氷見野良三 副総裁
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氷見野さんの略歴(日銀Webより)
昭和35年4月25日生 富山県出身
昭和58年3月 東京大学法学部卒業
昭和58年4月 大蔵省入省
平成15年10月 バーゼル銀行監督委員会事務局長
平成18年7月 金融庁監督局証券課長
その後金融庁で枢要ポストを歴任して、
平成28年7月 金融庁金融国際審議官
令和2年7月 金融庁長官
令和3年9月 東京大学公共政策大学院客員教授
令和4年1月 (株)ニッセイ基礎研究所総合政策研究部 エグゼクティブ・フェロー
令和5年3月20日 日本銀行副総裁
(実質的な前職:金融庁長官)
詳しくはこちら→https://www.boj.or.jp/about/organization/policyboard/dg_himino.htm
2025/09/05「釧路金懇会見(その2):基調的物価を講演で1.6%と言っておきながら狭いレンジで示すのは無理と言い切る」
2025/09/04「釧路金懇会見:需要ショックか供給ショックかの問いに対する回答が秀逸です」
2025/09/03「氷見野副総裁釧路金懇:「不確実だから動かないというのは正しくない」とイタコ話法でしらっと表明」
2025/01/16「氷見野副総裁記者会見:1月会合がライブだという表明と12月のコミュニケーションを上書き訂正する内容ですね」
2025/01/15「氷見野副総裁横浜金懇は1月利上げを引き戻す&コミュニケーションのところでしらっと現状批判をしていますねえ」
2024/09/02「氷見野副総裁会見(その2)中立金利に関するしょうもない質疑応答と信玄堤の質問」
2024/08/30「氷見野副総裁会見(その1)市場安定に関してしつこくも不毛な質問が続く」
2024/08/29「氷見野副総裁甲府金懇講演は格調高く展開されて基本的に植田総裁の国会答弁のラインで説明」
2025/09/05
〇氷見野副総裁釧路金懇記者会見の続き
https://www.boj.or.jp/about/press/kaiken_2025/kk250903a.pdf
氷見野副総裁記者会見
――2025年9月2日(火)午後2時から約35分
於 釧路市
例の「供給要因だから政策対応しないとか言ってるのは間違い」という氷見野さんの説明、すなわち今や主要中央銀行では当たり前の話で需要要因供給要因ではなくて波及効果、持続性を見極めて対応の有無を考えるって話になっているので供給要因なのでーと言い続けているハトハトチキン中央銀行がインチキなだけ、ってのを言外に喝破した質疑応答が今回の白眉でしたが、他にも白眉級のがあってこれは馬氏の五常もニッコリという所です。
・基調的インフレの質疑応答が大変に素敵でした
『(問)基調的なインフレ率についてお伺いします。午前の講演で、関税の影響で足踏みしても、いずれ
2%と概ね整合的な水準で推移するというふうに見方を示されました。この基調がですね、足踏みから再び上昇に向かう確からしさにつきまして、副総裁、現時点でどのように考えておられるのか、そこにですね、確信が持てなければ、再上昇にですね、追加利上げは難しいとお考えなのかをお願い致します。』
というのが前半で、
『その基調的な物価上昇につきまして、講演では 2%にかなり近づきつつあるというふうに発言されまして、ご発言からするとですね、少なくとも、副総裁、1%後半ぐらいをイメージしておっしゃっているのかなという印象を受けたのですが、大まかで結構なのですが水準のイメージについてもうちょっと教えて頂ければと思います。二点よろしくお願いします。』
というのが後半ですね。まあ前半は基調的物価というよりも単純に利上げ判断云々の話になっておりますが。
『(答)一つ目ですが、これも表現が少し違うかもしれませんけれども、7 月の展望レポートで、この間、消費者物価の基調的な上昇率は、成長ペース鈍化などの影響を受け伸び悩むものの、その後は上がっていって、見通し期間後半には物価安定の目標と概ね整合的な水準で推移すると考えられる、というふうに言っているのと特に言っている趣旨は変わりません。』
まあ確かにあの辺りの部分は大本営の説明をするパートになっていましたな。
『それで、ではそうなっていく確からしさはどうか、確信が持てなければ利上げはないのかということですけれども、これは、そうなる見通しの確度および上下双方向のリスクをみていくということだと思います。その確度がある程度高まっていく、更にその確度、メインシナリオ通りにいかないといったときに、これ上振れするリスクと下振れするリスクどっちがどうなのかというのをみて判断していくということになりますので、何か確度だけみてというよりは、メインシナリオの確度と上下双方向のリスクをみながら判断していくということではないかというふうに私は思っております。』
まあしれっと「何か確度だけみてというよりは」とか入れている辺りがこれもお洒落でして、毎度「確度」だけで説明してごまかし続けている(でもって昨年7月のように急に「上振れリスク」とか言い出して利上げする)というのに対して「もっとちゃんと説明しろ」と大本営に対してイヤミを言ってるんでネーノと思いましたが勝手な裏読みをしているだけの個人の感想ではあります(汗)。
でもって後半の回答ですけど・・・・・
『かなり、と言ったかどうかあれですが、近づきつつあると言ったときに水準はどれくらいかということですけれども、これが、結局、推計方法によっていろいろですし、そもそも概念として、予想インフレ率の中長期的なものでみていくのか、あるいは一時的なものを外していくのか、一時的なものを外すといったときに何を一時的とみるかというようなことで、必ずしもピンポイントで特定できるものではありませんので、近づいているという方向は申し上げられますが、何か更にゾーンを狭める表現をあえて申し上げるのは、ちょっと差し控えさせて頂ければと思います。』
>何か更にゾーンを狭める表現をあえて申し上げるのは、ちょっと差し控えさせて頂ければと思います
>何か更にゾーンを狭める表現をあえて申し上げるのは、ちょっと差し控えさせて頂ければと思います
>何か更にゾーンを狭める表現をあえて申し上げるのは、ちょっと差し控えさせて頂ければと思います
ちょwwwwwwおまwwwwwwww
直前の金懇挨拶でご案内の通りですが、
https://www.boj.or.jp/about/press/koen_2025/data/ko250902a1.pdf
『直近の消費者物価の統計に即して申し上げますと(図表5)、7月の消費者物価上昇率は
3.1%と、2%を大きく上回っています。これは、ガソリン補助金などによる引き下げ効果があった上での数字ですが、そうした効果は、上昇率の面では一時的な変動と考えることができます。他方、この
3.1%という消費者物価上昇率には、食料価格の上昇が 2.1パーセントポイント寄与しています。これについても、米価格の急上昇が起点となって起きた一時的な変動の面がかなりある、とみることができます。こうした上下の要因を除いて基調をみるために、例えば食料とエネルギーを除いた品目の上昇率でみると、
1.6%であり、まだ2%には達していません。』(この部分直上URL先の同日実施された金懇挨拶より、以下同様)
って思いっきり数字を出していたのは何だったのかというお話になるのですが、確かに氷見野さんこの挨拶でも、上記のように説明した直後に返す刀で、
『実際には、何が一時的で何が基調的な変化か、何を除いて何を含めて考えたらよいか、の判断は簡単ではありません。』
と喝破した後に、
『そのため、日本銀行では、変動の大きな品目を除いて考える、というやり方のほかに、経済構造をモデル化して基調を推計する方法や、家計や企業や市場参加者などが中長期的なインフレ率についてどのような予想を持っているかを計測する方法など、さまざまな手法を用いて分析を行っています。』
『そうした分析を総合すると、「基調的なインフレ率は 年代には0%と1%の間あたりにあったと思われるが、最近では2%にかなり近づいてきている。ただ、2%に達しているとまではまだ言えないのではないか」といった結果になっています。』
『そこで、「現実のインフレ率は高いが、一時的な要因の影響が収まるにつれ、いずれ落ち着いていく」というシナリオをメインに置いているわけです。』
という展開になっていた訳ですが、これはあくまでも大本営としてはこう言っているけど実際問題として基調的物価をそんなナローレンジで出してリアタイの政策判断に使えるかヴォケ、というのが氷見野さんのご指摘、とお見受けしましたがどうでしょうか????
というのも昨日のネタにしたかったのですが時間が無くて今日に回してしまいましたが、まあこの基調物価の話と、需要要因供給要因の話、という今の政策説明の根幹部分での質疑応答のこの2本が今回本来は読むべき部分だと思いましたが如何ですかね。
ということで今朝は台風らしいのでこの辺で勘弁(台風関係ないじゃろ説は却下wwwww)
2025/09/04
〇氷見野副総裁釧路金懇講演の続きと会見ですがやはり氷見野節が随所に埋め込まれていますね
金懇挨拶
https://www.boj.or.jp/about/press/koen_2025/data/ko250902a1.pdf
昨日ネタにしましたように、一番味わいのあったのはウィリアムズを引き合いに出したイタコ話法による「ハトハトチキン見てるイェーイ!!!」の部分な訳ですが、この次のパートの日銀の長期国債買入に関する記載も中々の味わいでしたのでそちらから参ります。
『3.日本銀行の金融政策運営』の『(国債買入れの減額計画)』という本文11ページ、PDF12枚目の後半部分から始まるところですが、最初は現象面の話をしているので割愛しまして途中から参ります。
『中央銀行のバランスシートは、資産・負債の両面から経済の諸側面に影響を及ぼし得るものですので、国債買入れの減額の問題も、様々な視点からみることができます。』
この時点で既に先般の金融学会で内田副総裁が「短期金利操作と無関係に中央銀行はバランスシート政策を行うことができる」というお前それ何ぼ何でもレトリックに問題ねえかという説明に対してのイヤミになっている気がしますが先に行きまして、
『以下では、昨年3月や7月、本年6月の決定に参加するにあたって、私なりに考えたことのうちいくつかを紹介させていただければと思います。それぞれの政策委員ごとに視点がありますので、あくまでも私個人の考え方です。』
ワクワクテカテカ
・マネタリーベース直線一気理論を唱えていた連中は脳が1970年代辺りで止まっていた模様ってことですなこりゃw
『第一に、物価への直接的な影響という視点があります。日本銀行の負債の規模は、日本銀行券の発行残高と金融機関から日本銀行への預け金との合計に概ね一致します。これをマネタリー・ベースと呼びます。』
マネタリーベースキタコレ!
『日本銀行が国債保有を減らしてバランスシートの資産サイドを小さくすると、バランスシートの負債サイドであるマネタリー・ベースも小さくなります。』
『米国がインフレに苦しんだ 年代末に一世を風靡したマネタリストの考え方では、このマネタリー・ベースが増減すれば、民間金融機関が受け入れる総預金額であるマネー・ストックが増減し、それが物価を左右する、とされていました。』
「、とされていました」という時点で以下お察しの通りで、
『しかし、この三者の間に安定的な関係がないらしいことは、FRBがマネタリー・ターゲットを採用して間もなく明らかになる、という展開となりました。』
ボルカーのインフレ絶賛大成敗なマネタリーターゲットって高金利政策をとるのを高金利政策と言わずにぶっこむ方便みたいな面もあったかということで、まあ単純に事実を述べているだけに過ぎないのですが、こう言いながら「日銀当座預金が10%増えると予想インフレ率が
0.44%上昇する」などという寝言をほざいていた人を「とっくの昔に決着がついている話をしていた人ですね」と間接的に指摘しているのが実に美しいですね(まあそこまでの意図があったかは別として、笑)
『ただ、国際決済銀行のボリオらは、 32か国の 70年間にわたるデータを分析し、インフレ率が5%以下の低インフレ・レジームにある間はマネー・ストックとインフレの間に関係は見られないが、高インフレ・レジームになると急に関係が高まる、と論じています6
。』
『6 Claudio Borio, Boris Hofmann, and Egon Zakrajsek, "Does Money
Growth Help Explain the Recent Inflation Surge?," BIS Bulletin, no.
67, 26 January 2023.』
これはまたとんでもないオタクなもんをリファーしてきましたな(絶賛している)という感じで、マジかこれ読まないといけないじゃん(今度の連休辺りに)と思いました。さすが氷見野さんとしか申し上げようがありません。
『ボリオら自身、だからといって単純に因果関係を結論付けるべきではないと述べていますが、物価が安定していた時期の先進国だけの経験をもとに、過大な水準のマネーを不必要に放置しておくことにはリスクもあるのではないかと思います。』
>物価が安定していた時期の先進国だけの経験をもとに、過大な水準のマネーを不必要に放置しておくことにはリスクもあるのではないかと思います
ってこれバランスシートの話をしていますけど、日銀の今の話にも通じるものがあって、過去の長期ディスインフレ期の経験を元に物価が上がらんと言い続けて過剰な金融緩和を不必要に放置しておくリスクも同根な訳でして、しらっとぶっこんでいるように見えるのは気のせいでしょうか・・・・・・
・ストック効果の話については長期金利の実体経済への影響が云々で済ませていますが・・・・
『第二に、経済活動への影響の視点があります。日本銀行の保有国債の規模は、いわゆるストック効果を通じて長期金利の水準に影響を与えます。他方、私どもの分析では、実体経済に与える影響は短期金利が中期・長期に比べてはるかに大きく、超長期の金利の影響はごくわずかである、という結果になっています
7。』
脚注7は『7 日本銀行「『量的・質的金融緩和』導入以降の経済・物価動向と政策効果についての総括的な検証」2016
年 9 月』ですけど、ここでも昨日ネタにしたのと同じくで、日銀大本営発表の物件に対して「という結果になっています」とわざわざつけることによって突き放したような表現になっているのが味わいが深くて、
『したがって、短期の政策金利を上下に操作できる状況においては、緩和や引き締めは政策金利の操作を主な手段とすれば足り、国債の購入額を緩和や引き締めの手段として位置付ける必要はない、と考えます。』
って言ってますが、MBとの関係の問題だってあるかもしれない、って言っている中でここだけこういう風に言ってるのは裏読みのし過ぎかも知れませんが、「お宅のお嬢ちゃん最近ピアノがお上手にならはりましたなあ(はんなり)」というぶぶ漬け話法を想起してしまうのはアタクシがネットミームに漬かり過ぎですかそうですかwwww
・減額スピードをどうするのかという話はまあ結局「急にやってしまうのはアカン」になってしまうわな
『第三に、市場機能の回復の視点があります。私どもが昨年末に公表した「多角的レビュー」の分析では、@日本銀行の銘柄ごとの国債保有比率が5割を超えると、国債市場において売り手が求めるレートと買い手が求めるレートの格差が非線形的に拡大していく、A7割を超えると、日本銀行による買入れ額の増額は、市場の取引高をむしろ減少させる方向に作用する、という結果になっています(図表11
左、中)。現在、日本銀行の国債保有比率はかなりの銘柄でこうした水準を超えています(図表11
右)』
となっていまして、
『ですので、市場機能回復の観点からは保有比率を引き下げることが望ましいですし、日本銀行の新規購入が少ないほど保有比率引き下げのスピードは速くなります。ただ、スピードを優先した結果、長期金利が急激に上昇し、臨時に買入れ額の増額や指値オペ、共通担保資金供給オペなどを実施することになれば、市場機能には却ってマイナスとなります。』
『FRBが 年に市場の混乱を受けてバランスシートの縮小を一旦停止せざるを得なくなった経験にもかんがみれば、「市場機能の回復」と「市場の安定」のバランスをとった減額スピードが適切ではないかと考えます。』
という理屈になってしまうのですが、なまじこんなの指値とかできるようにしておくからこういう理屈になっておっかなびっくりで結局バランスシートの縮小が進まんのじゃという事を言うと過激派扱いされますので用法容量を注意して主張しましょうってな感じですけど、まあこういうのも当局が介入しすぎなんだよなーという思いはやはり20世紀から市場の空気を吸って生きておりましたジジイとしては思ってしまいますが、当局的にはこうなってしまうんでしょうねえとは思います。
・適正なリザーブの水準問題に関してはまあ結局先の話ですので
『第四に、銀行システムの機能と安定性への影響です。日本銀行が市場から国債を購入すると、その代金は金融機関が日本銀行に対して持つ預け金の形で支払われます。こうやって一旦日銀預け金が供給されてしまうと、保有主体は移り変わっても、銀行システム全体としての日銀預け金保有高は金融機関側の意思では変えられません。』
さいざんす。
『現在、日銀預け金が金融機関の資産の部の5分の1程度を占めていますが、全体としてはおそらく金融機関が必要とする水準をかなり上回っているのではないかと思います。』
『他方、金融機関は流動性管理のために一定の日銀預け金を必要としていますので、FRBがしばしば強調するように、日銀預け金の供給を過剰に減らすと金融システム・金融市場の安定にマイナスに働く可能性もあります。ストックはフローよりゆっくり動くので、残高ベースで日本銀行がこの問題に直面するのはまだ先だと思いますが、適切な残高と整合的な月間購入額の定常的な水準がどの程度なのか、という問題は、考えながら進めていく必要があるだろうと思います。』
リザーブ水準をアバンダントかアンプルかスケアスかって話ですが、これ短期市場デザインの問題にもなるのですが、日銀の場合はそんな論議を四の五の言う前に長期国債のストック減らせやという話なのでまあこれは論点説明だけで終わるのはしゃあなしw
・日銀財務の問題は財務そのものが問題になるというよりも政策遂行の障害になると「人々が思う」かですよね
『第五に日本銀行の財務との関係があります。日本銀行の財務についての考慮が政策判断の主要因となるべきではありませんが、バランスシートが大きくなればなるほど財務の変動は激しくなります。現状のバランスシートでも債務超過に陥る可能性が大きいとは思いませんし、また、仮にそうなっても直接政策遂行に問題が生じるわけではありませんが、日本銀行に対する信認の低下につながり得るリスクを抑制する観点からは、バランスシート規模は縮小していくことが望ましいと考えます。』
さらっと流していますがこれだけでもかなり重い話題になりますのでいつかはこの辺りの話もお願いします。
ということでまあその3以降はちょっとオマケチックではあるのですが、ここにもしらっと氷見野節が出てましたな、という感想でした。
〇会見ネタをやる時間がだいぶ無くなってしまったので(無計画ですいません)とりあえず白眉な質疑をご紹介
https://www.boj.or.jp/about/press/kaiken_2025/kk250903a.pdf
氷見野副総裁記者会見
――2025年9月2日(火)午後2時から約35分
於 釧路市
今回の質疑応答の白眉ともいえる問答が一番最後にありましたので、ちょっと時間が足りなくなったのですいません今朝はとりあえずこれだけネタにさせてくださいゴメンチャイ。
一番最後の質疑の後半の質疑なんですけどね・・・・・・・・
・「供給要因による物価上昇だから一時的なので対応不要」というハトハトチキン理論を華麗に粉砕の巻
『(問)(前半割愛)二点目なんですけれども、7 月の決定会合の際に、植田総裁が、供給サイドからのインフレ圧力が高まっているときに利上げで対応しようとすることが望ましいのかちょっと考え込んでしまうというご発言をされていたかと思います。需要サイド、供給サイドといったインフレの要因によって金融政策の対応が変わり得るのかどうか、お考えをお伺いできれば幸いです。』
これは良い質問過ぎます。素晴らしいんですけどさて氷見野さんの回答はと言いますと、
『(答)(前半割愛)供給ショックの場合と需要ショックの場合で金融政策の対応にどう違いがあるかという点で、私は植田総裁のようにエコノミストではありませんので、あまり明快に講義できる自信はないのですけれども、』
これは学会発表で大先生が挙手して急に「私この分野良くわからないので教えて欲しいんですけど」と言い出して発表者がションベンちびる展開ですね!!!!!!!!と申しますのも返す刀で・・・・・
『これは需要ショックか供給ショックかということだけで機械的に決まるものではなくて、例えば、その要因が一時的なものか持続的なものか、更に、起きた環境において、例えば中長期のインフレ予想がある程度アンカーされているのかそうでないのか、更には中長期の予想が
2%からどの程度ずれていると考えるのかとか、更にそこを総合して考えたときに、そうしたショックが物価安定にとって一時的なものにとどまるのか、持続的な影響があるのかといったところを評価して、対応するということになると思います。』
ど正論、というかこれが常識であって「供給ショックだから対応しない」と言い張り続ける極東の某島国の某ハトハトチキン中央銀行の言ってることの方がおかしいわけですが、その点をきっちりと喝破して頂く氷見野さん流石です。
『ただ、金融政策が直接効くのは、需要に対してまず効果が表れるわけですので、どちらかというと需要ショックのときの方が金融政策どうしたらいいかというのは判断しやすいというのはおっしゃる通りだというふうに思います。供給ショックのときは、結局は、需要ショックのときより更に悩んで、だから何もしないということにはならんわけですけれども、様々な政策変更の影響も考えて、悩んで判断していくということになるだろうというふうに思います。』
別にハトハトチキンヨイショじゃなくて言ってることは至極ご尤もなフォローは入れているのですが、その中にもしれっと「だから何もしないということにはならんわけですけれども」ときっちりぶっこんでおられまして、この質疑応答が一番良かったな、と思いましたので、今回の釧路金懇を見て「ハト的」とか言ってしまうのは、大本営代弁部分だけを読んだ場合の感想であって、読み込みが足りませんなと思う訳です。いやまあ当初のベンダーヘッドラインで脊髄反射するのはしゃあない面が多々ある(自分もそういう事してた時期あったし笑)のですが・・・・・・・・
ということで時間の都合でこの辺で勘弁していただきとう存じます
2025/09/03
〇氷見野副総裁釧路金懇挨拶:執行部として大本営の代弁をしている中に氷見野節がチョイチョイ見れるんですよね〜
https://www.boj.or.jp/about/press/koen_2025/data/ko250902a1.pdf
最近の金融経済情勢と金融政策運営
── 道東地域金融経済懇談会における挨拶 ──
日本銀行副総裁 氷見野 良三
・大本営の代弁コーナーを見るとハトハト講演と思ってしまうのですが読みどころはそこではないと思うの
ということで挨拶がおっぱじまるわけですが、最初の『2.経済と物価の見通し』では、
『さて、まず、わが国の経済と物価の見通しについて申し上げたいと思いますが、それを大きく左右しかねないのが米国の新政権の考え方です。』
と来まして最初のコーナーが『(米国新政権の思想と政策)』でして、この部分が最初の読みどころになる訳でして、単に大本営の話をホーンスピーカーの如く棒読みしているだけの挨拶ではないわけです。ということで最初のこの部分ですけどね。
『これについては、政権発足後8か月を経て、分かるようになったことも増えてきたように思いますが、予想を超えるようなニュースも日々続いており、分からないことも増え続けているような気がします。』
なるほど。
『そのうえで、分からないながらも現時点での個人的な感想を申し上げますと、新政権の考え方の大きな特徴としては、』
ということで、
『第一に、政治と経済と文化、内政と外交を、垣根なく一体的にとらえていること、』
『第二に、状況に応じて方法を変えるとか、一旦退却してから再度前進するといった「戦術」のレベルでは極めて柔軟だが、最終的に何を達成しようとするのか、といった「戦略」のレベルでは頑強であること、』
『第三に、昔からの通説や定石だけで物事を考えずに、力の所在と源泉に関する事実に立ち返って様々な可能性を追求すること、』
『の三つが挙げられるのではないかと思います。』
なるほど確かに!!
・通商政策を例にとりながらより深堀りをしたお話が聞けるのは氷見野さんの金懇ならではなのです
でまあそういう話から以下発展していくのですよ。
『例えば、通商政策について我々が教科書でまず習うのは、自由貿易体制をなぜ守っていかなければならないか、という理由です。』
ふむふむ。
『「比較優位の原則に基づき、各国が最も得意な分野に特化して生産を行い、国際的な分業を進めることで、経済全体の効率性と成長を高めることができ、それは、全ての国にとってメリットをもたらす。だから、世界全体で力を合わせてポジティブ・サム・ゲームを追求していこう」というワシントン・コンセンサス的な考え方で、私もこの考え方には多くの真実が含まれていると思います。』
でまあこういうことしてないんだからこりゃまあ経済全体の効率が下がるわなとかそういう話に進むのではなく、さらにこの話を深堀りするのが氷見野節な訳でして、、
『他方、これで物事のすべての側面を捉えきれているかというと、必ずしもそうとは限りません。』
からの、
『超大国の場合には、自らの対応によって輸入価格を左右できるほどの市場規模があり、しかも、貿易相手国の対抗関税を抑止できるだけの影響力もあるので、いわゆる最適関税理論によれば、関税をゼロにするより一定の関税を課す方が交易条件が改善して有利になる、といわれます
。1』
Oh・・・・・・
でもってここの脚注1なんですが、リファーされているのが、
『1 Nicholas Kaldor, "A Note on Tariffs and the Terms of Trade," Economica 7, no.28,(1940):377-80』
ということで(アタクシ経済学徒じゃないから詳しくないんで恐縮ですが)マクロ経済学の基礎を打ち立てたカルドア卿の1940年の論文を引用していましてまあ唸らされます。
『また、現在の地政学的な状況に鑑みれば、自国の戦略的自律性と戦略的不可欠性の確保を目指す経済安全保障の考え方の重要性は増大していかざるを得ません。』
『さらに、「最も効率的な経済体制が公正や分配の面で必ずしも理想的な結果をもたらすとは限らず、しかも政府の再分配機能には限界がある」という議論も、社会的・経済的な分断が深まるにつれ、重みを増します。』
なるほどこれは重い指摘。
『すなわち、関税だけをとってみても、交易条件という経済的な面、経済安全保障という外交的な面、公正や分配を巡る政治的な面がないまぜになっているような気がします。』
『「知的エスタブリッシュメントは、極端に格差が拡大するような新自由主義的な経済体制を、経済効率を根拠に弁護してきたのではないか」という批判も含まれているとすれば、彼らに対する文化闘争の面すらあるかもしれません。』
おーーーーーーーーーー。
『関税は経済・外交・政治・文化を横断した大きな運動の一つの表れと捉えることができるのではないかと思います。』
!!!!!!!!
『ですので、米国の新政権の政策の影響を関税の問題だけに限って論じるのでは話を矮小化し過ぎであり、わが国の経済や物価の中長期的な展望を語るためにはもっと広い視点の議論が必要だと思います。』
ここまでの説明をお伺いしてここに至りますと首がもげるくらいに頷いてしまう訳ですが。
『ただ、それでは私の能力を超えてしまいますので、以下では関税政策の当面の影響に絞って議論させていただければと思います。』
どう見てもそれは氷見野さんの能力の中で十分に含蓄の深い話をしていただけると存じますが、まあ金懇なので大本営の伝言係をやらないといかんという企画でもあるので、この先が伝言係モードに切り替わるのですが、その中でもちょいちょいと氷見野節は出てくるって感じではありますな。というかこのお題に関しての氷見野副総裁の考察と見解をお聞きする機会があるなら木戸銭払っても聞きたいとマジで思います。
・米国関税の影響が日本経済にどうなるか問題の説明部分に飛びまして
次の小見出しが『(関税政策の影響)』ですが、この説明部分も非常に丁寧に説明されていてまあ読めって感じなのですが引用していると量も時間もオワランチ会長になってしまいますので、会見ネタと共に明日続きをするかもしれませんけれども、途中すっ飛ばして結論部分に参ります。
『想定される4つの主な経路と、それらの経路を通じた影響が思ったより大きくなる可能性と小さくなる可能性とについて申し上げてきました。では、これらの経路を通じた影響は、日本の側にはどのように表れているでしょうか。』
はい。
『日本から米国への自動車の輸出価格は大きく下落しましたし、日本銀行が行っている企業へのアンケート調査「短観」でも、一部の業種では業況や収益見通しの悪化が見られます。企業へのヒアリングを行うと、今後についての不安を口にされる経営者は少なくありません。』
『ただ、経済全体としてみれば、現地通貨建ての輸出価格は横ばい、輸出数量は駆け込みとその反動があるので評価しにくいですが、史上最高に近い水準で概ね横ばい、鉱工業生産も横ばいです。企業の業況感や収益計画・設備投資計画の水準は引き続き高く(図表4)、本年度分の賃上げや夏のボーナスには顕著な影響は見られていません。個人消費も底堅く推移しています。』
なるほど。
『関税政策の影響がこれまでのところ思ったほどには顕在化していないことについては、影響が出るまでに時間がかかっているだけであり、影響はこれから及んでくる、というのが基本的な見方だろうと思います。』
「基本的な見方だろうと思います」って形で言い切っていないのが味わいがあります。つまり、
『ただ、既に述べたような理由で、そもそも関税政策の影響が思ったほどは大きくない可能性も考えられます。他方、思ったより大きい可能性も、米国新政権から我々が想定していないような政策が新たに打ち出される可能性も考えられます。いずれも頭の隅にはおいておいた方がよいのではないかと思います。』
ってのはさらっと流して読んでしまいそうな部分ですが、これ実は対句になる部分が金融政策運営のところに埋設地雷のように入れ込まれている、という事をここで気にしておいてください。
『いろいろ申し上げましたが、今後についてのメイン・シナリオとしては、各国の通商政策の影響はいずれ顕在化し、海外経済が減速、わが国の企業の収益も下押しされるだろうと見ています。その場合、緩和的な金融環境などが下支え要因として作用するものの、日本経済の成長ペースは鈍化するものと考えられます。』
『ただ、影響が思ったより小さくなる可能性も、大きくなる可能性も、両方考えられるところで、当面は大きくなる可能性の方により注意が必要ではないかと考えています。その後については、海外経済が緩やかな成長経路に復していくもとで、日本経済も成長率を高めていくと見込んでいます。』
というのが伝言モードで、この「大きくなる可能性の方により注意が必要」であら早期利上げモードじゃないのね、ってなってアヒャヒャヒャヒャな10年入札になったという感じでしょうね。
・基調的インフレの説明部分www
次のコーナーが『(物価の見通し)』です。
『さて、次は物価についてです。現時点でメイン・シナリオと考えているのは、「現実のインフレ率はお米の値上がりとその波及を主因に物価安定目標の2%を大きく上回っているが、いずれ落ち着いていく。他方、基調的なインフレ率は2%より低いが、賃金と物価の相互参照のメカニズムが働いて2%にかなり近づきつつあり、足踏みはあっても、いずれ2%に達する」といったものです。』
といったものです、ってのが味わいがある。
『こうした「基調的なインフレ率はまだ2%を下回っている」という見方については、現実のインフレ率が既に3年余りの間2%を上回っており、しかも3%を上回る期間が多くなっていることから、分かりにくいといったご意見や、その適切性についてのご疑問をいただくことが少なくありません。』
wwwwwwwwwwwwwwww
『基調的なインフレ率というのは、一時的な変動を除いたインフレ率のことです。一時的なショックの影響がなくなった後の落ち着き先のインフレ率、ということもできます。』
ほうほう、というかそういう理屈だとそもそも論として「基調的なインフレ率」ってのは後付けにならないと分からないということになるので、基調的インフレ率を現在進行形で把握して政策判断のメルクマールにするのって、金融政策の波及効果にラグがあることを勘案したら政策反応関数に使うの無理じゃんという話になりそうですが、そういう話は華麗にスルーして基調的インフレの説明がおっぱじまります、ナンノコッチャ。
『直近の消費者物価の統計に即して申し上げますと(図表5)、7月の消費者物価上昇率は3.1
%と、2%を大きく上回っています。これは、ガソリン補助金などによる引き下げ効果があった上での数字ですが、そうした効果は、上昇率の面では一時的な変動と考えることができます。他方、この
3.1%という消費者物価上昇率には、食料価格の上昇が 2.1パーセントポイント寄与しています。これについても、米価格の急上昇が起点となって起きた一時的な変動の面がかなりある、とみることができます。こうした上下の要因を除いて基調をみるために、例えば食料とエネルギーを除いた品目の上昇率でみると、1.6
%であり、まだ2%には達していません。』
こwwwwれwwwwwわwwwwwww
さては次回の決定会合での総裁会見ではこの屁理屈を新たに繰り出しますよ宣言ですかそうですかと笑ってしまいました。というのはこの先で氷見野さん、
『実際には、何が一時的で何が基調的な変化か、何を除いて何を含めて考えたらよいか、の判断は簡単ではありません。』
って今言ってた1.6%云々ってのもある種のイリュージョンあるいはフィクションです、って言ってるようなもんじゃんと思ったのでw
『そのため、日本銀行では、変動の大きな品目を除いて考える、というやり方のほかに、経済構造をモデル化して基調を推計する方法や、家計や企業や市場参加者などが中長期的なインフレ率についてどのような予想を持っているかを計測する方法など、さまざまな手法を用いて分析を行っています。』
はい。
『そうした分析を総合すると、「基調的なインフレ率は 年代には0%と1%の間あたりにあったと思われるが、最近では2%にかなり近づいてきている。ただ、2%に達しているとまではまだ言えないのではないか」といった結果になっています。』
この辺り、さっきからずっと「といった結果になっています」とか決め打ちを避けた説明になっているのは、知的誠実のある説明ではあるのですが、なんか突き放したっぽくも見えて読んでて滋味深いなと思います(個人の感想です)。
『そこで、「現実のインフレ率は高いが、一時的な要因の影響が収まるにつれ、いずれ落ち着いていく」というシナリオをメインに置いているわけです。』
ってのも面白くて、アクチュアルのインフレが落ち着くという見通しは基調的インフレが2%行ってないから、というのが今の日銀大本営のロジックの背景説明ということになりまして、そうなりますとインフレが落ち着くという見通しそのものの背景がお気持ち物価から来ているという話であって、個別価格の見通しのアグリゲートではありません、という話をしている訳ですなこりゃまた。
いやまあ物価の見通しってのをマクロ的に考えれば仰せの通りという話ではあるのですが、現実にアクチュアルな物価は(以下でも話があるけど)個別価格におけるショックが波及していくのが手を変え品を変え出てきているということがあるわけですから、個別物価の積み上げベースで少なくともニアータームの物価見通しを考えないといかんのじゃないのかねとも思う訳で、その辺今の日銀大本営は何をどう考えているんだろう、と思ってしまいました。
・一時的ショックだから基調に向かって落ち着く・・・・とならん背景について
話は続きまして、
『振り返ってみますと、 2021年からは原油や小麦などの国際商品市況、次いで円安の進行を要因として輸入物価の上昇が起こりました。
2023年以降は、輸入物価指数は下落に転じたものの、今度は国内の生鮮食品、次いで米、と、新たな供給ショックが物価を引き上げてきました。』
『2021年以降を通してみれば、一時的な要因は次々に消えていくものの、次々に新しい要因が登場するというパターンになっているわけです。』
はい。
『しかし、これについては、上向きの一時要因が続いているのはたまたまにすぎず、次は下向きのショックが来るかもしれない、いや、米国関税政策という形ですでに来ている、という風に考えることができます。』
これが大本営ね。
『他方、あえて別の見方を考えてみますと、二つぐらい挙げられるかと思います。』
ほいな。
『第一は、日本の国内事情に関するもので、「デフレ・ノルムの時代には、一時的な物価下押し要因の効き目が大きかったが、最近は、輸入物価の下落などの下押し要因が生じても影響に広がりはみられず、逆に、一時的な物価上押し要因が大きく効くようになってきている。これは、人手不足、価格設定や転嫁に関する企業や消費者の考え方の変化、インフレ予想の上昇などが下地にあるからだ。」という仮説です。』
この点に関しては先般シントラフォーラムの時に公表されたECBのストラテジー見直しと、その時に行われたラガルド総裁の示した認識も(デフレノルム云々の部分は違えども)この手のレジームシフトを前提にした話なので、実は日本だけの話のかというと必ずしもそうではないとおもうのですが、そっちの話はさておかれまして、国内の人手不足云々の話になります。
『今、下地として申し上げた三つのうち、人手不足の影響について見てみたいと思います。』
ということですが、以下の部分は展望レポート1月の基本的見解に一部と、その詳しい背景説明が全文の方にありました話の説明部分となっているので引用をすっ飛ばしまして第二の要因の方に参ります。
『物価を上押しするような一時的な要因の継続に関する第二の解釈としては、グローバルな環境が、
2010年代までのデフレ的なものから、 2020年代にはインフレ的なものに変わってきているためだ、という見方が考えられます。』
うむ。
『これも、「地政学的な理由からグローバル化の巻き戻しが始まっており、国際分業によるコスト最小化が行いにくくなっているから」とか、「人口動態の変化により世界全体が人手不足の時代に入っているから」とか、「気候変動及びその対策のコストが増加しているから」とか、いろいろな議論があります
。』
ただこれはこれでそうじゃろというか大本営も言ってますよね、言うと都合の良い時だけ限定ですがw
『もっとも、これらの議論はかなり長い時間軸での話であり、それをどの程度足もとの情勢判断と結びつけてよいのかの見極めはやはり難しいです。』
まあそりゃそうだ。
・上振れの話は構造的な面が強いのだが下振れの方は・・・・・
『以上のような議論は、いずれも上振れ方向のリスクを示すものですが、他方、下振れ方向のリスクも考えられるところです。』
・・・・でもって下振れの方ですが、
『まず、各国通商政策を起点として、先ほど申し上げたような経路で日本経済の下押しが始まれば、それが日本の物価や賃金にも下押し方向に効きます。』
『輸出企業が「関税分は輸出価格を引き下げたい」と考え、仮にそれをきっかけにコスト削減を優先する傾向が復活するようなことになれば、賃金と物価が相互に参照しながら緩やかに上昇するメカニズムが停滞する可能性もあります。』
これは4月にやたら大本営が強調していた話。
『また、世界経済が停滞すれば、原油をはじめとした国際商品相場には下押し方向に効きます。更に、既に過剰生産能力を抱えた国もある中で、米国という輸出先を失った国々が、日本を含めた他の輸出先での売り上げ拡大を狙って輸出価格の引き下げを行うならば、これも物価への下押し圧力となります。』
これはコストプッシュの逆なんだから経済にプラスで需要が強まるからそんなにマイナスにならんとチャウのという気が。
『これまでのところ、こうした経路では目立った影響は観察できませんが、いずれ顕在化する可能性も否定できません。』
だそうです。
・金融政策運営の部分でイタコ話法を使って氷見野節が炸裂しているんですよね〜
ということで次が『3.日本銀行の金融政策運営』ですけど、
『日本の経済と物価に関する以上のような「メイン・シナリオ」と「上下双方向のリスク」を踏まえ、当面の金融政策運営についてはどのように考えていけばよいでしょうか。』
となりまして最初が金利政策の運営、次がバランスシート運営の話になるのですが、バランスシートの方で実はかなり面白いなあと思うところがあるのですが、惜しくも時間が足りなくなりそうですのでその手前の部分で寸止めとなるのですけど、まあ今回読んでて一番「おおおおお」と思ったのがアタクシが小見出ししたイタコ論法部分。
小見出し『(当面の金融政策運営)』に参りますが、最初の金融政策運営の話はまあ超あっさりと流していまして、
『経済や物価への影響が大きいのは、名目金利からインフレ率についての見通しを差し引いた実質金利ですが、これは、これまで3回政策金利を引き上げてきたにもかかわらず、インフレ率が上振れしてきたこともあり、依然きわめて低い水準にあります。』
『このため、これまでご説明したような経済・物価のメイン・シナリオが実現していくとすれば、経済・物価情勢の改善に応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことが適切だろうと考えています(図表9)。』
『ただ、既に申し上げた通り、経済も物価も様々な要因から上下双方向のリスクが考えられます。メイン・シナリオが本当に実現していくかどうかについては、予断を持たずにみていきたいと思います。』
とまあドチャクソあっさり味で終わっているのですが、実はこの分けた中の3番目の対句でもあり、さっき言ってた対句部分でもあるお話がこの先にありまして本日の白眉になります。
『先日、私どもの金融研究所が主催している国際コンファレンスに、ニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁が参加されました。この方は高名な研究者でもあり、「不確実性の下での金融政策」を研究テーマの一つとしてこられました。』
ほう。
『せっかくの機会なので、「こういう不確実性の高い環境では、どういう作戦で金融政策を運営していったらいいと思うか」と尋ねてみました。』
ほうほう。
『ウィリアムズ総裁のお返事は、私の理解したところでは、だいたい以下のようなことだったと思います。』
ほうほうほう。
『すなわち、金融政策はいつだって不確実性に直面してきた。不確実性が高いからゆっくり進めたらいいとか、迅速に進めたらいいとか、小刻みにやった方がいいとか、大きなステップを取った方がいいとか、そんなことはいえない。ただ、特定のシナリオを前提に厳密な最適解を求めようとするのではなく、むしろいろんなシナリオを想定してもちゃんと機能するような作戦を見つけるようにした方がいい。――こんな感じのお返事ではなかったかと思います
。5』
(;∀;)イイハナシダナー
(;∀;)イイハナシダナー
(;∀;)イイハナシダナー
『私たちの前からリスクや不確実性がなくなることはありませんので、上方向のリスクと下方向のリスクのバランスを評価して、メイン・シナリオから離れた時にもあまり困ったことにならないよう、適時適切に対応してまいりたいと思います。』
>私たちの前からリスクや不確実性がなくなることはありませんので
>私たちの前からリスクや不確実性がなくなることはありませんので
>私たちの前からリスクや不確実性がなくなることはありませんので
ハトハトチキン見てるかイェーーーーイ!
>メイン・シナリオから離れた時にもあまり困ったことにならないよう、適時適切に対応してまいりたいと思います
>メイン・シナリオから離れた時にもあまり困ったことにならないよう、適時適切に対応してまいりたいと思います
>メイン・シナリオから離れた時にもあまり困ったことにならないよう、適時適切に対応してまいりたいと思います
ですよねーーーーーーー。でまあそう考えると今の0.5%という金利が本当に適正水準なのかって話な訳で、これが1%台前半とかにいるなら話は違ってくるかもしれんが、まあそういうことやぞ、ということだし、経済物価の見通しの中でも上下のリスクを強調していることの対句になっている訳でした。
ということで続きは明日にでも。
2025/01/16
〇氷見野副総裁金懇会見はご案内のように1月会合ライブですよというのと12月の情報発信を上書き訂正する内容
https://www.boj.or.jp/about/press/kaiken_2025/kk250115a.pdf
氷見野副総裁記者会見
――2025年1月14日(火)午後2時から約30分
於 横浜市
・「米国新政権の経済政策の影響が不透明だから様子見」という過去の植田発言を上書き訂正
幹事社質問の次の質疑の前半はまあ普通にド直球でして、
『(問)二点あります。一点目は、講演の中で、アメリカの経済について、新大統領の政策の先行きに注目が集まる中、来週のトランプ大統領就任演説で政策の大きな方向が示されるのではないかというご発言ですけれども、これはある程度政策の方向がみえ、またそれによって市場で大きな混乱が起きたりしないのであれば、1
月の利上げも十分可能という趣旨でおっしゃっているのか、少し具体的に説明頂ければと思います。(後半割愛)』
はい直球。
『(答)何かたくさんご質問があったような気がして全部カバーできるかどうか分かりませんけれども、一つは
1 月の利上げの話ですけれども、これはそれまでに得られた情報を精査して、経済・物価の見通しの全体像を考えたうえで、政策委員の間でよく議論して、適切に判断していくということでありますので、何か特定の項目でこれがあったらとかこれがなかったらとかいうチェックリストのようなふうには考えておりませんで、全体像としてどう評価するかということになってくわけですが、』
と原則論から入りまして、
『その中の一つの大事な要素としては、アメリカの話があって、アメリカの経済自体は堅調だというふうにみておりますけれども、[トランプ次期]大統領、もう既にいろいろ発信されているわけですが、就任演説では、一つにはどんなバランスでどんなスケジュールで進めていくのかとか、あるいは、これまでに発信されていないような何か新しいものがあるかとか、そういったところはよくみていこうと思っておりますけれども、』
ほうほう。
『何か一対一でその話と、1 月の結論を結び付けるようなつもりはございません。(後半割愛)』
まあ12月会合の時に植田総裁が何度も「アメリカ新政権の政策の影響が」と言いまくってしまって、だったら1月は当然ながら判断できるわけがない時間帯だから政策変更できないよね、という事になってしまったのを上書きしようという趣旨はのは分かりますし、金懇挨拶の方にもありましたが、米国新政権の政策の影響が不確実、とか言い出したらそんなの無限に不確実。すなわちまあ言ってみれば12月の説明って失言に近い(利上げする気が一切ないなら失言ではないけど)説明だった訳ですので、氷見野さんが今回それを上書き訂正しましたよってことなんでしょうね。
・直近の為替円安が物価に影響を与えているというのをきちんと言明していますね
質問の後半は為替円安の物価上振れリスクに関してですが、
『(問)(前半割愛)あと二点目は、為替の影響なんですけれども、輸入物価の円安による上昇のリスクっていうのは昨年
7 月に利上げした際に一つファクターになったと思うんですけれども、最近の動きは、そうした輸入物価の上昇を通じた物価の上昇圧力として、リスクとしてとらえなければならないのか、そこのリスクはこれまで日銀がみていた通りだいぶ減衰しているのか。加えて、賃上げから物価への上押しの働きっていうのも踏まえた全体で、物価は、氷見野副総裁、今、上振れ下振れどちらの方向がより強く意識しなければならないとみてらっしゃるのか。すいません、要は国内の物価の動向についてのリスクの考え方についてお願いします。』
加えて、以下が余計にもほどがある。もうちょっと整理して(というか為替に絞って)聞いてくれ。
『(答)(前半割愛)二つ目、物価の状況ということで、まず為替、輸入物価の話がありました。今日の懇談会でも、何人かの方からやはり経営上は為替の安定が重要だというお話がありまして、具体的に数字を挙げて金利と為替でこんなにどっちが大変かと言えば、為替だというようなお話をされた方もあったわけですけれども。』
ここは氷見野さん中々チャーミングなのですが、上記の質問だと為替の話をかっ飛ばして物価の話をおっぱじめて誤魔化す、という技も可能だったと思うのですが、いきなり真正面から為替の話をおっぱじめまして、しかも「具体的に数字を挙げて金利と為替でこんなにどっちが大変かと言えば、為替だというようなお話をされた方もあったわけですけれども」というのを、今日のヒアリングによる一つのアネクドートではありますが堂々と紹介していまして、金利が多少上がっても問題ないが為替がぶっ飛ぶと問題、という説明をイタコ方式でしらっとぶち込んでいるのは中々いい味を出しています。
『円安、経済の様々なところに影響があるわけですけれども、今ご質問のあった物価との関係ということになりますと、直近で輸入物価指数をみますと、ドルベースではかすかに下がっているんですが、円ベースでは
10 月、11 月と、前月比でみるとかなり高い伸びになっております。ですので、そういったものが物価にどう影響していくかというのはよくみていかなければならないと思っております。』
10月、11月の数字を出して円安がこれから物価に影響を与えていくんじゃないですかという話をしておりますな。以下賃金云々は余計な質問に対応した説明ですけど。
・金懇挨拶に引き続き会見でも「アクチュアルの物価が高すぎ」というのを明示的に指摘しています
『そのうえで、更にいろんな賃金はじめとした様々な要素を含めて、物価について全体に上下どちらのリスクの方が大きいと思っているかということでしたけれども、そこがなかなか微妙でありまして、ヘッドラインの上昇率は、今いろんな政策的なものを除くと
3%ぐらいですので、ちゃんと下がっていかないと困るわけですけれども、他方インフレ予想みたいなものをみると、あるいは例えば私どもが出してる基調的な物価の動向をみるための指標とかいうのをみると、これは今度は低いということで、両方をみてやっていくしかないというふうに思っております。』
この部分は昨日ネタにしました金懇挨拶でもありましたけれども、会見でも「ヘッドラインの上昇率は、今いろんな政策的なものを除くと
3%ぐらいですので、ちゃんと下がっていかないと困る」と「アクチュアルの物価は高すぎ」というのを明示的に発言しているのが注目されるところでして、従来植田総裁や内田副総裁の説明ではこの「アクチュアルの物価が上振れしているのは怪しからん」という認識を示さないままに「基調的物価ガー」だけ言っていたんですけれども、ちゃんとこれを示しているというのは昨日も申し上げましたが実に結構なことだと思います。
・思いっきり「1月ライブ」感を出す質疑応答
次の質疑ですが質問が良くまとまっていましたね。
『(問)午前の講演で政策判断の注目点として、国内の賃上げ動向というのを挙げられました。そのうえで昨年度に続いて強い結果が期待できるとの言及もございましたが、そうした中で
3 月の春闘のですね、1 次集計を確認する必要性というのを、副総裁ご自身どのようにお考えなのか。その強い内容がですね、既に予想されている中で、緩和調整が遅れてしまうことのリスク、これについて現時点で副総裁はいまどのようにお考えか、教えてください。』
まあ普通に「1月やれよ」って煽り質問ではありますが(^^)、
『(答)賃上げは賃金と物価の好循環の非常に大きな要素ですので、注目点ではあるわけですけれども、全体を評価したうえで、賃金の話だけではなくて、全体を評価して判断していくということになると思います。』
もうこの時点で12月の植田総裁会見での「賃金と米国政策を見極めないと利上げ判断はできない」という1月利上げ観測を全力で叩き潰しにいった説明(ちなみに12月会合の時にネタにしましたように、前回の植田さんの説明は植田さんの失言とかじゃなくて想定問答がそういう作りになっていたからなので、植田さんというよりも大本営の説明でしたわな)を上書き訂正していますよね。
『そのうえで、ではどこまでみて判断するかということになりますが、これについては来週の決定会合でよく議論して判断していくということになると思いますけれども、』
からの、
『足元の状況、足元で得られた情報でどうかということであれば、12 月の時点で得られた情報に比べれば、あるいは支店長会議であれ、新年の要人の発言であれ、また
12 月末にいろいろ出たアンケート調査の結果であれ、比較的前向きの、去年と比べて前向き度が同じか強いくらいのものが多かったということは言えると思います。』
ということで、賃金の判断を前進させるに足る材料が12月以降に出てきましたよと。
『そのうえで、賃金以外の部分も含めて経済物価の見通しを考えて、トランプさんの演説もみて、2
日目の朝出るCPIも見て、しっかり判断していきたい、というふうに考えております。』
ということですが、CPIなんて東京都区部から考えてどう見たって強いじゃろという話になるので、トランプの演説で余程のお馬鹿発言が出てこない限りは「しっかり判断」することになるんじゃねえの、ってまあ思ってしまいますよね、ということでこの辺りで更に「1月ライブ」感が強まった(既に金懇挨拶の時点で強まっていましたけど)なあとは思いました。
・なお直球の火の玉ストレートの質問に関しては思いっきり見送り三振の回答ですな(^^)
この質疑応答、聞いている時は何となく流してましたが文字になったの見ると氷見野さんにしては珍しく回避行動をとっているのですね。
『(問)副総裁、午前中の講演の中で、利上げを行うかどうか政策委員の間で議論し判断する、という来週の決定会合についてのご発言ありましたけれども、もちろん主な意見はもう
12 月の主な意見は発表されていて、その中でも、利上げをするかどうか議論されている。当たり前といえば当たり前なんですけれども、このタイミング、来週に決定会合控えたタイミングで執行部である副総裁がこういった発言をされるというのは、利上げの可能性をそれなりにみていらっしゃる、というふうに受け止める向きもあると思います。副総裁として、可能性としては利上げを決定することがあるというふうにみてらっしゃるという理解でいいのかどうかお願い致します。』
これはもう思いっきり回避回答ですがw
『(答)これは政策委員の講演が一度に固まったり、ばらばらになったりする、というのが非常に評判が悪いので、均等にしようということのわけで、ところが
1 月というのは非常にやりにくくてですね、1 月最初の週に地元の経済界の方に集まって頂くというのはちょっと迷惑ですし、来週になるともう決定会合の週ですし、その後になると、今更何を言いに来たということにもなりかねませんので、今週にならざるを得なかったと。そうすると、黒船が来ただの何だのというのは私がいくら言いたくてもですね、それだけで話が終わると、ややお集まりの方にもご不満が出るかということで、来週の決定会合についても一言言おうと。でも、そこで議論して決まることなので、政策委員の間で議論し判断したいと思いますというふうに申し上げたという経緯でございます。』
ワロタって感じですが、この前の甲府での金懇でも信玄堤の話を思いっきりしていまして、実はあの部分が白眉だったというのをネタにしたと思いますが、そういう意味では今回まだ黒船来航云々かんぬんの部分をネタにしていないのですが、そっちをネタにすべきだなと思いました^^;
・赤信号青信号を使った質問キタコレ
こんなのもありました。
『(問)今日の講演でもありましたけど、経済・物価情勢はオントラックで推移してますと、春闘の賃上げも期待が持てると、アメリカの大統領も就任後にある程度方向性がみえるんじゃないか、というようなお話ありました。状況を考えると、利上げに赤シグナルが灯っているものって、やや見当たらないと思うのですが、その辺り何か副総裁ご自身が気になっている点とかありましたらお願いします。』
これは以前氷見野さんが「経済に全部青信号とかいうことはないんだからそれでも必要な時は政策調整をしますよ」って話をしたのを踏まえた例えですね。
『(答)これは全体像を見たうえで判断しますので、赤シグナルが 1 個あったらやらないとか、実はその赤シグナルも
1 個あってやめるような場合もあり得ると思うので、なかなかチェックリストみたいにして、これがあったらどう、ということを申し上げるのは非常に難しいですけれども、これまでに出ているデータ、情報についての考え方は、ある程度、今日申し上げたわけですけれども、トランプさんの就任演説でどんなお話があるのか、あるいは、決定会合の
2 日目の朝には全国のCPIの数字も出ますし、それまでに起こること全部みたうえで、よく議論して判断していきたいというふうに思っております。』
まあ不測の事態がなかったらかなり具体的に議論する、というのは把握しました。
・どさくさに紛れて内田副総裁が8月に行った株式市場全面降伏講演をディスっているのはワロタ
この質疑は回答がワロタですけれども。
『(問)二点お伺いしたいんですけれども、足元で世界的にというか長期金利急上昇してまして、日本の
10 年金利も今日 1.245%ということでかなり上昇急ピッチなんですけれども、金融政策運営への影響はどのようにみてらっしゃいますでしょうか、というのが一点目。(後半割愛)』
まあワイだったら「ねえよ馬鹿」とか問題発言して秒で辞任に追い込まれそうですが、氷見野さんここを先途としらっと内田方面に砲撃を加えているのがお洒落でして、
『(答)長期金利も市場で決まるものですので、内外の長期金利の変動の背景みたいなものについては、コメントは差し控えたいと思いますけれども、市場はいろいろ上がったり下がったりするものですので、1
日、2 日、1 週間の動きだけをもって政策の判断のベースにするということにはならないのではないかというふうに思います。(後半割愛)』
>1 日、2 日、1 週間の動きだけをもって政策の判断のベースにするということにはならないのではないかというふうに思います
>1 日、2 日、1 週間の動きだけをもって政策の判断のベースにするということにはならないのではないかというふうに思います
>1 日、2 日、1 週間の動きだけをもって政策の判断のベースにするということにはならないのではないかというふうに思います
(;∀;)イイハナシダナー
どう見ても内田方面への砲撃です本当にありがとうございました(^^;
2025/01/15
〇氷見野副総裁横浜金懇は想定以上にやる気を見せてたし良い話はあったし
https://www.boj.or.jp/about/press/koen_2025/data/ko250114a1.pdf
最近の金融経済情勢と金融政策運営
── 神奈川県金融経済懇談会における挨拶 ──
日本銀行副総裁 氷見野 良三
ということで参ります。
〇いきなり話がワープしますが「コミュニケーション」の部分は大変に素晴らしかった
順序が思いっきり逆になりますが、『3.日本銀行の金融政策運営』の最後の部分に『(金融政策を巡るコミュニケーションのあり方)』という小見出しがあって、この内容が色々とイイハナシダナーにも程があるし、何なら植田内田への砲撃も混じっていてさすが氷見野さんとしか申し上げようがない、まあもちろん内容的に見るとちゃんと大本営で相談した話も入っているので植田内田が反省したというのもあるかも知れませんけど兎に角ここは良かった。本文11ページ(PDFで12枚目)の下段の方からの部分になります。
『さて、金融政策の運営を巡っては、多くの方々から、丁寧なコミュニケーションに努めるように、とのご意見をいただいています。コミュニケーションに関して3点ほど感想を述べさせていただければと思います。』
からの3点、悉くが大変に結構なお話をしておりましてまあ読めと。
・フォワードガイダンス政策は変化の時代には役に立たないどころかマイナス迄ある
『第一に、日本銀行は 1999 年2月、ゼロ金利制約に直面するとともに、当時審議委員だった植田総裁の発案で、金融政策の今後の姿についてガイダンスを示すことにより、追加的な緩和効果の発揮を目指すようになりました。』
そうですね、でもってここでポイントなのは「ゼロ金利制約の中で追加的な金融緩和効果を出すために作ったのが時間軸政策だ」ということ。
『この戦略は、当時は時間軸政策と呼んでいましたが、その後フォワードガイダンスと呼ばれるようになりました。他の先進国もゼロ金利制約に直面していく中で、世界中の中央銀行に広まり、あらかじめ将来の金融政策決定会合の結論についてまで一定のガイダンスが示されるのが当たり前になりました。』
でもって「ガイダンスではない」といつも言ってるけど、FEDがドットプロット出しているのも一種のガイダンス政策に似た面があるわけですが、この手のガイダンスをやたら持ち上げていたのはウッドワードとバーナンキ。
『しかし、フォワードガイダンスについては、効果もある一方、政策転換が必要な局面になった場合には制約になってしまうのではないか、場合によっては政策変更を遅らせてしまいかねない弊害があるのではないか、という点も意識されるようになりました。』
まあ完全に遅れてしまいましたよね欧米は。米国の場合はその直前にアベレージインフレーションターゲットだのメイクアップストラテジーだの言って物価の上振れを容認してしまったのがさらに良く無かったのですが、「時間的余裕がある」とか言ってるどっかの日銀は他山の石で玉を攻むることはしないんですかねえ。
『このため、多くの中央銀行は、ゼロ金利制約から自由になった 2022 年の段階でフォワードガイダンスを取りやめました。』
FEDは(位置づけはガイダンスではないけれどもデファクトではガイダンスだわさ)ドットチャートを使っていますけどね。
『現在では、多くの中央銀行のコミュニケーションでは、「それぞれの決定会合の時点までに手に入ったデータの全体像をよく見て、会合ごとに判断していく」という姿勢が基本線になっています。』
でもって、
『日銀が公表文から将来を縛る表現を落としたのは、他の諸国に遅れ昨年3月のことでした。したがって新しい時代に入ってまだ間がないわけですが、その前のフォワードガイダンスの時代とは局面が変わっている、という点をまず申し上げておきたいと思います。』
非常に重要な論点でして、つまりは本来事前予告ホームランなどというものはあり得んというお話ですし、まあそれだったら事前のお漏らしなどというものも当然あり得んという事になるわけでして、局面が変わっているのに、というか局面が変わってから寧ろなのですが、事前の予告だのお漏らしだのみたいなのが横行するインチキコミュニケーションを行っている大本営に対してしらっとイヤミを言っているのですが、次の点ではさらにそれにブーストが掛かります。
・事前織り込ませを毎度毎度するという発想がそもそも頭おかしいと断罪しているんですよね
ここからが氷見野抜刀斎モード。
『第二に、金融政策が意図してサプライズを起こすことは、危機時などパーセプションを大きく転換すべき場面を除き、望ましいことではありません。』
まあそれはそうですが、黒田って散々やってくれましたよね。
『また、市場が金融政策に対して抱く予想が我々の考え方と乖離していると、そのギャップが解消される過程で市場が混乱することも考えられますので、ギャップの生じにくいコミュニケーションが望ましいことになります。』
でもって、
『更に、そもそも、金融政策の効果は、中央銀行の意図がどれだけ広く正確に受け止められるかに大きく依存します。』
ですな。
『したがって、世の中の人々が金融政策の今後について考え、予測するうえで役に立つように、基本的な考え方や、経済の現状についての見方について発信することは極めて大切です。』
と、ここまで説明してからの抜き打ち抜刀斎が以下始まる。
『しかし、だからといって、毎回の金融政策決定会合の結論について、事前に市場に完全に織り込んでもらえるようにコミュニケーションをとるべきだ、ということにはなりません。』
キタキタキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!!!
『政策は毎回政策委員の議論で決めるものですので、そのようなことは不可能です。』
まるで事前に大本営が決めているかのようなお漏らしが出ていることに対して氷見野副総裁がお怒りのようです。
『また、「会合ごとに織り込みを目指した事前のコミュニケーションがなされるはずだ」という期待が生じると、経済の動向よりも日銀の言いぶりの変化ばかりに市場の注目が集まることになりかねず、それも決して望ましいこととは思いません。』
昨年末について言えば、珍しくも経済指標に反応して動いていた債券市場が、11月末の植田総裁日経インタビューを境にいつものように日銀の顔色および関連する各種報道をうかがって動くという最悪の展開になってしまいましたのは記憶に新しいですが、この期待を生じさせているのはどう見ても大本営ですので、これまた氷見野さん抜刀斎モードになっておられますな。
・あのアホにも程がある金懇日程が改善されるのは実に結構な話です
でもって3番目もちょっとうれしかったのですが、まあこれは氷見野さんの独断じゃなくてちゃんと大本営ともども決定(内決?)したんでしょうなと思いまするに、やっとコミュニケーションを改善する気になったかという話でして、
『第三に、コミュニケーションについては経験に学びながら継続的な改善に努めていきたいと考えております。』
からの、
『コミュニケーションは、もちろん中身が大切ですが、場面の設定についてもいろいろ工夫できるところがあると考えております。』
ときまして、
『例えば、政策委員による今日のような金融経済懇談会についても、従来は半月に4人やったり、1か月間なかったり、ということがありましたが、時期を平準化していきたいと考えております。また、日程についても、これをぎりぎりに発表すると何か緊急にメッセージを出そうとしているのかとか誤解されかねませんので、できるだけ早くに公表することにしたいと考えております。』
(;∀;)イイハナシダナー
(;∀;)イイハナシダナー
(;∀;)イイハナシダナー
いやこれアタクシのような三下も含めましてそこら中から文句出てた話だし、なんか「総裁副総裁は平審議委員とは違うんじゃ」とでも言いたいのか特に総裁副総裁の講演などが直前まで日程が公表されないとかいう勿体付けた偉そうムーブをしていたのは毎度トサカに来ていましたし、審議委員の金懇を一気に4人やるとかお前ら真面目にコミュニケ―ションする気あるのかっていう舐め腐った日程の決め方してたり(まあ確かに某とか某とか某の金懇って他のとセットにして注目度を下げておかないと無能すぎて見てられない物件が出てくるから単独にしたくないって大本営の気持ちも分からんでもないですけどwww)でしたので、これについて率直にこういう説明をして改善していただくというのは氷見野さんというよりもさすがにこれは大本営だと思うのですが、そうかやっと改善してくれますか、とこれは評価したいですね。
『そのほか、ご意見を頂戴しながら、試行錯誤になるかもしれませんが、いろいろ工夫してまいりたいと考えております。』
ということですが、植田さんみたいになんでもかんでもその時の材料を強調しすぎるとかいうのはコミュニケーションのブレ以外の何物でもないので内容の改善もよろしくオナシャス。
・・・・・あとですね、今回の金懇の会見って14時開始でどこぞのベンダーがやる気満々でカメラ入れて実況放送していましたけれども、この会見14時開始ってのも高く評価したいところでして、これまでって金懇会見の内容がヘッドラインで流れてくる時間が14時半過ぎ(だいたい40分近く)からの債券先物の引け近くという時間帯にあたっていたので、時間が少ない分消化できないうちにヘッドラインの文字列に過剰に反応する、という弊害があって毎度悪態をついていた訳ですが、14時開始ですと受け止める方もヘッドラインの内容を落ち着いて消化しようという時間的な余裕もあるし、(まあ今回は某社のカメラ入っていたからヘッドラインへの反応がそこまで過敏じゃない(発言内容を確認しようとなる)というのもあったとは思います、為念)引け際に無駄な乱高下をしなくて済んだので、今後も金懇会見は14時スタート同時エンバーゴでお願いできればと思います。よろしゅうに。
〇金融政策運営のパートではちょいちょいと素敵な論点があって一部は巧まざる植田内田への砲撃にw
ということで引きつづき金融政策運営のパートですが、今度は同パートの頭から参ります。
・そもそも今の実質金利ドマイナスという状況は状況が改善されたら普通の姿ではないとな
『(物価を巡る状況と今後の金融政策)』って小見出しから。
『さて、先ほど、「デフレに陥った後、実質金利が高くなってしまった」というお話をいたしました。しかし、その後、2013
年に量的・質的金融緩和を開始したあと、日本は物価が下がり続けるという意味でのデフレではない状態になり、実質金利はマイナスになりました(図表8)。』
っていう説明をしていますが、図表8を見ますと実は2014年あたりからずっと実質金利がマイナスです、という図になっているのがチャーミング。
『名目金利がマイナス、という状態、すなわち、「日銀にお金を預けると、タンス預金よりも損になる」という状態は去年の3月に解消しましたが、「お金を貸したり預けたりしても、物価の上昇分を考えると目減りしてしまう」という実質金利マイナスの状態は続いています。』
はい。
『実質金利がマイナス、ということは、事業の実質での価値が今後少しずつ毀損していくプロジェクトに、借金をして投資しても見合う、ということを意味します。』
とはいえ借入金利も名目プラスなのでどうなんでしょうかね。まあそれは兎も角として、
『実質金利がずっとマイナスであり続けることがありうるかどうか、という点については、経済学者の間でも意見が一致していません。ノーベル賞を取った元
FRB 議長のバーナンキ氏の論文には、そんなことはありえない、という議論が出てきます3。他方、財務長官やハーバード大学の学長も務めたサマーズ氏の論文では、マイナスの実質金利はそんな珍しいことではない、という議論が出てきます4。』
でまあこの辺までが前振りでして、
『ですので、ここでなにか結論を申し上げようというつもりはありません。ただ、経済をマイナスのショックが襲っているような状態や、デフレ的な様々な諸要因が強固に残っている状態では、実質金利がマイナスになるということは必要でもあり、決して不正常でもないが、ショックやデフレ的な諸要因が解消された状態であれば、実質金利がはっきりとマイナスの状態がずっと続く、というのは、普通の姿とはいえないのではないかと思います。』
キタコレ!
『日本についていえば、ショックやデフレ的な諸要因のうち、多くは解消されていて、少子高齢化・人口減少とグローバル化という二大構造要因は続いているものの、それらがいわれているように宿命的なデフレ要因であるわけではないのではないか、という見方を申し上げました。』
今日そこまで間に合わないのですが前段の部分にこの辺の話があります。
『本当にそうかどうか。もちろん道は平坦ではないでしょうが、生産性を高めて賃金を引き上げ続けられる企業へと労働力が移動する傾向は強まっています。』
『企業も政府も国際経済の新しい構図を見越して戦略を推し進めています。』
『仮に今後も人口減少やグローバル化に伴う様々な課題を工夫して乗り越えていけるとすれば、実質金利が深いマイナスではなくなっていく姿を将来像として展望することも可能になるのではないか、と思います。』
本来植田さんがこういう中長期的なパーセプションで「政策金利が今の水準のままで留まるのはおかしい」という話をすべきところだと思うのですが、なにせ植田内田(特に内田)はクソ目先の話しかしないというのは何なんでしょうねと思いますし、こういう説明をする氷見野さん非常に真っ当に見えますわ。
・物価2%安定目標達成は「物価が下がって期待インフレが上がる」必要があると説明しているのもイイハナシ
次の段落ですけど、
『もちろん、当面の金融政策運営に当たっては、より短期的な経済・物価・金融情勢に十分な注意を払っていく必要があります。』
というのが頭に入るもののこの先は、
『ここで、物価の現在地を確認してみますと、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比は、輸入物価急上昇の影響から
2022 年 12 月と 2023 年1月には4%にまで至りましたが、その後は徐々に落ち着いてきております。わたしどもでは、来年度・再来年度については2%程度に着地するというのをメインシナリオと考えています(図表9)。』
『他方、人々が将来の物価上昇率について抱いている予想についてみますと、1%を下回っていたのが、徐々に上昇し、1%台半ばにまで至っています。』
実はもっと上なんじゃなかろうか説はあるのですがそれはさておきまして、
『日本銀行は、2%の物価安定の目標を持続的・安定的に実現することを目指しているわけですが、現実の物価上昇率がちゃんと下がっていかないとこの目標はもちろん実現できません。』
この「現実の物価上昇率がちゃんと下がっていかないとこの目標はもちろん実現できません」ってのは実に良いことを言っていまして、日頃弊駄文では日銀大本営やら植田内田やらが「基調的な物価は2%行ってないから緩和継続」というのを毎度のように能天気に言っていて、いつの日か日銀は物価高放置をしていると批判の十字砲火がやってくるゾという事を申し上げているのは皆様もご案内の事かと存じますが、氷見野さんの挨拶のこの部分、すなわち「現実の物価上昇率がちゃんと下がる必要がある」というのを言っているのは大事な話でして、日銀が物価高放置をしているんじゃないか、という疑念を払拭することでもありますし、日銀のお貴族様は庶民が物価高で苦しんでいるのを分かっていないとかいうような話に発展するのを防ぐこともできまして、実に良い事を言ってると思いました。
『他方、人々が将来の物価上昇率について抱いている予想が2%に向かって上がっていかないと、実際の物価上昇率もいずれはまた2%を下回るようになってしまい、目標を持続的・安定的に実現することはできません。』
氷見野さんの説明って無茶苦茶分かりやすいんですよね、文章で見てもそうですし、会見での説明なんかでもそうなんですよ。
『そこで、現実のインフレ率は下がっていって、予想インフレ率は上がっていって、それが両方2%前後で着地する、という、難度の高い道筋を描いて、そうなっていくという見通しを持っているわけですが、これまでのところ、その背後にある経済のメカニズムも含めて、概ねその見通しに沿って進んでいると思っております。』
難度の高い道筋、って認めているのもいいですよね。
・「今後も政策金利の調整を行う」というのを淡々と言明しつつ・・・・・
でもって次の段落に行きますと、
『わたしどもとしては、そうした見通しが今後も実現していくとすれば、昨年3月、7月に続いて、今後も政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことになると考えております。方向はそういうことだとしても、もちろん、内外には上下双方向のさまざまなリスク要因がありますので、注意深く判断していく必要があります。』
となっていますが、この次を見ますと・・・・・・・・
・賃金に関しての説明を見ると別に3月まで待たずとも判断できますよという文脈ですがな
『国内での注目点の一つは、2025 年度の賃上げの見通しです。』
でまあこれが従来の植田さんの説明だと1月には判断付くわけないじゃんみたいな感じの説明になっていた訳ですが、
『それぞれの企業ごとにさまざまな課題に直面しておられますので、賃上げはもちろん容易なことではないと思いますが、強い業況判断、高い水準が続いている企業収益、歴史的には低い水準にある労働分配率、人手不足、転職の活発化、最低賃金の引き上げなどからすれば、2024
年度に続いて強い結果を期待できるのでは、と願っております。』
願っている、であって思っている訳ではない(というか「思っている」だと1月利上げ色が強くなりすぎますからまあさすがにそこまではよー書かんわな)のですが、少なくともここに出されている内容は既に確認済みの話であって、それらから見たら本年度並みの賃上げが来年度も期待できる、という話になっておりますので、何なら1月会合の時点で「賃金動向は想定通りに強いので政策金利の調整に支障はありません」という話にできますわな。
さらに、
『年初の各界の方々の発言も前向きなお話が多かったように思います。先週開きました私どもの支店長会議でも、全体的に強めの報告が多く、特に、今後の継続的な賃上げを中期経営計画に盛り込むこととした企業についての報告が複数の支店長からあったのが印象に残りました。各種アンケート調査でも、賃上げ予定先比率や賃上げ率は、前年並みないし前年を上回る結果が多いようです。』
となっていまして、年初からの材料を見ても継続的な賃金引き上げ傾向を後押しする話をしていまして、12月会合の時には判然としなかったけれども1月会合の時点では賃上げ継続を確信できる、という話にすることは可能な話の作りになっています。
・問題の「米国新政権ガー」に関しても「トランプが冒頭から無茶しなければエエンチャウノ」ムーブをかましていまして
その次が米国新政権の政策ガーという無限に不透明なものを理由に出してしまった植田総裁のトンチキコミュニケーションの尻ぬぐいモードに完全になっている、という部分でしてですね、
『海外での注目点の一つは、米国の新政権の政策と、それが米国経済・世界経済・日本経済に与える影響です。』
まあこれは言及せざるを得ませんけど、
『これは継続的に見続けるしかありませんが、』
でもってこの点って結局無限に「影響を見極める必要がある」と言い続けられるというマジックワードというかチキンオブチキンのワードなのですけど、それに対して氷見野さんはこのように割り切っておられまして、
『来週の就任演説で政策の大きな方向は示されるのではないかと思います。』
はい、つまり1月でも3月でも同じということですな!!!!!!
『これまでに示された内容をもとに、中長期的には様々な影響が論じられていますが、少なくとも米国経済は当面強いパフォーマンスが続くとの見方が多く、下方リスクに焦点が当たっていた昨年8月ごろとはだいぶ様子が変わってきたように思います。』
これ中々芸が細かいのは「下方リスクに焦点が当たっていた昨年8月ごろとはだいぶ様子が変わってきたように思います。」という部分でして、昨年8月ごろ、と言えばまさにあの利上げをした後に米国要因も相まって株安円高になって内田副総裁がションベンちびって全面降伏宣言をしたあの時になるわけですな。
つまりですね、今回の氷見野さんの「米国懸念は昨年8月ごろとはだいぶ違いますがな」というのは、当時の内田副総裁の全面降伏宣言を上書きする機能も果たしている、ということになっておりまして、まあゆうてその後も植田総裁が米国経済ガーを連発して円債市場の失望を誘っていただいた訳ですが、それらをしれっと上書きするムーブになっているのが大変にお洒落なところです。
でまあ最後は一般的な話をして先ほどネタにした後半部分の小見出しに繋がるのですが、
『いずれにせよ、これらの点を含め、足元までに発表されたデータ・情報を分析し、本年以降の経済や物価の見通しを作成する作業を現在鋭意続けております。その結果は来週「展望レポート」にまとめて公表する予定です。』
『政策運営にあたってはタイミングの判断が難しくかつ重要です。来週の金融政策決定会合では、「展望レポート」にまとめる経済・物価の見通しを基礎に、利上げを行うかどうか政策委員の間で議論し、判断したいと思います。』
ということで、最後にもちゃんと「利上げを行うかどうかを議論し」とありまして、12月会合主な意見だと何かお前ら本当に議論したのかって感じの消極的な感じでしたから、そこから見たら1月会合利上げ全然出来ますじゃないですか、という話を思いっきり上書きしてきた、というのが今回の氷見野さんの金懇挨拶になるかと思います。個人の感想ですが。
・でもって1月利上げやっぱりありになったのかどうかですが正直よくわからんけど1月無しで決め打ちはできないわな
ま、だからと言って利上げするかどうかは良くわからんのですが、利上げ見送って円安にブチ飛ばれるのがマズイとか、そもそも3月に利上げ(前回のは利上げと言ってもマイナス金利解除でしたから利上げというほどの利上げではなかった)するのってどうなのよ(期末的に)というのも勘案すると、4月展望まで引っ張るよりは1月ってのだってまあアリエールかもね、という話になるかもしれませんな。
あとはこの氷見野さんの「上書きムーブ」がガチの全体的な方向性となっていて、12月に早期利上げ観測を叩き潰しすぎたのでこのまま1月迎えて利上げすると闇討ちの2乗くらいの話になってヤバかろうというご配慮で氷見野さんが威力偵察をしてきているのか、単に氷見野さんが単騎突撃してきているのか、というのはまあさすがに判断しかねますので、どっちなんですかねえという見立てによって読み筋は変わってくるかと思います。
とまあそんなところでござる。
2024/09/02
〇氷見野副総裁金懇会見ネタの続きです
さて気を取り直して金曜日PCトラブルで途中までしかやってなかった物件。
https://www.boj.or.jp/about/press/kaiken_2024/kk240829a.pdf
・しかしあの内田副総裁の「金融市場が不安定な時は」云々は後で相当高くつくことになりますな
金曜日に延々と引用した例の内田副総裁発言に関連する質疑応答、実はあと1個残っていまして、
『(問)ちょっと一個だけ認識の確認で、金融市場の不安定さの点に関してなんですけれども、これは政策反応関数に金融市場ってのはならないっていう整理の仕方を、氷見野副総裁ご自身されているのかっていうところを、ごめんなさい、ちょっと念のため認識の確認というところで。』
ということで、金曜日に引用したのも含めて、今回の質疑応答のうち7つの質問がこの金融市場の不安定云々になってしまった訳です。
まあこの回答自体は、
『(答)私ども、経済・物価の見通しが実現する確度と政策ということであるわけですけども、その確度には様々な要因が影響を与えるわけでありまして、もちろん、消費、賃上げ、米国経済、様々なものが影響を与えていくわけですけれども、当然のことながら内外の金融資本市場の動向が、確度に影響を与えていくということも、もちろんあるわけですので、政策反応関数というふうに言っていいのかどうかよく分かりませんが、もちろん金融資本市場の動向も、どう経済に影響するかよくみたうえで、政策判断していくということは、その通りだというふうに思います。』
もはや一般的な回答しかできんわ、というお答えになっていますが、これだけしつこく質問される、っていうのはまあ長年会見のテキスト見てるワイからしても異様オブ異様な話でございまして、いやそんなのどうでもいいじゃんと言いたくなるところではありますが、まあ円債の人たち以外からしてみたらこの「金融市場が不安定かどうかによって今後の利上げペースが変わってくるから、金融市場がどういう状態にあるのかという認識を聞くのは大事」ということになるんでしょうなあ、と思う訳ですよ(正直報道する方がもっとこの点から離れて欲しいのだが連中も商売だからこうなるわな)。
となりますと、これ今週来週の審議委員の皆さんの金懇でも「内田副総裁の発言があった頃から比べれば落ち着いているようにも見えますが、先般の氷見野副総裁も会見で最大の注意を払うようなことをおっしゃっていました、委員の現状のご認識は如何でしょうか」って質問が飛んでくるの間違いないし、今月の決定会合の後の定例会見だって植田総裁に「金融市場の安定度合いについての評価はどうなっているでしょうか」って絶対そういう話になるわけですよ。
ということで、このクソしょうもない「金融市場の安定」とかいうのがどこまで行っても話題になるし、あたかも政策反応の重要な要素って話にいつまでたってもなってしまう訳で、その場しのぎで言ったにしたって内田副総裁の先般の発言は、日銀の今後の政策運営におけるコミュニケーションに対して罪万死に値するレベルのマズイことを言ってしまった、としか評価しようがありませんよね、ということになるわけでして、金融市場の安定云々が話題のメインじゃなくなるのいつになるのやら、ってなところであります。
まあお前らは福井俊彦じゃないんだから福井の俊ちゃんみたいな天才的なその場しのぎができるわけなくて、真似したら大怪我するだけなんだから器用ぶってその場しのぎのクソ理屈を捏ねる悪い癖を治せってなもんですけどね。
・中立金利に関する質疑がこれまたしょうもない
実質最初の質疑に戻りまして、
『(問)(前半割愛)もう一つは、中立金利についても触れられていましたけども、中立金利、推計の幅があって、不確実性が高いということですけれども、今後政策金利を
0.5%、0.75%と引き上げていく中で、幅のある下限について、どの辺りで意識して政策運営をしていく段階になるのか。また、過去
30 年間、一度も政策金利が 0.5%を超えたことないんですけれども、そういった中でですね、実際の経済・物価の反応を分析するうえでどういったところを注視するべきなのかどうか、伺えるでしょうか。』
何ちゅうか植田さんとかの話聞いてるのかお前という質問だが。
『(答)(前半割愛)そのうえで、中立金利をどうとらえるかということなんですけれども、これについては政策運営を進めていく中で、実際の経済・物価の反応を分析しながら、道筋を探っていくしかないのかなというふうに考えておりまして、現在、何か特定の水準なりレンジを特別に意識して考えているということは、私自身はございません。』
としか回答の仕様がないのだがこれがまた愚劣なことに次の人が、
『(問)中立金利の事情とかよくよく理解はしているつもりなんですけれども、総裁の説明ですと、今の金利水準というのは、中立金利よりもだいぶ下の方にあるというような趣旨のことをこれまで述べられてきたかと思うんですけれども、その辺りの認識については、副総裁はどう考えてらっしゃるでしょうか。』
ねえ、理解しているのに何でそんな質問するの????
『(答)現状がかなり緩和的な金融環境にあるというのは事実だろうというふうに思います。緩和的な金融環境にあるということは、中立金利よりは低いだろうということではあるわけですが、では一体どれくらい幅があって、どれくらいの範囲だと緩和的の範囲なのかというところの見極めについては、政策運営を進めていく中で実際の経済・物価の反応を分析しながら、道筋を探っていくしかないのかなというふうに思っているところです。』
ということで、これ以上の回答は無いわ、と思うのですが、これがまた中立金利に関してアホみたいな質問が来るんですよね。ちょっとあとのほう(途中は「金融市場が不安定」の質疑が延々と続く)になりますが。
『(問)(前半割愛)二点目なんですが、今日、中立金利について、かなり丁寧にご説明されていました。中立金利、少なくとも
1%以上という指摘もありますけれども、改めてですね、この講演資料の中にも載ってるんですけれども、中立金利と政策の関係性についてご見解を教えて頂けましたら幸いです。』
アホなのか??
『(答)(前半割愛)中立金利は 1%以上なのかというところなんですけれども、そこまではっきり特定できると思っている人もいろいろいるんだと思いますが、私は、特に過去
30 年、短期金利はゼロだったわけですので、それにいろんな行動とか、仕組みとかも適応してきている面があると思うんです。その中で金利を変えていくといったときに、中立金利っていうのはじゃあどうなのかっていうのを、なかなか簡単には当てられないというふうに考えておりますし、何かモデルで出てきた数字をそのまま信じるというのもあんまりいいというふうには思っておりませんで、いろいろ人によって意見もあれば考え方もあって、それは引き続き議論して勉強していきたいというふうに思っておりますけれども、実際には、政策運営を進めていく中で、実際の経済・物価の反応を分析しながら、道筋を探っていくしかないかなというふうに考えております。』
氷見野さん丁寧ですよね、これ黒ちゃんだったらとっくの昔に「さっきも同じこと言いましたが」って言い出すわw
なお、最後にこんなのも。
『(問)私が先ほど聞いた時に、今、金利水準がかなり緩和的であるというふうにおっしゃって頂きました。とはいえ、中立金利の水準っていうのはやっぱり経済・物価の反応をみながら道筋を探っていくしかないというふうにもお答え頂いたんですけれども、次の利上げをしたら、それをもって中立金利に達してしまったみたいな状況っていうのは、さすがに想定はしてないというふうに受け止めてよいのでしょうか。』
人の話聞いてる???
『(答)中立金利についてもいろんな議論がありまして、御紙に岩田一政元副総裁が寄稿しておられたのでは、もう足元ので大して中立金利と違わないんじゃないのかというようなことも書いておられました。あまり決め打ちで予断を持つことなく、やっていきながら、実際の経済・物価の反応を分析しながら道筋を探っていくしかないのかなと。ここまでは必ずやるとか、ここから先はやらないとか、どこがどうとかっていうのは、私はそういう自信は持っておりません。』
えーっと、どこですかこれ質問してるの????
・これは良い質問だが質問のツッコミが足りない
という質疑の中、信玄堤の話題を質問した記者さんがいてこれは目の付け所は良い。
『(問)午前中の懇談で、副総裁、信玄堤の例を引かれてご挨拶されましたけれども、多分に地元向けのリップサービスではあろうかとは思うんですが、この信玄堤の考え方というものをですね、金融政策に生かすとすれば、例えばどんなことがあるのか、考え方としてご紹介頂けますでしょうか。』
目の付け所は良いのだが「地元向けのリップサービス」とか言っちゃうのがダメダメにも程があるのと、金融政策に生かすとすれば、ではなくて、これは「異次元緩和政策のような硬直的な政策運営よりも信玄堤のような柔軟な政策運営が求められる、というように読み取ったのですが、氷見野副総裁はこの信玄堤の精神を金融政策にどのように反映させていかれますか」とか突っ込んでほしかったですね。この話をネタにしたのはなかなかの着眼点でしたがツッコミが惜しくも足りん。
『(答)これはなかなか真似できるかと言われると難しいわけですけれども、何か一つの問題を一つのことで単純につなげて考えるというよりは、水だってどんなふうに来るか分からない中で、いろんな対応を考えておいて、対応できるようにしておくということなので、』
どう見てもマネタリーベース直線一気理論をディスっています本当にありがとうございました。
『実は金融政策は手段がそんなたくさんあるわけでありませんで、非伝統的政策を卒業した後は、政策金利を上げる、下げる、据え置くという、それぐらいしかないので、なかなか将棋頭と十六石と信玄堤と、というようなことは難しいんですけれども、いろんな展開を思い描いて、それでどういう展開になっても、できるだけ対応できるように、特に一番悪い結果をあまり悪くしないようにというようなことを考えながらやっていくのが望ましいという意味では、少しでも信玄堤を作った信玄公に学びたいというふうに考えております。』
「特に一番悪い結果をあまり悪くしないように」ってのが含蓄ありますよね。
とまあそういうことで。
2024/08/30
〇氷見野副総裁金懇会見だがお前らもうちょっと聞くことは無いのかと小一時間
https://www.boj.or.jp/about/press/kaiken_2024/kk240829a.pdf
氷見野副総裁記者会見
――2024年8月28日(水)午後2時から約35分
於 甲府市
・ほかに聞くことは無いのかと
えーっとですね、こちらの会見なのですが、例の内田副総裁の「金融市場が不安定なら利上げはしない」ってのと、「中立金利」の質問がやたら出ていてお前ら他に聞くことないのかと思いました。
ていうかですね、「金融市場が不安定なら利上げしない」って内田さんの言い方もあれ無茶苦茶で、例えばの話急激な通貨安が発生するような不安定な中で利上げをしないのか、というとそれは違うだろという話で、通貨安が急速に進行している中で「為替市場が不安定なので緩和的な金融環境を継続します」とか言い出したら通貨安に拍車掛けることになるわけで、そういう意味では内田副総裁のあの説明に関してははっきり言って見識を疑う物言いなんですよね。
とまあそんなわけで最初の幹事社さん(地元紙の筈)の質問は「今日はどうでしたか」というのとご当地質問なんでその質疑を割愛しまして、その次の質疑から参ります。
・金融市場が不安定云々のヘッドラインとかにされていた部分だが切り抜きにもほどがあるだろ
ということで実質質疑の一発目の質問ですけど。
『(問)午前の金懇で、副総裁ですね、金融市場は引き続き不安定な状況であって、当面はその動向をきわめて高い緊張感を持って注視するとおっしゃいました。今後の利上げ判断に当たってですけども、経済・物価が見通し通りに推移して、そうであっても、市場の動向であるとか、また、今後利下げが確実視されている米国経済が軟着陸するかどうかとか、そういった注視すべき変数が増えているのかどうか、以前よりですね、一段と慎重に判断する必要があるのかどうか、ということをまず伺えないでしょうか。(後半割愛)』
うーんなんですかねえこの質問は。
氷見野さんの回答。
『(答)まず一つ目のご質問ですけれども、金融政策運営に当たっては、常に無数のファクターを考慮して考えていかざるを得ない、しかも前にも申しましたが、全部青信号とか全部赤信号ということはなくて、様々なシグナルがある中で判断していかなければならないということだと思いますけれども、』
まあ要するにこれだけのことであって、別に普段だって米国経済のこと気にしないわけではないし、金融市場で変なことが起きているかどうか見ないといけない(まあ見たら利上げになったんでしょうけど)ですし、注意すべき変数が増えたとか減ったとかそういうもんじゃないですよね。という感じですが、氷見野さんご丁寧にちゃんと説明しております。黒ちゃんだったら「普段からいろんなものを見るのは当たり前だろ」で一刀両断しそうですがwww
『現在の状況で言えば、現状、金融資本市場は引き続き不安定な状況にありますので、当面はその動向をきわめて高い緊張感を持って注視していくというのが私どもとしてまず取り組むべき事柄だろうというふうに思います。』
なんかこの部分切り取られてヘッドラインにされていたけど、その直後には、
『そのうえで、市場変動の経済・物価に与える影響とか、7月の利上げの影響とか、それだけではなく今おっしゃった、米国経済の先行きとか、様々なことをみながら、そのうえで、経済・物価の見通しが実現する確度が高まっていくということであれば、金融緩和の度合いを調整していくということで、そこの基本的な姿勢は変わらないということであります。』
って言ってるわけでして、別に将来の金融政策運営になんか手かせ足かせを掛けるような話にはなっていないんですよね。普通に市場の大荒れが収まったということであれば政策アクションできまっせという話だし、なんかの拍子に円安再燃したら追加利上げは早くなる可能性だってありますがな。
『引き続き 2%の目標のもとで、幅広い方々と丁寧にコミュニケーションを取りながら、適切に政策運営をしていきたいと考えております。(後半割愛)』
ということでして、特に今回の氷見野さんの講演とか会見って、メディア的には「市場配慮でハトっぽく」というのがニュースとしてキャッチーだから、そっちの方向にバイアスが掛かりやすいと思うので、会見ほぼ冒頭のこの質疑でも、さきほどの「現状、金融資本市場は引き続き不安定な状況にありますので、当面はその動向をきわめて高い緊張感を持って注視していくというのが私どもとしてまず取り組むべき事柄だろうというふうに思います。」がクローズアップされるという格好になっていますわな、と思いました。
・金融市場が安定しないと利上げしないのか問題
『(問)二点お伺いしたいんですけれども、先ほど金融市場の動向とその影響を見極めていくのがまず第一の課題という話がありましたけれども、日銀として次の利上げを決めていくに当たって、やはり前提となるのは金融市場の安定化なのか、金融市場の安定化がないと次の利上げができないのかどうかというお考えをお聞かせください。』
まあこれは確認の意味で聞きたいことはわかる。あとついでですが、
『それから 8 月 5 日の株の暴落の背景として、アメリカの景気の減速懸念というのがありますけれども、氷見野副総裁はアメリカ景気の現状についてどのようにみてらっしゃるんでしょうか。』
というのもあるので一緒に。
『(答)やはり政策運営に当たっては、様々な要因を総合的に判断して考えていくということになると思います。当面、もちろん市場動向を見極めていくというのが、まず取り組むべき課題だというふうに思っておりますけれども、そのうえで、何か論理式を書いてですね、AANDBORC何とかだと利上げとかいう、機械的なことをするわけではありませんので、全体として様々な事柄を全部とらえたうえで、経済・物価の見通しが実現する確度が高まっていくということであれば、金融緩和の度合いを調整していくというのが基本的な姿勢であります。』
こうだからこうする、こうしない、という決め打ちは一切ありませんという答えですな。
『アメリカ経済の減速懸念につきましては、全く減速しないかといえばそういうことではないかもしれませんけれども、逆に昔言っていたような、インフレを克服するためにはかなり深い減速がなきゃならんというシナリオには、引き続きなっていないように思います。一時いろんな指標が出ておりますので、読みにくいんですけれども、私自身としては、メインシナリオは引き続きソフトランディングのコースなんではないかというふうに考えております。』
まあこれはこういうお話ということで。
・金融市場が不安定って話の質問がまだまだ続く
いやまあそういうことも含めて内田副総裁のあの言い方ってどうだったのかと思う訳で、氷見野副総裁飛んだとばっちりという感じですわ。
『(問)(前半割愛)もう一点が、現状、金融資本市場は引き続き不安定な状況にあるということですが、この不安定さが脱した状況っていうのを見極めるうえで、氷見野さんが重視するポイントですとか、指数ですとか、指標ですとかそういったものがありましたら教えてください。』
『(答)(前半割愛)二つ目が、市場が不安定さを脱したかどうかの判断のポイントということだったと思います。これもなかなか、市場の動きの先行きというものを高い確度でとらえる、足元落ち着いているかどうかよりも今後安定しているかどうかというところを見極めるのが大切なわけですけれども、正直言って、例えば海外の統計指標の毎期の振れがどういうふうに振れるかみたいなところまでは読み切れないところもあるわけですけれども、これも一つの指標をみていれば安定性を判断できるというよりは、安定性を損ないそうな要因をいろいろ考えてみたうえで、それの先をできるだけ読むようにしていくということしかやりようがないのかなというふうに思っております。』
ってこの回答、要するに内田さんが金融資本市場が不安定云々という話をおっぱじめたもんだから言わざるを得なくなったけど、定義づけとかそういうものはありませんがな、というお話ではありますわな。
でまあその先の方ではこれまたこんな質問がありまして見ている方がうんざりして来ますけど・・・・・・・・
『(問)先ほど、足元の市場が落ち着くということよりも、やっぱり今後落ち着いていくかどうかという見極めが大事だという趣旨のお話があったかと思います。金融資本市場の動向について当面はですね、緊張感を持って注視していくということなんですけれども、この当面っていうのが、どのぐらい先なのかというお考えでしょうか。(後半割愛)』
『(答)時間軸的にいつまではなくて、いつからはあり得てとかいったイメージを私自身は特に持っておりません。』
というのは当たり前でして、
『一つは市場を見極めるということがあるわけですけれども、これもどれだけ待ったら見極められるというよりは、いろんな市場の動きあるいは市場の動きの背後にあるいろんなファクターをみていって、完全には見極められないんですけれども、ある程度の自信を持てるかどうかっていうところが一つあると思います。(後半割愛)』
まあその通りですわなとしか言いようが無いのですがまだ質問が来ましてこの直後に、
『(問)繰り返しで恐縮なんですけれども、不安定な市場が現時点で経済・物価見通しが実現する確度にどのような影響を与えているかということについてご認識を伺いたいんですけれども、見極めが必要ということなんですけれども、やはり経済・物価が不安定な状況では、確度は高まりづらいということでよろしいのか。あと、副総裁のご自身の経済・物価見通しも、このことによって何か今変化があるのかどうか。その辺を教えてください。』
しかし何で今回の会見やたらこれを聞こうとするんでしょうか・・・・・・・
『(答)どういう影響があるかというのは、ちゃんと見極めていきたいと思っているんですけれども、今日も少しはお話をお聞きできたんですけれども、私が何人かの経営者の方からお話を聞くというよりは、日銀の経済分析班が様々な方からお聞きして、更にできれば統計とかもみて、判断していきたいというふうに考えておりまして、多分こういう経路もあるだろうというようなことは考えられますので、今日の挨拶でもそのいくつかパスとして考えられることは申し上げたんですけれども、そこでも両方の向きがあり得るというようなことを申しましたので、それが実際どうかというところについては、やはり、実際、経済を動かしておられる企業の方とか、あるいは消費者の反応がどうかとか、そういったところを、今日お聞きした中では、円高でインバウンドはそこまで影響しないんじゃないかというご意見もお聞きしましたが、これも何か多少はあるかもしれないが、とおっしゃっていて、どの程度かというのはやっぱり自信はそんなにお持ちでないのかもしれないと思いましたので、そこはこれからちゃんと見極めていきたいというふうに思っております。』
いやーこれは氷見野さんも大変だわって感じですな。しかもまだこの質問が続きやがりまして、
『(問)二点お伺いさせてください。まず、金融市場の不安定さと金融政策の関係性についてお伺いします。先般、内田副総裁、金融市場が不安定な状況では利上げしないとおっしゃられていました。この点に関して、氷見野副総裁、金融市場の不安定な状況で利上げするのかしないのか、ご認識を念のためお伺いさせてください。これが一点目です。(後半割愛)』
・・・・・何回同じ話をさせるのやら。
『(答)一つ目のご質問につきましては、現状、金融資本市場は引き続き不安定な状況にあると考えておりまして、当面はその動向をきわめて高い緊張感を持って注視していくというのが、私どもとしてやるべきまず最初の仕事だろうというふうに考えております。そのうえで、そうした動向が、経済・物価の見通しとかリスクとかに及ぼす影響をしっかり見極めていきたいというふうに考えております。そのうえで今後の政策運営については、そうした影響とか、7
月に決定した利上げの影響とかを見極めながら、私どもの経済・物価の見通しが実現する確度が高まっていくということであれば、金融緩和の度合いを調整していく、というのが基本的な私どもの姿勢であります。(後半割愛)』
あーあー氷見野さん呆れちゃって紋切り型回答になっちゃったよ。
・・・・・しかしその直後にこの質問はワロタ。
『(問)ちょっと一個だけ認識の確認で、金融市場の不安定さの点に関してなんですけれども、これは政策反応関数に金融市場ってのはならないっていう整理の仕方を、氷見野副総裁ご自身されているのかっていうところを、ごめんなさい、ちょっと念のため認識の確認というところで。』
さすがにこれは聞いててヤバいとおもったかw「ごめんなさい、ちょっと念のため認識の確認というところで」って入りましたなwww
『(答)私ども、経済・物価の見通しが実現する確度と政策ということであるわけですけども、その確度には様々な要因が影響を与えるわけでありまして、もちろん、消費、賃上げ、米国経済、様々なものが影響を与えていくわけですけれども、当然のことながら内外の金融資本市場の動向が、確度に影響を与えていくということも、もちろんあるわけですので、政策反応関数というふうに言っていいのかどうかよく分かりませんが、もちろん金融資本市場の動向も、どう経済に影響するかよくみたうえで、政策判断していくということは、その通りだというふうに思います。』
お前らいい加減にしろと内心苦り切っていたに違いない・・・・・・
(つづく)
〇ところで・・・・・
さて、実は氷見野副総裁の金懇ですがまだ話の続きはあるのですが、今朝ほどワタクシの作業用PCが一時的に死ぬという事案が発生してその修復作業に掛かりながらだったので途中になっております。
週末に作業環境を移行する予定なので、その時に続きをアップしたいと思いますしゃーせん。
2024/08/29
〇氷見野副総裁甲府金懇:総裁の国会での説明に沿ってますね&格調高いですよね〜
https://www.boj.or.jp/about/press/koen_2024/data/ko240828a1.pdf
最近の金融経済情勢と金融政策運営
── 山梨県金融経済懇談会における挨拶 ──
・そもそも初手から格調が高いし最後の部分がもっと格調高い
『1.はじめに』ですが、
『本日はお忙しい中お集まりいただきありがとうございます。また、日本銀行と甲府支店への日ごろからのご協力に感謝申し上げます。』
はさておき、
『わたくしは富山県富山市の出身で、屏風のように聳える立山連峰を朝な夕なに仰ぎ見て育ちました。昨日当地に参りまして、南アルプスの姿に懐かしい思いがいたしました。武田信玄の「動かざること山の如し」という言葉も、実際に甲斐の山々を目にして思い起こしますと、動かないことの背後にある峻厳さが感じられ、風のように速く、火のように激しい、ということと、動かない山の峻厳さは表裏一体であるような気がいたしました。また、林も山も生きており、力に満ちた静けさなのだ、という印象を抱きました。』
掴みの部分からもう格調が高いのですが、いつもとちがっていきなり最後に飛んじゃいますけど、
『4.おわりに』って普通は読み飛ばす場所なのですが、氷見野さんの講演はここも見どころになっているのが凄い。
『近年世の中の変化が目まぐるしく、また、いろいろな余裕も乏しくなる中で、どうしても目先のことを考えるだけで目一杯になりがちです。そうした毎日を送っていて、対極にある姿として思い起こすのは、当地の信玄堤のことです(図表
10)。』
と言われましたので私もしらっと信玄堤に関して改めて調べてしまいました^^;
『御勅使(みだい)川の急流の力を、石積出しにより方向を変え、将棋頭(がしら)で分断し、十六石で抑え、もともとあった高岩に当て、さらに5つもの堤を並べて、もし水があふれても堤防の切れ目から川に戻すように工夫してあると承知しています。』
この治水はとにかく凄いものだそうですな。
『まるで信玄の軍略を見るようで、信玄が地形を利用しながら軍勢を配置する仕方もきっとこのようなものだったのではないかという気がします。』
『最近の言葉でいえば、さまざまな想定外のシナリオにも対応できるような、レジリエンス重視の設計といってもいいのではないかと思います。』
氷見野さんそういう意味を籠めているのかはともかくとして、この部分って(特に末期の)黒田時代の2%に拘り、というか緩和に拘りなのかもしれないけど、金融政策運営が硬直的になって今まさにガチガチに作った堤防が決壊して大水害の後始末みたいなことになっている状況に対して寸鉄人を刺しているかのようにも読めるところが味わいがあるわけです。
『本日はできるだけ話を単純にするため、景気と物価をめぐる一つのシナリオを中心にしてお話いたしました。また、リスク要因についても、どちらかといえばこれまでの延長線上にあるような目先のリスクについていくつか触れるにとどまりました。』
で、
『地域の経済の将来を切り拓いていくためにも、日本の経済の将来を考えていくためにも、本来であれば、信玄堤を作った先人に学ぶくらいの気持ちでもっと大きな戦略性を持たなければならないだろうと思います。』
と言ってるのも格調が高いのと同時に物価2%達成の数字の細かいコンポーネントの話にすぐに走ってしまう日銀大本営の対外説明に対して寸鉄を刺しているんでネーノとも読めてしまう訳ですな。
『本日は、わたくしが申し上げたようなテーマに限らずに、皆様が現在悩み、取り組んでおられる事柄についてのお話を幅広くお伺いできればと存じます。どうぞよろしくお願いいたします。』
というわけで本編に戻ります。
・「できるだけ話を単純に」ということですが説明が一々腑に落ちてこれは聞いてたら満足度が高いでしょうね
さきほどの終わりのところに「本日はできるだけ話を単純にするため(略)一つのシナリオを中心にしてお話いたしました」とありましたが、『2.当面の経済・物価情勢』以下のお話がこれがまた上流から下流に悠々と大河が流れるかのように平明で分かりやすい説明になっておるわけです。
『さて、まず、これから景気はどうなっていくのか、物価はどうなっていくのか、という点について考えてみたいと思います。』
でまあ本当はこれ全文引用したくなるのですが、全文引用していると終わらなくなるわ量が大杉勝男だわということでメインシナリオの説明部分を飛ばしてから引用します。
『以上の見通しを整理いたしますと、来年度・再来年度は、物価安定の目標に即したインフレ率、巡航速度を少し上回る程度の成長という、バランスの良い状態をメインシナリオと考えていることになります。』
来年度達成だそうですわよ。
『日本経済はバブル期には過熱し、バブル崩壊後はデフレ的な期間が続き、その後デフレからの完全脱却に向けて進展があったけれども、コロナ後は経済が落ち込み、次いで物価高に襲われ、どうもバランスの良くない状態が続いてまいりました。しかし、来年度あたりからは、とうとう長年目指してきたような状態が実現できるのではないか、とみているわけです。』
キタコレ、ということですがここに続きまして、
『では、本当に来年度以降、このような姿が実現するのでしょうか。』
となるわけでして、
『これまでのところ、物価については想定された道筋に沿って進んでいると考えております。』
ほっほ――――
『また、今年前半の景気については、想定していたよりは弱めでしたが、自動車メーカーにおける認証不正問題などの一時的な要因が相当程度影響しているのではないかと考えております。』
ほうほう。
『今後についても、見通しに沿った展開となることがメインシナリオだと考えていますが、さまざまなリスクシナリオも考えられるところです。』
でもって、
『以下ではその中から、「インフレ率は本当に下がっていくのか」と「下がりすぎて戻らなくなることはないか」の2点について考えてみたいと思います。』
となりまして、2点についての説明があります。
・欧米のように物価がスパイクしなかった理由の説明が長いけど非常に説得力がある
『(欧米との比較)』になります。
『第一に、インフレ率は本当に目標の2%に向かって下がっていくのでしょうか。欧米の人からよく言われるのは、米国や欧州では輸入物価ショックに対して厳しい金融引き締めで対応し、それでもまだ物価安定の目標よりも高い状況が続いている。日本は緩和的な金融環境を維持しているが、インフレを心配しなくていいのか、ということです(図表2)。』
そらそうよ。
『2020 年半ばから 22 年半ばにかけて、日本にとっての輸入物価の上昇は、円安の進行の影響もあり、ドイツよりもずっと高く、米国とでは比較にならないくらい激しいものでした。他方、米国はエネルギーをほぼ自給でき、食糧については輸出国です。ドイツのエネルギーや食糧の自給率も日本よりは遥かに高いです。従って、日本にとって、国際資源価格の上昇のインパクトは、欧米よりずっと大きかったはずです。それなのに、インフレ率は、ユーロ圏では
10%を超えましたし、米国でも9%にまで達したのに、日本ではピークでも4%でした。欧米の人からすれば、「金融引き締めもしていないのになぜだ」ということになるわけです(図表3)。』
こうやって説明されると腹落ちしやすいですよね。
『なぜでしょうか。消費者物価指数は、大きく分けると、財、サービス、家賃の価格から構成されています。まず、輸入物価の上昇が直接影響しやすい財の価格についてみてみたいと思います(図表4)。』
『財価格は、2020 年末以降の累積で、ドイツが 26%、米国が 20%、日本が 16%上昇しています。輸入物価ショックが一番大きかった日本が、なぜ上昇幅が一番小さかったのでしょうか。』
はい。
『実際の財価格の累積上昇幅の動きを説明するために、産業連関表という統計を使って、特定の財を作るために直接・間接にどんなインプットをどれだけ使うのかを調べ、インプットの価格変化が仮にそのまま
100%次々に転嫁されていって、即座に影響が出尽くしていたらどうなっていただろうか、という試算を行ってみました。』
『非現実的な極端な仮定ですが、これと現実を比べることで見えてくるものがあるのではないかと思うわけです。』
ほほう。
『インプットの価格変化としては3種類考えてみました。まず、輸入エネルギーと輸入食料品の価格上昇の影響です。』
『また、産油国である米国を念頭に、国産のエネルギーの価格も国際相場並みに上昇して、その分も転嫁されたと仮定した場合の影響も試算してみました。』
『さらに、今度は逆に、輸入物価とは別の要因の代表として、この間の賃金の上昇が即座に
100%転嫁されたと仮定しての影響も試算してみました(図表5)。』
『大変粗い試算であり、しかも機械的・静学的な試算ですので、結果の評価には注意が必要ですが、日本の場合、輸入物価上昇の激しさと自給率の低さを反映して、輸入エネルギー・食料品の価格上昇の影響が大宗を占める結果となりました。他方、米国の場合は、国産エネルギーの分と賃金増の分が大きいです。ドイツは日米の中間です。』
図表5をみてちょんまげ。
『さらに、当初米独では実際の財価格が即時フル転嫁に近い動きをしたのに対し、日本では転嫁に時間を要したことも見て取れます。価格転嫁に慎重だった日本企業の当時の行動様式や政府のエネルギー価格対策が激変緩和に繋がったのではないかと思います。』
なるほど。
『さらにドイツでは3つの要素で説明できない部分も大きくなっています。この部分が何なのかはよく分かりませんが、「ユーロ圏では企業が収益マージンを拡大する動きが物価を押し上げた」という分析や、「ドイツではサプライチェーンのボトルネックの影響が大きめだった」という分析もみられるところです1。』
ここ、「何なのかよくわかりませんが」ってちゃんと言ってるのがまた良いんですよね〜。
『いずれにせよ、日本は輸入エネルギー・食料品等の価格上昇のインパクトははるかに大きかったが、他の要因が小さかったため、全体での影響は米独より小さかった、という説明ができそうです。』
なるほど。
『次に、家賃を除くサービスの価格の動きについてみてみます。財よりも日米独の違いがずっと大きくなっています(前掲図表4)。』
ほうほう。
『サービスの提供に必要なコストの中心は賃金ですが、米国ではコロナ初期に失業者が2千万人近くも増加したので、コロナ後に労働者の復帰を促すために賃金の大幅な引き上げが必要になった、という面があると思います(図表6)。』
ふむ。
『また、先ほど申し上げた財価格の変動要因のうち、輸入エネルギー・食料品の価格上昇の影響は海外の輸出者への支払いとして流出する一方、国産エネルギー価格や賃金の上昇の影響は国内のエネルギー産業や労働者への支払いに還元されます。』
なるほど。
『自給率が大きく違うので仕方がないのですが、一次産品価格変動により、日本は国民全体として巨大な所得減になったのに対し、米国はむしろ所得増でした。』
確かに。
『日本は交易条件が悪化したのに対し、米国は改善していました(前掲図表6)。交易条件の悪化は賃金にはマイナスに働くと考えられますので、日米独の賃金やサービス価格の動きの違いには、こうした点も影響しているのかもしれません。』
おーーーーーー。
『さらに、日米独では家賃の動きが大きく異なりました。米国では消費者物価指数の3割以上を家賃が占めていますが、家賃がこの間急速に上昇しました。日本の家賃水準はこの間ごくわずかしか上がっていません。ドイツは日本よりは上がっていますが、米国ほどではありませんでした。消費者物価の動きの違いのうち、家賃の動きの違いで説明できる部分がかなりあります(前掲図表4)。』
『以上、日本では輸入物価ショックが大きかったのに消費者物価指数が米欧ほどには上がりにくかった理由を探ってみました。』
ということですが、ここでお気づきになられたかとは思うのですが、最近の日銀大本営が便利使いしている「ノルム」を使っていないことに気が付く訳でして、これ大本営だったら「欧米とノルムの違いがあるから」の一言で欧米との差を片付けてしまって後は賃金慣行とかの話で終わらせちゃうところですが、氷見野さんの解説ってそういうふわっとした言葉を使って雰囲気でごまかすような説明じゃなくて、話は単純化しているとは言え「ノルム」的な部分のお話でも「価格転嫁に慎重だった日本企業の当時の行動様式や政府のエネルギー価格対策が激変緩和に繋がったのではないかと思います」というように具体的な説明をしておりまして、何となくわかったようがするけれども、それは厳密に定義がないフワフワバズワード(物価上昇第一の力第二の力なんかもそうですよね)を使う、というのをしていない、というのが氷見野さんの説明の偉大なところなんですよね、とアタクシは思いましたがどうでしょうか。
・賃金動向・消費動向について
次の小見出しが『(賃金と消費)』です。
『さて、日本でも 2022 年以降はサービス価格が緩やかな上昇を始めており、足元では財価格への賃金の波及分も拡大しています(前掲図表4・図表5)。他のデータも子細に見ていくと2、過去の輸入物価の上昇を起点とするコストプッシュ圧力が減衰する一方、賃金と物価の好循環による緩やかで持続的な力が働き始めていることを見て取ることができます。』
好循環メカニズムキタコレ。
『では逆に、輸入物価上昇の影響が減衰していく一方、賃金と物価の好循環という持続的な力があまり育たず、インフレ率がいずれ2%をまた大きく下回って、そのまま戻ってこなくなってしまう可能性についてはどうでしょうか。これは、「基調的な物価上昇率」が2%に達しない可能性、と言い換えることもできます。』
ほう。
『当面カギとなる点としては、海外経済の動向のほか、国内については、@賃上げが続くのか、A消費が腰折れせず、賃金上昇を価格に転嫁できる環境が続くのか、そしてB最近の円高・株安といった金融資本市場の変動の影響はどうか、の3点が考えられます。国内関連の3点について、互いに関係する問題ではありますが、とりあえずひとつずつ見ていきたいと思います。』
ほうほうほう。
『まず、賃上げに関する見通しです。今年度の賃上げは、春闘の結果が徐々に反映されてきており、労働需給の引き締まり、企業収益の改善などもあって、統計上も昨年を上回る給与の伸びが確認できるようになっています。』
『問題は、来年度以降も賃上げが続くかどうかです。』
『中小企業の経営者の方々からは、「人材を引き留めるため、従業員の生活を守るために今年は賃上げを行ったが、価格転嫁は容易ではなく、収益的には苦しい」という声や、「まだ来年のことを考えられる状態ではない」という声も多いのは事実です。』
『他方、「人手確保、特に若手の確保、また、従業員のモチベーション維持のため、今後も賃上げを続けていく必要があると感じている」といった声も広まってきています。』
はい。
『賃金が毎年上がる時代になった以上、そのための原資を確保できるような価格設定に努める、生産性の向上を意識した設備投資に取り組む、事業ポートフォリオの再構築や他社との連携強化、M&Aなどに取り組む、といったコメントも聞かれるようになっています。』
ちんぎんがまいとしあがるじだいだと(じっと給与明細を見るorz)
『こうした中小企業の経営者の方々の声が示しているのは、変われるようになったことがもたらす機会もあれば、変わらなければならないことの苦しみもあるということだろうと思います。』
ソフトに言ってるけど「継続的な賃上げができるような企業じゃないと生き残れませんよ」って言ってますね。
『先日、地銀の頭取がたのお話を伺う機会がありましたが、「足元のお客様の状況をみると違いが大きくなっていて、全体の動きだけではとらえられなくなっている。景気の現状を『緩やかな回復が続いている』と一括りで語るのはますます難しくなっている。お客様のサポートの仕方もお客様の課題の違いに応じていろいろなやり方を工夫していかなければならない」といった趣旨のお話をされる方が何人かあり、それが印象に残りました。』
なるほど。
『また、消費が腰折れせず、賃金上昇を価格に転嫁できる環境が続くのかどうかも注意点の一つです。ハレの日消費や、こだわり分野では対価を惜しまないといった動きもみられますが、全体としては、消費者の節約志向が広まっている、というのは事実だろうと思います。』
そらそうですよ。
『ただ、今後については、春闘の結果が実際の手取りに反映され、高めの夏のボーナス、所得税減税の効果、さらには昨年に比べれば物価上昇のペースも落ち着く、といったことが組み合わさってくるはずですので、メインシナリオは、消費は腰折れしない、という見方でいいのではないかと思います。ただ、物価上昇のペースが思うように落ち着かず、実質賃金の減少が続く結果となるリスクなどには注意していく必要があると思います。』
つまり円安阻止は大正義だったということで・・・・・・・
『最後に、最近の円高・株安といった金融資本市場の変動の影響です。これについては企業の方々からのお話をまだ十分にお聞きできていませんし、統計に反映されるのもこれからなので、今後よく分析していかなければなりません。』
『ただ、一般的には、円安が修正された影響としては、輸入物価を通じた物価の上振れリスクがその分小さくなり、ひいては家計消費の先行きにもプラスに働きうるかもしれません。他方、円高がインバウンド需要に、株安が高額品消費に影響することも考えられます。』
ふむ。
『また、多くの中小企業にとっては、円安に伴うコスト上昇圧力が足元の円高でいくらか和らぐ面があるのではないかとも思います。』
ほうほう。
『他方、輸出産業や海外に大きく展開している企業にとっては、円高が円建ての収益を下押しするとも考えられますが、これらの企業が過去最高益を更新し続けている理由は決して円安の進行だけではなかったはずだと思いますし、現在の相場がこれらの企業が事業計画の前提としている想定為替レートから大きく外れているわけではないことにも留意すべきではないかと思います。』
別にガンガン円高に振るわけではなくて、過度な円安を阻止するのは無問題だし何なら大正義というお話ですね。
『株価の動きの心理的影響にも注意が必要ですが、自己変革を重ねてきた日本企業の強みは依然健在であり、相場の目先の動きに見方を左右されすぎないことが大切だろうと思います。』
目先の動きを見て大騒ぎして国会の閉会中審査を決定した馬鹿に対するイヤミですねわかります(違)。
『なお、以前は株安というと銀行への影響も気になったところですが、銀行の保有株式の量はかつてに比べればかなり小さくなっており、現時点では全体としてみれば健全性に大きく影響が及ぶとはみておりません。ただし、今回目算が外れた海外投資ファンドを経由してリスクが波及してこないかなども含め、よくモニターしていきたいと考えております。』
「今回目算が外れた海外投資ファンド」ってのちょっと笑いました。
ということでリスクはそれほど大きくない。という話が2つでした。
・金融政策に関しては先般の植田総裁の国会答弁と基本同じような線だが・・・・・・・・
『3.日本銀行の金融政策運営』ですが、最初のところで明確に、
『では、メインの見通しのような道筋を実現するためには、金融政策はどのようにしていったらいいのでしょうか。わたしどもがいま進めているのは、長年続けてきた非伝統的な政策の手じまいと、伝統的な手段である短期の政策金利の調整の2つです。』
非伝統的政策は「手じまい」と言っているのが目に付くわけでして、今まさに一番宙ぶらりんになっているのが長期国債買入とか日銀のバランスシートで、買入減額は決まったけどペースがクソ遅くてバランスシート的には何でもない状態になっている上に、この買入残高がストック効果としてあるから云々、という手じまいを前提にしていないのかというような説明をしたりするし、ということで非常にアカンタレなんですけど、こうやって非伝統的政策の「手じまい」と明確に言ってくれると、じゃあもっとバランスシートの縮小方向を打ち出して来るだろうなあと期待できるのでニッコリというものです。
でもってその『(非伝統的な政策手段の評価)』という小見出し。途中から引用します。
『わたしどもは、昨年の4月から、こうした日本の経験について多角的な視点からレビューを行っています。日本銀行のスタッフや内外の研究者の実証分析では、各種の非伝統的な政策は景気や物価に対して一定の効果を有した、というのが概ね共通した結果です。』
『一方、非伝統的な手段は、金融機関の行動や金融市場の機能にゆがみを与えるといった副作用も伴いました。海外では、政策転換のタイミングの遅れに繋がった、という議論もありますし、出口に際して市場に混乱を生じた事例もみられました。』
はい。
『レビューに際しては、いろいろな論点に関する日本銀行のスタッフの論文をホームページに掲載しているほか3、内外の研究者や実務家の方々とのコンファレンスで議論を深めております。年内をめどに全体をとりまとめた結果を公表したいと考えておりますが、しかし、こうした研究や議論の積み重ねの上でも、まだよく分からない点も残っております。』
って言ってるのがこれまた良くて、最近の多角的レビューシリーズのスタッフペーパーって非伝統的政策に効果がありましたの決め打ちから入ってるんじゃねえかと言いたくなるようなものがバンバン出てくるので苦々しく思っている、というか悪態書いてますけど、まあアタクシ的にはちょっと唸っていましたもんで。
『例えば、強力な金融緩和による経済の後押しを長期にわたって続けた場合、「資源配分を歪め生産性を押し下げる」といった見方がある一方、「人的資本の蓄積等を通じて生産性にプラスに働く」といった議論もあります。こうした点についての実証分析はあまり進んでいないのが実情で、さらなる分析が必要だと思います。』
深い。
『また、非伝統的金融政策の波及経路についても、さらに考えてみるべき問題があるように思います。』
でもってこの次がまた良くてですね、
『わたしは、日銀に来るまでは、金融緩和で資金調達コストが低下すれば、家計や企業が借入によって消費や投資を行いやすくなるので、それが金融政策の主要な波及経路となるのだとイメージしていました。』
まあ一般的にそういう話になっていますもんね。
『しかし、2021 年に日銀が行った点検の結果では、政策金利がゼロに達した後にとられた各種の金融政策については、「資金調達コスト低下を経由して経済を押し上げただけではなく、株価上昇や為替相場を経由しての波及も相応に大きな役割を果たしていた」と推計されています。』
そのうえ氷見野さんの説明がお洒落なのはこの次。
『しかも、資金調達コスト経由の波及についても、貸出量の増加の大宗が不動産関連のものだったことからすれば、この間の地価の安定やマンション価格の上昇と密接な関係があったことが推測されます。』
!!!!!!
『すなわち、プラスの金利を上げ下げしていた時代はともかく、いわゆるゼロ金利制約に直面していた時代の金融政策の波及については、株価や為替相場や不動産価格といった資産価格の変動による経路の役割もそれなりに大きかったらしいことが窺われるわけです。』
Oh・・・・・・・・・・・・
『資産市場はプロジェクト選別の場であり、経済の未来は資産市場がよいプロジェクトを選別できるか否かにかかっています。』
ですな。
『ゼロ金利制約下の金融緩和が資産市場を一定の方向に動かすことによっても効果を持つのだとすると、資産価格が置かれている状況に従って、金融緩和がもたらす意味合い、特に、資源配分の効率性や長期的な成長力に与える影響が異なってくるのではないかという気がいたします。』
ほうほう。
『たとえば、量的・質的金融緩和が始まる前年である 2012 年の資産価格についてみてみますと、日経平均が
8,000 円台まで低下、ドル円レートは 70 円台まで円高が進行、東京都区部を含め全国で地価変動率がマイナス、と、おそらく異常といってもいいような状況にあったわけですので、翌年からの大規模な金融緩和には、結果としてそうした状況の修正に寄与したという追加的なメリット、いわば副効用とでも呼ぶべき面があったのではないかと思います。』
と、効用って言ってますが、足許は行きすぎという話には一切触れないのがチャーミングでして、その代わりに、
『その後、資産価格をめぐる環境は変化し続けているわけですが、その中で、金融緩和の意味合いは変わっていったのか、変わらなかったのか。』
うーん凄いマイルドな言い方でどういう意味を籠めているのかにもよるんだが、途中で金融緩和の意味合いが変わってしまっていないか、ってこれ言外に提起していますよね、と思うと中々て厳しい。
『こうした問題を考えるためには、資産価格のコンテクストと金融政策の機能の仕方の関係について、さらに分析が必要ではないかと思います。』
いやこの部分無茶苦茶奥が深いっす。
『以上のように、非伝統的な政策手段を用いて金融緩和を続けてきたことの効果と副作用については、ある程度分かってきたことと、まだ必ずしもよく分からないこととがあります。』
『ただ、全体的な評価としては、「伝統的な手段が限界に達した時の備えとして、非伝統的な手段も道具箱には入れておかなければならないが、伝統的な手段で目的を達せられる場合には、あえて非伝統的な手段を動員するにはあたらない」というのが諸外国も含めた定説となっているように思います。』
ということで、非伝統的政策に関するお話の方が今回の氷見野さんの金懇挨拶での見どころだったとアタクシは思います。
・金融政策運営の目先の話はこれから見たらオマケなので割愛
次が『(当面の政策運営)』だが正直これは割愛します。でもって次。
・中立金利に関しては「その経路も大事」というのが味わいがあります
次が『(中立金利)』の小見出しですが、基本的なことはその前段のほうにある、
『中立金利の概念は考え方の整理として貴重なものです。しかし、世の中には「中立金利の推計から自動的に政策金利の終着点が出てきて、そこから逆算して政策運営を進めればそれでよい」という見方もあるようですが、わたしはそういう風には思いません。』
という話だし、経路依存の問題については、
『また、例えば政策金利が中立金利の水準に達したとしても、実際には金利を引き上げた結果そこに到達したのか、引き下げた結果なのか、引き上げや引き下げのスピードはどうだったのか、などにより、その時の企業や家計や金融機関の行動は違ってくる可能性があります。』
『線型の経済モデルでは経路依存性はうまく表現できない場合が多いですが、現実の世界ではタイミングと手順次第で結果が変わります。』
『「一定の金利の幅の中では企業や家計や金融機関の行動はあまり変化しないが、そこを超えると変わる」といったこともありうるのではないかと思います。』
ということで、まあ要するにやってみないとわからんからゆるりとやっていきますわという話になるでしょう。
『いずれにせよ、少なくとも当面の日本の政策運営については、中立金利の議論からそのまま当面の進め方の答が出るというわけにはいかないように思います。中立金利の推計の精緻化の努力は続け、その結果は参考にしつつも、政策運営を進めていく中で、実際の経済・物価の反応を分析しながら、道筋を探っていくしかないのではないかと思います。』
ということで、まあこれ自体は植田総裁も先般の会見で同じような説明をしていました(氷見野さんの方が会見QAじゃなくて講演だから分かりやすい説明になっているのは仕方ない)な、という話です。
とまあそんなところで。