春英彦前審議委員
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春審議委員
春さんの略歴(日銀Webより)
昭和12年11月4日生
昭和35年3月東京大学経済学部卒業
東京電力に入社し関連事業部長、取締役経理部長、常務取締役を歴任し
平成12年12月に同社取締役副社長
平成14年4月5日より日本銀行政策委員会審議委員
(前職:東京電力取締役副社長)
詳細はこちら→http://www.boj.or.jp/type/list/pb_member/haru.htm
平成19年4月4日で任期満了で退任となりました。お疲れ様でした。
2007/02/13「ハト派っぽさ目立つ春審議委員記者会見」
2007/02/09「春審議委員の講演、基本的には無難ですが強いて言えばハトですね」
2006/06/05「相変わらず無難な講演ですが若干ハトか?」
2005/12/08「講演・・・ですが展望レポートのまんまです」
2005/10/07「10月4日講演のメモ補足」
2005/10/05「講演メモ」
2005/06/29「記者会見も合わせると春審議委員は慎重派のようですね」
2005/06/28「春審議委員の講演。タカ派ではなさそうですよ」
2004/11/29「11月25日の講演。審議委員のごく平均的な見解かと」
2004/06/07「6月4日青森での講演:最近の金融経済情勢について」
2003/12/16「12月4日講演の中小企業金融に関する部分について」
2007/02/13
お題「ハトっぽさが目立つ春審議委員会見」
えーっと、目の前のブラウン管テレビの箱の中でモーサテのゲスト解説様が「市場は2月利上げの可能性を若干低く見てる」と言ってるのですが、少なくともマネーマーケットを見れば若干低いどころか全く見てないと思うのですけど・・・・・
まずは春審議委員の会見から。
http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk0702a.pdf
○為替と金融政策
ご案内の通り、G7で円安の話がクローズアップされたわけでも無く(会議声明で名指しされていたのは中国でした^^)一般論に留まったのでちったあこの話も盛り下がるかとは思うのですが。
ユーロ方面からの為替是正論を受けて利上げするのではないかと金融市場で見ている向きもある(それは為替市場ではないでしょうかと思うのですが^^)との質問に対して。
『利上げとの関係ですが、金融政策を決定するうえでは、先行きの経済・物価に与える影響を総合的にみていくということからも、為替相場の状況は、重要というか、一つの要素であることは間違いありませんが、基本的に利上げをするかどうかは、先行き物価の安定を維持しながら持続的な経済の成長を図るという点を政策目標として、総合的に判断していくことだと思っています。』
まあそういう事なのですが、どうせなら「為替是正を主目的として金融政策を操作することは無い」位言って欲しかったんですが。引用しませんが、この前段に為替市場を良くモニターしていきたいという話をしてまして、まあ確かに為替相場が経済に影響を与えるのでヲチするのは当然ですけど、そんなに丁寧に話す必要あるのかねえと思うのでした。まるで気にしてませんというのもアレですが、あまり丁寧に話をしてるといつまでも為替と金融政策を結びつけるネタを書かれると思いますんで。
この後にも為替に関する質問が出てまして、現在の為替水準についてどう思うかというような無駄な質問がありましてそれはまあスルーですが、円安を評価する発言があったのでクリップ。
『先ほど、懇談会でのご報告の中でも申し上げましたが、今の為替水準というのは、主として金利差によって、どちらかといえば円安の方向に動いた結果、今の水準になっており、これは、輸出を含む日本経済の安定的な成長という意味では、もちろん輸入価格の問題などはありますが、全体として、プラスの影響を持っているものだと思います。』
○消費について
このあたりの発言を見るとちょっと慎重派ですなあと思うのですが。
『最初のご質問の消費について、表われてきているデータほどには実態は悪くないのではないかと申し上げたのは、天候要因や携帯電話などの新製品の発売といった一時的な要因との関係などもあり、消費関係も色々な指標がやや入り混じっているような面があります。したがって、特に7〜9
月のGDPの結果として出てきた前期比マイナス0.9%、これは非常に大きな落ち込みだろうと思いますが、これが全部実態を表わしているのかという意味では必ずしもそうではないのではないか、ということを申し上げましたわけで、決して、悪化していないということではありません。』
『今後の消費の先行きについて私どもなりに点検したうえで、金利を調整していく、あるいは、しないという場合には、それなりの根拠をきちっと説明する必要があると思います。』
別の質問ですが、端的な質問がありまして、その答えもシンプル。
『(問)要するに今の経済をみた時に、企業は非常に良い、海外もまあ良いのだろう、国内の家計部門をみた時に、足もとは個人消費の面ではやや冴えないのだけれども、先行きをみた時には今の標準シナリオ通りに、つまり順調に上向いていくという認識で、春審議委員も全く変わっていないということでよろしいですね。』
『(答)おっしゃる通り、基本シナリオは変える必要はないが、もう少し時間が必要だと思った人達は、それを確認するうえで、引き続き指標や情報をみていきたいという判断をしたのだと思っています。』
という訳で、このあたりを見ますと利上げの際には消費の先行きが強いという見込みが持てないとやりにくいんじゃないでしょうかという点で慎重派っぽいものを感じる次第。
○物価に関して
講演要旨の中で「先行きインフレリスクは認められない」とあったことに関して質問がありまして、それに対する答え。
『基本的に、先行きは、徐々に企業部門から家計部門への波及メカニズムが働いて緩やかな回復を続けていくだろうという見通しを持っていますが、先行きインフレリスクをそう大きく意識するような状況ではないと思います。これ一つの理由でということは特にありませんが、今の企業部門から家計部門への波及メカニズムの働き方、あるいは物価の状況からみて、先行きインフレリスクはそう大きく意識する必要はないのではないかと考えています。』
実はこの質問の前半では色々説明してるのですが、講演要旨と同じ話ですのでその部分ぶった切ってしまいました。で、同じ質問の中で2月に利上げした後にCPIがマイナスになった場合、利上げの根拠の説明苦しいんじゃネーノという質問に対してこんな話を。
『2 月の追加利上げをした後、コアCPIがマイナスになると、利上げの理由の説明が困難になるのではないか、という質問でしたが、勿論、2
月に利上げをするかどうかは、これまで出てきた指標・情報に、今後出てくる指標・情報を加えて、総合的に判断していくことに尽きるわけであります。その場合に、コアCPIの先行きの動きというものも重要な要素としてみていく必要があると思います。』
と、実はこの続きがあるのですが、あえてここでぶった切ると、先行きコアCPIがマイナスが展望される場合は利上げできませんなあと言ってるように見えるのですが・・・・
『コアCPIについて、先行き緩やかにプラス幅を拡大していくということが基本シナリオであろうかと思いますが、原油価格の動向などもあって、若干振れを伴う可能性があると認識しています。』
ということで、一時的な要因でぶれる分には別ですよという言い方をして、コアCPIの時間軸が復活されても困りますなあと言ってるように思えます。
とは言いましても、実を言えば物価安定に関する理解の枠組みにおけるCPIというのはコアCPIじゃなくて総合CPIになっておりまして、質問する方も答える方も何の疑いも無くコアCPIの話をしてるのは、なんかこうオモロイですなって感じです。まあ市場の中の人たちもあたくしも含めてコアCPIをまず最初に見るのですが(^^)。
○須田審議委員とのスタンスの違い
こんな質問が(^^)。
『もう1 つは、今のお話やスピーチの原稿を読むと、大体、お考えになられているスタンスが分かってきますが、例えば、須田審議委員がはっきりと、「ある程度、展望が開けたらリスクをとってでも政策を打つべき」というように言われていますが、春審議委員ご自身はそのことに関して、リスクはとるべきなのかそうではないのか、それをもう1
度はっきりお伺いします。』
『それから、金融政策を決定するうえでリスクをとるということについて、どう考えるかというご質問かと思いますが、前々から金融政策はフォワード・ルッキングであるということを申し上げております。(略)したがって、足もとの指標を基にすることではありますが、基本的に、先行きをどうみて、それがどの程度の確かさなのか、ということをみていくことだと思っています。リスクをとるか、とらないか、という言葉は必ずしも適切ではないと思っています。』
と、ここまで言ってちょっと須田さんとの見解相違が明快になるのもいかがなものかと思ったのでしょうか、その続きがマイルドに(笑)。
『判断する根拠は、足もとの指標や情報ではありますが、先行きについてそれをどうみるか、それがどの程度の確かさなのか、それがどういうリスクを含んでいるのか、それを十分検討したうえでしっかりご説明していくということで、須田審議委員のおっしゃったこととそんなに違ったことを申し上げているのではないと思っています。』
別の質問ではこんなのがありました。
『2 点目は、須田審議委員などは、利上げが遅れるリスクを意識されているようですが、次の利上げの持つ意味は、いわゆる「金利の正常化」という観点からの利上げなのか、それとも将来の物価上昇などへの備えとして必要な利上げと位置付けられるのか、このあたりをどのようにみているのか教えて下さい。』
まあ予想通りの答ではあるのですが、こんな感じで。
『2 つ目のご質問についてですが、今日の段階では言うまでもないと思いますが、「正常化」という言葉を使う場合、私共として、今の日本にとっての中立金利はどのくらいで、いつ頃までにその金利を実現する、といったスケジュール感を持って、調整しようとしていることではありません。あくまでも、経済・物価の状況に応じて徐々に調整をしていく、ということであります。その場合に、経済・物価の状況をみながら、利上げをすることによる影響、あるいは利上げをしないことによる影響を総合的に判断して、徐々に調整していく、ということではないかと思っています。』
で、まあこのあたりが金融政策を判りにくくしてる面があるとあたくし的には思う次第でして、ど〜せなら今の金利水準を引っ張っておいてから「正常化」路線で動けるタイミングになった所でスケジュール感を持ってメジャードペースの利上げをしていった方がやりやすいんじゃねえかとは思うのですが、ただまあそういう米国流が日本で通用するのかというのがこれまた難しい問題ですけど。何かそう上手く行く気は実はあまりしなかったりするので。
総じて言えば慎重派という評価で宜しいんじゃないでしょうか。
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2007/02/09
お題「春審議委員講演」
正確には挨拶なのですが、まあそれは兎も角としまして。
http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/ko0702a.htm
春審議委員は基本的にはあまり強烈なスタンスが出るお方ではないのですが、タカかハトかという分類ではハトにやや近い感じというのが今までの(あまり講演本数が多くないですけど)傾向です。まー大勢順応タイプだと思うのですが。
○景気の先行きリスクはとしてIT関連に注目
前半は景気に関する見立てについて、後半は金融政策に関するお話ですが、ここで春さんが言及しているのは基本的に金融経済月報や展望レポートの内容を敷衍したものになっておりますので、論点を整理するのには丁度良いのかなあと思うのでした。
で、その景気現状と先行きなのですが・・・・
・海外経済
『海外経済は、足許、着実に拡大を続けており、先行きも拡大を続ける可能性が高いと考えています。』
『世界経済の拡大による原油需要の増加や産油国の生産余力不足、地政学リスクといった、かつて原油高騰をもたらした諸要因はなお根強く残っているため、先行き反騰するリスクには注意が必要ですが、原油価格の下落は、当面の世界経済の安定成長にとってプラスと考えてよいと思います。』
下振れリスクの話はちょっとだけしか触れてませんが、特に具体的な話をしてる感じじゃありません。
・国内企業部門
『まず、輸出・生産は増加傾向が続いています。先行きも、海外経済の拡大等を背景に、増加を続ける可能性が高いと想定しています。』
『また、企業収益も高水準となっており、設備投資も堅調に推移しています。(中間割愛)先行き2007年度にかけては、収益、設備投資とも増加テンポは鈍化していくとみられますが、引き続き高水準を維持していく可能性が高いと想定しています。』
『この間、好調な業績を反映して、設備や雇用の不足感も強まっています。』
と、まあ基本的に強気の話が並ぶのですが、IT部門をリスク要因としております。
『このように好調な企業部門ですが、昨年半ばから、鉱工業全体の出荷在庫バランスが良好に推移する中、電子部品・デバイスの在庫が急速に増加しています。』
『これには、パソコンやゲーム機等の各種新製品に向けた在庫積み上げなどが影響する一方で、国内メーカーの一部新商品向けの部品については、受注が予想比下振れ、在庫積み上がりが発生した模様です。11月には新製品の出荷が進む中で在庫は一旦減少しましたが、12月は再び増加しました。現時点では調整が広範化する可能性は低いと考えられますが、この分野では能力の増強ペースがかなり速いこともあり、注目しています。』
ということで、基本的に可能性は低いとしながらも、IT部門の在庫調整リスクにわざわざ言及している点がちょっと新しいなあってところです。
・家計部門
もうひとつの注目の家計部門
『国内の家計部門の動向ですが、企業部門の堅調さとは対照的に、昨年夏以降の賃金、個人消費関連の経済指標は、回復感に乏しいものとなっています。雇用者所得の動きをみると、労働者数の増加や所定外・特別給与の伸びによって、全体としては前年比僅かにプラス基調で推移していますが、基本給を中心とする所定内給与については、前年比ゼロ%近傍の動きとなっています。また、個人消費も、7〜9月のGDP統計で大きく落ち込み、全体の足を引っ張りました。』
というのは現状認識ですが、これはまあ普通というか当然。その原因について春さんはこのような見立てとしております。
『有効求人倍率が上昇し、失業率が低下するなど、労働需給がタイト化しているにも拘らず、所定内給与が伸び悩んでいる背景としては、賃金の高い高齢層の退職によって、雇用者一人あたりの平均賃金が低下していることが影響しているかもしれませんが、基本的には、厳しいグローバル競争を背景に、企業が、固定費増加に繋がる所定内給与の増加に慎重なスタンスで臨んでいることが大きいと考えられます。』
このあたりの話は総裁記者会見や金融政策決定会合議事要旨などでも似たような言い回しをご覧になられたという記憶があると思います。まあそういう意味では政策委員会の大勢通りかと。
『一方、7〜9月に大きく落ち込んだ個人消費関連の統計については、天候要因や、携帯電話・パソコン等の新製品投入前の買い控えなど、一時的要因が影響している面が大きく、消費の実態は、若干の伸び悩みはあるとしても、統計に表れているほど悪くないと考えています。』
だそうです。その内訳に関しては講演テキストにあたっていただければと思いますが、これまた決定会合議事要旨などで既視感のある要因分解になっております。で、先行きに関してですが。
『このように、足許は改善が遅れ気味の家計部門ですが、先行きは緩やかに改善していく可能性が高いと考えています。すなわち、所定内給与については、企業の慎重なスタンスは続くとみられますが、一方で、雇用不足感は次第に強まっており、賃金の上昇圧力は着実に高まっています。実際に、今年の春闘では、一部業種で数年ぶりの賃上げを決定するといった動きもみられています。』
『先行きについては、雇用不足感が強まる方向にあり、企業収益も高水準を続けるとみられることなどから、雇用者所得は緩やかな増加を続ける可能性が高いと考えられます。また、個人消費も、雇用者所得や株式配当の増加などから家計の収入は改善していくとみられ、先行き緩やかに増加基調を辿っていくものと考えられます。』
・物価について
『先行きの物価変動に影響を与える基本的な要因とされている需給ギャップ(設備や労働といった資源の稼動状況を示す)とユニットレーバーコスト(生産一単位あたりに要する人件費)の動きをみると、推計方法によって幅があるようですが、日本銀行の推計によれば需要超過状態に入っていると考えられる需給ギャップは、設備や労働力の稼働率が高まる中で、緩やかにプラス幅を拡大していくとみられます。』
『また、ユニットレーバーコストも、賃金が増加基調を辿っていく中、プラスに転じていくものと考えられます。こうしたことから、先行きのコアCPIは、石油製品などの動きによる振れを伴いつつも、基調としては緩やかに上昇していく可能性が高いと考えています。』
とまあこれまた政策委員会大勢見通しと同じかと思います。要は「日本経済の需給ギャップは需要超過」「ULCは今後プラス転化し、賃金も増加基調」ということで「CPIは緩やかだが上昇傾向」というお話になるのでした。
・地価について
『この間、資産価格の代表的な指標である地価の動きをみると、六大都市の商業地などでの地価高騰が著しく、資産バブルの再来を懸念する向きもあるようですが、全国的にみればまだ地価は全体として下げ止まりつつあるところで、価格形成もかつてのバブルの時期とは異なり、総じて収益還元法に基づく合理的なものとなっているようです。』
上場REITのお値段見てると収益還元法に基づく合理的なものとはちょっと思えなかったりするのですが(そのうちネタにする予定)、2極化の一方がそーゆー状態になっている場合はまー金融政策でどうのこうのという話では無いでしょうし、どうするんでしょうなあ。
『今後も、緩和的な金融政策の刺激効果が地価に代表される資産価格にどのように現れていくか、引き続きみていきたいと思っています。』
○金融政策運営に関して
『今後の金融政策運営』って部分で、春さんの個人的見解としてこのようなお話が。
『私としては、当面の金融政策として、物価の安定を維持しつつわが国経済を持続的な成長軌道に着実に乗せていくことが最重要の課題であり、そのために緩和的な金融環境をしっかりと維持することは不可欠と考えます。』
と、ここだけ見るとハト派全開のようですが、続きがあるのですよ。
『同時に、10月の展望レポートにおいて第2の柱による点検の結果としてとりあげた、政策の対応が遅れ、経済・物価の振幅を大きくしてしまうリスクにも目配りが必要であり、先行き特にインフレリスクが認められない中で急ぐ必要はないものの、現在なお異例の超低金利に止まっている金利水準を、緩和的効果を維持しつつ、経済・物価情勢の改善状況に応じて、徐々に調整していくことも必要と考えています。』
ということで、これまた政策委員会多数派意見のお話だと思います。
春審議委員の話からちと脱線しますが、この「現状の金利は緩和的水準」「少々利上げしても緩和的水準」「金利の調整は必要」という基本的スタンスに対して、現実には足元の指標を見ながら現状を維持するという動きが甚だ判り難いという事はよく指摘されてますが、このように話にされるとロジックがやや分裂気味だというのが判りますなあ何て思いましたですよ。
先日の決定会合の意見相違に関してはこんな事を。
『経済・物価については、先ほど述べたように、生産・所得・支出の前向きのメカニズムは変わっておらず、先行き10月時点の見通しに概ね沿って推移する可能性が高いという点では各委員の意見が一致した一方で、金融政策についての判断は分かれたことになります。現状維持の案に賛成した6名の委員は、金利水準の調整については、先行きの経済・物価の見通しやリスクについてさらに追加的な情報を加えて判断することが適切との意見であり、金利水準の調整を進める案を提案した3名の委員は、その時点で金利水準の調整を行う条件は整っているとの意見であったと私は理解しています。』
決定会合後の福井総裁会見における説明とおんなじですなあというところであります。
ということで、総じて執行部見解と同じ話だと思いますが、タカかハトかと言われますとハトに分類されるのでしょうなと思います。ちょっと引用が多くなってしまいましたな。講演そのものはそんなに量多くないです。
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2006/06/05
○春審議委員の講演と記者会見は相変わらず無難ですな
先週木曜に春審議委員の講演&記者会見が沖縄で行われました。
講演http://www.boj.or.jp/type/press/koen/ko0606a.htm
会見http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken/kk0606a.htm
まずは講演。
まあだいたい無難なお方なのですが、今回も無難という感じ。特に金融政策に関連する所は見事に日銀の公式見解になっていますので、余計な個人的見解が混じって無い分だけ理解の整理をするには吉かもしれません。
そんな中で春審議委員の見解と思しき部分が出たのは先行きの経済に関する部分です。講演の真ん中のあたり(経済の上振れ・下振れリスク)ってところです。
『展望レポートでは、経済の上振れ・下振れリスクとして、海外経済の動向、在庫調整の可能性、企業の投資行動の一段の積極化の3点を掲げていますが、私としては、1点目の海外経済、特に原油価格の高騰の影響と米国経済の先行きに注目しています。』
ということでして、景気下ぶれリスクの方に注目しています。一応具体的にはどういうことですかという所を引用しておきます。
『先行き、原油価格の高止まりが続き、あるいはさらに上昇傾向を辿った場合、エネルギー利用効率の高い日本では直接悪影響を受けるリスクは相対的に小さいかもしれませんが、海外景気の減速によって間接的にその影響を受ける可能性は低くないと考えられます。』
『また、米国経済については、まさにこの原油高が進む中で、インフレ予想の高まりから長期金利が急上昇し、成長率が大きく減速するリスクが考えられます。また、これまで住宅価格の上昇が個人消費の基調を押し上げてきた面もあるだけに、住宅価格の調整が急激なものとなれば、やはり成長率の大きな減速につながるリスクがあると考えられます。』
まあしかしここの部分以外は展望レポートの内容に即して説明をしているという感じでして、普段から講演その他を粘着して見ているヲチャー的にはオモロナイのですが、まあ本来こういう感じでやっていれば良いんじゃネーノとは思うのでありました。ただし皆がこれだとこちとら書き物のネタが無くなるという諸刃の剣(^^)。
金融政策についてもごく無難。
『最近、市場やマスコミではゼロ金利解除の時期に関心が高まっているようですが、私としては、予断を持つことなく、月に1回ないし2回開催される政策決定会合の都度、経済物価情勢をつぶさにみて、適切な判断を行っていくことが大切と考えています。』
いやあの時期はどうせ7月−9月(最近は7月の人が多いと思うが)くらいで最初は早いでしょうという感じでして、関心はどちらかというとその後もドンドンやっていくのかどうかって所だと思うんですが、まいっか。
『ただ、いずれにせよ、今回の展望レポートで示した2本柱に基づく点検の結果によれば、政策金利を概ねゼロ%とする期間の後も、極めて低い金利水準による緩和的な金融環境が当面維持される可能性が高い、というのが現在の基本的な考え方です。今後、慎重にゼロ金利解除の時期を判断し、その後も、経済・物価情勢の変化に応じて、徐々に金利水準の調整を行っていくことになりますが、基本的には判断を急ぐことなく、全体として余裕をもって対応できる状況であると認識しています。』
「判断を急ぐことなく」って所に微妙に春審議委員の見解が出ているという理解をしておきます。まあ是非その方向でよろしゅうに。
記者会見も似たような感じですが、総じて先行きの景気に関して楽観論を排除しているという印象です。
【問】『先程、アップサイド・リスクの話がありましたが、挨拶要旨の内容をみると、どちらかというとダウンサイドのほうを強調されているように思います。アップサイドとダウンサイド、現状の可能性としてどちらに振れる可能性があると思われるのか。午前中の冒頭挨拶要旨では原油、海外のリスクについて文章を多く割かれていますので、景気に与える影響という観点から教えて下さい。』
【答】『私のこれまでの職業経験も若干影響しているのかもしれませんが、やはり今、最大の不透明要因は、依然として原油価格ではないかと思っています。(長いので中間割愛)やはり日本経済の今後の持続的な回復あるいは拡大にとっては、世界経済、特に米国、中国の継続的な拡大が非常に重要ですので、原油価格上昇の影響を受けて米国あるいは中国の経済が下振れするということになりますと、日本経済の持続的な回復も難しくなるのではないか。どちらかというと私は原油価格のさらなる上昇、高止まりに伴う経済としての下振れリスクを心配している状況です。』
【問】『挨拶要旨の中で、ゼロ金利解除の時期について、「判断を急ぐことなく全体として余裕をもって対応できる状況であると認識している」とのお考えを示されていますが、余裕をもって対応できると判断されている理由について少し詳しくご説明頂ければと思います。』
【答】『先程も申し上げましたが、ゼロ金利を解除するかどうかという判断については、景気とか物価が徐々に好転していく中で、ゼロ金利を維持していくとその金融政策面からの刺激効果が次第に強まってくる可能性があります。(これまた中間割愛)私自身としては刺激効果が強く出過ぎてしまうというリスクは現在では少ないのではないかということから、ゆっくり慎重に判断していく余裕があると申し上げた次第です。』
まあ原油価格上昇に伴う物価への影響よりも景気に関する影響を意識しているということで宜しいのではないでしょうか。
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2005/12/08
○春審議委員の講演
まあ失礼ながらあまり注目されない人なんですが、昨日行われた講演に関しても特に材料視されませんでした。材料視されなかったのでスルーと言いたくなる所ですが(笑)、俺様メモでもあるドラめもんとしましては「講演がありましたなあ」という記録だけはつけておくのでございました。
前回お話があり、今回話が無かったのは金融政策運営に関してでして、10月4日の講演では『量的緩和政策の枠組みを変更すべきかどうかの決定は、早すぎても遅すぎてもいけない訳ですが、私自身はどちらかと言えば再びデフレに戻らないことを重視しながら約束の条件に照らして判断していきたいと考えています。』って言及があったんですけれども、今回は枠組み変更に関するタイミングに関してのコメントがスルーとなっています。
で、今回に関してはこれがまた「どう見ても展望リポートのまんまです。本当にありがとうございました。」という所でして、ここの所何だかんだと日銀に対する風当たりが強くなっている(理屈にならない理屈をこねくりまわしてるんだから自業自得ですわな)状況にやっと審議委員の皆様お気づきになられたのではないかと勝手に想像しております。
あるいは、昨日ご紹介した本石町日記さんご指摘の武藤副総裁の「現在において言えること以上のことを申し上げるのが透明性向上になるのかと言えば、それはむしろノイズを発信してしまうことになってしまう」ってこと(即ち市場との対話のあるべき姿だと思うんですが)がようやく審議委員の間で共有されてきたのかも知れませんね。まあそれならそれで良い傾向ではないかと思います(記者会見はフォローしてないので何とも言えませんけど)が。
ということで本件はあっさり味でスルーなのでありました。
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2005/10/07
○春審議委員の講演
10月4日に行われた講演で、一昨日要点だけ箇条書きしましたが、一応引用しておきます。
・コアCPIの見通しについて
『コアCPIは、先行き、米価格のマイナス寄与がなくなっていくことや、電気・電話料金の引き下げの影響が弱まることなどから、年末頃にかけて前年比ゼロ%ないし若干のプラスに転じていく可能性が高いと考えています。』
これはほぼ全員一致している。
・量的緩和政策の量の効果に関して
『「量」の面については、金融システムに対する不安感が強かった時期において、金融機関の流動性需要に応えることによって、金融市場の安定や緩和的な金融環境を維持するとともに、物価下落が企業収益の下落などを通じて経済活動の収縮を招くリスクを回避することに効果を発揮しました。』
微妙なのですが、景気押し上げ効果は認めていないとも取れそうな希ガス。
・当座預金残高目標の引下げ問題
『当面、現状の30〜35兆円の水準を継続し量的緩和政策堅持の姿勢を示していくことが適切と考えておりますが、量的緩和政策の枠組みのもとで資金需要に合わせて目標を慎重に引き下げていくことも、ひとつの選択肢と認識しています。』
資金需要に合わせた技術的な引下げを容認しているのですが、そもそも量的緩和というのは必要以上に量を出すことによって効果を出すという話ではなかったかと小一時間なのですが(笑)、まぁ現状のように短期金利の先高感があってオペの札割れが回避される状態なら技術的引下げの話はやってきませんわな。
この技術論というのも曲者でして、景気失速懸念でも出てきて短期金利の先高感が無くなってしまうと、当然ながらまたオペイラネって事になりますので次第にまた札割れ続出モードになってしまうと予想される訳です(そうならないかもしれないけどね)。そうなりますと、「景気失速懸念が出ているのに技術的観点では当座預金残高目標の引下げをするのが適切」という訳の判らん話になりかねないという諸刃の剣。素人にはお勧めできない論議ではございます(笑)。
・量的緩和政策変更時期の予想
『いつ量的緩和政策の枠組みを変更する時期を迎えられるかに関して言えば、さきほど申し上げた景気・物価の見通しが想定通り実現していくとすれば、2006年年初以降その可能性は徐々に高まっていくと思っています。』
そんな予想はしなくてよろしい(笑)。
・変更にあたっては予防的かビハインド・ザ・カーブか
『量的緩和政策の枠組みを変更すべきかどうかの決定は、早すぎても遅すぎてもいけない訳ですが、私自身はどちらかと言えば再びデフレに戻らないことを重視しながら約束の条件に照らして判断していきたいと考えています。』
「デフレに戻らないことを重視」と言っていますが、「早すぎても遅すぎてもいけない」と言うのが曲者。量的緩和政策の枠組みが本来ビハインド・ザ・カーブを前提にしていた筈ですので、少々アレですなって気もします。
まー基本的には執行部大勢順応的な講演ですなぁという感じですね。もともとそういう感じのお方なので特にサプライズなしではあります。
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2005/10/05
○春審議委員講演メモ
春審議委員の講演が行われましたが、ちとご紹介する時間が本日はございませんので、メモだけ。
http://www.boj.or.jp/press/05/ko0510b_f.htm
・景気見通しに関しては強気(というか審議委員の大勢と同じ)
・物価に関しては年末頃にかけてプラス転換を予想
・量的緩和政策の「量」は流動性対応と物価下落防止の下支えとの認識
・3条件達成前の当預の技術的な引下げは否定せず
・金融政策変更に関しては「再びデフレに戻らないことを重視したい」
あまり変った主張は無いようです。
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2005/06/29
○どうも春審議委員は「慎重派」のようでしたな
昨日は春審議委員の講演をご紹介しましたが、講演後の記者会見がアップされまして(http://www.boj.or.jp/press/05/kk0506d.htm)、そっちを見てますと、昨日申しあげた「当座預金残高目標引下げに柔軟姿勢」というのはちと間違っていたように感じましたので謹んで訂正がてら会見内容ご紹介。
当座預金残高目標引下げに関する質疑に対する応答2題。
景気と当座預金残高の関係について(長いので段落分けました)。
『先ず景気と当座預金残高の関係であるが、今の量的緩和政策そのものについては、私としては所謂3条件が満たされるまで堅持していくということが大前提であると思う。それから、3条件を満たしているかどうかの判断をする際、私自身としては、早過ぎても遅過ぎてもいけないというタイミングが重要であるが、どちらかといえばデフレに戻らないということを重視して判断をしたい、と考えている。そのうえで、量的緩和政策を堅持しながら、今は一時的な下振れはあり得るという形の運営をしているが、それが今後景気が変ってきた場合にどう考えるかということについては、資金需要がどうなるかという問題があろうかと思う。金融機関の経営の安定に伴って資金需要が減退してくる状況にあって、一時的な下振れを許容するということは既に決定したわけである。今後、メガバンクの統合などがある中で、資金需要がさらに減少していくのかどうかというのが1つのポイントと思う。』
『2番目が、景気が良くなるかどうかということと、量的緩和政策を堅持しながらの当座預金目標の引き下げについてどう考えるのかという点である。市場に詳しい方々の意見を聞くと、「量的緩和政策を堅持しながら慎重かつ小幅に当座預金目標を引き下げても市場に与える影響はそう大きくない」とみている方が多いように感じられる。ただ、やはり市場関係者ばかりではなく、一般の方の中には、当座預金目標を引き下げると、それは金融引き締めに向かった第一歩なのではないかという理解も出てくる可能性があることは否定できないと思う。仮に当座預金残高目標を引き下げたとした場合に、そういう意見が出るか出ないかということは、その時の景気実態がどのような状況かということによって、見方が変ってくる可能性があるのではないか。そういうことから、資金需要の状況と、市場関係者あるいはその周辺の方々の受け止め方を慎重にみながら、考えていくべき問題だと考えている。そういう意味で、私は必ずしも3条件が満たされるまで今の目標をそのまま維持するという約束はできないと思うが、基本的には今の残高目標をできるだけ維持しながら3条件が達成されるまで堅持していくのが、私なりの基本シナリオと考えている。』
で、「景気が踊り場を脱しないうちに当座預金残高目標を引き下げることを排除していないのか?」という質問がこの次に飛んできた訳ですが、これに対する春委員の答え。
『景気が踊り場を脱する前に引き下げることは、「100%ないと言うことはない」と言うつもりかという質問かと思う。景気が踊り場を抜け出さない前に当座預金目標を引き下げるということは、先程申し上げた市場関係者の方々やその周辺の方々から「これは日本銀行が引き締めに向っての第一歩を踏み出したのではないか」という受け止められ方をする可能性がむしろ強いし、ある意味では慎重に小幅な引き下げをしたとしても、やや副作用のリスクが多いのではないかと思う。どういう状況になるか分からないので、踊り場を抜ける時期が来るまでは、びた一文変えないと申し上げられるか私はよく分からないが、できればそういうことをしないで済ませることが望ましいと思う。』
という訳で、相変わらず「技術的対応」というか「金融市場の資金需要が減退した場合にどうするのよ」って所が少々気にはなるのですが、どうもこのニュアンスから行きますと、「当座預金残高目標を引き下げる時は景気が相当上向きになっている場合じゃないと難しい」という認識であり、かつ量的緩和政策の解除に向けた取組みへの着手は慎重って事のようですな。
ちょっとホッとしました(^^)。逆噴射当預目標下げはさすがに避けられそうだという感じになってきて誠に結構(と油断してるとアレですけど、今のところは)。
なお、長期金利がどうのこうのって発言もあったのですが、あたくし的には「ふ〜ん」って感じなので引用は致しません。
2005/06/28
○春審議委員の講演
http://www.boj.or.jp/press/05/ko0506e.htm
しかしまぁ何でこの時期に皆様あちこちで講演するんでしょ?
・景気に関しては基本的に強気というか日銀の展望レポートに沿ってる
景気認識に関するお話の部分は「はぁはぁそうですか」という感じで特に引用しませんが、基本的には日銀の展望レポートと同じようなお話です。景気に関する話の最後の部分で春さんは『中央、製造業、大企業における回復が、地方、非製造業、そして中小企業に波及していくことによって、今回の景気回復が本当に持続性あるものになると思います。』と言ってますが、その波及効果は徐々に出てきており、特に雇用部門が好転している事を指摘しています。
・金融政策運営について
簡単に集約しちゃいますと、「量的緩和解除のタイミングは遅めでも構わず」だけど「当座預金残高目標引下げは量的緩和解除と関係なく実施しても良かろう」というお話になってます。
『この枠組みを変更すべきかどうかの決定は、早すぎても遅すぎてもいけない訳ですが、私自身はどちらかと言えば再びデフレに戻らないことを重視して判断したいと考えています。』
ただし、この話もちとアレな部分がございまして、そもそも量的緩和政策継続の3条件には「審議委員の大勢の先行き物価見通しがゼロ以上」というのがあるので、重視もへったくれも無い自明な話なのですが、今までそういう表現をしていた人が多いということでこういう言い方が審議委員の共通表現。まぁ野暮な突っ込みはしないで(してますな)、これは上記したように「タイミングが遅れても構わん」という趣旨に解釈しておきます(つーか多分そう解釈されるものでしょ?)。
『なお、すでに政策決定会合において議論されている、量的緩和政策の枠組みの変更以前に資金需要の状況に合わせて現在の30〜35兆円の目標を引き下げていくことについては、私としては、1)今後予定されているメガバンクの統合等の影響を含め、今後の資金需要の動向や、2)引下げがデフレ克服にマイナスの影響を及ぼすと受け止められる可能性などを慎重に見極めていきたいと考えています。』
どうも(1)にあるように技術論で当預残高目標の下げを行うのは肯定的というか否定しないというか。少々救い(^^)なのは(2)の部分でして、当座預金残高引下げのマイナスの影響について、「デフレ克服にマイナスの影響を及ぼすと受け止められる」という表現になっている所でしょうか。まぁ正直少々意味判らんって気もしますが、どこぞの審議委員のように「債券相場が下がらなければ無問題」という話よりは視点が広そうな気がします。気のせいかもしれないけど。
春委員の景気に関する説明は、だいたい日銀の展望レポートに即した話になっていますので(分量も手ごろですし)宜しいんじゃないかと思います。
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2004/11/29
お題「毎度のパターンなのですが」
相変わらずネタがあまりございませんので先日の春審議委員の講演からちょっとだけピックアップ。
http://www.boj.or.jp/press/04/ko0411c.htm
○審議委員の間で最も平均的な見解と思える景気の見方
基本的に春審議委員の講演とか記者会見とかを見ますと、端的に言ってしまえば「何の独自色も無い」っていうのが特徴的でして、ネタとして取り上げる方としてはヒジョーに面白くございません。とは申しましても、何の独自色も無いって事はよーするに「最も無難な見解」でもある訳ですので、まぁ審議委員間の平均的な見解を知るのには便利だという事でもあろうかと思うわけです(本当か?)。
で、景気に関する見方を読みますと、まぁ強気って印象を強くします。順序良く纏められているので読みやすい講演ではあります。
・海外経済の先行き
『まず、前提となる海外経済の先行きについては、原油価格の上昇やIT関連財の需要調整もあって、これまでの高めの成長から若干鈍化しますが、米国や中国を中心に拡大が続くものと見ています。』
『既に見られているIT関連財の在庫調整については、デジタル家電市場が成長期にあること、過剰在庫が大きく膨らむ前に生産が抑制されていることから、基本的には軽い調整で終わる可能性が高いと考えています。』
『このため、輸出、生産は若干の調整を伴いながらも増加基調を続けると見ています。』
適当に省略して引用してますが、あまり懸念していないというかろくすっぽ懸念していないというのが正直な印象でして、先日の金融経済月報と話が合っておりますわな。
・企業収益と設備投資
『また、企業収益の改善も続き上場企業の中間決算も概ね順調で、下期については慎重な見方をしていますが、それでも04年度は2年連続で過去最高益を更新すると見込まれています。』
どうも先日の日経新聞「冬のボーナス3%増」記事と似たものを感じるコメントでしてちょっと「??」という気もするところではあります。ちなみに日経新聞の記事では「冬のボーナスが前年比増加します」って話なのですが、調査対象が大手製造業に偏っておりまして、「それは景気の良い所だけサンプリングしてるんじゃネーノ」と突っ込みを入れたくなるような話がございましたが、この春審議委員の「企業収益の見方」に関しても「それは見ているサンプルに偏りがございませんでしょうか?」という突っ込みを入れたくなる所でございます。
『過剰債務や過剰設備など構造的な調整圧力が和らいできている環境の下で、設備投資の増加基調は継続するものと見ています。7〜9月期GDP1次速報値における設備投資は前期比マイナスとなりましたが、各種の設備投資調査等でも、04年度の設備投資は高い伸びが予測されています。』
設備投資に関しては相変わらず強気の見方です。この辺に関してはあたくしも突っ込む材料が正直良く判らんのでとりあえず「はいはいそうですか」と流しておきましょう。
・雇用と個人消費
『雇用面では、パート労働者やアウトソーシングなど所謂非正規雇用の活用などによる企業の人件費抑制姿勢は続いていますが、既に失業率の低下や雇用者数の増加が見られており、現在下げ止っている雇用者所得も緩やかな増加に向かうものと見ています。』
この辺の楽観的見解に関しては、あたくし個人的には「それはどうよ」って思うのですが、まぁこの辺は個人的な事情によって見解が異なるところでもありますので何とも言い難い所ではありますが、どうもそんなに楽観視していいのかな〜と思いつつも、日銀的には相変わらず強気の見解をキープしていると言うことで宜しいのではないかと。
『このところ連続して上陸した台風や新潟中越地震の影響によって消費者マインドが押し下げられた部分もあると思いますが、こうした雇用者所得の増加は既に見られている消費の強さに、持続性を与えるものと見ています。』
という事で、雇用者所得が増加するから消費も持続的に強いって論理展開になっております。その割には消費者マインドに関して台風だの地震だのという話しか持ち出していないのが如何なものかと思うわけでして、「増税キャンペーン」がここへ来て連日のように話題にされているという問題が消費者マインドにど〜ゆ〜影響を与えるのよって話に関しては見事にスルー。如何なものかと思うわけですが、政府与党の税制改正(というか要するに増税だが)論議に悪影響を与えないように気を使ってスルーしているのか、それとも福井総裁が常々仰せのように財政均衡化路線が長い目で見たら消費者マインドを好転させるという発想なのか、まぁ真意は良く判らんのですが、とりあえずこの辺も読んでるこっちが違和感をもつような強気見解であります。
この後景気の上振れ下振れ要因を挙げているのですが、先日公表された金融経済月報と同じ話でございますので引用省略。原油価格動向に関しても一項を割いて懸念材料として取り上げつつも、日本経済単体として考えた場合には懸念してませんなってお話になっております。
で、企業活動の変化って話をしていて、どうも「???」な印象を与える内容なのですが、どこをどう突っ込めば良いのか考えが纏まらないのですな。どうも企業経営が「攻めの経営」になってきたと言いたいようなのですが、それは要するに2極化の進行なのではないかという気がしますが・・・・・
○金融政策に関して
・量的緩和政策の効果に関して
山口前副総裁が時事通信社とのインタビューで「量的緩和政策のレビューを行うべきではないか」って意見を表明していましたが、まぁ相変わらず量的緩和政策の効果に関する見解は「それは量への評価じゃねーだろー」という話になってます。
『短期の市場金利がほぼゼロ%まで低下した状況でさらに金融緩和を進めるため、他の先進国にあまり例を見ないこの量的緩和政策を採用しました。また、量的緩和政策の変更の条件を明示することによって、長期間に亘って低金利が続くという見方が市場に浸透し、長めの金利にも低下圧力が働きました。』
『日本銀行の量的緩和政策は金融市場の安定や景気の下支えに効果を発揮したと考えています。』
結局ここでも「ゼロ金利」+「時間軸」の効果に関しての説明はあるのですが、「量」の意味はどうなっているのよって事に関しては審議委員の間でも意見が集約されていないのか元々集約する気がないのかと言った所でしょう。ちなみに、「量」に関しては岩田副総裁がかつて「為替市場への円売りドル買い介入で増えた外為特会に日銀当座預金残高の増加が見合っており、これぞ為替介入の非不胎化」という話をしていた事がありましたが、「量」の意味に関してはこの岩田副総裁のコメントしかございませんな、相変わらずですが。
まぁ結局レビューをすると量的緩和政策の「量」の意味は岩田副総裁の指摘くらいしか無いって事でしょうか。そう考えるとどこがどう「追加緩和政策」だったのか謎は深まる訳でございますが。
・量的緩和政策解除のイメージ
どうもこの点に関しては平均的な見解というものが無いようでして、皆さん言ってる事がバラバラもいいとこでして、春審議委員の場合は現在の金融政策の枠組みが「景気に遅行するCPIの数字に一点張り」になっている筈なのに何故か「金融政策変更は早すぎず遅すぎず」と言い出まして、その代わりなのか何だか判りませんが、量的緩和政策解除において論議としては終わった印象の強い「2段階解除論」が復活しているという内容になっています。
『いずれ来る枠組み変更は、早すぎず遅すぎず、そのタイミングを誤らないことが日本銀行の大きな課題ですが、私はどちらかといえば再びデフレに戻らないことを重視して判断したいと考えています。』
早すぎず遅すぎずと言いながら「デフレに戻らないことを重視」っていうのも何を言いたいのか良く判りませんな。で、2段階解除論になる訳でして、
『枠組み変更のプロセスとしては、(1)当座預金残高目標を金利目標へ切り替え、当座預金残高を縮小させるプロセスと、(2)金利目標をゼロからプラスに切り替えるプロセスがあり、それぞれのプロセスをどう組み合わせていくのか、どのタイミングで開始し、どのようなスピードで進めるかは、その時の情勢に応じて判断することが必要です。』
この話ですと思いっきり2段階解除論に読めますな。量的緩和政策の「量」に意味があるというのであれば上記の2段階解除論にも意味があるのですが、量に関するレビューが無い状況でその意見はどうかと思うのですが。
『その判断基準としては、(1)基本的にコアCPIのレベルとその上昇スピードおよび持続性の見通しにかかっていますが、(2)景気の実態、(3)地価等資産価格の状況、(4)金融システムの状況、(5)金融市場の状況などにも注意を払う必要があると思っています。』
ここまで来ると総合判断以外の何物でもなさそうですが、まぁいっか。
で、毎度毎度不思議に思うのですが、量的緩和政策解除に関する各審議委員の意見を見ておりますと、「景気に強気な人は解除条件の緩和や2段階解除論のような『量的緩和解除の実質先送り』」を提唱しまして、「景気に強気じゃない人は解除条件に関して『条件整ったらとっとと解除』」的な意見表明を行うという傾向にありまして、要するに皆さんあまり「量的緩和政策解除」のイメージが無いのではないかと思ってしまうところではあります。その辺の問題に関して一番色々と発言しているのが福井総裁だってのも何だか面白い所ですな。
ではでは。
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2004/06/07
「春審議委員の講演」
ちと前の話ですが、6月3日に春審議委員が青森で「最近の金融経済情勢について」というお題で講演を行いました。この講演なんですが、景気認識と金融政策に関するお話でして、講演記録にしては珍しく箇条書き形式になっているので比較的見やすい(内容は兎も角)ものとなっております。
http://www.boj.or.jp/press/04/ko0406b.htm
○ダム論の展開と個人消費に関する認識
景気の現状と見通しという部分についてですが、上記のように箇条書き形式になっている(言葉使いは話し言葉なので、この原稿でお話をしたんでしょうが)ので、判りやすくて結構であります。ご一読をお勧めしつつも引用していきましょう。
景気の現状認識に関する項では、このお方も所謂「ダム論」のようなお話をしておりまして、「どこぞの景気回復の効果があちこちに浸透していく」というゼロ金利解除当時に言われていた「ダム論」的な論理展開はいまや日銀政策委員全員がお持ちになっているのではないかとまで思ってしまうような状態。
『また、「(注:日本景気の)先行きについては、景気は当面緩やかな回復を続ける中で、前向きの循環が次第に強まっていくとみられる。」としています。米国や中国など海外経済の高めの成長から、輸出、生産、企業収益、設備投資という企業サイドの前向きの循環が続くほか、企業収益から雇用・所得、そして個人消費へという家計サイドにおける前向きの循環も徐々に明らかになっていくことを想定しています。』
で、日銀が5月に公表した金融経済月報に関してもコメントしているのですが、その中では、
『日銀は、その後5月21日、5月の金融経済月報を公表し、その中で「わが国の景気は緩やかな回復を続けており、国内需要も底固さを増している。」としています。03年度後半は瞬間風速としては高めの成長を示しましたが、雇用者所得が下げ止まりながらもマイナスとなっており、個人消費の見極めが難しいことなどもあって「緩やかな」という表現を残しています。』
ということで「個人消費」をポイントにして「緩やかな」回復というお話になっているのですが、そのすぐ後に物価の先行きに関してこんなコメントをしている所を見ますと、春委員もまた景気回復に関しては強気派となっているようであります。
『また、消費者物価は一時的な要因による押し上げが解消する一方、消費の回復などにより基調としての前年比マイナス幅が縮小し、結果として当面小幅のマイナスで推移するものと想定しています。』
ついさっき「個人消費の見極めが難しい」と言っていた割にはその直後で「消費の回復」というところが中々楽しい講演ではありますが、一応春さんのために弁護しておきますと、最初の「難しい」というのは日銀の金融経済月報ベースでのお話で、後の「消費の回復」が春さんの意見に属する部分のようです、文脈を読みますと。
○景気回復への強気見通しなのですが・・・・・
で、まぁ今次の景気回復に関しては『ある程度持続性を持った回復となり、デフレ克服につながる可能性があると考えています。』というお話をしております。その理由としてあげているのが4点あるのですが、その4点を見ていると「うーん」と唸ってしまう所があるのです。
『第1に、回復を主導している海外環境が、米国に加えて、中国を中心とする東アジアという大きな柱があること、』
と言っていますが、さすがにこの点についてはこの後でリスク要因として米国の金利上昇や株価下落、中国の景気過熱の抑制の行き過ぎによる過度の景気減速や逆に抑制不足によるバブルの発生などを指摘しています。
『第2に、産業界の構造改革による企業収益の回復とともに不良債権処理の進展など金融機関の経営健全化も進んでいること、』
まぁそうかも知れませんが、本当に不良債権処理が出来ているのかというお話は産業再生機構のご登場やら、りそな銀行への公的資金絶賛大投入に見られるように、やや「?」をつけたくなる所ではあります。何と言うか色々な技を駆使して表面化をさせないようになってきているような気もするんですよね〜。まぁいっか。
『第3に、内需が公共投資主導ではなく民間需要主導であること、』
これはあたくしに言わせれば「明確に事実誤認」でしょ。確かに公共投資という形での財政出動はしていませんが、外為特会での米国債絶賛購入を始めと致しまして、りそな銀行への税金突っ込み攻撃に見られるように預金保険機構というこちらもまた特別会計の世界での大いなる税金投入ならびに、「いざとなったら救済ですがな」という「国による債務保証」状態など、一般会計を使わない形での大いなる「数字にでない公共投資」を絶賛実施中。
数字に出てこない公共投資によって外需が引っ張られたり、株式市場の絶賛モラルハザード相場を演出した挙句に時価総額上昇による企業やら個人への資産効果の発生やら不安心理の後退を招いているわけでして、現在はこのつっかい棒を恐る恐る外しているようにも見えますし、産業再生機構嬉々として大はしゃぎ状態だったり、ペイオフ前面解禁前にペイオフ制度の大いなる穴「当座預金全部保護」の拡大を推奨中なのを見ると、やっぱり数字にでない公共投資を絶賛続行中にも見えるし、よくわからんところなのです(判らないようにステルス化を進行させているんでしょう)。
本当に民間需要ってそんなに威勢良くあるか?ってのはどうも・・・
『第4に、今回回復の代表商品であるデジタル家電を含む高付加価値・高機能の家電や乗用車は、日本のモノ造りの技術蓄積を活かせる製品であると同時に、海外も含め家庭における幅広い需要が期待できること、』
よーわからんのですが、本当にそうなの??
○量的緩和政策の評価と今後の金融政策
金融政策に関してはそれほど新味のあるコメントはないので、さらりと流しておきます。
量的緩和政策の評価に関しては非常にシンプルでありまして、「資金繰り支援によって金融不安の発生を防ぎ、金融システムの安定化に寄与」というのと、「短期金利がほぼゼロ%になり、時間軸効果によってやや長めの金利が抑えられ先行きの金利予想も安定して、企業金融の緩和状況に寄与して経済を下支え」という2点になっております。もっとも簡潔な評価という感じです。
で、今後の金融政策に関して、「今後の量的緩和政策」という項でコメントしているのですが、春委員におかれましても、量的緩和解除が遅れるほうが金利の安定化に繋がるという大いなる勘違いがあるようで誠に残念であります。
『金融市場における、実体経済から離れた動き(引用者注:オーバーシュートした長期金利上昇によるオーバーキル)が生じないよう今後日本銀行としては、その時々の状況に応じて日本銀行の金融政策に関する考え方などを明確にお示ししていくことが必要と考えています。』
『将来、3条件が満足したかどうかの判断に当っては、早すぎず、遅すぎずが大原則ですが、私としてはどちらかといえば早すぎるリスクを重視して判断したいと考えています。』
という訳でして、時間軸効果ってのはその時間軸のゴールがまるっきり見えない状態にある場合には将来の金融政策の期待安定化ということで、より長期の金利の低下を促す効果があるのですが、時間軸のゴールが見えてきた場合に時間軸の強化を行うと「ビハインド・ザ・カーブ」のリスクが意識されて長期金利が跳ね上がるという諸刃の剣に転じかねないという点への認識はお持ちでないようですな。
と申しましても、先日岩田副総裁が時事通信社とのインタビューで金融引締めの遅れによる「カタパルト効果」について「ご指摘ご尤も」というコメントをしているように、時間軸を無闇矢鱈と強化するのが必ずしも長期金利の安定化に繋がるとは限らないという認識も徐々に理解されてきているのではないかとも思っております。
あと、この講演では「金融政策の波及メカニズム強化」ということで項を設けてお話をしているのですが、全て証券化関係のお話ですので、あまり面白くありませんでした。
○たまにはあたくしなりにまとめてみる
ということで、あたくしなりに本講演をまとめてみるとこんな感じでしょうか。
1.景気認識および先行き見通しに関してはやたらと強気
2.しかし、フローの回復を重視する余り、ステルス状態になっている問題を軽視しているような気がする
3.量的緩和の解除に関してはこのお方も本音では「解除が遅れるのは構わん」
まぁ審議委員の中では比較的平均的なご意見かと。
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「またも中小企業金融について(春審議委員の講演より)」(2003/12/16)
ちょっと古いのですが、12月4日に愛媛県金融経済懇談会で春英彦審議委員が講演をしておりました。講演の内容自体は最近の日銀審議委員の講演と余り変わらないのですが、この中で中小企業金融の問題について触れておりまして、相変わらずの現状認識か!と思わせるものでした。
というわけで、時々書いておりますが中小企業金融に関して元金貸しの手先として愚考を再度。ところで、話は全く逸れますが、最近日銀審議委員の皆様があちらこちらで講演してますけど、講演の原稿作る事務方も大変ですな。最近どう見ても使い回しをしているように見えます(^^)。
http://www.boj.or.jp/press/03/ko0312a.htm
この講演のうち、景気の現状認識や日銀の金融政策に関する自画自賛的なお話に関しては正直言って他の人の講演と変わらないので紹介は省略。「中小企業金融の円滑化」というお題の部分だけちょっと読んでみましょう。まぁいつもの日銀の見解といった文書ではありますが、何故か今回の講演要旨は箇条書きになっておりまして、日銀的現状認識がコンパクトに纏められております。
○それはマッチポンプではないでしょうか??
「中小企業金融の円滑化」というお題で「中小企業金融の課題」というお話が行われたのですが、その一発目がこんな感じです。
『中小企業の活性化のためには中小企業金融の円滑化が欠かせませんが、日銀短観を見ても企業側から見て金融機関の中小企業に対する貸出態度は依然として厳しく、貸出残高も大企業向けよりも大きく落込んでいます。』
金融機関の貸出に関して厳しい自己査定を要求しているのは日銀ではなく金融庁ではありますが、まぁ日銀も不良債権処理をしろと散々言っている訳でして根は同じ。自分たちの政策効果が上がって中小企業の金融が厳しくなってきているのを捕まえて「問題だ」と言うのは如何な物かと思う訳ですよ。
で、その自分たちで作った「問題」を解消するためにABSの買取を行っておりますが、買入対象を「正常先債権を流動化した商品」としたら案の定債券の買取もCPの買取も盛り上がらない事夥しい状況。
この結果から容易に類推される結論は「中小企業金融の目詰まりが起きると宜しくない箇所では実際問題としての目詰まりは発生していない」というお話になる訳ですな(^^)。不良債権処理という政策が進行している中では、不良債務者の金融が目詰まりするのは政策の結果として当然起きることであります。
てな訳ですから、「企業金融の目詰まり論」って話は根本から崩壊しているのでして、日銀短観の数字(対象企業には要管理先以下もいる訳ですから)を都合よくつまみ食いしているというお話だったという事であります。
というか、貸出態度DIってここの所そんなに激しく悪化してないんですけれども・・・・・・・・
ちなみに最近は「日銀による資産担保証券の買入がワークしない」という意見が民間の方から出てきておりますが、正常先債権以外も日銀が買取りをするというのは只の「震災手形」への道だと思いますが。
○現象には理由があるはずなのですが・・・・・
『中小企業の資金調達の特徴は、所謂メインバンクからの土地担保や個人保証による借入が中心で、自己資本比率が低く、約定日毎にロールオーバーを繰り返す形の短期の借入金が言わば自己資本に代る機能を果たしてきたとされています。』
確かに現実はそうなのですが、もともと中小企業の過小資本というのは、企業規模の小さい企業をやたらと優遇する税制にも問題があるわけでして、企業が経済合理性を追及した結果、銀行と企業の利害が一致する形として「貸出金の永久ロールオーバー」という形態が生まれたという面も強いわけであります。
税法上のメリットもそうですし、公的金融(保証協会や制度融資などなど)においても過小資本にしておいた方がメリットが高い(はっきり言って非常に高い)という制度の下では、公開企業を目指す人でもない限り過小資本にする方がお得。その点に関する考察無しに「中小企業の過小資本問題が課題だ」とか言っても困る訳ですな。
さっきの話とも重なりますが、「課題」といっている現象に関して、元々何が原因なのかという因果関係に関する掘り下げが不足しているのではないかと思う訳ですよ。日銀のおエリート様やら大企業出身の大経営者様は・・・・・
○担保や個人保証を徴求するのは悪なのか??
で、この次はこんな事を言うとるわけですな。
『ところがデフレ等により企業業績が悪化すると、土地価格の下落により担保価値が低下し、金融機関の側にも不良債権処理による自己資本比率の低下や利鞘確保の必要があって債務者に厳しい態度を取らざるを得ない状況が出て参ります。この場合、個人保証の存在は、経営者にとって重荷になっていきます。』
不良大企業に対する部分的徳政令の横行に伴い、皆様すっかりモラルを失ったようでありますが、「借りた金は返す」というのが本来の姿なのではないかと思う訳ですよ。特に中小企業では代表者個人の信用力が企業の信用力を補完するものでありますし、税法上企業で内部留保するよりも社外流出させたほうが有利という無茶苦茶な税制を取っている日本においては尚更の事。
仮に連帯保証人制度が廃止されて、企業が支払不能になっても代表者個人に遡及できないというような話にまでなってしまいますと、まぁかなーり多くの中小零細企業では普通の金融機関では借入を受けられませんわな。企業の内部留保がろくすっぽありませんもん。
日銀はそこまでアフォな事は言いませんが、一部では「連帯保証人制度を無くせ」という議論を大真面目にしている人もおります。政治家が人気取りで言う(そういえば民主党ってそういうアフォな事言ってましたな。さすが民主党)のが多いとは思いますが、このテキストの底にも同じような思想が流れている訳でして、全く困った物だと思ってしまう次第であります。
ちなみに、この講演の続きには「中小企業金融に関する新しい動き」と称して『その第1は、不動産担保、個人保証に頼らない融資の動きです。』と言っておりまして、要するに担保や個人保証を徴求するのは悪だという論調になっております。
ほんの少しの期間だけですが、金貸し(および回収)の手先をやっていたあたくしとしてはどうも釈然としませんな。
○信用リスクを金利でカバーするのが正しいのか??
この点に関する考察はまだあたくしの中で煮詰まっていないので、お題だけ提示するのですけれども、どうも理解できない点なのであります。講演の中でもこんなことを言っているのですが・・・・・
『また、現在、中小企業にとっての資金調達先は、金利5%以下の金融機関借入と金利15%以上の所謂貸金業者の借入しかなく、その中間のミドルリスク・ミドルリターンの借入の余地が小さいという問題もあります。』
『最近では審査の効率化により、融資の申込みに対して即日可否を決定し、無担保のリスクを若干高目の金利でカバーする形での所謂無担保、無保証の小口ビジネスローンへの取組みが活発になっています。』
まぁこの点はもうちょっと考えて見ますが、そもそも貸出金の信用リスクを補完するのは担保(人的担保を含む)でありまして、貸出金利を高く設定してさっさと回収する事によって信用リスクを補完するというのは、街金の発想ではないかと思う訳ですよ。
でですな、この講演では金融機関借入と貸金業者の設定金利が死ぬほど違うと言っているのですが、そもそも金融機関借入と貸金業者からの借入では、借入の期間も金額も全然違うという観点が抜けているのではないかと思う訳です。貸金業者からウン千万円の借入を無担保で長期で行うという人はいない(というか普通は業者が貸さない)ですし、銀行は小口のカードローンを除けば30万や50万で貸出期間が一月以内などという貸出はやっていない訳でして、金利設定には事務コストという観点もある(筈)です。
だいたい、ジャンク扱いされている社債の流通利回り(公社債店頭売買参考統計値でも御覧下さいませ)を考えたら、信用リスクをまともに金利に反映させたら利息制限法の上限なんぞあっという間に突破すると思いますけど。
ちょっとこの点については考えてみます。どうも「信用リスクに見合った金利」という理屈が釈然としないのですが、反論する理論武装もできませんな。
ではでは。
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