岩田一政副総裁
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岩田一政副総裁
岩田さんの略歴(日銀Webより)
昭和21年10月17日生
昭和45年3月 東京大学教養学部卒業
昭和45年4月 経済企画庁入庁 60年9月より同庁経済研究所主任研究官
昭和61年10月 東京大学教養学部助教授に就任し、平成3年より教授
平成13年1月より内閣府政策統括官(経済政策−景気判断・政策分析担当)を兼任
平成15年3月20日に日本銀行副総裁に就任
(前職:東京大学大学院総合文化研究科教授兼内閣府政策統括官)
詳しくはこちら→http://www.boj.or.jp/type/list/pb_member/iwata.htm
2008/02/13「岩田副総裁記者会見、まあ予想通り慎重」
2008/02/12「岩田副総裁講演」
2008/02/08「岩田副総裁講演・・・・ですが今日のネタはロイターの飛ばしヘッドライン」
2008/01/08「岩田副総裁の市場との対話論、単純なインタゲを否定」
2007/12/17「大した話はないですが講演」
2007/10/09「岩田副総裁記者会見も比較的穏当」
2007/10/05「岩田副総裁講演、案外ハト丸出しではないですね」
2007/03/09「岩田副総裁記者会見と講演補足」
2007/03/08「岩田副総裁講演・・・は執行部見解でした」
2006/12/11「金融政策に関しての言及は無かった講演でしたが」
2006/09/29「今回の講演は金融政策話では無かったです」
2006/06/12「講演&記者会見続き」
2006/06/09「秋田県での講演+記者会見、景気に無茶苦茶強気なんですが」
2006/03/28「3月10日の衆議院予算委員会、岩田副総裁もフォワードルッキング(都合により福井答弁も)」
2005/12/07「岩田副総裁記者会見、金融政策に関する質疑応答」
2005/12/01「岩田副総裁講演、久々に持論展開の巻」
2005/09/16「岩田副総裁講演と債券市場の反応」
2005/09/15「そんな訳で急に今日の講演が注目材料に」
2005/09/14「話題を呼んだカンサスシティでの講演(英語の講演なのでメモだけ)」
2005/06/08「岩田副総裁のゼロ金利弊害論(メモ)」
2005/06/07「5月28日金融学会での講演」
2005/03/07「岩田副総裁も『財の価格ゼロ近傍』発言」
2004/11/16「11月2日参議院財政金融委員会での糊代論発言」
2004/10/08「9月22日の講演・・・ではなくて記者会見から(講演は難しくて解説不能)」
2004/06/22「対照的な副総裁(岩田さんの講演VS武藤さんの記者会見)」
2004/06/02「時事通信インタビュー続き」
2004/06/01「時事通信社との単独インタビュー」
2004/02/23「さらに19日の追加メモ」
2004/02/20「19日の追加メモ」
2004/02/19「神戸における講演」
2003/12/10「金融情報システムセンター講演会での基調講演」
2008/02/13
お題「岩田副総裁記者会見続き」
連休明けの昨日は相場も連休明けでございました(^^)。
という訳で昨日の続き。
http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk0802b.pdf
岩田副総裁がハト派なのは仕様でございますが、今回も仕様どおりで基本的には慎重な見方を示しております。
ちなみに念の為申し上げますと、量的緩和政策実施時代の岩田副総裁は、量的緩和政策の継続や強化をするような立ち位置でしたけど、一方で物価の先行きに関しては結構強気でした。「量的緩和政策をこれだけやっているのだから物価は上がる筈」という発想ですわな、たぶん。
○格差問題と金融政策
高知県で実施された金融経済懇談会ということもありまして、地方経済が大変ですが金融政策としてはどう対処しますかという質問がやってまいります訳です。
『今回の景気回復局面では、過去の景気回復局面と比べても、輸出が日本経済の成長をかなり引き上げているといった側面が大きいと言えます。(途中割愛)輸出を主なターゲットとしてビジネスを展開している主として大企業では、足もとでも収益は比較的堅調で、設備投資意欲も衰えていないことが、最近の短観調査でも確認されています。その一方で、内需については、2007
年入り後、伸び悩みの状況にあります。GDPでみても、内需の寄与度は、前期比でみてほとんどゼロに近い状況になっています。』
『加えて、原油価格や原材料価格がかなり上昇する中で、冒頭に申し上げたように、特に中小企業では、コストアップはしたが販売価格に上乗せできないために、交易条件が企業レベルで悪化するといった状況にあります。さらに、内需が伸び悩んでいるために、数量的な売上の伸びでこれをカバーすることができない状況にあり、内需を中心として事業展開をしている中小・零細企業は色々な困難に直面しているということだと思います。これは、地域間の格差あるいは大企業と中小企業の格差が、交易条件が悪化する中で厳しいものになっているということだと思っております。』
と、ここまでが岩田副総裁の現状に対する説明。
『こうした中で、私どもの金融政策は、あくまでマクロ経済、日本経済全体の状況がこの先1〜2年どうなるかということをよく見極めて政策運営することになりますが、例えば、中小・零細企業の収益が非常に圧迫され、その結果として賃金の伸びが弱くなる場合もあります。(途中割愛)私どもとしては、地域間の格差あるいは企業規模の格差だけをもって、政策運営するわけではありませんが、こうした格差の存在、あるいは格差がさらに厳しくなることによってマクロの経済状況が影響を受けるということになれば、そうしたことも十分に配慮しながら金融政策運営を行うことが必要なのではないかと思います。』
まあストレートに「地方経済は大変ですが金融政策をどう考えていますか」とそのまさに大変なところで質問されてゼロ回答ってえ訳にも行かないというう点については割り引く必要はあるかと存じますが、マインドの悪化が経済実態の指標にどういう影響を与えているのかという点については今後2−3か月の経済指標を見ないといけませんなあということになるのではないかと思います。
○米国経済に関する見方
昨日ご紹介した長期国債買入に関する質問と同じ質問で米国経済に関する見立てを聞いています。例によってすげえ長いので途中割愛しながらです(が長い)。
『米国経済の見方からお答えします。現在、特に米国の市場関係者間では、米国の景気後退リスクが高まっているのではないかという見方が強まっています。(途中割愛)市場関係者間で景気後退リスクが高まったのではないかという懸念が出てきたのは、雇用の数字がマイナスになったということが一つの大きな要因ではないかと思います。また、卸・小売の売上高との関係で言えば、最近、非製造業の景況感が大幅に低下したことにより、内需、特に個人消費の停滞リスクが出ているのではないかということなど、幾つかの変数がトレンドからかなり離れて下方に振れてくるという状態がある程度の期間続くことが、景気後退のリスクが高まってくるということではないかと思います。(途中割愛)従って、私も幾つかの主要な指標がどういった動きになっているのか、またこの先どういう動きを示すのか、仮に低下してもどのくらいの期間続くのか、という点をよく見極めていくことが大事なのではないかと思っております。』
というわけで、雇用と消費に注目ということのようです。特に決め打ちはしていませんが、下振れリスクには十分注意というニュアンスかと。
○利下げの可能性について
同じ質問で国内実態経済に悪影響が及ぶ場合に利下げを検討するのかというものもございまして、これがまた死にそうなほど長いのですが・・・・
『もっとも、現在の事態はやや複雑で、2007 年度の経済成長率は潜在成長率を下回っていますが、物価の上昇率については、まだわれわれの理解する中長期的な物価安定の範囲内の動きではありますが、特に原油価格等の要因でやや上昇率が高まっているという状況になっています。しかし、そういう状況のもとで、中央銀行はどういう対応をするかというと、1年後、2年後の日本経済がどういった姿になるのか、最も蓋然性の高いシナリオは何なのか、仮にそのシナリオの蓋然性が高いとしても、上振れと下振れのリスクがそれぞれどの程度あるのかということをよく見極めたうえで最善の対応をするということだと思います。』
『これは単に日本銀行だけの考えではなく、ほとんどの先進国の中央銀行が共有している考え方だと思いますが、経済の先行きをよく見極めながらそのリスク点検をしつつ、最善の対応を図るということだと思います。バーナンキFRB議長は、これを「予測に基礎をおく政策」という表現をしたことがありますが、あくまでも大事なことは、1年後、2年後の日本経済の姿がどのようなかたちになっているのか、そして同時に先行きのリスクをよく見極めながら、最適の政策は何かということを考えて実行していくということに尽きるのではないかと考えています。』
何か読みようによってはどっちとも取れる発言ではございます。別の質疑応答で、日本経済の先行き見立てに関しましてこのように説明しています。
『まず最初のご質問ですが、私はスピーチの中で、リスク要因として潜在成長率への日本経済の復帰のタイミングが後ずれするリスクがあり得ると申し上げました。これは金融市場の不安定な状況が続いたり、米国の後退リスクが高まったり、あるいは原油価格がもう一度再加速するというような、景気を下振れさせるような要因が大きくなるような場合にはそういうこともあり得る、と申し上げました。しかし、同時に私どもは、現在の成長率の減速は一時的要因によるところが大きいという判断を基本的にしております。』
で、この理由の説明がまた細かいのですが、引用してると長くなるので原文読んでいただければと存じますが、(1)住宅投資が戻るでしょう、(2)交易条件悪化は原油価格頭打ちで止まるでしょう、(3)米国の利下げが効果を発揮するでしょう、という説明になってます、たぶん。
『米国経済は今出ている数字はあまり良くない数字が多いのですが、年後半には金融・財政面での政策措置の効果が出てきて、景気の下支えをするということが同時に期待できると思います。そうであるとすると、今出ている米国の数字は悪いのですが年後半にはもしかするともう少ししっかりとした足取りに戻っていく可能性もあります。重要なことは、マイナスのリスク要因と先行きのプラスのリスク要因の両方をよく勘案して見極めをしっかりしていくということです。特に、この不確実な状況のもとではそういった対応が必要だと思っております。』
ということを勘案しますと、どうも目先の金融政策は「見極め」という名のもとに動かないと見るのが(岩田副総裁の任期はあと少しでございますけど)妥当と言う話になるんでしょうね。
○既に終了しちゃいましたけどG7での国際協調に関して
『米国の場合はまさに財政・金融政策ともに総動員して現在の問題に立ち向かうという対応をとっており、非常に正しい対応だと思います。景気の後退リスクが高まると、金融市場の不安定性と景気の後退リスクが、ある意味相乗的にマイナス方向で働いてしまうということがしばしば起こります。そういうことに対して歯止めをかけるということで、金融・財政の両面でこれを強力に阻止するという対応をとっていることは、非常に正しい対応だと思います。』
ということで、金融政策と財政政策のセットでの対応が重要ですというお話を。シバキアゲ政策から転換して以降の日本もまさに金融政策と財政政策のセットでしたが、世間というかメディアというか日経新聞というか、まあそのあたり的には財政政策をやらずに戻ったみたいな話になっているのがどうにもこうにも。
『ただ、経済の状況、あるいは金融市場の不安定性という問題につきましても、これは国によってかなりの違いがあります。日本の金融機関の場合でも、そもそもエクスポージャーが欧米の金融機関とはかなり違いますし、マネーマーケットにおいてもその不安定性の度合いは随分と違いがあります。このため、協調行動と言っても、それぞれの国がそれぞれの国の事情に応じて、最も適切と思われる方策を実行していくことが正しい処方箋であると思います。』
まーECBがそもそも協調利下げなんぞやるという雰囲気をろくすっぽ見せてくれませんでしたので、市場的にはまあ残念ですが協調はないでしょうという感じでしたので、こういう答えが出ても市場的にはあまり反応しなかった(ヘッドライン出てましたけど特に動いた感じは無かった)という所かと思います。そもそも日本政府がはなから財政措置(減税も含む)を否定してましたしねえ。。。。
ということで、本日もまた引用で増量攻撃で申し訳ない。
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2008/02/12
金曜は飛ばしヘッドラインネタで済ませちゃいましたので(汗)。
http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/ko0802a.htm
今回は岩田副総裁の講演にしては説明が短めで図表はやや多めかなあという感じです。
○リスク要因などの説明が長いです
最初に景気の現状評価と展望レポートの中間評価の説明があるのですが、基本的には日銀公表文書どおりになっていまして、物凄くあっさり味。で、その先の個別の説明がメインになっている感じであります。曰く、
4.成長率の下振れ要因
5.物価の上振れ傾向
6.交易条件悪化の影響
7.先行きのリスク要因
8.サブプライム住宅ローン問題
ということで、この並びはどう見ても下振れ強調です本当に(略)。まあ中身を見ますと、展望レポートの中間評価にありますように、「現状は減速しているけれども、先行きは2%成長の巡航速度に戻ります」というシナリオに沿った話にはなっておりますが・・・・・
○成長率の下振れ要因
『2007年度の成長率が下振れしている要因として、まず対外面では、国際金融市場で株価や為替レートが大きく変動するなど動揺が続くなかで、アメリカの住宅部門調整が長引いていること、さらに原油価格が高騰し、高止っていることがあげられます。次に、国内面でも、改正建築基準法施行の影響によって住宅投資のみならず、一部設備投資にもマイナス効果が波及していることがあげられます。また、2006年末以来、名目賃金が伸び悩んでいることを背景に、内需は2007年に入ってから全体として伸び悩みが続いています。』
『このほか、最近の消費者マインドの動きをみると、景気ウォッチャー調査の家計動向関連DIは、2003年初以来の低い水準にあります。また、消費動向調査においても、消費者態度指数が同様の動きとなっており、とりわけ、12月には暮らし向き判断が82年の調査開始以来の最低水準(34.9)に低下し、選択的消費の項目が急速に悪化しました。また、中小企業の景況感も景気ウォッチャー調査と同様に悪化しています。』
何かこう良くない話が並んでいるのですが、先行きに関しては基本的なメカニズムは維持されているという話になっております。引用すると長くなるので割愛しますけど、要は「住宅投資は法改正の影響剥落で戻り、輸出は米国以外がカバー、消費マインドは悪いけれども個人消費のハードデータは強く、所定内賃金は改善」ということであります。
つまり裏を返せばハードデータに影響出てきたらもうそれはエライコッチャということなんでしょうな。確かにまあそんなに悪いっていう数字が出てこないのが不思議っちゃあ不思議とも言えますが
○物価の話と交易条件の悪化の話
物価の数値に関しては「目先上昇するけれども結局はそんなに上がりません」というお話でして、かいつまんで引用すると・・・・
『原油価格が現状の水準で推移するとすれば、コア消費者物価は、今年の春先まで上昇率を高め、1%近くに達する可能性があります。』
『しかし、その後は、エネルギー要因による物価押し上げ効果は次第に小さなものになっていくと考えられます。(途中割愛)また、差し当たり成長率が、潜在成長率をやや下回って推移することによって、経済全体の需給ギャップの改善傾向が、当面、足踏みすると予想されますので、「実力ベースのコア消費者物価」の上昇テンポは引き続き緩やかなものにとどまるとみられます。』
『この結果、中間評価では、2008年度のコア消費者物価については、従来の見通し(0.4%程度の上昇)を変更する必要はないと判断しました。』
でまあそれはそれとして、その次の「交易条件の悪化」というお話に。
『成長率は減速しているにもかかわらず、物価が上振れて推移している一つの理由は、原油価格の大幅な上昇によって外国との貿易面における交易条件が悪化しているからです。外国からの輸入価格が日本からの輸出価格よりも大幅に上昇する場合には、生産活動が拡大していても人々の生活水準の低下をもたらすことになります。』
ということで、物価上昇に関しては皆様と同じお話になっていますが、延々とこの話を強調しなければいけないってのは「日銀はコアCPIが上に振れたら何でも利上げしようとしてるのじゃないか」って思われているというのを相当意識してるんだなあという気が致しますですよ。
○やはりサブプライム問題ということで
でまあリスク要因について述べていますが、こちらに関しては「米国の減速」「原油価格の上昇(による交易条件の更なる悪化)」「製造業の悪化」という話をしてますが、まあ要するに最大の問題はサブプライムローンでしょうというお話になってましす。
『いずれにしても、世界経済の先行きに関する最大の不確実性は、国際金融市場の動揺がまだ沈静化していないことにあります。』
で、その次にデカップリング論に対する指摘が。
『世界の株価をみると、先進国と新興国の株価が連動して、年初から大幅に下落しています。金融市場では「デカップリング」が生じていないことが改めて認識されました。』
なるほどなるほど。んでまあサブプライムの説明がありますが割愛。
○冒頭にちょっと興味深いお話が
話は戻りまして挨拶の冒頭ですが。
『本日は、高知県における各界の皆様と懇談の機会を賜り、心より御礼申し上げます。高知支店は、太平洋戦争の下で現金手当ての円滑化を図るために、昭和18年11月に23番目の支店として開設されました。』
それはまた興味深い開設理由でございまする。
で、記者会見。
http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk0802b.pdf
これまた一本ごとの質疑応答が長くて、質問の総量が少なめと来ておりまして、引用する方としては中々困ったちゃんなのですが(苦笑)。
○「人が変われば政策も変わる」云々の部分
金曜に申し上げましたように、この発言がヘッドラインに流れた時に、ロイターの飛ばしヘッドラインで持ち上がってその後ヘロヘロになったユーロ円金先が再度ちょっとだけ復活したのですが、さてその発言内容はと申しますと、まず質問から。
『(問)(前半割愛)次に、金融政策の継続性についてお伺いします。正副総裁は今年3月で任期が切れるかと思います。5年前は福井体制になって金融政策も量的緩和をさらに拡大したりする動きもあったかと思いますが、もちろん再任される可能性もあるとは思いますが、政策委員の9分の3が交替してしまうことにより金融政策が変わる可能性があるのかどうかという点についてお伺いします。』
で、それに対する岩田副総裁のお話。
『(答)(前半割愛)二番目の質問については、メンバーが替わればそれなりに金融政策の決定内容も変化があると思います。』
と、ここでヘッドラインになって市場は反応した訳ですが、その続き。
『合議制という点では、日本銀行は、世界の中央銀行を眺めてみますとどちらかというとバンク・オブ・イングランドに近く、各ボードメンバーの個人の意見を随分尊重しながら、その中で少しずつコンセンサスを形成するというやり方をとっております。個人の説明責任を充分考えながら全体としてのコンセンサス形成を図るという方法をとっていますので、その中でボードメンバーが例えば3分の1替わるということがあれば、それなりの変化はあり得ると思います。ただ、その変化がどのようになるかというのは、これからお決めになられる結果次第ということだろうと思います。』
うーむ、これでは別に衝撃の内容でも何でもありませんなあ。ということか、ヘッドラインで反応した人たちもまあ冷静に考えたらメンバーが替わったら変化生じるの当たり前ですがなという話になって木曜の金先市場も最初反応してその後失速という感じでしたわな。
○長国買入の件
微妙な釣り質問な気もしないでもないですが。
『(問)(前半割愛)三点目は、福井総裁体制の任期が終わりに近づいていますが、長期国債の買い切りについては、次期体制にどのように考え方を引き継いでいかれるのかお聞かせ下さい。現状、残存1年程度の利付国債の吸収が続いているとはいえ、実際、市場から1兆2千億円を吸収していることを考えると、長期国債の買い切りが国債市場にとって良いことなのかといった点についても、お考えをお聞かせ下さい。』
これに対して岩田副総裁は長期国債買入に関して説明しています。
『(答)(前半割愛)三番目の長期国債の買い入れのオペレーションについてですが、これはご指摘のように現在も続けています。私どもは既に以前からこの点についてはポジションを明快にしており、これも世界の中央銀行で共有している考え方であると思いますが、中長期的な観点から、経済の成長に必要な通貨を供給していく必要があります。その場合に中央銀行の資産と負債のバランスをよくみながら、成長通貨を供給するということであります。』
『もう少し具体的に言いますと、銀行券発行残高と日本銀行が保有している長期国債残高のバランスをよく考えながら、長期国債の買い入れ額を考えていくということであります。銀行券の発行残高と日本銀行が保有している長期国債の残高の差は、ある時期にはかなり接近していましたが、現在のところ、ある意味で余裕のある状況が続いております。従って、直ちに長期国債の買い入れについて変更する必要はないのではないかと思っております。』
とまあそんなことで、この前引用した各国の金融調節に関して解説している日銀のペーパーも併せてご覧いただければと存じます次第。
ちなみに、同じ質疑の中で利下げの可能性について質問がありましたが、岩田副総裁も先日の西村委員同様に利下げの可能性を否定しないというスタンスになっております。まあ下振れリスクを意識しているんですから当然ちゃあ当然ですが。
時間と量の都合上続きがあれば明日にでも。
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2008/02/08
お題「ヘッドラインにご注意を(^^)」
昨日は高知県金融経済懇談会で岩田副総裁が挨拶。
http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/ko0802a.htm
もともと市場的にはハト派認定なので、ハト派的な発言が出てもあまりサプライズにならない筈ですが・・・・・・
○消えたヘッドライン(笑)
講演の最後の部分で岩田副総裁はこのような話をしております。
『資金流動性と市場流動性が大きく変動するなかで、世界の中央銀行にとって、市場機能の円滑な発揮や信用供与チャネルの安定性を維持していくことは重要な課題です。日本銀行は、ゼロ金利や量的緩和の時期に金融不安を和らげ、デフレからの脱却を目指し、多様な手段を駆使して潤沢な流動性供給を行った経験があります。また、日本は、巨額の不良債権を処理した経験をもっています。過去の経験から日本が学んだことを国際的な場で生かしていくことは極めて重要な点であると思います。』
まあ普通のお話なんですが、日本語版ロイターのヘッドラインが・・・・
11:12 07Feb08 RTRS-日銀は量的緩和など多様な手段持っており、過去の経験から適切に対応可能=日銀副総裁
・・・・・その前にハト派ヘッドラインが並ぶ(これは講演内容の関係上当然ですが)最後にこれが打ち込まれたら、まあ普通「量的緩和政策への復帰を示唆かよ!」と反応したくなりますわな。
で、その時間開場しておりましたユーロ円金利先物市場では、9月限で99.400あたりから99.415レベルに上昇してしまいました。ちなみに他のベンダーどころか、ロイター英語版にも同じ意味のヘッドラインは無かった(そりゃまあ当たり前だわ)のですが、特にマネーマーケットにはロイター使いの人も多いようですので、日本語のヘッドラインに見事に釣られて買い上がった(踏み上がったのかもしれませんが)皆様におかれましては、まあ自己責任でございますが、誠にご愁傷様でございました。
でね、記事本文(確保していた魚拓です)を読みますとその部分はこうなっております。
『日銀としても、量的緩和など多様な手段を取った過去の経験を、国際的な場で活かしていくことが重要だと述べた。』
えーっと、ヘッドラインと記事本文内容が微妙に合っていないように思えるのですけれども・・・・・・・(-_-メ)
まあヘッドラインのフラッシュが先に出て、その時点では記事内容読めない(確かこの本文も最後のヘッドラインが出た後の11時28分以降に出たと記憶してるんだが)のでヘッドラインで反応してしまうのは致し方なしなのですけどね。
いやあのですな、モノが審議委員の金融経済懇談会での挨拶だったら要旨が殆ど間をおかずに日銀のサイトにアップされるのでそれ読めと思いますし、他のベンダーが全く流さないヘッドラインの場合は注意した方が良いというのとかってジョーシキだと思うんですけど(単独インタビューのような場合は裏の取りようが無いが)、慌て者さん大杉。
んでまあ友人と「いやあこのヘッドラインは酷いけど、金先って何で簡単に騙されるんですかねえ。金先見て反応しない方が良いよねー」などと話しておりましたら、ロイターが入ってる友人から「何か岩田副総裁関連のヘッドラインが全部無くなってるんですけど・・・・」というお告げが。
・・・・・・・・いつの間にやら11時6分以降に並んでいたロイター日本語版のヘッドラインが見事に全部消え、当該記事も消えておりまして、後からしらっとアップデート版の記事が出ておりますの巻。おまけに英語版の記事はそのまま残っているのがチャーミング(^^)。
当然ですが、ユーロ円金先様におかれましても昼休み(11時半から12時半)開けたらさっくりと下落致しまして、9月限は午後2時過ぎには99.390まで下落ということで、高値から2.5ティックの下落と相成りました(12月限はもうちょっと値動きしてました)。合掌。
えーっとですな、記事削除した位から適切じゃないヘッドラインってえのはロイターさんも認識してると思うんですけど、上記の挨拶要旨の文章のどこをどう読むと「量的緩和政策突入示唆」みたいなヘッドラインになるのか全く理解致しかねる次第でございます。マーケットに情報を流すニュースベンダーという性格上、どうしてもインパクトのあるヘッドラインを打つインセンティブが働くのは仕方ない面はあるんですが、それも程度問題でございまして、拡大解釈にも程がある報道をするのは報道機関としての姿勢を疑われても仕方ないんじゃないですかねえ。
・・・というか記者さんもっと勉強しましょうねって所なんでしょうけど。
ま、昨日はそんなことでありゃりゃな昼下がりなのでありました。しかし記事とヘッドライン全部削除して無かったことにする攻撃とは中々の大技。。。。
○しかしまあ過敏に反応しますねえ
で、午後には岩田副総裁の記者会見が行われました。会見内容は例によって今日アップされるのでしょうが、その中で(これは各社とも打っていましたが^^)執行部交代後の金融政策について、「執行部の顔ぶれが変れば金融政策の進め方に変化があってもおかしくないでしょ」的な(すいません手元にモノがなくて・・・)ヘッドラインがうたれていたのですけれども、それを見てまたまたユーロ円金先は買いで反応して、1ティックくらい上昇したあとに、良く考えたらそれって当たり前でしょということに気が付いたのかまたまた元に戻るの巻というのをやっておりました。
いやあの何だか良く判りませんけど、ユーロ円金先ってSEP08で0.5%を割り込んだだけの剛の者だけあって、何だかドタバタと動きますなあと思う次第であります。
どーせこりゃALMのスワップなども含めまして、上のロングと下のショートがどっちも捕まっていて、材料らしきものを見ると一生懸命上やったり下やったりしたくなるんでしょうねえと思うのでありました。金先恐るべしということで。
○すいません肝心の講演内容は後日
ということで、本日は金先の素敵な動きに魅了されてしまい、すっかりそっちの話ばかりになってしまい時間が無くなってしまいましたので、講演内容に関しましては週明けにでも。。。。基本的には景気に慎重だけれども、腰折れや後退をメインシナリオにするまでは至らず、でも警戒は警戒モードというほぼ市場が岩田副総裁に期待する(ってナンノコッチャですかな)内容でした。
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2008/01/08
お題「岩田副総裁の市場との対話論」
正直申し上げまして、モノが英文なのできっちり全部読めているのかどうか我ながら怪しいのですが(汗)。
http://www.boj.or.jp/en/type/press/koen07/ko0801a.htm
講演要旨でございますが、箇条書きになっているのは日本の読む人向けに配慮しているのでしょうというのは把握しました(^^)。えーっとお題が『Transparency
and Communication Policy in Japan』ということで、透明性と市場との対話がお題になっているのでこれは読まねばなるまいと存じます。
で、前半部分は日銀法改正以来の経緯についてお話をしているように思えますので何となく斜め読みでスルーしちゃったのでありますが、もしかしたらこちらにも重要なインプリケーションがあるかもしれませんな(こら)。
で、とりあえず8番あたりから。
○金融政策の第一の柱、第二の柱
Two Perspectives Approachって所です。
『8. The new policy framework is entitled the "two perspectives approach",
in contrast to the "two pillars approach" advocated by the ECB.』
そうそう、ECBではpillarですからまんま「柱」なんですが、日銀の場合は日本語が柱なんですが英語はperspectiveですから見通しとかってニュアンスになるような気がしますが、正直ニュアンスの世界はドメドメ人間のあたくしには理解致しかねます(><;
『The first perspective examines whether the outlook deemed most likely
by the BOJ follows a path of sustainable growth under price stability within
the forecast period, while the second provides an assessment of various
risks, including low-probability events which can cause serious damage
to the economy beyond the forecast time horizon. 』
これはいつもの説明を英語に直したもののようですな。
『The latter perspective shares features in common with the "risk
management approach" urged by former Federal Reserve Chairman Alan
Greenspan.』
そーだったんですか。何か第2の柱ってのは「メインシナリオ以外全部」を含むという風に理解してたんですが、この説明だとちょっと違うような気がせんでもないのですが。
結局訳判らんのでこのあたりのフレームワークはもうちょっと判り易くしていただきとう存じますm(__)m
○市場との対話について
えーっと、その前に金融政策の透明性についての話をしているように思えまして、それが多分9から先のあたりだと思います。そして将来の経済予測に対して金融政策を不変じゃなくて可変として前提を置くという現在のやり方がリーズナブルではないかというような話が、11番とか12番あたりになろうかと思うのですが、その辺をちょっと端折ってCommunication
Policyっていう13から参ります。
『13. Monetary policy becomes more effective, if the communication policy
succeeds in coordinating market expectations by providing the public information
as a signal. Yet, it is possible that the public information is imperfect
and contains noise.』
コミュニケーションポリシーが上手にワークすれば金融政策の有効性が高まりますと言う話ですな。
『Take the example of focal points illustrated by Schelling. If the focal
point is unique, then it is easy to bring expectations into convergence.
But if there are several focal points, it may not be easy to stabilize
market expectations . In addition, there may be cases where market participants
find it difficult to delineate the consensus view and the minority view
which is expressed to demonstrate individual accountability.』
この辺を見てますと市場の期待を安定化させるためには焦点を絞った方が良いと言ってるようには思えるのですが。
『Furthermore, if the common knowledge shared by Board members or the public
information is imprecise, as compared with the private information, the
signaling by the central bank can have an adverse effect on welfare. There
may be a limit to transparency, if the provision of public information
can cause an overreaction in market participants (Morris and Shin(2002)).
It is also possible that the public information contains noise or the precision
of public information is significantly lower than the private information.
Nobody would recommend broadcasting Monetary Policy Meeting discussions.
』
金融政策を事前シグナリングで行おうとしてもコミュニケーションの間にノイズが生じるので必ずしも上手く行きませんですよというお話ですか。最後の一文は何となく笑ってしまったんですが。
で、14番目。
『14. Deputy Governor of the Swedish Riksbank, Lars Svensson (2007) proposed
the announcement of the loss function of central banks and making voting
on the relative weight attached to two objectives; namely the deviation
of the inflation rate and the GDP gap on the future path of economic development.
He recommends preannouncement of the path of policy rates to minimize the
present value of the loss function.』
スゥエーデン中銀副総裁のスヴェンソンは物価とGDPギャップを目標として、金融政策のパスを事前アナウンスするのがコミュニケーションポリシーとしてロスが少ないと提唱していますと説明しているような気がします。
『Yet it seems to be premature to put preannouncement into practice at
the present time in conducting Japanese monetary policy. 』
でも現在の日本では時期尚早ですと。その理由はその先に。
『First of all, there are doubts as to whether communication with the general
public can be carried out in an undistorted way ; specifically, it may
not be easy to convince market participants that the announced path of
policy rates is conditional, and is not a promise.』
将来の金融政策の事前アナウンスが「約束」と取られてしまうという問題があるのではないかというお話ですな。そういやECBも最近は事前決めうち的なアナウンスを止めたような感じですもんね。
『Second, there is a measurement problem. In addition to the GDP gap, there
is uncertainty over the measurement of the relevant parameters.』
えーっと、統計にも限界がありますと。で、具体的にどんな限界があるのかがその先に説明されているのですが、そこの話になると最早あたくしさっぱりわかりませんので引用も割愛します(こら)。結局のところインフレターゲットのようなものを設定すれば金融政策なんぞ自動制御ですよといった見解に対して「そのように行くもんじゃないですよ」と仰せのように読んでしまったのは誤読でしょうか。
○で、まとめなのですが
15番目と16番目がまとめの部分っすな。
『15. Finally, communication can be made through action.The power of action
can be stronger than words in persuading market participants.』
これはカッコイイですね。要は行動をきちんと取るのが重要でありますと。
『Schelling once noted that "to communicate a commitment requires
more than the communication of words...One has to communicate evidence
that commitment exits". It is important to implement monetary actions
in a consistent manner based on the fundamental framework notably under
the circumstances of imperfect public information. 』
で、16番がConclusionであります。
『16. The new policy framework of the BOJ has improved both transparency
and flexibility. There is room for further improvement in transparency
and communication policy. Yet, we should be mindful of the limits of our
knowledge and of transparency, as well as of the liability to distortion
of communication in the process of consensus formation on decision making.』
ふむふむ。まあ今後もうちょっと金融政策のフレームワークと申しますか、現在の金融政策のロジック(「新しい金融政策の枠組み」と展望レポートの合わせ技で展開されているロジック)を判り易くしていただければと存じます次第であります。
何か全体的に拝読致しますと(って、ちゃんと読めているのか我ながら怪しいのですが)、金融政策を動かす立場になると必ずしも理屈通りに行かないこともあるし、各国には各国なりの事情があって、そこの部分って細部かもしれないけど実務回す所では重要なポイントになるっていうような事も仰りたいのではないのかなあ何て思っちゃいましたが。どうも日程がタイトな月なので中々こういうのをゆっくり読む時間が無くて流しちゃいましたが、また読んでみることにしたいです。
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2007/12/17
○岩田副総裁の講演
お題は『テール向け金融ビジネスの将来像』ですのであまり金融政策の話はしてないんですけどね。
http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/ko0712b.htm
(サブプライム住宅ローン問題の教訓)って部分から。
『今年の金融ビジネスを振り返ってみると、やはり最も大きな関心を集めたのは、米国サブプライム住宅ローン問題に端を発した国際金融市場・金融システムの動揺だったといえます。米国サブプライム住宅ローン問題は、米国におけるリテール金融ビジネスの問題でした。これがなぜ世界の金融市場や金融システムを巻き込む大きな動揺に繋がったのか、簡単に整理しておきたいと思います。』
ということで、証券化されて拡散されてますって話をしたあとに、投資銀行ビジネスとリテールビジネスは並存させると効果があるという話を。
『第一に、サブプライム住宅ローン問題の展開をみてもわかるように、投資銀行ビジネスは、儲かるときには儲かるが、タイミングや戦略を誤ると収益が不安定化するリスクを負っています。このため、投資銀行ビジネスを手がける商業銀行は、安定的な収益源の一つとして、リテール金融ビジネスや資産運用ビジネスをビジネスラインに取り込むことで、グループ全体の収益の安定化を図ろうとしていると考えられます。』
『第二に、投資銀行ビジネスとリテール金融ビジネスの間には、シナジー効果が働くことです。投資銀行ビジネスでリスクを加工・移転する対象となる資産として、リテール金融ビジネスから安定的に供給され、大数の法則により統計的な扱いが容易な資産が適している面があります。住宅ローンを証券化したRMBSはその典型といえます。』
第二に関してはまあそりゃそうなんですけど、本当に大数の法則により統計的な扱いが容易なのかはちと疑問があるんですけどね。
『ただし、投資銀行ビジネスとリテール金融ビジネスのシナジー効果を享受することは、投資銀行ビジネスに伴うリスクがリテール部門にも影響を及ぼす、またその逆の可能性もある点には留意する必要があります。』
それは仰るとおりで。
あと、今回の講演でニヤニヤしながら読んだのは『わが国におけるリテール金融ビジネスの課題と展望』ってところです。
『わが国の大手金融機関が、リテール金融ビジネス収益性向上のために近年新たに取り組んできた課題として、次の二つが挙げられます。第一に、投信・保険等、リスク性商品の販売拡大による手数料収入の引き上げです。第二に、定量モデルを用いた中小・零細企業向けビジネスローンの拡大による、低コストでの取引先開拓と貸出利鞘の拡大です。』
『本日は、残念ながらこれらの課題に向けた取り組みが、いずれも足許やや行き詰まり感を示しているというお話をさせて頂きます。』
第一は兎も角、第二に関しましてはもう日銀様も金融庁様も絶賛ご推進されておられた案件でございましたですねえあっはっは。随分とこのネタは悪態の材料にさせていただいた覚えがあるんですが。というわけで第二の話。
『ここ数年大手金融機関を中心に導入され、残高も徐々に増えてきていました。ただ、2006年以降、倒産件数が上昇、商品が想定していたスプレッド設定では採算が取れないレベルまで貸倒率が上昇していることを受けて、モデルの精緻化や審査手続きの見直しを行ったり、商品の取り扱いを停止した先もあるようです。』
あっはっは。
『第二の課題である中小・零細企業融資ビジネスについては、財務データのみに依存せず、決済口座モニタリングを通じた資金フロー情報や定性情報も活用しながら、資金の流れ・商売の流れを把握することの重要性を再確認する声が聞かれます。』
そんなの昔金貸しの手先やってたあたくしは当然のように仕込まれましたけど、最近の現場はどうなってるんでしょうかねえ。
『とくに大手金融機関では、比較的規模の大きい中小企業にはアジアとのビジネス機会を持つ先も多くなっていることを捉え、国際戦略や資本戦略まで含むトータルな資金調達提案力を備えることで、ビジネスチャンスを広げることを期待しているようです。リテール金融ビジネスの基盤がしっかりしていれば、これを通じて多様な顧客情報が集積され、この情報基盤を活用することで商品開発力も向上し、そのコストも低減するという好循環が働くことが期待できます。』
何かいきなり話のスケールが巨大になっています。
『顧客重視の戦略は、低コスト化、クイック化というここ数年の発想とは一見逆向きのようにもみえますが、実は一段発展させた戦略ともいえます。こうした戦略を、採算度外視でボリュームを追求するといういつか来た道に陥らず、新たな発展に繋げるには、リテール金融ビジネスに閉じない、大きなグループ戦略を描くことが不可欠です。すなわち、世界にネットワークをもつ大手金融機関ならではの資産運用力や資金調達力が競争力の鍵となるといえ、そのためにグループ力を高めることが一つの解決策になると考えられます。』
どう見ても中小零細向けのビジネスローンとは無関係のお話です。本当にありがとうございました。
・・・・いやね、別にそういう話はそういう話でよいと思うんですけれども、主に金融庁様が絶賛推進して日銀様も結構絶賛してたと思うんですけど、「中小零細向けビジネスローン」ビジネスに関する反省の弁が結局ねえじゃんって感じでありまして、岩田副総裁が悪いわけじゃないんですけど、こーゆーどう見ても現実を見ないで理念先行で行った「リテール金融の高度化」に対してはきちんと総括をして頂きたいと思うんですよ。そうしないと結局またどこかで同じような「理念先行現実無視」施策が出て(改正建築基準法とかもそういう香りがしますよね)世の中大迷惑になるんですよね。と思うんですがどうでしょうか・・・・・
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2007/10/09
岩田副総裁記者会見。
http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk0710a.pdf
○思ったよりもハト丸出しではないですが
質疑応答の応答の部分がやたら長い割にはPDFファイルで9ページということで、下手に引用すると却って長くなってしまうと言う中々難しい(?)会見でありますが、トーンとしては先週末にご紹介した講演要旨と同様に、そんなにハト丸出しではないという内容。
でね、以下あたくしの勝手な妄想全開ですけれども、岩田副総裁がハトのトーンを何となくマイルドにしているのって、要するにボードの中でタカ派の勢いが無くなって、岩田副総裁が反対するであろう利上げの可能性が雰囲気として落ちてきているのが原因なんじゃねえのかとか妄想する訳ですよ。岩田副総裁が頑張ってハトを主張しなくても心配ないぜってことで(^^)。
○米国経済見通しとその影響
3ページ目から始まる質疑の部分からなのですが、岩田さんの説明って句点は多いのですが読点が少なくて引用しにくいですぅ。
『こうしたことを総合的に考えると、私自身は、アメリカが例えばリセッションになるとか、そういうことではないと思っています。おそらく言えることは、これまで考えていたシナリオについて修正すべき点があるとすれば、住宅投資部門の調整が1
年程度遅れているということではないかと思います。』
『こうしたアメリカの減速リスクがある下で、日本経済の先行きを考えますと、仮にアメリカ経済に減速があったとしても、現在中国向けとかアジア向け輸出のシェアが高まってきており、足許の数字をみる限り、アメリカ向けの輸出は減速しているのですが他の地域向けの輸出が伸びておりまして、結果的にかなり輸出の伸びは強い数字が出ているように思います。』
『全体として申し上げますと、アメリカ経済の先行きについて減速のリスクが従来考えていたよりも、やや高まっている可能性はありますし、金融市場の混乱というものが、先行きについての不確実性を高めているということは確かだろうと思います。しかしながら、そうだからといって、これまで我々が考えていたシナリオが崩れてしまうといった状況になっているとは考えていません。』
ということで、このあたりに関しては須田審議委員の認識と割と似ている感じです。しかし同じ話をしても須田さんがするとタカ扱いされるのが誠にアレでございます(^^)。
総じて言えば「日本の景気拡大の基本シナリオは崩れていないけど、時間はかかるでしょう」って所でして、まあ須田さん、岩田副総裁と立て続けにこういう話が出ていると言うことは政策委員会の方向性もまあこんな所なのではないかと思料。
○望ましい物価水準
与謝野前官房長官のインタビュー記事での発言『インフレ率を高く見積もって日本の税収を予想することは決してやってはならない』を受けて岩田副総裁に望ましい物価水準についての質問がありまして、それに対する岩田副総裁のお話が7ページ目あたりから。
『二番目のご質問はさらにもう少し踏み込んで、いわゆる物価安定ということについて、どのようにお考えかということですが、人為的に高めるということは決して望ましいことではないと私も思っています。』
『物価は、経済全体のファンダメンタルズの強さなどを反映して決まっていくものだと思っています。物価の上昇率については、中長期的な物価安定の理解ということで、ボードメンバーがそれぞれどのくらいが望ましいのかという意見を集約したところ、だいたい0〜+2%で、+1%前後で散らばっているというのが新しいフレームワークの考えです。私自身は、個人的な意見ですが、中長期的に考えて+1%程度になっていくことが望ましいと思っています。』
ほうほうなるほど。何かもうちょっとインフレターゲット導入みたいな話するかと思ったのですがちょっと意外ですわな。数値についてもまあ穏当な数字ですし。
○流動性と金融政策
最後の質問から。答えの部分は9ページ目。
『二番目の、流動性不安の問題についてどう考えるかというのは極めて重要な点です。』
『私の理解では、流動性不安というのは、言葉を替えて言えば、先行きの経済の不確実性を高める要因であり、流動性不安が続いている限り、先行きの経済は、そうでない場合と比べて明らかに不確実性が高まっているということだと思います。』
『その不確実性が実体経済に果たしてどの程度の影響を与えるのかというのは、数字で示すのは非常に難しいですが、方向としては、不確実性の増大が、実体経済の先行きに対するリスクをそうでない場合と比べて増加させるという意味合いは持っていると思います。ですから、先行きの実体経済に及ぼす影響をどの程度に見積もるかということが最も重要な点だと思います。』
ということで、流動性問題があるうちに利上げをするという選択肢は余程の先行き強気でもない限り(まあそんな状況で市場全体に流動性問題は生じにくいですが)難しいという結論になるんじゃないでしょうか。
週明けでボケてるので今朝はこの辺で。
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2007/10/05
お題「岩田副総裁講演」
昨日の午後に新興市場(というか大証ヘラクレス)の銘柄が続々ストップ高になったのはありゃ一体なんだったんでしょ。
という話はともかく岩田副総裁の講演(挨拶)。
http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/ko0710a.htm
正直あまり市場への影響はございませんでしたが・・・・
○全部読んだ感想というかまとめというか
ハト派と目される岩田副総裁ですが、今回の講演(挨拶)要旨を拝読致しますと、ハト丸出しというわけでもない感じ。乱暴に一言でまとめちゃえば「いやまあ先行き不透明な部分が多いですから慎重に慎重に」っていう所でしょうか(^^)。
会見の方では(会見要旨は今日アップされるでしょう)岩田さんの個人的見解というのも出てたようですが、講演の方は特に強烈な話もなかった感じでして、執行部の一員としてこう見ておりますってお話になってるんじゃないかなあと思うのでありまして
○サブプライム問題が米経済に与える影響
『国際金融市場の混乱の震源地は、アメリカ住宅部門における過剰投資にあります。この過剰投資の調整は、実体面と金融面の2つの径路を通じて経済活動に影響を与えています。まず、実体経済面への影響については、量、すなわち実質住宅投資と、価格、すなわち住宅価格の2つの面から考えることができます。』
ということで、この両面について岩田さんの指摘するところを引用致しますとこんな感じになるかと。
『住宅価格の下落は、2つの径路を通じてアメリカの実体経済に影響を与えることになります。第一の径路は、住宅資産の目減りによる個人消費への影響です。(具体的な数値の部分割愛)もちろん、この住宅資産の目減りは、株式保有による資産増加によってある程度緩和されます。また、賃金の増加による可処分所得の伸びが消費を支える可能性もあると思います。それでも株価上昇が限定的であるとすれば、家計の保有する資産が減少し、その分は個人消費にマイナスの効果を与えることになります。』
ということで要するに逆資産効果ですけど、米国の場合は住宅担保融資がホイホイ出る(らしい)ので逆資産効果も大きいんでしょうな。
『第二の径路は、金融面を通じるものです。住宅ローンや証券化された住宅ローンの担保価値が減少することにより、各種のファンド、投資ヴィークル、金融機関や投資家に損失が発生します。すでに住宅ローンの貸出基準は厳格化しています。さらに、サブプライムの変動金利ローンには、当初低い固定金利で出発しても変動金利への移行に伴って金利が大きく上昇するものがあります。この結果、ローンの延滞率や差し押さえが増加し、担保価値がさらに毀損する可能性があります。金融機関が蒙る損失額が大きい場合には、企業向け貸出や消費者ローンに消極的になることが考えられます。』
この第二の径路は金融面から消費への影響という意味では第一の径路にも繋がるものですなと思いますと、やっぱ問題は波及しやすいので先行きの見極めが必要ってお話になるんでしょうなあと思います。
ただまあ米国経済の基本的な部分まで下向きで見ている訳ではないことはその次の説明部分で確認できますので念の為。
『現在のアメリカ経済の状況は、住宅部門で調整が行なわれていることを除くと個人消費、設備投資ともしっかりしており、経済拡大を支えています。製造業の景況感も安定しています。ただし、これまで堅調であった雇用者の伸びは、8月に0.4万人減少しました。また消費者の景気に対する信頼感も低下し、設備投資の先行指標である耐久財受注も減少しています。これらは先行きの景気減速のリスクが高まっていることを示唆しています。』
○日本経済への影響
ここの部分で「ほほー」と思ったのは株価と為替について言及している点でございますな。「日本においてサブプライム関連の直接的な影響は軽微」という話をした続きにこのような指摘がございます。
『他方で、株価と為替レートには、他国よりも大きな影響が現れています。これは、日本の株式市場では外国投資家による売買の占める割合が高く、リスク再評価で損失を蒙った外国投資家が日本の株を売却したこと、および為替レートについては、ヘッジファンドや個人投資家によって投機的な円キャリートレード(レバレッジを効かせる形で円借入れをし、外国通貨建てで資産運用する取引)が行なわれていたことが影響しています。』
ほほう。
『株価の下振れと円高が持続するとすれば、先行き景気にマイナスの効果が生ずることになる点には留意が必要です。』
ということで、日本経済への影響という意味で株価の下押しと円高を真っ先に指摘してるのがちょっと「ほほう」って感じなのです。その次が米国経済の減速になっています。
『また、アメリカ経済が減速することによって、日本のアメリカ向け輸出が減少することになります。昨年夏以降、アメリカの住宅部門の調整は始まっており、日本のアメリカ向け輸出は減速していますが、中国を中心とするアジア向け輸出のシェアが高まっていることもあり、その影響は限定的なものとなっています。世界経済は、先進国を始め中国、インド、ロシア、ブラジルなどの新興国、さらには一次産品輸出国にいたるまで裾野の広い拡大が続いています。』
『中国のアメリカ向け輸出のGDP比率は7.7%とかなり高いにもかかわらず、足元の成長率は11%とやや過熱気味であります。日本のアメリカ向け輸出のGDP比率は4%と中国よりもはるかに小さいのですが、今回の回復局面における輸出依存度が高いこともあり、仮に先行きアメリカの減速度合いが強まり、欧州諸国でも景気が減速するとすれば、日本の成長率に下方リスクが生じ得ることに留意する必要があります。』
○今後の金融政策に関して
で、その次のセクションは日本経済の現状と先行きという話なのですが、こちらに関してはまあ順当なお話をしてまして、中小企業セクターの弱さに関する注目が高いのは須田審議委員の先日の講演と同じであります。
で、今後の政策に関してまとめの部分での説明。
『住宅部門調整が長引くことによるアメリカの減速、欧米金融市場におけるリスク再評価の過程で生ずる貸出条件の厳格化、原油価格高騰などの対外環境の下で、日本の設備投資、消費、賃金、物価が先行きどのような動きを示すのか注意深く点検する必要があります。』
『資産価格については、足元で円安修正が行なわれていますが、不動産・土地価格など資産価格の先行きについても、金融政策を運営する上での有用な情報変数としてモニターしていくことが必要です。』
ということで、まあ先行きは注意深く点検ということで須田審議委員の講演と同じく慎重姿勢と言ったところではないかと。ただまあ低金利政策の長期化に関する過大な期待が起きるのは勘弁という文脈のお話が次にある点については注意しときましょ。
『今回のアメリカ住宅部門の調整に端を発する金融市場の混乱は、資産価格の変動に対して金融政策はどのように運営すべきかという問題を提起しています。日本銀行は、2006年3月に公表した新たな政策枠組みにおいて、中長期的にみて物価が安定していると各政策委員が理解する物価上昇率である「物価安定の理解」を公表するとともに、二つの柱という枠組みを導入しました。すなわち、予測期間における短期的な見通しの点検を行なう第一の柱と、予測期間を超えるリスク点検に関する第二の柱です。』
えーっと、第二の柱は第一の柱(メインシナリオ)以外のリスク点検だと理解してるんですが・・・・・という話はここでは措きまして(措いてない^^)その続き。
『新たな枠組みの導入は、1980年代後半以降の資産価格バブルの発生と破裂、それに続くデフレという歴史的な経験も踏まえたものであり、第二の柱は、発生する確率は低くともそれが発生した場合には経済に与える損失が大きな事象に備えるためにも設けられました。』
で、途中を省略して最後の部分。
『これからも、「物価安定の理解」を念頭におき、中長期的な視野に立って二つの柱に基づいて経済の先行きのリスクをしっかりと点検しながら金利調整を行なっていくことが重要であると思います。』
ということで、この結論からしますと「いずれ金利調整するけどまあ当分は様子見ですよ様子見」というのが当面の金融政策の進め具合となるのでしょうかという感じっすな。
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2007/03/09
お題「岩田副総裁記者会見など」
ポールソン先生の中国でのお話によりますと、相場が個人に依存すると安定しなくて、機関投資家(要するにてめえら)への開放をすると市場が安定するそうですが、どう考えてもそれは逆としか思えませんが、何たる都合のいい大嘘。これだから(以下自主規制^^)。
昨日ご紹介した岩田副総裁会見ですが、日銀のサイトに公式版がアップされましたのでまずはこちらから。
http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk0703b.pdf
基本的に昨日ご紹介した部分はスルーします。
○中長期的な物価見通しと足元の振れについて
目先は原油価格下落の影響で日本型コアCPIの伸びが抑えられるけど、ゼロないし小幅のマイナスであっても利上げというのはあり得るか、という質問に対する岩田副総裁のお答え。
『第3点目のご質問の、仮に消費者物価指数(除く生鮮食品)がマイナスの場合でも、利上げが行われるのかということについては、先程申し上げましたように、2つの「柱」に基づいてしっかりと点検をしながら、その中で決定していくことになります。その中で物価の先行きがどうなるかということは、もちろん重要な点であり、十分考慮しなければならないポイントの一つだと思います。ただ短期的な物価の変動と、少し長い目でみた物価の安定は同じことではありません。私どもとしては、「中長期的な物価安定の理解」で考えているところに長い目でみた物価上昇率が上手く収まっていくかということが基本的に重要な点でないかと考えています。』
えーっと、この答が政策委員としての答えなのか執行部としての答えなのか良く判らんのが困りもんなのですが、『私ども』と言ってるので執行部として答えているような気もします。と申しますのも、「経済物価見通しの基本的な部分は共有しているけれども物価の先行き不透明感があるから利上げに反対した」というのと上記の説明はビミョーにずれてるような気がするんで。
つーことで、質疑応答に関しても執行部としての説明と一人の政策委員としての説明の区別をもうちょっと判りやすくしていただけると誠に幸いなのですけど。一応あたくしこのくだりは執行部としての説明をしたと理解しときますが、「利上げを行っても先行きの物価上昇が見込めるのであれば、目先の物価指数がゼロ近辺であっても利上げを排除するものではない」と言ってるわけですんでご注意ありたし。
○物価の先行き不透明性に関する詳しい説明
結構長いので段落わけしながら。
『但し、不確実性ということをもう少し敷衍しますと、物価の上昇を押し上げていく力、一つは経済全体の需要と供給のギャップ――GDPギャップと言って良いと思いますが――をみますと、今回の景気回復あるいは拡大局面は、私どもの計測ではマイナス2〜3%のところからプラス1〜2%のところまで次第に上昇してきており、これが物価を押し上げる力として作用することは間違いありません。しかし、それを少し仔細にみますと、実はいくつか不確実性があるわけです。』
『もちろん、皆さんもご承知のように潜在成長率は、私どもは1.5%〜2%と述べていますが、それが1.5%に近いのか、2%に近いのか。あるいは、需給ギャップの計測の仕方でも、稼働率といっても、資本の稼働率については、製造業には非常に明瞭なものがありますが、労働の稼働率については労働の参加率やパート比率等、色々と構造的要因と景気循環的要因をどのように上手く仕分けるかといった技術的な問題があります。そういうこともあって、ある程度幅を持って需給ギャップの大きさをみていく必要があると思います。内閣府でも、最近の需給ギャップの数値はプラスとなっていますが、計測には常に誤差が伴うということも考慮する必要があります。』
ということで、1点目は潜在成長率や需給ギャップの推計には不確実性が伴うので、何も物価が足元足踏みしてて、先行きも原油価格下落などの影響で弱含みの可能性があるときに利上げすることは無いんじゃないかという風に理解しました。
『そして、仮に正しく計測された需給ギャップというのを私どもが見ているとしても、物価がそれに対して十分に感応的に反応するかどうかは、構造的な変化があるかもしれません。』
『例えば、グローバル化の進展とか、消費者物価指数が仮に一番川下に位置するとしますと企業物価指数は少し川上になりますが、川上の上昇圧力が、どのくらい川下の押上げ圧力に上手く働いていくのかどうか。あるいは、最近の統計をみますと、賃金がやはり伸び悩んでいますので、単位当たり労働費用が順調に物価を押し上げるような力になっていくのかどうか。さらに付け加えれば、指数の改定があって、過去使っていた物価指数と新しく改定されたもので、例えば需給ギャップに対する感応度が何か変化していないか。少し中身をみますと、新型の薄型テレビなどの耐久消費財の価格が大幅に下がってますが、そういう品目の入れ替え等による効果とか、そういったいくつか不確実性がありますので、これらを丹念に分析する必要があると思っています。』
2点目は物価のメカニズムに今まで考えられている以外の変化が生じているかもしれないという点についての分析をもっと行い、内容をより見極めてから利上げを決断すれば良いんじゃないかという風に理解しました。
『そういう点の不確実性を、おそらく他の政策委員と比較しますと私の方がより高いと考えたところが、主な違いだったのではないかと思っています。』
てえことで、こちらは一人の政策委員としての岩田副総裁の意見ということでございますわな。今回の質疑応答は岩田さんの説明がやたら長い質疑応答になってますので、結構読んでて大変でした。
さて、華麗にスルーした岩田副総裁の講演ですが、某金融新聞を見ておりますと「それは変だろうよ」という解釈をして、ついでに市場の動きについて「そんなことは無かったと思うんですが何か?」という記事がありましたので、そういうのはソッコーで悪態をついておく必要があると存じますので悪態を。
○そういう解釈をするのは誰ですか?
木曜の日経金融新聞2面の「BOJウオッチャー」記事で岩田副総裁の講演について触れてるのですが、講演の中でのCPIに関する話に関する市場の受け止め方として、「岩田副総裁はCPIが1%が視野に入るまで待つべきだったとの指摘」と報じてるんですが、さてその部分はどういう内容だったのかと言うのは講演(性格には挨拶)要旨をみればよろしアルね。http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/ko0703b.htm
『また、「新たな政策枠組み」では、「中長期的な物価安定の理解」を念頭におきながら政策運営を行うことが明記されています。この「物価安定の理解」は、現存する消費者物価指数のもつ歪みや日本の過去の歴史的な物価の推移を踏まえ、消費者物価指数が前年比で0〜2%程度であれば、各委員の「中長期的な物価安定の理解」の範囲と大きくは異ならないとの見方を示しています。0%を含んでいますが、そのことは、日本銀行が0%の達成を目指して政策運営を行うことを意味しているわけではありません。むしろ、委員の理解の中心値は、「大勢として、概ね1%の前後で分散している」ことに留意すべきであると思います。』
えーっと、この部分のことを言ってると思うのですが、これは普通に読むと、日銀に対する批判としてよく言われる「日銀は物価上昇ゼロ%を目標にして政策運営をしてるじゃねーか」ということに対して執行部として「そんなこたあねえ、中長期的に概ね1%前後で考えてるんだ」と説明しているようにしか思えないんですが、どこをどう読むと上記のような解釈になるのかと問い詰めたい、小一時間問い詰めたい。
こちらの記事では、上記引用部分の脚注も「市場を混乱させた」という話になっとるのですが、どこの誰が混乱したのかご教示願いたいものでございます。何かね、出てくる材料を自分の主張に都合が良いように思いっきり拡大解釈してレポートを書く事案が散見され、最早芸風となっているどっかの誰かさん(あるていど都合よく解釈するとか希望的観測を書くのは人間が書くものだから仕方ないけど、超越的拡大解釈というか牽強付会はいかんだろと思うのだが)のレポートのようで何とも香ばしい。その脚注は以下の通り。
『「中長期の物価安定の理解」は、政策委員のみならず市場参加者にとっての「共有知(コモン・ナレッジ)」であることが、コミュニケーション・ポリシーの面で、それが「フォーカル・ポイント」(人々の注目を集め、合意形成に役立つこと)になるということが重要な点であるといえます。詳しくは、岩田一政「序章 経済制度の国際的調整」(岩田一政・深尾光洋編「経済制度の国際的調整」日本経済新聞社1995年)を参照して下さい。
』
どうみても一般論です。本当にありがとうございました。
影響力の高いメディア様でございますところの記事執筆におかれましては、お願いですからもうちょっと確認作業をして頂きたく存じます(ちょっと裏取れば、岩田副総裁の講演で市場が全然動かなかったことくらい判りそうなもんなんですが)。あたくしのような市井の無力人間と違って影響力物凄く高いんですから・・・・
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2007/03/08
お題「岩田副総裁の講演・・・ですが」
岩田副総裁の講演が行われましたが。
http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/ko0703b.htm
読んでて「はて??」と思ったのですが、よくよく読めば『本日は、日本経済の現況と見通しを踏まえる形で、先般行われた2月の金融政策決定会合における利上げ決定とその背後にある金融政策運営の考え方について、日本銀行執行部の一員として、説明させて頂きたいと思います。』ということで、執行部としてのお話をしているのでありました。
○市場との対話
ということで、講演内容は執行部としてのお話なんでまあ変った話はございませんでしたが、市場との対話のところでちょっとだけ「ほほう」と思ったあたくし。
『最後に、日本銀行と市場との対話について、必ずしも円滑に行われていないのではないかとの批判があります。中央銀行は、「金融政策運営に関する基本的な考え方」と「金融経済情勢に関する判断」を市場や国民に対して丁寧に説明する必要があります。この2つの点について丁寧に説明することによって、金融政策運営の透明性が確保されるばかりでなく、政策の有効性も高まることになります。』
とございまして、この部分に脚注がついております。
『イングランド銀行の市場とのコミュニケーション・ポリシーについて、キング総裁は、中央銀行は、「金融政策の目標」と「経済の現状と先行きについての分析」という2つの鍵となる情報を市場に提供することによって、市場の政策金利に関する期待形成に資するようすべきであるが、誰一人事前に結論を知ることが出来ない、利上げするかどうかといった金融政策の決定についての情報は、市場に提供すべきでないと論じています。詳しくは次のスピーチを参照して下さい。
“Speech by Mervyn King Governor of the Bank of England at the Lord Mayor's
Banquet for Bankers and Merchants of the City of London at the Mansion
House”, 21 June 2006 』
金融政策における手法と言うか中央銀行としての政策の進め方という話になるとBOEが引き合いに出されることが多いなあと思うのは気のせいかな?ま、それはともかく、市場との対話に関しては地均し的な姿勢を出すのだけは勘弁していただきたく存じます、はい。
ということで、記者会見が実は今回のメインでして、会見要旨に関しては本日になりますと日銀のサイトにアップされる筈ですので、詳しくはそれを見る(以下引用するブルームバーグニュースでの記事でまず問題はないのですが、日銀のサイトに出てくる物を最終的にリファレンスにするんで)と致しまして、本日はとりあえずブルームバーグニュース7日16時35分配信記事より。
○執行部としての立場と一人の政策委員としての立場
『(問)執行部の一員でありながら議長案に反対されたが、執行部の職務を遂行するうえで不都合はないか。』
『(答)今のところは執行面で何の問題も生じてない。午前中の講演も無事に終わったし、懇談会も終わった。現在も(会見が)進行中だが、特段の差し障りはないと思う。イングランド銀行は2006年8月にキング総裁がむしろ少数意見になってしまったが、キング総裁はそのとき当然、個人的には必ずしも賛成ではないが、執行は全力を挙げておやりになったと思う』
『(問)講演では、個人消費について「回復感が次第に明確になっていく」、コアCPIについては「長い目で見ればプラス基調が定着していく」と述べられた。一方で、岩田副総裁はさきほど「賃金、あるいは個人消費の弱めの動きが現在、必ずしも払しょくされていない。物価上昇率の先行きに不透明性が強い」と述べられた。執行部として行った午前中の講演に対し、個人としての岩田副総裁は疑義を唱えている、という理解でよいのか。』
『(答)もちろん、そういう整理でよろしいかと思う』
ということで、岩田副総裁はこの部分に関しては上手く折り合いをつけていこうとしているようですな。
○で、岩田副総裁の反対理由ですが
『利上げに反対した理由については、すでに総裁が会見で、私の主張は「物価の先行き見通しの不確実性というところに、他の委員と比べると、より強い力点を置いておかれた」と申し上げたようだ。基本的には、まさにそういうことだ。議論の詳細は議事要旨が公表されるのでそちらをご覧いただきたい』
『ただ、私なりの言葉で総裁のお言葉を少し補足させていただくと、賃金、あるいは個人消費の弱めの動きが――12月の決定会合の後の会見で総裁がこれについてお触れになったが――その弱めの動きが現在、必ずしも払しょくされていない。そして、IT部門を中心に生産面で軽度の調整が起こる可能性もあるという状況の下で、物価上昇率の先行きに不透明性が強いということが、私が反対した半分の理由だ』
『もう半分の理由は、現在の時点だと07年度までしか成長率や物価の見通しを出していないが、中長期な物価の安定が重要だと考えると、やはりそうした点も含めて展望リポートで丁寧に説明してからでも遅くはないのではないか。こういう2つの理由から反対票を投じた』
ということで、理由は「物価上昇率の先行きに不透明感が強い」「4月の展望リポートでより長い先行き見通しをきちんと説明してから」ということでしょうが、後者に関してはつまり「2007年度の見通しはあまり強い数字が出ないので、2008年度の見通しも出さないと利上げの説得力弱い」って事なのかと理解致しました。
で、別の質疑でも長く説明しているようなのですが、その頭の部分を
『私の異論を簡単に言えば、コアCPIについての不確実性、不透明性が高い、という点が重要なポイントだ。長い目でみて、日本経済の拡大メカニズムがしっかりしていて、世界経済の拡大メカニズムもしっかりしていれば、いずれ消費者物価指数も安定的にプラスの方向に動いていく、目先は確かに下振れ、マイナスもあり得るかもしれないが、そうした長い目で見たメカニズムについて、異論があるわけではない』
ということで、物価の先行きに関する不透明性がポイントですが、先行きに関して別に悲観している訳ではない(先行き見通しに関しては一致したという事は総裁会見や、議事要旨などでも述べられてますが)のもまたポイントではないかと存じますがどうでしょう。
その他に関しては会見要旨を見て明日補足するかもです。
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2006/12/11
○ところで岩田副総裁の講演ですが
http://www.boj.or.jp/type/press/koen/ko0612c.htm
お題は「リテール金融の課題と展望」ということで、金融政策の話じゃなかったので「岩田副総裁の講演は金融政策への言及は無し」という一言で市場的には華麗にスルーされてしまいましたし、正直あたくしも斜め読みしかしてなかったんですが、まあ内容的にはちと何かアレなものも感じたのでメモメモ。
よく言われる話ではありますけど、「ショックに強靭な経済構造への寄与」っていう小見出しの部分。
『さらに、リテール金融の発達は、より効率的なリスク分担の実現を通じて、経済のショックに対する頑健性を高める面もあると考えられます。』
『家計の資産運用手段が預金に偏った金融仲介システムの下では、経済に生じるショックは、銀行与信や銀行保有株式の価値変動を通じて銀行部門に集中することになります。また、そうしたショックが銀行資本のバッファーで吸収可能な範囲を超えてしまうと、金融仲介の機能不全を通じて経済の振幅が拡大されてしまうことは、バブル崩壊後の経験が示す通りです。』
『この点、――先ほど申し上げた「リスク・マネーの供給」と裏腹ですが――各家計のリスクテイク能力に合わせ、リスク性商品も含めた多様な金融商品が提供されることは、家計が金融商品から得られるリターンを高めるとともに、経済に加わるショックが銀行部門に集中せず、家計部門を含めた幅広い主体によって吸収されることにも繋がります。』
そりゃまあ家計部門を含めた幅広い主体がちゃんとリスクリターンを把握して投資してればそうなのかも知れませんが、実際問題としてはリターン対比で取ってるリスクを判って取ってるんでしょうかという商品がうわなにをするくぁwせdrftgyふじこlp
というか、日銀副総裁様がそのように仰せの中で、先般報道されて騒ぎになっておりましたが、ファンドやら仕組債などのリスク管理がどうのこうのと監督官庁様が仰せになっておられる訳でして、何か理念と実態の乖離というものについても思いを馳せて頂きたいものだと存じます。
シロートのあたくしが勝手に愚考するに、銀行セクターにリスクが集中するというのはそれはそれで銀行セクターをきっちりケアーしておけば良いという事にも繋がるような気もするんですけど。「経済に加わるショックが銀行部門に集中せず、家計部門を含めた幅広い主体によって吸収される」と仰いますが、逆に言えば経済に加わるショックが物凄い勢いで伝播するということでもありますよって、岩田副総裁が講演で仰せの「リテール金融の高度化」とやらが本当に家計などの幸せになるのかはあたくし懐疑的なのでございました。
#あたくし思うに株式(と変な仕組物じゃない投信)がありゃあそれで十分だと思うんですが。
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2006/09/29
○岩田副総裁講演は特に金融政策の話無し
http://www.boj.or.jp/type/press/koen/ko0609c.htm
お題が「資本市場と銀行システムの進化」という事から既に金融政策の話は無いなあと思って読んだら案の定金融政策ネタが無く、ネタ無し芳一のあたくしとしては誠に残念(^^)。
とは言え、「金融高度化」ネタといえばドブ板リテール金融を駆け出しの頃やってた事もあるあたくしが突っ込みたくなる話の多いネタでもございまして、まあまた美しい話をしてますなあという感は否めません。
で、色々と突っ込もうかと思ったら時間が無くなったので(こら)、まあこの部分を読んでいやはや感を強くするのでありました。
『この移行期の過程では、従来の相対型の金融取引においても市場メカニズムの活用が求められることになります。例えば、銀行貸出のリスク評価をしっかりと行い、リスクに応じた利鞘を設定することが求められています。かりに「信用リスク」の市場取引が行われるようになれば、銀行はリスク評価をより正確に行うことが可能になります。』
また「リスクに応じた利鞘」「市場は正しい」話を見るとうんざりするあたくし。いやね、大体市場取引って言ったって事業債の対国債スプレッドって信用リスクで全て値付けされているのかというとそうでもない需給要因とかあるし、そのあたりのスプレッドって金融行政の匙加減(シバキアゲ時代と現在のスプレッドは全然違う)次第でもあるんですけどね。まあいいけどさ。
それよりも「リスクに応じた利鞘」とか「市場取引が行われるようになると結構」とかこちらで話をしている側から貸金業の貸出金利の上限金利を厳しくする(=引き下げ)という話が自民党様だか金融庁様から出ているのはこりゃ一体全体どういう事なのかと小一時間問い詰めたいと。
いやね、例えばイットバブルが崩壊した後に金融不安だの何だのとか言ってた時代なんかは、上場企業でもうっかりすると社債の流通利回りが10%だの20%だのになった時だってある(まあそういう中であの世に逝かれたカイシャもありますが、今や元気でピンピンしてる会社だってございますんでねえ)訳でして、上限金利を法令で特定数値設定するというのは何か(=金利上昇か信用収縮)あった時に困った事が起きるのではないかと存じますがね。
で、片や市場でこういうのを決めるのがビューティフルな姿だという話が出ていまして、金融行政の方向としても確か同じだと理解してるんですけど、こと左様に「広げた風呂敷の右と左でやってることが違いませんか」ってのが目に付くのが金融行政に関するあたくしの疑問なのでございます。
・・・・全然岩田副総裁の話を敷衍していないですな。はーこりゃこりゃ。
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2006/06/12
○岩田副総裁講演&記者会見続き
http://www.boj.or.jp/type/press/koen/ko0606c.htm
http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken/kk0606b.htm
上が講演(金曜も紹介しました)下が記者会見。両方見ながら。
・岩田副総裁の量的緩和への評価
先日は福井総裁も総括もどきをしてましたが、岩田副総裁によるとこんな感じになるようです。講演から。
『量的緩和政策の有効性について多くの議論と批判がありました。しかし、私は、最終的には、時間はかかったけれども、当初の目的を無事達成することが出来たと考えています。』
『目的を達成できた理由は、2つあります。まず第一に、コア消費者物価指数が安定的にゼロを上回るまで量的緩和政策を継続するという日本銀行による約束は、物価の先行きについての人々の期待を安定させるという「錨」の機能を果たしたことです。』
『第二に、政策が持続することを事前に約束することによって、将来の金利のパスに関する市場の期待に働きかけ、短期の金利のみならず長めの市場金利も低めに保ちました。この結果、企業の負債支払い負担が軽減され、事業の再構築が促進されました。』
『事業の再構築によって資源の配分がより効率的に行なわれるようになり、生産性や企業収益が改善され、潜在成長率も押し上げられることになりました。市場金利を低めに保ち、その一方で、企業の保有する実物資産に対する収益率を高めるという組み合わせが、コア消費者物価指数の変化率をプラスの領域に引き上げる基本的なメカニズムであったと考えています。』
『もちろん、潤沢な流動性供給が金融市場を安定化させ、市場金利を低めに保つうえで補完的な役割を果たしたことは言うまでもありません。』
先日ご紹介した福井総裁の講演ではこのあたりの話を華麗にスルーして「金利の低位安定」と「流動性供給により金融危機回避」っていう形で話を片付けていたのですが、岩田副総裁としては「期待」の経路を重視しているということかと存じます。
で、まあ期待経路の重視をするのであれば、連続利上げへの思惑が出てきちゃったりしたのは如何なものかと思って頂くと誠に幸いなのですが、金曜日にもご紹介したように、景気と物価の先行きに関して結構なブルなので、あまり気にしておられないと思われる所が惜しいなあと思っちゃう訳です。
この話に来る前に量的緩和政策の時間軸効果について言及しているのですけれども、そこでは将来の金利政策経路に対する期待形成を重視していまして、講演要旨の脚注でこんなお話を。
『現代における金融政策の有効性は、足元の政策金利の変化そのものよりもむしろ、「将来の金利パス全体についての市場の期待」に働きかけるところにあります。バンク・オブ・イングランドのキング総裁は、政策金利よりも大幅に市場金利が変動して金融政策の有効性を高める現象を「金利のマラドーナ理論」("Maradona
theory of interest rates")と呼んでいます。アルゼンチンのサッカー選手であるマラドーナが、1986年W杯の対イングランド戦で有名な「60ヤード独走シュート」を決めた際、相手ディフェンスがマラドーナの巧みなフェイントに対して抱く期待を利用し、実際にはほぼ一直線にゴールに向かっていたことになぞらえたものです。詳しくはKing
M. (2005), "Monetary Policy: Practice Ahead of Theory" Mais Lecture
2005を参照して下さい。』
その期待が量的緩和政策解除前と解除後には大きく変化したのですけれども(しかも日銀が主導的に変化させていたように見えますけれども)量的緩和解除の際に政策委員の皆様が言ってた「政策に不連続な変化が生じているわけではない」というのはありゃ政治向けのペテン説明でしょうかって突っ込みたくなるのはあたくしが馬鹿正直だからですかそうですか。
・相変わらず当座預金残高に関する質問が出るのですが
記者会見より。
【問】『先程の質問に関連しますが、日銀幹部の方が最近、日銀当座預金残高を所定の水準まで減らすというプロセスとゼロ金利解除とは全く関係ないということを強調されています。マーケットが描いていたイメージというのは、総裁、副総裁もおっしゃっていたように、日銀当座預金残高がある程度まで減っても、しばらくの間はまだゼロ金利が続き、それからゼロ金利解除ということになると思いますが、それは変わっていないのでしょうか。(以下割愛)』
【答】『先程申し上げたとおりではありますが、「日銀当座預金残高という量が例えば10兆円になったから、もうこれは良い状況なのでゼロ金利を解除します」というように、機械的に量の動きと金利の調整を結び付けることはしないということは、総裁も繰り返し申し上げていますし、私もそのように思います。つまり、量の動きをみて、それで金利調整が直接その影響を受けるということはないと考えています。(以下割愛)』
多分同じ記者だと思われるのですが、この後もこの文脈で質問をしております。当座預金残高が減ってインターバンクの金利がガタガタ動いても今更ど〜でもいい話だと思うんですが、どうしてそう大騒ぎしたくなるのかよく判らん。数字で出てくるから判りやすいからなんだろうけど。
・もう一つ凄い質問をする人がいます
【問】『短期・中長期のリスクを丹念に点検されていくとのことですが、そのリスクを点検したうえで早ければ6月あるいは7月にも、量的緩和政策解除の際に示された方向性に沿ってゼロ金利を解除することもあり得ると考えてよろしいのでしょうか。』
答えの引用は省略(苦笑)。この質問者の凄いところは多分重ねて同じ質問をしたと思われるところです。答えられるわけ無いでしょ。
・CPI基準改定について
CPI基準改定に関する質問に対して岩田副総裁はこんなコメントを。毎度のことなのですが、副総裁の記者会見の質疑応答は一本一本が長いので引用するのに困りますな。ということで段落分けしました。
『消費者物価指数の基準改訂については、展望レポートの中で既に示しており、注意深く読まれた方はお気付きかと思いますが、消費者物価指数の改訂でどの程度の変化があり得るのかということを詳しく説明しています。』
『品目の入れ替えや基準年の変更によって、消費者物価の前年比上昇率を押し下げる方向に作用することがあり得ますし、その大きさについても、前回改訂時と同じくらい──前回改訂時は比較的大きく、−0.2%〜−0.3%ポイントですが──ということを展望レポートの脚注に示しています。コアの消費者物価については、ご承知のとおり本年入り後3月まで前年比+0.5%で推移し、4月は+0.5%から少し下がる可能性があるという見方もありましたが、実際にはそのようにはなっていません。』
『つまり、基調としてコア消費者物価の前年比上昇率は明らかに正の領域に入っており、仮に指数の改訂が8月に行われたとしても、その傾向に変化はないと考えています。』
最近あまり話題にならなくなってますが、この問題に関しては大騒ぎするような事は無いということでしょうか。
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2006/06/09
○どう見てもタカ派爆発です。本当にありがとうございました。
そんな大騒ぎ市場(株価暴落+短期債大踏み上げ)の為に最早どうでも良い状態になってしまった岩田副総裁の秋田県での金融経済懇談会での挨拶と記者会見ですけれども、インフレ警戒爆発でこの株式市場を横目に男岩田はタカ派爆発といった所です。うーむ。
http://www.boj.or.jp/type/press/koen/ko0606c.htm
・景気の先行きを懸念してませんな
講演(正式には挨拶ですけど)で景気の先行き見通しの部分で(リスク要因)って部分があって、リスク要因を並べているのですけれども、この要因を「詳しく書いているから岩田副総裁は金利引上げに慎重だ」と書いたレポートを見たような気がしますが、目の錯覚であれは幻だったんでしょうかねえ。
確かに景気のリスク要因を5つ挙げておりまして説明をしておりますが、その後にこういう話をしてる部分がございます。
『以上述べたようなリスクのうち、アメリカ経済は、先行きについて様々な不確実性があるものの、労働生産性の伸びがなお高く、経済の基礎条件がしっかりしていることを考慮すると、年後半に潜在成長率(3〜3.5%)に見合った成長径路へとソフトランディングする可能性が高いと思います。』
『また、主要国の株式、債券市場において過度のリスクテイクが行なわれてきたわけではないこと、実体経済は総じて健全性を維持していることなどを考慮すると、投資家のポートフォリオ調整の動きが一段落するにつれて、世界の金融資本市場もやがて新たな均衡と安定性を取り戻すものと考えております。』
『さらに、国内経済において、かりにIT部門の在庫調整が行なわれるにしても、2005年入り後の上昇局面における電子部品・デバイス部門の生産や出荷の盛り上がりが大きなものでなかったことを考慮しますと、在庫調整による影響は2004年の場合よりも小さなものにとどまると予想されます。』
どう見ても先行き楽観です。本当にありがとうございました。
#まあアレだ、情報はソースに当たれということですよ皆さん。
・フォワードルッキング全開ですよ
そもそもの講演のお題が『新たな枠組みの下での金融政策運営』でございまして、金融政策に関するスペースが多く割かれておりまして、量的緩和政策の総括や現在の枠組みに関するお話などが展開されていて興味深いお話が出ているのですけれども、時間と量の関係上後日(ネタを温存している訳ではありません・・・よ)と致しましてこんな所に反応するのがドラめもんクオリティ。
『量的緩和政策の下での政策運営のあり方について、「物価指数は景気の遅行指標であり、日本銀行は、バック・ミラーをみて運転しているようなもので、危険極まりない」という批判の声もありました。』
『しかし、日本銀行は、2003年10月に、量的緩和政策を継続する条件を3つに整理しました。その第2番目の条件として、生鮮食品を除く消費者物価指数の変化率が「先行き再びマイナスとなると見込まれないこと」を掲げました。従って、バック・ミラーのみを見て運転してきた訳ではありません。』
いやーん、ビハインド・ザ・カーブの政策運営リスクを取ってでもデフレ脱却への強い決意を示してたんじゃないのかよ日銀はってツッコミをしたくなるんですけど。一段落飛ばしてその先。
『量的緩和政策の下での政策継続に関する約束が果たしていた「物価安定の錨」は、「中長期的な物価安定の理解」へとその姿を進化、発展させたといってよいでしょう。そして、この「物価安定の理解」の下で、この先日本経済が直面すると予想される、短期(1-2年)および中長期のリスクを点検し、さらに、リスク点検を通じて金融政策運営のあり方を吟味することにしたのです。この結果、先行きの経済リスクの評価に基いて、短期的な金融政策運営を柔軟に、かつ機動的に運営することが可能になりました。』
『自動車の運転にたとえますと、目的地についての政策委員の間での意見分布を明確(透明性の向上)にした上で、しっかりと前方のリスクの変化をみて「機動的に」運転する正常な姿に戻ったといえます。』
はいはい機動的機動的。
・予測の前提としての政策金利
『さらに今回の「展望レポート」におきましては、経済の先行きを予測するに当たって、「政策金利について市場金利に織り込まれたとみられる市場参加者の予想を参考にしつつ」予測する方法を採用しています。量的緩和政策の下では、少なくとも、コア消費者物価指数の変化率が安定的にゼロを上回るまでは、「政策金利は一定」という仮定をおいて予測することが自然であったわけですが、新たな政策枠組みの下ではむしろ不自然な仮定になってしまいます。』
というのは判りますが、その後の説明は残念ながら「犬が西向きゃ尾は東」って感じのものでして、これについては今後の検討を期待致したいところです。岩田副総裁もこう纏めています。
『もちろん、これは各委員が見通しに当たって政策金利に関する市場の予測をそのまま受け入れるという意味ではありません。市場が予想する金利の変化を機械的に受け入れて予測および政策運営を行なうと、中央銀行が望ましいと考える将来の経済・物価動向から乖離してしまう可能性があります。市場の期待を参考にして予測を行なうという方法の採用も、「最適な金融政策運営」に向けての重要なステップであると考えています。』
ま、個人的には一定と市場金利前提の両論併記が判りやすくて良いんじゃネーノと思いますけど。
・1万5000円割れにも動じず(記者会見より)
記者会見は8日17時3分配信のブルームバーグニュースからです。
株安に関しての副総裁の応答。
『今日も株価が大きく動いているが、講演で話したとおり、主要国のファンダメンタルズ、たとえば企業部門の財務面で何か大きな変化が起こっているかというと、起こっていない。新興国の株価や為替市場のボラティリティが最近高まっているが、新興国の政府部門、あるいは企業部門に何か財務面で大きな変化が起こっているかというと、それは起こっていない』
『だから、現在起こっている事柄は、経済の基礎条件が変化して、資産価格がそれで大きく変動しているということではない。むしろ、グローバルな投資家が部分的にややリスクを取り過ぎてしまったと考えている部分について、ポジションの調整を行っている』
もうちょっとあるんですけど、引用ばっかりになるのは申し訳なしなので、後は今日アップされるであろう会見要旨を見ましょうねって所ですが、現状の株式市場に関してはむしろ「好ましい調整」と考えている節が見られますな。ゼロ金利の解除と株価の関係について同じ応答部分でこのように言及しています。
『量的緩和政策を解除した時点で、金融政策の対象は量から金利に移った。金利については、既に量的緩和政策を解除した時点で、その方向性については申し上げている。新しい政策の枠組みの下で、簡単に言うと、ベストのタイミングに金利の動きを考えていくということに尽きる。量的緩和政策を解除した時点で申し上げたこと、あるいは展望リポートで申し上げたことに尽きる』
も株価下落に動じていませんなあ。うーむ。
・米国の先行きスタグフレーション観測には否定的(記者会見より)
同じくソースは上記ブルームバーグニュースです。
『米国経済のファンダメンタルズは強靭だ。インフレ懸念と減速のリスクに対して、米国の労働生産性の伸びを見ると、これは基本的に強い。2.5%‐3%くらいで動いている』
『経済学者によってはスタグフレーション的な様相が強まるのではないかと議論する人がいるが、それに対抗する一番強い力は何かというと、労働生産性の伸びだ。短期的に多少インフレ懸念があったとしても、生産性の伸びは十分高く、単位当たり労働費用を見ても、決してどんどん上っていく感じではなくて、むしろ安定してるというのが現在の状況だ』
以下もうちょっと詳しい話が続くのですが、引用はこの辺で。資産価格下落がなんぼのもんじゃいという男岩田一政景気に結構ブルですよ。
#まあ補足は週明けにでも。
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2006/03/28
お題「今更ですが3月10日の衆議院財務金融委員会」
つーかまあ相場の方が月末の買いくらいしかネタ無いのでちと古いですが量的緩和解除の翌日に行われた衆議院財務金融委員会での質疑応答から少々。
さすがにこの日はあたくしも衆議院インターネットTVを聞きながらお仕事をしてましたが、まあまともに読んでいるとかなり長いので(結構長時間でした)ほんのさわりだけ。
衆議院のウェブサイトから会議録→財務金融委員会で3月10日の分をクリックすると出てきますが、一応URLも置いておきますね。
http://www.shugiin.go.jp/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/009516420060310007.htm
○岩田副総裁もフォワードルッキング
最初に質問をした越智隆雄委員に対する岩田副総裁の答弁。
『これでは、ただいま時間軸効果についてのお尋ねがございましたので、お答えを申し上げたいと思います。(途中省略)具体的には、消費者物価、除く生鮮食品の前年比が安定的にゼロ以上となるまで継続するという、これは政策持続効果とかあるいは時間軸効果というように申し上げておりますが、こういう効果を通じまして市場の金利を低目に安定させる、こういう効果が生まれたというふうに考えております。』
『しかしながら、金融政策というのは、本来、十分長い先行きの経済、物価の動きをいわばフォワードルッキングな形で予測しながら、弾力的かつ機動的に運営すべきだというふうに考えられます。したがいまして、今回の新しい枠組みのもとにおきましては、現時点におけます政策委員の中期的な物価安定の理解を示す、それから、二つの大きな柱に従いまして経済、物価情勢を点検していく、さらに、これを前提といたしまして、当面の金融政策運営の考え方を整理して公表する、こういう新しい枠組みのもとで市場との対話を円滑に行っていきたいということであります。(以下省略)』
ということですので、岩田副総裁のこの発言から行きますと、量的緩和解除後には金融緩和政策をビハインド・ザ・カーブで運営するリスク(量的緩和政策のコミットメントには本来ビハインドの運営になるリスクが内包している)は取らないというお話になるかと思います。
でね、岩田副総裁って物価に関してはかなり強気の人でして、量的緩和政策を実施している時から「これだけ量を出しているのだから物価が上らないのはおかしい」という趣旨のお話が時折聞かれたと思うのでして、物価に関して強気で、金融緩和政策の政策効果がかなり有効だと思っている人が金融政策は本来フォワードルッキングという話をすると・・・・何かタカになっちゃうかもしれませんな。
この答弁を聞いた時にあたくしは「岩田副総裁フォワードルッキング発言キター!」と勝手に盛り上がっていたのですが、特に反応していなかったかも知れません。まあ一応こう言ってますんで念の為。
○福井総裁の説明
まあ当然ながら色々と説明しているのですが、まあ代表的な部分はこの辺りかと思います。同じく越智委員からの質疑応答部分です。
『量的緩和政策のときと違います一つの点は、先ほども申し上げましたとおり、コミットメントによって日本銀行がみずから手足を縛るということはしない、フリーハンドでタイムリーな金融政策をできるようにした。』
『コミュニケーションの仕方も変わってまいります。これが二番目でございます。我々は、政策委員の一人一人が持っておられる物価観というものを正直に出して、世の中の人々の物価観と十分すり合わせができるようにした、これは大きな透明性のバックグラウンドでございます。(途中省略)』
『第三の違いがございます。それは、量的緩和政策のときは市場金利の動きは原則的には封殺されている、特に短期金融市場でございますね。今後は、金利が生きてくるということでございますので、マーケットとのコミュニケーションという場合に、金利の動きというものが仲介項になってまいります。言葉のやりとりだけがコミュニケーションではない、本来のマーケットとのコミュニケーションでございます。我々が情勢判断について見解を述べ、市場の理解するところは市場が先行きのレートということで示し出してこられる、見解のすり合わせの中でそういう市場レートが敏感に動くということで、市場レートを仲介項としてダイナミックなコミュニケーションが行われる、これが本来の中央銀行とマーケットとのコミュニケーションでございます。そういうふうに変わっていくということでございます。』
まあそうですかって感じですが、どうみましても「我々が情勢判断について見解を述べ」以下の部分ちゅうのは現状では政策委員による市場の口先介入あるいはアラン・ブラインダー元FRB副議長の言う「自分の尾を追う犬」状態にしか思えませんな。
で、その次の質疑応答でこんな発言がありまして、「いつまでも低金利と言うのは勘違いじゃねーのか」ということになったわけですな。
『金利と申しますものは、経済、物価の情勢に見合った金利水準というところにセットされて初めて金利機能が最大限その効用を発揮する、資源の再配分機能というのを最も有効に発揮することによって経済の活力を最大限引き出し、いい経済のパフォーマンスを実現していく道につながる、こういうことになります。したがいまして、いずれは日本の金利も日本の経済、物価の状況に見合った水準に段階的には引き上げていく必要があるわけでございます。(途中省略)』
で、この続きでこういう発言も一応しております。念の為。
『この両面を考慮しながら、しばらくはゼロ金利ないしは極めて低い金利水準というものを保てる期間があるのではないか、こういうふうに想定しております。しかし、いずれは中立的な金利水準に徐々に戻すということがこれからの日本の経済の活力を真に引き出す道につながる、こういうふうに考えております。』
前半の部分と後半の部分両方のうちどっちを強調するかによって与える印象は違ってくるでしょうなあってお話ではございます。
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2005/12/07
○岩田副総裁の記者会見
先週はご案内のように岩田、武藤の両副総裁がスピーチをしておりました。各地で行われる金融経済懇談会では記者会見がセットで付いて来る事が多く、そちらもフォローするわけですが。
http://www.boj.or.jp/press/05/kk0512a_f.htm
30日に行われた講演後の記者会見。前半は鹿児島県経済に関する質疑が続き、後半は金融政策に関する質疑なのですが、質疑応答が見事に一つの流れになってまして、まともに紹介しだすと記者会見後半部分を丸々引用しそうな勢いなので、ポイントと勝手に思ったところを引用含めて少々。
・実質マイナス金利運営に関して
今回の講演と記者会見では米国がデフレ回避の為にFF金利を1%まで下げて実質金利をマイナスにして政策運営を行い、デフレ回避に成功したという指摘がありまして、その点が一番注目されておりますわな。で、その件の質疑応答を見るのですが。
『(問)量的緩和政策解除後の政策運営についてお伺いしたい。講演の中でも、「物価安定化のアンカー」という表現をお使いになったが、量的緩和政策は消費者物価指数にリンクすることで、政策の透明性とか期待の安定化に役立ったと思う。しかし、量的緩和政策の解除後、政策の透明性とか期待の安定化をどう維持していく方策があるのかについて、インフレ・ターゲットについての見解とともに、考えを伺いたい。』
『(答)米国の経験でとても印象深く思うのは、実質金利がマイナスの期間が続いたということもあるが、コアの消費者物価指数であれ、コアの個人消費デフレータであれ、それが1%のところに来た時に、「このまま行ってしまうと1%を割っていき、デフレのリスクが相当高まってくる」という判断を米国の連邦準備制度理事会はされたのではないかと思う。偶然ではあるが、フェデラル・ファンド・レートも1%という相当低い水準にもっていき、しかもそれを相当の期間やるということを約束しながら、透明性の高いかたちで政策運営をされたのではないかと思う。』
ここまでは講演で話をしていた内容です。
『そのことを考えると、少なくとも米国の中央銀行は、デフレにならないための「のりしろ」というものを1%程度辺りに置いておられるのではないかと考えられる。私は日本の場合にも、そういう考え方があり得ると思っている。』
『ただ、私がもう一つ付け加えなければいけないと思うのは、足許の数字が1%にまでならないとデフレ・リスクがなくならないかというと、必ずしもそうは思っていないということ。経済の先行き、例えば予測期間、今後1年半とか、場合によって2年ということになると思うが──展望レポートのタイミングによって、多少ずれがあるが──そういう期間において、基調的なコアの消費者物価指数、実力ベースのコアの消費者物価指数で1%程度が展望できるといった考え方について、日本も考えていいのではないかと思っている。』
と言う事で、米国が実質マイナス金利を相当期間に渡り実施した事を評価しつつ、日本に当てはまめた場合はどうよって話をした場合に、マイナス金利の長期化という点については微妙に言葉を選んで断定的なお話をしては無いように思えます。所謂2段階解除論(量的緩和政策を解除してからゼロ金利政策になるという奴)っぽいお話はしていますが、そのゼロ金利自体がどの位の期間になるのかって話についてはどうなのかなあという印象。
従来から岩田副総裁は糊代論を展開してまして、その数字については1%という数字を出していましたが、じゃあコアCPIが1%を超えるまでゼロ金利のままにおいて置くのかという問題に関しては、上記最後の部分にありますように「1%程度が展望」という表現をしてますのでそこは微妙なんジャマイカ?
この前の方の質疑応答で『金融政策を変更する場合、その効果が現れるまでに財政政策よりも少し時間がかかるのが実態であり、1年とか1年半とか期間を経て初めてその効果が現れるということを念頭に置きながら政策運営を行っている。』と岩田副総裁は言及してまして、なおかつ岩田副総裁は量的緩和政策の量の効果について積極的な評価をしていますので、糊代ポイント(今勝手に作った造語)の1%に到達した頃から引き締めプロセスに入るのはさすがに金融政策変更が遅れるのではないかと考えているのかなあと勝手に想像しましたがどうでしょうか?
まーそりゃ同じコアCPI1%でもCPIの上昇幅が縮小しながら1%になっているのと上昇しながら1%になっているのでは話が違う訳ですもんね。
ということで、この論点に関してその後も質疑応答が続きましたが(ってしかし妙に質問のポイントが秀逸なのは注目講演だけにあんな人やそんな人が鹿児島まで出張ったからに違いない^^)この辺に集約されるかなあと。
『(問)そうすると、必ずしも何%までいったらとかそういうことは考えない、むしろその背後にある需給の実勢だとか、それで判断して、例えば、経済実勢がしっかりとしていれば、パーセンテージは足許低くても、構わないということもあり得るのか。』
『(答)何度も申し上げるが、もちろん足許の物価の動きも大事だが、先行きの物価見通しがどうなるのか、先行き仮に+0.5%、+1.0%であるとしてもその時の上昇率を支えるメカニズムがどういうことになっているのかが重要な点である。そういった点をよく点検しながら、いわばすぐにデフレには戻らないような物価上昇率は、現在の日本経済が置かれた状況のもとで、どのくらいなのかということを煮詰めていく必要があると思う。それで、先程の米国の例で言えば、どうやら「のりしろ」として1%くらいを考えている様だと、私は受け取っているということである。そうした外国の経験も、参考になると思う。』
・量的緩和解除前の当預残高目標引下げには否定的
今回の記者会見での金融政策に関する話は殆ど上記のネタに終始したのですが(よって記者会見は話が飛ばず非常に読みやすい)、最後に量的緩和解除前の当座預金残高目標引下げに関して質疑応答が。
『(問)先程の講演の中で、量的緩和政策を終了後の政策対応で日銀当座預金残高の引き下げとおっしゃられたが、これは量的緩和政策を解除してから当座預金残高を引き下げていくという順番なのか伺いたい。』
『(答)当座預金残高の引き下げについては、政策委員会の中にもいろいろな意見がある。別に量的緩和政策のフレームワークの中でも当座預金残高を引き下げることは約束違反ではなく、そういうことがあってもいいのではないかという意見もある。私もその点については同意している。ただ、個人的には、早めに当座預金残高を引き下げるよりは、量的緩和政策を解除した後で、当座預金残高を自然体であまり市場にストレスをかけないかたちで下げていくほうが、現在の日本の景気動向や物価動向からみて、早く安定的に消費者物価指数の前年比上昇率がゼロ%以上となるという差し当たりのゴールを確実なものにするために、良いのではないかと判断している。』
面倒なので(おい)引用しただけで終了。
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2005/12/01
○久々に持論展開の巻(岩田副総裁講演)
昨日は注目の岩田副総裁講演(正しくは鹿児島県金融経済懇談会における挨拶です)が行われ、その後の記者会見も注目されていました。
http://www.boj.or.jp/press/05/ko0511b_f.htm
先に結論を言うと、久々にハト派(タカ派ハト派で区分するのもちょっと違うような気がしますが、話を単純化するためにこの表現を使います)的なお話をしてますなあと昼休み時間にアップされた挨拶要旨を見て思ったのですが、いざ後場が始まってみるとあまり市場は反応せず。「???」と思いつつも本業が忙しくちょっと目を離している隙に14時半頃から債券上昇の株価指数下落をやらかしておりました。
一応後講釈では岩田副総裁の記者会見に反応したことになっているのですけれども、報じられた記者会見内容をさらっと読んでいると「これで反応するなら講演で何故反応しない??」と不思議に思うあたくしなのでありました。相場が動いたのは他の要因じゃないかと。
経済情勢に関する部分も中々興味を引くものがございますが、相場に関連するお話はなんといいましても金融政策はどうよってあたりのお話でございます。
・実力ベースのコア消費者物価指数
前もこの話を岩田副総裁がしていた筈なのですが、どこで説明していたのかてめぇの過去ログを見ても直ぐに見つからなかった、悲しい。
『このように、生鮮食品に加え、石油価格や公共料金などの特殊要因を除いた消費者物価指数(これを私は「実力ベースのコア消費者物価指数」と呼んでいます)は、着実にマイナス幅を縮小し、足許ではほぼゼロの状況が続いています。私は、「実力ベースのコア消費者物価指数」の動きを考えた場合に、先行き経済の基礎条件の改善が続き、回復が持続的であるとすれば、経済全体の需給が引き締まるにつれて消費者物価の変化率は、ゆっくりとしたペースではあるけれどもプラスの幅を広げてゆくものと考えています。』
講演要旨に図表が付いているのでそれを見ますと、エネルギーとして電気ガス灯油にガソリン、特殊要因は診療代、タバコ、米穀、電気代、石油製品、固定電話通信料金と、まぁこの辺をさっぴいたぶんが実力ベースって事のようです。
・デフレ脱却の定義:消費者物価と個人消費デフレーターに注目
挨拶後半のあたりにこの小見出しの部分があります。まぁ全文読んで頂戴って所ですけれども端折りまくってご紹介するの巻。
『かりに先行き生鮮食品を除く消費者物価の変化率が安定的にプラスになったとして、それがただちにデフレ脱却を意味するものであるかどうかについては、多くの議論があります。』
ということで、家計部門への影響に注目して消費者物価+個人消費デフレーターを見るのか、経済全体という意味でGDPデフレーターに注目するのか、資産価格の変動を見るのかという3つの論点を上げて説明をしてますが、そこは飛ばしまして結論の部分をば。
『中央銀行が重視すべきであるのは、国民経済全体の厚生を測るという観点から、家計部門にとって重要な物価指数である消費者物価と個人消費デフレータであると考えています。』
ということですので、岩田副総裁がみるデフレ脱却に関しては、GDPデフレーターよりも消費者物価と個人消費デフレーターに注目するようですね。となるとGDPデフレーターは日銀の判断に対しては影響力小という話ですんで、政府がワーワー言う点とはちとズレが生じるのかなあという気も。
ちなみに、消費者物価指数と個人消費デフレーターの関係についてはこのようにコメントしています。
『一般的に言って、消費者物価指数には物価上昇を過大に見積もるという上方バイアスがあり、個人消費デフレータには物価上昇を過小に見積もるという下方バイアスがあります。(途中割愛)指数の作成方法の違いに着目すれば、消費者にとっての「真の生計費指数」は両者の中間にあると言ってよいと考えられます。アメリカでは、この2つの物価指数のバイアスによる差異は、0.5%程度と見られているようです。過去における日本の2つの物価指数の動きを比較して見ますと、両者の差はアメリカと比べてかなり小さいようです。』
・やっと本来の話がでましたな+デフレ脱却判断の注目材料
その次に金融政策運営という小見出しでお話をしております。
『私は、量的緩和政策終了の3条件が満たされるかどうかのポイントは、当初の約束通り、生鮮食品を除く消費者物価の変化率が「安定的にゼロを上回る」と言えるかどうかにあると考えています。それを判断していくには、物価に一時的な影響を与える個々の要因だけでなく、背後にある経済全体の需給バランスをしっかり見ていく必要があります。』
いやもう本来そういう話だったのに、先日来の福井総裁発言にもありますように、「先行き見通しがプラスで足元プラスだったら当然安定的にゼロを上回るでしょ」っていう地均しモード全開状態の昨今では足元CPIがプラスになって数ヶ月経過したらもう条件達成ですわなあというお話になってしまった訳ですわな。といういつもの悪態は兎も角として、岩田副総裁はどのあたりに注目しているかというお話が次に。
『そのためには、賃金と労働生産性の比率で定義される単位労働費用の動きや、日本国内の需給バランスで決定される消費者物価指数、換言すると生鮮食品のみならず石油関連財、公共料金などの特殊要因を除いた「実力ベースのコア消費者物価指数」などをしっかりと見ていく必要があります。』
つーことでユニットレーバーコストと特殊要因&エネルギー控除後のコアCPIを見るというお話になっております。
『他方で、単位労働費用の変化率がまだマイナスの領域にあることは、物価上昇へのモメンタムが、極めて緩やかであることを意味しています。この意味でかりに量的緩和政策を終了する場合も、その後の政策対応は、当座預金残高の引き下げを含め、充分に余裕をもって進めることができると考えられます。
』
当座預金云々の部分は微妙な表現ですが、記者会見で突っ込みがあったようなので本日は省略。で、ユニットレーバーコストに関してですが、このお話に則しますとこの部分がプラス転換してくると物価上昇のモメンタムが当然ながら高まるという話でもありますんで、まぁ雇用環境注目ではありますな。改善してるような感じではありますが、足元はインフレ期待のモメンタムはまだですかな。
・実質金利マイナス政策に関する言及
『ちなみに、消費者物価の上昇率が1%まで低下したことによってデフレのリスクに直面したアメリカの連邦準備制度理事会は、2002年から2004年にかけて実質FF金利をマイナスにする政策を続けました。そして、デフレのリスク回避を確認した後に、初めて金利引き上げのプロセスに入ったことは示唆的であると考えています。』
と、ここだけなのですが、FFレートを1%まで立て続けに引下げを行いデフレ突入を回避した点を「示唆的である」と言うのは副総裁という立場で、なおかつどこぞの閣僚や与党から日銀法改正などと恫喝されるという中央銀行として非常に憂慮すべき状況である事を勘案した結果の上での抑制された表現なんでしょうなあと思ったのは読みすぎでしょうかねえ。
・物価安定目標は量的緩和解除の後で
『日本の場合は、量的緩和政策の終了時には、極めて低い金利から出発するので、物価上昇率がプラスになるにつれて、実質金利はプラスからマイナスになって行きます。金利面からは、むしろ緩和効果が強化されることになるわけですが、政策運営に当たっては、経済物価情勢がどのような展開を示すのかをしっかり見極めることが重要であると考えています。私は、「安定的にゼロを上回る」という通過点を越した後に、「物価安定のアンカー」をどのように設定するかという課題を議論することが重要であると考えていますが、その際にも、先ほど述べたように、物価に一時的な影響を与える個々の要因だけでなく、背後にある経済全体の需給バランスをしっかりと踏まえることができるような仕組みを考えていく必要があると思います。』
実質金利マイナスの世界に入った時にインフレ期待をオーバーシュートさせない為に物価安定目標のようなものを設定すべしという主張になっております。今設定するという話ではない所は一応チェック。
という所で本日はこの辺で。
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2005/09/16
お題「審議委員の発言に反応するのは・・・」
○岩田副総裁講演の一箇所に反応した?債券市場
昨日の債券市場は寄り付きこそ確りでしたが、朝方ちと弱かった株価指数が威勢良く上昇するとヘロヘロになりました。特に昨日悲惨だったのは例によって中短期ゾーンでして、後場先物が139円近辺で何とか耐えていた時(その後平均株価が13000円をうかがう勢いになってきたので9円割れになりましたが)5年49回債は前日比2毛甘の0.65%あたりの出合いになっておりました。
で、まぁこれがど〜ゆ〜悲惨な状態かと申しますと、火曜日に入札が行われた時の前場引け時点の価格が先物139円02銭で5年49回債の入札前取引(単利)が0.64%オールテイクン。入札の平均落札価格はだいたい0.63%な訳でして、2日間相場が振幅している間に入札レベルから2毛甘くなってしまった訳ですな。
さて、昨日14時過ぎにヘッドラインが流れ出した岩田副総裁の名古屋での講演ですが、このあと軽くご紹介しますが最近の講演と同じく景気には超越ブル(なのは今に始まった事ではないというのはドラめもん読者の皆様ご存知かと)だったのですが、フラッシュで出てきた「量的緩和解除再びデフレに戻らないための歯止めをしっかりと置くことが必要(という意味の内容)」という内容が伝えられますと、139円そこそこでもみ合っていた債券先物は反発。それまでヘロヘロだった2年ゾーンがまぁ確りしてきて相場は上昇しちゃいました。最初債券先物があがりだした時には「この講演内容でどうして債券買われるの?(=景気に超ブルなので)」というお問い合わせまで頂く位、一言に反応したって感じですわな。
まぁ朝から超長期が全然下がらないとか相変わらず長期ゾーンも押し目買いとかあったのも効いてるでしょうし、期末大接近で債券購入圧力はあるんで実需買いが押し上げた面も大いにあるでしょうが、どうも2年あたりとかも派手派手に動いていまして、ま〜思惑で動いている部分もありますわなという感じです。
岩田副総裁は景気に関してはご案内の通り強気の最右翼で、金融政策に関しては「再びデフレに戻らない為の糊代が必要」という話を以前からしている人なので、本来はこの講演内容には新味が無い筈なのですが、債券相場が妙に反応して引けて見ればイールドカーブがブルフラット。まぁ今回の講演で副総裁がいきなり宗旨変えして熱烈金利上昇歓迎派になるとでも心配していた向きが多かったという解釈をすればできない事は無いのですが、それはちょっと幾らなんでも。
今までの岩田副総裁の発言からみるとごく当たり前の講演の前後に相場が反応してしまうというのは、日本銀行政策委員会審議委員さまにおかれましては「市場との対話」という名の下にまたぞろ行いだしかけている「市場への独白」が機能(苦笑)しだしているとも言えそうです。
経済指標に素直に反応すれば無問題なのに、市場を鏡にして行う審議委員の皆様の独白に反応しだす債券相場が始まるというのはあまり良い傾向ではございませんな。
この「市場への独白」ってのは例によって本石町日記さんの最近の替え歌エントリーでのコメント欄と、Hicksianさんのブログ「Irregular
Economist」でのエントリー「私を出口に連れてって」でのコメント欄で取り上げられています。また、Hicksianさんはこちらのエントリーで先日の岩田副総裁のカンサスシティ連銀での英語講演のポイントについて解説して下さってます(と、人の褌で相撲を取るあたくし、汗)ので、そちらも必読です。当該エントリーはこちら→http://econ.cocolog-nifty.com/irregular_economist/2005/09/post_0eec.html
○岩田副総裁の講演に関しては甚だ簡単に
いやまぁ寝坊したのと、前半書くのに3歩書いて1歩書き直すという感じで書いたというのもあって(汗)。
http://www.boj.or.jp/press/05/ko0509d_f.htm
とにかく景気と物価には強気なんですよ。
・GDPギャップについて
『以上の大まかな計算(は講演要旨をご参照ください)を将来についても延長して適用すると、2005年度の成長率が潜在成長率を上回るようであれば、年度の途中からプラスに転じてもおかしくないということになります。』
・コアCPIについて
『従って、GDPギャップが引き続き縮小し、特殊要因が剥げ落ちてゆくにつれてコア消費者物価指数の上昇率はゼロからプラスになってゆくと期待出来ます。』
・ということでデフレ脱却に明るい見通し
『9月の金融政策決定会合では、コア消費者物価指数の先行きについて、年末頃にかけてゼロ%ないし若干のプラスになるとの判断を示しました。日本経済が、緩やかではあるけれども持続性のある、自律的な成長を今後も維持できるとすれば、デフレ脱却の展望は明るいものであるといえます』
で、リスク要因としてあげているのが米国経済でして、原油高騰とハリケーン被害問題、それから米国の経常収支赤字の拡大を挙げてます。
金融政策運営に関して
・債券先物買戻しモードになったくだり
『コア消費者物価指数が安定的にゼロを上回るようになり、3条件を満たす状況になった場合には、量的な枠組みから金利を中心とした枠組みに移行することが考えられます。私は、金利を中心とした枠組みへの転換を行なう場合にも、「再びデフレに戻ることがない」という歯止めをしっかりとおき、期待の不安定化から長期金利に過度の変動が生じないようにする上で「条件付きコミットメント」を通じた「物価安定の錨」の役割を活用することが望ましいと考えています。』
ちなみに、あたくしが超越斜め読みしかしなかった岩田副総裁の前回講演のお題はと申しますと「The
Role of the Price Stability Anchor in Extricating Japan from Deflation」な訳でして、物価安定の錨としてのコミットメントがどうのこうのって話をしていたような気がする訳でして、この話も言ってみれば「想定の範囲内」であり、ノーサプライズの筈なんですよね。
ま、勝手に勘違いする市場も如何なものかと思いますし、特に最近の2年ゾーンの動きなんぞは経済指標などに反応している訳ではなくて、要人発言の片言隻句を捕らえて勢いで大きなポジションを振り回しているという感じで、池の中で無節操に暴れる鯨に戦々恐々ですよ全くもうって思います。まぁそう考えるとどっちもどっちではありますな、爆。
時間の都合で本日は簡単にご紹介で勘弁でした。
#福間審議委員の会見要旨もツッコミたかったのですが
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2005/09/15
○岩田副総裁発言について
岩田副総裁の講演及びコメントは本日行われる講演を改めて見ようって話になるとは思いますが、そもそも岩田副総裁は(先日も申し上げましたが)量的緩和の「量」の効果に対して最も積極的な意味を見出していたクチのお方でございまして、その伝で言えば「これだけ量を出しているのだからインフレ期待が醸成されて然るべき」と思っていた筈のお方。
よって元から景気に関しては物凄い勢いで強気のお方ですが、金融政策に関しては量的緩和政策コミットメントの3条件の2番目「再びデフレに陥る懸念が無い(意訳)」という部分に関して「再びデフレに逆戻りしない物価上昇水準を確保しないと」っていう糊代論を展開していた人ですので、その辺に関してどのようなコメントが出るのかを注目しないと「すわ岩田副総裁ハト派から降りた」と騒ぐのは先走りの悪寒もします。
つーか、CPIがプラス転換する前に色々思惑を入れても、結局はその時点での状況次第なんであんまり決め打ちするのも如何なものかという話は昨日も申し上げたばかりですわな。岩田副総裁は景気に関する見通しが相当強気でCPIがプラス転換する時には十分なインフレ期待が醸成されていると予想しているのかもしれませんけど。
いずれにせよ本日が注目。
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2005/09/14
○岩田副総裁の講演(備忘録)
昨日の債券市場では、前日に公表された岩田副総裁の講演で「量的緩和政策からの出口が展望できる段階になってきた」というような発言があったとブルームバーグニュースが報じた(月曜日の17時半頃)というのがネタになっておりました。
で、この講演なのですが、8月25日に行われたカンサスシティ連銀主催のシンポジウムでのものでして、講演テキストはこちら
http://www.boj.or.jp/en/press/05/ko0509a.htm
でございます。
中身が英語でございますのでまぁアレなのですが、あたくしが読んだ所では「deflation」からの「exit」というのは見つかったのですが、早期金融引き締めを意識したようなテキストは見つからなかったのですけど、一言一句細かく見てないので備忘録と言うことで。
講演はCPIコミットメントが物価下落に対するアンカー役として役に立っていますってお話のように読めましたが、岩田副総裁の今までの傾向からして、物価動向に関しては強気(量的緩和政策の量の効果について積極的な意義があると考えている節があるから)であっても、将来の金融引き締めに関しては「糊代論」を提唱してたりしてますので、岩田副総裁が早期金融引き締め論を唱えているというような理解もちと先走りな気がします。
と言いながら、中身をまじまじと読んでいる訳ではないのでメモでした。
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2005/06/08
○岩田副総裁の「ゼロ金利の副作用論」(続き)
・・・ということだったのですが、昨日書いたことにあまり追加する必要はなさそうです。敢えて講演要旨引用すれば増量できますが、勝手に端折りますと、1.量的緩和政策の副作用といわれるものはゼロ金利の弊害と同じ、2.CPIがプラス転換に近づくにつれて次第に長めの金利が上昇していくでしょう、3.CPIがゼロ以上になった時にはコミットメントの「安定的にゼロを上回る」「デフレに再び戻らない」というのを数値化する必要があるでしょう。という感じですか。
今までの岩田副総裁の発言から類推すると、コミットメントの数値化ってのは「CPIゼロに糊代を」って話で時間軸の強化になりますので、2.のところが微妙にアレなお話ですが。
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2005/06/07
○岩田副総裁の講演
5月28日ですから当預30兆円割れ確定前ですが、日本金融学界の2005年度春季大会における岩田副総裁講演要旨がアップされました。
http://www.boj.or.jp/press/05/ko0506b.htm
えー正直申しあげて基礎的知識の無いあたくしには誠に難しい部分が多々ございますので、まぁ誰か解説してくれないかなぁと期待しておりますが(お前が勉強しろと言われそうですな)、量的緩和政策の批判とその効果に関る話の部分が参考になりそうなので引用をば。
量的緩和政策への批判として4点挙げてまして、引用してると長くなるので筆者が勝手に端折りますと、1.ゼロ金利下では流動性の効果は小さくなり、流動性の罠に嵌れば効果はゼロ、2.当座預金と手形や短期国債などの短期債券の交換をするのは効果がない、3.量的緩和政策はデフレ脱却に十分な効果を持っていない、4.量的緩和政策は市場機能を麻痺させ、資産価格のバブルを促進するなどの副作用が大きい、となっています。まぁそんなところですな。
で、これに関する岩田副総裁の意見を引用します。
『拡張された岩田=浜田モデルの枠組みから、量的緩和政策に対する第一と第二の批判について以下のようなことが言えます。』
『まず、第一に、当座預金残高引き上げの有効性は、当座預金残高目標実現のために実施される短期、長期の市場オペレーションを通じた資金供給増加が金融市場や経済活動に与える効果の有効性の問題に帰着するということです。』
『第二に、この市場オペレーションを通じた資金供給増加の効果は、すべての金利がゼロではないという状態の下で、市場利子率(ここでは国債、貸出の利子率)に与える効果を通じて銀行の貸出行動に影響が及ぶことになります。』
『第一の批判が指摘するように、銀行部門の段階で銀行準備の利子弾力性が無限大になる「流動性の罠」に陥っている場合には、資金供給増加の効果はゼロになります。しかし、かりに短期の市場利子率がゼロに張り付いていたとしても、より長めの金利が正である限り、そしてその金利が資金需給に反応して変動し、銀行が望ましいとする超過準備が変化する限り、銀行部門の段階で「流動性の罠」にあるとの判断を下すことは適当ではないでしょう。』
『「流動性の罠」に陥っていない場合には、十分に大きな刺激効果があるかどうかその大きさを実証的に確かめる必要があるものの、貸出供給行動にプラスの効果が発生するはずです。さらに、市場利子率の変化を通じて国債市場における需給が変動するので非金融民間部門の資産選択行動にも影響が及ぶはずです。』
『第三に、企業が望ましいと考える債務を上回る超過債務の存在、または、企業部門が保有する担保価値の圧縮は、銀行貸出を減少させ、市場利子率を低下させる効果があります。(中略)量的緩和政策の実施にもかかわらず銀行貸出が減少を続けているのは、企業部門が超過債務を返済し続けているからです。』
この辺まではあたくしの脳みそで「ほうほうなるほど」と読めるのですが、実はこの先の「デフレ克服についての有効性」という話になりますとちと難しい話になります。
が、乏しいあたくしのみそで読んでおりますと、今までも岩田副総裁がお話していた「物価水準目標政策」と「マネーでファイナンスされた減税政策」のセットというお話になるのですが、この「マネーでファイナンスされた減税政策というのがあたくしの脳内では「それは財政マネタイゼーションになって、一度実行すると力関係から言って政府が日銀を打ち出の小槌にしませんか」という方向に懸念が拡大しちゃうんですが。
高橋財政それ自体は成功事例なんでしょうが、制度として国債の日銀引受を確立し、その後の軍事予算マネタイゼーションへの道が開いたという事は言えませんでしょうかねぇと思うあたくしとしては、マネーでファイナンスされた減税(政府紙幣の発行なんですかねぇ)というのにはどうも将来に問題を残すんじゃないかなぁという懸念が相変わらず抜けない訳ですな。
と、とりあえず書いておきますが、実の所このあたりの理論的背景に関して造詣がある訳ではないので、まぁ一般ピープルのたわごとだと流しつつ理屈をご教示賜れば誠に幸いでございます(と図々しいあたくし)。
・副作用に関しては・・・・・
第4の「副作用」の点に関しては「ゼロ金利の基本的な問題点」として話をしております。例によって時間と分量の関係上明日に回っちゃいますが(大汗)、この部分に関しては、何となく「副作用論」を声高に主張する人のペースに嵌っているような気がしないでもありませんな。このへんをネタにして「岩田副総裁も長めの短期金利の上昇に理解を示している」とか言い出す人が出てきそうな悪寒も致しますので念の為申し添えます。
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2005/03/07
○岩田副総裁も「財の価格ゼロ近傍」
岩田副総裁が金曜の午後に大阪で講演をしたそうなのですが、講演テキストが日銀Webに見当たらなかったのでブルームバーグのニュースから拾ってみます。
まぁ岩田副総裁は前々から景気に関しては強気な見方を示しつつ先行きの金融政策については「CPI時間軸の延長」論ということを提唱しているお方なので、景気に関して強気な意見が出てきてもさほど世の中驚かない(というかそもそも金曜の午後のニュースで今更反応のしようも無かったのですが)のですが、引き続き景気に関しては強気ですなぁ。(以下『』内はブルームバーグニュースによる岩田副総裁のコメントです)
『再びデフレに戻らないことを条件にした金融政策と、ゆっくりだが、財政健全化に向けた財政政策の組み合わせはデフレ幅の縮小に貢献してきた。あとワンストロークかなと思っている』
何だか福井総裁の「ラスト1マイル」みたいで微笑ましいのですが、このお話は前々からの岩田副総裁が展開している理論(頭の悪いあたくしには良く判らん部分があるのですが)なんですが、ど〜も腑に落ちないのは「財政健全化に向けた財政政策」って奴なんですけれども。現象として見えるのは財政が全然健全化していないというのと、そもそも資産価格の下落が止まったきっかけはりそな銀行救済スキームとか問題企業の産業再生機構送りとか絶賛ドル買い介入非不胎化攻撃とか結局財政パワー(というか財政に民間部門の問題を飛ばしているというか)によるものだったように思えるのですが。(ペイオフ解禁も実質骨抜きですしねぇ)
『基調的な動きを見ると、財は02年の初めぐらいから一貫してマイナス幅を縮小してきており、足元ではかなりゼロにちかいところに来ている。サービスはほぼゼロ%近傍で動いている』
まぁ物価に関しても岩田副総裁は強気見通し(というかGDPギャップの縮小とかを見ていたような気がする)の人なんですが、ここの所福間審議委員、福井総裁と「消費者物価は足元ゼロに近い数字」って話が出て相場が大騒ぎした話と同じような話が出てくる訳でして、なるほどなるほどと思うのでありました。
で、岩田副総裁はご存知のように「再びデフレに戻らない糊代の物価上昇率が達成されるまで量的緩和政策を継続(で、その糊代数値を明示すべしというのがキモなんですが)すべし」という主張を行っている人なんで、岩田副総裁が「物価の基調は足元ゼロ」って話をしても「はあはあそうですか」程度の反応しかしないんですが、その話を別の人が当座預金残高目標減額議論と絡めてしだすといきなり「ひぇ〜」ってことになるという諸刃の剣。市場との対話と言う意味ではちとお勧めしにくいものがございますなぁ。
日銀政策委員会として審議委員の意見が異なるのは当然の話ではあるのですが、何と言うか現在の政策に関する枠組みに関して審議委員の意見がバラバラになっているんじゃねーのかっていう状態で色々な情報発信を行われても市場の方としては困ってしまいますなぁって感じですな。
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2004/11/16
○岩田副総裁の糊代論
同じネタ元で引っ張りますが、本日も11月2日の参議院財政金融委員会の質疑応答から拾ってくる訳です。今日は小ネタですが。
毎度引っ張ってくるのでお馴染みの11月2日の参議院委員会で金融政策に関して岩田副総裁はこんな答弁をしておりました。質問者は公明党の西田実仁委員です。
(西田委員)『まあそういう意味で大変に難しいかじ取りの局面にいよいよ突入してくるわけでございますけれども、いわゆるこの出口戦略のところでお聞きしたいのは、先ほど来総裁がおっしゃっている、ゆとりを持った政策というお話をされました。これは岩田副総裁も前に御発言されておられましたけれども、いわゆるのり代論という、いわゆる安定的にをどう解釈するかという話で、一%ぐらいという具体的な数字も出されておられましたけれども、これの真意について副総裁にお聞きしたいと思います。』
いい質問ですな(^^)。で、岩田副総裁の答弁はこんな感じです。
『ただいまの委員の方から御指摘いただきましたように、私、今の日本銀行の量的緩和を継続するということについての三つの条件のうちの第二番目の条件でありますけれども、今後再びマイナスに戻らないようという、つまりもう一回デフレに戻ってしまうということはないんだということをもう少し明確にしていくことが望ましいのではないかと個人的には思っております。』
『これは委員の間でもいろいろな、例えば〇・三%ならいいのか〇・四%ならいいのか、いろいろな御意見あると思いますけれども、私は先行き、これは足下が基調的にゼロ以上というのは私はこれでいいというふうに思っているんですが、第二番目の条件、経済の先行きがどうなるのか、景気の持続性がしっかりしていて力強いものであって、一%を先行きは展望できるんだという、つまり再びデフレに戻らないということがはっきり確認できるということが重要じゃないかというふうに思っております。』
という事で、国会でも引き続き糊代論炸裂。まぁ総裁と副総裁の意見が違っていちゃあイカンという決まりはどこにも無いので無問題ではあるのですが、どうも量的緩和の出口が展望される頃になりますと、「総合判断」を行うにあたって岩田副総裁が「糊代論」を提唱して、総裁と副総裁という日銀執行部の票決が割れるという楽しい事態が発生しそうですな。ちなみに今までの発言から勘案しますと、糊代論を言い出しそうなのは岩田さんの他には中原審議委員ですな。福間さんはどっちだかわかりませんが、須田さんと田谷さん(と後任予定の水野さん)は糊代論は否定的だと推測されますのでご参考までに。
ちなみに質疑に続きがありまして、
(西田委員)『そうすると、それは、かつてその一%という数字を言われているわけですけれども、そういう水準でしょうか。』
(岩田副総裁)『そうですね。これ、私、先進国を見ましても、例えばアメリカの場合ですと、連邦準備制度理事会ございますが、これやっぱり消費者物価、具体的にはコアの、個人消費のデフレーターを見ていると私理解しておりますけれども、それが一%になったときにやはりデフレのリスクが相当あるということで、連邦準備は実は一%までフェデラルファンドレートを下げて、言わば超緩和政策を取ったということでありまして、国際的にも一%程度ののり代は必要ではないかというのは多くの御意見がある、そういった御意見をお持ちになる方は多いのではないかというふうに理解いたしております。』
まぁ何というか量的緩和政策のコミットメントを事実上骨抜き(緩和方向で)にする提唱をするというのも実に香しいお方でして、そんなら政策決定会合でコミットメントの変更を提案しやがれって思うのですが、中原伸之前審議委員のようにね。
で、こういう流れになれば当然次の質問はこうなるわけです。
(西田委員)『ということは、来年度の見通しは〇・一%、そんな単純じゃないんでしょうけれども、まだ来年はそういう出口戦略なりを考える時期ではないという御見解になるんでしょうか。』
ここでこれ以上岩田副総裁に喋らせるわけにいかないと慌てた(かど〜かは知りませんが^^)福井総裁が火消し答弁に入るわけでして(^^)、
(何故か福井総裁^^)『日本銀行全体としては、政策委員会で最終的にはこれで本当に再びデフレに陥るリスクはなくなったのかどうかということはきちんと判断しなければいけない。先週末にお出ししましたのは、(割愛)二〇〇五年度を走っているうちに、ある月は(引用者補足:「CPIが」)〇・〇かもしれない、ある月はマイナス〇・一かもしれない。しかし、平均してみると〇・一ということは、恐らく経済が自然な運行をしているとすれば、後になればなるほどプラスの確率が高くなり、場合によっては最終的には〇・一よりも高い数字になるかもしれない。場合によっては最終的には〇・一よりも高い数字になるかもしれない。平均して〇・一でございます。』
『そういう経過をたどりました場合には、来年度中か、あるいは来年度が終わって更にもう少し先に行ってか分かりませんが、蓋然性としては、我々は安定的にその消費者物価指数が〇%以上になるという段階を迎える可能性はあるというふうに、こう思っています。』
『そして、逆に、どこまで来れば再びデフレに戻るリスクがないかという判断をする場合に、委員によってはある数字を念頭に置いて議論される方もいらっしゃいますでしょう。しかし、ある人はもっとほかの要素で、もっと経済をいろんな要素を分析しながら断定しようというふうにお考えになる委員もいらっしゃるでしょう。それらを全部持ち寄って我々は最終判断をしたいと。』
『したがいまして、日本銀行全体としては、今持っております数字は来年度の見通しが平均としてプラス〇・一ぐらいというだけでございまして、それを超えていったときに新たな数字、数値的な目標で判断しましょうというふうなコンセンサスには今至っておりません。』
火消しご苦労様です。というか来年度後半プラスの確率高いって話ここでもしてた訳ですな。
小ネタの積もりが引用が長くなってしまいましたな。あっはっは。
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2004/10/08
お題「消費者物価の先行き予想がやたら強気な人」
昨日ご紹介した須田審議委員の講演ですが、講演後に行われた記者会見の要旨は特筆すべき内容も無いのでご紹介省略。
須田審議委員の消費者物価に対する先行き見通しに関しては昨日ご紹介したように「消費者物価は上がりにくいのではないか」となっておりまして、まぁ弱気な見方になっているわけですな。
で、この見方とだいぶスタンスが違うのが須田審議委員の講演で皮肉を言われた(かもしれない)岩田副総裁でして、かなりの証文出し遅れではありますが、9月22日の講演および記者会見で物価やら景気見通しについて小難しいお話をしております。
で、本来は「日本経済の現状:景気は屈折するか?」というお題の講演の内容をご紹介しないといけない所ですが、これがまた頭痛を催したくなるような講演要旨でして、あたくしと致しましては「お前は学者なんだからもうちっと判り易く説明できんのか」と申しあげたくなる訳ですな。というわけでおつむの出来がよろしくないあたくしは何を言ってるか判らん講演のご紹介は尚も後日に先送りして、記者会見の要旨から岩田さんのコメントをご紹介することと致します。
○消費者物価は経済成長の影響を受けるというご意見のようで
冒頭の質疑で物価見通し(が外れていること)に対して長々と話をしております。
『コアCPIについては、個人的に昨年10月の時点では、今年の夏ぐらいにプラスになってもおかしくないと考えていた。GDPギャップが1%縮小するとコアの消費者物価が0.4%程度上がってもおかしくないといった、いわゆるフィリップス・カーブの図を展望レポートでも示していたが、現実に2003年度の実質成長率は3.2%となった。これに対し、潜在成長率がいくらかという点については、議論があるところであるが、労働生産性の5年前対比変化率は、大体プラス1.5%となっている。一方、労働投入量の伸びは、増えたり減ったりしているが、均してみれば、ほとんどゼロに近く、その結果、潜在成長率は1.5%くらいなのではないかと個人的には思っている。』
『内閣府の調査でも、最近時点では低いが、平均をとると私の数値とあまり変わらないと思われる。このように、潜在成長率を上回る成長を遂げていけば、GDPギャップが縮小していき、タイミングはいつになるか非常に予測は難しいが、やがてある時点では、コアの消費者物価指数もプラスになっていっておかしくないと思われる。ただ、現在は、原油価格や米価といった、やや一時的と考えられる要因で動く部分がかなりあるので、そういったものが一応出尽くすということを、一応見届ける必要があると考えられる。見届けるには、ある程度の時間が必要である。米も、最初は豊作と言われていたが、台風の影響でどうやら平年並みになるなど、いろいろ事態は流動的であるので、なかなかいつからということは難しい。しかしながら、ある時点では、プラスになっていっておかしくないと思っている。』
実質成長率が潜在成長率を上回ればGDPギャップが縮小するのでコアCPIはプラスになるでしょうという極めて美しい理論展開でございます。
で、まぁ現実はそうでないわけですのでその辺に突込みが入るわけです。
『(問)生産性の上昇やユニット・レーバー・コストの低下によって物価がなかなか上がり難い状況の中で、CPIの上昇に関しては、以前の副総裁の予想に比べて、若干見方が下方修正され、物価に対して弱気になっているということか。』
『(答)以前、私が考えていたメカニズムとどこが違うかを整理すると2つあると思っている。まず一つは、先程申し上げたフィリップス・カーブの傾きについては、過去20年の平均でみると、GDPギャップが1%縮まれば、コアのCPIに0.4%の物価上昇圧力が加わるというのが、歴史的な経験である。今回の回復期は、それがその通りには十分反応していない。CGPI(企業物価指数)は極めて素直に反応しているのに対して違いがある。これは、フィリップス・カーブの傾きが、現在までのところ、過去の20年間の経験よりも、より非感応的でフラットになっていることが一つ言えると思う。そこが昨年10月の時点で思っていたのと違うところである。』
『もう一つは、期待の部分である。人々が期待する物価上昇率がどのようになるかという期待調整の部分について、思っていたよりもデフレ期待がビルトインされている力が強いという要因があると思っている。』
『フィリップス・カーブの傾きがよりフラットになっている理由としては、生産性の伸びが高い中で、賃金への波及が、過去の歴史的な経験よりも遅いためと思われる。単位労働費用のマイナス幅が、過去の回復局面ではみられないほど大幅なマイナスになっている。私は、単位労働費用の前年比がプラスにならないと、コアのCPIがプラスにならないとは思わないが、ある程度マイナス幅が縮小することが必要だと思っている。コアのCPIがマイナスになっている時期が86〜87年と95〜96年にあり、98〜99年くらいから現在までマイナスが続いているが、そのいずれの時も、単位労働費用の前年比はマイナス4%くらいになっている。必ずゼロに戻らなければ動かないといった話ではないが、ある程度マイナス幅が縮小することが必要ではないか。』
結局ここでもユニット・レーバー・コストの問題が出てくるのでありました。
『ごく最近の動きは、若干マイナス幅が縮小する方向に動いており、この辺を注目していきたいと思っている。』
しかし何ですな、ユニット・レーバー・コストが問題で企業物価の上昇が消費者物価上昇に転嫁されないっつーのであれば、現在のデフレというか物価が全然上がらない状態はもしかして「良いデフレ」なのではないかという気さえしてくるのですが。労働分配率を下方修正していく中で消費者物価が上昇したらそりゃ労働者さすがに暴れの図になるでしょうからねぇ。おまけに申しあげると、ユニット・レーバー・コストが消費者物価の絶賛小幅マイナス継続に寄与しているのであれば、デフレ脱却に対してマネー的金融政策で梃入れ(長期国債買入を益々増やすとか、政府紙幣の発行ををするとかのマネーサプライ増加策)するのは話の筋が違うって事になりませんかね〜と思うわけであります。勿論ユニット・レーバー・コストだけが問題ではないですから無意味とは思いませんが。
○という事で岩田副総裁のCPI見通しは?
この講演ならびに記者会見は札幌市で行われたのですが、福井総裁の記者会見で話題になったので「日本ハムファイターズがどうのこうの」という質問をした記者がいたようで、会見要旨を28行ほど占有しておりますが、時間の無駄なのでそのような質問をする記者は可及的速やかに経済部から転出して頂きたいものです。
という無駄話は兎も角、CPI見通しに関して。
『(問)同じところで恐縮ではあるが、本年度のコアCPIの見通しについて、副総裁は、前年10月にはプラスと見通されているが、現時点でもプラスと見通されているのかどうか。また、需給ギャップが大きく縮小してくれば、コアCPIがプラスになるということも考えられるとおっしゃったわけだが、来年度もCPIがプラスでいけるとみておられるのか伺いたい。』
『(答)最初の成長率のほうから申し上げると、民間の強気の予測だと4%ぐらいを見込むところもあると申し上げた。4%というのはどういう意味合いかというと、昨年10−12月期と今年1−3月期の伸びが非常に高い、年率でいうと7%とか6%とか、そういう高い伸びとなったので、いわゆるゲタと呼んでいるが、今年度の出発点が既にかなり高いところから出発する分が、私の計算だと2.1%ほどある。仮に2004年度に4%成長すると高く見えるが、出発点で既に2%くらい稼いでしまっているので、あと4四半期で残りの2%分伸びていくというインプリケーションかと思う。』
『それは、潜在成長率をやや上回る成長を続ければ、十分に達成する可能性がある大きさ、範囲内ではないかと思っている。それから、2005年度については、民間でも見方はそれほど定まっておらず、数字がそもそもないので、予測は振れがかなり大きいと言えると思うが、途中に紆余曲折はあっても、基本的には潜在成長率をやや上回る成長が持続するというのが私の予測である。』
どうもこの先生は質疑応答の答えがやたらめったら長い傾向にあるのですが、ここまでが前置き部分です。
『仮にコアCPIが2004年度中にプラスになって、基調的にプラスの方向に動くことがあるとすれば、当然2005年度はプラスになると思う。』
『もう1点付け加えると、若干技術的ではあるが、フィリップス・カーブが非常にフラットになって、なかなか反応しないという点があるが、GDPギャップがゼロを超えだすと、少し傾きが立ってくる可能性がある。需給ギャップ自体が、マイナスの需給ギャップ、すなわちデフレギャップだったのが、今度は逆に需要のほうが上回りだす。足許のGDPギャップについては、私は今年1−3月期でゼロに近いのではないかと何度か申し上げた覚えがあるが、内閣府では今年4−6月期にほとんどゼロとみている。大体、足許のGDPギャップがゼロだとすると、それ以降、潜在成長率を上回る率で成長すると、プラスアルファが加わってくる。そのアルファの分により、1%のGDPギャップ縮小によるCPIに対する押し上げ効果は、0.4%ということではなくて、恐らくそれをいくらか上回る可能性がある。』
『このところは期待の問題も絡むため、その大きさがどのくらいあるか細かく断定できないが、方向性としては、後押し要因になるというふうに思う。』
先月末にどこぞの全国紙で「次回出る予定の日銀の所謂展望レポートにおいては、2005年の物価見通しがプラスになるでしょう」というお話が出ていたらしいのですが、もしかしてこの辺の発言を見てそんな憶測記事でも書いたのでしょうかね〜。
○強気な物価見通しとCPI糊代論がリンクするわけですな
という訳でCPIの先行き見通しが結構強気な岩田副総裁なのですが、まぁこのように読んでみますと、どうも岩田副総裁的にはCPIが成長率に対して割と感応度が高いということになっているようでして、まぁそれならばデフレに逆戻りするリスクも強く意識されるというものなのでしょう。
『(問)4%成長が仮にあれば、年末にCPIがプラスになることも十分にあるとのことであるが、これは安定的に0%以上ということになる入口になるとお考えか。また、副総裁は、以前から望ましい物価上昇率として1〜2%とおっしゃっているが、来年度は1%の下限を達成できるとお考えか。』
『(答)4%成長が実現するかどうかというのは、もちろんわからないわけで、幅をもってみる必要があるが、仮にそういうことがあるとすれば、年末くらいからプラスになっても、マクロ経済的に考える限りは、十分説明がつく範囲の数字で、しかもそれは、基調としてなっていってもおかしくないと思っている。また、デフレに再び戻らないための糊代(のりしろ)がどのくらい必要か、これは人によって随分意見が違う可能性があるが、私は1%はどうしても必要なのではないかと思っている。』
『これは、もちろん、日本の経済が非常に活力のある経済であれば、必ずしも糊代が1%ない中でデフレ・ショックがあっても、それを跳ね返してしまうような可能性もあるとは思うが、確定した話ではないが、現状の日本経済を考えれば1%というのは糊代としてあったほうが望ましいと思っている。
2005年度については、まさに経済成長、あるいは賃金の決定、あるいは雇用の動きがどこまで強い方向で持続していくか──基本的には持続すると思っているが──、力強さがどこまであるかということに依存していると思う。今の時点で1%いけるかどうかというのは、私にも申し上げられない。』
本来は講演から読まないといけないのですが、まぁこっちの方が判りやすかったので、こちらから岩田副総裁の物価見通しについてご紹介させていただきました。昨日ご紹介した須田審議委員の講演とは随分対照的ではないかと思います。
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2004/06/22
お題「対照的な副総裁」
な〜んてお題ですが別に大したお話ではないので雑談程度のお話なんですけれどもね。
○武藤副総裁の記者会見
先週末に行われた講演(というか挨拶)の後に記者会見がありまして、会見の要旨が日銀Webにアップされました。
http://www.boj.or.jp/press/04/kk0406c.htm
記者会見の内容を思いっきり要約してしまうと、「長期金利の水準については上昇スピードが急でなければ特に問題なし」「量的緩和解除に関しては消費者物価指数のプラスへの転換がまだ先になるという言い方で慎重な見方を示す」「インフレ参照値に関しては検討するのは時期尚早」でありまして、更に「量的緩和政策と財政問題についての直接的なリンクについて否定する」というのが大変に特色があるかと。
財務省事務次官まで勤めた大物副総裁である武藤さん。財務省出身ということで、ま〜日銀としてはある意味鬱陶しい副総裁ではないかと思うのですが、腹の中でどう思っているかはともかくと致しまして、日銀のオペレーションを財政対策にリンクするような趣旨の質問に関して否定する所なんざぁ「日銀の人」になりきっているように見えます。
良くも悪くも「日本の優秀な官僚ってこうなんだな」と思わせる姿勢でありまして、置かれた場において最も求められる動きというのを理解した動きをしているとも言えますし、次期総裁含みという事を意識して「鬱陶しい落下傘副総裁」という意識があるであろう日銀プロパーの人心掌握を図っているとも言えますし、まぁ「立場をわきまえた最適な行動」って奴なんでしょう。
という訳で、記者会見のポイントとなると思われるところを引用。(趣旨を損なわない程度に一部割愛しています)
・長期金利について
『長期金利は(略)このところ多少上昇傾向にあることは事実である。これは、世界経済全体が好調であり、ひところ懸念されたディスインフレーション傾向に対する見方も変化しつつあることに加えて、日本経済も、私どもの判断として「緩やかな回復」から「緩やか」がとれるなど、より良い方向の循環が始まったことによるものと認識している。』
『長期金利については(略)短期的にみると、マーケットは様々な思惑によって動くというのも事実だと思っている。日本銀行としては、今後、長期金利の動向が、実体経済にどういう影響があるのかということを含めて、しっかりと注意深くみていく必要があると考えている。』
『金利の日々の動きについて中央銀行が直接コメントすること――このことは水準を論ずることと同義である――が、マーケットとの対話方法として適切とは考えていない。(略)中央銀行としては、適切な金利形成が行われているかどうかという点について、実体経済との関係も含めて注意深くみていく立場にある訳だが、金利水準そのものが適切であるかどうかについて直接的に言及するのは、マーケットとの望ましい対話の方法ではないと私自身は思っている。』
要するにオーバーシュートしなければ別に良しだということで。
・財政問題と金融政策
『財政面からいえば、長期金利が上昇すれば、当然、国債利払い負担が増えるということである。その際、その背後に景気全体が上向いているという事情があり、かつそのことと整合性がとれたものであるとすれば税収の増加がある訳だが、その規模が如何ほどのものなのか、金利負担をcompensate(埋め合わせ)するものかどうかということについて、現時点では私は具体的によく知らない。しかしながら、理論的には、単なる利払い負担の面だけでなく、収入面を含め、あるいはそのほか経済の好影響による財政負担の減少もある筈であり、そういう面も含めて考えていくべきものと思う。』
金曜日にご紹介した「財務省の密かな悩み」での財務省的な現状認識というか現状への危機感とは激しく温度差のあるコメントになっているところが注目されます。財務事務次官までやっていた訳ですから、先日あたくしがご紹介したような「財務省的な危機感」は武藤さんもお持ちだと思うのですが、このさらっとした日銀的なご発言は良くも悪くも立派ですな。
『また、同時に、財政も長期金利というマーケットの状況から様々な評価を受けるのは当然であり、経済活動の一環として色々な評価を受けるのはある意味自然なことである。従って、財政もマーケットの状況を良く考えながら、運営されていくべきものであると思う。』
『量的緩和政策の変更との関係で、財政の立場からどう考えるかとの趣旨の質問であるが、あくまでも我々は金融政策の立場である。』
お見事です。
『先程の金利上昇あるいは財政負担という観点から国債買いオペが論じられるという様な状況に今あるとは思っていない。国債買いオペをどのようにするかというのは、日本銀行としての考え方として、短期、中期、長期、バランスのとれたやり方をしていくということから出てきているものであって、財政負担、国債の金利負担が増えたからどうのこうのと、そういう様な文脈で国債の買いオペが語られるということは、少なくとも現時点では全くないと私は思っている。』
○岩田副総裁シンポジウムで吠えるの巻?
日本語版ロイターの記事によりますと、昨日岩田副総裁は都内でのシンポジウムで毎度お馴染みの持論を唱えておられます。以下は昨日17:43の日本語版ロイターの記事を参考にしております。
岩田副総裁はシンポジウムでいつも氏が主張しているわたくしども凡下には判りかねる理論を展開。どうも伊藤隆敏氏も出席ということで、所謂リフレ派の皆様大いに盛り上がるの巻だったのかと思われるところでありました。その場での岩田さんのお話。
「将来もマネタリーベースのプラスの伸びを保つ」「現在の財政健全化目標をきちんと守る」「1−2%のコアCPIの目標を置く」という政策を行うとデフレからの脱却が可能になる。といういつものお話をしております。だいぶ前にドラめもんで同じ氏の主張を丸写ししてみたものの何の事か判らなかったのですが、どうも人から教えて貰った所によるとこういうことらしいです。
「マネタリーベースのプラス」+「プライマリーバランスがゼロになる(だけであって、国債の発行額を削減するという話ではない)」という政策は、バランスシートで言えば「日銀の負債増加」+「政府の負債増加(ただし発散しない)」という訳です。従ってこの反対側には「民間部門の資産増加」と言うのがありますわな。で、財政が発散するとなりますと財政への信認問題が発生してしまうのですが、プライマリーバランスがゼロになる政策を取っていれば財政への信認も確保されているので、資産逃避なども起きず、増加した民間部門の資産は消費やら設備投資に回るのでデフレ脱却に繋がる。という事だそうな。
何か元々の前提条件が激しく理解に苦しむ(マネーサプライは政策当局が意図するようにコントロールが可能なのかという問題とか、そもそも財政相変わらず発散してますが何か?という話とか)のですが、それはそれと致しましてもこの理論は謎。しかし岩田副総裁様におかれましては、最近家計部門が赤字に転じたのは上記政策が効果を上げている為に起きている現象だとリアルで思っている節があるようです。
で、先日時事通信社とのインタビューでは理解したように見えた、「ビハインド・ザ・カーブのカタパルト効果」についてもまた本卦帰りしてしまったようで同じ話をおっぱじめています。
岩田さんは、量的緩和のコミットメントの条件について「コアCPIが再びマイナスに戻らない為の物価上昇率には1%は必要だ。そうすると政策が遅れる、ビハインド・ザ・カーブになるという議論があるが、それは2%という上限で抑えられると考えている」と述べたそうなのですが、そうやって目標を引き上げる事自体がカタパルト効果をもたらす訳だとおもうのですが。先日のインタビューでは単に「のりしろ」と言ってましたが、結局事実上のCPIターゲット引き上げの話が続いているようであたくしとしては遺憾に存じます。
まぁ仲間内の話なのでもう調子に乗って論理展開が凶暴化する岩田センセイは記事によるとこんな提言もしていたようで。
長期金利のオーバーシュートをどのように防ぐかという点について、記事によりますと岩田副総裁「新しく発行する国債には、インデックスボンドにいつでも変えられるオプションを付ける。経団連もこうしたことを提言している」と述べたそうです。
このインデックスボンドというのはもしかしてETF転換国債って意味なのか(過去の経団連の発言にそんなのがあったような気がする)とも思うのですが、それって結局の所「普通の国債が売れないからオプション付与してあげますよ」ってな話ですから目先の発行コスト削減の為に将来につけ回し(オプションが将来行使される可能性があるから)をしているだけで、何の解決にもなっていないアフォな話であります。
で、この人に限らず日本の経済学者といわれる人(個人的にはリフレ派などのような現実離れしたお話を堂々とする人に多い気がするのですが)お得意のフレーズが炸裂していたのがお笑いなのです。「経団連もこうしたことを提言している」って言ったってそもそも経団連が金融政策をまともに理解して提言しているのかよって感じなのですが、この手の「誰々もこういっている」という主張を自分の意見の補完として乱用するのは学者としていかがな物かと思うわけです。
そういえば(以前ご紹介しましたが)昔々、岩田さんが内閣府にいたときに行われたとある討論会で、現在の白川理事に「今の日本経済を論じる時にはテーラーがどういったとかクルーグマンがどういったということではなく、現状認識を行い処方箋を出さなければ」などという趣旨の楽しい突っ込みを他のリフレ派の方共々食らっておりましたな。まぁいいけど。
というわけで、岩田副総裁はやはり岩田センセイのままでおられるようであります。しかしこのシンポジウムの内容公表されないかな〜。中々凶暴な論理展開が見られそうなんですけど(^^)。
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「岩田副総裁の記者会見(続き)」(2004/06/02)
昨日ちょっとお題にした時事通信社による岩田副総裁インタビュー記事の続きであります。で、本題に入る前に昨日触れた「カタパルト効果」ですが、やはり時事メインコラム「金融観測」著者氏の造語だそうですが、「カタパルトって何じゃ?」という質問が某中央銀行のそこかしこで飛び交っていたそうであります。ちなみにカタパルトっていうのは、飛行機などを離陸させる時に効率よく加速するために使う「加速装置」でございます。大いに実用化されたのは第2次世界大戦中でありまして、空母からの発艦に活用されてました。「機動戦士ガンダム」なんぞをご覧になったお方ですと良くお判りかと(^^)。
そんなこぼれ話もある岩田副総裁の単独インタビュー記事の続きです。元記事は時事メインにしかないと思われますが、お持ちでない方は時事通信社に聞いて下さいませ。
○そんな精緻なインフレコントロールができるのか
インフレターゲットに関するコメントではこんなお話を。
『インフレターゲット、つまり「物価安定目標政策」は経済が正常になれば必要だと私は考えている。現在の量的緩和の枠組みは、広い意味での「物価安定目標政策」だ。ただ、物価の下限を設けているだけなので、2%の上限を設けるべきだと主張してきた。また、下限は上方バイアスがあるので1%がいいと思う。最終的には物価安定目標を掲げるべきだが、そこに至る過程は慎重にやっていきたい。』
つーことで、どうも物価安定目標を設定したいようなのですが、この物価安定目標が足許の物価指標にペッグしたものなのか、それとも将来の物価指標がこのレンジ内に収まるように政策運営をするというものなのかは不明ですが、消費者物価上昇率前年比1%〜2%にしたいというお話。最近はめっきり物価が安定化しているのでこのレンジを見ても「ふ〜ん」って感じですが、こんなに細かいレンジで大丈夫なのかはちと不安。レンジを狭くすると煩雑に緩和と引締めを繰り返す破目になりそう。
『目標達成期限を設けたインフレターゲットで物価を押し上げる考えは』という質問に対しては大変模範的な回答をしている訳ですが。
『そういうことは考えていない。インフレターゲットを主張したクルーグマン教授は「マイナスになった期待成長率を引き上げるために、中央銀行が強い緩和を行って物価安定に無責任になり、4−5%のインフレになるように努力すると言えば、マーケットの期待が変わる」との主張だった。(途中割愛)日本銀行が物価安定に無責任になる必要はない。』
○しかし不良債権問題の本質は資産デフレなのではないか
と、まぁ岩田先生もまたインフレターゲットにご執心なんですが、先日ご紹介した須田審議委員の講演記録にもありましたBOEの利上げ(物価は目標の下限に近いので理屈上は金融をどちらかと言えば緩和する筈の所を、住宅価格高騰を抑制する利上げを実施した)に関する質問に対してこういうお答えをしています。
『(質問)達観すると、日本の物価は0%を挟んだレンジだ。むしろ資産価格崩壊の打撃が大きい。インフレターゲットを採用するイングランド銀行が低インフレなのに住宅価格高騰を抑制する利上げをしているのを見ると、ターゲットに傾斜しない方がいいのでは』
『(岩田副総裁)インフレターゲットは人によって国によって理解が違う。それぞれの国が一番良いやり方を採用すればいいと思うが、共通するのは「最終目標」を持つ、ということ。それを持ったうえで、プリエンティブ(って何?by引用者)に資産価格に対応するやり方もある。リジッド(って何じゃ?多分硬直的なとか言う意味か?by引用者)な物価目標では制約が大きい。』
ど〜も今一歩質問に対する答えになっていない気がしますが、元々はといえば土地バブルやら株式バブルやらでは数十年分(あるいは百年以上)の成長を先食いした形で採算無視のスーパー高値形成を行ったと今になって冷静になれば言えるのでしょうが、まぁそういう訳で、将来の需要を先食いして発生したバブルとその崩壊というのがあった訳です。で、日本経済の資金の流れやら信用創造のメカニズムから言って、経済の問題が集約されるのが銀行セクターでして、そのバブル崩壊のあおりをまともに食らったのが不良債権問題。
で、まぁデフレも問題なのですが、物価のデフレもさることながら資産デフレの方がまたマズーなのが現状なわけでして、散々叩き落された株価がだいぶ復活して下さった所で何となく回復ムードが盛り上がるのが資産価格問題の根深さの証拠でもあろうかと思う訳で(そういえば2000年あたりも盛り上がりましたな〜)。
確かに中央銀行が資産価格まで介入できるのかとかという問題もありますが、やはり肝心の問題をスルーして物価論議を繰り返す姿というのは、結局バブルの教訓から学んでいないのではないかと不安に思ってしまう訳であります(一応物価統計には「帰属家賃」って項目はあるんですが)。
○リフレ派副総裁に対する嫌味な質問を発見しました
あたくしの主観的印象で恐縮なのですが、最近我が世の春を謳歌している観の強いリフレ派の主張って二言目には「クルーグマンがどう言った」「スティグリッツがどう言った」「バーナンキがどう言った」の連発であります。かの高橋亀吉先生は「経済学は、世界的に普遍的真理であるという部分も無論ありますが、そうでない部分も多いのであって、それぞれの国に於ける色々の経済事情、客観的事情に依って、或国においてはA学説が正しいということになり、或国においてはB学説が正しいことになる。斯ういう意味の相対的な性質のものが非常に多いのである。」と述べておられます(しかも昭和9年に)。何と言うかどうもそういう点において、リフレ派の主張って「本当に日本で効くのかその政策?」という疑問符が付き捲るのでありまする。
そういえば以前ドラめもんご紹介したんですが、とある討論会で日銀白川理事(当時は企画室審議役)が「現在の日本経済の問題を議論する時には、テーラーがどういったとかクルーグマンがどういったかではなく・・・・・」ってリフレ派に向ってきつーいお言葉を出してましたな。という事であたくしの主観的印象は実は受け売りでした、あはは。
という話はともかく、この質疑は中々(^^)。
『(質問)バーナンキ理事が以前、米国がデフレになった際の手段をいくつか挙げたが、いずれも日銀が採用済みのもの。日銀に学んだのか』
『(岩田副総裁)学んでいるし、むしろお互いに学んでいる面がある。私もFRBがやることを学んでいるし、われわれの方は実験的にしかやりようがない世界でもがいているわけだから、(米FRBも)それを見て研究している。』
今一歩嫌味が通じていないようですな(^^)。通じていないようなので質問者は更に追い討ちをかける質問をぶつけます。
『(質問)バーナンキ氏はFRB入り前、「ケチャップでも買え」と言っていたが』
『(岩田副総裁)いろいろな提案の中には実物資産を買うという極端なものもあった。しかし、結局は今のやり方でいける、と確信している。』
そういえば岩田副総裁も日銀入りする前には結構色々と言っていたような気が(^^)。
○しかし何と言いますか・・・・
いつも思うのですが、何か無理矢理欧米というか米国的な経済理論や金融理論を持ち込んでせっせと議論したり、金融庁が銀行への政策を打ってみたりとやっておりますが、そもそも日本と米国では根本的に経済構造の基本部分に違いのある点があるので、どうしても現実との齟齬が生じてしまうと思いますが。で、最近の金融庁のように理論を無理矢理現実にぶつけてしまって大変な騒ぎになっている所もあれば、日銀のように現実の壁にあたり、論点が激しく迷走して何が何だか訳のわからん状態になっているものありという感じで、実践経済学を提唱される高橋亀吉先生もさぞお嘆きのことかと存じます。(って先生って明治24年生まれなんですが、まだご存命かどうか不覚にも存じませんのでとりあえずこんな表現で)
まぁなんだかな〜って感じです。いい加減米国崇拝止めて自国に合った経済理論構築して欲しいのですが、どうも近年益々米国崇拝体制になってきているようで、どうにもこうにも・・・・って感じです。
それでは(^^)/
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「時事通信社との岩田副総裁インタビュー」(2004/06/01)
昨日、岩田副総裁が時事通信社とのインタビューでいろいろなお話をしております。何せ時事通信社単独インタビューのようですので、内容はとりあえず時事メインから拾ってきたものによって、著作権だの何だのという話を気にするため、あまり引用せずにサラサラと参ります。時間も無いし。以下『』内は昨日の時事メイン記事から岩田副総裁のコメントを引用しております。昨日の15:06〜15:08の記事であります。
まず、景気の現状認識に関してですが、副総裁は『展望リポートでの消費者物価の大勢見通しはマイナス0.2−マイナス0.1%だが、私はそれよりも上振れする可能性があると思っている』と強気です。背景にはGDPギャップの縮小やグローバルなディスインフレ脱却なんかを挙げております。
まぁそういう意味でこのお方も量的緩和のコミットメントの解除条件の達成問題についてコメントをしておりまして、岩田副総裁は足許のCPIが多少のプラスになっても解除条件は満たさないという見解を取っています。すなわち『デフレに陥らない「のりしろ」が1%程度は必要だ。物価の上方バイアスの面でも「のりしろ」が必要で、解除を考えるうえでは、(のりしろが)重要なポイントになる。』とコメントしております。
しかし、解除条件の一つにある「足許のCPI数値」に関しては0%を引き上げるという事に関しては『いろいろな考え方があり得る』と含みを持たせております。で、長期金利に対してのコメントの中で、このお方は「遅れすぎの量的緩和解除」の弊害を意外にも(失礼!)理解しているようです。
『長期金利は、私の最も注目する点だ。ポイントはインフレ期待が先走りしないようにすること。イールドカーブを参照する形で金融政策の対応がよく議論されている。ビハインド・ザ・カーブなのか、アヘッドか、ウィズが。経済指標やイールドカーブなどをしっかり見極めて、(解除も含め金融政策は)慎重に注意深く対応することが重要だ。対応が遅れ過ぎると、後になって急に「カタパルト効果」というか、長期金利がポンと跳ねる可能性もあり、FRBはウィズとビハインドの中間あたりでうまく金融政策運営をしていくと思う。』
FRBの話が出ているのは、そこまでの話の流れで日本と米国の金融政策の比較話が出ているからなんですが、こうやって発言させる分には極めて穏当かつよく物の判った話をしているようで。その割にはどうも金融政策の評価を行う際の話なんかを読んでいるとどっちかというとインフレ期待を煽るタイプに見えてしまうのは(あたくしの主観的印象にバイアスが掛かっているのもあるんですが)何故なのか極めて不思議であります。
おそらく、先日槍玉に挙げた中原審議委員も、「金融政策の信頼性」だとか「イールドカーブ形状の安定化」というお題でまとまった話をさせると、当然の如く真っ当な話をおっぱじめると思う(何てったって東京三菱銀行副頭取まで勤めたお方ですから)のですが、いざ具体的な話を始めると「そりゃー理屈に合わんでしょ〜」って話になってしまう訳で、何とも頭の痛い話ですな、全く。
そういえばこの中でちょっと笑ったのは、あたくしの愛読する時事メインコラム「金融観測」で使われていた「カタパルト効果」ってのが早速岩田副総裁のコメントで出ていたことです。もともとこの術語があるのかどうかはあたくし不肖にして存じませんが、長期金利がポンと跳ねる云々の話の流れでこの言葉を使ったのは「金融観測」コラムで見たのが最初でしたんで(^^)。
では〜(^^)
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「岩田副総裁の講演」(2004/02/23)
先週ご紹介した岩田副総裁の講演には「新たな金融システムの構築」というお題のコーナーがございました。で、まぁこのお話が中々なものがございまして、昨今の経済学者の傾向をよく現しているのではないかと思う訳であります。
『日本の金融システムの特徴は、「銀行優位の間接金融」であると言われています。』ってな感じで日本の金融システムのお話をした後に比較対象に出てくるのが「アメリカの金融制度」でございます。どうもこの先生におかれましては「アメリカの金融制度を取り入れる事」というのは論証の余地の無い「定説」らしゅうございます。
『(日本に対して)アメリカのように市場を中心とする直接金融システムでは、リスクは市場参加者の間で広く負担されており、情報も市場参加者の間で共有されることになります。この結果、資産価格の崩壊があった場合に、そのリスクは広く市場参加者の間で分担されることになります。』
と言う事のようなのです。さて本当に「情報が市場参加者の間で共有されている」のか(エンロンを始めとして・・・・・)などという突っ込みもあるのですが、それ以前の問題として、日本の金融システムを米国と比較して論じているのですが、どうも米国のシステムが正しいので日本もそういう風にしましょうってお話になっているのが謎であります。大体日本と米国では社会構造も産業構造も全然違う訳でして、日本にそのまま米国流を持ち込んで上手く行くとは到底思えないのですが。
ちなみにこの講演ではひたすら「アメリカ」が出続けまして、読んでいると「そんなに米国の金融システムが偉いんですかね〜」と言いたくなる所ではございます。
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「日銀副総裁が堂々と語る『リフレ』」(2004/02/20)
昨日ご紹介した岩田副総裁の講演とその後の記者会見要旨。詳しいご紹介は時間と文章量の都合上改めて行いますが、講演で「本年は80年代からの世界的ディスインフレが終息してリフレーションの時代に転換することが予想される」と「転換」の宣言。
量的緩和で世界(正しくは宗主国様)にばら撒く過剰流動性が色々と効果を発揮しているようで、米国の金融市場なんぞも随分過剰流動性相場って雰囲気を醸し出しているように思えますな。
基本的に「リフレーション」的な政策には伝統的に否定的な日銀で、外部出身の副総裁とは言え、現役の副総裁がリフレーションを語るというのはやはり気にしておいた方が良いかと思うのですが。実権はなさそうなお方ではありますが、理論的背景は強固ですから、政策論議って事になるとそれはそれ。
しかし何ですな。このお方記者会見でも(詳しくは後日ご紹介しますが)『デフレ克服については、国内だけではなくアメリカやヨーロッパの内外の経済学者がご提言されている。』とご託宣を下さっておられますが、日本の国内経済事情をどの位把握して提言しているのか良くわからん海外の経済学者のご提言を有りがたがるというのは非常に何と申しますか(自主規制)でございますな。洋行かぶれではない経済学者っていないのですかね〜。
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「岩田副総裁の講演」(2004/02/19)
昨日は岩田副総裁の講演が行われました。で、その後には記者会見も行われていまして、情報ベンダーに出てきたフラッシュには昨日発表されていたGDPを受けてなんでしょうけれども「デフレ脱却がどうのこうの」などという威勢の良いお話もでていました。
債券相場は先物買戻しというか踏み上げというか、やたらめったら地合いが良かったので全然相手にしてませんでしたが、ちょっと強気なお話をしていたようにも見えました。
で、まぁその岩田副総裁の講演なのですが、「最近の金融経済情勢について」というお題でお話をしておりますが、この講演が少々あたくしには難解でござりまして一応読んだのですが一晩開けて読み直すとやっぱり難しいところがございます。
総裁の講演と副総裁の講演はわけのわからない双璧といった所で非常に困りますが本日には記者会見の要旨もアップされると思いますので、そちらとあわせて改めてご報告するかもしれません。
http://www.boj.or.jp/press/04/ko0402a.htm
・景気回復に対する中国・インドの役割
という章をたてて国内景気回復にアジア諸国の寄与があるというコメントをしております。日本の輸出増加の8割が中国(大陸+香港)向けであるという指摘から始まり中国の経済成長が日本の景気回復に寄与しているというお話をしております。
そこまでは良く判るのですが、その次に何度読んでも理解できない一文が。。。。。
『経済地理の観点から戦後アジアの発展を観察すると、日本の太平洋ベルト地帯の延長上で考えることが出来ます。札幌から始まり、天津、上海、香港、バンコック、シンガポール、ジャカルタに至る西太平洋に沿って高度の産業集積と生産性の上昇が生じています。札幌、上海、シンガポールの頭文字をとって「3つのS線上」に示される東アジアの都市・産業集積の延長上に、ITソフトウェア産業の勃興で注目されるインドのバンガロールもあると言ってもよいでしょう。私は、21世紀は、「アジア興隆の世紀」になると予想していますが、この興隆の経済基盤は、西太平洋岸からインド洋にかけて展開されつつある産業集積です。』
・・・・・・・・???何か景気の良さそうな話だというのは分かるのですが。
ちなみに、日本の今般の景気回復に関するリスクとして副総裁が指摘しているのは「地政学リスク(テロなど)」「ドル安円高」「米国経済の息切れ」「中国経済の過熱」の4点です。さすがに鳥インフルエンザについては、SARSが大した影響を与えなかった事もありましてそれほど懸念していないようです。
ところで、SARSの経済に関する悪影響を懸念して当座預金残高目標を引き上げてましたよね。あれは一体・・・・・・・(^^)。
・量的緩和の役割
昨年12月にも同趣旨の講演を行っておりまして、その時にもドラめもんでご紹介しておりますが、念のため再度ご紹介をば。
『私が、量的緩和政策について特に注目しておりますのは、将来にわたって安定的にマネタリー・ベースを増加させることによってデフレ脱却が可能になるメカニズムが存在するということです。』
基本的にリフレ派のお方ですので(しかも講演の中で世界経済をさしているのか日本経済をさしているのか不明なのですが「リフレーションへの転換」と堂々とお話しております)「デフレは貨幣的現象」って認識で議論が始まるようです。昨日ご紹介したFRBバーナンキ理事の講演本なんぞをお手軽参考文献にすると吉かと。
『政府は、中長期的に緩やかに本源的赤字をゼロにするという財政目標を採用しています。』
昨日ご紹介したバーナンキ氏の「財政規律を重視すべし」というお話と平仄をあわせているっつー事なのでしょうか。誰がどう考えても現在の政府の財政目標が絵に描いた餅だとしか思えないのですが。そんな前提でリフレ政策を大々的に採用(既に今の金融政策が事実上リフレ政策のような気がしますが)されたら結果としては財政インフレではないかと思いますが。
何と申しますか、「皇軍は精強無敵であり、我が兵士1名は他国の兵士の数名にも相当する戦争能力がある」などと言いながら前線の実情を理解しようともせずに無茶苦茶な作戦を展開していった参謀本部や軍司令部のお偉いさんの姿とダブって見えてくるのですが。
バーナンキ氏の主張するインフレターゲットというかリフレ政策を本当に実施する気があるのであれば、政府債務問題について正確な現状認識と厳しい財政健全化への縛りを設けることを同時に行う必要がありませんかね〜?
ちなみに、この後の論理が非常に訳がわからないので、引用するのは止めておきます。詳しくは講演要旨を御覧下さい(というか前回ドラめもんでご紹介した時も何が何だかわからないまま流してしまいました)。ちなみに「民間保有実質資産残高の増加が続くと人々が予想すると、過剰となる実質資産残高の増加を支出に振り向けるようになります。」というお話なんですけれども。
それはそれと致しまして、現状のデフレについては「川上から川下への価格上昇」が進行していく可能性があるという認識ですので、そのあたりが記者会見における「この調子が続けばデフレ脱却はいけるかもしれない」というような発言に繋がっているのではないかと思います。
・新たな金融システムの構築
ついに経済企画庁エコノミスト(岩田副総裁はもともと経済企画庁です・・・編集時追加コメント:と言ってもまぁ東大が長いので官庁エコノミストとするのはあまり適当ではないですかね。真意は「銀行業務と縁遠い人に言われるとはね〜」って所です。)にまで言われるようになったかって感じですが、例によって宗主国様もとい米国の金融システムが大変に素晴らしく偉大なるものであり、日本もそれを導入すべきだという香りが非常に漂ってくる内容でございました。イマイチ精読できていないので、突っ込みもいれませんでこちらは省略。
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2003/12/10
お題「岩田副総裁」
相変わらず存在感の薄い岩田副総裁、というか福井総裁の存在ばかり目立つ日銀執行部でございますが、その岩田さんの講演がございました。ま〜講演した場所が「金融情報システムセンター講演会での基調講演」ということでありますので、やたらとアカデミックな講演になっております。こういう難しい話は岩田副総裁の独壇場ですな。
http:///www.boj.or.jp/press/03/ko0312c.htm
○今回の景気回復に関する認識
「バブル崩壊後3回目の景気回復」という認識のもと、今回の景気回復の特徴を指摘しております。途中を端折って引用してみます。
『まず、第一に、輸出と設備投資が回復の牽引力となっていることであり、これは前2回の回復期と共通しています。』
『詳しく見ると、輸出面では、アメリカに加えて、中国向け輸出が日本の輸出に大きく寄与していることが、前2回とは異なります。』
『第二に、在庫循環の面から見ると、1回目の回復期とよく似ています。』
『今回も在庫水準は、歴史的に低い水準にあり、在庫・出荷比率の動きは、95年当時とよく似ています。』
『第三に、設備投資循環の面から見ると、2回目の回復期と似ています。』
『今回の設備投資拡大は、前回と同様にIT関連投資を中心にしているのですが、前回と比べて裾野がより広いものになっています。IT関連投資といっても、半導体のみならず家電部門の新製品(デジタル・カメラ、薄型PDPテレビ、DVDなど)に関連した設備投資や輸送機械のみならず鉄鋼・化学など素材産業でも更新投資が計画されています。』
『さらに中小企業も、業況感の改善に伴って、製造業、非製造業ともに設備投資を計画する先が次第に増加していることは、歓迎すべき兆しと言えます。』
という事でまとめますと・・・・・・
『以上、まとめて見ると、今回の回復は、アメリカ経済や中国経済の成長など世界経済の回復に依存している面が強いという点では過去2回の回復期に似ていますが、国内の内在的な循環要因(在庫循環や設備投資)からみると景気の腰折れがおきにくい状態にあると言えます。』
と言うわけででして、最近の日銀審議委員の皆様の景気判断と平仄をあわせております。景気回復に関しては結構自信を持っていると読むことができると思うのですが、如何なもんでございましょ?
○景気回復の持続性について、その他
この講演では、次のお題として「景気回復の持続性とリスク要因」というのと「経済成長率の実力と物価指数の偏り」というのがございます。特に後者のお題は以前の「展望レポート」の中でも指摘していた「指数の癖」というお話で、経済学の素養に著しく欠ける(あたくし理学部出身です)あたくしにとりましては殆ど阿呆陀羅経状態。まるで判らない物を引用するのも何なので、このあたりはさらっと。
景気回復の持続性については、「民間予測は日銀の予測よりも低い」というところから話が始まっておりまして、その民間予測が低い理由について述べた上で反証をあげるという展開になっております。
在庫や設備投資に関しては、前の項で申し上げた事と同じなのですが、「民間は今後在庫調整に入るか、設備投資が息切れすると予想しているが、日本経済は腰の強い状態にある」というお話になっております。
また、海外経済、特に米国経済については「生産性の上昇」を指摘しておりまして、生産性の上昇によって米国景気の成長の持続可能性は高いとしております。アジア経済の急速な回復とユーロ地域の最悪期脱出もサポート要因だというお話のようですな。
物価指数の問題はすんませんが省略。まとめの所だけ引用します。
『以上をまとめると、私個人の見解によれば、(1)かりに構造調整期間である2年にわたって2%台半ば、あるいはそれ以上の実質成長率が実現し、(2)足元のGDPギャップが小さいもの(1%程度)であり、(3)デフレータの下方バイアスが比較的に小さく、実質成長率と潜在成長率の差がパーシェ物価指数のバイアスによって大きくは変化しない(例えば、0.5%程度)という3つの条件が満たされているとするならば、GDPギャップの縮小に伴ってデフレ脱却の展望が開けてくるということになります。』
『以上に加えて、製造業における新製品を中心にした高付加価値化や素材産業における業界再編・統合による企業の価格支配力の回復、さらに家計部門の高付加価値商品に対する志向の高まりは、これまで「価格破壊」から新たな付加価値創造に基くビジネス・モデルへの転換が生じつつあることを示しており、デフレ脱却にはプラスの要因として働いています。』
だそうです。(手抜きスイマセン)
○デフレ脱却の処方箋???
デフレ脱却の処方箋について岩田副総裁は4つの処方箋を挙げております。で、その処方箋なんですけれども、(4)が岩田副総裁のお説でありまして、残りの3つは海外の学者さまのお説でありまして、この解説がまた非常にあたくしには難解至極でございます。
(1)望ましい物価上昇率を実現するために、為替レートの水準を目標として、中央銀行が外債を大量に購入する。
(2)望ましい物価上昇率を目標として、中央銀行が国債を大量に購入する。
(3)望ましい物価水準を目標として、中央銀行が財政政策の支援を得て、適切にマネタリー・ベースを拡大する。
(4)本源的赤字ゼロを目標とする財政政策の下で、中央銀行が中長期的に望ましい物価上昇率と潜在成長率を実現するようマネタリー・ベースを拡大
する。
(1)〜(3)までの解説まで引用しだすと話が終わらないのですが、どうもあたくしが読んでいると、結論として「中央銀行が貨幣価値を意図的に毀損する政策」か「政府による財政インフレ政策」というどちらにしても激しく筋の悪い政策にしか思えないのですが、海外の学者様におかれましては、日本がどうなろうと知った事ではなく、いい実験素材があるわなってなもんでしょうかね。そういえば新型兵器の実験とやらで原子(以下自主規制)。
という話はともかく、この(4)なのですが、「本源的赤字ゼロ」というのが何が何だかよくわからないのですが、こんな事をいっております。
『日本の潜在成長率が中長期的にみて1.0−1.5%程度であり、望ましい物価上昇率がコア消費者物価指数で1−2%程度であるとしましょう。この両者を実現するように、貨幣の所得流通速度のトレンドとしての変化を考慮しながら、マネタリー・ベースを拡大することにします。他方で、財政政策の方は、2010年代初頭に本源的赤字がゼロになるように運営されています。』
この文章を読むと、どうも本源的赤字ゼロというのはプライマリーバランスの達成と言う事のようなのですが、既に前提条件が崩壊しているように思えるのはあたくしだけでしょうか??
ここで終わりにすると話が続かないので(^^)、その先を読んでみましょう。
『この両者の組み合わせによってデフレ脱却が可能になると私が考えるのは、本源的赤字ゼロを目標とする財政政策の下では、将来にわたって国債名目残高が増加を続けることになり、これに加えてマネタリー・ベースも増加することになるからです。この時、民間部門は、累増すると予想される実質金融資産残高を消費に振り向けることにより、効用を高めることが可能になります。この結果、民間支出が拡大することになります。』
何か良く判らんので、誰か教えてくれって感じですが(何のためのドラめもんなんだと言われそうですな^^)、よーするに政府部門の赤字が名目ベースで増加を続けると、民間部門の金融資産が累増するので、累増した金融資産を消費に振り向ける事で民間支出が拡大するという論理らしいです。何だかさっぱり判らない理論です。訳判らない理論の続きです。
『貨幣発行でファイナンスされた減税政策は、国債償還の必要がありません。これと同様に、本源的赤字ゼロを目標とする財政政策運営においても、発行した国債を将来の税負担増加で償還する必要がなく、将来時点でも国債残高が残ることになります(「非リカード型財政政策」)。この将来も国債残高が残る「非リカード型財政政策」とマネタリー・ベース拡大を組み合わせた政策が実行されることによって、家計は将来の実質金融資産残高が大きくなり過ぎないように支出を拡大すると考えられます。』
何だかよく判りませんが、どうも財政の黒字化という発想のない財政政策だというお話のようですな。何だかそう考えるとこの政策も実は財政インフレ政策なのではないかという気がしないでもないのですが、浅学非才のあたくしには謎でありますな。(2005/01/22の編集時に改めて読んだのですが、要するに「シニョリッジによる減税政策」の話をしてる訳ですな。)
この学者副総裁様の講演はこの後が凄いです。
『現実に、日本の家計貯蓄率は、最近のマネー・フロー表ではマイナスになっています。一時的な要因もあるでしょうが、高齢者や年金生活者を中心にここで述べた支出拡大メカニズムが働きはじめている可能性もあります。』
先生!実質所得の減少が要因なのではないでしょうか???
家計部門の貯蓄減少と政府部門の債務増大が企業部門の貯蓄増加とバランスしていると思った(んな事は資金循環表がこの前発表されているのでそれをみれば済む話なのですが、これまた手抜きでちゃんと読んでいなかったりするんだな)のですが・・・・・・・
と言うことで、何か凄まじい「デフレ脱却の処方箋」でありましたとさ。
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