますと、6月末で中村審議委員がご退任になられる訳でして、リフレとか言って自我を持ってハトハト金融緩和高圧経済を言いそうな野口さんが大本営にすっかり洗脳されてしまったという現状であれば、まあ大本営好き放題の図、ということになりますな。ゆうてトップが足元すっかりハトハトチキン音頭を爆音で踊り散らかしているので、だからと言って急に利上げが早まるというもんでもないですが、なんせ植田とかいうハトハトチキン先生、急に何かのスイッチが入ると突然威勢の良いことを言い出すジャガーチェンジムーブをぶちかますので、まあ別に利上げが全然ないですわ〜と言ってる場合でもないとは思いますけど。

でもって続き。

『ただ、これまで日銀がYCCを行っていく過程の中で、国債買入れ額というのは相当の規模になっておりますので、これをある種縮小していくということは当然のことであると考えております。』

まあ冷静に考えると何で縮小するのが当然なのか、って話があるのですが、ここをゴリゴリと突き詰めてしまいますと「中央銀行による財政マネタイズ」という管理通貨制度における最大の禁じ手の話になってしまうので、この点については既にバランスシートのランオフをしている中銀も含めて歯切れが悪くなるんですよね。

『それは市場にとってもある程度のボリュームをもって、その売買が行われる状態というものが重要だと考えておりますので、そこに向けて基本的にはマーケットをできるだけ荒らさないようにということは、つまり日銀が政策的な意図を持って何かその国債買入れの増減を行うということはないということが一番基本であるというふうに考えております。』

輪番の上げ下げに政策的を持たない、だそうですので、これは後半の「介入して下せえおねげえします」とかいう日銀依存ジャンキーで市場参加者の矜持を欠片も持たない輩への回答にもなっています。


でもって「長期的な視点」云々に関して回答の続き。

『ただ、より長期的に考えていきますと、最終的に日銀がどういうところで着地をするのかというのは、要するに中央銀行のバランスシートが最終的にどの規模に落ち着いていくのが最適かという問題になってくるわけであります。』

さいですな。でもってこの次の回答がズコーなのですが、

『これは実はまだどこの中央銀行も同じだと思いますけれども、量的緩和というものを行った中で、国債の買入れが膨れ上がったものを正常化してどこまで縮小していくのかというところですね、ここはまだ明確にはなっていないという状況の中で、手探りでそれを探っていくということになるわけでございます。』

だったら何で今回の見直しにおいて「長期的な視点」での話をするって事になっているのかが意味不明で、そんなの来年になって再度状況を見て、日銀のバランスシート規模と短期金融市場(長期金利ではない)との兼ね合いを見ながら規模の縮小をどの程度実施するのか、を考えるって話をすればいいのに、何で長期的な視点の話が今回出たのかが謎で、植田総裁の趣味で言ってたのか大本営が言わせたのか知らんけど、全く意味ねえじゃんと思いました。

まあそれは兎も角としまして次。

『その中で日本銀行としては、当面の計画というものは決めておいた、それを今後は実行していくと、少なくとも来年[3月]の時点まではそれをやっていくというようなことにおそらくなっていくわけであります。』

だったら別に長期的な検討は今後に回せばいいだけの話なんですがなぜか・・・・・・

『その後のことを考えますと、その最終的な姿に向けて、どういうふうにスムーズにそこに持っていくのかということを考えて行く必要もあるという、そういう意味で長期的な観点ということをお話したわけであります。』

そもそも姿が決まっていないのにスムーズに持っていくも蜂の頭もないんだが。

『ただし、具体的にそれがどういう金額になるのかというような具体的な数字ということに関しては、ようやく市場関係者からのヒアリングというのも終わってですね、それをわれわれとしても踏まえた上で、なるべくマーケットに予見可能性というものを乱さないようなかたちでこれまでの計画を大きく変えることはおそらくはないと思いますけれども、それで最終的なところにうまく着地していくような、そういうような新たな計画というものが必要になるというふうに考えております。』

???????????????

最終の着地がどうなるか今時点で皆目見当がついていないのに何で「最終的なところにうまく着地していくような、そういうような新たな計画というものが必要になるというふうに考えております。」という話になるのかが良くわからんのだが、大本営の屁理屈を教わったのは良いけど、大本営の屁理屈って屁理屈として練りに練っているだけに、ちゃんと構成を理解して捏ねないと上記のようにお前は何を言ってるんだということになりますので使用上の注意を良くお読みになってお使いくださいw

『これが最初のご質問に対するお答えであります。それから、4,000[億円]というような金額を維持すべきかどうかというようなことに関しては、これは今後の検討次第、検討を経た上で決めるということになると思います。』

だそうな。


・マーケットに対してリアクティブに何か介入するわけじゃないよ

でもって今の質疑応答の応答の方はまだ続くのですが、さっきの「介入クレクレ」へのご回答編。

『超長期の金利水準がこれまでの水準を考えると非常に金利が引き上がっていくペースが速いというようなことが最近生じているわけでありますけども、これと今度のこの 6 月に行われるような新たな計画というものが、私自身は少なくとも直接リンクするというふうには考えておりません。』

はい来た〜〜!!

ということでリフレリフレ言ってた人とは思えない発言ですが、まあ大本営もさすがにこの程度で一々日銀が市場に手を突っ込むほうがアカンじゃろ、という認識は持っているようでして、誠に結構なお話ではあります。だいたいからしてこの程度で一々介入やりだしたらそれこそキリがなくてYCCに戻るようなもんだし、なんかの拍子に財政ファイナンスって言われだし兼ねないし、そういわれた場合のリスクは今の財政運営を巡る政治状況から言ったら過去にないくらいに地雷踏むリスクがあるわけですからね。

『これはある意味で、長期金利はマーケットに委ねるというようなことを決めたわけでありますから、その中にはマーケットというのは様々な情報を消化していく中で、金利というものが形成されていくということだと思います。』

極めて大本営なのですが、これをリフレ野口さんが言う、というのが感慨深い。

『最近の長期金利の動きというのも、おそらく背後にいろいろな要因があって、その中には米国の政策の不安定性あるいは米国の長期的な財政状況というもの、こういうものは特に超長期金利、長い方の金利にいけばいくほどですね、長くなればなるほどそういう世界的な連動性というのがどうしても高まってきますので、そういうものの影響というのも日本の超長期金利も受けざるを得ないという中で起きている現象であると。』

日本の財政、と言わないのが日銀大本営の腰の弱い所でして、んなもん総裁副総裁に言わせると多少アレですけれども、ヒラの政策委員が言う分にはOKじゃろとは思いますけど。

まあ日本の場合はそれもあるけれども、「本来もっと前に上がっていて然るべきだった長期金利が日銀の買入によって不必要に抑えられていて、その本来起こるべき金利上昇が日銀の買入関与が相対的に低い超長期金利にまとめて出た」って話じゃないですかねえという所ですな、知らんけど。

『それ自身ですね、急激ではありますけれども、それが非常に何か異常な動きであるかどうかというのは、私は一概にそういうふうに決め付けることはできない。そこにはやはりマーケットなりの判断がその背後にあるわけでありますから、それをむやみに介入をして何か操作するというようなことは私は適切ではないというふうに考えています。』

おおおおおおおおおお!!!!!!!

ということでリフレ野口がこれを言う、ってのは中々インパクトがある(と言ってもまあ金懇挨拶のテキストみた時点でこういう回答になるんじゃろうなというのは想定できるんですが)ということではあったかと思います。


・長期金利市場に対するコメントが真人間にも程があってビックリした件

でまあ他にも輪番に関する質疑あったのですが基本的にさっきの説明と同じことを言わせるだけの愚問だったので割愛しますが、最後の奴だけ引用しますね。

『(問)度々繰り返しとなって、恐縮なんですけれども、足元の長期金利、超長期金利の国内の上昇について、今上昇ペースが広がってますけれども、これは国債買入れ減額の見直しにあたって金額の増減を判断する、機動的に対応するような例外的な状況ではないっていうご認識でよろしいでしょうか。』

この回答がリフレ野口とは思えない回答で面白かった。

『(答)私の個人的な今の見方では、これまで日本の金利というのは動かない世界にあった、長期金利もマイナスの時期もあったぐらいなわけでありますから、そういう意味で言えばイメージとしてですね、これだけ上がりますと非常に急激だというようなイメージがあるわけでありますけれども、もともと金利というのはいろいろな将来の予想や思惑というものを反映してかなりボラタイルに動くというのが金利というものであります。』

うひょーーーーーーーーーー

『そういうふうに考えますと、それが一概に、何か異常なものと決め付けるというのも難しいわけであります。』

何という真人間発言w

『もちろん状況によっては、中央銀行として金融市場を安定化させるために積極的に何かをやらざるを得ない状況というのは、当然あると思いますけれども、現状では少なくともそういうような状況にはないというふうに私は考えております。』

そらそうよという所ですな。


・トラ公関税政策に関連して

『(問)午前の講演の方でも少し触れられていたようなんですけれども、今後の不確実性という意味で、アメリカのトランプ政権による関税措置についての影響について、懸念というか危惧するというふうな話も出てたんですけども、警戒感というか、先行きの不透明感が漂う今の状況について、改めてご見解を伺いたいのと、それが今後の日本銀行の追加の利上げ措置に与える影響について、今、現時点でのお考えを教えてください。』

でもってこちらの回答ですが、

『(答)これは、正直申しまして、4 月 2 日以前の状況と、それ以降の状況というのは、世界的なマクロ経済状況が大きく変わってしまったということは認めざるを得ないというふうに考えております。』

「前提」は変わったと思うが「状況」はこれから変わると思うんですよね、まあいいけどさ。

『その 4 月 2 日の結果として金融市場というのが大きく変動をしたわけであります。しかし、その後の状況をみていきますと、さすがに最初のトランプ関税ショックの状況がいろいろな情報が新たに付け加わることによって、少しずつ解消されてきているというのも事実であります。』

このあたり、ちょいちょいと大本営ってハトハト一辺倒じゃない説明を挟むんですよね。

『しかし、そうは言ってもこれからどうなるかというのは、まだはっきりとしていないということです。』

そらそうよ。

『日本にとってみれば、一番大きいのが自動車関税だというふうに思いますけれども、それがどういうふうに落ち着くのか、それからやはり中国と米国との関税の協定というのも、日本においても非常に中国経済と日本経済との結びつきはそれなりに大きいわけでありますから、中国あるいはアメリカ、米中関係というものが大きく毀損されるということになると、その影響を日本も受けるということでありますけれども、これも一時の非常にほとんど貿易が途絶するような状況が予想されるような状況からは、かなり解消されてきているということを考えますと、少しずつ霧が晴れてきているというような状況だというふうに考えております。』

この「一時の非常にほとんど貿易が途絶するような状況が予想されるような状況からは、かなり解消されてきている」って説明は重要で、つまりは「コロナショックのようなことにはならない」というお話なんですけど、どうせなら説明で「コロナショックのような世界貿易が止まる勢いのショックまでは至らないかもしれませんね」位言えば良いと思うのですが、そこは何か説明しないんですよね、何でじゃろ。

『その中で金融市場の方も少しずつ落ち着きを取り戻していると。』

へい。

『ただし、そうは言っても、また何か新しい状況が出てきて、それがかなりネガティブなものだったりすると、またそこに反応するということは起きておりますので、まだ完全にその 4 月 2 日以前に戻ったとは全く言えないと。暫くはこの不確実な状況は続くだろうということだと思います。』

そらそうじゃろね。

『そのうえで、日銀の金融政策についてでありますが、これはやはり 4 月 2 日当時の状況は、これはいったんとにかく状況を、関税がどういうところに落ち着いていくのかを見極めるしかないというような時期が一定程度続いたわけでありますが、少しずつその帰趨というのが明らかになっていく中で、とはいってもかなりの下押し効果というのは、最善の、例えば各国別の追加関税っていうのがかなりなくなったというようなかたちでも、アメリカの 10%の基本的な関税は残るわけですから、その分に関してはかなり下押しが生じるということを考えますと、ある程度の見通しのずれというのはやむを得ないというふうに思っております。』

まあその通りなんですが、今回展望レポートでそれを織り込ませて見通しを下げた、ということでして、じゃあその織り込ませってどのくらいなのか、というのがまあ何となくフワッとは書かれているのですが、実はどの辺まで織り込んでいるのかが公表文書だとよくわからんという作りになっているのが今回の展望レポートの不親切設計部分で、今後の展開における関税政策動向の推移が、4月展望レポートでの想定対比で上振れしているのか下振れしているのか、というのが分からない状態だと、展望レポートで示された経済物価パスおよび政策パス(政策パスは明示的には示していませんけれども察するパスね)から上振れるのか下振れるのかが分からん、という状態に今はあるので、6月会合と言いたいけど少なくとも次回の展望ではもうちょっと明確な前提を見せて欲しいです。

『けれども、これが場合によっては思っていたよりも元の軌道に戻っていく時期が早くなる可能性もあるかもしれないというのが今の状況だと思います。ただ、そうは言っても、やはりまだ不確実性は非常に大きいので、見通しというのがはっきりしないとなかなかわれわれとしては次のステップというのを踏むというのはリスクが非常に大きな状況であり、あえてリスクを取るという選択肢はあり得ません。』

だそうなのですが、そもそも正常化が遅れるのがリスクになりうる、という発想が野口さん、というよりは大本営なんでしょうけれども、その辺りには無い(主な意見や議事要旨を見ていると多分抜刀斎辺りを筆頭に正常化を遅らせるリスクについて指摘する向きもあるので、政策委員会全員がそうなのでは無いとみられますが)なあというのは分かるかと思います。

『そういうふうに考えますと、私は午前中にほふく前進的なアプローチというふうにお話しましたけれども、そういうような考え方で暫くは弾丸が飛び交うような状況でむやみに動かないで、状況をまず注視していくというのが現状では基本になるというふうに考えております。』

まあとりあえず大本営は動きたがらないというのは把握したので今朝はこの辺で勘弁。


2025/05/21

〇20年国債入札がクソ流れしたので記念メモ

既に皆様ご案内の事だと思いますので備忘記念メモだけ。

https://www.mof.go.jp/jgbs/auction/calendar/nyusatsu/resul20250520.htm
20年利付国債(第192回)の入札結果

『本日、20年利付国債(第192回)の価格競争入札及び国債市場特別参加者・第T非価格競争入札について、下記のように募入の決定を行いました。


1.名称及び記号     利付国庫債券(20年)(第192回)
2.発行根拠法律及びその条項 財政法(昭和22年法律第34号)第4条第1項及び特別会計に関する法律(平成19年法律第23号)第46条第1項

3.表面利率    年2.4パーセント
4.発行日    令和7年5月21日
5.償還期限   令和27年3月20日

6.価格競争入札について
(1)応募額        1兆8,778億円
(2)募入決定額       7,509億円
(3)募入最低価格      98円15銭
(募入最高利回り)     (2.540%)
(4)募入最低価格における案分比率     80.8791%
(5)募入平均価格      99円29銭
(募入平均利回り)     (2.453%)』

oh・・・・・・

ということでテールが1円14銭でイールドでは8毛7糸流れるとかいう悲惨な入札になってしまいましたし、大体からして前場調整してなかったっけってなもんでして、どんだけニーズがないんだよという風情。


でまあ記念メモなのでロイターさんの解説も見ますと、
https://jp.reuters.com/markets/japan/funds/UVHA5BJQIBNJHOCBZEZDOMPIAQ-2025-05-20/
〔マーケットアイ〕金利:国債先物は続落、長期金利1カ月半ぶり1.515% 20年債入札不調
ロイター編集
2025年5月20日午後 3:21 GMT+9

『[東京 20日 ロイター] - <15:11> 国債先物は続落、長期金利1カ月半ぶり1.515% 20年債入札不調

国債先物中心限月6月限は、前営業日比10銭安の139円15銭と続落して取引を終えた。20年債入札が不調だったことが嫌気され、売り圧力が強まった。新発10年国債利回り(長期金利)は一時1.525%と3月28日以来の高水準を付けた後、同3.5ベーシスポイント(bp)上昇の1.515%。新発20年債利回りは24年半ぶりの高水準、新発30年債と新発40年債の利回りは過去最高水準を付けた。』(上記URL先より、以下同様)

アイヤー

『朝方の国債先物は強含みで推移。前日の米長期金利が4.45%付近まで低下した流れに追随して始まった。その後は20年債入札に向けた調整が入り、先物はじわじわと上げ幅を縮小した。後場に入り、国債先物はマイナス圏に沈んだ。きょう実施された20年債入札では、テールが1円14銭と1987年以来の大きさとなったほか、応札倍率も2.50倍と2012年以来の低水準となり、不調な結果と受け止められた。』

1987年だとタテホショック関連ですかね(さすがにマジで調べないとわからん)という話ですが、まあその時代と今では金利水準全然違う(昔の方が全然高い)ので何ともかんともという話ではありますけれども、まあ6年国債で1円くらい流れたことも昔はあるのですが、それはそうと(ノ∀`)アチャーって感じでして、

『   OFFER  BID   前日比 
2年  0.717  0.723   0.003  15:07
5年  1.002  1.008   0.012  15:11
10年  1.509  1.515   0.034  15:07
20年  2.542  2.552   0.143  15:11
30年  3.124  3.139   0.164  15:11
40年  3.59   3.599   0.145  15:11』

ということで中長期は戻った(と言っても10年3.5甘とかですが)けど超長期アカンタレということになっておらえるようであばばばばーって感じですな。

まあアレです、これトークとしては財政懸念って話もあるにせよ、実際問題として財政懸念でジャパンがアレなのでショートで攻撃じゃああああ、というアタックで売られているという感じはあんまり(ほぼ)しないんじゃなかろうかという所で、どちらかというと財政懸念は「超長期ゾーンへの追加投資を及び腰にしてしまう」って感じは受けますな。あくまでも個人の感想ですがw

結局元を辿れば日銀の金利抑制政策の余波で国債の金利水準が(順当に2%の物価目標が達成された場合にごくリーズナブルに想定される短期金利パスよりも)恒常的に低い水準に日銀のマイナス金利YCC解除後も続いていて、そのせいで特に長短スプレッド取りに行く系の人が利回り取らざるを得ないので、とは言っても無理するわけではないのですが、それでも少しずつだけでも皆さんがそうやってポジション取れば結局全体としてはリスクが大きくなるわけで、そういう中でトラ公がらみのボラ上昇やら、ドイツ様の財政政策の転換やら、トラ公がらみの減税減税財政財政大合唱やらがあって、買いの手が止まっている中で新発が捌ききれずに金利が上昇して、別に誰かが気合入れてショート入れるわけでもなく、ロングの投げ回転が効いてしまっているという感じなんでしょうかね、知らんけど。、

とまあそんな訳ですので、「スムージング」とか言って金利抑圧効果のある長期国債買入をアホウのように継続するのは如何なものかと思う訳でして、そらまあマイナス金利とYCCを外した直後だとスムージングしたくなるのはわかるのですが、既に「2%物価目標達成に向けて徐々に政策金利を引き上げて緩和を調整する」って言ってるんだから、長期国債買入による市場介入をしている時間帯じゃなかったのに、まあ昨年減額ペースをビビって1年経過したらこうなった、ってなもんでしょうねとは思うのですが、まあそれ関連での市場参加者会合の資料が出てきましたので鑑賞鑑賞。



〇植田さんが会見で言ってる「来年春以降のデザイン」とかいうの引っ込めた方が良いんじゃないでしょうか・・・・・(市場参加者会合)

「債券市場参加者会合」(第22回)金融市場局説明資料[PDF 2,041KB]
https://www.boj.or.jp/paym/bond/mbond_list/mbond250520.pdf

前段の資料ページはまあどうでもよいので、『4.意見照会へのご回答』以降を確認しましょう。

ということで資料の25ページ目(PDFも同じく25枚目)になりますが、(以下黒丸ポツとかチェックマークにつきましてはアタクシの編集の都合上全部・に置き換えて引用しております、為念)

・超長期は別にアタックとかではなくて過大なポジションがあったのがトラ公ショックで顕在化したって感じなのかな

『意見照会へのご回答(国債市場の動向)

・ 市場動向について、年度末にかけては「政策金利の引き上げや買入れ減額を背景に金利が上昇した」、本年度入り後は「10 年以下の金利は、米国の関税政策発表を受けて低下した」、「超長期ゾーンの金利は、投資家需要の弱さやポジションの巻き戻しにより、大きく上昇した」といったご意見を頂きました。

・ 国債需給について、年度末にかけて「投資家の様子見姿勢から悪化する場面もみられた」、足もとでは「中長期ゾーンの需給はタイト」、「超長期ゾーンの需給は顕著に悪化」といったご意見を頂きました。』

まあそうじゃろうなという感じですが、超長期に関しては「需要の弱さ」「ポジションの巻き戻し」でして、いわゆる指値オペ攻撃みたいなのとは全然話が違うというのが見て取れる、というか日銀の事務方でもその辺はちゃんと把握しているというのが見て取れますな。

『(具体的なご意見の例)』っての見ますと、

『・ 年度末にかけては、日本銀行による政策金利の引き上げや買入れ減額を背景に金利が上昇した。その際、政策金利の終着点を巡る不透明感や期末要因から投資家の買いが手控えられ、需給環境が悪化する場面もみられた。』

買入減額は予定通りに行われているので何でas is expctedの買入減額を背景に金利が上昇せにゃならんのよだし、政策金利の終着点を巡る不透明感ってあーた物価安定目標が達成出来たらその時の政策金利は中長期的な物価上昇率に潜在成長率乗せてあとは適当な幅をもったレンジの中のどこかじゃろ、という話で、何が不透明感じゃ、と思いました。

『・ 4月入り後は、米国の関税政策発表をきっかけに、景気減速懸念から本邦追加利上げ観測が後退し、10 年以下の金利は大きく低下した。』

うむ。

『・ 中長期ゾーンは、本年度入り後、国内銀行等による買いがみられており、需給はタイトである。

ほうほうほう。

『・ 超長期ゾーンは、米国の関税政策発表をきっかけに、アセット・スワップやフラットナーのアンワインドが発生し、生保需要の減退という構造変化も相俟って、需給が顕著に悪化し、金利も大きく上昇した。』

ということでまあこの手のポジションがあって、でもってトラ公切っ掛けの相場変動でボラ上がり過ぎで持っていかれるとか、まあ市場が動く中で何ぼ何でもおまえここまでスティープせんでもええじゃろと思ってカーブポジション参戦したら何のことはないとんでもない水準までさらに持っていかれて投げ回転、みたいなお話なんでしょうかね、知らんけど。

なおアタクシは基本的に大昔の人なのでいまだにあのアセスワってのなじみがなくて、まあ市場がクソ混乱した時ってああいう合成ポジションは明後日の方向にまた裂き食らったりしちゃいますよねと思うのだが、今回は何がどうなったのやら。



・日銀の国債買入が過大で金利抑圧が続いているのが機能度向上の阻害要因って話が並ぶのは順当だがいい話

次が『意見照会へのご回答(国債市場の機能度)』である

でまあこれはネタにし忘れていますが5月調査の債券市場サーベイがもう笑ってしまうしかない状態でしたが、今回の市場参加者会合は国債買入の正常化に向けたパスの話が絡んでいるので買入を絡めたお話になるわけですが。

『・ 「国債の買入れ減額により国債市場の機能度は改善傾向にある」、「国債補完供給の減額措置によりチーペスト銘柄の流動性は改善した」、「4月入り後は、ボラティリティが高まり、超長期ゾーンの流動性が特に低下するもとで、長期までのゾーンとの市場の分断が生じている」、「ストック効果が大きいもとで機能度の改善は道半ば」といったご意見を頂きました。』

とまあそういう訳で、総じて「日銀の市場介入を減らすのが機能度向上に資する」という話になっているようには見えましたが、『(具体的なご意見の例)』を見ますと、

『・ 段階的に買入れが減額されていることで、債券市場の流動性や金利のより自由な形成といった市場機能度は改善傾向にある。』

『・ 国債補完供給にかかる減額措置により、チーペスト銘柄の流動性は、ひと頃と比べて改善した。』

まあそうですよね。そもそも論としてYCCの為に大量に買った国債なのですから、市場機能改善したければ売ったって本来はそこまで筋違いじゃないと言いたいのですが、まあ単純にアウトライトの売却って言い出すとそれはそれでインパクトというかハレーション大きいと思うのでして、つまりはYCCとかいう出口の事をなんも考えないで勢いとノリとマイナス金利政策の失敗を糊塗するためにぶっこんだ施策の罪深さというのが良くわかるわけです。あとは日銀の現場力が高いのが不幸な方に効いてしまって、無駄にYCCを延命させてしまったのも出口のコストを結果として高めてしまった(早くに方向転換して「普通の緩和政策」に戻せておけば何年も経過してもこんな話せんで済んでいたと思うの)感はありますな。


『・ 4月入り後は、ボラティリティが上昇するもと、市場のリスク許容度が低下し、需給悪化が顕著となった超長期ゾーンを中心に流動性が低下した。足もとにかけて、流動性は回復しつつあるが、超長期ゾーンの流動性は改善していない。』

『・ 特に超長期ゾーンの流動性の著しい低下が懸念されており、長期ゾーンまでと超長期ゾーンで市場分断のような状況が発生している。』

まあそうですね。

『・ 10 年以下と 10 年超で日銀保有比率に大きな差があることが、4月入り後のイールドカーブのスティープ化や市場分断の遠因となった。』

だから中短期の買入をもっと減らせという話なのか超長期をもっと買えという話なのか、結論がどっちなのかによって全然評価が異なる話ですがこの先は記載されていませんので分からんですなw

『・ ストック効果が残存するもと、利上げ見通しや経済ファンダメンタルズ対比では金利上昇が抑制され、投資家の国債需要が十分に喚起されず、機能度の改善は道半ば。』

然り。


・しかし肝心の6月以降の減額計画に関しては意見がバラバラクソワロタ(ワロエナイけど)

『意見照会へのご回答(現行の長期国債買入れ減額計画)』に参ります。

『・ 現行の減額計画については、「買入れ減額のペースを早めるべき」、「現行計画どおり進めるべき」、「買入れ減額をより緩やかなペースに変更すべき」、「一度に大幅な減額をすべき」といったご意見を頂きました。』

意見がバラバラですし、こんなの偶々このタイミングでやったらからこういう回答になったけど、もし3月にこの意見聴取してたら別の回答になっていたでしょうし、4月にやっても別の回答になっていたでしょうな、と思う次第なので、まあ日銀だって端からそんな気はないでしょうけれども、多数決方式で決めるようなもんじゃない、ってお話ではありますわな、と思いました(個人の感想です)。

『(具体的なご意見の例)』ですが、。

『・ 10 年以下のゾーンについては、日銀保有比率は高いままであり、投資家需要対比で市中流通玉が不足しているほか、イールドカーブに歪みが生じていることを踏まえ、同ゾーンを中心に買入れ減額を加速するべき。』

まあこれストックで見るのかフロー(新発と流動性供給入札による追加発行対比)で見るのかというのもあるかな、とは思いました。

『・ ボラティリティの上昇により市場全体のリスク許容度が低下している状況で減額ペースを加速させると、かえって市場の機能度を低下させる恐れがあるため、現行計画を変更することは望ましくない。』

うーんそれ言いたい気持ちは分かるんだが、そういう発想っていきつくところは「中銀プットアリガタヤ」になってしまいまして、それによって発生する過大なリスクテイクが将来における金融リスクの拡大に繋がると思いますし、大体からして「ここまでの減額ペースが遅すぎたから市場機能の回復が遅れて、その結果トランプ関税ショックへの耐性が市場に育っていなかった」という見方だって出来る(というかアタクシはそう思っているがそこは別の見解もあると思います)訳でして、ちょっと断面にとらわれているなあという気はします。

『・ 足もとの超長期債のように、特定の年限の流動性が著しく低下する場合には、内訳としての残存期間別の減額の割り振りを慎重に検討する必要があるものの、国債買入れの減額幅やペースの予見性を保つことは重要であり、現行の減額計画自体は変えるべきではない。』

まあ予見性のキープは重要ですが、前段の機能度のところでは日銀の国債買入が依然として(ストックかフローかとかそういう論点はありそうですが)過大であることが市場機能の向上を妨げている、って意見が大勢を占めているっぽいので、別に予見可能性云々を盾にして変えるべきではないってのもどうなんでしょ、6月に見直しをしますって大昔から言ってる話なので、そらまあその見直し時期を待たずに変えるのは筋悪だと思うけど。

『・ 現行計画のもとで、過度なボラティリティが生じることなく、着実に減額が進んでいる。計画を変える必要はない。』

『・ 足もと流動性が低下しているが、米国の関税政策という買入れ減額とは別要因によるものであり、計画どおりに減額を進めるべき。』

『・ 足もとの国債市場の動向を踏まえると、国債買入れの減額が、流動性を悪化させる方向に作用している可能性もあるため、買入れ減額をより緩やかなペースに変更すべき。』

『・ 段階的な減額により、市場機能の改善は不十分なものにとどまっているため、段階的な減額をやめて、一度に大幅な減額を行う形に見直すべき。』

最後に原理主義者が登場していますな笑。まあ機能度の事考えたらもっと減額加速した方が良いと思いますが、最低でも今のペースでは減らさんとって思いました。


・2026年4月以降の話とか何でしようってことになっているのかがマジで意味わからん

でもってこの後のコーナーが『意見照会へのご回答(26/4 月以降の長期国債の買入れ<ペース>)』、『意見照会へのご回答(26/4 月以降の長期国債の買入れ<買入れ金額等>)』なのですが、こんなん来年4月というかその前の段階でまた中間評価やりゃ良いじゃんというだけの話だと思うのですが、植田総裁が何を思ったのか会見とかでこの話をしたもんだからアンケート項目に入っているんですよね、マジで意味わからん。

こんなの理念的には「望ましい当座預金残高(あるいはバランスシート)規模になるまでは新規買入をゼロにする。、ただし四半期ベースで幾ら以上のバランスシート減少規模になる場合はスムージングの為に長期国債買入を超過分だけ実施する、保有国債の償還スケジュール見れば事前に計画できますのでお前らも日銀保有国債の明細よくみておけや」で終わりだと思うのですが・・・・・・・・・・

ということであんまりこちらは引用しませんけど、

『意見照会へのご回答(26/4 月以降の長期国債の買入れ<買入れ金額等>)』を見ますと、個別の意見はめんどうなので割愛しますが、まとめのとことでは

『・計画期間末時点における買入れ金額(月額)についても、「ゼロ」、「1〜2兆円程度」、「3兆円程度」といったご意見を頂きました。また、「今後も、中間評価を行うべき」、「目指すべき超過準備の姿を示すべき」、「状況を見極めるべき」とのご意見も頂きました。』

昔みたいに銀行券の趨勢的な伸びに対応して長期国債買入をする、ってんならともかく、そうじゃないのであれば本来的には長期国債買入はゼロじゃろって話で、月額3兆とかの輪番がビルトインされた状態での債券市場の価格形成ってその時点で市場の金利形成機能をおかしくするじゃろ、としか言いようが無いのでまあ本来はさっき書いたようにゼロじゃろゼロと思いますがね。

でまあこの「目指すべき超過準備の姿を示すべき」ってのも大事な論点で、ただまああまりにも今の超過準備が多すぎるので、目指すべき水準がどの程度になるのかというのもさっぱり分からん、ということかとは思いますが、今は明らかに超過大なんだからとりあえず減らしていきながら様子見ます、で良いんだと思うのですけれども、植田さんなんか妙なこだわりでもあるんですかねえ、とこの2026/04以降の話という部分については思うのでありました。


2025/05/20

〇またポンチ絵の体裁を前回と比較不能なものにしてきたんだが(展望レポートハイライト)

毎度おなじみの「ECBの真似っこしてみたものの訳わからんものになってしまったが今更引っ込みもつかないので継続性とかそういうのを丸無視して作って金融市場から注目されないように編集する攻撃」(大いなる個人的な偏見です)のハイライトですが、さて今回はと言いますと・・・・・・


今回4月
https://www.boj.or.jp/mopo/outlook/highlight/ten202504.htm

前回1月
https://www.boj.or.jp/mopo/outlook/highlight/ten202501.htm

前々回10月
https://www.boj.or.jp/mopo/outlook/highlight/ten202410.htm


・経済の見通しが関税要因で云々は分かるのだがイラストの振れ幅が大きすぎて笑うしかない

最初のイラストが、

『日本経済は成長ペースが鈍化する』(今回4月)

でして、まあこれ自体は関税政策あるから引き下げました、って話(ベースラインシナリオそのままで不確実性に全部ぶち込んで7月展望まで様子見地蔵です勿論本当に何かしなといけないなら動くけどまあ地蔵でお待ちください、という選択肢もあったとは思うがそこはさておきまして)になっているので結論が過去のと比較すると、

『日本経済は成長を続ける』(前回1月)
『日本経済は成長を続ける』(前々回10月)

から下がっているのはまあ良いんですけど、イラストの振れ幅大きすぎにも程があって、昨年10月は左打ちの強打者(大谷選手のイメージですかねえ)がバックスクリーンにホームランかっ飛ばしている、という凄まじく威勢の良いイラスト、前回はクロスカントリースキーで前進しているの巻というまあ普通ちゃあ普通のイラスト、からのいきなり重いコンダラ試練の道を状態なイラストに転換しております。

でまあ必死こいて引き摺っているのが下向き矢印付きでずぶずぶ沈む地球儀(世界経済でしょうねえ)と大型貨物船(一瞬タンカーかと思ったけど世界貿易の積りなんでしょうね)という何かもう昭和のスポ根みたいなのが出てくるわけですよ。

・・・・・・いやあのですね、ちょっとあなたたち絵柄のイメージの振れが大きすぎやしませんか、って話でして、説明の文書を読みますと

『日本経済は、各国の通商政策等の影響を受けた海外経済の減速により下押しされ、成長ペースが鈍化します。その後は、海外経済とともに、成長率を高めていきます。』(今回4月)

ってことで一旦鈍化したあとには成長戻ってきますよって話になっているのに、絵柄がもう苦行の世界みたいな絵柄(図と言い憂鬱そうな色と言い)になっている訳ですよ。

なお、ここで昨年10月(前々回10月)の展望レポートの説明文を見ますと、

『日本経済は、海外経済が緩やかな成長を続けるもとで、金融面からの後押しなどもあって、潜在成長率を上回る成長を続けます。』(前々回10月)

って文章でして、「潜在成長率を上回る」とは言ってるけど高成長とかそういうことまでは言っていないし、海外だって「緩やかな成長」って程度の話をしているのに、大谷選手のバックスクリーンへのホームランがかっ飛ばされるっていうイラストも文章対比で威勢が良すぎますし、なんですかこのイラストの振れ幅はということで、絵師自体はプロがやってるのか日銀の中に絵師がいるのか存じませんが、絵師に対してのインプットをもう少しこう手加減というか何というか、ってした方がエエンチャウノというお話です。

余談ちゃあ余談ですけれども、これ植田日銀の悪いところではあるのですが、会見での質疑応答における説明でも、利上げしている時はやたらめったら威勢の良いことを言ってしまうから「やっぱり次回の利上げが前倒し」みたいになるし、現状維持の時はやたらめったら慎重な事を言ってしまうから「利上げって実は当分できない/打ち止めなんじゃないか」みたいになってしまう、というのがあって、今回で言えば総裁記者会見が(質問されたことに対して丁寧に回答しているのは分かるし植田さんも別に期待を余計に振り切ろうと思って言ってるんじゃないとは思うのですが結果的に)植田さんが政策修正なしなしみたいな説明をしてしまって、最近の主な意見などが出てやっと「従来路線は変わっていない(ただし不確実なのでその点で言えばでたとこ勝負)」って認識が広まりつつある(のでそれこそ1年短国のレートも4月半ばよりは上昇している)訳ですな。

でまあライブ配信の方は致し方ない面はあるのですが、事前に編集ができるこのようなポンチ絵で何も振れ幅を大きくする必要はない訳でして、これもまあ植田日銀的には「絵柄としてわかりやすくしたい」って事なんでしょうけれども、金融市場の中の人(というほど偉くはなくてただの門前小僧がジジイになっただけのオッサンだが)からしてみますと、こういう物件は当然ながら前回からの継続性を見て、前回対比での変化を見てどこにポイントがあるのか、というのを見ますので、振れ幅をあまり極端にするのは如何な物かと思いますし、一般向けだから分かりやすく、って言ったってここまで振れ幅を大きくするのは、(どの位いるかは知らんけど)このイラスト見た一般の皆さんの期待を無用に振り切らせることになってしまい兼ねないので、如何なものかと思うのですよね。

ま、そういうと「前回との整合性とか見るな」って言われそうですが「そんなもんを中央銀行の名前で出すな」と思うのよね。


・「基調的な物価」と「アクチュアルの物価」の2本立て説明さん、あっさりお蔵入り(か?)

2番目のイラストが「物価」についてになりますが・・・・・・

『物価は減速したあと2%程度に向かう』(今回4月)
『物価は2%程度に向かう』(前回1月)
『物価は来年度以降2%程度で推移する』(前々回10月)

こちら、先般の東京都区部4月CPI出たときに前々回10月のイラストについて言及しながらヘソが茶を沸かしましたなあという駄文をこちらで開陳申し上げた覚えがございますが(・∀・)こちらにも特徴がありまして、

『消費者物価の前年比は、食料品価格上昇などの影響が弱まり、経済の成長ペースも鈍化するため、来年度に1%台後半まで減速しますが、再来年度は2%程度となります。』(今回4月)

『消費者物価の前年比は、来年度に2%台半ばとなったあと、再来年度は概ね2%程度となります。この間、一時的な変動を取り除いた消費者物価の基調的な上昇率は、徐々に高まったあと、2%の「物価安定の目標」と概ね整合的な水準で推移します。』(前回1月)

『消費者物価の前年比は、今年度に2%台半ばとなったあと、来年度・再来年度は概ね2%程度で推移します。この間、一時的な変動を取り除いた消費者物価の基調的な上昇率は、徐々に高まったあと、2%の「物価安定の目標」と概ね整合的な水準で推移します。』(前々回10月)

前々回10月は秋の紅葉の丘をバックにパラグライダーが2025(年度)2026(年度)の2%に向かって順調に効果着陸するの図、となっていました。まあ2025年度一発目が早速上振れしている時点で「来年度(=2025年度)・再来年度は概ね2%程度」を大外ししているんですけれども、まあそれは兎も角として。

1月って2%というフロアーに向けて下から上がってくる階段と上から下がってくる階段があって、上から下がるのが「アクチュアルの物価」で下から上がってくるのが「基調的な物価」って話だった訳ですな。

でまあ今回ですが、前回あった「基調的物価とアクチュアルな物価」のイラストから、単純に物価の折れ線グラフ(折れ矢印グラフと言うべきか)に切り替わっておりまして、しかも2026年度のところまで下がり続けた後に2027年度に2%になる(すなわち文章にもありますけど2026年度は2%割れ)というイラストになっています。

まあこれ4月東京が上振れはさておきましても、今後食料品価格の伸び率が鈍化するのと経済の減速が相まって物価が下がるっていうのが日銀大本営の見通しになっているからそういう図になっているのは分かるのですが、何せ日銀はこの2年以上に渡ってアクチュアルの物価見通しを盛大に外しまくっている訳で、物価見通しを2年も外し続けて何が物価安定目標じゃとしか言いようが無い(というか何で定例記者会見で大して問題視されないのよと思うけど)ですが、それは兎も角としまして。

今回ってイラストが「アクチュアルの物価一本に戻った」のもあるのですが、説明文の方でも「基調的物価がどうのこうの」という言及を止めているのが何げにポイントでして、これはまあさすがに「基調的な物価が2%行っていないから(基調的物価を押し上げるために)緩和的な政策が必要です」って説明をしていると、実際の物価(特に世の中的には食料品、就中コメ)がクソ上振れしている現状がある中、うっかり着火したら日銀が業火に焼かれるリスクというのがある訳で(現に黒田時代の「家計の物価上昇許容度」が一時盛大に焼かれた上に最初に言い出した渡辺某は逃げ出すという見苦しい姿を示したという事案がありましたわな)、ってのを感じているので、こういう一般向け(という建付けの)プレゼンでは「基調的物価ガー」をあまり出さないようにしたんじゃなかろうか、とアタクシは思いましたけどまあアタクシが思っているだけの話で実際にどうなのかは知らんけどな、という所ではあります。


・リスク要因は順当

3番目はリスク要因ですがこれはまあ順当な説明と絵柄ですね。

『通商政策等の展開や影響を巡る不確実性はきわめて高い』(今回4月)
『日本経済・物価を巡る不確実性は高い』(前回1月)
『日本経済・物価を巡る不確実性は高い』(前々回10月)

前回と前々回は同じイラストですが、今回はまあ関税問題が大きすぎで全部を覆ってしまいましたので、イラストはそれっぽいものになっています。まあこれは順当ですな。

『各国の通商政策等の展開やその影響を受けた海外の経済・物価動向を巡る不確実性は、きわめて高い状況です。金融・為替市場や日本経済・物価への影響にも、十分注意を払う必要があります。』(今回4月)

『海外の経済・物価動向、資源価格の動向、企業の賃金・価格設定行動など、日本経済・物価を巡る不確実性は引き続き高い状況です。また、金融・為替市場の動向と日本経済・物価への影響にも十分注意を払う必要があります。』(前回1月)

『海外の経済・物価動向、資源価格の動向、企業の賃金・価格設定行動など、日本経済・物価を巡る不確実性は引き続き高い状況です。また、金融・為替市場の動向と日本経済・物価への影響にも十分注意を払う必要があります。』(前々回10月)


・金融政策云々だが謎の温度計3本の意味は何ぞや????

『2%目標のもとで金融政策を運営していく』(今回4月)
『2%目標のもとで金融政策を運営していく』(前回1月)
『2%目標のもとで金融政策を運営していく』(前々回10月)

と書いてある小見出しは同じで

『金融政策運営については、経済・物価の見通しが実現していくとすれば、経済・物価情勢の改善に応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことになると考えています。そのうえで、こうした見通しが実現していくか、丁寧に確認し、予断を持たずに判断していくことが重要です。』(今回4月)

『金融政策運営については、先行きの経済・物価・金融情勢次第であるが、経済・物価の見通しが実現していくとすれば、それに応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことになると考えています。』(前回1月)

『金融政策運営については、先行きの経済・物価・金融情勢次第であるが、経済・物価の見通しが実現していくとすれば、それに応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことになると考えています。』(前々回10月)

先行き次第ではあるが、が先行きどうなるかをよく見て確認して行きましょう、になったのはそりゃまあ今回関税問題という大ネタが投下されたので仕方ないのですが、前々回前回と違うこの「3本の温度計」イラストの意味がまるで分からずワイ大いに悩む。

ECBも以前似たような温度計並べてたりして、過去のがパッと出てこないのですが、一応財とかエネルギーとか何かそんな感じで温度(物価)が違いますよってのがあったのですが、今回のイラスト、3本温度計があって温度が違うのは分かるんだが、じゃあ何の温度見てるんだよ、というのがさっぱり分からないという謎の「3本の温度計」でして、そういや「コロナ対策3本の鉛筆」ってのがあったわなと思いますと、もしかして日銀大本営は「3本のナントカ」が好きなのかどこの毛利元就だよと思ってしまいました。

と言ったところで今朝はこの辺で勘弁。


2025/05/16

〇マクラにしても良いのだがあまりにも酷いので備忘代わりにネタに(玉木発言)

まあこれも酷いんだが
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-05-15/SWA7DET1UM0W00
玉木国民代表、超長期米国債の買い入れ提案もあり得る−米国関税交渉
照喜納明美、村上さくら
2025年5月15日 15:16 JST 更新日時 2025年5月15日 18:00 JST

→米国産日本車の逆輸入も提案、米国輸出拡大と日本企業の業績に貢献
→日銀の国債買い入れ減額縮小のペースを柔軟に調整すること必要

いろいろとあたおかで、

『米側が問題視する対日貿易赤字に関し、玉木氏は米国で生産した日本車を逆輸入し、米国からの輸出として計上する案も提唱した。』(上記URL先より、以下同様)

節子、それは経理操作っていう奴や、まあ本人も、

『米国で生産されたとはいえ、日本メーカーの自動車輸出増でトランプ大統領が納得するかは疑問だとし、』

という認識はあるようだが、

『プレゼンテーション方法も課題だと述べた。』

ってのがもう性根として「実質的に意味のないことを意味のあるように表面上取り繕えばOK」というインチキ数字の作り方で物事を済まそう、ということで問題に対して真剣に向き合おうとしないでその場誤魔化せば良いや、っていう根性が大変に良く伝わってくる説明なのですが、それよりも金利市場界隈の100人中300人くらいが目を疑ったり爆笑の発作を起こしたりしたのは以下の部分ですわな、曰く、

『日本の超長期国債金利の上昇に懸念』

・・・・・( ゚д゚)
・・・・・(つд⊂)ゴシゴシ
・・・・・(;゚д゚)

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA132NJ0T10C25A4000000/
消費減税へ赤字国債発行を 国民民主党・玉木雄一郎代表
政治
2025年4月13日 20:15

『国民民主党の玉木雄一郎代表は13日、政府に求める時限的な消費税率5%への引き下げの財源について「ちゅうちょなく赤字国債を発行したらいい」と主張した。』(この部分だけ直上URL先の4/13日本経済新聞記事より)

あのさあ、お前が「消費税減税の財源は赤字国債」とか堂々と言ってる上に、最近はすっかり愚じゃなかった国民の皆さんも乗っかってしまってエライことになっている訳で、そういうの反映した結果が財政リスクプレミアムとして超長期金利に乗っかっている訳で、お前があたおか減税路線を引っ込めて懺悔して何なら議員辞職と政界引退でもしたら財政リスクプレミアムは剥落するんじゃよなにゆうとるんじゃという話だし、

『国内経済に関し、玉木氏は米国の関税措置による影響で、景気が腰折れする可能性が高まっているとの見方を示した。日本がスタグフレーション(景気停滞下のインフレ)に陥らないような政策が「今一番求められている」と述べた。』

物価対策と言って財政大バラマキをしたら物価が上がるんですけどこのオッサンは相変わらず、

『そのためには柔軟な財政政策が必要となるが、』

って言ってる時点でイカサマヤローにも程があるんだが、

『日本の長期金利の上昇は景気浮揚策の足かせになりかねず、』

だからお前らの財政規律丸無視ムーブのせいじゃろという話で、

『玉木氏は「最近の急速な超長期国債の金利の上昇は非常に心配な面もある」と述べた。急激な動きには一定の対応が必要になる可能性はあると指摘。日本銀行の国債買い入れ減額も「ペースダウンのペースを柔軟に調整していくことが必要だ」と述べた。』

景気浮揚策の足かせになる長期金利上昇を抑えるために日銀に長期国債を買わせよう、ってのが財政リスクプレミアムを更に高める施策だし、何なら財政ファイナンスって思いっきり言われても文句が言えない説明になっているのですが、このオッサンの場合は分かっていて自分の商売の為に耳当たりのよいインチキ話をしているじゃろ(分かっていないなら馬鹿なのだがこの人勉強はかなりできる人でしょ)というのがまあトサカに来るところではありますわな。

ということで備忘メモでした。


〇FEDの政策枠組みレビューに関してのパウちゃん講演キタコレなので鑑賞してみるでござる

こんな感じでニュースにもなっていますね
https://jp.reuters.com/markets/japan/funds/ZXEQ5WZ74FORDPU2NR455EQ5M4-2025-05-15/
雇用とインフレに関する戦略の再考が必要=FRB議長
Howard Schneider
2025年5月16日午前 1:23 GMT+9

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-05-15/SWAZ7AT0AFB400
パウエル議長、政策決定枠組みの変更示唆−雇用や物価の目標関連
Amara Omeokwe
2025年5月15日 21:56 JST 更新日時 2025年5月16日 1:26 JST


まあ要するに低インフレの時に入れた「メイクアップストラテジー」みたいなムーブは低インフレ時に効果を発揮したように見えたが高インフレへの対応が思い切り後手に回ってエライことになった、という反省なんでしょうけれども、そういえば2020年のロンガーランストラテジーが出たときに当時黒ちゃん(や雨宮副総裁)が率先しててめえらのオーバーシュート型コミットメントについて「メイクアップストラテジーはワシが育てた」と宣伝していたのを思い出すわけでして、悪ノリはほどほどに、というご教訓が得られると思うのですが、たぶん「メイクアップストラテジーはワシが育てた」をほじくり返すのはアタクシくらいしか居なさそうなのであえて冒頭で書いておきましたwwwww

話を本題に戻しまして、

https://www.federalreserve.gov/newsevents/speech/powell20250515a.htm
May 15, 2025
Opening Remarks
Chair Jerome H. Powell
At the Second Thomas Laubach Research Conference, hosted by the Federal Reserve Board, Washington, D.C.

まあそこそこの量がありまして寝起きでざざっと要点纏めるってのがホネ(なのはそこそこ真面目に読んでみて思いました、滝汗)でして、まあこれ一番読んでおいた方が良いのは以下の小見出し、

The Consensus Statement
2019-20 Review
2025 Review

のうち真ん中の「2019?20 Review」ではあるのですが、反省部分と自己擁護部分が混在していてまとめるのめんどいのでwとりあえず結論部分の最終コーナー読んでみますね(続きは週明けにでも)。

『2025 Review』

『In the current review, the Committee is engaged in discussions about what we have learned from the experience of the past five years.』

ここ5年間(2020年に入れたロンガーランストラテジー以降)の教訓を受けてただいま検討中です。

『We plan to complete consideration of specific changes to the consensus statement in coming months. We are paying particular attention to the 2020 changes as we consider discrete but important updates reflecting what we have learned about the economy, and the way those changes were interpreted by the public.』

手前を飛ばしているので話の流れがアレで恐縮ですが、2020年のレビューって従来示していた「目標からの乖離に注目」から「目標の未達に注目」みたいな言い方(=メイクアップストラテジー)になったのと、「アベレージターゲット」みたいな言い方(何年間のアベレージとかそういうガチガチなことは言わなかったけど)をして、いずれにしても「緩和的成分を強めた」ものを出して、でまあその結果アフターコロナのインフレ拡大に対して完全に後手に回った(のだがこの講演では完全に後手に回った、とは言わずに「皆さんも予想していたように物価上昇はすぐに終わると思っていましたがその後ヤバい事に気が付いたので機敏に対応した」とか見苦しい言い訳をしているのはいただけません)という事が有るわけでして、でまあその反省も踏まえ、って言えば良いようなもんだがそこは何かオブラートに包んでいるな、って感じですが、

『In our discussions so far, participants have indicated that they thought it would be appropriate to reconsider the language around shortfalls.』

まあそういう訳でオブラートに包んだ言い方をしていまして、今日ネタにしている時間のない前段のほうでは「結局我々は大した景気後退も失業拡大も起こさずにインフレ退治に成功しつつある」って自画自賛しているんだがその前のインフレに対して後手に回った点は何なんだよ、ということですが、まあゆうてこのように「it would be appropriate to reconsider the language around shortfalls」って言ってるんだから、いわゆるメイクアップストラテジーがインフレ対応に置いて後手に回った、というのを反省しているのは認めている訳ですな。だってこの「shortfalls」関連の部分こそがメイクアップストラテジーだったのですから、その再考が必要でしょうって言うのがレビューの中で見えてきた、って言ってるんですから。

『And at our meeting last week, we had a similar take on average inflation targeting. We will ensure that our new consensus statement is robust to a wide range of economic environments and developments.』

でもってこれは今度の議事要旨に出てくるんだと思いますが、アベレージインフレーションターゲットに関しても「we had a similar take」をした、ってんですから、要するにアベレージターゲットだのメイクアップストラテジーだのというのは高インフレ対応を後手に回してしまう手かせ足かせになりました、ってのはちゃんと反省している訳ですが、それこそもっと大昔にブランシャール(当時IMFのエコノミストだった気がします)がプライスレベルターゲットとかのある種のアベレージターゲットな説(要は緩和バイアスムーブ)を提唱した時に、当時のドナルド・コーン副議長が「実務的には机上の空論で政策運営には使えない」って一刀両断していたのですが、まあ時を経て決着はついたな、と思うのですがブランシャールもそうですがドン・コーンですら忘れてそうな気がしますwwww

次のパラに参ります。

『In addition to revising the consensus statement, we will also consider potential enhancements to our formal policy communications, particularly regarding the role of forecasts and uncertainty.』

キタコレ!ということですが、この辺はウッドワードやバーナンキが言ってたフォーキャスト決め打ちとかフォワードコミットメントとかに関連するところになると存じますが、グローバルに経済構造が以前のように一種のロバストネスでモデレートな状態であれば有効であったかもしれない手法が、近年(具体的にはポストパンデミック以降)では下手なフォワードコミットメントが政策ノイズ(=手前の小さな差が将来の大きな差になるんだから当たり前だが、フォワードの見通しを見て市場がその変化に振らされて無駄なボラを与える、などの弊害だと思いますがそこまで細かくこの議論を追っかけていないのでその辺はアタクシがそう思っているだけです為念)を振り撒く問題に関しても再検討。

つまりはドットプロットを含むフォーキャストの出し方についても再考するんじゃろうな、という話なんですが、

『As we have been reviewing assessments of the 2020 framework and of policy decisions in recent years, a common observation is the need for clear communications as complex events unfold. While academics and market participants generally have viewed the FOMC's communications as effective, there is always room for improvement.17 Indeed, clear communication is an issue even in relatively placid times. A critical question is how to foster a broader understanding of the uncertainty that the economy generally faces. 』

まあゆうて「今のコミュニケーションは良好に行っている」とは自画自賛というか自己擁護しておりますので、あくまでも工夫の範囲内って建付けでやってくるんじゃろうなあとは思いますが、

『In periods with larger, more frequent, or more disparate shocks, effective communication requires that we convey the uncertainty that surrounds our understanding of the economy and the outlook. We will examine ways to improve along that dimension as we move forward.』

「In periods with larger, more frequent, or more disparate shocks」ということで、今の状況はかつてのグレートモデレーションの時とは全然違うんじゃ、という認識のもとで、より効果的なコミュニケーションをどうするかというのを考え中です、ってな説明をしていますので、「見せ方」の変化というのはまあさすがに起きるじゃろって感じでしょうな、アタクシはそもそもあのドットプロットが嫌い(というと語弊があるけどあんなのはフォワードガイダンス政策の代役なので変化の時代には弊害しかないと思っています)なのでまずはそこが変わるんじゃないかと踏んでいるのですがさてどうなるでしょうかね。

ということで最後のクロージングパラグラフ、

『Let me end by saying thank you again for being here. We have been looking forward to the conversations that will occur over the next two days. These discussions will help broaden and deepen our thinking about these issues, and they are critical to the success of these reviews.』

最後はご挨拶でございました、ということで続き(というかかっ飛ばした部分)は週明けにでも。


2025/05/15

〇それはそうと展望レポート全文の方のBOX鑑賞の続き(その2):やっぱり「構造的に賃金と物価が上がりやすい」ネタです

展望レポート背景説明を含む全文
https://www.boj.or.jp/mopo/outlook/gor2504b.pdf

45ページ(PDFだと47枚目)にある『(BOX4)最近の賃上げと価格転嫁を巡る動向 』を拝見しましょうの巻です。

『本BOXでは、最近の正社員の賃金上昇について様々な指標で確認したあと、賃金設定と価格設定の関係性を企業レベルのデータから考察する。』

ほうほう。

・ベースアップ動向に「構造的な変化」の可能性があるそうでイイハナシダナー

『2025 年度のベースアップ率について、連合の集計値をみると、4 月 17 日公表の第4回集計時点で+3.79%と、前年の同時期(+3.57%)を幾分上回っている(2024 年度の最終集計:+3.56%)。』

さいですな。

『マクロでみたベースアップ率を被説明変数、物価上昇率・労働生産性・中長期インフレ予想を説明変数とする簡単な関数を 1992 年度から 2022 年度までのデータを用いて推計し、』

さらっと書いてあるんだがこの「中長期インフレ予想」ってなんの数字を使っているのかがこのボックスの図表にある説明(脚注など)をみても分からんというが諸葛孔明の罠のような気がしますがとりあえず気が付かなかったことにして読み進めますと、

『2023年度以降のベースアップ率の同関数の予測値を求めると、ここ3年間のベースアップ率の実績値は、関数予測値をはっきりと上回っている(図表 B4-1@)。』

ほうほうほう。

『このことは、近年のベースアップ率の決定メカニズムが、デフレ期から構造的に変化している可能性を示唆している。』

キタコレ!!!

『構造変化を示すひとつの可能性としては、BOX3で指摘したとおり、正社員を中心に人手不足感が強まり、転職市場も拡大するもとで、これまで労働需給の影響を比較的受けにくかった正社員の所定内給与にも、上昇圧力がかかるようになってきたことを指摘できる(図表 B4-1A)。』

てな訳でアタクシが一昨日最初にこれって言ったのがBOX3だったりしたのの伏線を回収しておりますが、前回の展望レポートではもっと目立つ格好で構造的におちんぎんが上がるようになってきましたですお、という話をしておったのですが、今回はこのBOX4とさっきのBOX3がここに該当しますわな、というお話。

まあ正社員の所定内給与の上昇圧力と言っても、「正社員(年寄りは除く)」とかそういう世界だったりしたりしなかったりとか書いていると悲しくなるので先に行きましょうwwwww


・でまあ全般の賃金カーブも底上げに向かうそうな

『正社員で強まっている賃金上昇圧力は、新卒市場においてもっとも顕著に表れている。』

裏山鹿〜

『実際、各種企業情報に基づくと、2025 年度の初任給は、昨年度に続いて水準を大きく切り上げているとみられる。初任給の企業別分布をみると、2021 年度頃は 21 万円あたりの最頻値に集中する比較的裾野の狭い分布となっていたが、ここ数年は、上昇方向に裾野の拡大を伴いつつ、分布がはっきりと右方シフトしている(図表 B4-2)。』

ほうほうほうほう。

『初任給の引き上げは、年功賃金カーブ上で新卒に近い若年層の賃上げにも波及すると考えられる。』

ねえねえジジイのおちんぎんはジジイのおちんぎんは(見苦しいにも程がある人)

『こうした動きを起点に、年功賃金カーブが一段と上方改定されていけば、平均的な賃金水準も切り上がっていく可能性がある。』

まあカーブはツイストフラット(書いてて情けなくなってきたwwwwww)


・中小企業への賃上げの広がりに関して

てなギャグはさておきまして、

『正社員の賃上げの動きは、労働組合のある大企業から、ややラグを伴うかたちで、中小企業にも波及している。』

この話は決定会合議事要旨とか主な意見とか(まあタイミング違うだけで同じもんだが)でも言及されていますな。

『2024 年度の賃上げ実績を振り返ると、@労働組合がある企業の賃上げ率は、組合のない企業よりも高かったほか、A労働組合のある企業の中で比較しても、規模が大きいほど賃上げ率が高くなる傾向がみられる(図表 B4-3)。』

マジかそんなに労働組合って力あるんかい、って感じですが、単にそれは「労働組合が組成できるほどの規模の企業ほど賃上げの余力がある」、というAの話なだけで@はただの相関なだけではないかという気がせんでもないのですがまあいいです。

『2025 年度のベースアップ率(連合第4回集計)をみると、中小企業(300 人未満)におけるベースアップ率の上昇率は、大企業より大きくなっており、正社員の賃上げの動きは中小企業にも着実に広がっている姿が窺われる。』

しかしまあ何ですな、そういう賃上げの広がりを定着するのを見たい、ってのはまあ言いたいことは分かるのですが、その間延々と物価の上振れが続いて実質所得が伸びませんって状態が続いてしまうと、そもそも何のために2%物価安定目標をやっているんですか、という話になりゃあせんですかねえとも思う訳で、まあそれこそ「2%への招待状」からこの方(というか黒田緩和直前のハマコーのダイヤモンドオンラインインタビューがまさにそうですが)ちらちらと出ていますように、2%物価上昇の世界ってより優勝劣敗がワークしやすくなる(からこそマクロ的に見た資源の適正配分が進みやすくなり、その結果マクロ的に生産性の向上だったり経済の成長が促進されやすいんだが)訳で、その辺をオブラートに包むだけならまだしも、置物一派を始めとして「物価2%目標達成したら世の中皆が幸せに」みたいな虚構を振り撒いてしまって、その共同幻想が全然解消しない状態だからこそ、いざ物価が上がってみたら「物価高対策で財政を」とか頭おかしい事をおっぱじめている訳ですが、虚構を振り撒いた連中は財政出せ財政出せ減税しろ減税しろなのですからあいつら本当に碌でもないですわな。

・・・・すいません思わず話が逸れてしまいました

でまあそうやって中小にもおちんぎん引き上げの動きが、という話の続きが価格転嫁の話になっていましてですね、


・価格設定行動に関してですが「価格を上げてもたいして問題にならん」の定着が進んでいますという話



『以下では、こうした企業の賃上げ姿勢の積極化と、最近の価格設定行動がどのような関係にあるかを、企業レベルのデータを用いた実証分析によって確認しておく。』

ほー。

『具体的には、POSデータから、個別企業が販売する商品の平均価格を作成したうえで、これを法人季報の企業別の個票データとマッチングしたデータセットを構築した33。』

でまあ『図表B4-4:販売価格引き上げの影響』になるんですけど、これでどの程度のカバーができているのかとかいうのは気になりますけどまあ先に行きましょう。

『これを用いて販売価格引き上げ時の企業行動をみると、近年は値上げした際の販売数量の落ち込み幅が、コロナ禍前よりも小さくなっている(図表 B4-4@)34。』

脚注にありますが、『34 通常の個別需要曲線を念頭に、マクロのインフレ環境等を時間固定効果でコントロールしながら、自社製品の相対価格の変化がどれほど販売数量を変動させたかを推計した。』とのお告げで、『図表B4-4:販売価格引き上げの影響』の『@販売数量』に相当します。

『これは、ここ数年、自社が値上げした場合の顧客の価格弾性値(自社製品の相対価格が1%上昇した際、販売数量が何%減少するかを表す値)が低下している可能性を示唆している。』

値上げしてもそんなにダメージは食らわん、と来てからの、

『また、今次の物価上昇局面では、販売価格を引き上げた企業の価格マークアップは拡大する傾向にあり35、こうした企業では販売数量1単位当たりの利潤(ユニット・プロフィット)も増加している可能性が示唆される(図表 B4-4A)。』

ダメージ食らわんどころか収益が増えて(゚д゚)ウマーである、という可能性もありまっせ、というイイハナシダナー(消費者的にはタマランチ会長という説は大有りだが)。

『また、販売価格を引き上げた企業の一人当たり人件費をみると、足もとでは、販売価格を引き上げた企業ほど、賃上げ率も高い様子が窺われる(図表 B4-4B)。』

あら素敵。ということで、

『今次局面では、価格マークアップの引き上げに成功した企業は、ややラグを伴って賃金支払も増加させる傾向が、中小企業も含めて広がっている可能性が示唆される。』

つまり・・・・・・

賃金と物価の好循環(ただしマークアップ引き上げができる企業とその従業員のみ)という話ではあるのですが、この()の部分に一昨日ネタにしたBOX3で示されるような労働力の移動が起きることによって、マークアップできない企業はマークアップできるように頑張っていただくなり、それが無理なら粛々とご退場いただくなり、ってのがまあ「賃金と物価の好循環」ですわな、という話ならそりゃまあそうですよね、という話ではありますけれども、まあ問題なのはこの「賃金と物価の好循環」ってのがあまねく皆さんに行き渡るかのような幻想を与えているんじゃないの、ってところなんだろうなあ、とか思ったり思わなかったり、ってところかと思います。

まあゆうてこういう形で賃金と物価の好循環(ただしマークアップ引き上げができる企業のみ)が確認されてきたら、それこそそれは物価安定目標達成じゃろ、と考えますと見通し期間の後半とかいうここから1年半も待つ必要あるんかいな、とは思ってしまうこちらのBOX3とBOX4なのでありました、というのがこのシリーズのアタクシの私家版結論ということにしておきます。



2025/05/14

〇4月決定会合主な意見は中々の面白さでしたな

https://www.boj.or.jp/mopo/mpmsche_minu/opinion_2025/opi250501.pdf
金融政策決定会合における主な意見
(2025 年 4 月 30 日、5 月 1 日開催分)1

・ものすごい勢いでハトハトチキンになったことに対するランボー怒りの意見が非常に面白いというか素晴らしい

今回の主な意見、一番面白かったというか素晴らしかったのはこの二つの意見でしょ。ということでまずは順序をさておいて引用しますけど、

『T.金融経済情勢に関する意見』の『(経済情勢)』の8個目の意見ですけどね。

『・ GDPに占める輸出の割合等をみると日本の貿易依存度はそこまで高くないことから、米国の関税政策の動向だけでなく、国内要因にも注目して、冷静に金融経済の状況判断をしていきたい。』

>冷静に金融経済の状況判断をしていきたい
>冷静に金融経済の状況判断をしていきたい
>冷静に金融経済の状況判断をしていきたい
>冷静に金融経済の状況判断をしていきたい
>冷静に金融経済の状況判断をしていきたい

・・・・・・・・(;∀;)イイシテキダナー

でですね、ご案内のように今回はなんせフォワードルッキング(笑)にベースラインシナリオを引き下げるわ前回まで上振れと言ってた物価を下振れと言うわ、という大胆なプレイが出ていた訳ですが、この後でネタにしますが、この「経済情勢」のところとか「この世の終わり」みたいな感じの意見が並びまくっておりまして、なるほどここまで「この世の終わり」みたいな雰囲気だったのか、と思いながら読んでいる所の最後の方(最後から2番目)にこの意見が出てきたので思いっきり吹いてしまいました。

つまりですね、この意見を提出した方から見たら、経済情勢に関する意見の最初の部分、つまりいつもの編集順序からしたら正副総裁辺りの意見と思われるものが冷静さを欠いたハトハト総悲観状態で、「お前らアホかいいから落ち着け」とたしなめたい、というのが非常に良く伝わる意見でして、この「冷静に」ってのがもう素敵としか言いようが無いのですが・・・・・・・


たぶんさっきのと同じお方だと思うのですが、『U.金融政策運営に関する意見』の6番目にも素敵な意見があるんですよ。

『・米国経済減速から利上げの一時休止局面となるが、米国の政策転換次第で追加的な利上げを行うなど、過度な悲観に陥ることなく、自由度を高めた柔軟かつ機動的な金融政策運営が求められる。』

>過度な悲観に陥ることなく、
>過度な悲観に陥ることなく、
>過度な悲観に陥ることなく、
>過度な悲観に陥ることなく、
>過度な悲観に陥ることなく、

(;∀;)イイシテキダナー
(;∀;)イイシテキダナー
(;∀;)イイシテキダナー

ということでですね、まあ同じお方がランボー怒りの抜刀斎となっておられるのではないかと存じます次第なのですが、要するに「過度な悲観に陥って冷静さを欠いた議論が行われている」という事態が先般の金融政策決定会合では行われていた、という所だったんでしょうなあ、というのが活写されているという事で、言葉の力、というのをここまで感じたことはない、という「主な意見」でありました。


・でもって冷静さを欠いた悲観のハトハトチキンは誰だったのでしょうかねえ(・∀・)ニヤニヤ

てな話になるわけですが、この「主な意見」。後半の方になると総悲観みたいだったのから少しマシになってくるので、決定会合後の記者会見がどう見てもハトハトチキンだったのを踏まえれば、こんなの要するに総裁と副総裁(のうち誰かさん)がハトハトチキンで冷静さを欠いて過度な悲観に陥って議論をリードしたのか強引に押し通したのか、過度な悲観のハトハトチキンに腰抜け政策委員(なお中村審議委員は信念のハト派なので腰抜け呼ばわりからは除外されます)が迎合オブ迎合したのか、その合わせ技なのかは分りかねますが、まあその流れに対してランボー怒りの抜刀斎が抜刀されたということで割と画期的だったかもしれないな、と思うのでありました(あくまでも個人の妄想ですのでその点はよろしゅうに)。

まあ半分くらい妄想ですけどねwww

では通常ベースに戻って順に確認してみましょう。


・経済のパートの冒頭にこの世の終わりみたいな意見が並んでいるというのがもうね

『T.金融経済情勢に関する意見』の『(経済情勢)』の冒頭がとにかくこの世の終わりみたいな意見が並んでいるのには呆れました。

『・ わが国経済は、一部に弱めの動きもみられるが、緩やかに回復している。先行きは、各国の通商政策等の影響を受けて成長ペースは鈍化するものの、その後は海外経済が緩やかな成長経路に復していくもとで、成長率を高めていくとみられる。』

これは公式見解だからまあどうでも良いのですが、

『・ 不確実性の増大が設備投資や家計消費に与える影響、米国への輸出量の減少や採算の悪化、世界的な景気悪化や円高が対世界輸出に与える影響、株価下落の逆資産効果などの負の需要ショックが見込まれる。資源価格下落等に伴う正の供給ショックも見込まれるが、需要ショックよりは小さい。全体としては、米国の関税政策は、わが国の経済・物価のいずれにも下押し方向に働く。』

思いっきり経済も物価も下押しなんですって。

『・ これまでの見通しは、米国の関税政策によって、大きく揺るがされている。米国の関税引き上げは、わが国の経済と物価を下押しする。それは、わが国の輸出を下押しするだけでなく、貿易の縮小を媒介として、世界経済全体を下押しするためである。』

世界経済下押しまで決め打ちしている、というこの世の終わりシリーズが2本続いていて、これって前の方の順序に出ているというのを勘案しますと総裁副総裁なんじゃないのって思ってしまうわけですな。

でもってこの後。

『・@米国の関税政策の着地とAそれへの企業の対応は二重の意味で流動的であり、現時点での見通しは仮置きに止まる。今後の推移次第で、見通しには大きな修正があり得る。』

という冷静なのがあるんですけど、だったらそもそも何で今回ベースラインシナリオを下げたのかと小一時間問い詰めたい。

『・米国では、新政権発足以降、経済成長にマイナスに働く関税等の政策が先行しているが、今後、減税等の政策に転じた場合、成長率上振れもあり得る。』

『・相互関税は世界各国に賦課されるため、日本企業の相対的な競争条件悪化には繋がり難く、収益減少が限られる可能性もある。』

という意見もあるわけで、こんなに意見があって、かつさっきの抜刀もあるんだから(最大で4名ですが、何となくこのうちの一つがさっきの抜刀の人のような気もしますのでもしかしたら3人)、衆寡敵せずでベースラインシナリオを下げるような展望レポートになったって感じでしょうかねえ。

でまあこれは文章からしてたぶん中村審議委員。

『・米国の関税引き上げによる影響について不確実性が高い状況だが、高関税が長期化すれば、直接的影響を受ける輸出企業を中心に、事業再編やバリューチェーン強靱化のための取引先の選別、多層化した下請構造の圧縮、生産拠点の米国シフト等が進む惧れがあり、これが、雇用の7割を占め経営体力が比較的弱い中小企業に影響を及ぼす懸念がある。』

まあこれはさっきの過度な悲観おじさん(またはおばさん)とは違いますので一つの意見。

でもってこの次がさっきの抜刀斎な訳ですが、

『・GDPに占める輸出の割合等をみると日本の貿易依存度はそこまで高くないことから、米国の関税政策の動向だけでなく、国内要因にも注目して、冷静に金融経済の状況判断をしていきたい。』

「冷静に」ってのが強烈な砲撃になっているのは先ほど申し上げた通り。

『・今のところ、国際金融資本市場で顕著な dash for cash の動きは見られないが、引き続きノンバンク金融仲介機関(NBFI)の動向などを注視する必要がある。』

まあここにしか入れる場所が無いのでここに入っていますが、NBFIに関しては今回のFSRでも話になっていましたし、BIS-FSBだったと思いますけど、今回はこの話が出ていましたわな。


・物価のパートを見ますと何でこれで物価見通し下振れとリスク分布も下振れに一気にジャガーチェンジできるんでしょ

まあ経済に関してはそりゃ関税が上振れにはならんから下振れという話で、問題はその程度ということなんですけど、物価に関しても今回思いっきり下振れしたので、さてこれはなんの判じ物、というのを確認してみましょう。『(物価)』のパートですね。

『・ 消費者物価の基調的な上昇率は、成長ペース鈍化などの影響を受けて伸び悩むものの、その後は、成長率が高まるもとで徐々に高まっていくと予想され、見通し期間後半には「物価安定の目標」と概ね整合的な水準で推移すると考えられる。』

『・ 物価見通しについては、展望レポートに前提として記載された関税政策等の影響のもとでも、現時点では、引き続き賃金の伸び と 労働需給の引き締まりに支えられ、振れを伴いつつも、見通し期間の後半にかけて、「物価安定の目標」と概ね整合的な水準で推移すると想定している。』

この辺は公式見解。

『・ 米国の関税政策は、わが国経済を貿易面・コンフィデンス面から下押すと考えられる。物価面では、経済の減速とサプライチェーンの混乱という上下双方向の要因があるが、いずれも賃金面ではマイナス要因となりうるため、基調的な物価には下押し要因となる可能性が高い。』

賃金にマイナスだから、っていうのも割と斬新な切り口な希ガス。

『・ 物価は 2027 年度まで2%近傍を維持する見通しであり、更に、グローバルサプライチェーンの混乱等の物価上振れリスクがある点に留意が必要である。』

・・・・筈なのですが展望レポート見ると下振れリスクって話が強調されていましたわな。さらに

『・関税ショックは短期的な価格ショックと考えることもできるので、長期的には実質的な効果を持たないという理論上の結論はありうる。したがって、現時点では、やや長い目でみれば、米国の関税政策とその不確実性が、基調的な物価上昇率や潜在成長率に影響を与えるとはみていない。』

まあそういう話もあるわな。

ということで物価ってこの4つしか意見が無いんだが、何でこれしかないのにあの展望レポートの結論になっているのかがさっぱり分からんのですが、アタクシの大妄想によりますとハトハトチキン音頭の踊り過ぎで冷静さを欠いた過度な悲観に陥ったハトハトチキンのトップ連中が以下同文。


・金融政策に関する意見になるとハトハト音頭の演奏が止まる件についてwwwwwww

『U.金融政策運営に関する意見』ですけれども、この金融政策運営に関する意見で何であの総裁記者会見になるのかが益々意味不明になるわけです、ということで鑑賞しますと、最初の方は公式見解になるんですけどね、

『・ 経済・物価の見通しが実現していくとすれば、経済・物価情勢の改善に応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことになる。そのうえで、こうした見通しが実現していくかは、不確実性がきわめて高いことを踏まえ、予断を持たずに判断していくことが重要である。』

まあ予断持ってるから何のデータもでてこないのに堂々とベースラインシナリオを引き下げたんですけどね!!!!!

『・ 見通しは2%の「物価安定の目標」を実現する姿となっており、実質金利は大幅なマイナスであるので、利上げしていく方針は不変である。その際、前提となる関税交渉の帰趨を含めて、不確実性がきわめて高い中で、見通し自体が上下に変化しうるため、見通し実現の確度、リスクを見極めていく必要がある。』

まあそりゃそうだって感じですが、実質金利大幅マイナスなんだから利上げするじゃろ、というのは結構なご意見ですが、以下こんな感じで真人間っぽい意見が続きましてですね、

『・ 経済・物価の見通しを巡る不確実性は高く、その確度は従来に比べて高くはない。先行き、見通しの上振れ・下振れ双方の可能性を点検したうえで、適切に政策を運営していく必要がある。』

『・ 米国の関税政策の展開がある程度落ち着くまでは様子見モードを続けざるを得ない。』

様子見モード、とか何ですかそのネット民みたいな言葉はと思いましたが、まあこの辺の意見はそりゃそうだという話ではあるんだが、だったら何で今回決め打ちでベースラインシナリオの引き下げを拙速に行ったのかがまるでよくわからない(しつこくいう人)。

次はこれ多分中村審議委員だと思います。

『・米国の関税政策により、日本企業は行き過ぎたコストカット、賃上げ・投資の抑制といった縮み志向や産業の空洞化に陥る可能性も考えられ、積極化していた企業マインドや倒産の傾向に変化がないか注視する必要がある。日本経済への影響を慎重に見極める必要があるため、現状の金融政策を維持することが適当である。』

過度な緩和は資源配分の非効率を招くリスクがあると思うので、言いたいことは分かるんだが、それが今の金融政策を維持することを正当化しないと思うんですけどね。まあこれは見解の相違の世界だけど。

でもって次がさっきご紹介した抜刀で、

『・米国経済減速から利上げの一時休止局面となるが、米国の政策転換次第で追加的な利上げを行うなど、過度な悲観に陥ることなく、自由度を高めた柔軟かつ機動的な金融政策運営が求められる。』

ランボー怒りの抜刀という話は先ほど申し上げた通りです。

でもって次。

『・「物価安定の目標」の実現に向けて最も重要なのは、@企業の賃金・価格設定行動、A企業や家計の予想インフレ率がどうなるかであるが、以前の賃金・物価が上がりにくい状況に戻っていくリスクは小さい。このため、2%の「物価安定の目標」に向けて上昇してきた基調的な物価上昇率が下方に屈折してしまう可能性は小さい。』

まあそうじゃろうな、とは思うが根拠が書いてないので何んともかんとも。

『・わが国では金利の下限制約から脱却して1年以上経つが、足もとにおける経済と物価はしっかりとしており、こうした中、現在の金融政策スタンスは、とても緩和的な状況にある。』

まあ結論は良いんだけど「政策金利0.5%」ってのは金利の下限制約ひ引っかかって言う状態と変わらんじゃろと思う訳で、そういう言い方は短期金利が1%になってから言って欲しいですねw


・情報発信に関して意見が2つありましたので

『・どのような見通しを立てたにせよ、米国の関税政策の展開によって、良い方にも悪い方にもすぐに覆る可能性がある。それは、日本銀行の政策経路が今後いつでも変わり得ることを意味する。その点、当面、市場とのコミュニケーションにおいて十分に率直であるべきである。』

言ってることはご尤も。

だったら何も今回ベースラインシナリオ変えなくても良かったんじゃないかね、という気が思いっきりしますけれども、「上にも下にも変わりうる」っていう当たり前の指摘がちゃんとできていてエライというか、ハトハトチキン総裁がハトハト決め打ち過ぎるんだがwww

その点で言えばこの意見の「その点、当面、市場とのコミュニケーションにおいて十分に率直であるべきである。」ってのも市場とのコミュニケーションが誤魔化しやってねえか、って批判なのかも知れないなと思うとそれはそれで面白い。

『・市場は、日本銀行の従来からの基本方針を内外の情報にあてはめて、日本銀行からの直接的な示唆を俟つことなく、利上げ時期についての見方を形成し、自ら修正し続けている。こうした状況を維持できるような情報発信の仕方を続けることが望ましい。』

これもご尤もなんですが、とにかく今の日銀って隙あらばしょうもない「直接的な示唆」を受けた記事をメディアに書かせる、というのを得意技にしている訳でして、その点では今回の情報発信においてなんですが、「アベイラブルなデータがなんも無いのにトランプ関税を受けてベースラインシナリオを引き下げた」というのであれば「置き」についてもっと詳しく(関税がどのくらいになるとか、世界経済がどのくらい下押しするか)を示してくれないと、「こうした状況を維持できる」かどうかは怪しくなりますわな、というお話でもあります。

まあ世界経済に関してはIMFのWEO使った、といいたいんでしょうけれども、そもそも論として先般のIMFのWEOってあれどっからどう見ても「アメリカよ、お前らの政策そのままやると世界経済が大変な事になるんだ分かってるのか」って牽制をぶち込むという意図によってマイナス要素モリモリモリタウンにして鉛筆舐めまくってるじゃろ、としか言いようが無い物件で、あれをそのまま真に受けた対応は他の中銀してねえだろってなもんですけどね。


・国債買入に関しては変な動きはしなさそうには見ているんですが・・・・・・

最後に輪番に関しての話があるのですが、

『・4月の市場急変時に、超長期金利の大幅上昇など国債市場で年限別の分断が生じた。国債買入れの減額計画の中間評価に向け、年限別の需給動向や流動性、業態毎に異なる見方を丁寧に確認することが重要である。』

って話なんだが、その次の人はこんなことを言ってまして、

『・超長期債について、金利の先高観が強く市場が神経質な状況では、投資家は投資に慎重にならざるを得ない。中央銀行が市場を十分に考慮することは当然であるが、一方で、その時々の市場の意見に反応しすぎると、その柔軟性が却って予見性を低下させ、市場の不確実性をより高める可能性がある。日本銀行が市場に不確実性を招くことは極力避けるべきである。』

これは誰が言ってるのかわかりませんけど非常に良い意見過ぎて弟子入りしたくなるレベルでして、特にこの「その時々の市場の意見に反応しすぎると、その柔軟性が却って予見性を低下させ、市場の不確実性をより高める可能性がある。」ってのがまさにその通りって感じですわな。

特に今はもうYCCやっている訳ではないのですから、日銀が下手に意図的な市場介入をすると、市場はその意図的な介入を所与として行動しだすので、それこそ市場による価格発見機能とか市場機能を通じた効率的な資源配分とか、そういうものを阻害するだけでなんら良い話は無い、という事を認識して頂いて、YCC脳から脱却すべきだと思うのですが、まあこれに関しては日銀よりも市場の方がYCC脳のクレクレコジキムーブになっているのを自覚してるのかしてないのか知らんけど、見ていてお前それ市場の人間として言ってて恥ずかしくないのってツッコミをしたくなるようなコジキムーブなご意見が聞かれたりするのは非常に見苦しいと申しますか市場の恥だから市場から退場して頂きたいもんですわ、とあらぬ方面に砲撃するアタクシwww

まあそれは兎も角、輪番に関する意見の最初のについては、なんか若干微妙な気もしますけれども、別に意見として市場の短期的な意見にリアクティブに行動しろと言っている訳ではなさそうに見えますので、その意味ではこの「主な意見」を見る限りにおいて、日銀サイドのほうで今回の輪番の中間評価で変なYCCチックなムーブをしなさそうに見える(個人の願望入りです)のは結構なことだと思いました。

まあ超長期の需給がどうのこうのという問題ですが、それは日銀にケツ持ちをさせるという発想がQQEデフレ脳だし、大体からしてそれは財政ファイナンス脳なのでありまして、市場が消化できないレベルで国債発行しているんだったら、お値段が安くなる(金利が上昇する)ことによってしか解決できない訳で、それで発行コストが上がるのが嫌なら発行を減額して短期化するしかなくて、そんなの全部発行当局が何とかしろ案件ですわな。って最近の論調をチラ見すると輪番をどうしろというのではなくて市場の方でも発行サイドが何とかする話じゃろ、ってのが主流になっているようには見えますけど(個人の感想です)。


・しかし「冷静さを欠いて過度な悲観のハトハト音頭を直ぐに踊りだす」というのは・・・・・・・

とまあそんなところで「主な意見」の鑑賞なのですが、これ4月展望レートおよびその後のハトハトチキン音頭満艦飾の植田総裁会見と比較しますと冷静、というかハトハトチキン音頭を「過度な悲観に陥って冷静さを欠いて」踊っていた連中がいて、あまりにもそのハトハトチキン音頭がやかましいのでそれに引っ張られてあんなもんが出てきた、ということではあろうかと存じます。

とはいえ、展望レポート基本的見解(全文でもいいけど)の物価見通しは25年度下振れ6名、26年度下振れ5名(しかも下振れの5名が弱い数字を出している)ということなので、単にハトハトチキン音頭を上の方が踊っていただけではなくて、「過度な悲観に陥って冷静さを欠いて」一緒になって踊ったアホウがいるという事でもありますので、まあこの内容が思ったほどのハトハトチキンじゃなかったからといって安心できるもんでもないな、という感じですわ。

つまりですね、二つの相反する懸念があって、その1としては「こいつら結局隙あらばハトハトチキンじゃん」というのがまあ懸念される訳で、紙に書くと冷静な意見言ってるのに何であの展望レポートのリスクバランスチャートになるんだよ、ってなもんでして、まあ結局根はハトハトチキンなんだろうな、っていう懸念があるのですが、さらに問題だと思われる懸念その2は、「こいつら雰囲気でいきなり極端にドテンしやがるんじゃねえか」って話でして、いやまあこれまでもマイナス金利解除からこの方、毎度毎度ドテンドテンを繰り返すジャガーチェンジおじさんおばさんの集団だった、というのが植田日銀の得意技だったのですけれども、今回なんてもう「雰囲気で一気に弱気化した」としか見えないようなできあがりの展望レポート基本的見解を出してきている訳でして、逆に言えば雰囲気で一気にまたドテンしてくるかもしれない、という事でありますので、兎に角植田日銀は安定性に欠くとしか言いようが無いな、というのはまあ今更言われんでも分かっとるわというのはありますが、それにしてもまあひでえなと思うのでした。


と言ったところで今朝は時間の関係でこの辺で勘弁していただきとう存じます。


2025/05/13

お題「米中90日間先送りムーブで日銀どうするんじゃこれwww/展望レポート全文のBOXを鑑賞(その1)」

ほうほうそうですかそうですか
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250512/k10014803191000.html
政党支持率 自民26.4% 立民7.6% 国民7.2% 支持なし38.2%
2025年5月12日 19時29分

〇トラ公またもめだか師匠ムーブキタコレでクソ笑うしかないのだが(備忘メモと雑談)

・米中合意と言っても結局90日間の交渉期間を設けましょうの世界ではあるが

あらあらまあまあ
https://jp.reuters.com/markets/quote/USDJPY=X/
US Dollar / Japanese Yen FX Spot Rate
USDJPY=X

直近の取引 148.47 JPY
変化 3.13
変化% +2.15%
2025年5月13日の時点。値は少なくとも15分遅れで表示しています

てなわけで皆様ご案内の通りですが、前日に前振りがあったので既に昨日の時点でリスクオン気味の相場にはなっていたのですが、

前日の前振り
https://jp.reuters.com/markets/japan/funds/SCFKO4IKYJLSZE6SP4UASH2N3E-2025-05-11/
米中貿易協議で「大きな進展」、12日に声明 協議枠組み設置と中国
Emma Farge, John Revill
2025年5月12日午前 7:41 GMT

『[ジュネーブ 11日 ロイター] - ベセント米財務長官は11日、スイスのジュネーブで前日から行われた米中の貿易問題を巡る閣僚級協議で2国間の貿易戦争の緩和に向けて「大きな進展」があったと述べた。詳細は12日に説明するとした。』(上記URL先より)

ってところでしたが、昨日日本時間で多分16時くらいだったと思うのですが、共同声明出ましたよのニュース出てリスクオーンとなった次第で、

昨日の合意云々
https://jp.reuters.com/world/us/XKKXM4ODSVIOJPQXYRGALXODCI-2025-05-12/
米中、追加関税引き下げで合意 景気後退懸念緩和で株・ドル急騰
Emma Farge, Olivia Le Poidevin, Lewis Jackson
2025年5月13日午前 12:25 GMT+9

『[ジュネーブ 12日 ロイター] - 米国と中国は12日、両国の貿易問題を巡り10─11日にスイスのジュネーブで行った閣僚級協議で、相互に発動した関税率を115%ポイント引き下げることで合意したと発表した。上乗せ分の90日間の停止、経済・貿易関係に関する協議メカニズムの構築も打ち出した。米中は関税の応酬の結果、米国の対中関税率は145%、中国の対米関税率は125%まで上げられた。この合意を受け、株式市場とドル相場は急騰した。』(上記URL先より)

ってなもんで、相変わらずのトラ公関税茶番劇場(茶番とか言うとめだか師匠に失礼ですがwww)でございますが、そもそもトラ公は制球が全然定まらないノーコン剛球な(自主規制)投手みたいなもん(自主規制の部分はお好きにどぞw)訳でして、ノーコンが投げてくる球をクソ真面目に一々反応するのがアカン訳ですが、まあ今回の場合はちゃんとした人たちが共同声明だしているんだから90日間の交渉期間設定、みたいな感じになったんでしょうなあというのは分かります。

でもってトラ公また調子に乗って
https://jp.reuters.com/world/us/YP2U4MJITVOLHDNPIWJHNBQDRA-2025-05-12/
トランプ氏、対中関税「145%に戻らず」 90日停止後も
ロイター編集
2025年5月13日午前 12:28 GMT+9

『[ワシントン 12 日 ロイター] - トランプ米大統領は12日、中国からの輸入品に対する関税について、90日間の一時停止期間が終了しても145%に戻ることはないとの認識を示した。』(上記URL先より、以下同様)

なんかもうバザールの値段交渉しているみたいなノリじゃなこいつは。

『トランプ大統領は、米中は合意に達するとの期待を表明。同時に、対中関税が再び大幅に引き上げられる可能性もあると述べた。米中は10─11日にスイスのジュネーブで行った閣僚級協議で、相互に発動した関税率を115%ポイント引き下げることで合意。上乗せ分の90日間の停止、経済・貿易関係に関する協議メカニズムの構築も打ち出した。トランプ氏はこの日、今週末に中国の習近平国家主席と会談する可能性があると述べている。』

プーチンにも言いくるめられるトラ公なのでプーさん(以下禿しく自主規制^^)

まあ何にせよ結構結構という感じですが、まあそうなりますと当然のように・・・・・・・


・まあ当然ですが「関税対応での金融政策を急ぐ必要はない」となりますわな

https://jp.reuters.com/markets/japan/funds/NYCFMWT7AVO5XDYBHII5GNF6IM-2025-05-12/
FRB政策対応の必要性低下、米中関税引き下げで=クーグラー理事
ロイター編集
2025年5月13日午前 2:51

『[ダブリン 12日 ロイター] - 米連邦準備理事会(FRB)のクーグラー理事は12日、米中の大幅な関税引き下げ合意を受け、貿易摩擦による経済への影響は軽減される見通しで、FRBが金融政策で対応する必要性が低下する可能性があるとの認識を示した。』(上記URL先より、以下同様)

となるわけで、

『クーグラー氏はアイルランドで開かれた経済シンポジウムで、物価上昇と経済減速を依然として予想しているものの、これまでに見込んでいたほどの規模ではないと指摘。経済減速の可能性に対応するために「FRBがツールを行使する必要性の度合いに関し、私の基本的な見通しは変わった」と述べた。』

とまあ極めて当然ではありますがこういう話になるのですが、こうなりますと関税政策を受けて「先行きが分からないので今回は1回パス」をしようと思えば出来たのに、物凄い勢いでベースラインシナリオを下げた日銀の対応というのが大変に素敵なことになってしまう訳でして、お前ら7月展望でまたジャガーチェンジしたら最低でも今回の展望で「経済下振れさせて下振れリスク認識を出した」という政策委員の面々はリアルハラキリショーをやっていただかないと落とし前が付かんじゃろ(なお中村委員は6月末でご退任だし間違って大本営が7月にジャガーチェンジしたら反対に回るのは確実だと思うのでリアルハラキリショーの出演は免除されますw)ってなもんですが、はてさてどうなるのやらという感じです。

まあゆうて関税ゼロになるわけではないから経済へのマイナスが全部なくなったわけではない(寧ろ米国とか「経済が減速しない程度の関税による物価高」の方がきつくなるんじゃないかという線までアリエールんだが)のですけれども、こうなってくると日銀の今回の展望レポートの前提になっている見方、すなわち

『2 各国の通商政策等の今後の展開やその内外経済・物価に及ぼす影響については、不確実性がきわめて高い状態にある。今回の展望レポートの中心的な見通しは、今後、各国間の交渉がある程度進展するほか、グローバルサプライチェーンが大きく毀損されるような状況は回避されることなどを前提に作成している。なお、今後の各国の政策の帰趨や、それを受けた各国の企業・家計の対応次第で、経済・物価の見通しが大きく変化しうる点には注意が必要である。』(4月展望レポートより)

となっているのですが、じゃあこの「各国間の交渉がある程度進展するほか、グローバルサプライチェーンが大きく毀損されるような状況は回避されることなどを前提に」の前提は米中関税がどの程度の水準になるのか、日本の関税がどの程度の水準になるのか、といったベースラインの前提はどうなっているのか、というのがこれまた今回非開示な訳でして、そもそもの日銀の見通しが関税協議の進展によって「見通しの前提よりもリアルの展開が上振れている/下振れているのか」というのが分からんという作りになっているのが甚だ遺憾の極みだったりするわけでして、4月展望の後に行われる総裁副総裁講演、ということですと今回は

https://www.boj.or.jp/about/press/index.htm
講演・記者会見・談話

今後の講演・挨拶等の予定
2025年 6月 3日 植田総裁 内外情勢調査会における講演

となっていて、きさらぎ会よりも後の日程だと思うのですが、今回は内外情勢調査会の方で講演、ということですので、「日銀は関税に関して一定程度の置きを置いて見通しを作った結果が4月展望」なんだから、その置きを公表しろってツッコミに対して何らかの説明が求められるんじゃないですかねえという所です。

・・・とは言いましても日銀見物門前の小僧をウン十ウン年もやっておりますとだいたい日銀の言い訳は想定できる次第でして、これ日銀が何と言って申し開きするかと言いますと「前提について展望レポートで書きましたようなベースラインで考えて頂く、ということで各政策委員にはお願いしましたが、実際に各国の関税がどの程度になるのか、という点については個々の政策委員の判断に委ねられており、関税率が幾らになる、という数値まで決め打ちした前提を置いている訳ではないので、すなわち「何か一定の数値を決めているわけではない」となりますので、具体的な前提はお出しできません」となると思うんですよね。

じゃあ何も出さないのかという話ですが、さすがに今回は話の前提が完全に関税政策依存になってしまっているので、そこを考えたら各々の政策委員がどの程度の関税率を想定していたか、というのを個別委員が分からないようにしてレンジで示す、くらいの事はやっていただかないと、関税政策の進展に伴い今回の展望レポートの前提対比で今の状況が上振れているのか下振れているのかすら分からんという事になってしまいますがな、とは思うのでした。


・ところで為替円安ですが

でまあ先ほど引用したようにドル高進行なのですが、日銀がハトハトチキン音頭を踊ってしまっているのでリスクオン局面になるとそもそも円安が進行しやすい展開に戻っている訳でして、ご案内の通りでドル円148円だという状況になってしまいまして、折角140円瞬間割れまで円安是正されたんですが、こうなりますと展望レポートでの物価見通しの前提条件も変わってくるじゃろ、ってなもんですし、だいたいからして為替円安誘導怪しからんって言われてませんでしたっけという話ではあるのですが、こっちの方が目先は気になるところではあります。


・・・まあしかし何ですな、ここ数年は物価の上振れに対して延々とバックワードルッキングで言い訳を繰り返し、挙句の果てには「基調的物価」という「お気持ち物価」を説明に乱用してその場を凌いでいた日銀ちゃんが、珍しくも突然フォワードルッキングにベースラインシナリオを下げたら2週間もしないうちにこの有様、というのはもはや伝統芸能の美といったものを感じますな、ナムナム。


〇展望レポート全文のBOXを鑑賞する企画(たぶん時間が足りないのでその1)

https://www.boj.or.jp/mopo/outlook/gor2504b.pdf
経済・物価情勢の展望
2025 年 4 月

背景説明を含む全文、ってのの最後に毎度のようにBOXってのがあるのですが、今回のお題は・・・・

(BOX1)各国の通商政策の動きとその影響
(BOX2)わが国における生産性の動向
(BOX3)労働需給と労働者の企業間移動
(BOX4)最近の賃上げと価格転嫁を巡る動向

となっていまして、通商政策に関してのお話は1本で残りが労働市場に関連する話になっている、という構成になっておりまして、でまあ1月展望のBOXを思い出していただければわかりますが、今回についても労働市場について言及している部分についてはエライ勢いでポジティブな話が並んでいるのよこれが。

ということでざっと読んで今回視点として一番味わいがあったような気がするのが『(BOX3)労働需給と労働者の企業間移動 』なので今朝は(時間の関係上)こちらの鑑賞でも。

『(BOX3)労働需給と労働者の企業間移動 』から参ります。

・まずは人手不足ですよと言う話から入りますが

『本BOXでは、労働需給が引き締まり傾向を強めるもとでの労働者の企業間移動の動向を点検する。』

ということで、

『まず、短観の雇用人員判断DIの「ヒートマップ」をみると28、人手不足感の強い状態が、大企業、中小企業ともに、幅広い業種で継続していることが確認できる(図表 B3-1)。』

さよですな。

『正社員とパートに分けて人手不足感をみると(図表 B3-2、B3-3)、最近は、パートに比べ、長期雇用を前提とする正社員の労働需給の方が、引き締まり度合いが強くなっており、人手不足の長期化を予想した企業による労働需要の強さが窺われる29。』

(労働者的に)イイハナシダナー


・でもって人手不足の規模は何と平成バブル期並みとな

『前回の展望レポートでは、労働経済動向調査の欠員率(=未充足求人数/常用労働者数)を用いたUV分析を行い、失業率の動きを、構造的な変動と循環的な変動に識別することを試みた(図表B3-4@)30。』

次のページに『図表B3-4:失業率ギャップ』ってのがあって、『@構造失業率』ってのがありましてその数値があるんですが、これもっと昔からの時系列も見たいです(2002〜なので)。

『これと同じ手法で推計した失業率ギャップ(実際の失業率と構造失業率の乖離)をみると、労働需給の引き締まりは、足もとで一段と強まっており、その程度は 1980 年代後半のバブル期をも上回っている(図表B3-4A)。』

でもって『図表B3-4:失業率ギャップ』の『A失業率ギャップ』だと1983年からの数字があるので@も長期時系列出せるじゃろと思いましたが、失業率ギャップはそこそこ結構なマイナスになっています。

『これには、@労働需要の増加を受けた実際の失業率の低下傾向に加えて、A近年の転職市場の拡大に伴う自発的離職の増加が、構造失業率を押し上げる方向に作用していることも影響している。』

ということですが、ただこの分析若干ツッコミどころがあって、足元確かに80年代最後のバブルよりも労働需給が引き締まっているのですが、実は図表B3-4Aを見ますと(グラフのメモリが細かくないから目の子でざっくり見た感じだと)2015年あたり位から既に労働需給が顕著に引き締まった状態で平成バブル並みに引き締まっている訳で、じゃあ何で今とその時代が違うんじゃというのは説明が欲しいなとは思います。

で、まあこの先に一応説明らしきものがあって・・・・・・

・転職市場の活発化による効果があるとのお話でして

『実際、転職市場をみると、中途採用の比率が上昇傾向にあるなど、労働者の企業間移動は近年、活発化してきているとみられる。さらに、転職によって賃金が上昇した人の割合も、足もとでは既往最高水準まで上昇しており、企業が人材確保のため、中途採用者に対する賃上げを積極化している姿が窺われる。』

マジかワシいや何でもありません(自爆)

『こうしたもとで、賃金上昇を伴う転職割合は、2010 年代初頭には 25%であったが、2024 年には 35%まで高まっている31。』

賃金上昇を伴わない転職が65%なのか、と思っちゃいましたがそれはさておき、この先が本稿のメインイベントになります、すなわち・・・・・


・賃金の上昇トレンドが起きることによって企業間の優勝劣敗が起きてマクロ的に効率化が進むというお話

『こうした転職市場を通じた労働者の企業間移動について、企業側からみると、近年は、生産性の高い企業が雇用者数を増加させている一方、生産性の低い企業は雇用者数を減少させている(図表B3-5)。』

キタコレ!

『このことは、企業間の生産性水準の違いが、賃金水準の差につながり、ひいては新規に雇用できる労働者数の差をもたらしている可能性を示唆している。』

ほう!

『こうした動きを、労働者側からみると、現在勤めている企業の年収や実質賃金期待が低い場合、当該労働者は転職を選択する可能性が高くなることも分析を通じて確認されている32』

ほっほーーーーー

ちなみにこの脚注32は

『32 リクルートワークス研究所が集計している「全国就業実態パネル調査」の個票データを用いて、転職意向の決定要因を推計したところ、現在の年収が業種平均対比で低いと転職意向が高くなるほか、インフレ期待が高いと実質賃金期待が低いこともあり、転職意向の確率を有意に押し上げることが
確認された。』

>インフレ期待が高いと実質賃金期待が低いこともあり、転職意向の確率を有意に押し上げる
>インフレ期待が高いと実質賃金期待が低いこともあり、転職意向の確率を有意に押し上げる
>インフレ期待が高いと実質賃金期待が低いこともあり、転職意向の確率を有意に押し上げる

・・・・・なんか話が(日銀的に)うますぎる気がしますので、ここら辺はちょっとお手盛りモリモリモリタウンと化しているような気がしますが、なんか美しいまとめ方をしていまして、

『このように、マクロ的に労働需給が一段と引き締まるもとで、賃金水準のばらつきの拡大は、転職市場を通じた労働者の企業間移動を促しているように窺われる。』

という結論になっていますけど、これ途中のところでさらっと書いているからオブラートにやや包まれていますけど、さっきの「このことは、企業間の生産性水準の違いが、賃金水準の差につながり、ひいては新規に雇用できる労働者数の差をもたらしている可能性を示唆している。」ってのが重要ポイントで、つまりは労働者の移動がインフレ期待の高まりにより促進されることによって、労働力が生産性の低い企業に固定されることなく、マクロ的に見た場合の生産性向上に資する、ってエライまた美しいストーリーを描いている訳でして、お気持ち物価の話とかベースラインシナリオあっさり引き下げとかの話とはだいぶ違った威勢の良いコラムになっている、というのが見て取れると思います。

他のBOXについては追々ということで今朝はこの辺で勘弁してつかあさい。


2025/05/12

いやマジでこのオッサン何なん??
https://diamond.jp/articles/-/364394
日本銀行は利下げへ転換せよ、トランプ関税下の利上げ路線が招く「デフレ逆戻り」のリスク
渡辺 努:ナウキャスト創業者・取締役、東京大学名誉教授
政策・マーケット
渡辺努 物価の教室
2025.5.8 8:30 会員限定

このオッサンが金融政策の話をするときってその場その場でウケそうな事を言ってるだけじゃろ、としか思えない次第(個人の意見ですw)わけで、まあ今回は減税だの高圧経済だの寝言を言ってるどっかの連中に媚び売ってるんでしょうけれども(個人の妄想ですww)、これが東大の経済学部長だったってのが日本の経済学の退廃をよく示しているとワイは思う訳で(なんせ東大という権威を背負っているんですから)、まあ何と申しますか経済学が学問の名に値するのかという疑問まで生じてしまうわけで学会に自浄作用とか無いのかね(あくまでも個人の感想ですwww)。

てかよ、そもそも論として「賃金と物価の好循環」ってのがブードゥー経済学じゃろって話なんだが。


〇また長いところが弱くなったり短国が強くなったりしているんだが

金曜の3M短国ちゃん
https://www.mof.go.jp/jgbs/auction/calendar/tbill/tbill_nyusatsu/resul20250509.htm
国庫短期証券(第1305回)の入札結果

『本日実施した国庫短期証券(第1305回)の価格競争入札及び国債市場特別参加者・第T非価格競争入札について、下記のように募入の決定を行いました。



1.名称及び記号  国庫短期証券(第1305回)
2.発行根拠法律及びその条項
財政法(昭和22年法律第34号)第7条第1項、財政融資資金法(昭和26年法律第100号)第9条第1項並びに特別会計に関する法律(平成19年法律第23号)第83条第1項、第94条第2項、同条第4項、第95条第1項、第123条の18第1項、第136条第1項及び第137条第1項

3.発行日      令和7年5月12日
4.償還期限     令和7年8月12日
5.価格競争入札について
(1)応募額          10兆7,289億円
(2)募入決定額     3兆4,322億8,000万円
(3)募入最低価格     99円89銭7厘0毛
(募入最高利回り)     (0.4090%)
(4)募入最低価格における案分比率   56.0199%
(5)募入平均価格     99円89銭9厘8毛
(募入平均利回り)    (0.3979%)』

前週は平均0.4台だったし足切り0.42%まで乗ってきた(0.4051/0.4249)のですが、金曜は0.40を切る平均になりまして、あらまあ0.4台は長持ちしないんですか、と申しますのは

売参
https://market.jsda.or.jp/shijyo/saiken/baibai/baisanchi/index.html

いつもの奴を見ますと、

(5/9引値)
国庫短期証券1301 2025/07/22 平均値単利 0.380
国庫短期証券1302 2025/07/28 平均値単利 0.380
国庫短期証券1303 2025/08/04 平均値単利 0.379
国庫短期証券1305 2025/08/12 平均値単利 0.380

ちゃっかり引値が0.38%とお強くなっておられまして、しかも新発だけではなくて既発も揃ってお強くなっておられますのでこりゃまあ普通に短国また強く成りやがったなという感じですわな。月末跨ぎだかGW跨ぎだかを抜けた瞬間一瞬大甘の皇子になったかと思ったのですが、結局売り(かどうか知らんけどまあ状況証拠的には少し外しがあったんだろうなあという感じですかしら)はいつものようにあっさり味で吸収されてしまいましたでござるの巻となっておられるようです、短国強いっすわ。

ちなみに木曜の引けが

(5/8引値)
国庫短期証券1301 2025/07/22 平均値単利 0.410
国庫短期証券1302 2025/07/28 平均値単利 0.410
国庫短期証券1303 2025/08/04 平均値単利 0.410
国庫短期証券1305 2025/08/12 平均値単利 0.410

と3Mカレント近辺は軒並み41bpだったのですが、金曜の入札イベントを経て軒並み3毛強となっている(まあ素地として木曜の時点で実力はもうちょっと強かったんでしょうけど)ということで、こりゃまたお強いという所ですが、そもそも(ネタにしてなかったですが)先週の場合は木曜の6Mも

https://www.mof.go.jp/jgbs/auction/calendar/tbill/tbill_nyusatsu/resul20250508.htm
国庫短期証券(第1304回)の入札結果

『本日実施した国庫短期証券(第1304回)の価格競争入札及び国債市場特別参加者・第T非価格競争入札について、下記のように募入の決定を行いました。


1.名称及び記号    国庫短期証券(第1304回)
2.発行根拠法律及びその条項
財政法(昭和22年法律第34号)第7条第1項、財政融資資金法(昭和26年法律第100号)第9条第1項並びに特別会計に関する法律(平成19年法律第23号)第83条第1項、第94条第2項、同条第4項、第95条第1項、第123条の18第1項、第136条第1項及び第137条第1項

3.発行日       令和7年5月12日
4.償還期限      令和7年11月10日
5.価格競争入札について
(1)応募額          10兆1,422億円
(2)募入決定額     2兆6,774億8,000万円
(3)募入最低価格      99円77銭8厘
(募入最高利回り)      (0.4462%)
(4)募入最低価格における案分比率  36.1956%
(5)募入平均価格      99円78銭2厘
(募入平均利回り)      (0.4381%)』

そもそも6Mも40台前半でしたし、こちらの短国引値が

(5/8引値)
国庫短期証券1304 2025/11/10 平均値単利 0.410

と入札レベルよりも強い引値になっているわ、さっきの5/8引値の3M近辺とレート並びということで、もはや7月利上げとか一切あり得んじゃろというような素敵な値付け(10月だと10月末なのでまあ11月10日償還に効かないのはあるけど)になっていまして、この時点でまあ強いわなと思いました、とかそういうのを事前に言わないで結果が出てからいうのを事後諸葛亮と言いますのでアレですがw

とまあそんな感じでまたまた短国堅調になっているんですけど、長い方は足元では、


ロイターさん
https://jp.reuters.com/markets/japan/funds/XXZOAGIMEZOSHN5W4DSZD7KMJM-2025-05-09/
〔マーケットアイ〕金利:国債先物続落、米関税巡る警戒後退や米金利高で 長期金利1.355%
ロイター編集
2025年5月9日午後 3:19 GMT+9

『[東京 9日 ロイター] - <15:10> 国債先物続落、米関税巡る警戒後退や米金利高で 長期金利1.355%

国債先物中心限月6月限は、前営業日比27銭安の140円35銭と3営業日続落して取引を終えた。トランプ米政権の関税政策を巡る警戒ムードの後退や米金利上昇が相場を圧迫した。新発10年国債利回り(長期金利)は同3.5ベーシスポイント(bp)上昇の1.355%。』(上記URL先より、以下同様)

ってな訳で、まーたイールドカーブの方がスティープしておるんだが

『現物市場では10年物以外の新発国債利回りも総じて上昇。2年債は前営業日比1.5bp上昇の0.630%、5年債は同1.5bp上昇の0.875%、20年債は同4.0bp上昇の2.340%、30年債は同3.0bp上昇の2.905%、40年債は同5.5bp上昇の3.385%。』

ということで、

『TRADEWEB  
     OFFER  BID   前日比 時間
2年   0.624  0.63    0.01  15:00
5年   0.871  0.878   0.015  15:06
10年  1.349  1.354   0.029  15:03
20年  2.335  2.344   0.04   15:05
30年  2.898  2.907   0.031  15:04
40年  3.375  3.383   0.046  15:10』

てな訳でまたも後ろが甘くなっておられるようで、何ですかねえこの相場ちゃんはと思いますけど、最近偶然なのかそういうムーブがあるのかは知らんですが、イールドカーブスティープでベア相場みたいな時ってだいたい短国の短いところがツエツエバエになるという謎の逆相関があるようにも見受けられますがよくわからんので判断保留。


2025/05/09

お題「3月MPM議事要旨:これだけ威勢の良い話をしていたのに何で4月にああなったんでしょうかねえ・・・・・」

https://jp.reuters.com/business/P6VGX2OLAFN3VI4O2C7JRHBBNU-2025-05-08/
米、対中関税を最低50%に引き下げる計画検討 来週実施も=報道
ロイター編集
2025年5月9日午前 5:04 GMT+9

『[8日 ロイター] - トランプ米政権は、計145%の対中関税を最低50%まで引き下げることを検討しており、早ければ来週にも実施される可能性がある。米紙ニューヨーク・ポストが8日、関係筋の情報として報じた。』(上記URL先より)

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-05-08/SVY6YWDWX2PS00
トランプ氏、英国との貿易協定合意を発表−詳細は交渉継続
Josh Wingrove、Hadriana Lowenkron、Alex Morales、Jennifer A Dlouhy
2025年5月9日 0:13 JST 更新日時 2025年5月9日 1:49 JST

『トランプ氏は、今週末に開始する中国との貿易交渉についても、「中身のあるものになると思う」と述べ、目に見える進展が得られるとの見通しを示した。中国側に譲歩する意向があると予測し、大きく前進すれば、同国への関税引き下げを検討する可能性もあるという。

関税引き下げの可能性について問われると、トランプ氏は「あり得る」と答えた。「様子を見るつもりだ。現在は145%で、これ以上は上がりようがない。従って、下がるのは確かだ。われわれは非常に良好な関係を築けると思う」と語った。』(上記URL先より)

って言う事ですが英国との合意だって結局やってること因縁つけてタカリをしているチンピラゴロツキのお作法以外の何物でもない訳で米国が無法者国家になってしまうのは残念な話です。


〇3月会合議事要旨:4月展望で振り切る「前」の話を普通に載せているので次回がちょっと楽しみだったり

https://www.boj.or.jp/mopo/mpmsche_minu/minu_2025/g250319.pdf
政策委員会 金融政策決定会合 議事要旨
(2025年3月18、19日開催分)

ご案内の通りでトラ公のせいで先行き訳わからん(マクラにある話のようにそもそも先行き何が出てくるのかも分からんわな)ところなので、じゃあその前段階の3月はどうでしたか、って話になるのですが、4月にベースラインシナリオを下げる、という他の中銀がまだ様子見とか言ってる中で画期的なフォワードルッキング(笑)をカマしてきた日銀ちゃん、さぞかし3月も警戒を怠っていなかったのかと思いますと、そこにはナンジャソラな光景が待っておりました、ってのが今回の3月議事要旨のキモかなと思いました。

ということで『U.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要』からちょいちょいと拝読して参ります。

・雇用所得環境に関してこれでもかとばかりに強い話を延々と並べているのが不思議ちゃんではある

途中からになりますが、雇用所得環境。

『雇用・所得環境について、委員は、緩やかに改善しているとの見方を共有した。また、委員は、連合による春季労使交渉の第1回回答集計結果は、本年もしっかりとした賃上げが実施されるという1月会合時点の見方に沿ったものとの認識を共有した。』

からいきなりの出オチで、

『そのうえで、何人かの委員は、現時点で明らかとなっている賃上げ率は、事前に想定していた範囲の中では、高めの水準となっていると述べた。また、何人かの委員は、大企業だけではなく、相対的に規模の小さい企業でも賃上げ率が高めとなっており、賃上げの裾野が広がっていることが窺われると指摘した。』

とまあエライ威勢の良い話(まー実際問題として(除くワイの財布orz)威勢が良かった訳ですが)で始まりまして、

『このうちのある委員は、今回の賃上げ率の前年からの上振れ幅が大企業よりも中小企業の方が大きいことを指摘したうえで、2022 年以降の価格転嫁の進捗と同様に、賃上げについても、大企業が先行し、それを中小企業が追いかける展開となっていると付け加えた。』

でですね、

『こうした中、多くの委員は、賃金上昇の持続性が次第に高まっているとの認識を示した。』

という認識と共にさらに、

『複数の委員は、今後の毎月勤労統計等を確認していく必要はあるが、2%の「物価安定の目標」と整合的な賃金上昇が定着しつつあるとの認識を示した。』

でもって、

『この点に関し、一人の委員は、人手不足という構造的な変化が進むもと、労使双方で、物価上昇を賃金に反映する必要があるとの認識が広がってきていると付け加えた。』

とまあ3月会合でこれだけイキリ散らかしていた訳ですよ、全員の意見じゃないとは言え、議事要旨でここまでスペース取ってああでもないこうでもないと景気のいい話を並べ立てるんですから、これは少なくとも議事要旨を作っている編集(すなわち大本営の事務方)としても、こういう意見が強かった、ということをお示ししましょう、ってことになっている筈なんですよね。

でまあここまで威勢の良いイキリ散らかしモードだったのに、今回の展望レポートでは「所得から支出への前向きの循環メカニズム」を削除してしまっている、というのは飛んでもない勢いでのジャガーチェンジ、って話になるわけでして、逆に言えば4月(5月)に突如の腰砕けになった背景は何ぞね、ってのが非常に気になるわけですよ。その背景が何なのかがある程度わかれば、背景に変化が生じたらまた再度のジャガーチェンジもありうるで、となるわけですから。

でもってその続きですが、

『複数の委員は、人手不足感が強いことに加え、企業収益が好調なことも、賃上げの背景にあると指摘した。』

まあ一つあるのは「企業収益」のところでして、4月展望の基本的見解では、既に確認した通りですが、関税政策の影響について海外経済の減速と企業収益の下押し、というのを強調していましたので、企業収益が下押しされるから賃金が上がりにくくなる、というストーリーだと思うんですよね。

でまあそれはそれで理屈はその場では完結するのですが、だったら1月展望で言ってた「この間、女性や高齢者による労働参加の増加ペースの鈍化もあって、労働需給はマクロ的な需給ギャップ以上に引き締まっている。こうしたもと、多くの業種で企業が労働の供給制約に直面しつつある状況を踏まえると、マクロ的な需給ギャップが示唆する以上に、賃金や物価には上昇圧力がかかるとみられる。」(というのは1月展望の基本的見解の4pにあります)って認識はどこに逝ったんだよ、というのは先日来申し上げている通りであります。

まあ何ですな、日銀って特に最近の黒田末期からこの方そうなのですが、政策運営に対しての理屈を良く言えば丁寧に作り過ぎでして、その結果政策が変わると過去説明していた丁寧なつくりの理屈との整合性が取れなくなるのでシレっと新しい理屈をこれまた堅牢に構築してしまう、という傾向が強くて、結果的にはどこからモウロクジジイの関税政策みたいに「お前さっきまで言ってたことと違うじゃねえか」という話になる訳で、なんも考えていない(知らんけどそうとしか見えない)モウロクジジイの耄碌理論と結果的に同じことになってませんかねえ、って残念に思ってしまいます次第ではありますな、うんうん。

・・・・・しまった話が逸れたので元に戻してさっきの続き。

『この間、別のある委員は、人材のスキルや地域のミスマッチが拡大しており、企業間での賃金格差も広がっているとみられる点は丁寧にみていく必要があると述べた。』

『また、一人の委員は、法人企業統計をみると、雇用の7割を占める中小企業では、賃金が増加する一方、設備投資は2年連続で減少していると指摘した。そのうえで、この委員は、中小企業では、労働分配率が高い中、防衛的賃上げと設備投資の両立は難しい状況が窺われるとの見方を示し、賃上げモメンタムの定着には、中小企業の生産性を向上させる設備投資ともう一回り大きくなる構造改革が鍵となる と指摘した。』

最後のは多分中村審議委員だと思いますが、まあこの辺りの話ってのはそれはまあ個別で見るとそういう話になるというのはその通りなのですが、2024年12月の黒田総裁(当時)の経団連での「2%への招待状」講演の結びの部分に、

「要するに今の過渡期的な状況を利用するかどうかは、早い者勝ちの面があるということです。デフレのもとでの「縮小均衡」の経済と、2%の物価上昇のもとでの「拡大均衡」の経済とでは、企業を取り巻く環境は全く異なります。企業経営のルールブックが変わるということです。進化論を唱えたダーウィンは、「生き残るのは、強い生き物ではなく、変化に対応できる生き物だ」と言ったと伝えられています。いち早く環境変化を先取りし、「拡大均衡」の経済に対応できた企業こそが競争の「勝者」となり、新しい時代における繁栄を享受できることになるのだと思います。」(2014年12月25日黒田総裁講演より)

ってなっていた訳で、そもそも論として2%物価安定目標が達成されている世界というのは、自分の被雇用スキルを時代に即して変化させることができない個人や、生産性を引き上げることができない企業は「拡大均衡」の経済の中で取り残されていくのは必然ですよ、っていう世界を含意している筈で、そういうのを目標にして政策やるって息巻いて黒田緩和以降の政策をぶっこんでいるのに、それが実現する段になって「変化できないで取り残される者」に対してどうのこうのだから、みたいな話をするのはおめーそりゃ話が違うじゃろ、としか申し上げようがないんだが、また余談になってしまいましたなすいませんすいません。


・物価の話ですがこちらも何だろねってのがちょいちょい見受けられますが

『物価面について、委員は、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、既往の輸入物価上昇を起点とする価格転嫁の影響は減衰してきているものの、賃金上昇等を受けたサービス価格の緩やかな上昇が続くもとで、足もとは3%台前半となっているとの認識で一致した。また、予想物価上昇率について、委員は、緩やかに上昇しているとの評価で一致した。』

まあこれは良いとしまして、

『そのうえで、何人かの委員は、足もとの物価上昇率は見通しの範囲内にあるものの、米を含む食料品価格の上昇から、幾分上振れて推移しているとの認識を示した。』

という認識だったのですよね。でもって

『多くの委員は、こうした食料品価格の上昇は、天候など一時的な要因による部分が大きいが、供給力の持続的な低下や人件費・輸送費の上昇などが影響している面もあるほか、食料品価格の上昇が予想物価上昇率を押し上げ、基調的な物価上昇率に影響する可能性もあるとの見解を示した。』

えーっと、3月会合では「多くの委員」がこういう認識をしめしていたのに、何で4月になって物価見通しが下方修正された上にリスクも下振れリスクが大きい、っていう認識にひっくり返ったんですか、というお話でありまして、お前らどんだけ情緒不安定なんだよと小一時間問い詰めたいし、今回の展望レポートの物価のリスク要因のところでは、

「この間、このところの米などの食料品価格上昇については、それ自体は天候要因等を背景とするものだとしても」(4月展望レポート基本的見解6ページ)

っていうあっさり味で天候要因(なのでこの後下がる、って含意)というのだけにしていて、いやお前らどっちなんだよというお話ではありまして、この辺の認識がどうワープしたのか、というのも非常にイミフなところではありまして、4月議事要旨でどんな話に変化しているのかを見るのが楽しみで6月会合が待ち遠しいという所ではあります。

てなイヤミはさておきまして続きですが、

『このうちの一人の委員は、1月の総合ベースの消費者物価指数の上昇率の過半はエネルギー、生鮮食品、穀類によるものと指摘したうえで、生鮮食品、穀類の上昇は主に供給ショックと位置付けられるが、持続性がありうるため、予想物価上昇率などへの波及を注視すべきとの見方を示した。』

『また、別の一人の委員は、企業の価格設定行動が変化するもと、これまで動きの鈍かったサプライチェーンの川下でも、コスト転嫁がされやすくなっていると指摘した。』

『一方、ある委員は、賃金上昇の価格への転嫁は、企業向けサービスには明確に表れている 一方、消費者向けサービスにおいては明確ではなく、個人消費が力強さを欠く中で企業が価格転嫁に慎重になっている可能性があると指摘した。』

まあこの辺は個別の意見ですので流しまして「先行き」のパートに入ります。


・物価の先行き見通しは4月にどのように変わったのかをイヤミたらたらしながら確認するのが吉(意地悪)

『物価の先行きについて、委員は、既往の輸入物価上昇を起点とする価格転嫁の影響が減衰する一方、消費者物価の基調的な上昇率は、人手不足感が高まるもと、マクロ的な需給ギャップの改善に加え、賃金と物価の好循環が引き続き強まり中長期的な予想物価上昇率が上昇していくことから、徐々に高まっていくとの認識で一致した。』

ほうほうそうでしたかそうでしたか、4月にどうジャガーチェンジしたのか、その背景に何があるのか、というのを
見たいもんですなあ(棒読み)

『そのうえで、「展望レポート」の見通し期間後半には「物価安定の目標」と概ね整合的な水準で推移するとの見方を共有した。』

トラ公の関税が出たとはいえ、まだどうなるかが見当つかないのにいきなり見通しを1年後ろ倒しにした皆さんどういう言い訳を次回出してくるのかが楽しみですな(一部は「主な意見」でも見れるかもですが)。

『ある委員は、春季労使交渉の集計結果などを踏まえると、物価は着実な上昇が見込まれる状況となっており、基調的な物価上昇率も2%に向けて順調に上昇している可能性が高いとの見方を示した。』

『一人の委員は、企業の価格転嫁に伴う価格上昇圧力はしばらく継続するとの見解を示したうえで、民間調査によれば、2025 年の食料品の価格改定の動きも再び勢いを増していると指摘した。』

まあ今回は26年度の物価見通しで上のプロットの人たちが上振れ、下のプロットの人たちが下振れをリスクとして認識しているので、この人たちは上プロット組かもしれませんので個別見解に対してはあまり悪態をつく必要ないかもしれませんw

『この点に関連し、別のある委員は、4月の期初の値上げが、とくにサービスにおいてどの程度となるか見極めていく必要があると述べた。』

あら〜〜、見極める前に物価のベースラインシナリオが下がっちゃったの〜〜〜かなちいね〜〜〜、と言ってもこの方が上振れ組なのか下振れ組なのかが分からんからまあ煽らんでおくw


・関税の影響は物価については上下双方ある、だったのに何で4月には見通し下振れになったんでちゅかねえ

でまあその続きですがリスク要因、

『経済・物価の見通しのリスク要因として、委員は、各国の通商政策等の動きやその影響を受けた海外の経済・物価動向、資源価格の動向、企業の賃金・価格設定行動など、わが国経済・物価を巡る不確実性は引き続き高いとの認識で一致した。』

というのはまあヨロシとしまして、

『そのうえで、何人かの委員は、春季労使交渉での賃上げ率が高めとなっていることや、食料品価格が上昇していることが物価に及ぼす影響について注意する必要が あると述べた。』

ほほう。

『他方、何人かの委員は、このところ、関税政策を含めた米国新政権の政策運営を巡る不透明感が高まっているとしたうえで、今後発表される米国の政策やそれに対する各国の対応次第では、わが国の経済・物価にも影響が及びうることに十分注意する必要があるとの見方を示した。』

まあそりゃそうですわな、ではありますがこの後が中々味わいありまして、

『これに関連して、複数の委員は、関税の導入は、経済活動を下押す要因になると考えられる一方、物価に及ぼす影響については一概には判断しにくいと指摘した。』

って認識だったのに、何で4月展望レポートで思いっきり下方向になってしまっているんですかというお話でして、結局のところ4月展望でいきなり下方修正しないでリスク認識の下方修正だけにとどめておいた方が3月からのジャガーチェンジ感が出なかった話だし、そもそもこの関税政策ってリーマンショックとかコロナショックみたいなのとはまた別の種類のショック(かどうかも現時点では分からんが)なのに、フォワードルッキングに反応するから過去との整合性がおかしくなる、ということになっている訳ですな、ナムナム。


・先行きの政策運営に関して3月は勇ましい意見が結構並んでいたんですけど・・・・・・・・

『V.金融政策運営に関する委員会の検討の概要』ですが、まあ前半の方はさらさら流して読むとしまして最後の辺りが何ともなのでそっちがアタクシ的にはメインイベントになります。

『先行きの金融政策運営について、委員は、現在の実質金利がきわめて低い水準にあることを踏まえると、経済・物価の見通しが実現していくとすれば、それに応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくという基本的な考え方を共有した。そのうえで、具体的な金融政策運営については、予断をもたず、経済・物価見通しやリスク、見通しが実現する確度をアップデートしながら、適切に判断していく必要があるとの認識で一致した。』

ってのから始まる話ですが、

『何人かの委員は、前回1月の会合で政策金利を引き上げた直後であることも踏まえると、現在は、政策効果に加え、各国の通商政策等の動きやその影響を丁寧にみていくことが可能な局面にあるとの認識を示した。』

なのはまあ良いんですけどなんかこの辺りのタイミングって威勢の良い感じの情報発信があったような無かったようなw

『ある委員は、1月までの政策金利変更の影響や、このところの長期金利の変動の影響を評価するためのデータは現時点では 十分に揃っていないとしたうえで、経済活動への本格的波及とその影響の確認には時間が必要であると述べた。』

『別のある委員は、当面、米国新政権の政策とその世界経済・国際金融資本市場への影響を注視しながら、国内的には0.5%という新しい金利水準の下での経済・物価の反応を見極めていくことが適当であると指摘した。そのうえで、この委員は、これらを踏まえて、次の政策金利の引き上げを判断すべきであるとの見解を示した。』

『別の一人の委員は、米国の政策運営に起因する下方リスクは急速に高まっており、関税政策の今後の展開次第では、わが国の実体経済にまで大きな悪影響を及ぼす可能性が十分あると指摘した。そのうえで、この委員は、そうした可能性が高まった場合には、政策金利を引き上げるタイミングをより慎重に見極めることが必要となるとの見方を示した。』

『この間、別のある委員は、変革速度の非常に速い中国企業との競争激化に加えて、米国の関税政策や供給網の分断などの不確実性の高まりから、わが国経済への下押しリスクが高まっていると評価したうえで、今後、中小企業の業績・投資、賃金・物価動向などへの影響を入念に確認する必要があることから、当面は現状の政策を維持することが適当であると述べた。』

最後のは中村審議委員だと思うのですが、実質金利を低位に維持することによって中小企業の変革を遅らせてしまう、ってご認識が無いのかしら、ってのはずーっと昔から気になるところではございますわな。

でもって続きですが、ここからがイキリ散らかしパートになりましてですね、

『他方、ある委員は、不確実性が高まっているからといって常に慎重な政策対応が正当化されるわけではなく、今後の状況によっては、果断に対応することもありうるとの見解を述べた。』

抜刀斎キタコレ!

『別の一人の委員は、各国の通商政策等の影響から物価に上下双方向の不確実性がある時に、不確実だから現状維持、金融緩和を継続するということにはならないと指摘したうえで、次回会合では、@企業や家計のインフレ予想、A物価上振れリスクの顕在化、B賃上げの進展をしっかりと確認し、金融政策を判断していく必要があると述べた。』

おおおおおおお抜刀斎以外にも!

『この点に関連して、別の一人の委員は、米国経済は、減速を示す指標もあるが、雇用関連指標などは底堅いと指摘し、政策変更を急がないとのFRBの情報発信も踏まえると、日本銀行の政策の自由度は引き続き増した状況であるとの見方を示した。また、この委員は、資産価格上昇に伴う期待収益率向上から、市場参加者は、実質金利を消費者物価で捉える以上に低位に感じ、緩和効果がより強まっている可能性があると指摘したうえで、今後、来年度を視野に、過度な緩和継続期待の醸成による金融の過熱を避けることが必要になった場合には、金融緩和度合いの調整を機動的に行う必要があると述べた。』

あらこれはさらに威勢が良い、ということでもしかしたらこっちが抜刀斎かもしれませんね。

・・・・何はともあれこのパートがそこそこ字数を取りつつ結構な勢いで威勢がいい話をしておる次第でして、一方で4月展望であそこまで盛大に腰砕けになった訳ですからその間は何だったのか、というツッコミを受けるのは当たり前田のクラッカーだと思うのですが、そこを堂々と出してきた日銀大本営のスタンスってのが中々味わいがあるなと思いました。

と申しますのは、まあワイの完全なる妄想の世界線ではありますが、こういうのを思い切り強調しておくことによって、「いやー米国関税政策の影響ってビビるほどの事も無かったね〜よかったよかった」という話に一件落着、となった時に再度ジャガーチェンジできるように「私言いましたよね」ムーブとしてこの威勢の良い話のご紹介パートが浮上してくるんですよね〜。まあワイの妄想だけど。


そして次の段落もさらに威勢が良くて、この状況認識で何で4月展望があそこまで弱くなるのか、というのが甚だ疑問としか言いようが無いのですが、


・中立金利に関連した情報発信についてとかいうこれまた勇ましい議論

『委員は、今後、基調的な物価上昇率が高まっていった場合の政策運営について、どのような情報発信が適切かについて議論した。』

っていうこれまた勇ましい議論をしていたのに、4月展望であそこまで一気に青菜に塩モードになってしまうのが全く意味不明ですけれども、わざわざこのコーナーを作っているのはまあ何らかのナニがあるかもしれませんなあという所で。

『ある委員は、高水準の賃上げが実現し、「物価安定の目標」の実現が目前に迫りつつある段階にあることを踏まえると、今後は、こうした前提で情報発信する新たな局面に入るとの見方を示した。』

こりゃ強い。

『別のある委員は、次の利上げを行う局面では、基調的な物価上昇率が2%にかなり近づいていることも想定されることから、その際には、金融政策スタンスについての説明を、従来の緩和から中立へ転換させることを含めて検討していく必要があると述べた。』

とは言え0.75%じゃあクッソ緩和には変わらんじゃろと思いますけど。

『この点に関連し、何人かの委員は、中立金利を巡る不確実性を踏まえると、政策金利を引き上げていく過程において、金融政策が緩和的かどうかの評価は次第に難しくなると指摘した。』

となりまして、

『このうちの一人の委員は、中立金利の推計誤差を大きく減らす特効薬は存在しないが、引き続き推計の精度の引き上げ等に向けて努力していく必要があると述べた。』

これは総裁かな〜

『何人かの委員は、中立金利や基調的な物価上昇率はいずれも厳密に観察することができないものであることを前提としたうえで、どのような情報発信が適切か考えていく必要があるとの見解を示した。』

いやだから「基調的物価上昇率」とかいう「お気持ち物価」を便利使いするの止めれば良いだけだと思うんですけどね、とは思いました。

なお、以下の長期国債買入云々の話はまあどうでもいい話しかしていないので割愛します。


2025/05/08

この手の輩って必ずと言っていいほどこういうムーブをするんだが
https://www.47news.jp/12547944.htm
戦争検証の中止申し入れ 自民保守系、官房長官にl
2025年05月07日 21時35分共同通信

『自民党の保守系グループ「日本の尊厳と国益を護る会」代表の青山繁晴参院議員らは7日、林芳正官房長官と国会内で面会し、戦後80年の節目に石破茂首相が調整している先の大戦の検証について、中止するよう申し入れた』(上記URL先より)

勝っていたとしたって今後の事を考えたら検証するのが大事ですし、ましてや先の大戦は本邦の歴史に類を見ないまでに大敗北したんだから検証することは「今後の日本の尊厳と国益」を守るために必要じゃろ、としか言いようが無いんだが何考えてるんだか。

なお本件は短期間で結論出せるもんじゃないからもっと数年単位で時間を掛けて腰を据えてやるべきだ、という面でのツッコミはあるんですけどね。




2025/05/07

お題「決定会合レビューで総裁会見」

さて連休明けですな。でもって明日はFOMCと。

〇総裁会見はまあ普通に展望レポートの「ベースラインシナリオ引き下げ」の説明ですねえ

https://www.boj.or.jp/about/press/kaiken_2025/kk250502a.pdf
総裁記者会見
――2025年5月1日(木)午後3時30分から約65分

・ということで最初の質問は「関税政策の影響は」という順当なものですが

『(問)トランプ大統領の一連の関税政策について、現時点でどのように分析していらっしゃいますでしょうか。今回の決定会合の結果と展望レポートについて、関税政策がどう影響したか教えてください。』

順当である。

『(答)今回の展望レポートでは、最近の関税政策ですが、これは海外経済の減速、わが国企業の収益の減少、不確実性の高まりによる支出の先送りなどの経路を通じて、経済の下押し要因として作用すると評価しています。』

いきなりの出オチとしか言いようが無いですが、予断を持たずに判断という事を(ちょっと上の方で引用した展望レポートでは)言ってるのに、思いっきり予断をもって判断しておるわけです。まあこの時点で「シナリオを定性的に下振れさせている」訳ですが。

『ただその後は、海外経済が緩やかな成長経路に復していくことなどから、下押し圧力は次第に弱まっていくとみています。』

このような器用な見方をするよりも「今は良くわからないからベースラインシナリオを維持するけど今後の動向を見ながら考えます」の方が良いと思う訳でして、今回の日銀方式ですと、思ったより影響が大したことがなかった場合に下振れさせた見通しを再度上げるのが出遅れる可能性があるのもそうなんですが、「影響はいずれ無くなっていく」という見通しを置いていることによって、実は関税政策の影響がもっと持続的かつ構造的なものになったという場合に「今は弱いけどいずれ戻る」という看板を下ろすのが遅れてしまうリスク、ってのもあると思うのでして、あんまりこういう小賢しい見通しを出さない方が良いと思うのですよね、もっと見えてからで良かったと思うのですが。

『物価に対しては、成長ペースの鈍化などを通じて、押し下げ方向に作用をすると考えており、基調的な物価上昇率もいったん伸び悩む姿を想定していますが、』

グローバルな供給網の変化とかそっちの方は気にしないんですかそうですか(展望のリスクシナリオの中にはあったけど)。

『その後は徐々に高まっていくと予想しています。』

このような器用な見方以下同文。

『ただ、物価安定の目標と概ね整合的な水準で推移すると考えられる時期は、見通し期間の後半になる見込みです。』

こういう表現をしていますので、時期が1年先送りになっています。よって、

『こうした意味で、今回お示しした経済・物価の見通しは前回と比べて下振れていますが、見通し期間内に基調的な物価上昇率が物価安定の目標と整合的な水準まで高まるという姿は、これまでと変わっていないところでございます。』

ベースラインシナリオを下げているのに「これまでと変わっていない」っての訳わからんから勘弁して欲しいんですが、そうしておかないと円安にぶっ飛ぶから、って配慮は有るんだと思います。

『こうした中、今回の決定会合では、実質金利がきわめて低い水準にあることなどを踏まえ、現在の緩和的な金融環境を維持することで、引き続き、経済活動をしっかりとサポートしていくことが適当と判断しました。そのうえで、各国の通商政策等の今後の展開や、その影響を巡る不確実性がきわめて高い状況にあることも認識しております。』

でもって、

『この点を含め、経済・物価の見通しが実現していくかについては、今後とも予断を持たずに点検し、2%の物価安定の目標の持続的・安定的な実現という観点から、適切に政策を判断してまいりたいと考えています。』

特に現時点で明らかに出ているような経済指標も(たぶんアネクも)ないのにベースラインシナリオ下げている時点でお前ら「予断を持ってシナリオ変更」じゃろとしか申し上げようがないのだが、どこまで行っても今回ここでいきなりベースラインシナリオを下げるとかいうある種の蛮勇を振るった意味が分からんですな、というお話でした。


・これもよいそもそも論でまあこの辺りまでで論点はかなり出ている感じがw

会見の頭の辺りからクソ忙しくてヘッドラインしか追えなかったのでリアタイであんまり聞けてなかったのですが、これはよいそもそも論質問。

『(問)二問お願い致します。最初は、展望レポートの中で、持続的な安定的な物価、基調インフレが達成する見通し期間が後半ということで、展望レポートの見通し期間が1 年間延びた、その中での後半に物価安定の目標と概ね整合的な水準で基調物価が推移するということであれば、当然のことながら利上げのタイミングやペースもその分遅れるという判断でよろしいのでしょうか、という点が一点目です。』

そらそうだ。

『二点目は、金融政策の基本的な方針は利上げを続けるということだと思うんですけれども、これはすなわち賃金と物価の好循環等の基本的なメカニズムは維持されていると、ただそこを巡る不確実性が高いと、そういう理解でよろしいでしょうか。』

うんうん。

でもって回答ですが、

『(答)後半からお答えしますと、この見通しのまず成長率といいますか実質GDPの姿に示しましたように、関税政策の影響等を受けて、今年度と来年度、成長率が少し下振れするという姿をみています。その結果として、物価上昇率と賃金上昇率はやはりやや下振れするというふうに、あるいは伸び悩みの状態に入っていくというふうに考えています。ただ、その間もかなり深刻な労働者不足は続いているというようなこともあって、賃金と価格がお互いに相手を上昇させるという意味での好循環は継続していくというふうに考えています。もちろんどの程度の水準でそれが続いていくかという点については、見通しの姿のうえで、上下にリスクがあるということは認識しております。』

丁寧に説明したいのは分かるのだが、こういう説明をするから植田さんの会見はクソ長くなってしまう訳でして、こんなの「ご指摘の通りで、足踏みはするかもしれないが基本的なメカニズムが崩れたという認識をしている訳ではありません」って回答すればいいだけなんですよね。昔どこかの記事だかインタビューだか講演だか忘れたけど、共立女子大の先生やってる時に「講義がつまらない・わかりにくい」とか言われたと自嘲ネタを植田総裁ぶっこんでいましたけど、全然反省してねえだろとしか申し上げようがありません。

『そのうえで、それを前提にということですけれども、おっしゃいましたように、基調的物価上昇率が 2%に近いところに収束していくというタイミングは、見通し期間が延びてその後半ということですので、やや後ずれしているという姿になっています。』

はい後ずれ明言キタコレな訳でして、関税の影響がまだ全然わからんという状況なのに「予断を持って」思いっきり政策運営にかかわる物価目標達成時期の後ずれをしているんですよね。

『それが金融政策にどう影響するかということですけれども、これまでのように割と単調に基調的物価が 2%の上昇率に収束していくという姿から、いったんちょっと足踏みするようなところを経てまた上昇するという姿にやや修正していますので、その中のどこでその見通しの確度が高まったということを判断できるかというのは、なかなか難しい問題かなと思います。その辺、柔軟に考えて政策対応したいと思いますし、それから、先ほども強調させて頂いたと思いますが、中心的な見通し自身の確度が、これまでほどは高くないというふうに残念ながらみています。従って、例えば関税政策等について大きな動きがあるという場合には中心的な見通し自体も変わり得るし、それが将来の金融政策の動向にも影響を与えるというふうにみております。』

ワシもしつこいのだが「関税政策等について大きな動きがあるという場合には中心的な見通し自体も変わり得る」のに何で今回動きもない段階で中心的な見通しを変えたんだよとしか言いようが無い。

・・・・まあそれだけハトハトチキンの血が騒いでコケコッコーとなったんでしょうとしか思えませんが。


・よく考えたら財政とかは「決まったものだけ織り込んでいる」のに何で今回の関税は・・・・・・・

次の質問の前半ですが、

『(問)前回の 3 月会合で、総裁は米国の関税も含めて、4 月になればある程度みえてくるというふうに話しておられましたけれども、その結果として米国の関税政策というのは想定よりも悪かったというか、景気に対しては下押しかなり強かったと考えているのかという点と、その結果として、現時点でですね、経済と物価、オントラックというふうに言えるのでしょうか。(後半割愛)』

これに対する説明だが。

『(答)まず経済自体ですけれども、足元までは概ねオントラックできているというふうにみています。経済と物価ですね。ただし、おっしゃったように、懸念していた米国の関税政策が、特に 4 月 2 日の時点では、かなり悪い方に振れた。その後、若干の巻き戻しがあって、現在もうひとつ分からない状態になっているということ。その後、ある程度交渉の進展があるということは、見通しの中に織り込んでいますけれども、それでも無視できないレベルの関税が残るということを前提にした見通しになっています。その結果、見通しがやや下振れたという姿になっています。(後半割愛)』

は良いんですけど、展望レポートの作りとして毎回「各政策委員は、既に決定した政策を前提として、また、先行きの政策運営については、市場の織り込みを参考にして、見通しを作成している」としていて、財政政策とか、物価対策の各種措置とかそういうのは「最終決定するまで入れない」という仕切りになっていまして、だったら今回だって「関税が分からんからとりあえず無視して(あるいは10%の部分だけにして)出すけれどもより影響が大きくなる可能性はありその場合は見通しを変更します」と言って出す方が分かりやすかったと思うのですけど、ハトハトチキンがコケコッコーだから仕方ないですわな。

でもってこの人の次の人の質疑で「では関税の置きはいくらか」という話があったのですが、

『(問)総裁、冒頭のご説明で、この中心的な見通しを作るうえで各国間の交渉がある程度進展すると、関税についてですね、ということを前提に置いているというご説明がありましたけども、具体的には現在、日米の関税交渉が進行中でありますけども、相互関税の上乗せ分が今一時停止されてますが、それがかからない、発動されないということなのか。それともう一つ、自動車への関税っていうのもこれは撤廃されるという前提で想定して見通しを作ってるのか。各委員それぞれ前提が少しずつ変わると思うんですけど、総裁自身はどういった前提を置いて見通しを置いたのかをまず伺えないでしょうか。(後半割愛)』

それはその通りで、「置きを置いて見通しを作った」のであれば、その置き自体を見せてくれれば、実際の交渉の進展次第で日銀の今回の見通しが今後どっちに転ぶのか、というのが分かりやすくなるんですが、回答がこりゃまた摩訶不思議でして、

『(答)まず、関税に関する仮定ですけれども、おっしゃるように各委員、個別にそれぞれだと思いますけれども、私も含めて大まかな姿としては、これまでに議論されてきたものの中の一番極端なところにはいかない、それから全くゼロとか、10%だけで済むというよりはもう少し高いレベルに交渉の結果落ち着く程度の前提で、それぞれ具体的な姿は各委員に任されているというところでございます。(後半割愛)』

・・・・・( ゚д゚)
・・・・・(つд⊂)ゴシゴシ
・・・・・(;゚д゚)

いやちょっと待て、展望レポートの説明だと「今回の展望レポートの中心的な見通しは、今後、各国間の交渉がある程度進展するほか、グローバルサプライチェーンが大きく毀損されるような状況は回避されることなどを前提に作成している。」けど「なお、今後の各国の政策の帰趨や、それを受けた各国の企業・家計の対応次第で、経済・物価の見通しが大きく変化しうる点には注意が必要である。」ってあるんだが、その前提がそもそも各委員でバラバラにばらけていたら置きの意味はどうなっているんだというお話ですがな。

関税率がこのくらいとした場合に、この程度の下押しが考えられます、のこの程度の下押し、という部分に関して各委員の評価が違って、その結果見解がバラけるというのは別に普通の話だから良いんですけど、その関税率がこのくらい、自体が全然バラバラの前提で置いてるんだったらそれ意味ねえだろというか、だったら最初から「関税は不確実なのであくまでも不確実要因」とかまあ何なら10%だけ入れておくとかの置きにしておいて今後の展開次第で6月の会合での見通し変更も視野に入れた方がええじゃろと思う訳なのでこの説明はナンジャソラとズッコケてしまいますな。

つまりですね、このちょっと先の質疑であったのですが、

『(問)今の質問にも関連する点で二点お願いします。一つは、これだけ読みにくい関税政策の影響、きわめて高い不確実性ですけれども、見極めに現時点でどの程度時間がかかるかという点において、例えば今 90 日間の関税の猶予期間というのをトランプ政権、設けてますけれども、これが 7 月の上旬に来ますけれども、例えばやはりその 90 日の期限が終わってある程度関税の中身が確定するまでは、なかなかこれは見極めにくいと現状でみていらっしゃるのかどうかという点が一つです。(後半割愛)』

というのがあったのですが、これには植田さん、

『(答)まず、関税政策について不確実性が大きく低下するのはいつ頃かというご質問だと思いますが、おっしゃるように 90 日間で交渉を米国政府としては終わらせたいという意向が表明されてますので、そこは一つのポイントになるとは思いますけれども、その手前でも、例えば現在の日米の交渉のように順次行われている交渉もありますし、90 日経ってもまだっていうところも残ると思いますので、そこは何とも言えないと思いますし、いったん大体これでいくというふうにセットされても多少の不確実性はまだ残るという、何とも断定のしにくい状態が続くかなと思います。それと余談になるかもしれないですが、関税の体系が決まっても、その経済への影響というところは、これまでにない規模の関税の発動ですので、なかなか不確実性は大きいということだと思います。(後半割愛)』

だったら今回はベースラインシナリオを維持して7月に下方修正必要なら下方修正して、もし6月の時点である程度アウトラインができたら出す、で良かったと思うのですが、結局どこまで行っても今回こんなにハトハトチキン音頭でコケコッコーとなる理由が分からんですな・・・・・・・・


・輪番に関しては「政策意図を輪番では使わない」ようでそれは大変に宜しいお話である

『(問)(前半割愛)もう一点、次回の 6 月会合で国債買入れの中間評価と 26 年度の減額計画を示すと思うんですけども、経済の減速のリスクを受けてですね、景気を支えるために買入れの減額ペースを緩めたり、あるいは減額を止めたりといったことは選択肢として取り得るのでしょうか。』

という質問に対しての回答ですが、

『(答)(前半割愛)そのうえでですが、国債の買いオペの中間評価に関わる部分ですけれども、これは以前から申し上げていますように、金融政策としての対応は短期金利の操作を中心に行うということで考えています。今回の中間評価は、債券市場、国債市場の市場動向、機能度をしっかり点検しつつ、26 年 4 月以降の姿も提示するということを基本線に行うということでございます。』

ということなので、基本的に政策ツールではない(もうYCCじゃないんだから)というのを明らかに説明しているのは中々結構だと思いました。さらに別の質問で、

『(問)(前半割愛)あと国債の買入れについてですけれども、次回会合で議論されるということですが、最近の超長期金利の動きだとか、債券市場全体のボラティリティだとかを受けてですね、もっと減速ペースを来年度ですね、26 年度に早めるべきだとか、いやそうじゃないという意見もいろいろありますよね。今、総裁、そういったことについてはどういうふうにお考えになってるんでしょうか。』

に対しては決め打ちは特に行わずに、

『(答)(前半割愛)それから国債の買入れについては、中間評価でこれまでの経験をレビューするわけですけれども、おっしゃった点を含めまして、市場参加者会合でのやり取りも含めて市場の機能度等について判断していきたいというふうに思っています。』

としていましたな。


・基調的物価とアクチュアルの物価に関しての指摘に対して

『(問)国内物価に関して二点伺います。一点目が海外が騒がしくなってちょっと霞んでしまってますけれども、国内のインフレは、年度ベースでみると日銀の見通し期間と同じスパンの 3 年間 2%を超すというか 3%台となってます。一方で、実質金利はきわめて低い水準で推移しておりまして、そうした情勢下で不確実性はきわめて高い局面に入りました。この局面での政策判断の考え方をちょっと改めて伺いたいなと。正常化のタイミングが遅れたある種のビハインド・ザ・カーブに陥っているのではないのか、現状の認識を伺えればと思います。(後半割愛)』

ということで、基調的物価を連呼するが現実の物価が延々と上振れているじゃないかという石直球な質問に対して植田さんの回答は、

『(答)消費者物価総合では 3%を超えるインフレ率が足元続いていまして、これは直ちに2[%]に下落するとか 2[%]を下回るという状況ではないわけですけれども、一方で、これも前から申し上げています通り、数字できっちりお示しすることができないのは、なかなか申し訳ありませんが、基調的物価上昇率は、2%をやや下回っているというふうにみています。』

数字できっちりお示しできないのでしたらそれはただの「お気持ち表明」ではないでしょうか、と言いたくなるわけで、展望レポートの背景説明の方なんかでも説明はあるのは分かっていますが、でも結局この2%行ってない云々って「お気持ち」じゃないのかと言いたくなる訳ですな。

『上昇してきてはいるけれども、2%まではある程度の距離があるというふうにみていたわけですが、従って金融緩和基調を、ここまで調整しながらも維持してきたということでございます。』

その調整が足りないからアクチュアルの物価が高止まりしているんじゃないか、ということには毎度毎度特殊要因ワンタイムエフェクトだから、で説明をしているのが現状ですわね。

『ちょっと先に行きますけれども、この基調的物価上昇率がどんどん急上昇してくるということになれば、場合によってはビハインド・ザ・カーブということだと思いますが、これまでのところゆっくりとした上昇できている、ということで、ビハインド・ザ・カーブではないというふうに考えてきましたし、』

それはビハインド・ザ・カーブじゃないとしたいから基調的物価が急上昇しないということにしているだけなのかもしれませんし、更に別のポイントとして、1989年に見られましたように、物価が反応する前に緩和的な金融環境が資産価格形成を歪めてしまってから物価がノコノコと上がりだす、ということもあり得るわけで、基調的物価一点張りで説明している(ように見える)スタンスって如何なものかとは思います。

『更に今回の見通しにありますように、少し先にいって、基調的物価の上昇には足踏みの可能性が出てきている、という中では、現在の金融緩和の程度を取りあえず、少なくとも今回の会合では維持するのが適当というふうに考えたところです。(後半割愛)』

だそうです。

・この質疑は中々でした

これに一種関連した質疑があったのが面白かったけど、

『(問)総裁、先ほどビハインド・ザ・カーブは否定されましたけれども、やはり現状をみてますと絶好の正常化のチャンスを逸してしまったんではないかっていうような感じにも受け取れております。』

からの、

『ゆっくりやってきた前提というのは先ほどお話あったように基調的物価上昇率が 2%に達してないってことですけれども、その基調的物価上昇率って非常にブラックボックス的な指標の前提っていうのは、おそらく賃金と物価の好循環があり得るという前提だったと思うんですが、』

と来まして、

『現実に起きていることはですね、2 年連続で非常に高い春闘の賃金上昇率が、賃上げがあったにもかかわらず、ほとんどの月で実質賃金がマイナスになってると。つまり現実に起きてることは、賃金と物価の悪循環が起きてるわけですけれども、そもそも植田総裁が追い求めていた賃金と物価の好循環というのは幻想だったんではないんでしょうか。』

イイシツモンダナー

でもって回答ですが、まあこれは引かれ者の小唄として鑑賞する物件ですな。

『(答)賃金と物価の好循環はある程度回っているというふうに、もちろん考えております。』

盗人モーモーしいとはこの事w

『ただ、やや誤算だったという意味では、去年の半ば過ぎから、食品価格の上昇が目立ってきた、これが以前に使っていた言葉で申し上げれば「第一の力」がまた出てきたような動きで、賃金がある程度上がっているにもかかわらず、実質賃金を抑えてきたという動きになっているということだと思います。』

第一の力だからしゃーなし理論で誤魔化すのかw

『それからもう一つ、好循環という意味では、まだかなと思いますのが、賃金が上がり続けていますし、今回の春闘も強いわけですけれども、財価格への波及はある程度進んでるわけですけれども、サービス価格のところへの波及がもう一つ思ったほどのところではないかな、というところを注意してみております。』

サービス価格がもっとあがるべきとな・・・・・


あと、なんかお前の感想を会見で大演説するなそういうのはチラシの裏にでも書いとけ、というような文字列があった(リアタイ視聴してないからイマイチよくわからんが)ような気がするんですが、巣に帰って寝てろって感じですな。


2025/05/06

お題「展望レポート基本的見解ですが見ているとやっぱり前回からの整合性が気になりますねえ」

うーん結局連休最終日の夜になってしまうま。

〇展望レポート基本的見解逐語確認(その3かつファイナル)

引き続き展望レポート基本的見解の続きで物価の見通しから参ります。

https://www.boj.or.jp/mopo/outlook/gor2504a.pdf(今回4月)
https://www.boj.or.jp/mopo/outlook/gor2501a.pdf(前回1月)

・CPIの見通しを下げている訳ですがその理屈は・・・・・

『(2)物価の中心的な見通し 』から参ります。

『消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、2025 年度に2%台前半となったあと、2026 年度は1%台後半、2027 年度は2%程度となると予想される。』(今回4月)
『消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、2024 年度に2%台後半、2025 年度に2%台半ばとなったあと、2026年度は概ね2%程度となると予想される。』(前回1月)

ということで何と引き下げですが、経済の見通しが弱くなったから下げ、ってのはまあそれはそれで理屈としては完結しているのですが、上の方でも申し上げましたように、そもそも論として1月展望の時に「物価が経済の需給ギャップにかつてよりも反応しにくくなっていて、構造的な労働供給ギャップの要因で堅調に推移する」って話をしたばっかりなのにいきなりのジャガーチェンジをしているのはお前ら前の説明との整合性をもうちょっと考えて説明してくれや、というお話ではあります。

なので以下の部分は「お前ら何で1月に言ってたことと違う理屈で勝負するのよあんたら認知に問題ありませんですかねえ」って言いたくなってしまうのですが、まあこの理屈を以下鑑賞するわけですな。

『これまで物価上昇率を押し上げてきた既往の輸入物価上昇やこのところの米などの食料品価格上昇の影響は減衰していくと考えられる。』(今回4月)

『既往の輸入物価上昇を起点とする価格転嫁の影響が減衰する一方、』(前回1月)

文章の都合上前回のをここでぶつ切りしますが、輸入価格云々は円安が一服したから、と言いたいんでしょうけれども今回の決定会合受けて140円くらいまで戻ってくれてたドル円ちゃん早速145円近くになっていますし、だいたいからしてコメ価格の転嫁問題だってまだまだだし、各種価格転嫁いよいよこれからも続く、としか思えないのですが、なぜか減衰することになっている、というのが不思議なんですが、たぶんこれ何とかストを捕まえても同じような話をする向きが多そうなので、過去データから語る人たちはこういう局面変化に弱くて、お前らまだデフレ脳やってるのかという感じですが、まあそこは個人の感想ですの世界なので何んともかんとも。

『この間、消費者物価の基調的な上昇率は、成長ペース鈍化などの影響を受けて伸び悩むものの、その後は、成長率が高まるもとで人手不足感が強まり、中長期的な予想物価上昇率が上昇していくことから、徐々に高まっていくと予想され、見通し期間後半には「物価安定の目標」と概ね整合的な水準で推移すると考えられる。』(今回4月)

『消費者物価の基調的な上昇率は、人手不足感が高まるもと、マクロ的な需給ギャップの改善に加え、賃金と物価の好循環が引き続き強まり中長期的な予想物価上昇率が上昇していくことから、徐々に高まっていくと予想され、見通し期間後半には「物価安定の目標」と概ね整合的な水準で推移すると考えられる。なお、2025年度にかけては、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比に対して、米価格が高水準で推移すると見込まれることや政府による施策の反動が生じることが押し上げ方向で作用すると考えられる。』(前回1月)

前回言ってた1月の押し上げって米価の高止まりは現実に続いているんだし、何でそれを引っ込めたのかが訳わからんとしか言いようが無いですよね。でまあ見通し期間が2027年3月末までから2028年3月末までに伸びているので、見通し期間の後半の開始時期が1年先送りになっているのは言うまでもありません。

・1月に言ってた上振れ要因を全部打ち返してしまうのは「経済の下振れ」

『2026年度までの見通しを前回の展望レポートにおける見通しと比較すると、2025 年度と 2026 年度は、原油価格の下落や今後の成長ペース下振れの影響などから、下振れている。』(今回4月)

『こうした見通しを前回の展望レポートにおける見通しと比較すると、2024年度と 2025 年度が、米価格の上昇に加え、このところの為替円安等に伴う輸入物価の上振れもあって、上振れている』(前回1月)

明確な輸入物価の転嫁やら米価の転嫁やらというのを押し返してドテンさせるほど経済の下押しによる物価の下げ圧力が強い、という謎結論になっています。何でお前らそこまで悲観的なの????

って話でして、潜在成長率並程度の成長が見込まれるのに、なんで1月に言ってた上振れ要因を押し返してお釣りがくる下振れ要因になるんだよ(すくなくとも潜在成長率並の成長ならば、理屈の上では基調的な物価上昇にマイナス要因にはならんじゃろ(押し上げ要因にもならんけど)というお話だと思うんだがどういう理屈でこうなるの???)と小一時間問い詰めたい。


・そもそも論として「物価安定目標達成と整合的な基調的物価」という状態には「金融政策が中立的」を自動的に含意してないとおかしいんだが

『消費者物価(除く生鮮食品)の見通しは、原油価格や政府による施策に関する前提にも依存する。』(今回4月)
『消費者物価(除く生鮮食品)の見通しは、原油価格や政府による施策に関する前提にも依存する。』(前回1月)

というのはいつものことですが、

『原油価格については、先物市場の動向などを参考に、見通し期間終盤にかけて、概ね横ばいで推移していく前提としている。』(今回4月)

『原油価格については、先物市場の動向などを参考に、見通し期間終盤にかけて緩やかに低下していく前提としている。政府によるガソリン・電気・ガス代の負担緩和策は、昨年度までの消費者物価(除く生鮮食品)の前年比を押し下げる方向に作用してきた。2024 年度と 2025 年度については、負担緩和策の段階的な縮小・終了が、前年比を押し上げる方向に作用するとみられる。』(前回1月)

この辺は特殊要因の話、ちなみに原油価格って毎回これ先物市場の価格を見て云々っていう説明になっているのですが、そもそも論として先物価格の期先限月と期近限月の間の差ってのは受渡適格品目が変わらない限りにおいては、単純に保管コストの差になるんですから(農産物の場合は供用適格銘柄の生産年が変化するので必ずしもこの限りではないが原油は基本変わらん筈)、もともと先物市場の価格を使って云々って前提を置くのも訳わからんのだが何とかならんのかこの設定は。


『エネルギー価格の変動の直接的な影響を受けない消費者物価(除く生鮮食品・エネルギー)の前年比は、既往の輸入物価上昇やこのところの米などの食料品価格上昇の影響が徐々に減衰していくことに加え、成長ペース鈍化などの影響から、いったん2%を下回ると見込まれる。その後は、成長率が高まるもとで、2%程度で推移すると考えている。』(今回4月)

『エネルギー価格の変動の直接的な影響を受けない消費者物価(除く生鮮食品・エネルギー)の前年比は、既往の輸入物価の上昇を起点とする価格転嫁の影響は徐々に減衰するものの、賃金上昇等を受けたサービス価格等の緩やかな上昇が続くほか、米価格の上昇などもあって、2%程度で推移するとみられる。』(前回1月)

ということで今回は「成長が下押しされるから物価見通しが下押し」になっているのですが、そもそも論として物価安定目標2%が達成されているのでしたら、理屈の上では経済が潜在成長率並で推移していたら物価の前年比はおおむね2%になっていないと話としておかしいのですが、今回の見通しだと経済が潜在成長率程度で推移すると物価(基調物価)が2%割り込むって説明になっていますので、まあ物価目標達成していないから、ということなんでしょうけれども、潜在成長以上の成長が続いて物価目標と整合的な水準に達する、ってのも説明としては謎オブ謎なんですよね。

つまりですね、緩和的な政策を続けていて、物価見通しが2%行くか行かないか、って状況が続いているんだったら、そもそも論としてそれはバイデフェニションで物価目標未達成(=本来なら中立的な金融政策を実施している中で2%で推移していないとおかしいから)ということになるので、見通し期間の後半に物価安定目標達成と整合的な水準、っていうのがそもそも何を言っているのかを詰めると話が結構矛盾してくるんですよ。

おまけにアクチュアルの物価の方は2%から上振れ推移で延々とやっておられるわけで、結局この人たちの言ってる「物価目標達成」というのは具体的にどういう状態なのか、というのが曖昧なまま、その曖昧な「基調的物価」で話を通しているからアタクシのような頭の悪い者にはいつまで経っても腑に落ちないんですよねえ(物価目標達成と整合的な水準に基調的な物価がいますよ(見通し期間後半のどこかでそうなる、という説明ですよね)、というときには金融政策が中立的な水準にある、というのがセットじゃないとそもそもその状態は「物価目標達成と整合的」とは言わないんじゃないか、ってことね)。

とまあメタ哲学みたいな話をこねくり回しましたが続き行きますね。


・需給ギャップの部分に対する感応度合いが弱くなっていったという話は生きているのよね

『物価の基調を規定する主たる要因について点検すると、労働や設備の稼働状況を表すマクロ的な需給ギャップは、振れを伴いつつも、改善傾向をたどっている。先行きの需給ギャップは、上記の経済の見通しのもとで、現状程度で推移したあと、見通し期間終盤にかけて、再び改善していくと予想される。この間、女性や高齢者による労働参加の増加ペースの鈍化もあって、労働需給はマクロ的な需給ギャップ以上に引き締まっている。こうしたもと、多くの業種で企業が労働の供給制約に直面しつつある状況を踏まえると、マクロ的な需給ギャップが示唆する以上に、賃金や物価には上昇圧力がかかるとみられる。』(今回4月)

『物価の基調を規定する主たる要因について点検すると、労働や設備の稼働状況を表すマクロ的な需給ギャップは、振れを伴いつつも、改善傾向をたどっている。先行きの需給ギャップは、上記の経済の見通しのもとで、見通し期間終盤にかけては、プラス幅を緩やかに拡大していくと予想される。この間、女性や高齢者による労働参加の増加ペースの鈍化もあって、労働需給はマクロ的な需給ギャップ以上に引き締まっている。こうしたもと、多くの業種で企業が労働の供給制約に直面しつつある状況を踏まえると、マクロ的な需給ギャップが示唆する以上に、賃金や物価には上昇圧力がかかるとみられる。』(前回1月)

今回は経済見通しをバチクソ下げた結果、ここの文言の中での需給ギャップの見通しに、「現状程度で推移したあと」というのが入った格好になっています。

でまあそれはそれでいいんですけど、「マクロ的な需給ギャップが示唆する以上に、賃金や物価には上昇圧力がかかるとみられる」っていうのを今回引っ込めていないんだったら、何で物価の見通しが下振れる上にリスクバランスも下になるのよという話で、話の整合性に関して違和感しかないですね。まあ最初の方から言ってますけど、今回は「先行き見通しリスクが多くてまあ普通に考えると経済に下振れリスクになるんだが、ゆうて状況が皆目見当つかないので一旦は従来シナリオを維持して警戒度を高めます」で良かったと思うのですが、ハトハトチキン音頭を踊ったが為に話の整合性が取れなくなっている感は非常に強いし、結局大したことが無かったらまたお前らベースラインシナリオを動かすのかと小一時間という所ではあります。


・適合的期待形成云々をどさくさに紛れて削除しているんだがアクチュアルの物価は上振れしとるじゃろ

『次に、中長期的な予想物価上昇率をみると、緩やかに上昇している。』(今回4月)
『次に、中長期的な予想物価上昇率をみると、緩やかに上昇している。』(前回1月)

何四半期「緩やかに上昇」って言い続けてるんでしょうかいい加減にしてください。

『先行きについては、従来より積極化している企業の賃金・価格設定行動は維持され、人件費や物流費を含むコスト上昇を販売価格に反映する動きは継続すると見込まれるものの、成長ペースの鈍化などの影響を受けて伸び悩むとみられる。』(今回4月)

という説明でその後復活するって話ですけれども、これ前回1月の見通しと比較しますとね・・・・

『短観における企業の物価全般の見通しは、緩やかに上昇している。適合的予想形成の強いわが国において、これまでの物価上昇率の高まりは、家計や企業の中長期的な予想物価上昇率の上昇をもたらしてきている。』(前回1月)

アクチュアルの物価は高止まりしているので当然「適合的予想形成の強いわが国において、これまでの物価上昇率の高まりは、家計や企業の中長期的な予想物価上昇率の上昇をもたらしてきている」という記載がありまして、何なら10月の展望でも同じ記載があったのですが、今回どさくさに紛れて削除しているんですが、「適合的期待形成でインフレ期待が上がる」っていうのは今次局面におけるキモみたいな話をしていたし、大体からして過去の大規模黒田緩和がインフレ期待に効かなかった理由も適合的期待形成にしていたんだから、この期に及んで急に適合的期待形成を引っ込めるのはインチキにも程があるじゃろ、と思いました。

適合的期待形成を引っ込めるのは今回物価見通しを下げるわ下振れリスクにするわとしたのと無縁ではないはずで、適合的期待形成の面からいったら足元物価が延々と上振れ状態になっていることは、インフレ期待を押し上げる強い要因になり得るので、あるかまだわからん景気下押し要因を打ち返してお釣りが来たっておかしくないじゃろ、という話になるので、適合的期待形成の話をすると見通しの数値との整合性がおかしくなる、という事によりましてこのような仕儀になったんじゃろうな、というのは何となく想像は付きます(個人の妄想です)。


・1月は随分と威勢よく構造的な感じの話をして期待インフレの強まりの話をしていたんですけどねえ

しかも1月の説明は上記に引き続きまして、

『企業の賃金・価格設定行動には、従来よりも積極的な動きがみられており、名目賃金ははっきりと増加している。また、賃金の上昇が続くもとで、人件費や物流費等の上昇を販売価格に反映する動きも広がってきている。』(前回1月)

と勇ましい話に加えて、

『先行きについては、労働需給が引き締まった状況が維持されるもと、企業の賃金・価格設定行動の変化が続き、予想物価上昇率は緩やかに上昇していくと考えられる。こうしたもと、物価上昇を反映した賃上げが実現するとともに、賃金上昇が販売価格に反映されていくことを通じて、賃金と物価の好循環は引き続き強まっていくとみられる。本年の春季労使交渉についても、昨年に続きしっかりとした賃上げを実施するといった声が多く聞かれている。』(前回1月)

となっていて、エライ勢いでイキリ散らかしていた訳でして、何なんですかこのジャガーチェンジは、というお話でしてどんだけお前らハトハトチキン音頭になっとるんじゃ、というお話ではあります。

でまあ今回はさっきの後に、

『その後については、成長率が高まり、労働需給の引き締まりがより明確となるもとで、積極的な企業の賃金・価格設定行動は更に広がっていき、再度、予想物価上昇率は緩やかに上昇していくと考えられる。』(今回4月)

となっていますが、前回は段落分けた状態で、

『これらの点検を踏まえると、消費者物価の基調的な上昇率は、人手不足感が高まるもと、マクロ的な需給ギャップの改善や中長期的な予想物価上昇率の高まりなどを受けて徐々に高まり、見通し期間後半には「物価安定の目標」と概ね整合的な水準で推移すると考えられる。もっとも、こうした見通しには引き続き不確実性があり、企業の賃金・価格設定行動などを丁寧に確認していく必要がある。』(前回1月)

ということでエライ威勢が良かったのに対して、ってお話ではございました。


・リスク要因その1は通商政策

『3.経済・物価のリスク要因』の『(1)経済のリスク要因 』

『上記の中心的な経済の見通しに対する上振れないし下振れの可能性(リスク要因)としては、主に以下の点に注意が必要である。』(今回4月)
『上記の中心的な経済の見通しに対する上振れないし下振れの可能性(リスク要因)としては、主に以下の点に注意が必要である。』(前回1月)

ということで最初が通商政策。

『第1に、各国の通商政策等の動きやその影響を受けた海外の経済・物価動向である。』(今回4月)
『第1に、海外の経済・物価情勢と国際金融資本市場の動向である。』(前回1月)

『最近打ち出された各国の通商政策は、様々な経路を介して内外経済を下押しする方向に作用すると考えられる。広範な関税の導入はグローバルな貿易活動に影響を及ぼすとみられるほか、関税を含む政策の不確実性の高まりが、各国の企業や家計のコンフィデンスや国際金融資本市場に大きな影響を及ぼすと考えられる。これらの政策が内外経済に及ぼす影響やその程度については、今後の政策の帰趨にも大きく依存するため、その動向を十分に注視していく必要がある。』(今回4月)

『米国経済は堅調に推移しており、同国の政策運営を巡る不確実性は意識されているものの、国際金融資本市場は全体として落ち着いている。もっとも、こうした政策運営を巡る不確実性が、同国の経済・物価動向のみならず、世界経済や国際金融資本市場に影響を及ぼしうることについては、引き続き留意していく必要がある。また、米欧では、中央銀行による既往の利上げの影響についても、引き続き不確実性がある。』(前回1月)

まあここは前提の話が変わっていますが、過去の利上げの影響が云々がしらっと抜けていますな。

『この間、ウクライナや中東情勢等の帰趨次第では、海外経済への下押し圧力が高まる可能性がある。中国経済についても、不動産市場や労働市場における調整圧力が続くなか、政策効果も含めて、先行きの成長ペースを巡る不確実性は引き続き高いほか、通商政策の影響も相俟って、一部の財における供給能力の過剰が世界経済・物価に及ぼす影響についても注意を払う必要がある。』(今回4月)

『この間、ウクライナや中東情勢等の帰趨次第では、海外経済への下押し圧力が高まる可能性がある。中国経済についても、不動産市場や労働市場における調整圧力が続くなか、先行きの成長ペースを巡る不確実性が高いほか、一部の財における供給能力の過剰が世界経済・物価に及ぼす影響についても注意を払う必要がある。』(前回1月)

関税政策の中国経済の影響を付け加えています。まあこの辺はそうですよねという話ですけど、既に見通しを下げてしまっているので、さらに上乗せで下振れかよどんだけハトハトフォワードルッキングなんだよ、とは思ってしまいます。


・輸入物価の動向なんだが明確に「輸入物価上昇が経済に悪影響」というのを連呼しているんですが・・・・・

『第2に、輸入物価の動向である。』(今回4月)
『第2に、資源・穀物価格を中心とした輸入物価の動向である。』(前回1月)

今回「輸入価格の動向である」とぶっこんで来ましたが、この中身が結構前回と違っていまして、

『上記の各国の通商政策等の影響を受けて、グローバルに物流の混乱が生じたり、サプライチェーンの再構築などが進み、そのコストが嵩んだりするようなことがあれば、輸入物価が上昇し、国内需要を下押しする可能性がある。』(今回4月)

輸入物価上昇が国内需要の下押し圧力、って思いっきり言ってまして、それは仰せの通りなんですが、だったらお前ら円安に振るなよアホがとしか言いようが無いわけで、今回ハトハト情報発信をしてドル円が5円近く円安ドル高に振れたんだが輸入物価上昇を悪だと明確に言い切るんだったらなんでハトハトチキン満艦飾の話をする訳なのお前ら、って思いました。

でもって

『また、資源・穀物価格については、先行き、ウクライナや中東等を巡る地政学的な要因により、大幅に変動するリスクに引き続き注意が必要である。』(今回4月)
『資源・穀物価格については、先行き、ウクライナや中東等を巡る地政学的な要因により、大幅に変動するリスクに引き続き注意が必要である。』(前回1月)

というのは前回と同じで、

『中長期的には、気候変動問題への各国の対応等を巡る不確実性もきわめて高い。』(今回4月)
『中長期的には、気候変動問題への各国の対応等を巡る不確実性もきわめて高い。』(前回1月)

これも同じ。輸入物価に関してはこの後にもあって、

『また、輸入物価が大幅に上昇することがあれば、家計の生活防衛的な動きが一段と強まり、経済を下押しすることも考えられる。一方、輸入物価が下落すれば、経済が上振れる可能性もある。』(今回4月)

となっていますが、前回までは

『エネルギーや小麦など資源・穀物の輸入国であるわが国にとって、供給要因による資源・穀物価格の上昇は、海外需要の拡大や輸出の増加を伴わないため、輸入コストの増加を通じた経済への下押しの影響が大きくなる。仮に交易条件が再び悪化する場合には、企業収益や家計の実質所得を圧迫し、企業や家計の支出行動の慎重化を通じて、設備投資や個人消費が下振れるリスクがある。また、輸入物価上昇の消費者物価への転嫁が進むもとで、家計の生活防衛的な動きが一段と強まり、経済を下押しすることも考えられる。一方、資源・穀物価格が下落すれば、経済が上振れる可能性もある。』(前回1月)

ということで、前回までも輸入物価上昇自体は交易条件の悪化が経済下押し、とはなっていましたが、引用部分の頭に「供給要因による資源・穀物価格の上昇は、海外需要の拡大や輸出の増加を伴わないため、輸入コストの増加を通じた経済への下押しの影響が大きくなる」って説明があったのに対して、今回はもうその手の前提の話を取っ払ってシンプルに「輸入物価上昇はアカン」という説明になっているのはほほうと思いました。だったら円安に飛ぶような情報発信するなやとは思いますが(しつこい)。


・リスク要因その3はおおむね同じ

『第3に、やや長い目でみたリスク要因として、わが国を巡る様々な環境変化が企業や家計の中長期的な成長期待や潜在成長率に与える影響がある。』(今回4月)
『第3に、やや長い目でみたリスク要因として、わが国を巡る様々な環境変化が企業や家計の中長期的な成長期待や潜在成長率に与える影響がある。』(前回1月)

『感染症の経験や人手不足の強まり、脱炭素化に向けた取り組みや労働市場改革の進展などは、わが国の経済構造や人々の働き方を変化させるとみられる。人口動態の変化等に伴う人手不足感の強まりは、デジタル化などによる省力化投資の動きを加速させる可能性がある。一方、そうした資本と労働の代替が十分に進展しない場合には、一部の業種における供給制約によって成長率が下押しされるリスクがある。』(今回4月)

『感染症の経験や人手不足の強まり、脱炭素化に向けた取り組みや労働市場改革の進展などは、わが国の経済構造や人々の働き方を変化させるとみられる。人口動態の変化等に伴う人手不足感の強まりは、デジタル化などによる省力化投資の動きを加速させる可能性がある。一方、そうした資本と労働の代替が十分に進展しない場合には、一部の業種における供給制約によって成長率が下押しされるリスクがある。』(前回1月)

ここまで前回と同じ、資本と労働の代替が十分に進展しない場合は云々というのは具体的には「顧客ニーズはあるけど従業員足りないから設備が稼働できない」という話ですね。

『さらに、最近打ち出された各国の通商政策はグローバル化の潮流に変化を及ぼしていく可能性があり、今後の各国の政策の展開次第では、そうした変化が急速に進むことも考えられる。』(今回4月)
『さらに、地政学的リスクの高まりや貿易摩擦の強まりなどを背景に、グローバル化の潮流に変化が生じる可能性もある。』(前回1月)

これは今回のトランプを受けた文言変更。

次が『(2)物価のリスク要因 』ですね。

『以上の経済のリスク要因が顕在化した場合には、物価にも影響が及ぶと考えられる。このほか、物価固有のリスク要因としては、以下の2つに注意が必要である。』(今回4月)
『以上の経済のリスク要因が顕在化した場合には、物価にも影響が及ぶと考えられる。このほか、物価固有のリスク要因としては、以下の2つに注意が必要である。』(前回1月)


・企業の価格設定行動が成長下押しを受けて弱まるので予想物価上昇率が弱まるというのがリスクとは違和感大有りだが

『第1に、企業の賃金・価格設定行動やそれらが予想物価上昇率に与える影響である。』(今回4月)
『第1に、企業の賃金・価格設定行動である。』(前回1月)

ということなんですけど、これ期待インフレが上がるという話かと思えばさに非ず。

『企業の賃金・価格設定行動は、従来よりも積極化しており、中心的な見通しでは、成長ペースが鈍化するもとでも、こうした傾向は維持されると想定している。もっとも、今後の各国の通商政策等を巡り不透明感が高い状況が続くことがあれば、コスト削減に注力する傾向が強まる可能性がある。こうしたもと、物価上昇を賃金に反映する動きが弱まることも考えられる。』(今回4月)

『企業の賃金・価格設定行動は、従来よりも積極化しており、中心的な見通しでは、賃金と物価の好循環が引き続き強まっていくことを想定している。もっとも、中小企業を中心に賃金上昇の価格転嫁は容易ではないとの声も引き続き聞かれており、今後、輸入物価からの価格転嫁の影響が減衰していくもとで、賃金上昇分を含め、コストの販売価格への転嫁の動きが弱まることがないか注視していく必要がある。』(前回1月)

前回は「価格転嫁も賃金上昇も進んでいるけど中小企業がちと心配」「価格転嫁は本当に続くのかがちと心配」って感じのニュアンスだったのですが、どうも通商政策を受けて企業部門が収益をスクイーズさせて対応して(というのがそもそもデフレ脳であって、全部かは知らんけど普通にホイホイコスト転嫁される動きが続くじゃろ、とアタクシは思うのですけれども、まあそれは見解の相違なので何とも)対応する結果、価格があまり転嫁されずに賃上げの原資も足りなくなる、ということでメカニズム崩壊じゃんという話をしているのはちとビビった。

『一方、販売価格に賃金を反映する動きが想定以上に強まったり、先行き労働需給が引き締まった状況が続くとの見方が強まるもとで、賃金の上昇圧力が強まっていく可能性もある。こうしたもとで、中長期の予想物価上昇率の高まりを伴いつつ、賃金・物価とも上振れていくことも考えられる。』(今回4月)

『一方、販売価格に賃金を反映する動きが想定以上に強まったり、先行き労働需給が引き締まった状況が続くとの見方が強まるもとで、賃金の上昇圧力が強まっていく可能性がある。こうしたもとで、中長期の予想物価上昇率の高まりを伴いつつ、賃金・物価とも上振れていくことも考えられる。』(前回1月)

ということでこっちは同じなのですが、今回4月はおまけ文言があって、

『この間、このところの米などの食料品価格上昇については、それ自体は天候要因等を背景とするものだとしても、家計のコンフィデンスや予想物価上昇率の変化を介して、基調的な物価上昇率に二次的な影響を及ぼしうる点にも留意が必要である。』(今回4月)

って言ってるけど、お前2024年産米の作況指数101だぞ何が天候要因じゃ、ってのはさておきまして米の価格上昇などによる価格上昇に関して「家計のコンフィデンス」って入れていて、価格上昇による適合的期待形成の話の中にコンフィデンス悪化に伴う影響ってのを入れていて、どうしても物価のリスクも下振れ方向にしたいらしいというのが伝わります。


・為替の影響云々はまだ残しているのね

『第2に、今後の為替相場の変動や国際商品市況を含む輸入物価の動向、およびその国内価格への波及は、上振れ・下振れ双方の要因となる。』(今回4月)

『第2に、今後の為替相場の変動や国際商品市況の動向、およびその輸入物価や国内価格への波及は、上振れ・下振れ双方の要因となる。』(前回1月)

2番目のこちらですが、

『各国の通商政策等の展開をはじめ世界経済の先行きを巡る不確実性は高く、これが供給サイドから輸入物価を上昇させたり、為替相場や国際商品市況を大きく変動させる可能性がある。この点、企業の賃金・価格設定行動が積極化するもとで、過去と比べると、為替の変動が物価に影響を及ぼしやすくなっている面がある。』(今回4月)

『世界経済の先行き等を巡る不確実性は高く、これが国際商品市況を大きく変動させる可能性がある。また、このところ、企業の賃金・価格設定行動が積極化するもとで、過去と比べると、為替の変動が物価に影響を及ぼしやすくなっている面がある。』(前回1月)

でもって為替の影響が以前よりも大きい、かつ輸入物価上昇が経済の下振れリスクだったら、別に円高誘導しろとは言わないけど、円安を促進するような政策の「見せ方」をすること自体が経済にマイナスになるんじゃないかねえ、と思いました。


・第一の柱第二の柱は思いっきり形骸化しているから見直すべき

という訳で金融政策に参ります。『4.金融政策運営 』

『以上の経済・物価情勢について、「物価安定の目標」のもとで、2つの「柱」による点検を行い、先行きの金融政策運営の考え方を整理する5。』(今回4月)
『以上の経済・物価情勢について、「物価安定の目標」のもとで、2つの「柱」による点検を行い、先行きの金融政策運営の考え方を整理する4。』(前回1月)

ってやっていますが、そもそも論として第二の柱による点検、という意味では累積している緩和政策が出口の段階で物価高と円安を招いていること、なんてえのは思いっきり「第二の柱」に引っかかっている話の筈なんですが(よって緩和縮小はできるものはどんどんやらないといけない)、まあそういう話にはなっておりませんわなあと思うので、この点検も形式的になっているにも程があるので見直した方が良いと思います。

『まず、第1の柱、すなわち中心的な見通しについて点検すると、消費者物価の前年比は、2025 年度に2%台前半となったあと、2026 年度は1%台後半、2027 年度は2%程度となると予想される。この間、消費者物価の基調的な上昇率は、成長ペース鈍化などの影響を受けて伸び悩むものの、その後は、成長率が高まるもとで人手不足感が強まり、中長期的な予想物価上昇率が上昇していくことから、徐々に高まっていくと予想され、見通し期間後半には「物価安定の目標」と概ね整合的な水準で推移すると考えられる。』(今回4月)

『まず、第1の柱、すなわち中心的な見通しについて点検すると、消費者物価の前年比は、2024 年度に2%台後半、2025 年度に2%台半ばとなったあと、2026 年度は概ね2%程度となると予想される。この間、消費者物価の基調的な上昇率は、人手不足感が高まるもと、マクロ的な需給ギャップの改善に加え、賃金と物価の好循環が引き続き強まり中長期的な予想物価上昇率が上昇していくことから、徐々に高まっていくと予想され、見通し期間後半には「物価安定の目標」と概ね整合的な水準で推移すると考えられる。』(前回1月)

でもってこの『「物価安定の目標」と概ね整合的な水準』ってのがそもそもこの時点で政策金利が緩和的だったら整合的な水準じゃねえだろ、というのは先ほどから申し上げている通り。

『次に、第2の柱、すなわち金融政策運営の観点から重視すべきリスクについて点検する。』(今回4月)
『次に、第2の柱、すなわち金融政策運営の観点から重視すべきリスクについて点検する。』(前回1月)

でもって本来の意味でのリスクってまさに今QQEYCC政策の出口において色々と問題が発生しているじゃろ、と思うのだがそういう話は全然なくていつもの能天気な話だけである。一応引用します。

『わが国経済・物価を巡るリスクとしては様々なものがあるが、とくに各国の通商政策等の今後の展開やその影響を受けた海外の経済・物価動向を巡る不確実性はきわめて高く、その金融・為替市場やわが国経済・物価への影響については、十分注視する必要がある。リスクバランスは、経済の見通しについては、2025 年度と 2026 年度は下振れリスクの方が大きい。物価の見通しについても、2025 年度と 2026 年度は下振れリスクの方が大きい。』(今回4月)

『わが国経済・物価を巡る不確実性は上下双方向で引き続き高く、金融・為替市場の動向やそのわが国経済・物価への影響にも、十分注視する必要がある。リスクバランスは、経済の見通しについては概ね上下にバランスしている。物価の見通しについては、2024 年度と 2025 年度は上振れリスクの方が大きい。』(前回1月)

でもって、

『金融面のリスクについてみると、不動産価格の上昇ペースには引き続き留意が必要であるものの、全体としてみれば、資産市場や金融機関の与信活動には過熱感はみられていない。わが国の金融システムは、全体として安定性を維持している。また、内外の実体経済や国際金融市場が調整する状況を想定しても、わが国の金融機関が充実した資本基盤を備えていることなどを踏まえると、全体として相応の頑健性を有している。そのうえで、各国の通商政策等を巡る不確実性がきわめて高いことを踏まえると、それが様々な経路を通じて金融システムに及ぼす影響については丁寧にみていく必要がある6』(今回4月)

『金融面のリスクについてみると、株価や不動産価格の上昇ペースには引き続き留意が必要であるものの、全体としてみれば、資産市場や金融機関の与信活動には過熱感はみられていない。わが国の金融システムは、全体として安定性を維持している。また、内外の実体経済や国際金融市場が調整する状況を想定しても、わが国の金融機関が充実した資本基盤を備えていることなどを踏まえると、全体として相応の頑健性を有している。有価証券投資におけるリバランス行動などを反映して、円金利の上昇に対する金融機関の耐性も改善方向にある。より長期的な視点から金融面の不均衡について点検すると、低金利や人口減少、企業部門の貯蓄超過などによる金融機関収益への下押しが長期化した場合、金融仲介が停滞方向に向かうリスクがある。一方、こうした環境のもとでは、利回り追求行動などに起因して、金融システム面の脆弱性が高まる可能性もある。現時点では、これらのリスクは大きくないと判断しているが、先行きの動向を注視していく必要がある。』(前回1月)

金融面のリスクのうち過熱リスクに関するものをバシバシと削ってやがってこんなところでもハトハト音頭ですね・・・・


・金融政策運営に関してはハトハトオマケ文言が加わりましたとさ

『金融政策運営については、現在の実質金利がきわめて低い水準にあることを踏まえると、以上のような経済・物価の見通しが実現していくとすれば、経済・物価情勢の改善に応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことになると考えている。』(今回4月)

『金融政策運営については、先行きの経済・物価・金融情勢次第であるが、現在の実質金利がきわめて低い水準にあることを踏まえると、以上のような経済・物価の見通しが実現していくとすれば、それに応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことになると考えている。』(前回1月)

あれだけハトハト音頭言っておいて緩和度合い調整する気概があるようには見えませんけどねえ。

でもって今回は昨年10月とかにあったハトハトオマケ文言が追加。

『そのうえで、こうした見通しが実現していくかについては、各国の通商政策等の今後の展開やその影響を巡る不確実性がきわめて高い状況にあることを踏まえ、内外の経済・物価情勢や金融市場の動向等を丁寧に確認し、予断を持たずに判断していくことが重要と考えている。』(今回4月)

ちなみに昨年10月展望でのハトハトオマケ文言はこちら。

『そのうえで、米国をはじめとする海外経済の今後の展開や金融資本市場の動向を十分注視し、わが国の経済・物価の見通しやリスク、見通しが実現する確度に及ぼす影響を見極めていく必要がある。』(昨年10月)

何で今回は「予断を持たずに判断していくことが重要」って言ってるのかよくわからん話で、予断を持たずに判断するのが本当に大事なんだったら今回慌ててベースラインシナリオを下方修正しないで、ベースラインシナリオは今のところ維持するけれども、先行きは思いっきり不透明ですから予断を持たずに判断して行って、シナリオの下方修正も機を逃さずに行います。って言えばいいわけで、今回ベースラインシナリオを下げている時点で予断をもって見通し修正してるじゃろと思いましたwwwwwwwww

『日本銀行は、2%の「物価安定の目標」のもとで、その持続的・安定的な実現という観点から、経済・物価・金融情勢に応じて適切に金融政策を運営していく。』(今回4月)
『日本銀行は、2%の「物価安定の目標」のもとで、その持続的・安定的な実現という観点から、経済・物価・金融情勢に応じて適切に金融政策を運営していく。』(前回1月)

適切に運営しているとも思えませんがwwwwwww

というところで今回は全文逐語比較してしまいました、クソ長くてごめんやで。


2025/05/05

お題「というわけで展望レポート基本的見解本編に参ります(現状判断と経済の先行き見通し編)」

連休も残り1日半となりましたがいかがお過ごしでしょうか。

ということで展望レポート確認の儀の続きです。

https://www.boj.or.jp/mopo/outlook/gor2504a.pdf(今回4月)
https://www.boj.or.jp/mopo/outlook/gor2501a.pdf(前回1月)

〇展望レポート基本的見解:ロジック的にはベースライン下げているとしか言いようが無い

・現状認識:海外経済ってそんなに弱いデータもう出てましたっけという説はあるのだが

経済の現状認識『1.わが国の経済・物価の現状』から参ります。

『わが国の景気は、一部に弱めの動きもみられるが、緩やかに回復している。』(今回4月)
『わが国の景気は、一部に弱めの動きもみられるが、緩やかに回復している。』(前回1月)

ということで現状認識は変わっていません。

『海外経済は、各国の通商政策等の影響を受けて一部に弱めの動きもみられるが、総じてみれば緩やかに成長している。輸出や鉱工業生産は、一部に米国の関税引き上げに伴う駆け込みの動きがみられるが、基調としては横ばい圏内の動きを続けている。企業収益は改善傾向にあり、業況感は良好な水準を維持している。こうしたもとで、設備投資は緩やかな増加傾向にある。』(今回4月)

『海外経済は、総じてみれば緩やかに成長している。輸出や鉱工業生産は横ばい圏内の動きとなっている。企業収益は改善傾向にあり、業況感は良好な水準を維持している。こうしたもとで、設備投資は緩やかな増加傾向にある。』(前回1月)

海外経済のところで「一部に弱めの動きもみられるが」が入って輸出や生産には「関税の駆け込みがある」という話、企業収益と業況感は短観直後なので入っている感じですね。


・後でも出てくるんですがアクチュアルの物価上昇が宜しくない状態というのを明言してるんだよな〜

『個人消費は、物価上昇の影響などから消費者マインドに弱さがみられるものの、雇用・所得環境の改善を背景に緩やかな増加基調を維持している。住宅投資は弱めの動きとなっている。公共投資は横ばい圏内の動きとなっている。』(今回4月)

『雇用・所得環境は緩やかに改善している。個人消費は、物価上昇の影響などがみられるものの、緩やかな増加基調にある。住宅投資は弱めの動きとなっている。公共投資は横ばい圏内の動きとなっている。』(前回1月)

今回語順が謎に変わっていますが、個人消費のところで「物価上昇の影響などから消費者マインドに弱さがみられる」ってのを入れていますね。いやだからそんなにアクチュアルの物価上昇がまずいんだったら何でガバガバ緩和金融政策を継続するのかが良くわからん次第だし、円安いかせるようなハトハト情報発信をなぜ行うって思いますけどね。個人消費以外の部分も含めて基本的に言っていることは同じです。


・既往の価格転嫁の影響が減衰という文言をしらっと削除

『わが国の金融環境は、緩和した状態にある。物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比をみると、賃金上昇の販売価格への転嫁の動きが続くもとで、既往の輸入物価上昇や米などの食料品価格上昇の影響もあって、足もとでは3%台前半となっている。予想物価上昇率は、緩やかに上昇している。』(今回4月)

『わが国の金融環境は、緩和した状態にある。物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比をみると、既往の輸入物価上昇を起点とする価格転嫁の影響は減衰してきているものの、賃金上昇等を受けたサービス価格の緩やかな上昇が続くもとで、政府によるエネルギー負担緩和策の縮小もあって、足もとは3%程度となっている。予想物価上昇率は、緩やかに上昇している。』(前回1月)

金融環境と物価のところですが、金融環境はいつも通りですけど、物価に関しては今回「既往の輸入物価の転嫁が減衰」を外していまして、足元の物価は強い話をしているんですよね。でもなぜか今回は物価見通しが下がるという謎展開。

ということで先行き見通しですがまずは経済の見通し。


・経済見通しは「通商政策のせいで海外が下がる」が前提

『2.わが国の経済・物価の中心的な見通し2, 3 』

脚注2は金曜日に申し上げた通りですし・・・・・・・

『先行きのわが国経済を展望すると、各国の通商政策等の影響を受けて、海外経済が減速し、わが国企業の収益なども下押しされるもとで、緩和的な金融環境などが下支え要因として作用するものの、成長ペースは鈍化すると考えられる。』(今回4月)

『先行きのわが国経済を展望すると、海外経済が緩やかな成長を続けるもとで、緩和的な金融環境などを背景に、所得から支出への前向きの循環メカニズムが徐々に強まることから、潜在成長率を上回る成長を続けると考えられる。こうした見通しは、前回の展望レポートにおける見通しから概ね不変である。』(前回1月)

金曜日にネタにした通りで、そもそも論として脚注2にあるように、「今後、各国間の交渉がある程度進展するほか、グローバルサプライチェーンが大きく毀損されるような状況は回避されることなどを前提に作成している。」という前提なのにもう海外が下がって企業収益も下がる、と決め打ちしていまして、ナンジャソラという感じですけれども、さらにこの部分は見どころがありますわな。


・「所得から支出への前向きの循環メカニズム」がなくなるってよく考えたら飛んでもない下方修正なんだが・・・・

ご案内の通りで、今回会見でも散々ツッコミを受けていたと思われる(と思われるというのは実はアタクシ先週木曜って月末月初だったせいもあって会見をゆっくり聞いている場合じゃなかったので、つまりは決定会合を月末月初にやるのは大迷惑ということですなw)のですが、今回皆様ご案内の通り「所得から支出への前向きの循環メカニズム」が削除されました。


循環メカニズムが壊れたんだったら政策の前提壊れたじゃろ、と言いたくなるのですが、どうも会見での説明もそうですし、今回の展望ってベースラインシナリオは下げているものの、25年度の成長率見通しを辛うじて潜在成長率並に置くとか、2027年度の経済物価見通しが何となく長期均衡っぽい数値を出しているとかいうことで、どうも「循環メカニズム」とやらが壊れたという認識ではないっぽいですな(壊れているのなら先行き政策調整どころの騒ぎではないし)。

だったら普通に考えて「所得から支出への前向きの循環メカニズム」は生きているという認識なんだから、この文言生かせておけよ、と思う訳ですが、これを外したってのは結構な下方修正を意味するんですな。


でまあこの「前向きの循環メカニズム」で思い出すのは昨年1月の展望レポートハイライトのポンチ絵をだったりする訳で。

https://www.boj.or.jp/mopo/outlook/highlight/ten202401.htm
展望レポート・ハイライト(2024年1月)

2番目のポンチ絵の『物価のトレンドは2%目標に向けて徐々に高まる』って奴ですが、これ出たときにアタクシ「お前ら賃金と物価の好循環を6回も確認しないと2%行かないって言うのか」と悪態をついたと思います。

でですね、日銀大本営としては、前々から言っている「賃金と物価の好循環」という痴人の夢キャッチコピーがあるんですけれども、現実の物価が上振れしていてどっからどう見ても起きているのは悪循環だし、物価高が大きな政治イシューになっているのですが、物価高対策と称して再分配やるならまだ話は分かるが、財政出動をしようという物価高促進政策をとる馬鹿どもが馬鹿踊りをして大変なことになっている今日この頃というご時世の中、呑気に「賃金と物価の好循環」とか言ってるとそのうち火炙りにされかねないから、そもそも「好循環」という言葉自体を使うのを止めよう、としているんじゃないかねえ、とアタクシは思ってしまったのですよ。

まあこの「前向きの循環メカニズム」がまた復活するかもしれませんし、何ともその辺は良くわからんけど、少なくとも「賃金と物価の好循環」とかいう寝言を言わないで済むようにするために、「循環メカニズム」みたいな文言はしばらく(何なら未来永劫)お蔵入りにしておいた方が日銀の身を守るためにもお勧めなんだけどなあ、とアタクシが勝手に思っているだけですが、もしかして大本営も「循環メカニズム」系の言葉をこのどさくさに紛れてお蔵入りにしようとしているならオモロイなと感じました(あくまでもワシの妄想)。


・前回見通しとの比較がエライ先の方にありまして、

さっき引用した部分、実は1月展望では段落分けがあって、最後の一文の

『こうした見通しは、前回の展望レポートにおける見通しから概ね不変である。』(前回1月)

は毎回の展望で「前回との比較」ということで横ばいだったり上げてたり下げてたり、というのを書いているのですけれども、今回はこの前回からの比較がエライ先の方にありまして、ここだけ順不同になりますが引用しますと、

『2026年度までの見通しを前回の展望レポートにおける見通しと比較すると、2024 年度は、個人消費を中心に幾分上振れているが、2025 年度と 2026 年度は、各国の通商政策等の影響を受けて、下振れている。』(今回4月)

24年度とか終わった話はどうでもよくて、ご案内の通りで25年度26年度の成長見通しを引きさげというベースラインシナリオ書き換えの巻となっています。


・「設備投資は構造的な投資需要で支えられる」だったのがいきなり足元の景気要因で腰砕け見通しになると

今回はご案内のように先行き見通しのところ「目先は通商問題で下押し(ただし景気後退にまではならない)けどその後元に戻ってくる」という見通しになっています。

『すなわち、輸出や生産は、海外経済の減速を背景に、弱めの動きになると見込まれる。こうした動きを受けて、企業収益も、高水準ながらも減少するとみられる。』(今回4月)

ってのが最初に来まして、

『こうしたもと、設備投資は、緩和的な金融環境が下支え要因として作用するなか、人手不足対応やデジタル関連の投資、成長分野・脱炭素化関連の研究開発投資、サプライチェーンの強靱化に向けた投資は継続されると見込まれるが、海外経済減速の影響を受けて伸び率は鈍化すると見込まれる。』(今回4月)

となっています。前回のとはだいぶ文章構成が違うので引用箇所が結構ズレてしまいますが、設備投資に関しては、

『そうしたもとで、設備投資は、緩和的な金融環境が下支えとなるなか、人手不足対応やデジタル関連の投資、成長分野・脱炭素化関連の研究開発投資、サプライチェーンの強靱化に向けた投資を含め、増加傾向を続けると考えられる。』(前回1月)

ということで、基本的な話は前回と同じだけど、海外が減速するので伸び率が鈍化する、という話になっていて、それはまあ理屈としては分かるのですが、これまでの説明って設備投資は上記の説明にあるような「構造的な投資需要に支えられる」って話だったので、循環的(かつ一時的)な要因で設備投資が鈍化する、っての何か従来の話と違くねって感じでして、従来が強すぎなのか今回が弱すぎなのか、どっちなのかねとは思いますけれども、これは植田日銀になってからの仕様だと思うのですが、とにかく政策アクションを正当化するために理屈を無駄に強気/弱気に極端に振り切ってしまう傾向があって、今回は特に前回利上げした後の展望だからその振れ方が極端に見える、というのがありますわな、と思いました(個人の感想です)。


・労働需給は逆に前回「今後の回復過程で一段と引き締まる」だったのが構造的に引き締まる話になっています

次が雇用所得ですが、

『雇用・所得環境をみると、経済の成長テンポは鈍化する中にあっても、女性や高齢者などの追加的な労働供給が見込みにくくなってくるもとで、労働需給は引き締まった状態が続くと考えられる。こうしたもと、名目賃金は、当面は本年の春季労使交渉の結果等を踏まえて高い伸び率が続くと見込まれるほか、その後も、企業収益減少の影響を受けて伸び率を幾分鈍化させつつも、増加を続ける可能性が高い。』(今回4月)

というのが今回で、前回1月は、

『家計部門をみると、雇用は増加を続けるが、これまで女性や高齢者の労働参加が相応に進んできたなかで、追加的な労働供給が見込みにくくなってくるため、その増加ペースは徐々に緩やかになっていくと考えられる。もっとも、このことは、景気回復の過程で、労働需給の引き締まりを強める方向に作用する。そのもとで、名目賃金は、物価上昇も反映する形ではっきりとした増加が続くとみられ、雇用者所得も増加を続けると予想される。』(前回1月)

となっていて、労働需給の説明って前回は「供給制約が出てきているので今後の景気回復の過程で労働需給が引き締まる」だったのですが、今回って景気に関して目先下押しって言ってるくせに、なぜか景気回復の過程云々が関係なくなってもう構造的に労働需給が引き締まります、って話になっていまして、これはこれで設備投資の先行き見通しとアプローチが違っていて整合性はどうなっているの、と思いました。これ設備投資と労働需給の説明が前回と今回で逆転しているんですよね。なんですかねえという感じですが。

まあそうしておかないと賃金の増加って絵が描きにくくなって、賃金と価格の好循環とかいう痴人の夢が実現しなくなってしまって、これまたメカニズム自体が壊れるという話になるから、って事なんでしょうけれども、ご都合主義っぽさは否めない。


・個人消費の部分でも「賃金と物価の好循環」を引っ込めるムーブ的なものを感じるんですけどね

『個人消費は、当面は物価上昇の影響を受けつつも、雇用者所得の増加が続くことなどから、緩やかな増加基調を維持するとみられる。政府によるガソリン代の負担緩和策や 2025 年度から実施される税制改正なども、個人消費を下支えすると考えられる。この間、公共投資は横ばい圏内で推移し、政府消費は、医療・介護費の趨勢的な増加を反映し、緩やかに増加していくと想定している。』(今回4月)

こちらも前回と構成が違うので前回の方がぶつ切り引用になります。

『こうしたもとで、個人消費は、当面は物価上昇の影響を受けつつも、賃金上昇率の高まりなどを背景に、緩やかな増加を続けるとみられる。政府によるガソリン代等の負担緩和策が縮小しつつも継続されることなども、当面の個人消費を下支えすると考えられる。』(前回1月)

『この間、公共投資は、横ばい圏内で推移すると想定している。政府消費については、医療・介護費の趨勢的な増加を反映し、緩やかに増加していくと想定している。』(前回1月)

さて、こちらなんですけど、前回と比較して違うのって個人消費のドライバーが前回は「賃金上昇率の高まりなどを背景に」だったのが「雇用者所得の増加が続くことなどから」になっていまして、こちら前回は個別の賃金という話だったのが、今回マクロ的に「雇用者所得」としてきましたことについては「賃金上昇と物価上昇の好循環」という痴人の夢を引っ込めるために「賃金上昇」アピールを減らしてきたんじゃないか、って邪推してみたいのですがどうでしょうかね。


・今回は「その後」バージョンがあって

今回4月は「その後」ってのがあります。

『その後については、海外経済が緩やかな成長経路に復していくもとで、わが国経済も成長率を高めていくと見込まれる。』(今回4月)

こちらは再掲になりますが前回1月の最初の部分、

『先行きのわが国経済を展望すると、海外経済が緩やかな成長を続けるもとで、緩和的な金融環境などを背景に、所得から支出への前向きの循環メカニズムが徐々に強まることから、潜在成長率を上回る成長を続けると考えられる。』(前回1月)

に重なる部分です。でもってその先ですが、

『輸出や生産は、増加基調に復していくと考えられる。企業収益は内外需要の増加から改善していくとみられ、設備投資は、需要増に対応した能増投資もあって、増加傾向を続けると考えられる。雇用・所得環境をみると、人手不足感が強まるもとで名目賃金は再度伸び率を高め、個人消費は緩やかに増加していくと考えられる。』(今回4月)

『企業部門をみると、輸出や生産は、海外経済が緩やかな成長を続けるもとで、グローバルなIT関連財の回復などから、増加基調に復していくと考えられる。この間、サービス輸出であるインバウンド需要は、増加を続けると予想される。企業収益は、内外需要が緩やかに増加していくもとで、改善傾向をたどるとみられる。』(前回1月)

ちなみにインバウンドに関しては今回記載がないです、何でなのかは知らん。でもって先ほど先出しをした見通し対比があって、

・潜在成長率の話は同じですか

『この間、潜在成長率は、政府による各種の施策の後押しなどもあって、デジタル化や人的資本投資の進展による生産性の上昇、設備投資の増加による資本ストックの伸びの高まりなどを背景に、緩やかに上昇していくとみられる4。』(今回4月)

『潜在成長率は、デジタル化や人的資本投資の進展による生産性の上昇、設備投資の増加による資本ストックの伸びの高まりなどを背景に、緩やかに上昇していくとみられる3。政府による各種の施策や緩和的な金融環境は、こうした動きを後押しすると考えられる。』(前回1月)

でもってこの次が物価の話になるのですが、とりあえず本日はこの辺で、残りどどーんと明日成敗しまくろうかと思います、天気も明日は悪いみたいだしw


2025/05/03

お題「決定会合レビュー:引き続き展望レポートを拝読の巻」

ということで南関東地方は天気もよろしく絶好の行楽日和となっておりまして、これは消費が捗るわと大変に結構なことではありますが、ワイ将成敗ネタをボチボチ成敗して参りたいと思います。

話は違いますが昨日の日経さんの解説記事、例によって無課金おじさんなので中身はシランガナなのですけれども、

https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK01CSQ0R00C25A5000000/
植田日銀は「動かぬ鳥」か 米関税で「消えた」賃金と物価の好循環
編集委員 大塚節雄
日銀政策決定会合
2025年5月2日 5:00

こちらの記事ですが、題名を「動かぬ鶏」にすればよかったのに、と思いました、なおガチで中身は見ていないので読む意味があるかどうかは知らんのでよろしゅうに。


〇展望レポート基本的見解の鏡部分:昨日も申し上げましたが「何でデータもないのにここまで弱気化したのか」が・・・・

https://www.boj.or.jp/mopo/outlook/gor2504a.pdf(今回4月)
https://www.boj.or.jp/mopo/outlook/gor2501a.pdf(前回1月)

昨日は鏡の経済見通しのところでおもいっきりああだこうだ申し上げましたが、まあ今回の展望レポートに関してはキモはこの鏡の部分かな、ってところだと思うのでうだうだ書いたわけですが、再掲しますと、「アベイラブルなデータがなんも無いのにいきなりフォワードルッキング(と言えば聞こえがいいが)に見通し下げるとかお前ら本当にチキンというかなんというかではあるのですが、それこそ昨年12月の決定会合主な意見で「米国という面では新政権発足を確認していくのが常識的である。」とか言ってた人とか関税政策の動向がこれから確定していく訳で、何の確認もしないでベースラインシナリオを引き下げる、という行動をとることに対してどういう所感があったのか、ぜひ聞いてみたいものでありますな、あっはっは。

とまあそういう話ですが物価のところを若干時間が無いので端折り気味に書いてたな、とちょっと反省しているので再掲しながら物価のメカニズムの部分でのポイントと勝手に思っている部分を再掲しますね。


・物価見通し:基調的物価に対して1月に言ってた話はどうなってるんだよという一貫性の無さに泣いた

鏡の2ポツ目、基調的物価というピンポイントでは数値が出てこない謎の概念についてですけれども、

『この間、消費者物価の基調的な上昇率は、成長ペース鈍化などの影響を受けて伸び悩むものの、その後は、成長率が高まるもとで人手不足感が強まり、中長期的な予想物価上昇率が上昇していくことから、徐々に高まっていくと予想され、見通し期間後半には「物価安定の目標」と概ね整合的な水準で推移すると考えられる。』(今回4月)

『消費者物価の基調的な上昇率は、人手不足感が高まるもと、マクロ的な需給ギャップの改善に加え、賃金と物価の好循環が引き続き強まり中長期的な予想物価上昇率が上昇していくことから、徐々に高まっていくと予想され、見通し期間後半には「物価安定の目標」と概ね整合的な水準で推移すると考えられる。』(前回1月)

元々日銀の説明として「基調的な物価の主な決定要因は「需給ギャップ」と「期待インフレ率」です」って話をしていたのですが、1月の展望レポートでは展望レポート全文の方で詳しく背景説明がありましたが(12月の25年レビューの結果も踏まえて)、労働市場の構造的な変化が進んだ結果として、労働需給の構造的な供給不足要因が寄与するようになって、景気循環による需給ギャップに対する感応度が下がってきている、という話をしていたのですが、今回って成長見通しが確かに下方修正されたとはいえ、2025年度の成長見通しが中央値で+0.5%、すなわち「潜在成長率程度の経済成長は続ける」という見通しになっている(だから経済の見通しでの表現が「成長ペースは鈍化する」となっていて後退になっていない)のでして、いやそれで何でこんなに基調物価を下方修正する必要があるのよ、って感じな訳ですな。ちょっと昨日は時間がなくて端折ってしまったので改めて。

でまあ1月の説明との整合性が無くて今回は成長見通しに普通に反応する基調的物価の図、というのを出しているのですが、だったら何で1月にあんな認識しめしたんでしょうねえ、って感じで、兎に角黒田日銀の最終盤からこの方ずっとそうなのですが、政策アクションに対してそれを正当化する立派な理屈(もしくは屁理屈)を繰り出してくる(例えば1月展望の「需給ギャップ離れ」は追加利上げの際に「需給ギャップがマイナスなのに何で利上げするんだ」と言われる時のカウンターとしての理屈な訳ですよ)から、継続して日銀のロジック展開を見ている方としては「ロジックが全然一貫していないからまたこいつジャガーチェンジしやがった」としか見えない訳でして、それが極北とまでは言わないけれどもドイヒーな状態になると、MPMの前に出てくる日銀のお気持ち表明報道みたいなのに一々右往左往する、という事になるわけでして、折角ここもと経済指標に対して真面目に反応しようとしていた、すなわち本来の意味での市場の価格発見機能がワークしてきそうになっている中で、頼むからロジックをホイホイと翻さないで欲しいと思うのです(そうなるとまた「日銀のお気持ちリーク報道しか勝たん」になってしまうので)。


・まあ経済物価見通しを下振れさせてリスク認識を下振れリスクが大きいとなるとそりゃ円安よ

ということで展望レポート鏡の3ポツ目に進みます。

『・2026 年度までの見通しを前回の見通しと比べると、成長率については、2024 年度は幾分上振れているが、2025 年度と 2026 年度は、各国の通商政策等の影響を受けて、下振れている。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比については、2025 年度と2026 年度は、原油価格の下落や今後の成長ペース下振れの影響などから、下振れている。』(今回4月)

『・前回の見通しと比べると、成長率については概ね不変である。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比については、2024 年度と2025 年度が、米価格の上昇に加え、このところの為替円安等に伴う輸入物価の上振れもあって、上振れている。』(前回1月)

成長率下振れはまあ関税わからんから積極的な企業活動をしにくくなる、という事になるから、まあ下振れになるのはしゃあないのですが、まあ今回は物価見通しも下げてるわけで、ナンジャソラとなりますわな。

でまあ何で下がったのかは前述の通りで、経済見通しが下がったから全自動で物価見通しも下がる、という計算になっていて下がっている、って事なんでしょうが、お前ら多角的レビューと1月展望の話はどこ行ったんだ、というのはさっき申し上げた通りです。


4ポツ目はリスク要因

『・リスク要因としては様々なものがあるが、とくに、各国の通商政策等の今後の展開やその影響を受けた海外の経済・物価動向を巡る不確実性はきわめて高く、その金融・為替市場やわが国経済・物価への影響については、十分注視する必要がある。』(今回4月)

『・リスク要因をみると、海外の経済・物価動向、資源価格の動向、企業の賃金・価格設定行動など、わが国経済・物価を巡る不確実性は引き続き高い。そのもとで、金融・為替市場の動向やそのわが国経済・物価への影響を、十分注視する必要がある。とくに、このところ、企業の賃金・価格設定行動が積極化するもとで、過去と比べると、為替の変動が物価に影響を及ぼしやすくなっている面がある。』(前回1月)

不確実性が高いのに堂々とベースラインシナリオ変更するとは何ぞこれという話はさておきまして、今回鏡の部分では「為替の変動が」云々が抜けておりまして、ありゃりゃとは思ったものの、本文には残っているのでまあそこは大きく気にしなくても良いのかなとは思いました。

5ポツ目はリスクバランスですが

『・リスクバランスをみると、経済の見通しについては、2025 年度と 2026 年度は下振れリスクの方が大きい。物価の見通しについても、2025 年度と 2026 年度は下振れリスクの方が大きい。』(今回4月)

『・リスクバランスをみると、経済の見通しについては概ね上下にバランスしている。物価の見通しについては、2024 年度と2025 年度は上振れリスクの方が大きい。』(前回1月)

ということで、経済のリスクバランス下なのはまあ良いとして、物価のリスクバランスがドテンして「下」になったのはさすがにそれは衝撃(または笑劇)でして、FRBの場合はてめえが関税掛けるんだから物価に上振れリスクなのは当然ですけど、関税に関して例えば直近のECBのステートメントでは、物価のリスクに対して「Increasing global trade disruptions are adding more uncertainty to the outlook for euro area inflation.」(4/17会合後のマネタリーポリシーステートメント)としていて、「分からん」というだけにとどめている(経済の下振れは物価の下振れ要因になるけど、供給制約が発生すると物価の上振れになる、ってのが関税関連の要因として説明されています、他には財政支出とか天候不順とかが上振れ要因)訳でして、そういう中で日銀が果敢に「物価は下振れリスク」とぶっこむのはそりゃ目立つじゃろ、としか言いようが無いわけですな。


・ただこの物価のリスク評価を見ますと「そもそも政策委員のスタンスが極端な割れ方をしている」と見るべきでして

でもってですね、これは基本的見解最終ページ(10p)の『政策委員の経済・物価見通しとリスク評価 』を見ますとどうなっていますかというと、特に2026年度のところが分かりやすいのですが、

2026年度の物価見通しとリスク要因

コアCPI
1.9%:1名でリスクは上振れ
1.8%:3名でリスク上振れ2名、リスク中立1名
1.7%:2名でリスク下振れ2名(ここが中央値)
1.6%:2名でリスク下振れ2名
1.4%:1名でリスクは下振れ

というのが全員の分布になっていて、お前ら全般的に何でそんなに弱いんじゃと思うのですが、まあそれはさて置きますとしましても、これ上の方の見通しを出している人がリスクは上振れ、下の方の見通しを出している人がリスクは下振れ、となっているんですよね。

ということはですね、これ恐らく何ですけど、物価の数値を上目の方で見ている人と下目の方で見ている人って、根本的に物価のシナリオが違っていて、上と下とに割と極端な割れ方をしているんじゃないかという感じがするのですよね。なんかまあ「置きシナリオ」を置かれているから大人の配慮で数字が収斂しているけれども、実際はもっとこの人たちの見通しって「上下にスプリット」なんじゃないかなと思うのですよ。

でまあこのリスク評価の表現って建付けとして上と下の数が多い方を取る、みたいな仕切りがあるらしいのですが、その結果っ今回は5対3で下振れが勝っているので、出来上がりが「物価の見通しを引き下げ、リスクバランスもドテン下振れ」というインパクトの強いものになっているんですけれども、これ上振れの面々は逆にそこそこの上振れを本来は見ていた可能性があるので、なんか編集の仕切り上仕方ないのですけれども、必要以上にハトハトメッセージの出来上がりになってしまっているようには見えますね。

ということで鏡の読み込みが終わったところで一旦アップします。続きは今日か明日か明後日かは知らんですけれどもボチボチやっていきます。


2025/05/02

お題「ハトハトサプライズキタコレでしたなこりゃまたすんつれいしました(日銀MPMレビュー)」

今回は何も方向性出さんじゃろ、と自信満々に死亡フラグを立てたらきっちりと回収してしまいましたという一級フラグ建築士クオリティに全米が泣いたwwwwwww

でまあ今日も今日とてフラグ回収のせいで時間もアレにつきまあ展望レポート詳細に関しては連休中に(気力があれば明日に)続きをしますが今日は簡単に全般的なワシの愚感想をば。

〇展望レポート全般:3か月様子見するかと思ったのだがここでベースラインシナリオを下げるとは・・・・・

政策変更も無かった(それは順当)ので展望レポートなのですが・・・・・・・・

https://www.boj.or.jp/mopo/outlook/gor2504a.pdf(今回4月)
https://www.boj.or.jp/mopo/outlook/gor2501a.pdf(前回1月)

今回の決定会合、5/1ではありますが展望レポートは『経済・物価情勢の展望(2025 年4月)』なので4月という表記で参りますね。

ということでまずは<概要>(いわゆる「鏡」)を見ます。1ポツから順に鑑賞。

・ベースラインシナリオをバチクソ引き下げてきまして・・・・・・・

『先行きのわが国経済を展望すると、各国の通商政策等の影響を受けて、海外経済が減速し、わが国企業の収益なども下押しされるもとで、緩和的な金融環境などが下支え要因として作用するものの、成長ペースは鈍化すると考えられる。その後については、海外経済が緩やかな成長経路に復していくもとで、成長率を高めていくと見込まれる。』(今回4月)

『先行きのわが国経済を展望すると、海外経済が緩やかな成長を続けるもとで、緩和的な金融環境などを背景に、所得から支出への前向きの循環メカニズムが徐々に強まることから、潜在成長率を上回る成長を続けると考えられる。』(前回1月)

もう最初の時点でシナリオがどちゃくそ下方修正されていまして、「海外経済が緩やかな成長を続けるもとで」→「各国の通商政策等の影響を受けて、海外経済が減速し」ってありまして、さらには「わが国企業の収益なども下押しされるもとで」ってのが入っています。

でもって今回は前回と違って二段階方式の見通しになっていて、「目先」バージョンは「成長ペースは鈍化」になっていますな。ちなみに「成長ペースは鈍化」とあるのは出来上がりの成長率見通しの数字の中央値が2025年度で+1.1%→+0.5%なんですけど、潜在成長率がそのくらいということになっているから「成長ペースは鈍化」にしていると思います。

でもって「その後」ですけれども、従来のシナリオにあった「所得から支出への前向きの循環メカニズムが徐々に強まることから」というのをしらっと引っ込めているんですよね。「その後」は「海外経済が緩やかな成長経路に復していくもとで」戻る、というシナリオになっています。

でまあこの文章が今回どう見ても重要ポイントになるのでさらに確認したいのですが・・・・・・・


・「関税問題はある程度穏当に収まる」という置きにも拘わらず「様子見」ではなく「ベースライン下方修正」とはこれ如何に

2pにある脚注2ですな。

『2 各国の通商政策等の今後の展開やその内外経済・物価に及ぼす影響については、不確実性がきわめて高い状態にある。』

さいですな。

『今回の展望レポートの中心的な見通しは、今後、各国間の交渉がある程度進展するほか、グローバルサプライチェーンが大きく毀損されるような状況は回避されることなどを前提に作成している。』

でまあここが今回バチクソユニークなところでして、普段のこの脚注2は

『2 各政策委員は、既に決定した政策を前提として、また、先行きの政策運営については、先行き政策金利が緩やかに上昇していくという市場の織り込みを参考にして、見通しを作成している。』(前回1月)

という風になっていまして、今回も脚注3に「各政策委員は、既に決定した政策を前提として」文言はあるので上記の部分(とこの先の部分)は今回特別記載な訳ですよ。

・・・・でですね、この前提って要するに「関税政策はまあゆうて破壊的な結果を招くようなことにはなりませんなあ」という前提を置いている、という事だと思うのですが、それだったら普通はFEDみたいに「今の我々は状況を確認する余裕のある政策ポジションにある」と言いながら「この先何が起きるかはまださっぱり分からないので現時点では予断を持たずに状況の把握に努めていく」と言いながらシナリオの変更をしないでステイ、という選択肢を取るのがまあ普通の対応で、6月なり7月なりの時点で状況をアップデートして必要ならばベースラインシナリオの引き下げをすれば良いじゃん、とまあそのようにアタクシは思っていたので、今回はこれみた瞬間にハトハトサプライズキタコレ!!!!となった訳でございますわよ。

でですね、さっきの脚注の続きですが、

『なお、今後の各国の政策の帰趨や、それを受けた各国の企業・家計の対応次第で、経済・物価の見通しが大きく変化しうる点には注意が必要である。』

ということなのですから、なおさら今回って別にベースラインシナリオ下げる必要が無かったとは思うのですが、わざわざ今回ベースラインシナリオを下げてきた、となりますとそりゃまあハトハトサプライズじゃろ、ということになりますので、為替市場ちゃんの方がさっき見たらドル円145円台まで来ておりまして、折角円安是正したというのに何やってるんだか、という感じであります。


・ここでベースラインシナリオを下げるメリットis何???

ということで今回は経済のベースラインシナリオを(出来上がりの数字はさほどではないけど)定性的にはドチャクソ下げているのですが、不確実なんだからリスク認識だけしておいて様子見しないで下げる理由ってのが結局よくわからなくて、まあ素直に考えれば通商問題を受けて一気にハトハトチキン音頭が復活してハトハトチキン音頭を踊りだすの巻、という話になるので素直に為替とか反応して毎度の円安になっている訳ですが、債券市場ちゃんの方はツイストスティープとかいうこれまた面白ムーブになっていて(ブルスティープならまあ素直なんですが)ナンジャソラという感じではあるのですが、勝手に解釈してみますと・・・・・・

まあアレですよ。この人たち昨年12月には米国の政策ガー来年度の賃金動向ガーって言ってハトハト情報発信としか思えない説明をして、その前の時点では1月遅くても3月には利上げじゃろとかいう感じだった市場の利上げ見通しをいきなり3月も怪しいんじゃないかという風に持って行ったのに、年末年始に突如のジャガーチェンジをぶっこんで1月に利上げしてしかもその後の情報発信も割と利上げ路線が順風満帆っぽい説明が続いていたわけですよ(直近を除くと)。

でもって今回だって直前まではさすがに順風満帆とは言ってないけど、米国政策を受けて一瞬でハトハトチキンになるかと思ったら意外にも(笑)粘っているから、ああこれは今回の展望は「1回パス」で行って6月か7月展望のところで必要ならば修正していくんでしょうなあ(ちょうど90日云々もあるし)とまあ思われたのですがまたまたここでハトハトジャガーチェンジをする、という傍から見たら情緒不安定と言いたくなるプレイをしておるわけですな。

でまあそういうのに何度も振り回されている(だいたいからして昨年7月の利上げだって突如マジックマッシュルームでもキメたのかというタカ転ジャガーチェンジでナンジャソラだった訳ですし)国内債券市場ちゃんとしては、「このジャガーチェンジって要するに6月7月は利上げしない、っていいたいだけなんチャウの」という疑念がぬぐいきれない、というのはあって今までのジャガーチェンジの時よりも初期反応が小さめだったんじゃないのかね、とアタクシ勝手に皆様の心中を想像したんですけどそんな感じですかしらどうっすかねえ・・・・・・・・・・

でまあそれが何より証拠には、さっき引用した脚注2にありますのを再掲しますと

『なお、今後の各国の政策の帰趨や、それを受けた各国の企業・家計の対応次第で、経済・物価の見通しが大きく変化しうる点には注意が必要である。』(再掲)

となっている訳でして、これ何かあっさり味で片付いたらどうなのよとか、そもそも関税でもろ被りする人はもちろんいるのだけど全員が直撃弾くらう話じゃねえだろとか、まあ色々とツッコミどころはある話なので、急に「やっぱり大したことないのが分かったので従来のシナリオに戻しまーす(はあと)」とか言い出して10月展望の辺りでジャガーチェンジするとか普通にやり兼ねない(何なら7月だってやり兼ねないけどさすがにそれやったら総裁記者会見の前に政策委員全員のリアルハラキリショーを横にドクター控えさせて差し上げるのでやっていただかないと落とし前というのが付かないじゃないでしょうかと存じます次第ではございますがwwwwwwww)というのも別に普通にアリエールな訳だし、これまで散々こいつらのジャガーチェンジ芸で煮え湯を飲まされているので、まあそういう意味では債券市場が普通に先物踏み踏みになりつつもどこか微妙なテイストなのもむべなるかな、という感じですな。


・これ関税の影響が思いっきり海外経済の下押しになるという前提になっているのですよね

でですね、さっきの経済見通し再掲しますと、

『先行きのわが国経済を展望すると、各国の通商政策等の影響を受けて、海外経済が減速し、わが国企業の収益なども下押しされるもとで、緩和的な金融環境などが下支え要因として作用するものの、成長ペースは鈍化すると考えられる。その後については、海外経済が緩やかな成長経路に復していくもとで、成長率を高めていくと見込まれる。』(今回4月)

良く見ますと、「海外経済が減速するから成長ペースは鈍化」するけど「その後は海外経済が成長に戻るから成長率が上がってくる」という説明になっていまして、これ関税の影響が徹頭徹尾海外発ということになっている訳ですな。

この間先般のECBは関税の影響について経済に下押しって言ってるけど大物のFEDちゃんはまだ「経済のリスクは下ですけどそこはまあ分からん」になっていて、まあFEDの場合は物価がどう見ても上振れになるので、というのはあるにしましても、そこまで決め打ちでアカンタレとしている訳でもなくて、じゃあどこが下振れ出しているかというとIMFの見通し(WEO)ですかねえという感じですよね。

でもってあまり詳細に見ていない(すいません、というか忙しくて中々ね〜)のでIMFの見通し云々の話は通り一遍の話しか分かっていないですがIMFの見通しってこれやや下方にバイアス掛けてねえか(トラ公に反省させる意味もあるし)という気がするんですが、まあとにかく日銀は今回の関税政策の影響について「海外の経済が関税政策の影響でクソ減速します」という前提を置いている点は注意が必要で、そこまで減速しないという話になったらこれまたジャガーチェンジが可能になっておりまして、ベースラインシナリオがどちゃくそ下がっているとは言え、あくまでも「海外が下がるからアカンじゃろ」になっているのが一種のエスケープクローズでして、国内の話に直接的になっていない点もジャガーチェンジができる伏線を張っている、というお話な訳ですわ。


・つまり今回の決定会合「書いてあることを素直に読めばハトハトチキン音頭満艦飾だが・・・・」

はい、ハトハトチキン音頭満艦飾になっているけど、色々とジャガーチェンジするための抜け道は用意してあるので、ジャガーチェンジには要注意、ってのがアタクシの私家版結論となっております今のところ。

・・・・しかし結局のところ、だったら従来シナリオを維持しながら「不確実性が非常に高いので今後の進展を慎重に見極めて判断します」で良かったんじゃないの、と思う訳で、こんなのまた利上げしますって話になる時に強引な説明をしてジャガーチェンジをしないと行けなくなるんだから、日銀に何のメリットありますねんという風に思うのですが、まあ辛うじてこれ交渉も始まる前から交渉の失敗を前提にしたような国難国難財政財政減税減税とか喚いている永田町方面の馬鹿集団へのアピールでもしたかったのかね、くらいしか咄嗟に思いつくメリットが無いのですが、まあその結果としてハトハト満艦飾を受けてドル円がまた145円になっててこれ連休中に円安一段と進行したらどう落とし前つけてくるのか物凄く楽しみになってきたので円安ワッショイでオナシャスとは思ってしまう今日この頃ではありますな。


・・・・という訳で何か最初の一文4行分だけで散々マイポエムを書いてしまって申し訳ない、あと鏡の部分で物価ですけれども。


・なんと物価は「経済見通しが下がるから基調的物価も伸び悩む」になっておられますな

そもそもお前ら基調的物価を持ち出して説明しているけど実際の物価上昇率の見通しを展望レポートで下方に外し続けているのは毎度毎度「ワンタイムの特殊要因」で済ませているの何ですねんという感じな訳ですがそれはさておきまして、

『物価の先行きを展望すると、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、2025 年度に2%台前半となったあと、2026 年度は1%台後半、2027 年度は2%程度となると予想される。これまで物価上昇率を押し上げてきた既往の輸入物価上昇やこのところの米などの食料品価格上昇の影響は減衰していくと考えられる。』(今回4月)

『物価の先行きを展望すると、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、2024 年度に2%台後半、2025 年度に2%台半ばとなったあと、2026 年度は概ね2%程度となると予想される。既往の輸入物価上昇を起点とする価格転嫁の影響が減衰する一方、(中間部分割愛)なお、2025 年度にかけては、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比に対して、米価格が高水準で推移すると見込まれることや政府による施策の反動が生じることが押し上げ方向で作用すると考えられる。』(前回1月)

比較のために読点のところで切って後ろの部分にワープしまいましたが、既往の輸入物価上昇とか米の上昇の影響は減衰する、とのお告げで、1月に見ていた話はしらっと抜けるという素早い対応ですけれども、米価って普通に端境期に向けて上がっているし、早場米の作付が順調ではないというニュースも一部の現象かもしれませんが流れていた気がするんですが、そういうのはリスク要因には入っているようですが(明日以降に本編のネタをやります)さっきの通商と違ってメインシナリオには入れないんですねえ(棒読み)という所ですが、

『この間、消費者物価の基調的な上昇率は、成長ペース鈍化などの影響を受けて伸び悩むものの、その後は、成長率が高まるもとで人手不足感が強まり、中長期的な予想物価上昇率が上昇していくことから、徐々に高まっていくと予想され、見通し期間後半には「物価安定の目標」と概ね整合的な水準で推移すると考えられる。』(今回4月)

『消費者物価の基調的な上昇率は、人手不足感が高まるもと、マクロ的な需給ギャップの改善に加え、賃金と物価の好循環が引き続き強まり中長期的な予想物価上昇率が上昇していくことから、徐々に高まっていくと予想され、見通し期間後半には「物価安定の目標」と概ね整合的な水準で推移すると考えられる。』(前回1月)

となっていまして、えーっと確か前回の展望レポートの時は思いっきり「労働需給ギャップ」をキーにした形で物価への影響を説明していくながれになっていて、単純に経済の成長がちょっと弱まったくらいでは物価がいきなりコケるわけではないって説明をしていた筈なのですが、今回は思いっきり「経済の見通し変化による一時的な成長鈍化(しかもマイナス成長とかじゃなくて潜在成長率並程度に落ちるだけ)が基調的な物価に影響を与えます」って説明になっていまして、お前ら前回の説明はどこに行ったんだという話なのですが、こうやって説明の理屈をホイホイと変えるから困るんですよね。しかも前回との整合性を無視すればこの説明はこの説明で完結した理屈になっているのがだいぶタチが悪いwwwww

まあそんな悪態は兎も角として、すくなくとも「目先」に関して経済の見通し下げて基調物価の見通しも下げているんですからそらまあハトハトになるじゃろということですわな。

でもって「見通し期間後半には「物価安定の目標」と概ね整合的な水準で推移すると考えられる。」の文言を維持するのは皆様ご案内の通りで、物価目標達成時期の見通しが後ずれしていることに他ならない(見通し期間が1年延びているから)訳で、そりゃまあ素直に読めばハトハト満艦飾になりますわな、というお話ではあります。


とまあそんなところで鏡の1ポツと2ポツだけでアタクシめの時間が無くなってしまいましたので今朝はここで勘弁してもろていただいて、気力体力残っていたら明日(すくなくとも連休前半)には記者会見とか展望全文とか含めて成敗の儀を行いたいと存じます(そうしないと連休明けはFOMCからスタートになりますからね)。なにとぞご勘弁(平伏)


2025/05/01

聞け万国の労働者♪とどろきわたる〜めーでーの♪

〇ということで決定会合ですがまあ今回は「なんも余計なことはしない」でしょうね

お、日経がなんも書いてないな
https://www.nikkei.com/
(日経新聞トップページ)

んな訳で決定会合なのですが、今回って展望レポ―トの見通し期間が1年度長くなるので、物価目標達成時期の表現をどうするのか、ってのはまあ一般的にはちょいと注目されるところでして、従来通りの『見通し期間後半には「物価安定の目標」と概ね整合的な水準で推移すると考えられる。』の表現をそのまま使いますと、自動的に物価安定目標達成の時期が後ずれする、ということになりますわな。

でまあここの表現をどうするのかというのが作文的には悩ましいところでして、表現同じなら物価安定目標達成の時期が後ずれするから「後ずれした」という話になって金融緩和の修正が先送りになる、という見方になるでしょうねえと思うので、まあこの作文は一番注目されるんじゃないでしょうかね。

ちなみに2027年度の見通し数値も注目されるのかもしれませんが、こんなの今の時点だとどこからどう考えても「成長率は潜在成長率(と日銀が考えている)近辺」「物価は2%近辺」に落ち着くとしか思えませんので(つまり目標を達成して特に外的ショックが無い状況で長期均衡水準に収れんします、って意味あい)まあそこは特に、って感じですし、2025年度の成長率見通しは下げるんでしょうけれども、そこが下がったとて2026がたいして変わらず、2027が長期均衡水準って見通しを出すなら特にそこによる深い政策的な意味はない、ということになりますわな。

まあ今回はここまでの植田総裁の珍しくもガードが固くてハトハトチキン音頭を踊りださないという状況を鑑みるに、日銀大本営としては「極力新しい色を出さないようにして従来路線の踏襲を行う」というの徹すると思うので、まあハトハトチキン音頭を期待している向きからしたら失望するかもしれませんけど、市場だって別に今回ハト転するの期待してないでしょと思うので(知らんけど)特にそれがあったからどうのこうのってのも無いでしょうな、とか死亡フラグを建築しておきます。


それより寧ろ問題というかなんというかなのは、アクチュアルの物価が従来から日銀の見通しの「2%に落ち着く」ってのが全然見えないことに関して「基調的な物価は2%に達していない」という弁明をどこまで通すのか、って話ですが、まあ日銀記者クラブの面々もクソ甘いから「そもそもお前らの言ってる基調的物価って何なんだよちゃんと国民にわかるように説明しろや」とツッコむ向きもあんまりいなさそうで、この「基調的物価」のレトリック大概にせえというのがあるのと、さらには中立金利に関するレトリックをそろそろちゃんと整理しておけと思う訳ですが、まあこの辺りちゃんと整理する気はアリやナシや、というのを今日は見たい(のだが会見でそういうツッコミは飛ばないかなあ〜)ところではありまする。


とまあ好き勝手雑感を述べましたが、「余計なことをしない」で行くのか行かんのかはまあ知らんけど、今回は日銀が先頭に立って波風立てることはしない方が良いと思いますし、ここまでの植田さんの説明が変なハトハトチキン音頭とか下手糞な両論併記とかしなくなっているのでまあそういう「本当の無風」を予想しておきます。