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2025/08/07

お題「6月議事要旨のバランスシートに関して多少の雑談です」

なんじゃこりゃ・・・・・・
https://www.asahi.com/articles/AST852V2HT85UTFK01DM.html
WHO脱退、脱炭素やDEIの廃止… 参政・神谷氏の主張に首相は
有料記事
安倍龍太郎2025年8月5日 18時50分

ここの所「時間の都合でこの辺で」を連発したので今日はそのケツ拭きで勘弁してもろて頂いてということで。


〇6月決定会合議事要旨から長期国債買入とかバランスシートのお話の補足

https://www.boj.or.jp/mopo/mpmsche_minu/minu_2025/g250617.pdf
政策委員会 金融政策決定会合 議事要旨
(2025年6月16、17日開催分)

『W.金融政策運営に関する委員会の検討の概要』の長期国債買入に関する話ですけどね。

長期国債買入に関する議論の部分の最後の段落が時間切れでできなかったのでそこから参ります。

『この間、一人の委員は、今後、国債買入れ額の着地点をどう設定するのかについては、日本銀行のバランスシート縮小の行方と 併せて、長期的な視点で検討する必要があると述べた。』

でまあ昨日(だけじゃなくて拙駄文の方では何回か)申し上げておりますように、QQEとかYCC政策というような大規模金融緩和措置を必要としない状況になった以上は、本来は債券市場の安定化がどうのこうのとかいう話をしていること自体が本末転倒であって、本来はこっちの話をしてから、ではそれに対して変なショックを与えないためにはどう移行すべきか、という話からもっていかないといけないんですよこの話って。

『別の一人の委員は、現状、超過準備はきわめて潤沢な状況にあるため、国債買入れの減額を粛々と進めて日本銀行のバランスシートを正常化させていくことが必要であると指摘した。』

とは言えアホみたいな額があるからどこまで減らすのかというのが皆目見当つかんけどまあ兎に角減らせっていう話になるのも仕方ないのだが、そもそも論としてバランスシートをどうするのかというのは短期金融市場における金利誘導をどのように実施するのか、という手段に影響しますので、市場における金利形成(つまりコールとか短期国債とかレポとかCPとかの金利体系や取引の形)に影響してくる話なので、そういうデザインはちゃんと考えて頂きたいんですよね。

『ある委員は、将来的に超過準備はある程度減少するにせよ、発行銀行券の残高と合わせると、長期国債を含め、それらに見合う相応の規模の資産が必要になるとの見解を示した。』

別に資産って短期の資金供給オペでも良いのですけれども、例えばの話日銀の資産サイドが全部短期の資金供給だとすると、調節技術上やたら高頻度のオペレーションをしないといけなくなるので、発行銀行券とかいう要求性払いだけど実際には長期滞留するコア預金みたいなものの見合いには長期国債でもよかろうという話なんですが、量的緩和長くなってしまってもはやその時の知見の継承がだいぶ怪しくなっているんじゃないかという気はしてまいりました。

『これに対し、別のある委員は、国債の買入れだけではなく、中長期の資金を市場に供給することも検討すべきであると述べた。』

中長期ってどのくらいの期間の話をしているのかが謎というか嫌な予感しかしませんが、そんなのどんなに長くたって3M以内くらいじゃろとしか言いようが無いのだが、もしかして2年とか5年とか考えているんだったらちょっとそれは緩和脳にも程があるとしか言いようが無い。

でまあ最後のところでは、

『そのうえで、この委員を含む何人かの委員は、中央銀行のバランスシートは、資産・負債の両面からわが国の金融経済に影響を及ぼし得るため、最適なバランスシートの規模や構成については、今後、多面的に検討していく必要があるとの認識を示した。』

という話になっておりまして、まあそれはそれで良いんだけど、資産の面から影響を及ぼし得るのであれば、中央銀行としては短期政策金利を必要な水準に誘導する、以外の目的でバランスシートを使うのは市場メカニズムを通じた資源配分の最適化に対して恣意的な介入を実施することに他ならないので、きわめて抑制的に対処しないとアカンじゃろ、という話になると思うんですよね。まあ過激派と言われればそうなんですけどワシ。

でまあ昨日出てたBBGの記事
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-08-05/SYSND8DWLU6800
日銀の金融機関への付利負担が急増、年内利上げ観測で財務悪化に注目
青木勝、氏兼敬子
2025年8月6日 6:00 JST

『日本銀行の金融政策運営で政策金利を操作する役割を担う付利制度。日米関税交渉の合意などを受けて年内利上げ観測が広がる中、金融機関への支払利息の急増で日銀財務が悪化する副作用に注目が集まる可能性がある。』(上記URL先BBG記事より、以下同様)

ってまあこの件ですけれども、単年度で日銀の期間損益が赤字だから云々って話をしているのはまあ比較的しょうもない話(なのであんまり読まなくてもよい)ではありまして、まあ日銀の期間損益が赤字だから日銀の財務が云々というのはそんなに問題じゃないと思うのですが、そうは言いましても物には程度というものがありまして、日銀が期間損益赤字ってことは統合政府で見れば財政を出しているのと同じ話なので、その額がまあ屁のようなもん(どの規模を屁と言うのかという議論はありますけど)なら大した話じゃないですけど、その額がそれこそ何兆円とかの規模になってきたときに、実は金融緩和とかしている場合じゃない状態になっていた、となるとその何兆円ってのの緩和効果が本来行うべき金融政策とコンフリクト起きる可能性ってあるじゃろ、っていうのは結構気になっております今日この頃。

でまあそういうのっていつややこしいことになるかと言えば。それこそ基調的なインフレが目標をオーバーシュートして上振れしてしまって引き締めしないといけませんぜとなった時な訳で、いやまあ欧米はバランスシート抱えながらガンガン利上げしてとりあえずインフレの方は収拾できたっぽく見えますが、日本のバランスシートって欧米の比じゃないので同じことできるのかというのと、まあこれは当然指摘されるのは「日銀財務の問題」がクローズアップされることで必要な政策ができなくなるんじゃないかという信認(つまり財務が問題なのではなくて財務のせいで適切な政策運営を行わない方での信認)問題の方が先にあるんですけど、まあそういうもろもろ考えたら「基調的物価が上振れするリスク」というのを再度ちゃんとリスク要因とは言え明示的に7月展望でパラフレーズしながら出してきた訳ですし、もうちょっと考えて頂きたいものだとは思いますし、その点から言っても「6月の時点で来年4月以降1年間の長期国債買入計画を決めてしまう」ってのはよろしくないとおもうんですよね〜。

でもってその財務の件って日銀は毎度こういう説明をしているんですけど、というのが記事にありまして、

『米連邦準備制度理事会(FRB)や欧州中央銀行(ECB)など多くの中央銀行が量的緩和の際に付利制度を導入している。購入する国債の利回りは通常、付利金利を上回るため、保有国債が増えれば中央銀行の収益は拡大する。一方、利上げ局面では金融機関への支払利息が増えて収益を圧迫する。

日銀が昨年12月に公表した試算では、政策金利2%など厳しい仮定を置いた場合、一時的に赤字が発生する可能性はあるが、債務超過にはならない。植田和男総裁は5月の国会答弁で、利上げ過程で赤字が発生する可能性に言及。長期的には保有国債が金利の高いものに入れ替わるため「収益が戻ってくる」と説明した。』(ここまで直上URL先BBG記事より)

毎度「長期的には保有国債が金利の高いものに入れ替わるため「収益が戻ってくる」」でだいたい済ませているんですけれども、逆にこの点を気にしているから長期国債の買入の減額を渋っているのではないか疑惑とか、大体からして基調的なインフレがオーバーシュートするようなときは「政策金利2%など厳しい仮定」とか言ってるけど1ミリも厳しくない過程だろ(だいたいからして本当の本当に物価安定目標が達成されていて経済成長が持続的安定的に続く社会だったら名目の中立金利ってどう見たって2%あるいはそれ以上じゃろ)という話でして、まあこの辺の話って現時点で思いっきり表だって言いにくい、というのも分からんでもないのだが、だからと言ってとりあえず微温的なスタンスで問題先送り、ってのやってると基調的インフレがオーバーシュートした場合に大変な惨状になるじゃろ、という方が机上の空論とも言い難くなっていませんか、と申し上げたい訳ですな、うんうん。


しかし日銀バランスシートに関してはここでまた面倒な論点があって、
https://www.boj.or.jp/about/press/koen_2025/ko250607a.htm
【講演】
業務からみた日本銀行
日本金融学会2025年度春季大会における講演
日本銀行副総裁 内田 眞一
2025年6月7日

先般の内田さんの講演の中で、まあこれ出たときにナンジャコリャとか言いながらネタにしましたけど、

『当座預金への付利とそのインプリケーション』ってところの第2パラフラフ以降になるんですけど、

『このことは、その後、技術的な金利操作の手段という意味合いを超えて、大きなインプリケーションを持つようになりました。ひとつは、金利操作と切り離して、バランスシートの大きさを決められるようになった結果、資産サイドを使った政策を大規模に行うことが可能になったことです。』(直上URL先の2025/6/7内田副総裁講演より、以下しばらく同様)

って話をしているのですが・・・・・・

『非伝統的金融政策の中心手段のひとつは、いわゆる「量的緩和」すなわち、国債の買入れによって長期金利を押し下げることですが、これを実行するのには、バランスシートの大きさとは無関係に短期金利をコントロールできることが前提になります。この点、量的緩和を実行している間は、割り切ってしまえば、金利をコントロールできなくても、ゼロ金利でもよいと考えることもできなくはありません。』

『しかし、量的緩和からの出口プロセスに時間がかかることはあらかじめわかっているので、その時に、大きなバランスシートを抱えながら、短期金利をコントロールできることが保証されていないと、こうした手段は採用できません。』(ここまで2025/6/7内田副総裁講演より)

という説明をおっぱじめていまして、単純に短期金利のコントロールだけみたらそうかもしれんですけれども、結局のところバランスシート政策を行った中銀は結構な勢いでバランスシートの縮小をしている訳で、「金利操作と切り離して」云々というのは通常のプラスインフレ状態で中立的な金利、すなわちプラスの金利を中心にした金利操作を行う際には他の問題が発生するじゃろ、って話なのですが、その論点をこの講演華麗にスルーしていまして、いやまあその辺は分かっているけどすっとぼけてスルーしているだけだとは思うのですが、巨大なバランスシート抱えながら通常の金利誘導の政策に移行できんじゃろという意識があんまり無いようにも思える所でして、うーん大丈夫なのか(特に基調物価が上振れるような局面において)と思うのでした。


でまあ話を戻して議事要旨に戻りますと政府の方面からの発言ってので引っかかるのがありまして、

財務省からの発言の中で、

『・国債買入れの減額は、債券市場の安定等に十分に配慮し、必要があれば状況に応じた柔軟な対応をすることを含め、適切に行われることを期待する。』

ってあるんですが、債券市場の安定等に十分に配慮っていうのはこれ読みようによっては政府が国債市場への買い支えを要請しているかのようにも読めるわけで、ちょっとどうなのよとは思いました。

ちなみに内閣府の方は、

『・日本銀行には、政府と緊密に連携し、2%の物価安定目標の持続的・安定的な実現に向けて、適切な金融政策運営を期待する。国債買入れの減額は、市場との適切なコミュニケーションの下、状況に応じて、必要があれば柔軟な対応をお願いする。』

という言い方なのでまあこれは普通に無難にまとめているのですが、逆に考えてみれば財務省がちょっとアレな領域に踏み込んでしまっているような言い方(まあこれ自体は議論というよりも事務方謹製のステートメントの口伝みたいなもんでしょうから)をしている、というのは、4月以降の長期(というか超長期)金利の暴れっぷりに対して懸念しているということだし、まあそれだからこそ国債の市中発行の組み換えという通常ベースではあんまりやらんことを期初3か月しか経ってないのに実施した、ってお話ではあると思うのですが、この上財政出せ出せ音頭になるとどうなるんでしょうかねえとは思う所ですな、南無三。









2025/08/06

お題「6月決定会合議事要旨より少々」

今朝の日本農業新聞Webより
https://www.agrinews.co.jp/news/index/323934
2025年8月6日
[ニッポンの米]随契米キャンセル2・9万トン 農水省

随意契約米もさることながら高温被害に関しての方がアレでして、
https://www.agrinews.co.jp/news/index/323937
2025年8月6日
[農家の特報班]高温・渇水アンケート 8割弱が「生産量減る」

『日本農業新聞「農家の特報班」が高温・渇水の影響についてアンケートしたところ、全回答者の8割に当たる84人が「生産量が減る」と回答した。うち半数は「大幅減」としており今後、米や野菜、果樹、畜産、酪農と幅広い品目の供給量に影響が出る可能性がある。まとまった雨量を求める声が多く寄せられた。』(上記URL先より)

でもってこういうことのようです
https://www.agrinews.co.jp/news/index/323905
2025年8月6日
[農家の特報班]高温・渇水影響アンケート 産地打撃容赦なく 【読者提供写真 多数掲載】

うーん・・・・・・(涙)

とにもかくにも食料品価格云々がホットイシューの昨今ですので見つけたら弊駄文でも引き続きマクラのネタにはしていこうかとは存じます。


〇6月会合議事要旨にはいくつか味わいがある部分があったので少々鑑賞をば

総裁会見の続きとかそもそも展望レポート鏡しか見てねえだろとか色々なツッコミはあるのですが、何はともあれ来たものを捌くジジイなので。

https://www.boj.or.jp/mopo/mpmsche_minu/minu_2025/g250617.pdf
政策委員会 金融政策決定会合 議事要旨
(2025年6月16、17日開催分)

『U.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要』からぼちぼちと味わいのある部分を鑑賞していこうかと思います。

・長期金利動向に関する議論があるのだが本邦問題が本丸じゃないのと思ってしまうのだが

『1.経済・物価情勢』の冒頭部分が国際金融資本市場なのですが、

『国際金融資本市場について、委員は、世界経済の先行きを巡る不確実性が引き続き意識されつつも、通商政策に関する各国間の交渉の進展や米国の堅調な経済指標等を背景に、市場センチメントは改善しているとの見方を共有した。』

6月中旬の話であることに留意しながら読みますけれど、この先の部分がですね、

『一人の委員は、注意を要する最近の動きとして、主要国における超長期金利の大幅な上昇を挙げた。』

ほうほうほう!と思ったのですが、

『こうした動きの背景として、この委員は、コロナ禍後に、多くの国でほぼ完全雇用のもとでの高インフレが続いてきたことから、財政の拡張が民間部門の投資をクラウディングアウトし、金利上昇につながりやすくなっている可能性を指摘した。』

うーんそういう経路での金利上昇ってもちろんあり得ない話ではないのですが、それってもっと大昔の時代のようにマネーがそんなに膨張しない世界での話なんじゃないかと思うのですよね。

『別の一人の委員は、国際会議等でも各国の国債市場の状況が議論の焦点となっており、海外市場における不測の動きが国内市場に波及する可能性にも注意を払わなければならない局面に入っているとの見方を示した。』

うーんなんと申しますか、海外発の云々よりもドメスティックな要因の方を気にしてよって話だし、ご案内の通りこのあと7月には参院選の情勢評価の報道を受けて超長期金利があがるわ3年辺りの物国BEIがピンポイントで急縮小するわというのがあった訳で、海外が―とかいう場合ではない気もするのよね。と思って国内の方でどういう話をしてますねんと思いますと、これがまた国内パートの方では、

『2.金融面の動向

わが国の金融環境について、委員は、緩和した状態にあるとの認識で一致した。ある委員は、わが国の金融システムは引き続き安定性を維持しているほか、市場センチメントも改善していると指摘した。』

ってあっさり味で終わっていて、まあこの会合では輪番減額計画の議論があるからそこで市場の話をしているというのはあるにしましても、過度な財政拡張懸念による国内長期金利の上昇についてイシューにならんのかね、とは思ってしまいました。まあ今回の会合ではどういう話になっていたのかは主な意見・・・では出なさそうな気もしますがどうなっているのやら。


・6月の国内経済の話は「まだ判断保留」ってのが多いのはそらそうよという感じですな

でもって海外経済の方はすっ飛ばして国内経済の話を見ますが、

『わが国の景気について、委員は、一部に弱めの動きもみられるが、緩やかに回復しているとの見方を共有した。多くの委員は、前回会合以降の経済動向は、4月の「展望レポート」の見通しに概ね沿ったものであるとの認識を示した。』

『米国の関税政策の実体経済への影響について、何人かの委員は、マインド指標は弱めの動きとなっているが、関税引き上げ前の駆け込み輸出の影響などもあって、これまでのところハードデータは底堅い動きを示していると指摘した。このうちの一人の委員は、4〜5月のハードデータは比較的しっかりしたものが多かったが、関税政策の影響はこれから顕在化すると考えられると付け加えた。ある委員は、米国の関税政策の直接的な影響はまだ表れていないものの、食料品価格の高止まりや関税政策によるマインド悪化などを背景に、わが国経済は、やや足踏み状態にあるとの認識を示した。』

まあこの辺の現状認識はそんなもんじゃろという話で、

『景気の先行きについて、委員は、各国の通商政策等の影響を受けて、海外経済が減速し、わが国企業の収益なども下押しされるもとで、緩和的な金融環境などが下支え要因として作用するものの、成長ペースは鈍化するとみられるが、その後は海外経済が緩やかな成長経路に復していくもとで、成長率を高めていくとみられるとの認識を共有した。』

6月会合は4月展望の見通しを継承しています、というかまあ7月展望もメインは4月展望の継承ですけどね。

『ある委員は、米国の関税政策の影響について、中小企業を含む幅広い業種へのヒアリング結果をみると、先行きの方向性を見出す材料が乏しい中で、判断を留保する先が散見されると指摘した。そのうえで、この委員は、こうした状況がセンチメントの下押し圧力になることは間違いないが、実体経済への影響の大きさについては、今しばらく時間をかけてみていかざるを得ないとの見解を示した。』

この辺は6月時点の話なのでまさにそうですなとしか言いようが無いですにゃ。

『複数の委員は、不確実性は依然として高いものの、米国の関税政策に伴う経済の減速圧力は、前回会合時点で想定していたほど強くない可能性があるとの見方を示した。』

お、6月時点で既に「複数の委員」が4月展望ほど悪くないのでは説を提唱。

『このうちの一人の委員は、自動車・鉄鋼業界等への影響は注視する必要があるものの、米国向け輸出ウエイトの低下や高付加価値製品への転換の動き等を踏まえると、産業全般への波及度合いは、これまでの想定よりも限定的となる可能性があると指摘した。』

この指摘も何回か出ていますな。ただまあ日銀大本営が急に憑依して考えた場合に、この自動車産業に関しては特に大手自動車メーカーさんの賃金設定ってのが賃金設定行動の中で影響力が結構あるので、そういう意味では直接的な影響だけではない形での企業行動への影響というのがあるんでネーノ、ってまあそんな話をしてくると思います。

『一方で、ある委員は、法人企業統計をみると、企業の稼ぐ力と賃上げ余力は改善しているが、中小企業に限ると賃上げと設備投資の両立が難しい様子が窺われると述べたうえで、日本経済は「賃上げと投資が牽引する成長型経済」へ移行できるか、スタグフレーションに陥るかの分岐点にあるとの見方を示した。』

この会合が最終回だった中村委員の発言の香りがだいぶするのですが、中村委員の「大企業だけではなく中小企業の生産性が向上して収益力上がらんと持続的な物価上昇と賃金上昇が進まん(ので緩和を継続して中小企業の生産性向上を支援する)」って理屈も分からんではないのですが、そもそも論として「2%の招待状」にあるように、2%物価上昇による原材料価格上昇に対して価格転嫁できないような競争力の無い企業とか、2%物価上昇による生活給支給のための賃金引上げができないような生産性の低い企業とかが不景気などの経済全般にかかわるような痛みを伴わずに自然に淘汰されていく(ので労働者の移動が大きな痛みを伴わずに進むことが期待される)、ってのが2%物価上昇の世界じゃろ、っていう話でもあったはずなんで、そこを1から10までケアしていくと過剰に拡張的な金融政策にならんのかね、とは思うんですよね。

いやまあこの件自体は目先の現世利益的にはあまり関係ない話かもしれませんけど、中村委員にこのあたりのバランスをどう考えるのか、というのを一度お伺いしてみたい気がします。


・個別項目:設備投資・個人消費・雇用所得環境

個別項目のポイントはまあこの3点でしょうから6月時点での評価を確認しておきましょう。

『設備投資について、委員は、企業収益が改善傾向にあるもとで、緩やかな増加傾向にあるとの認識で一致した。』

でもって、

『複数の委員は、人手不足を補う投資などは今後も堅調を維持するとみられるが、関税政策を巡る不確実性に伴う投資マインドの悪化は注視していく必要があるとの見解を示した。』

『このうちの一人の委員は、この点に関連し、これまでのところ、とりあえず様子見という先はあるものの、設備投資の取り止めを決定したという話はあまり聞かれていないと述べたうえで、今後、状況が急変することもあり得るので、ミクロ情報を丁寧に捕捉することが重要であるとの認識を示した。』

『別の一人の委員は、企業のヒアリング情報では、米国の関税政策を受けても、@DXや効率化投資など、高水準の設備投資は継続的に実施する、A株主の期待に応えるため、収益増強のためには投資をしっかりと行っていく、とする企業が多いと指摘した。』

今後どうなるかはワカランチ会長、ってのはそらそうよという感じですが、トーンとしては暗くは無いですね。

『個人消費について、委員は、物価上昇の影響などから消費者マインドに弱さがみられるものの、雇用・所得環境の改善を背景に緩やかな増加基調を維持しているとの認識で一致した。』

ということで消費ですが、

『ある委員は、消費者の節約志向がみられる中でも、マクロ統計からみた消費が腰折れしていない理由としては、政府の施策や賃上げへの期待、堅調なインバウンド消費などに支えられている面も大きいとの見解を示した。また、この委員は、今後、関税政策に伴う企業業績の下振れに関する報道が増えてくると思われるので、これが個人のセンチメントにどのような影響を及ぼすのか、みていきたいと述べた。』

まあ関税政策一発で急にマインドが腰折れするというよりは生活品価格の上昇の方が効くじゃろと自分の財布を見ながら思う訳ですが、「マクロ統計からみた消費が腰折れしていない」ってのは確かに謎(じっと財布を見る)でして、7月展望の時にどういう話になっていたのか気になりますな。

『雇用・所得環境について、委員は、緩やかに改善しているとの見方を共有した。』

でもって、

『複数の委員は、米国の関税政策の影響は、今年の春季労使交渉の妥結結果にはみられていないと指摘したうえで、今後影響が表れるとすれば冬季賞与からであろうとの見方を示した。』

ということで、米国の関税の影響が企業行動を下方屈曲させるか否かを見極めるためには冬季賞与と来年の賃金改定の動きを見たい、という理屈になるわけですな、まあここは順当ですが明示的に書かれたという点でほほーと思いました。

『この点に関連して、別の複数の委員は、企業のヒアリング情報では、人手不足に直面する中、米国の関税政策を受けても、引き続き賃上げに取り組むとする先が多いと指摘した。』

『一方、ある委員は、2025 年度の中小企業の賃上げ実施割合が前年から幾分低下したとの調査もあり、中小企業の賃上げ余力の低下が懸念されるとの見解を示した。』

『この間、一人の委員は、一人当たり実質賃金の前年比は足もとマイナスとなっているが、働き方改革が進んで労働時間が減少する中、時間当たりの実質賃金が上昇していることも、併せて評価する必要があると指摘した。そのうえで、この委員は、@労働生産性の改善が実質賃金にどの程度反映されているか、A生産性の高い企業への労働移動がどの程度生じているのか、といった観点から、労働市場の動向を注視していくことが必要との見解を示した。』

時間当たりの実質賃金上昇したとて別に仕事掛け持ちできるわけでもないので意味ないんですが、というのは無粋なツッコミですが(涙)、後半の注目すべき観点の話はまあそうですねと思いました。


・6月半ばの時点で現状様子見地蔵はまあそうじゃろという話ですが・・・・・・・

『W.金融政策運営に関する委員会の検討の概要』に飛びまして、

『以上のような金融経済情勢に関する認識 と長期国債買入れの減額計画に関する執行部説明を踏まえ、委員は、金融政策運営に関する議論を行った。』

『まず、委員は、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について議論し、「無担保コールレート(オーバーナイト物)を、0.5%程度で推移するよう促す」という方針を維持することが適当であるとの見解で一致した。多くの委員は、物価がやや上振れているとはいえ、先行きの不確実性は高く、米国の関税政策や中東情勢に伴う景気下振れリスクがあることを踏まえると、経済情勢を見極めることが必要であり、現状の金融政策運営を維持することが適当であるとの見方を示した。』

そりゃまあそうじゃろという話ですが、

『ある委員は、@先行き、中心的な見通しに沿ったとしても、成長ペースが鈍化し、基調的な物価上昇率の改善がいったんは足踏みする姿を想定していること、A通商政策を巡る米国と各国の交渉は始まったばかりであり、大きな不透明性やダウンサイドリスクがあることから、今は、現在の金利水準で緩和的な金融環境を維持し、経済をしっかりと支えるべきであるとの見解を示した。』

この意見、Aの方はさておきまして、@って確かにそういう理屈が成り立つんですよね。メインシナリオでは基調物価が足踏みするって言ってるんだから。

ただし、これ毎度思うのですが、この理屈って実質的な金融緩和度合いが(名目の金融政策を維持する中で)どう変化しているのか、って話を抜きにして考えるのもこれまたおかしい話で、一方で基調的な物価が上昇を続けているという認識なのであれば、名目の政策金利を不変にしているというのは「金融緩和の追加措置」をしているのと同義ってことになるので、本当に現時点で最適金融政策になっているのか(据え置きによって過剰緩和になっていないか)、っていうツッコミをしたくなる訳ですよ。

まあ結局のところ、基調的物価と中立金利を足元の政策運営の説明に使って最適金融政策みたいな説明をおっぱじめると理屈がだんだん苦しくなってくる(大幅に前の時のように物価が精々1%の時ならこの説明はクソ便利だったのだが)訳でして、まあこの辺の説明はいちどリセットして組みなおした方がエエンチャウとしか申し上げようがないですな。

『別のある委員は、現在は、1月に決定した政策金利引き上げの経済・物価に対する影響を見守る局面であるとの認識を示した。』

結局「まあわからんからとりあえず様子見しますわ」というこの理屈で行く方が(頭悪そうに見えるからあんまりやりたくないかもしれないけど)まだ分かりやすいと思うんですけどね。

まあそれはさておき先行き政策。

『先行きの金融政策運営について、委員は、経済・物価の中心的な見通しが実現していくとすれば、経済・物価情勢の改善に応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくという考え方を共有した。』

はい。

『そのうえで、こうした見通しが実現していくかについては、各国の通商政策等の今後の展開やその影響を巡る不確実性がきわめて高い状況にあることを踏まえ、内外の経済・物価情勢や金融市場の動向等を丁寧に確認し、予断を持たずに判断していくことが重要であるとの認識で一致した。』

これはまあ6月中旬だからこういう話になるのは順当で、7月会合でどういう話になったのかは注目したいので、「主な意見」で何出ますかねってな所ではあります。

『複数の委員は、堅調な賃金や若干上振れ気味の物価を念頭に置くと、通商問題が穏当なかたちで推移する見通しになってくれば、現在の様子見モードから脱却し、利上げプロセスの再開を考えることになるとの見方を示した。』

若干上振れ気味どころか見通しがこの1か月後に+0.5%も上がっていますがwwwwというのはさておきまして、複数の委員がこう言いました、ってのが6月時点で出てきている時点でまあ7月決定会合における総裁会見程のハトハトチキンではないというのが伝わる部分ですね。

『一人の委員は、不確実性の高さを踏まえると、利上げの動きは当面休止する局面と考えられるが、米国の政策動向によって再び利上げ局面へ回帰する柔軟かつ機動的な対応も求められるとの認識を示した。』

あら休止とか言ってる人もこうなんですね。

『ある委員は、インフレが想定対比、上振れて推移する中、たとえ不確実性が高い状況にあっても、金融緩和度合いの調整を果断に進めるべき局面もあり得ると述べた。』

物価が上がっているんだから緩和度合いが高まっている筈なのでその分の調整をするのが妥当、という理屈で攻めると大本営はどういう顔をするんでしょうか、ってのは見たい気がします笑。

『これに対して別のある委員は、わが国の経済については先行きの不確実性が非常に高く、下方リスクの厚い状況が続いていると指摘したうえで、企業業績や日米通商交渉の方向性がみえてくるのはまだ先であり、政策金利は当面、現状の水準を維持することが適当であるとの認識を示した。』

でまあ企業業績はさておき日米交渉がまあカツアゲトラ公対応としては穏当な線にとどまったのでさてこの方は7月にどういう見解になっているのか、というのも見てみたいですね(中々わからんと思うが)。


・長期国債買入減額は市場云々よりも本来は日銀バランスシートの問題

長期国債買入の件がこの会合ではあったわけですが。

『次に、委員は、長期国債買入れの減額計画について議論した。』

『委員は、長期金利は金融市場において形成されることが基本であり、日本銀行による長期国債の買入れは、国債市場の安定に配慮するための柔軟性を確保しつつ、予見可能なかたちで減額していくことが適切であるとの認識で一致した。そのうえで、委員は、先行きの予見可能性に配慮する観点から、減額方針を示す期間を 2026 年度末まで1年延長することが適当であるとの認識を共有した。』

そんな先まで決めうちする必要があったのか問題というのがあって、それこそ2%目標が前倒しで達成出来て、何なら物価のオーバーシュートが懸念されるようになった時に、長期国債を月額何兆円とか能天気に買っていていいのか問題が生じるようなことだってあり得るのですから、これはフォワードガイダンス政策の時間的不整合と同じ問題を起こす可能性がある、という点をもう少し皆さん考えた方が良いんじゃないの、と思います。

『また、柔軟性を確保する観点から、@来年6月の決定会合において、国債市場の動向や機能度を点検し、新たな減額計画の中間評価を行うこと、A従来同様、長期金利が急激に上昇する場合には、毎月の買入れ予定額にかかわらず、機動的に買入れ額の増額や指値オペ等を実施し得ると すること、B必要な場合には、決定会合において減額計画を見直すこともあり得ること、を明らかにすることが適切であるとの認識で一致した。』

クソどうでもいいのだが何で金融政策決定会合の来年度の予定が7月会合なのに長期国債買入の来年度の予定が6月会合で決められるんだよと思いました笑。

でまあこうやって市場配慮の話ばっかりしているのですが、途中飛ばして抜刀斎の意見を見ますとなんと実は同調者がいたようで・・・・・・


・実は抜刀斎にちょっとだけだけど同調者がいた件について

『これらの議論に対し、ある委員は、2026 年4月以降も、原則として毎四半期 4,000 億円程度ずつ減額していくことが適切であるとの意見を述べた。』

議案出ていたのでこれは抜刀斎であることは明白。

『その理由として、この委員は、長期金利の形成は市場と市場参加者に委ねるべきであり、可能な限り早く、日本銀行の国債保有残高の水準を正常化することが必要としたうえで、この点は、金融市場のショック吸収力を一刻も早く高める観点からも重要である との見解を示した。』

ふむふむ。

『また、この委員は、金融機関の金利リスクテイク余力の観点からは、国債の発行年限や変動利付債の発行規模が、将来的にどうなるかという点が大事であると指摘したうえで、日本銀行の国債買入れに対する市場の期待を高めるべきではないと述べた。』

本来長期国債買入は成長通貨見合いの長期資産を持っておくのが通常の短期市場金利の調節技術上便利だから行う物であって、それ以上のものを中央銀行の長期国債買入に求める、というのが財政ファイナンスの第一歩になる、というお話な訳ですよ。まあそれを忘れたアホウ議論が先の方にありますけど。

『これに加え、この委員は、国債保有残高を早めに減らしておくことにより、市場機能に悪影響を与えない範囲で、相応のインパクトがある規模の量的緩和(QE)を実施し得る余地を確保しておくことも重要であると付け加えた。』

これに対してなんと抜刀斎の同調者がいて、

『この委員の意見に関して、一人の委員は、市場の機能度はなお回復途上であるため、買入れ額を可能な限り早めに減らしておくという考えのもと、4,000 億円の減額ペースを維持することにも妥当性はあるとの見解を示したうえで、』

というのは一人いたのですが、まあ結論は

『市場への配慮やタイミングを考えれば、来年3月までは 4,000 億円の減額ペースを維持し、その後に2,000 億円に緩める案を支持したいと述べた。』

なので結局抜刀斎一人旅ではあるのですが、一応いたのねという話。


・だから中央銀行の国債買入を非常時以外の市場安定策に使うなと小一時間問い詰めたい

途中飛ばしてちょっと先に行きますが、

『このほか、委員は、先行きの目指すべき国債買入れ額などについても議論した。』

という話だが、

『何人かの委員は、市場参加者の中には、国債買入れの着地点は月間1〜2兆円とする声が多いと指摘したうえで、最終的な買入れ額を検討するにあたっては、様々な論点があるため、来年6月の中間評価に向けてしっかり考えていきたいと述べた。』

根本的に言ってることが間違っていて、中銀の国債買入を市場安定策に平常時に使うというのがダメダメなんですけれども、

『この点に関連して、一人の委員は、市場の安定性を確保する観点から、ある程度の額の国債買入れは続けていくべきであり、そうした安定性を犠牲にしてまで買入れ額を急いで減らす必要はないとの見方を示した。』

いやもうこれは突発性海原雄山になって「この意見を言ったのは誰だあ!(ガラッ)」ってなる話。単純にそれは財政ファイナンスです何言ってるんですかこの人は。

『これに対して、別の一人の委員は、1年後に改めて議論すべきであるが、国債買入れ額はゼロまで段階的に減額していくことが望ましいとの 考えを示した。』

んだんだ。

『一方、ある委員は、今後、例えば月間の国債買入れ額が1兆円程度にまで減少すれば、日本銀行の国債買入れが市場で話題になることもなくなると思われるため、買入れ額をゼロにすることに強く拘る必要はないのではないか、との見解を示した。』

それ今の国債残高を見てから言って欲しいんだよな〜。

成長通貨見合いとか、短期金融市場調節の観点からバランスシート構成を決めて、そこから考えるとだいたいこの程度の買入を行っていくと適切なバランススート構成になる、という観点からデザインすべき話ってのがもうすっかりどこかに行ってるな(一部のちゃんとした方を除く)って感じです。

『このほか、別のある委員は、この1年間を振り返ると、超長期債市場における需給バランス等、市場構造が変化した面もあり、1年後に改めて中間評価を行い、先行きの買入れについて検討する必要がある との認識を示した。』

という発想が既に財政ファイナンスなんですよね。別に売れとかそういう話している訳ではないのですが、それこそインフレ期待や基調物価が上振れしてガチの金融引き締めをしないといけないときにこの長期国債残高は大変な重荷になるんだから減らせるもんは減らせよと思うのですよね。従来はそこをいうのは杞憂民にも程があったかもしれませんがさすがにだんだんただの杞憂とは言い難くなっているように思えるのですが・・・・・(個人の感想です)

それに関連して今日はこんなのもしらっと出ていましたね
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-08-05/SYSND8DWLU6800
日銀の金融機関への付利負担が急増、年内利上げ観測で財務悪化に注目
青木勝、氏兼敬子
2025年8月6日 6:00 JST

ということで、バランスシートの話はちょっと明日に続くかもしれません。今朝は時間の都合上この辺で勘弁。










2025/08/05

お題「のんびりと総裁記者会見ですがベースはハトハトチキンな説明なんですけど・・・・・・」

まあこれがインフレ目標達成の世界じゃろという話で
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250804/k10014884421000.html
最低賃金 過去最大63円引き上げへ 全都道府県で1000円超に
2025年8月5日 0時58分

実際のCPIが前年比2%どころか3%超で推移していますし、食料品とかもっと盛大に上昇している訳でして、最賃の上げはちょっと威勢良すぎのような気もだいぶする(と言っても元々が低すぎたのを是正しているという事なんでしょうけれども・・・・)けど、まあ何はともあれ生活給の観点でのベースアップをきょうびできないような企業はまあ(ピー音)ってのが「2%への招待状」の内容なのですよ、ってな話なんじゃないかね、とは思う訳ですが・・・・・・・・・


〇総裁記者会見:これがまあハトハトチキン会見という受け止めになりましたけど・・・・

今回は政策変更も無かったのでぼちぼちとやっていきますが(汗)

https://www.boj.or.jp/about/press/kaiken_2025/kk250801a.pdf
総裁記者会見
――2025年7月31日(木)午後3時30分から約70分

ご案内の通りでハトハトチキンという評価からこの日は円安ドル高が進行して海外時間になったら150円まで乗せやがりましてアイヤーって感じでしたが、先週末の雇用統計とトランプの発狂(トランプとしては通常運転)のせいで円安反転して良かったですねの世界になっておるわけですが。

・見極めたいとされる関税の影響に関して「わからないけどこれから出てくるはず」ではハトハトチキン解釈だわさ

今回の会見って金利に関して変更は無いですし国債買入は前回やった後なので話題無し、ということになりますと関税の影響と基調的物価の話になるのはまあ順当ではあったのですが、その関税の影響に関する質疑が前半多かった感じでして、最初の幹事社からの質問のうち一つは関税の影響云々なのでそこから始まります。

『(問)幹事社から二点質問させて頂きます。一つ目は、日米の関税交渉がまとまり、日本経済にとって不確実性が低下したと、総裁も大きな前進という発言ありましたが、関税措置が不確実性が低下した一方で、関税措置が日本経済に与える影響がなかなかみえない状況です。次の利上げに向けて重視して確認したい点はどういった点でしょうか。(後半割愛)』

この回答ですけれども、

『(答)まず関税措置の影響のところのご質問ですが、ご指摘頂いた通り、先日の日米間の関税交渉の合意は、わが国経済を巡る不確実性の低下につながると考えています。それでも、いったん成長ペースが今後鈍化し、基調的な物価上昇率が伸び悩むという私どもの中心的な見通しに大きな変化はありません。』

メインシナリオは4月に下げたものをそのまま踏襲していますからね。

『また、これまでより低下したとはいえ、各国の通商政策等の影響に関する不確実性はなお高い状況が続いています。』

では何を重視して確認するのかと言えば、

『こうした中、私どもとしましては、これまで同様、経済・物価情勢が改善し、基調的な物価上昇率が高まっていくという見通しの確度やリスクを確認しながら、先行きの利上げの是非やタイミングを、毎回の決定会合において適切に判断していく方針です。』

言われんでもわかっとるわという話なんですが、利上げ云々ってのを入れておかないとハトハト音頭感が強まるから、ということで入れてるんだろうなあとは思うのでして、この続きが、

『その際、通商政策等の影響が各国の経済や国際金融資本市場にどのように表れてくるか、また、そのもとでわが国企業の賃金・価格設定行動における積極的な動きが途切れることがないかどうかといった点をはじめ、内外の経済・物価・金融情勢を幅広く丁寧に確認してまいりたいと考えています。(後半割愛)』

なんか碌すっぽ回答になっていないのですが、結局のところ「わが国企業の賃金・価格設定行動における積極的な動きが途切れることがないかどうかといった点」というのを見極める、という話になりますと、それは賃金について言えば冬季賞与と来年度の賃金設定、というエライ先の話なりますな。

でもって「じゃあ時期はいつなんだ」と次の方が質問するわけでして、

『(問)アメリカの関税政策の日本経済への影響について伺いたいんですけれども、こちら今後見極めていく場合にですね、大体どのくらいの期間を要するというふうに総裁はお考えでいらっしゃいますでしょうか。大体これ 3 か月くらいで分かるものなのか、それとも半年、1 年くらい要するものなのか。あとですね、影響を見極めている間につきましては、こちら利上げだと金融政策変更の決断というのは難しいということになるのかどうかということでご認識を伺います。(後半割愛)』

その回答。

『(答)どちらも今後出てくるデータを、予断を持たずに丁寧にみていきたいというお答えになりますけれども、アメリカの関税政策の影響につきましては、もう少し詳しく申し上げれば、これまでのところ特に駆け込みとその反動の動きが何回にもわたって続くということが起こって、非常にデータがみにくくなっているかと思います。』

これを言い出すと結局やろうと思えば無限に引っ張れるし、逆にその気になれば無事なのが直ぐにも確認できる、という話になってしまう世界なんですけど・・・・・・・

『ようやく、少なくとも関税率のある程度の部分が落ち着きどころがみえてきたという点もありますので、今後ははっきりした影響が少しずつ出てくるという局面に入るかと思います。』

影響がたいして出なかった場合は「これから影響が出るはず」と言って引っ張れてしまう訳で、文字に起こすとまあ若干中和されますけれども、会見聞いていた印象ではこの調子で「これから影響が出るはず」となんかもう影響が出るのを待ち望んでいるかのような説明っぷりに聞こえましたし、まあそういう感じを会見場の皆様も受けたんだろうなという感じで、ハトハトっぽいヘッドラインが割と流れていた感じがしましたがどうでしたですかしら。

『それがどれくらいの期間、どの指標をみないと分からないのかという点については、現時点ではなかなか確定的なことを申し上げにくいなと思います。早めに大きな影響が出て、それでなかなか大変だというふうに判断がつく場合もあるでしょうし、なかなか影響は出ない、しかし本当に出ないかどうか時間をかけてみるっていう場合もあるでしょうし、そこは予断を持たずに丁寧にみていきたいと思っております。(後半割愛)』

でもってこの「なかなか影響は出ない、しかし本当に出ないかどうか時間をかけてみるっていう場合もある」ってのがまさにハトハトチキン音頭キタコレという感じで、これが会見質疑の実質2発目に出てきたのでそりゃハトハトチキン音頭キタコレとなってしまう訳でして、折角展望レポート基本的見解で全体のメインシナリオ自体は変えてないけど、従来「足もとの物価上昇はコストプッシュでワンオフだから対応しない」の一点張りだった足元の物価上昇へのスタンスを「二次的効果による上振れリスク、メインじゃないけどリスクだよ」という形で一歩としては小さな一歩ですが、アクチュアルの物価上昇をネグっている訳ではない、というスタンスを見せた(「コストプッシュは一時的」で切り捨てていたのだからそこそこ重大な転換である)というのを全部台無しにする勢いでハトハトチキン音頭を踊りだしてしまいました、って話な訳ですわよ。

いやさあ、せめて企業の賃金設定行動について言えば「来年度に向けた賃金設定が今年度同様に続くのか」でもいいですし、もうちょっと積極的に言うなら「来年度だけではなく、中途採用市場やパートタイム従業員への賃金設定状況なども含め幅広く確認する」みたいな感じで説明できんのかと思うわけですな。

まあアレです、「なかなか影響は出ない、しかし本当に出ないかどうか時間をかけてみるっていう場合もある」ってのは賭博黙示録カイジ(でしたっけ)の利根川幸雄の名言(迷言)「つまり我々がその気になれば金の受渡は10年後、20年後ということも可能だろう・・・・」をアスキーアートと共に思い出してしまうという程度にはワシの頭はネットミームに毒されているもんで、益々そう思ってしまうのかも知れませんけどねwwwwwwww


とまあそういう訳で冒頭の2発でハトハトチキン音頭キタコレだった訳ですが。


・基調的物価に関しては色々と聞かれているのですが、そもそも「基調的物価」とは何ぞやという整理が必要ですわな

幹事社のもう一つの質問は基調的物価、ということでまあ今回のテーマを網羅している訳ですな。

『(問)(前半割愛)二点目は、基調的な物価について伺います。足元のインフレ率は 3%を超え、この展望レポートでも、物価見通しを引き上げたかたちです。参議院選挙でも物価高対策が焦点となる中、前回と比べて基調的な物価は高まっていると考えているでしょうか。』

この回答がクソ長いんですよ。

『(答)(前半割愛)次に、基調的な物価についてですが、これの評価に当たっては、いつも申し上げていることですが、各種の物価指標や人々の物価観を示す中長期的な予想物価上昇率、更には物価変動の背後にあるマクロ的な需給ギャップや労働需給、賃金上昇率など、経済・物価に関する様々な情報をみたうえで総合的に判断していく必要があります。』

という事なのであれば、それっていうのは何らかの計測可能な数値なのではなくて、「経済物価情勢を全般としてみた場合に今世の中が考えている物価上昇率の定常状態がどの程度の水準にあるのか」すなわち中長期の期待インフレ率とほぼ同義に近い、という話になる(実際問題として内外情勢調査会での総裁の説明では後半で中長期合成期待インフレ率を基調インフレとした説明をしていました)ので、まさに「総合判断」の話であって、なんかの数値をアグリゲートして加工してどうのこうの、という物ではない筈なんですよ。然るに植田総裁の説明ってここからがイミフでして、

『より具体的に少し申し上げますと、一時的な変動の影響を受けにくい物価指標、例えば加重中央値やサービス価格のトレンドあるいは家計や企業、エコノミスト等の予想物価上昇率に関する指標等をみますと、なお 2%を下回っています。しかし、緩やかな上昇傾向を辿っています。』

という風に具体的な経済指標やらサーベイ指標やら、というようなものを挙げていて、この説明だとまさしく計測可能な「ザ・基調物価」みたいなのがあるかのような説明になってしまう訳ですよ。

でまあそういう説明を従来からしているから(それこそ黒田末期に登場したコアコアCPI見通しを出したのも「ザ・基調物価」の一環みたいなもんでした)、今回はまあそこまででもないですけど、毎度毎度「基調物価はどの水準にあるんですか」というような話をする訳ですし、そもそも論として植田さんも基調物価を精緻に計測しようみたいなニュアンスの話をしたがるので、どうしてもその「ザ・基調物価」の方に話がいきやすくなるわけですよ。

でも、「日本経済のアクターの皆さんの経済活動のベースになっている物価観がどの程度か、というのが実際の物価やら企業行動やらサーベイやらを見て行って2%辺りで安定しているんじゃないかなあと判断できる経済物価状況」が基調物価2%だというのであれば、話がだいぶ違ってくる訳で、結局お前らどっちなんですねん(普通に考えたら総合判断だが)というお話なんすな。まあこの辺をもうちょっと整理して頂きたいもんです、とはおもいました。

というアタクシの能書きはさておきまして続きに行きますと、

『また、労働需給は引き締まった状態が続いており、こうしたもとで、賃金上昇を販売価格に転嫁する動きも継続しています。こうした点を踏まえまして、基調的な物価上昇率は引き続き 2%に向けて緩やかに上昇しているというふうに判断しています。』

という説明をしている訳で、基調物価って総合判断だと思うのですよね。まあその総合判断に緩和政策の調整が紐づいているのが現状な訳ですが、そうなりますと今度は展望レポートでコアCPIとコアコアCPIの見通しを出していること自体に何の意味がありますねんという話にもなろうかと思いますが、その件に関してはまたなんかの機会に考えたいなとは思います。


でもって先行きですが、

『先行きについては、経済の成長ペース鈍化などの影響を受けて、基調的な物価上昇率はいったん伸び悩むことが見込まれます。』

ほーん。

『しかし、賃金と物価が相互に参照しながら緩やかに上昇していくというメカニズムは維持され、その後は、成長率が高まるもとで、人手不足感が強まり、中長期的な予想物価上昇率が上昇していくことから、基調的な物価上昇率は、2%に向けて徐々に高まり、見通し期間後半には物価安定目標と概ね整合的な水準で推移すると考えています。』

ということで、まあ質問に対する答えがクッソ長い次第なのでした。


・とは言え基調物価が総合判断だと腹を括っていないのでこういう説明になるのよね

ちょっと先の質疑になりますが基調的物価に関しては質問が多い訳で。

『(問)一点目はですね、基調的物価についてお伺いします。伸び悩んだ後にまた回復する見通しということですけれども、今現状、総裁の認識としては既に伸び悩んでるような状況なのか。次のですね、利上げの判断をするときは伸び悩んでる状況であっても回復に向かうと確信ができれば利上げをするのか、それとも 2%にですね、持続的・安定的にアンカーすると確信を持てたら次の利上げに踏み切るのか、その考えについて教えてください。(後半割愛)』

まあ質問の方にも微妙に突っ込みたくなりますがそこは割愛して回答を見てみますとですね、

『(答)まず前段ですけれども、基調的物価の現状ですけれども、まだ関税の影響を受けて足踏みするという局面には入ってなくて、ごくゆっくりですけれども上昇が続いているというふうに思っております。』

ここの説明もまあ謎説明でして、もし「総合判断」なのであれば、そもそも4月の展望の時点で経済の見通しを引き下げてリスクを下方にティルトしているんですから、その時点で基調的な物価には下方圧力が掛かるという話になるんですが、一方で基調的物価は上昇が続いている、という判断になっているのはじゃあ何でですかってのを要因分解して頂きたいわけですわ。

まあその回答を出すとなると多分日銀的理屈を捻れば「インフレ期待が徐々に上がっているから経済の不透明要素を打ち消している」というのと「実際にはまだ経済が落ちていないので(ただし消費の判断は今回の展望で引き下げになっている)問題ない」という話になるのか、その合わせ技なのか、って話になると思うのですけどね。

『それから、基調的物価と今後の政策との関係ということでは、本当にそれが 2[%]に定着するまで待って動くというのではなくて、2[%]に到達していくという道筋、今でもそういう見通しを持っているわけですけれども、それの確度が上がるとか、見通しに自信が持てるということになるかどうかという、それもいろんな段階がありますが、ことの方がポイントになるかと思います。』

って話をしているのだが、これも結局のところ「基調的物価が2%に達している」という状況の定義がフワフワしている(ように見える)からこういう話になるのであって、「基調的物価が2%で安定している」という状態は「物価安定目標が達成できている」というのを同義であって、物価安定目標が達成出来ている段階では短期政策金利は中立金利(モチのロンだがこの数値にも幅があるけど普通に考えたらトレンドインフレが2%なら政策金利も2%じゃろというお話)に達していないと過剰緩和による好ましくないインフレ上振れを招くことになるんだから、「2%に定着するまで待ってから利上げ」はどこからどう見たってあり得ない話で、そういう質問が飛んでくること自体がナンジャソラになるんですよね。

でもこういう質問が飛んでくる、というのは結局のところ「基調的物価」という一種の計測可能な物価指数のようなものがあって、その数値と2%物価目標達成は必ずしもイコールではない、というような認識になっている、というかそういう説明を日銀がしているからこういう質問が飛んでくる訳でして、もうちょっとこの「基調的物価」の概念をきちんと整理しないといけないと思うのでした。

まあ2%なんてとてもとても、という状態ならばその辺フワッとしたままでもよかったのでしょうけれども、実際問題として物価目標2%だってもう達成してるんじゃないか(ワシはそっちの説を取りたいがまあそれは少数派オブ少数派だという自認はしてます笑)という考えだってできないことはないというような状態で、少なくとも物価目標達成は近いという状態になる中、この「ザ・基調的物価」はコミュニケーションをややこしくするだけのことにしかなっていないような気がします(個人の感想です)。

ただまあ一方で最後の方の質疑では、

『(問)今の質問と重複するのですが、基調的な物価上昇率につきましては、今後関税の影響でいったん伸び悩んだ後に徐々に高まっていくというふうに言っておられまして、外からみえない基調というものがですね、今後複雑な動きをしていくという局面に入るということだと思うんですけれども、総裁はこの基調的な物価上昇について、そういった局面ではより丁寧にですね、より具体的にもっと分かりやすく説明しなきゃいけないというふうにお考えなのか、その必要性をどのように感じておられるかお願いします。』

「外からみえない基調というものがですね」という辺りがいい感じのイヤミになっていますな^^。

『(答)基調的物価上昇率という概念、大事なんですけれども、なかなか分かりにくいし、データでなかなかきちんとみることができない中で、説明を工夫しないといけないなということはずっと思っておりまして、従って今日の冒頭のご説明でも、やや具体的に基調的物価上昇率の、そのものではないですが、それに近いインフレ率と思われる変数いくつかの動きについてご説明したりしました。こういうことは一段の工夫を重ねつつ続けていきたいと思っております。』

って説明になっていて、まあ経済学者というかエコノミストというか、そっちの系統だとどうしても「総合判断です」って話にならないで計測を精緻化しようというような方向に話を持っていきがちなんだよなーって思うのでした。



・食料品価格上昇の今後と二次的影響について

この点も質疑が幾つかありまして、

『(問)二点お伺いします。物価の見通しのところで 25 年を大きく上方修正されたと。ただ、食品価格の上昇については、徐々に減衰していくという見通しを示されています。これまでと同様に一時的要因が大きいということですけども、一時的ではない可能性については、従来よりも高まっているというふうにお考えでしょうか。その場合、日銀の対応が後手に回る可能性があると思うんですけども、その辺はどのようにお考えかというところも併せてお願いします。(後半割愛)』

しれっと「政策がビハインド」の質問をちりばめているのが芸が細かい(^^)。

『(答)まず、食料品価格の上昇について、一時的と判断してよいかどうかというご質問だったと思いますが、申し上げましたように、インフレ率という意味では、今後低下していくというふうに考えています。そういう意味では一時的である。』

ほう、というかまあそれがメインシナリオですね(なお「コストプッシュだから一時的」という阿保陀羅経を唱え続けて外しているんですけど)。

『ただし、ここまでかなりの上昇がみられ、消費者心理にも、これはどっちに影響するか難しいところでございますが、消費者心理を悪化させる方向に働くというケースもあるでしょうし、インフレという面ではインフレが長く続いてしまうという方向に働く可能性もありますが、消費者心理あるいは予想物価上昇率に影響して、そこから例えば基調的なところにも影響するというリスクについては、常に意識しながらデータをみていきたいと思っております。(後半割愛)』

とありましたが、後半でこのような良い質疑がありまして、

『(問)基調的物価の部分で先ほどですね、ヘッドラインの部分が基調的物価にこれからどういう影響を及ぼしていくかっていうところを、より一層注意してご覧になっていくというお話がありましたが、現状はですね、今の段階ではヘッドライン、消費者物価という部分がですね、いわゆる二次的な影響というかたちで、基調的な物価に影響を与えるっていう状況にはないというふうにお考えでしょうか。今の現状のとらえ方を教えてください。』

これは良い質問。

『(答)例えばここ 3 年くらいを振り返ってみますと、一つのメカニズムを申し上げれば、ヘッドラインのインフレ率が高いことがある年に、その次の年の賃金上昇率に影響を与えて、そうするとまたサービス価格に跳ねるというかたちで、だんだん基調的物価にも影響する、そういうメカニズムはあったと思います。』

というのを素直に認定している訳ですが、これだと「コストプッシュだから一時的」って話を連呼していたし、今でもメインシナリオでは連呼しているんだが、その説明との整合性は何ですかってなもんでして、大体からして「適合的期待形成」について以前は散々言っていたのですから、コストプッシュによる物価上昇が適合的期待形成を通じて二次的効果をもたらす、って話をすっかりネグって延々と「この物価上昇はコストプッシュだからネグって良い」という話にしていたのは何だったんですかと小一時間問い詰めたくなるわけです。

まあ日銀とてアホウじゃないので初手からそういうことは承知のうえで「コストプッシュはワンオフだから」の屁理屈を捏ねていたんだとは思いますが、その屁理屈だけではマズイ(つまり物価上昇が実は定着していて何ならインフレ期待の上振れリスクもあるんじゃねえかというのを真剣に考えないといけない、という可能性について無視できない、ということね)というのはさすがに認識しているからこういう説明のトーンに変化したんじゃないか、とまあそう考えることも可能(あくまでも可能、ということであって実際に大本営が何考えているのかは大本営じゃないと分からんし、関税の影響の話がひたすら利根川幸雄状態だったのでハトハト音頭にしか聞こえなかったし、というのもあるのですよね。まあムツカシイです判断は)というお話になったりする訳です。

よって、この続きですが、

『従って、ヘッドラインのインフレが高いという状態が長く続くという場合にはある程度注意しないといけないと、基調的物価への影響について注意しないといけないということだと思います。』

となっていまして、まあ2%台前半とかなら2%でんがなみたいな話だとは思うのですが、なにせ全国CPI総合ベースで言えば前年同月比3%台(しかも殆ど3%台後半)のインフレが昨年12月から本年6月まで延々と継続している(1月は4%)訳でして、さすがにこれはネグれないって話になっているのかね、って感じで更問があったのですが、

『(問)そうすると今、足元の食料品価格を起因とするものっていうのも、大なり小なり、基調的物価の影響というところを与えているんでしょうか。』

『(答)それはですから、今後見通し通りに食料品価格が落ち着いてくるかどうかというところに大きく左右されるように思います。』

これ微妙に答えが噛み合っていないのだが、本来であれば「今後見通し通りに食料品価格が落ち着いて来たとしても全体の物価がさほど下がらない場合は基調的物価の高まりを意味するのか」って話になるのかな、とは思いました。


・ハトハト音頭なのですゴリゴリ問い詰められるとハトが飛んで逃げていくという面白い質疑

質疑のどちらかというと前半だったのですがこんなのがありました。

『(問)一点目は、ちょっとややこれまでの質問の繰り返しになってしまうかもしれないんですが、関税を巡る不確実性についてやや後退して、きわめて不確実性が高いというところからは、不確実性が高い状態が続いているという表現に変わっています。また、物価についても、25 年度、大幅に上方修正して、物価のリスクバランスも下振れリスクが強いというところから中立的にしていると。全体でみると、基調インフレが持続的・安定的 2%を達成する蓋然性は、前回展望レポート時よりは高まったと言えるのかどうか、そこをまず確認したいと思います。』

『二点目については、物価のリスクの部分で、食品価格の上昇が長引いて、予想インフレや基調インフレに二次的波及の影響を及ぼす可能性について、やや詳細に展望レポートでは記述がありますけれども、これはやはり物価の上振れリスクに、以前よりは意識が高まっているということでいいのか。その場合、経済の下振れリスクとそうした物価の上振れリスクの両方をみるということだと思うんですけれども、そのバランスというのは、前回の展望レポート対比で変化しているのか、その辺りをお願い致します。』

中々明快な質問である。非常にいいですね。では回答ですが、

『(答)一番目のご質問について申し上げれば、特に、関税を巡る不確実性が、最初に申し上げた日米交渉が合意に至ったこと、あるいはアメリカとその他の国との交渉がいくつか合意に至りつつある、至ったということ等を通じて、そこの部分の不確実性がある程度低下し、端的に申し上げれば、私ども、4 月と今回 7 月、展望レポートの見通しをそんなに変えていない、今年度のインフレ率のところ除きますと、あまり変えてないんですが、その見通し実現の確度のようなものは少し高まったというふうに考えています。』

見通しは変えてないが見通し達成(2%物価安定目標達成)の確度は少し高まったと。

『それから二番目のご質問は、物価と経済のリスクのバランスというお話だったと思いますけれども、経済の方は下振れリスクが続いてる、つまり、関税の行き着く先はある程度みえてきた部分があるけれども、その影響についてはまだこれから確認しないといけないということで下振れリスクに配慮しているということですが、物価についてですが、いったん 25 年度の物価見通し、中心的な見通しをかなり大きく引き上げましたので、そこからは物価の上下見通しはバランスしているという姿になっているということだと思います。ちょっと答えになってるかどうか。』

とまあこういう言われ方すれば更問はこうなりますよね。

『(問)そうなるとやはり、経済の下振れリスクの方が政策運営上は重視すべきという理解でよろしいでしょうか。』

ってこれは誰でもそういう質問をするわ。

『(答)いえ。金融政策上どっちのリスクをということですけれども、当然、物価の上振れリスクは、先ほど来申し上げてますように、見通しで基調的物価上昇率がだんだん2[%]に収束していくというところから更に上振れるリスクのことを意味してるわけですから、それは重視して考えたいと思いますし、』

あら〜重視して考えちゃうんだwww

『経済の下振れリスクの方は、物価にも影響しますけれども、ここから経済あるいは物価が多少下振れた場合に、やはり私どもの立ち位置としましては、政策金利が 0.5[%]の低い水準であるということは意識していないといけないかなということだと思います。』

しかも経済下振れを意識するのは当然だが「政策金利が 0.5[%]の低い水準であるということは意識していないといけないかなということだと思います」っていうのは金融政策が飛んでもなく緩和的であるという事を意識するって話だからやっぱり政策調整ジャン、という話になるわけでして、植田総裁の中でハトハトチキンが降臨したり隠れたりしてますなあ、とは思いました。


あとは物価高批判の話とかビハインドリスクとかの方面の質疑もあってそれはそれでおもろいのですが今朝は時間の関係でこの辺で勘弁してつかあさい。





2025/08/04

お題「展望レポートBOXも「メインは年末年始までの動きを見る」だけど「リスクは物価高止まり」という構成ですな」

ここまで来ると狂気の沙汰としか思えないんだが
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-08-01/T0BUSIGQ1YUJ00
トランプ氏、労働統計局長を解任−雇用統計を「政治操作」と非難
Skylar Woodhouse
2025年8月2日 4:05 JST 更新日時 2025年8月3日 16:22 JST
→雇用急減速示す雇用統計発表から数時間後、SNSに投稿
→政策に政治が介入するとの不安が市場に広がるとストラテジスト

ワイ昭和脳だからこういうのが滅茶苦茶危ないっていうのは感覚的に思いっきり思いますけれども、どう言語化すれば良いのかと思ったら厭債害債さんが言語化してくださいましたのでとりあえずそちらをご紹介しておきますわ。

https://ensaigaisai.seesaa.net/article/517281212.html
2025年08月02日
反知性を体現する大統領

なおワシが言語化すると「非理法権天」を持ち出して「トラ公は天道によって裁きを受けるべき」とか言い出すか、あるいは(該当する記述は自主規制によって削除されました)と言い出すか、という感じで言語化能力の低さに泣くorzorz


・・・・そういえばこんなのがあるのですが
https://www.boj.or.jp/about/organization/notice/orgnot250801a.htm
日本銀行の元役員の関与を装った不審な動画広告にご注意ください

AI作成だか何だかで著名人が語っているように見せかけるインチキ広告がよつべ君を見ているとホイホイ出てくるので実に怪しからん訳ですが、日銀ってのはまだお会いしたことないですね。


〇展望レポート基本的見解を一旦すっ飛ばして背景説明のBOXを鑑賞しますと政策金利調整時期は基本来年頭だがリスクは・・・・

https://www.boj.or.jp/mopo/outlook/gor2507b.pdf
経済・物価情勢の展望
2025 年7月

いつものようにとりあえずBOXを見ますが、お題は以下の通り。

(BOX1)各国の通商政策の動きとその影響:アップデート
(BOX2)不確実性と設備投資
(BOX3)最近の食料品価格上昇の背景とその影響


・米国の関税効果に関して:賃金設定への影響をみたいです、といういつもの結論になっております

まずは『(BOX1)各国の通商政策の動きとその影響:アップデート』 から参ります。最初の方の状況の説明部分は飛ばしまして途中から参りますと、

『米国の関税引き上げは、様々なチャネルを通じて、わが国経済に影響を及ぼす。前回4月の展望レポートで整理したとおり、具体的な波及経路としては、主として、@関税コスト負担の直接効果、A世界の貿易活動の縮小を通じた間接効果、B不確実性の高まり、という3つの経路が考えられる(図表 B1-2)。』

でもって、

『以下では、これらのうち、@直接効果とA間接効果について、足もとまでに利用可能となっているデータから、生じている変化を整理する21。』

とのことです。

『まず、直接効果については、輸出企業が関税によるコスト増加をどの程度、米国での販売価格に転嫁するかによって、負担の主体や割合は変わってくる。』

はい。

『すなわち、関税コストの増加分が、販売価格に完全に転嫁されれば、米国国内の消費者や企業が関税分を全て負担することになる(ただし、この場合、米国で競合する財がある場合、輸出企業の価格競争力は低下する)。一方、わが国を含む海外の輸出企業が、現地販売価格を変えず関税負担を輸出価格の引き下げで全て吸収すれば、輸出国に負担が発生することになる。当然のことながら、これら両者の中間的なケースもありうる。』

さいですな。

『この点、既に 25%の関税引き上げに直面している日本から米国向けの自動車輸出の価格動向をみると、(関税分を含まない)輸出単価や契約通貨建ての輸出物価は、4月以降、2割程度も下落した(図表 B1-3)。』

(ノ∀`)アチャー

『こうした動きは、日本の自動車メーカーは、現地の販売価格上昇による数量減を回避する一方で、輸出採算の悪化というかたちで収益を悪化させていることを示唆している。』

まあそうなんですけれども、さくらレポートだと「うちの製品は競争力あるから関税分は基本的に価格転嫁」とか言ってる企業の声みたいなのが上がっていたのに対して自動車メーカー関税モロ負担かよと思ってしまいました。

実際にはこの収益減によって賃金上げないだの部品メーカーに対して納入価格引き下げ圧力が掛かるだのという話になるとまさに日銀が懸念している、ということになっている「企業行動の後戻り」になってしまうのですが、ゆうて単純に販売価格下げっぱなしなのかねという点はどうなんでしょうかね、とは思いました。知らんけど。


『次に、間接効果は、関税引き上げによる世界貿易量の減少や企業の生産活動の停滞を通じて、わが国の輸出にも下押し圧力が及ぶ効果である(前掲図表5、図表 B1-4)。』

これが何で問題になるかというと、

『わが国の輸出は、資本財や自動車関連、情報関連など世界貿易量への感応度の比較的高い財が多いため、世界貿易活動のアップダウンは、わが国実質輸出の変動につながりやすいとみられる(図表 B1-5)。』

だそうで、

『このため、先行き、世界貿易量が、駆け込みの反動減の影響を受けながら減少していくとすれば、日本の輸出への下押し圧力も明確になっていくと予想される。さらに、各国一律の「相互関税」に加えて、今後、半導体等の分野別関税や高関税率となっているアジア各国への「相互関税」の上乗せ分の多くが発動されれば、わが国とサプライチェーンの結びつきが強い東アジア地域の貿易活動やITサイクルへの悪影響を通じて、情報関連を中心にわが国の輸出が一段と下押しされるリスクにも注意する必要がある。』

ということですが、「相互関税」がカッコつきになっているのが味わいあるなと思いました。だって別に日本から米国に関税上乗せしている訳でもないのに何が「相互」関税じゃヴォケと兼ねてよりワシも思っていたのですが、このカッコ付ってそういう意味ですよねwwwwww

でもってその結論ですが、

『以上のような米国の関税引き上げによる直接・間接の影響により、今年度のわが国企業収益は減益となる可能性が高まっている22。実際、2025 年6 月短観で今年度の経常利益計画をみると、非製造業は底堅く推移する一方、製造業は、加工業種を中心に減益計画となっている(図表 B1-6)。』

からの、

『このような見通しが実現する場合には、先行きの賞与やベースアップなど企業による賃金設定行動にも影響を与えうるだけに、今後の動向を注意してみていく必要がある。』

ということで、これ以前からの説明と同じではあるのですが、賃金設定行動の見極めが必要。といういつもの理屈になりますので、そうなると今年度入り後の業績を反映した冬季賞与の設定と、来年度の賃金設定に向けた動きを確認したい、という理屈になるので、そうなりますとまあ最速で12月ですが、まあ普通に考えて1月か3月の政策調整、というお話になるわけですな、うんうん。


・設備投資への影響は短観をあと1回か2回確認するという話になりますなあ

2番目の『(BOX2)不確実性と設備投資 』に参ります。

『本BOXでは、各国の通商政策に伴う不確実性の高まりが、設備投資に与える影響を点検する。』

ちなみにこの点、直近の支店長会議では
https://www.boj.or.jp/research/brp/rer/rera250710.htm
各地域からみた景気の現状(2025年7月支店長会議における報告)

『各国の通商政策の影響に関して(注)、現時点では、設備投資について、不確実性の高まりを背景に投資の先送りや見直しを検討・実施する動きがみられるとの報告があった一方、IT関連需要の拡大期待に基づく能力増強投資や、人手不足対応や生産性向上を目的とした省力化・デジタル化投資などで積極的な投資スタンスが維持されているとの報告もあった。』(この部分のみ直上URL先の2025年7月支店長会議報告より)

となっています。

『まず、不確実性の高さを示す各種指標をみると、米国の関税引き上げの発表直後は、VIX指数(Volatility Index)が急激に上昇するなど、金融市場で不安定な動きがみられたが、足もとでは落ち着きを取り戻しつつある(図表 B2-1)。一方、わが国の新聞の関連報道等から作成した通商政策不確実性指数をみると、4月のピークから低下しているとはいえ、歴史的には依然として高い水準となっており、企業が支出行動を意思決定するに当たり、不透明感の強い状態が続いてきたことが示唆される。』

『7月 23 日(日本時間)の日米合意を受け、不確実性は一定程度低下するとみられるが、米国との通商交渉がなお妥結していない国も存在しているほか、米国における関税の価格転嫁の動向も含めた関税の経済的影響についても、不確実性は残っている。』

この辺は前提の話ですので次行きますと、

『次に、こうした通商政策を始めとする政策面の不確実性の高まりが企業の設備投資に与える影響をみるため、簡単なVARモデルを推計すると、政策不確実性指数の高まりは、金融変数の影響をコントロールした場合、多少の時間をかけて設備投資の下押し圧力となっていくことが実証的に確認できる(図表 B2-2)。』

ってことで『図表B2-2:不確実性の設備投資への影響(水準への効果、GDP寄与度、%ポイント)』ってのがあるのですが、脚注を見ると、

『(注)政策不確実性指数、VIX指数、実質GDP、実質個人消費、実質設備投資、総実労働時間、GDPデフレーター、無担保コールO/N金利(無担保コールO/N金利以外は対数値)からなるVARモデルを推計し、政策不確実性指数+1σショックに対する実質設備投資のインパルス応答を算出。推計期間は、1994/1Q〜2024/4Q。シャドーは、95%信頼区間。』

ということで分析しているんだが、1994年から期間取っているのは何でじゃ(いわゆる「3つの過剰」が段々大きな問題と認識されてきた時期からスタートしているってのが気になるんですよねワシとしては)とか微妙によくわからんところではありますが、まあよくわからん。

ちなみにネタにしませんでしたが、5月の終わりにこんなのが出ていまして、
https://www.boj.or.jp/research/wps_rev/wps_2025/wp25j04.htm
わが国における設備投資の金利感応度
― パネルLP-IVを用いた検証 ―

全文はこちら
https://www.boj.or.jp/research/wps_rev/wps_2025/data/wp25j04.pdf
わが国における設備投資の金利感応度
― パネル LP-IV を用いた検証 ―

なお詳しく読んでいないのでこちらに関してはこういうのありますよというご紹介のみです。

でもって話を戻すと、

『この点、短観で今年度の設備投資計画をみると、3月調査から6月調査にかけて概ね例年のパターンに沿って上方修正されており、これまでのところ変調の兆しは窺われていない(前掲図表 19)。』

『この結果は、製造業大企業を中心にはっきりとした減益が予想されるなかでも、中期経営計画等で決定した案件を中心に、人手不足対応のDX投資や成長分野への研究開発投資などを積極的に実施するスタンスを変更していないことを示唆しているとの見方も可能である。』

可能である、という結びになっている時点で次の展開がお察しですけれども、

『もっとも、大企業の設備投資計画について、負のショックで減益等となった年度の修正の足取りを確認すると(図表 B2-3)、その時々のショック発生のタイミングにもよるが、総じてみれば、設備投資計画が6月調査時点で腰折れすることはまれで、年度後半にかけて下方修正されていくケースの方が多いことが分かる。』

キタコレ!!!!!!!!!!!

ということでございますので・・・・・・・・

『こうした過去のパターンを踏まえると、企業が、各国の通商政策や貿易交渉の今後の展開を睨みながら、現時点では設備投資に関する意思決定を先送りしている可能性も否定できない。』

ほうほう。

『こうした可能性も念頭に置いて、企業の投資スタンスの短期的な変化が表れれやすい各種の先行指標をみると、@工作機械受注・内需は、自動車関連メーカーからの発注減を主因に足もとで弱めの動きとなっているほか、A設備投資意欲DIも、このところ輸送用機械を中心に幾分低下している点には留意する必要がある(図表 B2-4)。』

ほう。

『また、本年7月の「地域経済報告(さくらレポート)」でも紹介されているとおり、企業ヒアリングでは、積極的な投資スタンスを維持するとの声が聞かれている一方、通商政策を巡る不確実性の高さから、設備投資計画の見直しを検討しているとの声や、実際に一部の能増投資を先送りしたとの声も聞かれている。』

さっき引用した部分が簡単なまとめですね。

『通商政策を巡る不確実性の高まりが設備投資に与える影響については、時間をかけて顕在化してくる可能性もあるため、今後のデータやヒアリング情報を丹念に点検していく必要がある。』

という結論でして、まあこれ自体はご尤もなお話なんですけれども、総裁会見(今日はそこまでネタにしている時間がないですがどうせ今回は急ぐ話でもないのでボチボチと成敗して参ります)では「通商政策の影響はこれから出てくる」という話を連呼するもんだから「こいつ政策調整やる気ないハトハトだわ」という話になってしまう訳でして、なんちゅうかコマッタモンダよなとは思います。

でもってですね、じゃあ本件に関してはどうですねんという話ですが、『図表B2-3:負のショック時の設備投資計画』という図に、

『(注)1. 短観ベース(全産業大企業)。2003/12月調査以前は、金融機関を含まない。
2. ソフトウェア投資額・研究開発投資額を含み、土地投資額は含まない(2016/12月調査以前は、研究開発投資額を含まない。また、2003/12月調査以前は、ソフトウェア投資額を含まず、土地投資額を含む)。
3. 過去の年度は、1997年度:アジア通貨危機、2000年度:ITバブルの崩壊、2008年度:リーマン・ショック、2019年度:米中貿易摩擦、2020年度:コロナ禍。』

ってのがあります次第でして、このグラフを見ますと9月短観と12月短観を見て判断(9月時点でコケれば9月で判断)って感じですので、これまた12月短観結果が出てくるのが12月決定会合の直前になるので、つまりは12月か1月には関税政策が設備投資行動に与える影響については分かります、ってお話になろうかとは思います。


ということでここまでのBOXは9月10月の政策調整を示唆しない内容なのですが・・・・・・・・・


・物価上振れリスクについて:

最後が『(BOX3)最近の食料品価格上昇の背景とその影響 』です。

『過去1年間の物価動向を振り返ると、消費者物価(除く生鮮食品・エネルギー)の前年比は、昨年7月の+1.9%をボトムに本年6月の+3.4%へと、+1.5%ポイント、プラス幅を拡大してきた(図表 B3-1)。』

ちなみにこの間の日銀様の想定ですが、展望レポート・ハイライトを見ますとご案内の通りで、

2024年7月展望レポート
https://www.boj.or.jp/mopo/outlook/highlight/ten202407.htm
物価は来年度以降2%程度で推移する

2024年10月展望レポート
https://www.boj.or.jp/mopo/outlook/highlight/ten202410.htm
物価は来年度以降2%程度で推移する

2%に向けてダッシュ(2024/07)してみたりパラグライダーで着陸(2024/10)してみたりということで、物価安定目標を標榜しているのに全然お前の見通しに沿ってないじゃん何が物価安定じゃヴォケといったところですが、

『この間、米などの食料品価格の前年比は+2.7%(除く生鮮食品・エネルギーに対する寄与度+0.7%ポイント)から、+8.4%(同+2.2%ポイント)と大幅に上昇しており、ここ1年間の物価上昇率加速の大半は、食料品価格の上昇によって説明できることがわかる23。』

でもって脚注23なのですが、

『23 ここでの食料品価格は、消費者物価(食料除く生鮮食品・酒類)を指す』

ってことなので生鮮を除くベースの話をしているので。

『他方、消費者物価(除く食料・エネルギー)の前年比は、+1%台半ばで安定的に推移している。』

という話になっているのですが、そもそも生鮮の場合は天候要因のワンオフって説明をするのはまあ良いんですけど、食料品価格の上昇って言った場合にはそらワンオフなのかって話になると思うのですが先に進みまして、

『本BOXでは、最近の物価上昇をけん引している食料品価格上昇の背景とその影響について、考察する。』

ということで始まり始まり。

『品目別にみて、この1年間の食料品価格上昇に最も大きく寄与しているのは、米価格である。』

で??

『米価格は、消費者物価総合に対するウエイトでみて0.6%(1万分の 62)に過ぎないが、足もとでは前年比+100%近い上昇率となっており、本年6月の除く生鮮食品・エネルギーの前年比に対する寄与度は+0.7%ポイントと、大きな押し上げ要因となっている。』

だから2025年度見通しを+0.5も上方修正した、と言いたいんでしょうけれども別に4-6で急に前年同月比2倍になった訳ではなくてその前から問題になっていたと思うのですが・・・・・・・・・

『こうした米価格の上昇には、天候要因による供給量の減少と昨年夏の南海トラフ地震臨時情報に伴う需要拡大が重なって発生した超過需要が、直接的な起点となったことが指摘されている24。』

逆に言えばその時点で米価格のある程度の上昇を見通しに何で織り込んでなかったのあんさんら。

『やや長い目でみると、2022 年以降、輸入物価が大幅に上昇するなかでも、@肥料代や燃料費などの農業生産コストの転嫁があまり進んでいなかったことに加えて、Aパンや麺類など他の食料品価格と比較した相対価格が大幅に低下していたことも、最近の米価格上昇の背景にあるとみられる。』

日本農業新聞を読むと吉(日本農業新聞社の回し者ではありません)

『米以外の食料品でも、菓子類や調理食品など幅広い品目の価格が上昇している。』

さいですな。

『その背景を定量的に把握するため、輸入物価(飲食料品)、消費者物価(米類)、消費者物価(食料除く米類)、失業率ギャップ、中長期インフレ予想からなる5変数VARモデルを推計した。』

ナンジャソラと思いますがまあさて先に進みますと、

『ヒストリカル分解の結果をみると、米以外の食料品の価格上昇には、@米価格上昇の波及効果(具体的には、おにぎりや無菌包装米飯、すし弁当等の価格上昇)に加え、A輸入食料品の価格上昇も、チョコレートやコーヒーの価格上昇というかたちで大きく寄与してきたことが確認できる(図表 B3-2)25。』

『図表B3-2:米類を除く食料品価格の動向』ってのを鑑賞してみてください。

『後者の輸入食料品価格上昇の背景を詳しくみるため、主要な食料品の国際商品市況の動向を振り返ると、小麦や大豆の価格は、ロシアのウクライナ侵攻後に大幅に上昇したあと、足もとでは落ち着きを取り戻している。一方、コーヒーやカカオ等の価格は、気候変動による天候不順の影響もあってか、2023 年以降、急激かつ大幅に上昇している。』

『これらの国際商品市況の上昇を受けて、円建ての輸入食料品価格の前年比は、為替要因が下押しに作用するもとでも上昇傾向にあり、輸入物価全体とはやや異なる動きを示している(図表B3-3、前掲図表 43)。』

問題はこれがワンオフなのか不可逆なのかという話になるんですけど・・・・・・

『米価格や輸入食料品価格の上昇の価格転嫁が進んでいる背景には、食料品メーカーが価格設定スタンスを積極化させている点も影響しているとみられる。』

キタコレ!

『実際、短観の物価全般の見通しをみても、食料品製造業のインフレ予想は、2014 年の調査開始以降、全産業と概ね同様の動きを続けてきたが、2022 年以降は、企業が直面するコスト上昇を背景に、全産業をはっきりと上回るペースで上昇している(図表 B3-4)。』

『図表B3-4:物価見通し(短観・5年後)』ってのは面白いです。さらに・・・・・・

『また、食料品は、ガソリン等と並んで、消費者の購入頻度が高く、人々の注目度も高いため、食料品価格の上昇は、この間の短期的なインフレ予想の高まりにも寄与してきた可能性がある。』

思いっきり寄与してるだろ(何なら中長期インフレ期待にだって寄与していると思うが)。

『実際、景気ウォッチャー調査のコメントから機械学習の手法を用いて作成される「物価センチメント指数(PSI)」26には、』

『26 PSIの詳細は、日本銀行ワーキングペーパー「機械学習による景気分析―『景気ウォッチャー調査』のテキストマイニング―」(No.18-J-8)を参照。』

これはだいぶ前のですが
https://www.boj.or.jp/research/wps_rev/wps_2018/wp18j08.htm
機械学習による景気分析
―「景気ウォッチャー調査」のテキストマイニング―

(全文)
https://www.boj.or.jp/research/wps_rev/wps_2018/data/wp18j08.pdf

になります。これはちゃんと読んだ覚えがあんまりない(汗)。

『ガソリン価格と並んで、食料品価格も有意な影響を及ぼしていることが統計的に確認できる(図表 B3-5)。』

だそうで、

『PSIは、1四半期程度先の消費者物価に対して予測力を有することから27、この間の食料品価格の上昇・高止まりは、短期インフレ予想の上昇を通じて、小売店舗の価格形成にも何らかのインパクトを及ぼしてきた可能性が高いとみられる。』

まあそうじゃろって体感的には思いますが、これって要するに「食品価格の上昇は供給ショックによるワンオフなだけではなくて、短期インフレ期待の上昇を背景にした面がある」という指摘でして、

『こうした食料品価格の上昇が相応の持続性を持って進行してきた重要な要因としては、この間の個人消費の底堅さも指摘できる。』

しらっと「供給要因だけじゃない」という話の続きでド直球の「需要要因」の指摘が来ます!!

『一般に、食料品価格の上昇による実質所得の減少は、個人消費にマイナスの影響を及ぼす。』

『もっとも、2024 年以降の実質可処分所得の動きをみると、春季労使交渉を反映した賃上げと雇用者数の増加により雇用者所得がはっきりと改善してきたことが、食料品価格上昇による下押し効果を相殺している(図表B3-6)。』

キタコレですな。

『雇用者数の増加は、女性を中心とした労働力率の上昇によってもたらされている(前掲図表 22)。この点を詳しくみるため、労働力フローの分析を行ってみると、2020 年代以降は、非労働力だった人々が新規に労働市場に参入したことが労働力率の上昇につながっていることが窺われる(図表B3-7@)。一方、2010 年代の労働力率の上昇は、定年延長や再雇用制度によって、既存の労働力が非労働力化する動きが抑制されてきたことも影響している(図表 B3-7A)。』

からの、

『今回の展望レポートの中心的な見通しでは、食料品価格の上昇は本年度後半にかけて一巡していくと想定しているが、食料品は消費者の購入頻度が高いものであるだけに、それが家計のコンフィデンスやインフレ予想、および個人消費に与える影響には、引き続き注意していく必要がある。』

という結論になっていまして、これすなわちアクチュアルの物価が日銀想定のように下がらない場合に、インフレ期待の上昇を通じるのが多分メインだと思うのですが、物価上振れの可能性があるってのが基本的見解のリスク要因にもありましたし、結構今回ちゃんと考察している訳でして、まあこれが前面に出てくるには物価が上振れくらいしないとって話だとは思いますが、別の要因(物価高放置批判とか円安振れて対応求められるとか)によって政策金利調整を前倒しするときの「美しい言い訳」に使う準備は出来ている、という感じなんじゃないかと思いました。メインシナリオではないと思いますけど・・・・・・・






2025/08/01

お題「決定会合レビュー」

あらあらまあまあ
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-07-31/SVYRELDWX2PT00
円が対ドルで150円台後半に下落、3月来の安値−日米金利差意識
清原真里
2025年7月31日 19:57 JST 更新日時 2025年7月31日 23:47 JST

『円は一時0.8%安の150円63銭まで下落した。日本銀行の植田和男総裁の会見で、期待されたほど利上げに積極的な姿勢が示されず、円売りが優勢となった。米国ではパウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長の発言を受けて利下げ期待が後退し、日米金利差はすぐには縮まらないとの見方が広がっている。』(上記URL先より)

・・・・昨日は展望レポートの数字が出た所で円高債券安になりましたが内容を読んでいるうちに徐々に戻って記者会見がハトハトチキン音頭になった所で円安アイヤーとなった、とまあそんな展開でしてハトハトチキン音頭は近所の盆踊りでやってくれと思いました、まる。

てなわけで。

〇政策は据え置きなのだが抜刀が無かったですなあ

https://www.boj.or.jp/mopo/mpmdeci/mpr_2025/k250731a.pdf
当 面 の 金 融 政 策 運 営 に つ い て

『日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を、以下のとおりとすることを決定した。』

『無担保コールレート(オーバーナイト物)を、0.5%程度で推移するよう促す。』

>(全員一致)
>(全員一致)
>(全員一致)

・・・・・・あらま抜刀斎が抜刀するかもとちょっとだけ思ったりもしたのですが、全員一致で抜刀無しですかそうですかという所でして、まあここの「全員一致で据え置き」は何だ関税合意を受けても盛り上がりに欠けるのか、とまずは思う訳ですな。


〇展望レポート基本的見解:メインシナリオ部分はハト転4月から基本は同じなのだが物価周りの記述がドテンしておりまして・・・・・

以下は展望からの引用になります
https://www.boj.or.jp/mopo/outlook/gor2507a.pdf
経済・物価情勢の展望(2025 年7月)
【基本的見解】


・見通し数値を見て初期反応が特に為替に出たのはまあ話としてはわかる希ガス

いつももだと鏡から参りますが今朝は数字の方から。

2025 年度
GDP: +0.5 〜 +0.7 中央値<+0.6>
4月時点の見通し +0.4 〜 +0.6 中央値<+0.5>

コアCPI:+2.7 〜 +2.8 中央値<+2.7>
4月時点の見通し +2.0 〜 +2.3 中央値<+2.2>

コアコアCPI:+2.8 〜 +3.0 中央値<+2.8>
4月時点の見通し +2.2 〜 +2.4 中央値<+2.3>

ということで2025年度のCPIをドチャクソ上げてきまして、そりゃまあこの数字見たら特に海外投資家とか反応する罠、という話でして、展望レポートのこの数字が出たときに為替ちゃんが割とビビッドに反応しました(円債市場はお休み時間だったのもあるけど円債はそこまで後場寄りで盛大に下がったわけでは無いし何なら引けにかけて横綱のがぶり寄りモードで値を戻しておられた)。

・・・・・とは言いましても、アタクシ拙駄文で申し上げていましたが、2025年の数値を上方修正したとて、「これはコストプッシュで一時的」と言ってしまうと結局大本営屁理屈的な政策インプリケーションが無い、ということになってしまうので2026年度2027年度はどないですねんというのを見るわけでして、こちらご案内の通りですが、

2026 年度
GDP:+0.7 〜 +0.9 中央値 <+0.7>
4月時点の見通し: +0.6 〜 +0.8 中央値 <+0.7>

コアCPI:+1.6 〜 +2.0 中央値 <+1.8>
4月時点の見通し:+1.6 〜 +1.8 中央値 <+1.7>

コアコアCPI:+1.7 〜 +2.1 中央値 <+1.9>
4月時点の見通し:+1.7 〜 +2.0 中央値 <+1.8>

うーんこのという感じで、まあ予想通りに+2.0に行かない数字を出してきているのがポイントでして、これは4月に堂々1年延長した目標達成時期が引き戻されることはない、というメッセージになっている、と考えるのが妥当なんですが、ゆうて数字だけ見ると+0.1こちらも中央値ベースで上がっているので、先ほどの+0.5と合わせて海外投資家方面は「おー」と反応するだろうな、と思う訳ですよ。

2027 年度
GDP: +0.9 〜 +1.0 中央値 <+1.0>
4月時点の見通し:+0.8 〜 +1.0 中央値<+1.0>

コアCPI:+1.8 〜 +2.0 中央値 <+2.0>
4月時点の見通し:+1.8 〜 +2.0 中央値 <+1.9>

コアコアCPI:+2.0 〜 +2.1 中央値 <+2.0>
4月時点の見通し:+1.9 〜 +2.1 中央値 <+2.0>

ってここの数字はゆうてみれば物価安定目標達成した時の定常状態の数字みたいなもんが出てくるのが今のところの仕様であえいまして、先の方では達成するから大緩和状態の調整を進めていきます、という建付けになっているのでこれもまあ従来通り、となるのですな。


・・・・・でですね、アタクシ先ほど「2025年度の物価を何ぼ上げたとて、コストプッシュで一時的音頭を踊りながら説明する分には政策インプリケーション無し」と申し上げましたが、実はそうではない、というのが今回の展望レポートにおける割とポイントになり得る部分になっている、というのが味わいがあるという能書きを後の方で行いたいと思います。では鏡に参ります。


今回展望(再掲)
https://www.boj.or.jp/mopo/outlook/gor2507a.pdf

6月声明文
https://www.boj.or.jp/mopo/mpmdeci/mpr_2025/k250617a.pdf

前回展望
https://www.boj.or.jp/mopo/outlook/gor2504a.pdf

鏡の部分は前回展望と比較します。

・経済メインシナリオは4月のハトハト転換で出てきた「海外経済が減速」をそのまま踏襲して変化なし

『先行きのわが国経済を展望すると、各国の通商政策等の影響を受けて、海外経済が減速し、わが国企業の収益なども下押しされるもとで、緩和的な金融環境などが下支え要因として作用するものの、成長ペースは鈍化すると考えられる。その後については、海外経済が緩やかな成長経路に復していくもとで、成長率を高めていくと見込まれる。』(今回展望)

『先行きのわが国経済を展望すると、各国の通商政策等の影響を受けて、海外経済が減速し、わが国企業の収益なども下押しされるもとで、緩和的な金融環境などが下支え要因として作用するものの、成長ペースは鈍化すると考えられる。その後については、海外経済が緩やかな成長経路に復していくもとで、成長率を高めていくと見込まれる。』(6月声明文)

『先行きのわが国経済を展望すると、各国の通商政策等の影響を受けて、海外経済が減速し、わが国企業の収益なども下押しされるもとで、緩和的な金融環境などが下支え要因として作用するものの、成長ペースは鈍化すると考えられる。その後については、海外経済が緩やかな成長経路に復していくもとで、成長率を高めていくと見込まれる。』(前回展望)

数字をさらっと見た後は当然ながら鏡の比較をするのですが、物価の方がドテンドテンの連発で手前の数字を上方修正させるわリスクアセスメントを改善させるわ、というプレイをしているのですけれども、このようにメインシナリオの方が相変わらず「トラ公のせいで海外経済が減速して本邦企業の収益が下押しされる」というのを前提に置いた説明になっていますので、これすなわち2025年度の物価上方修正の意味ねえじゃん、とまあここを素直に読むとそういう発想になる訳ですな、うんうん。

基本的にはそういうことではあるのですが、一方で今回別の仕掛けがある件については先ほども申し上げましたが後述。


・物価のメインシナリオもこれまた全然変わっていないんですよね

『物価の先行きを展望すると、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、2025 年度に2%台後半となったあと、2026 年度は1%台後半、2027 年度は2%程度となると予想される。このところの米などの食料品価格上昇の影響は減衰していくと考えられる。』(今回展望)

『消費者物価(除く生鮮食品)については、これまで物価上昇率を押し上げてきた既往の輸入物価上昇やこのところの米などの食料品価格上昇の影響は減衰していくと考えられる。』(6月声明文)

『物価の先行きを展望すると、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、2025 年度に2%台前半となったあと、2026 年度は1%台後半、2027 年度は2%程度となると予想される。これまで物価上昇率を押し上げてきた既往の輸入物価上昇やこのところの米などの食料品価格上昇の影響は減衰していくと考えられる。(前回展望)

まずはアクチュアルの物価に関してですが、数字の方はまあ数字の通りですって話でまあいいんですけど、基本的な見通しは「アクチュアルな物価は主にコメを起点とする物価上昇はコストプッシュで一時的」って説明になっていますわな。前回は輸入物価上昇があったが足元輸入物価上昇は一服しているので記載削除されているのも順当。

・・・でまあその見通しはその見通しでそういう思想ですよね、というお話ではあるのですが、おまいら「食料品価格上昇の影響が減衰する」も含めて4月展望で「物価の先行きリスクは下にティルト」って説明しておいて、その食料品価格の影響の上下を読み間違える(この間に大きな供給ショックでも起きているのなら弁解の余地はあるがそんなものは無かったですわなこの3か月)というすさまじいプレイをした挙句の+0.5%とかいう大きな上方修正している訳で、おまいらのアクチュアル物価見通し今回も大外れやん、と言いつつ例の基調の方に行きますと、


『この間、消費者物価の基調的な上昇率は、成長ペース鈍化などの影響を受けて伸び悩むものの、その後は、成長率が高まるもとで人手不足感が強まり、中長期的な予想物価上昇率が上昇していくことから、徐々に高まっていくと予想され、見通し期間後半には「物価安定の目標」と概ね整合的な水準で推移すると考えられる。』(今回展望)

『この間、消費者物価の基調的な上昇率は、成長ペース鈍化などの影響を受けて伸び悩むものの、その後は、成長率が高まるもとで人手不足感が強まり、中長期的な予想物価上昇率が上昇していくことから、徐々に高まっていくと予想され、「展望レポート」の見通し期間後半には「物価安定の目標」と概ね整合的な水準で推移すると考えられる。』(6月声明文)

『この間、消費者物価の基調的な上昇率は、成長ペース鈍化などの影響を受けて伸び悩むものの、その後は、成長率が高まるもとで人手不足感が強まり、中長期的な予想物価上昇率が上昇していくことから、徐々に高まっていくと予想され、見通し期間後半には「物価安定の目標」と概ね整合的な水準で推移すると考えられる。』(前回展望)

ということで「基調的な上昇率(基調的な物価、ではない)」の表現も同じです。

ちなみに展望の鏡の方で「消費者物価の基調的な上昇率」という説明を載せるようになったのは2023年10月の展望レポートからです。

でまあこの「基調的な上昇率」ってをパラフレーズしてみれば「トレンドとしての物価上昇の状況」って話になるのですが、これを「基調的物価」って言い方をして説明しているから話がややこしくなる訳で、何らかの定義があって「まさにこれが基調的物価」みたいなのがあり、それが1.5%から2.0%の間、みたいな多少のレンジをもってスペシファイできるもの、みたいな感じで(特に植田総裁は)説明したがる訳ですな。

しかもその「ザ・基調的物価」が政策判断に直結しているかのような説明を植田さんが特にしている傾向に見える、ってのがありまして、だったら展望レポートのコミュニケーションでコアCPIとかコアコアCPIとか出さないで「基調的物価の想定値」ってのを出せやと悪態をつきたくなるわけですよ、アクチュアルの物価の見通しを+0.5%とかいう大幅修正しておいて政策何も動かん、となったら益々そういう疑問って湧きおこるじゃろと。

・・・・とつい謎演説をしてしまいましたが、上記のように物価って手前の見通し数値をドテン倍返しの勢いで上方修正する、という割と凄い事をしている(ので為替が初手で円高に振れた次第)のにも関わらず、見通し全然変えていない訳でナンジャコリャ感が満載になるわけですね。


・しかしたった3か月の食料品価格要因だけで+0.5%も上がるのかよ

『前回の見通しと比べると、成長率については概ね不変である。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比については、2025 年度は、食料品価格上昇の影響を主因に上振れているが、2026 年度と2027 年度は概ね不変である。』(今回展望)

『2026 年度までの見通しを前回の見通しと比べると、成長率については、2024 年度は幾分上振れているが、2025 年度と 2026 年度は、各国の通商政策等の影響を受けて、下振れている。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比については、2025 年度と2026 年度は、原油価格の下落や今後の成長ペース下振れの影響などから、下振れている。』(前回展望)

中央値ベースで一応0.1上がってるじゃん説はあるが「概ね不変」になっていまして、これまた前回同様でっせということなのですなわち4月のハトハトチキン音頭が変わらん、というように見える(必ずしもそうではないのですがそれはしつこいようですが後述)次第。


・リスク要因は引き続き通商問題ですがさすがに「きわめて」は削除

『リスク要因としては様々なものがあるが、とくに、各国の通商政策等の今後の展開やその影響を受けた海外の経済・物価動向を巡る不確実性は高い状況が続いており、その金融・為替市場やわが国経済・物価への影響については、十分注視する必要がある。』(今回展望)

『リスク要因としては様々なものがあるが、とくに、各国の通商政策等の今後の展開やその影響を受けた海外の経済・物価動向を巡る不確実性はきわめて高く、その金融・為替市場やわが国経済・物価への影響については、十分注視する必要がある。』(6月声明文)

『リスク要因としては様々なものがあるが、とくに、各国の通商政策等の今後の展開やその影響を受けた海外の経済・物価動向を巡る不確実性はきわめて高く、その金融・為替市場やわが国経済・物価への影響については、十分注視する必要がある。』(前回展望)

皆様ご案内の通りで、「きわめて高い」が「高い状況」と若干格下げされましたが、そりゃまあ日米とか米欧とかが合意しましたからそうなりますよねって話。


・物価のリスクバランスがドテンドテンですが・・・・・・

『リスクバランスをみると、経済の見通しについては、2025 年度と 2026 年度は下振れリスクの方が大きい。物価の見通しについては、概ね上下にバランスしている。』(今回展望)

『リスクバランスをみると、経済の見通しについては、2025 年度と 2026 年度は下振れリスクの方が大きい。物価の見通しについても、2025 年度と 2026 年度は下振れリスクの方が大きい。』(前回展望)

『リスクバランスをみると、経済の見通しについては概ね上下にバランスしている。物価の見通しについては、2024 年度と2025 年度は上振れリスクの方が大きい。』(前々回1月展望)

この凄まじいまでの物価リスク認識のドテン振りを見よ、って感じでして、「下振れリスクが大きい」と豪語しておきながらその3か月後に+0.5%も上方修正するとか恥ずかしくないのかお前らというお話ですが、問題はこの「物価の見通し上下にバランス」の内訳なんですよ・・・・・・・・・



・ということで一気にワープするんですが「物価のリスク要因」の記述の変化に注目すべき

基本的見解本文中の『(2)物価のリスク要因 』の中に見逃せない記述がありましてですね。

『第1に、企業の賃金・価格設定行動やそれらが予想物価上昇率に与える影響である。』(今回展望)
『第1に、企業の賃金・価格設定行動やそれらが予想物価上昇率に与える影響である。』(前回展望)

の部分なのですが、

『企業の賃金・価格設定行動は、従来よりも積極化しており、中心的な見通しでは、成長ペースが鈍化し、物価に対する下押し圧力として作用するもとでも、賃金と物価が相互に参照しながら緩やかに上昇していくメカニズムは維持されると想定している。』(今回展望)

『企業の賃金・価格設定行動は、従来よりも積極化しており、中心的な見通しでは、成長ペースが鈍化するもとでも、こうした傾向は維持されると想定している。』(前回展望)

しれっと今回「賃金と物価が相互に参照しながら緩やかに上昇していくメカニズム」って文言が入ったのですが、これって先般の内外情勢調査会での植田総裁の講演の中で使わていまして、

https://www.boj.or.jp/about/press/koen_2025/data/ko250603a1.pdf
最近の経済・物価情勢と金融政策運営
―― 内外情勢調査会における講演 ――
日本銀行総裁 植田 和男


(以下2025年6月4日にアタクシが書いた駄文を再掲します)

・好循環は遂にお蔵入り(か????)

先ほどの部分を再掲しますが、

『もっとも、現時点で日本銀行としては、わが国経済は、こうした下押し圧力を受けつつも持ちこたえ、賃金と物価が相互に参照しながら緩やかに上昇していくというメカニズムも途切れることはないと見込んでいます。』

>賃金と物価が相互に参照しながら緩やかに上昇していくというメカニズム
>賃金と物価が相互に参照しながら緩やかに上昇していくというメカニズム
>賃金と物価が相互に参照しながら緩やかに上昇していくというメカニズム

・・・・・( ゚д゚)
・・・・・(つд⊂)ゴシゴシ
・・・・・( ゚д゚;)

なんですかこれはという感じですが、まあさすがに「好循環」って言ってると今は政治ばかりが叩かれているので日銀セーフ(寧ろ利上げするなとか言われていて金融リテラシー無し無しムーブなのが悲しいですが)という図になっていますが、どこかでうっかり犬笛を吹かれたらどうみたって「好循環」って炎上要素ですから、そらまあ好循環はお蔵入りさせろというのはあったのですが、今回しれっとお蔵入りですかね、まあ今後も確認したいですけど。

(ここまで2025年6月4日に書きました拙駄文の再掲です)

ってな訳で「好循環」がお蔵入りしまして、装いも新たに「賃金と物価が相互に参照しながら緩やかに上昇していくメカニズム」に変わりました。

・・・・でまあ変わったのはいいんですけど、それってメカニズムが加速したら普通に「インフレスパイラル」になるってお話になりますので、加速しないかどうかを見ないといけませんよね、とも思うのですがその辺どうなんでしょ。


では続きですが、

『もっとも、今後の各国の通商政策等を巡り不透明感が高い状況が続くことがあれば、コスト削減に注力する傾向が強まる可能性がある。こうしたもと、物価上昇を賃金に反映する動きが弱まることも考えられる。』(今回展望)

『もっとも、今後の各国の通商政策等を巡り不透明感が高い状況が続くことがあれば、コスト削減に注力する傾向が強まる可能性がある。こうしたもと、物価上昇を賃金に反映する動きが弱まることも考えられる。』(前回展望)

ここは従来通りの企業行動下方屈曲懸念を特に賃金面で指摘の図です。


『一方、販売価格に賃金を反映する動きが想定以上に強まったり、先行き労働需給が引き締まった状況が続くとの見方が強まるもとで、賃金の上昇圧力が強まっていく可能性もある。こうしたもとで、中長期の予想物価上昇率の高まりを伴いつつ、賃金・物価とも上振れていくことも考えられる。』(今回展望)

『一方、販売価格に賃金を反映する動きが想定以上に強まったり、先行き労働需給が引き締まった状況が続くとの見方が強まるもとで、賃金の上昇圧力が強まっていく可能性もある。こうしたもとで、中長期の予想物価上昇率の高まりを伴いつつ、賃金・物価とも上振れていくことも考えられる。』(前回展望)

ここから上振れの話になりまして、最初の部分は同じなのですが次が今回のハイライトの一つとなりますわな。


『この間、このところの米などの食料品価格上昇については、天候要因等の影響が大きく、消費者物価の押し上げ寄与は次第に縮小していくと想定している。もっとも最近の価格上昇には、人件費や物流費を販売価格に転嫁する動きも相応に影響しており、企業の賃金・価格設定行動次第では、価格上昇が想定以上に長引く可能性もある。食料品は消費者の購入頻度が高いものであるだけに、価格上昇が長期化した場合には、家計のコンフィデンスや予想物価上昇率の変化を介して、基調的な物価上昇率に二次的な影響を及ぼしうる点にも留意が必要である。』(今回展望)

『この間、このところの米などの食料品価格上昇については、それ自体は天候要因等を背景とするものだとしても、家計のコンフィデンスや予想物価上昇率の変化を介して、基調的な物価上昇率に二次的な影響を及ぼしうる点にも留意が必要である。』(前回展望)

・・・・・いやーこの説明がクソ長くなりましたね。という話なのですが、特に今回詳しく述べている中で「もっとも最近の価格上昇には、人件費や物流費を販売価格に転嫁する動きも相応に影響しており」という部分が、足元の物価上振れの要因が必ずしもワンタイムのコストプッシュとは言い切れない(人件費や物流費の転嫁だからコストプッシュはコストプッシュだけど天候要因のようなワンタイムではなく持続的な要素が含まれている面が相応にある、というお話)と言っており、しかもその後に「価格上昇が長期化した場合には」二次的な影響を及ぼし得る、と「価格上昇が長期化した場合のリスクがある可能性」をスペシファイして指摘しているのもポイントになります。

つまりですね、従来日銀の説明って「コストプッシュだからいずれ下がるので政策対応せんんでヨロシ」で通していたのですが、「コストプッシュと言えども持続的になる可能性がある(政策対応云々は言ってないけど)」というのを前面に出してきた(もちろん日銀だってアホじゃないから認識は前からしてたでしょうけどこうやって表に出すのは今回を嚆矢とする訳で)、というのと「物価が高止まりした場合にトレンドインフレやインフレ期待に上方圧力を掛ける」すなわち「2%で止まらないリスク」についてより明確に説明した事、というのが地味に重要、ということですな。

特に後者に関して言えば、そもそも論として日銀のメインシナリオは「コストプッシュだからワンタイムが剥落すれば物価が下がる」と言いつつ手前の見通し常に外している訳でして、今回もその流れでやっぱり手前の見通し外すんじゃねえか説は濃厚な訳で(個人の感想です)、そうなりますと従来あまり言ってなかった「物価が上にオーバーシュートのリスク(あくまでもリスクであってメインは変更ないハトハトですけど)」を突っ込んできた、という訳ですので、そうなると「上振れリスクにも目配りして今の大幅な緩和状態の幅を小さくする調整が必要」ってのが早期に打ち込まれる(もちろんその時に物価上昇が鈍化したり通商問題が爆発してたらメインシナリオはハトハトなんだからハトハトのままでしょうけれども)という可能性が無いとは言えない、という事かと思います。


〇記者会見雑感メモ(本当にメモだけ)

時間も無いのと会見要旨出てから、ではあるのですが、会見の植田さんの説明が相変わらずのハトハト音頭でナンジャソラとなって円安になったのはご案内の通りですが、今回おーと思ったのは従来「住宅ローン金利ガー」とか「借入金利上昇で中小企業ガー」とかいう感じで利上げするな見たいな質問が散見されていた会見が、今回は「この物価上昇の中何で利上げしないんですか」の方向に一気に傾いたことだな、と思いました。

まあよく考えたら当たり前というか、アタクシ的には前回の衆院選だって前面には出てなかったけど物価高は与党のダメージになっていたと思っていましたから反応が遅いわとは思いますが、まあ遂にそうなったか、というのは感慨深く会見を眺めておりました、ということで本日はこの辺で勘弁。