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福井俊彦総裁

福井総裁の略歴(日銀Webより)

昭和10年9月7日生
昭和32年3月 東京大学法学部卒業
日本銀行で枢要ポストを歴任し、平成1年9月より日銀理事、平成6年12月に副総裁。
平成10年3月に副総裁を退任し株式会社富士通総研理事長に。
平成15年3月20日に日銀第29代総裁に就任。
(前職:富士通総研理事長・経済同友会副代表幹事)
詳しくはこちら→http://www.boj.or.jp/about/basic/pb/fukui.htm


2004年下期

2005/03/18「総裁定例記者会見(16日)の不真面目な分析^^」
2005/03/08「バーゼルにて自分の発言を『市場へのメッセージではない』と・・・」
2005/03/02「内外情勢調査会に於ける一問一答からピックアップ」
2005/03/01「内外情勢調査会講演で大騒ぎ」
2005/02/24「衆議院財務金融委員会における札割れ問題答弁」
2005/02/22「火だるま記者会見詳報その2」
2005/02/21「火だるま記者会見詳報その1」
2005/02/18「久々に見る火だるま記者会見速報」
2005/01/21「総裁定例記者会見(その2)」
2005/01/20「総裁定例記者会見(その1)」
2005/01/14「支店長会議挨拶に見る総裁の景気強気継続」
2005/01/11「ニューヨーク、ジャパンソサエティーでのお気取りスピーチ」
2004/12/22「総裁会見のヒヤリとする質疑に思う市場との対話」
2004/12/15「名古屋での記者会見、量的緩和の弊害についてのコメント」
2004/12/14「名古屋での講演、内容はまぁ予想通りでしたが」
2004/11/22「妙に総裁の機嫌が悪い定例記者会見(11月18日会見)」
2004/11/18「この正直者!ってな訳で総裁の発言まとめ」
2004/11/17「参議院財政金融委員会質疑(その3:福井総裁迷言集)
2004/11/16「福井総裁と岩田副総裁の『閣内不一致』」
2004/11/15「参議院財政金融委員会質疑(その2:資産担保証券買入スキームに関する驚愕の発言^^)」
2004/11/12「タカ派の本領発揮なのか?(二日酔いなのでただのメモ)」
2004/11/11「参議院財政金融委員会に於ける質疑」
2004/11/04「展望レポート発表(10月29日)後の定例記者会見(その2)」
2004/11/02「展望レポート発表(10月29日)後の定例記者会見(その1)」
2004/10/27「財政制度等審議会に於ける福井総裁発言について(その2)」
2004/10/26「財政制度等審議会に於ける福井総裁発言について(その1)」
2004/10/18「総裁定例記者会見(10月13日)を読む」



2005/03/18

お題「総裁記者会見を不真面目に分析する」

素でやっているのかギャグでやっているのか実に判りかねるお方が中央銀行のトップにいるという国というのもお洒落なものでございますなぁ。

http://www.boj.or.jp/press/05/kk0503a.htm


・一応最初だけは真面目に分析

冒頭の質疑応答では金融経済月報についての公式見解について補足説明しております。この中で総裁は「経済情勢の基調判断は変えていないが、個別に見ると明るい材料がある」っていうような纏め方(金融経済月報と同じといえばそれまでですが)をしております。(引用すると長くなるので上記URL先の最初の質疑応答を読んでくださいね^^)

まーこーゆー言い方をしている時は本音ベースでは景気に関して強気の見方に転じているというケースが往々にしてあります。まぁディーラーみたいに売りと言っていてもその1時間後には買いになっていたりするような訳にはいかんですから、そうそうコロコロ基調判断を変えるわけにはいかずってのが背景にあると勝手に想像しております。よって「基調判断は変わっていない」というのをあまり信用しないのが吉であるというのが結論でしょうな。

で、世の中皮肉なものでして、日銀が先行きの景気判断を上方修正しているのに債券相場は絶賛ブルフラット。需給要因恐るべしと言ったところでしょうな。あっはっは。


・猪突猛進で後ろを振り返りませんですかそうですか

昨日ご紹介した後ろを振り返らない云々発言。就任2周年を迎えてこの2年間の感想をどのようにお持ちかという問いに対して。

『1年目にもそうしたご質問を受けたのを思い出したが、その時お答えしたのと全く同じ答えになるが、私は仕事をする場合──それ以外の場合もそうだが──、どこかで一区切り置きながら物を考える習性を持っていない。一貫した姿勢でやり遂げるべきことはやり遂げていかなくてはならないという姿勢である。亥年生まれなので猪突猛進、前向きにばかり進んでいるというわけでもないのだが、時々立ち止まって後ろを振り返るというのは私の習性に合わない。』

金融政策だけじゃなくてお仕事全般ってのは「試す」→「失敗」→「改良」→「試す」→「うまくいくかもしれない」ってのが基本じゃないかと思う次第なんですが、大先生におかれましては自分のやっていることを振り返って反省するという習性は無いのでしょうか。何か物凄く恐ろしいんですが。もしかしてあなたさまは牟田口廉也中将の再臨ですか(昭和10年生まれなので再臨は物理的に無理ですが^^)と申しあげたくなりますなぁ。レビューをしない政策運営をしますと言っているようにも思えて・・・・(^^)

で、このくだりをきっちりと会見要旨に掲載した事務局の勇気に関しては誠に素晴らしいものを感じる次第であります。もしかしてこれってささやかな抵抗あわわわわわ。


・長期金利牽制発言(講演)に関する突っ込みに関して

質疑応答の最後の方でこんな質疑が(^^)。

『3点伺いたい。1点目は、繰り返しになり恐縮だが、2月28日の内外情勢調査会で講演された際に「長期まで含めたイールド・カーブのフラット化についても」という表現があった。あの時点として、フラット化しているないしは急激にフラット化する懸念があったという考えで言われたのかどうか。』

2点目の前にこの部分の応答を。

『再度あの時の講演の全文を良くお読み頂きたいと思う。特定の時点の相場形成について私は特別にウォーニング(警告)を発したということは痕跡としても残っていないと思う。ごく一般的なあり方として、長期まで含めたイールド・カーブのフラット化についても市場が緩和の長期継続を過度に織り込むような価格形成を行っていないかという目を常時持って見ていくということを申し上げた。その時の相場形成がおかしいというコメントは一切していないわけである。一般論として申し上げたに過ぎないということである。』

あたくしは頭が悪いせいか牽制発言にしか読めなかったのですが、「痕跡としても残っていない」ですかそうですか(しかし総裁は語彙が豊富で面白い)。

で、誠に頭の宜しくないあたくしが思いまするに、一般論として言うのであれば「一般論として長期にわたる緩和政策の弊害はこれこれこのようなものがありますが、現在はCPI時間軸のフレームワークに沿って政策を運営しておりまして、CPI時間軸のメリットを重視しています」とかいう言い方があるのではないかと思いますがどうなんでしょうなぁ〜。で、2点目とその関連答弁がまた笑えます。


・部下が勝手に書いた講演英訳は知った事ではないんですかそうですか

『2点目は、少し細かいことかもしれないが、3月4日に財務省で開かれた国債市場特別参加者会合で、参加者の中からクレームが出ており、日本語では「長期まで含めたイールド・カーブのフラット化」となっているのだが、英語をみると「long-term interest rates」と単なる長期金利となっている。その会合の出席者が議事録で残しているところでは、「こういう簡単な表現だから完全に長期金利だ」と名指ししていて、「外国人が反応したのも無理はない」と言っていた。そもそも英語と日本語で違いがあるわけである。その差というのは一体何か。』

まぁ言われて初めて英文の講演要旨を見たあたくしもうかつでしたが、そういえば昨年6月には武藤副総裁がロンドンで行ったスピーチに関して某日本橋方面在住外資系証券のストラテジストさまがそれはあなた誤訳じゃないですかねぇと言いたくなるような紹介の仕方をしたレポートを出して金融市場にショックを与えたという事例があったのを思い出しますが、今回は日銀Webに掲載された英文の講演要旨(http://www.boj.or.jp/en/press/05/ko0502a.htm)ですな。

確かに「VI. Effects of Quantitative Easing」の件の後半段落9行目にありました(あたくしが手で打ってるのでスペルミスあったら勘弁)。

Similarly, attention now needs to be paid to whether or not low long-term interest rates are consistent with the likely duration of accommodative monetary policy.

「なう」にーずとぃーびーぺいどですよ先生って感じですなぁ。気が付かなかったあたくしこれはとりあえず今年最大の不覚でありました。そりゃ売るわ。

で、この2点目の質問に関してはさっき引用したように、そんなことは毛ほども言ってませんが何か?って言われちゃったので、記者様はもう一度質問。

『英語訳と日本語では何か違いがあるのか。』

この回答が中々お洒落なんですが。

『その日に英語で講演したわけではない。私がもし英語で講演したとしたらそういうクレームを受け付けることもできるが、日本語から英語への翻訳は常に全く差のないかたちにできるかどうかという問題ではないかと思う。』

いや「俺は知らん」って言われても困るんですが。部下が勝手にやったので俺様は知りませんってこーゆー時は通らない理屈だとおもうんですが。大体からして英文要旨だってチェックしてるんじゃねーのかって思うんですがまぁそこまでは良く判らん話なので突っ込み避けますが。どっちにしても英文翻訳した部署の皆様ご愁傷さまであります。

ま、講演時点では長期金利の過度な低下(苦笑)について牽制する意図があったんじゃねーのかという疑惑は全く晴れませんなぁという感じです。


・というわけで不真面目な分析をしましたが

正直、あまり総裁発言の一挙手一投足に反応してはいけないというのが結論になるとは思うのですが、ネタも無い時は何かに反応したがる市場が勝手に反応してしまうのは如何ともしがたいところでして、まぁ総裁落ち着けというところですな。エンターテイメントだと思ってみていればそんなに腹も立ちません。困ったもんですけどね。。。。。

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2005/03/08

お題「それはひょっとしてギャグで言っているのか?」

日銀ネタはいったん終了したはずなのですが、天性のネタ芸人ではないかと言いたくなる人の発言に反応してしまう因業なあたくしなのであります。

○福井総裁の困惑(?)

えー、スイスはバーゼルにてBISの定例中央銀行総裁会議がございまして、会議前に福井総裁が記者団に対しましてこんな発言をしたそうですな。以下ソースは時事メイン。

福井総裁は先の講演で金融緩和政策の継続を過度に織り込んで長期金利が低下する事を牽制したことについて、「市場に警告発したつもりはない」と指摘した。(記事を端折ってます)

・・・・・・・・・(-_-メ)

まぁ確かにグリーンスパン氏の議会証言と違いまして、講演と言う事で原稿なんかもかなり前から準備して吟味しているのでしょうからタイミングがずれてしまいましたな〜ってお話なのかもしれませんなぁというのは弁護として成立するお話ではあるのですが、それにしても市場ってぇのはそのタイミングが悪いと思いっきり反応するものであります。先週末の国債市場参加者特別会合でも市場動向に関する意見交換の場でこんな指摘が。

日銀総裁の発言は、景況感が改善し、マーケットが弱気に傾いている時に出たことから、タイミングも良くなかった。特に、海外のファンド等は日銀の量的緩和がいつまで続くかをテーマにしており、日銀総裁等の発言が売りを誘った面がある。(議事要旨より)

ま、そういう事ですんで発言のタイミングをよーく考えて頂きたいものでありますが、どうも福井総裁におかれましては、副総裁時代の「ジャストタイミング」発言という至高の迷言を筆頭に市場に燃料を注ぐというか、消防車が放水したら水じゃなくてガソリンだった(どんな例えだ)という感じではありますな。困ったもんです。

で、どうも福井総裁(だけではなく日銀の偉い人全体において)におかれましては先ほどのバーゼルでの「市場に警告を発したつもりはない」というのは何気に素で言っているらしく、市場が大騒ぎしているのを見て「はぁ??」と思っている節があるのがこれまた困ったものです。意識してマッチポンプをしている訳ではないのがより質が悪い。


○改めてグリーンスパン議長議会証言との違いを愚考(^^)

グリーンスパン議長の議会証言における「長期金利の低下は謎」という発言は市場に大騒ぎを巻き起こしましたが、先日はちゃんと火消しの議会証言をするという芸の細かさを見せてくれました。まぁ口先介入もあまりやりすぎない方が吉だとは思いますがそれは兎も角。

そもそもグリーンスパンさんの場合は、FRBに金融政策の自由裁量がある状態でして、その上金融引き締めを行っている真っ最中でもありますんで、市場に警告を発した上でアクションを起こすことが可能。で、金融を引き締め中で短期金利が上昇しているのに長期金利が碌に下がらないという事象は、市場が「金融引き締めがオーバーキルとなって先行きの景気に対して懐疑的になっている訳ですなあっはっは」と言っているような物でして、そ〜ゆ〜意味ではグリーンスパン議長の金融政策運営ちと引き締めすぎじゃネーノって言っているとも取れる状態。そりゃグリーンスパン議長不快感示しますわなって事であります。

翻って我らが日銀総裁様なんですが、そもそも量的緩和政策はコアCPIにペッグしておりますので金融政策のフリーハンドは持っていない(持っていないから時間軸効果が発生する)のでして、いくら市場動向がケシカランと文句言っても手を出す道具が無いですわなぁ。従って意味の無いノイズを発信しているだけというのがグリーンスパン議長との違い。グリーンスパンさんに倣ったのでしょうけどね。

市場に手出しをする手段を封じられている人が市場に口を出しても本来意味が無いのですが、何せ金融政策は日銀の専決事項ですから、いざとなったらCPI時間軸だって反故にする事は可能(物理的に可能というだけですが)な訳でして、「財の価格はゼロ近傍」だとか、(これはその前の福間審議委員講演からになりますが)「コアCPI除く特殊要因の物価指数は着実にゼロに向かっている」などというお話をされた所で「量的緩和政策の継続を過度に織り込んで長期金利が低下することに注意」などと言われてしまえばそりゃ市場は反応しちゃいますわな。

で、後から「市場に警告発したつもりない」とか言われても市場としては「いい加減にしろ(-_-メ)」という感想しか出てこないのですが、まぁ兎に角そこらでテキトーな話を吹聴するのは勘弁して欲しいものがあります。どうも福井総裁はその場の勢いでお話をする傾向がありますんで特に注意されたい訳でして、市場がど〜見てますかってのは是非ドラめもんを読んで参考にして頂きたいものですな。(嘘です。血圧が上がるだけですな^^)

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2005/03/02

○内外情勢調査会で気になった福井総裁語録

ソースは相変わらず時事メインですが、一昨日の内外情勢調査会での福井総裁の一問一答で気になったところを少々。

・財政問題に関して

『この日本の場合のように諸外国に例を見ない大幅な財政赤字解消のプロセス』(本間正明氏との一問一答より)

『今後残っている最大の課題は公的部門の構造調整だ。なかんづく先進国では世界一悪い財政状況を良くしていく必要がある』(斎藤精一郎氏との一問一答より)

まぁ今に始まったことでは無いのですが、財政再建問題に関しては相変わらず熱心にご主張。強調して言いたいのは判りますが、いつものように表現が強いですなぁというのは兎も角として、激しく不思議なのは、そんなに財政事情が悪い悪いと言い、財政再建へのプロセスをサポートしようって意思があるんなら別に「イールドカーブの過度なフラットはケシカラン」なんて話をする必要はなかろうにって思う訳ですな。

まぁ総裁としては「過度なフラットの後に反動が来て金利急上昇するのが良くないから」という風に思っているんだと解釈してますが、昨日も申し上げたようにこ〜ゆ〜発言はタイミングが悪いと本来発言者が意図するように解釈されないというのが市場の困った所でありますんで、もうちょっとその辺に配慮した発言をされたいって感じですな。

「そもそも金融政策のフリーハンドが無い日銀には相場を牽制しようとしても政策対応が出来ないのだから、グリーンスパン議長の真似をするのはいかがなものか、というか政策を縛っている日銀に市場牽制の資格は無いでしょ」って趣旨の昨日の時事メインコラム「金融観測」に関しては全く同意するものであります。


・インフレ警戒??

『一足飛びにはインフレに行かないと言う意味では、日銀としては時間的余裕をもってこれに対処していける。がまん強く緩和を続けると言っているのは、そういう意味だ。』(斎藤氏との一問一答より)

まぁ前もそんな話をしていましたが、その割りには講演では「量的緩和政策のデメリット」の話をしておりまして、コアCPIが相変わらずマイナスだというのにどうなっているんでしょ?って感じですわな。そういえば「コアCPIから特殊要因を除く」物価指数を持ち出しているのも福間さんに福井さんなんですけど。

どうもこう言っているものの、ここのところの言行を見ていると「がまん強く緩和を続ける」と言っているのは「量的緩和はやりやくないけど我慢している」と解釈したくなりますし、「インフレに行かない」というのは「コアCPIがゼロになったらもうインフレを警戒しだすんじゃないか」と解釈したくなってきちゃうのは深読みのしすぎでしょうかね??


ま、いずれにせよ政策委員会メンバーがノイズを撒き散らすのは勘弁願いたいところでございますな。相場は動くから面白いには面白いが。

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2005/03/01

お題「やってくれましたよ福井ショック(-_-メ)」

昨日の債券相場、鉱工業生産は足元の数字が良くて先行きは慎重っていうことで良いには良い数字ながらって感じだったので何となく重い展開ながら長期化期待で20年あたりがまるで下がらんという展開だったのですが・・・・・・

内外情勢調査会における福井総裁の講演要旨がフラッシュで伝わると「あれれ?」という感じになってしまいまして、先物に大き目の売りが断続的に入るの図。何と138円割れまで売られてしまうの巻となってしまいました。で、どんなフラッシュに反応したかというと、景気にやたら強気な部分もあるかもしれませんが、(1)物価に関するコメント(2)量的緩和の弊害とイールドカーブへの言及(3)当座預金残高目標の引き下げへの言及という3点に反応したって感じでしょうか。

まぁコメントするのはするで結構ではありますが、そりゃあんたつい先日の金融政策決定会合後の記者会見で言っていた事と思いっきりニュアンスが違ってませんですかって所でして、まぁ総裁お得意の「サービス発言をして後から梯子を外す」という大変に遺憾な展開が炸裂してしまいました。ではこの3点に関して引け後にアップされた講演要旨を読みながら悪態でも(^^)。

http://www.boj.or.jp/press/05/ko0502c.htm


(1)物価に関するコメント:福間理論リターンズ

前半の景気に対するやたらと強気な見解は省略(というかいつもの事なので驚かない)しまして物価に関して何ですが、先日の福間審議委員の講演で披露された「総合除く生鮮食品から更に特殊要因を除く消費者物価」という我田引水まるだしの話が蒸し返されております。

『一時、1%にまで達していた消費者物価の前年比マイナス幅は、需給環境の改善に伴い、生鮮食品を除くベースで、現在、0.2〜0.3%程度まで縮小しています。』

はいはいそうですね。

『内訳を仔細にみると、景気動向に感応的な「財」の価格については、前年比マイナス幅が徐々に縮小し、足許ではほぼゼロ近傍となっています。』

はぁ?そうでしたっけ??

『幾分恣意的な要素は否めませんが、石油製品価格や公共料金、米価格といった特殊要因を除いたベースでみても、下落幅は緩やかな縮小傾向を辿っています。』

ほほう、石油製品価格が特殊要因ですかそうですか。何ですかそりゃ??

ちなみに、フラッシュでは引用した2番目の部分「ゼロ近傍」というのにはそりゃ先生反応しますわなって感じでございますが、昨日のドラめもんで何じゃそりゃと突っ込みを入れていた「コアCPIから特殊要因を除く消費者物価指数」という何と言うか強引な理屈を総裁までもが言い出すというのは一体全体何なんでしょうねぇ。量的緩和政策のコミットメントの根本に関して「この人本当に守る気あるんかいな」という疑問がまたまた(前回は一昨年の初夏ね)発生するの図ですわな。ちなみに前回「時間軸への信頼の揺らぎ」が発生した時は物の見事に5年国債が1%まで叩かれる中短期国債大暴落相場をやってくれてしまい、日銀は「量的緩和政策のコミットメントの3条件の明記」という甚だ情けない行動に追い込まれた訳ですが。


(2)量的緩和の弊害とイールドカーブへの言及

『こうした異例の緩和政策のもとでは、行き過ぎが生じていないかといった点に注意が怠れません。ここで言う「行き過ぎ」とは、経済の持続的な成長と整合的ではない経済行動・現象のことです。米国では、長期に亘る低金利が流動性を著しく高め、これが、極端に小さい信用スプレッド、住宅市場での投機的需要の顕在化といった過度なリスクテイキング行動につながっているのではないかという議論がなされています。』

はぁはぁそうですか。

『信用スプレッドの縮小は世界的に共通して起こっている現象ですが、わが国の場合、それがやや目立っており、リスクに対する認識は希薄化していないかどうかという観点が欠かせなくなってきています。』

それ以前に信用スプレッドが気が遠くなるほど拡大していたのが縮小したという面もあるかとは思いますが、まぁそれに関してはとりあえずはぁさようでございますかと申しておきましょう。次の部分が呆然。

『また、長期まで含めたイールド・カーブのフラット化についても、市場が緩和の長期継続を過度に織り込むような価格形成を行っていないかという目を常に持っておくことが必要と言えましょう。こうした観点から十分に注意を払いつつ、政策運営を行っていく必要があることは言うまでもありません。』

1ヶ月前の10年1.3%割れ20年1.9%割れとかいう時に言うのならまぁタイミングは宜しゅうございますなぁって話になるんですが、既に米国のフラットニングも一服して「グローバルフラットニング」的な流れもひとまず片付き、どちらかと言えば反動で金利に上昇ドライブが掛かりやすいこのタイミングでの発言というのは相場に燃料を投下するという機能しか果たさないという事はまぁ当然ながらお判りじゃ無いんでしょうなぁと心底思うあたくしでございます。

当たり前ですが、こういうときは現物債を売ろうとしても相場の変動が激しいのでオファービットのスプレッドが瞬間的に大拡大しちゃいますんで、とりあえず売りやすい債券先物が集中的に叩かれる格好となってしまい、あれよあれよと言う間に先物138円割れまで売られてしまいましたな。

何か暫く前のグリーンスパン議長様の議会証言「長期金利の低下は謎」というのを意識したかのようなコメントではあるのですが、同じような話をしてもタイミングというのは物凄く重要な訳でして、折角の「金融市場牽制発言」もただ単に何となく置き火が燻る市場へ可燃性燃料を投下するだけの結果を招くので、繰り返しになりますがタイミング考えていただきたい。今に始まった事ではないのですが、この方の場合はとにかく何かに魅入られたかのごとくタイミングが悪すぎて涙を禁じえません。

まぁアレですな、真似をするには過去のパフォーマンスと信用を(以下暴言)。


(3)当座預金残高目標引き下げへの言及?

講演本文には無かったのですが、フラッシュでは出ていた部分。ソースは時事通信ニュース「時事メイン」ですが、本間正明大阪大学大学院教授の質問に対する回答の中に問題の部分がございました。

『我々は今30−35兆円程度という非常に膨大な量の当座預金残高を供給し続けているが、このこととマーケットにおける資金需要の後退が実質的に平仄の合わないものになるかどうかは、まだ私どもは見極めついておりません。』

『(金融システムの安定に言及した続きで)イールドカーブの形成が変れば日本銀行に対する資金需要の出方もまた変わってまいります。そこまで含めて今後現実的に現在の数字の上での供給ターゲットというものが現実性を失うかどうかが現実性を失うかどうかは慎重に判断していきたい。』

「基本スタンスは変えない」という話もしておりますが、こーゆー事を言えば当然マーケットとしては「総裁はペイオフ解禁後に当座預金残高目標の引き下げに着手する意思がある」という風に解釈するわけでございますが、つい先日の定例記者会見で「30〜35兆円程度という当座預金残高目標を維持していく」と仰せでございましたがあの発言は一体全体何だったんでしょうか。と言うか、それ以前の問題として何で前回の決定会合は全会一致なんですかって小一時間・・・・

まぁここのフラッシュでも思いっきり驚きって感じでしたな。確かにこのお方の場合政策スタンスの話と一般論をごっちゃにして話すという禿しく困った傾向が昔からある(ので10年金利が0.5%だとかの時に「国債は株と違って満期には償還されるのでバブルという言い方はちと変でしょ」みたいな事をいっちゃったりするのですが)わけですが、一般論を言っているのか政策スタンスを言っているのかを明確に切り分けていただかないと、総裁の仰る「市場との対話」にノイズを撒き散らすだけの結果になる訳でして、まぁ言えば言うほど墓穴を掘る結果になるというものですわな〜って所であります。

ちなみに、フラッシュには出てませんでしたが、本間先生との質疑応答の中で総裁はこんな事も仰せでございました。ソースは同じく時事メイン。

『金融市場の中で、金融機関同士がお互いに市場を通じてお金を融通しあってもそんなに心配ないという状況にだんだんなってきている、ということは、日本銀行に対する流動性需要が相対的に減り始め、あるいは市場全体に流動性の過剰感が強まる、ということで、全体にこれまた整合的な動きであります。』

またお得意の相対性緩和論ですな。



しかし何ですな、確か量的緩和政策ってのは「コアCPI縛りの政策」であって、「ビハインド・ザ・カーブを辞さず」という政策であった筈。だからこそ「時間軸効果」がその役割を発揮するというお話なんですが、一昨年の失敗にも懲りずにまたまた調子に乗って自ら時間軸効果をぶち壊しに掛かる日銀政策委員会(全員がそうではありませんが)ってぇのは一体全体何なんでしょうと思ってしまう次第でございます。

困ったもんです。

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2005/02/24

○財務金融委員会での総裁発言

昨日の衆議院財務金融委員会に出席した福井総裁は公明党の谷口委員(って事は昔の財務副大臣でしたっけ)から札割れ議論に関して質問を受けたらしいですな。国会の会議録ってのは直ぐにアップされるものではないんで、後で見るときは兎も角とりあえずは情報ベンダーのニュース記事を参考にする(インターネットの国会審議中継を見て文字起こしするという手はあるんですが、そこまで細かくチェックする時間が無いのでゴメンナサイ)事として本日はブルームバーグニュースを参考にしつつ(以下総裁発言のソースはブルームバーグニュース)。

まぁ当然ながら「量的緩和政策の堅持」については強調しているのでそのあたりは安心できますな。

『いずれの委員にも共通することは、金融政策の基本的なフレームワーク、つまり量的緩和政策の枠組みと実態的な緩和の度合いに修正を加えようということでは全くない』

ただ、札割れを受けても当座預金ターゲットを堅持するのかという点に関しては報道される限りにおいてはだいぶ怪しげなところがありますな。まぁ最終的には「本当は何言ってるの」という検証が必要だったりしますけれども。

『4月以降ペイオフの全面解禁後、まず経済情勢がどう展開するか、それと金融システムの安定度合いはさらにどの程度、どのようなスピードで確立していくか。その関係のなかで、金融市場でイールドカーブがどういう形状で形成されるか。それらによって実態的な流動性需要の出方そのものが大きく変ってくる。そこをまず見極めていくことが先決』

『そのうえで初めて、札割れという現象と、30−35兆円程度のターゲットとが現実的な整合性という点でどれくらい問題が生じてくるか、正確に認定できる。そこのところを正確に認定しながら、技術的な対応を加味していくことがより望ましいのかどうかは、その時点で判断できるだろう』

・・・・・何か雲行きが怪しい答弁に見えますわな。

『そこのところ(技術的な対応が必要かどうかとかいう話だと思われます)は今からその先を見通して議論は始まっているが、まだ具体的な結論に向かって収束していく段階ではない。まず前段階の諸情勢の変化をこれからもしっかり見極めながら必要な議論を進めていきたい』

ということで、あくまでもペイオフ解禁後の状況を見るって言ってはおるのですが、市場というのはいわゆる自己実現ってぇのをするものでありまして、「ペイオフ解禁後には当座預金残高目標の見直しが必至」だという認識が共有されれば市場の方としては勝手に織り込みに行くものですし、織り込みに行く事によって多少懐疑的な人もついていかざるを得ないという話になるという点に関して少々配慮が不足しておられるのではないかという感じですな。今に始まったことではないですが。

まぁ当座預金残高目標割れに関して「技術的対応」をする気だというのであればそれはそれで政策判断なんですが、少なくとも前回会合時点で当座預金残高目標維持が全員一致だったのにそれはどうよって思うのはケチのつけすぎですかねぇ。反対票が入っているのならまだ判るが。


で、札割れそのものに関しては以前国会内での多分ぶらさがりインタビューで答えた事と同じ話をしております。

『(資金供給オペの札割れは)経済、金融システムが次第によい方向に向かってきていることの市場のメッセージであり、好ましい方向としてポジティブに受け止めている』

「企業金融の円滑化」「資金の出前持ち」を標榜して福井総裁就任から間もなく鳴り物入りで導入された資産担保証券の買入が全然実績を上げていない事について参議院財政金融委員会(だったと思います)で突っ込まれたときにも同じような答弁(=そもそも日銀は資産担保証券市場の育成のためにオペの導入をした。円滑に資産担保証券市場が機能すればオペが機能しなくても結構というかより好ましいって趣旨です)をしていたのを思い出す答弁。

まぁ何というのかそう言ってしまえばそうなのかもしれないけど、その理屈は何か「じゃあ元々そんな事やる必要があったんですか?」という突っ込みをしたくなるお話でもありますわな。「それは見込み違いでした」っていうのも一つの勇気ではないんでしょうかと思うんですがね。まぁそもそも「ゼロ金利解除は見込み違いじゃ無かった」という理屈の元に量的緩和政策を「金利ターゲットではない」と言って始めた時点で理屈が妙になっている所へ来て、速水総裁時代にあった「当座預金残高目標の引き上げ=中長期国債買入オペの増額」というある意味判りやすい話も福井総裁になってからは無くなってしまったので益々話がややこしくなっているんですけどね。

ま、あまり突き詰めて考えないのが吉なんでしょうが、それではあまりにも中央銀行の金融政策として情け無いって感じではありますわな。

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2005/02/22

お題「総裁記者会見(続)〜量的緩和政策の枠組みに突っ込み集まる」

昨日の続き。記者会見の後半部分です。

とうとう「量的緩和の相対性原理」みたいな話まで出てしまい、何と申しますかもう屁理屈の上に屁理屈の上塗りのようになってしまった記者会見。当然ながら「そりゃ何ですか〜」ってことで後半は質問が色々と出ておりました。

○「目標引き上げの理由」論

過去の当座預金目標引き上げの理由として「不測の事態に事前に手を打っておきます」と言っていたのがあったのは確かで、イラク戦争だのSARS(によるアジア経済の悪影響)だのりそな銀行問題だのというのがあったのですが、んじゃあこれらの要因は現在どうよ?って考えると「??」な訳ですが、その点についての突っ込みが。

『(問)金融政策運営の中で、金融システム不安に対し景気下支えをするなど、これまで様々な理由から当座預金残高目標を引き上げてきたと思う。当座預金残高目標引き上げの理由を金額ごとにそれぞれ明確に区別することは難しいと思うが、先ほどおっしゃっていた現在の金融システムの安定という状況からみると、当座預金残高目標を引き上げていく過程の中での理由のいくつかは、若干クリアされているような気もする。現状とディレクティブを比較して、当座預金残高目標を引き下げることができないような理由というものが何かあるのか。』

金融システムは安定しているし、景気見通し(=ディレクティブ)は強気になっており、「相対性緩和論」の理屈から言えば残高目標引き下げは出来るのではないでしょうかって話ですわな。

『(前半省略、景気判断据え置きでペイオフ完全解禁前だよって話です)従って、景気の動きにせよ、金融システムの安定の度合いにせよ、我々が政策を行っていく場合の大きなバックグラウンドについての情勢判断は、まだ大きく今後の課題として残っているわけである。そこを踏まえながら、市場における流動性需要の変化というものをより正確に判断できるようになるわけである。そこのところを正確に判断しながら、政策的判断かあるいは技術的な対応として何か切り分けて処理していくのか、あるいは双方とも当分必要がないのか、現状において早まった判断をするということは我々の責任の範囲内には入っていないということである。』

何かどさくさに紛れて「技術的な対応として何か切り分けて処理」とか言っているのは何ですか?って感じがします。いやまぁ可能性を排除しないというのは結構なんですが、それなら前半であそこまで強力に当座預金目標の維持を強力に主張する必要があるのかと。何というかもう少しぼんやりとした言い方はできんもんなのかと。後の話を見てますと、この「技術的な対応」というのは最終的に量的緩和政策を終了する時まで封印されるっぽいのですが、どうも「福井日銀は何をしでかすかわからん」というのがありますんで思惑は止まらんでしょうなぁ。


○相対性緩和論の説明を求む

『(問)量的緩和のもとで、いわゆる追加緩和を行うときには、当座預金残高目標を引き上げるという、我々にとっても非常に単純に理解できるかたちで実施され、目標額は現在の30〜35兆円程度まできている。これに対して、これからどうするのかという時に、先程総裁は「相対的なものである」という趣旨の説明をされた。今すぐ何かアクションをとるということではないだろうが、この説明に即して言えば、環境と景気の地合いによっては、当座預金残高目標が減ることが必ずしも引き締めではないということにも受け止められるかと思うが、そこのところをもう少しわかりやすく説明して頂きたい。』

で、まぁこれに対する答えが物凄く判ったような判らないような物になっておりまして、正直全部引用すると長すぎるし、要点がどこにあるのか判らんという難しい回答です。あたくしの判断で勝手に一部を抜きますとこんな感じ。まずは量的緩和相対性原理(笑)について。

『例えば、33兆円ならば33兆円という流動性の供給であっても、経済がどんどん悪くなってきてデフレ・スパイラルのリスクが強まるとか、金融不安が強まるとか、経済の動いている角度が下を向いているときには、同じ33兆円でも、今日みている33兆円よりも、坂がさらに下っていく中で、翌日みた33兆円は、緩和の度合いは少なくなっていくわけである。従って、経済の落ち込みを防ごうと思えば、33兆円でじっと我慢していれば不十分だということになるので、さらに供給を加えていくということになる。しかし、今度は逆に経済が上向くということであれば、今日の33兆円よりも明日の33兆円のほうが緩和の度合いが強いということになる。』

今日の33兆と明日の33兆とを比較するですか総裁。。。。

『経済が踊り場現象の中にあるとき、ペイオフ完全解禁がまだ終わっていないときに、「どういう判断ですか」とお互いに問答しても、これは明確に結論が出ない段階ではないかと思っている。』

んなら金融政策決定会合はCPIがゼロ以上になるまで実施しなけりゃいいのではないかと暴論を言いたくなってしまうんですが・・・・・


○量的緩和政策の効果について

そもそも「金利ターゲット政策とは違う」という触れ込み(会見の前半でも同じ事を総裁が言ってましたが)になっている量的緩和政策の効果については何なんでしょうって話がある訳でして、そこについての質問が出てます。しかし今回は「そもそも論」に関する突っ込みが多く、総裁もご機嫌斜めの図ですな。

『(問)量的金融緩和の効果としてよく言われているのが、イールド・カーブのフラット化効果、時間軸効果、ポートフォリオ・リバランス効果などである。当座預金残高に資金を積めば、貸出に潤っていって、資金が経済の活性化につながるという効果も期待されると聞いていた。しかし、景気が回復して金融システム不安が払拭されると、銀行は体力を回復して、ポートフォリオ・リバランスが活発化してくるかと思いきや、むしろもう資金は要らないという札割れが起こっているというのは少しわかりにくい。ポートフォリオ・リバランス効果も含めた量的緩和の効果といったことについて、足許どのようにご覧になっているか。』

で、この答えが物の見事にA4用紙1枚分になってしまうので、これまた端折って引用しますが、要するに「時間軸効果とアナウンスメント効果はあったが他はよく判らん」ということのようですな。その中で「ははぁ」と思った部分を引用。

『ポートフォリオ・リバランス効果、すなわち流動性を余計に持つとそれを活発に使ってくれるかどうかということについては、学者の世界では、そういうことをクリアにおっしゃっているが、そこのところは、過去に、世界中のどこの中央銀行も経験則は持っていないことである。』

どうも岩田副総裁に対する嫌味に見えますなぁ。時間軸効果に関しては・・・

『コミットメントして、流動性の量を多くした場合に、アナウンスメント効果があり、時間軸効果が働いて、緩和が先取りできるというところまでは──これについても経験則はなかったわけであるが──、他の様々な過去の我々の経験の蓄積の中から、ある程度確証を持てるところであったし、現実に我々が考えたのに近いような効果は出してきていると思う。』

この「緩和が先取り」っつーのはこの答えの冒頭部分で話しているのですが、イマイチ何を言いたいか判らんのですが、どうも時間軸効果による政策金利に関する期待の安定がより長い金利を低位安定させるという事らしいです。

『しかし、学者の方がおっしゃるようなポートフォリオ・リバランス効果というものが本当にあるのかどうかというのは、我々もやってみなければわからないことである。』

また岩田副総裁に対する嫌味ですか?というのは兎も角としてこの次はちと腰が砕ける説明。そんなに自己正当化せんでも良いと思うんですけれども・・・

『政策は実験ではないので、ポートフォリオ・リバランス効果だけであったら、我々は政策に踏み切らなかったと思う。しかし、我々は、アナウンスメント効果と時間軸効果については確信を持ってやり、それはきちんと効果があったし、現在もあり続けている。』

まぁ確かに量的緩和政策を実施する時には福井総裁じゃありませんでしたから何言っても良いっちゃあ良いんですが、どっちかというと量的緩和政策のキモと最初に言ってたのはポートフォリオ・リバランス効果だったと記憶しているんですから、「ポートフォリオ・リバランス効果だけであったら踏み切らなかったと思う」っつーのはそりゃーねーだろって感じなんですが。「ポートフォリオ・リバランス効果があると思って実施したけど、どうもそれは今の所無かったらしい」で良いんじゃねーかと思いますがねぇ。何というか変なところで意地を張らなくても良いのではないかと。

で、この話の最後にちと気になる点が一つ。さっきの「技術的対応」と同じ話ですが。

『我々は「出前持ち」として、本来の日本銀行のオペの役割を超えて資金供給をしてきた(補足:資産担保証券証券の買入のことでしょうな)のという部分がある。そうした部分は必要がなくなっているという取りあえずのメッセージがある程度──完全ではないと思うが──出ている。そうしたところは、私どもは正確に受け止め、そのデータを蓄積しながら、将来のより広い判断の中に吸収していかなければならないと考えている。』

資産担保証券オペはそもそも最初から絶賛大札割れしてますが何か?という突っ込みもあるのですが、それはそれとしてこの部分も「将来の可能性を排除しない」という意識で出た言葉なのか案外ホンネなのか良く判らんところではあります。


○最後に議論がぶち壊しになっているような気がしますが・・・・(-_-メ)

とまぁこんな感じで当座預金残高問題にバシバシと突っ込みが入ったのですが、最後の方で論理矛盾を突っ込まれて総裁ぶちきれの図のような気がする質疑応答が2つほどありまして(笑)、そんなに長くないのでまる引用します。

『(問)今の話とも関連するが、経済の状況と量の多寡が相対的な関係だとおっしゃる点について伺いたい。もしそうだとすれば、例えば同じ2%の政策金利でも、景気が良いときにはより緩和的であり、景気が悪いときにはより引き締め的であり、ということは十分起こりうると思う。金利のときにも、経済と政策手段は相対的な関係にあると思う。そこで、今までは所要準備に収めてゼロ金利あるいは金利政策であったのが、量的緩和を始めて、量を増やすことを緩和と言ってきた。であるとすれば、如何に政策手段と経済が相対的な関係にあるとはいえ、量を減らすことはやはり引き締めになるのではないか。その上で、もう1点伺いたいのが、先程「市場が吸収できる、ぎりぎりの水準のところに供給していく」ということが量的緩和であるとおっしゃった。これをそのまま受け止めると、市場がもう受け入れられなくなれば、20兆円でも25兆円でも、今の当座預金残高目標を引き下げるということもありうるというふうに受け取らざるを得ない。そうした場合でも、これは引き締めではないとおっしゃるのかどうかについて伺いたい。』

『(答)繰り返し申し上げるが、緩和とか引き締めというのは、アプリオリに、事前的な定義を数字で言えるものではない。ご承知の通り、一定の金利水準なら必ず引き締め、一定の金利水準なら緩和ということはあり得ない。それぞれの、その時の経済の状況によって、その金利水準が緩和的か引き締め的かということは、経済実態に合わせなければわからない。米国のFRBの場合にも、今、中立的な金利に戻そうと言っているけれども、中立的な金利は数字では明示できないと言っている。それと同じことだ。もう一つのお尋ねの点については、日本銀行は、流動性供給を市場が吸収できる上限ぎりぎり以上に供給しているということを、少し文学的な表現として申し上げたが、要は所要準備額を大幅に上回る、それを極端にまで、ということを別な表現にしたわけである。当面、現在の30〜35兆円程度という目標が、到底維持不可能だ──枠組みが崩れるほどに維持不可能だ──、ということは全く予見できないということを繰り返し申し上げている。』

だから「文学的な表現」は止めなさいと。何度それで墓穴を掘っているのか。次回あたりになったら「量的緩和の相対性理論」も文学的な表現になりそうな悪寒。


『(問)将来あるかどうかわからない政策に対して「緩和か」「引き締めか」というのは、ある意味で神学論争のようであって不毛のようにも聞こえるが、ここに我々がこだわることには理由がある。先程総裁は、当座預金残高目標を増やすときに、増やしていく過程でアナウンスメント効果を重視する、それについては自信もあったし効果もあったとおっしゃった。その意味で、日本銀行がとる行為について、それが緩和であるか引き締めであるかということは、国民に働きかける意味でも、非常に重要な意味を持つと思う。しかし、量は減らすかもしれないけれど、それは引き締めではないというのは非常にわかりにくい。このわかりにくい量的緩和というものを3〜4年間続けてきたが、経済情勢と比較して相対的にはもう役割を終えたのではないのか、という問題意識もある。また、須田委員は函館での講演でCPIにもいろいろな問題があると指摘している。こうした点を踏まえると、そろそろ、今とは言わないが、徐々に量的緩和の出口というのを模索していく時ではないかと思うが如何か。』

『(答)全くそう思わない。私どもは、CPIの前年比変化率が安定的にゼロ%以上になる、その条件を3つにブレイクダウンしてお示ししているわけで、この条件を満たしていない限り、「そろそろ」という概念は全くあたらないと思っている。それから、緩和か引き締めか、それに対してアナウンスメント効果を人々がどう理解するかというのは、その状況次第である。それと切り離して、単に数字だけでアナウンスメント効果を論じたり、あるいは緩和か引き締めかという説明をしたりしたことは今まで一度もないわけで、将来の架空の状況を前提に、数字だけで緩和か引き締めかを論ずることは極めて危険なことだと思っている。私どもは、その点は自ら強く戒めていることである。将来いずれかの時点で、おっしゃる通り経済の情勢が非常に好転して、そういうバックグラウンドのもとに我々が何かアクションをした時に人々はどういう理解をするか、このスクリーニングをかけなければ、緩和か引き締めかと言ってみたところで何の意味もなさないと考えている。』

そんなら屁理屈を積み上げるよりはどこかの首相みたいに「その時々で判断する」って言った方がよっぽど潔いと思いますが、あっはっは。

#またまた引用が長くなってしまった事をお詫びいたします。

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2005/02/22

お題「総裁記者会見(続)〜量的緩和政策の枠組みに突っ込み集まる」

昨日の続き。記者会見の後半部分です。

とうとう「量的緩和の相対性原理」みたいな話まで出てしまい、何と申しますかもう屁理屈の上に屁理屈の上塗りのようになってしまった記者会見。当然ながら「そりゃ何ですか〜」ってことで後半は質問が色々と出ておりました。

○「目標引き上げの理由」論

過去の当座預金目標引き上げの理由として「不測の事態に事前に手を打っておきます」と言っていたのがあったのは確かで、イラク戦争だのSARS(によるアジア経済の悪影響)だのりそな銀行問題だのというのがあったのですが、んじゃあこれらの要因は現在どうよ?って考えると「??」な訳ですが、その点についての突っ込みが。

『(問)金融政策運営の中で、金融システム不安に対し景気下支えをするなど、これまで様々な理由から当座預金残高目標を引き上げてきたと思う。当座預金残高目標引き上げの理由を金額ごとにそれぞれ明確に区別することは難しいと思うが、先ほどおっしゃっていた現在の金融システムの安定という状況からみると、当座預金残高目標を引き上げていく過程の中での理由のいくつかは、若干クリアされているような気もする。現状とディレクティブを比較して、当座預金残高目標を引き下げることができないような理由というものが何かあるのか。』

金融システムは安定しているし、景気見通し(=ディレクティブ)は強気になっており、「相対性緩和論」の理屈から言えば残高目標引き下げは出来るのではないでしょうかって話ですわな。

『(前半省略、景気判断据え置きでペイオフ完全解禁前だよって話です)従って、景気の動きにせよ、金融システムの安定の度合いにせよ、我々が政策を行っていく場合の大きなバックグラウンドについての情勢判断は、まだ大きく今後の課題として残っているわけである。そこを踏まえながら、市場における流動性需要の変化というものをより正確に判断できるようになるわけである。そこのところを正確に判断しながら、政策的判断かあるいは技術的な対応として何か切り分けて処理していくのか、あるいは双方とも当分必要がないのか、現状において早まった判断をするということは我々の責任の範囲内には入っていないということである。』

何かどさくさに紛れて「技術的な対応として何か切り分けて処理」とか言っているのは何ですか?って感じがします。いやまぁ可能性を排除しないというのは結構なんですが、それなら前半であそこまで強力に当座預金目標の維持を強力に主張する必要があるのかと。何というかもう少しぼんやりとした言い方はできんもんなのかと。後の話を見てますと、この「技術的な対応」というのは最終的に量的緩和政策を終了する時まで封印されるっぽいのですが、どうも「福井日銀は何をしでかすかわからん」というのがありますんで思惑は止まらんでしょうなぁ。


○相対性緩和論の説明を求む

『(問)量的緩和のもとで、いわゆる追加緩和を行うときには、当座預金残高目標を引き上げるという、我々にとっても非常に単純に理解できるかたちで実施され、目標額は現在の30〜35兆円程度まできている。これに対して、これからどうするのかという時に、先程総裁は「相対的なものである」という趣旨の説明をされた。今すぐ何かアクションをとるということではないだろうが、この説明に即して言えば、環境と景気の地合いによっては、当座預金残高目標が減ることが必ずしも引き締めではないということにも受け止められるかと思うが、そこのところをもう少しわかりやすく説明して頂きたい。』

で、まぁこれに対する答えが物凄く判ったような判らないような物になっておりまして、正直全部引用すると長すぎるし、要点がどこにあるのか判らんという難しい回答です。あたくしの判断で勝手に一部を抜きますとこんな感じ。まずは量的緩和相対性原理(笑)について。

『例えば、33兆円ならば33兆円という流動性の供給であっても、経済がどんどん悪くなってきてデフレ・スパイラルのリスクが強まるとか、金融不安が強まるとか、経済の動いている角度が下を向いているときには、同じ33兆円でも、今日みている33兆円よりも、坂がさらに下っていく中で、翌日みた33兆円は、緩和の度合いは少なくなっていくわけである。従って、経済の落ち込みを防ごうと思えば、33兆円でじっと我慢していれば不十分だということになるので、さらに供給を加えていくということになる。しかし、今度は逆に経済が上向くということであれば、今日の33兆円よりも明日の33兆円のほうが緩和の度合いが強いということになる。』

今日の33兆と明日の33兆とを比較するですか総裁。。。。

『経済が踊り場現象の中にあるとき、ペイオフ完全解禁がまだ終わっていないときに、「どういう判断ですか」とお互いに問答しても、これは明確に結論が出ない段階ではないかと思っている。』

んなら金融政策決定会合はCPIがゼロ以上になるまで実施しなけりゃいいのではないかと暴論を言いたくなってしまうんですが・・・・・


○量的緩和政策の効果について

そもそも「金利ターゲット政策とは違う」という触れ込み(会見の前半でも同じ事を総裁が言ってましたが)になっている量的緩和政策の効果については何なんでしょうって話がある訳でして、そこについての質問が出てます。しかし今回は「そもそも論」に関する突っ込みが多く、総裁もご機嫌斜めの図ですな。

『(問)量的金融緩和の効果としてよく言われているのが、イールド・カーブのフラット化効果、時間軸効果、ポートフォリオ・リバランス効果などである。当座預金残高に資金を積めば、貸出に潤っていって、資金が経済の活性化につながるという効果も期待されると聞いていた。しかし、景気が回復して金融システム不安が払拭されると、銀行は体力を回復して、ポートフォリオ・リバランスが活発化してくるかと思いきや、むしろもう資金は要らないという札割れが起こっているというのは少しわかりにくい。ポートフォリオ・リバランス効果も含めた量的緩和の効果といったことについて、足許どのようにご覧になっているか。』

で、この答えが物の見事にA4用紙1枚分になってしまうので、これまた端折って引用しますが、要するに「時間軸効果とアナウンスメント効果はあったが他はよく判らん」ということのようですな。その中で「ははぁ」と思った部分を引用。

『ポートフォリオ・リバランス効果、すなわち流動性を余計に持つとそれを活発に使ってくれるかどうかということについては、学者の世界では、そういうことをクリアにおっしゃっているが、そこのところは、過去に、世界中のどこの中央銀行も経験則は持っていないことである。』

どうも岩田副総裁に対する嫌味に見えますなぁ。時間軸効果に関しては・・・

『コミットメントして、流動性の量を多くした場合に、アナウンスメント効果があり、時間軸効果が働いて、緩和が先取りできるというところまでは──これについても経験則はなかったわけであるが──、他の様々な過去の我々の経験の蓄積の中から、ある程度確証を持てるところであったし、現実に我々が考えたのに近いような効果は出してきていると思う。』

この「緩和が先取り」っつーのはこの答えの冒頭部分で話しているのですが、イマイチ何を言いたいか判らんのですが、どうも時間軸効果による政策金利に関する期待の安定がより長い金利を低位安定させるという事らしいです。

『しかし、学者の方がおっしゃるようなポートフォリオ・リバランス効果というものが本当にあるのかどうかというのは、我々もやってみなければわからないことである。』

また岩田副総裁に対する嫌味ですか?というのは兎も角としてこの次はちと腰が砕ける説明。そんなに自己正当化せんでも良いと思うんですけれども・・・

『政策は実験ではないので、ポートフォリオ・リバランス効果だけであったら、我々は政策に踏み切らなかったと思う。しかし、我々は、アナウンスメント効果と時間軸効果については確信を持ってやり、それはきちんと効果があったし、現在もあり続けている。』

まぁ確かに量的緩和政策を実施する時には福井総裁じゃありませんでしたから何言っても良いっちゃあ良いんですが、どっちかというと量的緩和政策のキモと最初に言ってたのはポートフォリオ・リバランス効果だったと記憶しているんですから、「ポートフォリオ・リバランス効果だけであったら踏み切らなかったと思う」っつーのはそりゃーねーだろって感じなんですが。「ポートフォリオ・リバランス効果があると思って実施したけど、どうもそれは今の所無かったらしい」で良いんじゃねーかと思いますがねぇ。何というか変なところで意地を張らなくても良いのではないかと。

で、この話の最後にちと気になる点が一つ。さっきの「技術的対応」と同じ話ですが。

『我々は「出前持ち」として、本来の日本銀行のオペの役割を超えて資金供給をしてきた(補足:資産担保証券証券の買入のことでしょうな)のという部分がある。そうした部分は必要がなくなっているという取りあえずのメッセージがある程度──完全ではないと思うが──出ている。そうしたところは、私どもは正確に受け止め、そのデータを蓄積しながら、将来のより広い判断の中に吸収していかなければならないと考えている。』

資産担保証券オペはそもそも最初から絶賛大札割れしてますが何か?という突っ込みもあるのですが、それはそれとしてこの部分も「将来の可能性を排除しない」という意識で出た言葉なのか案外ホンネなのか良く判らんところではあります。


○最後に議論がぶち壊しになっているような気がしますが・・・・(-_-メ)

とまぁこんな感じで当座預金残高問題にバシバシと突っ込みが入ったのですが、最後の方で論理矛盾を突っ込まれて総裁ぶちきれの図のような気がする質疑応答が2つほどありまして(笑)、そんなに長くないのでまる引用します。

『(問)今の話とも関連するが、経済の状況と量の多寡が相対的な関係だとおっしゃる点について伺いたい。もしそうだとすれば、例えば同じ2%の政策金利でも、景気が良いときにはより緩和的であり、景気が悪いときにはより引き締め的であり、ということは十分起こりうると思う。金利のときにも、経済と政策手段は相対的な関係にあると思う。そこで、今までは所要準備に収めてゼロ金利あるいは金利政策であったのが、量的緩和を始めて、量を増やすことを緩和と言ってきた。であるとすれば、如何に政策手段と経済が相対的な関係にあるとはいえ、量を減らすことはやはり引き締めになるのではないか。その上で、もう1点伺いたいのが、先程「市場が吸収できる、ぎりぎりの水準のところに供給していく」ということが量的緩和であるとおっしゃった。これをそのまま受け止めると、市場がもう受け入れられなくなれば、20兆円でも25兆円でも、今の当座預金残高目標を引き下げるということもありうるというふうに受け取らざるを得ない。そうした場合でも、これは引き締めではないとおっしゃるのかどうかについて伺いたい。』

『(答)繰り返し申し上げるが、緩和とか引き締めというのは、アプリオリに、事前的な定義を数字で言えるものではない。ご承知の通り、一定の金利水準なら必ず引き締め、一定の金利水準なら緩和ということはあり得ない。それぞれの、その時の経済の状況によって、その金利水準が緩和的か引き締め的かということは、経済実態に合わせなければわからない。米国のFRBの場合にも、今、中立的な金利に戻そうと言っているけれども、中立的な金利は数字では明示できないと言っている。それと同じことだ。もう一つのお尋ねの点については、日本銀行は、流動性供給を市場が吸収できる上限ぎりぎり以上に供給しているということを、少し文学的な表現として申し上げたが、要は所要準備額を大幅に上回る、それを極端にまで、ということを別な表現にしたわけである。当面、現在の30〜35兆円程度という目標が、到底維持不可能だ──枠組みが崩れるほどに維持不可能だ──、ということは全く予見できないということを繰り返し申し上げている。』

だから「文学的な表現」は止めなさいと。何度それで墓穴を掘っているのか。次回あたりになったら「量的緩和の相対性理論」も文学的な表現になりそうな悪寒。


『(問)将来あるかどうかわからない政策に対して「緩和か」「引き締めか」というのは、ある意味で神学論争のようであって不毛のようにも聞こえるが、ここに我々がこだわることには理由がある。先程総裁は、当座預金残高目標を増やすときに、増やしていく過程でアナウンスメント効果を重視する、それについては自信もあったし効果もあったとおっしゃった。その意味で、日本銀行がとる行為について、それが緩和であるか引き締めであるかということは、国民に働きかける意味でも、非常に重要な意味を持つと思う。しかし、量は減らすかもしれないけれど、それは引き締めではないというのは非常にわかりにくい。このわかりにくい量的緩和というものを3〜4年間続けてきたが、経済情勢と比較して相対的にはもう役割を終えたのではないのか、という問題意識もある。また、須田委員は函館での講演でCPIにもいろいろな問題があると指摘している。こうした点を踏まえると、そろそろ、今とは言わないが、徐々に量的緩和の出口というのを模索していく時ではないかと思うが如何か。』

『(答)全くそう思わない。私どもは、CPIの前年比変化率が安定的にゼロ%以上になる、その条件を3つにブレイクダウンしてお示ししているわけで、この条件を満たしていない限り、「そろそろ」という概念は全くあたらないと思っている。それから、緩和か引き締めか、それに対してアナウンスメント効果を人々がどう理解するかというのは、その状況次第である。それと切り離して、単に数字だけでアナウンスメント効果を論じたり、あるいは緩和か引き締めかという説明をしたりしたことは今まで一度もないわけで、将来の架空の状況を前提に、数字だけで緩和か引き締めかを論ずることは極めて危険なことだと思っている。私どもは、その点は自ら強く戒めていることである。将来いずれかの時点で、おっしゃる通り経済の情勢が非常に好転して、そういうバックグラウンドのもとに我々が何かアクションをした時に人々はどういう理解をするか、このスクリーニングをかけなければ、緩和か引き締めかと言ってみたところで何の意味もなさないと考えている。』

そんなら屁理屈を積み上げるよりはどこかの首相みたいに「その時々で判断する」って言った方がよっぽど潔いと思いますが、あっはっは。

#またまた引用が長くなってしまった事をお詫びいたします。

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2005/02/21

○大変に険悪な総裁記者会見

という訳で総裁記者会見。http://www.boj.or.jp/press/05/kk0502c.htm

当座預金残高目標維持問題に関して突っ込んだ質疑、というよりはなんというか意地の悪い突っ込みとそれにムッとする総裁の図って感じでありますわな。今回は55分間と会見時間が長く、要旨の量も多く(紙に出すと10ページ)なってます。


・当座預金残高維持に自信

最初のお約束の質問。

『(問)本日の金融政策決定会合の結果および金融経済月報を踏まえた景気認識を伺いたい。また、最近の一部の審議委員の発言にもあるが、当座預金残高目標の下限の柔軟化というか弾力化といった議論についての総裁の所見を伺いたい。』

『(結果と景気認識は割愛)オペレーションとの関連についてもお尋ねがあったが、金融システム不安が後退しているというか、全般的に市場関係者の先行きに対する不透明感が後退していくなかで、金融機関の流動性需要は徐々に減少し始めている。別の言い方をすれば、金融市場において資金余剰感が強まっているということであり、ご指摘の通り、こうしたことを背景にして、短期の資金供給オペレーションの場面において、札割れと言われる現象がしばしば発生している。しかし、重要なことは、私どもの当座預金残高目標はしっかりと維持できているということである。(以下3月になっても残高目標維持は問題ないという話だが割愛)』


・当座預金残高目標引き下げを否定

ちょっと後に何だか意地の悪い質問。

『(問)1点目は、当座預金残高目標の維持に関して30〜35兆円程度ということであるが、この「程度」について伺いたい。下限についてであるが、ある日着地点が、例えば28兆円台や29兆円台になったとしても、それは何ら問題がなく、ありうるべきことだと理解して良いのか。2点目は、「量的金融緩和の枠組みは維持する」という表現があるが、この枠組みというのは口語で言えば「精神」や「考え」あるいは「方針」だと思うが、これは量――つまり当座預金残高――と枠組みというものが同一のものなのか。例えば、20兆円や25兆円でも、どのようにターゲットを置いても良いが、それも量的金融緩和であると言うことが可能であると思う。量と枠組みが同一のものであるのかどうか、伺いたい。』

残高目標割れをテクニカルに容認する気があるのかというのと、目標額の引き下げをやるきがあるのかという質問を意地の悪い言い方をして行っていると読めますが、これに対して総裁はこういう回答。

『(答)1点目のご質問について必ずしも明確にご趣旨がわからないが、30〜35兆円程度を目標に、現在、流動性の供給活動を毎日行なっているということである。先般も何度か皆様方からご確認があって、30〜35兆円程度と言ってもその中で特にどの辺りを中心点として考えながら調節するのかということも時々聞かれているが、要するに30〜35兆円程度と言った時には33兆円ぐらいを中心点にしながら、日々、流動性を供給していく。これがこのターゲットの趣旨である。「上限をはみ出した場合」、「下限をはみ出した場合」というような定義はない。法律の定義ではなく、我々のオペレーション上のターゲットであるため、33兆円ぐらいというのは中心として念頭にあるわけで、しかもその上下に30兆円ないし35兆円という幅を持った目標を置いているということである。(以下似たような説明が続く)』

『それから量的緩和の枠組みについて、これは精神規定かとおっしゃったが、それは明らかに違う。先程申し上げた通り、金利水準というものをターゲットにしないで、流動性の量――量というのも33兆円というようにピンポイントにすることは難しいから幅を置いているわけであるが――に政策ターゲットを置いている。これが現在の緩和政策の枠組みである。あらためて申し上げれば、所要準備額をはるかに上回る、市場ニーズの上限あるいはそれ以上の流動性を供給し続ける、これが現在の量的緩和の枠組みとご理解頂きたいと思う。』

ということで、見事に現在の政策運営の「そもそも論」について発言しましたんで、当座預金残高目標の引き下げについてもそう簡単に行えない状況になってしまいましたな〜というのが感想。


・相対性緩和論??

サービスフレーズの好きな総裁(きっと物凄く頭が良いんでしょうな^^)が新たに「相対性理論」を持ち出してきました(^^)。

『(問)先程、30〜35兆円、中心33兆円という大きなボリュームに政策の目標を置いているのが今の枠組みだとおっしゃったが、たまたま、下回った時あるいは政策判断で引き下げた時のいずれにしても、30〜35兆円という目標を資金供給額が下回った時は、それは金融引き締めであると受け止めて良いのか。また、逆に30〜35兆円を維持できないと判断した時に、金融引き締めでないとすると長期国債買入れを増額してまでこれを維持するのかどうかを伺いたい。』

『(答)私どもはCPIの前年比変化率が安定的にゼロ%以上になるまで基本的に量的緩和の枠組みを維持しながら超緩和を続けるということを約束しているので、30〜35兆円という具体的な数字の評価と直接絡んでいないと思う。先程申し上げた通り、所要準備額を大幅に上回る、市場として吸収しうるぎりぎりのところを狙いながら緩和を維持しているということが枠組みだと申し上げたので、びた一文狂ったらすぐ引き締めかという法律的な定義のご質問であれば、私は答えようがないとしか言いようがないと思う。』

ここの部分は先ほどの質問に相通じる状況ですが、この後に出てくるのが久々のサービスフレーズでございますな。

『それが証拠にこれまでも度々この席で申し上げている通り、仮に35兆円なら35兆円あるいは中心33兆円ということをコンスタントに供給し続けている場合でも、経済の回復度合いが高まれば実態的な緩和度合いがさらに強まるということを申し上げた。このように一種の相対性原理のように、経済のコンディションと流動性供給の状況との相対関係で緩和度合いというものを判断していかなければならない。量的緩和の難しさはそこにある。従って、数字が1億円あるいは1千億円狂ったらすぐ緩和か、引き締めかというご質問には答えようがない。その時の経済状況と合わせて我々はきちんと判断していくし、そのことに対する市場の反応は正確に出るであろうと考えている。』

何だか総裁が従来から言っている「経済が回復基調にある中では、経済後退時期と比較して量的緩和の効果が高まる」というお話をするのにとうとう相対性原理という言葉まで持ち出しておりますわな。久々の迷(名?)言登場です。

しかし何というか相対性原理みたいな緩和度合いがどうのこうのと言ってるのなら、景気判断によってコロコロと当座預金残高目標を上げたり下げたりするのが筋って話になりかねないし、逆に量的緩和解除が出来るような状況になっても、一気に量を減らすというのは強烈な引き締めって意味になってしまうからそれもやっぱりややこしいことにならんか(量的緩和解除しても翌日物誘導金利が0.1%とかだったらそれもまた金融政策としては緩和状況であると思うんですが)と思う次第。

まぁ元々理屈を超越したところにあるのが現行の金融政策(一応屁理屈であっても理屈は理屈ですが)なのですが、何かまた屁理屈に謎理論を上塗りしてしまって良いのでしょうか??って感じです。

ちなみに、この時には答えてませんが、後ほどの別の質問に対して長期国債の買い入れに関して『当座預金残高目標は維持できると思っているし、現在、長期国債の買入れについては月々1兆2千億円ペースで買い入れを行っているが、この点についても、全く方針の変更はないし、変えるつもりもない。』と回答しております。


・しかしまぁ喧嘩腰ですこと

この場で飛び出した「相対性緩和論」に関連して量的緩和政策の枠組み問題になおも延々と質疑が続くのですが、量と時間の関係上本日は前半部分最後の質疑応答を引用しまして、続きは明日ということで。

『(問)緩和か引き締めかの関係とは別として、現在の政策との対比において、ある日、当座預金残高が例えば29兆5千億円になった時、これは現行の政策の範囲内なのか、それとも範囲外なのか。』

『(答)近い将来見通しうる限り、我々はオペレーションを通じて30〜35兆円程度の範囲内に収めていけるという判断に立っているわけであるから、収まらないかもしれないということを前提とした議論に対してはお答えのしようがない。』

何というか実に結構な雰囲気ですなぁ(棒読み)。


ちなみに、このときの質疑応答の中でライブドアの話を質問している人がいた(多分同一人物が2回質問したのではないかと思うのですが:編集時注記ですが、質問したのは予想通りあの新聞社だったそうです)のですが、先日の野球話の時は金融政策で大して話をする事も無かったからまぁ兎も角として、金融政策で色々と突っ込みどころのある中で何やってるんだという印象でございますわな。某掲示板用語で「空気嫁」って奴ですわな。まぁそういう質問をする人間は可及的速やかに反省していただきたいものです。つーか答えようねぇだろうよ。。。。

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2005/02/18

○何か喧嘩腰じゃあありませんか

金融政策決定会合も終わり、金融経済月報も出たところで日銀総裁の定例記者会見になるのですが、今回の記者会見は何だか情報ベンダーに総裁発言として出てくるフラッシュが妙に喧嘩腰に見えるわけですな。内容に関しては日銀Webに今日アップされる会見要旨を待ちたいのですが、例えばロイター日本語版でのニュースフラッシュを見ますとこんな感じ。

『当面30−35兆円の当預目標が維持不可能になるとは全く予見できない』
『長期国債買入枠、全く変えるつもりはない』
『量的緩和政策の出口を模索する時期とは全く思わない』
『ボリュームに政策ターゲット置くのが緩和政策の枠組み』

フラッシュはこれ以外にも一杯あったのですが、まぁこの「全く」が3度も出て来たのには「もしかして福井総裁怒ってませんですか?」というざわめきが起きるというものでして(^^)、先日須田審議委員の講演後に行われた記者会見でも何か痛烈な質問をしている人がいましたが、まぁ今回も何だかんだと福井総裁様の逆鱗に触れるような急降下爆撃的質問が行われたのでしょうかね〜って感じであります。

福井総裁になってからの記者会見ってまぁ平和だったのは最初だけで、何か途中から会見で火だるまになっている事が多く、その後は「この人は何でもありだから突っ込んでもしょうがない」という諦観モードが流れていたという経緯があるのですが、ここへ来てまた火だるま合戦となっていただきますと観客としては大変に楽しいものを感じますので今後とも是非宜しく。

しかし何ですな。また上記のように自分の手足をガチガチに縛る発言をしておる訳で、まぁ福井総裁おちつけ(某掲示板用語では「もちつけ」)と言ったところであります。

自分の手足を縛りながらも、緩和政策の効果について「景気が回復基調にある中では量的緩和の効果は高まるので、同じ量を出していても効果がより高い事になる」というお馴染みの判ったような判らんような理屈についても言及しているようですので、まぁ必ずしも落ち着いていない訳ではないようでございますがね。

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2005/01/21

お題「総裁記者会見ですが・・・・」

政策決定会合を受けた総裁記者会見。会見要旨が日銀Webにアップされました。http://www.boj.or.jp/press/kk0501a.htm
結構質疑応答が長かったようですが、債券市場として見ておく所は「で、日銀の景気認識はどうよ?」ってのと「当座預金残高目標をいじる(勿論下げ方向で)可能性はどうよ?」って所かと。概ね質疑の大きな部分が「量的緩和政策のフレームワーク」に関する内容でございましたが。

○景気認識に関して

昨日ご紹介した金融経済月報にありますように、景気認識に関して特に変化が無いと言うのが正解なのではと思われます。

即ち、10月の月報までは随分威勢が良かった景気認識が11月に景気の先行きに関する「前向きの循環」というダム論もどきの言葉が消えて12月には現状判断を大幅後退させる「ヘッジクローズ入りの現状判断」に切り替えており、1月は現状判断、先行きともに不変となっているので、この点に関して言えば債券相場が反応のしようが無いというのが宜しいかと存じます。

冒頭の質疑(というか説明)部分でこのようにコメントしています。

『またお尋ねの通り、昨年10月に発表した「展望レポート」で示した日本銀行の経済・物価見通しについての「中間評価」を行った。一言で言えば、私どもの基本的な判断は変更していないということである。』

『景気面で足許修正をしている理由は、繰り返し申し上げている通り、輸出が横這い圏内で推移する中で、IT関連分野の在庫調整などから生産面などに弱い動きがみられている点を取り入れたということである。』

『先行きについては、海外経済が拡大基調を続ける――これは我々の想定通りである――中で、春以降、IT関連財の調整が一巡すると見込まれる。企業の過剰設備・過剰債務などの構造的な調整圧力も和らいできている。そうした状況のもとで、景気は回復を続け、次第に持続性のある成長軌道に移行していくというシナリオを維持している。』

『物価面については、国内企業物価は、足許内外商品市況高や需給環境の改善を反映して上昇しており、先行きも今申し上げた通り10月の見通しに沿って推移するとみられる。消費者物価についても、基調的な判断は10月の見通し通りである。今申し上げた通り、他の条件を一定とすれば、指数的には、新たな要因あるいは特殊要因――そのように言って良いのかわからないが――である固定電話通信料等の引き下げが影響を及ぼす可能性がある。』

ところで、昨日のドラめもんで申しあげた「いや〜また新たな言い訳が出てきましたな〜」って話ですが、固定電話通信料の引き下げ絡みでCPIの押し下げ要因が発生って話はかなり大昔(2ヶ月くらい前)から言われているお話で、市場は織り込んでるでしょうというご指摘(というか事実なのですが)を頂きました。恐縮至極であります(ま、プラス方向にぶれない限り最近はCPIに対して債券相場ってあまり反応しなくなっているようでありますが)。

で、まぁ同じ質疑で総裁は『一言で言えば、私どもの基本的な判断は変更していないということである。』と言っており、昨日ご紹介した金融経済月報でも『先行きについては(略)、「景気は回復を続け、次第に持続性のある成長軌道に移行していく」という「見通し」に概ね沿った動きとなると予想される。』とあるように先行き見通しを変えていないって事になっているのですが、よくよく考えますと先ほど申しあげたように、11月の金融経済月報で「前向きの循環」という文言が削除されているので、冷静に考えれば「先行き判断も下方修正しとるじゃろうがゴルァ」というのが正しい認識ではないかと存じます。ま、何となく有耶無耶にしておくというのがオトナの対応でしょうが(^^)。

じゃあ債券相場はその辺どう考えてるのよ?って話ですが、既にそのあたりは相当程度織り込んではいるというのが実情ではないかと思うので、株式相場で先行き先高期待があるような状態が続いていると「さて債券市場と株式市場とどっちがただしいのよ?」って話で気迷いになっちゃうような感じですが(^^)(実際は製造業中心に構成されている株式市場の数字が各所で2極化というかまだら模様というか、回復の具合がバラバラの景気を正確に反映しているのかという別の論点もあるのですが、その話はまたいずれどこかで)、実際問題として「11月にダム論が消えた」って話を皆さんどのくらい覚えているのかというのも謎ですので、正直よーわからんですなぁ(答えになってないですな)。



○量的緩和の作用副作用論と当座預金残高目標引き下げに関して

昨日ロイター日本語版のニュースから引っ張ってきてご紹介した質疑なのですが、実は質問の部分はかなり鋭い点を突いていたようでして、ロイター記者肝心なところを端折るなよって感じなのですが、改めて質問部分をご紹介(^^)。

『(問)2点伺いたい。現状の量的緩和のフレームワークに関して、2003年10月に決められたコミットメントをクリアしなければフレームワークの変更はされないということかと思う。一方で、当座預金残高目標に関しては、今までの引き上げの過程の中でもすべてが追加的な緩和ではなかったと思うが、当座預金残高目標の引き下げに関しても、コミットメントの条件をクリアすることが必要なのか。』

時事メインコラム「金融観測」で取り上げられ、東短リサーチ加藤氏のレポートでも触れられていましたが(ってあたくしも紹介しましたな)、実は当座預金残高目標の引き上げはこの質問にありますように「今までの引き上げの過程の中でもすべてが追加的な緩和ではなかったと思う」訳でして、理屈の上から言えば「危機回避のために投入した流動性は危機発生の惧れが無くなったなら回収してもよかろう」という理屈になる筈なのですが、岩田副総裁のだいぶ前の講演にもありましたように、供与した流動性は事後的には非不胎化介入にもなっていたので話がヤヤコシイ訳です。

『次に、総裁は以前から、景気が回復すれば金融緩和の効果が増してくると言っている。現在、一部で、金融緩和で狙っていた効果としてポートフォリオ・リバランスとか、クレジット・スプレッドの縮小ということがみられるかと思うが、今後、景気が回復してくると、金融緩和の効果と副作用の両面が増してくると思う。その辺について総裁の考え方を伺いたい。』

で、答えに関しては昨日ご紹介したように、前半部分に関しては『量的緩和の枠組みとは、所要準備額を超えて市場に対して思い切った流動性を供給する枠組みのことを言っている、と思って頂きたい。』と言っておりまして、例によって「思い切った流動性」という曖昧模糊かつ主観的なお言葉を使っておりますが、これを「当座預金残高目標の引き下げを排除していないので引き下げの可能性大有り」と読むのか「思い切った流動性というからには引き締めを連想される当座預金残高目標の引き下げの実施は相当先の話」と読むのかは読み手の勝手でしょうな。後半部分に関しては「作用と副作用のネットのメリットの大きさ」って話をしてますが、そんなの計測できるのかというのは??ですな。



別の部分ではこういう質疑になっています。

『(問)(前半部分割愛)最後に、効果と副作用についてであるが、先程のお答えでは景気が以前に比べて回復過程に入っている一方、金融システムの不安は後退してきているとのことであった。こうして環境が変わってきている以上、効果・副作用の両面に変化があるので、ネットのメリットも変わってくるであろうし、それをきちんと議論されていくとのことであった。このネットのメリットが減って逆にネットの副作用が増すような状況になれば、量的緩和の枠内で所要準備を超えて非常に思い切った流動性を供給する考え方の中で、現在の30〜35兆円という当座預金残高目標を引き下げる可能性はあるのか。あるいはコミットメントである3つの条件自体を反故にするというようなこともありうるのか。』

『(答)最後の反故とはどういう意味か。』

『(問)条件を変えるという意味である。』

『(答)それはない。』

と、まずはコミットメント3条件の変更をおもむろに否定(この時点で岩田副総裁などと意見が違っているような気がする訳で、この「それはない」ってのも福井審議委員の意見としてはそうなんでしょうが、政策委員会の総意じゃないんだから厳密にはどうよって気もしますが、ある何て言い出したら大変な事になるので致し方なし)しておいてからメリットデメリット話。

『(答)当座預金残高目標の引き下げについて予言的なことは何も申し上げられない。これはその都度政策委員会が決めていくことである。ただ、効果と副作用の点について言えば、景気が安定的な回復過程を辿るとすれば、量的緩和の時間軸効果が効いて、長期金利を含め金利が比較的低水準で安定している限りにおいて実質金利は下がるということなので、マクロ的に明らかに効果は強まるということであると思う。』

「景気回復局面で量的緩和政策の効果が高まる」って話はいつもしてますが、実質金利が下がるって言い方したのは始めてではないかと言う気がします。確かに仰せの通りです。

で、この応答部分を見ますと「量的緩和の時間軸効果が効いて」「長期金利を含め金利が比較的低水準で安定」というコメントをしておりまして、量的緩和政策のキモが「ゼロ金利+時間軸」による金利への期待形成を行う事にあるという話をしているようにも読めますな。足元金利より長い金利に関して期待形成をするという話は量的緩和政策の開始時に速水総裁(当時)も言及しており、当時発表されたQ&Aにも書かれておりましたな。

その後FRB理事のバーナンキ氏が講演でデフレに陥らない為に長めの金利へのコミットメントをする(バーナンキ氏の場合は2年もの財務省証券の金利の誘導目標を設定という話でしたが)というお話をしてましたな。余談ですが。


んじゃあデメリットはどうよ?って話ですが、質疑の続き。

『一方で、ある意味でそれは金利機能というものを少し抑えている面がある。従って、資源の再配分機能をフルに発揮させるという点では次第に物足りなくなるという副作用も出てくる。この兼ね合いをどう考えるかという問題は常にあるわけであるが、私どもが事前に考えていたこと、そして今も考えていることは、CPIでみて前年比変化率が安定的にゼロ%以上になるまでの間に、副作用がメリットを上回るほど大きくなるとは想定していない。今もそういうことは予見していないということである。従って、デメリットが大きくなったから量的緩和に大きな修正を加えなければならないというようなことは予見していないということである。』

金利機能による資源の再配分機能って話だとデメリットも糞もないような気がするのですが、時間と量の関係上省略しますが、まぁ資産バブルみたいなものが物価の上昇を伴わずに発生した場合にどうするのかってところが「資源の再配分機能がワークしない」って意味だと解釈しておきましょう(^^)。他の質疑で不動産価格がどうのこうのという内容があったのですが、それを見る限り(引用割愛)今のところ福井さんとしてはそこまでナーバスにならなくても良いんじゃね〜のって感じに(表向きは)なっているようですね。


正直、資産価格デフレを止めないと景気回復しないと思われますんで、どこからどこまでがメリットデメリットなのかもよ〜判らん面がございますがね。

ではでは。

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2005/01/20

○総裁記者会見は玉虫色あるいは本音は??

正式な会見要旨は本日日銀Webにアップされるので今日はロイター日本語版の記事を参考にします。続編は明日にでも。

当座預金残高目標の変更に関して誘導尋問(^^)が。

『問:量的緩和は、2003年10月のコミットメントをクリアしなければフレームワークの変更はしないということだと思うが、その中で、当座預金の変更に関してもコミットメントのクリアが必要か。景気回復過程で緩和効果と副作用の両面が増してくると思うが、その辺の考え方を聞かせて欲しい。』

『答:量的緩和に踏み切って以降、ターゲットとする流動性の目標を数次にわたって切り上げてきた。全体として、流動性の供給枠の追加は、信用秩序、金融システムの安定化を図るということも包摂しながら、究極的にはデフレ脱却という目的を最終的に念頭に置きながら実施してきたものとまとめられる。従って、量的緩和の枠組みと言っているのは、所要準備額を超えて、市場に対して思い切った流動性を供給するという枠組みのことを言っている。』

『(答えの続きですが、一部引用割愛します)景気が以前に比べて回復過程に入っている。一方で、金融システムの不安定性は大幅に後退してきている。環境、金融政策実施の舞台が変ってきている以上、効果と副作用についても両面変化がある。両方付き混ぜた場合のネットでのメリットの大きさというものがどう変っているかということも変化がある。毎回きちんと議論を詰めて、毎回、毎回の結論を出していくという事になっている。』

『景気が回復過程に入ると、量的緩和の景気刺激効果も強まる。一方で、副作用の面もより大きくなる可能性がある。それを両方比べて、差し引きどういうことになるか、よく注意していきたい。』

今回は「甘いささやきには乗らない」というような迷言は残念ながら(^^)出ませんで誠に結構でございますが、要するに「量的緩和政策は継続するぞコノヤロー」といいつつも作用副作用問題に関しては模範解答をし、当座預金残高に関しては「量的緩和の枠組みと言っているのは、所要準備額を超えて、市場に対して思い切った流動性を供給するという枠組みのことを言っている。」という表現を使っておりまして、「思い切った流動性を出す枠組みなのだから絞るという選択肢は無い」とも読めますし、「結果として潤沢な流動性になっていれば量的緩和の枠組みは達成できている」とも読める所でありまして、お上手にかわしたという感じですな。

恐らく金利上昇熱望の短期市場関係者は「副作用問題に丁寧な言及をしている」のをネタに「当座預金残高引き下げの可能性は大有り」と宣伝しそうですが、マネタリストの皆様を説得するのは大変という問題がありますんでそこんとこヨロシクです。


#その他の質疑に関しては(相場でネタが無ければ)明日にでも。

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2005/01/14

○日銀支店長会議における総裁挨拶

まー基本的に支店長会議の総裁挨拶ってのはあまり見ないんですが、一応来週金融政策決定会合があって4半期ごとの展望レポート中間レビューもあるので見ちゃいますと、これがまた例によって例の如く景気には強気な福井総裁な訳でございます。市場との景況感の乖離は相変わらずですな。
http://www.boj.or.jp/press/05/siten0501.htm
基本的に言ってることは先月の金融経済月報と同じでして、一々引用する程の事はありませんが、要点だけ箇条書きするとこんな感じ。

・景気は生産面などに弱めの動きがあるが回復基調継続
・先行きも景気回復は継続
・IT関連分野の在庫調整の行方や原油価格の影響に注意が必要
・海外経済の拡大、企業の構造問題の解決、不良債権処理の進捗が景気をサポート
・国内企業物価は商品市況高や需給環境の改善から上昇
・消費者物価は企業部門の生産性上昇や人件費抑制もあって小幅マイナス・量的緩和政策の緩和効果は景気が回復基調にあるのでより強まっている

まー大体いつもと言ってる事は同じなんですが、あたくし的に気になった部分は、

1.「雇用環境に関して改善傾向が続いて家計部門では個人消費は底堅く推移」ってくだり(箇条書きに書いてませんな^^)。家計部門に関しては単に2極化が進行している(平均を取ると改善だろうが)だけのような気もしますが、予定されている家計部門への実質増税に関する効果に関して相変わらず言及が無いのがどうなのかねぇと。まー言及すると政治から文句が来るでしょうから福井総裁は触れないんですが。もしかして素で懸念してないのかも。。。

2.わざわざ項目を分けて言及した「量的緩和政策の緩和効果がより強まっている」というところ。金融経済月報では言及してませんが、記者会見で折に触れてこの話をしているのでこれまたまぁ驚く話でも何でもないのですが、量的緩和政策の長期化による弊害がど〜のこ〜のという方が新しく審議委員に就任した後でもございますのでいつもと同じ話でもちょっと気になる訳です。

てな感じです。

で、景気の現状認識に関しては先ほど申しあげたように12月の金融経済月報から(12月17日発表ですな)変化がなく、どっちかというと景気に関して強気ではないあたくし(企業業績に関しては比較的強気だが^^)としては「相変わらず往生際が悪いのぉ」ってなもんです。恐らくこの調子では来週の金融経済月報は12月とほぼ同じものになりそうな予感が致します。

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2005/01/11

○総裁のニューヨーク講演(スピーチ)

金曜のドラめもんでは「量的緩和政策のコミットメント遵守を強調したらしい」とテレビニュースを基に申しあげましたが、どうも日銀Webにある英文原稿(しかないのだが)を読む限りでは、量的緩和がどうしたこうしたというような話はしておりませんので、恐らく質疑応答コーナーでのお話だったのではないかと思います。

で、この講演(http://www.boj.or.jp/en/press/04/ko0501a.htm)ですが、話の内容は普段お話していることからあまり変わりばえしませんので、特にどうこうというお話はございませんが、相手がニューヨークの「ジャパン・ソサエティー」って所なのだからかどうか知りませんが、妙に気取っているのが何とも微苦笑を禁じ得ないものがあります。

いきなり題名が「A Tale of Two Cities in the Eyes of a Central Banker」てディケンズの「二都物語」から取っているのが凄いのですが、別に話しの内容は二都物語でも何でもなくて、単に日本経済と米国経済の話(経済と言うか金融セクターの話ですが)をしているだけなので何と申しますか「??」ではあります。で、その調子でスピーチは続く訳でして、何もそこまで気取らなくても良いんじゃネーノとは思うのですが、これもまた福井総裁らしい「サービス精神」によるものなんでしょうか。まぁ草稿作ったのは企画部門だと思いますが、総裁が最終チェックするでしょうし、総裁の意を汲んで一生懸命に名文句を考えたのでしょうなぁと思うと涙が出てきちゃいます。

折角ですから名(迷)文句をテキトーに引用してみましょう。誰ですか?「ネタが無いから引用で増量してる」と言う人は?


冒頭の挨拶部分

『The purpose of my visit to New York in this frigid season is to commemorate the 100th anniversary of the Bank of Japan's representative office.』

別にthis frigid seasonって一々言わんでも・・・と思うとこれが次への前振り(^^)。

『Some of you might feel disinclined to listen to me, as central bankers tend to harp on the same string. But I can assure you that my speech here will prove to be a lot warmer and more humane than the freezing air outside.』

・・・・・・・・・(^^)。この次の段落まで「this frigid season」でネタを引っ張るのが凄い。

『Ladies and gentlemen, the world economy is in fact a lot warmer than a year ago.』


日米の金融セクターについて話をする前振り部分

『There is always a Japanese way of business like there is an American way of business, a French way, an Italian way, and a Chinese way. In fact, such diversity makes the world very rich, in the same way as we enjoy Japanese food, Chinese food, French food, Italian food, and American hot dogs and hamburgers.』

何っつーかまぁちょっとずつシャレたフレーズを入れているのが福井総裁スタイル。


日本の金融セクターのお話なんですが・・・・

『After a decade-long hardship, however, a silver lining has finally emerged on Japan's financial horizon.』

文学的(なのか?)な表現がお好きなのは日本語の時だけではないようです。


まぁ相手が一般向け(そもそもジャパンソサエティーって聴衆の半分くらいは日本人だというお話を人から聞いたのですが、日本語でも良かったんじゃないんですか?)なので文章を捻ったのかもしれませんが、妙に気取った講演ではございました。

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2004/12/22

お題「市場との対話・・・・」

絶賛年末進行中ですが、心なしか街の人出が少なめですなぁ・・・

○ちょっとだけ気になった質疑応答

金曜日の日銀総裁記者会見は結構長かったのですが、まぁ「新札すり替え事件」に絡む質疑応答が多くて、その件に関してもあたくしも少々言いたい事もありますが、ま〜今更ですんでその話は省略。

で、それ以外の話としては当然ながら金融経済月報に絡んで景況感に関する質疑応答が多かったのですが、これに関しては昨日ご紹介した金融経済月報にあるように「足もと判断をだいぶ弱くしているのに先行き見通しは強気のまんまで全く変化なし」というそれで良いんでしょ〜か?っていう話しに終始しております。

もう一つ気になったというか象徴的だった質疑応答は「オペ見送り」に関る質疑でして、その部分について引用致します。やたらと質問が長いので適宜改行を致します。
(http://www.boj.or.jp/press/04/kk0412c_f.htm)

『本日、市場では長期国債の買い切りオペがあるのではないかという予想が強かったが、予想に反してなかったということで、市場は長期金利が上昇する、債券相場が下がるという反応を示した。』

『そもそもどうしてこういうことが起るのかということを考えると、現在、月1兆2,000億円となっている長期国債の買い切りオペは、もともと金融政策決定会合のディレクティブ(金融市場調節方針)には何も書かれておらず、現場の金融市場局の裁量で動かしうるものだという不安というかそういう認識があるためで、もしかしたら今月は1兆2,000億円やらないのではないかという不安も市場にあると思う。量的緩和政策を解除するまでこの1兆2,000億円というのを引き下げることがないのか。』

で、この質問に関して福井総裁の回答が(質問がやたら長かったせいで)またやたらめったら長くなってまして、適宜省略しながら引用します。

『個々の長期国債のオペをいつ具体的にやるかというのは、短期のオペレーションと同様に金融市場調節担当者が、資金需給の状況や市場の地合いを見ながら機動的に決めていっているものである。』

『それ(引用者注:量的緩和政策の解除)以前にどういう(金融政策の)ステップを踏むか、いつからどういうステップを踏み始めるか、踏み始めた後どういう内容でどういうテンポでそれをやっていくかということは、今は全くオープンだとこの前もお答えした。従って、その過程で長期国債のオペをどうするか、あるいは流動性供給量をどうするかということは全くオープンである。』


・・・・・これ質疑とも問題有りなんですが、まぁ現在の「市場との対話」のお寒い状況をよく象徴しているなぁと思った次第です。


まず、質問が根本的に間違っております。どこの記者が質問しているのか判りませんが、現行政策の前提というかそもそも論が量的緩和政策の長期化によってすっかり忘却のかなたに逝ってしまったという事なんでしょうな。どこが間違っているかというと「長期国債の買い切りオペは、もともと金融政策決定会合のディレクティブには何も書かれておらず、」という件。最後に長期国債買入額の引き上げが「金融政策会合で決定された」のは何と02年の10月30日でございまして、そのとき発表された「金融市場調節方針の変更等について」には(http://www.boj.or.jp/seisaku/02/pb/k021030.htm)このように書かれております。

『(2)長期国債買い入れの増額  これまで月1兆円ペースで行ってきた長期国債の買い入れを、月1兆2千億円ペースに増額する。』

という事で、この記者の質問が根本的に間違っている訳ですが、記者様が質問の中で「金融市場局の裁量で動かしうるものだという不安というかそういう認識がある」と言うのは、記者様の脳内現実で話している訳ではないでしょうから、誰かがこの記者様にそんな内容を吹き込んでいるとしか思えませんですわな。まさに市場に流布されたといわれる憶測がそんな感じだったんでしょうな〜ってな事なんですが、かくのごとくとんでもない誤解に基づいた憶測が流れるというのがいつもながら困ったものであります。

(12月24日追記:取材の結果質問者は「わかっているが敢えて聞いた」だけだろうとの事が判明しましたので、以下24日に書いた訂正謝罪文を挿入)
火曜日(水曜日の間違い小)は「この質問は何でしょう」って話しをしましたが、関係者様にお伺いしたら(って文章書く前に取材しなさいって言われそうですが)質問した人はベテランの記者さんで、質問のニュアンスは「市場ではこんな話しもでているそうだが大丈夫っすか?」って事だったそうですな。要するに判っていて念の為質問したというパターンであって、誘導質問でも素で判っていない質問でもなかったようです。

という訳で火曜日(同様に水曜日の間違い)は質問者に対してもうアホか馬鹿かという勢いでいちゃもんつけましたことを謝罪いたします。
(挿入終了)


で、この福井総裁の回答もちょっとお寒いものがあります。引用した中での1文目はまぁ大体仰せの通りですが、長期国債の買入は成長通貨供給というか日銀券見合いオペなんであまり「市場の地合いを見ながら機動的に」
やりすぎても困りますわな。

で、もっと「おいおい」なのは2文目でありまして、「量的緩和政策解除にいたる過程で長期国債のオペをどうするか、あるいは流動性供給量をどうするかということは全くオープン」という趣旨に思いっ切り取れる回答な訳でして、これでは「量的緩和政策の解除を行うだいぶ前から長期国債買入額の引き下げやら当座預金残高の引き下げを行う事もオープンです」って報道されちゃったらどうなっちゃうのよって事であります。

まぁ聞いた話ではこのお答えを福井総裁がした際に瞬間日銀の事務方様が凍っていたそうですな。変なフラッシュの打ち方(「長期国債買入の先行き減額を示唆」なんて感じ)をしたら週末のイブニングセッションなだけに相場がエライコッチャになっていた可能性が大な訳でして、さすがに報道各社の方が自制したようで誠に結構でございました。

そもそも質問が思いっ切り誤解に基づくものだったのですから、まず福井総裁としては「長期国債買入額は金融政策決定会合で決定している事項で、金融市場調節方針に書いてある」とご面倒であっても一言添えるべきでありまして、このあたりの軽率さ(言い方がキツイですが)が福井総裁の真骨頂でもあるのですが、市場をご自身で撹乱する要因になっているとお気づき頂きたい所です。


で、まぁこの質問した記者がどこに所属しているのかはマジで知らんのですが、どうもあたくしが普段全く読んでいないので話題の新聞小説も存じ上げないどこぞの経済新聞の金融政策に関する記事では、金融政策の枠組みに関して誤解をしてるでしょって記事が結構な頻度で出てくるようですので、まぁ猛省を促したい所ではありますが、猛省されてしまうとあたくしのドラめもんのネタが無くなってしまうという諸刃の剣でありますな(^^)。まぁ総裁もうちょっと丁寧に。

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2004/12/15

○量的緩和政策の弊害についての総裁コメント

月曜の総裁記者会見は基本的に中京地域がどうしたこうしたという質疑が多く、さすが(以下自粛)ではありましたが、量的緩和政策の弊害についての質疑がありまして、総裁の見解を見ることができましたので弊害部分について述べた部分をご紹介します。ちなみに、メリットについてはいつもと同じでして、「景気回復期において低金利を続けると景気刺激効果がある」って話です。でもそれって「量の効果」じゃなくて「ゼロ金利+時間軸の効果」じゃね〜のと思う訳ですが、それは兎も角としてデメリット部分。

・市場機能がどうのこうのという点

『しかし一方で、副作用はどうかというと、一番の副作用は金融市場において金利機能をかなり封殺しているということだと思う。その副作用が実際にどの程度の大きさになっているのかを目を凝らしながらみているが、まだ正確には掴みかねている。時の経過とともにこの副作用が大きくなるリスクがあり得るということを頭の中に置きながらみているが、今のところ副作用が目立って顕現化しているとは受け止めていない。』

いやあなた「封殺」しちゃったら幾ら「目を凝らしながらみている」って言って見たって見えないものは見えないのではないかと突っ込みを入れたくなる訳ですが。不毛の地を「この不毛状態の副作用が大きくなるかどうか」って見たって判らんでしょ(^^)。しかし相変わらず福井総裁は文学的というか曖昧というか情緒的な表現がお好きですな。

市場機能が損なわれているのが問題といっても、これはゼロ金利+時間軸という政策をやっている以上当たり前に発生するものでして、これをことさら問題視するのは自己矛盾も甚だしい所です。要するに取ってつけた理由って奴。

・資産価格問題

『また、別に資産価格の点も非常に注意してみているが、フローの物価上昇率の変化の前に資産価格の面で異常な現象が出ていないかということも我々の関心事である。別に量的緩和でなくても、今までの米国や英国では低金利状態の下で物価よりも資産価格のほうが若干早く問題になるというケースを目の当たりにしている。』

米国や英国の前に日本じゃねーのかよって言いたくなるのですが、まぁいいか。

『日本の場合、ゼロ金利または量的緩和ということであるからそのリスクが将来全くないとは言い切れない。最近における都市部の不動産価格の上昇などについてもそういうリスクの走りがないかと注意してみている。これまでのところ、土地の値段の決まり方が収益還元価格による、キャッシュフロー見合いにセットされるように、従来とは違った価格形成メカニズムができあがっていることは明確に認められるが、それを超えて、バブル的な値段形成になっているとは今のところ判断できる状況にはなっていない。』

水野審議委員はその「収益還元価格」の期待利回りが低下しすぎていませんかって指摘をしております。先日のドラめもんでも申しあげましたが、私募投信やら何やらで不動産証券化商品が大変ご好評を博しているようですが、どうも聞く所によりますととても不動産とは思えないような利回り水準まで利回り低下しておるようで、深く静かにバブルは潜行中という所でしょうか。福井総裁におかれましてはそこまでの懸念は持っていないようですな。

『それに限らずいろいろな面をみているが、今のところは副作用のほうが上回り始めたという状況とは判断していない。』

はぁそうですか。まぁ兎も角として、この2点に関する今後のニュアンス変化に関しては一応目を通しておくのが吉かと存じます。

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2004/12/14

お題「まぁ想定どおりのご挨拶でしたが」

最近年末進行というわけでも無いのですが、さすがに夏並みの早起きがしんどい(やはり思いっ切り夜明け前に起きるのは自然の摂理に反しますな。このトシになりますと^^)ので少々遅めに起床しております。

さて、昨日は福井総裁の講演というか挨拶が名古屋で行われたのですが、まぁ何と申しますか相変わらず景気に強気なのは良いと致しまして・・・・・

http://www.boj.or.jp/press/04/ko0412b.htm

○挨拶の構成

まぁここの所GDP2次速報やら鉱工業生産に機械受注とヘロヘロの発表が相次いでいるのですが、総裁は挨拶でこのように言及してます。

『わが国経済は、昨年夏頃から回復過程に入っていますが、最近では、輸出や生産を中心に弱めの経済指標がみられています。このため、市場などでは景気の先行きに対して幾分慎重な見方が広がっているように見受けられますが、私どもでは、足許の減速は一時的なものであり、わが国経済は次第に持続的な成長軌道に移行していく可能性が高いとみています。本日は、こうした金融経済情勢や金融政策運営に関する私どもの考え方を中心にお話したいと思います。』

という事で、この後「海外経済の動向」「わが国景気の現状と回復の持続性」「景気回復をサポートする構造的な調整の進展」と景気に関する話が続くのですが・・・・・

○海外経済〜強気見通し

簡単に纏めると「米国経済は着実な拡大、中国経済は景気過熱感が根強く、10月の政策金利引き上げの効果に注目」ってお話です。中国経済の過熱抑制がどうのこうのって言う位ですから、海外経済に関しては相変わらず強気継続。海外経済に関しては11月の金融経済月報でも判断を上向き加減にしておりますし、他の審議委員も揃って強気に見ていますのでこの辺はこんなもんかなと。

○国内景気〜個人消費の先行き楽観視が気になります

『わが国経済については、夏場以降、輸出や生産の伸びに一服感がみられるほか、第2・第3四半期の実質GDPも横這い圏内の動きとなりましたが、以下に申し上げる通り、景気回復のメカニズムは引き続き働いているとみています。』

『第一に、輸出や生産は、先行き増加基調に復すると見込まれることです。このところの輸出や生産の一服感の背景としては、海外経済の一時的な減速が多少の時間的なラグをもって影響していることに加え、IT関連財の生産・在庫調整がグローバルな規模で行われていることが指摘できます。』

『第二に、好調な企業収益を背景に、設備投資が増加を続けると見込まれることです。確かに、足許の動きをみると、第3四半期のGDP統計において設備投資の伸びが鈍化したほか、設備投資の同時指標である資本財出荷の増加テンポも緩やかなものになってきています。しかしながら、上場企業の中間決算などにもみられるように、企業の収益は引き続き好調であり、製造業を中心に積極的な設備投資計画を維持しているようです。』

『第三に、企業部門から家計部門への波及が、緩やかながらも着実に進んでいることです。雇用者数は引き続き増加しており、企業における雇用の過剰感も払拭されつつあります。企業の人件費抑制姿勢は引き続き根強いものの、一人当たりでみた賃金の減少幅は次第に縮小してきています。こうしたもとで、雇用者所得は下げ止まっており、今後は、企業収益の増加や雇用過剰感の緩和が続くもとで緩やかな増加に向かう可能性が高いとみています。』

とまぁ基本的に「足もとの経済指標は弱い数字になっているが、先行きはもう全然問題ないですよ」ってお話になっているのですが、激しく気になるのは、この第3点であります。と申しますのは、この挨拶ではこの後に景気の下ぶれ要因として『IT関連需要や原油価格の動向など、景気の下振れ要因には十分注意していく必要があると考えています。』って言い方をして景気の下ぶれ要因に言及しているのですが、どうも個人消費に悪影響を及ぼしそうな「増税論議」はものの見事にスルーしている訳ですな。

まぁここで政府に楯突くのもオトナの対応ではないってぇのもよーーーく理解できますが、どうも個人消費に関しての先行き見通しが楽観的過ぎやしないかと思うところです。


○構造調整がどうのこうのという話については一言だけ

まぁ正直「はぁそうですか」という感想しかない話なのですが、この辺のお話は如何なものかと思うわけですな。

『来年4月には、ペイオフ全面解禁を控えていますが、各金融機関がさらなる経営改善に向けて努力していくことにより、金融システムが一層健全化・安定化し、さらには活性化していくことが期待されます。その際、ノンバンクや外資も含む幅広い金融サービスの提供主体が、個々の特性を活かしつつ、多様な金融サービスを競っていくことにより、多様な顧客ニーズに的確かつ効率的に応えていくことが重要です。また、そうした取組みにより、様々なプレーヤーが多様な金融仲介チャネルを構築し、金融システム全体が一層イノベーティブで、外的なショックにも強い体質になっていくことが望まれます。』

はぁはぁそうですか。

『日本銀行としても、考査やモニタリング機能も活用して、これらの課題に向けた金融機関の対応を支援すること等により、民間金融機関の創造的な金融サービスの展開、ひいては金融仲介機能のさらなる強化・高度化に向けて、精一杯後押ししてまいりたいと考えています。』

いやまぁ別に考査やモニタリングで「支援」しようなんて事は有難迷惑なんですけどね〜。総裁お気に入りのもと日銀マン某氏肝入りのどこぞの銀行ではビジネスモデルがそもそも無茶だった事もあって開業半年で絶賛大内紛状態という涙を催す展開になっているようですが。あまり頭でっかちの観念論で動かれても困るんですよね〜。


○金融政策

金融政策について最後に述べているのですが、どうも一生懸命「低金利政策を長く続けますよ」っていう言い方をしながらサービスしているという節が見られますな。

『もちろん今後の経済・物価情勢次第ではありますが、物価が反応しにくいという状況が続くのであれば、政策選択の余地は大きく、状況に応じて適切な対応を採ることができると考えています。例えば、量的緩和政策をできるだけ続けるという選択肢もあれば、量的緩和政策を解除した後の利上げのペースを緩やかなものにするということも考えられます。』

「例えば」で列挙しているのがどっちも「低金利政策の長期化」でありまして、それは普通「政策選択の余地は大きく」とは言わないと思うわけでして、福井総裁の景気に対する思いっ切り強気の見方からすると、この中の「物価が反応しにくいという状況が続くのであれば」という状況が変ったら話は違いますよってことを言外に込めているのではないかというのは裏読みしすぎですかね。

しかし相変わらず今回の挨拶でも『いずれにしても、こうした一連のプロセスについて、あわてて対応しなければならなくなることはない、と思っています。』って話をしておりまして、どうも「このままのCPI縛りを続けていると緩和解除を慌てて行わないといけないのではないか」という不安を総裁がお持ちなのではないかと勝手に憶測する次第でございます。

というかあまり金融政策に絡んで話をするときにやれ「金利に蓋をする」だとか「我慢強く緩和政策を続ける」だとか「あわてて対応するようなことはない」だとか「余裕をもって」とかまぁ色々とあるのですが、あまり「文学的」な表現を用いるのは如何なものかと思うわけです。政策はロジックでしょ。


#というわけで、超長期国債入札に関してはスルーです。割高入札の悪寒がしますが。

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2004/11/22

お題「機嫌が悪いのかもしれませんけど・・・・」

先週木曜日の金融政策決定会合では「前向きの循環」が削られた金融経済月報が決定されまして、その後の定例記者会見の要旨が金曜日に日銀Webにアップされたのですが、どうもこの行間を見ていると「今回の月報採択に関して福井総裁はご機嫌が悪いのではないか」と思わせるような雰囲気が漂ってくるのですよこれがまた。

http://www.boj.or.jp/press/04/kk0411c.htm


○市場の認識をコントロールしようと意識しすぎなのでは?

景気判断自体は若干後退モードではあるのですが、最近少々話題になっている「当座預金残高維持問題」ってのがありまして(先日のドラめもんでほんの少し触れましたが、資金供給オペを打っても札割れ連発で、最近はついに発行された短期国債をすかさず買い入れてしまうという荒業で凌いでいるという話)、短期市場関係者の一部では「当座預金残高目標(現状は30兆円〜35兆円)の下限を引き下げてくるのではないか」という話があります。そのせいか今回の記者会見では「当座預金残高をどうするの?」って質問が手を変え品を変え行われました。その中の一節。

『(問)量的緩和政策を解除するという場合、一般的にイメージするひとつのあり方は、当座預金残高目標を今の水準から徐々に減らし始めて、ある段階で操作目標を金利に戻すという姿が想定できる。この場合、量的緩和政策の解除とは、当座預金を減らし始める時点を言うのか、あるいは減らした後に、操作目標を金利に戻した時点を言うのか、その点を伺いたい。』

『(答)今の緩和政策のフレームワークの修正プロセスということについては、具体的に何も詰めていない。従って、正確にはお答えできないとしか申し上げようがない。言えることは、私どもが申し上げている3つの条件、すなわち、消費者物価指数の前年比変化率が安定的にゼロ%以上になるまで今の量的緩和の枠組みを堅持する、市場にとって非常に過大とも思えるような流動性を供給し続けるという、この基本的なフレームワークを堅持し続ける、ということである。それ以外に、量的な意識とかそのようなところまでは、まだ何も詰めた話ではない。』

今回の記者会見ではこのような質疑がやたら多うございまして、「量的緩和解除の場合のプロセスはどうよ」とか「当座預金残高目標を減らすのどうします」とかの質問が飛んで、「具体的に何も詰めてねぇんじゃヴォケ」というお答えが返ってくるという応酬が連発されているのが印象的であります。

で、まぁこの質問の前にも同じような質疑があった為に「非常に過大とも思えるような流動性」という発言をしたのが突っ込まれているのですが、よく読むとこの「量的な意識とかそのようなところまでは、まだ何も詰めた話ではない」ってのも言いたい意味は判らんでも無いのですが、量的緩和政策で目標にしてるのが「当座預金残高目標」なんだから、もうちょっと丁寧な言い方をしたほうが良いのでは無いかと思う訳ですな。全くもう。


で、まぁ上記のように抽象的(というか感情的というか^^)な発言をすると当然の如く突込みが飛んでくる訳でして・・・・・

『(問)先程の量的緩和の枠組みの説明として、「過大とも思える流動性を供給することだ」というご指摘であった。そうすると、例えば、25〜30兆円というレベルが市場にとって過大ということであれば、そうした範囲で当座預金残高目標を減らすこともあり得るのか。』

という風に突込みが来るのはある意味当然でありまする。

『(答)先程は少し文学的に表現したのであって、市場が過大と思うかどうかといったことは認定できないことだと思う。現在は、所要準備額の約6倍という多額の流動性を供給しているわけであり、その数字の大きさからみて「過大とも思える」というような表現をしたまでのことである。(後半割愛)』

「文学的表現」っつーのも随分楽しい表現なのですが、どうもその次の言い方って「俺様が過大だと思えば過大なんだよヴォケ」と読んでしまう訳でありまして、何というかアレな応答な訳です。まぁこの質疑応答はある意味「語るに落ちる」って奴でして(何か段々あたくしの言い方がきつくなってますが^^)、どうも総裁の心の中では「俺様が考えること」=「市場が考えるべきこと」となっているのではないかと邪推したくなってしまう発言な訳です。


○当座預金残高削減問題

という訳でひとくさり悪態をついた所で当座預金残高削減問題に係わる質疑応答に関して引用しておきます。やたらと今回はこの件の突っ込みが多かったのよ。

『(問)本日の金融政策決定会合では当座預金残高目標を30〜35兆円に据え置いたが、金融調節が非常に難しくなっているのではないかとの見方から、上限を35兆円にとどめても、下限をいずれ30兆円から下げるのではないかとの見方がある。緩和の方針は維持しつつ、金融調節上の自由度を高めるために、下限を20兆円台に下げる可能性もあるのではないかとの見方も市場では出ており、プライス面では出ていないが、心理面では多少のたじろぎがあるように見受けられる。今後の選択肢として、そういうことがあり得るのか伺いたい。(後半割愛)』

『(答)まず、第1のご質問のほうであるが、もちろん金融調節の現場では、その時々の資金需給の状況、そして市場の地合いの変化に合わせて調節しようと様々な工夫を凝らしながら、流動性供給目標を日々達成していく努力をしている。私が聞いている限り、調節が困難に逢着しているというようなことはない。様々な工夫を凝らしながら円滑に必要な流動性を供給するという目的は達成し続けているということであって、お尋ねのような点については、私どもは何も今念頭に置いていない。その必要は今何も感じていないということである。』

これが最初の質疑応答部分でして、「市場では金融調節が大変ですよ」と質問しているのに「技術的に困難にはなっていない」というお答えになっていてどうも質問と回答が噛み合っていない訳ですな。そもそもこのある意味答えになっていない質疑応答が記者会見会場に燃料を投下したのではないかと思う訳ですが(^^)。


で、最初にご紹介した質疑に繋がっていったのですが、その後も会見ではスッポンのように(^^)本件について香しい質疑応答が交わされるのでありました。

『(問)「所要準備額の6倍ある」ということであるが、これを5倍にしても「過大」かどうかという議論もあるかと思う。審議委員の中には、当座預金残高目標を減らすことはやはり「引き締め」と取られる可能性があるから、それはなかなか難しいという意見もあるが、総裁はどうお考えか。 』

結構この質問はキモの部分でして、当座預金残高目標を増やすときに「量的緩和政策の強化」と称していたというロジック(まぁそもそもそのロジック自体が怪しいという突っ込みはさておいて)になっていた事を考えると、当座預金残高目標の減額は「量的緩和政策の緩和(って書くと何か変ですな、弱体化ってのも変ですし・・・)」であるので論理的には「引き締め」になっちゃう訳ですな。ここのところを上手く切り抜ける理論武装を期待したい所なのですが・・・・

『(答)今の時点でそのようなことは、およそ議論の対象にはならないと思う。具体的な状況を前提にしないで、量を減らしたらどうかというのは、およそ金融政策の議論にならない。全くお答えできない質問だと思う。』

何というか総裁から湯気でも出ているのではないかと思わせるようなお答えでございますな。あなたそこまで言うことないでしょって感じですが、このような豪快なお答えが返ってくる背景を勝手に憶測しますと・・・・

@当座預金残高問題の質疑ばかりが延々と続いているので「同じこと何度も聞くなヴォケ」とトサカに来た。A実は本件に関してちょっと議論になっていて全然意見集約が出来てないので「痛い所を突かれてお怒りモード」。B月報で景気の現状判断後退だけでなく、総裁お気に入りの「前向きの循環」が削除されておかんむり。

などと勝手に想像したくなるのですが、どうもこの問題に関して全般的に質問と答えが噛み合っていない印象ですんで、政策委員会(なのか日銀執行部なのか知りませんが)内部で量的緩和政策における「量」の問題に関して総括が行われて議論になっている最中なのかな〜なんて思う訳です。以前ご紹介した山口前副総裁の時事通信インタビューにありますように、量的緩和政策の出口を考える際には当然この政策の総括をしないといかん訳ですし。


○市場への説明とは?

『(問)10月29日に発表した展望レポートで、「金融経済情勢に関する判断や金融政策運営に関する基本的な考え方を丁寧に説明していく方針である。具体的な説明の内容や方法については、さらに工夫を重ね、市場参加者が金融政策の先行きを予測する上で参考になる基本的な判断材料を適切に提供していく」、と書かれている点について伺いたい。今後、量的緩和政策が解除された後も、日銀の政策に関して市場が誤解をすることはマイナスだと思うが、市場の安定化を念頭に置きつつ金融政策の運営をしていく──主眼としては、政策変更にあたっての市場の安定を維持する──という目的で、今後もこうした情報を提供していくということなのか。(後半は別項で)』

『(答)どういう状況のもとであれ、金融政策を運営していく場合には、市場および広く世の中の方々の理解を求めて、期待の安定性ということを十分確保しながら政策効果の浸透をより良く図っていくという原則に変わりはない。従って、如何なる状況のもとにおいても、我々は政策変更する場合にもしない場合にも、状況説明は十分やっていきたいということである。展望レポートの中であえてそこのところを強調したようなかたちで書かせて頂いた。消費者物価指数のマイナスの動きがもう何年も続いており、量的緩和政策も既にかなり長い期間やっているといういわば異例の事態から次の局面に移っていく過程においては、様々な期待の不安定性というものが出てくる心配がある。そうした局面においては、なおさら我々が取ろうとする行動について正しい理解を求める努力をしていく必要がある。そうした認識で、あそこのところをあえて強調させて頂いているというふうにご理解頂きたい。』

と言っている割にはどうも今回の記者会見全般を見ますと「理解を求める」というよりは「俺様の考えが判らんのはケシカラン」という雰囲気が漂って来るのは気のせいでしょうか??まぁ良いけどさ。

まぁこの言葉の端々にも「量的緩和政策は継続したくない」ってのが伝わって来るのですが、じゃぁ過剰流動性が物価に向かわずに資産バブル(まぁ既にアイテーというか新規公開バブルのような気はするんですがね)に向かったらどうなるのよって質問がでてまして・・・・


○資産価格の上昇が起きても放置という明確なスタンス(^^)

『(問)(さっきの質問の後半部分です)もう1点、量的緩和政策解除の3つの条件のうち、仮に1つ目と2つ目の条件をクリアしつつも弊害というか歪みが生じたような場合でも、適切に対応していくという理解で良いか。市場が政策の解除を予想していようが、あるいは反対に予想していない場合でも、日銀としては金融政策に影響するようなものに関しては丁寧に説明していくという理解で良いか。 』

『(答)まず後者の質問に関して、3つの条件というものは個別ばらばらの条件ではないということを前回の会見でも申し上げた。消費者物価指数の前年比変化率が安定的にゼロ%以上というただ1つの条件を、強いて因数分解して3つの側面から見ればこうなるということで申し上げた。従って、3つがばらばらに理解されることによって、2つは満たしたけれども1つは満たしていない、といった組み立て方のものではない。あくまで3つの側面から見て1つのことを判断していくということであるので、「経済に歪みが出ても金融政策は放っておくのか」という議論は成り立たないような性格のものだと思って頂きたい。』

ここのスタンスだけは相変わらず明確(というか約束させられているのだから仕方がないのですが)でして、結局政策スタンスはこの部分に集約されるのだから余計な情報発信というか心情吐露は人心を惑わすだけではないかと思ってしまう訳であります。



本当は今回の記者会見で景気に関する質疑ももっと見たかったという気もするのですが、どうも当座預金残高問題に関して燃料が投下されたせいか話がそっちの方に進んでしまい、景気に関してはあまり面白い質疑が見られませんでした(と思うのですが)ので引用省略。まぁ総裁としてはあまり「判断後退」を強調されるような発言はしたくないって雰囲気は伝わってまいりました。

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2004/11/18

お題「この正直者!」

ご好評につき11月2日の福井総裁国会迷言をまとめてみましょう。え、「金融経済月報が出るまでの時間稼ぎ」ですと?まぁその通りなんですがね(滝汗)。で、ネタを考え付いていたので安心していたら、見事に寝過ごしたので本日は引用で増量攻撃で勘弁です。

でまぁ昨日ご紹介した「この正直者!」って発言は実は他にもありまして、見つかる限り纏めておきましょう(^^)。出典は全て参議院財政金融委員会の会議録であります。もう会議録ウォッチが癖になってしまいますな〜(^^)。


・「国債残高=地雷」説(昨日の再掲)

『委員御心配のとおり、市場の中には国債の発行残高が非常にたくさん累積していると、俗な言い方しますと、地雷が一杯埋まっているような金融市場でありますから、そこは私どもの政策運営について、どういう考え方で運営していくんだと、もし変更があるとすれば、どういう、あらかたどういう考え方で変更していくんだということが事前にやっぱり理解が浸透しているということが非常に大事だというふうに思っています。』


・もしかして岩田副総裁へのあてこすりですか?(昨日の再掲)

『学者の先生からお教えいただいている理論が理論としてそのまま実現していくためにも、我々の現実の政策は、人々、企業、金融機関の行動に現実的な意識としてこれがうまく消化され、それぞれの行動に反映させていただくという大変厄介な過程を通さなければ実現しないというところに我々の悩みがあるわけでございます。日本銀行が学者先生と同じことを申し上げて、人々は、実は大変な借金があるんだけれども、まあ日銀がそう言うんなら明日からこう動こうと、そういうふうに言ってくだされば我々は非常に楽なんですけれども、なかなかそうはいかない。』


・量的緩和政策を解除したくて「苦しい思い」なの?

公明党西田委員から質問された出口政策論(月曜日のドラめもんでご紹介したように、途中から岩田副総裁に話が振られて「執行部内不一致」を国会の場で堂々答弁の図になった質問です)に係わる総裁答弁の一節。

『この(引用者補足:量的緩和政策の)メリットとデメリットの比較にいつも苦しみながら判断し続けているわけでありまして、したがいまして、なるべく早く経済の自律的な回復のパスへの到達、デフレからの脱却の判断に至るということがやはり望ましいんだというふうに思っています。しかし、これも判断が早過ぎてかえってすべての努力を水泡に帰するということがないようにしなきゃいけませんので、この苦しい判断のプロセス、いましばらく我々は続くと覚悟しているところでございます。』

CPIのコミットメントという現実の数値ターゲットがあるので苦しいも糞も無いと思うのは畜生の浅ましさって奴なのでしょうか。現実にCPIが相変わらずマイナスなので苦しむ必要も無い筈ですな〜(^^)。で、もしかしたらこれは「CPIがプラスになりそうだが景気は良くなさそうだから判断に苦しむ」と言いたいのかと解釈したくもなりますが(嘘)、最近の福井総裁の発言から類推すると、どうも「こんなに景気が前向きの循環(しかしこの前向きって言葉も総裁好きですよね〜)を続けているのに量的緩和政策を継続しっぱなしというのはケシカラン」と「苦しい判断」をしていると読んでしまいたくなりますな。この正直者!


・日本国債市場は「人見知り」

これは民主党平野委員への答弁。米国の国債市場と日本の国債市場における保有構成の問題に関する質疑です。まぁこういう問題で日本と米国を比較しても余り意味は無いと思うのですが、どうも総裁様に置かれましては「もっと資金が出たり入ったりして欲しい」らしいようで。

『先ほどホームバイアスとかいうふうな、何か少しつかみ難い、つかみどころのない表現で申し上げましたけれども、アメリカのマーケットの場合には、国内の投資家、海外の投資家、その間かれこれ余り区別なく、同じ主体としてマーケットが自然に受け入れるという、そういう土壌が早くからできていると。日本の場合には、もちろん日本の市場も自由化が進んで機能の向上も進んでいるんですが、何とはなしに海外の投資家と国内の投資家との間では、出入り自由なんですけれども、どっか何か人見知りするところがあるというふうな感じが残っているとか、その差があるというふうに思われるわけであります。』

「ホームバイアス」の代わりの表現が「人見知り」ではどっちも「つかみどころのない表現」じゃね〜のかという野暮な突っ込みは置いといて、まぁ確かに日本では海外の投資が中国などに流れ出すと「ジャパンパッシング」とか言って大騒ぎするし、かといって海外投資ファンドがやってくるとやれ「ハゲタカ」だの何だのという訳で(ここの例え方は切込隊長の受け売り^^)、まぁ人見知りというのは言い得て妙でもあります。

「資金循環を考えると当たり前の現象ですけど」という説明も勿論福井総裁はしておりますので念の為付け加えます。


・で、その「ホームバイアス」に絡んで

「ホームバイアス」云々の中でこんな一節が。

『それ以前の世界経済、つまり国ごとにセグメントされた、つまり障壁の高い経済と比べますと、投資家が、あるいは事業家が国境を越えて最も魅力的な投資機会ということを探りやすいし、探り当てれば実行しやすい経済の仕組みに変わったということだと思います。そして、資本も自由に移動するということでありますので、生まれ故郷に資本がなるべくへばり付いていようとする、そういういわゆるホームバイアスというものも次第に薄れていって、勇気を持って国境を越えて資本が動くと、こういう経済になっているのが特徴でございます。』

言いたい趣旨は判りますが、「勇気を持って」ってのは何というかまぁ曰く論評し難い表現でありますな。何と申しますか・・・・・


と言うわけで、本日は手抜きドラめもんで恐縮ですが、福井総裁迷言集という事でまとめてみました(^^)。


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2004/11/17

○またまた参議院財政金融委員会

またも同じソースからのネタで恐縮なのですが、11月2日の参議院財政金融委員会での質疑応答は中々楽しめるものでありまして、まぁ既にあちこちで取り上げられているようでもありますが、一応ご紹介をば。

まぁこの質疑応答では福井総裁そこまで心情を見せていいのでしょうかって位に色々とお話をしているわけでして・・・・・・


・わざわざ地雷を踏まないようにしましょう

民主党の平野委員からの国債残高がどうのこうのという質問に対する福井総裁の迷答弁の一節。

『委員御心配のとおり、市場の中には国債の発行残高が非常にたくさん累積していると、俗な言い方しますと、地雷が一杯埋まっているような金融市場でありますから、そこは私どもの政策運営について、どういう考え方で運営していくんだと、もし変更があるとすれば、どういう、あらかたどういう考え方で変更していくんだということが事前にやっぱり理解が浸透しているということが非常に大事だというふうに思っています。』

まぁ「不良債権問題は峠を越えた」って何回峠がありましたっけと突っ込みをしたくなるような答弁(「国債発行残高が幾らあっても無問題」みたいな)をされてもそれはそれで困るのですが、わざわざ「地雷が沢山」と強調することも無いと思うわけですな。しかも国債発行残高問題はまぁ身も蓋も無い言い方をすれば現在の資金循環がサステイナブルであれば(そこが問題ですが^^)要するに「何とでもなる」類の話ですので、危機意識を持つなとは言いませんが、別に一生懸命煽る話でもないかと思うわけです。例として出すのは適当かどうか判りませんが、昭和金融恐慌で名を残してしまった片岡直温蔵相(失言が無くても銀行取付けは不可避だったと思うのですが)にならないようにご注意
ありたしって感じです。


・インフレターゲットを提唱する人への反感が良く判る一節

同じく平野委員の質問と福井総裁の答弁。

『この量的緩和政策に関連しましてもう一点お尋ねしますけれども、かつてマネタリストという、かつてというか今でもいるかもしれませんが、おられまして、量的緩和を進めればこれはデフレ脱却するんだと。(中略)ところが、量的緩和を進めて、なかなかこのデフレの脱却ができない。量的緩和自体は、もうこれは、かつて言われたデフレスパイラルなんて言葉は最近聞かれなくなりましたし、経済の落ち込みを防いだという意味においては本当に効果があったということだったと思いますけれども、どうやらこれだけではデフレ脱却の条件にはならないということがそろそろ明らかになってきたと言ってもいいんじゃないかと思います。』

『私の質問は、そのかつて言われた、いわゆる通常言われたマネタリストと言われる人たちが言ってきたことというのは余り当たっていなかったんじゃなかったかというようなことを言いたいわけですが、そこまで総裁は言い切れるかどうかということなんですが、総裁、どのように思われるでしょうか。』

まぁ同席している舛添要一さんへのあてつけなのか竹中さん(は同席してませんが)への嫌味なのか知りませんが、量的緩和政策の効果をレビューしろという質問にしてくれた方が質問としての質は良かったと思いますが・・・・・

『今、マネタリストという言葉でおっしゃいましたけれども、そういった金融と実体経済と結び付けながら理論立てを行っておられる方々、まあ学者の先生方中心に、私は理論的に整合性のある分析と物の言い方を一貫して私どもに提供してくださっているというふうに思っています。ただ、私どもは、現実の経済、そして現実の経済を構成している個々の企業、金融機関、そして我々個人、家計の行動というものを現実の姿として、そしてその人々は現時点、将来に向かってどういう心持ちで動いておられるかということをいつも認識しながら経済政策、金融政策をやっていく立場にございます。学者の先生からお教えいただいている理論が理論としてそのまま実現していくためにも、我々の現実の政策は、人々、企業、金融機関の行動に現実的な意識としてこれがうまく消化され、それぞれの行動に反映させていただくという大変厄介な過程を通さなければ実現しないというところに我々の悩みがあるわけでございます。』

あえて段落わけを原典と変えております事を申し添えます。というのはこの次がオモロイので。

『日本銀行が学者先生と同じことを申し上げて、人々は、実は大変な借金があるんだけれども、まあ日銀がそう言うんなら明日からこう動こうと、そういうふうに言ってくだされば我々は非常に楽なんですけれども、なかなかそうはいかない。』

最初に読んだときに茶を吹いて危うくキーボードを一つおしゃかにするところでした(^^)。答弁はこの後も続くのですが、以下省略ということで。。。。。

「この正直者!」って感じですな。実に素晴らしい(^^)。

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2004/11/16

○福井総裁と岩田副総裁の閣内不一致(岩田さんの糊代論)??

同じネタ元で引っ張りますが、本日も11月2日の参議院財政金融委員会の質疑応答から拾ってくる訳です。今日は小ネタですが。

毎度引っ張ってくるのでお馴染みの11月2日の参議院委員会で金融政策に関して岩田副総裁はこんな答弁をしておりました。質問者は公明党の西田実仁委員です。

(西田委員)『まあそういう意味で大変に難しいかじ取りの局面にいよいよ突入してくるわけでございますけれども、いわゆるこの出口戦略のところでお聞きしたいのは、先ほど来総裁がおっしゃっている、ゆとりを持った政策というお話をされました。これは岩田副総裁も前に御発言されておられましたけれども、いわゆるのり代論という、いわゆる安定的にをどう解釈するかという話で、一%ぐらいという具体的な数字も出されておられましたけれども、これの真意について副総裁にお聞きしたいと思います。』

いい質問ですな(^^)。で、岩田副総裁の答弁はこんな感じです。

『ただいまの委員の方から御指摘いただきましたように、私、今の日本銀行の量的緩和を継続するということについての三つの条件のうちの第二番目の条件でありますけれども、今後再びマイナスに戻らないようという、つまりもう一回デフレに戻ってしまうということはないんだということをもう少し明確にしていくことが望ましいのではないかと個人的には思っております。』

『これは委員の間でもいろいろな、例えば〇・三%ならいいのか〇・四%ならいいのか、いろいろな御意見あると思いますけれども、私は先行き、これは足下が基調的にゼロ以上というのは私はこれでいいというふうに思っているんですが、第二番目の条件、経済の先行きがどうなるのか、景気の持続性がしっかりしていて力強いものであって、一%を先行きは展望できるんだという、つまり再びデフレに戻らないということがはっきり確認できるということが重要じゃないかというふうに思っております。』

という事で、国会でも引き続き糊代論炸裂。まぁ総裁と副総裁の意見が違っていちゃあイカンという決まりはどこにも無いので無問題ではあるのですが、どうも量的緩和の出口が展望される頃になりますと、「総合判断」を行うにあたって岩田副総裁が「糊代論」を提唱して、総裁と副総裁という日銀執行部の票決が割れるという楽しい事態が発生しそうですな。ちなみに今までの発言から勘案しますと、糊代論を言い出しそうなのは岩田さんの他には中原審議委員ですな。福間さんはどっちだかわかりませんが、須田さんと田谷さん(と後任予定の水野さん)は糊代論は否定的だと推測されますのでご参考までに。

ちなみに質疑に続きがありまして、

(西田委員)『そうすると、それは、かつてその一%という数字を言われているわけですけれども、そういう水準でしょうか。』

(岩田副総裁)『そうですね。これ、私、先進国を見ましても、例えばアメリカの場合ですと、連邦準備制度理事会ございますが、これやっぱり消費者物価、具体的にはコアの、個人消費のデフレーターを見ていると私理解しておりますけれども、それが一%になったときにやはりデフレのリスクが相当あるということで、連邦準備は実は一%までフェデラルファンドレートを下げて、言わば超緩和政策を取ったということでありまして、国際的にも一%程度ののり代は必要ではないかというのは多くの御意見がある、そういった御意見をお持ちになる方は多いのではないかというふうに理解いたしております。』

まぁ何というか量的緩和政策のコミットメントを事実上骨抜き(緩和方向で)にする提唱をするというのも実に香しいお方でして、そんなら政策決定会合でコミットメントの変更を提案しやがれって思うのですが、中原伸之前審議委員のようにね。

で、こういう流れになれば当然次の質問はこうなるわけです。

(西田委員)『ということは、来年度の見通しは〇・一%、そんな単純じゃないんでしょうけれども、まだ来年はそういう出口戦略なりを考える時期ではないという御見解になるんでしょうか。』

ここでこれ以上岩田副総裁に喋らせるわけにいかないと慌てた(かど〜かは知りませんが^^)福井総裁が火消し答弁に入るわけでして(^^)、

(何故か福井総裁^^)『日本銀行全体としては、政策委員会で最終的にはこれで本当に再びデフレに陥るリスクはなくなったのかどうかということはきちんと判断しなければいけない。先週末にお出ししましたのは、(割愛)二〇〇五年度を走っているうちに、ある月は(引用者補足:「CPIが」)〇・〇かもしれない、ある月はマイナス〇・一かもしれない。しかし、平均してみると〇・一ということは、恐らく経済が自然な運行をしているとすれば、後になればなるほどプラスの確率が高くなり、場合によっては最終的には〇・一よりも高い数字になるかもしれない。場合によっては最終的には〇・一よりも高い数字になるかもしれない。平均して〇・一でございます。』

『そういう経過をたどりました場合には、来年度中か、あるいは来年度が終わって更にもう少し先に行ってか分かりませんが、蓋然性としては、我々は安定的にその消費者物価指数が〇%以上になるという段階を迎える可能性はあるというふうに、こう思っています。』

『そして、逆に、どこまで来れば再びデフレに戻るリスクがないかという判断をする場合に、委員によってはある数字を念頭に置いて議論される方もいらっしゃいますでしょう。しかし、ある人はもっとほかの要素で、もっと経済をいろんな要素を分析しながら断定しようというふうにお考えになる委員もいらっしゃるでしょう。それらを全部持ち寄って我々は最終判断をしたいと。』

『したがいまして、日本銀行全体としては、今持っております数字は来年度の見通しが平均としてプラス〇・一ぐらいというだけでございまして、それを超えていったときに新たな数字、数値的な目標で判断しましょうというふうなコンセンサスには今至っておりません。』

火消しご苦労様です。というか来年度後半プラスの確率高いって話ここでもしてた訳ですな。

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2004/11/15

お題「非伝統的金融政策はやりたくなかったのね〜」

何と申しますか日銀総裁ここのところへ来て絶好調というよりは一人で突っ走っているような印象を与えております。現実にCPIがゼロになってもいないのにそんなに量的緩和解除の話を熱心にするのは如何なものかって感じでして、金曜に申しあげたように、CPI時間軸のコミットメントがなかったらとっくの昔に「量的緩和解除モード」になっていたと思います。

景気の減速傾向が経済指標ででてきたり、有価証券報告書の虚偽記載がどうのこうのって話が何時の間にか飛び火してアイテー方面での架空売り上げ経常がどうのこうのという光景を見ていますと、速水総裁時代にアイテーバブルが崩壊している中でゼロ金利解除を実施した頃とダブるものを感じまして、CPI時間軸があって本当に良かったな〜と思うわけです。

そんな訳で最近の福井総裁という訳で木曜日にご紹介した参議院財政金融委員会での総裁答弁を見てみます。


○資産担保証券に関する驚愕の答弁

福井総裁就任以来の日銀は当座預金残高は大盤振る舞いで拡大するわ、資産担保証券の買取という施策をぶち上げて、当初は銀行の貸出債権を証券化したものまで買いますよって話までおっぱじめて、あたくしなんぞ「日銀はついに震災手形を復活させたか」と激しく嘆いた事を思い出すわけであります。

証券化市場に関しては日銀が「証券化市場フォーラム」なんかを作ったりして熱心に関与していたのですが、よくよく考えたらこの辺りの証券化市場がど〜のこ〜のって話は速水さんがやたら熱心でして、今にして思えば証券化云々は速水さんの遺産だったのかもしれませんが、それは兎も角として、大々的にぶち上げてスタートした資産担保証券の買入が全然実績が上がらずでして、その後日銀は買入資産の対象を緩和(緩和とは言ってませんが、実態ベースは緩和)し、「相変わらずやる気満々なのか・・・・・」と思わせてくれまして、この時も随分悪態をついていた記憶がございました。

ところが、11月2日の参議院財政金融委員会では福井総裁驚愕の発言をしているわけです。資産担保証券の買入スキームが全然機能していない事に関する民主党大久保勉委員からの質問に対してこのように答弁しています。

『詳しいことは担当の理事からお答えを申し上げますけれども、ポイントになりますところだけ私にお答えをさせていただきたいと思いますが、少しお言葉を返すようになって恐縮なんでございますけれども、資産担保証券の買入れ措置を決定しました直後から、私、たしか国会でも御説明申し上げたと思うんですが、これは、新しい市場に対して中央銀行がむしろ介入をしていく措置なので、余り多くの介入をすると健全な市場の発展を逆に妨げるリスクがあると。したがって、中央銀行はある決意を持って市場介入に踏み切るけれども、実際の介入は少なければ少ない方がいいと。それが口火となって人々が市場の中で出合いが円滑に付くようになり、市場の発展のその出発点が形成されれば、それが最も望ましい結果だと。』

『買入れ実績は、残高としては非常に小さくとどまっているというのは、私どもとしては理想的な姿にとどまっていると。実際、私どもがこういう資産を買入れ適格だと認定することによって、むしろ市場の中では非常に活発に出合いが付いているという状況でございまして、相当程度私どもはねらいが果たせつつあるんではないかというふうに思っております。』


○実は「見せ金」だったのか?

あたくしとしましては、日銀が所謂非伝統的政策を採用して何でもかんでも買ったり、企業金融に関与するような「震災手形」的政策に走るのはいかがなものかと相変わらず思っている人ですので、こういう話をしていただけますと結構安心しちゃうんですけど、確か資産担保証券買入スキームを導入する際には『資産担保証券市場を通じる企業金融活性化のための新たなスキームの提案』と謳っておりまして、まぁこの時点で企業金融活性化という施策を打ち出す必要があったのかは謎ですが、どちらかと言えば「量的緩和政策の効果が企業金融部門で目詰まりを起こしている」っていう「目詰まり論」からこの政策を打ち出した訳でして、そりゃ話が違うんじゃね〜のって気もする訳であります。

この答弁だけ見てますと、資産担保証券の買入スキームは何を隠そうただの「見せ金スキーム」であったという話になるようです。前任の速水さん時代からの流れもあったし、日銀に対するプレッシャーがどんどん拡大してなし崩し的に長期国債買入の野放図な拡大から国債引受に繋がらないようにする為に、このスキームを利用したという事だという話になりそうで。

と申しますのは、同じ大久保委員から財政問題と日銀の関わり(要するに日銀が財政ファイナンスに協力するのはケシカランという事のようですが)に関して「財投機関債を買う可能性はあるのか」という質問がありまして、その答弁でこんなお話をしております。

『少なくとも、現時点におきまして日本銀行が金融市場に潤沢な流動性供給を行っていく、このための手段として財投機関債を買い入れる必要というものは全く感じておりません。』

『将来どうなるかと。将来の可能性というのは全く今のところは具体的には想定できませんので、あらゆる可能性をこの段階で排除するというわけにはいきませんけれども、しかし、方向としては、先ほども申し上げましたとおり、デフレを脱却し、そして金利を中心とする本来的な金融政策の姿に戻っていくということを今展望しているわけですので、そういう展望の方向に沿って金融の姿がうまく展開していけるということになりますれば、流動性の供給の量はおのずと削減されていくということであります。つまり、日本銀行のバランスシートは小さくなっていくということであります。』

『銀行券につきましても、今非常に大きく膨れた状況でございますが、今後の金利水準いかん、そして金融システムの安定に対する人々の認識が更に強まっていけば銀行券の発行残高も落ちていくと。これまた日本銀行のバランスシートが小さくなる方向でございますので、財投機関債を買い入れなければ金融調節が全うできない可能性というのは今のところほとんど予見できないと思います。理論的にこれを排除して、初めからこれだけは排除してしまうという必要も感じないぐらい今は予見できないということでございます。』

という事で、中央銀行として手も足も出せない量的緩和政策をとっとと終了させたいってぇ話を福井総裁が熱心に行っているというのも注目されておりますが、このあたりの答弁を見ますと、福井総裁は実を言えば所謂非伝統的な金融政策に関しても激しく否定的であって、通常ベースの短期金利をターゲットにした金融政策に戻した暁には非伝統的金融政策はもうやんね〜よ〜ってなもんなんでしょうな。


○結局のところ自信満々なんでしょう

この参議院財政金融委員会での福井総裁の答弁を仔細に見ておりますと、やたら景気に強気でして、しかもデフレ脱却にも自信満々(先週のきさらぎ会での講演では尚パワーアップしてましたが)。おまけに本日ご紹介したように、所謂非伝統的政策に関しても過去の施策が骨抜きになるのも無問題と言わんばかりの勢いで答弁しておりまして、もうタカ派というか本来の日銀マン的発言が満載でございます。

まぁ就任以来資産担保証券は買うわ、当座預金残高は大盤振る舞いするわで、随分と「何でもあり」的な雰囲気を演出していた総裁ですが、ここへ来ての「日銀マン全開モード」を見ておりますと、就任以来の姿は「世を忍ぶ仮の姿」だったんでしょうか?って言いたくなります。確かに当時からそういう見方をしている人もおいででしたが、正直者のあたくし(^^)は「なんという無原則な総裁だ」と勝手に憤慨しておりましたが、実は作戦としての演出だった訳ですな。福井総裁恐るべし。

・・・・・と、いつものあたくしらしからぬ気味悪い褒めようですが、どっちかと言いますと、本音を出すのは本当にCPIがゼロ以上になってからの方が吉ではないかと思いますが。景気回復というかデフレ解消に関して自信満々なのが最近の強気発言に繋がっているのだとは思いますが、これで景気が腰折れしたら「言わなきゃ良かった」って事になるとおもうのですが・・・・・


ま、そんな訳で、当面は「日銀(というか福井総裁)の景況感」と「市場の景況感」のギャップが相場のかく乱要因になるんだろうな〜などと漠然と思っております。


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2004/11/12

○ますますタカの本領発揮のようですな

福井総裁がここの所絶好調のようです。昨日ドラめもんでご紹介した参議院財政金融委員会における答弁でも、景気に関するお話ではもう景気回復絶好調〜!って感じでしたが、昨日の講演およびその後の記者会見でも景気に関してはチョー強気だったようです。

講演のほうは既に内容が日銀のWebに乗っていますが、概ね「展望リポート」の内容に即したものとなっているようです。それよりも好調だったのはその後の記者会見だったようでして、例によって記者会見内容が日銀のWebにアップされてないので、報道を脳内メモリーから書き出しますと曰く、

「12月の展望レポート中間レビューで景気の見方を下方修正する可能性はゼロだと確信している」
「今のCPI見通しからすれば来年度後半には消費者物価のゼロ%以上が達成できるのではないか」

みたいな感じでして(正しくは日銀Webをご覧下さい。正確性については担保致しかねます)、まぁとにかくここへ来て強気モードに益々拍車が掛かりまして、今まで猫をかぶっていた福井総裁もセントラルバンカー本来の面目躍如と言う感じです。


ま、こうなってきますと、政策の枠組みに「CPI時間軸」っていう「ビハインド・ザ・カーブ強制装置」が組み込んであるのが効果を発揮して来るわけでして、フォワードルッキングな金融政策をやっていたら今頃既に「すわ量的緩和政策解除」って騒ぎになっていたかと思います、まぁその装置があるから安心してタカ派全開モードになっているのかもしれませんが。


このあたりに関しては改めて纏めます。本日は激烈マーライオンなので簡単メモで恐縮です。

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2004/11/11

お題「いろんな意味で読みごたえのある会議録」

11月2日〜3日にかけて参議院財政金融委員会で「財政及び金融等に関する調査のため」という事で、日銀からは福井総裁、岩田副総裁や理事3名が参考人として出席して質疑と言うか議論が行われておりまして、この時の福井総裁の景気に関する強気スタンスが報じられてちょっと話題になっていたことは記憶に新しいかと存じます。

で、その時の会議録が参議院会議録情報にアップされましたので、これを読もうとしたわけですが、全編に渡って福井総裁を始めとして日銀に対する質疑応答が連発しておりまして、読んでいるだけで結構なボリュームになります。という訳で、今日は11月2日分(質疑を紙に打ち出すと33ページになる)の前半3分の2くらいまで何とか読んだので、そのあたりから適当にご紹介したいと思います。なお、当該会議録は参議院Web(http://www.sangiin.go.jp/)から「会議録検索」→「財政金融委員会」から検索できます。

○「デフレ脱却にインフレターゲッ」ト論者の限界か

自民党からの質問者はお馴染み舛添要一先生です。インタゲというよりはもう日銀は実物資産でも何でも買えやという話をするお方で、昔のバーナンキ先生の影響を受けているのでしょう。肝心のバーナンキ先生はFRBの理事になってからすっかり普通の事しか言わなくなっているというのはまるで気にしていない所が実に香しいのですが。

基本的に質疑がやたら長いのが難点なのですが、変に割愛するのも何なので舛添委員の質問からまる引用です。まぁこのあたりがはしなくも「インフレターゲットを導入してデフレを脱却しましょう」論者(=インフレ抑制の為にインフレターゲットを導入するという話とは本質的に違うという点にご留意ください)の限界を示したのかな〜と思わせてくれました。

以下舛添さんの質問。

『次に、デフレをどう克服するかということについて議論したいと思いますけれども、この点に関しては、日銀もいつどこでと、これ明確に言えない状況だと思いますし、依然としてデフレは続いていると思います。』
 
『そして、その政策手段として、これは私どもがずっと日銀を批判してきたことでありますし、私はやっぱりインフレターゲットということをもっと明確に掲げるべきであるということをずっと申し上げてきました。』

『ただ、消費者物価、このCPI、全国規模で生鮮食料品を除いて前年比上昇率が安定的にゼロ%以上となるまで継続するということですから、ある意味でこれはもうインフレターゲットだと私は見て、それでしようがないかと、しようがないかというか、ないよりはいいと。』
 
『ただ、私の立場からいうと、今の段階でも二とか三とかいう数字をやってくれていればもっとうまくいったし、今でもそうじゃないかなという感じがするんですが、出口論との、いつこの量的金融緩和をやめるかという出口論との関係もありますが、この今の私の考え方に対して、総裁、どういうふうにお答えになりますか。』


第3段落まではまぁ良いとしまして、最後の段落の質問のあたりが要するにインタゲ導入しろやゴルァという訳ですな。ところがこの最後の段落で舛添先生が仰せなのは、現在の量的緩和政策のコミットメントであります「CPIが安定的にゼロ%以上になるまで量的緩和政策を行う」という「ゼロ%」を「プラス2%とか3%」にしたらより早くデフレから脱却できるのではないかという意見であるとしか読めない訳です。

現実問題としてデフレ絶賛継続中(というか物価が上がらないというのが現在をあらわす言い方としては正しいわけだが)なのですが、コミットメントの数字をゼロからプラスなんぼかにしても、結局日銀が打てる手は同じようなものな訳ですから、ど〜考えてもその数字をプラスなんぼかにしても結果は同じであろうかと思うわけです。

「デフレ脱却の為にインフレターゲット政策の導入」という政策提案をする人が世の中結構多くて、なぜだか知りませんが官庁系のお方(経済官僚のキャリアのお方なんかは特に)に多かったりするのですが、この人たちの最大の弱点は「じゃあ具体的に何をすればいいのよ?」という質問に対して処方箋が出てこない所です。苦し紛れに出してくる処方箋は大体が本質的に「ヘリコプターマネー」だと言うところが如何なものかと思いますな。


ちなみに、福井総裁の答弁もやたら長いのですが、インフレターゲットに関する部分だけ抜粋しますとこんな感じです。

『委員御指摘のとおり、私どもは、いわゆる明確なインフレーションターゲティングの政策は取っておりませんが、取りあえず物価が下落し続けるという異常な事態から脱却するために消費者物価指数がゼロ%という、これは私は一つの通過点と申し上げております。通過点において明確なターゲットを掲げ、そして人々の限りなきデフレ心理というものを修正しながら、つまり限りなく物価が下がるんだというふうな、そういう期待は修正しながら、そして企業、金融機関の構造改革努力を背後からサポートして、とにかくおっしゃるとおり出口に早く到達して、出口の後の正常な経済運営、そして金融政策の運営の局面に早く移りたいと、こういう作戦を取っているわけでございます。』

『私自身は、インフレターゲティングというものは、いつも申し上げておりますとおり、中央銀行の政策手段の一つの重要な選択肢としてこれを一度も排除して考えたことはございません。将来もしあり得るとすれば、局面に応じては一つの選択肢として十分考えたい、本当にこれが採用できるかどうか。米国の場合にも、やっぱり連銀はなかなかインフレターゲティングを採用しておりません。世界経済の中で非常に重要な位置付けを占める通貨の、通貨政策の場合に、その透明性を上げるという要素とフレキシビリティーを保つという要素、この利害得失の関係を最終的にどう判断するかという難しい問題が残っているというふうに思っています。』


「デフレ脱却の為に行うのではなく、インフレ抑制という意味でのインフレターゲットは検討に値する」という総裁の答弁は何度も聞いて(見て?)おりますのでお馴染みではあるのですが、ひところ情報ベンダーからは「日銀総裁インフレターゲット導入も選択肢と語る」みたいな言い方をされて「???」という印象を与えてみたり、「すわインタゲ導入」などという動きをされてみたりしておりましたが、さすがに最近はこの福井総裁の言い方も世の中で周知されているようです。


○オモシロ質問というかトンデモ質問というか

1回分の多分3分の2位の質疑応答というか論戦をざーっと読んだのですが、色々な面白い応酬がありまして、何といいますか激しく楽しめます。特に今回は質問する側も自信満々で登場しているようですので大変に結構です。

とは言いましても何か激しくスカタンな質問もある訳でして、本日は(この会議録は正直小ネタの宝庫という感じですので、またネタに使う可能性大^^)質問者の方にのみ注目してイチャモンをつけてみましょう(^^)、という事で「そりゃ何ですか〜」って質問列伝をば。

・舛添要一委員(自民党)

『それで、最初、お札の経済学のような話をお伺いしたいんですけれども、低金利でたんす預金が非常に増えていると思いますが、日銀総裁、どれぐらいたんす預金あると思われていますか。』

→この先の質疑応答を見ても意味がある質問とは思えん。ちなみに福井総裁も『たんす預金というのは、厳格に言いますと本当にたんすの中に入っているお金ですので正確にはつかめませんが』と返しながら銀行券発券残高の話をしてました。ちなみに舛添先生この後に続けて質問というか意見を言ってますが、

『この新札発行を機にたんす預金が外に出て少し世の中の金巡りがよくなるんじゃないか、そういう意味でマネーサプライ増えるんじゃないかと、こういうふうに期待していますけれども、そういうことはございませんかね。』

→言いたい意味はわかりますが、たんす預金が外に出てきてもマネーサプライに変化は無いとおもいますが何か?

で、まぁ新札発行だのマネーサプライだのの話を延々としているのですが、こんな質問をしても答えられないというか、そもそも新札発行は経済対策でも何でもないのに何を聞いているのでしょうって質問もありまして・・・・

『それと、この新しいお札はサイズは前のと同じなんで、自動販売機なんかを総取替えということはないと思いますけれども、少なくともソフトを替えないといけない。そうすると、この内需拡大効果というのは、総裁、どれぐらいになると見通しておられますか。これも難しい質問ですが、お見通しで結構です。』

→お見通しも何も答えようが無いので、総裁は一般論でかわしていました(^^)。

で、この話の続きでマネーサプライの伸びが2%台なのは少なすぎでケシカランという話になっていくのですが、その辺は割愛します。ちなみに話は逸れますが、その流れの中で日銀総裁の景気強気発言として注目された「銀行貸出はこれから増加に転じる云々」の発言もでていましたが、会議録を見る限りではどっちかというと話の勢いで強気カンカンの発言をしちゃいましたって印象をうけました。そのほかにも舛添さんとの質疑の中では景気見通しの話なんかもあったのですが、やはり総じて言いますと日銀の公式見解というか展望リポートの内容に即した強気の見通しになっています。

で、どうでもいいのだが舛添先生そんなこと聞くなよな〜っていう質問が。

『アメリカ経済についてですけれども、正に今日、アメリカ大統領選挙ということでありますが、ブッシュさん勝利の場合は、これは基本的な政策、継続すると思っていいんでしょうが、ケリーさんになった場合に、例えば最悪のシナリオを描きますと、ドル安に意図的に持っていく、したがって日本の輸出に対してマイナスのダメージを与える可能性がある。ドル安、裏は円高ですから。これどちらが勝つかはなってみないと分かりませんが、仮にケリー政権となった場合に、日銀総裁としては、こういうことになったら困るなとか、こういう政策を取ることは懸念だなということを他国の内政に干渉しない範囲でお答え願いたいと思います。』

→そんな答えようの無い質問をしないように。しかし福井総裁の偉いな〜と思えるところは、このようなしょうも無い質問に対しても丁寧に答弁しているところでして(といっても結局何も答えてはいないのですが^^)、これが別人だったら「誰が当選したら良い悪いというようにとられるような質問についてはお答えできません」と言ってもおかしくないかと。


・平野達男委員(民主党)

こちらの先生は延々と量的緩和政策のコミットメント部分に関して同じような質疑を長々と繰り返していまして、まぁ質問全体が「この人何でここまでしつこく同じ事を聞いてるんだ」って感じです。とにかく引用しているとアホのように長くなってくるのでどれがどうという話は今日は割愛ですな。総裁の答弁の方が面白かったり示唆に富んだりしているのですが(^^)。


・大久保勉委員(民主党)

某外資系証券のマネージングダイレクターから候補者公募で当選したお方だと記憶しておりまして、まぁ民主党お得意の「専門家」ってお方なのですが、頼むからそんな事聞かないでくれという質問が爆裂するわけです。

『まず、日本銀行のバランスシートに関して質問します。この五年間で日本銀行のバランスシートが二倍に、そして過去十年間では三倍に膨れ上がっています。具体的な数字を申し上げますと、一九九八年が八十兆、これはGDPの一六%です。これが二〇〇三年では百五十兆、GDPの三〇%になっています。国際比較をしますと、米国連銀は七%、欧州中央銀行一二%。この数字に比べても極めて日本銀行のバランスシートが急激に拡大している、また絶対的な金額も大きいと。このことに関して日本銀行総裁に質問します。』

『日銀の資産のアセットサイド、資産の七割が国債ということに関して、日本銀行が事実上、政府の国債管理政策に組み込まれていると、こういった懸念があります。また、このことによりまして政府の財政の規律をそいでいると、こういう指摘もあります。このことに対して総裁はどのようなお考えでしょうか。』

もうね、アホか馬鹿かと。量的緩和政策で日銀当座預金残高を拡大しているのだから、日銀のバランスシートが拡大するのは当たり前であって、日銀当座預金という負債サイド(銀行の預金は銀行から見れば外部からの債務ですな)が拡大している反対側の資産サイドが国債なのがどこがどう悪いのかと。一番安全じゃねーのかと思うわけでして、日銀当座預金の見合いがどこの馬の骨ともわからない所への貸出だったり、どこぞの原野だったりしたらそっちの方が危ねぇじゃねぇかと小一時間問い詰めたいところです。

総裁もこうとしか言いようが無いわけでして、

『日本銀行のバランスシート、資産、負債ともに非常に大きくなっておりますのは御指摘のとおりでございます。これは、ひとえに、量的緩和政策によって市場に流動性をたくさん供給する政策目的から結果として起こったことでございます。市場にたくさん流動性を供給するということは、市場の中から日本銀行が資産を買い入れて、対価として流動性を供給すると、こういう形になるためでございます。』

多分「お前はそれでも某証券のMDかよ」って言いたかったでしょうな〜。で、この話の流れで総裁も言わずもがなの話をする訳で、その答弁の部分がフラッシュとして打たれてしまいました。

『様々な資産を買っておりますけれども、おっしゃいましたとおり、長期国債の金額も非常に大きく増えていると、このことは確かでございますが、今申し上げましたとおり、これは政府の国債管理政策の一環として行っているわけではないと。ましてや、先ほどからも御質問に出ておりましたけれども、長期金利を経済の実勢以上に人為的に低く抑えると、あるいは抑え続けるということを目的にやっているものではございません。』

その通りなのですが、別にそこまで言う必然性があったのかと。今年2月に量的緩和政策の効果について「金利に蓋をする」と言ったのと同じものを感じる次第です。



#延々と書いていたらもう一つのネタであるFOMCステートメントの話を書く暇が無くなってしまいました。基本的な枠組みは変らず、景気には依然として強気であります。

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2004/11/04

お題「総裁記者会見の続き」

火曜日の続きの前に参議院での福井総裁答弁について少々。

先日のドラめもんでも「国会は鬼門?」などというお題で福井総裁の「原稿が無い発言」の危なっかしさについて申しあげましたが、どうも火曜日の参議院財政金融委員会で福井総裁またもお得意の訳の判らん発言を連発していたようで、10年国債の入札をやっている日だという認識はこのお方には無いのでしょうな〜と感心する次第であります。普段から言ってる「市場との対話」といい言葉の意味が判っているとは到底思えないそのやんちゃぶりに乾杯です。

どうも岩田副総裁も国会に出席していたようですが、情報ベンダーで出てきたのは福井さんの答弁でして、何だか以前「金利に蓋をする」とか「長短金利を出来るだけ低いところで安定させる」とか言っていた話(これも余計な発言ですが)と思いっきり違う話をしてみたり、相変わらず「金融機関の国債保有のリスクが大きい」などと、金融財政政策の必然として発生する国内金融機関の国債保有を金融機関のせいにするかのような香しい発言もしておりまして、相変わらず「結論先にありき」で事実関係を並べている傾向に有るのが気にかかるところであります。

では火曜日の続き。

○金融政策運営のお話:「金利と量」談義

久しぶりに「金利と量」の問題に質問が。

『(問)今年7月の総裁の講演の中で、「米国と比べれば日本の場合には過剰流動性の吸収と金利の引き上げということが必要だ」ということを言われたかと思うが、過剰流動性の吸収と金利の引き上げに関して一緒にされるというお話をしていなかったかと思う。総裁が考えられている今の量的緩和というのはゼロ金利と一緒のものなのか、それとも違ったもので考えていらっしゃるのか。これは、流動性の吸収と金利の引き上げが同時に行われなければならないか、別々でも構わないかということと関係するかと思う。その点についてイメージでも構わないので伺いたい。』

長いお答えなので途中にあたくしの能書きを入れます。

『(答)ご質問の趣旨をもし私が正しく理解しているとすれば、米国は量的緩和政策をとっているわけではないので、金融政策を急いで変更するか、あるいは余裕をもって変更するか、いずれにしても金利を中心に物事を判断していけば良い。日本銀行の場合には量的緩和政策をとっている。過剰流動性というおっしゃり方が適当かどうかという問題はあるが、いずれにせよ政策目的をもってたくさんの流動性を市場に供給している。より正確に言えば、所要準備額をはるかに上回る流動性を供給している。』

ここまでは量的緩和政策の説明みたいなものですが、この中で「過剰流動性」などという用語を使っているのが、福井総裁の「本音」を現しているようにも見える訳でして、まぁ「過剰流動性」って言葉にはネガティブな語感を伴うと考えるのが普通ですから、こうなりますと「福井総裁は量的緩和政策をケシカランと思っているんですな〜」って思惑を生むわけで(つーか多分そうなんでしょうが)、金融政策の枠組み自体が「CPI時間軸」というのを組んでいる状況下で「本音」もへったくれも無く、余計な思惑を生むだけ無駄な「意思表明」ではないかと思うのですが、ど〜なんでしょうな〜。

『もしも今の政策の枠組みを変更するということになると、流動性を吸収していく、つまり所要準備に対して非常にたくさん供給している流動性を吸収していかなければならない。その場合、先行きの金利について、そのレベルを次第に念頭に置きながらやっていくことになるのではないか、ということを一般論として申し上げた覚えがある。つまり量と金利というのは別々でないといつも申し上げている通り、量の調整を始めるとマーケットは先行きの金利感をいろいろ修正しながら金融調節の意味合いを受け取ろうとするであろう。政策を行なうほうも、政策を受け取りマーケットでマーケット・コンディションズを造るほうも、量と金利についてある種の立体構造を持って、共に行動し始めるわけである。』

前回と同じ「量と金利はコインの裏表」という認識です。こういう風に言われるとまぁ判り易いのではないかと思いますが、「量的緩和政策を解除した後にゼロ金利政策を取る」といういわゆる「2段階解除論」は技術的には可能ですが、結局ゼロ金利政策を実施するためには一つ前の総裁発言にあるように「所要準備額をはるか(でなくても良いのですが)に上回る流動性を供給」する事が必要ですので、結局やっている現象は量的緩和政策と同じになる訳です。

という真面目なお話の他に気が付いたのですが、久々に総裁お得意の「謎の英語」が爆裂しておりまして、大変にご機嫌が麗しいのではないかと思わせてくれて実に心が和むものがございます。だから火曜日も国会で妄言じゃなかった名調子が炸裂したのでございましょうな。

「政策を受け取りマーケットでマーケット・コンディションズを造るほう」って何だよおい。

・・・・気を取り直して尚も発言は続く。

『従って、量と金利を一体的に考えながら、しかも、現在と将来にわたるダイナミックな構造の中でそれを考えながらやっていかなければならない。市場のほうもその作業をやっていかなければならない。そこは単純に金利水準だけというよりは、より幅の広いものの考え方、市場の受け取り方の中での対話が必要になる。そういうような趣旨のことを一般論として申し上げたと思う。その点は今も同じである。』

なにを言いたいのか判りませんが、どうも市場との対話を良くやりましょうと言っているらしい。しかしどう考えても市場をちゃんと判っていると思えない中で自分は市場との対話を一生懸命やっていると思っている所が実に痛い所であります。困ったもんだ。


○金融政策のお話:「市場との対話」

『(問)市場参加者に対する具体的な説明等を工夫していくとのことであるが、もし具体的なイメージが今あれば教えて頂きたい。今の3条件等に加えて、今後、どのような工夫の余地があるのかについて、現段階でのアイデアを伺いたい。』

『(答)別にそう突飛なことを今の段階で考えているわけではない。経済が停滞を続け物価もずっとマイナスといった先行きの展望が開けない時期と違って、今回の展望レポートのように、先行き明るい方向性が少しずつ見えてきたというレポートを出したからには、このシナリオ通り刻々と経済が推移しているかどうか。どこかで変調──より良い方向とより好ましくない方向と常にリスクというものは上振れ、下振れ両方あるが──を来していないか。今日お示しした標準的シナリオを軸に、より良い方向に行っているのか、シナリオ通り行っているのか、あるいは、どうもシナリオとは違う方向に行っているのか。それから、経済と物価との関係で、先程からもしつこく申し上げているように、生産性の動向や賃金の調整の状況といった、事前には非常に読みにくい要素──米国の連銀も今この辺の読みに一番苦労しているわけであるが──について、我々の予測の範囲に何かが入ってきたかどうか。この範囲に入ってきたことが標準シナリオに対して影響のあるものかどうか。こうしたことを、金融政策決定会合後の記者会見の機会であるとか、あるいは、3か月毎に行う中間レビューといったものにより、持てる材料をできるだけ解りやすく差し上げていきたい。基本的にはそれを念頭に置いている。』

途中の上振れ下振れどうのこうのという説明が妙にくどいので文章が長くなっておりますが、まぁ折に触れて展望レポートの標準シナリオからの乖離について情報発信したいって事なんでしょうか。まぁ審議委員の皆様がせっせと講演なんぞをするのも宜しいかとは思う訳ですが、どうせやるなら9月のように一時期に集中させる必要も無い(展望レポート前に審議委員それぞれの言いたい事を言わせたという事なのでしょうが)と思いますな。

『表現形態やコミュニケーションの仕方について特別の道具立てが要るかどうかは、どのような材料を説明しなくてはならないかによってその都度考えていくが、今申し上げたように、普通に考えていくと、毎月、それから特に3か月毎の中間レビューの時に、今回お示しした標準シナリオ、その方向性とその背景にある生産性の動き、賃金調整の動きを、経済のスピードと経済の動くメカニズムの両面から、なるべくきめ細かい情報を提供したいというのが主眼である。』

特別の道具立ては必要ないですが、訳の判らんというか誤解を招くような表現やら本音の表明をするのは控えて頂きたいと切に願いたいものであります。

しかし何ですな。別にこの程度の一般的なことでしたら、市場との対話がどうのこうのとかいう話をわざわざ持ち出すまでもなく、強力な独立性と権限を保持している中央銀行として当然行うべきことでありまして、わざわざ展望レポートに『日本銀行としては、(中略)金融経済情勢に関する判断や金融政策運営に関する基本的な考え方を丁寧に説明していく方針である。具体的な説明の内容や方法については、さらに工夫を重ね、市場参加者が金融政策の先行きを予測する上で参考になる基本的な判断材料を適切に提供していく。』 などと書く事かいなと思いますな。まぁいいけどさ。


○財政再建問題にやたら熱心な総裁

まぁ参議院財政金融委員会での発言(情報ベンダーからの脳内メモリーベースなので引用しませんが)だの、上の方で言っているような「過剰流動性」発言なんぞを見ますと、福井総裁としては量的緩和政策をお嫌いなようですな。つーか普通のセントラルバンカーなら現在の手も足も出ない金融政策状態が好きな訳は無いのですが。

で、嫌いな量的緩和政策の出口が少しだけ見えてきたような気がしてきたし、さすがにもうデフレスパイラル方面への懸念も無いでしょうって状況になってきた最近になって、とうとう福井総裁今までの鬱憤を晴らすべく「俺様が散々やりたくもない量的緩和政策をやったんだから今度はてめぇらが財政健全化を推進しやがれこの野郎」といわんばかりの勢いで財政再建問題を力説。実に人間的な総裁様でございますな。

今回の記者会見は紙に打ち出しますと9ページになるのですが、本来日銀と関係のない財政再建問題に関する質疑応答が概ね2ページちょとの場所を占めておりまして、福井総裁の財政再建問題に掛ける意気込みが判ろうかというものです。別にそこまで気合を入れてもしょうがないと思うのですが。

何せ2ページ分もある質疑応答なので、引用していると終わらなくなるのですが、例によって例の如くお得意のサービスフレーズを炸裂させていたことについて突っ込まれている部分を一部引用します。

『(問)財政制度等審議会において総裁は「財政健全化は大事だ」と言われ、「マクロ経済環境の安定を維持するのが重要でそれに日銀として貢献していく」と言われたが、例えば定率減税の廃止ということは短期的には経済の下押し圧力になると思うが、そういうところは日銀が量的緩和を続けることで景気の下支えをやっていくということと受け取って良いのか。となると今まで言われている3条件にプラスして4条件目として、財政健全化をある程度サポートするために時間軸を延ばすという解釈も成り立つと思うが、その点について伺いたい。』

これはよくよく考えたらこの発言は原稿が用意されてたような気もするので、お得意の「サービス発言」とは違うような気もしますが、それは兎も角としてまぁ上記のような質問が出てもおかしくはありませんな。

『(答)今のご質問に対しては、そういう足し算引き算という観念は、私どもは一切持っていないということである。 財政審で私が強調して申し上げたのは、長い目でみて財政規律を高めていく。そのことが国民の将来の経済生活にきちんと生活のリズムとして取り入れられていく。逆に言えば、政府に対する信認をより高めながら、財政規律が自然に確立していくような方向を目指すべきだ。』

という事でお得意の一般論だという事になる訳ですが、そんな当たり前の一般論を言うのにわざわざ「日銀が貢献」云々とかの文言を加える必要はないと思うんですな。そういう事を言うから上記質問のような解釈が発生する余地が生じる訳でして、そういう意図が無いのであれば一々余計な文言を加える必要は無いと思います。

確かに現実問題として量的緩和政策の国債消化への貢献は甚だ偉大なものがありますので、プライマリーバランスの改善をしないうちに量的緩和政策が解除されるというのも中々寒いものがあるというのは言えるのですが・・・・・

で、中間に何を言いたいのか意味不明(気持ちだけは伝わってくるのですがね)な部分がありまして、全部引用すると話がややこしくなるのでその辺は割愛しまして、引用します。

『金融政策の面からみれば、財政が経済にある負担をかけるからといって、その部分を金融政策で相殺する方法というものはない。将来に対する国民のイメージが悪ければ、相殺する方法はない。(中略)目先、経済に負担がかかるから金融政策でこれをオフセットしようとしても、何事も実現しない。(また中略)日本銀行は、そういう足し引き計算による金融政策を行うつもりは全くない。 』

じゃぁ「日本銀行が貢献」って何に貢献するんだよと小一時間問い詰めたくなるような発言でございます。要するに政府債務を減らせこのヤローと言いたいらしいですが。で、省略した中で何だか面白い発言がございます。

『市場の中に累積している国債発行残高が、国民が将来の経済をみる眼の不安を映し出す鏡になった場合には、いくら日本銀行が適切な金融政策の運営を図ろうとしても、正しい市場金利の形成はできない。』

「不安を映し出す鏡」とはアレな発言でして、「戦は負けと思った瞬間から負けになる」というのと同じでして、日銀総裁御自らがそういう事を言い出すのは如何なものかと思う訳です。そう思うのは大変に結構なことではあるのですが。で、その後に続く「正しい市場金利の形成」って何だよって感じですな。確かに市場ってのは年がら年中オーバーシュートしますので「何じゃコリャ」という値段を叩き出すのは得意技ですけど、「政府債務への懸念を反映した市場金利の形成」が「正しい市場金利の形成」じゃないと言われるとそれはあんた何いってるのよって感を強くするものであります。


という事で、思いのほか長くなってしまいましたが、どうも景気回復への確信とデフレ脱却の確信をお持ちであろう福井総裁に置かれましては、本来のやんちゃ振りがどんどんと発現しだしているのではないかと思うわけでして、何だかちと懸念されるところでございます。

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2004/11/02

お題「力の入った総裁記者会見」

というわけで昨日の続き。先週の金曜日の金融政策決定会合でいわゆる展望レポートを発表したこともありまして、記者会見の時間も約55分と金融政策決定会合後の記者会見としては割と長時間(ちなみに前回は25分でその前は35分)でして、結構気合の入った雰囲気が伝わってくる記者会見要旨であります。

http://www.boj.or.jp/press/04/kk0411a.htm

今回の記者会見で話題になったのは「展望レポートにあった『余裕を持って』という文言の意味は?」「審議委員のCPI大勢見通しがゼロ以上になっている事は量的緩和解除の条件の一つを満たすのか?」「今後の金融政策運営(というか情報発信をどうするの?って話とか)」と、ここもと総裁が力を入れて発言している「財政再建問題」に関してというところでした。財政再建云々の話はとりあえず置いておきまして(つーか後日)、最初の2点に関する質疑応答を見ていくことにしましょう。


○「余裕を持って」ってなんですか〜??

まずこの点についての一発目の質疑ですが、昨日ご紹介した日本語版ロイターの記事の引用とまぁ同じ内容ですが、念のため引用します。

『(問)展望レポートの中の金融政策の先行きに関する部分で、「余裕をもって対応を進められる可能性が高い」という表現があるが、これはどのように理解すれば良いか。』

『(答)まずその前段で「2005年度内に現在の金融政策の枠組みを変更する時期を迎えるか否かは明らかではない」と述べている。2005年度内か、あるいはそれより少し後になるか、いずれにせよ変更の時期を迎えることになるだろうけれども、そういう場合の今後の金融政策運営については、言うまでもなく、先行きの経済物価情勢に依存する。従って、極めてオープンであるが、展望レポートで述べている一種の標準的な見通し──いわゆるメインシナリオ──では、経済もゆっくり持続可能な成長過程に移っていく中で、物価面は、生産性の向上を基本的な背景としてそれほど急激に反応するという状況でないかたちで推移していくとしている。』

『このように経済がメインシナリオ通りにいくとすれば、2005年度内であれ、2005年度を過ぎてからであれ、枠組みを変更するような場合にも、それほど慌てないで余裕をもって対応を進められる可能性が高い、ということを申し上げている。』

発言を恐らくそのまま紹介したロイター日本語版の記事と会見要旨として纏めた日銀の公式発表みたいなものとの違いも興味深いですが、基本的に昨日紹介した記事と同じ(当たり前だが)ですな。引用に際して段落を敢えて区切りましたが、要するに後半部分が肝。

そうなりますとこういう質問がでてくる訳で。長いので話の趣旨から考えて重要なところで段落切りますのでちょっと細々となることをお断りします。

『(問)そうすると当面ではなく、2005年度、2006年度などを含んだ中期的にも量的緩和の枠組みが続くということか。』

『(答)そういうことを言っているわけではない。どのような時点で──2005年度内かあるいはちょっと過ぎてからか良くわからないが──現在の緩和の枠組みを変更し、どのようなペースで、例えば流動性の吸収を図るとか金利主体のレジームに移っていくとかについて、適切に判断していこうということである。』

『適切に判断していく場合に、今の標準シナリオ通りに経済・物価が推移していくとすれば、息せき切って対応するというよりは十分余裕をもって判断しながらできるのではないか、ということを申し上げているのである。』

先ほどの質疑の肝の部分と同じことを改めて強調しています。なお話は続く。

『その後に、「もとより、日本銀行としては、今後の情勢変化に応じて適切かつ機動的に対応するとともに、金融経済情勢に関する判断や金融政策運営に関する基本的な考え方を丁寧に説明していく方針である」という箇所がある。これは、我々が今申し上げた標準的シナリオ一本だけを考え、他の可能性を一切排除しているというわけではない。標準シナリオ以外のシナリオというものの可能性が見えてくるような場合──これが「今後の情勢変化」ということである──には、それはそれで必ずしも余裕をもって対応を進められる場合だけではないということがある。』

『従って、金融経済情勢に関する判断とか政策運営に関する基本的な考え方は、その都度丁寧に説明していく必要があるし、急に人々を驚かすということではなくて、十分予見性をもって、具体的な説明の内容や方法に工夫を重ねていく、という趣旨がその後の文章に繋がっている。』


展望レポートの中でわざわざ『今回の展望レポートの見通しのもとでは、2005年度内に(中略)現在の金融政策の枠組みを変更する時期を迎えるか否かは明らかではない。』と記述していた事に関して昨日のドラめもんで「CPIの大勢見通しプラスに過剰反応しないように敢えて入れたのではないか(量的緩和政策のコミットメントを真正直に解釈すれば自明なのだが、市場が正しく解釈するかが今までの実績からすると怪しいので)と申しあげましたが、どうもこの辺の質疑を見ておりますと、この「余裕を持って」というのも似たような効果を期待して入れた文言ではないかと推測します。

と申しますのは、よくよく見ると今後の情勢変化によっては『それはそれで必ずしも余裕をもって対応を進められる場合だけではない』って総裁は言ってる訳でして、必ずしも量的緩和解除を無闇矢鱈と遅らせると言っている訳ではない訳ですな、これがまた。

と言う訳でして、あたくしの解釈した結論を申しあげますと、この「余裕を持って」っていうのは「標準シナリオの範囲内で動いている現状では量的緩和継続だからCPI大勢見通し+0.1%で驚いて先走りするな」というメッセージ以上の意味はなさそうですわな。まぁおまえらもちつけということで。

実は質疑後半の方で「良く判らんからもっと説明してくれ」という趣旨(もっと丁寧な聞き方です、念の為^^)の質問があって、物凄い勢いで総裁が懇切丁寧に答えているのですが、どうもあたくしの解釈通りの話をしているのではないかと思われます(正直、説明が長すぎて却って話がややこしくなっている)ので、興味のある方は日銀のWebPageからご覧下さい。



○量的緩和政策解除の条件の一つを満たすのか?

となりますと、質疑の方向は「大勢見通し+0.1%」になるわけですが、

『(問)今回の展望レポートでは、CPIの中央値が0.1%ということで、半数の委員がプラスを予想されたわけであるが、これは「安定的にゼロ%以上」という状況ではないということなのか。』

『(答)昨年10月に安定的にゼロ%以上というものを因数分解して3つの要素に分けた。すなわち、(1)現実のCPIの前年比変化率が基調的にゼロ%以上になること、(2)再びデフレに戻らないという意味で先行きのCPIの前年比変化率見通しがゼロ%を超えていること、(3)経済物価情勢をさらに広く判断する、ということである。今回、政策委員の多数のCPI見通しが若干のプラスになったが、CPIが安定的にゼロ%以上になったという判断にはまだ繋がらないということだと思っている。』

と言う訳で、一応量的緩和解除の条件のうち(2)を満たしているという話にはなっているような答え方。質疑はなお続く。

『(問)例えばCPIの上昇率が0.1%や0.2%である場合に、「安定的にゼロ%以上」という判断をすることはありうるのか。』

『(答)(1)現実のCPIが基調的にプラスだとその数字をもって認定できること、(2)改めてマイナスに落ち込んでくるリスクがまずないと見通せること、それから、(3)経済情勢をもう少し広く見ようということで経済がなお内在的に脆弱性を含んでいないか、ということを一通り点検する。これらが全部満たされれば、その時点で条件を満たしたという判断に至ると思う。』

やはり数字の目処があるのかと言うことは気になりますのでなおも質疑が続く。

『(問)例えばCPIの伸び率が1%なければならないとか、2%なければならないといったレベルは関係ないということか。』

『(答)そういう数字的に固定的な判断基準は持っていない。』

まぁ今までの流れからはそうですわな。で、質疑の最後の方で再度この点についての直球剛速球の質問がでました。やはりこう来なければいけませんな(^^)。

『(問)今回の展望レポートの消費者物価指数の2005年度の予測が小幅ながらプラスになったということは、量的緩和政策解除の3つの条件のうちの2つ目を満たすものでは必ずしもないという理解でいいのか。』

『(答)安定的にCPIの前年比変化率がゼロ%以上と言えるためには、現実のCPIが基調的にゼロ%以上、そして将来の見通しがゼロ%を超える、さらに経済の情勢が心配されるような脆弱性をそれほど含んでいない、といった3つの条件が満たされなければ満たしたとは言わないわけで、一つひとつを満たした、満たさないといった感覚ではない。これは1つのことを3つに因数分解したものに過ぎない。従って、条件は満たしていないということである。』

ついこの前までは「コミットメントの3つの条件」とか言っていたような気もするのですが、やはり「条件が一つ満たされた」と言い出して金融市場が先走りされると問題が大ありになる訳でして、どさくさに紛れて「3つの条件は一体として考える」と言わんばかりの発言をしておりまして、相変わらず風呂敷の左と右の整合性の取れないお話をするな〜なんて思うわけです。

この「先走りを防ぐためにどさくさに紛れて3つの条件を一体化する」という大技を拝見いたしますと、現在の「CPIという特定の経済統計にターゲットを定めた一点張り政策」の問題点も見えてくるわけでして、まぁ読者の皆様にはあたくしがしつこく申しあげているので「またか!」とお思いでしょうが申しあげますと(^^)、特定の経済統計数値にフォーカスした政策ってのは政策の変更点から遠い時には「時間軸効果」を如何無く発揮して市場の「期待の安定化」に大きく寄与する(寄与しすぎて馬鹿相場にもなりましたがそれは兎も角)のですが、政策変更ポイントが近づいてくると、金融政策の変更というのは金利変化と言う意味では「不連続な変化」をもたらすので、却って市場が不安定化するという弊害をどうコントロールする(あるいは放置プレイかもしれませんが)のかは今後のお手並み拝見と言ったところでしょうな。


まぁ先行き見通しなんて大本営発表みたいなもんですから、現実のCPIがプラス転換してから「さて、量的緩和解除の条件は整ってますか」って話になるのが筋って言えば筋(まーその時には市場は大騒ぎになっているでしょうが)でございますので、大勢見通しがプラスになったからと言っていきなり大騒ぎするのもまた間抜けな話ではあります。CPIのプラス転換が近いと思っているのなら話は別ですがね。


とまぁダラダラと書き連ねましたが、要するに「CPIの大勢見通しがプラス転換」ってぇのは「3つの条件」として考えた場合の一つの条件としては確かに満たしているという事のようではあります。あるんですが、条件の中で一番最初に達成される性質のものですし、そもそも鉛筆なめなめの世界でもあります(何て言ったら激しく失礼ですな)ので、全く意味がないとは申しませんが、そう大騒ぎする必要はないでしょって事でしょうな。


今後の情報発信がどうのこうのという話題と、財政再建問題がどうのこうのという話題は量と時間の関係上木曜日にでもご紹介させていただきます。

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2004/10/27

お題「まぁ建前なのでしょうけどねぇ・・・・・」

昨日の続き。

ご存知の通り福井日銀総裁というお方は生え抜きの大物総裁でして、(この言葉好きじゃないんですけど)「カリスマ総裁」として絶大な権威をお持ちだという風に言われております。でまぁ福井総裁になってからの金融政策を振り返ってみますと、よく言えば「機動的に対処」「市場整備の為に新しい政策に取り組む」となるのですが、現場から見た率直な印象は「自分たちの脳内現実を基に政策を打ってませんかねぇ」と言いたくなるわけであります。

何と申しますか、目の前に起きている現象は現象として把握しているらしいのですが、その現象の因果関係を何か妙に解釈していたり、そもそも現象をちゃんと把握しているのか謎な場合もあったりする訳でしてアレな訳でございます。現場との乖離をそのままにして突っ走られるとそのうち碌でもないことになるのではないでしょうか。

という事で福井総裁発言チェックなのですが、昨日の続きの前にまた国会でサービス発言をしていた話を。

○インフレターゲット論議

昨日の(たぶん)衆議院財務金融委員会に福井総裁が出席(しかし何でそう何度も何度も国会に呼び出すんでしょう。つい先日の国会開会以来3回目ですが。)しまして、金融政策に関して答弁したようであります。国会の会議録がアップされるのは少々お時間がかかりますので、情報ベンダーのフラッシュを脳内メモリーから書き出しベースで書きますと・・・・

どうも「インフレターゲットの導入を検討すべきではないか」というどこぞの委員(議員)の質問に対しまして、福井総裁は「正常な経済状態になった時にはインフレターゲットの導入は大いに考えられる」というような趣旨の答弁をされたようです。

で、この問答が今朝あたりのメディアに取り上げられる(上げられないような気もしますが^^)と、まぁ多分「福井総裁、インフレターゲット導入に含み」みたいな書き方をされると思うのですよ。今までのパターンから言いますと。

しかし、上記の問答を良く見ますと(ってそもそもこの問答が情報ベンダーのフラッシュを見たあたくしの脳内メモリーから書き出しているのでまぁ本当の所は会議録で確認すべきですが)、「インフレターゲット」の意味が質問者と福井総裁との間で違っていると思われる訳です。すなわち、質問者がインタゲを「デフレ脱却の為にインフレターゲットという物価目標を設けるべき」という文脈で使っているのに対し、福井総裁はインタゲを「正常な経済(っていうのは要するにデフレ脱却後という意味)下においてインフレを制御する目標値としての物価目標」という意味で答弁している訳でして(少なくとも今までの福井総裁の言動からするとそういう意味になる)、この辺は福井総裁の「政治性」の面目躍如といった所かと思います。

まぁ質問者の質問をまともに相手にせずに上手にかわすというのは国会の参考人としては一つの作戦でもありますし、そもそも「デフレ脱却にインフレターゲット導入」っつーのがあまり意味が無い(色々議論は続いているのですが、どうも日銀単独の金融政策で一般物価を直接コントロールのはまぁ不可能に近く、目標達成ツールが無いのに「目標」を設定すると言うのはどこかの頭の悪い営業現場で行われている無意味なアレのような^^)という話を延々としだすと委員会質疑が永遠に終わらないっすから仕方ない面はあるのですが、この辺の議論を福井総裁は敢えて避けている面があるのかと思う訳です。

まぁそれも一つの知恵なんでしょうが、用語の定義を曖昧にしたままでこの論議を進めるってのもどうかな〜と思うわけでございます。


○微妙に「それは違うんじゃないかな〜」と思うのですが

というわけで前置きが長くなってしまいましたが昨日の続き。

『大量に発行された国債は、これまでのところ、発行市場において、概ね順調に消化されています。流通市場でも、国債利回りは、歴史的にみて極めて低い水準にあり、景気回復が明確となった昨年夏場以降も、多少の振れを伴いつつも、1%台で推移しています。国債金利はやや長い目でみると、経済・物価情勢を反映して変動するものです。』

『この点、現在、国債金利が低い水準で推移している最も基本的な背景としては、何よりも物価が落ち着いていることが挙げられます。これに加えて、幸いにも、財政赤字の増加から国債金利にプレミアムが上乗せされるといった事態を回避できていることも挙げられるかもしれません。』

前半はその通りなのですが、後半は「物価」じゃなくて「量的緩和政策の効果」であり、「ゼロ金利」+「時間軸」が長期金利の低位安定を促しており、その量的緩和政策が消費者物価指数にペッグしているから「物価が前年比微減」→「量的緩和政策の長期化」なのではないかと。勿論この位は日銀総裁としては当たり前でしょうが、こーゆー言い方はミスリードを招く懸念無きにしも非ずかと。

ちなみにこの「財政リスクプレミアムがなぜついていないのか」という話をした部分を昨日ご紹介しましたが、その解釈として『財政の状況は現在は確かに悪いが、政府が将来は財政収支の改善に向けて着実に取り組んでいくことに投資家は信認を置いている』って話が出てくると「ちょっとそれはどうよ」って話になってくるわけですな。話としては美しいのですが、何時の間にやら結論が「美しい結論」になってしまうのが懸念される訳です。


で、まぁ財政収支均衡に向けて頑張りましょうというようなお話をしているのはまぁあたくし的には所々「え〜」ってのも無くは無いのですが、この辺はイメージ的なお話になってしまうので省略しまして、国債流通市場の話をしているのですが、どうも結論に向けて話を展開している為だと思うのですが、「おまえさんそれはないでしょう」と言いたくなる発言が「国債の保有層の多様化をしましょう」という話の中に出てくるわけです。

『問題は、このように(国債の)保有主体が一部に偏る(金融機関の国債保有比率が極めて高いという状況の事です)と、皆が同じような行動をとりがちになるため、市場の厚みがなくなり、利回りが大幅に振れる可能性が高まりやすくなることです。実際、昨年の夏には、景気が次第に回復する中で、それ以前の金利低下局面で過大なリスクテイクを行っていた金融機関が一斉に国債を売却し、さらに価格下落と評価損失の発生ないしその懸念が、金融機関の国債売却を招くということが起こりました。』

そもそも現在の金融政策と財政やら経済運営、金融行政なんかを総合すると、国債の保有主体が金融機関になるのは政策運営の結果として必然的に生じる自体な訳でして(まぁそれらしいことはその直前で総裁も言及してますが)、それをケシカランと言われてもリンダ困っちゃう〜って感じでしょうな。で、それよりも血圧急上昇なのは「過大なリスクテイクを行っていた金融機関が」っていう件でして、そもそも「過大なリスクテイク」をせざるを得ない状況に債券市場を煽ったのはどこの誰だと小一時間問い詰めたいわけでございます。当時の記録を引っ張り出したいところですが、ドラめもん過去ログ整理が進んでいないので惜しくも具体的事例が出てきませんが(-_-メ)。

で、結論としては『こうした出来事を踏まえても、国債は、個人、非居住者を含め、できるだけ幅広い投資家に保有されることが望ましいことは言うまでもありません。』って言ってます。どうも講演やら会見やらで妙な横文字を多様する(指摘されてから急に使わなくなったのがまたお笑いなのですが)のがお好きなだけに、「非居住者の国債保有」にえらく御執心のようで、わざわざ『米国では、個人が約10%、非居住者が40%強の保有となっています。』などとお話をしているのですが、そもそも経常収支が黒字の国と赤字の国の国債保有比率を同じ土俵に並べる事自体がおかしな話だと思うんですが。経常収支が大黒字で政府部門が大赤字だったらISバランスがどうのこうのと言わなくても、政府部門の債務は民間部門が保有することになるのは初歩的な簿記の知識だけでも判りそうな気がするわけでして、外貨準備で持ってもらう分は兎も角として、それ以外に非居住者に国債を沢山保有してもらわなければいけない理由が意味不明でございます。(勿論将来の事を考えているのでしょうけど)

どうも「国債保有主体の多様化」という結論を持っていくために強引な論理展開をしているように見えまして、この論法が拡大していくと次第に現実と遊離した「脳内現実」を基にした「こうあるべきだ政策」が炸裂してしまうのではないか(既にしているという気もしますが)と懸念される次第であります。


#うーん、今日も話が発散してしまった。

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2004/10/26

○正しい判断をするためには正しい認識が必要ではないかと

これも実は重い話題なので続編を書くかも(^^)。

仲間内の議論で「日銀の政治からの独立」って話題が出てきたのですが、まぁ「日銀が金融調節や金融政策を行うにあたって正しい判断を行うためには独立性は不可欠であって、正しい判断をする為には色々な意見を聞く開かれた日銀という姿勢が大事でしょう」ってなまともな結論に落ち着いた訳ですが・・・・・・

昨日日銀のWebにアップされたのは福井総裁の財政制度等審議会における日銀総裁発言「わが国経済と財政について」というお話。
http://www.boj.or.jp/press/04/ko0410d.htm

さらっと読んだだけなので突っ込みもさらさらなのですが、どうもこの講演って建前で言ってるのか本音で言ってる(本音で言っていると言えば財務省の日本経済の将来ビジョンに関する審議会に勝る物はないでしょう。だいぶ前にご紹介しましたがあれは白眉^^)のかよー判りませんが、思わず「そいつはどうかな」と突っ込みを入れたくなるご高説が少々。


『現在、わが国の景気は回復を続けています。ここ数年、実質成長率に対する政府支出の寄与はマイナスを続けていますので、2002年から始まった今回の景気回復は、「民需主導」と表現することができます。』

この政府支出ってのに金融機関に対する公的資金(預金保険機構だか何だかの特別会計)突っ込みだとか莫大な円売りドル買い介入(外国為替特別会計)による米国経済下支え攻撃というのが含まれているのでしょうかと思うと頭の中に「?」が百万個くらい飛び交ってしまう訳ですな。ついでに申しあげますと、りそな銀行救済スキーム以降の「銀行への見せ金」とか、そこにぶちこむと要管理債権が突如通常債権に化けるという銀行お助けスキームの官営債権管理会社の産業再生機構なんてものまでありますわな。

確かに統計上の「政府支出」は減少してますが、その代わりに各種の問題点を政府部門に飛ばしまくっているという現実もある訳でして、こう堂々と「民需主導」とか言われると非常に違和感を感じる訳でありまする。大体民需主導で本当に景気が回復してるならGDPギャップがもっと縮小してデフレなんぞとっくに脱却してると思いますがねぇ。

企業部門の回復って企業部門全体で見た政府部門への飛ばしと家計部門への配分減少が結構寄与しているんじゃねーのかと言う気もするのですが、こーゆー分野の分析は苦手というか出来る人が近くにいないので、勉強するっきゃ無いのですが、とほほのほ。

念のため付け加えますと、総裁はこの続きとして要因を「海外経済の好調さによる輸出拡大」と「企業の過剰投資、過剰債務、過剰雇用の調整が進んだ」と挙げているので、「民需主導」ではあってもまだ「前向きの循環」進行中という認識のようですが(^^)。



『すなわち、財政収支は悪化し国債残高も多額に上っているにもかかわらず、国債は順調に消化され、リスク・プレミアムもみられていないという状況はどのように解釈すべきでしょうか。一つの解釈は、「財政の状況は現在は確かに悪いが、政府が将来は財政収支の改善に向けて着実に取り組んでいくことに投資家は信認を置いている」というものです。もう一つの解釈として、「投資家である金融機関は、将来の財政の状況をにらみつつも、当面の収益確保を優先して、取り敢えず安全な運用手段として国債に投資をしている」という見方もあるかもしれません。』

まぁ概ねよろしいといえばよろしいのですが、そんなに信認を置いているかというとその辺はちと判りかねる面がございますな。国債の投資主体の殆どが国内の機関投資家であって、この人たちは何だかんだと言っても「利息をつけて返さないといけない金」を使って運用しているので、財政収支の改善がどうのこうのというよりは当面の収益を重視するって事になるでしょう。それに(そう言っちゃあ身も蓋も無いのですが)将来のインフレで資産価値が毀損するリスクは金主(銀行なら預金者、保険会社なら契約者)が負担してる訳ですから、あまり一つ目の解釈に重きを置くのは如何なものかと思う訳ですよ。

まぁ実際問題として皆様がどう思っているのかはよ〜知りませんし、あたしゃ思いっきり財政のサステイナビリティ(持続可能性)に悲観的なので、もっと信頼をしている方の意見が耳に入りにくいという問題点があるのですがね(^^)。


ま〜この程度しか突っ込みませんが、さらっと見ただけでも「ちょっとそれはどうよ」ってのが見当たるわけでして、まぁ世の中どこでも「偉い人」には下々の真相が伝わりにくいという話はあるんでしょうが、正しい判断をする為には正しい現状認識(ただし現場というのはその現場だけの視野狭窄になる訳で、視野狭窄モードでは正しい話でも全体俯瞰した場合どうよってのもありますが、と一応謙虚な姿勢も見せるあたくし^^)という事で、建前だけではない話もお願いしたいと思うわけです。

どうも過去の「役立たず金融調節新手法」とかの実績を見ると「本当に状況を判っているのか」が禿しく不安になる訳ですし、名指ししちゃうと偶に講演をする度にとてつもない珍説を披露してくださる福間審議委員なんかを見ちゃいますと「はて本当に大丈夫なのか」と思っちゃうんですよね。


○時にこれは良いお話

と、総裁の講演で意外に長くなって時間がなくなったので、続きはまたいずれなのですが、講演中に大変結構なご発言がございましたので余計な茶々を入れずに引用します。

『なお、終戦直後のわが国の経験などを踏まえ、多額の国債負担を解消するためには、インフレ率を上昇させるしかないという考え方が、あるいはあるかもしれません。仮にそうした議論があるとすれば、金融市場の姿が終戦直後と現在とでは全く異なっているという現実を忘れているように思えます。何よりも、現在は、市場が発達し、しかも、その市場がグローバルにリンクされるようになっています。そのため、国債負担の軽減を目的としてインフレ率を無理に高めるような政策をとると、国債利回りが急上昇し、既存債務の借換えや新規の借入れに支障をきたすことになります。また、金利の上昇により、企業や家計のコンフィデンスが毀損され、経済活動が収縮してしまうおそれがあります。中央銀行は物価の安定や経済の持続的な発展と整合的な金融政策を運営することによって安定的なマクロ経済環境を維持し、そのことによって、財政再建にも寄与することになると思います。財政再建は、そうした安定的なマクロ経済環境が維持される中で、歳出入両面での見直しに取り組むとともに、地道に中長期的な経済の潜在力を高めることによって、実現していくしかありません。』

それでは〜(^^)/

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2004/10/18

お題「日銀総裁記者会見(13日)」

金曜日に書き損なった話なので旧聞ですが、何も無かった金融政策決定会合(その割にはしっかり正午過ぎまでやってましたが^^)の後に行われた総裁の記者会見。最近各地で審議委員の講演が行われて皆さんある意味好き勝手に景気やら金融政策に係わるコメントをしている中ですのでそこそこ注目された(のかな?)会見でしたが・・・・

http://www.boj.or.jp/press/04/kk0410e.htm

○筋違いの質問が多すぎるのではないかと思うのですが

今回の会見(15時20分)の前に発表された金融経済月報の基本的見解(解禁時間は15時)が物の見事に前月と同じという有様(木曜のドラめもんでご紹介しましたが)で、大イベントの日銀短観によっても何の変化も無しというある意味素晴らしい結果だったのですが、あまりにも変化が無かったせいか、金融政策に絡む質問以外の質問が多かったのは自称日銀ウォッチャーたるあたくしとしては誠に遺憾でございます。

質問が7件(冒頭の質問は「では総裁ご説明を」なのでカウントしませんが)ありまして、ダイエー問題に関する質問が2件で政府税調絡みの質問1件でUFJの刑事告発問題が1件ということでして、別に日銀総裁がコメントしなければいけないようなお話じゃぁない質問が過半数となっておりました。まぁ丁度時期的に一番盛り上がりを示していたのでそ〜ゆ〜質問が出てくるのも仕方ないのですが、別に突っ込んだ答えを期待できない質問の方が多いとはこれ如何にって感じですな。

と言っても、いつぞやの記者会見では某テレビ局の美人女性アナウンサーのプロ野球談義に突っ込んだ答えをしていたりしているのが福井総裁でもあるのですが(^^)。

○9月短観の評価

ま〜金融経済月報の基本的見解が一言半句違わないと言っても過言ではない状態ですので当たり前っちゃぁ当たり前なのですが。

『(金融政策判断の)背景となる経済・物価情勢の認識は、前回の金融政策決定会合と基本的に変わっていない。一言で言えば、景気は回復を続けているし、先行きについても回復を続け、前向きの循環も明確化していくとみられるということである。』

『こうした判断については、先般、日本銀行が発表した9月短観のデータが相当程度これを裏付けているという面もある。海外経済が拡大を続けているもとで、足許輸出や生産は、伸びをやや鈍化させつつあるとはいえ、方向としては増加傾向を続けている。また、企業収益や企業の業況感は改善が続いているということが非常に明確であるし、企業の設備投資も引き続き増加している。家計部門では、企業の雇用過剰感がかなり薄らいできているということもあり、生産活動や企業収益などからの好影響が少しずつ強まってくるという動きが続いていると判断している。』

という事で、日銀短観の結果は景気に関する見方に対しては中立というのか強気スタンス継続というのか、とりあえず景気回復加速でも減速でもないという評価になっているようです。


で、まぁ日銀の大イベントである短観(古くからデータがあるから重視されてますが、個人的にはたかがアンケートではないかと思うのですけどね。同じアンケートなら堺屋センセイ肝いりで始まった景気ウォッチャー調査の方が興味深いんですが。まぁそれは兎も角)に関するコメントがその程度では寂しい訳でしてこんな質疑が。

『(問)9月短観の結果をみると、大企業製造業の景況感は市場予測を上回る改善を示した一方で、先行き予測では悪化を見込んでおり、不透明感も指摘されている。こうした今回の短観の調査結果を踏まえた上で、改めて、日本経済の全体像について見解を伺いたい。』

『(答)9月短観の先行き判断についてであるが、短観のDIがこのように高い水準になった時には、過去の経験則でもそうであるが、先行きについては慎重な考え方や判断が出がちになるという、いわば、統計のクセがほとんどを説明していると思う。』

あっさりと「目先の数字が良いので先行きが悪化しただけだよ〜ん」ということで片付けております。だいぶ前に見たときにちと気になった「中国関連業種の先行き悪化見通し」あたりはどうお考えなのかな〜って気になります。

『もちろん、現状から将来を考えた時には、いずれの企業も、ここ暫くの間の高い成長率が少し下方修正されていく──世界経済の動きが巡航速度に向かっていることではあるが──ということは当然織り込んでいると思うし、その他、原油価格の動向等の不確定要因がある──原油価格については不確定要因が少し増している──ということが念頭に置かれていることは間違いないと思う。』

『しかし、基本的には、業況判断の水準がここまで高くなったことに伴う、統計のクセというものが出ているのではないかと思う。従って、これも含めた経済全体の先行きの見方ということになると、世界経済全体としても、あるいは日本経済単体でみても、先行きはやはり巡航速度に向かって成長速度を若干調整しながら、持続的な回復の軌道に近づいていくという標準シナリオに沿って動いているとみて良いと思う。』

○先行き見通し

月末の展望レポートに向けて先行き見通しに関しても質問がありました。

で、先に結論を申しあげますと、今回の福井総裁のスタンスは基本的に「景気には強気、消費者物価に関しては明言はしないけど何となく強気っぽく、金融政策スタンスは現実にCPIの数字が動かないうちは余計な事は言わない(昨年の中短期金利大上昇が相当のトラウマになっていると見ました^^)」という風に読めました。

『(問)昨年の10−12月期、本年の1−3月期、4−6月期の経済成長率を平均すると大体4%から5%近い成長かと思うが、これだけ高い成長率に持続性があるとはなかなか言い難い。人によって潜在成長率の見方が異なるので数値を一概に言えないのも良くわかるし、展望レポートを公表する10月29日より前に具体的数値を発表するのは難しいと思うが、総裁がおっしゃっている「巡航速度」というものがどの程度のものなのか、イメージでも良いので教えて頂きたい。また、来年度に景気が上振れるリスクについて、現状においてはどのように見ているのかも伺いたい。 』

長いので一部端折ります。

『(答)固定的な一定の数値で示される成長率でもって、巡航速度というようなものを表せないと思う。(途中略)一本の数字で表すことはなかなか難しいと思う。おっしゃる通り、昨年の10−12月期から最近に至るまでの日本の経済成長率は、平均してみると5%近傍である。これが巡航速度と比べて高過ぎるということは明確に言えるが、今これよりは低いところで、潜在成長力は着実に上がりつつあるので、その上がっていくラインにかなり近いところで──できれば潜在成長力を少し上回るようなところで──、上手く持続的なパスを日本経済が見出していければと思っている。 世界全体についても、まったく同じようなことが言える。(以下略)』

消費者物価に関して。

『(問)今後の消費者物価の見通しに関して、「小幅のマイナス基調が続く」という見通しを述べられた(引用を省略しちゃいました)が、1月の政策変更時には、デフレ脱却を後押しするために量的緩和の追加に踏み切られた。今、物価はマイナス基調が続いているし、今後もマイナス基調を見通すということであれば、追加的な量的緩和措置をとることによってデフレ脱却を促進するという考えはあるのか。』

1月の追加緩和(景気判断を前進させながら金融緩和というか量的緩和の拡大を行うという前代未聞の自己矛盾金融政策)を絡めているという意地の悪い質問。

『(答)基本的には従来の考え方は変わっていない。より綿密に言うと、同じ消費者物価指数の小幅のマイナス基調であっても、かつてのような大きな需給ギャップというよりは、生産性の上昇あるいは賃金の調整、それらを合わせたユニット・レーバー・コストの低下というふうに、デフレないしはデフレ的現象の背後にある事情というのがかなり変わってきている。今はかつてのようにデフレ・スパイラル再突入を心配するということよりは、景気の回復をより持続的なものにしていくことによって、デフレからの脱却も自動的・並行的に可能になるという方向になってきていると思う。』

『従って、量的緩和政策を維持することによって景気回復の持続性をより保証し、同時に物価のマイナス基調からの脱却も図れるということに、政策スタンスとしての照準が合ってきていると考えている。』

量的緩和の強化については以下にあるように一言も触れないままで回答をしておりまして、まぁ景気先行きにも物価にも強気なんでしょうな。緩和問題を完全黙殺というのはそれはそれで意思表示ではないかと。


○という事で総括(総括できる時は今後も書くように心掛けます)

という事で、さっきも書きましたが、結論としては日銀総裁様に置かれましては相変わらず景気に関してカンカンの強気スタンスで、物価見通しに関しても上記のように『デフレ的現象の背後にある事情というのがかなり変わってきている。』という風に先行きに関してはかなり楽観的(これだけ読むと「需給ギャップは大きな問題ではなく、今後ユニット・レーバー・コストの調整が済めばCPIも上昇に向かう」と言ってるように見えます)ですので、真打ち福井総裁の前に出ていた各審議委員の講演などよりは強気スタンスの総裁ってことが(相変わらずですが)言えると思います。

あんまり話題になってなかったみたいですけど、読めばそれなりに見るべき物もあった総裁記者会見でありました。

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