中村豊明 審議委員
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任期 令和2(2020)年7月1日〜令和7(2025)年6月30日
中村さんの略歴(日銀Webより)
昭和27年8月3日生
昭和50年3月 慶應義塾大学経済学部卒業
昭和50年4月 (株)日立製作所入社
平成13年4月 (株)日立製作所 システムソリューショングループ財務本部長
平成14年4月 (株)日立製作所 情報・通信グループ財務本部長
平成16年4月 日立データシステムズソリューションズホールディング社 CFO
平成17年4月 日立データシステムズソリューションズホールディング社 CEO兼CFO
平成18年1月 (株)日立製作所 財務一部長
平成19年4月 (株)日立製作所 代表執行役 執行役専務 財務一部長
平成19年6月 (株)日立製作所 代表執行役 執行役専務 財務一部長 兼 取締役
平成21年6月 (株)日立製作所 代表執行役 執行役専務 財務、年金、グループ経営、事業開発担当
平成24年4月 (株)日立製作所 代表執行役 執行役副社長 経営戦略、年金担当、財務統括本部長
平成26年4月 (株)日立製作所 代表執行役 執行役副社長 年金担当、CFO
平成28年4月 (株)日立製作所 嘱託
平成28年6月 (株)日立製作所 取締役
令和2年7月1日 日本銀行政策委員会審議委員
https://www.boj.or.jp/about/organization/policyboard/bm_tnakamura.htm/
2024/12/10「金懇会見では「ファクトベースでの金融政策運営」を主張していて期せずして大本営に大砲撃の正論をぶちかます」
2024/12/06「広島金懇は会見ヘッドラインで相場ひと騒ぎ/金懇講演はいつもの「政策修正には時間がかかりそうな」ロジック」
2024/06/11「札幌金懇は中村ワールド全開ですが直近の大幅な円安には否定的とな(その2)」
2024/06/07「中村さんの主張はアメリカンな厳しい社会になるのが国民の本当の幸せなのかという疑問はある(札幌金懇)」
2024/12/10
〇中村審議委員金懇会見は「お気持ち金融政策」に対して期せずして大砲撃をしていますな
https://www.boj.or.jp/about/press/kaiken_2024/kk241206a.pdf
中村審議委員記者会見
――2024年12月5日(木)午後2時30分から約40分
於 広島市
・例の「私は利上げに反対ではない」は冒頭の(事実上の)説明の次にありました
最初は「本日はどうでしたか&ご当地質問」という質問なのでその次になるのですが、いきなり来ていましたね。
『(問)二点お願いしたいんですが、一点目は中小の稼ぐ力がなかなかまだ強まらない中、金融緩和の度合いを調整することは慎重に行うべきだという講演でのご発言なんですけれども、そう考えると、市場の一部でみられている年内の追加利上げは拙速なことなのかというのが一点目です。(後半割愛)』
まあ聞くわな。正直12月でも1月でも本質的に大差ない(強いて言えば12月にぶっこんでおくと4月に追加利上げのおかわりが可能というのがあるんだが、今の植田日銀にそんな気概を期待していないのでまあ1月でも同じなんでネーノと思っている)、とは思いますが、それはさておき中村さんの回答。
『(答)中小の稼ぐ力が弱いっていうことで、[金融]政策は慎重にということではありますが、』
からの、
『私は以前から申し上げているんですけど、利上げに反対しているわけではないので、』
うひょーーーーーーーーーー!!!!!
・・・・・ということになるのですが、以下の説明を読んでみましょう。
『経済の回復の状況に応じて変えていくべきだと。』
ほほう。
『それはデータに基づいて、公表されたデータやヒアリング情報がありますので、それに応じて判断をしていくべきであるという考えで、期待、こうなってほしい、こうなるはずだというところに基づいての判断よりも、それを確認するデータをみて判断をしたいということであります。』
これは言っていること自体は「見通しじゃなくてデータが改善したらデータ通りに政策を修正しろ」という話なので一見仰せご尤もなのですが、金融政策ってえのはその効果が(副作用も含め)出てくるのは時間のかかる話なので、今のようにもしかしたら経済の転換点かもしれない、というような時期においてデータを全部確認していたら、特に今の金融緩和が極端に緩和的であることから、政策修正の遅れは望ましくない勢いをつけてしまうというリスクがあるわけですので、その辺に関する中村さんの所見というのを聞きたいですよね。
でまあ話は続くのですが、
『年内の利上げという点については、これから結構たくさんのデータがまだまだ出てきますし、短観もこれから出てきますので、そういった点でいうと、そこをよくみて判断をしたいというふうに考えています。』
これわ!!!!!!!!
ということでですね、短観とか思いっきり言ってたのもそうですし、これからデータが出てくると言ったのもそうですが、どっちもヘッドラインを飾っていましたけれども、まあ確かにこの説明ですと「ここから出てくるデータが良好ならば別に利上げを否定するもんじゃないですよ」と言ってるようにしか読めませんな。
まあ中村さんが利上げ反対することにどのくらいの影響が、というのはさておきまして、少なくともデータが良いのであれば(アネクドータル含め)、自分から利上げとは言わないにしましても別に反対はしないんですから、これはまあ確かに12月利上げもアリエールみたいな発言に読めてしまいますな。
・まあ変な「米国経済のリスクガー」とか「不安定な金融市場ガー」とか「基調的物価ガー」よりはマシですわ
でまあ話の途中で小見出し入れてしまいますが、この中村さんの説明っていうのは、大本営の行っている「米国経済の下振れリスクガー」などの話や、「確度」とかいうお気持ち表明の話や、「基調的物価」とかいうその屏風の中にあるのを出してくれませんかね一休さん、というようなインチキ説明よりも「実際のデータを見て判断」なので実はコミュニケーションとしてはよっぽど筋が通っているというのが中々味わいがありますな。
とイヤミをいっておいてその次ですが、
『それは、その後言われた法人季報の話でもあるんですけれども、今、私はコロナ禍からの回復軌道にある、それは成長軌道に再び乗ったのかっていうと、まだ乗っていないと判断しています。』
ほうほう。
『例えば、今ご質問頂いた法人季報でみると、4 月から 9 月の上期をみると、1
人当たりの営業利益は全体でみると+3 割、90 年[度]の上期と 24 年[度]の上期は+3
割でして、大手企業というのはものすごく伸びています。118%ぐらいプラスになっていたかと思うんですけども。』
こういう丁寧な説明をしているのは今までここまで細かくなかったと思うのでおおおおと思いながら読み進める。
『90 年[度]上期に比べると 2.2 倍(注)になっていまして、そのうちの中小企業は実は
4 割減っています。大手と中堅は 90 年[度]上期の 1 人当たり営業利益をみますと成長しています。過去最高を超えたということになるんですが、中小企業は残念ながら
4 割減です。』
ほうほう。
『これは、前年比でみれば▲4%ぐらいなのでまあまあではあるが、やはり中小企業が減っている。』
でもって、
『しかしながら、給与と賞与の人件費でみると、みんな増えている。それは大手も中堅も中小企業も。従って、中小のところはまだ防衛的な賃上げというのが、全体でいうと窺える状況です。』
なるほどこれは分かりやすい説明。
『1人当たりの設備投資はどうかと、ソフトウェアも含めていますけども、これは全体でみると、90
年[度]上期に対して 3 割減っており、これは大企業も 1 割減っていて、中小企業は
5 割減っています。』
『大企業の場合はサプライチェーンを海外にシフト、過去の円高局面のときにずっと移してきましたので、グローバルでみると、おそらく増加していると思います。ただ、中小の場合はグローバル展開をあまりしていませんので、そうすると、この
5 割の減少は、中小の全体でみてもちょっと弱いっていうことがあって、この点、私としては少し懸念を持っていまして、生産性を向上させる力がまだ中小企業の場合には、全体でみると、平均するとちょっとまだ低下しているのかなと。』
実際にこの分析が妥当なのかどうかはさておきますけれども、説明としては説得的でして、大本営が会見やらなんやらで説明している謎の話(そうしておかないと達成した時にいきなり利上げに追い込まれるから誤魔化すのに不便だからですけどね)よりはなんぼかマシかわからん。
さらに話は続きまして、
『ただその中に、成長志向の中小企業も当然ありますので、私としては、3 割ぐらいは中小企業の中で成長志向の企業があると認識をしているんですけども、そういったところは前向きな賃上げをやれる状況になっていて、日商のアンケート調査でもそういう結果が出ていますから、改善方向にはあると。』
ほーーーーー。
『従って、まだこれからいろいろなデータが出てくるので、年内の利上げがどうかと言われても、もうちょっとデータをみないとさすがに。とにかくデータ・ディペンデントで判断をしたいというふうに考えています。(後半割愛)』
ということで、まあ基本的に中村さんは賛成しないでしょうけれども12月利上げを全く排除している説明ではない、というのが読み取れますな。ただまあこの説明だとやはり状況改善というのは時間がかかりますよね、というのがあるのと、そもそも論として「賃金」という最遅行指標の動向を見て政策判断をするというのは、政策がめちゃくちゃ後手に回るリスクが高いんですよね。
とは言いましても、これ中村さんだけのせいとではなくて、もともと「賃金と物価の好循環」とかいう最遅行指標の賃金と遅行指標の物価について、しかも「好循環」とかいう1サイクル見ますという説明を持ち出している(理由は単に政策修正をするのが怖いから言い訳をしているだけという無責任にもほどがある背景があるんですよね!!!!)日銀大本営が悪いんですけどね。
・別に利上げ排除はしないけど慎重なのはまあ間違いなさそうなので中村さんが急にタカ転とかは無いですね
次の人がまた質問しています。
『(問)年内の利上げについては、データ次第というお話を今伺いましたけども、講演では経済の回復度合いに応じて緩和度合いを調節していくべきだというお話をされまして、今の回復状況というものをみた場合、足元までのデータ等からですね、やはり年内利上げというもの、もしくは市場が織り込んでいる
1 月の利上げですね、時間軸でみた場合、いわゆる利上げは否定されるものではないというお考えでよろしいのか。データ次第ということですけども、ちょっとそこのお考えをお聞きしたいというのが一点。(後半割愛)』
露骨に同じ質問してますなこれは酷い。
『(答)データ次第っていうことですが、私の場合、平均の中央値の見通しよりちょっと弱気と言いますか、ちょっと低めですので、考え方としては先ほど申し上げたように、経済は、いま成長軌道に乗っているというよりも、回復軌道に乗っている、回復局面であるという認識です。』
からの、
『それは、先ほど申し上げた中小企業が、まだコロナ前よりも、1 人当たりの利益は超えてないし、90
年[度]上期のバブル期の絶頂期の頃に比べてもかなり低いということなので、そこのところが大企業、中堅企業とおかれている環境が中小企業はちょっと違うなというふうに思います。』
『ただ、全ての中小企業が駄目ということではない。従って、その変化度合いがどう出てくるのかは、データでみたい。だからそのデータで私がみたいっていうのは、まだ回復過程だという認識でいるもんですから、回復状況次第っていう私は文言を使っているんですけども、』
と同じ話をしているのですが、
『それによっていつ利上げかっていうのはなかなか予断をもって申し上げるにはさすがにまだデータが少な過ぎて、法人季報とGDPの
1 次速報は出ましたけども、まだ毎勤統計ですとか、GDPの 2 次速報だとか、それからその他のいろいろなデータがたくさんありますし、私がみたいというのは[挨拶要旨の]5
ページ目の中段ぐらい、多くのデータやヒアリング情報によっていろいろみたいのは、具体的には六つほど書きましたけども、それ以外でもいろんなデータで確認をしながら、成長軌道に近づいていけるのかなということをみたいというふうに考えていますので、いつ利上げかとそう急がずに、もうちょっと様子をみさせて頂きたい。(後半割愛)』
ということで、具体的なデータをバカスカ挙げておりますが、ゆうてまあ利上げ慎重なのは慎重、ということになるんでしょうね。
・中村さんは「超ハト派」と言われることにお怒りのようです
この質疑はクソワロタ
『(問)度々利上げの話で恐縮なんですが、中村委員、データ次第で慎重に検討していくというお話をされましたけども、一方で、今日の講演では、賃上げと投資が牽引する成長型経済への大きな変化の芽が出ているというふうにおっしゃいました。これまでのご発言より、やや前向きな利上げに対しての印象を受けたのですが、やはりこれまでよりも利上げに向けた環境としては整ってきているというふうに考えられますでしょうか。』
この回答の頭からいきなりですね、
『(答)私自身は昔から変わってないんですけど、皆さまが私の発言をとらえて超ハト派と言われるもんだから、そういうレッテルが貼られたのかなという気がしておりますが、』
これは中村さんブチ切れ案件wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
いやまあ以下にある通りでして、
『前から芽は出ているということは申し上げています。非常にそういう面で、私は、日本経済の将来においては明るい希望を持っている。ただ、中小企業の状態が、全体としてはまだコロナ前もちょっと超えてないので、そこのところをリードする成長志向の中小企業のところがもうちょっと拡大しないかというところを期待して待っているというところであります。』
まあ別に悲観論じゃではないのですが、ただまあ中小企業まで全部が好調好調、というような経済が起きるには高度経済成長でもしてくれないと無理があると思うので、そういう点からどうしても話がずれてくるんだと思います。
・しつこく利上げについて問われるが12月は「ニュートラル」なんですと
まあそういう位だから12月の可能性が無いわけではないんでしょうけれどね。
『(問)これまでの質問と被りますが、多くのデータに関心があるとおっしゃっていて、講演の中でもいくつか指標について挙げられていますけれども、再来週のMPMまでに出てくるもので特に確認したいもの、データ次第では
12 月にでも利上げできるのか、教えてください。』
『(答)先ほどの 5 ページのところに書いてあるようなことを確認したいとなると、毎勤統計ですとか、それから消費動向指数、GDPの
2 次速報、建設工事受注動態統計とか、もうちょっとしたら出てくる私どもの短観、それから鉱工業指数とか、機械受注統計、貿易統計、資金循環統計とか、こういうデータがこれからMPMまでに出てきますので、そういった中からどう変化がみえるかを私としては注視していくということです。』
何か質問がやたら重複している気がするのだがもうちょっと何とかならんのかね。しかも中村さんの説明って別に煙に巻くような話をしているわけではなくて普通に分かりやすいと思うんだが。
『(問)市場では 12 月の利上げを含む観測というところが後退して来ていますが、こういった市場の見方と中村委員の考えに開きはありますでしょうか。』
『(答)別に何というか、まだ 12 月とか 1 月とかもっと先かとかいうことを決めているわけではないので、データ次第と先ほどから申し上げているんですけど、どちらかというと市場がボラタイルになっていて、上がったり下がったりしているんですけど、それはアメリカでも同じようなことが起きているので、決して私と大きな変化が出ているのかどうかはちょっと分かりませんけど、もう少しきちんとデータをみてファクトに基づいて意思決定をしたいと考えているので、今の状況は別に
12 月でなくなったというわけではないし、12 月でやるということでもないし、もうちょっと時間が経って、経済データのファクトを確認しながら、いろいろ市場も動いて来るのではないかなと思いますので、私としてはまだニュートラルにいるということです。』
ひたすら「データを見て判断」の説明をしているんですけれども、
・データを見て判断となっていない風潮に中村さんはお怒りのようです
この質疑も中村さんいい感じでぶっこんでいます。
『(問)一点、7 月の金融政策決定会合では、利上げについて反対票を投じていましたけれども、そこから現在にかけては心境の変化があるのかどうか。6
月の札幌市での講演の際には、当面は現状維持が妥当というふうに伝えていましたけれども、今回は慎重に金融政策度合いを調節する局面と示されていましたけども、その辺り少し心境の変化があったのか、教えてください。』
データが良くなったから、だと思いますが・・・・・・・
『(答)心境の変化という点でというと、もともと 3 月のときも、それから 7
月のときも確かに反対とは申し上げたんだけれども、利上げをすることに反対とは言っていません。利上げの仕方に対して反対をしたということです。』
ほうほう。
『データをきちんと確認して、あと一月待てば実績が出ましたねという、その確認をしてから上げるので十分良いのではないかと。』
ほっほーーーーーー。でもってここからがランボー怒りのぶちこみです。
『その方がマーケットプレーヤーも含めて、日本銀行の政策変更に対する憶測ばかりが先行してしまって、実態を示す経済データ、ファクトに対する関心が衰えてしまうのは良くないということで申し上げたので、反対を申し上げたというときとの心境の変化はない。』
お前らがデータの話をしないで政策の話ばっかりするからこうなっているんだいい加減にしろ、というのがこの「ない」という部分に表れているようで大変に結構であります。
『その後、1 か月経ったら、経済は想定通りになりましたので、その段階だったら最初から反対しなかったということであります。』
でもってこの先も中々いい感じでお怒りでして、
『だから、心境の変化をしているわけではない。』
これは!!!!!!!!
『私の見通しに対して、オントラックかといえば、自分としてはオントラックなので、ただ、そのオントラックが政策委員平均見通しより低い。だから、レベルがちょっと違うっていうことではありますが、心境の変化はないということであります。』
・・・・・データが良くなったからであって心境も糞もあるかお前は馬鹿か、というのがひしひしと伝わってくる実に良い回答ですね!!!!!!!!!!
まあこの部分、中村さんのおっしゃるのもご尤もなのですが、そもそも論として今の大本営が「確度」だの「基調的物価」だののような「お気持ち」で政策判断の説明をしているのが悪いのでして、そういうお気持ち金融政策をしているから世の中だって「お気持ちは如何ですか」という話になってしまう訳でして、これは記者が自分で蒔いた種とは言え中村さんに結構な怒られ方になっていますが、こういう記者の質問が来るというのは大本営執行部がお気持ち説明ばっかりしているからなので、ぜひ中村さんにおいては大本営に「お気持ち金融政策をするな」とぶっこんでいただきたいものです。
2024/12/06
〇中村審議委員会見でひと騒ぎワロタ(中村さん的には貰い事故みたいな面もあるかなと)
順序が逆ですが中村さんの会見がクソ面白事案になったので。
https://jp.reuters.com/markets/japan/funds/Z4QTPJWM2NN3NO6ZDGYZXPCDEA-2024-12-05/
〔マーケットアイ〕金利:国債先物は反落、長期金利1.065% 日銀審議委員の発言で売り圧力
By ロイター編集
2024年12月5日午後 3:30 GMT+9
『[東京 5日 ロイター] - <15:19> 国債先物は反落、長期金利1.065% 日銀審議委員の発言で売り圧力
国債先物中心限月12月限は、前営業日18銭安の142円98銭と反落して取引を終えた。新発10年国債利回り(長期金利)は同1.5bp上昇の1.065%。中村豊明日銀審議委員の発言をきっかけに日銀の早期追加利上げが意識され、円債は軟調に推移した。』(上記URL先より)
昨日の債券先物ちゃん、後場の途中からはまったりモードだったというのに、引け前20分で突如の急落(143.10辺り→143円割れ水準に一気に下がるでござるの巻)となった訳ですが。
https://jp.reuters.com/economy/inflation/B3WSPQA5TBPBBPSQZIAOL7CCSA-2024-12-05/
利上げに反対ではない、データに基づき判断すべき=中村日銀委員
By 和田崇彦
2024年12月5日午後 4:28 GMT+9
『[広島市 5日 ロイター] - 日銀の中村豊明審議委員は5日、広島市内で行った金融経済懇談会後の記者会見で、「利上げに反対しているわけではない」と述べ、データに基づいて政策判断をすべきだと強調した。12月の金融政策決定会合で利上げするかどうかは13日に発表される日銀短観などのデータをよく見た上で判断したいと話した。
中村委員は追加利上げがいつか、予断を持って言うには「まだデータが少なすぎる」とも述べた。』(上記URL先より、以下同様)
ということで、この「利上げに反対しているわけではない」というのとか、「データに基づいて政策判断をすべき」っていうのがここまでの利上げの際に反対票を投じたりした中村審議委員が言ったもんだからあらまあという感じで下がったわけですが、まあよくよく考えてみたら前日の時事通信&MNI砲(MNIが効いたのかは知らんが時事通信のは効いている)で一旦12月利上げ観測ヒャッハー筋が降参したところにこれが出るもんだから華麗なる往復ビンタを食らわせた格好になってしまってこれは円債市場の皆さん益々の血圧上昇案件ということになってしまいました。いやもう日銀何やってるんだか。
まあ中村さん自体は従来通りで、
『中村委員は、自身の発言などから金融市場では「ハト派」と目されているようだとしつつ、従来から経済構造の転換に向けた芽は出ていると言ってきていると指摘。「日本経済の将来に明るい希望を持っている」と述べ、成長志向の中小企業が増えていくことに期待感を示した。』
ってお話してたようですし、そもそも金懇の方ではいつものように利上げ慎重なお話(とは言え構造改革待ってたら百年利上げできないし、その間に今の水準の緩和を継続することが本当に構造改革を推進するのかというとだいぶ疑問をぬぐえないのですけれども)をしていたので平常運転ちゃあ平常運転ですし、もともと単に「決め打ちしない」と言ってるだけだし、中村さんが反対しても利上げぶっこむ時はぶっこんでいますし、利上げ後に中村さんは別に利下げしろとか言ってるわけではないので、中村さんが利上げに反対ではない、というのが即12月利上げに影響するのかというとそれはまた別問題。
ではあるのですが、これは前々から申し上げているのですが、金懇会見がメディアのヘッドラインに出てくるお時間(エンバーゴのお時間なのかどうかは存じませんけれども)がだいたい14時40分くらい、という今の金懇の段取りがそもそも論としてよろしくなくて、それは国内債券市場の引け際になってしまうし、だいたいからして金懇会見ってライブ放送とかない(質疑応答の紙が出るのは翌日)からどうしてもヘッドラインに頼らざるを得なくなるので、引け際にヘッドラインリスクを誘発しやすく、市場に対して無駄にボラを与えるリスクがある段取りになっているんですよね。
とまあそういう事なんで、金懇会見やるなら4時過ぎとかの引け後思いっきり時間経過してからにするか、2時ちょうどくらいからにするとか、とにかく今の「引け際20分くらいでヘッドラインが飛んでくる」という運営に関しては勘弁して欲しい訳ですが、日銀はなんせかつて10年新発国債入札の日の前場引け直後(=すなわちマーケットメーカーが入札に備えて事前ヘッジが完了した後)のタイミングで、臨時政策委員会・金融政策決定会合の実施をアナウンス(=その時の臨時会合はどう見ても金融緩和で案の定緩和になった)してマーケットメーカー全員が踏み入札をしなければいけなくなった、という輝かしい前科がある位に、債券市場に関しての理解が足りない人たち、というのが伝統芸能(なのに長期国債市場に介入しまくったんだからそりゃ弊害もでる)として継承されているので(個人の感想です)、まあお前ら大概にせえよ、というお話ではございます。
しかしまあ何ですな、これ中村さん別に悪意があったわけでも何でもないと思うのですけれども、今週は土曜日の総裁日経インタビュー、水曜の時事通信砲、木曜の中村審議委員会見、という三連コンボで市場に超無駄なボラを与えてしまいまして、また債券市場に喧嘩を売ってしまうというプレイ(しかも本人たちは喧嘩を売る気はなくやっているのが無能な働き者にも程がある話)をしてしまった訳でして、おまいらマジで何なのこの下手糞はとしか申し上げようがありませんですけど、植田日銀の間中この調子だと思うと頭がくらくらします、まあ見世物としては面白いんですが見世物の端役にさせられて殴る蹴るの暴行を食らう役をさせられる市場の皆さん含むワイにとってはいい迷惑ではありますな。
というただの悪態でした。
〇中村審議委員広島金懇挨拶は具体的な目先の金融政策の話は無いが正常化に時間かかるロジックである
https://www.boj.or.jp/about/press/koen_2024/ko241205a.htm(HTML)
https://www.boj.or.jp/about/press/koen_2024/data/ko241205a1.pdf(PDF)
【挨拶】
わが国の経済・物価情勢と金融政策
広島県金融経済懇談会における挨拶要旨
日本銀行政策委員会審議委員 中村 豊明
2024年12月5日
HTMLバージョンが同時公表されましたのでコピペが楽なHTMLバージョンから引用します。
・個人消費が物価高で弱くて今後節約志向が高まるかもしれないというのであれば・・・・
『2.内外経済情勢』のところですが、こちらは総じて中心的見解よりも弱めのお話をしていますね。
つまり、現状認識の部分では、
『日本経済は、一部に弱めの動きもみられますが、緩やかに回復しています。企業部門では、財輸出は横ばい圏内の動きとなっているほか、サービス輸出は、入国者数の増加等によるインバウンド需要の増加を受けて、過去最高を更新する勢いで増加を続けています。鉱工業生産は、横ばい圏内の動きとなっています。企業業績は改善傾向にあり、設備投資も省力化やDX・GX等の投資ニーズが強まり、緩やかに増加しています。』
この辺までは展望と同じ話ですが、
『もっとも、需要が供給を下回る状況が続くもとでは、設備投資計画が先送りされる可能性もあり、今後の動向に注意が必要です。』
と入れてみたり、
『家計部門の所得環境は、足もとまで前年比+2%台後半の賃金上昇が続くなど、緩やかに改善しています。もっとも、成長志向の大・中堅・一部の中小企業と「稼ぐ力」の回復が遅れている過半の中小企業との間で、「前向きな賃上げ」と「防衛的な賃上げ」の二極化が窺われ、今後の動向を注視しています。』
てな感じで賃上げの動きに関しても死角あり、という話をしておりまして、
『また、個人消費は、物価上昇や節約志向の影響等により、力強さに欠けています。』
でまあこの認識でして、かつこの後先行き見通しのところでもこの点を懸念しているのですが、だったら何で金融緩和継続すべきって話になるんじゃ消費ってGDPの6割だろ、と思うのですけれども何でそうなるんですかねえ・・・・・・・
なお、物価に関しては
『物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、既往の輸入物価上昇を起点とする価格転嫁の影響が減衰してきているものの、賃金上昇等を受けたサービス価格の緩やかな上昇が続くもとで、足もとは2%台前半となっています。』
現状に関してはこうです、先行きは弱気ということでこの次が先行きの話。
・先行きは賃金上昇の持続性と消費に懸念なんですが
次のパラですけど、
『日本経済の先行きを展望しますと、10月公表の展望レポートでは、海外経済が緩やかな成長を続けるもとで、緩和的な金融環境などを背景に、所得から支出への前向きの循環メカニズムが徐々に強まり、潜在成長率を上回る成長を続けると予想しています(図表2)。』
というのは展望のメインシナリオですが、
『もっとも、私自身は、賃上げの持続性にまだ自信を持てておらず、個人消費の節約志向の強まりや設備投資計画が先送りされる可能性、中国を始めとする海外経済の下振れに伴う競争の激化等も織り込み、経済は政策委員見通しの中央値より低い伸び率を想定しています。』
『また、消費者物価(除く生鮮食品)前年比の政策委員見通しの中央値は、2024年度に2%台半ばとなったあと、2025年度および2026年度は、概ね2%程度で推移すると予想していますが、私自身は、2025年度以降は2%に届かない可能性があると考えています。』
うーんこのという感じで、節約志向の高まりが困るんだったら今のアクチュアルの物価上振れに対してなんか対応する、という考えにはならんのかねと思いますし、対応しないにしたって「物価の上がる政策」を継続する必要があるのか、という話はどうなんでしょうかねえ・・・・・
・よって本編では金融政策の修正に時間のかかりそうな話になる
でまあその次が『3.経済の成長軌道への回復状況に応じた金融政策運営』なんですけど、こちらはお題はこうなっていますけれども、基本的に中村さんの言う「稼ぐ力」の復活という壮大なテーマに沿ったお話になっています。
『わが国の金融政策は、2%の「物価安定の目標」の持続的・安定的な実現を通じて国民経済の健全な発展に資することを目的としています。米国の金融政策や海外経済の動向、為替の動向等は、日本の経済・物価に影響を与えますので考慮する必要がありますが、私は、人口動態や産業構造の変化によって低収益化した経済の回復状況に応じて、中長期的な視点でわが国のファンダメンタルズの向上に資することが、金融政策運営にとって大変重要と考えています。こうした観点から、やや長い目でみた日本の産業構造の変化等について、私の経験も踏まえて整理してみましたので、以下お話しさせて頂きます。』
「人口動態や産業構造の変化によって低収益化した経済の回復状況に応じて、中長期的な視点でわが国のファンダメンタルズの向上に資することが、金融政策運営にとって大変重要と考えています。」
お、おぅ・・・・・・・・・・
というマクラの部分の時点で「こりゃ時間のかかる話をしているわ」というのが分かるとは思うのですけれども、いやまあ中長期的な日本経済の「稼ぐ力」を強めるというような話は言いたいことは分かるんですが、じゃあそれを実現するために今のようなどこからどう見てもバチクソに緩和的な金融政策を継続する必要はあるのか、ということをもっと考えて頂きたいと思うのですけれども、
最初の『(1)日本の産業構造の変化と経済の回復状況』という所ですが、この締め部分がこうなっていまして、
『さらにコロナ禍以降の世界的なインフレの高進や為替円安により、日本でも輸入物価を起点としたインフレが生じました。これまで取り組んできた大企業を中心とした「事業構造(ポートフォリオ)改革」による「稼ぐ力」の強化が奏功して、33年ぶりの高い賃上げ率、バブル期を超えた株価、100兆円を超えた設備投資など、前向きな事業活動により、物価上昇に負けない「賃上げと投資がけん引する成長型経済」への大きな変革の芽が生まれ、停滞していた規制改革も進むようになりました。もっとも、足もとの実質GDPは、前期比増加と減少を行き来しており、まだ安定的な成長軌道に乗っているとはいえません。』
という結論になっている時点で、ああこりゃ金融緩和縮小という話にならんな、と思う訳ですが、その次の『(2)経済の回復状況に応じた金融政策運営』ってところでは、
『コロナ禍からの回復局面で人手不足が深刻化し、雇用の流動化や賃金上昇が進み始めましたが、少子高齢化・人口減少による需要低迷と供給制約、低収益化した産業構造等の構造的問題があり、中小企業中心に投資回復が遅れているため、私としては、まだ賃上げの持続性に自信を持てていません。』
というのはさっきあった通りですが、
『2%の「物価安定の目標」の持続的・安定的な達成のためには、企業の「稼ぐ力」の向上による経済の成長軌道回帰への期待に自信が持てる経済構造への変革が必要ですが、これには相応の時間が掛かると思います。』
oh・・・・・・・・
『しかし、既に物価上昇に負けない「賃上げと投資がけん引する成長型経済」への大きな変革の芽が出ていますので、これが枯れずに順調に育つように、多くのデータを確認し、経済の回復状況に応じて金融緩和度合いを慎重に調節していくことが重要な局面だと考えています。』
どう見てもこれは金融緩和を縮小する意欲が少ないとしか言いようが無いですな・・・・・・
『具体的には、多くのデータやヒアリング情報により、(1)回復が遅れている中小企業の「稼ぐ力」の水準がコロナ禍前を上回っているか、(2)価格転嫁率が改善しているか、(3)設備投資や賃金・賞与の増加に進展がみられるか、(4)「前向きな賃上げ」を行う中小企業が増加しているか、(5)家計の節約志向が改善しているか、(6)輸出競争力が向上しているか等を含め、経済の回復状況を丁寧に確認していきたいと考えています。これらについては、日本が抱える構造的問題と併せて、後ほど説明します。』
うーんこのという感じで、まあごくごく普通に利上げ慎重、としか読めませんわな。
・国民すべてを「家計のダイナミズム」に放り込むのが本当に国民厚生の向上に繋がるのかなあと
でまあこの次が『4.構造的問題を克服する持続的経済成長に向けて』の話で、まあ展望レポート棒読み金懇やるどっかの審議委員とかの講演よりはオモロイわけで、中村さんの金懇講演のメイン部分になるのですが、甚だ恐縮ですが例によってかっ飛ばすんですけど、前回の中村さんの金懇講演の時も申し上げたのですが、「家計のダイナミズム」の話、言いたいことは一つの主張として分かるのですが、やっぱり凡人のワイは腑に落ちないところがありまして、『(3)将来不安を軽減する「家計のダイナミズム」の向上』って小見出しのところですけれども、その2段落目から。
『低収益化した経済構造においては、成長志向の大・中堅・一部の中小企業が成長をリードし、多くの従業者が働く過半の中小企業にも「前向きな賃上げ」が広がることが、将来不安の払拭に必要です。しかし、現在の賃金水準は主要国の中でも低く、社会負担の増加や「年収の壁」等、時間当たり賃金の上昇が可処分所得の増加に繋がらないなどの構造的問題を抱える中で、雇用者報酬が家計の可処分所得の9割超を占める「一本足構造」となっています。』
『雇用者報酬の占める割合が7割、配当利子所得が2割の米国の家計のように、「稼ぐ力」の多様化に向けた改善も将来不安の解消には必要です(図表14)。』
利上げすると利子所得上がると思いますし、利上げしたら配当「利回り」っていうくらいですから配当引き上げのプレッシャーにもなると思いますわ(^^)
『新NISAの開始を通じて、勤務先の業績だけでなく、投資によって上場企業の成長が家計の所得向上に繋がる所得構造の多様化も進み始めています(図表15)。』
でまあここの締めが、
『持続的な賃上げ、転職による賃金上昇、「長期・積立・分散」投資等により「家計のダイナミズム」が向上し、家計の「稼ぐ力」の向上の動きが、今後、家計の消費行動の改善に繋がると期待しております(図表16)。』
ってしらっと「転職による賃金上昇」ってあるんですけれども、すべからくすべての人がホイホイと転職して給料アップだぜヒャッハーっていう世の中っていうのはそらまあ「ダイナミズム」はあるのかも知れませんが、もうちょっとこうそんなダイナミズム無しでも普通に生活設計ができるような社会の方が、中村審議委員のようなスーパーな方ではない人たちにとっては平和なんじゃなかろうか、とまあ凡人オブ凡人のワイは思うんですよね、というのを前回に引き続き書かせていただきたく存じます、はい。
#でもって結局会見はどうだったのかというのは今日出てくる会見録で確認ですな
2024/06/11
〇中村審議委員札幌金懇と記者会見
金懇挨拶
https://www.boj.or.jp/about/press/koen_2024/data/ko240606a1.pdf
わが国の経済・物価情勢と金融政策
── 札幌市金融経済懇談会における挨拶要旨 ──
日本銀行政策委員会審議委員
中村 豊明
まあ基本的に中村ワールドなんですけど・・・・・・・・・・・・
・家計消費を強くしたいという趣旨はわかるんだが話の展開に無理がある気がする
『3.金融政策運営と経済構造の変革』ってお題のところになりますが、『(1)家計の購買力強化の重要性』ってのがあるのに何で円安助長政策を良しとしているのか、というのは先週申し上げましたが、そのあたりをちょっと読んでみますね、本文3ページから4ページにかけて(PDFの4枚目〜5枚目になります)。
『足もとの物価と賃金の動きをみますと、4月の消費者物価(除く生鮮食品)は前年比+2.2%と
25 か月間2%以上の上昇率が続くなか、企業・家計のインフレ予想が高まり、好調な企業業績や人手不足等から大企業中心に持続的な賃上げ意欲の高まりも感じられます(図表4、図表5)。』
とのことですが、
『もっとも、足もとの消費者物価(除く生鮮食品)の前年比の拡大は、政府支援効果の一巡による電気・ガス代のマイナス幅縮小が主因と考えています。エネルギー価格変動の直接的な影響を受けない消費者物価(除く生鮮食品・エネルギー)も8か月連続で伸びが縮小する等、ここまでの物価上昇は輸入価格高騰のラグを伴った影響が大きく、賃金から物価への波及はまだ弱いと思われますが、2024
年1Qはユニット・レーバー・コストが+2%に上昇しましたので、今後の変化に注目しています(図表6)。』
という説明になっているのですが、前年比伸び率で話をするんじゃなくて水準で話をしてほしいと思うのですよね、別に中村さんに対してというよりは皆様に対してなんですが。でもって前月比とか水準でみたらばっちり物価って上がってて下がらないって感じなんですよね。
まあそれは兎も角、家計の購買力が弱いという話がその後に出てきます。
『連合の春季労使交渉の回答集計結果では、2024 年度の賃上げ率が 5.2%と33
年振りの高さとなりましたが 1、主に大企業の回答集計結果ですので、今後、従業員の8割が働き、人件費の7割を占める中小・中堅企業への波及を確認してまいります。』
でもって、
『また、2023 年は、雇用者報酬が前年比+1.7%でしたが、家計の購買力を示す可処分所得は、社会負担の増加や前年の政府による住民税非課税世帯への給付金支給の裏要因等から+0.2%に止まりました。』
『こういった停滞感が残る所得環境のなかでも、家計最終消費支出は+3.7%増加しましたが、コロナ禍の時期に蓄積された超過貯蓄の取崩しが大きく、貯蓄率は前年の
3.4%から 0.1%に低下しました 2(図表2再掲)。』
『家計の購買力は依然として弱く、2023 年度の実質家計最終消費支出は前年度より
0.6%減少しました(図表7)。2024 年度は、所得税・住民税の定額減税の効果が期待されますが、貯蓄率低下の巻戻しや節約志向が高まる可能性も考えますと、所得から支出への前向きの循環メカニズムが強まるには、実質賃金のプラス転化に加え、可処分所得の確りとした増加が必要と考えています。』
って話になっているのですけれども、そもそも論として節約志向が高まるのはデフレ脳のままだからなのではないかという気がだいぶするのと、実質賃金のプラス転嫁よりも成長期待というか所得が恒常的に上昇する期待が起きるかどうか次第なんじゃねえのと思うのよね。
ただ、この前ネタにしましたように中村審議委員って基本的にアメリカン的な雇用を是として説明をしていまして、うーんそれで本当に多くの人たちに恒常的な所得の増加期待って起きるのかなって思ってしまいますわ。
でまあその次は先日ネタにしたような結論になっているのですけれども、
『今年の春季労使交渉では、33 年振りの高い伸びとなりましたが、1990 年から
2023 年にかけて、生産年齢人口は9割に減少し、年金受給人口は 2.4 倍に増加しています。さらに、主婦・高齢者層等の「年収の壁」の問題や、後期高齢者が高齢者の5割を超えるほどの超高齢社会の進展等、追加的な労働参加率の向上を見込み難くなっています(図表8)。』
『家計調査によると、世帯主が 65 歳以上の家計では消費支出が大きく減少するため(図表9)、高齢化が進むとともに、家計の消費支出には下押し圧力がかかっていくことが予想されます。』
それ単に子供に金がかからなくなっているのと仕事しなくなって仕事に絡む消費(飲み会とか服買うとか)がなくなっているだけとチャイマスカと思うのですが。
なので、
『家計の購買力を強化し、個人消費を活性化するには、現役世代の高い賃上げ率が持続する必要があります。』
ではなくて単にそれは人口動態と家族構成の問題ではなかろうかと思うんだが。
『また、後ほど詳しく申し上げますが、日本の家計が米欧の家計と同様、上場企業の成長を通じて可処分所得を押し上げる金融資産構造へ変化していくことも、可処分所得の確りとした増加に有効だと思います(図表
10)。』
でもって最後のところがこの前引用したように、「給料が上がらないなら投資信託を買えばいいじゃない」の話なんだが、そもそも論として高い労働分配と高い株主分配を持続的に両立するのって無理じゃね??って話で、何ちゅうか中村さんの話って一面では言ってること分かるんだけど、全体を通してみるとやっぱり何か整合性の面で???なところがあるんですよね。
・2%物価目標に関連する話を読んでいるのに途中から経済構造の話になっていてタイムスパンがですねえ
ちょっと飛ばして小見出し『(3)2%の「物価安定の目標」の持続的・安定的な達成』という本文7ページの真ん中あたりからの部分に参ります。
『日本経済は、物価と賃金が漸く動き始めたことで(図表 15)、長い停滞の歴史から抜け出し、2%の「物価安定の目標」や持続的な経済成長を達成する千載一遇のチャンスを掴みかけており、重要な転換点に差し掛かっていると思います。』
中村さん、先ほど物価の話のところでは輸入物価発のコストプッシュが引っ張って、という話をしていますし、賃金のところでは労働市場の構造変化と(ホンマカイナというのはあるけど)インフレ期待がやや上昇している、という話をしていましたですな。
でまあここでは「長い停滞の歴史から抜け出し、2%の「物価安定の目標」や持続的な経済成長を達成する千載一遇のチャンスを掴みかけており」とのことになるのですが、いやまあ物価2%は良いんですけど、なんでコストプッシュと労働市場の構造変化が「停滞を抜け出す」とか「持続的な経済成長」になるのかというのが謎オブ謎な訳でして、きっかけは輸入物価であったとしても、物価上昇が継続する背景に需要要因があるって話じゃないと話に無理があるんじゃね、という感じな訳ですよ。
いやまあこれが「そもそも今の物価上昇は輸入物価上昇がラグをもって押し寄せてきているだけなので一過性なので物価目標達成なんぞする訳がありません」という話ならさっき引用した物価上昇の話と整合性が取れているのですが、なんでこっちでは明るい話になってしまうのかが謎。
『人手不足や更なる成長のために大企業が高い賃上げ率を主導するようになったことで、賃金水準を押し上げ、中小・中堅企業にとっても賃上げ分を価格転嫁するハードルが下がり始めています。』
この「労働市場の構造変化」って最近日銀が急によく言うようになってきましたけど、労働市場の構造変化でデフレ脱却というのであれば、そもそも論として少子高齢化万歳という話になってしまう訳でして、いやそれちょっと話として変じゃないのって思うのよね。
『このため、中小・中堅企業においても、販売価格引上げに必要な顧客満足度を高める様々な企業努力が行われ、経済構造に前向きの変化が起こっていると思います。』
『この努力が市場や企業で適切に評価され、顧客満足度向上に応じて販売価格が改善され、付加価値創造に貢献している従業員の賃金が上昇することで、エンゲージメントや成長期待が向上し、生産性やイノベーションの向上を伴って、物価から賃金、賃金から物価への好循環が回り始めます。』
何というか、これ某ジンバブエ先生とは別の意味で「風が吹けば桶屋が儲かる」的な決め打ち感が強くて、まあ話で聞いてていると「ふんふん」と聞いてしまいそうですが、こうやって文章になったのを見ますと、何ちゅうかこの決め打ちパスでエエのかという疑問が沸いて出てくる感。
『物価安定目標の持続的・安定的な達成とともに、企業活動が積極化し、家計も将来に希望を持てるようになることが期待されます。』
うーんこの桶屋。
『今後とも、成長志向の企業経営者の皆様の持続的な改革の推進を期待しております(図表 16)。』
と来てからの、
『もっとも、30 年続いた企業のコストカット志向が僅か2年で一気に変わるとは考え難く、私としては、2%の「物価安定の目標」の持続的・安定的な達成のためには、経済の力強い回復への期待を確信に変える経済構造の変化が必要と考えています。』
うーん何でしょうこの決め打ち感とソウジャナイ感は。いやまあ何となく言いたいことはわかるんですけど、その構造変化のタイムスパンと金融政策運営のタイムスパンとが全然あっていない話でして、じゃあそれまでの間超大規模緩和を継続するんですか??ってのがこれまた謎だし、
『こうした観点から、中小・中堅企業の価格転嫁努力の浸透状況や「賃上げ余力」の向上状況、設備投資や人財投資、研究開発投資、M&Aや第三者事業承継の実行状況等、事業構造強化や成長施策の進捗を丁寧に確認していくことが重要だと考えています。』
それを確認したいのはわかるんだが、それって超越金融緩和の環境じゃないとできないことなのか、というと全然そんなことないし、だいたいからして超低金利によって借入コストを下げてしまったら非効率な企業でも存続しやすくなってしまうっていう話になりゃあせんかという事ですし、先週ネタにしましたように、そもそも論としてアメリカン的な成長社会を中村さんは展望しているんでしたら、それこそ超低金利とガバガバの財政支出ってのは、経済の構造改革を遅らせてしまう効果というか副作用を発揮するんじゃなかろうか、と思うのですが、なぜか金融政策に関しては緩和継続万歳になってしまうのが摩訶不思議としか申し上げようがないですな。
でもって記者会見
https://www.boj.or.jp/about/press/kaiken_2024/kk240607a.pdf
中村審議委員記者会見
――2024年6月6日(木)午後2時30分から約30分
於 札幌市
・とりあえず話が長いのとあらぬ方向にドンドン流れてしまうことは把握した
先ほどの金懇挨拶もそうなんですが、話が決め打ち調でどんどんと流れていくんですけど、さっきの話だって物価目標達成の話をしている筈が気が付けば構造改革の話になっていて、いやまあそっちが大事だと言いたいのはわかるんですが、それは金融政策運営のタイムスパンで話をする論点じゃねえだろというお話になるんですよね。
まあこの質疑を見ますと何となく伝わってくるのですが、(本文2ページから3ページ)
『(問)先ほどご紹介頂いた今日の懇談でも、なかなか賃上げのしづらさということを企業が訴えているというご見解でした。また、こういう中でも、これから個人消費が低迷してしまうと、2025
年度以降、2%の物価に届かない可能性もあるということでした。そうなると、年内もう一度日銀は利上げするのではないかという市場の見方もありますが、中村委員ご自身はこうした利上げのタイミングは早過ぎるという認識でいらっしゃるのでしょうか。』
まあ質問もちょっと余計なこと言いすぎではあるんですけど、
『(答)やはり賃上げのしづらさというのは中小企業においては、かなりまだまだ続いているなというのが私の見方でございまして、個人消費の低迷というのもなかなか[改善が]進まないなと。それは私の挨拶文にも記載致しましたけれども、人口動態の問題があって、なかなか賃上げの恩恵を受ける世代の数、世帯の数が減少していて、1990
年度のときと同じぐらいの賃上げ率が今年度出たと発表されているという事実もございますが、この影響を受ける世代、世帯の数は確実に減っていて、生産年齢人口の高齢者が
2.4 倍に増えているという状況でありますので、社会負担も勤労世帯には重くのしかかるという人口動態の問題もありますので、
あまりのクソ長さに句点ではなく読点のところで切ってしまいましたが、なんですかこの話の流れっぷりはという感じですが、何せこれ読点ですからさらに続いていまして、
『これを今、改革をしようということで、政府それから企業の皆さまが努力をされているわけで、その期待感はあるんですけれども、賃上げ、それから企業の改革努力というのが、なかなか個人の可処分所得に反映が遅れると、やはり縮み志向が
30 年間続きましたので、この 2年間程度の賃上げ率でこのマインドが払拭されて一気に変わるということは、なかなか難しいだろうということを考えております。』
途中から話がドンドンと明後日の方向に向かってしまって全然質問の回答になってない・・・・・・・・
『悪い方向をみれば、個人消費が一巡という可能性もあるんではないかというふうにみております。』
突然簡潔になったのですが、
『従いまして、利上げは早過ぎるのかというと、私は今のタイミングではちょっと早いだろうなという気がしますけれども、』
と、またも読点で切ってしまいましたが、なぜかといえばこの先がですねえ・・・・・・
『これから経済のデータがいろいろ出てくる。この前出ました法人季報でいいますと、営業利益がかなり増えました。一人当たりの営業利益を重視しているんですけども、これをみますと、年度で、全体では前年比
15%増えています。それから資本金が 1,000 万円以上 1 億円未満の中小企業は
13%増えましたし、中堅は 11%増えましたので、これは好調な数字にはみえます。ただ、よくみますと中小の場合は、コロナ前の
18 年度で、19 年度もコロナ禍前なんですけども 20 年の1〜3 月はもうちょっと影響が出ていましたので、フルで影響がなかった年という面で
2018 年度をみますと、そこに対しては 1%の増加なんですね、一人当たりの中小企業の営業利益が。しかしながら、中堅と大企業は2割から3割増えていますので、中小企業の一人当たりの営業利益、「稼ぐ力」がまだ弱い。設備投資が前年比で合計
7%増えましたけども、中小企業は前年度に比べて 3%減っておりますので、来年度以降、持続的な生産性の向上という点でいうとまだ課題が残るというふうに思いますので、次の法人季報ですとか、それから各社へのヒアリングなどを通じて、この設備投資の動きをもうちょっとモニタリングしていきたいなというふうに考えております。』
長い・・・・・・のもさることながら、営業利益の話を始めたのに途中から持続的な生産性の向上の話になって、最後は設備投資の動きを見たい、という結論になっていまして、お願いだからもう少し整理してしゃべってほしいと思いますけど、まあアタクシもこうやって半分脊髄反射で駄文書きをしていると話が勝手にドンブラコと流れていってしまうことがあるので人のことは言えない説はありますけど、いやこうやって文字起こしされると中々辛いものがありますなというところで。
・円安はよくないという話をしている割には金融緩和は万歳になってしまうしその根拠が何ちゅうか・・・・・・
こんな質疑がありました。なお上記ほどではないが回答はやたら長いのでソコントコヨロシク。本文3ページ。
『(問)朝の講演文を拝見しまして、消費が価格上昇分で縮むということを懸念されているようなんですけれども、この背景には円安で物価高につながったということがあると思います。この為替に関して、消費に影響するという文脈もあり、金融政策で対応すべきことなのかどうかといったところはどういったお考えでしょうか。』
と来まして、
『(答)円安というのがやはり、かなり大きな問題になってきていると思います。』
と言ってるんですが、
『まず前提として私の基本的な理解ですけれども、為替は経済のファンダメンタルズに沿って動くということが望ましいと思います。金融政策っていうのは基本的にいうと為替相場を直接のコントロール対象としているのではない。しかしながら、昨今の輸入物価の水準そのものが、海外で水準が高くなっていますので、経済と物価に影響を及ぼす重要な要因の一つになってきたという事実があると思います。それから金融政策は引き締めると国内需要を抑制する効果を持っているということも事実であります。』
で結局は何なのかが謎ですが先に進みます。
『そのうえで全体感を申し上げますと、急速かつ一方的な円安は、先行きの不確実性を高めてコストカットによる縮み志向を強めるというふうに思いますので、千載一遇のチャンスをつかみかけている日本経済にとっては、望ましくないというふうに思います。』
なのになぜ不必要な程度の金融緩和を継続しようとするのかしら??
『為替相場が経済に及ぼす影響というのは業種それから企業の規模によってまちまちでありますし、そこに勤める従業者への影響もまちまちであると思います。それから消費者物価上昇の影響を受ける家計にとってみると、やはり負担が増える、従ってマイナスの影響が大きいというふうに思われます。』
物価上昇の影響を受ける家計って話は部分的にはそうなんですけど、それ言い出すとそもそも物価目標2%って言ってるのは何なのよという話になってしまうんですよね。
『もう一つは購買力のもとになる賃金上昇率が米欧のように高くないという問題も日本にはございます。』
いやそれ言い出したらそもそも話が終わってしまうじゃんと思うのですが・・・・・・・・
『こういった中で、今掴みかけている千載一遇のチャンスを逃してしまうような悪影響が想定されて、金利だけでもう調整するんだということに経済全体がなってしまえばですね、私としては、日本経済はそんなに強くないと思っておりますので、需要抑制による相応のマイナスが日本に出るというこの影響も考慮しなければなりませんので、軽々に金融政策で対応できるというものでもないかなというふうに思います。』
いやだからなんでその結論になってしまうの、というか経済が弱いのになんで千載一遇のチャンスになってるんですか????というお話。
『一方で、高付加価値の製品の輸出が今後増加していきますので、』
その根拠は???
『そうしますと日本の国際競争力が向上していくということを考えると、』
いやだからそもそもどこから「高付加価値の製品の輸出が今後増加していきます」なのかがさっぱりよくわからんのですけど、
『日本の構造転換がようやく進み始め、大いにこの効果を期待できるような年が来るのではないかなという変化も期待しているところであります。現時点においては、私の状況認識というのはそういうものだと考えております。』
どういうものなんですか・・・・・・・・orzorz
・なんかさっぱり分からんのだがこれは今週輪番に関して何らかの話はある(決定するかは分からんけど)のかね
最後の方の質疑応答に飛びますけど、
『(問)今の国債買入れのところで、確認ということでお伺いできればと思います。ただ今ですね、ご回答の中では、経済の改善をみつつ国債買入れの扱いについても考えていく、というふうなご回答だったかと思います。一方でですね、基本的に、経済・物価情勢を踏まえた政策対応というのは短期金利の変更によって行うというふうなご説明を、総裁などはされているというふうに思います。委員はですね、国債買入れの扱いについてもですね、経済情勢というのを踏まえて判断していくべきものだというふうに考えていらっしゃるのか、改めてこちら確認できればと思います。』
この回答ですが余計なことをいろいろと言ってますけど、要は経済が強くないので国債買入の減額は慎重に、というのが回答になっています。
『(答)国債の買いオペを例えば減らすというときには、金利の変化というのは大きくなるので、それに対して、経済があまり強くないときにショックは起こすべきではないという考えでおりますが、今、非常に、法人季報をみますと、1〜3
月は、私の想定ぐらいの改善をしていましたし、コロナ前の前年度、平時のときに比べて中小は良くないんだろうなと思っていた通りでありましたので、経済そのものは、それほどまだ、アメリカのように強い経済情勢ではないというふうに思いますので、買入れのオペレーションでどういう影響が生じるのかというのを考えながら、慎重に考えていくことが必要ではないかなというふうに思っています。そういう関係で申し上げましたので、経済情勢といったデータをよくみながら考えていきたいなと思っております。』
そもそもそんな弱い経済状況なのになんで千載一遇のチャンスなのかがわけわからんとか、アメリカのように経済が強いわけではないってアメリカみたいに強かったらインフレが上振れするじゃろとか、まあいろいろとツッコミどころしかないのですけれども、要するに経済が弱いから国債買入は減額するな、というのが中村さんの主張のようですが、
『(問)シンプルにお聞きしたいんですけど、お話を聞いていると、追加の利上げも買入れの減額も、6
月の金融政策決定会合で決定するにはまだちょっと早いのではないかというご意見でよろしいですか。』
「シンプルにお聞きしたいんですけど」って枕詞クソワロタwwwwwwwwwwwwwww
『(答)来週ありますので、そういう話題も出るかなというふうに思いますけれども、利上げは早いと思いますね。それから買いオペの変化をどうするかという問題も、現実に私自身が真剣にそこまでは考えている状況では実はありません。』
『ですが、時間をかけて考えると、国債をずっと買い入れるということは、まだ異常な経済・金融の状況にあるということでもありますので、そこの評価・判断をどうするかということです。』
で話を終わりにすればよいのに終わりにしないのが中村審議委員のクオリティでして、
『今日の北海道のお話ですと、やはりまだそんなに強くないと、結構大変ですというようなお話の方が多かったような気がしますが、先を考えると明るい未来が待っているかもしれないというようなお話の状況だったような気がします。ですので、今、北海道もつかみかけている絶好のチャンスをですね、失わないようにしないといけない。日本も同様にそのチャンスを失わないようにしなきゃいけない。30
年ぶりにきたような、ようやくつかみかけていますので、慎重に影響を考えながら、方向を決めていくということだと思いますので、どちらともまだ言える状況ではないなと思っています。』
クソ長いwwwwwwwwwwwwwww
のはさておきますと、まあ途中に「時間をかけて考えると、国債をずっと買い入れるということは、まだ異常な経済・金融の状況にあるということでもありますので、そこの評価・判断をどうするかということです。」って言ってるんで、つまりは異常な状態ではないと認識するんだったら今のような規模での国債買入が必要なのかというと必ずしもそうではないのではなかろうか、という話をしている訳ですな。でまあそういううのを勘案すると、国債買入の減額に関してはそれなりの議論がある(決定するのかとか表に出てくるのかというとそれはそれで別問題と思われますが)ということですかね、知らんけど。
2024/06/07
〇中村審議委員札幌金懇挨拶:言ってること自体それはそれで完結しているのだが中村ワールドが展開されておられますな
さーせん本当は今日はECBという大イベントもあったのですがそもそも中村さんの金懇挨拶ネタすら簡潔でそうもありません(じゃあお前なんで事前準備してないんだというツッコミはしないでください汗)。
https://www.boj.or.jp/about/press/koen_2024/data/ko240606a1.pdf
わが国の経済・物価情勢と金融政策
── 札幌市金融経済懇談会における挨拶要旨 ─
・経済の先行きで個人の実質所得が伸びない可能性を懸念しているのはわかるのだが・・・・・・・・・・
『2.内外経済情勢』のところ、まあ最初はおとなしく大本営発表の話をしているのですが、本文3ページ(PDF4枚目、以下同様の関係)の真ん中あたりから中村さんワールドが展開されまして、
『(引用者追記:この先は国内経済の先行きに関して、です)。もっとも、私が懸念している点としては、少子高齢化や人口減少等の構造的問題による社会負担や年金受給人口の増加、「年収の壁」等により、賃上げ率ほどには家計の可処分所得が伸びず、家計の貯蓄率低下の巻戻しや節約志向の高まり等に加え、中小・中堅企業の「稼ぐ力」の改革が遅れることも考えられ、その場合には、潜在成長率を下回る成長が続く可能性もあると考えています。この点については、後ほど私の考えを詳しく申し上げたいと考えています。』
『また、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、政策委員の大勢見通しにおいて、2024
年度に2%台後半となったあと、2025 年度、2026 年度は、概ね2%程度で推移すると予想していますが、私は、2025
年度以降については、家計の貯蓄率低下の巻戻しや節約志向の高まり等から個人消費が低迷し、値上げ鎮静化が進むと、2%に届かない可能性があるとみています。』
とまあそういう話をしておられるのですが、そもそも論として実質賃金伸びないとか、中小企業が収益上がりにくいとかいうのって多分に円安コストプッシュが寄与してるじゃろ、というのがあるわけでございまして、円安ムーブが消費の先行きへの懸念材料なんだったら、円安ムーブを強化あるいは加速させるような金融緩和プッシュをするのってどうなのよ、って思うのですよね。
あと後半の説明、言ってることはまあわからんでもない(なお内田さんの金研コンファランスのキメセリフには思いっきり喧嘩売ってますけどそこはご愛嬌)のですが、そもそも論としてこの「2%に届かない」っていう話ですが、展望レポートの基本的見解の図表「政策委員の経済・物価見通しとリスク評価」を見ますと、これ目の子で見た場合、2025年度1.7%、2026年度1.6%なんですよね中村さんの予想って。
・・・・・ここで急に話が飛びますが、これ書いてて今更気が付くのが不覚にもほどがあるのですが、展望レポートの「大勢見通し」って「最大値と最小値を1個ずつ除いて、幅で示したものであり」となっていまして、この時の物価見通しで言えば実は2025年度と2026年度って中村さんと同じところにプロットしているのがもう一人いまして、これ数値で言えば「最小値1個除外」なんですけど、意見で言えば「下の委員を2名削っている」ということになっていて、いやおまえそれおかしくないか(例えばFEDのSEPの場合は上下何人除外、で計算してますし、全員のレンジも示しているのですが、展望レポートっていつの間にやら全員のレンジも出さなくなっているんですよね、プロットあるからそれを見ろということでしょうけど)と思いました。
まあそれはともかくとして、この「2025年度コア1.7%、2026年度コア1.6%」という数値なのですが、確かに2%よりは低いから「物価安定目標2%を厳格な数値目標として考えれば」未達って話になって、だから緩和継続が大正義って話になっているのですが、そもそも物価安定目標がなんのためにあるかといえば国民厚生を最大化するためのメルクマールなわけであって、物価目標の数値を厳格な大正義数値として扱った結果、過剰な緩和により過度な円安や資産価格のバブルを発生させてまでその大正義数値を達成する必要があるのか、というのをちょっと考え直していただきたいと思うのですよあたしゃ。
もしここで中村さんの見通しが2025年度コアCPI1%行くか行かないかだし26年度に至っては0.5%とでもいうのであれば話は分かるんですけど、その1.7%だの1.6%だのが厳格に2%に行ってないことによってどんだけの国民厚生へのマイナスがあるのですかねえ、というお話な訳ですな。
次のコーナーでも中村さん(本文3ページ)、『3.金融政策運営と経済構造の変革』という小見出しに続きまして、『(1)家計の購買力強化の重要性』というのがあるのですが、いや家計の購買力強化したいんなら少なくとも円安ドライブを招くようなレベルの金融緩和政策は必要ないんじゃないですか(別に円高にするために物凄い勢いで利上げしろとかいう話ではないですよ為念)と存じますけど、そっちの方の話は華麗にするーされておられる(そら言わんわなと思うけど)次第でありましてうーん何というかというところです。
・いやまあアメリカン格差拡大社会で良しと言われてしまえばぐうの音もでないのですが・・・・・・
会見が今日出ると思うので週明け(もしかしたらECBも成敗できてないから週末かもですがそれは期待しないでください)にでももうちょっとこの講演詳しくネタにしたいのですが、時間もないので(サーセン段取り悪くて)もう一つ中村さんの今回の金懇で思ったこと。
さっきの『(1)家計の購買力強化の重要性』のケツのところ、本文4ページのケツから5ページにこんな記述があって、
『家計の購買力を強化し、個人消費を活性化するには、現役世代の高い賃上げ率が持続する必要があります。また、後ほど詳しく申し上げますが、日本の家計が米欧の家計と同様、上場企業の成長を通じて可処分所得を押し上げる金融資産構造へ変化していくことも、可処分所得の確りとした増加に有効だと思います(図表
10)。』
これ、中村さんが就任以降言ってた「給料が上がらないなら投資信託を買えばいいじゃないか」というマリーアントワネット理論だったりしますが、こちらでは図表10とありますが、話を一気に飛ばして『4.構造的問題を克服する持続的経済成長に向けて』の『(2)「家計のダイナミズム」向上への期待』ってところ、本文10ページになりますが、
『さらに、経済成長をリードする上場企業からの配当収入を増加させる投資が拡大する等、「家計のダイナミズム」が生まれています(図表
22)。リスクを相応に考慮する必要がありますが、「長期・積立・分散」を前提とし、個々の家計の生活の余裕度に応じて「貯蓄から投資」へのシフトを進め、「配当収入等による収入基盤の拡大」を継続していくことは、重要な経済の成長要素であり、高齢者を含め、経済成長による豊かさを実感することに繋がると思います(図表8再掲、図表
10 再掲)。』
でまあ図表22を見ていただきますと家計に入ってくるのは配当とかそっちの話で利息の話が無いというのがこれまたお洒落。
・・・・・いやまあそれ自体は主張として完結しているんですけど、これって結局労働分配じゃなくて株主分配で家計所得をダイナミックに強化しましょうって話で、いやそれはもろに格差拡大方向の話でそういうアメリカン経済ちっくなことを日本でする必要が本当にあるのか、もちろんそういうのが必要ですよって意見は一つの意見としてあっても結構なんですけど、ちょっとアタクシはそれが「国民厚生の最大化」につながるのかというと違うんじゃないかなーって思うんですよね。
つまりですね、さっきの4番の前半には『(1)成長への「憧れ」と「企業と雇用のダイナミズム」の醸成』という小見出しがあるんですけど、
『大企業はコア事業に経営リソースを集中し、「ジョブ型雇用の導入」や生産性に比べて低位に抑えていた若年層の所定内給与の引上げを積極化し始めました。さらに、リスキリングや専門人財のキャリア採用等人財投資を強化し、人財にやりがいと活躍の場を提供することにより、個々のイノベーション創出力を強化し、製品・サービスの顧客満足度を高める等、「稼ぐ力」を強化するために人財に焦点を当てた経営努力が積極化していると感じています。また、キャリア採用を行っている大企業の割合が検討中を含め5割を超える
6等、人財獲得競争が強まっており、成長を続け賃金水準も高い大企業に人財が移動している様子が窺われ、G7の中で最下位の賃金水準(図表
17)を押し上げる力が労働市場で増してきていると思います。もっとも、ジョブグレードに応じた賃金水準の上昇カーブは、アジア主要国に比べても緩やかですので(図表
18)、個々人の成長努力が適切に評価され、今後も大きな賃上げや賃金カーブの改革が進められていくことが必要です。』
まあ言いたいことはわかるしこれはこれで意見としては完結しているんですが、こういうのを見ますとこれまた格差拡大の話でして、これをアタクシが言いますとマーケットの中の人的にはアホ呼ばわりされそうなですけど、中村さんのこういう主張って中村さん自体が日本を代表する超大手製造業の経営まで行うような高度な人材なのでその生存バイアスが思いっきり掛かっている話に見えるわけでして、まあ何ちゅうかもっと平凡な人が平凡に仕事をして平凡な生活を安心して送れるような社会(この「平凡」ってのがフワフワした言い方で必ずしも適切な表現とは言い難いのはゴメンナサイなのです)ってのは無いのかね、とは考えちゃうんですよね。
・・・・・・と最後の方は変なアタクシのポエムになってしまいましたことを深くお詫びいたしますが反省はしません(^^)。
もうちょっと読みたいのですが時間もないので本日はここで勘弁。