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2016/10/31

お題「各種日銀から出ているペーパーのメモ/いまさらながらECB会見ネタ」

何か渡辺センセって毎度のようにモーサテに出ているのだが話にネタ切れ感があるし、そんなにしょっちゅうモーサテ出ていたらヒマなのかと思われるような気がするんでもう少し出し惜しみした方が良いのではないかと思うのですが。

○日銀コアCPIェ・・・・・・・・・・

http://www.boj.or.jp/research/research_data/cpi/cpipre.pdf
消費者物価の基調的な変動

『総合(除く生鮮食品・エネルギー): 8月0.4→9月0.2
刈込平均値: 8月0.0→9月-0.1
上昇品目比率−下落品目比率: 8月34.0→9月28.1』

9月都区部CPIは若干マシ(総合でレタスが物凄い勢いで寄与しているのが話題になっていましたが)だったような感じもしますが、この日銀公表のCPIの結果が残念感満載の数字となっていまして、特に刈込平均がマイナス化しているのは、2013年にプラス転してからプラスで推移だったので、マイナス転ってどう見てもこれインフレ期待が全然形成できてないじゃろうという結果。

でもってですな、どうせ明日の決定会合は物価2%達成時期の見通しが先送りになるのにもかかわらず金融政策変更は無い、というお話なので(この「無限クレクレ地獄からの脱却」だけは先般の政策変更での大成功部分でここだけは高く評価したい)、政策には影響ないのですけれども、それにしてもこの「基調的な物価」の内容が着実に悪化しているのはどうなんでしょと。

2013年のスタート時点に向けて日銀コアも刈込平均も着実に本家帰りしている(上昇品目−下落品目は大きくプラス状態のままですけれども)というこの結果を見ますと、QQEとは何だったのかという世界で、本当に基調的な物価に影響を与えたのか、与えたのだったら足元下がっているのは今後どうすれば上がるのか、実はあんまり意味が無くて単に景気循環での上げ下げを増幅しただけだったとか、そういうツッコミが来たらどういう答えをするのですかねえ、とは思うのですが、どうせ総括検証での「効いたけれども原油ガー消費税ガー」だという話なのでしょうな、と思うのですが、そう考えますと「総括検証」をして同時に追加緩和政策クレクレを遮断したのというのは、9月末〜10月末の2発の間に出てくるこの残念な物価状況があって、あまりのんびりしていられなくなっていたという事だったんでしょうかねえ、と思うこの結果。


○債券先物の日中市場流動性というのが出ているのだが直近分を出して頂きたく

リサーチラボシリーズ
http://www.boj.or.jp/research/wps_rev/lab/lab16j08.htm/
わが国の国債先物の日中市場流動性

『要旨』

『本稿では、日中取引データを用いて日本国債先物市場の流動性を分析したTsuchida, Watanabe, and Yoshiba (2016) [PDF 1,103KB]の概要を紹介する。まず、市場流動性を(1)値幅の狭さ、(2)市場の厚み、(3)市場の弾力性、(4)取引数量といった複数の評価軸で捉え、経済指標や金融政策の公表が市場流動性を概ね引き下げることを示す。次に、市場流動性指標のショックに対する持続性は、量的・質的金融緩和が導入された2013年4月頃に一時的に高まり、その後低下したものの、値幅の狭さや市場の厚みなどでは2013年以前の水準までは戻り切っていないことを示す。』

ということで、元のペーパーは英文なのですが、こちらの要旨紹介ということで以下概要説明があるのですけど、まあペーパー紹介だから仕方ないのですが・・・・・・・・・・・・・・・・・

『はじめに』

『国債市場の市場流動性は、中央銀行の市場モニタリングにおける重要な指標の1つであり、日本銀行でも長年にわたり分析されてきた。最近では、土川・西崎・八木(2013)や黒崎ほか(2015)が日本銀行による量的・質的金融緩和の導入以降のデータも用いて国債の市場流動性を分析している。こうした中、U.S. Department of the Treasury et al. (2015) は、2014年10月15日の約15分間に米国債価格が乱高下した現象について日中流動性の変化を詳細に分析している。』

この時のフラッシュクラッシュネタに関してはFRBのパウエル理事がファイナンシャルスタビリティー絡みの結構多岐に渡る考察をした講演が昨年位にあって、金融市場の安定化がどうのこうの中でこのフラッシュクラッシュについて金融安定化の観点からどのように対処すべきかという話をしていて講演そのものはネタにした覚えが(と思ったら最近すっかり分類整理をさぼっている(ページ容量がマズーなのとか事情があるにはある)過去ログのhttp://www.h5.dion.ne.jp/~bond7743/seisakuforeign15-02.html#seisakuforeign150817の前後にこのネタを突っ込んでいました)。

http://www.federalreserve.gov/newsevents/speech/powell20150803a.htm
http://www.federalreserve.gov/newsevents/speech/powell20150803a.pdf
Governor Jerome H. Powell
At the The Brookings Institution, Washington, D.C.
August 3, 2015
Structure and Liquidity in Treasury Markets

『Bank for International Settlements (2016) でも、先進各国の国債市場で値幅や厚みといった流動性指標が頻繁に急変動していることが報告されている。』

ということで・・・・・・・・・・・・・・・

『Tsuchida, Watanabe, and Yoshiba (2016)(以下、TWY)では、長期国債先物中心限月のうち日中のザラバ取引(前場:8:45〜11:00、後場:12:30〜15:00)について日経NEEDSのデータベースを利用して分析を行っている。まず、2005年1月初〜15年5月末の価格と実現ボラティリティについて、日次データをプロットすると、図1のようになる。ここで実現ボラティリティは前場と後場の5分ごとのリターンの2乗を合計して計算している。』

てな分析をしていて、これまあペーパー出したのが7月(その後9月に一部改訂)なので仕方ないのですけれども、マイナス金利政策を打ち込んだ後と、その後のYCCによってどうなるのかというのを今後同じように出していただいて、どのような現象になっているのかという話を追加して頂きたいので、それが出てから改めて熟読することにしましょう。


○短国買入1兆円とな(メモ)

http://www3.boj.or.jp/market/jp/stat/ba161028.htm
国庫短期証券買入 15,504 10,001 -0.009 0.000 72.6

応札1.5兆円ということで札から逆算して突っ込んだ感もありますが、一時のだぶつき感から需給の方は改善しておりますようで。しかし短国需給改善気味でも利付の方は短い所引け甘で引かせるとかこの辺りの需給は奥が深くて難しい。


○これまた今更ネタ(追いついていないとか言わないように)ですがECB会見

こらまた先々週木曜とかなのですが、まあここもとネタが色々と錯綜していてどこをどう成敗したら良いのかでアタクシも正直泡吹きマンと化していましたすいませんすいません(まだ泡は出ている感がありますが)。

http://www.ecb.europa.eu/press/pressconf/2016/html/is161020.en.html
Introductory statement to the press conference (with Q&A)
Mario Draghi, President of the ECB,
Vitor Constancio, Vice-President of the ECB,
Frankfurt am Main, 20 October 2016


・誰が見ても分かると思うがもう「追加緩和だぜヒャッハー」ではないのは明らか

まあ既にこの会見ネタは皆様ご案内の事とは思うので単に俺様向けメモ状態になっておりますが、10日位経過してそろそろ皆様忘却の彼方に向かう頃でしょうから改めてご確認にでもなれば幸いです。

最初の質疑から。

『Question: Could you give us a bit of a clearer idea on how you will assess whether inflation is on a sustained path towards price stability? Some of your colleagues have said that perhaps you might want to see a period of overshooting; or will you be looking at core inflation? What are going to be the key parameters that you'll be looking at?』

物価が持続的な上昇パスにある云々だがそもそも何を見て判断しているのかが分からんのだがどうなっとるんじゃと。

『My second question is: has there been any discussion today about a change in policy, specifically whether you might want to extend the QE programme beyond March 2017?』

来年3月のQEエンドの延長議論は?

というののお答え。

『Draghi: The answer to the second question is no, there was no discussion.』

この調子でこの後質問があってもこちらはゼロ回答。

『In answer to the first question, it's really nothing new. I myself and my colleagues, I think, said several times that when we speak of convergence to our objective, this convergence has to be sustainable and durable, and actually as a matter of fact should be self-sustained.』

持続的な状態とは何ぞやとかどうなったら持続的に行けますかという議論は当然いつも行っているよと来ますが、この先が色々とオモロイ。

『In other words, right now we're all aware that the monetary policy support that is in place is extraordinary. And we know and I've said that the projections that are part of our outlook reflect financing conditions, which reflect expectations, that this support remains in place. The financing conditions not only, of course, are the output of these expectations, but also of other factors - like monetary policies in other jurisdictions, but more generally of many other factors.』

ここまでは良いとして、

『So they do reflect also the expectation that this extraordinary policy support will remain in place. But does it mean that it can stay in place forever? The answer is of course no. We want a convergence which is self-sustained, in other words, without the extraordinary policy support that is in place now.』

「この異例の金融政策のサポート無しで持続的な物価安定をして行かなければいけない」というのは極めて正論にも程があるのですが、どこぞの黒田節の大先生のように「とにかく緩和をするぜヒャッハー」というトーンじゃなくなっているように見えますな。

『Second, we've said several times that durable convergence means that this objective should be achieved in a sustainable and durable way. Namely, we'll look through blips that are caused by other factors. I think I've said everything here.』

まあ物価に関しては物価動向やインフレ期待のみならず、ファイナンシャルコンディション見ていくとか、貸出見ていくとか経済全体をみて判断というのはまあ普通ですの。


・失言なのか意識してやっているのか良く分からんが

次の質疑でTaperingという言葉が登場。

『Question: My first question is, you said in December you’ll benefit from the work of the committees reviewing the programme. So, could you give us a bit of a flavour of, I guess, certain reports, preliminary reports on the work of committees that have already arrived? Just give us a general idea, a broad outline of what measures you could be looking at, what measures are definitely out of the question.』

12月にレビューが出るそうだが何かヒントになるようなものは無いの?

『My second question would be more general, I guess: in your opinion what really provides the stimulus in your QE programme? Is it the stock or the flow of your purchases? Because when you first designed the programme you gave the market a clear idea of the size. Now more recently the focus of the market seems to be shifting more to the monthly flow of your purchases. How would that shift impact your current review of the programme, and your eventual decision to exit the stimulus?』

QE(というかAPPという方が正しいと思うけど)のうち何が効いているの?ストック効果とフロー効果があると思うけど、最初ECBはストックビューで入っていたけど最近市場でもECBはフローの方にシフトしているという見方が強まっているよどうなんですか?

『Draghi: Let me tell you that the second point was not discussed, but it's in a sense part of your first question. We took stock of the ongoing technical work in the committees - work that is designed to ensure a smooth execution of the programme until March and beyond if necessary. We had a seminar and work was presented. We discussed various options, but options that really we consider in case we should be confronted with a shortage of purchasable bonds in some jurisdictions. The Governing Council reaffirmed the importance of very supportive financing conditions in fostering the recovery and a gradual return of inflation to levels close to 2% over the medium term. Sometimes it's also important to say what we did not discuss, and we didn't discuss tapering or the intended horizon - and here comes the second question - of our asset purchase programme.』

『And by the way, the Governing Council reaffirmed that it certainly would take into account the input of the committees, but it just remains the ultimate decision-maker here.』

ということで、結局ストック効果なのかフロー効果なのかについては無回答で、只今研究中とはゆうてますが、「買入の執行をスムーズに行うことが重要」的な方向で話を誤魔化している感じはある。

でもって最後の所で、「we didn't discuss tapering or the intended horizon」とやっていまして、これは先般のブルームバーグニュースの観測報道(の質問もありました)を念頭に置いての話なのでしょうが、ここでTaperingとか刺激的な言葉を使うからその後質問が出るわ出るわとなりました。わざとやったのかどうかは不明。


その後例えば、

『Question: You just mentioned there that tapering wasn't discussed today, but do you expect it to be on the agenda six weeks from now?(後半割愛)』

『Draghi: I'm sorry to say, but we haven't discussed that. We haven't really touched on the issue at all.(以下割愛) 』

と来たと思ったら、

『Question:(前半割愛)My second question is on tapering: is there a possibility that there couldn't be tapering? That there would just be an abrupt end to the bond purchases?』

『Draghi: That was never discussed, as a matter of fact. I would say, an abrupt ending to bond purchases? I think it's unlikely.(後半割愛)』

とか中々ワロタという質疑が連発していますが、それはそれとして次回何やるかに関しても従来のように威勢の良い話をするのではなくて、たとえばさっき引用した質疑の前半でも、

『Question: I know you say you didn't discuss the measures that might be taken to prolong QE. I wonder if you could give a sense of whether certain of them might be less contentious or more effective when that discussion does take place, in terms of buying beneath the deposit-rate floor, or the other options?(後半割愛)』

『Draghi:(前半割愛)On the first question, in a sense, why are we waiting for December? Because we want to see all the inputs that are useful to have this discussion, and that's important for having one view about which the Governing Council members can express their opinion. Right now we have options. In other words, to be more precise, we didn't go at all in the exercise of counting views or majorities - or not.』

てな感じで、「もう次にウホウホ追加緩和ですよ皆さんお待ちくださいウェーハッハッハ」というようなドラギ節ではなくなっているというのが印象としては受ける訳で、だいたいこのオッチャン昔から割と威勢が良いというか調子が良いタイプなので、進軍ラッパ吹いている時とオトボケ状態になっている時の落差が激しいのではありますが、まあ今回はトーンダウンをしている感がありますの。


・マイナス金利の弊害について

『Question: My question is about negative rates, because some central bankers have expressed concerns in the last days on the effects of negative rates on the lending of some banks. So I wondered if you've talked about it today in the Governing Council, or if there are some outcomes already on the effects of negative rates?』

(;∀;)イイシツモンダナー

『Draghi: First, we briefly touched on negative rates, or low rates more generally, during the discussion we had about the current outlook. The conclusion was that they don't hinder the transmission of our monetary policy. We have no evidence they actually hinder the transmission of our monetary policy.』

マイナス金利政策が金融政策のトランスミッションメカニズムを阻害はしていないし阻害しているような状況証拠もありません(キリッ)。

『In other words, low rates work. They have worked, like they've worked in other policy jurisdictions, and we are not the first to have low rates. Let me give you again a few numbers, some of which you've heard before.』

では効いている数字を出しましょう。

『First of all, what would happen if rates had not been what they've been? The counterfactual. The numbers here are that our measures taken from 2014 to March 2016 have generated additional inflation, cumulative inflation over the 2016-2018 period of 1.4 percentage points, and 1.3 pp of additional growth.』

金融緩和効果で物価と成長に効果このようにありましたとか言われても実際に追加やらなかった時との比較が出来ないのでこれは言ったもん勝ち。

『The second point is, just look at the behaviour of rates since then till now. They are dramatically lower across the spectrum. We've basically eliminated what was called redenomination spread. We've eliminated fragmentation. If I just spend a second on the recent BLS, the recent bank lending survey, we see that net loan demand continued to increase for all loan categories. The credit standards continued to ease for households, and after nine months of continued easing they were unchanged for non-financial corporations, companies. And terms and conditions continued to ease, although banks expect a small tightening.』

金利を下げたので金利が下がりましたから効果ですというのもイカサマ論法ではあるのですが、一応スプレッドの縮小とか貸出金利が下がるとか、フラグメンテーション(懐かしいなこの言葉)が解消に向かったとか言っているだけどこぞの日銀よりマシ。

『Corporate bond issuance increased markedly. That's the other, I would say, significant number. The net issuance of corporate bonds in September has been very marked, and it's basically caused by our corporate bond purchase programme. Lending rates are now at a historical low - that is another point that we want to remember - and the credit volumes have recovered since the beginning of 2014 from, by and large, -3% growth in 2014 to +2% growth now. But as you can see the growth is still subdued. So it continues. It's steady. It follows basically the real economy growth. It's steady but it's moderate.』

『But there are other important pieces of evidence that come when we look at M3, where we see that the largest contribution to the robust growth of M3 comes more and more from non-governmental sectors, namely households and firms. So these are all pieces of evidence that our policy is being transmitted more and more effectively to the economy.』

あと社債発行などのクレジットの拡大とM3の伸びを示していますな。まあこの辺の説明をしているということはマイナス金利はすいませんでしたごめんなさいという事にはならないようには思えるのですが、かと言いましてもこれから追加緩和ヒャッハーという話でもないという事ですな。

ちなみに時間の都合で引用しませんが、質疑の中で英国メイ首相の発言に触れた部分があって、金融政策が格差を拡大しているのではないかという点にどう思いますかというのがあって、ああなるほどこの前の講演でそういう話をしていたのはその手の批判も来ているんだなというのは把握しました。

まあヒャッハー感がほぼ無いなあという感じの会見ではありました。改めてで恐縮ですが。








2016/10/28

お題「MPMプレビュー関連雑談/FSRでマイナス金利長期化について一番悪態ついている部分を鑑賞」

105円キター!
http://jp.reuters.com/article/forex-ny-1027-am-idJPKCN12R26N
Business | 2016年 10月 28日 01:06 JST
ドルが一時3カ月ぶり高値の105円、12月米利上げ観測で=NY市場

・・・・・・・・とは言ったものの、良く良く考えたらちょっと前は105円割ったら追加緩和待ったなしとか言われていたのに結構のらりくらりとやり過ごした挙句に総括検証で追加緩和期待を無くしましたなあ(しみじみ)。


○黒田総裁と岩田副総裁が国会に登場していたようなので関連雑談とMPMプレビュー

いやまあ何と申しますか・・・・・・・・・・・・

http://jp.reuters.com/article/boj-iwata-idJPKCN12R09K
Business | 2016年 10月 27日 12:01 JST
長期金利操作は量も重視、「私の考えも進化」=岩田日銀副総裁

『[東京 27日 ロイター] - 日銀の岩田規久男副総裁は27日、参院財政金融委員会で、日銀が9月に政策の軸足を「量」から「金利」に転換し、イールドカーブ・コントロール(長短金利操作、YCC)を導入したことについて、長期金利の操作目標の実現には多額の国債買い入れが不可欠であり、量の面を重視していることに変わりはない、との見解を示した。同副総裁はこれまで量の効果を強調してきたが、長期金利操作の実現可能性とともに「私の考えも進化してきた」と語った。風間直樹委員(民進)の質問に答えた。』(上記URL先より)

・・・・・・・・・・・・まあ何ちゅうかもうねという感じですが、次の黒田総裁の答弁もそうなのですけれども、債券市場が全然動いていないもんだから「イールドカーブコントロールが上手く行っている」と思っている節があるのが何か新たな悲劇または喜劇の前振りのような気がします(私の考えが進化とかもう見苦しい以外の何物でもないがそっちではなくて前向き(?)な感想としてね)。

まー何回か申し上げたと思いますが、そもそも「10年金利ゼロ%」というのに何の根拠がありますねんと思いますし、イールドカーブの形状が何でMPM直前の状態が「たまたま」適正にいらっしゃるのかもさっぱり根拠が無いのですが、時間の経過と共に変化して然るべきなイールドカーブの水準は動く筈なのですがその時どうするんでしょうという毎度の雑談ですな。

まあ何ですな、そもそもこんな政策物価に碌すっぽ効かないどころかマイナス金利とか弊害の方が大きいから実は物価目標達成を遠くしてるじゃろ、という考え方も成り立つので、そうなりますと金利市場そのものはあんまり変わらないし、仮に変わったとしても実は効果もへったくれも無いからどうでも良い、という事になるかも知れないので、そうなると相場が固まったまま状態が続いたりするんですが、その際には「イールドカーブコントロールは出来ているけれども別に何の効果も出ていない(正確には効果と副作用が相殺してやっている事が意味なし状態になっている)」という事になるので、結局これまでの政策と同様に、「物価目標は全然行かないのだが政策を維持するために政策を維持する」という事になりかねない、という可能性もあります。

でもまあ幾らなんでも普通に考えると、然るべき物価水準が永遠にこのままという訳は無い(あったら絶望なのは先程申し上げた感じ)ですし、その時にイールドカーブコントロールどうするかというのが金利上がっても下がっても問題になると思いますし、ひとたび介入水準に変化が起きた場合には、「また介入水準が変わるかもしれない」という事になって、今度は中々こうコントロール難しくなると思うのですよね。デジタルに水準の変化みたいなイメージなのですが、日銀が思うようにコントロールできるかというと、そこのところは良く分からなくて、市場の景況感、物価観によって勝手に動く一方で日銀が輪番調整して介入とかになるのでしょうかねえ、うーん中々難しい。


置物副総裁は相変わらず「量に意味がある」という話をしている訳なのですが、この量と金利コントロールの話も理屈としては矛盾がありまして、「本当に量が定量的に効くのであれば」、先行きのインフレ期待などの上昇やら経済物価情勢の改善などで金利が上昇した場合に、イールドカーブコントロールしようとして国債の買い入れを拡大したら、その増えた量によってスパイラルという話になる筈なのですが、まあここまでの経験で量が定量的に意味を出すものではないという自信(???)をリフレ派以外の皆さんは改めて認識したと思うので、こういう政策をやっても実はスパイラルは起きないし、ましてやオーバーシュートとか簡単にしないと思っているんでしょう。その辺をマジで懸念していたら仕組みの中にスパイラル的な要素を含んでいる政策なんて変な葉っぱでもキメて判断能力が無くなっているのでない限り実施しませんって、とは思います。


でもって黒田総裁。

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2016-10-27/OFOQ9C6S972901
黒田日銀総裁:超長期金利もう少し上がってもおかしくない
2016年10月27日 11:56 JST

ヘッドラインを送っている人が例の人っぽいので(そういえばMPM前に例の人が飛ばしてくる「関係者によると」の記事がインターネット版の方で拾えないのですが、ネット版出して後から一般ピープルの皆さん(アタクシもそうですけど)に後からネチネチ検証されるのマズーという判断になったのでしょうか)、ベンダーに出ていたヘッドラインがややキャッチーというか過激気味に出ていた(岩田さんの答弁のヘッドラインもそんな感じ)ようですが。

『日本銀行の黒田東彦総裁は27日の参院財政金融委員会で、超長期の金利が現在よりも多少上昇してもおかしくはなく、直ちに引き下げに動く必要性もないとの考えを示した。』(上記URL先より、以下同様)

そらもう市場が反応しますわ。

『黒田総裁は金利動向について「超長期のところがもう少し金利が上がってもおかしくない。上がったら下げなくはいけないと考えるかどうかと言われると、今のところそういうふうには思っていない」と述べた。その上で「そういった意味で超長期債の投資家の状況も当然ながら十分考慮している」と述べた。風間直樹氏(民進)が、マイナス金利導入による機関投資家の超長期運用への影響について質問したのに答弁した。黒田総裁は「超長期、長期含めてイールドカーブが下がってどんどんフラット化したらいいとは考えていない」とも述べた。』

とまあそんなことを言っている辺り、先ほどの置物師匠の答弁とも重なりますが、どうも「イールドカーブのコントロールが出来ている」という自信満々モードになっているっぽいのが気に掛かる訳でして、そらまあこれだけ日銀がストックにしろフローにしろドミナントなプレーヤーになっていますからそれなりに「意思」を「買入の上げ下げ」という「行動」で示せば短期間においては金利水準の釘づけも可能だとは思うのですが、短期的な話と中長期的な話というのはまた別の話で、政策目的を達成しようというのがあるのですから、足元の金利水準が釘つけできて喜んでいる場合ではなくて、将来的に物価目標達成に向けて進む中でイールドカーブの今後の展開についてどういうデザインを考えているのか、というのが無い状態でこのまま特攻していく訳にも行かないと思うのですよね。

つーことで、何か「長期的に維持可能な政策枠組みへの変更」を行った、という触れ込みではあるのですが、結局の所「経済物価情勢があまり変化しない程度の範囲内」でしかこの政策って続けにくい(今申し上げたグランドデザインが示されるのなら別)ようにも見える訳で、3か月くらいしたらまた何か枠組みの工夫とかしないといけなくなるような悪寒もせんでもない。まあ今のまま経済物価情勢がヨコヨコで推移するなら持つけどさ。

てな訳で、QQEの時やバズーカ2の時とは別の市場の反応ではありますけれども、今回に関してもイールドカーブの釘づけが出来ているという現象面においては「作戦は上手く行ってる」状態で、どうも緒戦がうまく行くとすっかり調子に乗ってしまうと言う悪い仕様があるので、逆に大丈夫かという感じはします。


しかしまあ「超長期のところがもう少し金利が上がってもおかしくない」というのもふざけた話でして、マイナス金利突っ込んだときには超長期金利が低下したのを「政策効果」とか言っておいてお前は今更何を言ってるんだというのが一つと、もう一つはそもそもお前さんの政策に効果があるとか、それこそオーバーシュート型コミットメントにインフレ期待を引き上げる効果があるんだったらお前に言われんでも超長期の金利は上がるわヴォケという所でありまして、「もう少し上がってもおかしくない(キリッ)」とか言っている前に「もしかするとオーバーシュート型コミットメントの効果が期待されたように出ていないのではないか」と自省するのが本来の市場との対話だと思う訳で、てめーらの青年の主張を一方的に垂れ流すのが市場との対話じゃ無いんですがそれは、としか申し上げようが無かったり致します、はい。

あと気になるのは、ここの引用部分だと出ていないのですが、量の件について当然「金利水準優先なのでペースが落ちる時には落ちる」という話を総裁が普通にしている件でして、それは枠組み上当たり前なのですが、先般のジンバブエ先生の話でもそうですし、今回の師匠の話だとジンバブエ先生程ではありませんが、やはり量へのこだわりが表明されている件で、やはりこの前もジンバブエ金懇と会見で思った通りですが、これリフレ派の政策委員って完全に騙されて賛成票投じてるじゃろという風に思ってしまう訳でして、世の中「意見が合わないから反対」というのは何度も見ますし「まあちょっと違うなというのもあるけれども苦渋の決断で賛成」と思われるのも何度も見ますけれども、「内容を全く理解していないどころか勝手に誤解して賛成」という政策判断をしているのはさすがに前代未聞にも程がある訳で、この点も明らかに先々禍根を残すだろうなあというのも思うのでした。



でもってMPMプレビュー的には今回はさすがに無風予想になっているのですが、まあ大体「2%達成時期の見通しが先送りになっていますが、基調に変化がないので問題ありません」という執行部の屁理屈は予想できますので、そちらはどうでも良いとしましても、今回は「イールドカーブコントロール」の方で「適正とみられるイールドカーブ」を出すのか出さないのか(多分出さない)、それに伴う理屈(前回と違う数字を出して来たら結構脅威ですが、前回と特に変化がないとかそもそも出さない(のなら基本前回と同じという意味)がどうなるか、というのを見たいところです、つまり、物価目標達成時期が後ずれする中で何で適正なイールドカーブが変化しないのか、金利水準を下げないといけないのではないか、というツッコミを誰かすると思うのですが、そのときにどういう説明をするのかは大体想像はつくのですが、まあ理屈としては苦しいと思うんですよね。

でもってその苦しい理屈を繰り返しているうちに段々ややこしい事になってくる、というのが仕様だったりしますし、大体からして今回久々に無風感強いのですが。良く考えてみたら昨年12月の「補完措置」以来何回金融政策の枠組み弄ってるんだというペースで政策に絆創膏貼りまくっている訳で、そんな状態でいきなり突っ込んだ政策が長持ちするのかというのも実は怪しい気がするんですよね。


・・・・・・・・・なお、おそらく市場の注目はその後5時に出てくる11月の輪番オペ予定で超長期を減額してくるのか(また200億減らすんですかねえ)という方だったりするのですけどね!!!




○FSRネタの続きでも(汗)

もうめんどいので本文URLだけ
http://www.boj.or.jp/research/brp/fsr/data/fsr161024a.pdf

・どうみてもこの先今の政策が続くとお先真っ暗という説明が無慈悲に繰り広げられている部分

『5.金融機関収益と金融システムの機能度・安定性 』というのが本文の51ページの所からあるのですが、一方でマイナス金利ヒャッハーという執行部がある中でこのFSRはと思いますけれども、ここに書いている内容をまともに受け止めると少なくとも「マイナス金利をガンガン拡大」というのと「マイナス金利政策自体を長々と続ける」という選択肢はなくなる筈なのですけど・・・・・・・・・・・・

『前節までの分析では、現時点における金融機関のマクロ的なリスクと財務基盤のバランスを点検した。本節では、金融機関の先行きの財務基盤に影響する収益力の動向について確認したうえで、収益力の変化が金融仲介活動に与える影響を整理する。』

うむ。

『金融機関の収益は長期的にみて高水準にあるが、これまで収益を押し上げてきた要因に変化がみられている。』

この部分実際にはゴシックで来ました!!!!!!であります。

『国内貸出の収益低下が継続してきたにもかかわらず、金融機関がこれまで高水準の収益を確保し得たのは、@信用コストの減少、A株高等に伴う有価証券関連収益や投資信託・保険販売等の役務取引等利益の増加、B海外貸出等の国際業務収益の増加が寄与してきたためである。しかし、2015年度決算をみると、これらの収益押し上げ要因に変化がみられている。』


『すなわち、@信用コスト率の水準は既にかなり低く、さらなる低下余地が限られるなかで、大手行の信用コストは増加に転じた、』

信用コストに関しては前回のFSRの時点でも大手行に関しては限界的な部分まで低下しているという指摘が入っていました。

『A株価下落の影響等を受けた投資信託販売の不調などにより、増加を続けてきた役務取引等利益が減少に転じた、』

『Bこれまで収益の成長ドライバーであった大手行の国際業務部門の業務粗利益が、円高による円換算上の影響や外貨調達コストの上昇により減益となった、などの変化がみられた。』

でもってどうなりますかと言いますと・・・・・・・・・・・

『このように収益押し上げ要因が剥落していることから、国内預貸業務の収益性低下が、直接収益全体に影響を及ぼしやすくなっている。』

あばばばばー。

『実際に、2016 年度第 1四半期決算をみると、金融機関の収益は長期的にみれば高水準にあるものの、前述の要因に加え、マイナス金利下での利鞘の縮小等から大幅な減益となっている(図表 IV-5-1、図表 IV-5-2)。マイナス金利導入によるイールドカーブの低下は、貸出金利を低下させる一方、預金金利は既にゼロ%に近く下げ余地が少ないため、預貸利鞘を縮小させ、金融機関収益の下押し圧力として作用する。なお、同様にマイナス金利政策を導入している欧州諸国では、預金金利の引き下げ余地があること等から、金融機関の収益性はこれまでのところ低下していない(BOX3 参照)。 』

BOX3はまあ別途見てちょ(69ページ以降です)ですが、「欧州がマイナス金利やっているから日本もマイナス金利」と何も考えずに勢いで導入した執行部に大して実に良いイヤミとなっていますね!!!!!!!

あと、これ別に欧州の話をしている訳ではないからアレですが、上記の指摘の裏を返せば今後欧州の金融機関に関しては徐々に収益状況が厳しくなりますよと言っているのと同じだったりしますな。


つーことで53ページの所が良い演説。

『現状においては、これまでみてきたように、金融機関は充実した資本基盤を備えており、当面収益力が下押しされるもとでも、リスクテイクを継続していく力を有している(BOX2 参照)。今後、金融機関のポートフォリオ・リバランスが、経済・物価情勢の改善と結びついていけば、基礎的収益力の回復に繋がっていくと考えられる。』

とは言え一応ヨイショはしないといけませんもんね!!!!!宮仕えは辛いよですかそうですか。

『もっとも、足もとの収益力の減少傾向が長引く場合には、損失吸収力が低下する先が増加し、金融仲介機能が低下する可能性もある。』

で止めないで無慈悲に実例を出すのがFSRの良い所。

『実際、地域金融機関を中心に、預貸金収益と役務取引等利益では経費を賄えない金融機関が増加しており、信用コストが何らかのショックで上昇した場合、コア業務純益ではカバーできずに赤字に陥りやすい状況になってきている(図表 IV-5-3、図表IV-5-4)。地域における人口減少や高齢化の進展などの構造問題が、地域金融機関の預貸業務の収益性を長期的に下押しすることにも留意が必要である(BOX4 参照)。』

BOX4は昨日ネタにしましたな。でもって図表 IV-5-3、図表IV-5-4は54ページの所にありますが、これもアグリゲートされた平均値ではなく、個別行の分散をグラフでグラデーション入れて表示しているので、分散状況が見えるようになっております。

『また、長期的な観点からみると、自己資本蓄積の根源となる銀行の収益性は、これまでも貸出スタンスに何がしかの影響を及ぼしてきたとみられる(BOX5参照)。銀行収益に対して継続的に下押し圧力がかかり、資本コストに見合うリターンを確保できない状況が長く続けば、将来の自己資本の損耗がフォワード・ルッキングに意識されるため、現時点で自己資本が十分であっても、金融仲介機能に影響が及ぶことも考えられる。今後、国内預貸業務の収益性が一段と低下していくことも考え得るもとで、金融機関による仲介機能の動向については、様々な角度から注意深くみていく必要がある(図表 IV-5-5)。』

この辺り「要旨」の方にも当然ながら記述があるのですが、本文での説明の方がこう「切々と訴える」という感じがあってこちらの方が読んで心に染み入るのでやや再掲チックですがご紹介という感じではあります。

『一方で、低金利・マイナス金利の影響などから貸出や有価証券投資の収益性が低下するなかで、金融機関が収益維持の観点から過度なリスクテイクに向かうことになれば、金融システムの安定性が損なわれる可能性があることにも留意が必要である。』

ここゴシック体表示です(^^)。

『このように、金融機関の収益性低下に伴う潜在的な脆弱性としては、マクロ的なリスク蓄積や資産価格等への影響が行き過ぎる過熱方向のリスクと、収益の減少に歯止めがかからず金融仲介が停滞方向に向かうリスクの両面をみていく必要がある。個々の金融機関にとっては、適切なリスク管理のもとで貸出や有価証券投資等においてリスクテイクしていくことに加えて、@国際的な業務展開を含む事業領域の拡充、A役務取引など非金利収入の拡大(BOX6 参照)、B情報技術の活用を含む業務革新やコスト構造の見直し、C地域の産業・企業の活力向上支援など、幅広い視点から収益力の向上に取り組んでいくことが重要な課題である。』

というまあ普通のまとめですが、途中の部分の収益状況とかの分布の図とかも含めて考えますと、「マイナス金利の拡大はもっての外、長期化するのも良くない」という話ですし、昨日引用したBOX4にもありますように、そもそも論として長期的に続く金利の低下が悪影響を与えていて、マイナス金利じゃなくてもやっぱりアカンヤツやという話なのでした。

リフレ派の政策委員諸氏はFSRを百回写経して反省して頂きたいものですな。でも適切な政策をすると2年で目標達成するらしいから反省しないのか・・・・・・・・・・・・












2016/10/27

お題「各種雑談メモ/FSRは低金利長期化の弊害に加えて人口動態などの要因も指摘していまして・・・・・・」

モーサテのゲストが1名だったらチャンネルチェーンジなのだが2名なのでそのまま流していたら良かったなあというのを前置きでひとしきり(なお聞き流しながらなので正確性は担保しませんがほぼ合っているつもりです)。

米国金融政策のセンセイになったタカ&トシ先生登場のようですが、物価の見通しを答えるという部分で大先生は「2018年度に1.7%」という数字を出しておいて「日銀は2%に近い数字を出さないといけませんよねえ」とかお前予想してないじゃんというコメントをする辺りがこの先生の高等テクニック(良く良く見ると自分の考えの前提に人の行動を必ず入れている)だなあと思うのでした、というのはただの前座でして・・・・・・・・・・・・・

その次のコーナーで大先生がオーバーシュートコミットメントの説明をプライスレベルターゲットの枠組みで説明しているんだが、それはまあ一つの考え方としてプライスレベルターゲットの考え方というのは政策論としてはある話(個人的には政策の実践というの意味で無理筋理論だと思うけどそれはともかくとして)なのですが、お題が「オーバーシュート型コミットメントの説明」であって、日銀の今の枠組みは別にプライスレベルターゲットの枠組みではないので、これは「プライスレベルターゲットの提言」ではあっても「日銀のオーバーシュート型コミットメント」の説明になっていませんな。

・・・・・・・・・と思ったらもう一人のゲスト解説の西岡さんが非常に鄭重かつ丁寧な表現で「その説明は理論としては分かるが今の日銀の枠組みの説明ではないでしょ」というツッコミを入れていまして、その後話がグダグダな展開になっていたような感じがするので段取りなのか不規則ツッコミなのか良く分からん(モーサテのこの辺りの解説コーナーってどこら辺まで段取り組んでいるんでしょうかねえ)。


○色々メモメモ

・浜田先生ェ・・・・・・・

http://jp.reuters.com/article/koichi-hamada-interview-idJPKCN12Q1I5?sp=true
Business | 2016年 10月 26日 21:00 JST
インタビュー:財政拡張で金融緩和強化を=浜田参与

『安倍政権の経済政策であるアベノミクスに関し、第1の矢である大規模な量的金融緩和の推進で労働市場や企業収益の改善など効果を発揮したが、「金利がゼロ%に近づき、量的緩和の影響は当初に比べると薄れてきている」との認識を示した。』

『浜田氏は金融緩和の効果が拡大しなければ「雇用情勢の改善も止まってしまう可能性がある」とし、すでに金融政策が「全開」の中で「効果を一層強化するには、財政政策も活用していかなければならない」と強調。』(上記URL先より)

・・・・・・・・・・・インタビューしている人が理解していないだけのような気もせんでもないのですが、何かこう話が全然繋がらないですな(謎)。


・武藤さん登場

http://jp.reuters.com/article/toshiro-muto-interview-idJPKCN12Q198?sp=true
Business | 2016年 10月 26日 19:49 JST
インタビュー:長期金利目標に副作用=武藤大和総研理事長

写真が妙に暗いの何とかならんかと思うのだがそれは兎も角。

『<日銀緩和で債券市場は機能停止、株も不活性>

──新たな課題は

「現在の金融緩和は空前の規模で、当然のことながら副作用がある」「債券市場はYCCにより完全に機能停止状態、株式市場も極めて不活性な状態。株は下げないと買いも入らない」

「日銀が長期金利目標をゼロ%としたことで、財政規律という観点では障害がなくなった状態になった。消費税を引き上げるなどの政治的リスクを冒すよりも、コストのない手法を選ぶのが合理的な状態になり、金融と財政が非常に依存度の高い状態になっているのも弊害」

「金融と財政の連携強化はポジティブな面もあるはずだが、イールドカーブ・コントロール導入の際は実体経済への影響に対する説明が十分でなかった」』(上記URL先より)

まあ何ですな、別にまあマイナス金利活用して国債発行ガーでも良いのですが、問題はそれがちゃんとガバナンス効いて管理できるかという話であって、いったん「これは打ち出の小槌でフリーランチ」とかで大盤振る舞いを誰かがおっぱじめるとどう見てもそれを止めようというのが居なくなるというのがアカンガナと思ったりするのですな。

ということで、この政策って出口が難しいのですけれども、そもそも出口に行きそうもない状況が延々と続くという失敗の中で失敗誤魔化すために戦線拡大したり転進したりして話をさらにややこしくしているの巻ですの。

だからどうしたと言われると困るが武藤さん登場とはこれはこれはという感じなのでメモメモ。


・市場メモメモ

うむ。
http://jp.reuters.com/article/idJPL4N1CW2FD
Markets | 2016年 10月 26日 15:20 JST
〔マーケットアイ〕金利:国債先物は小反落、長期金利-0.065%に上昇

『<15:15> 国債先物は小反落、長期金利-0.065%に上昇

長期国債先物は小反落。前場は、前日夜間取引で下落した流れを受けて売りが先行するとみられていたが、日銀買い入れへの期待が下値を支えた。後場に入ると、日銀が中期を対象に実施した国債買い入れ結果が弱い内容となったことを受けて、短期筋の売りが優勢になる場面があったが、取引レンジが大きく切り下がることはなかった。出来高も盛り上がりを欠いた。

現物債は中長期ゾーンが売られる一方で、超長期ゾーンが買われる展開となった。長期ゾーンは先物主導の展開。中期ゾーンはあす2年債入札が実施されることや、日銀オペ結果が弱かったため、軟化した。超長期ゾーンは前日に20年債入札を順調にこなしたことに加え、超長期を対象にした日銀オペがしっかりとした内容だったことが買いを誘った。ただ、イールドカーブの平坦化に対する警戒感が一部で浮上していた。』(上記URL先より)

とまあそういうことでこの相変わらずのウゴカンチ会長な訳ですが、唯一の楽しみは超長期が昨日も強含みとなって引値ベースで20年35.5bp30年47.5bp40年56.0bpとかになっておりまして、超長期の輪番どうなるという所くらいでしょうか。

つーても段々慣れてきて「まあ100億円×2(超長期前半と後半)位の減額を打ち込んできても結局の所ストック効果が効いていて需給は強いままでしょうからねえ」という程度の所まではコンセンサスになっているような気もするので、今回は定例の月末輪番額変更ご通知が1日になるのですけれども、そらまあ注目されないことは無いのでしょうが、前回しらっと減額したけど結局の所騒いでいたのは直下の債券市場だけで、株式市場も為替市場も反応しなかったし、肝心の債券市場も結局その後また金利が低下してきている訳で、だったらしらっとチマチマ減額という事でやって行くんじゃないですかねえと思うのでした。


まあ何ですな、この辺ってAPP政策の長年の課題で、かつ全く定量的な答えが出て来ない「ストック効果とフロー効果」の話になって来ると思うのですけれども、足元の動きはフローが効果だしてもうちょっとトレンド見るとストックが効くんじゃないかというのは何となく尤もらしいのですが、先行きのAPP政策の見通しというか期待も効くような気がしますし、そもそも効果云々の前に価格(金利)水準の絶対的な位置関係によってプレーヤーの需要度合いがノンリニアに違ってくる可能性があったりとか、まあ単純な話ではなくて、現場労働者だと「何となく今はフローがストックが」とは言えるのですが、まあそれも「その場の地合い」の話に他ならなくて、全然定量的な話じゃないですよね。

でもってこれって色々と本当はファクターがありそうなのですが、逆に言えば割と勝手な置きによって分析掛けると割と安易にこういう効果ガーみたいなのが出来そうな悪寒がしまして、それそのものの有用性は兎も角として、政策効果のそれらしい説明をするのには便利な結果というのが出せそうな気がします(が意味がなさそうなので興味は無い)。



○FSRはとりあえず「BOX」というのだけでも読むべきである(全部読むのが推奨だが)

つーことでFSR

http://www.boj.or.jp/research/brp/fsr/fsr161024.htm/(要旨)
http://www.boj.or.jp/research/brp/fsr/data/fsr161024b.pdf(概要)
http://www.boj.or.jp/research/brp/fsr/data/fsr161024a.pdf(本文)

まあとりあえず本文目次の所で

BOX1 家計の資産運用行動の変化
BOX2 地域金融機関の有価証券投資
BOX3 マイナス金利政策実施国における銀行の収益構造
BOX4 地域金融機関の預貸利鞘低下の背景
BOX5 銀行の収益性と貸出供給インセンティブ
BOX6 地域金融機関の役務収益と資金利鞘の関係

とありまして、まあとりあえず『BOX2 地域金融機関の有価証券投資』以下を鑑賞してみましょうじゃありませんか。以下の部分はFSR本文から引用しております。


・マイナス金利というよりは超低金利政策の「長期化」の問題

本文67ページ、PDFファイルだと72枚目である。

『地域金融機関においては、収益のコアとなる貸出利鞘が趨勢的に低下するもとで、投資信託や外債などのリスク性資産への投資スタンスが積極化している(図表 B2-1、図表 B2-2)。』

こちらの図表なのですが(貼り付けとかしないので上記URL先の図表みてちょ)、まあアタクシが申し上げるまでも無いという所でありますが盛大に伸びていますなあという所ですけれども、グラフの方では「平均値」を取っているのではなくて「分布状況」を出している(基本そういうのが多いですよ)のが興味深い訳でして、アグリゲートすれば「投資信託への投資が総資産対比でこのように推移していますよ」なのですが、投資比率が高い所と低い所の分布をきちんと示しているのですね。

でまあそちらを見ると上位10%の所(それより高い所はカットしてある)と上位90%の所ではもう全然違うというのが見えまして・・・・・・・・・・・・・

『こうした動きは、貸出収益率の低下を受けたポートフォリオ・リバランスと解釈できるが、そのリバランスの程度は、各金融機関の基礎的収益力や経営体力によって異なると考えられる。この点を検証するために、次式に基づくパネル分析(固定効果含む)を行った。 』

「貸出収益率の低下を受けたポートフォリオ・リバランス」というと格好が良いですが、その利ザヤ縮小の部分に関してはBOX4でお話がありまして、そのうち半分くらいは堂々の低金利の弊害だったりするので、まあなんちゅうか後ろから銃剣でオラオラされながら突っ込んでいかざるを得ないという面が・・・・・・・・・・

『(式はテキスト文章じゃなくて画像なので貼れずその次の説明に参ります)』

『ここで、i は各金融機関(地域銀行、信用金庫)、t は各年度を示し、Δ は一階差(変化幅)を表す。被説明変数は、明確な上昇傾向が確認される投資信託残高の総資産比率であり、説明変数は、金融機関の貸出利鞘である34。パラメータ?は、貸出利鞘の変化に対して、各金融機関がリスク性資産(投資信託)をどの程度変化させるかを表し、金融機関の経営体力と基礎的収益力によって変化する定式化を行っている35。』

『推計結果をみると、次の 3 点が確認できる(図表 B2-3)。

・ 貸出利鞘の縮小に対して、(自己資本比率が高く)経営体力のある金融機関は、リスク性資産を増やす傾向がある――パラメータ?は負値で統計的に有意となっている――。

・ 特に、本業である預貸ビジネス等の基礎的な収益力が見劣りする金融機関は、収益の低下を補うべく、リスク性資産をより増やす傾向がある――パラメータ?のマイナス幅が大きい――。

・ 逆に、経営体力に乏しい金融機関は、貸出利鞘が低下しても、リスク性資産を増やす行動には出にくい。』

お、おぅ・・・・・・・・・・・・

『近年、地域金融機関においては、基礎的な収益力の低下傾向が続いている。コア業務純益の中心的な構成要素である預貸金収益と役務取引等利益の合計が、経費を下回る先数の割合は年々上昇しており、足もとでは、地域銀行で 5 割弱、信用金庫で 8 割弱がそうした状況となっている(前掲図表 IV-5-3)。』

その辺は本文の方にあるので別途鑑賞を推奨する。

『もっとも、経営体力の面では、多くの金融機関は現時点では余裕がある(自己資本比率が高い)ことから、基礎的収益力の低下を補うべく、リスク性資産に対する積極的な投資スタンスを今後も維持していく可能性が高い。一方、長期的な観点からみると、基礎的な収益力の低下が長引き、金融機関の経営体力が低下していく場合には、リスク性資産への投資を増やせなくなる先が増加する可能性があることも、本BOX の分析は示唆している。』

つまり「低金利政策効果によるポートフォリオリバランス効果」というのは時間の長期化とともに効果が逓減していきますよという話で、そこにマイナス金利を食らっているのだから前門の虎後門の狼状態。


・利ザヤ低下の要因分解がかなり悲しい

次のBOX3もオモロイのですが本日は時間の関係上上記BOX2に関連する事項で『BOX4 地域金融機関の預貸利鞘低下の背景』に参ります。

『地域金融機関の預貸利鞘は、この 10 年間で、全体で約 0.6%pt 低下したが、個別にみると、低下幅のばらつきは大きい(図表 B4-1)。この背景には、金融機関の利鞘が人口動態など地域の特性によって大きく左右されていることがある。』

つーて『図表 B4-1 預貸利鞘の変化のヒストグラム』、『図表 B4-2 預貸利鞘の寄与度分解 』というのがありまして、まあこの項の話の趣旨は人口動態の与える影響ってのはアグリゲートした話ではなくて個別地域による差があるので、全体的に平均がこんな感じだからこんな感じみたいな雑な議論ではプルーデンスとしての分析が成立しませんよというお話で、マクロプルーデンスはマクロプルーデンスの意味でのFSRではありますが、当然ながら意味のある話をしようとするとこういう話になってくる訳ですな。

『この BOX では、利鞘の低下の背景について定量的に評価するために、信用金庫を対象にしたパネル分析の結果を示す――地域銀行についても概ね同様の結果が得られている――。預貸利鞘の説明変数は、次の 4 つである。』

『@市場金利(10 年債利回り)
預金金利はゼロより低く設定しにくいことから、市場金利が低下するほど、預貸利鞘を構成する預金スプレッド(市場金利−預金金利)が縮小する。

A各地域の景気変動(都道府県製造品出荷額等)
景気回復により企業の資金需要の裾野が拡がれば、低格付の企業向けにも貸出が増え、利鞘が厚くなる。

B各金融機関の営業エリアの人口成長率(本支店のある市町村の人口成長率)
販路の狭い中小零細企業(特に非製造業)の売上は、地域の人口数(人口密度)に左右されるため、人口が減少すると企業の借入需要が低下し、貸出金利に低下圧力がかかる。

C各金融機関の預貸率
貸出に比べ預金が多いほど、金融機関は余資運用のために、貸出金利をより引き下げて貸出を増やそうとすることから、利鞘が低下しやすい。例えば、高齢層の多い地域などでは、預金が集まりやすい一方、住宅ローン需要は少なく、金融機関の預貸率は低くなる37。』

でまあその要因分解の結果が『図表 B4-2 預貸利鞘の寄与度分解 』であって、かなり悲しい要因分解結果になっている次第でして・・・・・・・・・・

『パネル推計によれば、これら 4 変数は統計的に有意な説明力を持ち、符号条件も満たす38。推計結果をもとに、過去 10 年間の預貸利鞘変動の寄与度分解を行うと、金利低下に加え、人口成長率や預貸率の低下が影響してきたことが確認される(図表 B4-2)。』

『人口減少と高齢化の進展等に伴う預貸率の低下を合わせた寄与は、金利の低下とほぼ同等の大きさとなっている。一方、地域の景気要因は、リーマンショックの影響を除くと、利鞘に対してあまり大きな影響を及ぼしていない。』

つーことで、そもそも人口動態と預貸率の低下が先に影響している所に加え、金利の低下が更に追い打ちを掛けているという図でして、構造要因の方はまさに長期化が予想される所に加えて、金利の低下要因の方が循環的に戻ってくれればまだしも戻る気が無い政策をしているというのがもう酷い話ではある。

『次に、推計パラメータを用いて、先行き 10 年間の預貸利鞘について、2 つのシナリオをもとに予測を行った(図表 B4-3)39。』

まあ図表を見つつご確認あれ。

『第一のシナリオは、「成長率回復シナリオ」である。2008 年初まで続いた、いわゆる「いざなみ景気」と同等のスピードで地域経済が成長し、市場金利も 2022 年にかけて 2%まで上昇する。第二のシナリオは、「低成長率継続シナリオ」である。リーマンショックの影響を含む、過去 15 年間の平均と同等の低いスピードで地域経済が成長し、市場金利も2024 年にかけて 1%までしか上昇しない。いずれのシナリオも、現在と同じ金融機関数が維持され、厳しい競争環境が続くことを前提としている。』

ということで『図表 B4-3 預貸利鞘の予測期間中の推移』があるのだが、成長率回復シナリオで市場金利の寄与度分解がプラスに転じるのが2019年度からという辺りに味わいを感じますが、それにしても明確にプラスが2020年で、楽観シナリオでこれというのに涙が出てきます。

『予測結果をみると、成長率回復シナリオでは、人口減少や高齢化に伴う預貸率の低下が利鞘を下押しするが、市場金利の上昇に伴って、利鞘は徐々に回復し、10 年後の 2025 年度の利鞘は足もとより幾分高い水準に達する。』

10年後・・・・・・・・・・・・

『一方、低成長率継続シナリオでは、市場金利の上昇が限定的であるため、利鞘は足もとよりも低い状態が続く姿となる。また、2025 年度時点での各信用金庫の預貸利鞘の分布をみると、低成長率継続シナリオでは、低利鞘の先が増加する(図表 B4-4)。営業エリア内の人口減少率が大きい信金の利鞘には、より大きな下押し圧力がかかるとみられる(図表 B4-5)。』

あちゃー。

『なお、成長率回復シナリオにおいても、地域の景気要因は、信金の預貸利鞘の拡大にほとんど寄与しない(前掲図表 B4-3)。これには、これまでの期間(モデルの推計期間である 2001〜2015 年度)において、景気回復の裾野が信金の取引先企業にまで十分拡がってこなかった可能性が考えられる。利鞘拡大のためには、取引先企業が景気回復の果実を取り込めるよう、金融機関がビジネスマッチングや販路拡大を支援して、企業の生産性改善を進めていくことが重要である。』

最後は意識高い系の話で締めていますが、そもそも人口動態とかの構造的問題って地域差ということでまだ首都圏とか先の話とは言っても待ったなしでやってくる訳で、楽観シナリオですら金利がシクリカルに戻って来て利鞘要因が増益要因に効いてくるまで時間がかかるという状況下で今後どうなるのとか考えだすと悲しくなってくるのであります。

と朝からくらーくなりながらFSRを鑑賞するのですが、読んでいて金融関連の中の人たち的には非常にしょんぼりしてくるのでしょんぼりしたい時には是非お勧めしますし、ションボリしたくない人も読んで損はありませんな(別に金融機構局の回し者ではない)。









2016/10/26

お題「ドラギ講演はまあ別に普通の話だと思う(というメモ)/徐々に金利が介入(?)レベルに接近とな」

もう今日は月内受渡最終売買日ですよ、って10月終わりですなあ(汗)。

○ドラギ講演が出てきましたがさすがに寝起きで読むのはアレなのでちょっとメモ用に

ほほう。
http://jp.reuters.com/article/ecb-policy-rates-idJPKCN12P2GC?sp=true
Business | 2016年 10月 26日 04:52 JST
ECBはマイナス金利のコスト増大認識、過度な長期化望まず=総裁

『[ベルリン 25日 ロイター] - 欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁は、極めて緩和的な政策に伴う金融業界のコストが増大している現状を認識しており、過度に長くマイナス金利を維持することは望んでいないとの立場を示した。ベルリンで開催されたイベントで述べた。総裁は、資産買い入れや超低金利が格差拡大や経済が強い国から弱い国への収益移転を促したとする批判を退け、金融緩和政策の正当性を主張。一方で、ドイツの銀行を中心とする低金利による業績圧迫への不満にも配慮する姿勢を示した。』

『「時間とともに厄介な副作用が蓄積する可能性があり、金利をこのような低い水準に極めて長い期間維持せずに済むことをもちろん望む」と述べた。』(上記URL先より、以下同様)

そら望むのでしょうけれども効果に乏しいんだったら結局長期化するんじゃないですかねえと思いますし、ある程度長期的に継続した挙句に物価に効果が出て来ない、という時点で政策に対するコンフィデンスが悪化して期待も出なくなるんですよねー。

『ドラギ総裁の発言により、ECBが現在マイナス0.40%としている中銀預金金利を引き下げるとの観測がさらに後退する可能性がある。また過去最低水準にある金利は「ニューノーマル(新常態)」ではないとし、ユーロ圏は通貨統合と銀行同盟を完成させない限りぜい弱な状況が続くとの認識を示した。』

ということですが、本チャンの講演はこちら。

http://www.ecb.europa.eu/press/key/date/2016/html/sp161025.en.html
Stability, equity and monetary policy
Mario Draghi, President of the ECB,
2nd DIW Europe Lecture,
German Institute for Economic Research (DIW),
Berlin, 25 October 2016

・マイナス金利環境に関しての批判

一番最初にこんなマクラから入ります。

『The most salient feature of the landscape facing monetary policy today is the low level of nominal and real yields everywhere. Among the G7, three countries currently have negative yielding 5-year bonds - Germany, France and Japan - representing 14% of world GDP. And that proportion rises to 22% if we include bonds yielding less than 1%.』

名目金利と実質金利が先進国のあちこちで下がっていますよ5年金利が独仏日でマイナスですよ1%以下の5年金利の国まで入れたら世界のGDPの22%が含まれますよと。

『Some observers see this as an artificial state generated by the policies of central banks - and argue that it threatens not only economic and financial stability, but social equity too.』

マイナス金利政策やってるの中央銀行じゃろ。

『So what I would like to discuss in my remarks today is why interest rates are so low, and what the implications of those low rates really are. My focus will be in particular on the distributional effects of monetary policy.』

というふうにマクラがあって、そこから本文がはじまりはじまりとなるのですが、まー全部精読しているどころか超越斜め読みをしているので詳しくはまた読んでから(って精読途中のが溜まって頭がクラクラするんだが)とは思います物の、冒頭でこういうカマシを入れているということを勘案しますとマイナス金利政策の効果はありまぁす(割烹着着ながら)という話をする方がメインのトピックでありまして、しかも話としては「マイナス金利で悪影響を受けている」という主体に向けて「いやいやこの政策で経済を活性化することによってトータルではプラスになるんですよ」的なお話をしている感が見受けられる(ような気がする)。

とは言いましても、まあこういう風に釈明(?)をしないとイカンというお話になっていて、そらもう未来永劫こんなことをする訳ではないですよ、というお話にもなって、キャッチーな方に反応するベンダーが上記のような感じのヘッドラインを打ってくるということからしますと、やはりこうマイナス金利政策やりながらLSAP政策をやっていく、というのは色々と問題が生じている(LSAPよりもマイナスがイカンと思うし、マイナスが長期化するのが良くないと思うけど)ので釈明もしないといけないのでしょうから、まーECBもガンガン緩和拡大とか威勢の良いことはやり難くなったという事ではないかと思いますけどどうでしょうか。


とは言いましてもここから先の小見出しが、

『Adjusting monetary policy to a falling natural rate』
『The distributional effects of monetary policy』
『A closer look at the financial effects』
『Bringing in the macroeconomic effects』
『Raising the natural rate and returning to normal』

とありまして、マクラの所にありますように、『The distributional effects of monetary policy』の所で「金融政策によって社会的に好ましくない分配の発生を助長していないか」という批判を取り上げまして、それに対して「このような効果が上がっています」という説明をしている、というのが講演の流れになっているような感じのようですから、別にここから緩和政策を縮小しますとかそういう話ではなさそうに見えますの。

ちなみに『The distributional effects of monetary policy』の冒頭からちょっとだけ引用すると、

『But while our monetary policy, seen from this perspective, is simply a continuity of what central banks have always done - and should always do - we know it has raised concerns. Those concerns have focused in particular on the side effects of monetary policy and its distributional consequences: between savers and borrowers, weaker and stronger countries, the rich and the poor.』

とありまして、低金利政策により例えば貯蓄者から借金持ちへの利息額低下による所得移転とかの問題などにお答えしますというような感じです。ついでに申し上げますと、批判としてお答えしますという中で単に金利の話だけではなくて、資産価格が上昇するような政策を実施していると資産持ちはウマーだけれどもそうじゃなくて貯金しかないような所得層にとっては全然ウマーではなくて、そういうのも社会的不公平を拡大するんじゃネーノという批判についても触れています。

『The question, in short, is whether there is a trade-off between stability and equity. But to answer this, we have to make a distinction between the financial and macroeconomic effects of our policy, which arise over different time frames.』

『Over the medium-term, it is unambiguous that monetary policy has positive distributional effects through macroeconomic channels.』

『Most importantly, it reduces unemployment, which benefits poorer households the most. For this reason, research from the US and UK has shown that monetary policy actions that boost the economy typically reduce income inequality over the cycle.[1] And a faster return to full employment should in turn contribute to lower future inequality, since we know that if unemployment lasts too long it can lead to permanent income losses through “labour market scarring”.』

とまあこういう感じで、だいたいこの手の批判に対する説明としてはテンプレという感じの話をして、その後上記の小見出し一覧にありますように効果の話を色々しているのですが、そこに関しては本日精読読み込みできていないので別に面白そうなネタがあったらまた投下します(大汗)。


・超低金利政策長期化の副作用に言及、というのは多分最後のまとめチックな所だと思う

最後の所の『Raising the natural rate and returning to normal』ですけど、

『So if we net out the effects of the financial and macroeconomic channels, I find it hard to reach the conclusion that, over a longer time frame, the outcome of our policies has been - or will be - to redistribute wealth and income in an unfair or unequal way. That is certainly not true across countries, and there is not much to suggest it is true within countries either.』

『What is more, as a recent study by the Bundesbank points out[13], those who claim that monetary policy worsens inequality typically do not consider the counterfactual. They take the distributional situation as given, but forget that monetary policy is acting precisely because the macroeconomic situation was at risk of changing. In fact, according to ECB simulations, euro area GDP would be cumulatively at least 1.5% lower between 2015 and 2018 without the expansionary policy measures we have adopted since mid-2014, with worse outcomes for inflation too.』

って始まっていますように、金融政策が社会的に不適切な分配を助長しているという批判に対して、そういう部分的な話ではなくて、金融政策がもたらす経済全体への効果がプラスであって、その効果が全体に行きわたるのだからアグリゲートしてみたらプラスじゃろというようなトーンになっているので、まあそういう話なんでしょ、と勝手に想像。

でですね、多分最初のベンダーヘッドラインになったのは以下の部分だと思うの。引用しておきますと・・・・・・・

『Yet all this does not mean that very low interest rates are costless. We are aware of the other distortions that can result from them. Indeed, we would certainly prefer not to have to keep interest rates at such low levels for an excessively long time, since the unwelcome side-effects may accumulate over time.』

超低金利政策が無コストという訳ではなくて、それがとても長期化しますと望ましくない副作用が発生しますよと。

『The financial sector provides a good example.』

ということで金融セクターへの悪影響指摘キタコレ!

『As I showed above, its net interest income has declined. And that is not necessarily a problem right now, since - at least for banks - lower net interest margins are being partly offset by higher asset valuations and a more robust recovery, which in turn creates further demand for bank credit and reduces loan delinquencies.』

『But as very low interest rates persist, some of these offsetting factors, such as the capital gains will diminish, whereas the drawbacks will remain in place - for instance due to the downward stickiness of interest rates on retail deposits.』

そらそうよという感じなのだが、だからと言って別にこの人たちもマイナス金利政策を撤回する訳でもないんでしょうなあ(ただまあECBは急に「さっきまでの無し」とか政策を平然とひっくり返す事があって、そこは日銀とだいぶ違うと思う、柔軟というか無節操というか)とは思うのでだから何なのという気もするが。

『Therefore we should seek to create the conditions for a return of interest rates to higher levels. And this requires two types of actions.』

というこの部分も最初に書いたロイターのヘッドラインに採用されていると思います。でもって何をするのやらという話ですが、

『The first are actions to bring output to potential without undue delay, so that inflation can return sustainably to our objective and policy interest rates can rise back to the natural rate. That is the best, indeed the only way for monetary policy to normalise. And this is why, looking ahead, we remain committed to preserving the very substantial degree of monetary accommodation which is necessary to secure a sustained convergence of inflation towards levels below, but close to, 2% over the medium term.』

『But it is also clear that the more other macroeconomic stabilisation policies work alongside monetary policy, the faster the closure of the output gap will be.』

生産を高めて金融政策を正常化して自然利子率に上げて行っても2%物価目標行くようなのが誠に結構だが・・・・・・・

『Still, returning to potential will not solve the fundamental problem we started with: the fact that the natural interest rate is itself very low. It is this that is ultimately driving interest rates down near zero.』

そもそも自然利子率が殆どゼロまで下がっているという状態がイカンのであって、

『So the second type of actions we need, if we want interest rates at higher levels, are those that can raise the natural rate. And this requires a focus on policies that can address the root causes of excess saving over investment - in other words, fiscal and structural policies.』

構造改革などで自然利子率を引き上げる努力も必要ですよ、ということでそれについてどうしますか的なお話が少々。

『High saving can be partially mitigated by public policies, but there is only so much that one can do to reduce saving in an ageing society like the euro area. Thus more important is a focus on raising investment demand.』

投資需要を増やすような政策がよろしいとな。

『This hinges crucially on structural reforms to reverse the declining trend in productivity. And it depends on governments enacting investment-friendly tax and regulatory policies, as well as reversing the stagnation in the public capital stock we have seen since the crisis with investments aimed at raising productivity.』

投資が増えれば生産性も高まるぞなと。

『In short, monetary policy is today protecting the interests of savers by ensuring a faster closing of the output gap and preserving the economic potential on which savers’ income depends. But for real returns to rise further still, other policies need to buttress monetary policy by raising investment and productivity.』

という締めになっていまして、まあ別に金利を上げろだの緩和を縮小しろだのという話をしている訳ではないでしょうなあとは思われる(肝心の金融政策効果の部分全部飛ばしてますけど)次第でしゅ。



○20年金利があと少しで介入(??)レベルですね!!!!!!!

昨日の20年入札。
http://www.mof.go.jp/jgbs/auction/calendar/nyusatsu/resul20161025.htm

6.価格競争入札について

(1)応募額 3兆4,558億円
(2)募入決定額 9,906億円
(3)募入最低価格 102円45銭(募入最高利回り)(0.367%)
(4)募入最低価格における案分比率 16.2584%
(5)募入平均価格 102円52銭(募入平均利回り)(0.364%)

まあ順当な入札で、その後も相場確りの巻となりまして・・・・・・・・・・・・


http://jp.reuters.com/article/idJPL4N1CV2G7
Markets | 2016年 10月 25日 15:17 JST
〔マーケットアイ〕金利:国債先物は反発、長期金利-0.065%に低下

『<15:16> 国債先物は反発、長期金利-0.065%に低下

長期国債先物は反発。朝方は前日終値を挟んだ狭いレンジでの値動きだったが、20年債入札を順調にこなすと短期筋からの買いが優勢になった。現物債は総じてしっかり。入札後に国内銀行勢を主体にした需要が強まったことで、超長期ゾーンの利回りが低下基調になった。長期ゾーンは先物主導でしっかり。日銀追加緩和期待の後退からさえない展開にあった中期ゾーンに割安感から買い戻しが入った。長期国債先物中心限月12月限の大引けは、前営業日比14銭高の151円89銭。10年最長期国債利回り(長期金利)は同0.5bp低下のマイナス0.065%。』(上記URL先より)

ということで推移して、20年カレント0.36%位まではやっていたと思うのですが、ここで先月輪番減額された直前の引けレベルを確認してみましょう(厳密に言えば1か月違うのだからその分のロールダウンとか考慮しないといけないのだがそこは(・∀・)キニシナイ!ということで)。

9月29日

10年:▲9.5bp
20年:+34.0bp
30年:+43.5bp
40年:+51.0bp

9月28日

10年:▲9.5bp
20年:+34.5bp
30年:+45.5bp
40年:+53.5bp

となっておりまして、9月30日にご案内の通りで場中に10年輪番減額(してそのまま翌月の輪番を減額)、引け後に翌月の超長期輪番を減額というプレイを実施した訳ですので、そらもう当然このレベルになると気になるでしょうということで昨日の引け。

10月25日

10年:▲7.0bp
20年:+36.5bp
30年:+48.5bp
40年:+57.0bp

うーんこの寸止め感という感じですが、何せ今後の輪番は月の途中でも金利が下がり過ぎたと思ったら警戒減額が可能というのを先月の10年減額で示しておりますので、ここから先はこの9月28日、29日の引けレベルを突っかけに行くのか行かないのかが楽しみ(超不謹慎)という所ではあります。

ただですね、まー良く良く考えますと、大体からして今のペースでそのまま買入が続きマースって感じでホイホイと買入が進んでいたら需給から考えてもうちょっとホイホイと金利が下がって行くのが順当という感じでしょと思うのよ。つまり短い方はちょっと別ですけど、特に長い方はマイナス深堀期待(懸念)が落ちたとしても金融緩和期間の方は明確に長くなってくるし、今回の展望レポートでも物価見通し後ろに倒れるのだから自動的に時間軸が大きくのびるので、そら金利低下圧力掛かりやすいという中でこの日銀買入なのですから。

つー感じでこう結局輪番減額警戒って言ってもそんなにドカドカ減らす訳でも無くてとなると、いずれ金利がじりじり下がる圧力とのせめぎ合いになると勝手に思っている(うちに海外とかの金利が面白スパイクとかしたら全然話が変わるけど)のですが、さてどうなるのでしょうかねえと。

でまあ日銀としてはあまり派手にTaperingを言われたくないでしょうから、金利が低下する→微調整で輪番減額→でもそもそもの買入量が多いので瞬間金利上がってもまた下がる→最初に戻る、という感じでなし崩し的に輪番減らしてステルステーパリングするのがウマーとか思っているのかなあと勝手に妄想中です。よー知らんけどな。









2016/10/25

お題「先物がちょっと動いたので(笑)市場メモ/FSRはマイナス金利のプルーデンス的影響について割と詳しく論考のようです」

ご注意くらはい
http://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye2899152.html
ダウンライト火災に注意呼びかけ、過去最悪のペースで発生
(24日11:33)

「ダウンライト」ってので天井から釣り下がっている裸電球しか想像できなかったアタクシは昭和のオッサンですどうもすいません。


○まあ例によって動かんのだが一応メモ

・中期が重いようですがただの需給じゃろ

http://jp.reuters.com/article/idJPL4N1CU23U
Markets | 2016年 10月 24日 15:10 JST
〔マーケットアイ〕金利:国債先物が続落で引け、長期金利は横ばいの-0.060%

『<15:04> 国債先物が続落で引け、長期金利は横ばいの-0.060%

国債先物中心限月12月限は前営業日比7銭安の151円75銭と続落して引けた。世界的に金融緩和の限界が意識される中、黒田東彦総裁が21日の衆院財務金融委員会で、適正な金利水準について「すぐに変更があると考えることは難しい」と語り、31日からの金融政策決定会合で追加緩和を見送る考えを示唆したことが売り材料視された。また、一部に期待があった日銀買い入れが見送られたことも短期筋の売りを誘い、一時151円62銭と9月23日以来約1カ月ぶりの安値を付けた。もっとも、午後終盤には、25日の20年債入札を前に先回りの買いが観測され、あらためて需給の底堅さが確認されると、下げ渋った。』(上記URL先より)

ということで昨日は債券先物が20銭も動いた(まあ滞空時間的には10銭台の下げという感じでしたが)ので珍しく動いた気がしないでもない日でしたが、中短期が弱めに推移していまして、

金曜の短国買入
http://www3.boj.or.jp/market/jp/stat/ba161021.htm
国庫短期証券買入 39,922 25,001 0.012 0.021 46.6

先週金曜の短国買入ですが、たぶんそうじゃないのかねという2.5兆円の買入になって、月初のお話だと「前月並みの残高ですが出来上がりは43兆円〜45兆円」という結構アバウトな予定になっていて、結局この買入だと今月の買入は受渡ベースで9兆円の買入となることが確定して、償還9兆9200億円に対して買入が9兆9億円になっていますので、実際は前月末の短国買入残高44兆7246億円から9191億円残高が落ちまして43兆8055億円になるとかそういう数字になる筈。

つーことで日銀の短国買入ロールが1兆落ちる間に、足もとではドル円ベーシスがやや軟化(というか円ベースのマイナスが縮小というか)で推移する中で、ロールが1兆円少なかった分の需要を誰が埋めるのと言えばこの絶対金利で国内がまともに買う訳でもなく(商品勘定としての在庫とか担保繰りやらのニーズはあるけど)、ベーシスもそんな感じですとそらまあ重くなるわなという辺りが波及してる気がするんだが気のせいでしょうかね。


でまあ昨日は皆さん他に後付の理屈が無いから上記URL先にあるように、『31日からの金融政策決定会合で追加緩和を見送る考えを示唆したことが売り材料視された。』って話にしていますが、そもそも今回って何とかストの皆さんの予想が一部の大穴狙いあるいは信念の人以外に追加緩和予想する人っていない訳で、端から追加緩和期待とか無いじゃろ何をゆうてますねんと思ったのですが、まー冷静に考えたら海外からするとこれまでヒャッハーヒャッハーと黒田節連呼で、総括検証してもやれ80兆だ限界は無いだという話を連発する場面もあるというのもありましたから、割と期待があったのかも知れませんし、自分らが期待しなくても「市場でその手の期待があれば相場のドライブ材料になるのでそこで売買してウマー」とか考えて突撃できるでしょうが、その手の動きが見事なまでに無くなってしまいましたので、そうなるとこんな絶対金利を維持するのもねえとなるんでしょうかね、よー知らんけど。

つーてどうせ単に絶対水準的に普通の買いが入りにくい水準だから売りが出ると金利上がるけど、絶対水準調整してきて国内が買えるレベルになると(ならんと思うが)何ぼでも買いが戻って来て潜在需要が物凄い勢いで顕在化するだけでしょうし、別に絶対水準じゃなくてもイールドカーブ上のレラティブで買う人も世の中には居るので、カーブ上修正が入れば買いも入るでしょうしと、まー日銀の輪番を思いっきり減額して需給バランスを崩しに行く位の事でもない限りどうせまあ一時的な現象でしょうなあ、とか勝手に思っているのですがどうでしょうかね。



○FSRが盛大に「マイナス金利が長期化すると碌な事が無い」と主張しているのが素晴らしい

ということで今回もFSRの季節がやって参りました。

サマリー(要旨)
http://www.boj.or.jp/research/brp/fsr/fsr161024.htm/

要旨(プレゼンテーション版)
http://www.boj.or.jp/research/brp/fsr/data/fsr161024b.pdf

全文(PDFフルカラー84枚あるので注意)
http://www.boj.or.jp/research/brp/fsr/data/fsr161024a.pdf

・例によってサマリー部分は穏当ですが注目点は分かりやすく

まずはサマリー部分の要旨から引用しつつ適当に他の資料にあたって参りますので最初はサラサラと行きます。というかこれ毎度なのですがボリュームがかなりありましてまともに読み込んでいくと結構腰据えて読まないといけないのでまだ全部を頭の中で整理してネタにするようなレベルまで精読できていないので今朝はざっくりで誠に申し訳ございませんが。


『要旨:金融システムの総合評価』とありますが・・・・・・・・


まずは『金融資本市場の動向』からで、この辺は昔のFMR(金融市場レポート)の世界。

『国際金融資本市場では、EU離脱を支持する6月下旬の英国国民投票の結果を受け、投資家のリスク回避姿勢が一時的に強まったが、その後は徐々に落ち着きを取り戻していった。先進国の低水準の長期金利を背景に、利回り追求の動きが再び活発化する兆しもみられており、グローバルな資金フローが急速に変化しないか注視する必要がある。この間、わが国でも株価下落や円高進行など海外の影響を受ける局面もみられたが、9月に日本銀行が「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を導入したもとで、きわめて緩和的な金融環境が維持されている。』

という風になっていまして、要旨のプレゼン版の方でも1枚紙になっているのですが、全文の方を見ますと(そら全文だから当たり前ですけど)詳しい話がありまして、『低金利継続期待の強まりと資金フローへの影響』、『ドル資金調達市場の動向』というのがトピック的に最初にある(その後は市場分析のいつもの奴)という作りになっておりまして、プルーデンスウィングが作っているのですから当たり前と言えば当たり前ですけれども、プルーデンス的な観点でこの2つのトピックについて注視していますよ、というお話。

次が『金融仲介活動の点検』でありまして、

『金融機関の国内貸出は、積極的な融資姿勢のもと、幅広い業種での資金需要を受けて、前年比2%程度のプラスで推移している。海外貸出についても、北米など先進国向けを中心に高めの伸びを続けている。』

プレゼンの方ですと4ページ5ページの所になりますが、「前年比2%程度のプラスで推移している」と概要説明の方ではサラリと流していますが、プレゼン4ページ目(PDFだと5枚目です)の『図表V-1-12 金融機関の不動産業向け貸出』を見ると全体の貸出の伸びは前年比伸びてはいるものの伸び率が鈍化する中で不動産業向け貸し出しは伸び率が鎌首モードとなっておりまして、中々香ばしい図表の仕上がりになっていたりするんですな。

『有価証券投資では、円債残高がなお高水準にあるなか、外債や投資信託などを一層積み増している。保険会社・年金などの機関投資家、ゆうちょ銀行・系統上部金融機関など市場運用を中心とする預金取扱機関は、外債等のリスク資産を積み増す傾向が一段と強まっている。』

プレゼンの6-7ページになりますが、そちらですと『外貨調達コストの上昇等に伴い、一時的に投資を抑制する動きもみられる。』(プレゼン6pより)とかありますな。外貨調達の資金ギャップに関しては安定性評価の所で詳しい話が出てきます。

『この間、家計の資産運用は、昨夏以降、株安・円高の影響もあって、資産ポートフォリオ多様化の動きが弱まっている。』

そらそうよ。

『金融資本市場を通じる金融仲介については、エクイティ・ファイナンスは不安定な株式相場を背景に弱めの動きとなっているが、社債市場では良好な発行環境を背景に超長期債発行の動きが拡がっている。こうしたもとで、企業や家計の資金調達環境はきわめて緩和した状態にある。』

『以上の金融仲介活動において、行き過ぎたリスクテイクや信用量の増加といった過熱感は、総じて窺われない。もっとも、低金利環境が続くもとで、銀行の貸出姿勢はバブル期以来の積極性を示している。貸出姿勢の積極化は、金融緩和の効果の重要な波及経路であるが、一方で、金融機関同士の競争が過度に進んだ場合には、貸出採算の悪化等を通じて金融機関の収益基盤を脆弱にするとともに、金融システムを不安定化させるリスクもあるため、注視していく必要がある。』

『また、不動産市場は、現時点では、全体として過熱の状況にはないと考えられるが、大都市圏では一部に投資利回りが低水準となる高値取引がみられているほか、不動産業向け貸出も伸び率を高めている。今後、投資家の期待利回りの過度な低下や高値取引の地方圏への拡がりが生じていくことがないか、注意深く点検していく必要がある。』

ということでリスクアセスメントの部分ですが、プレゼンの10ページに『2.金融仲介活動の点検(7)過熱感の兆候の点検 ─ 金融活動指標 ─』というヒートマップがありまして、こちらは何故か今回赤が無くなってるわという感じではあるのですが、今回赤から緑に昇格(?)した項目に関して『もっとも、不動産業実物投資の対GDP比率や金融機関の貸出態度判断DIは「赤」に近い「緑」であり、注意深く点検していく必要がある。』(プレゼン10pより)と書いてはありますな。

でですな、上記のリスクアセスメントって「もっとも、低金利環境が続くもとで、銀行の貸出姿勢はバブル期以来の積極性を示している。」「金融機関同士の競争が過度に進んだ場合には、貸出採算の悪化等を通じて金融機関の収益基盤を脆弱にするとともに、金融システムを不安定化させるリスクもあるため、注視していく必要がある。」とありまして、早速この辺りから低金利政策長期化の弊害についての話を控えめに入れている訳ですな。

次が『金融システムの安定性』です。

『わが国の金融システムは、安定性を維持している。すなわち、金融機関の自己資本比率は規制水準を十分に上回っており、マクロ的なリスク量との対比でも総じて充実した水準にある。マクロ・ストレステストの結果も、金融システムが相応に強いストレス耐性を備えていることを示している。また、流動性の面では、金融機関は十分な円資金を有している。外貨資金についても、一定期間調達が困難化しても、資金不足をカバーできる流動性を確保しているほか、外貨資産の売却を余儀なくされるストレス・シナリオのもとでも、金融機関の健全性は維持されることが確認できる。ただし、市場性調達の比重はなお高く、金融機関は引き続き外貨資金の安定調達基盤の拡充に取り組んでいく必要がある。』

とまあ要旨の方ではサラサラ流しているのですが・・・・・・・・

プレゼンの方の17ページに『(参考3)テールイベント・シナリオの結果を解釈する上での留意点』というのがありましてですな。

『・金融機関の自己資本比率が規制水準を上回るとしても、ストレスが生じる過程では、例えば赤字決算や有価証券の評価損転化などによって、金融機関のリスクテイク姿勢が後退し、金融仲介機能に悪影響を及ぼす可能性がある。

・例えば、テールイベント・シナリオの結果によれば、7割以上の先で当期純利益が一時赤字となるほか、国内基準行の自己資本比率のばらつきも相応にみられるが、当期純利益が赤字の先や自己資本比率が低い金融機関では、貸出スタンスを収益性の低下や自己資本の毀損の度合いと比較してもより大きく抑制する傾向がみられる。』(プレゼン17pより)

ということで、マクロ的に見れば規制資本内に収まっているとは言っても、個別行で見た場合には当然ながら分散がありますし、それこそこの前のイエレンさんの講演の話みたいですけれども、マクロ的にみた平均的な行動を全金融機関がする訳ではなくて、その中で脆弱な部分から問題が生じるということは当然留意すべき話なので、マクロ的に見て大丈夫だから大丈夫とかいう単純な話ではないですよ、というのは要旨の方では流していますが、当然ながらその辺りについての言及があります。(プレゼン23pでも分散している件についての話があります)。

でもって次の小見出しがこれです。

『金融機関の収益性低下に伴う潜在的な金融脆弱性』

>金融機関の収益性低下に伴う潜在的な金融脆弱性
>金融機関の収益性低下に伴う潜在的な金融脆弱性
>金融機関の収益性低下に伴う潜在的な金融脆弱性

前回の要旨では『マイナス金利付き量的・質的金融緩和と金融システム』という小見出しがありましたが、今回は思いっきりまた一歩踏み込んでいい感じで力強い突撃をしている感is有る。

『現状では、金融機関は充実した資本基盤を備えており、当面収益力が下押しされるもとでも、リスクテイクを継続していく力を有している。今後、金融機関のポートフォリオ・リバランスが、経済・物価情勢の改善と結びついていけば、基礎的収益力の回復に繋がっていくと考えられる。』

と一応はヨイショしておかないとですね!!!!!!!!!

『もっとも、人口減少や高齢化の進展などの構造問題は、地域金融機関の預貸業務の収益性を今後も下押し続けるとみられる。そうしたもとで、マイナス金利の影響も加わり、足もとの収益力の減少傾向が長引いた場合には、損失吸収力の低下する金融機関が増加し、金融仲介機能が低下する可能性も考えられる。』

>マイナス金利の影響も加わり、足もとの収益力の減少傾向が長引いた場合には
>マイナス金利の影響も加わり、足もとの収益力の減少傾向が長引いた場合には
>マイナス金利の影響も加わり、足もとの収益力の減少傾向が長引いた場合には

(;∀;)イイシテキダナー

『一方で、マイナス金利の影響などから貸出や有価証券投資の収益性が低下するなかで、金融機関が収益維持の観点から過度なリスクテイクに向かうことになれば、金融システムの安定性が損なわれる可能性があることにも留意が必要である。』

中々ケチョンケチョン。

『以上のように、金融機関の収益性低下に伴う潜在的な脆弱性としては、マクロ的なリスク蓄積や資産価格等への影響が行き過ぎる過熱方向のリスク、収益の減少に歯止めがかからず金融仲介が停滞方向に向かうリスクの両面について注視していく必要がある。』

副作用などというのを考えるのがおかしい(キリッ)とか言い出す人が堂々政策委員をやっている中で、こういう話はどういう風に読んでいるのでしょうかねえと思うのでした。いやまあ別にマイナス金利政策が直ぐに絶大な効果をホイホイ発揮してあっという間に物価2%目標達成して金利が正常な水準(誰ですか今の水準が正常で仕方ないだろと言う人は!!)に戻って頂けるのならマイナス金利の深堀上等ではあるのですが、どうせ何やっても物価が簡単にホイホイ上がる訳ではないのにマイナス金利をいつまで続けるのやら、というのが金利で商売している人の怒り心頭滅却している要因という事ですが、何気にFSRもマイナス金利長期化の悪態が割と強めに入っている(前回も結構踏み込んでいたが今回もいい感じの踏み込み)のが実にすばらしい。

でまあその辺のプレゼン部分に関しては本文も含めてもう少し詳しく読み込んでみる。


『マクロプルーデンスの視点からみた課題』

『金融システムが将来にわたって安定性を維持していくためには、潜在的な脆弱性に繋がり得るリスクの蓄積や構造的な変化に対して、金融機関は着実に対応していく必要がある。』

うむ。

『収益性低下の問題に対しては、金融仲介能力の向上を通じた地域経済・企業への支援強化など、収益力の安定・向上に向けた経営方針の具体化が望まれる。』

そらそうなのだがマイナス金利でそもそも厳しくなっている方を何とかしていただきたいのですが・・・・・・・・・・・

『また、国際業務や市場運用など、わが国金融機関が積極的にリスクテイクを進めている分野におけるリスク対応力の強化も重要である。このほか、大規模金融機関では、システミックな重要性の高まりを踏まえ、リスク蓄積に対する強い財務基盤と経営管理体制の強化、ストレス発生時の秩序ある対応に向けた準備などが一段と強く求められる。日本銀行も、金融システムの安定確保に向けて、モニタリング・考査等を通じてこれらの課題に引き続き対応していく。』

ということで。


それから今回のプレゼン版の目次を見ますと

『BOX1: 家計の資産運用行動の変化
BOX2: 地域金融機関の有価証券投資
BOX3: マイナス金利政策実施国における銀行の収益構造
BOX4: 地域金融機関の預貸利鞘低下の背景
BOX5: 銀行の収益性と貸出供給インセンティブ
BOX6: 地域金融機関の役務収益と資金利鞘の関係』

とあって、何気にコラムがマイナス金利ネタだらけになっているのも大変に味わいが深いのですが、この辺も含めましてじっくり読み込んで追々ネタにしていきたいと思います。





2016/10/24

お題「休み明けにつき引っ張っていたイエレンネタで勘弁」

出たがり白井さん今朝はモーサテで何か凄まじく偉そうにテーパリングとか言っているんだが、だったら在任中に木内さんに賛成しろよとしか申し上げようがない訳で、無責任な立場になってから「私はこう言ってました(キリッ)」って「あの戦争は実は私も反対でした」と言ってるのと全く同じなんですよねえ。

で、最後聞いたら「まずは1%物価を安定的に実現するのが良いです」とか言ってるけど、貴女麿総裁の最後の時にいきなり「追加緩和提案」という同僚全員を盛大に売り飛ばして次の大勢に全力で尻尾を振ってワンワンンワンって提案していたのをすっかりお忘れのようで、この面の皮の厚さには驚くしかありません。まあ本当はキャスターの皆様にツッコミ入れて欲しい所ですけどね。

とは言いましても、このようなコウモリ大先生が偉そうな話を滔々としているというのはつまりコウモリの感じる風向きが・・・・・・・・・・・・・・・・


○散々引っ張ったイエレン議長ネタですが(大汗)

http://www.federalreserve.gov/newsevents/speech/yellen20161014a.htm
http://www.federalreserve.gov/newsevents/speech/yellen20161014a.pdf
Macroeconomic Research After the Crisis

Remarks by Janet L. Yellen
Chair Board of Governors of the Federal Reserve System
at“The Elusive ‘Great’ Recovery:
Causes and Implications for Future Business Cycle Dynamics”

60th annual economic conference sponsored by the
Federal Reserve Bank of Boston Boston, Massachusetts October 14, 2016


・インフレ期待の形成に関するメカニズムについては今後解明していく必要がある、と日銀涙目のコーナー

『Inflation Dynamics』という小見出しの所がまあ色々と論点がある。

『My fourth question goes to the heart of monetary policy: What determines inflation?』

ほほう。

『From my perspective, the standard framework for thinking about inflation dynamics used by central bank economists and others prior to the financial crisis remains conceptually useful today. A simple description of this framework might go something like this:16 Inflation is characterized by an underlying trend that has been essentially constant since the mid-1990s; previously, this trend seemed to drift over time, influenced by actual past inflation or other economic conditions. Theory and evidence suggest that this trend is strongly influenced by inflation expectations that, in turn, depend on monetary policy.』

90年代以降の基調的なインフレは安定していたが価格の一時的な動きやインフレ期待の変化によって動きはありましたと。でもってインフレ期待は金融政策によって安定化されていたと。

『In particular, the remarkable stability of various measures of expected inflation in recent years presumably represents the fruits of the Federal Reserve's sustained efforts since the early 1980s to bring down and then stabilize inflation at a low level. The anchoring of inflation expectations that has resulted from this policy does not, however, prevent actual inflation from fluctuating from year to year in response to the temporary influence of movements in energy prices and other disturbances.』

『In addition, inflation will tend to run above or below its underlying trend to the extent that resource utilization--which may serve as an indicator of firms' marginal costs--is persistently high or low.17 』

1980年代からのインフレ安定化政策によってインフレ期待がアンカーされている事から、足元の物価が弱くなっても中長期的なインフレ期待に変化が無いという効果になっています。とのお話。

『While this general framework for thinking about the inflation process remains useful, questions about some of its quantitative features have arisen in the wake of the Great Recession and the subsequent slow recovery.』

ここからがリセッション後の物価に関する話。

『For example, the influence of labor market conditions on inflation in recent years seems to be weaker than had been commonly thought prior to the financial crisis. Although inflation fell during the recession, the decline was quite modest given how high unemployment rose; likewise, wages and prices rose comparatively little as the labor market gradually recovered.』

物価と失業率の関係についてで、失業率がドカドカ上昇したけど物価がそんなに落ちずというのをリセッションの時にやっていて、最近はその逆が生じていますと。

『Whether this reduction in sensitivity was somehow caused by the recession or instead pre-dated it and was merely revealed under extreme conditions is unclear.18』

どうしてそうなの?という件はまだ解明されていない。

『Either way, the underlying cause is unknown. Does the reduced sensitivity reflect structural changes, such as globalization or a greater role for intangible capital in production that have reduced the importance of cyclical swings in domestic activity for firms' marginal costs and pricing power? Or does it perhaps reflect the well-documented reluctance--or, alternatively, limited ability--of firms to cut the nominal wages of their employees, which could help to explain the relatively moderate movements in inflation we saw during and after the recession?19 』

構造的なものなのか、企業の価格決定力の変化によるものなのか、あるいは企業の賃金引下げ能力が落ちているのか、など雇用情勢に対して物価の変化が少ない点についてはどういう要因が強いのかという点があまり解明されていない。

『Another gap in our knowledge about the nature of the inflation process concerns expectations. Although many theoretical models suggest that actual inflation should be most closely related to short-run inflation expectations, as an empirical matter, measures of long-run expectations appear to explain the data better.20 Yet another unresolved issue concerns whose expectations--those of consumers, firms, or investors--are most relevant for wage and price setting, a point on which theory provides no clear-cut guidance.』

短期的なインフレ期待の変化は足元の物価変動に応じて変化して、行動などのような形でも観察されていますが、長期のインフレ期待に関しては、概念としてそのものはあっても、ではどのような動きを見て長期のインフレ期待を見ていくのか、という話になると、賃金設定とか価格設定などの例を出していますが、でもクリアーなガイダンスは無いですねというお話を。

『More generally, the precise manner in which expectations influence inflation deserves further study.21』

ということで続き。

『Perhaps most importantly, we need to know more about the manner in which inflation expectations are formed and how monetary policy influences them.』

とのことですが、ここで「マネタリーベースをこれだけ拡大するとインフレ期待が上がります!」という最新の理論を振りかざしてハチャメチャな金融政策を3年半も続けている中央銀行が太平洋の向こう側にいますよ!!!!!!!!!!!

『Ultimately, both actual and expected inflation are tied to the central bank's inflation target, whether that target is explicit or implicit.22』

そら中銀だからこういう風に「明示的か非明示的かは兎も角として究極的にはワシらのターゲットに収斂するんですよ」とは言うわなという所ですが・・・・・・・・・・・・・

『But how does this anchoring process occur? Does a central bank have to keep actual inflation near the target rate for many years before inflation expectations completely conform?』

味わいが深い。

『Can policymakers instead materially influence inflation expectations directly and quickly by simply announcing their intention to pursue a particular inflation goal in the future?』

別にイエレンさんは日本に対して砲撃を加えるとか全く考えていないと思うのですが、これは巧まざる日本への大砲撃になっておりますな!!!!!!!つーか「directly and quickly」ってやっぱりこれ日銀の事案の話なのかなあ(笑)。

『Or does the truth lie somewhere in between, with a change in expectations requiring some combination of clear communications about policymakers' inflation goal, concrete policy actions to demonstrate their commitment to that goal, and at least some success in moving actual inflation toward its desired level in order to demonstrate the feasibility of the strategy?』

この辺りの話も思いっきり日本が人柱になっている訳で、とにかく「効いた」ことにしたい総括検証のお話なのですが、インフレ期待に対する効果の部分を「消費税ガー」と「適合的期待形成ガー」という話だけで済ませているのに対してもうちょっとここに指摘されているような点での検証をしていただきたい(しているっぽいのだがどうも前提条件とかでインチキされている疑惑があってだなあ)という感じです。やはり期待の変化には何らかのアクチュアルの物価上昇(しかもそれはサステイナブルな形で上昇するようなもの)が必要なのか、という事になると、サステイナブルとなるとなかなか大変なお話(ワンタイムなら行けても、ワンタイムでの物価上昇が個人実質所得を下げて結果ダメでしたというのも日本で実施した訳ですし)なのでじゃあどうするの、となると中々難しいと思う。

『Although historical experience suggests that changing the public's inflation expectations would be neither quick nor easy, it is not clear which of these possibilities is correct.23』

リフレ派ェ・・・・・・・・・・・・・・

で、ここから先は金曜日に引用した話ですが、名目金利ゼロ制約の中でインフレ期待に働きかける政策をどのように行ったか、という話をしていて、その中で日銀の例も出てくるのだが出てくるのはQQEではなくてその前の白川総裁時代の政府との共同文書となっているのが実に味わいがありますな、というのは金曜日にも申し上げた通り。

『With nominal short-term interest rates at or close to their effective lower bound in many countries, the broader question of how expectations are formed has taken on heightened importance. Under such circumstances, many central banks have sought additional ways to stimulate their economies, including adopting policies that are directly aimed at influencing expectations of future interest rates and inflation.』

『The unusually explicit and extended guidance about the likely future path of the federal funds rate that was provided by the FOMC from 2011 through 2014 is an example of such a policy, as is the Bank of Japan's upward revision to its official inflation objective in 2013.』

『Moreover, these and other expectational strategies may be needed again in the future, given the likelihood that the global economy may continue to experience historically low interest rates, thereby making it unlikely that reductions in short-term interest rates alone would be an adequate response to a future recession.24』

ということで。


・金融政策の海外への影響について

最後が『International Linkages』というイエレンさんになってすっかりこの話をするようになりましたなあという感じではありますが、海外へのフィードバックループを考えるとか昔の白川さんみたい。

『Before closing, let me mention one additional area where more study is needed--the effects of changes in U.S. monetary policy on financial and economic conditions in the rest of the world and the ways in which those foreign effects can feed back to influence conditions here at home.』

金融政策の海外からのフィードバックループとかバーナンキ以前のFRB議長はそのような話を毛ほどもしないのが米国FRB議長の仕様でした。

『Of course, cross-country monetary policy spillovers have been the subject of scholarly debate since the Great Depression, and much of the formal analysis of this topic dates back to the early 1960s.25 But this issue has received renewed interest with the advent of unconventional monetary policies after the Great Recession and, more recently, the divergence of monetary policies among major advanced-economy central banks.』

まあ何となく自分の所にも影響が来るようになってから気にするようになった感もありますが。

『Broadly speaking, monetary policy actions in one country spill over to other economies through three main channels: changes in exchange rates; changes in domestic demand, which alter the economy's imports; and changes in domestic financial conditions--such as interest rates and asset prices--that, through portfolio balance and other channels, affect financial conditions abroad.』

一国の金融政策の海外への波及効果は、為替レート、国内需要による他国からの輸入増、金融市場や資産価格の変化によってポートフォリオリバランス効果やその他のチャネルによる資産ルートと。

『Research by Federal Reserve staff suggests that, all told, U.S. monetary policy spillovers to other economies are positive--that is, policies designed to provide stimulus to the U.S. economy also boost activity abroad, as negative effects of dollar depreciation are offset by positive effects of higher U.S. imports and easier foreign financial conditions.26』

という話をしているが、結局米国の経済が良く成れば皆ハッピーなのだからお前らアメリカ様の金融財政政策が悪影響とか寝言言ってるんじゃねえ、という結論になっているので、最終的には米国様が相変わらずのおれはジャイアン状態であることは変わらないというのが何ともではありますが。

『However, this issue is far from settled, as are a host of other related questions, including the following: Do U.S. monetary policy actions affect advanced and emerging market countries differently? Do conventional and unconventional monetary policies spill over to other countries differently? And to what extent are U.S. interest rates and financial conditions influenced by easing measures abroad?』

つーことでこちらも論点を提示して終了という感じではあります。


・まあ何ですな

高圧経済の部分を再度引用しますが。

『For example, hysteresis would seem to make it even more important for policymakers to act quickly and aggressively in response to a recession, because doing so would help to reduce the depth and persistence of the downturn, thereby limiting the supply-side damage that might otherwise ensue.』

『In addition, if strong economic conditions can partially reverse supply-side damage after it has occurred, then policymakers may want to aim at being more accommodative during recoveries than would be called for under the traditional view that supply is largely independent of demand.』

という話が高圧経済云々の所ではあって、需要の低下が長期化することによって潜在供給に悪影響を与えるのであれば、金融政策や財政政策で吹かして需要を吹かした場合に潜在供給も伸びるのでは、という理屈になるのですが、それが単なる需要の先食いに終わってしまった場合にはどうなるのでしょうかね、というのはある。

『More research is needed, however, to better understand the influence of movements in aggregate demand on aggregate supply.8 From a policy perspective, we of course need to bear in mind that an accommodative monetary stance, if maintained too long, could have costs that exceed the benefits by increasing the risk of financial instability or undermining price stability.』

『More generally, the benefits and potential costs of pursuing such a strategy remain hard to quantify, and other policies might be better suited to address damage to the supply side of the economy.』

まあ元々アタクシはその長期的な供給力が長期的な需要に影響するという新古典派的な発想がワカランチな所があって、いやそれ価格調整すれば調整できるのは分かるんですが、その一方で実際の経済運営においては物価の安定というのが旗印にある訳で、物価の安定の中ではそのソロー的な話ってどこかに歪みが出ないのかと思ったりするのですよね。でまあそんなシロート話は兎も角としても、需要を短期的に吹かしたからと言って経済のトレンドグロースは上昇しないのではないか(あるいは上昇しても極めて効果が小さい)となりますと、需要を短期的に吹かす政策って一時的に上手く行ってもただの未来からの力の前借になってしまうので、却って金融不均衡的なのが起きるようにも思えますな。まあ金融不均衡に関しては念頭には置いているようですから、そこまでの事にはならないのかも知れませんけど、今後の金融という意味では結局またどこかに変なバブルがというのが長めのスパンで見た時のテーマなのではないかと思うのでした。







2016/10/21

お題「ECBは淡々と(なのかな?)/イールドカーブコントロールの起点は??/イエレン講演ネタさらに続き(汗)」

ほっほー。
http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS20H2S_Q6A021C1MM8000/?dg=1
相続税逃れの海外移住に網 政府・与党検討 居住5年以上にも課税
2016/10/21 2:03日本経済新聞 電子版

○サラサラとECB

・声明文とプレコンの説明は淡々としたもので

http://www.ecb.europa.eu/press/pr/date/2016/html/pr161020.en.html
Monetary policy decisions
20 October 2016

『At today’s meeting the Governing Council of the ECB decided that the interest rate
on the main refinancing operations and the interest rates on the marginal lending facility and the deposit facility will remain unchanged at 0.00%, 0.25% and -0.40% respectively. The Governing Council continues to expect the key ECB interest rates to remain at present or lower levels for an extended period of time, and well past the horizon of the net asset purchases.』

金利について変化は無くて、今後も現状または下げるかも知れませんでという説明もこれまた同じですが、もう延々とこう書いてあるのですが、まあこの文言を入れ続けてるということはマイナス金利の撤回とかそういう目出度い(かどうか知らんが)話は無いざんすわねということで。

『Regarding non-standard monetary policy measures, the Governing Council confirms that the monthly asset purchases of ユーロ80 billion are intended to run until the end of March 2017, or beyond, if necessary, and in any case until it sees a sustained adjustment in the path of inflation consistent with its inflation aim.』

買入プログラムの額とか期限とか同じなのですが、2017年3月ってもうすぐなんですが随分引っ張りますなあという感じ。とは言えそもそも今回のECB会合は「決定は先送り」というのがコンセンサスでしたから。


・冒頭説明も淡々と流しているイメージで変な思惑をださせないで「既存方針通り」ですかね

http://www.ecb.europa.eu/press/pressconf/2016/html/is161020.en.html
Introductory statement to the press conference
Mario Draghi, President of the ECB,
Vitor Constancio, Vice-President of the ECB
Frankfurt am Main, 20 October 2016

『Based on our regular economic and monetary analyses, we decided to keep the key ECB interest rates unchanged. We continue to expect them to remain at present or lower levels for an extended period of time, and well past the horizon of our net asset purchases. Regarding non-standard monetary policy measures, we confirm that the monthly asset purchases of ユーロ80 billion are intended to run until the end of March 2017, or beyond, if necessary, and in any case until the Governing Council sees a sustained adjustment in the path of inflation consistent with its inflation aim.』

って期限もあと半年切っていますが何かこう切迫感も無く、とは言っても別にTaper的な見直し感も無いという淡々とした説明でして、

『Based on our regular economic and monetary analyses, we decided to keep the key ECB interest rates unchanged. We continue to expect them to remain at present or lower levels for an extended period of time, and well past the horizon of our net asset purchases. Regarding non-standard monetary policy measures, we confirm that the monthly asset purchases of ユーロ80 billion are intended to run until the end of March 2017, or beyond, if necessary, and in any case until the Governing Council sees a sustained adjustment in the path of inflation consistent with its inflation aim.』(9月会見より)

ということで、9月会見での説明と掴みが全く同じでありますな。

『The information that has become available since our meeting in early September confirms a continued moderate but steady recovery of the euro area economy and a gradual rise in inflation, in line with our previous expectations. The euro area economy has continued to show resilience to the adverse effects of global economic and political uncertainty, aided by our comprehensive monetary policy measures, which ensure very favourable financing conditions for firms and households. Overall, however, the baseline scenario remains subject to downside risks.』

経済物価情勢は従来のシナリオ通りに推移していて、経済の基調は確りしていて緩やかではあるが回復傾向が続き、物価もゆっくりだが徐々に上昇していくでしょう。海外経済や政治的な不確実性による家計や企業の悪影響は金融緩和政策によって軽減されています、ああでも経済のリスクは下な。

『Looking ahead, we remain committed to preserving the very substantial degree of monetary accommodation which is necessary to secure a sustained convergence of inflation towards levels below, but close to, 2% over the medium term. To that end, we will continue to act, if warranted, by using all the instruments available within our mandate.』

必要ならば使える政策ツールを総動員といういつもの話はしているものの、これ自体も何かもう聞き飽きた感でだから追加緩和という話になるものでもない。まあ方向性としてこういう表現をしているのに縮小方向キタコレというのはあり得無さそうだけど。

『In December the Governing Council’s assessment will benefit from the new staff macroeconomic projections extending through to 2019 and from the work of the Eurosystem committees on the options to ensure the smooth implementation of our purchase programme until March 2017, or beyond, if necessary.』

何かこうやる気があるのか無いのか分からん表現ではありますが、そうは言っても別に状況がジャンジャン好転している訳でもないのにいきなり緩和縮小ヒャッハーとか無理無理無理でしょうから3月以降のおかわりについて概要説明が打ち込まれる事になるのでしょうな。よー知らんけど。

でもって概要的な話はこの3パラグラフで終わっていまして、一番何もない時の標準スタイルがこの3パラグラフ攻撃ですので、まあ今回は見事に何もありません(中ではあったけど出せるものは無いという事かも知れませんけど)という事だったのでしょう。

ちなみに前回会見における今後の政策をこう見直す云々の部分はこうなっています(その前のパラグラフの部分も含まれています)。

『The Governing Council will continue to monitor economic and financial market developments very closely. We will preserve the very substantial amount of monetary support that is embedded in our staff projections and that is necessary to secure a return of inflation to levels below, but close to, 2% over the medium term. If warranted, we will act by using all the instruments available within our mandate. Meanwhile, the Governing Council tasked the relevant committees to evaluate the options that ensure a smooth implementation of our purchase programme.』(9月会見より)

ということで、じゃあ9月に「evaluate the options that ensure a smooth implementation of our purchase programme」と言ってたのはどうなったのじゃろうかのうと問い詰めたいのですが、それも含めて12月にスタッフ見通し出しますからその時にという話でしょうが、9月の時点でちょっとやる気を出した感があったのを一旦トーンダウンの巻だけど別に緩和後退とかそういう話でもないという所ですかね。会見のやりとりを見てまた後日。


○「概ね現状程度のイールドカーブ」に対する精密誘導とは何なのかという謎キタコレ

一昨日こんなのがありまして、まあその日に10年カレント出合い無しとか債券市場も中々お洒落な事をする訳ですが。

http://www.boj.or.jp/announcements/release_2016/rel161020b.pdf
「市場調節に関する懇談会」(2016 年第 2 回)の概要

日本銀行では、「市場調節に関する懇談会」(2016 年第 2 回)を下記のとおり開催しました。

1.開催要領
(日時)2016 年 10 月 19 日(水)17 時 30 分から
(場所)日本銀行本店
(参加者)日本銀行本店を貸付店・売買店とするオペレーション対象先の市場部門担当役員・実務責任者
(日本銀行出席者)金融市場局長、市場調節課長、市場企画課長


・・・・・・・・でまあそれは良いのですが、謎なのはここの(図表6)の『長期金利』という所です。

最初の方の図表はまあ良いとしまして、『(2)イールドカーブ』の方というのに出ているのが、

7月決定会合初日(7/28日)
9月決定会合初日(9/20日)
直近(10/17日)

という組み合わせで出ているのですよ。でもって7/28からの比較ってのはイールドカーブが全体的に上がったしちょっとスティープしましたとかそういう話をしたいのでしょうが、物凄く意味が分からないのは9/20のイールドカーブを出している事。


つまりですね、

9月決定会合声明文
http://www.boj.or.jp/announcements/release_2016/k160921a.pdf

の1ページ目の脚注には、

『1 今回の枠組みの変更に伴って、イールドカーブが概ね現状程度の水準から大きく変動することを防止するため、金利が上昇した場合などには、例えば 10 年金利、20 年金利を対象とした指値オペを実施する用意がある。』(9月決定会合声明文)

とあって当日の会見では、
http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2016/kk1609b.pdf

『今回の決定会合では、概ね現状程度のイールドカーブをイメージして、短期政策金利を−0.1%とするとともに、10 年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう長期国債の買入れを行うこととしました。また、買入れ額は、年間増加額約 80 兆円をめどとしました。』

『金利が現状程度のイールドカーブの水準から大きく変動することを防止するため、金利が上昇した場合などには、10 年金利、20 年金利などを対象とした指値オペを直ちに実施する用意があります。』
(以上9月21日総裁会見より)

とあって、かつ

http://www.boj.or.jp/announcements/release_2016/k160921c.pdf
目で見る金融緩和の「総括的な検証」と「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」


の所では9ページに『○ イールドカーブ・コントロール』というのの図表があって、そこに『直近のイールドカーブ』というのが出ていて、その水準ってどう見ても先ほどのオペ先説明会資料の9/20のイールドカーブと違う(20年の水準が違うのと30-40のカーブ形状が違う)のですよね。


・・・・・・・・・いやあのですね、別に「概ね直近程度」という概念には幅があるから、別に比較のカーブを出すときにそこは大体似ていれば良い、という説明をしてくるのは火を見るよりも明らかなのですし、本来そういう概念で10年の所はある程度メド(それにしても10bp下がらないうちに輪番減額をしたのはちょっとやり過ぎ)で、他の年限の価格形成は市場が極端に動かない限りは放置プレイというのであればまあ話は分からんでもない。

しかしながら、9月の末に行った場中に10年輪番減額→引け後に超長期輪番減額ってのは、この減額が入った水準そのものが(どこを基準に置くかによって微妙に異なりますが、「目で見る」のカーブあたりだした場合)10bpそこそこという極めて狭い所で「介入」を行ってきた訳でして、市場の方はそれを見て「ガチガチに金利を制御しようとしている」というメッセージと取って、お蔭で債券市場が即身仏モードになって来るという大変に素敵な状態になっておる訳ですよ。

つーことでですね、イールドペッグするような勢いで(ちなみに中長期的にこんなの持たないと思うけどそれは兎も角として今の話ね)オペレーションをしていますよ、というメッセージに取れるような輪番の調整をやっている側から、この前のMPMの関連資料で出したイールドカーブと別のイールドカーブを出してきて、「直近とのイールドカーブ比較でございます」とか言われましても、何が何だか資料見せられても???????????????になってしまうんですが(特にこの資料だけ見せられたりすると)、この比較基準日は何の意図でこの日のカーブを選んだのか、そしてMPMの時に示した「概ね現状程度のイールドカーブ」とどのような関係があるのか、という辺りの説明文を付けて頂かないと、コミュニケーションが益々混乱するだけ(この資料だけ見せられる人的には)にしか思えないんですけどとしか申し上げようがない。

いやこれが別に9月末に輪番いじらないで淡々と同ペースの買入を実施していたのであれば別にこの辺に関しては「概ね直近のイールドカーブ」ってのには一定のアローワンスがあって、そんなにガチガチした概念ではありません、って説明で別に話は通じるのですが、一事が万事でこの調子だと次に介入水準が変わった瞬間からコミュニケーション崩壊しますぜ。


○イエレン議長講演ネタだが時間の関係で残りのうちちょっとだけ

http://www.federalreserve.gov/newsevents/speech/yellen20161014a.htm
http://www.federalreserve.gov/newsevents/speech/yellen20161014a.pdf
Macroeconomic Research After the Crisis

Remarks by Janet L. Yellen
Chair Board of Governors of the Federal Reserve System
at“The Elusive ‘Great’ Recovery:
Causes and Implications for Future Business Cycle Dynamics”

60th annual economic conference sponsored by the
Federal Reserve Bank of Boston Boston, Massachusetts October 14, 2016

冬眠相場のためつい寝坊してしまい(相場関係ないやろ!というツッコミは却下)最後面白いのですとか言いながらネタにする時間がないというこの悪事例なのですが、昨日の続きが『Inflation Dynamics』で本当はその前半から話が面白いのですが、インフレーションダイナミックスということで、後半はそれにとって重要ファクターのインフレ期待の話になって、その纏め部分に味わいがあるので、途中を飛ばして(飛ばした分は後でやりますすいません)纏め部分を。

『Perhaps most importantly, we need to know more about the manner in which inflation expectations are formed and how monetary policy influences them. Ultimately, both actual and expected inflation are tied to the central bank's inflation target, whether that target is explicit or implicit.22』

そら中央銀行はそういうわな。

『But how does this anchoring process occur? Does a central bank have to keep actual inflation near the target rate for many years before inflation expectations completely conform? Can policymakers instead materially influence inflation expectations directly and quickly by simply announcing their intention to pursue a particular inflation goal in the future?』

となると日本の事例というのも出てくるかなと思うと実はちょっとだけでてくるのですがこれがまた味わいあるのよ。

『Or does the truth lie somewhere in between, with a change in expectations requiring some combination of clear communications about policymakers' inflation goal, concrete policy actions to demonstrate their commitment to that goal, and at least some success in moving actual inflation toward its desired level in order to demonstrate the feasibility of the strategy?』

インフレ期待の形成に関して金融政策でどういう作用がという結構な核心の論点。もちろんここで明確な答えをイエレンさんが出している訳ではありませんが・・・・・・・・・・・・・・・

『Although historical experience suggests that changing the public's inflation expectations would be neither quick nor easy, it is not clear which of these possibilities is correct.23 』

日銀当座預金を80兆円拡大すればインフレ期待は2年以内に2%に達成します!とか言ってた人がいたような気がします。

『With nominal short-term interest rates at or close to their effective lower bound in many countries, the broader question of how expectations are formed has taken on heightened importance.』

リフレ日銀はそれに対してマネタリーベース直線一気理論によって(しつこいですかそうですか)。

『Under such circumstances, many central banks have sought additional ways to stimulate their economies, including adopting policies that are directly aimed at influencing expectations of future interest rates and inflation.』

その手段とは?

『The unusually explicit and extended guidance about the likely future path of the federal funds rate that was provided by the FOMC from 2011 through 2014 is an example of such a policy,』

FRBのフォワードガイダンスはその一つの手段でしたと。

『as is the Bank of Japan's upward revision to its official inflation objective in 2013.』

おー日銀事例来たじゃん!!!と言いたいのですが、この「upward revision to its official inflation objective in 2013」というのはQQE政策ではなくて、その前に白川総裁の時に実施した政府との共同文書によってとりあえず1%だけど将来的に2%というものから2%という形にした件だったりするのが味わい深い。

『Moreover, these and other expectational strategies may be needed again in the future, given the likelihood that the global economy may continue to experience historically low interest rates, thereby making it unlikely that reductions in short-term interest rates alone would be an adequate response to a future recession.24 』

という話をしているのは、結局のところこの講演での中で何度もあったように、トレンド成長が弱くなって居る中で金利政策としてのゼロ金利制約というのもあるでしょうし、(本日飛ばしちゃいましたが)インフレ形成の中でインフレ期待を下げないようにするためにこのての施策は必要になることもまたあるでしょうという趣旨ですの。

『For all of these reasons, I hope that researchers will strive to improve our understanding of inflation dynamics and its interactions with monetary policy.』

ということで、イエレンさんこれに関しても論点の呈示にとどめている(基本的に今回のこの講演って論点の呈示を行っているのであって、「これが正しい」とかそういう話ではなくて「従来正しいと考えられていることでも論議の対象となりうる」という話をしているんだと思います)のでした。

ちなみに次の小見出しが『International Linkages』でして、バーナンキおよびそれより前のFEDでは叩いても中々出て来なかった論点でして、そこもイエレンさんらしい論点呈示だと思いました。

#と中途半端ですいませんすいません






2016/10/20

お題「冬眠相場キタコレ/イエレン議長講演ネタの続き」

おぅ・・・・・・・・・・・・・
http://jp.reuters.com/article/idJPL4N1CP2CG
Markets | 2016年 10月 19日 15:13 JST
〔マーケットアイ〕金利:国債先物は小反発で引け、新発10年344回債は取引成立せず

○ということでメモメモ

http://jp.reuters.com/article/idJPL4N1CP2CG
Markets | 2016年 10月 19日 15:13 JST
〔マーケットアイ〕金利:国債先物は小反発で引け、新発10年344回債は取引成立せず

『<15:05> 国債先物は小反発で引け、新発10年344回債は取引成立せず

国債先物中心限月12月限は前日比4銭高の151円85銭と反発して引けた。前日の米債高や日銀の国債買い入れによる需給引き締まりが意識されて、強含みの展開。もっとも、11月の米大統領選が意識されて積極的な取引を手控える動きが強まり、値幅はわずか4銭にとどまるなど狭いレンジでの値動き。出来高は9654億円と8月22日以来約2カ月ぶりの低水準。

現物市場は閑散。日銀買い入れなどに絡んだ持ち高調整主体の値動きだった。新発10年344回債は午後3時現在、出合いは観測されていない。仮に、夜間取引を含めて取引が成立しなかった場合、2015年9月24日以来約1年1カ月ぶりになる。』(上記URL先より)

とまあそういうことで残念にも程があるのですが、今回の場合は何せ先月末の場中に輪番オペの10年を減額して、引け後に超長期の輪番予定額も減額(10年は減らしたままの額での予定にした)ということで、日銀の政策枠組みの実際の運営において、決定会合(というか決定会合で出した総括検証)で出した「現状程度のイールドカーブが適正」というのを思いっきりタイトに運営していく、という事が示されたのが要因なのは言うまでもありません。

つーことで目出度く(全然目出度くないが)先月末手前位の水準とかに来るとどうせ輪番減らすからということで買い上げてヒャッハーとかやる気も起きないので金利下がらんし、かと言って叩き売るような経済物価情勢でもない上にそもそも売る玉無いので金利上昇方向での日銀介入水準を見に行く気も無いし、となって金利がまるで動かないという状態になりましたの巻。

まーさすがに10bpしかないのはキツイだろと思うのと、10年カレントだけではなくて超長期まで10bp程度しか動いていない所で介入してきたのが市場の心理に効いたのではないかと勝手に愚考(10年はピン止めするけれども超長期は放置となったら超長期でそれなりに動く余地もあったかも知れませんが実はあんまり変わらなかったかも知れないので良く分からん)する所でございますけど、しかしまあこれだと少なくとも(これから輪番オペでも月中にいじりでもしない限り)来月1日のMPMとその日に出てくる翌月の輪番予定の所まで動かんぞなもしという感じで実に残念な展開に。


何回にも渡って親指を立てて溶鉱炉に沈んでいる割には死に損なって債券市場の消滅シーズン2とか3とかやっている(まあその間にドンドン円債の人が離散している感はありますけど)のですが、今回に関しては先般ネタにしました総括検証シリーズの中立金利のお話にもありましたように、置きが物凄い勢いで入っている均衡イールドカーブにこれまた置きが入る適切な緩和度合いを加味して出した「望ましいイールドカーブ」って相当にフワフワした数字なのに、何故かそのフワフワした数字に対して物凄い厳密に意思を出して介入してくるという現状のやり方って、経済物価情勢(たぶん物価情勢)が変化した際に何でそこに置くのかという話になって来る筈だし、日銀執行部の説明が当初の通りで継続するのであれば、適切なイールドカーブ形状は変化しうるものですので、その水準に変化が生じうるという話になった時にまた色々と動くようになってくれるでしょう、ということでしばしの冬眠ですなあとか言っていたら即身仏になっている悪寒もしますけど。

ということでまあ現状の所から物価が上がるか下がるかしてくれないと即身仏相場が続きそうで(まあキャリーロールダウンとか存在しない訳でもないので完全に死ぬわけでもないが)甚だ遺憾なのですが、これがまた今までも都合が悪くなるとああ言えばこう言う攻撃で話をしらっと翻してイカサマ説明を行っておられました日銀執行部でありますので、本来(特に)物価情勢に変化が生じたらイールドカーブ操作水準を変更して然るべき所ではあるのですが、今度はその時になっていきなり「均衡イールドカーブの概念は幅を持ってみなければいけない(キリッ)」と言い出して、結局面倒がって新たに適切なイールドカーブ水準を出さないでそのまま水準を維持し続けるとかいうしょうもないプレイに出てきそうな感じがするので、このイールドカーブコントロールってのも意外に賞味期限が短い可能性もあるのではとか思いつつ即身仏相場で即身仏になりかかっているアタクシなのでした。ナムナム。


○気を取り直してイエレン講演ネタの続き

なおイエレン講演ネタを引っ張っているうちに次から次へと連銀高官の講演が打ち込まれて精読して回るのもさることながら整理つけて行くの面倒なんですがおまいら出すタイミングというのをもうちょっと分散しろと言いたくなりますなマッタクモウ(^^)。

http://www.federalreserve.gov/newsevents/speech/yellen20161014a.htm
http://www.federalreserve.gov/newsevents/speech/yellen20161014a.pdf
Macroeconomic Research After the Crisis

Remarks by Janet L. Yellen
Chair Board of Governors of the Federal Reserve System
at“The Elusive ‘Great’ Recovery:
Causes and Implications for Future Business Cycle Dynamics”

60th annual economic conference sponsored by the
Federal Reserve Bank of Boston Boston, Massachusetts October 14, 2016


・経済を分析する際に平均的な所でざっくり見るのは宜しくないとかそういう話をしているように見える

何ちゅうかアタクシ昨日も申しあげたように浅学菲才にも程があるのでアレなのですが、どうもアグリゲートされた値だけで経済を見るのではない的な話をしているように読めたのが次の『Heterogeneity』(英和辞典見たら「異種性」とかあるんだが)という小見出し。

『My second question asks whether individual differences within broad groups of actors in the economy can influence aggregate economic outcomes--in particular, what effect does such heterogeneity have on aggregate demand?』

個別経済主体における異種性が総需要に対する影響をどのように与えるか、とかいきなり足もとの金融政策と関係がなさそうなより大きな話になって来るのだ。

『Many macroeconomists work with models where groups of individual actors, such as households or firms, are treated as a single "representative" agent whose behavior stands in for that of the group as a whole. For example, rather than explicitly modeling and then adding up the separate actions of a large number of different households, a macro model might instead assume that the behavior of a single "average" household can describe the aggregate behavior of all households.』

マクロ経済のモデル分析をすると平均的な個人とか企業とかそういう風な扱いになるけれども・・・・・・・

『Prior to the financial crisis, these so-called representative-agent models were the dominant paradigm for analyzing many macroeconomic questions. However, a disaggregated approach seems needed to understand some key aspects of the Great Recession.』

そういう分析アプローチは今般のリセッションの前には通常の考え方だったが、リセッション後においては重要な部分でそういうアプローチ以外が必要になってきたと。

『To give one example, consider the effects of negative housing equity on consumption. Although households typically reduce their spending in response to wealth declines, the many households whose equity positions in their homes were actually driven negative by the reduction in house prices may have curtailed their spending even more sharply because of a markedly reduced ability to borrow. Such a development, in turn, would shift the relationship between housing equity (which remained solidly positive in the aggregate) and consumer spending for the economy as a whole. Such a shift in an aggregate relationship would be difficult to understand or predict without using disaggregated data and models.』

この辺まあ一応かなり糞真面目に読んでみたのですが、まあ端折っても良いかなと思うので端折りますけれども、たとえば住宅価格が下がってネガティブエクイティになると急に消費減らしたり貯蓄増やしたり、というような行動が起きるのが個々に発生するという現象があって、それに対して「全体として平均を取るとホームエクイティはプラスなので」というような分析をしたらアカン奴だがねというのを例としていまして、そうは言ってもそういう現象がまだ中々上手くモデリングされていないですよね、という話をしているようですな。

『Economists' understanding of how changes in fiscal and monetary policy affect the economy might also benefit from the recognition that households and firms are heterogeneous.』

この考え方は金融政策や財政政策のトランスミッションメカニズムを考える上でも重要でしょうと。

『For example, in simple textbook models of the monetary transmission mechanism, central banks operate largely through the effect of real interest rates on consumption and investment.』

で、この辺から中々イイハナシダナーな話になるのだが、「単純な教科書のモデルだと中央銀行は金融政策の効果を主として実質金利をコントロールして消費と投資に影響を与えるという事になっています」とか、どこぞの中央銀行の説明が「simple textbook models of the monetary transmission mechanism」であると仰せのように見えて実に心がほっこりとして参ります。

『Once heterogeneity is taken into account, other important channels emerge.』

(;∀;)イイハナシダナー

『For example, spending by many households and firms appears to be quite sensitive to changes in labor income, business sales, or the value of collateral that in turn affects their access to credit--conditions that monetary policy affects only indirectly. Studying monetary models with heterogeneous agents more closely could help us shed new light on these aspects of the monetary transmission mechanism.』

とりあえず「MBを増やすとインフレ期待が上がるので何もかも上手く行く」と仰せだったどこぞの置物師匠におかれましてはここの部分を百万回写経して頂きたいものです。

『While the economics profession has long been aware that these issues matter, their effects had been incorporated into macro models only to a very limited extent prior to the financial crisis.11 I am glad to now see a greater emphasis on the possible macroeconomic consequences of heterogeneity, including in work by economists at the Federal Reserve.12』

これイエレンさん別に日銀の事なんぞ1ミリも念頭に置いていないと思うのですが、日銀というか日銀の一部に食い込んでおられます何でもデフレのせいにしてデフレは貨幣的現象だから金融緩和でMB増やせばヒャッハーというようなえーっとリフレ派とかいうんでしたっけねえという方々に対して盛大な砲撃になっているのがお洒落ですが、まあそういう読み方をするアタクシの方が変態仮面だと言われてしまうとぐうの音も出ない。

『Nevertheless, the various linkages between heterogeneity and aggregate demand are not yet well understood, either empirically or theoretically. More broadly, even though the tools of monetary policy are generally not well suited to achieve distributional objectives, it is important for policymakers to understand and monitor the effects of macroeconomic developments on different groups within society.』

まあ何ですな、「the tools of monetary policy are generally not well suited to achieve distributional objectives」だからこそ色々と金融政策の手法を進化させているんです日銀は(キリリッ)とか言い出しそうではありますが、単純なマクロモデルではなくて、個々の経済アクターの分散によって一つの平均的なアクターとして考えた場合と違う結果になるのではないか、という話をするのは一般的な論点として仰せの通りですし、リフレ日銀はその辺の視点を欠いている(からこそマイナス金利は効くとか言っていきなり特攻するような愚行をする訳で)ということでしょうなあとか思いながら鑑賞するのでありました。


・金融危機のメカニズムに関しての論点提示

次の小見出しが『Financial Linkages to the Real Economy』である。

『My third question concerns a key issue for monetary policy and macroeconomics that is less directly addressed by this conference: How does the financial sector interact with the broader economy?』

コンファレンスのお題とはやや違うようですが、金融セクターと経済の相互作用というお話。

『In light of the housing bubble and subsequent events, policymakers clearly need to better understand what kinds of developments contribute to financial crises.』

ということで。

『What is the relationship between the buildup of excessive leverage and the value of real estate and other types of collateral, and what factors impede or facilitate the deleveraging process that follows? Does the economic fallout from a financial crisis depend on the particulars of the crisis, such as whether it involves widespread damage to household balance sheets? How does the nature and degree of the interconnections between financial firms affect the propagation and amplification of stress through the financial system and overall economy?』

『Finally--and most importantly--what can monetary policy and financial oversight do to reduce the frequency and severity of future crises?』

金融危機の発生メカニズムとか、その影響とか、そもそも金融危機を抑止する方法ってあるのかねとかそういう話でこれまた一般論点である(というか大体一般的な論点のお話が多いのであって、高圧経済ヒャッハーというような話をしている訳ではないと思うのよこの講演)。

『Although the scope of these questions extends beyond the themes of this conference, it does include issues that are closely related.』

コンファレンスのテーマとは違いますが近い関係にあるとな。

『Consider the influence of balance sheet conditions and noninterest credit terms on spending and overall activity--an area where it is important to take account of differences across individual households and firms, as I just noted.』

企業や家計のバランスシートや、金利が要因ではないクレジットアベイラビリティの問題などによって個別のアクターの活動が制限されるという状況というのが先般来あった訳ですからこれまた重要なお話ですぞなと。

『Research on this topic has, of course, been ongoing for some time, and it has expanded greatly in the wake of the financial crisis.13 But I believe we have a lot more to learn about the ways in which changes in underwriting standards and other determinants of credit availability interact with interest rates to affect such things as consumer spending, housing demand and home prices, business investment (especially for small firms), and the formation of new firms.14』

『For example, is the persistent increase in the personal saving rate that we have observed since the collapse of the housing bubble primarily a result of a sustained shift toward more prudent underwriting standards by lenders? Is it something that will ultimately prove transitory once householdsfinish repairing their balance sheets or become more confident about their future prospects for employment and income?15』

『The answer to this latter question could have significant implications for the longer-run normal, or neutral, level of interest rates and thus for the conduct of monetary policy.』

何か最後の方話がやや強引感はありますが、バブル崩壊とリセッションのあと、個人の貯蓄率が持続的に上昇しているというような事案のように、金融危機が経済の個別アクター、特に家計や中小企業の行動に与えた影響が今後も持続するのかと言った点も含めて、経済学研究で色々解明していくべきことは多いし、その解明というのはロンガーランの自然利子率への理解にも繋がるし金融政策の運営にも繋がるお話ですよ。という話をしておりますな。

あと物価の話がまたイイハナシダナーというのがあるのですが本日はここで力尽きたので残りは明日。



2016/10/19

お題「イエレン議長の先般の講演の高圧経済云々の辺りを鑑賞しましょう企画(なお続き物の予定)」

うむ
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20161018/k10010733951000.html
広島 黒田投手が今季かぎりで現役引退へ
10月18日 16時56分

一方で大口叩いて目標は全然達成出来ない上に言い訳を繰り返すわ負けを認めずに次から次へと屁理屈と弥縫策を繰り出すわという黒田さんは何故(以下割愛)。


・・・・・・・とまあどうせそういう前振りをするだろうという所でしょうからまあそれはそれなのですが、ちょっと前にエバンス総裁講演ネタを仕掛かり案件だったらジンバブエ砲が出てきたので途中なのですけど、先週末に出てたイエレン議長の講演を精読したら色々と興味深い論点(ただし足元における政策という話ではない)があったのですよね。

○つーことでイエレン議長の先般の講演ネタである

まあ先週金曜の講演ネタが水曜かよとか突っ込むのは勘弁頂きまして(大汗)。

http://www.federalreserve.gov/newsevents/speech/yellen20161014a.htm
http://www.federalreserve.gov/newsevents/speech/yellen20161014a.pdf
Macroeconomic Research After the Crisis

Remarks by Janet L. Yellen
Chair Board of Governors of the Federal Reserve Systemat“The Elusive ‘Great’ Recovery: Causes and Implications for Future Business Cycle Dynamics”

60th annual economic conference sponsored by the Federal Reserve Bank of Boston Boston, Massachusetts October 14, 2016


・まず前振りだがどうもほんの一部だけで反応している感isある

どうも市場の反応というかベンダーの反応って、

http://jp.reuters.com/article/idJPL4N1CN52L
Markets | 2016年 10月 18日 06:06 JST
UPDATE 1-米金融・債券市場=利回り4カ月ぶり高水準から低下、安値拾いの買い膨らむ

『イエレンFRB議長は14日、力強い総需要と労働市場のひっ迫を伴う「高圧経済」政策が、2008─09年の金融危機による損失の修復を図る打開策となり得るとの見解を示した。一部トレーダーの間では、FRBがインフレ率を目標の2%を超えて上昇することを容認する可能性を示唆しているとの見方が広がり、5・30年債利回り格差は一時129ベーシスポイント(bp)に達した。』(上記URL先より)

http://jp.reuters.com/article/idJPL4N1CN278
Investing | 2016年 10月 17日 15:03 JST
再送-〔マーケットアイ〕外為:FRB議長発言は2012年のドラギ発言と同じ=ガンドラック氏

『さらに同氏は、イエレン議長はインフレ率が2%を超えても引き締めに踏み切る必要はないと考えているようだと指摘し、今回のイエレン氏の発言が「やれることは何でもやる」とした2012年当時のドラギ欧州中央銀行(ECB)総裁の発言と同種のものとの見方を示した。』(上記URL先より)

という感じで何かそれは違くね???という反応になっていて、いやまあ金融市場的には金融緩和継続ヒャッハーという方向で反応したいからそういう捉え方をする、というのも分かるのですけれども、そういう話をしている訳ではない講演なのに『high-pressure economy』というキャッチーな表現をうっかり使ったが為にそこばかりが報道されているのでは、と思うのでまあ鑑賞してみましょうという企画なのです。

イエレン議長の講演って基本的には平明な表現(とアタクシが思っているだけで米国ネイティブ的に平明なのかは知らん)で平明な説明をするのが仕様になってまして、割とスラスラと読めるのですが、今回のは足元の話をしている訳ではないとか、脚注見ると分かるのですが結構大昔からの論点から現在までの論点を色々と引っ張ってきているので、(アタクシの頭が悪いだけと言われればそれまでですが)あまり流し読みしにくかったりする上に講演テキスト14ページ(PDF版で)もありますので、どう見ても1回で終わらない予定です(すいません)。


まあ先ほども申しあげたように、別に2%物価をバカスカ超えても緩和政策を続けるべきだとか何でも政策を打ちますとか言っている訳でもなんでもない講演なので、そういう点ではあまり急いで読む必要もないかもしれませんが論点は色々と興味深いです。講演の前振りでは・・・・・・・

『Today I would like to reflect on some ways in which the events of the past few years have revealed limits in economists' understanding of the economy and suggest several important questions I hope the profession will try to answer. Some of these questions are not new, though recent events have made them more urgent. Appropriately, some are addressed by the papers prepared for this conference. Pursuing answers to these questions is vital to the work of Federal Reserve and other economic policymakers, and the Fed is likewise engaged in ongoing research to seek answers.』

とございまして、まあお題もそうですけれども、別に目先の金融政策の話をしている訳ではないですし、高圧経済の部分に関してはオーバーシュート容認と読むのはちょっと一部分を切り取り過ぎだと思うんですよね、という部分位までは何とか今日行けますな(3〜4ページ目)。


・供給と需要の関係に関して

最初の小見出しが『The Influence of Demand on Aggregate Supply』ということでして、

『The first question I would like to pose concerns the distinction between aggregate supply and aggregate demand: Are there circumstances in which changes in aggregate demand can have an appreciable, persistent effect on aggregate supply?』

長期的に見た場合に総需要の変化が供給力に影響を与えるかという設問。

『Prior to the Great Recession, most economists would probably have answered this question with a qualified "no." They would have broadly agreed with Robert Solow that economic output over the longer term is primarily driven by supply--the amount of output of goods and services the economy is capable of producing, given its labor and capital resources and existing technologies.』

長期では供給が需要を決めるし、経済が産出する財やサービスの総量の可能性は労働や資本のリソースやテクノロジーによって与えられますとかそういう新古典派のお話ですかな。

#ここで先にスイマセンとゆうておきますがこの駄文の中の人は経済学とか高校の政経しかやらないで学校を出ていますので、経済学の話になると体系的にやっていないので話がトンチンカンになっている可能性がオオアリクイなもんで、変な所に関しましてはご教授頂きますと誠に幸い

『Aggregate demand, in contrast, was seen as explaining shorter-term fluctuations around the mostly exogenous supply-determined longer-run trend.1 This conclusion deserves to be reconsidered in light of the failure of the level of economic activity to return to its pre-recession trend in most advanced economies. This post-crisis experience suggests that changes in aggregate demand may have an appreciable, persistent effect on aggregate supply--that is, on potential output.2 』

需要については短期的な変動要因によって動くので、ロンガーランのトレンドという点では供給が需要を決めていくという話だったのだが、金融危機後の経済状況を見るに、リセッションが終わって経済がロンガーランのトレンドに戻ってこないという事実があって、それっていうのは需要の変化が供給(潜在的な産出)に対して持続的な影響を与えるという可能性を示しているのではないか?という問題設定です。


でもってこの論点自体は新しいものではないそうで。

『The idea that persistent shortfalls in aggregate demand could adversely affect the supply side of the economy--an effect commonly referred to as hysteresis--is not new; for example, the possibility was discussed back in the mid-1980s with regard to the performance of European labor markets.3』

1980年代中ごろの欧州経済(労働市場)でも似たような事があってそういう議論があったと。

『But interest in the topic has increased in light of the persistent slowdown in economic growth seen in many developed economies since the crisis. Several recent studies present cross-country evidence indicating that severe and persistent recessions have historically had these sorts of long-term effects, even for downturns that appear to have resulted largely or entirely from a shock to aggregate demand.4』

ただこの論点は金融危機後の大きな需要ショックの影響が顕著に長期化している現在で盛り上がってきていますと。

『With regard to the U.S. experience, one study estimates that the level of potential output is now 7 percent below what would have been expected based on its pre-crisis trajectory, and it argues that much of this supply-side damage is attributable to several developments that likely occurred as a result of the deep recession and slow recovery.5』

今更ですが5とかあるの脚注でして、今回は時々脚注の中で延々と説明があったりするのですが多分そこらは飛ばすと思います、興味のある方は本チャンのテキストを見るのが吉かと存じます(と手抜き)。でもって米国の最近の例としては金融危機後はポテンシャルアウトプットが7%ほど危機前のトレンドから低下しているというお話。

でもってアタクシが突如愚感想を入れるのも何ですが、何らかのバブル経済が発生し、バランスシートを過剰に拡大させた場合に発生した過大なポテンシャルアウトプットってソローの話からすれば長期トレンドとしては需要の方が追いついてくるし、その際には価格が調整機能を果たすとかそういう事なのかも知れませんが、そこの所がどういう話になっとるんじゃろというのは頭が悪いので良く分からん。

『In particular, the study finds that in the wake of the crisis, the United States experienced a modest reduction in labor supply as a result of reduced immigration and a fall in labor force participation beyond what can be explained by cyclical conditions and demographic factors, as well as a marked slowdown in the estimated trend growth rate of labor productivity. The latter likely reflects an unusually slow pace of business capital accumulation since the crisis and, more conjecturally, the sharp decline in spending on research and development and the very slow pace of new firm formation in recent years.6 』

リセッションによってレーバーサプライの緩やかな減少が起きていて、要因として移民の減少、労働参加率の低下、人口動態による影響など、循環的な部分だけでは説明できないものがあって、それによって労働生産性のトレンドグロースが落ちているという研究がありますと。でもってそれはリセッション以降の資本投下、特にR&D分野への投資を低下させたり新規事業の立ち上げペースが下がったりするという現象になっていると。


・高圧経済云々の所に参ります

ということでこの次が高圧経済云々という話になる訳で、ここまでの話の流れ(さっきの小見出し以降は全文引用していまして、途中で飛ばしたりしておりませんよ)から話がちと違うでしょというのがご理解いただけるのではないかと思うのですけど・・・・・・・・・・・・・・・・

『If we assume that hysteresis is in fact present to some degree after deep recessions, the natural next question is to ask whether it might be possible to reverse these adverse supply-side effects by temporarily running a "high-pressure economy," with robust aggregate demand and a tight labor market.』

ということで高圧経済の話になるのですが、高圧経済っつーのはロバストな需要とタイトな労働市場という状況ということだそうで、この状況を一時的に維持することによって、需要を強くすることによって需要の停滞による長期的な供給(つまりはトレンドグロース)への悪影響を軽減できるか、というのが次の自然な質問です、ということですが、そもそも設問が「temporarily running」なのであって、後でも指摘が出ていますが、別にインフレ目標4%まで金融緩和引っ張る的な話をしている訳ではないですし、まあこの「temporarily running」のタイムフレームってどの程度という問題は勿論あるのですけれども、無理繰り吹かして行くという話をしている訳でもないと思うのですがこの先行きます。

『One can certainly identify plausible ways in which this might occur. Increased business sales would almost certainly raise the productive capacity of the economy by encouraging additional capital spending, especially if accompanied by reduced uncertainty about future prospects. In addition, a tight labor market might draw in potential workers who would otherwise sit on the sidelines and encourage job-to-job transitions that could also lead to more-efficient--and, hence, more-productive--job matches.7 Finally, albeit more speculatively, strong demand could potentially yield significant productivity gains by, among other things, prompting higher levels of research and development spending and increasing the incentives to start new, innovative businesses.』

でまあロバストな総需要とタイトな労働市場によって企業行動や労働者の参加、スキル向上などにも繋がるし、生産性も上がるしというお話で。

『Hysteresis effects--and the possibility they might be reversed--could have important implications for the conduct of monetary and fiscal policy.』

でもってこの仮説(さっきからの高圧経済ネタ)は金融政策と財政政策にもインプリケーションがと。

『For example, hysteresis would seem to make it even more important for policymakers to act quickly and aggressively in response to a recession, because doing so would help to reduce the depth and persistence of the downturn, thereby limiting the supply-side damage that might otherwise ensue.』

リセッションの前には金融政策はより早くに対応することによって需要の落ちを防げば、需要の低下が供給力に悪影響を与えるマイナスも減らせますと。

『In addition, if strong economic conditions can partially reverse supply-side damage after it has occurred, then policymakers may want to aim at being more accommodative during recoveries than would be called for under the traditional view that supply is largely independent of demand.』

でもって強い経済状況(高圧経済ですな)がサプライサイドのダメージを一部戻す効果があるのであれば、回復局面においては伝統的に考えられるよりも緩和的な環境にすることによって効果を出す、という話をしているので、まあこの辺がヒャッハーということなのでしょうな。

『More research is needed, however, to better understand the influence of movements in aggregate demand on aggregate supply.8 From a policy perspective, we of course need to bear in mind that an accommodative monetary stance, if maintained too long, could have costs that exceed the benefits by increasing the risk of financial instability or undermining price stability.』

ただ、そのヒャッハーネタの直後にこういう話をしている訳で、(一部ベンダーではこっちだけ切り取っているのも居たような気がするが)金融緩和を無駄に長期化すると金融不均衡とか物価の不安定化を招く、という指摘をしている訳ですな。

『More generally, the benefits and potential costs of pursuing such a strategy remain hard to quantify, and other policies might be better suited to address damage to the supply side of the economy.』

ということでここの小見出し部分を締めています。たぶんですね、まあ確かにそう簡単に経済が威勢よく吹いてこないような構造的な問題が起きていて、だからこそこういう高圧経済容認みたいな話が出てくる訳ですが、これ裏返して考えますと、高圧経済容認とか言ってるのってそう簡単に物価が吹いたり金融バブルが起きたりしない、という認識があるから容認できるという事でもありまして、実際問題としてその辺りの認識に変化が生じたら一気にスタンスの変化って起きると思うの。だからこの部分をオーバーシュートコミットメント的な整理をするのってちとやり過ぎだと思う訳で、「行かないと思っているから威勢の良い緩和ネタが言える」という時間的不整合が思いっきりビルトインされている議論じゃネーノとは思いますが、ではまあ足元でこの辺りが急に吹き上がりだすかというとそういう気もしないので、まあ市場がヒャッハーと反応したくなるのも分かるには分かるのですが、それだけで済ますにはかなり勿体ない講演だと思うのです。

とか何とか言っているうちに時間も量もしんどくなってきたので以下明日以降に続くのでした(超大汗)。




2016/10/18

お題「支店長会議の総裁挨拶が緩和モードから足抜けキタコレ!!!/支店長会議関連と業態別当座預金残高」

ほほう。
http://jp.reuters.com/article/usa-fed-fischer-idJPKBN12H264
Business | 2016年 10月 18日 04:44 JST
米FRB目標に極めて近い、早計な政策枠組み変更に反対=副議長

先週末のイエレン講演はベンダーのニュースで出てくるネタよりも色々と話に広がりがあって読むのが案外大変だったりとかでして、最近はFRB高官がお話する中で年内利上げの所だけ注目されてしまいますが、高官の皆さんって「その後」の政策フレームワークの話をしていると思うんですよねー。

#ということで高官講演のネタフォローが大変ですというエクスキューズ(−−;

○支店長会議の総裁挨拶に変化が

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2016/siten1610.htm/
支店長会議総裁開会挨拶要旨(2016年10月)

前回はこちら
http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2016/siten1607.htm/
支店長会議総裁開会挨拶要旨(2016年7月)

でまあ今回は割と大きく変わって来ましてほほうという感じです。

『(1)わが国の景気は、新興国経済の減速の影響などから輸出・生産面に鈍さがみられるものの、基調としては緩やかな回復を続けている。先行きについては、基調として緩やかに拡大していくと考えられる。』(今回)

『(1)わが国の景気は、新興国経済の減速の影響などから輸出・生産面に鈍さがみられるものの、基調としては緩やかな回復を続けている。先行きについては、基調として緩やかに拡大していくと考えられる。』(前回)

『(2)物価面をみると、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、小幅のマイナスとなっている。先行きについては、エネルギー価格下落の影響から、当面小幅のマイナスないし0%程度で推移するとみられるが、物価の基調は着実に高まり、2%に向けて上昇率を高めていくと考えられる。』(今回)

『(2)物価面をみると、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、小幅のマイナスとなっている。先行きについては、エネルギー価格下落の影響から、当面小幅のマイナスないし0%程度で推移するとみられるが、物価の基調は着実に高まり、2%に向けて上昇率を高めていくと考えられる。』(前回)

『(3)わが国の金融システムは、安定性を維持している。金融環境は、きわめて緩和した状態にある。』(今回)
『(3)わが国の金融システムは、安定性を維持している。金融環境は、きわめて緩和した状態にある。』(前回)

とまあここまでは前回の展望レポートで見通しが変わっていなかったので全文一致なのでさておきまして・・・・・・

『(4)金融政策運営については、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する。』(今回)

『(4)日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」を継続する。』(前回)

政策の名前が変わったのでここの文言が変わるまでは仕様。ちなみに政策の名前で示されているのってマイナス金利政策の場合は「マイナス金利」+「MBの拡大(ただしペースは別に80兆かどうかは知らん)」であり、今の政策の場合は「短期と10年の誘導目標金利(ただし水準は同じではない)」+「MBの拡大(ただしペースは以下同文)」でかつオーバーシュート型コミットメントが入る、という形です。


『消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続する。今後とも、経済・物価・金融情勢を踏まえ、「物価安定の目標」に向けたモメンタムを維持するため、必要な政策の調整を行う。』(今回)

『今後とも、経済・物価のリスク要因を点検し、「物価安定の目標」の実現のために必要な場合には、「量」・「質」・「金利」の3つの次元で、追加的な金融緩和措置を講じる。』(前回)

キタコレ(・∀・)!!!

まずですな、「3次元の追加緩和」という文言なのですが、これは

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2016/siten1604.htm/(4月)
http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2016/siten1601.htm/(1月)

の項番4を見ていただけると分かるのですが、4月から(マイナス金利で3次元突っ込んだのは1月末)文言が変わっていまして、もっと前の比較をすると、

『今後とも、経済・物価のリスク要因を点検し、「物価安定の目標」の実現のために必要な場合には、「量」・「質」・「金利」の3つの次元で、追加的な金融緩和措置を講じる。』(4月)

『その際、経済・物価情勢について上下双方向のリスク要因を点検し、必要な調整を行う。』(1月)

とありまして、4月と7月は同じですので、つまりマイナス金利突っ込んであちこち大変に不評だわ折角政策打ち込んだのに株は下がるわ為替は円高になるわという状況になって、政策の限界論を払拭するために実施した筈のマイナス金利政策が金利市場の死亡をもたらしたという条項になった訳ですが、そうやって限界だのマイナス金利の問題だのとか外野が言うもんだから(お前が言うなという声が聞こえたような気がするがキニシナイ)意地になって「3次元追加緩和」を連呼したのがマイナス金利導入後の有様。

でまあ連呼した結果として、物価も戻らん為替も円安にならんと来たらそらもう追加緩和期待が毎回のようにやってきて、しまいには恫喝モードになってやれヘリマネだやれ100兆円だとか色々な話が出てMPMの度に一々イベントリスク状態になる、という大変に馬鹿馬鹿しい展開になっておった訳ですが、今回の政策枠組み変更に伴い、「まずは追加緩和」という文言を削除したということですので、まあそう簡単に利下げはしなくなりましたなというところでしょう。

でもって「必要な調整」の前の部分も色々と味わいのある変化があって、再掲しながら比較すると、

『今後とも、経済・物価・金融情勢を踏まえ、「物価安定の目標」に向けたモメンタムを維持するため、必要な政策の調整を行う。』(今回)

『今後とも、経済・物価のリスク要因を点検し、「物価安定の目標」の実現のために必要な場合には、「量」・「質」・「金利」の3つの次元で、追加的な金融緩和措置を講じる。』(7月=前回)

『その際、経済・物価情勢について上下双方向のリスク要因を点検し、必要な調整を行う。』(1月=マイナス金利前)

となっていまして、7月は「目標実現のために必要なら追加緩和」だったのが、今回は「目標に向けたモメンタムを維持するための調整」となっています。でもってこの「モメンタム」なんぞは明らかに景気が誰が見てもリセッションだろというような場合でもない限り、なんとでも言いようがあるフワフワしたお話でありまして(だいたいからして今の時点でどこがどう物価目標に向けたモメンタムが存在するのかさっぱり意味が分からん訳で)、もうこれは余程の事が無い限り追加利下げはやりませんよという事でしょうな。

でもって更に味わいがあるのは「経済・物価・金融情勢を踏まえ」と金融情勢というのが新たに入っていることでして、「金融情勢を踏まえます」と言いつつ先ほど申し上げたように追加緩和先にありきの話を引っ込めた、というのは即ち「やっぱりマイナス金利深掘りとかマズイんですけど、そうは言ってもおっぱじめたマイナス金利を今更撤回できないのでマイナス深堀りしないから今の政策続けさせて下さいご勘弁を」と金融機関方面にアピールというか侘び状入れている感があって、まあ「3次元緩和政策の敗北宣言」でしょうなあとか思うのですが、敗北宣言とか言ってからかうとすぐ逆切れして急に3次元緩和とか始めだしかねないのが黒田日銀なので、良い子のみなさんは総裁挨拶も敗北宣言とかそういうことを言って煽らないようにしましょう(ダチョウ倶楽部スキームではありません)。

あとちと気になるのは、今回は「リスク要因を点検し」調整を行うとか追加緩和を行う、というような表現じゃなくて「情勢を踏まえて調整」という建付けになっていることで、まーそうは言ってもとりあえず見た目政策運営が回っている間にいきなり大調整はしてこないと思いますが、リスクがどうのこうのだから政策の変更という訳ではないという話になっているのも今後の政策変更に関する政策反応関数を悪く言えば勝手に設定できるという事になります。

でもって話は横に逸れますけれども、昨日ネタにしましたように、中立的なイールドカーブの算出をしてそれに対して適度な緩和水準(やり過ぎても良くない)というのが存在するからそれに整合的なイールドカーブコントロール(名目は長短金利操作だが今やっている輪番調整を見ると債券市場の人は普通に事実上のペッグだと思っているでしょ)を行う、というのが政策の建付けになっているのですけれども、こちらの中立金利なんぞはモメンタムとかそういうもの以上に鉛筆なめながら計算できる概念であって、物凄い勢いで計測誤差があるものに対して狭いレンジでのオペレーションが入ってくる訳ですから、このあいさつで示されている部分も含めて、日銀が何をどう見て政策誘導金利の水準を調整してくるのか、というのがさっぱりワカランチ会長になりましたなという事でしょう。正直こりゃ困る(なお誘導水準が動かなくて経済物価情勢が今程度のままで推移するならどうせ動かないので政策反応関数が超ブラックボックスでも問題は無いのですが、苦笑)って感じですの。


○さくらレポートは東海が見通し引下げとな

http://www.boj.or.jp/research/brp/rer/rer161017.pdf(今回)
http://www.boj.or.jp/research/brp/rer/rer160707.pdf(前回)

前回から要旨等(HTML版のダイジェスト)が無くなっているのですがそれはそれとして、主に今回分から鑑賞します(注釈の無いのは今回のさくらレポートより)。

『各地域からの報告をみると、東海で、「幾分ペースを鈍化させつつも緩やかに拡大している」としているほか、残り8地域では、「緩やかな回復を続けている」等としている。この背景をみると、新興国経済の減速の影響などがみられるものの、所得から支出への前向きな循環が働いていることや、熊本地震の影響が和らいでいることなどが挙げられている。各地の景気情勢を前回(16年7月)と比較すると、中国から、生産面の下押し要因が緩和しているとして、また、九州・沖縄から、熊本地震の影響が和らいでいるとして、それぞれ判断を引き上げる報告があった。一方、東海から、個人消費の一部に弱めの動きがみられるとして、判断を引き下げる報告があった。残り6地域では、景気の改善度合いに関する判断に変化はないとしている。


ということで前回引き下げだった中国と九州(九州は特に熊本地震の影響がありましたから下がったですな)が上がっている側から大玉の東海が下がっているというこの事実がアチャー。


主な需要項目に関しての前回比較です。

『設備投資は、7地域(東北、北陸、関東甲信越、東海、近畿、中国、四国)が「増加」という表現を用いているほか、北海道では「高水準で推移している」としている。一方、九州・沖縄では、「高めの水準ながら減少している」としている。』(今回)

『設備投資は、北陸、東海から、「着実に増加している」、「大幅に増加している」、5地域(東北、関東甲信越、近畿、中国、四国)から、「緩やかに増加している」、「増加基調にある」、「増加している」との報告があったほか、北海道から、「高水準で推移している」との報告があった。この間、九州・沖縄から、「高水準で推移しているが、熊本地震の影響により、一部に投資の先送りや維持・補修投資の実施など上下双方向の動きがみられている」との報告があった。』(前回)

4-5ページ目の所に各地域の需要項目別コメントが表になっているのですが、こちらを見ながら比較すると(表の貼り付けはしないので気になる方はご確認してちょ)九州沖縄の現状判断が下がっている以外は今回は前回と同じ現状判断を行っています。


『この間、企業の業況感については、3地域(東北、四国、九州・沖縄)が「改善」という表現を用いている。また、2地域(北陸、関東甲信越)が「総じて良好な水準を維持しているが、一部にやや慎重な動きもみられている」等としているほか、3地域(東海、近畿、中国)が「横ばい」という表現を用いている。一方、北海道は「幾分悪化」としている。』(今回)

『この間、企業の業況感については、北海道から、「改善している」、北陸から、「足もとは総じて良好な水準を保っているものの、先行きは慎重な見方が増えている」との報告があった。一方、九州・沖縄から、「熊本地震の影響などもあって、製造業・非製造業ともに悪化している」、中国から、「幾分慎重化しており、一部では悪化の動きもみられる」、3地域(東北、東海、近畿)から、「幾分慎重化している」、関東甲信越、四国から、「総じて良好な水準を維持しているが、一部にやや慎重な動きもみられている」等の報告があった。』(前回)

短観の業況感については確り目の短観だったので今回は強めになりますわな。


『個人消費は、5地域(東北、北陸、関東甲信越、東海、近畿)が「一部に弱めの動きがみられる」等としつつも、全体としては、2地域(北海道、九州・沖縄)が「回復」という表現を、2地域(北陸、四国)が「持ち直し」という表現を、5地域(東北、関東甲信越、東海、近畿、中国)が「底堅く推移している」という表現を、それぞれ用いている。』(今回)

『個人消費は、雇用・所得環境が着実な改善を続けていること等を背景に、北海道から、「回復している」、四国から、「緩やかに持ち直している」との報告があった。また、6地域(東北、北陸、関東甲信越、東海、近畿、中国)から、「一部に弱めの動きもみられる」等としつつも、「持ち直している」、「底堅く推移している」、「全体としては堅調に推移している」等の報告があった。この間、九州・沖縄から、「全体として弱めの動きとなっている」との報告があった。』(前回)

これは細かく見ると近畿、中国、九州沖縄が微妙に上げ、東海が微妙に下げになっています。


『生産(鉱工業生産)は、4地域(北海道、東海、近畿、九州・沖縄)が「増加」という表現を用いている。また、3地域(東北、北陸、中国)が「横ばい圏内の動き」等としている。一方、四国は「持ち直しが一服している」、関東甲信越は「足もと弱めの動きがみられる」としている。』(今回)

『生産(鉱工業生産)は、新興国経済の減速に伴う影響などから、5地域(東北、関東甲信越、近畿、中国、四国)から、「持ち直しが一服している」、「横ばい圏内の動きが続いている」等の報告があった。一方、3地域(北海道、北陸、東海)から、「高水準を保っている」、「緩やかに増加している」等の報告があった。この間、九州・沖縄から、「熊本地震の影響により大幅に減少した後、生産設備の復旧や代替生産の進捗などから、増加に転じている」との報告があった。』(前回)

生産に関しては「増加基調が弱まる」とか、「足もと弱め」とかここの現状判断は全般的に弱くなっています。増加しているという所や水準が高いという所でも、モメンタムに関しては弱くなっているというような表現でここはあまり強くない。

『雇用・所得動向は、全ての地域が「改善している」等としている。雇用情勢については、全ての地域が「労働需給が着実な改善を続けている」、「引き締まっている」等としている。雇用者所得についても、全ての地域が「着実に改善している」、「緩やかに増加している」等としている。』(今回)

『雇用・所得動向は、多くの地域から、「改善している」等の報告があった。雇用情勢については、多くの地域から、「労働需給が着実な改善を続けている」、「引き締まっている」等の報告があった。雇用者所得についても、多くの地域から、「着実に改善している」、「緩やかに増加している」等の報告があった。』(前回)

ここは毎度強いのが仕様。


・地域の視点のお題はインバウンドですかそうですか

『U.地域の視点』は『各地域におけるインバウンド観光の動向と関連企業等の対応状況』というお題で、まあ中身の個別事例紹介が中々面白いので見てちょという感じですが、全体は、

『(2) 最近の外国人旅行者の需要の特徴点

● 外国人旅行者の需要の中身についてみると、以下の通り、訪問先等の多様化を指摘する声が多く聞かれている。

@訪問先は都市部から地方へ
・リピーターの増加、SNS等による口コミの広がり、都市部の宿泊料金の上昇、国内交通網の整備等を背景に、東京、大阪、京都等の都市部以外の地方を訪れる外国人が増加しているとの声が多い。

Aモノ消費の中心が高額品から比較的安価な日用品へ
・為替円高や中国の関税率引き上げ等の影響から、海外ブランド品等の高額品の販売が鈍っている一方、化粧品や菓子等の比較的安価な日用品の販売は、わが国の免税対象品目の拡充もあって、好調に推移しているとの声が多い。

Bモノ消費からコト消費(体験型・交流型観光)へ・リピーターの増加等を背景に、各地の自然や伝統文化等の体験、サイクリング等のアクティビティ、アニメの聖地巡り等を志向する外国人旅行者が増加しつつあるとの声が聞かれている。』

ということで、どう見ても客単価低下です本当にありがとうございました(つーか観光行ってその場で使う分なら別に普通だと思うけど、免税でドラッグストア(の日用品)って何じゃろのとか思ってシマウマなアタクシですが、

『(3) わが国経済への波及効果

● こうした需要の変化に伴い、わが国経済への波及効果にも広がりと深まりがみられる。まず、売上増加の形で直接的な恩恵を受ける先が広がっている。また、海外ブランド品から国産の化粧品などへの需要のシフトが、国内生産の増加に繋がっているとの声も聞かれる。その結果、このところ、ホテルなどの非製造業に加えて、化粧品などの製造業でも、設備投資や雇用拡大に踏み切る動きがみられている。このほか、輸出全体に占めるウェイトはまだ小さいながらも、外国人旅行者を通じた海外での認知度向上もあって、化粧品や日本酒等の輸出が増加傾向にあるとの声が少なからず聞かれている。』

何か物は言いようっぽい香りがだいぶするんですがまあいいです。具体的事例は面白いです。


○業態別当座預金残高

毎度のこれですが
http://www.boj.or.jp/statistics/boj/other/cabs/cabs.htm/
業態別の日銀当座預金残高(9月)

・マイナス金利適用残高の推移

2月:223,034
3月:297,238
4月:212,002
5月:204,428
6月:256,880
7月:208,090
8月:227,740
9月:232,580

当座預金残高が7.1兆円増えている中でマイナス金利適用残高は5000億円位しか増えていませんが、まあ今回はマクロ加算適用掛け目が増えているのでその分での影響があるからこんなもんでしょう。

プラス金利適用残高のうち使い切れていない分

2月:20,089
3月:12,607
4月:17,429
5月:20,854
6月:25,840
7月:20,230
8月:19,710
9月:29,900


ゼロ金利適用残高のうち使い切れていない分

2月:166,314
3月:122,941
4月:72,563
5月:61,804
6月:94,890
7月:90,310
8月:75,640
9月:101,620

ということで、プラス金利適用残高に関してはマクロ的な残高って変わっていないのですが、プラス金利の適用残高自体が減少して過去最大の未使用状態というのが少々謎感があるのですが、まあそういう結果になっています。どうしたんでしょうかねえ。ちなみにそこそこ減らしているのが外国銀行ですが、外国銀行全体だとプラスとかゼロ金利の残高の未使用が増えて、バランスシート全体が圧縮されているかと思えばマイナス適用は増えて全体の当座預金残高は増加なので、個別行の中でバランスを圧縮したところと拡大した所があったから偏在が発生した、ということなのでしょうかと妄想はするものの人様の懐具合なので良く分からん。

・補完当座預金残高非適用先残高

2月:40,512
3月:53,841
4月:65,971
5月:73,093
6月:78,697
7月:83,310
8月:84,710
9月:87,970

2月以降の推移見ていた時に7月くらいまでドカドカ増えていて、ここの残高が増えた場合ってもしかしてマイナス金利の尻抜けになるのではないかとか思っていましたが、まあ残高推移は落ち着いているようなのでこんなもんかなという感じです。


#ということでエバンス講演とかイエレン講演とかのネタの成敗に中々進まない(汗)




2016/10/17

お題「短国買入雑談/総括検証補足ペーパー第2弾を鑑賞」

あらま。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20161016-00050066-yom-pol
新潟知事に原発慎重派…米山氏、与党系候補破る
読売新聞 10月16日(日)22時25分配信


○市場メモ

・短国買入

http://www3.boj.or.jp/market/jp/stat/ba161014.htm
国庫短期証券買入 40,181 17,501 0.016 0.020 92.4

つーことで1.75兆円の買入でして、札の方は3Mの入札を見ればお察しという感じで割と残っている感じでしたので、4兆円札があって2甘平均という内容なのですが、どうせ札はあるのだからもうちょっと買入やるのかと思ったのですが。

http://www.boj.or.jp/announcements/release_2016/rel160930c.pdf

『3.国庫短期証券の買入れ
金融市場調節の一環として行う国庫短期証券の買入れについては、概ね現状程度の残高を維持する。この結果、10月末の残高は43兆円〜45兆円程度になると見込まれる。』

となっていまして、9月末の買入額面が
http://www.boj.or.jp/statistics/boj/other/tmei/index.htm/
の9月30日の所から引っ張ってくると44兆7246億円でして、今月の償還が

http://www.boj.or.jp/statistics/boj/fm/juqp/juqp1610.htm/
日銀当座預金増減要因(2016年10月見込み)

の脚注にあるように(銘柄別残高から引っ張っても可)9兆9200億円になるのですが、今月受渡分の短国買入は9/30から今回まで3回実施済みで、その合計が6兆5008億円になっていますから、43兆円〜45兆円程度、というレンジに収める為には、今月残り1回の買入については1.7兆円〜3.7兆円の買入をしないといけないという計算になりますな。

でもって確かに10月末の残高を2兆円のレンジで出している(今までの帳尻オペの時はきっちりとやっていたのにエライ広いレンジですなしかし)のですが、その前に「概ね現状程度の残高を維持する」ってあって、しかもこの間最初の辺りでは玉無し芳一だった短国市場も期末特需がなくなって海外の買いが細ったと思ったらさっくりと需給が悪化(つーて別に▲10bpよりも大概に低い金利にいるので別に悪化したと言っても所詮その程度の話ですけど)して短国買入に関しては例えば今回のオペで札を2.5兆円とかでも行けそうな感じだったようには見えるのですが、まあそういう状況なのに月末の出来あがりで「概ね前月程度」と言いつつ1兆円位残高落としてくるの巻になるんですかねえ(今週は1年TBの入札があるから短国買入は増額するけど実は2.5兆円とかに収めるのかなあとか)。

もちろんMBについては今回さっくりと目標から外れていて、単にオーバーシュート型コミットメントの中でMBの拡大は今後も行う、と言っているだけで、その規模については100兆円なのか1兆円なのか何らコミットしていないという事もありまして、短期のオペレーションについてこっそりと減らしに掛かっているというのであれば実に慶賀に堪えないお話ではございますが、はてさてどうなるのでしょうか。

まあ何ですな、短国買入でも上記のようにMB40兆円以上稼いでいるのでそう簡単にホイホイ減らす訳にも行かないのでしょうが、そもそも短国買入でMB稼ぐとか意味が無いにも程があるので年内位まではアレですけれどもそのうち短国買入をこっそり減額することを期待したいものですな。


○総括検証補足シリーズパート2で自然利子率とか均衡イールドカーブとかキタコレ!

http://www.boj.or.jp/research/wps_rev/rev_2016/rev16j18.htm/
「総括的検証」補足ペーパーシリーズ(2):わが国における自然利子率の動向

でまあ今回も『日本銀行から』の所では、

『日銀レビュー・シリーズは、最近の金融経済の話題を、金融経済に関心を有する幅広い読者層を対象として、平易かつ簡潔に解説するために、日本銀行が編集・発行しているものです。内容に関するご質問等に関しましては、日本銀行企画局政策調査課(代表03-3279-1111)までお知らせ下さい』

ということで、企画局謹製のレポートで「個人の見解です」が入っていないので、企画局による総括検証の説明資料の更に説明資料シリーズという建付けになっております。

では本文の方から参ります。
http://www.boj.or.jp/research/wps_rev/rev_2016/data/rev16j18.pdf
「総括的検証」補足ペーパーシリーズA わが国における自然利子率の動向


・まあいきなり結論から引用するのも何ですがこういう結論と今の政策運営の整合性is何???

いきなり結論に飛んでしまうというのもアレですが、最後のページにしらっと存在する結論の部分を読みますとあたしゃ無学で良く分からんのですがツッコミを入れたくなるのですけどね。

5ページの所に『おわりに』ってのがしらっとございましてですな。

『本稿では、わが国の自然利子率について、いくつかの方法を用いて推計を試みた。その結果、自然利子率が 1990 年代以降、潜在成長率の動向を反映して、趨勢的に下落傾向にあること、』

そこまでは分かる。

『また推計の方法により相当の幅を持ってみる必要はあるものの、最近では、概ね 0%程度で推移している可能性が高いことが示された。』

何ちゅうかこれ最初の要旨の所でもそうなのですが、「相当の幅を持ってみる必要がある」ってその相当の幅って数ベーシスとかのオーダーではない幅な訳ですし、大体からして(これからネタにしますが)本文での分析だって「需給ギャップ」と「フィリップス曲線」で分析している訳で、元々計測によって差が大きくでるものを2つ並べて出しているのですから、いきなりここで「0%程度」というような数字を思いっきり出すというのは乱暴じゃないですかねえ、と思うのですよ。

でもまあ良く良く考えてみますと、こちらのレポートは企画局謹製ということでして、つまりは政策インプリケーション含みである、という事を考えますとそこで「0%程度(キリッ)」という言い切りを入れることは政策の整合性(マイナス金利政策な)という意味で必要であるという大人の事情を考えれば「0%程度です(キリッ)」というのが必要になるのではと邪推するのでございました。

『先にみたように、「量的・質的金融緩和」導入後、実質金利は短期、長期ともにマイナスで推移しており、自然利子率を十分に下回っていると考えられる。このことは足もとの金融環境が、自然利子率が趨勢的に低下する中にあっても緩和的であることを示唆する。』

ということになっているのですが、国債の金利が下がって緩和的という話をしているのですが、そこに関しても何か微妙なものがありまして後程。

『自然利子率の推計値を巡る不確実性は、わが国の場合に限らず無視しえないほど大きい。推計方法の相違だけでなく、同一の推計方法においても経済構造をどのように想定するかによって推計結果は大きく異なり得る17。また、サンプル期間の延長やデータの改定により過去に遡って推計値が変わり得るという「リアルタイム問題」も存在する。これらの点を明示的に意識して、今後も多様なアプローチやデータに基づいて分析を進めていく必要がある。』

いやまあそれはその通りなのですが、こういう結論が出るのになぜ「イールドカーブコントロール」という今の政策枠組みになるのかがさっぱり分からんとしか申し上げようがありません。しかも10年をピンポイントで誘導しようというよりは、足元でのオペレーションは先月末の輪番超長期減額に見られますように、スタート時点から10bp程度金利が下がったところでいきなり買入を月1000億円ぽっちですけれども減額して「意思」を出してきたという事で、まあイールドカーブを特定の水準でペッグしようとしているように債券市場の方は認識している筈なのよ。

ということで特定の水準でのイールドカーブペッグをしようというオペレーションをしているのはそれはそれでそういうオペレーションですかそうですか、という事ではあるのですが、問題はその誘導される水準の方で、そもそも論として自然利子率の水準については計測に「無視しえないほど大きい」不確実性があるのですから、つまりは特定のイールドカーブ水準における中立金利水準との差というのにも不確実性がある訳ですから、であれば日銀がその水準を一義的に介入して抑え込んでしまうのは、市場機能云々の前に、金融緩和度合いのコントロールが本当にできているのかよという問題になるのではないかと思うのですよね。これが短期は抑えるけれども後は市場がやる、となると経済物価情勢を受けて金融市場が名目金利水準を調整することによって緩和度合いに関して一種のビルトインスタビライザーのようなものが機能するんじゃないのとは思うのですが。

つーわけで、そもそも理屈としては分かるが実践的に見た場合に何が何だかさっぱり分からない均衡イールドカーブの概念を持ち出してきて、それに対して適切な緩和度合いがこういうイールドカーブでございと言って精密誘導しようというのは何と申しますかそれ大丈夫かってのが却って良く分かるペーパーのような気がします。


つーことで最初に戻りますが。


・まあご案内だと思いますが最初に定義の確認

『はじめに』から

『自然利子率とは、経済・物価に対して引き締め的にも緩和的にも作用しない中立的な実質金利の水準のことである。経済理論において自然利子率は均衡実質金利とも呼ばれ、「完全雇用のもとで貯蓄と投資をバランスさせる実質金利」の水準として定義される。すなわち、実質金利が自然利子率を上回れば(実質金利ギャップがプラスであれば)、産出量を完全雇用水準から低下させることとなり、ひいては物価を下押しする。逆に、実質金利が自然利子率を下回れば(実質金利ギャップがマイナスであれば)、産出量や物価を押し上げることとなる。』

『金融緩和の基本メカニズムは、伝統的金融政策、非伝統的金融政策にかかわらず、実質金利を自然利子率よりも低位にすることである。わが国の場合、「量的・質的金融緩和」導入後、予想物価上昇率が上昇するとともに、名目金利はイールドカーブ全体にわたって低下したことから、実質金利は短期、長期ともにマイナスで推移している(図表 1)2。理念的には、こうした実質金利低下の効果を評価するためには、観察されない自然利子率を推計し、実質金利の動向を自然利子率との相対的な関係で捉えることが必要となる。』

ちなみにこの図表1なんですが、実質長期金利の算出が『10 年国債利回りから「コンセンサス・フォーキャスト」における 6〜10 年先の物価上昇率見通し(2014 年第 2 四半期以前は半期調査を線形補間)を差し引いて算出。』となっていまして、コンセンサスフォーキャストかよというツッコミではあります。このコンセンサスフォーキャストって数値としてどうなのよとは良く言われる物件で(ちなみにコンセンサス・フォーキャスト+山本幸三で検索かけると多分最初に山本幸三先生がケチョンケチョンに言ってるのが引っ掛かると思う)、他に数字が無いっちゃあ無いから仕方ないと言ってしまえばそれまでですが、何とかならんのかと。

あと、これは自然利子率に関する検証だから関係ないという話ではあるのでしょうが、この項以降に量に関する効果についての説明が一切ないというのも味わいのある話で、今後の政策運営が量ではなくて金利に移行している、というのを如実に示した物件となっていると思います。

『自然利子率の長期的近似値』という小見出しから。

『自然利子率は、一定の前提のもとで、長期的には潜在成長率に一致する。すなわち、長期的な経済の動態を記述する経済成長理論の枠組みを用いて考えると、産出量、消費、資本ストックがいずれも定率で成長していくような安定的な経済成長経路においては、いくつかの仮定のもとで、実質金利は潜在成長率(ないし一人当たり潜在成長率)で近似することが可能である4,5。このため、経済分析の実務においては潜在成長率を自然利子率の近似値とみなすことが多い。』

ということで、まあこれはその通りですが、潜在成長率に関しても推計値ってやり方によって変わっては来ますな。まーとんでもなく差が出る程ではないけれども。



・QQEで実質金利が低下したというのだが・・・・・・・・・

『自然利子率の推計』のところで、『(実質短期金利のトレンドを抽出する方法)』という小見出しの辺りから参りますとですな、

『自然利子率を推計するもっとも素朴な方法は、観察される実質短期金利のトレンドを抽出することである。今、中央銀行がテイラールールが想定するように物価上昇・需要超過に対して政策金利である短期金利を引き上げ、物価下落・供給超過に対して短期金利を引き下げるような金融政策を行い、かつ経済・物価の調整も速やかとすると、観察される実質短期金利は自然利子率の周りを変動しているはずである6。こうした場合、実質短期金利のトレンドを自然利子率の推計値とみなすことが一応可能である。


何か微妙な前提があるがまあ次に。

『そこで、時系列データからトレンドを抽出する手法として経済学の実証分析において比較的広範に用いられている HP フィルターと BK フィルターという方法を用いてわが国の実質金利のトレンドを求めたものが図表 3 である7,8。HP フィルターによるトレンドと BK フィルターによるトレンドは、ともに2010年頃は1%を上回っていたが、その後急激に低下し、直近では▲1%程度まで低下している。』

ほほう。

『これらのフィルターはいずれも本質的には観察される実質金利の移動平均を計算するものであるため、直近の動きは、「量的・質的金融緩和」の導入以降、実質金利が大きく低下していることを反映していると考えられる。』

というのは分かったのだが、QQE導入後に実質金利が大きく低下した(図表3を見ると明確にマイナスになったという図になっている)ということですが、その中で物価目標の達成って全然進んでいない訳でして、「金利が低下したからQQEに効果(キリッ)」とか言われましても、肝心の効果の方が出ないんだったら金利下がってヒャッハーとか喜んでいる場合じゃないと思うのですが、その辺はどうなっているのでしょうか?????????????

・IS曲線とフィリップス曲線での算出とな

『(Laubach と Williams の方法)』という小見出しに参ります。

『実質短期金利のトレンドを抽出する方法は簡便であるが、経済理論的な基礎付けが弱い。すなわち、実質短期金利のトレンドは、観察される実質短期金利の情報のみを反映するものであり、実質短期金利がトレンドの値となったとしても、自然利子率の定義通り、完全雇用が実現する保証はない。』

であれば金利が下がってヒャッハーという単純な話ではないということですかそうですか。

『このため、実質短期金利、物価上昇率、需給ギャップといったマクロ変数に関する関係性(構造方程式)を前提に、これらの実績値を用いて自然利子率を推計する方法も提案されている。中でも、FRB エコノミストの Laubach と Williamsが提案した方法が代表的である9。』

『Laubach と Williams の方法において、核となる構造方程式は次の 3 本である(図表 4、モデルの詳細については BOX を参照)。』

『第 1 の式は IS 曲線である。実質短期金利ギャップ(実質短期金利−自然利子率)がマイナス方向に拡大するほど、需給ギャップのプラス幅が拡大することを示す。実質短期金利ギャップが 0 であるという状況は、過去の需給ギャップの影響を別とすれば当期の需給ギャップが 0 である状況と整合的であり、その意味で景気中立的である。』

『第 2 の式はフィリップス曲線である。需給ギャップのプラス幅が拡大するほど物価上昇率も高まるという関係を示す。』

『第 3 の式は自然利子率と潜在成長率の関係式である。潜在成長率が高まるほど、また正の需要ショックが大きいほど、自然利子率が高くなることを示す10。』

『これらの構造方程式を前提として、実質短期金利、産出量、物価上昇率のデータを用いて、カルマン・フィルターという手法によって直接観察できない変数である自然利子率や潜在産出量を推計する。』

ということですが、アタクシ頭が悪いのでこの辺の統計的手法についてどうのこうのツッコミが出来ないのですが、そもそも前提条件に変なのが無いのかというのと、この測定の最初のパラメータの部分のどこに測定誤差や推計誤差があリ得て、その誤差が結果にどの程度の影響を与えるのか、という所に興味があって、そこの誤差がとんでもないオーダーで発生するのであれば、すくなくとも政策としてそのまま使うのは無理があるよね、というような考え方をしながらこういうのを見ていくのだ。

って偉そうに言ったがどの程度の誤差が出るのか分からん(直感的には結構な誤差が出るように思える)ので誰か教えてジェネラルという話になるんですが(アホです)。


・均衡イールドカーブは良いのだが超長期効かないんだったら何で精密誘導するんでしょ

次が『(均衡イールドカーブを用いた方法)』である。

『これまで紹介した実質短期金利のトレンドを抽出する方法や Laubach と Williams の方法では、ともに伝統的金融政策において操作変数となる短期金利に着目して自然利子率を推計している。しかしながら、日本銀行が推し進めてきた金融緩和、すなわち「量的・質的金融緩和」、「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」では、いずれもイールドカーブ全体に押し下げ圧力を加えている。こうしたイールドカーブ全体に働きかける金融緩和の効果を評価する場合、短期金利に着目した自然利子率のみでは不十分であり、これをイールドカーブ全体へ拡張した均衡イールドカーブの概念が重要となる。』

ということで最近よく出る均衡イールドカーブの話ですけど、金利の効果の部分については総括検証の中でも説明があったのですが、こちらでもちゃんと書いてあるのが結構結構。

『この推計結果について、さらに一定の確率分布を仮定すれば、各年限の実質金利ギャップ及びこれらと需給ギャップとの関係を特定することが可能である。図表 8 では、混合ベータ分布を仮定した場合の、需給ギャップの各年限の実質金利ギャップに対する反応係数の分布を示している。これによれば、短期ゾーンの反応が大きく、年限が長くなるにつれて小さくなる傾向が確認される15。このことは、金融緩和効果は、長期ゾーンの金利が低下した場合よりも、短中期ゾーンの金利が低下した場合の方が相対的に大きいことを示唆する16。』

ということで図表8を見ますと超長期とか殆ど意味がないという結論になっていて、まあこれからは超長期の社債発行が増えてきたから効いてくるかも知れないとかいう怪しげな説明を会見などでは総裁がしています(発行された社債が投資に向かうのではなかったらあまり関係ないのですからねえ)が、これなら何で超長期のカーブを精密誘導するかのようなオペレーションするんだろと疑問がわき出るの巻という感じで、まあ全体的に「この理屈で言いたいことは分かるのだが、今の政策枠組みとの整合性を考えると何でそうなるかというのが見えてこない」という所だと思います。



2016/10/14

お題「生活意識アンケート/原田会見およびその関連で微妙なニュースが連発していますが」

さあ皆さん今年もあと2か月半しかありませんよ!!!!!

○ちょっとだけ市場メモ

・短国重めですのう

http://www.mof.go.jp/jgbs/auction/calendar/tbill/tbill_nyusatsu/resul20161013.htm

(3)募入最低価格 100円07銭3厘5毛(募入最高利回り)(-0.2735%)
(4)募入最低価格における案分比率 42.1770%
(5)募入平均価格 100円07銭8厘6毛(募入平均利回り)(-0.2925%)

つーことで先週金曜の短国買入が応札6兆円台とかになっておりまして、6Mの時はヒャッハー入札をしていたのですが、その後イマイチ海外の売れ行きが良くないようで、どうせこの水準では国内の需要って限界的な需要しか無いので海外次第で甘くなるというだけの話でしょうか。よー知らんがの。

まあこれですと今月の日銀短国買入は順調順調という感じ(買う方から見て)ですの。



○景況感はまずまずなのだが良く見ると肝心の所がぐぬぬという感じの生活意識アンケート

うむ。
http://www.boj.or.jp/research/o_survey/ishiki1610.pdf
「生活意識に関するアンケート調査」(第67回)の結果
―― 2016年9月調査 ――

・景況感とかは悪くないのですけれども・・・・・・・・・

『1-1. 景況感等』の『1-1-1. 景況感 』ということでまあ最初なのですがそこから拝見すると・・・・・・・・・・・

『景況感のうち、現在(1年前対比)については、「良くなった」との回答が増加し、「悪くなった」との回答が減少したことから、景況感D.I.は改善した。先行き(1年後)についても、「良くなる」との回答が増加し、「悪くなる」との回答が減少したことから、景況感D.I.は改善した。なお、現在の景気水準については、「良い」、「どちらかと言えば、良い」との回答の合計が増加し、「悪い」、「どちらかと言えば、悪い」との回答の合計が減少した。』

ということで、景況感については「悪い」というのが足元、先行きともに減っていまして、最初の所は中々結構な結果が並ぶのですよ。

でもってちょっと先の『1-2. 暮らし向き、消費意識』の『1-2-1. 現在の暮らし向き』では、

『現在の暮らし向き(1年前対比)については、「ゆとりがなくなってきた」との回答が減少したことから、暮らし向きD.I.は改善した。』

と来てまして、更に『1-2-2. 収入・支出 』の収入の所では、

『収入の増減については、実績(1年前対比)は、「増えた」との回答が増加したものの、「減った」との回答も増加したことから、現在の収入D.I.は横ばいとなった。先行き(1年後)は、「増える」との回答が減少したものの、「減る」との回答も減少したことから、1年後の収入D.I.も横ばいとなった。』

とあるのですが、図表の方を見ると分かりやすいのですけれども、先行きの収入見通しに関しては「減る」が着実に減ってきているという結果になっておりまして、これまた中々結構な結果じゃん何だ確りしてるじゃん、とまあ6ページの所まで読んでいると今回は中々良いじゃないと思うのですが・・・・・・・・・・・・・・・・


・暮らし向きのDIが改善しているのは実は支出を減らしているからという落ちが

その次の支出のところに来ますとですな、

『支出の増減については、実績(1年前対比)は、「減った」との回答が増加し、「増えた」との回答が減少したことから、現在の支出D.I.はプラス幅が縮小した。先行き(1年後)は、「増やす」との回答が減少したものの、「減らす」との回答も減少したことから、1年後の支出D.I.は横ばいとなった。』

実績の方をこれまた図表の方を見ると分かりやすいのですが、ここ3回の調査の間に着実に支出については「増えた」が減って「減った」が増えている訳でして、しかもこの間にコアCPIはマイナス圏になってきている、ということで、これ単に節約モードが定着してきて、この間にCPIも弱めに推移している事から、暮らし向きが改善しており、その結果として気分的にも景況感が強くなっている、というような流れのように見えるのよね。


支出に関しては今回のアンケートでは続きがありまして、

『1年前と比べて、支出を増やしたものについては、「食料品」との回答が最も多く、次いで「家電」、「保健医療サービス」が多かった。一方、1年前と比べて、支出を減らしたものについては、「外食」との回答が最も多く、次いで「旅行」、「衣服、履物類」が多かった。』

『** Q21、Q22は、第53回(2013/3月調査)、第57回(2014/3月調査)において類似の質問を実施。 第65回(2016/3月調査)において今回と同様の質問を実施。 』

Q21が『1年前と比べて支出(金額)を増やしたもの(3つまでの複数回答)』
Q22が『1年前と比べて支出(金額)を減らしたもの(3つまでの複数回答)』
であります。


『今後1年間の支出を考えるにあたって特に重視することは、「収入の増減」との回答が最も多く、次いで「今後の価格の動向」、「興味のある商品・サービスの有無」といった回答が多かった。商品やサービスを選ぶ際に特に重視することは、「価格が安い」との回答が最も多く、次いで、「安全性が高い」、「信頼性が高い」、「長く使える」、「機能が良い」といった回答が多かった。』

『** Q23、Q24は、第53回(2013/3月調査)、第57回(2014/3月調査)、第61回(2015/3月調査)、第65回(2016/3月調査)において今回と同様の質問を実施。』

Q23が『今後1年間の支出を考えるにあたって特に重視すること(複数回答)』
Q24が『商品やサービスを選ぶ際に特に重視すること(3つまでの複数回答)』
であります。

というのがありますが、外食とか旅行とか減らしますかそうですかと思いつつまあ分かる。


・短観の雇用DIは相変わらず改善する中で・・・・・・・・・・・・

『1-2-3. 雇用環境 』の所ですけど。

『1年後を見た勤労者(注)の勤め先での雇用・処遇の不安については、「かなり感じる」との回答が増加し、「あまり感じない」との回答が減少したことから、雇用環境D.I.は悪化した。』

あちゃーという感じで、これで何で暮らし向きDIが改善するんじゃという所ですが、支出抑制の効果が出ているんだったら何ともかんとも。


・5年のインフレ期待の方は踏みとどまるも短い方がまたまた低下するの巻

『1-3. 物価に対する実感』の『1-3-1. 現在の物価』でありますが。

『現在の物価(注1)に対する実感(1年前対比)は、『上がった』(注2)との回答が減少した。また、1年前に比べ、物価は何%程度変化したかについて、具体的な数値による回答を求めたところ、平均値は+4.1%(前回:+4.9%)、中央値は+3.0%(前回:+3.0%)となった。 』

図表の方だと直近3回分の数値が出ていますが、中央値は+3.0%で変わらないのですが、平均値は+4.7→+4.9→+4.1と足もと下がってくるの巻となっておりまして、そらそうよという結果です。

でもってこれ半年だけでみるのも何ですから12月調査の方からもう3回分拾ってきますと(なので昨年6月調査からで見る)、平均値が+6.1→+5.8→+5.5→+4.7→+4.9→+4.1、中央値が+5.0→+5.0→+4.3→+3.0→+3.0→+3.0と来ていますので、直近数字だけ見ているとイマイチこの数値の低さというのが見えにくくなるのですが、要は昨年前半程度の物価の状況で生活意識アンケート的には前年比+5%〜+6%程度の物価状況実感という物になっている訳で、まあ絶対水準としてはアカンヤツな訳よ。


『1-3-2. 1年後の物価 』である。

『1年後の物価(注1)については、『上がる』(注2)との回答が減少した。また、1年後の物価は現在と比べ何%程度変化すると思うかについて、具体的な数値による回答を求めたところ、平均値は+3.3%(前回:+3.8%)、中央値は+2.0%(前回:+2.0%)となった。』

これ図表の方を見るとかなりビビットに分かるのですが、「かなり上がる」がドカドカ減っていて、半年前対比で半減状態になっているというかなり残念な状態。中央値は直近3回で+3.0→+2.0→+2.0と今回は横ばいですがそもそも前回下がっている状態のままですし、平均値は+4.3→+3.8→+3.3というこの盛大な下がりっぷりに落涙を禁じ得ません。まあ1年後の物価が「かなり上がる」が減っているのって支出を抑制している向きが増えているのと連動しているような気もせんでもないが。

でもってさっきと同様に昨年6月調査からの時系列にしますと、平均値が+4.8→+4.7→+4.3→+4.3→+3.8→+3.3、中央値が+3.0→+3.0→+3.0→+3.0→+2.0→+2.0ということで、体感の数値は実際のCPIに連動するからドカドカ下がるのは当たり前ですが、それよりは下げっぷりがマシと言えばマシなんだが、やはりまあアカン奴という感じではありますな。


まあ一応救いなのは『1-3-3. 5年後の物価 』で、

『5年後の物価(注1)については、『上がる』(注2)との回答が減少した。また、これから5年間で物価は現在と比べ毎年、平均何%程度変化すると思うかについて、具体的な数値による回答を求めたところ、平均値は+3.5%(前回:+3.7%)、中央値は+2.0%(前回:+2.0%)となった。』

ということで、まあこちらに関しては1年後の物価みたいに「かなり上がる」がドカドカ減るような事にはなっていないのが救いなのと、中央値はここ3回とも+2.0%のままで推移していますし、、平均値に関しても下がったとは言え、ここ3回で+3.6→+3.7→+3.5ということなのでまあ下がったという程でも無いという事ですな。

とは言いましても、これまた同様に昨年6月調査からの時系列にしますと、中央値が+2.0%でずっと推移しているのが日銀的には救いなのですけれども、平均値は+3.9→+3.9→+3.6→+3.6→+3.7→+3.5となっているのでジリジリ下がっているのは事実ですし、大体からしてこの間に「インフレ期待を引き上げるために」と言ってマイナス金利政策を打ち込む(長短金利操作は9月21日なので調査期間(8/10〜9/5)とは関係ない)というプレイを実施しているのですが、屁の突っ張りにもなっていない(なお日銀の言い訳理論を持ち出せば「マイナス金利政策を実施したからインフレ期待の低下がこの程度で済んでいる」という追試不能なことを良い事にした言い訳が飛び出すのが仕様です)という実に残念な事が判明していますな。

まあ今般オーバーシュート型コミットメントを導入してフォワードルッキングな期待形成を強化しようとしましたので、次の次辺りの生活意識アンケートで効果が判明すると思われますから楽しみにお待ち申し上げております(超棒読み)。


○ジンバブエ先生の会見はもう何と申しますかアレ&リフレ派が批判とかいう記事が複数登場とな

そうそう昨日の朝の時点でヤフーのトップの所にこれがあったの貼り忘れていましたよ。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20161012-00000094-mai-bus_all
<リフレ派>日銀政策批判 エコノミストも「金利」重視反発
毎日新聞 10月12日(水)21時21分配信

『日銀が先月の金融政策決定会合で、金融政策の枠組みを、銀行などに流すお金の「量」を重視する政策から、「金利」を重視する政策に転換したことに対し、「量」拡大を主張してきた「リフレ派」エコノミストらから批判の声があがっている。批判の矛先は、リフレ派にもかかわらず政策転換に賛成した日銀の政策委員会メンバーにも向かっており、今後の政策運営にも影響を与えそうだ。』(上記URL先より)

ということで以下批判していますよーというのがあるのですが、そもそもおまいらの出していた理論でやって全然達成していないのに「2%行かないのは量が足りないから」とだけ言い続けていれば良いとかいう時点でナメトンノカというか、だったら幾ら買入をするとどの時点で達成するのかの明確なロードマップを提示して、それで達成できなかったら市中引き回しの上(以下自粛)という事でお願いしたいところではあるので、まあ何ちゅうかなお話なのですが、産経までこんな記事が。

http://www.sankei.com/economy/news/161012/ecn1610120044-n1.html
2016.10.12 23:17
量重視の「リフレ派」日銀・原田泰審議委員が敗北宣言? 「総合的判断」で金利重視に賛成 

(;∀;)イイハナシダナー


ということなので会見要旨なのですが、通常会見要旨って早くても4時とかにならないと出て来ないのに、昨日のジンバブエ先生の会見要旨は2時ちょっと前(生活意識アンケートよりも先)に出ているという割と異例の速さになっておりました。

でもって中身はというと日銀政策委員なんだから発言にも格という物があるだろうと申し上げたくなる内容なのですが、もしかしてこれ日銀の事務方の皆さん会見内容の物言いとかを(要旨なので別に発言内容の趣旨さえ変えなければ良いので編集は入るものだが)編集しないで出したんじゃないのと思ってしまうようなアレ。


http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2016/kk1610b.pdf

・どうも想像するにジンバブエ先生は執行部に騙されていると思う

『(問) 前回の金融政策決定会合では、新しい枠組みとしての政策目標がお金の量から金利へと転換しました。委員はこれまで量を重視されてきたと思いますが、今回の決定をどう評価され、支持されたのでしょうか。また、大規模緩和による国債の金利低下で、政府の財政規律が緩みつつあるといった懸念の声もありますが、どうお考えでしょうか。』

後半に関してはそもそも「中央銀行が国債を買い切りすると債務が消滅する」という驚愕のジンバブエも裸足で逃げ出す理論を唱える大先生なのですから単に為にする質問であって、回答に関しては引用するだけ無駄なので割愛します。

『(答) まず、私が量を主体に考えているにも拘らず、今回の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」になぜ賛成したのか、というご質問についてです。この政策は 3 つの内容からなっており、1 番目が長短金利操作、2 番目が「オーバーシュート型コミットメント」、3 番目が今後の金融緩和の手段を明記したことです。』

そもそも理解が怪しい。3番目は別におまけなのだが。

『まず、1 番目の長短金利操作ですが、私としては、イールドカーブが異常に寝てしまっていたことについて、必ずしも市場が正しい情報を伝えておらず、ある程度スティープ化することは良いことだと考えています。20 年物金利が一時的に 0.1%になったことは少しおかしいと思いましたし、イールドカーブが少しスティープ化するようにコントロールするということは良いことだと考えましたので、賛成しました。』

普通こういうのは話したことをそのままにするのではなくて、一応文意が通るように編集を入れる筈なのですが、ここの「必ずしも市場が正しい情報を伝えておらず」が前後のつながりがさっぱりわからない。

大体からして大規模国債買入って市場メカニズムに介入して価格形成をゆがめに掛かっているわけですから「市場が正しい情報を伝えておらず」とか言われても困りますし、元々ジンバブエ先生市場機能の低下とかどうでも良い趣旨の話をしていた筈なので、これは完全に執行部の説明を鵜呑みにして喋っているとしか思えん。

『それから「オーバーシュート型コミットメント」についても、2%の「物価安定の目標」を安定的に達成することが目標ですから、2%を超えるのは当たり前ではないかというご意見もあります。一方で 2%を少しでも超えたら止めてしまうという解釈もあるため、2%を明確に超えて、安定的に 2%になるまで量を増やすということは、量に対する強いコミットメントであると考えております。』

量を増やすと言っているがその量は80兆円じゃない可能性の方が高いんですけどね。

『3 番目に、今後の追加緩和の手段を明記しました。市場関係者を中心に金融緩和の限界についての意見がありました。限界があるという考え自体が緩和効果を阻害することになりますので、それを明確に否定する必要があります。その点、長短金利をそれぞれさらに下げることが可能だということ、資産買い入れの「質」の拡大も可能であるということ、それからもちろんマネタリーベースの目標をさらに増やすことも可能だということ、これらを明記することが緩和の限界論に対する明確な反論になっていると考え、以上を総合的に評価して賛成しました。(後半割愛)』

何か盛大に分かっていないとしか申し上げようがないのだが、ああこうやって執行部がリフレ派の政策委員を丸め込んだんだなあというのが見事に分かって実に興味深い。


・記者に説明されてもどうも理解できていないようです


『(問) 国債の買入れについて、年間増加額 80 兆円というのは、先程からの質問にもありますように、ターゲット(目標)から格下げされてめどとなっています。金利を目標にすることによって、このめどである 80 兆円は上下するということを黒田総裁も仰っています。これは、金利を今の水準に維持するために80 兆円が必要でなくなってきた場合、仮に 70 兆円とか 60 兆円と 10 兆円単位となるとかなりの幅だと思うのですが、そういっためどが 10 兆円区切りで下がることについて、原田委員は許容されるのでしょうか。近い将来にそういったことがあるかどうかも含めてお聞きします。』

何という懇切丁寧な質問。

『(答) 80 兆円というのは、短期金利が−0.1%で、長期金利がゼロ%程度という現在の状況に見合う国債の買入額が 80 兆円であると考えております。』

そもそも年間80兆円ペースでジャンジャン買ってマイナス金利やっていると金利がジャンジャン下がるしイールドカーブはフラットするのであって、早速今般長期と超長期の買入を減らしているのですけれども、どうも実際のオペレーションで国債買入が早速減ったという事実をご存じないのではという疑惑is有る。

『この 80兆円から大きく動くのはどういう場合かといえば、何かネガティブなショックがあった時に、それでもゼロのままにしようとすれば、買入額が減ってしまいます。』

そういう政策なんですが。

『ネガティブなショックの時には基本的には買入額を減らさない、つまり景気が悪くなっているのだから、とりあえず 80 兆円程度を買っておいて金利の低下を許容する、金融の引き締めにならないようにするということです。ネガティブなショックが非常に大きければ、追加緩和になると思いますが、ネガティブなショックが小さければ、そのままということだと思います。』

でもオペレーションで実際にやっているのは10年が▲9bp水準に行った所で買入を減額するという事をしている訳ですし、そういう事をやった以上は、金利低下時に買入を減らさないというのを金融市場局の一存で決めると追加金融緩和という政策インプリケーションが発生するのであって、政策決定会合で誘導金利の引き下げをしない限りは同様に金利低下時には買入が減額(上昇したら逆に増えるけど)という事になる、と現状では市場では理解されていますし、日銀の動きはそういう形になっているのですが、やはり実際のオペレーションについて興味が無いのでしょうな。

『非常に大きくポジティブなことが起きている時ですが、基本的に長期金利がゼロ%程度に止めようとするので、買入額は 80 兆円よりも上に行くことになります。2%の「物価安定の目標」を達成している場合は、80 兆円より減っているでしょうが、それは当然のことだと思います。』

ということなのですが、今回コミットしているのって「量は増やす(ただしペースは全くの未定)」というのと「次回決定会合までの長短金利の水準」であって、しかも会見やらこの前の内田局長の日経経済教室での説明などを見ると「中立的なイールドカーブに対してのイールドカーブの緩和度合いを適正な水準でコントロールする、下げれば下げる程良いというのものではない」というお話なのですから、未来永劫10年0%で固定する訳ではないのだが、その辺は理解大丈夫なのでしょうか。


実はこの質疑の前にこういうのもあって、同じような質疑が行われています(スイマセン順序が前後しました)。

『(問) 2 点お伺いします。1 点目は、委員から先程「オーバーシュート型コミットメントは量への強いコミットメントだ」というお話がありましたが、決定会合の文章などをみると、7月までは量についての項目を立て、かつ 80 兆円に相当するペースで増加するように、ということでした。今回はめどという言葉が付いて、量に関してのコミットメントが弱まっているように感じますが、どのようにお考えですか。(後半割愛)』

『(答) まず、「オーバーシュート型コミットメント」が量を重視していることは、先程申し上げた通りです。そのうえで、長短金利操作によって 80 兆円が動くということが量の軽視ではないかとのご質問にお答えします。まず、ポジティブなショックがあった時に、例えば 10 年物金利について考えると、当然金利が上がるわけです。金利が上がるようなショックがあった時に金利をゼロに止めようとすることは、良いことがあった時にそれを更に拡大するような金融政策を行うことになりますので、これは金融緩和の強化です。』

『次に、ネガティブなショックで金利が下がるケースを考えてみます。仮に日本の輸出を急減させるようなショックがあれば、何もしなければ金利は下がります。金利が下がる時にこれをゼロに止めようとすれば、買入額を減らすことになりますが、これは金融を引き締めることになります。そうではなく、ネガティブなショックがあった時には、技術的にちょうど 80 兆円のペースになるかは分かりませんが、80 兆円をめどに買入れを進め、その結果、金利が下がってもそのままにするということです。』

『ここでの説明は、ポジティブなショックとネガティブなショックでは政策対応が非対称になることを含意しています。特にポジティブなショックがあった時には、緩和の強化であると考えております。(後半割愛)


ということで、確かにそういう風に取れなくもない声明文の書き方なのですが、先ほど申し上げたように、実際のオペレーションがタイトにカーブを押さえる運営を行っていること、その後の説明で「誘導目標金利水準は上にも下にも動かしえること」としていて、しかも意外に金利下げる方のハードルが高そうになっている事などが読み取れると思うのですが、まあリフレ派委員にはこうい説明で言いくるめているんでしょうなあという所だと思います。


・驚愕の爆笑質疑はこちら

『(問) (前半割愛)2 点目は、いわゆる「量」を重視するリフレ派といわれる委員、例えば原田委員は今回の決定会合の内容には反対すべきだったのではないかと指摘する方もいらっしゃいますが、そういった指摘についてどうお考えでしょうか。』

『(答)(前半割愛)それから、リフレ派は量を重視するのだから量を重視しないような政策には反対すべきだ、というご質問についてです。まず、リフレ派という言葉ですが、デフレから脱却して、日本経済を成長軌道に乗せるために、2%の「物価安定の目標」を設定し、その達成を目指すのがリフレ派であると私は考えています。』

勝手に定義を変えるという藁人形論法を自分に使うバージョンが発生しております!!!!

『その意味では日本銀行は皆リフレ派ですし、政府において経済政策に関係している方々も、全てリフレ派です。』

アホすぎる。

『2%の「物価安定の目標」を達成する必要がないというご意見の方は、ごく少数であり、敢えて言えば、異端の経済政策を標榜している方々ではないかと思います。』

異端の経済政策とか発言に知性と品位が無いのもさることながら、別に「2%で物価が安定推移するような経済状況になった方が良いでしょ」という事に文句を言う人がいる訳ではなくて、そもそもそういう風にするためにMB拡大して強引に単体で達成できるのかとか、そういう意味で反対しているのであって、まさに藁人形論法というのがもう頭クラクラします。

『では、どうやって 2%の「物価安定の目標」を達成するのか、どうしたら上手くいくのか、どうしたら出来る限り早期に達成できるか、ということについては、色々な議論があると思います。』

お前らの理論ではできなかったけどな。

『「量」・「質」・「金利」の三次元を上手く組み合わせて、2%の「物価安定の目標」の達成を目指すと日本銀行の全員が考えていると思います。』

とりあえず佐藤審議委員と木内審議委員は激怒して良いと思います。

『政府の経済政策を担当する方々も、目標に賛同したうえで手段については日本銀行を信頼して下さっていると私は思っております。2%の「物価安定の目標」を達成するために、政府も日銀も一生懸命やるということですから、その意味で全員がリフレ派だと考えています。』

『世界中というと言い過ぎですが、先進国の中央銀行、それから新興国の中央銀行の多くも、2%のインフレ目標を標榜しておりますので、敢えて言うなら、全世界がリフレ派だと考えております。』

・・・・・・・・・・・いやあの何でこんなに品が無いのとしか申し上げようがないというか読んでいて恥ずかしいわ。



2016/10/13

お題「毎度お馴染みのあの人の金懇は相変わらずあの人でございました(しかし長かった)」

本日は役に立つネタとして、FOMC議事要旨寝起きインスタント読み、30年入札があっさり強くてフラットニングして日銀オラオラ状態にならない債券相場つまらん(不謹慎)などのネタがある筈なのですが、(あとエバンス講演ネタの続きとかその他FED高官の発言ネタとか)毎度おなじみのツッコミ方の勉強用素材以外に何の役にも立たない例のあの人の金懇があったのでそちらである。

何せ昨日は会見ヘッドラインで「世界は皆リフレ派」という凄いのが出てきて、そら東京で大規模停電(短期間で収束して何より)も起きるわという感じでしたが、まあそういう方のアレですので本日の以下の文章は政策インプリケーションとか相場へのインプリケーションとか無いのでお暇な時にどうぞという奴です。

○相変わらずジンバブエ先生の金懇は文章そのものが意味不明である

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2016/data/ko161012a1.pdf

相変わらずこの先生の原稿テキストって何か妙で、以前はIEからPDFを開けたら謎の連続コピペ(同じ文言が何度もコピペされる)現象が発生して打開策としてGoogleChromeからPDFを開けると普通に行ける、という事案がありましたが、今回はGoogleChromeからPDFを開けると謎の1文字ごとに空白が入るという事象が発生し、IE(ちなみにIE11です)でPDFを開けると無事にコピペできるという再現性に乏しい事象が発生するのですが、この辺りは管理している部局様におかれましては一般的なブラウザーで普通に対応できると有りがたく存じます。

まあそれ以前の問題としてこちらの大先生の場合はブラウザーも蜂の頭もなくて、原稿内容の品質管理の方をもう少し真面目にやっていただきたい(というかこれ英訳するの大変でしょ)と思うのですが。

という訳でまあ政策インプリケーションは1ミリも無い上に、読んでいるとリアルに頭痛が発生する(現にアタクシはした)代物なのですが、折角の(ゲテモノ)素材でございますのでネタにしないといけませんなということで。


・のっけからデータの切り取り自由自在な説明をご堪能下さい

『2 . 1980 年代からの日本経済と金融政策』という小見出しだが。

『1990 年までの日本は、先進国の中でもっとも高い経済成長ができる国と考えられていました。ところが、その後、日本経済が長期にわたって停滞してしまったのは皆様ご存じの通りです。同時にデフレが進行しました。』

というスタートなのですが・・・・・・・・・

『図1 に見るように、1990 年代の初めまで順調に成長してきた日本の実質GDP は、その後低成長に陥りました。その時、同時に物価の停滞、下落も始まりました。GDP デフレータは横ばいになり、消費税増税の影響を除けば、1995 年からはほぼ一貫して下落しています( 図では、消費税増税の影響を除いています。その方法は図の注をご覧ください)。』

となっているのですが、この図1を見ますと1990年の所に思いっきり線が引かれていまして、そら1990年からの歩みを見たらその前の超絶資産バブルがあるんだから下駄履きまくっているだろうとしか申し上げようがないので、資産バブル崩壊の影響で長期不況になってその間にデットデフレーションになったとかそういう文脈で話をするなら分かりますが、1990年から悪化しましたという話をしてそれが物価が停滞したのがどうのこうのとか言われても(この先延々と「名目値が下がったのが悪い」という話をしているのだ)話の展開が強引すぎますな。

まあこういう「データの取り方が恣意的」というのはリフレ派の諸先生方の仕様でもございまして、相関があるように見える期間を切り取って相関するとか言いながらマネタリーベース直線一気理論を作り上げてしまうのがリフレクオリティなのですが、もっと後の方に物凄い恣意的な切り取り芸が見られるのでこうご期待。

『当然のことですが、名目GDP も停滞しています。ただし、今回の大胆な金融緩和政策、すなわち「量的・質的金融緩和」を採用した2013 年からは名目GDP とGDP デフレータの回復が見られます。』

と言っているのですが、これがまた図1をご覧になりながら確認して頂きたいのですが、先程のようにGDPデフレータは95年以降パッとしませんとなっていますが、名目GDPの推移をみると「2013年から回復しています」という程その前の期間との違いがある訳ではなく、途中で何回も強含んでいる局面があるのにこういう言い切りをする辺りがもう恣意的な説明にも程があります。なお実質GDPで見ますともっと残念なことになるのも図1でご確認ください。


・GDPデフレータが+1.2%だとインフレ目標達成するそうですよ!!!

さらに続いて。

『なお、ここでGDP デフレータは、海外要因で生ずる物価変動( 原油価格などによるもの) を除外した物価指数であることに注意する必要があります。すなわち、GDP デフレータは原油価格などの変動が基本的には反映されず、経済の基調的な物価を示す物価指数です。』

ほうほうそれでそれで?

『この基調的な物価を見ると、量的・質的金融緩和政策の導入後、それ以前10 年間の年率マイナス1.2% から反転し、年率0.9% で安定的に上昇しています( ただし、ここ1 年の上昇率は0.6% となっています)。日本においてGDP デフレータの上昇率は消費者物価の上昇率よりも過去10 年間の平均では0.8% 低いので、これを単純に当てはめると、GDP デフレータが1.2% になれば、消費者物価上昇率が2% になると計算されます。』

だったらQQEの導入後にCPIが1.7%になっていないと計算合わないのですが・・・・・・・・


・起点が1990年とかヘソが茶を沸かす&論旨が急にワープするのって何なんでしょ

という風な説明の直後(途中の引用を割愛していませんよ)にこういう文章が唐突にやってくるのがジンバブエ先生の仕様なのですが、この先生講演原稿作成するときにもしかして推敲とか全くしていないのかと思う位に話が急に変な飛び方をするので読みにくくて敵わんのだが、もしかしてこれはアレの振りをして真剣に読ませないようにするという高度なテクニックなのでしょうか??????

『日本の停滞を他の先進国と比べてみましょう。図2 は、日米英独仏の実質GDP を1990 年= 100 として示したものです。1980 年代まで、先進国の中で高い成長を示してきた日本が、1990 年代以降、先進国の中で最低の成長率になってしまったことが分かります。』

えーっとすいません、1990年の頭は平均株価で言えば資産バブルの絶頂時点でして、そこを起点にして最低の成長率になってしまったとか仰せですが、その前の成長がそもそも資産バブルで下駄履いている訳でもう爆笑の発作を起こすしかありません。

でもってここらで気が付いて欲しいのですが、図1〜4の右側に引いてある縦線(以降も同様)なのですが、何故か「QE導入」「QE解除」「QQE導入」しか無くて、そもそも短期金利を大きく引き下げまくって1%割った時代の話はまだしも、QE解除の後にリーマンショック後に金融緩和して最終的には包括緩和と言われる枠組みになったのですが、その間の緩和政策が無かったかのような線の引き方をしておりまして、お前は何を言ってるんだという感じではあります。

『日本は人口が減少しているので成長率が低いのはやむを得ない、特に生産年齢人口( 15-64 歳人口)が減少しているのでやむを得ないという議論がありますので、人口当たり、生産年齢人口当たりの実質GDP を示したのが図3 と図4 です。人口当たりでも日米英独仏の中で最低ですが、生産年齢人口当たりでは、2000 年以降、それほど悪くないようです。』

ということはQQE関係ないですな。何を言いたいのか分からん。でもってあとで説明文出てくるけどその次の図表6とか「株価を1990年を100として国際比較」とかアホかとしか思えない比較をしていて色々と頭がクラクラしますが、そもそも株価って言ってるけど何の数値を使っているのかの説明がない(指数なのか時価総額なのかとか)とかもうねという感じではあります。


・とにかくデフレが良くないという毎度の説明

『3 . デフレが実質GDP 成長率を低下させたのか』という小見出しに参ります。

『今まで見てきたことは、日本がデフレになるとともに先進国の中で実質GDP の成長率が低い国になってしまったという事実です。』

さっきの説明だと成長が低下してデフレになったという話だったのですが・・・・・・・・・・

『では、実質成長率の低下は、デフレと関係があるでしょうか。すなわち、デフレが実質GDP 成長率の低下を招いたのだと言えるでしょうか。』

どう見ても物価の方が成長の結果としての現象だろと思いますが、そこはリフレ派の大先生なので「何でも物価のせい」という事になります。

『基本的には言えないというのが経済学者の答えです。なぜなら、物価も給料も変わらない時と、物価も給料も1 % ずつ上昇する時とでは、いずれも実質の給料は同じです。』

「なぜなら」から始まっているのに「同じです」で締めたら文章としてダメです。やり直し。

『実質の給料が同じなら、実質の消費も同じになるでしょう。また、物価上昇率ゼロで名目金利ゼロ% の世界と、物価が1 % 上昇で名目金利1 % である世界に違いはないはずです。どちらの世界でも実質の金利が同じなのですから、企業の投資は同じになるはずです。実質消費と実質投資が変わらないなら、実質GDP も変わらないでしょう。』

でまあ名目が弱くなるというのはイクナイという話はまあ良いのですけれども、出してくる例えが微妙におかしい。

『しかし、本当にそう言い切れるでしょうか。まず、企業の会計的利益も、株主のお金をいかに効率的に投資しているかを示すROEも、名目の概念です。会計的に計算されるROE は、実質の値ではありません。最近の日本では、ROE 目標としてたとえば8 % を目指そうと言われますが、その8 % は名目の概念です。インフレ率が高くなれば、8 % の達成は楽になります。インフレ率が1 % 高くなれば、その分ROE も高くなります1。一見、何も変わらないようにみえますが、多くの経営者が8 % のROE が重要と考えているのですから、何らかの違いを生じることになると思います2。』

って話なのだが、インフレ率が高くなると実質が同じでも名目が増えると言いたいのでしょうが、当然ながらリスクフリーレートが上がればエクイティ投資家の求める期待リターンが上がる訳ですから、話はそう単純な話ではないですがなとしか申し上げようがないです。名目値が重要という話をしたいのは分かるがもうちょっと例えを選んでいただきたい。


・財政赤字に対する説明がこれまた意味不明

名目が大事ですよという話の続き(ちょっと飛ばします)にこんな話が。

『政府財政も名目値の問題です。名目GDP が増大すれば、過去の財政赤字の実質的な意味は低下します。』

これは分かる。

『財政赤字を問題にする経済学者が名目値の重要性を強調しないのは不思議です。』

????????????????????

『人々が政府の財政赤字から将来の増税を予想することによって、消費を増やさないという議論が正しいのなら4、その逆の債務対名目GDP 比率の低下は消費を増やすはずです。名目GDP の停滞は実質消費を抑制することになります。』

何でそこに話が飛ぶのか、というような話の飛び方で正直これ読んでいてこの辺でマジでリアル頭痛が起きました。


・自然利子率が下がっているのが良くないという説明の途中から謎の飛躍がある

ちょっと飛ばして更に続き。

『さらに、成長率が低下し、自然利子率が低下して、ほとんどゼロになっているという問題があります。自然利子率とは経済を不況にも過熱にもしない、丁度良い利子率です。自然利子率がほとんどゼロなら、金利を下げて経済を刺激することが難しくなります。』

そらそうよ。

『この時、物価上昇率がプラスなら、金利をゼロに、実質金利をマイナスにして、景気を刺激することができます。』

???????????????????????????

えーっと「この時」って言ってますが自然利子率がゼロだったら金利ゼロにしても景気刺激が出来ないと思うのですが・・・・・・・・・・・・・・

『ところが、物価上昇率がマイナスであれば、実質金利を下げることが難しい。すると、景気を刺激して、経済を正常な状態に持っていくのが難しくなります。これは、多くの経済学者が、デフレが経済を停滞させる理由になると認める経路だと思います5。』

何か説明がゴチャゴチャになっていているのですが、低成長の長期化によって長期的なトレンド成長率の低下のネガティブフィードバックが起きて自然利子率が下がる間に、経済の現象として物価の低迷が起きているという話なら分かるのですが、何かこう話が訳分からんのですが、更に訳分からなくなるのはこの続き。

『なお、日本では金融政策で無理やり金利を下げるより、成長戦略や構造改革で実質経済成長率を高め、自然利子率を上げるべきだという議論がさかんです。』

金融政策で無理やり物価を上げようとしているのはリフレ派ではないでしょうか???????

『しかし、そのような論者のうち、どのような成長戦略で、どれだけ自然利子率を上げることができるのかを数量的に示した人はほとんどいません。』

マネタリーベースを80兆円出せば2年で2%インフレが達成できると大口をたたいていたのは副総裁就任前の岩田師匠だったように思います。

『ただし、TPP の経済効果は例外です。TPP に参加することによって、日本の実質GDPの規模を0.66% から2 % 分押し上げるという分析があります6。』

官邸へのヨイ(以下の部分は内務省検閲により削除されました)。

『これは成長率を最大で2 % 高めることができるという意味ではなく、経済の規模を、例えば10 年かけて2 % 大きくすることができるという意味です。10 年かけて2 % なら、毎年の成長率は0.2% 高くなるにすぎません。成長戦略は難しいものなのです。』

って物価目標の達成が出来ていないのに何を偉そうなとしか申し上げようがありませんし、成長力強化にそれだけ時間が掛かるんだったら「2年で2%物価上昇目標達成」とかの短期決戦ではなくて長期的な取り組みで緩和をする方が良かったのではないかと思いますけどねえ。

『また、金融緩和と成長戦略は、矛盾するものではありません。両方すれば良いだけです。本来の成長戦略とは効率化、無駄を廃して労働生産性を上げることですから、その過程で雇用問題を引き起こすことがありえます。金融緩和で景気が良くなり、雇用状況が改善すれば、構造改革もやりやすくなります。』

まあこれは良いのですが、

『最後に、確かではありませんが、デフレが実体経済に影響を与える経路として、給料が名目値で上がらないより、物価が上がって給料も同じだけ上がった方が、気分が明るくなるのではないかとも私は思います。』

先行きの所得への見通しが重要なんじゃないのかねえ、と思いますけどまあこの説明そのものはそこまで否定する気は無い。


・名目値の指標がどうなったかという説明もこれまた何かアレ

次が『名目の指標はどのように動いたのか』という小見出し。

『図6 は自国通貨建ての株価と、それを各国の名目GDP で割ったものを示しています。どちらも1990 年を100 として指数化しています。』

ということで、1990年を100にしている時点で赤点再履修なのでこの部分の紹介は割愛。

『図7 は、主要国の対ドルの為替レートを示したものです。日本円と米ドル( 名目実効レート) には増価トレンド( 図で下に行くのが通貨高) がありますが、英ポンドとユーロにはありません。』

という説明をしているのですが、図7を見てもここ10年少々の間に「増価トレンドがある」というほどのトレンドあるようには全く見えないのですけれども(1980年台からプラザ合意とかの辺りのドル円ならわかる)ナンナンデショと思いますが、大体からして他の通貨が対ドルレートでドルは名目実効で比較というのもイミフでして、名目実効で比較するなら全部名目実効を出すべきでしょと思うのです。

まあそれよりも訳分からんのはこの図7では1980年以降のユーロの名目実効為替レートの推移が出ているのですが、ECBのこちらのページを見ましても「Historical rates」は1995年からしか取れない訳で、何のデータを引っ張ってきたのか物凄い勢いで謎なのですが・・・・・・・・・・・・
http://www.ecb.europa.eu/stats/exchange/eurofxref/html/index.en.html
Euro foreign exchange reference rates

『量的・質的金融緩和政策導入後の円安がなければ、円の増価トレンドはもっと明らかになっていたと思います。』

といっていますが、再現性の無い話なので何ともではあっても図7を見るとそんなに一段増価トレンドになったもんなのかは謎ですわな。まあQQE導入(というかその前の安倍ちゃんの輪転機グルグルとか)でマネタリーショックで円安に加速がついたというのは分かるけど。

『円が上昇すれば、輸出企業と輸入競合企業は販売不振に陥り、やむを得ず価格を引き下げ、経済全般の物価を引き下げてしまいます。最終的に物価が下がって、企業は競争力を回復するかもしれませんが、それまでの調整は大変です。1 ドル120 円を前提に設備投資をしていた企業は、1 ドル80 円になれば、巨額の損失を計上することになります。これに懲りた企業は、2 度と投資などしないと思うでしょう。長期的に投資を減退させてしまいます。』

こらまたエライ単純な話でツッコミどころ満載なのですが、「輸入競合企業は販売不振に陥り、やむを得ず価格を引き下げ」って話をしているのですが、「物価は貨幣的現象」というのがリフレ派の皆様の主張で、円高だの中国からの輸入品との競合で国内物価が上がらない、というような話を当時の日銀がしている中では「個別物価と一般物価の話を混同する幼稚な議論」と切って捨てていた筈でして、一般物価を決めるのはマネタリーベースですという話をすっかり忘れて説明するのが香ばしい。

さらにこの「1 ドル120 円を前提に設備投資をしていた企業は、1 ドル80 円になれば、巨額の損失を計上することになります。」ってお前は何を言ってるんだというか、そんなナイーブな企業経営者がいるかよヴォケというお話で、企業経営者を前にして話をするのにちょっと失礼なのではないかと。

さらにこの次にこんな文言があるのだが最早何を言いたいのか分からないから誰か教えてください。

『なお、アメリカの名目実効レートに増価トレンドがある一つの理由は、主な貿易相手の中南米諸国がひどいインフレだからです。増価トレンドがなければ、アメリカも中南米なみのインフレになってしまうかもしれません。』

????????????????????????マジでさっぱり分からん。


・財政収支の話も同様にアレ

『図8 は、財政赤字の対GDP 比を見たものです。日本の赤字は先進国の中でひどい状況にありますが、財政赤字が縮小したのは金融を緩和し、名目GDP が伸びた時代です。』

と言っていますが、金融緩和の定義が(先ほど指摘したように)QE実施とQQE実施だけになっていまして、それ以外の時期だって長期的に金融緩和政策を実施している訳ですし、この後の金融政策の話の中では日銀執行部にすっかり丸め込まれているようで「金利水準がー」という話を連発しているのですが、そうであるならばQEとQQEだけではなく、その他の時点における低金利政策の時期に関して、中立金利とみられる金利を算出して「中立金利対比での緩和度合い」をプロットすることによって「金融緩和時期」を認定する、という位の事はやって頂きたいのですが、QEとQQEだけが金融緩和で後は金融緩和ではないというようなグラフのプレゼンを見ているとこの大先生が教授だかをやっておられてどこぞの都の西北大学大丈夫かと心配になって参ります。

『金融緩和で景気が改善し、税収が伸び、分母の名目GDP も拡大したからです。前述のように、本当に人々が、政府赤字から将来の増税を予想することによって消費を増やさないのなら、その逆の債務対名目GDP 比率の低下は消費を増やしてもよいはずですが、そうはなっていません。』

同じこと言ってるんだがだから何?としか申し上げようがない。


・アレは続くよどこまでも

『失業率上昇の意味』という小見出しが更に頭がクラクラとなる。

『最後に、名目値と直接は関係のない失業率を国際的に見てみましょう。』

「名目値と直接は関係のない」とは????????

『図9 は、通常の失業率ではなく、1990 年の失業率を100とした指数で見ています。』

また1990年ですよ。

『図を見ると、1990 年から、日本で失業率が高くなったことが分かります。他の国では失業率は景気とともに変動しながら、元にもどるような動きをしています。失業率が高ければ、生産が停滞し、税収も社会保険料収入も低かったはずです。』

相変わらずリフレ派論者の得意技で、要は経済が低迷したから失業率が上がったという話であって、だったら経済が低迷した話の方で説明は終わっているのに、「失業率が高ければ生産は停滞」とか言っているのが訳分からなくて、経済が低迷しているから生産が低迷して失業も増えるというような因果関係になるはずなのに、「失業が高いと生産が低迷」とかどう見ても因果関係が逆の話を平然とあちこちに入れてくるのがリフレクオリティであって、だからこそ「物価を上げれば経済が良くなる」という因果関係を倒錯した置物リフレ理論が登場するという物なわけです。

『1990 年代の中ごろから、日本は多くのものを失いました。失ったものは、単に経済的なものではありません。仕事に就けなかったということは、自分が社会に必要とされていないのではないかというストレスをもたらします。実際に、失業者の増加とともに自殺者が増えるという研究があります7。今日、失業率の低下とともに、自殺者は2003 年のピークの約3.4 万人から1 万人以上減少しています。』

まあ社会に必要ないのは貴殿いやなんでもないです。しかし次が笑った。

『2000 年代の最初の10 年は、ニート( NEET、Not in Education,Employment or Training、仕事にも就いていないし、教育訓練も受けていない)という言葉が日本で流行った時代でもありました。この言葉は、イギリスで造られた言葉ですが、貧困や低学歴、人種的マイノリティで様々な困難を抱えている若者をどう社会の中に組み入れていくかという問題意識の中で生まれました。しかし、日本では、豊かな社会に生まれた若者の働く気がない、もしくは働けない病理現象というイメージが付与されるようになりました。』

『ところが、日本においてニートと定義される( この定義には幅がありますが) 若者の数は、1990 年代以降の経済停滞とともに増加していました。ニートは不況の結果であり、そうであれば、失業率の低下とともに減少するでしょう8。』

ここまではまだ話がわかる。

『現在、日本において、もはやニートという言葉をあまり聞きません。新聞記事検索を行ったところ、「ニート」という言葉が、日本経済新聞に掲載された回数はピークの2006 年で138 回でしたが、直近の1 年間( 2015 年9月― 16 年8 月) では19 回です。』

キャッチーな流行語が単に死語になっただけなのではないでしょうか??????????

『一方、ここ数年、ブラック企業という言葉が流行るようになりました。ブラック企業とは、賃金が安く、とてつもなく働かされ、ご褒美があると思わせるが、実はないという会社です。すると、なぜそこで働いてしまうのかという疑問が生じます。それは正規社員と非正規社員の格差が大きい日本社会で、正規社員になることが難しくなった結果、正規社員として雇うことで、不安な若者を取り込むことができたからです。』

最近はブラックバイトの問題とかもあるんですけどねえというのはまあ良いとして。

『しかし、これも長い不況で雇用環境が悪化していた結果であることが大きいのです。実際、最近では、失業率が低下する中で、2013 年末から非正規労働者比率の上昇傾向も頭打ちとなっており、ブラックと評判のたった企業は人を集めることができず、苦戦しています。失業率の低下とともに、自殺者もニートも減少し、ブラック企業が劣悪な雇用を続けることも困難になっています。』

っていう説明をしているのですが、この点に関しては相変わらず労働環境の問題でのニュースは絶えずに出てくるネタでして、こう結論つけるのはナイーブな話なのであまりこういうネタを出さない方が良いと思うのですけどね。ブラック雇用みたいな話って景気がどうのこうのよりも労働政策の問題で、あまりここまで無邪気に話を持って行かない方が良いと思う。という程度にツッコミはとどめておきましょう。


・まあデフレが良くないという言いたいことは分かるが要はですなあ

でその続き。

『日本がデフレになったことと、日本の実質経済成長率が低下したことは関係があるというのが、これまでの観察に基づく主張です。それに対して、物価が下がっても、給料と金利が同じだけ下がれば何も変わらないのだから、デフレで実質経済成長率が低下したり、失業率が上昇したりするはずはないという有力な反論があります。』

勝手に有力な反論とか言ってるけどそういう単純な反論している人って普通居ないと思われますし、それこそナイーブな反論扱いされる筈なのですが、リフレ派お得意の藁人形論法で自説を補強するためにわざと稚拙な反論(または相手の主張の趣旨を外した見解を相手の見解とするとか)を持ち出してきてそれに反論する、という手法があります。

『しかし、現実の経済はもっと複雑で、デフレが実質GDPを引き下げるという経路があると私は考えています。自然利子率を巡る議論は、ほとんどすべての経済学者が認める経路です。さらに、1990 年代以降のデフレで失われた雇用は、人的資本も低下させたはずですから、労働生産性を低下させ、長期的にも成長率を低下させた可能性があると考えています。』

『私は、1990 年代の失敗から学び、日本経済をデフレから脱却させるために金融政策を行わなければならないと考えています。』

という話は良いのですが、90年代の問題って積み上がったバブルの清算を長期間に渡って実施する中でデットデフレーションになって債務負担が高まって行くという負のフィードバックループが連続するなかでバランスシートの調整を余儀なくされ、その結果として長期停滞になったという流れなのであって、別に物価が下がったからどうのこうのという話ではないですし、90年代の失敗から学ぶんだったら物価を上げてどうのこうのというのではなくて、経済のバランスシートを適正な規模で拡大を続けるような環境を作ることによって停滞のフィードバックを回避するようにする、って話だと思う訳で、それはマネタリーベース2倍で2年で2%物価目標達成を強引に金融政策だけで実行しようという話とは全然違うのではないかと思うのですけれども、まあこの人たちの場合は信心の世界なので最早手の施しようがない(のが日銀の政策委員というのが困りものなのだが)。


・総括検証の話はすっかり日銀執行部(師匠が含まれるのかは謎)に丸め込まれている件につて

『4 . 量的・質的金融緩和政策後の日本経済と「総括的な検証」』という所に参ります。

『次に、量的・質的金融緩和政策後の日本経済について考えます。私は、量的・質的金融緩和政策はこれまでに述べた過ちを正すために行っているものと考えています。では、量的・質的金融緩和政策は、過去の過ちを正すことができたでしょうか。』

とか偉そうに言っていますが、生産人口当たりのパーヘッドのGDPパフォーマンスは別に悪くないんじゃなかったでしたっけと思いますし、そもそも「過ち」とかいってるのは直前にあったように「1990 年代の失敗」の話をしているのであって、それは金融緩和が不足していたとかそういう話をしたいのかも知らんが、それよりも不良債権処理の方に問題があった訳で、それを取り返すのが何でQQEなのかさっぱりわかりません。

でまあ以下説明をしているのですが無駄なので割愛して、『日本銀行の「総括的な検証」』という小見出しに参りますと・・・・・・・・

『まず「検証」の内容は、(1)量的・質的金融緩和政策が実体経済に働きかけるメカニズム、(2)2 % の実現を阻害した要因、(3)予想物価上昇率の期待形成メカニズム、(4)イールドカーブの押し下げ、(5)イールドカーブ引き下げの効果と影響、の5 つに分かれています。以下、それぞれについて説明します。』

ということで説明があるのですが、すっかり日銀執行部の説明丸写し状態になっているので、この人にこれだけ教え込んだのかさすが執行部だなあと感心するのですが執行部の説明のまんまの文言が続くのでその辺も割愛。


・しかしイールドカーブの話などを始めるとジンバブエ節が開始されるのだ

『金融機関経営とイールドカーブのフラット化』という小見出しがあるのですけどね。

『金融機関経営とイールドカーブのフラット化についてさらに考えてみたいと思います。すなわち、短期の金利に比べて長期の金利は高いが、その程度が低くなりました。』

ほほう。

『なぜフラット化するかといえば、預金金利をマイナスにすることは難しいので、短期の金利は下がりにくいからです。』

???????????????????????????????????

『また、金利がマイナスになった結果、多くの投資家が少しでもプラスの金利を求めて長期の債券を購入した結果でもあります。』

ここはまあ誰でも言える話だから大丈夫なのだがその前の「預金金利を」云々が何で短期の金利は下がりにくいになるのか分からんし、だったら何でマイナス金利政策をやったのかと申し上げたい。

『金融機関とは資金を短期で調達して長期で運用するものですから、イールドカーブが寝てしまえば、利益は減少します。したがって、マイナス金利政策の結果、金融機関の利益は、ここだけを見れば減少します。』

『しかし、金融機関は、貸したお金が戻ってきて初めて利益を得られるものですから、単にイールドカーブが立っていれば利益をあげることができるというものではありません。量的・質的金融緩和政策の開始以来、銀行の利益は高い水準で安定しています。これは景気好転によって貸出先企業の経営が改善し、貸し倒れのコスト、信用コストが減少しているからです。』

以前のどこぞの金懇では「金利が下がったから収益を上げられないというのは金融仲介機能としての意味がない」みたいなどう見ても金懇に出席されているであろう金融機関の皆様に対して大喧嘩を売っているような説明をしていましたが、さすがにその辺は少しは学習効果があったようです。

『ただし、貸し倒れの減少は好ましいが、それは過去のことであって、将来の安定的な利益を保証している訳ではない。イールドカーブのフラット化によって、これまでの安定的な利益が損なわれ、将来の利益減が予想されるという点が、大きく懸念されていたのかもしれません。』

で?

『しかし、長期的に考えれば、銀行は貸出先があって初めて利益を得られるものです。企業が貯蓄をため込んで投資をしないのは、デフレが長期にわたって続き、投資意欲を減退させているからでもあります。デフレが終われば、企業は投資意欲を取り戻し、銀行からの借入れ需要も増大するはずです。すなわち、銀行の貸出も増大し、銀行の利益も上がるはずです。』

という話ですが、そもそも論としてお前らが大口叩いている2%物価目標全然達成できないのにマイナス金利だの何だのと金融仲介機能に名目ゼロ金利制約のコストを押し付けるような政策を実行し、その政策がいつまで終わるかもさっぱり見えないという政策をやっている上に、そもそもそのマイナス金利自体が「短期決戦の枠組みで作った政策の延命」として打ち込まれたというお前らの失敗のケツ拭き状態になっているということで金融機関がトサカに来ている訳であって、お前らに言われんでも「金融政策が成功して経済がノーマルに戻ったらワシらウハウハじゃけえの」という事くらいは理解しとるわヴォケとしか申し上げようが無いですな。

でまあそういう心の声を理解できる位の感受性のある方ですと、上記のような「そんな事は言われんでもわかっとるわ」という説明をしないのですが、どうも日銀政策委員会の中でもそういう感受性のある方と無い方がおいでのようで誠に遺憾に存じます。

でまあそこで話を止めて置けば良いのに変な言い訳をして話をややこしくするのがジンバブエクオリティ。

『また、現在の低金利は、1990 年のバブル崩壊以来の長期の低成長とデフレによってもたらされたもので、必ずしも現在の日本銀行の政策によって生じている訳ではありません。』

えーっとすいません、だったら金融緩和している期間の説明のQEとQQEだけしかないというアレは何だったんでしょうかと思いますし、大体からして(引用割愛していますが)金利引き下げが効果があったという話をしているのに何でここで急に昔のせいになるのでしょうか??????


・恣意的なデータ選択ここに極まれりの巻

でまあこの項のちょっと先になりますが、イールドカーブのフラット化に関する説明がもう無茶苦茶にも程があるのです。

『図11 は、量的緩和政策開始後のイールドカーブを示したものです。』

まずはおまいら図11をじっくり見ておくように。

『図に見るように、2001 年3 月の量的緩和政策の導入前と導入後を比べると、イールドカーブ全般が低下していますが、フラット化の程度はわずかです。1 年物金利が0.4% ポイント低下したのに比べ、20 年物の金利は0.7% ポイント低下したにすぎません( 2000 年12 月30 日と2001 年3 月21 日との比較)。』

『ところが、量的・質的金融緩和政策導入前と金融緩和の強化の直前10を比べると、1 年物金利が0.5% ポイント低下したのに比べ、20 年物の金利は1.6% ポイントも低下しました( 2012 年12 月28 日と2016 年7 月28 日の比較)。』

・・・・・( ゚д゚)
・・・・・(つд⊂)ゴシゴシ
・・・・・(;゚д゚)

スタート時点を「政策打ち込む前の年末時期」にするのは打ち込んだのが3月後半と4月頭だったから良いとしまして、終了時点が片や「QE導入を決定した翌営業日の引け利回り」で、もう片方が「QQEを導入して3年半が経過し、しかもその間にQQEを拡大した挙句にマイナス金利政策まで導入したあとの利回り」をだしているという恣意的なんてもんじゃねーぞという比較をしておりまして、リフレ派の皆様が得意とする「恣意的なデータ選択」にしたって究極のピッキングだろこれという感じです。

ちなみにこのテキスト読んだ人たちって「金融緩和の強化の直前を比べると」で普通想像するのは2014年10月のバズーカ2を思い出すと思いますので、最初にこの文章読んでグラフを見ますと青線の四角ドットと赤線の菱形ドットを比較しながら「書いてある数字があっていないような気がするんだが」と思いつつ、それにしても翌営業日と1年半後を比較するとかおかしいだろ、とか思いながら読むのですが、何回か読み直すと1年半どころか3年半だわその間に追加緩和にマイナス金利やっているわというのを比較して「フラット化しました」とかもうさすがに無茶苦茶にも程がある説明をしている訳でして、以下もまだ下らない能書きは続くのですが、もうこれ以上読んでいると精神衛生上宜しくないので(別に大したことは書いていない)この辺で。


・そういや1か所だけ良い事が書いてあったのでそこを紹介しておきましょう

さっき飛ばした『4 . 量的・質的金融緩和政策後の日本経済と「総括的な検証」』の所で、QQEを突っ込んだ後に物価がどうなったかという話をしている部分だけは評価ポイントの高い記述がありますので、最後に口直しに鑑賞しようではありませんか。

『第2 次安倍政権の発足、量的・質的金融緩和政策の実施後、それまでマイナスだった物価上昇率はプラスに転じました。ここで原油価格の影響を除いた、消費者物価指数( 除く生鮮・エネルギー) の動きを見ると、量的・質的金融緩和政策の開始直前マイナス0.8% まで低下していた対前年上昇率が2014 年2 月には0.9% まで高まります( これには消費税増税前の駆け込み需要が押し上げた分も含まれます)』

>これには消費税増税前の駆け込み需要が押し上げた分も含まれます
>これには消費税増税前の駆け込み需要が押し上げた分も含まれます
>これには消費税増税前の駆け込み需要が押し上げた分も含まれます

これは原田大先生珍しく良い事言った!!感動した!!!という所でして、何せ総括検証の所ではインフレ期待への効果がどうのこうのという辺りでの要因分解に「実際の物価上昇要因」というのはあっても、その実際の物価上昇の中に消費増税の駆け込み需要に関する記載は一切なく、その一方でその後の期待インフレ低迷に関しては消費増税による実質所得や消費の落ち込みを要因にぶち込んでいる、というエコノミスト集団でもあったはずの日本銀行による分析とは思えない恣意的な要因の取捨選択が実施されている訳でして、ここでちゃんと言及しているという部分だけは大変に感心しましたのでお口直しに入れて置きますね!!!!!


#ということで屁の役にも立たないネタでございましたが、まあ読んでいると頭がクラクラするのでイライラしたい時などにお勧めしたいと思います(つまりお勧めしない)





2016/10/12

お題「さあ超長期の金利が上がって参りました/エバンス総裁も物価目標上振れ容認だが次回利上げも容認とな」

まあ国内債券市場ちゃんは輪番しか注目ネタが無いという説があって世も末感が高い訳ですが(涙)。

○さて超長期の動向がネタ的にはネタなのだが

例によってロイターさんの市場概況ですけど(汗)、
http://jp.reuters.com/article/idJPL4N1CH28A
Markets | 2016年 10月 11日 15:16 JST
〔マーケットアイ〕金利:国債先物が続落で引け、長期金利は2週ぶり-0.050%に上昇

『<15:09> 国債先物が続落で引け、長期金利は2週ぶり-0.050%に上昇

国債先物中心限月12月限は前営業日比18銭安の151円81銭と続落して引けた。国内連休中の海外市場で、欧州債が軟調に推移したことを受けて売りが先行。一部に予想があった日銀の国債買い入れが見送られたことも売りを誘い、一時151円75銭と9月26日以来、約2週ぶりの水準に下落した。全般に様子見ムードが広がる中、その後は下値で押し目買いも観測されて下げ渋った。』

『現物市場は12日に30年債、14日に5年債と相次ぐ国債入札に備えた調整圧力で軟調。5年債利回りは一時マイナス0.195%と9月26日以来、20年債利回りは一時0.405%、30年債利回りは一時0.525%といずれも9月21日以来の高水準を付けた。10年最長期国債利回り(長期金利)は同2bp高いマイナス0.050%と9月23日以来の水準に上昇した。』(上記URL先より)

先月末の場中10年減額+引け後超長期減額攻撃がございましたが、それ以降の展開は微妙に超長期輪番の入り方が肩すかし気味だったりした上に為替が円安になってみたり海外金利が上がってみたりということで何となく超長期とかが弱めの推移ってな話になっておりまして、先週頭に引値比較とかやってみましたが、念のため再掲しますと、MPMの直前(MPMは9月の20日〜21日な)の引け(単利で勘弁)が、

9/16:

2年:▲0.270%
5年:▲0.205%
10年:▲0.040%
20年:0.450%
30年:0.555%
40年:0.640%

9/20

2年:▲0.270%
5年:▲0.210%
10年:▲0.060%
20年:0.405%
30年:0.505%
40年:0.585%

となっていて、9月28日が

9/28

2年:▲0.300%
5年:▲0.245%
10年:▲0.095%
20年:0.345%
30年:0.455%
40年:0.535%


9月29日が

9/29

2年:▲0.295%(新発じゃない方にしています)
5年:▲0.240%
10年:▲0.090%
20年:0.340%
30年:0.435%
40年:0.510%

となっていて、30日に10年と超長期の買入が減額されているので、10年が0%で短期が▲10bpなので10年の絶対水準は分からんでもない(もっと市場に勝手にやらせるとは思っていたのでアタクシ的には結構意外でしたけど)ですが、超長期は16日ベースで見て10bp程度、20日ベースで見て5bp程度の金利低下で介入が入った形(これどっちを基準にするかでだいぶ話が違うのがアレですが)になっている、というのは月初にも申し上げた(のですが当日アップの際にこの辺の数字が途中飛んでアップされるというアレな事案がございました)のですが、上記ロイター記事にありますように、20年は0.40%レベル、30年は0.52%レベルに昨日は絶賛金利上昇しておりまして、これですと20日ベースで見たら既に金利水準が元の水準に上昇しているの巻というお話。

でもって16日ベースでみると20年30年で見た場合あと5bp前後の所まで金利が上がっている訳ですが、ここで本日は30年国債入札という素敵なイベントがございまして、とにかく30年0.45%レベルでサクッと輪番オペを減額されたという実績が厳然としてありますので、そら金利低下ヒャッハーで追いかけて行く訳にもいかんという感じの中で30年入札迎えるとなったら0.45%よりも遠い所で入札せんとアカンとゆー訳でも金利が上昇するネタになっているんでしょうな、よー知らんけど。

つーことでですな、まあその事前調整込みで30年入札を迎えているとは思いますけれども、これで本日の30年入札が引き続きズルズルとなって来た場合には日銀がどう動くのか、というか要するに減らしてきた超長期輪番を増額するのか、というのが物凄い勢いで注目されることになるので実に楽しみ(不謹慎)ではあります。

なお、先ほども申しあげておりますように、20日基準でみたら既に超長期の金利水準はMPM時点での水準まで上昇しているので、そこで見るなら介入水準(?)なのも中々味わいがある訳で、さて1週間ちょっと前に減額した超長期輪番があっさり戻されるとどんだけ狭いレンジで輪番調整するんだよという話になって、イールドカーブコントロールというお題目には大変にマッチしているのですけれども、そうは申しましてもそもそもの誘導しようというイールドカーブ水準自体の根拠って何なのとしか申し上げようがない状態の中でありますので、それは即ち経済物価情勢や為替市場などの他市場情勢やらインフレ期待やらを勘案するとこういう中立イールドカーブが出てきて、それに対して年限ごとにこの程度の緩和度合いが適正である、という計算の根拠が全然示されていない(まあ示せんでしょうけれども)という状態の中で何故か知らんが日銀は特定の水準にイールドカーブを誘導しようと輪番をちょこまか弄ってくる、という事になりまして、市場の中のおっちゃんとしては何が何やら分からんというお話になりますので、まあここで精密誘導キターとか入ったら入ったで腰を抜かすしかありません。

とは申しましても、(そんなにいきなり30年で金利上昇アタックとかよーせんという気はだいぶしますがそれはそれとして)ここで30年入札のあとズルズル金利上昇して、30年0.55%を超えて金利が上昇する中で輪番がそのまま動かない、となると今度は実は日銀はステルステーパリングをしているとか超長期金利の上昇は放置する姿勢でスティープニング政策を始めているだのという話が出てくる(いやまあ金利上にも下にも9月16日から10bpだったらもうちょっと放置プレイの余地はあるが)ので、それはそれで楽しい(超不謹慎)な展開をお楽しみにという事で。

実際問題としては輪番200億円って冷静に考えると月額1000億円の世界で、それってそこまで大騒ぎしないといけない額なのかという話も無くは無いのですが、日銀の買入残が多い上に自動的に成行買いをする上に絶対売らないマンというのはそら市場の価格形成に与えるインパクトがでかいので、たぶん外野から見ると国債残高からみて屁のような100億円だの200億円だので大騒ぎする債券市場って何でしょと思われるでしょうが、まあそういう事なわけです。

#とかこれだけああでもないこうでもないと能書きを垂れておいて30年入札が順調であっさり味で超長期が止まると垂れた能書きが全部ただの死亡フラグになるんですがががが


○まあ比較的どうでも良いがG20の総裁会見メモ

http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2016/kk1610a.pdf

『【問】金融政策については、限界がどうこうというよりもむしろ、過度に金融政策に負担がかかっている状態が続いている国が多いという指摘があったと思います。そういう金融政策、金融緩和を長く続けたことによるコストについて、今回、IMFやG20などで懸念の声がより高まっているという印象でしょうか。』

という質問に対する回答が味わいがある訳で。

『【答】G20やIMFCなども含めて、金融政策は各国の中央銀行のマンデートと整合的な形で、引き続き経済活動をサポートし、物価の安定を確保すべきだという考え方が基本的に共有されたと思います。もちろん、金融政策だけでバランスのとれた成長につながるというのは難しいわけであり、金融政策、財政政策、構造政策といったあらゆる政策手段を、個別または総合的に用いて、バランスのとれた成長を実現していく必要があるという、従来からの考え方が共有されていたと思います。ご指摘の、金融政策にかなり負担がかかっているのではないかという議論は、IMFのペーパーなどにも若干触れられていますが、これは金融政策が限界に来ているという話ではありません。今回の一連の会議で、特に限界が来ているとか、あるいは限界ではないとしても金融政策にあまり依存していると色々問題が出てくるという話が、それほど強く出たという感じはしませんでした。』

という答えな訳ですが、「金融政策だけでバランスのとれた成長につながるというのは難しい」という話は今年に入ってからのコミュニケとかで何回か出ているのでまあこれは今に始まった話ではないのですが、「金融政策にかなり負担がかかっているのではないかという議論は、IMFのペーパーなどにも若干触れられていますが、これは金融政策が限界に来ているという話ではありません。」とかで金融政策の限界論に対して一々反論するというのが、黒田総裁としては金融政策の限界論言われるのが嫌なんでしょうなあという風に改めて思ったのでメモメモということで。

そういう意味ではマイナス金利はやっちまった感がありますが、元はと言えば昨年12月の補完措置以降、国債買入MB拡大だけの手段だと何ぼ何でも物理的限界が見えてくる中で、金融政策の限界論を否定するため、と言えば格好が良いですが、要するに政策の延命期間をどうやって確保するかという手段上の工夫をああでもないこうでもないと悶絶した挙句に捻りだされてきた施策の延長線上に今の政策がありますがなとかそういうお話なんでしょうな、とも思うのでした。


○シカゴ連銀エバンス総裁は金利パスは相変わらずのハトなのだが次の利上げはあっさり肯定の巻

http://jp.reuters.com/article/usa-fed-evans-idJPKCN12B07C
Business | 2016年 10月 11日 11:40 JST
インフレ目標のオーバーシュート目指す政策に利点=シカゴ連銀総裁

というのがございましたが講演はこちら(URLが長いよ)
https://www.chicagofed.org/publications/speeches/2016/10-11-2016-conducting-monetary-policy-in-an-evolving-environment-sydney
Conducting Monetary Policy in an Evolving Economy


・でまあ講演の趣旨は上記のようにインフレの上振れ容認という話なのですが最初の所にあっさり味の記述が

『Introduction』の後半にしらっとこんな記述が。

『As you may know, the FOMC took a first step toward policy normalization last December, increasing the target range for the federal funds rate by 25 basis points to a range of 1/4 to 1/2 percent. However, for a variety of reasons, the FOMC has refrained from further increases since then. This may well be changing soon.』

昨年利上げを行った後に次の利上げを色々な理由で行っていませんが、これは間もなく変わるでしょう。ってハト派おじさんのエバンス総裁が指摘するのが中々。

『The most recent FOMC policy statement indicated that “the Committee judges that the case for an increase in the federal funds rate has strengthened but decided, for the time being, to wait for further evidence of continued progress toward its objectives." 4 Indeed, at our September meeting, three FOMC members dissented in favor of immediately increasing rates. Moreover, it is public knowledge that going into our July meeting, eight of 12 Reserve Banks had requested an increase in the discount rate, likely signaling a preference for policy tightening. 5』

ということで、まあ本人の主張はともあれ、次の利上げに関しての支持が多くなっているという事に言及しておりまして、まーとりあえず年内にもう一発の利上げというのはエバンス総裁でも認めるお話ってえ感じなんでしょうな、うんうん。

『Within this context, today I will discuss the objectives of the Federal Reserve and my thinking about the policy path ahead.』

でもって次の利上げはまあともかくとして、その先の政策パスについて考えていきましょうという講演になっていまして、そこについてはウィリアムス総裁のインフレ目標の一時的な引き上げオッケーと同じ趣旨の話をおっぱじめるので、政策金利パスについては当然ながらハト派エバンス総裁らしくハトが飛び交うの図となります。

『There are three key issues that we need to consider: First, the trend, or potential, rate of economic growth in the U.S. is now recognized to be markedly lower than we assessed prior to 2007. Second, there continues to be substantial uncertainty on how close we are to “full employment.” And, third, we need to recognize that the predominant inflation risk facing monetary policymakers has shifted from inflation being too high to inflation being too low. The Great Inflation that so occupied policymakers in the 1970s and 1980s was first broken by the Volcker Fed and then finished off under Greenspan.』

でまあ3つのイッシューということで、トレンド成長の低下について、そもそも完全雇用(マンデートの)に達しているかどうかの計測が難しくなっていること、物価に関するリスクが過去の「高インフレのリスク」よりも「低過ぎるインフレのリスク」となっており、対処するべきリスクが変質していること、という3点についての説明が有る訳ですよ。

でまあいきなり端折ってしまいますが、こういう点を考慮するとインフレ率の上振れ容認が合理的であるという結論になる、ということで、その辺はまあ最近の物価目標上振れ容認の人の主張と同じような話になるのですが・・・・・・・・・・・


・自然利子率はある程度高い方が良いというのは分かるが・・・・・・・・・・・・・

最初の方はスルーしまして(前置きの話とかデュアルマンデートの話とかです)、今引用した『Three Issues Facing Monetary Policymakers』という小見出しの辺りから。

『Issue number 1: Going forward, trend (or potential) output growth is expected to be only about 1.8 percent - that’s the median projection from the FOMC’s September SEP 9 and it is our Chicago Fed assessment as well. This is quite a change from the past - for example, between 1980 and 2007, U.S. real GDP growth averaged about 3.0 percent.』

トレンド(潜在)成長が下がっているというのが今後の金融政策運営に直面する問題、というのはまあ耳にタコの話ではありますが。

『Many economists have been speaking at length on this subject for some time, so I will just list the main reasons for this slowdown: 1) Growth in available labor input is slowing, largely because of the retirement of the baby boomers and lower youth and prime-age labor force participation (LFP) rates; 2) Total factor productivity (TFP). 10 growth appears to have reverted to rates that prevailed during the slow growth years between 1975 and 1995; and 3) capital deepening has been weak. 11』

潜在成長が下がっている理由ですな。

『The last two factors determine growth in labor productivity. And it is a matter of arithmetic that trend growth in labor hours and labor productivity translate into trend GDP growth. Thus, 1.8 percent is my current assessment for the sum of these two factors. 』

でまあ労働生産性が下がっている(全要素生産性と資本投下が下がっているので)というようなお話もまあ毎度の論点ではあります。でもって・・・・・・・・

『One of the first reactions I often get to this statement is something like: “Well, shouldn’t we all prefer something higher, like 4 percent trend growth?” Yes, I agree. But how does the economy achieve trend growth in labor hours plus trend growth in labor productivity that add up to 4 percent? That is the crucial public policy challenge, but it is beyond the capacity of monetary policy.』

トレンド成長率が上がるような政策をすれば良いのでは?というのは正論なのだが金融政策の範疇を超えた話ですがな、というのもまあそうじゃろうな。

『Increasing trend growth is crucial. Just pushing growth up to 4 percent without affecting potential won’t do. Growth well above potential year after year would generate unsustainable imbalances that typically lead to large undesirable increases in inflation.』

でもってトレンド成長があがるような政策ではなくて単に成長を上げるだけの政策を長期間続けるのはイクナイという話をしているので、これまた直球なのですけれども・・・・・・・・・・・

『The pace of trend growth has another important implication. As standard economic theory tells us, one consequence of slower trend growth is lower equilibrium real interest rates (r *). 12 And, with lower equilibrium real rates, any given level of a central bank’s policy interest rate is less accommodative than it otherwise would be.』

でもってトレンド成長が弱いのは中立金利水準が下がるので、金融緩和が必要な時に、金融政策による緩和効果が中立金利水準が高い時に比較して弱くなってしまう、という説明になる辺りから物価目標を引き上げるのも先方というウィリアムス総裁の話と同じ方向になって来る。

『So, clearly, we need to rethink our old policy benchmarks with this new calibration in mind. Furthermore, a lower equilibrium real interest rate reduces the buffer monetary policy has to fight downside shocks before it is confronted with the zero lower bound. And experiences from around the world have left us with all too great an appreciation for the difficulties that the ZLB presents to policymakers.』

ということなのですが、そらまあ自然利子率が高い方が政策運営しやすいのは分かるのだが、トレンド成長を上げて自然利子率を上げるのと、(後で出てくるけれども)物価水準を上げて自然利子率を上げるというのは経済全体の厚生を考えた場合に同じ自然利子率の上昇でも話が違うんじゃネーノという気がするのですが、この次は完全雇用がどうのこうのの話に続いて、そこらへの説明がイマイチ良く分からんかったのですけれども、以下この講演続きますけれども時間の関係で(すいません)明日に続くということでご勘弁頂きたく(超大汗)。




2016/10/11

お題「市場メモ/短期市場サーベイ結果は公表に味わいが/休み中に総裁講演とな」

休みの間に面白講演がアップされる訳ですがその前に幾つかメモを。

○公表数値関連等のメモメモ

・米ドル特則のおかわりオペ

http://www.boj.or.jp/announcements/release_2016/rel161007c.pdf
成長基盤強化を支援するための資金供給の実施結果【米ドル特則・第17期】

第 17 期 追加 3,890 百万米ドル 26 先
貸付残高15,196百万米ドル 48 先

ということで、7月MPMでドル特則の貸付限度額を120億ドル→240億ドルにと決定しまして、前回の時点では120億ドル一杯まで残高来ていましたので、今回の追加で暫く追加が可能という誠に結構なお話ですな。なおおかわりをしても今回もまたまた案分に掛かるの巻。

・コール市場残高

http://www.boj.or.jp/statistics/market/short/call/call1609.htm/(9月)
http://www.boj.or.jp/statistics/market/short/call/call1608.htm/(8月)

例によって平残を確認(べた引用なので見にくいですな、汗)

平残[出し手:全市場]

都銀等* 0 68
地銀 358 10,468
信託 17,682 40,894
(うち投信)14,815 32,056
外銀 0 242
地銀2 289 1,319
信金中金・信金 912 270
農林系統 0 3,922
証券・証金** 0 50
生損保  5 70
その他とも計 19,247 58,134

8月数値

都銀等* 0 90
地銀 327 10,272
信託 17,965 39,244
(うち投信)15,038 31,123
外銀 0 356
地銀2 215 2,151
信金中金・信金 590 300
農林系統 0 4,300
証券・証金** 0 0
生損保  5 99
その他とも計 19,102 58,371



平残[取り手:全市場]

都銀等* 0 6,234
地銀 1,742 14,179
信託 466 14,775
外銀 0 1,950
地銀2 402 2,697
信金中金・信金 340 1,798
農林系統     0  0
証券・証金** 2,401 14,012
生損保      5   0
その他とも計 5,505 58,134

8月数値

都銀等* 90 5,950
地銀 1,981 16,275
信託 523 15,245
外銀 0 1,151
地銀2 226 3,001
信金中金・信金 293 1,518
農林系統    0   0
証券・証金** 2,401 13,001
生損保     0   0
その他とも計 5,610 58,371

つーことで8月9月で特段の大きな変化は無しという結果ですが、合計額で見ますと7月平残の出し手ベースでの有担保19,846億円、無担保53,861億円、取り手ベースでの有担保4,231億円、見担保53,861でして、無担保が8月に若干増えた分がそのまま横ばいという感じで、まあコールのレート自体は最近動いたりしますけど、ボリューム自体はこんなもんなんですよねー。

・短国買入は3M新発も含めて札があったということですかそうですか

http://www3.boj.or.jp/market/jp/stat/ba161007.htm
国庫短期証券買入 64,158 30,004 0.013 0.020 37.6

6M入札がヒャッハー入札になったから大丈夫かよとか思いましたが、3M入札が特段無茶な結果にならなかった次第で、札も結構ありましたなという結果となりましたな。


○短期市場ネタでサーベイ公表

http://www.boj.or.jp/research/brp/ron_2016/ron161007b.htm/
わが国短期金融市場の動向
――東京短期金融市場サーベイ(16/8月)の結果――

本文はこちら
http://www.boj.or.jp/research/brp/ron_2016/data/ron161007b.pdf

まずは概要の方からだがまあいいんだけどツッコミどころというか何というかで、概要の所に
こういう記述があるんですけどね。

『日本銀行金融市場局は、今回のサーベイ結果を短期金融市場の動向把握のために有効に活用していくとともに、「債券市場サーベイ」なども併せ用いながら、金融市場の状況や構造変化の包括的かつ多面的な把握に努めていく考えである。また、「市場調節に関する懇談会」や、「債券市場参加者会合」などの機会も活用しつつ、市場参加者の方々と対話を重ねながら、短期金融市場も含めたわが国金融市場の活性化に向けた関係者の取り組みを積極的に支援するとともに、自らも中央銀行の立場から、可能な限りの貢献を果たしてまいりたいと考えている。』(概要より)

昨年のサーベイ概要ですけど
http://www.boj.or.jp/research/brp/ron_2015/ron151009a.htm/

『日本銀行金融市場局は、今回のサーベイ結果を短期金融市場の動向把握のために有効に活用していくとともに、本年から開始した「債券市場サーベイ」なども併せ用いながら、金融市場の状況や構造変化の包括的かつ多面的な把握に努めていく考えである。また、「市場調節に関する懇談会」や、本年から開催している「債券市場参加者会合」などの機会も活用しつつ、市場参加者の方々と対話を重ねながら、短期金融市場も含めたわが国金融市場の活性化に向けた関係者の取り組みを積極的に支援するとともに、自らも中央銀行の立場から、可能な限りの貢献を果たしてまいりたいと考えている。』(昨年の概要より)

・・・・・・・・・・・いやまあそういう立場というのも分かるのですけれども、昨年の8月対比でこの間ってマイナス金利政策は打ち込むわ直近では長短金利操作(短期は昔からやってるから短期そのものだけで言えば前と変わらんけど)政策打ち込むわというのをやっているのですから物には言いようというものが無いのかと言いたくなりますが、じゃあ何と書けば良いのかと言われても困るのですが(苦笑)、国債馬鹿買いをしているというのは変わらないにしても、一応プラス金利だった時と比較して今回は思いっきり金利市場に介入します(昔からしていたが)というのを売り物にしている政策をボードが行っているのですから、今更「わが国金融市場の活性化に向けた関係者の取り組みを積極的に支援する」とかボードがやっている政策に対してヘソが茶を沸かす話ではございますというか、政策との整合性をもうちょっと考えて頂きたく存じますし、そうじゃないと何か市場局は市場局で縦割り行政みたいな感覚でやってるのかと小一時間問い詰めたくなる訳で。


という悪態はともかく『概要』部分から。

『短期金融市場の取引残高は、資金調達残高・資金運用残高とも、前年と比べて減少した。もっとも、資金調達残高は、引き続き09年〜13年を上回る高めの水準となった。』

というのを見るとほえ?と思われるかも知れませんが、これ本文2ページ(PDFの3枚目)を見ると分かりますように、国債レポ取引の残高が思いっきり(100兆円少々)あって、全体残高の半分以上を占めていまして、この国債レポ自体はそう簡単に落ちない(新発を日銀が引き受けでもして市中消化そのものが無くなれば話は別)でしょうから水準自体は高いのよね。

『取引残高が減少した背景として、資金調達サイドをみると、短期金融市場における金利のマイナス化を受けて、有担保コール取引を中心にコール市場の取引が減少したほか、プラス金利での資金運用が難しい中で、発行金利が0%近傍で推移しているCD/CPでの資金調達が減少したことが要因として挙げられる。資金運用サイドをみると、コール取引の減少に加え、国庫短期証券での運用が減少した。』

『一方で、レポ取引については、GCレポ取引が、コール取引の代替として機能したほか、日銀当座預金のマクロ加算残高や基礎残高の余裕枠との間の裁定取引において選好されたことなどから、市場規模を拡大した。』

ふーん。

『短期金融市場の機能度については、市場金利のマイナス化や、希望する取引額での取引が難しくなっていることなどを背景に、「低下した」との回答が6割程度に増加した。一方で、日銀当座預金のマクロ加算残高や基礎残高の余裕枠を用いた新たな裁定取引が増加していることを受けて、「改善した」との回答も増加して1割程度となった。』

ふーんとしか申し上げようがないが、マクロ加算残高の余裕枠を使ってどうのこうのって完全に官製市場(まあコール自体が日銀が誘導するから官製市場と言ってしまえばそれまでですし、そもそもマイナス金利を打ち込む前でも当座預金付利金利と超過準備の存在という制度に乗っかってできていた市場なのですが)ではありますが、制度上の裁定取引で入る人の顔ぶれがちょっと変わった結果として参加者がちと増えたように感じるとかそういうもんでしょうな・

『日本銀行としては、今後とも短期金融市場の動向を、日々のモニタリング活動や本サーベイ、市場参加者との対話などを通じて、適切にフォローしていく考えである。』

はあそうですかという感じですが、CP取引とか減少しちゃっている点とか、将来的に市場がプラス金利で超過準備も不胎化されていくような状況になった場合(つーか目標達成したらそうなるんだが)の事を考えまするに、この調子で死に状態にしておいて参加者が離散すると色々と不味いんですけどね。


でもって大本営発表になるのはまあ今の日銀だから仕様なのですが、今回のサーベイまとめの中で白眉とも言える大本営モードは本文の方を見ますと・・・・・・・・・・

http://www.boj.or.jp/research/brp/ron_2016/data/ron161007b.pdf

1.無担保コール取引は小幅に減少
2.有担保コール取引は大幅に減少
3.CD/CP、国庫短期証券取引の減少
4.SC レポ取引は減少
5.GC レポ取引は大幅に増加
6.短期金融市場の機能度に関する市場参加者の見方

とありまして、

【BOX】マイナス金利政策のもとでの短期金融市場

(システム面での制約)

(日銀当座預金の3層構造)

とまあ説明があるのですが、この『6.短期金融市場の機能度に関する市場参加者の見方』の説明が実にこう味わいがある。

『短期金融市場全体の機能度については、「低下した」との回答が6割程度に増加した。背景としては、市場金利のマイナス化や、コール市場を中心に希望する取引額での取引が難しくなっていることなどが指摘された。』

『取引種類別にみると、コール市場について、機能度が「低下した」との回答が大幅に増加した。もっとも、国債レポ取引については、取引残高が増加していることもあり、機能度が「低下した」との回答の増加は小幅にとどまった。』

『一方で、短期金融市場全体の機能度が「改善した」との回答も増加して1割程度となっている。背景としては、日銀当座預金のマクロ加算残高や基礎残高の余裕枠を用いた新たな裁定取引が増加していることを指摘する声が聞かれた。』(本文8ページより)

となっているのですが、実施されたアンケートの方を見ますと『図表 35 短期金融市場取引に係る市場参加者の見方』というのが33ページ以降にありまして、そこでの調査項目は『【機能度】』の他に『【収益性】』ってのがありまして、いやあの市場参加者としてはその収益性っての物凄く重要でして、そっちの方は当たり前のように盛大に状況が悪化しているのですけれども、説明の所でそこを華麗にスルーする、というのが何とも。

もちろん短期は資金繰り等のお家の事情の動きが多いのだが、そうは言っても収益性がないと取引のインセンティブが生じないので、そうなるとお家の事情が一方方向に偏った場合に物凄い市場にストレスが掛かることになって潜在的なシステミックリスクを抱える事になるので、短期市場の収益性が皆無になると外的ショックに市場が弱くなるので、収益性が厳しい状態を長期化させておくってのってのも良くないと思うの。まあマイナス金利政策だから仕方ないのは分かるけどね。

あと、今回へーと思ったのは『図表 33 諸課題への取り組み状況▽国債決済期間短縮化( 注 1)』の所でして(本文31ページ)、何故か今回取り組み状況が後退している結果になっていまして、やはりこれはマイナス金利の影響が出ているのですかねえ・・・・・・・・・・


○総裁講演がもうね

連休中にしらっと打ち込まれるの巻。

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2016/data/ko161009a.pdf
「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」
― 低インフレを克服するための新たな金融政策の枠組み ―
ブルッキングス研究所における講演の邦訳

・何を今更という話から始まるのだ

『2.日本における課題と新しい金融政策の枠組み 』の所から参ります。

『日本における金融政策の課題は、大きく2つありました。』

ほほう。

『まず、前例のない大規模な金融緩和を行ったにもかかわらず、日本におけるインフレ予想の形成は依然としてかなりの程度「適合的」であり、2014年夏以降の原油価格の大幅下落を受けて物価上昇率が低下し、これにより予想物価上昇率が再び低下傾向をたどっていることです。一度低下したインフレ予想をどのように引き上げ、目標である2%に再びアンカーするか、これが第一の課題です。』

『次に、金利水準と金融緩和効果の関係です。長短金利が有意にプラス領域にあったときは、経済への影響だけを考えれば、金利は低いほど金融緩和効果が高まると考えることができました。しかし、短期金利がマイナスとなり、長期金利もきわめて低い水準まで低下すると、金融仲介機能ひいては金融緩和効果を低下させる副作用あるいはコストが生じうることが認識されました。こうした点を踏まえると、経済・物価に対して最大限の金融緩和効果を引き出すためには、最適と考えられるイールドカーブの水準や形状があるのではないか、これが第二の課題です。』

・・・・・・・・(−−;

まず最初の部分ですが、これは「インフレ目標2%」で大規模緩和をしたからと言ってインフレ期待が上がる訳ではないとか、そもそも物価だけ強引に上げて(円安ショックとかで)も適合的な期待形成の前に実質所得のマイナスの方が影響して物価が持続的に上がらないという話であって、それってもう麿の時代にそういう話になっていたじゃんと思うのですけどね。

それからマイナス金利になったら問題が色々とあるという話も導入前から散々指摘されていた話であって、「金融政策の課題は、大きく2つありました(キリッ)」とか言ってるけど、どちらも導入される前から指摘されていた事に対して置物リフレ理論だか何だか知りませんけれども、それは間違いだのなんだの言って強引に導入した結果やっぱり指摘されていた通りだったという話で、何を今更偉そうに「金融政策の課題は、大きく2つありました(キリッ)」だかと呆れて顎が外れそうですな。

『これらの問いに対する答えとして、日本銀行は、今般、新たな政策枠組みである「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を導入しました。この枠組みは、@オーバーシュート型コミットメント、Aイールドカーブ・コントロールという2つの要素からなっています。それぞれについて、順にお話ししていきます。』

という答えなのですが、元々指摘されていた問題ってその「2年で強引に目指そうとする」というのと、「マイナス金利政策」の問題点でもあるので、そこについては放置(前者は事実上放棄モードになっていますけど)しつつ戦術の変更で何とかしようというのが先行き益々大丈夫かという感が漂うのでございますが・・・・・・・・・・・・・


・オーバーシュート型コミットメントの説明が何とも

次がオーバーシュート型コミットメントの説明ですが。

『「物価安定の目標」を達成する上で、インフレ予想をアンカーさせることの重要性は広く共有されています。しかし、「インフレ予想はどのように形成されているのか」、「一旦低下したインフレ予想はどのように引き上げることができるのか」といった問いについては、理論的にも実証的にも十分に明らかにされていないように思われます。』

『日本銀行が2013年に導入した「量的・質的金融緩和」は、「物価安定の目標」に対する強いコミットメントとマネタリーベースの大幅な拡大を組み合わせることによって、金融政策レジームに変化をもたらし、人々の物価観を転換させることを企図したものです。「総括的な検証」において分析したとおり、この方法は一定の成果をもたらしました。』

先般もネタにしましたが、消費増税の駆け込み需要の要因を無視して分析しているのが怪しさ満点ではありますが、円安による価格上昇ショックなどはあったと思われますが、2%へのリアンカーとか全然無理で、結局元の木阿弥になりつつあるというこの事実。

『日本銀行は、今般、このアプローチをさらに強化し、マネタリーベースの拡大を消費者物価上昇率前年比の「実績値」にリンクさせる「オーバーシュート型コミットメント」を採用しました。「実績値」が安定的に2%を超えるまでマネタリーベースの拡大方針を継続すると約束することで、人々の物価観に一段と積極的に働きかけていくことを企図しています。』

真面目な話こんなの一般的に分からんと思うし、本当にこのコミットメントに世間の耳目を集めたいのであれば、「長期金利を0%に操作」というセンセーショナルな物を同時に打ち込むべきではなくて、はっきり言ってそっちしか注目されてないでしょ世間的にはと思うのだがこの辺は前座。

『インフレ予想の低下への対応策として、インフレ目標を現在の2%からさらに――例えば4%に――引き上げるとの案が、ブランシャール・マサチューセッツ工科大学名誉教授やウィリアムズ・サンフランシスコ連銀総裁等によって提言されています1、2。しかし、日本の経験を踏まえますと、インフレ目標を引き上げただけで様々な経済主体のインフレ予想が引き上げられるという主張は、やや現実を簡単化しすぎているように感じられます。』

これは岩田副総裁への批判でしょうか(笑)。

『インフレ予想をリ・アンカーするためには、中央銀行の物価安定に対する信認を高めることが必要です。そのためには、先行きの金融政策運営に対するコミットメント──いわゆる「フォワード・ガイダンス」──を活用することが有効と考えられます。』

「2年で達成」と大口叩いて実績上がらなくて原油価格ガーと言い訳している時点で信認もへったくれもなくて、そこからガイダンス云々とか言われましても単なる弥縫策にしか見えないのですが。

『もっとも、フォワード・ガイダンスの設計は容易ではありません。当たり前のことを約束したのでは意味がない一方で、中央銀行の政策余地を過度に狭める無謀な約束は、人々に「中央銀行は、結局は約束を反故にするのではないか」と思われ、信じてもらえません。時間的不整合性と呼ばれる問題です。』

ほうほう。

『こうした問題に対する日本銀行の答えは、実績値に基づいた強力なコミットメントを、マネタリーベースの拡大と組み合わせることで、「大胆だが無謀ではない」コミットメントを行った点にあります。』

ということですが・・・・・・・・・・・

『金融政策の効果が実体経済に波及するには時間的なラグが存在することを考えると、中央銀行が実績値に基づいたコミットメントを行うことは異例です。コミットメントの対象は、マネタリーベースの拡大、および、それと表裏の関係にある中央銀行の国債保有額の増加です。』

つまり金利は動かし得るというお話。

『このことは、金融緩和の重要な要素をコミットメントの対象とすることで、「実績値」が安定的に2%を超えるという基準を満たすまでしっかりと金融緩和を継続することを強く示唆しています。』

という話なのですが・・・・・・・・・

『実際、物価上昇率がゆっくりと高まっていく通常のケースでは、コミットメントの条件を満たすまで、マネタリーベースの拡大と低いイールドカーブが続くでしょう。一方で、予想外の急激な物価上昇があった場合には、長短金利の操作で対応可能です。したがって、このコミットメントは、きわめて強力で、かつ、必ず守ることができるものになっています。』

金利を引き上げることによって対応可能という説明というのは即ち金利を大きく引き上げればインフレ抑制可能という説明な訳で、その時点でMBと国債保有に関しては不胎化を実施すれば緩和効果を減殺することが出来るという話でありますから、「金融緩和の重要な要素をコミットメントの対象とする」というのが説明としてインチキ成分が強いですな。

『また、インフレ予想を上昇させるためにインフレ目標を引き上げた場合、それは一時的な対応ではなく永続的な政策となり、物価の安定という中央銀行にとっての法的な責務がどこまでのインフレ率を許容しているのかという問題が生じえます。今回の日本銀行の新しい枠組みは、そのような問題を生じさせることなく、金融緩和効果を最大限得るための枠組みとなっています。』

まあそもそも論としてインフレ目標の数値ってそれは中央銀行が勝手に決めるものなのか問題(経済全体の厚生に関わる問題であって実際には中央銀行単独で決めるものなのかというのは中々微妙)とかもありますけれども、それ以前の問題として全然物価が上がらん中でインフレ率の許容がどうのこうの言われましても何ともという感じです。


・イールドカーブコントロールの所はまあこんな説明で

『4.イールドカーブ・コントロール』の所ですけれども。

『中央銀行による金利操作については、伝統的に「短期金利の操作はできるが、長期金利の操作はできない」と考えられてきました。一方で、グローバル金融危機以降、主要国の中央銀行は、短期金利のゼロ制約に直面するもとで、資産買入れによって長期金利に直接働きかけてきました。広く「量的緩和(QE)」と呼ばれている政策です。実務的には、いずれの中央銀行も、国債の買入れ額を操作目標とし、それに沿った買入れの結果として長期金利が内生的に決まるという枠組みを採用してきました。』

まあそれはわかる。

『しかし、「総括的な検証」では、国債買入れが長期金利に及ぼす影響は、時々の状況によってかなり異なることが分かりました。つまり、国債の買入れ額を操作目標として事前に決めてしまうと、実現する長期金利は、中央銀行が最も望ましいと考える水準よりも高過ぎたり低過ぎたりしうることになります。』

単なる買い過ぎの結果です。

『こうした問題意識のもとで、日本銀行は、主要国の中央銀行で初めて、長短金利に操作目標を明示的に設定する「イールドカーブ・コントロール」の導入に踏み切りました。』

元々が単なる買い過ぎの結果なのですから、それは買入を減らさないといけないのですけどね。

『「イールドカーブ・コントロール」は、野心的な取り組みです。ただ、実は、資産買入れを行っている主要国の中央銀行は、既に「政策目的の実現のためにはどのようなイールドカーブが望ましいのか」という課題に直面しているはずです。本来、その問いに対する答えなしに、適切な国債買入れの金額は決められないからです。』

という説明にさっきの所からの飛躍があって、長期金利は別に中銀の国債買入額だけで決まる訳ではないのであって、そうなった(ように見える)のは単に買い過ぎなのと、政策の継続期間が長いと見込まれるようになったからですけれどもね。

でもってちょっと飛ばしますけれども、

『日本銀行の新しい枠組みでは、毎回の金融政策決定会合において、長期金利の誘導目標を設定していくということです。その時々の経済・物価・金融情勢に応じて、「物価安定の目標」の実現のために十分な緩和効果を得るよう、イールドカーブをコントロールしていきます。』

『このように、イールドカーブ・コントロールを進めていくためには、どのような長短金利水準が適切かについて、理論的にも実証的にも、これまで以上に詳細な分析が必要となります。この点、短期金利に焦点を当てた伝統的な「自然利子率」の概念や「金融政策ルール」では不十分であり、イールドカーブ全体を対象とした議論や研究を深めていくことが必要と考えられます。』

という説明をしているのですが、オペレーション的には超長期が10bp程度下がっただけで買入減額を入れてくるというのをしているので、それはつまり市場の価格形成メカニズムは知らんがなこっちの考える正しいイールドカーブに誘導するがなという話(ここでの話はそういう内容ですわな)および実際のオペレーションが始まっているのですが、肝心のその金利水準は今後MPMの度に出すのか出さないのか(展望レポートで見通しが変わったら変わるもんじゃないですかねえ)とかも気になる所ではありまする。

ということでまあ簡単ではありましたが軽くツッコミを。





2016/10/07

お題「企画局謹製の総括検証を丁寧に説明するシリーズ第一弾が投下されたので鑑賞してみましょう」

ほほう。

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2016-10-06/OEN5B4SYF01W01
NY外為:ドルは対円で2年ぶり長期連続高−米利上げ観測広がる
2016年10月7日 04:54 JST

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2016-10-06/OEN4MS6VDKHS01
NY原油(6日):6月以来初の50ドル台−米在庫減とOPEC合意で
2016年10月7日 05:06 JST


○総括的検証の補足ペーパーシリーズとな

http://www.boj.or.jp/research/wps_rev/rev_2016/rev16j17.htm/
「総括的検証」補足ペーパーシリーズ(1):「量的・質的金融緩和」の3年間における予想物価上昇率の変化

『要旨』

『日本銀行が「量的・質的金融緩和」を導入してから3年余りが経過した。本稿では、この期間において、予想物価上昇率がどのように変化したのか、また、その背景にはどのような力が働いてきたのか、分析を行った。その結果、予想物価上昇率は、上昇→横ばい→弱含みの3つのフェーズに分けられ、「量的・質的金融緩和」が予想物価上昇率を押し上げた一方、原油価格の下落や新興国発の市場の不安定化などの外的要因が下押しに働いたことが示唆された。もともと現実の物価上昇率の動きに影響されやすい(「適合的な期待形成」の要素が強い)日本の予想物価上昇率は、2014年夏以降、原油価格の下落などの外的要因によって物価上昇率が低下すると、その影響を強く受ける結果になったと考えられる。』

ということで、

http://www.boj.or.jp/announcements/release_2016/rel160930d.pdf
「量的・質的金融緩和」導入以降の経済・物価動向と政策効果についての総括的な検証

の補足ペーパーというのが登場している訳ですが、長期金利操作政策を打ち込んでしまったので検証の中身を見ながらああでもないこうでもないとやる余裕もなく日々のオペだの輪番減額だのというのに振り回されている中で出て来たのでアリガタヤ。

つーことで本文はこちら。
http://www.boj.or.jp/research/wps_rev/rev_2016/data/rev16j17.pdf
日銀レビュー
「総括的検証」補足ペーパーシリーズ@
「量的・質的金融緩和」の 3 年間における予想物価上昇率の変化

というお題ですが、大体総括検証の中の『補論1:統計的手法による予想物価上昇率のフェーズ分け』、『補論2:予想物価上昇率に影響を与えた要因についてのモデル分析』辺りと対応している感じですな。そういやアタクシも日々の輪番とかに振り回されて総括検証をネタにしていない(まあ計量的な分析が並んでいるのでツッコミするにも色々とこっちも大変だったりするなあとか思ったりするので)なあとか思いながら読む訳ですが・・・・・・・・・

・書いているのは企画局公式でしてこれはスタッフペーパーではないとな

今回の内容紹介部分ですが、
http://www.boj.or.jp/research/wps_rev/rev_2016/rev16j17.htm/

『日本銀行から』の所の表示がこうなっていますが・・・・・・・・・・・

『日銀レビュー・シリーズは、最近の金融経済の話題を、金融経済に関心を有する幅広い読者層を対象として、平易かつ簡潔に解説するために、日本銀行が編集・発行しているものです。』


例えば直近の日銀レビューシリーズの場合
http://www.boj.or.jp/research/wps_rev/rev_2016/rev16j16.htm/
わが国資産運用ビジネスの新潮流―「貯蓄から投資へ」の推進に向けて―

『日銀レビュー・シリーズは、最近の金融経済の話題を、金融経済に関心を有する幅広い読者層を対象として、平易かつ簡潔に解説するために、日本銀行が編集・発行しているものです。ただし、レポートで示された意見は執筆者に属し、必ずしも日本銀行の見解を示すものではありません。』

ということで、そらまあ内容が内容だけに当たり前といえばそれまでなのですが、今回のペーパーは総括検証の内容に関してこのような形で「公式見解の」ペーパーを出してツッコミ待ちという物件になっていると思います。でもって先程も申しあげたように長短金利操作の方が話題になってしまいまして、総括検証の方は出たのは良いけれどもイマイチ話題にならない(そら政策のレジームシフトまで行ったら総括検証は過去の話になっちゃいますからねえ、だからレジームシフトは一回待てば総括検証がもっと色々と話題になったと思うのに・・・・・・・・)のでツッコミ待ち物件を出してきたという事でしょうし、まあこういう所は日銀らしくて結構。


でもって今回は上で指摘した通り、スタッフペーパーじゃなくて企画局が出しているということですので、総括検証に関する背景説明の詳細版ということで、ちゃんとした日銀の公式見解を示す(というか詳しく説明を入れているもの)ではございますが、公式見解だけに出しているのが企画局というのが味わいが有る訳ですよ。つまりですな、これが調査統計局という事になると、基本的には(と微妙な文言を入れて置くが)ピュアにエコノミストが分析してくるペーパーがだいたい登場する訳ですが、企画局謹製ということになりますとそらもう「政策のため」にどういう分析をしているのでしょう、と思いながら読むというのが見どころになる訳ですよ(意地悪)。


・ということでポイントは3点だそうな

ということで以下本文から引用します。まずは『はじめに』から。

『日本銀行は、2013 年 1 月に消費者物価前年比2%の「物価安定の目標」を定め、同 4 月には、この目標をできるだけ早期に実現するため、「量的・質的金融緩和」を導入した。その後、日本の経済・物価情勢は大きく好転し、既に「物価が持続的に下落する」という意味でのデフレではない状態となった。』

ほほう。

『一方で、世界的にも例をみない大規模な金融緩和にもかかわらず、2%の「物価安定の目標」は依然として実現できていない。この要因として重要なのが、予想物価上昇率の動向である。』

ほっほー。

『本稿では、「量的・質的金融緩和」導入後の 3 年強の期間において、日本の予想物価上昇率がどのように変化したか、また、その背景にはどのような力が働いてきたのか、分析を行った。分析結果について、予めポイントを整理すると、以下の 3 点になる。』

ということで・・・・・・・・・・・

『一点目のポイントは、この 3 年強の予想物価上昇率の動きについては、上昇局面(2013 年 4 月から2014 年夏)、横ばい局面(2014 年夏から 2015年夏)、弱含み局面(2015 年夏から最近)の 3 つのフェーズ(局面)に分けることができ、局面変化のタイミングは、原油価格の下落(2014 年夏以降)や新興国発の国際金融市場の不安定化(2015年夏以降)など、負の外的要因が発生したタイミングとほぼ合致することである。』

でまあここは実は盛大なツッコミどころがあるように思えるのですが後程。

『二点目のポイントは、モデル分析の結果、「量的・質的金融緩和」の導入(2013 年 4 月)や拡大(2014 年 10 月)が、予想物価上昇率の押し上げにポジティブな効果を発揮したことが示唆されたということである。一方で、「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」(2016 年 1 月)は、2015年夏以降の新興国発の国際金融市場の不安定化や原油価格の低迷などによるネガティブ・ショックの影響を打ち消すには至らなかったことも示唆された。』

はいはい外部要因のせい外部要因のせい、としていますが、これは即ち最初のQQEと次の追加金融緩和においてはMBの拡大ペースの引き上げを伴っていた訳で(マイナス金利政策以降はMBの拡大ペースは引き上がらず、更に直近ではMB拡大ペースは「めど」に格下げになっている)、マイナス金利はネガティブショックの影響に勝てなかったという説明になっていますが、もしかしてMB拡大ペースの引き上げというマネタリーショックが無いと予想物価上昇率の押し上げに対しての効きが悪いという結論も出せるような気がするんですけれどもそういう説明にはなっていない気がする。

『三点目のポイントは、従来から指摘されていることではあるが、日本の予想物価上昇率が、主要国と比べても、現実の物価上昇率の動きに影響されやすい(「適合的な期待形成」の要素が強い)ということである。このことは、「量的・質的金融緩和」導入後に順調に上昇していた予想物価上昇率が、2014 年夏以降の原油価格の下落や 2015年夏以降の国際金融資本市場の不安定化などの外的要因の影響を受けて、横ばい・弱含みへと転じた原因を理解するうえで重要である。』

適合的期待形成の話は既に耳にタコができるほど説明されているのでこの部分ははあそうですかという感じなのですが、この分析の結果として出てきた政策(の話はここの分析の範疇を超えますが)出てきた政策が「合理的期待形成を強化するためにオーバーシュート型コミットメントを導入する」という話(金利操作はその手段で今回の追加緩和が追加緩和なのはこのコミットメント導入ですよ)って結果になった訳で、適合的な期待形成に資するような施策が何で出て来ないのでしょうかねえと思ったりもする。


・分析の中身をちょっとだけ拝見して突っ込んでみる

『予想物価上昇率の 3 つのフェーズ(上昇→横ばい→弱含み)と外的要因の影響』というのが次にあって、どういうフェーズ分けをするのかという分析がありますが、その辺はとりあえず飛ばしてまして、次の『予想物価上昇率に影響を与えた要因についてのモデル分析』から。

『「量的・質的金融緩和」導入以降、物価の基調は着実に改善しているが、消費者物価の前年比は「物価安定の目標」である2%に達していない。ここでは、その背景について、フィリップス・カーブとインフレ予想の形成メカニズムからなるモデルを用いて、要因分析を行った。』

『(モデルの定式化と要因分解の方法)

分析にあたっては、@実際の消費者物価上昇率は、需給ギャップと短期インフレ予想によって決定される(フィリップス・カーブ)、A短期のインフレ予想は、前期の消費者物価上昇率の実績と中長期のインフレ予想によって決定される(インフレ予想の形成メカニズム)、B中長期のインフレ予想は、中央銀行の物価目標と前期の中長期インフレ予想によって決定される(同)、という3式からなるモデルを考えた。なお、短期・中長期のインフレ予想については、長期時系列が利用可能である、コンセンサス・フォーキャストの 1 年後予想4と 6〜10 年後予想をそれぞれ使用した。また、実績インフレ率には消費者物価(総合除く生鮮食品・エネルギー)を使用した。』

まあ何ですな、浅学菲才の不肖このアタクシから致しますと分析の所で使っている手法がどうのこうのというお話をするのも僭越至極な訳ですけれども、この手の定量的な分析って分析を展開する際の数学的な処理がどうのこうのというよりも、前提にぶち込んでいるパラメータや前提条件の所をどういう使いかたしているのか、というのを見る方がたぶんツッコミが可能かなと思う訳で、まずはここを読んでいて?????と思ったのですが、

>なお、短期・中長期のインフレ予想については、長期時系列が利用可能である、コンセンサス・フォーキャストの 1 年後予想4と 6〜10 年後予想をそれぞれ使用した。

ということなのですが、そもそも論としてこのコンセンサス・フォーキャストを使っているのが良く分からん訳で、さっき飛ばしたその前の部分の『予想物価上昇率の 3 つのフェーズ(上昇→横ばい→弱含み)と外的要因の影響』の中で『主成分分析による合成予想物価上昇率』というのを作っていまして、何でそっちを使わないのかというのが頭が悪いので良く分からんのですが、そういえばジャクソンホールでの黒田総裁の講演の中で急にコンセンサス・フォーキャスト使って説明をおっぱじめていた場面があって(8月29日に駄文のネタにしましたので、http://www.h5.dion.ne.jp/~bond7743/doramemon1608.html#160829をご覧あれ)、ナンジャソラなイメージを持ったという事案がありましたなあという所です。

いやまあこれコンセンサス・フォーキャストを使っても主成分分析による合成予想物価上昇率を使っても結果が同じというのであれば別にそれでも良いのですが、折角合成予想物価上昇率を出してきているのにここの項でその中の一部の項目であるコンセンサス・フォーキャストを出して来るのが怪しい香りがするけどそれ以上突っ込めないのでとりあえずまあそういう指摘だけ。

『そのうえで、上記@〜B式におけるモデルからの乖離を、それぞれ、「実績インフレショック」、「予想インフレショック」、「物価目標アンカーショック」として把握することにより、2%の「物価安定の目標」からの乖離を要因分解した。具体的には、A式とB式について、@式に代入して整理すると、実績インフレ率の「物価安定の目標」からの乖離は、上記 3 ショック要因と需給ギャップ要因に分解することができる(要因分解の詳細については、BOX「フィリップス・カーブとインフレ予想形成メカニズムからなるモデルによる要因分解」を参照)。』

ふーん。

『(3 つの「ショック」の解釈)

こうした「実績インフレショック」、「予想インフレショック」、「物価目標アンカーショック」の各要因は、それぞれ、以下のように解釈することができる。』

『@実績インフレショック:需給ギャップや短期インフレ予想の変化では説明できない実績インフレ率の変動要因。実績インフレ率の短期的な振れのほか、需給ギャップでは捉えきれない実体経済面の実績インフレ率への影響などが含まれる。

A予想インフレショック:過去の実績インフレ率や中長期のインフレ予想の変化では説明できない短期インフレ予想の変動要因。具体的には、金融政策のレジーム変化によるインフレ予想の非連続的な変化、物価への波及ラグが長い為替レート変動の影響や、エネルギー価格の変化によるセカンド・ラウンド・エフェクト(二次的効果)などが含まれる。

B物価目標アンカーショック:中長期のインフレ予想を物価目標から乖離させるショック。中長期的な予想物価上昇率がアンカーされている米国などとは異なり、日本は2%の「物価安定の目標」への予想物価上昇率のアンカーを目指している途上にあるため、物価目標アンカーショックは、全期間を通じてマイナスとなる。』

という辺りはとりあえずスルーしておきますが・・・・・・・・・・・・


・消費増税の影響をマイナス部分だけカウントするという超恣意的な解釈など結論はやはり大本営発表

その次の『(要因分解の結果) 』が大体結論なのですが、ここに来ると盛大に大本営発表キタコレとなるのですが企画局ペーパーの仕様なので仕方がありません。

『上記のモデルを用いて、消費者物価の上昇率が物価目標(2%)から乖離している要因について、上記 3 つのショックと需給ギャップに要因分解を行った結果を下図に示している。フェーズ毎に要因分解の結果を整理すると以下の通り(図表 4)5。』

ほう。

『第 1 フェーズ:2013 年 4 月以降、プラスの「予想インフレショック」が発生した(「量的・質的金融緩和」の導入が、予想物価上昇率を上昇させるポジティブ・ショックとして機能したと考えられる)ほか、それまで消費者物価の下押し方向に寄与していた「需給ギャップ」のマイナス幅がゼロ近辺まで縮小した(実質金利の低下が需給ギャップの改善に寄与したと考えられる)。こうしたことから、実績インフレ率の物価目標からの乖離幅が順調に縮小した。』

という説明になっているのですが・・・・・・・・・・・・・・・

『第 2 フェーズ:第 1 フェーズで生じた「予想インフレショック」のポジティブな効果は時間の経過とともに減衰した。また、「需給ギャップ」の改善による追加的な物価押し上げ効果が消滅した(2014 年 4 月の消費税率引き上げなどを受けた景気の減速によるものと考えられる)ほか、「実績インフレショック」のマイナス幅が拡大した(個人消費の落ち込みなどを受けて、需給ギャップの変化で説明できる以上の消費者物価への下押しが生じたことなどが考えられる)。もっとも、2014 年 10 月の「量的・質的金融緩和の拡大」によって、プラスの「予想インフレショック」が再び生じ、前述のマイナスをある程度相殺した。この結果、第 2 フェーズを通してみると、実績インフレ率の物価目標からの乖離幅は概ね横ばいを維持した。』

・・・・・・・・・・(-ω-)

えーっとすいません、第2フェーズで「消費税率引き上げなどを受けた景気の減速によるものと考えられる」と来て、需給ギャップ改善による物価押し上げ効果にマイナスに働いた、という分析になっているのでしたら、第1フェーズの時には需給ギャップ押し上げに消費増税に伴う駆け込み需要が寄与していた筈なのですけれども、第1フェーズの時は需給ギャップの改善は実質金利の低下によるものとなっているのはどう見てもイカサマ説明だと思うのですが、この点についての明確な説明を賜りたいものです。

『第 3 フェーズ:2015 年夏以降、新興国経済の減速などを背景に世界的に株安となるなかで円高が進行したほか、原油価格も 2016 年初にかけて一段と下落した。こうしたなか、最近にかけて、マイナスの「予想インフレショック」が発生している(これは、原油価格下落のセカンド・ラウンド・エフェクトなどが、予想物価上昇率の下押しに作用しているためと考えられる。2016 年 1 月の「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」によっても、その影響を打ち消すことはできていない)。このため、実績インフレ率の物価目標(2%)からの乖離が拡大している。』

ということで、こちらでもマイナス金利政策に関しては予想インフレに対してマイナスの効果を与えた可能性というのを端から無視しておりまして、まあ大本営発表だからこう来るのは仕様ではあるとは言え、この説明の中での話って全て「QQEおよびマイナス金利はプラスの効果を出している」というのが前提となるようなパラメータの使い方をして分析しているようにしか見えない訳でして(大本営発表だから致し方ないけど)、まあ虚心坦懐に検証すると言っていたのですから、もうちょっと虚心坦懐に分析していただけませんですかねえと思いますが企画局いやまあいいです。


○その他雑談メモ

・短国3Mとか短国買入とか

http://www.mof.go.jp/jgbs/auction/calendar/tbill/tbill_nyusatsu/resul20161006.htm

(3)募入最低価格 100円08銭3厘0毛(募入最高利回り)(-0.3120%)
(4)募入最低価格における案分比率 72.4444%
(5)募入平均価格 100円08銭7厘1毛(募入平均利回り)(-0.3274%)

ということで6Mのような盛り上がりもなく、セカンダリーも特に盛り上がらずという結果になっておりまして、本日の短国買入がどういうオペの入り方してくるのかも見たいと思います。6Mがアレだったので買入大丈夫か感はありましたが3Mが盛り上がらないのであればまあ淡々とこなしていくのでしょうかねえ、良く分からんけど。


・ECB議事要旨

http://www.ecb.europa.eu/press/accounts/2016/html/mg161006.en.html
Account of the monetary policy meeting of the Governing Council of the European Central Bank

寝起きで読める量ではないのと、まだこれインスタント読みのコツがつかめていないのでちょうど連休もあることですし後で読みますが、そらまあここでテーパリング(ただし日銀と同様で受動的なテーパーではある)ネタには成らんわなとは思う。


あと、米国利上げヒャッハーネタで意外に動くんだ(あたしゃ12月はFED意地張ってやってくるだろというイメージだったもので)という所ですが、雇用統計とか最近のFED高官の話とかも連休中に整理できると良いな(出来るとは言っていない^^)という感じで。




2016/10/06

お題「輪番とか短国入札とか買入とかで雑談モード」

日銀天の助けの展開ですな。
http://jp.reuters.com/article/us-econ-idJPKCN1252CL
Business | 2016年 10月 6日 04:17 JST
米9月ISM非製造業総合指数11カ月ぶり高水準、年内利上げ論拠強まる

○超長期とか短国とかのオペ関連雑談

・超長期ヘロヘロなのだが輪番スキップのインパクトは以前より上がっているのでご利用は慎重にと思う

毎度の手抜きでロイターから。
http://jp.reuters.com/article/idJPL3N1CB1AY
Markets | 2016年 10月 5日 15:13 JST
〔マーケットアイ〕金利:国債先物は小幅続落、スティープ化の形状

『<15:11> 国債先物は小幅続落、スティープ化の形状

長期国債先物は小幅続落。前日の海外市場で、欧州中央銀行(ECB)が資産買い入れプログラムの縮小を計画しているとの一部報道を受けて、欧米債が下落した流れを引き継ぎ売りが先行した。前場中盤は長期ゾーンを対象とする日銀オペが打たれたことで短期筋の買い戻しが優勢になった。後場はオペ結果が無難だったことで、買われる場面があったが、株高が上値を抑えた。現物債は超長期ゾーン金利に上昇圧力がかかった。一部で期待されていた超長期ゾーンを対象にした日銀オペが見送られたことが影響したとの見方が出ていた。中期ゾーンはオペ対象になったことで底堅く推移。オペ結果強めとなった2年債利回りに低下圧力がかかる局面があった。長期ゾーンは国内銀行勢中心の売買が交錯する展開となり、国債先物への連動性を強めた。イールドカーブはスティープ化の形状。』(上記URL先より)

とまあそんなことで昨日は超長期輪番がスキップされまして、まあ従来であれば朝三暮四の世界だからヘーキヘーキという事になりますし、まあ日銀の輪番に関しても「日銀が考えている適正なイールドカーブからの日銀の考えるレンジからの逸脱」が起きない限りは基本的に動かないという風に考えても良いようには思えるのですが、何せ9月末の輪番減額がちと債券市場的にはインパクト(額が少ないから他市場はあまり気にしていないというか、為替は全然別のネタで動いていて日銀の買入ペースが落ちたとか1ミリも材料になっていない)というところで、長期輪番減額も入る所早いなという印象だし、そもそも月末にやらないで(基本的に変更しないと言っていた)月中に入れてきたのがメッセージという感じでしたし、引け後の超長期はせいぜい10bp程度しか金利下がってないのに減額かよでしたので、まあインパクトある(ただし限界集落化著しい円債村のみ)減らし方をしていた訳で、そういう中でスケジュール的には入ってきておかしくない超長期輪番をスキップしてきますと、「もしかして金利下がらなくても減額してくるのではないか」とか変な思惑を呼ぶお話になる訳ですよ。

と申しますのも、そもそも論として総括検証結果出る前の債券市場って長いところが何で金利上昇していたかと言えば、急に「超長期のイールドカーブのフラット化には問題が」みたいなお話が出ていた訳ですよ。当然前にネタにしましたけど。

http://jp.reuters.com/article/boj-sakurai-idJPKCN1180CM
Business | 2016年 09月 2日 14:57 JST
インタビュー:日銀の3次元緩和に限界ない=桜井審議委員

『同時に「金融機関の収益などに影響があり、さまざまな意見があるのは承知している」と言明。「イールドカーブが予想を超えて下がったのは事実」と認め、「イールドカーブの形状をどう変えていくかも、可能性としては政策の選択肢に入る」と踏み込んだ。利回り曲線の平たん化が総括検証でも議論される可能性を指摘し、その効果とコストも踏まえて「今後の政策の組み合わせを考えていきたい」と語った。』(上記URL先より)

これは桜井審議委員のお初のメディア向けの纏まったお話だったのですが、まあ桜井さんなので基本的に執行部カイライ系の発言になる訳で、やっぱり意図的に超長期のイールドカーブを立てに行っているんですか???????という妄想にも発展していく訳でございまして、何ちゅうかまあ外部要因とかが重なったというのはあるのですが、微妙なテイストを感じる昨日の超長期市場なのでございました。


・中期輪番の倍率が怪しげな件について

でもって中期は輪番。
http://www3.boj.or.jp/market/jp/stat/ba161005.htm
国債買入(残存期間1年超3年以下) 7,989 4,001 -0.007 -0.004 92.0
国債買入(残存期間3年超5年以下) 9,547 4,207 -0.005 -0.003 24.1
国債買入(残存期間5年超10年以下) 11,926 4,107 0.005 0.006 64.0
国債買入(物価連動債) 1,363 253 -0.400 -0.456 75.5

まあ昨日は中期長期と物国で輪番が来た訳ですが、中期輪番が短い方で2倍弱、長い方でも2倍少々でそら落札結果強くなるわという流れになっておりまして、超長期輪番をしらっと減額したり輪番をスキップしてみたりとやる割には中短期に関しては相変わらず無慈悲な日銀買入攻撃が続くのが仕様のようですな。

いやまあイールドカーブの過度なフラット化がケシカランというので色々と調整しようとしているのは分かるのですが、そもそも何であんなアホのようにフラット化したかと言えば黒田節で追加緩和をジャンジャンするぞーと意地になって(いたのかどうか知らんけど傍から見たら意地になっていたとしか思えん勢いで)吠えるので、そらもう物価だってこの有様なんだから7月はもうマイナス金利拡大するだろうしそうなったらプラス金利の世界がドンドン無くなるのだから超長期買うしか無いじゃん、というようになっていたというのが背景に有る訳よ。

でもってその時って中短期の水準3040は当たり前!(マイナスのな)という勢いになっていて利下げを織り込む(というか利下げリスクを意識するというか)な状況になっていたのですけれども、金利の水準に低下圧力を掛けないで落ち着いて推移させようとしたければ、超長期とかの所をちょこまか弄るよりも中期の過度な金利低下の方を牽制した方が効くと思うし、大体からしてマイナス金利で金融機関方面があちこち困っているんですから(とは言えお家の事情でマイナス撤回は難しいのも分かりますが)中短期金利にやたら低下圧力が掛かるようになっている今の中短期の買入の方をもうちょっと軽減した方がバランスは良いと思うのですけどね。

なお、「中短期を下げ気味にしておくと長期超長期の金利は下がりやすくなるので、下がった側から長期超長期の輪番を減らす言い訳ができるので、ステルステーパリングするのに便利」というような作戦計画によって中短期を低い所で張り付けようとしているのでしたら、まあそれはそれで話としてはありなんですが、だとするともうちょっと超長期輪番を普通に入れた方が良いような気もします。


・6M短国ェ・・・・・・・・・・・・・・・

どうでもいいけど財務省のトップページの写真がいやなんでもないです。
http://www.mof.go.jp/jgbs/auction/calendar/tbill/tbill_nyusatsu/resul20161005.htm

(3)募入最低価格 100円18銭1厘(募入最高利回り)(-0.3643%)
(4)募入最低価格における案分比率 48.7046%
(5)募入平均価格 100円18銭6厘(募入平均利回り)(-0.3743%)

ということで平均▲37.43bpとか普通にまた強強状態になっておりますが、これがまた市場推計の不明玉が7割くらいという在庫足りないじゃん入札になってしまいまして、日本相互証券の引けは華麗に▲42.0bpと9月末を通過していますが短国ヒャッハー状態。

まあ何ですな、

http://www.boj.or.jp/announcements/release_2016/rel160930c.pdf
当面の長期国債等の買入れの運営について

『3.国庫短期証券の買入れ

金融市場調節の一環として行う国庫短期証券の買入れについては、概ね現状程度の残高を維持する。この結果、10月末の残高は43兆円〜45兆円程度になると見込まれる。』

http://www.boj.or.jp/statistics/boj/fm/juqp/juqp1610.htm/
日銀当座預金増減要因(2016年10月見込み)

今月の資金需給的には財政要因で13.7兆円の不足ですけれども、長期国債買入要因が9兆円前後(月末跨ぎの輪番の入り方によって異なる)あるので、MB残高を減らさないという意味ではまあ6兆円とか買っておけば良さそうな気もするのですが、先般のMPMでしらっと短国買入の残高維持という話をしておりましたので、10月の見込み数値にありますように、償還が10兆円弱あるのですな。

でもって
http://www.boj.or.jp/statistics/boj/other/tmei/index.htm/
日本銀行による国庫短期証券の銘柄別買入額

の9月30日の数値を見ますと44.7兆円となっていますので、10月末の残高を43兆〜45兆円程度ということなのでさすがに札の状況見て減る可能性はあるものの、8兆円は買入が入るという見込みになっている訳で、31日に1.75兆円の買入をやっているので月内渡しの短国買入はあと3回で、残り最低6.25兆円買入となると今月は結構な買入になるという話ですな。

でもってこの短国買入の残高なのですが、ストックとして大きいというのがありまして、まあすっかり国内勢で短国を金利物として見る事ができないような状態(担保とかのモノとしての需要しか無いし、水準が水準だからアウトライトで政策金利マイナスよりマシとかそういう世界を超越していてもうどうしようもない状態)になっているのでついついネタにするのをサボってましたが、短国買入のストック効果って凄くて、さっきの銘柄別買入額(営業毎旬報告だと日銀保有短国は償還乗換などがオンされているので数字が合わない)の過去を見ますとこうなります。

2014年9月末:39.5兆円
2016年1月末:34.0兆円
2016年9月末:44.7兆円

となっていまして、2014年9月というのはまだプラス金利時代だったのに短国買入が増えてきて短期資金運用で買っている投資家の需要に期末要因がオンされた結果、日銀の買入パワーで短国の利回りがマイナスになって連日悪態をついていた時代の始まり(遠い目)だった訳ですけれども(当時はMB年間60−70兆円で長期国債50兆円だったら帳尻の短国買入がバカスカ積み上がる構造になっていて、10月の追加緩和の時に短国買入が持たないということで、MB80兆円長期国債80兆円に変更した)、この時の買入残高が上記のように40兆円前後。

でもってこの時代は短国の市中消化が今よりも多くて、6mと1Yの発行は同じなのですが、3Mの1回の発行額が当時5.7兆円あって、現在が4.4兆円なので1.3兆円×13なので17兆円程度市中消化が少なくなっているのですよ。

一方でこの間の金利マイナス化とマイナス金利政策によって、短期国債の超安定的な消化主体であったところのマネー系の公社債投信が償還して、残ったMRFにもマクロ加算のお助け措置が入るという時点で短国に入れないような短国市場の金利状況というのがお察しな訳ですが、昔の時点で全体で出入りはありますが10兆円台後半から20兆円程度とかそんなもので、全部が短国を買う訳ではないので4割としても6〜8兆円程度が買わなくなったとして、他にも短期の資金市場での運用ニーズはあるのでその辺とかも考えましても、短国発行が17兆円減らされている中で日銀の買入が5兆円拡大していたらそら政策金利と関係なく金利水準がドカドカ下がるわなという感じで、正直何でこんな水準で短国買入残高をFIXさせるのという感じです。

まあそうは言いましてもマイナス金利導入前の1月末の短国買入残高対比で足元の短国買入残高が拡大しているのを見れば分かりますように、マイナス金利を突っ込んだおかげでその他諸々の資金供給オペのニーズがジャンジャン低下していくわけで、その間帳尻業を担う短国買入に対して負荷が掛かっていくのはMB目標を実施している以上仕様ではあるというのは致し方ない所ですけど、MBってメド扱いになった事ですし、まー年末位までは仕方ないのかもしれませんが、この短国買入ってはっきり言って何のためにやっているのか意味分からんとしか申し上げようが無い(大体からして投資家排除したレベルのドマイナス金利で発行した短国を日銀が市中から散々吸い上げてマネーを供給しましたって何の意味があるんですかと小一時間、これが超長期とか言うなら兎も角として3Mだの6Mだの1Yだのですからねえ)ので、長期国債のステルステーパリングもさることながら短国の方も何とかならんかねとは思うのでした。

なお、たぶん目先はMB80兆円から大きく減りだすと色々とやかましい人がいるので、ほとぼりが冷めるまで(たぶん年内)は長期国債ステルステーパリングの帳尻で短国が使われそうな悪寒しかしないのでした(−−;


・なおCP買入は平常運転へ

オペ結果のCP買入分
http://www3.boj.or.jp/market/jp/stat/ba161005.htm
CP等買入 9,474 3,489 -0.001 -0.001 75.2

まあこちらは四半期末もそうですが特に半期末になりますと、決算を意識してCPを発行する企業さんが残高を圧縮してくる傾向にありますので、半期末になると特に発行が減って玉無し芳一になる上に、残高が圧縮されるということは期末にエンドを迎えるCPが多くて日銀は日銀で保有CPの残高が落ちる分の帳尻に来る、ということですからまあこれはこれということで。




○統計数字来てました

http://www.boj.or.jp/research/research_data/gap.htm/
需給ギャップと潜在成長率

図表はこちら
http://www.boj.or.jp/research/research_data/gap/gap.pdf

まーた下がっていますなあ。

http://www.boj.or.jp/research/research_data/mui.htm/
基調的なインフレ率を捕捉するための指標

図表はこちら
http://www.boj.or.jp/research/research_data/cpi/cpirev.pdf

昨日追加されたのは2ページ目ですが、『(2)各種コア指標』のモードとメジアンの下がりっぷりに落涙を禁じえません。






2016/10/05

お題「短観とかその他少々」

ほうほう。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2016-10-04/OEJHDASYF01X01
米国株:続落、連銀総裁のタカ派発言を嫌気−高配当株に売り
2016年10月5日 05:25 JST

『4日の米株式相場は続落。クリーブランド連銀のメスター総裁やリッチモンド連銀のラッカー総裁など、当局者のタカ派発言を嫌気して売りが優勢になった。』(上記URL先より)

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2016-10-04/OEJFD06VDKHU01
NY外為:ドル上昇、2週間で最大の上げ−年内利上げの観測強まる
2016年10月5日 04:49 JST

『4日のニューヨーク外国為替市場では、ドルが2週間で最大の上げ。米金融当局者の発言を受け、年内利上げの観測が強まった。ドルは主要通貨の大半に対して値上がり。リッチモンド連銀のラッカー総裁はこの日、インフレ加速の可能性を阻止するために利上げを強く求めた。またクリーブランド連銀のメスター総裁は3日、米経済に利上げの機が熟していると発言。同日発表された米供給管理協会(ISM)の製造業総合景況指数は活動の拡大を示した。』(上記URL先より)

ということですけれども、もとよりラッカー総裁は貫禄のタカ派芸人ですし、メスター総裁も今回のFOMCで25bp利上げの提案をしていたので、タカ派発言が出るのは仕様としか思えないので、ヘッドラインだけ見ると平常運転にしか見えないのですけれども、まあその辺りがネタになるというよりは経済指標が確りとかそういうネタの他に、そもそもドルが上がる地合い(ポンドルは飛んでいくとかのネタ)とゆーことなんでしょうかねえ、よー知らんけど。

なお、ラッカーさんとメスターさんの講演テキストはまだ読めていないのですが、そもそもFOMC会見ネタもまさかの日銀面白金融政策転換のせいでスルーモードになっているので米国ネタ(もそうですし実は総括検証の内容にネチネチツッコミを入れるネタ)も近々投下しないといけませんな(大汗)。


○短観ネタだがインフレ期待の指標は着実に悪化中の巻

短観(概要)
http://www.boj.or.jp/statistics/tk/gaiyo/2016/tka1609.pdf

短観(企業の物価関連)
http://www.boj.or.jp/statistics/tk/bukka/2016/tkc1609.pdf


・先行きDIの達成度合い

         (6月時点)     (9月時点)
         現状→9月予測    現状→12月予測
製造業大企業   +6→+0       +6→+6 
製造業中堅企業  +1→+0       +3→+1        
製造業中小企業  ▲5→▲7       ▲3→▲5

非製造業大企業   +19→+17    +18→+16
非製造業中堅企業  +14→+10    +15→+10
非製造業中小企業  +0→▲4      +1→▲2

前回はこのように書いた訳ですが、

「前回置いていた慎重な先行き見通しほどは悪く成っていない」ということで悪い方の見通し未達というのは結構ではあるのですが、そうは言いましても方向は下向いていますし、製造業の先行き見通しが大企業で一段と慎重化しているということでまあパッとしないけれども、これを捕まえて弱い弱いと大騒ぎするほどのものではなさそうな感じですかね。(6月短観時の駄文です)

今回ですけれども、たとえば製造業大企業で言えば3月時点でも現状+6先行き+3とかになっていまして、今回はこれで3四半期連続のDI+6での推移となっていて、しかも今回は先行き見通しが6月時点の時よりもだいぶ改善して先行き見通しが現状よりもさほど弱くなっていない。しかも前回は(まあ6月調査要因というのもありますが)先行き見通しが前回よりも低くなっていたのですが、その数値よりも良い内容である上に割と前回よりも確り目になっていますので、ヘッドラインとしてのこの数字は割と良いというか無問題という感じで日銀ニッコリ。



・雇用判断DI(ここの数値はマイナスが大きい方が雇用情勢的には良い)

        (6月時点)      (9月時点)
        現状→9月予測     現状→12月予測
製造業大企業  ▲3→+0       ▲5→▲5
製造業中堅企業 ▲9→▲9      ▲11→▲13
製造業中小企業 ▲8→▲12      ▲9→▲14

非製造業大企業   ▲18→▲18    ▲19→▲20
非製造業中堅企業  ▲26→▲28    ▲27→▲29
非製造業中小企業  ▲26→▲39    ▲27→▲33

これは前回書いたこと。

ここまでって現状判断がタイト化(前回はほぼ横ばい)というのが継続していたのですが、足元で見ますと微妙な変化ながら現状判断のマイナス数値が縮小していまして、先行きの中でも製造業大企業が前回と同じなのですが判断を弱めにしていまして、これはまあ当然の話ながら、設備投資とか生産増強とかを積極的にやっていこうという感じになっていないという大企業製造業の現状を示しているというお話ではないかと。でもって先行き見通しに関しては特に非製造業で先行きタイト化の見通しを(相変わらず)おこなっているのですが、その割に足元の雇用判断DIがわずかながらですが弱くなっているというのもふーんという感じです。(6月短観時の駄文です)

でまあ今回ですけれども、現状判断のタイト化がこの2四半期一服していたのですが、今回は再度タイト化の方向に数値が出てきておりまして、業況判断DIもやや足踏みから先行きへの期待が弱まるという感じだったのが今回の短観で流れが一服してきたように見えるのと平仄が取れている感じがして中々美しい短観じゃないですか!!!!


・価格判断DI


販売価格判断(「上昇」-「下落」)

        (6月時点)      (9月時点)
        現状→9月予測     現状→12月予測
製造業大企業  ▲12→▲9      ▲10→▲10
製造業中小企業 ▲12→▲13      ▲12→▲13

非製造業大企業  +0→+1       ▲1→▲1
非製造業中小企業 ▲7→▲6       ▲7→▲6



仕入価格判断(「上昇」-「下落」)

        (6月時点)        (9月時点)
        現状→9月予測       現状→12月予測
製造業大企業   ▲2→▲4         ▲4→+2
製造業中小企業  +7→+15        +5→+14

非製造業大企業  +8→+13       +6→+10
非製造業中小企業 +13→+20      +11→+17

前回書いたのはこんな駄文。

今回のここの部分って従来と違うのは「販売価格判断が前回対比で横ばいないし上昇しているけれども、仕入れ価格判断の方はそれよりも上昇している」という従来の逆パターンでどう見てもこれは物価上昇のメカニズムがどうのこうのという中ではマズーな展開ではないかと。

つまり、仕入れ価格の上昇を川下に転嫁しようと思っても転嫁がしにくい状態になってきましたということで、まあそのおかげで消費が妙に底堅いというメリットはあるものの、これ長期化すると企業のマージンが縮小する話になるのでまあ宜しくないですなという所です。(6月短観時の駄文です)

ということなのですが、前回は販売価格判断の上昇に仕入れ価格の上昇に追いついていないというマズーな話でしたが、今回は製造業に関しては販売価格判断と仕入価格判断の変化度合いから勝手に考えるマージンという意味では改善しているのでウマーという話ですし、まだマイナス数値とは言え(なおこの辺の数字は癖があるので絶対値よりも変化を見ておいた方が吉)製造業の方は販売価格判断が着実に戻って来ているのですけれども(3月→6月でも戻っている)、非製造業の販売価格判断については横ばい状態が続いているので、そらまあ物価が景気よく上がる地合いじゃないわなあという感じです。


・需給判断DI

国内需給判断(「需要超過」-「供給超過」なのでプラスの方が強い)

        (6月時点)        (9月時点)
        現状→9月予測       現状→12月予測
製造業大企業  ▲10→▲11       ▲11→▲11
製造業中小企業 ▲26→▲26       ▲27→▲26


海外需給判断(「需要超過」-「供給超過」なのでプラスの方が強い)

        (6月時点)        (9月時点)
        現状→9月予測       現状→12月予測
製造業大企業  ▲8→▲8          ▲7→▲8
製造業中小企業 ▲17→▲16        ▲17→▲17

前回も申しあげましたがこれ水準の絶対値の方はあまり気にしなくて良い(慎重目に数字を出していると思うので)と思うのですが、ここの数字は横ばい圏で推移していまして、特段の変化はないという感じなので、まあこの辺りを見ますと悪化もしないけど先行きそんなに威勢の良い話でもないという感じではあるものの、2四半期程度横ばい気味だった数値に改善が見られているのでまあ先行きの企業活動には期待持てそうな感じだと思ったのですけれども詳しくは本職の方にということで私家版である。


・金融機関の業況判断DIなど

金融機関の業況判断DIは以前は金融商品取引業のDIブレを鑑賞して楽しむ(?)ものでしたが、最近は全般が鑑賞のネタに。

        (6月時点)       (9月時点)
        現状→9月予測      現状→12月予測
銀行業      +7→+3       +5→▲3
信用金庫・系統金融機関等 +0→+0     +6→+3
金融商品取引業  ▲4→+6      ▲16→+3
保険業      +26→+23      +18→+23

銀行業のDIと先行きの数値がマイナス金利政策に対するランボー怒りのDI引き下げに見えて大変に味わいが深いのと、金融商品取引業が前回短観で先行き改善するでしょうという予測DIを出しておいてドテン悪化しているというのが落涙を禁じえません。


・短観の企業物価関連

でもって物価関連だが
http://www.boj.or.jp/statistics/tk/bukka/2016/tkc1609.pdf(URL再掲)

1.販売価格の見通し(現在の水準と比較した変化率)

・・・・・・・・・・今回もまたサンプル替え以降の昨年3月短観分から時系列取っているのでその数字に追加しておきましょう。


1年後の平均値:0.9→0.9→0.7→0.5→0.3→0.2→0.2
3年後の平均値:1.7→1.7→1.4→1.3→1.0→0.8→0.8
5年後の平均値:2.2→2.1→1.8→1.6→1.3→1.1→1.1


大企業製造業

1年後の平均値:0.3→0.1→0.0→▲0.2→▲0.3→▲0.2→▲0.2
3年後の平均値:0.1→0.0→▲0.2→▲0.3→▲0.4→▲0.3→▲0.3
5年後の平均値:0.1→▲0.1→▲0.3→▲0.3→▲0.3→▲0.2→▲0.3

大企業非製造業

1年後の平均値:0.9→0.9→0.8→0.5→0.5→0.4→0.4
3年後の平均値:1.8→1.7→1.5→1.4→1.2→1.1→1.1
5年後の平均値:2.0→2.0→1.6→1.4→1.3→1.2→1.1

2.物価全般の見通し(前年比)

まあこちらも同様に。

全規模全産業合計

1年後の平均値:1.4→1.4→1.2→1.0→0.8→0.7→0.6
3年後の平均値:1.6→1.5→1.4→1.3→1.1→1.1→1.1
5年後の平均値:1.6→1.6→1.5→1.4→1.2→1.1→1.1


大企業製造業

1年後の平均値:1.0→1.0→0.9→0.8→0.6→0.6→0.5
3年後の平均値:1.2→1.1→1.0→1.0→0.9→0.8→0.8
5年後の平均値:1.1→1.1→1.0→1.0→0.9→0.8→0.8

大企業非製造業

1年後の平均値:1.1→1.1→1.0→0.8→0.7→0.6→0.5
3年後の平均値:1.2→1.2→1.1→1.0→0.9→0.9→0.8
5年後の平均値:1.2→1.2→1.2→1.0→0.9→0.8→0.8


となっています。でもって前回は毎度日銀が言う「中小企業の物価見通しの方が真の物価見通しに近い(キリッ)」の方を見るのが吉、などと申し上げましたが最近は日銀も藪蛇なのを認識しているようであまりこの辺の話をしませんなあと思いますが・・・・・・・・・・

中小企業製造業

1年後の平均値:1.5→1.5→1.3→1.1→0.9→0.7→0.6
3年後の平均値:1.7→1.7→1.5→1.4→1.2→1.1→1.1
5年後の平均値:1.8→1.7→1.6→1.5→1.3→1.2→1.1

中小企業非製造業

1年後の平均値:1.6→1.5→1.3→1.2→1.0→0.8→0.7
3年後の平均値:1.7→1.7→1.6→1.5→1.3→1.2→1.1
5年後の平均値:1.8→1.8→1.7→1.6→1.4→1.3→1.2

ということでもう確実に下がっていまして、これ昨年3月の所からがサンプル替えなので連続性が有る訳ですが、こうやって見るとマネタリーベースがジャンジャン増えても着実にインフレ期待が低下していますし、マイナス金利政策を導入しても着実に低下という最早何も申し上げる事はない、という代物になっております。

まあ基調的な物価の方は
http://www.boj.or.jp/research/research_data/cpi/cpipre.pdf

総合(除く生鮮食品・エネルギー): 7月0.5→8月0.4
刈込平均値: 7月0.1→8月0.0
上昇品目比率−下落品目比率: 7月29.6→8月34.0

となっていて品目の所だけマシですけれども後はパッとしないという状態なので、まあ物価に関してはあばばばばーなのですが、一方で企業の業況感に関しては別に悪化している訳でもないし、寧ろ良化するようなイメージを持たせる内容になっている、ということですから「インフレ期待が上がって物価が上がると全てウハウハですよ」という置物リフレ理論とは何だったのかという話だったりするというだけの事なのではないかと。

ついでに申し上げると、フォワードルッキングな期待形成に働きかけるためにオーバーシュート型コミットメントを投下していると思うのですが、現実問題として企業の物価観が上記のような実績で推移している中で、今回の政策転換の説明と理屈の展開はよーく分かったのですが、でもってそれで何がどうなるとインフレ期待のフォワードルッキングな期待が高まってインフレ期待が上がるのか、というメカニズムに対してはさっぱり分からん(結局初回と次の緩和がインフレ期待に効いたのは単に為替ショックによる適合的な期待形成に働きかけただけじゃないのともいえるのでは)という感じではありますな、うんうん。


○市場メモというか

・10年入札で動・・・・・・・かなかったかというメモ

http://jp.reuters.com/article/idJPL3N1CA18K
〔マーケットアイ〕金利:国債先物は続落、長期金利変わらず-0.075%

『<15:11> 国債先物は続落、長期金利変わらず-0.075%

長期国債先物は続落。前日の米債安に加えて、10年債入札への警戒感から売りが先行し、一時151円97銭と9月27日以来1週ぶりに152円を割り込んだ。後場は入札をしっかりこなすと下落幅を縮小した。現物市場は午前の取引で入札絡みの調整が優勢になったが、先物同様に入札結果を確認したのちに押し目買いが入ったことで長いゾーンを中心に金利の上昇が抑制された。長期国債先物中心限月12月限の大引けは、前営業日比6銭安の152円10銭。10年最長期国債利回り(長期金利)は同変わらずのマイナス0.075%。一時マイナス0.055%と9月26日以来約1週ぶりの水準に上昇する場面があった。』(上記URL先より)

ということで、10年入札の前にちょっと押し込んだのですが結局入札は予想よりも確り目で、その後は別にカバーの買いが入る訳でもなく追っかけて買うでもなくだけど売る人もなくという感じで、先物は6銭安ですけれども長期超長期はほぼ引けという事になりまして、結局ウゴカンチ会長ということで、日銀の10年▲10〜0bpというのが取りあえず効いて動かんの巻とか日銀歓喜の展開で目先はウマーという感じですかそうですか。


・輪番関連

まだ月末の営業毎旬が出てないので20日のを使ってみる。

9月20日の数字
http://www.boj.or.jp/statistics/boj/other/acmai/release/2016/ac160920.htm/
長期国債 337,177,005,995

昨年末の数字
http://www.boj.or.jp/statistics/boj/other/acmai/release/2015/index.htm/
長期国債 282,025,366,349

でもってこちら
http://www.boj.or.jp/statistics/boj/other/mei/index.htm/
日銀保有長期国債の銘柄別額面残高

から数字を拾いながらポチポチやっていくと大体こんな感じになると思うというメモだけ置いておく。

昨年末の長期国債残高から「メド」の80兆円を増やすためには、9/21以降の償還銘柄の残高を保有残高明細の方から見ていくと8.33兆円の償還がありますので、9/20から積まないといけないのは33.18兆円になります(337.18-282.03+8.33とかそういう感じ)。

でもって10月以降の輪番を足元のペースで計算して、買入価格と額面の掛け目をどのくらいで置くのかによるのですが、ここ1か月の営業毎旬の長期国債残高と買入額面残高の残高の掛け目を取っていくと(当然購入年限の差異によってズレがある)103円近辺で見て置いて良さそうな感じがした(がもっと精密に計算した方が良いような気もするがまあその辺はアバウトにやってみた)ので、9/20〜の買入に関しては輪番の受渡が年末をまたがないとすると全部を掛け目103円とかアバウトにも程がある計算をすると32.5〜32.6兆円程度の買入になるという数字になりました。

つーことを考えますと、ここから債券市場がまた金利低下して買入が減って来ると徐々に年末時点での80兆円からの乖離が出てくる感じになる(年末数値に意味があるのかという議論はあるが)のかなあと思ってみたのですが、何せこれアタクシが手計算(エクセルは使っていますが^^)でアバウトにやっているので内容についてはみなさんもご確認あれ。


○中原伸之さんェ・・・・・・・・・・・(単なるメモ)

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2016-10-02/OEBPQ36S975D01
日銀新枠組みは「リフレ派の敗北」、黒田氏再任難しく−中原伸氏
2016年10月3日 06:00 JST 更新日時 2016年10月3日 12:15 JST

『中原氏は「そもそも、なぜ真珠湾攻撃のように突如マイナス金利を導入したのかが不可解だ」と話す。大きなレジームチェンジを金融機関など影響を受ける業界の意見も聞かず、たった1回の審議で決め、結果的に円高、株安が進行したと指摘。金融機関の体力を弱めただけでなく、預金者の不安も駆り立てたとみる。』(上記URL先より)

中々ケチョンケチョンで恐るべしという所ですが、ここで参考までにこのような記事をご紹介しておきましょう。

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2016-04-26/O68AMX6JTSE801
日銀は今「動く必要ない」、安倍政権も緩和求めてない−中原伸之氏
2016年4月27日 00:01 JST

『中原氏は26日、ブルームバーグのインタビューで、マイナス金利について「私が審議委員だった時に学者を集めて議論したことがあり、いつかは導入されると思っていたが、こんな早く導入されるとは思わなかったので、私もびっくりした」と語った。その上で「効果はないはずがないが、もう少し様子を見た方がいいと思う」と述べた。』(上記URL先より)








2016/10/04

お題「引き続き輪番絡みの雑談/決定会合主な意見を鑑賞の巻」

昨日の駄文でございますが、FTP失敗して文章が途中で飛んでおりまして(いつもだと確認するのですが昨日はうっかり八兵衛)、昨日のログを当日の文の下に入れて置きます。

なお、何故か知らんけど「今月の過去ログ」部分に行きますとだいたいFTPをヘクっていないちゃんとしたのが見れる、という仕様になっておりますので、今月の場合ですとこちらをご覧ください(普通に読めます)。
http://www.h5.dion.ne.jp/~bond7743/doramemon1610.html


○つーことで昨日は途中でブツ切りになっておりましたので補足がてら

・そもそもイールドカーブの適正水準の算出にファジー部分があるのに精密誘導する意味is何??

えーっとですね、昨日ああだこうだ申し上げた奴が文章ブツギリでアップされてしまったので、要領を得なくて申し訳ございませんでしたが、10年が▲10bp接近程度の所で10年減額となという感じ出来たのは、ディレクティブが10年金利なのだからまだ分からんでもないのですけれども、20年と30年ってどこの計測期間から出すのかによって微妙に違いますけれども、まあ大体MPM前の水準から見たら10bpの金利低下で輪番を減額してきたのはいい度胸してるじゃんという感じです、という話をしたくて、その数字を出すのに引値をダラダラと並べて比較したのですが、アップの時にその辺が切れていたので何がなにやらだったと思います。サーセン。

つーことでですな、10年については『10 年物国債金利が概ね現状程度(ゼロ%程度)で推移するよう』というディレクティブになっているのですが、この「程度」って下がる方に10bpしか余裕が無いとかそれは程度といっても随分厳しい狭いレンジでやってくるなあとは思うのですが、こちらに関しては(その数値の根拠と妥当性は兎も角として)ディレクティブとして公表した数値があるのでまだ分からんでもない。

一方で超長期に関しては声明文の総括検証のケツの所に、

『(3)マイナス金利と国債買入れを適切に組み合わせることにより、イールドカーブ全般に影響を与えることができる。

(4)イールドカーブの適切な形成を促すにあたっては、@貸出・社債金利への波及、A経済への影響、B金融機能への影響など、経済・物価・金融情勢を踏まえて判断することが適当である』

とあるだけでして、しかもこのイールドカーブの影響に関しては

http://www.boj.or.jp/announcements/release_2016/k160921b.pdf
総括検証背景説明

こちらの『(補論8)イールドカーブの形状による経済への影響』にありますが、

『このことは、長期〜超長期ゾーンの金利が低下した場合よりも、短期〜中期ゾーンの金利が低下した場合の方が、金融緩和効果が相対的に大きいことを示唆している。こうした事実は、貸出や社債・CP といった資金調達手段の残高を金利更改期までの残存期間別でみた場合に、比較的、短期〜中期のゾーンが厚くなっていることと整合的である(補論図表8−2(3))。』

だったらそもそも麿時代の残存3年位までの購入をばっちり行うのが正しかったという事になりますなあ(ニヤニヤ)という所ですがその次に、

『もっとも、こうした分析結果は、これまでの金融構造を前提としたものであり、超長期債の発行の増加にみられるように、前例のない低金利環境のもとで金融構造が変化する場合には、その効果も異なったものになる点には留意する必要がある。』

という話になっていまして、結局のところ「どういうカーブ形状が然るべきか」という話って当然ながら説明的な物って無いのですよ。もちろん超長期ゾーンのこの年限の中立金利水準と、適切な緩和度合いってのは恐らくは理念としてはアリエールな物だと思いますが、そもそも変数が多すぎて一義的に決められるものでもないですし、政策運営という意味では後付で「この時期は緩和度合いが大きすぎました」とか言ったって意味がない代物、となりますと、結局のところは「相当程度の幅をもって見て行かないといけない」ものだと思うのですよね。

でもって今回の輪番変更で示した日銀の「意図」は「10年は誘導目標から金利低下方向の場合は10bpずれそうになった輪番減らしますよ」「超長期は金利低下方向の場合は大体20年で0.3%、30年で0.4%に突っかけて来そうになるなら輪番減らしますよ(概ねMPM前から10bp程度の金利低下)」という代物になった、とまあ普通にオペの入れ方を見るとそう解釈したくなる10bp程度(まだ金利上昇方向でのお試しが無いので上昇方向でどうなるかは分からん)という結構ナローなレンジで誘導する、というのが出てきたとまー普通に解釈したくなる。

でまあ精密誘導は精密誘導で(相場どころかイールドカーブが全然動かなくなって商売がアチャーなので誠に遺憾とかそういう話はさておきまして)別に良いのですけれども、元々の「望ましいイールドカーブ」が無茶苦茶ファジーな計測によって作られている中で(まーそれ言い出したら10年の0%だって根拠レスなのですが)、そこを精密誘導しようというのは政策目的の達成に対してそこを緻密にやる必要があるのか的な失礼ながら無駄な緻密さというのを感じて、伝統的な美しいジャパンクオリテイの詫び寂びを感じるオペレーション運営ではありますな。


・イールドカーブ精密誘導の今後の見どころ

とまあそういう訳でMPM直後は何もしないで一旦様子見かと思いましたが、何せ「今月中は同じです」と21日に言ったのに30日の場中に輪番減額するという位ですから「金利操作方針的に必要だからわざわざ減らしました」という10年減額と、たかが10bp程度しか下がっていない超長期の減額を行うという精密誘導モードを見せましたので、今後の見どころとしては以下のような辺りになるでしょうな。

昨日は月末のインデックス長期化対応が(初回の輪番変更が待ち構えていたので)月初に先送りになって居た分とかもあったみたいで、超長期の輪番減らしたのにイールドカーブはツイストフラット(まあ言う程のレベルでもないけど)していて、10年の方はちゃんと甘くなった(引けは1甘の▲7.5bp)のですけれども、超長期は5糸強の20年0.350%で30年0.450%(手抜きなので全部単利です)となという水準ですな。でまあ今日は10年入札とかあるのでその需要動向次第でどっちに転ぶのか良く分からん所ではありますが、第一の見どころとしては「金利をもう一度同じ水準に持ってきたときに月の途中で輪番を減らしてくるのか」という所でしょうな。もとより輪番の買入って投資家の買いニーズを蹴散らして成行買を打ち込んでくる代物になっていて(特に中期)、だいたい今のペースで買えば普通に需給で金利が下がりやすいのですから、また金利が下がって行くときに1回100億的な微調整を更に打ち込んで来るのかというのは見てみたいですし、そこで微調整が打ち込まれないと「?????」となって却ってヒャッハーとかなる悪寒も。

でもってまあ本日の10年入札がイマイチで金利の上限が意識されるので積極的に買う人もあまり居なくて何となくダラダラと金利が上がった場合についても、10年の0%はまあ分かりやすいですが、超長期についても何となくここから10bp上(20年の45と30年の55)くらいを抜けてくるようになった時にどの辺で輪番オペの増額が出てくるのか、というのが割と楽しみでして、せっかくだから債券市場におかれましては10月中にこの上下アタックをやって頂きたいと思うのですが(と人任せ)、最近益々アクティビティ(つまり元気)無いからなあ・・・・・・・・・・・・

あとはまあご案内の通りだと思うのですが、今月末にMPMが行われて、展望レポートは11月1日に公表される訳ですが、どこからどう見ても展望レポートでは物価2%の達成時期を先送りするでしょう(物価は先送りだけど経済全体の方はまあ政府の経済対策という鉛筆なめなめファクターもありますし短観もまあ悪くなかったですし、まー物価以外はそんなにコケないかと思いますけど)という話になる訳で、この物価上昇見込の先送りというのはインフレ期待における適合的期待形成に悪影響を与える訳でして、そうなりますとインフレ期待の回復が遅れる要素になり、それって中立金利水準を引き下げる事になるでしょ、とかなんとかなりますと、10年の誘導水準自体に変化はなくても、超長期の水準を考え直すとかになりませんかねえとか、そういうツッコミが出てきたときの説明をどうするのでしょうかねえというのも見もの。まあ具体的な数値は出さないと思いますし、期待インフレに関しては「物価が低迷するのを織り込んで9月にフォワードルッキングの期待形成の強化を行ったので無問題」とか言い出すんでしょうけど、まあ時間の経過とともに「導入当初から経済物価情勢が変化しているのに誘導目標が同じままで精密誘導するのはなぜ」という事になって来ると思います。


・MBとか買入の量的なネタとしては

声明文でのディレクティブですけど。

『長期金利:10 年物国債金利が概ね現状程度(ゼロ%程度)で推移するよう、長期国債の買入れを行う。買入れ額については、概ね現状程度の買入れペース(保有残高の増加額年間約 80 兆円)をめどとしつつ、金利操作方針を実現するよう運営する。買入対象については、引き続き幅広い銘柄とし、平均残存期間の定めは廃止する。』

とある中で、昨日の国会では黒田総裁はしらっとこんな話を。

http://jp.reuters.com/article/boj-kuroda-diet-idJPKCN1230QI
usiness | 2016年 10月 3日 17:59 JST
金利目標実現のための国債減額、緩和縮小と違う=日銀総裁

『[東京 3日 ロイター] - 黒田東彦日銀総裁は3日午後の衆院予算委員会で、9月の金融政策決定会合で「量」から「金利」に軸足を移した「長短金利操作付き量的・質的金融緩和(QQE)」を導入したことに関し、金利操作目標の実現のために国債買い入れを減額しても、技術的な調整であり、量的緩和の縮小ではない、と語った。』

『総裁は、長期金利操作目標を実現するために国債買い入れの減額があっても、それは「あくまで技術的な調整」とし、今回の新たな枠組みは、量的緩和の縮小を意味する「テーパリングとはまったく政策を異にする」と強調した。』(以上上記URL先より)

テーパリングだって別に「量的拡大ペースの減額」であって、その後も償還分の再投資は行っているので、別に量的緩和は縮小されていないのですが、それを「テーパリングは量的緩和の縮小だがこれは違う」とかちょっと説明がヤバいのではないかという感じが致しますが、まあそれよりもこの「技術的調整」という言葉にジジイと致しましては懐かしいものを感じる訳ですよ。


さてここで2005年5月に当座預金残高目標のなお書き修正を行った時の福井総裁(当時)の定例記者会見での説明を確認しましょう。

http://www.boj.or.jp/announcements/release_2005/k050520.htm/
当面の金融政策運営について(「なお書き修正」は中身を見てちょ)


この時の会見ですけどね(喋っているのは福井の俊ちゃん)
http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2005/kk0505b.htm/

『(問)(前半割愛)さらに市場の一部には、今回の措置が技術的なものではなく、金融引締めの第一歩であるという解釈もあるが、この点について総裁の見解を伺いたい。』

『(答)(冒頭割愛)私どもの今回の措置は、基本はあくまでも「30〜35兆円程度」という従来のターゲットを維持しており、極力、オペレーション上の工夫を通じてこれを達成していくという根幹はいささかも変わっていない。(途中割愛)金融引締め方向への大きな転換ではないかという意見についてであるが、私どもは、量的緩和の骨格はそのまま維持し、消費者物価指数の前年比変化率が安定的にゼロ%以上になるまで堅持すると繰り返し約束している。今回のような措置をとることとしても、その点についてはいささかの揺るぎもない。従って、方向転換という解釈は当てはまらないのではないかと思う。』(以上、2005年5月20日福井総裁(当時)定例記者会見より)


でまあその後どのような事が起きましたっけというのはご確認いただければと思いますが(^^)、黒田総裁がこの辺の話を全部覚えていた上でこういう話をしているのか、単にまあMBとの関係についてあまり早期にゴリゴリ来られると困るのでとりあえずスルーパスモードなのかは存じませんが、この「技術的調整」という文言を見ますと年寄はこれを思い出すなあとゆー所ではあります。

ちなみにざっくり計算してみましたが、まあ今回の減額の影響ですけれども、そうは言っても年末時点での2015年末対比での80兆円残高拡大は概ね達成する程度(一応計算したのですが新規購入部分の簿価をどの辺に置くのかでちょっとずれてくるので一旦自分で計算してみたものの検算しようかと思いますが、概ね間違っていないと思う)の世界なので、そういう意味では「技術的調整」と言い張れるのですが、やはりそういう意味で面白い(不謹慎)のは金利低下方向でアタック掛かって買入を更に減らしていく方向になった場合に、そのうち80兆円ペースからの逸脱も意識されるようになってくるので、そこは中々楽しみですなあという所です。


なお、この買入の話なのですが、もう一つ非常に????なのは▲25bpだの▲30bpだのやらかしている中短期ゾーンって政策金利水準と10年金利誘導水準から見たら整合的じゃないのですがその辺の国債買い過ぎ現象に関しては何で是正しないんでちゅかねえという大いなる疑問があるのですがまあその辺は後日(^^)。


○主な意見ではたぶん野党委員だと思うのだがしらっとお洒落なコメントが

http://www.boj.or.jp/mopo/mpmsche_minu/opinion_2016/opi160921.pdf

『U.「総括的な検証」に関する意見』から鑑賞しませう。

『(「量的・質的金融緩和」導入以降の経済・物価動向と政策効果)』

『日本銀行のこれまでの政策は、物価の持続的な下落という意味でのデフレではなくなるなど一定の成果があった。』

『わが国では、予想物価上昇率の形成において、「適合的な期待形成」の役割が相対的に大きいことを踏まえ、「フォワード・ルッキングな期待形成」を強める手段を導入する必要がある。』

ふーん。


『マネタリーベースの拡大は、「物価安定の目標」に対するコミットメントや国債買入れと併せて、人々の物価観に働きかけ、予想物価上昇率の押し上げに寄与した。』

瞬間芸で上がっただけではないか、とか言おうと思ったら早速その次に、

『マネタリーベースと予想物価上昇率の間には短期的に為替レートを介した見かけ上の相関はあったかもしれないが、長期的な関係は観察できない。』

(;∀;)イイシテキダナー

なお、MPMの別紙1に総括検証の内容がありましたが、そこに『佐藤委員は、マネタリーベースと予想物価上昇率は長期的な関係を持つとの記述などについて反対した。』とあったのでこれは佐藤委員ですな。


『(マイナス金利の効果と影響)』に参ります。

『マイナス金利は、国債買入れとの組み合わせで長短金利を大きく引き下げる効果があったが、金融機関収益・金融市場・生保年金の運用などに対する影響も大きかったことには留意する必要がある。』

『わが国金融機関の経営体力は、グローバルな金融システム安定の観点からも重要である。』

『金融緩和の効果は、@金融機関経営に与える影響、A金融機関経営の悪化が経済全体を悪化させる影響、B金融緩和が金融機関を経由しないで経済を好転させる経路の3つの影響を考慮する必要がある。大事なのは、AとBの影響が経済全体に与える影響である。』

最初の2人はもとより野党色が強いですからさておきましても、最後の方も金融機関の経営直接の話はしていないものの、金融仲介機能の弱体化による影響という点で「悪化させる影響」とか入れているので、与党系だけど潜在的に野党ちっく(というか与党野党言うけど与党の方が変なんですけどね)な方がいるというのが何とも。

『経済全体が好転すれば、信用コストの低下、名目金利の上昇、貸出の拡大から、金融機関の経営も好転する。』

屁の突っ張りにもならん見解ですな。

『金利の低下と利鞘の縮小は、「量的・質的金融緩和」だけが原因なのではなく、自然利子率の低下、長期のデフレ、企業部門の貯蓄超過など、構造的な問題でもある。』

だからマイナス金利のせいではないので文句を言うのは筋違いという事なのでしょうが、そういう所与の問題が有る中で一段の金利低下によって金融仲介機能を弱める政策を実施するのではなくて、他の方法で緩和的な金融環境を作ることが出来ませんでしょうかねえ、という話にならんのか。つーかまあそもそも論としてマイナス金利政策を撤回して国債馬鹿買入を止めてオーバーシュートコミットメントをベースにして普通の金利政策を実施すれば良いだけじゃないのとは全力で思うのだが、それをするとこの3年半全て間違いでした誠に申し訳ございませんとなるのでできませんですかそうですか。


続きまして『V.金融政策運営に関する意見』を鑑賞。

『(総論)』以下ここが長い(当たり前だが)。

『物価の下振れリスクは大きく、デフレに引き戻されないよう、息長く腰を据えた取り組みが必要であるため、金融政策の新しい枠組みを採用し、必要な施策をしっかりと進めていくことが適切である。』

『個人消費が持続的に増加するためには、政府の成長戦略に加え、今回の検証を踏まえた緩和の強化により、賃金に上昇圧力を加えていく必要がある。』

言いたいことは分かるが何で賃金に上昇圧力が掛かるのかがさっぱりワカランチ会長。

『オーバーシュート型コミットメントやイールドカーブ・コントロールは、これまでの金融緩和政策とも整合的で、「物価安定の目標」の早期達成に向けた金融緩和政策のパラダイムシフトとして適切なものであると考える。』

これまでと整合的なパラダイムシフトとは???????

『新しい枠組みでは、その有効性や副作用を不断に確認し、2%目標の実現に必要であれば、枠組みの修正も含め、柔軟に対応すべき。』

これは野党の方ですな。

『潜在成長率を引き上げてこそ、自然利子率が上昇し、名目金利体系も正常化する。そうした観点からも政府による成長力強化の取り組みが重要である。』

『2%目標の早期達成には、極めて緩和的な金融環境のもと、官民で成長力強化の取組みを加速させ、民需を高めることが不可欠である。潜在成長率向上のモメンタムを高めることが予想物価上昇率の引き上げにも繋がる。』

この辺に関しては仰せの通りだと思うのですが、結局「金融政策は日銀を信頼している」というような話で丸投げ感の強い状態になっている訳で、もっとアピールした方が良いのではないでしょうか。いやもちろんそういう話はやっているのは理解していますが、金融政策手段でああだこうだとマジックショーを連発するから、そっちの方ばかりが悪目立ちしている感じで、もうちょっと金融政策が腰を据えて緩和をしているのだから政府も腰を据えた長期的な経済強化をという話になって欲しいのですが、なんかこう目先何となく目立つ派手な話の方に飛びついているような感じがしてそこが残念。


次は『(イールドカーブ・コントロール)』

『マイナス金利と国債買入れによって、イールドカーブ全般に影響を与えることが確認できた。今後は金融機関収益にも配慮しつつ、目標とする長期金利の水準を決めて、イールドカーブをコントロールすることが考えられる。』

金融機関収益に配慮するならマイナス金利止めて下さい。

『イールドカーブ・コントロールを中心とする新しい枠組みは、従来の枠組みに比べて、経済・物価・金融情勢の変化に応じてより柔軟に対応することが可能であり、政策の持続性も高まるものと考えられる。』

『毎回の金融政策決定会合で設定する長期金利の操作目標を実現するため、国債買入れ額が増減することは当然生じうるが、こうした金額の変化が政策的なインプリケーションを持つものではないということは、しっかり説明していく必要がある。』

執行部方面じゃな。まあ早速はいはい技術的調整技術的調整というのが出ているが。

『ゼロ%程度という 10 年金利の操作目標は、次回会合までの調節方針であり、長期金利を将来にわたってペッグする趣旨ではない。毎回の会合で最適なカーブの形状を判断していく。』

まあ実際はこの辺りがどういう形で示される、示されないとか課題は多い。

『長短金利操作への移行は政策の持続性を高める措置であり、大筋で賛成する。ただし、現状程度の国債買入れを続けるなかでは、期間 10 年までの金利を新たなフォワードガイダンスのもと、マイナス圏で長期間固定することになりかねず、金融仲介機能への影響が懸念される。』

賛成派なのですが金利の固定化を懸念していて金融仲介機能への懸念を指摘しているので政井さんのような気がする。

『イールドカーブ・コントロールのもとで、狙い通りに国債買入れペースが低下して、政策の持続性が高まるかは不確実であり、長期金利上昇などを受けて逆に買入れペースが高まるリスクが相応にある。また、指値による国債買入れオペなどの導入は、市場機能を著しく損ねる恐れがある異例の措置である。』

しらっと「狙い通りに国債買入れペースが低下して」って野党の方だとは思う(与党の方が書いていたらかなり面白いのですが、このしらっと系があるのが2本しかないので多分野党)のですが中々お洒落です。

この前の大阪講演や内田局長の日経経済教室によれば「経済物価情勢が好転した場合には(中立金利水準がその分高くなるので)誘導金利(多分長期金利でしょうけど)の引き上げを行うのは単に緩和度合いを適正レベルにすること」という話だが、まあさじ加減は難しいでしょう。


『これまで通り、資産買入れ額を操作目標としたうえで、フォワードガイダンスとともに国債買入れペースの縮小を行うことで、買入れの持続性と市場の安定性を高め、既往の実質長期金利低下を通じた経済効果を維持することが最も重要である。』

これは木内さんでしょうな。つーか木内さんが最後まで「量的目標(減額だけど)を提案」というのが中々シュールでした。


『(オーバーシュート型コミットメント)』を鑑賞。

『予想物価上昇率を引き上げるために、消費者物価(除く生鮮食品)前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまでマネタリーベース残高を拡大する方針を継続するべきである。』

『金融政策には効果が現れるまでにラグがあることを踏まえると、実際に2%を超えるまで金融緩和を続けるというのは、極めて強いコミットメントである。』

そらそうなのだが結局時間的不整合の問題とかある訳で、こういうコミットメントって目標から遠いし物価がモデレートだから出来る話なんですよねー、とは思いますし、大体からして執行部だって端からそんなモメンタム持って物価やインフレ期待が上がるとか思ってないからこういうコミットできるんでしょとしか思えん。


『オーバーシュート型コミットメントは現実的な目標設定でなく、予想物価上昇率を引き上げる効果も期待できない。』

佐藤さん(^^)。なお『佐藤委員は、マネタリーベースの拡大に関するオーバーシュート型コミットメントについて、現実的な目標設定でなく効果も期待できないなどとして反対した。』ですのでこれも佐藤さんで問題ないでしょう。


#ということで短観の翌日なのに短観ネタを飛ばすというお前やる気あんのかとか言われそうな段取りになってしまいましてすいませんすいません。まあ今回は「前回の見通しで出ていた数値」よりも良い現状判断DIが並んでいるので、見た感じ良かったと思うので目先の金融政策にここの部分は響かない(追加緩和方向じゃない結果ならとりあえずスルー)かなあと思います。まあそれより今日出る物価観の所でしょうな!!!!



2016/10/03

お題「輪番日中と引け後にいじってミニテーパリングでしたなこりゃ失礼」

さあ皆さ下期ですよ、というか今年ももう4分の1しかありませんよ(白目)。

○日銀輪番を思いの外いじって堂々の「マネタリーベース目標からの大脱出」ですが吉と出るか凶と出るか

正直今月は動かないと思っていた(早めに動きすぎると後々の手足を縛るので最初はレンジを広く取って来るかと)ので、今回こんだけ動かしてくるとはという所で誠に恐縮至極。

ということで輪番関連のネタですが。

・まずは10時10分の輪番で長期を減額

http://www3.boj.or.jp/market/jp/stat/of160930.htm
国庫短期証券買入 17,500 2016年10月4日
国債買入(残存期間5年超10年以下) 4,100 2016年10月4日
国債買入(残存期間10年超25年以下) 2,000 2016年10月4日
国債買入(残存期間25年超) 1,200 2016年10月4日

これ短国買入の1.75兆円がちょっと多い気がしたのですが、まあそれは兎も角輪番の長期が4300億円→4100億円に減額キター!!!!

ということでこのオファー受けたら10年カレントいきなり失速の巻になって途中では2甘(▲7bp)とかになっておりましたが、期末でそんなに動かすというのもねえというのもありますし、どちらかと言えば超長期の減額の話の方が持ちきりだった(ただし10年に関しても微妙なオファーとか数日前にありましたけど)と思うのですが、どちらにしても月末の所ではなくて月の途中に弄ってくるというのがおーという感じです。

つまりですね、
http://www.boj.or.jp/announcements/release_2016/rel160921b.pdf
2016 年9月中の長期国債買入れ等の運営について


ここの2ページ目ですけれども、

『【既存の長期国債買入れ<利回り入札方式>】

・ 基本的に、8月 31 日に公表した「当面の長期国債買入れの運営について」のとおり運営します。

・ 1回当たりの具体的なオファー金額は、いずれの国債種類・残存期間ともに、直近のオファー金額をベースに決定します。ただし、金利操作方針を実現するため、市場の動向等を踏まえて、オファー金額を変更することがあります。』

とありまして、つい先週「8月はこれまで通り」というアナウンスをしていた舌の根も乾かないうちに10年の買入を月中で減額。しかも月中での減額ってのはこの前だと3月期末の輪番で期末要因で玉がひっ迫していてこりゃ輪番ぶっ飛ぶだろうという話だったのでまあ減らされるのも順当かなというような話になっていた時で、今回は10年カレントが▲10bpにも行かない所で月中の減額を実施というプレイに出ました。

・・・・・・・・・・でですね、17時発表の翌月買入の方が注目とか言われているので、どさくさに紛れて目立たない所で輪番減額ということですかそうですか、というのもありますが、まー20年とかの輪番じゃなくて一応0%近傍という誘導目標があるから10年で調整するというのをしても良いちゃあ良いのですけれども、何か忍者テーパリングみたいな感じがしてどうもねえとか思っていた訳ですよ。


・5時発表で超長期輪番も減額&インチキプレゼンキター!

http://www.boj.or.jp/announcements/release_2016/rel160930c.pdf
当面の長期国債等の買入れの運営について

なお前回はこちら
http://www.boj.or.jp/announcements/release_2016/rel160831e.pdf

『(3)買入金額

毎月8〜12兆円程度を基本としつつ、金利操作方針を実現するよう、市場動向を踏まえて弾力的に運用する。国債種類・残存期間による区分別の買入金額については、別紙のとおり。』(今回)

『1.買入金額
毎月8〜12兆円程度を基本とする。ただし、政策効果の浸透を促すため、市場動向を踏まえて弾力的に運用する。』(前回)

ということで、今回は「金利操作方針を実現するよう」という文言を入れている時点でMB目標とか、国債残高拡大ペース80兆円メドというのを形骸化する気がただよってきますが・・・・・・・・・・・・


3ページ目に『<当面の月間買入予定(利回り・価格入札方式)> 』がありますが、書き方を色々と変えていますな。

まず出来上がりの金額ですけれども(今回物国変国は変わっていないのでパス)、

-1年:700→700
1-3年:4000→4000
3-5年:4200→4200
5-10年:4300→4100
10-25年:2000→1900
25-年:1200→1100

回数は短期2回、中長期6回、超長期5回に変化はないので、今回は10年が1200億円、超長期が1000億円の減額になりますから、年間ベースでみれば1.6兆円程度の減額となりますな。

ということで、まあMB的に言えばこれ大した額という程でもないちゃあそれまでではあるのですが、10年の金利低下を▲10bp行かない所で堂々と牽制してきて10年をエライ狭いレンジで抑えますという話をした上に追い打ちで超長期を減らしてくるというのが、これまた額は屁なのですがいい度胸してんじゃんという感じで。

どこが起点なのか良く分からんですが、たとえば各年限のカレント(の単利という手抜きですいませんが)をMPM前の水準ということで見ますと、

9/16:

2年:▲0.270%
5年:▲0.205%
10年:▲0.040%
20年:0.450%
30年:0.555%
40年:0.640%

9/20

2年:▲0.270%
5年:▲0.210%
10年:▲0.060%
20年:0.405%
30年:0.505%
40年:0.585%

9/21(MPM結果出た後の引けな)

2年:▲0.230%
5年:▲0.175%
10年:▲0.030%
20年:0.415%
30年:0.510%
40年:0.595%

でもって先週金曜の引け。

9/30

2年:▲0.285%
5年:▲0.250%
10年:▲0.085%
20年:0.355%
30年:0.455%
40年:0.530%

という訳でですね、いやまあ確かに28日の引けでは10年▲9.5bpまでやっていましたので、

9/28

2年:▲0.300%(なお2年は29日から新発になっているので30日のこの銘柄の引けは▲30.5です)
5年:▲0.245%
10年:▲0.095%
20年:0.345%
30年:0.455%
40年:0.535%

となっている訳でして(デザインが下手で縦長すいませんすいません)、確かに10年カレントは▲10bpに接近という事になっておりますが、超長期に関してはどこの水準を見るかによって異なって来ますけれども、仮にMPM前で10年カレントが▲4bpの引けになっている16日の時点から比較しますと、超長期の金利低下って精々10bpな訳で、そんな水準でいきなり介入を打つのかよとこれはビックリとか意外とか言うよりも、「こんな狭いレンジで今後オペレーション運営が出来るのでしょうか」という点がいい根性してやがるなあという感じです。

まあそうは言ってもこの程度だと結局需給の方が勝ってしまうのではないか、という話もありますが、日中に長期の輪番を減額しておりますように、もう一発金利が下がったら更に減額するのかなど、何かやたらめったら細々と介入する気満々のような打ち方になっているのはちょっと唸る。


と申しますのはですね、あたくしドヤ顔で申し上げて結局盛大に外した次第ですが、何故外したかと言えば、「オペレーションを長期的に運営することを考えたら細々と市場の動きに一々対応していたら何が何だか分からなくなって来るんじゃないの」という事を考えていた訳ですよ。然るにこの買入方法ですと、それこそ長期とか超長期に関してはこの10bpのレンジ内から抜けてくると月中でも輪番の上げ下げをしてくるというような話になることが想像される、というか今回のってそういう宣言をしたのと同じだと思われるのですよ。

でもってですね、別にまあ短期的な視点で言えばそこの金利水準の10bpのレンジで推移させるというのはオペの上げ下げして意思表示しながらという話になると思うのですが、問題が幾つかありまして・・・・・・・・・・・・・

10年の0%というのも根拠としては大概に良く分からん水準ではありますが、20年や30年の金利に関しては今回示したのが結局20年で0.4%中心、30年で0.5%中心の上下10bpみたいな数字を出したと言わんばかりのレンジとなりましたが、そもそもこの数値が何故妥当なのかという理論的な根拠が全然示されていない訳で、中立金利をどのように計算した結果としてボードで考える中立金利がこの辺りにあって、各年限に関して中立金利からどの程度の金利低下が適切な緩和度合いであるか、というような話って結局概念的には言ってるけれども「直近の水準が適切」と言っているだけで、何がどうなるとその水準になるのかの明快な説明が皆無な訳よ。

でもってですね、そんな状況の中で10年はディレクティブがあるからともかくとしても、超長期とか別にディレクティブも無い中でエライ狭いレンジの所で輪番減額という意思表示をしてきた訳でして、そんなに狭いレンジで金利水準をピン止めする気があるのであれば、それはもう当然の事として、「何でそのイールドカーブが妥当なのか」という点について今しがた申し上げたようなきちんとした根拠を出して頂きたいのですよ。だって中立金利水準って当然のことながら経済物価情勢やインフレ期待などの変化が起きれば水準に変化が起きる訳でして、経済物価情勢に何の変化も無いうちは今回示されたピン止め水準で推移しているにしたって、変化があった時には誘導するイールドカーブの妥当性に対する説明責任が日銀に発生するでしょという話になると思うのよ。


とまあそういう事で、アタクシが何故今回輪番いじってこないと思ったのかというのと、輪番の牽制はもうちょっと広いレンジで入ってくるのかというのって、今申し上げたようなことを思って居た訳ですよ。すなわち「かなり明確なイメージでイールドカーブの形を日銀が示して狭いバンドで推移させる事になった場合、そのイールドカーブの形状の妥当性について日銀に説明責任が生じるのだが説明できるの大丈夫?」という事でありまする。これがもうちょっと広いバンドで放置プレイをしておくのでしたら「市場は経済物価情勢を見ながら価格推移しているもんね」ということでとりあえずまあオーバーシュート(イメージ10年で▲20超とか)と言える所までは勝ってにすればという感じにするかと思ったのですよ。まあ確かにそのやり方だと「イールドカーブコントロールじゃ無かったのかよ」というツッコミが飛んでくるというのもあるのですが、実際のディレクティブは政策金利と10年国債金利の2点なのですから、超長期のカーブまで突っ込みに行ったのはちょっとやり過ぎ感というか調子に乗り過ぎ感が。

まーとりあえず特に為替市場とおまけで株式市場が「早速日銀のテーパリングキター!」とかなって円高ワッショイとかにならなければ目先日銀大勝利ということなので、そういう意味では目先日銀大勝利なのですけれども、金曜の朝のモーサテの為替電話コメントで「5時の日銀の長期国債買入発表が本日の注目」とか思いっきりコメントしていたコメントの人ちょっと先生怒らないから出てきなさいという感じですな(笑)。


・しかし表の方も色々とアレ

再掲
http://www.boj.or.jp/announcements/release_2016/rel160930c.pdf
<当面の月間買入予定(利回り・価格入札方式)>


こちらの表ですが、皆様もご案内のように目立つのは次の2点

1回当たりの買入額のレンジ

短期:500〜1,500 程度→500〜900 程度
中期:6,000〜10,000 程度→2,800〜5,200 程度+3,000〜5,400 程度
長期:3,000〜6,000 程度→2,900〜5,300 程度
超長期:3,000〜6,000 程度→1,400〜2,400 程度+600〜1,600 程度

となって、今回は1回当たりの買入レンジが細かくなったのですが、中期以外については買入のレンジの上限が(合算した場合)結構下がっておりまして、しかも目先1回ごとの買入額は上記レンジの中でも中心よりは多い、という事になっておりますので、特に長期超長期の買入を減らす気満々ですというメッセージ性を出そうとしているのは良く分かるというこの内容。


オファー金額の表示

こちらですが、笑ってしまったのは比較するのが「9 月最終回」との比較になっていて、その9月最終回には10年の買入を減額しているのですが、これだと超長期の買入しか減額していないように(普段から細かく見ていない人には)見えるというのが、相変わらずのセコさ爆発のプレゼンでして、まあこれからは月内でもホイホイ動かすから月初と比較するもんじゃない、と言いたいのでしょうが、それは月初と比較した方が他市場の方々には親切ではないでしょうかという気がだいぶする。

もちろん、日銀としてはその月の買入金額の出し入れに対して他市場の皆様がホイホイと反応されると困るから、「当月一番最後の買入内訳との対比」で出してくるという見せ方をしているというのはまあ皆様直ぐ分かりますな!!!!!



○これはさすがにナメトンノカという総裁講演キタコレ(ほぼ一発ネタ)

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2016/data/ko160930a.pdf
第3回カナダ銀行・日本銀行共催ワークショップにおける開会挨拶の抄訳

まあベンダーでも話題になっていましたが。

『今申し上げたように、中央銀行は様々な課題に直面している訳ですが、本日のワークショップに因み、カナダ人作家、ルーシー・モード・モンゴメリによる「赤毛のアン(Anne of Green Gables)」の一節を引用したいと思います。』

ほほう。

『ご承知の通り、「赤毛のアン」はカナダではもちろんのこと、ここ日本でも大変よく知られている名作です。物語の中で、アンは育ての父親である年老いたマシューに対して、「これから発見することがたくさんあるって、すてきだと思わない?(中略)もし何もかも知っていることばかりだったら、半分もおもしろくないわ1(Isn’t it splendid to think of all the things there are to find out about? . . . It wouldn’t be half so interesting if we knew all about everything)」と言います。アンの言葉は、日々、新しい知恵や解決策、政策ツールを見つけ出そうと多大な努力を続けている全ての中央銀行職員とエコノミストにとって大きな励ましとして心に響くものです。 』


>もし何もかも知っていることばかりだったら、半分もおもしろくないわ
>もし何もかも知っていることばかりだったら、半分もおもしろくないわ
>もし何もかも知っていることばかりだったら、半分もおもしろくないわ

ここで2013年4月4日の総裁会見を確認してみましょう。

http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2013/kk1304a.pdf

『以上の施策は、これまでとは次元の違う金融緩和です。まず、第 1 に、戦力の逐次投入をせずに、現時点で必要な政策を全て講じたということです。 』

『ただ、何度も申し上げますが、私どもとしては、現時点で考えられるあらゆる政策を総動員して、2%の「物価安定の目標」について、2 年程度を念頭に置いて実現する。そのために必要な措置は、ここに全て入っていると確信していますし、実際に、2 年程度で物価安定目標を達成できるものと思っています。 』

『何度も申し上げますが、いわば incremental(漸進的)にやっていくのではなく、2%の物価安定目標を達成するために必要なことを全て、今、決定したという点が、ある意味で新しい要素だと思いますが、2%の物価安定目標は、1 月の決定会合で既に決められており、しかも、それをできるだけ早期に実現することになっています。』


・・・・・・・・・・・まあ何だ、要するに負けを認めているものの認められないから負け犬のオーボエなんでしょうなあ。

#ということで時間の関係で主な意見とか短国買入ネタとかその他諸々パスですいません