植田和男総裁(2025年度上期)

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2025/06/11「国会答弁で「基調的物価2%までまだ少し距離がある」で為替が反応したのはアホなのかと思いました」
2025/06/05「植田総裁内外情勢調査会講演(その2):政策修正の前のめり感は一切出さずに輪番縮小に意欲」
2025/06/04「植田総裁内外情勢調査会講演ですが「利上げへの熱量無し」「輪番削減はやる気満々」かなと」
2025/05/28「金研国際コンファランスで内向け屁理屈満載学問の香気無しの挨拶をさせられる植田総裁・・・・」
2025/05/27「G7で超長期に質問されているのワロタ&物価安定にコミットねえ・・・」

2025/06/11

〇こんなので為替が反応するもんなのか(「2%までまだ少し距離がある」)・・・・・(呆)

昨日はこんなのがありましたな
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-06-10/SXF8E7T0G1KW00
植田日銀総裁、基調的物価は「まだ2%に少し距離がある」−円下落
伊藤純夫
2025年6月10日 10:56 JST 更新日時 2025年6月10日 12:01 JST

→基調的物価が2%に近づけば、引き続き利上げで金融緩和度合い調整
→0.5%の政策金利水準、利下げで経済刺激の余地は非常に限られている

『日本銀行の植田和男総裁は10日、金融政策運営で重視している基調的な物価上昇率は物価目標の2%まで少し距離があるとの認識を示した。参院財政金融委員会で答弁した。総裁発言を受けて円は下落した。』(上記URL先より、以下同様)

ということで、

『植田総裁の発言後、円はドルに対し一時1ドル=145円29銭に下落。発言前は144円50銭前後で推移していた。株式市場では日経平均株価が上げ幅を拡大し、上昇率は一時1%を超えた。』

ってことになっているのですが、そもそも論として先日の内外情勢における植田総裁の講演の資料を見ますと、
 
https://www.boj.or.jp/about/press/koen_2025/data/ko250603a2.pdf
最近の経済・物価情勢と金融政策運営
(図表編です)

図表7『基調的な物価上昇率に関連する指標』を見れば分かりますけど、実はその右下にありますように、マクロ経済モデル回して計算(という一番まともっぽいことを)したらどの指標も「2%に向けて威勢よく接近中」なのでして、植田さんの説明上重視していることになっている(家計のインフレ期待の推計値がどう考えても下方バイアスの掛かる方法を使った)合成予想物価上昇率だって目盛みたら24年で1.5%近辺、25年で1.7%近辺と上がっている訳でして、モメンタムからいったらこんなの2%到達待ったなしだし、元々がこれ計算上下方バイアスが掛かりやすい(予測力を重視しして算出しているんですがそのサンプルがゼロインフレの期間を大きく使っているから)な訳ですよ。

とは言え、足元に関してはトランプ関税とかいう攪乱要因があるから、このモメンタムが止まるかもしれないってんでまあハトハトチキンになっているのはまあ分からんでもないですが(と言ってるけど物価には慣性があって足元の動きは「上に抜ける」方の慣性が掛かっているから逆に止まらんリスクの方が高いと思うのですけど)、これ普通にグラフをみたらこの先基調物価とされるものが2の水準を涼しい顔して上にぶち抜けるリスクの方が高いじゃろ、という図でもあるんですよね。

なのにまあ「少し距離がある」とか言ってるのは、単純に6月7月の時点で利上げをする予定は無い、という「やりたい政策」が先にあって、政策アクション(今回の場合は動かない方のアクションですけど)を正当化するための「お気持ち表明」を「基調的物価は2%までにまだ少し距離がある」と言ってるだけの話なんですよね。というか説明の定義上、基調的物価が2%に到達している、という認識だったら政策調整をゆっくり実施しているどころの騒ぎではなくて、政策を中立ポジションにもっていかないといけないのですから、半年に1回とか悠長なことを言ってる場合じゃなくなるので、6月7月に利上げする気が無いのであれば、上記のような発言が出てくるのは当たり前ですし、逆に為替市場の皆さん6月7月に利上げがあるとでも思っていたのかよお前らの首の上についている物体はカボチャか何かかと小一時間問い詰めたいですな、と思いました。

じゃあ9月10月に利上げがあるか、ってことになると、これはまあ7月展望で何を言い出すか次第ではあるのですが、トランプ関税政策を受けた企業や家計の行動変化(下方屈曲)が起きるかどうかってのを茲許はずっと気にしているような説明になっていますので、そうなると企業の賃金設定行動、すなわち冬季賞与動向と来年の賃金改定に向けたスタンスのアネクドータルなデータが出てくる年末年始、って考えるのが一番妥当なような気がしますが、何せこの人たち「やりたい政策」先にありきで情勢判断を後付けで説明する、というのを全然隠そうとしない(普通は隠そうとして過去との説明の整合性を取ろうとするのですが、黒田時代の末期あたりになってからはもはや過去との整合性を全然気にしなくなっているのは展望レポ^−トハイライトというポンチ絵の推移を見れば一番わかりやすいと思います)ので、つまりは「やりたい政策」が「やっぱり政策金利引き上げないと」って事になるトリガーが先に出てきたら年末年始の限りではない、ってことになるんじゃないですかね、個人の感想ですではありますけど。

てな読み筋って別にアタクシがドヤ顔(の積りではないですが)で言うまでも無くごく普通の読み筋だと思うので、「まだ距離がある」云々は「6月7月(まあ少なくとも6月)に利上げする予定は今のところありません」以外の意味合いは無いので、それすなわちなんら新しい情報でもなくて市場は先刻織り込み済みなんですけど、何でそんなのに為替市場が反応しているんだこれだからAI相場は困るわ、と思いました(個人の偏見です)。





2025/06/05

〇植田総裁内外情勢調査会講演(その2):政策修正の前のめり感は一切出さずに輪番縮小に意欲ですねこりゃ

てな訳で昨日の続き。
https://www.boj.or.jp/about/press/koen_2025/data/ko250603a1.pdf

・通商政策動向の経済への下押しの説明はやたら丁寧だったが「リスク」の方は割とアバウトで温度差があります

昨日は『2.通商政策の影響と経済・物価情勢』の『(わが国経済・物価の見通し)』の後半部分の物価の見通しに関するところまでやったら時間切れになってしまいましたが(すいません)、その先が『3.通商政策を巡るリスク』ってのがあるんですよ。

まあそもそもが「通商政策の影響」ってところで詳しく下振れ要因をこれでもかと並べて説明していましたので、わざわざ通商政策を巡るリスクってのを書くのも重複感が漂うわけで、そのせいかリスクの方は微妙なつくりになっています。

『ここまで、米国の関税政策による影響を踏まえつつ、わが国の経済・物価の中心的な見通しについてみてきました。こうした見通しに対しては、常に上振れないし下振れの可能性、リスクが存在します。特に、現在のように不確実性がきわめて高い状況にあっては、従来以上にこの点を念頭に置いておく必要があります。』

ここで下振れだけではなくちゃんと「上振れ」も言っているのは(関税交渉が思いのほか順調に進展したり、突然トランプが改心してめだか師匠ムーブになるというような可能性があるんだから当たり前だけど)当然ながら結構なお話。

というのはですね、4月の展望レポートって何がクソインパクトあったかって、経済見通し引き下げでリスクバランスは下、物価見通しも引き下げでリスクバランスはそれまで上だったのが下、でもって会見での植田さんの説明もハトハトチキン、って出し方をしたから「なんじゃこの全面降伏モードは」ということになったわけですよ。単に「今回は1回パス」だけで良かったのに過剰なまでに下方バイアスを強調した情報発信になっていたからあの相場になった、という面は多々ある訳でして、でまあさすがに大本営もやべえと思ったのか主な意見では展望レポート基本的見解や会合後の会見で示されたハトハトチキンバイアスをある程度中和(中立化ではない)させてるな、と思いましたし、その後の国会などでの説明も「見通し達成への確度が高まれば利上げ」ということでコミュニケーションを立て直している感があったわけです。

でまあ今回ですが、ワタクシはやはり遺憾ながらハトハトチキンだなあ(理由は関税政策の影響の説明部分がやたら丁寧なこと)だし、緩和の調整つまり利上げの前のめり感が一切出さない(理由はお気持ち物価の説明に力点置いている、すなわち利上げしない理由の方の背景説明ばかり一生懸命やっててアクチュアルの物価は「コストプッシュです」で方吹けているから)、というコンボなのでハトハトチキン認定しましたが、ここに「通商政策のリスクは上振れ下振れあり」とちゃんと書いている、というのはジャガーチェンジができる(やるかどうかは兎も角)布石はここでも着実に打っていることが分かるわけです。

ということなので、このあたりのジャガーチェンジができるようにしている仕掛け部分を重視すれば、むしろ衣はハトだけど下の鎧はタカじゃん、とも読めますので、タカ解釈がおかしいとは今回は思わないですアタクシ。

えっと、何の話をしていたんでしたっけ(笑)リスクに関するマクラの続きです。

『例えば、本日ご説明した日本銀行の中心的な見通しについては、「各国の通商政策等に関し、今後、各国間の交渉がある程度進展すること」、また、「グローバルサプライチェーンが大きく毀損されるような破壊的な状況は回避されること」などを前提としています。』

何かこの前提がわかりにくいんですよね、関税何%とかをレンジで良いから想定出してほしいわ。

『逆に言えば、こうした前提が崩れれば、先行きの見通しは上下双方向に大きく変化する可能性があります。また、通商政策の展開そのものに加えて、それらを受けて、内外の経済主体がどのように対応するのか、という点を巡っても大きな不確実性があり、十分な留意が必要です。

こうした点を踏まえつつ、以下では、この先、特に留意すべき3つのリスクについて指摘したいと思います。』

ということなので、ちゃんと上振れすなわち利上げ路線復活の話もしている訳ですよ、でもってこれ昨日も書いた気がしますし何ならこの後にも書きますが、まあ結局6月の国債買入減額の継続決定というのが今の最重要課題で、この課題を無事にクリア(=長期金利が無駄に暴れない)するためにはそれ以外の話は「1回パス」しておく、という感じだし、ちょうど関税問題もあるし、こりゃちょうどええとばかりに関税の経済への影響ガーを丁寧に説明した、ということなんだろうなあって思います。

と申しますのは、以下の「関税のリスク」なんですけど、ここで挙げられている話って経済下押しリスクちゃあ経済下押しリスクですが、特に3点目に長々とあるように「グローバル化の巻き戻し」という話に行数を割いていまして、じゃあグローバル化の巻き戻しってそれ経済下押しなのかというと必ずしもそうとは言えず、一方で物価に関しては明らかに構造的な物価押し下げ圧力の減衰を意味しますから、ここで言ってるリスクってリスクの話をしているからまあ見え方はハトなんですけれども、だから緩和政策が必要なのかという論点で見たばあいに必ずしもそうじゃないのではなかろうか、ってお話なのかなって思いました。

『(サプライチェーンの複雑性)

第1は、近年のグローバルサプライチェーンの高度化に伴い、その複雑さも増してきたことが、関税政策の影響に関する不確実性を高めているという点です。』

と、小難しい事を言っているようですが、

『IT関連を中心に、アジアにおける生産ネットワークが複雑に絡み合っている中で、思わぬ形でボトルネックが生じ、それがサプライチェーン全体に波及すれば、わが国の輸出入や企業活動に大きな影響を及ぼすことも考えられます。こうした観点からは、日米間の交渉だけではなく、各国と米国の交渉の帰趨についても丁寧にみていく必要があります。』

要するに日米交渉だけではなくて米中とか米とアセアン諸国の動向も見ないといけませんね、ってお話でした。

でもって次ですが、

『(企業の賃金・価格設定行動)

第2は、各国の通商政策の影響を受けて、わが国企業の賃金・価格設定行動が大きく変化してしまうリスクです。』

まあこれはリスクです、ってことなんでしょうけれども、前段で「マインドへの影響から需要が下押しする影響」について説明をしていて、なんか重複感半端ないですね。

『先ほど、労働需給の引き締まった状態が続く中、企業の積極的な賃金・価格設定行動は維持されるとの見通しを申し上げました。とはいえ、実際の物価の変動が企業や家計の予想や行動様式を変化させ、これを介して、先行きの物価への影響が増幅され得る可能性があることにも注意が必要です。』

賃金設定で言えば冬季賞与と来年の賃金設定、って事になると思うのですが、そこまで見るのか見ないでもどう見ても問題ないじゃろとなるのかの判断のポイントがどこにあるのかが良くわからんので、これまた通商交渉の進展度合いによって「ああ大丈夫大丈夫」となるかもしれませんね。


・インフレ期待は本当に2%に上がる過程なのでしょうかねえ

でもってこの部分で「インフレ期待のアンカー」という話が続くのですが、

『人々の物価観が2%にアンカーされている米欧と異なり、わが国では、いまなお、緩やかな物価上昇を前提とした賃金・価格設定行動が、企業や社会に十分に定着したとは言えない状況にあります。』

という認識になっているのですが、家計に関してはホンマカイナという感じで、緩やかどころではない物価上昇に対してどうしましょって感じになっていないのかねと思いますし、最近の値上げって寧ろお間ら調子乗ってないかムーブも感じないわけでもないし、本当にインフレ期待がまだまだ低い、というのが正しいのかってもうちょっと検討した方が良いんじゃないかって思うのですよね。

もしここを読み間違えていたら割と重大なダメージになるわけでして、この部分ってそりゃまあ日銀だって必死こいて実態について考えているとは思うのですが、緩和政策継続の方に思考が引っ張られていたりしたら後年戦犯扱いになりますよ本当に大事ですからあんまり過去に引っ張られないで、とは申し上げたいところです。


・結局は主要製造業大手企業の冬から春に向けての賃金設定で判断しそうですね

『そうした中にあって、関税政策の影響により、輸出企業やグローバル企業の収益に下押し圧力がかかる場合、それが自社の賃金抑制圧力や、サプライチェーンを通じたコスト削減圧力につながることがないか、については丁寧にみていく必要があります。』

何かオブラートに包んでいますけど結局は主要製造業大企業のこの先の賃金設定がデフレ脳な設定に戻ってしまうか、それともデフレ脳にはならないで、賃上げが多少マイルドになるにせよ、物価上昇にある程度追随できる賃上げになるのか、というのが注目です、って思いっきりゆうとりますなこりゃまた。

『逆に、グローバルに物流が混乱し、輸入物価に上昇圧力がかかるような状況が生じた場合、コストプッシュ圧力が物価、更には賃金に影響を及ぼす可能性がある点にも注意が必要です。』

後半は注意するのは良いんですが今回の講演の理屈、コストプッシュは中央銀行は対応しない、ですと注意が必要ったって注意した結果なんのアクションに繋がるのかが意味不明ですね〜。


・グローバル化の巻き戻しの可能性についての話が一番長いのよ

でもってこの次が『(グローバル化の先行き)』って小見出しですがこれがかなりの大作。

『第3は、より長い目でみて、米国の関税政策やそれを契機に構築される新たな国際的な関係が、グローバル化という世界経済の成長を支えてきた大きな流れにどのような影響を及ぼし得るかという点です。』

という話でして、これもはや目先の金融政策関係ないじゃろという話ですけれども、以下壮大な話になっているので鑑賞するには興味深いお話になっています、引用しますね。

『図表8をご覧ください。左グラフにありますように、世界の貿易や直接投資は、東西冷戦が終結した 1990 年代以降、2000 年代後半にグローバル金融危機が起こるまで、急速に増加しました。その後も、世界貿易は、世界経済の成長とおおむね同じペースで増加を続けています。また、右グラフにありますように、わが国の企業は、生産コストを抑制するサプライチェーンの構築や現地需要の取り込みなどを企図して、海外諸国と比べても、より積極的に対外直接投資に取り組んできました。』

はい。

『こうしたグローバル化への対応は、わが国企業の収益力強化に貢献してきたと考えられますが、一方で、様々なリスクを抱え込むことにもつながっています。』

ほう。

『例えば、製品の生産工程を細分化し、それらを複数の国にまたがって配置することは、コスト抑制に資する一方、生産・在庫管理を難しくしている面があります。こうした脆弱性は、コロナ禍以降に相次いだサプライチェーン障害によって、より明確になりました。』

まあそうですよねってのはありまして、こちとら昭和脳なので、それこそどっかの国でクーデターが起きましてどうのこうのとか、内戦が現在こんな感じで進行していますとか、そういうニュースを普段のニュースでホイホイと聞いていたわけなので、その時代から比較したらそら海外展開も進むし、急に昭和に戻ったらエライコッチャだわという話でもありますわな。

『また、ロシアのウクライナ侵攻などは、各国の経済安全保障に対する意識を高めることになり、これが世界の貿易や企業の生産活動に影響を与えるケースもでてきています。このような流れが続く中、今回の関税政策が、サプライチェーンの在り方に関する更なる検討を促すきっかけとなり、企業行動、とくに生産拠点の立地戦略に大きな変化をもたらす可能性があります。』

今回は戦争と超大国の横紙破りの合わせ技ですもんね。

『もちろん、生産拠点をどこに配置するかは、コストとベネフィット、様々なリスク要因を考慮して企業自身が判断すべき問題です。世界経済を巡る大きな環境変化は、企業が乗り越えなければならない新たな課題ですが、過去にも、わが国経済は、企業の前向きな取り組みを原動力として様々な課題を乗り越え、成長力を高めてきました。』


・グローバル化の話の後半はリスク云々の話ではなくて米ロに向けた素晴らしいメッセージになっていて評価されるべきです

でもってこの後の部分は大変に良いメッセージだと思います、引き続き引用しますが、

『こうした前向きな努力を後押しするためにも、企業が過度に国際情勢等に対するリスクを警戒しなくて済むよう、開かれた、公正かつルールに基づく国際経済秩序を支えていくことが大切です。』

これはまあロシアもそうですがトラ公に向かっても抗議表明しているような話ですが、大変に良いメッセージだと思いました。連中が聞く耳持つとは思えないけど、意思表示をするのはとても大事。

『この点は、私が出席した4月のIMFC会合(国際通貨金融委員会)でも改めて確認されました。』

ほほう。

『過去 30 年にわたる急速なグローバル化が、その成果の分配を巡って様々な難しい問題を引き起こしているのは事実ですが、その一方で、世界経済の分断化(fragmentation)やデカップリングの進展による勝者がいないこともまた、事実です。』

おーーー!

『各国は、今後、より良い国際経済秩序を構築する努力を重ねていく必要があります。その過程では、国際金融資本市場や国際金融システムの安定を確保していくことも重要です。日本銀行としても、各国の中央銀行や内外の関係者と情報交換をしながら、自らの持ち場において、こうした課題にしっかりと対応していきたいと考えています。』

なんかここだけ滅茶苦茶異質なんですが、植田総裁が思い入れを籠めて差し込みでもしていたのだったらば植田総裁素晴らしいじゃんと思いますし、まあ日銀としてもこういうメッセージを出したい、というのがあったのでしたらそれもまた素晴らしいことでして、この部分って目先の金融政策と関係ないからニュースネタにはならないのですが、もっと評価されるべきところ(というかまあ今回の講演での評価ポイントはほとんどここしかないわ)だと思いました。


・金融政策運営では金利の運営について今はパスだけど状況好転したらジャガーチェンジの余地を示す

『4.日本銀行の金融政策運営』は『(先行きの金融政策運営)』から始まりますが、ここはもう「当面は分からんのでパス」という説明で一貫しています。

『それでは、日本銀行の金融政策運営に話を移したいと思います。』

『ここまで申し上げてきたように、現時点で日本銀行としては、わが国経済は関税政策による下押し圧力を受けつつも持ちこたえ、賃金と物価が相互に参照しながら緩やかに上昇していくメカニズムも途切れることはないと考えています。』

「賃金と物価の好循環」やっぱり本格的にお蔵入りなんでしょうね、もうこの表現に統一されてますもん。

『基調的な物価上昇率についても、いったん伸び悩む局面はあるものの、2%に向けて徐々に高まっていくという大きな方向感は、これまでの見通しと変わりありません。その一方で、こうした中心的な見通しに対するリスクとして、各国の通商政策の今後の展開を巡る不確実性はきわめて高く、その金融・為替市場やわが国経済・物価への影響については、十分注視していく必要があります。』

でもってこの次に直近の米中合意(一時停戦合意みたいなもんですが)を受けての見通し変化は起きたのか問題にご丁寧に触れていまして、

『最近の各国間の交渉の進展、とくに米国と中国が、相互の関税率を大幅に引き下げることで合意したことは市場においてポジティブに受け止められていますが、それでもなお、不透明感が強い状況は続いています。金融政策運営にあたっては、これらの動向を丁寧に確認したうえで、適切に判断していく必要があります。』

まあこの書き方をみますと(ただの一時停戦合意だから当たり前ではありますが)先行きはまだ全然わからんから動かんもんねーというのは旺盛にみられるわけで、まだまだ動くような雰囲気は出しませんなというお話。

とは言え返す刀でジャガーチェンジの余地は残していまして、

『その前提として、現状、わが国の金融環境が緩和的な状態にあることは、重要なポイントです。図表9をご覧ください。これまで、予想物価上昇率が緩やかに上昇する中でも慎重に緩和度合いを調整してきたこともあり、現在の実質金利は、大規模緩和の時期をも下回る大幅なマイナスとなっています。また、金融機関の貸出スタンスは引き続き積極的で、社債等の発行環境も総じて良好な状態を維持しています。こうした緩和的な金融環境は、各国の通商政策の影響がみられるもとでも、わが国の経済活動をしっかりとサポートしていると判断しています。』

ちなみにこの「実質金利」(脚注にあるように「実質金利は、国債利回り(1年物)から予想物価上昇率(日本銀行スタッフによる推計値)を差し引くことにより算出」というだいぶ怪しげなものを使っていますけど、これは例によって展望レポート背景説明を見ますと、4月号だと本文32ページの図表47に同じものがあります。

でまあその実質金利の水準の見せ方の怪しさはさておきますけれども、まあこのように実質金利はドマイナスアピールをしているのですから、通商交渉好転の暁にはしらっとジャガーチェンジする布石は盛大に打っているわけですな。

『以上の点を踏まえますと、今後、私どもの中心的な見通しに沿って、わが国の基調的な物価上昇率が2%に向けて高まっていくという姿が実現していくとすれば、経済・物価情勢の改善に応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことになると考えています。そのうえで、各国の通商政策の今後の展開やその影響を巡る不確実性がきわめて高い状況にあることを踏まえ、そうした見通しが実現していくかについては、内外の経済・物価情勢や金融市場の動向等を丁寧に確認し、予断を持たずに判断していく方針です。』

と最後は従来示している通りの話をして締めています。


・長期国債買入減額に関してはイタコ話法を使って日銀の減額に関するやる気を見せたものと解釈します

一方で異色だったのは次(実質最後)のコーナーの『(国債買入れの減額計画の中間評価)』です。

『最後に、長期国債の買入れについてお話しします。日本銀行は、かつて実施していた大規模緩和からの出口を進めていく中で、昨年6月、我々が市場から買入れている長期国債の金額を減らしていく方針を決定しました。翌7月には、図表 10 にあるような、2026 年3月までの減額計画を策定し、現在は、この計画に沿って実際に減額を進めています。』

から始まりますが、ここも含めて以下はただの現状のご紹介ですので引用はしますが流します。

『そこでは、「長期金利は金融市場において形成されることが基本」であるとしたうえで、日本銀行による国債買入れは、「国債市場の安定に配慮するための柔軟性を確保しつつ、予見可能な形で減額していく」としています。予見可能性という意味では、現在の計画において、来年1〜3月にかけて、国債買入れ額を毎四半期 4,000億円程度ずつ減額していくことをあらかじめ明確に示しています。一方、柔軟性を確保する観点からは、計画の中で、「長期金利が急激に上昇する場合には、機動的に、買入れ額の増額等を実施する」こととしているほか、国債の残存期間別の買入れ額といった具体的な事項は、その時々の市場環境を踏まえて実務的に決定する扱いとしています。』

『さらに、今月開催される金融政策決定会合において、現在の計画の「中間評価」を行うとともに、2026 年4月以降の買入れ方針について検討し、その結果をお示しすることとしています。』

でもって段落が変わって、

『そうしたもとで、現在、日本銀行では、この中間評価に向けて、国債市場の動向や機能度の点検を進めています。その一環として、先月半ばには、債券市場の参加者との意見交換を行うための会合を開催しました。昨日、同会合の議事要旨が公表されていますが、そこでの議論も踏まえたうえで、現時点で私どもが考えているポイントは、次の3点になります。』

ということでマクラが長いのは内外情勢調査会が相手なので背景説明しないで本編から入るのはちょっと不親切だから、ってことでしょう。では3点ですが、

『第1は、これまでのところ国債買入れの減額は、国債市場の機能度回復という所期の効果を発揮しているということです。』

まあやらないよりはましだけどもっと減額すればもっと機能度回復してたんじゃないでしょうかとしか申し上げようがない。

『市場参加者からは、関税政策の影響を受けて、春先以降、市場の流動性が低下する局面がみられたが、全体としてみれば、国債市場の機能度は改善傾向にあるとの指摘が多く聞かれました。こうしたもとで、来年3月までの現在の減額計画の修正を求める声は限られているようです。そのうえで、日本銀行の国債保有残高がなお多額に上るもとで、市場の機能度を一段と高める努力を続けていくことが重要との認識も、多くの市場参加者に共有されていたように思います。』

>来年3月までの現在の減額計画の修正を求める声は限られているようです
>来年3月までの現在の減額計画の修正を求める声は限られているようです
>来年3月までの現在の減額計画の修正を求める声は限られているようです

イタコ話法キタコレ!


『第2は、2026 年4月以降の計画を検討する際には、引き続き、予見可能性と柔軟性のバランスが重要であるという点です。』

なのは良いんですけど、来年4月以降のペースについて今から決め打ちする必要ってあるのかね、というのは疑問で、何ならFEDとかだって(規模が違うから参考にしにくいのはあるけど)とりあえずバランスシートの縮小幅(の限度)を決めてオートパイロットで減らしていって、途中で「今後はこれで行きます」って言ってペースを変更している訳でして、2026年4月以降を決め打ちするんじゃなくて、そろそろオートパイロット方式にしても良いんじゃないか(まあべき論としては加速しろなのでオートパイロット方式を今入れられるとペース遅いわと言い出しそうですけどワタクシ)。

でもって、

『予見可能性を確保する観点からは、あらかじめ、ある程度の期間の計画を示すことが適切と考えられます。一方で、国債市場の機能度の回復がなお道半ばにあることや、春先以降の価格変動の経験も踏まえますと、引き続き、柔軟性を確保する仕組みが必要とのご意見が多かったように思います。』

ここでもイタコ論法なのですが、市場の大きな変動に対する柔軟性、の他に「実はもっと加速しても良かったんじゃないか」なのが見えてきた時の柔軟性ってのもあると思うので、なにも今の時点で1年半とか2年も先の話を決め打ちせんでもよかろうって思うのですが(前回は初回だったから2年というか1年9か月にしてたけど・・・・・)。

まあそれは兎も角3点目。

『第3は、市場参加者からは、2026 年4月以降も、国債の買入れ額を減らしていくことが適切との声が多く聞かれたという点です。』

はいはいイタコ話法イタコ話法。

『もっとも、具体的な減額ペースについては様々な意見がありました。日本銀行としては、これまでの減額の経験を踏まえつつ、こうしたご意見も参考にしながら、次回の金融政策決定会合において、来年4月以降の買入れ額をどのようにしていくのか議論していきたいと考えています。』

いやマジで「方向性としては減額するのは変わらんのだが今後の減額の進捗を踏まえて12月会合か1月会合辺りを目途に26年4月以降の具体的な計画を策定したい」で何が困るのかとは思うんですけどねえ・・・・・・さもなくば普通にオートパイロットにして、何か不具合有りそうだったら修正しますわ方式にするか。






2025/06/04

〇植田総裁内外情勢調査会講演ですが「利上げへの熱量無し」「輪番削減はやる気満々」かなと

https://www.boj.or.jp/about/press/koen_2025/data/ko250603a1.pdf
最近の経済・物価情勢と金融政策運営
―― 内外情勢調査会における講演 ――
日本銀行総裁 植田 和男


・基本的には「慎重スタンス」の表明とアタクシは読みましたがハトハトと読まない人もいるでしょうな

今回の内外情勢講演はやや解釈に幅が出てくると思うのですよね。と申しますのは「見通し通りに推移すれば緩和政策の調整を行う」というのを強調しているというのがあって、しかも経済に関して言えば関税の影響の話をああでもないこうでもないとしているけれども、実際の経済の認識についてはここまでのところ大コケしている訳ではない、ということになっているうえに、最後の長期国債買入ペース削減問題に関しては割とやる気満々になっているんですよね。

とは言いましても、まあアタクシ思いまするに、政策スタンスの部分、米国関税政策の影響の説明の部分、「基調的物価」の説明部分を見ますと、まあ早期利上げなんてとてもとても、って感じの説明で、利上げをやっていって正常化しましょう感が全然出ていないな、という風に読んだので、どちらかというとハトハトというかや〜るき無し♪無し♪って読みました。

ってな訳でその辺を中心に読んでみるでござるの巻です。


・冒頭の「初心を忘れず」ってのはつまり2023年5月のハトハトチキン講演に立ち戻るということですよね

最初は『1.はじめに』ですが、

『日本銀行の植田でございます。本日は、内外情勢調査会でお話しする機会をいただき、ありがとうございます。今からちょうど2年前、私が日本銀行総裁に就任して初めて講演をさせていただいたのが本席でした。そこでは、総裁の職務を果たしていく際の心掛けとして、「論理的に判断したうえで、できるだけ分かりやすく説明していきたい」と申し上げました。また、物価の安定の達成というミッションの実現に向けて、当時ようやく見え始めていた「2%達成の『芽』を大事に育てていくこと」の重要性を指摘いたしました。』

でまあその「芽」を大事に育てていく、というのが何だったのか、2023年の内外情勢での金融政策運営の最後の部分を改めて確認しましょう。

https://www.boj.or.jp/about/press/koen_2023/ko230519a.htm
金融政策の基本的な考え方と経済・物価情勢の今後の展望
内外情勢調査会における講演
日本銀行総裁 植田 和男
2023年5月19日

『これをわが国の現状に引き直しますと、拙速な政策転換を行うことで、ようやくみえてきた2%達成の「芽」を摘んでしまうことになった場合のコストはきわめて大きいと考えられます。逆方向の、政策転換が遅れて2%を超える物価上昇率が持続してしまうリスクもありますが、こうした2%の定着を十分に見極めるまで基調的なインフレ率の上昇を「待つことのコスト」は、前者に比べれば大きくないと思われます。そうした意味で、先行きの出口に向けた金融緩和の修正は、時間をかけて判断していくことが適当だと考えています。この「芽」を大事に育て、賃金の上昇を伴う形で、2%の「物価安定の目標」を持続的・安定的に実現することを目指します。』(この部分のみ直上URL先2023年5月の植田総裁講演より)

ということで、「芽を大事に育てていく」とか言ってますがまあ既にセイタカアワダチソウ状態になってるじゃろヴォケと言いたいところですが、では2年前からどうなったのでしょうという話で講演に戻りますと、

『その後、幸いにして、わが国の経済・物価情勢は改善を続け、賃金の上昇を伴う形で2%達成の「芽」は順調に育ってきました。昨年3月には、2%の「物価安定の目標」が持続的・安定的に実現していくことが見通せる状況に至ったと判断し、10 年以上に及んだ大規模な金融緩和の枠組みを見直しました。その後、昨年7月、本年1月と政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整してきたところです。』

芽が育ちすぎてませんかねえ。

『もっとも、本年春先以降、米国が打ち出した一連の関税政策は、多くの人々の事前の予想を大きく上回る規模であり、内外の経済・物価を取り巻く環境は大きく変化しています。わが国の経済・物価を巡る環境も複雑さを増していますが、本日は、初心を忘れず、改めて、私どもの経済・物価に対する見方や金融政策運営の考え方について、出来るだけ分かりやすく説明したいと思います。』

>初心を忘れず

初心を忘れず、というのはまあ現国の試験問題的には「わかりやすく説明したい」だということになるのですが、2年前の講演が衝撃のハトハトチキン講演で為替市場における円安を促進した、ということがありますので、どうもこの「初心」とは「ハトハトチキン」を思い出しますし、ハトハトチキンが言いすぎならば「慎重なアプローチ」であり、「待つことのリスクは相対的に低いという認識」というお気持ちが溢れているようにアタクシには読み取れましたが勝手読みのし過ぎかも知れませんので念のため申し添えます。


・関税政策の影響はひたすら「経済に下」の話ばっかりなのと主役が展望レポート時の見立てから交代している感があります

『2.通商政策の影響と経済・物価情勢』ってのがまあ本編ですが、最初の小見出しが『(通商政策のわが国経済への影響)』ですな。最初の方の能書きは飛ばしまして関税政策の影響について。

『こうした各国の通商政策の動向は、いくつかの経路を介して、わが国の経済を下押しする要因となります。』

はい。

『第1の経路は、米国市場におけるわが国の輸出財の価格競争力の低下を起点としたものです。』

つまり従来の米国向け輸出に関連する数量あるいは収益への悪影響ですな。一応以下の能書きを引用します。

『これは、米国の関税政策の直接的な影響として、メディアなどで取り上げられることも多いかと思います。図表2をご覧ください。輸出関連のデータをみますと、これまでのところ、左グラフの実質輸出の実績はしっかりとしています。これには、今後の関税引き上げを見越した駆け込みの動きが一部影響していると考えられますが、この先、わが国企業が米国での販売価格に関税の影響を転嫁する場合には、米国製品にシェアを奪われるなどして、わが国からの輸出を抑制する方向に作用すると考えられます。』

でもって、

『実際、右グラフにあるように、輸出受注に対する企業の見方は、増加と減少の節目である 50 を下回っています。』

なので、マインドには出ているけれども実際には駆け込み効果などもあって今のところ数値としてはでていませんという評価ですね。

『他方、わが国の企業の中には、米国内の販売価格を変えずに、関税引き上げの影響を輸出採算の悪化という形で吸収する戦略をとる先もあると思います。この場合、現地での売れ行きや輸出数量に対する影響は限定的です。しかしながら、企業収益には下押し圧力がかかることになるため、これが先行きの賃上げや設備投資にマイナスの影響を及ぼす可能性があります。』

こっちは収益なので経済指標みたいな形で出るのにはもう少し時間がかかりますわな。

でもって次。

『第2の経路は、不確実性の高まりによる需要の減少を起点としたものです。』

でですね、この点ですけれどもこの先にしれっとこんな記述がありまして、

『第1の経路に比べて話題になることは少ないですが、むしろこちらのルートの方が、より早い段階でわが国経済の下押しに働く可能性があると考えています。』

あらま、って感じでして、従来(というか4月展望レポート)では関税政策の影響で世界経済に影響が来て(IMFのWEOもちょうど下方修正された時期でした)、それが国内経済に跳ねてくる、というルートで主に説明していたのですが、「むしろこちらのルートの方が、より早い段階でわが国経済の下押しに働く可能性があると考えています。」としているのは注目ですね。

以下能書き。

『関税政策を巡る不確実性がこれだけ高ければ、その影響を受ける可能性がある企業は、当然のことながら、各種の投資案件に対して慎重にならざるを得ません。』

『家計部門でも、将来の景気悪化リスクなどに備え、自動車・家電といった耐久消費財や住宅の購入など、当面、大きな買い物を見合わせるインセンティブが生じます。』

ついこの前(と言っても関税前)は耐久消費財の前倒しの可能性に言及していたのでこの辺エラク弱気化したなと思ったので、まあこの辺りからもワシ的にはいつものハトハト音頭、と思ってしまいました。

『実際、図表3の企業や家計のコンフィデンスのデータをみますと、わが国の企業の景況感や消費者マインドは、ここにきて悪化しており、不確実性の高まりが企業や家計の支出行動に影響を及ぼす可能性があります。』

と来まして、

『実際にどの程度の影響が及び得るのかという点については、日本銀行としても、次回短観において、今年度の設備投資計画の修正状況などをしっかりと確認していきたいと考えています。』

ということで短観の設備投資計画がにわかに大注目となってきましたね。

では3番目行きます

『第3の経路は、世界経済が広く減速し、グローバルな貿易活動が縮小することに伴う影響です。』

4月の展望レポートの時点ではむしろこれがメインになっていて、他の主要国の中央銀行があの時点ではFEDは「まだ様子分からんから1回パス」でしたし、もともと景気減速気味だったECBは「段階的な利下げの追加で政策金利を中立化」はしたものの影響はこれから見て行きます、という中でなぜかフォワードルッキングに世界経済の下押しが強まるからベースラインシナリオを変更しました、とぶっこんで来たわけですが、今回はメインが「米国向け輸出の直接の影響」「マインド悪化による需要減」で、特にマインド悪化の方がこれから直ぐに来ます、ってことで話が変わっていますわな。

以下は能書き。

『いま述べた不確実性の高まりに伴う支出先送りの動きは、日本だけでなく、世界中で生じます。』

『また、関税を課される国だけでなく、米国など関税を課す側の国でも、輸入物価の上昇などを通じて国内需要が下押しされる可能性があります。』

『とりわけ、多くの生産工程を必要とする耐久消費財や資本財などに対する世界的な需要の減少は、グローバルサプライチェーンを通じて増幅される形で、わが国を含む各国の輸出や生産を下押しする可能性があります。』

とまあエライしょんぼりしてしまう話ですが、

『この点、4月に公表されたIMFの世界経済見通しでは、図表4の右グラフにあるように、先行き、グローバルな貿易量の停滞に引き摺られる形で、世界全体の実質GDPが下振れる姿が予測されています。こうした貿易活動を通じた影響に加え、世界経済の減速が、海外現地法人からの配当金減少という形で、わが国企業の収益を下押しする可能性にも留意が必要です。』

とまあ威勢の悪い話。

最後は金融市場からの話です、まあこれは普通の事しか書いてませんが。

『第4の経路は、金融・為替市場を介したものです。』

はい。

『4月の半ばにかけては、米国による関税政策の発表をきっかけに、世界的に株価が大きめに下落し、ドル安が進みました。その後、こうした動きはある程度巻き戻され、世界的に株価や為替のボラティリティも低下してきていますが、引き続き、金融・為替市場の動向やそれがわが国経済に及ぼす影響を十分注視していきたいと考えています』

てな訳ですが、これ一つ留意点があって、「米国向けの直接的な輸出」と「マインド」ってのは関税交渉次第で一気に晴れる可能性がある代物なので、例によって例の如くこれが晴れたらまたも突如のジャガーチェンジが発生する、という可能性は無くは無い、というか多分そうなる、という点は留意すべき所でして、まあこれ読んでいると見極めに時間がかかりそうな説明にはなっていますが、所詮は関税交渉次第なので、トラ公の方が先に音を上げてしまえばこっちのもの、というのはおおありだと思いますからぜんぜん利上げないでっせと決め打ちするのもちょっとやりすぎ、というのはあると思います。


・現状の経済の走りについては逆に妙に強気ですがこれはジャガーチェンジをするための伏線ですね

次が『(わが国経済・物価の見通し)』ですが、ここの記述は威勢が良いのですよ。

『以上、米国の関税政策の影響について、やや詳しくご説明してきました。続いて、これを前提とした、わが国の経済・物価の見通しについてお話しします。』

という事ですが何とですね、

『いま申し上げたように、最近の関税政策は、いくつかのルートを通じて、わが国経済の下押し要因として作用します。もっとも、現時点で日本銀行としては、わが国経済は、こうした下押し圧力を受けつつも持ちこたえ、賃金と物価が相互に参照しながら緩やかに上昇していくというメカニズムも途切れることはないと見込んでいます。これは、高水準の企業収益がバッファーとなるほか、これまでの景気回復で家計の所得環境も底堅さを増しているためです。』

実質賃金のマイナスが続いているのに「これまでの景気回復で家計の所得環境も底堅さを増している」ってこれ下手に着火されたらアカン火種じゃろと思うのですが、まあ大本営発表ではこういう話にしているのは要は「足もとは強いよ」と言いたいという事。

『図表5をご覧ください。ここ数年、わが国の企業収益は、全体として歴史的な高水準を続けており、多少の下押し圧力を受けたとしても、資金面から企業行動が大きく制約される状況ではありません。』

『また、先ほど申し上げた関税政策の影響は、まずは製造業・輸出企業を中心に表れると見込まれますが、雇用全体の約8割を占める非製造業が堅調であることから、これが、わが国の経済活動を下支えすると考えられます。』

なんですかこの楽観(のように見える説明)はw

『この点、2019 年に米中貿易摩擦が拡大した局面でも、わが国の輸出や製造業の生産活動が弱めの動きを余儀なくされた一方、非製造業の業績は堅調に推移し、人手不足感が強い状況は維持されました。』

で、ここからが家計の話なんですが、実質賃金の話を丸無視して雇用が強い、という話をしていて、だから「家計の所得環境も底堅さを増している」ということにする、という割と強引感のある説明。

『人口動態の変化を受けて労働供給の限界が強く意識されている中、このところ、非製造業の人手不足感は一段と強まっています。こうしたことから、関税政策の影響を受けるもとでも、わが国の労働需給は引き締まった状況が続き、企業の積極的な賃金設定行動は、全体として維持されていくのではないかと判断しています。』

という根拠になっていますので、つまり現状が強いってのを強調しているのは、関税交渉が進展した場合にジャガーチェンジをするための布石を打っていることに他ならないので、この部分を重視して読めば「割とタカっぽいじゃん」となると思います。


・好循環は遂にお蔵入り(か????)

先ほどの部分を再掲しますが、

『もっとも、現時点で日本銀行としては、わが国経済は、こうした下押し圧力を受けつつも持ちこたえ、賃金と物価が相互に参照しながら緩やかに上昇していくというメカニズムも途切れることはないと見込んでいます。』

>賃金と物価が相互に参照しながら緩やかに上昇していくというメカニズム
>賃金と物価が相互に参照しながら緩やかに上昇していくというメカニズム
>賃金と物価が相互に参照しながら緩やかに上昇していくというメカニズム

・・・・・( ゚д゚)
・・・・・(つд⊂)ゴシゴシ
・・・・・( ゚д゚;)

なんですかこれはという感じですが、まあさすがに「好循環」って言ってると今は政治ばかりが叩かれているので日銀セーフ(寧ろ利上げするなとか言われていて金融リテラシー無し無しムーブなのが悲しいですが)という図になっていますが、どこかでうっかり犬笛を吹かれたらどうみたって「好循環」って炎上要素ですから、そらまあ好循環はお蔵入りさせろというのはあったのですが、今回しれっとお蔵入りですかね、まあ今後も確認したいですけど。


・物価に関しては「基調的物価」の説明でいろいろな図表登場

『次に、物価についてご説明します。足もと、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は3%台半ばとなっています。これについては、図表6でお示ししているように、昨年秋以降、米などの食料品価格が大きく上昇していることが寄与しています。こうした価格の上昇については、輸入した肥料や原材料、天候要因などのコストプッシュの影響が大きいとみており、少なくとも前年比でみた上昇率は、今後低下していくと見込まれます。』

コストプッシュだから対応しない、という屁理屈がおかしい点については今次のインフレ局面で主要国の中央銀行だって対応を間違えていて、その反省の元に米国の定例のロンガーランゴールあんどストラテジーの見直しが行われている、という状況になっているのに、これ黒田末期からの物価上昇をずっと一時的と言い張って政策の見直しが遅れていることの正当化先にありきで「コストプッシュだから対応しない」を続けた結果物価が高止まりしているんですけど、こんなん「初期段階でコストプッシュは一時的と思っていましたがどうもそうではなかったようです」って言えば済むことを何で日銀って「謝ったら死ぬ」ムーブをぶちかますんでしょうかねえと思います、まあいつもの悪態ですが。

『そのうえで、中央銀行の金融政策は、特定の財・サービスの価格を動かすものではなく、需要全体に影響を及ぼすことを通じて物価の安定を実現しようとするものであり、また、その政策効果は時間をかけて経済に波及していくものです。そのため、2%の物価安定を実現していくにあたっては、コストプッシュの直接的な影響を除いた基調的な物価上昇率の動きをみていくことが重要となります。』

はいきました基調的物価とかいうお気持ち物価。

『残念ながら、これさえみれば基調的な物価の動きがわかるという便利な指標は存在しません。物価変動の背後にある労働需給や賃金上昇率など、経済・物価に関する様々な情報とともに、各種の物価指標を丁寧にみていく必要があります。そう申し上げたうえで、図表7にお示しした代表的な指標を見る限り、』

ということで図表7を見ますと、巻末の方に「図表7 基調的な物価上昇率に関連する指標」ってのがあるので見るわけですが・・・・・・・・・・(PDF17枚目になります)

『@価格変動の大きい品目を控除した物価指標』

凡例を見ますと、

『@CPI(除く生鮮食品)
ACPI(除く生鮮食品・エネルギー)
BCPI(刈込平均値)
CCPI(加重中央値)
DCPI(最頻値)』

となっていますけど、毎月出している刈込平均の図表対比で扱いが随分寂しいですな、と思うと次に

『A賃金変動を反映しやすい指標』

というのが出てきまして

『@CPI(低変動品目)
ACPI(サービス)のトレンド』

ってのがあるんですが、これは展望レポート背景説明の方でも同じものがありまして、4月展望レポート全文(https://www.boj.or.jp/mopo/outlook/gor2504b.pdf)本文28ページ(PDFで30枚目)に3つあるグラフの一番下に「図表38:賃金要因によるCPIの変動」ってのがありまして、まあこれと同じものですわな。

『B中長期の予想物価上昇率』

がこの前もネタにしましたように、そもそもこの数値自体が推計値だし、家計のインフレ期待に関しては定性的な回答(大きく上がるとか上がるとか下がるとか大きく下がるとか)を数値処理しているので、過去の低インフレ局面を割と長い期間含めた処理をしたら局面変化の際にちゃんとその変化を読み取れているのかが怪しい(というのはスタッフペーパーの段階ではちゃんと記載されています為念)のに、あたかも「ザ・10年予想物価上昇率」があるようなグラフになっているのが毎度申し上げている通りの怪しさですし、

『C経済モデルから推計された指標』

『モデル@:フィリップス曲線の切片
モデルA:時変VARモデル
モデルB:準構造モデル』

こりゃ何ですねん(フィリップス曲線は4月号展望全文の本文31ページに出ています)というのがありまして、なんかいろいろと説明しようとしているのは分かるのですが、どうせお前らまたチェリーピッキングしとるじゃろと言いたくなるのですな。

とは言いましても今回新手に出てきたCの数字はなんか急速に2に接近してて、何ならお前らこれ物価目標達成じゃなねえのとも思ってしまいますので何なんでしょうという感じではありますが、本編に戻りますと。

『わが国の基調的な物価上昇率は、これまでのところ緩やかに上昇していこれまでのところ緩やかに上昇しています。』

となっているだけでお気持ち物価の方は威勢良くない説明になっていますわな。ただまあさすがに実際の物価に関しては、

『4月の消費者物価指数をみても、様々な品目において、いわゆる「期初の値上げ」という形で、企業が人件費や物流費を含むコスト上昇を販売価格に反映する動きが続いていることが確認されました。』

としていますが、最後に関税政策を出してきて

『もちろん、関税政策の影響を受けてわが国の経済成長のペースが鈍化することは、物価に対する下押し圧力として作用します。』

つまりは利上げを前倒しする気は皆無というのはよくわかります。

『しかしながら、そうしたもとでも、先ほど申し上げたように、賃金と物価が相互に参照しながら緩やかに上昇していくメカニズムは維持されると考えています。また、先行き、各国間の交渉が進展し、通商政策を巡る不確実性が低下していけば、海外経済は緩やかな成長経路に復していき、わが国経済の成長率も高まっていくことが予想されます。』

ということなので、まあ一応関税交渉次第ではジャガーチェンジの可能性は大有り、というのは把握できたなというところではあります。

・・・・・ここで時間切れになりましたので続き(主に輪番ネタ)は明日で勘弁してつかあさい。






2025/05/28

〇植田総裁金研国際コンファランスの挨拶がとんでもない屁理屈大王になっていて見苦しいわ恥ずかしいわ

来週内外情勢があるって話をしましたが、よく考えたら5月末は金研国際コンファランスがあるんでした大変に失礼いたしました。

https://www.boj.or.jp/about/press/koen_2025/data/ko250527a1.pdf
日本銀行金融研究所主催2025年国際コンファランスにおける開会挨拶の邦訳
日本銀行総裁 植田 和男

・基調的な物価(講演原文では「underlying inflation」)の説明が苦しいという自覚はあるようですね

『2.わが国の金融政策が直面している課題』の二つ目の小見出し『(政策金利)』の途中から日銀の屁理屈音頭がおっぱじまりますわよハーヨイヨイ♪

『難しい質問は、実際の物価上昇率が 2%を上回って3年以上推移しているにも関わらず、なぜ日本銀行はそのような緩和的なスタンスを維持しているのか、ということです。』

そりゃお前らが黒田を否定しないでハトハトチキンやってるからじゃろ、と思うのですが当然ながら当事者がそんなことを認める訳も無いので屁理屈が展開されます、以下ご覧ください。

『この問いに対して、日本銀行は、基調的な物価上昇率が 2%を下回っているため、と答えてきました。これは自然と次の質問につながります。基調的な物価上昇率は、何によって構成されているのでしょうか。』

政策から後付けされたお前らのお気持ち表明じゃろ、と言っても当事者がそんなこと以下同文。

『基本的には、基調的な物価上昇率とは、一時的な変動要因を除いた物価上昇率を指します。しかし、実際には、この概念を捉える完璧なデータは存在しません。そのため、データの全体感と経済を巡る情報を勘案して総合的に判断しなければなりません。』

だったら最初から総合判断で恣意的にやっていますって言えば良いのに、そこで何かちゃんとしたベンチマークがあるかのような話をするから苦しい屁理屈になるのですが、というかまあ今回のこのスピーチ、「基調的な物価」での説明が何ぼ何でも限界に来ているってことを大本営でも自覚しているんでしょうね、この段落の最後になるんですけどこの最後の部分はワロタ。

『そして、この点は、人々とのコミュニケーションを難しくさせます。』

そらお前らのお気持ちだしお気持ちの変わる原動力が首尾一貫してないからこっちだって分からんわとしか申し上げようがないですけど、

『私どもは、基調的な物価上昇率を巡る説明が不明瞭であるとの厳しい指摘をしばしば受けてきました。』

wwwwwwwwwwそらお気持ち物価なんだから仕方ないじゃろと思うのですが、厳しい指摘って自覚してるならお気持ち物価止めええやと思う訳ですが、以下更に充実の屁理屈が展開されますので鑑賞しましょう。


・構成要素に明らかに下方バイアスを持っていそうなのを満載にした合成予想物価上昇率を持ち出しまして・・・・

でもって次の小見出しが『(予想物価上昇率)』です。

『基調的な物価上昇率を評価するために注意深くモニターしている指標のひとつは、予想物価上昇率です。』

とまあそういうことで、物価の指標を引っ張り出してもだんだん説明が苦しくなる(後述)なので、とうとう予想物価上昇率を持ち出しているんですけれども、

『基調的な物価上昇率という概念よりは明瞭ですが、予想物価上昇率もまた、誰の予想が最も重要なのか、どの予想年限が適当なのか、などの問題を伴います。』

と言ってるそばから、

『図表 4 は、各指標が有する情報を集約した日本の合成予想物価上昇率に加えて、ドイツと米国の中長期の予想物価上昇率を示しています。』

って言ってるんですが、図表4の『日米欧の中長期インフレ予想』を見ますと、その脚注は

『(注)中長期インフレ予想は、日本は合成予想物価上昇率(10年後)、米国・ドイツはコンセンサス・フォーキャスト(6〜10年後)。(出所)Bloomberg、Consensus Economics「コンセンサス・フォーキャスト」、QUICK「QUICK月次調査<債券>」、日本銀行』

この「合成予想物価上昇率10年後」ってのは展望レポートの背景説明の方にもあって。最近だと内田副総裁の講演でもリファーされていましたが、なんかいろんなもんをこねくり回していて、例えば短観の物価見通しとか生活意識アンケートの物価見通しとかもコネコネされていて何だかよくわからん数字になっているものな上、米国ドイツのコンセンサスフォーキャストってのは上記の脚注見たら出所がBBGになっているから、それって単に何とかストアンケートの集計結果みたいなもんで、一般市民のインフレ予想との乖離はどうなっているのか、ってなもんだし、同じベースで集計しているのかどうかも怪しいものを並べてどうするんだ、というお話な訳ですけれども、そういうのを比較した上で、

『ドイツと米国では、予想物価上昇率は、おおむね 2%から 3%の間で、驚くほど安定していました。2022 年から 2023 年の間に、物価上昇率が 10%近くに達したときも、それは目標水準近くにアンカーされていました3。この安定は、中央銀行が物価を安定させる能力に対する人々の信頼を表しているのではないかと思われます。』

からの、

『対照的に、日本の中長期の予想物価上昇率は、1990 年代後半から、大規模金融緩和が導入された 2013 年まで、概ね 0%から 1%の間にとどまっていました。予想物価上昇率は、2014 年に1%以上に高まりましたが、2016 年までに低下して、以前の範囲に戻り、2021 年までそこにとどまりました。より短い年限の予想物価上昇率は、よりゼロに近い水準にとどまっていました。ゼロインフレという均衡の強固さを物語ります。』

という話にしていまして、その結果として、

『予想物価上昇率は、グローバルなインフレ高騰と日本の継続的な金融緩和に反応して、2022 年に再び上昇し始めました。予想物価上昇率は、足もと、1.5%から 2.0%の間にあり、まだ 2%の目標水準を下回っているものの、この30 年間で最も高い水準にあります。すなわち、私どもは、予想物価上昇率をゼロから引き上げることには成功しましたが、2%にアンカーされているという状況には、まだ至っていません。このため、私どもは、今なお緩和的な政策スタンスを維持し続けています4。』

という政策の正当化に使っているのですが、そもそも日銀の合成予想物価上昇率については先般弊駄文で申し上げましたのの再掲ですが、

https://www.boj.or.jp/research/wps_rev/rev_2024/data/rev24j05.pdf
期間構造や予測力からみたインフレ予想指標の有用性
2024 年 5 月

こちらの5ページ(PDFの5枚目)あたりに『【図表 8】共通成分ベースの集計指標(年限別の合成予想物価上昇率)』ってのがありますが、よく見ますと、

『(注)年限別の合成予想物価上昇率は、家計(生活意識に関するアンケート調査<量的質問・質的質問>)、企業(短観)、専門家(コンセンサス・フォーキャスト、QUICK 調査、インフレスワップ)による各年限のインフレ予想について、主成分分析を用いて共通成分を抽出したもの。2006 年以前の計数は参考値。

(出所)日本銀行、Bloomberg、QUICK 月次調査<債券>、Consensus Economics「コンセンサス・フォーキャスト」』

ってやつなんですが、コンセンサスフォーキャストって過去の実績に引っ張られて今次局面で物価見通しを全然当ててなくて下方に外しっぱなしだし、まあクイック調査とかも然りですけど、これ現時点において下方バイアスを持ってそうなものを使っている時点でお察し指標(ちなみにこの日銀レビューを書いているのが調査統計局じゃなくて企画局というのも味わいが深い訳ですがwww)なんですけどねえ、ってなお話でもあったりします。


・基調的な物価上昇率は予想物価上昇率だという新しい言い訳が構築されてきたようです

でもってその続きですが、『(中央銀行コミュニケーション)』って小見出しになります。

『この政策スタンスのコミュニケーションは容易ではありません。』

そりゃそうじゃろお気持ち物価を尤もらしく屁理屈でデコレーションしているだけなんだからwwwwwwwwwww

『それは、基調的な物価上昇率の概念に伴う曖昧さもさることながら、図表 5 が示しているように、総合ベースでみた物価上昇率と基調的な物価上昇率との間に大きな乖離があるためです(ここでは、予想物価上昇率を基調的な物価上昇率の近似として用いています)』

>ここでは、予想物価上昇率を基調的な物価上昇率の近似として用いています
>ここでは、予想物価上昇率を基調的な物価上昇率の近似として用いています
>ここでは、予想物価上昇率を基調的な物価上昇率の近似として用いています

と、どさくさに紛れて勝手に基調的な物価上昇率を予想物価上昇率(しかも日銀計測のお手盛りVer)にすり替えてしまいましたwwwww

『その乖離は、サプライショックの直接的な影響と、総合ベースでみた物価上昇率に影響するその他の一時的な要因に対応しています。』

とのことですが、サプライショックが一過性なのか持続性があるのか、というのを丸無視してサプライショックだからネグリジアブルだ、って屁理屈捏ねてるからそうなるんじゃろという話で、


・推計データと直接計測されたデータが常に大きく乖離するのであればそれは推計がおかしいじゃろとwwwww

『中央銀行は、基調的な物価上昇率に主に反応しますが、人々は総合ベースでみた物価上昇率に反応する傾向があります。この反応の乖離は、常にある程度は存在するものですが、最近の乖離の大きさとそれが長い期間にわたって継続していることは、日本において特に問題となっています。』

>乖離の大きさとそれが長い期間にわたって継続していること
>乖離の大きさとそれが長い期間にわたって継続していること
>乖離の大きさとそれが長い期間にわたって継続していること

そもそも論として「計測可能なザ・基調的物価上昇率」が存在しないのですから、「乖離の大きさとそれが長い期間にわたって継続している」っていうのは、常識的な視点からしたら「お前らがお手盛りで計算している基調的な物価上昇率がそもそも間違えているんだろ」という話になるじゃろ、としか申し上げようがないのですけれども、何をいってるんでしょうかこの人はwwwww


・勝手に「中央銀行」を主語にするなと

さらに続きですが、

『一般的に、中央銀行は、サプライショックに対して、それが基調的な物価上昇率に影響するとみられない限り、その状況を見守るアプローチを採用しています。』

そうじゃなくて「一時的なショックに留まるのか、それとも中長期的な影響をもたらすのか」によって対応をするかしないかが決まる、ってのが中央銀行の物価安定という施策を進める際のポイントじゃろ勝手に「中央銀行は」とか言ってるんじゃないよお前らだけじゃろお前ら。

『私どももまた1度目のサプライショック、すなわち 2022 年から2023 年にかけての輸入財の価格上昇の状況を見守ってきました。しかしながら、日本の近年の経験は固有のものです。総合ベースでみた物価上昇率が高まった一方、基調的な物価上昇率も高まりました。基調的な物価上昇率を高めた要因として、コロナ禍からの景気回復や労働需給の引き締まりに加え、国内物価・賃金に影響を及ぼしたサプライショックを指摘することができます。』

『足もと、私どもは、食料品価格の上昇というかたちで、もう1つのサプライショックに直面しています。私どもの中心的な見通しでは、食料品価格上昇の影響は減衰していくとみています。しかしながら、基調的な物価上昇率が以前よりも 2%に近いことを踏まえると、食料品価格の上昇が基調的な物価上昇率に与え得る影響に注意する必要があります。』

と言ってる本当の物価上昇率が既に2%超えてるんじゃないですかねえ、と思うのですが最後に図々しく、

『サプライショックが世界的により頻繁に生じるようになるにつれて、総合ベースでみた物価上昇率と基調的な物価上昇率の関係が、多くの中央銀行にとって主な焦点であり続けると考えられます。』

とか偉そうに言っているのですが、他の中銀が基調的な物価上昇率と総合ベースで見た物価上昇率の関係でどうのこうのっていう政策対応の説明していましたっけ、ってな問題が有るわけですし、大体からしてコア物価指数を過度に重視することに対しても昔から常に指摘があったんですよね。


・ここで懐かしの変態仮面ジム・ブラード前セントルイス連銀総裁の2011年の指摘を見てみましょう

変態仮面だの何だの聞こえないことを良いことに極東の島国の片隅で勝手な二つ名つけていますが、まあ賛否はありますけどブラード前総裁の論点提起ってのは面白いので良くチェックしていました。

(URL長すぎで画面が乱れるかもなのでハイパーリンクは文字列の途中までに貼っております)
https://www.stlouisfed.org/news-releases/2011/05/23/st-louis-feds-bullard-discusses-commodity-prices-inflation-measures-and-inflation-targeting
St. Louis Fed's Bullard Discusses Commodity Prices, Inflation Measures, and Inflation Targeting
May 23, 2011

『Core vs. Headline Inflation』って小見出しの2パラ目ですが、基調的な物価ガーとか抜かしている屁理屈大本営はちょっとこれでも読めやという感じでして、

『“Headline inflation is the ultimate objective of monetary policy with respect to prices,” Bullard said, noting that these are the prices that households actually pay. “Core is not an objective in itself,” he added. He said that while the only reason to look at core is as an intermediate target for headline, “its use as an intermediate target is questionable.”』(直上URL先2011年5月のセントルイス連銀ブラード総裁講演紹介文より)

さらに、上記URL先でリファーされているのが『Measuring Inflation: The Core Is Rotten』ってまた
喧嘩を売るような題名の講演テキストになりますが、

https://www.stlouisfed.org/-/media/project/frbstl/stlouisfed/files/pdfs/bullard/remarks/measuring_inflation_may_18_2011_final.pdf
Measuring Inflation: The Core Is Rotten
Money Marketeers of New York University
New York, N.Y.
May 18, 2011

最初の『Introduction』の4パラグラフ目のところにありますけれども、

『One immediate benefit of dropping the emphasis on core inflation would be to reconnect the Fed with households and businesses who know price changes when they see them. With trips to the gas station and the grocery store being some of the most frequent shopping experiences for many Americans, it is hardly helpful for Fed credibility to appear to exclude all those prices from consideration in the formation of monetary policy.』

コア指数ガーばっかり言いすぎていると本来の目的である国民が本来負担している「総合物価」との乖離が長期的に生じた場合(ちなみに前の方の先の引用部分の直後にブラードの説明引用として、「For example, from 2003-2006, while core inflation averaged about 2 percent, it was consistently below headline inflation. 」ということで、総合物価が長期的にコア物価を上振れていた時期を例に出しています)に、金融政策本来の目的が果たせているのか、というような論点を提示しているわけですよ。

とまあそんあ次第でコア指数ですらコア指数に固執してはいかんのでは、というような指摘が大昔から有る中で、「基調的な物価上昇率と実際の物価上昇率の長期間の大きな乖離がどうのこうの」とか能天気に言ってる場合じゃない訳で、黒田緩和からの修正が遅れまくっているのを正当化するためのしょうもない言葉遊びしてる場合じゃないだろと思います。


・この講演原稿作ったのは誰だあ!(ガラッ)

てなわけでまあ突発性海原雄山状態になってしまうわけですが、この手の屁理屈、〇〇さんや〇〇さん(伏字に関しましては皆様勝手に好きなのを入れてください)が捏ね散らかすならまた大本営の屁理屈かよ、って笑えないけど苦笑しながら見るって感じですが、斯界の第一人者であらされる学者の植田和男先生ともあろうお方がこのような屁理屈満載の説明を、しかも海外からのお客様もお招きしたアカデミック寄りの金研国際コンファランスで行う、ってのさすがに如何なものかって話でして、植田先生だってこの牽強付会ぶりを読んだら分かると思うのですが、いや先生学者として言ってて恥ずかしくないのかね、と思ってしまいますし、そんな講演原稿作ったのは誰だかは存じませんけど、いやちょっと何なんだよ、と思いましたとさ、というのが本日の結論でした。






2025/05/27

〇G7会見でわざわざ超長期について質問されているのはワロタ&物価安定にコミットですかそうですか

しかしまあ何ですな、
https://www.boj.or.jp/about/press/kaiken_2025/kk250526a.pdf
植田総裁記者会見(5月22日)
――G7終了後の加藤財務大臣兼内閣府特命担当大臣、植田総裁 共同記者会見における総裁発言
2025年5月26日
日本銀行
―― 於・バンフ(カナダ)
2025年5月22日(木)
午後2時9分から約16分間(現地時間)

『【冒頭発言】

私ども日本銀行に関連するところに関して少しだけ申し上げれば、大臣のお話とちょっと重なりますが、世界経済に関して、各国の通商政策等を巡る不確実性の影響およびその背景にあるグローバルなインバランスの問題、状況などについて議論致しました。それから、不確実性の高さが経済・金融安定に及ぼす影響等について十分に注視し、中央銀行として引き続き物価安定に強くコミットしていくということについて、参加者と認識を共有したところでございます。』

>中央銀行として引き続き物価安定に強くコミットしていく
>中央銀行として引き続き物価安定に強くコミットしていく
>中央銀行として引き続き物価安定に強くコミットしていく

・・・・・ほほう、って感じでして、いやまあ関連の英文での発表を真面目に見ればいいんですけどワシにも生業というのがあって中々手が回らない所ではございますのでパスしますけど、「物価安定に強くコミット」っていうのが、これはFEDのメッセージかな、って思うところでございまして、そう簡単に利下げするかよバーカバーカとホワイトハウスの狂人に向かってメッセージを飛ばしているな、と思いました。

しかしまあ何ですな。物価安定に強くコミットしていくのは結構なのですが、その物価見通しを毎度毎度外し続けて物価が高止まりして遂にはプチ米騒動モードにまでなっている(ちなみに大正の米騒動では内閣が1個飛びましたわな)次第で、まあ米騒動そのものは日銀ワシのせいじゃないって言いたくはなるでしょうけれども、物価引き上げの中でも最後まで上がらなかったのがコメだったので、その分がまとめて出たらこうなりました的な部分もあるので、なんちゅうか供給ショックだからシランガナで済ませていいのかねとは思います(ゆうて金融引き締めまで需要減らせるわけでもないけど)。

でまあ質疑応答ですが、こんな時の質疑がいきなりこれであるwww

『【問】植田総裁には、最近、ちょっとG7と離れてしまうんですけれども、超長期金利が大きく動いていて市場の注目が高まっています。その中で、日銀の植田総裁としてそういった動きについてどういうふうにご覧になっているのかということと、何か対応をされていくような考えはあるのかどうか、その点をお願い致します。』

いやこの程度の動きで一々対応したらアカンヤロと思うのですが、昨日ネタにした野口審議委員の会見でもそうなんですけど、何でメディアは日銀に「対応」をさせたがるような質問ばっかりしてるんだかというのが意味不明にもほどがあって、お前らべき論から考えてもうちょっと筋の良い質問してくれよと思うのですが、そもそもべき論自体が分からんのでしょうから始末に負えません。

『【答】超長期金利の動きについてのご質問ですけれども、短期的な金利の動向については具体的にコメントすることは差し控えさせて頂きたいと思います。ただ、もちろん、市場動向については、引き続きよく注意してみていきたいというふうに思っております。』

まあこれはこれでも良いのですが、もうちょっと市場に対してある意味突き放した方が良いでしょとは思うのですよね。変に含みを持たせる必要があるのか、というか含みを持たせると市場のクレクレコジキどもがコジキ音頭を盛大に踊りだしてやかましくてかなわん訳ですよ。

これがまあ超長期じゃなくて短期まで含めた金利全般が財政懸念で大暴騰して企業金融の目詰まりが発生するとか言う話ならそらまあ何か考えろよ(と言っても財政懸念だったら日銀はやりようがなくて発行当局が何かすべき話ではあるんだが)という話になるとは思うのですが、超長期の金利が上昇ったって、冷静に考えて2%物価目標が達成された世界が続いていくならば均衡物価水準2%で潜在成長率1%だとしてタームのリスクプレミアム乗っければそらもっと上の金利になっとるじゃろ、ということでそもそも今の金利水準短期とか政策金利から見ていくと高く見えますが、そもそもが起点の金利が低すぎなのでおかしい、というお話でもあることを忘れて超長期金利ガーと言ってもねえとは思います。個人の感想ですが。


でまあそれはさておき今回の会見のもう一つの質疑応答ですが、

『【問】植田総裁に伺いたいんですけれども、米国の関税政策を巡る不確実性というところをG20のときにもかなりご指摘があったと思うのですけれども、今回その辺りの、各国の方々とお話をされての認識ですとか、何か変化を感じるところがあれば教えてください。』

これは良い質問でして、まあ別にG7の場を使わなくても、おそらくは各国の金融政策担当当局も財政当局も相互に連携して状況のアップデートを互いに行っているとは思いますが、そういうアップデートを皆で持ち寄って検討する、というのが(表の会合でやっているかは兎も角としてどこかの機会で)今回も行っているでしょうし、そういう状況のアップデートの為にG7みたいなのは非常に大事(しかも5月は月初を除いて主要各国では中央銀行の金融政策決定会合が無いのでこの時期は情報共有にとても重要な時間帯ですわな)だと思いますので、そういう意味合いのある質問じゃないかな、って思いました、知らんけど。

『【答】 まず関税政策ですけれども、ご案内のように、米中あるいは米英の間で一応前向きの動きがあったということが一つ言えるかと。また、他の参加国でもそういう評価はあったと思います。』

ほうほう。

『ただ、いずれにせよ、この二つの二国間の動きを含めて、先行き、関税について非常に不確実な状況が続いているということが一つと、それから、関税がどこに落ち着くにせよ、それが経済にどういうふうに影響していくかという点についても非常に大きな不確実性がまだ残っている、あるいはこれからデータをみていかなくてはいけない局面であるという辺りは、私もそう思いますし、他の参加者も多くの方はそういう認識であったというふうに思っております。』

という説明でして、まあその辺は話をしにくい、というのがあるかもしれませんけれども、もうちょい「今いまで皆さんが認識している状況は、もうちょっと前の直近時点と比較してどこがどういう感じで変化しているのか」というののアップデート状況が分かるような説明を入れて頂きたかったな、と思いました。

一応、さっきのところで「一応前向きの動きがあったということが一つ言えるかと。また、他の参加国でもそういう評価はあったと思います。」というのがあったので、この点が評価すべきプラス要素としてアップデートされました、という話ではあるとは思うのですが、ただまあこの植田さんの言ってる日本語の字面を見ますと、そんなにポジティブ感が無いなとは思えましたのですが、実際のニュアンスはどうだったんでしょうかね。

・・・・と申しますのは、これは日銀が直近の展望レポートでベースラインシナリオを下げてきたことに関連する話なんですが、4月展望レポートで一旦引き下げになったベースラインシナリオって、今後上下どっちにブレる可能性があるのは良くわかるのですが、そもそものベースラインがどこに置かれているのかがフワッとした脚注での説明しか(公表文書では)出てきていないので、植田さんの説明として聞きたいのは「でもって今回のG7での各国政策当局の見方というのは、日銀が4月展望レポートで示しているニューベースラインシナリオ対比上振れ要素なのか下振れ要素なのかカワランチ会長なのか、というのがもうちょっと分かりやすくなって欲しいなってことですな。

毎度申し上げていますが日銀って展望とか政策変更の時に一気にシナリオを書き換える悪い癖があって、途中でのグラデーションみたいなのは無い(その代わりに謎の決め打ちインタビューとか決め打ち観測記事とかは飛び出す)傾向にあるのですが、今回はどうせ「上下どっちにもぶれやすいし何ならベースラインシナリオの書き換えだってありますよ」って言ってるんだから、なんかもうちょい情勢の変化の説明をして欲しいなってことです。

とまあそんな所ですが、植田さんの上記説明のニュアンスだと、たぶん植田さんまだまだハトハトチキンムーブをぶっかましている感じでして、「多少明るい材料は出ているかも知れないが所詮は先行き下振れリスクですがな」って感じで見ているんだろうな、とは思います。

https://www.boj.or.jp/about/press/index.htm
講演・記者会見・談話

今後の講演・挨拶等の予定
『2025年 6月 3日 植田総裁 内外情勢調査会における講演』

ってのがあるので、まあその時にアップデートして頂ければとは思う所でございます。