決定会合議事要旨や金融経済月報などについて(2015年度上期に書いた分)

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2010年度までの見出しはこちら

2015/09/24「8月議事要旨を見ると既に前提が相当崩れている筈なのだが・・・」
2015/09/16「9月決定会合は”全部新興国のせい”で現状維持」
2015/08/20「FSR別冊が登場」
2015/08/14「7月決定会合議事要旨続き」
2015/08/13「7月決定会合議事要旨だがリフレ派副総裁と審議委員とみられる見解がゴミ過ぎてみるに耐えない」
2015/08/12「8月金融経済月報も景気判断全然下げていません」
2015/08/10「8月決定会合は謎の判断全く変えない攻撃&MPMの回数削減キタコレ」
2015/08/04「2005年5月のなお書き修正に関する見解は出口模索の文脈で読むと味わいがある」
2015/08/03「2005年6月の30兆円割れはやはり意図的でしたなという昔話」
2015/07/27「均衡イールドカーブ&家計のインフレ観に関する日銀ペーパー」
2015/07/22「6月会合議事要旨とコミュニケーション関連雑感」
2015/07/21「金融経済月報では例のエネルギー除くコアが話題に」
2015/07/16「MPMは輸出と生産を若干下方修正」
2015/07/14「貸出金利の感応度に関する日銀ペーパー」
2015/07/13「さくらレポートは消費の二極化に言及/インフレ期待とかインフレリスクプレミアムに関する日銀ペーパー」
2015/07/02「6月短観である」
2015/06/26「国債決済T+1は2018年度上期からの予定とな」
2015/06/25「5月決定会合議事要旨では「QQEの副作用は理論的に無い」など馬鹿発言をする人がいるようです」
2015/06/24「債券市場参加者会合ではSLFとスイッチングオークションの希望意見が興味深い」
2015/06/23「金融経済月報では輸出と生産の先行きを微妙に下方ヘッジクローズ追加」
2015/06/22「決定会合は無風も会合の運営が来年から変更とな」
2015/06/10「調節年報は途中までの大本営発表はしょうもないが輪番の分析部分が秀逸」
2015/06/02「FSR別冊という新企画で中央と地方の温度差を見るのに興味深い内容」
2015/05/29「4月2回目の決定会合議事要旨である」
2015/05/26「金融経済月報は物価の先行き見通しが上がっており追加緩和遠のくの図」
2015/05/25「決定会合では声明文の情勢判断が早くも上方修正」
2015/05/18「またまた市場局のアリバイ会合で債券市場参加者会合とな」
2015/05/13「展望レポート背景説明から(その3):フィリップスカーブの説明もなんか微妙」
2015/05/12「展望レポート背景説明から(その2)結局輸出頼みな気がする」
2015/05/11「4月1回目の決定会合議事要旨から」
2015/05/08「展望レポート背景説明から(その1)」
2015/05/07「企画局がQQEの効果に関してレポートを出しましたがMBの定量的な話は無かったりする」
2015/05/05「展望レポート基本的見解を鑑賞」
2015/05/01「決定会合は順当で展望レポート基本的見解はやはり楽観」
2015/04/27「FSRは不動産市況についての説明が詳しい」
2015/04/23「FSR登場である」
2015/04/17「どうしてそう国債決済T+1をやりたがるのか分からんが謎フォーラム実施とな」
2015/04/14「さくらレポートは追加緩和の気配なし/3月議事要旨ではさすがに市場機能低下の指摘も」
2015/04/09「決定会合レビュー:木内さん新提案/経済部分が全部コピペとか真面目にやる気あんのか」
2015/04/07「3月月報ネタを今更ですが」
2015/04/03「短観物価アンケートはぱっとせず/生活意識アンケートは物価上昇で苦しむ生活者を示すわけだが」
2015/04/02「短観は市場予想よりは弱い者の悲観する程の内容でもない」

2015/09/24

○8月決定会合議事要旨を割と細々読んでみます

http://www.boj.or.jp/mopo/mpmsche_minu/minu_2015/g150807.pdf

まあ8月時点のお話ではありますが、先行きの見通しとしてああだこうだという話をしている内容に関してど〜見ましても楽観シナリオの前提がコケ出しているようになっている9月の時点でもまだまだ「前向き循環メカニズム」という話をしている辺りは次回の議事要旨でも鑑賞していきたいなあとは思いますが。

・海外経済に関して市場動向の評価と海外経済の評価が何でこうズレるんでしょ

『V.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要 』から冒頭の海外部分。

『国際金融資本市場について、委員は、ギリシャ情勢に端を発した市場参加者のリスク回避的な動きについては、差し当たり落ち着いているとの見方を共有した。そのうえで、ある委員は、ギリシャ情勢について、再開された株式市場で銀行株を中心に株価が急落したことは、実体経済の悪化とそれに伴う銀行の資産内容の劣化に対する懸念を示すものであると指摘しつつ、事態の収拾にはなお時間を要するため、引き続き注視が必要であると述べた。この点、一人の委員は、ギリシャの経済規模を考えると、金融面での影響を封じ込めることができれば、実体経済への影響は小さいとの認識を示した。』

ギリシャに関してはまあこの最後の指摘通りという感じでしょうな。ここはまあヨロシ。

『また、多くの委員が、中国株について、大幅な下落は一服しているものの、引き続きボラティリティは高く、今後の動向を注意してみていく必要があるとの認識を示した。』

で、新興国の話になる。

『新興国の通貨・株価および資源価格が下落している点について、委員は、新興国・資源国経済の先行きに対する不透明感が意識されていることが背景にあるとの見方を示した。何人かの委員は、米国における金融政策の正常化が意識されるもとでドル高が進行していることも、新興国の通貨・株価および資源価格が下落している要因となっているとの見解を述べた。』

ですなあ。

『多くの委員が、このところの原油価格の下落は、新興国の需要の不透明感という需要要因と産油国の生産スタンスや生産余力といった供給要因の双方が影響しているとの見方を示した。』

ということで原油市場の話なのですが。

『複数の委員は、資源価格の下落によって、資源関連の投資支出に調整圧力が強まれば、世界経済の成長のさらなる重石となる可能性に留意する必要があると指摘した。一人の委員は、市場では、中国経済減速の影響が新興国に波及するリスクを先回りして織り込んでいると指摘したうえで、こうした市場での価格形成が定着すると成長期待を押し下げるリスクがあるが、世界経済は、先進国を中心に緩やかな回復が続くとの見方が中心的なシナリオと考えられるとの認識を示した。』

という話になっていてなんかピントがずれている気がする。しかしそれよりもその次の海外経済に関する部分が、

『海外経済について、委員は、一部になお緩慢さを残しつつも、先進国を中心に回復しているとの認識を共有した。先行きについても、委員は、先進国を中心に、緩やかな回復が続くとの見方で一致した。 』

となっていまして、先ほどの金融市場やら商品市場やらの議論部分は反映されないのかよというのが何ともかんともではあります。ちなみに米国と欧州はさておきまして中国と新興国に関しては・・・・

『中国経済について、委員は、総じて安定した成長を維持しているが、構造調整に伴う下押し圧力を背景に成長モメンタムは鈍化しているとの認識で一致した。複数の委員が、当局による金融・財政両面からの積極対応により、4〜6月の実質GDPは前年比+7.0%と1〜3月と等速となり、統計上、減速には歯止めがかかったことを指摘した。』

ふーん。

『先行きについて、委員は、当局が構造改革と景気下支え策に同時に取り組む中で、成長ペースを幾分切り下げながらも、概ね安定した成長経路を辿るとの見方を共有した。何人かの委員は、中国の経済統計の解釈は難しいが、引き続き輸出入が落ち込んでいることや製造業PMIが 50 程度で推移していることなどをみると、中国の実体経済についてはなお弱さが払拭されていないとの認識を示した。』

うむ。

『ある委員は、中国株の下落が資産効果を通じて実体経済にどのような影響を及ぼすか注視する必要があると述べた。何人かの委員は、不動産関連指標の持ち直しなどポジティブな材料もあることを指摘しつつ、中国経済については、強弱両面を冷静にみていく必要があるとの見解を述べた。そのうえで、委員は、中国経済の減速がアジア新興国や日本を始めとする世界経済に与える影響については、注視する必要があるとの認識を示した。』

とまあそういう事で今回の議事要旨では海外の議論部分で一番分量が多くなっているのが中国経済でございまして、ではこの議論の後で中国経済の減速って益々見えてきている感があると思うのですけれどもさてどうなっているのでしょうかねえと。

『新興国経済について、委員は、このところ弱含んでいるとの見方を共有した。委員は、先進国経済の回復が波及する一方、中国経済減速の影響や過剰設備・債務の重石が続いているほか、アジアを中心にIT関連財の輸出・生産に弱さがみられており、また、ブラジルやロシアなどでは資源価格の下落の影響もあって経済情勢は厳しさを増しているとの認識を示した。』

『先行きの新興国経済について、委員は、当面、成長に勢いを欠き不確実性も高い状態が続くが、やや長い目でみれば、先進国の景気回復の波及や金融緩和などを背景とした内需の持ち直しから、成長率を徐々に高めていくとの見方を共有した。』

という見通しになっている(8月時点ね)のですがこの辺りはさすがに先般の決定会合声明文で「新興国経済の減速の影響」を入れていますけれども、あくまでもヘッジクローズレベルに留まっているんですよね。


・国内経済に関する議論部分から

『わが国の景気について、委員は、足もと、輸出・生産の増勢が鈍化しており、また、天候不順の影響などを受けて個人消費の一部にもたつきがみられているが、こうした輸出・生産や個人消費のもたつきは一時的なものであるとの見方で一致した。そのうえで、委員は、家計・企業の両部門において、所得から支出への前向きな循環メカニズムがしっかりと作用し続ける中で、わが国経済は、緩やかな回復を続けているとの認識を共有した。何人かの委員は、4〜6月の成長率が一旦大きく低下する可能性に言及した。景気の先行きについても、委員は、所得から支出への好循環が続くもとで、緩やかな回復を続けていくとの見方で一致した。 』

という相変わらずの話で「足元のもたつきは一時的」となっていますが、この辺の議論も9月の会合でどうなっているのやらという所ではありますな。

『輸出について、委員は、振れを伴いつつも、持ち直しているとの認識で一致した。委員は、4〜6月の輸出の弱さは、1〜3月の米国経済の一時的な減速がラグを伴って影響しているほか、最近のアジア経済のもたつきも影響しているとの見方を共有した。』

『先行きの輸出について、委員は、海外経済の回復や既往の円安による下支え効果などを背景として、振れを伴いつつも、緩やかに増加していくとの認識で一致した。そのうえで、多くの委員が、中国を含む新興国経済のさらなる減速が生じた場合のわが国の輸出への影響については注意が必要であると指摘した。』

まあその「注意が必要」なのが炸裂しているのが昨今の状態ということでございますな。


『設備投資について、委員は、企業収益が改善する中で、緩やかな増加基調にあり、先行きも、企業収益が改善傾向を辿る中で、緩やかな増加を続けるとの見方で一致した。』

設備投資に関してはまあ確かに出ていない訳ではないのですが、ずーっと期待ほど出てこない状態が継続している訳ですけれども・・・・・・・・・

『何人かの委員は、堅調な機械受注や建築着工床面積の動きは、こうした見方を裏付けていると指摘した。ある委員は、大企業を対象とする日本政策投資銀行の調査で、本年度の設備投資計画が、製造業を中心に高めの伸びとなっている点を指摘しつつ、企業の投資スタンスが一段としっかりしてきていることを示す内容であるとの認識を示した。また、別の一人の委員は、個人消費の一部にもたつきがみられているにもかかわらず、企業の前向きな投資スタンスが維持されていることは、デフレマインドの転換が進むもとで、企業が長期的な視点に立って設備投資を実施するという積極姿勢に転じていることの証左であるとの見方を示した。』

ホンマカイナという気がだいぶするのだが随分と楽観的な見解が見られますな。

『一方で、ある委員は、輸出の増勢鈍化が、製造業の設備投資の増加傾向にネガティブな影響を与える可能性を指摘した。 』

というのは1名かよという所ですが、それよりも企業が最高益を叩き出す中でも国内設備投資に思いのほか向かっていない件についての議論をして頂きたいものであります。


でもって雇用所得ですけどね。

『雇用・所得環境について、委員は、労働需給が着実な改善を続けるもとで、雇用者所得は緩やかに増加しており、先行きも、経済活動や企業業績の回復につれて、緩やかな増加を続けるとの見方で一致した。』

問題はそれが2%の物価上昇目標に整合的な動きになっているのかどうかが重要なのではと思うのですけれども・・・・・・・・・・・

『6月の毎月勤労統計の名目賃金が大きめの前年比マイナスとなった点について、多くの委員は、規模が大きめの事業所の特別給与のマイナスが寄与している点を指摘したうえで、企業収益が好調な中でボーナスが大幅に減少するのは不可解であり、これにはサンプル替えやボーナス支給月のズレなどが影響している可能性が高いとの認識を示した。』

まあ毎勤の数字も変ちゃあ変なのですが。

『複数の委員は、各種のアンケート調査をみると、夏のボーナスについても増加が見込まれる姿となっている点は、こうした見方を裏付けると述べた。また、別の一人の委員は、家計調査報告の勤労者世帯の収入は前年比で増加が続いており、6月も賞与を含めてしっかりと増加していることを指摘し、これが実態に近いのではないかとの見方を示した。』

でも伸びが2%物価目標に整合的じゃないと困るのですが。

『そのうえで、複数の委員は、先行き、ベースアップを含む新たな給与水準での賃金の支払いが増えてくることや、夏のボーナスについても増加が見込まれることから、名目賃金の改善が明確になってくるとの見方を示した。』

『一方、一人の委員は、ベースアップは既に相応に統計に反映されており、ボーナスも昨年に比べ伸びの低下が予想されることなどを指摘し、賃金上昇の動きは鈍いと述べた。』

ということでこの議論に関してはその後の毎勤の推移を見ますと後者の方が正しかったように見えますが、この辺の議論の前提がその後の統計を見るとだいぶ怪しくなっているようにしか思えないのになんで9月になっても前向きの循環メカニズムと言い続けることが出来るのかの方が不思議ではあります。

でもって消費。

『個人消費について、委員は、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、底堅く推移しているとの認識を共有した。多くの委員は、天候不順の影響などもあって、このところ一部にもたつきもみられるが、消費者マインドは改善傾向にあり、雇用・所得環境も改善を続けていることから、全体としては底堅さを維持しているとの見方を示した。』

はあそうですかという所ですが。

『一方、ある委員は、食料品などの値上げは、幅広い品目で防衛的な消費行動を生じさせている可能性があると述べた。』

こちらの指摘の方が違和感がないのだが。

『別の委員は、消費のもたつきの原因が天候不順によるものか、値上げによるものか、注意してみていく必要があると述べた。』

『一人の委員は、消費が勢いを欠く背景には、年金受給者の消費動向が影響している可能性もあると指摘した。』

『先行きの個人消費について、委員は、雇用・所得環境の着実な改善が続くもとで、引き続き底堅く推移するとの見方で一致した。ある委員は、今後、個人消費の増加ペースが高まっていくためには、賃金上昇の動きが一層拡がりをもつ必要があるとの認識を示した。』

一人の委員の指摘なのですけれども、結局の所この後に出てきている個人所得に関するデータはどう見ても期待外れで推移している訳でして、そんな中で9月会合では特に認識に変化がないというのが実にこうアレですな。



・金融政策議論に関しての議論もいくつか読みどころがありますな

住宅投資と生産の部分はパスして次の『W.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要 』のパートから。

『多くの委員は、「量的・質的金融緩和」について、所期の効果を発揮しているとの認識を共有した。』

もうここは毎度のことなのでどうでも良いのですが。

『これらの委員は、需給ギャップや中長期的な予想物価上昇率に規定される物価の基調は、今後も改善傾向を辿るとの見方で一致した。』

はいはい基調基調。

『多くの委員は、「量的・質的金融緩和」の導入以降、名目金利が低位で安定的に推移するもとで、やや長い目でみた予想物価上昇率は全体として上昇しており、実質金利は低下しているとの認識を示したうえで、そのことが企業・家計の支出行動を支えていると述べた。』

「やや長い目でみた予想物価上昇率は全体として上昇しており」というのが具体的にどこがどうそうなのか小一時間問い詰めたいし、そもそも論として「実質金利が低下するから企業や家計の支出行動が強くなる」という理屈もさっぱり分からんのですが、そこを否定するとそもそもの置物QQE理論のメカニズムの前提が否定されるので今更引っ込めるわけにも逝かないのはやむを得ません。

とまあここまではまだしもなのですが、最後の部分が盛大に意味不明。

『ある委員は、雇用の増加や賃金の上昇が実感されるもとで、国民全般や企業経営者の金融政策運営に対する信頼度は高い水準にあり、企業経営者の投資意欲も積極化していると指摘した。』

・・・・・( ゚д゚)
・・・・・(つд⊂)ゴシゴシ
・・・・・(;゚д゚)

誰の指摘だよ(なんとなく想像はつくのだが)おいおいおいとしか申し上げようがないのですが・・・・・・・・・


でもって次が物価動向に関してが結構長い。

『金融政策を運営するうえでの物価動向の判断について、委員は、「物価安定の目標」は安定的に達成すべきものであり、金融政策運営に当たっては、物価の基調的な動きが重要であるとの認識を共有した。多くの委員が、6月の消費者物価(除く食料・エネルギー)の前年比が前月からプラス幅を拡大していることや、このところ消費者物価(除く生鮮食品・エネルギー)の前年比の伸びが高まっていることなどを指摘して、物価の基調は改善を続けているとの見方を示した。』

除くエネルギーで基調判断ですかそうですかという所ですけれども、昨年10月に追加緩和をした時は原油価格の下落によるバックワードルッキングな物価上昇期待の低下ガーとか言ってたのは何だったのかと小一時間問い詰めたい。

『この背景について、何人かの委員は、企業や家計の物価観が変化してきていることを指摘した。』

単に円安のコストプッシュがラグを持って効いてきている可能性もあると思うのですけどねえ。

『ある委員は、企業の賃金・価格設定行動の変化について、景気回復が続くもとで、仕入価格や人件費の上昇を販売価格に転嫁できる企業が増えており、実際、今年度の価格改定の動きには、拡がりと持続性がみられていると述べた。』

問題はそれが消費のもたつきに反映されている事ではないでしょうか。

『また、一人の委員は、食料品などの値上げにもかかわらず、消費者マインドが悪化していないことは、雇用者所得が緩やかに増加するもとで、消費者が企業の価格改定を受け入れつつあることを示しているとの見解を表明した。一方、ある委員は、値上げにもかかわらず食料品の売上げが減少していないのは、必需品に近い食料品は価格弾性値が低いという理由によるのではないかと述べた。 』

後者の指摘に賛同したいですな。


所得の所で物価上昇目標に見合わないんじゃネーノとか申し上げた件についての議論もあるのですが・・・・・・・

『何人かの委員は、「量的・質的金融緩和」のもとで、2%の「物価安定の目標」を実現するに当たっては、雇用・賃金の増加を伴いながら、物価上昇率が高まっていく、という状態を作り出していくことが大切であり、このところの賃金・物価動向をみると、そうしたメカニズムが働き始めているとの認識を示した。』

え?????働き始めているの???????どう見ても2%物価上昇目標に対して整合性が無い程度の上昇しかしていないようにしか思えないのですが・・・・・・・・・・・・・

『一人の委員は、今後とも物価の基調が高まっていくためには、賃金面でのさらなる後押しが必要であると述べた。何人かの委員は、物価の基調の改善が続くためには、個人消費の動向が鍵を握るため、その動向を注視する必要があるとの認識を示した。』

でまあ消費が持続的に伸びるにはやはり実質所得が低下傾向となるのはマズーな訳でして、そもそもコストプッシュで物価を上げてもそれは持続的物価上昇にはならないでしょというお話ですから、円安に振るような追加緩和ってこういう議論をしている中で難しいですよねという事になるでしょうから、追加緩和はやりたくないというのが現在の日銀の基本認識になります、とまあそういう流れでしょうねと。


その次に「エネルギー除く物価」に関する議論もある。

『生鮮食品およびエネルギーを除く消費者物価について、何人かの委員は、この指標は、エネルギー価格の変動が大きい場合に物価の基調をみるのに有用であることから、月次で公表することとしたことは有意義であったとの見方を示した。』

まあ月報無くなったら月次で出なくなりますけどね!!!!

『そのうえで、委員は、「物価安定の目標」は、あくまでも総合の消費者物価の前年比で2%であること、また、物価の基調を把握するためには、一時的な撹乱要因を除いた様々な物価の指標を点検しつつ、それらの指標の背後にある経済の動きや予想物価上昇率の動向などを合わせて、総合的に評価していく必要があることについて、改めて認識を共有した。 』

何でここでこういう議論が飛び出しているのかがイマイチ良く分からんのですが、意味なくこういうのが議事要旨に記載される訳もないですから、これはまあそう遠くない将来においてエネルギー除きのコアCPIに関して言及して大勝利宣言をできませんですかねえという下心満載であると解釈しておきます。


『これらの議論を受けて、委員は、予想物価上昇率について、やや長い目でみれば全体として上昇しているとの見方で一致した。』

そ、そうなのか??

『ある委員は、消費者物価上昇率が当面0%程度で推移すると見込まれるため、バックワードルッキングに予想物価上昇率が低下しないか注意が必要だが、これまでのところ、人々の中長期的な予想物価上昇率は低下していないとの見方を示した。』

便利な概念ですなあ。

『そのうえで、多くの委員は、先行き、物価の基調を規定する需給ギャップは着実に改善し、予想物価上昇率も高まっていくことから、原油価格下落の影響が剥落するに伴って消費者物価は伸び率を高め、2016 年度前半頃に2%程度に達する可能性が高いとの見方を共有した。』

????????????

『なお、何人かの委員は、このところの原油価格の動向について、物価見通しの不確実性の一つとして、背景にある要因も含めて注視していく必要があるとの認識を示した。』

需要要因じゃないのかという話をしたんですね。

『そのうえで、委員は、金融政策運営上、重要なことは、原油価格そのものではなく、原油価格の動きが、予想物価上昇率を通じて物価の基調的な動きに影響を与えないかという点であり、こうした観点から原油価格の動向をみていく必要があるということについて、改めて認識を共有した。』

しかしその予想物価上昇率に関する話がここまでの通りなのですから、結局何が何だか分からんというお話ではあります。


でもってこの先が現状維持の結論に至る話なのですが、そこはパスしまして木内さんの提案にいちゃもんを付けている人の毎度の見解を鑑賞しますね。

まずは木内さんの提案理由(中身の部分は引用パスします)。

『一方、一人の委員は、「量的・質的金融緩和」の効果は逓減しており、導入時の規模であっても、その追加的効果を副作用が既に上回っていると述べた。この委員は、副作用として、金融面での不均衡の蓄積や国債市場の流動性に与える影響に加えて、金融緩和の正常化の過程で日本銀行の収益が減少し、自己資本の毀損や国民負担の増加にも繋がりうることを指摘した。』

ということで副作用に関しては金融面での不均衡とかがメインで、出口政策の困難さとか国民負担の拡大というのも加えているようですがそっちはややおまけっぽい。

『これに対して、複数の委員は、金融政策の遂行に当たっては、日本銀行の財務の健全性に配慮しつつも、物価安定の実現という政策目標を最優先すべきであるとの見方を示した。』

今回ワロタのはこの部分でして、前回までは「複数の委員は、現状、金融面での不均衡や金融緩和の副作用を示す理論や事実に基づく具体的な根拠はないと述べた。(これは7月会合議事要旨から)」というのがあったのですが、さすがに「副作用の無い政策に効果は無い」という当たり前の指摘でも受けたんでしょうか遂に間抜け部分が無くなって誠に結構なお話ですなあ(棒読み)。

『そのうえで、委員は、「量的・質的金融緩和」のもとでは、従来より収益の振幅が大きくなると見込まれることを踏まえ、日本銀行の財務の健全性を確保する観点から、平成 25 年度および 26 年度決算では、財務大臣の認可を受けて、剰余金について、法定の5%を超える金額を準備金として積み立てていることを確認した。また、ある委員は、正常化の過程での国民負担を論じるのならば、金融緩和の過程での日本銀行の収益の増加や景気回復の利益についても考えるべきだと述べた。』

最後の部分なのですが、そこのバランスに関して今のような買い方をしていくと政策効果に対して出口での正常化におけるマイナスの方が大きいだろという話なので、ただいちゃもんをつけるだけではなくてその点に関して建設的な議論をして頂きたいものでありますな。

ということで少々じっくりと読んでしまいましたです。

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2015/09/16

○今回の声明文は「全部新興国のせいだ」ですかそうですか

http://www.boj.or.jp/announcements/release_2015/k150915a.pdf(今回)
http://www.boj.or.jp/announcements/release_2015/k150807a.pdf(前回)

まあ現状維持自体は兎も角として景気認識に関する部分が注目される訳ですが・・・・・・・・・


・良く良く見ると現状判断に一部上方修正個所があるとか

例によって現状判断部分であるが、まず見れば分かるのは「量が増えている」ということでして、現状判断の文章量が8行→10行と2行も増えておりますが、当然のごとくこの文字数の増加というのは「判断に対する言い訳文言が増えている」っつーお話でございますので、それだけ日銀としては経済物価の見通しシナリオに対する現状の判断について「マズー」という認識があるというのはそういう事でしょうな。自信満々だったら文章がシンプルになりますもん。


『わが国の景気は、輸出・生産面に新興国経済の減速の影響がみられるものの、緩やかな回復を続けている。』(今回)
『わが国の景気は、緩やかな回復を続けている。』(前回)

ヘッジクローズの方に目が行ってしまいがちですが、総括判断は「緩やかな回復」のままであるというこの大本営発表モード恐るべし。


『海外経済は、新興国が減速しているが、先進国を中心とした緩やかな成長が続いている。』(今回)
『海外経済は、一部になお緩慢さを残しつつも、先進国を中心に回復している。』(前回)

ということで、これ新興国の影響という部分が目立つのですが、全体としての評価は「回復」が「緩やかな成長」となっていて、「成長」という文言自体は強め表現(の筈)なのですが、そこに「緩やかな」というのが入っているという上方修正しているのか下方修正しているのか訳のわからん全体評価になっているのがヤヤコシヤです。まあ海外経済の全体水準については上方修正しているけれどもモメンタムが下方修正という事だと思いますが、そもそも輸出と生産を新興国のせいで下方修正しているのですから、全体的には強いというトーンではないのですけれども、回復→成長という辺りに往生際の悪さを感じます。

ちなみに当該部分の英文はこちらです。英文見ても微妙としか申し上げようがない。

『Overseas economies -- mainly advanced economies -- have continued to grow at a moderate pace, despite the slowdown in emerging economies. 』(今回)
『Overseas economies -- mainly advanced economies -- have been recovering, albeit with a lackluster performance still seen in part.』(前回)


需要項目別の展開について。

『輸出や鉱工業生産は、新興国経済の減速の影響などから、このところ横ばい圏内の動きとなっている。』(今回)
『そうしたもとで、輸出や鉱工業生産は、振れを伴いつつも、持ち直している。』(前回)

輸出と生産の判断を下げているのですが、さっき出てきた新興国経済の減速というのをわざわざまた持ち出していまして、「全部新興国のせいだ」というアピールに余念がない辺りにも曳かれ者の小唄的なサムシングを感じるという味わいの深い出来栄えになっております。

『一方、国内需要の面では、設備投資は、企業収益が明確な改善を続けるなかで、緩やかな増加基調にある。』(今回)
『設備投資は、企業収益が改善するなかで、緩やかな増加基調にある。』(前回)

しらっと企業収益の現状判断を上方修正しているのがお洒落です。まあ企業収益が上がっても投資や労働分配に反映されていないという経済財政諮問会議のお墨付きが出ていますけどね!!!!!!!


『また、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、個人消費は底堅く推移しているほか、住宅投資も持ち直している。この間、公共投資は、高水準ながら緩やかな減少傾向に転じている。』(今回)

『雇用・所得環境の着実な改善を背景に、個人消費は底堅く推移しているほか、住宅投資も持ち直している。この間、公共投資は、高水準ながら緩やかな減少傾向に転じている。』(前回)

今回は接続詞がさっきのと含めて入っているのも味わいがありまして、先ほどの「一方」に関しては輸出と生産の判断を横ばいにした次の増加という話なので「一方」というのが入るのは普通なのですけれども、威勢の良い話を続けようという中でここでわざわざ「また」と付け加えるような文言を入れているのも味わいがありますな。

でもってそれ以外の文言というのは変化が無いということでして、直近の展望レポートで示されている日銀の物価上昇達成へのメカニズムというのは輸出ドライブというよりは「雇用環境の改善によって賃金が上昇して、所得から消費の流れをメインのドライバーとして経済の好循環と需給ギャップのプラス化が進展していく」というお話でありますからして、「国内に関する景気判断が強気のまま」というのはつまりは「日銀の基本シナリオには特段の問題は発生していません(キリッ)」という事を言いたい、っつーのが今回の声明文の特色であります。

なんちゅう往生際の悪さとは思いますが、そらまあここのメカニズムがやっぱり駄目ですなという話になったら追加緩和するのか、それとももっとそもそも論に立ち戻ってQQEのメカニズム自体がどうなのよというようなお話になって行く訳でして、そう簡単には折れないだろうなあというのは分かるのですが、それにしても賃金とか消費とかマインドとか色々なものがアチャーという感じになってきているのにこの強気判断継続ってもう「やりたい金融政策があってそこから逆算で景気判断をするの巻」というのが強化されている感じで誠に遺憾の極みではありまする。


でもって金融環境と物価環境に関して。

『わが国の金融環境は、緩和した状態にある。物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、0%程度となっている。予想物価上昇率は、やや長い目でみれば、全体として上昇しているとみられる。』(今回)

『また、わが国の金融環境は、緩和した状態にある。物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、0%程度となっている。予想物価上昇率は、やや長い目でみれば、全体として上昇しているとみられる。』(前回)

ところでどこの予想物価上昇率が上昇しておられるのか小一時間問い詰めたいのですが、何せ金融経済月報の方を見ましても同じように「全体として上昇しているとみられる」だけしか表現が無くて、どこのどの数値が具体的に改善しているかという解説は入っておらず、単にグラフが巻末に掲示されているだけという代物ですので小一時間問い詰めても「このグラフをご覧ください」で終了するのが残念な所です。


・先行き見通しやリスク認識は変化なしとな

どうせそうだろうとは思いましたがその通り。

『先行きのわが国経済については、緩やかな回復を続けていくとみられる。消費者物価の前年比は、エネルギー価格下落の影響から、当面0%程度で推移するとみられる。』(今回)
『先行きのわが国経済については、緩やかな回復を続けていくとみられる。消費者物価の前年比は、エネルギー価格下落の影響から、当面0%程度で推移するとみられる。』(前回)

ちなみにこの「当面」というのは目先数か月程度の期間という前提の筈なのですが、いつまで経っても「当面」となっているということは物価2%への到達見込時期がドンドン後ずれしていることを意味する筈なのですが当然ながらその話も華麗にスルー状態なのは今に始まった事ではありません。

『リスク要因としては、新興国・資源国経済の動向、欧州における債務問題の展開や景気・物価のモメンタム、米国経済の回復ペースなどが挙げられる。』(今回)
『リスク要因としては、新興国・資源国経済の動向、欧州における債務問題の展開や景気・物価のモメンタム、米国経済の回復ペースなどが挙げられる。』(前回)

また変化なしか・・・・・・・・・・・・・・


・QQEは所期の効果を発揮だのの話や木内さんの提案も同じです

比較するのも面倒だから今回のを貼るだけにしておきます。

『「量的・質的金融緩和」は所期の効果を発揮しており、日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「量的・質的金融緩和」を継続する。その際、経済・物価情勢について上下双方向のリスク要因を点検し、必要な調整を行う(注2)。(今回)

『(注2)木内委員より、2%の「物価安定の目標」の実現は中長期的に目指すとしたうえで、2つの「柱」に基づく柔軟な政策運営のもとで、資産買入れ策と実質的なゼロ金利政策をそれぞれ適切と考えられる時点まで継続するとの議案が提出され、反対多数で否決された(賛成:木内委員、反対:黒田委員、岩田委員、中曽委員、白井委員、石田委員、佐藤委員、原田委員、布野委員)。』

まあ順当。

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2015/08/20

・FSR別冊がまたも出ております

今年度になってからはFSRの別冊がホイホイ出て来ますな。

http://www.boj.or.jp/research/brp/fsr/fsrb150819.htm/
地域金融機関における最近の貸倒引当金の算定状況

全文はこちら
http://www.boj.or.jp/research/brp/fsr/data/fsrb150819.pdf(色刷りPDF注意)

でまだ全文読み込めていないのですが、最初の概要の方では『要旨』ということでこんな説明がありますな。

『ここ数年の地域金融機関の貸倒引当金比率は、長期時系列的にみてかなり低い水準にある。これは、基本的には景気回復等に伴って借り手企業の業績・財務が改善し、金融機関の資産内容が改善していること、近年の貸倒実績率が低下していることによるものである。』

ほほう。

『もっとも、引当は将来に備えて行うものであり、景気循環の影響を均してみていくとともに、過去の実績に反映されていない先行きの変化を適切に織り込んでいくことが望ましい。』

さいですな。

『今般、日本銀行が実施したアンケート調査によれば、2014年度決算において、地域銀行で約9割、信用金庫で約7割の先が、こうした観点から引当方法を工夫していることが確認された。具体的な内容をみると「算定期間数の拡大」により対応している先が多いほか、要管理先や破綻懸念先について、「DCF法」や「CF控除法」を導入(DCF法の適用額引下げを含む)している先が相応にみられる。特に、貸倒実績率が大きく低下した2011年度以降にこうした対応を講じた先が少なくない。』

ほー。

『地域金融機関においては、基礎的な収益で信用コストをカバーし得る余地が縮小してきている。加えて、足もと、地域の産業・企業の活力向上支援や自らの事業領域の拡充など、様々な面で取り組みを強化しており、こうした取り組みの過程では、今後、過去の実績には反映されていないリスク・コストが生じる可能性もある。以上を踏まえると、貸倒引当金の算定にあたっては、個々の金融機関が貸出資産内容や地域経済、借り手企業の状況等を踏まえながら、その適切性を継続して検証していく必要がある。』

そらそうなのだが、そもそも「基礎的な収益で信用コストをカバーし得る余地が縮小してきている」という状況を作っているのは2年程度で達成するとか言いながら2年半近くになっても達成どころかあの手この手で計測しても1%割れという数字ばかりが出てくる物価状況を示しているが為にアホウのように拡大を続けるわ金利先高観が盛り上がらないわとなっている御行の金融政策ウィングのトンチキさによるものが大きいと思うので、そういわれましてもご無体なという感想が最初に出てしまうのですがががががが(−−:

という悪態は兎も角として、内容は多分興味深いものだと思う(超ななめ読みしかしていないのでスイマセン)のでご覧いただくと吉かと存じますがどうですかね。

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2015/08/14

○7月決定会合議事要旨ネタの続きです

http://www.boj.or.jp/mopo/mpmsche_minu/minu_2015/g150715.pdf

昨日は木内さんの提案の内容やらそもそものQQEにおける量の効果に関する日銀としての整理について理解してないままで反対意見を垂れ流すという珍しい政策委員様がおいでになる、という事案を鑑賞していたら悪態攻撃ですっかり他のネタが出来なくなりましたので、気を取り直して他の部分を鑑賞。

毎度おなじみの『U.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要』から参ります。


・中国株式市場に関して

最初に『国際金融資本市場について、』ということでギリシャと中国の話があるのですが、まあギリシャの方はパスしまして中国の所を。

『中国の株価が短期間で急落したことについて、複数の委員は、株価が昨年後半の2倍以上に上昇するもとで、高値警戒感が拡がっていたことに加え、信用取引が巻き戻されたことなどがその背景であるとし、中国経済の減速が長引くリスクとは分けて考える必要があるとの見方を示した。』

まあそらそうですなという感じですが、では肝心の中国経済のリスク認識はどうでしょうというのは後程。


・海外経済に関して

『海外経済について、委員は、一部になお緩慢さを残しつつも、先進国を中心に回復しているとの認識を共有した。先行きについても、委員は、先進国を中心に、緩やかな回復が続くとの見方で一致した。 』

という見通しになっている(7月時点)のですが、では地域別にみるとどうかと。

『地域毎にみると、米国経済について、委員は、原油安やドル高などを背景に鉱工業部門で調整の動きもみられるが、家計支出に支えられて回復しているとの認識で一致した。』

ほほう。

『多くの委員は、1〜3月期は寒波の影響などで一時的に弱くなったものの、その後は良好な雇用・所得環境に支えられた個人消費の堅調さが維持されているとの見方を示した。ある委員は、自動車販売がこのところ高水準にある点をみても、米国の個人消費は堅調であるとの見方を示した。』

『この点、別の複数の委員は、小売販売が足もと弱含む動きもみられるため、今後の回復ペースを注意深く点検する必要があると述べた。米国経済の先行きについて、委員は、当面、鉱工業部門に調整圧力がかかるものの、堅調な家計支出を起点として民間需要を中心に成長が続くとの見方を共有した。』

米国は消費を中心のドライバーとして回復というのだがそれに対して賃金の伸びってそこまでロバストじゃないように見えますし、これでエネルギー価格戻った日には家計の購買力に悪影響とかになるかも知れませんけどねえとは思いますがまあこういう見通しのようです。

『欧州経済について、委員は、緩やかな回復を続けているとの認識で一致した。』

ほう。

『委員は、輸出がユーロ安などを背景に緩やかに増加しており、個人消費も労働市場の改善に伴う消費者心理の回復基調などに支えられて引き続き増加しているとの認識を共有した。ある委員は、物価面でも、消費者物価の前年比はこのところ小幅のプラスで推移しており、デフレへの警戒感は和らいでいることを指摘した。欧州経済の先行きについて、委員は、緩やかな回復を続けるとの見方で一致した。』

欧州って先行して強いドイツ様とラグのある周縁国とというのがあってヤヤコシイですな。総じて言えばここから大コケという感じではないんでしょうか(てきとう)。


でまあ問題の中国。

『中国経済について、委員は、総じて安定した成長を維持しているが、構造調整に伴う下押し圧力を背景に成長モメンタムは鈍化しているとの認識で一致した。』

ほほう。

『最近の株価下落が個人消費に与える影響について、多くの委員は、中国では家計の金融資産に占める株式の割合は大きくなく、その影響は限定的であるとの見方を示した。』

いやそれ昔の日本もそんな感じだった筈なのだが。

『別の複数の委員は、成長が鈍化するもとでの株価下落は、マインド面への影響も含めて不確実性が高く、注視していく必要があると述べた。』

たぶんこっちの方が妥当だと思います。

『先行きについて、委員は、当局が構造改革と景気下支え策に同時に取り組む中で、成長ペースを幾分切り下げながらも、概ね安定した成長経路を辿るとの見方を共有した。この点、複数の委員は、当局の対応は公共投資が中心となるため、成長率は維持できるとしても、貿易相手国の輸出を誘発する効果は従来ほど見込めない可能性があると述べた。 』

という所ですがまさかの通貨下げ攻撃で輸出振興に出るという荒業が出たのが何とも(まあ5%如きであれば恐らく誤差の範囲内なのでやるなら2割とか下げないと、とは思いますけどね)。


『新興国経済について、委員は、先進国経済の回復が波及する一方、中国での調整の影響や過剰設備・債務の重石、IT関連財の需要端境期の長期化などから、このところやや弱含んでいるとの見方を共有した。』

まあ新興国は期待できんでしょ。

『先行きの新興国経済について、委員は、当面、成長に勢いを欠き不確実性も高い状態が続くが、やや長い目でみれば、先進国の景気回復の波及や金融緩和などを背景とした内需の持ち直しから、成長率を徐々に高めていくとの見方を共有した。 』

ホンマカイナという感じで、海外回復という話をしているものの、その絵の内容を見ますとちょっと希望的観測成分が混入されていますなあと思うのでありました。



・国内経済に関して

まずは総括判断。

『わが国の景気について、委員は、家計・企業の両部門において、所得から支出への前向きな循環メカニズムがしっかりと作用し続ける中で、緩やかな回復を続けているとの認識を共有した。その点について、委員は、先般の支店長会議での各地からの報告でも、景気回復が地域的な拡がりを伴っていることが確認されたとの認識を共有した。景気の先行きについても、委員は、緩やかな回復を続けていくとの見方で一致した。 』

消費が伸びないわ(一時的要因とはいえ)実質賃金がマイナスだわという素敵な経済指標が打ち込まれたのはこのMPMのあとですが味わいがありますな。

で、出るということになっている輸出と設備について引用します。

『輸出について、委員は、振れを伴いつつも、持ち直しているとの認識で一致した。委員は、4〜5月の輸出の弱さは、寒波などの影響を受けた1〜3月期の米国経済の一時的な減速がラグを伴って影響しているほか、最近のアジア経済のもたつきも影響しているとの見方を共有した。』

あくまでも一時的という認識です。これがコケた場合にどういう申し開きをするのでしょうか。

『先行きの輸出について、委員は、海外経済の回復や既往の円安による下支え効果などを背景として、振れを伴いつつも、緩やかに増加していくとの認識で一致した。』

円安による下支え効果があるならとっくに出てませんかねえ。

『ある委員は、輸出は足もとの実績は弱めであるものの、4〜6月期の米国経済のリバウンドや、輸出受注PMIなど先行指標の改善をみる限り、トレンドの変化に繋がる可能性は小さいとの見方を示した。もっとも、複数の委員は、中国経済のさらなる減速が生じた場合の影響については注意が必要であると述べた。』

ということでさすがに中国リスクには複数の委員が言及しています。リスクが顕在化したらこれまたシナリオの書き換えを迫られる話ですな。


設備に関して。

『設備投資について、委員は、企業収益が改善する中で、緩やかな増加基調にあるとの認識を共有した。委員は、6月短観の 2015 年度の設備投資計画は、製造業大企業において、為替の円高修正の定着を眺めて国内投資を積極化する動きがみられるなど、企業の投資スタンスが一段としっかりしてきていることを示す内容であったとの見方で一致した。』

まあそうですね。

『先行きの設備投資についても、企業収益が改善傾向を辿る中で、緩やかな増加を続けるとの見方で一致した。何人かの委員は、堅調な機械受注の動きは、こうした見方を裏付けていると指摘した。』

うーむこの。

『この間、ある委員は、短観の売上高計画が前年比+1%程度にとどまっていることなどを踏まえると、足もと強めの設備投資計画は、需要拡大予想に基づくというよりも、更新投資や省力投資が中心である可能性があると述べた。 』

これはまた身も蓋もない指摘。


あと、前向き循環メカニズムの所得に関しても鑑賞。

『雇用・所得環境について、委員は、労働需給が着実な改善を続けるもとで、雇用者所得は緩やかに増加しており、先行きも、経済活動や企業業績の回復につれて、緩やかな増加を続けるとの見方で一致した。』

ほうほう。

『ある委員は、今年度のベースアップを含む新たな給与水準での賃金の支払いが6〜7月頃にかけて増えてくることや、夏のボーナスについても増加が見込まれることから、名目賃金の改善が一層明確になってくるとの見方を示した。』

6月実質所得ェ・・・・・・・・・

『一方、別の委員は、ベースアップは4月に妥結しており、消費へのアナウンスメント効果は既に顕在化しているとも考えられることや、ボーナスについても、高い伸びとなった昨年との対比では鈍化していることなどを指摘し、これらが家計支出を追加的に押し上げるかどうかは明らかでないと述べた。』

まあこの辺りは7−9の指標を見ながら判断していくしかないですよね。


・QQEの累積的な効果について:実質金利とインフレ期待に関する議論部分

そして本来なら展望レポートの中間レビュー部分を引用するものなのですが、あまり中間レビューの所が面白くなく(メカニズムの話ではなくて物価見通しの話になっているのでつまらん)アタクシ的に飛ばしても構わんという判断をして華麗にスルーして『V.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要 』に参ります。

『多くの委員は、「量的・質的金融緩和」の導入以降、名目金利が低位で安定的に推移するもとで、やや長い目でみた予想物価上昇率は全体として上昇しており、実質金利は低下しているとの認識を示したうえで、そのことが企業・家計の支出行動を支えていると述べた。』

ここは毎度の文言ですから別に良いのですが、良く良く考えてみますと確かに金利高いよりは「支え」はするというのは事実そうなんでしょうが、置物リフレ理論によりますと実質金利が低下すると消費や投資が「活発化する」と仰せだった訳でして、実質金利の低下が消費や投資のどこにどう効いているのか(株だけ上がったってそのあと波及しないでしょ一部にしか)と小一時間問い詰めたいところではあります。


で、次の見解が意味不明なのですが・・・・・・・・・・

『ある委員は、国民全般や経営者の心理面で、「物価安定の目標」に向けた金融政策運営に対する信頼性が向上しており、期待への働きかけは非常に重要な段階にあると述べた。』

??????????????∫dx

いやあのこれ最初アタクシ読んだときには「信頼性が低下しており」と思いっきり脳内変換して読んでしまいましたよという所でして、現状のどこがどう信頼性が向上しているのかと小一時間問い詰めたいのだが、現状認識大丈夫かおいこの政策委員。


『一方、複数の委員は、金融緩和が実質金利を押し下げる効果は逓減してきていると述べた。』

どう見ても妥当。

『このうち一人の委員は、名目金利の下げ余地が限られる中で、実質金利をさらに引き下げるには予想物価上昇率を引き上げるほかないが、金融政策のコミットメントのみでこれが実現できるかは不確実性が高く、効果と副作用を丁寧に検証していく必要があると述べた。』

(;∀;)イイハナシダナー

『これに対し別の委員は、不確実性が高いとしても、予想物価上昇率の上昇が金融政策なしに実現することはないとの見方を示した。 』

その理屈は理屈として受止めますが、では今の政策を継続することが妥当なのか、ということについての考察はしないんでしょうか??????????????



・物価動向の判断に関して

『金融政策を運営するうえでの物価動向の判断について、委員は、「物価安定の目標」は安定的に達成すべきものであり、金融政策運営に当たっては、物価の基調的な動きが重要であるとの認識を共有した。』

基調キタコレ。

『何人かの委員は、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比が0%程度で推移する一方で、消費者物価(除く生鮮食品・エネルギー)の伸びが高まっていることや、価格が上昇している品目の割合が増加していることなどから、物価の基調は改善しているとの見方を示した。』

コアコアとか上昇品目とか繰り出して基調改善キタコレですな。

『ある委員は、個人消費の底堅さにも支えられて、本年は、新年度入り後の企業の価格改定の動きに拡がりと持続性がみられていると指摘した。この委員は、本年夏場以降は、物価の基調が高まるもとで、エネルギー価格のマイナス寄与が剥落していくことにより、消費者物価(除く生鮮食品)はかなり速いピッチで上昇すると予想できると述べた。』

まあ消費がコケなければそうなるんでしょうけれどもさてどうなるやら。まあそれで上がっても1%近辺に留まりそうですが。

『別の複数の委員は、ユニット・レーバー・コストが安定的に上昇しているほか、物価の基調的な高まりが需要増加を伴っていることなどから、先行き物価上昇率は次第に高まっていくとの見方を示した。このうちの一人の委員は、家計についても実質賃金の緩やかな改善とともに、アンケート調査において「物価上昇は望ましい」との見方が幾分増えていることを指摘した。』

威勢が良いですな。

『一方、別のある委員は、円安の影響を受けやすい食料工業製品の上昇率の高まりは、公共料金の上昇率低下などで相殺されているほか、電気製品の価格も、過去の円安局面と比べて比較的落ち着いており、円安による物価の押し上げ効果が全体としてみれば低下していることを指摘した。 』

まあ物価が上がって消費がコケるという話をおっぱじめるとそもそもの2%目標の妥当性という話になるので、そこはスルーしているのか議事要旨の段階で丸めているのやら(^^)。

『これらの議論を受けて、委員は、予想物価上昇率について、やや長い目でみれば全体として上昇しているとの認識を共有した。ある委員は、このところの消費者物価上昇率の低下にもかかわらず、人々の中長期的な予想物価上昇率に目立ったマイナスの影響はみられないと述べた。そのうえで、多くの委員は、先行き、物価の基調を規定する需給ギャップは着実に改善し、予想物価上昇率も高まっていくことから、原油価格下落の影響が剥落するに伴って消費者物価は伸び率を高め、2016 年度前半頃に2%程度に達する可能性が高いとの見方を共有した。』

まあ3人ほど反対してますが、中心的な見方は相変わらずという事でした。最後の木内さん提案に対する誰か知らんが(想像はつく)政策委員の意味不明というか頭の悪そうな反対意見については昨日申し上げた通りでありますが、こちらの見通しの議論があまりインタラクティブっぽく見えないのもちょっと気になる次第ではございます。

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2015/08/13

○金融政策決定会合の議論の中に見るに耐えない低レベルの物が混入していて嘆かわしい件について

展望レポート中間レビューの会となる決定会合議事要旨なのですが・・・・・・・・・・・・・

http://www.boj.or.jp/mopo/mpmsche_minu/minu_2015/g150715.pdf

今回の議事要旨、途中の所にも変な議論をする箇所があるのですが、何と言っても今回の議事要旨の白眉は「人の意見の内容を全く理解しようとしないで全然違う方向から反対意見を述べる馬鹿が存在する」ということが明らかになった点でしょう。誰だこの審議委員を選考したのはと小一時間問い詰めたいし、嘆かわしいにも程があって吐血しそうになるわというレベルであります。

・・・・・・・・ということでまず見るのは『V.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要 』の最後の所になります。

でまあ最初に毎度の木内審議委員の反対提案部分の説明を読んでみましょう。こちらはいつもの話なんですけどね。

・木内さんの提案に説明がついているので鑑賞してみましょう

『一方、一人の委員は、需給ギャップがゼロ近傍まで改善する中、逓減している「量的・質的金融緩和」の追加的効果を副作用が既に上回っており、導入時の規模であっても、金融面での不均衡の蓄積など中長期的な経済の不安定化に繋がる懸念があると述べた。』

いつもの説明ですが、ここ2回ほど「理論や事実に基づく具体的な根拠はなく」という反対意見を述べている人がいるので今回は説明が入っています(というか要旨なので、恐らくは「根拠を出せ」とか反対の人が言ったから説明したんでしょうなあとは思う)。

『この委員は、現行の政策方針の長期化に伴い累積的に高まる副作用として、日本銀行の資産買入れが国債市場の流動性に与える影響や、金融緩和の正常化の過程で日本銀行の収益が減少し、自己資本の毀損や国民負担の増加にも繋がりうることなどを指摘し、早めに減額に着手することが適当であると述べた。』

まあ日本銀行の収益に関しては買入が大した額じゃないのならそこは別にという話なのでしょうが、物には程度というのがありまして、これだけの買入を行い、更にいつまで継続するのかが見えてこないという状況では、そらまあそういう意見が出てもおかしくは無い、というか、出口によって含み損益は兎も角として期間損失は確実に発生するのですから、それが財政負担としてドバドバ出るという話になると、金融政策と財政政策の役割論という話にもなってくることなので、副作用論としての説明としては説明はしやすい。

ただまあそれよりも問題なのは短国市場に示されるように、日銀の買入拡大が市場の価格発見機能を壊すことでして、短国の場合は日銀買入で金利が下がり過ぎたからと言ってどこかの投資家が手持ちの短国を打って成敗して市場価格の適正化が行われるかと言えば、残念ながらそもそも持ちきりの人が多い上に、持っている人だって3か月すれば保有銘柄が1回転しちゃうわけなので、成敗売りなどが出てこないという悲惨な状態になって今に至っている訳ですが、買入が累積してくると長期国債市場だって徐々にそういう事になる惧れ無しとは言えませんわな。

となりますと、そもそも日銀が国債購入するときに直接引受を(償還乗換と一時的資金繰りによるFB引受を除いて)行わないようにしているのっていうのは、「直接引き受けをすると市場による価格調整機能が効かなくなる為に、財政規律や財政への信認に対する市場の警告(炭鉱のカナリア的な奴)が届かなくなってしまう」というのを問題視している、という元々の理屈からすると、政策的に金利低下を促すというのもこれまた程度問題であって、短国のように市場が壊れてしまえば何のために市場買入をしているのか訳が分からん状態になってしまう訳で、同じことが中長期国債で起きたらどないしますねんというのはあると思います。


とまあアタクシの余計なのが長くなりましたが木内さん(と思われる人)の提案内容。


『そのうえで、この委員は、@マネタリーベースと長期国債保有残高の増加ペースを、段階的減額を視野に入れて、「量的・質的金融緩和」導入時を下回る水準まで減額すること、A「物価安定の目標」の達成期間を中長期へと見直すとともに、金融面での不均衡など中長期的なリスクにも十分配慮した柔軟な政策運営のもとで、早期に「量的・質的金融緩和」の終了や金利引き上げに向かうのではなく、資産買入れ策と実質的なゼロ金利政策をそれぞれ適切と考えられる時点まで継続するとの表現に変更すること、などを主張した。』

というのが木内さんの提案ですが、この提案の骨子としては「2年間で2%を達成」というような目標で極端な政策を実施するのは無理がある。だから中長期的に持続可能な政策を実施すべきであり、そのためには緩和「拡大」のペースを緩めていくべきで、その代わりに資産買入を無理のない範囲で継続しながらゼロ金利政策もより長期的に継続していきましょう。とまあそんな話ですよね。



とまあこの説明に対して今回も反対が同じように出ているのですが・・・・・・・・・・・・


・木内さんの提案内容を理解しようとしないで反論するメジャー殿堂級の馬鹿が政策委員会にいるんだが

『これに対し、何人かの委員は、消費者物価上昇率が0%程度で推移するなど2%の「物価安定の目標」に向けてなお途半ばである現時点での減額開始は、政策効果を大きく損なうとの見方を示した。』

まあ「期待に働きかける」という面もあるのだからこの反論は分かる(でも「減額開始」じゃなくて「増額ペースを下げる」だと思うけど)が、この後が酷い。

『複数の委員は、現状、金融面での不均衡や金融緩和の副作用を示す理論や事実に基づく具体的な根拠はないと述べた。』

>複数の委員は
>複数の委員は
>複数の委員は

ちょwwwwwwwwwwこの前まで「金融緩和の副作用を示す理論に基づく根拠はない(キリッ)」は1名だったのに(6月議事要旨をご覧ください)今回「複数」になっているんだが大丈夫か政策委員会。

『このうちある委員は、減額開始が金利の急上昇や実体経済の悪化を招くおそれがあるほか、金融政策の遂行に当たっては、日本銀行の収益よりも、物価安定の実現という政策目標を優先すべきであると付け加えた。』

この短いまとめに色々とツッコミをしたいのですが、そもそもマネタリーベースの量に意味があるという置物リフレ理論が正当なのであれば、木内さんの主張は「買入残高拡大ペースを落とす」と言っているだけであり、別にバランスシートを今減らすと言っている訳ではないので、何でそれによって実体経済の悪化が起きるのかの「理論や事実に基づく具体的な根拠」を出して頂きたいものです。

でまあ更に間抜けなのは「日本銀行の収益よりも〜」云々の所で、木内さんの論点は「金融政策と財政政策の役割分担の中で、国債買入といえどもその額が巨大になれば金融政策の矩を越えて財政政策に入ってしまうリスクが高まるが、中央銀行が結果として財政政策となるような行為を行って良いのか」という所に持って行っている(と思われる)のに対して、単なる庭先論的なロジックに卑小化して反論するとかもう何だかねと。

まーそれ以前の問題として、大体からして置物リフレ理論だかマッカラムルールだか知らんけど直線(または対数曲線)一気理論以上の国債買入してるのに物価がコアコアでも1%割れなんですけど「政策目標を優先」は良いんですけど手段間違ってませんかねと思いますがね。

でまあここまでは前座で、一番のアレはここ。

『また、この委員は、短期間での「物価安定の目標」の達成が難しいと主張しながら、金融緩和スタンスを後退させるのは矛盾しているとも述べた。』

・・・・・・・・・・・・orz

えーっとすいません、木内さんは「短期間で目標達成が難しいから、中長期的に持続可能な金融緩和政策を実施しろ」と主張しているのであって、それを捕まえて「金融緩和スタンスを後退させる」と言って反論するのって「この委員」さんは木内さんの提案を全く理解してないでしょと思いますし、そもそもそういうの理解しないで意見が飛び交う政策決定会合って何なんだよとしか申し上げようがない。

先般ちょっとネタにした(文字起こしがめんどいので中々続編がでませんが)福井総裁時代の2005年前半の金融政策決定会合議事録(何度も申しあげますが「出口を意識しながらの議論」という意味では現在に繋がる論点が数多く見られるので量は多いですが読書を推奨します)での議論内容は、各委員の見解には結構な差がありましたが、ちゃんとインタラクティブな議論になっていたように見えるのですが、この議事要旨を見ていると木内さんの提案に反対する「ある委員」(まあ大体想像はつきますが)が何を言っているのかとか薄々想像するに頭がクラクラしてまいりますなマッタクモウ。

というか誰だこの「ある委員」を審議委員にしたのはと小一時間問い詰めたい。


#なお他のネタも少々あるのですが本日は悪態だけで時間と量を費消してしまったのでここで勘弁ということで(汗)

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2015/08/12

○金融経済月報も全然経済の見方が変わっておりませんな

何というかもうね。

http://www.boj.or.jp/mopo/gp_2015/gp1508.pdf(今回)
http://www.boj.or.jp/mopo/gp_2015/gp1507.pdf(前回)

・現状判断は声明文同様で住宅のみ上方修正。

『わが国の景気は、緩やかな回復を続けている。』(今回)
『わが国の景気は、緩やかな回復を続けている。』(前回)

『海外経済は、一部になお緩慢さを残しつつも、先進国を中心に回復している。そうしたもとで、輸出や鉱工業生産は、振れを伴いつつも、持ち直している。設備投資は、企業収益が改善するなかで、緩やかな増加基調にある。雇用・所得環境の着実な改善を背景に、個人消費は底堅く推移しているほか、住宅投資も持ち直している。この間、公共投資は、高水準ながら緩やかな減少傾向に転じている。』(今回)

『海外経済は、一部になお緩慢さを残しつつも、先進国を中心に回復している。そうしたもとで、輸出や鉱工業生産は、振れを伴いつつも、持ち直している。企業収益が改善するなかで、業況感は総じて良好な水準で推移しており、設備投資は緩やかな増加基調にある。雇用・所得環境の着実な改善を背景に、個人消費は底堅く推移しているほか、住宅投資も持ち直しつつある。この間、公共投資は、高水準ながら緩やかな減少傾向に転じている。』(前回)

もうめんどいので単に並べただけですが、ついでに念のため申し上げると業況感云々は声明文の時と同じで短観絡みの文言が入るか入らないかという話で特段のインプリケーションはありません。


・先行きも同じかよ・・・・・・・・・・

でもって先行きに項目別の話があるのは月報になるのでそこをみる。

『先行きについても、景気は緩やかな回復を続けていくとみられる。』(今回)
『先行きについても、景気は緩やかな回復を続けていくとみられる。』(前回)

まあここは声明文通り。

『輸出は、振れを伴いつつも、海外経済の回復などを背景に緩やかに増加していくと考えられる。国内需要については、公共投資は、高めの水準を維持しつつも、緩やかな減少傾向を続けるとみられる。設備投資は、企業収益が改善傾向をたどるなかで、緩やかな増加を続けると予想される。』(今回)

『輸出は、振れを伴いつつも、海外経済の回復などを背景に緩やかに増加していくと考えられる。国内需要については、公共投資は、高めの水準を維持しつつも、緩やかな減少傾向を続けるとみられる。設備投資は、企業収益が改善傾向をたどるなかで、緩やかな増加を続けると予想される。』(前回)

全文一致ェ・・・・・・・・・・・

『個人消費は、雇用・所得環境の着実な改善が続くもとで、引き続き底堅く推移するとみられる。住宅投資は、持ち直しを続けると予想される。以上の内外需要を反映して、鉱工業生産は、振れを伴いつつも、緩やかに増加していくと考えられる。』(今回)

『個人消費は、雇用・所得環境の着実な改善が続くもとで、引き続き底堅く推移するとみられる。住宅投資は、持ち直していくと予想される。以上の内外需要を反映して、鉱工業生産は、振れを伴いつつも、緩やかに増加していくと考えられる。』(前回)

住宅投資の表現が持ち直しを「続ける」になっただけで全然変更が無いんですがこれは。

・・・・・・・・・てな訳ですので、そらまあ黒田総裁の会見が暖簾に腕押し糠に釘になるのも致し方ないというところなのですが、もうこの楽観日銀シナリオがコケる話になった時どうするんだという感じでして、特に先ほどのPBOC輸出ドライブキターとか大丈夫か日本の輸出というような話とかがねえなどと思ったり。たぶん供給要因(昨日はOPECの生産が過去数年間のピークになっているとか出てたですけど)で原油価格が下がる分には首の皮一枚繋がる話だし、堂々と物価後ずれの言い訳が出来るのですけれども、そんなことより経済見通しの方が。


・なおその後も全文一致です

リスク要因以下は全文一致なのだが一応貼っておきます。この辺りは改行位置まで完全一致なので貼っているうちにどっちがどっちだか分からなくなる(まあ入り繰りしても結果は同じなのですけれどもね!!!!!)というだまし絵状態。

『この間、リスク要因としては、新興国・資源国経済の動向、欧州における債務問題の展開や景気・物価のモメンタム、米国経済の回復ペースなどが挙げられる。』(今回)
『この間、リスク要因としては、新興国・資源国経済の動向、欧州における債務問題の展開や景気・物価のモメンタム、米国経済の回復ペースなどが挙げられる。 』(前回)

『物価の現状について、国内企業物価を3か月前比でみると、国際商品市況の動きを反映して、横ばい圏内の動きとなっている。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、0%程度となっている。予想物価上昇率は、やや長い目でみれば、全体として上昇しているとみられる。』(今回)

『物価の現状について、国内企業物価を3か月前比でみると、国際商品市況の動きを反映して、横ばい圏内の動きとなっている。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、0%程度となっている。予想物価上昇率は、やや長い目でみれば、全体として上昇しているとみられる。 』(前回)

『物価の先行きについてみると、国内企業物価は、国際商品市況の動きを反映して、当面、横ばい圏内で推移するとみられる。消費者物価の前年比は、エネルギー価格下落の影響から、当面0%程度で推移するとみられる。』(今回)

『物価の先行きについてみると、国内企業物価は、国際商品市況の動きを反映して、当面、横ばい圏内で推移するとみられる。消費者物価の前年比は、エネルギー価格下落の影響から、当面0%程度で推移するとみられる。』(前回)


ということで、まあ足元の状況とか全て一時的で基調判断に影響を与えるような話でもないし、ましてや先行き見通しに影響って何ですかそれ???というような状態であるということで、いいのかその認識でというのはありますが、まあ現状の日銀はそういう事だというのを確認する金融経済月報なのでありましたとさ。

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2015/08/10

○決定会合レビュー:声明文が全然変わらないのが今回のポイントその1

まずは声明文である。

http://www.boj.or.jp/announcements/release_2015/k150807a.pdf(今回)
http://www.boj.or.jp/announcements/release_2015/k150715a.pdf(前回)

・現状判断が変わらないのが今回のトピックではある

まずは声明文現状判断。

『わが国の景気は、緩やかな回復を続けている。』(今回)
『わが国の景気は、緩やかな回復を続けている。』(前回)

総括判断が同じなのはわかる。

『海外経済は、一部になお緩慢さを残しつつも、先進国を中心に回復している。そうしたもとで、輸出や鉱工業生産は、振れを伴いつつも、持ち直している。』(今回)
『海外経済は、一部になお緩慢さを残しつつも、先進国を中心に回復している。そうしたもとで、輸出や鉱工業生産は、振れを伴いつつも、持ち直している。』(前回)

海外経済、輸出、生産ともに不変とな。

『設備投資は、企業収益が改善するなかで、緩やかな増加基調にある。』(今回)
『企業収益が改善するなかで、業況感は総じて良好な水準で推移しており、設備投資は緩やかな増加基調にある。』(前回)

設備投資に関する文言の変化ですが、前回は日銀短観が出た直後の会合になりますので、短観で示された業況感に関する説明が入っているので変化したように見えますが、判断は「緩やかな状況基調」「企業収益が改善」とありますので設備投資に関する判断に変更はありません。

『雇用・所得環境の着実な改善を背景に、個人消費は底堅く推移しているほか、住宅投資も持ち直している。この間、公共投資は、高水準ながら緩やかな減少傾向に転じている。』(今回)
『雇用・所得環境の着実な改善を背景に、個人消費は底堅く推移しているほか、住宅投資も持ち直しつつある。この間、公共投資は、高水準ながら緩やかな減少傾向に転じている。』(前回)

ということで今回現状判断が変更になったのは住宅投資の部分で、「持ちなおしつつある」→「持ち直している」に変わっておりまして、ここの部分が上方修正になっていますが、消費に関しては何ら判断を変えていないのがチャーミング。

『また、わが国の金融環境は、緩和した状態にある。物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、0%程度となっている。予想物価上昇率は、やや長い目でみれば、全体として上昇しているとみられる。』(今回)

『また、わが国の金融環境は、緩和した状態にある。物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、0%程度となっている。予想物価上昇率は、やや長い目でみれば、全体として上昇しているとみられる。』(前回)

金融環境の話や物価の話は前回比変わらずです。


・先行き見通し

『先行きのわが国経済については、緩やかな回復を続けていくとみられる。消費者物価の前年比は、エネルギー価格下落の影響から、当面0%程度で推移するとみられる。』(今回)

『先行きのわが国経済については、緩やかな回復を続けていくとみられる。消費者物価の前年比は、エネルギー価格下落の影響から、当面0%程度で推移するとみられる。』(前回)

そらまあ現状の見方がほぼ変わらないのですから先行き見通しは変わらんわなという話でございますが、金融経済月報でどういう記述があるのかは確認したいものであります。


・リスク要因、最終パラグラフ等

『リスク要因としては、新興国・資源国経済の動向、欧州における債務問題の展開や景気・物価のモメンタム、米国経済の回復ペースなどが挙げられる。』(今回)
『リスク要因としては、新興国・資源国経済の動向、欧州における債務問題の展開や景気・物価のモメンタム、米国経済の回復ペースなどが挙げられる。』(前回)

ここも変わらんですねえ。

『「量的・質的金融緩和」は所期の効果を発揮しており、日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「量的・質的金融緩和」を継続する。その際、経済・物価情勢について上下双方向のリスク要因を点検し、必要な調整を行う(注2)。』(今回)

『「量的・質的金融緩和」は所期の効果を発揮しており、日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「量的・質的金融緩和」を継続する。その際、経済・物価情勢について上下双方向のリスク要因を点検し、必要な調整を行う(注2)。』(前回)


ということで、この辺に関しては相変わらずですし、木内さんの提案およびその否決というのもまたまた同じという毎度の展開でありました。


・ということで声明文方面のネタとしては「足元の状況を見事にスルーしている」ことですよね

詳しくは今日やりますが総裁会見ネタのニュースでも。

http://jp.reuters.com/article/2015/08/07/kuroda-boj-idJPKCN0QC0U920150807?sp=true
Business | 2015年 08月 7日 18:25 JST
物価目標達成時期、原油次第で後ずれ=黒田日銀総裁

ということで総裁会見では当たり前ですが「足元で2QのGDPがマイナスになったり、消費が弱かったり輸出の先行きにも中国経済などの怪しげな材料がありますけど如何お考えで?」という質問が割と打ち込まれていた(話半分くらいしか聞いてないけど)のですが、黒田総裁の答えが物の見事に暖簾に腕押し糠に釘状態でありまして、「お前らの話を聞く耳は持たん、偉大なる政策委員会様で出した見通しとその議論はここに書いてある通りだし議事要旨出すからそれを見れば分かるだろう」と言わんばかりの調子でお話をしている辺りが実に心を温かくするものでございます。

つまりですな、足元消費が微妙だったりしている点などのように「所得から支出への前向き循環メカニズム」とやらが本当にワークしているのか大丈夫か、とか、7月くらいから実質所得プラスの効果が出るとかいう話だが物価が見通し通りに上がったら結局どうなるんでしょうねえ、とかまあその手の指摘に関しては全て「足元の弱含みは一時的なので回復しますよ」という話で一点張りとなっておりますというのが今の状況。

ということはですな、足元の弱さに関してこれが一時的ではない。ということになりますと現在盛大に突っ張っているシナリオそのものがいきなり足元で瓦解する話になる訳でして、日銀執行部様におかれましてはどう申し開きをするのか、となりますと申し開きをするのか追加緩和をするのかという話になってしまいますな、うんうん。


とは言いましても、追加緩和するにしたってタマが無いですし、政策の全面的な差し替え(量のターゲットから金利に切り替えみたいなもの)をしようにも2%物価水準の到達時期を2016年度前半と言っているだけにこのタイミングで差し替えは無理がある(組み換えをするなら2016年度が見えてくる時期でしょうどう早くても)ので、どうしようもなくなるまでは強気の姿勢を崩さないでいて、最後の最後に予告なくいきなりポッキリ切れるというパターンが予想されるので、まー基本追加緩和無いでしょうし、10月展望レポートは楽勝で粘ってくるとは思いますが、一応「現実に押し込まれて日銀突如降参モード」というリスクは考えておく必要はあるでしょうね。


○決定会合レビューその2:決定会合日程キタコレ

重要法案審議によってこちらが出るのが遅くなりましたな。

http://www.boj.or.jp/announcements/release_2015/rel150807c.pdf
2015 年 9 月〜12 月の金融政策決定会合等の日程
2016 年の金融政策決定会合等の日程


・会合日程をFOMCと比較

1 月 28 日(木)・29 日(金)
3 月 14 日(月)・15 日(火)
4 月 27 日(水)・28 日(木)
6 月 15 日(水)・16 日(木)
7 月 28 日(木)・29 日(金)
9 月 20 日(火)・21 日(水)
10 月 31 日(月)・11 月 1 日(火)
12 月 19 日(月)・20 日(火)

1・4・7・10が展望レポートシリーズですな。


それではFOMCの日程を見てみましょう。

http://www.federalreserve.gov/monetarypolicy/fomccalendars.htm#24561

January 26-27
March 15-16*
April 26-27
June 14-15*
July 26-27
September 20-21*
November 1-2
December 13-14*

日程を単純に比較すると、1月、4月、7月と展望レポート出す回4回のうち3回がFOMCの後、10月はFOMCよりも前という形になっているので、表ローテでは追随率4打数3安打という形になっております。

でもって中間レビューに関しては6月、12月がFOMCの後、3月が前で9月は同日なので時差の関係上日本が先、となって裏ローテでは4打数2安打となって、まあ何でもかんでもFOMCの後というとコバンザメとかフリーランチとか悪態をつかれるところですので、(コバンザメ上等だと思うけど)裏ローテの方で少し格好をつけてトータルでは追随率8打数5安打と、何となく何でもかんでも追随しているように見せない、という辺りが見栄っ張りというか形式だけは整えに行くというアレな根性炸裂という所かと大変に微笑ましい。


まーそもそも論として、米国様の場合は上記日程表にアスタリスクがあるタイミングがSEPと総裁のプレコンが用意されている訳でして、そもそも論として表ローテ裏ローテ言いましても、こっちの表ローテと向こうの表ローテのタイミングがずれておりますので、そういう意味では後先をそこまで考える必要が無いのかもしれませんね!!!!!!!!

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2015/08/04

○2005年5月の「なお書き修正」における提案とやや別の意見を鑑賞してみましょう(夏休み企画ではありません)

2005年5月20日の金融政策決定会合議事録である。
http://www.boj.or.jp/mopo/mpmsche_minu/record_2005/gjrk050520a.pdf(無茶苦茶重いので注意)

なお書き修正の提案をした須田さん、それよりも当座預金残高目標の引き下げだよと言ってる水野さん(ちなみに当預目標引き下げは最初に提案で出てきたのは福間さんなのですが発言順が水野さんだったので)の見解をまずは鑑賞しましょうという月初だけど夏休み企画チックな企画。


なお、上記URL先の議事録をアタクシが人力タイプ打ちしているものでありますので、タイプミス等が存在する可能性がありますので、内容については原典をご確認されることをお勧めいたします。


・須田さんの「また書き」提案はまあ鉄砲玉として説明

本文103ページ以降になります。

須田委員

『6月初の大幅資金不足局面での金融調節についてだが、オペ残高という面では3月初程ではないにしても、資金需要がより一層後退しているもとでかなり積上げなければならないうえ、3月初のように大幅不足日を過ぎれば直ぐ資金余剰に転ずるのではなく、その後も2週間程度不足試合が続くということなので、オペ環境はより厳しいとのことである、こうした状況を目前にして今回なにがしかの手を打つ必要があると考えている。』

ということで・・・・・・・・・・

『まずは、残高目標を達成しやすくするために手形オペの長期化や長期国債の買切オペ増額など、オペ手段を用意することが考えられる。しかし、金融システム不安が後退し、資金需要が減少していくもとで、このようなオペ手段を少々拡充しても他の短期オペの札割れが増加するために目標をずっと維持し続けることはできないと思われる。』

ここは実際問題として少々微妙なのですが、短いオペだと札が入り難かったり、本店オペだと札が入り難かったりしていたのは確か。

『目標達成のためにオペをどんどん長期化すると、昨日の説明にあったように日銀のバランスシートの資産の固定化が進み、機動的な金融調節が阻害されることになる。』

この瞬間に10年後にタイムスリップしたらびっくりするでしょうねえ、というか須田さんにしろ次の水野さんにしろ今の状況(日銀バランスシートとかの)については結構ケチョンケチョンに言ってましたなそりゃ。

『金利形成をより一層歪めることになることは言うまでもない。』

10年後の全債券市場が泣いた。

『勿論、これまでターゲットレンジの引き上げを追加緩和と説明してきたこともあって、量を減らせば引締めだと受け止められる可能性があるので、現在のターゲットを維持し続けることにメリットがないとは言わないが、量のターゲットを削減しても量的緩和政策のコミットメントは守るということをしっかりと理解してもらえれば、このようにオペを拡充してまで残高目標を死守することはメリットよりもデメリットの方が大きいと判断している。』

こういう議論に対してインチキだのと悪態をつきまくっていた(ついでに言えば超場末での発言だったせいもあって悪態成分が極めて高い)のが10年前のアタクシだが、メリットデメリット論はともかく、「拡大するときには量に意味があると言っていたのに急に変わるとは何事ぞ」というのは何気に芸風であるという点は注意しましょう。

『オペ手段の拡充を採らない場合の対応としては、今後も含めた資金需要の減少の可能性に注目すると、上限・下限の両方を引き下げる、ないしは下限のみを引き下げるといった当座預金残高目標の引き下げが考えられる。ただ当座預金残高目標の上限と下限の両方の引き下げは、市場に「引き締め的である」と受止められる可能性は排除できない。』

そら拡大を緩和と言ったら引締めでしょ。

『「今回の引き下げは資金需要の減少に合わせた技術的なもの」と説明しても多数の納得が得られず、批判にさらされる可能性がある。一方、一昨年10月の政策変更を思い出して頂きたいのだが、あの時は「金融調節の柔軟性を高め、流動性供給面から機動的に対応する余地を広げる観点から」。ターゲットレンジの上限のみを引き上げた。今回同じ理由で逆方向の修正は可能かもしれない。少なくとも、上限・下限の両方を引き下げるよりも「技術的な」色彩が強くなる。もっともターゲットレンジを修正することに変わりはないし、一昨年10月の変更も「緩和」との受止め方が多かったように記憶しているので、下限のみの引き下げの場合でも市場が「引締めである」と受止めることは回避できず、批判される可能性は残る。』

いやー増やす度に俊ちゃんは緩和であるかのごときイカサマ説明をしていましたからねえ。

『いずれにしても、こうした批判の強さはその時の経済・金融環境によると考えられるので、こういった当座預金残高目標の引き下げは景気回復が明確になるなど、経済・金融環境とその見通しが良い場合に限られるように思う。』

ここが出口政策を意識した場合との兼ね合い、という話になるのですが、より出口政策を重視している水野さんはもっと踏み込んだ形での意見を述べています。

『現状はIT関連分野の在庫調整が終了していないうけ、輸出が本格的に持ち直しておらず、その裏にある海外経済の下方リスクが市場で注目されており、またヘッジファンドやGM、フォード問題や人民元の先行きなどについて市場がかなり神経質な地合いにあるので、このような変更は多くの人々に受入れられにくいと思っている。』

『従って、当座預金残高目標を引き下げずに、当面のオペ環境の悪化を乗り切る方法を考えてみると、まず考えられるのが30〜35兆円程度の「程度」を利用する方法である。もっとも、「程度」は1日か2日のうちに30〜35兆円に戻るというイメージを持っているので、3月初と異なり大幅資金不足日の後、暫く不足地合いが続くと想定される今回は「程度」で乗り切ることに違和感がある。』

実際はそこまで大きく割った訳ではないのですが、まあそこは結果論な面はあるけど、実際問題としてその前までは色々なテクニックを駆使して30兆円を死守していたのにここの税揚げで急に無理とか言い出すのはだいぶイカサマな気がします、というかイカサマケシカランと悪態を盛大についていましたけど。


『そうであるならば、札割れが多発しオペ環境が悪化した場合などの条件を付けてターゲット下限割れを認める方法、つまり、なお書きを修正する方法が考えられる。これまでの上限を許容するなお書きの適用状況を見ると30営業日以上、なお書きを利用したケースが2例ある。なお書きであれば「条件次第で暫くの間は目標買いを認める」と受け取ってもらえると思う。勿論、無理なくオペができるようになれば30〜35兆円程度に当座預金残高を戻せば良いと思うし、実際今回はそれが可能だと思う。まさに「技術的な対応」である。こうしたなお書きを利用することにより、一時的にオペ環境が悪化した時に無理なオペの実施を求めないことで金利機能をこれ以上壊さないようにしつつ、十分な金融緩和の環境を維持することができるのではないだろうか。』

「市場機能論」に関しても当時の実感としては何をおためごかしなことを仰るという感じではありましたが、説明をしだすとこういう事になるのよね。

『なお、なお書きの利用にはディシプリンが必要だと思う。また、そうした状況の中で資金需要のより一層の低下もあって、仮になお書きの適用期間が長くなった場合には、経済・金融環境にもよりが当座預金残高目標を現状追認的に調整することも可能になるのではないかと思う。したがって、次回の金融政策決定会合までの金融政策運営についてだが、現状の金融市場調節方針の後に先程申し上げたような趣旨のなお書きを追加してはどうかと思っている。この件については是非皆さんのご意見をお聞きしたいと思う。以上である。』

まあこの時は須田さんが鉄砲玉みたいな状態になっているのですが、対外説明的には「技術的対応」だし、昨日引用したように俊ちゃんは「とことん」供給するとか言ってましたが、実際問題としては最初から割る気満々で、それよりも出口からの逆算的な発想があったんでしょうなあというのが水野さんの意見に見られます。


・水野さんの「出口からの逆算で出口政策への着手が必要」という話

106ページからで、こちらはネタにする際に適当に切って(ただし全文引用しています)おりますが、水野さんの議事録部分で思わず笑ってしまったのは、他の審議委員の場合議事録の中の見解部分が適当に段落わけされているのですが、水野さんの意見部分は約3ページ分に渡って延々と1段落で構成されていることでして、何となく光景が目に浮かばんでもない(^^)。

水野委員

『まず、当預残高目標の引き下げを巡る議論を4か月間してきて、その議論を議事要旨によって最初にマーケットに情報発信したのが1月24日であるから、そろそろ何らかの結論を出さないとならない時にきているのではないかと思っている。今回の決定会合は内外で相当注目を集めている。私自身は一応の決着を付ける方向で議論をさせて頂きたいと考えている。』

ほほう。

『それから当預残高目標の引き下げについては、前回までの決定会合でコメントしてきたとおり、短期金融市場、債券市場では既に織り込まれていると思う。勿論、一部には当預残高目標を引き下げる理由の説明が不十分だという声はあるが、私がヒアリングしている限り、当預残高目標の引き下げが金融引き締めではないという考えは市場参加者の間では受入れられていると感じている。』

なお拡大を緩和と言っていたのに引き下げが引締めではないというのはおかしいと悪態をついていたのがアタクシとか本石町日記さんとかだったりするのですが。

『総裁をはじめボードメンバーの皆様から当預残高目標の引き下げは。資金需要の減衰に対応した受身的な対応であって金融引き締めではないという我々の考えを時間を相当掛けて説明してきたので、事前の説明責任を十分果たしたのではないかと私は考えている。前回の金融政策決定会合以降、特に金融経済情勢に大きな変化はないため、今回も上下限とも3兆円または5兆円程度引き下げた方が良いと考えている。皆さんの議論を聞いた後最終的に結論を出したいと思うが、資金需要の減退に対してどのように対応するのかという問題について、ゼロ回答は避けた方が良いというのがまず第一点である。』

という受身的な対応という形で当預引き下げという話をしているようなのですが・・・・・・・・・・

『一時的に下限割れを容認するディレクティブを併記する話については、この運用の仕方如何では目標引き下げと同じ効果を得られるとおもうが、執行部に対するオペのディレクティブとして分かりにくさを含んでいるので、賛成には若干躊躇するところがある。』

結局反対しています。

『私自身は当預残高目標の引き下げはある程度前倒し的に実施した方が良いと思っており、それは量的緩和政策の出口までのプロセスは時間が掛かると考えているためである。当預残高目標の引き下げと景気判断をリンクさせることは美しい姿であると思う。しかし、今後量的緩和政策を最終的に解除する時点のみならずゼロ金利状態からプラスの金利になるまでの非常に長いプロセスを私は念頭に置いているのだが、当預残高目標は数回に亘って引き下げる必要があるため、景気動向と関連付けて説明するのは私は取りがたいのではないかと考えている。』

ということで、出口の時点から逆算して当座預金残高を下げようという話で、フォワードルッキングに対応するというお話ではありまして、これ結果的に出口に出れたので良かったのですが、ではフォワードルッキングに出口対応を段階的に行うとは、という話になった場合に、その途中でシナリオがコケた場合にどうなるのかとか、まあ色々とややこしい論点を含む話ではありますし、米国が今行っている正常化プロセスもエライちんたらとやっていますが、結局の所規模が未曾有の為にチンタラとやらざるを得ない面がある一方で、チンタラ実施すると今度は景気サイクルにぶつかってしまうとか、まあ出口政策を真面目に考えると本当はヤヤコシイ論点がいっぱいある訳で、今の日銀は何を考えているんでしょうねえというのは非常に気になるところです。


『別の話として総裁から先週金曜日に講演でお話があったが、量的緩和というのは大きく分けて二つの要素から成り立っていると私もそう思っていて、因数分解と前も言ったが、量の効果と時間軸効果に分かれる。バイ・デフニションであり、当然反論がある程度は予想されるが、説明という点では、当預残高目標の引き下げは時間軸の効果を減退させずに量の効果の部分についてある程度調整を加える措置であるとすれば良い。』

つまり量は流動性需要が高い時(金融システムに問題があるようなとき)に効果があるが、流動性需要が充足された後の量には単体では意味がない、という話で、そらまあ現実はそうだったのですが、俊ちゃんの説明が当初からずーっとそこのフィクションを大真面目に説明していたので、要は出口に着手した後に戻さないといけない事態が起きた時にこのロジックだと追加緩和のタマが無くなるので着手するときの判断も難しい、ということで「技術的対応」を強調する結果になったのでしょう。

『その説明をまだ理解していない一部の市場参加者、政府、あるいは国民の方々に対してはなお説明をしていく必要があると思うが、量的緩和政策は、金融システム不安があった時には絶大の効果があったとまず説明する。そのうえで、金融システム不安が後退した現状では政策効果の発現の仕方が当時とは異なってくることは自然であり、その政策に対してある程度の調整を加えることもその枠組みを長く続けるうえでは必要な措置ではないかと説明するのだと思う。』

QQEでもマネタリーベースの量の話をしなくなっていますがこれは・・・・・・・・・^^;

『繰り返しになるが量的緩和策の出口はある一時点と捉えている方がまだマーケットの中にも多いが、恐らく数か月間という期間、場合によっては1年近く掛かるプロセスと私は捉えている。簡単に言うと、当預残高目標を引き下げるプロセス、無担保コール翌日物金利をゼロ近傍に維持しながら短期金融市場の回復を待つプロセス、中立的な短期金利水準まで短期金利を上げるプロセスに分かれる。それぞれのプロセスに3か月から6か月掛かり、全てのプロセスを1年位掛けて行うことになるため、展望レポートで一応蓋然性が高いとした2006年度に量的緩和政策の枠組みを変更することから逆算していくと、もうそろそろ動き出さないと間に合わないのではないかと思う。そのようなことも念頭に置いて前回は福間委員の提案に賛成した。』

『また、金融政策のノーマライゼーションというキーワードで世界中が動いていると思うが、我々、量的緩和政策という非常に厄介な政策の枠組みを取っているので、先程も言ったようにある程度スケジュール感を持っておく必要がある。そしてノーマライゼーションの期間は非常に長いため、色々な外的ショック、例えば人民元の問題、アメリカ経済のソフトパッチの問題、景気の循環についてボードメンバーの間である程度議論を深めていく必要があるかなと考えている。』

実際問題として今この件で色々とどうしたもんか状態なのがFEDなのでしょうが、日銀の方がやっていることが凶悪なので実際はもっと悩まないといかんのですが悩んでいる節が黒田節を聞いていると見当たらないのがアレ。

『最後に説明責任という言葉をよく民間の方が使って、当預残高目標の引き下げに関して説明責任を果していないではないか、デフレ克服を政府と一体となってやると言ったではないか、と言う。しかし、あるメディアの方に私は言ったのだが、字句の説明責任と真の説明責任は違う。今まで言ったことと一字一句異ならない説明をすることが説明責任ではない。私は本来セントラル・バンカーのあるべき説明せ金とは自分が採る政策の目的と結果について明確に述べて、かつ説明責任を問われた時に責任を取る自信があると言えることが説明責任だと思っている。』

『量的緩和政策の枠組みを考えてみると、30〜35兆円という目標をあくまでも維持するということが説明責任を果たしているのではない。物価と金融システムの安定、持続的な景気回復に加えて、想定される副作用の最小化、をできる限り満たす適切な当預残高目標をボードメンバーで責任を持って決定していくことこそが必要ではないかと考えている。以上である。』

なおこれが全部一段落で書かれております。なお説明責任云々は2005年6月2日の講演でも説明していますが、まあ出口から逆算でフォワードルッキング、というのならこれはこれで御尤もなのですが、ただまあ2003年9月にコミットメントの強化として「3条件」を提示しただけに、このフォワードルッキングで出口に向かって準備というのはいわゆる時間的整合性の問題ってどうよ的な突っ込みもあって(というかそういう論旨でアタクシ悪態ついていたはず)、出口におけるロジックいじりっていうのはその前のロジックなりコミットメントなりを強烈に作ってしまうと非常に難しい問題となり、結果として出口政策を困難にするんでしょうなあ(この時は結局俊ちゃんのインチキパワーでロジックが常にテキトーに煙に巻かれていた感があってそのキャラで誤魔化しきった感は強い)と思うのですよ。

また現在のFEDの話に戻りますが、FEDの場合やっていること自体は色々と派手だったのですが、背景のロジックは結構雑でした(というか自分からあまり説明しない)し、途中でガイダンス文言を巧みにいじった挙句に外すとか、コミットメントをうまい具合に形骸化することに成功しているので、今の所まあ上手く行っているように見えますが、それはそもそも政策の効きとの兼ね合いで長く引っ張っても無問題の政策をやっているせいなのかも知れませんし、構造的なトレンド成長率の低下によって物価が上がりにくいというのが効いているのかも知れませんな。結局よくわからんが。

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2015/08/03

○あまりニュースネタにされていないが今回公表の議事録群こそ熟読すべきであるという事で夏休み企画チックの議事録ネタ

なお駄文の中の人の夏休みは既に終わっているので来週から来ると想定される夏枯れに向けた話でもあったりするとかいう指摘をしてはいけません(^^)。

http://www.boj.or.jp/mopo/mpmsche_minu/record_2005/gjrk.htm/
金融政策決定会合議事録等(2005年1月〜6月開催分)

日本は議事要旨と議事録できますけど米国もminutesとtranscriptは別のものになりますので、いちいちアタクシ「議事要旨」というのはそのせいでございます。どうでもいいけど。

でまあインデックスはこちら
http://www.boj.or.jp/mopo/mpmsche_minu/record_2005/index.htm/

金融政策決定会合議事録 2005年


『金融政策決定会合議事録等の公表にあたっては、「金融政策決定会合議事録等公表要領」の規定に基づき、原則として、以下に掲げる非公表とすべき情報が含まれる箇所を除き、全て公表しています。

イ. 個人に関する情報
ロ. 法人に関する情報*
ハ. 外国中央銀行、外国政府及び国際機関等に関する情報であって公表することにより当該外国中央銀行等との信頼関係が損なわれるおそれのある情報

*集計され、個々の法人のデータが特定されないもの(金融機関等から入手したデータを集計したものなど)については、基本的に非公表情報には該当しない扱いとしています。』

ということで出ているのですが、今回の期間は2005年の1月〜6月ということで、2004年1月に「景気判断を引き上げながら追加緩和」という謎にも程がある施策を実施してから1年が経過し、にわかに出口地均しモードになってきて2005年の5月の金融政策決定会合で「また書き」修正という非常にこうディレクティブが汚くなる施策が実施されました。

でもってこの「場合によっては30〜35兆円のディレクティブの下限を容認」というのを決定したと思ったらその直後の6月2日の税揚げでの財政資金不足の時に当座預金残高を29.1兆円水準に落として、本来なら長めのオペを打ったり短国買入をすればその1兆埋まるだろうという中で日銀はオペを打たずにそのまま30兆割れを容認するという攻撃をかましてきた次第(30兆割れは6月2日、3日の2日続いた)で、この時に「こんなのどう見ても出口前提の行動で技術的とかそういうしょうもない言い訳すんなやゴルァ!!」などと申し上げていたログは一応残っております(恥ずかしいからあまり見られても困るのですが2005年5月6月辺りですがな)が、そういえばこの時期は日銀がこうやって当座預金残高の下限割れを「技術的問題」と強調しているのに対して「出口地均しを技術的問題と言い出すのは何事ぞ」「そもそも量的緩和政策(当時)の時間軸コミットメント条件が達成できるかどうかの説明が全然合理的にできないうちに出口政策の地均しをするとは何事ぞ」というような感じで悪態ついていたら、今となっては信じがたいかも知れませんがいわゆるリフレ派の先生と同じような悪態をついているという状態だったりしてたんですよね。いやー懐かしい。

#ちなみにこの時に本石町日記さんの名言「人の切れ目が政策の切れ目」というのがあって、植田審議委員が退任したのが4月でそこから2回目の会合でこのまた書き修正が炸裂しているんですよね〜

とまあ年寄りの昔話になってしまいましたが(笑)、議事録って出るたびに基本的にベンダーとかのニュースネタになっていますが、この半年間って特段の政策変更も世間的には無かったという時期ですので、ニュースネタにあまり出てこなかったのですが、冷静に考えますとここの時期から2006年3月の量的緩和解除を展望した諸々の話が活発化している訳でして、そういう意味では日銀の方は人が全然違うし考え方も全然違うでしょうけれども、FEDはそれこそ出口モードになっている訳でして、そういう出口モードの中での政策運営に関する論点を考えるヒントというか示唆もあるんじゃないかと思うのですけどどうでしょうか。


なおご案内の通り、議事録は画像ファイルをPDFにしたという代物になっておりますので、ネタにする際には一旦文字起こしをしないといけませんで、おじちゃんが夜なべしてキーボードをヘコヘコ叩いて肩は凝るわ目は霞むわ腰は疲れるわとなりますので、ネタ出しもそんなに威勢よくできる保証はございませんのであしからず。

でもって、基本的に議事録から文字起こしをしているので、一応アタクシ作ったものを自己再鑑はしているつもりなのですが、何せオッサンの人力文字起こしなもんで、タイプミスなどもあるかもしれません。その場合はなにとぞご容赦頂きたく存じますとともに、ご指摘賜ると幸いでございます。



○2005年6月2日の当座預金残高30兆円割れはやはりわざとでしたな(知ってたけど)

http://www.boj.or.jp/mopo/mpmsche_minu/record_2005/gjrk050615a.pdf(無茶苦茶重いので注意)
2005年6月14、15日開催:議事録

冒頭に中曽金融市場局長(今の副総裁な)からの報告がありまして、そこの冒頭の方でしらっと30兆円割れの報告をしているのであります。議事録4ページの下半分辺りになります。

『この点に関して、6月2日の税揚げに向けたオペ運営について一言付け加えさせて頂くと、当座預金のターゲットの下限割れを防ぐ観点から、その時点で札割れが生じていなかった全店買入、あるいは短国買入を追加的に行う余地も考えたところである。』

でも打っていませんでした。

『しかし、全店買入については先程申し上げたように、既に通常の2倍のペースで実施していたということがあるし、これに加えて当面は6月半ば位まではダラダラ不足の地合いが続く。さらにその先についても、これも先程申し上げたが、埋めなくてはならない不足期がまた訪れる。』

そら6月は財政揚げ時期なんだからそうでしょ。

『そういったことを勘案すると、オペ先の需要を先食いし過ぎることは回避したいと考えた次第である。また、短国の買入については、既に過熱している市場で追加的に買入オペを行うのは、いわば火に油を注ぐのも同然というふうに考えて、やはり手控えることにした次第である。この結果、6月2日、3日の両日は一時的にターゲットの下限を割り込むことになった。』

まあどう見ても理由はおためごかしでして、30〜35兆円の当座預金残高に意味があるかの如き話をしながら以前は当座預金残高目標を拡大しながら「追加緩和」を標榜していたのに、また書き修正を行った途端に技術的な問題や需要が無いからというような説明で当座預金残高を割りに行くというプレイを演じていた件については、説明の非対称性とか、将来同じことをするときに信認無くさないかとか、まあそんな文脈でいちゃもんの限りをつけていた次第でした。

でまあ俊ちゃんの説明というのも毎度の歳ちゃんクオリティでして、また書き修正を行った決定会合での会見でこんな説明していたのよね。

http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2005/kk0505b.htm/
総裁記者会見要旨 ( 5月20日)
2005年 5月23日 日本銀行

『(問) 総裁は、最近、量的緩和政策の副作用についても言及をし始めていると思うが、金融システムが安定化する中で、副作用がさらに出てくる可能性があるのかということと、財務大臣が、最近、量的緩和政策に対して発言していたが、この発言が今回の決定に何か影響を与えたことがあるのかどうかについて伺いたい。』

『(答) 副作用について最近考え始めたとおっしゃったのは大変心外である。非常に深い緩和政策をやり続けている時は、常時、作用と副作用の関係を真剣に考え続けていると前々から申し上げている。しかも、それは紙の上にバランス・シートを書いてメリット、デメリットと判定できるほどスタティック(静態的)なものではない。実際、市場の中でオペレーションに入って、その手応え、市場の反応というものを感じながら、私どもがここまでオペに突っ込んだ時に市場の中に生じるデメリット、それが拡散していくデメリットというものをダイナミックに感じながら判定し続けていくというものである。従って、今回「なお書き」を設けて対応する場合にも、オペはとことんまでやるということであり、「とことん」という意味は、市場の中で市場機能を封殺する度合いがあまりに行き過ぎないかということを、現実にオペレーションをしつつ感じながら、ぎりぎりまで限界を追求する。』

中曽局長のあの説明はとても「とことん」だの「ギリギリまで限界を追及」には見えませんけどね!!!!!

『しかし結果としていくらかはみ出るリスクがあるから「なお書き」を設けた、ということである。動きながら判定しているということをご理解頂ければと思う。(後半割愛)』


『(問) 先程、「市場を見ながらオペをとことんまでやる」とのことであったが、経済情勢によっては「とことん」の部分が変わるのかどうか伺いたい。例えば、オペの期間について、6か月のオペはやるが、8か月のオペはやらないというような状況もありうるのかどうか伺いたい。』

『(答) 期間の短いオペに比べてより長いオペをやったからといって、「とことん」になったと理解されるほど、記者の皆さんは市場の取材者としてアマチュアではないと私は理解している。』

今見るとなんちゅう説明しているんだこのオッサンとしか思えん・・・・・・・・・(−−;

『あくまで、市場の機能との対比で、ダイナミックに物事を判断していくということである。』

良く良く考えたら「うちの判断で勝手にやるもんね〜」という説明ですが、「とことんやる」と言う方が当然のようにクローズアップして報道されていたという記憶しかないのが狸親父の俊ちゃんの恐ろしい所です。

『記者の皆さんの取材先の答えも常にそうであろうと思う。何か月のオペをやったから日本銀行は「とことんやった」なんていう、そんな単純な答えを出すマーケット・プレーヤーないしマーケット・アナリストはそれほどいらっしゃらないのではないかと思う。それほど市場調節というのは、その時々の市場条件の中における私どものオペが働きかける作用、それに対する市場の反応を見極めつつ判定していかなければならない。』

この次が凄い。

『「生きた市場」に対する私どもの「生きたオペ」というものは、答えも「生きた答え」ということであるから一律ではない。事前に一定の数字ないしパターンでもって判定できない性格のものである。』

何と言う凄いインチキ説明・・・・・・・・・・


でまあそういう説明をした後に上記のような結果になった訳ですな。ではこのまた書き修正に関してもどういう議論があったのかというのも面白いですし、この会合だけではなくその前の会合からの流れで出口政策を考えながらの議論が出ているのがこれまたいろいろと面白いのですが、時間と量(と文字起こしの在庫の^^)関係上2005年5月決定会合でのまた書き修正の論点部分は明日以降に続くのでありました(汗)。


・・・・・・・あ、そういえば肝心のまた書き修正とは何ぞやと言うのを抜かしておりましたが、日銀的にはこれは「なお書き修正」という形になっていまして、それは何でかというと当座預金残高目標に対して「なお書き」というのがあって、その文言を修正した、というのが形式的には言えるのでそうなっています。


http://www.boj.or.jp/announcements/release_2005/k050520.htm/
当面の金融政策運営について
2005年 5月20日
日本銀行

『日本銀行当座預金残高が30〜35兆円程度となるよう金融市場調節を行う。』

『なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。また、資金供給に対する金融機関の応札状況などから資金需要が極めて弱いと判断される場合には、上記目標を下回ることがありうるものとする。』


その前の声明文はこちら。
http://www.boj.or.jp/announcements/release_2005/k050428.htm/
当面の金融政策運営について
2005年 4月28日
日本銀行

『日本銀行当座預金残高が30〜35兆円程度となるよう金融市場調節を行う。』

『なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。』

ということで、「なお〜」の部分は必要な時には上限を上回って出すというのですから緩和期ではまあそうでございますな(ちなみにいわゆるペイオフ全面解禁が2005年4月だった筈)と思いますが、「また〜」以下は当座預金残高に意味があるとして引き上げを追加緩和と言っていたのに、また書き修正は技術的問題という説明になっていたのが実にこうアレですなあとは当時の方々はご案内の通りでしょうが、もっと若い衆の皆様には分かっていただけるでしょうかね????

#ということで年寄りの昔話シリーズは後日に続く

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2015/07/27

○日銀のペーパーネタ2題ほどだが頭がついていかないのでご紹介するから皆さん読んでちょ

ええまあ無学なもんで論文に計算式とギリシャ文字が出てくる時点でゲロゲロマーライオンになってしまいますもんでご紹介だけなのですけどね。


・均衡イールドカーブに関するペーパー(いまさらですが6/4のもの)

http://www.boj.or.jp/research/wps_rev/wps_2015/wp15j04.htm/
均衡イールドカーブの概念と計測

本文はこちら
http://www.boj.or.jp/research/wps_rev/wps_2015/data/wp15j04.pdf

本文最初およびHTMLの所にある『要旨』からまずは。

『本稿では、均衡イールドカーブの概念とその計測方法について解説する。均衡イールドカーブとは、単一の年限に限定されていた均衡実質金利の概念を、全ての年限に拡張したものである。実際の実質イールドカーブが均衡イールドカーブに一致していれば、需給ギャップはゼロに収束していく。』

『わが国のデータを用いた実証分析によると、過去の緩和局面では、短中期ゾーンを中心にイールドカーブ・ギャップ(実際の実質イールドカーブと均衡イールドカーブとの乖離)が拡大することで、緩和的な金融環境が実現していた。これに対し、量的・質的金融緩和のもとでは、短中長期全てのゾーンで、イールドカーブ・ギャップが拡大していることが確認された。こうした均衡イールドカーブには、伝統的な金融政策のみならず、イールドカーブ全体に働きかける非伝統的な金融政策においても、政策運営上の指針となることが期待される。』

ということではありますが、本文の序論部分から引用します。

『均衡実質金利は、景気を加速も減速もさせない中立的な実質金利である。実際の実質金利が均衡実質金利を上回ると、景気に対して引き締め的に作用し、下回ると緩和的に作用する。こうした性質をもつ均衡実質金利は、中央銀行が短期金利を操作する際の参照点と位置付けられ、Laubach and Williams (2003)など中央銀行関係者を中心に、様々な方法によって計測が行われてきた1。日本銀行でも、小田・村永(2003)や鎌田(2009)が、わが国の均衡実質金利の計測を試みている。』

『もっとも、近年の先進国では、特定の年限(例えば翌日物)の実質金利と均衡実質金利との金利ギャップから、金融環境の緩和度合いを評価することが難しくなっている。ゼロ金利制約に直面し、名目短期金利の低下余地が失われて以降、主要な中央銀行は、伝統的な短期金利コントロールからイールドカーブ全体に働きかける政策へと、軸足を移しつつある。当然、金融環境の緩和度合いを正しく評価するためには、単一の年限だけでなく、イールドカーブ全体の動きに注目することが必要となってくる2。』

『こうした問題意識のもと、本稿では、従来の均衡実質金利を拡張した、均衡イールドカーブの概念とその計測方法について解説する。均衡イールドカーブは、これまで単一の年限に限定されていた均衡実質金利を、全ての年限に拡張したものである。均衡実質金利が景気中立的な実質金利であるように、均衡イールドカーブは景気中立的な実質イールドカーブである。』

という中々チャレンジングなお話でして・・・・・・・・・・

『金利ギャップと需給ギャップとの関係を記述したIS 曲線から均衡実質金利を求めることができるように、均衡イールドカーブは、イールドカーブ・ギャップ(実際の実質イールドカーブと均衡イールドカーブとの乖離)と需給ギャップとの関係を記述したIS 曲線から求めることができる。具体的には、イールドカーブを3つの要因に分解し、各要因の均衡値からのギャップと需給ギャップとの関係を定式化する。』

引用ちょっと端折りまして、

『同趣の先行研究であるBrzoza‐Brzezina and Kot?owski、2014)と異なり、イールドカーブ・ギャップの形状に応じた景気感応度の違いや、均衡イールドカーブと実際の実質イールドカーブとの期間構造の違いを識別しながら、均衡イールドカーブを計測できることが、本稿のモデルの利点である。』

『本稿の構成は次のとおりである。2 節では、均衡イールドカーブの概念について、3 節では、その推計方法について解説する。4 節では、本稿のモデルをわが国のデータに適用したうえで、1990 年代以降の均衡イールドカーブとイールドカーブ・ギャップの動向について報告する。最後の5 節は結びである。』

という事で、以下お話があるのですが、最初のうちは計算式見ても概念的な話なのですが、後に来るとアタクシが泡を吹く話になっていますので頭の良い皆様に読んでくらはいという所ではあるのですが、頭の出来がアレなアタクシが読みまするに、要するに均衡金利の概念is需給ギャップがゼロになる点、という概念から、需給ギャップとイールドカーブの形状から後付で推計するというのが基本的な概念になるようですな、うんうん。

でまあ『4.実証分析』という所に飛びますと・・・・・・・・・・・

『前節で解説した推計モデルを、わが国のデータに適用する。DNS モデルとNYCモデルの推計に用いる観測データは、図5 のとおり、実質ゼロクーポン金利、需給ギャップと潜在成長率であり、サンプル期間は、1992 年第3 四半期から2014 年第4 四半期までである。』

何ちゃらモデル云々は本文見て下さいませという所ですが、DNSというのが動学的なネルソン=シーゲルモデル(何だか知らん)でNYCが均衡イールドカーブモデルだそうですお。

『具体的には、実質ゼロクーポン金利として、名目ゼロクーポン金利を「コンセンサス・フォーキャスト」の期間別インフレ予想で実質化した系列を採用する6。インフレ予想の調査対象期間が10 年先までに限られているため、10 年以降の予想については、6〜10 年先の予想で不変と仮定している。また、半期ごとの調査であるため、線形補間により四半期化している。』

まあモデル云々はアタクシ頭が悪いのでワカランチ会長ですが、前提にこういうのを置いてるのねというのが味わいがありまして、期間別インフレ予想で実質化すると言いましてもインフレ予想そのものが何ぼだか分からんのでここで既に置きが入っていますなと思いますが、将来物価安定目標が達成できていて中長期のインフレ期待が2%でアンカーされている、という風に見なすのなら実質化はそんなに難しくないのかも知れません。

とは言いましても、これインフレ期待が全期間にわたって2%でアンカーされているという状態になって居ない中でインフレ期待がアンカーされている、という認識で均衡イールドカーブがこうなりますおとか計算すると、その計測しにくいインフレ期待を(中央銀行の政策運営的に)都合の良い解釈をした結果推計にバイアスが掛かりそうな悪寒がしますな、というのは把握した。

『推計に使用した実質ゼロクーポン金利の年限は、1、2、3、7、10、20年であり、需給ギャップと潜在成長率は、日本銀行調査統計局による試算値である。』

でまあ需給ギャップと潜在成長率に関しても当然ながら計測に誤差があるので、これは逆に「こういう望ましい経済状態になっている場合の均衡イールドカーブが」というような「ロンガーランの均衡イールドカーブ」のイメージを出すのには良いのかも知れませんが、足元の状況を均衡イールドカーブで評価して緩和的か引き締め的かという議論をするには結構諸刃の剣な香りもしますな。

でまあその結果らしき部分ですけどね。

『わが国では、大手行の貸出残高のうち、Tibor などを指標金利とする変動金利貸出の割合が5 割を超えており、短期金利の影響を受けやすい経済活動の割合が半数近くに上ると推測される。この点を踏まえ、ω=0.5かつτ= 1年のφ(τ)が他の年限よりも十分に大きいと仮定すると、(10)式のベータ分布f1(・),f2(・)はそれぞれ、前掲図3(3)のように、τ= 1年にピークをもつ右下がりの分布と、τ= 5年にピークをもつ分布になる9。』

式がウダウダ出てくるのは勘弁してください、というかこれテキストに貼るときに一々補記しないといけないので死ねる。

『推計されたf1(・),f2(・)の形状からは、以下のことが推察される。まず、短期ゾーンでは、変動金利貸出の対象先を中心に、1 年の金利ギャップに対する感応度が突出して高くなっている。また、中長期ゾーンでは、固定金利貸出の対象先を中心に、景気の平均的な周期と符合する3〜5 年の金利ギャップに対する感応度が相対的に高くなっている。なお、それ以降の年限の感応度については、年限が長くなるにつれ、単調に減衰していく傾向が読み取れる。』

とまあそういうのが過去の推計値として出ているのですが、これってあくまでも過去の推計になるので、資金需要に対応するための市場動向とか、貸出とか銀行の資産保有に関する規制制度に変化が生じた場合に将来においても同じようになるのかというのも解釈に幅があるでしょうなと思います。蛇足かもしれませんがボルカールールだのバーゼル3だのとかで金融機関の行動に制約が強くなると、それだけで金融環境に対しては引き締め的に働く訳で、そういう制度面の変化が需給ギャップに対する金利の感応度とか適正水準についても変化をもたらす可能性ってどうなんでしょうかね。


でまあ折角ですので最後を引用しますね。

『本稿では、均衡イールドカーブの概念とその計測方法を紹介した。本稿のNYCモデルは、イールドカーブ全体の情報を勘案したうえで、イールドカーブ・ギャップの形状に応じた景気感応度の違いや、均衡イールドカーブと実際の実質イールドカーブの期間構造の違いを識別しながら、全ての年限について均衡実質金利を計測できることが利点である。また、イールドカーブ・ギャップからは、特定の年限だけでなく、イールドカーブ全体からみた金融環境の変化を捕捉することができる。』

『もっとも、金融政策の分析手段として広く浸透している動学的確率的一般均衡(DSGE)モデルなどの金融政策モデルや、テイラールールなどの金融政策ルールは、均衡実質金利の期間構造を想定していない。このため、全ての年限の金利情報を反映した均衡イールドカーブに対して、既存のモデルやルールを直接適用することができない。こうした既存のモデルやルールを均衡イールドカーブと整合的なかたちに拡張・一般化することは、理論的にも実務的にも重要なテーマだと考えられる。今後の課題としたい。』

ということで、従来は長期金利は知らんがなというのが中央銀行の基本スタンスだったのですが、こういう概念を出してきましたなという事で。


・この前ご紹介した家計のインフレ期待のアンカーがどうのこうのは最後の最後に味わいがあった件

http://www.boj.or.jp/research/wps_rev/wps_2015/wp15j06.htm/
家計の生活意識にみるインフレ予想のアンカー

要旨はこの通り。

『本稿は、家計のインフレ予想の性質と中央銀行による予想の安定化について考察する。家計のインフレ予想に関する個票データは、様々な歪みを伴っている。本稿では、正規逆ガウス分布を当てはめることによって、そうしたデータの歪みを除去する。こうして得られる分布は潜在分布と呼ばれ、その性質を調べることによって、家計のインフレ予想の特徴、特に、インフレ予想の期間構造的な関係性があぶり出される。』

『分析結果によると、長期のインフレ予想は、現実の物価動向に左右されにくく、逆に、短期のインフレ予想は、現実のインフレ率によって影響されやすいことがわかった。』

そらそうよ。

『また、本稿は、中央銀行の政策スタンスが家計のインフレ予想に、どの程度影響を及ぼし得るのかという点についても分析を行った。分析の結果、2013年に日本銀行が導入した物価安定目標や量的・質的金融緩和は、インフレ予想のアンカー強化に寄与したことが確認された。』

キタコレ!

『もっとも、家計のインフレ予想が現実の物価動向から全く影響を受けなくなった訳ではない。その意味で、インフレ予想のアンカーを強化する余地は残されている。』

で、この「もっとも、家計のインフレ予想が現実の物価動向から全く影響を受けなくなった訳ではない。」というのが実は味わいがありまして・・・・・・・・・・・・

本文
http://www.boj.or.jp/research/wps_rev/wps_2015/data/wp15j06.pdf

の22ページ、PDFで23枚目に『補論 B.インフレ実績とインフレ予想』というのがあってこちらが中々味わいがある。

『当補論の目的は、家計が将来のインフレ率について予想形成を行う場合、どの物価指数から最も大きな影響を受けるか、例えば、ヘッドライン指数からなのか、あるいは、何らかの部分的な指数なのか、という点を明らかにすることである。ここでは、現実のインフレの指標として、消費者物価指数のヘッドラインと3 つの部分指数に注目する。すなわち、「総合」、「総合(除く生鮮食品)」、「総合(除く食料およびエネルギー)」、「食料およびエネルギー」である。これらの物価指数を(5)式に代入し、最尤値が最も大きくなるものを家計の予想形成過程において最も影響の大きい指数と定義する。』

ということで結論は・・・・・・・・・・

『B は推計結果である。最も影響度の大きい消費財は、予想期間の長さによって異なる。長期予想を形成する際、家計はコアCPI、すなわち、「総合(除く生鮮食品)」に着目している。これに対し、短期予想を形成する際には、家計はCPI 総合に注目している。』

ほほう。

『また、家計のインフレ実感が「食料およびエネルギー」、つまり、家計が日常接している消費財の価格と整合的であるという点は興味深い17。家計は、予想形成に当たっては、広い財・サービスの価格を考慮するが、足元の物価情勢を理解する際には必需品の価格に注目する傾向がある。』

ほっほー。

『最後の点は、家計のインフレ予想の安定性を考える上で重要な含意を持っている。4節で議論した通り、家計のインフレ予想は、インフレ実感からの影響を受けて変動する。そして、ここでの実証結果は、そのインフレ実感が食料品価格やエネルギー価格から特に強い影響を受けていることを示唆している。食料品価格とエネルギー価格の家計のインフレ予想形成における心理的役割は、家計の支出における金銭的な役割以上に重い。』

ということはエネルギー価格が下がっている状態が長引いたらインフレ予想が下がる筈なのにインフレ予想が安定しているのは単に足元で食料品が上がっているからではないかという結論ですね!!!!!!!!!!

などと最後の所だけ引用しちゃいましたが、前も申しあげたように中身の方もご覧アレということで。

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2015/07/22

○6月会合議事要旨である

http://www.boj.or.jp/mopo/mpmsche_minu/minu_2015/g150619.pdf

例によって『U.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要』以降から見ていくとします。

・前向きな循環メカニズムの連呼キタコレ

海外経済の方は7月展望レポートでの説明でも分かりますように「基調は確りですから一時的に落ち込んでもまあ何とかなる」的な話に繋がってきているので、それよりも7月の展望レポートでのメカニズムで強調されていた国内の物価上昇ルートにかかわる国内経済に関するところから見ていくのだ。

『以上のような海外の金融経済情勢を踏まえて、わが国の経済情勢に関する議論が行われた。』

ということで。

『わが国の景気について、委員は、家計・企業の両部門において、所得から支出への前向きな循環メカニズムがしっかりと作用し続ける中で、緩やかな回復を続けているとの認識を共有した。』

なお前向きな循環とか前向きな動きと言うのが連呼されるのでした。

『何人かの委員は、1〜3月期の実質GDPの2次速報値が設備投資を中心にはっきりと上方修正されたと指摘したうえで、消費税率引き上げ後に一旦減少していた国内民間需要が改善し、所得から支出への前向きの循環が明確になりつつあることが確認されたとの認識を示した。』

はっきりと上方修正だの前向きの循環だの認識が強まっていますなあ。

『景気の先行きについても、委員は、緩やかな回復を続けていくとの見方で一致した。』

まあこれはこれとして。

『何人かの委員は、増加を続けてきた輸出や生産が海外経済の一時的な減速の影響などから足もとやや勢いを欠いており、4〜6月期は一旦成長率が低下するものの、所得から支出への好循環が続くもとで、その後は成長率を高めていくとの認識を示した。』

所得から支出への好循環が続く、というように7月展望レポートで示されたのと同様に国内の循環メカニズムが強くてワークするから成長が継続するというような内生的な部分を強調する見通しになって来ていまして、このあたりの話が展望レポートで明確化された格好。


以下個別の需要要因。

『輸出について、委員は、持ち直しているとの認識で一致した。多くの委員は、3四半期連続で増加してきた実質輸出が4〜5月は減少していることに言及し、1〜3月期の米国経済や中国経済の減速がラグを伴って影響しているとの見方を示した。このうちの一人の委員は、内訳をみると米国向けの自動車輸出が大きく減少しているが、米国の自動車販売が堅調であることを踏まえると、一時的な落ち込みの可能性が高いと付け加えた。先行きの輸出について、委員は、振れを伴いつつも、海外経済の回復などを背景に緩やかに増加していくとの見方で一致した。』

輸出の先行きは特に懸念していないという感じですし、7月声明文で現状認識を下方修正したのは「振れを伴いつつも」の範囲内ということですかそうですか。

『設備投資について、委員は、企業収益が改善する中で、緩やかな増加基調にあるとの認識を共有した。何人かの委員は、1 〜 3 月期のGDPベースの設備投資が高めの伸びとなったと指摘したうえで、所得から支出へという前向きな循環メカニズムがしっかりと働いているとの認識を示した。』

設備投資の所に前向き循環メカニズム認識キタコレ。

『先行きの設備投資についても、企業収益が改善傾向を辿る中で、緩やかな増加基調を続けるとの見方で一致した。何人かの委員は、堅調な機械受注の動きや積極的な設備投資計画は、こうした見方を裏付けていると指摘した。このうちの一人の委員は、中小企業を対象とする調査においても、設備投資に前向きな動きが拡がっているように窺われると付け加えた。』

威勢がいいなおい。

『一方、ある委員は、一部のアンケート調査では外需の弱さに起因するとみられる製造業のマインド悪化が示されており、今後輸出の回復が遅れた場合に設備投資の下振れに繋がるリスクには注意が必要との見方を示した。』

やっと慎重な見解が出てきました。


・さて前向き循環に必要な個人部門の認識はどうでしょうかねえ

でまあ前向きな循環メカニズムに必要な個人部門は以下の通り。

『雇用・所得環境について、委員は、労働需給が着実な改善を続けるもとで、雇用者所得は緩やかに増加しており、先行きも、経済活動や企業業績の回復につれて、緩やかな増加を続けるとの見方で一致した。』

昨日の金融ファクシミリ新聞(何だか知らん人は金利屋さんに聞いてください)朝刊の1面大見出しは「賃上げが期待外れ」でサブタイトルが「5月大幅鈍化で個人消費の足かせ」だったけどな!!!!!

『何人かの委員は、今春の賃金改定交渉におけるベースアップを含めた賃上げの効果から、所得環境は一段と改善していくと述べた。このうちの一人の委員は、夏季賞与について、大企業を対象としたアンケート調査をみると、昨年に続く前年比プラスが見込まれると付け加えた。』

へえへえそうだっか。

『実質賃金について、何人かの委員は、今後は、消費税率引き上げの影響が一巡するため、持続的な上昇が期待できるとの認識を示した。』

エネルギー価格のベース効果が落ちて見通し通りに物価が上昇パスを辿ったらまたまた実質賃金ってマイナス転しないのでしょうかねえ。

『この点に関連して、ある委員は、実質賃金の持続的な上昇は物価安定目標の実現にも重要であり、そのために不可欠な生産性上昇に向けた企業の取り組みを後押しする観点から、政府によるコーポレート・ガバナンス改革などに期待していると述べた。』

何か見解を端折っている(議事要旨だから仕方ないけど)みたいなので何を言いたいのかが微妙な出来に仕上がっているのですが、実質賃金の持続的上昇云々は理屈としてはその通りなのですが、賃金の改定というものが通常年1ペースになるというジャパン的な慣行を勘案すると、持続的上昇というのを確認するには少なくとも3回程度の賃金改定を見ないといけない訳であり、そもそも物価安定目標の実現を「2年」で切ったのは何だったのかと小一時間問い詰めたくなりますな。でもって後段の「生産性上昇」は分かるのですが、何でそこでコーポレートガバナンス改革に期待というのが最初に出てくるのかと小一時間でして、規制緩和とかじゃないのかよと思うのだがここでコーポレートガバナンス改革というのが出てくる所に唐突感が物凄く漂いますな。


気を取り直して消費に関して。

『個人消費について、委員は、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、底堅く推移しているとの認識を共有した。』

ほほう。

『複数の委員は、株高による資産効果も消費の底堅さを支えていると付け加えた。』

株高は無限に続かないのでその資産効果は本質的にワンタイムエフェクトではないでしょうかと思いますし、消費のマス部分にとって株高による資産効果ってナンデスカソレ状態ではないかと。

『何人かの委員は、百貨店売上高が増加を続けており、サービス消費も堅調に推移しているとの見方を示した。』

百貨店って海外観光客でかさ上げされてるんじゃなかったでしたっけと思いますし、まあサービス消費は堅調かも知らんけど、日常品価格は威勢よく上昇継続していて、そっちの支出ってどうなっているのよとかそういうのは気になるんですけどねえ。で、日常品の所で節約志向高まると今は選択的消費の部分を落としていない人も徐々に影響出てくるんじゃネーノとかどうも悪い予感しかしないのは貧乏性だからですかそうですか。

『何人かの委員は、天候不順の影響もあって、足もとの指標には弱めの動きを示すものもみられていると述べた。』

ふむ。

『先行きの個人消費について、委員は、雇用・所得環境の着実な改善が続くもとで、引き続き底堅く推移するとの見方で一致した。複数の委員は、このところの食料品や日用品の価格上昇が消費者マインドに悪影響を及ぼす可能性には注意が必要との認識を示した。』

ということで最後の所で「このところの食料品や日用品の価格上昇が消費者マインドに悪影響を及ぼす可能性には注意が必要との認識を示した」という至極当然の指摘が登場して参りましたが、その前の部分を見ると個人部門好調的な話ばかりが並べられている印象で、7月展望レポートの強気見通しと整合的ちゃあ整合的ですが本当にシナリオ大丈夫かよという感じではあります。


以下住宅、生産、物価の話と金融面の話がありますが割愛して次に参ります。


・金融政策に関する検討部分ではまず政策効果の逓減の話がありますが・・・・・・・・・・・

続いて『V.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要』です。

『多くの委員は、「量的・質的金融緩和」について、所期の効果を発揮しているとの認識を共有した。』

まあお約束なのでこれは良いとして。

『これらの委員は、需給ギャップや中長期的な予想物価上昇率に規定される物価の基調は、今後も改善傾向を辿るとの見方で一致した。多くの委員は、「量的・質的金融緩和」の導入以降、名目金利が低位で安定的に推移する一方、やや長い目でみた予想物価上昇率は全体として上昇しており、実質金利は低下しているとの認識を示したうえで、そのことが企業・家計の支出行動を支えていると述べた。』

はあそうですかという所ですが、一方でこのような見解が・・・・・・・・・・

『複数の委員は、このところ長期金利が一時0.5%台まで上昇する場面があるなど、「量的・質的金融緩和」の効果は逓減してきている可能性があるとの見方を示した。』

『もっとも、何人かの委員は、わが国の金利は、海外金利の上昇にもかかわらずイールドカーブ全体にわたって低い水準で安定的に推移しており、「量的・質的金融緩和」の緩和効果は引き続き大きいと指摘した。』

でまあここの話なんですけど、最初の「効果は逓減」の部分ですが、これまた議事要旨の要約の仕方が微妙な出来になっていて、一見すると0.3%が0.5%になって逓減って随分と細かい話だなおい、という印象を受けてしまうので何だかなあなのですが、たぶん前段の逓減を指摘している人の見解を勝手に脳内補完すると、「そもそも買入をここから増やしたからと言って名目の金利が下がる訳でもないどころか、流動性を無くしてドイツ国債金利みたいにボラを高めて却って金利を上げる可能性があるし、国債買入の残高そのものが定量的にインフレ期待に効果を与えているという訳でもないから、そういう意味で考えれば買入残高の拡大効果が逓減してるんじゃねえか」という事を言いたいのかなあと、逓減している系の審議委員が講演などで主張するロジックを敷衍して勝手に脳内補完したのですがどうでしょうかね。

そしてこの部分って結局の所「LSAPの効果がどのようなルートで効いているのか」という最も重要な問題に関して「全体として効果を出している」的なふわっとした話でずーっと来ている辺りに論争の根っこがある訳でございまして、LSAPがどのようなルートで金融市場や期待のどの部分に働きかけ、その働きかけの結果として実体経済のどのルートに効いているのか、という話が何となくの話しかなくて、数字で出たのって5月の頭に出た「LSAPで長期金利100bpほど押し下げ効果」という話だけという状況だからだと思うのですよね。

でまあそこが微妙なだけに政策としてどこがどう効いていてというのが分からないまま、日銀の展望レポートが正しいのであれば(正しいのかは禿しく怪しいですがそれはともかく)来年には出口の少なくとも準備という話になるのですが、その時って正常化するのにまずはあまり問題の無い所から徐々に正常化という話になるのですが、そもそも何がどう効いているのかが分からん中ではどこをどう正常化していくのかってのすらワカランチ会長という事になりますので、まあこの効果話っていうのはLSAPの効果とかの話と共にもっとツッコミを入れていただきたいものだと期待します(どうせ突っ込むのは野党審議委員の皆さんしかいませんので野党の皆さんに期待します)。


・物価動向の判断云々

さらに続く。

『金融政策を運営するうえでの物価動向の判断について、委員は、「物価安定の目標」は安定的に達成すべきものであり、金融政策運営に当たっては、物価の基調的な動きが重要であるとの認識を共有した。』

原油価格が下がって3週間前の変更なしから突如慌てて追加緩和をしていた昨年10月とは何だったのかと。

『何人かの委員は、消費者物価上昇率が0%程度で推移するもとでも、先行き物価上昇率が高まるという予想が維持されているとの見方を示した。』

そもそも生活意識アンケートとかの物価見通しって昔から安定してませんでしたっけとか言ってはいけません。まあこれが追加緩和の効果です(キリッ)という説明になっているので生温かく見守るとしましょう。

『また、何人かの委員は、速報性の高い物価関連指標などをみると、新年度入り後、直近まで前年比プラスで推移しており、日用品や食料品などで価格改定の動きが拡がりつつあると指摘した。このうちの複数の委員は、外食などのサービスや耐久消費財でも、為替円安や人件費の上昇によるコスト増加分を転嫁する動きがみられていると付け加えた。』

東大物価指数とかその辺の話ですが、これでは前向きな循環メカニズムではなくてそれはコストプッシュインフレというものではないかと存じますし、そうなりますとエネのベース効果剥落したら昨年の二の舞になりませんですかねえ。

『こうした動向の背景として、複数の委員は、企業の価格設定行動において、付加価値を高めつつ販売価格を引き上げる動きが拡がっているとの認識を示した。』

日用品や食料品で「付加価値を高めつつ販売価格を引き上げる動きが拡がっている」ようには到底思えなくて、単純に量目を変えて購入単価を維持する形の値上げとかそういうのばかり見えてしまうアタクシは貧乏性でございますかそうですかどうもすいませんねえ。

『ある委員は、雇用・所得環境の改善を背景にユニット・レーバー・コストが安定的に上昇する中で、次第に物価上昇率が高まっていくとの見方を示した。』

価格上昇でも消費が落ちなければな。

『一方、一人の委員は、消費者物価指数の動きからは物価情勢に目立った変化はみられていないと述べた。』

ま、日常品とか食料品は実感的には結構な上昇をしていて、おかげで最近ダイエットが進んで誠に結構(違)という感じなんで目立った変化はみられていないというのもやや違和感がががががが。

『これらの議論を受けて、委員は、予想物価上昇率は、やや長い目でみれば全体として上昇しているとの認識を共有した。そのうえで、多くの委員は、先行き、物価の基調を規定する需給ギャップは着実に改善し、予想物価上昇率も高まっていくことから、原油価格下落の影響が剥落するに伴って消費者物価は伸び率を高め、2016 年度前半頃に2%程度に達する可能性が高いとの見方を共有した。』

そこに至るまでには消費がコケずに更に伸びていくというのが必要ですがさてどうなるやら・・・・・・・・・・

『一方、一人の委員は、需給ギャップの改善ペースや賃金上昇率が緩やかであるほか、世界的なディスインフレ傾向が続いていることを踏まえると、物価上昇率の高まりはかなり緩やかなものにとどまると述べた。』

どうなんでしょうかね。アタクシ的には「1回はまた上昇するのだが、それが消費の伸びを急速に抑えたり、消費を失速させたりするので元の木阿弥」というのがありそうに思えるんですけど、こればっかりは先になってみないと分からんですね。


・2か月連続で珍理論「QQEの副作用は理論的にも存在しない(キリッ)」を見る事になるとは世も末

でまあ現状維持という決定をしますよ的な話の後は毎度おなじみの木内さんの提案。

『一方、一人の委員は、需給ギャップがゼロ近傍まで改善する中、逓減している「量的・質的金融緩和」の追加的効果を副作用が既に上回っており、導入時の規模であっても、金融面での不均衡の蓄積など中長期的な経済の不安定化に繋がる懸念があると述べた。』

ここの理由は前回5月と同じです。でまあ提案も同じなのでそこは飛ばしますが、その木内さんに反対する見解が披露されていますので鑑賞しましょう。

『これに対し、何人かの委員は、消費者物価上昇率が0%程度で推移するなど2%の「物価安定の目標」に向けてなお途半ばである現時点での減額開始は、政策効果を減殺するとの見方を示した。』

これね、政策効果を減殺するという主張は良いのですが、どこがどういう形で減殺するのかという話をしていると思われますので、その論拠を議事要旨の方に示して頂きますと、先ほどから申し上げている「LSAPの政策波及ルート」に関する政策委員会多数派見解を想像するのに役立つと思いますので、できればこの議論部分って(執行部的にはどうせ否決される提案の議論なんぞにスペース割きたくないんだろうなというのも分かるけど)もう少し掘り下げて頂きますと読んでる方も読み甲斐があるというものなのですがどうっすかねえ。

で、最後にまたこれが登場。

『このうちの一人の委員は、現状、金融面での不均衡や金融緩和の副作用を示す理論や事実に基づく具体的な根拠はなく、減額開始は金融市場に影響を及ぼすおそれもあると述べた。』

>金融面での不均衡や金融緩和の副作用を示す理論や事実に基づく具体的な根拠はなく
>金融面での不均衡や金融緩和の副作用を示す理論や事実に基づく具体的な根拠はなく
>金融面での不均衡や金融緩和の副作用を示す理論や事実に基づく具体的な根拠はなく

・・・・・・・・いやー先月の議事要旨に続いて2打席連続で登場する「QQEの副作用は理論的にもない」というこの珍理論なのですが、まあ5月から急に登場した上に2か月連続で登場という時点で大体どの審議委員が主張しているのかの想像がつく訳ですが、手を変え品を変えこれでもかと珍理論を繰り出してくるのをあと5年近く(あ、言っちゃった)鑑賞させられることになるとは熱中症と関係なく頭がクラクラして参りますなあという所で。

なお、今回の議事要旨では木内さんに対する反対意見を言っている人が人数的に拡大したのと、「今の減額開始は政策効果を減殺」という風にトーンが強くなっているのがほほーという感じでして、前回はこの部分の記述が

『これに対して、ある委員は、現状、金融面での不均衡や金融緩和の副作用を示す理論や事実に基づく具体的な根拠はないと述べた。別の一人の委員は、資産買入れの減額に関する現時点での情報発信は、タイミングや方法次第でせっかくの緩和効果を削ぐリスクもあり、細心の注意を払う必要があるとの見方を示した。』(5月決定会合議事要旨より)

となっていて、そもそも反対意見を表明しているのが2名(後の人はスルーしている訳ですな)だし、理論的云々の珍理論はさておきまして残りの人の反対トーンも今回の方が表現が強くなっているのはちょっと興味のある事象だなあとは思いましたですが、それがどのような政策インプリケーションがあるのか(無いのか)は今の時点では判断付きかねますので、今後の政策委員会の皆様の講演などを拝読したいと思います。


・MPM回数削減に関する部分はまあ普通の話

『W.金融政策決定会合の運営の見直しに関する委員会の検討の概要』の部分はまあ普通の話をしているのですが・・・・・・・・・

『委員は、こうした見直しによって、政策決定の基礎となる経済・物価見通しを、より高い頻度でより詳しく示すとともに、会合後速やかに会合における「主な意見」を公表することができるとの認識で一致した。』

『多くの委員は、@四半期毎に、経済・物価見通しを公表したうえで、Aその中間の会合を含めて、金融政策を決定する会合を年8回開催し、B会合終了後は速やかに情報発信を行うという枠組みは、近年主要中央銀行で主流となってきており、適切なものであるとの見方を示した。何人かの委員は、新たに公表する「主な意見」について、情報発信の一層の充実という趣旨や従来どおり公表する議事要旨との役割分担の観点などを踏まえながら、今後具体的に検討を重ねていく必要があると述べた。』

まあこの辺はそうですねという話ではあるのですが、日本と米国の場合は委員会制の性格を前面に出した情報発信を行っているという事もある中で、日本の場合って総裁の講演みたいなのはやたら多いのですが、他の政策委員がまとまって見解を皆がアクセスできる方法で出してくるのって黙っていると年2回程度の金融経済懇談会の席上という事になっていて、せっかく委員会制になっているのに、執行部とそれ以外の間で情報発信の頻度に差があり過ぎるような気がするんですよね。

でもってMPMの回数が減ることになりますし、出てくる展望レポートが増えるという事になると、見通しとかそっちの方は良いのですが、政策意思決定プロセスの中で執行部がどう考えて、というのではなくて、「政策委員会の委員会の中の意見が」どのように変遷していくのかというような部分がより見えにくくなってしまうような気がするんですよね。

という訳で、審議委員の方々には更に激務化の悪寒がするのですが、MPM減る分の情報発信に関して「執行部以外の審議委員が情報発信する機会をもう少し増やす」というのを意図的に実施して頂きたい(できればどこかのベンダーのインタビューとかではなくて金懇が良いと思うのですけれども)なあとか思うのですがロジ的に無理があるとかそういう話なんですかねえ・・・・・・・


#ということで思わず長くなってしまいました

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2015/07/21

○金融経済月報である(汗)

http://www.boj.or.jp/mopo/gp_2015/gp1507.pdf(7月)
http://www.boj.or.jp/mopo/gp_2015/gp1506.pdf(6月)

例によって概要から。

・現状認識は声明文通り

『わが国の景気は、緩やかな回復を続けている。』(今回)
『わが国の景気は、緩やかな回復を続けている。』(前回)

ということで・・・・・・・・

『海外経済は、一部になお緩慢さを残しつつも、先進国を中心に回復している。そうしたもとで、輸出や鉱工業生産は、振れを伴いつつも、持ち直している。企業収益が改善するなかで、業況感は総じて良好な水準で推移しており、設備投資は緩やかな増加基調にある。雇用・所得環境の着実な改善を背景に、個人消費は底堅く推移しているほか、住宅投資も持ち直しつつある。この間、公共投資は、高水準ながら緩やかな減少傾向に転じている。』(今回)

『海外経済は、一部になお緩慢さを残しつつも、先進国を中心に回復している。そうしたもとで、輸出は持ち直している。設備投資は、企業収益が改善するなかで、緩やかな増加基調にある。雇用・所得環境の着実な改善を背景に、個人消費は底堅く推移しているほか、住宅投資も持ち直しつつある。この間、公共投資は、高水準ながら緩やかな減少傾向に転じている。以上の内外需要を反映して、鉱工業生産は持ち直している。』(前回)

輸出と生産に「振れを伴いつつも」という下方ヘッジクローズが入っているとゆーことで、展望レポートの方では先行き見通しをむしろ強めにしているという中ですけれども、声明文通りで現状認識は下がっていますぞな。


・先行き見通しは華麗に全文一致

『先行きについても、景気は緩やかな回復を続けていくとみられる。』(今回)
『先行きについても、景気は緩やかな回復を続けていくとみられる。』(前回)

とまあこちらも声明文通り。

『輸出は、振れを伴いつつも、海外経済の回復などを背景に緩やかに増加していくと考えられる。国内需要については、公共投資は、高めの水準を維持しつつも、緩やかな減少傾向を続けるとみられる。設備投資は、企業収益が改善傾向をたどるなかで、緩やかな増加を続けると予想される。』(今回)

『輸出は、振れを伴いつつも、海外経済の回復などを背景に緩やかに増加していくと考えられる。国内需要については、公共投資は、高めの水準を維持しつつも、緩やかな減少傾向を続けるとみられる。設備投資は、企業収益が改善傾向をたどるなかで、緩やかな増加基調を続けると予想される。』(前回)

項目別の話ですけれども、輸出は上記のように現状認識で下げていますが、そもそも前回の時点で振れ云々と予想しているので想定の範囲内です(キリリッ)という話になる訳で、見通しの需要別項目は全文一致なのだ。

『個人消費は、雇用・所得環境の着実な改善が続くもとで、引き続き底堅く推移するとみられる。住宅投資は、持ち直していくと予想される。以上の内外需要を反映して、鉱工業生産は、振れを伴いつつも、緩やかに増加していくと考えられる。』(今回)

『個人消費は、雇用・所得環境の着実な改善が続くもとで、引き続き底堅く推移するとみられる。住宅投資は、持ち直していくと予想される。以上の内外需要を反映して、鉱工業生産は、振れを伴いつつも、緩やかに増加していくと考えられる。』(前回)

更に個人消費以降を見ても何とまあ先行き文言同じでして、生産にもヘッジクローズが既に入っていたので想定の範囲内です攻撃ですぞなという所で。


・リスク要因は例によって同じ

『この間、リスク要因としては、新興国・資源国経済の動向、欧州における債務問題の展開や景気・物価のモメンタム、米国経済の回復ペースなどが挙げられる。』(今回)
『この間、リスク要因としては、新興国・資源国経済の動向、欧州における債務問題の展開や景気・物価のモメンタム、米国経済の回復ペースなどが挙げられる』(前回)

毎度変化ないですなあ。


・物価ですけど・・・・・・・・・・・

『物価の現状について、国内企業物価を3か月前比でみると、国際商品市況の動きを反映して、横ばい圏内の動きとなっている。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、0%程度となっている。予想物価上昇率は、やや長い目でみれば、全体として上昇しているとみられる。』(今回)

『物価の現状について、消費税率引き上げの直接的な影響を除いたベースでみると、国内企業物価は、国際商品市況の動きを反映して、3か月前比で緩やかに上昇している。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、0%程度となっている。予想物価上昇率は、やや長い目でみれば、全体として上昇しているとみられる。』(前回)

消費税云々はさておきまして、国内企業物価は横ばい圏になってしまいましたね。


『物価の先行きについてみると、国内企業物価は、国際商品市況の動きを反映して、当面、横ばい圏内で推移するとみられる。消費者物価の前年比は、エネルギー価格下落の影響から、当面0%程度で推移するとみられる。』(今回)

『物価の先行きについてみると、国内企業物価は、国際商品市況の動きを反映して、当面緩やかな上昇を続けるとみられる。消費者物価の前年比は、エネルギー価格下落の影響から、当面0%程度で推移するとみられる。』(前回)

ということで、国際商品市況の動きによるものという事ではあるのですが、国内企業物価の見通しの方も「横ばい圏内」となっていまして、確か日銀の説明だと「国内企業物価は消費者物価に対する先行性がある」みたいな話をしていた筈なので、これで展望レポートの方は強い味方を継続しているというのは何ですねんという感じではあるのですが、月報の見ているタイムスパンと展望レポートの見ているタイムスパンが違います(キリッ)という話と、そもそも月報では現象的な部分を重視していますけれども、展望レポートではメカニズムを重視しています(キリッ)という話になりまして、メカニズム的に言えば今回の展望レポートでは所得と物価の内生的な循環メカニズムによる物価上昇みたいな話を強調している形になっているので、そのような目先の細かい話は知らんがなという事になっていると思います。日銀の説明と言う名のああいえばこういう企画屁理屈を想像すると。

#金融環境以下は割愛


・物価のあれは単に「ああ言えばこう言う」シリーズであってあまり深く悩む必要はないと思います

そういやこんなんありましたけどね。

http://www.nikkei.com/article/DGXLASGF18H05_Y5A710C1NN1000/
日銀、物価判断に新指標 生鮮食品だけでなくエネルギーも除く
2015/7/18 23:36日本経済新聞 電子版

『日銀は消費者物価指数(CPI)の基調を把握するため、新しい指標に着目し始めた。金融政策の目標に置く生鮮食品を除いた指数から、昨夏以降の原油安の影響が残るエネルギーも除いたもので、1〜2月を底に上昇幅が拡大している。加工食品やサービスの値上げなど足元の物価動向を確認する狙いだ。』(上記URL先より)

ということで、これ月報本文の図表『消費者物価の基調的な変動』となっている部分なのですけれども、今月ですとファイル54枚目の図表31、先月ですとファイル50枚目の図表29でして、前回は『(1)ラスパイレス連鎖指数』、『(2)刈込平均値』だったのですが、今回は『(1)刈込平均値・ラスパイレス連鎖指数』、『(2)総合(除く生鮮食品・エネルギー)』、『(3)上昇・下落品目比率』ってなっていまして、その(2)総合(除く生鮮食品・エネルギー)が出たのを捕まえて上記のような報道が行われていましたなというお話。

・・・・・・・・でまあこういう報道が出ると「さては日銀は目標のセッティングを誤魔化しにかかってきやがったか」という妄想も出るのではあるのですが、この図表のページを見れば分かりますように、前月に無かったものの今月に出てきた(2)と(3)の図表って「CPIの数字が低迷しているように見えますがほらご覧の通り実は強いんですよ!」という説明に都合の良いものが出ている訳ですよ。

つまり、(2)の太線として出ている「総合(除く生鮮食品・エネルギー)」は足元に来て若干ですけれども上を向いていて、あくまでも足元弱いのはエネルギーのせいですよエネルギーが戻ったら戻りますがなウハハハハハという話をしているものであり、(3)の「上昇・下落品目比率」に関しては過去暫くなかったレベルの比率が出ているぞなウエーハッハッハという話をしているものなのですな。

とまあそんな具合でありますが、そもそも論として上記のグラフって2007年以降の数値をちゃんとトレースしている訳ですし、大体からして日銀は物価のトレンド見るのにいろいろな数値を見ているのですから、別に今回新しく出した、という訳でもないのですよね。ただまあ都合の良い説明をするのにここぞとばかり持ち出されたという感じは思いっきりするのでもにょりますけれども。

ご参考でこんなんありますよ(日銀レビューシリーズ2006年)。
http://www.boj.or.jp/research/wps_rev/rev_2006/rev06j07.htm/
消費者物価指数のコア指標 2006年4月24日 
企画局 白塚重典
(なお白塚さんは本日現在企画局審議役(政策調査課長事務取扱)です)

本文はこちら
http://www.boj.or.jp/research/wps_rev/rev_2006/data/rev06j07.pdf

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2015/07/16

○決定会合レビュー

http://www.boj.or.jp/announcements/release_2015/k150715a.pdf(今回)
http://www.boj.or.jp/announcements/release_2015/k150619a.pdf(前回)

まずは月例の経済判断部分。

・現状判断部分:輸出と生産の表現が下がっているが全体があまり下がっている感じが無い

『わが国の景気は、緩やかな回復を続けている。』(今回)
『わが国の景気は、緩やかな回復を続けている。』(前回)

ということで基調判断は同じ。

『海外経済は、一部になお緩慢さを残しつつも、先進国を中心に回復している。そうしたもとで、輸出や鉱工業生産は、振れを伴いつつも、持ち直している。』(今回)

『海外経済は、一部になお緩慢さを残しつつも、先進国を中心に回復している。そうしたもとで、輸出は持ち直している。(途中割愛)以上の内外需要を反映して、鉱工業生産は持ち直している。』(前回)

輸出と生産の「持ち直し」にヘッジクローズ「振れを伴いつつも」が入って若干の下方修正ですなあ。

『企業収益が改善するなかで、業況感は総じて良好な水準で推移しており、設備投資は緩やかな増加基調にある。』(今回)
『設備投資は、企業収益が改善するなかで、緩やかな増加基調にある。』(前回)

業況感の話は短観が出てくる回の定例ですが、「企業収益が改善するなかで」というのがあって、企業部門に対する強気感が出ています。

『雇用・所得環境の着実な改善を背景に、個人消費は底堅く推移しているほか、住宅投資も持ち直しつつある。この間、公共投資は、高水準ながら緩やかな減少傾向に転じている。』(今回)

『雇用・所得環境の着実な改善を背景に、個人消費は底堅く推移しているほか、住宅投資も持ち直しつつある。この間、公共投資は、高水準ながら緩やかな減少傾向に転じている。(この次が先ほど引用した生産部分です)』(前回)

所得、消費などに関する部分は変わりませんな。

『また、わが国の金融環境は、緩和した状態にある。』(今回)
『また、わが国の金融環境は、緩和した状態にある。』(前回)

まあここは同じですな。

『物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、0%程度となっている。予想物価上昇率は、やや長い目でみれば、全体として上昇しているとみられる。』(今回)

『物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、消費税率引き上げの直接的な影響を除いたベースでみて、0%程度となっている。予想物価上昇率は、やや長い目でみれば、全体として上昇しているとみられる。』(前回)

消費税率引き上げの影響云々は統計の話になるのでそこを除くとこれまた不変ということで、今回の現状認識は輸出と生産を若干下げて企業部分への表現を強めにしている感じですな。


・先行き見通し:表現は同じだが物価はいつ上がるのでちゅかねえ

『先行きのわが国経済については、緩やかな回復を続けていくとみられる。消費者物価の前年比は、エネルギー価格下落の影響から、当面0%程度で推移するとみられる。』(今回)
『先行きのわが国経済については、緩やかな回復を続けていくとみられる。消費者物価の前年比は、エネルギー価格下落の影響から、当面0%程度で推移するとみられる。』(前回)

「当面」0%程度というのが延々と続いておりますがそれって足元の時点が毎回1か月後に倒れているのですから事実上の見通し後ずれなんですけどね(ニヤニヤ)。


・リスク要因とか毎度の最後の部分とか

『リスク要因としては、新興国・資源国経済の動向、欧州における債務問題の展開や景気・物価のモメンタム、米国経済の回復ペースなどが挙げられる。』(今回)
『リスク要因としては、新興国・資源国経済の動向、欧州における債務問題の展開や景気・物価のモメンタム、米国経済の回復ペースなどが挙げられる。』(前回)

『「量的・質的金融緩和」は所期の効果を発揮しており、日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「量的・質的金融緩和」を継続する。その際、経済・物価情勢について上下双方向のリスク要因を点検し、必要な調整を行う(注2)。』(今回)

『「量的・質的金融緩和」は所期の効果を発揮しており、日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「量的・質的金融緩和」を継続する。その際、経済・物価情勢について上下双方向のリスク要因を点検し、必要な調整を行う(注2)。』(前回)

毎度おなじみの如く同じ表現ですなあ。

木内さんの反対理由も同じです。

『木内委員より、2%の「物価安定の目標」の実現は中長期的に目指すとしたうえで、2つの「柱」に基づく柔軟な政策運営のもとで、資産買入れ策と実質的なゼロ金利政策をそれぞれ適切と考えられる時点まで継続するとの議案が提出され、反対多数で否決された(賛成:木内委員、反対:黒田委員、岩田委員、中曽委員、白井委員、石田委員、佐藤委員、原田委員、布野委員)。』(今回)

『木内委員より、2%の「物価安定の目標」の実現は中長期的に目指すとしたうえで、2つの「柱」に基づく柔軟な政策運営のもとで、資産買入れ策と実質的なゼロ金利政策をそれぞれ適切と考えられる時点まで継続するとの議案が提出され、反対多数で否決された(賛成:木内委員、反対:黒田委員、岩田委員、中曽委員、森本委員、白井委員、石田委員、佐藤委員、原田委員)。』(前回)

森本さんの名前が布野さんに変わった(メンバー替わりましたので)だけですな(^^)。


・展望レポート中間評価

ということで展望レポート中間評価ですけれども。

『(参考1)▽2015〜2017 年度の政策委員の大勢見通し』の図はペタペタ数字を貼るのが手間なので貼るの割愛しますが、

成長率
→2015年度は0.2〜0.3%ほど下方修正、2016年度、17年度は不変

CPI
→2015年度は0.1〜0.2%ほど下方修正、2016年度、17年度は0.1%下方修正

ちなみに、上記で「〜ほど」と書いたのは大勢見通しのレンジの上下限がどう動いたのかというのと、中心値がどう動いたというのかのを総合してみた訳ですが、数字としてはそう出ていますが、では声明文の方でどういう評価をしているのかと言いますと・・・・・・・・

『5.4月の「展望レポート」で示した見通しと比べると、成長率は、2015 年度について幾分下振れる一方、2016 年度、2017 年度については概ね不変である。消費者物価は、概ね見通しに沿って推移すると見込まれる1。』(今回)

という説明になっていまして、成長率に関する説明文は出ている数字と同じなので評価もその通りという話になるのですが、CPIに関しては数字を見ると0.1%程度の低下になっているのですが、評価に関しては『概ね見通しに沿って推移すると見込まれる』となっているので、「評価」としては出ている数字とは違って下方修正ではない(キリッ)という話になっておりますな。

ちなみに脚注1の原油価格の前提ですけど。

『1 各政策委員は見通し作成にあたって、原油価格の前提を次の通りとした。すなわち、原油価格(ドバイ)は、1バレル60 ドルを出発点に、見通し期間の終盤にかけて70 ドル程度に緩やかに上昇していくと想定している。その場合の消費者物価(除く生鮮食品)の前年比に対するエネルギー価格の寄与度は、2015 年度で−0.7〜−0.8%ポイント程度、2016 年度で+0.1〜+0.2%ポイント程度と試算される。また、寄与度は、当面マイナス幅を拡大した後、2015年度後半にはマイナス幅縮小に転じ、2016 年度前半には概ねゼロになると試算される。』(今回)

『3 各政策委員は見通し作成にあたって、原油価格の前提を次の通りとした。すなわち、原油価格(ドバイ)は、1バレル55ドルを出発点に、見通し期間の終盤にかけて70ドル台前半に緩やかに上昇していくと想定している。その場合の消費者物価(除く生鮮食品)の前年比に対するエネルギー価格の寄与度は、2015年度で−0.7〜−0.8%ポイント程度、2016年度で+0.1〜+0.2%ポイント程度と試算される。また、寄与度は、当面マイナス幅を拡大した後、2015年度後半にはマイナス幅縮小に転じ、2016年度前半には概ねゼロになると試算される。』(前回4月)

原油価格の推移に関する置きについては市場価格を反映させる形で割と機械的においている筈ですが、今回は足元の数字が上がって先行きの数字が下がっていますが、寄与度の結果は同じなのですな。


・ということで・・・・・・・・・

まあ事前の市場予想通りという感じで、声明文と中間レビューを見ますと、足元輸出と生産がパッとしないので足元の部分だけはちょっと弱めにしているものの、先行きの見通しは同じですし、良く良く見れば声明文の企業部分での収益云々というような文言が入っていたりと、先行き見通しが弱くなった気配はないということで、全然下方修正する気が無いという結果になっているという評価になりますな。

んでもって一方の市場としては「2%達成??ナンジャソラ」という話になっているのがどこからどう見ても大勢見通しになっている訳でございまして、この間に差があることによって日銀が勝手に鼻息を荒くしても債券市場が別に反応しないというオモシロパターンになっている訳でございますな。

でまあここまでは日銀の見通しがドンドン後ずれするという形でしたので市場大勝利(?)となっている訳ですが、さて今後どうなるのやらというのはこれから次の展望レポートの時期までの推移を見ていくしかないです罠という所で、今回はとりあえず「次の展望レポートまで様子見」というのが結論ではないかと思います。


会見では中国経済の質問がやたら出ていた気がしますが、会見要旨を見て明日その辺のお話(と金融経済月報のお話)をば。

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2015/07/14

○この時期は色々と日銀からWPとかその手のが出るがこれは面白い(と思う)

http://www.boj.or.jp/research/wps_rev/wps_2015/wp15j05.htm/(要旨)
わが国銀行は貸出金利をどのように設定しているのか?:個別行データを用いた追随率の検証

まずは上記の「要旨」から。

『要旨

本稿では、わが国における個別銀行のデータを用いて、市場金利の変動に対する貸出金利の反応度 ―― 貸出金利の「追随率(pass-through)」 ―― を計測する。欧州のデータを用いた先行研究では、リレーションシップ貸出の比重が高い銀行において、追随率が低めとなることなどが指摘されてきたが、わが国における2000年代前半以降のデータを用いて分析しても、概ね同様の結果が得られた。』

一応これでも元金貸しの手先だったので経験的な体感的な部分からは整合的。

『本稿ではさらに、各銀行の直面する貸出先企業のバランスシート特性も考慮して追随率を推計したところ、これらの特性も、銀行間での追随率のばらつきを決定する要因として重要である可能性が示された。』

ほう。

『もっとも、2008年の金融危機発生後に限ってみると、リレーションシップ貸出の比重が高いとみられる銀行でも、追随率を高めて貸出金利の大幅な引き下げを行ったことや、追随率が必ずしも貸出先企業のバランスシート特性に応じた形で決定されなくなったことも判明した。こうした結果は、金融危機後も追随率が大きく変化していないという、欧州のデータを用いた最近の研究とは異なる。この背景には、わが国では、金融危機後も銀行部門が全体として健全性を維持する中で、大幅な金融緩和と貸出競争の激化により貸出金利の低下圧力が強まったこと、危機直後にCP・社債市場などの機能が低下し、代替的に銀行貸出に対する需要が増加したこと、公的部門による銀行貸出の支援策が広く導入されたことなどの影響があると考えられる。』


ということですが、本文は
http://www.boj.or.jp/research/wps_rev/wps_2015/data/wp15j05.pdf

にありまして(PDFで表紙も含めて41枚組)、『1.はじめに』の所から少々引用しますとこんな感じ。

『既存研究において、貸出金利の設定行動は、市場金利(インターバンク市場などにおける銀行の調達金利)の変動に対する貸出金利の反応度 ── 貸出金利の「追随率(pass-through)」── の観点から分析されることが多い。これは、銀行の貸出金利が、市場金利の変動に対して?なくとも短期的には完全に連動せず、ある程度遅れて追随する傾向があることが知られているためである(いわゆる貸出金利の「粘着性」)。貸出金利の追随が完全でないということは、例えば金利上昇局面において、銀行が、何らかの要因に配慮することにより、自らの貸出利鞘を縮小してでも、貸出先の資金調達コストを引き上げないように努めていることを意味する。』

で海外の先行研究の例についての記述部分を端折りまして引用しますが、

『これらの研究で概ね共通して得られている結果は、@リレーションシップ貸出の比重が高い銀行において、追随率が低めとなること、A自己資本や流動性が潤沢な銀行では、追随率が低めとなること、の2点である。』

うむ。

『@については、リレーションシップ貸出が持つ特性の一つとして指摘されることの多い、「異時点間の金利平準化機能」によって解釈可能である。これは、リレーションシップを通じた将来利得が見込まれる下では、銀行は、必ずしも一時点での採算の観点から貸出金利の設定を行うのではなく、より長期的な視野に基づき、顧客に対する取引条件の平準化(一種の「保険機能」の提供)を行う可能性があるということである。この場合、貸出金利は、市場金利の動きに対して大きく反応せず、追随率は低めになる。』

それは分かりますな。

『また、Aについても、基本的には、こうしたリレーションシップ貸出との関連で解釈することができる。すなわち、自己資本や流動性の点でバッファーを潤沢に持つ銀行は、取引先企業に対して、一時点の採算から乖離した条件を提示することが可能であり、長期的な視点から取引条件を平準化する結果、追随率は低めになる、ということである。』

なるほど。

『もっとも、これらの既存研究では、銀行間における追随率の異質性を、主として銀行サイドのデータを用いて説明しているが、実際には、追随率が、各銀行の直面する貸出先企業のバランスシート特性にも影響を受ける可能性が考えられる。』

つまり・・・・・・・・・・・

『例えば、貸出先企業が、銀行借入だけでなく、CPや社債など代替的な手段によっても多額の資金調達を行っている場合、銀行貸出金利の設定は、それらの代替的な市場における金利動向に影響される可能性がある。また、リレーションシップを持つ貸出先企業の財務状況が外的要因等により一時的に悪化した場合、仮に将来利得が見込めるならば、銀行が取引条件平準化の観点から貸出金利をスムージングする結果、追随率が低めになる可能性も考えられる3。』


『このため、追随率の決定要因を分析する際には、銀行が直面する貸出先企業の特性も勘案することが、既存研究の拡張の方向性の一つと考えられよう4。』

なるほど。

『本稿では、こうした点を踏まえつつ、わが国銀行の貸出金利の追随率を四半期データを用いて計測する。推計に用いる期間は、銀行合併によるデータの不連続性が深刻になるのを回避するため、2003年以降とする。この時期には、貸出金利が趨勢的には緩やかな低下傾向を辿ったが、例えば2005〜2007年頃など、市場金利の上昇に応じて小幅ながら上昇する動きも含まれている(図表1)。』

まあこの点は仕方ないでしょうなと思いますが、そもそも論として全銀で預金超過に転じてからとその前とか、金利がもっとでかい桁の数字で上がったり下がったりしていた時はどうだったのかというのに関しては、まあ確かに今それを研究しても現在や近い将来へのインプリケーションは無いのかもしれませんが、その辺りでどういう風になっていたのかというのも興味はありますな。

ちょっと飛ばして。

『本稿ではさらに、2008年秋の金融危機以降において、追随率がどのように変化したかという点にも分析の焦点を当てる。』


『金融危機後の貸出金利の設定について分析した研究は現状限られるが、Gambacorta and Mistrulli (2014)は、イタリアの個別銀行のデータを用いて分析している6。彼らは、金融危機後においても、@リレーションシップ貸出の度合いが強いケースでは、他の貸出と比べて追随率が低めであり、異時点間の金利平準化機能が発揮されたこと、A自己資本や流動性が潤沢な銀行は、追随率が低めとなっていること、を報告している。これらの結果は、イタリアでは、金融危機後も、追随率の設定方法が大きく変化していないことを示唆している7。』

『もっとも、わが国では、欧州諸国とは異なり、金融危機の発生後も、銀行部門が相対的には健全性を維持するなかで、大幅な金融緩和と貸出競争の激化により貸出金利の低下圧力が強まったことや、中小企業向けの貸出条件緩和策など公的な銀行貸出支援策が広範に導入されたという事情もあって、金融危機後に追随率が変化した可能性が考えられる8。本稿では、こうした点に関する考察も行うこととする。』

とのことですが、まあ図表を眺めながら対応する前後の本文を読みながらユルユルと読んでいくのが吉のように思えます。

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2015/07/13

○ギリシャのアレで総裁談話とな

ギリシャの国民投票はクソワロタとしか申し上げようがない(というか投票締め切り直前では報道では「大接戦」とか言ってたように思えるのだが)のですが、その結果を受けて総裁談話が出ていたとな。

http://www.boj.or.jp/announcements/press/danwa/dan1705a.htm/
総裁談話
2015年7月6日
日本銀行

でまあ内容の方は注意しますとかそういう話で別段新しい事でもないのですが、総裁談話が直近に出たのって以外では2011年の震災後の為替絡みの所まで遡る(三重野さんの件は金融政策関係ないですからさておく)という事で、黒田総裁になって初めてですのでそれなりに警戒したという事ではありますな。

http://www.boj.or.jp/announcements/press/danwa/index.htm/

実際はそっちと言うより中国株の方があばばばばーでヒャッハーとなっていたみたいですが良くわからん。


○支店長会議とかさくらレポートとか

・支店長会議挨拶

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2015/siten1507.htm(今回)

『(1)わが国の景気は、緩やかな回復を続けている。先行きについても、緩やかな回復を続けていくとみられる。

(2)物価面をみると、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、0%程度となっている。先行きについても、エネルギー価格下落の影響から、当面0%程度で推移するとみられる。

(3)わが国の金融システムは、安定性を維持している。そうしたもとで、金融環境は、緩和した状態にある。

(4)「量的・質的金融緩和」は所期の効果を発揮しており、日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「量的・質的金融緩和」を継続する。その際、経済・物価情勢について上下双方向のリスク要因を点検し、必要な調整を行う。

(5)昨日のギリシャにおける国民投票では、関係諸機関による金融支援策に対する反対票が賛成票を上回る見込みであると報じられている。日本銀行としては、引き続き、内外の関係機関との連携を密にしつつ、金融市場の動向を注視していく。』

ということで、これ前回と比較しますと(5)が加わったのと、(1)の所が前回は『(1)わが国の景気は、緩やかな回復基調を続けている。先行きについても、緩やかな回復基調を続けていくとみられる。』(前回)となっていて、「基調」攻撃が外れた分だけ前回より強い内容という事になっています。

ちなみについでに過去のを確認してみましたが、昨年の4月までは上記の(4)に対応する部分の頭からが『「量的・質的金融緩和」は、所期の効果を着実に発揮しており、日本経済は2%の「物価安定の目標」の実現に向けた道筋を順調にたどっている。』(2014年4月の挨拶)となっていまして、実現に向けた道筋を順調にたどっていないのに所期の効果を発揮とは何ぞや(なお2014年7月以降が現在と同じ表現なので、所期の効果も「着実に」は発揮していないようですな(ニヤニヤ)。

まあ物価目標達成時期を区切ってリジッドに対応するのがQQEのキモだった筈なのですが、「基調」で誤魔化すという話は昨年も1回やりかけて、その後10月の謎の追加緩和が登場するという図になっている訳ですな、一応確認の為に。


・さくらレポート:今回は設備を強めにして生産と消費は足踏み的な感じですか

概要
http://www.boj.or.jp/research/brp/rer/rer150706.htm/
http://www.boj.or.jp/research/brp/rer/data/rer150706.pdf(やや重いので注意)

『I. 地域からみた景気情勢』ですけど。

『各地の景気情勢を前回(15年4月)と比較すると、8地域(東北、北陸、関東甲信越、東海、近畿、中国、四国、九州・沖縄)で、景気の改善度合いに関する判断に変化はないとしているほか、北海道からは、生産の増加などを踏まえて判断を引き上げる報告があった。』

ということですが、何せ前回は『3地域(北陸、東海、近畿)からは、回復テンポが強まっているとして判断を引き上げる報告があった。』(前回さくらレポート概要より)となっていまして、回復テンポ引き上げとな!という感じでしたので、今回この調子で上がっていたらさすがに腰が抜けるところだったので横ばいでもはあそうでございますかという感じ。

『各地域からの報告をみると、内外需要の緩やかな増加を反映して生産が持ち直している中で、雇用・所得環境が着実な改善を続けていること等を背景に、全ての地域で、「緩やかに回復している」、「回復している」等としている。』

これまた前回が『各地域からの報告をみると、内外需要の緩やかな増加等から生産が持ち直している中で、雇用・所得環境が着実な改善を続けていること等を背景に、全ての地域で、「緩やかに回復している」、「回復している」等としている。』(前回さくらレポート概要より)となっていましたので、前回の判断を踏襲して改善傾向が続いている、という形になっているので、基調判断自体は横ばいになっていますけれども、前半の所が「内外需要の緩やかな増加等」とか困った時の必殺技「トォー!」が入っていた訳で、それが外れたりしてて、内容は横ばいだけども気分は上向きでルンルン(死語)と言った所っすかねえ。

『公共投資は、東北、関東甲信越から、「緩やかに増加している」、「足もと増加している」との報告があったほか、近畿、四国から、「高水準で横ばい圏内の動きとなっている」等の報告があった。一方、5地域(北海道、北陸、東海、中国、九州・沖縄)からは、「高水準で推移しているものの、減少している」等の報告があった。』

公共投資は前回が増加1、横ばい4、減少3なのでやや下がっているように見えますが、関東甲信越が横ばいから増加になっているのがあるのでそんなに変わらないのでしょうかね。

『設備投資は、3地域(北海道、北陸、東海)から、「一段と増加している」、「大幅に増加している」、3地域(東北、関東甲信越、近畿)から、「緩やかに増加している」、「増加している」との報告があったほか、3地域(中国、四国、九州・沖縄)から、「底堅く推移している」、「持ち直している」等の報告があった。この間、企業の業況感については、「改善している」、「総じて良好な水準が維持されている」等の報告があった。』

これは前回のと比較すると見やすい。

『設備投資は、3地域(北海道、北陸、東海)から、「一段と増加している」、3地域(東北、関東甲信越、近畿)から、「増加している」、「緩やかに増加している」との報告があったほか、3地域(中国、四国、九州・沖縄)から、「持ち直している」等の報告があった。この間、企業の業況感については、「製造業を中心にやや弱めの動きがみられる」との報告があった一方、「改善傾向が続いている」、「総じて良好な水準が維持されている」等の報告があった。』(前回さくらレポート概要より)

全体的に前回よりも強くなっていますな。

『個人消費は、雇用・所得環境が着実な改善を続けていること等を背景に、北海道から、「回復している」、4地域(北陸、東海、四国、九州・沖縄)から、「緩やかに持ち直している」、「持ち直している」等の報告があったほか、4地域(東北、関東甲信越、近畿、中国)から、「底堅く推移している」、「全体としては堅調に推移している」との報告があった。』

これまた前回のと比較する。

『個人消費は、雇用・所得環境が着実な改善を続けていること等を背景に、北海道から、「地域や業態間でばらつきを伴いつつも回復している」、4地域(北陸、東海、四国、九州・沖縄)から、「緩やかに持ち直している」等の報告があったほか、4地域(東北、関東甲信越、近畿、中国)から、「全体としては底堅く推移している」等の報告があった。』(前回さくらレポート概要より)

前回は消費も強くなっていたのだが今回はそんな感じでもないように見える。


『住宅投資は、近畿から、「全体として弱めの動きとなっている」との報告があった一方、3地域(北海道、中国、九州・沖縄)から、「下げ止まっている」等、3地域(北陸、関東甲信越、東海)から、「持ち直しつつある」との報告があった。この間、東北、四国から、「高水準で推移している」、「底堅く推移している」との報告があった。』

住宅は前回弱いのが2で下げ止まりが3で横ばいが1で高水準だの底堅いのが3だったので上も下も減ったという感じですけど、弱い方の表現のニュアンスは若干改善しています。前回は明らかにその前対比で強くしていましたけど今回はそうでもない。

『生産(鉱工業生産)は、内外需要の緩やかな増加を背景に、4地域(北海道、北陸、東海、近畿)から、「高水準で推移している」、「増加している」等、3地域(関東甲信越、四国、九州・沖縄)から、「緩やかに持ち直している」、「持ち直している」等の報告があった。この間、東北、中国から、「横ばい圏内の動きとなっている」等の報告があった。』

前回大幅に上方修正していた生産ですが、今回は東北が判断を若干下げていて、こちらは足踏みという感じになっていて、設備投資の所が強くなっているので印象として強い感じかなあとは思うものの、まあ微妙ちゃあ微妙かもしれませんな。


・さくらレポート地域の視点は一見威勢が良いがただの二極化ではないかという気がする件について

『II.地域の視点』というのが毎回のネタで、前回は『各地域における製造業の生産動向・生産体制』という製造業が回帰するでしょうか的な話で、しらっと結論部分でシュートを投げ込んでいた感じでしたが、今回のお題は『各地域における消費関連企業の最近の販売動向と事業戦略』となっています。

『1.消費関連企業の最近の販売動向』

『各地域における消費関連企業の販売動向をみると、昨年の消費税率引き上げ後は駆け込み需要の反動の影響等から低迷していた先が少なくなかったが、足もとにかけては、雇用・所得環境の改善や株価上昇による資産効果等に加え、訪日外国人需要の増加もあって、売上が持ち直しに転じる先が着実に増加しており、業態や地域等でばらつきを伴いながらも、全体としては緩やかな改善基調にある。』

ばらつきですかそうですか。

『主要業態別には、百貨店は、富裕層や訪日外国人における高額品を中心とした堅調な需要を主因に、多くの先で販売が緩やかに増加している。また、食品スーパーでは、高品質の生鮮食品や総菜を中心に売上を伸ばしている先が多く、コンビニエンスストアも、新規出店や高付加価値商品投入の効果等から増加しているとの声が聞かれる。さらに、家電量販店は、省エネ・高機能製品等の販売が堅調となる中で、訪日外国人需要が売上全体を押し上げている先も少なくない。この間、宿泊は、ガソリン安の効果や海外旅行からのシフト、訪日外国人客の増加等を背景に好調となる先が多く、飲食でも、高単価ながら高付加価値のメニューを提供する先を中心に堅調に推移している先が少なくない。』

ほほう。

『一方、自動車販売店は、新型車や高級車は堅調ながら、軽自動車を中心にその他の車種の不振が続いており、全体では弱めの動きとなっている先が多い。また、総合スーパーでも、他業態への客離れが進む衣料品や日用品等を中心に、厳しさが残っているとの指摘が聞かれる。』

つまり二極化と。

『地域別にみると、都市部の店舗は、高品質・高付加価値品への需要拡大等から、総じて改善基調にある一方、郊外・地方圏の店舗は、資産効果や所得改善効果が限定的なうえ、大都市やEコマースへの消費流出もあって、持ち直しの動きは鈍いとの声が多い。』

てな全体の話で、この時点で二極化と海外頼みですかそうですかという所ですが、この先の所も味わいが深い書きっぷりになっている。『(2)最近の販売動向にみられる特徴点』という所ですが。

『この間の販売動向における特徴としては、高品質・高付加価値の商品・サービスに対して需要が足もと着実に増加していることを挙げる声が多い。この背景としては、以下のような指摘が聞かれている。』

で、箇条書きになっている小見出しを並べると、

『イ.富裕層・シニア層における資産効果を背景とした堅調な支出意欲
ロ.勤労者世帯の一部における消費の持ち直し
ハ.旺盛な訪日外国人需要』

となっていまして、いやまあそれで全体的に景気が強くなってトリクルダウンとか言うのかも知れませんけれども、資産効果と一部の勤労世帯に加えて円安で相対的に安くなった日本に外国人がやってきて結果として価格設定が強気化するという図っていうのはそれ本来的に政策として目指すべきもんなのかねとか思ったりもする訳で・・・・・・

日本銀行法
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H09/H09HO089.html

『第二条  日本銀行は、通貨及び金融の調節を行うに当たっては、物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資することをもって、その理念とする。』

ってある訳でして、国民経済が「健全に」発展しないと拙いんじゃないですかねえとかツッコミを入れても今の黒田日銀にとっては馬の耳に(銃声)。

・・・・・・まあ何ですな、さくらレポートでの書きっぷりはそういう意味では中々滋味が深いと思うのはちょっと変に読みすぎですかそうですか。


○幾つかのペーパーが出ていましたが

・リサーチラボシリーズでインフレリスクプレミアムに関して

http://www.boj.or.jp/research/wps_rev/lab/lab15j04.htm/
マイナスのインフレ・リスク・プレミアム

『要旨』

『インフレ・リスク・プレミアムは、将来の物価変動にかかる不確実性を表す指標である。インフレ・リスク・プレミアムがプラスであれば物価の上振れ懸念が強く、マイナスであれば下振れ懸念が強いことを意味する。わが国のインフレ・リスク・プレミアムは、2012年末までの間、長らくマイナスの状態が続いていたが、2013年初にプラスに転じた。このことは、予想インフレ率が緩やかな上昇を続けるなか、将来の物価変動に対する市場のリスク認識が物価上昇方向に変化していることを示唆している。』

ということでこの件に関しては関連のペーパーとかが以前で出ていたのをコンパクトにまとめた格好になっております。内容としてはそうですかって所ですけれども。

ここの図3に関する説明に味わいが。

『わが国のインフレ・リスク・プレミアム』

『IRPは、名目金利と実質金利のイールドカーブから、金利の期間構造モデルを用いて抽出することができる。本稿では、名目金利のゼロ制約を勘案した金利の期間構造モデル(Imakubo and Nakajima, 2015 [PDF 610KB])による計測結果を紹介する。図3は、わが国の名目金利(10年)の構成要素の推移を示している。2013年以降、予想インフレ率とIRPが名目金利の上昇要因として寄与を高めるなかにあっても、予想実質金利と実質ターム・プレミアムの低下によって、名目金利の低位安定が実現している。一般に、予想実質金利には、現在及び将来の金融政策スタンスに関する市場の見方が反映され、実質ターム・プレミアムには、実質金利にかかる不確実性のほか、中央銀行の政策対応の影響なども反映される(Bernanke, 2013)。この点を踏まえると、この間の実質金利の低下は、日本銀行の量的・質的金融緩和政策がコミットメント効果や長期国債の買入れ効果を通じて金利市場に浸透していることを映じたもの、と解釈することができる。』

ということで図3がありまして、名目金利を分解して分析する中で「実質タームプレミアム」「予想実質金利」「インフレリスクプレミアム」「予想インフレ率」と分解していて、その予想インフレ率が直近で下がってきているように見えるのがチャーミングだったりします。



こちらはWPなので結構長い。

http://www.boj.or.jp/research/wps_rev/wps_2015/wp15j06.htm/
家計の生活意識にみるインフレ予想のアンカー

本文はこちら
http://www.boj.or.jp/research/wps_rev/wps_2015/data/wp15j06.pdf

要旨から。

『要旨』

『本稿は、家計のインフレ予想の性質と中央銀行による予想の安定化について考察する。家計のインフレ予想に関する個票データは、様々な歪みを伴っている。』

ここの具体的な歪みに関しては(0が多いとか5の整数倍が多いとか)本文に指摘があって面白い。

『本稿では、正規逆ガウス分布を当てはめることによって、そうしたデータの歪みを除去する。こうして得られる分布は潜在分布と呼ばれ、その性質を調べることによって、家計のインフレ予想の特徴、特に、インフレ予想の期間構造的な関係性があぶり出される。』

ほう。

『分析結果によると、長期のインフレ予想は、現実の物価動向に左右されにくく、逆に、短期のインフレ予想は、現実のインフレ率によって影響されやすいことがわかった。また、本稿は、中央銀行の政策スタンスが家計のインフレ予想に、どの程度影響を及ぼし得るのかという点についても分析を行った。分析の結果、2013年に日本銀行が導入した物価安定目標や量的・質的金融緩和は、インフレ予想のアンカー強化に寄与したことが確認された。もっとも、家計のインフレ予想が現実の物価動向から全く影響を受けなくなった訳ではない。その意味で、インフレ予想のアンカーを強化する余地は残されている。』

ということでまあ結論に関してはお察しというか、以前もこちらではWP形式ではなくて日銀レビュー形式での公表がありました次第で、QQE以降サーベイのインフレ予想が2%に徐々にアンカーされているという話ではありますな。


でまあこちらに関してははあそうですかという所なのですが、問題はインフレ予想が2%にアンカーされたからと言ってそれが消費などを全体として強くするような結果になっているのかという話ではあるのですが、そちらに関してはこちらのペーパーでは当然ながらスルー。まあそこに関してケシカランという気は全くなくて、これはこれでそうなんですねという話として、それが政策的にどういう効果に繋がっているのかというのを執行部は検討すべきという話になるんでしょうな、

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2015/07/02

○短観である

http://www.boj.or.jp/statistics/tk/gaiyo/2011/tka1506.pdf(今回)
http://www.boj.or.jp/statistics/tk/gaiyo/2011/tka1503.pdf(前回)

まあ毎度のことですが細かい分析は本職の方がやってらっしゃると思いますので、個人的に毎回確認していることを再確認という所です。

で、先に私家版結論を申し上げると、製造業大企業と非製造業が強めで来ているのが良いのですが、製造業中堅中小が冴えないのが気になるところなのとそれ以外にもちょっと気になる点が(杞憂かも知らんが)。雇用判断DIはその数字そのものは水準として強めに推移していますが、従来と比べると勢いがなくなっているように見える辺りが気になります。設備投資に関しては皆様ご指摘のように強いのでこれがそのまま出てくれると良いですねという話なんですがさてどうなんでしょ。


・前回の先行き予測DIの達成状況

         (3月時点)     (6月時点)
         現状→6月予測    現状→9月予測
製造業大企業   +12→+10     +15→+16 
製造業中堅企業  +4→+3       +2→+4        
製造業中小企業  +1→0        +0→0

非製造業大企業   +19→+17    +23→+21
非製造業中堅企業  +14→+10    +16→+14
非製造業中小企業  +3→▲1      +4→+1

足元で見ますと前回の先行き予測DIは基本的に上振れになっていますし、水準自体も概ね前回から上昇しているのですが、製造業の中堅中小だけ先行き予測DIも前回水準も上振れずというのがいわゆる「回復の2極化」がここに来て進んできているという懸念も無きにしも非ず。

あと、アタクシ的に気になったのは、基本的に景気回復局面において先行き判断DIってのは控えめに出る傾向があるので、そういう意味では回復局面においては先行き予測DIが足元の数値よりも弱めになる方はあまり懸念していないのですが、今回は製造業大企業(と中堅)の先行き予測DIが上を向いている事であります。

勿論これを「本格的に回復へのコンフィデンスが高まってきた!だから設備投資計画も強くなってきた!」と見るというのもあるのですけれども、何でも捻って見る仕様のアタクシとしましては「これは天井フラグ?」と思ってしまうのですが、はてさてどうなるでしょうかね。




・雇用判断DI(ここの数値はマイナスが大きい方が雇用情勢的には良い)

        (3月時点)      (6月時点)
        現状→6月予測     現状→9月予測
製造業大企業  ▲2→▲2       ▲2→▲3
製造業中堅企業 ▲9→▲7       ▲6→▲9
製造業中小企業 ▲10→▲10     ▲9→▲10

非製造業大企業   ▲18→▲17    ▲17→▲18
非製造業中堅企業  ▲23→▲25    ▲22→▲24
非製造業中小企業  ▲26→▲28    ▲22→▲28

基本的に水準は強いのですが、基本的に前回水準よりもマイナス幅が縮小していまして、更にドンドンタイト化が進むというよりは強めの状況がキープと言う所でしょうか。ただ以前からの勢いは無くなっているようには見えますが。


・価格判断DI

昨年9月短観からしらっと投下された物件。

販売価格判断(「上昇」-「下落」)

        (3月時点)      (6月時点)
        現状→6月予測     現状→9月予測
製造業大企業  ▲6→▲5        ▲4→▲3
製造業中小企業 ▲6→▲5        ▲4→▲4

非製造業大企業  +7→+8      +7→+6
非製造業中小企業 ▲1→+1      +1→+2



仕入価格判断(「上昇」-「下落」)

        (3月時点)        (6月時点)
        現状→6月予測       現状→9月予測
製造業大企業  +11→+15       +14→+16
製造業中小企業 +33→+38       +35→+39

非製造業大企業  +18→+21      +20→+23
非製造業中小企業 +24→+34      +25→+32


今回は珍しく(?)仕入れ価格判断と販売価格判断が概ねパラレル近辺で改善(価格上昇)していまして、業況判断DIとか雇用判断DIとかも達観してみてしまえば今回ってあまり変化が無いという感じではあったので、まあそんなもんすかねえと。



・需給判断DI

同じところに需給判断DIがあって、ここの製造業を見るとですね。


国内需給判断(「需要超過」-「供給超過」なのでプラスの方が強い)

        (3月時点)        (6月時点)
        現状→6月予測       現状→9月予測
製造業大企業  ▲12→▲12       ▲12→▲9
製造業中小企業 ▲22→▲22       ▲23→▲22


海外需給判断(「需要超過」-「供給超過」なのでプラスの方が強い)

        (3月時点)        (6月時点)
        現状→6月予測       現状→9月予測
製造業大企業  ▲7→▲4          ▲7→▲5
製造業中小企業 ▲11→▲11        ▲12→▲11

ここも達観すると横ばいなのですが、海外需給見通しの先行き見通しを達成できていないのは若干気になる所です。でもって今回も先行きは改善とみているようなので、海外が弱いとその分ってどこかでカバーしないと見通しが達成しにくくなるんじゃないのという悪寒が。


・毎度お馴染み金融商品取引業の業況判断DI

毎度お馴染み金融商品取引業業況判断DIですが。

        (3月時点)       (6月時点)
        現状→6月予測      現状→9月予測
金融商品取引業 +55→+61   +62→+62

普通当たらない予測DIが当たっているとか何と言う死亡フラグと思うのですが、あと興味深いというか味わい深いのはですな・・・・・・・


前回こんなこと書いたんですよね。

『ここの業況判断を見ますと、金融機関の中で前回対比DIがいい感じで改善しているのが金融商品取引業、保険業、貸金業等でして、その中で先行き予測DIが更に強くなっているのが実は金融商品取引業だけで、他は先行きDIを現状より強くしていない(というか基本下げている)という辺りがどう見ても死亡フラグです本当にありがとうございました。』(前回短観を受けたアタクシの駄文@4月2日)

でまあ今回なのですけれども、前回対比でDIが改善しているのは遂に金融商品取引業だけになってしまいまして、銀行、保険は前回よりも下がっている(ただし予測DIよりは上振れ)し、信用金庫、貸金業は横ばい(これまた予測DIよりは上振れ)となっていまして、ついに金融業の中でウハウハ継続なのは金融商品取引業だけとな
ましたが何ですかこれはという所ではございますな。


ということで不真面目な短観見物はこんな所で。

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2015/06/26

○そういえばうっかりしていましたが国債決済T+1ですかそうですか

昨日の日経朝刊に思いっきり出ていましたな(汗)。

http://market.jsda.or.jp/shiraberu/saiken/kessai/jgb_kentou/index.html
国債の決済期間の短縮化に関する検討状況について

こちらの報告書等の最初の所に

・国債の決済期間T+1化の実施目標時期等について(2015年6月)
http://market.jsda.or.jp/shiraberu/saiken/kessai/jgb_kentou/T1_mokuhyoujiki.pdf

・参考資料 国債取引の決済期間の短縮化に伴う国債店頭取引精算業務に係る制度要綱(日本証券クリアリング機構) 
http://market.jsda.or.jp/shiraberu/saiken/kessai/jgb_kentou/jscc_seidoyoukou.pdf

というのがありまして、最初の方のURL先から。

『本協会「証券受渡・決済制度改革懇談会」の下部機関である「国債の決済期間の短縮化に関する検討ワーキング・グループ」(以下「本WG」という。)では、「国債取引の決済期間の短縮(T+1)化に向けたグランドデザイン」(以下「グランドデザイン」という。)における方針1を踏まえ、市場参加者へのヒアリングや調査(別添1)を通じてT+1化に係る市場関係者の開発スケジュールの把握に努めて参りました。』

開発スケジュールの把握とかもう最初から(銃声)。

『この度、本WG では、上記調査等を踏まえ、T+1化の実施目標時期を定めると共に、実施に向けた主要マイルストーン(別添2)を取りまとめました。具体的には、市場関係者は所要のシステム開発を2017 年夏頃までに終え、同年秋口からの総合運転試験等を十分に行った上で、2018 年度上期2のT+1化を目標とすることを合意いたしました。』

いやー2018年度上期ですかそうですかー。まあこの時に日銀のバランスシートが縮小に向かっていて国債の流動性も復活して、金利も復活していることを願うしかありませんが、うっかりこの時期に出口みたいなのとぶつかると今の建付けのままだったら大変なことになると思いますよ。SLFの常設ファシリティ化と日銀保有銘柄のスイッチングオークションの制度導入を早くしてください。

『また、別添2に記載のとおり、このスケジュールに沿って準備が行われるための課題・留意点についても、調査結果等を踏まえ整理しています3。市場参加者におかれては当実施目標時期及び主要マイルストーンを念頭に、引き続き国債決済期間短縮(T+1)化、及び新現先取引への円滑な移行をはかるべく、業務・システム面の対応を進めていただくようお願いいたします。』

『今後、本協会及び本WGにおいては、引き続き関係当局・関係機関、市場関係者と協力し、円滑なT+1への移行及び新現先への一元化に向けて、必要な周知・啓発活動、市場慣行の整備等を推進していく予定です。』

で、日経の記事だと決済期間短縮で未決済残高の積み上がりが減るからリーマンショックのようなときに市場の混乱が小さくなるという話が出ていましたが、そらまあ未決済残高の積みあがり(しかもあの時は新発5年入札の翌日だかに飛びやがったからもうねという所)で市場混乱というのはその通りなのですが、それってCCPを導入しても抑制できるはずの話であって、別にT+1化をしなければ出来ないというたぐいのものではないし、大体からしてTBTFの金融機関に対する資本チャージとか流動性確保のレギュレーション改定とかでそっちのリスクって減ってねえかとか、まあT+1をやりたいのは分かるのですけれども、何かこう色々なものを詰め込みすぎ(新現先とかトライパーティーレポとかCCPとかT+1とか)で話の難易度を無駄に上げている感はあるんですよねえこの件って。

まあ何はともあれ、T+1やって決済リスクが削減されても事務リスクが高まったり債券市場の流動性が低下したら何のためにやったのかという話になりますので、事務リスクの方は新現先とか銘柄後決めGCとかトライパーティーレポとかそういう話でしょうが、債券市場の流動性に関しては日銀がT+1化推進する中で金融政策の方でせっせと流動性を殺しに来ているのですから、そっちは制度手当はやくやれやという事を再度申し上げておきますです、はい。

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2015/06/25

○5月金融政策決定会合議事要旨は議論の内容が劣化している点が嘆かわしい件

ということで・・・・・・・・・
http://www.boj.or.jp/mopo/mpmsche_minu/minu_2015/g150522.pdf

例によって『U.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要』から先を鑑賞しませう。

・海外の金融市場と海外経済に関して

『国際金融資本市場について、何人かの委員は、これまで低下基調にあった欧州長期金利が上昇した背景として、経済・物価指標の好転を契機として行き過ぎた金利低下の巻き戻しが起きたものとの見方を示した。』

つーことですが、

『欧州での金利上昇に関連して、何人かの委員は、ドイツでの金利急騰が国際的に波及したことを指摘し、裁定の働き方などの市場メカニズムや実体経済への影響について分析しておく必要があると述べた。』

と、この部分ですけれども、これは欧州の話による影響についてというよりも実は米国の今後の利上げの話とか、日本の将来にあるはずの(というか無いと困る)QQEの終了における世界的な金融市場への影響と、そのフィードバックについて考えるという話をしているのでしたらほほうという所ではあるのですがね。

『この間、何人かの委員は、政府の資金繰りの状況などギリシャ情勢には引き続き注意が必要であると述べた。』

具現化していますな。


『海外経済について、委員は、一部になお緩慢さを残しつつも、先進国を中心に回復しているとの認識を共有した。先行きについても、委員は、先進国を中心に、緩やかな回復が続くとの見方で一致した。』

ということで地域別の展開が以下にあるのですが、米国は1-3については一時的で済むでしょうという話で、欧州は緩やかな回復、中国は当局の下支えで何とか大丈夫、新興国は当面厳しいけどそのうち何とかなるでしょう的な話ですが、引用すると長くなるんで割愛します。


・国内経済に関して

以下国内経済に関する部分になります。

『わが国の景気について、委員は、家計・企業の両部門において、所得から支出への前向きな循環メカニズムがしっかりと作用し続ける中で、緩やかな回復を続けているとの認識を共有した。』

最近は実質賃金プラスで前向き循環メカニズムの話に関して益々鼻息が荒くなっている感が。

『また、ある委員は公共投資が緩やかな減少傾向に転じている中でも経済成長が続いていることは、前向きな循環メカニズムがしっかりと作用している証拠だと述べた。』

何かまあ威勢の良い話をしたいのは分かるのだが、この理屈ってなんか無理矢理なのではないかという気がするんだが・・・・・・・・・

『景気の先行きについても、委員は、緩やかな回復を続けていくとの見方で一致した。』

まあこれは声明文通り。以下需要項目別に。


・輸出と設備投資だが一部ちょっと意味がアレな見解が

『輸出について、委員は、持ち直しているとの認識で一致した。先行きについても、海外経済の回復などを背景に、緩やかに増加していくとの見方で一致した。』

ただ惜しい事に6月月報で輸出に関しては先行き見通しが微妙に弱くなっていますね。

『先行きの輸出に関連して、何人かの委員は、中国など、いくつかの国・地域で先行きの景気拡大テンポが緩やかにとどまる可能性があるため、わが国の輸出の増加ペースも緩やかなものにとどまるとみられると述べた。このうち複数の委員が、特に中国経済の減速やその波及懸念をリスク要因として指摘した。一人の委員は、アジア域内での貿易が低調になっていることが、わが国の輸出に与える影響について注意していく必要があるとの見方を示した。』

まあこの辺り何人かの委員の方々が指摘しているリスクがやや現れている、というか毎度の
輸出出る出る詐欺状態という事でしょう。

『一方、別の一人の委員は、契約通貨ベースの輸出物価指数の低下傾向が深まっていることを指摘し、わが国の輸出競争力が強まっているとみられると述べた。』

・・・・・・・・・なんかイマイチ良くわからんのですが、契約通貨ベースの輸出物価が低下傾向だったら別に輸出競争力が強まっている訳ではなくて単に価格勝負しているだけの話だし、円安効果で価格勝負しているならいわゆるJカーブ効果が出てくるはずなのに出ていないのですからこの指摘はナンジャソラ感があるのだが、どういう意味なのがアタクシ頭悪くてワカランチ会長なので誰か教えてジェネラル!!


設備投資はここもと出る出る詐欺からやっと・・・・・という状況ですが。

『設備投資について、委員は、企業収益が改善する中で、緩やかな増加基調にあるとの認識を共有した。先行きも、企業収益が改善傾向を辿る中で、緩やかな増加基調を続けるとの見方で一致した。』

うむ。

『複数の委員は、企業マインドが改善し続けていることや、積極的な設備投資計画が示されていることに言及し、先行きは、緩やかに増加していくとの見方を示した。』

まあこれは良いとして。

『このうちの一人の委員は、円安の定着による製造業の国内回帰も、先行き、設備投資を支えていくと述べた。』

それってそんなに出るもんなのか??????国内需要が景気回復で戻るから国内生産が上がって設備が出るというのなら分かるけど。

『一方で、設備投資の回復ペースが依然として緩やかであり、力強さを欠く背景として、複数の委員が、原油安による実質所得の増加効果が期待したほどみられないことを指摘した。』

ですなあ。


・そして雇用の所で頭がクラクラする記述があるのだ

次が雇用。

『雇用・所得環境について、委員は、労働需給は着実な改善を続けており、雇用者所得も緩やかに増加しているとの認識を共有した。先行きの雇用者所得についても、経済活動や企業業績の回復につれて、緩やかな増加を続けるとの見方で一致した。』

とまあここまでは良いのですよ。

『一人の委員は、製造業と比べ、非製造業では賃金が上がり難いとの認識を示したうえで、非製造業における生産性の向上が、今後の賃金・物価上昇のために重要であると述べた。』

生産性が向上しないで賃金が上昇したら企業から見たら単にコスト拡大収益減少要因ですもんね。

『何人かの委員は、生産性の向上の重要性は認めつつも、仮に生産性の向上が全ての業種で生じなくとも、労働市場における人手不足は業種や地域、職種を超えて波及するものであり、賃金上昇が拡がっていくことが期待できるとの見方を示した。このうち一人の委員は、人手不足によって、非正規雇用の時給も上昇していくことが期待できると述べた。』

・・・・・・・・・(−_−;

えーっとすいません、その理屈って生産性が向上していない企業においては単なるコストアップになるだけの話で、それは企業の収益圧迫になる話ですからして、一時的に賃金上昇を行ったとしても、それは持続可能な話ではないですし、逆にどうやってそういう状況で持続的に賃金が上昇するのかという点について納得の行く説明を頂きたい訳ですよ。

ということで、これどう見ても最初の「一人の委員」の見解の方が当然だと思うのですが、無理筋理屈で賃金が持続的に上昇するという絵を描こうとしている人たちが「何人かの委員」になっているというこの人数関係に非常に嘆かわしいものを感じるわけでございます。

では何でこんな無理筋理屈で賃金が持続的に上がるという絵を平気でかけるかと言えばご案内の通りで、賃金が上昇して物価が上昇する内生的なメカニズムが働くというシナリオで説明しているからそういう話になるのですな・・・・・・と考えますと、賃金上昇と物価上昇の内生的な物価上昇メカニズムという話も企業の生産性とか労働コストという面から考えた場合になんか無理筋なロジックなんじゃネーノとか思ったりするのでありました。


・消費、住宅投資、生産の指摘はまあ普通

『個人消費について、委員は、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、底堅く推移しているとの認識を共有した。多くの委員は、消費者マインドの改善が明確になっていることや、百貨店売上高や家電販売額が増加を続けていること、また、1〜3月のGDP統計において個人消費が3四半期連続のプラス成長となったことを指摘し、底堅さを増しているとの見方を示した。』

『先行きの個人消費について、委員は、雇用・所得環境の着実な改善が続くもとで、引き続き底堅く推移するとの見方で一致した。』

はいはい実質賃金実質賃金。

『複数の委員は、足もと、耐久財や日用品の販売が力強さを欠いている背景として、物価上昇に対する抵抗感や低価格指向の消費者行動が残存していることが影響している可能性について言及した。』

ですなあ。

『住宅投資について、委員は、下げ止まっており、持ち直しに向けた動きもみられているとの認識を共有した。先行きは、雇用・所得環境の着実な改善が続くもとで、緩和的な金融環境にも支えられて、持ち直していくとの見方で一致した。』

これまた実質賃金とな。

『鉱工業生産について、委員は、内外需要の緩やかな増加を反映して、持ち直しているとの認識を共有した。先行きについても、委員は、内外需要を反映して、緩やかに増加していくとの見方で一致した。何人かの委員は、生産の回復が緩やかである背景として、在庫調整圧力が残っているとの見方を示した。一方、別の複数の委員は在庫に関連して、1〜3月期のGDP統計において在庫投資のプラス寄与が大きかったことは認めつつも、在庫を除く最終需要はしっかりと増加しているとの見方を示した。』

なるほど。


・実質金利の低下が効果だそうですがツッコミが入っているのがワロタ

続きまして『V.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要』である。

『多くの委員は、「量的・質的金融緩和」について、所期の効果を発揮しているとの認識を共有した。これらの委員は、需給ギャップや中長期的な予想物価上昇率に規定される物価の基調は、今後も改善傾向を辿るとの見方を共有した。』

はいはい基調基調。

『多くの委員は、「量的・質的金融緩和」の導入以降、名目金利が低位で安定的に推移する一方、やや長い目でみた予想物価上昇率は全体として上昇しており、実質金利は低下しているとの認識を示したうえで、そのことが企業・家計の支出行動を支えているとの見方を示した。』

実質金利が支出行動を支えるという理屈は未だにしっくりきませんなあ、と思ったら・・・・・・・・

『過去2年間における「量的・質的金融緩和」政策の効果について、何人かの委員は、2%の「物価安定の目標」に対する強く明確なコミットメントと、それを裏打ちする量と質の両面で次元の異なる金融緩和を行うという政策の効果を定量的に点検し、情報発信を行っていくことの重要性を強調した。』

(;∀;)イイハナシダナー

『より最近に限ってみれば、何人かの委員は、長らく低金利が続くもとで、実質金利の低下の限界的な効果は逓減してきている可能性があり、この点は、データの蓄積とともに分析を深めていく必要があると述べた。』

これは少なくとも佐藤さんと木内さんが指摘してそうですが、4月展望レポートが出た直後に企画局謹製のペーパーが出ていましたが、それ出して半月程度の時点でこのような「定量的分析が必要」という指摘が出ている辺りに深い味わいを感じるところです。


・物価の話が楽観杉というかさっきまでの雇用所得改善で拡大という話との整合性はと聞きたくなる件

『金融政策を運営するうえでの物価動向の判断について、委員は、「物価安定の目標」は安定的に達成すべきものであり、金融政策運営に当たっては、物価の基調的な動きが重要であるとの認識を共有した。』

ということでもしや佐藤審議委員がこの前指摘していたローリングターゲットとかフォーキャストターゲットみたいな話が出るかと期待しましたが・・・・・・・・・・

『何人かの委員は、原油価格の下落に伴い消費者物価上昇率が低下するもとでも、先行き物価上昇率が高まるという予想が維持されていると指摘した。』

どうもインフレ期待の話になってしまいましたが、上記の件はそれどの辺の数字を出すのかで全然違いますな。

『また、何人かの委員は、速報性の高い物価関連指標をみると、4月入り後、日用品や食料品などで価格改定の動きが広がっていることに言及した。この点に関連して、複数の委員は、こうした動きは、企業サイドで従来のデフレ型ビジネスや低価格戦略が見直され、付加価値を高めつつ販売価格を引き上げるビジネスへの転換が進んでいることの表れであるとの見方を示した。このうちの一人の委員は、先行き、所得が名目・実質ともに改善していくことが見込まれるため、家計の物価観が変化し、物価上昇を容認する前向きな姿勢が生じていくことが期待できると述べた。』

最初の日用品の価格改定はコストプッシュの話でまあそれは分かるのですが、それ以下の部分ってホンマカイナというかそんなに広がりのある話かよというのが続いていて、徐々に???感が強くなる話になり、最後は「物価上昇を容認する前向きな姿勢が生じていくことが期待」っていやあのそれはさすがに現状では無理筋じゃネーノ、というのが自然な流れで出てくるというのが議事要旨の作文クオリティの高さを感じますが、まあなんちゅうか楽観にも程がある物価見通しのような気がする。

大体からして雇用所得状況が改善して消費が住宅投資がという話をしているのに、物価の話になると物価が上がっても無問題というのは整合性大丈夫かと思うのだが、どう見てもこの書き方はそのような超楽観というかご都合チックな物価見通しが反映されている人たちがかなーりおいでになるという事なのではないかと思いますとやっぱり2年(というか2016年度前半)で2%行かないという話になったらどうするんでしょと。

『一方、何人かの委員は、4月の東京都の消費者物価指数の前年比が低めとなったことに注目し、東京都区部での物価の弱めの動きが、全国にどのような影響を持つか留意していく必要があるとの見方を示した。』

という反論もあるようですな。

『これらの議論を受けて、委員は、予想物価上昇率は、やや長い目でみれば全体として上昇しているとの認識を共有した。そのうえで、多くの委員は、先行き、物価の基調を規定する需給ギャップは着実に改善し、予想物価上昇率も高まっていくことから、原油価格下落の影響が剥落するに伴って消費者物価は伸び率を高め、2016 年度前半頃に2%程度に達する可能性が高いとの見方を共有した。』

あっそう。

『一方、一人の委員は、今年度の所定内賃金の上昇率が、0%台半ば程度にとどまると見込まれるほか、成長率についても展望レポートの中心的見通しよりも弱めに予想していると述べたうえで、この先、消費者物価の前年比上昇率が今年度後半に顕著に上昇するとのシナリオは描き難いとの見方を示した。』

まあ今年度後半に顕著に物価が上昇、という日銀見通しが正しいかどうかというのが見えてくるのが今年の年末から年初にかけて、と考えますと、来年から展望レポートが年4回になり、一発目が1月の金融政策決定会合である、というのはまあ即ち次の金融政策に関する何らかの動きというのは1月のMPMが一つの焦点になって来るのでしょうなあと思うのでした。今年10月と来年4月というのもアリエールなポイントですがその辺の考えは次の展望レポート中間レビューを見ながら頭を整理したいなあとは思います。


・いつもの木内さんの反対提案である

でまあ現状維持という話が出て、毎度の木内さんの反対提案の話が出てくるので、暫くスルーしていたので木内さんの提案趣旨から入りましょう。

『一方、一人の委員は、需給ギャップがゼロ近傍まで改善する中、逓減している「量的・質的金融緩和」の追加的効果を副作用が既に上回っており、導入時の規模であっても、金融面での不均衡の蓄積など中長期的な経済の不安定化に繋がる懸念があると述べた。』

資産買入による追加効果が逓減している中で副作用が高まるという趣旨での指摘です。毎度のことですが念のため確認。

『そのうえで、この委員は、@金融市場調節および資産買入れ方針について、マネタリーベースと長期国債保有残高の増加ペースを、段階的減額を視野に入れて、「量的・質的金融緩和」導入時を下回る水準まで減額すること、A先行きの金融政策運営について、「物価安定の目標」の達成期間を中長期へと見直すとともに、金融面での不均衡など中長期的なリスクにも十分配慮した柔軟な政策運営のもとで、早期に「量的・質的金融緩和」の終了や金利引き上げに向かうのではなく、資産買入れ策と実質的なゼロ金利政策をそれぞれ適切と考えられる時点まで継続するとの表現に変更すること、などを主張した。』

具体的提案はご案内の通りで45兆円ペースの拡大な。


・今回の決定会合議事要旨の白眉というか最大のエンターテイメントというかゴミクズ議論は最後に登場!!!

・・・・・・とまあこれはとりあえずマクラとして置いたのですがこの次の意見が目を疑う内容。

『これに対して、ある委員は、現状、金融面での不均衡や金融緩和の副作用を示す理論や事実に基づく具体的な根拠はないと述べた。』

>金融面での不均衡や金融緩和の副作用を示す理論や事実に基づく具体的な根拠はない
>金融面での不均衡や金融緩和の副作用を示す理論や事実に基づく具体的な根拠はない
>金融面での不均衡や金融緩和の副作用を示す理論や事実に基づく具体的な根拠はない

・・・・・(;゚д゚)
・・・・・(;゚д゚)
・・・・・(;゚д゚)

えーっとすいません、効果と副作用を比較衡量して効果の方が上回っており、今後も当面はその状況が続くから問題ない、というのなら話としては正統派なのですが、副作用を示す「理論に基づく具体的な根拠はない」とはどういう事でしょうか?????????????????

ここで先般佐藤審議委員が山梨金懇で行った挨拶のテキストから引用してみましょう。
http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2015/data/ko150610b1.pdf

『もとより政策効果と副作用は表裏一体で、副作用のない政策に効果は期待できない。もっとも、異例の政策を続けていくなかでは、効果と副作用を比較し、副作用が政策継続の限界的な効果を上回らないかどうかのチェックは欠かせない。』(上記URL佐藤審議委員山梨金懇挨拶の『3.当面の金融政策運営』の『(4)副作用の点検』より)

・・・・・という佐藤審議委員の言葉を持ち出してみましたが、そもそも理論的に副作用を示す根拠が無いとか、無学のアタクシですら「フリーランチは無い」という経済学だかの常識の常識みたいな言葉を存じ上げております次第でございまして、そもそもお前副作用が無い政策だったら効果だって無いだろ頭逝かれてるのかと小一時間問い詰めたい訳です。

だいたいお前そんなこと言う前にQQE導入時に提唱していたマネタリーベース出せばインフレ期待が上昇するというマネタリーベース直線(だか対数曲線だかの)一気理論に関して「理論や事実に基づく具体的な根拠」を出してみろやオラオラオラという所でございまして、よくもまあ恥ずかしげも無くこのような演説を打てるもんだと思う訳ですよ。

でまあこれって「議事要旨」だったりするので、実際はもっと目を覆いたくなるようなゴミ演説が行われていた可能性だってあるとか考えますと、日本の金融政策を決定する最高機関においてこのような「理論的に副作用の無い政策がある(キリッ)」などという赤点再履修というか高校の政経からやり直してこいというレベルの話を堂々と実施されている、という辺りに涙が止まらなくなるほど情けないものを感じてしまうのでありました。

時々アタクシホームラン級の馬鹿発言などと申し上げたりしますが、10ウン年日銀関連の文書を見ておりましてここまで壮絶な馬鹿発言を見たのは初めてでして、これはホームラン級を通り越して殿堂入り間違いなしというレベルで、もしかして貴殿におかれましては脳が溶解して鼻水耳垂れになっているのではないかとご心配申し上げたくなりますが、さて誰がこの発言したのかとか考えますと、だいたい2名ほどのお顔が頭に浮かんでくるのですが・・・・・・・・・・・・


いやしかしですよ、こんなレベルの発言するのが政策委員会に居るという状況でこの政策の大風呂敷畳むという一番大事なことって無事に出来るのかとか考えますと、何らかの形で大爆発するという悲観シナリオが頭にチラチラしてきてひじょーに暗い気持ちになるのですがねえ・・・・・・・・・

つーことでまあ最後のここがあまりにも強烈過ぎて他の所が霞みますが、良く良く見ますと途中の議論の中でも微妙にそれ変だろ(特に生産性と賃金上昇の辺りとか)というのが散見される訳でして、政策委員会そのものが大丈夫かという懸念もあったりしますな、うんうん。

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2015/06/24

○債券市場参加者会合とな

http://www.boj.or.jp/paym/bond/mbond1506.pdf
2015年6月22日 日本銀行金融市場局
「債券市場参加者会合」第1回議事要旨

ということでこの前告知されていた奴が先日実施されていたようですが。

『1.開催要領

(日時)バイサイドグループ(21 先) 6 月11 日(木)18 時〜19 時30 分
銀行等グループ(22 先) 6 月12 日(金)16 時〜17 時30 分
証券等グループ(25 先) 6 月12 日(金)18 時〜19 時30 分

(場所)日本銀行本店

(参加者)「債券市場サーベイ」や「市場参加者との意見交換会」等に参加する金融機関の実務担当者(本行出席者)金融市場局長、総務課長1、市場調節課長、市場分析グループ長2、市場整備グループ長』

要するに拡大オペ懇みたいな感じですが、結局20人とか集める上に同じ業態ばかり集めるとかまあ普通に考えて忌憚の無い意見交換が出来るのかというとまあ棒読み系になるんじゃネーノとか思う次第な訳ですが、ここで意見交換の最初の部分を見てみましょう。

『債券市場サーベイ
・債券市場の機能度は、サーベイ結果が示しているとおり、大分安定してきた印象を持っている。
・サーベイ結果をみると、債券市場の機能度は改善しているが、投資家の肌感覚としては、機能度は引き続き低いという印象がある。
・債券市場の機能度判断の水準が低い背景には、低金利の中でそもそも取引を諦めている市場参加者が多いといった、流動性指標に表れにくい要素があるのではないか。』

・・・・・・・・いや普通に機能度益々下がっているだろうとしか申し上げようがない訳で、ちょっと売買があるとカーブが動くし輪番とか入札のスケジュールに向けてイールドカーブが動くし。金利水準が上がったのでちょっと売買が入るようになった分だけ違っているけれども日中の価格形成は益々酷い事になっているようにしか見えないのだが。

以下も何かこうシャンシャンっぽい要旨になっておりまして、そらまあ「市場から機能が大きく低下して問題だから今の政策の有り方を何とかしろという話が圧倒的」とはオトナの事情で書きにくいという面もあるでしょうし、そもそもオペ先集めている訳で日銀オペに参加することによってメリット受けている先を集めたら余程オペで困ったことにならない限りオペ減らせという事にはならん罠とか、まあ実際に忌憚の無い意見交換というのであればこういうセレモニー的にしない方が良いのではないかとか色々と。

とまあ悪態はつくものの、そもそも論から言えば日銀のオペレーションって短期金融市場の資金需給調節によって短期金融市場のスムージングを行って翌日物金利をターゲット水準近辺に着地させるというのを長年やってきた訳で、債券市場がどうのこうのとか知らんがなという時代が非常に長かったのですから(前回の量的緩和の時は短国買入で積んでいたから短国市場は気にする必要があったが輪番は特にオペレーション上の問題はなかった)、国債発行して市場消化しないといけないから債券市場について色々と理解しないとマズーという発行当局とは債券市場に対する知見について業務上の必要性が全然違いますので、まあこういうのやろうというだけでもマシちゃあマシなのかも知れませんけど。何せ今はQQEによって国債(と短国)を市場のキャパいっぱいいっぱいまで買う(どころかキャパ以上買っているのではないかと思われるのですがそれは)ようになり、しかも政策継続する中で輪番オペなり短国買入なりが爆発してしまって政策が続けられなくなる、などという事態を事務方が引き起こす訳には逝かないとなりましたので、まあ慌ててこういうのを始める破目になったという点については事務方に同情申し上げておきます、と一応悪態のフォローをする優しいこのアタクシなのでした。

しかしまあ何ですな、

『金融市場の動向・オペ運営』の所の意見は幾つかオモロイ。

『・金融政策の変更がない中で、日本銀行が国債買入れオペのオファー額を変更することは、市場のボラティリティを大きくする要因となっているのではないか。』

まあ分かる。最初の設計時点で2倍2倍というしょうもないのをするために7年とか平均買入年限を設定したのが話をややこしくしている。

『・国債買入れオペのオファー日程・ゾーン・金額を予め公表することを検討して欲しい。』

今の買入方式だと難しいのではないでしょうかねえ。買入基準利回りを買入当日に決定するFED方式をしないといかんでしょうけどそれはマンパワー的にも市場慣行的にも難しいと思う。

『・足もとでは、国債取引の執行に大きな問題は感じないものの、国債補完供給制度の更なる要件の見直しなど、ボラティリティの上昇した局面でも、流動性を確保できる方策を検討しておくことは有益ではないか。』

どうせなら「国債市場流動性供給オペ」とか銘打って日銀保有銘柄のスイッチングオークションもできるようにすれば市場の流動性は格段に上昇するんじゃないですかねえ(それはそれで問題が起きるけど)。

まあそれは兎も角として、SLFについては今後T+1化するとかいう話で出口を迎える中で、国債市場の流動性が落ちる中でもっと「積極的に活用されるべき常設ファシリティ」となるべきじゃないですかねえと思うのですよ。ただまあというのは過去からここに至るまでの日銀のSLF内容の改定の内容を見ると「常設ファシリティ的にしたくない」というのはプンプン漂ってきますが。

『・ 物価連動国債の発行額増加を踏まえ、日本銀行の国債買入れオペによる買入れの増額を検討して欲しい。』

いやまあ仰りたい趣旨は分かるのですがそれは・・・・・・・

通常の国債の場合は財務省による国債発行計画の中に市場のニーズの他に発行当局のニーズとして発行年限を長期化したいというのがあるから、それによって平均発行年限が変わってきた中で日銀の国債買入も市場の平均辺りに持って行く方がマーケットニュートラルではないか、みたいな理屈は成立すると思うのですが、物価連動国債の場合はそもそも「投資家のニーズが高まったから発行額を増加した」ものなのですから、発行が増えたからオペを増やしてくれというのは(気持ちは分かるが)クレクレにも程があるのですがとかなり爆笑の発作を起こしてしまいましたです。いやはや。

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2015/06/23

○金融経済月報では生産と輸出の見通しに微妙な文言が

http://www.boj.or.jp/mopo/gp_2015/gp1506.pdf(今回)
http://www.boj.or.jp/mopo/gp_2015/gp1505.pdf(前回)

ということで、この月報も年内で終了と思うと中々寂しいものがありますので、本日はパスしますが次回あたりから全文の前後比較とかして名残を惜しんでみましょうかねえ(ってまあ変化のあった部分のチェックはしていますが)。

・現状認識部分は声明文と同じです

『わが国の景気は、緩やかな回復を続けている。』(今回)
『わが国の景気は、緩やかな回復を続けている。』(前回)

から始まる部分は基本的に声明文の鏡に反映されていますので昨日ネタにした声明文の比較と同じになります。

『海外経済は、一部になお緩慢さを残しつつも、先進国を中心に回復している。そうしたもとで、輸出は持ち直している。設備投資は、企業収益が改善するなかで、緩やかな増加基調にある。雇用・所得環境の着実な改善を背景に、個人消費は底堅く推移しているほか、住宅投資も持ち直しつつある。この間、公共投資は、高水準ながら緩やかな減少傾向に転じている。以上の内外需要を反映して、鉱工業生産は持ち直している。』(今回)

『海外経済は、一部になお緩慢さを残しつつも、先進国を中心に回復している。そうしたもとで、輸出は持ち直している。設備投資は、企業収益が改善するなかで、緩やかな増加基調にある。公共投資は、高水準ながら緩やかな減少傾向に転じている。個人消費は、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、底堅く推移している。住宅投資は、下げ止まっており、持ち直しに向けた動きもみられている。以上の内外需要を反映して、鉱工業生産は持ち直している。』(前回)

でまあこちらについては昨日申し上げたように住宅の所が上昇しているだけです。


・先行きの需要項目別判断に微妙なのが

『先行きについても、景気は緩やかな回復を続けていくとみられる。』(今回)
『先行きについても、景気は緩やかな回復を続けていくとみられる。』(前回)

ここまでは声明文に出ております。

『輸出は、振れを伴いつつも、海外経済の回復などを背景に緩やかに増加していくと考えられる。』(今回)
『輸出は、海外経済の回復などを背景に、緩やかに増加していくと考えられる。』(前回)

ということで、今回輸出の見通しに「振れを伴いつつも」というヘッジクローズが入りまして、普通に緩やかに増加していくという予想を下方修正する気が無いのであればこのようなヘッジクローズは入れないのが通例ですので、実は輸出の見通しが若干下がっているという事なんですがそれは。

『国内需要については、公共投資は、高めの水準を維持しつつも、緩やかな減少傾向を続けるとみられる。設備投資は、企業収益が改善傾向をたどるなかで、緩やかな増加基調を続けると予想される。個人消費は、雇用・所得環境の着実な改善が続くもとで、引き続き底堅く推移するとみられる。住宅投資は、持ち直していくと予想される。』(今回)

『国内需要については、公共投資は、高めの水準を維持しつつも、緩やかな減少傾向を続けるとみられる。設備投資は、企業収益が改善傾向をたどるなかで、緩やかな増加基調を続けると予想される。個人消費は、雇用・所得環境の着実な改善が続くもとで、引き続き底堅く推移するとみられる。住宅投資は、持ち直していくと予想される。』(前回)

ということでこちらの見通しは文言一致。

『以上の内外需要を反映して、鉱工業生産は、振れを伴いつつも、緩やかに増加していくと考えられる。』(今回)
『以上の内外需要を反映して、鉱工業生産は、緩やかに増加していくと考えられる。』(前回)

しかしながら生産に関しては先ほどの輸出と同様に「振れを伴いつつ」というのが入っていまして、これはヘッジクローズが来ましたということで、こちらは本文の方を見ますとこんな感じの記述がございます。

『財別にみると(図表7(2))、自動車関連は、足もとでは短期的な振れの影響が出ているが、均してみれば昨年後半以降、横ばい圏内の動きを続けている。情報関連は、スマートフォン向けの部品を中心に、為替相場動向の影響にも支えられて、10〜12 月まで5四半期連続で増加したあと、足もとでは一旦減少となっている。資本財・部品は、米国の設備投資の回復や世界的なIT関連需要の堅調さを背景に緩やかな増加傾向にあったが、足もとでは資源関連の建設機械などに弱めの動きがみられる。化学製品や鉄鋼等の中間財については、昨年秋以降、為替相場動向の影響にも下支えされて、緩やかな増加傾向にあるが、足もとでは弱めの動きもみられる。』(今回、本文より)

ということで、足元で弱めの動きがみられるというのが連発していまして、威勢の良い大本営発表も仔細に見ると実はちょっと懸念している部分もあるようです。

『先行きの海外経済は、先進国を中心に、緩やかな回復が続くとみられる。また、上記のような為替相場の動きも、旅行などのサービス分野を含めて、輸出の下支えに作用し続けると予想される。主要地域別にみると、米国経済については、家計部門を中心に回復が続くと予想される。欧州経済は、緩やかな回復基調を続けると予想されるが、ギリシャ情勢を含む債務問題の帰趨やロシア経済の減速の影響などに引き続き注意が必要である。中国経済については、政策当局が構造調整の推進と景気下支えの双方に配慮するもとで総じて安定的に推移するが、成長率の緩やかな減速傾向は続くと予想される。中国以外の新興国・資源国経済についてみると、基本的には先進国の景気回復の好影響が次第に及んでいくとみられるが、資源価格の弱さや地政学リスクの影響などから、成長に勢いを欠く状態が長引く可能性もある。』(今回、本文より)

ということで、先行きに関しても良く良く読みますとこのように米国についてはモウマンタイとしても、その他の地域に関しては伸びが弱い可能性を指摘していまして、声明文やら金融経済月報の概要だけを見ていますと威勢の良い進軍ラッパばかりなのですが月報必ずしもそうではない、というのもこのようにあったりするので月報読みというのも面白いんですよね。なくなるのが残念。


・リスク要因については同じです

『この間、リスク要因としては、新興国・資源国経済の動向、欧州における債務問題の展開や景気・物価のモメンタム、米国経済の回復ペースなどが挙げられる。』(今回)
『この間、リスク要因としては、新興国・資源国経済の動向、欧州における債務問題の展開や景気・物価のモメンタム、米国経済の回復ペースなどが挙げられる。』(前回)

声明文と同様。


・物価に関しては現象面ではありますが企業物価が上昇して日銀ニッコリの展開ですな

『物価の現状について、消費税率引き上げの直接的な影響を除いたベースでみると、国内企業物価は、国際商品市況の動きを反映して、3か月前比で緩やかに上昇している。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、0%程度となっている。予想物価上昇率は、やや長い目でみれば、全体として上昇しているとみられる。』(今回)

『物価の現状について、消費税率引き上げの直接的な影響を除いたベースでみると、国内企業物価は、国際商品市況の動きを反映して、3か月前比で下げ止まっている。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、0%程度となっている。予想物価上昇率は、やや長い目でみれば、全体として上昇しているとみられる。』(前回)

国内企業物価が上昇になってきてまして日銀的にはニッコリ。

『物価の先行きについてみると、国内企業物価は、国際商品市況の動きを反映して、当面緩やかな上昇を続けるとみられる。消費者物価の前年比は、エネルギー価格下落の影響から、当面0%程度で推移するとみられる。』(今回)

『物価の先行きについて、消費税率引き上げの直接的な影響を除いたベースでみると、国内企業物価は、国際商品市況の動きを反映して、当面緩やかに上昇していくとみられる。消費者物価の前年比は、エネルギー価格下落の影響から、当面0%程度で推移するとみられる。』(前回)

見通しは同じです。消費増税の直接的な影響が前年同月比ベースの統計上でなくなるので今回から文言割愛されているのは変わっていますがそれはまあどうでもよい。


・金融環境にも変化はないですが割愛します

『わが国の金融環境は、緩和した状態にある。』(今回)
『わが国の金融環境は、緩和した状態にある。』(前回)

以下の部分は特段の政策インプリケーションを示す変化もないので割愛します。

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2015/06/22

○決定会合レビュー:経済物価情勢に関しては無風

http://www.boj.or.jp/announcements/release_2015/k150619a.pdf(今回)
http://www.boj.or.jp/announcements/release_2015/k150522a.pdf(前回)

・現状認識は住宅投資だけ上方修正

『わが国の景気は、緩やかな回復を続けている。』(今回)
『わが国の景気は、緩やかな回復を続けている。』(前回)

へえへえそうだっか。

『海外経済は、一部になお緩慢さを残しつつも、先進国を中心に回復している。そうしたもとで、輸出は持ち直している。設備投資は、企業収益が改善するなかで、緩やかな増加基調にある。』(今回)

『海外経済は、一部になお緩慢さを残しつつも、先進国を中心に回復している。そうしたもとで、輸出は持ち直している。設備投資は、企業収益が改善するなかで、緩やかな増加基調にある。』(前回)

ここまで全文一致。

『雇用・所得環境の着実な改善を背景に、個人消費は底堅く推移しているほか、住宅投資も持ち直しつつある。この間、公共投資は、高水準ながら緩やかな減少傾向に転じている。』(今回)

『公共投資は、高水準ながら緩やかな減少傾向に転じている。個人消費は、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、底堅く推移している。住宅投資は、下げ止まっており、持ち直しに向けた動きもみられている。』(前回)

ということで住宅投資が持ち直しつつあるに上方修正されていますがホンマカイナ。

『以上の内外需要を反映して、鉱工業生産は持ち直している。』(今回)
『以上の内外需要を反映して、鉱工業生産は持ち直している。』(前回)

てな訳で今回は生産、消費、外需などの大物項目は全文一致ですのでまあ無風。

『また、わが国の金融環境は、緩和した状態にある。』(今回)
『この間、わが国の金融環境は、緩和した状態にある。』(前回)

この間がまたに化けているのはさっきの所でこの間を使ったから重複回避の為です。

『物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、消費税率引き上げの直接的な影響を除いたベースでみて、0%程度となっている。予想物価上昇率は、やや長い目でみれば、全体として上昇しているとみられる。』(今回)

『物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、消費税率引き上げの直接的な影響を除いたベースでみて、0%程度となっている。予想物価上昇率は、やや長い目でみれば、全体として上昇しているとみられる。』(前回)

現象に関する話が同じなのはまあそうですなという所で、相変わらず予想物価上昇率が全体として上昇しているということなのだが、その上昇というのは何時が起点なのかと小一時間問い詰めたい訳で、バックワードルッキングでの物価上昇期待の形成に悪影響があって追加緩和をした、という事象がある以上、その「全体として」の部分は少なくとも直前3か月程度でみた場合にどのように解釈しているのか、というような話が無いと、予想物価上昇率が2%でアンカーされるまでの距離感が全くつかめないのですがそれは。


・先行き見通しはこれまた全文一致

『先行きのわが国経済については、緩やかな回復を続けていくとみられる。消費者物価の前年比は、エネルギー価格下落の影響から、当面0%程度で推移するとみられる。』(今回)
『先行きのわが国経済については、緩やかな回復を続けていくとみられる。消費者物価の前年比は、エネルギー価格下落の影響から、当面0%程度で推移するとみられる。』(前回)

毎度の全文一致で当面0%程度で推移しても最早無問題状態になっているのだが、この「当面」というのは数か月オーダーの表現である、と2014年1月の声明文(展望レポート中間評価とセット)の時に説明していた筈なのですが、既に3月の声明文から「当面」が続いている訳で、この「当面ゼロ%程度」が7月8月になっても続くという事になりますと見通しが更に後ずれという事になりますがそれで2年で2%はどうなるのでしょうか。


・リスク要因と毎度のまとめも全文一致

『リスク要因としては、新興国・資源国経済の動向、欧州における債務問題の展開や景気・物価のモメンタム、米国経済の回復ペースなどが挙げられる。』(今回)
『リスク要因としては、新興国・資源国経済の動向、欧州における債務問題の展開や景気・物価のモメンタム、米国経済の回復ペースなどが挙げられる。』(前回)

『「量的・質的金融緩和」は所期の効果を発揮しており、日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「量的・質的金融緩和」を継続する。その際、経済・物価情勢について上下双方向のリスク要因を点検し、必要な調整を行う(注2)。』(今回)

『「量的・質的金融緩和」は所期の効果を発揮しており、日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「量的・質的金融緩和」を継続する。その際、経済・物価情勢について上下双方向のリスク要因を点検し、必要な調整を行う(注2)。』(前回)

まあ所期の効果を発揮しているんだったら「2年で2%を達成するのに十分な措置(キリッ)」というのは何だったのかと小一時間問い詰めたい訳ですが、それは兎も角としましてこのほぼ全文一致で涼しい顔が出来る、というのは「2年で2%」を肝心の2年経った時点で堂々先送りをすることができたというのが大きく、いやまあその前にも1回先送りしているのですが、やはり2年が接近する時にやいのやいの言われていた訳で、そーゆー意味からすると完全に「2年が無かったことになる」ためには2年を通過した所で堂々の先送り宣言をしたからこそという所で、今回の会見でも為替の質問はたくさんあれども2%達成時期に関する質問や師匠の進退問題など聞く人が碌にいないというようになったように、喉元過ぎれば熱さを忘れるというもののようですので、ここはヒネクレモノのアタクシとしては「2年で達成」に関して折に触れてイヤミを申し上げたいというモノです。


・反対も木内さんだけですな

先般の金懇挨拶ですといずれ金融政策枠組みに関して何かを投下することが期待される佐藤さんですが、今回も普通に賛成のようで。

『(注1)賛成:黒田委員、岩田委員、中曽委員、森本委員、白井委員、石田委員、佐藤委員、原田委員。反対:木内委員。なお、木内委員より、マネタリーベースおよび長期国債保有残高が、年間約45 兆円に相当するペースで増加するよう金融市場調節および資産買入れを行うなどの議案が提出され、反対多数で否決された。』(今回)

『(注2)木内委員より、2%の「物価安定の目標」の実現は中長期的に目指すとしたうえで、2つの「柱」に基づく柔軟な政策運営のもとで、資産買入れ策と実質的なゼロ金利政策をそれぞれ適切と考えられる時点まで継続するとの議案が提出され、反対多数で否決された(賛成:木内委員、反対:黒田委員、岩田委員、中曽委員、森本委員、白井委員、石田委員、佐藤委員、原田委員)。』(今回)

これもまた前回と同じなので前回分の引用は割愛します。森本審議員は今回で終了ですな。



○MPMの回数削減は方向性として結構な話だが微妙にもにょるというかツッコミというか

声明文の後にこれが出て、どうせ声明文変化ないだろと思ったら案の定声明文は上記のとおりだった訳ですが、ここでMPMの回数削減が出るとはこれはまた。

http://www.boj.or.jp/announcements/release_2015/rel150619a.pdf
金融政策決定会合の運営の見直しについて


・施策としては何ら文句はないが理由説明のセンスが最悪なのですがこれは

『本日、日本銀行は、政策委員会・金融政策決定会合において、金融政策に関する審議と情報発信を一層充実する観点から、金融政策決定会合の運営を、以下のとおり見直すことを決定した(全員一致)。関連政令の改正を条件に、2016年1月から実施する。』

どうせ今ならOISとかにも影響しないでしょうから速攻実施でもええんやで。

『これらの見直しによって、政策決定の基礎となる経済・物価見通しを、より高い頻度でより詳しく示すとともに、会合後速やかに会合における主な意見を公表することとする。』

回数が減ってより高い頻度とはどういう事やというのと、主な意見を公表というのは後に出てくるが、まあここまではイイハナシダナーな件なのですが・・・・・・・・・・


『このように、@四半期毎に、経済・物価見通しを公表した上で、Aその中間の会合を含めて、金融政策を決定する会合を年8回開催し、B会合終了後は速やかに情報発信を行うという枠組みは、近年、主要中央銀行で主流となってきているものである。』

・・・・・・・・・・orzorzorz

えーっとですね、方向性は別に出されている話で悪くないというか改善方向なので誠に結構なお話ではあるのですが、この「グローバルスタンダード(キリッ)」というのは置物マネタリーベース理論に始まり、黒田日銀における「2年で2%」の根拠説明などでも、エビデンスに基づいた実証的科学的な説明を放棄する為に使われている代物になっている上に、肝心のグローバルスタンダード(キリッ)の「2年で達成」が出来なくなったら「原油価格低下で物価が伸びないのはグローバルスタンダード(キリッ)」と今度は達成できないときの言い訳にまでグローバルスタンダードを出してくるという有様という現状を踏まえますと、もうちょっとモノの言い方というのは無かったのかというお話ですよ。

それからグローバルスタンダード(キリッ)と言えば国債決済T+1への短縮の話にしても、決済リスクの削減と比べて事務コストの拡大が間尺に合うのかとか、現状の国債市場の流動性の低さ(それも金融政策による国債大量購入が原因)の中で結果として国債市場の流動性にストレスを掛ける事になる証券決済期間の短縮化をこの時点で強硬する必要があるのか、というような疑問に対してもそういえばグローバルスタンダード(キリッ)で済ませようというのが濃厚に漂ってくるように、なんちゅうかこう説明放棄をして押し切りたい時に出てくるのが「グローバルスタンダード(キリッ)」って奴なんじゃネーノという感じですな。

でまあ本件に関しては合理的な説明が他にやろうと思えばできる筈で、ついでに海外とのタイミングがあうとそれはそれで便利とか、まあそういう説明にでもしてくれば良いのに、「隣の太郎ちゃんの所がファミコン買っているんだからボクにも買ってよね〜ね〜」というような風情を醸し出す文書になっているのが今回の公表文を見てズッコケ三銃士状態になるところですな。しかもこの文言の辺りが文書1ページ目の中央部分にドドーンと来ているので悪目立ちしてしまうのが更に印象を悪くするので、出来上がった時の文書構成をもう少し考えた方がよかったと思う。



・「主要な意見」の書き方如何で決まると思われる

ということで内容ですが。

『(1)「経済・物価情勢の展望」(展望レポート)の年4回化

「経済・物価情勢の展望」(以下、「展望レポート」)の公表を従来の年2回から年4回に増やし、1月、4月、7月、10月の金融政策決定会合(以下、「決定会合」)終了後、直ちに公表する。』

金融経済月報が出てこなくなる訳で、従来月次で出ていた月例経済報告とタイミングがずれる事になって比較検討ができなくなるなあというのはあるのですが、まあそもそも月例経済報告と金融経済月報では判断のタイムスパンや判断変更の基準が違うので単純に横に並べられても・・・・・というのはあるにはあると思いますが、良く月例と金融経済月報を横で並べて比較するというのはあった(アタクシはそこまで手を回せるほどの本職ではないので月例はせいぜい斜め読みでしたけど、大汗)ので、その点ではありゃーというのもあるかもです。


『(2)政策委員全員の経済・物価見通し及びリスク評価の公表

展望レポートにおける政策委員の経済・物価見通しについて、従来の政策委員の大勢見通しに加えて、全ての政策委員について各委員の見通しとリスク評価を公表する1(別添の公表例を参照)。』

脚注1は『1 これに伴い、現在公表している政策委員の見通し分布チャートの作成は取り止める。』です。

でまあこちらは図表がありますが要するにドットチャートにするという事ですかそうですか。


『(3)「主な意見」の公表

決定会合における「主な意見」を作成し、決定会合終了後1週間を目途に公表する2。』

脚注2は『2 決定会合の「議事要旨」は、従来と同様、次回決定会合で政策委員会の承認を受けた後に公表する。』

となっていまして、議事要旨に関しては政策委員会・金融政策決定会合での議決事項であると日銀法に規定されているので、これは動かしようがなくて、そうなると決定会合の議事要旨が出るのが更に遅くなるのでコミュニケーション上問題になるのは明らかなのでこれが出ると。

でまあこの「主な意見」の所でどの程度まで踏み込むのかが悩ましいですな、と申しますのはあまり踏み込み過ぎて議事要旨と同じようなモノが出てくるとそれは脱法状態になってしまうから、読む方としては出来るだけ詳しいのを見たいのですが・・・・・・・・・・・

そしてここの「1週間」というのはミニッツが出てくるのが無暗矢鱈と早いBOE(ただし論点がやたら端折られているので何が何だかよくわからなくて、継続して読まないと流れが分からない・・・・・で思い出したが最近ネタにしていませんなすいませんすいません)もビックリの速さになるのですが、期間の速さは素敵ではあるのですけれども、内容がペラペラですとそれはそれで困るというか、コミュニケーションの後退にならんかというのもあるので、まあここの内容に期待です。


『(4)金融政策決定会合の開催頻度の見直し

展望レポートを議論・公表する会合を年4回開催し、その間に経済・物価情勢の変化などを議論する会合を開催することで、金融政策決定会合を年8回開催する(従来は年14回程度)345。』

脚注は以下の通り。

『3 既に公表済の2015年7月から12月までの決定会合等の日程は変更しない。2016年1月以降の決定会合の日程は後日公表する。』

『4 金融経済月報の作成・公表は取り止め、年4回公表される展望レポートに集約する。』

『5 米国連邦準備制度、欧州中央銀行においても、決定会合の開催頻度は年8回となっている。また、イングランド銀行も、年8回に変更する方針を明らかにしている。』

5番が余計なのですがそれは・・・・・・・・・・・・・・・

ということで、月報が無くなって展望レポート4回になるのですが、ロジとか手間的に言えば月報減って集約する方がやりやすいでしょうし、MPMが14回から

なお、MPMが14回(最初は20回とかあった)の根拠はこちらです。

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H09/H09SE385.html
日本銀行法施行令
(平成九年十二月二十五日政令第三百八十五号)

『(政策委員会の招集)

第九条  政策委員会の議長(議長に事故があるときは、法第十六条第五項 に規定する議長の職務を代理する者。以下この条において同じ。)は、法第十五条第一項 各号に掲げる事項(以下この条において「金融調節事項」という。)を議事とする会議を、一月に二回、相当な間隔をおいて招集することを常例としなければならない。』

ということで、これ以上減らすのは明らかにアレというのと、政策委員会の日程に関してはここにあるように政令対応なので、日銀法改正をしなくてもヨロシという事ですが、まあ回数減らすとはどういう事やと政治方面から言われたら困るのと、下手にツッコミを受けても嫌だから錦の御旗の「グローバルスタンダード(キリッ)」なんでしょうけれども、やはりこう説明面倒くさいから錦の御旗を持ち出すというのも如何なものかという感は拭えませんですなあとは思います。

なお、サラリーマン的に申し上げますとこの手の「反論しにくい錦の御旗攻撃」というのは実にこう便利な(以下自主規制^^)。



・ところで何でこのタイミング?????

という質問は会見でもあったと思いますが、まあ「2年で2%」の足かせが無くなった上に、物価目標達成時期は盛大に後ずれさせるわ、物価だけがホイホイ上昇しても困るという認識が広がるわと、目先直ぐに物価が上がらなくてもいちゃもんつけられない上に、物価が上昇しだすかどうかの判定時期まで時間がある(これが秋以降になると物価が上がらないとなった場合に見通しがどうなのとかまた炎上しだす)というのがあったのでしょうなあと。

まー裏を返して言えば政策課題が無いのでここぞとばかりに長年の懸案を出してきたという所でして、つまりこれは次回展望レポート中間評価では当然の如く何もなく無風で通過することが(天変地異の無い限り)確定的という事を示していると思います。


しかしまあ何ですな、執行部様の見通しに沿って経済物価情勢が進展すると2016年度前半になると物価が2%に到達している筈でして、そうなりますとQQEの出口政策をどうするのか、という時期になる筈でありますので、そんな大事な時期に入って経済物価情勢を点検して政策判断を行う金融政策決定会合の回数が減るとはこれはまた大丈夫なんでしょうか寧ろ回数増やした方が良いんじゃないですかねえ(盛大に棒読み)。

・・・・・・・・・という気はするのですが(しません)、これはまあつまり執行部の皆様におかれましては「来年になって出口政策で必死に何度も会合をやらなければいけない事態」と「物価目標が全然達成できなくて決定会合の度に言い訳をしなけばいけない事態」というのの発生可能性を天秤にかけた場合に後者の方が可能性が高い場合の事を考えて今回入れられる時に会合減少攻撃を入れたという事ですね!!!!!!!!!!!


まあしかしこれで毎回の会合の度に追加緩和がどうのこうのというネタが飛ばなくなって、年4回に集約されるとなりますと振り回されなくて結構ですが、悪態ネタが無くなるので寂しい気もしますな(ゲス顔)。


まータイミングとしては真面目に考えるとさっき申し上げたように単に「とりあえず政策課題の空白期間なのでここを先途とぶち込んだ」という事なのだと思いますがね。内容そのものは「主な意見」の所次第ですが方向性として回数が年8回程度に減るのは結構なことで。必要なら臨時会合やればよいのですから(それで臨時会合だらけになったらそれはそれで困るけど^^)。

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2015/06/10

○調節年報は途中の辺りは相変わらずなのだが輪番オペの影響分析が中々良くできていますよ

先週のネタですすいませんすいません。
http://www.boj.or.jp/research/brp/ron_2015/ron150603a.htm/(概要)
http://www.boj.or.jp/research/brp/ron_2015/data/ron150603a.pdf(本文、PDFでそこそこ量あるので注意)

・ディレクティブに忠実に書いているので当たり前なのだが物悲しさが伴う概要説明

まずはHTMLの『概観』の方から。

『2014年度において、日本銀行は、前年度に続き、「量的・質的金融緩和」のもと、長期国債の多額の買入れなど、広範な資産の買入れを通じてマネタリーベースの残高を大きく拡大させるという、極めて強力な金融緩和を進めた。』

うむ。

『すなわち、日本銀行は2014年10月までの間、2013年4月に導入した「量的・質的金融緩和」のもとでの金融市場調節方針に従って、長期国債や国庫短期証券、CP等、社債等、ETF、J-REITといった広範な資産の買入れを通じて、マネタリーベースが年間約60〜70兆円に相当するペースで増加するよう金融市場調節を進めた。』

そして・・・・・・・・

『さらに、日本銀行は、2014年10月31日の金融政策決定会合においては、「量的・質的金融緩和」の拡大を決定した。すなわち、マネタリーベースの増加ペースを、それまでの年間約60〜70兆円から約80兆円に拡大するとともに、長期国債の買入れペースについても、日本銀行の保有残高の増加額を、それまでの年間約50兆円から約80兆円に拡大した。また、長期国債買入れの平均残存期間も、従来の7年程度から、7年〜10年程度へと長期化した。さらに、ETFおよびJ-REITの買入れについても、日本銀行の保有残高がそれぞれ年間約3兆円、約900億と、それまでの3倍のペースで増加するよう買入れを行っていくこととした。その後、日本銀行は、この新たな金融市場調節方針に沿って、一段と高いペースでの資産の買入れを進めてきた。』

3倍攻撃とかナツカシス。

『このような金融市場調節の結果、2014年末のマネタリーベースは275.9兆円と、前年末に比べ74.0兆円の増加をみた。さらに、その後もマネタリーベースを着実に増加させる調節を行ったことから、2015年3月末のマネタリーベースは295.9兆円と、前年3月末に比べ76.0兆円の増加となった。また、日本銀行の保有する長期国債の残高は2014年末で201.8兆円と、前年末に比べ60.2兆円増加し、2015年3月末には220.1兆円と、前年3月末に比べ66.0兆円の増加となった。』

ということでディレクティブがそうなっているのだからこう説明するしか無いのですが、企画局どころか置物師匠までもがすっかり連呼しなくなっている「マネタリーベース」をここまでの間都合6回も連呼している訳でございまして、指揮官がトツゲキーと命令を出して実行部隊である市場局の調節担当部署がマネタリーベースに向けて突撃を果敢に実施しているというのに、指揮官の方がすっかりマネタリーベース直線一気理論から「ティンカーベルのこの粉を信じれば空も飛べる」というピーターパン理論でお伽の国の世界に旅立たれてしまいまして、金融市場に突撃した実行部隊の梯子が外されているというこの現状に対して現場部隊が「マネタリーベース」を連呼している、というように読むと(いやまあそんな訳ではないでしょうが)実にこう世の無常というのを感じて調節部隊を初めとする金融市場局の皆様に対して落涙を禁じ得ませんな。


・当座預金は今後誰が持つのか

というような雑談はともかくとして以下は本文から参りますが、まずは本文の見出し『2.2014年度中の日本銀行の金融市場調節運営の概要』の所で、実際の買入がどうなった云々は事実の記載なのでまあ流すのですが、日銀の当座預金残高の業態別推移の辺りから。

『負債サイドをみると、日銀当座預金残高は、「量的・質的金融緩和」のもとでの各種の資産買入れなどを通じた資金供給の増加を反映し、2014 年末には178.1 兆円と、概ね見通しどおりの増加となり、2015 年3月末には201.6 兆円に達し、前年との対比では72.9 兆円の増加となった(図表2-2)。日銀当座預金残高を業態別にみると、全ての業態で増加がみられたが、とりわけ「都市銀行」および「その他準備預金制度適用先」の増加幅が大きくなった(図表2-3)。』

ということでその後が『BOX1 主要中央銀行の金融政策とバランスシートの比較』という話になっていて、日銀バランスシートの負債サイドの話はさらっと流している形なのですが、冷静に考えればこれからもバランスシートを拡大しないといけないとなった場合に、負債サイドである一方の発行銀行券がそんなに劇的に増えるものではないのですから、実際に一番問題になるのは「当座預金(大体の場合超過準備)を誰が持つのか」という話であって、預金金融機関がどこまで当座預金の拡大をできるのか、というのが問題になる筈なのですが、そちらの話は触れないのか触れたくないのかスルー気味なのは気になります。


・短国市場の説明とマイナス金利関連のコラム

でまあ話は思いっきりワープして市場概況に関する部分で『(2) 国庫短期証券市場』に参ります。

『国庫短期証券の利回りは、日本銀行が「量的・質的金融緩和」のもとで多額の国庫短期証券を買い入れ、国庫短期証券の市中流通残高が減?傾向を辿る中、2014年度前半は緩やかな低下傾向を辿った(図表3-2)。その後、国庫短期証券の利回りは、期末に向けた国庫短期証券の需要の高まりなどを背景に、2014年9月に初めてマイナスとなり、その後もマイナス圏で推移することが多くなった。』

まあおまえの所が無慈悲に買うからな。

『2015年入り後は、日本銀行の買入国庫短期証券の残高が概ね横ばいで推移するもとで、国庫短期証券の利回りはゼロ近傍で推移した。』

>国庫短期証券の利回りはゼロ近傍で推移した。
>国庫短期証券の利回りはゼロ近傍で推移した。
>国庫短期証券の利回りはゼロ近傍で推移した。

・・・・・・・・・(−−;

特に資金運用サイドからすると名目ゼロ金利制約というのが非常に大きな問題になる訳で、金利が正なのか正じゃないのか(またはゼロが閾値のケースもあると思うが)というのはそこで投資家需要に不連続な断面が生じるという意味で非常に重要なポイントなのですが、その不連続性について全く顧慮しないような表現をしているという辺りがもうアレな訳でございまして、金融市場局様におかれましては「市場との対話」を熱心にしておられるという触れ込みになっている筈なのに、この市場における需給の不連続部分がまるで存在しないような文章で市場概況の説明を済ませるところが甚だ遺憾ですな。

いやね、こういうポイントになるような特異点っていうのは市場動向的にはきわめて重要な所になるのですから、そういうのを軽くスルーするような表現を使うというのが市場の中の人的にだいたいカチンと来させるところになる訳でして、まあ中曽さんの昨年11月の講演とかでも散々悪態つきましたけど、オペやってる方からすると細かい話かも知れないけれども参加者的には結構な重要ポイントみたいなところでこういう表現をされてしまうと「結局日銀って市場を分かってないよね」という失望に繋がってしまう訳で、市場との対話もへったくれもあったもんじゃないですよと思うのでここの説明文の表現については猛省を促したい。


では何故「ゼロ近傍」で流したかというと以下にエクスキューズがある。

『民間金融機関には担保などとして国庫短期証券を保有するニーズがあることに加え、海外投資家や投資信託など非付利先では、国庫短期証券の利回りが付利金利水準を下回っても、なお資金運用手段として国庫短期証券を保有するニーズが存在する。この中で、投資信託は、金利がマイナスになった段階では、国庫短期証券による運用を一旦控える動きがみられたが、一部の海外投資家は国庫短期証券による運用を続ける傾向が顕著であった。』

国内投資家を排除して海外投資家には購入機会を与るとはどこの国の中央銀行なのでしょうか。

『これは、2014年度中、ドル資金の調達にプレミアムが観察される局面が多くなる中、とりわけドル資金を潤沢に有する海外投資家は、ドル資金を為替スワップ市場等で円資金に交換することでマイナス金利での円資金調達が可能となるケースが多く、このことを勘案すれば、国庫短期証券の利回りが小幅マイナスであっても、なお収益性が確保されたためと考えられる。』

マイナス金利は海外のせいで文句言うならベーシススワップ市場に言えよワシら知らんがな、と言いたいのは把握した。

なお、追い打ちをかけるようにその直後に『BOX3 海外投資家の投資動向とマイナス金利』というのがある。

『2013 年3月末から2014 年12 月末までの国庫短期証券の業態別保有比率の変化をみると、日本銀行が国庫短期証券の買入れ残高を積み上げる中、銀行等の保有残高が大きく減?した一方、海外投資家の保有残高は概ね横ばいで推移した(BOX 図表3-1)。海外投資家の国庫短期証券の保有は、外国中央銀行などによる外貨準備の運用によるものが中心とみられ、外貨準備ポートフォリオの通貨構成の分散というニーズから、国庫短期証券に対し、金利水準に非感応的な一定の需要があることを示唆している。』

というのが分かっているなら何故恒常的にマイナス金利になるまで短国を買わないと回らないようなMB拡大の枠組みを当初作ったのか(現実問題として追加緩和の時にMB内訳を変えていなかったら今頃大変なことになっていた)と小一時間問い詰めたい。

『また、一部の海外投資家は、外貨資金をもとに円資金を調達して国庫短期証券を購入しているが、為替スワップ市場における円資金の調達コストである「ドル投円転コスト」は、国庫短期証券の利回りがマイナス圏で推移した2014 年後半において、国庫短期証券の利回りを大きく下回る水準で推移していた(BOX 図表3-2)。このため、ドル資金を有する海外投資家は、マイナスの円資金調達コストまで勘案すれば、国庫短期証券による運用でなお収益性が確保できたとみられる。』

『国庫短期証券の利回りが低下するにつれて、国庫短期証券に投資していた投資家の一部は、相対的に高い利回りを求めて、投資先を残存期間が短い利付国債にシフトさせた。こうした中、海外投資家は、低位の円転コストを背景に、利回りがマイナスとなった利付国債にも投資を続けたとみられ、このような海外投資家の行動は、残存期間が短い利付国債の金利を押し下げる要因の一つとなった。』

ということで2年の金利がマイナスからなかなか戻らないのは海外のせいですとでも言いたそうな勢いですな。


・国債市場の説明はサラサラで流動性の話は後の方で

その次が『(3) 国債市場』ですけど。

『長期金利(10 年新発債流通利回り)は、日本銀行による長期国債買入れが需給面から金利下押し圧力となり続けるもとで、低下傾向を辿った。特に、2014 年10 月末の「量的・質的金融緩和」の拡大を受けて日本銀行の長期国債買入れが一段と増加するとともに、原油価格の大幅な下落などを受けて欧米長期金利が低下傾向を辿る中、長期金利は、とりわけ2014 年秋以降は一段と低下傾向が顕著となり、2015 年1月には既往最低水準となる0.1%台(日中ベース)まで一旦低下した(図表3-3、3-4)。その後は、原油価格の下げ止まりや米国長期金利の反発、本邦長期金利の低下に対する警戒感などを背景に、長期金利は幾分上昇し、0.2〜0.4%台のレンジで推移した。』

以下超長期と中期の市況概況があって、まあこちらは調節年報だからそこまで細かく書かないというのはあるけど、単にサラサラ書いてあるだけでして・・・・・・・・

『この間、長期国債先物価格のインプライド・ボラティリティは、2014 年度中は低めの水準で推移したが、上述のような長期金利の低下後の反発などの動きを反映し、1月中旬以降、上昇する場面がみられた(図表3-5)。』

ということで、その次のコラムが『BOX4 民間主体の国債保有構造の変化』ですので、ここではサラサラと流しています。


・調節の影響という話のコラムは良くできてますのでご覧あれ

『4.金融市場調節手段の運営状況』以下の所にあるコラムはこれまでの悪態を覆すオモロイ出来なのでこれは読むべし。本文25ページ(ファイルの26枚目)以降になります。

『BOX5 長期国債買入れオペにおける落札利回りと市場流通利回りの関係』

『ここでは、日本銀行の長期国債買入れオペにおける全ての買入れ銘柄の情報(利回りや落札額)を用いて、「オペでの落札利回りと流通市場における利回り(=市場流通利回り)の差2」を算出し、落札利回りについて分析する。なお、市場流通利回りとしては、オペ応札締切り直前(≒前場引値)において流通市場で売り手が呈示しているオファーと買い手が呈示しているビッドの仲値を用いる。』

ということで、まあこの分析は日銀にしちゃあ頑張っている分析。

『2013年4月の「量的・質的金融緩和」導入直後は、超長期ゾーンを中心に、その時々の市場流通利回りと比べて高い利回りで買い入れるケースが多かった。これは、市場金利のボラティリティが大きくなっていた中で、リスク削減の観点から金融機関による債券売却ニーズが高まり、市場での価格に比べて相対的に安値であっても、日本銀行のオペを通じて早期に国債を売却したいとのニーズが強まったことが背景であると考えられる。』

要するにオペで外すのが目的。

『もっとも、その後は、「当面の長期国債買入れの運営について」を、買入れ頻度を増す一方で、1回当たりの買入れ額を引き下げる形に見直したことや、長期金利のボラティリティ低下などを受けて、いずれのゾーンでも、「オペでの落札利回りと市場流通利回りの差」は0bps近傍となっており、日本銀行の長期国債買入れは、ほぼ市場流通利回り並みの落札金利で行われていた姿となっている。』

と書いてありますが結論部分にしらっと意味深表現があって中々よろしいのです(後程)。

『その後、2014年10月末に「量的・質的金融緩和」が拡大され、この中で国債買入れの平均残存期間も延長されたことを受け、とりわけ超長期ゾーンの国債買入れ額が大幅に増加することとなった。この中で、日本銀行が超長期国債を市場流通利回りよりもやや低い利回りで買い入れるケースが目立った。これは、超長期国債についてはもともと長期安定的な投資家のウエイトが高く、日本銀行のオペを通じて超長期国債を早急に売却したいといった先は多くなかったためと考えられる。 一方、短中期ゾーンでは、このゾーンの金利水準がマイナスとなり、債券投資スタンスを消極化させる先がみられていた中、日本銀行がこのゾーンの長期国債を、市場流通利回りよりも幾分高めの利回りで買い入れるケースがみられた。』

(・∀・)ほほう。

『その後、日本銀行による長期国債の買入れが進捗していくもとで、「オペでの落札利回りと市場流通利回りの差」は、いずれのゾーンでも「量的・質的金融緩和」導入以降の平均的なレンジ内に概ね復した。なお、2015年3月末にかけては、年度末を控えて積極的な債券売買を控える先が多くなっていた中、日本銀行が長期国債を市場流通利回りよりも低い利回りで買い入れるケースが、再びみられるようになった。』

ということで・・・・・・・・

『日本銀行の巨額の長期国債買入れは、長めの金利に下方圧力をかけ続けていると考えられるが、具体的には、@毎回の買入れオペにおいて日本銀行が市場流通利回りと比べて低い利回りで購入することで、その時々で金利を押し下げる形と、A日本銀行の長期国債買入れによる国債需給引き締めの効果が、個々のオペの実施に先立って国債の流通利回りに織り込まれる(したがって、毎回のオペでは、既に低下済みの市場流通利回りと同程度の利回りで国債を買い入れることになる)形があると考えられる。』

>個々のオペの実施に先立って国債の流通利回りに織り込まれる
>個々のオペの実施に先立って国債の流通利回りに織り込まれる
>個々のオペの実施に先立って国債の流通利回りに織り込まれる

・・・・・・・・・・(;∀;)イイシテキダナー

『上記分析では、日本銀行は市場流通利回りとほぼ同程度の利回りで国債を買い入れている場面が多いことが分かるが、こうした場面でも、Aの形で金利に低下圧力が加わっているといえる。』

と、さらっと書いていますがここのコラムは中々よろしい(・∀・)


その次の『BOX6 長期国債買入れオペ後の流通市場の動き』もご覧くだされ。

『日本銀行の長期国債買入れオペは、オペの結果を公表した直後の国債流通市場における利回り形成にどのような影響を与えているのだろうか。ここでは、BOX5で試算した「オペでの落札利回りと市場流通利回りの差」を用いて、この値とオペ実施の前後における債券利回り変化3の関係について、長期ゾーン(残存期間「5年超10年以下」)を例に検証する。』

これは!!!!

『まず、「量的・質的金融緩和」の導入直後は、オペ後に相場が大きく変動していたが、「オペでの落札利回りと市場流通利回りの差」とオペ前後の利回り変化の間に明確な関係性はみられない。一方、その後は、オペ後の相場の変化は小さくなるとともに、日本銀行が買入れオペにおいて市場流通利回りよりも低く(高く)購入すると、流通市場で債券がやや買われ(売られ)、利回りが低下(上昇)していることが窺える。この関係は、「量的・質的金融緩和」の拡大後も概ね維持されている。』

ふむふむ。

『2013年4月の「量的・質的金融緩和」の導入当初は、日本銀行による多額の長期国債買入れが市場に及ぼす影響の不確実性が強く意識された結果、日本銀行の長期国債買入れオペ直後に国債流通利回りの変動が大きくなっていたものと考えられる。その後、日本銀行の長期国債買入れオペ直後の流通利回りの変動が小幅になった背景としては、@国債買入れオペの経験が積み重なったことに加え、A日本銀行が、買入れ頻度を高めつつ1回当たりの買入れ額を小さくする方向での運営方針の見直しを行ったこと(2013年4月18日、5月30日公表)や毎月初回のオファー額を明示するようになったこと(2014年10月31日公表分以降)もあり、日本銀行の長期国債買入れが国債流通市場に及ぼす影響について、市場参加者の見方が収斂してきたことが考えられる。』

まあそうですな。

『また、「日本銀行が買入れオペにおいて市場流通利回りよりも低く(高く)購入すると、その後、流通市場で債券がやや買われ(売られ)、利回りが低下(上昇)する」という関係が窺われるようになった背景としては、上述したように、日本銀行の長期国債買入れが市場に及ぼす影響についての見方が収斂するにつれて、オペの結果が流通市場における国債需給の状況をよりストレートに反映するようになり、これが市場にとっての追加的な情報と受け止められ、その後の国債流通利回りの形成に影響を及ぼしている可能性を指摘できる。』

(;∀;)イイシテキダナー

・・・・・・・つーことでこの調節年報は唯一最大の読みどころはこの二つのコラムでして、これだけ気合を入れた分析が出来るのにどうして(内務省検閲により削除されました)。


なお、このオモシロ分析以降はまあ事実の説明で、最後の『6.市場参加者との対話強化に向けた取り組み』はマジでどうでもよいので以下はパスします。

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2015/06/02

○FSRの別冊ですが経済の都市部と地域の温度差という文脈で読んでも面白いですよこれは

先週末にこんなんでました。
http://www.boj.or.jp/announcements/release_2015/rel150529a.htm/
「金融システムレポート別冊シリーズ」の公表開始について

で、記念すべき第一発目はこちら。
http://www.boj.or.jp/research/brp/fsr/fsrb150529.htm/
人口減少に立ち向かう地域金融
― 地域金融機関の経営環境と課題 ―

・・・・・・・・・お、おう。

でもって本文はこちらです。
http://www.boj.or.jp/research/brp/fsr/data/fsrb150529.pdf


・要旨自体は毎度お察し

まずはHTMLの方の『要旨』から。

『地域金融機関の収益力は、2000年代以降、趨勢的に低下してきた。長期にわたる超低金利環境の継続というマクロ的な要因に、人口減少等の構造的な下押し圧力が、地域経済により強く働いてきたことによるものである。』

構造的に収益環境が厳しいとな。

『人口動態は今後も「逆風」として働くとみられるが、地域金融機関は、これに立ち向かうべく、様々な取り組みを行っている。』

今後も収益環境は構造的に悪化すれども好転しないので様々な取り組みをしなさいという事ですかそうですか。

『まず挙げられるのは、地域の産業・企業の活力向上支援である。足もと、わが国の景気が緩やかな回復を続けるもとで、金融機関の取り組みは、より効果を発揮しやすくなっていくと考えられる。また、事業領域の拡充や新たな金融ニーズの掘り起こし、ITの活用等による業務革新や経費構造の見直しなどへの取り組みもみられる。これらは、金融サービスの付加価値と効率性を高め、個々の金融機関のみならず、地域金融全体の収益力向上にも繋がり得るものである。』

うむ。

『業務提携や経営統合は、これらの取り組みをより効果的に推進し、地域に貢献していくための選択肢の一つと位置づけられる。

出たな。

『地域の経済活力の維持・向上には、それを支える地域金融が収益力を備えた活力ある「産業」として存立していくことが不可欠である。企業統治改革の浸透とともに、地域金融機関においても株主等の視点から収益力が評価される傾向が強まっていく。金融機関自身の経営努力の重要性は言うまでもないが、人口動態など構造的な下押し要因の存在を考慮すると、(1)地方創生に向けた官民の協働、(2)金融業務に関する制度・規制、(3)公的金融のあり方など、金融機関の取り組みを後押しする環境整備も重要である。日本銀行としても、中央銀行の立場から地域金融機関の様々な取り組みを支援していく。』

構造的に収益環境は厳しくなる一方という話がまたまた出てきておりましてまあお察しという要旨でして、基本的にFSRの話って日銀の機構局の見解ではありますが、日銀の機構局と金融庁におけるプルーデンスに関しては(当たり前ですが)基本的な問題認識とか方向性とかに関しては平仄を取っている(なおマネタリーポリシーウィングとの整合性はゆうてはならんことじゃ)ので、まー金融行政というかプルーデンスの問題意識と方向性を示したい、というFSRの中で初めて出た別冊が地域金融というお題という所に味わいがあります。ついでに言えば金融不均衡に関する話とかの前にこれが出てくるという時点で金融不均衡に関しての問題意識よりもこちらの方が意識として強い(まあ金融不均衡に関するレポートはマネタリーポリシーウィングの事を考えると今の時点で出しにくいというオトナの事情もあると思います)のかと。

まあ何ですな、次回出すときはぜひ「金融不均衡」に関するネタを投下して頂きたく存じますがオトナの事情というかショパンの事情というかでダメですかね。


・それはそれとして経済レポート的に見ても面白いので本文から少々

でもって本文の方は通常のFSRと同じ体裁なのですが、地域金融機関がどうのこうのというだけではなく、環境分析の部分に関しては良く言われている話ではありますが綺麗にまとまっているので本文の途中から少々。

本文4ページ(ファイルの6枚目)の『2.人口動態と地域経済』から。

『本章では、実体経済活動と人口動態の関係をみていく。ここでの分析は、2000年代以降の実績値に基づいており、諸計数の関係性は、様々な取り組みによって先行き変化し得るものである。』

『日本全体の人口が減少基調に転じたのは2011 年であるが、地方圏ではその前から ―― 早い県では1980 年代半ばから ―― 減少に転じている3。2000 年を基準に地域別の人口推移をみると、東京・愛知・大阪など都市圏の都道府県4の人口は、現在に至るまでプラス圏内を維持しているが、それ以外の県を集計した地方圏の人口は、2000 年代中頃に減少に転じている。先行きの推計をみても、都市圏に比べて、地方圏の人口減少テンポが速く、両者の差は拡大していく(図表2-1)。』

でまあこちらでは人口の推移を「東京」「東京のぞく都市圏」「地方圏」という形でグラフが出ているので本文見てちょと思いますが、都道府県別とか出すと色々とアレなのでまあこの程度の分類にとどめたんでしょうかねえとか思うのでした(−−;

『地方圏の人口減少は、少子高齢化による自然減が都市圏より早く進行したことが大きな理由であるが、@都市への人口流出(社会減)や、A若年層の流出に伴う更なる少子化・自然減も、この傾向に拍車をかけている。』

うむ。

『地域の人口減少・高齢化は、地域の企業活動の低下と相互に影響を及ぼし合いながら、地域経済の下押し圧力となってきた。人口減少に伴う地域の需要縮小やその見通しは、地元を主たる商圏とする中小・零細企業の経営環境を厳しいものにしている。また、事業主の高齢化は、個人企業等の存続にも影響を及ぼしており、事業所数が減少傾向を辿っている5。グローバル化に伴う生産の海外移転など産業構造の変化も、地方の企業活動や雇用創出力の低下に繋がってきた。そして、こうした企業活動の縮小が、より有利な就業機会を求める若年層の都市への流出を招くなど、更なる人口減少に繋がるという負の相互作用が働いている。』

うーむ。

『一方、都市圏では人口と企業活動の集積が進んできている。地域別の人口推移が示すとおり、全国の人口が減少する中にあっても、地方からの流入が都市圏の人口を押し上げている(前掲図表2-1)。また、日本全体の事業所数が減少する中で、地方圏の減少テンポはより速く、都市圏のシェアが緩やかに増している(図表2-2)。企業収益は、都市圏に属する上位10 都府県が、日本全体の8割強 ―― 東京が全体の半分強 ―― を占めるに至っている(図表2-3)。』

とまあそういう話で、もとより言われている話ではありますけれども計数も含めてコンパクトにまとまっているので改めて見るとぐぬぬという感想が。


・貸出が厳しいのもそうだが預金吸収力の低下という面にも言及しています

でまあ地域での貸出業務厳しいから都市部で突っ込むものの、もとより都市部においても資金需要がそんなに強い訳ではないし大手金融機関もたくさんいるので競争が激しくて収益性が厳しいというような話が本文7ページ(ファイルの9ページ)の『3.人口動態と地域金融機関の預貸ビジネス』という所にあります。

『こうしたもとで、地域銀行の多くは2000 年代半ば以降、人口や企業活動が集まる大都市を中心に、地元県以外での貸出(以下、「県外貸出」)を積極化させている(図表3-2@)7。この結果、2013 年度における地域銀行の総貸出に占める県外貸出のウェイトは、全体で3 割程度にまで上昇してきている(図表3-2A)。また、信用金庫においても、地元以外の区域における貸出を積極化する動きがみられている。』

でその結果ですが・・・・・・・・

『しかし、県外・域外での貸出増強は、今のところ、地域金融全体としてみた貸出の収益力向上には繋がっていない。』

ちなみにここ本文はゴシック体です。

『これは、マクロ的な資金需要が緩やかな増加に止まるもとで、都市部においても貸出供給圧力が資金需要を上回る状況に変わりはないためである。』

ほうほう。

『実際、人口・企業・利益が集中し、経済規模の大きい大都市ほど、優良先を巡って金融機関間の競合が強まることから、貸出金利に対する低下圧力が強まる傾向がある。個別金融機関の都道府県別貸出残高に基づき、貸出の競争状況の強さを表すハーフィンダール指数8を都道府県別に計算すると、経済規模が大きく、貸出のボリューム増が見込める大都市の都道府県ほど、競争的になっており、とくに東京、大阪、愛知では、ハーフィンダール指数が最も競争的な水準を示している(図表3-3)。そして、より競争的な貸出環境に直面している地域銀行ほど、貸出約定平均金利は低くなる傾向にある(図表3-4)。』

ちなみにこの指数については脚注あります。

『8 ハーフィンダール指数(ハーフィンダール・ハーシュマン指数)は、個社の市場シェアを二乗し合計した値である。例えば、1 社の企業が100%のシェアを有している場合は、ハーフィンダール指数は10,000 となり、100 社の企業が等分でシェアを有している場合は100 となる。』

ハーフィンダール指数のプロットに関してはグラフがあるのですが、プロットについて各県名とかまでは入ってるのを出していただくとどの辺が競争厳しいのかとか興味深いのが出てくるのかもしれませんがそこは惜しくも出ていませんな。

『県外・域外貸出を行う金融機関は、新たな顧客を開拓するため、相応に低い金利を提示する傾向があるうえ、都市を本拠地とする先と比べて情報劣位にあることから、比較的信用力の高い先 ―― 信用スプレッドが小さく、低利での貸出となる先 ―― を貸出先にする傾向があることも、貸出金利の低下に寄与している9。』

で、ここの脚注に

『9 詳細は、「金融システムレポート」2014 年4 月号の図表V-1-42 および図表V-1-43 を参照』

とありますように、実際にはこのあたりの問題意識については昨年のFSRで問題意識として強めにアピールしているなあというのがありましたので、昨年のFSRもお暇な方は改めてご覧いただくと吉かと。

でまあその貸出ガーというのはともかくとして金融システムの頑健性という文脈で考えた場合に興味深いのはその次の『(預金吸収面への影響)』というコーナーで本文9ページ(ファイルの11枚目)になります。

『預金吸収面をみても、人口の減少や高齢化の進展による貯蓄率の低下は、地域金融機関の個人預金の伸びを抑制する方向に働いてきている。都道府県別の人口増減率と個人預金の伸び率の間には、明確な正の相関が存在する(図表3-5)』

図表3-5というのが『図表 3-5 都道府県別の人口増減率と個人預金の増減率』で内容は2008年〜2013年の都道府県別の人口増減率と個人預金の増減率の散布図となっています。

『これまでのところ、いずれの業態でも個人預金は増加を続けている。個別にみても、地元の人口減少や高齢化が比較的厳しい先でも、個人預金は増加している先が多数を占めている。これは、個人預金の伸び率が、人口動態以外に、給与所得の伸び率、高齢層に対する社会保障給付の水準、家計の資産選択行動(リスク性資産への選好)など、様々な要因に依存することに起因している11。』

『11 「金融システムレポート」2014 年4 月号BOX 1 では、人口動態がマクロの家計預金量に与える影響について、@世帯数の変化、A一世帯当たりの人員数の変化、B世帯主の年齢構成の変化、という3 つの要因に分解したうえで、先行きの試算を行っている。同試算においても、地方では人口動態が徐々に家計預金を押し下げる方向に働いていく見通しとなっている。』

とありますように、この辺の話は昨年のFSRでの指摘を再度まとめて掲載しているという感じなのですけれども、改めてこれを掲載してしかもシリーズ別冊の一発目に持ってきているという辺りにプルーデンス当局の問題意識を感じますな。

『もっとも、今後を展望すると、人口減少と高齢化がさらに加速していく見通しにある地域が少なくない。また、足もと相続に伴って預金が地方から都市へと流出する動きがみられ始めており、高齢化とともにこれが本格化していく可能性がある。』

となりますと・・・・・・・・・・・

『後述するように、安定した小口預金、流動性預金の基盤を有することは、金融機関の収益力の基礎となることから、人口動態は預金面からも収益に負の影響を及ぼしていく可能性がある。』

ぐぬぬ。

更に次の『(金利環境の変化と預貸収益)』の所で預金吸収力の低下に関する問題意識に追い打ちがががが。

『なお、景気の回復に伴って金利が上昇する場合には、金融機関の収益にプラスの影響が見込まれる12。貸出が増加するほか、貸出利鞘も改善するためである。』

そらそうよ。

『利鞘が改善するのは、小口預金や流動性預金の存在によって、市場金利の上昇に対する追随率が、貸出金利より預金金利の方が低いことによるものである。』

ということは??

『人口動態との綱引きの中で、実際にどの程度の収益改善効果があるかは、景気の力強さや金利上昇の度合いによって異なる。2005〜2007 年の局面では、金利上昇が小幅かつ短期間であったこともあり、大手行では利鞘の拡大が小幅に止まったほか、地域金融機関では利鞘の縮小に歯止めがかからなかった(図表3-6)。』

アイヤー。

『加えて、改善効果は、地域ごと、金融機関ごとの個別性が強い。人口動態による負の影響の度合いは地域によって大きく異なる。また、市場金利に応じてどの程度貸出金利を引き上げられるかは、金融機関ごとの貸出先顧客の債務返済能力13や、競合状況などに左右されるほか、どの程度預金金利の上昇を抑制できるかも、金融機関ごとの預金吸収基盤の強さなどに依存する。』

『このため、金融機関は、様々な先行きの金利想定のもとで預貸収益にどのような影響が及ぶかについて、自らの営業基盤や資産負債の状況等を踏まえつつ、適切に評価・分析していく必要がある。』

とうことで纏めているのですが、預金吸収力が弱くなってきて趨勢的に個人預金が減少に転じるような状況になりますと色々と厳しい局面に中長期的には直面しますよという話をしているのに等しい訳でして、マクロ的な話で厳しい話をしておりますなあという所で。

でまあこの次の『4.逆風に立ち向かう地域金融機関』というのは施策とかその辺の話と金融機関の経営統合でどうのこうの的な話があるのですが、まあだいたいお察しな話が続きますのでそちらは皆様読んでちょというか、金融機関の中の方は必読的なのがプルーデンスウィングから出ているレポートとか指針とかになりますからアタクシが申し上げるまでもなく読みますかそうですか(大汗)。

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2015/05/29

○展望レポートの会の決定会合議事要旨である

ほいな
http://www.boj.or.jp/mopo/mpmsche_minu/minu_2015/g150430.pdf

・リスク要因の欧州に関する文言が変化した理由がいまだに分からん件

今月の声明文でも踏襲されていますが、4月1回目の会合で示されたリスク要因の欧州に関する文言が変更になっている件についてなんかヒントはないかと思って探したのですが・・・・・・・・・・・

執行部報告の部分から。

『欧州経済は、緩やかな回復を続けている。輸出は、外需の改善やユーロ安を背景に、緩やかに持ち直している。個人消費は、雇用者報酬の増加基調が続く中で、原油安や株高の効果もあって、このところ伸びを高めている。こうしたもとで、企業マインドは改善し、生産や設備投資にも持ち直しに向けた動きがみられている。物価面をみると、コアベースのインフレ率が緩やかな低下傾向を辿っているほか、総合ベースはエネルギー価格の下落を主因になおマイナスが続いている。』


政策委員会の討議部分から。

『欧州経済について、委員は、緩やかな回復を続けているとの認識で一致した。委員は、輸出がユーロ安などを背景に緩やかに持ち直しており、個人消費も原油安や株高の効果などから、このところ伸びを高めているとの認識を共有した。欧州経済の先行きについて、委員は、ユーロ安やECBによる金融緩和もあって、緩やかな回復を続けるとの見方で一致した。』

となっていて、展望レポートのリスク要因の所は、

『先行きの海外経済を巡るリスク要因として、委員は、米国経済の成長ペースやそれが国際金融資本市場に及ぼす影響、欧州における債務問題の展開や景気・物価のモメンタム、新興国経済における持続的な成長に向けた構造調整の進捗度合い、資源価格下落の影響、地政学的リスクなどが挙げられるとの見方を共有した。』

とはあるのですが、何で低インフレの長期化という表現じゃなくなったのかがここを見てもさっぱり分からず謎のまま残るのでありました。


・委員会の経済認識に関して

でまあそれはともかくとして委員会の検討部分から。

『U.金融経済情勢と展望レポートに関する委員会の検討の概要』の『1.経済情勢』の途中から。

『わが国の景気について、委員は、家計・企業の両部門において、所得から支出への前向きの循環メカニズムが作用し続けているもとで、緩やかな回復基調を続けているとの評価を共有した。』

「評価を共有した」というのが味わいがありまして、つまり回復基調という評価は概ね揃っているのでしょうが、前向きの循環メカニズムという部分でどうせ意見が一致していないのではないかと思う所で、そこを表現するのに「評価を共有した」となっているのでしょうな。

でまあ展望レポートでの見通しの中心になっている項目が輸出と投資と消費と消費を支える予定の雇用所得環境なのでその項目部分を鑑賞。

『輸出について、委員は、持ち直しているとの認識で一致した。委員は、年明け後は春節の影響で月々の振れが大きいが、均してみれば3四半期連続でのプラスとなっており、改善傾向が続いていると評価してよいとの見方を共有した。』

「評価してよいとの見方」とかこれまた微妙な言葉使いますなあ(ニヤニヤ)。

『先行きについても、海外経済の回復などを背景に、緩やかに増加していくとの見方で一致した。』

ここは一致とな。

『複数の委員は、中国向け輸出のモメンタムが幾分弱まっていることや企業が海外需要をやや慎重にみている点などには留意が必要であると指摘した。』

その後出た貿易収支の統計でも中国がアレという事を踏まえますと・・・・・・・・・・(^^)。


次は設備投資。

『設備投資について、委員は、企業収益が改善する中で、緩やかな増加基調にあるとの認識を共有した。委員は、先行きも、企業収益が改善傾向を辿る中で、緩やかな増加基調を続けるとの見方で一致した。ある委員は、設備投資の押し上げには、緩和的な金融環境や為替円安による国内投資の相対的な収益性向上といった支援材料も揃っている点を強調した。』

前半は良いが後半のある委員の指摘が違和感。


雇用所得。

『雇用・所得環境について、委員は、労働需給が着実な改善を続けるもとで、雇用者所得は緩やかに増加しており、先行きも緩やかな増加を続けるとの認識を共有した。』

うむ。

『多くの委員は、企業収益が好調に推移し、労働需給がタイト化する中で、今春の賃金改定交渉では、ベースアップを含め昨年を上回る回答を示す企業が増えていると指摘した。これらの委員は、賃金引き上げの動きは、大企業だけではなく、中小企業や非正規労働者にも拡がっているとの認識を示した。このうちある委員は、これらの動きを反映して、今後、賃金の増加テンポが幾分速まることが見込まれると述べた。』

あっそう。

『複数の委員は、エネルギー価格の下落も重なって、先行きは、「量的・質的金融緩和」の導入後初めて、実質賃金の持続的な増加が期待できるとの認識を示した。』

えーっと今程度の賃金上昇だと物価が上がると持続的な増加しないんですけどそれは。

『この間、一人の委員は、内需型企業を中心に人件費増加の負担感が重くなっている可能性があり、先行きの賃金上昇ペースはやや慎重にみておくべきであると述べた。』

ですなあ。


個人消費。

『個人消費について、委員は、一部で改善の動きに鈍さがみられるものの、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、全体としては底堅く推移しているとの認識を共有した。』

ほうほう。

『多くの委員は、消費者マインド関連指標について、雇用・所得環境の改善などを背景に、持ち直しを続けていると述べた。』

『何人かの委員は、雇用・所得環境の改善やマインド指標の持ち直しに比べて、個人消費の改善がやや力強さを欠いているとの見方を示した。このうち複数の委員は、その理由として、消費税率引き上げに伴う実質所得減少の影響が思った以上に大きかったことなどが考えられると述べた。』

となると物価が見通し通りに勢いよく上昇を再開しますと・・・・・・・・・・

『先行きの個人消費について、委員は、雇用・所得環境の着実な改善が続くもとで、引き続き底堅く推移するとの見方で一致した。何人かの委員は、今春の賃金改定交渉で実現した賃上げによる実質賃金の改善は、マインド面のさらなる改善を通じて、個人消費をはっきりと後押ししていくことが期待されるとの見方を示した。この間、複数の委員は、年金生活者には賃金上昇の恩恵が及びにくいため、こうした層の消費動向に注意する必要があると述べた。』

しかし物価が上昇したらマインドって悪化しないかという気がしますがねえ。それから年金生活者に賃金上昇の恩恵が及びにくいとか今に始まった話じゃねえだろと。


・先行き見通しというか展望レポート

『2.経済・物価情勢の展望』 から。

『経済情勢の先行きの中心的な見通しについて、委員は、国内需要が堅調に推移するとともに、輸出も緩やかに増加していくと見込まれ、家計・企業の両部門において所得から支出への前向きの循環メカニズムが持続するとの認識で一致した。そのうえで、委員は、わが国経済は、2015 年度から2016 年度にかけて潜在成長率を上回る成長を続けるとの認識を共有した。』

とまあこの辺は展望レポートの基本的見解のお話。

『2015 年度から2016 年度の景気展開について、委員は、輸出は、海外経済が回復し、これまでの為替相場の動きも下支えに働くことから、緩やかに増加するとの見方で一致した。設備投資について、委員は、企業収益の改善や金融緩和効果が引き続き押し上げに作用する中、国内生産強化の動きなどもあって、しっかりと増加するとの認識を共有した。』

という見通しになっているのですがホンマカイナという疑問は尽きない。

『ある委員は、企業にとって賃金の上昇に対応して生産性を向上させる必要が高まる点も設備投資の増加に繋がるとの見解を示した。また、別の一人の委員は、これまで、企業は収益増加の一部を原油安や為替円安などによる一時的なものとみていたため、企業収益と設備投資の連関が弱かったが、今後は、企業収益の増加が安定的と認識されるようになり、企業収益と設備投資の連関は強まっていくのではないかとの意見を表明した。』

などと前からずーっと言われ続けているような気がするんだが。

『委員は、個人消費について、雇用・所得環境の着実な改善が続き、賃金が増加していくほか、2015 年度にはエネルギー価格下落による実質所得の押し上げ効果や駆け込み需要後の落ち込みからの回復も見込まれることから伸びを高めるとの見方を共有した。』

だから見通し通りに物価が推移した時の実質所得の押し下げ効果は?

『2017 年度にかけては、委員は、2回目の消費税率引き上げ前の駆け込み需要とその反動の影響を受けるとともに、設備投資の増加ペースが資本ストックの蓄積に伴って低下していく一方で、海外経済の成長などを背景に輸出が緩やかな増加を続けるとともに、緩和的な金融環境と成長期待の高まりなどを受けて国内民間需要は底堅く推移するとの見方を共有した。また、委員は、この間、潜在成長率は緩やかな上昇傾向を辿り、中長期的にみた成長ペースを押し上げていくとの認識で一致した。』

展望レポート基本的見解の通りなのでまあいいんですけどはあそうですかとしか申し上げようがない。


・物価見通しには3名反対

でまあ物価ですけどね。

『物価情勢の先行きを展望すると、多くの委員は、消費者物価の前年比は、@物価の基調が着実に高まり、原油価格下落の影響が剥落するに伴って、「物価安定の目標」である2%に向けて上昇率を高めていく、A2%程度に達する時期は、原油価格の動向によって左右されるが、現状程度の水準から緩やかに上昇していくとの前提にたてば、消費者物価の前年比に対するエネルギー価格下落の影響が概ねゼロとなる2016 年度前半頃になる、Bその後は、平均的にみて2%程度で推移する、との見方を共有した。』

これは展望レポートの見通しだが平均的に見て2%だったら目標達成なのですから出口政策考えないといけないのではないでしょうか。

白井さんと思われる反対意見。

『これに対して、一人の委員は、2016年度末に2%程度に近づき、2016 年度を中心とする期間に2%程度に達する可能性を排除しないとの見解を示した。』

ちなみに後の方で出てきますが、じゃあこの見通しを出した結果として白井さんは何か政策に関する提案をしているのかというとしていない訳で、見通しと政策アクションが全くあっていないので「だからアタクシが言ったでしょ」と言うだけ言って両建てをするという一番モノの役に立たない困った人をやっているだけの話。

佐藤さんと木内さん。

『別の複数の委員は、見通し期間中には2%程度に達しないとの認識を示した。このうち一人の委員は、2016 年度前半頃に2%程度を見通せるようになる可能性が高いと述べた。もう一人の委員は、消費者物価の前年比は、当面0%程度で推移した後、かなり緩やかに上昇率を高めていくとの見方を示した。』

佐藤さんはフォーキャストターゲットの話をしていまして、木内さんは中長期的に目指すという話をしていますが、この見解は政策アクションに掛かる部分で反映されてはいますのでいきなりワープして展望レポートの採決の部分に参ります。


白井さん。

『これに対し、白井委員からは、物価見通しについて、2%程度に達する時期の記述を「2016 年度前半頃」から「2016 年度を中心とする期間」に変更することを内容とする議案が提出され、採決に付された。』

いやだからそれは何なのという感じです。


佐藤さん。

『佐藤委員からは、@物価見通しについて、「2%程度に達する時期は、原油価格の動向によって左右されるが、現状程度の水準から緩やかに上昇していくとの前提にたてば、2016 年度前半頃になると予想される。その後は、平均的にみて、2%程度で推移すると見込まれる」から「2%程度を見通せる時期は、原油価格の動向によって左右されるが、現状程度の水準から緩やかに上昇していくとの前提にたてば、2016 年度前半頃になると予想される」に変更すること、A第1の柱の中心的な見通しについて、「2%程度の物価上昇率を実現し」から「2%程度の物価上昇率を目指し」に変更すること、を内容とする議案が提出され、採決に付された。』

これ字面を読むとえらくゴテゴテしているのですが、要するに「2年で2%」について、アクチュアルに数字を達成しに行く(というのが執行部が説明しているところ)のを重視するのではなく、フォーキャストターゲットとして「見通せるようになった状態となる」というのを重視するということで、より柔軟な枠組みにしましょうというお話だが、一応「早期達成」の旗を明確に下ろすことはしないという話ですな。

ただまあこの場合にフォーキャストターゲットと出口政策のタイミングの関係がどうなるのかについては詳しい説明が出ていないのでその辺どうなのでしょというのは知りたいところです。


木内さん。

『木内委員からは、@予想物価上昇率の見通しについて、「中長期的な予想物価上昇率も上昇傾向をたどり、「物価安定の目標」である2%程度に向けて次第に収斂していく」から「中長期的な予想物価上昇率は安定的に推移する」に変更すること、A物価見通しについて、「当面0%程度で推移するとみられるが、その後はかなり緩やかに上昇率を高めていくと考えられる」とすること、B先行きの金融政策運営について、「日本銀行は、中長期的に2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、金融面からの後押しを粘り強く続けていく。今後とも、2つの「柱」による点検を踏まえた柔軟な政策運営のもとで、資産買入れ策と実質的なゼロ金利政策をそれぞれ適切と考えられる時点まで継続する」とすること、を内容とする議案が提出され、採決に付された。』

そもそも期待インフレが上がらないと言っている時点でだいぶ話が違うのですが、中長期的に目指すので期待インフレも中長期で上昇する方向という話で、これは時間軸がかなり長い話になりますので、やはり執行部の2年という期限を切ることのこだわりに真っ向対立でありますな。なお毎度の政策提案もありますけれどもそちらは引用割愛します。



・ということで予想物価上昇率の見通しについて

討議の方に戻ります。

『次に、中長期的な予想物価上昇率について、委員は、物価上昇率の低下にもかかわらず、やや長い目でみれば全体として上昇しており、こうした予想物価上昇率の動きは、2年連続でベースアップが実現する見込みにあるなど、実際の賃金・物価形成にも影響を及ぼしているとの見方を共有した。』

はあそうですか。

『一人の委員は、企業のビジネスモデルはコスト削減による低価格設定というデフレ型ビジネスモデルから、価格引き下げに頼らずに顧客満足度を高めるイノベーティブなビジネスモデルに転換しつつあると指摘した。』

とか言ってるが結局客単価上げないで実質値上げでコストプッシュを対応しているだけにしか見えませんがね。

『ある委員は、企業の賃金や価格設定行動が継続的な物価上昇を前提としたものに変化してきており、このことは、デフレマインドが払拭されつつある証左であるとの見解を述べた。』

だったら何で物価が上昇して消費増税したら消費が落ちたんでちゅかねえ。

『こうした議論を経て、多くの委員は、賃金の上昇を伴いながら、緩やかに物価上昇率が高まっていくメカニズムが作用し続けているとの見方を示した。』

つまりそうじゃないという見方もあると。

『先行きについて、大方の委員は、日本銀行が「量的・質的金融緩和」を推進し、実際の物価上昇率が高まっていくもとで、中長期的な予想物価上昇率も上昇傾向を辿り、「物価安定の目標」である2%程度に向けて次第に収斂していくとの認識を示した。もっとも、このうち一人の委員は、企業の価格転嫁力や中長期的な予想物価上昇率が一段と高まるにはそれなりに時間がかかるとみていると付け加えた。別のある委員は、中長期的な予想物価上昇率が、2%程度に向けて次第に収斂していくのは難しいとの見方を示した。』

最後のは木内さんなのは確定でその前は佐藤さんなのかな???


・次回消費増税のマイナスはそれほど大きくないという関係を述べている人が居ますよ!!!!!

上振れ下振れの話でえーと思ったのはここ。

『2017 年4月に予定されている消費税率引き上げの影響については、何人かの委員が、昨年4月以降の経験を踏まえると、消費の反動減や実質所得の減少が、想定以上に景気を下押しするリスクについては十分に注意する必要があるとの認識を示した。』

これはわかる。

『これに対し、ある委員は、経済の中心的な見通しを前提とすれば、2017 年4月の消費税率引き上げの前には、日本経済は安定的な成長軌道に乗っている可能性が高く、そうであれば、消費税率引き上げのマイナスの影響はそれほど大きくならないのではないかとの考えを述べた。』

ちょwwwwなんちゅう強気見通し。ここまで強気の見方が出来るのって置物師匠か黒田総裁しかいないと思うのですが・・・・・・・・・・



・金融政策運営に関する話だが「2年で2%」の部分はワロタ

『V.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要』ですけどね。

『何人かの委員は、2016 年度までの物価見通しの計数がやや下振れたことと、「2%の「物価安定の目標」を、2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に実現する」というコミットメントとの関係について見解を述べた。』

ほうほう。

『これらの委員は、日本銀行が2%の「物価安定の目標」の早期実現にコミットすることで、人々のデフレマインドを転換し、予想物価上昇率を引き上げることは、デフレ脱却という目的そのものであると同時に、「量的・質的金融緩和」の政策効果の起点であり、そのもとで、企業や家計の物価観は実際に大きく変化してきたとの認識を示した。』

マネタリーベース2倍2倍が起点じゃなかったのかよと思うのですが2年は起点だそうで、その割には終点が見えないのですが大丈夫でしょうか。

『このうち一人の委員は、デフレマインド転換のモメンタムを維持していくうえでは、「2年程度」というベンチマークが必要であると強調した。』

総裁か置物師匠だが置物の可能性が高いとみた。

『また、これらの委員は、実際の物価が国際商品市況などの様々な要因で変化し、「物価安定の目標」から乖離する期間が生じることは、各国の中央銀行でも当然のこととされていると指摘した。』

でた言い訳。

『そのうえで、これらの委員は、中心的な物価見通しは、「2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に」というコミットメントに沿った動きとなっているとの認識を示した。』

いやだからその見通しがドンドン後ろに倒れたら肝心のベンチマークへの信頼がなくなってマインドに悪影響だと思うのですけどねえ。

『この間、見通し期間中には物価上昇率は2 % 程度に達しないとの見方を示した複数の委員は、こうした議論とは異なる見解を唱えた。このうち一人の委員は、向こう2年程度を展望して2%の「物価安定の目標」実現のパスにあればよいとの認識を示した。もう一人の委員は、2%の「物価安定の目標」の実現は中長期的に目指していくべきであるとの考えを述べた。』

前者が佐藤さんのフォーキャストターゲットの考え、後者が木内さんの中長期的達成の考えですな。



・木内さんの提案に対する反対意見を最後に鑑賞しましょう

うーむ長くなりましたが最後に木内さんのいつもの提案の反対意見をば。

『これに対して、何人かの委員は、潜在成長力の水準にかかわらず、最終的に物価の安定を確保することは金融政策の役割であり、他の先進国の例をみても、多くの中央銀行が2%程度のインフレ目標の達成にコミットして金融政策運営を行っているという点を改めて強調した。』

潜在成長力と関係なく安定的な物価水準は2%で一義的に決まるという考え方も何だか違和感ありますが、そもそも木内さん2%の旗を降ろすと言ってないのに何でそういう反対論になるのやら。

『このうちある委員は、現状の需給ギャップの推定方法を前提とすれば、需給ギャップがゼロというのはデフレ期を含む過去の平均的な状態にあることを示しているだけなので、需給ギャップがゼロ近傍となっているから「量的・質的金融緩和」のペースを緩めるべきだという考え方には賛同できないと述べた。』

デフレ期を含む平均的な状態だから云々という部分が良くわからん。言いたい趣旨は分かるが。

『一人の委員は、現状、金融面での不均衡の蓄積を示す具体的な根拠は示されていないと述べた。』

ふーん。

『ある委員は、資産買入れの減額に関する現時点での情報発信は、タイミングや方法次第でせっかくの緩和効果を削ぐリスクもあり、細心の注意を払う必要があるとの見方を示した。』

それは「やり過ぎて足抜け出来なくなっている」という話だと思いますが。


・・・・・・・しかしまあ何ですな、毎度反対意見は出るのですが、今回は前回よりも反対意見の書き方が細かくなっているのが気になりましたですよ、うんうん。

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2015/05/26

○金融経済月報:何気に物価の先行きが事実上上がっており益々追加緩和は遠のくの図ですな

http://www.boj.or.jp/mopo/gp_2015/gp1505.pdf(今回)
http://www.boj.or.jp/mopo/gp_2015/gp1504.pdf(前回)

・現状部分は声明文比較と同様です

『わが国の景気は、緩やかな回復を続けている。』(今回)
『わが国の景気は、緩やかな回復基調を続けている。』(前回)

『海外経済は、一部になお緩慢さを残しつつも、先進国を中心に回復している。そうしたもとで、輸出は持ち直している。設備投資は、企業収益が改善するなかで、緩やかな増加基調にある。公共投資は、高水準ながら緩やかな減少傾向に転じている。』(今回)

『海外経済は、一部になお緩慢さを残しつつも、先進国を中心に回復している。そうしたもとで、輸出は持ち直している。設備投資は、企業収益が改善するなかで、緩やかな増加基調にある。公共投資は高水準で横ばい圏内の動きとなっている。』(前回)

公共投資を下げね。

『個人消費は、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、底堅く推移している。住宅投資は、下げ止まっており、持ち直しに向けた動きもみられている。以上の内外需要を反映して、鉱工業生産は持ち直している。』(今回)

『個人消費は、一部で改善の動きに鈍さがみられるものの、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、全体としては底堅く推移している。住宅投資は、駆け込み需要の反動減が続いてきたが、足もとでは下げ止まりつつある。以上の内外需要のもとで、在庫調整の進捗もあって、鉱工業生産は持ち直している。企業の業況感は、総じて良好な水準で推移している。』(前回)

消費が結構な上げ、住宅投資もやや上げ、業況感云々は短観直後の時に出るものなので今回は割愛されています。


・先行き見通しの需要項目別展開・・・・・・・は現状判断ほどの強い変化はない

『先行きについても、景気は緩やかな回復を続けていくとみられる。』(今回)
『先行きについても、景気は緩やかな回復基調を続けていくとみられる。』(前回)

こちらは声明文通りの基調抜け。

『輸出は、海外経済の回復などを背景に、緩やかに増加していくと考えられる。国内需要については、公共投資は、高めの水準を維持しつつも、緩やかな減少傾向を続けるとみられる。設備投資は、企業収益が改善傾向をたどるなかで、緩やかな増加基調を続けると予想される。』(今回)

『輸出は、海外経済の回復などを背景に、緩やかに増加していくと考えられる。国内需要については、公共投資は、高めの水準を維持しつつも、緩やかな減少傾向に転じていくとみられる。設備投資は、企業収益が改善傾向をたどるなかで、緩やかな増加基調を続けると予想される。』(前回)

公共投資の所が「減少傾向を続ける」となっていますが、まあこれは現状判断の所を下げたのに併せて表現が変わっている訳でして、現状判断自体は前回の見通し通りに推移しているという意味においてはまあこんなもんでしょう。


『個人消費は、雇用・所得環境の着実な改善が続くもとで、引き続き底堅く推移するとみられる。住宅投資は、持ち直していくと予想される。以上の内外需要を反映して、鉱工業生産は、緩やかに増加していくと考えられる。』(今回)
『個人消費は、雇用・所得環境の着実な改善が続くもとで、引き続き底堅く推移するとみられる。住宅投資は、次第に底堅さを取り戻していくと予想される。以上の内外需要を反映して、鉱工業生産は、緩やかに増加していくと考えられる。』(前回)

住宅投資について「次第に底堅さを取り戻していく」と上方修正しているのですが、個人消費に関しては現状判断は強くなったけれども先行き判断をより強い表現にするほどまでは自信満々という訳でもないという事ですねわかります(^^)。


・リスク要因

『この間、リスク要因としては、新興国・資源国経済の動向、欧州における債務問題の展開や景気・物価のモメンタム、米国経済の回復ペースなどが挙げられる。』(今回)
『この間、リスク要因としては、新興国・資源国経済の動向、欧州における債務問題の展開や低インフレ長期化のリスク、米国経済の回復ペースなどが挙げられる。』(前回)

ところでなんでこの「低インフレ長期化のリスク」というのが「景気・物価のモメンタム」という謎表現になったのやら。まあ「低インフレ長期化のリスク」とか言ってるとブーメランが突き刺さるからあまり言いたくない(追加緩和をする気もないようですし)という事なのかも知れませんけどね。


・物価に関してはしらっと現状判断事実上引き上げ

『物価の現状について、消費税率引き上げの直接的な影響を除いたベースでみると、国内企業物価は、国際商品市況の動きを反映して、3か月前比で下げ止まっている。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、0%程度となっている。予想物価上昇率は、やや長い目でみれば、全体として上昇しているとみられる。』(今回)

『物価の現状について、消費税率引き上げの直接的な影響を除いたベースでみると、国内企業物価は、これまでの国際商品市況の大幅な下落を反映して、3か月前比で下落している。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、0%程度となっている。予想物価上昇率は、やや長い目でみれば、全体として上昇しているとみられる。』(前回)

声明文では記述しないことになっている国内企業物価に関してはしらっと今回「3か月前比で下げ止まっている」となっておりまして、国内企業物価が消費者物価に先行性があるという話になっているはずなので何気にここは現状判断を上げています。


『物価の先行きについて、消費税率引き上げの直接的な影響を除いたベースでみると、国内企業物価は、国際商品市況の動きを反映して、当面緩やかに上昇していくとみられる。消費者物価の前年比は、エネルギー価格下落の影響から、当面0%程度で推移するとみられる。』(今回)

『物価の先行きについて、消費税率引き上げの直接的な影響を除いたベースでみると、国内企業物価は、国際商品市況の動きを反映して、当面下落幅を縮小していくとみられる。消費者物価の前年比は、エネルギー価格下落の影響から、当面0%程度で推移するとみられる。』(前回)

先行きに関しても遂に国内企業物価は「下落幅を縮小」→「緩やかに上昇」となっていまして、ここの判断を見ますと目先のCPIがもたついていても先行きに関しては「年度後半からもうバンバン上昇してウマーですよウェーハッハッハ」という見通しの確信度が更に上がっているというお話になりますので、どう見ても追加緩和はありません本当にカムサハムニダという所であります。

#金融環境以下の部分は現象面の計数以外での定性判断には変化が無いので割愛します

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2015/05/25

○決定会合レビュー:景気の基調判断を早くも引き上げとはこらまた強気ですな

http://www.boj.or.jp/announcements/release_2015/k150522a.pdf(今回)
http://www.boj.or.jp/announcements/release_2015/k150408a.pdf(4/8)

前回は展望レポートの回でしたので基本的にはその前の4/8の会合声明文と比較します。

・ということで出落ちみたいなもんですが基調判断

『わが国の景気は、緩やかな回復を続けている。』(今回)
『わが国の景気は、緩やかな回復基調を続けている。』(4/8)

ということで「基調」が抜けて上方修正なのですが、これ何が凄いって展望レポートの基本的見解では、

『わが国の景気は、緩やかな回復基調を続けている。』(4月展望レポート基本的見解より)

となっておりまして、何と展望レポートを出したばっかりだというのに基調判断が強くなっているということでして、これですとまあ理屈からすると益々追加緩和は遠くなっているとしか申し上げようがありませんな。


・現状判断:重要部分の判断が盛大に上昇

『海外経済は、一部になお緩慢さを残しつつも、先進国を中心に回復している。そうしたもとで、輸出は持ち直している。設備投資は、企業収益が改善するなかで、緩やかな増加基調にある。公共投資は、高水準ながら緩やかな減少傾向に転じている。』(今回)

『海外経済は、一部になお緩慢さを残しつつも、先進国を中心に回復している。そうしたもとで、輸出は持ち直している。設備投資は、企業収益が改善するなかで、緩やかな増加基調にある。公共投資は高水準で横ばい圏内の動きとなっている。』(4/8)

海外経済、輸出、設備投資は横ばいで公共投資はやや判断引き下げ。


『個人消費は、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、底堅く推移している。住宅投資は、下げ止まっており、持ち直しに向けた動きもみられている。以上の内外需要を反映して、鉱工業生産は持ち直している。』(今回)

『個人消費は、一部で改善の動きに鈍さがみられるものの、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、全体としては底堅く推移している。住宅投資は、駆け込み需要の反動減が続いてきたが、足もとでは下げ止まりつつある。以上の内外需要のもとで、在庫調整の進捗もあって、鉱工業生産は持ち直している。企業の業況感は、総じて良好な水準で推移している。』(4/8)

個人消費がゴテゴテしたヘッジクローズを全部削除するという威勢の良い状態になっていまして、住宅投資も「下げ止まり持ち直しの動き」なのでこれまた判断前進。


『この間、わが国の金融環境は、緩和した状態にある。物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、消費税率引き上げの直接的な影響を除いたベースでみて、0%程度となっている。予想物価上昇率は、やや長い目でみれば、全体として上昇しているとみられる。』(今回)

『この間、わが国の金融環境は、緩和した状態にある。物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、消費税率引き上げの直接的な影響を除いたベースでみて、0%程度となっている。予想物価上昇率は、やや長い目でみれば、全体として上昇しているとみられる。』(4/8)

金融環境と物価の話は同じです。

・・・・・・ということで今回えーと思ったのは個人消費の所を盛大に上方修正していることでして、えーっとそうなんでしたっけとじっと手を見るアタクシなのでしたorz


・先行き見通し:順当にこちらも「基調」を外しています

『先行きのわが国経済については、緩やかな回復を続けていくとみられる。消費者物価の前年比は、エネルギー価格下落の影響から、当面0%程度で推移するとみられる。』(今回)
『先行きのわが国経済については、緩やかな回復基調を続けていくとみられる。消費者物価の前年比は、エネルギー価格下落の影響から、当面0%程度で推移するとみられる。』(4/8)

ということで先行きも「基調」が外れていますがまあこれは現状判断上げたのですから順当ですが、

『先行きを展望すると、国内需要が堅調に推移するとともに、輸出も緩やかに増加していくと見込まれ、家計、企業の両部門において所得から支出への前向きの循環メカニズムが持続すると考えられる。』(4月展望レポート基本的見解)

てな訳ですから、今回の判断いきなり上方修正攻撃は展望レポートでの見方の通り上手く行ってますよほら凄いでしょうだから物価が一時的にゼロ近傍とか小さい事は気にしないのよ!!!という決意を改めて示したものだ、と思えば不思議ではありませんが、それってなんか「やりたい事が先にあるから景気判断が後からついてくる」という形になっていないのかという風に思ってしまうのはアタクシの心が濁っているからですね!!!!!


・リスク要因に謎の変更があったのだが良く見たら展望レポートで出ていた件

『リスク要因としては、新興国・資源国経済の動向、欧州における債務問題の展開や景気・物価のモメンタム、米国経済の回復ペースなどが挙げられる。』(今回)

『リスク要因としては、新興国・資源国経済の動向、欧州における債務問題の展開や低インフレ長期化のリスク、米国経済の回復ペースなどが挙げられる。』(4/8)

なんじゃこの欧州の表現変化はと思ったのですが、実はこれ展望レポートの所で直っていまして、

『先行きの海外経済を巡るリスク要因としては、米国経済の成長ペースやそれが国際金融資本市場に及ぼす影響、欧州における債務問題の展開や景気・物価のモメンタム、新興国経済における持続的な成長に向けた構造調整の進展度合い、資源価格下落の影響、地政学的リスクなどが挙げられる。』(4月展望レポート基本的見解)

となっていて、要は4月展望レポートの時点でしらっと変わっているのですが、背景説明部分では

『ただし、先行きの海外経済については、以下のような上下双方のリスク要因が存在する。(途中割愛)一方で、欧州経済については、ギリシャ情勢を含む債務問題の帰趨や景気・物価のモメンタムに注意を要するほか、(以下割愛)』(4月展望レポート背景説明)

となっていて、基本的には下振れリスクなんでしょうが、表現だけで言えば下振れだけではなくて上振れの時にも使える万能表現に変更している辺りが、先行きについても強めで見たいというのと、ついでに言えば国内の物価がゼロ近傍になっている中なので欧州の低インフレ云々の所をあまり書きたくないというのも分かりますという事で。


・いつものところはいつもの通り

『「量的・質的金融緩和」は所期の効果を発揮しており、日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「量的・質的金融緩和」を継続する。その際、経済・物価情勢について上下双方向のリスク要因を点検し、必要な調整を行う(注2)。』(今回)

『「量的・質的金融緩和」は所期の効果を発揮しており、日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「量的・質的金融緩和」を継続する。その際、経済・物価情勢について上下双方向のリスク要因を点検し、必要な調整を行う(注2)。』(4/8)

で、反対の木内さんに関しましては今回もMB拡大ペース45兆円(長期国債も同じ)、2%目標は中長期的に目指す云々という提案も出たという所です。


・ちなみに会見は近来稀にみるしょうも無い会見でした

会見録は今日出ますが、まー今回の会見はしょうもない質疑応答の連発でして、質問する方の質問も全然ツッコミが足りないし、答える方は暖簾に腕押し状態で一方的に日銀公式ロジックを話すだけという流れで実にこうつまらん内容ではありました。

一か所だけほほーと思ったのは、現在の予想物価上昇率に関して「1%台前半から半ば程度」という説明を黒田さんがしたところでして、それどこからその数字が出てきたのかというのが非常に気になる上に、なんかずいぶん高い数字だしてるな大丈夫かという所でして、ここだけは失言のような気がするのですがテキスト見てから改めてネタにしたいと思います。

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2015/05/18

ちなみにどうでも良いですが悪態。

http://www.boj.or.jp/announcements/release_2015/rel150515b.pdf
「債券市場参加者会合」の開催について

『日本銀行金融市場局では、本年1月28日公表の「市場参加者との対話の場の拡充について」の中で、「債券市場参加者会合」を創設することを公表しましたが、第1回の会合を以下の要領で開催します。』

ほうほう。

『本会合は、本年2月に開始した「債券市場サーベイ」を有益に活用し、債券市場参加者とよりきめ細かな対話を行う観点から、比較的少人数のグループに分けて開催することとしています。』

日程はどうでもよいのですが、そもそも債券市場サーベイというのがオペ先に対して実施しているということですので『「債券市場サーベイ」を有益に活用し』という時点でスタンスはお察しという所が何ともであります。

つーかね、そもそもこれ麿の時代にやるのならまあ話は分かるのですが、黒田総裁って本質的に市場介入をするのは当然というスタンスであるのは従来からの言動で見え見えでありまして、それなら最初から「市場機能への配慮がどうのこうの」とかおためごかしなことは言わないで「市場に対して中央銀行が積極的に介入して資源配分を変えることによって政策効果をだすのですから市場から見たら歪みが出るというような意見が出るのは致し方ない」と明言してくれた方がまだマシというものですが、どこぞの副総裁とかは「市場機能はありまぁす!」とか言い出すし、FSRでも思いっきり「市場機能に問題はない(キリッ)」とか出すというスタンスの時点で市場舐めてるだろとは思うのでして、まあ何やっても無駄じゃないですかねえ今の総裁の金融市場に対するスタンスを前提にすると、とは思うのでありました。

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2015/05/13

○展望レポート全文ネタ続き(すいません)

http://www.boj.or.jp/mopo/outlook/gor1504b.pdf

最後の所の『(物価変動を取り巻く環境)』の部分で、物価見通しの中で需給ギャップの観点からの話は昨日引用しましたが、ではこれがフィリップスカーブ的にどうなのかという話に参ります。

そのまえに見通しから。

『以上を踏まえ、消費税率引き上げの直接的な影響を除いて物価情勢を展望すると、国内企業物価は、2015年度は原油価格下落の影響から横ばい圏内の動きとなるものの、2016年度以降は、海外経済や製品需給の改善、国際商品市況の上昇を背景に、緩やかな上昇を続けると予想される。』

『消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、当面、エネルギー関連の下押し効果とそれ以外の品目の改善効果が相殺し、0%程度で推移すると予想される。もっとも、2015年度下期以降は、エネルギー関連のマイナス寄与が減衰する中で、需給ギャップの改善と中長期的な予想物価上昇率の高まりの影響が続くことや、そうしたもとで既往の円安などによるコスト上昇の転嫁が再び進んでいくことから、全体として上昇率を高め、2016年度前半頃には2%程度に達する可能性が高い。』

『その後は、平均的にみて、2%程度で推移すると考えられる。2016年度までの消費者物価の見通しを1月の中間評価時点と比較すると、やや下振れている。』

ということですが、昨日も散々申し上げましたようにそもそも円安のコスト転嫁がスムーズに進むのかとか、進んだとしてそれが消費を抑制する結果になって景気のモメンタムを下げて結局のところ物価の上昇を抑制するんじゃないのかとか、まあ見通しそのものが楽観過ぎのような気がしますがね。


でもってフィリップス曲線での整理。

『以上の物価見通しをマクロ的な需給バランスとの関係(いわゆるフィリップス曲線)で整理すると(前掲図表15(2)、45)、2015年度の消費者物価は、直前に円安が急速に進行した2013年度の動きと同様に川下へのコスト転嫁が進捗することや、中長期的な予想物価上昇率が高まることから、需給ギャップの改善ペースをはっきり上回るかたちで上昇率を高めると予想される。』

2013年度はその結果として消費がコケてしまって実際問題として原油以外のコアコアだって弱くなったと思うのですけど何故今回は大丈夫と言い切れるのか小一時間問い詰めたいが、「2年連続ベアに見られるように所得面にも変化があり、ここまでの物価上昇という実績で物価観に変化が生じているから今回は大丈夫です(キリッ)」という屁理屈で返されるという位の想定問答はアタクシのような浅学菲才でも作れます。

『2016年度は、円安の効果が徐々に剥落する一方、中長期的な予想物価上昇率の上昇が続くため、需給ギャップの改善をやや上回るペースでプラス幅が緩やかに拡大し、2017年度は、消費者物価の前年比は2%程度の状態を続けると考えられる。』

それは良いのだがこれまた昨日申し上げたようにだったら何で見通しの期間中の金融政策が実質ゼロ金利なのか小一時間問い詰めたいし、実質ゼロ金利政策でQQE状態なままな前提じゃないと2%に行かないのであれば、そもそも論としてそれは「安定的に2%」というのには不適当ではないかと思うのですが(中立的な金融政策の元で安定的に2%じゃないと物価安定の目標達成とは言わないでしょ)。

『このように、中心的な見通しでは、消費者物価の前年比は、需給ギャップの改善に比較的明確に反応していくとともに、フィリップス曲線自体も中長期的な予想物価上昇率の高まりを反映して、次第にシフトアップしていくと想定している。』

はあそうですか(棒読み)。


その背景の説明が続くのでさらに鑑賞。

『こうした動きの背後には、日本銀行の「物価安定の目標」の実現に対する強いコミットメントに加え、以下に指摘するような家計の消費行動や企業の価格設定行動の変化も、複合的に作用していくことがあると考えられる。』

ほうほう。

『第1に、家計についてみると、長期にわたって続いてきた低価格志向はなお残存しつつも、全体として和らぎつつあり、購入単価の上昇にみられるように、高齢者や女性労働者を中心に、これまでよりも地理的利便性や高付加価値商品を好む傾向が徐々に強まっているように窺われる(図表46(1))。』

高齢者は賃金上昇のメリットが及びにくいという話があった気がするんだが。つーかそれ上流の話でボリュームゾーンの所がそうならないとマズーなんだしボリュームゾーン的には生活品とかを見てると足元で「単価が上がった分購入を抑制して総額は同じ」的な感じになっているように見えるのだが。

『第2に、小売業や各種サービス業の価格支配力(マークアップ率)が、やや長い目でみた業界再編などを背景に、幾分高まっている可能性が考えられる22。』

『第3に、そうしたもとで、小売・サービス業の価格設定についても、従来の安値輸入品を梃子とした低価格戦略から、付加価値を高めつつ販売価格を引き上げる戦略に切り替える動きがみられる。』

単にコストプッシュで仕方ないので言い訳に付加価値を見せているだけのような気もするんですがね。

『これらの点とも関連して、為替相場の動きを含めた投入コストの変化を川下の販売価格に転嫁する動きは、以前の局面に比べて、よりはっきりとみられるようになってきている(前掲図表44(2))。』

多分転嫁は進むと思うのだが、それによって物価が上昇しても名目の量が出なくなったら生産とかが出なくなるので前向きの循環メカニズムが頓挫すると思うのだが。

『この間、物価と名目賃金の関係を確認しておくと、消費者物価と時間当たり賃金との間には、長い目でみれば概ね同時に変動するといった安定的な関係が確認される(図表47)。』

なおこの図表47ですが本当に安定してるのかよとか、そもそも安定してるの物価が下がってからではないかとかいう気はだいぶするし、なんで時間当たり賃金というのも気になるのだが。

『上記の見通しでは、先行き、賃金交渉において物価面の動きが考慮されることなどを通じて、賃金上昇と物価上昇の好循環が次第に明確となる姿を想定している。すなわち、時間当たり賃金が、労働需給の引き締まりや予想物価上昇率の高まりを反映して緩やかに上昇していく中で、消費者物価も徐々に上昇率を高めていくと考えられる。こうした見通しを実現していくうえで重要な鍵となるのは、景気回復の持続性や成長力強化の拡がりとともに、ベアをはじめとする賃金引き上げの動きであると考えられる。』

はて。

『すなわち、ベアが伸びを高めることなどにより賃金の持続的な上昇が実感されるに伴って、消費者の物価上昇への抵抗感が和らぐとともに、そうしたもとで、企業も、賃金コストの上昇を販売価格に転嫁できることを前提に行動するなど、賃金上昇と物価上昇の好循環が形成されていくと考えられる。』

ベアもそうなのだが賃金の持続的な上昇の実感っていうのはもうちょっと別の問題があって、将来に渡る予見可能性というのが無いと厳しいから雇用の安定感とか成長期待とかそっちが無い中で賃金と物価の内生的な上昇プロセスというのは難しいのではないかと思いますけどねえ。

という所でありました。なおBOX1と2も面白い(2はこの前の企画局謹製ペーパーの話)のですがパスということで。

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2015/05/12

○展望レポート全文ネタの続きである

先週のやっつけ引用大会の続きです(汗)。

http://www.boj.or.jp/mopo/outlook/gor1504b.pdf


・基本的な経済メカニズムの話

11ページ目からが背景説明でして、先週木曜にネタにしたときは個別項目の方を先にやってしまいましたが、最初の経済メカニズムの話をまずは引用しましょう。

『1.2014年度後半の経済・物価情勢』というレビューの部分からで『(経済動向)』をば。

『2014年度後半の日本経済を振り返ると(図表1)、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動の影響が和らぐ中で、輸出の増加も後押しとなり、企業の生産活動は持ち直しに転じた。そうしたもとで、わが国経済は、原油安や為替円安、株高といった外部環境の改善にも支えられ、前向きの所得形成の力を維持しながら、緩やかな回復基調を続けた。』

外部環境の改善にも支えられ、とな。

『やや詳しくみると、海外経済は、一部になお緩慢さを残しつつも、先進国を中心に回復を続けた(図表2(1)(2))。主要国・地域別にみると、米国経済は、家計部門の堅調さが企業部門に波及するもとで、しっかりとした回復を続けた。欧州経済も、昨年夏場にかけてみられた前向きなモメンタムの鈍化には歯止めがかかり、基調として緩やかな回復経路をたどった。中国経済は、総じて安定成長を維持したが、製造業部門における過剰設備問題や不動産市場の調整が下押し圧力となり、成長モメンタムが鈍化した状態が継続した。中国以外の新興国・資源国経済についても、一部の国における資源価格下落に伴う負の影響もあって、全体として勢いを欠く状態を続けた。』

まあこの辺はヨロシ。

『こうしたもとで、年度前半に弱めの動きとなっていた輸出は、世界的なIT関連需要の堅調さと為替円安の効果にも支えられて、米国向けやNIEs向けを中心に、持ち直しが明確となった(図表2(3)(4)、3)。この間、公共投資は、2013年度補正予算などの押し上げ効果が残る中で、高水準で横ばい圏内の動きを続けた(図表4(1))。』

輸出キタコレ!!!!

『企業部門についてみると、駆け込み需要の反動減に端を発した耐久消費財や建設財の在庫調整が進捗するもとで、輸出の増加も後押しとなり、夏場まで弱めの動きとなっていた生産活動は持ち直しに転じた(図表5)。企業収益は、製造業を中心に増益傾向を続け、一部に慎重な動きがみられていた企業マインドについても、持ち直しの動きがみられるなど、総じて良好な水準を維持した(図表6、7)。そうしたもとで、設備投資は、建設関連がやや勢いに欠けたものの、全体としては緩やかな増加基調をたどった(図表8)。』

生産も持ち直しとな。設備は出る出る詐欺なんですけどね。

『家計部門についてみると、ひと頃やや緩慢になっていた労働需給の改善が再び明確となり、冬季賞与もしっかりと増加するなど、雇用・所得環境は着実な改善を続けた(図表9、10)。この間、個人消費における駆け込み需要の反動減については、長引いていた乗用車や家電などの耐久財を含め、徐々に和らいだ(図表11(1)(2)、12)。そのもとで、個人消費は、実質所得減?や消費者マインド慎重化の影響などから一部では改善ペースに鈍さがみられたが、全体としては底堅さを維持した。』

実質所得の減少から改善ペースに鈍さがみられたら物価がまた上昇したらダメじゃん。

『消費者マインドも、年度末にかけてはガソリン価格下落の効果や賃上げに対する期待もあって、持ち直しの動きを示した(図表11(3)(4))。住宅投資も、駆け込み需要の反動減が続いていたが、年明け後は下げ止まりに向かった(前掲図表4(2))。』

ガソリン価格が下落してマインド改善したならガソリン戻ったらダメじゃん。

『以上のような景気展開のもとで、労働と設備の稼働状況を捉えるマクロ的な需給ギャップは、年度前半には消費税率引き上げの影響からマイナス幅が幾分拡大したが、年度後半にかけてはゼロ近傍まで改善した(図表13)。』

つーことでレビューですからあまり景気づけ的な話は出来ないのでしょうが、それにしても各コンポーネントの話についてはまあそうかなと思って読んでいても、それを全部足すとなんか知らんが妙に強い話になっているというのが今回の展望レポートの特徴かなと思うのですが。


でまあ先行きの所に飛びまして『3.2015年度〜2017年度の経済・物価の見通し』の『(経済・物価見通し)』に。

『先行きの日本経済を展望するにあたって、まず、2013年4月の「量的・質的金融緩和」導入後の2年間の経済・物価情勢を振り返る(図表28)。「量的・質的金融緩和」は、2%の「物価安定の目標」の実現に向けた強く明確なコミットメントを通じて予想物価上昇率を引き上げるとともに、巨額の長期国債買入れによってイールドカーブ全体にわたって名目金利に下押し圧力を加え、実質金利の低下をもたらした。同時に、行き過ぎた為替円高の是正や株価の上昇も生じ、期待成長率の改善を伴いつつ実体経済面における前向きのモメンタムが働き始めた。』

は???

『そうしたもとで、日本経済は、消費税率引き上げの影響を受けつつも、緩やかな回復基調を続け、労働や設備といった生産要素の稼働状況は改善傾向をたどった。所得形成面でも、企業収益や雇用者所得は着実な改善を続け、このことは家計や企業の前向きな支出活動を後押しした。また、賃金・物価といった価格面では、労働市場を中心とした需給の改善などを背景に、基調的な動きは、それ以前の緩やかな下落傾向から緩やかな上昇傾向へと変化した。』

ふーん(棒読み)。

『先行きについても、2015〜2016年度は、緩和的な金融環境が維持されるもとで、原油安等の押し上げ効果も加わって15、潜在成長率を上回る成長が続く見通しである。2017年度については、景気が循環的には減速方向に向かい、2017年4月の消費税率再引き上げも押し下げに働くことから16、成長率は前年度からはっきりと鈍化するが、基調的な底堅さを維持すると考えられる。そうしたもとで、物価の基調は、需給ギャップが改善する中、中長期的な予想物価上昇率の高まりにも後押しされて着実に高まるとみられ、消費者物価の前年比(消費税率引き上げの直接的な影響を除いたベース)は、原油価格下落の影響が剥落するに伴って、「物価安定の目標」である2%に向けて上昇率を高めていくと考えられる。2%程度に達する時期は、原油価格の動向によって左右されるが、現状程度の水準から緩やかに上昇していくとの前提にたてば、2016年度前半頃になると予想される。その後は、平均的にみて、2%程度で推移すると予想される。』

この辺は基本的見解と同じです。

『先行きの経済情勢について仔細にみると、2015年度は、内外需がバランスよく増加し、潜在成長率をはっきりと上回る成長となる見通しである。この結果、需給ギャップははっきりとしたプラスに転じ、景気は緩やかな拡大基調をたどると見込まれる。需要項目別には、公共投資は緩やかな減少傾向に転じるものの、輸出は、海外経済の回復と既往の円安の効果に支えられて、緩やかな増加を続けると予想される。個人消費は、ベースアップ(以下、ベア)の高まりやエネルギー価格下落などを反映した実質可処分所得の増加に加え、前年度の落ち込みからの反動もあって、しっかりと増加するとみられる。設備投資も、緩和的な金融環境に加え、原油安に伴う企業収益の明確な改善にも支えられて、高めの伸びとなると見込まれる。』

ということで、先日コンポーネントの細かいところを引用しましたが、説明一つ一つはまあ強く出ればそうなるかもしれませんね的な説明なのですが、結局の所各コンポーネントの説明が全部想定の中で一番強気の話で纏めているので、全部足し合わせると謎の強気見通しになる、という事なのでしょうな。

『2016年度については、資本ストックの蓄積に伴い、設備投資が循環的に景気を押し上げる力は減衰していくとみられる。』

2015年度にそんなに設備投資が出ることになるのか・・・・・・・・・・

『もっとも、海外経済の回復と既往の円安の効果に支えられて、輸出が引き続き緩やかに増加するうえ、金融緩和効果や成長期待の高まりが国内民間需要を支え続けると考えられる。さらに、下期には消費税率引き上げ前の駆け込み需要が再び発生するため、前年度から減速しつつも潜在成長率をはっきり上回る成長が続くと予想される。』

まあ良く考えたら2016年度前半に2%到達してたら金融緩和の縮小という話になるのですが、なぜか展望レポートでの置きは基本的見解部分の2ページ脚注にあるように『具体的には、短期金利について、市場は、見通し期間を通じて、実質的にゼロ金利が継続することを織り込んでいる。』という事ですのでこういう記述になるのですが、冷静に考えたら金融緩和効果についても2016年度後半からは減衰してこないとおかしい。

『2017年度については、資本ストックの蓄積に伴い設備投資への減速圧力が高まる中で、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動減や実質所得の減?効果が発生するため、成長率は前年度から大きく鈍化すると見込まれる。ただし、海外経済の成長率の緩やかな上昇を背景に輸出の増加が続くほか、国内民間需要は、金融緩和効果に加え、成長期待の高まりやオリンピック関連投資による下支え効果もあって、基調的な底堅さを維持すると考えられる。このため、成長率は潜在成長率を幾分下回るものの小幅のプラスを維持し、需給ギャップはプラスで推移すると見込まれる。』

すいません2016年度はまだわかるのですが2017年度にも金融緩和効果という話を経済の下支え要因に置いておくのはさすがにおかしいのではないでしょうかねえ。

『以上の景気見通しを年度ベースの実質GDP成長率で示すと、2015年度は2%程度、2016年度は1%台半ば、2017年度は0%台前半と想定される。2016年度までの見通しを1月の中間評価時点と比較すると、概ね不変である。』

あっそう。


・物価に関する記述に微妙な味わいが

でまあ物価の方の話ですが、最初の『1.2014年度後半の経済・物価情勢』の『(物価動向)』というレビューを見ると味わいがある。

『物価面について、消費税率引き上げの直接的な影響を除いたベースでみると、国内企業物価の前年比は、国際商品市況の大幅な下落を反映して、昨年11月以降マイナスに転じ、その後もマイナス幅は拡大傾向をたどった(図表14(1)(2))。企業向けサービス価格(除く国際運輸)の前年比は、国内需要のもたつきの影響を一部に受けつつも、企業収益の改善が続く中で、0%台後半のプラスで推移した(図表14(2))。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は(図表15(1))、原油価格下落の影響からエネルギー関連品目の寄与がマイナスに転じたほか、エネルギー以外の品目も、個人消費のもたつきに伴うコスト転嫁の一服などを背景に、プラス幅を幾分縮小させたことから(図表15(2))、全体でも伸び率は縮小し、年度末にかけては0%程度となった。』

>エネルギー以外の品目も、個人消費のもたつきに伴うコスト転嫁の一服などを背景に、プラス幅を幾分縮小させたことから
>エネルギー以外の品目も、個人消費のもたつきに伴うコスト転嫁の一服などを背景に、プラス幅を幾分縮小させたことから
>エネルギー以外の品目も、個人消費のもたつきに伴うコスト転嫁の一服などを背景に、プラス幅を幾分縮小させたことから

しらっとこういう記述があるのが中々の滋味がありますな。

『除く食料・エネルギーの前年比については(図表16(1))、昨春以降プラス幅が縮小したものの、縮小幅は除く生鮮食品の前年比に比べ小幅にとどまった。この間、基調的な動きを捉える指標の一つである刈込平均値をみると(図表16(1))13、プラス幅は緩やかな縮小傾向にあったが、年度末にかけてはわずかに改善した。また、消費者物価(除く生鮮食品)を構成する各品目の前年比について、上昇品目の割合から下落品目の割合を差し引いた指標をみても(図表16(2))、昨春以降横ばい圏内の動きを続けてきたが、年度末にかけては幾分改善した。』

ふむ。

『この間、GDPデフレーターの前年比は、内需デフレーターのプラス寄与が幾分縮小する一方で、外需デフレーターの寄与がプラスに転じたことから、全体では+2%程度で横ばい圏内の動きとなった(前掲図表14(3))14。』

ということで、まあ先行き見通しに関してはご案内の内容ですのでそこはスルーしまして、個別コンポーネントの物価部分の話で本文29ページの『(物価変動を取り巻く環境)』から。

『先行きの物価情勢を展望するにあたり、物価上昇率を規定する主な要因について点検する。』

『第1に、マクロ的な需給ギャップは、振れを伴いつつも緩やかな改善傾向にあり、足もとは若干のマイナスとなっているが、先行きは、成長率の高まりに伴ってはっきりと改善していくと予想される。仔細にみると、2015年度前半には、過去の長期平均並みを示すゼロを超えてプラスに転じ、その後も景気拡大に伴う生産要素の稼働状況の高まりを反映して、プラス幅は拡大していくと予想される。2016年度にかけては、成長率の減速と潜在成長率の高まりから改善ペースが次第に鈍化し、2017年度には、消費再増税の影響もあって横ばい圏内の動きとなっていくが、水準としては引き続きプラスで推移し、物価への上昇圧力が働き続ける姿を想定している。』

とまあ需給ギャップの先行き推計に関しても経済見通しと同じになりますが個別コンポーネントを強く強くで評価してますな、うんうん。

『第2に、中長期的な予想物価上昇率については、マーケットの指標や各種アンケート調査などを踏まえると、やや長い目でみれば、全体として上昇しているとみられる。原油価格が大幅に下落してきた中にあって、エコノミスト、債券市場参加者、家計、企業に対するアンケート調査でみた中長期的な予想物価上昇率は、総じて維持されている(図表42、43)。』

市場の方は維持されているけどそれはそもそもの絶対水準が低いからですし、家計の方はそもそも昔から高めの水準で粘着したままなのですが。

『市場参加者の予想物価上昇率を、固定利付国債と物価連動国債の利回り較差から求められるブレーク・イーブン・インフレ率でみると、昨年末にかけてグローバルに低下していたが、原油価格が下げ止まる中で再び上昇に転じている。』

原油が戻って戻っているんだったら追加緩和関係ないじゃん。

『こうしたやや長い目でみた予想物価上昇率の高まりは、企業の価格設定行動や労使間の賃金交渉、家計の消費行動などに変化をもたらしているとみられる。』

えーっとすいません確か市場の予想物価上昇率はクソで実際には家計や中小企業の予想物価上昇率の方が正しいとかいうレポート昨年の春にだしてたはずなのですが、今回は市場の方が改善しているから変化が出ているとか中々こう説明が自由自在ですな。

『先行きについても、日本銀行が「量的・質的金融緩和」を推進し、実際の物価上昇率が高まっていくもとで、中長期的な予想物価上昇率も上昇傾向をたどり、「物価安定の目標」である2%程度に向けて次第に収斂していくと考えられる。』

まあやはり一番鉛筆なめなめ成分が高いところなので説明にも鉛筆を舐めた感じがしますね。

『第3に、輸入物価について、原油価格(ドバイ)は1バレル55ドルを出発点に、見通し期間の終盤にかけて70ドル台前半に緩やかに上昇していくと想定している。そうした前提のもと、当面は、国際商品市況の下落の影響が為替円安の効果を上回るため、輸入物価は前年比で下落を続けるが、2015年度後半には下落幅が縮小すると予想される(図表44(1))。このため、消費者物価に対する波及ラグが短いエネルギー関連の寄与度については、当面マイナス幅を拡大した後、2015年度後半にはマイナス幅縮小に転じ、2016年度前半には概ねゼロになると考えられる。一方、それ以外の品目を通じた消費者物価へのパススルーについては、消費の基調的な底堅さが維持されるもとで、既往の為替円安によるコスト高を転嫁する動きが徐々に進むため、2015年度の消費者物価の押し上げ要因として作用し続けると考えられる(図表44(2))。』

さっきのレビューでパススルーがイマイチ進んでいないという話があったと思いますが、この先ではちゃんとパススルーが行くという根拠はどちらに?????

という事で、この先はフィリップス曲線とか使ったメカニズムの話になるのですが、アタクシの時間配分と労力配分の失敗により時間が無くなってしまったので続きは明日で勘弁してくださいすいませんすいません。

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2015/05/11

○4月1回目の金融政策決定会合議事要旨を鑑賞

ふむ
http://www.boj.or.jp/mopo/mpmsche_minu/minu_2015/g150408.pdf

『U.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要』から。

・国内経済に関する討議内容が展望レポート基本的見解のやたら強気な見通しとあまり整合的ではない気がする件

海外景気の話はめんどいので割愛しまして

『わが国の景気について、委員は、家計・企業の両部門において、所得から支出への前向きな循環メカニズムがしっかりと作用し続ける中で、緩やかな回復基調を続けているとの認識を共有した。景気の先行きについても、委員は、緩やかな回復基調を続けていくとの見方で一致した。』

はあそうですか。

『輸出について、委員は、持ち直しているとの認識で一致した。委員は、年明け後は春節の影響で月々の振れが大きく、2月の実質輸出は1月の反動減からやや弱めとなったものの、均してみれば改善傾向が続いているとの見方を共有した。先行きについても、海外経済の回復などを背景に、緩やかに増加していくとの見方で一致した。何人かの委員は、3月短観をみると海外での製商品需給判断DIが幾分悪化しており、企業は海外需要を慎重にみていると指摘した。』

ということで輸出については展望レポート基本的見解での見通しがやたら強気になっていましたが、この時には何人かの委員が先行きに関して必ずしも楽観していないという記述でして、この認識と展望レポート基本的見解で示す強気との差分はどこにあるのよという感じがします。

でもって展望レポート基本的見解でもう一つ強い見通しが示されている設備投資。

『設備投資について、委員は、企業収益が改善する中で、緩やかな増加基調にあるとの認識を共有した。先行きも、企業収益が改善傾向を辿る中で、緩やかな増加基調を続けるとの見方で一致した。』

ほうほうそれでそれで?

『3月短観について、委員は、企業の業況感は、総じて良好な水準で推移しているとの認識を共有した。何人かの委員は、業況判断DIが小幅ながら2期連続で改善しており、リーマン・ショック前の景気拡大期のピークに近い水準にあると指摘した。』

その状況でこの設備投資ねえ・・・・・・・

『何人かの委員は、2015 年度の事業計画をみると、増収増益が続くもとでしっかりとした設備投資計画となっており、企業の前向きな姿勢が維持されているとの見方を示した。ある委員は、非製造業の業況判断DIをみると、不動産や小売を中心に大企業・中小企業ともに改善していると指摘した。』

いやですからそういう状況なので設備投資が出る筈という話をして2年ほど経っている気がしますが。

『この間、何人かの委員は、過去最高水準にある企業収益に比べれば、企業のマインドや支出姿勢はなお慎重であるとの見方を示した。その背景として、一人の委員は、企業が先行きの内外需要になお慎重な見方を崩していないとの認識を述べた。』

ですよねえ。

『複数の委員は、現在の好調な企業収益には、円安に伴い海外における利益が円換算で押し上げられている面もあり、企業はその持続性を見極めている可能性があると指摘した。これらの委員は、為替相場が安定的に推移し、それが企業の中長期的な経営計画に反映されていけば、国内設備投資の積極化などに繋がっていくとの見方を示した。』

何となく言いたいことは分かるのですが、海外の利益が円安定着で円ベースで増えた状態で維持されるとして、それが国内の設備投資に繋がるという話になるのかは希望的観測なのではないかという気がするのですけどね。海外での設備投資になるとかになりそうな気がしますし、まあ国内の投資ではなくて収益の分配という形でのメリットにはなるのかも知れませんが、だからと言って国内設備に回る気はあまりしないのですけどね。


次が雇用。

『雇用・所得環境について、委員は、労働需給が着実な改善を続けるもとで、雇用者所得は緩やかに増加しており、先行きも緩やかな増加を続けるとの認識を共有した。』

まあここはベアでウハウハという話が出てくるのは見る前から想像がつきます。

『多くの委員は、企業収益が好調に推移し、労働需給がタイト化する中で、今春の賃金改定交渉では、ベースアップを含め昨年を上回る回答を示す企業が増えているとの見方を述べた。これらの委員は、賃金引き上げの動きは、大企業だけではなく、中小企業や非正規労働者にも拡がっているとの認識を示した。』

ほうほうそうですか。

『このうちの一人の委員は、「生活意識に関するアンケート調査」をみると、収入について、1年前に比べて「増えた」と回答した世帯や、1年後は「増える」と答えた世帯が増加していると指摘した。ある委員は、このところ人手確保の観点から企業は正社員化を進めており、今後は非正規雇用へのシフトによる平均賃金の下押し圧力が次第に和らぎ、賃金の緩やかな上昇傾向が定着するとの見方を示した。』

とまあそういうことで雇用の所は威勢の良い話が続く。次は消費。

『個人消費について、委員は、一部で改善の動きに鈍さがみられるものの、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、全体としては底堅く推移しているとの認識を共有した。』

全体としてはですかそうですか。

『多くの委員は、消費者マインド関連指標について、雇用・所得環境の改善などを背景に、持ち直しの動きがみられていると述べた。』

うむ。

『何人かの委員は、雇用・所得環境の改善やマインド指標の持ち直しに比べて、個人消費関連指標の改善がやや遅れているとの見方を示した。一人の委員は、3月短観の小売業の業況判断DIをみると、訪日外国人向けの販売増による面もあるが、明確な改善傾向がみられるとの認識を示した。』

ふーん。

『先行きの個人消費について、委員は、雇用・所得環境の着実な改善が続くもとで、引き続き底堅く推移するとの見方で一致した。何人かの委員は、昨年4月以降、消費税率引き上げに伴う実質所得減少などの影響がみられたが、それが一巡した今後は、所得面の改善が支出増加にはっきりと繋がってくると述べた。一人の委員は、今回の賃上げは消費性向の高い若年層に手厚く行われたとの指摘があり、その効果にも期待しているとの見方を示した。この間、複数の委員は、年金生活者には賃金上昇の恩恵が及びにくいため、こうした層の消費動向に注意する必要があると述べた。』

ということでまあ消費が出るという部分は展望レポート基本的見解の方でも結構どどーんと出ていましたけれども、実際にどうなのかというのは微妙に思えます。それから一人の委員が指摘している「今回の賃上げは消費性向の高い若年層に手厚く行われたとの指摘があり、その効果にも期待しているとの見方を示した。」という話ですが、あまり期待しない方が良いんじゃないのと思ったりする訳で、若年層の消費が伸びないのはそういう問題じゃなくて将来における賃金見通しとか雇用見通しに対する安心感の方が重要なので、単発的にベアが出たからと言ってそう簡単にホイホイ消費が増えるとも思えませんけどねえ。逆に年金生活者の場合は消費行動の方で期待される向き(要は年金の中でも相対的に金持っている方)は資産価格上昇の恩恵受けてるんじゃネーノという気がするので指摘的に何か逆のような気がするんだけどなあ。

住宅投資に関してはまあどうでもよいが引用だけ。

『住宅投資について、委員は、駆け込み需要の反動減が続いてきたが、足もとでは下げ止まりつつあり、先行き、次第に底堅さを取り戻していくとの見方で一致した。』

次は生産。

『鉱工業生産について、委員は、内外需要の緩やかな増加に加え、在庫調整の進捗もあって、持ち直しているとの認識を共有した。多くの委員は、年明け後は春節の影響で月々の振れが大きいが、均してみれば改善傾向が続いているとの見方を示した。先行きについて、委員は、緩やかに増加していくとの認識で一致した。』

ふむ。

『複数の委員は、企業からの聞き取り調査などを踏まえると、素材関連における在庫調整や輸送機械における在庫調整からの回復の一巡から、生産は当面横ばい圏内の動きにとどまるとの見方を示した。』

ということであまり強くないが展望レポートでも生産はあまりドライバーとしての位置づけになっていなかったのでまあこんなもんでしょ。

『物価面について、委員は、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、消費税率引き上げの直接的な影響を除いたベースでみて、0%程度となっており、エネルギー価格下落の影響から、当面0%程度で推移する可能性が高いとの見方で一致した。何人かの委員は、エネルギー価格などの動向次第では、小幅のマイナスになる可能性があると述べた。』

とりあえずこの前のCPIは無事でよかったですね(棒読み)。


・金融面の動向部分でちょっと吹いたのが一か所

『2.金融面の動向』である。

『わが国の金融環境について、委員は、緩和した状態にあるとの認識で一致した。委員は、マネタリーベースは日本銀行による資産買入れの進捗を反映して大幅に増加しており、企業の資金調達コストは低水準で推移しているとの見方を共有した。』

5月1日に出てきた企画局のペーパーにはマネタリーベースのマの字も無かったけどな!!!!!!!

『委員は、企業からみた金融機関の貸出態度は改善傾向を続けているほか、CP・社債市場では良好な発行環境が続いており、企業の資金繰りは良好であるとの認識で一致した。』

短観などを受けての話ですな。

『委員は、資金需要は緩やかに増加しており、銀行貸出残高は中小企業向けも含めて緩やかに増加しているとの見方を共有した。』

MBをあれだけ出してこの程度かよとか言ってはいけません。

『ある委員は、全体として緩和効果がしみ通った金融環境になっていると述べた。』

>緩和効果がしみ通った金融環境
>緩和効果がしみ通った金融環境
>緩和効果がしみ通った金融環境

・・・・・(;゚д゚)


・2年たったので政策の効果に関するレビューっぽい議論があったようです

続きまして『V.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要』である。

『多くの委員は、導入から約2年が経過した「量的・質的金融緩和」について、所期の効果を発揮しているとの認識を共有した。』

まあ所期の効果を発揮してたら目標を達成している筈なんですけどね!!!!!!!!!!!

『これらの委員は、需給ギャップや中長期的な予想物価上昇率に規定される物価の基調は、今後も改善傾向を辿るとの見方を共有した。』

ちなみにここにあるように「多くの委員」は認識を共有しているけど共有していない委員もいるようですな。

『多くの委員は、「量的・質的金融緩和」の導入以降、名目金利が低位で安定的に推移する一方、やや長い目でみた予想物価上昇率は全体として上昇しており、実質金利は低下していると述べたうえで、そのことが企業・家計の支出行動を支えているとの認識を示した。』

低位で安定的にっていうのは導入以降とは違う気がするが。

『何人かの委員は、株価など資産価格の上昇や過度な円高水準の修正が生じたと指摘した。ある委員は、企業収益が過去最高水準まで増加しているほか、失業率低下など雇用環境の改善を背景に雇用者所得も増加していると述べた。別の一人の委員は、デフレ的なマインドセットを転換させる効果があったとの見方を示した。』

どうも2年経過したので一応レビューっぽい議論があったのではないかと思わせる下りでして・・・・・・・・・

『これに対し、ある委員は、実質金利がマイナスまで低下したもとでも、消費や設備投資が明確に加速するほどの効果はみられなかったと述べた。』

(;∀;)イイシテキダナー

『昨年10 月末の「量的・質的金融緩和」拡大の効果について、何人かの委員は、原油価格の大幅下落を背景に実際の物価上昇率が低下するもとでも、予想物価上昇率は維持されており、賃金や価格設定などへの二次的な影響は生じていないと指摘した。』

出たなインチキ説明、というか今更昨年10月の追加緩和の話がこういう形で記載されているという事はやはり政策の効果に関する見解に差があって2年たったのでレビューみたいな話をした時点で色々と論議があったものと思われます。

『一人の委員は、銀行貸出の伸びが高まっているほか、最近では金融機関による成長分野や外貨建て金融資産への投資が増加するなど、ポートフォリオ・リバランス効果が次第に拡がってきていると述べた。』

?????????????


・国債買入に関する話は何故か財政の方の話になってしまっている

『大量の国債買入れが国債市場に及ぼす影響について、複数の委員は、最近の国債市場では流動性プレミアムが相応に意識され、名目金利が下がりにくくなっていると指摘した。』

キタコレ!と思ったらこの先が財政の信認ガーの話になっているのは何故??

『何人かの委員は、金利の安定を確保するためには、財政運営に対する信認が維持されることも重要であり、政府が財政健全化に向けた取り組みを着実に進めていくことを期待しているとの認識を示した。複数の委員は、日本銀行の国債買入れにより金利の低位安定が保たれるとの期待が過度に強まることなどを背景に、財政健全化に向けた政府の取り組み姿勢が後退するリスクには引き続き注意が必要であると述べた。何人かの委員は、仮に政府の財政健全化へのコミットメントが薄れたと市場が判断すれば、国債に対する信認低下から長期金利が上昇し、結果的に日本銀行の政策効果を減殺する可能性があると指摘した。』

いやおまいらそんなことより国債買入の持続可能性とか、市場流動性を下げ過ぎて却って市場を不安定化させる事になっている件とかの話をしろよと思うのだが。



・インフレ期待に関する話と物価見通しに関する話

『金融政策を運営するうえでの物価動向の判断について、委員は、「物価安定の目標」は安定的に達成すべきものであり、金融政策運営に当たっては、物価の基調的な動きが重要であるとの認識を共有した。』

そらまあそうです。

『多くの委員は、3月短観における企業の物価見通しをみると、原油価格が下落するもとでも、先行き物価上昇率が高まるという予想が維持されているとの見方を示した。』

維持されているもクソもあれ最初の数値から延々と粘着したままじゃねえかと小一時間。

『複数の委員は、非製造業・大企業では、仕入価格判断DIの「上昇」超幅が縮小する一方で販売価格判断DIの「上昇」超幅が拡大しており、価格転嫁を巡る環境に改善がみられるとの認識を述べた。』

まあその差分は仕入れの上昇の方が圧倒的に多いけどな(なおアンケートバイアスがあるのは事実)。

『このうちの一人の委員は、仕入価格が上昇しても最終段階での価格転嫁が難しいというこれまでの企業の声と比べると、こうした改善の動きは今後の物価動向を見通すうえで大きな変化だといえると付け加えた。』

まあそうかも知れんが日常品だと価格上げた傍から数量減らしたりして販売単価を下げないようにしているっぽいが。

『何人かの委員は、「生活意識に関するアンケート調査」をみると、家計も引き続き物価上昇を予想していると指摘した。』

えーっとすいません、その数値ってQQE実施のだいぶ前からずーっと粘着しているんですけど。

『何人かの委員は、ベースアップも含めた今年の賃金改定交渉の結果は、賃金の増加を伴いながら物価上昇率が徐々に高まっていくという好循環のメカニズムが作動し始めていることを示しているとの認識を示した。ある委員は、やや勢いを欠いているとはいえ2年連続でベースアップが実現する見通しとなったことは、基本給は上がらないという固定観念を変え、前向きの予想形成を促す重要な契機になると述べた。これらの議論を受けて、委員は、予想物価上昇率は、やや長い目でみれば全体として上昇しているとの認識を共有した。』

ふーん。

『そのうえで、多くの委員は、先行き、物価の基調を規定する需給ギャップは着実に改善し、予想物価上昇率も高まっていくことから、原油価格下落の影響が剥落するに伴って消費者物価は伸び率を高め、2015年度を中心とする期間に2 % 程度に達する可能性が高いとの見方を共有した。』

えーっとすいません、その3週間後に見通しが何故変わるのでしょうか????????????????????

『一方、ある委員は、需要の弱さを背景に耐久財や衣料品の価格上昇率が低下していることなどを踏まえると、この先、消費者物価(除く食料・エネルギー)の前年比上昇率の拡大はかなり緩やかなものにとどまると述べた。』

ですなあ。

『この間、需給ギャップについて、複数の委員は、推計手法の違いによって乖離が生じ得るため、各手法の特徴を踏まえながら総合的に点検していくことが重要であるとの見方を示した。』


・木内さんの提案に関しては骨子の確認&反対の説明に味わいがある

この後が金融政策をこうしますという話ですがそこはご案内の通りの話なのでさておきまして木内さんの提案の所から。

『一方、一人の委員は、需給ギャップがゼロ近傍まで改善する中、逓減している「量的・質的金融緩和」の追加的効果を副作用が既に上回っているため、導入時の規模であってもこれをなお継続することは、金融面での不均衡の蓄積など中長期的な経済の不安定化に繋がる懸念があるとの見方を示した。』

>追加的効果を副作用が既に上回っているため
>追加的効果を副作用が既に上回っているため
>追加的効果を副作用が既に上回っているため

これはまた大きく出ましたな!

『そのうえで、この委員は、@金融市場調節および資産買入れ方針については、マネタリーベースと長期国債保有残高の増加ペースを、段階的減額を視野に入れて、「量的・質的金融緩和」導入時を下回る水準まで減額するほか、買入れ国債の平均残存期間およびETF、J−REITの買入れペースを導入時と同様にすること、A先行きの金融政策運営については、「物価安定の目標」の達成期間を中長期へと見直すとともに、金融面での不均衡など中長期的なリスクにも十分配慮した柔軟な政策運営のもとで、早期に「量的・質的金融緩和」の終了や金利引き上げに向かうのではなく、資産買入れ策と実質的なゼロ金利政策をそれぞれ適切と考えられる時点まで継続するとの表現に変更することを主張した。』

ということで、木内さんの提案の骨子は「2%は中長期的に目指す」「そのためには金融緩和は長期的に持続可能なものにする」というお話でして、買入の規模も長期的に持続可能なように徐々に縮小はするけれども政策そのものは長期化する、というお話。


でまあ反対意見。

『これに対し、何人かの委員は、2%の「物価安定の目標」に向けてなお途半ばである現時点での減額開始は、政策効果を減殺する可能性が高いとの見方を示した。』

まあ政策枠組みを大きく変えてという話だが買入減らすといったんは長期金利とかが跳ねるでしょうからそういう反対が起きるのはまあそうかなと思いますが、この後の反対見解に実にこう深い味わいを感じます。

『複数の委員は、日本経済がようやくデフレ脱却への道筋がみえてきたという段階であることを踏まえると、現時点ではデフレに戻るリスクを避けることを最優先すべきであると指摘した。このうちの一人の委員は、現状、金融面での不均衡の蓄積を示す具体的な根拠はないと付け加えた。ある委員は、資産買入れの減額に関する情報発信は、タイミングや方法次第でせっかくの緩和効果を削ぐリスクもあり、細心の注意を払う必要があると述べた。』

そもそも論としてこれだけ馬鹿買入を実施しても物価が思うように上がっていないのですから馬鹿買入そのものに意味があったのかよという気がする訳で、他のやり方でもっと効率良く実施するという発想は無いのかと思ってしまいますが、無謀でもなんでも一度始めてしまうとその開始したことを拡大再生産するのを得意技とするというジャパンクオリティ恐るべしというのがここの纏めによく現れていてナイスではありますな。満州の防衛を確保するために華北分離工作して華北を確保するために日華事変とかどこまでも拡大再生産状態になるというような事案がありましたなとか思うと実に頭が痛くなるものを感じるのでありました。

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2015/05/08

○しまった展望レポート背景説明ネタの時間ががががが

http://www.boj.or.jp/mopo/outlook/gor1504b.pdf

最初の10ページが基本的見解と見通しの表とファンチャートですが、11ページ目からは背景説明というのがありまして、これがまた味わいが深いのでネタにするつもりが久々の労務のせいか寝坊したこともあって時間がありませんですかそうですか、ということで今日は掴みのところだけ。

・読んでの感想だが

えーっとですな、ここの背景説明を読んでいますと、まあ物価に関しては毎度の需給ギャッププラス拡大とインフレ予想の上昇によるフィリップスカーブのシフトアップによって上昇して、最終的にはインフレ予想の上昇による内生的な物価上昇メカニズムが機能する的な話ではあるのですが、経済見通しの方を見ますと、結局の所「設備投資と輸出」がドライバーになっていて、特に輸出の所について先行きを強めにみているのか、輸出の着実な伸びによって輸出企業中心に企業収益の拡大が今後も期待され、そこを起点とする前向きの循環というようなストーリーがメインになっているように見えた(間違ってたらごめんなさいなのだがアタクシにはそう読めた)のですな。

まあ確かに輸出も伸びてきているし、今度こそ設備も出るのではという感じ(稼働率が絶賛改善ちう)ではあるので話としては分からんではないのですが、そんなに強いのかねというのが??????な所ではありますし、内生的な物価上昇メカニズムって本当にワークするのかよという風に思う訳で、毎度申し上げておりますように物価が上昇した時に消費って本当に大丈夫なのかよ(賃金が2%CPI物価上昇に耐えられるほど上がってないだろそもそも2%CPI上がる間に日常品幾ら上昇するんだよ)とか、まあそういうのを華麗にスルーした見通しではあるのですが、基本的見解よりはもうちょっと控えめに書いているなあとは思うのですけどどうでしょうかね。


ということで『(企業の収益環境)』『(設備投資)』『(雇用・所得環境)』『(家計の支出行動)』辺りを見る(24ページ以降)のだ。


『(企業の収益環境)』から。

『企業収益の先行きについては、@原油安などによる交易条件の大幅な改善(前掲図表33(2))、A内外需要の増加に伴う売上数量(出荷)の回復(前掲図表5(2))、B好調な海外部門からの配当・利息の受取増加に支えられて、しっかりとした増益基調を続けると予想される(前掲図表6)。ただし、見通し期間の終盤にかけては、景気が循環的には減速方向に向かい、2017年度には、駆け込み需要の反動も予想される中で、人件費の増加など家計への分配がより進んでいくため、収益の伸び率は鈍化していくと考えられる。』

つーことで。

『原油安と円安は、企業収益の改善、さらには企業の支出活動の積極化を通じて実体経済にプラスの影響を及ぼすが、原油安は幅広い分野にプラスの影響を及ぼす一方で、円安のプラス効果は製造業に偏りやすく、非製造業、とりわけ価格転嫁力の相対的に弱い中小企業にはマイナスに働きやすいなど、部門別にみた差異が大きい。』

ほうほう。

『この点、中心的な見通しでは、製造大企業の収益拡大が、国内における研究開発を含めた投資や雇用者所得、さらには取引先からの購入スタンスの変化を通じて、経済全体に対し徐々にプラスの効果を及ぼしていくことを想定している。このところ、製造大企業において、@昨年を上回るベアの回答、A取引先に対する値下げ要請の修正、B国内設備投資の積極化、C株主還元の拡大などがみられているのは、そうした見方を裏付ける動きと評価できる。』

ということなのですが、これって従来ワークしなかったメカニズムでして、今回ワークするという根拠はよく分からんとしか申し上げようがない。


『(設備投資)』から。

『先行きの設備投資は、企業収益が既往の原油安や円安にも支えられて明確な改善傾向を続ける中で、緩やかな増加基調をたどると予想される。企業の中期的な成長期待は、2014年度のマイナス成長見込みにもかかわらず、改善傾向が維持されており(図表35(1))、株高・低金利・緩和的な貸出スタンスといった資本コスト面で投資刺激的な状況が続くことも、設備投資をしっかりと後押ししていくとみられる。ただし、見通し期間の後半から終盤にかけては、資本ストックの蓄積に伴って、設備投資の循環的な増加テンポは徐々に鈍化していくと想定している。』

という威勢の良い見通しになっています。

『こうした見通しについて、「設備投資は、一定の成長期待のもとで、生産活動に必要とされる資本ストックを実現するよう行われる」との考え方のもと、資本ストック循環の観点から設備投資の伸び率を評価すると(図表35(2))、当面、期待成長率が「0%台前半ないし半ば程度」と推計される潜在成長率と同程度であっても、設備投資の増加余地は相応に大きいと考えられる。その後も、「量的・質的金融緩和」のもとで、金利面、アベイラビリティ面ともに極めて緩和的な金融環境が維持されることが、成長期待の緩やかな高まりやオリンピック関連需要の顕在化とも相俟って、設備投資を後押ししていく姿を想定している。』

それはそうなのだがそう言い続けて全然設備投資が出てこないという現実もあるのだがががが。

『大企業の設備投資対キャッシュフロー比率は(図表36(2))、国内・単体ベースでみると、リーマン・ショック以降、水準をはっきりと切り下げ、最近でもその傾向に目立った変化はみられないが、海外分を含む連結ベースでみると、リーマン・ショック後のボトムから水準をはっきり切り上げている。海外需要を含めて考えれば、企業の成長期待は着実に回復しており、そのもとで企業は、基本的には海外に軸足を置いて成長投資などのリスクテイクを行ってきている。もっとも、既往の円安の進行などにより国内投資の採算が回復するにつれて、海外投資の拡大という基本的な方向性は維持しつつも、国内投資のウエイトを高める動きもある程度出てくると考えられる。』

願望のような気がしますが。需要のある所で生産するという形になっている訳で円高だから円安だからという話でもないのではないかと。

『実際、最近では、2年以上にわたる円安傾向の定着を眺め、国内において、老朽化した既存設備の維持・更新だけでなく、新製品などの一部の戦略分野における能力増強投資も出始めている19。』

ということで脚注19を見ますと・・・・・・・・

『19 内外成長率格差を勘案したうえで、内外設備投資比率(海外設備投資額/国内設備投資額)と為替相場の関係をみると、為替相場は2年程度のラグを持って、内外の投資の意思決定に相応の影響を及ぼすことが確認できる(図表36(3))。』

ということで、なるほどそれは分かったのだが、そんなにタイムラグがあるのに何でQQE実施した時に「2年」という話したのかさっぱり分からんのですがと突っ込みたくなる。


『(雇用・所得環境)』から。

『雇用面についてみると、労働需給の改善傾向は、昨年度前半の経済活動のもたつきを反映して、ひと頃やや緩慢となっていたが、足もとでは再び明確となっている(前掲図表9)。経済活動に必要な労働力は、失業者の減?のほか、女性や高齢者などの労働市場への参入によって確保されており、労働投入量(雇用者数×総労働時間)は、雇用者数の増加を主因に緩やかに増加している(図表37、38(1))。こうした動きを反映し、失業率は、失業期間別に分けてみると(図表37(1))、このところ短期(1年未満)の失業率の低下が顕著であり、足もとはバブル期並みの水準まで改善している。長期(1年以上)の失業率についても、改善ペースは短期より緩やかとはいえ、低下基調ははっきりしており、足もとはリーマン・ショック前のボトム並みにまで低下している。』

『また、通常の失業率(U3)に加え、現在職探しをしていないが潜在的に労働意欲を持つ非労働力人口や、現状より長い時間の労働を希望しているパート労働者の存在も勘案した、より広義の失業率(U6)をみても(図表37(2))、労働需給の引き締まりの程度に対する評価は変わらない。先行きも、2016年度にかけて、潜在成長率を上回るペースでの経済成長が続くとみられる中で、企業の中期的な採用意欲もさらに強まっていることも踏まえると(図表38(2))、引き続き雇用者数は増加し、労働需給の着実な改善が続く可能性が高い。』

頭数の話はまあ強い罠。

『賃金面をみると、労働者全体の時間当たり名目賃金は、労働需給の引き締まりにつれて、振れを伴いつつも緩やかに改善している(図表38(3))。』

緩やかにしか改善してないと(涙)。

『先行きについても、後述のとおりベアが伸びを高め、所定内給与を中心に賃金に明確な上昇圧力がかかっていくと予想される。以上のような雇用・賃金の見通しのもとで、雇用者所得の伸びは、緩やかに高まった後、見通し期間の後半には、次第に安定的なプラス幅となっていくとみられる(前掲図表10(3))。』

ふーん。

『先行きの労働分配率は、過去の景気回復局面にみられたような明確な低下傾向を示さず、横ばい圏内で推移すると想定している(図表38 (4))。』

その根拠は???

『先行きの賃金動向を占ううえで鍵のひとつを握るベアについて、今春の動向をみると、最終的な着地には不確実性が残るが、足もとの連合の中間集計では0.7%程度と、昨春(0.4%)対比で上積みが図られている(図表39(1))。来春以降についても、物価上昇も勘案した労使交渉姿勢が定着していけば、景気回復に伴う需給ギャップの改善や中長期的な予想物価上昇率の上昇が次第に明確になっていく中で、ベアは伸びを高めていくと予想される20。』

まあそうだと良いですねとしか申し上げようがないところである。

脚注20では内生的な物価上昇という話をしている。

『20 組合のベア要求率と消費者物価の関係をみると、要求率は除く食料・エネルギー(消費税の影響を除くベース)の前年比との相関が他の指標に比べ相対的に高めである(図表39(2)(3))。これは、エネルギー価格の下落等によって消費者物価が一時的に伸びを低下させても、基調的な物価上昇率が景気の改善を反映してしっかりと伸びを高めていれば、それにつれて組合の要求率も相応に高くなっていく可能性を示唆している。』

そうだといいですね(棒読み)。


『(家計の支出行動)』である。

『個人消費については、駆け込み需要の反動という面での下押し圧力が概ね収束し、需要側統計のサンプル要因や天候要因の影響も剥落したとみられる昨秋以降も、一部に鈍い動きがみられた。こうした個人消費のもたつきには、実質所得が減?したことだけでなく、2014年度のマイナス成長見込み、さらには昨秋以降の円安進行も受けた物価上昇に対する抵抗感の若干の強まりを背景として、消費者マインドが年初頃まで慎重な動きを続けたことも、影響している可能性がある(図表40)。』

>昨秋以降の円安進行も受けた物価上昇に対する抵抗感の若干の強まりを背景として
>昨秋以降の円安進行も受けた物価上昇に対する抵抗感の若干の強まりを背景として
>昨秋以降の円安進行も受けた物価上昇に対する抵抗感の若干の強まりを背景として

こちらではちゃんと言及しているのは良い事であります。

『もっとも、足もとでは、ガソリン安や賃上げ期待などを背景に消費者マインドは持ち直しつつあり、今春以降は、年金支給額の増額や電気代の下落も予想されるため、消費者マインドの改善は明確になっていく可能性が高い。加えて、労働需給の引き締まりや昨年以上のベアを背景とする雇用者所得の増加、株高による資産効果も、家計部門にプラスに作用するとみられる(図表41)21。』

となりますとやっぱり物価上昇が日銀の見通し通りに逝くと普通に考えて(この前の日興リサーチさんのレポートの受け売りになりますが)粘着性の高い品目が多い事からすると日常品の価格が盛大に上昇するの図になってしまいますから同じように消費者マインドが落ちるのでは、というかそもそも今の状況で2%物価上昇は日本経済の実力的に無理という話なのでは、と言うと「いやそうではない」という理屈が日銀公式見解からは返ってくる筈です。

『以上を踏まえると、先行きの個人消費は、2015年度から2016年度にかけて底堅く推移し、2016年度後半には消費税率の再引き上げに伴う駆け込み需要も生じると予想される。一方、2017年度の個人消費については、駆け込みの反動とともに、実質所得減少の効果が現れることから、2014年度ほどではないとはいえ、減少に転じると想定される。ただし、その度合いについて不確実性は大きい。』

以下住宅投資の部分はめんどいから割愛しました。ほとんど引用手抜き企画ですが、輸出以外の基本コンポーネントの部分をべた引用しておきました。続きはまた後日。

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2015/05/07

○企画局謹製のQQEの効果検証レポートは「マネタリーベース」の効果が見事に皆無な件について

金曜にこげなものが出ていますた。
http://www.boj.or.jp/research/wps_rev/rev_2015/rev15j08.htm/(要旨)
「量的・質的金融緩和」:2年間の効果の検証
2015年5月1日 企画局

全文はこちら
http://www.boj.or.jp/research/wps_rev/rev_2015/data/rev15j08.pdf(全文)
「量的・質的金融緩和」:2年間の効果の検証
2015年5月1日 企画局

でまあ今回はクレジットが「企画局」ですので、毎度おなじみの「これは個人的見解です」というのではなくて、企画局が堂々と出してきたというのはまあ評価したいところではありますが、内容については何ちゅうかアレという所ですけど出さないよりはかなりマシな話ではありますな。

なおこの内容は展望レポートの背景説明の方に思いっきり記載されておりますのでそちらでも読めます。


まずは要旨から引用してみませう。

『要旨』

『日本銀行が2013年4月に「量的・質的金融緩和」を導入してから2年が経過した。本稿では、「量的・質的金融緩和」が金融・経済に与えた政策効果についての定量的な検証を試みる。』

定量的検証キター!!

『「量的・質的金融緩和」の効果の波及メカニズムは、(1)2%の「物価安定の目標」に対する強く明確なコミットメントとこれを裏打ちする大規模な金融緩和により予想物価上昇率を引き上げると同時に、(2)巨額の国債買入れによってイールドカーブ全体に下押し圧力を加えることで、(3)実質金利を押し下げることを起点とする。』

物価は貨幣的現象であってマネーの量で決まるという置物リフレ理論はどこに????????

・・・・・・・・ということで、まあこの検証云々ペーパーにおける最大のインプリケーションは「マネタリーベースの量そのものに効果がある」という理屈を全く持ち出していないことでありまして、政策効果をインフレ期待の引き上げと国債買入による金利低下効果としている事です。

まあ理屈を言えばそのインフレ期待に対してマネタリーベースの量が効果があるという話であって、「これを裏打ちする大規模な金融緩和」って所にそれが含まれるちゃあそうなのかも知れませんが、その説明に「マネタリーベース」という文言が無く、定量効果の所でも(本文にありますので後程)マネタリーベースの話が無いのであって、これはつまり置物直線理論とかマッカラムルールとかその辺の話を盛大に「無かったこと」にしようとしている布石であるという可能性があるということですな。

でまあ「コミットメント」でインフレ期待を上げて、「国債買入」で「名目金利」に押し下げ圧力をかける、というのであれば、コミットメントに関しては先ほどの総裁会見での説明(や展望レポート基本的見解の記述)にもありますように「強力なコミットメントに変わりはない」と言ってるのですから、長期金利を低位安定させるためのオペレーションという意味では別に今のような国債馬鹿買入をするよりもより効果的な方法があるんじゃネーノとは思うのですが、その手段云々の雑談は色々と思考中につきまた後日。


『このことを踏まえて、効果の検証は2段階で行った。まず第1段階として、実質金利がどの程度低下したかを計測した。次に、第2段階として、この実質金利の低下がどの程度実体経済や物価に影響を与えたかを計測した。』

ほうほうそれでそれで???

『計測の結果、(1)「量的・質的金融緩和」は、実質金利を▲1%ポイント弱押し下げた、(2)実際の経済・物価は、概ね「量的・質的金融緩和」が想定したメカニズムに沿った動きを示している、と評価できる。ただし、最近では、原油価格の下落を主因に消費者物価上昇率は低下しており、これが人々の予想物価上昇率の形成との関係でどのような影響を与えるか、注視していく必要がある。』(ここまでの引用は要旨、または本文のサマリー部分から)

と、ここまでが要旨(本文のエグゼクティブサマリーと同文)でありまして、えーっとすいませんその実際の経済物価への影響とQQEの実質金利引き下げとやらの相関は分かるのだがそれ本当に因果関係あるのかよとか思ったりするのですが、まあそこはともかくとして本文の2ページと3ページから少々。


まずは本文2ページから。

『(観察アプローチ)』

って所から。

『まず、名目長期金利の低下幅は、10 年物で▲0.3%ポイント程度である。予想物価上昇率は、用いるアンケートによってかなり幅があり、0〜+5%ポイント程度である(図表2)。仮に、エコノミスト(ESP フォーキャスト)や市場参加者(QUICK 調査)による長期の予想物価上昇率(+0.4〜+0.5%ポイント)を用いれば、実質金利の低下幅は、▲0.7〜▲0.8%ポイント程度である。』

ということで、予想物価上昇率の変化に関しては結果だけの話になっていまして、その間にマネタリーベースがどう効いた的な話はもちろんの事、そもそもマネタリーベースがどうなったかという話も皆無。


でもって3ページなのですが。

『(回帰分析アプローチ)』

ということで・・・・・・・・・・

『日本銀行の国債買入れの実質金利押し下げ効果を、10 年物長期金利を被説明変数とする回帰分析を用いて推計すると、累積の買入れ効果は、10年物金利換算で▲0.8%ポイントとの結果が得られた(図表4)5。』

ということで、まあそんなもんですかねえという感じですが、そこの図表4というのが中々味わいがあります。図表を貼り付けるスキルが無いので箇条書きチックに改変しちゃいますが。

『【図表4】国債買入れの長期金利押し下げ効果

2013/3月末から2014/12月末までの変化

日本銀行の長期国債保有残高の増加額:+110兆円
日本銀行の国債保有割合の上昇幅:+19.3%ポイント
長期金利の押し下げ効果:▲0.8%ポイント

(注)日本銀行の国債保有割合は、対発行総額ベース。日本銀行の保有国債の平均残存期間の変化(変動利付債、物価連動債は除く)を勘案して算出。
(出所)Consensus Economics、QUICK、日本銀行、Bloomberg 等』

・・・・・・・ということで、マネタリーベースのマの字も出てこないというのが実にこうチャーミングでありまして、だったらMB拡大とかやるよりもツイストオペでもやればとか注記にある「日本銀行の国債保有割合は、対発行総額ベース。日本銀行の保有国債の平均残存期間の変化(変動利付債、物価連動債は除く)を勘案して算出」というのが効果があるのだったら、そもそも論として日銀が買入をしなくても財務省が発行を短期化すれば済むだけの話ではないでしょうかとか、だったら中短期買わなくても良いのでではとかそういうツッコミが出てくると思うのですが。

#念のため申し上げますと、長期金利を低位安定させたければイールドカーブを潰しすぎるのは良くないと思いますので、さっき申し上げた「金利にフォーカスした効率の良い政策」というのはこれとは別になると今は思ってます


なお、順序逆になりますが2ページ目に定性的な話がありまして。

『「量的・質的金融緩和」導入後の金融経済の動き』

ってのですけどね。

『「量的・質的金融緩和」の導入以降、金融市場、実体経済面、物価面それぞれにおいて、大きな変化がみられた。上記@〜Gの点に即してみると、少なくとも定性的には、「量的・質的金融緩和」によって、何らかの変化が生じたことは、各種の指標や経済現象によって確認できる。』

ほう。

『例えば、予想物価上昇率は各種のサーベイや市場指標で上昇しているほか、2 年連続の賃上げなど企業の賃金・価格設定行動も変化している。また、イールドカーブ全体に強い下押し圧力が加わっていることは市場金利から明白であり、したがって、実質金利も大きく低下し、マイナスで推移していると考えられる。こうしたもとで、需給ギャップが改善していることは、人手不足などから、広く実感されている。』

賃上げ要請ェ・・・・・・・・・・

『物価面では、マイナス圏内にあった消費者物価(CPI、除く生鮮食品、消費税の直接的な影響を除くベース)前年比は、2015 年1 月まで20 か月連続でプラスとなった(最近は原油価格の急落の影響でゼロ%程度となっている)。』

はいはい特殊要因特殊要因。

『金融面をみると、株価は大幅に上昇し、為替市場では円安方向の動きが進んだ。貸出も、同政策の導入前は前年比マイナスから若干のプラス程度の伸びであったが、現在では中小企業向けを含めて前年比プラス幅が拡大している。以下ではこれらを定量的に検証する。』

なんちゅうかほかの政策の効果もあったと思いますし、大体からして金融政策の効きにタイムラグがあるのだったら過去における金融緩和の累積的な効果だってあるだろとか思いますが、まあそれを言い出すと宣伝にならないですから仕方ないですね!!!!!!!

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2015/05/05

お題「展望レポート基本的関係にツッコミを入れてみるの巻(休日特別編)」

GWももうすぐ終了の巻という状況になってえっちらおっちらアップするの巻であります(汗)

http://www.boj.or.jp/mopo/outlook/gor1504a.pdf(今回)
http://www.boj.or.jp/mopo/outlook/gor1410a.pdf(前回)

でまあとりあえず基本的見解の逐語ツッコミを恒例なので(?)せっせとやってみます。

○最初に概要を読む前に少々

まずは最初に鏡の部分で『概要』というのがありまして箇条書きになっている(そういやこの箇条書き部分はアタシの言った文章構成なのよ!と言ってる白井さんという方がいましたな)のですが、その話は金曜に簡単に引用しましたから基本スルーしますがその前に少々追加で。

・3人の審議委員は更に見通し期間が後のようですな

えーっとこちらだと微妙に記載されていないのですが、さすがにこれは重要な論点なので総裁記者会見の冒頭で『なお、展望レポートについては、消費者物価が2%程度に達する時期に関し、白井委員から「2016年度を中心とする期間に」とする案が、また、佐藤・木内両委員からは、見通し期間中には2%程度に達しないことを前提とする記述の案が提出され、それぞれ否決されました。』とありまして、審議委員6人のうち3人が思いっきり2%達成の見通しが後になっています。

でまあ木内さんは毎度のTaperingちっくな提案をしていますが、白井さんと佐藤さんは2%の物価目標達成時期が白井さんの場合は微妙に後というのがナンジャソラという感じではありますが、佐藤さん(と木内さん)はそもそも2017年度中にも2%に達しないという事を前提に考えるべきだという話をしている訳でして、その前提の元ででは金融政策はどうなるのかというと、白井さんにしても佐藤さんにしても順当に追加緩和提案ではない訳でして、白井さんの方は少々謎ですけれども佐藤さんの場合は「フォワードターゲット」としての物価安定目標を提示していますし、「タイムコミットメント」ではなくて「2%は目標として掲げるけど実際の物価が2%に行くかどうかを重視するのではなくて、経済物価情勢が中期的な見通しとして2%に向けた動きになっているのか(上や下にぶれるのではなく)」という話を講演などでしているので、そもそも少なくとも木内さんと佐藤さんの場合は見通しが後ずれしても追加緩和にはならんわな(そもそも見通し弱かったし)というお話で。白井さんはイマイチその辺の整理がよく伝わってこなくて、この見通し期間が「2年を念頭にできるだけ早期に」と整合的と考えているのかどうかは分からないです。

つーことで何ですな、そもそも論として6名の審議委員のうち3名が実はこの見通しに対して反対しているというのが中々お洒落でして、執行部は3名で1名ですから何のことは無いこれ実質4対3でして、執行部の見解はこの通りなのでしょうが政策委員会の総意というよりは多数派見解(しかも少数派が結構多い)という代物になっているという事でございますな。


・なお今回はロジックだけは堅牢にできている観がありましてですな

更にツッコミの前に前座ではありますが、今回の展望レポートなのですけど、なんか知らんけどやたらめったらこの基本的見解部分の作文が良くできていまして、前回10月の展望レポートでは結構ロジックが崩壊していてツッコミ甲斐があったわけですが、今回の展望レポートは相当に作り込みが出来ていて、ロジックだけでみると中々攻め所が難しくなっております。

これはつまりどういう事かと申しますと、まあアタクシが勝手に妄想しますに、前回展望レポートにおきましてはご存じの騙し討ち追加緩和が実施されましたが、この追加緩和は我々もすっかり騙し討ちに遭いましたけれども、展望レポートのロジックのあちこちに穴があったのは「敵を欺くにはまず味方から」ということが背景にあったのではないかと妄想したくなる訳でございまして、今回については別に何か特別なイベントがあったわけでもないので、従来の政策ロジックをより堅牢に説明しましょうということで(全文および金曜に出た企画局ペーパーなどもありましたように)ヒジョーによく練られた理屈が展開されている訳です。

とまあそういうことでして、ロジックが非常に堅牢にできております関係上、現時点で何かツッコミを入れてもきっちり想定問答が返ってくる、というのが今回の仕様になっていますが、まー最大の問題は相変わらず「QQEは所期の効果を発揮している」という話をしている所でして、足元に関しては原油価格の一時的要因で物価は伸びていないだけ、ってな説明になっておりますし、これからご紹介しますけれども、先行き見通しの各コンポーネントに関しては前回の展望レポートよりも強い説明になっておりまして、実はこれ年度後半以降の物価上昇というシナリオに対して実際の物価が上昇しないとロジックが完全に崩壊するという結構危険な内容なんですよね。

まあ何ですな、つまりどういう事かと申しますと、結論が先にあってその結論に整合的なロジックを緻密に構成しているからこういう内容になるのであって、おまいら本当に経済見通しとかからの積み上げで作ってねえだろこの基本的見解という事で、そらまあ逆算でロジック構築すれば堅牢にできますけど、結果がついてこない場合にどういう言い訳をするのでしょうかねえ。あの執行部は中々意地汚く粘るので色々と言い訳を繰り出してくるのかも知れませんけど。


などと悪態をつきながら基本的関係のまずは最初の部分の1ページ目『概要』については1日に駄文でツッコミを入れましたが、せっかくなので前回と比較してみましょう。


・成長見通しは概ね不変ということだがこれ下がってるだろうよ・・・・・・・・・・・

『2017年度までの日本経済を展望すると、2015年度から2016年度にかけて潜在成長率を上回る成長を続けると予想される。2017年度にかけては、消費税率引き上げ前の駆け込み需要とその反動の影響を受けるとともに、景気の循環的な動きを映じて、潜在成長率を幾分下回る程度に減速しつつも、プラス成長を維持すると予想される2。』(今回)

『2014年度から2016年度までの日本経済を展望すると、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要とその反動の影響を受けつつも、基調的には潜在成長率を上回る成長を続けると予想される2。』(前回)

前回との違いは見通し期間なのは兎も角、次回の消費増税時期について今回は17年4月、前回は15年10月になっていまして、前回の見通しでは15年度の実質GDP見通しの中央値が+1.5%になっていましたので、消費増税の駆け込みと反動を年度でツーペーでみているんだなあという感じだったのですが、今回に関しては17年4月に消費増税になる筈なのに16年度の見通し中央値が+1.5%になっていて17年度の見通し中央値が+0.2%になっています。

この点は良く考えたら1月の時点であまり深くツッコミを入れてなかったのですが、16年度の見通し中央値が前回+1.2%→+1.6%になっているのですが、消費増税の時期が後ずれして駆け込み需要が見れる筈の所で+0.4%しかその分を見ていなくて、さらに今回はその16年度の見通しが1月の+1.6%→+1.5%と下がった上に、その後の反動が来る17年度の方はきっちりと見通しが低いというのもナンジャラホイという感じではありまして、見通しは変わっていないという触れ込みにはなっているけどいやおめー下がってるだろと小一時間ではありますな。

あと、1月対比という点では14年度と15年度の見通しに関しては前回対比で今回は14年度も15年度も中央値が下がっていまして、その点も加味するとGDP見通しは下がっているとしか思えないのですが、物価見通しに関しては達成時期自体は後ずれしているけど年度後半から上昇という絵になっているのですよね、という事でその次。


・物価見通しはさすがに誤魔化せなくなったので先送りなのだがロジカルには妙

『消費者物価の前年比(消費税率引き上げの直接的な影響を除くベース)は、当面0%程度で推移するとみられるが、物価の基調が着実に高まり、原油価格下落の影響が剥落するに伴って、「物価安定の目標」である2%に向けて上昇率を高めていくと考えられる3。2%程度に達する時期は、原油価格の動向によって左右されるが、現状程度の水準から緩やかに上昇していくとの前提にたてば、2016年度前半頃になると予想される。その後次第に、これを安定的に持続する成長経路へと移行していくとみられる。』(今回)

『消費者物価の前年比(消費税率引き上げの直接的な影響を除くベース)は、当面現状程度のプラス幅で推移したあと、次第に上昇率を高め、見通し期間の中盤頃、すなわち2015年度を中心とする期間に2%程度に達する可能性が高い。その後、これを安定的に持続する成長経路へと移行していくとみられる。』(前回)

ということで見通し期間が後ずれしましたが、原油価格の置きを入れたのは前回の中間評価からになりますので、1月の見通しと比較するのがヨロシアル。


『3 各政策委員は見通し作成にあたって、原油価格の前提を次の通りとした。すなわち、原油価格(ドバイ)は、1バレル55ドルを出発点に、見通し期間の終盤にかけて70ドル台前半に緩やかに上昇していくと想定している。その場合の消費者物価(除く生鮮食品)の前年比に対するエネルギー価格の寄与度は、2015年度で−0.7〜−0.8%ポイント程度、2016年度で+0.1〜+0.2%ポイント程度と試算される。また、寄与度は、当面マイナス幅を拡大した後、2015年度後半にはマイナス幅縮小に転じ、2016年度前半には概ねゼロになると試算される。』(今回)

『2 今回の中間評価では、原油価格が大幅に変動していることを踏まえ、政策委員は、見通し作成に当たって、原油価格の前提を次の通りとした。すなわち、原油価格(ドバイ)は、1バレル55ドルを出発点に、見通し期間の終盤にかけて70ドル程度に緩やかに上昇していくと想定している。その場合の消費者物価指数(除く生鮮食品)におけるエネルギー価格の寄与度は、2015年度で−0.7〜−0.8%ポイント程度、2016年度で+0.1〜+0.2%ポイント程度と試算される。』(1月中間評価)

ということで原油価格の置きは同じでして、まあ実際問題としてどこまで下がるのかと思わせてくれた原油価格も見通し通りに推移しているのに何で物価見通しが下がってるのですかねえ(棒読み)という所ですし、そもそも論としてその次の所で「成長率見通しは概ね不変」って言ってて、要因として大きい原油価格の置きも同じ状態になっているのに見通しが今回先送りになる理由が訳分からん(なお総裁会見でナイスなツッコミが入っていたのによりますと「足元までの消費が予想より弱かった」からだそうですよ)ですな。


・成長率見通しが概ね不変とは????

『2016年度までの見通しを従来の見通しと比べると、成長率の見通しは概ね不変である。物価の見通しは、やや下振れている。』(今回)

『従来の見通しと比べると、成長率の見通しは、駆け込み需要の反動の影響や輸出の弱めの動きなどから、2014年度について幾分下振れている。物価の見通しは、2015年度については、国際商品市況の下落などから幾分下振れるものの、2016年度については概ね不変である。』(前回)

成長率の見通しは概ね不変とは何ですねんという話で、ちなみに潜在成長率の推計部分は変わっていないと思いますが、どう見てもさっきの部分的には下がってるだろと思うのですけどまあ概ね不変だそうですがな。それで何で物価見通しが下がるのかが訳分からんですよね(棒読み)。


・所期の効果云々は別途オモシロペーパーが出ているので後程

『「物価安定の目標」のもとで、以上の中心的な見通し(第1の柱)と、これに対する上下双方向のリスク要因(第2の柱)を点検した4。金融政策運営については、「量的・質的金融緩和」は所期の効果を発揮しており、今後とも、日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「量的・質的金融緩和」を継続する。その際、経済・物価情勢について上下双方向のリスク要因を点検し、必要な調整を行う。』(今回)

『「物価安定の目標」のもとで、以上の中心的な見通し(第1の柱)と、これに対する上下双方向のリスク要因(第2の柱)を点検した3。金融政策運営については、「量的・質的金融緩和」は所期の効果を発揮しており、今後とも、日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「量的・質的金融緩和」を継続する。その際、経済・物価情勢について上下双方向のリスク要因を点検し、必要な調整を行う。』(前回)

ということで全文一致ですが、所期の効果を発揮しているのに何で物価がゼロ%なんでちゅかねえというツッコミに関しては企画局謹製のペーパーが金曜に出たのと、同時に展望レポート全文の方でもコラム形式でその部分の記載がありますのでそれはまた別途。

しかし所期の効果を発揮した結果が見通しの先送りな訳で、本当は2015年度に入ったころ、あるいは当初の置物マネタリーベース理論だとそれよりも早くに達成しているはずの物価がゼロ近傍な訳で、その上後程ご紹介する企画局謹製ペーパーでも展望レポート全文でもマネタリーベースの定量的効果に関しては何も触れていないという時点で置物師匠は目標未達に対して焼き土下座をすべきだと思うのですが全くその気配が無いという辺り人間としてどうなのかとは思ってしまいます。


ということでここまでが1ページ目である。


○展望レポートメインシナリオに関して(経済):経済のコンポーネントは強くなっているのよね

ということで2ページ目の『1.わが国の経済・物価の中心的な見通し』となりまして最初は『(1)経済情勢』である。

・まずは全体感:内容的には強くなっていますよ

『わが国の景気は、緩やかな回復基調を続けている。』(今回)
『わが国の景気は、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動などの影響から生産面を中心に弱めの動きがみられているが、基調的には緩やかな回復を続けている。』(前回)

ということで、そもそも論として最初の部分で現状認識が強くなっている(変なヘッジクローズがなくなったから)というのがまず強いのですよね今回は。

『企業部門では、輸出、生産が持ち直すとともに、収益は過去最高水準まで増加しており、前向きな投資スタンスが維持されている。家計部門については、雇用・所得環境の着実な改善が続き、個人消費も全体としては底堅く推移している。』(今回)

『4〜6月における成長率は、自動車などの耐久消費財を中心に駆け込み需要の反動の影響が大きかったことや輸出が弱めの動きとなったことなどから、大きなマイナスとなった。また、夏場には天候不順も、個人消費の一時的な下押し要因として作用した。もっとも、駆け込み需要とその反動といった振れを均してみれば、潜在成長率を上回る成長が続いている4。また、今回の景気回復は、雇用誘発効果の大きい国内需要に主導されていることもあって、雇用の増加と労働需給の引き締まりは、着実に進んでいる。』(前回)

つーことで前回は最初のヘッジクローズに合わせてああでもないこうでもないという説明が有った部分が全般的にスッキリとした形になっていまして、今回は前回よりも素直に景気が回復基調で云々という話になっています。

でまあそれはそれで良いのですけれども、企業の投資スタンスが前向きだの個人消費が底堅く推移だのというのは何ですかそれは(消費増税の影響がどうのこうのはともかくとして)という感じでして、そもそも論として足元の見通しとかも下がっているというのに何がどうなるとこういうスッキリ表現になるのか小一時間という所ではあります。

で、先行き見通しですが。

『先行きを展望すると、国内需要が堅調に推移するとともに、輸出も緩やかに増加していくと見込まれ、家計、企業の両部門において所得から支出への前向きの循環メカニズムが持続すると考えられる。』(今回)

『先行きを展望すると、国内需要が堅調さを維持する中で、輸出も緩やかな増加に向かっていくと見込まれ、家計部門、企業部門ともに所得から支出への前向きの循環メカニズムは持続すると考えられる。』(前回)

国内需要が「堅調さを維持する」から「堅調に推移」となったり、前向きの循環メカニズムの部分の助詞が「は」から「が」になったのですが、見た感じですと今回の方が全体的に先行き見通しを強めにしている感じがするのですがどうでしょうか。

『そうしたもとで、わが国経済は、2015年度から2016年度にかけて潜在成長率を上回る成長を続けると予想される5。2017年度にかけては、消費税率引き上げ前の駆け込み需要とその反動などの影響を受けるとともに、景気の循環的な動きを映じて、潜在成長率を幾分下回る程度に減速しつつも、プラス成長を維持すると予想される。』(今回)

『このため、わが国経済は、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要とその反動の影響を受けつつも、基調的には潜在成長率を上回る成長を続けると予想される。』(前回)

見通し期間が1年度違っているので17年度の所が新たに入っているのと、消費増税の予測時期がずれている(昨年10月の展望レポート時点では15年10月増税)のでそのあたりは違いますが、今回は「基調的に」というのが抜けていまして、一方で17年度の見通しはあまり強くないという感じになっていまして、見通しの内容は強いのに計数があまり強くないとは何ですかこれはという所で。

つーかですね、そらまあ16年度に2%の物価になってその後安定的に持続する経路に移行するんですから、そうなったら17年度は潜在成長みから若干下でも2%という図にしておかないと話の整合性が取れないというのは分かるのですが、どう見てもその最後の図から逆算して見通しの計数作ってるだろうと小一時間問い詰めたいというのが今回の展望レポート基本的見解の図でもありまして、まあそういう形で出来上がりに対して逆算でロジック組んで作っているからそらまあロジックは整合的だし説明もしやすいわなとは存じますけど、実際にそういう風に推移するのかよゴルァというのはヒジョーに不思議なんですけどねえ。


・見通しの背景について:微妙なのが幾つか

『こうした見通しの背景にある前提は、以下のとおりである。』以下の部分を比較してみる。

『第1に、日本銀行が、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで「量的・質的金融緩和」を継続する中で、金融環境は緩和した状態が続き、景気に対し刺激的に作用していくと想定している6。』(今回)

『第1に、日本銀行が今般拡大した5「量的・質的金融緩和」を着実に推進していく中で、金融環境の緩和度合いは一段と強まっていくと考えられる6。』(前回)

今回は「緩和度合いは一段と強まっていく」じゃないのは何でですねんと思いますが、さては物価の見通しパスが弱まったから緩和度合いは一段と強まるというのが図々しいからかねとか思ってしまいましたが実際の所どうなんでしょう。

ちなみに脚注6の『6 各政策委員は、既に決定した政策を前提として、また先行きの政策運営については市場の織り込みを参考にして、見通しを作成している。具体的には、短期金利について、市場は、見通し期間を通じて、実質的にゼロ金利が継続することを織り込んでいる。長期金利について、市場は、見通し期間を通じて、低位で推移すると予想しているが、これは、展望レポートに比べて低い市場参加者の物価見通しを反映している。各政策委員は、こうした市場の見方を踏まえ、物価見通しの違いも勘案して、長期金利の先行きを想定している。』というのは前回も今回も同じです。

しかしまあ毎度思うのですが、展望レポートの見通し通りだったらどこからどう考えても遅くとも17年度の所ではQQEが出口政策に向かっていないと物価安定の目標と整合性が取れないのになんで先行きの政策運営の置きをQQEの出口と関係なく作れるのか良くわからんですけど、もしかしてそのツッコミを避ける事もあって「一段と強まる」という表現にしなかったのかなとも思いました。

つまりですね、16年度前半に2%になって、その後の見通しを見れば17年度の時点でどう見ても物価安定が1年以上続いた形になっているのに、その時点で「緩和度合いが強まっている」金融政策を継続したら緩和政策のやり過ぎであって、物価が望ましくない上振れをしてしまうだろうよと思うのですが、そのあたりも勘案して上記の表現にしているとか、その前にありますような17年度は成長率落ちるよ(だから緩和的な政策が続いていますよ)という表現が入っていることによって中和されているという実にニクイ作りになっているのですよねこの見通しって、イヨッ、ニクイねえ!!


『第2に、海外経済については、先進国が堅調な景気回復を続け、その好影響が新興国にも徐々に波及する中で、緩やかに成長率を高めていく姿を見込んでいる。』(今回)
『第2に、海外経済については、先進国が堅調な景気回復を続け、その好影響が新興国にも徐々に波及する中で、緩やかに成長率を高めていく姿を見込んでいる。』(前回)

次が海外ですが同じですな。

『主要国・地域別にみると、米国経済については、民間需要を中心とした成長が続くと予想される。欧州経済については、債務問題に伴う調整圧力が残り、暫くの間低インフレが続くとみられるものの、個人消費の回復や輸出の増加などに支えられ、緩やかに回復していくと見込まれる。中国経済については、当局が構造改革と景気下支え策に同時に取り組んでいく中で、成長ペースを幾分切り下げながらも、概ね安定した成長経路をたどると想定している。』(今回)

『主要国・地域別にみると、米国経済については、家計支出を起点とする前向きな循環に支えられながら、徐々に成長率を高めていくと予想される。欧州経済については、債務問題に伴う調整圧力が残り、物価上昇率の低下傾向もみられるものの、個人消費の底堅さや輸出の増加などに支えられ、緩やかな回復を続けると考えられる。中国経済については、当局が構造改革と景気下支え策に同時に取り組んでいく中で、僅かに成長ペースを鈍化させながらも、概ね安定した成長を続けると想定している。その他の新興国・資源国経済については、国・地域によるばらつきはあるが、先進国の景気回復の波及と、緩和的な金融環境を受けた内需の持ち直しから、成長率を緩やかに高めていくと見込んでいる。』(前回)


米国の表現では成長ドライバーを家計から民間需要とより幅広になっているのと、欧州は低インフレという表現に物価の表現を弱くしている点、中国は成長ペースを切り下げると下方修正、新興国資源国の話が抜けとなっていて、多分米国上げの中国新興国下げで欧州は横ばいとかでしょうかね。

『第3に、公共投資は、現在の高めの水準から緩やかな減少傾向をたどった後、見通し期間の終盤にかけては下げ止まっていくと想定している。』(今回)
『第3に、公共投資は、経済対策の押し上げ効果から高水準で推移してきたが、本年度下期中には緩やかな減少傾向に転じていくと想定している。』(前回)

ここの見通しは前回と基本的に同じ。

『第4に、政府による規制・制度改革などの成長戦略の推進や、そのもとでの女性や高齢者による労働参加の高まり、企業による生産性向上に向けた取り組みと内外需要の掘り起こしなどが続くとともに、デフレからの脱却が着実に進んでいくにつれて、企業や家計の中長期的な成長期待は、緩やかに高まっていくと想定している。』(今回)

『第4に、政府による規制・制度改革などの成長戦略の推進や、そのもとでの女性や高齢者による労働参加の高まり、企業による生産性向上に向けた取り組みと内外需要の掘り起こしなどもあって、企業や家計の中長期的な成長期待や潜在成長率は、緩やかに高まっていくと想定している。』(前回)

で、ここの第4の部分がしらっと色々と変わっているのが非常に気になるところです。

まず最初に今回わざわざ「デフレからの脱却が着実に進んでいくにつれて」という文言が入ったのが謎でして、従来日銀の目標は2%の物価安定目標であって、デフレからの脱却というのはあくまで通過点に過ぎないという建付けのはずでしたが、今回こうやってデフレ脱却云々というのを入れてるのはもしかしたら近い将来にしらっと「デフレ脱却したからいいじゃないかにんげんだもの」という2年で達成からの離脱手段を考えているからここでデフレ脱却云々を書いたのか、というのはちと穿ちすぎですかそうですか。

あとですね、今回見ててほえ?となったのはここの部分で「企業や家計の中長期的な成長期待」は緩やかに高まるという話なのですが、今回そこに潜在成長率という文言が入っていなくて、一方で潜在成長率に関する説明がある2ページ目の脚注の文言では潜在成長率は見通し期間の後半に掛けて上昇という話は維持されているのが謎でございます。

まあ見通しの潜在成長率を上げてしまうと実質GDPと潜在成長率との関係で言えば同じ実質GDPであっても潜在成長率を高めに見てしまうと需給ギャップの改善が遅れるという話になるので、潜在成長率は実際の経済見通しからしたら強くできないというのもあるっつーことでこういう風になっているのでしょうかねえ。まあ謎の部分その2ではあります。


・年度展開部分

『以上を前提に、見通し期間の景気展開をやや詳しく述べると、2015年度から2016年度にかけては、輸出は、海外経済が回復し、これまでの為替相場の動きも下支えに働くことから、緩やかに増加すると考えられる。設備投資は、企業収益の改善や金融緩和効果が引き続き押し上げに作用する中、国内生産強化の動きなどもあって、しっかりと増加するとみられる。個人消費は、雇用・所得環境の着実な改善が続き、賃金が増加していくほか、2015年度にはエネルギー価格下落による実質所得の押し上げ効果や駆け込み需要後の落ち込みからの回復も見込まれることから、伸びを高めると予想される7。こうした内外需要を反映して、鉱工業生産も、緩やかに増加するとみられる。』(今回)

『以上を前提に、見通し期間の景気展開をやや詳しく述べると、2014年度下期については、個人消費は、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動の影響がしばらくは残るものの次第に減衰し、雇用・所得環境の着実な改善が続くもとで、底堅く推移すると見込まれる7。設備投資は、企業収益の改善や金融緩和効果が引き続き押し上げに働くもとで、長年の投資抑制による設備老朽化に対応した更新投資や、労働需給の引き締まりを受けた省力化投資、為替相場の動きも踏まえた国内拠点の再構築などの投資ニーズの高まりがみられることから、しっかりと増加するとみられる。この間、輸出は、海外経済が回復するもとで、為替相場の動きも下支えとなり、緩やかな増加に向かっていくと考えられる。こうしたもとで、鉱工業生産は、在庫調整の進捗もあって、緩やかな増加に復していくと予想される。

2015年度から2016年度にかけては、2回目の消費税率引き上げによる振れは予想されるが、@緩和的な金融環境と成長期待の高まりを受けた国内民間需要の堅調な増加と、A海外経済の成長による輸出の増加に支えられて、前向きの循環メカニズムは維持され、潜在成長率を上回る成長が続くと見込まれる。』(前回)

ということで、16年度までの所を前回と比較してみますが、そもそも展望レポートなのに何で10月のでは高々半年先である14年度下期の説明が長いんだという話はさておきまして、ここも直前の所と話が似ているのですが、先行き見通しの中に「成長期待が高まるから消費や投資が伸びます」的な表現がなくなっているのがチャーミングでして、それってもう「期待に働きかける金融政策」の限界点に近いんじゃなかろうかという気がしますな(^^)。

でまあそれはそれとして、今回の説明は先行きの設備投資に関しての説明が従来の更新需要の話があったのですが、その点ではなくて国内生産強化と大きく出ていますのと、消費ついては「賃金の上昇」を明記した上でエネルギー価格下落のプラス影響についても記載し、「実質所得がプラスになる」というのをアピールとなっていますので、実質的に設備と消費について上向きの修正が行われてメカニズムの説明としてはより強力になっていると見た方が良いと思います。

なお、そのようにメカニズムの基本となる部分での説明がより強くなっているという事ですから、ロジック的に言えば今回の展望レポートでは説明というかロジック構築がより強固なものになっているので、総裁会見でもそうでしたが説明という意味では説明がしやすくなっているという事に繋がっていると思います。

ただし、説明はより整合性を強めていますが、実際に経済情勢がそう推移するのかという問題につきましては知らんがなという感じで、この説明は説明としては分かりやすくなっているものの、その説明するロジック通りなのかはちょっと???感が漂うという代物になっていますな。

なお、17年度の説明は以下の通りです(これは前回との比較はない部分)。

『2017年度にかけては、2回目の消費税率引き上げ前の駆け込み需要とその反動の影響を受けるとともに、設備投資の増加ペースが資本ストックの蓄積に伴って低下していくとみられる。』(今回)

そもそもそんなに手前で設備投資が出るのかよとは思いますが。

『もっとも、海外経済の成長などを背景に輸出が緩やかな増加を続けるとともに、緩和的な金融環境と成長期待の高まりなどを受けて国内民間需要は底堅く推移すると予想される。この間、潜在成長率は、見通し期間を通じて緩やかな上昇傾向をたどり、中長期的にみた成長ペースを押し上げていくと考えられる。このため、わが国経済は、潜在成長率を幾分下回る程度に減速しつつも、プラス成長を維持すると見込まれる。』(今回)

ということで先ほどの先行きの説明の中での4番目の中で削除されていた潜在成長率の上昇自体はここにありますように記載は続いていたのですが、先ほどの部分で抜けていたのが気になります。

『2016年度までの成長率の見通しを1月の中間評価時点と比べると、概ね不変である。』(今回)

概ね不変って下がってるだろと思いますし、メカニズムの説明に関する部分は今申し上げたように強くなっているのに成長率見通しそのものはやや下になっているというのが何とも。


○展望レポートメインシナリオに関して(物価):数字は弱いがメカニズムは強いとな

次が『(2)物価情勢』です。

『消費者物価(除く生鮮食品、以下同じ)の前年比は、このところ0%程度で推移している。』(今回)

というのはまあ前回と比較とかする話でもないので良いとしまして。


・構造失業率の推計値が下がっている件について

『物価上昇率を規定する主たる要因について点検すると、第1に、労働や設備の稼働状況を表すマクロ的な需給バランスは、着実に改善傾向をたどっている8。すなわち、失業率が緩やかに低下し3%台半ばになっているなど9、労働需給は引き締まり傾向が続いている。』(今回)

『物価上昇率を規定する主たる要因について点検すると、第1に、労働や設備の稼働状況を表すマクロ的な需給バランスは、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要とその反動の影響を受けつつも、雇用誘発効果の大きい国内需要の堅調さが雇用の増加をもたらすもとで、労働面を中心に着実に改善傾向を続けている8。すなわち、失業率は3%台半ばとみられる構造的失業率近傍で推移しているほか、現在職探しをしていないが求職意欲を持つ人々なども含めた広義の失業率も低下傾向を続けるなど、労働需給は着実に引き締まり傾向が強まっている9。』(前回)

ということで、これまた今回は前回のゴテゴテした説明からスッキリ系になっていまして、その背景には今回の表現にあるように労働需給が「着実に改善傾向」というために必要な話として賃金動向が強めに推移しているのと、暫く前から散々言っていた春闘のベアが(その水準で本当に2%物価安定目標に整合的かという話はさておき)前年よりも伸びているというのがあって、表現が強くなっているという訳ですが、その一方で今回の脚注9番には、

『9 労働需給の引き締まり度合いを測る際のひとつの目安として「構造失業率」がある。労働市場では、求人と求職の間にある程度のミスマッチが常に存在するため、好況時であっても、一定の失業者が存在する。こうしたミスマッチに起因する失業の存在を前提に、過剰労働力が解消した状態に対応する失業率が構造失業率と呼ばれている。構造失業率を一定の手法で推計すると、このところ3%台前半から半ば程度であると計算される。ただし、構造失業率の推計値は、時間の経過などに伴って変化する性格のものである点には留意が必要である。』(今回)

とありまして、構造失業率の水準自体は前回3%台半ばだったのが今回3%台前半から半ば程度に引き下げになっています。ナンジャソラという感じではあるのですが、雇用改善している割には物価の方はこの調子ですから構造失業率が下がっていないと整合性が取りにくいのもあるのかなと。


・需給バランスの改善メカニズムの説明は強くなっています

需給バランスの説明には続きがあるのだ。

『こうしたもとで、所定内給与が増加するなど、賃金の改善も続いている。また、駆け込み需要の反動の影響が収束してきたことから、設備の稼働率も高まっている。このため、マクロ的な需給バランスは、本年度前半にプラス(需要超過)に転じた後、2016年度にかけてプラス幅が一段と拡大し、需給面からみた賃金と物価の上昇圧力は、着実に強まっていくと予想される。その後、2017年度には、マクロ的な需給バランスは、プラスの水準で横ばい圏内の動きになると見込まれる。』(今回)

『企業は、駆け込み需要の反動による需要の落ち込みを一時的とみているとみられ、前向きな雇用スタンスを維持している。こうしたもとで、所定内給与がはっきりとした増加に転じるなど、賃金の改善も続いている。また、非製造業を中心に設備の不足感も強まってきている。このため、マクロ的な需給バランスは、本年度後半にプラス(需要超過)基調が定着し、それ以降、プラス幅が一段と拡大していくと考えられる。そうしたもとで、需給面からみた賃金と物価の上昇圧力は、着実に強まっていくと予想される。』(前回)

という事で、前回よりも需給バランスの改善メカニズムの説明が自信満々という感じになっていまして、これまた物価の達成時期が後ずれしているので今回の展望レポートは敗北宣言かと思いきや全然そんな話ではなくてメカニズムの話で言えば勝利への確信度が高まる進軍ラッパになっているというのが実にこう味わいが深い訳で、したがって追加緩和も必要ではないという話にもなっていくというのがまあ今回の展望レポートからは読めますなというお話。


・はいはい賃金上昇賃金上昇

次が予想物価上昇率の話。

『第2に、中長期的な予想物価上昇率については、やや長い目でみれば、全体として上昇しているとみられる。こうした予想物価上昇率の動きは、実際の賃金・物価形成にも影響を及ぼしていると考えられる。例えば、労使間の賃金交渉においては、企業業績などに加え、物価動向を賃金に反映する動きが拡がりつつあり、本年のベースアップを含む賃上げは昨年を上回る伸びとなる見込みである。先行きも、日本銀行が「量的・質的金融緩和」を推進し、実際の物価上昇率が高まっていくもとで、中長期的な予想物価上昇率も上昇傾向をたどり、「物価安定の目標」である2%程度に向けて次第に収斂していくとみられる。』(今回)

『第2に、中長期的な予想物価上昇率については、やや長い目でみれば、全体として上昇しているとみられる。こうした予想物価上昇率の動きは、実際の賃金・物価形成にも影響を及ぼしていると考えられる。例えば、労使間の賃金交渉において、企業業績などに加え、物価上昇率の高まりも意識され、ベースアップが久方ぶりに多くの企業で実施された。企業の間でも、従来の低価格戦略から、付加価値を高めつつ販売価格を引き上げる戦略へと切り替える動きがみられている。先行きも、日本銀行が「量的・質的金融緩和」を推進し、実際の物価上昇率が高まっていくもとで、中長期的な予想物価上昇率も上昇傾向をたどり、「物価安定の目標」である2%程度に向けて次第に収斂していくと考えられる。』(前回)

ここでは「本年のベースアップを含む賃上げは昨年を上回る伸びとなる見込みである」と思いっきり今回の春闘実績をここぞとばかりに入れているのがドヤ顔という感じですが、どさくさに紛れて企業の価格設定行動の部分がしらっと抜けているのは、後のリスク要因でも片鱗がありますが、まあちょっとそこまで図々しくなれるのかという話なんでしょうな。

つまり、価格上げた→消費が落ちたというのが消費増税も含めて円安などのコストプッシュで物価が上昇した時の実際の動きであって、単に価格が上昇するだけでは消費が伸びないからいわゆる実質値上げ的な動きになって数量が出なくなるという問題があって、企業がそこまで強気の価格設定ができるのかというのは今後物価が戻っていく中での懸念材料でしょと思われますし、まあさすがにそこはリスク要因で触れていますので後程。


・輸入物価に関しては同じです

『第3に、輸入物価についてみると、これまでの為替相場の動きが、輸入物価を通じた消費者物価の押し上げ要因として作用していく一方、原油価格をはじめとする国際商品市況の下落は、当面物価の下押し圧力となる。』(今回)

為替に関して「ここのところの」が「これまでの」になった以外同じなので前回分は引用しません。まあこれはこうとしか言いようがない。


・物価の先行きは「基調が強い」という話ですな

『以上を踏まえ、消費者物価の前年比(消費税率引き上げの直接的な影響を除くベース)の先行きを展望すると、当面0%程度で推移するとみられるが、物価の基調が着実に高まり、原油価格下落の影響が剥落するに伴って、「物価安定の目標」である2%に向けて上昇率を高めていくと考えられる。2%程度に達する時期は、原油価格の動向によって左右されるが、現状程度の水準から緩やかに上昇していくとの前提にたてば、2016年度前半頃になると予想される。その後は、平均的にみて、2%程度で推移すると見込まれる10。』(今回)

『以上を踏まえ、消費者物価の前年比(消費税率引き上げの直接的な影響を除くベース)の先行きを展望すると、当面現状程度のプラス幅で推移したあと、次第に上昇率を高め、見通し期間の中盤頃、すなわち2015年度を中心とする期間に、「物価安定の目標」である2%程度に達する可能性が高い10。その後は、中長期的な予想物価上昇率が2%程度に向けて収斂していくもとで、マクロ的な需給バランスはプラス幅の拡大を続けることから、強含んで推移すると考えられる。』(前回)


『2016年度までの消費者物価の見通しを1月の中間評価時点と比較すると、やや下振れている。』(今回)
『2016年度までの消費者物価の見通しを7月の中間評価時点と比較すると、2015年度については、国際商品市況の下落などから幾分下振れるものの、2016年度については概ね不変である。』(前回)


ということで、今回は2%到達時期についてご案内の通りで後ずれさせているのですが、上記にありますように「物価の基調が着実に高まり」というのが入っていまして、ではその物価の基調とは何ぞやというと需給ギャップと予想物価上昇率な訳ですが、需給ギャップの説明は今見ましたようにメカニズムとしては前回の展望レポートよりも明らかに強くなっていて、予想物価上昇率に関しても賃金の上昇が継続しているというサポート材料をもってメカニズムが強くなっているという話になりますので、結局の所今回の展望レポートは「メカニズムはより強固になっている」という強気のシナリオがメインシナリオとなっているという事ですな。

でもって需給ギャップにしろ予想物価上昇率にしろ、その場ですぐにわかる話ではなくて後にならないと分からない代物で、足元の話をする分には鉛筆を盛大に舐め舐めできますから、その分ロジック構成をするという意味ではやりやすいのでロジックは堅牢、ただし実際にそうなるのかという話はどうですかねえという内容になっているというのがメインシナリオ編でした。

メインシナリオの次は上振れ、下振れ要因です。

○リスク要因を鑑賞の巻でまずは経済に関してだが輸出の表現がやや違うのみ

『2.上振れ要因・下振れ要因』の『(1)経済情勢』』である。

・輸出に関して構造要因の話が抜けてきているのはどうしたのかね

『上記の中心的な経済の見通しに対する上振れ、下振れ要因としては、第1に、海外経済の動向に関する不確実性がある。』(今回)
『上記の中心的な経済の見通しに対する上振れ、下振れ要因としては、第1に、輸出動向に関する不確実性がある。』(前回)

ということで、今回は輸出動向ではなくて海外経済の動向という表現になっているのですな。

『先行きの海外経済を巡るリスク要因としては、米国経済の成長ペースやそれが国際金融資本市場に及ぼす影響、欧州における債務問題の展開や景気・物価のモメンタム、新興国経済における持続的な成長に向けた構造調整の進展度合い、資源価格下落の影響、地政学的リスクなどが挙げられる。』(今回)

『輸出の伸び悩みが続いている背景には、新興国経済を中心とする海外経済のもたつきや世界的な投資活動の弱さに加え、わが国製造業の海外生産移管の拡大といった構造的な要因も影響している。先行きの海外経済を巡るリスク要因としては、米国経済の回復ペースやそれが国際金融資本市場に及ぼす影響、欧州における債務問題の展開や低インフレ長期化のリスク、新興国経済における構造調整の進展度合い、地政学的リスクなどが挙げられる。また、わが国企業の先行きの内外生産ウエイトについても、為替相場の影響や生産移管のペースなどに伴う不確実性は高い。なお、海外生産の拡大は、輸出を抑制する要因であるが、子会社からの配当など、企業収益の押し上げを通じて成長に寄与する面もある。』(前回)

とまあそういうことで、今回は輸出の先行きについて強めで見ているせいなのか、足元で輸出が出てきている感があるので楽観視しているのか知らんですが、輸出ガーという言い訳大会がなくなっているのが特徴的であります。


・消費増税、成長期待、財政に関しては基本的に同じです

『第2は、2017年4月に予定される消費税率引き上げの影響である。駆け込み需要とその反動の影響や実質所得減少の影響は、消費者マインドや雇用・所得環境、物価の動向によって変化し得る。』(今回)

『第2は、消費税率引き上げの影響である。1回目の消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動減や実質所得減少の影響はなお残存しており、引き続き見極めていく必要がある。また、2回目の消費税率引き上げがどのような影響を及ぼすかについても、その時点の消費者マインドや雇用・所得環境、物価の動向によって変化し得る。』(前回)

ということで、消費増税に関しては基本的に同じ話をしているのですが、反動減の影響に関してはスルーされています(まあ1年もたっているのですから当たり前ですが)が見通しという意味では基本的に同じですな。

『第3に、企業や家計の中長期的な成長期待は、規制・制度改革の今後の展開や企業部門におけるイノベーション、家計部門を取り巻く雇用・所得環境などによって、上下双方向に変化する可能性がある。』(今回)

『第4に、財政の中長期的な持続可能性に対する信認が低下するような場合には、人々の将来不安の強まりや経済実態から乖離した長期金利の上昇などを通じて、経済の下振れにつながる惧れがある。一方、財政再建の道筋に対する信認が高まり、人々の将来不安が軽減されれば、経済が上振れる可能性もある。』(今回)

ここは前回と同文なので前回分を引用しませんが同じです。まあ将来不安が軽減されれば経済が上振れるってのは別に財政再建への信認で軽減される訳は無くて、そうなって欲しいなら終身雇用と定期昇給を復活させれば将来不安は軽減されると思いますけどねえ。



○リスク要因物価編

次が物価のリスク要因。

・予想物価上昇率では賃金をリスクから外すもバックワードのリスクを高めるとな

『上述のような経済の上振れ、下振れ要因が顕在化した場合、物価にも相応の影響が及ぶとみられる。それ以外に物価の上振れ、下振れをもたらす要因としては、第1に、企業や家計の中長期的な予想物価上昇率の動向が挙げられる。』(今回)

ということで。

『中心的な見通しでは、賃金の上昇を伴いながら実際の物価上昇率が高まっていく中で、人々の予想物価上昇率も一段と上昇し、「物価安定の目標」である2%程度に向けて次第に収斂していく姿を想定しているが、その上昇ペースには、実際の物価の動きやそれが予想物価に及ぼす影響の度合いなどを巡って不確実性がある。この点では、エネルギー価格下落の影響から現実の消費者物価の前年比が当面0%程度で推移することが、予想物価上昇率の上昇ペースに影響するリスクがある。』(今回)

『中心的な見通しでは、実際の物価と賃金の上昇率が高まっていく中で、人々の予想物価上昇率も一段と上昇していく姿を想定しているが、その上昇ペースには、実際の物価の動きやそれが予想物価に及ぼす影響の度合いなどを巡って不確実性がある。この点では、来年度に向けた労使交渉において、過年度の物価動向や先行きの物価見通しが賃金にどのように織り込まれていくかが重要である。また、このところ、消費税率引き上げ後の需要面での弱めの動きや原油価格の大幅な下落が物価の下押し要因として働いているが、この下押し圧力が残存する場合、予想物価上昇率の改善が遅延するリスクがある。』(前回)

ということで、賃金動向がリスク要因の説明から外れて賃金が上昇する中でちゃんと物価が上がるかどうかの不確実性という表現になっているのはリスクとしては弱くなっていますが、一方で実際の物価がゼロ近傍まで下がっているので、さすがに下がった物価がバックワードに効いてくる可能性についてをリスクとして明記しない訳にも逝かないという事になりましたな、ニヤニヤ。

とは言いましても、そもそもこれだけ物凄い勢いでプレッシャーがかかる中で何となくベアだけは実施していますが、本当の本当に総賃金上がっているのかとか、パーヘッドの賃金はどうなっているのとか、そういうの気になりますし、大体からしてもう来年度のベアは確実で賃金はこれから毎年上昇みたいな見通しになっているようにしか見えませんが、16年度に本当にベアが継続するのかとか甚だ疑問な所でございます(これが15年10月に増税だったら16年度も賃金改定しておかないと実質所得的にマズーですから賃金上がるのでしょうが)し、大体からしてバックワードルッキングのインフレ期待を気にするなら10月に追加緩和して今回追加緩和しないのは何故かという話。

なお、追加緩和しないのは先ほどのメインシナリオにありましたように、景気の判断自体は計数はともかくとしてその内容自体が上がっているから、という摩訶不思議な状態になっているので、そもそも景気判断的に追加緩和はイラネという話になるのですな、うんうん。


・需給バランスについては構造失業率の低下に伴って?表現変更あり

『第2に、マクロ的な需給バランス、とくに労働需給の動向がある。中心的な見通しでは、労働供給面で、近年の高齢者や女性による労働参加の高まりや最近みられているパート労働の正規雇用化が、今後もある程度続くことを前提としているが、この点を巡っては不確実性がある。』(今回)

『第2に、マクロ的な需給バランス、とくに労働需給の動向がある。中心的な見通しでは、労働供給面で、近年の高齢者や女性による労働参加の高まりや最近みられているパート労働の正規雇用化が、今後もある程度続くことを前提としているが、この点を巡っては不確実性がある。とくに、通常の失業率に加え広義の失業率も低水準となっているだけに、人手不足感が一段と強まる可能性がある。』(前回)

今回構造失業率の水準を下げまして、そのために人手不足感云々の所が抜けておりまして、まあここは労働需給が強いと言ってる割に全然物価に跳ねてこないのでさすがに説明に無理があると思ったのでしょうな。


・価格や賃金が需給バランスの改善に対応しないリスクに一片の良心を発見

『第3に、物価上昇率のマクロ的な需給バランスに対する感応度、すなわち、企業が財・サービス需給や労働需給の引き締まりに応じて、販売価格や賃金をどの程度引き上げていくかについて留意する必要がある。』(今回)

『第3に、物価上昇率のマクロ的な需給バランスに対する感応度、すなわち、企業が需給の引き締まりに応じて価格や賃金をどの程度引き上げていくかについて留意する必要がある。』(前回)

しらっと「労働需給の引き締まり」というのが入っているのが労働市場の強さを受けて自信モードな部分。

『この点、労働需給の引き締まりを背景として賃金の改善ペースが上振れ、物価にも影響を及ぼす可能性がある一方、消費者の物価上昇に対する抵抗感が強い場合や企業の賃上げに対する姿勢が慎重な場合、販売価格や賃金の引き上げがスムーズに進まない可能性もある。』(今回)

『この点、消費税率引き上げ以降の消費動向が、先行きの企業の価格設定行動にどのような影響を及ぼすか不確実性が高い。』(前回)

つーことで、さすがに今回「消費者の物価上昇に対する抵抗感が強い場合や企業の賃上げに対する姿勢が慎重な場合、販売価格や賃金の引き上げがスムーズに進まない可能性もある。」と入っている所だけには堅牢な逆算ロジックの中で辛うじて良心を感じるところでして(^^)、先ほども申しあげたように2012年度後半から2013年度にかけての動きって賃金上昇期待やら将来の期待などが伴わない中で物価だけ上昇しても最終的に需要が伸びなくなって、名目ベースの数量が落ちてしまうと生産も落ちてしまうとか、そういう弊害がモロに出たから個人消費の伸び悩みが長くなったという話であって、その点に関してはさすがにここでリスクとして触れているだけまあ結果から逆算した展望レポートにしては一応良識も残っていますなという所ではあります。つーか普通に考えてここから見通し通りに物価が上がったら消費がまた落ちるだけのような気がするんですけどねえ。


・輸入価格に関してはいつも通り

『第4に、原油価格といった国際商品市況や為替相場の変動などに伴う輸入物価の動向や、その国内価格への波及の状況によっても、上振れ・下振れ双方の可能性がある。』(今回)
『第4に、国際商品市況や為替相場の変動などに伴う輸入物価の動向や、その国内価格への波及の状況によっても、上振れ・下振れ双方の可能性がある。』(前回)

原油価格を前面に出した以外は同じ、というかまあこれはこうとしか書きようがないですからね。



○金融政策運営の第一の柱、第二の柱に関して

『3.金融政策運営』である。

『以上の経済・物価情勢について、「物価安定の目標」のもとで、2つの「柱」による点検を行い、先行きの金融政策運営の考え方を整理する。』(今回)

ということで。

『まず、第1の柱、すなわち中心的な見通しについて点検すると、わが国経済は、2016年度前半頃に2%程度の物価上昇率を実現し、その後次第に、これを安定的に持続する成長経路へと移行していく可能性が高いと判断される。』(今回)

『まず、第1の柱、すなわち中心的な見通しについて点検すると、わが国経済は、見通し期間の中盤頃、すなわち2015年度を中心とする期間に2%程度の物価上昇率を実現し、その後次第に、これを安定的に持続する成長経路へと移行していく可能性が高いと判断される。』(前回)

ということであっさりとこの見通し先送り。

『次に、第2の柱、すなわち金融政策運営の観点から重視すべきリスクについて点検すると、中心的な経済の見通しについては、海外経済の動向などを巡る不確実性は大きいものの、リスクは上下にバランスしていると評価できる。物価の中心的な見通しについては、中長期的な予想物価上昇率の動向などを巡って不確実性は大きく、下振れリスクが大きい。』(今回)

『次に、第2の柱、すなわち金融政策運営の観点から重視すべきリスクについて点検すると、中心的な経済の見通しについては、海外経済の動向などを巡る不確実性は大きいものの、リスクは上下にバランスしていると評価できる。物価の中心的な見通しについては、中長期的な予想物価上昇率の動向などを巡って不確実性は大きく、下振れリスクが大きい。』(前回)

ということで第2の柱の前半(というか後半もですが)は全文一致とな。

『より長期的な視点から金融面の不均衡について点検すると、現時点では、資産市場や金融機関行動において過度な期待の強気化を示す動きは観察されない11。もっとも、政府債務残高が累増する中で、金融機関の国債保有残高は、漸減傾向が続いているが、なお高水準である点には留意する必要がある。』(今回)

『より長期的な視点から金融面の不均衡について点検すると、現時点では、資産市場や金融機関行動において過度な期待の強気化を示す動きは観察されない11。もっとも、政府債務残高が累増する中で、金融機関の国債保有残高は、漸減傾向が続いているが、なお高水準である点には留意する必要がある。』(前回)

後半も文言は一致なのですが、FSRに関連してもうちょっとこうツッコミがあっても良かったような気もしないでもないのですが、まあ第二の柱的に何だかんだとは中々言いにくい面もあるのは分かるので、そこは表に出す出さないはともかくとしても問題意識は持ってほしいのですけどね。もちろんFSRだけではなくて金融市場の流動性低下とかそっちの方も問題ですけど。

あと、金融機関の国債保有残高云々という話なのですが、政府が国債発行年限を長期化する中で日銀が統合政府の負債デュレーションをせっせとオーバーナイトに切り替えているという状況に益々拍車が掛かっていく方の方がよほど大きなリスクではないかと思うので、あまりこのネタを毎度書いていると「オマエガナー」と言われるだけのような気がします。

『金融政策運営については、「量的・質的金融緩和」は所期の効果を発揮しており、今後とも、日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「量的・質的金融緩和」を継続する。その際、経済・物価情勢について上下双方向のリスク要因を点検し、必要な調整を行う。』(今回)

ところで所期の効果を発揮しているのに何でゼロ%なんでちゅかねえ、という点についての説明が企画局から出ているようなのでその辺でも鑑賞しないといけませんね!!!!!!

なお、この最後の部分は毎度同じです。


まあ何ですな、今回の展望レポートは前回の無理繰りというかロジックが崩壊していた追加緩和とのセットになっていた展望レポートほどはネチネチと突っ込む場所が基本的見解部分ではなかったというか、メカニズムを強化している上に物価の2%到達時期を後ろに倒しているのだから当たり前ちゃあ当たり前ですが、説明そのものはそれらしくなっているという所ではありますな。

以上連休も終わりが近くなってきました(つーてまだ1日あるが)が休日をこんなのに費やすアタクシもまあアレでございますな。

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2015/05/01

○決定会合声明文は順当ですが

そういや前回の展望レポートでは闇討ち追加緩和の実施があったせいで説明が相当グズグズになっていましたので、展望レポート基本的見解を逐条ツッコミをするという暇人企画を土曜日に打ち込んだ覚えがありますが、今回は何せ5連休もありますので逐条ツッコミとかについては連休中にこっそりアップしたいなあと思っているのでこうご期待。と言いつつゴーロネンウィークにならないように注意したいと存じます(−−;)

http://www.boj.or.jp/announcements/release_2015/k150430a.pdf
当面の金融政策運営について

『1.日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を、以下のとおりとすることを決定した(賛成8反対1)(注)。

マネタリーベースが、年間約80兆円に相当するペースで増加するよう金融市場調節を行う。

2.資産の買入れについては、以下の方針を継続する(賛成8反対1)(注)。

@ 長期国債について、保有残高が年間約80兆円に相当するペースで増加するよう買入れを行う。ただし、イールドカーブ全体の金利低下を促す観点から、金融市場の状況に応じて柔軟に運営する。買入れの平均残存期間は7年〜10年程度とする。

A ETFおよびJ−REITについて、保有残高が、それぞれ年間約3兆円、年間約900億円に相当するペースで増加するよう買入れを行う。B CP等、社債等について、それぞれ約2.2 兆円、約3.2 兆円の残高を維持する。』

つーことで普通に買入継続なのですが、今回の決定会合の声明文では従来の展望レポートの回と違って1行コメントになっていないのがほほーという感じ(なお前回は政策変更を伴ったので今回と同じような書き方になっている&政策変更の背景説明が入っている)ですが、前回の声明文があったから使い回しをしたのでしょうか???

#ちなみに前々回の展望レポートの時はこういう1行コメントになっていました。
http://www.boj.or.jp/announcements/release_2014/k140430a.pdf


ということでまあ今回は声明文の鏡を見た時にちょっとだけ違和感があったのですが、ついでに反対提案の木内さんの内容はと言うと・・・・・・・

『(注)賛成:黒田委員、岩田委員、中曽委員、森本委員、白井委員、石田委員、佐藤委員、原田委員。反対:木内委員。なお、木内委員より、マネタリーベースおよび長期国債保有残高が、年間約45 兆円に相当するペースで増加するよう金融市場調節および資産買入れを行うなどの議案が提出され、反対多数で否決された。』(今回の声明文からです、為念)

ということで木内さんからの提案は今回も45兆円にするという内容でして、そらまあそうだろうなあとは思いましたが毎回この額が減った形の提案が出る説も一部にはあったようですが、そらこの数字減らせば減らすほど賛成票がとりにくくなるから減らさん罠とは思いましたです。


それよりも順当ではあるが失望なのは置物師匠とジンバブエ師匠でありまして、当座預金残高を80兆円にしたら2年で2%なんぞ楽勝という置物MB直線一気理論が崩壊しまくっている中で、物価が上がらないという現状を打破するためには緩和が足りないという話になる筈で、そうであったら追加緩和でMB100兆円でも何でも打ち込んでいかないとダメなんじゃないでしょうか何で提案しないのでしょうかと思いましたが、これはきっと置物師匠もジンバブエ師匠も伏魔殿に入ってすっかり魔物どもに取り込まれてしまって思考や判断を停止させられてしまっているんですね!!!!!!!!(棒読み)

しかしまあ何ですな、置物リフレ理論の一派であるところの外野の皆様(複数名)が4月30日にゼロ回答をすべきではないという話を延々と吹聴して、ものすごい勢いで宣伝されていた訳でして、あまりの勢いで宣伝するもんだから真に受けてしまった海外方面の株方面の方々を中心に昨日の株式市場があばばばばばーとなっておられた訳でして、外野の皆様におかれましては海外投資家筋の皆様からタコ殴りにされるのではないかと他人事にも程がありますが心配ではありますな(棒読み)。



○展望レポートである(詳しくはまた追加投入します休み中のどこかを想定)

なお休日の天気が良いと出かけたくなり、天気が悪いと駄文書きのモチベーションが上がらないという仕様になっているのは内緒です。

今日出ているのは基本的見解です。背景説明含めた全文は本日投下されます。
http://www.boj.or.jp/mopo/outlook/gor1504a.pdf(今回)
http://www.boj.or.jp/mopo/outlook/gor1410a.pdf(前回の基本的見解)

今朝は時間と量の関係上目についたところをサラサラと。


・見通しの項目別展開は強くしているのに景気のモメンタムは後ずれさせているというオモシロレポート

今回の基本的見解ですが、まあ最初の<概要>とケツの経済物価見通しの集計表を見るアルヨロシアル。


『・2017年度までの日本経済を展望すると、2015年度から2016年度にかけて潜在成長率を上回る成長を続けると予想される。2017年度にかけては、消費税率引き上げ前の駆け込み需要とその反動の影響を受けるとともに、景気の循環的な動きを映じて、潜在成長率を幾分下回る程度に減速しつつも、プラス成長を維持すると予想される2。』

これは末尾の17年度の見通しに出ていますが、17年度に関しては消費増税実施後になるので増税前の駆け込みがあってその反動がある上に、景気サイクル的に落ちてくるのでダブルで効いて潜在成長率を幾分下回るという見通しになっていて、割とあっさり味の弱めの話をしております。

なお、そんな見通しなのだったら普通に考えて消費増税の時期設定がおかしくねえかと思うのですが、その点について日銀に突っ込みを入れても「それは国会でお決めになることですからオラシラネ」という庭先論が炸裂するので暖簾に腕押し糠に釘となります。

『・消費者物価の前年比(消費税率引き上げの直接的な影響を除くベース)は、当面0%程度で推移するとみられるが、物価の基調が着実に高まり、原油価格下落の影響が剥落するに伴って、「物価安定の目標」である2%に向けて上昇率を高めていくと考えられる3。2%程度に達する時期は、原油価格の動向によって左右されるが、現状程度の水準から緩やかに上昇していくとの前提にたてば、2016年度前半頃になると予想される。その後次第に、これを安定的に持続する成長経路へと移行していくとみられる。』

物価目標達成時期をあっさり後ズレさせて来やがったよこの人たちという所でして、まあ会見では当然の如く物価目標達成時期の後ズレというのであれば追加緩和をして然るべきというツッコミが飛んでいましたけれども屁理屈を駆使して華麗にスルーしていたのは言うまでもありません。

というか今回の特徴としては「堂々と物価目標達成時期を後ズレ」させたことにありまして、本来ならば「2年で2%」なのですから今頃盛大に泡を吹いていないといけない筈なのですが、すっかりその辺は2年で達成しなくて宜しいという事になってしまいまして、置物リフレ理論とは何だったのかという気がするし置物よりも鶴光師匠に交代した方が金融政策コミュニケーションに有効なのではないかと思ってしまいますけれども、まあ今回はこの「2年のくびき」を綺麗に外せたのが大きい罠とは思います。


とは言いましても、上記引用部分の3番にありますように・・・・・・・・・・

『3 各政策委員は見通し作成にあたって、原油価格の前提を次の通りとした。すなわち、原油価格(ドバイ)は、1バレル55ドルを出発点に、見通し期間の終盤にかけて70ドル台前半に緩やかに上昇していくと想定している。その場合の消費者物価(除く生鮮食品)の前年比に対するエネルギー価格の寄与度は、2015年度で−0.7〜−0.8%ポイント程度、2016年度で+0.1〜+0.2%ポイント程度と試算される。また、寄与度は、当面マイナス幅を拡大した後、2015年度後半にはマイナス幅縮小に転じ、2016年度前半には概ねゼロになると試算される。』

ちなみに会見で(テキストは今日出ますが)聞いてた時にスマッシュヒットと思ったのは幹事社の次(どうでも良いが昨日の幹事社の仕切りはあまり良くなかったように中継では見えた、質問最後の人の後もう一回幹事社が質問というのに????感が)に質問したどこぞの全国紙の記者さん(記憶によれば)でして、「原油が10月の置き通りに推移していて経済も見通し通りに推移しているのに何で物価目標達成時期が後ずれするのでしょうか」というのはツボったですよ、うんうん。

でまあそんな話はともかくとし、とにかく原油価格ガーの説明によって物価目標達成時期の後ズレを堂々と投下できたのは良いのですが、当然ながらその裏として「原油価格の影響によるマイナス寄与が縮小する中で物価安定目標に向かってアクチュアルの物価が推移するのか」というのが問われることになる訳で、そういう意味では「2年で2%問題」は半年程度先送りをした格好ではありますが、問題を先送っただけの話であって、先々では真価が更に厳しく問われるという話になると思います。

つまりですね、今引用しているように「2%程度に達する時期は、原油価格の動向によって左右されるが、現状程度の水準から緩やかに上昇していくとの前提にたてば、2016年度前半頃になると予想される。」となっていまして、かつエネルギー価格の寄与度に関して「寄与度は、当面マイナス幅を拡大した後、2015年度後半にはマイナス幅縮小に転じ、2016年度前半には概ねゼロになると試算される。」とある訳ですから、つまりこれは「エネルギー価格のマイナス寄与なかりせば物価安定目標は達成ですよ」と言う話をしている訳で、他の都合の良い言い訳が出てこない限り、寄与度が減ってくる中で物価が2%に向けてガンガンズンズングイグイ上昇していかないと行けませんという事で。

#まあ寄与度の計算が足りませんでしたと言っていつまでも原油価格ガーで逃げる手もありますがね


『・2016年度までの見通しを従来の見通しと比べると、成長率の見通しは概ね不変である。物価の見通しは、やや下振れている。』

はあそうですか。

『・「物価安定の目標」のもとで、以上の中心的な見通し(第1の柱)と、これに対する上下双方向のリスク要因(第2の柱)を点検した4。金融政策運営については、「量的・質的金融緩和」は所期の効果を発揮しており、今後とも、日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「量的・質的金融緩和」を継続する。その際、経済・物価情勢について上下双方向のリスク要因を点検し、必要な調整を行う。』

所期の効果を発揮しているのに何で2年でゼロ%なんでちゅかねえというのに対しては引き続き「原油ガー」という話をしてスルーしているのですが、実は見通し通りに原油価格が上昇してくる方が言い訳が効かなくなってくるので日銀にとっては真価が問われる(リスクと言おうと思ったが一応敬意を表しておく)所ではございますな。


・あと少々気が付いた点

でまあ以降が『1.わが国の経済・物価の中心的な見通し』となりまして、前回の展望レポートではこれを逐条ツッコミを前回(14年4月)と並べて行うという暇人にも程があるネタを投下致しましたけれども、そんなのはさすがに休日じゃないとできませんのでこうご期待ということで、それ以外に小ネタを少々。


気になった小ネタその1:構造失業率の推計値が下がっているのですが

4ページ目の脚注9にあるのですが、構造失業率の推計が前回3%台半ばになっているのが今回3%台前半から半ば程度という事になっていまして、構造失業率が下がっているのですよね。何というかこれってどうなのと思うのですがアタクシは頭が悪いので誰かこの含意を教えてジェネラル!


気になった小ネタその2:デフレ脱却という文言

3−ページ目に経済情勢の見通しの話があるのですが、その中に「デフレからの脱却が着実に進んでいくにつれ」云々という表現がありまして、従来は確か日銀の目標は2%物価安定なのでデフレ脱却とかそんなのはただの通過点であってそのことに重きを置いている訳ではない(キリッ)という建付けだった筈なのですが、今回はこういう文言が入っているというのはもしかして「デフレを脱却しているからいいじゃないけいざいだもの」という逃げへの意識がどこかにあるのでこの文言が出たのではないか疑惑をするのは裏読みのし過ぎですかそうですか。


気になった小ネタその3:全体の項目が強い件

というのは小ネタではないですけど(汗)、先行き見通しを見た時に今回は輸出にしろ設備にしろ消費にしろエライ勢いで見通しが前回対比強くなっていまして、一方で物価目標の達成時期が後ずれという大変に不思議なセットになっていますし、GDP見通しも若干下がっているということで、これはそもそも10月の展望レポートの数字の置きがおかしかったですよと告白しているようなもんだなあと思ったのは性格が悪いですかそうですか。


気になった小ネタその4:ところでこれ16年度の成長見通しが弱くねえか???

引用しませんけど最後の見通しの部分、17年度に増税の反動が来るのは分かったが、その前の駆け込み需要があって下駄を履くはずの16年度の年度見通しが実質+1.4〜+1.8しかないってのはどういう事やという気がするんですけど。

まあ潜在成長率を0%台でおいているのでこれでも高成長という話なのでしょうが、そもそもそんな状況で2%の物価上昇が安定的に維持できるのかも疑問だったりして、なんか相変わらずの違和感です。

てな感じですか。詳しくは連休中に投下の予定だがあまり期待されてもアレなので適当にお願いします。

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2015/04/27

○FSRネタの続きである:不動産市況に関して

http://www.boj.or.jp/research/brp/fsr/fsr150422.htm/
金融システムレポート(2015年4月号)

全文(どっちも大きめのPDF注意)
http://www.boj.or.jp/research/brp/fsr/data/fsr150422a.pdf

概要
http://www.boj.or.jp/research/brp/fsr/data/fsr150422b.pdf

概要の29ページ(PDFだと30枚目)に『Y.金融システムのマクロ的なリスク評価(1)マクロリスク指標』というのがあります。でまあそちらのヒートマップですけどね。

『・ 前回レポートとの比較では、「不動産業実物投資の対GDP比率」が「緑」から「赤」に転じ、過熱方向に変化した。』

キタコレ!!

『・ 一方、もう1つの不動産関連指標である「不動産業向け貸出の対GDP比率」は「緑」のままである。不動産の取引量や価格動向など、その他の幅広い情報も含めて総合的にみれば、不動産市場に過熱感はみられていない。(→(3)不動産市場を参照)』

あらそうという所ですが、31ページ目(PDFの32枚目)以降の『Y.金融システムのマクロ的なリスク評価(3)不動産市場』の部分に図表がありますけど、本文の方にはもうちょっと詳しいのがあります。


本文の74ページ目(PDFだと79枚目)から『Y.金融システムのマクロ的なリスク評価』が始まります。で、ヒートマップとかがあってその説明が本文76ページ(PDFの81枚目)からございますので鑑賞。

『前回レポートとの比較では、1 指標が過熱方向に、1 指標が安定化方向に変化した。まず「不動産業実物投資の対GDP 比率」が「緑」から「赤」に転じ、過熱方向に変化した。これは、不動産市況の改善などを背景に、不動産業者による投資が半年前のレポート時と比べて増加していることを反映したものである33(図表VI-1-4、図表VI-1-5)。』

キタコレ!

『一方、もう1 つの不動産関連指標である「不動産業向け貸出の対GDP 比率」は「緑」のままである。不動産の取引量や価格動向など、その他の幅広い情報も含めて総合的にみれば、不動産市場に過熱感は窺われていないが、引き続き関連指標の動きを注視していく必要がある(不動産市場の状況についてはBOX5 を参照)。』

ふーん。

『一方、「家計投資の対可処分所得比率」は、前回レポート時の「赤」から「緑」に戻った。これは、分子に含まれる住宅投資や耐久消費財が消費税率引き上げ前の駆け込み需要によって昨年1〜3 月期に急増した要因が剥落したことによるものである。』

ということで『BOX5 不動産市場の状況について』というのがあるのだ。

『今回の金融活動指標では、不動産関連の指標の1 つが「過熱」を示すものとなった。また、これまでのわが国の経験に照らすと、不動産市場の動向は、金融面で不均衡が生じていないかを確認していくうえで、重要な情報を有していると考えられる。』

一応気にはしているのね。

『こうした点を踏まえ、ここでは、最近における不動産市場の動向を、取引量、価格動向、不動産金融など、幅広い観点から確認する34。まず、不動産取引についてみると、取引金額は、このところ高水準で推移している(図表B5-1)。物件タイプ別にみると、2014 年入り後はオフィスの取引が大きく増加している。主体別の取引状況を確認すると、近年、私募ファンドが、金融危機以前に取得した不動産物件を市況の改善を受けてJ-REIT に売却するというのが大きな流れになってきたが、足もとは、J-REIT による買い越しが幾分減少する一方、利回り等に着目した海外投資家や機関投資家を含む「その他」が買い越しに転じるなど、購入主体に幾分変化が生じている35(図表B5-2)。』

図表の貼り付けは割愛、というかできないので本文を見てちょ。

『次に、不動産価格について確認する。個別地点ごとにみた商業地価(鑑定価格)の上昇率の分布をみると、中央値は2000 年代中頃の不動産ブーム期の水準に近くなっているが、過去の不動産ブーム期にみられたような、分布の上方への広がりが、2015 年初においても観察されない(図表B5-3)。』

つまり・・・・・・・・

『不動産物件(土地または土地建物)に関する実際の取引価格をみても、東京23 区については、分布の上方への広がりが、2014 年7〜9 月期時点でも観察されない(図表B5-4)。もっとも、東京都心部ではオフィスビルなど高額物件の取引も散見されており、投資家の期待利回りは、分母である物件価格の上昇によって、このところ明確に低下している。これは、投資家の購入スタンスが前向きになってきていることを示している(図表B5-5)。一方、地方圏においてはこうした動きは一部にとどまっており、今のところ広範化するには至っていない。』

地域的バブルだわな。なお図表貼り付け割愛。


『最後に、不動産金融の動向について確認する。金融機関の不動産業向け貸出は、上期に比べ幾分伸びを高めたが、前回の増加局面である2006 年頃に比べると、引き続き緩やかな伸びにとどまっている(図表B5-6)。業態別にみると、大手行は引き続き前年を下回っているが、大手不動産デベロッパー向けが増加に転じるなど、減少幅は縮小してきている(図表B5-7)。地域金融機関では、個人の資産管理会社等による貸家業、中小の不動産業者向けの貸出の伸びが高まっている。』

『地域別にみると、三大都市圏(南関東・東海・近畿)、地方圏ともに伸びを高めている(図表B5-8)。上場不動産業者の資金調達をみると、J-REIT については、このところ銀行借入・資本調達のいずれも大きく増加しており、2006年後半のピーク水準を上回っている(図表B5-9)。この間、J-REIT に対する投資家の需要の高まりを反映して、投資口価格は上昇傾向を続けている(図表B5-10)。』

さらっと説明しているからここの説明が微妙なのだが、上記説明でも指摘されている「図表B5-9」を見ると資本調達が上記のように2006年のピークを越えて推移している訳で、そういう状況を踏まえると本当は日銀のJ-REIT買入は「リスクプレミアムの縮小を促す」という所期の効果を既に達成しており、これ以上の買入拡大はプレミアムの縮小ではなくてマイナスのプレミアム、すなわちバブルの発生という金融不均衡を招く、というアセスメントになるのではないでしょうかと思うのですが、まあそんなこと正面切って言うのは大人の事情があって言えませんかそうですか。

『一方、J-REIT 以外の上場不動産業者も資金調達を増加させているが、不動産ブーム期にあった2007 年頃と比べると、調達額が相対的に小さいほか、借入は限定的である(図表B5-11)。なお、非上場の先も含め、中小不動産業者(うち低信用先)における有利子負債残高(前年比)の分布をみると、不動産ブーム期にあった2007 年頃と比べると限定的ではあるが、足もとで、分布が幾分上方に広がってきている(図表B5-12)。』

『不動産業のデフォルト率は、金融危機後に急速に高まったが、その背景には、金融危機に先立つ時期に、信用力の低い先の資金調達が増加したことが影響したとみられる(図表B5-13)。中小不動産業者は金融機関借入への依存度が高い先が多いため、先行きも注視が必要と考えられる。』

ということで纏めですが、本文79ページ(PDFだと84枚目)になります。

『以上みてきたように、最近の不動産市場では、景気の回復等に伴って、取引や金融活動が徐々に活発になってきている。不動産価格については、現状、過去の不動産ブーム期にみられた過熱感は、全体として窺われないが、オフィス物件を中心に取引金額が高めの水準にあること、海外投資家など投資家の不動産投資スタンスが積極化してきており、J-REIT 価格が上昇していること、不動産向け貸出が徐々に伸びを高めており、低信用先の資金調達も増加傾向にあることなどを踏まえると、先行きの不動産市場の動向については、注視していく必要があると考えられる。』

という事になっておりまして、だったらJ-REIT買入ってもう少なくとも拡大は必要ないんじゃないですかねえという話になるのですが、このようなFSRのアセスメントを受けてどなたか審議委員の方が政策決定会合で論点提供するんですかねえ(棒読み)。

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2015/04/23

○FSRキタコレ!!!!

http://www.boj.or.jp/research/brp/fsr/fsr150422.htm/
金融システムレポート(2015年4月号)

全文(どっちも大きめのPDF注意)
http://www.boj.or.jp/research/brp/fsr/data/fsr150422a.pdf

概要
http://www.boj.or.jp/research/brp/fsr/data/fsr150422b.pdf

今回概要が横組みじゃなくて縦組みになりましたな。ページ数は概要がやや減少、全文はやや増加となっています。


でまあ細々と鑑賞するのがお作法なのですが概要の方からとりあえず少々。


・まあ総括はこうなるだろうなあ的な結果

『今回の金融システムレポートの特徴−− 安定性と機能度の評価』というのが概要1ページ目(PDFだと表紙があるので実際は2枚目になります、以下引用は「概要」から)にあります。

『(総合評価は不変)

「わが国の金融システムは、安定性を維持している。金融仲介活動は、より円滑に行われるようになっている。」』

で、ここの「より」というのに実際はアンダーラインが引いてあります。

『(前回レポートからの主な変化点)』

『金融仲介活動
@ 金融機関が内外貸出や有価証券投資でリスク・テイクを進めた。
A 家計の資産選択や機関投資家の運用でもリスク性資産へのシフトが徐々に進んだ。
B 本邦株価が大きく上昇し、不動産取引が地域差を伴いつつも活発になってきている。

→ 全体として金融仲介活動はより円滑になっているが、過熱を示す動きや過度な期待の強気化といった金融面の不均衡はみられていない。』

ほほー。

『金融機関の財務基盤(自己資本、資金流動性)

C 内部留保等により自己資本の蓄積が進んだほか、株高等に伴って有価証券評価益も増加した。

→ マクロ的なリスクと財務基盤の適切なバランスは確保されており、金融システムは、相応に強いストレス耐性(損失吸収力、流動性バッファー)を有している。

マーケット

D 資源価格が大幅に下落し、国際金融資本市場では幅広くボラティリティが高まった。ボラティリティの上昇は、ある程度本邦市場にも及んでいる。』

ということで、今回のFSR概要では前回のと違いまして、最初の所に「前回との変化点」を明示的にまとめているのがとっつきを良くしている点でして、これは中々読みやすくなっております。

『(編集・分析面の特徴)

・ @マクロ・プルーデンス、A金融機関経営、B各種リスク管理における課題をそれぞれ提示

・ 課題を踏まえた日本銀行の具体的な取り組みを記載・ 邦銀の海外貸出・投資の増加を踏まえ、マクロ・ストレス・テストのシナリオを、グローバルなストレスに変更
・ カレントなトピックス:資源価格の下落と与信管理
・ 金融システムのリスク構造に関する分析:金融機関間の相互連関、アジア向けエクスポージャー、預貸業務や住宅ローンの収益性など』

ということで、そらまあこの時点で金融システムに過度の過熱が見られるとかいう話になったら「召喚!第二の柱!!」となってQQE縮小キタコレとなるのですからそこまで出すのは中々思い切り過ぎてしまうから出んわなとは思います。

以下、この概要だけでも念入りに鑑賞していると非常に多くなるのですが、このネタに関しては色々と突っ込んで読むと非常に興味深いのでまた後日追加すると思うのですけれども、とりあえずざっと眺めてほほーとおもった辺りを少々。


・金融機関の有価証券保有状況(PDF12枚目)

『V.金融仲介活動の点検(4)有価証券投資(業態別動向)』という所ですが、国内債に加えて今回は業態別の外国債券に関して円建外債と外貨建外債についてブレークダウン(ただしヘッジ外債なのかオープン外債なのかは分からないけど)しているのが前回と違う所でして、外債投資の部分に対する分析を詳しく出すようになっているのはまあ外債投資の収益に対する貢献度合いの昨今の状況を反映しているんだろうなあと。


・金融機関に内在するリスクの課題を前回と比較する:信用リスク

『W.金融機関に内在するリスク』の所ですけど、この辺は「前回との変化」を見ておくとどのあたりを日銀のプルーデンスウィングが気にしているのかという話、それはつまり金融庁も含めたプルーデンス政策の目先の方向性というか志向を示すことになりますので、確認するのは割と有意義な事だと思っていますがあたくしの思い過ごしだったらどうもすいませんと言いつつ比較してみる(^^)。

まずは信用リスクだが住宅ローンへの指摘がキタコレです。

『(信用リスク管理面の課題)

・ 第一に、信用リスクの計測や引当の算定にあたっては、将来の予測も踏まえながら、適切性を継続して点検していく必要がある。
・ リスク管理や引当は、将来に備えて行うものである。景気循環の影響を均してみていくとともに、過去の実績に反映されていない先行きの変化要因を適切に織り込んでいくことが望ましい。

・第二に、海外貸出、国内成長分野向け融資など、積極的な取り組み分野における与信管理能力を高めていく必要がある

・第三に、貸出利鞘の縮小が継続するもとで、貸出におけるリスク・リターンの評価が重要となっている。

とくに、住宅ローンは、このところ貸出利鞘が信用コストの低下を上回って低下している。住宅ローンの収益性は、評価の時間軸や総合採算の考え方によっても異なりうるが、金融機関は、それぞれの業務運営方針を踏まえ、それに応じた適切な方法に基づいて収益性の評価を行っていく必要がある。』(今回)


『金融機関の信用リスクは総じて抑制されているが、リスク管理においては次の3点に留意が必要である。

(1)信用コストは、ここ数年、長期時系列的にみてかなり低い水準で推移している。足もとの引当率や信用リスク量は、これを反映したものとなっているため、小さめに計測されている可能性がある。

・金融機関は、そうしたことを念頭に置いて適切なリスク管理を行っていくことが必要。

(2)今後、成長事業の育成や事業再生など、産業の活力向上を支援するための取組みを進めていく過程では、信用リスク量や引当率がこれまでより高まる可能性がある。

・環境・エネルギー、医療・福祉など、成長分野には、既往産業とは異なる事業特性、キャッシュフロー上の特徴や制度環境を含めた固有リスクが存在。その分析と評価力を高めていく必要がある。このところ高めの伸びを続ける貸家業向け貸出についても、同様の観点からリスク管理が必要。

・経営不振企業の支援は、資金繰り支援から抜本的な事業再生や本業支援に、次第に軸足が移っていくと考えられる。事業再生の進捗状況や必要な金融支援を、適切にリスクの評価に反映していくことが必要。

・今後も高めの伸びが続くとみられる海外貸出に関しても、カントリー・リスク、国ごとの制度・インフラの違いなども踏まえつつ、業務の拡大に対応した信用リスクの管理力を構築していく必要。

(3)貸出利鞘の縮小が継続するもとで貸出におけるリスク・リターンの評価が重要となっている。』(前回)

ということで、総括の所では前回しらっと入っていた貸家向け融資でしたが、今回は住宅ローン全般に関して指摘が入っていまして、しかも総括で前回細々とあったのと違って個別に指摘されているのが住宅ローンにフォーカスされているのが味わいがあります。


・金融機関に内在するリスクの課題を前回と比較する:金利リスク

金利リスクではコア預金というのがキタコレ!

『(金利リスク管理面の課題)

・ 第一に、金融機関は、金利リスクの評価を踏まえた明確な資産負債管理(ALM)の方針を定め、適切なリスク・テイクと管理を行っていく必要がある。

・ 第二に、金利リスクの運営、管理にあたっては、「コア預金」の取り扱いを適切に定めていく必要がある。』(今回)

なお念のため申し上げますが、今回は分量少なくなっているように見えますけれども解説部分みたいなのが途中に箱で入っているのですがそちらの引用は割愛しています、詳しくはURL先をみてちょ。


『金融機関の金利リスク量は昨年3月末までに比べると低めの水準となっているがリスク管理においては、次の2点に留意が必要である。

(1)金利リスク量は、幾分減少したとはいえ、時系列的にみるとなお高めである。また、個別金融機関ごとのリスク・テイクのばらつきが大きい。

・金融機関は、全体としてみると、金利リスクのさらなる大幅な積み増しに慎重な姿勢を維持しているが、経営体力の低い先においても、金利リスクを積み増す動きがみられる。

(2)足もとの金利のボラティリティは、時系列的にみて極めて低水準。

・このところ、国内債券投資を積み増す動きがみられているのも、こうした低ボラティリティ環境が一つの背景になっている可能性がある。

金融機関は、金利リスクについて、@経営体力、収益力との関係、A他のリスクとのバランス、といった観点も踏まえつつ、明確な運用と管理の方針を定めていく必要がある。』(前回)


ということで、今回の特色はどう見ても『「コア預金」の取り扱いを適切に定めていく必要がある』という所ですな!!!!


・金融機関に内在するリスクの課題を前回と比較する:株式リスク

株式リスクに関しては株価が上がっているのに(上がっているから?)あっさり味になっているのが特徴的。

『(株式リスク管理面の課題)

・ 銀行は、政策保有株式の保有意義を適切に評価したうえで、引き続き、そのリスク削減に取り組んでいく必要がある。

・ 今般、東京証券取引所が策定したコーポレートガバナンス・コードでは、政策保有株式の中長期的な経済合理性や将来の見通しを検証し、保有の狙いや合理性について具体的な説明を行うべきことが盛り込まれている。』(今回)


『株式リスク量は、かつてに比べると大幅に減少しているが、引き続きその変動は大きく、金融機関の経営体力や収益に相応の影響を及ぼし得ることを踏まえたリスク管理が必要。

・政策保有株式の削減に努めてきた結果、銀行が保有する株式の対自己資本比率(簿価ベース)は、2000年度末の1.3倍から、2013年度末の0.4倍に低下。もっとも、近年は削減ペースがやや緩やかに。

・自己資本比率の相対的に低い金融機関の中にも株式リスク量をやや大きめに増加させている先がある。

政策投資は、純投資とは異なり、損失に歯止めをかけるための売却を機動的に行うことが困難。銀行は、株式リスクと経営体力の関係、政策保有株式の保有意義を適切に評価したうえで、引き続き、そのリスク削減に着実に取り組んでいく必要がある。』(前回)

価格が上昇したから当たり前なのですが、株式保有のリスク量に関する評価としては前回よりも今回の方が増加しているのですが、その割には課題に関するお説教度が下がっているのが味わい深いですな。


でまあ資金流動性に関する話は割愛しますが、他にもいろいろと面白いので随時ご紹介したいと思います。時間と量の都合上本日はこの辺で勘弁。

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2015/04/17

○お説教フォーラムキター

http://www.boj.or.jp/announcements/release_2015/rel150416a.pdf
「レポ市場フォーラム」の開催について

『わが国の金融市場で重要な機能を果たしているレポ市場について、近年の世界的な金融危機の経験を踏まえた国際的なイニシアチブのもと、レポ取引の透明性向上・リスク管理強化に向けた議論が進められているほか、国内では、国債決済期間の短縮化に向けた取り組みが行われています。』

この市場状況で国債決済期間短縮化とか何考えてるんだとしか思えないが。まあその前にGCの後決め方式とかトライパーティー方式のレポ取引とかが先に来るし、それなしで決済期間短縮化とか絶対無理ですけどね。

『日本銀行金融市場局では、こうしたレポ市場を巡る内外の議論に積極的に参画してきており、レポ市場の一層の発展のため、中央銀行としての立場から貢献を果たしていく考えにあります。』

まあなんちゅうか「国債決済期間短縮先にありき」で話を進められましても、それに対応するために掛かるシステム周りのコストはどこから出てくるのか、というかそのコストが出ないように仕向けているのがそちらの金融政策なんでいいから金融政策正常化してからそういう事はやって欲しいものです(というのはT+1化の方の話でトライパーティーの方はまた別の論点がある)。

『その具体的な取り組みの1つとして、「レポ市場フォーラム」を開催し、レポ市場のさらなる発展に向けた取り組みについて、市場関係者の方々と議論する場を設けることとします。』

と書いてあるのですが・・・・・・・・

『3.参加予定者
・主要なレポ市場参加者、市場インフラ、日本証券業協会、金融庁
・日本銀行金融市場局長、市場企画課長など

4.内 容
@レポ市場の最近の動向、Aレポ市場を巡る国際的な議論、B国債決済期間の短縮化とレポ市場、について意見交換を行う予定。』

という時点で内容はお察しという所ですが、この超越低金利の中でシステム投資にまた金が掛かる話(しかもT+2をT+1にしてどれだけの決済削減になるのかと。相対で別にT+1の取引は今でもできる(つーかまあその気になればT+0だって可能は可能)んですけどねえ)ナムナムという所で。

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2015/04/14

○さくらレポートである

http://www.boj.or.jp/research/brp/rer/rer150413.htm/(概要)
http://www.boj.or.jp/research/brp/rer/data/rer150413.pdf(全文)

ということでサラサラと。

・3地域上方修正ですが全体的には生産と雇用の判断が強気化している感じですかね

『I. 地域からみた景気情勢』である。

『各地の景気情勢を前回(15年1月)と比較すると、6地域(北海道、東北、関東甲信越、中国、四国、九州・沖縄)で、景気の改善度合いに関する判断に変化はないとしているほか、3地域(北陸、東海、近畿)からは、回復テンポが強まっているとして判断を引き上げる報告があった。』

ほほー!

『各地域からの報告をみると、内外需要の緩やかな増加等から生産が持ち直している中で、雇用・所得環境が着実な改善を続けていること等を背景に、全ての地域で、「緩やかに回復している」、「回復している」等としている。』

だそうで、内訳は以下の通り。

『公共投資は、東北から、「緩やかに増加している」との報告があったほか、4地域(関東甲信越、近畿、中国、四国)から、「高水準で横ばい圏内の動きとなっている」等の報告があった。一方、4地域(北海道、北陸、東海、九州・沖縄)からは、「高水準で推移しているものの、減少している」等の報告があった。』

公共投資は前回が増加2、横ばい4、減少3でしたので若干下がっています。


『設備投資は、3地域(北海道、北陸、東海)から、「一段と増加している」、3地域(東北、関東甲信越、近畿)から、「増加している」、「緩やかに増加している」との報告があったほか、3地域(中国、四国、九州・沖縄)から、「持ち直している」等の報告があった。この間、企業の業況感については、「製造業を中心にやや弱めの動きがみられる」との報告があった一方、「改善傾向が続いている」、「総じて良好な水準が維持されている」等の報告があった。』

設備投資は一段と増加2、増加4、持ち直し3でしたので若干上がっています。


『個人消費は、雇用・所得環境が着実な改善を続けていること等を背景に、北海道から、「地域や業態間でばらつきを伴いつつも回復している」、4地域(北陸、東海、四国、九州・沖縄)から、「緩やかに持ち直している」等の報告があったほか、4地域(東北、関東甲信越、近畿、中国)から、「全体としては底堅く推移している」等の報告があった。』

票数(?)は同じなのですが、今回のさくらレポートではここの「持ち直し」だの「底堅く推移」だのの表現に関して、前回報告では「基調として」というのが頭についていまして、今回の報告ではそこがしらっと削除されているのが中々こう味わいのあるところでして、消費の判断も引き上げという事になりますな、うんうん。でまあその内訳の所はパスしまして。


『住宅投資は、近畿、九州・沖縄から、「弱い動きとなっている」等の報告があった一方、3地域(北海道、関東甲信越、中国)から、「下げ止まりつつある」等、北陸から、「横ばい圏内で推移している」との報告があった。この間、3地域(東北、東海、四国)から、「高水準で推移している」、「基調的には底堅く推移している」等の報告があった。』

弱いとか減少とかが4、下げ止まりつつある云々が1、横ばいが1、基調が強いが3でしたので今回は若干上方修正しているのと、今回の表現の中で全体として「消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動の影響などから」という表現を入れていたのを外したのがチャーミング。


『生産(鉱工業生産)は、耐久消費財等での在庫調整の進捗や輸出の持ち直しなどを背景に、4地域(北海道、北陸、東海、近畿)から、「高水準で推移している」、「増加している」等、4地域(東北、関東甲信越、四国、九州・沖縄)から、「持ち直している」、「緩やかに持ち直している」等の報告があった。この間、中国から、「全体として横ばい圏内の動きとなっている」との報告があった。』

生産は高水準4、緩やかに増加1、横ばい圏3、弱め1だったので、これは弱かった方が結構上にシフトしていて割と大きめの上方修正チック。業種別の部分は割愛します。


『雇用・所得動向は、多くの地域から、「改善している」等の報告があった。』

ほうほうそれでそれで?

『雇用情勢については、多くの地域から、「労働需給は着実な改善を続けている」等の報告があった。雇用者所得についても、多くの地域から、「着実に持ち直している」、「緩やかに増加している」等の報告があった。』

細かい表現の変化とかやりだすと凄まじく量が多くなるのでパスという所ですが、ちなみにここの各地域の細かい表現の変化を見ますと、「生産」の部分で前回は割とああだこうだとヘッジクローズ的なのが多かった所に対して今回すっきり系表現での回復傾向を示しているのが目立つのと、「雇用」に関する部分では「着実な」というような表現が入ったりしていて、ああこの辺の判断が強くなっているんですなあというのは把握しました。


・地域の視点は「製造業の国内回帰なるか」的なお話だが結論がしらっとカミソリシュート

『II.地域の視点』ですけど今回のお題は『各地域における製造業の生産動向・生産体制』である。

『1.内外需要を踏まえた国内生産動向』の所から引用しておきますね。

『(1)内外需要の動向

各地域の製造業を取り巻く内外需要の動向をみると、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動が続いていた国内需要については、依然として弱い状況にあるとの声も一部に聞かれているが、設備投資が増加基調にあるほか、公共投資も高水準となる中で、個人消費で足もと持ち直しの動きがみられていることもあって、当面、底堅く推移するとの見方が多い。』

「依然として弱い状況にあるとの声も一部に聞かれているが〜当面、底堅く推移するとの見方が多い」という表現を見るとえーっとすいませんそこで鉛筆なめなめしてませんかとツッコミたくなるのがあたくしの仕様。

『また、海外需要についても、多くの先では、米国を中心とした海外経済の回復などを背景に緩やかに増加していくとみており、そうした中で、輸出も為替円安に伴う価格競争力の向上による効果が加わる形で緩やかな増加基調をたどることを見込んでいる。』

「多くの先では」という文言に味わいを感じる。


『(2)国内生産動向

こうした需要動向のもとでの国内生産は、業種間・企業間でばらつきが生じており、減産を余儀なくされている先が一部に見受けられる一方で、このところ操業度を引き上げたり、高水準の生産を継続している先も数多くみられる状況にあり、全体としては持ち直している。』

でまあ先ほどの味わいがあるのは当然で、「業種間・企業間でばらつき」というのがねという所なのでございましょうな。

『また、このような中にあって、後述するように、徐々にではあるが、国内での生産を強化する動きに広がりがみられており、国内生産を幾分押し上げているとの指摘が聞かれている。先行きの生産についても、内外需要を反映して、多くの先で現在の増加傾向ないし高水準が続くことを見込んでいる。』

ということで生産動向の話がああだこうだとありますが、その結論を。

『3.国内生産を維持・拡大していくうえでの課題

各地域の製造業では、国内生産を強化する先が一部にみられるが、多くの先で海外生産を着実に拡大する方針を維持している。こうしたもとで、今後、国内生産を維持・拡大していくための課題として、(イ)労働市場の柔軟性向上や技能教育の充実等による安定的な人材確保、(ロ)研究開発・設備投資等に係るサポート強化、(ハ)長期的観点からのエネルギーコストの抑制等を指摘する声が多い。』

ということでここの項目がいい感じでカミソリシュートなのですが、カミソリシュートと言われたら秋山登とか平松政次という答えが出てくるのが昭和レトロ脳ですので注意しましょう(−−;

#なお言うまでもありませんがアタクシはそっちの答えしか出てきませんが何か?

なお、本文の方を詳しく読むと更に面白いのでオヌヌメ(時間と量の関係で勘弁)。



○3月MPM議事要旨であるが金融政策決定部分を鑑賞

http://www.boj.or.jp/mopo/mpmsche_minu/minu_2015/g150317.pdf

本日は時間の都合上『W.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要』のみ鑑賞。


・まあ実際問題として効果がどうなっているのかが苦しいですからねえ

『多くの委員は、「量的・質的金融緩和」は、昨年10 月末の金融政策決定会合で拡大を決定した後も、引き続き所期の効果を発揮しているとの認識を共有した。これらの委員は、需給ギャップや中長期的な予想物価上昇率に規定される物価の基調は、今後も改善傾向を辿るとの見方を共有した。』

所期の効果is何という所ですが、需給ギャップに予想物価上昇率という結局の所鉛筆なめなめの余地がある部分で勝負というが何ともですが、要は「基調」で誤魔化しているうちに状況が好転してくれれば大和魂神州不滅ですねわかります。

『ある委員は、「量的・質的金融緩和」を進めるもとで、資産価格を通じた経路も効果的に働いているほか、企業の前向きな行動を促すことで、資本ストックや生産性などの供給面にも好影響を及ぼすことが期待できるとの見方を示した。』

確かに資産価格は盛大に上昇しましたが、それが実際の生産や投資、消費にどれだけ効いてるんでしょうか株価倍になって生産や消費や設備投資倍にでもなりましたかねえ。

『さらに、「量的・質的金融緩和」は、わが国経済のファンダメンタルズの着実な改善を伴うことで、より高い効果を発揮し得る状況にあり、こうした状況は金融不均衡などの副作用をある程度抑制するものであると付け加えた。』

わけわからん。ファンメタ改善するなかで超緩和政策が長期化したら金融不均衡が大発生するじゃねえかよどういう文脈でこの話をしているんだ??????????

『別のある委員は、昨年10 月の追加緩和がなければ、現在の経済情勢の改善は実現できなかったと述べたうえで、輸出や生産の増加、出荷・在庫バランスの改善などの効果が出てきたところであり、現在の規模の金融緩和を続けていく必要があるとの認識を示した。』

でた再試不能な説明。まあ物価上昇率は急低下したけどな!!!!


・物価の判断に関する話

次のコーナー。

『金融政策を運営するうえでの物価動向の判断について、委員は、「物価安定の目標」は安定的に達成すべきものであり、金融政策運営に当たっては、物価の基調的な動きが重要であるとの認識を共有した。』

基調攻撃キタコレ。

『一人の委員は、当面、消費者物価前年比が0%程度で推移するとみられる中で、物価の基調的な動きを丁寧に対外説明していく必要があるが、その際には予想物価上昇率の動向が鍵になると述べた。』

ほうほうそれでそれで??

『予想物価上昇率の判断に当たって、ある委員は、ブレーク・イーブン・インフレ率などの市場指標は原油価格の影響を受けやすいため、各種のサーベイ調査、企業の価格設定行動など、幅広い情報を丁寧に点検していく必要があるとの認識を示した。』

という話だったのですが先日の総裁会見ではBEIが戻ったのを捕まえてさっそくドヤ顔で予想物価上昇率が堅調という話をするのがもうね。

『別のある委員は、企業の価格設定面では、デフレ的な意識から着実に脱してきており、先行き消費が持ち直していけば、値上げ予備軍からの値上げ圧力が再び顕現化してくる可能性が高い一方で、賃金面では、ベースアップに躊躇する企業がみられるなど、デフレ的な意識が根強いとの見方を示した。』

この委員は与党的な言い方に見えますが、良く良くみれば「消費が持ち直せば物価がもう一度上昇」という話をしている訳で、その消費に関して「賃金がデフレ的」という話をしているのでどう見ても先行き懐疑的です本当にありがとうございましたという所ですな。

『もう一人の委員は、企業の価格設定スタンスについて、従来の低価格戦略から付加価値を高めて販売価格を引き上げる方向に変化する動きがみられていると指摘したうえで、賃金交渉でも物価動向に配慮する姿勢がみられており、こうした動きは予想物価上昇率が高まっている表れであるとの認識を示した。』

まあ日常品とかの価格設定見ると「隠れ値上げ」はしているけど客単価上がらない方向になっているとしか思えませんが高付加価値商品に縁がないから気が付かないだけですかそうですかどうもすいません。

賃金に関しては官製いやなんでもないです。

『これらの議論を受けて、委員は、予想物価上昇率は、やや長い目でみれば全体として上昇しているとの認識を共有した。そのうえで、多くの委員は、先行き、物価の基調を規定する需給ギャップは着実に改善し、予想物価上昇率も高まっていくことから、原油価格下落の影響が剥落するに伴って消費者物価は伸び率を高め、2015 年度を中心とする期間に2 % 程度に達する可能性が高いとの見方を共有した。』

はてどこの国のお話でしょうか。

『一方、ある委員は、消費者物価(除く食料・エネルギー)のプラス幅は拡大してきておらず、先行きの物価上昇率はなかなか高まらないとの見方を示した。』

うむ。


・債券市場の機能低下に関して

ちょっと飛ばしてこんなのがありました。

『この間、「量的・質的金融緩和」を進めるもとでの国債市場の動向について、議論が行われた。』

ほほう。

『3月9日に公表した初めての「債券市場サーベイ」の結果について、複数の委員は、国債市場の機能度や流動性について、やや否定的な評価が多くみられており、市場参加者は流動性プレミアムを相応に意識している可能性があると述べた。』

ですなあ。

『一方、別の複数の委員は、債券市場の機能度が3か月前に比べて低下しているとの回答が7割を占めたが、これには1月下旬以降、それまで低水準にあった国債金利のボラティリティがやや大きく上昇したことが影響しているとの見方を示した。』

何でボラが上がるかって言ったら市場機能や流動性が下がったからなんですけどねえ・・・・・・

『このうち一人の委員は、意図した価格や取引金額で取引が出来ていないとする回答は多くなかったと指摘した。そのうえで、これらの委員は、各種の市場流動性指標などから判断すると、現時点で債券市場の流動性に大きな問題が生じている訳ではないとの見方を示した。』

おまいら1週間ほど業者のディーリングデスクに座って見た方が良いんじゃないの???

『さらに、「量的・質的金融緩和」のもとでの国債買入れは、金利引き下げを目的としている以上、国債市場に相応の影響を与えることは想定の範囲内であるとの認識を付け加えた。』

だったら最初から「市場機能を壊すので宜しく」というべきであり、市場との対話とかおためごかしなアリバイ工作をして市場が暴れるのは自分たちのせいではない的な言い訳するの止めてもらえませんかねえ。

『複数の委員は、今後、「量的・質的金融緩和」を進めていくうえでは、国債市場の価格形成メカニズムを丹念に点検し、効果と副作用を比較衡量していくことが重要であるとの見解を示した。』

こちらの複数委員のご見解は仰る通りですな。

『こうした議論を受けて、何人かの委員は、今後も、市場関係者との対話を行いながら、債券市場の動向を注意深く点検していくことが重要であると述べた。このうち一人の委員は、その際、広範な市場流動性指標を併せてモニタリングしていくことが必要であると付け加えた。』

まあそうは言いましてもそもそも論としてあのサーベイという時点であまり期待をしない方が良いので正直期待していないですが、日銀としても「輪番連日の札割れ」とか「輪番連日の大流れによって金利急低下」みたいな話になりますと、QQE政策の技術的な限界という話になって、政策効果とかと全く関係ないところでQQE政策の意図せざる突然の出口という話になってしまいますので、まあそうならないように輪番オペのゾーン別の所を涙ぐましく微調整(3月は期末の関係もあって中短期が強かったので輪番減らしておいて4月から戻すけど割り振りいじるとか)するという話になるのでしょうが、それをすると毎月「来月の輪番どうなる」的な話になって益々市場のボラというか不確実要素が高まるという諸葛孔明の罠のような話になって中々味わいが深い訳ですな、うんうん(迫真)。

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2015/04/09

お題「決定会合レビューである」

何もないのに12時半過ぎまでやっていたもんだから結果が出て株や為替が瞬間反応していたのにはクソワロタです。
http://www.boj.or.jp/mopo/mpmdeci/state_2015/index.htm/

○決定会合声明文:景気判断の文言完全一致とはこれは素敵な大本営発表

http://www.boj.or.jp/announcements/release_2015/k150408a.pdf(今回)
http://www.boj.or.jp/announcements/release_2015/k150408a.pdf(前回)

・色々な経済指標が全般的にパッとしない筈なのですが全文一致とはどういう事や

えーっと、まず最初に結論を申し上げますと、今回の声明文の特色は「前回と実質的に全文一致状態」ということでして、変化があるのが「3か月ごとに出てくる短観アセスメント」部分と「CPIがゼロになっているという現状評価」部分でして、それ以外の判断にかかわる部分が見事な全文一致になっているのはナメトンノカという感じではございます。

ということで全文一致を確認する為に2回分を引用するのも何ですがまあ一応比較してみましょう。

・現状判断は全文一致、短観のアセスメントも前回よりも強めの見立てになっている

『わが国の景気は、緩やかな回復基調を続けている。』(今回)
『わが国の景気は、緩やかな回復基調を続けている。』(前回)

はあそうですか。

『海外経済は、一部になお緩慢さを残しつつも、先進国を中心に回復している。そうしたもとで、輸出は持ち直している。設備投資は、企業収益が改善するなかで、緩やかな増加基調にある。公共投資は高水準で横ばい圏内の動きとなっている。』(今回)
『海外経済は、一部になお緩慢さを残しつつも、先進国を中心に回復している。そうしたもとで、輸出は持ち直している。設備投資は、企業収益が改善するなかで、緩やかな増加基調にある。公共投資は高水準で横ばい圏内の動きとなっている。』(前回)

全文一致全文一致。

『個人消費は、一部で改善の動きに鈍さがみられるものの、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、全体としては底堅く推移している。住宅投資は、駆け込み需要の反動減が続いてきたが、足もとでは下げ止まりつつある。以上の内外需要のもとで、在庫調整の進捗もあって、鉱工業生産は持ち直している。』(今回)

『個人消費は、一部で改善の動きに鈍さがみられるものの、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、全体としては底堅く推移している。住宅投資は、駆け込み需要の反動減が続いてきたが、足もとでは下げ止まりつつある。以上の内外需要のもとで、在庫調整の進捗もあって、鉱工業生産は持ち直している。』(前回)

実質賃金は延々と前年比マイナスが続いているのに所得環境の着実な改善ですかそうですか。


『企業の業況感は、総じて良好な水準で推移している。この間、わが国の金融環境は、緩和した状態にある。』(今回)
『この間、わが国の金融環境は、緩和した状態にある。』(前回)

業況感云々は短観なので前回と比較するとなると12月声明文になりますが・・・・・・・・

『企業の業況感は、一部に慎重な動きもみられているが、総じて良好な水準が維持されている。』(12月19日声明文)

となっているので、短観の結果に関しても別に問題無しというか、前回あった「一部に慎重な動きも」云々が抜けているので一段と強い見立てになっているというお話でして、えーっとそれでいいのか(確かに別に悲観する結果ではないが楽観する結果でも無かろう)というところでございます。

『物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、消費税率引き上げの直接的な影響を除いたベースでみて、0%程度となっている。』(今回)
『物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、消費税率引き上げの直接的な影響を除いたベースでみて、0%台前半となっている。』(前回)

まあさすがにCPIゼロ%キターなのでここは「0%程度」と書かない訳にもいかないですな。

『予想物価上昇率は、やや長い目でみれば、全体として上昇しているとみられる。』(今回)
『予想物価上昇率は、やや長い目でみれば、全体として上昇しているとみられる。』(前回)

・・・・・・・・・・・えーっとすいません、短観で示される企業の物価見通しって横ばいか微減の項目しか無かったですし、生活意識アンケートにおける先行き物価見通しについても若干下がっていたようにしか見えないのですがどこがどう「全体として上昇している」のか具体的にどこの何が上昇しているのか小一時間問い詰めたい。

と思ったら会見で質問をした記者の方(たしかどこぞの地方ブロック紙の方で割と良い質問をする方だったと思います)がいたようで、どういう答えをするのかと思ったら案の定「BEIがここの所上昇している(キリッ)」という話をしておりまして、まあ確かにBEIってここもと戻り傾向ではあるのですが、お前らBEI下がっているときには「必ずしも参考にならない」とBEIの下げをネグっていた癖にネグったBEIの下げが戻ったら今度はその戻りを捕まえて「予想物価上昇率が上昇している例がBEIに見られる」とかオイコラテメエナメトンノカと説明が展開されているようでございましたが詳しくは本日会見要旨がでるのでそれを鑑賞しながらという事で。

なお、まあそういう質問したらBEIを持ち出してくるだろうなあ等と仲間内で雑談をしていた通りの流れになっていてもはや乾いた笑いをするしかない状態でしたなあというのもついでに付け加えておきましょう。


・先行き見通しも全文一致だが今後の物価見通しの表現がどう推移するかは注目だよ♪

『先行きのわが国経済については、緩やかな回復基調を続けていくとみられる。消費者物価の前年比は、エネルギー価格下落の影響から、当面0%程度で推移するとみられる。』(今回)
『先行きのわが国経済については、緩やかな回復基調を続けていくとみられる。消費者物価の前年比は、エネルギー価格下落の影響から、当面0%程度で推移するとみられる。』(前回)

当面というのは数か月程度の期間を意味するというのが日銀文学の通常な解釈になります(なお「暫くの間」とくると半年程度)ので、この「当面0%程度」の表現が3か月を超えて継続するという事になりますと、その後物価が上昇するという見通しを展望レポートで出している以上、展望レポートで示す物価見通しが下振れという話になりますので、4月の展望レポートはまあ良いとしましても、7月展望レポートの時点で声明文のこの部分の表現が「当面0%程度」のままであったとしますと、展望レポートで示す見通しが「想定通り」とするのが理屈の上では無理があるという話になります(なお企画屁理屈を盛大に駆使することによって話を誤魔化す可能性はオオアリクイである)。


・リスク要因と毎度の締め文書は同じ

『リスク要因としては、新興国・資源国経済の動向、欧州における債務問題の展開や低インフレ長期化のリスク、米国経済の回復ペースなどが挙げられる。』(今回)
『リスク要因としては、新興国・資源国経済の動向、欧州における債務問題の展開や低インフレ長期化のリスク、米国経済の回復ペースなどが挙げられる。』(前回)

ああそうですか。良く考えたら原油価格の低迷が長期化してアクチュアルの物価が中々上がらないことって全然リスク認識しないのに昨年10月突如追加緩和して、その後も声明文でのリスク認識に入れていないんですねえ良くわからんですなあ。

『「量的・質的金融緩和」は所期の効果を発揮しており、日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「量的・質的金融緩和」を継続する。その際、経済・物価情勢について上下双方向のリスク要因を点検し、必要な調整を行う(注2)。』(今回)

『「量的・質的金融緩和」は所期の効果を発揮しており、日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「量的・質的金融緩和」を継続する。その際、経済・物価情勢について上下双方向のリスク要因を点検し、必要な調整を行う(注3)。』(前回)

ねえねえ物価がゼロに戻っているのに「所期の効果を発揮」ってどういう事なの教えて教えて!!!!!


○まあしかし「今更下げるわけには行かない」というのも分かりますけどねえ・・・・・・・・・・・

とまあそういうことで、今回の決定会合声明文については足元で出てくる経済指標が強いならともかく、特段強くもない(悲観する程でもないけど実質賃金とかは残念としか申し上げようがない)訳で、回復というよりは横ばい的な感じに思えるのですけれども(大体からしてこのままだと1−3のGDPとかダメダメでしょ)、判断を全然変えないというのはまあ見た瞬間にナメトンノカという感じではあります。

・・・・・・・・・・・とは申しましても、物価がゼロ%で推移という状況を勘案しますと「景気判断下げ」というのはそのまま「では追加緩和」という事に直接的につながってしまう訳でして(これが物価が1%台前半程度にでもいるなら大丈夫なのだが)、景気判断を下げたらそらもう追加緩和しろよおうはあくしろよという話になりますので、つまり今の物価水準の中で景気判断というのは追加緩和をしないのであれば下げるわけには行かないという状態な訳ですよ。

つーことでアタクシが勝手に妄想を逞しく致しますと(^^)、今回の決定会合声明文で出ている景気判断文言というのは「追加緩和を現時点でやりたくない」という政策運営に関する意図というか希望というか願望が先にあって、その政策運営に関する考えがあるからそれに景気判断を後付で加えると、さすがに景気判断をここで上げる訳にも逝かないので全文一致というのを落とし所にしましたというような「政策判断が先にあって景気判断が後付」コースになっているのではないかというような妄想が力強く湧き起ってくるのですが、きっとそれはアタクシの妄想によるものであって事実は景気判断が先にあって現状維持になったんですよね!!!!!!!!(白目)


まあ何ですな、政策先にありきで判断がどうのこうのという話になってきますと、まさに大本営発表キタコレという風情ではあるのですがさてどうなんでしょうねえ。


○木内さんの新提案の部分が一部端折られているので良くわからない件について

しかしまあ何ですな、決定会合の結果が出るのがやや長引いたという感じでして、昨日は皆さん正座で待機しながら待ちくたびれて足がしびれたのではないかと思うのですが、「追加緩和デルー」というのはギャグとしましても、「原田さんがオモシロ提案をしたのではないか」とか「ここで目立ちたがりー(で中身は無い)白井さんが意味不明提案をしたのではないか」とか雑談が飛び交っておりましたが、どうも木内さんの提案が大演説モードだったのという所だったのではないかと思われますな、うんうん。


ということで脚注を鑑賞。

『(注1)賛成:黒田委員、岩田委員、中曽委員、森本委員、白井委員、石田委員、佐藤委員、原田委員。反対:木内委員。なお、木内委員より、マネタリーベースおよび長期国債保有残高が、年間約45 兆円に相当するペースで増加するよう金融市場調節および資産買入れを行うなどの議案が提出され、反対多数で否決された。』(今回)

でまあこの部分の「など」に関して何が何だか開示されていないのが困るというのと、そもそもこの提案の背景説明が記載されていないので何をどう意図して提案したのかが分からないというのがヒジョーに困るお話(なお議事要旨が出たら議案の内容と背景説明が記載されていると思います)ではあります。

という文句はさておきまして、書かれている方の木内さん提案を解釈すると、前段の部分はこういう話になるんですかねえという解釈をつらつらと。

「マネタリーベースおよび長期国債保有残高が、年間約45 兆円に相当するペースで増加するよう金融市場調節および資産買入れを行う」という提案ですけれども、従来木内さんが提案していたのが『反対した委員は、「『量的・質的金融緩和』の拡大」(2014 年10 月31 日決定)前の金融市場調節方針が適当であるとした。』となっていまして、それって「MB年間60-70兆円、長期国債残高50兆円」の拡大でしたので、今回の提案はまあTaperingという話でしょうなあというのは理解できます。

でまあ何だその45兆円というのはというのですが、前の意見が「国債50兆円拡大」だったので、それを5兆円減額して、そこから5兆円ずつペースを落としていくのを前提にしていくという話ではあるのでしょうが、MBについては60-70から45になるので結構な削減ではあってうーむそれ現実的な提案なのかというのは微妙にもにょりますな。

それから「2年程度の集中対応期間」というのが終わったのでそれに関する表現がなくなっているのは当然でして、今回その「集中対応期間が終了した結果としての見直し」を行った結果が上記の提案と次の注2にある提案となるのでしょうが、声明文での表現ですと「見直しの結果としてこういう見立てになったからこの提案になった」が記載されていないので何が何やらというのが困ったもんではあります。

あと、これがまた謎なのは上記の所にある「など」という奴でして、「など」という位ですから他の提案があった筈で、何でその提案を声明文の中で説明されないのかが意味不明にも程がある部分で、ここは「????」が飛び交う話なので勘弁して頂きたいのですが、「など」で済ませる位だからMB拡大ペースに関するほかの表現が入っているという事で、ETF、J−REIT、社債、CPに関する保有残高をどうするのかというMB拡大の内訳に関する部分なのかとは思ったのですけれども、何が何やら分からんのはマジで困るので整理するなり端折るなりでも良いのですがなんか示唆して欲しいものではあります。ついでに言うと、こちらの部分だけ「反対多数で否決された」とあって、賛否の人のリストが出てこないのも謎にも程があるのですけれども何なんですかこれ??????


・・・・・・・・とまあ頭に????のチョウチョを飛ばしながらも気を取り直して後半を読む。

『(注2)木内委員より、2%の「物価安定の目標」の実現は中長期的に目指すとしたうえで、2つの「柱」に基づく柔軟な政策運営のもとで、資産買入れ策と実質的なゼロ金利政策をそれぞれ適切と考えられる時点まで継続するとの議案が提出され、反対多数で否決された(賛成:木内委員、反対:黒田委員、岩田委員、中曽委員、森本委員、白井委員、石田委員、佐藤委員、原田委員)。』(今回)

「2%の「物価安定の目標」の実現は中長期的に目指す」というのはいつもの話ですが、「2つの「柱」に基づく柔軟な政策運営」とはこれまたキター(・∀・)という所でございまして中々胸が熱くなりますけれども、その2つ目の柱に関しての木内さんの見解とそれに対する反対見解を議事要旨の方ではより詳しく見せて頂きたいものではあります。

で、「資産買入れ策と実質的なゼロ金利政策をそれぞれ適切と考えられる時点まで継続する」という話もありまして、さっきのTaperingらしき提案と含めますと、2%を中長期的に目指すという枠組みにするために、今の短期決戦でしか継続できない金融政策の枠組みではなく、長期的に買入を維持できる枠組みにしろ、という提案だと思うとまあそうかなとも思えるのですが、Taperingの先にMB目標からの政策枠組み変更まで展望しているとなるとまた話が変わってくるので、木内さんがどこまでを想定してこの提案をしたのかというのもちょっと気になるところではあります。

つまり、将来的にMB目標を放棄して別のフレームワークを入れるとなると、そもそもの市場価格形成の前提が大きく変わるので、そらもう色々とオモシロ事態になってしまいますが、単に買入のペースを落とすけどMBは維持というのとはだいぶ話が違う(まあ買入ペースを大きく落とされても市場価格形成の前提が変わりますが)ので、結局どの辺までを見ているのかも議事要旨で書いてあれば(そもそもそこまでの話をしていない気がするが)なお結構という事ですな、うんうん。


話はちょっとそれますけれども、昨今よく何とかストの方々が「ECBがマイナス金利で回っているみたいなので日本でもできるのでは」的な話をして付利の話をしてくるケースが増え気味ではあるのですけれども、そもそも論としてその金利部分以外の短期金融市場の市場構造の問題というのがあって、米国や日本の場合ってそう簡単にノミナルの短期市場金利をマイナスで長期間維持することが難しいというのがある(米国も一時マイナス金利回避の為に短期の財務省証券のようなものを追加で出したりしていましたよね)のでありまして、その部分に対する認識を踏まえた上で短期金融市場を維持しながら長期金利を下げる方策について話をしている何とかストというのを残念ながらついぞお見かけしたことが無いのが残念というかおまいらそれでも何とかストかと小一時間問い詰めたい次第ですな。


○そういえばジンバブエ師匠は予想通りの置物でしたな(最後にメモ)

リフレ派の積極緩和派として審議委員にノミネートされたという話は何だったのか・・・・・・・・・・・・

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2015/04/07

○今更にも程がありますが3月金融経済月報(ネタにするの忘れてた)

超今更で申し訳ありませんが。

http://www.boj.or.jp/mopo/gp_2015/gp1503.pdf(3月)
http://www.boj.or.jp/mopo/gp_2015/gp1502.pdf(2月)

・景気の現状判断は声明文通りで全文一致

『わが国の景気は、緩やかな回復基調を続けている。』(3月)
『わが国の景気は、緩やかな回復基調を続けている。』(2月)

ということで念のため確認な。

『海外経済は、一部になお緩慢さを残しつつも、先進国を中心に回復している。そうしたもとで、輸出は持ち直している。』(3月)
『海外経済は、一部になお緩慢さを残しつつも、先進国を中心に回復している。そうしたもとで、輸出は持ち直している。』(2月)

うむ。

『設備投資は、企業収益が改善するなかで、緩やかな増加基調にある。公共投資は高水準で横ばい圏内の動きとなっている。個人消費は、一部で改善の動きに鈍さがみられるものの、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、全体としては底堅く推移している。住宅投資は、駆け込み需要の反動減が続いてきたが、足もとでは下げ止まりつつある。以上の内外需要のもとで、在庫調整の進捗もあって、鉱工業生産は持ち直している。』(3月)

『設備投資は、企業収益が改善するなかで、緩やかな増加基調にある。公共投資は高水準で横ばい圏内の動きとなっている。個人消費は、一部で改善の動きに鈍さがみられるものの、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、全体としては底堅く推移している。住宅投資は、駆け込み需要の反動減が続いてきたが、足もとでは下げ止まりつつある。以上の内外需要のもとで、在庫調整の進捗もあって、鉱工業生産は持ち直している。』(2月)

どう見ても全文一致です本当にありがとうございました。


・先行き見通し

『先行きについても、景気は緩やかな回復基調を続けていくとみられる。』(3月)
『先行きについても、景気は緩やかな回復基調を続けていくとみられる。』(2月)

という所までは声明文にありましたが、需要項目別の部分は月報で確認なのだ。

『輸出は、海外経済の回復などを背景に、緩やかに増加していくと考えられる。』(3月)
『輸出は、海外経済の回復などを背景に、緩やかに増加していくと考えられる。』(2月)

輸出は同じと。

『国内需要については、公共投資は、高めの水準を維持しつつも、緩やかな減少傾向に転じていくとみられる。設備投資は、企業収益が改善傾向をたどるなかで、緩やかな増加基調を続けると予想される。』(3月)『
『国内需要については、公共投資は、高めの水準を維持しつつも、緩やかな減少傾向に転じていくとみられる。設備投資は、企業収益が改善傾向をたどるなかで、緩やかな増加基調を続けると予想される。』(2月)

投資は同じと。

『個人消費は、雇用・所得環境の着実な改善が続くもとで、引き続き底堅く推移するとみられる。住宅投資は、次第に底堅さを取り戻していくと予想される。以上の内外需要を反映して、鉱工業生産は、緩やかに増加していくと考えられる。』(3月)
『個人消費は、雇用・所得環境の着実な改善が続くもとで、引き続き底堅く推移するとみられる。住宅投資は、次第に底堅さを取り戻していくと予想される。以上の内外需要を反映して、鉱工業生産は、緩やかに増加していくと考えられる。』(2月)

・・・・・・・・・お、おう。

つーことで先行き見通しも全文一致なのでした。


・リスク要因と金融環境も同じだな

『この間、リスク要因としては、新興国・資源国経済の動向、欧州における債務問題の展開や低インフレ長期化のリスク、米国経済の回復ペースなどが挙げられる。』(3月)
『この間、リスク要因としては、新興国・資源国経済の動向、欧州における債務問題の展開や低インフレ長期化のリスク、米国経済の回復ペースなどが挙げられる。』(2月)

『わが国の金融環境は、緩和した状態にある。』(3月)
『わが国の金融環境は、緩和した状態にある。』(2月)

金融環境の項目別展開の所はスルーしますが、今引用する中で飛ばした部分が物価でして・・・・・・・


・物価に関して

『物価の現状について、消費税率引き上げの直接的な影響を除いたベースでみると、国内企業物価は、これまでの国際商品市況の大幅な下落を反映して、3か月前比で下落している。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、0%台前半となっている。予想物価上昇率は、やや長い目でみれば、全体として上昇しているとみられる。』(3月)

『物価の現状について、消費税率引き上げの直接的な影響を除いたベースでみると、国内企業物価は、国際商品市況の大幅な下落を反映して、3か月前比で下落している。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、0%台半ばとなっている。予想物価上昇率は、やや長い目でみれば、全体として上昇しているとみられる。』(2月)

現状認識に関しては「0%台前半」でしたがその後堂々のゼロになったのはご案内の通り。


『物価の先行きについて、消費税率引き上げの直接的な影響を除いたベースでみると、国内企業物価は、国際商品市況の動きを反映して、当面下落幅を縮小していくとみられる。消費者物価の前年比は、エネルギー価格下落の影響から、当面0%程度で推移するとみられる。』(3月)

『物価の先行きについて、消費税率引き上げの直接的な影響を除いたベースでみると、国内企業物価は、国際商品市況の動きを反映して、当面下落を続けるとみられる。消費者物価の前年比は、エネルギー価格の下落を反映して、当面プラス幅を縮小するとみられる。』(2月)

ということで、これも声明文通りですが、消費者物価指数について「0%程度」とマイナスを含んだ見通しを出しましたので、マイナスになったから即追加緩和ではないというお話であるとともに、国内企業物価に関しては「下落幅を縮小」と少しだけ判断を強くしている(実はそれ声明文でも言及されていますがスルーしていました)という内容。


・物価に関しての本文の記述を読む

ということでCPIに関する本文の説明部分を珍しく鑑賞してみましょう(比較はめんどいのでしません)。本文14ページ(PDFの16ページ)からの記述をば。

『消費者物価(除く生鮮食品、以下同じ)の前年比は、消費税率引き上げの直接的な影響を除いたベースでみて、0%台前半となっている(図表28(1))。1月の前年比を消費税率引き上げの直接的な影響を除いたベースでみると、除く生鮮食品は+0.2%と、昨年12 月の+0.5%からプラス幅を縮小した。除く食料・エネルギーについては、1月は+0.4%と11 月、12 月と同じプラス幅となった。』

さいですな。

『基調的な変動を捉えるひとつの方法として、刈込平均値の前年比をみると(図表29(2))8、プラス幅は6月をピークに縮小傾向にあったが、1月は12月からわずかに改善している。』

8 刈込平均値とは、大きな相対価格変動を除去するために、品目別価格変動分布の両端の一定割合を機械的に控除した値。

・・・・・・・・ということで刈込平均を見ているのは実際は毎度の話なのですが、2月月報ではこの刈込平均に関してもプラス幅が縮小していた(上記のとおり)という記述になっていましたが、1月は改善しているというのがありまして、「基調ガー」の話の一つの根拠になっておりますな、うんうん。(確か直近でも刈込は無事だった記憶が)

『最近の消費者物価の前年比をみると、財(除く農水畜産物)は、昨年夏場からプラス幅の縮小傾向を続け、1月は2013 年6月以来のマイナスに転じている。』

あちゃー。

『内訳をみると、石油製品は、原油価格の下落を反映して、夏場から前年比プラス幅の縮小を続け、11 月にマイナスに転じて以降、下落幅の拡大を続けている。食料工業製品は、既往のコスト高の転嫁を背景に強めの動きを続けてきたが、個人消費の一部に鈍さがみられるもとで、ひと頃に比べてプラス幅が若干縮小している。耐久消費財も、消費税率引き上げ後の個人消費動向の影響や前年の上昇の反動から、エアコン等を中心に足もとではマイナスとなっている。被服は、秋以降、弱めの動きを続けてきたが、1月はプラス幅を幾分拡大した。この間、農水畜産物(除く生鮮食品)は、肉類が押し上げに作用しているものの、米類の下落を反映して、全体のプラス幅はわずかながら縮小傾向にある。』

うむ。

『一般サービスについては、6月以降は前年比で概ね横ばいで推移している。内訳をみると、宿泊料が振れを伴いつつもプラス基調で推移しているほか、住居工事関連などの各種サービス価格は、賃金の上昇を反映してプラス幅を緩やかに拡大している。外食も、1月は一部の値上げの影響もあって、プラス幅を幾分拡大している。もっとも、6月以降の携帯電話通信料の新料金導入や、昨年春の外食の一部における値下げなどが、前年比の下押しに作用している。外国パック旅行も、月々の振れが大きいが、為替相場動向に伴う海外旅行の弱さの影響もあって、このところプラス幅が縮小傾向にある。この間、ウエイトの大きい家賃は、やや長い目でみれば、前年比のマイナス幅がごく緩やかながら縮小傾向にある。公共料金については、原油価格の下落を背景としたエネルギー関連の動きを反映して、基調としてプラス幅が縮小傾向にあるが、足もとでは、電気代が前年の反動や一部電力会社の再値上げの影響から前年比上昇率を高めており、全体でもわずかに伸びが高まっている。』

とまあそういうことで、毎度指摘されることではあるのですが、財の価格がまるっきり上がらないのと、帰属家賃がアガランチ会長(マイナスを縮小という記述はあるが)というのがどうにも。

なお、先行きと予想物価上昇率に関する記述はあっさり味。

『物価の先行きについて、消費税率引き上げの直接的な影響を除いたベースでみると、国内企業物価は、国際商品市況の動きを反映して、当面下落幅を縮小していくとみられる。消費者物価の前年比は、エネルギー価格下落の影響から、当面0%程度で推移するとみられる。この間、予想物価上昇率は、やや長い目でみれば、全体として上昇しているとみられる(図表30)。』


・・・・・・・という訳でせっかく虫干し企画なので物価の記述部分もみてみましたです、はい。

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2015/04/03

○短観企業物価アンケートはこらまたパッとしませんなあと思うが無理やりポジティブ解釈をしてみる

ほいな
http://www.boj.or.jp/statistics/tk/bukka/2014/tkc1503.pdf
短観(「企業の物価見通し」の概要)―2015年3月―

前半の『1.販売価格の見通し(現在の水準と比較した変化率)』ですけれども、全体を見ると要するに横ばいジャンという所ですが、これを見て、

「3年後や5年後の非製造業(大企業だけだけどな)の販売価格判断が強気化」
→「より労働集約度の高い非製造業の販売価格判断が強気化」
→「やはり労働市場がタイト化しており、賃金の上昇や需給ギャップの改善が大いに期待できる」
→日銀大勝利待ったなし!!!!

と超ポジティブに解釈するのが達人クオリティというものでして(え?)、来週のMPMで質問をしてもそういう流れでの説明になるんだろうなあというのは把握した。


後半の『2.物価全般の見通し(前年比)』ですが、こちらはどこのセクターを見ましても横ばいないしは前回より微減しておりまして、『予想物価上昇率は、やや長い目でみれば、全体として上昇しているとみられる。』(毎度の日銀の説明)とは何なのかという所ですが、まあそこは誤差範囲内ですよウヘヘヘヘという話をするんでしょうな。



○生活意識アンケートは「そもそも物価上昇目標とは何なのか」という問いを投げているように見えますが・・・・・・

http://www.boj.or.jp/research/o_survey/ishiki1504.pdf
「生活意識に関するアンケート調査」(第61回)の結果
―― 2015年3月調査 ――

・物価の現状認識と見通しに関しては日銀的にはちと微妙にアレ程度ではあるのですが・・・・・・・・・

本文12ページの『1-3. 物価に対する実感』以降ですが・・・・・・・・・・

『現在の物価(注1)に対する実感(1年前対比)は、『上がった』(注2)との回答が増加した。また、1年前に比べ、物価は何%程度変化したかについて、具体的な数値による回答を求めたところ、平均値は+5.6%(前回:+5.3%)、中央値は+5.0%(前回:+5.0%)となった。』

『1年後の物価については、『上がる』(注)との回答が増加した。また、1年後の物価は現在と比べ何%程度変化すると思うかについて、具体的な数値による回答を求めたところ、平均値は+4.8%(前回:+4.8%)、中央値は+3.0%(前回:+3.0%)となった。』

『5年後の物価(注1)については、『上がる』(注2)との回答が減少した。また、これから5年間で物価は現在と比べ毎年、平均何%程度変化すると思うかについて、具体的な数値による回答を求めたところ、平均値は+4.0%(前回:+4.0%)、中央値は+2.5%(前回:+2.0%)となった。』

ということで、5年後の物価について「上がる」の回答が減少していまして、中央値は上がっているものの、全サンプルの単純平均は+4.2→+4.1となっていまして、やや長いインフレ期待が微妙とはいえ下がっているのをどう解釈するのかがアレでございますな。


・景況感も前回悪化したのが回復しているのですよね

2ページに戻って『1-1. 景況感等』である。

『景況感のうち、現在(1年前対比)については、「良くなった」との回答が増加し、「悪くなった」との回答が減少したことから、景況感D.I.は改善した。先行き(1年後)については、「良くなる」との回答が増加し、「悪くなる」との回答が減少したことから、景況感D.I.は改善した。なお、現在の景気水準については、「良い」、「どちらかと言えば、良い」との回答の合計が増加した一方、「どちらかと言えば、悪い」、「悪い」との回答の合計が減少した。』

ほうほう日銀的には悪くないですな、という所ですが、その次の『1-2. 暮らし向き、消費意識』の回答が非常にマズーなのだがどう見ても体感的にそうだろうなあと思うのですよね〜orzorz


・物価2%上昇しても一般ピープルはションボリーヌということではないかと

5ページからの『1-2. 暮らし向き、消費意識』以降がまあそうだろうなあと生活実感的に違和感ないお答えが続くのである。

『現在の暮らし向き(1年前対比)については、「ゆとりがなくなってきた」との回答が減少したことから、暮らし向きD.I.は改善した。』

と、最初は良いのですが、まあ絶対水準自体は「ゆとりが出てきた」2回前の調査時点の水準よりも低いままですし、ゆとりがない方は相変わらずの多さ(これ自体はいつも多いのでまあある程度仕方ないところではあるが)ので若干もにょる。

『収入の増減については、実績(1年前対比)は、「増えた」との回答が増加し、「減った」との回答が減少したことから、現在の収入D.I.はマイナス幅を縮小した。先行き(1年後)は、「増える」との回答が増加し、「減る」との回答が減少したことから1年後の収入D.I.はマイナス幅を縮小した。』

・・・・・・とあるのですけれども、 これまた「増えた」だの「増える」というのが10.2%だの8.7%だのという残念な水準で、「減った」というのが減っているのが救いなのですけれども、「賃上げの花が舞い散る春の風」とは何だったのかと小一時間問い詰めたい結果。


でまあこの先が徐々に衝撃の大きめな結果になってくるんですけどね。

『支出の増減については、実績(1年前対比)は、「増えた」との回答が減少し、「減った」との回答が増加したことから、現在の支出D.I.はプラス幅を縮小した。1年後の支出D.I.は「減らす」との回答が増加したことから、マイナス幅を拡大した。』

(;∀;)イイハナシダナー

いやまあ全然イイハナシダナーではないのですが、これがまたアレなのは12月調査時点では「増えた」というのが43.6%→47.1%になっていたのが、今回43.7%に落ちているという事実でして、これって要するに「3月とかは消費増税駆け込みで色々と先回りできるものを先回りした」→「その後しばらくは外税の関係もあったのと、3月に使ったのがあったからイマイチ良くわからん状態」→「1年近く経過してみると金が全然増えていない(とか減ってるとか)じゃんどういう事や!!!!」となって改めてマズーという事に気が付く、というような感じのタイムラグを持って物価上昇とか消費増税とかが消費に効いているちゅう事ではないかと勝手に妄想してみた。

というか「予想物価上昇率が上がると消費が喚起されて需要が高まる」という置物リフレ理論とは何だったのかと小一時間問い詰めたい。


さらにあばばばばーなのはこの次の項目。

『1年後を見た勤労者(注)の勤め先での雇用・処遇の不安については、「かなり感じる」との回答が増加したことから、雇用環境D.I.は悪化した。』

どう見てもマインド悪化中です本当にありがとうございましたな訳で、本当の本当に全体が上がるような話にならんとどう見てもこれ(今は消費増税の所で誤魔化されているのと原油価格下落のプラスがあるからいいけど)物価上昇目標達成が視野に入るような頃には消費者の怨嗟が日銀に向かってくるような流れになるんじゃないの大丈夫ですか日本銀行という所なんですけどねえ・・・・・・・・・・・・・


で、味わいがあるのは『1-2-4. 消費税率引上げの影響等』だが。

『消費税率引上げ後に「支出を控えた」、「支出をやや控えた」との回答は合計で約6割となった。「支出を控えた」、「支出をやや控えた」と答えた人にその理由を伺うと、「物やサービスの値段が上がったから」との回答が8割台前半となった。また、いつ頃まで消費税率の引上げが影響したかを伺うと、「現在(冬)でもなお支出を控えている」との回答が7割台半ばとなった。(注)Q21は、今回特別に実施。』

そらそうよとしか申し上げようがなく、あたくしも生活費いやまあどうでもいいですねすいません。

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2015/04/02

○短観は市場事前予想よりもイマイチでしたが悲観する程でもないと

うむ
http://www.boj.or.jp/statistics/tk/gaiyo/2011/tka1503.pdf

今回は概要の1ページ目に『計表中の計数は、2015年3月調査における調査対象企業見直し後の新ベース。』とあるように、ベースの数字が12月と違っているので、前回比較は前回短観ではなく、新ベースで比較している今回短観の数値を見るのが吉、


前回から先行き予測DIが下向きになったのですが、今回も先行き予測DIが下向きとなっていて、前回は踊り場に留まるかと知れませんとか申し上げましたが、まあ踊り場が継続という感じかもしれません。

ただまあ今回については、毎度の「前回先行き予測DI達成状況」は全てにおいて達成しているので、「先行きの企業マインドは強くないけれども、実際には慎重にみているほどのコケ方はしていない」という結果ですので、まー単なる踊り場が継続中って所で。


・前回の先行き予測DIの達成状況

         (12月時点)     (3月時点)
         現状→3月予測    現状→6月予測
製造業大企業   +12→+9     +12→+10 
製造業中堅企業  +7→+1       +4→+3        
製造業中小企業  +4→▲3        +1→0

非製造業大企業   +17→+16   +19→+17
非製造業中堅企業  +10→+7    +14→+10
非製造業中小企業  +1→▲2      +3→▲1

前回の先行き予測DIは全規模で達成していて、先行き予測DIも下は向いているものの、前回12月に示された予測DIの数値よりも強くなっているということを考えますと、まあヘッドラインで「製造業大企業現状判断DIが予想より弱い」という感じで出たほどではないという所ですかね。



・雇用判断DI(ここの数値はマイナスが大きい方が雇用情勢的には良い)

        (12月時点)      (3月時点)
        現状→3月予測     現状→6月予測
製造業大企業  0→▲1       ▲2→▲2
製造業中堅企業 ▲5→▲8       ▲9→▲7
製造業中小企業 ▲9→▲9       ▲10→▲10

非製造業大企業   ▲17→▲18    ▲18→▲17
非製造業中堅企業  ▲22→▲24    ▲23→▲25
非製造業中小企業  ▲25→▲29    ▲26→▲28

雇用判断DIについては前回やや緩和気味だったのですが、今回は雇用判断の方は前回対比では強くなっておりまして、こちらって最近毎度思うのですが、業況判断の所がぱっとしないと雇用判断の方でひっ迫感が強くなり、その逆の時は逆になるというような感じ(ここ3回ほどそんな感じ)になっているのはどういうお話なんでしょうなあと思うのでありました。


・価格判断DI

昨年9月短観からしらっと投下された物件。

販売価格判断(「上昇」-「下落」)

        (12月時点)      (3月時点)
        現状→3月予測     現状→6月予測
製造業大企業  ▲4→▲4        ▲6→▲5
製造業中小企業 ▲6→▲5        ▲6→▲5

非製造業大企業  +6→+7      +7→+6
非製造業中小企業 ▲3→+0      ▲1→+1



仕入価格判断(「上昇」-「下落」)

        (12月時点)        (3月時点)
        現状→3月予測       現状→6月予測
製造業大企業  +19→+20       +11→+15
製造業中小企業 +40→+46       +33→+38

非製造業大企業  +22→+22      +18→+21
非製造業中小企業 +27→+33      +24→+34

製造業で微妙に販売価格判断DIが前回対比悪化しているように見えるのが気になりますのと、仕入れ価格判断って円安止まって原油下がった効果で前回対比大幅改善しているという図に見えるのですが、販売価格判断は悪化といってもそれほどの悪化ではなく、仕入れ価格の方が大幅改善している製造業の業況判断ってそこまで改善してないのは何でですねんと思うのですが・・・・・・・・・


・需給判断DI

同じところに需給判断DIがあって、ここの製造業を見るとですね。


国内需給判断(「需要超過」-「供給超過」なのでプラスの方が強い)

        (12月時点)        (3月時点)
        現状→3月予測       現状→6月予測
製造業大企業  ▲12→▲11       ▲12→▲12
製造業中小企業 ▲21→▲23       ▲22→▲22


海外需給判断(「需要超過」-「供給超過」なのでプラスの方が強い)

        (12月時点)        (3月時点)
        現状→3月予測       現状→6月予測
製造業大企業  ▲4→▲4         ▲7→▲4
製造業中小企業 ▲9→▲9         ▲11→▲11

数字のマイナス値がやたら多いのは慎重に答えているからだと思いますのでまあそこは割り引くとしましても、需給判断のところで特に製造業大企業に関して、先行きの予測DIが未達になっているという事で、需給がそれほど強くなく、原油価格下落などの仕入れ価格の改善が業況感の維持につながっているのではないかと思われる節がある辺りがひじょーに気になると事ではありますな。


・毎度お馴染み金融商品取引業の業況判断DI

毎度お馴染み金融商品取引業業況判断DIですが。

        (12月時点)       (3月時点)
        現状→3月予測      現状→6月予測
金融商品取引業 +52→+45   +55→+61

・・・・・・・というのがあるのですが、ここの業況判断を見ますと、金融機関の中で前回対比DIがいい感じで改善しているのが金融商品取引業、保険業、貸金業等でして、その中で先行き予測DIが更に強くなっているのが実は金融商品取引業だけで、他は先行きDIを現状より強くしていない(というか基本下げている)という辺りがどう見ても死亡フラグです本当にありがとうございました。


ということで不真面目な短観見物はこんな所で。

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