2003年11月

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朝のドラめもん

2003/11/28

お題「金融政策決定会合議事要旨」

皆様からリクエストを頂くとは冥利に尽きます(^^)。

「当座預金残高の引き上げ」を行ったのに「金融緩和ではない」という謎の金融政策が決定された10月9日〜10日の金融政策決定会合の議事要旨。3人も反対したということで注目がされているので、あたくしも読んで見ました。

http://www.boj.or.jp/seisaku/03/pb/g031010.htm


○経済情勢に関する執行部報告でちょっと気になったこと

基本的には金融経済月報と同じ話なので別途読んでみるお話なのですかど、ちょっとだけ気になったのはこの部分です。

『企業収益は、9月短観において増加基調にあることが確認された。企業の業況感も、製造業大企業が2000年12月調査以来のプラスへと改善したほか、中小企業でも緩やかな改善がみられている点が特徴的である。こうしたもとで、設備投資は緩やかに回復している。』

この『中小企業でも緩やかな改善がみられている点が特徴的である。』という部分ですが、要するに「2極化現象が改善されている」と言いたいのでしょう。「大企業主要製造業の業績改善の波及効果が現れ出している」ってな事でもありますな。

本当にそうなんでしょうかね〜。どうも気になりますのう。

という前置きは兎も角として、当座預金引き上げへの賛否を巡るというあれこれという本題に参りましょう(^^)。


○これでは政策の自己否定ですな

まぁどう見ても反対論の方が論理的整合性があるのですが、まずは賛成論の意見をみてみるとこんな感じです。

『このうちの複数の委員は、当座預金残高目標の上限の引き上げは、景気のダウンサイド・リスクに対応するという今までの意味での追加緩和とは異なるものであり、金融調節の機動性を高めて、それを通じて景気回復に向けた動きをより確実なものとしていくことに主眼がある措置である、との認識を示した。』

と言うことで、最初から「金融緩和ではない」けれども「金融調節の機動性を高めて、景気回復に向けた動きをより確実なものとしていく」という実に摩訶不思議な理屈での当座預金引き上げというお話であります。

で、何でその必要があるかという点についてはこのような理由がある様です。

『複数の委員は、(1)金融市場は今後不安定化するおそれもあり、予防的に対応する必要があること、(2)市場への情報発信のみでなく、当座預金残高目標の引き上げという行動を通じて、日本銀行の量的緩和政策継続に関する強いスタンスを明確にすべきであること、(3)30兆円の上限があることで金融調節の柔軟性が失われていることも、当座預金残高目標の上限の引き上げが必要となる理由である、と付け加えた。』

この理由のうちの(2)は要するに「アナウンスメント効果」狙いでして、悪口を言えば「パフォーマンス」であります。政策というのは作用と副作用があるわけで、「アナウンスメント効果狙いで打つような政策」というのは要するに「毒にも薬にもならない政策」な訳であります。たかがアナウンスメント効果の為如きで重要な政策を行うという事は余程の間抜けでないと実施できないお話です(-_-メ)。

まぁ語るに落ちるとはこの事でありまして、その点について反対論者から鋭く突っ込まれているのが笑えるところであります(^^)。


○自分に都合よく「危機」を作り出す謎

で、(1)と(3)の理由は事実誤認も甚だしいです。もはやここまで来ると「政策実施のために理由を探す」という無茶苦茶な行動に相成ってしまうわけでありまして、これぞまさにマッチポンプでありますな。

まぁあたくしいつも申し上げておりますが、この総裁になってからのマッチポンプぶりには呆れ果てるものがございます。当座預金残高の引き上げで引き合いに出された「懸念材料」は「イラク情勢」「新型肺炎」「りそな銀行問題」などがございました。しかし例えばイラク情勢に関しては、@織り込み済みであった開戦の時にはさも大問題が発生したかのように大騒ぎして臨時政策委員会を開催(先進国の中央銀行で大騒ぎしたのは日本だけでしたな)し、Aイラク情勢が泥沼化し、イスタンブールでのテロで金融市場がちょっとだけですけど動揺したときには何のコメントも無し、というような素晴らしいご都合振りであります。ようやく反対論が増えてきたのは結構な話であります。


○量的緩和の筈が金利ターゲットに逆戻り?

では反対論の方を引用してみましょう。

『これに対して、複数の委員は、(1)景気判断を改善させる一方で当座預金残高目標を引き上げることは、量の増加を金融緩和手段としてきたこれまでの政策運営との整合性を欠くほか、柔軟な調節の政策意図がはっきりしないため、為替介入のサポートと捉えられかねない等、不透明感が高まる、(2)金融市場は安定しており追加的な緩和で対応することが必要な状況ではないほか、必要以上に金利の振れを均すのは市場機能の一段の低下を生むとともに、金利ではなく主として量にコミットするという量的緩和政策の枠組みとも整合的ではない、との見方を述べた。』

注目点は(2)の後半です。「金利の振れを均すのは、量にコミットするという量的緩和政策の枠組みとも整合的ではない」というのは正しく仰る通りであります。

ちなみに、最初に短期金利をゼロに持っていった政策は「ゼロ金利政策」でありまして、「無担保コール翌日物金利がゼロ近辺になるように誘導する」という金利ターゲットの政策でありました。で、今回は「当座預金の残高」をターゲットにするというのが政策の根本であります。そのために「量的緩和政策」と呼ばれているわけでございます。

「柔軟な対応」をするためと称して当座預金残高の引き上げをさしたる理由も無く(というか理由を無理矢理作っているのですが^^)行うくらいならば、当座預金残高の上限を撤廃しちゃえば良いのでは・・・・とまで思ってしまうのですが、残念ながら「量的ターゲット」という政策を行っている以上、当座預金残高のターゲットは設けておかないといけないのが頭の痛いところでしょうな(-_-メ)。


○どっちが日銀執行部?

さっきの所でも『金融市場は安定しており追加的な緩和で対応することが必要な状況ではない』とあっさり言われておりますが、その他にもこのように言われております(^^ゞ。

『また、複数の委員は、調節の柔軟性という点では、現在も日々の当座預金残高は1兆円程度の振れを伴う十分柔軟なものとなっているほか、一時的な市場の不安定化には「なお書き」で対応すれば良いのではないか、と指摘し、このうちのひとりの委員は、30兆円の上限を守るために実施している資金吸収オペレーションには特に問題が生じていない、と述べた。』

普通は外部の息のかかった審議委員が必要以上に金融緩和の必要性を煽り立てて、それに対して日銀の執行部が「現状は危機のような状況ではなく、金融緩和の必要はない」と言うのが中央銀行のお姿だとおもうのですが・・・・・・・・

この国では何故か執行部が「ありもしない金融不安」を強調して金融緩和を行おうとして、外部から招聘した審議委員が「現状の金融政策に何ら問題は無い」と言って金融緩和の止め役に回るという実に香しい光景を演出しておりまして、似非日銀ウォッチャーのあたくしとしてはお笑いかつ頭痛のする状況でございます。

多分福井総裁が「エライ人」であるのが原因なのかと思いますが、現場の状況が最高責任者にまともに伝わらないような状況で、まともな金融政策が出来るのかと考えますとやはり寒いものを感じる訳であります。まるで大東亜戦争末期の旧軍ですな。



そういえばこんなコメントもされております。反対論者をしてここまで言わしめる金融政策とは一体何なんでしょうか?

『また別のひとりの委員は、金融不安等が生じていない時に、一時的に当座預金残高を増やしても政策的な意義は乏しく、時間軸を強化するメッセージを送ることにもならず、意図がはっきりしない措置を行うことは、金融政策の透明性を損なう可能性がある、と述べた。』


まぁしかしこの時に同時に「金融政策の透明性の強化について」という施策を打ち出したというのも、まぁ下らん茶番劇ですな〜という印象を強くするものでございます。



○あたくし的な愚意見

中央銀行の政策が有効に機能するためには、その根本に「政策に対する信認」がなければ叶わないお話です(中央銀行じゃなくてもそうですが)。その場その場でご都合主義で政策を打っているような中央銀行だという認識が広がってしまえばどんなに立派な政策を打ってもその効果は見込めないでしょう。

そういう観点から申し上げると、この総裁になってからやっている政策は基本的にその場その場のご都合主義的政策。内閣が変わる度に言ってる事がコロコロ変わるどこぞの学者大臣といい勝負であります。困ったものです。

というわけで、総裁副総裁の合計3名を除けばついに賛否が半々に分かれてしまう破目になった日銀の政策決定プロセスも、そろそろ軌道修正していただきたいものでございますが、まぁカリスマ総裁だか何だか知りませんが、現場の状況が総裁ではなく、外部の審議委員により正確に伝わっているという現状では期待薄でしょうな。

政策に対する信認をこれ以上失わせるのは如何な物かと思いますがね。孔子は確か「人、信無くば立たず」という至言を残されておりますが、今の金融政策に必要とされているのは「信」なのではないでしょうか?


他にも読む所がありそうなのですが、とりあえず重要なポイントと思われる当座預金残高の引き上げへの賛否を紹介致しました。



朝のドラめもん

2003/11/27

お題「2年国債入札/年末相場の材料は?」

○意外な盲点かもしれない2年国債入札

無事に終わった筈の11月の国債入札揃い踏み。特に問題になる筈ではない2年国債入札が本日行われるのですが、これが意外な盲点になるかもしれません。

元々先月発行の2年国債が依然として業者の在庫になっている(かどうか本当のことはわかりませんが、業者間スクリーンの雰囲気を見ているとそんな感じです)所へ来て、月末ご恒例の長期化取引によって残存2年ゾーンの既発5年債あたりが業者の持ちになっている模様。

元々トルコでのテロだの、日経平均10000円割れだのという事で先週初に中短期債が派手派手に買い上げられた分の反動といった面もございますが、入札を前にして業者の在庫が重くなっているのは少々問題になるかな〜と言う感じです。

まぁ良くない時は良くない事が重なるもので、FBの在庫にも荷もたれ感がございましてGCレポレートも少々強含みでして、ファンディングコストの影響をモロに受ける2年ゾーンには宜しくない雰囲気ではあります。特に今月は年末越えのレートと言う問題もありまして、(最終的に全くの問題はないとは思いますが)年末越えの資金目処がつかないと買いにくいのもややネガティブ要因です。


まぁ所詮は短期債みたいなものですのであまり大騒ぎしても仕方が無いというのは有りますし、最終的に「時間軸への信頼」があるうちは売られても高が知れている(0.1%台後半まででしょうな〜)というのはございますが、一応イールドカーブの起点に近い債券ですので、あまり金利が上昇しちゃいますと、全体的なイールド形成にも悪影響を与えるので要注意と言ったところでしょう。

昨日の2年ゾーンへのピンポイント爆撃的な売りが、単に入札前の相場押し下げ運動であれば問題無いのですが、実際の所はまさしく蓋を開けてみないと判りませんですな。ま、単なる雰囲気作りだけで済めば良いのですが・・・・・・・



○やはり年末の材料はは政治ですかね〜

先送りの得意な小泉大先生。色々な問題について「外向きの顔」と「内向きの顔」を巧みに使い分けて時間を稼ぎ、請求書がやってこないようにしておりました。外向きには改革が進行しているというイメージを維持しつつも、時間稼ぎをすることによって既得権益にもいい顔をする(経世会のもっている権益の奪取には熱心なようですが)というテクニックは大したものであります。

そんなうちに選挙も終わりまして、自民公明政権が当面天下泰平(次の参議院選挙では前回の大勝利が効いているので、相当の壊滅的な負けをしない限り過半数は確保できます)という事になって参りました。となりますと、そろそろ政策と言う名の空手形の履行時期がやってくる訳でありますな(-_-メ)。

イラク派兵問題もそろそろ履行を求められそうな雰囲気ですが、これは米国のケツに本当に火がつかない限りは暫くは「派兵する振り」作戦で何とかなるかと思います。ただしどこぞのビルにでも爆弾抱えたトラックあたりが突っ込んできたら全ては瓦解ですが。

道路公団民営化問題では新総裁が早速国土交通省と民営化委員会の双方から叩かれると言う香しい展開。この問題も随分長時間引っ張りつづけている話ですが、いい加減何もしないでいるとそろそろまずそうな雰囲気。

年金制度改革もそういえば来月中に政府案を出さないといけない筈なのですが、これもまた頓挫しております。しかもこの問題の主管大臣が公明党と来ておりますので、下手に扱って公明党がヘソを曲げるとエライコッチャになります。まぁ頑張りや〜♪という感じであります。

金融システム問題は結局「無言の財政出動コミットメント」という大技でとりあえず問題の封印に成功したようですが、将来における潜在的な財政負担が発生しているというのは当ドラめもんで何度も申し上げている通り。これも何気に問題先送りの一環で財政へのツケ回しであります。


と言うことで、今までは「選挙前」という事で許されていた(訳でもないが)問題先送りの履行を求められますと、ま〜色々な問題が出てきそうであります。で、これが政局になりうるかと言うと、野党の民主党は世襲批判とかをしている筈なのに党首自らがてめーのガキじゃなかったお坊ちゃまを選挙にだして見事に落選ようなテイタラクですので、とても政局にはなりそうも無いのが残念かつ安心な所でもあります(^^)。

でありますが、昨日の宿題「年末にかけての材料」の筆頭候補にはやはり「小泉改革の行方」があげられるのではないかと存じます。


余りにも相場の手がかり材料もないので本日は甚だ簡単にm(__)m


朝のドラめもん

2003/11/26

お題「そろそろ年末モードか?」

と言う訳で債券市場のお話。

ま〜「入札ラッシュで需給悪化」というお話は事前には散々言われておりましたが、10年国債の入札後の外部環境に助けられた面もありまして、あたくしが一番問題だとおもっていた直後の5年国債入札を無事にクリアー。で、後は淡々と入札をこなしていきまして、あとは木曜日の2年国債入札だけと相成りました。

てな訳で、30年国債の入札が無事に終了したあたりから債券相場は見事に焦点ボケ状態。何せ債券先物は先週から毎日上げと下げを一日交代で繰り返すという日替わり相場でございます。

場中の値動きを見ておりますと、まぁ見事なまでに先物が株式指数、というか日経平均先物に逆連動しておりまして、大して動いていない指数先物がちょっと動くと債券先物もちょろっと動くと言う実にしょうもない展開になっております。

「足元の債券需給には不安がない」けれども「循環的な景気回復傾向は持続中」でして、「運用しなきゃいけない資金は滞留中」という状況でございますので、結局の所「何となく様子見」という状況になっているようでございますな。まさしく気迷いの相場となっております。

こ〜ゆ〜時は所謂「パッシブ系」の機械的に相場に入ってくるお方の買いをきっかけにして堅調相場になる傾向があります。現状では6月以来の急落相場でのやられポジションを抱えているお方が多いので相場がちょっと上がるとすかさず「待ってました!」の売りが出て来るのですが、どうも売っても相場が全然下がらないので、下手に売ると再投資リスクが発生してしまうという認識が広がってくると年末に掛けて意外な堅調相場が出現するかもしれませんのでご留意ありたし、といった所かとおもいます。


昨年は国債の発行計画が色々と話題になっておりましたが、今年は年限別の割り振りに関しても「超長期増発問題なし」といった強気のお話が多くなっております。国債発行30兆円問題で大騒ぎしていたのが嘘のようでして、「財政赤字の持続可能性」が話題にならないのが、良いんだか悪いんだか・・・・・という印象です。

おりしも、昨日は財務省から「12月2日に国債投資家懇談会実施。お題は国債発行計画」というご案内が行われました。昨年の状況であれば、「入札の日の引け後に国債発行計画関連の話とはケシカラン」という話になってもおかしくない所ですが、今年に関しては別に誰も問題にしない(まぁ意見を聞くだけの会になるというのもありますが)ですし、入札日の引け後に堂々とぶつけてくる財務省の自信(債券市場の材料にはならない!という意味での)の程も窺えると言うものです。


と言う訳で、年末ご恒例の「新年度の予算案」も材料にならないようでありますので、年末までは思いつきそうな材料は見当たりません。外部環境に劇的な変化が無い限り、年末までは段々売りが枯れてきて堅調な相場が継続しそうな感じであります。ってあたくしが書きますと材料が突発的に出て相場が荒れたりするんですけどね、わはは。


と、ここまでが相場のお話。ここから先は耳にタコとは存じますが、財政問題に関して思考停止中の債券市場に対するあたくし的な愚痴でございます。


あたくし的には、「新規国債発行30兆円」で散々大騒ぎして「財政規律がどうのこうの」と材料にしていた債券市場がすっかりと「財政規律問題」やら「財政赤字の持続可能性」について忘却というか無視をしているのは実に気にいらない所でございます。散々申し上げているので耳にタコだとは存じますが、「りそな救済」で示された「銀行救済に関する財政出動の事実上のコミットメント」をはじめとする経済の財政依存体質の強化を考えますと、ど〜も財政問題に関して債券市場が思考停止しているのではないかと思ってしまう訳であります。

先日は「資本不足で公的資金注入」の観測がでた某地方銀行さんの株価が何故か上昇してしまうという状況。もはや笑ってしまうしかないのですが、資本不足で財政による救済が行われる際に何故か既存株主が保護されてしまうという「隠れ財政出動状況」を正しく見越した動きでもあります。昨日の新聞報道では「地方自治体主導で企業再生機関の設立」というような趣旨の報道がされるように、経済のあちこちに公的関与が拡大中であります。



お笑いといえば全然話は変わりますが、「民営化する!!」と大騒ぎしている日本道路公団の新総裁は就任にあたって「道路公団は債務超過」という香しい発言をなされております。債務超過の官営法人をどうやって民営化するのかご教示賜りたいものであります。結局財政に債務超過部分(あるいはそれ以上)を押し付けないと民営化できないと思うのですが、どうなんでしょうかね〜。もし、財政に債務超過部分を押し付けた後に民営化して、政府保有株の売却益で財政負担部分がカバーされるのならば、もともとの「債務超過」という認識が粉飾(逆の意味での)決算だったという話でございますな、おほほのほ。


てな訳でして、そういえば昨年もドラめもん書き出した途端にマーケットが材料皆無に陥って、満を持してストックしていたネタを一瞬で使い切って毎日ヒーヒー言っていたことを思い出しつつ、年末までの相場テーマ探しに努力したいものだと思います。


朝のドラめもん

2003/11/25

お題「金曜の続きですが似非市場経済国家」

金曜日には「時価評価に関する疑問」という変なお題で妙なお話を致しましたが、そもそもこの国におけること金融問題においては「市場」という物が意味をなしていないのではないかというお話を曇天の連休の中考えておりました。曇天のせいでくらーい思考になっているのかもしれませんが、まぁ聞いてくださいませ。

○その1:大量発行に備えて非市場性国債

金曜日には「非市場性国債」に絡んだお話を致しました。最近国債市場懇談会を始めとして、市場関係者からもお話が出ておりますが、要するに「市場での発行ではなくて、相対取引の形式で国債を発行することによって、今後予想される国債の大量発行に備えましょう」というお話であります。

調達手段の多様化といえば聞こえは良いのですが、要するに国債を今までと同じように公募で発行していたら、そのうち消化不良になるので、市場を通さずに発行するようにしましょうと言う事でございます。

ま〜「海外でも非市場性国債の発行比率は高い」とか言い訳はありますし、非市場性国債の購入者として議論されている中で最も有力と見られている郵政公社さまに置かれましては「財投直接引受」とかいう技による「直接引受」みたいな方式もございましたので、ちょっと見には違和感のないお話にはなっております。ただし、非市場性国債というからには、市場での転売を行わないという前提になっているでしょうから、公募発行された国債と同じ物が財投引受で発行されるというのとはやはり話が違ってくるでしょうな。


今回発行を検討している「非市場性国債」は何気に言葉からのイメージが先行しておりますが、どうもこの発行に関する議論の底には「国債市場での消化が困難になる前に市場の裏で発行しましょう」という発想が見えるわけであります。

「国債管理政策」といえば聞こえが良いですし、確かに何でもかんでも市場に任せると(特にこの国の債券市場は)暴走を繰り返すので、ある程度の管理というかスムージング的な関与は必要なのかとは思うのですが、それも程度問題かと思うのであります。

「これ以上の国債の発行を止めてくれ〜」という声を上げるのが「市場の機能」でございますが、どうも「非市場性国債」発行に関する論議を見ておりますと、現在の「国債管理政策」は「市場の機能に基づく国債大量発行への警告」も封殺しようという物を感じてしまうわけですな。

「市場に警告を出される前に市場の動きを封印する」というのは実に賢いやり方ではありますが、市場を封印して問題(国債の大量発行による消化の困難さ)の表面化を巧みに先送りするというのは、この国の優秀な官僚制度の産みだす毎度お馴染みの作戦じゃの〜と感心するやら情けないやら。

あ、念のため申し上げておきますが、金曜日のドラめもんで申し上げた「非市場性国債のススメ」は当然ながら皮肉で書いておりますので(^^)。


○その2:株式と貸出

ちょっと前にご紹介した日銀総裁の「わが国金融サービスの高度化に向けて」という講演の中で日銀総裁が金融機関の株式保有に関してこのように言及しております。

『もちろん、金融機関にとって、株式保有が目的を問わずすべて好ましくないという訳ではありません。ただ、株式は価格ボラティリティーが極めて高い資産であり、とりわけ持合い株式は、もともと純投資目的のポートフォリオとして保有しているものではなく、機動的に保有リスクをコントロールできない性質のものですので、現下の限りある自己資本を前提とすると、金融機関経営に対して不測の大きな影響を及ぼす可能性がある、といわざるをえないと思います。』

別に日銀総裁を槍玉に挙げる積りではありませんが、株式保有に関してはこういったコメントが世の中の基本的コンセンサスでしょうな。

ところが、昨今の不良債権処理というか企業再生の動きの中において(というか今に始まった話ではありませんが)、日本においては株式の100%減資を伴わない債権放棄というのがお得意な処理方法となっているのは皆様ご存知の通りでございます。

貸出金っつーのは相手が生きていれば(というか死ぬのを前提に貸出をするのは質の悪い金融屋ですな)得られる収益は「金利」でございます。で、相手が死んでしまった場合に担保などでカバーできない分が元本のロスとなってしまうという訳ですから、インフレ経済が前提になっていない昨今においては実にリスキーな商売な訳であります。

で、先ほど申し上げましたように、日本におきましては、何だか判りませんが銀行の貸出金の優先弁済順位が株式よりも劣後してしまうという不思議な現象が起こってしまうのですから、そう考えますと「金融機関の株式保有」と「金融機関の貸出」をリスクリターンの関係も勘案して比較すると、本当に「金融機関は株式保有を減らすべきだ」と言えるのかが甚だ疑問になってくるわけであります。何せ、株式には「価格上昇」というオイチイ話がありますが、貸出金は相手の業績が向上しても収益は金利だけで、収益限定でやられは最大で貸出金元本ですから。


実際問題としての株式保有の課題は、日銀総裁も言及しているように、『現下の限りある自己資本を前提とすると、金融機関経営に対して不測の大きな影響を及ぼす可能性がある』という点です。つまり、「保有株式は時価評価しないといけないので株価の上下で損益が発生してしまう」というお話でありますな。

これもよく考えたら変な話なのでして、金曜日のドラめもんでも申し上げましたが、貸出金だって回収可能性を時価評価することはできる筈(現実には技術的困難がありますが)です。現に金融庁のワーキングから出ている「信用リスクの計測について」という趣旨の論文でも「株価や社債価格から信用リスクを算出する方法」についての紹介があるくらいですから(モデルの妥当性は兎も角と致しまして)話の上では貸出金を「信用リスク」と「金利リスク」に分解して時価評価をすることは可能だと言う事になりますな。

だいたい、現在の金融行政で行われている「引当の強化」だってDCF法なんかを使って貸出金の自己査定をおこなっておりますが、これとて同じ類の話の筈です。ただし、このDCF法の良い所であり最悪な所は、融資先の将来キャッシュフローを正確に算定する事が困難だという所であります。要するにその気になれば都合の良い評価をする事が可能だっつー事ですな。

マーケットでまともに値が付く商品を持っていると「不測の大きな影響を及ぼす可能性がある」という中で、実はもっとリスキーな貸出金についての時価評価は似非時価評価でとりあえず目先を凌ぐというのも、何と申しますか・・・・・・・(以下同文^^)



ま〜何と申しますか、市場経済の「非市場化」が進んでいるというのか、元々日本には市場経済というのを受け入れる素地がなかったというのか、何とも判りかねる所ではございますが、どっちにしても金融方面から「市場」をみていると、本当にこの国に市場っつーものはあるんでしょうかね〜という感を強くする次第であります。

そんな中で市場らしきものに従事すると言うのも何とも・・・・・(-_-メ)


#週明けからいきなり厭世的なドラめもんで大変恐縮でありました。



朝のドラめもん

2003/11/21

お題「時価評価に関する疑問」

毎日時価評価に晒されるディーラーにあるまじきお題ですが(^^)。

○不良債権と時価評価

先日話題にしておりました「金融機関の不良債権処理」というお話。最近は「金融機関の不良債権への引当強化」などが話題になってみたり、ドラめもんでご紹介したような「適正時価で評価した不良債権を購入した場合は不良債権としての開示対象になるのかどうかという話が出てみたりと色々と話題に事欠かないお話であります。

先日も申し上げましたが、実を言えば「不良債権の引当を強化する」というのも程度が過ぎると不可解な話になります。「不良債権の引当」というのが「貸出金の貸倒れの可能性について見積もる」という作業であることと同意義です。で、この回収可能性というか損失可能性というのは勿論「やってみないとわからない」面がありますので、多少の「引当の強化」というのは「貸倒れ時の回収率を以前より堅めに評価した」というお話ですから、余り違和感のない行為ではあります。

ところが、この国における「引当の強化」という話になりますと、りそな銀行のように、「公的資金注入前は辛うじて自己資本比率がウン%」だったのに、注入後に「資産再査定」をしたら、公的資金が注入されて自己資本が改善した分を全て見事に飛ばしてしまうという豪快な話になってしまうのが、非常に寒いお話な訳でして・・・・・(-_-メ)

で、それは兎も角、以前ドラめもんで散々「そりゃ変でしょ」と申しあげた「要管理先の債権を適正時価で購入したら、開示対象から外れる(=正常先債権という扱いになる)」というお話ですが、この話ある意味では非常に理に叶ったお話であります。

と申しますのは、当該債権を「本当に正確な」時価で購入しているのであれば、いざとなったら購入以降に債務者を法的整理にでも追い込んでしまって回収すれば良いのでして、これ確かに「回収見込み額通りの回収」と言う事になります。

しかし、この「適正時価で購入したら正常先債権」という変な制度が真に正しいという為には、当たり前ですがこの債権の「適正時価」とやらを常時(多分毎日)評価しないと行けませんですな〜というお話になる筈でございます。

それをやらずしてこの制度を利用するというのは、やはり「飛ばし」の疑念を与えても仕方ないでしょうな。だいたい「他所から適正時価で買った場合は正常先に化けるなのに、自分で適切に引当を行っている場合は引き続き要管理先債権として開示対象」という時点で、この制度が論理的に破綻をきたしている訳ですな(^^)。


てな訳で、正確に回収可能性を計測する事ができるのであれば、この世の中に不良債権というのはない訳でして、ただ「元本が毀損している債権」と「元利金が満額回収できる債権」があるというお話になります(^^)。

ま、そんな事できる訳無いんですけどね♪


○非市場性国債

最近話題に出てくる「非市場性国債」。先日の国債市場懇談会でも「国債発行額の増加に対処するためには、国債市場を経由せずに相対でファイナンスを行う仕組が不可欠になるのではないか。この観点から非市場性国債の発行は検討の余地ありでは」というような指摘がございました。

この「非市場性国債」っつーのも正確な定義がないまま皆様のイメージの中で色々と語られているような印象があるのですが、まぁ要するに「非市場性国債」=「政府が金融機関(や機関投資家)から借入金の形式で資金調達を行う」というお話になる訳ですな。

で、この非市場性国債。なにせ「市場を通過しない」代物というのはこの国では何故か時価評価の対象にならないという素晴らしい不文律がございますので、非市場性国債の発行体、購入者(正確に言えば引受者ですな。転売できないんですから)双方にとっての最大のメリットというのは「時価評価しなくて結構」というお話になる訳であります。

で、この制度のデメリットは「相対で行われる」=「何をやっているか不透明」ということです。もしかしたら非市場性国債を発行する度にこれからは全ての内容を開示するのかもしれませんが、いずれにせよ不透明なお話でございます。

国債引受シンジケート団による10年国債の引受ですら「透明性の向上が必要」だとか何とか言って廃止への方向へと進んでいる現在の状況と、この「非市場性国債の発行を礼賛する」というお話というのは、あたくし的には論理的な整合性が取れない事夥しいお話だと思ってしまうわけでございます。個別の施策を見ると違和感は余り感じないのですが、こうやって並べると何とも妙な違和感がするわけでして、何だかな〜という感じです。

「非市場性国債」などというややこしい事言わずとも、「政府の直接借入」というものは制度として現に存在しているわけですし、行う融資は政府への直接融資だけをするという話であれば別に貸金業者である必要は無い(だいたいこんなの政府が認可すれば話は簡単)筈ですので、わざわざ「非市場性国債」などというちょっと目新しそうな物を出す事も無いとは思うのですけどね。



○中途半端な時価評価は如何な物か

6月以降の債券相場崩壊、特に8月の債券相場崩壊は実に見事な状況でありました。「リスク管理上売らないといけない」という理由で巨大ポジションを抱える大手銀行が先を争って債券売却(あるいはスワップなどのオフバランスでの売却同等行為)を行い、その結果自分で自分の首を絞めあうという行為は、15年ほど前にどこぞの国の株式市場で起こったような事をその数倍のスケールで行ったという豪快な物でございました。

でもって、この時に結構あちこちで指摘されていたのですが、「銀行にも満期保有有価証券勘定という概念が必要なのではないか」というお話がございます。

あたくしに言わせれば、だいたいからして調達サイドを時価評価していないのに、運用サイドのほんの一部でしかない有価証券(銀行の場合)については時価評価を求めて、おまけにやたらめったら精緻なリスク管理をさせるというのが変なお話なのです。同じ資産サイドにあり、額がはるかに巨大な「不良債権の時価評価」の超越的丼勘定振りと比較してみると、そのアンバランスぶりが目立つわけであります。

で、現在は片や「不良債権の引当強化」と時価評価もどきの動きが行われ(って言っても、信用リスクしか評価してなくて、金利リスクの評価はしてませんが)、その一方では「国の資金調達を全部市場経由にしないで、非市場性国債を発行しましょう」という時価会計様が一番エライというような風潮に逆行するお話がでてきているわけです。個別に見ればどちらもご尤もな施策であって、間違っている話ではないように思えますが、これもまた両方並べてみると不思議な感じですな。

と、まぁつらつら考えると、お題から話が逸れますけど、金融を巡る各種政策がどうも論理的な整合性が取れていないというのが昨今の問題ではないかと思うのであります。別に何でも論理的整合性を取る必要はないでしょうけど、個別の各種政策一つ一つがそれぞれご尤もな物であっても、全体としての政策の整合性が明らかに破綻を来たしている場合、結局どうやればいいのか?という問題にぶちあたるのではないかと思ってしまう訳ですな。


○で、改めて非市場性国債のススメ

と言う事でですな(と、いきなり口調が変わる^^)、中途半端な時価評価のせいで大手銀行は特に長期国債を買えなくなって困っておる訳ですが、昨日のドラめもんでご紹介するまでもなく、民間貯蓄部門が政府債務のファイナンスを賄っている現状を考えますと、国債の安定消化のためにも「時価評価が不要」という素晴らしい運用であります「非市場性国債」というか、この際「政府借入」を大々的に復活させて預金超過でこまっている金融機関の有効な運用ツールとして頂きたい物であります。何でしたら「シンディケートローン(笑)」形式にするのも一興かと。


まぁ常に思っている事なのですが、「時価評価」的な短期的な損益評価を行うべきだというのは、あたくしどものような商品有価証券部門では当然なのですけど、同じ理屈を銀行の債券ポートや、生保や年金の長期運用に適用して、「四半期ごとの損益がど〜のこ〜の」とごちゃごちゃやるのは如何な物かと思うのであります。

銀行はまだ短期調達(最近は預金超過が通常化しているので調達サイドの期間が伸びてきていると思いますが)なのである程度仕方が無いのかもしれませんが、そもそも調達期間が20年とか30年とかの資金を運用するのに、いちいち四半期毎にパフォーマンスをどうのこうのと言うのは何かとてつもなく違和感がある訳であります。

本来は「市場で取引されているものの運用であれば、味噌も糞もまとめて時価評価」という、ある種の「市場万能主義」というか「市場原理主義」を修正していく必要があると思うのですが、相変わらず市場万能主義が横行している風潮を考慮致しますと、金融機関などの運用にも資する「非市場性国債」の大々的な発行もやむなしなのかとは思っております。


#結局結論がでておらんな



朝のドラめもん

2003/11/20

お題「財政赤字と長期金利(ただし受け売り^^)」

日銀の調査統計局などの調査部門から毎月「日本銀行ワーキングペーパーシリーズ」という物が出されております。色々なお題で出されておりまして、日銀の公式見解ではないということにはなってはいるもののちゃんとしたペーパーでありまする。

で、先日発表された中に「財政のサステナビリティと長期金利の動向」というお題のペーパーがございまして(本文は日銀Webからダウンロードできます)ちょっと読んでみる事に致しました。あたくしもまぁ知力低下が甚だしく、何回か読んだのですが、結局あたくしが「こりゃオモロイ」と感じた部分しかご紹介できませんので、皆様におかれましては是非本文(資料がやたら多いのですが、本文は正味17ページです)をご一読あれ。

この論文の「要旨」として冒頭に書かれている事はこんな感じです。

『財政状況の著しい悪化にもかかわらず、日本の長期金利は比較的低位の水準で推移している。本稿では、これを説明する諸仮説について、長期的趨勢要因と短期的要因に分けて考察した上で、(i)主要8か国のデータによる実証、および(ii)諸外国の事例研究を通して分析を行い、今後の展望を試みた。』

以下、現象に関するお話は論文の受け売り、読んだ後の個人的な感想と意見は「あたくしが思うに」と断りを入れますので宜しゅうに。


○財政問題は直接的な相関性に乏しい

財政赤字や政府債務残高と長期金利というのは実はあまり相関性がございません。財政収支が景気回復局面(=長期金利上昇)において税収の増加によって改善したり、財政赤字の拡大が長期金利の上昇をもたらすという現象があったりと言うことで、データ上両者が混在するためという可能性が考えられるとの事です。

あたくしが思うに、主要8か国において財政が破綻して支払不能になったというケースが今の所ありませんので、前提として「国家の支払不能」という認識が起こった場合というのが無いというのもありそうな気はします。さらっと述べていますが、イタリアにおける財政赤字の拡大局面では長期金利の上昇が起きておりますので、財政の持続可能性に対しての信認が失われてきた場合には、やはり問題になりそうです。論文後半でも「財政発散は長期金利の上昇に繋がる」という前提で話を進めております。


○日本に当てはまる相関性が他国に当てはまる訳ではない

国内民間部門の貯蓄増加は内外の金利裁定が完全な場合は長期金利の低下要因にはならないのですが、ホームカントリーバイアス(たぶん金利が他国より有利であっても自国に貯蓄をするという傾向の事だと思います)が存在するもとでは、貯蓄増加=長期金利低下となります。

で、日本とフランスでは、国内民間部門の貯蓄増加と長期金利に関して負の相関(貯蓄増加=長期金利低下)が見られるそうです。あたくし的には、いかにもホームカントリーバイアスのありそうな国でこの現象が起きているというのが面白いな〜と思ってしまいました(^^)。

で、実はこの相関は他国では余り明確な関係が窺われず、特に米国については国内民間部門の貯蓄増加と長期金利は無相関となっております。米国は海外からのファイナンスに頼る事ができるのが理由です。


で、日本の場合は実は国内民間部門の貯蓄増加よりもっと明確な相関関係が見られるのが経常収支、特に累積経常収支との負の相関が顕著でございます。資料の回帰グラフを見るとお見事という感じであります。ところがこの経常収支と長期金利の関係なのですが、米国、イギリス、カナダについては累積経常収支と長期金利の間にむしろ正の相関がみられます。

で、あたくし思いまするに、最近は竹中大臣を始めとして無闇矢鱈と米国の経済学者の経済理論を信奉して金融政策に口をだす人たちが多いのですが、この「長期金利が何に相関しているのか」という一点を見ただけでも、「米国の経済学者の能書きを真に受けて日本に適用する必要はないでしょ〜」という感想を持ったのですが、どんなもんでございましょうかね〜♪


○というわけで日本の長期金利の低位安定は・・・・・

とりあえずは日本においては財政赤字や政府債務残高の拡大傾向が続く中で長期金利が低位安定しておりますが、とりあえず「日本は経済全体として資金余剰(貯蓄超過)の状況にあり、財政赤字を国内貯蓄でファイナンスする事ができるため、財政赤字の拡大は長期金利の上昇につながらない」という説明と整合的な結果がでてくる訳です。

あたくし的愚意見によりますと(^^)今はあまり気にされていない累積経常収支と民間貯蓄動向についてはもっと注目されるべきですなという結論になります。


○でも財政赤字の持続可能性は懸念材料な訳でして・・・・・

とは言いましても、財政赤字の持続可能性が懸念されて、財政状況が改善する見通しが不透明であるにも関らず長期金利が低位安定するというのはやはり変な話であります。で、この論文では2つの仮説を提示した上で、各国における財政再建の取り組みをもとに、如何なる条件のもとであれば財政再建が可能であるかについて検討しております。

各国の事例まで書いているといつまでたっても終わらないので(^^)、2つの仮説をご紹介したところまでとさせていただきます。文意を損なわないために思いっきり引用が長くなります。


仮説1:近い将来、財政構造改革が実施され、財政赤字の持続可能性が確保されるという期待が市場参加者の間で共有されている。実際、近年の先進国の事例で財政が破綻したり、あるいはその過程で資本逃避や通貨危機が発生したケースは存在しない。各国に比べると日本の潜在的な国民負担率(=租税負担率+社会保障負担率+財政赤字対国民所得比)は依然として低く、将来、国民負担率を引き上げる余地があることもサポート材料として考えられる。


仮説2:市場参加者の収益最大化問題において想定されているタイムスパンが短く、政府の通時的な(無限期間の)予算制約は十分に意識されていない(もしくはタイムスパンの短さゆえ意識する必要がない)。これは、市場参加者が近視眼的であり非合理的に振舞うことを意味しているのではなく、運用結果に関して長期間の責任を負わされない(単年度や半期毎に収益が出ればよい、もしくは運用結果に責任を有する期間において収益を出せばよい)という環境のもとで最適化を行っているためであり、そのフレームワークのもとでは合理的に行動している。


あたくし的にはどちらも正しそうな気がしますな。表面上は皆さん「仮説1」を唱えて債券の買いを正当化しつつ、実際問題としては「仮説2」が行動への動機になっているのではないかと。

あたくしの行動はタイムスパンが死ぬほど短いので当然「仮説2」であります(^^)。


んじゃ!(^^)/~~



朝のドラめもん

2003/11/19

お題「金融政策の迷走あるいは心肺停止」

相場がわけわからないのでお馴染みの日銀ネタをここらで一度総括してみましょう。前も書いたような事の繰り返しになって恐縮ですが。

○中央銀行としての論理的整合性

先日、と申しましても10月9日〜10日の金融政策決定会合ですが、当座預金残高の引上げを行ったのですが、これを称して「今回の措置は緩和措置ではない」とのたまう始末。今回の措置が金融緩和措置でないとするならば、総裁就任後に大した理由も無く(ってこの時も大した理由は無いんですけど)当座預金残高の引上げを行ったのは一体何だったんでしょうか。

大体同じ金融政策を行っているのに、速水総裁の時は追加緩和措置になり、福井総裁の時は緩和措置にならないなどという間抜けな話があるわけがございません。ちゃんとした説明を求めたいものでありますし、「政策の透明性」がどうのこうのというのであれば、そういう根本的な問題の説明を聞きたいものであります(-_-メ)。

てな訳で、政策委員会でも当座預金引上げの反対票が徐々に増加傾向にあるわけでして、新総裁就任当初には全員一致だった票決も今や反対が3票も入ってしまう有様。そりゃ当たり前でございますわな。

当座預金残高の引上げが「金融緩和措置ではない」と言うのであれば、わざわざ当座預金残高の上げ下げを政策委員会に諮る必要は無い訳でして、当座預金残高の上限を設けないで現場にやらせるほうがリーズナブルですし、短期金融市場のコントロールもよっぽどやりやすそうですな。


○受け狙い政策は止めましょう

まぁ大体この総裁、イラク戦争が始まった日に突然「臨時政策委員会を実施する」と言い出した辺りから「何じゃこいつは」と思っておった訳であります。そのあたりから当ドラめもんでは福井総裁逝ってよし的な論調になっておりますが(^^)。

何せこの臨時政策委員会って米国同時テロの時ですら実施されなかったという代物でして、記憶が正しければ新日銀法の下では最初の実施ではないかという感じですな。

既に多くの人たちが織り込み済みだった戦争が始まっただけなのに大騒ぎして政策委員会を招集。やった事は当座預金残高の引上げだけということでして、結局何だったんだという結果でした。

企業金融の目詰まり解消の為に実施した資産担保証券の買入も、結局はやってみただけという状況でして、まるで機能しておりません。

次々と斬新な手を打ち動いているように見せて、その実何もやっていないというのは、まるで小泉内閣のようでありまして、まぁこの内閣にしてこの日銀ありという所なので、これが正しいあり方なのかもしれませんが、嘆かわしいことであります。


○もはや手枷足枷状態

債券相場のバブル的上昇とその後の下落。特に下落第2弾における動きは中短期債という日銀の時間軸への信頼を直撃するような下落で、債券を保有するも株式保有の相対的に少ない金融機関を見事に直撃してしまいました。勿論ポジションの巨大な大手銀行でも悲惨な状況になりましたが。

この事については日銀を弁護する向きもありまして、「出口政策に関する論議が日銀の金融政策決定会合で行われた形跡はない」などと指摘する識者もおられるようですが、あたくし的には「福井総裁のマッチポンプ」が(主因とは言いませんが)このふざけた相場に一役買っていると見ております。

福井総裁の言動を見ておりますと、債券相場の上昇時には「国債は株式と違って償還されるものであり、株式バブルと同一視するのは如何な物か」的な発言をしてみたり(残念ながらソースが見当たらないのですが、発言当時情報ベンダーで確認致しました)、債券相場の下落第2弾、つまり中短期債が叩き売られてしまい、市場価格から逆算すると明らかに「CPI時間軸」への懐疑、簡単に言えば日銀が梯子を外すリスクまで織り込んでしまっている状況下で、能天気に「景気は回復しつつある」とか「この程度の長期金利上昇は大きく懸念はしていない(問題は長期金利ではなく5年以下の中短期金利なのですが・・・・・)」などと発言しておりまして、まぁどうしようも無い状況(5年金利1%、2年金利0.3%ですがな)になってから、やっと時間軸の強調を行う有様。

結果どうなったかと言えば「金融政策の透明性強化」という大義名分で、CPI時間軸を文書で残される有様。これはどう取り繕っても「債券相場を壊してしまった責任取り」でございまして、結局日銀は自分の能動的判断で金融政策の決定、というか量的緩和からの脱却が全く不可能になったという訳であります。


○仕方が無いので最近は企業金融の変革に走るのでした

最近はあちこちでの講演で精力的に日銀の審議委員の皆様が「企業金融」やら「金融機関経営」やらに力を注いでおります。

・11月17日 「新しい企業金融がもたらす日本再生」シンポジウムにおける福井総裁基調講演要旨「わが国の企業金融の変革に向けて」

・11月12日 JCIFにおける武藤副総裁講演要旨「わが国金融システムの現状と課題 ─安定化から活性化を目指して─」

・11月 4日 金融イノベーション会議における福井総裁講演要旨「わが国金融サービスの高度化に向けて」

・10月21日 日本経済研究センターにおける福間年勝審議委員講演要旨「最近の金融経済情勢と企業金融の変化について」

日銀Webをざっと見ただけでもこのペース。実際は記者会見や他の講演でも同じような話をしていたりするので、もう最近は日銀は「企業金融」「金融システム」にとりつかれたかのような有様です(^^)。

他にやる事が無いのでどうもエネルギーがこちらに向かっているようなのですが、どうもこの講演要旨、特に福井総裁の講演要旨を見ていると出てくる気になるキーワードがありまして、あたくし的には「また日銀か!」という感じで非常に懸念しているものであります。

そのキーワードは「市場の育成」でございます。「資産担保証券の売買市場の育成に資する」と称して始まった資産担保証券買取が見事に機能不全になっているのにも懲りている気配はないようでして(-_-メ)、上記リストの中で直近行われた講演「わが国の企業金融の変革に向けて」で性懲りも無くこんな発言をしております。

『日本銀行は、こうした考え方に立って、クレディット市場の発展を目指して様々な角度から努力を重ねております。』

何で「クレジット市場」じゃないんでしょう。この人は西洋かぶれですか?という無粋な突っ込みは致しませんが(ってしてますが^^)、それは兎も角。

『第一は、民間の市場整備の動きを強くサポートすることです。貸出やCP、社債といった伝統的なクレディット市場のほか、とくにこれからは、シンディケートローンや資産担保証券、クレディットデリヴァティヴズといった、新たなクレディット市場を発展させていくことが大切です。』

でたな「市場の発展」。まぁ各種支援を行うと言うのは重要な事ですので、それ自体を否定する積りはありませんし、日銀の事務方は良くやっていると思います。

で、途中を省略して自画自賛。

『第三は、日本銀行自身の様々な政策手段や業務のあり方について、金融市場や民間金融機関の機能の変化を十分先取りしながら、不断の見直しを行うことです。』

『1999年には、金融市場に対して流動性供給を行うオペレーションの担保として、資産担保証券(ABS)の受入れを開始し、その後も、適格資産担保証券の範囲について見直しを行ってきました。現在、シンディケートローンの担保受け入れについて、市場参加者の意見を踏まえながら、実務的な詰めを進めています。これらに加え、日本銀行は、本年夏以降、資産担保証券の直接買入措置を実施しています。』

だからその市場介入がいかんのじゃと申しておろうが・・・・と言う感じであります。

統計の収集や公表、理論的な研究と言ったことも大事なのはごもっともなのですが、日銀がやるべき事は、市場に介入する事ではなくて、市場発展を阻害する要因、特に法令上の問題や税務上の問題について、市場参加者の意見を日銀という政府の一機関と言う立場から関係当局に対して改善要求を行うと言った事が大事ではないかと思う訳であります。

大体、日銀が買取だの適格担保化しないと発展しないような「市場」などと言うものは市場と称するのが論外では無いでしょうか。まぁ当局に「ご指導」されないと何もできないというのが現在の金融市場(特に金利系)の実態でもあるので、どっちもどっちと言う感じもしますがね〜。


と、まぁ結局ただの悪口雑言になった事をお詫び致します。



朝のドラめもん

2003/11/18

お題「各種雑談」

今日は甚だ簡単で恐縮です。

○株安を素直に買いで反応して良いのでしょうか

まぁ世の中悪い時には悪い事が重なるもので、内閣支持率が下がってみたり、銀行への資産査定で格下げ会社が増えてみたり、テロ懸念が一気に台頭したりと。止めにJASDAQでシステムトラブルというのが狙っているのではないかと思うくらいの間抜けなタイミングでございました。

てな訳で平均株価は下がっておりまして、終値ベースで8月15日以来の1万円割れというトホホな展開になっております。

で、債券は一応素直に買われています。まぁ8月中旬といえばまだ10年金利が1%(ちょうど相場は絶賛暴落中でしたが)あたりにいた頃でありますので、そう考えるとまだまだ上値余地がありそうに思えますが、本当に良いのでしょうか?

あたくしの主観たっぷりな結論(^^)を申し上げると、「買いで反応するのもほどほどに、というか却って下落の芽が出てくるのではないでしょうか」という所であります。

りそな銀行への税金お差し上げスキームならびに産業再生機構に見られる「いざとなったら政府が関与する」という政策というのは、あまり皆さん指摘しませんが「莫大な財政支出政策」と同じお話であります。現実の財政支出を伴っているのが今の所りそなだけなので目立たないのですけど、先日は「某地方銀行に公的資金注入観測」という報道で当該企業の株価が上昇したように、現在の銀行に対する政策は「政府による債務保証付き状態」といった趣になっております。

債務保証と言う事なので、とりあえず簿外債務状態。従って財政への懸念という話が余り出てこないのですが、表面化した瞬間にもの凄くシャレにならないという点で簿外債務の方が恐ろしいというのは皆様ご存知かと思います。

と、話があらぬ方向に行ってしまいましたが、そんな訳で現在の政府がとっている政策というのは小渕首相もビックリの財政拡大政策。ただ、財政拡大を実質的なコミットメントという形の「簿外」で行っている点で「財政構造改革は進行中」と相変わらず評価されている訳です。

ということですので、今後の株価下落ということになりますと、政府から出てくる施策が益々「財政措置」になる可能性が高いと見ておりますので、「悪い金利上昇」への懸念が出てくるというものです。


と、そんな長広舌をはわらずとも、ただでなくさえ小泉内閣がイカレポンチ状態になりつつある(ように見える)昨今、株価の下落やらイラクへの自衛隊派遣問題などで、益々内閣が死に体になってしまえば財政拡大への圧力が掛かりやすくなるというのもまた有りそうな話。


てな理屈でして、りそな救済スキーム発動前の株安では「デフレ懸念」がメインテーマでしたが、今回の株安ではりそなスキームに見られる「財政発散装置」が新たに組み込まれておりますので、素直に(債券を)買いで付いていくのは如何な物かと思う訳であります。

まぁ目先は買いで反応するのでしょうが・・・・・・



○投信不正問題に思う

米国の投信業界では、「法令違反ではないが不公正な取引」という取引に対しまして厳しい追及が続いているようですな。今朝のニュースによりますとモルガンスタンレーが4000万ドル程度という莫大な民事賠償金だか懲罰金を取られる事となったというお話。誠に結構な事です。

日本と米国では法制度が違うから単純に比較したら日本のSECが可哀想ではありますが、こういう報道を見ていると「日本のSECは本来の機能を果たしているのか」と思ってしまうわけであります(-_-メ)。

と申しますのは昨年話題になったETF編成に関る引値操作疑惑問題。皆様も記憶に新しいと思いますが、日興ソロモン(現日興シティ)証券が某機関投資家のETF編成にあたって、連日大引け関与もどきの取引を行い、数十億円にわたる収益をあげていたというお話。

この取引の違法性については結局SECの検査は行われましたが、得た収益に対して同社の受けた処分が妥当であったかという面ではあたくし今でも非常に疑問をもっております。

なにせこの日本番SEC、判りやすい案件で処分するのは得意中の得意でありまして、営業員の悪意もなく実害もないような単純なミス(具体的事例については差し控えますが)であっても営業員の外務員資格3ヶ月停止などという処分を平気で行って下さいます。

そんな中、明らかに悪意のある取引だが違法性についてグレーな取引は結局軽い処分となってしまったETF問題。米国SECの「違法ではないが不公正な取引」に対する厳しい追及と厳しい処分を見るにつれ、日本のSECの小○○根○(伏字は適当に想像してください^^)振りに「とほほ」な思いをするのであります。

では(^^)/



朝のドラめもん

2003/11/17

お題「知的遊戯もほどほどに」

○どこへいった資産担保証券買取

日銀のエライ方々が「本当にそんなの実務でワークするのか」という色々な提言がなされます。昔もドラめもんで申し上げましたが「無担保裏書手形の活用(福間審議委員)」なんかもぶっ飛びましたが、何せその白眉は「資産担保証券の買い取り」でございました。

「企業金融の目詰まり(福井総裁)」を除去する為の画期的な施策として行われた筈なのですが、いざオペをやってみたらごく一部の方からしか応札が入らず、前回のオペに至っては大幅な札割れになってしまいました。

大体このオペなんですけど、買入対象になる資産担保証券の裏付資産は金融機関の自己査定による「正常先」という事になっております。福井総裁に言わせますと「企業金融の目詰まり」というのは、先日ドラめもんでご紹介した福井総裁の講演でのコメント、『主に中小企業において、担保はないが将来キャッシュフローが見込めるという企業の借入ニーズが充足されていない可能性を示しています。』という事になるようです。

で、現在の銀行はと申しますと、金融庁に「中小企業融資を増やせ」と言われている最中でございます。という事は「正常先中小企業向けの貸出債権」というのは銀行にとっては宝物でありまして、んな宝物をわざわざ手間隙とコストを掛けて資産担保証券にして、おまけに日銀に売却するという事をするというのは、合理的な動きとは思えませんな。

どちらかといえば、福井総裁の言う「担保はないが将来キャッシュフローが見込めるという企業」への貸出資産をマニュアルに則って査定した場合に「正常先」にならないような金融庁の監督姿勢に問題があるのではないかなどと思ってしまう訳であります。大体銀行は「優良な融資先」が無くて困っている訳でありますから。


と言う事でございまして、「企業金融の目詰まり解消」という不思議な理由ならびに恐らく政治向けのアピールをも企図した資産担保証券の買取ですが、根本的な部分で事実誤認があるのではないかという状況では如何なる立派な理論を展開して、有効な施策を考えましても、元々の前提が現状と異なっている以上、出てくる施策は無益である訳です。下手したら有害の場合があってもおかしくありません。まさしく「決戦レイテ沖会戦」であります。とほほ。


○最近話題の「信用リスクモデル」

先日金融庁のWebを見ますと、金融庁の金融研究研修センターの研究員のお歴々が「信用リスクモデルの評価方法に関する考察と比較」というペーパーをご発表になられておりました。この手のペーパーの常と致しまして、「金融庁の公式見解ではありませんが」と入っておりますが、まぁ金融庁におかれましてはこのような研究を行っておられるという事なのでしょうな。

で、本文では、色々な信用リスクモデル(なんと17個も訳のわからないモデルが列記されております)を紹介した上で、これらのモデルによる評価方法をがある目的に対して有効かという事について検証しているらしいです。と申し上げますのは、あたくし実は第1章の「はじめに」しか読んでおりませんで、というか本文理解不能ですので。

このペーパーによりますと、信用リスクモデルというのはBIS2次規制の導入に向けて「適切な内部格付制度の確立とその検証が大きな課題となっている」という事でございますし、大体最近あちこちで「信用リスクモデルの共同開発」というのがぶち上げられております。まるで最近は「信用リスクモデルのバブル現象」と思えるほどの有様ですな。

まぁこの手の信用リスクモデルというのは「貸出先企業の財務データを基にして計量化する」という方法か、「株価や社債金利などの市場データを基にして計量化する」というやり方になるようであります。他に理論的な方法で計量化する方法は無いので致し方無いのですが、銀行の現場で古くから実施さ、あたくしもお仕事としてほんのちょっとだけやった事のある「面接調査」「実地調査」という計量化不能のファクターは(計量化不能なだけに)無視されるようでありますな。

ところが、世の中「貸出先企業の財務データ」というのが正確かどうかという問題があるわけです。りそな銀行におきましては「3月末の決算も9月末の中間決算もどちらも適正な決算」というような事態が生じておりましたが、上場企業の財務データにおいてもこの状況であるわが国の企業財務であります。

中小企業、特にオーナー企業の極めて多い中小零細企業の財務データが企業の真の状態を反映していないというのは、自営業経験者や銀行その他の金貸し業経験者なら(大手企業のみに金貸しをしていた人を除く)常識以前の問題としてわきまえているお話ですな。企業財務データだけで信用リスクが判れば金貸しの与信判断なんぞ機械にやらせておけばよい話で、営業担当者なんぞ居ても居なくても同じですがな。

株式市場の価格や社債の市場価格からのアプローチというのは、まぁその手の企業に限る話なので、ちったぁマシなのですが、この理論の前提は「市場価格が正しい」という物が根本にあるわけであります。しかし、ご存知のように株価が額面割れならともかくウン百円あるのにいきなりお父さんになってしまう企業が最近でも頻発しておりますし、先日で言えば某東急建設(まんまですな)のように、企業の実態価格とは何ら関係の無い「市場価格」が付いてみたりというように、市場というのは常に正しい訳ではありません。というかあたくしなんかは「市場は常にオーバーシュートするので間違っている」という風に思っております。社債のスプレッドなんて株価どころの騒ぎでなく「常に大間違え」状態であります。

ま、そんな訳で、根本的な前提に問題がある上に幾ら精密な理論体系を打ち立てても、現状認識を観念的に行う事による誤認に理論的裏付を与えて益々観念的な認識に拍車をかけるだけのことになりますわな。現在の信用リスクモデルブームも結構なのですが、理論の精緻化に走り、小難しい理屈を捏ねる方向へと驀進しているように見えるのがいただけないとあたくしは思いますな。肝心の基礎データが実態を反映しているのかどうかという面について検証をしだすと美しい理論構築が崩壊するので検証したくないのでしょうけどね。


この金融庁の方々の出したペーパーの第1章の「はじめに」という部分には「信用リスクモデル評価方法の現状と問題点」という言及もあるのですが、極めて残念なことにその内容は信用リスクモデルをどう評価するのかという方法に関するアプローチというお話になっておりまして、基礎データの問題について言及されていないのが残念であります。もしかしたら個別の各理論においてはそういう問題についても触れているのかもしれませんが・・・・


最近では「中小企業の財務データをウン万ウン千社分集めて作成した」といった触れ込みの信用リスクモデルがあちこちで開発あるいは開発途上であったりするのですが、基本的な企業財務データが必ずしも信用ならないのに、それを幾ら集めても余り意味のあるモデルができるとは思えませんが如何な物なのでしょうかね〜♪

で、この辺の「美しいモデル」が研究所での知的遊戯に供されている分には別にど〜でもよいというか、毒にも薬にもならないお話でございますが、困った事にこの知的遊戯が本当に金融機関経営に影響を与え、銀行融資の現場に影響を与えるという事が大問題。


知的遊戯の産物は「資産担保証券の買取」で打ち止めにして頂きたい物であります。



朝のドラめもん

2003/11/14

お題「前も似たような事書きましたが再度30年国債」

終わった入札の事に関して能書きを垂れるというのは後だしじゃんけんではないかと思いつつも、あまりといえばあまりな相場に呆然としてしまったので・・・・・・


昨日の債券市場。30年国債の入札絡みでのテクニカルな動きという面もあったとは思いますが、それにしても前場と後場でここまでやるか!という動きでした。ちょっと正確さに欠けるかもしれませんが、入札前の前場で30年国債が前日比+7.5BPまで売られたと思ったら落札結果発表後の後場は▲6.5BPまで買われるという動き。

入札前に相場を下げておいて雰囲気を悪くしてから安目の所でごっそり落札というのはまぁ良くやるテクニックですし、別にそのこと自体が悪いとは思いませんが、余りにもやる事が露骨過ぎでございます。

30年国債は発行量も少なく、流通玉に至ってはまぁ見事に乏しいと思われる、というかごく一部の人たちの間では活発に売買されているらしいのですが、無力業者のあたくしは存じ上げない債券でございます。

そんな無茶な債券ですが、恐ろしい事にこの債券は国債イールドカーブの一番最後に当たる部分を構成しておりますので、イールドカーブに与える影響たるや甚大でございます。流動性が碌に無い債券がイールドカーブの一番後ろを構成し、当たり前ですがブレも死ぬほどでかいという状況。

幸か不幸か、と言うか不幸だと思うのですが、この債券当然ながら債券インデックスにも組み込まれる訳でございまして、債券運用の世界でインデックス対比のパフォーマンスが求められる傾向が益々強い(らしい)昨今では、ファンドマネージャーの皆様はトラッキングエラーを回避する為に流動性が碌に無いのをご承知の上でファンドに組み込まざるを得ないという悲しい現状があるわけです。

昔々その昔、アイテーバブルというのがございましたが、この時も浮動玉の少ないNTTドコモだのソフトバンクだの光通信だのといった銘柄の時価総額が巨大になりまして、TOPIX対比でのパフォーマンスを求められるファンドマネージャー様は上がれば上がるほど沢山買わないといけない破目に陥ったというお話がありました。最近でもヤフー株が東証一部への鞍替えで一騒動ありましたが、30年債もまた同じような商品へとなり下がって(あるいは上がって)いる様でございますな(-_-メ)。

あたくしは偶々アイテーバブル時代に株式のポジションを持ってきゃあきゃあといいつつディーリングやっていたので、どうもこの30年債を見ているとファンドマネージャー様のご苦労というか苦悩が何となくわかる気が致します。そもそもインデックスにこういう流動性は無いわ、パフォーマンスのぶれはでかいわという債券を組み込むというのはいかがな物かと思うんですけどね。

インデックスを構成する際に個別銘柄の流動性って考えないんですかね〜。



おまけ雑談:WI取引

入札前取引とでも言えば良いと思うのですが、何でも海外の言葉を使いたがるのでダブリュアイトリヒキという実に発音のしづらい取引の開始が近づいてきましたな。

で、まぁシステム対応の会議なんかに引っ張り出されるのですが、「銘柄データカラムがどうのこうの」というようなお経のような話を聞きながら、考えたよしなしごとです。

○国債のイールドカーブが立ったらどうなるか

債券先物の受渡最割安銘柄が受渡適格銘柄の中でどの年限になるかというのは、債券先物価格から算出されるゼロベーシスカーブの傾きと、現実に取引されている債券のイールドカーブの傾きを比較すると判ります(といきなり偶には頭の良さそうな話をしだすあたくし^^)。

現在のイールドカーブの傾きはゼロベーシスカーブの傾きよりも小さい、つまり右肩の上がり方が小さいので、債券先物の受渡最割安銘柄はイールドカーブの一番左側、すなわち受渡適格銘柄で一番年限の短い残存7年の債券にあるわけであります。

何らかの事情(財政爆発とか^^)でイールドカーブの形状が派手に変わって、イールドカーブの傾きが大きくなって、ゼロベーシスカーブよりもでかくなった場合というのは当然ながら今度は受渡最割安銘柄が一番残存の長い10年新発債になるわけですな。

で、同償還の銘柄が何本かある場合は当然そのうちの一つが最割安になる(現在のイールドカーブを前提にするとその中で一番表面利率の高い債券)訳でして、この銘柄は実質先物連動債券になります。

てな訳で、受渡最割安債券が10年新発債になった時に、同じ償還で別のクーポンの既発債が出ていた場合は、クーポン決定前のWI取引がデリバリーオプション付きの売買になることになっちゃいますな。何せ発行クーポンが決まる前に取引してしまいますので・・・・・・と考えると中々恐ろしいのですが、その頃までには幾ら何でもあたくしの方が隠居しているでしょう(^^)。


○金融政策が変わったらどうなるか

当然ながら発行クーポンは入札時の実勢利回りに近い数字になる訳なのですが、入札の直前に金融政策の変更が起こるとこれがまた恐ろしい事になります(^^)。

金融政策が変わってしまえば、当たり前ですがそれまで皆さんが前提にしていたクーポンと思いっきり違う所が実勢になるでしょう。昔みたいに市場に追い込まれて金融政策が変更になったらその限りに非ずかも知れませんけど。で、クーポンが元々考えていたものと派手に違ってしまった場合には、当該債券のデュレ−ションが派手に変わる事になります。

従って想定していたヘッジ取引がオーバーヘッジになっちゃったりアンダーヘッジになっちゃったりする訳でして、恐らくは香しい悲喜劇が発生するでしょう。ちなみに利率が上がる分にはデュレ−ションが短くなるのでオーバーヘッジ状態ですから「現物ショートで先物(でも他の現物債でもいいですけど)ロング」のポジションになったお方が(って業者じゃねーか・・・・・)「先物(あるいは別の現物)の買いヘッジ掛けすぎ状態」と言う事になりますので、相場下落(想定よりも派手に利率が上がる=相場が派手に下落ですな)で思わぬやられが発生してしまったりする訳ですな(-_-メ)。

書いているうちに頭がウニになってきましたが、これで合ってますよね(^^)?


と言うことで、脳味噌をこれ以上ウニにすると本日のディールに差し支えるので(嘘)今日はこのあたりで〜(^^)/




朝のドラめもん

2003/11/13

お題「本当に不良債権は減っているのでしょうか」

昨日のお話に関連しまして。

先日の新聞報道に「三井住友銀行、他行から不良債権買い取りへ」という記事がございました。記事によりますと債務者区分が「要管理先」となっている不良債権を中心に購入して、企業再生を進めて売却する事によって収益を上げるというお話。

「要管理先」という債務者区分っつーのは、まぁ要するに金利減免をしていたり、一部債権放棄していたり、債権を株式化していたりするような先で、「破綻懸念先」に至る前の債務者と言う事であります。

で、三井住友銀行。不良債権を購入して購入先の企業再生をして価値を上げるという極めて前向きな企画は壮大でして、是非頑張って頂きたいものでございます・・・・・しかし、そんな事をしている人的資源並びに能力があるなら、自分の所の「要管理先」の企業再生をするのが先決なのではないかと思ってしまいますが、その辺はどうなっているのでございましょうか??


この「不良債権買い取りビジネス」には変なカラクリがあるようです。

と申しますのは、同じ記事中に「5月に金融庁は不良債権の流動化を促すため、検査ルールを定めた事務ガイドラインを改定し、「要管理先」債権について「適正価格で購入した場合に限り」何と「正常先」に区分できる」ようになったという記述があります。(破綻懸念先以下は従来どおり開示対象)

金融庁のWebを見て該当すると思われる部分を探してみたのですが、ここのWebは超優秀な日銀と比較したらかわいそうですけども、元は同根の財務省のWebと比較しても激しく読みにくい作り込みになっておりまして、どうも良く判らず(というのを言い訳にしてますが)、結局そのままズバリの記述は見つかりませんでした。

まぁこの新聞記事で書いてある「要管理先の不良債権を適正時価で購入したら云々」というのが幾ら何でも間違いっつー事はないでしょうから、以下この記事にある検査指針の改定が正しいという前提でお話をします。



「不良債権の流動化を促すため」というか要するに「不良債権を買った場合にメリットを与えるため」に訳のわからぬ規則を定めておるようでございますが、これは単なる「官製お墨付きの不良債権隠し大作戦」ではないのかと思われますが如何でしょうか?

昨日のドラめもんでも申し上げた気がしますが、金利減免なんぞを受けているような不良債務者向けの債権っつーのは、何円で評価しておりましても所詮は不良債務者の債権であります。「適正時価で購入すると債務者区分が正常先になる」という理屈は噴飯ものの理屈であります。大体金利減免を受けている先っつーのは、そりゃー復活する可能性もあるかもしれませんが、その後破綻に向かう債務者予備軍な訳であります。何で正常先に区分できるのでしょうか????


てな話を知人と話しておりましたら「社債の投資に置き換えてみれば判りやすい」という結論になりました(^^)。

「要管理先債権」っつーのは要するにリスケ中の債権ですから、誰がどう見ても債権格付けで言えばBBB格を下回るような屑債権でございます。このような企業の社債は当然世の中で叩き売り価格で売買される訳でありまして、まぁ仮にJGB+1000BPとかの利回りで売買されているので、その価格で購入したと致しましょう。

これまさに「適正時価で購入」という行為。で、この「適正時価で購入した要管理先の不良債権の債務者区分が正常先になる」という理屈を当て嵌めますと、何とこの屑社債を購入した投資家は「買った社債は適正価格で購入したので投資適格格付けです」と言って宜しいという素晴らしい理屈になる訳です。

こんな理屈が罷り通るならば、投信のファンドマネージャー様ウハウハでございますな。何せ投資不適格格付けの社債でも適正時価で購入すると投資適格になる訳ですから、目先の運用利回り上がりまくりですな(^^)。


おまけに申し上げますと、「適正時価とは何ぞや」というお話になる訳でございまして、この適正時価を算定する根拠となるのは恐らく企業の現在価値を経営再建計画に則って算定したりするのでしょうが、元々の債権を保有している銀行の引当が正しいのであれば、「債権額マイナス引当額」となっている筈です。

この債権を他行が購入するとあら不思議。何と要管理先債権だったものが通常先債権という正常も正常な債権に化けてしまう訳であります(^^)。さすがは金融エリートの考える事はただものではありません。これならば世の中の要管理先の債権というのは煙のように消えてなくなってしまうでしょう。



てな事を考えながら、金融庁のWebにあります事務ガイドラインの過去の改定に関する記載のうち5月分に相当するところをみておりますと、こんな記述にぶちあたりました。法律的文書であり記述が長いので趣旨を損なわないように書きますとこんな感じです。原文は金融庁のWebから「事務ガイドライン」のところを見るとございます。

「過去に金利減免や債権放棄などを行った債務者であっても、経営状況が改善した結果、通常先と同様の利回りが確保されている債権は、貸出条件緩和債権扱いしない事にする」

まぁここまでは判らない事もありません。で、この次が中々。

「特に、実現性可能性の高い抜本的な経営再建計画に沿った金融支援の実施により経営再建が開始されている場合には、当該再建計画に基づく貸出金は貸出条件緩和債権には該当しないものと判断して差し支えない」(原文引用)

で、まぁこの「実現可能性の高い」「抜本的な」という所には一応色々と条件が付いているのですが、まぁ結局は解釈次第だな〜という内容であります。ちなみに産業再生機構が買取を決定した場合は「実現可能性の高い抜本的な経営再建計画」が実施されたものという扱いに当然の如くなるようです。

実現可能性の高い抜本的な経営再建計画というのがど〜ゆ〜ものなのかってあたくしは知識が足らないようで寡聞にして存じません。というかゾンビゼネコン様がよく「抜本的な再建計画」を出しては「また支援要請か!」というのを繰り返している印象なんですけども、そういうのもまさか・・・・・


てな訳で、あんまり報道されておりませんが、さすがに優秀なおエリート様の考える事は素晴らしいです。物事の本質を改善することなく、巧妙に理屈をつけて延滞債務者向け貸出金の表面上だけ正常な貸出金にしようとしていると言うものであります。こんなことに優秀なる知能を消費させる日本の官僚機構っつーのはどういう(以下自主規制)。

で、何で余り報道されないかと申しますと、このような飛ばしスキームとどこがどう違うのかさっぱり判らないスキーム自体を否定してしまいますと、不良債権ビジネスとやらで一儲けできる(以下自粛)というのと、とりあえず不良債権を表面上減らしたい人々との利害関係が(以下自粛)と言う事なのでしょうな。


これが不良債権の抜本処理とやらの本質なのかと思いますと悲しくなります。



朝のドラめもん

2003/11/12

お題「エリートの不思議な理屈」

「金融イノベーション会議」という実に謎なものがあります。例によって日銀総裁がそこへ出かけて講演をしております。で、この講演議事録を読んでいると、あたくし的には色々と不思議な感想が湧いてくるのであります。
http://www.boj.or.jp/press/03/ko0311a.htm

基本的にこのお方の講演や記者会見は非常に難解で不思議な理屈が多く、読んでいて非常に頭が痛くなります。今回の講演もまたその例に漏れず、おまけに長文ときているのでちゃんと読み込めているのか不安ではございます。講演のお題は「わが国金融サービスの高度化に向けて」と言うことで、講演の冒頭に『本日は、わが国の金融システムを支える多くの方々──銀行、証券のみならず、年金・信託、格付機関、監査法人などの方々を前にして、お話しする機会を与えられ、大変光栄に存じます。』と言っているので、恐らくは金融おエリート様の集う会議であろうかと思います。


○無かった筈の「株式」が発生するというお話

福井総裁がお話したかったのは講演の後半部分の「わが国金融システムの将来課題」という所であろうと推察されるのですが、非常に不思議な理屈があちこちに散りばめられております。もうちょっと有るのかもしれませんがとりあえず気がついた所を並べてみます。

最近になって日銀の方々から「新たなる大発見」の如く言われるようになった、「短期貸出で根雪のようにロールオーバーされている中小企業への貸出金は擬似エクイティである」というお話。

企業というのは現金商売でもやっていれば話は別ですが、普通に商売をやっていれば売掛金という形での企業間信用が発生しており、売上の回収期間に応じて経常運転資金需要が発生します。同じような事業を同じようにやっていれば自然と銀行から借り入れた経常運転資金は根雪のようになる訳でして、銀行も企業が継続的に生きているというのを前提にすれば貸出を継続するわけですな。

と言う意味では、「企業が普通に生きている限り返済しろとは言われない」という経常運転借入は企業にとって借入金なのか資本金なのか曖昧とも言えます。総裁に言わせればこうなるようです。

『例えば、金融機関の企業向け融資は、形式上は短期融資ですが、実質的には借り換えが繰り返され、擬似的な資本としての機能も果たしていると言われています。』

ここまでは良いのですが、ここから話はあらぬ方向へと飛躍します(-_-メ)。

『金融機関が背負っている複合的なリスクは、デット(債権)やエクイティー(株式)といった属性の異なるリスクが混在した状態になっているため、このままでは、それぞれに相応しいリスクの担い手に再配分されにくいという面がある訳です。』

というのは具体的にどういう話になるかと申しますと、講演後半の「信用リスクの加工技術の高度化」という如何にも米国のお得意な粉・・・じゃなくて錬金・・・でもなく金融技術的なコーナーでこのように言っております。

『こうしたリスクも、エクイティー部分とデット部分に分解すれば、そのリスク属性に適合する投資家に再配分する道が開けます。例えば、将来発展が期待される企業については、金融機関が、新株予約権を付けた貸出で対応することもリスク加工の一例です。これによって、貸出部分の金利水準を抑制しつつ、事業が成功した場合の企業価値の増加メリットを享受するとともに、新たな株主が経営へガバナンスを働かせることも可能となります。』

経常運転資金の短期転がしである貸出金が擬似エクイティーだというのは、さっきも書きましたように「企業が通常のベースで生きている限り貸出金を継続する」という資金の流れ(というか流れてませんが)をもって「擬似エクイティー」だと言う事でございます。

ところが、「資金の流れ的に資本金のようなものだから、短期借入転がしの貸出金は株式+債権である」というのは論理の飛躍であります。この貸出金というのは「企業が成長しても返済されるのは元利金」であり、「企業が逝ってしまえば元本部分が毀損する」という資金であり、株式的な「価格が上昇する」というメリットは無い資金であります。

どこがどうなるとこの貸出金がエクイティー的なメリットがあるのか全く判らないのですが、どうも金融加工技術に長けているおエリート様にかかると、そもそも無かった筈のエクイティーというものが発生するらしいです。

講演で触れている「新株予約権をつけた貸出」っていうのは単に「融資先の株式保有をすると高くつくし、銀行法の縛り(子会社にしない限り5%以上持てない、でしたっけ)あるからからワラント寄越せ」と言っているだけの話で、経常運転資金の短期貸出金の問題とは別でしょ。


○税金による資本注入は掴み金だったのか?

順序が逆になりますが、講演の前半で不良債権問題について触れております。

『「りそな銀行グループ」が、経営健全化プロセスを一気に短縮すべく、引当を大幅に増額し、世間の注目を集めました。同グループの場合、公的資本を受入れた後の対応として、新経営陣が早期に市場の信認を取り戻すことに最重点を置いた行動を選択されたということだと思われますが、私どもも、「問題克服に向けた思い切った対応」として、これを評価しております。』

あたくしのように毎日時価評価でポジションを値洗いされている人間に言わせますと、不良債権はどんなに加工しても不良債権であります。ほんのちょっとだけですが、金貸しの手先として不良債権の回収の兵隊として働いた事のある人間にいわせますと、既に貸した金が全額返せない不良債務者に対する回収見込み額が計算方法によって変わるという事はあり得ないお話でございます。

しれっと『経営健全化プロセスを一気に短縮すべく、引当を大幅に増額し』と言っておりますが、「腐れ貸出金に対する回収不能見込み額」というのが「引当金」であるという極めて当たり前の理屈から考えますと、この銀行は以前の「引当金」の算定がおかしいのか、それとも現在の引当金の算定がおかしいのかのどちらかと言う事になる筈です。

しかしながら、どうも金融エリートの集う当局様に言わせますと、「どちらの引当も正しい」らしいです。頭の悪いあたくしにはさっぱり判りかねる理屈でありまして、これを粉飾と言わずして何を粉飾と言うのでありましょうか。

百万回考えても今回の資本注入は「問題克服に向けた思い切った対応」ではなく、「貸出金のロスを本来やるべき評価で行うと会社が破綻するので政府から資本を頂戴した」としか思えません。この事に関して日銀出身の木村某氏などは不思議千万の難しい論理展開で正当化した文章を日経ネットの連載コラムに掲載しております。何回か取り上げたと思いますが、実に不思議な論理でございます。


○無担保、無保証貸出がエライという論理は何なんでしょう

この講演、不可思議な論理があちこちで展開されておりまして、最近のおエリート化してきた金融当局の金融行政が何を考えて行われているのかという事に関する良い参考文献として有用でございます。何時の間にか因果関係をすりかえて見たり、金融技術が発達すると問題が何故か魔法のように解決してみたりというような夢のようなお話が出てきます。

おまけに、さすがに頭の良い人が考えるだけの事はあって、一読すると何となく違和感があってもつい読み流してしまうという説得力には、浅学非才のあたくしの遠く及ぶ所ではございません事であります。

と、悪態をついている場合ではなくこのお話。

『時として金融機関が決して貸し渋っている訳でもないのに、企業側からは、信用供与を十分受けるのが難しいと感じられており、この間の不疎通が問題を複雑にしています。これは、当事者間の努力に待つ面だけではなく、金融システム全体として改善を要する構造問題があることを示唆しています。まず、信用供給に関する市場分断の存在が挙げられます。』

というお話からどういう話が出てくるかと申しますと・・・・・

『例えば、金融機関の貸出残高のうち、担保・保証のないものの比率をみると、大銀行では、大企業向けの信用貸し部分の寄与もあって4〜5割程度に達していますが、地域金融機関では1〜2割程度に過ぎません。』

と、まぁある意味当たり前のような事実について言及しておりますが、どうもこの事が日銀総裁的には大いなる問題なようであります。

『これは、主に中小企業において、担保はないが将来キャッシュフローが見込めるという企業の借入ニーズが充足されていない可能性を示しています。』

いや、確かにそういう可能性が全く無いとは申しませんが、資本力に乏しく、当然信用リスクの高い債務者に対して信用補完を行う目的で担保を徴求したり保証人を徴求したりするわけであります。債務者が無事に生きていれば別に担保も保証人も減るものではありませんので、その「信用貸しを増やせ」みたいな論理はいかがな物かと思う訳であります。

しかも、世の中の企業において「大成長して株式公開」というような企業は極めて限られるお話でありまして、普通の中小零細企業と言うのは「日々着実に金を稼いでいく」企業であることは言うまでもないと思うのですが、どうもこの人にかかりますと、世の中には成長性の高い企業がうじゃうじゃ存在しており、その企業への貸出をじゃんじゃんできない銀行は能無しだという話になるようであります。

大体、株式公開みたいな大それた事を考えない普通の企業においては、企業会計において成長性をアピールする必要も必要以上の収益性をアピールする必要も無い訳でして、色々な税務上の技術を駆使して合法的節税をおこなうのが経済合理性に則った行動であります。

こういう企業においては、企業に本来留保される利益が代表者の個人資産に化けていたりする訳でありまして、業歴の古い企業ほど「いざとなった場合のバッファーが代表者の個人資産」となっている物です(バブルで引っ掛かった人を除く)。そういう企業に対して金融機関が代表者の個人保証を求めるのは極めて当たり前の行動ではないかと思うのですがいかがな物でしょうか。

まぁ現在の保証人制度、特に第三者による包括根保証には色々な問題があるのは重々承知しておりますが、その問題とこの話(中小零細企業においては企業の信用力を考える際には代表者の個人資産などを加味するのが合理的という話ね)は全然別の問題だと思いますが。。。。


と、まぁちょっと読んでも色々と突込み所満載の「金融イノベーション」ですが、今後の金融行政の不可思議な方向性の一端が見えてくる楽しい講演でございます。おエリート様の思考様式の学習のためにも是非ご一読される事をお勧めしますが、途中で頭が痛くなっても当方は関知致しません(^^)。

なお、昨日の新聞記事で見逃せない「魔法の技術」的な金融加工技術(^^)を目にしたのですが、この話はネタが無ければ明日にでも♪





2003/11/11

お題「日銀の自己資本というお話」

5年債入札はどうも無難に終了しそうですので、本日は全然別のお話をば。

日銀の植田審議委員が去る10月25日に日本金融学会で「自己資本と中央銀行」というお題で講演を行いました。この学会の春季大会では福井総裁が講演を行いまして、債券市場のユーフォリアを充分煽ってくださる美しい講演を行っておりましたな。

http://www.boj.or.jp/press/03/ko0310f.htm

最近はあまり言われなくなったようですが、ひところ「中央銀行の自己資本の毀損懸念」という議論がされておりました。大体日銀からこの理屈が発信される時は逃げ口上の時が多いのですが(^^)。

『日本銀行は、外国為替、大量の中長期国債の保有に加えて、2002年暮れからは、銀行の保有株式を買い取っている。さらに今年に入って資産担保証券の購入を始めた。一部の見方によれば、こうしたオペによって、日本銀行は通常中央銀行がとらないようなリスクを抱えており、そのバランスシート毀損の可能性が信認の低下につながるリスクも犯している。』

『他方、別の見方によれば、こうした異例のオペによってデフレが克服されれば、経済全体も政府の税収も好転する。万が一、日本銀行が会計上債務超過に陥ってもそれを埋め合わせるような資本再注入は容易だろう。あるいは、インフレ率が正常なプラスの値に戻れば、将来の通貨発行益も増え、その割引現在価値を考慮に入れれば、一時点での債務超過自体大した問題ではない。こうした相対立する見方はどちらが正しいのだろうか。』

と言うお話なのですが、最初に結論が出ておりまして、結局は『結論的にはどちらの見方にもそれなりの根拠があるものの、いずれか一方のみに組することも出来ず、自己資本の問題の金融政策運営との関わりの多様な側面を意識しつつ、注意深い政策運営を中央銀行は実施するしかないということになる。』という事のようです。

で、具体的事例として中央銀行が債務超過になったケースについて検討を加えておりまして、その辺をあたくしの乏しい脳味噌で解釈してみます。お暇な時に上記URLから講演要旨を是非御覧下さい。


○中央銀行が債務超過になるケースは基本的には「途上国型」

『大幅な期間収益赤字や債務超過を経験した中央銀行は、どのような経緯でそうした事態に陥り、またそれが金融政策運営にどのような影響を与えただろうか。この点についてはStella(1997,2002)他が詳しい。これらの文献によれば、債務超過に陥った中央銀行の例は中南米諸国に多い。その他にも一部のアジア、アフリカ、東欧の中央銀行、また先進国ではBundesbankが1977-1979年に債務超過を経験している。』

で、この中で言えばブンデスバンクが何で債務超過になったのかと言うと、マルク高で外貨準備に評価損が発生(自国通貨建に直すと損失になる)したためと言う事なので本質的な意味での債務超過では無いような気もします。


○中央銀行の債務超過が即インフレに繋がるのかと言いますと・・・・

中央銀行が債務超過になった場合には高率のインフレが発生するそうでございます。引用すると長くなりますので勝手にまとめちゃいますと、@債務超過状態から自力脱却しようとすると無茶苦茶に通貨供給をする必要になるのでインフレ発生。A政府が債務超過を穴埋めすると、その過程で政府が口を出すのでインフレ政策を取らされる可能性がある。と言う事でございます。

ただ、中央銀行が債務超過になっている場合でも財政が発散しない場合は高率のインフレにならなかったケースもあるらしく、97年〜00年のチリのケースを上げております。

どうも問題は中央銀行のバランスシートよりも財政政策にあるのではないかという気が思いっきりするのですが、その辺の考察については残念ながら触れられておりません(触れているのかもしれませんが、あたくしの読解力では判らないっす)。


○では日銀はどうなっているのか

引用すると滅茶苦茶長くなるのでまたも勝手にまとめると、要するに量的緩和の拡大で保有国債が無茶苦茶増えた事について非常に日銀的に気にしているというお話のようです。

10月20日時点での長期国債保有額は約64兆円。日銀の自己資本が約5兆円なので、金利が大幅に上昇して、保有国債の評価額が1割下がると実質債務超過だというお話になります。

ただ、元々運用目的で保有している訳ではない国債がどうなろうと(デフォルトは困りますが^^)冷静に考えるとどうでもよい話ではないかと思えるのでございまして、この点につきましても講演で述べております。結論的には「財務の健全性の観点で保有している長期国債を売却する必要は無いのではないか」「ただし、従来の長期国債買入の反対の意味で、オペレーションとして長期国債の売却を行う可能性はある」という事のようです。

オペレーションとして長期国債の売却を行うと、会計上は売買実現損が出るわけですが、金融引締めには必ずしも長期国債売却だけではなく色々な手段を取れるので、まぁ会計上の債務超過に陥る可能性は低いと言う結論になっております。


○しかし何で長期国債の価格下落を気にするのか

この辺から段々雑談っぽくなって参ります。

講演で正面切って触れられていませんが、「中央銀行の信認低下」というのは、一般ピープル的には自国通貨の信認低下と言う事になります。講演の中では『Stella (2002)は、中央銀行の財務が極端に悪化すると、金融取引が正規の決済システムを通じて行われなくなる』と指摘しておりますが、要するに自国通貨で決済を行わないで他国通貨(まぁ米ドル)の現金決済が行われるっつー事ですな。

ブンデスバンクが債務超過になった時は先程申し上げたように原因が「マルク高(あるいはマルク安の修正)で外貨準備が含み損になった」という事でありますので、そもそも「中央銀行の信認低下」と正反対の動きです。

この講演は相手が学者だからある意味変な切り口で話をしているのかもしれませんが(^^)、本来的には中央銀行の信認低下というのはバランスシートが問題なのではなく、他通過に対する自国通貨の価値(要するに為替レート)に反映されていく話なのではないかと思います。この辺の切り口が見受けられず、ひたすら自国内での閉鎖経済モデルを前提にしているかのような講演であったのが(本当はそうではないのかもしれませんが、あたくしの読解力ではそうなってしまいました)非常に残念な所であります。

そもそも「デフレ−ションからの脱却」を政策目標として長期国債の買入を莫大に増やしている訳でして、その政策目標が達成されて金利が上昇するという所謂「よい金利上昇」がおきた場合に保有国債の評価損が発生して実質債務超過になるという点について懸念するというのは・・・・・・何だか根本的に懸念する方向がおかしいような気がするのですが。

この講演では「良い金利上昇」のケースについて焦点を当てた議論に留まっておりますが、本質的な問題は「財政発散による悪い金利上昇」のはずでして、この時は資本流出による自国通過安と金利上昇がセットで発生して、消費者物価と資産価格の破壊的な上昇が発生し、中央銀行の政策目標が悉く崩壊する訳でございますな。

まぁ財政が自爆テロを起こし、日銀もそれを止められない(あるいはせっせと協力する)ならば悪い金利上昇はある意味日銀の預かり知らぬところで行われてしまう訳ですので、この論点での議論しづらいと言うのは判らんでもないですが、肝心な点への言及が無いのが残念であります。


講演では「良い金利上昇」の時に日銀のバランスシートがどうのこうのという話を繰り広げていますが、政策目標が達成された場合の話を考えるよりも、そうならない場合(財政爆発が先に来るケース)にどう対処すべきかを考えるほうが大事なのではないかと思いますが。まぁ日銀はちゃんと内部では考えていると思いますけどね。



うーん、長文の癖に全然纏まっていない。読解力不足のままご紹介して誠に申し訳ございません・・・・・・・m(__)m





2003/11/10

お題「やはり総選挙でしょ」


○百の調査より一の実例

終わってみれば投票率は下がるわ、与党は大してドロップしないわという結果。どこかで見たことのある結果だと思えば、結局は埼玉でこの前やっていた参議院の補欠選挙と同じ結果でありました。

事前の予測では朝日新聞から産経新聞、おまけに小泉マンセー度の最も高い日経新聞まで揃いも揃って「自民党単独過半数の勢い」の予想でしたが、ありがちなパターンで逆に行きました。

そちらは驚くに値しないのですが、あららのらと思ったのは「出口調査」ですな。各テレビ局が出口調査で議席数を予測していたのですが、民主党がどこの調査でも最低180議席(日本テレビに至っては200近く)の予想になっておりまして、まぁどうでもよいかと思っていた開票速報を12時近くまで延々と見つづける破目になってしまいました。途中で「こりゃ与党安定多数行くじゃん」と思って寝てしまいましたが(^^)。

あてになりませんな、全く。


○連立与党は勝ったけど小泉くんは勝ったのかね?

自民党は小泉・安倍の2枚看板で森くんの時とボチボチの選挙結果。選挙用の看板という意味も大変に高い現在の党首脳なのですが、選挙で使えないという話になった訳でして(今回だけで即断できませんが)今後も好き勝手やると言う訳には行かなくなるでしょう。

比例代表で第1党になれなかったというのが実に寒い状況でして、野党の選挙体制(勝てもしないのに小選挙区に候補を立てて政権批判票を分散させるという実は自民党へのアシスト効果絶大な某代々木方面の政党の行動)次第では「選挙でまともに政権交代」という事が起きるのかもしれませんな。


○勝者は公明党だけですな

公明党は解散時議席を確保。小選挙区でも自民党への選挙協力で存在感をアピールした訳でして、細かい得票数まで見ておりませんが、まぁこの「2大政党対決」の煽りの中健闘致しました。

一頃は自民党(というか小泉首相)からあたかも「下駄の雪」であるかのごとき扱いになりつつあった公明党ですが、参議院埼玉補選に続いてこの結果ですので、連立与党の中での存在感が益々増す物と見られます。


○民主党は健闘なのかどうか

あたくし的には選挙期間中に謎の泥縄閣僚名簿を出し(あんな閣僚名簿だと「民主党に人材なし」という印象を与えそうなのですが)、話題にならなくて不幸中の幸いですが「日銀の大阪移転」などという謎のマニフェストを追加してみたりと、合併効果の眼目である「小沢票」をわざわざ失うような迷走をしたのはどうだったんでしょうな。

前回よりも投票率が低下しており、そんな中では良く頑張ったとも言えるのですが、それ以前の問題として投票率が上がるよう現象にならないというのが民主党のパワー不足を出しておりますな。


○結局この選挙の結論は・・・・・・

あたくし的な結論は「調子に乗るんじゃねぇ」という有権者の声があちこちに
見られたと言う事でしょうな(^^)。

石原都知事の三男坊が見事に落選しておりました。投票日前日にこの選挙区内にある床屋(大昔から行っているので)で正に「床屋政談」をしていたのですが、「オヤジやアニキと一緒に街頭演説すると、却って情けない坊ちゃん的な印象が強くなる」「大体ついこの前まで銀行に勤めていていきなり立候補って世の中舐めている」などと香しいご意見が聞かれました。

世襲批判をしている癖に何故か登場した菅直人さんのお坊ちゃんも大差で爆死しておりました。まぁ基礎票がいくらあってどうのこうのというのは岡山ですのであたくし全然存じませんが、きっちりと大敗しておりますな。有権者を舐めるなということですか。

「レイプは元気がある」の太田さん、「毒まんじゅう」の村岡さん、「政界渡り鳥」の熊谷さん。で、極めつけはなんと言っても山崎拓自民党副総裁とまぁ調子に乗っているときっちりと判断されると言う事でしょうかね。その一方で加藤紘一さんやら船田元さんやら再起している人もおりますし。

党内のサンドバック的存在だった山崎副総裁の落選は痛いでしょうな〜。


○と言うことで相場について

何とも評価の難しい選挙になってしまいましたが、自民党の側から見ると「小泉首相の看板が使い物にならなくなっている」=「別に小泉の言う事聞くことないじゃん」というお話になるかと思います。で、連立与党的には公明党の発言力の一層の強化という事になります。

両方合わせると「財政が発散しやすくなる」というお話になるのではないかと思うのですが、まぁ直ぐにそういう反応にはならないでしょう。ただし予算編成の段階に入った場合にこの点についての指摘が出てくる惧れがあります。

結果を単純に「連立与党勝利」とも言えないので、株式市場や外国為替市場の反応を見てから改めて反応すると言う主体性のない動きになるかと思います。

連立与党が勝ったとは言え、評価がしにくい結果ですな。





2003/11/07

お題「第一戦が終了したのですが・・・・・」

入札を合戦に例えるのも不謹慎と言えば不謹慎・・・というわけで(??)、第一弾の10年国債の入札が終了しました。めでたしめでたし。


○応札の「二極化」

昨日の債券市場では入札前の前場引けに掛けて先物が売られて、それ以上に10年債が売られるという、とても雰囲気の悪い状況で入札を迎えました。

あまり根拠はないけど(というのがポイントです^^)「そんなに悲惨な入札にはならないのでは」という前評判があったくせに入札前に妙に売り叩かれて、前場が安値引けになる入札というのが時々ございます。最近では9月2日の入札がそんな感じでしたな。

こういう雰囲気で入札を迎えた場合、入札に向けてヘッジ売りをしている人は前場引けが安値っつー事ですから当たり前ですが前場引けの前までにヘッジを行った人は「適正と思われる水準」よりも高い応札を行っても痛くも痒くもない訳です。で、大手銀行様が元気に暴れていた頃(債券相場暴落第2弾以前)にはこんな場合に得てして「それではちょっと上の札を入れておきましょう」という動きが起きまして、入札が妙に割高になってしまったりしておりました(-_-メ)。

しかし、大手銀行様の債券投資部門が野戦病院送りになって以来、そう無茶はできなくなっておりまして、昨今は「札が流れる」というのが常識になりつつあります。

ど〜してそうなるかと申しますと、事前に売って(あるいはお客様へ予約販売して)いてショートポジションになっている人は入札でショートカバーをする為に「まぁここなら入るでしょ」という札を入れます(全く別の相場観でショートしているならべつですが)わな。入札空振りしてショートカバーし損なったことが判明した時に相場が暴騰していたら洒落になりません。

で、まぁそれ以外の「まぁこの辺だったらちょっと買っても良いか」という札が適当に安い所に入るという構造になるので、応札される札というのは「ショートカバーの適正あるいはちょっと高めの札」と「まぁ入れてやるかいなという安い札」に二分される訳ですな。

ついこの前まではそこに暴れん坊将軍な投資家様が「たくさん買いたいからもっと上に応札するぞな」みたいな動きをする事によって(直接応札するかどうかはケースバイケースですが)、「ショートカバーの札」を空振りさせてみたり、より上に応札せざるを得ない状況に追い込んでしまいまして「常に入札が割高」という経済的合理性を無視するかのような(だって一番巨大な供給があるんですよ。入札って^^)状況が続いておりました。

こんなに発行額が多いのに、入札で需要超過になるような状況と言うのがそもそも的な議論をすればアホウな状態な訳でして、現在の状況というのはまー正常な状況になっていると言うことでございます。大手銀行様を始めとして銀行業態様がフルインベストどころかオーバーインベストをしていたという事だったのでしょうな(^^)。


○応札倍率で過剰反応??

さて、昨日の入札では落札結果発表直後に大変お間抜けな事態が発生しておりました(^^)。

平均落札価格は事前に「ここが適正水準」と見られていた価格。最低落札価格も「まぁこの辺までテールが流れるでしょ」という価格。というよりは結果発表前に「もうちょっと高くなるかも」という雰囲気を漂わせる相場の上昇が既に起きていたので「何だ普通の結果じゃん」という感じでした。

この時点で債券相場は前場引けから30銭ほど上昇していたので、「まぁ入れてやるか札」の入ったお方は喜んでヘッジ売り(あるいはヘッジ比率の調整売り)をする訳ですな。当然先物は売られました。

しかし、次の瞬間「応札倍率が15倍」という10年入札でこんな倍率あったかよ!という数字を見て「入札での需要が非常に強い!」と勘違いした方がおいでだったようで先物がいきなり跳ね上がりました。

まぁ確かに応札倍率が高いと言う事は「需要が全然ない」という事を示すのは事実なんですけれども、「入ればラッキー札」がわんさか入っていたり、「満額狙いの超巨大な札(ただし落札上限額のある10年国債に限る)」が入っていたりするだけの場合があるので、実は応札倍率だけを信用するのは如何な物かと思う訳であります。

今回は「入札は事前予想通りでテールもしっかり流れていた」という入札な訳でありまして、別に大盛り上がりするような需要があったわけではございません。この冷静なる事実に気がついて再び売りが入って先物は下落したというのが何とも微笑ましい展開でありました(^^)。その後は現物超長期ゾーンに改めて買いが入ったので別の相場になりましたが。。。

札割れ以来「応札倍率」を人気のバロメーターとしてやたらと注目する方が多いのですが、応札倍率に関して数値の低い方は「不人気度バロメーター」として信用してもいいのですが、数値の高い方はケースバイケースで判断しないと判断を誤る事になりかねない諸刃の剣。不慣れな方にはお勧めできません(^^)。


○入札は比較的順調でしたが・・・・・・・・(-_-メ)

ま〜入札は無事終了。落札時点から比較して10年ゾーンは思いっきり堅調に推移しておりますので、とりあえずめでたしめでたしなのですが。。。。。

入札後相場が死亡するパターンと言うのがございまして、

・入札は結構順調

・安心した皆様が新発債を購入して相場が上昇

・上昇した所で別の年限にドカンと売りが出る

・合掌・・・・・・

なのですが、実は昨日も同じような感じになっております。入札後に下げるっつーのは「入札でご購入した皆様ご一行総討ち死に」という涙の出るような展開になる訳でございまして、おまけに入札後に相場が上昇しているっつー事はそれなりに投資家様の買いが入ったという背景があるわけですから、「入札後上昇して下落」というのは実に困ったパターンでございます。

おまけに昨晩英国中銀が利上げを行い、直接関係はないにせよ何となく嫌〜な感じになっております。日曜の天候も「土曜は晴れの地域も多いのでお出かけは土曜日に〜♪あ、そうそう日曜の雨は大降りではありません」という正に選挙日和の予想となっております。

日曜の雨の前に債券市場に血の雨が降らないことを祈ります。



しかし何ですな。オージーちゃんの利上げに続いて英国が利上げ。何となく「世界的に利上げモード」的な雰囲気が漂ってきておりますが、ついこの前「グローバルデフレ」などと言っていたのは何だったんでしょうな〜という感じ。りそな銀行救済スキームから始まった日本の金融相場的な株高が世界的に金融相場というか過剰流動性相場を演出している事が背景にあるような気がしないでもないのですが、もし本当にそんな流れが底にあって「グローバル利上げ」になっているのでしたら、とんだお笑いですな。

まぁそんな事で(^^)。




2003/11/06

お題「10年国債入札」

総選挙様子見モードの相場が続いておりまして、そんな中で20年債と30年債、というか昨日辺りは30年債という流通量が非常に少ないけれどもイールドカーブの一番後ろにあるという困った債券が売られておりますな。ついでに5年債なんかも案外相場の下落についていって売られるという状況でございます。

そ〜ゆ〜中でとっくの昔から予定されていた入札大会が遂に開始されます。週末に総選挙だというのに10年債の入札ということですので、まぁどうなることやらという感じですな。


○中短期ゾーンからカーブを引っ張ると何とかなりそうですが

景気回復モード入りしてからの相場下落。大手銀行様の水準構わずの中期債叩き売りでピークを迎えたのがちょうど9月2日の10年国債入札前後でありました。引け値ベースで申し上げますと最安値ついたのが9月2日なのですが、この時の10年新発債(253回)が1.63%でした。(以下、全部単利表示ですので念のため)

この日は中期ゾーンの国債(特に5年)に最早理解不能の無茶苦茶売りが出ていて5年−20年が17.5BPもフラットニングしたという無茶苦茶な日でしたので余り参考にならないかもしれませんが、この時の5年債が0.970%、2年債が0.265%。債券市場が暴走して、債券市場から逆算すると「時間軸に対する信頼の揺らぎ」がおきているというお話になっていた頃でしたので、現在の中短期国債の位置(5年0.690%、2年0.165%)から比較しますとイールドカーブの起点に近い中短期債が思いっきり安定しているというお話になります。

時間軸が揺らいで中期債が馬鹿売られした時でも10年債は1.6%前半までしか売られておりませんでしたっつー事でありますので、非常に乱暴な議論ではありますが、中短期ゾーンが「量的緩和の時間軸強化」で比較的安定している昨今の状況から考えますと、本日の入札で(前場で相場が大反発すれば話は全然違いますが)まぁ1.5%前半の利回りになるであろうこの10年債は「そんなに問題ないんじゃないか〜」という話になるかと思います。


○問題その1は「景気回復モード」

先程申し上げましたようにこの債券相場、9月頭の時点と現在の違いは、時間軸に関する日銀のスタンスが強化されたという点です。それ以外の外部環境といえば為替と株価なのですが、ドル円では115円の壁を叩き割って現在は110円割れ状態。株式市場では日経平均ベースでは終値ベースで11000円台をマーク。現在は一応ボックス圏というお話ですが、あまり債券市場関係者が真面目にフォローしていないTOPIXベースで言えば、9月頭から見るとかなーり堅調推移という感じです。

ドル円相場は債券市場にはフォローなのですが、株式市場は益々「着実な景気回復モード」を示す動きとなっております。

低金利継続の下で景気が拡大するという組み合わせになりますと、当然ながら中短期金利に対して長期金利の方が上昇圧力が掛かりやすい訳であります。従いまして実は中期や短期の金利だけ見ていても仕方無いと言うものです。

あたくしのメモ帳もいい加減なもので、30年国債の利回り推移をちゃんと記録していない(理由はマーケットとして価格形成がちゃんと為されているとは思えないような流通市場の状況だから)ので、20年国債の利回り推移を見ますと・・・・・

6月以降の債券市場大暴落でも何故かキープしていた2%。今週に入って何の抵抗もなくブレークしてしまい、まもなく2.1%という状況になっている20年国債の利回り状況を見ておりますと、まぁ中短期から見るとそれほど不安もなさそうな10年債もいきなり「うーん」という状況になってしまう訳ですな。

この辺の分析は本当はスプレッドのグラフをお付けしてど〜のこ〜のというお話になりますので、馬脚をあらわさない内に退散いたしますが(^^)、まぁ景気回復モードなのだが低金利継続というどこかで見たような状況下ですので、20年などのより長い債券には売り圧力が掛かりやすい訳ですので、景気回復シナリオが崩れない限りは20年債が威勢良く買われるという展開は期待しにくく、従って10年債の戻りも期待しづらいというお話になりますな。


○もっと問題なのは「様子見モード」

昨年の9月と言えば、証券各社で給与カット・・・・じゃなくて「10年国債札割れ」という素晴らしい事件が起きた時でございます。

この時のことを思い出してみますと、直前に「日銀の株式買取」というヤケクソの一発が炸裂して債券相場が瞬間暴落。期末前だったので一部の方を除いて皆様おじぞうさん状態になってしまった頃でございました。

で、入札があったのですが、日程の関係上珍しく連休前の週末に実施された上に期末前で大きくポジションを動かしにくいという状況でしたので、大手機関投資家様の札が全然入らずに美しき札割れになってしまいました。おーおそろし。

で、今回。何と言いましても週末に総選挙を控えておりまして、珍しく「もしかしたら政権がアウトになるかもしれない」という緊張感が一応ある選挙だったりする訳です。こーゆー時は得てして皆さん「様子見」になる訳です。というかポジションしこたま抱えて選挙結果が驚天動地の物になったらまぁ言い訳ができませんし(^^)。

と言う訳で、大手機関投資家の皆様が揃いも揃って様子見モードになってしまった場合は(以下自主規制)の悪寒もあったりします。


とまぁそんな感じですが、とりあえず今日を乗り切ったとしても、来週は5年債の入札が早速火曜日にあるわけでございまして、まぁ大変なお話でございます。選挙結果自体は先日も書きましたが、実は与党が勝っても負けてもあまり債券の買い材料にはならないと思います。様子見モード脱却の言い訳にはなると思いますので、一旦は与党勝利の場合債券は買われると思いますが・・・・・多分株式市場が上がるでしょ。

てな訳で今回の入札は実はちょっと警戒してございますです。



朝のドラめもん

2003/11/05

お題「様子見モードなので素人政談」

本題の前に正誤です。昨日のドラめもんでGDPの話をしましたが、そこで何をどう勘違いしたか昨日GDPの発表があるかのようなお話をしてしまいました。全然違いましたね。伏してお詫び致しますm(__)m。

昨日はどさくさに紛れて20年国債の2%があっさりブレイクしちゃったりしておりますが、とりあえず「選挙結果待ち」状態で大きく動く人もいない板の薄い中での動きですので、コメントする方も「選挙結果待ち」といった所でしょうか。

ついこの前は入札前だというのに20年国債が妙にしっかりしていましたがいざ入札してみるとボロボロで、その後も20年債割高修正一直線というふざけた展開になっております。何で皆揃って「割高」と言っていた20年を入札前に買うですか??というのがあたくしの正直な印象でございますが、まぁ割高なのが修正されるのは結構なことであります。

11月になれば入札がバカスカあるというのは事前に皆様判っている筈なのですが、債券相場は相変わらず思考停止しているのか10月には「期初の買い」と称して中短期と超長期が妙に買われてしまいました。で、今頃になって修正モードとなり5年と20年が景気良く売られているという感じですな。

何考えて買い上げたんだか。。。。。


と言う事で相場の雑感が妙に長くなってしまいましたが、本日は素人政談。ま〜公職選挙法だの何だのという話がありますので個別候補者名は出しませんが。


○民主党の微妙な勘違い?

先日通りすがりに民主党の某候補が街頭演説やっておりまして「マニフェスト」を貰ってしまいました。政権公約のパンフと一緒に候補者本人のチラシも貰ったので拝見したのですが・・・・・

チラシの中で本人は立ち姿で新聞らしきものを丸めて握った右手を上げております。(どんな格好だか想像つきましたでしょうか・・・・)ただの写真といってしまえばそれまでなのですが、このお方の握っている新聞はどう見ても英字新聞でございます。

なぜこの人「英字新聞を握ってポーズ」なのですか??英字新聞を普段から読むような人からの支持が欲しいのでしょうかね〜と突っ込みをいれてしまいたくなるところでございます(中立性を気にして国内の新聞にしなかったのかもしれませんが)。

そんなことを思いながら政権公約のパンフを見れば、こちらには政権公約のスローガンに菅さんのサインがあるのですが、これがまた何故か横文字でのサインだったりしております。何で漢字で書かないのよ?

・・・・とまぁそんな感じで、一事が万事この政党は「インテリ気取り」な臭味がございまして、「女性の支持が得られない」とお嘆きのようですが、この微妙な「似非インテリ」というか「カッコマン(古いね)」的な微妙にずれた勘違い振りに「偽者の香り」といった物を敏感に感じ取られているのが「女性の支持が得られない」という所なのではないかと思うのであります。


○自民党は旅芝居一座ですか?

職場の同僚の自宅近所では選挙応援に自民党安倍幹事長がやってきたそうです。で、目撃したお方によりますとその安倍幹事長の行く所それはもうオバ・・じゃなくてご婦人の皆様が群がってそれはもう大変な状態だったそうです。色々と言われますがやはり小泉・安倍の2枚看板というのはもう浅香光代一座も裸足で逃げ出すのではないかというパワーをお持ちのようでございます。メディアの洗脳恐るべし。

街頭演説と杉良太郎のコンサートの区別がつかない人というのも困ったものですが、こういう方々はこれがまたきちんと投票に行く訳でありまして、変に小理屈を捏ねて政治がどうのこうのと言いながら投票に行かない輩よりもある意味遥かにマシであります。いやはやなんともという感じですけどね。

で、小泉さんが首相になってからはこの「街頭演説=旅芝居」状態に拍車がかかり、前回は田中真紀子さんでしたが、今回は安倍幹事長。民主党もまるで見栄えのしなかった前党首から見たら相当進歩しておりますし、田中康夫長野県知事を引っ張りだして選挙での客受けを取ろうと必死ですが、年季の入り方と役者の見栄えが全然違いますな。


○で、民主党の閣僚予定者発表

民主党のWebで会見内容のビデオも見る事ができるようですが、まぁあたくし的には発表文だけしか読んでいません(公職選挙法に引っ掛かるといけないのでリンクは張りません)。で、その閣僚名簿とやらは結局「地方主権担当田中康夫さん」「財務大臣榊原英資さん」「国土交通大臣山崎養世さん」というのが目玉というかそれしかなかったようであります。

「いまさら榊原さんかよ」という印象なのですが、超枢要閣僚である財務大臣に民間から有名人(一応元大蔵省幹部ですが)を引っ張ってくると言う発想では小泉さんと同じになってしまうのではないかと思うのですが。衆議院の財務金融委員会や予算委員会での会議録見ていますと、民主党や旧自由党には結構優秀な突っ込みを入れる議員の方がいらっしゃると思うのですけどね〜。

ドラめもんをお読みの方ならお判りだと思いますが、あたくしは竹中さん大嫌いな人なのですが、よりによって竹中さんの500万倍位嫌いな榊原さんが財務大臣候補と聞いていきなり脱力したというのもございますのですけど。世の中的には受けるんでしょうかね?

まぁ榊原さんは兎も角として、民主党のWebでのリリース文を見て大いにのけぞったのは国土交通大臣予定の山崎さんの表明です。

「このままでは経済大国日本はナイアガラの滝壷に落ちて滅びる。自民党が一所懸命にボートを漕いでいるかのようだが、オールも持っておらず客観的には滝壷に向かっている。」

とまぁここまでは良いのですが・・・・

「日本経済を救う手段は、財政出動も金利政策も何もない。唯一最後の手段は高速道路無料化だ。この内閣で『地方から豊かになる日本』を作る」

何で高速道路無料化が「唯一最後の手段」なんでしょうか???へぼコンサルのインチキプレゼンですか??財政出動も金利政策もテキトーにやっても高速道路を無料化したら「ナイアガラの滝壷」に落ちようとしているとまで深刻な状況の日本経済を救えるという理論は頭の悪いあたくしにはさっぱり判りませんな。

自分の意見を強調したい気持ちは判りますが、一国の大臣になろうというお方にしては余りにも狭量に過ぎるご発言。選挙で勝ってもいないのに先行きが危ぶまれるお話であります。というか逆効果じゃね〜の??



と、まぁそんな事を書いているとどんどん脱力していく今回の妙な選挙でありますな。




2003/11/04

お題「経済・物価の将来展望とリスク評価」

日本銀行の今後の金融政策を見る上で重要な表題のレポートが先週末の金融政策決定会合で決定されました。全文は本日の午後2時に発表になるのですが、とりあえず「基本的見解」が金曜日の3時(しかし月末週末の引け後とは迷惑な)に発表されております。
→kttp://www.boj.or.jp/seisaku/03/pb/gor0310.htm

○標準シナリオは・・・・・

海外経済は高めの成長、設備投資は増加傾向、過剰債務や過剰雇用の構造要因で回復テンポは緩やか。需給ギャップは縮小するが、現状がかなり大きいので、「CPIは本年度、来年度とも小幅下落」。

ということでございます。要するにCPIが上に向くという見通しにはなっておらず(現状がマイナスですからある意味当たり前なのですが)まぁやはり「Behind the Curve」ですな〜という感じですかね。

金曜日発表の「基本的見解」のおまけに「政策委員の大勢見通し」というのがございまして、これを参考にしますと、本年4月の見通しではCPIの大勢見通しが▲0.5〜▲0.4だったのが▲0.3〜▲0.1とやや上方シフトしているのですが、来年度のCPIの見通しについては▲0.5〜▲0.2となっておりまして、今年度のCPIの上昇は特殊要因が寄与している面があるという事のようですな。

まだ先行きの見方は慎重なようです。


実を言うとこの「基本的見解」って金融経済月報を毎月読めば(先月は書くタイミングを逸してご紹介できませんでしたが)実は毎月表現を微妙に変えながら同じテーマについてお話をしているわけでして、この標準シナリオ自体は全然サプライズでも何でもなかったりするのです。

ですから、標準シナリオだけ読んでいても面白くないという訳でありまして(^^)、別の事を読まなければ面白くありません。


○一人わが道を行く

先程ご紹介致しました「大勢見通し」の他に「全員の見通し」のデータも公表されているのですが、この全員の見通しを大勢見通しと比較致しますと「2003年度見通し±0.0%、2004年度見通し+0.5%」という一人だけある意味見通しらしい見通しと申しますか、現状追認的ではない見通しを出している人がいるようです(^^)。

ま〜本来は現状追認ではなく「予防的金融政策」をするのが中央銀行の醍醐味というお話を以前にもドラめもんで書いたと思いますが、物価見通しに関して「現状のトレンドラインから線を引っ張ってとりあえず現状追認型の予想をする」というという(あたくしを含めて^^)世間一般の人々の中で、誰だか判りませんが実に素晴らしいお方であります。

ま、CPIがゼロになってから大慌てするよりは、事前に先行きプラス予想があってから毎回のCPIで一喜一憂する方が世の中も事前準備できて良いような気もしますが、何せゼロ金利解除で思いっきりケチをつけてしまった日銀ちゃんでありますので、中々そういうスタンスにはなれないでしょう。

次回の量的緩和解除が「遅すぎて失敗」になる悪寒も・・・・・



○実質GDPに意味があるのか?

「大勢見通し」には物価だけではなく「実質GDP」の見通しがあります。というか見通しの表の最初に書いてあるのが実質GDPです。で、その実質GDPの見通しは+2.3〜+2.6と、4月時点の見通しが+0.8〜+1.1であった事から比較するとまぁ見事な上昇修正になっております。

ところがこの実質GDPについて、「基本的見解」の本文中で素晴らしい指摘をしております。

『なお、実質GDP成長率については、GDPデフレーターの下落幅が他の物価指数に比べて大きめになる傾向が強まっている中で、その分これまでよりも高めに算出される可能性がある。』

道理で最近発表される実質GDP(そういえば本日も発表されますな^^)が妙に高い数値になって体感的な景況感とどう考えても一致しない訳であります。

そんな中で最早名目値のことはすっかり忘れて「実質GDP」で大騒ぎしているのが大本営じゃなかった内閣府だったりする訳でして、まぁおめでてぇ連中だと言う感じですな。おめでてぇだけなら良いのですが、「デフレデフレ」と大騒ぎしている癖に自分達は「実質GDPの数値を見ると高成長」などと言って無為無策を糊塗しているというのが実にケシカラン話ではあります。

まぁ日銀としては、今回の大勢見通しにおける実質GDPの数値が、4月時点の見通しからいきなり大幅に上方修正されているので、その数字だけ見て驚かないようにという配慮をするために上記の一文を入れたのだと思いますが、これがまた「実質GDPベースでの『高成長』は実は下駄をはいている可能性がある」という指摘になっている訳ですな(^^)。

日銀の巧まざる皮肉だったりして。


○遠い将来における注意点

まぁそんな感じで目先の問題に関してはまるっきりサプライズ無しという展望レポート(の基本的見解)でしたが、この「一人を除いて全員Behind the Curve」という見通しが出てくることに関しては別のリスクもあったり致します。

というのは、実際にCPIがゼロ近傍までやって来たときに、この人たちが皆揃って現状に引きずられてあっさりとCPIの見通し大幅上方修正を行うのではないかな〜、ということであります。さっき申し上げた「次は遅すぎる量的緩和解除で失敗?」という見通しというか悪寒とは矛盾しますが、こっちの可能性もありかな〜と思いましたので、おまけと致します(^^)。

ではでは〜♪