氷見野良三 副総裁


トップページに戻る
審議委員一覧に戻る

氷見野さんの略歴(日銀Webより)

昭和35年4月25日生 富山県出身

昭和58年3月 東京大学法学部卒業
昭和58年4月 大蔵省入省
平成15年10月 バーゼル銀行監督委員会事務局長
平成18年7月 金融庁監督局証券課長
その後金融庁で枢要ポストを歴任して、
平成28年7月 金融庁金融国際審議官
令和2年7月 金融庁長官
令和3年9月 東京大学公共政策大学院客員教授
令和4年1月 (株)ニッセイ基礎研究所総合政策研究部 エグゼクティブ・フェロー
令和5年3月20日 日本銀行副総裁

(実質的な前職:金融庁長官)

詳しくはこちら→https://www.boj.or.jp/about/organization/policyboard/dg_himino.htm

2024/09/02「氷見野副総裁会見(その2)中立金利に関するしょうもない質疑応答と信玄堤の質問」
2024/08/30「氷見野副総裁会見(その1)市場安定に関してしつこくも不毛な質問が続く」
2024/08/29「氷見野副総裁甲府金懇講演は格調高く展開されて基本的に植田総裁の国会答弁のラインで説明」


2024/09/02

〇氷見野副総裁金懇会見ネタの続きです

さて気を取り直して金曜日PCトラブルで途中までしかやってなかった物件。
https://www.boj.or.jp/about/press/kaiken_2024/kk240829a.pdf

・しかしあの内田副総裁の「金融市場が不安定な時は」云々は後で相当高くつくことになりますな

金曜日に延々と引用した例の内田副総裁発言に関連する質疑応答、実はあと1個残っていまして、

『(問)ちょっと一個だけ認識の確認で、金融市場の不安定さの点に関してなんですけれども、これは政策反応関数に金融市場ってのはならないっていう整理の仕方を、氷見野副総裁ご自身されているのかっていうところを、ごめんなさい、ちょっと念のため認識の確認というところで。』

ということで、金曜日に引用したのも含めて、今回の質疑応答のうち7つの質問がこの金融市場の不安定云々になってしまった訳です。

まあこの回答自体は、

『(答)私ども、経済・物価の見通しが実現する確度と政策ということであるわけですけども、その確度には様々な要因が影響を与えるわけでありまして、もちろん、消費、賃上げ、米国経済、様々なものが影響を与えていくわけですけれども、当然のことながら内外の金融資本市場の動向が、確度に影響を与えていくということも、もちろんあるわけですので、政策反応関数というふうに言っていいのかどうかよく分かりませんが、もちろん金融資本市場の動向も、どう経済に影響するかよくみたうえで、政策判断していくということは、その通りだというふうに思います。』

もはや一般的な回答しかできんわ、というお答えになっていますが、これだけしつこく質問される、っていうのはまあ長年会見のテキスト見てるワイからしても異様オブ異様な話でございまして、いやそんなのどうでもいいじゃんと言いたくなるところではありますが、まあ円債の人たち以外からしてみたらこの「金融市場が不安定かどうかによって今後の利上げペースが変わってくるから、金融市場がどういう状態にあるのかという認識を聞くのは大事」ということになるんでしょうなあ、と思う訳ですよ(正直報道する方がもっとこの点から離れて欲しいのだが連中も商売だからこうなるわな)。

となりますと、これ今週来週の審議委員の皆さんの金懇でも「内田副総裁の発言があった頃から比べれば落ち着いているようにも見えますが、先般の氷見野副総裁も会見で最大の注意を払うようなことをおっしゃっていました、委員の現状のご認識は如何でしょうか」って質問が飛んでくるの間違いないし、今月の決定会合の後の定例会見だって植田総裁に「金融市場の安定度合いについての評価はどうなっているでしょうか」って絶対そういう話になるわけですよ。

ということで、このクソしょうもない「金融市場の安定」とかいうのがどこまで行っても話題になるし、あたかも政策反応の重要な要素って話にいつまでたってもなってしまう訳で、その場しのぎで言ったにしたって内田副総裁の先般の発言は、日銀の今後の政策運営におけるコミュニケーションに対して罪万死に値するレベルのマズイことを言ってしまった、としか評価しようがありませんよね、ということになるわけでして、金融市場の安定云々が話題のメインじゃなくなるのいつになるのやら、ってなところであります。

まあお前らは福井俊彦じゃないんだから福井の俊ちゃんみたいな天才的なその場しのぎができるわけなくて、真似したら大怪我するだけなんだから器用ぶってその場しのぎのクソ理屈を捏ねる悪い癖を治せってなもんですけどね。


・中立金利に関する質疑がこれまたしょうもない

実質最初の質疑に戻りまして、

『(問)(前半割愛)もう一つは、中立金利についても触れられていましたけども、中立金利、推計の幅があって、不確実性が高いということですけれども、今後政策金利を 0.5%、0.75%と引き上げていく中で、幅のある下限について、どの辺りで意識して政策運営をしていく段階になるのか。また、過去 30 年間、一度も政策金利が 0.5%を超えたことないんですけれども、そういった中でですね、実際の経済・物価の反応を分析するうえでどういったところを注視するべきなのかどうか、伺えるでしょうか。』

何ちゅうか植田さんとかの話聞いてるのかお前という質問だが。

『(答)(前半割愛)そのうえで、中立金利をどうとらえるかということなんですけれども、これについては政策運営を進めていく中で、実際の経済・物価の反応を分析しながら、道筋を探っていくしかないのかなというふうに考えておりまして、現在、何か特定の水準なりレンジを特別に意識して考えているということは、私自身はございません。』

としか回答の仕様がないのだがこれがまた愚劣なことに次の人が、

『(問)中立金利の事情とかよくよく理解はしているつもりなんですけれども、総裁の説明ですと、今の金利水準というのは、中立金利よりもだいぶ下の方にあるというような趣旨のことをこれまで述べられてきたかと思うんですけれども、その辺りの認識については、副総裁はどう考えてらっしゃるでしょうか。』

ねえ、理解しているのに何でそんな質問するの????

『(答)現状がかなり緩和的な金融環境にあるというのは事実だろうというふうに思います。緩和的な金融環境にあるということは、中立金利よりは低いだろうということではあるわけですが、では一体どれくらい幅があって、どれくらいの範囲だと緩和的の範囲なのかというところの見極めについては、政策運営を進めていく中で実際の経済・物価の反応を分析しながら、道筋を探っていくしかないのかなというふうに思っているところです。』

ということで、これ以上の回答は無いわ、と思うのですが、これがまた中立金利に関してアホみたいな質問が来るんですよね。ちょっとあとのほう(途中は「金融市場が不安定」の質疑が延々と続く)になりますが。

『(問)(前半割愛)二点目なんですが、今日、中立金利について、かなり丁寧にご説明されていました。中立金利、少なくとも 1%以上という指摘もありますけれども、改めてですね、この講演資料の中にも載ってるんですけれども、中立金利と政策の関係性についてご見解を教えて頂けましたら幸いです。』

アホなのか??

『(答)(前半割愛)中立金利は 1%以上なのかというところなんですけれども、そこまではっきり特定できると思っている人もいろいろいるんだと思いますが、私は、特に過去 30 年、短期金利はゼロだったわけですので、それにいろんな行動とか、仕組みとかも適応してきている面があると思うんです。その中で金利を変えていくといったときに、中立金利っていうのはじゃあどうなのかっていうのを、なかなか簡単には当てられないというふうに考えておりますし、何かモデルで出てきた数字をそのまま信じるというのもあんまりいいというふうには思っておりませんで、いろいろ人によって意見もあれば考え方もあって、それは引き続き議論して勉強していきたいというふうに思っておりますけれども、実際には、政策運営を進めていく中で、実際の経済・物価の反応を分析しながら、道筋を探っていくしかないかなというふうに考えております。』

氷見野さん丁寧ですよね、これ黒ちゃんだったらとっくの昔に「さっきも同じこと言いましたが」って言い出すわw

なお、最後にこんなのも。

『(問)私が先ほど聞いた時に、今、金利水準がかなり緩和的であるというふうにおっしゃって頂きました。とはいえ、中立金利の水準っていうのはやっぱり経済・物価の反応をみながら道筋を探っていくしかないというふうにもお答え頂いたんですけれども、次の利上げをしたら、それをもって中立金利に達してしまったみたいな状況っていうのは、さすがに想定はしてないというふうに受け止めてよいのでしょうか。』

人の話聞いてる???

『(答)中立金利についてもいろんな議論がありまして、御紙に岩田一政元副総裁が寄稿しておられたのでは、もう足元ので大して中立金利と違わないんじゃないのかというようなことも書いておられました。あまり決め打ちで予断を持つことなく、やっていきながら、実際の経済・物価の反応を分析しながら道筋を探っていくしかないのかなと。ここまでは必ずやるとか、ここから先はやらないとか、どこがどうとかっていうのは、私はそういう自信は持っておりません。』

えーっと、どこですかこれ質問してるの????


・これは良い質問だが質問のツッコミが足りない

という質疑の中、信玄堤の話題を質問した記者さんがいてこれは目の付け所は良い。

『(問)午前中の懇談で、副総裁、信玄堤の例を引かれてご挨拶されましたけれども、多分に地元向けのリップサービスではあろうかとは思うんですが、この信玄堤の考え方というものをですね、金融政策に生かすとすれば、例えばどんなことがあるのか、考え方としてご紹介頂けますでしょうか。』

目の付け所は良いのだが「地元向けのリップサービス」とか言っちゃうのがダメダメにも程があるのと、金融政策に生かすとすれば、ではなくて、これは「異次元緩和政策のような硬直的な政策運営よりも信玄堤のような柔軟な政策運営が求められる、というように読み取ったのですが、氷見野副総裁はこの信玄堤の精神を金融政策にどのように反映させていかれますか」とか突っ込んでほしかったですね。この話をネタにしたのはなかなかの着眼点でしたがツッコミが惜しくも足りん。

『(答)これはなかなか真似できるかと言われると難しいわけですけれども、何か一つの問題を一つのことで単純につなげて考えるというよりは、水だってどんなふうに来るか分からない中で、いろんな対応を考えておいて、対応できるようにしておくということなので、』

どう見てもマネタリーベース直線一気理論をディスっています本当にありがとうございました。

『実は金融政策は手段がそんなたくさんあるわけでありませんで、非伝統的政策を卒業した後は、政策金利を上げる、下げる、据え置くという、それぐらいしかないので、なかなか将棋頭と十六石と信玄堤と、というようなことは難しいんですけれども、いろんな展開を思い描いて、それでどういう展開になっても、できるだけ対応できるように、特に一番悪い結果をあまり悪くしないようにというようなことを考えながらやっていくのが望ましいという意味では、少しでも信玄堤を作った信玄公に学びたいというふうに考えております。』

「特に一番悪い結果をあまり悪くしないように」ってのが含蓄ありますよね。

とまあそういうことで。


2024/08/30

〇氷見野副総裁金懇会見だがお前らもうちょっと聞くことは無いのかと小一時間

https://www.boj.or.jp/about/press/kaiken_2024/kk240829a.pdf
氷見野副総裁記者会見
――2024年8月28日(水)午後2時から約35分
於 甲府市

・ほかに聞くことは無いのかと

えーっとですね、こちらの会見なのですが、例の内田副総裁の「金融市場が不安定なら利上げはしない」ってのと、「中立金利」の質問がやたら出ていてお前ら他に聞くことないのかと思いました。

ていうかですね、「金融市場が不安定なら利上げしない」って内田さんの言い方もあれ無茶苦茶で、例えばの話急激な通貨安が発生するような不安定な中で利上げをしないのか、というとそれは違うだろという話で、通貨安が急速に進行している中で「為替市場が不安定なので緩和的な金融環境を継続します」とか言い出したら通貨安に拍車掛けることになるわけで、そういう意味では内田副総裁のあの説明に関してははっきり言って見識を疑う物言いなんですよね。

とまあそんなわけで最初の幹事社さん(地元紙の筈)の質問は「今日はどうでしたか」というのとご当地質問なんでその質疑を割愛しまして、その次の質疑から参ります。

・金融市場が不安定云々のヘッドラインとかにされていた部分だが切り抜きにもほどがあるだろ

ということで実質質疑の一発目の質問ですけど。

『(問)午前の金懇で、副総裁ですね、金融市場は引き続き不安定な状況であって、当面はその動向をきわめて高い緊張感を持って注視するとおっしゃいました。今後の利上げ判断に当たってですけども、経済・物価が見通し通りに推移して、そうであっても、市場の動向であるとか、また、今後利下げが確実視されている米国経済が軟着陸するかどうかとか、そういった注視すべき変数が増えているのかどうか、以前よりですね、一段と慎重に判断する必要があるのかどうか、ということをまず伺えないでしょうか。(後半割愛)』

うーんなんですかねえこの質問は。

氷見野さんの回答。

『(答)まず一つ目のご質問ですけれども、金融政策運営に当たっては、常に無数のファクターを考慮して考えていかざるを得ない、しかも前にも申しましたが、全部青信号とか全部赤信号ということはなくて、様々なシグナルがある中で判断していかなければならないということだと思いますけれども、』

まあ要するにこれだけのことであって、別に普段だって米国経済のこと気にしないわけではないし、金融市場で変なことが起きているかどうか見ないといけない(まあ見たら利上げになったんでしょうけど)ですし、注意すべき変数が増えたとか減ったとかそういうもんじゃないですよね。という感じですが、氷見野さんご丁寧にちゃんと説明しております。黒ちゃんだったら「普段からいろんなものを見るのは当たり前だろ」で一刀両断しそうですがwww

『現在の状況で言えば、現状、金融資本市場は引き続き不安定な状況にありますので、当面はその動向をきわめて高い緊張感を持って注視していくというのが私どもとしてまず取り組むべき事柄だろうというふうに思います。』

なんかこの部分切り取られてヘッドラインにされていたけど、その直後には、

『そのうえで、市場変動の経済・物価に与える影響とか、7月の利上げの影響とか、それだけではなく今おっしゃった、米国経済の先行きとか、様々なことをみながら、そのうえで、経済・物価の見通しが実現する確度が高まっていくということであれば、金融緩和の度合いを調整していくということで、そこの基本的な姿勢は変わらないということであります。』

って言ってるわけでして、別に将来の金融政策運営になんか手かせ足かせを掛けるような話にはなっていないんですよね。普通に市場の大荒れが収まったということであれば政策アクションできまっせという話だし、なんかの拍子に円安再燃したら追加利上げは早くなる可能性だってありますがな。

『引き続き 2%の目標のもとで、幅広い方々と丁寧にコミュニケーションを取りながら、適切に政策運営をしていきたいと考えております。(後半割愛)』

ということでして、特に今回の氷見野さんの講演とか会見って、メディア的には「市場配慮でハトっぽく」というのがニュースとしてキャッチーだから、そっちの方向にバイアスが掛かりやすいと思うので、会見ほぼ冒頭のこの質疑でも、さきほどの「現状、金融資本市場は引き続き不安定な状況にありますので、当面はその動向をきわめて高い緊張感を持って注視していくというのが私どもとしてまず取り組むべき事柄だろうというふうに思います。」がクローズアップされるという格好になっていますわな、と思いました。


・金融市場が安定しないと利上げしないのか問題

『(問)二点お伺いしたいんですけれども、先ほど金融市場の動向とその影響を見極めていくのがまず第一の課題という話がありましたけれども、日銀として次の利上げを決めていくに当たって、やはり前提となるのは金融市場の安定化なのか、金融市場の安定化がないと次の利上げができないのかどうかというお考えをお聞かせください。』

まあこれは確認の意味で聞きたいことはわかる。あとついでですが、

『それから 8 月 5 日の株の暴落の背景として、アメリカの景気の減速懸念というのがありますけれども、氷見野副総裁はアメリカ景気の現状についてどのようにみてらっしゃるんでしょうか。』

というのもあるので一緒に。

『(答)やはり政策運営に当たっては、様々な要因を総合的に判断して考えていくということになると思います。当面、もちろん市場動向を見極めていくというのが、まず取り組むべき課題だというふうに思っておりますけれども、そのうえで、何か論理式を書いてですね、AANDBORC何とかだと利上げとかいう、機械的なことをするわけではありませんので、全体として様々な事柄を全部とらえたうえで、経済・物価の見通しが実現する確度が高まっていくということであれば、金融緩和の度合いを調整していくというのが基本的な姿勢であります。』

こうだからこうする、こうしない、という決め打ちは一切ありませんという答えですな。

『アメリカ経済の減速懸念につきましては、全く減速しないかといえばそういうことではないかもしれませんけれども、逆に昔言っていたような、インフレを克服するためにはかなり深い減速がなきゃならんというシナリオには、引き続きなっていないように思います。一時いろんな指標が出ておりますので、読みにくいんですけれども、私自身としては、メインシナリオは引き続きソフトランディングのコースなんではないかというふうに考えております。』

まあこれはこういうお話ということで。


・金融市場が不安定って話の質問がまだまだ続く

いやまあそういうことも含めて内田副総裁のあの言い方ってどうだったのかと思う訳で、氷見野副総裁飛んだとばっちりという感じですわ。

『(問)(前半割愛)もう一点が、現状、金融資本市場は引き続き不安定な状況にあるということですが、この不安定さが脱した状況っていうのを見極めるうえで、氷見野さんが重視するポイントですとか、指数ですとか、指標ですとかそういったものがありましたら教えてください。』

『(答)(前半割愛)二つ目が、市場が不安定さを脱したかどうかの判断のポイントということだったと思います。これもなかなか、市場の動きの先行きというものを高い確度でとらえる、足元落ち着いているかどうかよりも今後安定しているかどうかというところを見極めるのが大切なわけですけれども、正直言って、例えば海外の統計指標の毎期の振れがどういうふうに振れるかみたいなところまでは読み切れないところもあるわけですけれども、これも一つの指標をみていれば安定性を判断できるというよりは、安定性を損ないそうな要因をいろいろ考えてみたうえで、それの先をできるだけ読むようにしていくということしかやりようがないのかなというふうに思っております。』

ってこの回答、要するに内田さんが金融資本市場が不安定云々という話をおっぱじめたもんだから言わざるを得なくなったけど、定義づけとかそういうものはありませんがな、というお話ではありますわな。


でまあその先の方ではこれまたこんな質問がありまして見ている方がうんざりして来ますけど・・・・・・・・

『(問)先ほど、足元の市場が落ち着くということよりも、やっぱり今後落ち着いていくかどうかという見極めが大事だという趣旨のお話があったかと思います。金融資本市場の動向について当面はですね、緊張感を持って注視していくということなんですけれども、この当面っていうのが、どのぐらい先なのかというお考えでしょうか。(後半割愛)』

『(答)時間軸的にいつまではなくて、いつからはあり得てとかいったイメージを私自身は特に持っておりません。』

というのは当たり前でして、

『一つは市場を見極めるということがあるわけですけれども、これもどれだけ待ったら見極められるというよりは、いろんな市場の動きあるいは市場の動きの背後にあるいろんなファクターをみていって、完全には見極められないんですけれども、ある程度の自信を持てるかどうかっていうところが一つあると思います。(後半割愛)』

まあその通りですわなとしか言いようが無いのですがまだ質問が来ましてこの直後に、

『(問)繰り返しで恐縮なんですけれども、不安定な市場が現時点で経済・物価見通しが実現する確度にどのような影響を与えているかということについてご認識を伺いたいんですけれども、見極めが必要ということなんですけれども、やはり経済・物価が不安定な状況では、確度は高まりづらいということでよろしいのか。あと、副総裁のご自身の経済・物価見通しも、このことによって何か今変化があるのかどうか。その辺を教えてください。』

しかし何で今回の会見やたらこれを聞こうとするんでしょうか・・・・・・・

『(答)どういう影響があるかというのは、ちゃんと見極めていきたいと思っているんですけれども、今日も少しはお話をお聞きできたんですけれども、私が何人かの経営者の方からお話を聞くというよりは、日銀の経済分析班が様々な方からお聞きして、更にできれば統計とかもみて、判断していきたいというふうに考えておりまして、多分こういう経路もあるだろうというようなことは考えられますので、今日の挨拶でもそのいくつかパスとして考えられることは申し上げたんですけれども、そこでも両方の向きがあり得るというようなことを申しましたので、それが実際どうかというところについては、やはり、実際、経済を動かしておられる企業の方とか、あるいは消費者の反応がどうかとか、そういったところを、今日お聞きした中では、円高でインバウンドはそこまで影響しないんじゃないかというご意見もお聞きしましたが、これも何か多少はあるかもしれないが、とおっしゃっていて、どの程度かというのはやっぱり自信はそんなにお持ちでないのかもしれないと思いましたので、そこはこれからちゃんと見極めていきたいというふうに思っております。』

いやーこれは氷見野さんも大変だわって感じですな。しかもまだこの質問が続きやがりまして、

『(問)二点お伺いさせてください。まず、金融市場の不安定さと金融政策の関係性についてお伺いします。先般、内田副総裁、金融市場が不安定な状況では利上げしないとおっしゃられていました。この点に関して、氷見野副総裁、金融市場の不安定な状況で利上げするのかしないのか、ご認識を念のためお伺いさせてください。これが一点目です。(後半割愛)』

・・・・・何回同じ話をさせるのやら。

『(答)一つ目のご質問につきましては、現状、金融資本市場は引き続き不安定な状況にあると考えておりまして、当面はその動向をきわめて高い緊張感を持って注視していくというのが、私どもとしてやるべきまず最初の仕事だろうというふうに考えております。そのうえで、そうした動向が、経済・物価の見通しとかリスクとかに及ぼす影響をしっかり見極めていきたいというふうに考えております。そのうえで今後の政策運営については、そうした影響とか、7 月に決定した利上げの影響とかを見極めながら、私どもの経済・物価の見通しが実現する確度が高まっていくということであれば、金融緩和の度合いを調整していく、というのが基本的な私どもの姿勢であります。(後半割愛)』

あーあー氷見野さん呆れちゃって紋切り型回答になっちゃったよ。


・・・・・しかしその直後にこの質問はワロタ。

『(問)ちょっと一個だけ認識の確認で、金融市場の不安定さの点に関してなんですけれども、これは政策反応関数に金融市場ってのはならないっていう整理の仕方を、氷見野副総裁ご自身されているのかっていうところを、ごめんなさい、ちょっと念のため認識の確認というところで。』

さすがにこれは聞いててヤバいとおもったかw「ごめんなさい、ちょっと念のため認識の確認というところで」って入りましたなwww

『(答)私ども、経済・物価の見通しが実現する確度と政策ということであるわけですけども、その確度には様々な要因が影響を与えるわけでありまして、もちろん、消費、賃上げ、米国経済、様々なものが影響を与えていくわけですけれども、当然のことながら内外の金融資本市場の動向が、確度に影響を与えていくということも、もちろんあるわけですので、政策反応関数というふうに言っていいのかどうかよく分かりませんが、もちろん金融資本市場の動向も、どう経済に影響するかよくみたうえで、政策判断していくということは、その通りだというふうに思います。』

お前らいい加減にしろと内心苦り切っていたに違いない・・・・・・

(つづく)


〇ところで・・・・・

さて、実は氷見野副総裁の金懇ですがまだ話の続きはあるのですが、今朝ほどワタクシの作業用PCが一時的に死ぬという事案が発生してその修復作業に掛かりながらだったので途中になっております。

週末に作業環境を移行する予定なので、その時に続きをアップしたいと思いますしゃーせん。


2024/08/29

〇氷見野副総裁甲府金懇:総裁の国会での説明に沿ってますね&格調高いですよね〜

https://www.boj.or.jp/about/press/koen_2024/data/ko240828a1.pdf
最近の金融経済情勢と金融政策運営
── 山梨県金融経済懇談会における挨拶 ──

・そもそも初手から格調が高いし最後の部分がもっと格調高い

『1.はじめに』ですが、

『本日はお忙しい中お集まりいただきありがとうございます。また、日本銀行と甲府支店への日ごろからのご協力に感謝申し上げます。』

はさておき、

『わたくしは富山県富山市の出身で、屏風のように聳える立山連峰を朝な夕なに仰ぎ見て育ちました。昨日当地に参りまして、南アルプスの姿に懐かしい思いがいたしました。武田信玄の「動かざること山の如し」という言葉も、実際に甲斐の山々を目にして思い起こしますと、動かないことの背後にある峻厳さが感じられ、風のように速く、火のように激しい、ということと、動かない山の峻厳さは表裏一体であるような気がいたしました。また、林も山も生きており、力に満ちた静けさなのだ、という印象を抱きました。』

掴みの部分からもう格調が高いのですが、いつもとちがっていきなり最後に飛んじゃいますけど、

『4.おわりに』って普通は読み飛ばす場所なのですが、氷見野さんの講演はここも見どころになっているのが凄い。

『近年世の中の変化が目まぐるしく、また、いろいろな余裕も乏しくなる中で、どうしても目先のことを考えるだけで目一杯になりがちです。そうした毎日を送っていて、対極にある姿として思い起こすのは、当地の信玄堤のことです(図表 10)。』

と言われましたので私もしらっと信玄堤に関して改めて調べてしまいました^^;

『御勅使(みだい)川の急流の力を、石積出しにより方向を変え、将棋頭(がしら)で分断し、十六石で抑え、もともとあった高岩に当て、さらに5つもの堤を並べて、もし水があふれても堤防の切れ目から川に戻すように工夫してあると承知しています。』

この治水はとにかく凄いものだそうですな。

『まるで信玄の軍略を見るようで、信玄が地形を利用しながら軍勢を配置する仕方もきっとこのようなものだったのではないかという気がします。』

『最近の言葉でいえば、さまざまな想定外のシナリオにも対応できるような、レジリエンス重視の設計といってもいいのではないかと思います。』

氷見野さんそういう意味を籠めているのかはともかくとして、この部分って(特に末期の)黒田時代の2%に拘り、というか緩和に拘りなのかもしれないけど、金融政策運営が硬直的になって今まさにガチガチに作った堤防が決壊して大水害の後始末みたいなことになっている状況に対して寸鉄人を刺しているかのようにも読めるところが味わいがあるわけです。

『本日はできるだけ話を単純にするため、景気と物価をめぐる一つのシナリオを中心にしてお話いたしました。また、リスク要因についても、どちらかといえばこれまでの延長線上にあるような目先のリスクについていくつか触れるにとどまりました。』

で、

『地域の経済の将来を切り拓いていくためにも、日本の経済の将来を考えていくためにも、本来であれば、信玄堤を作った先人に学ぶくらいの気持ちでもっと大きな戦略性を持たなければならないだろうと思います。』

と言ってるのも格調が高いのと同時に物価2%達成の数字の細かいコンポーネントの話にすぐに走ってしまう日銀大本営の対外説明に対して寸鉄を刺しているんでネーノとも読めてしまう訳ですな。

『本日は、わたくしが申し上げたようなテーマに限らずに、皆様が現在悩み、取り組んでおられる事柄についてのお話を幅広くお伺いできればと存じます。どうぞよろしくお願いいたします。』


というわけで本編に戻ります。


・「できるだけ話を単純に」ということですが説明が一々腑に落ちてこれは聞いてたら満足度が高いでしょうね

さきほどの終わりのところに「本日はできるだけ話を単純にするため(略)一つのシナリオを中心にしてお話いたしました」とありましたが、『2.当面の経済・物価情勢』以下のお話がこれがまた上流から下流に悠々と大河が流れるかのように平明で分かりやすい説明になっておるわけです。

『さて、まず、これから景気はどうなっていくのか、物価はどうなっていくのか、という点について考えてみたいと思います。』

でまあ本当はこれ全文引用したくなるのですが、全文引用していると終わらなくなるわ量が大杉勝男だわということでメインシナリオの説明部分を飛ばしてから引用します。

『以上の見通しを整理いたしますと、来年度・再来年度は、物価安定の目標に即したインフレ率、巡航速度を少し上回る程度の成長という、バランスの良い状態をメインシナリオと考えていることになります。』

来年度達成だそうですわよ。

『日本経済はバブル期には過熱し、バブル崩壊後はデフレ的な期間が続き、その後デフレからの完全脱却に向けて進展があったけれども、コロナ後は経済が落ち込み、次いで物価高に襲われ、どうもバランスの良くない状態が続いてまいりました。しかし、来年度あたりからは、とうとう長年目指してきたような状態が実現できるのではないか、とみているわけです。』

キタコレ、ということですがここに続きまして、

『では、本当に来年度以降、このような姿が実現するのでしょうか。』

となるわけでして、

『これまでのところ、物価については想定された道筋に沿って進んでいると考えております。』

ほっほ――――

『また、今年前半の景気については、想定していたよりは弱めでしたが、自動車メーカーにおける認証不正問題などの一時的な要因が相当程度影響しているのではないかと考えております。』

ほうほう。

『今後についても、見通しに沿った展開となることがメインシナリオだと考えていますが、さまざまなリスクシナリオも考えられるところです。』

でもって、

『以下ではその中から、「インフレ率は本当に下がっていくのか」と「下がりすぎて戻らなくなることはないか」の2点について考えてみたいと思います。』


となりまして、2点についての説明があります。


・欧米のように物価がスパイクしなかった理由の説明が長いけど非常に説得力がある

『(欧米との比較)』になります。

『第一に、インフレ率は本当に目標の2%に向かって下がっていくのでしょうか。欧米の人からよく言われるのは、米国や欧州では輸入物価ショックに対して厳しい金融引き締めで対応し、それでもまだ物価安定の目標よりも高い状況が続いている。日本は緩和的な金融環境を維持しているが、インフレを心配しなくていいのか、ということです(図表2)。』

そらそうよ。

『2020 年半ばから 22 年半ばにかけて、日本にとっての輸入物価の上昇は、円安の進行の影響もあり、ドイツよりもずっと高く、米国とでは比較にならないくらい激しいものでした。他方、米国はエネルギーをほぼ自給でき、食糧については輸出国です。ドイツのエネルギーや食糧の自給率も日本よりは遥かに高いです。従って、日本にとって、国際資源価格の上昇のインパクトは、欧米よりずっと大きかったはずです。それなのに、インフレ率は、ユーロ圏では 10%を超えましたし、米国でも9%にまで達したのに、日本ではピークでも4%でした。欧米の人からすれば、「金融引き締めもしていないのになぜだ」ということになるわけです(図表3)。』

こうやって説明されると腹落ちしやすいですよね。

『なぜでしょうか。消費者物価指数は、大きく分けると、財、サービス、家賃の価格から構成されています。まず、輸入物価の上昇が直接影響しやすい財の価格についてみてみたいと思います(図表4)。』

『財価格は、2020 年末以降の累積で、ドイツが 26%、米国が 20%、日本が 16%上昇しています。輸入物価ショックが一番大きかった日本が、なぜ上昇幅が一番小さかったのでしょうか。』

はい。

『実際の財価格の累積上昇幅の動きを説明するために、産業連関表という統計を使って、特定の財を作るために直接・間接にどんなインプットをどれだけ使うのかを調べ、インプットの価格変化が仮にそのまま 100%次々に転嫁されていって、即座に影響が出尽くしていたらどうなっていただろうか、という試算を行ってみました。』

『非現実的な極端な仮定ですが、これと現実を比べることで見えてくるものがあるのではないかと思うわけです。』

ほほう。

『インプットの価格変化としては3種類考えてみました。まず、輸入エネルギーと輸入食料品の価格上昇の影響です。』

『また、産油国である米国を念頭に、国産のエネルギーの価格も国際相場並みに上昇して、その分も転嫁されたと仮定した場合の影響も試算してみました。』

『さらに、今度は逆に、輸入物価とは別の要因の代表として、この間の賃金の上昇が即座に 100%転嫁されたと仮定しての影響も試算してみました(図表5)。』

『大変粗い試算であり、しかも機械的・静学的な試算ですので、結果の評価には注意が必要ですが、日本の場合、輸入物価上昇の激しさと自給率の低さを反映して、輸入エネルギー・食料品の価格上昇の影響が大宗を占める結果となりました。他方、米国の場合は、国産エネルギーの分と賃金増の分が大きいです。ドイツは日米の中間です。』

図表5をみてちょんまげ。

『さらに、当初米独では実際の財価格が即時フル転嫁に近い動きをしたのに対し、日本では転嫁に時間を要したことも見て取れます。価格転嫁に慎重だった日本企業の当時の行動様式や政府のエネルギー価格対策が激変緩和に繋がったのではないかと思います。』

なるほど。

『さらにドイツでは3つの要素で説明できない部分も大きくなっています。この部分が何なのかはよく分かりませんが、「ユーロ圏では企業が収益マージンを拡大する動きが物価を押し上げた」という分析や、「ドイツではサプライチェーンのボトルネックの影響が大きめだった」という分析もみられるところです1。』

ここ、「何なのかよくわかりませんが」ってちゃんと言ってるのがまた良いんですよね〜。

『いずれにせよ、日本は輸入エネルギー・食料品等の価格上昇のインパクトははるかに大きかったが、他の要因が小さかったため、全体での影響は米独より小さかった、という説明ができそうです。』

なるほど。


『次に、家賃を除くサービスの価格の動きについてみてみます。財よりも日米独の違いがずっと大きくなっています(前掲図表4)。』

ほうほう。

『サービスの提供に必要なコストの中心は賃金ですが、米国ではコロナ初期に失業者が2千万人近くも増加したので、コロナ後に労働者の復帰を促すために賃金の大幅な引き上げが必要になった、という面があると思います(図表6)。』

ふむ。

『また、先ほど申し上げた財価格の変動要因のうち、輸入エネルギー・食料品の価格上昇の影響は海外の輸出者への支払いとして流出する一方、国産エネルギー価格や賃金の上昇の影響は国内のエネルギー産業や労働者への支払いに還元されます。』

なるほど。

『自給率が大きく違うので仕方がないのですが、一次産品価格変動により、日本は国民全体として巨大な所得減になったのに対し、米国はむしろ所得増でした。』

確かに。

『日本は交易条件が悪化したのに対し、米国は改善していました(前掲図表6)。交易条件の悪化は賃金にはマイナスに働くと考えられますので、日米独の賃金やサービス価格の動きの違いには、こうした点も影響しているのかもしれません。』

おーーーーーー。

『さらに、日米独では家賃の動きが大きく異なりました。米国では消費者物価指数の3割以上を家賃が占めていますが、家賃がこの間急速に上昇しました。日本の家賃水準はこの間ごくわずかしか上がっていません。ドイツは日本よりは上がっていますが、米国ほどではありませんでした。消費者物価の動きの違いのうち、家賃の動きの違いで説明できる部分がかなりあります(前掲図表4)。』

『以上、日本では輸入物価ショックが大きかったのに消費者物価指数が米欧ほどには上がりにくかった理由を探ってみました。』

ということですが、ここでお気づきになられたかとは思うのですが、最近の日銀大本営が便利使いしている「ノルム」を使っていないことに気が付く訳でして、これ大本営だったら「欧米とノルムの違いがあるから」の一言で欧米との差を片付けてしまって後は賃金慣行とかの話で終わらせちゃうところですが、氷見野さんの解説ってそういうふわっとした言葉を使って雰囲気でごまかすような説明じゃなくて、話は単純化しているとは言え「ノルム」的な部分のお話でも「価格転嫁に慎重だった日本企業の当時の行動様式や政府のエネルギー価格対策が激変緩和に繋がったのではないかと思います」というように具体的な説明をしておりまして、何となくわかったようがするけれども、それは厳密に定義がないフワフワバズワード(物価上昇第一の力第二の力なんかもそうですよね)を使う、というのをしていない、というのが氷見野さんの説明の偉大なところなんですよね、とアタクシは思いましたがどうでしょうか。


・賃金動向・消費動向について

次の小見出しが『(賃金と消費)』です。

『さて、日本でも 2022 年以降はサービス価格が緩やかな上昇を始めており、足元では財価格への賃金の波及分も拡大しています(前掲図表4・図表5)。他のデータも子細に見ていくと2、過去の輸入物価の上昇を起点とするコストプッシュ圧力が減衰する一方、賃金と物価の好循環による緩やかで持続的な力が働き始めていることを見て取ることができます。』

好循環メカニズムキタコレ。

『では逆に、輸入物価上昇の影響が減衰していく一方、賃金と物価の好循環という持続的な力があまり育たず、インフレ率がいずれ2%をまた大きく下回って、そのまま戻ってこなくなってしまう可能性についてはどうでしょうか。これは、「基調的な物価上昇率」が2%に達しない可能性、と言い換えることもできます。』

ほう。

『当面カギとなる点としては、海外経済の動向のほか、国内については、@賃上げが続くのか、A消費が腰折れせず、賃金上昇を価格に転嫁できる環境が続くのか、そしてB最近の円高・株安といった金融資本市場の変動の影響はどうか、の3点が考えられます。国内関連の3点について、互いに関係する問題ではありますが、とりあえずひとつずつ見ていきたいと思います。』

ほうほうほう。


『まず、賃上げに関する見通しです。今年度の賃上げは、春闘の結果が徐々に反映されてきており、労働需給の引き締まり、企業収益の改善などもあって、統計上も昨年を上回る給与の伸びが確認できるようになっています。』

『問題は、来年度以降も賃上げが続くかどうかです。』

『中小企業の経営者の方々からは、「人材を引き留めるため、従業員の生活を守るために今年は賃上げを行ったが、価格転嫁は容易ではなく、収益的には苦しい」という声や、「まだ来年のことを考えられる状態ではない」という声も多いのは事実です。』

『他方、「人手確保、特に若手の確保、また、従業員のモチベーション維持のため、今後も賃上げを続けていく必要があると感じている」といった声も広まってきています。』

はい。

『賃金が毎年上がる時代になった以上、そのための原資を確保できるような価格設定に努める、生産性の向上を意識した設備投資に取り組む、事業ポートフォリオの再構築や他社との連携強化、M&Aなどに取り組む、といったコメントも聞かれるようになっています。』

ちんぎんがまいとしあがるじだいだと(じっと給与明細を見るorz)

『こうした中小企業の経営者の方々の声が示しているのは、変われるようになったことがもたらす機会もあれば、変わらなければならないことの苦しみもあるということだろうと思います。』

ソフトに言ってるけど「継続的な賃上げができるような企業じゃないと生き残れませんよ」って言ってますね。

『先日、地銀の頭取がたのお話を伺う機会がありましたが、「足元のお客様の状況をみると違いが大きくなっていて、全体の動きだけではとらえられなくなっている。景気の現状を『緩やかな回復が続いている』と一括りで語るのはますます難しくなっている。お客様のサポートの仕方もお客様の課題の違いに応じていろいろなやり方を工夫していかなければならない」といった趣旨のお話をされる方が何人かあり、それが印象に残りました。』

なるほど。


『また、消費が腰折れせず、賃金上昇を価格に転嫁できる環境が続くのかどうかも注意点の一つです。ハレの日消費や、こだわり分野では対価を惜しまないといった動きもみられますが、全体としては、消費者の節約志向が広まっている、というのは事実だろうと思います。』

そらそうですよ。

『ただ、今後については、春闘の結果が実際の手取りに反映され、高めの夏のボーナス、所得税減税の効果、さらには昨年に比べれば物価上昇のペースも落ち着く、といったことが組み合わさってくるはずですので、メインシナリオは、消費は腰折れしない、という見方でいいのではないかと思います。ただ、物価上昇のペースが思うように落ち着かず、実質賃金の減少が続く結果となるリスクなどには注意していく必要があると思います。』

つまり円安阻止は大正義だったということで・・・・・・・


『最後に、最近の円高・株安といった金融資本市場の変動の影響です。これについては企業の方々からのお話をまだ十分にお聞きできていませんし、統計に反映されるのもこれからなので、今後よく分析していかなければなりません。』

『ただ、一般的には、円安が修正された影響としては、輸入物価を通じた物価の上振れリスクがその分小さくなり、ひいては家計消費の先行きにもプラスに働きうるかもしれません。他方、円高がインバウンド需要に、株安が高額品消費に影響することも考えられます。』

ふむ。

『また、多くの中小企業にとっては、円安に伴うコスト上昇圧力が足元の円高でいくらか和らぐ面があるのではないかとも思います。』

ほうほう。

『他方、輸出産業や海外に大きく展開している企業にとっては、円高が円建ての収益を下押しするとも考えられますが、これらの企業が過去最高益を更新し続けている理由は決して円安の進行だけではなかったはずだと思いますし、現在の相場がこれらの企業が事業計画の前提としている想定為替レートから大きく外れているわけではないことにも留意すべきではないかと思います。』

別にガンガン円高に振るわけではなくて、過度な円安を阻止するのは無問題だし何なら大正義というお話ですね。

『株価の動きの心理的影響にも注意が必要ですが、自己変革を重ねてきた日本企業の強みは依然健在であり、相場の目先の動きに見方を左右されすぎないことが大切だろうと思います。』

目先の動きを見て大騒ぎして国会の閉会中審査を決定した馬鹿に対するイヤミですねわかります(違)。


『なお、以前は株安というと銀行への影響も気になったところですが、銀行の保有株式の量はかつてに比べればかなり小さくなっており、現時点では全体としてみれば健全性に大きく影響が及ぶとはみておりません。ただし、今回目算が外れた海外投資ファンドを経由してリスクが波及してこないかなども含め、よくモニターしていきたいと考えております。』

「今回目算が外れた海外投資ファンド」ってのちょっと笑いました。


ということでリスクはそれほど大きくない。という話が2つでした。


・金融政策に関しては先般の植田総裁の国会答弁と基本同じような線だが・・・・・・・・

『3.日本銀行の金融政策運営』ですが、最初のところで明確に、

『では、メインの見通しのような道筋を実現するためには、金融政策はどのようにしていったらいいのでしょうか。わたしどもがいま進めているのは、長年続けてきた非伝統的な政策の手じまいと、伝統的な手段である短期の政策金利の調整の2つです。』

非伝統的政策は「手じまい」と言っているのが目に付くわけでして、今まさに一番宙ぶらりんになっているのが長期国債買入とか日銀のバランスシートで、買入減額は決まったけどペースがクソ遅くてバランスシート的には何でもない状態になっている上に、この買入残高がストック効果としてあるから云々、という手じまいを前提にしていないのかというような説明をしたりするし、ということで非常にアカンタレなんですけど、こうやって非伝統的政策の「手じまい」と明確に言ってくれると、じゃあもっとバランスシートの縮小方向を打ち出して来るだろうなあと期待できるのでニッコリというものです。


でもってその『(非伝統的な政策手段の評価)』という小見出し。途中から引用します。

『わたしどもは、昨年の4月から、こうした日本の経験について多角的な視点からレビューを行っています。日本銀行のスタッフや内外の研究者の実証分析では、各種の非伝統的な政策は景気や物価に対して一定の効果を有した、というのが概ね共通した結果です。』

『一方、非伝統的な手段は、金融機関の行動や金融市場の機能にゆがみを与えるといった副作用も伴いました。海外では、政策転換のタイミングの遅れに繋がった、という議論もありますし、出口に際して市場に混乱を生じた事例もみられました。』

はい。

『レビューに際しては、いろいろな論点に関する日本銀行のスタッフの論文をホームページに掲載しているほか3、内外の研究者や実務家の方々とのコンファレンスで議論を深めております。年内をめどに全体をとりまとめた結果を公表したいと考えておりますが、しかし、こうした研究や議論の積み重ねの上でも、まだよく分からない点も残っております。』

って言ってるのがこれまた良くて、最近の多角的レビューシリーズのスタッフペーパーって非伝統的政策に効果がありましたの決め打ちから入ってるんじゃねえかと言いたくなるようなものがバンバン出てくるので苦々しく思っている、というか悪態書いてますけど、まあアタクシ的にはちょっと唸っていましたもんで。

『例えば、強力な金融緩和による経済の後押しを長期にわたって続けた場合、「資源配分を歪め生産性を押し下げる」といった見方がある一方、「人的資本の蓄積等を通じて生産性にプラスに働く」といった議論もあります。こうした点についての実証分析はあまり進んでいないのが実情で、さらなる分析が必要だと思います。』

深い。

『また、非伝統的金融政策の波及経路についても、さらに考えてみるべき問題があるように思います。』

でもってこの次がまた良くてですね、

『わたしは、日銀に来るまでは、金融緩和で資金調達コストが低下すれば、家計や企業が借入によって消費や投資を行いやすくなるので、それが金融政策の主要な波及経路となるのだとイメージしていました。』

まあ一般的にそういう話になっていますもんね。

『しかし、2021 年に日銀が行った点検の結果では、政策金利がゼロに達した後にとられた各種の金融政策については、「資金調達コスト低下を経由して経済を押し上げただけではなく、株価上昇や為替相場を経由しての波及も相応に大きな役割を果たしていた」と推計されています。』

そのうえ氷見野さんの説明がお洒落なのはこの次。

『しかも、資金調達コスト経由の波及についても、貸出量の増加の大宗が不動産関連のものだったことからすれば、この間の地価の安定やマンション価格の上昇と密接な関係があったことが推測されます。』

!!!!!!

『すなわち、プラスの金利を上げ下げしていた時代はともかく、いわゆるゼロ金利制約に直面していた時代の金融政策の波及については、株価や為替相場や不動産価格といった資産価格の変動による経路の役割もそれなりに大きかったらしいことが窺われるわけです。』

Oh・・・・・・・・・・・・

『資産市場はプロジェクト選別の場であり、経済の未来は資産市場がよいプロジェクトを選別できるか否かにかかっています。』

ですな。

『ゼロ金利制約下の金融緩和が資産市場を一定の方向に動かすことによっても効果を持つのだとすると、資産価格が置かれている状況に従って、金融緩和がもたらす意味合い、特に、資源配分の効率性や長期的な成長力に与える影響が異なってくるのではないかという気がいたします。』

ほうほう。

『たとえば、量的・質的金融緩和が始まる前年である 2012 年の資産価格についてみてみますと、日経平均が 8,000 円台まで低下、ドル円レートは 70 円台まで円高が進行、東京都区部を含め全国で地価変動率がマイナス、と、おそらく異常といってもいいような状況にあったわけですので、翌年からの大規模な金融緩和には、結果としてそうした状況の修正に寄与したという追加的なメリット、いわば副効用とでも呼ぶべき面があったのではないかと思います。』

と、効用って言ってますが、足許は行きすぎという話には一切触れないのがチャーミングでして、その代わりに、

『その後、資産価格をめぐる環境は変化し続けているわけですが、その中で、金融緩和の意味合いは変わっていったのか、変わらなかったのか。』

うーん凄いマイルドな言い方でどういう意味を籠めているのかにもよるんだが、途中で金融緩和の意味合いが変わってしまっていないか、ってこれ言外に提起していますよね、と思うと中々て厳しい。

『こうした問題を考えるためには、資産価格のコンテクストと金融政策の機能の仕方の関係について、さらに分析が必要ではないかと思います。』

いやこの部分無茶苦茶奥が深いっす。

『以上のように、非伝統的な政策手段を用いて金融緩和を続けてきたことの効果と副作用については、ある程度分かってきたことと、まだ必ずしもよく分からないこととがあります。』

『ただ、全体的な評価としては、「伝統的な手段が限界に達した時の備えとして、非伝統的な手段も道具箱には入れておかなければならないが、伝統的な手段で目的を達せられる場合には、あえて非伝統的な手段を動員するにはあたらない」というのが諸外国も含めた定説となっているように思います。』

ということで、非伝統的政策に関するお話の方が今回の氷見野さんの金懇挨拶での見どころだったとアタクシは思います。


・金融政策運営の目先の話はこれから見たらオマケなので割愛

次が『(当面の政策運営)』だが正直これは割愛します。でもって次。


・中立金利に関しては「その経路も大事」というのが味わいがあります

次が『(中立金利)』の小見出しですが、基本的なことはその前段のほうにある、

『中立金利の概念は考え方の整理として貴重なものです。しかし、世の中には「中立金利の推計から自動的に政策金利の終着点が出てきて、そこから逆算して政策運営を進めればそれでよい」という見方もあるようですが、わたしはそういう風には思いません。』

という話だし、経路依存の問題については、

『また、例えば政策金利が中立金利の水準に達したとしても、実際には金利を引き上げた結果そこに到達したのか、引き下げた結果なのか、引き上げや引き下げのスピードはどうだったのか、などにより、その時の企業や家計や金融機関の行動は違ってくる可能性があります。』

『線型の経済モデルでは経路依存性はうまく表現できない場合が多いですが、現実の世界ではタイミングと手順次第で結果が変わります。』

『「一定の金利の幅の中では企業や家計や金融機関の行動はあまり変化しないが、そこを超えると変わる」といったこともありうるのではないかと思います。』

ということで、まあ要するにやってみないとわからんからゆるりとやっていきますわという話になるでしょう。

『いずれにせよ、少なくとも当面の日本の政策運営については、中立金利の議論からそのまま当面の進め方の答が出るというわけにはいかないように思います。中立金利の推計の精緻化の努力は続け、その結果は参考にしつつも、政策運営を進めていく中で、実際の経済・物価の反応を分析しながら、道筋を探っていくしかないのではないかと思います。』

ということで、まあこれ自体は植田総裁も先般の会見で同じような説明をしていました(氷見野さんの方が会見QAじゃなくて講演だから分かりやすい説明になっているのは仕方ない)な、という話です。

とまあそんなところで。