金融政策(2004年上期分)
政策内容・議事要旨・短観・展望レポート等
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2004年上期
2004/09/10「金融経済月報(2004年9月)」
2004/08/18「16日の補足」
2004/08/16「市場との対話に悩む政策委員会(決定会合議事要旨より)」
2004/08/11「8月金融経済月報(とFOMC声明文)」
2004/07/20「6月14〜15日の議事要旨」
2004/07/14「金融経済月報(2004年7月・展望レポートの中間評価を含む」)
2004/06/24「金融政策決定会合」
2004/06/16「金融経済月報(2004年6月)/その他
2004/05/27「4月9日の議事要旨」
2004/05/21「金融経済月報(2004年5月)」
2004/05/06「総裁記者会見(2004年4月28日)を読む」
2004/04/30「経済・物価情勢の展望(2004年4月)を読む」
2004/04/21「昔の表現で出ています(妙に復活しだす昔の表現)」
2004/04/20「全国支店長会議も景気回復モード」
2004/04/16「CPIターゲットとFB(3月14〜15日の決定会合議事要旨より)」
2004/04/15「日銀のマッチポンプ(2月26日の決定会合議事要旨より)」
2004/04/13「国債品貸し制度補足」
2004/04/12「金融経済月報(2004年4月)/補完的国債品貸し制度導入」
2004/04/02「日銀短観(2004年3月)」
2004/09/10
お題「金融経済月報」
昨日のドラめもんも妙にタイポしてましたし、今もお題を「月例経済月報」などと書きまして「何か変だな」と思うというのはこれはもしかして事故の後遺症なのではないかと恐れるあたくしでありました、とすぐ大袈裟な話になる訳ですが、とりあえず生きている(どうも実はあちこちぶつけていたようで、外傷が良くなってきだした昨日の朝あたりから腰だの膝だのがアレな訳ですがそれはさておき)ので一つ宜しくです。
一昨日〜昨日に実施された金融政策決定会合は当たり前のように政策変更無し。最近は「何か動いている」というアピール的なあまり意味の無さそうな施策(全然残高の増えない資産担保証券の買入だとか、あまりにも使い勝手が悪い為に一度も実施されていない国債の補完的貸出取引とか)も打たなくなりまして、誠に慶賀の念に耐えない所でございます。
で、例によって例の如く金融経済月報が出てくる訳でして、この手のものは時系列観測をするのが吉ということで観測をしてみます。何せ怪我人ですので簡単に。
http://www.boj.or.jp/seisaku/04/pb/gp0409.htm
○ある意味において驚愕の内容
時系列観測といえば当然ながらまず8月の月報と比較するのが正しいあり方なのですが、比較しながら読んでいくうちにあたしゃー「あれ、これ本当に8月分??」と思ってしまう訳でございます。ちなみに8月分はこちらですな↓
http://www.boj.or.jp/seisaku/04/pb/gp0408.htm
思いっきり前回と同じという月報(基本的見解)な所が激しく驚愕なわけです。まぁ今まではご紹介したように、毎回の如くどこかの表現が前進するという実に景気の良い(ってゆーか景気が良いから表現が前進する訳だが)状況が続いたのですが、さすがに8月のあいだ中に発表された景気指標がこれでもかこれでもかと景気減速を示唆するものであったので、判断前進をするのは無理があったという事でしょう。
違っているのは僅かに一箇所(^^)です。国内景気の現状認識に関する部分です。
(9月)『輸出、鉱工業生産は、伸びがやや鈍化しつつも増加を続けており、企業収益の改善が続くもとで、設備投資も引き続き増加している。』
(8月)『輸出、設備投資の増加が続いており、鉱工業生産も引き続き増加している。』
さすがに輸出の伸びが鈍化している事と、鉱工業生産の伸びも鈍化しているということは書かない訳には行かなかったということなのでしょうが、転んでも只では起きないとはまさにこの事といいますか、9月にはわざわざ「企業収益の改善」という文言を挿入している所が泣かせてくれます。
ちなみにこれ以外の表現は物の見事に一言一句同じだったりする訳でして、これもまた面白いところであります。
○どう解釈するか
で、この状況をどう解釈するかという事になる訳ですが、どうもその後の記者会見で、総裁に対して先日の挨拶と記者会見(ドラめもんで既に話題にしましたよね)が景気に強気なスタンスだった事に関して質疑応答があったらしく、この時は総裁は「バイアスを掛けた積りは無い」と言ったらしいという事なんぞを踏まえますと、景気に対する方向性としては依然として上向きな見方を崩しておらず、8月に出てきた経済指標は「景気腰折れ」ではなく「速度調整」と考えていると解釈するのが妥当なのかな〜と思ってしまったりするわけです。
一応「伸びが鈍化しつつも」と(現実がそうだから)表記しながらも、全然見方が変わっていないということは、根本的には景気回復の方向に対する見方に変化は無いということなのでしょう。債券市場は何となく8月以降の経済指標に降参(今日のGDP2次速報が注目なのかな?)している雰囲気ですが、日銀いまだ降参せずといった所でしょうな。まぁ1ヶ月くらいの数字で一々反応されても困りますがね(^^)。
○またも記者会見に注目ですか
一応記者会見の一問一答に関しては情報ベンダーなどでも見る事ができるのですが、あたくしとしては公式発表とも言える(微妙な書き方をしますが、実はWebに載せている物が「公式発表」なのかどうか存じませんもので・・・・)日銀Webのアップを待ちたいと思います。
どうも福井総裁様に置かれましては、記者会見の席上では特に、色々な表現を駆使する傾向があるようでして、最近の珠玉の発言と致しましては7月の金融政策決定会合後(13日)に行なわれた記者会見でのこんな質問に対するお答えです。
『(問)先程、何としてでもデフレ克服が必要だとおっしゃっていたが、景気の実態は非常に良いし、短観も非常に良い数字が出ている。デフレと言ってもCPI変化率はマイナス0.1%程度の状況で推移しているのだが、「デフレを克服しなければならない」とそこまで強く言うほどの問題を抱えているとお考えか。』
『(答)その甘いささやきには決して乗らない。やはり、将来のことを深く考えると、物価がマイナスに陥って国民の皆様が苦しい状況を再度経験しなければならないという不幸な状況をもう見たくないという気持ちが非常に強い。(途中省略)将来再びデフレに陥って、せっかく出始めた新しい展望を根こそぎ摘み取ってしまうようなことにならないように、多少の賭けをすることはお許しいただきたいし、我々は甘いささやきにはそれまでは応えない。こういう姿勢で臨みたいということである。』
別に「現在の政策目標はデフレ脱却であり、日銀としては量的緩和のコミットメントに従って淡々と現在の政策を継続していく」とでもあっさり答えれば良いような気もするのですが、この大先生様におかれましては、日銀総裁としての公式発言の中についつい個人的な心情を交えてしまうという傾向があるのではないかと、このような発言を見るにつけ思うのであります。
まぁ人間としてはついつい心情を吐露してしまうって所に大変好感するのでありますが、市場との対話という意味では如何なものかと思う所ではあります。どうも「公式見解」と「個人的心情」の間にギャップがあるように見受けられまして、このギャップが発言に現れると、どこぞの経済新聞あたりが個人的心情の部分を増幅してしまい、ついつい売り推奨的記事を書いてみたり買い推奨記事を書いてみたりして、それを見た偉い人がまた反応するって動きになるのではないかと思う訳ですな。
てな訳で、折角ドラめもんのネタにしようと張り切っていた金融経済月報が物の見事に前月と同じな為に話が妙な方向に展開してしまいました(^^)。
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2004/08/18
○読者様からのご指摘で気が付いた「市場との対話」
先日公開された7月12〜13日の日銀金融政策決定会合の議事要旨をご紹介しましたが、その中で何気に通過してしまいましたが、ちょっと面白い記述がありましたので再掲(^^)。
市場との対話に関しての部分で、FRBの市場との対話に関連する議論の部分であります。
『このうちひとりの委員は、経済情勢の変化に応じて市場が変動することは当然であり、今回も利上げ前の段階では、経済統計の公表の際に相応の金利の変動がみられた、と述べたうえで、情報発信の前提には、正確な情勢判断があり、日本銀行としても、今後の金融政策運営に当たっては、物価情勢を含めた経済情勢全般について正確な情勢判断を行うとともに、それに基づく適切な情報発信を心がけていきたい、と付け加えた。』
さらっとスルーしておりまして、ご指摘されて初めて気が付いたのですが、この委員って「日本銀行としても・・・・・・心がけていきたい」って発言している訳なんですね。と言うことはこの意見を言った委員は日銀総裁としか考えられない訳でして(^^)、年がら年中不適切な形容詞あるいは強調文句を連発(不適切というのは誤解を招きやすいという意味ですよ)するわ、どこぞの新聞社には講演で話した事を思いっきり発言の趣旨を取り違えて報道されるわというカリスマ大総裁様のご発言にしては随分と殊勝なお言葉。
と言うことで、最近の記者会見要旨なんかを見てても伝わっては来るのですが、日銀総裁様に置かれましてはご自身のお考えになっている事がメディアやら市場関係者やらなどに誤解されて伝わって、それがまた余計な相場撹乱要因になっているというご認識が大有りなのではないかと。イライラするのは判りますが、それなら余計な形容詞や強調文句を発言に混ぜないというのを励行していただきたいものです。
まぁ報道する方も報道する方でして、殊更特定のどこか叩く訳ではないですが(嘘)金融政策に絡む報道を見ておりますと、特に某経済新聞の報道っぷりが酷い訳でして、勝手に「景気回復で金利上昇キャンペーン」をおっぱじめてみたり、一部の審議委員(とどこぞのストラテジスト)が勝手に盛り上がっていただけの「量的緩和政策の強化」が既定路線であるかのように報道して(先日のドラめもんでご紹介したように、その議論は6月の決定会合で思いっきり否定されてましたが)みたりと、もう暴れ馬状態で困ったものであります。
ご指摘いただきました読者様のお言葉を拝借致しますと、「市場との対話」と言うよりは「(伏字^^)新聞との対話」をちゃんとやった方が良いのではないかと言う事のようですな。困った現状であります(-_-メ)。
ではでは(^^)/~~
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2004/08/16
お題「市場との対話にお悩みですな」
先週末はNY株安に日本のGDPのせいで激しい相場をやっていただきまして、大変に多忙を極める動きでありました。で、あまりにも動きが激しかったので、金融政策決定会合議事要旨が発表されたのも相手にされませんでしたな。まぁ発表された決定会合議事要旨の時期から債券市場が上昇しているのでそもそも注目材料にしにくいって事もありそうですが。
6月25日開催分
http://www.boj.or.jp/seisaku/pb/g040625.htm
7月12〜13日開催分
http://www.boj.or.jp/seisaku/pb/g040713.htm
○当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要
議事要旨の最後の方に毎回あるこのコーナーなのですが、市場が日銀の考えていることを勝手に解釈して暴走する傾向にある事が懸念材料のようでして、債券相場が下落しだすと「市場との対話」ネタがより多くなる訳です。で、6月25日にはこんな話をしておったようです。
『長期金利の上昇に関連して、委員は、経済金融情勢が変化しつつある状況であるだけに、金融政策運営に関する情報発信が特に重要である、との認識を共有した。』
『具体的には、(1)これまで通り、消費者物価指数に基づく現在の「約束」にしたがって量的緩和政策を継続していくことを必要に応じて説明するとともに、(2)経済金融情勢について、市場の見方を十分理解したうえで、日本銀行の判断をできるだけ正確に伝えることにより、市場と認識の共有を図ることが重要である、という点につき、意見の一致をみた。』
日本銀行の判断をできるだけ正確に伝えるってのは大事だと思うのですが、何でそのあと市場と「認識の共有」をするって話になるのかがよ〜分らん所であります。市場なんてぇのははっきり申し上げて何時も間違えているものですて、んな市場相手に「認識の共有」などという妙に妥協的な努力はせんでよろし。「日銀の判断を正確に伝える」だけで良いと思います。
『何人かの委員は、こうした対応は、量的緩和政策の解除に関する無用の憶測を避けるうえで有効である、との見方を示した。』
もしかして6月の相場下落は「無用の憶測」だったのでしょうか(^^)。
で、悩める政策委員会は7月にも似たようなお話をしております。
『この間、何人かの委員は、FRBの利上げに際しての市場との対話について言及した。これらの委員は、FRBの政策運営についての考え方は市場に広く浸透していたため、市場では今回の利上げについて総じて落ち着いた受け止め方をしている、と述べた。また、こうした背景には、FRBが実際の利上げよりも相当前の段階からFOMCのステートメントや講演を通じて丹念に情報発信をしてきたことが挙げられる、と続けた。』
まぁそうですな。あたくし思いまするに、FRBの情報発信が上手く機能している(ように見える)のは、FRBから出てくる情報発信のやり方が、常にFRBのペースで行なわれていると言う事も要因として挙げられるのではないかと。日本の場合は個人的な意見をいきなり表明する審議委員(例えば中原審議委員の2段階解除論とか、岩田副総裁のインフレ参照値とか)があると思えば(政策委員会として一定の意図があって敢えてこれらの審議委員に観測気球を上げさせたのならある意味立派な作戦だが)、国会に年がら年中呼び出されて誤解を招きやすい不規則発言(いちいち挙げるまでもなし)をしてしまう総裁がありと言うわけで、とても「政策委員会ペースでの情報発信」ができているとは思えないわけですな。
『このうちひとりの委員は、経済情勢の変化に応じて市場が変動することは当然であり、今回も利上げ前の段階では、経済統計の公表の際に相応の金利の変動がみられた、と述べたうえで、情報発信の前提には、正確な情勢判断があり、日本銀行としても、今後の金融政策運営に当たっては、物価情勢を含めた経済情勢全般について正確な情勢判断を行うとともに、それに基づく適切な情報発信を心がけていきたい、と付け加えた。』
「市場との対話」が「市場との認識の共有(6月の議事要旨)」とかいう話になって「どうやって情報を発信するか」とかいう技術的な方向に話が向っても仕方が無いという訳でして、要はこの意見にあるように、「情報発信の前提には、正確な情勢判断があり」って事ですな。誠に同感であります。この意見を言っている審議委員がどなたか存じませんが、わざわざこういう風に書かれるって事は、会議中に話が情報発信に関る枝葉末節に話が流れた為に「おまえらそれよりも根源的にやる事があるだろう」という意見表明に至ったのではないかと、勝手に想像を逞しくするあたくしでありました(^^)。
○展望リポート中間評価に関して
7月12〜13日の決定会合では金融経済月報の中にいわゆる「展望リポートの中間評価」が含まれていましたので、その中間評価に関しても意見が出されていたようです。
『何人かの委員は、今回の「中間評価」に関連し、対外的な説明の重要性について指摘した。これらの委員は、「景気は上振れ」、「消費者物価は概ね見通しどおり」という今回の判断はやや分かりにくい面があり、日本銀行が消費者物価を基準に量的緩和の継続を「約束」していることも考え合わせると、そう判断している背景について、日本銀行としての考え方を対外的に丁寧に説明していくことが重要である、と述べた。』
(こんな場所で苦言を呈しても仕方無いですが)日銀に苦言を呈するとなりますと、市場が時に「もうすぐにでも量的緩和解除がある」と言わんばかりの勢いで暴走してみたり、その逆をやってみたりするのは、究極的には、上記の「景気は上振れ」なのに「消費者物価は概ね見通しどおり」という分ったような分らんような日銀のスタンスが無用の混乱の原因の一つではなかろうかと思う訳ですな。2段階解除論がどうのこうのとか、インフレ参照値がどうのこうのとかいう話をする前に、こちらについての明解なる解説をお願いしたいものです。
○量的緩和政策強化(?)に関る議論
6月の会合では量的緩和政策強化に関する話も行なわれたようです。
『この間、ある委員は、市場における期待の安定化を図るためには、昨年10月に示した「約束」の内容のうち、「消費者物価が先行き再び下落しないと見込まれる」との部分につき、「ゼロ%を超える」という基準をさらに具体的に表現するため、より高めの数値を示すことを検討すべきではないかと発言した。』
多分岩田副総裁。もしかしたら中原審議委員。この施策が市場における期待の安定化に資するかという話は散々ドラめもんで罵倒しましたので省略。
『別のひとりの委員も、その趣旨に同調したうえで、現行の「約束」の強化を意図するものではない、と付け加えた。』
ここまでくると屁理屈状態ですが、多分こっちが中原さんでしょうな。で、当然ながら反論食らう訳でして(^^)、
『これに対し、別のある委員は、先行きの経済・物価動向には不確実性が伴うことから、このような対応は政策運営の機動性を損なうリスクが大きい、と述べた。また、別の委員は、「約束」の内容を強化すれば、かえって市場が不安定化するおそれがあるほか、政策に対する信認の低下にもつながりかねない、と主張した。』
この話はここで終了しておりまして、7月にはこのお題に関するネタがどこにも書かれておりませんので、岩田&中原さんは6月の時点で論破されてしまったのか、それとも単に6月会合時点から比較して債券相場が安定したので議論をするのは時期尚早と思って話を引っ込めたのかは良く分らん所ではありますが、とりあえずこの話はひとまず終了という事なのでしょう。
という訳で、議事要旨で一番文章の短いコーナーながら読むと楽しめる箇所をご紹介させて頂きました。
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2004/08/11
お題「日銀の月報とFRBの声明文」
えー、本日は昨日予告した山口前副総裁のインタビュー記事絡みの続編は時間の都合上明日という事で(汗)。ネタ切れのために取って置く積りではないのですが(あまり放置するとネタが古くなるので)。本日は外れると定評の高い相場見通しはございませんので悪しからず(つーか意味不明の動きが多すぎでサッパリ判らんというのが正直な所です)。
○日銀の金融経済月報
昨日終了した金融政策決定会合は予想通り何もなしで現状維持。まぁついこの前まで当座預金残高をいじったり、当座預金をいじらない場合は「資産担保証券の買入」だの「国債の補完的貸し出し制度の創設」だの作ったは良いが全然機能していない無駄打ち政策を連発していたことを考えますと、ようやくまともになってきたと喜んでいいのでしょう。で、いつものように金融経済月報が発表されております。
http://www.boj.or.jp/seisaku/04/pb/gp0408.htm
8月の金融経済月報の基本的見解を7月と比べると、またも日銀極めてこっそりと判断を細かく前進させております。一々細かく比較すると毎回毎回目立たないように少しずつ判断が前進して数ヶ月に一回ドカンと前進って動きは継続するのでしょうか?
7月分から前進した箇所は極めて少ないのですが、ポイントとなる部分で微妙に表現をいじっているのが着目すべき所かと。
・基本判断
『わが国の景気は、回復を続けている。』(8月)
『わが国の景気は、生産活動や企業収益から雇用面への好影響を伴いつつ、回復を続けている。』(7月)
何か余計な説明が消えて、「景気は回復」と直球を投げております(^^)。
・現状認識部分
『こうしたもとで、雇用面でも改善傾向が続いており、』(8月)
『こうしたもとで、雇用面にも改善の動きがみられており、』(7月)
動きが見られるというのが改善傾向という事で何気に判断が前進。で、実を申しますとこの他に表現が変化しているのが、この先ご紹介致しますが、あと僅か2箇所ということでちょっと見ただけだと殆ど気がつかないような微妙な表現の変化となっています。
ただし、先日ご紹介した山口前副総裁の指摘を待つまでも無く、今後のデフレ脱却に関してポイントになりそうな「雇用情勢」についての表現が非常に微妙ながら前進している訳ですな。要注目かと。
・原油価格に関して一文追加
『なお、原油価格の動向と、その内外経済への影響については、留意する必要がある。』(8月)
読んで字の如し。悪影響なのか好影響なのか実は書いていないのが賢いのですが。さすがに最近言わなくなりましたが、一時は「原油価格上昇などの一次産品価格上昇は単純に景気に悪影響とは言えない(需要の増加を反映しているとも取れるから)」という趣旨のコメントがあった事もありましたしね。
・金融面
あんまり金融面には注目していないのですが、今回は表現が変わった箇所が余りにも少なかったので。
『企業からみた金融機関の貸出態度も引き続き明確に改善している。』(8月)
『企業からみた金融機関の貸出態度も改善の動きが一段と明確になっている。』(7月)
この部分だけですが、ここも企業金融に関る部分だけに一応チェック。
総裁記者会見も余り注目されませんでした(相場が戻り歩調なのである意味注目されないのがあたり前ではありますが)が、こちらに関しては日銀から本日リリースされると思います。
○FOMC声明文
Fedウォッチは本職ではないのですが一応ご参考までに。といいつつ実は自分のための手控えにしようとしているという説もありますが。
・キメ文句(とあたくしが勝手に命名している)の部分
The Committee perceives the upside and downside risks to the attainment
of both sustainable growth and price stability for the next few quarters
are roughly equal. With underlying inflation still expected to be relatively
low, the Committee believes that policy accommodation can be removed at
a pace that is likely to be measured. Nonetheless, the Committee will respond
to changes in economic prospects as needed to fulfill its obligation to
maintain price stability.
前回と一言一句同じです(^^)。
・エネルギー価格上昇と雇用情勢改善の鈍化傾向に触れているようです。
順番は逆になるのですが、声明文前半の最初の一発目の部分は6月と同じ。雇用情勢に関して6月は『labor
market conditions have improved』と言ってたのが今回『the pace of improvement
in labor market conditions has slowed』と雇用情勢改善の鈍化に言及しております。そりゃ雇用統計がアレじゃあ仕方ないですわな。
で、その雇用情勢鈍化に関しては『This softness likely owes importantly to
the substantial rise in energy prices.』ということで、エネルギー価格というか原油価格の上昇が影響しているっつーことですか。
・ただし、基本的に景気には強気なように読めるのですが
あたくしのいい加減な英語力によりますと、これは結局景気に強気だと読めるのですが如何なもんでしょう。
The economy nevertheless appears poised to resume a stronger pace of expansion
going forward. Inflation has been somewhat elevated this year, though a
portion of the rise in prices seems to reflect transitory factors.
この文言がさっきの「rise in energy prices」の次に来る文言な訳ですので、やっぱり強気判断は継続中ということにしているのでしょう。ただ、雇用情勢に触れる事で(米国の金融政策には完全雇用っつーのが目標の一つになっていたと記憶していますが)ハイペースの利上げ懸念を払拭しつつも政策のフリーハンドはもち続けるということですな。大変に結構なお話で。
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2004/07/20
○暴落最中の金融政策決定会合議事要旨
6月14日〜15日というのは前週に「武藤ショックで金利上昇」という捏造レポートが出たり、2年国債の利回りが0.25%まで上昇してみたりと金利大上昇に財務省様大激怒状態になっておりましたが、そんな最中に行われていた金融政策決定会合の議事要旨が発表されましたが、これがまた案外のんびりとしているのですよ先生って感じです。
http://www.boj.or.jp/seisaku/04/pb/g040615.htm
まぁ例によって長いのでほんのちょっとだけご紹介という事で、「金融経済情勢に関する委員会の検討の概要」に関して「ふ〜ん」と思った所を抜粋いたします。
・景気判断に関して
結論として出てきているのは判断を大幅に前進させた6月の金融経済月報にある通りでして、この時は財務省が必死になって「現在(当時)の金利上昇はオーバーシュートであって大変に遺憾であります」とキャンペーンを行なっていたのを邪魔しないために、金利水準に関して余計な話を全然せず、景気に関しても余計な進軍ラッパを吹かずという状態でありました。
財政再建問題への言及
『ある委員は、景気回復の持続力を強めるためには、財政再建が重要な課題のひとつであると指摘し、それに関連して、インフレ期待が過度に高まることは望ましくない、との考えを述べた。』
4月機械受注(驚愕の前年同月比+11.8%)に関して
『ひとりの委員は、機械受注では非製造業がなお横這い圏内に止まっており、設備投資の裾野拡大はまだ十分には確認できていない、と発言した。また、別のある委員も、設備投資増加の持続性をみていくうえで、製造業の投資が情報関連に集中していることや、原油価格上昇が企業収益に悪影響を及ぼす惧れがあることにも留意する必要がある、との意見を述べた。』
消費者物価に関して
『多くの委員は、先行き、原油高がガソリンなどの石油製品の価格上昇を通じて消費者物価の押し上げ要因として働くと予想されることや、順調な景気回復のもとで企業の価格設定スタンスが強気に傾く可能性があること等から、今後の物価の動きはこれまで以上に注意深くみていく必要がある、との趣旨を述べた。』
『このうち複数の委員は、原油高の影響等から夏場においては消費者物価の前年比が一時的にプラスとなる可能性がある、と指摘した。』
『この間、ある委員は、需給ギャップの縮小が物価上昇圧力に繋がり、それほど遠くない時期に消費者物価のプラス基調が実現するのではないか、との考えを述べた。これに対して、ある委員は、理論上は需給ギャップの縮小は物価を押し上げるが、需給ギャップを正確に計測することは難しいうえ、そうした需給面からの消費者物価への波及については、現状なお確認できていない、とコメントした。』
意見は割れているようですが、プラス基調も有り得るという指摘には要注意。
・金融面の動向について
『ここにきてわが国の長期金利が上昇していることについて、議論が行われた。』ってな事で、長期金利上昇(本当に問題なのは長期ではなくて金融引締めを過度に織り込みに行った中短期の金利なのですが)についてお話があったようでして。
『最近の長期金利上昇の背景について、多くの委員は、株価の上昇や内外の経済指標を眺めた景況感の改善を反映した動きではないか、との見方を示した。』
まぁそれは良いとして、
『ある委員は、中期ゾーンにまで金利上昇が及びつつあり、海外投資家を中心にデフレ脱却の可能性を予想し始めているように窺える、とコメントした。』
まぁこの「ある委員」以外にも中短期金利の上昇に関しては懸念していたのかもしれませんが、議事要旨として出てきた時に「2年あたりの中短期金利の上昇についてコメントしているのが一人かよ!」という印象を与えてしまうのは如何な物なのかと。まー「実は懸念してないよ〜ん」というのが日銀のホンネなのかも知れませんがね。
『また、何人かの委員は、昨年夏の金利急騰時と比べると、スワップ・スプレッドやボラティリティ指標等は比較的落ち着いており、金融機関等が売り急ぐような状況には陥っていないように見受けられる、との認識を述べた。』
売り急ぎの動きが見られましたが何か?
『ひとりの委員は、金利上昇がインカム・ゲインを狙った機関投資家等の債券買い意欲を高めている、と発言した。』
買い意欲があれば急落しませんが何か?
『もっとも、何人かの委員は、最近の長期金利の動きは急速である点には留意する必要があるとの認識を示した。ある委員は、市場にエネルギーが溜まっていただけに足許の金利上昇のピッチがやや速くなっていると指摘した。』
「何人かの委員」しか金利の急激な動きに関して懸念してないのかと、ちとアレな内容なんですが、正直言ってあたくしなんぞこの急落状態で「おいおい」と思っていた訳でして(当時のドラめもんご参照)、そんな中で金融政策決定会合ではこんなのんびりとしたお話をしていたのかと思う次第。日銀のホンネは「景気の本格回復で金利上昇は必然ですがな」というところなんでしょうなと思わせる内容でありました。
・量的緩和の景気刺激効果がより強くなるという話
金融政策決定会合後の日銀総裁会見で「量的緩和政策は景気が上向き過程に入り、上向きの動きを続ければ続けるほど、量的緩和の景気刺激効果は強まっていく。」といった趣旨のお話をしていた日銀総裁。何のこっちゃと思っていたのですが、ようするにこういう話だったようですな。
『ひとりの委員は、物価下落圧力の後退により短期実質金利が低下傾向にあるため、金融緩和効果は強まっているのではないか、と発言した。』
『別のある委員は、景気回復が続いている中にあっては、消費者物価を基準とする「約束」が大きな意味を持ってきている、との認識を述べた。この委員は、短期金利がほぼゼロの状態が続く中、経済成長率は名目、実質ともに着実に高まっていると指摘したうえで、このことは現在の政策の景気刺激効果が金利面から強まっていることを意味し、こうした政策を継続することで、今後、緩和効果がより高まっていくと考えられる、と続けた。』
実質金利が低下するから緩和効果が高まるって理屈なのね。
議事要旨に関して、総じて言いますと「金利急上昇にも関らず随分とのんびりとした話をしてますな〜」という所でしょうか。あまり金利上昇に関して懸念していない(財務省は必死ですが)という事で、当時から感じていた「財務省と日銀の金利上昇に対する温度差」がより明白になったといえるかと思います。
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2004/07/14
お題「益々絶好調の金融経済月報」
はぁ、「UFJが三菱東京に経営統合申し入れへ」ですか。なるほどねぇという感じですが、これじゃあどこぞの夕刊紙がだいぶ前に書いていた超憶測記事通りの展開ですな。最初見た時に「なんたる妄説」と思ったのですが。分類先貸出はどうなるんでしょうかとか、これ以上メガバンクでかくして何の意味あるのとか色々感想はあるのですが、考えはまとまる訳もないのでいずれそのうちに。しかしトップニュースが集中豪雨なのはともかくとして、その次の扱いになっていたのがNHKとテレ朝だけ(朝5時台のニュースあるいは報道番組。モーサテはトップですが)ってのも何ですな。
昨日まで行なわれていた金融政策決定会合において、金融経済月報が決定されまして、基本的見解が例によって例の如く発表されましたので読むことに致しましょう。
http://www.boj.or.jp/seisaku/04/pb/gp0407.htm
○総括判断また前進
最初に総括判断が書かれるのですが、この内容は益々進展中です。
『わが国の景気は、生産活動や企業収益から雇用面への好影響を伴いつつ、回復を続けている。』
ちなみに先月(6月)と2ヶ月前(5月)を並べるとその進展具合がよく判るというものです。
『わが国の景気は回復を続けており、生産活動や企業収益からの好影響が雇用面にも及んできている。』(6月)
『わが国の景気は緩やかな回復を続けており、国内需要も底固さを増している。』(5月)
過去の総括判断と比較してお分かりのように、所謂「ダム論」的な論理展開はめでたく完成の域に達している訳です。『生産活動や企業収益から雇用面への好影響』と明言しております。
○雇用面の判断が前進しています
総括判断の次には、景気の現状認識に関してのコメントが出ます。この部分に関しては、先月の時点で5月から一気に前進させた為か、ほぼ同じ内容になっております。ただし、その中で雇用面に関する現状判断が前進しているという点は注目すべきかと思います。
と申しますのは、昨今の日銀審議委員の講演や発言などを見ますと経済の将来を展望した時のリスク要因として必ず挙げられるのが個人消費に関してでありまして、この個人消費の消長に大きな影響を及ぼすのが雇用情勢であるということですから、雇用情勢が好転しているというのはやはりでかい訳ですな。その割にはあたくしの雇用情勢(以下自主規制^^)。
『輸出、設備投資の増加が続いており、鉱工業生産も引き続き増加している。企業収益や企業の業況感も、幅広い分野で改善が続いている。こうしたもとで、雇用面にも改善の動きがみられており、雇用者所得は下げ止まってきている。個人消費もやや強めの動きを続けている。この間、住宅投資は横ばい圏内で推移しており、公共投資は減少している。』
先月と違うのは『雇用面にも改善の動きがみられており』という所でして、この部分、先月は『雇用面も改善の方向にあり』となっております。ちなみに、5月と比較するとどうかと申しますと、5月時点では雇用に関する部分は単に『雇用者所得は徐々に下げ止まってきており』となっておりまして、通してみれば6月は「雇用者所得の下落傾向が止まり(下げ止まり)」、7月には「雇用面の改善の方向が動きとして現れた」ということになる訳ですな。
○先行きに関しては見事に同じ、違うのは一言だけ
『先行きについては、景気は当面緩やかな回復を続ける中で、前向きの循環が次第に強まっていくとみられる。』
ちなみに、先月だけ何故か『先行きも、』となっていた(まぁ6月の月報では総括判断と現状認識を大きく前進させた時なので、先行き「も」と言いたくなる心情は理解できますな)のですが、今回は本卦帰り。多分これは深い意味はないでしょう。
『すなわち、海外経済が高めの成長を続けるとみられるもとで、輸出、設備投資を中心に最終需要の回復が続き、生産も引き続き増加していく可能性が高い。企業の過剰債務など構造的な要因が企業活動に及ぼす影響も和らいできている。また、企業の人件費抑制姿勢は維持されているが、そうした中でも、生産活動や企業収益から雇用者所得への好影響は次第に明確化していくと考えられる。この間、公共投資は減少傾向をたどると見込まれる。』
6月と違うのは一言。『生産活動や企業収益から雇用者所得への好影響は次第に明確化』と言っている部分でして、「好影響」となっている所が前回6月の時点では「波及」と言っております。この波及と好影響の意味がどう違うのかはよく判らんというのが正直な所です。あまりにも「波及がど〜のこ〜の」と言われだすのを嫌った(ダム論復活→量的緩和の解除への思惑と言う連想が働きやすいので)のかも知れません。まー全然意味はないのかもしれませんが。
○金融面で一言だけ
先日発表された短観のDI数値を受けてという事なのでしょう。
『企業からみた金融機関の貸出態度も改善の動きが一段と明確になっている。』
6月以前は『企業からみた金融機関の貸出態度も改善が続いている。』となっていましたが、ここへ来て金融機関の貸出態度改善が明確化したということのようです。本当なのか?という気も思いっきりするのですが、まぁ日銀短観の貸出態度DIを受けての判断ですからまぁこんなものかと。
○展望レポートの中間評価
今回注目になっていた「展望レポートの4半期ごとの見直し」ですが、こちらは恐らく事前に市場が予想していたとおりの結果でしょう。景気全般と企業物価は4月発表の展望レポート時点から上方修正、消費者物価は修正せずという「とりあえず金融政策の変更はすぐにはありませんよ」という事を言いたい内容です。
『わが国の景気は、4月の「経済・物価情勢の展望」(展望レポート)で示した「2004年度見通し」に比べて上振れて推移すると予想される。すなわち、輸出、設備投資を中心に最終需要の回復が続いているほか、生産活動などからの好影響が雇用面にも及んでおり、先行き、前向きの循環が明確化していくとみられる。』
『物価面では、国内企業物価は、原油価格など内外商品市況の上昇や需給環境の改善を反映して、4月の「2004年度見通し」に比べて上振れて推移すると予想される。こうした国内企業物価の上昇の影響は、注意深くみていく必要があるが、川下段階にいくにしたがって、企業部門における生産性の上昇等によってかなりの程度吸収されると見込まれることから、消費者物価は、概ね4月の「2004年度見通し」に沿って、小幅の下落基調が続くと予想される。』
「生産活動からの好影響が雇用面にも及ぶ」ってのと、「企業部門における生産性の上昇等によって企業物価上昇が消費者物価に与える影響が減殺される」というのは思いっきり正反対の話をしているように見えます。何かまず結論先にありきで作文をしている香りが漂ってきます。消費者物価の中間評価は少々眉に唾をつけたくなりますな。
○総じて言えば予想通りと申しますか
今回の金融経済月報、まぁ市場予想通りの範囲内という事になるのでしょう。特に注目されていたのが「展望レポートの4半期見直し」における消費者物価の見通し部分でしたから、まぁとりあえず一安心という内容という事ですな。
しかし仔細に見ると、と申しますか既に先月の金融経済月報の時点でそうなのですが、CPI時間軸という縛りがなかったら既にゼロ金利状態を脱却していてもおかしくないような景気判断を行なっている状態であります。基本的にその点については留意する必要があると思います。
で、その点に絡んだお話をしますと、じゃあ量的緩和を解除したらどうなるかと申しますと、以前ドラめもんでご紹介した驚愕の懇談会(財務省で池尾先生をお招きして行なった懇談会ね)にあるように、金利上昇が財政赤字問題大浮上のトリガーになり得る訳でして、そうなってから歳出削減だの増税だのと言っても話が間に合わないリスクがあるわけですな。そんな事もあるので、最近福井総裁は記者会見や講演なんかでやたらと「財政再建」に言及するようになってきております。福井総裁のホンネは「政府の言う通りに日銀としては屈辱的に無茶苦茶な緩和政策をやって、もうすぐCPIゼロは達成するんだから、今度は政府がちゃんと財政再建しろゴルァ」って所でしょうな。
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2004/06/24
「金融政策決定会合」
福井総裁、今日から欧州にご出張ということですので(しかし大変なお仕事ですな、日銀総裁ってのも)、当然ながら会議も長時間になることもないでしょうし(^^)、別にややこしい決定もないでしょう。と思いますが、前回の衆議院選挙の時にも当座預金残高の意味不明な目標引き上げをやっていたりする訳で、まぁ何だかな〜という気もする訳でありまする。
そんななかで相変わらず血圧急上昇なのは財務省な訳でして、林事務次官は昨日も「日銀には効果的な金融政策をお願いしたい」と発言したと報道されております。孤軍奮闘ご愁傷様としか申し上げようがないわけですが、本日の会合でも恐らく財務省からのご注文というのが出てくるんでしょうね。
昨日の時事メインコラム「金融観測」(またそれかい!って突っ込みは勘弁^^)で「福井日銀が妙に静かで、余計な事を言わなくなってしまったのが不気味だ」という指摘がありましたが、あたくしも最近そういう意味でのきな臭さは感じております。まぁ微妙なところにあるので黙っているという事なのでしょうけれども、それはつまり「微妙な状況」であるという認識にあるという事でもありますので、やっぱり不気味な訳です。
と、判ったような判らないようなお話ですが、要するに本日は何もないでしょうし、会見で変わった話も出ないでしょうが、どうも何か怪しい雰囲気でもありますという事を言いたかっただけであります。
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2004/06/16
お題「財務省の悩みと日銀の楽観」
思わず文学的(どこがじゃ)なるお題が登場の巻(^^)。
○火消しに躍起な財務省
昨日のドラめもんでちょっと触れた国債市場懇談会。議事要旨が早速財務省Webにアップされておりました。http://www.mof.go.jp/singikai/kokusai/gijiyosi/a160614.htm(もしかしたらディープリンクだと直接行けないかも知れません)
昨日の寄り付き前には既にアップされているという訳で、通常にもまして素早く要旨の公開が行われ、寄り付き前から早速議事要旨を読んだ市場参加者も多かったのであります。で、読んだ人々の第一感はと申しますと「金利動向に関する懇談会の見解が何か報道されているものとニュアンス違う」であります(^^)。
一昨日の国債市場懇談会終了後に出た吉野座長のコメントの段階では(昨日のドラめもんでご紹介したように)「最近の金利上昇は景気回復期待を背景にしたものという意見が大勢」というお話になっており、日経新聞あたりでの報道も同じような内容であったと言われています。
ところがこの議事要旨における「最近の国債市場の動向について」という部分を見ると、足許の金利上昇に関してのコメントにはオーバーシュートしているというコメントが多く見られておりまして、前日の吉野座長からでていた暢気なコメントとはだいぶ違った危機感の滲む内容になっております。特に良く状況を纏めていたコメントはこちらですか。
・最近の相場の動きについては、「都銀の国債の運用が、去年の夏以降、中短期ゾーンにかなり偏ってきており、量的金融緩和政策、ゼロ金利解除といったテーマに非常に脆弱だ」といった見方に基づき、海外の投機筋等による「中短期ゾーンのスワップのロスカット」を引き出すような動きが一部に出ていたと思う。しかし、都銀は、早期の量的金融緩和政策の解除を考えて動いているわけでもなく、また昨年議論となった「VAR枠」との関係では、まだ十分に余裕がある。ただ、足下、量的金融緩和政策の解除が早まるという警戒心が過度にマーケットで高まっており、日銀に断固として抑えていただくことをお願いしたい。そうすれば、10年金利が2%に行く前に相場は落ち着くのではないか。
なんか都銀のコメントなのかも知れませんな。その割にはこの懇談会の日にはど〜考えても「会議室発偉い人の売り指令」らしき売り物が中期債に炸裂して相場がエライコッチャになっていましたが。まぁそれは兎も角として、かくのごとく議事要旨は危機感のにじみ出るトーンになっている訳です。
まぁ激しく憶測の域に入りますが、この議事要旨の発表がやたら早かったのは、やはり吉野座長の長期金利に対する暢気なる発言による「金利上昇容認イメージの瀰漫」を何としても止めたいという財務省事務方(要旨を作るのは理財局国債課)の意思の現れ。火消しの為に一刻でも早く「金利上昇危機感ありあり議事要旨」を出したかったのでしょうな。ご苦労様であります。
一昨日の林財務事務次官の金利上昇猛烈牽制発言リターンズ(先週木曜にも事務次官と大臣が牽制発言してました)があり、昨日は谷垣財務大臣が同様に金利上昇猛烈牽制というか思いっきり不快感の表明って感じの発言こちらもリターンズがありと、財務省からは「金利上昇は極めてケシカラン」という意思表明のオンパレードとなった次第。そりゃこれだけ言われたらさすがにショート筋は買い戻しますわな。どこまで戻れるかは知らんが。
○日銀はやはり循環論者のようですが
昨日の金融政策決定会合、何と11時半には終了という実にあっさりとした会合でありまして、予想通り政策変更なし。で、3時に発表された金融経済月報(基本的見解)は正直言って「またも景況感前進か!」って感じであります。という訳で金融経済月報のポイントを少々。
・経済の現状認識
『わが国の景気は回復を続けており、生産活動や企業収益からの好影響が雇用面にも及んできている。』となっております。5月は『わが国の景気は緩やかな回復を続けており、国内需要も底固さを増している。』でしたが、とうとう外れた「緩やかな」というお話でして、これは明確に判断前進であります。
『輸出、設備投資の増加が続いており、鉱工業生産も引き続き増加している。こうしたもとで、雇用面も改善の方向にあり、雇用者所得は下げ止まってきている。個人消費もやや強めの動きを続けている。(以下割愛)』という各部門の現状に関しては雇用に関する部分の判断が若干前進になっております。まぁ元々強めのお話なんですけど。5月は『雇用者所得は徐々に下げ止まってきており』という事でこちらは「徐々に」という部分が消えています。
・経済の先行き見通し
『先行きも、景気は回復の動きを続け、前向きの循環も明確化していくとみられる。』5月は『先行きについては、景気は当面緩やかな回復を続ける中で、前向きの循環が次第に強まっていくとみられる。』ですので現状認識の判断絶賛大前進と平仄があっております。
で、全体ではなく個別について例によって長々と書いている部分があるのですが、『企業の過剰債務など構造的な要因が企業活動に及ぼす影響も和らいできている。(6月)』が『企業の過剰債務など構造的な制約要因はなお根強いが、徐々に和らぎつつある。(5月)』から見て前進しており、構造要因が緩和されているという認識を示しているところが一番注目かと思うわけです。また、お得意のダム論的な発想で『生産活動や企業収益から雇用者所得への好影響の波及は次第に明確化していくと考えられる。(6月)』となっておりまして、『生産活動や企業収益からの好影響が、雇用・所得面へ徐々に及んでいくと考えられる。(5月)』の「徐々に及んでいく」から「次第に明確化」と企業収益の好影響が雇用者に回り、(ここではかいてませんが)個人消費に波及するって絵が明確に描けるようになったというお話なのでしょうか。その割にはあたくしの(以下自主規制^^)。
・物価の現状
国内企業物価については5月と同じなのですが、消費者物価に関してはとうとう「一時的要因」という言葉を外してしまいました。まぁ当然ですがね。
『物価の現状をみると、国内企業物価は、内外の商品市況高や需給環境の改善を反映して、上昇している。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、小幅のマイナスとなっている。』
先月まではこの消費者物価の中で必ず言い訳のように『一時的な要因も押し上げに働く中』という文言が入っておりました。
・物価の先行き
こちらも同様で、消費者物価で今まで色々(米価格だの診療報酬の自己負担増加だの)と一時的要因を入れていた部分を削って非常にあっさりとした見通しになっています。
『物価の先行きについて、国内企業物価は、原油高の影響もあって、当面、上昇を続けるとみられる。消費者物価の前年比は、需給環境が改善方向にあるとは言え、当面なお緩和した状況が続くもとで、基調的には小幅のマイナスで推移すると予想される。』
と、さらっと流しそうなのですが、実を言いますと消費者物価に関る部分は、前月までは『需給バランスが徐々に改善しつつもなお緩和した状況』という表現をしておりまして、『徐々に改善しつつ』が明確な『改善方向』になっているのもちと注意しておく必要があるかと。
例によって金融面は割愛しますが、総じて見ると結構判断を前進させているという感じです。
さて、本当はここで注目材料の総裁記者会見もネタにするのですが、正式なテキストが出てくるのが本日の午後くらいになりそうですので、情報ベンダーから入手したテキスト(日経金融新聞にはあると思いますが)を参考に印象だけ。
印象としては「長期金利に関しては非常に気を使っていますな」という所。気を使ってはいるのですが、実を言うと金利上昇に関して無理矢理押さえ込もうというような意思は見られません。ただ、余計な事を言って金利上昇の火に油を注ぐことは避けたいという雰囲気が伝わってきますな。
で、量的緩和継続に関しては「そんなに早期利上げの思惑が爆発するんじゃねぇ」というニュアンスは判るのですが、その割には『量的緩和政策は景気が上向き過程に入り、上向きの動きを続ければ続けるほど、量的緩和の景気刺激効果は強まっていく。(日本語版ロイター記事より)』などと気になる発言もありますな。やはり量的緩和の景気刺激効果が強くなってきているという認識があると言うことは、裏返せば緩和政策の行き過ぎた長期化に関しても釘をさしているとも見える訳で、中々微妙な発言ではないかと思います。
結局「金利の急激な上昇はマズイけど、マイルドな形で自然にじりじりと上昇して行くのは別にお止め致しませんな〜♪」という感じに見えます。ただ、言葉を慎重に選んで、余計な相場のブレを起こさせないようにしようとしているのも良く判ります。これだけ気を使っているのはもしかして初めてではないかと思えるのですが、まぁ日銀Webへのアップを待ちたいと思います。
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「4月9日の議事要旨」(2004/05/27)
超長期国債の入札でどっと疲れも出てきたのか昨日は月内最終受渡日とは思えないほどぼけーっとした相場でありました。まぁたまには良いでしょう。
先日公表された4月8〜9日の金融政策決定会合の議事要旨をさらっと見ておきましょう。
http://www.boj.or.jp/seisaku/04/pb/g040409.htm
○金融経済情勢に関する委員会の検討
当たり前ですが毎回の会合でいつもこのコーナーが一番重くなっておりまして、本当はここの推移を細々見るとそこそこ楽しめるのですが、そのあたりは現在アーカイブ鋭意整理中(ただし気が向いた時しかやらないので遅々として進みませんが)でございますのでいずれ。
今回特に目についたのは物価に関する短い記述であります。
『ある委員は、商品市況の上昇は、今後、企業収益の圧迫要因となるリスクがある、と述べた。また、複数の委員は、消費者物価や消費デフレーター(PCE)などの物価指数の前年比伸び率に下げ止まり傾向がみられ、ディスインフレ傾向が終息に向かいつつある、との見方を示した。』
「ディスインフレ傾向が終息に向かいつつある」ですよ先生。しかも「複数の委員」がコメントしてるって事でして、政策委員会は物価動向に関して上ぶれの可能性をかなり気にしているという所でしょう。
まぁ海外経由でやってきた物価上昇が国内経済の回復を待たずして国内物価に影響を与えてデフレ脱却っていうのも何ともうしますかって感が致しますが、まぁそもそも日本が為替介入+量的緩和拡大のセットによる実質的な「日本銀行による米国債の購入」という凄まじい荒業によって世界経済の牽引役である米国経済が引っ張られたのが主因の一つであるわけですから、これもまた「量的緩和政策の効果」が訳のわからんルートで効いてきたという事なんでしょう。
以前も指摘しましたが、「回復の波及効果」っていう話もあちこちに見られます。昔の「ダム論」と同じ論理展開でありますが、やたらそこかしこに「回復が波及してきている」という表現があり、一々引用しているときりがないので引用は省略いたします。
景気に関するまとめはこんな感じになっています。
『このような議論を踏まえ、委員は、景気の現状認識としては、緩やかに回復するもとで、様々な面で回復に広がりがみられるようになっており、国内需要は底固さを増しているとの認識を共有した。また、先行きについても、足許みられる景気回復がこのまま続いていけば、生産活動や企業収益からの好影響が雇用・所得面へ徐々に及んでいくことなどを通じて、前向きの循環が次第に強まっていくとの見方が共有された。』
前月の会合では「緩やかに回復している」とだけ表現され、そのうえで多くの委員の意見として「いくつかの需要項目の足許の強さについては今後の指標などから見極めていく必要がある」という表現に留まっておりまして、表現的にも前進しております。
4月の金融経済月報で景気への現状判断や先行き見通しがやたらと強気になっていることは既にご紹介した通りですが、この議事要旨で改めて確認されたってことで宜しいのかと思います。
物価に関してはこんな感じ。
『物価面については、多くの委員は、内外の商品市況の上昇が続いており、国内企業物価も上昇しているが、こうした川上段階での価格上昇が川下の最終財価格に及ぶ動きは、現時点では限定的なものに止まっている、との見方を示した。また、これらの委員は、その背景として、(1)技術革新に伴う生産性の向上や賃上げの抑制などにより、企業におけるコストの吸収余地が拡大していることや、(2)原材料価格の上昇は、世界的な景気回復に起因するものであるため、輸出・販売数量の増加が企業のコスト負担をある程度相殺していることなどを指摘した。この間、ひとりの委員は、今後、原材料価格が一段と上昇した場合には、企業収益が圧迫され、最終財への価格転嫁が生じる可能性がある点に留意すべきである、と述べた。』
上記記述のなかにあります「上段階での価格上昇が川下の最終財価格に及ぶ動き」に関して、前回3月15〜16日の金融政策決定会合議事要旨には多くの委員の指摘として、「川上の価格上昇が川下に及ぶ傾向は、現時点ではさほど見られていない」となっておりました。ほんの3週間で世の中そんなに変わるもんなのかよとも思うのですが、企業経営なんかでもある閾値というか変曲点を超えると急に物事が好転したり悪化したりする事がありますんで(なんて偉そうに言ってますが^^)、経済っつーのも後から振り返ると「そこが閾値だったのね」みたいなのがあるんでしょう。
これだけ強気転換していればそりゃー金融経済月報はやたら強気になる訳でありまして、去年の「日銀の景気回復傾向万歳万歳モード」に超越的過剰反応をした金融市場っつーか金利の市場のことを思えば、長期金利の上昇によるオーバーキルに関してやたら懸念したくなるのは理解はできるというものです。
○当面の金融背策運営に関する委員会の検討の概要
本当はこっちも話題にしたかったのですが、本日はどうも遅筆モードになっておりまして、既に時間切れになってきましたので、一応コメントだけ。
今回の検討の概要は大した文章量はないのですが、その中で話になっているのが殆どマネタリーベースの事ばかりになっております。日銀としては90年代後半以降に関してはマネタリーベースの伸びと経済情勢の動きが従来見せていた長期的な相関関係から外れているというお話を百万回位あちこちでしているにも拘らず、相変わらずこの話をさせられているのは苦痛ではないかと思ってしまいますが、最近めっきりマネーサプライ云々の話ばっかりする副総裁ばかりがクローズアップされて、もう一人の副総裁は絵の個展なんかやってとーっても手持ち無沙汰なようでありまして、この時間の無駄とおもえる議論はまだまだ続くんでしょうな。
最後にインフレ参照値に関する部分を引用しておきます。
『何人かの委員は、今後、景気が回復を続けるもとで、デフレ克服の目途が立たないうちに長期金利が先行して上昇するリスクを指摘し、日本銀行の政策スタンスについて適切な情報発信を行うことが重要である、と述べた。このうちひとりの委員は、金融政策運営に対する市場の期待を安定化させる観点から、中央銀行として望ましいと考えるインフレ率を早めに提示し、期待形成のアンカーとすることも検討すべきではないか、と述べた。』
一人の委員=中原さんですね。
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「金融経済月報(2004年5月)」(2004/05/21)
昨日の金融政策決定会合はさすがに何もなしという事で、いい加減動いてばかり(つーか1つのネタで2回動くような振りをして「機動的な日銀」の演出に余念がなかったのですが)の日銀もややおとなしくなっているようですな。
○金融経済月報
先月は判断を大幅前進させた金融経済月報。今回はGDPを受けてどうするのかと思いましたが、あまり目立った変化はありませんでした。とはいえ、また一言重要かもしれないフレーズを入れているのですが。
http://www.boj.or.jp/seisaku/04/pb/gp0405.htm
景気判断や物価の判断に関しての主要な変更点は2箇所。
冒頭の景気基調判断部分で、住宅投資につきまして今回は『住宅投資は横ばい圏内で推移しており』と今までの「低調に推移」から変更。住宅投資の低調状況が底打ちしたということらしいです。何か個人的実感と違うんですがまぁいっか。
国内企業物価の現状について「需給の改善」という文言が入っているのはちょっと注目すべきことかな〜と思います。今回は『物価の現状をみると、国内企業物価は、内外の商品市況高や需給の改善を反映して、上昇している。』となっているのですが、この「需給の改善」というのは、まぁ需給ギャップの改善というお話にも繋がるところですんで、何気に重要ではないかと思う次第。
金融面について、直接金融による借り入れに関してちょっとだけ状況が改善したと言ってます。今回『CP・社債の発行環境は総じて良好な状況にある』という事なのですが、前回まで入っていた「高格付け企業を中心に」という文言が外れております。
その他物価判断に関する部分については、『原油高の影響』という文言が入ってきて、『米価格の上昇』という文言が抜けたくらいでしょうか。総裁の記者会見でも原油高問題の影響についてコメントがあったようですが。
まぁ割と良い数字だったGDPが新たに出てきた割には判断をまるっきり変わらないってのも何か微笑ましいものを感じてしまうのであります。最近の「出口政策がどうのこうの」というお話なんぞを気にして判断に手心を加えたとか、GDPは内閣府の出した統計であるから自分たちで発表する短観や物価指数を重要視しているなどといった不謹慎な想像は全く致しませんが(^^)。
とりあえず金融経済月報はそんな感じでさらりと流せる内容でした。
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「日銀総裁会見を読む」(2004/05/06)
先日の金融政策決定会合後に行われた総裁記者会見要旨が先週末に日銀Webにアップされておりました。まぁ最近総裁が折にふれて話す事の集大成みたいな内容ですので、まとめのつもりでこちらをご紹介と言うことで。
http://www.boj.or.jp/press/04/kk0404d.htm
内容をまとめると3点に集約されるかと思います。その3点とは何ぞやと申しますと・・・・・・
1.非常に強気な景気認識
2.袋小路の金融政策
3.ペイオフ解禁への懸念
という感じですな。会見内容を見てみましょう(^^)。
○非常に強気な景気認識
いきなり会見冒頭から強気の進軍ラッパですな。
『背景となる経済・物価情勢の判断については、前回会合(4月8・9日)以降、あまり日が経っていないため、特段大きな変化はないと言ってしまえばそれまでであるが、経済は生き物であるので、注目すべき変化は刻々と出ていると思う。』
金融経済月報における景気判断を大幅に前進させた前回の決定会合以降の情勢に関して「注目すべき変化は刻々と出ていると思う」と言ってしまう所なんぞはまぁ恐るべしという事なのですが、(後でも触れますが)金融政策自体が打つ手なし状態なのを見込んでいるせいかあまりこの総裁の超強気発言を大々的に話題にしていませんな。
まぁ今まで散々この総裁の不規則発言に真正直に反応していた債券市場に学習効果が出てきたという事なのかもしれませんが、景気に関しては常に強気の最先端を行っているのが総裁だと言う事に関しては注意しておく必要がありますな。
『国内のほうも、昨年10〜12月の高い成長率に比べると今は少し反動局面にあるとは思うが、景気回復の裾野が広がってきている。あるいは、物価の面でも企業物価指数の段階では、海外商品市況高騰の影響が及んできているということがある。』
『また、本日、いわゆる「展望レポート」を決定・公表し、2004年度の経済・物価の見通しを明らかにした。そのポイントはいくつかあるが、一言で言えば、2004年度も、生産や企業収益の増加を背景に、前向きの循環が次第に強まるもとで、景気は回復を続けるという予想である。』
ということで強気一辺倒なのですが、物価に関しては下手に強気な発言が出来ないので、消費者物価だけ奥歯にものの挟まったようなお話に終始してしまうのが「量的緩和のコミットメントの明文化」という中央銀行にあるまじき政策スタンスの副作用という事でもある訳ですな。
『一方、消費者物価についてみると、物価の基調に影響する需給ギャップは着実に縮小すると見込まれる。しかし、米価格上昇などの一時的要因が剥落するほか、商品市況上昇の影響も企業部門における生産性上昇等によってかなりの程度吸収されると見込まれる状況にある。従って、2004年度の消費者物価指数は、基調的にはなおごく小幅の下落が続くと予想し、これをレポートの内容に織り込んだわけである。』
別の質問に関してはこんな感じ。
『展望レポートの中の消費者物価指数の予測、特に中央値の前年比−0.2%というのは、年度全体を見渡して平均して、大体そういう予測を持つということである。年度の中の変化、つまり、いわゆるラップ・タイムでみてどうかというようなことは、今の段階で正確に予測していないので何とも申し上げられない。』
本当かな〜と思うのですが。4月の東京都区部CPIも特殊要因の剥落とやらの影響があまり見られなかったと思うのですがねぇ。世界経済に関してはこんなコメントしてるし。
『世界経済の動向については、順調に経済が拡大する方向性が次第に定着してきているということが確認されたと思うし、一方、物価情勢について言えば、世界的にみてディスインフレーションの傾向に歯止めがかかりつつあるということも確認されたと思う。』
○袋小路の金融政策
大変本源的な質問が出ております。質問の後半だけ引用しますが。
『CPIの前年比上昇率がゼロ%以上になるまで「現在のフレームワーク」を続けるということであるが、現在のフレームワークは、2001年3月から──「金利」から「量」のレジームに変えた時から──続けているものである。このフレームワークの中では、当座預金残高目標を増やし続ける、一定に保つ、あるいは減らすということについては何も言っていないわけで、量のフレームワークを続けている限りは、「量的緩和である」という定義ができるかと思う。そういう意味からすると、「CPIの前年比上昇率がゼロ%以上になるまで現在のフレームワークを続ける」ということの中には、現在の30〜35兆円程度という当座預金残高目標を減らしていくということもあり得るのかどうか伺いたい。』
『後段のご質問であるが、「今のフレームワークのもとで緩和政策を続ける」と申し上げた。現状で当座預金残高目標が30〜35兆円程度という幅で、大量の流動性を供給し続けており、基本的にこれは修正しないということを前提に申し上げている。』
当座預金残高を減らす意思は全く無いらしいというご発言なのですが、量的緩和政策を解除する時は現在の当座預金残高30兆円がいきなり大幅減少(5〜6兆円くらいですかね)させるというお話のようです。まぁそれでも技術的にやってやれない事は無いでしょうが、当座預金残高を減らすという選択肢を全く否定するのはどうなのかな〜とは思うわけです。当座預金残高を減らすというのも市場への意思表示のツールだと思うのですが、それをしないで今後も「市場の安定化」について悩む破目になるのでしょうな。別の質問に関してこんなコメントをしております。
『今後、世界の経済情勢がさらに良くなっていき、物価情勢にも微妙な変化が出てくる中では、市場がその状況に相応しい金利形成をしていく過程で、市場の中における期待が常に安定を保つことが自律的にできるかどうか。市場には、いろいろな物事に過剰に反応する性格と、逆にそれを吸収する性格と両方ある。常に落ち着いた市場情勢で新しいファンダメンタルズに沿った市場条件が形成されていくかどうかということについては、事前にはわかり難いところがある。しかし、事後的にはなるべく安定性が常時保たれているという状況を実現する必要があるわけで、そういう難しさのことを申し上げたわけである。』
何か判ったような判らないようなお話ですが、要するに昨年の債券市場暴走には相当懲りているようで市場の安定化に関しては色々と気にしているという事のようで。それなら当座預金残高の減少という選択肢を作れば良いのにと思いますがしないようです。まぁ脅威の為替介入で発生したFB残高の問題ってのは根が深いので当座預金残高を減少させにくいという事もあるんでしょうな。
『私どもとしては、この3つの条件(引用者注:量的緩和のコミットメントの3条件)はかなり明確な条件ではないかと思っている。市場がその解釈を巡って混乱する可能性があるとは必ずしも思っていない。』
『しかし、おっしゃる通り、局面によっては理解の混乱が起こる心配というものをまったく打ち消しているわけではない。今後の状況をみながら、私どもとしては必要なメッセージは当然差し上げなければならない、その都度、工夫を凝らして新しいメッセージが必要であれば、差し上げていきたいと考えている。』
この後に「そのような事は直ぐには起きないでしょう」と言ってますが、まぁ精々工夫を凝らしていただきたいのですが、既に「金利をできるだけ低い所で安定させる」とか「金利に蓋をする」とか総裁が発信した「工夫を凝らしたメッセージ」を債券市場が見事に誤解して長期金利低下祭りが発生して余計な怪我人を増やしていただけに、将来CPI前年同月比がゼロになってきた時には「正しい工夫」をして頂きたいものであります。
○ペイオフ解禁への懸念
これも前から総裁がやたらと指摘している話ですが、ペイオフ前面解禁への懸念というお話があって、金融機関経営に関してもコメントしております。まぁ日本銀行は「銀行の銀行」でもあるのでコメントするのもご尤もなのですけれども。
『来年の春までに不良債権比率を半減することを確実なものにするために、不良債権処理を加速してもらいたいということがナンバーワンだが、特に大手行の場合には、当然自力でペイオフ全面解禁を乗り越え、さらにその先を展望し、前向きの新しいビジネスを顧客のニーズに十分応えられるかたちで展開できるように、できるだけ早い段階から体制の整備をしてもらいたい。』
とか言いながら、「決済性預金は全額保護」というペイオフが本来含む筈の自己責任(そういえばそんな言葉が最近流行しましたが・・・・)原則を見事に骨抜きにする抜け穴を大々的に拡大して「全ての銀行は個人向けの決済性預金を商品として導入すべし」って話になっている所が実に笑える所であり、そんな乳母日傘状態のペイオフ茶番解禁を捕まえて「ペイオフ全面解禁を乗り越え」も糞もあったものではないと思うのですが、まぁそれは日銀ではなくて金融庁マターの金融政策の方ですんで悪態はこの辺まで(^^)。
で、まぁ金融政策でやることがないので、プルーデンス部局がせっせとお仕事をしたいって事なのでしょうか。金融庁と競うように検査の強化をするそうですが、はっきり言って業務妨害以外の何物でもないのが当局の検査であります。金融庁と日銀で似たような検査やるようですが、ど〜せ提出資料は当局ご指定のフォームですので、同じような資料を2度作らないといけない訳で、大変でしょうな。まぁ最近はコンピュータが発達しているから少しは楽かも知れないけど。
『大口与信管理態勢検査──金融庁において新たに実施されるもの──については、金融庁独自の何か新しい考え方に基づくものであるかもしれない。私どものほうからは具体的にコメントを申し上げるのは難しいが、日本銀行の考査においては、金融機関の信用リスク管理体制について、債務者の実態把握あるいは自己査定、企業再生に係る経営改善計画の評価が適切かどうか、管理体制全般について厳正に検証することとしている。』
『特に大口与信については、信用リスクの変化が金融機関の経営全般に与える影響を定量的に算出した上で、適切な対応が講じられているかどうかということを確認するなど、より詳細な検証を行うこととしている。これらの点については、既に「平成16年度の考査の実施方針等について」にも盛り込んでいるところである。』
「信用リスクの変化」ってのはそもそも定量的な現象なのでしょうかと突っ込みを入れたくなるようなコメントでありますな。定性的な現象である信用リスクの変化を定量的に算出するってどういう事なんでしょうか。貸出資産全体を統計的に処理しろって事なのかも知れませんけど、正直無駄な努力でしょうな。まぁそういうのを商売のネタにしている人が多いっつーか最近の流行モノなんですけど、あれって一種の○○でしょ。
『おそらく、金融庁のやり方と、こうした新しい方針を盛り込んだ日本銀行考査とは、平仄のとれたものになっていくだろうと考えている。』
「平仄がとれたもの」なら別に両方でやる事はないでしょ。何か大手といわれる某銀行に勤務していた時代に本店の色々な部から似たような資料を少しずつフォームを変えて提出させられて支店の現場の下っ端としては非常に苦労した時代を思い出しますな(-_-#)。
で、大手金融機関には妙な最先端的管理手法を整備して欲しいらしいのですが、そもそもそんな管理手法に意味があるのか謎ではありますな。
『新しい業務の構築ということがビジネスの最前線できちんと行われるとともに、その銀行の資産サイドのポートフォリオの管理が能動的にできるような新しい経営体制――これは今年度の日本銀行の考査の方針に入れているが、この方針の中で念頭においたようなビジネスの体制――を組んでほしい。(中間割愛)新しい能動的なポートフォリオの管理、新しいリスク管理体制という裏打ちを十分持ちながら、新しいビジネスの体制を整えてほしい。』
何だか新しい事をして欲しいらしいです。何だかな〜って感じです。
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「経済・物価情勢の展望(2004年4月)を読む」(2004/04/30)
展望レポートの基本的見解が昨日発表になりました。で、発表になったのは良いのですが、発表時間である15時の前に時事メインで政府関係者のコメントとして「基本的見解での消費者物価指数見通しは小幅マイナス」という記事が出ておりました。この日の金融政策決定会合に出席していた政府出席者は2名でして、石井啓一財務副大臣と大守隆
内閣府大臣官房審議官(経済財政−運営担当)でありますので、どう考えてもコメントをしたのは石井財務副大臣。
15時に発表になるべきものを事前にリークするというのはその内容が事前予想の範囲内であっても言語道断でありまして、こういう人間は政府の職に就けるべきではないでしょうな。要注意人物ということで別の意味でチェック対象ですな。
さて、それはともかくとしまして展望レポートなんですけれども、内容としては今まで毎月のようにしぶとくチェックしていた日銀の金融経済月報の延長線上でありまして、今月の初旬に発表されたやたら強気な内容の月報と同じく随所に「ダム論」らしき表現が散りばめられたものでありますな。
http://www.boj.or.jp/seisaku/04/pb/gor0404.htm
『わが国経済は、昨年後半以降、輸出の増加を起点に、生産、企業収益が拡大した。これが設備投資の増加につながり、個人消費もやや強めに推移する中で、景気は緩やかな回復を続けた。本年度も、前向きの循環が次第に強まるもとで、景気は回復を続けると予想される。前回(昨年10月)の「経済・物価の将来展望とリスク評価」において示された「標準シナリオ」と比べると、総じて上振れて推移していると考えられる。』
で、その中をやや詳しく述べると・・・・と書いてあるのですが、その中で「資産価格の変化」について触れているのが初めて出てきた表現だったと思うのですが目新しいところです。
『生産活動や企業収益の増加の好影響は、雇用・所得面や資産価格の変化を通じて家計部門にも徐々に及んでいくと考えられる。このため、個人消費は緩やかな回復に向かうと想定される。』
資産価格効果に関して言及しているのは中々。しかし家計部門の中での最大資産って相変わらず絶賛下落傾向の続く不動産じゃないかと思うのですが・・・・・・・ま、いっか。
先日の須田委員の講演では個人消費の先行きに関して「原材料価格の上昇傾向による国内企業物価上昇を消費者物価に転嫁しにくい状況において、企業収益の減少あるいは雇用への皺寄せが行われる懸念」を指摘していましたが、この後にあります「上振れ・下振れ要因」の中にもこの点については指摘されておりませんです(企業部門における回復の家計部門への広がりが遅れる可能性としか言ってません)な。
国内企業物価の上昇に関する点の影響については楽観的というか、あえて何も懸念していないという事なのでしょう。景気回復を伴わないで物価だけ上昇するのが世の中的には一番困ると思うのですが、どうもデフレさえ脱却すれば日銀は免責とでも思っているんでしょうかね〜。
『国内企業物価は、内外商品市況高や国内需給の改善などを反映し、本年度は前年比若干のプラスとなる可能性が高い。(中略)商品市況上昇が川下段階に及ぼす影響も、企業部門における生産性上昇等によってかなりの程度吸収されると見込まれる。(以下略)』
で、上振れ・下振れ要因に関しては、4つの要因を並べているのですが、正直論点として全然面白くないというかそんなのは別にあたりまえの話であって大袈裟に『上振れ・下振れ要因』とかいうものでもないでしょう。一応並べると、1.海外経済の動向、2.国内金融・為替市場の動向、3.国内民間需要の動向、3.不良債権処理や金融システムの動向、4.不良債権処理や金融システムの動向、となっております。
最後に日銀の決意表明なんだかよくわかりませんが、『デフレ克服の展望と金融政策運営』というお題で文章が並んでいるのですが、その中で金融緩和の枠組みがどのように有効に機能しているのかというお話があります。
『こうした金融緩和の枠組みは、以下のルートを通じて、民間部門の前向きの経済活動を金融面から支援する役割を果たしている。第1に、量的に潤沢な資金供給は金融市場の安定や緩和的な企業金融環境の維持に貢献している。第2に、景気回復のもとで、前述のような約束を通じて先行きの金利予想の安定が維持され、経済活動における投資採算の改善をもたらす。そうした金利を通じる景気支援効果は、景気が回復し企業収益が改善する状況において、より強まっていくものと考えられる。』
第1の金融市場の安定に関しては短期金融市場を意識しているのかとは思いますが、まぁそれはその通り。でも緩和的な企業金融の維持って本当ですかね〜と思うわけですな。だって「企業金融の目詰まり」とか言って資産担保証券の買入始めたのは量的緩和だけでは駄目だからってことでしょ。そもそも金融庁が不良債権の引当強化だの繰越納税資産の否認だの散々に金融機関に締め付けを行ったのが企業金融引締めに大いなる効果を発揮しているわけでして、日銀と金融庁の連携が出来ていない(まさに汪兆銘氏指摘の「左右不連携」な訳でですな)のが問題なんでしょうな。
第2の理屈はさっぱり訳わからん。量的緩和のコミットメントという中央銀行にとっては屈辱的な「お約束」が本当に文字通り機械的に実行されるのであれば、消費者物価指数に関する市場の思惑で市場金利が却って大きく乱高下するというのが市場の片隅で小理屈を並べているあたくしの実感的なイメージであります。それ以前の問題として、日銀(というか総裁)が率先して長期金利に関する不規則発言を繰り返しているわけでして、ここで書いている事をそのとおりに実施していると思っているのかと小一時間問い詰めたいところであります。大体この前須田委員なんか講演で「ほんの僅かでもいいから金利機能の復活を」って言ってました(前から言ってます)が、須田委員の理屈とこの文章は論理矛盾してませんかね。
まぁ「市場に任せるけど金利は安定します」って言う事なのかもしれませんが、どうも判ったようなわからんような理屈であります。
全文は本日14時に発表されます。
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「昔の表現で出ています」(2004/04/21)
○日銀総裁の国会答弁
昨日は国会に福井総裁が出席して例によって金融政策に関して答弁をさせられたのですが、そこに懐かしいフレーズがでて来たようです。報道によりますと金利に関してこんな感じの発言をしたようです。曰く、
「金利をあめ細工のように操作することはできない」
あめ細工ってのは懐かしい例えでして、「昔聞いたフレーズに似てますな〜」と有識者とお話をしましたらこの表現はなんと三重野総裁時代の総裁発言にあったものだそうで、この時は為替市場に関して「為替市場をあめ細工・・・・・」というコメントが飛び出してドル円市場で1ドル=100円を割り込むドル安というか恐怖の円高相場が始まったという曰く付きのものでありました。
この頃は福井さんは理事だか副総裁だかをやっていると思うのですが、三重野発言を覚えていて同じ例えを使ったのか、それとも日銀マンが使いたがる例えなのか、どうでもいいことですが興味のある所であります。
あたくしとしてはもはや福井総裁のこの手の発言ぶれぶれ状態に関して一々論評をするのも馬鹿馬鹿しいとしか申し上げ様がありません。さすがに真面目に一々反応しているようなディーラー仲間もいい加減この馬鹿馬鹿しさに呆れておりますな。まぁ一応お約束なので悪態をつきますが(^^)、あめ細工云々発言をするお前のその口はついこの前「金利に蓋をする」といった同じ口かと小一時間問い詰めたい所でありますな(-_-メ)。
まぁ効果のない金融追加緩和を効果のあるような論理展開を繰り広げて正当化しているという苦しい状況ですんで、色々と余計なじゃなかった気の効いたサービス発言をして日銀の存在意義を出そうと言うお話なんでしょうな。
折りしも米国ではグリーンスパン議長が市場引け際に議会証言で「デフレ懸念無し」証言をして米債米株が大幅下落していますが、ここぞという時に慎重な言い回しをしながらもきっちりと自分の見方を市場に伝えて、きっちりと市場がそれに反応するという美しい動きを見ますと、発言の度に市場が余計あるいは無茶な反応をする東京市場はまだまだ「市場との対話」などというものからは程遠いということなんでしょうな。
無理矢理こじつけると、この懐かしいフレーズが出てきているというのは、福井総裁も「長期金利の自然な上昇を容認」しているのではないかと思わせる所もあるのですが、そういう発言の側から「量的緩和の出口論議はとても時期尚早」的な発言をする訳ですから、真意がどこにあるのかさっぱり訳がわからない所ではあります。総じて言えば景気に強気だけど量的緩和解除は別の理由でできないので長期金利の上昇を容認しつつ量的緩和継続って感じんでしょうかね。
○金融経済月報
先日もご紹介した金融経済月報ですが、時事通信社の時事メインコラム「金融観測」で指摘されていましたのが「ダム論復活」でございます。
あたくしはこのゼロ金利解除の時には金融市場におりませんで、アイテー関連のお仕事をしていたのでどういう論理展開ならびに金融市場の動きがあったのかは詳しく体感していないのですが、(体感していたのはアイテー業界のバブル崩壊ぶりです)このときに「ダム論」と名づけられた「景気回復の効果が徐々に広がっていく」という論法が見られるのが先日発表された金融経済月報(4月)の目に付く所であります。曰く、
『企業収益は増加を続けており、企業の業況感は広がりを伴いつつ改善している。』
『また、企業の人件費抑制姿勢は引き続き強いが、生産活動や企業収益からの好影響が、雇用・所得面へ徐々に及んでいくと考えられる。』
似たような論法はちょっと前の金融政策決定会合議事要旨(3月14〜15日分)にも目立っておりまして、一々引用はしませんが、まぁこの手の「製造業の大企業の業況回復の効果が次第に広がって来る」という論理展開で景気回復ムードを盛り上げている訳ですな。
という訳で、こちらも懐かしい「ダム論」(時事メインコラム「金融観測」によりますとダム論というと過去の悪夢が甦るそうで、日銀さまのPTSDらしいです^^)復活の巻というお話になるわけでありまして、まぁ日銀執行部的には「景気は回復しているんだぞ」とキャンペーンを張りたい気分なんでしょうな。
どう考えても不良債権やら年金などの問題部分を政府部門に押し付けるスキームやら、実質非不胎化介入による米国債買い支えによってもたらされている「小泉型大盤振る舞い財政支出政策」で支えている経済に過ぎないと思う(んですけどあたくし株価には強気です)のですが・・・・・・・ま、いっか。
まぁあまり目立たない部分のお話ですし、穿った見方過ぎるかもしれませんが、最近の日銀執行部(あくまでも執行部であって現場の認識はもっと景気に厳しいのではないかと思われますが、いえ何となく)の言動に「本卦帰り」の傾向が見られるという事はブックマークしていただくと吉かと存じます。
ではでは〜(^^)/~~
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「全国支店長会議も景気回復モード」(2004/04/20)
日本銀行の全国支店長会議ってのが行われていまして、昨日の日銀Webでは「全国11支店金融経済概況」というのが出ています。実は今までこの内容を真面目に読んだ事がないのですが、まぁ要するに金融経済月報みたいな書き方(何故か各支店によってフォームが違っているのが理解に苦しむというか比較するときに流して読みにくいのですが)で各支店のある地域の経済状況をリポートしています。
で、前回のを見ていないので比較は出来ないのですが、まぁ今回さらっと流して読んだところ、「回復している」だの「回復の動きを一段と強めている」だのまぁ景気の良い(景況判断だから当たり前か)言葉が並ぶわけでして、駄目駄目な景況感なのが北海道で、まだまだ回復は力強くありませんな〜というニュアンスなのが東北って感じでして、一応「一部にのみ見られていた景気回復の流れが全国的に広がりを見せている」というお話を裏付けるような報告になっておりますので、一応ご覧になると面白いかと。
http://www.boj.or.jp/ronbun/04/ju0404.htm
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CPIターゲットとFB問題(2004/04/16)
先日公表された金融政策決定会合議事要旨のうち3月14〜15日の分(そういえばこの時はあたくしの悪態が聞こえでもしたのか^^、初日は2時間ほどやっていました。やっぱ2日間やるのに初日1時間は無いでしょう)の「当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要」に、どう見ても岩田副総裁のものと見られる意見がでております。
『なお、別のひとりの委員は、先行きの政策運営に関し、各国において目指す物価の状態の示し方にはかなり相違があり、日本は日本に合ったやり方を考えていけばよいと思うが、例えば消費者物価上昇率について1%以上を目指し、かつ2%程度の上限を置くことを明らかにしていくことは有益ではないか、との見解を表明した。』
えー、量的緩和政策の当初においては実質ゼロ金利政策を量的緩和といいながら、前回のゼロ金利政策のような曖昧な時間軸ではない「CPIターゲット」という時間軸を設定した訳です。でまぁこの量的緩和がなしくずし的に拡大する中で、意識的になのか無意識なのかは兎も角として、この量的緩和自体が財政政策にビルトインされた状態になっているという話は何度かしつこくこちらで行ったかと思います。為替の絶賛大介入への強力サポートであったり、国債および政府関連債務の安定消化に寄与してみたりといったところですな。
そんな訳で、量的緩和政策の性格が当初導入の時に想定していなかったものに変質している筈なんですけれども、何故か「量的緩和政策のコミットメント明確化」などという名目でますます「CPIターゲット」を打ち出す破目になっております。
じゃあCPIを見ていれば良いかというとそう事は単純ではない訳でして、上段であたくしが申し上げましたような認識を皆様お感じになっている訳でして、その為に「量的緩和を解除すると外為特会のFB消化が困難になるので解除は遠くなる」といった類の議論が出てくるわけです。
そのFB問題は金融政策決定会合の中でもよく議論されているようでして、先ほどの議事要旨の中でもこんなお話が。
『この間、ある委員は、政府短期証券(FB)の増発について、その短期金融市場への影響については引き続き注意が必要であると述べた。別のひとりの委員は、FB増発懸念の問題は国債発行管理の観点から留意が求められるが、現在のFB金利は依然極めて低い水準にあり、市場機能の確保という観点からも殊更に問題視すべきものではないとの見解を示した。』
議事要旨に載っていないお話を勝手に推測するのも何ですが、こんな話が出ているということは恐らく「量的緩和解除の際に現在の大量発行FBは大丈夫か」という議論も行われているのではないかと思う訳です。
まぁこのFBのお話に関して考えても、どう考えても量的緩和政策が導入当初の意図せざる効果(笑)を発揮している訳なのですが、相変わらず日銀の公式見解ベースでは「FBがどうのこうのというのは金融政策に影響を与えるものではない」というスタンスを継続している訳でして、日銀の公式見解から次第に意義がずれてきている量的緩和の本来の機能がまた「市場との対話」をややこしいものにしているのではないかと思うのであります。即ち、日銀が公式見解ベースによる観点からしか「市場へのアプローチ」が出来ない訳ですから、公式見解と現実のギャップが拡大すればするほど「市場との対話」とやらがややこしい事態を招く事になる訳でしょうな。
で、最初の岩田副総裁の(と思われる)意見に戻るのですが、CPIターゲットが何となく達成されそうな雰囲気になっても、今や日銀が公式には認めない諸々の効果を発揮している量的緩和政策を簡単に終了させる訳には行かないという事を日銀政策委員会の内部で認識しているとすれば、現在のCPIターゲットに関して岩田副総裁の意見が使われる可能性があってもおかしくはないという話になるかも知れないな〜などとも思う訳です。政治的にもウケが良さそうですし。
まぁそんな事をしますと、益々量的緩和政策の実態と公式見解的な位置付けの乖離が激しくなって、金融政策の茶番化が一層進展する破目になるとは思いますが。
と、寝不足のせいか何とも締りのない文章で誠に恐縮なのですが、景況感のカンカンの強気の一方で、量的緩和政策と景況感をどう折り合いをつけていくかという事に関してはそれなりに議論がされているのではないかと勝手に議事要旨の行間を読んでいるあたくしなのでありました。
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「市場との対話」って何なんでしょう。(2004/04/15)
昨日は2月26日と3月15〜16日分の金融政策決定会合議事要旨の発表がありました。この中で「実体経済から行き過ぎた長期金利の低下には注意が必要」というのがフラッシュで出てきまして、後場の気だるい相場が急にお目覚めになってしまいました。
この時、ところで2月26日の長期金利水準っていくらでしたっけ?などと確認した人は多いと思いますが、あたくしも確認したら、直前の30年国債入札が大崩壊している中で10年が妙に堅調で1.2%(ザラバ中は多分1.2%割れもあったと思いますが)ちょい乗せという金利低下祭りがちょうどピークアウトする所でありました。
で、それは兎も角として、そのフラッシュを見ながら「何を言っておるんじゃこいつらは」と思いつつ問題の部分を読むとそこには驚愕の記述。
『長期金利について、何人かの委員は、GDP統計等景気回復を再確認する経済指標にもかかわらず、僅かながら水準を切り下げていると指摘した。これらの委員は、金融機関が流動性確保の観点や企業サイドの債務圧縮の動き等から国債投資への依存を続けている中、1月の追加緩和後、量的緩和の継続期間が長期化するとの見方が広がったこともそうした長期金利の動きに寄与している、との見解を示した。このうち複数の委員は、実体経済の動きに比して行き過ぎた金利の低下には注意する必要がある、とコメントした。もうひとりの委員は、先行き、プラスの名目成長率の持続性が確認されていく段階では、実体経済の動きに応じたイールドカーブのスティープ化は自然なものと考えるべきである、との意見を述べた。』
これを見て「おいおい」と場中に思わず声を上げてしまったのはあたくしだけではないと思うのですが、ちょっと呆れてしまう内容ではあります。
まぁ前半の『長期金利〜見解を示した。』はいいのですが、その後に出てくる複数委員の『実体経済の動きに比して行き過ぎた金利の低下には注意する必要がある、とコメントした。』というのは何ざますのかしらという感じであります。一方で自分たちも指摘しているように1月にやらずもがなの当座預金残高目標引上げを行い「市場の期待に働きかける政策」とやらをやったのは日銀じゃないんでしょうかね。
おまけに、1月の当座預金残高目標引上げ後には日銀総裁御自ら国会において量的緩和の意味をわざわざ説明するわ、2月5日の記者会見では『局面の変化があっても、企業行動をフルに金融面からサポートしていくことにより効果を出していくとともに、短期および比較的長期の金利を極力低いところで安定させ、先行きについても、低位安定が確保されるであろうという企業の期待にきちんと応えていく。』などと言うわで、長期金利の低下もそうですが、5年国債の金利が絶賛低下して0.5%を割って0.4%台前半までの「株価堅調なのに金利低下祭り」という状況を演出していたのもこれまた日銀の「期待に働きかける」姿勢であった事は言うまでもありません。
まぁ「金利の低下には注意する必要がある」といった「複数の委員」は前回の当座預金残高目標引上げに反対をしていた人なのかも知れませんが、具体的な(数字は挙げてませんが)金利水準に対して「金利の行き過ぎ」といったコメントが議事要旨として出てくるのは如何な物かと思う訳ですな。しかも「複数委員」だし。
これでは「日銀のマッチポンプ」と言われても仕方がない訳でして、自分たちが「市場との対話」などと言って行っている「市場の期待に働きかける政策」が逆に市場のあらぬ期待を煽る事によって「実体経済の動きに比して行き過ぎた金利の低下」が発生してしまったという事であります。と言う事は即ち自らの政策が破綻している事を意味する訳でありまして、まぁ笑えないけどお笑いという事なんでしょうか。何ともまぁトホホであります。
ちなみに、この議事要旨の発表というのは後日の政策委員会(というか金融政策決定会合)で内容を承認してから行われるものでありますので、このような「具体的な金利水準に関して意見が出ている」という意味あいの議事要旨が発表される事に関しては、金利水準に言及しなかった審議委員も承認しているという事であります。となりますと、他の審議委員も市場金利に関しては具体的水準に言及する事は不自然ではないと思っているという事でありますな。
普段言ってることと違うじゃん。おまけに「ひとりの委員」はイールドカーブの形状に関して意見しちゃっているし、もうこいつら何の話をしているのでしょうかとちゃぶ台をひっくり返したくなるような状態であります。まぁ議論するのは勝手だと言われてしまえばそれまでですが。
そりゃまぁ市場ってのは年がら年中オーバーシュートするんで、それに対するスムージングオペはあっても良いとは思いますが、この時の金利低下は自分たちが煽った低下であり、その結果として起きた金利低下を他人事のように「行き過ぎた長期金利の低下」とか言うのは当事者意識が無さ過ぎというか、市場が何を考えて動いているのかに対する理解がなさ過ぎるというか。それ以前の問題として「実体経済の動きに比して」って言ったって実体経済の動きに本当に正確な判断が下せているのかだってあてにならないわけですしねぇ。
具体的な金利水準だのイールドカーブの形状だのといった話は市場がパニックにでもなっていれば別ですが、そうでもない時に一々言及するのは市場に対して「無用な期待形成」を行うだけだという事は福間さんとか中原さんとかが判っておられるんじゃぁないのかな〜と思うのですが、何やってるんだかって感じです。
「ある委員の意見」として出された見解によって「量的緩和の終了が視野に入っているのではないか」という思惑を呼んで、大手銀行のスパイラル的な売りを誘発してしまった昨年の「出口政策騒動」から何も学んでいませんな〜と言う事を痛感すると共に、そもそも具体的な長期金利水準の話を政策委員会で一々する(誘導対象になっている、というか今は誘導対象ではないですが、短期市場金利は別ですよ)必要があるのでしょうかと思うのですが。もっと話をすべきことがあるのではないでしょうか。
てな訳で本日は血圧を上げながらのドラめもんでありました(^^)。
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「昨日の補足(国債品貸しについて)」(2004/04/13)
補足と言うよりは資料の読み漏れなんですけれども(大汗)国債品貸し(正式名称は国債の補完供給制度)に関連してすっかり読んでいなかった資料に関してご説明致します。
http://www.boj.or.jp/seisaku/04/mok0404b.htm
○銘柄の選定
銘柄の選定に関しては日本銀行が決める事になってはいますが、さすがに日銀が決めるだけの判断材料が無いので、『1銘柄につき3社以上から売却依頼を受けた場合』に実施するそうですな。オペ形式で実施するので仕方がないのですが、結局はリクエストベースにならないところが残念至極であります。どちらかと言えば当座預金の日中流動性供与みたいな仕組みの方がありがたかったんですけれども。
○実施のタイミング
『決済日は原則として約定当日とする』という事ですので、当日オファーがあって当日スタートということのようです。おまけに『競争入札のオファーは、市場取引がピークアウトする午後に実施する』という事でありますので、午後にオペのオファーが行われて即日決済となるというわけ。かなり時間的にはいっぱいいっぱいのオペであります。
このタイミングに関して問題点というか疑問点が2つ
(1)資金需給がぶれますが
国債の品貸しは現先売買方式で実施されるので、品借りを行う側に関しては資金の払いが発生します。現在のように日銀当座預金残高が大幅積み上で脅威のジャブジャブ状態であれば少々の(一回に最大で額面1000億円)ぶれは問題ないでしょうが、量的緩和が解除されてまともな短期金利が付くようになってもそのままだと色々と不具合が生じる訳ですな。下ぶれした資金需給は供給するのでしょうか??
ついでに申し上げますと、この制度の利用は基本的に国債でショートを振る人が対象になる訳ですから、普通に考えれば証券業者が利用主体になりますわな。で、この人たちが当日の午後に資金の手当をどうやってやるんでしょというお話もあるわけです(証券業者の無担保コール調達能力は銀行より劣るし)。今は世の中金が余っているから良いのですが。将来金融政策が昔のように元に戻った時のことを考えているのか甚だ疑問であります。
(2)当日午後オファーでは・・・・・
まぁ別に常に使わせろとは申しませんが、この「当日午後に品貸し実施のオファーがあります」というのは中々使いづらいものがあります。まぁ並みの神経をしていれば「当日午後のオペ一発勝負」で玉手当をするような勇者というのは存在しませんわな。従いましてこのオペは「当日フェイル確定状態だけど、フェイル料払うくらいならオペに参加してもいいかな」状態になっているような銘柄しか応募しないでしょう。上記したような「資金をどうするの」という問題もあるわけですから。
せめて翌日スタートにしてくれれば使いやすいのにとは思うのですが、どうも「使いやすさ」よりも「補完機能」に徹した(といえば穏当ですが、要は「敢えて使いにくくしている」)内容になっているようであります。
全然使い物にならないので無理矢理対象範囲を増やして何とかしてオペ実績を上げようとしている(が全然実績が上がらない)資産担保証券の買入とは大違いの扱いでありまして、まぁやはり銀行の銀行様は証券業者には厳しいという事でございましょうなどと言うのは株屋の僻みですかね〜。
○再売却(=貸出のロールオーバー)に関して
本来の期間は1日なんですが、同銘柄を最大で21回再売却してくれるそうですな。という事は最長で1ヶ月というわけなので、その辺は中々結構なお話であります。
ただ、昨日(資料を全部読まずに)書きましたように、再売却が機能する為には技術的問題として「売り(貸出)先行」でオペレーションを行う必要があるので、売却(貸出)可能銘柄の半分を超えて売却を行えない(全員が再売却を希望した場合に日銀が出す玉が不足する)わけでありますな。
勿論そうならないように売却額の上限は日銀保有残高の50%を上限にしているので技術的に問題はないのですが、各銘柄について日銀の保有残の半分しか本制度に使えないというのは勿体無い話ではないかと思う訳であります。再売却じゃなくて期限延長の形にできなかったのかな。
と、まぁ色々と総合すると、この制度は当面は「既にフェイル(しかも多くの業者を巻き込んだ大規模なもの)になっていて解消の見込みが全然ないような銘柄」に関して実施されるくらいの物になってしまうのではないかと思われます。まさに補完的機能であまり使い勝手が良さそうな物ではありませんな。
抜かない伝家の宝刀というのが役に立つのかどうかはノーコメントです。
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「どさくさに紛れて景気判断前進」(2004/04/12)
先週末の金融政策決定会合ではさすがに当座預金残高目標の引上げはなく、例によってお為ごかしに貸し債の内容を決定というお馴染みの「一粒で2度美味しい」攻撃だけでありました。そのドサクサに紛れて(って訳でもないのですが)発表された金融経済月報を見ますと景気判断がもう一発前進している訳でして、そりゃー当座預金残高は増やさんわなという感じです。
http://www.boj.or.jp/seisaku/04/pb/gp0404.htm
○景気の基本的判断がやたらと前進
今月の基調判断、先行き見通しはこうなっております。
『わが国の景気は緩やかな回復を続けており、国内需要も底固さを増している。』
『先行きについては、景気は当面緩やかな回復を続ける中で、前向きの循環が次第に強まっていくとみられる。』
3月はこんな感じでした。
『わが国の景気は、緩やかに回復している。』
『先行きについても、景気は緩やかな回復を続けるとみられる。』
とまぁご覧の通りという感じなのですが、その他にも3月から前進をしている部分がございます。短観を受けた企業の業況感の広がりや、雇用環境の改善(本当か??)にも言及しており益々景気回復モードとなっております。
『企業収益は増加を続けており、企業の業況感は広がりを伴いつつ改善している。』
『企業の過剰債務など構造的な制約要因はなお根強いが、徐々に和らぎつつある。』
『企業の人件費抑制姿勢は引き続き強いが、生産活動や企業収益からの好影響が、雇用・所得面へ徐々に及んでいくと考えられる。』
この中で企業収益云々に関しては今月初めて出てきた表現なのですが、残り2つに関しては3月ではこんな表現をしていました。
『企業の過剰債務などの構造的な要因は、徐々に和らぐ方向にあるとは言え、依然として根強い。』
『企業の人件費抑制姿勢も引き続き強く、当面、雇用・所得環境に目立った改善は期待しにくい。』
と言う事で、「構造調整が進行」「雇用環境も改善」という話をしております。結構な判断前進でありますが、金曜日は週末で他のニュース(というかイラクですが)が気になったのかあまり話題にはされていなかったと記憶しております。
○物価については0.1歩くらいしか進めないという慎重さ
物価に関しては需給ギャップの問題が相変わらず緩和しているということについて一言だけ変化がございます。
(4月)『需給バランスが徐々に改善しつつもなお緩和した状況』
(3月)『需給バランスが徐々に改善しつつもなおかなり緩和した状況』
かなり緩和→緩和という事ですな(^^)。基本的にはこんな感じです。
『物価の先行きについて、国内企業物価は、当面、上昇を続けるとみられる。消費者物価の前年比は、需給バランスが徐々に改善しつつもなお緩和した状況のもとで、診療代などが前年比押し上げに働かなくなるにつれて、小幅のマイナスで推移すると予想される。』
○金融面はいつもどおり
強いて言えば先日の短観を受けて「金融機関の貸出態度が改善」というところだけでしょうか。ここの部分は毎月見てますがあまり変化のないところであります。まぁ金融政策が意図した通りに機能しているからということなのでしょうけれども。
おまけ:国債品貸し制度についてとりあえず一言
「補完供給を目的として行う国債の買戻条件付売却基本要綱」というのが出ております。導入の趣旨が「市場流動性の低下を防ぐ上で効果がある」という事なのですけど、本当にそうなのかざっくりと検証してみましょう。
○現先方式であって日銀が主導ですか
この制度は現先方式になっております。現先方式になりますと資金需給に影響を与える話になりますので、個別の品貸し実施にあたっては日本銀行が主導する必要があり(勝手に申込されると資金需給のコントロールが出来なくなるから)まして、実際に要綱内にも『本行が金融市場の情勢等を勘案して適当と認めるときに実施する。』という風になっています。
リクエストベースでの実施(日中流動性供与のイメージ)ではないわけであります。市場参加者というか現物債を投資家様相手に売買するマーケットメーカーとしては、何か肝心の部分が間違っているとしか思えない無駄な制度になりそうなのがこの時点でも読めてしまいます。市場参加者から意見を求めた筈なんですけど、どうなっているのでしょうか?
まぁ世の中の市場関係者には、円滑な国債市場の流通が行われると収益機会がなくなる、有体に言えばレポ市場のスクイーズなんぞを狙って仕掛けをしたりするお方もいる訳ですから、色々なお方の話を聞いていると段々「??」になってくるんでしょうな。
○実施時期のみならず銘柄も日銀が主導
売却対象国債(=品貸し対象国債)は『本行が保有する利付国債、割引短期国債および政府短期証券のうち、本行が適当と認める銘柄とする。』となっているのですが、どういう基準で銘柄を選定するのかといえば、『売却対象となる国債の流動性が著しく低下していることが懸念される場合において、その影響が市場全体に波及する惧れがあるなど』という基準および実施時期な訳です。
営業局制度の廃止以来、日々の調節には思惑を入れないように淡々と行うというお話だった筈なのでして、思惑を入れないから市場参加者ともある程度の距離をおきながら不即不離と言った感じで市場に相対していた金融調節。お蔭で量的緩和復活以降も「何でこのタイミングでこのオペを実施する?」というような間の抜けたオペが何度も見受けられましたが、そんな人たちが売却銘柄や売却時期をちゃんと判断できるのかは失礼ながら少々疑問であります。
○期間1日では無意味
この品貸しは「翌日に返す」方式のみの運用となるようで、要綱の中に思いっきりその旨が記載されております。市場参加者からの意見でも「1日で必ず返すのでは実効性がない」という意見が非常に多かった筈なのですが、何を考えているのかさっぱり理解に苦しむ決定ではあります。
そもそも、本制度はスクイーズ状態になっているような銘柄を「市場安定化」の為に品貸しする筈。スクイーズ状態になっているような銘柄というのは当然ながら常にフェイル懸念がある状態で推移している訳でして、日銀様が現物債をレポ市場に供給しても「翌日に返せ、フェイルは許さん(日銀とのオペでフェイルをすると事務ミス扱いになるという厳しい扱いになってますから)」という事を行ったら「フェイルが出来ない玉」が増えるだけのことで、却って火に油あるいはガソリンを注ぎ、スクイーズ祭りに拍車が掛かるだけのことだと思うのですが。
一応「再売却」という制度もあるようなので、それにちょっとだけ期待したいのですが、再売却してもらっても、技術的にはその前に返す玉の確保をしないといけないように思えるのですが、その辺は大丈夫なのかいなという所ではあります。「再売却の時には売却先行」という制度にすれば返却玉の確保は必要ないですが、その場合日銀としては保有玉の半分以上の品貸しが出来なくなる訳でして、何のこっちゃというお話になってまいりますな。
細かい事に関する脳内検討は行ってませんが、要綱を見たところでの本制度の謎な点はこんな所です。はっきり言ってこりゃ使い物にはならないですな。
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「日銀短観(2004年3月)」(2004/04/02)
昨日の短観はまぁ予想通りというか予想の上限の結構な結果でありましたが、織り込み済みって奴だったのかあまり反応はしませんでした。というか期初から売買はぶつかるわ、先物を振り回す人はいるわって感じでありましたな。
ところで、この短観なんですけれども、今回調査対象企業等の見直しが行われましたので、比較の為に12月調査の数値も見直し後ベースでの数値を発表しています。
添付のExcelファイルは例によって例の如く時系列で左が次回予想DI、右が実際のDIということで、今回は04年3月のところが対象になります。また、03年12月の実際のDI数値と、04年3月の予想DIの()内は昨年12月に発表された短観における発表数値(=旧ベースでの数値)です。
大企業・製造業 中堅企業・製造業
中小企業・製造業
forecast result forecast result forecast result
Jun-04 12 Jun-04 1 Jun-04 -3
Mar-04 6(8) 12 Mar-04 -4(-5) 5 Mar-04 -11(-15) -3
Dec-03 3 7(11) Dec-03 -8 -3(-1) Dec-03
-19 -10(-13)
Sep-03 -5 1 Sep-03 -14 -10 Sep-03
-28 -23
大企業・非製造業 中堅企業・非製造業 中小企業・非製造業
forecast result forecast result
forecast result
Jun-04 7 Jun-04 -6 Jun-04
-21
Mar-04 4(-7) 5 Mar-04 -11(-20) -7 Mar-04
-27(-29) -20
Dec-03 -8 0(-9) Dec-03 -22 -12(-21) Dec-03 -30
-25(-28)
Sep-03 -12 -13 Sep-03 -28 -25 Sep-03
-37 -31
(↑ちと見難いですよね。スイマセン)
毎度毎度の事で、景気が上方傾向にあるので当たり前と言えば当たり前なんですけれども、「前回に予想している3ヵ月後の業況判断DIより、実際のDI数値が良い結果になる」という傾向にあります。ということで、今の所は景気回復傾向と言われる状況については引き続き継続中という観点で宜しいのではないかと思われます。
この集計をいつものように行っているうちに少々不思議な事に気が付いたのですが、12月調査時点でのDIが非製造業で悉く上方修正になっているというお話。何でこうなるのかというのはもしかしたら見直しの内容をちゃんと調べれば当たり前のお話なのかも知れませんが、「これってもしかして統計のトリック?」などと思いつつ「????」という不思議な思いを拭いきれません。
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