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2008/05/30
お題「何が何だか/亀崎審議委員講演」
欧米のメディア論調がどこもかしこもインフレインフレでございますなあ。こういう時は金融市場だけじゃなくて一般ピープルの話も聞きたいもんですね。で、米国10年トレジャリー4%抜けたと思ったら4.08%っすか。
今日はCPIだし決戦は金曜日♪って奴ですかねえ。いい加減勘弁して欲しいんですが。
○何がなにやら
昨日は2年国債の入札があって何と0.9%クーポンで入札前の前場引けで既に100円オファー。平均ほぼ100円(99円99銭9厘)となってましたが、第U非価格競争入札ゼロという有様(0.905%オファーなんだから当たり前だが)でして、まあ0.9%ですかという所です。
で、2年債のクーポンが0.9%以上というのは去年の5月債(なので4月末の入札)から10月債までですが、この頃ってご存知の通り「もうすぐ利上げですなあ」ってやってた時期なのでありまして、経済指標悪化して目先利上げがどこへやらという状態の中で0.9%まで上昇とは恐れ入りますとしか申し上げようが無しであります(後ろはもっと売られてますけどね)。
2年に関しての局地的な需給を検討しますと、従来2年をせっせと買っておられた筈の投資家層がここもとすっかり買いの手を消極的にしておられたりするようでして、まあそのあたりが結構効いているんでしょうかという感は致します。一方で1年ゾーンになりますと別の投資家(短期公社債投信)が絶賛大登場するので0.7%台でやたら抵抗するんですけれども、ふと気が付くとこの辺のアンカーが1年になってますか。
年初2年0.5%割れとかやってたのは何だったんでしょ・・・・いやまああの時はもうダメです世の中オシマイです状態だったんで仕方ないですが。
んでまあ相場についてはもう何が何だか(昨日だって店頭は閑散の中で何が悲しゅうてこんなに動くのよという感じだったようですし)というところで論評のしようが無いのですが、辛うじて足元金利の足し算でも話が出来る2年国債入札のお話でお茶を濁すのでありました、とほほのほ。
で、亀崎審議委員の講演ですが
http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/ko0805d.htm
○景気などに関しては大体展望レポートなどに沿っている感じ
景気に関するお話とかは概ね展望レポートに沿ったお話をしていますのでポイントだけ並べますと、
・海外景気減速や円高の影響が輸出に与える影響を注視(現実問題として米国やスペインなどは足元弱めの動きになっている)
・企業部門から家計部門への所得波及に時間がかかっており消費の伸びは期待しにくいが腰折れまでには至らず
・設備投資の伸びも鈍化するが腰折れはしない
という感じでしょうか。CPIの先行きに関しては価格上昇品目の多さや食料品などの一度上昇すると中々下落しにくい品目の価格上昇が広がっている点に触れていまして中々下がりにくいのではないかという話なのかなと。
○持続的成長への試練を新たなチャンスに
今回の講演(挨拶)では日本経済の持続的成長への課題としてどのような事が必要かという持論を展開している部分がありまして、まあ目先の金融政策には関係ない話ですが、商社マン出身としての折角のオリジナルなお話(でしょ?)ですのでこちらを読まねばなりますまい。
小見出し並べるとこんな感じです。
4.景気減速:持続的成長への試練を新たなチャンスに
(4−1)一段のグローバル展開
(4−2)対内直接投資
(4−3)人材確保、労働生産性向上
(4−4)資源・環境問題への対応
(4−5)経済・金融活動の大きな変動の回避:歴史から学ぶ姿勢
でまあ適当に引用しますと。
・グローバル展開
『こうした環境にあって、EPA(経済連携協定)、FTA(自由貿易協定)により海外経済との繋がりを一段と強めていくことの重要性は、従来以上に高まっていると思います。因みに、世界の国々の中で、二国間もしくは地域間で結ばれた自由貿易協定は200余りにも及んでいますが、わが国がこれまでに締結したEPAは僅か9件に止まっており、多くの重要な貿易相手国との間で、協定締結に至っていません。』
『また、金融機関が、企業のグローバル展開を支援する動きも少しずつ出始めていますが、今後、日本の金融業が、国際的なプレゼンスをさらに高めて、情報産業としての力を充実させ、企業のグローバル展開の支援のみならず、わが国金融市場の活性化を通じて、経済成長を支える一つの柱となることも、期待されます。』
前段は判りますが、金融機関云々は正直幻(以下悪態に付き自主規制)。で、このグローバル展開の話の中でグローバル・スタンダードという話をしているのですが、アングロサクソンスタンダードじゃない話をしているように読めるのが興味深かったりします。でも正直あたくしこの辺の話はまるっきり不勉強にも程があるので、どういうもんなのか教えてエロイ人。
『近年、経済統合を進めてきた欧州では、環境、製品品質(食品、化学)、会計などの分野で域内に共通基準を設けていますが、こうした基準は、各国の利害対立を乗り越えて策定されただけに、本質的な意義があり、規範性が強いのが特徴であると思います。こうした基準を域内で活動する外国企業にも課すことで、当該基準が、域内に止まらず、グローバルなスタンダードとなっていく例が多くみられます。』
『企業にとって、こうした基準を遵守することにはコストが伴いますが、一面では、適切な外部規律(市場規律)を自らに課すことで、リスク管理能力、ビジネス創造力を高めることを通じて、企業体質を強化していく一助になっています。実際、欧州に進出している日本企業からも、先進的で、厳格な欧州基準に対応していけば、他の地域でも通用する競争力が得られるとの肯定的な意見は少なからず聞かれています。』
『わが国としては、さらに一歩進んでそうした基準のルール・メイキングに、より積極的に関与していけば、基準設定を巡る不透明感を軽減し、企業活動の活発化に繋がることを通じて、長期的には望ましい結果がもたらされるのではないかと考えます。』
判らんので殆ど引用しちゃいました(汗)。
・移民受け入れ問題
対内直接投資の部分はたぶん普通の話なのでスルーして。
『日本の人口は、2060年には8千万人にまで落ち込み、英国(現在6千万人)を下回るという予測もあります。仮に、そうしたペースで人口が減少し、かつ高齢化が進行していった場合には、経済成長や、社会の活力が損なわれかねないと思います。』
『現在、日本における移民は約200万人、人口に占める割合にして1.6%に過ぎません。一方、近年、長期に亘る持続的成長を果たしてきた米国、ドイツ、英国は、いずれも人口に占める移民の比率が高い(それぞれ14.5%、12.7%、9.4%)ことは、認識しておく必要があろうかと思います。これらの国々では、移民増加によって、社会への影響などの面で難しい問題も生じており、国によっては、これまでの寛容な政策への揺り戻しもみられます。しかし、米欧のみならず新興国も経済力を備えつつある状況下、わが国も危機感を持って対応しなければ、国際労働市場において人材の確保は一層難しくなっていくと思われます。この点については、今後、長期的、総合的観点から検討が深まっていくことを期待したいと思います。』
どうなんすかねえ。あたしゃシロートにも程があるのでよーわからんのですけれども、本質的に移民ばっかで構成されているような米国とか、海外植民地を大量に抱えて走っていた欧州各国と日本って事情がだいぶ違うので移民政策って難しいんじゃねえのと思いますが、と言って現状を放置してますと人口減少高齢化社会なんすけどね。
以前福井前総裁もこのテーマに触れていました(今日は引用割愛しますが、亀崎さんは後半では労働生産性を高める話をしてまして、これもまた福井さんがお話してたのと同じ話ですな)し、長い目で見た場合このあたりの問題は極めて重要だという所ですね。
・バブル発生の回避ですかね
『経済・金融活動の大きな変動の回避:歴史から学ぶ姿勢 』ってところなのですけれども、こんな話をしているのはやはりバブル発生回避のお話っぽく読めてしまうのですが。
『経済成長が長く続くと、いずれかの段階で経済・金融活動に行き過ぎが生じ、それがさらに成長を持続していくことへの脅威となってきます。今回のグローバルな金融市場の混乱も、良好な世界経済や金融環境が続いたもとで、市場参加者のリスク評価に緩みが生じ、その後、市場で巻き戻しが現実化した一例とみることができます。このようなことは、後から振り返ってみれば当り前のことにも思われるのですが、歴史をみても、金融上の記憶は比較的短期間に失われてしまいますし、バブルが毎回、同じ態様を伴っていないことも、人々が警戒感を抱きにくい要因となっているように思います。』
ということで、一般論ちゃあ一般論ですが、どうもバブル発生回避に関する話が出てくるとオーバーキルの懸念をしてしまうのは日銀観察が長くなると身につく仕様でございます(笑)。
『しかし、多くの先人が、過去のバブル生成の背景にあった共通する事象として、緩和的な金融環境、相場上昇、強気化、レバレッジ(てこ)を用いたリターンの高い新たな金融商品の開発、金融の天才の出現などを指摘してくれています。』
「金融の天才」ってフレーズといえばガルブレイスの「バブルの物語」(^^)。最近だと金融の天才とは言わずに「最先端の金融工学を駆使した商品」でございましょうかねえと悪態をつくのはあたくしがプレーン商品の現場トレーディング叩き上げだからですかそうですか。
『勿論、金融経済は日々変化しており、市場経済の発展、経済のグローバル化などを受けて、過去にはなかった新たな側面が数多く生じてきていることも事実ですが、他国の例も含めて、歴史から謙虚に学んで、現下の現象の本質を見抜き、経済・金融活動の大きな変動を極力回避していく努力が、企業、金融機関、公的セクターのいずれにも求められていると思います。』
まあそうなんですけど、言うはやすし行うはきよし(古いって)でありまして。
最近その「バブル」さんの発生頻度が高くなっているように見えるのですよね。その原因の一つとしてあたくしが思うのは「決算のタームが短くなっている」というのを提唱したいんですけよ。と申しますのは、世の中で何かの拍子に「最先端の金融工学を駆使した高利回り商品」が出来た時に、こりゃおめえ変だろとか思って逆らおうと思いましても、収益評価の締めのタームが短ければ短いほどそれに逆らう事は逆らわない人対比のパフォーマンス悪化が確実になることに繋がるんですよね。
そうなりますと相場は自己実現をするのいつもの法則に伴いまして、どうしても一度方向性がつくとそっちに向かってしまいますがなの巻になるのでありまして、バブル発生を防ぐためにはその辺りの制度設計というか何というか、上手く表現できないんですけれども、まあ要するに参加者の多様性とか評価の多様性とかも必要なんじゃないのかと思う次第だったりします。イマイチ何を言いたいのか判らん文章ですいませんすいません。
『一方、一たび経済・金融活動の過熱から反動が生じた場合には、早期に経済・金融活動の安定化を図る施策が必要となり得ることも、しっかり意識していくことが必要であると思います。』
まあこれは日本が人柱になった教訓が今まさに海外で生きている話と。
#金融政策に関しては基本的に展望レポートの説明なので割愛します。
2008/05/29
お題「イメージ貼るのもほどほどに/資産バブルとプルーデンス政策」
画像も貼らずにスレ立てとな!ではございませんので念のため(ってネタ判る人はやや問題が^^)。
おっと10年トレジャリー4%♪
白川総裁が日銀金融研究所の国際コンファランスで挨拶をしたんですけれども、それを報道するベンダーのヘッドラインがちょっと興味深かったもんで。で、挨拶はこちら。
http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/ko0805c.htm
○どうもベンダー的には今度は利下げヘッドラインを打ちたいようで
この挨拶が報道されたの9時半ちょっと回ったくらいのところだったのですが、日本語版ロイターのヘッドラインを並べるとこんな感じになります。
09:33 RTRS−足もとの物価上昇率に目が行き過ぎると、必要な金融政策の対応が遅れる危険=白川日銀総裁
09:35 RTRS−多くのバブルはデフレの危険が意識される中で低金利維持後に発生している=白川日銀総裁
最初の方のヘッドラインをみると如何にも「今現在足もとのコアCPIが上昇していますが、これに目が行き過ぎて利下げが遅れるのは良くない」と言っているような印象を与えるのですが、次に出たヘッドラインの通りで、というか挨拶要旨の中身読めば直ぐ判るのですが、言ってることはどっちかというとその逆ですがなというところ。
でですな、ロイター日本語版はまあ穏当なんですが、聞いた話でスイマセンがQUICKは上記ヘッドラインの最初の方に相当する分だけ打って暫くそのままだったようですな。いやはや何ともという感じでありますが、まあ日本語版ロイターの方もこの総裁挨拶記事の題名をこうしております。
09:35 RTRS−UPDATE1:足元の物価上昇に目が行き過ぎると、必要な金融政策対応が遅れる危険=白川日銀総裁
これじゃ思いっきり利下げ示唆ヘッドラインに読めてしまいますって(笑)。
どうもね、ベンダー的には金融政策がどっちかに動いてくれないとニュースとして面白くないんでしょうけれども、白川さんに対して当初はタカ派の印象を持ってそれに合うようなヘッドラインの打ち込んでいる傾向が見られてまして、最近はハト派印象でのヘッドライン打ち込みという傾向が見られますなあという感じがするんですけれども気のせいでしょうか。
1次ソースにちゃんとあたれる状態なのに中身ちゃんと見ないでベンダーヘッドラインでホイホイ反応する方も反応する方ですけれども、何でもかんでもニュースにしようとして発言や講演の一部をミスリードな切り方をして報道するベンダーの姿勢も如何なものかと存じます。そりゃまあ中立だとニュースっぽくないと言いたいのは判りますが、中立姿勢ですっても重要な情報だと思うんすけどね。
というかこの挨拶は・・・・・
○資産バブルに対するお話
『過去20年間における金融市場の混乱は、フリードマンの言う広義の金融政策の面で、中央銀行は以下のような様々な課題に直面していることを示しています。』
『第1の課題は、金融政策の目的である物価の安定をどのように定義し、理解すべきかということです。日本にしても米国にしても、近年発生したバブルの多くは、逆説的ではありますが、物価安定が達成され、あるいは、デフレの危険が意識される中で、低金利が持続した後に生じています。物価上昇率の低下や低金利が、経済主体の積極的なリスクテイクとどのように関係しているのかは、解明されているわけではありませんが、バブルとその崩壊の経験は、経済は時としてノンリニアに変化することを示しています。また、そのノンリニアのプロセスでは、金融と経済の相乗作用など、複雑なダイナミックスが決定的に重要な役割を果たします。』
ロイター日本語版ヘッドラインの2番目のところですな。まあそれは兎も角としまして、この「経済は時としてノンリニアに変化することを示しています」っていうのは市場の片隅に棲息してメシを食わせて貰っておりますあたくし的には「経済」を「マーケット」に置き換えて読んで「なるほどなるほど」と思うところでございます。
『言い換えると、フリードマンが示した金融政策の第1と第2の役割は互いに密接に関連しています。政策当局者やエコノミストは、物価安定とは物価が中長期的に安定している状態と理解していますが、インフレーションのダイナミクスにおいては、ラグが長くノンリニアな変化が生じる可能性もあります。こうした状況の下で、足許の物価上昇率に目が行き過ぎると、必要な金融政策の対応が遅れ、結果として経済活動の大きな変動を招く危険があります。』
で、さっきのヘッドラインのトップ部分になる訳ですが、ここで言ってることは破断界みたいな所を越えてギャップアップ/ダウンするような事態が生じるリスクを常に意識しろちゅうことでしょうから、少なくとも今現在の足元CPI動向の話とか、利下げ示唆の話をしているとかでは全くございませんなあと言う所でしょ。
『この点に関連し、世界中の中央銀行は、物価安定の数値的表現を伝えるための最適な方法を模索する努力をしており、それぞれ異なる手法で公表しています。インフレーション・ターゲティング国は、目標物価上昇率の水準を公表しています。日本銀行や欧州中央銀行(ECB)は、物価安定に関する何らかの数値的定義を公表し、FRBは、足許の経済情勢と適切な政策の下での中期的なインフレの予測値を公表しています。』
とまあそういうお話をしているのですが、実は今回の挨拶で強調されているのは金利操作(やマネタリー操作)と言った話よりも、よりプルーデンスに近い方向でのお話なのですな。まあ足元の金融政策云々と必ずしもリンクしない話ですけれども、面白いので引用引用♪
『第2の課題は、金融システムに関する政策の設計です。バブルの崩壊のような経済のノンリニアな変化はリスクとしては認識できても、崩壊する前に金融緩和を始めることは困難です。バブルがいつ崩壊するかを正確には予測できません。そうした変化を認識した場合には、現在のFRBの対応のように、標準的なテイラー・ルールが示唆する以上のペースで金利引き下げを行うことは適切な対応だと思います。』
ということで、バブル発生のほうじゃなくて崩壊の方に関しても言及していまして、FRBの金利政策に関して適切な対応と評価してますので、これはまあ日本で景気下振れリスクがより顕在化したら利下げも検討って文脈になるんでしょうかね。ヘッドライン打つならこっちじゃないのと思うんですけど(苦笑)。で、ここからがプルーデンスに寄った話。
『同時に、日本の経験が示すように、企業や金融機関のバランスシートの毀損が激しい場合には、金利の引き下げだけでは十分緩和的な金融環境を作り出すことは非常に困難です。』
実はこの部分もロイター日本語版はヘッドライン打ってましたことを付け加えます。
『現在の米国の金融環境をみると、大幅な政策金利の引き下げにもかかわらず、信用度の低い社債の金利は昨年夏に比べて低下している訳ではありません。この事実は、事後的な政策金利の変更に加え、事前に、バブルの生成を招きにくいような金融システムに関する政策や制度の設計も重要であることを示しています。金融政策において採り得る対応策については既に述べましたが、金融機関の行動が景気の振幅を増幅させることのないように、規制や監督のあり方を考えることも重要な課題です。』
「金融環境」ってのは白川さんのキーワードですな(^^)。
『第3の課題は、いわゆる中央銀行のバンキング政策です。金融政策が効果を有するためには、金融システムが安定し、金融市場が十分に機能することが不可欠です。昨年夏以降の経験を振り返ると、市場流動性の枯渇が問題となりました。市場流動性がどのようなメカニズムを経て枯渇するのか十分解明できている訳ではありませんが、中央銀行は自らのバンキング機能を使って、市場流動性の回復に努力してきました。』
左様でございます。
『この点では日本銀行はフロンティアであったと自負しています。例えば、日本銀行は、2001年に、幅広い金融機関を対象とする期間の長い資金供給オペレーションを導入しました。これは、Fedが昨年12月に導入したターム・オークション・ファシリティー(TAF)に相当します。また、日本銀行は同じ年に証券会社を含む金融機関を対象とする貸出のスタンディング・ファシリティーを導入しました。これはFedが本年3月に導入したプライマリー・ディーラー・クレジット・ファシリティー(PDCF)に相当しています。』
原文の脚注スルーしちゃいましたが、貸出ファシリティーって所謂ロンバートのことです。為念。まあこの辺りの対応に関しては本邦では散々やっておりましてそういう意味でインフラ大整備状態なのでありまして、今般のサブプラ騒動で日銀が何もしてねえとか批判するのは批判のピントがボケているという感じですな。ただまあ何もやらないと外野がうるさいので夜中の10時過ぎ集合で緊急記者会(ry
『日本銀行はこれ以外にも、資金供給と売出手形の発行による資金吸収を組み合わせた両建てオペレーションを実行し、金融市場で一種のブローカーとしての役割を果たしました。また、資産担保証券や金融機関保有の株式も買い入れました。これらはいずれも金融市場や金融システムの機能を回復するための措置でした。これらの措置は通常は金融政策とは分類されていませんが、いずれにせよ、中央銀行の展開するバンキング政策を抜きに金融政策の効果を考えることはできません。変化する金融環境の下では、中央銀行は、そのオペレーションの不断の見直しが必要です。』
ま、これも危機対応部分がいつの間にか「ある物」状態になってしまうとそれはそれで如何なものかという所もございまして、例えば3月末に短期市場で寝転がりさんが続出したのも危機対応の丁寧な対応に市場が乗っかって軽めの依存症状態になりつつありって感が無いわけでもないのであります。まー難しいですけどね。
本日はそんなところで。
2008/05/28
お題「景気の先行き見通しに相当慎重なようで」
という話の前に小ネタを少々。
○また不同意ですかそうですか
池尾先生が残り任期の少ない方の日銀審議委員をお受けになられるというのにアホウな事前報道でまた台無し。いやもう呆れて何も申し上げる気力も沸きませんが、読売新聞報道の一連の流れをネット記事で見るとある意味バロス。
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20080527-OYT1T00275.htm
『ところが、日銀政策委員会審議委員の1人に池尾和人慶大教授(55)、預金保険機構理事長に現職の永田俊一氏(64)を再任する2ポストの人事案が27日付の読売新聞朝刊などに掲載されたことに、野党側が強く反発。西岡武夫参院議運委員長(民主)が提示を受け付けない考えを示したため、政府はいったんは27日の提示の先送りを決めた。』
『西岡氏は先の臨時国会でも、朝日新聞が国会同意人事案件を事前報道したことに反発、人選を変更しない限り、参院本会議の議題としない考えを示し、政府は一部人事案を変更した経緯がある。笹川、西岡両氏はこの際、人事案が事前報道された場合は、原則として提示を受け付けないことを文書で確認している。』
・・・・いやあのそういうのが有るの知ってるんだったらお前ら報道自粛しろよと思うんですけれども。ミンスの反発に最初アホかと思いましたが、こういう取り決めしているんだったらそりゃ差し替えになるわな。で、今朝の社説。
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20080527-OYT1T00709.htm
同意人事騒動 「事前報道」規制は削除せよ(5月28日付・読売社説)
まあ言わんとすることも判らんでもないが、そんなら最初の報道の時点で「このような事前報道規制のような確認事項があるが、本件は国の政策に重大な影響を及ぼすものなので報道しました」って言えよなと。
でもさ、国会に提示する前に新聞辞令をだすほど急いで報道しないといけないネタなんですか、この人事関連のお話って・・・・・
○株取引は悪ですかそうですか
一部のNHK職員によるインサイダー取引は論外ですが、この調査結果の報道のされ方には何か引っかかるんですよねえ。
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20080527-OYT1T00588.htm
NHK職員81人が勤務時間中に株取引…第三者委報告
『過去3年間にさかのぼり、株式の保有や取引状況について、すべての役職員と報道用端末の閲覧権限を持つ契約スタッフら計1万3221人に質問した。これに対し、75人が出社から退社までの間に株取引をしたと認めた。』
・・・・えーっとですな、最近はホームトレードという便利なものも大いに普及してますから深夜や早朝にも株式売買の発注をすることは可能ですけれども、証券会社に株式売買やら投資信託の発注をしようと思ったら普通は「出社から退社までの間」にやる(昼休みだって勤務時間中でしょ)ことになると思うんですけれども物理的に考えて。
そりゃ勿論延々とデイトレとかやらかすとか、毎日株式売買に血道上げているというのは論外ですけれども、個人の資産形成の為に株式をたまに売買する注文出すのも悪のような報道のされっぷりに相変わらず株式売買に対する偏見を感じて落涙を禁じ得ないものであります。それがダメです処分対象ですというのであれば、昼休みに銀行行って金降ろしたり振込みをするのだって、職場に保険の外交員のおばちゃんがやって来て保険契約するのだって処分の対象じゃんよと思うのは株屋の僻みですかそうですか。
いやまあこの調査機関様がどういう文脈で調査してるのかは公式発表の方を見ないと行けないんですけれども、何かこの報道のされっぷりを見ると如何にも「株式取引はケシカラン」的なものが底流にあるようで、何かこう何だかなあって感じになりまるのは株屋(以下同文)。
さてそんな雑談は兎も角として。
○調査統計局長の指摘
これは一昨日のお話でして、多分ロイターとかブルームバーグとかのネットにも記事があると思うのですが探すヒマが無かったので日本語版ロイターの記事より。以下引用は5月26日17時26分日本語版ロイター配信記事によります。
『日銀の門間一夫調査統計局長は26日、日本経済新聞社主催の景気討論会に出席し、日本経済について「実質購買力の移転を考えると、この2四半期くらいはかなり明確に減速している。ゼロ成長に近いところで走っている」と述べ、エネルギー・原材料価格高騰の影響などから足もと減速しているとの認識をあらためて示した。先行きについても、当面減速が続くが、その後は潜在成長率並みの緩やかな成長経路をたどるとの見解を繰り返した。』
『門間局長は、潜在成長率並みの成長経路をたどる前提として、1)世界経済の拡大基調が崩れない、2)原材料価格は基調としては幾分上昇気味であっても、急激には上昇しない(コストプッシュが緩やかなっていく−の2点を指摘。これらは「非常に不確実性が高い」として、「今後の世界経済と日本経済は、相応のリスクを抱えたまま走っていく」との見方を示した。』
ということで、「かなり明確に減速」と減速を強調した上に、記事によりますと門間局長は「不確実性」という言葉を何度も使い、不確実な状況であることを強調しています。展望レポートの基本的見解部分よりも一層慎重なスタンスですねって所かと思います。特に後半の成長経路をたどる前提に「非常に不確実性が高い」と言及してますが、要するにナローパスですよってお話ですよね。うーん慎重。
『門間局長は、「きょうは何度も『不確実性』という言葉を使ったが、これほど今年度あるいはもう少し先までみても、経済・物価情勢を見通すのは難しい」と述べ、「これだけ不確実性が高い状況では、上下両方向のリスクを丹念に点検しながら、それらの動向に対して謙虚に判断していくことが大事。今の時点で特定の方向性を持たないことが一番大事なことだ」と強調した。』
前総裁への悪態ですね、わかります(違)。
なお、個別項目の話とかサブプライム問題に関する話とかもあるのですが、それに関しては当該記事をご覧いただければ(というか引用のタイプ打ちが疲れるから勘弁^^)と。
○白川総裁の国会答弁からほんのちょっとだけ
昨日は参議院財政金融委員会に白川総裁などが出席して質疑応答が行われました。で、こっちは例によって最終的には国会の会議録を見たいと思うので2週間から3週間もすれば内容をきちんと読めると思いますが、とりあえずブルームバーグの記事から。以下引用はブルームバーグニュース27日14時57分配信記事によります。
・短期金利が適切な水準にあるというお話
この部分は「ふ〜ん」と思ったんですが。
『白川総裁はまた、自民党の田村耕太郎氏の質問に答え、現在の金融政策運営について「政策金利は0.5%、消費者物価指数(除く生鮮食品)上昇率は1.2%で、実質金利はゼロもしくは若干のマイナスだ。潜在成長率が1%台半ばから後半程度とすると、それとの比較で短期金利は適切な水準になる」と述べた。』
ほうほう。このあたりのロジックが中々難しいのですが、展望レポートの基本的見解の中で先行きの上振れ、下振れ要因として言及されている中で、4番目の部分に『第4に、緩和的な金融環境が続くもとで、金融・経済活動の振幅が大きくなる可能性があることである。』とございまして、第2の柱の方では『長期的には、低金利が経済・物価情勢と離れて長く継続するという期待が定着するなど、緩和的な金融環境の長期化が経済・物価の振幅をもたらすリスクは、引き続き存在し、特に上記のような下振れリスクが薄れる場合には、その重要性は増すと考えられる。』とありますので、金融「環境」に関しては緩和的だという認識になっていますわな。
一方で需給ギャップがバランスしていて経済見通しが潜在成長率並
の成長パスとなっているので、短期金利の水準に関しては適切だというお話になるんでしょうか。何かわかったようなわからんような話ではございますが、先般の日本記者クラブにおける講演では、『やや大きな構図で捉えた場合、現在、実質短期金利がゼロ%近傍と、極めて低い水準にあるということは、中央銀行として、当然、留意しておかなければなりません。』という話ですので、「低いけど適切」ということなのでしょうか。ヤヤコシヤでございまする。
まあわざわざ低いという話を強調してまたぞろ利上げ思惑が浮上されても困るからってのもあるんでしょうけれども(^^)。
・その他
資産価格と金融政策に関する質問とかまだ出るのかよと思うのですけれども、ヘッドラインをみますと「資産価格をターゲットにした金融政策は難しい」けれども「経済物価情勢を総合的に判断する場合には資産価格を加味するのが基本」というような趣旨のお話のようです。まあそう言う感じですか。
あと、長期金利に関する質問があったようですが、これって質問者が判って質問してたら凄いんですけど、長期金利下げたかったら世間様の期待インフレ率やら期待成長率下げないと行けませんので、早期利上げって話になっちゃうんですよね。
輪番オペに関して共産党の大門さんが質問していたようですが、「輪番オペを無くすと短期の資金供給オペレーションを相当頻繁に行わないといけない」との答弁だったようです。
このあたりに関しては会議録が出てから後日ということで。
2008/05/27
お題「4月8、9日の決定会合議事要旨から」
昨日の輪番は材料にならなくて良かったですね(棒読み)。とは言え、平均16毛甘で足きりが10毛甘ということは夢の20毛甘とか応札した人がいるんでしょうか。
http://www.boj.or.jp/type/release/teiki/giji/g080409.pdf
まあこの時点で既に下振れリスク警戒のオンパレードという感じでございますが、どのような点を見ているのかという所を引用して参ります。
○海外経済に関して
『こうした議論を経て、委員は米国経済のダウンサイド・リスクが高まっているとの認識で一致した。その上で、複数の委員は、やや長い目でみれば、住宅市場や金融市場の調整がスムーズに進み、不確実性が薄まった場合には、金融環境の緩和度合いなどを踏まえると、実体経済が上振れる可能性もある点は意識しておく必要があると付け加えた。』
『欧州経済について、委員は、ユーロエリアでは、緩やかに減速しつつも成長を続けているとの見方で一致した。複数の委員は、国際金融市場の動揺や、そのもとでの金融機関の与信姿勢の厳格化などの、ダウンサイド・リスクに注意する必要があると指摘した。』
こちらに関してはまあ想定どおりのお話になっております。基本線としては「減速しつつ拡大」という相変わらずの器用な話になっておりますが(^^)、気分はダウンサイド警戒なんでしょ?
○輸出・設備投資と為替動向
『わが国の輸出について、委員は、海外経済が減速しつつも拡大するもとで、増加しており、先行きも、増加を続けていく可能性が高いとの認識で一致した。何人かの委員は、米国向け輸出は鈍化しているが、欧州、アジア、中東向け輸出は好調を持続しており、輸出は全体として堅調に推移していると指摘した。一方、複数の委員は、先行き、海外経済が減速するとみられることから、わが国の輸出にも、いずれ減速感が現れてくる可能性があると述べた。』
と、さらりと書いてありますが、輸出がコケると皆コケるの巻だと思われますので、これもまた結構なダウンサイド警戒ということでありましょう。
『設備投資は増勢が鈍化しているとの認識で一致した。また、先行きの設備投資は底堅いが、伸び率は緩やかなものとなる可能性が高いとの見方を共有した。』
というのは良いとしまして、
『何人かの委員は、例年、短観の3 月調査では設備投資計画が慎重な数字となる傾向があるが、この点を勘案しても、今回の2008
年度設備投資計画は低めであることから、先行きの設備投資について注意深くみていく必要があるとコメントした。』
『また、ある委員は、短観における企業の想定為替レートが足もとの水準よりも円安となっている点を踏まえると、企業の収益率見通しが、今後、下方修正される可能性があると付け加えた。このほか、多くの委員は、特に中小企業において、原材料高や円高の影響を受けて、収益が伸び悩み、設備投資スタンスが慎重化していることが今回の短観で確認された、と指摘した。』
『ただし、多くの委員は、企業に設備過剰感がみられない点は、先行き、設備投資が底堅く推移する可能性が高いことを裏付ける材料であると付け加えた。』
昨日ご紹介した先週の白川総裁定例会見の中でスルーしちゃった(長いもんで・・・・)質問として「所得形成が弱まったことの影響をどのようにみているのか」というのがあった(会見要旨の10ページ目にあたります)のですよ。で、そこで白川総裁は『そういう意味で個人消費にも影響は出て来得る話ですが、交易条件悪化の影響がどの部門の支出に一番出ているか、あるいはどの部門に一番注目しているかという点では、私は設備投資だと思っています。』という応答をしていまして、ここの議論と連携したお話になっていますという所ではないかと思います。
一応最初と最後はメインシナリオの話になってますが、途中には下振れ警戒の話が並ぶという中々素敵な議事要旨になっておりますわなというところで。
○サーベイ、マインドの悪化
『企業の景況感について、委員は、幅広い業種で慎重化しているとの認識で一致した。ある委員は、より小規模の企業を多くカバーする企業サーベイ調査では、業況感の悪化が一層明らかであるとコメントした。』
『個人消費について、委員は、底堅く推移しており、先行きについても、雇用者所得の緩やかな増加を背景に、底堅く推移する可能性が高いとの認識を共有した。ただし、複数の委員は、石油製品や食料品の価格など、身の回り品の値上げが続いていることなどから、消費者マインドが慎重化していると指摘した。』
と、まあこのあたりも予想される議論ではありますが、やはり警戒していますなあという所です。
○雇用・所得の統計面でのチェック
雇用・所得に関してはここまでの下振れリスク満開モードと比較すると、まあ先行き割と強気に見ている感じなのですけれども、動向が読みにくいという話が出ています。
『雇用者数について、何人かの委員は、短期的な振れが小さいとされる毎月勤労統計の常用雇用者数が前年比2
% 程度の伸びで推移している一方、調査対象の広い労働力調査はこれより弱めの動きとなっていることから、足もとの動向の評価が難しくなっており、双方の指標を丁寧に点検していく必要があると述べた。』
毎勤統計と労働力調査の間にギャップがあるというお話ですか。ほほう。ただまあ基本的には「伸び悩み」というリスクは指摘してもかつてのようなもうダメダメ感爆発というような下振れリスクまでは意識されていませんわな。そりゃまあそうでしょうという感じですけれども。
○この部分は少々異論がございますが
話は飛んで金融面の動向に関する政策委員会の認識について。
『短期金融市場の動向について、多くの委員は、年度末にかけてターム物金利が一時上昇したほか、レポ・レートが強含んだ点に言及した。』
左様でございますな。
『何人かの委員は、年度末要因に加えて、米欧市場の動揺の影響から、日本の短期金融市場も神経質になっていた面があると述べた。』
そういえばどこぞの馬○通信社と○鹿新聞が「長短金利逆転」などという○○記事を配信していましたなあとか思い出すのですが、あれはたった2か月前のお話ですかそうですか(遠い目)。という悪態はともかくと致しまして。
えーっと、あたくしかなりしつこく書いたと思うのですが、今回は期末越えで寝転がり(寝転がりを意図してるのか意図してないのか知りませんが)をしやがった参加者が散見だか続出だか知りませんが、まあレートが気に食わないからオペ頼りで最後の最後までファンディングを引っ張ったのが一番の原因であったと認識しておりまして、正直あまり米欧がどうのこうのというのは関係ない(無くはないけど相対的なウェイトは小さい)ですがなという所です。
何故なら、米欧の問題は3月期末に急に浮上した話ではないのでありまして、かつ該当金融機関にとって日本はメインの市場ではない訳でありますから、相対的に影響は低い筈(まあ一番調達しやすいのが日本だったのでその余波はありますが)でして、本来なら別に寝転がりとかやらなければ直前になって大騒ぎする話ではないのであります。
『こうした議論を経た上で、委員は、日本の短期金融市場は、米欧に比べてかなり安定しているとの認識で一致した。この点に関して、何人かの委員は、きめ細かい金融市場調節が奏功したほか、日本銀行の調節手段が、オペ期間、担保の多様性などの点で充実していることも、市場の安定に寄与しているとの見方を示した。』
かなり安定しているのはその通りですが、オペレーションに関しては期末越えのファンディングが活発になるタイミングであります所の3月最終の前2週くらいにやたらめったら期末直前に落とす資金供給オペを実施してまして、期末越えのショートファンディングが増えるような状況に持っていっちゃったんじゃないんですかねと思われますが。肝心の期末最終週の前週の共通担保でショートのオペ連発で、最終週になってから打つのはタイミング的にどうだったのよという感じは致しますが。
いやまあそこまで細かい話突っ込まれても困りますがなという感じでしょうし、調節担当の中の人に置かれましてもまあヒアリングかけたらそんな感じだし言われるのもちょっと心外かもしれませんが、期末の動向に関しては正直言って聞く相手間違えてませんかって感じはしましたですよ。
勿論、もっと大きな視点に立った場合は、欧米がやれTAFだ何だともう泡食っていろんなオペを実施している中で余裕ぶっこいていられる本邦というのはさすが日本だ信用収縮には慣れっこだぜという所でございましょう。ということで、議論のお話そのものは特にどうというこたあねえのですけれども、ちょっとだけ読んでて違和感あったので書いてみましたのです。
#えーっと、門間局長の講演ネタもあったようなのですがそっちはスルーで(汗)
2008/05/26
お題「白川総裁会見とか相場雑談とか」
月曜ですので簡単に。
○またまた先物大下げの巻
金曜の債券市場ですけれども、米国のトリプル安という要因はあったにせよ寄りからいきなり1円安スタートって何がどうなっているのやら。寄り前から実弾でも出たんでしょうかと(あの材料で下がるにせよ50銭安くらいでしょと思ったんですが)いう感じでしたが、まあ何はともあれ大下げとなりました。基本的に下げていくところでは先物一人旅みたいな場面も多かったのですが、後から現物が追いついてくるので、現物に対するロスカットの動きもあったんでしょうな。よー知らんが。
で、先物的に見ますとザラ場中の安値は134円割れということで14日のザラ場安値を切ってしまいまして(辛うじて引けは14日の安値の上でしたが)チャートさんとしてはよろしくないですなあという感じでございますな。
んでまあこの先物下げ下げなんですけど、インフレ懸念とか色々言われているのですけれども、原因のうち半分くらいは先物のシステム変更(画面更新速度を早くした)によるものではないかと思うんですよね。先物をぶん回す人たちの要請がうるさく、ついでに日経新聞あたりでも特集書かせ記事なんぞが出ていた(先物注文が反映されるのが遅いので海外ファンドが売買しにくいだの何だのという話)ということで、先物の更新速度を早くしたんですよね。で、先物の値動きは早くなったのでCTAみたいな先物アウトライトでぶん回す人たちには好評なんでしょうが・・・・・
先物の値動きが早くなり過ぎる
↓
値動きが早すぎるので指値注文をおきにくくなる
↓
板がスカスカになりより一層値動きが早くなる
という悪循環でどんどん値動きが過激になるのですが、この結果として現物債券の売買にどういう悪影響が来るのかと申しますと・・・・
先物の値動きが早くなる上に大口執行がやりにくくなる
↓
現物売買のヘッジに使う人たちのヘッジコストが余計にかかる
↓
現物売買のオファービットが拡大
↓
大口執行のコストが益々拡大する
という結果どこに最大の影響が出てくるのかと申しますと、それは国債入札でございます。即ち、国債の入札というのは要するに財務省が行う新規国債の「大口売り」なのでありまして、以前のように債券先物の板が揃っており大口執行のコストもそれほどでかくなかった時と違いまして、現在は例えば数百枚の売買するだけで何ぼ先物が飛ぶか判らんという状況になっている訳ですから、入札という名の財務省の国債大口売却のコストも余計に必要になるという次第。また、オファービットが拡大するということは投資家としては売買執行コストが上昇するので、まあ買いの手がその分引きますわなという事でして、相場全体としての買いパワーが落ちるので相場が下がる要因にもなっていると思われます。
従いまして、5年だの10年だののように先物との連動性がそこそこ高くて発行量が2兆円近くと大きい債券の入札が特に4月以降じゃんじゃん流れるのが普通になっているという訳でございますわな。いやまあ業者の体力低下とかの要因もありますけど、先物のシステム変更に関しては非常に問題でかいと思うのでありますよ。
で、聞いた話では東証様におかれましては今回のシステム変更はグローバルスタンダードにあわせる一環であるので何が問題あるのかというお告げのようでございまして、ああやってることが10年前の大失敗システム変更と全く変わってないなあという所であります。確かに売買のTick数とかアホのように増えてますし、取引高もまあちょっと動くとそこそこ増えてますので、東証だけを見ればシステム変更で売買活発化して良かったですねとでも言いたいのでしょうけれども、現物の国債を動かしている人たちからすれば、流動性が落ちて売買執行コストが上がるわ、新発国債入札のリスクが上がるから入札が流れて国債発行コストが上昇するわと、どう考えても先物は栄えて(いるのかどうか怪しいですが)現物滅ぶの図となっておりますな。全く困ったもんです。
#本件に関してはまた稿を改めて書こうと思いますが、経済実態と長期金利が全然整合性が取れない動きの中にテクニカルな物が混じっているように見えるのは何ともなのであります
○白川総裁会見の続き
http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk0805b.pdf
前任者と違いまして、会見要旨を読むと(本人もそう発言してますが)学校の授業のようであります(前任の会見はありゃエンターテイメントでございます)ので、行間を読むとか不規則発言の裏を読むとかいうような作業は不要でして、読みやすい会見でございます。
従いまして逆にこちらで肴にして楽しむという行為が出来ないのが誠に残念ですが(^^)、どう考えてもこの方が良い状況なんでしょう。
・本邦のサブプライム問題
『(国内金融機関のサブプライム問題について)この影響につきましては、赤字の先も含めまして、損失額が金融機関の経営体力で十分吸収可能な範囲にとどまっておりますし、現時点でこのことがわが国の金融システムに対して何か大きな影響を及ぼすとは考えてはおりません。』
『もちろん金融機関の収益を今後も注意深くみていきますが、金融機関の貸出態度への影響や景気への影響などもう少し広い観点で捉えてみますと、欧米では、このところ相次いで発表されたローンサーベイ、つまり金融機関の貸出態度をみるアンケート調査の結果が期を追うごとにかなり厳格化しています。これとの比較でみますと、日本の金融機関の貸出態度はそれほど大きな変化があるわけではありません。』
『中小企業、特に零細企業について、金融機関の貸出態度が少し厳しい方向に向かっている、あるいは資金繰りが厳しい方向に向かっているということは、私自身十分認識し注意深くみておりますが、全体としては、金融面から景気を支える力が弱くなっていっているとか、あるいはその危険性があるとはみておりません。』
即ち、国内金融機関に対して資本増強策などのようなものが必要になる事態になるのかという面と、貸出態度の悪化に繋がり、企業金融としての金融引き締め方向になるのかどうかという面を注視しますというお話でございます。極めて判りやすい。
ところで、中小零細の貸出態度って暫く前に保証協会が全額保証をするのを基本的に止めたってのはどう影響しているのでしょうか。。。
・物価上昇の影響について
今回の質疑応答は物価上昇の話がやたら多く、その一環(?)としてどこぞのテレビ局がアホウ質問をしたのでありますが、実は最初の質疑で説明は終了しているようなもんなんですよね。以下引用しますが、やたら長いので段落わけしながら。
『(問) 先程お話に出ました原材料をはじめとするコスト高の問題ですが、世界経済にとってどのような影響があると総裁ご自身はお考えでしょうか。』
『(答) この問題を話し始めますと、大学のゼミのようになってしまって気が引けるのですが、各国によって状況は違ってくると思いますから、最初に多少筋道をお話しして、その上で日本を中心に説明した方が良いと思います。』
『エネルギー価格が上がっていく場合、日本のような消費国からみると、外から入ってくるモノの値段が上がるという意味で供給ショックと映るわけですが、他方で、この価格上昇の背後には世界経済全体の需要増加があるわけです。そういう意味では、需要ショックという性格も持っています。経済の影響を考えていく時には、物価上昇がどのような性格のものなのかを考えていく必要があると思います。』
『日本からみた場合、交易条件が低下する、悪化するという点で、先程説明した通り、日本全体の所得形成の力が弱くなっていくわけです。従って、設備投資や消費に悪影響を与えていくものであります。これは明らかにマイナス要因ですが、交易条件が日本で悪化している、すなわち消費国で悪化しているということは、産油国を中心に交易条件が改善しているということですから、その地域への輸出が増加するという性格を持つものであります。現在日本は、内需は弱くなっていますが、輸出は非常に堅調を続けているわけです。これは、交易条件の悪化と改善の裏腹で起きている現象とも言えるのです。』
『そうしますと、経済全体の需要はマイナスとプラスの力のどちらが勝るのかという観点で考えていく必要があると思います。また、仮にマイナスの力が勝るのであれば、経済全体の需要が弱くなるわけですから、物価が下がるという力が働きます。他方で、物価が原材料を中心に上昇し、仮にインフレ期待に火が付けば、これは2次的3次的な物価上昇を引き起こすことになるわけです。このように、物価の面でも下がる要素と上がる要素の両方が存在します。』
『以上の通り、景気についても物価についても必ずプラス・マイナス両方の要素があるため、一義的に答えを出すのは難しいと思います。世界経済全体への影響とのご質問ですが、各国は、世界の各地域における今申し上げたような要素を勘案しながら、金融政策を運営しているわけです。最終的にどのような金融政策をとるかによって、その国の景気・物価の姿は変わってきますが、先程説明したような整理をしつつ、各国は、自国の状況に応じて金融政策を運営しており、日本も同様に政策を運営していくということだと思います。』
これを前任者が説明するとかなりエンターテイメント性が上がり、サービスフレーズが増える結果ヘッドラインリスクになりそうなヘッドラインを2本くらい打たれそうな感じが致しますな(^^)。白川さんの説明は確かに学校の授業みたいな説明で。
・引用していると長くなるので以下あたくしが勝手にまとめると
質疑応答は3分の2くらいまで景気認識と物価に関する話が多くて、説明が丁寧かつちゃんとしている(変なたとえとか不規則発言とかが無い)ので、まあ皆様におかれましてもお読みになられたほうが吉なのでございますけれども、一応あたくしが読んだ感じだとこんな所ですか。
・いわゆる金融環境に関してはそれほど大きく変わっていない
・従って現状の金融環境は緩和的な状態で景気下支え要因になっている
・交易条件の悪化で一番注目しているのは設備投資
・物価上昇に関しては数値自体は上昇するけれども所謂世間で言うような「インフレ懸念」という懸念は今のところ無さそう
という感じになるんでしょうか。しかし総裁会見で「三面等価」という言葉が飛び出すとは(^^)。
#議事要旨は明日にでも
2008/05/23
お題「ああ輪番」
全部書き終えたところで最初に追記しますと、本当はやる予定だった白川総裁会見要旨のちゃんとした部分の引用は輪番話で時間がいっぱいになっちゃったので今日はパスでございます。誠にあいすいませんm(__)m
○輪番結果は予想通りだったんですが
昨日は想定されたとおり輪番(国債買入)オペが実施されました。で、米国のトリプル安に反応したのか何だか知りませんが、昨日は前場から先物から10年が弱くて前場からドカドカ下がったのですが、償還銘柄の輪番打ち込みパワーの勝ちでして、輪番の結果は平均15毛8糸甘で足きりが15毛3糸甘の全取ということですので、どう見ても6月償還銘柄の打ち込みです本当にありがとうございましたという所で。
後場になって5年29回だったかで21毛甘(単利で0.58%)がブローカースクリーンで出合っていたというのが尚のことチャーミングでしたが。
で、まあ先週金曜の結果とか、前日の業者間気配(償還銘柄で堂々の10毛甘オファービット無し)から大体こういう結果になるのは予想できてるはずなんですが、何故か輪番の結果出た後先物とか長期ゾーンとか尚叩かれて先物は100銭安とかに下げやがったのは何なんでしょという所でございます。
いやまあ後付でこのテーマを売り材料にしますと・・・・
・従来は相場が下がっている時に輪番では長期、超長期ゾーンが入っていた
↓
・ここのところ期近債がやたらだぶつくようになっている
↓
・輪番オペで相場の上下に関わらず常に期近債が打ち込まれる
↓
・相場下がった時の長期、超長期ゾーンのバッファが無いじゃん
↓
・アヒャヒャヒャヒャ
こうですか、わかりません(><;
○期近債が輪番にドカドカ打ち込まれる状況は如何なものかと
えーっとですな、ご案内の通り輪番オペは成長通貨供給オペということになっております(償還乗換ルールの変更によって・・・という話は以前したがここで蒸し返すと話がややこしくなるので割愛)ので、輪番オペが建前として意図している中長期国債の買入ではなく、超短い銘柄の投げ場所になってしまっているのは輪番の趣旨と違う使われ方で遺憾でございましょう。
#それを言い出したらさっき上で書いた「輪番が長期超長期ゾーンのバッファ」というのも輪番の趣旨とは関係ない世界ですが(^^)
で、まあ期近債の問題というのは今に始まった話ではなく、以前から投資家が償還まで持たないで途中で売却するという事象はあったんですよ。ただまあ最近その売却が妙に多くなってきて買い手の余力をオーバーしてきたってことでしょう。
償還銘柄というのは振替決済停止期間入りしちゃいますと担保として使えなくなりますので、停止期間入りした時点でただの金食い虫になる訳ですな。で、従来ゼロ金利だ量的緩和だと言ってた時は保有コストがどうのこうのってのはあまり関係無かったんでしょうが、まあ無担保ファンディングのことを考えたらあまり持ちたくないでしょというのが1点目。
ご案内の通り、5年、10年、20年の利付国債は毎月発行するのですが、償還が4半期毎になっていまして、漫然と全銘柄を償還まで持ち続けると4半期毎に償還の山がやってくるので再投資の事を考えると良くないですから、償還が来る前に売却して長いものに入れ替える再投資を適当に分散して行うことによって再投資リスクを軽減するでしょというのが2点目。
他にも要因あると思いますが、そもそも期近債が市場に出てくる理由はその2点かなあと。ただし2点目の方は何も償還間際になって売らなくても良いわけで、普通に長期ゾーンをポートフォリオにしてたらもっと前からある程度分散しながら短いところを外してきますけどね。
で、従来は元利金取扱手数料が結構な額入るので、それを狙った買いがあったりしたのですが、こちらは10月以降大幅減額になるので、まあ今後はファンディングと関係ない公社債投信みたいなマネーのみがこの辺の受け皿になるんでしょう。計理(タイポではない)処理の問題があるので割引債対比で利付債は実は嫌われるんですけどね。
と、背景はそういう事なんですが、まあそんな訳ですのでこの調子ですと特に償還銘柄の残存が1か月を切るあたりからは輪番オペに入るのが全部償還銘柄というような素敵な事態が続くのは必定。それで良いというのなら良いのですけれども、輪番の建前と違う状況が継続して良いのかよというのはあるでしょう。
#副次的には(政策意図と全然関係ないですが^^)長期、超長期ゾーンのバッファが無くなるというのは債券相場的な輪番減額みたいな心理効果(なぜ心理効果かというと、そもそも期近債問題が無くても輪番で長期ゾーンが入るケースがそんなに多くなかったというのがあるので、実際の効果は別に「月に1.2兆円」じゃないのです)になっちゃいませんかねというのもありますね
○で、どうしましょ
てな訳でお節介なあたくしはこんなんどうでしょというのを知人友人と与太話をしたりしながらあたくしの無い頭を捻って考えるのであります。
・入札方式の変更
現在は日銀の指定する単利利回り(実際には売買参考統計値の平均単利)からの利回り較差競争入札になっている輪番の入札方法を価格較差競争入札にする
→相場が上昇するか、カーブがツイストフラットでもしない限り超長期ゾーンばかりが打ち込まれる。期近債の件を除けば利回り較差競争入札なら当日のイールドカーブ上一番安くなっている所が打ち込まれるので現状の方が債券市場への関与がマイルド。
・期近債を募入対象外にする
成長通貨供給オペの趣旨に鑑み残存のどこかで切って期近債を募入対象外にする
→ただでなくさえゲロゲロの期近債が益々ゲロゲロになるのと、償還銘柄のファンディング問題で4半期末月の20日近辺になると足元金利やGC・現先レートがやたら跳ねる
・短期国債買入の活用
輪番の募入対象から残存1年以内の銘柄を外し、短期国債買入オペを拡大して残存1年以内の中長期国債を募入対象にする
→オペの意味付けでのロジックをどうするのか(短期の資金調節で形の上では中長期国債の買入ということになる)という問題や、買入した中長期国債を償還乗り換えするのかしないのかという問題が生じそうですが、ロジック問題と応札のシステム対応を除けば一番スマートな気がします
オペのサイドから思いつく(というか一部に知人からの入れ知恵が含まれておりますが^^)のはそんなところですが。
・償還銘柄を担保として使えるようにする
例えば銀行で言えばバンキング部門の売りは従来どおりになるにしても、トレジャリー部門での買い余力が発生するんじゃないかと勝手に愚考するのですがどうでしょう。
→昨日も書きましたが、振決担保口で償還処理とかって双方ともに事務が回らなさそうな悪寒なので一朝一夕にはできなさそう
・元利金取扱手数料が下がるまで様子見
そもそも10毛甘だの15毛甘だの(来週は20毛甘ですか)とかいうような打ち込みになるのは、売買参考統計値などが元利金取扱手数料の収入部分を加味したモノになっているのも原因でありますので、その手数料が下がる10月償還銘柄以降になって尚も壮絶な打ち込みが来るのかどうかを見るというのも一法。
→ただし、9月までこの調子で輪番に期近債が打ち込まれるのは本当に容認できることなのかとか、償還銘柄持ち切りコストの回避で叩き込む成り行きパワーが継続した場合は結局状況が変わらなかったりしますわなという話も
などなど、色々とございますわな。輪番増額というのもありますが、またぞろ外野で物議をかもし出しそうなので無理でしょうな。
ということで、輪番と短期の話というもはやマニアにも程があるお話が延々と続いて白川総裁記者会見の続きが全然できなくて甚だ申し訳ありませんでした。
2008/05/22
お題「中央銀行の独立性/その他ひとのふんどしシリーズ」
米国トリプル安キタコレ。
ということで(どーゆーことだ)白川総裁会見。
http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk0805b.pdf
例によって説明が丁寧なので1回で紹介しきれない(本日は人のふんどしシリーズもあるので)ものと思料。と最初からヘッジクローズ。
○他の部分の引用が明日回しなので先にあたくし的感想
総裁会見の中で例によってロイター日本語版が妙に利下げっぽいヘッドラインを打ち込んで相場が反応してましたけど、会見のトーンでは目先景気に下振れリスクを強調するのと、物価上昇=利上げではないというのを強調しているように見えます。で、あたくし勝手に想像するに、日銀は物価の先行きを結構強く見ており、かつてのCPI時間軸の残像がある中では、物価上昇=利上げという発想から市場が勝手に利上げ催促みたいな動きをしてきて金利が上昇するのはよくないと見ているんじゃねえのかと。コアCPIが早晩前年比1.5%位まで上昇していくと見て、その際に市場が走るのを抑えるために事前に「経済指標は悪いでしょ」って面を強調してるのではないかなあって思うのですが、裏読みのし過ぎでしょうかねえ(笑)。
ということで、まあ下振れリスクへの言及は多いですかね。
○中央銀行の独立性に対する白川総裁の説明
本石町日記さんのエントリーで触れられていた問答ですが、白川総裁の回答があまりにも素晴らしいのでやはり全文引用すべきではないかと思い(量が多くなるのは勘弁)引用。質問のアレな内容と比較してお楽しみください(手抜き)。
『(問) 先般来ずっと続いている物価上昇の話ですが、奥様方の持たれている感覚ではとても1%程度というような感じではなく、もっと上がっており、1%などと言われるととんでもないという次元にきていると思います。そうした中で、注意深くみると言われても、どこをみているのかという感じがするのだと思います。その辺りのずれをどう説明されるのか、ちょっとずれ過ぎている感じがするのですが。』
文句は総務省にされた方がよろしいのではないでしょうか(笑)。回答は長いので段落分けします。
『(答) 物価指数と物価についての実感が食い違っているということは、今回の局面に限らず、これまで繰り返し言われてきている話です。私が日本銀行に入った1972
年、その直後に狂乱物価というものがありました。局面によって若干程度は違いますが、物価指数と物価の実感が違うというのは、実はずっとある議論です。2000
年以降で考えますと、物価指数が若干マイナスになりましたが、あの局面ではデフレの実態としては、指数で表されるよりも実はもっと物価は下がっているのだという議論もありました。現在は逆方向の議論ももちろんあるわけです。』
いきなりここで終了でも良さそうですが(^^)、その後がまた丁寧なのよ。
『ただ、物価がどのくらい上がっているかは、結局はその人が購入しているもので判断するわけです。例えば、主婦が物価が上がっていると感じるのは、現実に毎日買い物に行って買う食料品や身の回り品が随分上がっているからであり、購入頻度が高いものは今非常に上がっていますから、とても1%どころではないと感じるわけです。家計が購入するものを統計で調べて、支出ウエイトを計算して算出した物価指数を項目別にみますと、購入頻度は高くないけれども非常に値段が張るもの、すなわち耐久消費財は、例えばパソコンのように、消費者物価指数の上では価格は下がっているわけです。』
『中央銀行の金融政策は1つしかありません。1つの金融政策、1つの金利で経済全体の調整をしていくわけです。現在の物価指数は100%正確に物価を映しているとはもちろん言えませんが、しかしある程度客観的な支出のパターンに従って上昇率を計算したものであり、これが物価指数だと思います。』
『物価指数の動きについて、例えばコンマ幾つの動きについて上がった、下がったということをこと細かく議論しても、私はあまり意味がないと思います。ある人は物価が10%も20%も上がっていると感じる一方で、ある人はやや下がっていると感じるように、感覚で判断するのはなかなか難しいと思います。長々申し上げましたけれども、私どもは物価指数をただ単に機械的にみているわけではなく、物価指数の背後にある経済の動きを注意深くみながら、その上で物価の動きを判断していることを理解して頂きたいと思います。』
何という懇切丁寧かつ完璧な説明・・・・で、完封されて悔しいのかこの質問者まだ絡むのでありました。どう見ても馬鹿質問です本当にありがとうございました。
『(問) そうすると年金受給の人などは、物価スライドがかからなくなるわけで、どんどんお金が使えなくなってしまうという状況が、もう目の前にみえてきてしまうわけです。預貯金の金利についても、下振れリスクなどと言われると、もう生活面で非常に厳しくなることだけが目立ってしまうのですが、それで良いものなのでしょうか。』
年金需給を支える現役世代や新卒時代に就職氷河期で預貯金もままならない若い世代のことも思い出してください(><;
『(答) 金利の上げ下げは、債権者と債務者で当然相異なる影響を与えるものです。金融政策を運営するという立場に身を置いた場合、それぞれの立場からの悲鳴、苦しい状況についてのお話に十分共感し、理解する力、感覚は非常に大事だと思います。』
そしてこの次が白眉。
『しかし、中央銀行が独立性を持って金融政策を行うということは、それぞれのグループの狭い意味での利害に配慮して金融政策をやっていくことではありません。そうした行為は、結局金融政策の自殺行為になると思います。金融政策を行うにあたっては、相異なる利害を持った人達に対して色々な影響を与えることを十分認識し、それに対する感性を持った上で、最終的には、経済が持続的に成長するということを目的に運営していくしかないと思います。そして、なぜこのような政策を行うのかについて、十分に説明する必要もあると思います。』
いやもうあたくしがコメント入れるのが申し訳ない位の説明でございます。
『今ご指摘の年金生活者の苦しみ――これは大変大きな問題ですが――、一方で景気が悪くなった場合に職を失うという人の苦しみももちろんあるわけですから、物価安定のもとでの経済の持続的な成長という1点に照らしながら、金融政策を判断していくしかなく、そのために中央銀行は最大限の努力をし、誠実でなくてはならないと思っています。』
で、昨日はURL貼るの忘れましたが、本石町日記さんのエントリーはこちらです。この手のネタを出すとコメント欄に変なのが湧いて来ますなあ(苦笑)。
http://hongokucho.exblog.jp/8630225/
なお、質問したのは政治経済問題に関する扇動報道を毎晩垂れ流す(らしいようですが、あたくしは社会人になった途端に馬鹿馬鹿しくなって見るのを止めたのでよー知らん)番組を看板放送としているどこぞのテレビ局の記者様のようで。
ところでそのエントリーの中にあった余談関連ですが・・・・
>「主婦」で思い出した。先輩から聞いた昔話である。
というところで紹介されていたエピソードも何か脱力モノですけど、
>その時のやりたい金融政策を実行するために都合よく世論を取り入れるのは余りにもご都合主義で、政策ロジックもあったものではない。このアイデア、何とか潰したらしいが…。だれのアイデアかって? こういうサービス精神旺盛なことを考えるのはまあ一人しかいないでしょう(苦笑)。お察しください。
サービス発言が旺盛で会見などで不規則発言をするのが仕様になっていたこの前まで執行部にいた人ですね、わかります(^^)。
まあ白川さんはロジカルかつ丁寧な説明をするので、結論先にありきで政策ロジックもあったものではない前任(あ、言っちゃった)と違ってこのあたりはちゃんとやってくれそうですよね。と、ここまでやったら既に量が膨大になっているので肝心の部分は明日になってしまいます、申し訳なし。
○人のふんどしシリーズその1:これはこれは
人のふんどしといえば本石町日記さん。
http://hongokucho.exblog.jp/8636208/
ほうほうなるほど。で、郵政ネタがでるとこれまた変なのがコメント欄に湧くのも仕様でございますな(^^)。
さて、たぶんスケジュール的には今日当たり輪番オペが実施されると思うのですが、四半期末は通常月と比較して国債償還が多いので、その分償還銘柄の打ち込みも多くなるものを思料されます。で、相変わらず売買参考統計値とかは元利金取扱手数料見合いの値付けになっている部分がありますので、今日もし輪番やったら償還銘柄をまたまた大甘で打ち込む人が出るに1万ジンバブエドル。
しかし何ですな、短国買入が落札結果から逆算すると残存9か月から11か月あたり入ってそうなのに、輪番は残存1か月とかしかが入っていますってどんなギャグだよと思ってしまいます。いやまあ輪番で償還したものは1年短国に償還乗り換えしてくれるからトータルで見た足は辛うじて長いのですけれども(乗り換えした後は現金償還)。
償還銘柄を担保に使えるようにすればちったあ状況良くなるような気がしますが、振決担保口が償還処理ってのはたぶん手作業になるんでしょうし、担保管理するほうも大変なことになるから一朝一夕にどうのこうのって訳にも行かないでしょうけれども。。。。。
○人のふんどしシリーズその2:また格付けの問題
人のふんどしといえば厭債害債さん。
http://ensaigaisai.at.webry.info/200805/article_10.html
あたくしは時事メインで「FTがこう報じている」というのを見ただけという手抜きバージョンですが、時事メインの記事によりますと間違いに気が付いてからも放置してたとか書いてあった(と思う。違ってたらスイマセン)次第で、いやもう外部格付けの信頼性という話になったらバーゼルUなんぞもいきなり涙目という状況になる訳で、もう笑ってしまうしかございませんわな。LIBORといい格付けといい、いやはや何なんでしょ。ま、発行体に営業掛ける格付け会社とか何だかね〜って感じでしたからね。
2008/05/21
お題「金融経済月報/その他人のふんどしシリーズ少々」
本石町日記さんのところにあった最新エントリーは中々。で、質問した記者どこの所属なんでしょう。
○5月月報:住宅と物価を上げて生産をわずかに下げる
http://www.boj.or.jp/type/release/teiki/gp/gp0805.htm(5月)
http://www.boj.or.jp/type/release/teiki/gp/gp0804.htm(4月)
今回は全体的な内容はそんなに変わっていないのですが、生産、住宅投資、物価というポイントで表現が微妙に変化しているのが目に付きました。
・住宅投資を(目立たないけど)上方修正
現状認識部分の項目別展開で住宅投資の表現を比較すると。
『住宅投資は緩やかに回復している。』(5月)
『住宅投資は、回復に向けた動きがみられるが、なお低水準となっている。』(4月)
明確に「回復」ということになりました。で、先行き見通しですが。
『住宅投資は、回復傾向をたどるがそのテンポは緩やかと予想される。』(5月)
『住宅投資は、回復に向かうがそのテンポは緩やかと予想される。』(4月)
「向かう」だったのが「傾向をたどる」ということで、回復が継続という表現に前進しております。住宅投資は寄与がでかい話(だと思ったのですが)なので回復となってきたのはそこそこ重要ではないかと。
・生産を現状判断だけ下方修正
先行き見通しの部分は変わっていないのですが、現状判断を下げております。
『生産は横ばい圏内の動きとなっている。』(5月)
『生産は、やや強めに推移した昨年後半の反動もあって、このところ横ばい圏内の動きとなっている。』(4月)
このヘッジクローズみたいなのが外れたのは上なのか下なのかという質問をいただいたのですが、こういうときはこのヘッジクローズがどういう経緯で入ったかを確認するのでありまして、この部分の表現が4月と同じようになったのが3月でして、2月までは『生産は増加を続けている』となっており、それが3月に上記4月と同じ書き方になりましたって経緯になってるんですよね。となりますと、3月に入れたヘッジクローズは「このところ横ばいなんですけど、それは反動減の為に横ばいになっているだけで実は強いんですよ」というのが言外に込められていると見るのが妥当かと。
即ち、その込められた言外の気持ちが外れて「いやあ横ばいですよ横ばい」となっているのでこれは下方修正と解釈することになろうかと。いやまあ全文の方読めば簡単に判るのかもしれませんが。
・物価を微妙に上方修正
CPIの現状認識部分
『消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、石油製品や食料品の価格上昇などを背景に、昨年末頃からプラス幅が拡大し、足もと+1%程度となっている。』(5月)
『消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、石油製品や食料品の価格上昇などを背景に、昨年末頃からプラス幅が拡大している。』(4月)
物価安定の理解における中央数値でありますところの+1%という数字を明記したのはこれは意味があるでしょ(^^)。
CPIの先行き部分
『消費者物価の前年比は、経済全体の需給が概ねバランスした状態で推移するもとで、石油製品や食料品の価格上昇などから、プラスを続けていくと予想される。』(5月)
『消費者物価の前年比は、経済全体の需給が概ねバランスした状態で推移するもとで、石油製品や食料品の価格上昇などから、プラス基調を続けていくと予想される。』(4月)
需給ギャップがゼロ近傍の中で原材料価格などの上昇に起因した物価上昇が継続するという見込みは変わっていない(従って物価上昇は利上げじゃなくて利下げ方向に向かう場合もありますという事ですな)のですけれども、「基調」という文言が外れたので、消費者物価上昇に対する見方は上昇に関して確信度合いが高まったということですな。
ただまあ今申し上げましたように、経済の需給バランスが均衡した状態での外部要因による物価上昇は交易条件の悪化とか実質購買力の低下という話になるので、金融政策の方向性としては引き締め方向には行かないでしょという所は勘違いしないほうが吉かと。ただし下方リスクが弱くなるとか、需給バランスが需要超過という状況になるとかになりますと話がだいぶ変わってくるのでこれまた注意が必要かと。
○人のふんどしシリーズその1:証券アナリスト協会の決算
月曜にあたくしがしょうもない悪態をついた証券アナリスト協会様でございますが、厭債害債さんが物凄くちゃんとしたツッコミを入れていました。あたくしのチンピラゴロツキなツッコミクオリティとは大違いでもうアセアセでございますがな(^^)。
証券アナリスト協会の決算について噛み付いてみる
http://ensaigaisai.at.webry.info/200805/article_6.html
『毎年の予算における収入が15億円程度でBS上の資産規模(特定資産を除く)が30億円程度しかない団体における3億円の評価損はちょっと大きいかな、と。投資信託での損が大きいからヘッジファンドとかやってたのかも?』
証券アナリストの元締めですから高度な最新の理論に基づいて投資先を選定した結果、理論の限界を身をもって示そうとしたんですね、わかります。
『ワタクシがちょっと解せないのは、この規模の評価損にも係わらず、投信とか株とかいう資産区分ごとの損失額以外には事業報告書に一切詳細が開示されていないことです。』
ま、1万人じゃ効かなく会員がいる社団法人なのに総会の会場が「当協会会議室」という時点でまあそういう所なんでしょうな。
で、反対票送るよりも(過半数の反対が集まらない限り^^)総会不成立にしたほうが破壊力が(以下自主規制)。まあこれが某巨大掲示板だったら「全員で総会に出席するOFF」でもやって総会に1000人くらい出席して(以下自主規制)。
○人のふんどしシリーズその2:杞憂ですよね
先般ニュースで見ていて非常に不愉快だったどこぞの政党の勝手ガサ入れパフォーマンスですが、branchさんのところでも言及が。
http://www.seri.sakura.ne.jp/~branch/diary.shtml
(5月18日のあたりです)
確かにニュース画像にあった音ではbranchさんが書いたような発言(というか怒鳴り声)が聞こえておりまして、そもそも満員電車に乗って帰れるような時間になるように質問通告とかしてるのかねミンス様はとか思うのですけれども。で、最後の部分に(だけじゃなくて全体的にもそうですが)激しく同意です。
『民主党のセンセイ方のご認識では、国会議員は国政調査権の行使主体であるからそれを行使して国の行政機関を検査する権限がある、ということのようで。まあなんというか、政権交代を視野に入れた参院第一党でいらっしゃるのだから憲法の規定(しかも一番身近なはずの国会関係)くらいはしっかりとお勉強しておいていただきたいなぁ…、というのはぜいたくな願望なんですかねぇ。('A`)
』
で、このガサ入れ画像みてて物凄く変な想像しちゃったんですけど、もしかしてこの政党が政権取ったらてめえらの政策に反対する人間は抵抗勢力の非国民だから令状なしで捜査しても良いとか言い出して勝手に党員の突撃隊みたいなのがガサ入れとか来るんじゃねえのとか考え出しちゃいましたよ。
いやまあ勿論民主党大嫌いなあたくしのバイアスが死にそうな程入った杞憂ではございますが、やってることが何せ法令の俺様解釈(例のパフォーマンスって「道路特定財源で使われたタクシーの領収書などを探すため、菅代表代行らは職員の制止を振り切って、館内を歩いて回った」っていう位ですから普通に建造物侵入でしょ)という政党様でありますので、そういう政党が政権を取ったら罪刑法定主義もへったくれもなく愛国無罪モードになるんじゃないかとか真面目に恐ろしくなってくるんですけど。
メディアもそういう暴走を止めないと行けないと思いますが、それを煽るのがメディアですからねえ(吐息)。
ちなみにどうでもいいですが、「後ろめたくないなら見せなさい」などと言われても挙証責任は先方にありますので、任意で応じる必要はございませんし、応じると碌なことになりませんわな。これ豆知識。
○予告編:ネタのネタ状態のものを箇条メモ書き
最近書いておかないとすぐ忘れるもんで備忘メモね。
・レバレッジ投資に関する日銀ペーパー読み
・ベターレギュレーション関係
・期近債が輪番オペにドカドカぶち込まれる件について
・最近の中長期国債は何でホイホイ流れるのかという考察
・日銀の副総裁人事と審議委員人事が全然決まらない件
2008/05/20
お題「ネタも無いのでひねもすネタ探し」
ということで、困ったときには国会か金融庁といういつものパターンで参ります(^^)。国会ネタなので引用が多くてやたら長いのは勘弁してください。
えーっと実は日銀からレバレッジを効かせた投資(というか要するにヘッジファンドみたいなもん)に関するペーパーが出てまして、これが金融市場局じゃなくて信用機構局から出ているというのにちょっくら興味がある(出している部署が、という意味ですよん)のですけれども、中身を読んで「ほほう」と思ったのインプリケーションは現在検討中ですので、そのお話はまたいずれ。内容そのものはコンパクトでよくまとまっていたと思います。
ではまあ金融庁様から。
○金融士構想続き
5月9日渡辺担当大臣様の記者会見から。
http://www.fsa.go.jp/common/conference/minister/2008a/20080509.html
『問) 先週、金融庁、金融専門人材に関する研究会が出しました(金融専門人材についての)基本コンセプトについてなのですが、大臣は過去、著書の中でご自身も「金融サービス士」という資格制度について言及されているのですけれども、これから広く意見を募るということでまだ形がどうなっていくのかというのは見えないのですが、民間の方では趣旨をめぐって不安に思っている方もいらっしゃるようです。改めて資格制度についてお考えをお聞きしたいと思うのですが。』
いやあの趣旨をめぐって不安なんじゃなくて民間総出でブーイングなのですがまあ質問するだけエライか(笑)。
『答) 資格を作ることを決め打ちしているわけでは全くございません。金融専門人材を養成するにはどうしたらいいだろうか、という問題提起をしているところです。懇談会においては、民間資格も含めて議論をしていただいたわけです。このような金融専門人材、なかんずくコンプライアンス関係に詳しい人たちがいろいろな分野に散らばって配置されていれば、コンプライアンス感覚の共有が相当できるようになると思います。発行会社にも証券会社にも自主規制機関にも、また監督当局にもそのような人材が散らばっていることによって、いわば生態系の秩序が維持されるようになると思います。そうすると行政のコストは肥大化せずに済むようになるわけです。』
コンプライアンスの話が強調されているようですので、要するに今の金融業界の中にいる連中は法令遵守の意識が極めて低くお話にならないというわけですね、わかります。
『我々は金融自由化の流れの中で、護送船団方式を止め、つまり事前の統制方式を止めたわけです。事前の統制というのはある意味では行政のコストが非常に小さくてすむわけです。箸の上げ下ろしまで統制していくわけですから、そんなに大きなコストは必要ないのです。しかし、事後チェック方式に大転換するということは、民間にはどうぞご自由にやってください、一方ルール違反は徹底して取締りを強化します、という一般的な流れなのです。そうすると、逆に行政のコストが非常に高くなってしまうということがあり得るわけです。』
一般論としてはそりゃその通りですが、事前の統制方式を止めたとかあの金商法関連の(以下物凄い勢いで自主規制)。
『したがって、我々は行政のコストを肥大化させずにルールとプリンシプルに基づいて民間がより自由な経済活動ができるようにするにはどうしたらよいか、ということを考えた結果、やはり金融の専門人材が圧倒的に不足しているのではないか、と考えてこのような提案をしたところでございます。是非、いろいろなご意見をお待ちしております。』
ただのコンプライアンスオフィサー養成の為にわざわざ新しい制度を導入するのですか、意味判りません。というか別に資格をなんぼ作ったってそれとこれとは別問題ですし、既に証券外務員やら内部管理責任者やら証券アナリストやらで行動規範がどうのこうのとかやっておりますけれども。既存の内容を充実させれば(既に十分充実してると思いますが)宜しいのではないでしょうか。
あと、話は違いますが、昨日夕方に『「ベター・レギュレーションの進捗状況について」の公表について』というのが出てたのかな。
http://www.fsa.go.jp/policy/br-pillar4/20080519.html
肝心のレポート中身(上記URL先にリンクがあります)は読んでませんが、本文を読んでいて中身を読むのがある意味楽しみになってきた部分が。
『本レポートをまとめるにあたっては、金融庁の監督対象者に対しアンケート調査を実施致しました。』
いろんな意味でご苦労様でございます。
さて、本日もう一つの査収ネタ(見つけると出し惜しみしないのがドラめもんクオリティなのでいつもネタが切れる訳だが^^)は参議院のオモシロ質問の見学であります。
4月22日の参議院財務金融委員会から。
http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kaigirok/daily/select0105/169/16904220060008a.html
○埋蔵金が好き勝手使えるお金になっている件(民主党富岡委員)
先般は高橋洋一先生(以外の人も参考人で出ていましたけど)が埋蔵金がどうのこうのという件で参議院で参考人答弁をしていた話を5月8日とか9日に致しましたが、その中で9日に民主党の富岡委員がどう見ても埋蔵金をどこぞのヘソクリと勘違いした発言をしていて、大変に懸念しておりましたが、案の定話が無茶苦茶になっておりまして実にファンタスティックとしか申し上げようがございません。
前半3分の1くらい(その前に横峯委員の質問というのがあるのですが^^)のところから件の富岡委員の質問なのですが。
『○富岡由紀夫君(前半割愛)まず当面の問題として、今議論になっている二・六兆円の税収不足について、先週、財政金融委員会で、この委員会で参考人質疑をしまして、先ほどお話ありましたけれども、高橋洋一参考人から、いわゆる財政融資特別会計の埋蔵金、これはもう明らかになっているので、それでもう露天掘りだというふうに表現を改めておりましたけれども、この問題は、幾らでも使えるんだということを結論付けていただきました。』
『要するに、貸出しと調達のコントロールが利く中においては金利リスクなんというのは限りなくゼロに近づけることができると、そういったことを御説明いただきました。そして、二十兆円、金利変動準備金があるんですけれども、そのうち九・八兆円は二十年度に国債の圧縮に使うわけなんですけれども、それすら国債の圧縮に使わないで、必要であれば政治判断で財源不足の、税収不足のところにそれを充当できると、そういったお話もいただきました。』
『この点について財務大臣はどのようにお考えでしょうか、お伺いしたいと思います。』
ほらやっぱり。どうせそうなると思ったって感じでして、引き合いに出された高橋先生もいい迷惑って所でしょうけれども、そもそも論としてこういう手合いは自分の結論先にありきで、それに対する理屈を「専門家」な方面から欲しいだけでして、専門的な知見を政治に生かそうなどとは思ってないんですから、そういう連中の為に国会に出るこたあねえのにという感は思いっきりございます次第で。
ちなみに、9日に引用した4月18日の参議院財務金融委員会での高橋先生の答弁はこのようになっています。
『○参考人(高橋洋一君) 政策論ですからいろんなやり方があるのかもしれませんけれども、多分一番簡単なのは、ただ単に国債を三兆円出せば全く経済効果は全く同じですね。ですから、国債を三兆円更に出して、それを一般会計に入れて、それで九・八兆円償還すればいい。ですから、まあやり方は多分たくさんあります。しょせんお金の話なんで、お金に色は付いていないと言っちゃいけませんけれども、補正を組むもいいし、いろいろとやり方はある。もうテクニカルにたくさんあって、頭に浮かびませんけれども、多分一番簡単なのはただ単に三兆円国債を出せばそれで終わると思います。』
これは要するに埋蔵金を債務圧縮(と書くと誤解されるわけで、これは本来「両建て圧縮」と書くべきですね)以外に使うのであれば、それは財政の手当てが別途必要になりますよという話ですわな。ストックで両建てになっているものなのですから当たり前ですが。ちなみにこれも再掲になりますが、このときに富岡委員はこのように発言しています。
『○富岡由紀夫君 本当にすっきりいたしました。ありがとうございます。そういうことでやろうと思えば幾らでもできるというふうに理解いたしました。(以下割愛)』
あたくしこれを見てどう見ても理解していません本当にありがとうございましたとか書いたのでありますが、まさに予想通りだった所に落涙を禁じえないものであります。
○話がさっきと全然違う件(同じく民主党富岡委員)
後ろのほうでは何か金利が上がると大変なことになるという話をこの人延々としているのでありますが。
『○富岡由紀夫君 国の抱えた借金の残高、そしてこの金利が上昇したときのリスク、もう金利の爆弾とも言うべき非常に大きな荷物を抱えているわけなんですけれども、私は財務省はこれを隠しに隠し続けている姿勢が非常に私は許し難いものがあると思うんですね。』
隠そうと思ったら財政融資特別会計で準備金なんぞ積みませんが何か?
『要するに、金利が上がったら大変なことになっちゃうと。国家予算なんか一気にもう組めなくなっちゃうという状況にあるにもかかわらず、そのことをなかなか触れたがらない。そして、金利をできるだけコントロールしようということで、日銀の総裁人事にもあれだけ執拗なまでにこだわっていたのかなというふうに勘ぐらざるを得ないと私は思っているんです。』
えーっと、財政融資特別会計の調達の足を長くすると長期金利は基本的に上昇方向になるんですけど、まあその話は高橋洋一先生もスルーしてるからいいけど、財政融資特別会計の金利リスクのコントロールはほぼ完全に出来るという理屈を出しながらこっちではその話ですかそうですか。
『要するに、日本の金利をコントロールできないような状況になってしまうと、この財政赤字の問題がそれこそ現実のものとして爆発してしまう、金利の爆弾が爆発してしまうと。そういうことを防ぐために、私は執拗なまでに日銀の総裁人事に財務省の方がこだわっていたのかなというふうに見ております。笑い事じゃなくて本当だと私は思っていますよ。これが、コントロールできなくて、金利がどんどんどんどん総裁が上げるような政策取ってきたら一気に国家財政は破綻してしまうわけですから、これは本当に財務省にとっては死活問題。責任を問われることを避けるために隠しに隠してやってきていると、そういうふうに私は認識しております。』
国家財政が一気に破綻するような金融政策(んなもんがあるのかという疑問はさておいて・・・・)を取るような日銀総裁を選任されても困るのですけれども。というか「利下げはケシカラン」って言ってませんでしたっけ民主党さん。利上げしたら国家財政が一気に破綻するのに利下げはケシカラン利上げしろという事はもしかして(以下自粛)。
○質問通告をしない質問をしたら逆に秒殺された件(民主党大久保委員)
『○大久保勉君 民主党の大久保勉です。まず最初に、道路特別会計等の無駄遣いに関して平井国土交通副大臣に質問したいと思います。(以下割愛)』
冒頭部分で道路特別会計で収入印紙が支出されている件について民主党の大久保委員が追求しているのですが、最初からいきなり「無駄遣い」と決め付けて質問とはさすが結論先にありきですなあという感じですが、質疑の内容もどう見てもトンマとしか言いようがございません。短いので読んで笑うも良し。
『○大久保勉君 この収入印紙は何に使ったものなんでしょうか。まず収入印紙に関しましては、お話を聞きましたら土地の売買に関して使うということなんですが、財務省に質問しますが、印紙税法第五条の二、国が土地売買に関して収入印紙はどういうふうになるか、質問したいと思います。』
で、説明も引用すると長いのですが、要するに売買契約を2通作って双方が保存しますが、国が作る分には税金かからん(当たり前)が、私人の相手方が作る分には税金がかかるという話です。ちなみに国が保存する分は相手が作成したことになるので印紙が貼付されるそうな。で、その印紙を何で国が負担するのかという件について大久保委員が質問してその答え。
『○政府参考人(宮崎正義君) お答えいたします。おっしゃりますとおり、公共用地を取得する場合につきまして、私ども標準補償契約書ということを定めておりまして、それに基づく契約をしておるところでございます。これは官房長通知で出しております。この規定によりまして、共同で契約書を作成する際の私人等が作成する分につきましては収入印紙が必要となりますので、これにつきましては国が印紙代を負担すると。その趣旨は、地権者側の意思によらない公共用地の買収に伴う負担であると、そういったことでございますので、原因者負担の考え方から用地買収をする国土交通省の方で負担するという考え方に立っているところでございます。以上でございます。』
どう見ても完璧な答弁です。本当にありがとうございました(^^)。
『○大久保勉君 私は、決めたのが昭和四十二年、建設大臣官房長、いわゆる役所が勝手に決めているんですよね、建設省が。これに対して、恐らく、四十年間ですから、二十、三十億近くの印紙が使われております。こういったことを国会に報告せず、予算化もせず使っていく実態がおかしいと思います。』
政令や省令の細かい文言や、各省庁でのボールペン代1本の経費まで全部審議するので24時間365日国会で働きますといういうことですね、わかります。
『じゃ、これは相手のために印紙税を負担しておりますが、これはその分相手の方は所得という形できっちり報告しているかどうか。恐らくはしていないでしょう。ですから、国が脱税幇助をしているんじゃないですか。これは財務省、もし、印紙税は本当だったら相手方が何十万か負担しないといけないですよね。これは売買代金でまずもらって、それで印紙を負担しておりますが、この点に関しては何かコメントがありますか。これは質問通告しておりませんから、もしあればということで。』
国相手の売買(というか本件は収用ですが)で所得申告しないんですか?いやあの普通そんな奴はおらんやろ〜って感じですが。おまえ腕上げたな〜。で、税務の観点からは明らか過ぎる質問なのですが、答弁で見事に秒殺されておりまして感動した。
『○政府参考人(加藤治彦君) 通常、売買等で所得を計算する場合に、その譲渡によって要する費用というものを控除できるわけでございます。したがいまして、その費用として、契約の際に掛かった費用の一部として印紙も当然その対象になるわけですが、今先生御指摘のように、実際に印紙税を負担していない場合はその分がそのいわゆる譲渡する者の経費にならない、その分経費にならないという意味でございますので、収入の方に変わりはないと私は認識をしております。』
こういうのを真面目な顔して真面目に答弁する官僚(加藤さんは主税局長)さんって人間出来てるというか何というかもう尊敬ですよ。あたくしなんぞ「お前は馬鹿か」というか露骨に態度に出すかのどっちかですわ(^^)。
『○大久保勉君 ちょっと認識は違うと思いますので、ここは、もう時間がありませんのでここでは議論しませんが、ここでもう一つは、この収入印紙、本当に適切に管理されているかどうか、これは金券ですから、この辺りをまた別途資料を請求したいと思います。(以下割愛)』
認識が違うですか、はいはいワロスワロス。
てな訳で、最近は国会会議録(特に参議院が酷い)ウォッチがただの珍獣観察になっているのが情けないのでございますわな。とほほのほ。
2008/05/19
お題「また債券だけ自爆とな」
○輪番オペ結果以外に材料らしきものは無く
金曜の債券市場はそれまで散々やらかしたこともあり、今日くらいは大人しくまったりという展開だったのですけれども、昼の輪番オペ結果発表後に先物いきなり大下げの巻。で、その輪番オペなんですが、平均落札が10.9毛甘で足切りが10.1毛甘(全取)ということで、前場の引けの普通の銘柄はまあ入らないような結果になりました。しかし金曜の朝に輪番ネタを書いたのは何かの虫の知らせだったのかいな>あたくし
で、別にそれ自体は6月償還銘柄あたりがドカンと入ればそういう結果になってもおかしくない筈なのでありますが、何がどうなったのか判りませんが後場の寄り付きから先物をアホウのように叩く動きになりました。で、例によって例の如く他の市場では別に動意が無かったので債券市場だけの反応という動きでございました。
で、先物を叩くこと叩くことということで、安値134円37銭とあたしゃ水曜の安値28銭を抜くんじゃないかと呆れながら見ておりましたが、当然ながら先物独歩安モードだったのですが、よく見りゃ10年も安値1.71%とか水曜の安値を5糸だけ割っちゃいましたな。5年の安値が1.30%で2年の安値が0.845%(ちなみに全部日本相互証券の出合いベースかつあたくしの脳内メモリーベースでありますので内容無保証)ですから、まあ木曜の先物だけ戻った分のバランスをまた調整したとも言えそうですな。
ということで、水曜に続いて債券市場が先物中心に自爆の巻と相成ったのでありまして、自爆も1度だけじゃなくて短い間に2度も続きますと、こりゃまあ自爆とは実に香ばしいなどとちゃらけている場合でもありませんで、地合いが悪いのか、単に一部の振り回し組に誰も向かわないという悲しい相場状況なのか、まあ困ったもんでありますな。
まーあてずっぽうですけど、あたくしが勝手に思うのは(1)債券先物の売買システム(というか値付けの細かい部分ですが)の改悪により指値注文のリスクが高くなり市場の流動性がガタ落ちになっていること、(2)参加者の体力が落ちていること、(3)それに加えてリスク管理のリスク算定上マーケットのボラが上昇するとポジションが取りにくくなること、などなどが適当に思い浮かぶのですが、最初の先物に関してはかなりウェイト高いと思います。98年(でしたっけ)の先物値付け方式の変更で先物の流動性が落ちて大変な相場になりましたが、あのときの反省とか全然生きてないのかねと東証を小一時間問い詰めたいのですが。
○輪番の話金曜もしましたが
で、釈迦に説法だが輪番がゲロ甘になることの説明。
えーと、輪番オペの応札方式は基本的には前日の引け(日銀が引けリストを出すことになっているような気がしますが、基本的に売買参考統計値の平均単利の筈)からの利回り競争入札になりますので、当日前場引け時点でイールドーカーブ上一番売られている所が応札しやすくなるということになっております。
ところが、超短い債券を成り行きで叩き込みに行く人がいますと話は別。今年の9月償還までは利付国債の償還金支払いに対する手数料が9銭(ただし1銘柄500万円上限、利金の話もありますが面倒なので割愛)お支払いされるというのがありまして、その部分をある程度反映した数値がこいつらの引け値に反映されており、売買参考統計値がちとお高くなるようで。
例えば6月償還の銘柄の売買参考統計値ですが、16日付のもので2年245回が0.428%、5年27〜29回がそれぞれ0.398〜0.401%、10年203、204回がそれぞれ0.480%と0.483%(本人は単利のつもりで引用してますが、もしかして売買参考統計値のCSVファイルの読み方間違えていたらゴメンナサイ。まあ大差ないと思いますが)となっていまして、銘柄によっては10毛甘で叩いても短期金利に負けない場合もありますわな。
で、元利払い手数料が引き下げられる10月償還以降になると話が変わるのかという事ですが、こちらは良く判らんとしか申し上げようが無いです。その気になって成り行きで叩き込みに行くとなりますと、残存1か月で10毛叩きに行っても値段に直せば1銭にもならないので、お家の事情(例えば一例を挙げれば、償還銘柄は最後の振替決済停止期間に入ると担保などとして使えなくなると記憶しておりますが、それが間違ってなければ償還銘柄を持つことは結構なコストになる訳でして)系の成り行き叩き込みが打ち込まれるとどうにもこうにもとなりますので、こればかりは正直よく判らん。ただまあ3,6,9,12の償還銘柄の残存が短くなった所では償還銘柄叩き込み攻撃は変わらずに起きそうな気は致します。
こればっかりは制度上どうしようもないですので、まあ輪番オペの趣旨は一応成長通貨の供給って話になっていることですから、短期物を募入対象外にする(その代わり新発は入れさせてあげてよと思いますけど)とかでもしないと状況は変わらんでしょうなという所で。
以下どうでもいい悪態。
○毎年お約束の悪態
毎回悪態をついておりますが見事に変化の無いお話の季節がやってまいりました(^^)。
社団法人日本証券アナリスト協会という所から定時総会のご案内が「法人会員各位 個人会員各位」宛に送られてまいりました。で、今回の定時総会もまた事業報告や決算の承認を求める会でありますが、実施日時が「6月18日水曜日午前10時」からということで、検定会員が何人いるのか知りませんが、普通の検定会員がどう見ても出席できないような時間に今年も設定。で、会場はと言えば法人会員と個人会員合わせて1万人以上はいる筈の協会の総会だというのに「東京証券取引所ビル6F、当協会会議室」という端から個人会員の出席を想定していない会場設定なのも例年と全く同じであります。
せめて東証の講堂(ホール)使うくらいのやる気をだせとか思うのですが、どう見ても総会を形式的に済ませようという意思がアリアリの総会運営でございまして、こんな協会がIR大賞の授与とか悪い冗談にしか思えませんってこれも毎年言ってますな(爆)。まあここ数年定足数が中々集まらない(=委任状を送る個人会員が少ない)ようですが、少なくとも「会員がどう見ても出席できないような総会」という運営をやってる限り「ナメトンノカ」という事で委任状送らないあたくしのような検定会員が続出しても不思議ではないと思いますが。
以上ただの悪態でした。
2008/05/16
お題「今日も雑談ネタで恐縮至極」
相場がこの有様ですと本業がかなり多忙になるもんで、あまりちゃんと突っ込んでいないネタを少々雑談で勘弁。
○短いところのカーブがフラットから立ってきた件について
昨日は5年国債入札がありましたが、まあそっちは入札までに随分ヘッジも入りまして入札後は5年切り返しっぽい展開に。1.3%クーポンまで叩いたんですから、まあ戻ってくれないと困りますが、これまた先月のテール12銭入札で耐性が出来たのかテール9銭でも「テールが長くありませんなあ」という雰囲気になるのがチャーミングでございますが。
でまあ一方で2年とかは昨日も弱体で0.85%に接近の巻となっておりまして、いやあの展望レポートで従来の利上げ路線が封印されたんですけれどもどうなっておられるのでしょうかというところであります。とは申しましても、それを言い出すと5年1.3%の方が展望レポートで(以下同文)なので、そっちから見ると2年は随分値もちしてましたなあということにもなるんでにゃんとも。
で、半年位のところから2年くらいのところまでっていうのはここのところ妙に重そうにしていまして、2年中期国債の残存1年ゾーンを見ますと昨日の引けで0.70%(来年5月償還)などと、半年を越えるあたりから何となくイールドが立つ(というほどの物でもないですが)感じの絵になってきております(個別銘柄の需給が変な割引短期国債は別)。これまた展望レポートやらここもとの経済指標やらを考えると素敵に逆行モードでこれまたおしゃれな相場であります。
で、相場様のネタとしては、昨日の日経新聞朝刊でデカデカと出ておりましたけれども、「長期金利上昇=インフレ懸念」みたいな絵がネタと化すという感じのようで、昨日の引け後なんぞもECBのインフレなんちゃらで債券先物が叩かれていたように見えましたが、「グローバルインフレ」ってので暫く引っ張るんですかねえ。
しかしこれまた素敵な話ですが、国内金利市場参加者の皆様におかれましては、おそらく多くの人は「そうは言っても日本の場合はここもとの物価上昇は景気悪化要因だし、そんなに持続的なインフレなんかねえだろ」と思いながらも相場の勢いに「はあ?」となりながら参戦しているという所ではないかと思うのでありまして、これって丁度3月くらいまでの「(誰も大真面目にあるとは思わなかった)利下げの可能性ありで形成された中短期ゾーンの金利」という動きの反対バージョンなんじゃないかなあとも思いますです、はい。
ほぼ普通に皆さん年内(下手したら年度内)利上げなしとか思っている筈なのですが、2年0.85%とかになりますとその絵と整合性が取れないんですが、これも3月の利下げを一部織り込まないとその3か月から1年の逆イールドはねえだろという状態の時と同じく、「そうは言ってもなんかございましたらアレですし」という感じなんでしょ。展望レポートで中立路線に転換したと言いましても、半年後にまた展望レポートは出るのでありまして、その頃に下振れリスクが晴れてきたら(というのは超ナローパスだと思いますけど)半年後に金利調整路線が復活してもおかしくはありませんし、などとかなり無理やりな理屈をでっち上げるとそんな感じでしょうね。
まあもうちょっと達観しちゃいますと、結局米国の利下げ打ち止め観測とかと円債の短いところの金利形成がシンクロしてしまっていると言っちゃえばそれまでという話もございますが、それを言ってしまうと何とも悲しいのでそれは気が付かなかった事にしておきましょう。まあちゃんと考えないと相場説明のポンチ絵としては使えませんな(自爆)。
○輪番オペはどうかすべきではないかという話について
これまたいつものネタなのですが、たまには数字も出してみようと。
日銀保有の中長期国債の残高は毎月公表されております。
http://www.boj.or.jp/type/stat/boj_stat/mei/mei0804.htm
http://www.boj.or.jp/type/stat/boj_stat/mei/mei0803.htm
URL見りゃ判るように、直近2か月の残高は上記のようになっているのであります。この中身には対政府取引の現先とか国債整理基金への売却に応じた分とかも入るので前月比で減ってる銘柄とかもあるのですけれども、まあその4月末VS3月末で増えてる銘柄は何よと言いますと、残存1年以内のものが増えているの巻。この表からちゃちゃっと計算してみましたら、(間違えてたらゴメンナサイ)2009年3月償還までの銘柄が4月には額面ベースで6780億円増えておりまして、輪番オペが月に1兆2000億円なわけですから、半分以上が1年以内に償還がくる銘柄でございますわな。
こうなりますと成長通貨供給の筈の輪番オペが1年以内に償還→新発割引短期国債に償還乗り換え→1年以内に現金にとなってどう見てもただの短期資金供給オペです本当にありがとうございましたという状態になってしまう訳でして、どこぞの政党が「日本銀行は国債を月に1兆2000億円も買っていて財政ファイナンスをしているのでケシカラン、ムキーッ」とか言ってるのが如何にトンマな話かというのが判るかと存じます。
実質的に短期資金供給とあまり変わらなくなっているという部分もそうですけれども、輪番が実質短国オペになってしまいますと、中長期ゾーンの最終投げ場が無くなって業者的には如何なものかという感じでして、まあ応札のメカニズム的にこうなってしまうのは否めないのではありますが、それにしても期近債ばかり入り過ぎで、ちょっとこのあたりの状況は何とかならんもんなんですかねと存じます。
中期国債と長期超長期国債で分けるとか、短国買入というものがあるのだから残存1年未満は募入対象外にする(と短期のカーブがちょっとおそロシアになる可能性があるのであまりお勧めできないけれども)とか、もうちょっと本来の趣旨(長期国債が入るよう)にかなうような形にするのを考えるのが良いのかなあとは思うのでありますけど。
○これはこれは
これまたちと古いネタなのですが(汗)、埋蔵金どうのこうので高橋洋一先生が産経新聞のインタビューを受けていたようで。記事は5月10日に出てたようですね。
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/080509/plc0805091500008-n1.htm
短いインタビューですが、拝読いたしますと『全部使えるというわけではない。そういう意味では埋蔵金候補だ』とか、『笑ってしまう。(外為特会は国の借金である政府短期証券で調達しており)借金して財テクするのを、どうして国民がよいと言うと思うのか不思議だ。』とか、昨年末以来の埋蔵金騒動でいつの間にか話が暴走モード(SWF議連が出来てどこぞの目立ちたがりの議員が報道番組で御託を垂れるとか)が入って騒ぎがあらぬ方向に大きくなってしまっている部分への火消しモードに入っているようにも見えますな。
まあ「財政融資資金特別会計の金利リスクをほぼゼロにできる」みたいな部分均衡みたいなお話も必要な面はありますけど、「それをやったら特会のリスクが落ちる側から別の所に影響がありますがな」というような面もよくご検討頂いて冷静なお話になっていただきたいものと存じます。
2008/05/15
お題「円債だけ自爆の巻?/何でそういう理屈になるの?」
○他市場が全然反応しないのに・・・・・
昨日の国内債券市場はご案内の通り先物大下げの巻と相成りまして、途中ではまたも4月25日の再来をやらかすのかという勢いでございました。そして昨日の場合いやはや何ともだったのは、為替市場も株式市場も特にこう大した動きもなく(最終的には株高円安になってましたが)小動きの中、債券市場だけ自爆状態になっておりました。ナンノコッチャであります。
さすがに4月25日に1回サーキットブレーカーだの先物大暴落だのやらかしたばっかりなので下げに対する精神的耐性(?)もできてましたし、昨日の場合は4月25日の時のように中期(5年)などが朝からいきなり暴落という訳ではなくて、当初から先物が走っていましたので、前回ほどの恐怖感は無かったとあたくしは思うのですがどうでしょ。
色々と要因はあったと思うのですけれども、(昨日増えましたが)債券先物の建玉が今月頭から10兆切りやがっているあたりに象徴されますように、市場の参戦者が減っているというか流動性が低下しているというか、先物が役立たずモードになっているというか、根底には市場の流動性が落ちているというのが先物などのボラが上昇する背景にあるんじゃねえのとは思うのでありますがどないでしょ。で、その流動性低下ですが、サブプラだ何だで市場参加者の体力が低下していることに加え、毎度しつこく申し上げていますが、1月15日から行われた債券先物の売買システム変更によって債券先物の板が薄くなってしまった事が状況の悪化を後押ししてるでしょという所で。
で、昨日の場合は前夜に米債がだだ売られ(リテールセールスだけであんなに売られるもんなの?)して帰ってきた所に加え、LIBORの見直しで5月末から新しい制度をどうのこうのというお話があって、デリバティブ関連の短期ベース金利が上昇するという懸念(正直円LIBORには影響軽微と思うが)とか、翌日に5年国債の入札を控えているのでヘッジなどかましたくなるとか、色々な要因がぶつかったんじゃないかなあと。
ということで、別に何がどうのこうのという訳ではなく、何となく海外が売られているので絵的に売りやすいですし、株式は何かこう下がる感じがしなくなってきていますし、そんなこんなで下を叩きやすいところに来て、5年国債入札が今日に控えていたので下やったらまた自爆しちゃったという所でしょうか。さっぱり訳がわかりま千円でございますが。
でですな、結局終わってみれば先物は135円割れで終了するわ、5年は場中1.3%乗せまで叩くわ(しかも引け後もっと叩いてましたが)10年は場中1.7%まで叩くわと、確か経済ファンダメンタルズは出てくる経済指標的にはあまり宜しくない筈なのにこの有様。20年から40年の引けが4月25日よりもレートが低いというのが中々チャーミングな相場です。
5月14日 4月25日
40年1回 2.620% 2.675%
30年28回 2.450% 2.490%
20年100回 2.225% 2.250%
10年291回 1.690% 1.600%
5年70回 1.280% 1.220%
2年268回 0.810% 0.820%
現在の10年カレントは292回なんですが、まあ一応同じ銘柄を置いてみましたよ。全部単利ベースで日本相互証券の引けのつもりですがあたくしの手控え帳面から拾ってきてるので違っておりましたら勘弁。いやまあ中期から10年叩かれてますなあ。
で、米国のCPIを受た米国債券市場が気になっておりましたが、結局コアCPIは落ち着いていたので米国債買われたものの、それを見て株式市場が反応したので米国債は行って来いみたいな講釈になっておりましてナンノコッチャでございますが、米債の戻りが鈍いというのは何とも。入札前にまだ叩くのかなあ。5年の1.3%台を調子に乗って叩くのもどうかと思いますが、あんまり理屈捏ねても仕方ないですから。
#今朝の日経朝刊で長期金利上昇の記事がドカンと出ているらしい(モーサテによる^^)ので、金利上昇終了フラグは立ちましたな
○ところで積み最終日
今日は毎月やってきます準備預金積み最終日。最近は積み最終に向けて妙に金の回りが悪くなり、GCなどのレートが変に上昇するという仕様になっておりますが、今月も15日スタートのGCはレギュラーの時点で62とかになっておりましたな。
昔は積み最終といえば最後の最後に向けて金利が低下するのが仕様でございまして、そこまでの進捗をきつめにやっていない限りは高くても精々交換尻(死語^^)までだったと思うのですけれども、昔のコールのように資金の取り手が少数で相場観というか市場裁定なども考えながら動き、出し手が大口小口含めて多数という状況から、(特にGCに関しては)資金の取り手が多数で出し手が少数(ただし市場裁定の観点からは何やってるんだかって感じですが)という状況に変化しているので、まあ動きもまた変わるの図なんでしょうか。
しかし毎月判で押したように積み最終だと読みにくいだのと言って動くようですと、この前の大型連休で(確かにまあ券需要読みにくい面はあったでしょうが)いきなりGC66とかやらかしておりましたので、今年の年末年初の事を思うとガクブルなんですけど。
どうもこう古狸的には不可解というか何というかではあるのですが。何か機械的に動いているような感じもするもんでね。
それからFBが段々重くなっているのか毎週ジリジリと落札レートが上昇しておりますな。ドカンと流れたり急に買いが来たりしないでジリジリ動くのが中々嫌らしい相場なのですけれども、長期債がドカドカ動きますと、長期債との見合い分が動く可能性があるので、そうするとちょっと動意付くかもしれません、というかもうちょっと動いてよという願望なのですが(おい)。
○地震対策が必要なのは判りますが
昨日ブルームバーグニュースを見ていて全く理解できなかったニュース。
http://www.bloomberg.com/apps/news?pid=90003008&sid=aaAEai2fHEQs&refer=jp_politics
『5月14日(ブルームバーグ):東京大学生産技術研究所の都市基盤安全工学国際研究センター(ICUS)長を務める目黒公郎教授は14日午前、日本国内で首都圏地震が発生した場合の金融市場への影響について、「今、首都圏地震がくると、政府の中央防災会議のシナリオでは112兆円の被害が出る」と指摘。その上で「その被害から立ち上がらなければならないときに、外国資本は自分の痛手を小さくするために投じている資本をすべて引き上げる。そうなると日本から金がなくなる。この影響は地震の実際の影響よりもはるかに大きくなる可能性がある」と語った。』
いやまあ首都圏地震が発生したら大被害というのはそりゃそうですねと思うのですが、外国資本が引き揚げ(「上げ」なのか?)るどうのこうのって言いましても、地震が起きてインフラが壊れている状況になったら引き揚げようにも引き揚げられませんし、「日本から金がなくなる」って言いましてもあのその国内資本の企業様は別に国内だけに金を置いているわけではなくて、海外にも金を置いてますので、復興費用の為に海外から金を引き揚げて来ますがなとか思ったら、どうも緊急地震速報に関するお話をしているみたいですね。
で、上記URL先の記事に目黒教授の発言があるのですが、これまた何といいますか論評に困る怪論理。
『例えば東海地震がきたら、トヨタ自動車の株を買って、そのあたりで強い建設業者などの株を買って、ある時点で売りさばけば確実にもうかる。経済学者たちは『これはまっとうな経済行為だ』と言うが、対外国に対して同じことが言えるのだろうか』
たぶんその場合トヨタ自動車様におかれましては、物的にも人的にも大きな被害を受けますので株は下がると思いますが。それにその行為が真っ当か否かってのは一般的な経済学マターじゃないのではと思うのですけれども。というか昔から「復興需要狙いで建設株上昇」みたいなことは普通に起きますので、別に何ら問題はないと思いますが。
『緊急地震速報の精度が高まるほど、それだけで株価が動き出す。株価は動くためのきっかけはどんなことでもよい。だからわたしは『株価が動くことなどへのきちんとした対策を行ってから、それを導入するべきだ』と言ってきたが、うまく対策がとられないで現在を迎えている。これが本当に心配だ』
えーっと、きちんとした形で同時に多くの人に伝わるようにすれば情報の公平不公平は起きませんので別にマーケット的には何ら問題は無いと思うんですけれども。やるなら情報管理をどうするかという話でしょと思う次第です。
そもそも論として商品相場なんか特にそうですが、気象予報やら気象現象によって相場が動きますけれども、その理屈からすると緊急地震速報なんぞイラネということでしょうか、わかりません><
もしかして関係者だけで緊急地震速報の情報を先に押さえてウマーなどという構想うわなにをするやめくぁwせdrftgyふじこl
#東海地震が来るという予報でトヨタ自動車の株を買うってセンスの方だけが売買するなら勝手にどうぞですが、ゲラゲラゲラ。
『(保険契約では)『東海地震の危険性が高まった。警戒宣言が出る』となると、地震保険の売り買いができなくなる。だから(証券取引でも)そういう制度と同じように位置付ける対応が必要だ』
えーっと、仮に大地震が起きる前に市場をクローズしても、大地震が起きたら最終的に売られてしまうと思うんですけれども。「この国は地震が起きそうになると警戒宣言の段階で資本取引が出来なくなる」と認識された方がよっぽど海外資本が逃避すると思うのが普通の連想力だと思うのですが、あたくしの連想間違ってますか???
ということで、まあこれが別にどうでも良い人の毒電波ならスルーなのでありますが、何か東大の先生様みたいですし、その上自民党が設立した「地震対策議員連盟」とやら(最近この手の議連が乱立しているように見えまして、どう見ても話題作りです本当にありがとうございましたという感じなのですが)でご高説を垂れておられますので、自称「何とか政策通」議員様がありがたいご高説に乗っかって訳の判らん事を言い出すに500万ジンバブエドル(とほほ)。
できることならば、ブルームバーグの担当記者が東大の先生様の発言の真意を取り違えて変な表現をして報道しただけであったというオチで、この部分が謝罪とともに全文取り消し線が入る事を心の底から期待したいのであります。
2008/05/14
お題「白川総裁講演続き(引用で増量してます)」
日経ネット見たら白川さんの講演のヘッドラインが「金融政策、中立を強調」となっていたのにはホッと致しました。それが普通の解釈ではないかと。
で、まあネタもあんまりない(というより調べ物したりしないといけないネタはあるんですが)のでこの際白川総裁講演の続きでも。正直引用ばかりの企画で誠に申し訳ございません。
http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/ko0805a.pdf
『本日は、前半では、日本経済の現状および先行き見通しと、当面の金融政策運営についてお話し致します。後半では、金融政策を運営する上で私が重要と考える幾つかの基本的な考え方について、申し述べたいと思います。』
今回の講演ですが、前半部分は展望レポートを踏まえて日本経済の見通し今後の金融政策運営に関する説明をしておりますが、展望レポートの内容をより丁寧に説明した内容になっております。てな訳で本当はそちらもご紹介したいところですが、それをやっているといつまで経っても終わらないので、後半部分の「考え方」部分を。前半は必見だと思いますよ。きっちりとした説明で福井さん時代の「理屈後付け」攻撃と対比すると非常に宜しいと思うのでございます(がドラめもんネタ的には引用以外やる事がなくなってしまうので・・・・^^)。
そういや福井総裁対比で白川総裁の「市場との対話」に課題がどうのこうのというような指摘をする向きも(何故か金融市場の外側からは)ありましたが、結論先にありきで理屈は後付け&発言はサービスフレーズ満載の福井さんと対比して白川さんのほうが安心してられると思うのですけれども。というか福井さんの市場との対話が上手く行っていたとは全然思えませんが(苦笑)。
○不確実性を意識した経済・物価情勢の予測
考え方の第1の部分は中長期的な物価安定の重要性ってのがお題だったのですが、この部分に利下げがどうのこうのというのがありましてこれは昨日ご紹介した通りです。
で、まあ利上げだの利下げだのという話はキャッチーなのでどうしてもそういう所がクローズアップされるのですが、その続きの部分の方があたくし的には興味あります。
『金融政策運営に当たり第2に申し上げたいことは、経済・物価情勢の予測には多くの不確実性が存在していることを自覚しなければならないということです。』
『中央銀行を含め、予測を行う機関はどこも正確な予測をするために最大限の努力をしていますが、それでも予測誤差は決して小さくはありません。例えば、各国の中央銀行や政府、民間予測機関の予測誤差の実績をみますと、1年先の成長率を予測する場合で、平均すると1%を超えています。これが人間の予測能力の現状です。そうした経済に内在する不確実性を踏まえますと、見通しどおりにならない可能性、すなわち、上下両方向のリスクを意識した政策運営が不可欠となります。』
好循環メカニズムが崩れていないから利上げするぞ利上げするぞという自信満々(最後は空元気モードのような感じもしましたが)な前任者の状況から比較して随分と穏当になったものであります。まあ速水さん福井さんと「かくあるべし」が先行する人が続いてしまったので、受け取る側が相変わらず「日銀は決め打ちしてくるもの」という意識になっていると思われますが、実はそうではないですよって事ですよね。
『例えば、米国の住宅バブルや、より広くクレジット市場の行き過ぎについては、最終的に経済に深刻な影響を与える可能性があるという見方は少なからず示されていました。そうした見方は経済に対するビジョンとしては非常に重要ですが、それでは、FRBが2〜3年前に住宅バブルの崩壊や金融市場が大きく混乱するケースを標準シナリオとして想定し、これに基づいて金融政策を運営することが適当であったかと言えば、私はそれにはやや躊躇します。』
それは仰せの通りで。あたくしどもの場合だって、長期的なリスクシナリオのビューが当たった当たったと言われましても、じゃあそれでポジション組んで儲かる(またはオーバーパフォームする)のかという話はまた別の問題でございますからねえ。
『政策当局者としては、住宅バブルの崩壊を標準シナリオとするというより、これを先行きのリスク要因として認識しながら、政策運営に活かすというアプローチの方が説得力が高いと思います。』
ということで、今回の展望レポートの話になるのですが、第1の柱と第2の柱の中で第2の柱の説明を詳しくしたのと、リスク・バランスチャート(最後にあったグラフね)を作りましたというお話をしてますけれどもそこは割愛。
○金融と経済の間の複雑な相互依存関係
面倒なので(おい)小見出しが全部講演から引用なのですが(汗)。
『第3に申し上げたいことは、金融と経済の間に複雑な相互依存関係が存在し、経済・物価情勢の判断に当たって、このことに十分留意する必要があるということです。』
とは何かと言いますと、
『このことは1980 年代後半の日本のバブル以降の経験や90 年代後半の米国のITバブル、今般のサブプライム問題といった実例を思い起こすだけでご理解いただけると思いますが、これらは必ずしも標準的な経済理論に基づくモデルには馴染みません。今回、米国で起きたことは、金融市場における市場流動性の低下という問題でした。つまり、価格は名目的には存在しても、その価格で取引に応じる主体がいなくなり、市場取引が極端に細るような事態です。そうなると、市場参加者はリスクをテイクしたりヘッジすることが出来なくなる結果、経済活動にも悪影響が生じます。』
特に今回のサブプラ関連の問題に関しては、かつて本邦で生じた金融危機における流動性の枯渇状態を(市場の片隅で本当にしょぼいポジションでしたが)垣間見ることができたあたくしから致しますと「何じゃそりゃ」としか申し上げようがない最先端の金融工学手法(笑)が炸裂いたしまして大変に頭の下がる思いでございました。5年くらいのサイクルで「これは6シグマの向こう側」っていう現象が起きるのはそもそも6シグマじゃねえだろうと小一時間。
という悪態は兎も角、『価格は名目的には存在しても、その価格で取引に応じる主体がいなくなり』というのは今回の状況を端的に指摘しておりますな。で、何故かどこぞの会計士協会からは今度は極端な責任回避姿勢からアホウな通達が出てくる訳だが。
で、途中を端折ってこの部分のまとめ。
『こうした分析に当たっては、中央銀行内に蓄積された様々な知識・経験を総動員し、それでも人間の知識には限界があることを十分認識した上で、謙虚な姿勢で臨むことが大切だと思っています。』
この辺でも「謙虚な姿勢」ってのがございますな。うんうん。
○金融環境の総合的な判断(これは講演小見出しと違います^^)
『第4に申し上げたいことは、金融政策の発揮する効果を評価するためには、名目短期金利の水準だけでなく、各種の金利や金融市場の機能度合いや金融機関の貸出姿勢などを含めた、広い意味での「金融環境」を評価する必要があるということです。』
市場におりますとまあこの話は納得しやすいのですが、金融政策のロジックとしてはちょっと判りにくい部分があるかもしれないなと。話が全然切れないのでこの項全部引用しちゃいます。
『中央銀行が政策目標としてコントロールしている金利は短期金利であり、通常はオーバーナイト金利です。日本銀行の場合で言いますと、翌日物のコールレートであり、現在の誘導目標は0.5%です。しかし、企業や家計の行動に影響を与える金利は、短期金利に限られる訳ではなく、より長い期間の金利も含めた、様々な期間にわたる金利、いわゆるイールドカーブ全体です。』
『また、金利水準を評価する上では、将来の予想インフレ分を調整してみること、つまり実質金利を点検することが重要です。さらに、企業が借り入れを行ったり社債を発行する場合には、国債金利のようなリスクフリーの金利ではなく、それに債務者の信用度などに応じてスプレッドを上乗せした金利を支払うことになります。また、場合によっては、高めの金利を払ってもそもそも金融機関が貸してくれない、ということも起こりえます。』
『こうしたことを踏まえますと、金融政策の効果を評価し、先行きの政策を決定するには、政策金利の水準のみならず、イールドカーブ全体の形状、潜在成長率や予想インフレ率との比較、上乗せされる各種の信用スプレッドや金融機関の貸出態度など、金融環境全般の動きを丹念に点検することが不可欠です。』
で、話はここで終了しているのですが、従来の理屈からすると長期金利に関して日銀はコントロールできませんという話になっておりますので、アンコントローラブルな外生変数で金融政策運営が影響されるというロジックはどうなのよとか言われそうな気がせんでもない次第。この話の続きに「だからどうする」という説明は難しいとしか言い様がないのでありますが、この話の続きを聞いてみたいです。
という訳で、目先の金融政策どうのこうのじゃない話ですけれども、あたくし個人的に「ほうほうなるほど」と思いながら読んだ部分ですので延々と引用させていただきました。引用部分でもございましたが、前任対比で現実的というかフラットというか謙虚というか、まあそんな印象を改めて強くする講演でございました。速水さんや福井さんと比較した場合に報道機関的には面白くないかもしれませんけどね(^^)。
2008/05/13
お題「白川総裁講演要旨〜だいたい展望レポートなんですが」
三菱UFJ銀行のシステムですけど、報道だけ聞いていると重大な問題(本支店間取引だの仕向被仕向送金に支障があるという類)があった訳でもなく、いまの全銀システムの膨大な接続状況からしてあの程度発生するの仕方ねえと思うんですが、何でああまで大問題扱いされるのやら(って状況を勘違いしてたらスイマセン)。
さて、モーサテ様で「利下げに言及」と報道されている日本記者クラブでも白川総裁の講演なんですが、タカな部分とハトな部分がより強調される形で混在しているのは、相手が記者という素人さん(だと本当は困るのですが・・・プロといえる人は数える程ですよねえ・・・・)相手なので、表現をちょっと明快にしたかったのかなあと思います。NHKが出していた「金融政策、柔軟に対応」という表現の方が適切だと思いますが。
展望レポートと比較してみたりするので、展望レポートのURLも置いときますね。
http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/ko0805a.pdf(今回の講演)
http://www.boj.or.jp/type/release/teiki/tenbo/gor0804a.pdf(展望レポート基本的見解)
ちなみに展望レポートを受けたあたくしの駄文はこちら。
http://www.h5.dion.ne.jp/~bond7743/seisaku08-01.html#seisaku080501
○当面の金融政策について
講演要旨の7ページ目から。
『次に、以上のような経済・物価見通しを踏まえて、当面の金融政策運営についてお話ししたいと思います。半年前、すなわち、昨年10
月の展望レポートでは、金融政策運営の方針について「経済・物価情勢の改善の度合いに応じたペースで、徐々に金利水準の調整を行うことになると考えられる」と述べました。しかし、今回の展望レポートでは、経済を取り巻く不確実性が極めて高い状況のもとで、金融政策運営について、「予め特定の方向性を持つことは適当ではない」と表現しました。』
と、ここまでは展望レポート通りですが、この次の表現は展望レポートの中ではこのように堂々とは書かれていなかったところです。
『やや大きな構図で捉えた場合、現在、実質短期金利がゼロ%近傍と、極めて低い水準にあるということは、中央銀行として、当然、留意しておかなければなりません。したがって、日本経済が物価安定のもとで持続的な成長軌道を辿るという見通しに対する確度が高いのであれば、金利水準は調整していくことになると思います。』
ちなみに、展望レポートではどのように書いてあったかと言いますと、「経済の上振れ・下振れリスク」の第4の部分で『第4に、緩和的な金融環境が続くもとで、金融・経済活動の振幅が大きくなる可能性があることである。』と、現状の金融環境が緩和的であることにしらっと言及して、金融政策第2の柱の説明部分で『長期的には、低金利が経済・物価情勢と離れて長く継続するという期待が定着するなど、緩和的な金融環境の長期化が経済・物価の振幅をもたらすリスクは、引き続き存在し、特に上記のような下振れリスクが薄れる場合には、その重要性は増すと考えられる。』と表現されております。
で、この2つを足し算すると上で引用したように『日本経済が物価安定のもとで持続的な成長軌道を辿るという見通しに対する確度が高いのであれば、金利水準は調整していくことになると思います。』というお答えになるのですけれども、展望レポートでは金利調整論を前面に出さない事によって福井体制時代のイメージを払拭させようとしたんですかね。しかし埋め込んでいたものがこうあっさりと出てくるとは思わなかったというのがあたくしの印象。
じゃあその下振れリスクが薄れるパスはあるのかというと中々のナローパスなんですけどね。まあ毎度おなじみの如く輸出様次第なのでしょうが、あたくし的には川下の価格転嫁が案外スムーズに進むパスもありなのかなあとか思うんですけど。
というわけで「白川総裁利下げに言及」と見出しを打ったモーサテの報道には違和感があるんですよね。この前の展望レポート後の会見がハト派的な印象を強く与えたような市場の反応(まあ30日に出た経済指標が軒並みダメダメだったのも大きいと思いますが)がハトに振れすぎと思ってちょっと牽制したのか。あるいは、展望レポート作っている時と比較して金先が順イールドになっているのでホッとしてるのか(^^)。
○たぶん利下げに言及というのはこの辺なんでしょう
講演要旨の10ページ目から。
『第1に申し上げたいことは、金融政策の目的である、「物価の安定」をどのように理解するかということです。日本銀行法は、金融政策運営の理念として、「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資すること」を掲げています。私はこの日本銀行法の規定に強く賛同していますが、ここで重要なことは物価安定とは、中長期的に持続しうる物価安定であるということです。物価の安定が重要であることも、また、中長期的に持続しうる物価安定が重要であることも一般論としては認識されているように思いますが、これを政策として実践しようとすると、必ずしも多くの人々に支持されるとは限りません。』
ということで、その後が延々と1980年代後半の不動産バブルとその際の金融政策について説明があるのですが、そこは端折りまして。
『ただし、金融政策を運営するに当たり、物価安定のもとで持続的な経済成長を実現するという観点に照らし、資産価格を含め幅広く経済の状況をみていくことは大切だと考えています。そうした観点からみますと、物価指数でみて物価は安定していても、政策金利を引き上げることが必要な局面もあり得ます。逆に、足許の物価指数でみて物価は上昇していても、金利を引き下げることが必要となる局面もあり得ます。』
ということで、ここからが利下げに言及の部分。
『例えば、消費者物価の上昇の原因が純粋に供給サイドの要因による原油価格の一時的な上昇である場合がこれに当たります。勿論、その場合でも、二次的な物価上昇が生じてないという重要な前提条件が満たされる必要はありますが、交易条件の悪化による景気後退に対応して政策金利を引き下げることが持続的な物価安定のもとでの成長という目的に貢献するケースもあり得ます。』
じゃあ消費者物価の上昇が純粋に供給サイドの要因によるものかと言うとこれまた必ずしもそうではない可能性がある訳でして、展望レポートが出た4月30日の記者会見で資源価格の高騰についての見解を求められた白川総裁はこのように言及しておりますな。
(4月30日定例記者会見より)
『資源価格の上昇については、これまでずっと議論がなされてきました。上昇の背景をどのような時間的な長さの中で議論するかによって、答えも変わってくると思います。非常に大きな流れで見ると、新興国を中心として資源を多く使う経済が成長し、その需要要因が基本にあると感じており、これに加えて、資源価格が上がった場合、それに対応して供給を弾力的に増やしていくという構造には必ずしもなっていないという、供給サイドの要因も影響していると思います。(で、途中をばっさり割愛しまして)いずれにしても、諸説ありますが、単純に答えを導き出せるものではないでしょうし、私自身は特定の説に依拠することなく、複眼的に物事をとらえていきたいと思っています。』
ついでにもう一丁引用しますと、消費者物価の話に関して。
(4月30日定例記者会見より)
『石油製品の価格が供給要因で上昇したという説があり、必ずしもそうとは言えないと先程申し上げましたが、供給要因という点では、労働集約的な財が中国を始めとする色々な国から入り、物価が下落した例もあるわけです。現在、供給要因で物価が上昇しているという見方があり、そうした状況下で中央銀行としてどう物価指数をとらえ金融政策を運営していくのか、ということがずっと問われ続けてきたのだと思います。(途中を割愛)先程の消費者の身の回りの物価高というのは、例えば食料品やガソリンということでしょうけども、一方で、色々な労働集約的な財の値段は引き続き下がっているものもありますから、そうした中で、今申し上げたような視点で金融政策を判断していきたいと思っています。』
ということで、まあ利下げに関してはやるやるナントカじゃないですかね。利下げするよりも時間軸みたいなものを出した方が中長期金利という意味では効くと思いますし。
○実質短期金利0%に言及
経済見通しの部分になりますので、前に戻って3ページ目になります。
見通しとして『先行きは減速を脱して緩やかな成長経路に戻る可能性が高い』となっている理由の3番目です。
『第3の理由は、金融環境が緩和的であることが、引き続き、民間需要を後押しするとみられることです。現在コールレートは0.5%、消費者物価の前年比は1%強ですから、実質短期金利は、大まかに言ってゼロ%近傍です。これは潜在成長率と比較すると、極めて低い水準ですし、海外主要国と比べても低い水準にあります。企業が資金調達する際に、上乗せされる信用スプレッドも、欧米のように拡大している訳ではありません。また、金融機関の貸出態度や企業の資金繰りも、中小・零細企業では相対的に厳しい状況にありますが、全体としては引き続き良好な状況にあります。』
これが展望レポート(基本的見解)ではどのように説明されていたかといいますと・・・・
『第4に、緩和的な金融環境が、引き続き民間需要を後押しするとみられる。短期金利は、潜在成長率や物価上昇率との関係からみて、引き続き極めて低い水準で推移している。国際金融資本市場の動揺が続いているが、欧米に比べ、信用スプレッドの上昇は総じて小幅であり、金融機関への影響も限定的である。こうしたもとで、金融機関の貸出姿勢は総じて緩和的である。ただし、中小零細企業や非製造業の一部で金融緩和の程度は幾分後退しており、この状態は当面持続する可能性が高い。』(展望レポートより)
達観しますと同じ話をしておりますが、「実質短期金利が大まかに言ってゼロ%」というのが出てきてまして、海外主要国よりも低い(実質の事を意味するんですよね)と指摘しているのは、まあ表現としては強いようにも見えますし、先ほどから申し上げているように相手が素人さんなので、上にも下にも表現を判りやすくした方が良いという判断に基づくものなのかは正直よく判りません。
○結局中立かなあ・・・
プルーデンスの話とか、他にもほほうというお話があったのですが、時間と量の関係上(というか今回も引用で大増量しててすいませんすいません)本日はこのあたりで。あたくし的には最初と最後に引用した部分の方を(文章の流れ上当然なのですが)先に目にしたので、別にそんなにハトな講演内容には思えなかったです。今のところは様子見極めで、良くなりゃ利上げ復活だし、別にダメなら利下げもするっていう中立な話ではないかと思いました。
それから、何だかよく判らんが人事が若返り方向になったというのだけは把握した>本石町日記さん
http://hongokucho.exblog.jp/8581791/
2008/05/12
お題「月曜なので雑談」
急に寒くなると調子が狂いますな。
○そんなに上がるネタあったっけ
先週末の債券市場は、前日の10年国債入札後の強さ(入札は流れましたが)が継続してたのと米債高というフォローがあったんですけど、いきなり先物60銭高で寄り付いてピークでは先物106銭高まで上昇の巻。
いやまあ展望レポートと月末のダメダメ経済指標が出た後に債券市場が上昇したのに連休前から10年国債入札前の間に先物ベースで90銭くらい下げるという展開も何が何やらでありましたので、その分の戻しが来ただけと思えばそんなに驚くもんでも無いのかも知れませんが、相場の流れとしてどうなのよという感じが。単に入札準備と、その動きに乗っかった短期売買だけでこんなに下やって上やれるもんなんでしょうかと疑問疑問。
よー判りませんが、これってやはり全般的にあちこちの人たちが体力を低下させていて、相場に勢いがついた時に向かう人が減っているのが原因なのかなあとか思うのであります。それから例の先物システム変更も問題だと思いますけどね。
金曜の場合ですが、最終的には80銭高で終了しましたけれども、朝一の先物独歩高状態から時間の経過と共に現物が追いついて行ってる感じみたいですので、こりゃまあ10年国債入札後の買いが見えた所でとうとう買わない理由が無くなったから位しか金曜のタイミングで上昇の意味が判らんです><
○FBはやや重そうなのにCPは金利下がり気味っぽく
最近見てて何だかな〜と思いますが、同じオープン市場でFBとCPの動き方がもうお互い自分のところのお家の事情攻撃という感じでありまして、不可解というかまあ市場分断にも程がありますという感じで。
木曜の3か月FBに続いて金曜には6か月FBの入札がありましたが、平均0.596%で足切り0.600%でございまして、これはまたほほうという感じ。60だと実需買いが来るのがまあ見え見えな所ですのでその後は595オファーの60ビットで60を業者間で叩く人も無くという感じだったようですけれども、それこそ目先の利上げ観測皆無な筈なのですが、あんまり買われませんなあという感じですね。
一方でCPは連休前にGCなどが上昇したり、その前の債券市場下げ攻撃で気持ち緩んだのですが、連休明けから金利はショートターム中心に低下してる(長めのところは連休明け直後に低下してその後はまちまち)感じでして、もしかしてGCが下がったり上がったりしている方に引っ張られているのかもしれませんが、FBがじりじりと重くなってる感じの中でちと別の足取りっぽいですな。
いやまあいつものことではあるのですが、需給バランスが動くタイミングが違うとか、FBの場合はCPと違って短期市場だけの事情で動かない(債券というカテゴリーなので長期債市場の人が突っ込んだり外れたりするとか)面もありますので、ある程度ちぐはぐになる面は仕方ないんですけど、それにしても最近はこの2つの動きが整合性取れないのが実に興味があるところです。
なお、クレジットスプレッドの動きとCPのスプレッドってのはよほど派手派手にスプレッドの動きでもない限りあまり影響ありませんのでそのあたりはスルーの方向でよろしくです。
○埋蔵金雑感続きの続き
・埋蔵金を財政再建に使えるかどうか
金曜に「これって使えるのかねえ」という話をしたのですが、これまた話がややこしいのですが、ストックの部分とフローの部分に切り分けると話が変わってくるように思えます。つまり、既にストックになっている部分に関しては国債に化けているので一般会計の国債発行と財政融資資金の国債購入がバランスしているというお話になりますので、基本的には両建て落としという話になるかと。ただしフローの部分に関しては、そもそも論としてフローで益として認識している部分の一部が準備金になっている話でして、準備金になっていない分に関しては一般会計繰り入れになっているので、まあその準備金繰り入れを抑えれば一般会計が楽になるというのは仰るとおりですわな。でもそれってそんなに凄い額が出るもんなのかなあ。
で、ここでスルーしていた話として、両建てを落とすのに本当に意味がないのかというと、これはまあ削減する債務と、財政融資資金会計での保有する債権が期間までマッチしているかどうかという所で少々意味は異なってくるものと思われます。例えば準備金繰り入れに伴い長期国債の発行を減らした一方で財政融資資金で短期国債を落とすという形になれば意味が必ずしも無いわけではないですな。まあそれは財政に使える使えないの話とは違いますが。
・外為特会に関して
金曜は財政融資資金会計の話ばかりしておりましたが、外為特会の続きを少々。
外為特会の準備金云々ってお話ですけれども、話をざっくりと割り切ってしまえば、要は価格変動準備の為に幾らバッファーが必要なのかというお話。で、世間的に有名になって「外為特会に埋蔵金が山のようにある」って話になっていたのは昨年の12月とかでございましたというのはご案内の通りでありますが、その時点から為替市場が1割くらいドル安円高に向かってしまい、現実問題としてバッファーが無くなっているという状況になっているので、こちらに関しては高橋先生涙目という所でございましょう。
もちろん、外為特会が介入する側から積み上がっており、その規模が適正なのかという議論は成り立つかと思いますが、じゃあその積み上がった分を減らせるのかという話になると、ドル売り円買いをしないといけない話になるので、それを実行するのが適当なのかという問題が生じるかと思います。
で、もう一つ高橋先生がしていた「適切なマクロ経済政策」云々の話は長期的な為替が理屈の上で安定する方向にあるからと言って短期的な為替変動は回避できないんじゃないですかという議論(金曜に申し上げましたが)になりますわな。まあ外為特会に関しては予想外のドル安進行によって、議論の前提である埋蔵金が消失(苦笑)しておりますので、高橋先生の議論がわけわからんようになっているのかなあと。どうもマクロ経済政策云々は後付けで日銀と財務省を批判するために持ち出したような感じがするんですが気のせいですかね。
#しかしまあ財政の話は難しいです。ややこしいけどまた勉強したいと思いますが。
2008/05/09
お題「昨日の続き(埋蔵金リローデッド2)」
○埋蔵金の話続き
昨日は埋蔵金話についてうだうだと書かせて頂きましたが、6日の日経新聞「経済教室」で吉野先生が高橋先生の論議に対して反論をしていたようでございます。「ようでございます」という位ですから日経新聞購読してないあたくし不勉強にも存じませんでした。ご指摘頂きまして(しかも多くの人から・・・・汗)誠に恐縮でございます。で、その点だけでなくて色々とご指摘など頂きまして色々と考えの続きが出てきましたので、その辺を少々。
・金利リスクや信用リスクの問題
あたくし昨日は財政融資資金の金利リスクや信用リスクに関して書いたのですが、そもそも論として財政投融資資金においては「財投債が発行できる年限の問題を除いて」金利リスクは取りませんし、財政融資資金法第一条で「確実かつ有利な運用」を義務付けられている(ので融資先が地公体とか財投機関になる)ので基本的に信用リスクを取りに行ってる訳では無いのですね。ご教示ありがとうございました。
で、高橋先生が提言する「金利リスクをゼロにする」という話はその財投債が発行できる年限の問題がどうできるのかというお話になるということで、昨日も申し上げたお話の繰り返しになるますが、それは市場の中の人が使う表現からすると「マーケットインパクト」の問題があると思います。
・民間と国が同じように動けるのかという問題
昨日も引用しました4月18日の参議院財政金融委員会会議録
http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kaigirok/daily/select0105/169/16904180060007a.html
こちらで高橋先生は「財投債の発行年限をコントロールすれば金利リスクはゼロになる筈」といういつもの話をしえとりまして、まあこのあたりが財政投融資資金の埋蔵金がどうのこうのというお話の基本になるわけですな。再掲しますが。
『しかし、これは金融をやっている人だったら直ちに分かるんですけど、この金利リスクというのは外から与えられるものではなくて、自らどのようにするかというふうに管理するものです。』
『いずれにしても、その財投債により金利リスクはほとんどゼロにでき得るにもかかわらず、一定の金利リスクを取って、そのために一定の積立金が必要とのロジックというのは果たして国民がどの程度納得できるんでしょうか。』
どうも高橋先生におかれましては、そこら辺の民間債券発行体と国の債券発行の行動に関してマーケットインパクトが全く同じであるかのようなご説明をしている訳であります(引用しないけど「経済教室」での論点も同じような感じ)。でも、昨日申し上げたように、財投債部分で財政融資資金特別会計の調達運用のミスマッチを全部無くそうとすると、一般会計部分の国債発行年限を短期化してバランスさせるとか、もし一般会計部分がそのままだとすると、財投債の発行年限長期化によって長期(というか超長期)の発行がドカンと増えて全体の調達コストが上昇するでしょってお話を敢えてスルーしているのではないかと思われます罠(まさかその辺判ってない訳ないでしょう)。
これが例えば一般民間企業であれば、債券発行年限を長期化したり短期化したりしてもマーケットインパクトがあるわけでは無い(CPのレートなんぞ見てますと確かに1社だけならインパクトないかもしれないけど実は大手発行体が数社同じ動きをすると需給関係が変わるなんて事例はあるのですよね)ということになると思うのですが、国は発行体としてのシェアがとてつもなくでかく、民間と同じように行動できるのかよという問題が生じると思うんですよね(そういう意味では最近のマネーマーケットでは参加者の合併による巨大化によって似たようなマーケットインパクト問題が生じているともいえるかなあ)。
その辺を敢えてスルーしてしまうのは如何なものかと思われるのでございますです。
・埋蔵金は別にヘソクリじゃないんですけど
という部分に関しては高橋先生も「バランスシートに出ているのだから露天掘り」という表現をさっきの国会説明でもしていましたけれども、どうもこの「埋蔵金」という語感から、「隠れた収益金」みたいなミスリードが生じるとこんな話になりそうでおそロシア。
『○富岡由紀夫君 民主党の富岡由紀夫でございます。(途中割愛)今、土居参考人のお話の中で、埋蔵金はストックなんだからストックに戻す、戻すんだったらストックに戻すべきだというお話ありましたけれども、例えば財政融資特会の今あるストック、積立金は、これは今はストックですけれども、元々フローもありまして、フローの積み上げであるわけですね。ですから、例えば毎年のフロー、二兆、三兆、四兆ありますから、そのフローの分を一般会計に入れるとか、そういった使い方を私はできるんじゃないかなというふうに思っております。(以下割愛)』
『○富岡由紀夫君 ちょっと後で聞きます。 露天掘りのことについてお伺いしたいんですが、今、先ほどお話出ました、私は、二十兆円二十年度末で出てくる、そのうち九・八兆円は国債の圧縮に使うので残った十兆円を今まで暫定税率の税収不足に充当できるんじゃないかという議論をしていたんですが、その九・八兆円自体をそういった税収不足の分に充当できるという今日はお話あったものですから、それは非常に私はすばらしい発想だなというふうに思っております。全部、国債整理基金に九・八兆円を戻すんじゃなくて、三兆円ぐらいは、二・六兆円相当分ぐらいは一般会計に入れるということができるというお話なんですけれども、これは手続上どういったことが行えばできるのか、お伺いまずしたいというふうに思っております。(以下割愛)』
えーっとですな、バランスに準備金があるということはその分というのは別に隠し金でも何でもなくて、その見合いとして基本的には国債(かその同等物)がある訳でして、準備金繰り入れしたぶんというのはその分国債が買入消却されるという話じゃないかと思うのでございますが。
即ち、グロスでの債務残高削減にはなりますけれども、ネットでは変わらない(現実問題として、直近の財政融資資金の準備金繰り戻しにおいて債券市場へのインパクトは無かった訳でして、これはネット中立という事を意味すると思うのですよね)のではないかと思うのですよ。
然るに、こちらのミンス党の先生様のご発言にありますように、「準備金を繰り入れて暫定税率の税収不足の分に充てる」とか言うことになりますと、それはどう見てもただの財政発散です本当にカムサハムニダとなるのではないでしょうか。キングオソロシス。
さすがに高橋先生はこのように説明しています。
『○参考人(高橋洋一君) 政策論ですからいろんなやり方があるのかもしれませんけれども、多分一番簡単なのは、ただ単に国債を三兆円出せば全く経済効果は全く同じですね。ですから、国債を三兆円更に出して、それを一般会計に入れて、それで九・八兆円償還すればいい。ですから、まあやり方は多分たくさんあります。しょせんお金の話なんで、お金に色は付いていないと言っちゃいけませんけれども、補正を組むもいいし、いろいろとやり方はある。もうテクニカルにたくさんあって、頭に浮かびませんけれども、多分一番簡単なのはただ単に三兆円国債を出せばそれで終わると思います。』
まあ参考人として呼ばれてミンス様の顔をぶっ潰す物言いは出来ませんから表現がオブラートに包まれるのは仕方ないですが、要するにこの説明ですと「ネットで国債を3兆円増発しないと税収不足の充当には使えませんが何か?」と説明しておられますわな。ところがミンス党の大先生様は何をどう理解しておられるのやら。
『○富岡由紀夫君 本当にすっきりいたしました。ありがとうございます。そういうことでやろうと思えば幾らでもできるというふうに理解いたしました。(以下割愛)』
どう見ても理解していません本当に(ry
てな訳で、高橋先生のお話っていうのは元々は国の債務残高問題においてグロスの残高の議論ばかりが注目され、結果として財政政策が(高橋先生的には)過度に引き締め傾向になるので、もっとネットの問題を考えないといけないのではないかという問題意識からスタートしているのではと勝手に理解しているのですが(間違えてたらスイマセン)、「埋蔵金」という言葉(は高橋先生が言い出したんじゃないですけど)のイメージが勝手に歩き出して、財政発散の話になっている所が何ともおそロシアな所じゃないかとあたしゃ思うんですけどね。
#また続きがあるかもしれませんがとりあえずこんな所で
(以下超余談)
○時間が無いのでURLだけ
昨日の朝日新聞にどこをどう突っ込んで良いのか頭が痛くなる記事があったようでございます。
http://www.asahi.com/business/update/0508/TKY200805070213.html
国債が急落 サブプライム響き外国人投資家が売り 2008年05月08日06時05分
・・・・・・いやあのそのちょっと凄すぎるんですけど。よくこんな記事が表に出せるよなあとしか申し上げようがございません。
○10年入札が流れた話
今月も流れましたが、業者の体力低下とか市場のオファービットが拡大しているとか根底に色々と問題があるのがこのあたりに出ていると思うのですが、その考察に関してはまた後日。
2008/05/08
お題「赤恥かくのを承知でややこしいネタを出してみるの巻:埋蔵金リローデッド」
いやまあ実はこのネタは前から考えているものなのですけど、何度考えても上手くまとまらないので、まとまらないままここでうだうだ書いてご意見の叩き台に致したく存じます次第。
○埋蔵金を捻出できますというお話ですが
だいぶ前の話になりますが4月11日の日経新聞25面の「経済教室」で高橋洋一先生が埋蔵金捻出に関するお話をしてまして、関連したお話を18日の参議院財政金融委員会でも参考人として行っています。
で、経済教室の方は縮刷版でも当たっていただくとして(手抜き)、参議院財政金融委員会に関してはこちらのURL(内容は長いです)にございますのでこちらから適宜引用しつつ。
http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kaigirok/daily/select0105/169/16904180060007a.html
でですな、高橋先生の説明なんですが、一つ一つの部分的なお話はまさに仰るとおりとしか申し上げようが無いのですけれども、話全体を通してみますと腑に落ちないというか違和感があるというか、どうもこう良く判らんのですよ。で、その良く判らん感が単にあたくしの知能の至らざるのが原因なのだと思うのでございますが、うまく腑に落ちるお話を誰か教えてジェネラルなのでございまする。いやまあ無知蒙昧なあたくしが大先生の言うこと判らんとか申し上げる時点で僭越にも程がございますので、そういう僭越な言説は読みたくないという方は(今日は本件しかネタが無いですので)以下の文章は無視していただきたく存じまする(^^)。
○政府が金利や為替リスクを取りにいく必要が無いのはその通りですが
埋蔵金がもっと捻出できますよって話のベースは、埋蔵金即ち特別会計における準備金の根拠となっている長短金利ミスマッチ部分(これは主に財政投融資部分)と為替リスク部分(これは主に外国為替特別会計部分)に関してそれらのリスクを落とせるのではないかという所にございます(とあたくしは理解しています)。上記4月11日日経新聞朝刊25面「経済教室」から引用すると。
『これら(引用者注:財政投融資資金と外為という2つの特別会計)の資産負債総額のうち、積立金は、政令と予算書でそれぞれ金利リスクへの対応、為替リスクへの対応のために、おのおの総資産の5%、外貨資産の30%まで積み立てられるとされる。(金額部分割愛)これらが取り崩せるか否かは、5%と30%という数値がリスク管理上適切かどうかの問題だ。』(4月11日日経新聞「経済教室」より)
ということですので、あたくしの理解であってるとは思いますが。
でもって、2001年度の財投改革に伴い、財政投融資資金に関しては預託制度から財投債発行に変更して調達の期間を自由に調整できるようになったので、調達部分のミスマッチを解消することが出来る筈なので、金利リスク(長期というか超長期運用の短期というか中長期調達ですわな)は抑えられ、結果として積立金は減らせますってお話になっております。で、本来政府が財政投融資資金の運用調達部分で長短金利のミスマッチを取る必要があるのかというのが問題意識としてあるということです。
で、このあたり経済教室にも同じ話がございますが、上記の国会でのお話でも同じ説明がありますので、そっちから引用します。
『本日は時間の制約がありますので、各特会ではなくて財政融資特別会計の金利変動準備金についてのみ述べたいと思います。この準備金というのは金利リスクのためと説明されております。ただ、二〇〇一年の財投改革から財投債というのが発行されるようになりましたんで、言わば資産と負債のミスマッチというのは限りなくゼロに近くできるものになっているはずです。ただ、財政当局の方は金利リスクの存在を認めながら、金利リスクがあたかも外部変数、外から与えられたかのように、与件のように説明をしまして、五%の積立金を正当化しているというのが現状だと思います。』
『しかし、これは金融をやっている人だったら直ちに分かるんですけど、この金利リスクというのは外から与えられるものではなくて、自らどのようにするかというふうに管理するものです。民間金融機関であれば収益を稼ぐのは当然ですから、このリスクを取らなければ収益を取れないという意味で金利リスクを取るということはある程度は容認できるかもしれませんけれど、国では必ずしも収益を稼ぐ必要がないわけですね。そうなりますと、果たして国の政府活動としてリスクを取ることが適切なのかどうか、もし損失が出た場合には最終的には国民負担になるわけなので、国民の納得も得にくいものだと私は思います。そもそもその金融活動自体を政府活動としてどこまで行うのかというのも疑問があるかと思います。』
『いずれにしても、その財投債により金利リスクはほとんどゼロにでき得るにもかかわらず、一定の金利リスクを取って、そのために一定の積立金が必要とのロジックというのは果たして国民がどの程度納得できるんでしょうか。国民は政府にあえて金利リスクをと思わないかもしれません。その結果、積立金が取り崩せて財政再建に貢献できるんであれば、なおさらそう思うかもしれないと思っております。』(4月18日参議院財政金融委員会より)
さて、このお話なんですけど、まあ確かにご指摘の話は一々ご尤もなのでありますが、財投債部分で期間のミスマッチをなくす様なオペレーションをするということは恐らく超長期の財投債が結構な勢いで発行される事になる筈なのでありますが、30年国債と40年国債の流動性が相変わらずのマーケット状況で物理的に可能なのかという疑問がまずその1でございます。いやまあ最終的にはどっかで値段は付くでしょうからそれはそれで何とかなるのでしょうが、マーケットインパクトがでかくなった挙句に(調達金利が上昇して)財政投融資自体が赤字になったら意味ねえと思いますし、財投債部分で長期調達をドカンと増やしてイールドカーブを立たせてしまいますと(債券運用してる人は助かりますが^^)、一般会計での調達コストに跳ねてくる話ですんで、財政投融資の部分を綺麗にお掃除するそばから別の部分に変な影響が来ませんかねえとか思うのですが。
あと、政府が金利リスク取るなというのはそれはそれで一面ご尤もなのでありますけれども、金利リスクとらないで財政投融資を行うということは、その財政投融資では基本的に信用リスクを取っているものになると思うのでございますが、そちらに関する準備金はイラネということ(だと穴が開いたら一般会計から補填になりますよね)になるのでしょうか。何か今一歩良く判らんのですが。
いやまあ財政投融資自体がわけわからんのでこれを縮小廃止するという話ならばそれはそれで非常によく理解できるのですが、そのために埋蔵金を吐き出すとか財投債の足をより長期化するというのは何か手段と目的がひっくり返っているいるような気もするんですけど。どうにもこうにもよくわからんでございます。
○で、外為のほうですが・・・・
外国為替特別会計に関してですが、これまた上記参議院財政金融委員会における高橋先生の参考人説明から引用します。
『外為の場合は、多少ちょっと議論が複雑になるのはそのとおりだと思います。ただ、その外為がなぜあるのかって考えますと、これは為替の急激な変動がなくなるためですね。ですから、元々どうして為替がそのように変わるのかって考えますと、ちょっといろんなアイデアが出てくると思うんですが、一番為替が大きく変わる、長期的に大きく変わる要因というのは、実は、為替というのは元々通貨の交換比率ですから、それぞれの通貨の維持、価値とかそういうのに依存する。ということは、要するにそれぞれの国の金融政策に結構依存する話なんですね。』
『それで、海外なんかは実は余り外為資金を持っていないというのは、ほとんど似たような金融政策をする、結果的にすると、余り動かないというのがあります。それで、日本だけ見ますと、実はその物価の上昇率が結構為替に影響がある、長期的にはあるんですけれども、日本の物価の上昇率だけ十年間は余りにもなくてほかの方があるんですね。こういうのをずっと放置しておきますと、実は潜在的には円高になり得るんです。』
『ですから、どちらかというと、余り為替が動かないようなマクロ経済政策というのを取る方が実は簡単だと思います。ですから、そういうのを取った上でこれだけ必要なのかどうかというのを議論しながらやっていくというのが多分王道だと思いまして、私の印象ではきちんとしたマクロ経済政策があれば、余り円高とか、余り円安というのはなくて、そういう状況の下で考えれば、埋蔵金というか、それを資産、負債を整理していって圧縮していった段階で出る可能性はあるのではないかなというふうに考えております。』(4月18日参議院財政金融委員会より)
うーむ、お話一つ一つはその通りなのですが、全部を読むと何というかこの違和感がありまくるのですけど。国会相手の説明だから端折っている部分があるからなのかもしれないですけれども、短期的な為替変動の話と長期的な為替変動の話の切り分けが何か微妙にあいまい(長期的に為替が変動しないようにすれば短期的な変動もなくなりますっていうロジックのあたり)なのと、為替介入によって発生している日本の外貨準備とドルペッグをしている国の外貨準備の話をこれまた微妙に分けていないように見える(海外は米国と似たような金融政策をするのであまり外為資金を持っていないというあたり)あたりがあたくしの違和感のベースかと思うのでありますけれども、うまく説明できないのであります。
まあそれはそれとしまして、『ですから、どちらかというと、余り為替が動かないようなマクロ経済政策というのを取る方が実は簡単だと思います。』というのはちょっとそれは話がワープしているように思えるのですが。まあ結論はリフレ政策をしろって事に持って行きたいようなのですけれども、為替が動かないようなマクロ経済政策を取るとなると、何とかのトリレンマとかを持ち出しますと、金融政策とかが米国の政策動向に依存しちゃうような気が。えーっと日本はドルペッグ政策をしろということですか、わかりません><
さっきの日経新聞4月11日「経済教室」での説明だとこうなっています。
『具体的には日米のインフレ率を米国と同じくらいにしておけば、極端な為替変動圧力から逃れることができ、極端な内外金利差も回避することができる。また、こうしたマクロ経済環境は、現在のデフレ気味の経済環境から脱出することでもあり、経済にとっても望ましい。』(4月11日日経新聞「経済教室」より)
あたくし無知の為よくわからんのですが、潜在成長率というか経済の基礎的条件が違う国同士でインフレ率を同じくらいにしようとしても適正な政策金利水準って違うような気がするんですけど気のせいでしょうかというのが一点。それに為替市場での価格変動におきまして2国間のインフレ率の差って普通ネタにならんと思うのですけれども、長期的な変動が無くなれば短期的にも変動しないというロジックなのでしたっけ。うーむ。。。。
それから、実は外為特会でも確か金利ミスマッチ部分があったと思うのですけれども、このミスマッチの話はどうなるのか(たぶんそこまで話をすると論点が発散しすぎるのであえてスルーしているのだと思いますが)とか、外為特会の圧縮をすべしというご指摘は全く仰るとおりだと思うのですけれども、果たしてそれは極端な為替変動圧力を回避した場合に圧縮可能な代物なのかとか、まあ色々と正直よく判らない部分がございます。
と、延々とあたくしの無知蒙昧振りをさらけ出してしまいましたが、無知なあたくしの駄文に延々とお付き合いいただきましてありがとうございました。部分部分の話は判るのですが全体を通すと何かこうストンと落ちてこないのですよねえ・・・
2008/05/07
お題「色々と雑感」
4日も連休がございますとボケボケなんてもんじゃないですな。で、10年で木曜引け対比で16毛甘ですか米債は。
○金融士構想・・・・・
金曜に人のふんどしシリーズでご紹介した本石町日記さんのエントリーですが、さらに新しいエントリーが出まして、そちらにもコメントが集まっております(^^)。
http://hongokucho.exblog.jp/8517972/(最新のエントリー)
http://hongokucho.exblog.jp/8511113/(元のエントリー)
コメント欄の盛り上がりっぷりも中々面白いのでそれもご参照という感じですけれども、やはりまあ大臣様の肝いり構想のようでして、金融庁の中の人たちがオリジナルで発案したものではないようなのでとりあえずホッとしました。これが金融庁の中の人たちが大真面目に考えて構想してたら絶望モノだったんで(^^)。
しかしまあコメント欄の受け売りになっちゃいますけど、「高い付加価値を生み出す」金融士の資質って何なんでしょうねとあたくしも思うのでありますよ。まあ金融工学(笑)とやらを駆使して付加価値(笑)とやらを生み出すと言えばもう昨今話題の「貧乏人向け特攻ローンを証券化するとなぜかAAA」って奴でございましょうとか言い出すあたくしは偏見にも程がありますですかそうですか。
エントリー及びコメントでもう色々と書かれていますので、その通りでございますなあという感じですが、どうも金融担当大臣というのはここ2代に渡って「リスクゼロで儲かる仕組みを作るようなSWF構想」とか「金融士構想」とかどこの出入り商人に吹き込まれているんだかっていう人が連続して就任しておりまして誠に遺憾でございます。どっちも安部晋三総理大臣様が任命したお方でしたわ(当代は安部内閣からの留任ですが)なと思うと今更ながらに安部内閣さっさとコケて良かったですねえとしか思えませんが(苦笑)。
「出入り商人の言うことをホイホイ聞いて身上潰す2代目(3代目?)馬鹿旦那」の図がまたも出たかということで。はあ。
ところで、この「金融士」構想ですが、この話を聞いた時に「金融」「資格」と出た所で思い出したのが、我らがキムタケ先生がおっぱじめた「ファイナンシャルプランナー認定」でございます(^^)。
http://kimuratakeshi.cocolog-nifty.com/blog/2004/06/post_8.html
この認定試験ですが、何となく機能しているみたいですな、ふーん。
http://www.acifa.jp/index.html
まあ名刺にこれ刷っているのは残念ながら見たこと無いのはあたくしが独立した立場じゃない金融関係サラリーマンだからですかそうですか。
しかし知識量はともかく、独立性がどうのこうのなんて認定されるもんじゃあねえだろうと思うのでありますし、そもそも税制などはコロコロ変わるものなので、知識の量で勝負するんじゃなくて基本的な部分および、「どこをどう調べれば正確な知識があるか」(最終的には所轄の税務署に確認なんですけどね)という調べ方と、その知識をどう使うかなんだと思うのですが。
AFP試験のケーススタディーの設問を見てて「その課題設定(住宅ローンを抱えているのにアホほど生命保険に入っていて単月のキャッシュフローが赤字な給与所得者だったかな)はそもそも有り得ない話で、これやって意味あるのかよ」というのを見たって話を大昔した覚えがありますなあなんてのを思い出しましたよ。すげえ昔の話ですが。
まあそれは兎も角として、どうもこのメンバー見てますとキムタケ先生とかどこぞの経済評論家とか、山本さんやら渡辺さんにウケが良さそうな人が並んでいますがさすがにそれは邪推にも程がありますですかそうですか(汗)。
○中々落ち着きませんなあ
金曜の債券市場、投資家的にはもう月曜あたりの下げ局面で多くの人が買っちゃいましたし、4連休前ということでフツーに手を出しにくい日だったのですけれども、特に昼くらいからずるずる下がるの巻と相成りました。中期ゾーンもちと弱めでしたが、まあ先物から10年が中心っぽいので、投資家が買いにくいタイミングかつ週明け木曜に10年国債入札がありますので、まあその辺りを狙っていつもの人たちが世界的な金利上昇シナリオでひと稼ぎとかやってるのかねえとか勝手に想像してみたりして。
先週は月曜に中期売られの超長期堅調からスタートして、展望レポート出る前から中短期連日のつよつよ相場となり、展望レポート+白川総裁記者会見でなお中短期強くなった後に金曜は中期から10年がヘロヘロという結構派手な展開になっておりましたが、まあ今週は10年国債入札を通過するところまでこの調子なんでしょうか。何か展望レポートの内容見て超長期なら兎も角として(時間軸みたいなものが出て期待インフレ率が高まるというのなら判るが)より中期が売られてしまうというのは違和感が。
短いところも相変わらずアレでございまして、金曜スタートのコールは延々と低位で推移して即日の売出手形を2発(合計8000億円)実施していましたが、コールの加重平均は0.475%でした。4連休跨ぎになるので調達側が粘ればこういう話にもなると思うのですので、これはこれで不思議じゃないのですけど、ここに対応する28日時点でのGCレギュラー取引では66bp近辺になっておりまして、そりゃまあ先日付(特に連休中の券需要が読みにくいという時期的な要因もあり)と当日では需給違うんですけど、レポが66で無担保コールが47.5ってその違いはどうなのよという感じでございます。
まあ足元の低下を反映しているのか、金曜のGCレートはだいぶ低下してたようなんですけど、何かこのGCレポのレートの動き方ってのも大手銀行様のお家の事情で左右されるみたいで何ともですなあって感じでございます。同じ期間で20bp近く違う(その間に金融政策の変更なんぞないのに)というのはさすがにどうかと思うのですけどね。
それ以前の問題として、先々週あたりから先週にかけてGCレートがやたら高止まりする間に日銀のオペ金利の方は大して変化ないという動きもよーわからんですなという所でもございました。まあ超足元に関しては需給要因が一番強いというのは判るのですが、それにしても超足元のGCが独立して動きすぎじゃネーノって感じが致します。実に不思議ではございます。タームのオペ金利とか、FB3か月とかは安定してるんですけどねえ。
#休みが続いて腑抜けになっているのでこの程度の雑感で勘弁
2008/05/02
お題「白川総裁記者会見」
という話の前に金融庁が凄い釣り師振りを発揮している件につきまして。
○いやもうこの構想誰が言い出したんですか
本石町日記さんの最新エントリーに驚倒。
http://hongokucho.exblog.jp/8511113/
コメント欄とあわせてご覧になりますと宜しいかと存じますけれども、1か月遅れのエイプリルフールにしか思えないハイブローな金融庁の釣り師ぶりに驚倒せざるを得ません。いやまあやっぱりあの大臣じゃあしょうがねえなあと思うのであります。ってこんなの普通に考えて大臣の肝入り構想でしょって思うのですが、もしこの構想、金融庁様においでになられる優秀なるキャリア官僚様が真面目に考えて作っているのだったら絶望モノなんですけど。
と、日本の証券アナリスト(しかも取ったの10年以上前)しか持っていない(証券外務員とか保険の窓版とかありますけど)でもちゃーんと法令諸規則に遺漏無く実務を回して顧客様のお役に立っている(と思っているのは本人だけかもしれないが)あたくしは思うのでありました。
金融庁様がご意見募集中のようですので是非ご意見を(^^)。
さて、展望レポート大幅書き換えを受けた白川総裁の記者会見から。
http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk0805a.pdf
○説明がとても丁寧です
今回は展望レポート書き換えがあったので仕方ない面もあるのですが、PDFファイルで17ページの会見要旨。で、中身を読みますと説明が丁寧かつ発言にサービスフレーズあるいは不規則発言のようなものが無いという代物でありまして、前任の人とはだいぶ違う感じです。
この説明をトンチンカンな質問をしたりトンチンカンな記事を書いたりする記者の皆様におかれましては参考にしてきっちりと勉強していただきまして、よりちゃんとした記事を書いて頂きたく存じます次第なのでございます。不規則発言が全然出てこないのはネタとしては困りますが(笑)、これで会見のヘッドラインリスクは下がるんでしょうねと思うのであります。
「説明が丁寧」ってのと、「柔軟な対応(=最初に物事かくあるべしから入っていた前任の総裁とは違うという意味です)」ってのが白川総裁の特徴なんじゃないでしょうか。
内容盛りだくさんで全部紹介できないんじゃないかと書きながら懸念してますが、まあ参りましょう。
○スタグフレーションの時にどういう対応をするのか
という質問がございまして、質問(の一部)から引用をします。6ページ目の後半から。
『(問) 3点お伺いします。(2点割愛)最後は、標準シナリオでは、わが国景気は減速していくがCPIはじわじわと上がりいずれ伸び率が止まるということですが、仮に景気減速が深まり、CPIの伸び率鈍化が遅かった場合、あるいはCPIが高止まりした場合は、景気はいまひとつだが物価だけは高いという状態に直面すると思います。その時の金融政策については、どちらに舵をとられるのでしょうか。』
『(答)(前半割愛)先行きの日本経済が、物価と成長率の組合せにおいて望ましくない方向に変化した場合に金融政策をどのようにするのかというご質問ですが、物価にしろ、景気にしろ、同じ方向を向いている時には、中央銀行は相対的には金融政策をやりやすいわけですが、両者が食い違っている時はどうするのかというと、これはその都度難しい問題になってきます。中央銀行は、これについてはこのように対応するという答えを予め持って望むべきではないと思います。』
で、この先の説明が長いのよ(^^)。長いから段落分けします。
『多少理屈めいた話で恐縮ですが、そのような食い違いが生じるということは、需要のショックではなく供給のショックが起こるからです。つまり、原油価格が上がりその結果物価が上がるが、所得が流出して景気が下がってくるというのが1つの例です。そうした時に、供給ショックに対する金融政策の対応がどうあるべきかということについては、理屈の上では昔から考え方は比較的整理されていると思います。』
『つまり、純粋に供給サイドの要因であれば、これは消費国からみると景気の減退要因となります。一方、この物価の上昇は一時的な要因ですから、この物価上昇が2次的な物価上昇、つまり期待インフレ率の上昇を通じた物価上昇をもたらさないのであれば、それに対応するということは適切ではなく、もし期待インフレ率の上昇をもたらすのであれば金融政策で対応すべしというのが、オーソドックスな考え方だろうと思います。』
『ただ、現在起きているショックというものは、実は単純に供給ショックだけではなく、需要面の動きが背後にあり、大きな意味で、新興国の成長が拡大しその結果資源価格が上がっているということになりますと、需要要因が既に働いているわけですから、単純に供給面の要因だけ差っ引くということは適切ではないということになってきます。』
物価が上昇しても物価上昇が実質購買力の低下を招き、景気に対して悪材料になっているというのが展望レポートに示された現状認識でありますので、当面の金融政策は足元の物価上昇に対応することは適切ではないという事でありましょう。これが賃金その他全部上昇するという話になると前提条件が変わってくるとなるんでしょうか。
『結局は、その時々において経済の先行きの経路がどのようになっていくかということについて、あらゆる情報を集めた上で判断するしかありません。基本的には、物価安定のもとでの持続的な成長ということですので、少し長い時間的視野の中でデータに則して判断していくということだと思います。』
会見要旨をご覧になられた方におかれましては先刻ご承知かと存じますが、だいたい質疑応答の中で説明が必要だなって物に関しては白川さんの説明がやたら長い(よく言えば懇切丁寧)のが仕様となっております。まあ説明そのものは理詰めで入っていて、変な俺様理論が入ってこないので読む分には良いのですけど。
○改めて方向感を否定
12ページ目の質問から。
『(問) 二点お伺いします。一点は先行きの金融政策についてですが、展望レポートでは、「先行きの金融政策運営について予め特定の方向性を持つことは適当ではない」として、「機動的に金融政策運営を行っていく方針である」と書かれています。機動的に金融政策を行っていくのは当たり前だと思いますが、日銀として、現在の緩和的な政策金利で当面様子を見ていくと書かずに、あえて機動的に行っていくと書いた意味合いについて教えて下さい。例えば、利上げも利下げも別に現在の金融政策にこだわらずにやっていくという気持ちはあるのでしょうか。(以下割愛)』
『(答) 金融政策の運営スタンスとして機動的であるというのは、これはもちろん何時の時代にあってもそうであり、一般論でもその通りです。前回までの展望レポートでは、それまでの経済・物価の見通しを前提として、方向として金利の水準調整をしていくという大きな方向感があったわけです。今回は足許経済が下振れしている、それ以上にリスク要因が大きくなっているということです。そうであれば、私ども自身の金融政策のスタンスをわかりやすく説明していくという観点からすると、機動的という表現が一番良いということです。』
明確に方向感を否定してますな。現実的で結構結構。
『今の私どもの考え方を一番わかりやすく率直に説明するために機動的という言葉を使ったわけであって、機動的という言葉にことさら大きな意味を込めているわけではありません。もちろん、一般的に中央銀行は機動的にやっていくということです。ただ従来は先行きについて大きな方向感を持っていたということであります。』
機動的としたからといっても目先に一喜一憂してやたらめったらホイホイと上げ下げをする訳ではないですよ程度の意味かと存じます。
○第1の柱、第2の柱
あたくしの過去の特集もご参照ください(^^)。
http://www.h5.dion.ne.jp/~bond7743/seisakudainino.html
で、こちらは14ページ目から。
『それから金融政策の枠組みについて、その2つの柱の関係がわかりにくいので、もう1
回説明してほしいという話であります。(前置き部分割愛)その上で、第1の柱と第2の柱の関係についてですが、第1の柱は、現在の市場で形成されている金利を前提として最も蓋然性が高い見通しが、物価安定のもとでの持続的な成長という目的に照らして、満足のいくものかどうかということを点検していくということです。第2の柱は、少し時間の要素を長く考えて、向こう2年という展望レポートの見通し期間だけでなくもう少し長い先を展望してどういうリスクがあるのかとか、あるいはこの2年の中でも、確率は非常に小さいけれども、しかし起きた場合には非常に損失の大きなシナリオとしてどのようなものがあるかということを点検していこうということです。』
やや丁寧ですけれども、ここまでだと過去の公表文書を説明した感じでございますわな。
『この2つの柱について、頭の中では第1、第2の柱の一つ一つの要因を分解しながら考えていきますが、最終的には、そうした2つの角度に照らして判断しながら金融政策を決めていくということであります。これは、昔から中央銀行が金融政策を行うときに考えていたことをあえて枠組みに落としたものであって、特に日本銀行が変わった枠組みを使っているわけではありません。』
『まず、平均的に何が起こるか、そしていざという場合は確率が低いけれどもどのようなことが起こるか、という考え方は、ごく普通のアプローチです。その表し方としてどのようなものが良いかということについては、さらに考えていきたいと思います。』
ということで、第1の柱と第2の柱というのは期間の違いで分けているのではなく、メインシナリオとそれ以外のリスク要因という分け方になるのですな。公表文書の中で「より長い期間を見通しつつ」というような表現があったのがちとミスリードしやすいものだったという事ではないでしょうか。
○リスクは下向き
好循環メカニズムという表現が外れた理由に関して(6ページ目)。
『次に好循環メカニズムという記述がなくなったのはなぜかという質問ですが、それほど複雑なことがあるわけではありません。繰り返しになりますが、日本経済は、エネルギー・原材料価格高の影響などから減速しています。生産・所得・支出の循環メカニズムも足許弱まっているとみています。』
『個別に点検していきますと、生産は横這い圏内の動きとなり、所得面ではエネルギー・原材料価格高は企業収益等の所得形成を弱めています。支出面では、比較的底堅く推移していますが、設備投資の増勢は鈍化してします。生産・所得・支出は国民所得の三面等価ですが、この3つの面すべてから点検していきますと、いずれも弱まる方向にあり足許弱まっているということですので、その結果ご指摘の記述が落ちたということです。』
リスク・バランス・チャートの説明が2回ほどございましたが、最初の方(7ページ目)は長いので次の方(13ページ目)から。
『次に、2008 年度と2009 年度の成長率についてですが、2008 年度は展望レポート本文にも書いてあります通り、明確に下振れリスクのほうを上振れリスクよりも意識しているということで、そのことがリスク・バランス・チャートにも出ているということです。』
『このリスク・バランス・チャートというのは、7名の委員のそれぞれのリスク・バランス・チャートを合成してできるわけであります。従って、7名の委員それぞれがどのような考えであったかということについては、私がこの場で言うのは必ずしも正確ではないと思います。ただ、そういう意味でリスク・バランス・チャートについて言えることは、2008
年度は下振れリスクを意識した姿と非常に整合的な絵になっているということです。2009
年度は、それとの比較で言えば明確にどちらかに振れているというほどではなく、左右がバランスしていると思います。』
○ということで
とまあそういうことで、福井総裁時代のように「まずは金利水準の調整(=利上げ)」という動きは無いっちゅうことですわな。タカ派の白川さんが総裁になったのは日銀の陰謀って都市伝説(4月17日にあたくしの駄文でネタにしたこの辺とかhttp://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/column/o/128/index3.html)は他市場とか海外の人辺りには食いつきが良かったのかも知れませんが、まあ残念でございましたねえ(棒読み)という所でございますな。
会見要旨自体は量多い(何回か「長くなりますが」といいながら長く説明をしている箇所が^^)ですが、まあ今回の内容は読んでおくことをお勧めします。
2008/05/01
お題「さあ展望レポートです」
米国利下げ打ち止めがコンセンサスだっただけにリスクは金利低下でございましたかそうですか。
さて昨日の展望レポート、今回は基本的見解もPDFになっております。
http://www.boj.or.jp/type/release/teiki/tenbo/gor0804a.pdf(今回)
http://www.boj.or.jp/type/release/teiki/tenbo/gor0710.htm(昨年10月)
過去の展望レポートはこちらから
http://www.boj.or.jp/theme/seisaku/sakiyuki/tenbo/index.htm
○市場の反応ですが
えーっと、昨日は場中から中期ゾーンが強くて相場上昇の巻でございましたが、展望レポート出てからも上昇。債券市場も5年とか2年とか強かったですが、金先が例によって例の如くやたら上昇の巻で、3時過ぎにはDec08とかMar09が9毛強位でしたけど、5時過ぎに数字みたらDec08は13毛ちょい強くてMar09が16とか17毛強いという中々見事な上昇。
展望レポートの内容とか、総裁記者会見の(ヘッドラインで見ただけですけど)内容とか別にサプライズは無くて事前に報道やら何とかストの皆さんやらが予想している通りだったと思うのですが、どうも「白川日銀はタカ派」という都市伝説が特に金先をいじっている人に信仰されていたのでしょうか。いやまあ戻すわ戻すわ。
ただまあそもそも論と致しましてですな、(昨日書き忘れたけど)月曜の金先なんぞMar08で安値98.800とかマークしてたんですよね。それって「来年3月のユーロ円TIBOR3か月もの金利が1.20%」という事を意味するのでありまして、えーっとそれってざっくり1回半ちょっとの利上げを織り込んでいやあしませんかという数値という豪快にも程がある下げ方をしておった訳でして、戻るのもまあ仕方無いですねえという所です。
というか、金先って何でそう豪快にオーバーシュートするのやら。。。。
では展望レポートのポイントとあたくしが思ったものを整理。
○方向性決め打ち排除
既に皆様ご案内の通りですけど、(金融背策運営)の部分から。ちと長いので段落分けながら。
『金融政策運営については、これまで、@短期金利は、潜在成長率や物価上昇率との関係からみて、極めて低い水準にあり、日本経済が物価安定のもとでの持続的成長軌道を辿るのであれば、金利水準は引き上げていく方向にある、A引き上げのペースについては、予断を持つことなく、経済・物価情勢の改善の度合いに応じて決定する、という考え方で進めてきた。』
と、ここまでは従来の展望レポートにあったロジックで、次が実際の政策運営に関する説明。
『実際の政策運営においては、昨年2月に政策金利水準を0.5%に引き上げ、その後は、これを維持した。これは、蓋然性の高い見通しとしては、物価安定のもとでの持続的な成長という見通しが維持されたが、そのペースは、住宅投資の落ち込みやエネルギー・原材料価格高の影響などから減速したことや、リスクの面でも、海外経済や国際金融資本市場を巡る不確実性、エネルギー・原材料価格高の影響など、下振れリスクが高まったことなどを考慮したものである。』
で、現在の市場の状況に関しても言及しています。
『こうした経済の減速や下振れリスクの高まりを背景に、金融市場における先行きの利上げ見通しは後退し、対応する期間の金利は低下している。』
えーっと、その後この展望レポート出る直前は金先などは年内利上げ確実以上の売られっぷりを示していましたが、ここの表現を、本石町日記さんの最新エントリーなども参照しますと、たぶんこれは「市場が織り込む先行きの政策金利」というのは「現状維持」となっているという意味であると思料されます。
『現在のように不確実性が極めて高い状況のもとで、先行きの金融政策運営について予め特定の方向性を持つことは適当ではない。この先、下振れリスクが薄れ、物価安定のもとでの持続的な成長を続ける見通しの蓋然性が高まるのか、あるいは、下振れリスクが顕現化する蓋然性が高まるのか、よく見極めていく必要がある。』
『日本銀行としては、経済・物価の見通しとその蓋然性、上下両方向のリスク要因を丹念に点検しながら、それらに応じて機動的に金融政策運営を行っていく方針である。』
ということで上下決め打ち無し。利下げも利上げもあり得るという事ですが、まあ当面現状維持って話になるんでしょうね。
○瀕死状態の「好循環メカニズム」
経済のメインシナリオ部分は最初のところにございまして、こちらを前回と比較すると面白いのですが、それを最初にやっちゃうと長く成りすぎますので「第1の柱」部分の表現を引用しますね。
『まず、第1の柱、すなわち先行き2009 年度までの経済・物価情勢について最も蓋然性が高いと判断される見通しについて、政策金利に関して市場金利に織り込まれている金利観を参考にしつつ点検する。上述した通り、わが国経済は、当面減速するが、見通し期間全体では、概ね潜在成長率並みで推移するとみられる。』(今回)
『第1の柱、すなわち先行き2008年度までの経済・物価情勢について最も蓋然性が高いと判断される見通しについて、政策金利に関して市場金利に織り込まれている金利観を参考にしつつ点検すると、上述した通り、わが国経済は、生産・所得・支出の好循環メカニズムが維持されるもとで、息の長い拡大が続くとみられる。』(昨年10月の展望レポートより)
とまあそういうことで、潜在成長率並みでの推移だから拡大とは言えませんでしょうし、好循環メカニズムに関しても文言削除ということでございまして、メインシナリオが利上げ前提ではなくなりましたな。で、そうなりますと現在の「第1の柱」「第2の柱」に関しても(まあ相変わらず解釈は難しいのですが)今までのようなロジック的苦労は軽減されそうな感じがします(^^)。それから、先ほども申し上げましたけど、「政策金利に関して市場金利に織り込まれている金利観」は「利上げでも利下げでも無く現状維持継続」という「金利観」であるものと見られます。
○物価上昇のネガティブな面への言及
(上振れ・下振れ要因)の部分では物価上昇について言及。
『第2に、エネルギー・原材料価格の動向である。見通しでは、原油をはじめとする国際商品市況については、新興国を中心とする需要に支えられて、高水準で推移すると想定している。国際商品市況が想定以上に上昇した場合には、各国でインフレ圧力の高まりにつながるリスクがあり、その後の景気下振れ要因となるおそれもある。また、日本にとっては、海外への所得流出が増加することにもなり、企業や家計の支出活動にマイナスの影響を及ぼす可能性がある。』
ということで、エネルギーや原材料価格の上昇に関しては「景気にネガティブ」というのを強調。これはまあ当然っちゃあ当然ですけれども、まあ相変わらず記者会見(ヘッドライン見ただけなので会見要旨を見て改めてご紹介しますが)では物価上昇はインフレで利上げみたいなフレームから抜けてない(つまりインフレとスタグフレーションの区別がつかんのでしょうな)質問が飛んでいる事から、この部分を強調しないと勘違いするアホウがいつまでも出続けることを懸念してるのかな何て思ったりして。考えすぎしょうけど(^^)。
物価上昇率の上振れ・下振れの部分から。
『次に、物価上昇率の先行きについても、上振れ・下振れ両方向の不確実性があることに留意する必要がある。経済活動水準の変動について上述のような上振れ・下振れ要因が顕現化した場合、物価にも相応の影響を及ぼすとみられる。』
『物価に固有のリスク要因としては、第1に、家計のインフレ予想や企業の価格設定行動が挙げられる。消費者の購入頻度の高い財・サービスの価格上昇などを背景に、消費者のインフレ予想はさらに高まる可能性がある。また、企業においても、原材料価格の上昇を製品価格に転嫁する動きが広範化する可能性がある。これらの場合、物価は予想より上振れる可能性がある。一方、競争環境が厳しいもとで、企業のコスト削減努力などにより価格上昇が想定ほど進まない可能性もある。第2に、原油をはじめとする一次産品の価格動向には上下両方向に不確実性が大きい。』
まあこのインフレ予想やら川下での価格転嫁やらが雇用者の名目所得の上昇に結びつけばそれはそれで(前向きかどうかは兎も角と致しまして)一種の循環メカニズムになりそうな感じですが、どうにもこうにもそんな感じが無いのが誠に頂けませんな。こっちの部分は前回とあまり変わってませんが、前半部分に関しては今回どどーんと新設されたリスク要因ですので、物価上昇即利上げじゃないですよという所は把握されたし(というか債券市場と短期金融市場の国内参加者はとうの昔に把握してると思うが)と存じます。
○ここの解釈が微妙なのですが・・・
(上振れ・下振れ要因)の中にこういう部分がございまして。
『第4に、緩和的な金融環境が続くもとで、金融・経済活動の振幅が大きくなる可能性があることである。現在、経済の減速によって、企業や家計、金融機関の行き過ぎた行動が生じる可能性は以前より低くなっているとみられる。もっとも、緩和的な金融環境が長く続き、今後も維持されると予想されるもとで、経済主体の期待の変化によって、その行動に行き過ぎが生じ、それが長い目でみた資源配分の歪みにつながるおそれは引き続き存在する。』
それから、同じことですが第2の柱にはこのような記述も。
『長期的には、低金利が経済・物価情勢と離れて長く継続するという期待が定着するなど、緩和的な金融環境の長期化が経済・物価の振幅をもたらすリスクは、引き続き存在し、特に上記のような下振れリスクが薄れる場合には、その重要性は増すと考えられる。』
ただまあ最初に引用した部分にありますように、従来堂々と謳っていた『短期金利は、潜在成長率や物価上昇率との関係からみて、極めて低い水準にあり』って部分は引っ込めておりますので、これは「現状の短期金利水準が緩和的である」と言い切っているのかどうか良く判らんのですけれども、まあたぶん緩和的という認識を残しておいて、景気状況が好転してきた時の利上げロジック用にするのではないかと勝手に想像するのであります。
○第2の柱は下振れリスクに
今回の第2の柱より。
『前述の通り、海外経済や国際金融資本市場を巡る不確実性、エネルギー・原材料価格高の影響など景気の下振れリスクに最も注意する必要がある。』
「最も注意」ですよ。警戒来ましたコレって感じで。
『ただし、企業部門や金融システムの頑健性が高くなっていることから、物価下落と景気悪化の悪循環が生じるリスクは小さくなっていると考えられる。』
これはまあ前回と同じ。
『物価面においては、エネルギー・原材料価格のさらなる上昇や、消費者のインフレ予想や企業の価格設定行動の変化により、物価が上振れるリスクがあるが、「中長期的な物価安定の理解」から大きく乖離する可能性は小さい。』
ということで、さっき引用しませんでしたが、物価の上昇を即利上げに結び付けられるような表現を排除しているのが判るというものです。その次は先ほど引用した緩和的な金融環境がどうのこうのという部分。
さて、前回の第2の柱はと申しますと・・・・・
『第2の柱、すなわち、より長期的な視点を踏まえつつ、確率は高くなくとも発生した場合に生じるコストも意識しながら、金融政策運営の観点から重視すべきリスクを点検すると、経済・物価情勢の改善が展望できる状況下、金融政策面からの刺激効果が一段と強まる可能性がある。』(これは昨年10月の展望レポート)
以下景気の良い話が続き、最後のほうになりますと、
『また、前述のように海外経済や国際金融資本市場の動向など不確実な要因があり、これらに変調が生じた場合には、日本経済も影響を受けると考えられる。』(これも昨年10月の展望レポート)
とやっと出てくるという次第でしたので、前回対比でリスク点検方向がドテン下向きになりましたという事で。いやまあ本来こうなっていて然るべきものでございましたので別に金先とか中短期国債とかがいきなり持ち上がる必要はないようにも思えますが、その前に下を散々ぶち叩いてやり過ぎてしまった分は反動するんでしょうということで(^^)。
○最後になんか正規分布みたいなチャートが
最後に「リスク・バランス・チャート」ってのが出ています。どうせなら名前出さなくていいから委員ごとにAさんはこうでBさんはこうみたいな図の方が楽しそうな気もしますがまあそれは兎も角。
9ページ目の説明部分から。
『今回集計された「リスク・バランス・チャート」以下の特徴がある。』
『実質GDP
2008 年度の分布は下方向に偏っており、委員は上方リスクに比べて下方リスクが高いと考えていることが示されている。一方、2009
年度は、上下の分布はほぼ均衡しており、委員は下振れと同様、上振れの可能性もあると考えていることを示唆している。また、2008
年度と2009 年度を比べると、2009年度の方が分布の裾野が広くなっており、時間の経過とともに不確実性が高くなることが示されている。』
『消費者物価指数(除く生鮮食品)
2008 年度、2009 年度ともに、やや下方に偏っている。また、実質GDP成長率と同様に、2008
年度より2009 年度の方が分布の裾野が広い。』
要するに本年度は下振れリスクを見てまして、来年度のことはあーたそんなの予想しろって難しいですがなってことでございますか。。。。
まあ総じて言えば、現実的になったレポートで良かったですねという所であります。あと、メインシナリオ部分の表現っぷりも前回と比較すると中々味わいがあるのですけれども、やってるとキリがないので本日はこんなところで勘弁。